【二次創作】ダンガンロンパ Re:MIX【オリロンパ】

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110 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:19:45.97 ID:BRLlteoAO






『オマエラは、捨てられてしまいましたーっ!』







111 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:20:31.42 ID:BRLlteoAO

ハルカ『って、えぇ!?どういう事!?』

ヨウ『言葉通りの意味だな。この彩海学園の生徒は、どいつもこいつも世界から捨てられたんだ』

ヨウ『だから助けなんざ来るわけがないのさ。いちいちゴミをわざわざ取り戻しに来る奴がいるか?』

ハルカ『そんな訳ない!皆が捨てられたからって、簡単に見捨てられられちゃう訳ないよ!』

ヨウ『ならお前、スマホを紛失した上に水没して見つかったならどうする?修理してもらうか?』

ハルカ『やだなぁヨウ君。そんな手間がかかって面倒な事する訳無いじゃんかー』

ハルカ『勿論買い変えるよ!今の時代、新しい機種がいっぱいあるしそんなに愛着も無いしね!』

ヨウ『そういう事だぞ』

ヨウ『まあ、気になるなら外の世界に出てみたらどうだ?案外受け入れられるかもしれないぞ?』

ハルカ『そ、そうやってコロシアイさせようって魂胆だね……!なんて卑怯なの!?』

ハルカ『次回、どきどき☆最初の事件〜学級裁判で大パニック!?〜をお送りしたいと思いまーす!』

ヨウ『本当は楽しんでいるだろう。馬鹿野郎』


『鮮やかな!!』

『遥かな明日を!』『見届けよう!』

ハルカ『バイバーイ!』


112 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:21:28.74 ID:BRLlteoAO



瀬川「………………え?」

砂嵐に戻ったモニター。私達は、何も写していない画面を食い入る様に見つめていた

暫くの沈黙。それを破ったのは、古河さんの悲鳴に近い叫び声だったんだ

古河「な……なんや、なんやねん!いったいこれはどういう事や!?」

モノクマ「あれ?今アニメで言ってたでしょ?オマエラは捨てられたの」

モノクマ「友達から。家族から。社会から。そして世界からでさえ……」

モノクマ「いらないって。必要ないって。ぽーんと棄てられちゃったのでーす!」

照星「そ、そんなワケないっす!自分達には超高校級の才能があるんすよ!?」

天地「それにりぼんちゃんの生徒はどうなの!?」

竹田「俺の会社の社員はどうなんだよ?」

月神「私のグループメンバーは……」

飛田「オレのファンクラブはどうなんだ!?」

モノクマ「はい。誠に残念ながら、全員ものの見事にオマエラを見捨ててくれました」

モノクマ「なので、助けは絶対に来ませーん!一生この彩海学園の中で過ごしてくださーい!」

飛田「バ……カな……」

モノクマからバッサリと切り捨てられる。全員の顔から、どんどん正気が抜けていく

…………絶望。それは、今のこの状況には、嫌みなくらいに相応しい言葉だった

113 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:22:33.08 ID:BRLlteoAO

モノクマ「で、す、が……なんと!ここから出る方法が、一つだけあるのです!」

飛田「な、なんだね。本当かねそれは!?は、早くオレに教えたまえ!」

飛田君がすがる様にモノクマに問いかける。でも、私にはモノクマの答えがわかっていた

モノクマ「それは……ズバリ!コロシアイです!」

モノクマ「この学園から卒業する事が出来れば、ボクの言った事が理解出来るはずだからね!」

陰陽寺「結局はそれが目的か」

デイビット「悪質ナ……」

月神「それでも……コロシアイなんて、私達は……」

モノクマ「うぷぷ。今はそうやって言えるかもね」

モノクマ「でも、それが一日経ったらどうかな?」

モノクマ「一週間、一ヶ月、一年……時間が経てば経つ程に、オマエラはこう思うはずだよ」

モノクマ「『あの時誰か殺しておけばよかった』ってね!ぶひゃひゃひゃひゃ!!」

スグル「それが、僕らへの動機……見捨てられた事に対する、不安感……」

モノクマ「そう言う事になるね!それじゃあコロシアイに、ココロオドルまで励んでくださーい!」

そうして、モノクマは去っていった

絶望を突き付けて、希望をチラつかせる。それが、破滅へ向かうと知っていながら

謳う様に、嘲笑う様に。深く傷をつけた心に、深く染み入る様な甘い誘惑を囁きながら

114 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:24:13.61 ID:BRLlteoAO

瀬川「…………」

月神「……皆、落ち着いて聞いてほしいの」

月神「モノクマの言う事が嘘の可能性もあるわ。だから落ち着いて……」

飛田「落ち着けるワケがないだろうっ!?」

デイビット「全くもって厄介だナ。監禁されている我々からでは確認のしようがなイ」

照星「例えそうでも、そんな不安になるような事は言わないで欲しいっす……」

古河「……アカン。今日はもう戻るわ」

駆村「悪い。俺も気分が……」

吊井座「お、俺も……」

スグル「皆さん……」

月神「…これだけは、これだけは聞いてほしいの」

月神「私は……皆を、信じているから」

月神さんの説得も虚しく、俯いたまま、一人。また一人と立ち去っていく

残っている人も、困惑と焦燥を色濃く浮かべたまま硬直している

そんな中、私は一人だけで前を向いていた

足元から崩れていく様な、空がごーんと落ちてきそうな、世界がバラバラに崩れていくような……

そんな絶望感に、目の前が黒く塗りつぶされながら


115 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:26:37.32 ID:BRLlteoAO
本日はここまで
動機発表に入りましたが、ここまでで気になるキャラや文章への意見はありますか?
リメイク前のスレが余っているので、そちらに書き込んで戴けたら嬉しいです
116 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:48:27.67 ID:myn+ZeKUO






……私は、何のために生きてきたんだろう



私は、ただ皆に好かれたかっただけなのに



私は、ただ皆に愛されたかっただけなのに



だから、今まで何があっても、嫌な事があっても、我慢してきたんだ



なのに、それなのに世界は私を捨てたんだ



あんなに頑張ったのに、あんなに努力していたのに



どうしたら私を見てもらえるの?どうしたら私を救ってくれるの?




それは……この中の誰かを、殺せば―――





117 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:49:25.05 ID:myn+ZeKUO

「……ん。……さん!」

「瀬川さんっ!」

瀬川「……はっ!?ご、ごめん!」

身体を揺さぶられる様な感覚と、私を呼ぶ声で意識が現実に引き戻される

目の前には、潤んだ眼で此方を覗き込むスグル君。その瞳の中には私しか映っていなくって

さっきまで考えていた事は、もう欠片も思い出す事が出来なくなっていた

スグル「大丈夫ですか……?ずっとボーッとしていましたけど……」

瀬川「あ……うん。多分……」

月神「無理も無いわ……あんな事を言われて、平気な人なんているわけないもの」

スグル「そうですよね……」

瀬川「……月神さんは?アイドルって、一人でやるものじゃないよね?」

瀬川「もしかしたら、グループの皆に捨てられたのかもーって……思わないの?」

目の前の少女に疑問を突きつける。彼女は、ぽかんと目を見開いた後、すぐに気丈な表情を見せた

月神「そうね……確かに、そう思わないと言えば嘘になってしまうわね」

月神「でも、だからこそ、今は気を強く持たないといけないとも思っているわ」

月神「私は超高校級のアイドルだけど……今は、同時に皆のリーダーだから」

瀬川「……あっそ」

凛とした笑顔で答えられた。本気でそう思っているのがわかっちゃうのが鼻につく

そう言えるのは……きっと、誰にも見捨てられた事が無いからなんだろうな

118 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:50:31.55 ID:myn+ZeKUO



月神「……でも、どうすればいいのかしら」

月神「私には……何が出来るの……?」

閑散とした食堂の奥。机の上で、額に手を当てながら苦悩する月神さん

その姿もまた美しい……と、飛田君みたいな事を考えていた

……今、ここには私と彼女の二人だけ

だから、私が月神さんに何をしても誰も気づかない

だから………………

瀬川「……ねえ、月神さん」

月神「あら?瀬川さん……どうかしたの?」

瀬川「あの、えっとね……」

月神「……?」

瀬川「えっと……実は、ね……」







瀬川「私も、リーダーやりたかったんだ」

……言っちゃった。ずっと心に閉じ込めていようとしてたのに

言葉が喉につっかえる。あの時に言えなかった事、それを伝えるだけなのに


119 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:51:17.33 ID:myn+ZeKUO

月神「……えっ?」

瀬川「私も、皆と仲良くなりたくて。皆と一緒にここから出たいって思ってたんだ」

瀬川「でもね、皆が月神さんがいいって言うから、皆がそうしたいって言うから……諦めたんだ」

瀬川「……ごめん。急にこんな事話しちゃって」

……嘘だ。私は、わざと彼女に伝えたんだ

月神さんは優しそうだから……絶対に、この事を気にするんじゃないかって思って

月神「そう、だったの……」

月神「ごめんなさい……私は、貴女の心を踏みにじってしまっていたのね」

瀬川「……ううん!全然気にしてないよ!」

瀬川「私も、月神さんが立候補した時は、そっちの方がいいって思ったんだし!」

これも嘘だ。なら、今すぐ私と変わってよ

……なんて事は言えないから。こういう風にいつも誤魔化すんだ

嘘の言葉で本心を殺す。いつも、いつもしている事なのに

なのに、なんで、目の前で頭を下げている月神さんを見ると胸がズキズキと痛むんだろう……?

120 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:52:30.80 ID:myn+ZeKUO

瀬川「あっ、でもね!だから私に変わってって事じゃ無くてね……」

瀬川「私にも、何かお手伝い出来ることがあるなら手伝おっかなーって……」

月神「本当!?」ギュッ

瀬川「きゃっ!?」

いきなり手を握られた……!?そんなに喜ばれる様な事なのかな……?

月神「あっ……ごめんなさい。急に握っちゃって、迷惑だったかしら?」

瀬川「あ、ううん……」

月神「でも、嬉しいわ。貴女が皆の事をそんなに大切に思ってくれているなんて……」

月神「今朝、陰陽寺さんが朝食の時に来てくれたのは、貴女が声をかけてくれたからでしょう?」

月神「貴女のその優しい思いやりが、頑なな陰陽寺さんの心を動かしたのよ」

瀬川「あ……」

違う。あれは、たまたま陰陽寺さんに会っただけだ

それに、私が陰陽寺さんに声を掛けたのは、皆の為なんかじゃない

……全部、私だけの為なんだよ




瀬川「……ありがと」

そんな事、口が裂けても言えないけどね

121 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:53:41.85 ID:myn+ZeKUO

月神「そうね……なら、瀬川さんには、皆をしっかりと見ていて欲しいわね」

瀬川「皆を……しっかり?」

月神「ええ。何人かは動機のせいで相当参っているみたいなの……」

月神「だから、皆の話をよく聞いてあげて。きっと悩んでいる事もあるはずだから」

月神「誰にでも優しく出来る貴女なら、きっと皆の不安を和らげる事が出来るはずよ」

瀬川「……うん。わかった」

月神「ふふっ、頼りにしているわ、瀬川さん!」

にこっと屈託の無い笑みを浮かべる月神さん

その微笑みからは、本当に私を信頼してくれているんだと思わせる程の魅力を発していた

その笑顔が……たまらなく眩しくて

そんな彼女が、たまらなく憎くって



瀬川「……うん!ありがとう!」

瀬川「安心して、私に任せてよ!」

だから、私はわかっちゃったんだ

彼女は、絶対に私の事を理解出来ないって事に

122 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:54:18.57 ID:myn+ZeKUO



瀬川「……はぁ」

口からため息が零れ落ちる。ダメなのは知っているけど、つい出ちゃう

勢いに任せて月神さんと約束したけれど、正直面倒だしやりたくないな……

瀬川「私だって、動機気にしてるのに……」

ああいう余裕を無理矢理押し付けられても困るだけなのに。月神さんは本当に傲慢なんだから……

「……!…………!」

「―――――!!」

瀬川「……ん?」

何だろう、喧嘩?なんだか怒鳴りあっているみたいだけれど……

……面倒だし放っておこう。私だって暇じゃないし

臓腑屋「……にゃあ!瀬川殿!いいところに!」

と、逃げようとしたところで捕まってしまったのであった

瀬川「……臓腑屋さん?どうしたの?」

臓腑屋「朝日殿と月乃殿が大変なのでござる!兄妹で喧嘩しているのでござるよ!」

瀬川「……ほっとけば?」

臓腑屋「そうもいかないでござるよ……拙者は人を呼んでくる故、二人を頼むでござる!」

瀬川「あっうん」

臓腑屋「かたじけない!それでは御免!」

シュパパッと走り出した臓腑屋さんの背を眺めて、再度大きなため息を吐く

兄妹喧嘩なんて、いったい何してんだろう……?

123 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:55:15.60 ID:myn+ZeKUO

月乃「……だから、素直に教えれば許すのに」

朝日「ほ、本当にただの栄養剤だよぉ……?」

月乃「……天地神妙、誓って本当?」

朝日「もちろんだよぉ〜」

月乃「……嘘をついている顔」ムギィ

朝日「い、いひゃいぃ……」グニーッ

瀬川「……何してんの、二人とも…………?」

朝日君のほっぺをぐにぐにと引っ張る月乃さんと、されるがままになっている朝日君

それは、切迫した喧嘩というよりも中睦まじい兄妹喧嘩にしか見えない有り様だった

月乃「……丁度いい所に。凛々はどうしたの?」

瀬川「止める為にどっか行っちゃったよ……」

朝日「なんだかお騒がせしちゃったみたいだねぇ」

瀬川「それにしても喧嘩でほっぺつねるって……」

朝日「あはっ、月乃ちゃんって子供っぽい所があるもんねぇ」

月乃「は?」ギリギリ

朝日「いひゃい……」

話す為に緩めた手に再度力を込められたのか、歪にほっぺが変形する

……二人とも、本当は仲いいでしょ!?

124 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:56:05.78 ID:myn+ZeKUO

臓腑屋「……瀬川殿!遅れたでござる!」

駆村「大丈夫か?取っ組み合いの喧嘩と聞いたが、怪我はしていないか?」

照星「兄と妹で絡み合うなんて……なんだかドキドキするっすね!にひひひっ!」

臓腑屋「とりあえず、腕っぷしの強そうな御仁を呼んできたでござる。これで安心でござるな!」

瀬川「いや、やりすぎでしょ!?」

しかも、取っ組みあいどころかほっぺぐにぐにしてただけだし!

駆村「まあ無事ならいいが……喧嘩の原因ってなんだったんだ?」

月乃「……朝日が見知らぬ薬を運んでいた。怪しいから問い詰めていた」

朝日「だからぁ、これはただの栄養剤だよぉ。栄養バランスを整える為に必要なんだぁ」

照星「あっ、それなら自分が保証するっすよ。自分が探してきたんすからね!」

朝日「ほらぁ。なのに月乃ちゃんってば話を聞かずに、ほっぺぐにーってぇ……」

なるほど……つまり、朝日君が栄養剤を取ろうとしたら月乃さんに捕まって……

瀬川「……って、もしかして月乃さんの勘違い?」

臓腑屋「で、ござるな」

月乃「……面目ない」

思いの外下らなくて拍子抜け……まあ、兄妹同士でコロシアイにならないだけマシかな

125 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:56:51.34 ID:myn+ZeKUO

駆村「全く……どうして二人は、そういがみ合っているんだ?」

駆村「俺には兄弟姉妹がいないからわからんが、兄妹は仲の良いものじゃないか」

瀬川「あ、駆村君も一人っ子なの?実は、私もそうなんだー」

臓腑屋「にゃあぅ……拙者には姉上がいるでござるが、二人程喧嘩した事はないでござるな」

瀬川「へえ、臓腑屋さんってお姉さんいるんだ。お姉さんも忍者なの?」

臓腑屋「拙者も忍者ではないでござる!後、姉上は普通のキャリアウーマンでござるから!」

朝日「月乃ちゃんも恥ずかしがっているだけでぇ、本当はもっと優し……あぅっ」ドスッ

月乃「……誰がこんな変質者と。隣にいるだけで私まで奇異の目で見られるというのに」

照星「男兄弟がいると、下の娘もたくましく育つんすよ。自分みたいに!いひひっ」

照星「兄弟喧嘩も二人の比じゃないっすよー。畳が飛び交い人が吹っ飛ぶ!警察沙汰も一度や二度じゃ足りねーっす!」

瀬川「家庭崩壊!?」

……この後、月乃さんや照星さんの兄弟トークは昼過ぎまで続いた

臓腑屋さんはヒき気味で相づちを打ち続け、駆村君は「兄弟って凄いな」と間違った知識を植え付けられている

照星「……で!そうなんすよ!」

月乃「……わかる。本当に兄は―――」

瀬川「あははー……凄いね……」

……帰りたいなぁ。動機とは関係なく、ね

126 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:58:10.56 ID:myn+ZeKUO



瀬川「あ゛ぁ〜……終わったぁ〜……」

かれこれ数十分。兄弟トークに付き合わされて、身心共にクタクタだ

もうお昼過ぎだし……軽くご飯でも食べようかな?

古河「……………………」

スグル「あ、あの、えっと、その……」

って、スグル君と古河さん?なんだか物騒な雰囲気だけど……?

スグル「あ、あんまり、その……気に病まない方がいいですよ。本当かどうかもわかりませんし……」

古河「……ホンマかどうかわからへんって事は、嘘じゃあらへんかもしれんやろ」

スグル「そ、それはそうですけど……で、でも!皆さんで力を合わせればいつかは……」

古河「いつかいつかって……結局いつなん!?ウチは、いつまでここにおればええんや!?」

古河「スグルはええよなぁ!ゆーっくり待ってれば記憶かて思い出すかもしれへんもんなぁ!」

スグル「……………………」

瀬川「……ちょって待ってよ。何でスグル君が悪いみたいに言っているの?」

瀬川「スグル君だって辛いんだよ!自分だけが辛いみたいに言わないでよ!」

古河「ハッ、辛いって?普段のほほんとしとるそいつがそんな殊勝な事考えとるワケあらへんやろ!」

古河「オマエもオマエで、随分余裕そうやん?汚いオッサンに媚び売るのが仕事の奴は言うことも考える事も余裕があんなぁ!」

瀬川「……ッ!この、言わせておけばッ!」

古河さんの胸ぐらに掴みかかり、そのまま詰め寄る

背丈は古河さんの方が少し高い。けど、背伸びする様に立つと、彼女はその勝ち気そうな顔を歪ませた

あれだけ馬鹿にされて、黙ってなんていられない。そのまま手を握り固めた腕を、高く振り上げて……

127 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 20:59:26.25 ID:myn+ZeKUO

「そこまでダ」

瀬川「えっ……!?」

振り上げた手が空中で止まる。誰かにキャッチされたんだ

古河さんも驚いた様に目を見開いている。その視線の先。私の後ろには、デイビット君が立っていた

スグル「デイビットさん……!」

デイビット「ハ、ハ、ハ。キャットファイトから始まる友情もあるかもしれないガ……」

デイビット「流石に、時と場合があル。この状況下での暴力は見過ごせまイ」

瀬川「で、でも……っ!先に古河さんが……っ!」

デイビット「落ち着きたまエ。今の騒動かラ、人が何人か来ているのだヨ」

御影「え、えーっと……二人とも大丈夫?」

竹田「なんだ、喧嘩か?若いのは血気盛んだ。やりすぎねえ様に気を付けろよ」

……確かに、皆がギャラリーになっている今、古河さんが悪いと言い張るのは私の印象が悪くなるよね

ここは大人しく、黙っていよう……

古河「……ゴメンな。ウチも頭に血が昇り過ぎとったわ」

古河「スグルもウチを心配してくれたんやろ?それを頭ごなしにキレ散らかして……情けないわ」

スグル「あ……その、僕は……」

古河「……ちっと頭冷やしてくるわ。今日の夕飯はウチの分は抜いとくよう言っといてな」

冷静さを取り戻したのか、古河さんはトボトボと足取り重く食堂から出ていく

その歩みは、以前の勝ち気な態度とは違う。弱々しくて、いつ倒れてもおかしくない程か細かった


128 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 21:00:43.05 ID:myn+ZeKUO

瀬川「えっと……スグル君、大丈夫?」

スグル「はい……でも、古河さんが……」

御影「き、気にしなくてもいいんじゃない?普段から強気だし、案外すぐ立ち直るって!」

竹田「……あーなんだか喉が渇いちったな。おい、坊主共は生姜湯飲めるか?」

瀬川「あっはい」

スグル「せっかくですので……」

竹田「んじゃちっと待ってな。さっさと作ってきちまうからよ」

のそのそと熊が動く様に厨房に入る竹田さん。食堂には、生姜をすりおろす音だけが食堂に響いていた

御影「……何で今のタイミングで生姜湯?」

デイビット「彼の人なりに暗い雰囲気を壊したかったのだろウ……時に、瀬川女史」

瀬川「え、私?何かあった?」



デイビット「瀬川女史は隠し事がある時髪を触る癖があるようだガ……何か隠し事でもあるのかネ?」

……………………!?



スグル「えっ……!?そうなんですか!?」

瀬川「……まっさかー!それは嘘でしょ?私にそんな癖無いもん」

デイビット「ハ、ハ、ハ。これは一本取られたナ。ご名答、ただのジョークだヨ」

御影「な、な〜んだ……脅かさないでよね……」

瀬川「あははっ!もービックリしたんだからね!」

……危なかった。バレたかと思ったけど、杞憂だったみたいでひとまずは安心かな

でも、油断は出来ない。この嘘は、必死に、必死に隠し通していかなきゃいけないんだ……

竹田「なんだか盛り上がってんな。ほれ、生姜湯。ハチミツ入れてるから甘いぜ」

暖かな湯気を放つ生姜湯を受け取って、口に含む

それは、ほんのり甘くて、少し辛い……その奥に、ほのかな苦味を隠し持っていて

それが、なんだかもどかしくって……目の前の飲料を、一気に飲み込み空にした


129 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/02(日) 21:03:25.25 ID:myn+ZeKUO
本日ここまで。三日目はもう少しだけ続きます
実は、明日で、自分がオリロンパを始めて二周年になります
ここまで続けてこれたのも、付き合ってくださる皆様のお陰です。これからも宜しくお願いします
130 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:29:38.05 ID:gCt80lDIO



月神「古河さんが……?」

臓腑屋「今夜は部屋で休むと……一応、夜食は用意しておいたのでござるが……」

吊井座「こ、こ、古河だけじゃねえ。他の奴も何人か来てねえじゃねえか……」

食堂に集まったまばらな影。来ていないのは、古河さんと陰陽寺さん……それに、飛田君

陰陽寺さんはともかく、二人とも動機を聞いた時、酷く取り乱していたもんね……

照星「自分としては、吊井座先輩が来てくれているのが意外っすけどねー!」

吊井座「うひぃっ!?ひひひ一人で行動して怪しまれたくねえからだよ……!」

月乃「……要するに、ただのビビり」

デイビット「だガ、賢明な判断ではあるナ。この場に顔を出しておけバ、余計な詮索は避けられル」

駆村「そうだな……その言葉、陰陽寺に言ってきてくれないか?」

デイビット「ハ、それは勘弁願いたイ」

今日の夜は、いつもより騒がしい声で響いていた

けど、それはいい事じゃない。寧ろ、悪い意味で、皆は声を出していた

静かになると、ここにいない皆の事を思い出すから……




……って、まだ誰も死んでいないんだけどね


131 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:30:37.50 ID:gCt80lDIO

月神「……皆は大丈夫なの?」

スグル「あの、皆さんの事は勿論ですけど、その、月神さんは……?」

月神「私……?大丈夫よ。皆に比べたらこれ位……」

……皆の前だからか、いつもみたいな笑顔を浮かべる月神さん

強がってるの?それとも、私は頑張ってますって皆にアピールしてる?

瀬川「本当に?……その割には顔色悪いけど?」

月神「え……?」

朝日「あはっ、本当だぁ。なんだかぁ、いつもより青白くなってるよぉ」

照星「辛いんなら辛いって言った方がいいっすよ。壊れちゃ元も子もねーっすからね。いひひっ!」

スグル「でも、よく気がつきましたね……」

月神「ふふっ、瀬川さんは人を良く見ているもの。私も頼りにしているのよ?」

瀬川「えっ……あ、ああ。うん」

正直、ただの嫌味だったんだけど……まあいっか

駆村「だが、このままだと不味いぞ……陰陽寺もそうだが、飛田や古河まで単独行動となると……」

竹田「宙ぶらりんになるな。このままだと瓦解まで秒読みだぜ?」

月神「……っ」

月乃「……それは言い過ぎでは?」

竹田「おっと、悪ぃ悪ぃ。つい代表取締役としての癖がな……」

臓腑屋「今アピールする事でござるかっ!?」

月神「………………」

力不足を痛感したのか、月神さんは何も言わなかった。強く唇を噛み締め、俯く月神さんを見ると……

なんだか、彼女に勝てた様な。そんな心地良い感覚が胸を支配したんだ

132 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:31:29.12 ID:gCt80lDIO
……ガタンッ?


天地「……あーーーっ!!!」

御影「うわぁああ!?」

瀬川「な、何!?どうしたの天地さん!?」

天地「もう我慢出来ない!皆、表に出ろーっ!」

臓腑屋「にゃあ!?何でござるか!?遂に乱心したでござるかーっ!?」

天地さんは突然立ち上がったかと思うと、いきなり大声で叫び始めた

頭のリボンも連動してぴこぴこと動いている。まるで、彼女の怒りを表すかの様に

月神「お、落ち着いて!天地さん!」

天地「落ち着いてなんていられない!りぼんちゃんは怒ってるんだよ!」

天地「一人ぼっちが好きな子もいるよ……でもね、一人になりたくてなってる訳じゃない子だっているんだよ!」

天地「誰かに責任を押し付けて、誰かがなんとかしてくれるって!見て見ぬフリする事が一番ダメなんだよ!」

瀬川「……っ」

スグル「……瀬川さん?」

瀬川「え?な、なんでもないよ?」

誰かに責任を押し付けて、誰かがなんとかしてくれる。それは間違いなく……私の事だ

でも、そんな事天地さんが知る訳が無い。だから、これは私の勝手な想像だってわかってるのに……

スグル「えっと…なら、どうするつもりですか?」

天地「ふっふっふ……だから、今言ったでしょ?」




天地「……表に出ろっ!」

133 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:32:18.83 ID:gCt80lDIO



照星「と、ゆー訳で外に出たっすけど……」

照星「いったいお外で、皆でナニするんすか?」

吊井座「さ、寒い……頭痛え……」

スグル「まだそんなに長く出てませんよ……?」

照星「それはさすがに軟弱過ぎっす!あ、自分が暖めてあげた方がいいっすか?」

吊井座「うひぃぃぃっ!?」

竹田「あんましからかってやるな。坊主も怯えてんじゃねえか」

照星「いっひひー♪」

暖房の効いた食堂から外に出された吊井座君が文句を言っている

でも、確かに外は肌寒い。ピリピリとした寒気が、肌をなぞっていくみたい……

瀬川「あのー……吊井座君じゃないけど、私も少し寒くなってきたかなーって……」

月乃「……もしかして、冷え性?」

瀬川「違うから!」

天地「大丈夫大丈夫!今からゆめっちとはずっちを呼んでくるから!」

スグル「えっ……お二人を……!?」

月神「ま、待って!なら私も……」

天地「ううん、ここは全員で行くよ!」

えっ、全員って……まさか……

瀬川「……まさか、私達も行くの?」

天地「あったり前ー!さあ行くぞー!おー!」

そのまさかだったーーー!?!?
134 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:33:01.30 ID:gCt80lDIO



トントン

天地「ゆめっちー!でーておーいでー!」

古河「はいはーい……って、なんやこの数!?」

臓腑屋「む、古河殿……面目無いでござる」

デイビット「夜分遅くに失礼したナ、古河女史」

吊井座「ま、まだそんな遅くねえけどよ……」

古河「なんや…皆、もしかして、ウチの為に来てくれたんか?」

御影「当たり前だろ!だって、ボク達は同じ仲間じゃないか!」

古河「は?オマエはただのコバンザメやろ」

御影「なんでボクだけそんな辛辣なのさ!?」

古河「ま……でも、あんがとな。ウチも少し落ち着いてきたんよ。ゴメンな、皆」

スグル「大丈夫ですよ……古河さんが立ち直ってくれた事が、一番嬉しいです」

朝日「そうだよぉ。皆で仲良くするのが一番だって私は思うなぁ」

ぺこりと頭を下げて謝る古河さん。普段の強気な態度は鳴りを潜めて、しおらしい笑みを浮かべている

お昼の事は、その殊勝な態度で許してあげようかな

……別に、根に持っていた訳じゃないけどね

135 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:33:39.49 ID:gCt80lDIO



古河「ほーん……それで全員で来たっつー訳か」

天地「そそそ、理解が早くって先生嬉しい!」

駆村「だが……古河はともかく飛田は難しいぞ」

デイビット「午前中にワタシと駆村氏で会合しようと試みたガ、拒否されてしまってナ」

竹田「どうすんだ?暴力沙汰にするワケにもいかねえしよぉ」

月神「なら、私から話してみるわ……ちょっと待ってて」

ピーンポーン

月神「飛田君……いるかしら?」

飛田『この声は……月神梓かね?』

飛田『すまないが、オレの事は放っておいてくれないか……オレは今、非常に落ち込んでいる……』

天地「はずっちー!出てきてよー!」

月乃「……心配している」

古河「まあ、なんや。はよ出てこんかーい」

照星「飛田先輩のーちょっといいとこ見てみたいっすー!」

臓腑屋「飛田殿、養生も大切でござるが顔を見せてくれると嬉しいでござる!」

瀬川「えっ?えーっと……早く出てきてね!」

飛田「フッハハハ!そこまで美しき乙女達に言われては……出て来ざるをえまいッ!」ガチャッ

瀬川「早っ!?」

臓腑屋「立ち直るのが早すぎるでござる!?」

136 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:34:27.35 ID:gCt80lDIO

天地「よーし!これで全員だね!」

月神「全員……?陰陽寺さんがまだ……」

瀬川「え?全員でしょ?どうせ来る訳ないし……」

瀬川「どこにいるかもわからないじゃん!まるで、オバケみたいだよね!あっははは!」

スグル「あ、あの、後ろ……」

瀬川「ん?何かあった?」クルッ

陰陽寺「僕に何か用か」

瀬川「ご、ごめーーーん!!」

後ろにいたの!?気づかなかった……!

というか、気配消して後ろにいるなんて……本当にオバケじゃん!

デイビット「それデ、我々を外に駆り出した上、欠員までかき集めた真意とハ?」

天地「うんうん。それはね!」

瀬川「それは?」

天地「……空を見て欲しかったんだ」

137 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:35:17.13 ID:gCt80lDIO

瀬川「……空ぁ?」

いきなり何を言っているんだろう。この人は

空なんて、毎日腐るほど見ているのに。今更見上げる必要なんてないよ

天地「……じーっ」

でも、ここでそんな事を言っても納得しないよね。目がそう物語っている

瀬川「えーっと、空を見ればいいんだね?」

……面倒だから、さっさと見ちゃおう

空には暗黒の中に、キラキラと光る星が瞬いていた

スグル「わぁ……!」

月神「綺麗……あの時、一緒に見た時以来ね」

陰陽寺「ふん」

デイビット「絶景だナ、これハ。都会では見る事は出来ないだろうヨ」

駆村「排気ガスやゴミが無いお陰だな……空が澄んで見えるんだ」

でも、皆には結構評判いいみたい。私には、どこがいいのかよくわからないけど……

吊井座「そ、空なんて滅多に見ねえけど……」

吊井座「こうして見ると……結構、綺麗なんだな」

天地「そう!それだよ!その通り!」

吊井座「うぎゃああああああああああ!!!」

朝日「吊井座くん、大丈夫かなぁ?」

天地「りぼんちゃん、星空好きなんだ!よく生徒の皆とごろんって寝て一緒に見るの!」

天地「普段会ってると有り難みを忘れちゃうけど、でも、ふと思い返すと大切な事ってわかるから!」

天地「だから!皆、困った時は頼っていいんだよ。それが友達、それがりぼんちゃん達なんだもん!」

月神「天地さん……」

138 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:36:10.60 ID:gCt80lDIO

月神「……私は頼りないリーダーかもしれない。力不足かもしれない」

月神「でも、私はもう諦めない!皆の為に、これからも頑張ります!」

古河「ウチらも心配かけてゴメンな!ウチはもう立ち直ったで!」

飛田「諦めずに立ち向かう姿こそ美しい……そう、オレは今、美の真髄を開化せんとしているッ!」

竹田「調子のいい坊主だねぇ……」

月乃「……でも、概ね同感。梓の事、私も支えていきたい」

御影「そうだそうだ!皆で月神さんをサポートしていこうよ!」

月神「…ありがとう!私、皆に会えて良かった!」

月神「ここから出たら……皆で、改めて友達になりましょう!」

「「「おーーー!!」」」





……月神さんの決意表明。それは、透き通った夜空に、高らかに響き渡っていった

ここから出たら友達に、か。それはとっても魅力的で、素敵な夢だと思う

でも、それは多分”夢”だと思う。夢は叶わないから美しいって、よく言われているもんね

それに、私の親友は、あの子だけだから……

スグル「……あの、瀬川さん?」

瀬川「うわぁ!?またスグル君!?」

またボーッとしてたらスグル君に心配された……

私、そんなに頼りなく見えてるのかなぁ……?

139 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:37:05.88 ID:gCt80lDIO

瀬川「ど、どうしたの?もう帰る?」

スグル「あ、いや……えっと、皆さんお話しているみたいですし……」

スグル「僕も、瀬川さんとお話ししたいな…って」

上目遣いで私を見てくる。そういう男の子らしい可愛い仕草、凄くイイ……!

よく見たら、何人かは人と話し込んでいるみたい。陰陽寺さんだけは寄宿棟の壁にもたれて空を眺めているけど……

どうしよう……いざ話してって言われると、何も話題が思い付かない……

取り合えず、無難に好きなアニメと好きな女キャラの話でも振ってみて……



スグル「……月が綺麗ですね」



瀬川「……ふぇっ?」

えっ……?えっ、えええええ!?それってまさか、そういう意味!?

ど、どうしよう……早すぎるよ。色んな意味で!

ここは……うん。カッコよく返さないと……!

瀬川「……もう死んじゃってもいいかな」

スグル「え……?ダメですよ!皆さんで一緒にここから出ましょう!」

瀬川「……あー、うん。そうだよね。ゴメンね」

そうだよね……スグル君が知ってる訳ないか

こんな、アニメに出てきそうな台詞なんて……

140 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:38:10.24 ID:gCt80lDIO

アニメ……アニメかぁ、そう言えば……

瀬川「『私達はここにいます。ここには夢がちゃんとある』……」

スグル「……?それは何という曲なんですか?」

瀬川「えっ……あ、聞こえてた?」

聴かせるつもりは無かったんだけど……なんだか恥ずかしいな……

瀬川「えっとね……これ、アニメのオープニング曲なんだけど、学園モノのアニメなんだ」

瀬川「学校の中で女の子達が生きていくアニメなんだけどさ……なんだか、私達とそっくりだなって」

スグル「わぁ……!本当ですね!色々なアニメがあるんだ……」

瀬川「えへへ、そうでしょ?アニメって色々なモノがあるから飽きないんだよね!」

スグル「……ところで、そのアニメって最後はどうなるんですか?」

瀬川「えっ?」

確か、このアニメって……

瀬川「ゴメン。実は途中しか見てないから、最後はどうなるかわかんないや」

スグル「そ、そうなんですか……」

スグル「でも、何だか前向きになる歌詞ですね。僕も、瀬川さんも頑張って生きていきましょう!」

瀬川「……うん。そうだね!」

言えるわけないよね。だって、そのアニメ……

141 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:38:57.25 ID:gCt80lDIO









そのアニメ、実は日常アニメじゃなくてサバイバルアニメで

『登場人物は全員死んじゃうんだよ』。なんてさ










142 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/09(日) 21:40:52.41 ID:gCt80lDIO
本日はここまで
私事ですが、今月は忙しいので更新頻度が下がると思います。申し訳ございません
143 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/14(金) 21:37:04.53 ID:K+VvtTmdO



瀬川「おはよー」

月神「おはよう。昨日はよく眠れたかしら?」

瀬川「うん。まあね」

ふぁと欠伸を噛み殺しながら、月神さんとの談話を楽しむ

昨日の天地さんの言葉が効いたのか、今朝は古河さんと飛田君も顔を出していた

そう言えば昨日は珍しく夢を見なかったな……それと夜空を見た事とは、なんの関係もないけどさ

陰陽寺「………………」

……珍しいと言えば、普段は我関せずといった態度の陰陽寺さんが来ている事もだ

あの独りぼっち大好きな陰陽寺さんが来ているのは何でなのかな……?

瀬川「……あれ?陰陽寺さん、来てたの?」

陰陽寺「動機を聞かされた以上、貴様らを野放しにしておく事は得策じゃない」

陰陽寺「それに、また大人数で僕に押し掛けられても面倒だからな」

ツンとそっぽを向かれながら答えられた……イラッとするけど、ここは我慢……

月神「照れているのよ。陰陽寺さんは恥ずかしがり屋さんな所があるから」

瀬川「それは都合良く解釈し過ぎじゃないかな…」

臓腑屋「まあ、何でも良いでござろう。それでは、本日もいただきま……」




『……ザザッ』

144 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/14(金) 21:38:29.26 ID:K+VvtTmdO

瀬川「……っ!?」

ぞわり。背筋を嘗められる様な錯覚に、思わず全身が怖気立つ

日常編にねじ込まれた異音。平和な時空に紛れ込んだあり得ないノイズ

クラシックの途中に流れてしまった着信音の様に、どれだけ小さくてもハッキリと聞き取れてしまった

矛盾を孕んだ音に吐き気がする。それは、他の皆も同じ様で……

古河「な、なんや今の……ウチの気のせいか?」

スグル「いいえ。僕にも確かに聞こえました」

吊井座「お、お、俺も……だけどよ……」

デイビット「ふム、この場にいる全員が聴いているという事ハ、どうやら幻聴では無さそうダ」

照星「……あ!あれっす!あれ見て欲しいっす!」

彼女が指を指した先には、この彩海学園では飽きる程見たモニターが

そのモニターからは、まるで、何かが底から這い出てくる前兆かの様に、モノクロの砂嵐が映っていた

竹田「なんだ……またあの妙なアニメか……?」

月神「どうしてこのタイミングで……?昨日私達に動機を与えてきたばかりなのに!」

陰陽寺「黙っていろ……画面が変わるぞ」

145 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/14(金) 21:40:30.26 ID:K+VvtTmdO



〜〜〜♪



ハルカ『よい子の皆ー!ココロオドルTVの時間だよー!』

ハルカ『って、ちょっと!話が違うよ!次回はコロシアイが起きた後じゃないの!?』

ヨウ『はっはっは。気にするな。あんな適当な予告を信じる奴は二流なんだよ』

ハルカ『なら何を信じればいいのかなー!?』

ヨウ『そんな事よりも、本来の俺達の役割が回ってきた様だな。気を引き締めろよ』

ハルカ『本来の……あ、ミッションだね!?』

ヨウ『ご名答!今回はこの彩海学園に在籍している生徒にプレゼントを用意しておいた』

ハルカ『初めて皆が出会った教室に、ゲームの筐体があったのは覚えているよね?』

ヨウ『そこに、新たにゲームをインストールしておいた。娯楽が少ない分、存分に楽しんでくれ』

ハルカ『タイトルは『ナゲミデスカイ』!設置直後にバランスの問題で高速撤去された問題作!』

ヨウ『今回はオマケとしてクリアした先着一名には特典を用意しておいた。早い者勝ちだぞ!』

ハルカ『あー!私もゲームやりたーい!』

ヨウ『存在そのものが二次元のお前が何を言ってるんだ。潔く諦めておけ』

ハルカ『やりたいやりたいやりたーい!』

ヨウ『なら……この番組を止めるか?』

ハルカ『そ』

ハルカ『れ』

ハルカ『だーーー!!!』


……ブツンッ


146 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/14(金) 21:43:58.24 ID:nmigI0XaO



瀬川「本当にあるんだ……」

あのアニメの言う通りに、あの時、全員が目覚めた教室にまた来ていた

そこには、相変わらず教室には相応しくない筐体がででんと佇んでいたんだ

だけど、その画面では目に痛いくらいの眩しい光を存分に放っていて

『ナゲミデスカイ』の文字が、自己主張激しくでかでかと表示されていた

古河「このけったいなんがそのゲームか?」

竹田「聞いた事はあるが……マジだったのか」

月神「知ってるんですか?竹田さん」

竹田「一応な。確かゲームバランスが悪すぎて何千円も溶かさねえとクリア出来ねえらしい」

竹田「明らかに集金目的の難易度だっつって抗議が殺到して、現在は棄てられたと聞いているぜ」

デイビット「つまリ、その棄てられたゲームを持ち込んできたという訳カ」

吊井座「で、でもよ。どうやってプレイすんだよ」

吊井座「アーケードゲームは硬貨が必要だろ……俺達、金なんか持ってねえだろ……?」

確かにそうだ。この中の誰も、財布を持ってるとか貯金してるなんて話は聞いた事がない

私?私は寝ていたらいつの間にか来ていたから……

月乃「……なら、このゲームはプレイ出来ない?」

陰陽寺「時間の無駄だったな。僕は帰るぞ」

特典が目当てだったのか、陰陽寺さんはすたすたと教室から去っていこうとする

私も、その後を追うように外に出ようとした……

147 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/14(金) 21:44:47.88 ID:nmigI0XaO

モノクマ「こらーーーっ!」ピョイーン

朝日「あれぇ、モノクマだぁ」

瀬川「うわぁ!?モノクマナンデ!?」

陰陽寺「何の用だ」

モノクマ「オマエラ、ボクが出てくる前にスタコラゲームやりに行っちゃってさぁ……」

モノクマ「なんなの?ゆとり世代なの?今流行りのゲーム脳ってやつなの?」

竹田「違えよ」

御影「いやまあ竹田さんはそうなんだろうけど!」

モノクマ「はいコレ、コインケース。この中に全員分のコインが入っているからそれでやってね」

天地「わーい!でも無くなったらどうしよう?」

モノクマ「足りなくなったら適当に探せば?多分どこかに落としたと思うからさ」

駆村「管理が雑すぎる!」

モノクマ「それじゃあゲームをお楽しみに〜!」

臓腑屋「無理矢理話を終わらせたでござるっ!?」

言いたい事だけを言って満足げに去っていく

他の皆は呆れ顔。どうする?と聞きたげに、私の手にしたコインケースを凝視している

でも、ゲームが出来るようになったのはラッキーだ

だって、ゲームは私の得意分野なんだから……!

148 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/14(金) 21:45:59.11 ID:nmigI0XaO

※……数十分後※

御影「あのー、ボクにもそろそろ……」

瀬川「うるさいなぁ!もうちょっと待っててってば……あぁ!?また死んじゃったじゃん!」

あと少しだったのに……横から声さえかけられなければ……!

デイビット「結局、ゲームは瀬川女史しかプレイしていないナ」

朝日「ケース持ったまま離さないもんねぇ」

陰陽寺「………………」

スグル「もしかして、瀬川さんが満足するまで待っているんですか……?」

照星「陰陽寺先輩も律儀っすね……」

御影「ねぇ!そろそろボクにもやらせてよ!」

瀬川「あーもうわかったよ……あ、もうコイン無いや」

御影「嘘ぉ!?」

これ、根本は覚えゲーだから後もうちょっとやれればクリア出来そうなんだけどな……

というか、結構夢中になっちゃって結局私しかしてないし……

御影「あー!ボクもやりたかったのにー!」

古河「喚くなや……もう解散でええやろ?」

月神「そうね。今日も一日頑張りましょう!」

皆も他人のプレイを見るのに飽きてきたのか、そそくさと教室を後にする

なんだか引っ掛かる様なモヤモヤを引きずりながら画面を見ると、大きながめおべらの文字がチカチカと点滅していたのだった

149 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/14(金) 21:47:25.01 ID:nmigI0XaO



瀬川「ねー、まだやるのー?」

御影「何がなんでも見つけてみせるよ!」

天地「なおっち凄い集中してる!勉強に活かせればいいのにね」

スグル「あはは……もう少し探してみましょう」

今、私達は倉庫にいる。別に何か欲しいものがある訳じゃないんだけどね

御影君がゲームをやりたいやりたいって言うから、コインを探すために荷物をひっくり返していた

…たまたま近くにいた、天地さんとスグル君を巻き添えにして

瀬川「ねえ、そろそろ止めない?もうお昼時だし」

御影「待ってよ!もう少し、もう少しでコインが見つかりそうなんだからさ!」

御影「ボクは超高校級の幸運なんだ……コインの一枚や二枚簡単に見つけてやる……!」

超高校級の幸運……そう言えば御影君はそんな才能だったね。すっかり忘れてたよ……

天地「でもりぼんちゃんもお腹減った!見つけたらなおっちにプレゼントするね!」

スグル「あっもう行っちゃった……それじゃ、そろそろお開きにしましょうか」

結局倉庫では一枚も見つからず。そのまま流れで皆でお昼ご飯を食べる事になった

お昼を食べてる間、御影君はグチグチとゲームをやれなかった事を愚痴っていたけどね

御影「……だから!ボクならクリア出来たのに!」

瀬川「あはは、そうなんだ。凄いねー」

天地「ちさっちって保育士に向いてるよね!」

スグル「そうですか?よくわかりません……」

150 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/14(金) 21:48:32.69 ID:nmigI0XaO



月神「……でも、皆、元気になってよかった」

吊井座「そ、そうかよ……」

月神「吊井座君も、どんどん皆と打ち解けているみたいだし……私は嬉しいのよ?」

吊井座「……そんなんじゃ、ねーけど」

瀬川「あれ?珍しい組み合わせだね」

月神さんと吊井座君……陽と陰のキャラ代表の二人が話し合っていた

……って、そもそも吊井座君は女の子が苦手なはずじゃなかった?

瀬川「吊井座君って、女の子が苦手じゃないの?」

吊井座「お、おまっ!?何余計な事を……!?」

月神「そうなの?天地さんや臓腑屋さんと話す所を見た覚えがあるけれど……」

んー……?これはどういう事かな?

吊井座「あ、あいつらは向こうから話しかけてくるじゃねえか……」

瀬川「でも、月乃さんに話しかけられた時は驚く程にキョドってたよね?」

吊井座「ぐっ……!?」

えーっと、少し考えてみようかな

天地さんと臓腑屋さんと月神さん。それに私と月乃さんの共通点は……

瀬川「……もしかして、おっぱいの大きい女の子が苦手なの?」

吊井座「うああああああああああああ!?!?あああああああああ!?!?!?」

月神「!?」

顔を真っ赤にして叫び出す。この反応……図星だね

え?自分で大きいって言うのかって?……月乃さんとかが規格外なだけで、私も充分大きいから!

151 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/14(金) 21:49:48.12 ID:nmigI0XaO

月神「ど、どうしたの!?」

瀬川「あー、なんでもないよ。ねぇ?」

吊井座「はぁ……はぁ、はぁ……!?」

いきなり大声を出したから、月神さんに心配される

月神さんスタイルはいいけど、大きさは……ねぇ?

まあ、この事は黙ってよう。何かあった時の脅しに使えそうだしね!

吊井座「なんでも、ねぇ……何で俺がこんな……」

照星「やっほー!せーんぱい!何してるんすか?」

吊井座「あああああああああ!?!?」

ぴょこんと扉から頭を出したのは、超高校級の柔道家な割には軟派な照星さん

彼女も、小柄な体躯には不釣り合いな程の、大きなモノを所持しているんだよね……

さっきも、ぴょこんと跳び跳ねた事でソレが大きく躍動して……

吊井座「ななな何の様だよ!?俺に何か文句でもあんのかよぉ!?」

照星「えー?ただ暇してただけっすよ!ま、遊んでくれねーって文句はあるっすけどね!いひひっ」

吊井座「し、知らねえよ……あっち行けよ……!」

瀬川「照星さん!さっき吊井座君が暇だから遊んで欲しいなって言ってたよ!」

吊井座「はぁ!?」

照星「にひひっなーんだ。照れてるだけっすか?なら遠慮無く!とうっ!」

ムギュッ

吊井座「〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?」ドサッ

月神「吊井座君!?」

照星「あっちゃー、刺激が強すぎたっすかね……」

照星「吊井座先輩は表情がコロコロ変わるから、遊んでて楽しーっす!いひひひひっ!」

照星さんに抱き締められて目を回して倒れ込む

吊井座君をからかうの面白いな……照星さんじゃないけどさ

152 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/14(金) 21:52:44.06 ID:nmigI0XaO
本日ここまで
今回はおまけとして、伏線になるかもしれない学年表を貼っておきます


長老:竹田(三年扱い)
三年:デイビット、吊井座、飛田、天地
二年:瀬川、月神、御影、駆村、古河
一年:陰陽寺、照星、臓腑屋、スグル、朝日、月乃
153 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/24(月) 09:59:50.33 ID:qTz3beJGO

瀬川「……パーティー?」

夕食もそろそろ終わりそうな時、突如、私達の目の前に立つ月神さんからそう告げられた

月神「ええ。考えたのだけど、私達はまだ知り合って間もないでしょう?」

御影「そう言えば……何日経ったっけ?」

月乃「……確か、今日で四日目」

天地「わー、もうそんなに経ったんだ!」

朝日「言われてみるとぉ……実感が沸くねぇ」

飛田「はっはっは!その内来るさ。なにせ、オレがいるのだからな!」

スグル「飛田さん、あんなに落ち込んでいたのに……立ち直れて良かったです!」

古河「ただ能天気なだけやろ……」

月神「その中でも、皆は色んな人と関わり合って打ち解けてきていると思っている……」

月神「だけど、皆が皆と仲良くするのは、この短期間じゃ難しいと思うわ」

駆村「それを、パーティーで手っ取り早く打ち解けさせてしまおうって事か?」

月神「そう!皆の事を少しでも知って貰おうと思うの。集まってワイワイやるのは楽しいでしょう?」

月神「この機会に、もっと皆と仲良くなりたい。皆の事を知りたいから……」

154 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/24(月) 10:00:35.64 ID:qTz3beJGO

月神「どうかしら?無理にとは言えないけど……」

スグル「そんな!断る理由なんて無いですよ」

照星「皆でワイワイなんて凄く面白そうっす!ね、せーんぱい!」

吊井座「…わ、わかってるっての……」

古河「ええやん!気分転換にもなるしな!」

デイビット「ハ、拒否する理由も無いだろうヨ」

陰陽寺「どうでもいい」

天地「それ、参加するって事でいいんだよね!」

臓腑屋「そうなのでござるか!?」

月神「皆……ありがとう!」

どうやらパーティーはすんなりとやる事になったみたい。まあ、でも楽しそうだもん

それに、私も皆と仲良くなりたいと思っているし、考え方によっては私にも好都合だよね?

瀬川「……ところで、パーティーはいつやるの?」

月神「明後日のお昼から夜までを想定しているわ。提案や質問がある人は、私に気軽に聞いてね!」

パーティーは明後日かぁ……時間も結構あるし、特に問題は無さそうかな?

月神「それじゃあ皆、明後日のパーティーを楽しみにしていてね!」

月神「それじゃあ……お休みなさい!」

彼女の一言で、今日という一日は終了した

明後日のパーティー……そこに、何があるかも知らないままで

155 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/24(月) 10:01:18.46 ID:qTz3beJGO





『出たね悪の手先!今日こそやっつけてやる!』

『来るがいい正義の味方!倒せるものならな!』




「…………」

今、私の目の前では女の子と男の人が戦っている

火花が飛び散り、光が覆う。激しい戦いの末、女の子の魔法が男の人を貫く

『ぐっ……!……ふ、ははは!俺にそんな魔法が通じると思ったか!』

明らかに胸を貫いているのに、まるでダメージなんて無いかの様に振る舞う男性

そんな非現実的な姿を見ても、誰も、何も驚かない

だって……これ、アニメだもん

『待てー!絶対に倒してやるんだからー!』

「……終わっちゃった」

結局、女の子は敵を捕り逃しちゃった。また来週。また来週。そして、またまた次の来週……

そうして、無限に追いかけっこをしていくんだろうな……最終回までには捕まるかな?

録画したアニメを消すと、テレビにお昼のニュースが流れている。丁度三時半に放送されるやつだ

こんなの見たってつまらない。テレビを消して、部屋に戻ろうとして……

156 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/24(月) 10:01:53.58 ID:qTz3beJGO









『ごめんくださーい!――ちゃんいるー?』

―――その日、私は運命に出会ったんだ









157 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/24(月) 10:02:30.21 ID:qTz3beJGO



瀬川「ふーんふっふふーん……♪」

月乃「……千早希、今朝は随分と機嫌がいい」

飛田「ふ……オレも可憐なる乙女に囲まれて……エェクスタシィィイイ!!!」キーンッ

臓腑屋「にゃああ!うるさいでござるよ!?」

吊井座「あ、頭っ、頭がキーンとして痛ぇ……っ」

駆村「大丈夫か?少し椅子に座って楽にしよう」

いつものわーきゃーやかましい喧騒。それさえも、今の私には心地いい

何てったって、昨日はいい夢が見れたから。現実なんてどうだっていいもんね!

スグル「瀬川さん、ご機嫌ですね!」

瀬川「うん!大好きだよ、スグル君!」

スグル「あ、ありがとうございます!」

朝日「わぁ、大胆だぁ」

照星「ひゅーひゅー!お似合いっすよ!」

瀬川「……ってそういう意味じゃないからね!?」

スグル「えっ……?どういう意味なんですか?」

月神「スグル君にはまだ早かったみたいね……」

こんなどうでもいい事だって、今はとっても楽しくて笑顔が出てきちゃう

なんだか……今日はいい一日になりそうな予感!

瀬川「うへへへへぇ……」

月乃「……でも、ニヤニヤするのはやりすぎ」

竹田「言ってやるなよ。いつかは若気の至りになるもんだぜ……」

158 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/24(月) 10:03:24.92 ID:qTz3beJGO



竹田「おーい嬢ちゃん。その椅子と机、こっちに運んでくれや」

臓腑屋「御意!時に、この箱はここでも構わないでござるか?」

月乃「……もう少し右側に置いてほしい」

臓腑屋「了解でござる!」

今、食堂はパーティー仕様にする為に何人かの生徒が模様替えを敢行していた

ひょいひょいと臓腑屋さんが動き回ると、机には花やテーブルクロスが敷かれていった

瀬川「お疲れー。皆で模様替えやってるの?」

駆村「俺達は料理の仕込みだな。時雄島の名物料理を沢山食わせてやるからな!」

朝日「甘ぁいデザートも用意するつもりだよぉ。今はスポンジケーキを焼いているんだぁ」

瀬川「へぇ……でも今からだと早くない?別に明日の朝からやればいいんじゃ……」

月神「パーティーの当日には、包丁や食器類を使用禁止にする予定なの」

月神「だから包丁やナイフが必要な料理は、今の内に、二人にしてもらっているわ」

厨房の中から、三角巾とエプロンをつけた月神さんが歩いてきた

ふんわりと漂う甘い匂い……朝日君の手伝いでもしていたのかな?

瀬川「それって、やっぱりコロシアイを……」

月神「……皆を信じていない訳じゃないわ。けど、万全を期す事も大切な事だと思うのよ」

少しだけ……少しだけ、悲痛そうな顔をしたけれど振り払う様に笑顔に戻る

皆を疑うことが辛いのか、コロシアイの最中でも盛り上げないといけない重圧からなのか……

……私には、よくわからないや

159 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/24(月) 10:05:28.06 ID:qTz3beJGO

月神「…安心して!絶対に成功させてみせるから」

月神「だから、瀬川さんも気にせずに……」

天地「どーん!りぼんちゃん参じょーう!」ドスッ

瀬川「ひゃあ!?後ろからタックルは止めて!?」

天地「あずにゃん!またそうやって自分だけでなんとかしようとするんだから!」コシコシコシ

瀬川「そろそろ離れてくれないかな!?」

ゴシゴシ背中に頭を擦り付けないでよ!?

月乃「……りぼん。こっちに来て」

天地「はーい!ちさっちも手伝い頑張ってねー!」

…………えっ?

瀬川「いや、私は……」

月神「あっ……瀬川さんも、私達の手伝いに来てくれたのね!」

瀬川「えっ?えっ?」

月神「ごめんなさい。長々と話してしまって……なら、臓腑屋さんのお手伝いをしてくれないかしら」

瀬川「えっ?えっ?えっ?」

臓腑屋「にゃあ!忝ないてござる!感謝、感謝!」

竹田「丁度手が足りてねえと思ってた所だ。んじゃそこの机を運んでくれや」

駆村「俺達で軽食を作っておくからな!終わったら食べてくれ」

朝日「ふれっふれっ、瀬川さぁん」

こうして、あれよあれよという間に私は机を運ぶお仕事をする羽目になった……

瀬川「……こんなはずじゃないのにーーー!!!」

ちなみに駆村君の持ってきたお菓子は茶色のカリカリしたナニカだった……時雄島ってどんな島なの?

160 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/24(月) 10:06:52.04 ID:qTz3beJGO



御影「とうっ!ていやああ!」ブンッ

吊井座「お……っとと、やりやがったな……!」ヒュッ

御影「うわぁ!?危ない所だった!」ヒョイッ

飛田「全く……高校生にもなってチャンバラとは。なんと野蛮な……」

照星「でもそんな単純な事でも楽しめる男の子ってカワイーっすね!にっししし!」

飛田「そうか……ならば!華麗にして流麗なる」

照星「あ、前口上は短めでお願いするっすね」

体育館には、暇をもて余した集団がたむろしていた

御影君と吊井座君はモップの柄でチャンバラごっこを楽しんでるし、飛田君はステージの上で踊ってる

照星さんはそんな男子集団を遠巻きに眺めてニヤニヤしてる……変なの

ちなみに、私はというと……

飛田「レディ!このオレと躍りに来たのかね!」

瀬川「ううん。ただの暇潰し」

飛田「オゥ……」

昼食を終えた後の軽い運動、その為に体育館に来てみたんだけど……

なんだか……私、場違いみたいだね




照星「運動っすか?なら自分とマットの上で……」

瀬川「慎んで遠慮させていただきますっ!」

161 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/24(月) 10:11:21.12 ID:qTz3beJGO

照星「ほー、パーティーの準備も大変っすね」

瀬川「そうなんだよ……もう身体中クタクタで……」

照星「ならマッサージしてあげるっす!自分、こう見えて腕がいいんすよー?」モミモミ

瀬川「いいや……後ナチュラルに胸揉まないで……」

むにむにと服越しにおっぱいを揉まれる。強く抗議したいけど反応する余裕が無い……

照星「むうー冷たいっすね……陰陽寺先輩にも避けられるし、自分、寂しいっす……」

瀬川「相手が悪いよ、相手が……」

そりゃ、あの陰陽寺さんにパイタッチなんてやったら下手したら半殺しだよ……

そもそも、近くに寄る事が出来るのかな……?

瀬川「……そう言えば、陰陽寺さんは?」

御影「え?そっちにいなかったの?」

吊井座「た、体育館には来てねえけど……」

瀬川「ふーん……」

陰陽寺さんはまた行方不明かぁ……デイビット君と古河さんは私と入れ違いで食堂に来てたし……

瀬川「なんか陰陽寺さんって幽霊みたいだよねー。どこにいるか判んないのに突然出てくる所とか」

瀬川「あー……でも竹刀持ってるし、あれじゃ幽霊じゃなくて落ち武者かな?あっはははははは!!」




陰陽寺「随分と楽しそうだな」

瀬川「…………は?」

162 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/24(月) 10:14:07.88 ID:qTz3beJGO

瀬川「お、陰陽寺、さん?」

陰陽寺「どけ」

瀬川「アッハイ」

まさか陰陽寺さんの事を話している時に本人が来るなんて……どんな確率なのさ……

皆も、凍りついた現場に目を白黒とさせている。彼女が来た事で、体育館には緊張が満ちていた

陰陽寺「……ふっ!」

そんな周りの沈黙を他所に、陰陽寺さんは持っていた竹刀を振り始める

ひゅん。ひゅんと風を切る音だけが響き渡る。彼女の細い腕からは想像出来ない程の、重い音だ

照星「先輩……もしかして、昔は剣道の選手だったんじゃないっすか?」

陰陽寺「………………」ピタッ

照星「しなやかな腕に引き締まった腰、脚もすらりとしてて、相当な年月をかけて足腰を鍛えてるのがわかるっす」

照星「何より……そんなに鋭い素振り、素人が出来るワケねーっすよ!」

照星さんの解説に、おおっと感心の声が挙がる

陰陽寺さんは、元々は剣道かそれに近いスポーツの選手だったのかな……?

なら、何で今の陰陽寺さんは剣道家じゃなくて『超高校級のヒーロー』なんだろう……?

御影「た、確かにそうだよね……」

飛田「スポーツならば、このオレとしようではないか!共に華麗に舞台を舞おうじゃあないか!」

陰陽寺「………………」

陰陽寺「…………失せろ」

照星「でも……!」

瀬川「い、いいじゃんいいじゃん!怒らせると後が恐いよ〜?」

ビシリと空気に罅が入る。これ以上の刺激は最悪の展開になりかねない

瀬川「そ、それじゃ私はここで!」

吊井座「…あ゛!?に、逃げんじゃねえよ……!?」

そうなる前にさっさと帰ろう。逃げるんだよ〜!


163 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:35:53.68 ID:CkxiMfcIO

月神「……それじゃ、明日のパーティーの概要を説明するわね」

夜時間に差し掛かる前、月神さんはそう切り出して話を進め始めた

月神「パーティーは立食形式で行うわ。各々自由に楽しんで欲しいの」

竹田「全員の交流についてはどうするんだ?」

月神「皆には自分の事を話して貰おうと思っているの。好きな事、趣味、将来の夢……」

月神「そういった皆の希望に溢れた夢を、皆と一緒に共有するの」

御影「で、でもいざ言えってなるとなんだか恥ずかしいよね……」

月神「そんなに難しく考えなくてもいいのよ?本当に一言。それだけでもいいの」

月神「気取る必要なんて無いの。私は、皆のありのままが知りたいんだから」

臓腑屋「一言だけのコメントならば、そう難しい事でもないでござろうよ」

飛田「ありの……まま……ッ!?なんと大胆な……ッ」

古河「先に言うとくけど、今ここで全裸になったらシバき倒すからな?」

デイビット「自己PRは社会においても重要なものだナ。己を知らしめる方法故ニ」

吊井座「うっ……」

照星「緊張させる様な事言わないで欲しいっす!」

デイビット「ハ、ハ、ハ!失敬、失敬」

164 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:37:23.40 ID:CkxiMfcIO

天地「………………」

月乃「……?顔色悪い、大丈夫?」

天地「え?うーん……なんだか疲れちゃった……」

駆村「まあ無理もないか……一日中ぶっ通し立ったからな」

竹田「なら……もう今夜は解散でいいよな?」

朝日「そうだねぇ。私は朝も仕込みをしないといけないもん」

御影「確かにそろそろ眠くなってきたしね!」

飛田「美しさを保つ為には……適度な睡眠も必要なのだよ」

臓腑屋「お二人はなんもしてないでござろう!?」

駆村「まあいいじゃないか。いい頃合いだろう」

朝日「あっそうだぁ……陰陽寺さんはどうしよう」

月神「彼女なら大丈夫よ……きっと」

古河「大丈夫なんか?アイツ絶対にこういうの嫌いなタイプやろ」

竹田「ま、我らがリーダーを信じてやろうぜ。女同士話しやすいだろうしな」

天地「じゃ、そういう事で今日はかいさーん!明日のパーティーをお楽しみにー!」

バイバイと手を振り、皆は散り散りに去っていく

誰も彼もが笑顔になって、希望に満ちたと言うべき輝いた表情を見せていた

皆が消えた。その残り香を感じながら私も立ち去ろうとしたんだ

その中に落ちていた、微かな光を放つソレを見つけるまでは

165 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:38:41.64 ID:CkxiMfcIO

瀬川「あ……これ、コインだ!」

あのクソゲーをやる為に必要なモノ。どれだけ探しても見つからなかったコイン

それが今、私の掌の上でキラキラと光っていた

瀬川「えーっと、御影君は……いないよね?」

本当なら彼に渡すハズだったんだけど、いないんならしょうがないよね

それに、あのゲームを御影君がクリア出来るとは思えないし……うん!

瀬川「……よし!」

コインを握り締めて、気合いを入れる

今から、あのゲームを攻略しにいこう。一枚だけの頼りない残機だけど……

瀬川「残機ゼロは……ゼロじゃないもんね!」

なんだか勇気が湧いてくる。今ならなんとなく……ううん。絶対にクリア出来るんだ!

166 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:40:54.52 ID:CkxiMfcIO

瀬川「……あれ?スグル君?」

スグル「……こんばんは。瀬川さん」

相も変わらず鎮座する筐体。その前には先客がいた

先客は、カチカチとボタンを押しては離し、レバーを倒しては戻し……

まるで子供が適当に遊ぶかの様に、手元にある機械を弄っていた

スグル「今はこれだけが手がかりなんですが……コインが無いのでどうしようかなって」

瀬川「ふふん、それなら大丈夫!はい!」

スグル「あっ……!コイン、見つけたんですか!」

瀬川「見ててね。今私がクリアしてみせるから!」

……正直、クリア出来る根拠は1つもない

けど、小さな男の子の目の前で、少し位カッコつけたっていいよね?

期待に目を光らせるスグル君。誰かの期待を受けるのは大好きだ

私だけを見てくれる。今、この少年の心は私だけのモノだ

瀬川「さて……よーく見ててね」

コインを投入して、ボタンを叩く

瀬川「ノーコンティニューで……クリアしてあげるから!」

ここで颯爽と決め台詞。これは勝ち確だね!

167 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:41:43.35 ID:CkxiMfcIO

瀬川「えへへっ、どう?」

スグル「わあっ……!凄い……!」

瀬川「でも難しいのはここからなんだよ。少し静かにして見ていてね」

ここまではトントン拍子でクリア出来た。でも油断は絶対に出来ない

ここからが本当に難しいんだよね。初見殺しのオンパレードにワンパンで消し飛ぶインチキ火力……

でも、私には経験がある。コインを全部注ぎ込んで得たトライアンドエラーの力が!

瀬川「……げえっ!?」

やっば、ミスッた!このままじゃ地味にマズい!

スグル「ど、どうしたんですか!?」

瀬川「な、なんでもない。なんでもないよ〜……」

何とかして軌道修正して……よし。何とか!

瀬川「これで……終わりだぁぁぁぁぁっ!!」

『GAME CLEAR!』

スグル「クリアした……!凄いです、瀬川さん!」

瀬川「………………や」

スグル「……瀬川さん?」

瀬川「やったあぁあああああああっ!!!」ガバッ

スグル「うわぁっ!?」ギュッ

良かった……!もしあそこまでカッコつけて、ここで死んでたら本当に恥ずかしかったよ……!

スグル「あ、あのっ!あ、当たって……!」

瀬川「……ゴメン!」

168 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:42:59.65 ID:CkxiMfcIO

スグル「で、でもクリアしたので特典が……」

瀬川「あ、そういえばそうだった!」

ゲームに熱中し過ぎてて完全に忘れてた……でも、結果オーライだよね!

瀬川「……で、どれがそのクリア特典?」

スグル「え?無いんですか?」

瀬川「うーん……それらしいのは無いかな……」

てっきりクリアしたら何か出てくるかと思ったけど何もない。景品らしきものは見当たらなかった

瀬川「もしかして……騙された?」

スグル「それとも、他の人がもうクリアしちゃったか。ですね……」

瀬川「それだと、クリアした人が皆に黙ってる事になるんじゃないかな?」

瀬川「そうだとしたら、その人だけ情報を持ってる事になるし……不自然じゃない?」

スグル「そう……ですか?」

まさか、あれだけ仲良ししてた人達がそんな事するとは思えないしなぁ……

黙る事でメリットがあるとは思えないし、素直にモノクマとクソアニメが適当な事を言っただけだよね

瀬川「……あームカつく」

あんなふざけた連中にいいように遊ばれていた事にイラッとする。それに乗せられた事が更にムカつく

まあ、でも……クリア出来た事は嬉しいし、久しぶりに楽しかったから怒るのは止めよっかな

169 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:44:11.27 ID:CkxiMfcIO

瀬川「……なんか、疲れちゃったね」

スグル「そう、ですね」

ぽつり、ぽつりとどちらからともなく話し始める

最近の出来事、モノクマへの不安、好きなモノや嫌いなもの……

スグル君は甘いものが好きだから、朝日君や御影君に、月神さんともよく話しているんだって

特にマカロンが大好きみたいで、マカロンの話になるとにぱっと顔を明るくするほどに好きなんだ

スグル「えっと、瀬川さんの好きな食べ物はなんですか?」

瀬川「私?うーん……クレープかな」

瀬川「前に、友達と一緒にイベント帰りに寄った事があるんだけど、そこのイチゴクレープがすっごく美味しくってさ!」

瀬川「友達との帰りに食べるのが定番になってね、もう何回も通ってるから顔見知りになったんだ!」

瀬川「ああ……もう一度食べたかったなぁ……」

あの口いっぱいに広がる甘味を思い出す。イチゴの甘酸っぱさと、クリームの濃密な甘みの合わさったクレープを……

……ダメダメ。もう夜なんだから、アレを食べたら間違いなく体重がエグい事になる

体型の維持はコスプレイヤー必須の技能だからね。私だって影ながら努力してるよ。本当だよ!

170 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:45:33.40 ID:CkxiMfcIO

スグル「……ふふっ」

瀬川「え?な、何?いきなり笑って」

スグル「いえ…その、お友達と仲がいいんですね」

スグル「お友達の話をすると、瀬川さん凄く笑顔になってましたよ?」

瀬川「そ、そうかな?」

確かに、あの子の事は私にとっては何よりも大切な存在だ

私にとっての親友はあの子だけ。あの子にとっての親友は私だけ……

そんなかけがえのない存在だからこそ、私はあの子だけが親友なんだもん

スグル「……もしかして、瀬川さんが超高校級のコスプレイヤーになったのもその人の影響ですか?」

瀬川「……うん、そうだよ」

スグル「あの、よろしければ……その友人さんが、どんな人か聞いてもいいですか……?」

スグル「瀬川さんがどうしてコスプレイヤーになったのか……知りたいんです」

瀬川「そっか。スグル君は……」

スグル「………………お恥ずかしながら」

記憶喪失……スグル君は、自分の友達どころか自分がなんの才能かも覚えていないんだったっけ

そう思ったら、なんだか彼が可哀想に思えてきて

瀬川「うん、いいよ。ちょっとだけ、ね」

普段なら言わない彼女の事、少しだけ話したくなったんだ

171 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:46:52.51 ID:CkxiMfcIO


……私、小さい頃は引っ込み思案な子だったんだ


身体も弱くてさ。誰かの後にくっつかないと、どんどん置いていかれちゃう位弱かったんだ


そんなんだから、ずっと教室の隅っこに縮こまってるみたいな子だったんだ。私


スグル「………………」


……意外かな?こんな事、普段は誰にも言わないんだけどね。今だけは特別だよ?


で、だからかな?私はクラスで孤立しててね……


いつか、学校行かなくなっちゃったんだ。なんだか面倒になっちゃってさ


でもさ、家の中って面白い事ってそんなに無いんだよね。毎日居るから当然なんだけど


だから私は画面の中のフィクションの世界に溺れていったんだ。フィクションの世界は凄く楽しかったよ?


このままずっと、フィクションの世界に溺れたい。フィクションの世界で暮らしたい……


そんな時に、プリントを届けに家に来た、その子に会ったんだ


それでね、こうその子に言われたんだ。『その夢、一緒に叶えよっか』ってね




172 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:48:27.63 ID:CkxiMfcIO

スグル「……それが、コスプレイヤーなんですね」

瀬川「そう!私自身がフィクションになる事だ……目から鱗の発想だったよ」

瀬川「それでね!その子が衣装とか作るの手伝ってくれて、撮影方法とかも一緒に研究して……」

瀬川「SNSに流したら、凄くバズったんだ!こんなに私の事を見てくれるなんて思ってなかった……」

瀬川「こんなに気持ちのイイ事があるなんて、本当に知らなかったんだ!」ガタッ!

言い終わるとゾクゾクと五体に快感が満ち溢れる。立ち上がって手を広げ、歓声を身に浴びるように

スグル「せ、瀬川さん?」

瀬川「はっ……ご、ごめん。舞い上がり過ぎた……」

いけないいけない……いくら小さな男の子の前だからって絶頂するのはやりすぎた……

スグル「……瀬川さんにとって、コスプレは大切な宝物なんですね」

スグル「僕も、瀬川さんの様なそんな大切な人がいたんでしょうか……」

言い終わると、微かに涙を浮かべた少年は目を伏せる

哀しげに俯く。そんな憂いを帯びた表情、幼い君には会ってないよ……

173 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:49:35.35 ID:CkxiMfcIO

瀬川「……なら!今から私がなってあげるよ!大切な人に!」

瀬川「だからさ、スグル君も……なってくれる?私の大切な……」

瀬川「………大切な」




瀬川「……………友達。にさ」

ぎゅっと彼の手を握り、思いの限りの言葉を放つ

私の友達になって。なんて、もっと小さな頃には言えなかったのに

こうして自然に、勢い任せに言えた事。成長したって事でいいのかな

スグル「……はい!僕でよろしければ!」

ぎゅっと手を握り返される。にこっとはにかむ笑顔に、心の奥がどきっとした

瀬川「……絶対に、絶対だよ?嘘ついたらダメだからね……!」

スグル「勿論です。よろしくお願いします!」

この夜の約束は、ちっぽけで他の人にはどうだっていい代物かもしれないけれど

でも、私にとっては、何よりも大切なハジメテだったんだ。だから……

絶対に私はこの子を守ってみせる。だって、私はスグル君の親友なんだからね

だから……君も、私を……


………………………………………

……………………

………

174 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/12/27(木) 21:56:54.09 ID:CkxiMfcIO
本日はここまで。多分本年度での更新は最後になると思います
もしかしたら少しだけあるかもしれませんが……あまり期待しないでください。よいお年を……
175 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:05:13.70 ID:uLRrWc9jO



瀬川「……ん、朝かぁ」

目を覚ます。意識が夢から現実へと引き戻される

どんな夢を見ていたか。それはもう忘却の彼方へと追いやられていて

その変わりに、昨日果たした男の子との約束。それがじんわりと染み込んできた

瀬川「友達、なんだよね……」

瀬川「スグル君は、もう私の友達なんだよね」

確認する様に、口に出す。私と彼のささやかな契約

トモダチという言葉の重さ。それは私がよく知っているはずなんだ

私は彼に全部をあげる。それが友達ってものだよね

彼の欲しがる全てをあげる。だから、スグル君も私の望む全てを……

瀬川「……なんか、これだと彼女みたいかな?」

彼氏と彼女。男女の関係では真っ先に思い付く甘い関係

でも、まだ私達は知り合ったばかりだ。そうなるのはこれからの行動で……

瀬川「……なんちゃって。そんな訳無いか」

幾ら私でも、中学生の子を彼氏になんてしないよ。したら警察沙汰だし

彼はあくまでも友人だ。もう少し大人になってからじゃないとね

でもそうすると私の好みとは少し外れるし……むむ

こんな乙女ゲーの主人公みたいな恋愛も、してみたかった事なんだよね!

176 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:06:09.74 ID:uLRrWc9jO



月神「……皆、集まっている?」

御影「モッチロン!全員来てるよ!」

月乃「……でも、まだ魔矢が来ていない」

陰陽寺「僕が何だ」

デイビット「おヤ。来ていたのかネ」

吊井座「ヒィッ!?なな、なんで今まで気配消してんだよ……!?」

古河「陰陽寺も参加するんか?ウチが言うのもナンやけど、こういうの嫌やないんか?」

陰陽寺「どうせ来なくてもしつこく呼びに来る連中がいるだろうが」

月神「ふふ。そうね」

陰陽寺「チッ、だから先にきてやっただけだ」

天地「はい!それじゃあ今夜のパーティーの説明を始めるね」

天地「パーティーは今日のお昼から夜時間まで行うよ。内容は前にも言ったよね」

駆村「一言、自分の事を皆にコメントすればいいんだよな」

月神「ええ!好きな事を話してくれればいいの」

天地「最後には皆で円陣組んでおしまい!掃除はりぼんちゃんにに任せてね」

臓腑屋「円陣の意味とはいったい……」

月神「円陣、皆はやらない?私はよくライブの前にやるのだけれど……」

スグル「あ、これは月神さんの案なんですね……」

月神「パーティーが始まる前に、私が回って皆に連絡を入れるわ。それまでゆっくり待っててね」

パーティーが始まる前、少し時間があるけど……

誰かと話して、時間でも潰してようかな……?

177 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:08:13.30 ID:uLRrWc9jO



スグル「月神さん、順調ですか?」

月神「ありがとう。貴方のお陰で、準備も問題なく進んでいるわ」

机で向かい合いながら、スグル君と月神さんが話している。ニコニコと笑い合うその姿は、姉弟の様だ

仲良き事は美しき事。二人がどんな関係になろうと私には関係の無い事なんだし

なのに、二人が中睦まじく話しているのを見ると、何故か胸の奥がジクジクと痛む

この感覚は……覚えている。月神さんにリーダーを盗られた時や、陰陽寺さんに罵倒された時

何か凄く嫌な事があった時……心の底から、ふつふつと沸き上がってくる感覚だ

瀬川「……ねえ、何を話しているの?」

スグル「あ、瀬川さん。今日のパーティーで、僕は何を話そうかと思って……」

月神「彼の事、少しでも知ろうと思って。瀬川さんも一緒に考えてくれるかしら?」

そっか。スグル君は話す事が思い付かなかったから月神さんと相談していたんだ

それなら、なんにも問題は無いよね。影で私の悪口を言った訳でもないし、嘘をついてる訳でもない

だけど、そう自分に言い聞かせても、心の奥底からはドロドロは溢れ返ってきて……

178 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:10:07.51 ID:uLRrWc9jO

瀬川「……ちょっと来て」グイッ

スグル「えっ?すみません。少し席を外しますね」

月神「ええ、いいわよ」

にこっと笑いながら私達を見送る月神さん。その可愛らしい笑顔が、今は私をイラつかせる

まるで『貴女よりも私の方が可愛いでしょ』とでも言いたげな、あの勝ち誇った様な顔が……

瀬川「……スグル君さぁ、どうして私に相談せずに月神さんに相談したの?」

スグル「え……ダメでしたか?月神さんと相談して決めようと思ったんですが……」

……つまり、スグル君は私よりも月神さんを選んだんだ。友達の私より、無関係の月神さんを


瀬川「……何それ」

スグル「え?」

瀬川「昨日約束したでしょ?私が君の友達になるって!君も私の友達になるってさ」

スグル「は、はい」

瀬川「なのに何で?どうして私を無視して月神さんに話しかけるの?どうして私じゃないの?」

瀬川「友達って言ったじゃん!私と相談するのが普通なんだよ!?スグル君はわかってるの!?」

スグル「ご、ごめんな……」


瀬川「約束したじゃん!大切な人になって欲しいって!大切な人になってくれるってさぁ!」


瀬川「どうして約束を破るの!?どうして私を裏切るの!?どうして私を頼ってくれないの!?」



溢れ出るドロドロを叩きつける。こんな事、しちゃダメだってわかっているのに止められない……

179 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:11:45.29 ID:uLRrWc9jO

瀬川「もういいよ……スグル君なんて……」

瀬川「スグル君なんて!大っ……!」

スグル「っ!」

瀬川「……!?」

ビクリと身体を震わせるスグル君。その怯え様に、私の思考も澄んでいく

大嫌い。その一言は、彼にぶつけられる前に、私の頭の中で霧散していった

瀬川「…ゴメン。いきなりこんな事言っちゃって」

スグル「……え?」

瀬川「私、こういうの許せなくってさ。だから急にカッとなっちゃって……」

瀬川「本当にゴメン。友達失格だよね。私」

自重気味に語りかけて、伏し目がちに俯き笑う

スグル「……そんな事、無いです!僕、瀬川さんに負担にならないようにって思ったんです」

スグル「でも、そんなに僕の事を大切に思っていたなんて……嬉しいです。だから失格なんて言わないでください」

その手を取って、笑いかけてくれるスグル君。彼はきっと私の事を欠片も疑ってないんだろうな

スグル「だから……えっと、これからも仲良くしてくれますか?」

瀬川「勿論だよ……ありがとう。よろしくね!」


『こうすれば、きっと心配してくれる』なんて私が考えているなんて

笑顔で笑う。心の底で、彼の優しさと幼さに漬け込んだ卑怯な自分を嘲笑いながら


180 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:12:49.45 ID:uLRrWc9jO



御影「えー、本日はお日柄も良く……」

月乃「……つまらない」

飛田「さっさと裏に引っ込みたまえ」

照星「もっと面白い事言ってほしいっすー!」

竹田「おーい坊主、一発芸でもやってくれや」

御影「うるさいな!?開会の挨拶なんてどうだっていいだろ!?」

駆村「素人は黙っていろ!お前はまだ、開会の挨拶がどれほど重要かわかっていない!」

御影「何で駆村君がキレるのさ!?」

駆村「冗談だ!」

どっと周りから笑いが起こる。御影君は不服そうにしながらも、ぎこちない笑いを浮かべている

パーティーの滑り出しは、まあまあ好調といった所かな。私も、皆に合わせて笑顔を作っていた

朝日「はぁい、お料理持ってきたよぉ。いっぱぁい食べてねぇ」

臓腑屋「危険が無いことは拙者らが保証するでござる。勿論、味もでござるよ!」

陰陽寺「………………」

厨房からは、朝日君が両手に料理を持ってきた。後から臓腑屋さんと陰陽寺さんがついてくる

月神「準備も出来たみたいだし……それじゃ、パーティーの開始を宣言するわ!」

月神「皆、今日は思いっきり楽しんで頂戴!」

181 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:15:00.12 ID:uLRrWc9jO

御影「あっ、これ美味しい!ほら!」

吊井座「た、確かに美味えけどよ…なんだよコレ」

照星「んー……味はエビフライっぽいんすけどね。もぐもぐ」

竹田「……おい坊主。一応聞くがあれはまさか」

駆村「ん?何か問題でも?時雄島名物コオロ……」

吊井座「!?い、い、今、おま、何て……」

竹田「あー気にすんな。美味いよな。それ」

吊井座「いや、そこは言ってくれよぉっ!?」


古河「どや!ウチも全面的に監修したんやで、この飾り付け!」

デイビット「これはこれハ。流線的な意匠を……」

古河「まあせやな。それでここは……」

飛田「ふぅむ……何を言っているかサッパリわからないが美しい事だけは理解した!」

月乃「……絶対によくわかってない」

朝日「あは。私もよくわかんなぁい」

月乃「……お前は頭に砂糖が詰まっているだけ」

朝日「うぅん。厳しいなぁ……」


スグル「あ、あの……」

瀬川「そんなにビクビクしないでよー。流石に誰かに話しかけるのまでは何も言わないって」

スグル「そ、そうですか……」

やっぱりさっきのはマズかったかな……でもスグル君は陰口叩くタイプじゃなさそうだしセーフだよね

月神「天地さん。備品の管理は……」

天地「だいじょぶだいじょぶ!危険物はケースに纏めて入れてあるよ。鍵はこれね!」

天地さんが、皆に見える様に鍵をポケットから出す

鍵がかかってあるなら安心だよね。でもあんなに見せびらかしてもいいのかな……

天地「それじゃ、そろそろ自己紹介しよーね!まずはりぼんちゃんからやるよー!」

182 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:16:23.31 ID:uLRrWc9jO



こうして始まった自己紹介は、本当に簡単だった



天地「天地りぼんです!家庭教師してまーす!」

朝日「御伽朝日だよぉ。ショコラティエなんだぁ。皆と甘ぁいコトが大好きだよぉ」

月乃「……御伽月乃。不肖ながらこの朝日の双子の妹をしている。よろしく」

陰陽寺「必要ない」瀬川「あ、前に出てきてはくれるんだね」



もう知ってる事、知らなかった事、色々と皆は私の前で教えてくれた



駆村「駆村沖人だ。時雄島の地域振興委員として活動している。時雄島とは……何?短くしろって?」

スグル「あ、えっと、神威スグルです!皆さん、これからも宜しくお願いします!」

古河「古河ゆめみや!これからダサイ奴はビシビシ言っとくから覚悟しときぃや!」

古河「あーっと、次は瀬川やな」

瀬川「え?何で?……あ、ゴメン、私は最後でいいかな?」

竹田「んじゃ、ありがたくやらせてもらうぜ」

竹田「竹田紅重。竹田商店の代表取締役をしているぜ。まあ今後ともご贔屓に、な」


それでも、ほんの少し皆は嬉しそう。こんな簡単な事でも人と人は繋がれるんだ

183 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:21:14.21 ID:uLRrWc9jO

月神「月神梓です。アイドルですが、ここでは一人の女の子として接してくれると嬉しいです」

吊井座「つ、つ、吊井座小牧……べ、別に俺はこれでいいだろ……?」

デイビット「デイビット・クルーガー。ワタシの事はあまり話す必要は無さそうだナ」

照星「照星夕!特技は柔道と夜のマット運動!不安な人は自分がベッドで手取り足取り教えたげるっすよ、いひひっ!」

飛田「美の伝道師、地上の星、風の中の昴…そう、世界の至宝飛田弾とは!このオレの事だ!」

臓腑屋「拙者、姓は臓腑屋、名は凛々と申す者にてござる。他の家計の家事代行を生業としているのでござる……忍者では無いでござるからな!」

御影「御影直斗!超高校級の幸運だよ!今はまだ特に何もしてないけど、これからビッグになる予定の男さ!よろしくね!」



でもそろそろ飽きてきたかも。さっさと終わらないかなー……

月神「ありがとう。それじゃあ瀬川さん。お願い」

瀬川「えっ!?あ、そうだった!」

瀬川「……私は、瀬川千早希です!超高校級のコスプレイヤーやってます!」

瀬川「えっと……無理に、とは言わないけど……私の事、好きになってくれると嬉しいな!」

皆の前で笑顔を浮かべながら頭を下げる。パチパチと聞こえる拍手の音が心地いい

言った事は、全部本当だ。私の事、皆が好きになってくれたらいいのにな

184 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:23:13.22 ID:uLRrWc9jO

月神「……それじゃあ皆、円になって」

自己紹介が終わったと同時に月神さんが号令を出す

ぐるりと互いが互いを見渡せる様な位置取り。私の顔、変じゃないかな……

御影「なんだか、ドキドキするね……」

スグル「でも、楽しいです。こうして皆さんと顔を合わせる事は滅多にありませんし……」

月神「皆揃った?なら、手を出して重ねて……」

手を伸ばして、上の人の手に私の手を重ねる。すぐに他の人の手が乗っけられた

駆村「こうして人と人の重なった上に世界が産まれる……いい言葉だな。本当に」

臓腑屋「聞いたことないでござるが……」

駆村「時雄島のことわざさ。『天は人の上に人を重ねる』というな」

竹田「つーかそれって死屍累々じゃねえのか」

月乃「……突っ込んだら、負け」

月神「ふふふ。それじゃあ最後の号令よろしくね。天地さん」

天地「はーい!それじゃあさん、にー、いちで行くよー!」



天地「さん!」

天地「にー!」

天地「いち!」

手にぐっと力が入る。溜めた力を上に放とうと、手を上に振り上げようとして……

185 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:28:58.59 ID:uLRrWc9jO









ブツンッ!

……突然、目の前が真っ暗になったんだ








186 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:29:41.80 ID:uLRrWc9jO

瀬川「……え?」

視界に落ちる闇。さっきまで目の前にあった手は、既に黒の中に溶け込んでいた


「きゃっ……!停電!?」


「なんだなんだ?ブレーカーが落ちたか?」


「あは。なんだかドキドキするねぇ」


「拙者が確認してくるでござる。暫し待機を……」


「痛っ!やめてっ!」


「うわぁ!?何、何が起きてるの!?」


「ひぃいいいっ!?うああああ!?!?」


「ちっと落ち着けや!何がなんだかさっぱりわからへんやろが!」


瀬川「あーもう、滅茶苦茶だよ……きゃっ!?」

真っ暗闇に響く悲鳴。ドタドタと慌てているかの様な足音だけがはっきりと理解できる

それに、私の上にのし掛かってきた柔らかくて重いモノ。むにゅむにゅとした感触が手に伝わる

『一定時間の電力の断絶を関知しました。非常電源に切り替わります』

アナウンスが響き渡る。間も無く、私の視界には光が届き始めた……

187 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:30:33.24 ID:uLRrWc9jO

……バチンッ

月神「……皆、大丈夫かしら?」

スグル「は、はい!」

パッと視界が明るくなる。非常電源はしっかり作動したみたいだね

御影「痛たた……何があったの?」

臓腑屋「む、点いたでござるか?拙者がブレーカーも確認してくるでござる」

瀬川「……月乃さん?何してるの?」

月乃「…………怖かった」

目の前にいたのは月乃さん。ずっしりとした重みがはっきりと伝わる……

瀬川「ごめん。重たいから離れて……」

月乃「……失礼した。立てる?千早希」

駆村「こう言うのもなんだが……確かに重たそうだものな」

古河「駆村なぁ……オマエそれ殺されても文句言えへんで、それ」

照星「女の子に重いは禁句っすよ。まあ月乃先輩は大きいっすからね!いひひひっ!」

吊井座「よ、余計な事言うなよな……」

天地「……無い」

駆村「はは。そうだよな。悪い、デリカシーに欠けた発言だったよ」

天地「違う、そうじゃないよ……」

デイビット「はテ?ならばいったい何の事やラ」


188 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:32:00.18 ID:uLRrWc9jO









天地「ケースの鍵が、無くなってるの……」









189 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/03(木) 20:35:28.26 ID:uLRrWc9jO
本日はここまで。新年会でした
新年、明けましておめでとうございます!軽いスランプ気味でしたが、何とか更新出来ました……
これからもマイペースに、オリロンパをやっていきたいなと思います!今年も、よろしくお願いします!
190 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 21:59:36.32 ID:nUs1W5ywO

御影「……は?」

天地「無い、無いんだよ……ちゃんとポッケに入れてたのに……」

くるりとポケットを裏返して中身を見せる。確かに鍵は見当たらなかった

駆村「どこかに落っことしたんじゃないか?」

吊井座「あんだけ全員が驚いたんなら、あり得る事だよな……」

天地「え、えっとね?あんまりこんな事言いたく無いんだけどね……」

天地「誰かが、りぼんちゃんを押し倒したの……」

押し倒した……?それって、もしかして……

飛田「な……暗闇に乗じか弱きレディを押し倒したのだとッ!?」

飛田「この恥知らずの匹夫めがッ!今すぐ名乗りでなければ社会的に殺されると思えッ!」

竹田「まあ落ち着けや。まだそうと決まった訳じゃあねえだろう」

竹田「あんだけ坊主共が混乱してたんだ。どさくさに紛れて倒しちまっただけかもしれねぇぞ?」

陰陽寺「……………………」

天地「ど、どうしたの?そんなに睨み付けて……」

陰陽師「ふん」

191 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:00:38.10 ID:nUs1W5ywO

スグル「僕は……皆さんがそんな事をすると思えません。きっと落としただけだと思います」

スグル「そうだとしたら、きっとどこかに鍵が落ちているはずです!探しましょう!」

朝日「うぅん。私も賛成だよぉ。皆が女の子に乱暴する様な人には見えないもんねぇ」

朝日「あっ……もちろん、私に乱暴するのは合意の上だからおっけーだよぉ?」

月乃「は?」

月神「ま、まあ……とにかく探してみましょう。見つかればそれでいいんだもの」

陰陽寺「下らないな。僕はもう戻るぞ」

御影「えっ!?何でこのタイミングで帰るの!?」

月乃「……幾らなんでも、それは怪しい」

デイビット「ふム、疑う訳では無いガ、些か非協力的な態度ではないかネ?」

陰陽寺「……………………」

感情の籠っていない視線で私達を射抜く。その冷酷な眼差しに怯みそうになるけど……

瀬川「……どうしても帰るなら、証拠を出してよ」

瀬川「私達全員が納得出来る、無実の証拠をさ!」

ここでハッキリ言わないと……きっと、私はずっと陰陽寺さんには勝てないから

192 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:02:02.60 ID:nUs1W5ywO

月神「瀬川さん……?別にそこまでは……」

瀬川「駄目だよ……ここでハッキリさせないと……」

陰陽寺「ふん、愚かな奴だ。無いものを出せと?」

デイビット「悪魔の証明というやつだナ。哲学的な話になる故、概要は省略するガ」

照星「あ!いいこと思い付いたっす!にひひっ」

臓腑屋「にゃ?照星殿、何かいい案でもあるのでござるか?」

照星「証拠が出せないなら、証拠が無いことを証明すればいいんすよ!」

照星「つまり!その制服を脱いで産まれたままの姿になれば陰陽寺先輩の無実も……」

陰陽寺「………………」

駆村「ストップだ。無言で竹刀を持つんじゃない」

月神「でも、身体検査そのものはいいアイデアだと思うわ。ありがとう、照星さん!」

照星「どーもっす!いひひひひっ!」

照星「それじゃ、早速全部脱ぐっすよー!」ガバッ

吊井座「うぁあああ!?服の上から確認出来るだろおおおお!?!?」

……突発的に始まった荷物検査。別にやましいものは無いからいいんだけどさ

193 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:03:20.72 ID:nUs1W5ywO

古河「んー……無さそうやな。月神はどうや?」

月神「こっちもそれらしい物は無かったわ……」

瀬川「じゃあ、女子は犯人じゃないって事?」

月神「そうみたいね。本当に犯人がいるかはわからないけれど……」

結局女子の皆からは鍵は見つからなかった。陰陽寺さんも怪しいものは持っていない

臓腑屋「拙者らで無いとなるとやはり殿方が……」

駆村「そうか……女子も無かったか……」

瀬川「え?女子もって事は男子も無いの?」

竹田「間違いねえぜ。俺達は上着も脱いだからな」

吊井座「さ、寒い……」

朝日「あは、私、皆に乱暴されちゃったぁ……♪」

古河「ハァ!?」

御影「してないからね!?朝日クンは特別に、服の上から叩いて調べてあるからね!?」

月乃「……兎に角、これで誰も鍵を持っていない事がわかった」

天地「ならきっと落としちゃったんだね!なら早く掃除して見つけないと!」

天地「ここはりぼんちゃんに任せて、皆はもう部屋に戻ってもいいよ」

月神「……え?」

194 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:05:04.55 ID:nUs1W5ywO

月神「天地さん独りだけにやらせる訳にはいかないわ。私も……」

天地「あんがとー!でも大丈夫。ここは全部りぼんちゃんに任せてよ」

スグル「無茶ですよ!朝になっちゃいます!」

駆村「俺達だって掃除くらい出来るさ、天地一人にやらせる訳にはいかない」

竹田「一応最年長だしなぁ……年下の嬢ちゃんだけに押し付けんのは目覚めが悪ぃ」

臓腑屋「安心なされよ、拙者がいる以上すぐに終わらせてしんぜよう!」

天地「ううん平気、皆は帰っていいんだよ」

口々に手伝う声が挙がっても、それを冷ややかとも呼べる態度で断られている

普段とは明らかに違う態度。その原因はきっと……

天地「もし見つからなかったら、なんだか恥ずかしいもんね!」

月神「そんな……!別に天地さんが悪い訳じゃ……」

デイビット「……ふム。では任せようじゃないカ」

朝日「いいのぉ?」

デイビット「どうにも譲る気は無さそうダ。ならば明日の結果を楽しみに待とうじゃないカ」

天地「えへへ!ありがと!それじゃあおやすみ!」

天地「皆がまた集まった時に話すから!また明日、会おうね……!」

ぶんぶんと痛そうな位に手を振りながら、天地さんは笑顔で見送ってくれた

明日の朝に会おうなんて、フラグ染みた台詞を言いながら

195 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:06:02.06 ID:nUs1W5ywO

月神「天地さん独りだけにやらせる訳にはいかないわ。私も……」

天地「あんがとー!でも大丈夫。ここは全部りぼんちゃんに任せてよ」

スグル「無茶ですよ!朝になっちゃいます!」

駆村「俺達だって掃除くらい出来るさ、天地一人にやらせる訳にはいかない」

竹田「一応最年長だしなぁ……年下の嬢ちゃんだけに押し付けんのは目覚めが悪ぃ」

臓腑屋「安心なされよ、拙者がいる以上すぐに終わらせてしんぜよう!」

天地「ううん平気、皆は帰っていいんだよ」

口々に手伝う声が挙がっても、それを冷ややかとも呼べる態度で断られている

普段とは明らかに違う態度。その原因はきっと……

天地「もし見つからなかったら、なんだか恥ずかしいもんね!」

月神「そんな……!別に天地さんが悪い訳じゃ……」

デイビット「……ふム。では任せようじゃないカ」

朝日「いいのぉ?」

デイビット「どうにも譲る気は無さそうダ。ならば明日の結果を楽しみに待とうじゃないカ」

天地「えへへ!ありがと!それじゃあおやすみ!」

天地「皆がまた集まった時に話すから!また明日、会おうね……!」

ぶんぶんと痛そうな位に手を振りながら、天地さんは笑顔で見送ってくれた

明日の朝に会おうなんて、フラグ染みた台詞を言いながら

196 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:07:23.67 ID:nUs1W5ywO










『へえ!アニメみたいな自分になりたいんだ!』

『う、うん。でも、私は魔法も使えないし、変身も出来ないし……』

『うーん。あ、そうだ!ならさ、――ちゃん、コスプレやってみない?』

『こすぷれ……って、何?』

『アニメとか漫画とか、フィクションのキャラの模倣をする事だよ。これなら誰でも理想の自分!』

『それでも、自分に自信が持てないなら……私が、いつでも力を貸してあげるから』


………………………………

………………

………

197 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:10:20.99 ID:nUs1W5ywO









瀬川「おはよー。あれ?これだけ?」

駆村「ああ。昨晩は色々あったが……」

臓腑屋「瀬川殿もそう思うでござるか……」

朝に集まったのはたったの数名。他の皆はまだ来ていないみたいだね

瀬川「……天地さんは?」

月神「それが、いないの。後で部屋に行ってみようと思っているけど……」

竹田「ま、俺達は待つしか出来ねえな。ゆっくりと待ってやろうじゃねえの」

楽観的な竹田さんに合わせるみたいに、皆は待つ事に決めたらしい

待ってる間、どこかソワソワした雰囲気だと感じたのは、多分気のせいじゃないよね……

198 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:11:10.22 ID:nUs1W5ywO

御影「おはよー!いやーゴメン!寝坊してさ……」

古河「御影ェ!オマエ、来る時天地見とった!?」

御影「えっ!?いや、見てないけど……?」

スグル「そう、ですか……」

……最後に来たのは御影君。彼は、天地さんを見ていないと答えていた

あれから数十分間、待っても来たのは別の人。全員が天地さんを見ていないと言っていた

月乃「……部屋で寝ているだけでは?」

飛田「昨夜はレディ一人を残してしまったから相当疲れてしまったのだろう!」

吊井座「そ、そそ、そうだろ。絶対……」

朝日「でもでもぉ、天地さんってぇ、いつも朝は早い方だと思ったんだけどなぁ」

デイビット「ふム、意見が真っ二つ。ではこうするのは如何かネ?」

デイビット「今より天地女史の部屋に向かう者、この場に残り待つ者。二手に別れ行動するのだヨ」

スグル「た、確かにそれがいいですよね……」

スグル「何もないなら、無いでいいんですし……」

何もないならそれでいい。そう言ったスグル君の声は、酷くか細く震えていた


月神「……なら、私とスグル君、臓腑屋さんにデイビット君が行きましょう。いいかしら?」

スグル「はい……」

デイビット「良かろウ」

臓腑屋「委細承知!」

名前を呼ばれた三人が月神さんについていく。残された私達は、何をするでもなく待っていた

199 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:12:29.13 ID:nUs1W5ywO

御影「ねぇ、もし本当に天地さんがさ……」

吊井座「ややや止めろよ!?そそ、そんな訳ねえだろうが!?」

古河「ビビり過ぎやろ……もっとしっかり、ドンと構えとき!」

駆村「案外、いつものイタズラかもしれないぞ?」

月乃「……やりかねないけど、悪趣味」

朝日「あれぇ?陰陽寺さぁん。どこいくのぉ?」

陰陽寺「探してくるだけだ」

照星「探すって……アテでもあるんすか?」

陰陽寺「勘だ」

瀬川「勘かぁ……」

そんな動物じゃないんだから……でも陰陽寺さんって結構勘の鋭い所があるからなぁ

瀬川「うーん……じゃあ私も行くよ。暇だしね」

席を立った私に、ちらりと視線を向けてすたすたと去っていく。無言は合法って言うし問題ないよね?

瀬川「……で、何処を探すの?」

陰陽寺「愚か者が」

竹田「適当に探しゃあいいだろ。倉庫とか教室とかでいいんじゃねえか」

吊井座「なっ、ななな、なんで隠れてる前提なんだよぉ!?部屋にいるかもしれねえだろ!?」

瀬川「そんなぎゃーぎゃー騒がないでよ……本当に軽く探すだけだからさ」

私達は各自に天地さんを探しにいく。なんだか、昔にやったかくれんぼみたいでドキドキするなぁ……

200 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:14:19.88 ID:nUs1W5ywO



御影「で、何で倉庫なの?」

瀬川「近いし、広いし、色々あるし……」

何人かが別の場所に移ったのを見計らって、倉庫に逃げるように転がり込む

尤も、一人だけじゃなくて何人かは先に来ていたんだけれどね

竹田「ま、広いっちゃ広いがこの数でも何とかなんだろ、なぁ?」

陰陽寺「好きにしていろ」

倉庫の奥の方へ歩いていく陰陽寺さん。竹田さん、御影君も適当に散らばっていった

瀬川「……ふぁ。奥で休んでよっと」

取り合えず、私はサボっていよう。足早に倉庫の奥の奥へと進んでいった

201 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:15:11.89 ID:nUs1W5ywO

瀬川「……ったぁ!?」ズデーンッ

瀬川「痛ったたたぁ……何!?」

唐突に足を取られてすっ転ぶ、幸い他の人達は気づいていないみたいだ

振り返って原因を探す。そこにあったのは……

瀬川「これ、ゴミ袋?何でこんな所に……」

パーティーで出たゴミ?でも、それならこんな所に放置しないよね

前からあったなら、誰かが片付けるだろうし……

瀬川「て言うか、何が入ってるの?やけに重かったけど……」

独り言を呟いて袋を破く、中に入っていたモノが、私の目の前にゴトリと落ちてきた
202 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:16:03.99 ID:nUs1W5ywO





……違和感を感じたのは、袋を破った時だった


ぐちゃりと濡れたモノを触れた様な触感。ドロリと溢れ出る真っ赤な液体


私の感覚が、私の認識よりも幾分早かったのが不味かった。確認の為に、それを直視してしまったから


手にこびりついていたのは、夥しい量の血液だった


中に入っていたゴミ……血液の持ち主だったモノと目が合う。見開かれた焦点の合わない目が、私の心を射竦めた




頭につけた大きなリボンがくたりと垂れた首にぶら下がる。彼女のトレードマークが、無様にも真っ赤に汚れていた


超高校級の家庭教師。天地りぼんさんは、最悪の形で私と再開したんだ


203 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:17:02.28 ID:nUs1W5ywO









「…………え?」

目の前の現実が理解出来ない。目の前の真紅が視界を潰していく

「嘘、あれ、え、なんで?」

思考がどんどんこんがらがる。無理矢理頭の中をぐちゃぐちゃに混ぜられていく

「嫌……嫌、嫌、嫌……!」

今、私に出来る事は拒絶する事だけ。目の前の嫌な事を否定して、妄想の中に逃げ込むだけ

「イヤァアアアアアァァァアアアアァアアッ!!」

だから、きっとこれは夢なんだ。目が覚めたらいつもの朝に元通りなんだ

………………だから?

世界が散り散りになっていく、何処か遠くから声が聞こえる

私の世界がグズグズに崩壊していくのを感じながら

204 : ◆upV/60xbhSrj [!red_res saga]:2019/01/05(土) 22:18:05.76 ID:nUs1W5ywO







【Chapter1】
  イロドリミライ 非日常編







205 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/05(土) 22:19:27.98 ID:nUs1W5ywO
本日ここまで。ようやく非日常編です
因みに犯人がリメイク前と変わったかはノーコメントで……トリックに関しては多少練り直してあります
206 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/08(火) 21:41:17.97 ID:4RiQRWxTO

「……ん。……さん!」

瀬川「……ぅ、あ…………」

……誰かが呼んでる。必死な声を出して、私の身体を小さく揺さぶりながら

瀬川「あ、れ……」

月神「! 良かった、本当に……!」ギュッ

瀬川「……? つきが、み、さん……?」

起き上がると、目の前にいた月神さんに抱き締められた。その手に籠められた強い力は、本気で私の事を心配したんだなって感じとれた

でも、ここは……体育館?朧気な意識で、あやふやになっていた周囲を確認した

駆村「気がついたか!?大丈夫か!?」

朝日「大丈夫ぅ?瀬川さん、倉庫で気を失っていたんだよぉ」

竹田「陰陽寺の嬢ちゃんが真っ先に駆け付けて介抱してたんだ。感謝しときな」

瀬川「そう、なんだ……ありがと」

陰陽寺「ふん」

そっか。陰陽寺さんが助けてくれたんだ。なんだか意外だけど、腐ってもヒーローって事かな?

心配してくれたのかな。不安そうな顔で私を見る皆の顔に、少しだけ罪悪感が沸いてくる

いや……全員じゃない。ここには一人、足りない……

207 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/08(火) 21:43:58.85 ID:4RiQRWxTO

瀬川「あれ?天地さんは?」

月神「……っ」

デイビット「……それハ」

瀬川「あはは。もしかして私を驚かそうとしてたりする?酷いなーもう」

御影「えーっと、えー……」

臓腑屋「にゃあう……瀬川殿、その……」

飛田「オゥ……惨たらしい……」

ここにいない一人の名前を口に出す。軽くおどけた調子で、彼女は何処だと聞いてみる

スグル「……その、瀬川さん。落ち着いて聞いてくれますか?」

スグル「天地さんは、その……」

陰陽寺「天地りぼんは殺された。間違いなくな」

瀬川「………………」

照星「なっ、何言ってんすか!?陰陽寺先輩!」

陰陽寺「事実を事実として言っただけだ」

御影「もっと順序立てて説明しないとさ……!」

瀬川「ううん、いいんだよ。わかってたからさ」

瀬川「ゴメン……ゴメンね」

……彼女が死んだ事は、とっくに知っていたんだ。でも、もしかしたらって思ってもいた

そんな陳腐な奇跡なんて、絶対に起こらないって。わかっていたんだけどね……

208 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/08(火) 21:50:38.68 ID:4RiQRWxTO

デイビット「さテ、理解しているなら話は早イ」

デイビット「ここに瀬川女史を運んだ理由、それはモノクマに指示された事なのだヨ」

瀬川「モノクマが……?」

モノクマ「そっのとーーーりっ!」

疑問を呈したその時、待ってましたと言わんばかりの早さで私達の目の前へ姿を表した

身体を揺らしてどことなく嬉しそうに。待ち望んでいたアニメが始まった子供の様に

モノクマ「うぷぷ、ようやく始められるよ!ここからが本編なんだからさ!」

古河「何がようやくや……!オマエが天地を殺したんやろが!」

吊井座「そそそ、そうだ!お前のせいだろ!?」

モノクマ「いやいや、ボクはなーんにもしていません!そして、断言いたしましょう!」




モノクマ「犯人は……オマエラの中にいる!」




その宣言で、世界が罅割れた。世界が歪み、秩序と倫理が逆転していく

今までは信じてきた皆を……今は疑う。その矛盾が私の世界を変えていった

209 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2019/01/08(火) 21:52:22.30 ID:4RiQRWxTO

月神「……ふざけないで!私達は、貴方の思い通りにはならないわ!」

駆村「何が本編だ!人を弄んで、一人の命を奪っておいてよくも……!」

月乃「……少し、質問がある」

モノクマ「ん?何?準備があるから手短にね」

月乃「……この学園内で殺人事件があった場合に、学級裁判というものがあるのはわかっている」

月乃「……でも、結局私達は何をすればいいのか。それがまだ伝えられていない」

学級裁判……そっか、それをやらないとこの学園からは出られないんだよね

竹田「そういやぁ、そんなのがあったな。モノクマには説明する義務があんじゃねえのか?」

吊井座「き、き、聞く必要あんのか……?」

デイビット「大いにあるナ。下手に聞かず行動して校則違反で処罰……これは最悪の結末ダ」

スグル「学級、裁判……」

デイビット「ム、何か疑問でモ?」

スグル「い、いいえ。何でもありません」

モノクマ「なるほどね。そう言えば学級裁判の説明もしないといけなかったよ」

モノクマ「という訳で……スイッチオーン!」ポチッ


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