春香「ボーダーですよっ! ボーダーっっ!」

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188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/13(木) 22:08:42.93 ID:eogXu7Apo
待つわ
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/15(土) 00:23:23.52 ID:ou4QE3nh0
次回月曜更新予定
190 :ぱくり屋 ◆zfDCN0YmXY :2018/12/17(月) 20:12:10.29 ID:2v6yyusw0


 また時を遡り、村上が体育館に突入し、切られた直後のこと。
 壊されたのとは別の壁面にある封鎖された出入口が、乱雑に切り払われた。

 飛び込んできたのは、三輪秀次。

遊真「む」

修「三輪先輩…!」

 相対した修と遊真にすぐには応えず、三輪は銃を構え、周囲を油断なく見渡す。

三輪「三雲、敵は何人だ」

修「三輪先輩、待ってください」

三輪「……。何か誤解しているようだな」

修「……?」
 
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:13:16.79 ID:2v6yyusw0

三輪「戦闘が開始した原因はこちらの誤射だそうだ。こちらの意向を改めて伝えたい! 責任者はどこにいる?」

 朗々とした声が体育館に響き渡る。

やよい「あっ、今みんな出はらってて……私がおはなしをききます!」

遊真「まてヤヨイ!」

三輪「そうか、一人か。…それで人質を奪還できないとはな」

修「見てのとおり、彼女たちは人質を傷つける気はありません! むしろ」

 焦りながら早口に伝える修に、三輪は舌を打った。

三輪「所詮玉狛か」
 
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:14:58.28 ID:2v6yyusw0

 三輪がホルスターから何かを取り出し、放った。
 小さな空き缶サイズのそれは、地面に転がるとともに猛烈に白煙を吐き出し始める。

修「トリガーじゃない…!?」

 通常兵器はトリオン体にほとんど効果はない。それでもトリオン体も視覚で認識することには変わりない。
 通気性の悪い体育館が、煙で埋めつくされていく。


やよい「ぅ、どうしよ、どうしよう」
 
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:16:06.88 ID:2v6yyusw0

修「……千佳! シールドで吹き飛ばせるか!?」

千佳「あっ、うん……やってみる!」

 千佳は巨大なシールドを張り、それを振るった。
 動かすと耐久の落ちるシールドだが、風を起こす程度には支障がない。
 外壁に空いた穴から煙が吹き飛んでいく。

三輪「とらえたぞ……! 近界民!」

やよい「えっ…!?」

 煙幕の効果は目くらましだけではない。煙の動きは、やよいの巨大なシールドの上部の開放部の存在を明らかにしていた。

 三輪はすでに、シールドのなか。
 
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:17:17.78 ID:2v6yyusw0

ガッ

やよい「あうっ」

 蹴り飛ばされ、吹き飛んだやよいのシールドが消える。
 手から離れたマイクが転がる。

三輪「玉狛の狙撃手、民間人を守っていろ!」

千佳「えっ、あっ、わたし…」

 三輪は千佳の返事も聞かず、やよいに向けて弾丸を放った

修「待ってください!」

 修のシールドが攻撃を阻む。

三輪「ジャマをするな! 何を考えている!」
 
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:17:47.14 ID:2v6yyusw0
 
 激昂する三輪に対する反論は、予想外の方向から入った。

モブ「あんたこそ何考えてんだ!」

三輪「な、に…?」


二ツ木「そ、そうだよ、危ないじゃない! こんなやり方…」

三好「横暴だー! 嵐山さんや三雲はうまくやってたのに!」

ソウダー

ヒッコメー

三輪「……やはり指令の危惧したとおりか」
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:20:09.03 ID:2v6yyusw0
 


城戸『敵のトリガーは、音を用い人を洗脳するものである可能性がある』

城戸『仮に交戦になった場合、敵音響兵器の奪取または破壊に留意するように』



三輪(あれか――)ダッ

 罵声を背後に、三輪はやよいの落としたマイクを拾った。

三輪「きみたちは洗脳されていただけだ! 正気に戻れ、近界民は敵だ!!」

 大音声が響き渡る。体育館中の視線が三輪に集まる。

三輪「近界民を排除するんだ! これ以上奪われないために! 流された血に報いるために…!」
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:22:02.05 ID:2v6yyusw0

 悲痛なほどの訴えが反響し……体育館は静まりかえった。
 しかし誰も三輪の声に応えて同調する者はなく、集まったまなざしはいまや、痛々しいものを見るそれだ。

三輪「くそ……! ならば!」

三輪の弧月がマイクを二分し、アステロイドがスピーカー状のトリガーを次々打ち抜いていく。

三輪「陽介!」

米屋「今いく今いく、がなるなよ」

 壊れた入り口からバックステップで米屋が入り込む。

三輪「中の敵は一人だ、早急に片付けるぞ!」
 
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:22:51.98 ID:2v6yyusw0

奥寺「援護します」

 東隊奥寺も突波に成功したらしく、中へと合流する。

三輪「玉狛と嵐山隊は操られている。まとめて排除しろ」

やよい「っ」

遊真「ヤヨイ、ここはオレたちに任せろ」

やよい「でも」

遊真「みんなを頼むぜ」

やよい「……はいっ」

米屋「んだよ、またこーいう感じ?」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:29:51.04 ID:2v6yyusw0
 
米屋「よっし白チビ、今日こそオレと」

時枝「させないよ」

ガガガッ

三輪が前へ出た一方で、時枝のアステロイドが米屋を下がらせる。

米屋「ちぇー…まぁいいや。やるか、トッキー」

時枝「槍を収めてくれれば話は早いんだけどね」

米屋「秀次を説得できんならな」

200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:32:08.32 ID:2v6yyusw0


ガキン!

修「くっ」

三輪の強烈な斬撃が修のレイガストを揺るがせる。

三輪「奥寺、1…30秒でいい、そいつを止めろ!」

 奥寺は遊真を指さす三輪に頷くと、即座に修に向かって跳んだ。

遊真「!」

修「?!」

すぐに追いすがった遊真に、振り返りざま切り掛かる奥寺。
とっさに受けざるをえない遊真は、スコーピオン二本で弧月を受け、跳ね飛ばされた。

遊真「やるね」
 
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:32:58.38 ID:2v6yyusw0
 
遊真(命令を意味でとって実力差を考えて動いた……普段考えさせてくれるタイプの隊長についてる、かな)

奥寺(彼は実質5桁級……真正面からは当たれない)

 稼ぐ時間が修を倒すためのものなら、遊真は当然それを阻止しようとする。


修(まずい…!)

 鉛弾が修の左手を沈める。弧月がレイガストにヒビを入れる。
 戦術が浮かばない訳ではない。ただ圧倒的な実力差が戦術を行使させない。
 
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:33:35.12 ID:2v6yyusw0

三輪「終わりだ!」

修「っ……!」

 レイガストを潜り抜けた弧月はとっさのシールドをやすやす砕く。

修(防げない――)


ガキッ

三輪「なに…!?」

 刃は、修の眼鏡に当たり止まった。
 
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:37:54.07 ID:2v6yyusw0
 
 横様から差し挟まれた刃が三輪の刀を止めていた。

千早「下がってください。ミクモさん」

三輪「近界民…!」

 千早は至近距離で放たれた鉛玉を素早い足さばきでかわしていく。
 三輪も下がらず、半身になりながら放たれた弾丸を最小限のシールドで止める。
 二本の弧月がぶつかる。

千早「お願い、聞いて。私たちは、戦いたくは」

三輪「近界民は敵だ! 近界民の事情など知ったことか…戦いたくないなら自分の国に引きこもっていろ!!」

 怒りのままに振るわれる刃。
 千早の刀が受け止める。
 
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:39:11.38 ID:2v6yyusw0
 

 一方村上の空けた穴からは、雪歩の弾幕を潜り抜けた加古隊が入りこんでいた。

嵐山「加古さん……退いてくれ」

加古「嵐山くん……これは、どういうこと?」

嵐山「彼女たちに人質を傷つけるつもりはない。俺たちが手を出さなければ、彼女たちが危害を加えることはない。だから」

加古「命令で来ているのよ……無視するわけにはいかないでしょう?」

嵐山「しかし」

加古「いい加減になさい嵐山くん」
 
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:40:11.32 ID:2v6yyusw0
 
 構わず歩を進めようとした加古の前に、嵐山は大きく手を広げて立ちはだかる。

加古「やるなら自分ごとやれ、とても言いたそうな顔ね……」

嵐山「加古さん。ここで戦闘を開始するのを、俺は見過ごせない」

加古「仕方ないわね……」

 ため息をついた加古に表情をゆるめる嵐山。だが――

加古「じゃ、お望みどおりに」

 加古の掌にトリオンキューブが浮かぶ。

加古「アステロイド!」

嵐山「!!」
 
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:41:11.17 ID:2v6yyusw0
 
 今の二人の距離はどちらかといえば射手ではなく攻撃手の間合い。
 オールラウンダーの嵐山がやや有利か。

 だが加古は射手だから接近戦は苦手などというレベルの射手ではない。

 己の周囲にカーテンのように攻撃を降らせる。

 同時に、嵐山にもアステロイドが向かう。
 嵐山が避ければ、やよいと千佳のシールドがあるとはいえ、弾丸は生徒たちのほうへと向かう。

 副と佐補のいるほうへ。

 加古はもっと深く考えるべきだった。
 弟妹を側に置いた嵐山准に攻撃を加えることの意味を――
 
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:42:52.91 ID:2v6yyusw0
 
 嵐山のシールドがすべての弾丸を止める。

加古(攻撃手用トリガーに切り替える隙は与え――!?)ガゴン!

 衝撃。


 右腕がひび割れている。何が起きたのか。

 シールドをそのまま激しく叩きつけたのだと気づいたときには、目の前に嵐山がいた。

加古「っ」

 本当に嵐山なのか? 癖毛が角に見える。形相は間違いなく――
 
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:43:49.85 ID:2v6yyusw0
 
ドゴッ

 凄まじい勢いで蹴り上げられた加古を追いかける突撃銃の弾丸。
 何をする暇もなく。
 最高地点に達する前に追いついた弾丸が加古を蜂の巣にした。

『トリオン漏出過多。伝達脳損傷。トリオン器官破壊。強制脱出』


ドン!
 
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:44:22.11 ID:2v6yyusw0

――


加古(………)

加古(生きてる……?)

 体がまだ震えている。嫌な汗が頬を這い落ちた。

 加古は体を横たえたまま、弟妹を背にした嵐山とは二度と戦うまいと誓った。

――

 
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:45:37.50 ID:2v6yyusw0


 加古と嵐山が向き合ったのと同時刻、木虎は双葉と対峙していた。

木虎「退いてくれないかしら、双葉ちゃん」

双葉「……正気ですか?」

 間合いは嵐山vs加古と同距離。つまりはこちらは攻撃手の双葉が有利だ。

木虎「ここで攻撃してしまっては、ボーダーの恥になるわ」

ピク

 双葉の表情は、どうみても好意的ではない。

双葉「よく言えますね。そっちこそそれ、裏切りじゃないんですか」

ドッ

加古のアステロイドの砲声を合図に双葉が跳ぶ。
 
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:46:56.21 ID:2v6yyusw0
 
木虎「…仕方ないわね」

 剣戟の音が鳴り響く。

 どちらかといえば攻撃手寄りの万能手である木虎だが、今は自身のトリガーではない。

 幸いにしてスコーピオン、銃型のアステロイドという部分は同じだが、残念ながら得意のスパイダーもセットされていない。

 いつもとまったく同じというわけにはいかない。
 双葉の鋭い連撃に?に小さな傷を作った。

双葉「テレビばっかり出てて……なまったんじゃないですか」

木虎「早いわね、嵐山先輩…」

双葉「?」
 
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:48:19.45 ID:2v6yyusw0
ドン!

双葉「うそ……!? そんな、なんで…!?」

 信頼する隊長の強制脱出。理解しがたい現実が双葉に降りかかる。

木虎「あらためて言うけど、退いてくれないかしら?」

双葉「っ、そんな、ことっ」

 双葉は素早く回り込み、嵐山を木虎の背後に置いた。その上で木虎に打ちかかる。

木虎「仕方ないわね。教えてあげるわ」

双葉「また上から目線」

木虎「嵐山隊はボーダーの顔」

双葉「だからなんです。八百長してくださいですか?」
 
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:49:09.98 ID:2v6yyusw0
 
 双葉はあえて煽るような態度をとった。
 木虎は自分に好意的だ。冷たくあしらうと、いつも残念そうにする。
 わずかでも隙が生まれれば。

 だが――

双葉(あれ?)

 木虎はうすく笑みを浮かべた。

木虎「大勢が見ているなかでふがいない真似はできない」

双葉「!」

 木虎がアステロイドをホルスターに収め、大上段に構える。
 露骨に隙の大きな構え。
 
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:50:11.28 ID:2v6yyusw0

双葉(罠……? それでも!!)

ダン!

 双葉が踏み込む。待てば嵐山との合流を許すことになる。

 低い構えから繰り出されるスコーピオン。木虎の振り下ろしより速い。
 双葉の左手のスコーピオンが木虎の脇腹に刺さる。

双葉(急所をねらうと隙ができる、このままヒット&アウェイで…!?)

 飛び退こうとした双葉の体勢が崩れる。

双葉(抜けない!? そんな、こんなの――)
 
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:51:10.08 ID:2v6yyusw0
 
双葉(筋肉で刃を止めたとでも…そんなマンガみたいなことできるはずがっ)

 仮にそれができるにしても中学生の女性の筋力では無理があるだろう。
 だがそんなことは関係ない。
 トリオン体を動かすのはイメージだ。
 確固たるビジョンとそれを成すトリオン量があれば、イメージは実現する。

木虎「双葉ちゃんのためにもね」

双葉「何がっ」

 束ねた二本の木虎の刃が、双葉をスコーピオンごと切り裂いた
 
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:59:52.38 ID:2v6yyusw0
 
『強制脱出』

ドン!

木虎「……ふぅ」シュゥゥ…


嵐山「木虎」

木虎「嵐山先輩」

嵐山「トリオン体を歪めて挟み込んだのか。ムチャしたな、大丈夫か?」
 
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:00:59.19 ID:2v6yyusw0

木虎「はい。あのコがはねまわれば危険ですから」

嵐山「ああ、よくやってくれた!」

木虎「…いえ、当然です」

 ボーダーの顔。
 それは、嵐山隊への評価はそのままボーダーへの評価になるということ。
 ボーダーが負け、市民を守れないなどあってはならない。

 例え相手が、なんであろうと

木虎「そのために私たちはいるんですから」

 
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:03:50.03 ID:2v6yyusw0
 

 嵐山隊の三人目、時枝は、三輪隊米屋と対峙していた。

米屋「この距離援護なしでオレを止められるつもりかー? トッキー」

嵐山と木虎は遠い。遊真と修は三輪、奥寺にかかりきりだ。
砂煙立ち込める校庭とは違い全体も見渡せる。
少なくとも背にした体育館の壁が破られるまでは、米屋は目の前にだけ集中できる。

時枝「さぁ、どうだろう」ガガガッ

米屋「おっと」

 素早い跳躍で初撃をかわすと、米屋はそのまま時枝に迫る。

米屋「そぉら! よっ!」

 米屋の槍の性質をよく知る時枝は大きく槍をかわす。
 かわしながら引き金を引くことも忘れていないが、散発的な攻撃はかわされ、防がれていく。
 
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:07:39.39 ID:2v6yyusw0
 
米屋「決め手に欠くぜトッキー!」

 シールドを張り、低く身構える米屋。

米屋「このままイッキに…」

時枝「それはどうかな」

 時枝の銃から放たれる弾丸が、シールドを迂回するように軌道を変える。

米屋「…と、思うじゃん?」

 シールドを押すように一歩。
 弾丸は、前に出て足を止めた米屋を囲うように迂回してしまう。

時枝「さすがに簡単にはいかないね」

米屋「さすがはトッキー、けどこれで、正面ガラ空き!」
 
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:09:15.76 ID:2v6yyusw0
 
時枝「……と、思うでしょ?」

ビビッ

米屋「んなっ」

 背後から飛来した攻撃が米屋を貫き、床に弾痕を残す。

シュウウウ…


米屋(今のはまさか)

 弾痕は至近に二つ。米屋は知っている、そんな特徴的な攻撃を。
 シールドを張り退きながら、米屋の脳裏に浮かぶのは一人の狙撃手。しかし――

米屋(狙撃? んなバカな、通信もできない、射線なんてもちろん通ってねーぞ?)
 
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:11:53.79 ID:2v6yyusw0

 背後を窺うも、体育館の外壁は小さな覗き穴を増やした他はすべての景色を遮っている。第一、視えているなら今の隙に急所を射抜けるハズだ。

米屋(あんな小さな穴じゃ多少数があって、も――)

米屋「……そか、弾丸は外に出てったんだよな…」

時枝「広報の仕事ってけっこう待ち時間が多くてね。このパターンのバイパーが出たら、その中心を撃って、なんて、合図や連携を考えたりするんだ」

米屋「やってくれんなー…」シュゥゥ…

 被弾した脇腹からトリオンが漏れていく。致命傷ではない。しかし――

 
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:12:49.74 ID:2v6yyusw0

奥寺「すいません、落ちます」ドン!

 双葉、奥寺が相次いで倒され、三輪も千早に止められている。

米屋「まじーなー……」


佐鳥(撃ってよかったんだよね…? 通信できないってこえー)ドキドキ
 
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:13:46.61 ID:2v6yyusw0

 更に三輪の空けた穴から、一人の少女が駆け込んできた。

春香「えーいっ!」

米屋「おわっ!」

 鉛弾を受けたロケットランチャーを鈍器として振り回す春香。
 米屋は時枝の動きに気を配りつつギリギリでかわしていく。

米屋(おいおい、後続に任せたつもりが……まさかみんなやられたのか?)

米屋「秀次ぃ!」

三輪「っ!」

 千早を跳ね飛ばし三輪が大きく退く。
 三輪隊の二人が背中合わせに合流した。
 
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:14:49.81 ID:2v6yyusw0

米屋「この孤立ぶりはおかしくねーか? 敵さんにブラックトリガーでもいたかね」

 笑顔を浮かべつつ聞くが、目は笑っていない。
 三輪は答えるかわりに左手を口元にあてた。

三輪「聞こえますか。こちら三輪」

 電波による通信妨害はトリオン通信には意味がない。
 逆の可能性もあるとみて渡された一部隊員にだけ渡された無線は、果たして機能していた。
 しかし本部の指示を聞いた三輪は、怒りと困惑に目を見開いた。

三輪「撤退…!? そんな――」

 
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:16:41.04 ID:2v6yyusw0

千早「退くのであれば、私たちは追いません。ここで戦うのは、危険すぎる」

 落ち着いた、気遣わしげでさえある千早の声。
 それが罵倒の言葉であったかのように、三輪は口元を歪めた。

三輪「本気でそう思うのなら今すぐ消えろ。ここはオレたちの世界だ。他人の世界を我が物顔で踏み歩いておいて今更――」

千早「今から、では、やり直せないでしょうか?」

三輪「……今からやり直す?」

千早「ええ。私たちはお互い――」
 
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:17:23.45 ID:2v6yyusw0

三輪「はっ、ハハハ……ははははは」

 ひどく乾いた哄笑。絞り出すように。

三輪「やり直すか。それはいい。だったら近界民が殺した人を――姉さんを――」

 そこまで口にして、三輪の表情が消えた。

三輪「退くぞ陽介」


陽介「……おー」

 言うが早いか、踵を返し、周囲へ警戒しつつ飛び退く。
 冷静沈着に、一見平静に。
 しかし最後の一瞥にこめられていたものは、疑いようなく、憎しみだった。


千早「………」
 
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:19:30.45 ID:2v6yyusw0


 にわかに静寂を取り戻した体育館。
 だがすぐに戸惑いのざわめきが広がっていく。

オワッタ…ノカ?

ナニガドウナッテルンダ?

嵐山「……油断するな、木虎」

木虎「はい。……! 誰か来ます」
 
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:20:01.56 ID:2v6yyusw0

春香「わわっ、待ってください、私たちの仲間です!」


亜美「はるるん!」

真美「どーなってんの!?」


 続々と、壁に空いた入口からバンナムの面々が入り込む。
 急激に混乱が収束を迎えたため、近場に退く以外の選択肢はなくなっていた。


 
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:20:44.05 ID:2v6yyusw0

響「ふむふむ、そうだったんだ……助けてくれてありがとね!」

木虎「勘違いしないでください。一時的な利害の一致です」

雪歩「四条さん、真ちゃんと伊織ちゃんは…」

貴音「申し訳ありません、合流を優先に動いたので……今現在どこにいるかまでは…」

千早「美希、外はどう?」

美希「んとね狙撃手さんはまだ何人かいるかな。他の人たちは行っちゃったよ?」

千早「まだ、警戒しておいて頂戴」

美希「はーい」
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:21:37.66 ID:2v6yyusw0

あずさ「すこし、ふしぎね〜。まだまだ、あちらのほうが有利だったと思うのだけど〜」

春香「……そう、ですよね」

小鳥「ちょっと待ってね。妨害トリガーは停止させたから、もう間もなく通信が回復するわ」

231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:22:52.58 ID:2v6yyusw0


―――本部


城戸「罠の設置は」

冬島『なんだか派手にやらかしてたようですが、こっちは予定の通りで準備完了』

冬島『燻り出してさえくれりゃ、そうそう脱出はできんと思いますよ』


城戸「……いつでも発動できるようにしておくように」


冬島『りょーかい』

232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:23:26.05 ID:2v6yyusw0

忍田「学校の様子は?」

奈良坂『戦闘収束に伴い、敵はほぼ屋内へ撤退。金髪の近界民は補足しています』

当真『隊長、オイ隊長や』

冬島『なんだぁ当真ぁ』

当真『ダメだわ。当たる気しねー』

冬島『……おまえが言うならそうなんだろうな』
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:30:40.37 ID:2v6yyusw0

――

奈良坂「またあの人は何を……」ジッ


美希「……」ニコッ

ヒラヒラ

奈良坂「馬鹿な!!」バッ


――

奈良坂『気付かれてる! 手を振られた!!』


鬼怒田「なにぃ!?」

忍田「1km近く離れても効果がないか……」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:31:37.12 ID:2v6yyusw0

当真『奈良坂、奈良坂』

奈良坂(クソ、一体どんな…!? 移動してもムダか…?)タッ

当真『奈良坂オイきのこ!』

奈良坂『っ、なんなんだ当真さん!』


当真『手ぇ振られたって言ったが、目は合わせてもらったか?』

奈良坂『目……?』

奈良坂(目線は……。……!)
 
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:32:16.23 ID:2v6yyusw0

奈良坂『合わせられなかった…!』

当真『そーか』

奈良坂『ということは』


当真『ああ……脈ナシだな。残念、ただのお愛想だ』

奈良坂『』ガク

236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:32:52.85 ID:2v6yyusw0

忍田『つまり、金髪の近界民は』


奈良坂『ええ。こちらの向ける意識を感知するようですが、この距離の相手の位置を正確に補足できるものではないようです』


忍田『当真、奈良坂、よくやった』


鬼怒田『意識を捉えるサイドエフェクト……影浦と同系統のもんか』

忍田「となれば伏兵や狙撃よりむしろ誘導弾……バイパー、ハウンドでの集中砲火が効果的だろう」

城戸「目であるその近界民を叩けば、狙撃も可能、か」


城戸「頃合いだな」
 
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:35:13.64 ID:2v6yyusw0
 

――体育館



小鳥「っ、通信来たわよ! 律子さんから!」

律子「……すいません、私のミスです」

小鳥「え?」

 
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:36:10.58 ID:2v6yyusw0



太刀川「いやー……楽しかった」

真「……く……」

太刀川「わるいね。弧月同士で近界民に負けたなんてことになったらお師匠に殺されちまう」




律子「真と伊織が……ボーダーに捕まりました」

小鳥「っ」

律子「ともかく、私は船を動かして――」

?「動くな!」

?「人型近界民だな…!」

律子「なっ」

ガッ

ザザッ

小鳥「律子さん!? 律子さん!?」

嵐山「今の声は、茶野と藤沢かな……」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:37:31.97 ID:2v6yyusw0
 

美希「みんな、誰か来たよ、一人みたい」

春香「ひ、一人?」

嵐山「あれは…」

三雲「迅さん!?」


春香「迅さん……? 迅さんって――」

迅「あー、自己紹介はいらないかな。まぁ、細かい話は後回しにして、要件を言わせてもらおう」
 
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:39:51.45 ID:2v6yyusw0

迅「おでこのコ……伊織ちゃんだっけ。は、おれが捕まえた。そんで、城戸司令に交渉役を任せてもらってね」

三雲「迅さん、聞いてください、彼女たちは交戦がしたいわけじゃなくて…」

迅「さきに言っとくよ。ごめんな、メガネくん」

三雲「っ」

迅「なんとかしてやりたいのは山々なんだけどね」

迅「おれがそっち側についちゃったら、城戸さんは天羽まで使うだろ。こうするほうが、安全だ」

迅「結果的に、こっちは人質作戦に屈しないと示しちゃった。そんでそっちは――悪いね」

迅「キミたちは人質を絶対に傷つけない。分かるんだ。だからもう、学校に立てこもる意味はない」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:42:42.11 ID:2v6yyusw0

迅「一応言っておくけど。キミたちがボーダーの守りを撃破して仲間のところにたどり着くのも無理だよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

春香「…っ」

遊真「……ふむ。ほんとうみたいだな」

修「そんな――」


迅「こっちの要求は、こっちの人間全員の解放と投降」

迅「あきらめて投降してくれれば少なくとも全員命は助けられる」

迅「相談する時間はくれるそうだ。期限までに投降しろってさ」

 告げるだけのことを告げ、迅は学校に背を向ける。
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:43:17.19 ID:2v6yyusw0

修「ま、待ってください!」

迅「メガネくん……おれだって、助けてやれないこともある」

修「でも迅さんなら」

迅「おれの答えは言ったよ。あとは」


迅「キミたちが答えを出す番だ」

243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:45:20.24 ID:2v6yyusw0



三好「そんなのって――ないだろ! この人たちが実際なにかしたわけじゃないのに――」

二ツ木「みよっしー、帰りたくないの?」

三好「そりゃ……帰りたいのは確かだけど、それより」

四ツ谷「後味悪いよな……このまま解放されてもさ……」

一之瀬「あの……話し合いはできないのでしょうか…」


唐沢「……何を話し合うのかな。人質を人質にしていないとわかったいま、差し出せるものがないと話し合いにはならない」


春香「あの……、私たちのことはなんでも話します。なにか……できれば、皆さんの知ってることも教えていただけたらその」

嵐山「そうだな、手があるか考えてみよう」
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:51:28.64 ID:2v6yyusw0

亜美「あっそだ、亜美たちが知ってる国とかのこと話すからーってのはどう?」

嵐山「…それは――」

遊真「あー……それだとおれ、こっちにつかないほうが良かったなー」

修「? ……あ、そうか。空閑のサイドエフェクトも頼れないし、すり合わせられる情報も限られるし、信憑性が――」

真美「てかてか、ダイジなハナシ話せないっしょ? 今まで会った人たちの」

亜美「まーね」

貴音「信頼は積み重ねるもの……その前から崩すことになりかねません」

唐沢「どちらにせよ、喫緊で使えるものでないと価値は薄いよ……情報は足がはやいからね」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:52:35.39 ID:2v6yyusw0

千早「向こうは降伏か全滅させれば、トリオン艇二隻に、多数のトリガー、トリオン・情報源である私たちが15人手に入る……それに見合うとなると――」

美希「それか、美希たちを全滅させられないって思う方法……なんかあれば?」

出穂「アタシらが傷つけられた風に見せかけるとかは」

春香「すっごく、ありがたいんですけどそれは……ごめんなさい」

出穂「あー。そっちの人たちつかまっちゃったんでしたね…」

響「それもだけど……やっぱ、フリでも傷つけるのは、それで乗り切っても後がね」

やよい「あのっ、ほんとはもっともっとつよいんだぞーって思ってもらえたらなんとかなりますか?」

嵐山「……ボーダー側の切り札は、この校舎を一瞬でぺしゃんこにできる。それを上回るくらいでないと、難しいかな…」

隊長「さすがに、厳しいね…」

246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:53:02.18 ID:2v6yyusw0

あずさ「交渉ではなく、城戸さんという方にお願いしてみる、というのはどうでしょう〜」

修「……それは、難しいと思います」

遊真「おれのときもだいぶモンドームヨーだったぞ。修や迅さんがいなきゃどうなってたやら」

雪歩「うう……」


修(ぼくと空閑のときは……迅さんや林藤支部長、嵐山さんたちが橋渡しをしてくれた)

修(なにかできることはないのか、なにか――)

247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:53:41.18 ID:2v6yyusw0
 
木虎「――ま。全面降伏すれば命まではとられないでしょう」

隊長「命を取られなければいいというものではっ!」

小鳥「隊長!」

隊長「あ、ああ……すまない」

木虎「…いえ」

 
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:55:24.37 ID:2v6yyusw0

 バンナムの面々はそれぞれうつむき考えていたようだが、やがてひとり、またひとりと顔を上げる。

春香「私たちの負け……かな」

 春香は弱弱しく笑みを浮かべた。

千早「……………そうね」

 千早は自分の肩を片手で抱き、静かにうなずく。

やよい「あぅぅ……ごめんなさい、みなさんすっごく、なやませてしまって」

 やよいは申し訳なさそうにボーダーや生徒たちに頭を下げる。

美希「……ん。思いつかない……ね」

亜美「んぁー! せっかくヨータロたちとも仲良くなれたのにぃ!」

真美「まー……兄ちゃんを探しに行けなくなりそうなのは――ちょっち、きついけど…。いつかできるかもしれない、よね」
 
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:01:35.61 ID:2v6yyusw0

雪歩「うぅ……プロデューサーに、私たち……。でも、真ちゃんと伊織ちゃんを……」

響「……比べられるものじゃ、ない、もんね。プロデューサーや、いぬ美たちに一生会えないって決まったわけじゃないし」

貴音「今であれば、大切なものは三雲殿たちに預けることもできましょう」

あずさ「いつか、プロデューサーさんの故郷へ行って。日本の皆さんと、ボーダーの皆さんと――まぁ、お会いできましたし。夢は半分、叶ったわ〜」


修「それで、いいんですか……!」

隊長「いい訳がなかろう!!」

修「っ」

隊長「すまない。だが……、無念だよ。前隊長に…従兄(あに)に、顔向けができん」

修「…………すい、ません」

250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:02:53.50 ID:2v6yyusw0

美希「――みんな、笑顔、笑顔〜」

やよい「美希さん……」

美希「うん、ボーダーやニホンの他のみんなと仲良くなれなかったのは残念だし」

美希「……どうなるのかなって。ちょっとこわいよ」

美希「でも、ハニー言ってたの。傍目に華やかでも、どんなに理想がきれいでも。うまくいかないことはいっぱいある。でも、だからこそ」


美希「そんなときこそ、笑顔を忘れるなって」

251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:06:13.66 ID:2v6yyusw0
 
美希「いっぱいーっぱい、大変だったけど。そうやって、ここまできた。だから」

 すう、はあ、深く呼吸し。美希は顔いっぱいの笑みを浮かべる。

美希「だからミキ、ハニーがいなくても、もう泣かないよ」


貴音「……ええ、美希の言うとおりです」

真美「ん、そ、だった」

亜美「うつむいてちゃアイドルはできませんな!」

嵐山「……すまない」

響「嵐山さんたちのせいじゃないぞ! もっというとボーダーはなーんも悪くない!」

美希「どっちかってーと美希のせい?」

あずさ「まぁまぁ、あのときすぐ捕まるのと今捕まるのなら、今のほうがずっといいわ〜」

嵐山「……きみたちにならべく配慮してくれるようかけ合ってみるよ。迅だってほんとうはきっと…」
 
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:09:01.06 ID:2v6yyusw0
 

 何事もなかった日常に戻るだけのはずの生徒達まで、皆がうつむいていた。
 瞬く間に皆の心をつかんだアイドルたちの笑顔も、今は周囲の顔を明るくはしない。
 誰もが考え込み、そして、答えが出せずにいた。


三雲(これで、いいのか?)

三雲(なにか方法はないのか? こんな、一方的に服従させるようなやり方じゃなくて、この先に繋がるようなやり方が………)

 
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:14:06.71 ID:2v6yyusw0


 修はもう一度周囲を見た。
 修を見ながらやはり考え込む遊真を、千佳を。
 これ以上皆の表情を曇らせまいとするバンナムの面々を。
 やるせない表情で目を伏せる嵐山を、木虎を、時枝を。
 皆を。


 そして

三雲(――!)

https://www.youtube.com/watch?v=kmGMvmXhu7E&t=796s

 
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:14:37.17 ID:2v6yyusw0

三雲(……このメンバーなら、協力が得られるなら、もしかして? でも――)



遊真「――なにか浮かんだみたいだな。どうするんだ、オサム?」

千佳「オサムくん」

嵐山「三雲くん?」


三雲「…………みんなに聞いてほしい、です。普通じゃないやり方だし……それでも、もしかしたら」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:15:41.86 ID:2v6yyusw0



千早「……たしかに、それなら、けれど……」

春香「だ、ダメですよ! 私たちはともかく、そんな、オサムさんたちまで」

嵐山「……………………ほかに思い浮かぶ手も、ない、か」

やよい「あ、あの、いいんですか? えらいひとに怒られちゃうんじゃ…」

修「そうかもしれない。でもぼくは――あ、ぼくたちは」

 ドンと修の腕を叩いた遊真と、そっと腕をとった千佳に、修が言い直す。

修「できることなら、そうしたい」

春香「な、なんでそこまで……私たち、何がお返しできるかも……」

遊真「べつに気をつかうことないぞ。オレたちがそうすべきだと思ってるからだ」

千佳「だよね、修くん」

修「え、あ、ああ」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:16:14.58 ID:2v6yyusw0

春香「ミクモさん……」

修「でも――」

 目を向けられ、嵐山が首肯を返す。

嵐山「借りは返さないと落ち着かないんだ」

木虎「同じく」

時枝「やろうか」

唐沢「若いなぁ……。嫌いじゃないけどね」

 見渡す三雲に、皆が頷く。
 修は、静かにこぶしを握った。
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:17:16.20 ID:2v6yyusw0


……


出穂「うー…緊張するー…アタシの役目なにげに超重要じゃないスか!? ホントに万が一なんですよね!?」

千佳「出穂ちゃん」

出穂「チカ子」

千佳「……がんばって」グ

出穂「なーんでこの期に及んでプレッシャーかけてくるかなーアンタは〜〜〜〜〜〜」

グリグリ

イタイイタイ

出穂「ま……アンタと交代なんてできないし。やれることやるしかないか」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:19:31.43 ID:2v6yyusw0

嵐山「うん、おれたちも……みんなの役割が重要だ」

木虎「佐鳥先輩はどうしましょうね……まぁ、べつになんでもいいか」

時枝「申し訳ないけど向こうは向こうに託すしかないね」


隊長「すべての準備完了だ。皆、あとは頼むよ…!」


美希「オサム! 作戦前の一言よろしくなの!」

修「ええっ、ぼくが!? 嵐山さんやそちらの誰かのほうが…」
 
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:21:08.02 ID:2v6yyusw0
 
木虎「早くしてよね」

春香「修さん」

嵐山「みんな、君の言葉を待ってる」

 視線を受け、修はゆっくりと、ツバを飲み込む。

 
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:21:53.37 ID:2v6yyusw0

修「ぼくは……弱いです。一人じゃ、こんな状況どうにもできない。でも」

修「みんなが自分の役割を果たせば多分……いや」

修「みんなの力を合わせれば、きっとうまくいく!」

修「だから……た」


修「やりましょう!!」




「「「おおー!!!」」」



 
261 :ぱくり屋 ◆zfDCN0YmXY :2018/12/17(月) 22:22:57.98 ID:2v6yyusw0
というところで今回はここまで
今週中には終わらせたい…!
突っ込み質問感想はいつでも歓迎
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/15(火) 22:50:54.52 ID:LEJq8Iv30
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