【ミリマス】莉緒「それでも君には戻れない」

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38 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:03:17.53 ID:1XyBkUcg0


「莉緒!」

「ど、どうしたの!?」

「雑誌の表紙が決まりました! やりましたね!」

「ほ、ほんとに!?」

「ええ、ほんとうですよ!」

「よーし……! 最高のものにしましょう!」

「もちろんです。莉緒」

「……?」

「今夜はお祝いしましょうね」

「うん! うんうん、もちろん!」

39 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:04:09.23 ID:1XyBkUcg0


「莉緒? デモのテープが届いてますから、入れてくださいね」

「はーい、任せて」

40 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:04:40.70 ID:1XyBkUcg0


「莉緒、今度のイベントではこういう衣装なんですが……」

「お……おお? まじ? ううん、イケるわ! やってみせる」


41 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:05:32.21 ID:1XyBkUcg0


「剃らないとまずいわよね……」

「えっと……任せます。
 その辺に関しては聞かれても
 さすがに分からないこともあります」

「ねえ……手伝ってくれる?」

「……えっ!?」

42 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:06:10.69 ID:1XyBkUcg0



「ねえ」

「はい」

「優しくしてね」

「……はい」



43 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:07:02.92 ID:1XyBkUcg0


「夢があるんです」

「……どうしたの?」

「莉緒を……いつかナンバーワンのアイドルにしたいっていう夢が」

「……私が?」

「はい。これは本気で言ってます」

「私なんて……」

「私なんて無理? 本当にそうでしょうか?
 今の莉緒は実質的な知名度や活躍は
 十分にその位置を狙えると思っています」

「……」

44 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:10:13.13 ID:1XyBkUcg0


「今年、行われるアイドルの祭典
 アイドルアカデミー大賞……
 今から半年後の12月です。
 そこで大賞を取るのが実質のナンバーワンですよ」

「そうなの?」

「ええ、そうです。
 だから……一緒に目指してくれませんか?」

「私と?」

「そうです。そのためにはまず仕事も増やしていって、
 メディアの露出も増やしていきましょう。
 そうしたら、ノミネートに近づいていきます。
 今の莉緒の知名度だとノミネート自体は簡単にされると思います。

 そうしたらあとはひたすらに仕事とライブとを
 繰り返してトップへと駆け上がれます。
 少し、忙しくなりますが……一緒にやってくれますか?」


「……私、あなたとならやれる気がするわ。
 大丈夫、あなたが選んだ私だもの。きっと大丈夫。
 あなたの期待に応えてみせるわ」

45 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:11:32.44 ID:1XyBkUcg0


私達の関係はいつしか
一人のアイドルとプロデューサーという枠を
超えていました。

もうそれどころではないくらいに……。


言い方は悪いけれど
少しお互い依存しているような関係になりかけていました。


でも、それは別に悪く思ってなかったんです。
私も彼も。

46 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:12:56.58 ID:1XyBkUcg0


彼が私を信じてくれていて、
もちかけてくれたIA大賞……。

とてもじゃないけど私は最初は無理、
なんて思っていたけれど……
彼の言葉を信じてがむしゃらに目の前にあることだけに
集中して取り組むことにしていったんです。


一生懸命に。
そして誠実に。


彼も私がどんどん仕事をこなしていくのを見て、
じゃんじゃん仕事を入れてくるんです。
それも容赦ないくらいに。

だからそれで何度も喧嘩したわ。
お互い分かっているから最後は私が折れるんですけど。

47 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:13:49.60 ID:1XyBkUcg0


「こんなスケジュール無理よ!
 ダンスだってまだ覚えきれてないわ」

「うん……わかっています。
 でも次のテレビの番組が成功したら次にも繋がるんです。
 今回の番組のディレクターもプロデューサーも
 莉緒のことをすごく気に入ってくれているんですよ。
 それを裏切るわけにはいきません」

「私は潰れても構わないわけ!?」

「そうは言っていません。
 すぐあとに休みを設けます……。
 ここだけ……辛抱してもらえませんか?」

「……がんばる」

「ありがとうございます、莉緒」


48 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:16:57.01 ID:1XyBkUcg0


過密になるスケジュールに
私は次々とハードルを超えるばかりで先が見えなくなっていました……。


でも、私はもう自分が忙しいから、
覚えることもいっぱいあって……ダンスも歌も……。
番組の進行や人の顔、業界のあれこれ。


だから彼のことをないがしらにしがちだったのかもしれないんです。

忙しいのに……って思っていたけれど、
いつの間にか忙しさを理由に彼を放っておいたのは
私の方でした。


49 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:17:37.51 ID:1XyBkUcg0



彼、結構不器用なところがあって……
仕事を埋めることでしか私に会えないと
思っていたところもあるみたいなんです。

私ならすぐに呼べば飛んでいくのに……。



そうね。呼んでくれたら……いつでも飛んでいくのに。



50 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:19:01.96 ID:1XyBkUcg0


夏の本番が始まる頃にはスケジュールの過密具合は
ピークに達していて、……世間は夏休みムード。


毎週末のように大きなイベントが重なって
汗をかいてもシャワーを浴びて着替える暇なんてなく、
そのままタクシーに飛び乗ることが多かったですね。

タクシーの中で言い争いになりそうなくらい
大きな声を出して汗ふきシートみたいなので汗を拭いてました。


彼もどこかに電話をひっきりなしにかけていて、
電話がかかってきて、また電話してメールを見ての繰り返しでした。

51 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:20:04.82 ID:1XyBkUcg0


電話をするたびに開く手帳のスケジュール欄は
びっしり文字で埋め尽くされていました。


ひどい時は途中でお金だけ握らせてくれて
タクシーから降りて別のタクシーを捕まえて
打ち合わせに向かったりしていました。


きっとどこかから呼び出されたり、
別の子の現場のトラブル対応に追われたりしていたんだと思います。


私以上に……彼のことが私は心配になっていました。
でも彼にそのことを問い詰めても同じことを繰り返しました。


「大丈夫、12月に成果が出るから」

52 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:20:52.10 ID:1XyBkUcg0



夏が終わる頃、
彼の荷物には常に栄養剤が入ってるような状態でした。


目元のクマは日に日に濃くなっていく一方で。
移動のタクシーでは電話が切れた途端に、
彼の電池が切れたように眠ることもありました。

起きたら起きたで「今、何分寝てました……?」って私に聞くんです。

53 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:22:15.64 ID:1XyBkUcg0


一方の私は水着の写真の仕事とか
歌、バラエティの出演、深夜番組やトークの番組……
いろんな番組に出させてもらいました。


彼のおかげで今は別の事務所のお友達も増えて
女性のお笑い芸人なんかもお友達になってくれたりして、
テレビ局の廊下ですれ違うと声をかけてもらったり。


それはタレント同士だけではなく、
業界のスタッフさんからも「応援してます」とか
「実はファンなんです」とか。


女性のスタッフさんからは
「どうしたらそんなキレイでいられるんですか」とか聞かれたりして。


そして、どこからか聞こえてくる
「IA大賞は莉緒ちゃんだね」
なんて噂話。

これを聞くと私は必ず彼に報告していました。

54 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:22:56.20 ID:1XyBkUcg0


「今、局内でIA大賞は私だって言ってる人がいたの!」


そう言うと、クマだらけの目元の彼の瞳に光が戻るんです。

キラキラしてて、
子供みたいに「ほんとうですか!?」って。

小さくガッツポーズまで取ってる時もありました。


この頃から街を歩いても声をかけられることが増えてきたんです。

55 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:23:36.19 ID:1XyBkUcg0


「最近がんばってますね!」

「ファンなんです!」

「大好きです!」

「いつも応援してます」

「IA大賞、莉緒ちゃんに投票する!」



これも私は彼に報告していました。逐一。

きっと彼も喜んでくれると思って。

56 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:25:19.13 ID:1XyBkUcg0


秋頃になるともうネットでもテレビでもIA大賞の特集が組まれたり、
去年は誰だったとか、今年はどうだとか……
もしかしたら少しだけ見てくれたかもしれないですけれど。


でも私と彼はその噂話や浮足立つ内容に耳を傾けながら
遠征のイベントやライブを繰り返し、
帰ってきてラジオに出演したりテレビに出たり、
地方でテレビやラジオ、イベントに出演。


移動の時間にダンスの振りを覚えて。
新幹線でファンに握手を求められて、写真を撮ったり。


嬉しいことに「見ない日は無い」なんて言われたりしてました。



そして。

57 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:25:59.69 ID:1XyBkUcg0



11月の頭でした。
彼が入院をしたのが。


58 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:26:42.15 ID:1XyBkUcg0


原因は過労でした。きっと覚えていると思います。
私は仕事の合間を縫ってお見舞いに行っていました。


その時はお会いしませんでしたね……。
お会いするかもしれない、とは思って……
毎回気合を入れていたんですけれど。

いえ、いいんです。大丈夫です。

59 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:27:38.40 ID:1XyBkUcg0


一週間もしないで病院を飛び出した彼は
遅れを取り戻すようにまたがむしゃらに働いていました。


「大丈夫なの?」という質問に、
彼は「もうすぐ夢が叶うんです」って答えるんです。


家に帰って、私少し泣いてました。
心配で……心配で。


60 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:28:38.44 ID:1XyBkUcg0


だから社長に直談判して
彼を少し休ませるようにお願いしたんです。


彼はむすっとした表情で
「余計なことはしないでください」って言ったんです。


……もう私、頭に血が登っちゃって……。


この時……本当に言い合いの喧嘩をして……
このみ姉さんが仲裁に入ってくれなかったら
もう少しで殴り合いの喧嘩になってたかもしれない
というくらいお互い怒鳴り合っていました。
大人気なく……。

事務所にはまだ小さい子どもたちもいるんですけれど、
みんな怯えちゃってました……。

ただ……心配だったんです。
余計なことだったのかもしれないですけれど。

61 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:30:11.04 ID:1XyBkUcg0


だから彼は私に心配をかけまい、
と余計に仕事を張り切るようになったんです。


もう弱みは見せないと。何のミスもなく結果が出るまで。


私にも少し嘘をつくようになりました。

「大丈夫」って笑うようになりました。

62 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:31:12.87 ID:1XyBkUcg0


11月の終わりに……ノミネートが発表されました。


私は……無事に、
彼のおかげでノミネートされていました。


他にも多くの有名事務所のアイドルがノミネートされていました。


正直、みんな名だたるアイドルばかりで
全員、聞いたことある人達でした。


私よりもきっと実力のある……。

63 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:32:51.07 ID:1XyBkUcg0


だから、少し怖気づいて……彼に励まされて。
私が彼を励まして。

そうやって日々を過ごすようになりました。



でも、もうここまで来たら、
あとは気合と根性で1日ずつを乗り越えて行くしか無い。

彼はこの時になっても、
本気で狙いに行っていることが分かることを何度も言っていました。

こんなに……私のことを考えているんだって、
もう一度、改めて思うようになったんです。
少し忘れかけていましたけど。

64 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:33:31.48 ID:1XyBkUcg0


もう一度自分を奮い立たせて、
最後のひと踏ん張りだからって。

私が信じた彼。彼が信じてくれた私を
……もう一度信じて頑張るんだって。

そう思ったんです。


テレビの仕事も
ラジオも
歌も
ダンスも
イベントも
撮影も……。

何もかも……。


私は彼のために。
彼はきっと私のために……。


65 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:38:56.31 ID:1XyBkUcg0


12月24日……IA大賞の授賞式の日。

朝から会場に入って念入りに打ち合わせとリハーサルを繰り返してました。
でも彼の姿は見えなかったんです。



彼に何度もメッセージを送りました。

「どこにいるの?」
「今なにしてるの?」
「来れる? 大丈夫?」

66 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:39:35.99 ID:1XyBkUcg0


夕方、もう私は何度か彼に電話をかけました。
繋がるのは留守電だけ。
彼の性格だから、どこかで何か忙しく動いているのかもしれない。
緊急な打ち合わせで出れないのかもしれない。

でも私、彼のことを信じていました。
もし遅れても、授賞式に間に合わなくても。
私を迎えに来てくれるって。

昨日の晩に私は彼と電話をしていたんです。

67 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:40:31.29 ID:1XyBkUcg0


「いよいよですね」

「ええ……もう緊張しっぱなし。全然眠れそうにないの」

「こっちもですよ」

「……ねえ、私、どうだと思う?」

「きっと莉緒が大賞ですよ」

「うん。……うん。ねえ」

「なんですか?」

「好きって言って」

「好きですよ、莉緒。莉緒?」

「なに?」

68 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:41:31.10 ID:1XyBkUcg0

「愛しています。IA大賞が終わったら
 正式にお伝えしたい大事なお話があります」

「なによ、今言いなさいよ」

「終わったらです。
 もう、気づいていると思いますけど」

「ううん、全然わからない。
 言ってくれなきゃ。ね?」

「ええ、ですから、明日言います」

「えー。気になって眠れないじゃない。
 打ち合わせ遅刻したらどうしてくれるの?」

「莉緒はこういう時、どちらかというと
 楽しみで早起きすることは知っています」

69 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:42:58.41 ID:1XyBkUcg0


「うぐ……。ふふ、ねえ?」

「はい」

「目一杯、私のこと抱きしめてね」

「ええ、莉緒。あの……好きって言ってくれませんか?」

「あら? 珍しいこともあるのね」

「……だめでしょうか?」

「だめじゃないわ。でも……そうね。
 あなたがかしこまって伝えてくれるお話にきっと私はそれで答えると思う」

「今は言ってくれないんですか?」

「あなたも今言ってくれないじゃない」

「じゃあ、明日……」

「ええ、明日」



そう言って電話を切りました。


70 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:43:49.75 ID:1XyBkUcg0





彼、事故に遭っていたんですね……。




71 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:45:36.36 ID:1XyBkUcg0



授賞式が終わる頃になって、
同じ会場に出席してくれていたこのみ姉さんが真っ青な顔で、
手がぶるぶる震えながら、
私に電話を渡してくれたんです。


電話の相手は社長でした。
私、そこで初めて知ったんです。


年末時期の忙しい都内の交通状況で、
彼が一回倒れた過労と同じ……
意識の朦朧とした運転手の乗ったトラックとの交通事故だって。

会場に大急ぎで向かっている最中に。
72 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:46:33.92 ID:1XyBkUcg0


授賞式の最中はカバンにしまってあった自分の携帯を見て、
未だに私の送ったメッセージだけが残っていて、
既読にはなっていませんでした。


私……訳が分からなくて……
でもこのみ姉さんにほっぺたビンタされて
やっと少し正気が戻って、背中押してくれて、
ドレスのままタクシーに飛び乗って病院に向かったんです。


でも……もう……間に合いませんでした。


73 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:48:20.71 ID:1XyBkUcg0



「……」


「……」


「……そうだったんですね。
 ありがとうございます。
 ごめんなさい辛い思いを思い出させてしまって」


「お母さん、私……彼に最後、
 好きだって変に意地悪しないで……
 ちゃんと伝えれば良かった。
 って今でも後悔しているんです」

74 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:51:44.82 ID:1XyBkUcg0


「きっと、あの子にも……莉緒さんの気持ちは
 ずっと伝わっていたと思いますよ」

「……そう……だといいんですけど」

「あの子ね、おっきな花束を持っていたそうよ
 ……あなたにあげるための」

「……そう……ですか」


「あの子……。時々帰ってきたりしていたんだけれど、
 莉緒さんの話ばっかりしていたわ。
 
 入院してからは私も少し様子を見たり、
 連絡を取ったりしていたんだけれど、
 口を開けば莉緒さん、莉緒さんって……。
 
 あの子、あなたに出会えて本当に良かったと思う」


75 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:52:16.62 ID:1XyBkUcg0




「そんな……でも、私……あわせる顔がないですよ……だって」


76 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:52:44.97 ID:1XyBkUcg0




「だって……私……」



77 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:53:42.41 ID:1XyBkUcg0




「大賞取れなかったんです……」



78 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:54:55.91 ID:1XyBkUcg0

「そう……」

「お母さん……ごめんなさい。ごめんなさい……」

「いいのよ……泣かないで」


ああ、同じ顔をするんだ……。


79 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:55:53.77 ID:1XyBkUcg0


火葬場に残り、やっと私は彼の母親に話をできた。

こんな形でお母さんにご挨拶をすることになるなんて
思わなかったけれど。
2人きりで長いこと話をした。

彼の幼い頃の話や反抗期の頃の話。
どれもこれも彼の目線で聞いたことのある話が一変し、
母親の視点で私の脳に入ってくる。

そのイメージは私の知っている彼とはかけ離れていて、
とても想像がつかなかった。

80 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:56:45.98 ID:1XyBkUcg0


お母さんはまだ優しい笑顔で言う。


「今度うちにいらっしゃい。写真たくさんあるから見ていって。
 あの子は嫌がるかもしれないけれど」


そう言った時私は自分の携帯に入っている彼の酔った写真を思い出した。
彼には見せないでって言われた写真だけど……彼には内緒でお母さんに見せた。


「あの子、そう……お酒はてんで駄目なのよね……」


私の見せる携帯の画面にはぽたぽたと涙が落ちる。
つられて私も泣いてしまった。

81 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:57:47.00 ID:1XyBkUcg0

私は深く、頭を下げ、火葬場をあとにした。
さっき携帯を開いた時に見えた
事務所からの留守電を思い出すも、
かけ直さずに私は自宅のアパートに帰ってきた。

「ただいま……」

カーテンの締め切った薄暗い部屋に私の声が響く。


82 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:59:17.79 ID:1XyBkUcg0


私はもう一度メッセージアプリを開く。
最後に電話をかけた履歴がある。
どれも不在になっているけど。


彼のメッセージアプリに
私は「好きだよ」と打ち込んだ。

「大好きだよ」と打ち込んだ。

「会いたいよ」と打ち込んだ。



既読にならないのなんて分かってる。
バカバカしい。彼の携帯だってもう解約するだろうし。

彼のメッセージアプリに

「ごめんね、大賞取れなかった。来年、私また頑張るから」

そう打ち込んだ。

83 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 01:00:50.14 ID:1XyBkUcg0



彼はなんて言うかな。
「いいんですよ」って言ってくれるかな。



彼とのメッセージのやり取りを遡る。
遡るごとに……彼の思い出が蘇ってくる。

隣に彼がいるかのように鮮明に。

思い出の中の彼は、私に優しく微笑みかけてくれる。
もう戻れないと知りながら、大切に彼を思い出す。




私はもう一度、彼のメッセージアプリに
「大好きだよ」と打ち込んでアプリを閉じた。



おわり

84 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 01:06:24.09 ID:1XyBkUcg0

おつかれさまです。
IA大賞ってそんなクリスマスの時期にやってたっけ?とか
そもそもグランプリとかグランドファイナルとか
そういうのすっかり抜けてました。


本当に参考にしてるか分からない参考文献:
B'z それでも君には戻れない
百瀬莉緒 Be My Boy、WHY?、Border LINE→→→
85 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2018/12/02(日) 01:34:10.75 ID:ShMKmjEk0
悲しい…乙です

百瀬莉緒(23)Da/Fa
http://i.imgur.com/5wYSJ7x.jpg
http://i.imgur.com/HeLYfKT.png

Be My Boy
http://www.youtube.com/watch?v=avaB0TvUA8c

WHY?
http://youtu.be/tiTjC_VsRXM?t=92

Border LINE→→→♡
http://www.youtube.com/watch?v=sE-s1nfVBQ4
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 09:00:44.21 ID:CWpw5HkDo
悲しいなあ
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 14:45:08.83 ID:iZm3wwvW0
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