隊長「魔王討伐?」 Part2

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133 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:12:19.07 ID:ooAlurkw0

隊長「...ッ」


勇者「そう睨まないでくれ、君は私に感謝しなければいけないことがあるんだぞ?」


隊長「...なんだと?」


勇者「君も一度は思ったことがあるはずだよ」


ニヤニヤと、軽く人をバカにするような口ぶり。

そしてその語ることで悦に浸る正確、どこか奴の面影がある。

一体何のことを述べているのか、確かにソレは隊長も疑問に思ったことがあることだった。


勇者「...なぜこの世界の特定言語を彼女たちが使っているのか、だね」


隊長「...なに」ピクッ


魔女「...え?」


その言葉に魔女は混乱せざる得なかった。

自分の話している言語のどこがおかしいのか。

それだというのに、身体中に走る異様感に駆られてしまう。


隊長「...おかしいと思っていた...まさか、お前がなにかしたのか?」


勇者「そういうことになる、感謝してもらいたいね...でなければ君はその子と会話すらできないのだから」


魔女「...ど、どういうこと?」


勇者「...あの世界本来の言語は私が奪い...日本語という言語と入れ替えたのさ」


ここに、隊長が長らく抱いていた疑問が解消される。

しかし一体なぜ、この偽勇者はそのようなことをしたのか。

そしてどのようにして言語の認識をすり替えたのか、全く意図が読めずにいた。


隊長「...一体何のために?」


勇者「ふふ...どうしても聞きたいか...そのはずだ...ふふふ...」


勇者「教えてあげよう...なぜ私がそのようなことをしたのかを」


勇者「それは簡単さ、あの世界の言語には...力が篭りすぎているからだ」


隊長「どういうことだ...?」


勇者「君も聞いたことがあるはずだ...本来の言語の音を...今もね」


──□□□□...

耳を澄ませば、聞こえてくるのは光の音。

いままで疑問に思わなかったその音こそがこの話の正体であった。

彼の中で1つの線が繋がってしまう。
134 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:13:39.51 ID:ooAlurkw0

隊長「...まさか、この音なのかッ!?」


勇者「ご明答、この□□□□□や■■■■■こそが、あの世界本来の言語さ」


魔女「────っ!」ピクッ


魔女に走るのは衝撃であった。

今までなぜ気づかなかったのか、自分が別の言語を話していることに。

まるで頭の中を誰かにいじられ、その認識を抑え込まれていたかのような。


魔女「──な...にこれ...」


──ズキッ...!

頭の中が、脳の中身から鋭い刺激が走る。

自分の感覚が失われていく、それでいてまだ何も気づくことができない。

その矛盾が呼び起こすのはとてもキツイ頭痛であった。


勇者「...無理に思い出さないほうがいい、私によって抑えているのだから」


魔女「あ、頭が...割れるように痛い...っ!」


隊長「──魔女ッ! 落ち着けッ!」


勇者「さて...では説明させてもらおうか」


勇者「私はあの世界の言語を奪い、日本語という言語と認識をすり替えた」


勇者「魔法...いや、これは神業と表現したほうがいいかな」


神業、それは先程見せつけられた。

何もない所から物質を作り上げる、それを可能にするのは魔力。

だがソレやコレは明らかに魔法の域を超えている、だからこそ彼女は神業と比喩する。


魔女「...あっちの世界すべての生き物の記憶を...言語を入れ替えたってこと...っ?」


勇者「そういうこと...どうだ? 神の所業だと思わないか?」


魔女「...随分と悪趣味な神様も居たものね」


隊長「一体、何が目的なんだ...?」


目的が不透明であった、なぜ言語を入れ替える必要があるのか。

それは先程も偽勇者が言っていた、力の篭った言語であるから。

この音を聞いてまず思い出すことができるのは、光と闇。

135 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:15:04.64 ID:ooAlurkw0

勇者「...この言語には力があり過ぎる、君も見ただろう?」


勇者「□□□は全てを抑え、■■■は全てを破壊する」


勇者「...私の光魔法や、あの魔王の息子の闇魔法を見れば納得できるだろう?」


隊長「...ッ!」


勇者「...尤も、私の力も全てに及ぶことができなかったみたいだ」


勇者「光や闇属性の魔力の所有者などが、たまに無意識でこの言語を話していたりしていたな」


勇者「幸いにも認識は入れ替わったままだから、誰もその言語について追求することはなかったが...」


魔女「...っ」


未だに偽勇者の言っていることが一部理解できずにいた。

それほどに強力な戒厳令のような神業が記憶に染み込んでいる。

それをあの世界全体にバラ撒いたのだ、やはりこの魔物は神という存在に近いことが伺える。


勇者「私は無から物を創り、生き物の記憶を自在にすることができる」


勇者「...これを神と言わずに、なんと言うんだ?」


偽勇者の行動理念、それはより強き力を得ること。

だがそれは既に叶っていた、もうこの魔物に勝てる要素などない。

彼女が本気になれば、隊長の世界全ての生き物をマインドコントロールすることができてしまう。


隊長「...だからこそ、ここでお前を殺さなければならない」


隊長「お前は危険すぎる...」


勇者「...それは十分理解しているよ」


勇者「そんな君に細やかな贈り物をあげよう...」スッ


──ぽわんっ...

偽勇者が自らの頭に指を添える。

そうしてそこから出てきたのは、光る球体のようなモノ。

それが有無を言わさずに隊長の身体に入り込む。


隊長「────ッ!?」


記憶が混ざる、そのような表現が正しかった。

自分の頭の中に自分ではない者の光景が染み渡る。

それは彼女が体験してきた断片的な過去の出来事、まず見えたのは過去の仲間。


〜〜〜〜
136 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:15:58.54 ID:ooAlurkw0

〜〜〜〜


勇者「...これは、私がやったことなのか?」


己の剣が血で染め上がる。

そして目の前で横たわるのは、ともに歩んできた仲間。

魔王妃の過去の姿、魔術師がそこにいた。


魔術師「────」


勇者「そんな...なぜ...なぜ私は...っ!?」


賢者「...グッ...ガハッ...」


勇者「なぜ...なんで...どうして...っ!?」


そしてくたばりかけの賢者。

己のした行動に理解ができずにいた勇者。

その様子を見かねた首謀者が声をかけた。


???「...殺してしまったのか」


勇者「──っ! 誰だっ!?」


賢者「ゲホッ...だめだぁ勇者、耳を貸すな...」


その忠告も虚しく、勇者の耳に入ることはなかった。

そして賢者は力尽きてしまった、もう誰もここにはいない。

孤独を強いられた勇者は頭の中に響く声を頼りにするしかない。
137 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:16:35.97 ID:ooAlurkw0

???「酷いことをするじゃないか...仲間を殺すだなんて...」


勇者「そんな...私は殺っていないっ!」


???「じゃあその剣を握っているのは誰だ?」


勇者「──っ...!」


???「...殺したのは誰だ?」


勇者「...」


後に歴代最強と呼ばれる魔王を討ったばかりである。

当然心身ともに疲弊しているというに、この始末。

とてもではないが、誘導尋問のような誘惑に抗えるわけがなかった。


???「...仲間を殺してしまったのか」


勇者「...」


???「...たしか、生まれた国での法律はなんだったか?」


勇者「...」


???「...仲間殺しは重罪、死を持って償え」


勇者「...」


???「やるべきことは...わかるな?」


勇者「...」


なぜこのような単調な惑わしに乗ってしまったのか。

この勇者の欠点はそこにある、たとえ強靭な身体を持っていたとしても。

たとえ膨大な魔力を保持したとしても、至高の質を誇る光を所持したとしても。


勇者「...ごめんなさい」


彼女は弱かった、精神攻撃という卑劣な施しに。

討たれた魔王もこのようにして惑わせてやれば勝ち筋があったかもしれない。

真正面から闘って、この勇者に勝てるものなど居ない。


勇者「────っ!」


頭の中で渦潮に飲み込められるような感覚が巡る。

そして奪われるのは、身体、そして大切な思い出。

もう二度と本物の彼女は現れることはない、すべてを空にするまであの魔物は奪うだろう。
138 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:17:12.00 ID:ooAlurkw0










「...ふふ」









139 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:19:05.08 ID:ooAlurkw0

勇者「...ふふふふふふふふ」


勇者「...やった...ついに、最強の身体を手に入れられた...っ!」


その姿は間違いなく、勇者。

しかしその中身は違う、勇者のすべてを奪った魔物が中にいる。

それがどれだけ恐ろしいことで、怖ろしいことなのか。


魔術師「────げほっ...げほっ!」


そしてどれだけ不運なことなのか。

もう少し早く、彼女が目覚めていたら勇者の罪悪感は多少和らいでいただろう。

もう少し早く、彼女がくたばっていたらこのような光景を見ずにすんだというのに。


勇者「...生きていたのか」


魔術師「...偽物め」


勇者「残念、君の知っている勇者はもういない」


魔術師「よくも...よくも勇者を...っ!」


勇者「...そのままくたばっていれば良かったものを」


魔術師「許さない...絶対に許さない...っ!」


勇者「それは結構、どうぞ勝手に憎んで野垂れ死んでればいい」


勇者「私はこれからこの世界を統べる、忙しくなる...君に構っている暇はないんだ」


魔術師「...」ブツブツ


その時だった、魔術師はなにかを口ずさむ。

それは魔法を唱えるのに必要な詠唱と呼ばれるもの。

だがそれを見た勇者は、慢心が故にからかう。


勇者「今更なにをするつもりだ? 自爆魔法か?」


その油断は必然であった、最強といっても過言ではない身体を手に入れたばかりだ。

気分が高揚して正常な判断などつくわけがない、あのおとぎ話のような魔法など思い浮かぶわけがなかった。


魔術師「...あなたは、異世界を信じますか?」


勇者「...異世界だと?」


魔術師「この魔法は膨大な魔力、そしてその世界に関する記憶を必要とします」


魔術師「...後者は用意することは叶いませんでしたが、やるしかありません」


もはや賭けであった、魔術師に残された手段はこれしかない。

これは最後の抵抗、魔王を討ち折角手に入れた平和な世界をこのような醜悪な魔物に奪われるべきではない。

足りない要素がどのような結果を及ぼすか懸念されるが、もう試すしかない。
140 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:19:50.99 ID:ooAlurkw0










「────"転世魔法"」









141 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:21:39.60 ID:ooAlurkw0

魔術師「...うまく行きましたか」


魔術師「伝説は本当だった...世界を跨ぐ魔法は実在していたようですね...」


魔術師「──げほっ...」


──びちゃぁっ...!

腹部からの流血は愚か、吐血までもが彼女を追い詰める。

ありったけの魔力を使い果たした、もう魔術師を支えてくれる要因はない。

だがそれでもいい、勇者を奪った憎き存在がこの世界から去ったというだけで彼女は満足であった。


魔術師「もしも生まれ変わることができて...異世界へいくことができたのなら...」


魔術師「必ず...かな...らず────」


その呪いのような言葉を吐かずして、彼女は息を引き取った。

魔術師による転世魔法によって、この世は平和を勝ち取ったのであった。

このような悲しい結末を勇者一行が迎えるとは、誰も思いもしなかった。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


勇者「...ここはどこだ」


勇者「こんな暗い場所が...異世界だというのか...」


勇者「こんなところで、私は朽ち果てるのか」


身動きが取れない、身体のすべてが拘束されている。

転世魔法に必要だった、その世界の記憶が足りなかったのが影響しているのか。

勇者の身体は地底深くに転移されていた、異世界の大地が彼女を拘束していた。


勇者「地中深く...誰も私に気づくことができないだろう」


勇者「...私が使える魔法は光魔法...そして元々の私が使えた弱い闇魔法のみ」


勇者「どうすることもできない...このまま果てるしかないのか」


勇者「...せっかく、最強の身体を手に入れたというのに」


光魔法ではどうすることもできない。

闇魔法を唱えようとも、地底でそのようなモノを使えばどうなることか。

落盤の恐れがある、死に急ぐようなことをするのは賢くない。


勇者「...少し、寝よう」


ようやく得た最強の力を得た反面、その絶望感はとてつもなかった。

魔力というモノが身体を強靭にしてしまっている。

無駄に長い寿命、彼女はただ何もすることもない人生を耐えることができるのか。


〜〜〜〜
142 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:23:32.99 ID:ooAlurkw0

〜〜〜〜


研究者「...やぁ、調子はどうだい?」


勇者「モンダイ...ナイ」


そこには白衣の男と辿々しい言葉を放つ彼女がいた。

一体なぜ、どのようにして地底から救出されたのか。

どのような接点でこの男と出会ったのか。


研究者「...まさか地下に実験施設を拡張工事している時に人間のような生物と遭遇するとは」


研究者「あの地層は数百年前相当の場所だ...君の言う通り本当に人間ではないみたいだね」


勇者「...」


研究者「...それでいて既に日本語を学習している、素晴らしい」


研究者「そして未知の言語...血液中には未知の物質が...君は最高の実験体になりそうだ」


研究者「もちろん丁重に扱うよ、死なれたら困る...君は換えが効かないからね」


研究者「それに...この世界とは別の世界があるって話もとても気になる」


好奇心旺盛のその瞳には邪念などない。

その真っ直ぐな目線に彼女は一種の感情を生み出していた。

数百年にも及ぶ孤独から開放された乙女は、彼と同化する。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


研究者「...ここが異世界というわけか」


草原の上に立つ白衣の男。

そして直ぐ側には、健康的な体格を取り戻すことができた彼女。

そう、彼らは草原地帯へと訪れていた。


勇者「...あの時、魔術師の詠唱が目に焼き付いている...猿真似で本当に世界を跨げるとは」


研究者「凄いね、その勇者って身体の魔力と記憶力には感謝だね」


勇者「そう...やっと、君をこの世界へ連れてくることができた...」


勇者「やっと...やっと私は...この世界に戻ることができた...」


野望がここに蘇る。

彼女はもっと上を目指さないといけない。

神に相応しい力を得なければならない、そのために必要なのは。
143 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:25:30.11 ID:ooAlurkw0

勇者「...まずは、この世界全てを屈服させる」


勇者「そうして得た兵力と共に、あちらの世界も統べる」


勇者「...私は、神になる」


力を求めすぎた結果がコレだ。

もしくは、研究者という悪い男とつるんだ結果がコレかもしれない。

2つの要因が偽物の勇者をより傲慢にさせていた。


勇者「まずは...計画通り、この世界の言語をすり替える」


研究者「そのほうがいいね、まずは自分より強い者たちを弱くさせるのが得策だね」


研究者「...おそらく、この世界の言語は魔法をより強力にさせる効果があるんじゃないかな?」


研究者「それを日本語に置き換えさせることで、本来の威力を下げることができるのでは?」


勇者「...きっとそう、君の言う通りにすれば全てうまく行く」


勇者「君に出会えてよかった...本当に」


勇者「人間なんて...上辺を取り繕い、高みを目指さない倦怠な生き物だと思っていた」


勇者「...だけど君は違う、どのような手段を用いても自分の目的を果たす人だ」


研究者「...まぁその御蔭で、マッドサイエンティストだなんて不名誉な名前もつけられたけどね」


この2人にとっては幸せなことかもしれない。

だがこの世界、あちらの世界においてこの組み合わせは不幸としか言いようがない。

超自己中心的な彼らが、どれほど厄介な存在であるのか。


勇者「────□□□□■■■■っっ」


そしてその呪いの言語は早くも唱えられた。

それは空に向かい、まるで雨のように降り注ぐ。

すでに汚染は始まっている、この世界の住民すべての認識がずれ始める。


研究者「さて、しばらく待つとするか」


研究者「...君と出会って5年、このわずか5年でここまで状況が変わるか」


研究者「ついこの間、実験施設深部に特殊部隊が乗りこんできた時は焦ったが...」


研究者「...しばらくこの世界で雲隠れさせてもらおう」


そういうと彼は懐をいじくりだした。

それはお土産と言わんばかりの代物、向こうの世界で一般的な武器。

熊のような大男にしか所持することが許されない、大きめのリボルバーを取り出した。
144 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:27:14.24 ID:ooAlurkw0

研究者「...まさか、銃で時間を潰す日がくるとは思わなかった」


そう言うと彼はそれを分解し始める。

研究者は暇で暇でしかたなかった、偽勇者の呪いが終わるまで待ち続ける。

それは数時間にも及ぶ、そして時は来た。


勇者「──終わった...」


研究者「...ん、終ったかい」


勇者「これで...本来の言語は封じ込めたはず」


研究者「へぇ...凄いじゃないか、本当に神様になれるんじゃないか?」


勇者「これも君のおかげだ────」ピクッ


その時だった、彼女が感じたのは旧知の魔力。

なぜそれが居るのか、あの時からすでに数百年は経っているというのに。

だがその魔力は間違いなく彼女のモノであった。


勇者「──これは、魔術師の魔力...っ!?」


研究者「...それって、例のあの人のことかい?」


勇者「間違いない...なぜ生きているんだ...それにもう嗅ぎつけたのか...っ!?」


研究者「...」


まずい、その言葉通りである。

異世界に来て早速トラブルに巻き込まれる。

彼がこの世界に来た理由は2つ、好奇心と隠遁だというのに。


研究者「...君は一度、あちらの世界に逃げ込むといいよ」


勇者「...え?」


研究者「私1人なら、容赦をしてくれるはず...だと思う」


研究者「それに君は今、神業のようなことをしたばかりだ...本調子ではないよね?」


勇者「...」


研究者「一度態勢を整えたほうがいい、私の生まれた国では...辛抱する木に金がなるという言葉がある」


研究者「生き急いだ神は殺されるだけだ、今は耐え忍ぶんだ」


なぜこの男、他者である偽勇者をここまでして庇うのか。

彼も感じていたからである、ここまで気の合う人物などいないということに。

それに絶対に逮捕されることのないこの安息の地を手に入れただけで、等価は得ている。
145 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:28:24.63 ID:ooAlurkw0

勇者「...君がそう言うのなら、そうする」


研究者「それがいい、それと...私の記憶を一時的に消すことはできるか?」


勇者「それは造作もない...私は今この世界の住民すべての記憶を操ったのだから」


研究者「そうか、なら頼むよ...もし記憶を読み取る術がこの世界にあるとしたらこの記憶は厄介すぎる」


研究者「君の存在は君が再度訪れるまで抹消していたほうが、後々楽になると思うからね」


勇者「...わかった、頭を出して」


────ぽわんっ...

偽勇者の指が研究者の頭に触れる。

そうして出てきたのは、記憶の光。

それを奪うことで、自らの存在を抹消することができる。


研究者「...はて、君は? それにここは?」


勇者「────"転世魔法"」


そして彼女は再び世界を跨ぐ。

これは彼女の記憶の旅、それは折り返し地点を超えた。

ドッペルゲンガーとしての宿主は、ようやく彼へと移り変わる。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


勇者「...頃合いか」


ここは誰かの精神世界。

時は大幅に過ぎ10年が経とうとしている。

言語を封印し、転世魔法という大掛かりな魔法を連発したツケは支払い終えていた。


勇者「まさか魔力が完全に回復するまで10年も費やすとは...」


勇者「こちらに戻ってきて直ぐに、適当に取り憑いた少年がここまで成長したか」


勇者「...しかしこの宿主、些か野蛮すぎる」


その宿主とは一体誰のことなのか。

1つわかることは、この者は今現在銃を所持している。

だがそれは1人だけではない、周りの友人だろうか、それらもなぜか武装をしている。
146 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:29:35.77 ID:ooAlurkw0

勇者「...結局、この10年間一度も表舞台にでることはなかった」


勇者「まぁずっと引きこもっていたからこそ、10年で完全に回復することができたのかもしれない」


勇者「...退屈だった、こんなことなら彼からEnglishも学ぶべきだった」


勇者「まぁ...最後のこの宿主を見届けて、旅立つとしようか...」


その時だった、宿主に動きがある。

周りには何人かの仲間、そして泣きつかれている女性が1人。

彼らを残して、この男は部屋を出てしまった。


勇者「...この感覚は小用か」


勇者「それにしても、この男...酒に薬物に...やりたい放題だな」


勇者「...つまらない、もっと強い男に取り憑けば、面白いものが見れたかもしれない」


薬物中毒特有の頻尿。

いま自身にどれほどの危険が迫っているのかを知らずしてなのか。

それとも真っ当な危機管理能力をすでに失っているのか。


勇者「...ほらみたことか、足音にも気づけないのか」


勇者「いや...これは、かなりやり手だな...気づけないのも仕方ない」


すでに偽勇者は気がついていた。

何者かが、先程の部屋に突入しようとしていることに。

だが彼女はそれを評する、それほどに素晴らしい潜入であることに。


勇者「...流石に、あの人数相手に物音をたてずに処理することは難しいか」


勇者「ようやく気がついたか...っと、こんな短い刃物しか持っていないのか?」


勇者「先程持っていた武器...あぁ、あの部屋においてきたのか...杜撰すぎる...」


勇者「...おや、これは...少し楽しめそうだ」


一体誰譲りなのだろうか、この実況じみた独り言は。

しかし楽しみはこれだけではないことを彼女は知らずにいた。

まさか、こんなところで顔なじみに合うことができるだなんて想像できるだろうか。


勇者「──この男はっ...!?」


精神世界からその様子を除く。

宿主が取っ組み合いをしているのは、過去にみたことのある男。

あの時もまた精神世界から見ていた、彼を追い詰めていた人間。
147 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:31:06.74 ID:ooAlurkw0

勇者「...奇縁か、彼の真似でもしてみようか」


その微笑みにはどのような意味が込められているのか。

過去の顔見知りに出会い、僅かながら孤独を忘れることができたからなのか。

それとも、なにか良からぬことを思いついた餓鬼のようなモノなのか。


勇者「────"転世魔法"」


その魔法はとある爆発と共に発動した。

世界が移り変わる、そしてその間に彼女は彼へと宿主を変える。

これが始まりでもあり、別の意味での始まりでもある。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


勇者「...さて、一度身体に慣れておくか」


そこは一体どこなのか。

あたりは夜の静寂、そして部屋に男が1人。

慣れない世界での睡眠、身体を一時的に乗っ取るのには好都合。


隊長「...前の宿主とは比較にならない体重の重さだ」


ここは塀の都の宿。

その宿の一室で声を上げるのは、大柄な男。

だが男の声はその見た目とは裏腹に、やけに中性的なモノであった。


隊長「熟睡状態なら入れ替わることができるな...昨日のように浅い眠りだと気づかれる」


隊長「...前回は直ぐ様に魔術師に嗅ぎつけられた、今度は慎重に動くとしよう」


隊長「ひとまず外に出てみるか...」


宿の窓から外へと冒険し始める。

まだ辺りは暗闇、深夜に男が2階の屋根から街へと繰り出す。

慣れない身体を動かしつつ、彼の身体は適当にどこかへと向かう。


隊長「...あれは近衛兵だろうか」


しばらく歩いていると彼はある人物に出会う。

とは言ったものの、その人物とは縁もゆかりもないただの他人。

この深夜にも関わらず、都の警備を担っている数名の兵士がそこにいた。


隊長「...そうだ、久々に魔法を使ってみるか」


隊長「最後に使ったのは...いつだったか、これも10年前だろうか」


リハビリのようなモノであった。

久々に唱える魔法とはいっても、その精度は卓越したものである。

兵士の装備が光り輝く、それが後ほどどのような影響をもたらすかも知らずに。
148 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:32:47.70 ID:ooAlurkw0

隊長「──"属性付与"、"光"」


──□□□□...ッ!

この世界にとって、懐かしい言語で表現できる音が聞こえる。

例えこの音を聞いても、誰もが認識できずに聞き流すだろう。

だが問題は、この深夜にこれほどの独り言をしている男がいることである。


隊長「...鈍ったか、随分と質が低いな...だが、魔法も問題なく使え──」


???「...こんな深夜に、なぜ出歩いている?」


隊長「...あぁ、それもそうか」


???「怪しいな、少し話を聞かせてもらおうか」


兵士が1人、こちらに話しかけてきた。

その声色は少し厳しく、明らかに不審者を問い詰めるモノである。

しかしそのような面倒を受け入れるはずもない、偽の隊長がやることは1つ。


隊長「...久々に全力で走るとしよう」


夜の都をかけていく、重装備だというのに彼の表情は楽しげ。

久方ぶりに身体を動かせる感覚が喜ばしくて仕方なかった。

そして見えるのは、白き世界。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「────ッ!」


目を見開く、そこには現在の光景。

完全に魔力を失い、気絶に近い倒れ方をしているウルフ。

そして徐々に魔力を奪われ、窮地に立たされている魔女。


勇者「...どうだ? 楽しかったか? わざわざ一部の思い出を日本語に翻訳してやったんだぞ?」


隊長「──FUCKッ! FUCK YOU BITCH...ッ!」


彼が見せられたのが、隊長と彼女の始まり。

それだけならまだ理性を保てた、保てて当然の内容であった。

しかし、最後に見せられたあの記憶が彼の怒りを暴発させる。
149 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:33:42.60 ID:ooAlurkw0

魔女「な、なに...なにを見せられたの...?」


勇者「なぁに、私と彼の出会いを見せたついでに...おまけを見せてあげただけだ」


勇者「...塀の都でなぜか人間の騎士団が光を使っていたのは、不思議だったと思わないか?」


魔女「────っ」


嫌がらせのような言葉であった。

それだけで理解してしまえる、なぜ彼が激怒をしているのかを。

あの都で、あの光がどのようにして彼らの足を引っ張ったのか。


魔女「...そう、あんたの仕業だったのね」


冷静でいてそうではない、ギリギリの感情が渦巻く。

あの時、魔女たちはなにが原因で捕まってしまったのか。

そして魔女たちが捕まっていなければ、誰が亡くならずに済んだのか。


魔女「...この阿婆擦れ」


勇者「随分汚い言葉だな...発言には気をつけろ」スチャ


──バババ□□□ッッ!

綺羅びやかな音色と共に射撃される、現代的な音。

それが向けられたのは魔女、恨みの言葉を代償に牙を剥かれてしまった。

だが彼は前に立つ、愛しの人物を守るために。


隊長「──ッッ!」スッ


──バキィッ...!

なにかが破損する音が響く、なにかが身代わりになった音が響く。

隊長は銃撃から魔女を守った、その時に失うのは両手に持っていたブツ。

部下から預けられたアサルトライフルが果てる。


魔女「──っ! キャプテンっ!?」


隊長「...なんとか、なったか」


なんとかなった、彼はそう言っている。

主力級の武器であるアサルトライフルを盾代わりにしたことで、事なきを得た。

だが失ったものは大きい、彼に残された武器で気軽に使えるのは1つしか残っていない。
150 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:35:03.41 ID:ooAlurkw0

隊長「...」スチャ


勇者「...そんな小さな武器で、私を倒せると思っているのか?」


勇者「実態のない身体、そしてソレは光によって護られている...魔法も無意味だ」


勇者「もう諦めろ...私には何も通用しない...そして君たちは私の攻撃に抵抗できない」


勇者「そこの狼のように、そしてこの君らの偽物のようにくたばるといい」スチャ


──バババ□□□ッッッ!!

再度、この音が彼らを襲う。

まず狙われたのは小さな銃で抵抗の意思を見せる男。

銃撃が彼の腹部へと命中し、身体を貫通させた。


隊長「────グッ...ガハァッ...!」


彼の後ろ姿、そこから見えるのは鮮血。

貫通した弾丸は、腰付近にあった収納を破る。

そこから出てくるのは、血に塗れたあちらの世界の通貨。


魔女「──キャプテンっ!」


隊長「ま、まだだ...魔法は...魔力はここぞというときに取っておけ...ッ!」


魔女「で、でもそれじゃ...」


それでは隊長の血を止めることはできない。

しかしそれでいて、魔女にも理解してしまえる状況に陥っている。

ここで無闇に魔力を使えば、自分もウルフのように動けなくなるという可能性。


魔女(...せめて、魔法薬とかがあれば)


──がさごそ...

己の服に備えてある収納を漁る。

せめて魔法薬があれば、その薬品に含まれている魔力だけを使えば支障もなく彼を癒やすことができる。

だが収納にあったのは魔界へ突入する前に採掘した石ばかりであった。


魔女(──あれっ)


勇者「...さて、そろそろ終わりにしようか」


────□□□□□□...ッッ!!

力強い輝きが辺りを照らす、それが意味するのは魔物への特攻。

魔女を支える力がついに陥落する、むしろ今まで良く耐えれていたとも言える。

急速に感じる倦怠感、魔女に注がれた魔王妃の魔力が抑えられていく。
151 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:37:02.21 ID:ooAlurkw0

魔女「──そん...なっ...!」フラッ


隊長「魔女ッ! 気をしっかりしろッ!」


勇者「無駄だ、魔物は光には抗えない...」


勇者「そして、人間はコレには抗えない...そうだろ?」スチャ


隊長「────ッッ!」


勇者「──死ね」


──バババババ□□□ッッッ!

しかし、その光景を彼は見たことがある。

絶大な威力を誇る銃弾が、全く歯が立たなかったあの出来事。

なぜ今になった記憶が花咲くのか、走馬灯というわけではなかった。


隊長「──これは...ッ!?」


────ガキィンッ! カキィンッ!

まるで鉄に弾かれたような、そんな音が響いた。

一体なぜ、それは意外にも簡単な答えであった。

腰付近、穴の空いた収納から蔓が伸びる、そしてそれは彩りを得る。


隊長「...少女」


血染めの花びら、その硬度はあの時の蕾。

彼女だった物はまた進化を遂げたのであった。

あの時の種は隊長の血液を栄養とし、急速に成長を始めていた。


勇者「──なんだこれは...っ!?」


当然、まさかこのような伏兵を想定しているわけがない。

たった今起きた出来事に彼女は思考を停止させてしまった。

だがこの局面でのソレは致命的であった。


魔女「────っっ!」スッ


────ヒュンッ...!

何かが風を切る音が聞こえた。

それは魔女から偽勇者へと向かう、ある1つの代物。

小さな瓶が空を翔ける、そして発せられるのは懇願じみた指示。


魔女「──あれを撃ってっっ!」


隊長「────ッ!」スチャ


魔女によって投擲されたそれは、激しく回転しながら跳んでいる。

それを捉えることなど常人では不可能、ましては射撃をしろと言われている。

だがこれは魔女の最後の策、ならば彼は応えなければならない。
152 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:38:27.65 ID:ooAlurkw0

隊長「...」


──ダンッ!

ハンドガンから放たれる銃弾。

それはブレることなく、真っ直ぐと瓶へと接近する。

卓越した射撃スキルが可能にするのは、マークスマン。


隊長「...Hole in」


────パリンッ!

瓶が割れる、その中に入っていた液体が散布される。

それはまるで雨のようにあたり周辺に散らばった。

これは一体なんなのか、そして誰が作ったものなのか。


勇者「────っっ!?」


────□□□...

これは光が生まれる音ではなく、逆であった。

周りに展開していた光が、両手に持っていたあの武器が。

それどころではない、身体の中に存在するはずの光の魔力が萎えていく。


勇者「──なにが起こっているっ!?」


状況が理解できない、小瓶に入っていた液体に触れたらこのザマ。

なぜ己の光が失われたのか、魔法など通用しないはずのこの最高の防御性能がなぜ。

光と化していた自身の身体が元通りになっていることすらに気づけずにいた。


ウルフ「────ッ!」ピクッ


同じく、わずか数滴がウルフの身体に付着する。

すると彼女の身体は力みなぎる、空元気にも似たその原動力が可能にする。

歯を食いしばりながらも彼女は立つ、そしてやるべきことを瞬時に理解する。


ウルフ「...うわあああああああああああああああああッッッ!!」スチャ


──ダァァァンッ! ジャコンッ!

──ダァァンッ! ジャコンッ! ダァァァァンッ! ジャコンッ!

──ダァァァンッ! ジャコンッ! ダァァァンッ! ジャコンッ!

シャウティングをしてようやくできたこの闇雲な射撃。

リコイルとポンプアクションが影響して照準はブレブレ。

だがショットガンという銃に精度など必要ない、竜の息吹と称されるその兵器が猛威を振るう。
153 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:39:30.64 ID:ooAlurkw0

勇者「────っっっ!?」


身体が燃える、ここでようやく気づくことができた。

光の身体はとうに失せている、実態のない無敵の身体などない。

これ以上追撃されたら朽ち果ててしまう、だからこそ彼女は対極の魔法を試みる。


勇者「──"属性付与"、"闇"」


──■■■■■■■...

一体なぜなのか、光は抑え込まれたが闇は問題なく扱える。

不可思議で仕方がない、だがそれを追求するのは今ではない。

そう判断した彼女は闇をまとわせ己を燃やしている炎を破壊する。


勇者「ぐぅぅぅ...一体...一体なにが起きている...っ!?」


未だに疑問を晴らすことができない。

私は一体なにをかけられたのか、このような作用のあるモノだと記憶にない。

神の如き魔力を突然奪われて露呈する、この魔物本来の愚直さが。


ドッペル「...私も、死にかけている場合じゃないわね」


あの液体を最後に浴びたのは彼女であった。

その奇跡とも言える水の拡散性、やはり隊長という男は持っているものが違う。

浴びたのはウルフと同じ僅か数滴、完全とはいかないが彼女は匍匐前線で彼のもとへと向かう。


ドッペル「...私に最後の...策がある...わ」


隊長「────ッ!」


か細い声、だがこの場にいる全員が聞き取ることができた。

これが最後の分かれ道、この魔物の生死が勝敗を決定するだろう。

お互いの陣営がどのように動くかは明白。


魔女「──あの子を護ってっっ!」


勇者「────何をするつもりだ■■■■■■■」


隊長「──ウルフッ!」スチャ


ウルフ「──ッ!」スチャ


4人が同時に、それも即座に動く。

偽の勇者は策略を潰そうと唯一使える闇を。

魔女は指示を、そして隊長とウルフはハンドガンを素早く構えた。
154 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:40:49.06 ID:ooAlurkw0

隊長「────撃てッ!」


──ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!

小さな銃撃音が連続する、それは当然偽勇者に向かう。

だが相手は闇を纏っている、当然効果的だとは思えない。

しかし遠距離からの抵抗手段などコレしかない現状、押し通すしかない。


勇者「...無駄だ、闇はすべてを破壊する」


──■■■■■■...

黒が容赦なく銃弾を飲み込む。

その質は光に比べ劣悪、だがそれでいて弾丸を完全に破壊できる程の性能を誇っている。

ならばどうすればいい、その答えは過去に解決している。


魔女「──"転移魔法"」


最後に残った圧倒的な魔力は、使い慣れていない魔法に注ぎ込まれた。

あとは彼女が持っている本来の魔力しかない、だが問題などなかった。

魔女が得意な魔法、それさえ使えれば闇など怖くないからであった。


魔女「..."属性付与"、"雷"」


勇者「────なっ」


油断した、まさかこの局面で肉薄してくるとは思いもしなかった。

未だに発砲は続いている、彼女に当たるかもしれないというのに。

だからこそ素早く処理することができなかった、この戦法は過去に宿主越しに認識していたはずなのに。


勇者「──このアマ...っ!」


──バチッ...!

偽勇者の身体に稲妻が伴う、それはもう己のモノのように。

自分に対して害を出すことはない、それが上位属性の仕組み。

彼女は油断をし過ぎていた、光属性という圧倒的な防御性能に頼りすぎていた。


隊長「──NOWッ!」


ウルフ「────ガウッ!」ダッ


──ダンッ! ダンッ! ダダンッ!

お互いが言葉もかわさずに、瞬時に役割を理解する。

隊長は射撃を続投しウルフは突然に疾走する。

ウルフの役割は1つ、こちらの世界でいうHRT。


勇者「────うっ...」


身体に染み渡る鋭い激痛、闇を纏っているというのに一体なぜ。

それは雷という不純物を与えられ、強制的に闇の質を下げられているからだ。

そのようなことをしている内に、彼女の俊足が保護対象へと接触する。
155 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:41:48.26 ID:ooAlurkw0

ウルフ「──どうすればいいのっ!?」


ドッペル「...私をきゃぷてんの所に運んで...お願い...」


ウルフ「わかったよっ!」グイッ


ウルフがドッペルゲンガーに肩を貸す。

もうあとは時間の問題ですらない、数秒もすれば彼女の目的は達成する。

一体なにをするつもりなのかは未だにわからない、だがそれを許してはいけない。


勇者「────させるか■■■■■■■■■」


──■■■■■■■■■■■■■■■...

防御性能は落ちたとはいえ、闇は闇である。

質は限りなく低いが、触れれば致命傷になるのは未だに変わらない。

身体中は血だらけ、銃痕まみれの彼女は感情を爆発させ、闇を大量に放出する。


魔女「..."雷魔法"」


────バチィッ...!

一筋の閃光が黒を貫く、もうこの闇に防御性能などない。

未だに肉薄したままの彼女を忘れてはならない。

全身に巡るのは麻痺の感覚、痺れが偽勇者の意識を揺さぶる。


魔女「やっと魔法がまともに通用するわね...」


勇者「...こ、の...っ!!」


魔女「どう? 私の魔法の威力は?」


勇者「────くたばれ■■■■■■■■」


闇の標的は変更される、その相手はドッペルゲンガーから彼女へと。

先程も述べたように、未だに闇であることには違いない。

魔女の全身を闇が飲み込もうとしたその時だった。


ウルフ「──ガウッ!」ブンッ


狼らしい雄叫びと共に、彼女はなにかを投げつけた。

なにを投げつけられたかなど問題ではない、ただ1つの状況が偽勇者を煽る。

なぜウルフはすでに戦線復帰をしているのか、答えは当然であった。


勇者「もう...運び終わったのか...っ!?」


──ガコンッ...!

とても鈍い音が、辺りに響いた。

彼女が投げつけたのは、弾の込められていない銃器。

隊員から預かったソードオフのショットガンが偽勇者を怯ませる。
156 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:43:41.26 ID:ooAlurkw0

隊長「...なにをするつもりなんだ?」


ドッペル「...私はもう駄目みたい、だからせめて私の力をあんた..."あなた"に託すわ」


これは少し前、ウルフがショットガンを投げつける前の会話。

どこか儚げな口調、そして言葉を受け止める隊長。

その光景にはどこか愛のあるモノであった。


隊長「...お前との出会いは最悪で、印象も先程まで最悪だった」


ドッペル「ごめんなさいね...それがドッペルゲンガーという魔物だから」


隊長「...今は違う」


ドッペル「お互い、心変わりをしたみたいね...というか変わりすぎたわね」


隊長「...特にお前がな」


憎たらしい、自分自身と全く同じ姿だったこの魔物。

だがその姿が愛しの人物に変わると対応は変わる、そんな単純な話ではなかった。

隊長と彼女には芽生えていた、闘いの中での協力姿勢が芽生えさせていた。

帽子が親友とするなら、魔女が恋人とするなら、ウルフたちが戦友とするなら、ドッペルゲンガーは。


隊長「...さよならか?」


ドッペル「えぇ、そうね...さよならね」


ドッペル「...これからは、あなたの持っている"ソレ"越しに見ているわね」


3つのカテゴリーに属さない仲、それはお互いに負の感情をぶつけることのできる存在。

それを表現することは難しい、最も近い言葉で表すなら腐れ縁かもしれない。

そんな仲の彼らが手を取り合う、彼のハンドガンを持つ手を彼女が両手で包み込む。


ドッペル「...今なら、あの時のユニコーンの気持ちがわかるわ」


隊長「そうか、あの時から居たんだったな」


ドッペル「ねぇ...こんな時、こっちの世界でなんて言うの?」


隊長「...Let's meet again」


ドッペル「...れっつみーつあげいん」


──■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!

闇が溢れたと思えば、すぐさまにそれは晴れた。

そこから見えたのは真っ黒のハンドガン、そしてそれを構えるただ1人の男。


勇者「──ま、魔剣化した...っ!?」


その言葉は正しくもあり間違いでもある。

この場合は魔銃化といえるだろう、だが言葉の正誤などどうでもいい。

肝心なのは、それがどのような代物であるかであった。
157 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:44:29.92 ID:ooAlurkw0










「────Let's do this...my friends」スチャ









158 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:47:24.32 ID:ooAlurkw0

──ダン■■ッ!

最後の一撃は、とても小さな音だった。

その闇も決して、魔王子並に質が高いというわけでもない。

だがあの極めて質の低い黒を貫くのには申し分のないモノであった。


勇者「────っ!」


伝説の勇者の身体が限界を迎える、もう耐えきれない。

数十発の実弾と魔法を受けた、でもそれらは所詮物理的かつ下位属性のモノ。

初めてまともに受けた闇という属性、光を介せずに貰ったソレは極めて致命傷。


勇者「──痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっっ!!」


勇者「嫌だぁっ! 死にたくなぁいぃっ! 逃げなきゃぁっ...!」


底が見えた、今の彼女は勇者の偽物ですらない。

奇跡的にも莫大な力を得ることができた、ただの三下魔物。

所詮その力は借り物でしかなかった、彼女はすべての魔法を解除し逃げに徹する。


隊長「逃がすな──ッ!」


──ズキッッ...!

隊長が走って追おうとした瞬間、ようやく現れた激痛。

魔力で作られたアサルトライフル、それを喰らった時にできた傷跡が疼く。


魔女「──ウルフは行ってっ! キャプテンは任せてっ!」


ウルフ「うんっ! わかったよっ!」ダッ


その指示を受けウルフは走り出す。

そして気づけば、辺りの結界は崩壊し始める。

だがその光景を意に介さえずに2人は愛を育む。


隊長「あぁ...クソッ、こんな時に...」


魔女「...お疲れ様、あとは任せて、"治癒魔法"」


──ぽわぁっ...

優しい明かりが隊長を癒やす、出し惜しみをする必要はもうない。

偽勇者は逃げた、光も抑えることもできた、もう魔力を失い行動不能になる心配はない。


隊長「...好きだぞ、魔女」


魔女「...私もよ、あなた」


隊長の両手に、魔女の両手が重なる。

彼女はその真っ黒なハンドガンを無視することなく、それも重ねている。

彼らを愛を見つめるモノ、血の色をした華美の花がただ1つそこにあった。


〜〜〜〜
159 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:48:31.53 ID:ooAlurkw0

〜〜〜〜


ウルフ「──速いっ!」


2人が愛を受け、2人だった者がその光景を見守る中、ウルフは懸命に走っていた。

宙を飛びとてつもない速度で逃げ回る偽勇者、逃げ足だけは一級品である、あのウルフでギリギリ見失わずに済んでいる。


ウルフ「──っ! まわりがっ!」


走りながらも周りの光景を確認する。

結界魔法で隔離されていた空間が元通りになる。

そこは異世界の地、深夜を越え朝日が摩天楼を染め上げる。


ウルフ「────っ!?」


そして見えたのはそれだけではなかった。

そこにいたのは、多数の人間、そしてよくわからない鉄の塊。

その人間たちが構えているのは、己の主人が持っている物と同一。


??1「...どうやらやってくれたみたいですね、私の身体に付与された光も解除されてます」


??2「当然だ、Captainが負けるわけがない」


??3「Over thereッ!」


??4「...Target in sight」


大人数の中、見慣れた顔を見ることができた。

4人の顔ぶれ、そのうち3人はとても大きな装備を構えていた。

その見た目は普通のモノとは違う、彼らが支給されたのはボンベのついた武器。


魔王妃「...ところで、あたな方のその武器はどんなモノなんです?」


隊員「火炎放射器だ、火吹きの銃が効果的に見えそれを報告したら、支給してくれたんだ」


隊員A「──FIREッッ!」


隊員B「...You're going to prison」


魔王妃「便乗させてもらいましょうか..."炎魔法"」


──ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!

──ババババババンッッッ! ババババババッッ!

攻撃をするのは彼ら4人だけではない、先程この地域周辺に散開していた隊員たちもいる。

彼たちはプロ、日夜犯罪者を確実に仕留めるために訓練を重ねている。

飛ぶ鳥に狙いを澄ますことなど造作でもない、それが飛行中のイーグルであっても。
160 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:49:38.29 ID:ooAlurkw0

勇者「────ぐっ...■■■■■!?」


身体に感じる激痛が急いで闇を開放させる。

これは最後の理性かもしれない、だがこれがまずかった。

なぜ魔王妃の攻撃を闇で受けたのか、彼女のは魔法のはず。


魔王妃「──光を使わない...っ!?」


なぜ使わないのか、確かに火炎放射による炎の攻撃は驚異だ。

だが魔王妃の炎はそれとは比較にならない火力であるはず、ならば先にコレを潰すはず。

予想が外れた、そんなときに偽勇者を追いかけていた者が声を上げる。


ウルフ「──光魔法をつかえないみたいなんだよっっ!!」


魔王妃「──っ!?」


一体なぜ、原因解明もしたいところだがそれどころではない。

彼女の新たな計画が生まれる、光魔法という魔法殺しを使ってこないのならば。

やはりあの子の身体はあちらの世界で葬りたい。


魔王妃「...計画を変更します、あの子をあちらの世界へ転移させます」


隊員「なに...? どうするつもりだ?」


魔王妃「ごめんなさい、これは完全に私のわがままです」


魔王妃「...できるのであれば、あの子の身体はあの子の世界に帰したいのです」


隊員「...」


隊員としてはこの世界で奴を確保したい。

この世界で起きてしまった、超常現象のすべての責任を奴になすりつける為。

明らかなヴィランがいてくれるのなら、今後の後処理が楽なことこの上ないからだ。

161 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:50:20.96 ID:ooAlurkw0

隊員「...わかった、で、どうすればいい?」


しかし彼は飲んだ、魔王妃に情が芽生えたわけではない。

逆の立場ならどうするか、もし隊長があちらの世界で朽ち果ててしまったのであれば。

せめて死体だけはこちらの世界に戻してもらいたい、考えることは人間も魔物も同じである。


魔王妃「そのまま打ち続けて、足止めをしてください...時間はかかりません」


隊員「...Understandッ!」


──ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!

──バババババッッッ! バババババババッッッ!

容赦ない弾幕、そして炎が偽勇者を取り囲む。

雷を伴う闇、多少は破壊できてもこの物量には叶わない。

魔力によって大幅に強化された人間の身体、それは無残にも穴だらけ、そして焼け焦げる。


勇者「────っっ!」


理性はもうない、激痛に次ぐ激痛が彼女の化けの皮を剥がす。

もうこの姿をみて勇者だと認識できるものは誰もいないだろう。

ただ1人、彼女の過去の仲間を除いて。


魔王妃「...」


その酷すぎる彼女の最後を見つめる。

もうあの子をこの目でみることはできない。

しかし勇者はすでに死んでいる、奴は偽物にすぎない、覚悟は決まっている。


魔王妃「...さよなら、勇者」


属性付与によって抑制された魔力、解除されたとはいえまだ完全に回復していない。

なけなしの魔力、しかしそれでいて魔女から見れば膨大な量である。

彼女が唱える最後の魔法、それは世界を跨ぐ。


魔王妃「────"転世魔法"」


視界が歪む、それが偽者の最後の光景。

なにが起きているのか、自分がどのようなことになっているのか。

すべてを理解できずに、彼女はただ生きることだけをするしかない。


〜〜〜〜
162 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:51:51.56 ID:ooAlurkw0

〜〜〜〜


────□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□...ッッッ!!

そして聞こえたのは溢れる光の音。

もう人としての見た目を保っていない、だが彼にはわかる。

この焼け焦げた物体に妻の魔力を感じる、だからこそ魔王は吠える。


魔王「...よくやったな、妻よ」


勇者「......?」


もう喋ることすらできない、だけれどもとても強い生命力を見せている。

勇者という身体、歴代最強の魔王を討った者、だからこそまだ死ねない。

まだ彼女は死に直結する痛みを味わうハメになる。


魔剣士「...あァ? なんだァあれは?」


魔闘士「...焦げた、人間...か、あれは?」


女賢者「え...でも身体のほとんどを火傷して...出血もしてますよっ!?」


女騎士「...あれが本当に人間...というよりも生き物だとしたらとてつもない生命力だぞ」


女勇者『□□□□□□□□□...?』


傍観者が各々述べる、だが彼だけは違う。

たとえ感知能力を持たずしても、実の母の魔力を見誤るわけがない。

だからこそ固まってしまう、この謎の生命体に。


魔王子「...これは?」


魔王「これは我妻の...旧知の友..."だった"ものだ」


魔王子「...なんだと?」


魔王「詳しく説明してやりたいが、時間はないようだ...あれをよく見てみろ」


魔王子「...?」


よく見てみろと言われてもいまいちピンと来ない。

だが彼女は違う、感知能力を持っている女賢者だけは瞬時に理解をした。

その魔力は女勇者のものではなく、あの物体のモノ。
163 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:52:55.80 ID:ooAlurkw0

女賢者「え...嘘...」


女騎士「...どうかしたか?」


女賢者「あれから...とてつもない魔力量を感じます...しかもそれだけじゃないっ!?」


女賢者「よくわかりませんが、微かに光属性が含まれて...それが徐々に...」


うまく説明ができない、それは当然。

この肉塊は研究者の謎の薬、魔剣士と魔闘士を蝕んだ光を打ち消した薬を浴びた者。

しかしその効力は永続ではない、早くもその効果は薄れ始め光を取り戻しつつあった。


魔剣士「冗談じゃねェみてェだな...これは今の女勇者の光よりもやべェかもしんねェぞッ!」


女勇者『□□□□□□...っ!』


魔王「...そういうことだ、時間はもうない」


魔王子「...」


魔王「だから...誰も邪魔をするなよ■■■■■■■■」


勇者「...っ!」


──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!

魔王が偽勇者を羽交い締めにし圧倒的な闇が偽勇者を包み込む。

だが彼女は抵抗をする、徐々に取り戻しつつある光で。

その身体に秘められた光が、自動的に闇を払おうとしている。


魔王「──なんて奴だ...歴代最強の魔王を討っただけはある...」


完全に黒に包まれているというのにその内部にはまだ勇者が存在している。

理性を完全に失ったこそできる芸当、生きたいという感情が反則地味た性能を誇る。

このままではまずい、時間をかければ偽勇者がすべての光を取り戻してしまう。


魔王「...」


この王は葛藤をする、どのようにすれば奴にトドメをさせるか。

少しでも気を抜けば闇から偽勇者を逃してしまう、新たに何かを仕掛けるのは難しい。

ならば手を借りるしかない、次の世代の者たちに。


魔王「...■■■■■■■■■■」


勇者「────っ!?」


──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!

ここで魔王ごと強力な攻撃を与えることができるのなら。

この過去の遺物だけは、確実に仕留めなければならない。

それが妻の野望なのだから、夫はそれを遂げるだけ。
164 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:54:43.39 ID:ooAlurkw0

女騎士「──退避しろっ!」


魔剣士「やべェぞッ! こっちに闇がくるぞォッ!」


魔闘士「チッ...魔王の奴、最後の足掻きといったところか」


女賢者「凄まじい量の闇です...ですが、女勇者さんなら...っ!」


闇が彼らを襲う、その意図とはなにか。

なぜこのタイミングでこの闇を勇者に向けなかったのか。

その答えは簡単である、仲間が危機に陥れば彼女が動くからであった。


女勇者『──□□□□□□□□□□□□っっ!』


この一撃は魔王を確実に葬り去る。

己の腕と一体化したその剣に光が収縮する。

そして彼女が放ったのはとても巨大で分厚く、輝かしい剣気。


女勇者『──□□□□□□□□□□□□□□□□□□っっ!』


──□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ッッッ!

その光はすべての闇を滅ぼす、それが例え魔王という圧倒的な質を誇る闇でも。

そしてその威力はとてつもなく、魔物という強靭な身体を簡単に貫く。


魔王「────グッ...ウ...!ッ」


勇者「────っっ!」


それは当然、羽交い締めにされていた勇者もまともに受ける。

光を取り戻しつつあると入っても、現段階での質は女勇者のほうが遥かに格上。

光が光を飲み込む、その光景は闇も同じであった、質に圧倒的な差があればどうなることか。


魔王子「──親父...」


2人の強者が剣気によって吹き飛んだ。

偽勇者は胴体を真っ二つにされ、魔王の胴体には大きな穴が空いていた。

そして女勇者の身体にも異変が訪れていた。


女勇者『──うっ...!?」


──パキンッ...!

一体化が強制的に解除される、それはなぜなのか。

高らかな音がその原因である、彼女の右腕を見てみれば一目瞭然。

長旅に続く激戦により限界を迎えてしまったからであった。


女勇者「...ごめんなさい」


彼女が握る魔剣、その刀身は短くなっていた。

折れてしまった、帽子という男の形見が。

女勇者はその剣に篭もる意思に対して謝罪をしていた。
165 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:56:57.06 ID:ooAlurkw0

勇者「────っ...っ...っ...!」


魔王子「...まだ生きているのか、あの生命体は」


女勇者「よ...くわからないけど...アレも倒すべきなのかなぁ...っ!」


結局のところ、詳しく説明されてはいない。

この謎の生命体がどのような悪影響を及ぼすかも想像がつかない。

しかし鶴の一声が、父という絶対的な存在が発する命令が彼らを刺激する。


魔王「────殺せッ! 奴は妻の仇だッ!」


魔王の最後の言葉、それは妻の野望を助長するモノ。

断末魔だった、死にながらも彼は愛する者の願いを渇望する。

納得はできなくとも理解をすることは簡単であった。


女勇者「──どうしようっ! 武器がないよっ!?」


魔王子「...チッ、どうトドメを刺すべきか...」


その時だった、先程の闇で退避していた者たちが帰ってくる。

1人は己の持っている未曾有の武器を、もう1人は大きな剣を器用に振り回す。

闘いの最後が近い、これでようやく終結することができる。


魔闘士「──これを使え、使い方はわかるなッ!?」スッ


魔剣士「──いいところに剣が刺さってるじゃねェか...」ブンッ


──バコンッ!

魔剣士が剣を振ると剣気が生まれる、そしてソレはある地点で爆発する。

そのある地点になぜか地面に突き刺さっている、ただの剣が爆の影響でこちらに飛んできた。

そしてそれを捉えた男は、難なく自分の手のひらに収めた。


魔王子「...いい剣だ■■■■■■」


女勇者「ありがとう、ずっと使ってきた剣だからね□□□□□□」


魔王子は先程女勇者が魔王に向けて投げた剣に闇を纏わせる。

女勇者は魔闘士が持っている手のひらよりも大きい銃に光を纏わせる。

その2つが放つ剣気、そして銃撃が偽者に向けられる。


勇者「────っ!」


────□□□□ッ!

────■■■■ッ!

2つの音が奏でるのは、死を表現した音。

それを受けてしまった彼女は声を上げることすら許されない。

闘いは終わる、魔王は朽ち果て、過去の光がここにて滅びる。


〜〜〜〜
166 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:58:10.41 ID:ooAlurkw0

〜〜〜〜


時は過ぎ去り、そして世界も変わる。

ここはアメリカ合衆国のとある一室。

そこにいたのは世界を跨いだ男とその仲間たち。


隊長「...おはよう」


魔女「おはよう、あなた」


ウルフ「おはようっ! ご主人っ!」


2人は彼のマンションに住み着いている。

朝食は魔女が作り、ウルフはこの世の最新情報に耳を立てている。

だが聞こえている言語は英語、当然理解できるはずがない。


魔女「...そろそろ、本格的にこの国の言語を勉強しなきゃね」


隊長「あぁそうだな...あとは国籍も取らないとまともに暮らせないな」


魔女「国籍?」


隊長「そうだ、この国の住民であることを証明する書類みたいなもんだ...」


魔女「それって、どうすれば貰えるの?」


隊長「...」


貰える方法などは意外と簡単ではある。

だがそれを言葉にするのはとても難しい。

まだ、彼女に見合う指輪も探していないというのに。


隊長「...まぁ、追々な」


魔女「なんか誤魔化されたような...まぁいいわ」


魔女「それよりも支度して、今日はお墓参りよ」


──ピンポーンッ!

その時だった、玄関から小うるさい音がなる。

そして聞こえたその足音の主にウルフは飛び上がり、扉を開けようとする。

そこにいたのはこちらの世界で幅広く協力してくれた彼であった。


隊員「おはよ...って、うわっ!?」


ウルフ「おはよぉっ!」


その様子は、大型犬に飛び掛かられた飼い主。

そのまま押し倒されそうになるのをグッとこらえ、彼は彼女を受け入れる。

特殊部隊で鍛え上げられた成果がここに現れる。
167 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 10:59:30.83 ID:ooAlurkw0

隊長「...ずいぶんと懐かれたな」


隊員「へへへ...おはようございます、Captain」


ウルフ「〜〜♪」


その表情は限りなく緩んでいる。

普段の仕事中のソレとは比べ物にならない。

本当に同一人物なのだろうか、魔女はその光景を見ながら軽く頭を抱える。


魔女「はぁ...それじゃ行くわよ」


ウルフ「わかったよっ!」


魔女とウルフの格好、それはこちらの世界で適応したモノ。

特にウルフ、リュックの背にあたる部分に穴を開けてそこに尻尾を詰め込み隠している。

犬耳も帽子で隠してる、これで人外ということを知られる心配はない。


隊長「...」


魔女「...どうかした?」


隊長「...いや、少しな」


これからこの4人で出かけるのは、お墓参りと言っていた。

だがそれは一体誰の、そしてなんのためのモノなのか。

隊長は疑問に抱いていたことを口にする。


隊長「...なぜ、魔王妃は死んだのだろうか」


魔女「...」


隊員「...」


魔王妃は死んだ、偽勇者を異世界へ飛ばしたあの時に。

原因はわからない、しかし彼女は息を引き取った。

死人に口なし、だが魔女は1つの説をたてた。


魔女「...たぶんだけど、あっちの世界で魔王が死んだと思う」


魔女「あの人...使い魔召喚魔法で甦ったと言ってたわ」


魔女「...あの魔法は発動した主が死ぬと、自動的に消滅する仕組みになっているから」


隊長「...そうか」


間接的に知ることができた、あちらの世界で魔王が果てたことを。

考えられるのは1つ、魔王子か女勇者、あちらの世界での仲間が魔王を討ったということ。

それは喜ばしいことでもある反面、その様子をこの目で見ることができない無念もあった。
168 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 11:00:11.77 ID:ooAlurkw0

隊長「...帽子やスライムに納得してもらえるだろうか」


魔女「してくれるわよ、だって大切な仲間ですもの」


ウルフ「...そうだよ」


あちらの世界が今どうなっているかはわからない。

だが願うしかない、魔王子が、女勇者が手を取り合い平和を齎している様を。

3人が失った仲間を想う中、部外者が口を開いた。


隊員「...私はあの女を許すつもりはありません」


隊員「奴はこの国の市民を、部隊の仲間を、そして亡くなられた者たちを冒涜した」


魔王妃という女はテロリストである。

この国の人間を数百人規模で殺害し、多大な経済打撃を与えた。

だが話の本位はそこではない、隊員が言いたいことは別のモノであった。


隊員「...ですが、彼女がいなければこの国は愚かこの世界が滅んでいたかもしれません」


隊員「今という時間を与えてくれた人々の気持ちを蔑ろにするわけにいきません」


隊員「...私たちにできることはそれを噛みしめることです」


気持ちの切り替え、だからこそ彼はここにいる。

たとえ憎きテロリストが相手でも、この世界を救う1つの要因であった彼女。

その亡骸を無碍に扱うことはできない、隊員が魔王妃の墓参りに参加する理由はそこにある。


隊長「...そうか、そうだな」


隊長「きっと、あちらでも平和を掴んだに違いないな」


そう言うと彼は歩き始める、扉を開き外へ。

人に見られないようにカバンの奥底に真っ黒な銃を入れて。

その様子を見送るのは、鉢植えにある真っ赤な花であった。


〜〜〜〜
169 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 11:01:48.77 ID:ooAlurkw0

〜〜〜〜


再び世界が変わる、ここは魔王の城。

そこにいるのは3人、どこか面持ちは険しいモノであった。

そしてその服装はとても綺羅びやかであった。


魔剣士「...いやァ、慣れねェなァ」


魔闘士「動きづらすぎる...これではまともに戦えんぞ」


魔王子「...馬鹿共め、今日に限って戦いなど起こらん」


そんな時だった、扉が開かれてしまう。

多数の魔物が、そして多数の人間が魔王の間に立ち尽くす。

そして扉を開いた3人の乙女たち、彼女らもまた普段とは違う格好をしていた。


女勇者「...や、やぁ」


女騎士「...ど、どうも」


女賢者「...だめですねこれは」


緊張が彼女たちの調子を崩す、これから始まるのは神聖な儀式というのに。

女賢者は事前に2人に言葉の使い方を教えていたはずなのに。

もうだめだ、そう感じ取った彼女は向こう側にいる彼らに助け舟を願う。


魔王子「...そう緊張するな、いつも通りでいい」


女勇者「本当っ!? いやぁーこういうのって苦手なんだよねぇ〜...」


魔剣士「...いやそれは肩の力を抜きすぎだろうがよォ」


魔闘士「あぁ、もう無理だな...これから始まるのは漫才かなにかか?」


女騎士「...ふっ」


女賢者「は、はははは...はぁ、大賢者様もそこにいるというのに...」


会場に集まっている魔物と人間、それぞれの反応は同じであった。

人間側の頂点に君臨する女勇者、魔物側の頂点に君臨する魔王子。

普段の2人からは想像もできないその柔らかな表情に笑いが起こってしまう。


魔王子「...」


女勇者「...」


しかし彼らの視線は確かなものであった。

この2人が勝ち取ったものは、かけがえのないものである。

まだ細かな問題は多々ある、だが今日という日がとても偉大な1日であることは間違いない。


〜〜〜〜
170 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 11:04:24.75 ID:ooAlurkw0

〜〜〜〜


??1「...ここは、どこ...?」


辺りには何もなく、ただ白が点在している。

声の主はその光景に理解ができず、苦悶する。

行くあてもなく、この白き世界を眺めていると誰かが話しかけてきた。


??2「□□□□□」


??1「えっ!? えっとぉ...」


??2「...失礼しました、張本人が亡くなられたのであの魔法は解けていると思ったのですが」


??2「どうやら、その言語が頭に染み込んでいるようですね」


??1「あ、あの...?」


話しかけてきた人物には白い翼が生えている。

男でも女でもなく、それでいてどちらとも取れる見た目をしている。

突然の声かけに困惑しながらも、その人物はあるモノを手渡してきた。


??2「忘れ物ですよ」


??1「...え? これって」


??2「では」


──ばさばさばさっ!

まるで鳥のように、この人はどこかへと飛んで行ってしまった。

手渡されたのは剣であった、その見た目はとても豪華でもあり奇妙な感覚がする。

間違いない、これは確かに忘れ物であった。


??1「...どうすればいいんだろう」


すると感じるのは、自分と同じ魔力を持つ誰か。

遠くに仲間がいるような感覚が彼女をさえ冴える。

しかし動こうとしない、彼女が会いたいのは同胞ではなくお友達なのだから。


??1「...」


しかしさらなる違和感が彼女を襲う。

自分と同じ魔力の他に、なにか別人の魔力を感じていた。

それはどこか水のようで水ではない、やや塩辛そうなモノだった。


??1「...なんだろう」


その違和感がようやく、彼女を動かしていた。

彼女は足を進める、身体をゆらしたぷたぷと水音を立てて。

すると持っている剣が少し煌めく、まるで離れ離れの主人に会えた飼馬のような。
171 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 11:05:18.18 ID:ooAlurkw0










「...やぁ、久しぶり」









172 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 11:05:44.27 ID:ooAlurkw0










「──また、会えたね」









173 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 11:06:18.89 ID:ooAlurkw0










「────そうだね、君も一緒に彼らを見護ろうよ...キャプテンが勝ち取った平和な2つの世界を」









174 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 11:06:52.20 ID:ooAlurkw0










〜〜終わり〜〜









175 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/29(土) 11:08:34.24 ID:ooAlurkw0

乙や待ってる等のレスをありがとうございました、とてもモチベーションに繋がりました。
近況などはTwitterでお知らせします、よければフォローお願いします @fqorsbym
HTML化するまで質問などがあれば受け付けます、HTML化した後に質問などがあればTwitterに送ってもらえると返答できます。


主な誤植です、よければ見つけてやってください。
・英語という概念がないのに帽子が「ボール」という単語を使っている。
・英語という概念がないのに帽子が「チョコ」という単語を使っている。
・魔王妃の前設定の名前が「魔王妻」なので、修正漏れによりその名残が残っている。
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/12/29(土) 12:28:25.52 ID:zwFCnKla0
乙!
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 22:11:28.27 ID:GxnhjsJbO
乙でした!
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 23:03:19.98 ID:2NBxO1d0o

何度も読み返したくなるな
キャプテンと魔女がくっつけてよかった
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/30(日) 06:52:26.97 ID:gQvIwyBk0

最近はここの更新がされるのが楽しみだった
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/30(日) 13:09:13.31 ID:LRAg36uno
乙でした
新作待ってます
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/30(日) 14:43:54.59 ID:I4AsTfDB0
乙!次も期待して待ってます!!
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/06(日) 17:40:06.98 ID:AeFFhSAp0
遅ればせながら乙でした
帽子が戦線離脱したときはびっくりした
次も期待してます
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