男「この俺に全ての幼女刀を保護しろと」

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426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/09(日) 23:39:36.68 ID:0qU1zNu20

「え」

「まあどうあれ私たちがどうこうできる問題でもないさ……さあ仕事だ。行くぞ」

遠ざかる足音が無音になったのを確認すると愛栗子は強く意思を固めて赤子を抱き上げそのまま座敷を後にした。
出先の廊下の左右を見渡しながらまず向かったのは透水……もとい透 -すぐ-のいる座敷であった。

427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/09(日) 23:40:38.51 ID:0qU1zNu20
愛栗子「透! おるか!」

透水「ひゃっ……! あ、愛栗子ちゃん……どうしたの?」

愛栗子「手ぬぐいじゃ! 手ぬぐいを貸せ! それもなるべく大きな……そう、頭を広く包めるものがよい」

透水「ええっと……」

愛栗子「はようせい!」

透水「は、はひっ!」

困惑しながら引き出しをあさる透を急かすと彼女から手渡される間も無く手ぬぐいを奪い去り、その黒布で己が髪を隠すよう包んだ。

愛栗子「これは貰ってゆくぞ!」

透水「ふぇぇ……」

そこからまた飛び出して人気のない裏口へと素早く滑り込むと鉢合わせた乱 -らん- の横を颯爽と風切りて外へと繰り出した。

乱怒攻流「え……? 今のって……」



428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/09(日) 23:41:36.52 ID:0qU1zNu20
愛栗子「はっ、はっ、はっ……」

愛栗子(確か、いつの日か駕籠の外から見た……ここらにあるはずじゃ)

確かな記憶を辿りながらそのあて求めて奔走する少女……時としてその姿は黒布など関係ないかのように民衆の目を集めていた。

「おい、あれ」

「いや、気のせいだろ。愛栗子様がこんな所に一人で来るわけが……」

民衆知る人ぞ知る将軍の寵児愛栗子……顔は隠せぞ美は隠せず。
彼女がどれだけ風に乗ろうとその美だけは振り切ることかなわなかった。

429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/09(日) 23:42:08.63 ID:0qU1zNu20
息も絶え絶え彼女が足を止めた場所は『用心棒』と書かれた小さな板を貼り付けた平家であった。

愛栗子「は、は……もし……!」

用心棒「んぁ〜? ぇ……」

愛栗子が転がり込んだ先、奥から出てきたのは見るからに酒の入ったうつけ男であった。

430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/09(日) 23:43:21.98 ID:0qU1zNu20
愛栗子「おぬし、看板からして護衛業の者であろう? ならば……ならばこの子を護ってはくれぬか! 詳しいことは話せぬ! 代も……今は急ぎで持ち合わせてはおらぬ! じゃが、どうか!!!」

彼女が己の意思で深々と頭を下げたのはそれが初めてのことであった。

用心棒「は……」

形式でも接待でもない。ただ懇願のための哀訴……それがうつけ男の琴線に触れたのかは愛栗子の知るところではないが男は差し出された赤子を抱き寄せて微笑を浮かべた。

431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/09(日) 23:43:50.71 ID:0qU1zNu20
用心棒「ハァ……わーったよ。代は、そうだな……いつかでいい。だが綺麗なお嬢ちゃん、アンタ自身で頼むよ」

酔った勢い口任せ。高位と美女には跪く。が、それらが男を筋の通った粋狂にさせるのだと後の時代でも語られる。故にこの時代の生き様を人はみな露離っ子と呼んだ。


432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/09(日) 23:44:27.71 ID:0qU1zNu20
その要求に愛栗子は一瞬こそ驚きを見せたがそれが可笑しくて含み笑い一つ吹くと一気に張った気が解かれて笑いを上げた。

愛栗子「ふふふふっ……よいよいそれでよかろう。礼を言うぞ。それでは、いつかの」

愛栗子(この夢うつつな男……わらわが将軍様の女と知っておればまずこのようなことは言わぬであろうな)

433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/09(日) 23:44:54.63 ID:0qU1zNu20
愛栗子が玄関から立ち去った後うつけ男は眠る赤子を見つめて一人目を丸くしていた。

用心棒「少し呑み過ぎたか? いや、まさか……だがあんな女見間違えるはずもねぇ……となると、このガキは……」

固唾、寝耳に垂らせば飛び起きそうなほど冷ややかな水であったが男の夢未だ覚めず。

用心棒「もしかしなくてもヤベェことに巻き込まれたんじゃねーか俺……」
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/09(日) 23:45:27.97 ID:0qU1zNu20

城に戻った愛栗子は壁越しに聞いた女中の話どおり大好木に呼ばれ彼の元に馳せ参じた。

愛栗子「愛栗子、参りました」

大好木「ああ来たか。……ところで、至高はどうした」

愛栗子「はて。しかし、誰もが羨む将軍様とわらわの子……」

435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/09(日) 23:46:58.62 ID:0qU1zNu20




「子運び鳥にでも攫われたのやもしれませぬ」




436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/09(日) 23:47:37.07 ID:0qU1zNu20
続く
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/09(日) 23:55:23.02 ID:uiPIx2Z0O
おつ。え、愛栗子ちゃんって子供産んでたのかよw
438 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2020/02/10(月) 00:47:09.05 ID:CaLDwjtG0
すみませんsagaをつけ忘れていたせいかなんか変なことになっていたので一応修正貼っときます
>>422
>>425
439 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2020/02/10(月) 00:48:17.15 ID:CaLDwjtG0

女中「失礼します。至高様のお守りを……」

愛栗子「ばかもの。坊ならもう寝付いたわ……それに何度も言っておるようにわらわは愛しき我が子にお守りなぞ必要とせぬ。必要となったならばこちらから頼むまでじゃ。散れ」

女中「ですが……」

女中を片手であおる愛栗子。が、女中からすればそれは業の放棄にあたる。
困り果てて一言挟みかけた女中だったが丁度そこに連なるようにしてもう一人遣いが現れた。

「将軍様のお客人がお見えだ。持て成して差し上げろ」

愛栗子「ほれ、どうやらお呼びのようじゃぞ。さっさとそこを閉めてしまえ」

一瞬迷いを見せた女中の者だったが、もう一度愛栗子に頭を下げると襖を閉じて隣に対応した。
440 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2020/02/10(月) 00:49:14.15 ID:CaLDwjtG0

「あまり大きな声では言えぬのだが、もしや愛栗子様はその妖術の試しにされるやもしれぬ。何しろあの美しさだからな」

「それ程愛されてらっしゃるということでしょう」

「それはそうかもしれないが妖術とは我らにとって未知。もし上手くいかなかったとき残された至高様はどうなる? 否、もう将軍様は決断なさっているのかもしれん」

「あの、何を仰っているのか」

「女子なら育てていくらでも使いようはあるが、至高様は男子だ。血筋が祟って面倒なことになる……その前に……」

愛栗子「っ……!?」

愛栗子は思わず口を押さえ込んだ。
あまりの恐ろしさに漏れそうになった小さき悲鳴を力を入れて堪えたのである。
441 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2020/02/10(月) 17:45:18.48 ID:CaLDwjtG0
続き
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 17:46:02.19 ID:CaLDwjtG0

少女は小鳥の囀りに誘われ、やがて追憶の夢から目を覚ます。
宿の床から身体を起こした愛栗子はまだ隣で眠る紺之介の顔を覗き込んだ。

愛栗子(妬いてしまいそうになるほど凛々しい寝顔じゃの)

その寝顔にどこか既視感を覚えつつも愛栗子は彼を起こさぬよう、一旦顔を引かせた。
紺之介が起きればまた旅が始まる。恐らく彼らにとってそこは最後かつ最期の地になり得る場所であった。
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/10(月) 17:47:02.21 ID:CaLDwjtG0

愛栗子、憂鬱に浸りつつそっと紺之介にもたれかかる。
今の旅が終わってしまうことが憂鬱なのか、それとも今歩き続けること自体がそれなのか、彼女今一度考えてはみたが答えは出ず。

彼らが幼刀刃踏-ばぶみ-そして奴-ぺど-を失ってはや一月……が、彼らの中の抉られた喪失感未だ癒えず。
季節はもはや冬近し。開けられた風穴にしっとりと吹き込んだ秋風が愛栗子らをひたすら沈鬱な空気へと陥れやるせなくさせていた。


444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 17:47:35.58 ID:CaLDwjtG0
愛栗子「紺……わらわは、どうすれば」

あらゆる意味を含んだ問だった。
彼女の出したか細い声は在るかも知れずの解を追って木造りに吸われていく。

問いかけど声は返らず。
それは単に彼が寝ているせいかもしれなかったが、例えそうでなくとも求める答えは返ってこなかったろうと愛栗子はまた一つ溜息をついた。
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 17:48:50.12 ID:CaLDwjtG0

「あーつめた。顔を洗うのも一憂だわ」

襖が開く。
虚ろを見つめていた愛栗子の瞳は自然と音なる方へと流れていった。

乱怒攻流「あれ、もしかして邪魔だった?」

愛栗子「今さら改めて口に出すこともなかろう」

乱怒攻流「は? ちょっとあんたおもて出なさいよ。その寝起き面に冷水をおみまいしてあげるから」

といいつつも乱怒攻流穏やかに腰掛けて壁にもたれかかる。これらは最早互いにとって戯れで、そうと感じさせられる程度には彼女らは旅疲れていた。

446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 17:49:53.71 ID:CaLDwjtG0
乱怒攻流「はぁ」

乱怒攻流も感嘆を漏らさずにはいられなかった。
彼らはあと一本の幼刀を収集すれば完遂だったところを逃したばかりか二本も失ってしまっのだ。
漏らす彼女の嘆きの根元、これに尽きる。

乱怒攻流「ねえ」

疲弊の少女、視線は前方のまま隣の愛栗子に語りかける。

447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 17:51:06.58 ID:CaLDwjtG0
愛栗子「なんじゃ」

乱怒攻流「ずっと、聞かないようにしてきたんだけどさ」

愛栗子「はようせい」

乱怒攻流、気遣っていただけにむっと口をつぐむ。それを経て少し大きめの声で改めて口開いた。

乱怒攻流「じゃあ聞くけど! あんた本当は刃踏……ふみを助けられたんじゃないの」

愛栗子「まあ、その気になっておればの」

乱怒攻流「っ! じゃあなんでっ!」

愛栗子「炉と同じじゃ」

乱怒攻流「は」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 17:52:04.31 ID:CaLDwjtG0

激情する乱怒攻流とは対極に、愛栗子は己でも厭うほど淡々とした調子で話していく。

愛栗子「ふみが刺されるあの瞬間、ほんの一瞬ではあったがあのままでよいと思ってしもうた」

乱怒攻流「それってどういう……」


449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 17:53:19.71 ID:CaLDwjtG0
愛栗子「ぬしには今一度伝えておこう。わらわは炉を砕こうと考えておる」

乱怒攻流「な、何でよっ」

動揺する乱怒攻流。が、それでもまだ愛栗子調子崩さず。

愛栗子「その意図は……まあ今はどうでもよかろう。とにかくその意思があったが故に割って入るのに躊躇してしもうた部分はある。じゃがそれよりも……やはりわらわはふみを妬んでしもうたのじゃ」

少女二人、互いの顔が更に影る。


450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 17:55:50.79 ID:CaLDwjtG0
愛栗子「紺に頼られたあやつを、強く妬んでしもうた。あの場であやつが砕かれるのをよしとしてしもうた。まるで炉と同じじゃ……奴とわらわとで何が違う。 そう思うと、もはやあの場で奴を追う気すらおこらんかった」

乱怒攻流は愛栗子の言葉に驚愕と不快を抱きつつ児子炉の発言を思い出していた。

乱怒攻流「何よそれっ……最ッ低……!」

とうとう乱怒攻流が愛栗子に掴みかかったときだった。

紺之介「ぅ、ン……煩いぞお前ら。ああもう朝か……適当に支度して行くぞ」

激情した乱怒攻流の声に掻き立てられて目を覚ました彼によって一先ず諍いは身を潜めた。
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 17:56:52.76 ID:CaLDwjtG0

愛栗子の衣服から手を離した乱怒攻流は荷物を纏める紺之介に駆け寄りて小声で告げる。

乱怒攻流「紺之介……ちょっとあいつのこと納めてよ」

紺之介「何故だ」

乱怒攻流「いいから!」

愛栗子の納刀を乞う彼女の意図など一寸とも理解できぬ紺之介であったが愛栗子の方へと目配せしたところ、乱された服装のまま虚ろな目で畳に座した彼女を見て適当に察すると静かに碧色鞘を握りて「納刀」と呟いた。
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 17:57:31.45 ID:CaLDwjtG0
乱怒攻流「珍しく聞き分けいいじゃない」

紺之介「寝起きだったんだろう。あれは何となく歩き出すのに時間がかかりそうだと、そう感じただけだ」

乱怒攻流「そう。まあいいわ……ちょっとあんたに話したいことがあるの」

紺之介「分かっているとは思うが先を急ぐ。歩きながらでも構わんか?」

乱怒攻流「ええ」

彼らは一先ず宿を出て再び武飛威剣術道場へと歩み始めた。
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 17:59:32.42 ID:CaLDwjtG0


紺之介「で、なんだ」

乱怒攻流「愛栗子ったら本当は本気を出せばあのときふみたちを助けられたのに助けなかったの。最低だと思わない?」

彼女は今まで内に秘めてきた苛立ちごとまるでその背嚢から取り出すがごとくここぞとばかりに告げ口を開く。

乱怒攻流「で、その理由を聞いてみたら『あんたに気に入られていたふみが気に食わなかったから』だって……ねぇ、幻滅するでしょ? ほんと、ほんっっと最低よね」

隣を歩く彼に共感を求めるよう視線を送る乱怒攻流であったが彼女の思惑とは裏腹に紺之介の顔は至って冷静かつ無表情で、あまりにもいつもの彼のそれであった。

乱怒攻流「ねぇ、ちょっと……」

彼女の話が終わったことを察すると紺之介はやっと口を開く。

紺之介「そうか」

が、その口が開いたのは一瞬だった。

454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:02:34.93 ID:CaLDwjtG0
乱怒攻流「うそ……それだけなの?」

紺之介「その話が本当だとして、幼刀が情に駆られ他の幼刀の破滅を望むことなどもはや驚くことでもないだろう? それにお前も夜如月では愛栗子を破壊しようとしていただろ……それと何が違うというんだ」

乱怒攻流「それは……」

『そのときの言葉の綾』そう続けたい彼女であったが、それは愛栗子と改めて共にした今だからこそ言える言葉であった。
当時がどうだったかなど正しき指針はもう彼女になく、そのことを認めたのか乱怒攻流の口はそこで潰えた。


455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:03:00.42 ID:CaLDwjtG0
乱怒攻流「うそ……それだけなの?」

紺之介「その話が本当だとして、幼刀が情に駆られ他の幼刀の破滅を望むことなどもはや驚くことでもないだろう? それにお前も夜如月では愛栗子を破壊しようとしていただろ……それと何が違うというんだ」

乱怒攻流「それは……」

『そのときの言葉の綾』そう続けたい彼女であったが、それは愛栗子と改めて共にした今だからこそ言える言葉であった。
当時がどうだったかなど正しき指針はもう彼女になく、そのことを認めたのか乱怒攻流の口はそこで潰えた。
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:03:54.54 ID:CaLDwjtG0
紺之介「あの結果は全て俺の弱さが招いたものだ。あいつに頼る決断をしたのも、あいつらを守れなかったのも、源氏を斬り伏せることが叶わなかったのも、全て俺の弱さだ」

紺之介「故に次こそは弱さを捨て全力を待ってあいつに勝つ。そのために今は前へ進む。それだけの話だ」

紺之介はそうはっきり言い切ったのち言葉の通り真っ直ぐ前を見てまた無言になった。

457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:05:50.24 ID:CaLDwjtG0
乱怒攻流(もぅ……なんなのよこいつら)

少女は下唇を噛んだ。あまりのやるせなさに。
そして良くも悪くも事が転がらない現状に握り拳が固められる。

彼女はひたすら懸念していた。
『紺之介は源氏に敗れるのではないか』
『紺之介はきっと死にに行く覚悟でも己を実直に通すのだろう』と

ならば罪の意識で愛栗子を動かし事の収拾をつけさせるしかないと願うが……

乱怒攻流(どうせこいつがそれを許さないし、許してくれないなら愛栗子も無理には動かない)

『となればこの身は愛栗子と共に砕かれるであろう』

彼女の考えうる最悪の結末であった。

458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:07:12.49 ID:CaLDwjtG0
乱怒攻流(共倒れだけはごめんだわ……せめてあたしだけでも勝手に動けるようにしとかないと)

助け舟を求める乱怒攻流はその場に立ち止まって背嚢を漁ると紺之介の袖を引いた。

乱怒攻流「ねえ」

紺之介「なんだ」

乱怒攻流「透水を手元に戻しときましょ。 源氏があんたを待っている内に導路港へ寄り道しないとも限らないでしょ? 」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:08:28.02 ID:CaLDwjtG0

紺之介、差し出された藍色の鞘を握りて乱怒攻流に確認を取る。

紺之介「なるほど一理あるな。しかしいいのか? あいつには一応お前の縦笛を探させている。もしあいつがまだそれを見つけていなければ……」

乱怒攻流「いいからっ!」

彼女にとってもそこだけは博打であったがそれもやむなしとして彼を急かした。

460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:09:17.74 ID:CaLDwjtG0
紺之介「分かった」

改めて鞘を握りて紺之介、目を閉じ闇を覗き深海の果てよりそれを呼び込む。

紺之介「……納刀」

彼がそう口にしたとき藍色の鞘口に水飛沫が集まりて一つの柄となった。
それを引き抜くと彼らから見て久しき痴態、そこに姿を現わす。

461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:10:32.75 ID:CaLDwjtG0
透水「ふぇ……? 紺之介、さん……?」

紺之介「相変わらず妙な格好だな」

乱怒攻流「ほんと性格に似合わず変態的よね」

二人の下げた目線に透水は顔を照らして肩を抱く。

透水「うやぁ……」

乱怒攻流「『うやぁ』じゃないわよ。ん!」

乱怒攻流が伸ばした手で例の件を思い出した透水は己の襟口から縦笛を取り出し彼女の手に返した。

透水「あ! これだよね! 乱ちゃん『将軍さまから貰ったんだー』って大事にしてたもんね!」

462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:12:01.87 ID:CaLDwjtG0
「よかったね」とにこやかに透水が手渡す一方乱怒攻流は嬉しさ半分微妙な顔つきでそれを手にとって見つめる。

乱怒攻流「あんたどこから取り出してんのよ……ってか磯臭っ! もぉ〜……とれるかしらこれ」

透水「一生懸命探したのに……」

微笑みから一転。半べそになる彼女の頭に紺之介は己の手を乗せた。
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:12:40.97 ID:CaLDwjtG0


紺之介「欠けた刀の刃が戻ってきたんだ。お前はよくやってくれた」

透水「う゛ぅ〜……紺之介さん……あ! 私を戻したということは……大きなお風呂が!」

紺之介「悪い。事情が変わってな……お前を呼び戻したのはそこの背嚢だ」

透水「え……」

期待の裏切りからか何とも言えぬ表情で透水が彼の指差す先を見る。

乱怒攻流「い、いやそんな言い方ないでしょっ!? どの道この子を守るためには呼び戻す必要があったんだからっ!」

464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:13:48.47 ID:CaLDwjtG0
透水「なら」

乱怒攻流「? なに」

透水は相変わらず笑顔満面というわけにはいかなかったが微笑み混じりに彼女に語りかけた。

透水「ならせめて、ここまでの旅を私に聞かせてくれませんか」

乱怒攻流「……言われなくてもそうするつもりよ」

紺之介「歩きながらで構わんな。乱、頼んだぞ」

乱怒攻流「あ、もぅ」

黙々と歩き出す紺之介の後に続くようにして二人も歩き出す。

乱怒攻流「とりあえずあんたと導路港で別れたところから話すわね」

透水「うん」

乱怒攻流「あのあとーー」

465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:16:10.93 ID:CaLDwjtG0

…………

夜、山道青暗くなりて獣の目も光り出す頃紺之介らはひとまず歩みを止めた。

紺之介「前の宿で中居に聞いたのはこの辺りか」

一行山林から少し開けた土地に出ればそこには平家の宿。よく見ると建物後ろ側から湯気立ち込めて淡く霧が如く周囲を包んでいる。

その風景に透水はうっとり瞳を輝かせた。

透水「これってもしかして温泉宿ですか!?」

紺之介「そのようだな」

乱怒攻流「へぇ、いいじゃない」

466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:16:43.83 ID:CaLDwjtG0
透水「早くまいりましょー!」

一人足早に駆け出した透水は後方の二人に対して大振りに手を振る。
その様子に紺之介と乱怒攻流はつい顔を合わせた。互い呆れ混じりではあるものの口元にほころび浮かばせ前へ進む。

幼刀という名の友を失いし一行、その傷口は簡単に閉じてくれるはずもないが透水との無事の再会は何処か彼らに癒しをもたらしたのだった。

467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:17:48.92 ID:CaLDwjtG0
………………


透水「ふぅ〜……温かいお風呂なんて久しぶりですよ〜」

紺之介が宿部屋にて足を休める一方、外気に浮いた白湯気が少女三人を包んでいた。

肩を撫ぜる愛栗子、湯に浸かりながらふとこぼす。

愛栗子「ここは混浴なのであろう? ならば紺もくればよかったというのに……まったく無駄に実直なやつめ」

468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:19:51.08 ID:CaLDwjtG0
乱怒攻流「いや私はあんな刀馬鹿となんか御免だから。きっと幼刀のあたしたちをいやらしい目でじろじろ見るに違いないわ」

愛栗子「ふっ、幼刀でなくともわらわの柔肌に男が惹かれぬという方が無理なこと。あやつが見たいと言うのなら見せてやればよいだけのことではないか。それともなんじゃ、ぬしのそのあまりに貧相な身体では流石に羞恥が勝ってしまうか?」

乱怒攻流「なんですってぇ〜!」

透水「あわわ……二人ともせっかくの温泉なんだからぁ」

顔を突き合わせる二人の間に割って入る透水。が、その光景から彼女はどこかほほえましさのようなものを感じ取った。

透水(導路港じゃあんなに仲が悪そうだったのに)

自らが居なかった期間で紺之介も含め彼女らの間に見えない絆が育まれていることを確信した透水は何処か寂しそうな顔つきになるとついに叶わぬ願いを吐露してしまった。

透水「他のみんなもこの場にいたらもっと楽しかったのかな……」
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:21:05.10 ID:CaLDwjtG0
湯と共に和らいだ空気が一転。
湯気をも凍てつく静けさが彼女らを覆った。

透水「へ……ぁ、ごめんね! 私つい……」

愛栗子「恨んでよいぞ」

透水「別にそんなつもりじゃ……! ただ、やっぱりみんないっしょがよかったなって……」

乱怒攻流「それ何の擁護にもなってないわよ」

透水「あぅ……」

俯く愛栗子をなだめるようにかこった透水だったが上手く言葉が纏められず口が滞る。
再び静寂に包まれた温泉場であったが彼女らの髪から滴る水滴と共に乱怒攻流がぽつぽつと喋り始めた。
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:22:56.43 ID:CaLDwjtG0
乱怒攻流「ええ恨むわよ。透水もあの子たちもお人好しだから、その分まであたしがあんたを恨んであげる」

透水「ふぇぇ……」

彼女の横で何か言いたげな透水だったがそこを割り込ませまいという気迫で乱怒攻流は口を動かし続ける。

乱怒攻流「でももう悔やんだって壊された二人が戻ってくるわけじゃないしあたしはあたしであいつらに壊されないようにするだけ。紺之介に何を言われようがね」

殆ど一息で通した乱怒攻流であったがそこまで言い切ると一息二息置いて声量を下げ、あとはわずかに残った口内の残響をゆっくりとはきだし始めた。

乱怒攻流「ただ……そうね、まだ少し気がかりなことがあるとすれば、何であたしたちの魂を刀にとどめることのできた将軍さまが、自分の魂を残そうとはしなかったのかしら」

471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:23:47.28 ID:CaLDwjtG0
透水「た、たしかに。将軍さまも生きててくださったならこんなことには」

愛栗子「それはもはや誰にもわからぬ。理解しえぬことじゃ……しかしあの方は当時露離の世の頂に立つ者だったのじゃ」


愛栗子「物とは誰かに使われて然るもの。例え己が魂を刃に変えたとて、それより上を持たぬ者が人に振るわれるなぞ到底耐えられるとは思えぬがの」



…………………
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:24:47.28 ID:CaLDwjtG0
紺之介「ふンッ! ふンッ!」

足を休めたのもつかの間、紺之介は一人外へと繰り出し素振りを重ねていた。
二度もいなされたのだ。彼にくつろぐ時間など皆無だった。

紺之介(九十一……九十二……!)

彼が信じられるのは己の力のみ。その中で最凶と最狂の幼刀剣士を次こそ相手にしなければならない。
今勝てぬ身体ならば、今すぐ勝てる身体にしなければならぬ。紺之介はただ必死だった。
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:25:43.41 ID:CaLDwjtG0
紺之介(九十九……百……!)

『百』と心中数えた紺之介であったが実際の数はもはやそれより倍かそれ以上であった。それだけの五里霧中無我夢中に長旅の身体がおとなしくついていけるはずもなく、崩れるようにして力なく真剣を土に立てる。

紺之介「はっ……はっ……」

土に十滴ほど汗を吸わせたところで彼の背後から声がかかった。

「あがったわよ」

474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:26:57.22 ID:CaLDwjtG0
紺之介「……そうか」

かかる声を気にも止めずにもう一度刀を上げた紺之介に背後から影が忍び寄る。
彼がやっと近づいてくる影に目を向けたとき、それは白刃を持って紺之介を切り裂かん勢いで迫ってきた。

紺之介「っ……!」

475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:28:26.66 ID:CaLDwjtG0
背後の刀は寸手で契約の壁に阻まれる。
それでも白刃は彼の腹上、紺之介はそれが己に腹部に到達しないことを知っていたが一先ず身を引いてその刀の持ち主から距離をとった。

乱怒攻流「今死んでたわよ。あんた」

手持ちの刀を背嚢にしまいながらな乱怒攻流はフッとため息を吐いた。

紺之介「死ぬと分かっていたらかわしている」

乱怒攻流「嘘つかないでよ」

紺之介「嘘ではない」

乱怒攻流「嘘じゃなくてもよっ! 今の一撃があたしのじゃなかったらどうなっていたことやら」

476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:29:49.63 ID:CaLDwjtG0
紺之介「そこまで自己評価の低いやつだったか?」

彼の目には目新しく大人びた冷静さを保つ乱怒攻流の姿がそこにあったが、揚げ足をとるような返答に彼女はついに頬を膨らませて大声を上げた。

乱怒攻流「なによっ! せっかく人が心配してあげてるのに! 偶には休まないと本末転倒だって言ってあげてるのが分かんないの!? というかあんた毎日そんなになるまで素振りして汗臭いったらありゃしないのよ! さっさとその汗流してきなさい!」

紺之介「はぁ……分かったから部屋へ戻れ。それ以上叫んだら納刀する」

紺之介はそう言いながら愛刀を納めると浴場の方へと歩き始めた。

乱怒攻流「ふん! 早く! 行った行った!」

乱怒攻流「……」

まだ何か言いたげだった乱怒攻流を残して。

477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:30:47.51 ID:CaLDwjtG0
……………


紺之介「まだいたのか」

紺之介が浴場を訪れるとそこにはまだ藍髪の少女が肩を浮かべていた。
ただ一人ぼーっとした表情で水面に浮かんだ燭台を見つめていた彼女であったが紺之介の声に気がつくと彼の方へ振り返って軽く手を振る。

478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:31:48.58 ID:CaLDwjtG0
紺之介「風呂好きだとは知っていたがまさかここまで長風呂とはな。のぼせないのか?」

透水「これくらいでは全然……それに久しぶりのお風呂でしたし」

紺之介「そうか」

ゆっくりと足から浸かり目を瞑って岩壁にもたれかかった紺之介の隣に透水が燭台を運んで並ぶ。

透水「二人から聞きました。素敵な旅のお話」

紺之介「そうか」

目を閉じたままあまりにも素っ気ない返答を続ける紺之介に少し苦笑する透水だったがめげることなく彼に話題を振っていく。

透水「しょの……紺之介さんからも……聞きたいです」

479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:33:07.36 ID:CaLDwjtG0
その透水の切望すら湯に流すように無視した紺之介。が、徐々に己の耳元に顔が近づいてくるのを感じてようやく目を開けた。

紺之介「なんだ」

透水「ふぇあっ……! ぅ、もしかして眠ってしまったのかと……」

紺之介「こんなところで眠るわけがないだろ」

透水「だって……」

切なそうな表情で水面にて指をこねる彼女に紺之介は重く閉ざした口を仕方なく開き始めた。

紺之介「素敵な旅だと……? 一体何処をどう切り取ればそうなるのやら……俺には全く理解できん。 それにこれはいわば俺の一人旅……否、依頼されたことを考えれば仕事と言って差し支えないことだ。やつらも、お前も、名刀であることを除けば無駄な旅費を啜るだけの荷物に過ぎん」

480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:34:19.34 ID:CaLDwjtG0
透水「なんで、そんな寂しいこと言うんですか。刀を集めることにわくわくしたりとかしなかったんですか」

紺之介は俯いてしまった透水を細目で見つめつつ懐かしむように旅の記憶をなぞった。

紺之介「高揚感、か……最初はあったかもな。だがそうも言ってられなくなった。ただそれだけの話だ」
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:37:49.32 ID:CaLDwjtG0

そして四半時足らずして湯から腰を浮かせる。その様子は自らに時間がないことを行動にして示しているようでもあった。
その場にいる者が対局たる長湯であったため尚更のことと早足が映える。

透水は焦り思わず言葉選ばずして彼を罵った。

透水「そんなっ……! あのとき私に生きる意味を、希望を与えてくださった紺之介さんがそんなつまらない人だなんて私は思いたくありませんっ! ……ぁ」

勿論本心であるはずもなく、彼女自身の柄にも合うはずもなく、言い放った後に彼女はハッとした表情で口を抑え込んだ。

透水「ぅ……すみま、せん」

もはや反射である。
口を覆った彼女の手指の隙間から漏れ出すようにして言葉が寂しく浴場を漂った。

482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:38:47.32 ID:CaLDwjtG0
紺之介「フン。少なくとも今ばかりはつまらぬ人間で上等だ」

当然紺之介も彼女の内を理解してはいたのだがあえて拗ねるようにしてそっぽを向いた。
そのままとうとう脚も湯を離れる。

483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:39:29.27 ID:CaLDwjtG0
透水「……私は海とお風呂が大好きです」

背中に張り付くように呟かれたその言葉に紺之介は歩みを止めた。

紺之介「知っている」

透水「私は水が大好きです」

紺之介「だから知っていると言っている。何が言いたい。まだ罵り足りないなら今のうちに全て言っておけ。どうやらお前は溜め込む性分のようだしな」

紺之介振り返りて少女に問う。
彼女は紺之介の方を見ようとはしなかったが伸ばした脚を三角にたたみて抱えるとゆったりと呟き始めた。

484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:40:58.06 ID:CaLDwjtG0
透水「それは将軍さまと一緒にいたときからそうに違いなかったのですが……暫く導路港にいてもっと大好きになった気がするんです。この気持ちはきっとこの身体にならないと分からなかった」

先の焦りの反動かその声はいつもにも増してか細く繊細につづられる。

透水「愛栗子ちゃんのお話を聞いてて思ったんです。だからもし、私にとってのそれが愛栗子ちゃんの紺之介さんへの想いなら……それはとっても素敵なことだなって……紺之介さんも愛栗子ちゃんのことが大好きなんじゃないんですか?」

485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:42:02.56 ID:CaLDwjtG0
紺之介「無論。やつほどの美刀、この手中に収めんと奮闘してここまで……」

そこまで口にして紺之介は目を見開く。
彼は己が何のために歩みを積み重ねてきたのかを思い出したのである。

紺之介(そう、か……俺の真の目的は幕府の忠犬の末裔に協力することでも、ましてや父や刃踏たちの仇討ちなどでもない)

紺之介(俺の目的は、こいつら美刀を己の手に収集すること……)

486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:42:44.34 ID:CaLDwjtG0
紺之介「フッ」

紺之介は言葉を詰まらせたかと思うと唐突に短く鼻笑いをこぼした。

透水「ふぇ? どうしたんですか……?」

何事かと思わず彼の方を見た透水に紺之介は礼を授けた。

紺之介「礼を言う。お前のおかげで、自分が一体ここまで何をしてきたのかを思い出せた」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:43:54.77 ID:CaLDwjtG0

薄く浮かべられた彼の笑みに透水は満面の笑みで返した。

透水「よかったぁ……紺之介さん、導路港で初めて会ったときよりすごく怖い顔してたから……」

紺之介「が、未だに愛栗子が俺に固執する意味が分からん。あの恋愛脳なら他の男でも良さそうなものだがな……まあゆくゆく手に収めておくにはその方が都合が良いと今まで気にしないようにはしてきたが……その点は何か聞いてないのか?」

透水「う……しょ、しょれはぁ……」
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:45:01.63 ID:CaLDwjtG0

吃る透水、それを見つめる紺之介。
少しばかり膠着した両者だったがとうとう透水が紺之介の視線から逃げるようにして目をそらし、そうして露骨に声を上げると長湯から立ち上がった。

透水「ああきもちよかったぁ〜!」

ぺたぺたぺたと軽快な足取りでそのまま紺之介の隣を横ぎろうとした透水であったが彼がその不自然を許すはずもなく彼女の肩を捕まえて二の腕ごと引き寄せた。

透水「ひゃっ」

嗚呼哀しきかな力量差。

紺之介「何か知ってそうだな。どうせ大した理由でもないだろう?」

透水「あわわ……」

例え幼刀といえども透水にそれを振り払えるはずもなくがっちりと両肩を掴まれたとき透水はとうとう観念を示した。

透水「あうぅ……愛栗子ちゃんには私から聞いたって言わないでくださいよ?」

紺之介「心得ている」

489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:45:46.91 ID:CaLDwjtG0
汗にも似た水滴が透水の頬を伝う。
彼女が唾を飲み込んで一呼吸置いたとき、それまで『大した理由ではない』と決めつけていた紺之介もつられて漂う緊張感に当てられた。

紺之介(一体何をそんなに躊躇う必要がある)

透水「紺之介さんは……」

次の瞬間、紺之介は己の耳を疑った。



「将軍さまの末裔かもしれません」




………………
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:46:29.17 ID:CaLDwjtG0


紺之介「ふっ……! ふっ……!」

日に十里ばかり渡り歩き夜は鍛えるために真剣を振るう……当然今日も既に疲労を蓄積させた紺之介の身体であったが何故かその身は眠るにいたらなかった。

紺之介「は……はぁ、はっ……」

その原因は透水から聞いた信じられぬ驚言にあり。再び素振りに勤しめば無心になれるやもと試みた紺之介であったがどうにも動揺を振り払えずにいた。
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:47:10.43 ID:CaLDwjtG0

「精がでるのう」

そしてその動揺は突如形となりて夜深き闇に浮かびあがる。
声が耳に入るやいな腰の碧鞘を握り込んだ紺之介であったが、ひとまず喉にせり上がる『のうとう』の四文字を呑み込むとその動揺の根源を無理やり振り払うのをやめた。

『案ずるより産むが易し』
本当に気になって仕方がないのならいっそのこと聞いてしまえばよい。
紺之介はそう考えたのである。

492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:47:54.18 ID:CaLDwjtG0
愛栗子「じゃが、それではあやつらには勝てぬ」

だが聞く前に加えて彼の癇に触る愛栗子の言動。紺之介はそちらの方が気に食わず思わずそれについての返答をしてしまった。

紺之介「だからこうして少しでも鍛えている」

紺之介、聞きたいことを聞くどころかそっぽを向いてまた刀を振い始めてしまう。

彼自称剣豪
勝てないと決めつけられた事が断固許せなかったのである。

493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:49:10.65 ID:CaLDwjtG0
愛栗子「はあ、強情なやつよの。勝てぬと言っても全く勝機がないと言っておるのではない。ぬしにとっての勝利とはすなわち幼刀児子炉を手中に収めつつ源氏を制することじゃろう? それが不可能なのじゃ」

紺之介「……」

一言も発さずまるで刀を振るう絡繰のようであった彼の腕が止まる。
彼も悟っていたことではあるもののそれは受け入れがたし決断であった。

紺之介「児子炉を壊す気で白刃を握れと」

494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:50:08.54 ID:CaLDwjtG0
ここまでの出来事で彼らが児子炉の凶暴さを測れる尺は大きく二つ。
一に盾のような硬度を有すると謳われた俎板を破壊していること。
二に紺之介をも唸らせた刃踏の戦意を削ぐ包容力を有無を言わさず貫いた狂気。

どちらも人智を超えた幼刀の力を覆したとされる情報である。
人が手を抜いて抑圧できるはずもなし。
それが分からぬ紺之介でもない。

だが愛栗子の発言はもう一段過激を追求していた。

愛栗子「壊す気≠ナはない。壊せ。それが奴のためでもある」

495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:51:05.02 ID:CaLDwjtG0
紺之介「どういうことだ?」

紺之介ひとまず愛刀を納め愛栗子の方へと向き直る。

愛栗子「あの控え書きの順は覚えておるな。将軍様が炉を最後に封じ込めたのは彼女を最愛としておったからじゃ。奴はそのことに気づいておらぬ。故に、将軍様のため、奴のためにわらわはもう一度二人を黄泉にて会わせてやるべきじゃと考えておる」

愛栗子は紺之介へと深く歩み寄ってから彼の目に強く訴えかけるようにして告げた。

496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:53:36.02 ID:CaLDwjtG0



愛栗子「深く愛した故にあのように歪んでしもうたが、奴の恋愛は真のものじゃ。わらわはその尊さに敬愛を捧げたい」


497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:54:59.25 ID:CaLDwjtG0

辺りは夜。季節は冬間近。
彼らの間には灯一つなし。

しかし微かに慣れた紺之介の夜目に少女の瞳は大きく映った。

それは吸い込まれそうな程の美の幻影。
刃踏とはまた違う、『情熱的に愛を愛する者』の姿。

紺之介、焦がれる心拍に酔いしれてただ思う。

ただ、ただ

紺之介(美しい……)

それは彼が露離魂町にて最初に彼女を目にしたときにも感じた衝撃。何故今さらになってまたそれが起伏したのか、そんなことを考え直す余地も今の彼にはなかった。
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:56:06.90 ID:CaLDwjtG0

紺之介はその美の肩に手を置いて呟いた。

紺之介「ああ分かった。お前の言っていることは相変わらず恋愛脳としか思えんが、だが俺はやはりなんとしてでも生きて帰らねばならぬことを思い出した。そのために全力を持って児子炉と対面しよう」

そしてそのまま背に片腕をまわし愛栗子を抱き寄せた。

愛栗子「あっ……」



紺之介「お前を、俺のものとするために」



荒々しくも繊細に。剣豪、美刀をいだく。

499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:57:29.48 ID:CaLDwjtG0
愛栗子「こ、ん……?」

唐突な抱擁に一瞬らしくなく赤面する愛栗子。だがその言葉の意味をゆっくりと噛みしめて彼のみぞおちに額をうずめるとまたいつもの調子にもどって堂々と想いを告げた。

愛栗子「……うむ。惚れ直したぞ紺。やはりわらわの真の恋愛はぬしとでなければならぬ……迷いもあったが、ふみにそれを思い知らされた」

愛栗子「今は刀としてでもよい。後に必ずおなごとしてぬしを振り向かせてみせよう。それがたとえ、脱兎を追い続ける途方もない夢物語だとしても」

500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:58:32.97 ID:CaLDwjtG0
愛栗子は紺之介にもう一歩深く寄りかかると彼の手に金色の懐中時計を握らせた。

紺之介「南蛮のものか……?」

愛栗子「絶世の美少女の魂を封じた幼刀 愛栗子-ありす- 。ものにしたくば全力を尽くせ。して、全力を尽くしたくばわらわを振え。それはわらわの真の刀じゃ。露離魂を持つ所有者が使えば心の臓に負荷をかけることで常人にはない速さを得る。わらわがために魂を燃やせ」

501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 18:59:20.10 ID:CaLDwjtG0
紺之介「これが……なるほど。しかし取り憑いて早死を誘うとはいよいよ妖刀らしくなってきたな」

揶揄うように薄ら笑いを浮かべる紺之介に愛栗子は「笑い事ではない」と頬を膨らませた。

愛栗子「貸してやるのは決戦のときまでじゃ。わらわはできるだけぬしと共に生きたいと考えておる。故にこれでも貸すのを渋っておったのじゃ。しかしわらわ自身が戦場に立つのはならぬのであろう?」

紺之介「無論だ」

彼女の問いかけに紺之介即答す。

愛栗子「うむ。ではの」

502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 19:00:10.24 ID:CaLDwjtG0
手を後ろに組んで機嫌良く鼻歌を歌いながら宿へと戻る愛栗子。
その姿は紺之介の目に久しく映った。彼女が愉快にこっぽりを鳴らす度、ふきぬける凛とした令風が彼の中にあった不安の靄をも払いのける。

覚悟引き締められつつもなだらかになっていく心の中、紺之介はハッとして愛栗子を呼び止めた。

紺之介「愛栗子」

愛栗子「む……?」

紺之介「何故、俺なんだ」

503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 19:02:04.24 ID:CaLDwjtG0
紺之介がそう問いかけると愛栗子はフッと微笑を浮かべ彼から見て後ろ姿のまま答えた。

愛栗子「始まりなぞもはやどうでもよかろ? わらわはただ、現世にとどまったこの身で今ぬしに恋い焦がれておる。それだけの話じゃ。しかしそうじゃの……あえて言うのならば」


愛栗子「そこにまことの愛があるから……かの」


その後紺之介が「やはり理解できん」と愛栗子の後ろ姿にぼやくも彼女がもう立ち止まることはなかった。


愛栗子(……うつけ、随分と待たせたの。これで許してもらおうとは思わぬが、ひとまずぬしが遺した場所には帰ってきたぞ)


504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 19:02:54.57 ID:CaLDwjtG0
その日の夜の夢、紺之介は父と修行した過ぎ去りし日を見た。

庭木の花弁が散りゆく陽の中で、共に竹刀を振るが二人。

百と大きく声を張り上げた少年に、その子の父は手を置いて撫でた。
「百一、百二……」と続ける我が子に休めと伝えるように。

505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 19:03:41.95 ID:CaLDwjtG0
最高「はっはっはっ! 紺之介、やはりお前には輝く才気がある! この俺よりな! もしや将軍様の子かもしれんな」

紺之介「……? おれは父上と母上の子ではないのですか? もしやめかけの……!? いやしかしそれだと将軍様というのは……」

一人混乱する紺之介に最高は待て待てと言って諭す。

最高「お前は間違いなく俺とあいつの子さ。だがまあ、可能性の話だな。この世には今もいつどこに将軍様の血筋が眠っているか分からんからな」

506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 19:05:06.63 ID:CaLDwjtG0
紺之介「将軍様は将軍様の兄弟や息子がつぐのではないのですか?」

最高「ははっ、それはそうだがな紺之介。将軍様は俺なんかよりさらに女好きなんだ。となれば妾との子もそれなりだ。しかしその子供はときに乱世をも生み出す」

最高「となれば赤子の道は茨の生か残酷な死か。もし茨の道を選んだのなら影で生きるため真名は隠さねばならん。よって先ずは姓を変えねばならぬのだが不望の子とて城生まれの男。親もその誇りを我が子から完全に奪ってしまうのは忍びないだろう? よってまずは読みを変えたと聞く」

最高「しかしそれだけではやはり危険としてとうとう字をも変えたそうだ。この話が本当なら、今となっては何処にその血筋が残っているかなど分かるまい」

507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 19:08:00.82 ID:CaLDwjtG0
そこまでは流暢ながらもやや真面目な面持ちで語っていた最高だが急に高笑いを上げるともう一度、今度は深く紺之介の頭に手を置いてそのまま髪をかき混ぜるがごとくわしゃわしゃと撫で回した。

紺之介「んぇっ……父上……?」

最高「でな? 俺はこの話を我が父……お前の祖父にあたる人から聞いたんだが、『故に我が家ももしかすると将軍様の血筋かもしれん』と言ってな? もしそうだったときのために子に釣り合う名を与えてやらねばならぬとして俺に『最高-もりたか-』と名付けたと言うんだ」

最高「だからな……紺之介。同じ理由で俺はお前に紺色の名を授けた。『紺』は権威を持つものが有する魂の色彩なんだ」

……………………………
……………

508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 19:12:08.39 ID:CaLDwjtG0
紺之介「んっ……」

眩しく晴れやかな朝日に当てられて紺之介は目を覚ます。ゆっくりと上体を起こし軽く伸びる。
心身共に重りを感じぬ己の足に彼は最後の旅立ちの風を乗せた。

彼に続いて歩く三人の少女も何処か昨日より晴ればれとした表情をしている。


再び歩き出した彼は昨晩見た夢を思い出し含み笑いを浮かべると、道中冗句を口にするように呟いた。

509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 19:13:59.63 ID:CaLDwjtG0




「フッ……『露離 紺之介』か……」



510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/10(月) 19:14:30.16 ID:CaLDwjtG0
続く
511 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2020/02/24(月) 00:36:50.14 ID:7Hi8D/RJ0

源氏「ハァ〜……どっこいしょっと」

季節は初冬。曇り空の冷めた空間は男の吐いた息を一瞬で白く染め上げた。
彼が腰掛けた木造は短く軋みその音に目を覚ました野良猫は彼らにそこを譲るかのようにその場を去っていった。

自分の洋服と同じ色をした猫を目で追っていく児子炉の横で源氏は寂れた道場の埃をなぞる。

源氏(やっぱ誰も居なかったか……まァ弱ぇ奴しかいなかったしな)

紺之介一行らとの二度目の邂逅から二月。源氏と児子炉は彼らより一足早く武飛威剣術道場に足を踏み入れていた。

猛者どころか刀を握る者すらいなくなったその場所に若干の虚しさを覚えつつも彼はただ一人、理想たり得る強者を待つ。

源氏(ま、所詮は開けた戦場の待ち合わせ場所よ。他には特に思いつかなかったしな。むしろ誰も居なかったのは好都合だ)
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:38:05.88 ID:7Hi8D/RJ0
源氏「どうだ、ちゃんと奴らはこっち来てるか」

児子炉「ちかづいてきてる。たぶん、もう少し」

源氏「はァ〜楽しみだなオイ。待ちに待ったアイツとの本気の激闘が遂に幕を開けるってわけだ」

もはや滾る闘志を抑えられないといった様子でガハハと豪快な笑い声をあげる源氏は児子炉の背をバシバシと叩く。
方や別段強者との戦を求めているわけではない児子炉は彼の剛毅な態度に対して不快そうに熊人形を抱きしめた。

513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:38:55.64 ID:7Hi8D/RJ0
源氏「なんだいつにも増してノリが悪いじゃねェか。お前ももう少しで闘り合いたかった奴に会えるんだろ? もっとアゲてけよ」

無論児子炉が源氏の言うところの『ノリ』がよかったことなど一度たりともない。
だが彼女がいつにも増して陰気であることは確かであり差し当たって源氏もそれを理解しての発言であった。

514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:40:17.51 ID:7Hi8D/RJ0
児子炉「……愛栗子といっしょにいたアレ」

源氏「んァ?」

最低限聞き取れるかどうかの小声で呟かれたそれが一体何を指すのか、源氏はしばし首を傾け脳内で消去法によってそれを導き出していく。

源氏「……紺之介のことか?」

幼刀の名前となれば彼女がそのように曖昧な呼び方をするはずもない……という導きから出した彼の回答は正解だったようで児子炉は短く首を縦に振った。

515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:40:55.74 ID:7Hi8D/RJ0
源氏「で、ヤツがどうした」

児子炉「……ちょっと、将軍様のにおいした」

源氏「は? 一体どういうことだそりゃ」

児子炉「だから、壊さないといけないかもしれない」

源氏「──ッ!!!」

瞬間、繊細に施された児子炉の胸ぐらに源氏が掴みかかった。
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:42:12.38 ID:7Hi8D/RJ0

相変わらず無言で不快感を表す児子炉だが今度は荒々しく服を引かれたせいかその表情は今にも源氏を吹き飛ばさんとするほどの圧を帯びていた。
だがそれに当てられても尚源氏怯むことなし。
彼女の服に引き裂きかねないほどの力を手に込めたままドスのきいた声色で児子炉に言って聞かせる。

源氏「てめェが何を言っているのかイマイチ理解できねぇが……この際だ、幼刀共はもうてめェにくれてやっても構わねェ。だが紺之介だけは絶対にこの俺が斬り倒す。いいな」

そこまで言うと源氏は彼女の胸ぐらから手を離した。

源氏「やっと愉しめそうな相手が現れやがったんだ。そこは俺の好きにさせてもらうぜ」
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:43:27.29 ID:7Hi8D/RJ0

再び軋む木造に腰掛けて一先ず感情の起伏を落ち着かせた源氏は思い出すように呟いた。

源氏「『いつの世も最後に人が求めるものは食に休に色』……か、くだらねェ」

彼にそっぽを向いたまま聞き耳だけ立てる児子炉だったが次の彼の言葉に思わず横顔をちらつかせた。

源氏「茶居戸であの愛栗子とかいう幼刀が言ってたことだ。少なくとも俺はちげェ……俺が最後まで°≠゚るのは強者との『戦』……それだけだ」

518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:44:22.73 ID:7Hi8D/RJ0
源氏「オイ児子炉ィ」

重々しい呼びかけに児子炉改めて源氏の方へと向き直る。
彼は彼女に薄気味悪い笑みを見せるとその上がった口角のまま交渉を持ちかけた。

源氏「俺とヤツとのサイコーの殺し合いに横取りじゃなく協力するってんなら、こっちもてめェのぶっ壊しに付き合ってやらなくもねェぜ?」


519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:45:58.46 ID:7Hi8D/RJ0
………………………

そして源氏らがたどり着いて三日後、ついにその時は来た。
己に近づいてくるを鋭い覇気を敏感に察知し道場にもたれてい源氏は直ぐに身構えた。

源氏「ケケッ、来やがったな」

彼の前に現れたのは一人の剣客。
そして二人の少女。

紺之介「待たせたな」

そう言いながら紺之介は腰に掛けていた幼刀透水を後ろの乱怒攻流へと預けた。
それを受け取る乱怒攻流は微苦笑と冷や汗を浮かべる。

乱怒攻流「うっわなんなのアレ……もう鬼そのものって感じね。怖いからって納まっといた透水はどうやら正解みたいね」

愛栗子「ならぬしも見届けることなく鞘にこもるか? なに、透水はわらわが持ってやろう」

乱怒攻流「冗談」
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:47:04.62 ID:7Hi8D/RJ0

彼女らが紺之介の後方でやり取りをする中、源氏は腰の児子炉に手をかけてほくそ笑む。

源氏「じゃ、始めるか」

それが抜刀される瞬間一行は一斉に身構えたがそこから抜かれた白刃を目に一同は驚愕した。

紺之介「なッ……どういうことだ……? 愛栗子」

愛栗子「むぅ。アレは確かに幼刀じゃ……児子炉で間違いないじゃろう。あの刀から臭う黒靄がそれをものがたっておる」

乱怒攻流「なんだかよく分かんないけど……お互いの欲望をいっぺんに満たすためについに本当に結託したってわけね」

521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:48:49.97 ID:7Hi8D/RJ0
紺之介「そんなことが可能なのか?」

予想外の展開に息を飲む一行。
誰も彼もが疑心渦巻くその中で愛栗子は己の考察を述べた。

愛栗子「あやつの露離魂は間違いなく児子炉の魂を解放しておる……しかしそれ以上にあやつの『戦』への執着心、そして炉の『怨恨』が幼刀を敵を切り裂く刃の姿へと変えておるのかもしれぬ」

紺之介「なるほどな。だが、もう手は抜かない。全力で児子炉ごと砕く」

『何となく理解はしたがしきれていない』だがそんなことより今はただ彼に、幼刀に、そしてこの旅に決着を。
募る想い、信念、そして父から継いだ意志を抜刀し紺之介は両手で太刀を構えた。

522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:51:06.22 ID:7Hi8D/RJ0
源氏「ハッ、やっぱ最後の最後まで後ろのは飾りか? まァいい。俺もコイツの仕事を引き受けた身だ。意地でもそいつらごとぶった斬らせてもらうぜ」

愛栗子「案ずるな荒くれの。紺の命がいよいよとなれば嫌でもわらわが相手をしてやろう。泣きわめいてもしらぬがの」

源氏「ハハッ、そいつぁ楽しみだ」

紺之介「心配するな源氏。貴様の相手はこの俺一人で十分だ。こいつらは、俺の剣で護り抜く」

二人の剣客が向き合う時、戦場に木枯らしが走る。

523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:52:13.33 ID:7Hi8D/RJ0
源氏「葉助流武飛威剣術免許皆伝! 光源氏ィ゛!」

紺之介「都流護衛剣術当主。 剣豪、梅雨離紺之介」

乱怒攻流「相変わらず剣豪ってよく分かんないけどやっちゃえこんのすけぇぇ!!!!」

少女の叫びが決戦開始の合図となり二人は互いに駆け出した。
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:53:00.75 ID:7Hi8D/RJ0

石床を駆り風を切り砂利を蹴り彼らは衝突す。
ぶつかり合う鋼、間には魂と魂の火花が散る。初撃から激戦であったが先に押し勝ったのはやはり源氏。鬼神のごとき重撃は児子炉の怨恨を乗せてか更にその威力を増している。

紺之介「くっ……」

源氏「どうしたどうしたァ!!!」

距離を取る紺之介に源氏、迫り迫る。
開戦直後から防戦一方の紺之介、それを弾き弾かされ徐々に後退していく。

525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:54:05.07 ID:7Hi8D/RJ0
乱怒攻流「ちょっ、もう押されてるじゃないあいつ」

口元に縦笛をあてがう乱怒攻流を愛栗子が止めた。

愛栗子「まあそう焦るでない。勝負はこれからじゃ」

しかし愛栗子がそう嘯く中でも源氏の猛攻は続く。次第に刀で受ける重心が安定しなくなった紺之介はとうとう右手を峰に当て完全に守りの形となった。

源氏「もう終わりかァ?」

押し合い力み合いキリキリと交わる刀身が小刻みに振動する。
互い高め合う寒空の下そこだけが不自然に熱を持つ空間が広がる。

526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:54:43.95 ID:7Hi8D/RJ0
だが客観的にして彼らの優劣ははっきりとしたものであった。

源氏は戦いを愉しむ反面でもうはや決着は近しかと憂う。
その感情が虚無的笑みとして彼の表情にあらわれかけたときだった。

紺之介「そうだったかもな。今までの俺ならば……!」

紺之介(使わせてもらうぞ。愛栗子)

金色を紺色の魂が包む。

527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:55:50.68 ID:7Hi8D/RJ0
瞬間突如として紺之介が素早く刀身をずらして源氏の右側へと回り込んだ。

源氏「お」

寸手まで力んでいた腕からとは考え難い流れるような動き。
その神業は人とは思えぬ迅速の舞。
金時計が起こした奇跡に源氏の反応は完全に遅れをとった。

紺之介(ここで決める!)

慣性がついた刀を両手で持ち直しその大振りを勢いよく振りかぶる。
人の域を超えた神速の奇襲に源氏の鋭い戦闘感も流石に追いつかず。

源氏(やべッ……!)

528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:56:31.98 ID:7Hi8D/RJ0
源氏の左腕に渾身の一撃が刻まれる……そして決着。

誰もが、斬られる間際源氏すらその結末を幻視した時だった。

紺之介「何ッ!?」

左腕から咄嗟に振り払われた源氏の峰打ちによって紺之介の一撃は紙一重で弾かれる。
否、それは決して彼が咄嗟に振った剣ではない。彼の生存、闘争本能が反射的に彼にそうさせたわけでもない。

何しろその峰打ちに一番驚愕していたのは源氏その人であった。

529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:57:25.87 ID:7Hi8D/RJ0
不自然な動きの反動でよろけた源氏は一先ず紺之介と距離をとりまた彼と向き合って両手で柄を握り直す。
そうして体勢を立て直すといつものようにほくそ笑んだ。

源氏「はッ……! 今のは危なかったぜ。ひりつかせてくれるじゃねェか……だがすまねぇな。どうやら邪魔が入っちまったみてぇだ」

彼は己の持っている刀を手前に差し出した。

源氏「コイツはまだ終わらせたくないってよ」

530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:58:15.40 ID:7Hi8D/RJ0
先ほどの一撃で全てを断ち切るつもりでいた紺之介に冷や汗が走る。

紺之介(馬鹿な……児子炉はあの姿になっても尚まだ自分の意志で動いているというのか)

紺之介の戦慄を他所に源氏は続けざまに喋る。

源氏「だがよ、さっきの動き……お前もそうなんだろう?」

紺之介「っ……」

紺之介、思わず押し黙る。

531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 00:59:14.31 ID:7Hi8D/RJ0
無論源氏の言っている意味が分からぬわけではないが彼にとって金時計とはいわば奥の手。
ここでその存在を明確にしてしまうというのはこちらの奇襲性を失いつつ児子炉の奇襲に備えなければならないということ。

つまりは劣勢必至である。

紺之介(元々児子炉と奴を同時に相手することは考慮していたから問題ない。だが児子炉があの姿というのは予想外だった。常に姿を持つ者が仕掛けてくるよりも本来動かずの刀が突然意志を持つというのが思いの外キツイとはな)

532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:01:17.30 ID:7Hi8D/RJ0
源氏「なァ」

追求する源氏の声に対し力強く柄を握りて無理矢理仕切り直しに持ち込もうとする紺之介。
だがそのとき意外にも外野から横槍が投げ入れられた。

愛栗子「左様じゃ。そやつには一時的にわらわの力の一部を貸しておる」

源氏「やっぱそうかよ。水くせぇなァ」

紺之介(愛栗子……? 何を考えている)

533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:02:23.88 ID:7Hi8D/RJ0
だがその声は決して戦っている二人に対して向けられたものではなかった。

愛栗子「のぅ炉よ! 今の話、聞こえておるか! わらわの力が今そこにある! わらわが憎いか? ならば戦じゃ! 決めようではないか! ぬしとわらわ……どちらが将軍様に遺されるべき魂か!」

乱怒攻流「愛栗子……あんた何言って……」

瞬間、源氏の持つ刀から禍々しき黒い靄が炎のように吹き出した。

源氏「うォ……!」

紺之介(なるほど、児子炉を挑発することで制御不能にさせる策か)

534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:03:07.39 ID:7Hi8D/RJ0
しかし彼らの思惑とは裏腹に源氏はさぞかし嬉しそうな様子で決戦再開の幕を開けた。

源氏「ハッハー! コイツもノッてきたみてぇだし殺し合い再開といこうぜェ!!!」

紺之介「来いっ……!」

猪突猛進の源氏に対し紺之介は金時計を発動しつつ冷静に構える。
勝負は源氏が児子炉を制御できなくなった一瞬……そう見定めて先ずは紺之介、源氏の一撃を受け止めてみせる。

源氏「ぐらァッ!」

紺之介「ふッ!」
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:04:10.24 ID:7Hi8D/RJ0

だがそれすらも最早容易なことではない。心臓を加速させる金時計の反動、ここまでの激闘、そして何より相変わらずの源氏の重撃。どれも紺之介の体力を着実に削る要因である。
しかしそのことを顔には出さず隙も見せず冷静に、ただ冷静に彼、その一瞬の刻を待つ。

源氏「オラオラオラァッ!」

紺之介(くそ!)

が、源氏の猛攻が途絶えることはなし。
それどころか源氏は次第に剣撃の中に蹴りや殴打を混じえ始め、上段斬りを同じく上段で防御した紺之介を逆に隙ありと下から大きく蹴り飛ばす。

紺之介「かはッ!?」

536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:05:20.02 ID:7Hi8D/RJ0
金時計が幸いし辛うじて受け身を取る紺之介。だが愛刀を杖に立ち上がるその表情にはさすがに陰りが見えていた。
後方で見守る二人にも緊張の汗がつたう。

紺之介「あ゛ぐ……ハッ、ハァ、はァ……」

早くも満身創痍寸前の紺之介に容赦なくしたり顔の黒鬼が迫る。
立つもやっとの紺之介は自然と姿勢が落ち、その目にはより一層源氏が大男と映った。

紺之介(嘘だろ……? 先程より確実に児子炉本位のデタラメな型に成り下がっているはず。それなのに何故……)

537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:05:59.38 ID:7Hi8D/RJ0
最早そこに論理などない。

紺之介(こいつら……互いに好き勝手やってるな……)

隙は確かに存在していた。
柄を握る源氏の腕は時節児子炉の暴走に引かれている。だがそこに生まれた隙を埋めるかのように源氏の殴打が差し込まれる。

方やひたすら戦いを愉しむため。
方やひたすら憎き敵を砕くため。

その為に動き続ける鬼は正に無敵であった。

538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:07:09.74 ID:7Hi8D/RJ0
紺之介「はッ……バケモノめ」

彼の緊張と絶望は回り回って笑みへと変わる。
しかし剣豪紺之介、今回ばかりは背を向けることはありえぬとしてもう一度しっかりと姿勢を保ち剣を構える。
それは決して愛栗子という後ろ盾が備わっているからではない。
彼自身、もしも愛栗子が己と源氏の前に割って入ろうものならばその瞬間切腹を覚悟していた。

彼はまだ気づいていない。
己もまた、ある意味で自由奔放の狂人なのだ。

もう一度奮い立てられた彼の刀狂心を後ろ姿から見守る者達。
彼女らは安堵と共に、一人は呆れた溜息を吐き、もう一人は恍惚とした表情で彼の勇姿に溺れた。

539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:09:09.14 ID:7Hi8D/RJ0
紺之介「うおおおお!!!!」

だが紺之介危うしもまた事実。
狂人同士みたび衝突するも紺之介とうとう刀をも叩き落とされ腕そのものを源氏にがっしりと掴まれてしまう。

源氏「ハハッ、ちょこまかと動く幼刀の力……鬱陶しかったがもう逃さねェ……てめェを殺すまでな」

紺之介「くっ」

紺之介の微力の抵抗も虚しく遂に源氏の殺意の先端がその身体に向けられる。

源氏「愉しかったぜ梅雨離 紺之介。せいぜいあの世で親父と俺の武勇伝で盛り上がってくれや」

源氏が剣先に勢いをつけたとき、紺之介の最後の切り札が戦場に一音を奏でた。

540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:10:06.92 ID:7Hi8D/RJ0
源氏「なッ!? 待てゴラッ!」

瞬間紺之介の身体は釣られた魚のように不自然に前を向いたまま愛栗子と乱怒攻流の方へと引かれていく。

紺之介「できれば頼りたくはなかったが……まあ助かった」

乱怒攻流「あたしの手を借りたくなかったらひやひやさせるんじゃないわよ」

愛栗子「よいよい。これくらいしか使い道がないのじゃ。もっとこき使ってやれ」

乱怒攻流「なんですってぇ〜!」

541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:11:51.11 ID:7Hi8D/RJ0
刀を落とし腕を取られた絶体絶命の境地からの脱出は逆に確実に捕らえと見た源氏に大きな衝撃を与え、紺之介のあまりの食えなさに彼は軽く悪態をついた。

源氏「……チッ、結局そっちもかよ」

そうして次こそはとじりじり距離を詰める。
紺之介も直ぐに応戦せねばと駆け出そうとしたところ乱怒攻流に袖を引かれた。

紺之介「なんだ」

乱怒攻流「あんた手ぶらで戦うつもり?ほらこれ、庄司のやつ貸してあげるから」

紺之介「隙を見て拾うつもりだったがそうだな。礼を言う」

542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:13:22.17 ID:7Hi8D/RJ0
差し出された太刀を手に取る紺之介に乱怒攻流はさらに己の有能さを見出すかのように縦笛を左右に振って見せる。

乱怒攻流「なんならもうばれちゃってるしここから援護してあげてもいいけど?」

紺之介にそう言いつつも彼女の目は愛栗子の方へと泳いでいる。
如何にも彼女より貢献し優位に立とうという高慢な思惑が紺之介には伝わってきたが無論彼は直接的でないにしろ必要以上に幼刀に頼るつもりはなし。

彼が率直に断ろうとした時、意外にも愛栗子の方から先に口を挟んだ。

愛栗子「ならぬ」

乱怒攻流「え……な、なんでよ。どうせアレでしょ? あたしが大活躍するのが嫌なんでしょ!」

紺之介すらもそうなのではないかと思い込んでいたがその理由は割と筋の通った物言いであった。

543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:15:56.44 ID:7Hi8D/RJ0
愛栗子「ぬしの笛は紺の最期の命綱じゃ。そのためだけ≠ノ使うことに集中せい。わらわのために紺を守り、紺のためにわらわが動かねばならぬ状況を作るな。よいな」

彼女の命令口調に少しむっとした乱怒攻流であったがすぐにいつもの強気な表情を取り戻すと得意気に笛を構えた。

乱怒攻流「っ……まあいいわ。やってやろうじゃない」

乱怒攻流「あとそれっ……大切に使いなさいよね。一応あたしのなんだから」

紺之介「別に、都に帰れば俺の蔵からもっといいものをくれてやる」

乱怒攻流「あんたも愛栗子もなんか癪にさわる言い方するわよね〜」

544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:17:48.40 ID:7Hi8D/RJ0
源氏を目前に紺之介駆けて呟く。

紺之介「そろそろ限界だ。次で終わらせたいところだな」

源氏「さァ! 幕引きといこうぜッ!」

四度目の、そしておそらく最後になるであろう鉄血の駆け引き。

加速する紺之介の剣。
二つの意思を持つ源氏の剣。
幾度となく振り上げ、受け止め、弾き合い、互いの狂気に煽られて燃え上がる闘志、踊る、踊る、踊る。

545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:22:07.41 ID:7Hi8D/RJ0
紺之介(やはり隙を突こうにも二段攻撃が同時に防御の役割も果たしている。攻撃は最大の防御とはまさにこのことだな。ならば今必要なのは力よりも手数。こちらも二段攻撃にするか? やはり乱に協力を仰いで……いや)

死闘の最中、彼は先ほどの愛栗子の言葉を思い出した。


『笛は紺の最期の命綱じゃ』


紺之介、人知れず気づきを得る。

紺之介(愛栗子、お前は分かっているんだな……お前がこの戦場の最中に立つ時、それが俺の本当の最期になると……)

546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:23:34.81 ID:7Hi8D/RJ0
彼は覚悟を決めると素早く源氏の後ろに回り込んだ。
だが度重なる激闘の中で更に研ぎ澄まされた源氏の戦闘感の前ではその程度は不意を突くに至らず。源氏も直ぐに向きを変えて応戦にかかる。

しかし

源氏「ッ!」

源氏の刀を持つ腕は大きく反対側に逸れた。
開幕の時より更に煽られた児子炉の怨恨は紺之介が立ち退いたことにより大きく露わになった愛栗子らの姿の方へと引きずられたのである。

547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:24:59.00 ID:7Hi8D/RJ0
源氏(クソッ!)

紺之介にとっては千載一遇の好機。決着にも直結する一太刀を加えられそうな瞬間であったが彼はあえてそうはせず後方の愛刀を素早く拾い上げた。

源氏(何だと……?)

紺之介(普通ならばこの瞬間を突かない手はないが児子炉にとって源氏を斬られれば危うくなるという事実は変わらない。一瞬でも冷静になられると状況は好転しない上最悪源氏ほどの男となれば骨を斬らせてでも俺の肉を断とうとしてくるかもしれない)

そうして瞬時にもう一度加速し源氏へと間合いを詰める。

紺之介(ならばこの一瞬で手数を増やし次に繋げるッ!)

だがそこは百戦錬磨の源氏。
そのときには既に強引に児子炉を両手で引いて体勢を立て直していた。

548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:25:50.39 ID:7Hi8D/RJ0
源氏「ハッ! 抜かったな紺之介ェ! だが最期まで愛刀に拘る姿勢は嫌いじゃねェぜ!」

紺之介「その通りだ! 例え慣れぬ二刀だろうとこいつさえあれば!」

紺之介による高速の乱撃が始まる。
対するは衣服を裂かれても怯まぬ鬼神源氏。

紺之介「うおおおおお!!!!」

源氏「なグッ……」

最初こそそれでも互角と言わんばかり攻防であったが次第に紺之介の二刀攻めに磨きがかかり始めると対する源氏は両刀になった紺之介に拳を出しづらくなり防戦一方に陥っていく。

549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:26:38.02 ID:7Hi8D/RJ0
紺之介「ふゥッ! くゥ!」

源氏「クソッ! 洒落臭せェ!」

とうとう攻守は完全に逆転。
元々攻め続ける戦法を得意とする源氏は丁寧に受け続けることに慣れず児子炉は徐々に傷んでゆく。

勝負は完全に紺之介が事切れるまで源氏が耐えられるかに掛かっていた。

紺之介(休むなッ! ただひたすら刀を振り続けろ! )

源氏「グッ……くそったれェェ!」

そうして長きに渡る攻防の末、遂に決着は訪れる。

550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:27:36.04 ID:7Hi8D/RJ0
紺之介「あ゛ァ゛ッ!!!」

紺之介の最後の一振りが幼刀児子炉を叩き割りその勢いのまま刃は源氏の身体へと振り下ろされた。

源氏「ガッ……!?」

紺之介「はぁッ……はァ……」

源氏、膝から崩れ落ちる。

源氏「フッ……ありがとよ……梅雨、離……」

そう呟くとそのまま力なく地に伏した彼だったが紺之介にはその口角は最期までつり上がって見えた。

551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:28:48.49 ID:7Hi8D/RJ0
紺之介「……狂人め」

紺之介の疲労困憊も限界を迎え両手から力なく刀を手放すと尻もちをついて座り込む。
息も絶え絶えに折れた児子炉の柄を握りこむとそこから黒服の少女が姿を現し紺之介の方へと倒れ込んだ。
愛栗子もそこへ駆け寄りて座り込むとまず紺之介から金時計を回収し倒れた児子炉を抱きかかえた。

552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:34:13.81 ID:7Hi8D/RJ0
児子炉「しょう、ぐん、さま……どぉ、して……」

最早憎き愛栗子に抱えられていることも分からぬといった様子で虚に手を伸ばす児子炉の頬を愛栗子がなでる。

愛栗子「それはの、将軍様がぬしのことを最も愛しておったからじゃ」

児子炉「へ……」

愛栗子「先ほどはあのように言うたがの、戦なぞするまでもなく百年前から決着はついておったのじゃ」

553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:34:54.36 ID:7Hi8D/RJ0
愛栗子「ぬしを最後の刀としたのはぬしに永遠を生きて欲しい反面でまだ人であって欲しかったという裏返しだったのじゃ。将軍様はの、本当はぬしと共に生きて、ぬしとともに永眠りたかったに違いないのじゃ」

愛栗子は児子炉の瞳で澱む涙を指で拭うと光に包まれて世を去る少女に最後の言葉を送った。

愛栗子「ほれ、はよう将軍様の所へ行ってやれ。きっと、今頃ぬしを刀にしたことを後悔して寂しがっておる……」
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:35:30.22 ID:7Hi8D/RJ0


児子炉「う、ん……」

微かに首を縦に動かすと児子炉は目を閉じて粉雪のように霧散した。

555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:36:08.73 ID:7Hi8D/RJ0
方や激闘の疲れを少しでも癒し、方や感傷に浸りて暫し座り込んでいた二人であったがその空気を読んでか読まずか乱怒攻流が庄司の刀を片付けながら紺之介を指でつついた。

乱怒攻流「ちょっと〜生きてる〜? 終わったことだし早く帰りましょ?」

紺之介「少しくらい休ませてくれ。あと暫くしたら軽く穴を掘る。手伝え」

乱怒攻流「え゛……」
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:37:13.85 ID:7Hi8D/RJ0

言葉を詰まらせる乱怒攻流の後ろでおもむろに立ち上がった愛栗子は先ほどまで感傷に浸っていたのが嘘かのように扇子で軒下の黒猫と遊び始めた。

愛栗子「律儀なやつじゃの〜……ま、わらわはやらぬがの」

乱怒攻流「ちょっとっ!」

紺之介「ちなみに俺も全然動けん。なあ、屍も笛で動かせるのか?」

乱怒攻流「ぜったい嫌!」

まだ激闘の熱が仄かに残る戦場を冷たい風が優しく均す。

旅の終着、二つの弔い後彼らは露離魂町への帰路につく。

557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:37:53.85 ID:7Hi8D/RJ0
乱怒攻流「……というかあんたさ、二刀流の心得とかあったわけ?」

紺之介「いや初めてだった。だが剣術に関して剣豪に不可能はない」

乱怒攻流「ふふっ、なにそれ」
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:39:39.34 ID:7Hi8D/RJ0




「ほんと刀馬鹿なんだから……」





559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:40:53.46 ID:7Hi8D/RJ0
続く
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/24(月) 01:41:42.98 ID:7Hi8D/RJ0
今日か明日か次で完結まで投下します
561 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2020/02/25(火) 01:54:30.75 ID:h4Hvdco40




幼刀 Lolita sword


562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 01:56:34.02 ID:h4Hvdco40

露離魂町への帰路の途中、彼らは再び助寺への石段を踏みしめていた。
ひたすら草履と石が擦れる音の中もう辛抱たまらずといった様子の乱怒攻流が嘆きをこぼす。

乱怒攻流「あ゛〜もうまたここを上ることになるなんてぇ〜……」

愛栗子「まったく情けないのぅ……真夏と違って動けば身体も温まり丁度よいではないか」

乱怒攻流より上の段で偉そうに語る高飛車少女だったが生憎彼女は紺之介の背に文字通りお高くとまっていた。

乱怒攻流「何よ偉そうに! 突き落としてあげるから今すぐ降りて来なさいっ! 」

透水「まぁまぁ……」

彼女らを取り持つ透水も内心今回ばかりは愛栗子に非があると思いながらも口には出さず。

563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 01:57:25.75 ID:h4Hvdco40
乱怒攻流「はぁ……にしても透水あんた……見かけによらず体力あるわね……」

透水「えへへ、そうかな」

透水が上りながら照れくさそうに笑うと藍染が風に揺れる。
現状彼女の格好は珍妙な刀着一枚ではあまりにも悪目立ちするとしてその上から紺之介が買い与えた麻を羽織ったものであった。

それでも下の段の乱怒攻流から見れば彼女の引き締まった脚部や腰つきが見え隠れする。
その芸術的な曲線に乱怒攻流は人知れず彼女の有り余る体力の秘密に気づき納得したのであった。

乱怒攻流「……ふーん。なるほどね」

564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 01:58:18.24 ID:h4Hvdco40
紺之介「着いたぞ」

一足先に到着した紺之介が一度下の二人に号令を入れてから先を急ぐ。
二度目の彼らの訪れに一番最初に出迎えてくれたのは紺之介を枝でつつき回した童であった。

「あ! こんのすけだ!」

駆け寄る童を前に紺之介は一先ず愛栗子を背から降ろし抱きついてくる彼の頭を撫でる。

紺之介「久しぶりだな……元気にしてたか」

「うん! またしょーぶしろ!」

紺之介「はは、元気なものだな」

表面上では彼に微笑みで返す紺之介であったがその内心はかなり複雑なものであった。
次第に透水、続いて乱怒攻流と上がりて童は初めて見る顔と前も見た顔にそれぞれ違う瞳の輝きを宿したが段々と不思議そうな顔つきになりとうとう紺之介にその原因を問うた。

「……フミおねーちゃんは?」


馴染みの顔に会えなかったからである。


565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 01:59:18.13 ID:h4Hvdco40
愛栗子が顔を伏せ、乱怒攻流の気まずく落ちた肩を透水がさする。
その中で唯一断片的な事実を単刀直入に彼に伝えようとした紺之介だったが言葉は上手く喉を通らずただの呼吸となって侘しく気化した。

紺之介「悪いな。とりあえず、お前らの先生に会わせてもらえるか」


566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:00:04.74 ID:h4Hvdco40

…………………………


茢楠「そう、ですか」

紺之介は助寺の別室にて茢楠に事実を語った。
だがそれに対して茢楠は涙することもなく一行を怒鳴ることもなくまた絶句するでもなくただ両手を合わせて「お悔やみ申し上げます」と、一言だけ口にした。

愛栗子の表情がさらに陰る。彼女はひしひしと苛まれる罪の情に耐えられずついに誰よりも先に謝罪を口にしようとした。

愛栗子「すま「すまなかった」

が、紺之介の土下座がそれより先をいった。

567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:01:01.00 ID:h4Hvdco40
紺之介「あいつを壊してしまったのは全て俺の弱さ故だ」

愛栗子「紺……」

茢楠「そんな、顔をお上げになってください。仏の教えを乞う者からすればフミもフミの子も本当はもう世を去っているというのが理というもの……それにですね、紺之介さん」

顔を上げながらもまだ姿勢を低く保ったままの紺之介に茢楠が問いかける。

茢楠「今こうして私は子どもたちの前から席を外しているわけですが、この間一体誰がみんなの面倒を見てくれていると思いますか?」

無論紺之介がそのようなことを知るはずもなし。
彼は何を問われているのかすら理解あやふやにただひたすら茢楠を見上げた。

568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:02:12.37 ID:h4Hvdco40
茢楠「……最近少しお兄さんお姉さんになった子たちが見ててくれてるんですよ。ちゃんと、育っているんです。ここには遺されているんですよ。フミが皆に与えた慈愛の教えが」

茢楠「そうして彼らがまたその意志を子に伝え、その子がまた孫に誰かを愛することの素晴らしさを教えてくれるでしょう。そうやってフミの生きた証はこれからも世に刻まれていくんです」

茢楠は紺之介の手を取り彼を立ち上がらせながら続けた。

茢楠「子どもたちに事実を受け入れてもらうのには時間がかかるかもしれませんが……そこはもう全て私に任せていただいて、貴方達は気にせず前を向いて進んでください。フミは優しい子です。彼女もきっと、それを望んでいるでしょう」
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:02:42.34 ID:h4Hvdco40

茢楠の彼らを慰め導く姿はまさしく聖職者の鑑と紺之介は感応した。
刃踏がこの世に遺したものの一番は今自分の目の前にあると彼は悟るのであった。

紺之介「……すまない。感謝する」

紺之介が謝罪と礼を告げると同じく心の重荷を救われた愛栗子も改めて茢楠を賞賛する。

愛栗子「まこと立派な僧じゃ。わらわからも礼を言うぞ」

570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:03:08.23 ID:h4Hvdco40
茢楠「坊主冥利に尽きます……ですがまあ」

紺之介「ん?」

賞賛を受け茢楠はにこりと微笑んだ。

だが

紺之介「ぶはッ゛……!?」

透水「きゃあ!」

乱怒攻流「へ」

愛栗子「……」

あろうことか彼はその顔のまま紺之介を勢いよく殴り飛ばし、豆鉄砲を食らった鳩のように目を丸くしたまま床に伏す紺之介にやはりその顔のまま謝罪した。

茢楠「すみません。これくらいは許してくださいね」


571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:03:35.22 ID:h4Hvdco40
………………………


別室を後にしながら紺之介は茢楠に殴られた頬をさすっていた。

愛栗子「男前が台無しじゃのぅ……」

透水「あのぅ……大丈夫ですか?」

乱怒攻流「ま、仕方ないわね」

各々の心配を向けられる中紺之介は一人思い出す。

紺之介(聖人君子とさえ思えたがそういえば奴は元荒くれ者だったな……)
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:04:01.75 ID:h4Hvdco40

ひとまず頬の鈍痛が引き始めたところでそれはさておきとして紺之介、建物の影に潜む気配に声をかける。

紺之介「もういいぞ。ずっとそこに居たのだろう」

透水「ふぇ?」

「……」

透水がなんのことかと周囲を見渡す中彼らの後方からそっと姿を現したのは迎えた童であった。
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:04:44.36 ID:h4Hvdco40
彼は俯いたまま今にも泣き出しそうな声をひりだす。

「しょーぶしろこんのすけぇ……フミおねーちゃんのかたきだ……」

紺之介「……いいだろう。来い」

フッと短い息を挟み紺之介も童の方を向く。その顔は子どもをあやすでもない真剣勝負の面持ちそのものであった。

乱怒攻流「ちょっと……!」

予想外に買って出る彼の対応に乱怒攻流が焦り割って入ろうとするもその肩を愛栗子が掴んで引き止める。
後ろで無言のまま首を横に振る愛栗子を見て乱怒攻流も不本意ながら仲裁を諦めた。

574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:05:14.98 ID:h4Hvdco40
「うわああああ!!!!」

童が全力疾走で正面から紺之介に突っかかる。しかし彼が突き出した渾身の拳骨も虚しく紺之介はそれを手のひら一つで受け止めた。

「このっ! このっ! はなせぇ!」

左右に身体をひねらせ暴れながら抵抗する童の前髪を紺之介は片方の手でグッと掴み上げ強引に目を合わせるように仕向ける。
髪を引っ張られた童の顔はもはや涙鼻水まみれとなっていた。
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:06:01.23 ID:h4Hvdco40
紺之介「分かるな。今のお前では絶対に俺に勝てはしない」

「そんなごど、やっでみなくちゃ……」

紺之介「いいや無理だ。だから……」

無慈悲な現実を突きつける一方で紺之介は受け止めた彼の拳骨を開かせその手に幼刀奴の鞘を握らせた。

「なんだよ、ごれ」

紺之介「強くなれ。そして本当に勝てると思ったならば俺に会いに来い。そのときお前がまだこれを持っていたならば相手をしてやる」

そのことを伝えると彼は童から両手を離し幼刀三人を引き連れて石段を下り始めた。

特に何を言うでもなく紺之介についていく愛栗子に対し他二人は鞘を見つめ立ち尽くす少年を時折見返しながら下っていく。

576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:06:28.48 ID:h4Hvdco40
乱怒攻流「ねぇ、何であんなこと言ったのよ。あの子が児子炉みたいになっちゃったらどうすんのよ」

紺之介「問題ない。やつがそれだけ本気ならば正しい力のつけ方も、力の振るい方も、きっと茢楠が教えてくれるだろう。それにもしこの先本当にやつが俺のもとへ来たのならそのときは斬らない程度に相手をしてやるのみだ」


紺之介「……それくらいのことはしたんだ。誰も、頬を一発殴られたくらいで許されたとは思っていない」


577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:07:05.21 ID:h4Hvdco40
……………………


夜如月の平屋敷、季節は冬本番。
そんな中竹刀を素振りする恰幅のいい男が一人。

庄司「ふん! ふん!」

庄司 成逢 - しょうじ せいあい - ここ夜如月にて紺之介と幼刀 乱怒攻流をかけた戦いに敗れた刀趣味の青年である。

それなりの気品漂う庭の中彼が声を張り上げるその辺りだけが異様な熱気を放っていた。

そこに野良猫のように塀を越え少女あらわる。

乱怒攻流「……うげ、なんであんたまで紺之介みたいになってんのよ」

578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:07:39.95 ID:h4Hvdco40
庄司「え……ら、乱怒攻流たん……!? どうしてここに……」

夢にまで見たと言わんばかりに瞳潤わせ興奮気味に近寄ってくる庄司に対し乱怒攻流冷めた態度で挨拶を済ませる。

乱怒攻流「別に、ただ旅が終わって露離魂町に帰る途中で立ち寄ったからちょっと見に来ただけの話よ」

579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:08:44.85 ID:h4Hvdco40
庄司「ということは乱怒攻流たんはまだ紺之介殿と?」

乱怒攻流「そうよ」

庄司「なるほどそれは良かったといいますか、安心したといいますか……紺之介殿ほど刀を解る同志ならば乱怒攻流たんを安易に傷つけたりはしないと某確信しているので」

乱怒攻流(……なーんだ)

表ざたでは塩対応の乱怒攻流であったが内心では少しばかり拍子抜けといった様子であった。というのも彼女は『庄司は自分を手放してしまった後すっかり意気消沈してしまったのではないか』と思い込んでいたからである。

580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:09:12.70 ID:h4Hvdco40
ところがどっこい実際目にしてみれば彼は自分といたときより活気溢れんばかりと見える。
それどころか自分がいまだ紺之介の所有物であることに納得さえしているではないか。

乱怒攻流不可思議を抱えつつ彼に問う。

乱怒攻流「で、何してんの」

庄司「よくぞ聞いてくれましたな! 某紺之介殿に敗れてからというもの誓ったのですぞ。必ずやいつの日か、次は己の力で乱怒攻流たんを紺之介殿から取り返すと! 今や週三回道場通いの身。最初こそタコ殴りにあいましたが最近では試合にも……」

乱怒攻流「あーもうわかった! わかったから……」

一度熱が入ると急に饒舌になり始める彼に何処ぞの剣豪を重ねた彼女は既視感から来た拒絶反応か強引に語りを終わらせると呆れ気味に庄司を落ち着かせた。

581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:10:18.82 ID:h4Hvdco40
乱怒攻流「とにかく……まあ、元気そうでよかったわ。それじゃあね」

庄司が息災であったことに安堵しつつも要らぬ世話をしたと思いながら乱怒攻流はまた塀へとひとっ跳びで上がる。
さてここを降りれば茶しばきの愛栗子らと合流するのみと彼女が考えているときだった。

庄司「あ……」

乱怒攻流「!」

庄司がついもらしたうら淋しくか細い声が乱怒攻流の後ろ髪を引く。
乱怒攻流が後ろを振り返ると声の主はついやらかしたという様子で口を閉じきまり悪そうに視線を斜め下に落とした。

そんな彼の様子に乱怒攻流少しばかり顔をほころばせる。

乱怒攻流(なによ。やっぱりそうなんじゃない)

582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:10:59.31 ID:h4Hvdco40
乱怒攻流「しょーじ!」

庄司「え、ぁ、はいっ!」

乱怒攻流「なんだかよく分かんないけど、せいぜいがんばりなさいよっ」

庄司「承知!」

激励を賜り姿勢を低くする庄司を見た乱怒攻流はくすりと笑うと、今度は小さく手を振り改めて告げた。


乱怒攻流「……じゃあね」


583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:12:24.42 ID:h4Hvdco40

すたりと身軽に着地しさてさてと身体の向きを変えた乱怒攻流だったが、目の前には既に紺之介ら三人の姿がそこにあった。

乱怒攻流「うゎえぁ……は、早かったわね」

紺之介「そっちこそ、用事は済んだのか?」

乱怒攻流「まあね」

584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:12:57.06 ID:h4Hvdco40
「さあ行くわよ」と露骨に先立って歩こうとする彼女の横顔を透水が覗き込んだ。

乱怒攻流「……なによ」

透水「ふふ、乱ちゃん……なんか嬉しそうだなって。用事ってなんだったの?」

乱怒攻流「べつに」

乱怒攻流が顔をそらしたところに愛栗子が後ろから口を挟む。

愛栗子「これこれ透水、探ってやるでない。昔の男とあっておったのじゃぞ? それはもう……逢引に決まっておろう」

透水「えっー!」

乱怒攻流「そんなんじゃないわよっ」

585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:13:58.65 ID:h4Hvdco40
不意な煽りに顔を火照らせる乱怒攻流に薪をくべるかのように愛栗子がたたみかける。

愛栗子「あのような男が好みとはぬしの嗜好も変わったものよのぅ」

乱怒攻流「だから違うって言ってるでしょうがっ! 私が好きなのは……その、将軍様みたいにかっこよくて、強くて……? あとは……」

彼女がそこまで言ったところで愛栗子は紺之介の腕を抱き飄々とした顔で割り込んだ。

愛栗子「なんじゃ、紺はやらぬぞ?」

乱怒攻流「誰もそいつの話なんかしてないわよ!」

透水「えっー! 乱ちゃん二股なの?」

乱怒攻流「……あんた、このあたしをからかおうっての?」

ギロリと睨みをきかせる乱怒攻流に透水は腰をひかせつつ両手を振って否定する。

透水「あわわ……だ、だって乱ちゃん素直じゃないとこあるから……」

少女三人が黄色い声を響かせる夜如月の大通り。紺之介は突き刺さる視線の雨霰に久しく旅の始まりを思い出しながら懇願の音を上げた。

紺之介「頼むから静かにしてくれ……」

586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:14:42.62 ID:h4Hvdco40

………………………


客人「……」

紺之介「……」

旅の発端となった客人が再び紺之介、そして愛栗子と目を合わせる。
その客人の二度目となる来訪は紺之介一行が露離魂町へと帰還してから報告の後、二日後のことであった。

587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:16:00.26 ID:h4Hvdco40
客人「まずは改めて長旅ご苦労様でした。こちら先ほど運ばせました千両になります」

一先ず客人が差し出した千両箱の中身を確認した紺之介であったが、彼は別段大金に顔色を変えることもなく顔を上げるとむしろ声色低くして問い質した。

紺之介「して、本題だが」

客人「……ええ、委託保護の件にございますね」

紺之介「そうだ」

今度こそ紺之介の額に汗が浮かぶ。
彼はこのために旅を続け、死線をくぐり抜け、今に至るのである。当然の反応といえた。

588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:17:03.53 ID:h4Hvdco40
戦場とはまた違う緊張感の中、客人がついに彼らに審判を下す。

客人「この度の紺之介殿の活躍には我々十二分に感謝しております。故に先ほどの報酬は勿論全額支給いたします。しかし幼刀を保護するにあたっての信頼はまた別となります」

雲行きの怪しい空気の中、乱怒攻流と透水が彼らのいた客間へと入室する。

透水「はぅぅ……やっと終わりましたぁ」

乱怒攻流「ちょっと紺之介! いきなり収蔵刀をあたしに入れようとか言い出したかと思ったら何よあの量は! ……って何これ? せ、千両箱!?」

紺之介「今大事な話をしている。お前らもとりあえずここに座っていろ」

紺之介は二人を座らせると咳払いをする客人にもう一度話をふった。

紺之介「すまんな。続けてくれ」

589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:21:17.15 ID:h4Hvdco40
客人「紺之介殿が保護に成功した幼刀は今ここにいる愛栗子、乱怒攻流、透水……の三振りで間違いないですね?」

紺之介「ああ」

客人「俎板を除いて今回依頼した幼刀の数は全部で六振り。三振りということはその半分を欠損した……ということになります。我々はこの結果を信頼するに足らないとして幼刀はやはりこちらで手厚く保護することが決まりました」

客人のその言葉を耳にしたとき、紺之介と愛栗子は何かを決心したかのように立ち上がりて千両箱を乱怒攻流の中へと押し込むと彼女らも立たせて一言口にした。

紺之介「行くぞ」

乱怒攻流「へ……ちょっと……」

透水「紺之介さん?」

愛栗子「もたもたするでない」
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:22:05.76 ID:h4Hvdco40

彼らが立ち上がった瞬間はただただ彼らが落胆し気分を害して席を外そうとしたのかと思った客人も千両箱を詰める手際さすがに異様な空気に声を荒げる。

客人「紺之介殿……な、何を」

客人が立ち上がったとき、ついに彼らは走り出した。
困惑気味だった二人も愛栗子紺之介それぞれに腕を引かれその場の空気に乗せられて廊下を駆け抜ける。
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:26:31.08 ID:h4Hvdco40

とうとう宅を抜け外へと繰り出す彼らの後方大声が響き渡り何事かと町民が騒ぎ立てる。

追われ追われて人混みの中、息も絶え絶えに乱怒攻流が嘆く。

乱怒攻流「もぉ〜なんなのよぉ〜! これどこ向かってるわけ〜!?」

愛栗子「華蓮といった姫君を覚えておるか? わらわはあやつと再会の約束を交わした仲なのじゃ。あのとき船で話に聞けばここより北におるらしくての。一先ずそやつをあてに流浪の用心棒として日銭を稼ぎながら東山道へ向かう。また紺を護衛として雇えと言って城に転がりこもうという算段じゃ」

乱怒攻流「確かにあんたはあの子に相当気に入られてたみたいだけどそんなにうまくいくわけ?」

592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:27:33.22 ID:h4Hvdco40
ちぐはぐな計画に疑いを向けられた愛栗子だったが彼女はいたって涼しい顔で未来を描いた。

愛栗子「そのときはそうじゃのぅ〜……どうせまた道中で茶屋を巡ることになるのじゃ。そのときに肥やした舌を生かして紺を菓子職人にしてしまうのも悪くないの。なに心配するでない。行列必至の看板娘ならここにおるではないか」

紺之介「勝手に決めるな」
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:28:57.84 ID:h4Hvdco40

乱怒攻流ほどではないが駆けながらにして透水も不安を吐露する。

透水「あのぅ……おっきなお風呂は……」

紺之介「もし華蓮のとこに転がりこめたならばあるかもしれないな」

透水「いきますっ!」

だがその不安は一瞬で道の足跡と共に捨て置かれた。
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:29:55.74 ID:h4Hvdco40

乱怒攻流「あんたそれでいいわけ!?」

紺之介の意思とは別に最後まで決心がつかないといった様子の乱怒攻流に愛栗子が最後の後押しに迫る。

愛栗子「……で、ぬしはどうするのじゃ? まぁどう転んでも紺がぬしを手放すとは思えぬがの」

彼女の『あくまで自分はどちらでもいい』という様子に少しばかりむっとした乱怒攻流はついに腹を括った。

乱怒攻流「まあ……折角あいつが頑張ってるのにいざ紺之介に会いに来てみればあたしがいないなんてことになったらかわいそうだし……いいわよもうついていけばいいんでしょ〜!」

紺之介「決まりだな」

595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:32:02.32 ID:h4Hvdco40


伝説の幼刀収集の旅は終われど彼らの足は止まることなく前へ進む。


お尋ね者の足跡として『少女を連れた腕利きの用心棒』の噂が新しい伝説を築き上げるのはまた後のお話。



七振りの幼刀と一人の剣豪の物語。


ひとまず、これにて……


596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 02:32:36.68 ID:h4Hvdco40
597 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2020/02/25(火) 02:34:03.79 ID:h4Hvdco40
今回はこれにて終了です
ここまで読んでくださった方はありがとうございましたm(-ω-)m
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/25(火) 08:47:36.65 ID:CymSHVzWO
おつおつ。最後までシリアスだけど酷い話だったw
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/28(金) 08:29:06.48 ID:lyhBXHlk0
読み応えあってよかった。あっぱれ
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/03(火) 21:42:08.32 ID:QgRcvKEOo
乙でござる。
ふざけているようでしっかり最後まで読み込ませる文章力、まこと感服いたした。
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/03/04(水) 14:02:28.85 ID:wrx4RIoW0
乙にて候。
素晴らしい物語だった。
602 : ◆lur8gCzf6w [sage]:2021/02/25(木) 07:15:04.74 ID:EWAzIrZy0
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