美也「志保ちゃん、一緒に頑張りましょうね〜」

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35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:00:28.16 ID:AEVT7W6Z0
志保「……」

呼吸を整えながら、まだ少し茹だったような頭で美希さんとプロデューサーさんのやり取りを眺める。
私のパフォーマンスのレベルが美希さんに大きく劣っていたとは決して思わない。
けど、やっぱり美希さんの方が私と比べてずっと余裕があるみたいだ……。
と、そんなことを考えていると、美希さんはふっとプロデューサーさんから視線を外した。
その先に居たのは……美也さんだった。

美希「美也も見てくれてたんだね。ミキ達のステージ、どうだった?」

志保「……!」

あまりになんでもないことのように、美希さんは笑ってそう聞いた。
プロデューサーさんもこれには驚いたみたいだった。

私は美也さんの顔を見る。
美也さんは、意表を突かれたように少しだけ目を丸くしていた。
けどすぐにまた、いつもの笑顔を浮かべて言った。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:01:38.17 ID:AEVT7W6Z0
美也「はい〜。とってもすごかったです〜。
  美希さん、私の代わりにステージに立ってくれて、ありがとうございました〜」

美希「あはっ、どういたしましてなの! でも残念だったねー。
  美也も結構頑張ってたんでしょ? 怪我、早く治るといいね」

美也「ありがとございます〜。早く治せるように、頑張りますね〜」

そうやって会話する美也さんは、私にはいつも通りの彼女に見えた。
私だったら……きっとこうはいかない。
私が美也さんの立場だったら、きっと、悔しくて悔しくて仕方がないだろうから……。
でも美也さんはそんな素振りはまったく見せずに、穏やかにニコニコと笑っている。

……少し前の私なら、彼女は真剣さが足りないからヘラヘラしているんだ、なんて考えていたかも知れない。
でも、いまだに印象に残っている。
怪我をしたあとも、毎日レッスンを見学しに来ていた美也さんの姿。
公演に出られないと決まってからも、毎日、毎日見に来ていた、彼女の姿が……。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:02:41.08 ID:AEVT7W6Z0
美也さんは、私が初めに抱いていた印象よりも一生懸命な人なのだと、今ではそう思う。
そんな人が怪我でステージに立てなかったのは、今になって私も少し残念だったように感じる。
でも仕方がない。
怪我をしたのは美也さんの不注意なのだから。
それに、ステージに立てなかったことを彼女もそこまで気にしていないようだし、
もうこのことを考えるのはやめよう。
もう、全部終わったんだ。

志保「それじゃあ、私、着替えてきますね。お疲れ様でした」

美希「あっ、じゃあミキももう着替えちゃおうっと。じゃあね、美也。頑張ってね!」

今日はもう早く帰ろう。
疲れを残さないために早めに寝て……。
明日からはまた、いつも通りの生活が始まる。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:07:36.33 ID:AEVT7W6Z0
美也さんは、私が初めに抱いていた印象よりも一生懸命な人なのだと、今ではそう思う。
そんな人が怪我でステージに立てなかったのは、今になって私も少し残念だったように感じる。
でも仕方がない。
怪我をしたのは美也さんの不注意なのだから。
それに、ステージに立てなかったことを彼女もそこまで気にしていないようだし、
もうこのことを考えるのはやめよう。
もう、全部終わったんだ。

志保「それじゃあ、私、着替えてきますね。お疲れ様でした」

美希「あっ、じゃあミキももう着替えちゃおうっと。じゃあね、美也。頑張ってね!」

今日はもう早く帰ろう。
疲れを残さないために早めに寝て……。
明日からはまた、いつも通りの生活が始まる。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:09:29.07 ID:AEVT7W6Z0



それから何日かが経った。
公演を終えて慌ただしい毎日も終わり、もうすっかり元の日常が戻っていた。

あの公演は、確かに私に自信を与えてくれた。
私でも努力すればあのレベルのダンスパフォーマンスが可能なんだと知ることができたのだ。
心なしか体力も向上したようにも思う。

けれどそれで日常が大きく変わるということはない。
朝は早起きして劇場近くの広場で練習。
仕事が終わった後は、弟を迎えに行く。
そんな私の毎日が、ここしばらくはごくごく普通に続いていた。

そんなある日のことだった。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:10:46.63 ID:AEVT7W6Z0
その日も私は弟を迎えに行って、そのまま帰宅した。
けど、夕飯を食べて学校の宿題をしようと鞄を開いたときに、
劇場に宿題のプリントを忘れたことに気が付いた。

私はすぐにプロデューサーさんに連絡して劇場がまだ閉まってないことを確認し、
ちょうど帰ってきた母に弟のことを頼んで、劇場に向かった。

当たり前だけど、もうすっかり暗い。
まさかこんな時間に劇場に行くことになるなんて。
忘れ物をしたことに情けなさを感じながら、私は目的地に到着した。

良かった、まだ明かりはついてる。
そう安堵しつつ中に入り、控室に向かった。

と、廊下を歩く私の耳に、何か聞こえてきた。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:11:38.45 ID:AEVT7W6Z0
それは聞きなれた音……音楽だった。
あの公演で、私がステージで踊った曲だった。
その曲は、レッスンルームから聞こえてきているようだった。

でもどうして?
誰かが練習している……?
けど、あの曲を使った公演がもう一度あるなんて、少なくとも私は聞いてない。
一体誰が、何の目的で……。

私はこの時にはすっかり本来の目的を忘れ、まるで吸い寄せられるように、
音楽の流れくる方へと向かって行った。
それはやっぱりレッスンルームから聞こえていた。
明かりが付いている。

私は扉に近付いて、ガラス窓から中を覗き……。
その瞬間、思わず息を呑んだ。
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:12:34.01 ID:AEVT7W6Z0
そこには私の知らない人が居た。
一瞬、本当にそう思った。

それは美也さんだった。
けど私は、あんな美也さんを見たことがなかった。

いつも穏やかに下がっていた眉は真っ直ぐに上がり、
柔らかく微笑んでいた唇は固く引き結ばれ、
額に髪を張り付かせ、振り乱し、滝のような汗を流しながら、
私たちが練習していたあの振り付けを踊っている美也さんがそこには居た。

私は目が離せなかった。
瞬きすら、呼吸すら忘れた。
けどその後、私の体はほとんど無意識的に、扉を押し開けていた。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:14:05.36 ID:AEVT7W6Z0
ちょうど曲が鳴りやんだ。
最後のポーズのまま静止していた美也さんは、そこでようやく、鏡に映った私に気が付いたようだった。

美也「おや〜? 志保ちゃん、どうかしましたか〜? もしかして、忘れ物でしょうか〜」

そう言って振り返った美也さんは、私の知っている美也さんだった。
けど私の瞳には、さっきの美也さんの姿が残り続けている。
私は美也さんの質問に答えることなく、ただ質問を返した。

志保「……何を、していたんですか……?」

美也「私ですか〜? 私は、居残り練習をしていましたよ〜」

志保「それは分かります……。でも、その曲は……」

美也「はい〜。私たちが練習していた曲です〜」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:15:10.06 ID:AEVT7W6Z0
美也さんはいつもの、おっとりとした笑顔で答える。
当たり前のことを当たり前に答えるように。
けどそのことが、寧ろ私の困惑を加速させた。

志保「その曲、もう終わった公演の曲ですよね……?
  なのに、どうしてそんなに……そんなに、必死に練習しているんですか……?
  わざわざ居残り練習までして、どうして……。
  練習なんかしたって、次にその曲を踊る機会なんて、いつ来るかも分からないのに……」

美也「次に踊る機会……。お〜、確かにそうですな〜。それは考えなかったです〜」

志保「え……?」

美也「でも、踊れるようになりたいと思いましたから〜。
  美希さんと志保ちゃんは、とてもかっこよく踊っていましたからね〜。
  私も頑張らないと〜、って、思ったんですよ〜」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:18:52.79 ID:AEVT7W6Z0
美也「ですから、足が治ってから、また朝の練習と夜の練習を始めたんです〜。
  おかげで、どんどん上手に踊れるようになってますよ〜。むふふ♪」

志保「……『また』、って……。それじゃあ、捻挫する前も……」

美也「はい〜。ここで、ずっと練習してました〜。
  たくさん練習しないと、志保ちゃんに置いて行かれてしまいますから〜」

……そう言えば、私が早朝練習を終えて劇場に行くと、いつも美也さんは先に来ていた。
あれは、もう既に練習を終えて、着替えて待っていた……?
夜も、毎日こんな時間まで居残り練習を……?

それに気付いた時、私は突然思い出した。
二人での公演が決まった時に、美也さんが言っていたことを。
まさか……まさか、この人は……。

志保「美也さん……。あなたは、『何のために』、そこまで頑張るんですか……?」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:20:36.37 ID:AEVT7W6Z0
美也「それはもちろん、歴史の教科書に載るアイドルになるため、ですよ〜」

志保「……!」

美也「国宝級アイドルになるためには、1に努力、2に努力。
  3も4もぜ〜んぶ努力、ですからね〜。むんっ」

美也さんは気合を入れるような動きと表情で、そう言った。
とぼけたような、どこか抜けているような、そんな言い方で。
でももう分かった。
はっきりと確信した。

この人は……本気なんだ。
本気で、歴史の教科書に載るアイドルになろうとしているんだ。
生半可な気持ちの人が、もう終わった公演の曲を、あんな表情で練習するはずがない。
あの公演……きっと、本当に悔しかったんだ。
ただそう見えなかっただけで、本当は、心の底から……。

穏やかな雰囲気からはとても想像できないほどの熱意を持って、
そのためにものすごい量の努力を、美也さんは……。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:22:43.53 ID:AEVT7W6Z0
志保「……ごめんなさい、美也さん」

美也「? おや〜? 志保ちゃん、どうしたんですか〜? どうして謝って……?」

志保「私、あなたのことを誤解してました……。
  失礼なことも、言ってしまったと思います」

美也「……? 失礼なこと……。何か、言われたでしょうか〜……む〜ん……」

美也さんは首をかしげて唸る。
どうやら本当に心当たりが無いようだ。

志保「思い出せないなら、無理に思い出してもらうこともないと思いますけど……。
  ただ……一つお願いがあります」

美也「お願い? はい〜、なんでしょうか〜」

志保「明日の朝から、私も一緒にレッスンさせてください。
  私も、もっと上手に踊れるようになります。美也さんには負けません」

美也「お〜、志保ちゃん、燃えてますな〜。受けて立ちますよ〜。むふふ♪」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/24(水) 21:23:27.54 ID:AEVT7W6Z0
これで終わりです。
宮尾美也さん誕生日おめでとうございます。
49 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2019/04/24(水) 21:29:16.75 ID:9sBQSelB0
代役の話って結構違いが出るね
乙です

>>3
宮尾美也(17) Vi/An
http://i.imgur.com/roD1T7G.jpg
http://i.imgur.com/FZvO0gv.png

北沢志保(14) Vi/Fa
http://i.imgur.com/gVLQiiV.png
http://i.imgur.com/mkabLWJ.jpg

>>34
星井美希(15) Vi/An
http://i.imgur.com/DmoBR06.jpg
http://i.imgur.com/hT7Zjmq.png
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/25(木) 11:44:48.91 ID:qxSXtpmR0
みゃおハピバ!
志保と美也の組み合わせいいな、これは新しい境地
>>1
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/25(木) 12:57:59.57 ID:bldua88Io
サンドイッチの代役がサンドイッチ嫌い(箱設定)
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/26(金) 04:11:34.51 ID:EBaVOiUL0

みゃおみゃおっとりして見えるけど中身はけっこう熱いって所がまた好きにさせてくれる
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