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エミリーが忘れた日
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◆AsngP.wJbI
[saga]:2019/06/10(月) 20:25:36.28 ID:9pdDfgPfo
結果として、他のアイドルたちはエミリーが(今のところ)日本語を話せなくなっている、という事にそこまで悲観的な印象を抱かずに済んだ。
これは伊織がそばにいて、きちんとエミリーとのコミュニケーションを成立させる橋渡しをしてくれたからに他ならない。
皆最初はエミリーの英語に驚いていたものの、むしろ新鮮さすら覚えていたようだ。
事態が事態なだけに複雑な思いもあるが、ひとまずはこれでいい。
「《全く、こっちの苦労も知らずにね》」
「《皆さんに余計な心配はかけたくなかったので。 本当に助かりました》」
「《大したことじゃないわ》」
伊織とエミリーの会話は、自分にはついていけないもののその雰囲気は以前とすっかり変わらない様子だった。
「さて、ひとまずアイドル全員への報告は済んだけど……今日のリハはどうする?」
一安心こそすれ、次の課題は目前に迫っていることを改めて伊織に伝えた。
「どうするって?」
「“Sentimental Venus”は水曜公演の通常セトリに含まれてるだろ。 エミリーのパートをどうするかとか……」
「ん、そうね……」
チラとエミリーに目をやった。こちらが伊織と日本語で話していると、エミリーは途端に不安そうな顔になる。
きっと自分には聞かせられない深刻な話題だと思っているのだろうか。
「とりあえずエミリーに、『今日のリハーサルは見学してて』って言ってくれ」
「《──だそうよ》」
「...I understand.」
エミリーからは間を空けて一言だけ返ってきた。
少し浮かばないような口調にも取れたが、まだ頭を打ってほんの二日だ。彼女自身のことは焦らず様子を見つつ今後のことを考える必要がある。
「エミリー、分かってくれ」
「《私、振り付けはちゃんと覚えています》」
今度はきっぱりと主張するかのように。
「覚えてるかどうかの話じゃなく、まだケガから間もないのに無茶はさせたくないんだ」
「《──ですって》」
「…………」
「《エミリー、ゆっくり復帰していけばいいのよ》」
しばしの沈黙の後、エミリーはゆっくりと首を縦に振った。
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