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エミリーが忘れた日
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◆AsngP.wJbI
[saga]:2019/06/10(月) 20:27:47.47 ID:9pdDfgPfo
*
その日のユニットでのリハーサルは内容修正の確認と二、三度の通しでの演奏程度に留めることにした。
「じゃあ、エミリーのパートはしばらく伊織が代わりに歌ってくれ。 歌詞は大丈夫だよな?」
「全歌詞歌えるわよ、当たり前でしょ」
「OK。 それと、今日は試しで配置の変更もするから、全員スタートのポジションを確認しておこう」
百瀬莉緒と真壁瑞希にも指示を促し、いつもの目印から数歩ずつ左右へずれてもらう。
「でもプロデューサーくん、いいの?」
莉緒が心配そうに尋ねた。
「どうかしたか?」
「位置取りまで変更するってことは……そういうことでしょ?」
莉緒の言いたいことは容易に汲み取れる。後ろでじっとしているエミリーのことが頭をよぎった。
「……何度も言うが、これはあくまで『試し』でしかない。 これから先誰かが急な体調不良で公演を休んだりするかもしれないだろう?
そういう事も含めて、いろんな選択肢を用意しておくってだけだ」
「なら、いいんだけど」
「とにかく、今は自分たちのステージのことだけ考えてくれればいい」
自分自身にもそう言い聞かせてからスタッフへ合図を送り、曲をスタートさせた。
♪背伸びのVenus 7回目の チャンスにkiss つかまえて……♪
リハーサルながら伊織、莉緒、瑞希たち三人のコンディションは抜群といってよかった。
出だしからいつも以上に統制の取れた動き。
ゆったりと広がるような振り付けからリズミカルなそれへの変調、また時折挟む女の子らしい細かなポージングにおける指先の角度一つ一つ──
ほぼ完璧に揃っている。これが本番でないのが惜しいほどに。
ただ歌はというと……どこか物足りなかった。
もちろん彼女ら自体には何の問題もない。三人とも喉の調子までバッチリだ。よく出ている。
ただ四人斉唱の映えるこの曲のサビは、エミリーの儚げなあの歌声なしではどこかキャッチーさに欠ける……といったところか。
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