私「後輩のプールバッグには百合漫画が入っていた」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:23:41.06 ID:z/uHSnyf0

オリジナルのSSです。

百合の描写があります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1564878220
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:24:23.18 ID:z/uHSnyf0

──更衣室──

私(後輩の下着の色は黒だった)

私(彼女の性格的に白とか薄い青色を身に付けている印象だったので、私は少し驚いてしまった)

後輩「先輩」

私「ん……何?」

後輩「このロッカー、100円玉が返って来ないタイプみたいです。良かったら一緒のところに入れませんか?」

私「あ、うん。あとで50円払うね」

後輩「それくらいいいですよ。その代わり鍵は先輩が預かってくれますか。私が持ってると外れちゃいそうなので」

私「うん。いいよ」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:25:34.41 ID:z/uHSnyf0

──市民プール──

後輩「わぁ、随分と空いてますねぇ」

私「夏休みに入る前はいつもこんなものだよ。東京のプールはもっと混んでるの?」

後輩「そうですね。少なくとも私の住んでいた辺りでは」

ザプン

後輩「私50泳いできます。先輩は?」

私「あっちの浅いところに座って、あなたの泳ぎを見てようかな」

後輩「……そうですか」

私(後輩は真剣な表情でゴーグルを装着した)

後輩「じゃあ、気合いを入れて泳ぎます」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:26:22.77 ID:z/uHSnyf0

私(後輩の泳ぎは圧巻だった)

私(水泳に詳しく無い私でも、彼女のクロールが速いことは分かった)

私(後輩はあっという間に25mプールを往復した)

私(その間、1度も息継ぎをしなかった)

後輩「ぷはっ」

私「……お疲れ様」

後輩「はぁ、はぁ……見ていてくれましたか?」

私「うん。見てたよ」

後輩「そうですか、えへへ。今からそっちに行きます」ペタペタ
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:27:12.49 ID:z/uHSnyf0

チャプ…

私(後輩は私の横にぴったりくっついて座った)

私「……」

後輩「どうかしました?」

私「いや……速かったね。見ててすごかったよ」

後輩「ふふ、ありがとうございます」

私「1回も息継ぎをしなかったよね。水泳部の人ってみんなああやって泳ぐの?」

後輩「いいえ。息を止めて泳ぐのは単なる私のスタイルです。かなり珍しい泳法だと思います」

私「へぇ。その方が速く泳げるとか?」

後輩「それもありますけど、私は……」

後輩「私は、息を止めるのが好きなんです」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:27:58.74 ID:z/uHSnyf0

私「……」ポカーン

後輩「そんな変態を見るような目をしないでくださいよ」

私「あ、いや。そういうわけじゃ」

後輩「ふふ、冗談です。私もう1本泳いできます。先輩も好きに遊んでてください」

私「じゃあ私、ロッカーに戻って水飲んでくるね。飲み終わったらその辺でウロウロしてるから」

後輩「はい。後で適当に落ち合いましょう」

ペタペタ

私「……息を止めるのが好き」

私「何が良いんだろう」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:28:49.90 ID:z/uHSnyf0

──

私「えーと、私たちのロッカーは……ここだ」

ガチャ

私「上が私のバッグで下が……ん?」

私(後輩のプールバッグから漫画本のようなものがはみ出している)

私「こんな仕舞い方してたら水で濡れちゃうよ。一度取り出してバッグの奥に……」

私「……!!」

私(漫画の表紙を見て驚いた)

私(制服の女の子2人が指を絡めて抱き合ってるのだ)
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:29:45.49 ID:z/uHSnyf0

後輩「先輩?」

私「わー!」バタンッ

後輩「ど、どうしたんですか?」

私「こっちのセリフだよ! 泳ぎに行ったんじゃ無いの!?」

後輩「私も先に水分補給することにしたんです。鍵は先輩が持っているから、タイミングを合わせた方が良いと思って」

私「そ、そう……」

後輩「……何してたんですか?」

私「えっ?」ドキッ
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:30:58.90 ID:z/uHSnyf0

後輩「ロッカー前で何やらゴソゴソとしてる姿が見えましたが、ペットボトルを探すのにそんなに時間かかります?」

私「いや、その、身体を軽く拭いてから水を飲もうと思って。ペットボトルの下にタオルを置いてたから、手間取っちゃって」

後輩「ふーん?」ジト

私「……」ドキドキ

後輩「……時間が掛かるようなら、私はまだ水飲まなくていいや。じゃあまた後で、先輩」

ペタペタ

私「……はぁ」

私(私は漫画本をバッグの奥に押し込み、足早にプールへと戻った)
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:32:03.70 ID:z/uHSnyf0

ミーンミンミン

後輩「はぁー、気持ちよかった」

私「うん。私も楽しかった」

後輩「今日はありがとうございました。私の趣味に合わせてしまってすみません」

私「そんなことないよ。誘ってくれてありがとう」

後輩「えへへ……あそこの木の下のベンチで少しゆっくりしませんか?」

私「うん。いいよ」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:32:53.47 ID:z/uHSnyf0

トサッ

後輩「ふぅ……」

私「……」

後輩「……7月ももう折り返しなんですね。早いなぁ」

私「うん。あなたが転校してきてそろそろ1ヶ月経つんだ」

後輩「あっという間でした。来週が終業式だなんて信じられません」

私「終業式が終わればすぐに夏休みが始まるよ」

後輩「はい。思い出に残る夏にしたいです」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:34:06.61 ID:z/uHSnyf0

私(後輩は私の目をじっと見つめながら言った)

後輩「先輩もそう思いますか?」

私「うん。そう思うよ」

後輩「……色んなところに行きましょうね。東京にないもの、いっぱい教えてください」

私「もちろん。全部教えてあげるよ」

後輩「はい……ありがとうございます、先輩」

私(肩にかけた後輩のプールバッグが汗でズレて音を立てた)

私(私は知っている)

私(あのプールバッグには、百合漫画が入っていると)
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:35:04.85 ID:z/uHSnyf0

──終業式・帰り道──

私「ふぁー。やっと終わった」

幼馴染「おっす、お疲れ」トン

私「わっ……ってあんたか」

幼馴染「幼馴染に向かって随分な反応だな」

私「何か用?」

幼馴染「明日から夏休みだっていうのに、退屈そうに欠伸してるやつをからかいにきた」

私「余計なお世話だよ」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:36:11.34 ID:z/uHSnyf0

幼馴染「どうせ夏休みの予定も何も無いんだろ」

私「……そういうあんたはどうなの」

幼馴染「俺はたくさんあるぜ。友達も多いし女子にもモテるからな。海にバーベキューに大忙しだ」

私「はいはい。羨ましいことで」スタスタ

幼馴染「あ、おい。ちょっと待てよ」

私「何、まだ自慢話が続くの?」

幼馴染「そうじゃなくて……ごほん。そんな忙しい俺も、明日は何も予定が無くてだな」

私「?」

幼馴染「久しぶりに2人で出かけないか。一緒に市民プールにでもさ」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:37:49.38 ID:z/uHSnyf0

私「……魅力的なお誘いだけど」

幼馴染「……」

私「丁重にお断りします」ペコリ

幼馴染「な、なんでだよ!」

私「だってこの間行ったばかりだもん」

幼馴染「はぁ? 引きこもりのお前がなんで……そもそも市民プールなんて1人で行くような場所じゃないだろ」

私「誘われて2人で行ったの」

幼馴染「え!? 誰と行ったんだ!?」ガシ

私「こ、後輩の女の子だよ」

幼馴染「……なんだ女か」ホッ

私「なんだって何」

幼馴染「なんでもねーよ」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:39:15.46 ID:z/uHSnyf0

幼馴染「でも、そんな友達がいたなんてな。お前帰宅部だし、いつどこで知り合ったんだ?」

私「ちょっと縁があってね。あっちはあっちで転校生だから寂しいみたいで、私によく懐いてくれてるの」

幼馴染「転校生? あぁ、後輩って”あの”」

私「あの?」

幼馴染「男子の間じゃかなりの有名人だぜ。東京からモデルみたいに可愛い1年が転校してきたって」

私「へぇ」

幼馴染「すごいな、そんな子に懐かれるなんて。お前が男だったらきっとギャルゲーの主人公だ」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:40:26.97 ID:z/uHSnyf0

後輩「先輩!」タタタ

私「あ、噂をすれば」

後輩「先輩の後ろ姿が見えたので走ってきちゃいました。……ん、そちらの方は?」

私「あぁ、これは私の……」

幼馴染「おー、君が噂の転校生ちゃんか。この引きこもりを連れ出してくれてるみたいで、ありがとうね」

後輩「……どうも」ジロ

幼馴染「?」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:41:23.08 ID:z/uHSnyf0

後輩「お邪魔しちゃったみたいで。失礼します」スタスタ

幼馴染「……俺何か嫌われるようなことしたか?」

私「さぁ。人間性を見抜かれたんじゃない?」

幼馴染「一目で?」

私「ふふ、あの子は鋭いところがあるから。じゃあね」

幼馴染「あ、おい。まだ話の途中……」

タタタタ
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:42:06.56 ID:z/uHSnyf0

──

後輩「……」

私「ちょっと、歩くの早いよ」

後輩「先輩……。あの男の人とはどういう関係なんですか?」

私「どういう? ただの幼馴染だよ」

後輩「ふーん。そうですか」

私「な、何。顔が怖いよ」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:43:15.75 ID:z/uHSnyf0

後輩「つり目なのは生まれつきですから」

私「ううん。いつもはもっと朗らかで可愛い顔してるもん」

後輩「!……。もう、そういう褒め言葉が男の人を勘違いさせるんですからね。気をつけてください」

私「あいつとは本当にそんなんじゃないって」

後輩「……追いかけて来てくれてありがとうございました。嬉しかったです」

私「別に。自慢話が退屈だから逃げ出して来ただけだよ」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:44:39.83 ID:z/uHSnyf0

私(後日、後輩からメッセージが届いた)

後輩「暇です(^ ^)」

私「部活はどうしたの?」

後輩「今日と明日は休みなんですよ」

私「そっか。どこか遊びに行く?」

後輩「今日は宿題やっつけちゃいます^o^」

私「そう。じゃあ明日、夏祭りがあるから一緒に行こうか」

私(10秒も経たない内に返信が来た)

後輩「行きます!」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:45:59.55 ID:z/uHSnyf0

──夏祭り──

後輩「お待たせしましたー」

私「ううん、私も今来たところ……って、その格好」

後輩「浴衣着てみました。どうですか?」クル

私「うん。すごくよく似合ってるよ」

後輩「ありがとうございます。えへへ……」

私「でもごめんね。私普通の私服だ」

後輩「いいんですよ。私が勝手に先輩に見てほしかっただけですから」

私「……」

後輩「さ、屋台を見に行きましょう」パタパタ

私「わっ、浴衣で急ぐと危ないよ」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:47:10.56 ID:z/uHSnyf0

マイドアリー

後輩「リンゴ飴買ってきました。先輩もどうぞ」

私「いいの? ありがとう」

後輩「私、お祭りではいつもリンゴ飴を買うんです」

私「ふふ。その気持ちわかるな。赤色が鮮やかだし、飴でツルツルしててキレイだもんね」

後輩「……先輩は、リンゴ飴が何故飴でコーティングされているか、理由をご存知ですか?」

私「え? 甘くて美味しいからでしょ」

後輩「実はそれだけじゃないんです。酸化を防ぐためという意味もあるんです」

私「へぇ。酸化……」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:48:57.90 ID:z/uHSnyf0

後輩「いただきまーす」

私「いただぎす」

モグモグ

後輩「……美味しいですか?」

私「ごくん。うん、美味しいよ」

後輩「そうですか。えへへ」

私(後輩は満足そうに微笑んだ)

ヒュー… パーン!

後輩「あ、花火!」

私「うん。例年ああやって打ち上がるんだ」

後輩「おー。キレイですね」

私「あそこの土手からだともっとよく見えるよ。行ってみようか」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:50:03.55 ID:z/uHSnyf0

後輩「……わぁ」

私「なかなか見晴らしがいいでしょ」

後輩「はい。こんな良い場所を知ってるなんて、さすが先輩です」

私「そんな、さすがって言われるほどのことじゃないよ」フフ

私(土手の斜面に腰掛けると、視界から通行人が隠れ、夜空と後輩しか見えなくなった)

私(しばらく雑談を続けていると、ふと左手に暖かい何かが乗っかってきた)

私(それは後輩の右手だった)

後輩「実は近々水泳大会があって」

私「あ、うん」

後輩「1年生でも実力があれば出場できるそうなので、頑張りたいと思います」

私「そうだね……」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:51:38.01 ID:z/uHSnyf0

ヒュー…

後輩「このまま時間が止まればいいのに」

パァーン!

私「え?」

後輩「……今のが打ち止めみたいですね。混む前に帰りますか」パッ

私「あ、うん」

テクテク

私(帰り道はお互いほとんど喋らなかった)

私(前を歩く彼女がどんな顔をしていたのか、後ろを歩く私には分からなかった)
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:53:57.90 ID:z/uHSnyf0

──8月──

私「……うげ」

私(8月に入り、そろそろ宿題に手をつけ始めようかと思ったある日のこと)

私(通学鞄の中に、宿題で使う数学の教科書がないことに気がついた)

私「面倒くさいけど、学校に取りに行かないと……」

ミーンミンミン

幼馴染「あれ、久しぶり」

私「ん。奇遇だね」

幼馴染「制服着てどこ行くの?」

私「学校。宿題忘れちゃって」

幼馴染「俺と同じじゃん。一緒に取りに行こうぜ」

私「うん。別にいいよ」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:54:50.40 ID:z/uHSnyf0

──教室──

私「私の宿題は見つかったよ。そっちは?」

幼馴染「おう。俺のもあった」

私「よし。じゃあ早いところ撤収しようか」

キャー! スゴーイ!

私「? ねぇ、プールの方から声が聞こえない?」

幼馴染「んー? レギュラー決めでもしてるんじゃないか。水泳部、大会近いって友達から聞いたぞ」

私「あー。確かそんなことを言っていたような気もする」

私(後で後輩に聞いてみるか)
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:56:02.89 ID:z/uHSnyf0

私「教室の鍵、職員室に返してくるね」

幼馴染「ありがとう。先に外出て待ってるよ」

私「え? 私のこと待たずに帰っちゃっていいよ」

幼馴染「いいから、校門の前にいるからな」

テクテク

私「!」

私(中庭の日陰に、髪の濡れた後輩の後ろ姿が見えた)

私(後輩は水泳部の顧問らしき男と話しているようだった)
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:57:16.71 ID:z/uHSnyf0

──

顧問「まずは、新記録おめでとうございます」

後輩「ありがとうございます」

顧問「転校して来てから1ヶ月半……中学の頃も水泳部だったことを鑑みても、これは素晴らしい結果です」

後輩「どうも」

顧問「部の決まりでは、部内新記録を出した者が、大会の50m自由形に出場することができます。君にその意思はありますか?」

後輩「はい。あります」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 09:58:40.39 ID:z/uHSnyf0

顧問「そうですか……では、次の大会の出場選手にあなたの名前を登録しておきますね」

後輩「……ふふ」

顧問「どうかしましたか?」

後輩「いえ。まるで私に参加して欲しくないみたいな確認の仕方だと思って」

顧問「!」

後輩「……」

顧問「……この際だから、はっきり言いましょう」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:00:17.12 ID:z/uHSnyf0

顧問「無呼吸で泳ぐのをやめなさい」

後輩「……」

顧問「あんな無茶な泳ぎ方をして、どれだけ身体に負担が掛かるか、本人である君が一番よくわかっているはずですよ」

後輩「でもタイムは出ています」

顧問「そういう事を言っているんじゃありません。僕は君を水泳選手としてではなく、一個人として心配しています」

後輩「そうですか」

顧問「今に心肺機能に影響が出てきますよ。悪いことは言いません、フォームを変えなさい」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:01:39.87 ID:z/uHSnyf0

後輩「そのつもりはありません」

顧問「どうして……どうしてそんなに頑な何ですか」

後輩「この泳ぎ方が好きだからです」

顧問「……」

後輩「……」

私(それきり2人は黙ってしまった)

私(私はその場を離れ、職員室で鍵を返した)
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:03:22.72 ID:z/uHSnyf0

ピロン

後輩「せんぱい(^ ^)」

私「どうしたの?」

後輩「明日暇です。先輩に会いたい(_ _)」

私「いいよ。何して遊ぼっか」

後輩「良かったら、私の家に来ませんか?」

私「お家でいいの?」

後輩「はい。先輩が嫌じゃなければ……」

私「嫌じゃないよ。楽しみにしてるね」

後輩「(๑ᴖ◡ᴖ๑)」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:05:21.28 ID:z/uHSnyf0

──後輩の家──

私「お邪魔します」

後輩「ふふ。ようこそです」

私「これ、つまらないものだけど」スッ

後輩「わぁ、ありがとうございます。今日は両親が留守なので、後で渡しておきますね」

私「あ、うん」

後輩「私の部屋は2階の突き当たりです。お茶を淹れてくるので先に入っててください」

私「わかった。ありがとう」

私(余談だが、後輩は一人っ子だ)
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:06:18.34 ID:z/uHSnyf0

──

私(後輩の部屋はよく整頓されていてキレイだった)

私(でも、まるでショールームで展示されている部屋みたいだとも思った)

私(黒い本棚には、漫画本は1冊も置いていなかった)

後輩「お待たせしました」ガチャ

私「……」

後輩「どうかしましたか?」

私「ううん、なんでもない」

私(私たちは雑談をしたり雑誌を読んだりして過ごした)
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:08:10.44 ID:z/uHSnyf0

──

後輩「……そうだ、先輩」

私「何?」

後輩「もうすぐ水泳部の大会があるんです。私、出場することになって」

私「あー。夏祭りのときにちらっと言ってたやつか。おめでとう」

後輩「ありがとうございます。それで、もしご都合がよろしければ、見に来て欲しいなって」

私「いいよ。大会はいつ?」

後輩「七夕の日です。だから無理に来てとは言いません」

私「そんな、もちろん大会を見に行くよ。観客席から精一杯応援してるからね」

後輩「……はい!」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:09:21.94 ID:z/uHSnyf0

私(後輩はベッドに寝転んだ)

後輩「……先輩は、優しいですね」

私「ん? どしたの急に」

後輩「急ではありません、ずっと思っていたことです。それこそ6月に出会ってから、今までずっと……」

私(後輩はベッドにうつ伏せになりながら言った)

後輩「どうして抵抗しなかったんですか」

私「……何の話?」

後輩「夏祭りのときの、手の話です」

私「あぁ」

私「だって、別に嫌じゃなかったから」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:12:01.92 ID:z/uHSnyf0

後輩「……」

私「……」

後輩「……私は、先輩には幸せになって欲しいです」

私「私だって、あなたに幸せになってもらいたい」

後輩「先輩……先輩は本当に優しい人ですね」

私「それはさっきも聞いたよ」

後輩「何度だって言わせてください。先輩……優しい先輩……」

私(後輩の声が何故震えているのか私には分からなかった)
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:13:18.92 ID:z/uHSnyf0

──大会当日──

私(席に座って開会を待っていると、見知った顔が話しかけて来た)

幼馴染「よぉ、奇遇だな」

私「……なんであんたがいるの」

幼馴染「俺は午後から始まる男子水泳部の応援に来たんだ」

私「今はまだ午前だよ? 午後から来ればいいじゃん」

幼馴染「た、たまたま朝早く目が覚めたんだよ。ほら隣開けろ、俺座るから」ズイ

私「わ、ちょっと」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:15:05.27 ID:z/uHSnyf0

──

アナウンス「続いて、女子50m自由形です」

幼馴染「おい、例の後輩ちゃん出て来たぞ」

私「分かってるって」

私(後輩は特に緊張した様子もない表情をしていた)

私「……こういう場に強そうだもんね」

幼馴染「ん、何か言ったか?」

私「なんでもないよ」

パァン

私(ピストルの音を合図に選手たちが一斉にスタートした)

私(市民プールで見たときと同じように、後輩は1度も息継ぎをしなかった)
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:16:00.26 ID:z/uHSnyf0

オオー!

私(1着は後輩だった)

私(水泳に詳しくない私にはピンとこなかったが、おそらくすごいタイムなのだろう)

私(観客のどよめきからそう想像した)

後輩「はぁ、はぁ、はぁ……」

幼馴染「やったな、お前の後輩1位だぜ」

私「うん。すごいよ」

後輩「……」

私(後輩はよっぽど力を出し切ったのか、息を切らして控室へと去っていった)

私(その後の表彰式でも、後輩の顔色は優れないままだった)
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:17:41.90 ID:z/uHSnyf0

──

部員「おめでとー! あの大会で1位取っちゃうなんて、この部始まって以来の快挙だよ!」ギュ

後輩「あ、ありがとうございます」

顧問「よく頑張りましたね」

後輩「先生……はい。ありがとうございます」

部員「この後打ち上げやろうよ。部のみんな集めてパーっと盛大に。ね、先生!」

後輩「……」

顧問「いえ、お祝い会はまた今度にしましょう。今は何よりも先に身体を休めるべきですから」

バイバーイ

後輩「……はぁ」

私「お疲れ様」

後輩「!!」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:19:11.29 ID:z/uHSnyf0

後輩「せ、先輩。どうしてここに」

私「直接おめでとうって言いたくて来ちゃった。邪魔だったかな」

後輩「そんなことな──」クラッ

ギュ

私「え、ちょっと……」

後輩「……」ハァハァ

私「! すごい熱……!」

私(ぐったりして動けない後輩をおぶり、近くの公園まで運んだ)
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:20:44.39 ID:z/uHSnyf0

後輩「はぁ、はぁ……」

私「待っててね。今救急車を呼ぶから」

後輩「大丈夫です。少し休めば治りますから」

私「そんな軽い症状に見えないよ」

後輩「……少し前からこうなんです。無呼吸で泳ぐと息切れだけじゃなく、体調自体がひどく悪くなってしまって」

私「……」

後輩「やっぱり人は、息を止め続けることなんて不可能なんですねぇ」

私「そんなの、当たり前でしょ」

後輩「えへへ……はい」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:21:48.60 ID:z/uHSnyf0

私(私は後輩を膝枕で寝かせた。10分ほど経つと呼吸は正常に戻っていった)

後輩「……あ、短冊」

私「え?」

後輩「あそこの笹の葉に、短冊が結びつけてあります」

私「あぁ。そういえば今日は七夕の日だったね」

後輩「お願い事する暇なかったなぁ」

私「……私は書いたよ。朝、大会を見に行く前に」

後輩「え、そうなんですか」

私「うん。あなたが優勝できますようにって書いた」

後輩「!!」
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