私「後輩のプールバッグには百合漫画が入っていた」

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48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:24:44.73 ID:z/uHSnyf0

──お盆──

私(高校生になってから実家には1人で帰ることにしている)

私(去年と違うのは、電車の隣に可愛い女の子が座っていることだ)

後輩「? 私の顔に何か付いてます?」

私「ううん。そのワンピース、よく似合ってるね」

後輩「!……。も、もう先輩ったら」

私「でも、付いてきて良かったの。私の実家帰りなんてきっと退屈でつまらないよ」

後輩「いいえ。前にも言いましたが、少し遠出したかったんです」

私「それなら、お盆の後にでも好きなところに連れて行ってあげたのに」

後輩「いいんです。私はこれで……」スッ

私(後輩は頭を私の肩に乗っけた)
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:26:22.48 ID:z/uHSnyf0

──

祖父「おおー。よく来たねぇ」

祖母「1年ぶりね。さ、上がって上がって」

私「ありがとう。お爺ちゃんお婆ちゃん」

祖父「おや、そっちの子は?」

私「私の後輩なの。一緒に行きたいって言うから、連れてきちゃった」

後輩「こんにちは。先輩にはいつもお世話になっています」

祖母「うふふ、歓迎するわ。さぁこっちに座ってね」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:28:19.09 ID:z/uHSnyf0

チリンチリン…

祖父「スイカを切ったぞ。たんと召し上がれ」

祖母「リンゴも切ったわ。いくらでも食べてね」

祖父「婆さんや。そんなにフルーツはいらないだろう。2人とも若いんだ、昨日の肉じゃがでも出してやればいいじゃないか」ジロ

祖母「爺さん、何を言ってるの。女の子なんだから美味しい果物を喜ぶはずよ」キッ

後輩「あの、お構いなく……」

私「大丈夫。もう少し見てて」

祖父「何を! 婆さんの料理は最高なんだから、そっちを優先して食べさせてあげるべきだろう!」

祖母「そんなことないわ! 爺さんの育てた果物の方がよっぽど美味しいわよ!」

私「毎度毎度こんな感じなの。夫婦漫才みたいなものだから気にしないで」

後輩「あはは……」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:29:47.21 ID:z/uHSnyf0

ゴチソウサマー

祖父「そういえば、あの幼馴染くんとは上手くやっているのかい?」

私「え?」

祖父「ほら、小さい頃はよく一緒に遊んでいたあの男の子だよ。今でも近所に住んでいるんだろう」

私「そりゃたまに顔は合わすけど……上手くって?」

祖父「もうお前も年頃の娘だ。ボーイフレンドの1人ぐらいいるんじゃないか」

祖母「もう爺さん。孫娘にそんなデリカシーのない聞き方をしないでくださいよ」

祖父「婆さんだって気にしていたじゃないか」

祖母「私が言っているのは聞き方の話で……」

私「はいはい。残念ながら恋人はいないから、この話はおしまい」

祖父「つまらんの。せっかく恋話に花を咲かそうと思っていたのに」

祖母「爺さんや、もうそんな歳じゃないでしょう」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:30:55.79 ID:z/uHSnyf0

祖父「そうだ。そっちのベッピンさんはどうなんだ?」

後輩「え?」

祖父「それだけキレイなんだ。言い寄ってくる男も多かろう」

後輩「えーと、私は……」

私「お爺ちゃん」キッ

祖父「! わ、悪い悪い。でもそんな睨まんでも……」

祖母「全く。爺さんの恋愛脳ぶりには困ったものですね」

祖父「ふふ。気になるのは他人の恋路だけだよ。わしにはすでに婆さんがいるからの」

祖母「爺さん……」

私「はいはい、勝手にやってて。私たちは今日泊まる部屋に入ってるから」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:31:42.67 ID:z/uHSnyf0

──

私「ごめんね。2人に悪気はないんだけど」

後輩「いえ。お爺さんたちとっても仲良しでしたね」

私「まぁ、昔からああだよ。両親にも見習って欲しいぐらい」

後輩「……」

私「幼馴染の話もさ、あの2人がまさに幼馴染結婚なんだ。だからきっと変に意識してるんだろうね」

後輩「なるほど」

私「何にせよ古い考え方だよ」

後輩「でも、古いということはそれだけ長く続いているということでもあります」

私「? どういう意味?」

後輩「いえ……」

私(水泳大会後の後輩は、どこか元気がなかった)
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:33:26.68 ID:z/uHSnyf0

──夜──

祖父「それじゃあまた明日」

祖母「おやすみなさい」

バタン

私「……眠れそう?」

後輩「……いえ。まだ眠くありません」

私「少し散歩しようか。誰もいないから気持ちいいよ」

後輩「いいんですか?」

私「お爺ちゃんたちには秘密ね。一緒に歩きたいなんて言われたら断りにくいから」

後輩「うふふ。わかりました」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:34:37.45 ID:z/uHSnyf0

リンリンリン…

私「虫の声だ」

後輩「いいですね。風情があって、夏っぽくて」

私「うん……私、四季の中だと夏が1番好きだなぁ」

後輩「あ、そうなんですね。意外です。てっきり苦手なものかと」

私「そうかな。インドア派だけど、夏は好きだよ」

後輩「私も夏が一番好きです。泳ぐのに一番いい季節だから」

私「……8月ももう折り返しなんだね」

後輩「はい……市民プールで話したのが1ヶ月近く前だなんて、やっぱり信じられません」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:36:24.30 ID:z/uHSnyf0

私「思い出に残る夏になった?」

後輩「……ええ。部活で忙しい中でも、先輩とたくさん遊べて満足です」

私「ふふ。まるで私だけが夏の思い出みたいな言い方するんだね」

後輩「先輩だけですよ。私にとっては」

私「え?」

後輩「……」

私「……」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:38:20.80 ID:z/uHSnyf0

後輩「……先輩のお爺さんとお婆さん、とても楽しそうでしたね」

私「ん、そうだね」

後輩「将来の私たちは、あんな風に笑えるのかな」

私「え……?」

後輩「時が過ぎないのなら、ずっと子供ままなら、それは美しいものかもしれません」

後輩「しかし時間は経つものです。夏休みに始まりと終わりがあるように」

私「……あなたの話はたまに難しいね」

後輩「……帰りましょうか」

私(翌朝。起きてダイニングを見ると、昨日剥かれたリンゴが置いてあった)

私(リンゴは酸化して、すっかり黒くなってしまっていた)
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:40:45.82 ID:z/uHSnyf0

──

私(お盆から幾日が経ち、夏休みもそろそろ終わるという頃、後輩からメッセージが届いた)

後輩「こんばんは。お久しぶりです(^ ^)」

私「うん。久しぶり」

後輩「明日の夜。少しお時間を貰えませんか」

私「うん。いいよ」

後輩「集合場所は学校の校門前でお願いします(_ _)」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:43:11.25 ID:z/uHSnyf0

──夜・校門前──

私「こんばんは。ごめんね、待たせちゃった?」

後輩「いえ。もともと私は準備があったので」

私「準備?」

後輩「この鍵でプールまで侵入します」スッ

私「……へ?」

後輩「さぁ行きますよ先輩!」ダッ

私「ちょ、ちょっと! 私何も聞いてないんだけど!」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:44:55.92 ID:z/uHSnyf0

──プール──

私「はぁ、はぁ。こんなの先生たちにバレたら何て怒られるか……」

後輩「えへへ、見てください。夜のプール、幻想的でキレイでしょう?」

私「そりゃあキレイだけど……もしかしてこの景色を見せるためだけに不法侵入を?」

後輩「それは理由の半分でしかありません。もう半分は──」バッ

私(後輩は服を脱ぎ捨て、水着になってプールに飛び込んだ)

ザパーン!

私「……」ポカーン

後輩「気持ちいいです。先輩もどうですか!?」

私「み、水着なんて持ってきてるわけないでしょ!」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:46:29.61 ID:z/uHSnyf0

後輩「実は、今日は頼みがあって先輩を呼んだんです」

私「頼み?」

後輩「はい。そこで浸水のタイムを計ってくれませんか」

私「浸水って……どれくらい潜っていられるかってこと?」

後輩「そうです」

私「いいけど、私ストップウォッチの用意なんてしてないよ」

後輩「スマホのアプリを使ってください」

私「あー……そういえばそんな機能あったね。ちょっと待ってて、どこから起動するんだっけ……」ポチポチ

後輩「先輩」

私「んー、まだ何かあるのー?」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:48:43.56 ID:z/uHSnyf0

後輩「人が老化する仕組みをご存知ですか?」

私「あった、これだ。……老化?」

後輩「人は、息を吸うから老化するんです。呼吸によって酸素が体内に入ることで酸化して錆びていく。人間もリンゴも、時間が経つ仕組みは同じなんですよ」

私「ええと……何の話してるの?」

後輩「市民プールで言いましたよね。私は息を止めるのが好きだって」

後輩「息を止めると、その間だけ時間が止まるんです」

後輩「だから、そこで見ていてね。先輩」

私(後輩はそこまで言い切ると、音もなく水中に潜っていった)

私(私はタイマーをスタートさせた)
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:51:15.61 ID:z/uHSnyf0

私(私はこの夏のことを思い出していた)

私(市民プールから始まって、夏祭り、後輩の部屋、七夕の水泳大会、お盆の帰省……)

私(後輩はその間、何を考えていたんだろう)

 後輩『このまま時間が止まればいいのに』

私(花火のときに呟いたあの言葉は、どういう意味だったんだろうか)

私(タイマーは止まることなく進んでいく)

私「……」

私(私がこのまま何もしなければ、後輩は二度と浮かび上がってこない)

私(そんな予感がした)
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:52:21.84 ID:z/uHSnyf0

私「ダメっ!!」

ザプンッ

私(私が飛び込むと同時に、後輩が水面から飛び出してきた)

後輩「ぷはっ」

私「あ……」

後輩「はぁはぁ……ふふ、やっぱり飛び込んで来ましたね、先輩っ」

私「……」ポカーン

後輩「あはは。分かっていました。だって先輩は優しいですから!」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:53:15.29 ID:z/uHSnyf0

私「ば、バカ! 何考えてるの!」

後輩「うふふ、あははははっ」

私「もう、笑い事じゃ……」

後輩「ふふふ……先輩も知っていたんですね。私が息を止め続けられられないってこと」

私「そんなの、当たり前じゃない」

後輩「そうです。当たり前なんです。私も先輩も最初から分かっていたんですよね」

私「……」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:55:27.45 ID:z/uHSnyf0

後輩「先輩」

私「何?」

後輩「……私、泳ぎ方を変えようと思います」

私「え?」

後輩「無呼吸の泳ぎ方から、普通の息継ぎするクロールに変更します」

私「……」

後輩「……夏ももう終わりですねぇ」

私(確かに蝉の声はもう聞こえなかった)
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:56:39.22 ID:z/uHSnyf0

──

私(夏休みが終わり、新学期が始まった)

私(9月の間、私と後輩が話すことはなかった)

私(後輩は明らかに私を避けていた。廊下ですれ違いそうになった時、後輩はわざとらしく目を背けた)

私(窓を見ると外は大雨だった)

私(私は思い出す。後輩と始めて出会ったあの6月も、今日のような雨模様だったと)
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:58:05.96 ID:z/uHSnyf0

──回想──

私『傘忘れたの?』

後輩『……え?』

私『急に降ってきたもんね。私置き傘持ってるから、このビニール傘あげるよ』

後輩『そんな。悪いですよ』

私『いいんだよ。その制服はうちの学校のだし、そのネクタイの色は1年生の色だもの』

後輩『え、もしかして学校の先輩ですか?』

私『うん。よろしくね』
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 10:59:37.41 ID:z/uHSnyf0

──

私『……転校生?』

後輩『はい。転校生なのか転入生なのか、呼び方は私自身よくわかっていないんですけど』

私『へぇ。とにかく外から引っ越してきたんだね。どこから来たの?』

後輩『東京から来ました』

私『そうなんだ……東京と比べると、ここでの高校生活は色々と退屈に感じるかもしれないね』

後輩『いえ……むしろ、心機一転という意味ではいいタイミングだったかもしれません』

私『どういうこと?』

後輩『……私、失恋したんです』
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:00:49.34 ID:z/uHSnyf0

私『し、失恋……』

後輩『……でも、いいんです。叶わない恋だってことは最初から分かっていましたから』

私『へぇ。あなたみたいな美人にそうも言わせるだなんて、相手は相当モテる人だったんだろうね』

後輩『……親友でした。私がそう勝手に思っていただけかもしれませんけど』

後輩『でもある日突然「恋人ができた」って、私の知らない人を紹介されて。私、頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃって』

後輩『……友情と恋愛感情を履き違えていた私が悪いんです」

後輩『それに、私がその人が結ばれても、幸せになれる未来はきっとなかったから……』

後輩『……こっちの高校では心機一転、そんな勘違いをしないよう上手くやろうと思います』ニコ

私『……』
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:01:41.87 ID:z/uHSnyf0

私『……会ったばかりの私がこんなこと言う資格ないのかもしれないけど』

後輩『?』

私『上手くやるとか、あんまり考えないほうがいいと思うよ』

後輩『え?』

私『……私の両親、おしどり夫婦で近所では有名だったんだ』

私『2人の仲の良さは両親の親でさえ疑ってなかったし、私だって信じていた』

私『それが突然崩壊した。一昨年のことだったよ、離婚したんだ』

後輩『……!』
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:03:03.16 ID:z/uHSnyf0

私『理由はお父さんの暴力とかお母さんの浮気だとか風の噂で聞いたけど、理由なんて私にはどうでもいいことだった』

私『別に怒ってもいない。ただ、可哀想だなって』

後輩『可哀想?』

私『私の前で2人は良い人の仮面を絶対に崩さなかった。取り繕ってくれていたんだ、私のために』

私『だから可哀想だし悲しい。その嘘が私を含めた全員を不幸にしたんだから』

後輩『……』

私『上手くやろうと誤魔化した分の代償は、自分と相手に必ず帰ってくるよ』

私『だから……ってこれじゃあまるで説教だよね。ごめんね、何だか他人事に思えなくてさ』
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:05:08.16 ID:z/uHSnyf0

後輩『……』

ピタ

後輩『……先輩』

私『ん?』

後輩『明日もこの場所で会えませんか』

私『いいけど、何で?』

後輩『1人じゃ勇気が出ないから……』

私『……』

後輩『明日、その親友に電話をかけようと思います』

後輩『何も言わずこっちに来ちゃったから。別れの挨拶と、元気でやってるよってことと』

後輩『……好きだったってことも、ちゃんと伝えようと思います』
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:06:08.05 ID:z/uHSnyf0

私(翌日、後輩は緊張した面持ちで電話をかけた)

私(相手の声は聞こえなかったけど、ちゃんと気持ちを受け取ってもらえたようだ)

私(笑顔で話す後輩の横顔から、それがわかった)

私(この出会いがあって以来、後輩は私によく懐くようになった)

私(次第に学校だけでなくプライベートでも遊ぶようになった)

私(私たちは学年も部活も全然違ったけど、性格的には気が合った)

私(市民プールに行こうと誘われた。楽しみだ、どんな水着を着て行こう……)
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:07:44.99 ID:z/uHSnyf0

──

オイオキロ オキロッテ…!

私「ん……」

幼馴染「教室で爆睡する奴があるか。起きろ寝坊助」

私「あれ……私、寝てたんだ」

幼馴染「もうとっくに放課後だぜ。夕方になって部活動の連中も帰り始める時間だ」

私「起こしてくれてありがとう」

幼馴染「!……。お前、泣いていたのか?」

私「え?」

私(机に涙の痕が残っていた)
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:09:07.00 ID:z/uHSnyf0

私「あ……これは……」

幼馴染「……ほら、ハンカチだ。使えよ」

私「え?」

幼馴染「ヨダレってことにしといてやるから、早く拭け」

私「な、何それ。女子に言うセリフじゃなくない?」

幼馴染「……」

私「……ありがと」ゴシ…
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:10:29.40 ID:z/uHSnyf0

幼馴染「……後輩のことか?」

私「!!」

幼馴染「水泳部ならちょうど今が帰宅時間のはずだぜ。走れば間に合うぞ」

私「ど……どうして後輩のことだって分かったの?」

幼馴染「バカ。何年お前の幼馴染やってると思ってるんだよ」

私「……」

幼馴染「行って来いよ。ハンカチは後で返してくれればいいから」

私「うん。ありがとう」

タタタ

幼馴染「……本当バカだよな。何年お前に片思いしてると思ってんだよ、全く」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:11:39.48 ID:z/uHSnyf0

サヨナラー

顧問「はい。さようなら」

私「はぁ、はぁ……」タタタ

顧問「ん?」

私「あ、あの、部員の子たちは」

顧問「今ちょうど全員帰ったところですけど……」

私「そう、ですか」ハァハァ

顧問「誰かに用があったんですね。すみません、いつもはもう少し遅くまでやってるんですが」

顧問「今は遠征前の大事な時期なので、早めに返しているんですよ」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:13:10.38 ID:z/uHSnyf0

私「遠征……?」

顧問「はい。寒くなるとプールは使えませんから、暖かい場所に行ってしばらく練習するんです」

顧問「もちろん水泳部員全員が行くわけではありません。参加するのは大会出場メンバーだけです」

私「……遠征はいつから始まるんですか?」

顧問「どなたかの見送りですか? 10月初週の土曜日です」

顧問「ただ、うちのエースの子だけは1日だけ早く出るので、金曜日に出発するはずですね」

私「……」

顧問「彼女は良い水泳選手になりますよ。初めこそ無理な泳ぎばかり繰り返していましたが」

顧問「今では誰よりも自然体で泳ぐことができています。彼女の将来が楽しみです」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:14:25.85 ID:z/uHSnyf0

──

私(後輩が遠征に旅立つ日の前夜)

私(私は両親に順番に電話をかけた)

私(仕事中だったけど、2人はちゃんと会話をしてくれた)

私(私は「怒ってないよ」と言った)

私(それは、当初からの本音だったけど、言葉して伝えるのは初めてだった)

私(その日は深い眠りにつくことができた)

私(夢は何も見なかった)
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:16:05.72 ID:z/uHSnyf0

──駅のホーム──

後輩「……」

私「……」

後輩「……お久しぶりです。先輩」

私「今日は避けないんだね」

後輩「別に、避けてたわけじゃ……」

私「……」

後輩「ごめんなさい嘘です。避けてました」

私「あはは」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:17:37.45 ID:z/uHSnyf0

後輩「電車が来るまでまだあります。あっちのベンチで少し話しましょう」

私「うん。そうしよう」

トサッ

後輩「……先輩。ブレザー似合いますね」

私「ん?」

後輩「ほら、私のやって来た時期的に冬服を見ることはなかったから、新鮮だなって」

私「なるほどね。ありがとう、あなたも似合ってるよ」

後輩「そ、そうですか。ありがとうございます……」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:18:17.21 ID:z/uHSnyf0

私「でもなんでブレザー着てるの。私服でいいんじゃないの?」

後輩「遠征といえど学校行事の一環なので、服装はちゃんとしないとと思って」

私「ふーん。あなたって変なところで真面目だよね」

後輩「変なところって……あれ。そういう先輩はどうしてブレザーを、というか今日って金曜日じゃ」

私「学校サボっちゃった」

後輩「え、えー! ダメですよちゃんと授業受けなきゃ!」

私「いいんだよ。物事には優先順位ってものがあるんだから」

後輩「もう……先輩は変なところで不真面目です」

私「ふふふ。そうかな」
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:19:39.76 ID:z/uHSnyf0

後輩「そのハンカチ、見ない色ですね。そんなの持っていましたか?」

私「あぁ、これは幼馴染から預かってるやつ」

後輩「え? な、なんでハンカチを?」

私「泣いてるところ見られちゃって、慰められちゃった」

後輩「な、慰め……!? その話、詳しく聞かせてもらってもいいですか?」ジト

私「どうしてあなたが気にするの?」

後輩「それは……せ、先輩の意地悪」

私「ごめんごめん」フフ
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:21:29.07 ID:z/uHSnyf0

後輩「先輩」

私「んー?」

後輩「……遠征のこと、黙っていてすみませんでした」

私「……いいんだよ、あなたの気持ちは分かってるつもりだから。怒ってないよ」

後輩「帰ってきたら一緒に旅行しましょう。今度は私が先輩を連れて行きます」

私「うん。ありがとう」

後輩「東京観光なんてどうですか? 私、案内できますから」

私「いいね。行ってみたいな」

後輩「はい、楽しみにしていてください。きっと期待を超えて見せます」

私「ハードル上げるね。ふふ……」

後輩「あはは……」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:22:53.70 ID:z/uHSnyf0

後輩「……」

私「……」

後輩「先輩」

私「何?」

後輩「最後にキスをしてもいいですか?」

私「うん。いいよ」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:25:15.29 ID:z/uHSnyf0

私(キスをするのは初めてだった)

私(だけど、唇が触れ合う瞬間息を止めることは本能的に知っていて)

私(唇が離れるまで、私たちの時間は確かに止まっていた)

私(今ならあなたの気持ちが分かるよ)

私(このまま時間が止まればいいのに)
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:27:29.25 ID:z/uHSnyf0

──

後輩「……じゃあ、行ってきます」

私「うん。行ってらっしゃい」

後輩「遠征先でもメールしますね」

私「ありがとう。待ってるよ」

後輩「また会いましょう。それでは」

私「うん。バイバイ」

ガタンゴトン…ガタンゴトン…
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:28:56.14 ID:z/uHSnyf0

私(電車が見えなくなるまで私は同じ場所に立ち続けた)

私(ホームから見える紅葉が時間の流れを感じさせる)

私(ベンチを振り返ると、見覚えのあるプールバッグが置いてあった)

私(後輩が忘れていった物だ)

私「……後で先生に届けに行こう」

私(バッグは半開きになっていた。私はそっと中身を覗いて見る)

私(中には水泳道具しか入っていないようだった)

私(百合漫画はもうここにはない)
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:29:58.01 ID:z/uHSnyf0

──

私(後輩のプールバッグには百合漫画が入っていた)

私(今ではきっと、部屋の本棚に飾ってある)



おわり
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:31:29.49 ID:z/uHSnyf0

お疲れ様でした。

見てくださった方、ありがとうございました。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/04(日) 11:32:29.39 ID:z/uHSnyf0

よかったら過去作も見てください

https://twitter.com/D3fwYD4HVaHoHWf
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/04(日) 14:30:43.30 ID:r73ESONgo
おつー
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/05(月) 07:05:22.21 ID:ed+ULYgZO
その後も書かずに終わろうなんて甘い考えはやめなさい!
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/07(水) 09:22:37.41 ID:y3PbdOrqo
すごくよかった👍
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/26(月) 01:19:11.26 ID:aWCZvrbYo
良き!
おつおつ
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2024/01/29(月) 22:15:43.42 ID:FI8X1LkQO
【テレビ】漫画『セクシー田中さん』『砂時計』『Breed & Butter』作者・芦原妃名子さん(50)と見られる水死体を栃木・川治ダムで発見。日テレでドラマ化→ストーリー改変にXで意義→全SNS削除、28日に失踪。自殺か★14 [おっさん友の会★]
https://hayabusa9.5ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1706533681/
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