白雪千夜「今日はお前とふたりきり……?」

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1 : ◆C2VTzcV58A [saga]:2019/09/30(月) 00:12:37.43 ID:rPMEZBG40
P「何故距離をとる」

千夜「生物には危機感知能力というものがあります」

P「俺の後ろに虎でも見えたのか?」

千夜「獣の気配は感じましたが」

P「そうか? ははっ、俺も少しはワイルドな男の雰囲気を身に着けてきたのかな」

千夜「ワイルドなのは勝手ですが、スーツを着ているならネクタイくらいちゃんと締めてください。少し曲がっている」

P「え、マジか」

千夜「大マジ」

P「どれ……んー、自分じゃよくわからないなぁ」

千夜「はぁ。仕方ありませんね」クイッ

P「うおっ」

千夜「ほら、これで直りました。以後、気をつけるように」

P「ありがとう。今日はサービスがいいな」

千夜「お嬢さまがいる前では絶対にしないのでご安心を」

P「ラブラブだとか、変に煽られるもんな」

千夜「お嬢さまの言動には日々振り回されることが多いですが、あれに関しては特に理解が及びません。何故私がお前と……」

P「『ひゅーひゅー、まるで新婚さんみたい♪』とか言ってくるもんな」ハハッ

千夜「お前、その身の毛がよだつお嬢さまの声真似を今すぐやめろ……さもなくば」ピキキ

P「下手に真似してすみませんでした……」

千夜「『噛みついちゃうよ?』」

P「前から思ってたけど、千夜はちとせの声真似めっちゃうまいよな」

千夜「噛み殺すよ?」

P「それは言ったことないだろ」

千夜「4,5年前の腐女子時代にはよく言っていました」

P「さらっとパーソナリティーが開示されている」

千夜「お前を殺す」

P「デデン!」

千夜「これは私がよく言っています」

P「物騒」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1569769957
2 : ◆C2VTzcV58A [saga]:2019/09/30(月) 00:15:32.39 ID:rPMEZBG40

千夜「しかし、お前は複数担当アイドルを持っているのに、今日ここにいるのは私だけですか」

P「そういう日もあるさ」

千夜「自分とお嬢さまのスケジュールしか確認していないのは迂闊でした」

P「ちとせは実家の集まりに呼ばれてるんだっけ? 本人から聞いたよ」

千夜「はい」

P「千夜は行かなくてよかったのか? 使用人って立場なんだろう」

千夜「……名家には、色々な事情があるのです。私のような『半端者』を、快く思わない者もいる。今日の集まりは、私が行かないほうがお嬢さまの立場を悪くせずにすむと判断しました」

P「……ごめん。聞かなくていいことを聞いてしまったな」

千夜「別に気にしていません。自分の立ち位置は、心得ているつもりです」

P「千夜……」

千夜「それに、お前のそういった言動は今に始まったことではないでしょう。諦めています」

P「なんだか複雑な評価だ」

千夜「担当アイドルの心に踏み込む。そうやって、今までも関係を築いてプロデュースしてきた。お前はそれが正しいと信じているのでしょう。なら、お前はそのままでいい」

P「……ありがとう。千夜」

千夜「これからも、仕事だけの関係では満足できないプロデューサーとして頑張ってください」

P「その表現は誤解を招くからやめてほしいな!」

千夜「あと私は拒絶する時は容赦しませんのでお覚悟を」

P「怖い」

千夜「あと万一お嬢さまの心を傷つけた際は」

P「注文が多い」

千夜「デデン」

P「殺される!」

千夜「では、レッスンに行ってきます」

P「ああ、頑張ってきてくれ」

千夜「……私が言えたことではありませんが、お前は切り替えが早いですね」

P「それが大人ってやつだ」

千夜「おとな……オトナ……」

P「スマホで調べても多分『オトナ』って単語は一種類しか出てこないと思うぞ?」

千夜「乙名(おとな)とは、惣村の指導者の一種。惣村とは、中世日本における百姓の集落を指す」

P「一種類じゃなかった」

千夜「デデン」

P「えっそれだけで殺されるの俺」

千夜「一人前の大人の言葉には責任が伴うと教えられました」

P「くっ、悔しいがそれっぽい言葉だ……!」
3 : ◆C2VTzcV58A [saga]:2019/09/30(月) 00:16:43.31 ID:rPMEZBG40
千夜「戻りました。今日のレッスンはこれで終わりです」

P「ああ、お疲れ様。頑張った千夜にご褒美があるぞ」

千夜「ご褒美?」

P「ああ。ほら、新装開店のケーキ屋で買ってきたんだ」

千夜「ケーキですか」

P「嫌いだったか?」

千夜「いえ、いただきます」

P「よかった。いやぁ、普段は全員分買うと財布が軽くなっちゃうからなぁ」

千夜「コーヒーと紅茶、どちらがいいですか」

P「淹れてくれるのか?」

千夜「ケーキを用意してもらったのですから、飲み物くらいはこちらが用意するのが当然でしょう」

P「なら、コーヒーを頼めるか?」

千夜「わかりました」パタパタ


P「……そうか。何か食べ物を用意すれば、普通に千夜にコーヒーを淹れてもらえるのか」

千夜「お前、今下らない悪知恵を思いついていないか」ニュッ

P「うわぁっ!?」






千夜「お待たせしました。コーヒーです。ミルクと砂糖はお好みでどうぞ」

P「ああ、ありがとう。じゃあ早速」


P・千夜『いただきます』



P「うん、うまい。やっぱりこの時期はモンブランだな」

千夜「栗の季節ですからね。モンブランだけでも種類が増える時期です」

P「でも、千夜が普通にもらってくれてほっとしたよ。お嬢さまに持って帰ります、とか言われるかと思った」

千夜「言うわけないだろう。ケーキは鮮度が命なのですから」

P「はは、そりゃそうか。それにちとせなら、普段からもっと高級なケーキ食べてるだろうしな」

千夜「お前、そういうことを言うものではありません。こういうものは、誰がどういう気持ちで買ってきたのかが大事なのです」

P「千夜……そうだな、ありがとう」

千夜「そう、誰がどういう気持ちで……誰が……」

千夜「………」

P「今価値が下がったような顔をしなかったか?」

千夜「していませんが」

P「じゃあ点数で評価してみてくれ」

千夜「……いいのですか? 点数を言っても」

P「やっぱり怖いからいいです」

千夜「賢明な判断です」ハムハム

P(……まあ、これだけおいしそうに頬張ってくれてるなら、点数なんて聞く必要ないよな)
4 : ◆C2VTzcV58A [saga]:2019/09/30(月) 00:18:46.01 ID:rPMEZBG40
P「………」

千夜「………」ペラ

P「千夜、まだ帰らないのか?」

千夜「お嬢さまは今日一日戻られないので、家に戻っても特にやることがありません」

P「そうか。なら、ちょっと部屋の掃除でも手伝ってくれないか」

千夜「掃除?」

P「ちょっと散らかってきちゃってるからな。ちょうど誰もいないし、片付けておこうかなって」

千夜「……まあ、とりたててすることもないので。時間潰しにはちょうどいいですね」

P「ありがとう。じゃあ早速」

千夜「駆除、開始」

P「……駆除?」


P(その時、俺は夏のある日のことを思い出した)


ちとせ『夏にぴったりの怖い話をしてあげる』

ちとせ『あれは、遠い夏の日。千夜ちゃんが僕としての仕事に慣れてきたある日のことだった』

ちとせ『炊事、洗濯、家事、オヤジ。一通りのスキルを習得した千夜ちゃんは、使用人として完成しつつあった』

ちとせ『え? オヤジは私だって? 華のJKに向かってそれはないんじゃない?』

ちとせ『とにかく、成長していく千夜ちゃんを信頼していた私は、自分の部屋の掃除を命じてみたの。少しの間リビングでくつろいでるからよろしくーって』

ちとせ『そう、ただ部屋を綺麗にしてほしかった……それだけだったのに』

ちとせ『1時間後。部屋に戻った私を待っていたのは――』



千夜『――ああ、お嬢さま。今、全てを葬ったところです』


ちとせ『満足げにゴミ袋を掲げる姿は、さながら血塗れのサンタクロース』

ちとせ『すこーしだけ散らかっていた私の部屋は、世界再構成ENDを迎えたかのようにまっさらに早変わり』

ちとせ『愕然と膝をついた私に駆け寄る千夜ちゃんを見て、私の口からは自然とある言葉が飛び出していた』


ちとせ『……アポカリプス……』


ちとせ『そういうわけで、あの子に個室の掃除だけは任せてはいけません。捨てることに固執するので』

ちとせ『どう? ひんやりした?』

P『最後のオヤジギャグが寒かった』

ちとせ『あは♪ 血吸ってホントに冷たくしてあげよっか』



P(そう。そんな夏の日の思い出から、俺は千夜に掃除をさせてはいけないことを悟った)

千夜「……? どうしたのですか、急に立ち止まって」

P「千夜、掃除はまた今度にしよう」

千夜「は? お前が言い出したのではないですか」

P「いや……よくよく考えると、もっと大勢がいるときに力を合わせたほうが効率がいいと思ってな。はは」

千夜「……まあ、どうしようとお前の勝手ですが。埃が飛ぶので、お嬢さまがいる時には控えるように」

P「わかってるよ」

千夜「しかし、身体を動かす体勢に入っていたので少し拍子抜けですね……」

P「うーん。だったら自主レッスンとかどうだ? 俺も付き合うよ」

千夜「お前も?」

P「たまには俺も運動しないと、健康によくないからな」
5 : ◆C2VTzcV58A [saga]:2019/09/30(月) 00:20:51.05 ID:rPMEZBG40
レッスン場



千夜「………」プルプル

千夜「……は、ははっ。はははははっ!!」

千夜「はははっ。ふっ、ははははははは」


P「………そんなにおかしいか? 俺のダンス」

千夜「お、オイルを差してあげましょうか。ふ、ふふっ」

P「ロボットみたいって言いたいんだな? スポドリをくれ」

千夜「どうぞ……お前の弱点、またひとつ知ることができました」

P「またひとつって、そんなたくさんあるみたいな」

千夜「事実ですが」

P「そうか? ……にしても、千夜がそこまで笑ってるの、初めて見た」

千夜「不覚です。お前にこんな緩み切った顔を晒してしまうとは」

P「欲を言えば、もっと違う流れで見てみたかったな」

千夜「違う流れとは」

P「こう、もっと感動的な……『千夜が笑った!』みたいな感じで」

千夜「なんだそれは。漫画の読みすぎではないですか」

P「ロマンチストすぎたか」

千夜「魔法使いが最も魔法に憧れるものなのかもしれませんね」

P「千夜ってたまにポエるよな」

千夜「ポエる?」

P「詩的な表現をするってことだ」

千夜「死敵……」

P「よくわからないがすごい物騒なこと考えてないか?」

千夜「別に、いつも通りですが」

P「いつも通り、ね……まあいいか。それより、いっぱい動いたから腹減ったなぁ」

千夜「もう夕暮れ時ですから」

P「今日はちとせが家に帰らないって言ってたよな? よかったら一緒に夕飯食べに行かないか」

千夜「お断りします」

P「あ、やっぱり?」

千夜「理由がないわけではありません。昨日作ったカレーの残りが……あ」

P「ん?」

千夜「……しまった。お嬢さまが戻ってこないのに、ふたり分残ってしまっている……」

P「あー、たまにあるよな。それぞれの出来事はしっかり覚えてるのに、そのひとつひとつが結びつかないやつ」

千夜「食べ物を残すのはよくない……仕方がありません。お前、私を晩御飯に誘ったということは、家に食事を用意していないということですね」

P「え? そうだけど」

千夜「なら――」
6 : ◆C2VTzcV58A [saga]:2019/09/30(月) 00:21:36.33 ID:rPMEZBG40
黒埼邸



P「お邪魔します……うわ、廊下長いな」

千夜「いちいち驚いていないで、早く歩け」

P「はは、すまん……にしても、まさか千夜に晩御飯を食べさせてもらえるなんてな」

千夜「苦肉の策です。お嬢さまにも許可は取りました」

P「ちとせ、何か言ってたか」

千夜「『興奮してきた』と」

P「時々あの子のことがよくわからなくなる」

千夜「時々で済むだけ、お前はよく適応していると言えます。お嬢さまが気に入るだけはある」

P「もしかして褒めてくれてるのか」

千夜「業腹ですが」

P「俺は空腹だ」

千夜「そこの部屋で少し座って待っていてください。すぐに食事の準備をします」

P「俺も手伝うよ。ご馳走してもらうだけじゃ申し訳ない」

千夜「結構です。これはお返しでもありますから」

P「お返し? それって」

千夜「ロボットダンスで笑わせてもらったお礼です」

P「せめて昼のケーキのお礼にしてほしかった」

千夜「残念でしたね」クス

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/30(月) 00:22:06.73 ID:ipH9x9dDO
千夜に摩美々に志保……

しーぶいさんの趣味がわかったなり
8 : ◆C2VTzcV58A [saga]:2019/09/30(月) 00:23:27.89 ID:rPMEZBG40
1時間後



P「今日はありがとう。ごちそうさまでした」

千夜「こちらこそ、残飯を出すことなく終えられました」

P「にしても、千夜はやっぱりよく食べるなぁ。男の俺に負けないくらいだった」

千夜「お嬢さまがよく食事を残すので、自然と胃袋が慣れたのかもしれません」

P「なるほど。とにかく、お礼を言わせてくれ。カレー、おいしかったよ」

千夜「………」

P「千夜? どうかしたのか。俺の顔に何かついてるか?」

千夜「いえ……何故そのようなことを」

P「いや、なんか笑ってたから」

千夜「………」

千夜「いえ、なんでも。お粗末様でした。おやすみなさい」

P「ああ、おやすみ。また明日」

千夜「………また、明日」





千夜「……手を振って、また明日」

千夜「お嬢さま以外の人間に、『おいしかった』と言ってもらったのは、いつ以来だろうか」
9 : ◆C2VTzcV58A [saga]:2019/09/30(月) 00:25:00.17 ID:rPMEZBG40
後日 事務所



ちとせ「千夜ちゃーん♪ その後、魔法使いとの進展はどう? もうシンデレラステアウェイを上ってしまった? ねえねえ」

千夜「お嬢さま……何故そこまで、私をあの男とくっつけたがるのですか」

ちとせ「だって華のJKだもの♪ 惚れた腫れたの話だってしたいじゃない?」

千夜「でしたら、お嬢さま自身が恋をすればよいのでは」

ちとせ「あの人と?」

千夜「仕込み刀の注文をします」

ちとせ「冗談冗談♪」

千夜「お戯れを。だいたい、あの男でなくても男性ならいくらでも……」

ちとせ「いくらでも?」

千夜「……いませんね。お嬢さまの周囲には」

千夜「そう考えると、あの男……お嬢さまの相手としては――」ホワンホワン



(ちとせのレッスン着に鼻を伸ばすPの姿)

(千夜の凄みにビビるPの姿)

(ちとせの誘うような発言にセクハラ発言で返すPの姿)



千夜「ないですね」

ちとせ「ないよねー」

ちとせ「千夜ちゃん、もし私が魔法使いと付き合えって命令したらどうする?」

千夜「断腸の思いで従います。命令なので」

ちとせ「んもう、そんなことしないよ♪ 千夜ちゃんは私の大事な僕ちゃんだもの」

千夜「お嬢さま……」

ちとせ「千夜ちゃん……」



P「あの、人をダシにしていちゃつくのやめてくれます?」

ちとせ「あ、ひょっとして混ざりたいと思ってる?」

P「思ってる」

ちとせ「正直だね〜」
10 : ◆C2VTzcV58A [saga]:2019/09/30(月) 00:27:03.90 ID:rPMEZBG40
千夜(私は、お嬢さまとの日常を愛している。この日々が、永遠に続きますように、と)

千夜(……いつの日か。ここでの時間も、日常になっていくのだろうか)

千夜(その時が来たら、お嬢さまは、この男は……私は、どんな顔をしているのだろう)



P「だいたい、ちとせは」

千夜「おい、お前」

P「千夜? なんだ」

千夜「………」ジーー

P「………」


千夜「買い出しにいくなら、お嬢さまのお気に入りの茶葉も一緒にお願いします」

P「待ってくれ。今の意味深な間はなんだったんだ」

千夜「お前に買い物を託すことへの葛藤です。ですが今のお嬢さまはしばらく私を離してくれそうにないので、私は動けません」

ちとせ「甘えんぼモードだからね♪」

千夜「見ての通り捕食モードなので」

ちとせ「物騒」

P「完全に何かいいこと言ってくれる流れだと思ったんだけどなぁ……」

千夜「そんなわけないでしょう……ばーか」

ちとせ「意地悪な僕ちゃんは本当に食べちゃうよ〜?」ガオー

千夜「ほどほどにお願いしますね」

P「………」

ちとせ「今えっちなこと想像した?」

P「いってきまーす!」

ちとせ「あ、逃げたな〜?」

千夜「………」フッ



千夜「……いってらっしゃい」






おしまい
11 : ◆C2VTzcV58A [saga]:2019/09/30(月) 00:35:59.73 ID:rPMEZBG40
おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
千夜の手料理食べたい

過去作
白雪千夜「ばー……」
田中摩美々「ふふー、こいですからぁ」

などもよろしくお願いします
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