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真・恋姫無双【凡将伝Re】4

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313 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/06/10(水) 22:02:47.48 ID:4bcIfx7b0
その様子を見て李儒は愉快とばかりに大笑して場を辞する。

それでも董卓はその身を小さく折りたたんだままであった。

「――もう、李儒はいないよ?」

その言葉にも董卓は反応せずに、もっと身を小さく折りたたむ。
見ていられない、とばかりに苛立って吐き捨てる。どうしてだ、と。
苛立ちに任せて董卓の髪を掴み、無理やりその可憐な顔を引き上げる。問う。

「お願いします。詠ちゃんや恋さん、霞さんにねねさんをお助け下さい」

ひとえに自らの責任により漢朝を乱したのだと訴える董卓。

「この身は如何様にも。ですから」

部下の助命を必死に乞う董卓に嗜虐心を刺激されて皇甫嵩は問う。

「へえ、どうやって?」

びくり、と身を震わせて数瞬後、董卓が顔を上げる。
するとその眼差しは別人のように鋭い。

「この身、ご自由に。如何様にもしてください。
 ですが、命はお助け下さい」

「――質問に答えてないなあ。それじゃあ駄目だよ。流石に」

冷然と皇甫嵩は。だから分からぬ。理解できぬとばかりに問う。

「もはや君は死んだも同然だ。いや、今のうちに毒を呷るのがいいだろう。楽に死ねる。
 そうして命を繋ぐことに何の意味があるんだい?」

き、と董卓は視線を皇甫嵩に合わせる。流石の皇甫嵩が一歩後ずさるほどの、覇気すら感じる強烈さ。

「私は死ぬわけにはいかないんです。だって。だって私のためにみんな。みんなが動いているんですもの。
 それは漢朝に対する叛の道。それは死ですら許されぬ反逆。どうして首魁たる私が死を選べましょう。
 ええ、そうですね。董家の乱は袁家により治められるでしょう」

それはいいのです、と董卓は儚げに笑う。

「ですから今はこの命を保たねばならないのです。私が今死ねば、皆に。そして付き従ってくれた兵達にも」

迷惑がかかると董卓は気弱に笑う。

「そして、私は責任を取らなければなりません。
 ですから死ぬわけにはいかないのです。
 だって、そうじゃないと。私の分まで人死にが出ますもの。
 私がいないと、困る人がいるって、思うんです……」

儚く笑う彼女に皇甫嵩は何とも言えない表情を浮かべる。

「つまり、君は自分のせいでない乱の責任を摂ると言うのかい」

是、と頷く董卓に皇甫嵩は唸る。

「なるほど。今上陛下が君を頼りにしようとしたのが分かるよ」

そして納得する。李儒や王允が董卓を危険視し、除くべし、と動いたのは実に正しかったと。
ただし、惜しい、という気持ちもある。

「では、君の部下たちの助命のために一筆頼むよ。なに。僕とて漢朝が荒れるのを歓迎しやしないさ」

――助命嘆願。部下のそれを果たしたと確信しながらも董卓は表情を緩めない。
なんとなれば、だれか一人の気まぐれでそれらは反故になるのだからして。

そして、漢朝を覆う叛乱の首魁、元凶となるわが身を笑うのだ。
そんなに、大したもんじゃないのにと。

そして、万感を込めて、呟く。

「ごめんね、詠ちゃん……」

その呟きは、誰に聞かれることもなく消えていくのだった。
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