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真・恋姫無双【凡将伝Re】4

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439 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/08/25(火) 22:32:31.58 ID:6LwOn5rb0
◆◆◆

「陛下、お目覚め下さい。
 陛下……」

周泰は穏やかでいながら力強く声をかける。それは目指す相手にしか伝わらないという特殊な発声方法である。そして目の前の、健やかな眠りを貪る少年は不承不承、といった風に応える。

「ううん、なんだい。もう朝なのかい?もうちょっと寝かせてくれよ、まだ暗いじゃないか」

それに、と。
自分は陛下と呼ばれる立場にないから起きる筋合いはないかもね、と軽く主張すると同時に寝息を立て始める。

「ど、どうしましょう……」

禁裏の奥の奥、そして裏の裏。後宮より更に奥にある離れの一室。そこまでの道のり、その厳戒を潜り抜けるよりもこの、今の状況をどうしていいか分からずにあたふたと狼狽(うろた)える。

「なんだ、僕を殺しにきたのじゃあないのか」

不意に目前で寝息を立てていた少年――劉弁――は、のんびりとした声を上げる。

「お、起きていらっしゃったのですか!」

驚くのは周泰である。彼女からしても完全に寝入っていたはず。それが擬態ならば驚くべきものである。

「ううん、そうだね。そうだなあ、寝ていたよ。この上なく安らかにね」

面倒くさげに劉弁はぼそり、と。
曰く、何進が誅されてからこの方、いつ殺されてもおかしくないような空気。その中で過ごしていたというのだ。故に、安らかに眠れたのだ。それら不埒な塵芥を周泰が人知れず駆逐したのを――夜が明けて死体が発見されるまでは露見しないはずであるのだが――この少年はなんとなく感じ取っていたのであろう。
いわば小動物の生存本能にも近しいそれ。だが、それを身に付けてしまうというのがどういう状況下であるのだろうか。
周泰は発する言葉を失ってしまう。

「で、お姉さん。僕は用無しになって殺されるってわけじゃないんだよね?」

その声に周泰は自失していた意識を引き戻して慌てて応える。

「は、はい!勿論です!陛下の御身を守護するべく使わされて参りました。
 陛下のご宸襟を騒がせ……」

「なら、それでいいよ。それで、僕はどこかに逃げるのかい?」

「いえ、外に出るのは却って危険です。臣がこの身に代えても御身を守護奉ります」

そうかい、と気安く劉弁は頷き。

「なら、もう少し寝かせてもらうよ。どうにも最近は寝たりなくっていけないからね。
 じゃあね、おやすみ」

言い終えるとほぼ同時に湧き起こる健やかな寝息に周泰は目を白黒させる。

周泰は知らない。これが劉弁なりの保身術。それは何進に仕込まれた保身術。
徹底的に無能で、無害であることで魑魅魍魎の跋扈する宮廷をただ、浮揚することで生き残る保身術。それを遣り切る、ある意味での強さ。

そして、日が中天に昇り、すべてが終わり。それでも劉弁は呑気に惰眠を貪っていたのである。

そう、惨劇、阿鼻叫喚。これから起こるそれらを全て認識せず。劉弁はただひたすらに眠るのだった。
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