女「私、あなたのことが好きになってしまいました」

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134 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 21:44:24.63 ID:xdKyTgMJ0
視線は真っ直ぐ僕に向けられていた。

女「どうして好きになってしまったのか。

  正直、まだわかりません。
  
  でも、私はあなたが好きなのです。
  
  毎朝、忘れずに挨拶をしてくれること、
  
  夏にエアコンをつけてくれること、
  
  冬にストーブをつけてくれること、
  
  一緒にご飯を食べてくれること、
  
  一緒に下校してくれること、
  
  一緒に映画を観てくれること、
  
  うやむやになった質問にも改めて答えてくれること、
  
  私の口癖に気づいてくれること。
  
  凄く些細なことですが、私はたまらなく、
  
  あなたを好きになりました」
135 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 21:44:51.78 ID:xdKyTgMJ0
彼女は更に続ける。

女「恋愛を一切知らない私に対して、真摯に向き合ってくれました。
  
  あなたのことを考えると、胸の高鳴りが止みません。
  
  ずっと、そして今も。
  
  …………。
  
  ふう。
  
  男さん。
  
  私はあなたと、『お付き合い』をしたいです。
  
  順序は前後してしまいましたが、
  
  またお出かけしたり、
  
  手をつないだり、
  
  キスしたり、
  
  抱き合ったり」
  
男(ちょ……!)
136 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 21:47:15.94 ID:xdKyTgMJ0
女「わがままで、ごめんなさい。
  
  あなたと、一緒にいたいです。
  
  お返事、待ってます。
  
  私からは以上です。
  
  ありがとうございました」
  
より一層深いお辞儀を見せて、彼女はそそくさとステージからはけていった。
  
「……あっ! え、えーっと! こ、これで『メリクリ! 来年の抱負大宣言!』は終了です! みなさんありがとうございました!」
  
先ほどまで熱気に包まれていた校庭は、嵐が過ぎ去ったように静まり返っていた。
137 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 21:53:45.28 ID:xdKyTgMJ0
ほとんどの生徒が僕をジッと見つめては、「誰?」という顔をする。

それは当然の反応だから、さして気にしないけれど。

それ以上に、こんなに大勢の人から視線を浴びられる経験がない僕は、萎縮することしかできなかった。

男(女さん……)

こうして彼女の、僕への告白は。

ほとんどの生徒達の面前で、行われたのだった。
138 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 21:55:03.50 ID:xdKyTgMJ0
身体が妙に熱い。

コートを着ていることで、余計身体の熱は逃れることができず、僕の体に留まっていた。

きっとさっき起きた事柄のせいだろう。

人の多い校庭は、今の僕には不向きな場所だ。

男(涼みに行こう……)

冬らしからぬ思考になりながら、僕は人気のない場所に向かうことにした。
139 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 21:58:57.29 ID:xdKyTgMJ0
男「ふう」

息が詰まるような空気から解放された僕は、ゆっくりと息を吐いた。

今僕は、校庭から少し離れた場所にやってきていた。

校庭の方角からはガヤガヤとした声が聞こえるけれど、ここは静かだ。

コートを脱いで涼むことにした。

……それにしても。

男「……女さん」

まさか、あんな風に告白されるなんて思ってもみなかった。

大勢の前で、彼女は勇気を振り絞ったのだ。

僕なら、絶対にできない。
140 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 21:59:24.10 ID:xdKyTgMJ0
女「呼びましたか」

男「うわぁ!?」

後ろからいきなり声をかけられる。

女さんだ。

あれ、さっきもこんなことあったような。

女「ごめんなさい、またやってしまいました」

男「い、いや、いいんだよ……そ、それよりどうしてここに?」

女「男さんがこちらに向かっていたので」

彼女は若干息を切らしていた。走って追いかけてきたのだろう。
141 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:02:01.43 ID:xdKyTgMJ0
男「そ、そうなんだ……」

女「はい」

男「……」

女「……」

彼女の顔が、見れない。

男「えっと……」

女「無理はしなくても大丈夫です」

彼女はいつもの平坦な口調で、

女「ごめんなさい、あのような場所で告白をしてしまって」

と、頭を下げた。
142 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:06:54.30 ID:xdKyTgMJ0
女「……ごめんなさい」

彼女はまた、謝った。

遠くから聞こえるパーティーとはうってかわって、こちらはあまりにも静寂過ぎた。

比べるから、余計そう感じるのだろう。

僕らの今の雰囲気も、周りの空気と同じように静まり返っていた。

女「最後まで、聞いてくださってありがとうございました」

彼女は先ほどとは違う意味で、頭を下げた。

女「あなたのおかげで勇気を出すことができました」
143 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:07:21.51 ID:xdKyTgMJ0
男「僕の、おかげ?」

女「はい。男さんのおかげです」

男「僕は何もしてないと思うけれど……」

彼女が勇気を出したのは、自分で一歩踏み出したからだ。

僕は一切、力を貸してはいないと思う。

女「そんなことありません。男さんのおかげです」

彼女はすぐに否定する。

女「あなたでなければ、告白はしてなかったと思います」
144 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:07:49.14 ID:xdKyTgMJ0
男「僕じゃなければってどういうこと?」

女「さきほど、ステージ上で言ったことが全てです」

男「……」

不意にさきほどの告白を思い出す。

彼女は両の手のひらに息を吐いた。

女「今、ここでもう一度……」

男「うわわわ、ダメダメ! ダメ!」

僕は食い気味で彼女を止める。
145 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:11:02.75 ID:xdKyTgMJ0
女「でも」

男「て、照れるから!」

女「私も同じです」

男「女さんは照れてないでしょ!?」

女「いいえ、とても照れます」

男「い、言っとくけど女さん、表情に全然出てないからね!?」

女「そうなのですか」

一切照れてるようには見えない!
146 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:11:28.38 ID:xdKyTgMJ0
男「というか女さん、どうしてそんな薄着なの?」

ふと気づく。さっきまで纏っていたコートがない。

女「あっ」

彼女も今気づいたようだ。

女「緊張で身体が暑くなって、脱ぎました」

男「そ、そうなんだ」

女「薄着だと気づいてしまったせいか、寒いです」

彼女は自らの身体を少し抱きながら、震え始めた。
147 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:12:04.74 ID:xdKyTgMJ0
男「だ、大丈夫?」

女「はい、自業自得なので」

男「コートはどこにあるの?」

女「おそらく、ステージ袖です」

ここからステージ袖までは、結構な距離がある。それに、人もたくさんいる。

……というか、あそこからわざわざここまで来てくれたのか。

僕の、ために。
148 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:12:30.49 ID:xdKyTgMJ0
女「戻ります」

男「え、今から?」

女「はい」

校庭は恐らく、さっきよりももっと人が多い時間になっている。

なぜなら、もうすぐプロジェクションマッピングが始まるからだ。

多分、ステージまで辿り着くのはさっきの倍はかかると思う。
149 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:13:27.00 ID:xdKyTgMJ0
女「それでは」

彼女が去ろうとする。なんのためらいもなく、彼女は校庭に向かおうとしている。

男「ま、待って女さん!」

女「はい」

彼女はピタリと止まる。それでも身体は冷えているに違いない。

男「今からステージに向かうのは、多分時間がかかると思う」

女「ですが、他に方法がありません」

男「だから……そ、その……」

僕は意を決して、言った。

男「僕のコート、貸すから」
150 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:15:04.13 ID:xdKyTgMJ0
女「どういうことでしょう」

男「ほ、ほら! 僕今脱いでても寒くないし! 持ってるだけじゃ勿体ないから」

女「ですが」

男「え、遠慮しないで」

女「いや、その」

彼女に近づくも、ゆっくりと後ずさりして逃げていく。
151 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:15:57.19 ID:xdKyTgMJ0
女「とにかく、取りに行ってきます」

男「ま、待ってよっ」

逃げるように校庭に向かおうとした。

それを見て思わず僕は彼女の手を掴んだ。

男(あっ)

しまった、と思った。

僕が手を掴んだと同時に、彼女は顔を俯かせた。
152 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:16:56.23 ID:xdKyTgMJ0
男「ご、ごめん、つい……」

彼女は、嫌悪しているのだろう。

無理もないと思った。

僕がしようとしているのは、合理的なことばかりを優先して、彼女の気持ちなんて一切考えていない行動だ。

他人のコートを借りるなんて(ましてや男性のだ)、抵抗があるに決まっているのに。

女「……」

下を向いた彼女が、ゆっくりとこちらを向いた。

男「……えっ」

彼女は。

顔を赤らめていた。
153 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:17:25.13 ID:xdKyTgMJ0
女「……困ります」

消え入るような声で言う。

女「触れられるのは、慣れてません」

彼女の言葉に、僕も思わず赤面してしまう。

男「あ、いや、えと……てっきり、嫌なのかと」

女「嫌なわけ、ありません」

もう一度下を向く。グッと拳を固めて、

女「嫌なわけ、ないです」

耳まで真っ赤にしながらそう言った。
154 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:18:23.25 ID:xdKyTgMJ0
無表情でコーティングされていた彼女の顔が。

はっきりと朱色を帯びて。

眉毛を情けなく下ろしながら、唇を歪ませていた。

彼女が初めて、僕に感情を見せた。

刹那の静寂。

そして僕は、何故か。

彼女と同様に、赤面した。
155 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:18:55.23 ID:xdKyTgMJ0
女「男さん、どうされましたか」

男「いや、えっと……あれ……」

自分でもわからないくらいに。

想像以上に照れている。

男「だ、大丈夫だよ」

女「大丈夫そうには見えません」

顔を近づけてくる。彼女の顔はまだまだ赤い。
156 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:19:55.28 ID:xdKyTgMJ0
男「……」

女「……」

僕らはいつもよりも近くで、お互いに目を合わせた。

男(ああ、そうか)

どうやら僕は。

彼女が好きになってしまったようだ。
157 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:20:38.47 ID:xdKyTgMJ0
疑問を抱いていた『好き』の根拠が今目の前にある。

そういう表情で作られた像のように同じ顔をしていた彼女が。

僕に対して、感情を表したこと。

それを理解して、僕も大きく照れてしまったのだと。

今になって気づいた。

男「……女さん」

女「はい」

男「とりあえず、コート着る?」
158 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:22:37.81 ID:xdKyTgMJ0
女「……どうしても着ないといけませんか?」

男「もちろん強制じゃないけれど……体調が心配だから」

女「……」

彼女が背中を向ける。

男「……女さん?」

女「袖は、通せません。羽織るだけにしておきます」

男「そ、そっか。了解」

これは……僕が肩に掛けてもいいのかな?
159 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:23:30.93 ID:xdKyTgMJ0
男「……」

女「……」

過ぎた間を察して、僕は女さんの肩にコートを掛けた。

女「……」

ピクリと身体を動かす。

女「……ありがとうございます」

男「う、うん」

僕の返事を聞いて、彼女は自分の顔を両手で隠した。

男「女さん?」

背を向けた女さんの顔を覗く。

女「見ないでいただけると、嬉しいのですが」

どうしてなのかは、顔を見なくてもわかった。

隠れていない耳がさっきよりも赤いから。
160 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:24:57.41 ID:xdKyTgMJ0
男「あ、あのさ女さん」

女「はい」

男「僕、その……」

照れ臭くて、僕は頬の辺りを軽く掻いた。

男「……今の女さんの顔、見せて欲しい……な」

語尾に連れてどんどん小さくなりながら、そう言った。
161 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:25:27.45 ID:xdKyTgMJ0
女「どうしてですか」

顔を手で覆いながら問う。

女「なぜ、見たいのですか」

言葉は淡々としている。しかし、耳は変わらず赤い。

男「それは……」

思わず言い淀む。今から僕が言うことはとてつもなく変態性を持った言葉だ。

男「照れてる女さん、すっごく可愛かったから」
162 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:27:07.55 ID:xdKyTgMJ0
女「……」

男「……」

誰も邪魔できないほどの森閑。

男「さっき、見た時に凄くキュンとしちゃって」

僕は止まらない。

男「もう一度、見せて欲しいな、なんて……」

自分で言ってて恥ずかしい言葉が出てしまう。

僕はなんて変なやつなんだ。
163 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:27:33.57 ID:xdKyTgMJ0
女「……このような顔は、本当は見せたくありません」

今にも消えてなくなりそうな声を発する。

女「でも、あなたの望みなら」

「どうぞ」と。

抑揚のない声と一緒に、彼女は顔を覆い隠していた手をどかした。

そして、彼女の耳まで真っ赤になった可愛らしい顔が現れたのだった。

男「……わぁ」

つい声を出してしまうほど、彼女は可愛かった。

べったりと張り付いていた強靭な無表情が今は存在しない。

それほどに彼女は今、恥ずかしさのあまり沸騰状態にあるのだ。
164 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:28:17.06 ID:xdKyTgMJ0
女「変、ですか」

男「そ、そんなことないよ。むしろ、可愛くて……」

その言葉に反応して、そっぽを向いてしまう。

男「ど、どうしたの?」

女「あまり、言われ慣れていない言葉です。……恥ずかしい」

思っている以上に恥ずかしがり屋だ。

女「コートを借りているだけでも、大変なのに」
165 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:29:02.14 ID:xdKyTgMJ0
男「あの、女さん」

女「はい」

男「さっきの、答えなんだけれど」

女「待ってください」

男「えっ」

女「今、答えを聞けるほど冷静ではありません。心臓の高鳴りがまだ」

男「で、でも」

女「……これで断られたらと思うと、辛いです」
166 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:29:38.41 ID:xdKyTgMJ0
男「え……」

どうやら、とんでもなくネガティブな想像をしているようだ。

男「ふふっ……ふふふっ」

女「どうしましたか」

男「いやぁ……あははっ」

女「なにがおかしいのでしょう」

全くもって、おかしい。

男「こんな感じで、断るわけないじゃないか」
167 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:30:21.29 ID:xdKyTgMJ0
僕は背中を向けている彼女に近づいた。

男「女さん、僕と付き合ってください。……それが、僕の答えです」

女「え……」

急に女さんは血相を変えて振り向いた。

瞳をいつも以上に見開いて、驚きのリアクションをしている。

女「本当、ですか」

男「うん。僕で良かったら、喜んで」
168 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:32:10.85 ID:xdKyTgMJ0
女「……」

糸が切れたように、彼女は座り込んだ。

男「だ、大丈夫!?」

女「……なにがなんだか、わかりません」

彼女の瞳には、大粒の涙を含んでいた。

女「ど、どうして泣いているんでしょう」

それは、僕が聞きたい。
169 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:32:41.01 ID:xdKyTgMJ0
男「ちょっと、ごめんよ」

僕は彼女の羽織ってるコートに手をかける。

男「はい、ハンカチ」

女「……」

更に溢れる涙。

何故。

女「あの、勘違いしないで欲しいのですが、これは悲しくて流しているものでは、ありません」

男「わかってるよ。それよりほら、涙拭いて」
170 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:33:12.75 ID:xdKyTgMJ0
彼女がどんどん、可愛らしい存在に見えてくる。

頼りになって、真面目で、誠実で。

ちょっぴりポーカーフェイスな彼女だけれど。

こんなに表情が豊かだったなんて。

女「でも、どうして告白を承諾してくださったのですか」

渡したハンカチで涙を拭きながら、問われる。

男「女さんが、僕のこと本当に好きなんだなってわかったから」
171 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:34:41.77 ID:xdKyTgMJ0
女「それは失礼な言い方です。ずっと好きです」

音が出ていたら、間違いなく「ゴゴゴゴ」と後ろからしているような感じだ。

とてもストレートに「好き」と言われて少々照れつつ、僕は答える。

男「ごめんね。自分に自信がなかったから、つい勘ぐっちゃって」

女「なるほど」

男「それに、女さんの表情が読み取れなくて、さ」

この際、正直に言った方が良いだろう。

女「そうでしたか」

彼女はいつもの無表情に戻った。

顔はまだ、少しだけ赤いけれど。
172 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:35:22.15 ID:xdKyTgMJ0
男「……えっと、そろそろプロジェクションマッピング始まっちゃうけど」

腕時計に目をやると、あと数分で始まる時間になっていた。

女「男さんは、どうしたいですか?」

男「えっ、僕?」

女「私は、二人きりでいたいです」

目を伏せて、淡々とした口調でそう言った。

男「……女さんがそうしたいなら、それで」

僕と彼女は、校舎からそのまま学校を後にすることにした。
173 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:35:51.15 ID:xdKyTgMJ0
こうして僕らの一日は終わった。

クリスマス当日、僕に彼女ができたのだった。

サンタさんからのプレゼントなんて言い方はおかしいかもしれないけれど。

それくらい言ってもおかしくないくらいの、運命だった。

僕と彼女はその後、光り輝くイルミネーションの中を歩いて。

少しだけいつもと違う道を通って、特に何をするでもなく、帰宅したのだった。

これでいいのだろうかと思ったけれど、僕も女さんも当たり前のように初めてのことだったから。

ゆっくりとすこしずつ、恋人同士らしいことができればと思った。
174 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:36:33.52 ID:xdKyTgMJ0
女「デート、しましょう」

クリスマスの次の日、朝から電話がかかってきて、カフェに呼び出された僕に、彼女はこう宣言した。

男「えーっと、今から?」

女「はい。昨日は申し訳ありません、緊張してしまって何もできず」

僕は別に良かったけれど。

女「少なくとも、私は後悔していました」

男「どうして?」

女「舞い上がってしまって、周りが見えていなかったからです」

そうは見えなかったけれど……。

女「だから、名誉挽回のためのデートです」
175 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:37:04.71 ID:xdKyTgMJ0
男「そうなんだ」

女「はい。男さんは、何かご予定ありましたか?」

男「あったら来れてないと思うよ」

女「なるほど。確かに」

男「……昨日、帰り道お互いに黙っちゃってあんまり話できなかったのがちょっと心残りだったかな」

頼んでいたコーヒーが来る。砂糖とミルクを入れて、一口飲む。
176 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:37:30.52 ID:xdKyTgMJ0
女「確かに、ほとんど会話無しでしたね」

男「だから、今日はこのままお茶にしない?」

女「お茶」

男「うん。もっと女さんのこと、知りたいから」

女「私のことをですか」

男「うん。ダメかな」
177 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:37:57.77 ID:xdKyTgMJ0
女「もちろん、構いません」

「それに」、

女「私も男さんのこと、もっと知りたいですから」

紅茶を啜り、少しだけ目を逸らした。彼女は、わずかに赤面していた。

彼女の感情の機微がわかるようになって、僕は微笑む。

それを見て、ばつが悪そうにもう一度紅茶を飲むのだった。
178 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:38:36.96 ID:xdKyTgMJ0
男「ところで、女さんのやりたいことってなんなの?」

女「たくさんあります。ノートに書いてきました」

男「え……ま、待って。ノートに?」

女「はい」

男「えーっと……『屋上でご飯を食べる』『男さんの憧れになる』……」

女「音読されるとは思っていなかったので、少々恥ずかしいです」

男「ああ、ごめんごめん」
179 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:39:03.75 ID:xdKyTgMJ0
女「はい」

男「うん……たくさん書いてあるね」

女「そうです。時間には限りがあります。だから……」

男「ま、まあまあ。ちょっと落ち着いて」

女「はい」

男「ゆっくり、計画を立てていこうよ」
180 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:39:49.37 ID:xdKyTgMJ0
確かに時間に限りはあるけれど。

焦っても仕方ない。

男「僕は女さんと、お茶したいから」

女「……なるほど」

そう、ゆっくりでいい。

僕らにはそれが、ちょうどいいと思うから。

やりたいことノートの最後には、こう書かれていた。

『男さんのことを、もっと好きになる』


おしまい
181 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/01/23(木) 22:42:55.83 ID:xdKyTgMJ0
おしまいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました!



※以前書いたもの・現在進行系のサイトも再度貼っておきます。

ボクっ娘SS
http://note.mu/shiranuifuchika

過去SS(途中で落ちたのも多数)
http://nanabatu.sakura.ne.jp/new_genre/bokukko.html


それでは
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/24(金) 00:53:36.78 ID:8jQle5xZO

いい雰囲気だった
183 : ◆qhZgDsXIyvBi [sage saga]:2020/01/31(金) 23:39:58.01 ID:iFtM03C20
お久しぶりです。こっそりと告知させてください。

https://kakuyomu.jp/users/shiranui_fuchika

カクヨムに登録しました。いつかこの話は小説家させてリメイク致しますので、よろしければこちらも足を運んでみてください。
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