【たぬき】小日向美穂「令和狸合戦ぽんぽこひなた 〜さらわれたPさんを追え〜」

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33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/20(金) 12:12:53.70 ID:akqntUBDO
>>32
舞浜歩「ん?」


という、万が一の可能性も(なわけない)
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/20(金) 22:14:33.48 ID:jZ+6V9Wi0
とりあえず、「たぬっとした」という意味わからんはずなのになんとなく伝わる単語はなんでっか
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/12/20(金) 22:21:38.12 ID:pJkWBV4co
万が一がマイガーに見えた
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/12/20(金) 23:26:59.26 ID:OP0w55hJ0
一旦乙

いやまぁ、たぬきのあのフォルムは「たぬっとした」ちゅう表現がしっくりくるわなぁ。
で、R板だったらPさん1獣姦待ったなしだな
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/12/21(土) 02:55:30.53 ID:fEpoqoXvO
>>32
 そうは言うが、相手は化け物だしなあ…。
 それに、こんな事態が伊予一国だけで納まるとも思えんのだが。
38 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:03:14.78 ID:cskBVXlq0
  ◆◆◆◆

  【美穂】


「――んぅ……ん〜……ままぁ……?」
「は、ぁ……あぅ……寝ちゃってた……?」

「あ、ぷろでゅ……ぷろでゅーさーさん、プロデューサーさんは……?」

 時刻は、午前7時。
 とっても寒いけど、気持ちいいくらい晴れている、冬の朝です。
 私たちはもそもそ起き出して、目を見合わせます。

 …………プロデューサーさんは?

 ゆうべは介抱してる途中に寝ちゃってたみたいで。色んな道具が置きっぱで、ばらばらに限界が来ちゃって……。
 起きてみれば、三人にそれぞれお布団がかけられていました。
 きっと彼がかけてくれたんです。ということは、どこかでプロデューサーさんが起きた筈なんですけど――
39 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:04:06.03 ID:cskBVXlq0

「プロデューサーさん……?」

 いない。
 どこにも、いないんです。

 出かけたのかなと思っても、お部屋の鍵はかかりっぱなし。旅館の合鍵はテーブルの上に置かれっぱなしです。
 どこかに隠れてる? そんなわけない。じゃあどうして、一体どこに――


「美穂ちゃん! 響子ちゃん!」


 最初に気付いたのは卯月ちゃんでした。
 広縁の大窓はぴっちり閉まっているけど、ひとつだけ鍵のかかっていないところがあって。
 そして私は、そこに残った獣のにおいを確かに聞き分けました。
40 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:04:37.64 ID:cskBVXlq0


「……たぬき……」

 たぬき。
 そう、間違いありません。
 毛もにおいも、疑いようもなく同族のそれ。


 プロデューサーさんは、四国のたぬきにさらわれてしまったのです。

41 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:06:34.03 ID:cskBVXlq0

   〇


「さささ、探さなきゃ探さなきゃっ、見つけなきゃっ!!」
「おおお、落ち着いてください美穂ちゃんっ、大丈夫ですっきっと大丈夫っ」

「――えっと、そうなんです。はい。はい。だから、今から探してみて――」

 すっかり日が昇った後、私たちは人でにぎわう観光地でわちゃわちゃしています。
 卯月ちゃんはちひろさんに電話して状況を伝えています。
 しばらくやり取りした後、通話を切って……

「お仕事の方は大丈夫みたい。私たちは、早くプロデューサーさんを見つけよう!」
「う、うんっ! たぬきのいるっぽいとこを探そう!」
「っていうと、やっぱりお山とかでしょうか? この辺かなぁ……?」

 道後温泉は丘陵を背にした場所。そのまま登ると、高縄山、北三方ヶ森、明神ヶ森……などの山岳に至るようです。
 においを辿れればいいんだけど、さすがに外となるとわかりません。
 やみくもに山を登るわけにもいかないし、一体どうすれば――

42 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:07:03.92 ID:cskBVXlq0

「きゃっ……?」

 と。
 不意に、強く冷たい風が吹きました。

 その風は地を這うように足元をさらって、ぶわっと斜めに吹き上がって突き抜けていきます。
 不思議なのは、風がまるで葉っぱを集めているようなこと。
 枯れ落ちた木の葉が、どこにそんな量があったのかと思うほどたくさん、風に乗って舞い上がっていきます。

 まるで空へと注ぐ木の葉の河のよう。

 普通の風ではありません。
 私は、その現象が何であるかを知っていました。


「――たぬきの婿入り……」


43 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:07:51.24 ID:cskBVXlq0


「へ? み、美穂ちゃん??」
「たぬ……何ですか??」

 きょとんとされちゃいました。
 でもでも、ほんとにあることなんです。

 有名なのは「狐の嫁入り」ですけど、たぬきにもそういう現象があって。
 天気雨の代わりに、木の葉を運ぶ突風がそうであると言われています。
 それはたぬきの祝言の合図。木の葉と共に福を集め、その日生まれる夫婦を寿ぐ……。

 嫌な予感がしました。

 プロデューサーさんがいなくなって、たぬきの婿入りが吹いて。
 風の先がどこかはまだわからないけど……。

44 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:09:25.15 ID:cskBVXlq0

「もしかしたら、プロデューサーさんと何か関係があるのかも……!」
「えっと、この風の先にプロデューサーさんがいるの?」
「追いかけたら何かわかるでしょうか……!?」

 どのみち他に手がかりはありません。今も風は吹き続けています。心なしか、たぬきのにおいもするような……。
 走って追おうかどうしようか考えていたところ、たまたまタクシーが通りがかりました。


「あっ、すみませーん! タクシーっ!」

 渡りに船とはこのことです。私たちはタクシーを呼び止めて、急いで乗り込むのでした。

45 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:18:51.57 ID:cskBVXlq0

   〇


「あの、変なこと言ってると思うかもですけど、今吹いてる風を追ってほしいんです!」
「はぁ、風……ですか??」

 案の定、運転手さんはきょとん。
 無理もないことです。前の車を……っていうのはあるけど、風をなんてちょっと聞きませんから。
 それでもなんとか了解してもらって、風向きに向かって車を走らせてもらいます。

「お嬢さんたちは、ご旅行ですか?」
「あの、お仕事なんです。それでちょっと人を探してて」
「そうですか、それは大変ですなぁ。でしたら、行けるだけ行ってみましょうか」


 ぶーんと走り出すタクシー。たくさんの葉っぱが舞ってるから、風向きがわかりやすいのが不幸中の幸いでした。
46 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:19:34.79 ID:cskBVXlq0

「しかし、妙な風が吹いているものですなぁ。お客さん、ご存知ですか? これ『たぬきの婿入り』って言うんですわ」

 さすがにたぬき王国の四国の運転手さんは、たぬきにまつわるお話にも詳しいようでした。
 とはいえ、私がたぬきってことを普通の人には明かせないから、いい感じにお話を合わせます。

「そ、そうなんですか。不思議なこともありますねぇ」
「ねぇ。またぞろ、山でたぬきが結婚式でも挙げるのでしょう」

「プロデューサーさん……」

 ぽそりと呟く卯月ちゃん。心配です……。


「この風を追うとなると、あなたがたもたぬきにご興味が?」
「え? あっ、いえいえ! 偶然っていうかなんていうか、ね、響子ちゃんっ!」
「は、はいっ! ちょっと事情があって、あはは!」

 そうですかぁ、と呟く運転手さん。特に気にしていないようでした。
 車を走らせながら、彼はふと――
47 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:20:23.45 ID:cskBVXlq0


「この風ね。久万山に続いてるんですわ」


「へ? くま……やま?」

「愛媛と高知にまたがる山々でしてな。そのあたりの高原に町がありまして、まあ良いとこなんですわ」


 ――して、そこには昔からたぬきの群れがおりましてなぁ。

 ――刑部狸をまつる祠もございまして、まあ、そんな曰くがございますから。たぬきにとっては最大の霊場であり、聖地なんですなぁ。

 ――不思議なことのひとつやふたつ、十や二十はこれ、日常茶飯事と言えましょうなぁ。

48 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:20:52.82 ID:cskBVXlq0

 ぽつぽつと、そう語る運転手さん。
 その語り口調は真に迫っていて、本当のことを言ってるんだとわかるものでした。

 けど、どうして急に。

 まるで、私たちの目的がわかっているかのような……。


「あ、ぇ、美穂ちゃん、あれ……っ!」

 卯月ちゃんの指摘にハッとなります。
 運転手さんの帽子の下で、何かが動いてる。もぞもぞ、ぴくぴく、頭に何かある感じ。
 これって。これって……?

49 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:21:32.04 ID:cskBVXlq0


「我らが姫の大事な場面でしてな」

 運転手さんは、帽子を取ります。
 その下には、ふさふさのおっきな耳が……!!


「あなたがたに、邪魔をさせるわけにはいかんのですわ」



 ポンッ!!



50 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2019/12/23(月) 00:22:10.19 ID:cskBVXlq0
一旦切ります。ぼちぼち進行していければと思います。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/23(月) 06:12:43.69 ID:XDVnxMZDO
あー、もし晴が相手なら

結婚を嫌がる→Pが丸め込む→脱出

なんてなるのかなぁ
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/23(月) 09:58:46.50 ID:ibMDqowW0
↑で、最後は一緒の事務所でアイドルとして頑張ると
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/23(月) 21:34:47.70 ID:7sFXFMRJo
なんでドヤ顔で展開予想してんの?
当たってたらどうするとか考えないのか?脳みそ無いのか?
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/24(火) 00:06:58.78 ID:i/ShainYo
荒らしだろ
ほっとけ
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/01(水) 10:13:40.97 ID:ygi0t5eZO
あけおめ
続き待ってるよ
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/08(水) 16:46:04.65 ID:/3FpbBvM0
忙しくて書けないのだと思いますが、ずっと待ってます!
57 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/09(木) 23:54:48.36 ID:AjGUihUM0

  ◆◆◆◆


「う……う〜ん……ぽこぉ……」


「――はっ!!」


 目が覚めたら、山の中。
 しかも夜です。空にはまんまるお月様が浮かび、地上に影を作るほどぴかぴか光っています。

「卯月ちゃんっ! 響子ちゃん!?」

 きょろきょろ見渡してみても、二人の姿はありません。
 私は二人のにおいを探しながら、山の中を歩き回りました。

 スマホを見てみても、位置情報は出てきません。

 また攫われちゃった? まさか京都の時みたいな結界の中なんてことは……ない……とは言い切れないけど。
 さわさわと風の吹く山中。森のかおりが漂っていて、なにやら故郷の鏡山を思い出しました。

58 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/09(木) 23:55:54.37 ID:AjGUihUM0

「――卯月ちゃーん! 響子ちゃーーんっ!!」

 大声を出しながら、そこらじゅうをホテホテ歩きます。
 二人のにおいは、あるようなないような……風に乗ってなつかしい香りが鼻をくすぐっては、すぐに消えちゃう。
 まるで二人ともすぐそばにいるような、そうかと思えば遠くへいっちゃうような……変な感じです。

「こんなのおかしい。においを辿れば、すぐわかるはずなのに……」

 と――

 嗅ぎ慣れないにおいがして、何かが背後に「どすんっ!」と落ちます。
 私は慌てて振り返り、ずんぐりむっくり大きな「それ」を見ました。


 見上げるほど大きな、だるまでした。

59 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/09(木) 23:57:12.07 ID:AjGUihUM0

「…………」

 ………………。

「……………………」

 ぴょいんっ!!

「ぽこ!?」

 だるまが跳ねました。その質感はおもちみたいで、赤い体をぶよぶよもちもちさせて跳ね回ります。
 その動きに合わせて――

 ぼとととととんっ!!

 大小さまざまなだるま達が、落ちては跳ねて私を追いかけてきました!!

「ぽ、ぽこ〜〜〜っ!?」

60 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/09(木) 23:58:25.96 ID:AjGUihUM0

 びっくりして逃げる逃げる逃げる、だるま達は追う追う追う。
 坂道を駆け下ると、夜の森がすごい速さで流れ去っていきます。
 だるまは振り切れましたが、このペースってどう考えても私の足の速さじゃない……ような……?

 !?

 気が付けば足元はベルトコンベア。山肌に沿ったそれが私を導いて、超高速で下り坂の終わりまで導きます!


「ぽこーーーーーーーーーーっ!!?」

 しゅぽーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!


 終端に何故かジャンプ台があって、高く高く飛び上がる私。
 目が回る中、これはまずいかも……と思った瞬間。

 ぼふんっ、と私の体を受け止めるものが。
61 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/09(木) 23:59:23.58 ID:AjGUihUM0

 助かった……? と思いながら顔を上げると、そこは野原一面を埋め尽くす座布団の海。
 と思いきや、座布団ひとつひとつが飛び上がって、私をもみくちゃの座布団まんじゅうにしちゃうのです。

「わぷっ、むーっ! むむぅ! みゅーーーーっ!!」


 その後も、群れをなす白い象さんの行列、足が生えた大きなサメさん、黒い肌のいなせなチキン・ジョージ、
 動いて喋る変なおもち、行進を続けるホーロー看板、猫、鵺、アルパカ、ヒバゴン、南極のニンゲン……。

 私はパニックになりながら、頭の隅で、この珍事の正体に勘付いていました。


 どことなく、たぬきのにおいがする。

62 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:00:02.44 ID:m4o3eiU70



 これは『偽山』。

 山そのものが、化けだぬきなんだ。


63 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:01:08.95 ID:m4o3eiU70

 私は京都のある伝説を思い出していました。

 その名も「偽如意ヶ嶽事件」――山に化けた、一匹の大だぬきの逸話。

 発端は京都に住まう天狗同士のいさかいだったと言われています。
 如意ヶ嶽を根城とする大天狗と、鞍馬天狗たちの縄張り争い。あわや京都分け目の大喧嘩となるところ、大天狗に味方したたぬきが一匹。

 如意ヶ嶽が欲しいかそらくれてやるぞと、呼んだ山がまさにそのたぬきの化け姿。
 鞍馬天狗は山中で起こるヘンテコスチャラカあらゆる怪事件にすっかり肝を潰し、ほうほうのていで逃げ帰ったといいます。

 京都どころか、全国のたぬきの中でも快挙中の快挙。天狗にとっては歴史的汚点そのものだという逸話です。

 人づてたぬきづて狐づてに、紗枝ちゃんから聞いたことがあります。

64 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:02:02.84 ID:m4o3eiU70

 この山も同じとしか考えられません。
 だったら、相手はとっても化け力の強いたぬき……!?


「ぽこっ!」

 ポンッ!!

 私はたぬき姿に戻って、野山を駆け回ります。
 化かそうと迫り来る怪現象は、タネがわかってしまえば怖くありません。

 今はただ、風に混じるわずかなたぬきのにおいを追っかけます……!

65 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:03:26.43 ID:m4o3eiU70

   〇

 もちろん、山ひとつに化けるのなんて並大抵のことじゃありません。
 私はたぬき的直感に従い、ある程度の推測をつけていました。

 どんなに化け力が強いといえど、これほどの規模の偽山を形作るたぬきなんて百年に一匹いるかいないかです。
 たぬき聖地の四国でだって、それは同じはず……。なにしろ、これだけの規模なんですから。


 ずばりこれは――四国は久万山のたぬきたちの、合体技!


 一匹でさえ化け力の強いたぬきが結託して、ひとつの大変化を成し遂げる話は過去にいくつも聞いています。
 そこではどんな怪異の魑魅魍魎百鬼夜行も思いのままなんだとか。

 かつて多摩ニュータウン開発期に世間を賑わせた「妖怪百鬼夜行騒動」も、力を合わせたたぬきの仕業であるというのが通説です。

66 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:04:12.88 ID:m4o3eiU70


 ――だけど、そこには必ず「へそ」があります。


 いわば変化における要、突かれてしまえばダメ的な弱点の部分です。
 それは京都の化け狐の結界にすらありました。へそを突かれて、京都の摩訶不思議な結界屋敷は瓦解したんです。
 複数の化け動物が結託した空間だからこそ、みんなの集中が集まる力点がある。私はそう学習したんです。

 だって……私だって、いろんな修羅場をくぐってきたんだから!

 とてとて走って、ぽこぽこ転がる。のそのそ潜り込んで、ぷにぷに切り抜ける。
 もふもふたぬきの身体能力すべてをもって、たぬきのにおいが濃い方へと一心不乱にダッシュです。

67 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:05:11.82 ID:m4o3eiU70

 走り抜けるうちに、私はなんとなくこの偽山の「癖」が見えてきました。

 きっと、音頭を取っているたぬきはまだ若い。私と同じか、大して変わらないくらいだと思います。
 妖怪の突飛さとか地形のヘンテコさに、溢れ出るアイディアと盛り盛りのやる気が見て取れるのです。

 それが突破口になりました。怪現象がわかりやすくて、隙を探しやすいのです。
 これがもっと巧妙に「山」を偽装し迷わせていたら、私はすっかり化かされていたと思います。

 化け力は物凄いけど、古だぬき流のズルさが無い……って、それは私も似たようなものですけど!

68 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:05:54.33 ID:m4o3eiU70

「ぽこ……!」

 ついに、それらしきものを見つけました。

 山林を抜けて橋を渡り、崖を駆け下って洞窟を進み竹林を抜けた先のなんでもない地面。
 落ち葉が山積したその下に、マンホールがありました。
 地面にマンホールなんてありえません。あからさまです。しかも隠されてあったし。

 私はそこに、そっと尻尾を乗せて……。


「ぽこっ」

 こちょこちょ。

 ふさふさ尻尾で、マンホールの蓋をひたすらくすぐります。

 こちょこちょ、こちょこちょこちょ。ぷにふさっ、さわわ〜。もふもふ。
 こちょこちょこちょ〜……!

69 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:06:30.30 ID:m4o3eiU70


『ふぁ』


 あ。


『ふぁ、ふぁ……』


 どこからともなく、声がして――――



『へっぷちっ!!』


70 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:07:00.42 ID:m4o3eiU70


 ぐにゃんっ!!


 崩れた……っ!

 誰かがくしゃみをした瞬間、山の風景が大きく歪みました。
 ひしっと地面にしがみつく私。このまま変化が解ければそこはきっと違う場所で、ばらばらになったたぬき達と対面するはずです。
 勝負はそこからです。卯月ちゃんと響子ちゃん、そしてプロデューサーさんをどこに隠したか聞き出さなくちゃ……!


 ポンッ!!


71 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:07:58.07 ID:m4o3eiU70

 途端に、全身が浮遊感に包まれました。
 あまりにも眩しくて、視界が真っ白に塗り潰されます。


 気付けば私は青空の下。さんさんと輝く冬の太陽に照らされて、たぬきが一匹、くるくる回って落下します。


「ぽ、ぽこ……っ!?」

 本当は、夜ですらなかったんだ。

 偽の山と、偽の空。時間さえも騙してみせる大仕掛けだなんて。
 一体、どれほどのたぬき達が……


 ――と、私の顔に影が差しました。

 見れば太陽の逆光を背負い、もうひとつの毛玉が、くるくるもふもふ宙を舞っています。
 狙いは明らかに私。一直線に、落ちてきて――

72 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:08:41.66 ID:m4o3eiU70


「ぽこーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 気合一発、たぬきの威嚇。
 その鬼気迫る迫力よりも、何よりも――


 ――たったの、一匹!!?


 あんなに大きな偽山が消失して、飛び出してきたのはたぬき一匹。
 しかも私より明らかに年下の……たんぽぽみたいな、もふもふ小さな仔だぬきだったのです!

73 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:09:42.94 ID:m4o3eiU70

「ぽこっ!!」
「ぽこぉ!?」

 しゅばばっ!

 仔だぬきの、鋭い肉球ぱんち! 私はそれを前脚ではっしと受けます。

「ぽこっ、ぽこぁ!」
「ぽこぽんっ!」

 くるっと回って尻尾ビンタ。それも危ないところで回避。
 更にずばばばばばっと後ろ脚連続肉球蹴りが繰り出され、私は防戦一方。
 これは……タヌキカラテ! この子もかなりの使い手……!?

「ぽこぽこーーっ!!」
「ぽこっ、ぽこぽんっ! ぽぽんっ!」
「ぽっぽこぽーん!! ぽこぽこーっ!!」
「ぽこぉーーーーっ!!」

74 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:10:54.59 ID:m4o3eiU70

 二匹はわちゃわちゃもつれ合いながら、お池にぽちゃんと着水。
 並んで岸までちゃぷちゃぷ泳いで、なんとか溺れちゃうのは避けました。

 はぁ……はぁ……。せーのっ。

 ポンッ!!


「あなた誰!? ど、どうしてこんなことするのっ!?」
「ぽこ〜……!」

 人の姿になって疑問を投げかけます。
 ぶるるんっとたぬ回転で水滴を払った仔だぬきは、警戒心たっぷりの目でじりじり後ずさります。
 改めて見ても、本当に小さい子でした。辺りには他のたぬきはおろか、どんな獣も一匹もいません。

 全身の毛を逆立て、仔だぬきはむぅっと気合を入れて――


 ポンッ!!

75 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:12:08.27 ID:m4o3eiU70


 その姿を見た時、私は不意に、紗枝ちゃんの言葉を思い出していました。


 ――せや。もひとつ、伝えなあかんことがありました。
 ――うちがまだ京都におったころ、お父はんが言うておったことや。

 ――なんや珍しいことやったさかい、覚えとるんどす。京都に根を張るお父はんが、四国のたぬき事情を気にしはるなんて……。


「だんなさまを取らないでっ!」


 ――四国は愛媛に、どえらいもんが産まれはったてなぁ。

 ――そのたぬきこそ、大だぬき「隠神刑部」の血を最も濃く受け継ぐ者。
 ――幼くして、化け力は既に父を超えて最強。
 ――間違いなく、八百八狸の次期頭領と言われとります――

76 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:13:05.84 ID:m4o3eiU70



「せんせぇは、かおるのおムコさんになるんだもんっ!!」


 ――姓は龍崎。名は薫。 


 ――まだ十にも満たへん、ちぃちゃな仔だぬきやって話どす。

77 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/01/10(金) 00:14:25.53 ID:m4o3eiU70
一旦切ります。
すいません……おしごと村が炎上しておりますため、更新ペースこのくらいになりそうです。
京都編や熊本編ほどの長編にはならない予定ですので、今しばらくお待ちください。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/10(金) 00:18:05.11 ID:g2+VB8yyo
おっつ
スレタイで予想してたが平成狸合戦ネタがチラリと
あれだけやった多摩ニュータウンも高翌齢化の波で……
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/10(金) 04:29:01.35 ID:g+tEThQTo
乙でした
事案待ったなしw
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/10(金) 06:11:19.16 ID:YkheSVYDO
人間に化けた際が9歳のペド……

でも山に化けることができるだけの才能があるならば、(歩くセクロス)薫19歳や(未婚の未亡人)薫26歳に(永遠の)薫17歳にも化けることは可能だよね?
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/01/10(金) 19:22:14.08 ID:MbQvBqoxO
 ……よりによって妖獣イヌガミギョウブの直系かよ……。
 そりゃ京都のみならず全国の化け狐が戦慄するわけだ……。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/15(水) 18:06:09.43 ID:JRzcDMhvO
期待
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/24(金) 17:01:46.49 ID:TIExqIVUO
保守
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/09(日) 13:49:40.76 ID:VTs5gKWz0
まだかな
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/09(日) 13:53:11.27 ID:HjcAId09o
Twitterで事故ってしばらく書けない的なこと呟いてたよ
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/09(日) 18:51:43.36 ID:VTs5gKWz0
そうなんだ……ゆっくり治して元気でいてほしい
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/09(日) 19:52:11.15 ID:qCW5b//80
びっくりしてツイッター確認しに行ったら普通にゲームで遊んでたんですが
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/09(日) 19:58:08.65 ID:OnClgoJDO
そんなもんでしょ。おいらもR板でスレ立てて放置中
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/09(日) 20:10:42.29 ID:9jKVHX9po
普通に元気じゃねえか
びっくりさせやがって
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/22(土) 15:30:10.41 ID:vm1qXfQuO
待っている以上、やっぱり何らかの報告をしてほしい。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/22(土) 15:36:23.93 ID:PlKwQwpDO
同人誌作ってるからそれどころじゃないってさ
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/23(日) 09:37:32.27 ID:Es8nIoGY0
 
93 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/02/27(木) 01:08:00.56 ID:SQAfR/tb0

  ◆◆◆◆


 〜前回までのあらすじ〜


 四国は松山、道後温泉にライブに来た美穂たちP.C.S。
 ライブは無事に終わったのだが、その夜、プロデューサーが四国のたぬきに攫われてしまう。

 プロデューサーを探す三人だったが、途中でたぬきに化かされて散り散りに。
 巨大な「偽山」に迷い込んだ美穂は、機転を利かせて変化を解かせ、ついにそのたぬきと対峙する。

 たった一匹で山そのものに化けたたぬきは、龍崎薫。
 齢九歳にして化け力最強と称される、隠神刑部の直系の少女だった。


 彼女は一体、どうしてプロデューサーを「旦那様」と定めたのか。

 偽山での一件から時を遡り――

94 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/02/27(木) 01:08:48.42 ID:SQAfR/tb0

  ◆◆◆◆

  【プロデューサー】

  ――少し前
  ――温泉旅館 露天風呂


「ふぅ〜〜〜……っ」

 いやぁ、いい湯だ。
 広い風呂に足を伸ばして入るなんて何年ぶりだろう。
 疲労回復・肩こり腰痛などに効能があるという天然温泉は、まさに極楽の湯加減だった。

 少し浸かるだけにして明日に備えるつもりだったが……すっかりハマってしまって、もうお湯から出ることができない。
 体中から疲れが抜けて、お湯に溶けていくかのようだ。本当に溶けてるかもしれない。
 じんわりと体の芯まで温められていって、心地よい溜め息が湯気と共に夜空に投じられていく。

 シャワーばっかりじゃ疲れが取れない……って紗枝が心配してたっけ。
 いい機会だから、体中の垢もコリも綺麗さっぱり流してしまおう。

95 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:09:53.21 ID:SQAfR/tb0

 ――がささっ。

「……ん?」

 露天風呂の外、茂みで何かが動いた。
 大きいものではないようだ。

 それは徐々に近付いてきて、なんだなんだと思っていたところ、がさっ、と顔を出した。


「ぽこっ」


 あ、たぬきだ。

 しかも小さい。たぬきモードの美穂より更に年下っぽい、まだまだ子供って感じだ。
 仔だぬきはつぶらな瞳で俺を見て、しばしぽかんとしているようだった。

「ぽこ?」
「どうも」
「ぽこ!」

 びっくりされた。
 その場に10センチほど跳ねて逃げようとするのを慌てて呼び止める。

「ああ、待て待て! 大丈夫、危害は加えたりしないから!」

96 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:11:06.40 ID:SQAfR/tb0

 ………………。
 …………。
 ……。

「ぽこ」

 がさっとまた茂みから顔を出す。
 おいでおいでをすると、まだちょっと警戒しているようだが、慎重に寄ってきた。
 ぬいぐるみみたいな毛玉がよちよち歩み出て、前脚でお湯をちゃぷちゃぷかき混ぜる。

 そして、湯加減を確かめ、とぷんと湯船に浸かった。

「ぽこ〜♪」

 たぬきがぷかぷか、極楽気分で湯船に浮かぶ。
 長野だかどっかの温泉地では、野生の猿が露天風呂に入りに来ることもあるらしい。
 さしずめ四国はそのたぬき版といったところだろうか。最初こそビビっていたようだが、この子もさして人を恐れてはいなさそうだ。

97 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:12:13.28 ID:SQAfR/tb0

「ぽこぽこ」
「そうだなぁ、いい湯だなぁ〜……」

 なんて、たぬきの言ってることはわからんが。これも何かの縁だと、一人と一匹でのーんびりする。
 ふと思い立って、仔だぬきに話しかけてみる。

「なあ、これ見てみ」

 浮かぶたぬきに、いたずら心で両手を見せてみた。
 仔だぬきは「わりと興味がある」くらいのテンションでこちらを注視する。フフフ見て驚くなよ。

「とうっ」

 右手親指が取れた。

 …………というのは錯覚で、そういうマジックだ。
 小学生の頃とかに流行っただろう。実は俺、これがかなり得意である。
 クラスではよく「めっちゃ指取れるPっちゃん」という名誉ある称号を貰ったりもしたっけフフフ……。

 まあ子供だましではあるのだが。
 変化できるたぬきからすれば(この子がそうなのかは知らないが)失笑モノのトリックに過ぎないだろうが、まあ軽い見せ物には……。

98 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:13:28.39 ID:SQAfR/tb0


「ぽ……ぽこ…………!!!」


 えっ。

「ぽこっ! ぽここーっ!! ぽこっ!?」

 ガチでびっくりしていらっしゃる?
 仔だぬきはぱちゃぱちゃこっちまで泳いできて、今のはなんだ何をどうしたんだと言わんばかりにぽこぽこぺちぺち肉球で叩いてくる。
 俺の右手をつぶさに観察して、取れたはずの親指がくっついたことにマジで慄いている。


 …………もしかしてこのトリック知らない?

99 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:15:48.89 ID:SQAfR/tb0

「ぽこ!」
「じゃあ次、小指な。はいっ」
「ぽこぉ!?」
「薬指」
「ぽここーっ!!」
「中指と人差し指を同時に」
「ぽこぽーーーんっっ!!?」

 た……楽しい……!!
 新鮮なリアクションだ……こんなの今までに無かったぞ。
 誰とは言わないがアイドルたちに見せた時の反応はだいたい「かいらしなぁ」「そっかすごいね。ラーメン食べ行かん?」「そんなコドモ騙しで喜ぶかッ」なんて雑〜なもんだったから、こうなんか、ストレートに驚いてくれるのめっちゃ嬉しいぞ。

 調子に乗って余技のマジックを見せまくると、仔だぬきはぽんぽこ驚きまくって次は次はと催促するし、俺の方もどんどんノってくる。

 素手でできるものをほぼ全て披露し、落ち着くころにはすっかりたぬきは尊敬のまなざしを向けてくるまでになっていた。
 まるで先生と言わんばかりの……。

「よし、じゃあちょっと種明かしをしてやろう。あのな――」

100 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:16:54.04 ID:SQAfR/tb0

 ――がららっ。


 とその時、露天風呂の入り口が開く。
 ……ん? 別の客かな?
 いや、確か今日は男性客は俺だけだったはずだが。飛び入りとか? そんな気配も無さそうだったが……。

 あ。

 記憶に蘇る、仲居さんの説明。
 確かこの露天風呂は時間ごとに男湯と女湯が切り替わるという。
 てことは気付かないうちに切り替わっちゃって、女性客が入ってきちゃった……とかか?

 …………ははは、まさか。
 今時そんな一昔前のラブコメみたいなこと――


「わぁ、広ーいっ!」
「本当……! お月さまもよく見えますねっ」
「美穂ちゃんっ、響子ちゃんっ、早く入ろうっ♪」


 あったわ。

101 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:18:01.51 ID:SQAfR/tb0

 しかも三人。よりにもよって担当アイドル。
 慌てて俺は岩陰に隠れる。まずい……!
 そんなに広い露天風呂ではない。しかも出口はひとつだけで、ここからだとどう回り込んでも三人の視界に入る。

 正直に名乗り出る? まさか! 三人が出るまで待つ? いやいや。その間ずっと隠し通せるかわからないし、第一のぼせちまう。

「ぽこ?」
「しっ! いい子だから大人しくしててくれよ……」

 仔だぬきも一緒に隠れる形だ。彼(彼女?)は状況がわかっておらず、いいからさっきのトリックをもっとやれやれとつついて催促してくる。


「はぁぁ〜〜っ……気持ちいい〜♡」
「ぽこぉ〜……」
「美穂ちゃんが溶けてる!」
「とけてないよぉ〜……」


 岩ひとつを隔てた向こうでは、三人娘が湯船に浸かってゆったりしている。
 考えろ、考えろ。なんとかこの危機を切り抜ける一手は……。

102 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:18:40.17 ID:SQAfR/tb0

「ぽこ、ぽこっ」

 ぱちゃぱちゃ。

 ……と、仔だぬきが泳ぎだした。
 向かう先はなんと、美穂たちの方向……!?

「ちょ、待っ、どこ行くんだおい……!?」
「ぽこ!」

 振り返る仔だぬきの顔は、何故かとても頼もしげ。

 安心しろ。
 お前の超スゴいトリックは、向こうの雌たちにもちゃんと布教してやる。

 …………と言っている気がしたがそれじゃマズいんだって!!

103 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:19:59.87 ID:SQAfR/tb0

「ぽこ、ぽこーっ」
「だから待てって……!」


 がしっ!!


 と、咄嗟に伸ばした手が、たぬきの尻尾を強く掴んだ。

 それがいけなかった。

「ぽ…………っっ!?」
「え!? な、なんだ……!?」


「――――ぽこぉ!!!!」

104 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:20:29.98 ID:SQAfR/tb0


  バシャーーーーーーーーンッ!!!


 突然、たぬきの身が翻り。
 ものすごい突風に晒されたかと思えば、逆巻く湯柱で上も下もわからなくなって。

 結果、毛まみれで気絶する、全裸の俺が生まれたというわけである。


 その後の顛末は、前回までに述べた通り。
 俺は美穂たちに介抱され、深夜に目覚めたかと思えば、四国のたぬきたちに迎えに来られた。

 なんでも俺を「婿」にするとのことだったが、なにがなにやら、正直わからないままで――
105 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:21:45.83 ID:SQAfR/tb0

  ◆◆◆◆

  ―― 久万山 四国たぬきの村


 連れられた先は、久万山というところにある村だった。

 巣穴だとか森とかじゃなくて、れっきとした村里だ。
 それも結構大きい。山間の一部分、国道と繋がる開かれた場所に、家や畑や各施設が過不足なく揃っている。
 郵便局や診療所、コンビニや、小さいながら図書館や学校まである。

 だが移動中の説明によれば、ここに暮らすのは一匹残らずたぬき。
 たぬきたちが独自の村を築き、みな現代的で文化的な生活しているのだという。

 中には街に職業を持つたぬきもいるのだとか。彼らは一見人間とは区別がつかず、金を稼ぎ、人間社会を回し、互いに繋がりを持って存続しているのだ。


 たぬき王国たる四国ならではの村だ。ちょっと信じがたい。ヒキコモリの京都の狐たちが見たらなんと言うだろうか。

106 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:23:25.84 ID:SQAfR/tb0

「――よくぞおいて下さった、婿殿。儂は本村のたぬきを率いる、龍崎玄葉と申します」
「はあ、ご丁寧にどうも……」

 通されたのは、村役場近くの講堂。いわゆる体育館的な空間で、正面にはささやかな舞台がある。
 中に入ると、ヒゲを生やした毛むくじゃらの大柄なおっさんが待ち受けていた。後ろには大小さまざまなたぬきがずらっと並ぶ。

「遠路はるばるお疲れでございましょう。配下の者に鯛しゃぶを用意させておりますゆえ、それで腹を満たすがよろしい」
「いえ、それはありがたいんですが」

 何もかも急な話ではあるものの、相手に敵意の類はなさそうだ。
 とはいえ、詳しい思惑を聞かなければどうにもしようがない。

「婿に迎える……というのは、どういうことでしょうか? 私はこの四国へ来たのも、あなたがたと出会うのも始めてです。正直、一体何が何やら……」
「ふむ、疑問に思うのもごもっとも。ここは本狸(たぬ)を呼んでご説明いたしましょう。――薫!」


 薫?
 龍崎氏が奥へ声をかけると、舞台にかかった緞帳の陰から、一匹のたぬきがおずおず顔を出した。

 ……あ!

107 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:24:32.19 ID:SQAfR/tb0

 あの子は、前夜に露天風呂を共にした仔だぬきだ。間違いない。
 そういえばあの子の尻尾を掴んでから天地がひっくり返って、わけもわからず意識を失っていたわけだが……。

「ぽこ……」

 てちてち歩み出る仔だぬきに、龍崎氏が目配せ。
 すると小さな毛玉がむぅんっと気合を入れ、そうかと思えば、


 ポンッ!!


「な……お、女の子……!?」

 とても小柄な、小学校低学年くらいの少女がそこにいた。
 ぱっちり開いたお日様色のどんぐりまなこと、ひまわりに近いオレンジがかった茶髪。
 正直言ってめちゃくちゃかわいい。
 これならアイドルになったって誰にも見劣りしないだろう。
 そうだな、ヨネさんのところの部署はジュニアアイドルがメインだったから、彼のところに預けたりすれば……

 と、いかんいかん、職業病が……。

108 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:25:24.37 ID:SQAfR/tb0


「一人娘の龍崎薫です。親の欲目を差し引いても、見事なものでございましょう」


 確かに、これが化け姿ならかなりのものだ。
 一発で人間と寸分たがわぬ姿を取り、耳も尻尾もまったく出していない。
 そもそも人に化けきること自体がなかなかの高等技術だと美穂から聞いたことがある。
 彼女の年齢が見た目相応のものだとしたら、この歳で人化けを完全にマスターしていることになる。

 ……ん? 年齢……。

「あの。彼女は、幾つですか?」
「九つになります。たぬきの平均寿命はもっと短いものですが、我ら化けだぬきは別。人と同等かそれ以上に生きられますゆえ、人の九歳とほとんど変わりはありません」
「で、その薫さんが……」
「貴殿が夫婦となる相手にございます」
「ナンデ!?」

 九歳でしょ!?
 一回り以上も年下なんですけど!?

109 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:26:15.11 ID:SQAfR/tb0

「う……ぁの……」

 娘さん――薫ちゃんは、りんごみたいに赤い頬をぺたぺた撫でながら、伏し目がちに俺を見上げる。
 はっきりとした太めの眉は、今は困ったようなハの字に下がり、どうしていいかわからないといった風だ。
 本来もっともっと元気な子なのだと思うが、今は未体験の事態に戸惑いを隠せないでいるようだった。

「し、しっぽをね? しっぽを、掴まれた……から……」
「婿殿。貴殿は昨夜の露天風呂にて、薫と裸の付き合いをしたと聞きます」
「た、確かに成り行きで風呂には入りましたが……」

 まさか雌だったなんて。

「まあそこまではよろしい。薫もしばしば道後の湯を楽しみに行く身。時には観光客の男衆や、地元の爺様たちと共に風呂に浸かることもあります」

 ならば何故。そういえば薫ちゃんは、さっきからずっとお尻を気にしている。


「貴殿は、薫の尾を力強く鷲掴みにしたそうですな」
「そういえば……」

 咄嗟に止めるためのことだった。
 思えばあれが、薫ちゃんが突然爆発したきっかけではなかったか。

110 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:27:00.08 ID:SQAfR/tb0

 厳かに腕を組み、龍崎氏は断言する。


「たぬき界にて雄が雌の尻尾を強く掴むことは、『お前を嫁に貰う』という意味を持つのです」


「そうなの!!!???」

 初耳だが!!!!????

「たぬき……特に化けだぬきにとって尻尾は妖力の核。すなわちそのたぬきの全て、ある意味で心臓や金玉よりも大切な部位にありますれば」

 金玉とか言うな。

「然るにその尻尾を強く掴むということは、『お前のすべては俺のもの』『お前の最も大切なものを引き受ける』……という意味になるのですな」
「そ、そんなことが……!」
「無論、薫は当家の未来を担うたぬき。いかに幼きとて尻の守りは盤石、そう易々と余人に尾を晒すことなどあり得ぬ話です。
 であれば貴殿に気を許していたか、あるいは相当に油断していたことになりましょうが……いずれにせよ、掴まれたからには百年目」
「待ってください! あれは偶然のことで、そんな意味があったなんて私はまったく……!」

111 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:28:08.85 ID:SQAfR/tb0

 あれこれ言い合う俺と龍崎氏を、娘の薫ちゃんは交互に見比べていた。
 やがて、ぽっ、ぽぽぽっ、とその頬が赤みを増し、

「だ、だめ〜〜〜〜〜〜っ!! やっぱり恥ずかしいよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 ぴゅーーーーーーーーっ!!

 と、一目散に逃げていってしまった。
 ちっちゃな歩幅でトテテテテテテテと走り去り、その背中がどんどん遠ざかっていく。

 龍崎氏は敢えて止めようとはせず、まずは、と俺に向き直る。

 ――ざざっ!

 氏をはじめ講堂のたぬき一同が、一斉に俺に頭を垂れる。
 その一糸乱れぬ統率に驚嘆すると同時に、遅まきながら事の重大さを実感しつつある俺だった。

112 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:28:53.59 ID:SQAfR/tb0


「改めまして――龍崎家ならびに本村のたぬき一同、貴殿を薫の婿殿として迎え入れようと」

「お断りします」


 …………………。

「……貴殿を婿として当家に迎え入れようと」
「やり直すな! お断りしますって言ってるでしょ!」
「なにゆえ」
「いえ、だって彼女はまだ九歳でしょう? だいいち本人は納得してるんですか!?」
「薫が承服しているか否かは関わりのなきこと。これはたぬきの決まり事であり、忽(ゆるが)せにはできぬ掟にありますれば」
「そんなっ……じゃあ、偶然の出来事で彼女を好きでもない男とくっつけるっていうんですか!?」
「これも天命でありましょう。この世には人やたぬきの力が及ばぬ天地神明の理なるものがあります」
「だからって幼い娘の将来を勝手に決めるのか!? あんたには人の心ってもんが無いのか!?」
「たぬきなので」
「それはそうだが!!!!!」

 くっ、何を言ってものれんに腕押しだ……!
 重厚な雰囲気だが、どこかのらりくらりと手応えの無い感はまさにたぬきオヤジ。

113 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:30:07.47 ID:SQAfR/tb0

「――それに当方とて、なにも考え無しの決定ではございません。
 いかに掟といえど、どこの馬の骨とも知れぬ凡夫に娘をやる決定など致しませんとも。
 まして伊予は久万山、いや四国、いや日ノ本に不世出の天稟を持つ、薫ほどのたぬきを」

 さっ、と氏が合図を出した途端、恐ろしいことが起こった。
 周りのたぬきが一斉に俺に殺到し、群がり、くっついて動きを封じてきたのだ。

「うわぁ!? なっ何をする!?」

 くんくんくんくんくんくん。
 ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん。
 はすはすはすはすはすはすはすはすはすはすはすはすはすはすはすはす。

 か、嗅がれてる!
 全身余すことなく、たぬきの鼻をくっつけられて嗅ぎ回されてるゥー!!!

「フムン……ふんふんふん。くんくん、くんかくんか」

 ヒゲモジャのおっさんにも嗅がれてる!!!
 なんら敵意を感じないことが、かえってぞわぞわした。やだ何この空間。志希のハスハスがかわいいものだ!

114 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:32:23.19 ID:SQAfR/tb0

「やはり。婿殿、貴殿はなにやら奇天烈な匂いを漂わせていなさる」
「えっ臭いっすか。昨日ちゃんと洗ったんですが……」
「温泉の芳香でも打ち消せぬ、体中に染み入った類まれなるものどもの香りが……」

 スルーされた。
 いや、てことは体臭じゃないんだろうが、じゃあなんだ?


「たぬき。人。ここまではよろしかろう。加えて狐、兎、ふむ……西洋の化生の気配もある。続いて鹿……否、トナカイ。
 更には桑の葉……そういえば桑を神体とする東北の農耕神がおりましたな。仄かな花の香は柊。魔除け、退魔の血筋にゆかりのあるものです。
 直接匂いは感じませぬが、鼻先をくすぐる冷気も尋常のものではない。雪女など久しく見たこともありませぬが、いや珍しい。

 それから――とても旧い、旧く永い土と樹の匂い。およそ生き物の匂いではありませぬが、覚えがあります。
 幼き頃、父に連れられて巡礼した果ても知れぬ紀伊の路。あれは確か、山伏の聖地……熊野古道と言いましたかな。あの場所の匂いと似ている。

 ……そして山とは真逆に、気も遠くなるような潮(うしお)の匂い。
 これは果たして何者の匂いかすらもわかりませぬ。母なる海そのもののような……遥か遠き島にでも迷い込んだようです」

115 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:34:21.67 ID:SQAfR/tb0

 戦慄した。
 嗅いだだけでここまでわかるものか。
 今なお鼻をふんふんヒクつかせる配下のたぬきたちが、ぽこぽこ龍崎氏に何かを訴えている。
 おそらく一匹一匹が俺を嗅ぎ、気付いたことを逐一報告しているのだ。

「総じて言えば、まるで人の匂いではない。貴殿そのものは人の身であろうが、なれば猶更、何者なのかが気にかかる」

 何者かもなにも、芸能事務所のプロデューサーですが。
 …………と言っても、信じてはくれないような気がする。

 沈黙を保つ俺に、龍崎氏は眉ひとつ動かさずに話題をシフトした。


「時に、四国のたぬきは日本各地に間者を放っておりましてな。南は琉球、北は蝦夷と、人に紛れてあらゆるたぬきが網を張っておるのです。
 殊に現代は情報化社会。絶えず流るる社会情勢やら、あるいは裏の怪異事情などを的確に掴まねば時流に乗り遅れるぞと……」
「……それが?」
「彼らから、『京の狐が敗れた』と聞き及びました」

 ぎくりとした。

116 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:36:23.92 ID:SQAfR/tb0

「儂らは狐を好きません。四国では弘法大師様のお導きもあり、彼奴らを一匹残らず追い出すことに成功しましたが、奴らは悪賢い。
 特に京都の狐などは最悪です。悪知恵が働く上に性格がしこたま悪い。なれど、彼奴らの化け力だけは、認めざるをえません」

 龍崎氏は黒々とした顎髭を撫でさすりながら、まるで見てきたように続ける。


「あの結界は我らたぬきが総出になっても真似できぬもの。まして破るなどは夢のまた夢、互いに関わりを持たずにいるべし……
 と、思っていたところに、これです。
 晴明公、はたまた稲生様の生まれ変わりの豪傑でも現れたかと色めき立ったものですが、事実は真逆。
 配下もはっきりと掴めてはおりませぬが、少数の人間とたぬき、あとは片手で足りるばかりの物の怪どもの仕業のようだと」


 下手なことは言えない。
 と黙っていたのが裏目に出た。龍崎氏は、俺の顔から片時も目を離さない。

「……心当たりがおありのようですな」

 やっぱりこいつ、かなりの食わせ者だ。
 熊本の海老原一家、京都の小早川家と違い、敵意というものが最初から無い。
 むしろ歩み寄る姿勢を見せているのが、かえってこれまでの相手と違う凄味を放っている。

117 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:37:49.94 ID:SQAfR/tb0

「ご覧の通り、我が村は人間社会と深く関わりを持ちます。儂は時代の流れに従い、人とたぬきの血を混ぜ合わすもやぶさかではないと考えておりましてな。
 であれば相手もまた、ただの人であってはならない。そこに現れたのが婿殿、貴殿のような奇妙奇天烈な客人(まろうど)というわけです。
 薫はまだ子を成せる歳ではありませぬが、色々な意味で将来有望と確信しております。いかがですかな?」

「いかがですかったって、そんな勝手に決められても――」

「憚りながら、婿殿。事はもう『偶然のなりゆき』で修正の利かぬところにまで進んでいると自覚した方がよろしい」

 返す言葉は、これまでより一段低く、厳かだった。
 その圧に息を呑むと、一瞬前までの威圧感はどこへやら、龍崎氏はにっこりフレンドリーに微笑んだ。


「……まあ、急な話で戸惑うのも無理からぬ話。しばしこの村にご滞在なされませ。豊かな自然と旨い飯でも楽しみつつ、ゆるりと考えましょうや」

118 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:39:03.38 ID:SQAfR/tb0

   ○


 驚いたことに、普通〜に解放された。

 何の束縛も無しに講堂を歩み出る。
 よく晴れた午前の空は真っ青で、山の空気はものすごくうまい。

 目の前を、農作物を積んだ軽トラがゆるゆる通り過ぎる。
 小さな分校で子供達の遊ぶ声が聞こえる。
 赤い郵政カブが手紙を積んで農道をのんびり走っている。

 ……あれらは全部、たぬきなのだ。

 脱出を考えはした。だがすぐに現実的ではないことに思い当たる。
 早朝からここまで相当な距離を移動した。土地勘の無い男が一人で下山できるとも思えないし、車も簡単には盗めまい。
 そうだスマホは、とポケットを漁ってみたが、ご丁寧にいつの間にか没収されていた。


 つまりこれは、事実上の軟禁だ。

119 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:40:07.55 ID:SQAfR/tb0

「美穂……卯月、響子……」

 頭に浮かぶのは彼女たちのことだった。
 心配をかけていないだろうか。
 せっかくライブが大成功に終わったのに、こんな形で迷惑をかけてしまった。
 せめて彼女たちだけでも先に戻り、事務所に状況を伝えて欲しいのだが……。


「あの……」


 と、横から声がかかる。
 見ると電柱の陰から、渦中の娘さんが見ているではないか。

「君は……薫ちゃん?」
「う、うん。あの、あのね」

 勇気を出して物陰から出てくる。
 しゃがみ込んで目線を合わせると、薫ちゃんは意を決してこう言った。

「む、村! この村のこと、案内してあげたいなぁ」
「村の案内?」
「うん! えっと、来たばっかりでよくわかんないと思うし。かおる、村のことなら詳しいから……」

120 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:41:08.38 ID:SQAfR/tb0

 もじもじしている。
 まるで好きな男の子に、一緒に帰ろうと言っている女子のようだ。
 というかニュアンス的にはほとんど同じようなものに思えた。

 ……うん。
 一人でうだうだ考えていたって仕方ない。

「わかった。お願いしていいかな?」
「! ほんとに!?」

 ぱぁっと彼女の表情が華やぐ。
 本当に太陽のような笑みだった。これが彼女の本来の顔なのだろうと、直感でわかる。

「もちろん。連れてってくれるか?」
「うんっ! じゃあねじゃあね、こっちに来て! かおるが教えてあげまーっ!!」

 あげまーって。かわいいな。テンション上がった時の口癖だろうか。
 小さな手が、はっしと俺の手を握る。
 そうかと思えば、小さな体のどこにそんな力があるのか、小さい重機みたいな勢いでのっしのっし歩き出す薫ちゃんだった。

121 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:41:49.20 ID:SQAfR/tb0


 ……まずは彼女と、この村のことを知らねば。


 一方、美穂たち三人がたぬきのタクシーに引っかかってしまったことを、俺はこの時まだ知らないままだ。
 
122 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/02/27(木) 01:45:02.45 ID:SQAfR/tb0
一旦切ります。更新バリクソ遅れてしまい申し訳ありません。
公私ともにあれこれ作業があり、なかなか手が回らずにおりました。
過去長編ほど長くはなりませんので、これで半分過ぎたくらいです。
今後も遅めのペースになりますが、せめて少しずつでも進めていければと思います。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/27(木) 04:12:09.23 ID:9ifpCgwd0
続き来た!乙です

やはりこずえちゃんが一番ヤバそうな感じなのか…?
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/27(木) 06:01:09.50 ID:2DRZ0paDO
同人誌作成乙

茄子とこずえと芳乃(あと千川)がいれば、大抵何とかなるのがモバ界だからなぁ

あとはクラリスにイヴとヘレンも
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/27(木) 07:11:17.45 ID:RUhog2jQo
おつ
残ってる匂い多すぎなんですがそれは
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/19(木) 12:30:03.60 ID:tbYlTNr2O
お仕事頑張ってください!待ってます
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/21(土) 22:23:20.97 ID:QbJQO6xTo
スランプかな?
今回特に難航してる気がする
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/25(水) 02:35:16.35 ID:TF8qVewy0
シンステで本買ったぞー
続き楽しみにしてる
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/17(金) 22:46:23.73 ID:6ThGbU9u0
コロナにかかって書けないとは思いたくないけど、とにかく早い再開を願うばかり
130 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:03:31.66 ID:LfJZE5H/0

   ◆◆◆◆


 ―― 久万たぬきの村


薫「それでねそれでね、こっちが図書館! いっぱい本があるんだよ!」

P「へぇ、小さいながらもしっかりした……」

薫「あそこは学校で、向こうには畑! あとねあとね、コンビニもあるんだよ!」

P「ああ、さっき見たよ。こういうところにもあるんだな」

薫「おばーちゃんがやってて、8時に開いて7時に閉まるの!」

P「田舎によくあるやつだ……!!」

131 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:04:30.85 ID:LfJZE5H/0

  〜しばらくして〜


P「ここは公園か。少し休もうか」

薫「うんっ」

P「いい天気だなぁ……山の上だから、空気がうまいんだな。なんか心が和むよ」

P(今の状況忘れそうになるくらいには……)


薫「じー……」

P「ん?」

薫「じぃーー……っ」

P「ど、どうかした?」

薫「あのね、えと」

薫「……おなか、すいてない?」

P「腹? ああそういえば、朝からなんも食ってないなぁ……」


  グゥゥ…


P「っと……はは。自覚した途端にこうだ。さっきのコンビニで何か買おうかな」

薫「あのねっ!!!」

P「うわぁびっくりした! 何!?」

薫「かおる、おにぎり作ってあるのっ! だんなさまに食べてもらおうって!」

132 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:14:37.20 ID:LfJZE5H/0

P「おにぎり」

薫「うんっ。食べて……くれる?」オズオズ

P「そっか……それは嬉しいな。ありがたくいただくよ」

薫「! えへへっ、待っててね! 今出すからっ」ゴソゴソ


P(龍崎薫ちゃん……上の思惑はともかくとして、この子はすごくいい子だ)

P(不可抗力とはいえ、この子を嫁に貰うとは、俺もとんでもないことをしてしまったな……)

P(なんとか誤解を解かなければ……)


薫「はい、どーぞ!」

P「お、ありがデカァァァァいッ!!?」

薫「え? そうかなぁ」

P「すごいデカい! メロンくらいある!」

薫「でも、おとうさんはいつも五つくらい食べてるよ?」

P「すげーなお父さん!?」

薫「男のひとは、たくさん食べなきゃいけませんっ。はいっ、めしあがれーっ♪」

P「う、うむ……これは激しい戦いになりそうだ」

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