古澤頼子「高峯のあの事件簿・マスターピース」

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58 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:19:24.47 ID:RS4SDFXO0
28

清路警察署・ロビー

のあ「大和巡査部長!」

亜季「高峯殿……本官は疲れたでありますよ。課長の許可が出たので、帰宅するであります」

真奈美「いつもの元気がないな」

のあ「仕方ないわ。聞きたいことがあるのだけれど」

亜季「もちろんであります」

のあ「三船美優を知ってるかしら」

亜季「知っているでありますよ。警部補殿は昨日も会っていたであります」

のあ「昨日も会っていたの?」

亜季「ええ。ライブのチケットがないので、ご友人と出かけたと」

のあ「留美の様子、おかしくなかったかしら」

亜季「おかしいとは思わなかったでありますが、いつもよりは捜査に対して淡泊だったような気もするであります」

のあ「言われてみれば、そうね。熱意に溢れていなかった」

亜季「そのご友人に、何かあったでありますか」

のあ「三船美優の安否を調べることを、志乃にお願いするわ」

亜季「何故で、ありますか」

のあ「留美を変えるために彼女を仕向けたのよ、古澤頼子が」
59 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:20:19.18 ID:RS4SDFXO0
29

清路警察署・和久井班室

真奈美「情報の方は落ち着いた。理由は深夜にさしかかっているからだな」

のあ「報奨金を支払えるようなものは……なさそうね」

真奈美「和久井警部補、古澤頼子共にな。大石君が見つけてくれたウェブサイトの方が有益そうだ」

のあ「ノイズが増えるだけね。これからの時間の情報は特に」

真奈美「のあが影響できる警備会社は動かしたつもりだ。それなりの人数は動いてもらっているが」

のあ「こちらの収穫は」

真奈美「情報はないが、市民の安全には貢献している」

のあ「古澤頼子も迂闊には動けないでしょう」

真奈美「それと、消防団が幾つか見回りに出てくれている」

のあ「消防団?真奈美、声をかけたのかしら」

真奈美「私じゃない。のあが食べている中華料理から、だな」

のあ「どういうことかしら」

真奈美「スタッフの1人が地域の消防団に所属している。のあ、ここ1年くらいで消防団に設備や資金を寄付してないか?」

のあ「しているわ。父から受け継いだゴルフ会員権を整理して、余裕ができたから」

真奈美「本当の理由はさておき、のあの名前で動いてくれている」

のあ「後日、お礼を言っておくわ」

真奈美「本当の理由は」

のあ「真奈美なら、わかっているでしょう。まゆ、よ」

真奈美「そうか」

のあ「火がトラウマになってるわけではないけど、傷は完全には癒えない。火事のニュースを見ると、まゆの手が止まるのよ」

真奈美「佐久間君は知っているのか、寄付のこと」

のあ「言ってはいないわ。私の」

真奈美「のあ、着信じゃないか」

のあ「本当だわ。水嶋さんからね、もしもし」

水嶋咲『のあさん、こんばんは!』

水嶋咲
喫茶St.Vのアルバイト。昨年末から働いている。次に働くカフェが見つかったとか。

のあ「お疲れ様、水嶋さん」

咲『上に行ったら、のあさんは出かけてるみたいだから電話したんだ。本当は、直接話した方がいいんだけど、忙しいみたいだから』

のあ「何かあったのかしら」

咲『見つけちゃった、解除しておいたから安心してっ。サンタから教わったし、手先は器用なんだ♪』

のあ「もしかしてだけれど……爆弾かしら」

咲『うん、発火装置もね』

のあ「どこで、見つけたの」
60 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:21:04.68 ID:RS4SDFXO0
咲『建物の裏側、塀に取り付けられてた』

のあ「まゆと楓に伝えたのかしら」

咲『まゆちゃんとオッドアイの美人さんに言わない方がいいかな、って』

のあ「それでいいわ、不安にさせる必要はないもの。真奈美、事務所の監視カメラを確認して」

真奈美「事務所の?わかった」

咲『高峯ビル辺りは調べてみたよ、他は何にもなかった』

のあ「いつ起動させるつもりか、わかるかしら」

咲『近くで信号を出さないと起動しないタイプだった。物理的なロックもあったよ』

のあ「使うつもりがなさそうな感じね」

咲『何かの保険だったのかな。そういえば、高峯ビルって防火仕様?』

のあ「ええ。爆発にも強いはずよ。ガラスも防弾にしてあるわ」

咲『良かった♪しばらくはSt.Vで見張ってようと思うんだ。どう?』

のあ「お願いできるかしら。まゆと楓も安心するでしょう」

咲『任せて!塹壕で48時間構えていた時より楽だもん。ばいばーい♪』

のあ「ありがとう、助かったわ」

真奈美「のあ、監視カメラを調べてみた」

のあ「不審な人物は」

真奈美「見つかっていない。事務所は安全だ」

のあ「仕掛けたのは古澤頼子でしょうね」

真奈美「入手できるなら、彼女しかいない。だが、手法がお粗末だな」

のあ「私を殺すこともできないでしょう、使われたとしても」

真奈美「それなら目的はなんだ?」

のあ「狙っているという事実が重要だったのかしら」

コンコン……

志乃「ちょっといいかしら……」

のあ「志乃、ここにいていいのかしら」

志乃「やっと時間ができたわ……真奈美さん、飲み物をいただけるかしら」

真奈美「もちろんだ、柊課長」

志乃「お邪魔するわ……新情報と二人に話したいことがあって」
61 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:22:19.44 ID:RS4SDFXO0
30

清路警察署・刑事一課和久井班室

真奈美「柊課長、コーヒーでいいかな」

志乃「ありがとう……いただくわ」

のあ「何か食べるかしら」

志乃「お気遣いは不要……つまんでいるからいいわ」

のあ「新情報というのは」

志乃「遺体が見つかったわ……ひとつは拉致監禁の容疑者、新田巡査の手錠が使われていたわ」

真奈美「のあの推測通り」

志乃「妙に遺留品が多くて……意図を感じるわ」

のあ「留美が、次を示すためよ。おそらくは、新田巡査の遺体を置く場所だったところ」

真奈美「古澤頼子が現れたから、プランを変更したのか」

のあ「そう思うわ。遺体はひとつでは、ないのね」

志乃「ええ……三船美優さんの遺体が見つかったわ」

真奈美「こっちも、のあの予想通りか」

志乃「亡くなったのは昨日ね……島村卯月さんの事件が起こった時には、もう……」

のあ「留美に変わった様子はなかったかしら」

志乃「思い返せばあるわ……けれど、難しいことは知っている」

のあ「志乃が教えたことだものね」

志乃「そう……私が、その立場でも騙す自信はあるわ」

真奈美「彼女が、最初の被害者か」

志乃「ええ……でも、これまでとは様子が違ったわ」

のあ「様子が違う?」

志乃「今回の事件は……苛烈な怒りを噴出したような現場がほとんどだったわ」

真奈美「それとは違う、と」

志乃「見てもらえればわかるわ……30分後には警察の捜査も一段落するわ、その頃に行ってちょうだい」

のあ「志乃が許すなら、行くわ。留美の足取りは」

志乃「以前として不明……移動してない可能性もあるわ」

真奈美「移動していない?」

のあ「志乃の考えは」

志乃「既に古澤頼子の居場所に目をつけ……待機している。あの子……我慢強いもの」

のあ「我慢強いことは、よく知ってるわ」

志乃「ええ……新情報はこんなところよ。皆、がんばってくれてるわ」

真奈美「ああ」

志乃「それとは別に……話したいことがあるの」
62 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:23:26.37 ID:RS4SDFXO0
のあ「……何かしら」

志乃「謝るわ……あの子を止められなかった」

のあ「志乃のせいじゃないわ。三船美優は大学1年からの友人よ……あなたよりも、古澤頼子は早かった」

真奈美「私が思うに、偶然状況が揃っただけだ」

のあ「私も、そう思うわ」

志乃「私達は警察官よ……そうあるべきなの」

のあ「……」

志乃「私に任命責任もあるわ……新田巡査も含めて」

のあ「新田巡査は志乃が連れて来たのかしら」

志乃「採用したのは私よ……刑事一課希望の女性警察官の受け入れ希望が来たから、決めたわ。留美の元に配属させたのも、私」

のあ「留美の元につけないのは難しいでしょうね」

真奈美「わざわざ別の人物につけるほうが変だ。優秀な女性警察官がいるのに」

志乃「責任は取るわ……ことが終わったら、課長からは降りるの」

のあ「降りたがっていたじゃないの、志乃は」

志乃「もう一度やり直すわ……礼子が許してくれそうだから」

真奈美「……」

志乃「のあさん……気になっていることがあるかしら」

のあ「ええ。志乃と留美のやり方について」

志乃「私達の秘訣は……もう、わかっているでしょう」

のあ「選択と効率化」

志乃「そういうこと……探偵さんの推察は」

のあ「志乃と留美は過去の事件を暇があれば読み込んでいる。そして、順番をつけている」

志乃「そうね……あっているわ」

のあ「どのような証拠、時間、労力が必要か目星をつけ、過去の事件を解決していく。緊急性の高い事件の合間で」

志乃「そうよ……救いを求める犯罪被害者の声を聞かずに、優先度を決めているの。心ではなく理性で」

真奈美「……」

のあ「何も解決できないよりは、いいわ。それと、一番大切な仕事は初動」

志乃「ええ……」

のあ「今なら久美子とかもいるけれど、私と留美が会った頃の志乃はお世辞にも動かせる人間が少なかった」

志乃「ご明察……気づいていると思ってたわ」

のあ「留美は才覚があるとはいえ、まだ未熟だった」

真奈美「そうか、のあを使ったのか」
63 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:24:22.17 ID:RS4SDFXO0
志乃「そうよ……あの子が一人前になるまでは、あなたが必要だったの」

のあ「別に責めてはいないわ。結果的には、良いこと」

志乃「成果をあげることもあるけれど……それだけじゃないわ。あなた達には友人が必要だったわ……あなたには、仕事も」

のあ「……」

志乃「本当は……ちゃんと高校を卒業して警察官になって欲しかったの」

のあ「何回か言ってたわね。忠言を聞かなかったことは謝るわ」

志乃「いいのよ……今は元気そうだもの。真奈美さん、ありがとう」

真奈美「私?私は何もしていないさ、のあが決めたことだよ。私がここにいるのも」

志乃「両親を失ったあなたを……助ける方法は他にもあったわ。でも、私は刑事だったから……この方法にしたわ」

のあ「……」

志乃「もう一度謝るわ……友人を、失わせてしまったの」

のあ「友人?そうか、友人ね……」

真奈美「何か閃いたか?」

のあ「私のビルにも爆弾が仕掛けられていたわ」

志乃「初耳なのだけれど……平気かしら」

のあ「問題ないわ。雪乃の寛容さに感謝しないと。何故、私を狙ったのか」

志乃「古澤頼子は……探偵さんと因縁があるわ」

のあ「それなら『化粧師』に主導させないはずよ。残念だけれど、私にそこまで興味はなさそうよ。この状況で登場人物としてはキャスティングされているけれど」

志乃「……三船美優さんはあの子の友人だったわ。あなたも友人よ」

のあ「そういうこと。古澤頼子は、留美を今の状況に陥れるためならどんな手でも使うわ」

志乃「話はわかったわ……友人や親族の無事を確認しましょう」

のあ「キャスティングされているから、殺しはしない程度。爆弾が雑な理由もわかったわ」

志乃「適任は……ヘレンがいるわね。他県の警察にも依頼を」

のあ「ヘレンならやってくれるわ」

真奈美「つまり……警部補はやるしかなかったのか。のあを含めて、誰かが犠牲になる前に」
64 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:25:23.05 ID:RS4SDFXO0
のあ「古澤頼子が配役した、と言い切る理由もわかったわ」

志乃「賢い方法ではないわね……私刑はどんなことがあっても許されはしない」

のあ「ええ」

志乃「可愛い部下だもの……止めましょう」

真奈美「だが……そうなると、古澤頼子の目的はなんだ?」

のあ「真意はわかりたくもないわ。古澤頼子が求めている状況なのは確かだけれど」

志乃「測りかねるわ……殺されたがっているわけでもないでしょう」

真奈美「この状況を楽しんでいるだけ、か?」

のあ「状況を楽しむのに、身の危険はいらないわ」

志乃「いずれにせよ……捕まえればわかること」

のあ「同感よ」

早苗「志乃さん、ちょっといい?」

志乃「早苗さん……お疲れ様。こんな時間までご協力ありがとう」

早苗「困った時はお互い様。また、自首してきたわ。志乃さんが会った方が早いと思う」

志乃「行くわ……こんな手段で犯罪が減るのは本意じゃないの。わかってもらえるかしら……?」

のあ「ええ、わかってるわ」

志乃「ありがとう……早苗、案内してちょうだい」

早苗「こっちよ」

のあ「……」

真奈美「落ち着くには当分かかりそうだな」

のあ「そうね。真奈美、30分休憩したら出る準備をしましょう」

真奈美「わかった。目的地は」

のあ「三船美優の所へ。志乃の言う通り、直接現場を見るわ」
65 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:26:42.25 ID:RS4SDFXO0
31

三船美優の自室

三船美優の自室
女性向けアパートの205号室。セキュリティ・防音共に評判は良い。アロマの良い匂いがする。

のあ「久美子、本当にお疲れ様」

久美子「のあさん、来たのね。ちょうど終わったから、現場見る?」

真奈美「科捜研は久美子君だけか?」

久美子「ええ。もう1つの現場は志希ちゃんにお願いした。音葉ちゃんは科捜研で作業中。ああ、警護は増えてるから安心して」

のあ「現場を見るわ。久美子、案内してちょうだい」

久美子「こっちよ。三船美優さんの遺体は壁に寄りかかった状態で発見されたわ」

のあ「変哲もない一人暮らし用のアパート。間取りは1K」

真奈美「良い匂いがするな」

久美子「そこのアロマディフューザーが、ずっと動いてたから」

のあ「遺体の状態も綺麗ね」

久美子「外傷もないし、死後に消毒されてるわ。キッチンに消毒用アルコールがあったから、それを使ったのかと。留美さんの指紋もあったし」

のあ「目的は腐敗を遅らせるためかしら」

久美子「発見を遅らせるのか、単に綺麗にしたかったのか。どちらか」

のあ「三船美優は会社員だったわね、職場に連絡は」

久美子「体調不良で休む旨をメールで連絡してるわ。発信元はテーブルの上に置いてあったケータイ」

真奈美「本人じゃないよな」

久美子「おそらく」

のあ「通信機器が残ってるのは初めてね。何か見つかったかしら」

久美子「留美さんとよく連絡取っていたわ。普通の友人関係過ぎて、起こった事件と整合性がない」

のあ「他に発信元は」

久美子「渋谷凛と同じケータイから連絡が来てた」

真奈美「青木麗君が持っていたケータイか」

のあ「古澤頼子と連絡を取っていたのね」

久美子「それ以外は小まめに消してたみたい。部屋を見ればわかるけれど、綺麗好きで整理整頓ができてる」

のあ「データの復元できるかしら」

久美子「署に戻ったら、やってみるわ」

のあ「彼女の死因は」

久美子「遺体の足元に注射器があるわ。薬物による中毒死、詳細を知りたいなら解剖が必要」

のあ「注射器を使ったのは、犯人ね」
66 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:27:22.95 ID:RS4SDFXO0
久美子「そうだと思うわ。注射器には留美さんの指紋がついてた」

のあ「持ち方は」

久美子「持ち方?逆手だと思うわ」

のあ「傷はどこにあったの?」

久美子「左胸。心臓の近くよ」

のあ「留美の利き手は」

真奈美「左利き。調査資料にも記載されている」

久美子「左利きの人が逆手で刺すとなると、後ろから?」

のあ「真奈美、私に刺す真似をしてみなさい」

真奈美「わかった。後ろから、こうだ」

のあ「腕が伸びてくるのが見えるわね、隙が多く失敗の可能性あり。真奈美、あなたならどうするかしら」

真奈美「左利きで逆手か。身長差は」

久美子「留美さんの方が被害者より3cm高い」

のあ「真奈美と私の差は4cm。留美と私は同身長よ」

真奈美「ちょうどいいのか。逆手なら、背中か……違うな。殺意があるなら、動脈近くに刺す。衣服のない場所。ここだ」

のあ「私の目はそこにはいかないわ」

真奈美「首だ。親しい相手には疑いを持たない」

のあ「留美に殺意があるなら、隙など作らない」

真奈美「殺意がないなら、注射など持ち出さない。事故じゃないな」

久美子「アルコールで遺体を拭くのに、注射針が拭けないことはないか」

のあ「右利きの人物が自ら刺した。こういうことに精通していない人物」

真奈美「三船美優は右利きか」

のあ「先日、三船美優と食事してるわ。私が見たのは、右利きよ」

久美子「ということは……自殺」

のあ「三船美優は小まめな性格……久美子、これ見ていいかしら」

久美子「手袋はしてるわね、オーケー。何のファイル?」

のあ「健康診断の結果ね。会社員は1年に1回は義務付け」

真奈美「抜けているな」

のあ「何かに使ったのでしょう。久美子、薬物の中身は」

久美子「分析中。見たことない感じだから、つまり……」

のあ「オーダーメイド。三船美優は赤血球が多めね」

真奈美「聞き覚えのある話だな」

のあ「西園寺琴歌を殺す毒を相葉夕美は知っていたわ。リスクを冒さずに手に入る、三船美優だけの毒」

真奈美「薬物を辿れば、和久井警部補が関与しているかわかるな」

久美子「調べてみる。成分じゃなくて、入手経路ね」

のあ「入手に留美が関与していないなら、三船美優は自殺でしょう」

真奈美「そうなると動機か」
67 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:28:30.92 ID:RS4SDFXO0
久美子「古澤頼子の協力者だったのよね」

のあ「留美の情報を古澤頼子に流し、警察官への道を勧めた」

久美子「友人に裏切られるのは、ショックでしょうね」

真奈美「ショックではあるが、のあが私に裏切られていたとして、どうする?」

のあ「殴りも殺しもしない。冷静に処理するわ」

久美子「処理……言い方が逆に怖いわ」

のあ「和久井留美は、酷い裏切りを受けても逆上するかしら」

真奈美「しないだろうな」

久美子「友人だろうが、気にしないわよね」

真奈美「手錠をかけることを、躊躇わない」

のあ「動機につながるものは……あれとか」

真奈美「ガラス棚か?カギがついてるな」

久美子「日記かしら?」

のあ「一番最近のがないわ。久美子、見つかったかしら?」

久美子「いいえ。動機につながるようなものは見つかっていない」

のあ「カメラや盗聴器は」

久美子「探してみたけど、見つからない。ケータイ以外のデバイスもなし」

真奈美「動機は謎か」

のあ「目撃情報は、例えば争いごと」

久美子「そういうのもないわ。隣人は留美さんとも知り合いだから、昨日会っても疑いもしなかった」

のあ「昨日、何があったかはわからない」

久美子「わかることは」

のあ「三船美優が自殺したこと、留美はここにいたこと、留美が三船美優に代わって休暇の連絡をしたこと、留美が遺体を綺麗にしたこと」

久美子「それくらいね」

真奈美「のあ、疑問がある」

のあ「何かしら、真奈美?」

真奈美「裏切られた人間の遺体を、整えるか?」

久美子「そういえば、拭いた後にメイクも軽くしてるわね。『化粧師』のような技術はないけれど」

のあ「留美は、そもそも薄化粧だもの」
68 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:29:16.00 ID:RS4SDFXO0
真奈美「証拠を隠蔽するわけでもない」

のあ「志乃が言っていた通り、苛烈な怒りも感じない」

真奈美「そもそも、自殺なら隠すことはあるか?」

久美子「留美さんは犯人ですらないわよね?」

のあ「意味があるということ。古澤頼子によって加えられた意味が」

久美子「それ、どうやったらわかるかしら」

のあ「本人に聞きましょう、それしかないわ」
69 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:30:00.24 ID:RS4SDFXO0
32

深夜

清路警察署・科捜研

のあ「……」

真奈美「……」

久美子「どうかしら」

音葉「動きはありません……追跡システムは復旧しましたが」

志希「ぜーんぜんなし。寝てるよ、きっと」

真奈美「和久井警部補のことだ、動かないと決めたら」

のあ「動かないでしょうね」

久美子「留美さんが行きそうなところを潰してみるとか」

のあ「私より志乃が詳しくて、とっくにやってるわ」

志希「となるとー、怪盗の方でしょ」

真奈美「怪盗?古澤頼子のことか?」

志希「そうそう。胸元にモノクルがあった。モノクルといえば怪盗でしょ〜」

のあ「古澤頼子の動きは」

音葉「ありません……あれだけ派手な格好です……情報が入るかと」

志希「今も着てて、隠れてなければ」

久美子「だけど、協力者もいないわ。単独で動くなら、隙が出るはずよ」

のあ「わかったわ。このままだと消耗するだけね。そして、そんな状態で出し抜けるほど留美は甘くないわ」

久美子「それは同感」

のあ「真奈美、どこかで仮眠しましょう」

久美子「あ、仮眠室は埋まってるからダメよ」

のあ「ええ。適当な場所を借りるわ。あなた達も休みなさい」

久美子「了解。交替で休みましょう」
70 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:31:15.59 ID:RS4SDFXO0
33

清路警察署・和久井班室

のあ「……真奈美」

真奈美「ソファは寝心地が悪いのか?大和巡査部長の寝袋と交換するか、高性能だぞ」

のあ「ソファでいいわ」

真奈美「眠れないのか」

のあ「ストレスで寝すぎても寝れないことはないわ」

真奈美「そうだな。何か話したいことがあるなら、聞いておく」

のあ「……留美について」

真奈美「聞くよ」

のあ「初めて会った時、私は二十歳になっていなかった。留美は新米刑事だったわ」

真奈美「仲は良かったのか」

のあ「いいえ。まったく気が合わなかったわ」

真奈美「そうなのか?」

のあ「今思えば、どうしてあんなに言い争ってたのかしらね」

真奈美「前川君の話題はどうだ、共通の趣味だろう」

のあ「最初はそれも意見の相違があったわ。でも、みくにゃんの前ではちっぽけなもの。それに、真奈美が来た後でしょう、距離感が分かってきたから喧嘩もないわ」

真奈美「その前に共通の話題はあったのか。柔道とか」

のあ「そこも気に食わないわ。組み手が左でやりにくいのよ」

真奈美「私よりよほど、気が合いそうなんだがな」

のあ「似たようなモノに注目するのに、意見が少し異なるからでしょうね。真奈美やまゆのように着眼点が違う方が良いのね。でも、今ならわかるわ」

真奈美「何がだい?」

のあ「得体の知れない若造に真面目に取り合ってくれたのね。留美だって、刑事になって間もないのに」

真奈美「柊課長の入れ知恵じゃないかな」

のあ「きっとそうね、志乃は必要な時しか口は挟まなかったもの」

真奈美「真剣に向き合えば、分かってくるさ」

のあ「ええ。お互い良く知って、どの距離感が良いか今はわかってる。尊敬できる人物であることも知ってる。だから……」

真奈美「……」
71 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:31:58.23 ID:RS4SDFXO0
のあ「こんな事をする人間じゃないの、留美は」

真奈美「私も、わかっているつもりだった」

のあ「戻れないなら覚悟は決めてるはずよ。止めないのなら、彼女は目的を果たすわ」

真奈美「……」

のあ「止めてしまいましょう。私に、あれだけ単独行動するなと言ったのは留美だと分からせてやるわ」

真奈美「ああ」

のあ「強いわよ。覚悟しておいて」

真奈美「覚悟はできてる。私はのあに教わった」

のあ「お休み、真奈美。適当なところで起こしてちょうだい」

真奈美「了解だ。おやすみ、のあ」
72 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:33:15.75 ID:RS4SDFXO0
34

幕間

清路市内・某レンタルオフィス

頼子「我慢強いのですね、想像以上でした」

留美「……」

頼子「出てきて、お話しませんか。警部補殿?」

留美「そちらこそ、辛抱強いのね」

頼子「近づくのは、そこまで。無実の人間は殺したくありませんでしょう?」

留美「そのスイッチは」

頼子「毒を撒くのです。換気が悪く、こんな時間に人がいる場所に漂います」

留美「2階上のネットカフェ、古めかしかったわ」

頼子「分かりましたか。私も無駄な殺人は犯したくありません、そう無駄な。殺すことで何も変わらない命など奪う価値もありません」

留美「……」

頼子「銃も降ろしてくださいな。その距離では、捉えられないのもお分かりでしょう?」

留美「ええ。これでいいかしら」

頼子「あなたの善意に感謝します。会話にも応じてくださるとは、なんて心の広いことでしょう」

留美「あなたが平凡な犯人なら、そうするわ。だけれど、違う」

頼子「はて?不勉強なので、お教えくださいな」

留美「このレンタルオフィスは時間貸し。不審な名義で借りられた時間は朝5時まで。このまま我慢比べを続けても、あなたに隙は来ない」

頼子「5時からの商談はカナダの重鎮とですよ」

留美「回線が強くて、監視カメラもないレンタルオフィス。そんな使われ方をしているわけね」

頼子「ここである理由は調べていませんか?」

留美「ここである理由は、知らないわ」

頼子「商談に輸入業を営む人物が同席するから。彼のオフィスが、ここから近いのですよ?」

留美「……そう」

頼子「先手を取った、優位に立ったと実感すると、気分が良いでしょう。昨日から、あなたの気持ちはそれで満たされているはずです。警部補殿、心地よいでしょう?」

留美「……」

頼子「残念、同意されませんか」

留美「話は、それだけかしら」

頼子「そうですね、ご厚意には感謝をせねばなりません。お礼に質問に答えましょう、どうぞ」

留美「……」

頼子「ないのであれば、終わりにしますが」
73 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:34:31.03 ID:RS4SDFXO0
留美「あなたの目的は何かしら、今日の目的よ」

頼子「主役となることでしょうか。この街で1番のヴィランに。あなたよりも、誰よりも」

留美「意味がわからないわ」

頼子「おっと、近づかないように。聡明な警部補殿には察しがついていましょう」

留美「死角がないように窓際。あなたをここで仕留めるなら……」

頼子「一気に距離を詰めないといけません。逃げられると、探偵さんが用意した目達に入ってしまう。それに、そろそろ前のビルにあるスナックが閉店時間です。ということで、結論は1つ」

留美「窓を開けた、まさか」

頼子「さようなら、警部補殿。ゆめゆめ、お捕まりになられぬように」

留美「飛び降りた、ここは4階よ、何を考えて……街路樹の位置も織り込み済みね……おっと」

留美「目撃者あり、仕切り直しね。目的は果たさせないわ。誰よりも悪ね……」

幕間 了
74 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:35:50.84 ID:RS4SDFXO0
35

1月26日(火)

早朝

清路警察署・科捜研

のあ「久美子、おはよう」

久美子「おはよっ、真奈美さんは?」

のあ「朝食をSt.Vに調達してもらってるわ」

久美子「私達の分もある?」

のあ「あるわよ。紅茶もコーヒーも」

久美子「やった。コーヒーを待ってよ」

のあ「久美子、どこに行っていたの?」

久美子「化粧直し。志希ちゃんが誕生日に化粧水をくれたんだけど、効くわ」

のあ「志希が……大丈夫なの?」

久美子「私も調べたから平気。むしろ平凡すぎるのに相性バッチリで志希ちゃんの凄さがわかったわ」

のあ「そう。久美子、動きは」

久美子「古澤頼子の目撃情報が午前3時過ぎから何件か。地図に出すわね」

のあ「明らかに集中してるところがある」

久美子「本当の目撃情報みたいよ、1人確認できた。警察に通報してくれればいいのに」

のあ「警察に通報しなかった理由は」

久美子「同じ時にスーツ姿の女性も見た、って。遠目だけど」

のあ「留美の方を応援したわけね。留美の目撃情報は」

久美子「その人くらい。スナックの店員だって」

のあ「車両追跡システムは復旧した?」

久美子「ええ。留美さんの愛車はコインパーキングに止めてあった。音葉ちゃんが閉じ込められた直後くらい」

のあ「見つかる前に乗り換えた。留美のことだから、真っ当な方法で車両を手に入れているはず」

久美子「放置する車をコインパーキングに止めるくらいだものね。そういうわけで、調べてあるわ」

のあ「あら、気が利くわね」

久美子「私も留美さんとは浅い付き合いじゃないし。レンタカー、カーシェア、つい最近購入された車を目撃情報時刻付近で探してみた」

のあ「深夜だから、そこまで交通量はないわね」

久美子「レンタカーのオフィスに問い合わせ、留美さんが昨晩借りたレンタカーが見つかったわ。これよ」

のあ「平凡な一般車ね」

久美子「それで、結論だけど」

のあ「見失ったのね。見つかったなら、私が叩き起きされているはず」

久美子「ええ。近くにいた警察官に行ってもらったけど、車だけ見つかったわ」

のあ「清路市内にはいるでしょう、おそらく」

久美子「オフィス街だから、どこかの建物に隠れたのかしら」

のあ「相手が相手だもの、簡単にはいかない」

久美子「同感。でも、何故ここに車を置いたのかしら」
75 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:36:47.47 ID:RS4SDFXO0
のあ「隠れるなら郊外でも何でもいいでしょうに、何故かしら」

久美子「うーん……あっ、サイトに書き込みが何件か」

のあ「古澤頼子が……見つかり過ぎじゃないかしら」

久美子「普通に歩いてるわね。通報も入ってる」

のあ「場所は……」

久美子「なんで、警察署の近く?あ、音葉ちゃんが自室から出て来た」

音葉「皆様!テレビを見てください!」

のあ「音葉……大きい声が出るのね、人並み以上の」

久美子「テレビね、はい」

のあ「見覚えがあるわ」

久美子「そりゃそうよ、警察署の前だもの。テレビカメラがたくさん集まってる、私達の清路警察署の正面口……清路警察署の正面口!?」

頼子『あの惨たらしい殺人鬼が恐ろしいのです。死の恐怖に私は逆らえませんでした。故に、身の安全のため、出頭したのです。そう、警察に捕まる方が、良い選択なのですよ』

久美子「い、意味がわからない……」

のあ「……」
76 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:38:58.19 ID:RS4SDFXO0
36

清路警察署・ロビー

楓「のあさん、おはようございます」

のあ「楓、おはよう」

楓「まゆちゃんは星輪学園にお送りしました」

のあ「ありがとう。星輪学園の様子は」

楓「雰囲気は沈んでいたように思えました」

のあ「事件は、どのように語られているのかしら」

楓「今の学生は情報が早いですから。留美さんに殺害されたこと、古澤頼子の協力者であったことも広まっています。ただ、後者に関しては同情的というかなんというか」

のあ「学園内のシスタークラリスは好意的にとらえる人が多いということ。死してなお、謗られる必要はないでしょう」

楓「幾つか、新しい情報も得られました。お聞かせしても?」

のあ「お願い」

楓「教会への出入りを目撃されている人物が何人か」

のあ「古澤頼子かしら」

楓「古澤頼子、井村雪菜と名乗っていた人物、水野翠も頻繁に」

のあ「椋鳥山荘の事件以外でも把握していることが多くあった」

楓「別件ですが、桐生つかささんも目撃されていますね」

のあ「堂々と入るのは難しくないわ。日曜日はミサもあるから」

楓「GP社で仕事を受けた生徒からもお話を聞けました。もしかして、狙われるのではと怖がっていました」

のあ「むしろ、GP社から正式に受けているなら大丈夫よ。あの会社が隠れ蓑のようね、女子高生社長が出来る事業なんてこんなもの、と思わせるための」

楓「そうみたいですね」

のあ「こちらでも少し調べてもらったのだけれど、桐生つかさの資産周りに特徴的な動きが見えたわ」

楓「動き?」

のあ「爆発事件前後で鷹富士神社の土地や建物を手に入れてる、安価で。最近は賑わってきて、土地や建物の価格が上がってる。それらを売りさばいて、GP社の建物も売約が決まっていた」

楓「爆発事件と関わっていた?」

のあ「関わっていたのでしょうね、少なくとも知っていた」

楓「フムン……古澤頼子の様子は」

のあ「取調室にいるわ。ベラベラと喋っているけれど、装飾語が多くて聞いてると疲れてくるわ」

楓「希砂二島の件について、何か話していましたか」

のあ「聞けば、知りたくないことや知っていることは幾らでも返ってくるわ。だけれど、欲しい真実は返ってこない」

楓「思った通り、一筋縄ではいきませんね」

のあ「ええ。メディア向けのネタは増えるけれど、それだけ」

楓「降参したとは思えません。目的があるかと」

のあ「同感。降参したと思っている人間はいないでしょう、留美も含めて」

楓「ええ。留美さんについては」
77 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:39:43.93 ID:RS4SDFXO0
のあ「留美に動きはなし。目撃情報もなければ、新しい事件も起こってないわ」

楓「そうなると……目標は」

のあ「古澤頼子だけ、というのは嘘ではないようね」

楓「嘘でないとすると……死体を増やすつもりなのも、本当なのですか」

のあ「この場に現れていないということは、留美の考えはそうなのだと思うわ」

楓「しかし、この状況で目的を果たすとなると」

のあ「警察署を襲撃しないといけないわ。警戒されている中で」

楓「清路警察署は郊外ですから、見つからないで近づくのも大変ですよね」

のあ「ええ、留美はどう動くつもりかしら」

楓「わかりませんが……捜索は続けましょう」

のあ「それが良さそうね」

真奈美「のあ」

のあ「真奈美、古澤頼子の様子は」

真奈美「高垣君も来てたのか、おはよう」

楓「おはようございます。取調室にいたのですか?」

真奈美「ああ。いきなり黙ったと思ったら、高橋署長をご希望だ。署長を呼ぶまで話さないと」

のあ「それで、礼子には話したのかしら」

真奈美「喋りはし始めたが、呼んだ理由がわからない。署長である必要はなさそうだ」

楓「目的が読めませんね……」

真奈美「高橋署長のお手並みに期待しよう。私は、あの圧力には耐えられない」

のあ「そうなの?」

楓「高橋署長は警視庁では、組織犯罪や収賄と戦っていた人物ですから」

真奈美「暴力団組長、国会議員、麻薬組織の元締め、の取り調べ経験があるそうだ」

のあ「古澤頼子に負けることはなさそうね」

真奈美「有益な情報が引き出せるかは、わからないが」

のあ「ええ」

真奈美「とりあえず、和久井警部補と昨晩遭遇したのは間違いなさそうだ」

のあ「留美の足取りとなる有益な情報は」

真奈美「特にない。命の危険を感じたという言葉の、説明に必要だから話したに過ぎないんだろう」

楓「やはり、目的は留美さんからの保身でしょうか」

のあ「最初に言ってたわね、それならもう一歩」

楓「警察に身を任せてまで、保身せねばならない理由……でしょうか」
78 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:40:18.77 ID:RS4SDFXO0
真奈美「見当もつかないな」

のあ「留美のおかげ……留美の愚行のせいで、動かしやすい協力者もいないでしょうから」

真奈美「時間を稼ぐ意味も、ないな」

のあ「自身が自由にならなければ、何も行動できないでしょう」

真奈美「ふーむ……」

楓「留美さんは現れませんが、状況が楽になっているのは確かです」

のあ「ええ、留美が古澤頼子殺しを成し遂げる可能性は減ったわ」

楓「私がここにいますから、お二人は休まれてはどうでしょうか」

真奈美「仮眠は取ったが、シャワーを浴びたいところだな。どうする?」

のあ「提案を受けるわ。楓、頼んだわ」

楓「わかりました。連絡は定期的に、緊急時は遠慮なく」

のあ「ええ。真奈美、一旦家に戻りましょう」
79 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:41:46.35 ID:RS4SDFXO0
37

清路警察署・留置場

凛「頼子が……戻ってきた」

友紀「凛ちゃん、ただいま。元気だった?」

凛「そこまで時間経ってないし。頼子が戻ってきたのは、話したから」

友紀「違う。長時間の尋問はルール違反だからね、休憩だよ。警察も相手も」

凛「そうなんだ……つまり、てこずってる」

友紀「そーいうこと。凛ちゃんは、正直に答えてくれるからいいけどねー」

凛「頼子の様子は」

友紀「聞きたいことは答えてくれないけれど、暴れる様子はないかな。大人しい」

凛「暴れるタイプじゃないとは思う。でも、何を考えてるかはわからない」

友紀「そんなわけで、隔離室行き」

凛「何を聞き出したいの?翠を殺したから、訴えるだけなら出来るよね」

友紀「そっちは皆知ってる。問題は、今の事件」

凛「……」

友紀「そうだ、凛ちゃんの送検が決まったよ。ここから移送されるまでは、一緒にいるからよろしくー」

凛「今?こんな状況で?」

友紀「逮捕したら送検までは3日。拘置所の方が居心地いいから、そっちの方が良いよ」

凛「……」

友紀「どんなことがあっても、やらないといけない仕事はあるからねー。そのために、色々お巡りさんがいるんだし」

凛「そっか……わかった」

友紀「……」

凛「どうしたの、黙り込んで」

友紀「なんでもない。拘留中は運動不足になるから体操しよう!」

凛「え?一緒に?……まぁ、いいけど」
80 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:43:14.80 ID:RS4SDFXO0
38

清路警察署・刑事一課和久井班室

亜季「これで、良いでありますな」

楓「……」

亜季「おや、確か高垣楓殿でありますな。何かご用でありますか?」

楓「すみません、お邪魔するつもりはなかったのですか」

亜季「良いでありますよ。書類仕事を片付けて、これの準備をしていただけであります」

楓「その封筒は……?」

亜季「辞表であります。私も責任を取るべき立場でありますから」

楓「……あなたのせいでは、ないと思います」

亜季「そうではありますが、刑事になった時に準備していたであります」

楓「異動ではいけませんか」

亜季「そうでありますな、課長が許すのであれば。交番勤務からやり直すのも、悪くないであります」

楓「……」

亜季「警部補殿について、でありますか?」

楓「……はい。何か見逃していることはないか、と思いまして」

亜季「ご存知であるかと思いますが、警部補殿はオープンでクリーンでありました」

楓「知っています」

亜季「情報のほとんどは共有しております。事件資料も、今は持ち去られておりますが、和久井班のメンバーは誰でも見れたであります」

楓「それなのに、留美さんは見つかっていません」

亜季「捜査中の事件については、私でもリストアップしたであります。こちらを」

楓「ありがとうございます。このチェックは」

亜季「身元が確認された人物であります」

楓「つまり、大和さんのリストでは対象となる人物はいない、と」

亜季「その通りであります。犯罪者狩りのようなことは続けていないありますから、ますます目的が分からないでありますよ」

楓「隠れている方法については、心当たりは」

亜季「捜査側として様々なことを惜しみなく教わったであります。ですが、勝負を分けるのは経験であります」

楓「経験?」

亜季「擦り減らした靴底が、頭と体を刑事にするのでありますよ。教えても、教えきれないものでありますから」

楓「留美さんの経験は、こんなことに使われるべきではないと思います」

亜季「同意するであります」

楓「ありがとうございます。ちょっと、発想を変えてみます」

亜季「何もご協力できずに問題ないであります。そう言えば、高垣殿?」

楓「何でしょう?」

亜季「刑事だったとお聞きしたであります」

楓「短い期間です。向いていない……向き合いきれなかったので、今は希砂本島で駐在さんをしています」

亜季「この部屋はこんな有様であります。私もいられません、戻ってきてはいかがでありますか?警部補殿から誘いを受けた、とも聞いているであります」

楓「そのつもりは……ありません。お邪魔しました」

亜季「……」

亜季「この事件は終わっても世の中は続くであります。私がいなくても、平和であって欲しいのであります」
81 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:44:51.16 ID:RS4SDFXO0
39

夕方

高峯探偵事務所

まゆ「ただいま、帰りましたぁ」

のあ「まゆ、お帰りなさい。真奈美、迎えをありがとう」

真奈美「どういたしまして」

安斎都「まゆさん、お邪魔しています」

安斎都
希砂二島の事件を解決に導いた探偵。のあの調査に協力している。

まゆ「都ちゃん、こんばんは」

真奈美「進展はあったのか?」

のあ「全く。古澤頼子の取り調べが進んでいるけれど、留美に辿り着ける情報はなし」

都「水野翠さん殺害容疑以外は、このままだと迷宮入りです」

まゆ「……」

のあ「都にも手伝ってもらって、留美の足取りを推理しているのだけれど」

都「うーむ、上手くいきません。警察署の古澤頼子を狙っていると思ったのですが」

のあ「そうなると、別の誰かを狙っているのか」

都「該当者の安全はほぼ確保されていますからね、清路警察署の組織力は流石です」

のあ「留美が動くのを待つしかなさそうね。ヘレンが留美の親族や友人の無事も確認してもらったわ。広域捜査のネットワークが凄いわ」

真奈美「ひとまず、即座に動けるように車は下に置いてある」

都「それしかないのでしょうか……心苦しいです」

のあ「私達は探偵だもの、仕方がないわ」

まゆ「お夕飯の準備をしますね。都ちゃんも一緒にいかがですか」

都「ご一緒します!まゆさんの料理は美味しいので」

まゆ「はぁい、わかりましたぁ。のあさんもがんばり過ぎないでくださいねぇ」

のあ「ええ、わかってるわ」
82 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:46:10.02 ID:RS4SDFXO0
40

清路警察署・取調室

志乃「時間よ。続きは明日」

頼子「もう少しお話したいのですが、残念なことです」

志乃「私の質問に答えてくれれば……好きなだけ話す機会を与えるけれど」

頼子「人の意思は自由にはできません。報酬があるべきですよ」

志乃「連れて行って」

頼子「ふふっ、課長殿。お疲れ様です。良い夜をお過ごしくださいませ」

志乃「……」

恵磨「取調は終わり?」

志乃「ええ。仙崎さん、調書の方は」

恵磨「夏美の目撃調書は取った。自白した?」

志乃「島村さんと水野さんの殺害については認めたわ……ひとまずは送検、その際に留美が現れるかどうか……それしかないかしら」

恵磨「そっか。夏美の調書は渡しておく」

志乃「ありがとう……これで、充分でしょう」

恵磨「なんか騒がしい?」

志乃「仙崎巡査、急いで」

恵磨「早っ!そんな動きができるんだ!」

志乃「止まりなさい」

恵磨「窓が空いてる……」

頼子「止まれと言われて、止まるような性格ではありませんから。それでは」

恵磨「窓から跳んだ!」

志乃「古澤頼子が逃走……職員駐車場よ、急いで」

恵磨「今だと、新聞社の車が置いてあるのか!車の屋根に着地!」

志乃「姫川さん……何故、そこに?」
83 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:47:24.90 ID:RS4SDFXO0
41

清路警察署・職員駐車場

友紀「両手を拘束されてるのに、2階の窓から跳ぶなんて!とんでもないね!」

頼子「お褒めの言葉をありがとうございます。こちらの動きを読むとは、優れた手練れです」

友紀「どういたしまして。絶対逃げると思ったよ」

頼子「そう思い、ここにいる根拠をお聞きしても」

友紀「普通じゃない状況を使うと思ったから。それと勘!」

頼子「素晴らしい」

友紀「署に戻るしかないよ、上で柊課長も見てるし」

頼子「いいえ。それで大人しくしていてください」

友紀「え……がっ」

頼子「スタンガンの強度は上げておきました、勇敢な警察官さん。死にはしませんよ。お待ちしていました」

亜季「こちらこそ、待ちくたびれたでありますよ……頼子殿」

頼子「積もる話は後です。逃げるとしましょう」

亜季「ええ、乗るでありますよ。今なら脱出できるであります」

頼子「さて、巨悪でも倒しにいきましょうか」
84 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:48:36.53 ID:RS4SDFXO0
42

高峯探偵事務所

都「これがウワサの捜査室モードですね!」

まゆ「ショッピングモールに雪乃さんが閉じ込められた時の……」

のあ「音葉、聞こえるかしら」

音葉『聞こえます……こちらの声は』

のあ「鮮明に聞こえてるわ。状況を説明してちょうだい」

音葉『楓さんから……どうぞ』

楓『古澤頼子が逃走しました。手引きしたのは、大和亜季巡査部長です』

真奈美「大和巡査部長?」

まゆ「亜季さん……?」

真奈美「嘘をつきとおすタイプじゃない、と思っていたが」

のあ「和久井班は全滅ね。ヘレンに確認したかしら」

音葉『はい……15歳までは接触ありません、それ以前だと』

都「かなり前ですね」

のあ「刑事になった時から知っているわ。怪しい動きは、昨日疲れたと言っていたぐらいかしら。留美も同じことを言っていたわね、疲れたのはウソと」

楓『職員駐車場のゲートを破って逃走しました』

のあ「車両追跡は」

音葉『既に逃走した車両は既に発見……清路市街地にはいないかと』

都「そこからの足取りはわかりますか?」

音葉『残念ながら……』

のあ「自動車、自転車、あるいは徒歩」

音葉『不審な車両は見つかっていません……』

都「徒歩となると……まゆさん、地図はありますか?」

まゆ「ありますよぉ、車両が見つかったのは……この辺りですね」

都「まだ1時間は経っていません、警察の目から隠れるとなると半径4kmも動けないでしょう」

まゆ「定規をどうぞ」

都「ありがとうございます」

楓『大和巡査部長のデスクに辞表が置いてありました。中には紙とSDカードが入っていました』

音葉『動画でした……お見せします』

のあ「古澤頼子、服装が汚れていないわね。数日前のものかしら」

頼子『この舞台は私の舞台です。故に、主役にならなければいけません。一番の悪役なので一番の悪役に。私を追うダークヒーローと、彼女を止める正義の味方を、共に振り払いましょう。それでは、ごきげんよう』

真奈美「数日前に用意したなら、まだ古澤頼子のストーリー上か」

のあ「古澤頼子が警察署に来た目的は」

都「共犯者と合流するため、でしょうか。卯美田駅が行動範囲に入ってますね、電車で移動したというのは」

音葉『卯美田駅のカメラに該当する人物は映っていません……体形や歩行様式もわかっています、見逃すことはないかと』

都「公共交通機関は使わないか」

楓『共犯者と合流する以外に、共犯者を動かす目的がありました』

のあ「動かした?」

楓『高橋署長から調査資料が奪われた、と。該当する人物はこの方です』

都「胡散臭い笑顔のおじさんですね、知っていますか?」

まゆ「私はわかりません……」
85 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:49:42.38 ID:RS4SDFXO0
楓『のあさんならご存知と、高橋署長は言っておられました』

のあ「知ってるわ。有名人だもの、市議会議員よ。黒い噂も多々あるわ」

楓『柊課長からは、あれは事故よ、とも』

まゆ「事故……」

のあ「父が亡くなって、一番得をしたのは彼よ。黒い噂があったから、私も調べたわ」

都「それで、事故だったのですか」

のあ「事故よ。私は復讐を遂げる必要がなくなったの、良かったでしょう」

真奈美「……どんな人物だ?」

のあ「企業のコストカットで数字をあげてのし上がってきた男よ。八方美人を体現したポピュリスト。口が達者で、顔とスタイルも悪くない、強いバックボーンがないから、票田を耕すことに全力を注げる政治屋よ」

都「これは、あれですね」

真奈美「珍しいな。確実に嫌いだぞ、これは」

まゆ「事故でよかったですね……」

楓『高橋署長は、彼の裏にある犯罪を調査していました。その中には殺人容疑も』

のあ「もしもし。高峯よ、調べて欲しいことがあるの。早急に」

まゆ「のあさんは……どちらにお電話を?」

のあ「ちょっとした情報収集よ」

都「殺人容疑もあるということは、刑事さん達も知っていますか?」

楓『知っています。昨晩の無事は確認されています』

真奈美「警部補も知っている」

楓『一部の捜査を担当しています。当時は、柊警部補、和久井巡査部長、大和巡査の3人で』

のあ「彼が関わっている証拠は出なかったのね」

楓『はい。本筋は政治的なカネの動きですから』

のあ「だから、礼子が出て来たのね。そして、礼子の捜査資料を古澤頼子が奪った。留美と新田巡査を退場させ、礼子の気を引き、大和巡査部長を動かした」

音葉『署長本人は……出世レースから外れたから一山当てるため、と冗談のように言っていましたが……』

のあ「国政進出を狙う人物と、それをマークする警察。狸の化かしあいに参加するのは、私でも勘弁だわ」

真奈美「古澤頼子の狙いは何だ?」

のあ「見返りに呼び出すこと。居場所は」

音葉『本日夕方清路駅に到着予定でしたが……行方がわかりません』

のあ「出張中だったの?」

楓『はい。清路駅には姿がありませんでした』

音葉『それと……数名の秘書と連絡が取れません』

真奈美「これは、どっちだ?」

都「古澤頼子か和久井警部補のどちらかが、連絡を取れない状況にした」

まゆ「何のため……でしょう?」

都「脅して居場所を吐かせるため」

のあ「いいえ、留美よ」
86 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:50:56.16 ID:RS4SDFXO0
都「協力者がいないから、ですか?」

のあ「12月までの肩書を見ればわかること」

音葉『凄い数ですが……どれでしょう』

真奈美「これだな。清路市立美術館の館長」

のあ「市の施設であれば、市の金に責任を取る人物が動かすべきという名分で就任したわ。ここでもコストカットと蔵書品を売ることで数字を上げたわ」

都「古澤頼子が学芸員として働いていた場所ですね」

のあ「学芸員は苦労したでしょうね。お金は自由に使えないでしょうから」

まゆ「あ……だから、由愛ちゃんの個展……」

真奈美「学芸員としての古澤頼子は、館長にとって悪い存在ではなかった」

のあ「古澤頼子は接触しているわ。ちょっと電話に出るわ……もしもし、結果は」

楓『ターゲットとなっている人物が、どこにいるかですね』

のあ「ありがとう。ボーナスは弾むわ。楓、所有している物件がわかったわ」

都「すみません、何か鳴ってませんか?」

音葉『追跡システムに引っかかりました……卯美田駅前、画像を出します』

のあ「……留美」

楓『該当する物件は近くにありますか』

のあ「駅前のタワーマンション。まったく利用していないのに、最上階とその1階下を所有してるわ。資産運用が得意でもないのに、何故かしら」

まゆ「卯美田駅のタワーマンション……あの高級そうな?」

都「のあさん、ここは任せてください!卯美田駅は、事務所の最寄り駅です!警察署より、ずっと近いです!」

のあ「都、まゆ、ここは頼んだわ。音葉、連絡を」

音葉『管内全てに連絡……駅前交番の警察官にも向かってもらいます』

楓『私も向かいます』

のあ「真奈美、行くわよ」

真奈美「ああ、了解だ!」
87 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:52:43.87 ID:RS4SDFXO0
43

卯美田スカイニア・1階

卯美田スカイニア
卯美田駅近傍にあるタワーマンション。31階建て。1階は豪華なエントランス。

真奈美「のあ、エレベータが2機とも止まってる」

のあ「駆け付けた警察官が閉じ込められているそうよ。既に救助は要請されている」

真奈美「まだ応援が来るのには時間がある……登るか」

のあ「私と真奈美でも30階を駆け上るのは厳しいわ、垂直に100メートル」

真奈美「管理室はもぬけのから。エレベーターの復旧は待っていられない」

のあ「真奈美、ヘリは運転できたかしら」

真奈美「できる。アメリカなら3ヶ月もあれば免許は取れるからな」

のあ「屋上にヘリポートがあるわ」

真奈美「ヘリは持っていない……よな?」

のあ「持っていないわ。真奈美、一旦外へ。災害避難用のエレベーターがあるわ、手動でも起動できるはずよ」

真奈美「見取り図は」

のあ「これよ」

真奈美「30階まで、か」

のあ「30階より上のフロアは室内に別のエレベーターがあるわ」

真奈美「秘密の階段とはな」

のあ「真奈美、心の準備は」

真奈美「いつでも問題ない」

のあ「ええ、行くわよ」
88 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:54:24.87 ID:RS4SDFXO0
44

卯美田スカイニア・30階

真奈美「人が住むには……広すぎるスペースだな」

亜季「おや、来たのは木場殿でありますか」

真奈美「大和巡査部長か」

亜季「無事に失職、ただの大和亜季でありますよ!」

真奈美「その割には、元気だな」

亜季「黙るのも偽るのも私にはストレスでありました」

真奈美「古澤頼子はどこかな」

亜季「上でありますよ。この通り、上へのエレベーターは大和亜季の後ろであります」

真奈美「予備のエレベーターは止めなかったな?」

亜季「その通りでありますよ。高峯殿はどちらでありますか?」

真奈美「非常階段は屋上まで続いている。29階で降りて、駆け上って行ったよ」

亜季「ははっ、さすがでありますなぁ!しかし、施錠されているでありますよ?」

真奈美「並の施錠では、高峯のあは止められない」

亜季「そうでありますか、頼子殿はそれも想定のうちであります」

真奈美「和久井警部補は、ここに来たのか」

亜季「ここには来ておりません。なので、上に行ったのでしょう」

真奈美「君がここで待っている理由は、何かな」

亜季「頼子殿は、余計な人間は入れるな、と」

真奈美「私は余計か」

亜季「私もでありますよ。サイドキックはクライマックスの舞台にはあがれないのであります」

真奈美「古澤頼子とは、どんな関係なんだ」

亜季「私は、伏し目がちで猫背な少女の言葉を、心の声を聞いただけであります。ほんの少しだけ励ましました。ずっと、昔の……思い出でありますよ」

真奈美「身分を伏せ……伏せる必要もなかったのか。君は警察官となった」

亜季「頼子殿は私には全く連絡をしてくれませんでしたからなぁ。新田殿の動きはヒヤヒヤしながら見ていたでありますよ」

真奈美「君がフォローしていたのか」

亜季「高峯殿と話はしておりませんか、私なら出来そうな工作を。例えば、東郷あいと連絡を取っていた人物のケータイが見つかった場所であるとか」

真奈美「それは、大人しく署で話したまえ」

亜季「つれないでありますな」

真奈美「『化粧師』を殺害したのは君か」

亜季「そうでありますよ。彼女は暴走していました、頼子殿に危害が及ぶのを避けたであります」

真奈美「だが、渋谷凛を手にかけなかった理由はなんだ」

亜季「反省している人間を手にかけることはありません」

真奈美「矛盾していないか」

亜季「人は矛盾を抱えているものでありますよ。頼子殿の相棒で、和久井警部補の部下で、新田巡査の先輩で、惠の同期で、高峯殿と木場殿とは協力関係でありました。全て、大和亜季であります」
89 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:55:27.26 ID:RS4SDFXO0
真奈美「それなら、今すぐにそこを退け。警察官の大和亜季に願おう」

亜季「警察官は退職であります。故に、これを射出するであります!」

真奈美「おっと……不意打ちだったな。この網はなんだ?」

亜季「それは、こうであります!」

真奈美「なるほど、網のどこかに腕や足が引っかかれば、収縮して捉えられるのか。網の先は、相手の元に。私の行動範囲は、君が引くことで狭まる」

亜季「察しが良いでありますな。これで逃げられないでありますよ、お手合わせ願うであります」

真奈美「矛盾していて論理的ではないが、これも目的か」

亜季「その通りでありますよ。左手は捉えたであります」

真奈美「ハンデは十分だ」

亜季「ここは真剣勝負の場としてはよいではありませんか!相手は木場真奈美!私のフィナーレには、最適でありますよ」

真奈美「銃器はいるか?」

亜季「いらないでありますよ。この通り、私の銃はフロアを滑って行ったであります」

真奈美「それなら、私もこの通りだ。のあがチョイスしてくれた良い品なんだがな」

亜季「さて、準備はいいでありますか?」

真奈美「残念だ、のあから言われてる」

亜季「何をでありましょう?」

真奈美「覚悟はどんな時もしているものだ。先手必勝、行くぞ!」
90 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:56:51.13 ID:RS4SDFXO0
45

卯美田スカイニア・31階

のあ「普通のマンションではなさそうね、商談にでも使っていたのかしら。それにしても、フロアで1部屋とは成金趣味ね……と」

のあ「……遺体を発見。ここの所有者ね」

のあ「死因は胸を矢で貫かれたこと。古澤頼子の仕業」

のあ「顔を動かした形跡があるわね。留美が確認した、と」

のあ「下の階から真奈美の連絡はなし。このフロアにも人影はない」

のあ「つまり、留美はここにはいない」

のあ「上ね、待っていなさい……間に合ってちょうだい」
91 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:57:58.23 ID:RS4SDFXO0
46

卯美田スカイニア・屋上ヘリポート

のあ「留美!」

留美「あら、探偵さん。追いついたのね」

頼子「ふふっ、間に合いましたか。私が死ぬ前に」

のあ「その銃を降ろしなさい。そして、人質を解放なさい」

頼子「探偵さん、銃を構えた方が良いかと。銀色の美しい銃を、もったいないですよ」

のあ「あなたに言われなくても、そのつもりよ。留美、分かるでしょう」

留美「その位置から、当てられるのかしら。地上32階、私は建物の端、風を読めるのかしらね」

頼子「私から銃口が離れました。次は解放を要求してください、さぁ!」

のあ「何があったのかしら」

留美「何もないわ」

頼子「セイギノミカタは遅れてしまいました。巨悪は、私の手によって倒されたのです。捜査書類と交換に呼び出せました。簡単な話です。それに疑問が残るでしょう?」

留美「黙りなさい」

頼子「私から引き出したいことがあるのですよ。探偵さん、目的は同じでしょう?」

のあ「留美、私は止めに来たわ。もう終わりにしなさい」

留美「残念。ここまでやったのよ、躊躇うわけないでしょう」

パーン……
92 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:58:56.20 ID:RS4SDFXO0
頼子「銀の銃から弾丸は放たれました。刑事さんは撃ち返さず、その銃は床に落ちた。お見事、隙をつきましたね。しかし、私を捉えた腕は離れず」

留美「上手くなったわね、探偵さん」

頼子「私を殺せば終わったのに。フィナーレはまだ先の様です」

のあ「……いいえ、私の技術が上がったわけではない」

頼子「なるほど、撃ち返さないと思っていたわけですか」

のあ「そいつに賛同するのは気に障るけれど、その通りよ。あなたは撃ち返してこないわ、和久井留美。信じていた、絶対だと」

留美「まだ、人質はこちら側」

頼子「そんな態度だと答えませんよ?どうやって、あなたの友人に考えを吹き込んだのか、あなたの部下と信頼関係があるのか、聞きたいでしょう?」

のあ「私は留美にこれ以上続けさせるわけにはいかないの。だって、友人でしょう」

頼子「友情、麗しきものです。なんと素晴らしい」

留美「……」

のあ「留美!」

留美「のあが嘘でそんなことを言っていないのはわかるわ。私は刑事で、あなたの友人だもの。だから」

頼子「おっと……」

留美「私が責任を取るわ、誰にも……続きはさせない。私の事件よ」

のあ「留美、待って!」

留美「さよなら、墜ちなさい」

頼子「この高さ……良い音がしそう!」
93 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 21:59:41.65 ID:RS4SDFXO0
留美「……」

のあ「落ちた!下の準備は……」

留美「間に合ってるわけないわ」

のあ「……」

留美「のあ。諦めなさい」

のあ「真奈美!」

留美「……止めようとしてくて、ありがとう。それだけは感謝するわ」

のあ「いいえ。古澤頼子殺しは止めたわ!」

留美「……え?」

のあ「真奈美、愛してるわ!」

真奈美「表現が大袈裟過ぎるぞ!それと、釣ったのは大和亜季だ!」

留美「釣った……宙吊りになってる。あの変な射出する網、使ったのね……」

のあ「それで、留美!」

留美「危ない。こういう時は張り手でしょう。グーはないわ、グーは」

のあ「わかってるんだったら、一発ぐらい殴らせなさいよ」

留美「イヤよ。あなた右利きだから、左利きの私は止めやすいの」

のあ「あなたって人は……」

留美「言ったでしょう。あなたは犯罪者になるべきではないわ。暴行罪に問われるのも止めたわ」

のあ「どうして……」

留美「言ったでしょう。私は責任を取ったのよ。警察を裏切った部下も、犯罪者も、私の手で判決は下した。法は守っていないわ、だから私は法で裁かれる。それで、良いでしょう」

のあ「良くないわ」

留美「こうすべきだったのよ」

のあ「違う」

留美「古澤頼子も殺すべきだった」

のあ「それは何故」

留美「そうね、私の使命……正義かしら」

のあ「違うわ。和久井留美は、そんなことはしないわ。理由もなく」

留美「理由はあるでしょう、私は不器用で曲がらない正義感の強い人間。そのまま、法を逸脱しただけよ」

のあ「三船美優と新田巡査に何があったの」

留美「……何もないわ。全て、私の犯行よ」

のあ「古澤頼子は生きているわ。いつかわかること」
94 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 22:00:55.31 ID:RS4SDFXO0
留美「わかるかしら?怪物よ、あれは。『キュレイター』満足できなかった、欲張りな犯罪者。死んだほうがよかったわ」

のあ「いいえ」

留美「私がもう1人殺しても変わらないわ。罪の差は大きくないの」

のあ「それでも、止めるわ」

留美「そう。きっと、また何かが起きるわ」

のあ「その時は、私がいるわ」

留美「それをさせたくない。あなたは、暇な探偵であるべきよ」

のあ「頑固ね、留美は」

留美「知ってるでしょう。刑事になってからずっと、そうだったわ」

のあ「……」

留美「手錠を貸すわ。現行犯なら逮捕できることは知ってるわね」

のあ「殺人未遂の現行犯で逮捕……これでいいのね」

留美「いいわ。明日のトップニュースで使われてあげるから」

のあ「……」

留美「探偵高峯のあ、これからも頼んだわよ」
95 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 22:01:46.59 ID:RS4SDFXO0
47

卯美田スカイニア・1階

のあ「……」

真奈美「のあ、お疲れ様」

のあ「真奈美、その顔……一発喰らったわね」

真奈美「不覚を取った。だが、負けていないぞ?」

のあ「当然よ」

真奈美「発砲音がしたが、誰も傷つけていないな?」

のあ「留美の銃を飛ばしたわ。古澤頼子を撃てば良かったのかしら」

真奈美「いいや、違う。のあが正しい」

のあ「そう言ってくれると、安心するわ。大和巡査部長は」

真奈美「むしろ、憑き物が取れたような顔をしていたな。犯行については認めた」

のあ「古澤頼子を助けたことについては」

真奈美「命を救いたいと自分が思ったからであります、と言っていた」

のあ「その様子だと古澤頼子は、指示していないわね。助けることを」

真奈美「そのようだ。彼女は話してくれるさ、おそらく」

のあ「そう、信じておくわ」

真奈美「最後の殺人は止めて、犯人は逮捕した。のあも一躍時の人だな」

のあ「やっと煩わしい記者を追い払えたわ。全くありがたくないわね」

真奈美「そうか。しばらくしたら、落ち着くさ」

のあ「そうね……家に引きこもるとしましょう」

楓「お疲れ様です」
96 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 22:02:37.68 ID:RS4SDFXO0
のあ「来てたのね」

楓「はい。様子をお伝えしようかと」

のあ「誰のかしら」

楓「大和亜季は協力的です。古澤頼子は大人しいですが、警戒は更に」

のあ「それがいいわね」

楓「何故か笑っていました。ヘレンにも協力を」

のあ「証言は聞けそうかしら」

楓「難しいでしょうが……時間があれば必ず」

のあ「留美は」

楓「留美さんの方が大変そうですね、態度でわかります」

のあ「本当に話さないつもりかしらね」

楓「……わかりません」

のあ「なんとかしましょう。きっと、何とかなるわ」

真奈美「ああ、そうだな」

のあ「未来は変えられるわ。誰かの手が必要なら……私が差し伸べればいい」

楓「……それは」

のあ「どうしたの?」

楓「いいえ、何でもありません」

のあ「楓、慌ただしい休暇になってしまったわね」

楓「大丈夫です……明日からは温泉宿に。ゆっくり、考えます」

のあ「ゆっくり休んでちょうだい」

まゆ「のあさん!」

のあ「まゆ、迎えに来てくれたのかしら」

まゆ「はい……心配で」
97 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 22:04:43.48 ID:RS4SDFXO0
のあ「この通り平気よ。むしろ、真奈美かしら」

まゆ「真奈美さん……あっ、お顔が」

真奈美「一晩もすれば腫れは引く。心配しないでくれ」

まゆ「皆さん……無事で良かった」

のあ「ええ。まゆ、ちょっと来なさい」

まゆ「のあさん、どうしましたか?」

のあ「まゆ、愛しているわ」

まゆ「はい?……唐突で何がなんだか」

のあ「真奈美にも言ったから、まゆにも言っておかないと。大切な家族だと思ってるわ、思わせて」

真奈美「私も言われたが、もっと冗談のようだったぞ?」

まゆ「よくわかりませんけれど……ありがとうございます、のあさん」

のあ「抱きつかれても、何も出来ないわ。抱き返すことくらいしか」

真奈美「さて、帰るとしようか」

まゆ「はい……都ちゃんにお留守番を頼んじゃいました」

のあ「楓も来るかしら」

楓「お邪魔していいですか?それと、お車をお返ししないと」

のあ「もちろんよ」

真奈美「よし、野次馬に見つからないようにするとしよう」

のあ「帰りましょう、我が家に」

エンディングテーマ

Final of storY

歌 古澤頼子・大和亜季
98 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 22:06:12.07 ID:RS4SDFXO0
48

エピローグ

桜の頃

清路拘置所・面会室

清路拘置所
清路駅から北西の街はずれ、清路刑務所に併設されている。塀の上から覗く桜はキレイらしい。

のあ「こんにちは、留美」

留美「お暇そうね、探偵さん」

のあ「ご存知の通り、暇よ」

留美「それで、何かご用かしら」

のあ「裁判が始まるわ」

留美「そうね」

のあ「弁護人、どうするのかしら」

留美「国選弁護人でいいでしょう。野心がありそうな女性だったわ、期待通りに働いてくれるでしょう」

のあ「それでいいのかしら」

留美「大丈夫よ。私が素人じゃないもの」

のあ「結局、話さないのね」

留美「全て洗いざらい話したわ。元警察官だったのだから」

のあ「肝心なことを話していないわ」

留美「そんなことはないわ。実況見分もヌケモレなく順調に」

のあ「実況見分の手際にケチつける加害者なんて、初めて聞いたわ」

留美「真実を基に、裁判は進むわ」

のあ「新田巡査について、彼女が亡くなるまでの足取りがわからない。音葉も見ていないわ、何故か?」

留美「実際は私が監禁していたからよ。監禁場所も供述通り」

のあ「彼女が、どのような状態だったかはわからない」

留美「死因は、私が撃ったことよ」

のあ「それを選ばなければ、死因は違ったのね」

留美「言っている意味がわからない」
99 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 22:07:41.06 ID:RS4SDFXO0
のあ「三船美優の毒物についても、あなたは関わっていないことがわかったわ」

留美「それで、何が言いたいのかしら」

のあ「留美でない、誰かの意思が死に関わっている」

留美「いいえ、私の責任よ」

のあ「そうやって、白を切るのね」

留美「無責任でありたくないだけ」

のあ「古澤頼子も、この件については答えない」

留美「答えなんてないのよ。真実なんてない」

のあ「私は答えに辿り着くわ。私のこと、知っているでしょう」

留美「知ってるわ」

のあ「無駄な労力はかけたくないの。言えば済む話よ」

留美「こっちの理由は示しているわ」

のあ「……」

留美「本、ありがとう。次も差し入れしてちょうだい」

のあ「……ええ。自宅に幾らでもあるから」

留美「音楽を聞けないのは残念だけれど」

のあ「留美はバカね。みくにゃんを失うことくらい、分かっていた」

留美「失う物を天秤にかけて、正義を譲るわけにはいかなかった。それだけ」

のあ「それは、違うわ」

留美「意見の相違はいつものこと」

のあ「……」

留美「今日はこれだけかしら」

のあ「真奈美を待たせているから、行くわ」

留美「また会いましょう、探偵さん。次は刑務所かしら」

のあ「裁判は続くわ、次も拘置所よ。また来るわ、留美」
100 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 22:08:19.95 ID:RS4SDFXO0
49

清路拘置所・駐車場

のあ「真奈美、待たせたわね」

真奈美「問題ない。柊課長から電話だ」

のあ「もう課長じゃないわ。ただの警部」

真奈美「そうだったな。新しい課長は高橋署長が連れて来た定年近い男性だそうだな」

のあ「礼子と中央で働いていたらしいわね。地方の小さな署で隠遁署長を務めて定年を狙うつもりだったのによう、と嬉しそうに言っていたわ」

真奈美「もう会ったのか?」

のあ「あっちから挨拶に来たわ」

真奈美「のあも有名人だものな」

のあ「面倒だわ。それで、志乃からの用事は」

真奈美「事件発生だ。協力して欲しい、と」

のあ「久しぶりね」

真奈美「あの事件は結果的に、犯人の出頭件数と事件抑制に貢献したからな。探偵高峯のあも有名になったのも、一因だな」

のあ「そんなことより、留美には刑事の仕事を続けて欲しかったわ」

真奈美「それで、行くか?」

のあ「行くわ。場所は」

真奈美「聞いてある。乗ってくれ」
101 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 22:09:24.30 ID:RS4SDFXO0
50

清路市内・某高架下

のあ「志乃」

志乃「探偵さん……いらっしゃい」

のあ「これで晴れて現場復帰ね。元気そう……ではないわね」

真奈美「二日酔いか?」

志乃「二日酔いではないわ……お酒には飲まれない」

のあ「飲む時間が長くて、睡眠不足」

志乃「正解……頭は冴えてるから安心して」

のあ「柊志乃なら通常の半分でも優秀な刑事、でしょう」

志乃「そう褒めなくていいわ……2人共、挨拶を」

楓「はい」

友紀「はいっ、班長!」
102 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 22:10:22.96 ID:RS4SDFXO0
真奈美「見知った顔だな」

志乃「4月1日から新設された柊班の人員よ……自己紹介を」

楓「高垣楓巡査部長です。この度、希砂二島の駐在から刑事一課配属となりました」

のあ「戻ってきたのね、楓」

楓「はい。私も、逃げてばっかりではいられませんから」

のあ「あなたは逃げたりなんてしていないわ。自信を持ちなさい」

楓「ありがとうございます……留美さんの代わりを務められるようにがんばります」

のあ「留美の代わりは志乃でいいでしょう」

志乃「そうね……姫川さんも挨拶を」

友紀「久しぶりっ!姫川友紀、刑事になりました!」

真奈美「栄転じゃないか」

楓「栄転と思いましたけど、違うんですよ」

のあ「違う?」

志乃「断られていたの……刑事一課に去年から誘っていたのよ」

友紀「恥ずかしいから、バラさないでよ!」

真奈美「いいじゃないか。どうして、受けたんだ?」

志乃「必死に勧誘したもの……」

友紀「凛ちゃんを送り届けて、裁判も見届けた」

のあ「寛大な判決だったようね、聞いてるわ」

友紀「一区切りついた、のと」

真奈美「のと?」

友紀「やられっぱなしは性に合わないからね!直接リベンジのチャンスがないなら、刑事として上回る!」

真奈美「大和亜季にやられたこと、根に持ってるんだな」

志乃「のあさん……ご協力を頼むわ」

のあ「ええ」

志乃「さて……寝不足を見せないように仕事をしましょう」

楓「わかりました」

友紀「オッケー!」

真奈美「もしかしてだが、3人で飲んでいるのか」

のあ「留美はそこまで飲まなかったものね……」

友紀「さっさと終わらせてキャッツの試合を見よう!当日券あったら球場で!」

楓「ふふ、魅力的な提案ですね」

志乃「考え事はあと……はじめましょう。そして、私の技術を全て叩き込むから覚悟しなさい……」

真奈美「これは、大変そうだな」

楓「覚悟の上、です」

友紀「刑事、千本ノックだね!」

志乃「それで……探偵さん、ご協力してくださるかしら」

真奈美「私は構わない。のあはどうする?」

のあ「もちろん協力するわ。はじめましょう」

エピローグ 了

高峯のあの事件簿 完


製作 tv〇sahi
103 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 22:11:35.41 ID:RS4SDFXO0
オマケ

吊り下がりの撮影はスタジオで

のあ「背景はニセモノが埋め……本当のビルとなる」

CoP「頼子さん、準備はできましたか」

頼子「はい。はじめてください」

のあ「滑車は回り……地から離れる」

亜季「大丈夫でありますか?」

CoP「落ちるよりは安全だから、吊り上げる方が」

亜季「宙吊りになるのでありますよな、衣装は大丈夫でありますか?」

のあ「風が……変えてくれるわ」

CoP「スカートの話ですか?下から強風を吹かせますので、バッチリです。ビル風ですよ、ビル風」

亜季「そうでありますか……?」

頼子「スタンバイできました」

のあ「チャンスは少ない……頼子、一度よ」

亜季「頼子殿、ファイトでありますよ!」

撮影終了後

のあ「それは嵐……」

亜季「スカートは問題なかったでありますが」

CoP「凄い揺れてました。でも、撮影はバッチリでした」

亜季「流石でありますよ、頼子殿!」

頼子「ありがとうございます」

のあ「快楽をはらんだ叫び声……想起させるは、何かしら」

頼子「ふふっ、楽しみ過ぎてしまいました。プロデューサーさん、一緒にバンジージャンプに行きましょうか」

のあ「私は構わない……大地を離れる浮遊感は人の心を変えるわ」

頼子「亜季さんはいかがですか?」

亜季「怖気づく大和亜季ではありません、もちろんご一緒しますよ!」

CoP「え?僕が連れて行くの?」

のあ「そうだけれど……何か問題が」

CoP「わかった。オフにでもセッティングします。奏さんも連れて行きましょう」
104 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/05/18(月) 22:12:45.39 ID:RS4SDFXO0
P達の視聴後

PaP「バンジージャンプはどうだった?」

CoP「良い撮れ高でした」

CuP「撮影したんですか?オフだとばっかり」

CoP「良く考えたら勿体ないですから」

PaP「配信方法でも考えるか。後で打合せしよう」

CuP「Coさんは、どうだったんですか?」

CoP「内輪でなら、僕の映像が一番面白いですよ」

PaP「それは楽しみだな」

CoP「そもそも、頼子さんものあさんもバンジーどころか落下シーンの撮影もしてますからね……変顔すらありませんでした」

CuP「あ、騙されたんですか?」

CoP「そこは、上手くならなくても良いんだけどなぁ」

おしまい
105 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/05/18(月) 22:15:09.35 ID:RS4SDFXO0
あとがき

頼子、お誕生日おめでとー。

留美さんのセリフから始まり、留美という漢字を分解した駅名が登場するのは最終話がこうなるからという迂遠すぎる示し方。

古澤頼子の身長は特訓前が165cm、特訓後が166cm。
頼子サイドを覚えているとデレステMVの配役に便利。
頼子、美優、亜季、美波、詩織、いつき、凛、つかさ、翠、クラリス、千奈美、沙紀、伊吹、心、沙理奈、麻理菜、悠貴、イヴ、フレデリカ、アナスタシア、それとマストレさんが165cm±1cm。雪菜ちゃんだけは163cm。全部読むと覚えやすい、はず。ちとせお嬢サマ(164cm)は新規参入で出せなくてごめんね。
頼子&亜季が公式に出たので遠慮なく書けて嬉しい。

登場アイドル数127名、1話平均28名登場、ゲスト15名。
ここまで使えるキャラクター数が多いと楽しいよね。

高峯のあの事件簿シリーズはこれにて完結です。
長い間のお付き合いありがとうございました。

今後も何か書いていると思うので、よろしくです。
情報は@AtarukaPで。

次は、7人が行く・EX2、の予定。

それでは。
106 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/05/18(月) 22:15:46.96 ID:RS4SDFXO0
本当にオマケ

トナカイの出演者(第6話)

ブリッツェン:握野英雄
ドンダー:信玄誠司
キューピッド:水嶋咲
コメット:桜庭薫
ダッシャー:牙崎漣
ダンサー:円城寺道流
プランサー:大河タケル
ヴィクセン:秋月涼
ルドルフ:渡辺みのり

315からご出演いただいたけど、どういう経緯で決めたのか全く覚えてない。
ブリちゃんに似てるのは、英雄だな、とか考えていたのだろうか。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 00:36:57.91 ID:hsY97eLpo
お疲れ様でした!

のあの事件簿が終わるのは寂しいですが七人が行くも大好きなので待ってます
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