少女「ボク、魔王になってもいいですよ」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/23(木) 19:34:26.36 ID:90W1dByK0

魔王城最深部

闘士「覚悟しろ魔王! うおおお!」ダダッ

 スカッ

闘士「ぐふうっ」ドサッ

シスター「闘士!」

勇者「くそ、あれも幻術か」

魔道士「さすが魔王、攻撃魔法や防御魔法だけでなく、幻術も最高レベルとは……。
 もはや限界じゃ。一旦退いて体勢を立て直したほうがいい。ゆくぞ、『ランク3・転位』」ヴ…

 バチンッ

魔道士「なっ……転位が遮断されたじゃと!?」

 くくっ あははは!

魔王「いいねその顔、絶望の顔!
 君たち四人はここから逃げられないし僕を倒すこともできない。
 つまりどういうことか分かる? 全員無様に死ぬってことさ」

勇者「くそ、ここまでか。ここまでなのかっ」

 ハア、ハア

闘士「シスター……ちゃんと言葉にして伝えてなかったな。俺はアンタを……愛してる」

シスター「分かっています。私も……愛しています」ポロッ

魔道士「何かないか、状況を打開する一手となる魔法が!」バラララ…

勇者「くそ、くそおおお!」

 ふふっ

魔王「あんまり可愛そうだからチャンスをあげる。
 ゲームをしない? 君たち四人のうち、一人だけ命を助けてあげる」

シスター「えっ」

魔王「ただしその一人は、他の仲間を殺さなければならない。
 どうかな? 自分のちっぽけな命を救うために、大切な仲間を犠牲に」

 ザンッ!

魔王「……まだセリフ終わってないんだけど」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1595500466
2 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/23(木) 19:39:15.01 ID:90W1dByK0

 ボタタッ

シスター「え……な、なん……で?」ゴフッ

勇者「えっ? だってヒーラーを先に潰さないと、他の奴を回復されちまうじゃねえか」ズッ…

 ドサリ

闘士「しっ、シスター! 貴様ァア! なに」

 ザンッ ゴロン

魔道士「ゆ、勇者よ。育ての親であるわしを傷」

 ザシュッ ゴロン

勇者「ふう、終わった終わった。これで俺だけは助かるんだよな、魔王。
 いや……魔王様」

 ふう……

魔王「約束は守るよ。ま、僕が観たかったショーとは大分違ったけど。
 しかしなんの躊躇もなく首をはねるなんてね。大切な仲間だったんじゃないの?」

勇者「大切な仲間だったぜ。自分の命の次に、な。
 俺たちの力じゃどう足掻いても敵わない。だからあんたの提案に乗るしかなかったんだ。
 他人の命なんてしょせん二の次、自分の命が一番大事だからな」

魔王「ふふ、気に入ったよ。もし望みがあるなら叶えてあげる」

勇者「えっ。命を助けてくれる上に望みまで叶えるなんて、あんた神か?」

魔王「大抵のことは叶えてあげられるよ。一国の王なんてのはどう?」

 ズリ……ズリ

勇者「悪くねえな。あと、欲を言えば美人の嫁さんがほしいかな」

 ズリ……ズリ


シスター(闘士……死ぬならせめて、貴方のそばで……っ)ズリ…ズリ


魔王「おや? まだ仕留めきれてないみたいだよ」

勇者「げっ。まじかよ。やっぱ首をはねるのが一番確実だよな……っと」ヒュン

 ザンッ!
3 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/23(木) 19:42:26.41 ID:90W1dByK0

十年後

ヴィクティア王国 謁見の間

大臣「──といった次第で、難民の子どもたちが多数行方知れずとなっております。
 難民の親たちからも捜索願が大量に届いておりまして……」

勇者(国王)「ふーん、それで?」

大臣「捜索隊を編成し、子どもたちの行方を探すのが道理かと」

勇者「道理……道理ね。それは誰にとっての道理なんだ?」

大臣「人としての道理でございます、陛下」

勇者「いなくなっているのは難民の子供がほとんどだな?」

大臣「はい」

勇者「なら放っておけ。国民でない者たちに国民の金は使えぬ」

大臣「しかし、それでは子どもたちが!」

勇者「『難民の子どもたち』だ。間違えるな。予算は出さないし捜索隊も編成しない」

大臣「ですがそれでは、親たちが納得しますまい!」

勇者「全力で捜索中だとでもいっておけ。
 もし過激な行動に出るようなら国外に追放すればいいだけのこと。
 そのような些事にとらわれるのは時間の無駄だ。次」

大臣「……かしこまりました。次に、中央市場に出没する盗人についてですが──」

──

ヴィクティア城 隠し通路

 カツーン カツーン

勇者「はあ。面倒くせえなもう」

 ギイッ

地下研究所

 ゴポゴポ……

勇者「おーい、いるか魔王様」

 スタスタ

魔王「やあいらっしゃい勇者。どうしたの? この場所苦手だったよね」
4 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/23(木) 19:46:31.69 ID:90W1dByK0

勇者「ガキ共が浮いてるカプセルが大量にある場所なんて、得意な方がめずらしいだろ。
 一応俺も二児の父だからな」

 ゴポゴポ……

魔王「ふうん、そういうものなんだ。
 で、今日は?」

勇者「大臣がな。難民の子どもが大量に行方不明で親どもがうるさいってよ」

魔王「うーん、ちょっと収穫しすぎたかな。
 この研究は人間が大量に必要だから、難民受け入れはいい案だったと思うんだけど」

勇者「案自体はいいと思うぜ。ただ、当分は子どもをさらう数をセーブしてくれると助かる。
 その間に難民受け入れを増やして、巷に噂を流せば有耶無耶にできると思うんだ」

魔王「噂?」

勇者「魔王の配下が夜な夜な子どもをさらってる、っていう」

 ふふっ

魔王「なるほどね。魔王という、子どもを諦める理由を提供するわけだ」

勇者「そういうこと。お前だけが悪者になっちまうけど、いいよな」

魔王「全く問題ない。半分は本当のことだしね。
 国民もまさか、国王と魔王が結託して兵士に子どもを誘拐させてるなんて思わないだろうなあ」
5 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/23(木) 20:52:15.37 ID:90W1dByK0

勇者「てか、これって死んでるのか?」コンコン

魔王「いや、この子たちは魔力増幅装置に繋いでるから息はあるよ。
 ま、目覚めても廃人だろうけど」

勇者「前から聞こうと思ってたんだけどよ、なんで子供じゃなきゃ駄目なんだ?
 子供のほうが魔力が強いとか?」

魔王「いや? 単に体が小さい方が扱いやすいんだよ。運ぶのも楽でしょう」

勇者「確かに」

魔王「難民の件は了解した。しばらく収穫を見送ることにするよ。
 資源は節約しないとね」

勇者「おう、悪いな。じゃあ俺はこれで……ん?」
 
 ジャリッ

勇者「おい、このカプセルだけ割れてるけど」

魔王「ああ……いいんだ。それはもう終わった研究だから。
 それより気をつけて。カプセルからこぼれた液体に触らないように──」

 ジュッ

勇者「おわっ! なんだ?」サッ

魔王「触れたのがブーツの先で良かった。
 もし生身だったら、たとえ君でも無事では済まなかったよ」

勇者「一体何が入ってたんだよ」

 ふふっ

魔王「僕の最高傑作さ」
6 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/23(木) 20:53:59.03 ID:90W1dByK0

ヴィクティア王国はずれ

闇の森のほとり・花の村

 ドサッ

村人「豊作だ豊作だ。これも竜神様のお恵みだな」

村娘「……」

村人「どうした? 泣きそうな顔して」

村娘「確かにリエンデルアの花は豊作だよ。でもそれは、生贄を竜神様に捧げたからだ」

村人「! そうか。前回の生贄はお前の親友だったな」

 ポン

村人「それでも俺たちが生きていくには竜神様におすがりするしかないんだ。
 ……すまん。分かってくれとはいわねえ。いつか竜神様におすがりしなくても済むような村に、お前たちの世代が変えてくれ」

村娘「父ちゃん……」

 ガサッ

村娘「! と、父ちゃん、納屋の後ろに何かいる!」

村人「お前はここにいろ。まさか魔物か? 竜の洞窟が近くにあるってのに……」

村娘「父ちゃん、鎌!」ビュッ

村人「おう」パシッ

 ソロソロ……バッ

村人「! なんだあこりゃあ!」
7 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/23(木) 20:56:12.68 ID:90W1dByK0

 シワッ……

村人「花が……ここに積んでいた花が、全部枯れてる!」

村娘「父ちゃん! 花畑を突っ切って逃げていくやつがいる!」

村人「なんだと! あれは……」

 ザザザ……

村人「あれは、子供……?」



闇の森 洞窟 最奥

 ピチョーン

竜「そこに来たのは誰ダ」

 ジャリッ

少女「あ……」ビクッ 

竜(人間……の、幼体だな。恐らくは10歳前後か)

少女「あ、あのっ。ボク、生贄になりに来ました。
 ボクの命と引換えに、村に安定をください……」ガタガタ

竜「あーまたこのパターンかヨ」ボソッ

少女「えっ」

 フウ……

竜「あのナ。何回も言ってる通り生贄とかいらねーんだワ。
 人間とか喰っても不味いし腹の足しにもなんねーシ。はよ帰りナ」

少女「えっ……で、でもボク、村に居場所なんてなくて……っ。
 今引き返したら、洞窟の入り口を見張っている村人に殺されてしまいます」

竜「ンー? あの村の奴らってそんな残酷だったカ?
 まあいいヤ。それなら、このさらに奥に抜け道があるからそっから逃げりゃいーじゃン。どっか怪我してるなら休むための部屋もあるシ」

少女「……そういうパターンですか……」ボソッ
8 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/23(木) 20:57:45.81 ID:90W1dByK0

竜「あン?」

少女「えっと……あ、あのでもボク、どうしてもあなたに食べていただかないと」

竜「……ふーん、なるほド。どうあってもオレに喰ってほしいト。
 なら望み通りにしてやろうカ」ズッ

 ズシン……!

少女(大きい……今からボクは、こんなに大きくて綺麗な竜に食べられるのか)ゴクリ

竜「じゃ、まずは毒味だナ」

少女「えっ?」

竜「頼んだゼ、スライム」

 バッ

スライム「ばんわー」ビュルッ

 ギュルンッ

少女「わっ……な、なんですかこれぇっ」ネバー

竜「この洞窟の先住民ダ」

少女「く、くすぐった、ひ、ひ、

 ぐひひひひっ」グニョグニョ

竜(個性的な笑い方だな)
9 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/23(木) 20:59:44.31 ID:90W1dByK0

スライム「へれてー」

 ザアアッ

竜「! スラさんの体色が紫に変わっタ。やっぱりナ。
 オマエ、『毒人形』だロ」

少女「!」

竜「体に毒を取り込んで、自分の髪、肌、体液、爪全てを凶器と化した暗殺者。
 しつこく喰ってくれってうるさかったのは、オレを毒で殺すためだったってわけダ」

少女「……ちっ」

竜(舌打ち!?)

少女「殺してください」

竜「あン?」

少女「任務を全うできなかった暗殺者に生きる価値はない。ボクは失敗しました。破棄を願います」

竜「なんでオレがそんな面倒なことしなくちゃなんねーんだヨ。スラさん、放してやっテ」

 ジュルル……ドサッ

少女「はあ、はあ……っ」

竜「死にたきゃご勝手ニ。けどここではやめてくれよナ。オレの家が汚れル」

スライム「あじゅー!」

竜「あー悪い悪イ。オレたちの家、だったナ」

少女「ボクに、帰る場所、なんて……っ」フラッ

 ドサッ

竜「気ぃ失っちまったヨ。めんどくせーナ……。
 ま、いいヤ。適当に放り出しちゃっテ」

スライム「……」

竜「スラさん?」
10 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/23(木) 21:02:00.67 ID:90W1dByK0

スライム「あでうす ぼあ たるで ちゃお『このまま外に放り出せば、この娘は死ぬのでは』」

竜「ま、そうだナ。だって仕方ねーだロ。そいつオレを殺そうとしたんだゼ」

スライム「どばるでん しゃろーむ『まだ幼体ではないか。慈悲を』」

竜「……仕方ねえナ。オレ治癒魔法苦手なんだけド」ムクッ

竜「ランク5『中位治癒』」カッ

 ポウ……

竜「応急処置はしたゼ。これで満足──」

 キンッ

──

『相変わらず、お前の乗り心地は最悪だな』

──

竜「!」

スライム「まはろ?」

竜「……気が変わっタ。『あいつ』が戻ってきたら診察させよウ。
 放り出すのはそれからでも遅くねーしナ」

スライム「……?」

竜(まさか、こいつは……)

──


少女「う……」パチッ

闇医者「気がついたね、かわいいお嬢さん」ニタア

少女「ひっ」ズザッ

竜「心配すんナ、そいつハ──」

少女「嫌、いやだ、来ないでっ!
 人間は、『人間の大人』は嫌だあっ!」ポロポロ
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/07/23(木) 23:58:35.67 ID:eRQvnuPFo
状況がほとんど想像できない
良く言えばなろうテイスト
12 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/24(金) 09:26:11.94 ID:mK+S5nOl0

闇医者「お、落ち着いて落ち着いて。ほら、俺は人間じゃなくてスライムだよ」ドロリ

少女「えっ……」

竜「そいつもスライムダ。
 攻撃特化のスラさんと違って、頭脳に経験値を振り切った変人だゼ」

闇医者「よくいうよねー。君が今生きてるのはその変人のおかげだよ?」

少女「人間じゃ、ない……良かった」ホッ

竜(同種族の人間を異常に怖がるとはな……)

闇医者「俺は竜の主治医をしてるんだ。
 さっき生贄ちゃんが気を失ってるあいだ軽く診せてもらったよ。
 気を失ったのは栄養失調による貧血が原因だね。最後に食事をとったのはいつか思い出せる?」

少女「……たしか……三日前だったと……」

闇医者「それじゃ倒れるのも無理ないね。まず食事……といいたい所だけど、最初から固形物は辛いだろう。まずは液状のものから──」

少女「ボクを殺してください」

竜「……またそれカ」

少女「暗殺者を生かす理由はどこにもないはずです。
 それに……ボクは道具として作られたから、自分で自分を殺すことは禁じられてるんです」

竜「そういう風に仕込まれたってわけダ。自分の意志を持てない道具の人生ネ……くだらねェ」

少女「……!」
13 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/24(金) 09:28:10.79 ID:mK+S5nOl0

闇医者「ま、お望みならここに苦しまず死ねる毒があるけど」

スライム「かりすぺら!」ベシッ

闇医者「だ、だって死にたいっていうからさ!
 まあでも、この毒は多分君には効かないと思うよ。君、毒耐性が異常に高いでしょう?
 どんな猛毒でも吸収してしまう。毒人形に選ばれたのもそれが理由だろうね」

少女「なら、それ以外の方法で──」

竜「……」

──

『いいか、二度とこんなことはするな。自ら死を選ぶのは最も愚かな行為だ。
 脳みそに刻んでおけ、バカ竜め』

──

 イラッ

竜「……オマエ、恥ずかしくねーノ」

少女「えっ」

竜「暗殺者が他人に死を乞うなんてどんだけプライドねーんだヨ。
 オマエはオレを殺しにきたんだロ? なら、最期まで諦めないのが本物の暗殺者じゃねーノ」

少女「……」

竜「自分のこと道具っていってたよナ。
 命ある限り動き続けるのが道具の使命なんじゃねーのカ」

少女「……っ」

少女(言い返……せない)

竜「まあいいサ。オマエみたいな出来損ないの欠陥品なんテ、生きていても空気を汚すだけだろウ。
 お望み通り終わらせてやるヨ。オレのブレスでナ」コオッ
14 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/24(金) 09:30:01.41 ID:mK+S5nOl0

闇医者「ちょ、ちょっとやめてよ、そんなのいつもの君らしくないって!
 スラさんも止めてよっ」

スライム「……」

闇医者「無視しないで……」

少女「……っ……ボク、は……っ」

 コオオオッ

少女「欠陥品なんかじゃ……ないっ」ダッ

闇医者(! ブレスを吐かれる前に、竜の口に飛び込むつもりか……だけど)

竜「フン」ザッ

少女「うわっ」ドサッ

闇医者「まあ、簡単に振り払われちゃうよねえ」

 カッ……ドガアアン! 

竜「ちっ、外したカ」

スライム「あじゅー!」プンプン

竜「すまなイ、あとで直ス」

 ガラガラ……

少女「……ゲホッ」

竜「その程度カ? オマエの本気ハ」

少女(くそ……今のボクじゃこの竜を殺せない。
 なら、一体なんのために生まれてきたんだ。
 ボクの武器は毒だ。でも竜を倒すにはたぶん、それだけじゃ足りない)

 フン

竜「やはりオマエは欠陥品だナ。
 どれだけ時間をかけようとオマエがオレに敵うことはなイ。分かったらさっさとここかラ──」

少女「……違います」

竜「あン?」
15 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/24(金) 09:32:00.21 ID:mK+S5nOl0

少女「あなたに勝てないのは、ボクが欠陥品だからじゃない。
 ボクには……そう、知識が足りないんです。どうしたらあなたを殺せるか何度も考えてみたけど、思いつくのは真正面から突っ込んで食べられることだけだった。
 でも、もしもっと知識があれば、他に色んな方法を思いつけたはずなんです」

竜(こいつ……)

少女「僕は、もっと色んなことを知りたい。そうすればいつか、あなたを倒すことだって」

 フッ……フハハハハ!

竜「できると思うのカ? オマエごときガ? 
 知らないなら教えてやル。オレは歴代最強と謳われた先代魔王、その側近だっタ。これまで数え切れない猛者を葬ってきたんダ」

少女「……」

竜「オマエがどれだけ知識を得ようとオレを倒すことは不可能ダ。矮小な人の子が高貴なる竜を倒せるとでモ? 笑わせてくれル。
 分かったらさっさと──」

少女「そんなの、試してみなきゃわからないじゃないですか」

竜「なんだト?」

 キッ

少女「ちゃんと暗殺の知識をつけて経験をつめば、僕はきっとあなたを殺せます」

竜「……」

少女「あなたは僕を出来損ないの欠陥品だといいました。それが本当かどうか、その目で確かめてみるといい。
 ……それとも怖いんですか? 僕に殺されるのが」フフン

 ブチン
16 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/24(金) 09:34:46.57 ID:mK+S5nOl0

竜「……ふーン。いい度胸じゃねーカ。なら証明してみせロ。期間は……半年もあれば十分だナ?」

少女「十分過ぎるくらいですよ」プイ

闇医者「ちょっと、二人とも冷静になって──」

竜「いいだろウ。半年間この洞窟に住むがいイ。お望み通り知識を与え徹底的に鍛えてやル。途中で死んでも知らねえからナ」

少女「の、望むところです!」

闇医者「聞いちゃいないし」

竜「スラさん、この娘を空き部屋へ運んでやってくレ」

スライム「あーちゅ」

 ずぞぞぞぞ

少女「わ、ちょっと、自分で歩け……ひ、ぐひひひっ……!」

 ザザザザ……


竜(……やっちまったぜ)ズーン

闇医者「らしくないね、どうしちゃったのさ」

竜「……」

闇医者「まさか君が、この洞窟に人間を受け入れるとはね」

竜「オレは追い返そうとしタ……途中まではナ」

闇医者「最初からブレスは外すつもりだったんでしょう? 
 でもまさか、あの子が真正面から突っ込んでくるとはね。ちょっと見直したよ」

竜「フン、自暴自棄になっているだけだろウ」

闇医者「慣れないセリフまでいって追い出そうとしたのにね。『オレは歴代最強と謳われた先代魔王の側近だ!』とか」

竜「……っ」カアッ
17 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/24(金) 09:37:00.78 ID:mK+S5nOl0

闇医者「『矮小な人間が高貴なる竜を倒せるとでも?』とか。うはー恥ずかしい」

竜「……うるせーナ。んなくだらねーことよリ、オマエに聞きたいことがあル」

闇医者「うん?」

竜「アイツの寿命はあとどれくらいダ」

闇医者「一ヶ月もてばいい方じゃない? もともと毒人形は使い捨てだからね。
 本来は一週間くらいで死ぬんだけど、生贄ちゃんの毒耐性からするとそれくらいかな」

竜「オマエの治療でどれだけ延ばせル」

闇医者「……本気でいってる?」

竜「どうなんダ」

闇医者「うーん……もっと詳しく診ないとなんともいえないけど、半年くらいは延ばせると思うよ。
 でも、なんであの子の為にそこまで?」

竜「アイツは恐らく先代魔王の生まれ変わりダ」

闇医者「! 本当に? 今の魔王はそれを知ってるのかな」

竜「いや、知らねーだろうナ。知ってたらここに送り込むはずがなイ」

闇医者「……やっぱりあの子は魔王の差し金だと思う?」

竜「確実にナ。匂いで分かル。
 ……あの娘の治療代についてだが、魔法石の鉱脈を幾つか教えるってのでどうダ」

闇医者「まいどあり」
18 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/24(金) 09:39:01.64 ID:mK+S5nOl0

 ザザザザ……

少女「じ、自分で歩けま、ぐひひひっ」

 ドサッ

少女「はあ、はあ……え、ここは?」

スライム「ぐ あふとん ちゃお『お前の部屋だ、娘』」

少女「……?」

スライム「ふじゃむぼ……『面倒だな……』
 ……アー、ココ、ヘヤ、オマエノ」

少女「ボクの……部屋?」

 ジッ

少女「あの、鉄格子はないんですか?」

スライム「?」

少女「手足を拘束する枷と、鎖は」

スライム「! ……ナイゾ、ソンナノ」

少女「……」

スライム「ドーシタ?」

少女「ここは……ボクの知ってる部屋じゃない。
 でも、それがなぜか……嬉しいんです」エヘヘ
 
スライム「……」スッ

 ナデナデ
19 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/24(金) 09:40:38.75 ID:mK+S5nOl0

ヴィクティア王国 王の居室

 カンカン!

息子「もっと食べたーい!」

娘「ずるーい。ママ、私もケーキもっと!」カンカン

王妃「い・け・ま・せん! もう十分食べたでしょう。
 この国には満足にご飯を食べられない人たちもいるんだからね」

息子・娘「ぶー!」

王妃「全くもう。あなたもなんとかいってくださいな」

勇者(国王)「そうだぞ二人とも。お母さんのいうことを聞きなさい」

息子・娘「えー!」

王妃「えーじゃありません。ほら、歯を磨く時間ですよ」

息子「やだなあ」

娘「ねー」

王妃「きちんと磨けたら、ご本を読んであげる」

息子「うーん……」

勇者「今日はパパも読んであげるぞ」

娘「本当?」
20 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/24(金) 09:41:44.23 ID:mK+S5nOl0

王妃「もちろん。さ、いってらっしゃい」

息子・娘「はーい」

 タタタ……

王妃「なんだかお疲れみたいね。大丈夫?」スッ

勇者「ああ、心配ない。最近難民からの抗議が多くて、少しくたびれてるだけだ」

王妃「やっぱり私も会議に出席しようかしら」

勇者「ダメダメ。いっただろう、あんな野蛮な場所君にふさわしくない」

王妃「そう? あなたがそういうなら。
 だけど国民からの支持は確かなのでしょう? やっぱりあなたは素晴らしい王だわ」

勇者「君にそういってもらえると、誰よりも嬉しいよ」

王妃「……ねえ、久しぶりにバルコニーで飲みません?」

勇者「いいね。ワインを持ってく」


 ヒュウウ……

王妃「綺麗ね。この灯り一つ一つに国民の生活があると思うと、なんだか胸の奥が暖かくなるの」
21 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/24(金) 09:43:57.25 ID:mK+S5nOl0

勇者「俺もだ。……そういえば、前にそのことで君と大げんかしたっけ」

 フフッ

王妃「あったわねそんなことも。半年くらい前?」

勇者「子どもを連れて実家に帰らせていただきますっていわれたときは、この世の終わりかと思った」

王妃「あのときは頭に血がのぼってたのよ。今思うと恥ずかしいわ」

勇者「でも君は帰ってきてくれた」

王妃「だって、結局あなたを愛してるってことに気づいたんだもの」

勇者「俺も愛してる。君と、子どもたちを」

王妃「そしてこの国を、でしょう?」

勇者「……ああ、そうだね。
 乾杯」チン

勇者(この幸せを維持するためならなんだってする。難民の受け入れを増やして魔王に「材料」を提供している限りこの国は安泰だ。
 俺が生きている限り次の勇者は現れないから、魔王も俺を殺せないしな)ニヤリ
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/07/24(金) 12:30:03.80 ID:LVzOaOVco
きたい
23 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/25(土) 19:46:14.99 ID:CALpbtq20

修行一日目

洞窟 竜の間

竜「ちゃんと朝飯は食べたカ」

少女「あさ、めし……? さっき、世にも美味しい何かは食べました。あれがあさめし、ですか?」ポワー

竜「……闇医者、一体こいつに何を食わせタ」

闇医者「焼きたてのパン、豆とトマトのスープ、赤にんじんのサラダと黄金牛のミルク。
 別に普通の朝食だよ? 生贄ちゃんは栄養不足だから多少豪華ではあるけど」

竜「ふむ……」

竜(どうやらまともな食事は初めてらしいな。
 朝飯という単語を知らないってことは、そもそも食事は一日一回だったってことか)

竜「まあいイ。食事は全ての基本ダ。一日三食、朝昼晩に出るから出来るだけ完食するようニ」

少女「……」

竜「ン?」

闇医者「嬉しすぎて立ったまま気絶したみたい」

竜「まじカ……」

スライム「まぅるる……」

24 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/25(土) 19:48:31.70 ID:CALpbtq20

数分後

少女「はっ」パチッ

竜「ム、気がついたナ。話を続けるゾ。
 水分補給は最低でも三十分に一回はするこト。すぐそこに水差しを置いてるから好きに飲むと良イ。魔法陣の上に戻せば水が補充されル。
 トイレ休憩は適宜。場所は分かるナ?」

少女「はい」

竜「よし。修行の流れとしてはまず暗殺の基本を座学で学ビ、徐々に実践を交えていク。
 ただはじめのうちは体力の回復・増強に集中すル。具体的には体操、軽めの筋力トレーニングなどだナ。
 無理のない範囲で行うガ、もし体に異常を感じたらすぐに報告しロ」

少女「……」

竜「不思議そうだナ。こんなに丁寧に教えると思わなかったカ」

少女「はい……てっきり、ボクに音を上げさせて追い出すために、滅茶苦茶な訓練をさせられるのかと」

竜「来た当初は追い出すつもりだっタ。だがお前を一人前の暗殺者にすると決めた以上、指導教官として手を抜くつもりはなイ。
 もっとも効率がいいと思われる方法を選んだまでダ」フン

闇医者「ほんとそういう変なとこ真面目だよねー」

竜「今日は午前中に暗殺の心得を、午後は軽い体操を行ウ。なにか質問ハ」

少女「ありません」

竜「よシ。では修行を始める……前に、この姿ではやりづれーナ」キン

 シュルルル……

少女(! 人間に、なった)

竜(人)「ふむ。久々だから慣れるまで時間がかかりそうだけどな……このほうが話を聞きやすいだろ?」スッ

少女「!」ビクッ
25 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/25(土) 19:50:01.36 ID:CALpbtq20

竜「……やっぱ、大人の姿は怖いか」

少女「……すみません。人間の大人じゃないって、頭では分かってるんですけど」

竜「ふむ……これならどうだ」キン

 シュルルッ

少女(あ……子供になりました)

竜(子)「この姿なら平気か?」スッ

 ポン

少女「(ひんやりしてる……)はい、怖くありません」

闇医者「子供が二人……ふふ、かわいいなあ」

スライム「……」ジト

闇医者「ちっ、違うよスラさん、誤解だよ!?」


洞窟内 図書室 

 ズラッ……

少女「すごい、こんな部屋があったんですね」

竜「本棚の本は好きに読んでいいぜ。字は読めるか」

少女「読めません」
26 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/25(土) 19:51:57.19 ID:CALpbtq20

スライム『正直だ、好ましい』

竜「なら、最初は絵だけの本があるからそれを読むといいぜ。この辺りだな。
 文字のある本が読みたければ闇医者が暇なときにでも教えてもらえ。夜なら大抵この部屋にいるから」

少女「ご迷惑、おかけします」ペコッ

闇医者「いーのいーの。報酬は竜にもらうから気にしないで」

竜「さてと……じゃ、そこの椅子に座ってくれるか」

少女「はい」ギィッ

竜「今から教えるのは暗殺者にとっての真理だ。

『暗殺者は、標的に存在を気づかれてはならない』」

少女「暗殺者は、標的に存在を気づかれてはならない……」

竜「うむ。標的の命を奪うその瞬間まで存在を悟らせず、仕事を終えたあとは証拠を残さず速やかに去る。それが暗殺だ。
 ただ殺すだけなら殺し屋と変わらない。何も気づかれず。誰の目にも触れるな。それが最低条件だ」
27 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/25(土) 19:53:08.44 ID:CALpbtq20

少女「……はい」

竜「不安か?」

少女「少し。半年でそこまで到達できるでしょうか」

竜「できる。オレと闇医者、スラさんが教え込むんだからな。それにお前には才能がある」

少女「才、能……?」

竜「気配を消す才能だ。もっともまだ未熟だから聡い者には気づかれるけどな」

少女「……」

──

「あなたはなんの価値もない、単なる役立たずにすぎません」

──

竜「どうした?」

少女「……いえ、なんでも」

少女(才能……ボクにも、才能があるんだ)ギュッ


修行四日目

洞窟 竜の間

 ズガアアアン!  カランカランッ

少女「わっ」グラッ

 ポヨン
28 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/25(土) 19:54:21.86 ID:CALpbtq20

少女「あ……ありがとうございます」

スライム『いいってことよ』グニグニ

少女「ちょ、くすぐった……ぐひひひっ」

竜(子)「うーん……やっぱ銃は反動が大きすぎるな。
 消音魔法がかかってる銃なら暗殺に最適だから、ぜひとも採用したかったんだが」

 ヒョイ

闇医者「でもこれ以上小さいのだと、殺傷力が極端に低くなっちゃうよ?」

竜「仕方ねえ、もう一度考え直すか」

少女「……」シュン

竜「人によって合う武器と合わない武器がある。きっとお前に合う武器に出会えるだろうぜ」

闇医者「アハ、説得力ないなー。君、昔いろんな武器を試しては片っ端から捨ててたじゃない」

竜「ああ。だからいまだにしっくりくる武器には出会えてねえ。何か問題でも?」フン

少女「……」

スライム『どうした?』
29 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/25(土) 19:56:51.68 ID:CALpbtq20

少女「いえ。ただ……なんだか胸のあたりがムカムカして、自分をもっと嫌いになりそうな気持ちです」ギュッ

スライム『あー……。それは悔しいといって、成長の素になる感情だ』

少女「悔、しい……」

少女(そっか、ボクは悔しいんだ。ちゃんと銃を扱えなかったことが)


修行十日目

図書室

 パラ……パラ

少女「……」ジッ

竜「ん? どうした、分からない言葉でもあったか」パタン

 スッ

少女「それはなんていう色ですか」

竜「ああ、オレの右目か。青だ。晴れた空の色だな」

少女「そっちは」スッ

竜「左目は白だ。晴れた空に浮かぶ雲の色だな。
 お前、空を見たことあるか」

少女「洞窟へ来る途中に少しだけ。でもあまりじっくりとは見ませんでした」

竜「そうなのか」

少女「たぶん余裕がなかったんだと思います。あなたを殺すことだけを考えていたので」

竜「以前に空を見たことは」

少女「ありません。ボクは生まれてからずっと暗い場所にいました。地下の、寒いところに」

竜「ならちょっと見てみるか。今日は日が悪いかもしれねーが」ギイッ

少女「えっ」


洞窟 裏口

 ザアアア……

少女「……」

竜「あーやっぱり雨だったか。残念だったな」

少女「なっ……なっ……」フルフル

30 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/25(土) 19:58:37.26 ID:CALpbtq20

 ザアアア……

少女「なんですかこれ! 空が泣いてますっ」

竜「雨だな」

少女「あめ……」ホヘー

竜「……濡れてみるか」

少女「はい!」

 バチャバチャ

少女「ぐひひ……すごい、初めての感触です」

竜「泥だな。乾くと砂になる」

 スッ

少女「あの空の色はなんですか」

竜「灰色だ。空はたくさんの色に変わるんだぜ。
 晴れた日の夕暮れはオレンジ色や紫色、夜は黒や紺色になる」

少女「見てみたいです!」バチャバチャ

竜「ああ。そのうち──」

 ズキン
31 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/26(日) 19:26:59.52 ID:JNQuZ7oj0

竜「……っ」

少女「? 竜さん?」

竜「いや……見れるさ、明日は晴れるだろうから」



修行17日目

 ……っ……ぅ……あ……うう……


竜「……ン」ピクッ

 うぅ……ぁ……

竜(泣き声?)


少女の部屋

少女「う……ぁっ」ギュッ

 ジッ

竜(子)(なんだ、うなされてるだけか)

少女「……う……ん」

竜(ったく、人騒がせな奴)クルッ

少女「……もう……殴らない、で」

竜「!」

少女「もう、苦しいのは……嫌」ポロポロ

竜「……」

 スッ
32 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/26(日) 19:28:57.60 ID:JNQuZ7oj0

竜「おい、起きろ」ユサユサ

少女「!」パチッ

竜「うなされてたから起こしたぜ。大丈──」

 ポロポロ

竜「……」

少女「もう、あ、あの場所に戻るのは……嫌です」

竜「そうか」

少女「戻るくらいなら、死んだほうがいい」

竜「戻る必要ねーだろ。ここにいればいい」

少女「あなたを殺すまで?」

竜「そうだ」

少女「もし、殺せなかったときは……?」

竜「その時は、オレがお前を殺してやるから大丈夫」

少女「……本当に?」

竜「ああ」

少女「……良かった……」ホッ

竜「明日の訓練に差し支える。もう寝ろよ」

少女「すみませんでした、起こしてしまって」

 カタカタ

少女「……あ、あれ?」

竜「どうした」
33 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/26(日) 19:30:36.14 ID:JNQuZ7oj0

 カタカタ

少女「ごめんなさい、震えが……止まらなくて」

竜「別に謝ることじゃねーし」

少女「……っ……」カタカタ

竜「……。
 ……嫌だったら、いえよ」スッ

 ギュッ

少女「!」

竜「すまんな。オレはこの方法しか知らないんだ」

少女「……」

少女(冷たくて、気持ちいい)

竜「悪夢を遠ざける浄歌を歌ってやるから、もう寝ろよ」スウッ

 ♪〜♬

少女(なんでだろう。初めて聞く曲なのに)

少女(なんとなく、懐かしい気が……)

 スー……スー……
34 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/26(日) 19:32:01.18 ID:JNQuZ7oj0

ヴィクティア城 地下研究所

 ゴゴゴゴ……

助手「必要魔力量上昇。このままでは、カプセルの3分の2が死滅します」

魔王「想定内だから大丈夫だよ。そのまま続けて」

助手「し、しかし……」

魔王「いいから、ほら」

助手「……了解。出力維持……発動します」

 ゴゴゴゴ……ドンッ!

 シュウウウ……

助手「全工程終了」

魔王「結果報告」

助手「成功しました。しかしなにぶん遠距離で相手も強大なため、威力は期待値より大幅に下がったようです」

魔王「ま、仕方ないね」

助手「それと……今の呪法でカプセル5から138までが消費されました」

魔王「早急に難民の子どもを収穫して補充……といいたい所だけど、勇者からストップがかかってるんだよね。世知辛いなあ」

助手「いっそ勇者を殺して、魔王様が直接国を支配しては」
35 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/26(日) 19:37:17.05 ID:JNQuZ7oj0

魔王「彼は生きていることに意味があるんだよ。もし彼が死ねば『勇者の資格』が他者へ移ってしまう。
 そうなると厄介なんだ。次の勇者もクズならいいけど、その可能性は低い。
 勇者っていう人種は大抵、くだらない正義感と自己犠牲が空っぽの脳みそに詰まってるからね。むしろ今の勇者が奇跡なんだ」

助手「勇者の資格……確か、必ず子供に移るんでしたね」

魔王「そう。リグドアの古文書に書かれた正確な記述はこうだ。
 
 資格は『生まれて二年以内の子供』に宿る。

 だから勇者には生きててもらわなくちゃいけないんだよ。勇者の芽を摘むには大量の子供を殺さないといけない。
 もったいないでしょう? 貴重な実験材料なのに」フウ

助手「なるほど、理解しました」

魔王(とはいえ節約するのも飽きてきたし、あの計画を前倒ししようかな)

魔王「ま、しばらく様子を見よう」

助手「かしこまりました」

魔王(あーあ。洞窟のあいつが早く死んでくれればいいのにね)
36 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/26(日) 19:38:35.84 ID:JNQuZ7oj0

修行21日目

洞窟 裏口

 サワサワ……

闇医者「ふー、風が気持ちいいね。じゃ、ここに来て……そう、それで腕をまくってくれる?」

 トスッ

闇医者「痛くない?」

少女「大丈夫です。前にもいった通り、そもそも痛覚がないので」

闇医者「無いわけじゃないと思うよ。たぶん限りなく鈍くなってるだけで……っと、もういいよ、ありがとう」スッ

少女「まだ寝てるんですね、竜さん……疲れてるんでしょうか」

闇医者「よくあることだから大丈夫。昼過ぎには起きてくるんじゃないかな」カチャカチャ

少女「ドクターはどうして竜さんの主治医に?」

闇医者「昔あいつに助けられたことがあってね。その時に取引したんだ」

少女「取引?」

闇医者「主治医になる代わりに、最期の瞬間『竜の心臓』を取り出してもいいってね」
37 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/26(日) 19:40:30.29 ID:JNQuZ7oj0

 サワサワ……

少女「竜の心臓、ですか」

闇医者「そう。全ての病を癒やす万能の魔法石、竜の心臓。
 回数制限はあるけれど、使えば死者すら蘇らせるといわれてる。その効果を保持するには、生きたまま取り出さなくてはならない……。
 っていう、伝説の代物さ。実際見たことはないから本当かどうか分かんないけどね」

少女「……そんな大切なものを交換条件にするなんて、竜さんはドクターの医術を高く評価してるんですね」

闇医者「! そんなふうに考えたことなかったけど、確かに……」ニヤニヤ

少女「あ」

闇医者「ん?」

少女「でも、もしボクが竜さんの暗殺に成功したら、生きたまま取り出せなくなっちゃいますね」

闇医者「そこが悩みどころだよねー。まあそれぞれの目標の為に頑張ろうよ。
 例え対立が待ってたとしても、途中までは一緒にいられるんだから」

少女「そうですね」

 カチャカチャ……

闇医者「君の血液から抽出した毒を調べてみたんだけど……いやーすごいね。
 植物由来からモンスター、あげくに化合物まで。ありとあらゆる毒が入ってる。
 しかも普通は混ぜると効果が中和されたり毒性が落ちたりするのに、君の体内ではそれぞれが独立してる。きっと血に秘密があるんだろうね。
 君の血一滴だけで、毒の専門書に載ってるほぼ全ての毒が網羅できそうだよ」

少女「そうですか」

闇医者「あれ、あんまり嬉しそうじゃないね」

少女「いえ。ただ、ボクは毒のカプセルに入れられて育ちました。
 それくらいの毒が体にあるのは、むしろ当然だと思って」

闇医者「当然じゃないよ!」ガバッ

少女「!」ビクッ
38 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/26(日) 19:41:55.76 ID:JNQuZ7oj0

闇医者「いいかい。君から抽出した毒はどれも少量で人の命を奪えるほど強力なものだ。
 それを体内に宿して生活できるってのは、奇跡に近いことなんだよ?」

少女「そう……なんですか?」

 バッ
 
闇医者「君が本気を出せば、この世界のほとんどの生物を毒殺できる。それってすごいことだよ?
 一人で何万もの軍隊に匹敵する殺傷力があるってことなんだから」

少女「……でも……でも、スラさんにボクの毒は効きませんでした!」プイッ

闇医者「あーそれはしょうがないよ。スラさんは毒の完全耐性を持ってるから……」

少女「今まで、毒だけは誰にも負けないと思ってたんです。でもあんな簡単にあしらわれるなんて……。
 もう、なんだか胸が苦しくて、あっつくなってきました!」

闇医者「あ、怒ったんだね。竜に食ってかかったとき以来じゃない」

少女「そうです、ボクは怒ってるんです。でもスラさんに対してじゃありません。自分の弱さにです!
 さっきドクターは、何万もの軍隊に匹敵する毒だといいました。でも使い手が弱いままだったら、一人だって殺せない。
 もっと知りたい。強くなりたい。まずは竜さんを倒せるくらいに。そしていつか、スラさんを倒します!」ギュッ

闇医者「その意気だよ。スラさんがたきぎ拾いから戻ってきたら戦いを挑むと良い。
 ……ところで二人の名前は出てきたのに、俺の名前がなかったのはなんで?」

少女「ドクターはたぶん今すぐにでも殺せるので」ジッ

闇医者「怖いよ生贄ちゃん! まあその通りだけども!」
39 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/26(日) 19:43:28.90 ID:JNQuZ7oj0

 ゴホン

闇医者「まあとにかく、君の持ってる毒はすごいよ。あとはどうやって武器にするかだね。
 敵の口に特攻するだけじゃ、ちょっとバリエーションに欠けるし」

少女「うっ……もうそのことはいわないでください」カアッ

闇医者「アハハ、黒歴史ってやつだね。大丈夫、これから色々学んでいけばいいさ」

少女「毒を出せることは出せるんです。でも全身から汗みたいに出て、周りを毒で汚してしまう。
 ……以前もきれいな花を枯らしてしまいました」

闇医者「そっか。でも、定期的に毒を出すのはいいことだよ。毒は使わずに貯めておくと、毒性が低くなってしまうからね」

少女「そうなんですか」

闇医者「うん。だけどそうだね、毒を出す範囲をコントロールできれば、色々便利になるんだろうけど──」

 ガサガサ

少女「?」クルッ

 ザザッ……ガサッ

魔物「グオオオン!」

 ズシン ズシン

闇医者「スピアーベア!? しかも頭部が赤いってことは群れの長だ。なんでこんな場所に!?」

闇医者(くそ、やっぱり竜の影響が薄れてるのか)

魔物「グルルル……」ジッ

少女「……?」ビクッ

闇医者「! 危ない生贄ちゃん、逃げ──」バッ

 ブオンッ ザシュッ

闇医者「……!」グラッ

 ドサッ
40 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/28(火) 18:07:39.60 ID:IB5YyLYX0

少女「ドクター!」

闇医者「ぐ、う……逃げるんだ。発情期の……スピアーベアは、棘に毒を塗って求愛に使う。
 毒は強ければ強いほどいい。狙われてるのは……君の……っ」ガクッ

魔物「グオオオォ……!」

少女(ここから離れなきゃ。ボクを狙ってるならドクターを無視して追いかけてくるはず)バッ

 タタッ

少女「はあ、はあ……えっ」クルッ


魔物「グルル……」ジッ

 ポタポタッ

闇医者「う……ぅん……」


少女「な、なんて追ってこないんですかっ」

 ハッ

少女(まさかお腹が空いてる? まずドクターを食べてからボクを追いかけるつもりなのか)


 ガシッ

魔物「……ンア」ガパア
41 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/28(火) 18:09:03.62 ID:IB5YyLYX0

 ダダッ

少女「ドクターを……離してくださいっ」ケリッ

魔物「……」

 ガシッ

少女「! は、離して!」ググッ

魔物「……」フイ

ドクター「……っ……ぅ……」

 ガパア

少女(ダメだ。片手で拘束されてるあいだに、ドクターは……っ)


 ザザザ……


少女(! この音は……スラさんが来てくれたんだ。
 でもたぶん間に合わない。その前にドクターは食べられてしまう。助けるにはボクの毒で……っ)カハッ

 ググッ

少女(集中するんだ。毒を出しすぎてドクターまで汚染しないように。
 指先を魔物の首に当てて、毒を……流し込む!)ジワッ
42 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/28(火) 18:10:19.00 ID:IB5YyLYX0

 ズズッ

魔物「……!?」ドクン

 ドクンドクンドクン ブツッ

魔物「ガ……ア……?」パッ

 ドサドサッ

少女「う……っ……ドクター!」

闇医者「う……ダメだよスラさん、そんな大胆な……」エヘヘ

少女「良かった。大丈──……!」ハッ

魔物「グ……ボアアア!」ブンッ

 ギュオオッ

少女(……鉤爪の迫ってくるのが、すごくゆっくりに見える。そっか……ボクは死ぬのか。
 ……前のボクならそれでもいいと思えたけど……今死んだら竜さんを倒せない。仕事を遂行できない。
 それは……絶対に、嫌だ!)バッ
43 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/28(火) 18:11:30.03 ID:IB5YyLYX0

 ビュルンッ

少女「!」

魔物「ガ……ボ……ガ」ゴボボ

 ズズ……ン

少女「スラさん……」ハアハア

スライム『すまない、気づくのが遅れた』ビュルン

闇医者「うーん……はっ」パチッ

少女「大丈夫ですか?」

闇医者「いやー面目ない。叩かれた衝撃ですっかり気絶しちゃったみたいで……っと」

魔物「」チーン

闇医者「さすがだね。スラさんが倒したの?」

スライム『とどめを刺しただけだ。途中までは娘が戦った』

闇医者「本当? スピアーベアは毒耐性高いのに、よく頑張ったね」ポンポン

少女「……」

 ポタポタッ
44 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/28(火) 18:12:29.81 ID:IB5YyLYX0

闇医者「えっ……どうしたの? どっか怪我でも──」

 ギュッ

少女「良かった……良かったです、生きててぇっ」ウワーン

闇医者「い、生贄ちゃん……」

闇医者(こんなふうに泣いてると、普通の子供みたいだな)ギュッ

少女「ひっく……ドクターが、いなくなったら、教えてもらえなくなっちゃうから……っ。
 竜さんを、殺す方法」

闇医者「えっ」

少女「だから、良かったです……うわーん」ポロポロ

闇医者「ふ、複雑……」

スライム「……っ」プルプル

闇医者「あースラさん爆笑してるでしょ! 声に出さなくても分かるんだからね!」

少女「うわーん!」
45 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/28(火) 18:13:39.42 ID:IB5YyLYX0

修行65日目

洞窟 竜の間

 パカッ

少女「ほー……」キラキラ

竜「闇医者に作らせたお前の専用武器ダ。持ってみロ」

 カチャリ

少女「軽い……! これは銃ですか?」

闇医者「注射銃、って感じかな。弾の代わりに極小の注射器を撃ち出せるんだ。
 撃鉄は知ってるよね。親指をのせてみて」

 スッ

闇医者「そう。で、親指の先から毒を出してごらん」

 トクトク……

少女「! 銃に吸い込まれていきます」

闇医者「撃鉄に空いた穴を通って中の注射器に毒が充填される仕組みなんだ。
 これで遠くの相手も毒殺できるよ」

少女「射程距離はどれくらいですか」

闇医者「風がなければ15メートルってところかな」

少女「なるほど」スッ

 パスン
46 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/28(火) 18:18:31.22 ID:IB5YyLYX0

竜「……」フッ

 ポトン

闇医者「……えっ」

 パチパチパチ

スライム『今のは良かったな。不意打ちだったし、竜が息を吹きかけなければ奴の目に当たっていた』

竜「きちんと視力のない左目を狙ったのも良かったゼ。お前成長したナ」

少女「……っ」テレテレ

闇医者「ええー……」

竜「ところで武器の名前はどうすル」

少女「名前?」

闇医者「前例のない武器だからね。まだ名前がないんだ」

 シュルシュル……ポトン

竜「ム? 蛇カ」

スライム『毒蛇の赤子だな。迷い込んだか』

 ガタガタガタ

少女「ドクター?」
47 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/28(火) 18:20:18.52 ID:IB5YyLYX0

闇医者「わ、わわわ、わあ、か、かか、かわいい蛇だね……っ」ガタガタ

スライム『やせ我慢するな。悪い癖だぞ』

毒蛇「……っ」シャー

闇医者「ひっ」

少女「大丈夫ですよ。すぐ外に出してあげますからね」スッ

毒蛇「……」ゴロゴロ

少女「……決めました。武器の名前は、ヴァイパー(毒蛇)にします」

スライム『いい名前だな、闇医者』ポン

闇医者「堪忍してー!」



修行93日目 夜

洞窟 竜の間

──! ──から、──なんだ──!

 バン!

闇医者「……ずっと不思議だったんだよ。魔王の生まれ変わりとはいえ、人間嫌いの君がなぜあの子を受け入れたのか」

竜「ほウ」

スライム「……」ウトウト

闇医者「文献を漁ってやっとたどり着いた。君は生贄ちゃんを依り代にして、先代魔王を復活させるつもりなんだ」
48 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/28(火) 18:21:48.67 ID:IB5YyLYX0

スライム「……!」ハッ

竜「ふン、なるほどナ。最近帰りが遅かったのはそれが理由カ」

闇医者「否定しないってことはそうなんだね」

竜「頭をよぎったことは確かダ」

スライム「……」

闇医者「復活の儀式で依り代になった者は全ての記憶を失い、前世の記憶を受け継ぐ。ほぼ死と同じだよ」

スライム『だが、確かそれだけでは儀式は完了しない。
 依り代自身が強く願わなければ、成り代わりは成功しないはずだ』

闇医者「だからだよ、生贄ちゃんをここに住まわせてるのは。
 暗殺技術を教えるなんて餌で釣って、あの子の心を取り込もうとしてるんだ。自分から儀式に協力するよう仕向けるために」

 フン

竜「だったらなんダ。今さら人間に同情でもするのカ。
 合理的なお前にしてはずいぶん感傷的だな」
49 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/29(水) 21:41:28.63 ID:px+lCJhD0

闇医者「別に。ただ報酬をもらう以上、仕事のゴール地点を明確にしておきたいだけだよ」

竜「お前はゴール地点が分からないと仕事ができねーのカ。ずいぶん繊細なんだナ」

闇医者「……怒らせようとしてる?」

竜「別に嫌になった時点で抜けてくれてかまわねーゼ。途中までの報酬は払うしナ」

闇医者「で、結局ゴールは生贄ちゃんを犠牲に先代魔王を蘇らせる、ってことでいいんだね」

竜「それぐらい自分で考えロ。オレはもう寝ル」ズズン…

闇医者「……あ、そ。よく分かったよ。ま、報酬の分はちゃんと働くさ」クルッ

 スタスタ……

竜「……まだなにか用カ」

スライム『一つはっきりさせておこうと思ってな』
50 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/29(水) 21:43:14.82 ID:px+lCJhD0

竜「ほウ」

スライム『もしあの娘の人生をないがしろにする者がいるなら、そいつは私の敵だ』フイ

 ズザザザ……



少女の部屋

 パタン

少女(……三人とも、ボクが岩陰で盗み聞きしてたことに気づかなかった。
 気配遮断スキルが上がっている証拠ですね)

 スタスタ

少女(能力が向上して嬉しいはずなのに、なんでこんなに体がだるいんだろう)
 
 ポスン ギシッ

少女(会話を聞いたから? でもあんなの気にすることじゃない。
 生き物はみんな打算で動くし、物事には必ず裏があるってドクターがいってた。
 あの会話にショックを受ける資格なんてないんだ。だってボクは竜さんを殺すために送り込まれた暗殺者。最初に裏切ったのは、ボクの方)

 ギシッ

少女(でも、もし竜さんを暗殺できたら、そのあとは……)

少女「ボク、魔王になってもいいですよ……竜さん」
51 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/29(水) 21:45:11.18 ID:px+lCJhD0

修行134日目

洞窟 竜の間

竜「暗殺において敵に見つからないことは最優先事項ダ。
 それでも、もし見つかってしまったときのために対多人数戦闘を教えル。スラさん」

 シュバババ……

少女「すごい、分裂しました」

竜「お前には今から6体の人型と戦ってもらウ」

スライム『造形が大ざっぱなのは勘弁しろ。闇医者と違って形態模写は苦手なんだ』

竜「倒す必要はなイ。6体をやり過ごし広間から逃げ出せたらお前の勝ちダ」

少女「逃げるだけですか?」

竜「もしお前が兵士を目指しているなら倒し方を教えるところだけどナ。
 だがお前の目標は暗殺者。仕事が成功しようが失敗しようガ、見つかった時点で逃げるのが正解ダ」

少女「なるほど……」

竜「それにいうほど逃げるのは簡単じゃないと思うゼ。スラさんに毒は効かねーしナ。
 でハ……はじメ!」
52 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/29(水) 21:46:41.07 ID:px+lCJhD0

──

洞窟 温泉

 ザバーッ

少女「ふいーっ」

スライム「へれてー」

少女「こんな気持ちいいものがこの世にあるなんて……生きててよかったです」

 カポーン

スライム『この良さが分かるとはお前も成長したな』

少女「気持ちよすぎて……なんだか……」ウト

スライム『竜も闇医者もシャワーで済ませるタイプだから張り合いがなくてな。
 そもそも温泉は体だけでなく魂の汚れを──』

 ブクブクブク……

スライム「ちゃおーっ!?『娘ーっ!?』」ザバアッ

 ユサユサ

少女「はっ……すみません、気持ちよすぎて寝ちゃってました」

スライム『まったく気をつけろ……ん?』

 ザアアッ

少女「! スラさんの体色が……変わった?」

スライム『ああ。だが、この色は一体……?』
53 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/29(水) 21:47:38.93 ID:px+lCJhD0

修行169日目

ヴィクティア王国 中央市場

 ガヤガヤ

店主「いらっしゃい! ……おやせんせ。いつぞやはありがとうね」ゴホッ

闇医者「いえいえ。娘さんはその後元気?」

店主「ええ、おかげさまですっかり。あら?」

少女「……っ」モジ

店主「その子は……」

闇医者「あ、えーっとなんていうか、俺の親戚──」

 ガシッ

店主「今ならまだ間に合う、ついてってあげるから自首しよう、せんせ!」

闇医者「誘拐じゃないけど!?」
54 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/07/29(水) 21:48:55.64 ID:px+lCJhD0

──

店主「なるほど親戚の子ね。ごめんよ、早とちりしちまって」ゴホゴホ

 ジューッ

店主「お詫びにうちの肉揚げ餅をサービスするからさ」

 ジュワッ

少女「いい匂い……」

店主「味もいいよ。外はカリカリ、中は肉汁が詰まってるからね。ほら2つ」ガサガサ

闇医者「本当にいいの?」

店主「ああ。その代わり、また寄っておくれ」ゴホッ

闇医者「分かった。ありがとう、おかみさん」ポン

 キンッ

闇医者「じゃ、あっちで食べようか」

少女「……」コクン

 スタスタ……

店主「……おや? 体が軽い。それに咳も止まってる。
 これは……肉揚げ餅2個じゃ足りなかったねえ」ホウ
124.88 KB Speed:0.1   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)