少女「ボク、魔王になってもいいですよ」

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105 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/04(火) 20:49:29.05 ID:9NgOxhgq0

 ぺたり

少女(花瓶に手を……っ)

毒人形1「……ない……ハナ……ない」シュン

 ビクン

毒人形1「あー……よびだ、し」クルッ

 タタタ……

少女(ふう……危なかった)ホッ

 シュタン

少女「彼女を追えば魔王の元へ行けるかもしれない。絶対にワナでしょうけど」

 スタスタ

少女(なぜ兵士を殺したんでしょう。彼らは魔王の手駒だったはずなのに)

少女「……!」ピタッ

警備兵「……」ハア…ハア

少女「まだ生きてる?」スッ

 クンクン

少女「……なるほど。発光フグと首吊り草が主成分の毒ですか。なら」スッ

 ジワッ ポタッ

少女「これで中和できるはず」ホッ

少女(……このままあの子を追っていきたいところですが、ボクにはまだやることがある)

少女「ランク2『探知』」キンッ
106 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/04(火) 20:51:06.36 ID:9NgOxhgq0

──


ヴィクティア城 教会

 ポロロ……

魔王「ここは誰にも使われてないんだ。
 城の中にあるから一般国民は入れないし、兵士や召使いは神を信じてないから通わない。
 だから神父も首になったってわけ」スッ

 ポロロン……

魔王「豪勢なピアノもホコリを被ってる。まさに無用の長物だね」

毒人形2「……」

魔王「でも僕はここが好きだよ。神のいない教会なんて惨めで素敵だ」

毒人形2「……?」コテン

魔王「理解できないのはわかってるんだけどね。君の脳は毒に浸されて鈍ってる。
 せめて今夜までもつといいんだけど──」

 パキィイン!

魔王「ああ、夜まで待つ必要はなかったみたい。
 さてと。障壁に当たった注射器の角度から撃った場所を逆算すると……あそこか」キン

 ポウ……

魔王「さあ僕のかわいい人形たち仕事だよ。
 あの緑色に光っているベンチの裏に敵がいる。捕まえておいで」
107 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/04(火) 20:52:33.81 ID:9NgOxhgq0

 ザザザザ……

少女(! 柱の陰にこんなに隠れてたなんて)

少女「くっ」バッ

 シュタンッ グイッ


魔王「へえ。壁をよじ登るなんて、しばらく見ないうちにずいぶん丈夫になったね。
 実験NO.24217」


少女(……っ)ハア、ハア


魔王「天井近くの彫刻の裏に身を隠したか。
 でも無駄だと思うな、位置はもうバレてる。存在に気づかれた暗殺者にもはや価値はない。
 ランク5『遠隔爆破』」ギュオッ


 ボンッ

少女「あっ!」ガラッ

 ガラララ……


魔王(おっと。あんまりやり過ぎると『あれ』が作動するからほどほどにしないとね)

魔王「一人で乗り込んできたのは勇気があっていいね。でもちょっと身の程知らずじゃない?
 使い捨ての道具が魔王に歯向かうなんてさ。ほらみんな、捕まえておいで」

 ザザザザ……ピタッ
108 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/04(火) 20:53:49.67 ID:9NgOxhgq0

毒人形1「?」

戦闘人形12「?」

 キョロキョロ

魔王「へえ。ランク3『透過』まで教えてもらったんだ。
 どうやら君の才能を過小評価してたみたいだ。ふふ、でもどうするつもり? 
 
 僕のいる祭壇と君との間は魔法の壁がへだててる。並大抵の攻撃じゃびくともしないよ」


少女(……っ)


魔王「隠れてないで出ておいで。『実験』を始められないじゃないか」

 シーン……

魔王「しょうがないなあ。ランク7『魔法解除』」キュオッ

 ブツン

少女(! 姿が……!)スウウッ

 ザザザザ…… ガシッ ガシッ

少女「くっ、放してください!」ググッ

人形達「マエター マエター」ドタドタ

 ドサッ

少女「くっ……」

魔王「久しぶり、NO.24217」
109 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/04(火) 20:54:54.64 ID:9NgOxhgq0

少女「……っ」スチャ

魔王「危ないなあ」キン

 バキンッ

少女(ヴァイパーが!)パラパラ…

魔王「これで君は無力な子どもと同じだ」

少女「なめられたものですね。他に攻撃手段がないとでも?」ジリッ…

魔王「殺すの? 君を育てたのは僕なのに」

 ハッ

少女「育てた? 監禁の間違いでしょう」

魔王「別にどっちも同じ意味じゃないの?
 
 ……君のことはよくわかってる。なにが君の力を失わせるのかもね。

 さあ、出ておいで」パキン

 ムクッ スタスタ

少女「! あ……っ」ガクン

 スタスタ

少女「あ……い、いや……だ」ガタガタ
110 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/04(火) 20:56:24.91 ID:9NgOxhgq0

 ピタッ

助手「お久しぶりです。いや、嫌われたものですね」

魔王「仕方ないよ。君はこの子が物心ついたころから、日常的に虐待してきたんだから」

助手「……それを命じたのはあなたでしょう」

魔王「うん。人間が長期間暴力にさらされるとどうなるか興味があったんだ。
 面白いデータがとれて満足してるよ」

 ズリ……ズリ

少女「あ……っ……あ」

 ──バキッ ドカッ──

少女「……っ」ポロポロ

助手「この子が十歳になるまで、私と魔王様以外の他人と接触させなかったのも研究の一環ですか」

魔王「いや? たまたまだよ。実験中のサンプルを研究所から出す理由もなかったし。
 不確定要素はなるべく排除したかったしね」

助手「まあでも、魔王様には感謝してる部分もあるんですよ」

魔王「というと?」

助手「最初は嫌々だったんです。でもこの子を虐待しているうちに変わってきました」ズイッ

少女「ひっ!」バッ
111 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/04(火) 20:57:35.03 ID:9NgOxhgq0

助手「ああ……いいですねその表情。いつしか怖がる顔を見るのがなによりも楽しくなってしまって」

魔王「……つまり子供を虐待する楽しみに目覚めたってことかな」

助手「ええ。この子がいなくなってから味気ない日々でした。
 ようやくまた会えましたね。これからずっと一緒ですよ……」

少女「……っ」ギュッ 

助手「? なんですかその反抗的な目は」

少女「も、もう……あなたなんて怖くない」ガタガタ

助手「はあ?」

少女「今のボクには……大切な思い出があるから。だから……」

 スクッ

少女「ここで逃げたら一生逃げ続けることになる。ボクはあなたを……恐れません!」ポロポロ

助手「気に入りませんね。あなたは無様に震えていればいいんですよ。ただの実験動物の分際で生意気な……!」ビュッ

 ドスッ
112 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/05(水) 20:02:44.05 ID:xugSnCI20

助手「……?」

 ポタ ポタ

助手「私の腹から……黒い尻尾が飛び出している?
 え……なぜ、魔王様……」ゴプ

 ドチャッ

魔王「実験が終わったからサンプルを処分しただけだよ」シュルン

助手「じっ……けん?」

魔王「『人間が長期間加害行為を強制された場合、どれくらいの期間で自ら進んで行うのか』っていうね」

助手「……!」

魔王「でも君を処分する理由は別にある。
 君さあ、手加減なしで思いっきり殴ろうとしたでしょ。困るんだよ。まだこの子の実験は終わってないのに」ドカッ

 ドカッ バキッ
113 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/05(水) 20:04:15.55 ID:xugSnCI20

助手「いた……い。もう……蹴らな……っ」

魔王「蹴るのは好きなのに蹴られるのは嫌なの? 君って変わってるね」ドカッ

 ドカッ ドカッ バキッ ズガンッ バキッ グシャッ

魔王「……あーようやく死んだか。
 残念だったねえ。勇者だったら一瞬で苦しむこと無く首をはねてもらえたのに」クスクス

少女「……」

魔王「君のトラウマは消えた。これからは思う存分仕事に打ち込めるね」

少女「仕事?」

魔王「忘れたわけじゃないでしょう。
 『闇の森の洞窟にいる雪竜を殺せ』って命令したじゃない」

少女「……」

魔王「助手の実験も終わったし仕事に戻っていいよ。
 必要なものがあればいってね。なんでも用意できるから」

少女「……竜さんを殺す理由は」

魔王「あれ、前はそんなこと聞かなかったのに。まあいいか、教えてあげる。
 
 あいつムカつくんだよ。目障りで仕方ない。理由はそれだけ」

少女「……」

 ジワッ
114 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/05(水) 20:05:37.61 ID:xugSnCI20

魔王「いやー正直君には全然期待してなかったんだけどね。
 最初送り出したのも単なる捨て駒のつもりだったんだ。どうせすぐ殺されると思ってたし」

魔王「ところが君はなぜか生き残り、暗殺者として大きく成長を遂げた。
 予想が裏切られるのも乙なもんだね。自分に人の才能を見抜く能力がないって痛感したよ」クスクス

魔王「体内の毒もさらに強力に……いや操る能力が向上したというべきかな。
 並の魔物なら即死するほどの毒を作れるなんてすごいよね」

少女「さっきあなたに撃った注射器を解析したんですか? 素早いことですね」

魔王「違う違う。覚えてるでしょう、この前君が殺した盗人くん。彼の焼け残りを解析したんだよ」

少女「!」

魔王「彼は本当に素晴らしいサンプルだった。肉体的にも精神的にも健康体で。
 きっと彼も喜んでるんじゃないかな。細胞増殖の実験データが得られたおかげで、また一歩僕の夢に近づいた」

魔王(あの方を復活させるっていう夢にね)
115 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/05(水) 20:08:03.04 ID:xugSnCI20

少女「……あなたにとって、国民は実験体でしかないんですね」

魔王「そしてこの国は広大な実験場なんだ。
 サンプルを節約するのも飽きてきたし、せまい研究所から出て直接国を支配しようと思ってね。
 
 勇者を使って国民の数を増やしてきたけど、もう限界値だから今後は僕が管理するんだ。
 減らさないように増やしすぎないように。人間が繁殖力の強い動物で助かったよ」

少女「なるほど。兵士を襲わせたのは用済みになったからですか」

魔王「そういうこと。これからは実験体たちが国を支配する。戦闘に特化した人形たちがね。
 いまも出番を待ってるんだよ。研究所のカプセルの中で」

少女「よくわかりました」ヒュッ

 トス トスッ

人形達「……?」クラッ

 ドサッ
116 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/05(水) 20:09:38.00 ID:xugSnCI20

魔王(! 指先を使って人形を眠らせたのか)

魔王「ランク10『最上位障壁』」ズ…

少女「……」ビュッ

 パキィイイン!

魔王「危ないなあ。壁をはるのが間に合ってよかった」

少女「……2つ言いたいことがあります。

 まず1つ目。竜さんを殺せという命令はお断りします」

魔王「……2つ目は」

少女「真の暗殺者は自ら標的を選ぶものです。ボクは魔王、あなたを殺します。
 ボクを道具から人間にしてくれた竜さんを、救うために」

魔王「……」

魔王(なんでいつもいつも、あいつばっかり)パチン

 ズラッ

魔王「やれるものならやってごらんよ。ここには100体以上の人形たちがいる。
 いくら君が成長したとはいえこの数には敵わない」

 バッ

魔王「さらに君と僕の間には強力な壁がある。どうあがいても壊せないほど頑丈な。

 君はここで死ぬ、それは決定事項だよ。さあ人形たちその子を殺せ!」

 ザザザ……

少女「……」スッ

魔王(片手を天井に向けた?)

少女「ランク1『火球』」ボッ
117 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/05(水) 20:11:17.23 ID:xugSnCI20

 ……ボンッ



魔王「! まさか」

 ザアアアア……

少女「火を感知すると雨を降らせる。本当に素晴らしい仕掛けですね」

魔王「……解除」

 ザア……ッ……

魔王「貯水槽になにか入れたね?」

人形達「ア……ガ」プルプル

 クスッ

少女「ええ。しびれ毒をたっぷりと」

 ドサドサッ

少女「これで二人っきりですね」

 くっくっくっ

魔王「素晴らしいよ。どうやら君を侮ってたみたいだ。……ま、結果は変わらないけど」

 ガバッ

人形達「ギヘヘッ」ガシッ

少女「なっ!」

魔王「君、ずいぶん盗人くんと仲良くしてたみたいだね。猛毒だけじゃなくしびれ毒までプレゼントするなんて」

少女「まさか」ググッ

魔王「うん。解析して抗体を作っておいたんだ。
 人形たちにしびれ毒は効かない」

少女「……っ」

魔王「今度こそ終わりだ。人形たち、首をねじ切っ──」




 ガシャアアン!
118 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/05(水) 20:12:20.76 ID:xugSnCI20

スライム「ちゃおーっ!」ヒュウウウ…

 ベチャン

少女「スラさん!」

スライム「ばんわー」ビュルッ

 ドチュ ドチュッ

人形達「う……ご……ない……」ギギッ

スライム『少しおとなしくしているがいい』

少女「スラさんどうして……」ハアハア

スライム『友の危機だから来た、それだけだ』フイ

魔王(……闇の森のスライム。体力攻撃力耐久力を極限まで高めた伝説級の遺物だ)

スライム『ゆえあって娘の味方につく。悪く思うな、今代の魔王』

 ふふっ

魔王「会えて光栄だよ、闇の森の主」
119 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/05(水) 20:13:41.00 ID:xugSnCI20

スライム『……娘、お前なら魔王を倒せるかもしれない』コソッ

少女「えっ」

スライム『奴はお前の力を恐れている。人形たちに任せて自分は壁の後ろに隠れているのがその証拠だ』

少女「でも、あの壁はどう頑張っても壊せない……そんな気がするんです。しょせんボクなんかには……」

 フッ

スライム『弱気だな。竜が聞いたら怒るぞきっと』

少女(竜さん……)

スライム『今は魔王の呪いが止んでいるから竜の容態も安定しているだろう。
 奴を倒せば少しは寿命をのばせるかもしれない』

少女「……やります。どうしたらいいですか」

スライム『お前はまっすぐ魔王を毒殺しろ。壁は私が破壊する』ビュッ

 ビタン ビタンッ

スライム「ぐ……む」ググ…

 バキッ…… ピシッ……

少女「すごい……これなら!」

魔王(あー、呪いに魔力を使いすぎて壁を張る分が残ってないや。やれやれ困ったな)

 バキィイイン!

少女「やった!」

魔王(本来の姿に戻るの、好きじゃないのに……)ボム
120 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/05(水) 20:15:08.71 ID:xugSnCI20

ズズズズズ……ズズン

少女「あれは……黒い竜!?」

スライム『魔王の正体は黒竜だったのか。……!』ハッ

 バッ

スライム『娘、頭を低くして私の陰に、早く!』

魔王(竜)「さよなラ」ガパッ

 カッ 

 ギュオオオオッ!

毒人形2「あ……──」ジュワッ

戦闘人形13「え……──」ジュオッ

 ギュゴゴゴゴ……!

少女「スラさん逃げてください! このままじゃ体が!」

スライム「……っ」ジュワアア…

 ソッ

少女「!」

スライム『頑張れ。お前なら、できる──』ジュッ

 ジュワアアア……!
121 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/06(木) 20:13:05.40 ID:+YodVLKl0

魔王「……ふふ、さすがに最強のスライムでも僕のブレスで蒸発したカ」ズン

少女「う……」ケホッ

 ガララ……

少女(スラさん……ボクをかばって……っ)ギュッ

魔王「かわいそうに、また独りぼっちだネ」クスクス

少女「どうして子供たちを巻き添えにしたんですか。仲間でしょう」

魔王「違うよ、ただの駒ダ。足りなければ補充すればいイ。
 ランク5『他者転位』」ヴン

 シュパパパ!

魔王「さあこれで元通りダ」

人形達「えへへー!」

少女「……違いますよ」

魔王「うン?」

少女「彼らは二度と元には戻りません。命は一度きりで、だからこそ大切なんです」
122 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/06(木) 20:14:28.39 ID:+YodVLKl0

魔王「それは一部の者に限られるんじゃないかナ。
 例えば僕や……そう、君みたいに才能のある者は替えがきかないから大切にすべきかもネ。
 
 でもさっきブレスで溶けた子たちはザコだったヨ? 君とは違うんだから気にする必要なイ」

少女「……いいえ同じですよ。ボクとあの子たちに違いはなにもありません。
 ランク2『速度強化』」ユラッ

 シュオン! 

魔王(速い。まだこんな力を残していたとはね)

 シュンッ シュタンッ

魔王「まあでも、追えないほどじゃなイ」ビュン

 ガシッ

少女「!」ググッ

少女(まずい、もう魔力が)ハアハア

魔王「捕まえタ。このまま握りつぶしてやろうカ」ググ…

少女「……っ」

魔王「ン? そうか、君は痛覚が麻痺してるんだったネ。ランク4『神経接続』」キュン

 ギシッ

少女「! か、は」

魔王「懐かしい痛みが戻ってきたネ。さらに……ランク6『痛覚十倍』」ギャキッ

 ズグン
123 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/06(木) 20:15:45.40 ID:+YodVLKl0

少女「!!……ぎっ……ぎゃあアぁあアあ!」ギリギリ

 ブシュッ パキンッ

魔王「おっト、いくつか肋骨が折れたみたいダ。この姿は力加減が難しいネ」

少女「……あ……っ……」ポタポタ

 ニイィ

魔王「ねえ、ゲームをしなイ?」

少女「げ……ぇ……む?」

魔王「君の命を助けてあげル。それどころか、健康な人間と同じくらいの寿命を与えてあげるヨ。
 その代わり十時間以内に竜の命を奪うんダ。面白そうでしょウ」

 フッ

少女「お断りですよ……くそ魔王」

魔王「あっソ。じゃ、死んデ」グッ

 ギリギリギリ

少女「……っ……」ボタボタ

少女(今のボクでは魔王に勝てない。でも「前」のボクなら……勝機はある)

 ズ……

魔王「?」ピタッ

魔王(なんだろう、この気配)

人形達「? ……?」ガタガタ

魔王(空気が……振動している?)
124 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/06(木) 20:17:44.28 ID:+YodVLKl0

少女(もうこれしかない。魔王を倒すには、ボクが記憶を消して先代魔王に体を譲るしか。
 前世のことはわからないけれど、きっとすごく強いはず)

 ボタボタ

少女(どうせ最初から死ぬつもりだったんだ。人生に後悔はない──)





──

 フワッ

少女「! これは……」

竜「服ダ。その布切れでは修行に耐えられないだろうからナ。
 適当に買ってこさせたから気にいるかはわからねーガ」

闇医者「センスのいい俺が服選びを間違うわけないじゃない。ちゃんと似合うのを買ってきたよ」フフン

スライム『お前のその自信はどこからくるんだ……』

少女「……」

竜「気に入らねーカ? なら他の──」

 ポロポロ

竜「!」

スライム『どうした? 闇医者にいじめられたのか』

闇医者「なんで!?」

少女「違うんです。ただ……胸が熱くて、苦しくて」

竜「それは『嬉しい』ってやつだナ」

少女「! はい。すごく嬉しいです。大切にしますね」グスッ

──
125 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/06(木) 20:20:53.85 ID:+YodVLKl0

少女(……っ……だって、これしかない。魔王を倒すにはこれしかない。
 早く願うんだ。先代魔王を蘇らせてくださいって。

 もう十分だ。だってあんなに、あんなに──)






──

闇医者「スープあつーい!」ヒャッ

スライム『猫舌なのは相変わらずだな』モグモグ

闇医者「スラさんが鈍すぎるんだよ……」

少女「ど、どうですか」

スライム『うまいぞ。竜の味覚に合うかはわからんが』

竜(子)「……」ズズ…

少女「……」ドキドキ

竜「! ……うまいな」

少女「!」

闇医者「そりゃー俺が教えたんだから美味しいに決まっ」

 ギュルン

スライム『食事時にしゃべるのはマナー違反だったな』

闇医者「……っ」ガボガボ

少女「……嬉しいです。ありがとう、ございます」エヘヘ

──




 ……ポロッ

少女(楽し、かった……すごく、楽しかったんだ)
126 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/06(木) 20:23:18.69 ID:+YodVLKl0

 シュウウウ……

魔王(! 振動が止んだ)

 ポロポロ

少女(ごめんなさい竜さん。ボクは前よりわがままになったみたいです。
 例えもうすぐ死ぬとしても。
 みんなと過ごした記憶を、失いたくない……っ)ポロポロ

魔王「ふふ、なにかやろうとしてたみたいだけど不発だったらしいネ。
 さあこの世界に別れを告げる時間ダ。絶望と後悔に苛まれながらくだらない人生を呪うが──」



 バターン!



魔王「……なんだ勇者カ。脅かさないでヨ」
127 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 18:57:43.45 ID:xM+KP8+p0

勇者「? なんだこのドラゴン」

魔王「あア……」ビュッ

 ベシャッ

少女「……う……」


 シュウウウ……

勇者「なんだ、そこにいたのか魔王」フラフラ

魔王(子)「なにか用?」チラ

 ギラッ

魔王(危ないな。あれは勇者の剣じゃないか)

勇者「なあ魔王、どこにもいないんだよ。俺の……」

 タタタッ

毒人形78「ギーッ」
128 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 18:59:13.31 ID:xM+KP8+p0

 ズバン ゴロン

勇者「俺の子供たちが、妻が」

戦闘人形64「ガーッ」

 ズバン ゴロン ズバッ

勇者「どこにもいないんだ……」ブン

魔王(……人形たちが勇者を敵とみなしてる。今の彼は正気じゃないってことか。
 変だな。幻覚の魔法陣は定期的に更新してたのに)

 ズバンッ ザシュッ ズバッ

勇者「……うるっせえガキどもだな。俺の邪魔してんじゃねえ」ブンッ

 ザシュンッ

魔王「……さすがは勇者。一人残らず一撃で首をはねるなんて、腕は衰えてないみたいだね」

勇者「どうでもいいだろ。それよりも……ん?」

少女「……」ハアハア

勇者「こいつは……」

魔王「母親によく似てるでしょう? 十年前君が殺したシスターと闘士の子だよ。
 シスターの死体から取り出した赤子がここまで成長したんだ。生命の神秘だよね」
129 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 19:00:27.17 ID:xM+KP8+p0

勇者「あっそう。それより俺の子供たちと妻はどこだ?
 城中探したけどどこにもいないんだ。お前なら探し出せるだろ」

魔王「……」

勇者「魔王?」

魔王「……君の奥さんは一年前、子供たちをつれて国を出ようとしたんだ」

勇者「覚えてるぜ、大喧嘩した日だろ。でもすぐ戻ってきて──」

魔王「それは僕のかけた幻覚だよ。
 実際はね、国を出ようとした奥さんは魔物に襲われて殺された」

勇者「! まも……の?」

魔王「そう、僕の部下の魔物に。いやー残念なことをしたよ。
 命令は生け捕りだったんだけど奥さんはだいぶ抵抗したみたいで、それで……」

勇者「……子供たちは? 俺の息子と……娘は」
130 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 19:01:46.63 ID:xM+KP8+p0

魔王「母親の死ですっかり正気を失ってしまってね。
 もったいないから実験材料にして生かしておくことにしたんだけど……」

勇者「けど……なんだよ」フルフル

魔王「さっき君、ここにいた人形たちを全員殺したでしょう?
  あの中に二人ともいたんだ。君は気づかなかったみたいだけど」

勇者「……で……だよ、なんで……」ガクガク

 ポン

魔王「まあ心配しないでよ。すぐ新しい幻覚をかけてあげる。
 今のうちに好みを聞いておこうかな。次はどんなタイプの女性がいい?」

勇者「……けんな……ふざけるなあっ!」

魔王「!?」

勇者「あいつらは俺の光だった! くだらねえ人生で初めて出会えたんだよ! それを! お前はっ」ポロポロ

魔王「な、なんでそんなに怒ってるの? だって君いってたじゃないか。

 『他人の命なんてしょせん二の次、自分の命が一番大事だ』って。

 幻覚をかけなおせば今まで以上の幸せが味わえるんだから、なんの問題も──」

勇者「るせえっ!」ブン

魔王「わっ!」ジュウウ…

魔王(かすっただけでこの威力。やっぱり腐っても勇者か)チッ

勇者「てめえの! てめえのせいで!」ブンブン

魔王「くっ……危ない、危ないから剣を振り回さないでってば!」ビュッ

 ザン!
131 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 19:03:27.29 ID:xM+KP8+p0

勇者「……あ?」ズルッ

 ゴロンッ

魔王「!」

 カランッ ドサッ

魔王「あ……ああーもう!
 なんでこんなときに、うまいこと尻尾で首を斬り落としちゃうかなあ!」


少女「……っ」グッ


 イライライライラ

魔王「あーもう面倒くさいな。これで勇者の資格は別の者に移ってしまった。
 次もクズだったら操りやすいのに……まあラッキーは続かないか。あーあなんで殺しちゃったかなー」フウ

魔王「……まあ過ぎたことは仕方ない。

 えーと、勇者の資格は『生まれて2年以内の子供』に宿るけど、移行して7日以内に殺せばその後数年は勇者が現れないといわれてるから……。

 とりあえず2歳以下の子供は全員殺さないと。この国だけならすぐ終わるけど、世界中となると時間がかかるだろうな」

 はあ……

魔王「こんなときに助手がいてくれたら。彼が生きてたら少しは楽できたのに……あれ『彼女』だったっけ?
 まあいいか、どっちだって」


少女「……っ」ググッ

 ポタポタ
132 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 19:04:32.12 ID:xM+KP8+p0

魔王「万全を期すなら生まれる前の胎児も始末したほうがいいよね。
 どうせ時間稼ぎにしかならないけどやらないよりマシか。

 妊娠祝いと称して毒を盛るのが手っ取り早いかな……」

 ジャリッ

魔王「ん?」クルッ

少女「はあ……はあ」フラフラ

魔王「あれ、まだ死んでなかったんだっけ」

少女「今……わかりました。ボクがなんのために生まれたのか」

魔王「へえ?」

少女「『わたし』はあなたを倒します。そして『家族』の元へ帰る。

 そして……もう一度みんなでご飯を食べるんです」
 
 あははは!

魔王「この期に及んでまだそんなこといってるの?
 いいよ。死にたいなら僕の本気で殺してあげる」ボム

 ズズ……ン

魔王(竜)「さア、ゲームをはじめようカ」ガシッ
133 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 19:05:29.61 ID:xM+KP8+p0

少女「……」ググッ

魔王「今から僕の毒を注入すル。知ってル? 黒竜の毒は世界最強といわれてるんダ。
 毒に耐えられたら君の勝チ。耐えられなかったら君の負ケ。……ま、もう勝負は見えてるけどネ」ヒュン

 ドスッ

少女「か……は」ゴプ

 ザザザ……

魔王「分かるかナ。君のちっぽけな命を毒が奪っていク」

少女「……ぅ……がっ……」ガクガク

魔王「あははは、せいぜい死ぬまで苦しむがいイ。
 この世全てを呪い、絶望して──」





 ……ぐひっ
134 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 19:06:44.44 ID:xM+KP8+p0

 ぐひひひひひ……

魔王「……なに、笑ってるノ」

少女「知ってますか? 毒というのは定期的に使わないと……毒性が低くなるんです。

 あなた、毒を使うの久しぶりですね? ……ぬるいんですよ、あなたの毒」フッ

魔王「!」

少女「教えてあげます。本当の……毒というのは」スッ

 トスッ

 ザッ……



 ザザザザザザザザ!

魔王「! な……っ」ブンッ

 ベシャッ

少女「……ぅ……」ゴホッ

魔王「なんダ……なんだこれハ」ゴプ

 ドクン ドクン
135 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 19:08:02.30 ID:xM+KP8+p0

魔王(あの子の毒の抗体は接種しているはずなのに……っ)

 キラッ

魔王(! あの子のひたいの光! あれは勇者の資格を得てすぐの人間に現れるしるし……!)

魔王「馬鹿ナ……ありえ、ない……!」

 ドクン ドクン ドクン!
 
魔王「僕の命が……蝕まれていク! この力、これは……勇者ノ」ガフッ

 ズズ……ン

 シュウウウ……

魔王(子)「ぐ……早く、解毒剤を……っ」ググッ

 フラ……フラ




少女「……」ゴフッ

 ドクドク

少女(ああ……ボク、死ぬんだ)

少女(……いやだ、なあ)

少女(もっとたくさん生きたかった。竜さんとスラさんと、ドクターと一緒に)
136 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 19:09:14.59 ID:xM+KP8+p0

 ドクドク

少女「……ふふっ。でも、嬉しいなあ。ボク、死にたくないって思えるようになった……よ。
 
 ボク人間になれたんだ。死を恐れない道具なんかじゃなく。

 ありがとう、竜さん……」

 トクトク……

少女「ああ……死にたくない、死にたくない……よ。死にたく……な……」スウッ

 トサッ



──


 ……ジュワッ

 ジュワワワワ……

スライム「へれてー!」フッカツ

 ザザザ……

スライム「!」

 ザザザザ!

スライム「……ちゃお?」ユサユサ
137 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 19:10:39.24 ID:xM+KP8+p0

スライム「……」

スライム「……」

スライム「……」ナデナデ


 キイ……


スライム「!」バッ

 シーン……

スライム「……」

 ザザザ……



教会懺悔室裏 抜け道


スライム「……」ザザザ




地下研究所

 ガシャアアアン!

魔王「ああくそ、これもダメだ!」ブンッ

 ガシャン

魔王「体の崩壊が止まらない……あんなに強力な毒を持ってるなんて……」

 ピチョーン

魔王「!」バッ
138 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/07(金) 19:11:47.33 ID:xM+KP8+p0

 ザザザ……

魔王「……ふ、頑丈な体でうらやましいよ……闇の森のスライム。
 あの子の仇でもとりにきたの? 残念だけど僕はあと数分で──」

 ボコッ ボコボコッ

魔王「! そうか、それが君の真の姿なんだね」

 ボコボコボコッ ジャキンッ ジャキンッ!

魔王「なんて禍々しい……これほど美しく恐ろしい存在に殺されるなんて、僕は幸せものだよ」ニヤッ

スライム(狂)「……」スッ

 ビュオッ……







闇医者「待って、スラさん」
139 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/08(土) 10:42:35.34 ID:xOh7syr10

スライム「!」

スライム『……見るな』ボコボコッ

 スタスタ

闇医者「俺はね、スラさんが好きだよ。誰よりも。たぶん愛してる」

スライム「!」

闇医者「はじめて会ったときから好きだった」

スライム「……」

闇医者「どの姿の君も好きだけど、いつもの姿に戻ってほしいな。
 そのほうが話しやすいから」

スライム「……」

 シュウウウ……

スライム『お前のそういうところが……嫌いだ、闇医者』フイ
140 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/08(土) 10:43:36.81 ID:xOh7syr10

闇医者「うん、わかってる」

魔王「……久しぶりだね、No.14」ハアハア

闇医者「あら意外。忘れてるかと思ってましたよ」

魔王「僕が……自分の手掛けた作品を……忘れるわけないじゃないか」フッ

 バラバラ……

闇医者「だいぶ手ひどくやられましたね。俺たちの『弟子』は強かったでしょう、魔王様」

魔王「ふん……想定外だよ。突然勇者の力が発現するなんて」

闇医者「勇者の力?」

魔王「本来2歳以下の子供にしか発現しないはずの力を、なぜかあの子は持っていた。ひたいの光がその証拠だ。
 でなければ僕がこんな──」

 プッ

 アハハハハ!

スライム「!」

魔王「No.14、君……なんで泣いてるの」
141 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/08(土) 10:44:50.03 ID:xOh7syr10

闇医者「アハハハ!」ポロポロ

 ガクッ

闇医者「はは……そうかあ。あの子は本当に、俺たちとの生活が……楽しかったんだなあ」ポタポタ

魔王「どういう……こと」

闇医者「俺たちに出会うまで、あなたはあの子をモノ扱いしてたんでしょう?
 地下室に監禁して、人らしいことや子供らしいことを何ひとつさせなかった」ゴシゴシ

 スクッ

闇医者「あの子は俺たちと洞窟で暮らすことで、はじめて人間になったんだ。
 
 勇者の資格に関する正確な記述は『生まれて2年以内の人間の子供』。
 
 あの子が人間になったのはついこの間だから、資格は満たしてますよね」

魔王「は……そんなの、全然合理的じゃない」

闇医者「まったくです。でも勇者の資格が合理的だなんて、誰も証明してませんよね」

魔王「……っ」

 スタスタ

闇医者「さて。魔王様にはこれから俺の実験に協力していただきます」
142 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/08(土) 10:45:50.74 ID:xOh7syr10

魔王「実験……?」

 パラパラ……

魔王「いいけど、早くしないと僕の命が尽きるよ」

闇医者「魔王様ならご存知でしょう。
 生きたまま取り出した竜の心臓には、死者すら蘇らせる強い魔力があると」

魔王「! まさか」

闇医者「とはいえ実際やってみるまでは半信半疑なんだよね。
 魔王様も昔おっしゃってたじゃないですか。やってみないことには何もはじまらないって」

魔王「万物を苦しめ……命を奪うのが存在理由の魔王に……万物を癒し続けろっていうのか……?」

闇医者「ですね。ご協力感謝します」
143 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/08(土) 10:46:50.64 ID:xOh7syr10

スライム『手伝うぞ』シャキーン

闇医者「ありがと。切開はスラさんに任せるよ」

魔王「……っ」

闇医者「あ、そうだ。
 なにか勘違いしてるみたいなんで最後にお教えしますけど、『勇者の資格』って毒の強さには影響しないですよ」カチャカチャ

魔王「えっ」

闇医者「勇者の資格が移行することで向上するのは体力・知力・魔力の三つ。
 さらに魔王特攻が付与されますが、これは直接攻撃にしか発揮されません。素手とか剣とかですね。
 
 勇者の資格はあの子に立ち上がる力を与えただけです。

 つまりあなたが今死にそうになってるのは、単にあの子の毒が最強だったからってだけの話ですよ。
 ……では、手術を始めます」ニッコリ
144 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/08(土) 10:47:59.11 ID:xOh7syr10

───
──



三ヶ月後

闇の森 洞窟 竜の間

 スタスタ

闇医者「いやー人間て切り替え早いよね。もう新しい王様になってたよ。
 難民と国民それぞれに王がいるんだって。これで少しは平和になるといいけどね」ドサッ

 シーン

闇医者「あれ、竜は?」

 ザザザ……

スライム『いつもの通りだ。娘を乗せて空を散歩中』

闇医者「まじか……羽根が全快したからってはしゃぎ過ぎじゃない?」

スライム『お前もたまには乗せてもらったらどうだ? けっこう楽しいぞ。
 雲の上から急降下して霧裂き山脈の頂上すれすれを──』

闇医者「ぎゃー無理! 聞いてるだけで溶けそうだよ」ブルブル

 ゴソゴソ

闇医者「はい。お菓子買ってきたから食べよう。保温魔法かけたからまだ暖かいよ」スッ
145 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/08(土) 10:48:52.67 ID:xOh7syr10

スライム『……ふむ、嫌いじゃないな』ジュプ

闇医者「もー。素直に美味しい、でいいのに」モグモグ

スライム『……本当にもう平気なのか、娘の体調は』

闇医者「元気元気。たぶん天寿を全うできるんじゃない? 
 魔王の心臓とあんなに相性がいいとはね。同じ属性だからかな」

スライム『元気になったなら、もうここにいる理由はない……な』

闇医者「さみしい?」

スライム『別にそういうわけじゃ、……!』ガチン

 ジュポッ

スライム『……なんだこれは。菓子の中に入ってたぞ』

闇医者「指輪だよ。人間が結婚したい相手に渡すんだって」

スライム『ほう』

闇医者「……」

スライム「……」

闇医者「……しない? け、結婚」ボンッ
146 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/08(土) 10:49:51.89 ID:xOh7syr10

スライム『ふむ、これが人間の風習か。嫌いじゃないが……。
 闇医者。お前スライムが結婚を承諾するとき、どうするか知ってるよな』ジッ

闇医者「えっ……あ、ああああの、まだ心の準備が」

スライム『問答無用!』ザブンッ

 ──あ〜れ〜……──



闇の森 上空

 ビュウウッ……

竜「しっかりたてがみに掴まってろヨ!」

少女「ぐひひひ! すごいすごい、雲がぶつかってきます!」キャッキャッ

竜「飽きねえナ、お前モ」

 バサッ バサッ

竜「……なア」

少女「はい」

竜「二人が心配してたゼ、元気になったお前がどっかへ行っちまうんじゃないかっテ」

少女「……」

竜「……やっぱり行くのか」
147 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/08(土) 10:50:41.86 ID:xOh7syr10

少女「はい。元気になって、まだたくさん生きられるってわかったとき、もっと世界を見たいと思ったんです。
 ボクは……旅に出ます」

竜「そうカ」

少女「……さみしい、ですか?」

 バサッ 

竜「そんなわけ……いや、強がっても仕方ねえナ。

 ああ、寂しいヨ」

少女「!」

竜「でも同時に嬉しくもあル。
 旅はいいゼ。帰ってきたらたくさん話を聞かせてくレ。
 お前の部屋はそのままにしておク。これからずっト」

少女「友達だから、ですか?」

竜「家族だかラ」
148 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/08(土) 10:51:41.38 ID:xOh7syr10

少女「! ……はい」フフッ

 バサアッ

竜「そういえばこんだけ一緒にいるのに、お前の名前も知らねえナ」

少女「ないですからね。研究所では番号で呼ばれてました。
 それをいうならボクだって竜さんの名前知らないですよ」

竜「ないからな。竜に名前をつける習慣はない」

少女「……名前、つけてくれますか」

竜「いいゼ。ただしネーミングセンスはないから覚悟しとけよ。
 ……それから、オレの名前も考えておいてくレ」

少女「ふふ、了解です。
 
 そうですね、こんなのはどうでしょうか──」



end
149 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/08/08(土) 10:52:09.93 ID:xOh7syr10
ありがとうございました!
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/08(土) 10:55:10.60 ID:BQ1ypOcto
乙です
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/08(土) 13:14:20.88 ID:yxfae2rVO
おつ
楽しませてもらいました
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/09(日) 21:18:32.72 ID:dEonDEb80

スラさんかっこよかった
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/09(日) 21:29:30.96 ID:zhMoyxaDO
闇医者って女性だったんだ…
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/09(日) 22:50:02.04 ID:fzVdwdT4O
闇医者ってスライムじゃなかったっけ
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