【ミリマス】木下ひなた「潜移暗化」

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2 : ◆BAS9sRqc3g [sage]:2020/10/09(金) 17:14:44.36 ID:V6x1Fopt0





【潜移暗化】 せんい・あんか

環境や他人から影響を受けて、
いつの間にか自分の性質や考え方が変化していること。

「潜(ひそ)かに移(うつ)り 暗(あん)に化(か)す」


3 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:16:39.72 ID:V6x1Fopt0


第0章 プロローグ あたしにはなんにもなかった





あたし、アイドルになるよ。



そう決めたのは14歳の頃だった。
765プロの社長に地元の北海道で直々にスカウトされて、
あたしはアイドルになることを決意した。



4 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:18:07.12 ID:V6x1Fopt0



だからなのか、何をやっても最初から上手く出来る
なんてことはなくて失敗ばかりが積み重なる。

それで落ち込んでいる時に、
あたしのことを担当してくれている
プロデューサーはいつも決まって言う。


「まだまだこれからだ。頑張っていこう」

「今回は相手が悪かったな。
 でも大丈夫、ひなたはきっとみんなの目に止まる存在になるよ」


あたしはプロデューサーが困らないように、笑顔を作ってみせた。

5 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:19:13.09 ID:V6x1Fopt0



たぶん、ぎこちない笑顔で言ってたんだと思う。

「次はあたしも頑張るよ」

レッスンを繰り返し、オーディションを受けては落ちて。
またレッスンをして、オーディションを受ける。

そして、落ちる。


所属する765プロのアイドルの仲間もみんな良い子ばかりだった。

誰も彼も優しくて、
あたしのお喋りのテンポは
みんなよりもゆっくりだったのだけど、
誰も嫌な顔しないで聴いてくれた。

6 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:20:01.27 ID:V6x1Fopt0


奈緒さん、エミリーさんは
特にあたしにもよくしてくれていたと思う。


「なんでも言うてくれてええからな!
 困ったことがあったら言うてや。
 プロデューサーがなんやアホなこと言うてるんなら
 私に言えばええわ。どつき倒したるわ」

「次も一緒に練習しましょう。
 日々の積み重ねが大事だと思います」

7 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:20:57.57 ID:V6x1Fopt0


その優しさがあたしの心にすーっと染みていって、
それで腐らせていったのかもしれない。

いや、優しさに、ただ甘えていただけなんだ。

こんなあたしにも
「東京に行って売れっ子アイドルになるんだ」
っていう野心があった。

燃えたぎるその情熱は
この優しい優しいぬるま湯に浸かることで
あっという間になくなっていった。

みんながいるから。
みんなと一緒ならきっと大丈夫。

8 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:21:49.79 ID:V6x1Fopt0



「みんな東京に出てきた3人だからね」



そう、あたしも言っていた。
でも現実は違った。


奈緒さんにはダブルエースとい
う佐竹美奈子さんとのユニットがあった。

エミリーさんには白石紬さん、天空橋朋花さんとの
和風ロックなユニットがあった。




……あたしにはなんにもなかった。




9 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:23:00.10 ID:V6x1Fopt0




第1章  あたしでごめんね





「うん……今回はたまたま、ね」


今日は朝から事務所に顔を出すとプロデューサーにすぐに呼ばれた。
プロデューサーの座る机に向かう。

プロデューサーはガサガサと机の上に
束になって置いてある書類の中から紙を一枚引っ張り出す。

あたしがプロデューサーの横に立つと同時に、その紙を渡した。


10 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:23:52.55 ID:V6x1Fopt0


紙には「ミニステージ 群馬デパート」と書かれている。
何分繋いで欲しいとか、
この商品を紹介して欲しいとか書いてある。


「プロデューサー、これわざわざ取ってきてくれたんだね。ありがとう」

「いや……ああ、うん。そうだよ」

プロデューサーは目の前のパソコンから目を離さない。
文字を一生懸命に打っては消してを繰り返している。

立ち上がってるのはメールソフトだから、
誰かにメールを送っているんだろうか。

誰宛にメールを送っているのかは分からない。

11 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:25:18.15 ID:V6x1Fopt0


「そっかぁ。それで、これは……あ、明日だべか」

いつのお仕事なんだい、
と聞こうとして紙に目を通して居た時に見つけてしまった。
開催日が明日かぁ。

「こりゃあ、偉いことだわ」

「ああ、いよいよヤキが回って出演者には
 高額を払うと言ってきたんだ。

 その代わり、デパートの中にポニーを
 連れ込んで乗馬体験もする、と。

 色々考えた結果、生きた動物との相性は響よりも
 ひなたの方がこっちは向いてるかなって思ったんだ。

 まあ響は今日、大阪の方のイベントから戻ってくるばかりだから。
 連日遠出ってのは避けたいって、響の担当とのやり取りであったし」

12 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:26:06.89 ID:V6x1Fopt0


経験不足のあたしよりも
先輩アイドルの我那覇響さんが出ていった方が
イベントは確実に成功するだろうなぁと分かっていた。

特に準備期間があまりないお仕事は。

ガタガタとパソコンのキーボードを打つその指には
いくつも絆創膏が貼ってある。

なんの怪我だろう。
そういえば最近頑張って自炊をするとか
言っていたかもしれない。
慣れない包丁とかで怪我しているんだろうなぁ。

13 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:27:32.97 ID:V6x1Fopt0


「それだけなんだけど、良く見ておいてくれ。
 明日朝一で出て会場入って打ち合わせだ」

プロデューサーはよくオーディションでダメだった時に言っていた。

「まあ、その……なんだ。
 あんな紙ペラ一枚で済まされる
 仕事の内容なんてロクなもんじゃないんだよ」


あたしの手には紙が一枚。


小さな文字でぎっしり内容が書き込まれている。
その上プロデューサーの手書きの文字で書き込みもある。

紙の脇には我那覇響、菊地真、伊吹翼、島原エレナ
と上から順番に書いてあり、
名前を消すように大きくバツが書かれていて、
最後に木下ひなたに丸が付けられてあった。

14 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:28:27.68 ID:V6x1Fopt0


この”総当りで書き出されている”アイドルの名前は
全て同じ事務所のアイドル。
みんなとってもいい子でダンスが上手な子が多い。


この子たちにバツが付いてるのはなんでなんだろう。

あたしはもしかしたら、最後の候補の一人だったのかもしれない。

これは上からの候補の順番だったのかもしれない。

ううん。違うよ。

大丈夫。

やれば出来る。

15 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:29:07.72 ID:V6x1Fopt0


メールを打ち終わったのか、
プロデューサーは立ち上がり、
紙一枚を見つめる私を見て言う。


「大丈夫。明日頑張ろうな」

そう言って、あたしの頭をポンポンと撫でる。
大きな手が温かい。

プロデューサーはそのまま、事務所を出ていってしまった。

たぶん片手にタバコを持っていたので、
屋上にタバコを吸いに行ったんだろう。



16 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:29:43.24 ID:V6x1Fopt0


次の日。

眠そうな目で事務所に来たあたしを
プロデューサーはスーツを着て迎え出てくれた。

事務所は既に温かい。
何分、いや何時間前から事務所に来ていたのだろう。


「早いねぇ。おはようございます」

「準備がいいなら行くぞ。大丈夫か?」

「うん! 行こう」

17 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:30:39.13 ID:V6x1Fopt0


あたしはプロデューサーの運転するワゴンに乗り込む。

助手席に座ると広い車内を振り返る。

誰かの忘れ物か、
置いたままにしているだけか分からないビニールの傘が
座席の足下にある。

芳香剤の放つ独特の異臭が苦手なあたしは
プロデューサーがシートベルトを締めるのに、
目を離した隙にこちらに風が来ないようエアコンの口をずらす。

18 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:32:01.38 ID:V6x1Fopt0


エンジンがかかる頃にあたしはシートベルトを
締めてプロデューサーに「お願いします」と挨拶をする。

プロデューサーは「うん」とも聞き取れない
曖昧な返事だけして車は発進した。


しばらくするとプロデューサーも身体が起きてきたのか、
よく喋るようになってきた。
それに釣られてあたしもプロデューサーと喋っていく。

19 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:32:46.58 ID:V6x1Fopt0


「今日行くところは群馬の中じゃまだ都会の方で……」

「そういえばこの前の、奈緒さんは面白かったねえ。
 プロデューサー見た? ああ、現場に居たんだっけ……
 面白かったなぁ〜」

「今日行く会場って行ったことある?
 そうか。俺もないんだ実は……」

「小鳥さんや美咲さんにお土産を買う時間とかあるんだろうか」

「ちょっとタバコ休憩挟んでもいいか」

「あたし飲み物買ってくるよ。何がいい?」

「うわ、これほんとに道あってんのか?
 ナビの通り来たけど」

「あ、あれじゃないかな?」

20 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:33:56.00 ID:V6x1Fopt0


2人きりのまるで小旅行のような時間は
ものの1時間ちょっとで終わってしまった。

車から降りるとぐーっと伸びる。
廻りには何もなくて、背の高い木ばかりが見える。

デパートは商業施設が1階から5階まである。
6階から8階、屋上は駐車場になっているが、
その7階に駐めた。

なので伸びたところで、
深呼吸したところで田舎の新鮮な空気は
さほど感じられずに居た。


21 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:34:39.10 ID:V6x1Fopt0



プロデューサーとすぐに関係者入り口から受付を済ます。
入館証を首から下げて中を進む。

廊下を進んで会議室のようなところまで行ってから
打ち合わせをするのだろうな、と思っていた。


でも、現実はもっと非情だった。


「あー! きたきた! 765プロさん! ですよね! ね?」


廊下の向こうからパタパタと
早足でこちらに来たのは小太りのおじさんだった。

22 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:35:15.47 ID:V6x1Fopt0

着ていたワイシャツは汗ばんでいる。
ぴっちり七三分けした髪は固められてテカテカしてるし、
作った笑顔がそのまま固まって顔を形成しているようだった。

プロデューサーの肩を押すように
廊下の壁の方に向かってヒソヒソ声で話し出す。

ただ、おじさんの声は大きいので
その輪に入れないあたしにもちゃんと聞こえていた。

23 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:35:51.13 ID:V6x1Fopt0


「いや、いやね!
 申〜〜〜し訳ございませんのだけども。
 急遽、ご当地アイドルちゃんが決まっちゃってね」

「はっ?」

「あのね、申し訳ないんだけども、
 今回の765さんはちょっとコレで」

コレと言いながら胸元に両人差し指でバツを作る。
プロデューサーも一瞬だけあたしの方を見る。

24 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:37:00.48 ID:V6x1Fopt0


「いやちょっと待ってくださいよ」

「ごめんね! じゃあもうその子と
 打ち合わせ行かなくちゃだからさ! いやほんと!」


プロデューサーの脇を抜けるように
行こうとする小太りのおじさんを
プロデューサーはスッと立ち回って止める。

顔は焦りというよりほぼ怒りに近い。
どこか喉の奥に鉄砲の引き金を隠しながら、
語気を抑えるように話す。

25 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:38:20.35 ID:V6x1Fopt0


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ松田さん。
 朝イチの打ち合わせでって昨日約束したんですよ?
 そんな急に言われても……」


松田さんと呼ばれるおじさんは
プロデューサーの勢いに後ずさりしながら目をそらし、
そらした先に居たあたしとも一瞬目が逢った。


「いや、んーまあー。
 ね、そう言われても僕だって上から言われちゃってるんだよ。

 ご当地の子を使えば給付金が県からでるんだとかって来てて、
 店長も本部の人たちもすっかりその気で。

 いや参っちゃうよね。分かるよお宅の気持ちは。
 でも僕じゃどうにもできなくて」

26 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:39:29.22 ID:V6x1Fopt0


「ひなたは今日のために、来ているんですよ。
 動物の扱いだって彼女は北海道の
 農家出身なので問題ないですし」


プロデューサーはあたしの背中を抱くように
引き寄せてから松田さんの前に突き出した。

あたしもなんとかプロデューサーの役に立たねば
という思いで一生懸命にプロデューサーの話に相槌をうつ。


「あの、あたし頑張ります!
 お手伝いでもいいんで、大丈夫ですよ!」

27 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:40:27.39 ID:V6x1Fopt0

しかし、松田さんは目をあわしてはくれなかった。
それどころか、あたしのことを脇に避けて
またプロデューサーと壁に向かって
ヒソヒソ話をするように肩を組む。

でもやっぱり声は大きいから聞こえるんだ。


「やっぱり無理だよ。今度何か用意するから。
 頼むよ、ここは引いてくださいよ。
 ねっ。あのね、うちも最初は響ちゃんでって言ってたでしょ?
 すんなり響ちゃん来てればお手伝いはさせたかもしれないけど」

「代理でも構わないって言ったじゃないですか。
 それに”響には”そんなことさせられません。
 でもひなたなら手伝いだってやらしてくださいよ」

28 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:41:33.87 ID:V6x1Fopt0


「いやぁ……。いやだめだめ。
 無理だよ。ごめん。ほんともう行かなくちゃ。また頼むよっ!
 ああ、車で来てるなら入館手続きしたところで
 精算無しに出来るから、松田から言われたって
 言ってやってもらって! それじゃ、ごめんね〜」

「あっ……」


廊下をパタパタと早足で行ってしまった松田さん。

プロデューサーの追いかけようと伸ばした手は
だんだんと下に下がっていく。

だらんと下まで来て、そこで止まった。

29 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:42:45.54 ID:V6x1Fopt0

あたしは何も声をかけることができなかった。

店内放送で
「松田さん松田さん、至急会議室まで」
と放送されると、廊下の突き当たり曲がった見えないところで
松田さんのさっきの調子で
「あ〜もう、はいはい行きます行きます」
と騒ぎ立てるのが聞こえた。


プロデューサーはゆっくり振り返り、
あたしの方なんて見向きもしないで歩き出した。

すれ違い際にぼそっと「もう行こう」とだけ言うのが聞こえる。

30 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:44:08.86 ID:V6x1Fopt0


プロデューサーの背中はとても小さくて、
さっき見えた顔は申し訳無さと怒りと後悔と恥が入り混じった
複雑な顔をしていた。

あたしはそのプロデューサーの感情を
どれも和らげてあげることはできなかった。

ただ、後ろを一緒にとぼとぼとついて行くだけだった。


そのままプロデューサーとあたしは車に乗り帰ることになった。

というか、あたしはプロデューサーについて行くだけで、
車に乗った段階で「ああ、本当に帰るんだ」ということを知った。

31 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:45:07.28 ID:V6x1Fopt0


帰りの車は2人とも何も喋らなかった。

ラジオから流れるアナウンサーや
パーソナリティの高いテンション、
そして紹介されるよく分からないけどぐっすり眠れそうな布団。

それから窓からは快晴の空。
雲一つない青空を、
どうしてこんな重たい気持ちで走り抜けているのか。


誰もなにも喋らない。

行きの車内はあんなに楽しそうに話していたのに。
それが嘘のようだった。

本当に嘘なら良かったなぁ。

32 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:46:20.44 ID:V6x1Fopt0


パーキングエリアには黙って入っていった。

ようやく一言だけプロデューサーは
「少し休憩しよう」
と言い鞄から財布とタバコを持って車から降りる。

あたしも一緒に織りてお手洗いを済ましておく。


車に戻るのはなんだか気まずくて、
でも戻らないとどこに行ったのかプロデューサーは心配するだろう。

ちょっとだけ、パーキングエリアにあるお土産コーナーを
何も買わずに一周してから車に戻る。

戻ろうとした時、飲みきったコーヒーの缶を
叩きつけるようにゴミ箱に捨てるプロデューサーの姿を見てしまった。

少し遠くにいたから咄嗟に近づく足が止まってしまった。

33 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:47:30.43 ID:V6x1Fopt0


それからプロデューサーが
スマホをポケットから出したあたりで、近くに行く。


「プロデューサー……?」

「ん、ああ……」


たぶん、今LINE送ろうとしたんだって言おうとしただと思う。
けど近くにあたしが居たことでさっきの行動を見られたのかも
と勘づいたのか、それ以降は何も言わなかった。

プロデューサーとあたしは車に乗り込む。
扉を閉める音がさっきとそんなに変わらないはずなのに、
八つ当たりのように大きな音に聞こえる。

34 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:48:40.75 ID:V6x1Fopt0


エンジンの音と揺れる車内。

やかましいラジオは布団の紹介をもうとっくに終えていた。
次のコーナーでは視聴者から貰ったお便りに
何か色々ケチを付けている。

チラリと景色を見るフリしてプロデューサーの顔を見る。
運転に集中している、フリをしているんだろうな。

今本当ならこの時間、何をしていたのだろう。

あたしはあの瞬間、何を言えば採用されたのだろう。

ぐるぐると考えては沈んでいく。

35 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:49:21.30 ID:V6x1Fopt0


ナビが無機質に「東京都に入りました」と告げる。
時刻は11時だった。



「プロデューサー……あのね」

「……」

「あたしでごめんね……」

「……俺こそ、ごめん」




36 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:50:12.17 ID:V6x1Fopt0


プロデューサーは、何に謝ったんだろう。

仕事が無くなったこと?
あたしなんかをこんな所に引っ張ってきたこと?
それとも、あたしを最後に選ぶための補欠扱いしていたこと?

隣に座っているのに2人の間がどんどん離れていく気がする。
それと比例するようにラジオの笑い声は増えていく。

37 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:50:55.83 ID:V6x1Fopt0

もし、あたしじゃなくて、
響さんだったら帰らされていたのは、
急に出てきたご当地アイドルなのかな。

そこらのお手伝いならあたしにも出来る……のかな。
響さんにはさせられないような雑用もあたしならやらされるのかな。

そうかぁ……。

あたしは雑用をやらせたって
何やらせたって別に構わないのかな。

そっか……。

38 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:51:46.92 ID:V6x1Fopt0


遠くに見える看板や山をただ見つめていた。
緑色が目に映る。

何も考えたくなかった。



ラジオから女性の声で

「もうやだぁ〜! 何考えてるんですかねぇーもう」

という笑い声が聞こえる。


車はただ、すいている高速道路を走り抜けるだけだった。


39 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:52:35.60 ID:V6x1Fopt0


第2章 遊びでやってんじゃねえんだよ






「今回は強敵揃いだから気を抜くなよ」



そう、プロデューサーはあたしに言った。

今更そう言われてもあたしは練習してきた実力を発揮するだけだよね……。

あたしは「分かった……!」と力強く答えることしか出来なかった。

40 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:53:18.43 ID:V6x1Fopt0

たぶん緊張のせいもある。
オーディションの順番を待機する楽屋がいつも以上に暗く感じる。

今更、こんな何回と受けたようなオーディションで
緊張してどうするんだろうって自分でも思う。
でも、今日は違う。

あたしが北海道の田舎で見ていた
テレビにも出ていた大森さんが審査で来ている。

ようやくあたしもここまで来たんだ。

41 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:54:43.16 ID:V6x1Fopt0


「ひなた? 緊張してるのか?」

「うん、だってあたしの憧れだった
 アイドルの一人があたしを審査するんだよ……。
 これはすごいことだよ」

「そうか……! 緊張していることを
 自分で理解しているのは良いことだし、
 この緊張感をベテランになってくると忘れてくるからなぁ。
 よく覚えておくといいよ」


プロデューサーは自分の言葉に酔っていた。
それからタバコを吸いにどこかへ消えた。

あたしは目の前の次の順番は
いつなのだろうと緊張するばかりで、
練習したことが頭からポロポロと抜け落ちるような感覚に襲われる。

42 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:55:34.52 ID:V6x1Fopt0

今日、行われるのは全国区で放送される
新人アイドルオーディションの番組。

番組は半年に一回の
番組再編成時期に行われる特番として人気がある。

今回、特別に審査員でいる大森さんは
かつてこの番組から産まれ、
一躍大人気となったアイドルの一人だった。

だからこそ、
アイドルとして売れるための登竜門として、
この番組に賭けているアイドルは多い。

もちろんあたしだってそうだ。

43 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:56:29.27 ID:V6x1Fopt0


いてもたってもいられなくなり
今日披露する予定の曲の振り付けを確認し直す。

振り付けはやればやるほど、
頭にも身体にも入っているのに、
目の前に広がる審査の冷たい目を想像すると肝が冷える。

待機の楽屋では同じように緊張している人と、
終わって結果待ちの人が居る。

結果待ちの人はある意味肩の荷が一つ降りたように
安心しているから直ぐに分かる。

もしくは、明らかな失敗をして、
どうせここに居ても無駄だ、
と帰り支度を青い顔で始める子もいる。

44 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:57:26.42 ID:V6x1Fopt0

そんな中で。

「間違いなく、私で決まりね!」

そう楽屋中に聞こえる声で言っていたのは
2つのお下げが特徴的な青みがかった髪の女の子だった。

ひらひらの綺羅びやかな衣装がまた目立っていた。

その子の隣にいるメガネの、
高身長だけど背筋の曲がった女性マネージャーから
乱暴にタオルと水を奪い取っていた。

誰もがその自信過剰な態度に一瞥をくれるが、
その後はみんな自分のことに集中するように背を向けていた。

あたしも自分のことをやらないと、
と思った瞬間、その女の子と目があってしまった。

嫌そうな顔で舌打ちをされたのが聞こえる。
そうだよね、ジロジロ見られるのは誰だっていやだもんね。

45 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:57:58.67 ID:V6x1Fopt0


「次、13番」

待機の楽屋を扉を半分だけ開けてスタッフが呼びに来る。
あたしの番だ。

プロデューサーはタバコ吸いに行ってて居ない。

一人でも行かなくちゃ……。


「はい、765プロの木下ひなたです」

「それじゃあこちらに」

46 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:58:47.37 ID:V6x1Fopt0


スタッフが開けてくれている扉の方に早足で歩く。

途中で誰かの足がひゅっと出てきて、引っ掛けてくる。

あたしはそれに躓くも、ギリギリで踏みとどまり、
転ぶことはなんとかせずに、
そのままスタッフと部屋を出ることができた。

背後からはさっき聞いた舌打ちと同じ音が聞こえた。
でも、あたしは気が付かないフリをして廊下に出る。

寒い冷え切った廊下を歩き一つの部屋の前に来る。

部屋の前には「選考会場」と書かれた紙が
セロテープで付けられている。

47 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 17:59:20.52 ID:V6x1Fopt0

あたしは大きくノックをして入っていく。


「失礼します!」


長テーブルに5人ほど座っている。
一番真ん中に大森さんが座っていた。

本物だ。
オーラが周りのスタッフと全然違う。

48 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:00:34.99 ID:V6x1Fopt0

あたしが大きな声で入っても
雑談を続ける4人の審査員。

一番右の30代くらいの男性は
あたしに気が付いていたので、
あたしはその人に笑顔で挨拶をする。


部屋に入り真ん中まで歩いていくところで
ようやく大森さんは
「ほら次の子来てるから、ふふ」
と雑談を辞めて座り直す面々。

右から30代くらいの若い金髪の男性。
60代くらいの太った男性。
真ん中には大森さん。
50代くらいのメガネの男性。
そして一番左に40代くらいの坊主頭の男性が座っていた。

49 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:01:20.38 ID:V6x1Fopt0


「765プロダクションの木下ひなたです。よろしくお願いします」


元気な挨拶と綺麗なお辞儀は予定通り。
用意した音源を渡す。

それから、音源データの入ったディスクを受け取った
金髪の男性が薄いノートパソコンをパタパタ触っていく。

あたしはその間、準備に入る。
広い会議室の真ん中に立つ。

靴紐を確認する。ほどけてない。
キツすぎもしない。

50 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:01:58.46 ID:V6x1Fopt0

「あなた、出身は北海道なのね」

「へ?」


唐突に大森さんから話しかけられ、
あたしは素っ頓狂な声を出してしまう。


「はい! 北海道出身です」

「いつ頃出てきたの?」

「えっと、14歳の時です」

「へえ、今は……16歳。若いわねえ、見えないわ」

51 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:02:52.24 ID:V6x1Fopt0


大森さんはあたしの資料を見ている。
胸元にかけてある老眼鏡をして、
資料とあたしを交互に見始めた。

眉間によるシワがあたしの緊張を加速させる。


「じゃあ……結構東京来てからは長いのよね。
 その、訛りは直さなかったの?」

「えっと、何度か直そうと思ったんだけども、
 中々直らなくて……お恥ずかしい話です」

「ううん、いいじゃない。方言女子、素敵よ」

52 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:03:41.25 ID:V6x1Fopt0


大森さんは老眼鏡を外して真っ直ぐ鋭い目であたしに言う。
そうか……そうやって受け入れられていないのかと思っていたけど、
あたしはこのままで良かったんだ。



「準備出来ました。それじゃあ木下さん、お願いします」

「はい……! 曲はりんごのマーチです」


53 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:04:33.60 ID:V6x1Fopt0





──1時間後。





あたしの前には面接の人たちがまた立っていた。


「合格よ、木下さん!
 このあとの本番もよろしくね!」

「ありがとうございます、大森さん」


目の前に立つ大森さんがあたしに言う。

期待しているわ。と言わんばかりに
あたしの肩をボンと強く叩いた。


54 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:05:51.18 ID:V6x1Fopt0

出演準備を始める頃、
スマホにプロデューサーからのラインで「急用で先に戻る」とだけあった。

そっか。
あたしのことばかり構っていられないもんね。
大変だよプロデューサーは。
あたしは合格したことをプロデューサーに報告しようとする。


「どうしてなの……! なんで……!」


楽屋中に響き渡る声が聞こえる。

声の方を見ると、あたしに足をかけたあのお下げの女の子だった。

55 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:06:43.09 ID:V6x1Fopt0

ぎゅっと衣装のスカートの裾を掴み、
猫背になった彼女のマネージャーさんに
丸めた台本か何かを叩きつけた。

マネージャーさんは「まあまあ」みたいになだめるようにして、
彼女の叩きつけた勢いでバラバラになった台本を拾い出した。

まるで中世の貴族と奴隷のようだ。
それから、彼女はそれでもまだ不満なようで、
何か聞いたことのない言葉で、
屈んだマネージャーさん頭上から怒鳴り散らしている。

56 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:07:42.67 ID:V6x1Fopt0

「あんた何とかしてきなさいよ!」

「そう言われても、これはオーディションなんで……」

「そんなの関係ないわよ! あたしが一番でしょ!?
 こんな所にいる田舎臭い連中より!」


何も怒りをぶつけるものがなくなった彼女は
とうとう子供みたいに地団駄を踏み出した。

そして、最後には「うわああああん!」と大きな声で泣き出したのだ。

57 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:09:00.85 ID:V6x1Fopt0

あたしはこういうの、
他の現場のオーディションでも見たことがなかった。

他のアイドルと言うと我関せずというか、
鬱陶しそうな視線をチラリと向けるだけだった。
そうだよね。

悔しいのは、ここに居るアイドルの女の子は
みんな悔しい思いをしているのに、
この子1人だけがこんなワガママを言って喚いて言い訳がない。

いや、多分みんな心の中では同じように泣いているんだと思う。
ましてや、ここで泣いていたって
「じゃあ貴方可哀想だからやっぱり合格!」
なんてことにはならない。

というか、そんなことあったら暴動が起きそう。

58 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:09:58.05 ID:V6x1Fopt0

お下げ髪の女の子は、
帰ろうと腕を引こうとするマネージャーさんの手を叩き、
そのついでに殴る蹴る。

マネージャーさんのかけていたメガネがついに
カランと床に投げ出されたのを見て、
あたしはとうとう我慢が出来なくなる。


「あのね、マネージャーさん
 痛がってると思うからやめてあげな。ね?」

拾い上げたメガネを
マネージャーさんに渡しながらあたしは言った。

あたしはその女の子の視線の鋭さにぞっとした。
なんて冷たい目をしているんだろう。
怖い人だなぁ。

59 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:11:29.84 ID:V6x1Fopt0


「なによ! 合格したって言われてたの聞いたんだから!
 あたしを笑いに来たの!? そうなんでしょ!
 ハッ! どうせあたしはおちこぼれよ……!」


おちこぼれ……。
その子は最後だけ少し俯きながらそう話していた。
いつの間にか周りにはあたしとこの子達だけになっていた。

おちこぼれだと自分を否定するこの子の、
さっきまでの自信はどこへ行ったのだろう。

今はただ、泣きわめく子供だった。
多分、本当の年齢も14歳くらいなのだろう。

世間知らずで何も知らない、
世界の中心に自分が居ると思いこんでいる時代だろうな。

60 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:12:04.82 ID:V6x1Fopt0


「あのね、今日はたまたま落ちたんだよ。
あたしは貴方のパフォーマンスを見ていないんだけどね。
きっとすごく良かったと思うよ」


火に油を注ぐ。
言葉を言い終えた瞬間に「しまった!」と思うが、遅い。

お下げ髪のその子は更に顔を真っ赤に燃やしながらあたしに詰め寄った。


「あんたに何が分かるのよ!」


61 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:12:47.65 ID:V6x1Fopt0


あたしは……この時、どんな顔をしていたのだろう。
同情とか、この子みたいな怒りを持っていたわけでもない。
何も……。

何も感じていなかった。
言葉が、耳を通り抜ける。

お下げ髪の女の子は何かを言っている。

意識を集中させる。
この子は今何を言ったのだろう。

「あんたにお願いがあるの……!」

62 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:13:16.40 ID:V6x1Fopt0




──数時間後。





あたしは事務所に居た。

もう時刻は夕方の18時を回っていた。

ぼーっと、さっきまでの時のことを考えている。
カチコチと言う事務所にある掛け時計の音が響く。

63 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:15:22.06 ID:V6x1Fopt0

誰も居ないはずの事務所だったのに、
いつの間にかプロデューサーと奈緒さんが帰ってきていた。

バタバタと階段を駆け上がる音、
勢いよく扉を開ける音が部屋の入り口の方で聞こえる。


「ひなた!? ひなた!? 大丈夫か??」

「ひなた!? どないしたんや!」

「へ?」

2人とも血相変えて、あたしの目をのぞき込んでくる。
大丈夫だよ、何もおかしな所なんて無いよ。

奈緒さんが青ざめた顔であたしに聞いてきた。

64 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:15:55.74 ID:V6x1Fopt0

「こんなとこで何してんねん!!
 オーディション合格したんちゃうんか!!?」

「へ? ああ、うん……。断っちゃったんだ……」

「ひなた、俺が出ていったあと、何があったんだ?
 嫌なことされたのか??」


二人があたしの肩を掴む。
あたしは痛いからそれを振りほどいた。

あたしは数時間前のことを話した。

65 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:16:53.44 ID:V6x1Fopt0

お下げ髪の女の子はあたしに言った。


「これであたしは最後なんだ。
 もうチャンスがここでしかなかった!
 あたしは……事務所との約束で今月いっぱいで
 オーディションに合格できないようじゃ、退所するしかないって。

 だからあたしはこのオーディションを最後の賭けにしていた!

 それなのに、よりにもよって最後の枠をあんたに奪われた!
 あたしのアイドルとしての活動はもうこれで終わりよ!
 笑いたければ笑うがいいわ!」


大粒の涙を流している。


66 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:17:28.75 ID:V6x1Fopt0


あたしは何度も受けて落ちたオーディションだったと思う。
でも、別に今日が最後のチャンスという訳じゃない。

番組の収録はこのあとすぐに行われる。
あたしは気がつけば動き出していた。
大森さんの元へ。

まだ廊下で立ち話をしている大森さんを見つける。

67 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:18:08.27 ID:V6x1Fopt0

「あ、あの……申し訳ないんだけども、今日はあたし帰ります」

「へ!?」

今度は大森さんが素っ頓狂な声を出すのだった。
あたしは頭を下げる。

「きゅ、急に体調不良で……
 ちょっとこのあと数時間の番組収録はちょっと難しいので
 ……ご、ごめんなさい」

そう言ってあたしは逃げるようにその場をあとにした。

正直あたしは自分が合格になるなんて思ってなかったし、
これがいつも通りでいいんだ。

廊下の角まで来て、隠れるように大森さんの背中を見る。

68 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:19:02.13 ID:V6x1Fopt0

困ったようにその場をキョロキョロする大森さんは、
ついにその場で座り込んで動かなくなっている
お下げ髪のあの子に声をかけた。

よし、作戦成功! あの子は最後にアイドルを諦めることなく、
ここでもう一度チャンスを掴むことが出来た。

そしたらいつかあたしと同じ舞台で共演なんてこともあるかもしれない。
あの子は自信過剰でいるけれど、
きっとそれに見合った実力がある女の子なんだと思う。


大森さんを見たオーラ程ではなかったけれど、
あの子には確かにそのオーラが備わっているのを感じた。

こんなところで、才能のある女の子が夢を諦めるなんて勿体無い。
プロデューサーもそう言っていたことがあった。



「ひなたはまだまだこれからだから。
こんな所で立ち止まったり夢を諦めることなんて無いんだ」


69 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:36:29.40 ID:V6x1Fopt0





──奈緒さんは目を見開いて椅子に座るあたしを見下ろしていた。
それはまるで何か信じられないものを見るような目だった。



「だから譲ってきたんか……」



事務所には3人しか居ないのに、凍ったような空気が流れる。

プロデューサーは近くにあった
別の社員のデスクの椅子を引っ張りだしそこに座った。

70 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:37:28.70 ID:V6x1Fopt0

大きく、長いため息をつくと頭を抱えた。
2人の出す空気にあたしは戸惑っていた。

きっと春香さんだったらあの場面でも
同じことをしたと思うんだけど、
あれ……おかしいなぁ……。


「何してくれてんだよ……」

プロデューサーは言う。

71 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:38:34.40 ID:V6x1Fopt0


奈緒さんは青かった顔をだんだんと赤く、
燃えるように真っ赤な顔をあたしに向けて言った。


「ひなた、ちょっと歯ぁ食いしばりや」


パァン! 


という空砲みたいな乾いた音が事務所に響くと同時に
あたしの頬にジワっと痛みが広がる。

あたしは何が起きたのか分からなかった。
痛む頬を抑え、目の前を振り切った奈緒さんの手を見て
ようやく引っ叩かれたのを理解した。


72 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:39:47.29 ID:V6x1Fopt0


「何してんねん! そんなん譲る必要一個もあらへんねん!!
 遊びでやってんちゃうぞ!」

「で、でもね……。あのお下げのアイドルの子、
 これが最後のチャンスだって泣いてて……」


奈緒さんは更に眉間にシワを寄せる。
そして、スマホをポケットから取り出すとサササっと何か操作をしたあと、
画面をあたしに突き出して見せた。


「こいつやろそれ! このお下げの!」

73 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:40:23.92 ID:V6x1Fopt0


奈緒さんが見せてくれたスマホの画面には、
あたしが譲ったアイドルがいた。


「そう、この子、この子だよ……」

「そいつなぁ……!! 常習犯や!!!」

「え……」


奈緒さんは涙を流していた。
怒りの感情が爆発したんだろうか、
涙を流しながらあたしに言った。

74 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:41:21.26 ID:V6x1Fopt0


「私が受けた別のオーディションでもおったわ!
 ワンワン泣いて叫んで、近づいたやつに片っ端から
 突っかかって言いたい放題言って、
 合格者から席を譲り受けるんや……。

 私はそのやり口ずっと横目で見とったからよう知ってんねん。
 そいつ、譲り受けた途端に泣くのやめて
 マネージャーとヘラヘラ笑っとったわ!」

「そ、そんな……」

「チャンスがあると思ったのか、ひなた」


動揺するあたしに向かってプロデューサーが口を開く。

75 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:42:11.02 ID:V6x1Fopt0

「……あたしにはまだチャンスがあるからって。
 今回は譲ってやってもいいってそう思ったのか?

 あるわけねえだろ!! そんな奴に!!
 さっきも奈緒が言ってくれたよな?

 遊びでやってんじゃねえんだぞ!

 スタッフになんて言って出てきたんだよ!?
 何も言ってねえのか!?」


「ううん、急な体調不良でって……」


76 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:43:14.83 ID:V6x1Fopt0

「おい、いいか? どんな理由にしろ。
 体調不良ぐらいだったら多少待ってくれるんだよ。
 お待たせして申し訳ございませんで頭下げりゃ済むんだよ……。
 でもドタキャンして帰ってきちまったら話がちげえよ。

 スタッフにどう思われてると思ってんだ?
 木下ひなたはせっかく合格になった番組を
 蹴って帰った無礼な奴なんだよ!

 誰もお前のことを、夢を諦めそうになった少女を
 救った英雄になんて思わねえんだよ!!!

 もう今更電話したところで収録が始まってるんだ。
 取り返せねえよ今回のことは。
 そのアイドルに抗議したところですっとぼけるだけで
 俺たちに取り合うこともねえよ」


「で、でも……あ、あのね。
 もし春香さんなら同じように手を差し伸べたかなって思って」

77 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:44:22.37 ID:V6x1Fopt0



「お前は春香じゃねえだろうが!


 わかるか? 春香は売れてるんだよ。
 この違いが分かるか?
 売れてないお前と、売れてる春香がやるのとじゃ
 全く状況も意味も変わってくるんだよ。

 天海春香っていうアイドルはなぁ、
 そういう自分の立ち位置を正確に把握して動くんだよ。
 だからあいつはセンターに立っているんだ!!」


「あかんわ。プロデューサー、私少し外の空気吸ってっくるわ。
 ひなた、……叩いてごめん」

奈緒さんはあたしのことを全く見ずに
事務所を出て行ってしまった。

悪意のあるバタンという事務所の扉の音がとても怖かった。
78 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:45:29.74 ID:V6x1Fopt0


「局のスタッフたちだけじゃねえ。
 うちの連中にもこのことはいずれ知れ渡る。
 そうなればお前は急に番組をすっぽかした危険人物扱いだ。
 真相は俺たちが今聞いたが、もう確かめようもない。
 俺も……着いていれば良かった……。

 俺がついてさえいれば……」



何を間違えたんだろう。
でもあんな風に演技する女の子だったととても思えないんだけど。

ぐちゃぐちゃの感情が溢れ出てきた。

自業自得のあたしには声を出して泣くことなんて許されず、
あたしはただ、声を押し殺していた。

大粒の涙は、今更になって
取り返しの付かないことをしたことを自覚させる。

79 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:46:35.75 ID:V6x1Fopt0

どうして、気がつかなかったのだろう。
どうして、あの時……。
どうして、プロデューサーは……。


「俺も……最後まで見届けなかったのが悪かったな……。
 ひなた、怒鳴ってごめん。俺か……。悪いのは。
 そうだよな。ごめんな、ひなた。
 俺が最後まで付いていればこんなことには……くそ……」


プロデューサーはあたしを見て、黙って立ち上がり、
自分の机に置いてあったタバコを引っ掴むと、
事務所を出て行った。


80 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:47:28.79 ID:V6x1Fopt0




──数日後、21時頃の遅いご飯の時間だった。




テレビで放送されたあの番組では、
その子はとても元気で、いい笑顔で歌を披露していた。

そのパフォーマンスは
……言っちゃあ悪いけど、”普通”だった。

ダンスが甘いとか音がずれてるとか、
そりゃああれだけ泣き叫んでたら声もかすれてるとか。

そんな粗探しばかりするようになった自分が居て、
それを自覚した瞬間にテレビを別のチャンネルに切り替えた。

81 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:48:07.60 ID:V6x1Fopt0


……何を食べても味がしなかった。

物を口に運び、噛み、飲み込む作業をするだけだった。

実家から送られてきたお米は
綺麗な艶を出して輝いているのに、
いつもと同じ炊き方をしているのに、味はしなかった。


味はしなかった。






82 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:48:40.84 ID:V6x1Fopt0


第3章 おめえ、帰れ





「ひなた」

「ん? ああ、婆ちゃん」

「そろそろもうお昼だから」

83 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:49:09.77 ID:V6x1Fopt0


「そっか。うん。今行くよ」

「今日はいい天気だねえ。
 こっからだったら函館の方まで見えるかもしんねえな」

「あはは……。そんなの無理だべさ」

84 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:49:48.17 ID:V6x1Fopt0


一面に広がる緑の景色。

北海道の大地に広がる青空の下で、畑仕事に勤しむ私。
真っ赤な林檎の果実をケースに入れていくのを一旦辞める。


あたしは今、爺ちゃんと婆ちゃんの家に居候している。

85 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:50:41.38 ID:V6x1Fopt0


婆ちゃんはとても優しくて、いつもニコニコしている。
でも、特に何か趣味がある理由ではないらしい。
昔はコーラスとかやっていたって聞いたことがあるけれど。
いつの間にか辞めてしまっていたらしい。

お母さんに聞いた所、

「段々と集まりが悪くなって、
空中分解したんでしょう。ほら、もう歳だから」

と冷たく言い放った。
86 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:51:32.51 ID:V6x1Fopt0


爺ちゃんはいつも眉間にシワが寄っていて
険しい顔をしているけれど、怒っている訳じゃない。

爺ちゃんは婆ちゃんと逆に自由奔放にしている。

家事は女の仕事だ、
と言わんばかりに自分は農家の仕事ばかり。

そして、それ以外の少し空いた時間でやるのが趣味のカメラだった。
花や風景、それか自分の育てた果物を撮影する。

87 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:52:42.07 ID:V6x1Fopt0


爺ちゃんに一度カメラを教えてもらったことがある。
それはあたしがアイドルをしているという話をした時だ。

何かを勘違いしたのか、撮る方だと思ったのか、
熱心に教えてきてくれた。

「いいか。このシャッター速度はこれくらいにしておけ。イソ感度はこれくらいだ」

そうやって熱心に教えてくれたけど、
結局あまり理解出来なかった。

でも、5、6台ある一眼レフのカメラは
どれも譲ってはくれなかった。
まあ、高いもんね。

88 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:53:25.20 ID:V6x1Fopt0

あたしは家に一度戻る。

婆ちゃんの家は古い日本家屋だ。
開けるとガラガラと鳴る二重の引き戸の玄関。

木で出来た下駄箱に、その上には木彫りの熊が乗っている。
昔、小さい頃、これが怖くて泣いていたらしい。
今も怖い顔をしているクマだなぁと思うことはあるけれど。
さすがに泣くことはない。

木張りの、歩くとギシギシ言う廊下、
リビングに行くと、テーブルには作業着のまま、
椅子に座って麦茶を飲んでいる爺ちゃんがいる。

爺ちゃんの目線の先は、テレビに映る高校野球、
甲子園大会の中継だった。

89 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:54:12.15 ID:V6x1Fopt0

爺ちゃんはこの夏の時期になると、
必ず甲子園を見ている。

カメラの次くらいに、たぶん好きだと思う。
だから一度詳しいのかと思って、この高校は強いの?
とか聞いたことがあるが、
「さあ? 分かんね」と言っていた。

その割には熱心に見ているのは一体なんだったのか、
それは今でも分からない。

90 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:55:14.54 ID:V6x1Fopt0

そのことについて、プロデューサーとも話したことがあったなぁ。

確か、プロデューサーは

「若い子が一生懸命なところが見たいんだよ。
野球は知っているし、上手い下手が分かるから、
見てるだけなのに、あれが駄目これが駄目みたいに言わないか?」

と言っていた。

確かに爺ちゃんは
片方のチームがホームランを打つと
「ああ!」とか言っているが、
点差を埋めるヒットが出れば
同じように「ああ!」と言う。

どちらかを応援しているわけじゃないんだ。

91 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:56:12.54 ID:V6x1Fopt0


婆ちゃんがそんな爺ちゃんを尻目に
ザルに入れた素麺を持ってくる。

私はそれを見て、器を食器棚から、
麺つゆを冷蔵庫から出して、
私と爺ちゃん婆ちゃんの前に配る。

婆ちゃんはお礼を言ったが、
爺ちゃんは「ん」だけ言った。

婆ちゃんと私の「いただきます」の声に反応して
遅れながらも「いただきます」を言いながら食べる爺ちゃん。


昼食には、扇風機がガーガー言いながら首を振る音。
テレビの騒音。弱い冷房。
これらの音が響く以外には会話は殆どなかった。


92 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:56:54.72 ID:V6x1Fopt0

壁にかけていた時計が、
12時の合図を告げるのに、大げさな鐘の音を流す。

ちゅるちゅると素麺を食べていく。
美味しいなぁ。冷たくて、喉にすっと通っていく。


甲子園の中継に制服衣装を着た若いアイドルが映る。

甲子園の様子を視聴者に伝えようと、
詳しくもないだろう野球の用語を使いながら、喋っている。

爺ちゃんはそれを見ても何も言わない。
若い女の子を前に鼻の下を伸ばすことなんて無かった。

たぶん、婆ちゃんに白い目で見られるのが怖いんだろうなぁ。

93 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:57:35.43 ID:V6x1Fopt0


爺ちゃんはテレビから全く目を逸らさずに言った。

「ひなたは、こういうのやらんのか」

爺ちゃんの言葉は
あたしに疑問を投げかけるというような感じではなかった。

その淡々とした詰問は、質問とは違って、
語尾に「?」がつくような優しい言い方をしていなかった。

まるで、なんで俺の孫がそこに居ないんだ? と。
居るのは当たり前だろう? と言わんばかりの言い方だった。

94 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:58:11.46 ID:V6x1Fopt0

あたしが出遅れて、「う、うん」と言い切る前に
婆ちゃんがフォローに入る。


「ひなたは今、お休み中なんだよねえ?」

「うん……。そうなんだ。あはは」


婆ちゃんの言い方はとてもキツい言い方で、
「そんな余計なことを聞くな」と暗に言っている。

爺ちゃんはバツが悪そうに
あたしのことをチラっと見て「そうか」と言う。

95 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 18:59:25.39 ID:V6x1Fopt0

……お休み中。
あたしは今、事務所に頼み込んで、
休業ということにしてもらっている。

別に何かがあった訳じゃない。
あたしには……。

あたしには、何も無かった。
ただ、それだけのことが分かっただけなんだ。

96 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 19:00:05.92 ID:V6x1Fopt0


そのことに気がついた時、憧れだった自分のいる世界が。


「どうして自分がいるのだろう」

「どうして自分みたいな人間がここにいるのだろう」

「誰があたしを見ているのだろう」

「あたしは誰に、何を届けたいのだろう」

「あたしは……このあと、何を伝えられるようになるのだろう」

「あたしは、何を届けられる人になるのだろう」

「あたしは……誰なんだろう」


分からない。

97 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 19:00:42.77 ID:V6x1Fopt0

毎晩、夢を見る。
それも同じ夢。

素敵な衣装を着て、ステージに立って、
マイクを持ってセンターに立つ。


そして、流れる曲は知らない曲。


誰もあたしのことを気にも止めない。
あたしだけが真ん中でただ、おろおろしている。
知らない曲を知っているフリして一生懸命に踊る。

98 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 19:03:24.79 ID:V6x1Fopt0

そうして、大失敗を引き起こして、あたしは目が覚める。
思い切り転んで膝から先があらぬ方向に曲がったり。
誰かとぶつかってしまって怪我をさせたり。
突拍子もなく誰かがステージ上で爆発してしまうこともあった。
色々なパターンであたしはそのステージで失敗をする。


あたしは、プロデューサーに、少し休みをください。
という話をした時に言われた言葉を思い出す。


「……そうか」


スケジュールを書くための手帳は半月以上、白だった。

99 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 19:04:17.66 ID:V6x1Fopt0

レッスンの日付は、月水金。
そんなことはもう決まっているので書かなくなってしまった。

だから、白いスケジュール帳で何も無いということは、
本当はないのだけど。
そのレッスン以外は何もなかった。


だから、あたしはプロデューサーに「もう休ませて欲しい」と言った。


プロデューサーは、机に向かったまま、
画面から目を逸らさない。
爺ちゃんと同じだ。


100 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 19:04:59.09 ID:V6x1Fopt0

でも、爺ちゃんの方がまだましだった。
爺ちゃんは、なんというか。
まだ会話というか、意識のベクトルが
あたしに向いているのが感じられる。

でも、プロデューサーは……。

あたしはプロデューサーに言われたこの一言をずっと、
頭の中で再生していた。
本当は続きがあったんじゃないか。

本当は何か違うことを言おうとして、
飲み込んだ言葉なんじゃないのか。

101 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2020/10/09(金) 19:05:33.12 ID:V6x1Fopt0

「……そうか。どうしてなんだ」

「……そうか。残念だよ」

「……そうか。もしかして、妊娠でもしたのか」


違うなぁ。そうじゃない。

あたしはプロデューサーに何を言ってもらいたかったんだろう。
何を期待していたんだろう。

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