【艦これ】流れ者と艦娘

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 21:57:18.96 ID:rwgLxUNo0
SS初投稿です
よろしくお願いします


注意事項
・独自解釈
・オシジナル武装
・時折戦闘がやたら泥臭い
・地の文多め

これらが許容できない方はお引き取り下さい

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1606049838
2 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 21:58:55.83 ID:rwgLxUNo0
霧立ち込める海、身が折れ体が沈む
敵の姿は見えない
だがそれでも私は最後まで抵抗を続けた
生に縋りつくためでなく一矢報いるため

その執念が実を結んだか否かそれを私が知ることは遂になかった
何故なら私はそこで―――――――
3 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:01:02.44 ID:rwgLxUNo0
醒めることのないはずの永い眠りから醒めた

混乱する私に目の前の少女は手を差し伸べた



『こんにちは、新人さん。私の言葉は解る?』

『そっか、ならよかった。ねぇ、貴女の名前はなんて言うの?』

『戸惑ってるの?...ま、仕方ないかな?』

『とにかく歓迎するわよ、私達の鎮守府はいいところよ!』



少し騒がしいけど優しくて安心する声

その声の持ち主は≪手≫を引っ張ってきた


「―――え?」


この手は誰の手?

私であるはずがない、だって私は―――



『―――懐かしいなぁ、この感じ...私も最初こんな感じだったから』

『貴女は私と同じ艦娘、かつての軍艦―――あー、狭義だと駆逐艦は違うか』

『戦いに身を投じた船の生まれ変わりなのよ』

『いま世界はもう一度私達の力を必要としているの』

『だから一緒に戦いましょう』
4 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:02:41.89 ID:rwgLxUNo0
再び生を与えられ一刻はたっただろうか

今も手を引かれ曳航され続けているがなんとも奇妙な感じは拭えない

かつて私と共に戦った勇ましくも哀しく散っていった数多の戦友と同じ姿

まさか私がその戦友達と同じ姿になるとは思わなかった

何の因果か解らないがこの姿になったのだから彼らの分も含めて今度こそ生き―――――



『随分空も海も荒れてきたわね...鎮守府はまだ遠いのに―――っ!?』

『敵襲!?11時の方向敵潜水艦多数!』

『まさか疲弊した帰投時を待ち伏せるなんて...』

『撃破出来るほどの弾薬は残っていないわ―――機関一杯!なんとか振り切るわよ!!』
5 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:03:45.91 ID:rwgLxUNo0
潜水艦?

そうだ、あの時も潜水艦に...いやだ―――また同じことなんて絶対に嫌だ!!


『さ、貴女。しっかり握ってて、絶対に手を離しちゃダメよ?』


せっかく生き返れたんだ!もう二度とあんな思いはしたくない!

この手を離すもんか!


『貴女大丈夫!?まだまだ攻撃は続きそうだけ――あっ!?』
6 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:05:18.21 ID:rwgLxUNo0
突然間近に水柱と共に炸裂音

(―――!!)


体幹が大きくブレる

けど手だけは離していない、どんな事があって―――


『―――!!・・・!』


あれ?

何で手をつないでいるはずのあの人があんなに遠くにいるの?

何であの人は誰とも手をつないでいないの?

何で私の握っている手は手首から先が無いの?

何であの人が伸ばしている手に近づくことが出来ないの?

何で息ができないの?

何で私は―――――
7 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:05:53.88 ID:rwgLxUNo0




――――――生き返ったの?




8 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:07:26.91 ID:rwgLxUNo0
三度永い眠りから―――違う!

これはまだ続いている!!



「―――ぁ―――が―――ぐげえぇ...ガボッ!げほっ!」



飲み込みかけた海水を咳込みながら何とか吐き出す

目も痛い、喉も痛い、呼吸だってまともにできない


「はぁっ!はぁっ!―――げほっ!」


私の手が掴むのは持ち主を離れた手ではなく辛うじて彼女を支えられる浮き木

気絶している間に何があったのか、何故気絶から回復できたのか

解らない事だらけだがこれだけは解る


(まだ...生きてる...!)
9 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:08:39.28 ID:rwgLxUNo0
だが状況は好転どころか悪化している



天候、海況が気絶する前よりさらに数段激しいものになっており

結構な時間意識が飛んでいただろうと容易に想像できる

だから『自分の手を曳いてくれた少女が近くに居て助けに―――』

そんな事は期待できないだろう



生き延びたはずがこの苦難続き

荒れる海はあまりに広く、掴む浮き木はあまりに頼りない

あがいて絶望するよりいっそのこと楽になる方が賢明かもしれない

もっとも、介錯してくれる友軍も敵艦もいないのだが



それでも尚、彼女はあきらめない

僅かでも可能性があるのなら無様でも滑稽でも―――


(生きるっ、何としても・・・!)


前世の最期とは打って変わって我武者羅な生への執念を燃やす



これが彼女の二度目となる戦いの幕開けとなった
10 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:10:06.39 ID:rwgLxUNo0
日差しはない、だが『生憎の天気』と言うより寧ろ『良い天気』かもしれない



「今日は歩き易い気温だな」

「...そうだね...お父ちゃん」

父「この国は暑いからな...故郷(くに)も大概だったがそれ以上だ」

父「あーでも今は相当暑いとか小耳に挟んだから同じ程度かもな」

娘「...そうかも」

父「さて、今日はちょっと急ぎ目に移動するか」

娘「...ん、解った」

父「すまんな...お前はあまり体力がないのに」

娘「いいの...気にしないで」

父「...すまんな」

娘「お父ちゃんのせいじゃない...町がなかったんだから」

父「深海棲艦に滅ぼされたのか賊にやられたのかは解らなかったがな」
11 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:11:04.10 ID:rwgLxUNo0
父(『深海棲艦』8年程前に現れた正体不明の半兵器半生物

そしてその数年後に現れた在りし日の兵器を名を冠する少女達『艦娘』

―――そして私の義娘も艦娘だ)
12 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:12:00.00 ID:rwgLxUNo0
娘「――――――」

父「...?どうした、海を眺めて―――やっぱりお前は」

娘「違うの、お父ちゃんが助けてくれたあの日の海―――」

父「ああ、そういえばこんな天気でこんな海況だったな」
13 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:13:33.83 ID:rwgLxUNo0
父(私が故郷の日本から出張で東南アジアの各国を巡っていた時、深海棲艦の侵攻が始まった

制海権だけでなく制空権も喪失、異国に取り残されたと思っていたら

畳みかけるように滞在中の町が襲撃され壊滅

それから日本を目指して放浪を続ける羽目になった)



父(そして彷徨うこと数年、たまたま溺れかけている少女を見つけた

深海棲艦から逃げることもにも人間間のいざこざにも遠い故郷という事実にも疲れた私は

せめて孤独だけでも晴らせると思い彼女を助けた)



父(そして助けた少女が艦娘だった

彼女が旧日本海軍由来、私が欲して止まない日ノ本の存在と知った

本来なら届け出て謝礼を貰うのが筋なのだろうがどうしても傍に置きたかった)



父(だから私は彼女を傍に置き続けるために

日本に戻るまでの間だけでも娘にならないかと提案した

彼女も恩義と孤独の苦痛からか二つ返事の快諾で返してきた)



父(それから幾年、幸か不幸かずっと一緒だ

願わくば―――)
14 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:15:15.67 ID:rwgLxUNo0
娘「...!お父ちゃん」

父「ああ...居るな」



遥か前方、はぐれと思われるイ級とロ級の2匹を確認

こちらに気付いていない様子、普段なら静かに身を隠したり迂回したりしただろう

だが問題はそこではない、奴らのいる近くの浜辺に娘と同じ位の外見年齢の少女がいたのだ



父(別に助ける義理もない、この娘もそれは解っているだろう―――が)

娘「お父ちゃん...お願い」

父「耐久」

娘「...7、8割」

父「燃料」

娘「...低級3、4割」

父「弾」

娘「主装4割...雷装2割」

父「最優先目標」

娘「あの女の子の安全...」

父「緊急出撃許可、抜錨せよ」

娘「了解―――」



娘が背を向け父親が向けられた背中にある錨型のパーツに手を掛ける
15 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:15:59.12 ID:rwgLxUNo0





「―――――駆逐艦『霰』抜錨します」






錨型のパーツが抜き取られ艤装が展開された
16 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:18:09.20 ID:rwgLxUNo0
普通の鎮守府所属の艦娘なら専用の出撃スペースとかあるのかもしれないが

生憎この霰は渡世人だ、そんな恰好がつく出撃なんてした事がない


霰(とにかく早く海に出ないと...)


砂浜を全力で走る、それだけならいいのだが

両手で抱える様に持つ布に包まれた長物が邪魔をし走り辛そうである

さらにはその包みの布も剝ぎながらというのもさらにマイナスだ

スマートさの欠片もない



霰(もうすぐ海に出られる...機関始動)

振動と喧しい音を伴い缶が駆動する



霰(機関は...うん、この程度なら何とかなるかも...)



本来ならこれ程の振動と音は伴わない

だが満足な整備や補修、高品質な燃料を得られない艦娘にとってはよくある話だ



霰(進水...うん、喫水線の位置問題なし。機関一杯...!)

黒煙を吹き出し今すぐにでも爆ぜんばかり叫び暴れる缶だが霰は意に介さない



霰(酸素魚雷、一本射出―――ん、イ級に微反応あり機関安全圏まで減速)

霰(現在、主砲有効射程範囲外で最長到達射程内...酸素魚雷到達まで後20秒)



体を目標に対して正対させ左手に持つ長物を背に回し右手の主砲を構える

元々静かな霰の目がますます静かに水鏡を思わせる程凪いだ



霰(魚雷到達まで7...6...5...4...3...2...1...)

霰「着火」

2匹の深海棲艦の脇で白く大きな水柱が出現した

霰「撃ちます」

間髪いれずに主砲が火を噴いた
17 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:20:26.52 ID:rwgLxUNo0
結論から言えば雷撃も砲撃もイ級にもロ級にも掠りもしない大外れ

だが霰は焦りも悔しがりもしない



少女「!!―――!!!」

突然の爆発音と砲撃に驚いて件の少女が海から遠ざかる様に逃げていく



霰「お父ちゃん...あの子...ちゃんと逃げた...」

父『こちらも確認、離脱ができるなら直ちに離脱せよ』

霰「向こうはやる気...逃げられるけど大変そう...」

父『ならば速やかに攻撃を開始せよ』

霰「ん...攻撃...するよ」

父『了解』



通信を終えるや否や霰は素早く浜辺に上陸、機関を最低出力まで落とす

霰の口調は普段と変わらずゆったりとしたものだが

動きは途切れる事無く迅速といって差し支えないレベルだ



霰(霰の主砲だとこの距離はまず当てられない―――)



これも渡世の者が負う宿命か、ろくに整備されていない砲の精度は劣悪の一言

さらに破損、自滅の危険性を軽減するために砲の威力を意図的に落としてあるのだ



霰(なら霰の主砲でなければいいの)



先程の主砲砲撃時に背に回した長物を構える

手に装着された錆びだらけの主砲と比べればまるで白銀の槍だ
18 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:21:53.50 ID:rwgLxUNo0
『試製艦娘用小口径長砲身』

深海棲艦戦争の草創期に開発された駆逐艦向けの装備品だ



中距離射程を目標として作られたが

長過ぎて取り回しが難しい、砲の構え方が通常と大きく異なる

そもそも駆逐艦の性能ではこの砲でも中距離の目標に当てるのは難しい

そして軽巡以上ならそれより良い砲があるので表舞台に殆ど出ることなく消えた代物だ



そんな歴史の波に埋もれ忘れ去られるはずのものが盗品流出か廃棄品横流しか...

経緯は解らぬが巡り巡って再び艦娘の手に戻ってきたのは必然なのか偶然なのか



霰(この距離なら...角度はこれくらいかな...)



霰は長砲身を砂浜に突き刺し砲口を目標に向け角度を調節していく

陸上で止まって戦うとはとても艦娘の戦い方には見えない



霰は正式な軍事訓練を受けたわけではなくあくまで我流

軍事素人の父親と相談しながらあれこれ工夫しながら身に着けた技術のみだ



そんな基本すら怪しい彼女がさらなる応用が必要であろう長砲身で正しい使い方ができるのか甚だ疑問だ

もっとも、正しい撃ち方を知る人などこの長砲身以上に貴重かもしれないが
19 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:23:41.36 ID:rwgLxUNo0
霰「砲撃...」

霰の短砲身とは違った砲撃音が響き渡る



だがこの砲をもってしても当たらない



霰(...外れた...少し角度を寝かせて...)

霰「...砲撃」



[オオオォォォォ――――ガギィッ!]

イ級「!?―――ッ」

装甲を砕く音と共に声にならぬ悲鳴が上がった



霰「命中...轟沈確認...次弾装――っ!」



霰の背筋に悪寒が走る

装填行動を即時中断し艤装の動力補助を利用した素早い蹴り込みで体を斜め前方に投げ出す


[ズバァアァッー!]


元居た場所の地面が爆ぜた

有効射程範囲内に入ったロ級の反撃、長砲身によるアドバンテージは使い切ったようだ

霰は前回り受け身の要領で素早く投身から復帰、勢いそのまま海に駆け込み距離を取るよう航行を開始

ロ級その動きに応じ射程外には逃さぬとさらに速度を上げ追撃をかける



砲撃は陸の方が安定するが駆逐艦はやはりその機動力あってこそ

さあ、ここからは駆逐艦ならではの回避力を生かした戦いが[ドドドォオォオォン]
20 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:26:11.30 ID:rwgLxUNo0
突然の爆発音、ロ級の雷撃か!?



ロ級「?――?!?」

いや違う、ロ級は突然の爆発に戸惑っている

ならばやった者は必然的に――



霰「これも―――水雷戦――ですか?」

いつの間にか『設置』した有線魚雷を起爆させたのだ



砂混じりの水柱が消え視界が晴れる

ロ級の前に再び姿を現した霰は

―――装填が完了した長砲身を構えていた



ロ級「!?」

驚き慌てて回避運動を行うロ級だが全ては遅きに失した



追撃に全力を出してしまい距離を詰め過ぎた、

この距離では陸上より安定しない水上でも狙いを外すなど期待できないだろう

長砲身が火を噴く

ロ級「!!ッ―――」
21 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:27:30.87 ID:rwgLxUNo0
―――轟沈



霰「...ふぅ」



戦場に動く者は霰以外誰一人としていない





―――完全勝利―――


22 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/22(日) 22:32:22.26 ID:rwgLxUNo0
本日はここまで、以降は気まぐれで投下します
霰が出るssがあまりないので自分で書くしかないと思い書きました

大戦中の魚雷に有線魚雷ってあったの解らないまま取り入れてしまいましたが
その辺りはどうか寛大な対応でお願いします
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/23(月) 18:12:44.11 ID:PYIdUcb5o
期待
24 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/29(日) 22:49:43.46 ID:JGk3U6xI0
霰(周囲警戒――電探とか聴音機とかあればもっと確実なんだろうけど...)

霰「...ん、お父ちゃん。もう安全―――だと思う」

父『了解、最低限の警戒を維持しつつ帰投せよ』

霰「まって、戦利品が...」

父『うまい感じに倒せたのか? よし、解体を許可する』

霰「ん...ありがと」



霰(危ないことをした...だから貰えるものは貰っておかないと...ね)


背中の艤装に手を掛け大型のナイフを取り出す

ナイフといっても鉄板を切り出し持ち手を布で巻いただけの雑な作りで傷み汚れも多く美しさの欠片もない代物だ

だが刃の部分だけは鏡の如く輝いている


霰は念のため不意打ちを警戒し砲を構えながらロ級――獲物の状態を確認する

霰(―――ダメ...損傷が大きすぎる...あと狙いも随分ズレてるの――やっぱり砲戦は苦手...)

間近で中距離砲を受けた影響と狙いのズレからかお目当ての部位は取れそうになかった

―――が、何の躊躇いもなく霰は刃物を突き立てロ級を解体し始める


霰(クズ鉄だけでも一応はお金になるからね)
25 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/29(日) 22:53:51.36 ID:JGk3U6xI0
深海棲艦は半生物半兵器であるためか、その外殻は普通の生物では考えられないレベルの鉄が含まれている

だから然るべき所へ持っていけば(渡世人にとっては)いい値段で買い取って貰えるのだ


だが、それにしても―――

元から表情変化も乏しく再び生を受けて数年経ち成長しているとはいえ

幼い容姿の多い朝潮型の中でもとりわけ幼く見える霰が無表情で、紛いなりにも数十秒前まで生命のあったものの形を崩していく光景は中々壮絶なものがある

だがこれだけでは終わらない


霰(後はこの《身》の部分を布で絞って――と)

父「よし、ドラム缶も用意できたぞ」


ロ級の解体開始を確認し安全を確信した父親が解体を手伝いに来た


霰「ありがと―――いくよ」

父「おう――おお、今回は浅瀬だったからあまり海水が混じってないな」

霰「でも...近くで撃ったから――身が多めに飛んじゃった...かも」

父「そりゃ必要経費だ」
26 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/29(日) 22:56:38.95 ID:JGk3U6xI0
先にも説明した通り深海棲艦は半生物半兵器

鉄を多く含む他に鯨やマグロが霞むレベルで多くの油分を含むのだ

食用には向かないが燃料にはなる

――艦娘とってはある意味食用と言えるかもしれないが


霰「じゃあ、あっちもやってくるから...」

父「おう、後は任せておけ」


霰は作業を切り上げ最初の獲物の方に向かう

だが、倒してからいささか時間が経ち過ぎた様だ


霰(ああ、もったいない。結構流れちゃってる...とにかく引き上げて陸まで引っ張らないと...)


海水に浸かり過ぎていたイ級だった物から多くの油が流れ出ている

だが損傷が思ったより軽かった為まだいくらかは有効活用できるだろう


霰(今度のはあまり壊れてない...これなら『アレ』も取れるか―――あ)

霰「...ん」


思わず声が漏れる

かなり謙虚ではあるがこれが彼女の歓声であり大喜びだ


霰(火薬袋に傷なし!水も少ししか入ってない!)
27 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/29(日) 22:59:37.96 ID:JGk3U6xI0
深海棲艦は鉄と油だけでなく半兵器らしく火薬も蓄えている

人型の場合は大概艦娘でいう艤装の辺りで弾薬を生成するのだが

イ級などの艤装を持たない非人型は大抵体内で弾薬を生成する

その弾薬貯蔵部分を伝統ある特撮モノにあやかり《袋》という表現を通称で用いている


本来、正規の鎮守府所属の艦娘はその火薬袋の位置を狙うように訓練される

弾薬を大量に蓄えている箇所が壊れれば戦艦だって沈む。そういうことだ


だが例によって霰達にとっては敵の弾薬すら貴重な資源なのだ

(常にではないが)その位置は極力当てない様に戦っている



霰「戻った...の」

父「おう、じゃあそっちの身も絞るか」

霰「後――これ...」

父「!おお、いいじゃないか。儲けたな」

霰「ん」
28 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/29(日) 23:07:23.65 ID:JGk3U6xI0


・・・・・・――――――・・・・・・



父「さて...と、絞り終わったな。じゃあ――」

霰「――ん」


[ガシュッ、ボゥ]


絞り終えられ浜辺に打ち捨てられ深海棲艦だった物が勢いよく燃え始める――

霰が榴弾を撃ち込んだのだ



別に恨みや追い打ちで焼いているわけではない

深海棲艦は異形の者、防疫の観点からも野生生物の死骸以上に気を付ける必要があるのは言うまでもない



そしてもう一つ


父・霰「―――南無」

火で清め、冥福を祈るため


短い瞑目と合掌――二人とも真剣にやっている事は疑いようもないが、どんなに心を込めても所詮は自己満足

だがそんな事は重々承知だろう、このケジメは二人にとって欠かしてはならぬ大切な何かなのかも知れない
29 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/29(日) 23:10:40.95 ID:JGk3U6xI0
瞑目を終え絞った油の上澄みを回収、給油していると見覚えのある少女が近づいて来た

父「ん――あの子は...」

霰「さっきの――子...かな」


二人は反応はすれど作業の手は止めない



少女「あ...あのっ!さっきはありがとうございました!!」



霰「―――霰が勝手にやったことだから...」

少女「え?」

父「ああスマン内の娘はこういう奴なんだよ――
『感謝されたいんじゃなくて、見捨てると気分が悪いからっていう自分勝手な理由でやった事だから気にしないでいい』
っていう意味なんだよ」

霰[こくり]

少女「な、なら私も自分勝手に感謝します。ありがとうございましたっ!!」

父「ほう」

霰「ん」

父「・・・(中々見どころのある娘だな)」

霰[こくり]

少女「もしよかったら私達の村に来てくれませんか?そこでお礼をさせて貰えませんか?」

霰「お礼...無理しないで」

父「だが今丁度人の居る所を探していた――折角だから招待されよう」

少女「本当ですか!?ありがとうございます!」

霰「――よろしく」

少女「こちらこそ!」

父「あー...ちょっと待ってくれ、今せっかく浜辺にいるんだからちょっと手土産を用意しよう――霰、頼めるか?」

霰「ん」

少女「あ、あの――」

父「気を悪くしないでくれこれも私の性分なんだ」

少女「そ、そうなんですか...」

父(この子以外から歓迎されるとは限らないから―――な)
30 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/29(日) 23:12:23.68 ID:JGk3U6xI0
爺「いやいや...魚を持ち込んでくれるとはありがとうございます」

父「一晩世話になるというのに手持ちが心許ないままではと思い少しばかり――」

爺「とんでもない――あの日以来、海魚は貴重になってしまいまして」

少女「霰ちゃん――この子が獲ってきてくれたんだよ!」

霰(適当な底引き網だけどね)

青年「昔は俺たちも漁をして暮らしていたんだが...クソっ!」

壮年男「深海の奴ら舟を壊しやがるからな...」



父(小規模漁業は深海棲艦の影響をモロに受けた分野の一つだったな)
31 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/29(日) 23:15:17.11 ID:JGk3U6xI0
深海棲艦は別に個の強さはそうでもない、実際通常兵器―――

いや、イ級とか下級の相手なら最悪(射程を考慮しなければ)銛でも十分に対応できる

では何故深海棲艦にあっけなく制海権を明け渡したのか?

理由は簡単だ、通常兵器は海上にいる人間大の相手に対する事を想定していないからだ



確かにミサイルなど広範囲に被害をまき散らす兵器であれば撃破できるかもしれない

だが何分コストが掛かり過ぎる、コストが掛かるという事は弾数が少ないという事

そして深海棲艦の数は少なくない

つまりそういう事だ



無論脅威はそれだけでない攻撃面も脅威だ

威力は流石に軍艦級はないが、それでも十分に軍艦含める船を沈めるに足る火力を持ち合わせている

海上版の対戦車武装をした歩兵といったイメージだ



たかだか歩兵が脅威となりえるのか?一般人はそう思うかもしれない

だが『陸戦の王者』と呼ばれる戦車でさえ10式戦車の様に対戦車以上に対歩兵を対策している車両もある

それ程歩兵の存在は侮れないという事だ



その侮ってはいけない存在が今までいなかった海上で突如現れたのだ

それまでの軍艦は成す術もなく表舞台から追いやられた
32 : ◆EHYyWn4ntM [saga]:2020/11/29(日) 23:17:34.75 ID:JGk3U6xI0
海軍が駄目なら空軍で...ともいかなかった

誠に厄介な事に深海棲艦は航空勢力まで持ち合わせていた



戦闘機というのは案外小さいがそれより数段小さい中型犬程度の大きさの艦載機を使ってくる

そして例によってそのサイズでも火力は十分と来たものだ



今までの戦闘機に積まれている誘導ミサイルでは深海の艦載機は追跡してくれない

機銃で撃とうにも的が小さく思うように撃破できない

速度差の関係で軍艦程悲惨な事にはなっていないが、それでも深海棲艦の物量に押されてしまった



戦争において初動は非常に重要

その初動に於いて人類は完全に敗北してしまった為あっさり海と空を奪われてしまったのだ



その後は負けた理由が殆ど『初見殺し』だった為

艦娘等を始めとした対処方法の確立によって現在は大国を中心に巻き返してきている



―――のだが
175.10 KB Speed:0.1   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)