久川凪「7人が行く・EX2・トクベツなフツウ」

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102 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:27:18.84 ID:UcFFD9dl0
58

久川家・凪の部屋

颯「なー!」

凪「おや、はーちゃん。どうされましたか?教会に収穫ないことは聞きました」

颯「おなかすいたー。ゆーこちゃんが準備してくれたから、ご飯にしようよー」

凪「カワイイはーちゃんは空腹のようです」

颯「なーはお腹空いてないの?」

凪「まだ早いかと。それと、お昼をたくさんごちそうになりました。町中華の盛り合わせ」

颯「いいなー」

凪「はーちゃんも次は一緒に来ませんか。りあむあたりが喜んで貢いでくれる」

颯「いや、それはいいかな」

凪「凪ははーちゃんと一緒なら嬉しい。明日も活動です。いかがでしょう」

颯「ううん、やめとく。りあむさん達と一緒で楽しくない?」

凪「そんなことはありません。思った以上に愉快な人達です」

颯「愉快なんだ……うん、きっとその方が良いよね」

凪「さて、カワイイ妹がお腹を空かせてはいけません。ゆーこちゃんの夕ご飯を食べましょう」
103 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:29:15.27 ID:UcFFD9dl0
59



出渕教会・地下1階

楓「裕美ちゃん」

裕美「あっ、楓さん。今日も昼間に起きてたんだね」

楓「はい」

裕美「何かあったの?」

楓「え?」

裕美「そんな雰囲気と表情してたから」

楓「わかりますか。昔から無表情だと言われていたので」

裕美「うん。最初はそうかと思ったけど違うよね」

楓「……そうですか」

裕美「今は、ご飯のことを考えてないのもわかるよ」

楓「裕美ちゃん、お話があります」

裕美「いいよ、どうしたの?」

楓「場所を変えましょう。ここではいけません」
104 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:30:03.74 ID:UcFFD9dl0
60

出渕教会・裏庭

楓「……良い夜ですね」

裕美「うん。星がキレイ」

楓「夜の世界に来て、どのくらいになりますか」

裕美「1年経ったかな」

楓「慣れましたか」

裕美「慣れたのかなぁ、わからない」

楓「それでいいと思います。私はこちら側に寄り過ぎました」

裕美「……」

楓「長い時間でした。どんな存在をどれだけ喰らってきたのか覚えていません」

裕美「うん。でも、覚えてることもあるよね」

楓「……何をですか」

裕美「自分のこと、皆のこと」

楓「……」

裕美「何とかなるよ。『捕食者』さんも暴れるような存在じゃないから、大丈夫」

楓「……」

裕美「皆もいるから。だから、安心して」

楓「……」

裕美「楓さんは、ここにいていいんだよ」

楓「……わかっています。だから……」

裕美「楓さん?」

楓「裕美ちゃん」

裕美「なに?」

楓「もうわかっていると思います」

裕美「何を?」

楓「雰囲気の違いが何から来るか」

裕美「ごめんなさい、わからない」

楓「『捕食者』は、ここには、もういません」

裕美「え?」

楓「遠くには行っていないようですが。微かに感じます」

裕美「……それって」

楓「私であることもいつか忘れます。その前に」

裕美「ま、待って!」

楓「はい」

裕美「それはダメだよ、だって」

楓「決めなければいけませんでした。何時か来る日のことを」

裕美「だって、生きてるのに」

楓「……」
105 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:30:29.31 ID:UcFFD9dl0
裕美「楓さんは選んだんだよね、それでも生きていたいって」

楓「はい。ずっと昔に」

裕美「悪いことがあっても、不便なことがあっても、ここで生きていることが幸せだって」

楓「言いました」

裕美「それなら……!」

楓「裕美ちゃんの選択を傷つけるわけではありません。これは私の選択です。叶うのであれば、私もこのままでいたいです」

裕美「なら諦めないで考えよう?」

楓「私も『捕食者』と繋がって長く生きてきました。結論はわかります」

裕美「それなら……そうだ、私が噛めば」

楓「……それはできません」

裕美「吸血鬼の変質は人間以外も変えられるから。洋子さんが血を吸う怪物を変えたみたいに」

楓「違います。それが理由では、ありません」

裕美「それじゃ……」

楓「私にもう変質に耐える意思が……ありません」

裕美「……」

楓「まだ『捕食者』とは繋がっています。死神の力を借りれば完全に切ることができるはずです」

裕美「……」

楓「繋がりを切れば長くはありませんが……終わりにさせてください」

裕美「何で……」

楓「私でいるためです。『捕食者』の一部でなく高垣楓でいさせてください」

裕美「何で決めちゃうの、どうして私に言ってくれないの……」

楓「あなたに背負って欲しくありませんでした」

裕美「そんなのいらないよ!」

楓「……」

裕美「私は、楓さんの……」

楓「ごめんなさい」

裕美「……私、見回りに行かないと」

楓「……裕美ちゃん」

裕美「ちょっと考えさせて。ちゃんと帰ってくるから」

楓「……はい、待ってますから」
106 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:31:31.36 ID:UcFFD9dl0
61

出渕教会・裏庭

楓「……」

ちとせ「こんばんは、楓さん」

楓「……聞いていましたか」

ちとせ「聞いちゃった」

楓「そうですか……あなたはどう思いますか」

ちとせ「ずっと、それについては考えてたから、アドバイスできるよ」

楓「それとは……終わりについて、ですか」

ちとせ「そう。何時どうやって棺に収まるのがいいか」

楓「私の選択は間違いでしょうか。自我がなくなるまで、生き続けるべきでしょうか」

ちとせ「私も考えてた。もしも終わりの前に、意識がなくなったら。病院のベッドで呼吸器につながれたまま寝ている私。会話も出来ないけど、カタチは残ってる。きっと、あの子は毎日来てくれる。傍で寝てくれるかも。ねぇ、質問していい?」

楓「……どうぞ」

ちとせ「そうしてもらいたいの?」

楓「いいえ」

ちとせ「あはっ、一緒だね」

楓「きっとワガママなのだと思います」

ちとせ「そうだよ。ワガママ。そんな甘美な時間を意識なく過ごす未来の自分を許せない」

楓「……そこまでは思っていませんが」

ちとせ「大切な人の想いを踏みにじるんだよ。そんな自分勝手なことないの」

楓「ああ……そうなのですね……」

ちとせ「わかった?」

楓「誰かに迷惑をかけたくないことも……自分の希望なのですか」

ちとせ「そう。誰かのためじゃない。苦労を誰かにさせたくないからでもない」

楓「私が……」

ちとせ「本当はね、強くないだけ」

楓「……」

ちとせ「消える恐怖と戦いながら、1日でも長く居続けることに耐えられないの。誰かと1日でも居続けることを願い事に、耐えられない」

楓「残酷なことを言いますね、あなたは」

ちとせ「私のカワイイご主人様を困らせるからイジワルしちゃった。私も強くないから、わかるよ。人が、どんな人でもそんなに強くないことも私は知ってる」

楓「……はい」
107 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:32:21.31 ID:UcFFD9dl0
ちとせ「後悔はない?会いたい人とか」

楓「ここに来る前のことは思い出せません。後悔も思い浮かびません。見送ってくだされば、それで十分です」

ちとせ「……そっか」

楓「後は任せました。行く末を、見守っていてください」

ちとせ「言われる側になると思わなかったな」

楓「お願いします」

ちとせ「言われてみてわかるな。私に言わせたくないことなんだ、って」

楓「……どちらに」

ちとせ「お散歩をしてくるね。少し時間が経ったら、裕美ちゃんを迎えに。行くところは予想がついてるから」

楓「……はい」

ちとせ「楓さん、かなり我慢してるでしょ。『捕食者』が離れたから」

楓「わかります、か」

ちとせ「小児科の病室で良く見たもの。家族の前では虚勢をはる、元気なフリをするの」

楓「伝えないといけませんでしたから」

ちとせ「休んでて。あなたはもう一度元気なフリをして、あの子の気持ちを聞くの」

楓「……はい」

ちとせ「行ってくるね」
108 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:33:35.58 ID:UcFFD9dl0
62

幕間

深夜

M公園

志希「あれ、おかしいな〜」

藍子「……」

志希「ニオイがしなかった。誰もいないはずなのに。シスターも吸血鬼も北東から来た奴も避けたのにな〜。もちろん、人間も」

藍子「何を、しているのですか」

志希「キミ、何者?」

藍子「何をしているのか、聞いているんです」

志希「意外と頑固だね。この通り、植物を集めてる」

藍子「そちらの方は」

志希「コレ?食料兼実験体。志希ちゃんは人の体液が栄養だからね」

藍子「これ、ですか……」

志希「安心して。死んでるから見られることもないよ?キミがどんな存在でも」

藍子「……」

志希「人間から集めた人間の毒、上手く行ったみたいだよ?警察は毒殺かどうかもわかってないみたいだからね〜、にゃははは〜」

藍子「この辺りの植物に何をしましたか」

志希「ちょっとした実験だよ?うーん、あ、そういうことか!」

藍子「あなた、なのですね」

志希「志希ちゃんの実験に協力してくれてありがとう!良質な植物が取り放題!にゃははは!毒の実験体も増えて一石二鳥!」

藍子「……」

志希「なに、その顔?まさか、自分が正義のミカタだと思ってた?違うよ?キミはこちら側だっ!」

藍子「私の、平穏な日常を返してもらいます」
109 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:34:44.50 ID:UcFFD9dl0
志希「にゃははは!面白いジョークだよ!キミは乱す側だよ?」

藍子「黙ってください」

志希「フーン?志希ちゃんと戦う気なんだ。えいっ、隙あり!」

藍子「これは……注射器ですか」

志希「人間から作った人間の毒。意識は速攻で混濁、多臓器不全でオダブツ……あれ?」

藍子「……」

志希「あれ、効いてない?なんで?人だよね、前見た時は……今は違う?」

藍子「わかりました……燃えてください」

志希「燃える?志希ちゃんは火に強いよ、龍でも呼んでくる気なら話は別だけど?」

藍子「見えませんか、蝶々さん達が」

志希「見える?何も見えないよ?」

藍子「蝶々さん達、準備はできましたよ」

志希「へっ?光った蝶々に囲まれてる?なんで?どこから出て来たの?」

藍子「さぁ、こちらですよ」

志希「やっば!人間に擬態してたら耐え切れない!確実に!」

藍子「はい、どうぞ」

志希「なにこれ、なにこれ、なにこれ!自然法則に反してるよ!熱い熱い、熱い!」

藍子「あなたはこの平穏な日常には」

志希「細胞が壊れる、なに、ドクター、そんなのできない!」

藍子「いりません」

志希「気管が燃えてない、喋れるのに、熱い……助け……」

藍子「毒蛇さん、さようなら」

幕間 了
110 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:35:43.15 ID:UcFFD9dl0
63

数時間後

M公園

肇「警部、お待ちしておりました」

あい「藤原君、お疲れ様。体調に問題は」

肇「ありません」

あい「それなら結構だ。状況は」

肇「お伝えした通りです。先日と似たような死体と、焼死体が1つ」

あい「今度は焼死体か。その割には」

肇「ええ。遺体以外は燃えていません」

あい「持ち込まれたのか」

肇「いいえ、ここで燃えたようなのですが」

あい「フムン。まずは遺体の特定かな」

肇「残念ですが遺体の状態が悪く。おそらく、私達が探していた人物だと思うのですが」

あい「ドクター一ノ瀬か」

肇「いえ、その……」

あい「君にしては歯切れが悪いな。どうした?」

肇「ドクター一ノ瀬は人間、ですよね」

あい「そういうことか。遺体は後だ。第一発見者を待たせているな」

肇「はい。こちらです」
111 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:36:41.39 ID:UcFFD9dl0
64

M公園

肇「こちらです」

亜季「警部殿が担当でありますか。助かったであります」

あい「君が第一発見者か」

亜季「いいえ。警部殿以外が来た場合はそのフリをしようかと」

あい「なるほどな、そういうことか」

亜季「ご察しの通りであります」

あい「本当の発見者に会わせてもらえるか」

亜季「問題ないであります。裕美殿、お連れするであります!」

裕美「わかった。翠さん、こっちだよ」

あい「君が第一発見者か」

翠「私は水野翠と名乗ります。どうぞお見知りおきを」

あい「これはご丁寧に。警部の東郷だ。こちらは藤原君」

肇「藤原です」

翠「大和さん、聞いてよいでしょうか」

亜季「なんでありますか?この2人はあちら側にも動じないかと」

翠「いいえ。人間としての質問です」

亜季「はて、人間としてとは?」

翠「この方々は人を殺めたことがありますか?」

亜季「……なんと?」

裕美「え……」

翠「警察の方ですから、罪に問われるようなやり方ではないのでしょう。ですが、人を死に至らしめている」

亜季「いや、それは幾らなんでも」

肇「……警部」

あい「今は関係ないことだ。事件のことを聞かせてくれ」

翠「肝の据わった人間だこと、気に入りました」

あい「話してくれるか」

翠「ええ、構いません」

亜季「……大丈夫でありましょうか」ボソボソ

裕美「……涼さんが言うには優しいらしいから」コソコソ

112 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:37:21.52 ID:UcFFD9dl0
あい「発見したのは何時だ?」

翠「数刻前。この辺りは人の気配が消えていました、不自然なほどに」

肇「誰もいないから、訪れたということでしょうか」

翠「はい。結果として遺体を見つけ、彼女に周囲を調べてもらいました」

あい「君にか?」

裕美「うん。でも、何も見つからなかった」

翠「死体は2つ。1つは干からびた遺体です」

肇「これで2人目です」

翠「時計が止まったのは今日の夕方。毒を盛られ死への速度が上がったのはおそらくは今朝。体液を奪われたのは死後。その後、ここに運ばれたのでしょう」

肇「毒?」

あい「毒殺なのか」

翠「死因は多臓器不全、かなり苦しみました。惨いことを」

あい「待て、何故わかる?」

肇「毒は検死では見つかりませんでした」

翠「わかるものはわかるのです」

あい「……」

翠「さて、もう1つの死体ですが」

あい「焼死体の方も、わかる、のか」

翠「いいえ。わかりません。何故なら」

裕美「……」

翠「人間ではありませんから。人間以外は管轄外なのです」
113 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:38:00.59 ID:UcFFD9dl0
65

M公園

肇「人間じゃない……」

翠「はい。種族はラミアでしょう」

亜季「ラミア?裕美殿、聞いたことはあるでありますか?」

裕美「ううん、聞いたことない。シスタークラリスなら知ってるかな」

翠「古来から存在する種族なのですよ。人の体液で生き、狡猾で色を好みます。人に紛れることも得意かと。そこのお方」

肇「私でしょうか」

翠「死体を見てください。あなたが探している鱗がそこにあります」

肇「……焼けていますが、確かに」

あい「つまり、だ」

翠「人間のご遺体は、ラミアの仕業でしょう」

あい「警察の仕事は終わりだな」

裕美「それなら……ラミアを殺したのは」

あい「見当はついているのか」

翠「いいえ。ラミアを燃やす炎となれば、龍や雷を操る神の類かと思いましたが」

亜季「龍、いるのでありますか?」

裕美「さぁ……?」

翠「それなら辺り一帯焼失しているでしょう」

肇「つまり」

あい「分からないということか」

翠「ええ。気に入りました。先ほどの殺めた件は不問とします。長生きできますよ、警察官として命を無駄にしないのであれば」

肇「……」

亜季「何か分かることはないでありますか?」

翠「私も長く存在していますが、思い当たる存在はありません。ですが、言えることはありますよ」

あい「それは、なんだ?」

翠「相手は人間ではないのでしょう」
114 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:38:38.70 ID:UcFFD9dl0
66

M公園

亜季「あっという間に元通りでありますな。日常が返ってきたであります」

裕美「そうだね」

亜季「しかし……どなたでありましょうか」

裕美「でも、気配は全くない。あんなことができるのに」

亜季「消えられるのでありますか」

裕美「わからない。翠さんは、わかる?」

翠「私が見えないなら、死後の世界。霊を使うのかもしれませんね」

裕美「それなら、小梅ちゃんかな……今はお休み中だけど」

亜季「どこにいるのか、わかるでありますか?」

裕美「ううん、涼さんも知らないって」

亜季「そうでありますか。でも、見える人なら探せるでありますな。惠は見えたでありましょうか」

ちとせ「あっ、いたいた」

裕美「ちとせさん、どうだった?」

ちとせ「影も形もなし」

裕美「そっか」

ちとせ「落ち着いた?」

亜季「……」

裕美「そっちは大丈夫」

ちとせ「そっか」

裕美「ちとせさん、亜季さんを送っていって」

亜季「私は大丈夫でありますが、ご厚意に甘えるであります」

ちとせ「わかった。裕美ちゃんはどうするの?」

裕美「翠さん」

翠「ご相談ですか。お聞きしますよ」

裕美「ありがとう。教会に戻りながらでいい?」

翠「構いません。今宵は死神の仕事もないでしょうから」

裕美「亜季さん、またね」

亜季「ええ。何時でも来るでありますよ」
115 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:39:31.16 ID:UcFFD9dl0
67

早朝

出渕教会・地下2階

楓「ふぅ……やはり、体調が悪いのでしょうか……」

裕美「楓さん」

楓「裕美ちゃん、それは」

裕美「朝ごはんのお粥。食べれる?」

楓「食べれると、思いますが」

裕美「一緒に食べよう。私は食べたら寝ようかな」

楓「……」

裕美「体の栄養が足りてないよ。気づいてないかもしれないけど」

楓「そうなの、ですね」

裕美「あのね、楓さん」

楓「……はい」

裕美「死神さんに聞いてきた。『捕食者』を離す方法」

楓「……」

裕美「一度止まればいいって。時計が止まれば、離れるから」

楓「知っています」

裕美「それなら、その後も知ってるよね」

楓「人としての時が戻ります」

裕美「……でも」

楓「私に、もう時間は残されてません」

裕美「……違うよ」

楓「どういうこと……ですか」

裕美「元に戻れる、その時間がもらえるんだよ」

楓「……はい」

裕美「楓さんは戻りたいの?」

楓「……今すぐに、でも」

裕美「そっか……死神さん、夜には来てくれるから」

楓「ありがとう、ございます」

裕美「お酒も、亜季さんが用意してくれるって」

楓「お酒……?」

裕美「味覚、戻るはず」

楓「……そう言えば、そうですね」

裕美「お粥、食べよ。ちとせさんが作ってくれたんだ」

楓「……知っていると思いますが、味覚がなくて」

裕美「大丈夫。元々味がないから。ちとせさん、全然家事出来ないんだよ」

楓「火を通し過ぎ、ですね」

裕美「一緒に食べよう。きっと飲み込みやすいから」

楓「はい」

裕美「いただきます」

楓「……いただきます」
116 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:40:12.58 ID:UcFFD9dl0
68

9月初旬のとある日曜日

昼食後

久川家・玄関

凪「はーちゃん、行って参ります」

颯「あれ?アイス食べないの?」

凪「オヤツの時間には早いですよ、はーちゃん」

颯「そうかな?じゃあ、なーの分も食べていい?」

凪「構わない。お腹を冷やしてはいけませんよ」

颯「わかってるよー」

凪「やはり、はーちゃんも行きませんか」

颯「そっちは、なーだけで行くのがいいと思うな」

凪「そうですか。一緒が良いと思うのです。たぶん」

颯「ううん。違う気がする。昨日も言ったけど」

凪「わかりました。それでは、行ってきます」
117 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:41:13.21 ID:UcFFD9dl0
69

S大学・部室棟・SDs部室

りあむ「あきらちゃん、どうどう?見つかった?」

あきら「ナシ。この辺りのSNSとか調べてるけど」

りあむ「若葉お姉さんは?5人でやってるんだよね?」

若葉「うーん、昨晩のはないです〜」

あきら「見つけたと思うと、この前の情報だし」

りあむ「情報が遅い奴がいるんだな!」

若葉「りあむさんはどうですか?」

りあむ「ないよ!そもそもぼくの情報網なんて偏り過ぎてる!」

凪「こんにちは。凪が参りました」

若葉「凪ちゃん、こんにちは〜」

あきら「んー、もうちょっと別の角度かな」

凪「みな、ケータイを見ている。じっくりと。何をしているのか。リズムゲームか?」

あきら「それは手元見てるとわかる」

凪「違うようです」

千夜「昨晩、また事件があったのですが」

凪「千夜さん、こんにちは。ごきげんよう」

千夜「しかし、妙に情報が少ないのです」

りあむ「そうなんだよ!だから、ネットに頼ってる!」

若葉「目撃者もいないんですよ〜」

あきら「警察は何にも答えてくれないし」

凪「話を聞く人物もいない、と」

椿「ただいま、戻りました」

りあむ「椿さん!一ノ瀬博士はいた?」

椿「研究室にはいませんでした。行方もわかりませんし、電話などにも出ないと」

りあむ「やっぱり!明らかにネコ科の生き物と同じ性質だもんね!」

椿「昨日の夜11時くらいに研究室を出たことはわかりました」

千夜「その直後のことは、わかりませんか」

椿「いいえ」

りあむ「そもそも土曜日だよ?土曜の深夜に人がいるのがおかしくない?」

凪「りあむ、聞きたいことがある」
118 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:41:59.87 ID:UcFFD9dl0
りあむ「せっかく、時子サマに頼まれたのに!凪ちゃん、何か言った?」

凪「一ノ瀬博士を何故探しているのでしょう?」

りあむ「時子サマに頼まれたからだよ!」

凪「その事件に関係があるのですか」

千夜「わかりません」

りあむ「無事じゃないと安心できないからね!何もないを証明するんだよ!」

凪「なるほど」

若葉「何もないを証明するのは難しいですね〜」

千夜「同感です」

あきら「あかりが帰ってきたら」

りあむ「良い感じだったら続ける!」

凪「そうではなかったら?」

りあむ「ぼくたちの予定を優先しよう!正直、見つからなそうだし」

千夜「それで良いかと」

りあむ「あかりんご、そろそろ来る気がする」

あかり「ただいま、帰りました!山形の薄焼き煎餅をもらったんご!」

あきら「あかり、お帰り」

あかり「酒田市の会社が作ったお煎餅でとっても美味しいんですっ」

千夜「辻野さん」

あかり「パッケージも味があるんご。あっ、千夜さん、食べたいんですか?どうぞどうぞ!」

千夜「聞き込みの件、いかがですか」

あかり「全く何もさっぱりわかりませんでした!」

凪「心地よく断言」

千夜「わかりました。お煎餅もいただきます」

りあむ「こっちはおしまい!ぼくたちの疑問を解決しよう!」
119 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:43:33.10 ID:UcFFD9dl0
70

S大学・部室棟・SDs部室

千夜「書けました。昨日の調べものはこの通りです」

りあむ「白雪ちゃん、ありがとう!最高かよ!」

凪「持田氏の手順書にありました。今こそ時系列を思い出すのです」

千夜「凪さんに賛成です。先に振り返りましょう」

凪「よし。それでは、何が始まりでしょうか」

りあむ「あかりんごが人魂を見たこと!ん、違うか?」

凪「半分は正解です」

椿「私達から見れば、ですね」

あきら「あかりがN公園で見たのは、時間的には最初じゃない」

あかり「凪ちゃんが見つけてくれた蝶々はその前からいたんですね」

りあむ「そうそう!T公園にいたクローバーのエンジェルが言ってた!」

凪「緒方智絵里さんのことのようです。彼女はもう少し後にも登場する」

あかり「蝶々は植物を治していたんですよね?」

あきら「そうだと思う。N公園であかりが見たのは、特別」

凪「昼間は人に見つかってしまう」

椿「N公園は見渡しもいいですから」

あきら「夜まで待って、見えない蝶々を動かした」

りあむ「それをあかりんごが目撃した!」

凪「運が良い。いや、悪いのか」

千夜「その蝶々により、影響を受けた植物を探しました。結果、幾つかの公園で見つかりました」

りあむ「前にまとめた、この範囲内だね!大学とアンテナショップを結んだ四角のエリア!」

凪「それでは、何故治す必要があったのでしょう」

若葉「植物が傷んでしまう理由は幾らでもありますよ〜」

凪「ええ。その通りです」

あきら「今年、猛暑日も結構あったから」

椿「人が多いと踏まれたりしてしまうこともありますから」

りあむ「それならいいけど、それだけじゃない!明らかに蝶々の敵がいた!」

千夜「敵は言い過ぎだと思いますが」

若葉「あまり気の利かない人達がいたみたいですね〜」

りあむ「そう!それがダンサー見習いの言ってたナンパ系!何人かで徒党を組んでる!」

凪「その通りです」

あきら「でも、その人達……」

あかり「事件に巻き込まれてますよね?」
120 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:44:14.81 ID:UcFFD9dl0
りあむ「うん。刑事が言ってたから、その通りだと思う」

千夜「ここ数日は目撃情報もないようです」

あかり「もしかして、昨日の事件も?」

あきら「たぶん、そう」

あかり「あれ?それって、まさか」

あきら「蝶々の持ち主と」

千夜「殺人犯が同じ、ということですか」

凪「いいえ、凪はそう思いません」

若葉「私も賛成です、そうじゃないと思いますよ」

椿「私もそんな気はしますけど、どうしてですか?」

凪「目的です」

りあむ「目的?植物を治すことは手段?」

千夜「それならば目的は、何でしょうか」

あきら「植物……平穏とか」

あかり「あきらちゃん、それですっ!」

凪「イエス。平和ないつも通りに戻しているのに、公園で事件を起こすとは思えません」

りあむ「そっちは警察に任せる!蝶々の持ち主だよ、見つけたいのは!」

凪「りあむと珍しく意見が合いました」

あきら「りあむサンの言う、敵がまだ別にいる」

りあむ「T公園だね!」

凪「これも緒方智絵里さんが見つけてくれました。シーイズクローバーエンジェル」

あかり「毒とか薬品が撒かれて、枯れそうな植物が」

あきら「治ってた。明らかにおかしいスピードで」

椿「これも幾つかの場所で見つかりました」

若葉「残念なんですけど……」

千夜「……善意は思う結果をもたらすとは限りません」

椿「蝶々のお仕事は、将来的には毒になってしまうかもしれません」

若葉「T公園のクローバーは、枯れちゃうと思います」

りあむ「むぅ……世の中善人が報われるべきだよ。そうでしょ?」

あかり「性格が良いだけで報われるなら苦労なんてしないんご」

あきら「……そうデスね」

りあむ「あれ?こっちの毒を撒いた犯人わかる?りあむちゃんには全然わかんないぞ?」

椿「うーん、確かに。わかりませんね」

りあむ「ナンパ系と入れ替わってそうなタイミングになってる?気のせいか!」

千夜「本当に偶然、でしょうか」

あきら「確かめる方法あるかな」

凪「手段は簡単です。凪には考えがあります」

りあむ「凪ちゃん、その考えって?簡単にできる?」

凪「聞けばいい。蝶々の持ち主に」
121 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:46:46.15 ID:UcFFD9dl0
71

S大学・部室棟・SDs部室

凪「りあむ、凪達はできますか?」

りあむ「出来るよ!さっき白雪ちゃんがまとめてくれたし!」

千夜「昨日の調査結果、役に立ちそうですか」

凪「はい。りあむ、蝶々の持ち主の能力は」

りあむ「植物を治すこと!自然法則を無視するくらいに!」

若葉「蝶々を消したり配置したりもできるみたいです〜」

椿「蝶々の能力なんでしょうか」

若葉「能力のある蝶々を作る力なのかもしれませんね〜」

凪「りあむ、蝶々の持ち主の目的は」

りあむ「想像だけど、平和な公園が好きとか?だから元通りにしたい」

あきら「それなら公園好き、がヒント」

あかり「公園好きなら、よく公園にいる?」

凪「はい」

千夜「蝶々の持ち主は公園にいる人物」

椿「この近所では知り合いも多いかもしれませんね」

凪「それがポイントです」

りあむ「そうか!わかったぞ!ぼくも冴えてるな!」

凪「りあむ、蝶々の持ち主が見つからない理由は?」

りあむ「あれ?みんな分かってる感じ?ぬか喜び?」

千夜「凪さんとお前が誘導してくれた結果です」

あきら「チームプレイとしてはいいカンジ」

りあむ「よし!自信を持って良さそうだな!」

凪「それでは、質問の答えを」

りあむ「疑われてないから!知り合いなんだよ!」

あかり「昼に堂々と出入りしてるんですねっ」

あきら「夜は逆に疑われるから」

千夜「蝶々は、普通の人には見えません」

若葉「力を発揮するのも一瞬みたいですから」

椿「範囲も狭そうですし」

りあむ「人の目に見えるのは一瞬だけ!更に効果は速攻!バレそうにないよ!」

凪「疑われない理由はわかりました」
122 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:47:28.33 ID:UcFFD9dl0
千夜「スーパーレッドの件がありました。これから考えるに」

若葉「知り合いが能力を得た、そう考えられますね」

凪「それでは、その人物は誰か」

りあむ「それで、昨日の調査結果だよ!」

千夜「はい。誰もが知った人物であればいい」

あかり「何人か有名人がいましたっ」

千夜「その方々は名前をホワイトボードに書きました」

あきら「そこから、どう特定するか」

凪「凪もそうであるように、能力は秘匿します。それは人間の防衛反応です」

りあむ「うん。忌み嫌われて村八分からの大虐殺は昔話のバッドエンドパターンだし」

千夜「辻野さんが目撃したのは例外ですが」

凪「植物に異変が起きていることに気づけるはずです」

りあむ「ぼくでもわかるくらいにね!いつもいるなら気づくよ!」

凪「その通り。わからないはずがない」

あかり「悪い異変も、良い異変も、両方調べたらわかりましたっ」

千夜「私達は何人かに話を聞きました。時には同じ人物に」

あきら「意見は変わってきてる」

りあむ「クローバーのエンジェルなんて最初から気づいてた!」

椿「昨日で意見が変わった人もいましたね」

若葉「蝶々の力が分かりやすくなっていましたから」

あかり「気づいた人が増えて当然なんです」

凪「能力を隠すのは防衛反応、それが薄れてきている」

千夜「公園の手入れや草むしりをしているはずの彼女が」

りあむ「一人だけ意見を変えてないのは、おかしい。最初だけだったら、ゆるふわの天然さんだねっ、めっちゃカワイイ、ズルい!って思うけど」

凪「それどころか、答えもほぼ同じ。用意していたようだ」

あかり「本当にずっと意見が同じ人がいますっ……え、この人?本当に?」

りあむ「性格も、公園の平和を望んでそうな気がする」

あきら「どんな人でも仲良し。それに、まず疑われるような人じゃない」

千夜「はい。私も驚きですが、結果として出ています」

りあむ「蝶々の持ち主は……」

千夜「高森藍子さん、でしょう」
123 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:48:17.59 ID:UcFFD9dl0
あかり「偶に見かける優しそうな人なのに。見るだけで疲れが取れるのに」

凪「結論はでました。緒方智絵里さんにいる場所は教えてもらいました」

若葉「行きましょう。強い能力ですから、辞めさせないと」

凪「相談できる人もいないのかもしれません。いや、ほぼ確実にいない」

りあむ「よし!説得しにいこう!やめさせよう!若葉お姉さん、全色集合で!」

若葉「はい」

りあむ「人払いもしないと!みんな協力して、役割分担しよう!」

千夜「はい。分担を決めましょう。凪さん、意見は」

凪「凪は話をします。他に説得役は」

りあむ「若葉お姉さんはいて!1人以外は近くに待機で!」

若葉「わかりました〜。説得もがんばります〜」

千夜「凪さんに、日下部さん、もう1人は……」

りあむ「えっ?ぼく?どう見てもキャスティングミスじゃない?」

あきら「ちょっと自信ないデス」

あかり「あかりんご、がんばるんご!」

千夜「……」
124 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:49:16.85 ID:UcFFD9dl0
椿「私が行きましょうか?」

千夜「いえ、江上さんは人払いをお願いします」

椿「わかりました」

千夜「私も凪さんと日下部と一緒に行きます。辻野さん、砂塚さんは江上さんの手伝いを」

あきら「了解」

りあむ「あれ?白雪ちゃん、ぼくは?ぼくは何すればいいかな?」

千夜「好きにしてください」

りあむ「え!まさかの蚊帳の外!?酷いよ!代表だぞ!?」

千夜「言い方が悪かったです。自分の判断で動いてください」

若葉「りあむちゃんなら判断を任せられるってことですよ〜」

椿「信頼されてますね。さすが、代表です」

りあむ「そ、そうかな?いや、騙されてる気もするぞ?」

凪「話は決まった。一刻も早く行きましょう。りあむ、号令を」

りあむ「ま、いいか!それじゃ、SDs出発する!日曜日が終わる前に人魂事件を解決しちゃおう!」
125 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/12/05(土) 23:50:49.28 ID:UcFFD9dl0
本日はここまで、続きは明日にでも。

それでは。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/12/05(土) 23:53:10.64 ID:c6N2tAE+0
いいところで次回に続く。楽しみに待ってます
127 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:06:23.71 ID:lWSQgzZC0
72

M公園・入口付近

凪「目標はベンチにいます」

千夜「準備は」

りあむ「椿さんが人払いしてくれた。問題なし。若葉お姉さんも、あそこに、そこに、あっちに、向こうにいるから」

若葉「はい。いつでも大丈夫ですよ」

りあむ「白雪ちゃん、お願い。ぼくは説得できそうもないし。だって、良いことしてるつもりなんだよ?善人はぼくには扱えないよ」

千夜「善処します」

りあむ「ぼくは若葉お姉さん黄色のところにいるから。通話聞いてるから頼るんだぞ、若葉お姉さんを」

凪「通話よし。お話の時間です」
128 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:09:35.20 ID:lWSQgzZC0
73

M公園

千夜「こんにちは」

藍子「こんにちは。良いお天気ですね」

千夜「ええ。高森藍子さん、お話があるのですが」

藍子「お話ですか?はいっ、ベンチにどうぞ♪」

千夜「おかまいなく」

藍子「そうですか?私、お喋りが長くなっちゃうので」

凪「ほう、時間操作系か」

若葉「……」

千夜「お聞きしたいことがあります」

藍子「なんですか?」

千夜「改めてお聞きします。何か変わったことはありますか」

藍子「ありませんよ。とっても平和です」

千夜「それでは、人魂を……いえ、違いますね」

凪「蝶々を見ませんでしたか?」

藍子「蝶々ですか?見てません」

若葉「……」

千夜「植物が育っているのを見ませんでしたか」

藍子「今年は晴れの日が多かったですから、キレイですよね」

千夜「そうでは、ありません」

若葉「よく見てる、あなたなら分かると思います」

凪「フツウでない成長をしているものがある」

藍子「ありませんよ。そんなこと、ありません」

千夜「試すような物言いをして、申し訳ありません」

若葉「……間違いないです」

凪「お話に来ました」

藍子「なんですか?」

千夜「私達でもわかるほどに、異変は起きています」

凪「植物を治す緑の手。平和を守る蝶々。その持ち主は」

千夜「あなたです、高森藍子さん」
129 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:11:31.75 ID:lWSQgzZC0
74

M公園

藍子「違いますよ」

凪「肯定はしないようです」

千夜「私達は肯定の言葉を聞きたいわけではありません……日下部さん、お願いします」

若葉「聞いてください。その力はとっても強いです」

藍子「なんの話ですか?」

若葉「植物が育つには時間が必要です。昼と夜を繰り返さないと、元気にはなりません」

藍子「……」

若葉「気持ちはわかります。でも……あなたの力で一時的に強くなっても枯れてしまう」

千夜「……」

若葉「お願いだから、辞めてください。強い力を使ってるので、あなたも消耗してるはずです」

藍子「……」

千夜「私からもお願いします。凪さんも、お願いしてください」

凪「公園の保全活動は手伝います」

若葉「どうですか……?」

藍子「私には、何のことだか……わからな……」

若葉「……」

凪「若葉お姉さんをじっと見ている」

藍子「だって……あの人、毒を撒いたんですよ」

凪「……あの人とは」

藍子「言ったのに。怪しい女の人がいるって」

千夜「聞きました。彼女が誰かもわかっています」

藍子「わかりました、何もしてくれなかった理由が」

凪「手を伸ばした。若葉お姉さんの方に」

千夜「……凪さん!」

凪「凪は、見ました」

千夜「指が、消えた……?」

藍子「仲間だったんですね。あなたも」

凪「話がわからない」

千夜「申し訳ありません、一体何を……」

藍子「同じようにここで燃やしたりしません、だけど怯えてもらいます」

若葉「えっ、光る蝶々が首に」

藍子「もしも平和を乱すようだったら。蛇の妖怪みたいに、こうですよ」

若葉「きゃあ!」
130 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:12:54.23 ID:lWSQgzZC0
千夜「日下部さん!」

凪「凪は見ました。蝶々を。光る蝶々を」

藍子「あれ?おかしいですね」

千夜「よかった、無事の様です」

りあむ「ダメだ!若葉お姉さん!突撃!」

若葉「捕まえますよ!」

若葉「隙あり!」

若葉「大変です〜」

若葉「逃がしませんよ〜」

藍子「忠告はしましたよ?サヨナラ」

若葉「きゃっ!」

若葉「おっとっと、危ないですよ〜」

若葉「衝突しちゃいました〜」

若葉「消えた……?」

凪「凪は、見ました」

千夜「私も……見ました」

凪「蝶々になって、消えてしまいました」

千夜「日下部さんが抱き合う格好に」

りあむ「そんなことより若葉お姉さん!大丈夫!?息が荒いよ!何されたのさ!?」

凪「わかりませんが」

千夜「殺意があった……そんな人物ではないはずですが……」

りあむ「外傷はない!喋れる!?というか、聞けばいいんだ!黄色の若葉お姉さん!緑の若葉お姉さんの状態は!?」

若葉「元気過ぎて調子を崩してます〜。しばらく安静にしたら前より元気になると思いますよ〜」

りあむ「よく意味わかんないけど、帰ろう!赤の若葉お姉さん、車持ってきて!部室に運ぶよ!今なら誰にも見られてないし!」

若葉「わかりました!」

凪「千夜さん、凪はわかりました」

千夜「私もわかりました。蝶々を使うのではなく……」

凪「あの人が蝶々の集合体でした。いや、なったと言うべきか」
131 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:15:53.45 ID:lWSQgzZC0
75

夕方

S大学・部室棟・SDs部室

あかり「若葉お姉さん、大丈夫ですか?お水をどうぞ」

若葉「ふぅ、ありがとうございます〜」

あかり「うん、熱も下がったんご!」

あきら「何か、肌がつやつやしてる?」

あかり「本当ですね!でも、何ででしょう?」

若葉「それは、私が植物の性質も持つからだと思いますよ〜」

あきら「植物の性質?」

千夜「日下部さん、大丈夫でしょうか」

若葉「おかげさまで〜」

千夜「言っていた通りでした。安心しました」

若葉「私は私ですから、私のことはわかるんですよ〜」

千夜「そのようですね」

りあむ「ただいま!あぁー、めっちゃ緊張した!怖かった!」

あかり「りあむさん、警察の人から情報聞き出せましたか?」

あきら「ここが重要」

りあむ「聞き出してやったよ!嘘じゃない!光る蝶々に一ノ瀬博士が倒されてた!」

若葉「……やっぱり」

りあむ「アジトも見つけたって!行方不明のナンパ系が監禁されてたのも見つけた!犠牲者一人減らせた!」

千夜「これで話が繋がります」

若葉「どうにかしないと、行けませんね」

りあむ「うん。緑の若葉お姉さん、会議に参加できる?」

若葉「はい」

りあむ「何か話が大きくなっちゃったけど、対処法を考えるよ!あかりんごの安全のために」

あかり「あれ、私ですか?」

あきら「最初からずっとそう」

千夜「残念ですが、ここまで来て本当に危険なことがわかりました」

凪「皆さん、始められますか。椿さんがコーヒーの準備をしてくれました。凪にはソーダを」

千夜「ええ。皆さん、テーブルへ」
132 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:19:49.02 ID:lWSQgzZC0
76

S大学・部室棟・SDs部室

りあむ「結果的にだけどさ、もしかして、全部の疑問が解決した?」

椿「そうみたいです」

千夜「ええ、結果的に」

あきら「毒を撒いた犯人、わかった」

千夜「私が高森藍子さんから聞いた、不審な女性と同じ人物です」

りあむ「それは一ノ瀬博士だった!毒を撒く前から良い印象なかった、これはりあむちゃんの妬み入りだけど!」

凪「そして、彼女はそれだけではありません」

あきら「昨日の事件で、被害者だった」

あかり「被害者だけど、干からびた遺体を放置した犯人だったんですよね?」

若葉「しかも、人間ではありませんでした」

千夜「蛇の妖怪、と言っていました」

凪「盛りだくさんです」

りあむ「まさかだよ!役割乗せ乗せ過ぎて大混乱だよ!」

凪「しかし、わかることが増えた」

千夜「時系列的にも説明がつきます」

凪「蝶々が出現することになった原因を作っていたのは」

りあむ「ナンパ系から毒を使う博士に入れ替わった!」

あかり「入れ替わった理由は」

あきら「声をかけてはいけない存在に触れてしまったから」

あかり「都会は怖いんご……」

りあむ「博士のアジトには植物も一杯あったらしいよ!」

椿「毒を撒く前から、公園のお尋ね者だったんですね」

千夜「私達に忠告していたのですから、高森藍子さんは気づいていたのでしょう」

あきら「すぐに捕まえてたら、何も起こらなかった、のかな」

千夜「いいえ。財前さんが警告に言っていますが」

りあむ「何も止まってなかった!だって、その後遺体が2つ見つかってる!」

若葉「相手は人ではありませんから」

あきら「……人でないことを明らかにして、教会の人達に突き出さないといけなかった」

千夜「このような事態を起こさないためには、それが必要でした。しかも、数日中に」

あかり「それは、難しいです。自分の力を越えちゃうことは、直ぐには出来ないんです」

若葉「もしも、その道があったとしたら。それは、高森さんが言ってくれた時だけだと思います」

あきら「……自分が変わったこと?」
133 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:22:03.56 ID:lWSQgzZC0
若葉「はい。日下部若葉として、とってもわかります」

千夜「……」

凪「それも難しいことです。人は隠します」

若葉「そうですね〜。私はラッキーでした」

りあむ「あきらちゃん、気になった!さっきなんて言ったの!?」

あきら「さっき……自分が変わった」

りあむ「蝶々の持ち主は、変わったの?」

あきら「あ、勝手にそうだと思ってた」

りあむ「いや!正解だと思う!そんな気がする!」

若葉「私もそう思いますよ〜」

凪「同感です。疑われない理由からしても」

あかり「顔馴染みだったから、ですねっ」

千夜「それと、スーパーレッドの話もあります。変えてしまう存在もいます」

りあむ「いきなり変わっちゃったから、相談相手がいないってこと」

椿「はい。それと、気になることも幾つか」

若葉「自分の能力を把握してない気がします」

凪「しかし、能力は強力です。生命を操る能力は、若葉お姉さん、いかがでしょうか」

若葉「とっても凄い力ですよ」

凪「そういうものには反動がつきもの」

若葉「どこからエネルギーを得ているんでしょう……心配です」

千夜「凪さんは見たと思いますが、高森藍子さんは自分の肉体を蝶々に変えていました」

りあむ「気づかれない理由もわかった。消えれる、というか変われる」

凪「別のチャネルを移動しています。蝶々となって」

千夜「気配がないと、お嬢さまが言っていた通りです」

あかり「えっと、はい!」

りあむ「あかりんご、手を挙げてどうしたの?質問?」
134 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:22:50.06 ID:lWSQgzZC0
あかり「その、大丈夫なんでしょうか。体調とか」

りあむ「うーん、直接見たわけじゃわからないけどさ、マズイ気がする。若葉お姉さん、どう思う?」

若葉「蝶々を使う能力なら良かったんですけどね〜」

あきら「やっぱり、問題か」

若葉「人間は、別のチャネルにはいけないはずです」

椿「……」

若葉「もう人じゃないのかも、しれません」

凪「蝶々の集合体ということ、ですか」

若葉「はい……そうじゃないかもしれないですけど」

あきら「それなら、どうやって人間に化けてる?」

凪「それはわかりません」

千夜「ですが、様子がおかしいです。時間の問題かと」

あかり「高森藍子ちゃんでいられなくなっちゃう」

あきら「……もう1体倒してる。誰にも気づかれずに。しかも圧倒してる」

あかり「……」

椿「私達の力では対処できません」

若葉「教会の人達に助けてもらいましょう」

凪「相手は強敵ですが、凪には対策があります」

りあむ「対策?相手、消えるんだよ?幽霊みたいに」

凪「若葉お姉さん、蝶々の個体は格が高いでしょうか」

若葉「集まれば強いと思いますけど、一匹一匹はそこまでじゃないですよ」

凪「それならば問題ありません」

りあむ「どういうこと?凪ちゃんが捕まえられるとか?」

凪「教会には『捕食者』がいます」

若葉「『捕食者』……もしも最悪の事態になったら、絶対に倒せます」

凪「あれは掃除屋です。間違いありません。人間の窓口があって助かりました」

千夜「最悪を避けるために、動きましょう」

りあむ「すぐに!若葉お姉さん、車出してくれる!?」

若葉「どうぞ〜。準備できてますから」

りあむ「白雪ちゃん、行こう!」

あきら「高森サンの場所、調べとく」

千夜「わかりました、急ぎましょう」
135 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:23:47.65 ID:lWSQgzZC0
77

出渕教会・地下1階

クラリス「……」

千夜「……」

美由紀「クラリスさん、どうするの?」

クラリス「お話はわかりました。涼さん、おりますか」

美由紀「斜め後ろにいるよ」

涼「ああ」

クラリス「高森藍子さんの様子を見て来てください」

涼「わかった。居場所については」

りあむ「あきらちゃんが調べてくれた!自宅にいるみたいだよ!」

涼「ありがとな、行ってくる」

美由紀「気をつけてねー」

クラリス「報告が来るまでに、お話を」

千夜「わかるのでしょうか」

りあむ「昔もいたとか?」

クラリス「完全に一致する存在は私の記憶ではおりません。お二人にご質問を」

りあむ「質問?」

クラリス「人間の心は、どこにありますか?」

千夜「……難しい質問ですね」

りあむ「昔の人は胸にあるって言ってた。心の臓器だから心臓だって」

千夜「心臓ではないとしても。全てが脳の中、とは言い切れません」

りあむ「うん。人間は脊髄反射もするからね。脳に必要な物質は別の所から来るし、気分も知性もどこにあるかは決められない」

クラリス「心と体は不可分です。高性能な計算機は心を演算できるかもしれませんが、計算機で演算していること自体が違いを生みます」

りあむ「ぼくの心は白雪ちゃんには宿らない、ってことだね!白雪ちゃんだったら、ぼくも落ち着いた性格になるかも」

千夜「こちらから願い下げです。おぞましい妄想をするな」

クラリス「白雪さんには申し訳ありませんが、黒埼さんも人間の時と心は変わっています」

千夜「……それは、わかっています」

りあむ「でもでも、ちとせは変わってないよ。性格もだけど、体もそんなに」

クラリス「吸血鬼の特性でしょう。人間が変質した存在ですから、人間らしさを保っています」

りあむ「なんだ……イヤな感じがするぞ。悪い点と点が繋がった気がする」
136 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:24:41.93 ID:lWSQgzZC0
千夜「それならば、高森藍子さんはどうなのですか」

クラリス「どのように、人間としての姿を維持しているのか理屈はわかりません」

りあむ「まさか、外側がそう見えるだけ?中身は蝶々の大群とか」

クラリス「気になることがあります。どのように蝶々を操り植物を育てるエネルギーを得ているか」

千夜「日下部さんも同じことを言っていました」

クラリス「私達の協力者に、ネクロマンサーの白坂小梅さんがおります。彼女といえども、能力の強大さと引き換えにリスクを伴います」

りあむ「ネクロマンサーって死体とか幽霊とか操る人だよね、ヤバイ奴じゃん」

クラリス「物質世界とは別の場所から力を得ますが、開けることは肉体と精神の消耗を招きます」

りあむ「今いないよね?そのせいで休んでるの?」

クラリス「はい」

美由紀「涼さんがとっても心配しちゃうから、平和なところで休んでるんだよ」

クラリス「そのような能力を持つ人物は消耗を補うために過食をしたり、飢餓状態に強くなるように修行をしているのが常です」

千夜「修行僧のようなもの、でしょうか」

クラリス「修行を経ているならば問題はありません。問題なのは違う場合です」

りあむ「修行してない時?」

クラリス「偶発的にそのような能力を得た場合、多くは不幸な結末を迎えます」

千夜「不幸な結末……」

クラリス「肉体の欠損です。こちらの事情など分かってはくれませんから」

りあむ「なんか、マンガで見た気がする。腕持ってかれた、ってやつ」

クラリス「時には死や、完全な消滅を招きます」

千夜「……」

クラリス「前置きが長くなりました。開けることにエネルギーを使いますが、効率の良い方法があります」

りあむ「わかったぞ。貯めるとか?」

クラリス「その通りです。別の場所から得た力を貯め込むのです」

千夜「危険なように聞こえますが」

クラリス「器がなければ水は溜まりません。肉体を代償に変質を行った例は存在します」

りあむ「それって、幽霊になるってことだよね?人間じゃなくて」

クラリス「イメージとしては正しいかと」

千夜「今回も、そうなのですか」

クラリス「何かを犠牲にしなければ、強大な力は得られません。高森藍子さんは、蝶々を産み出す代償を払っています」

りあむ「ん?ちゃんと食べればいいんじゃないの?さっき、過食とか断食修行とか言ってたし」

クラリス「力を使う量や頻度が小さいのであれば、それで良かったでしょう」

千夜「……違うと」
137 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:25:55.31 ID:lWSQgzZC0
クラリス「ラミアの毒を打ち消し、ラミアそのものを葬るような力です。多くの肉体を変異させることで結果を得たと考えています」

りあむ「え?今はどうなってんの?りあむちゃんには理解不能だよ!」

クラリス「蝶を増やせば、力を保つことは容易です」

りあむ「開けるための肉体もいらなくなった、ってこと?何もしなくても、緑の手をいつも使える?」

クラリス「そうなります」

千夜「つまり……彼女が願ったからですか」

りあむ「力を使って平穏な日常を保とうとしたから。辞めなくちゃいけなかった、関係ない関係ないって、ジコチューの方が良かったんだよ。ラミアだか何だか無視してさ」

千夜「ままならぬものですね」

クラリス「今は願いましょう。彼女が残っていることを」
138 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:26:53.12 ID:lWSQgzZC0
78

出渕教会・地下1階

涼「ただいま」

千夜「お早いですね」

涼「ああ。シスターから状況は聞いたか」

りあむ「聞いた!それで、どうだったの?」

涼「死神は人間の時計が見える。高森藍子には時計がない」

千夜「既に人間である部分はない、ということですか」

クラリス「願いは届きませんでした」

千夜「ならば、進む道は1つしかありませんか」

りあむ「いや!でもでも!人間じゃなくても、善い存在の可能性はあるよ!どう見たって性格良さそうでしょ!」

美由紀「うーん、難しいと思うよー」

りあむ「そこから反対意見が出るのか。どうして?」

美由紀「女王様がいないんだもん」

クラリス「群体だけで共通意識を持つことは難しいのです」

美由紀「若葉ちゃんに聞いてみて、大変だって言うよ」

クラリス「今は形を保っているようですが、高森藍子さんの善意を保てなくなるのは時間の問題でしょう」

涼「美由紀の言う女王様、人間の高森藍子がいない」

りあむ「う……実際、明らかに敵意むき出しだったけどさ……」

涼「それと、もう1つ」

クラリス「悪い知らせでしょうか」

涼「千夜サン、S公園の老桜は知ってるか?」

千夜「知っています」

りあむ「ちとせと見た!枝垂桜だよね!」

千夜「ここ数年、咲いているのは見たことがありませんが」

りあむ「ちとせが咲いたらキレイかな、とか言ってた」

涼「それが、咲いてる」
139 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:28:45.17 ID:lWSQgzZC0
りあむ「全く時期じゃないよ!おかしいでしょ!ていうか、咲けるような状態じゃなかった!」

クラリス「平穏とは程遠い出来事です」

りあむ「桜の時期を考えられなかった、ってことか?」

千夜「高森藍子さんの考えとは違います」

りあむ「ごめん、白雪ちゃん。やっぱり奇跡は起きないと思う」

千夜「お前が謝ることなどありません。望んだものではありませんが、結論は出ました」

クラリス「『蝶』への対処が必要です」

美由紀「でも、見えなくなっちゃうんだよねー」

クラリス「私の力では対処できません。見えるのならば問題はありませんが」

涼「アタシも領域外だな」

クラリス「ネクロマンサーもおりません」

千夜「その結論は出ています」

りあむ「そう!若葉お姉さんからも教えてもらった!それぞれは小さいから、何とかなる!」

千夜「高垣楓さんに対処をお願いしたいのです」

りあむ「凪ちゃんが言ってた『捕食者』なら天敵!一網打尽!」

美由紀「あー……」

クラリス「……」

涼「……」

りあむ「あれ?変なこと言った?」
140 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:29:18.59 ID:lWSQgzZC0
涼「考え方はあってる。『捕食者』が正解だ」

美由紀「『捕食者』さんのお腹も一杯になると思うよ」

クラリス「今この時でなければ、当然の帰結です」

りあむ「……どういうこと?」

クラリス「『捕食者』はここにはおりません」
141 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:31:46.16 ID:lWSQgzZC0
79

S大学・部室棟・SDs部室

凪「ふむふむ」

千夜「話は以上です」

若葉「……あちら側じゃなくなる選択をしたんですね」

椿「私は悪い選択ではないと思います」

千夜「ええ……しかし、タイミングは良くありません」

あきら「状況は想定外に悪い方向」

あかり「うーん……どうしたらいいんでしょう……」

りあむ「若葉お姉さんも全色集合で頭抱えてるし」

若葉「このままだと更に悪いことが起こりそうです……」

椿「悪いこと、とは」

若葉「力を使うために何かを食べ始めるかもしれません。もしかしたらラミアも燃えたんじゃなくて……」

りあむ「動物から力を吸って、植物に与えてるってことか」

あきら「ただ生き延びるためにそれをするかも」

あかり「早く止めないと!りあむさん、方法はあるんですか!?」

りあむ「『捕食者』を見つけて連れてく。それしかないと思う」

あかり「でも、見えないんですよね?」

あきら「違うチャネルの存在デスから」

凪「いいえ。ここは凪の出番です」

あかり「そっか!見えるようになるんですねっ!」

椿「妹さんと2人なら」

凪「はい。はーちゃんを部室にお呼びしました。急用と伝えたら来てくれます」

千夜「教会の人々が言うには、遠くには行ってはいないそうですが」
142 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:32:32.87 ID:lWSQgzZC0
りあむ「居場所はわからない!そもそも行動原理なんてないみたいだし!」

若葉「『捕食者』は食べるため以外の能力はほぼありませんから」

千夜「お前、財前さんからの連絡はありましたか」

りあむ「あったよ!霊感がある人が部室に来てくれるって!」

凪「それは心強い」

りあむ「久川姉妹とその人で『捕食者』を見つけて!ぼくたちは『蝶』の監視しておこう!」

あきら「今は自宅にいるっぽい」

りあむ「おっ、流石あきらちゃん!でも、消えられるけど平気なの?」

あきら「それも対策してる。あかり、大丈夫?」

あかり「はい!公園の近所にいる人達から連絡がもらえます!」

千夜「準備はできました」

りあむ「そう!まずは颯ちゃんと霊感がある人を待とう!」
143 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:34:30.16 ID:lWSQgzZC0
80

S大学・部室棟・SDs部室

千夜「颯さんがいらっしゃいました」

颯「こんにちは!」

りあむ「待ってたよ!」

颯「なー、急に来てって何があったの?」

凪「実は、探し物をしたいのです」

颯「探し物?みんなで見つけられなかったの?」

凪「はい。はーちゃんとでなければ見つけられません」

颯「そうなの?早く見つけて帰ろうよ、ゆーこちゃんがお夕飯作り始めてるよー」

若葉「……あれ?」

凪「ええ。見つけたいものは『捕食者』です」

颯「え?」

凪「『捕食者』です。食べねばならない相手がいます」

颯「どこかに行っちゃったんでしょ?美味しそうな相手なら出てくるから大丈夫だよ」

りあむ「む?んー?なんで知ってるのかな?」

コンコン!

凪「ノックの音がしました」

千夜「財前さんが連絡してくれた人でしょうか」

あきら「入ってきた」

伊集院惠「お邪魔するわ。時子ちゃんから言われてきたのだけれど」

伊集院惠
S大学工学部の修士課程1年生。時子とは学部時代に同じサークル、SWOWに所属していた。科学的な目も非科学的な目も兼ね備えるとか。

あかり「すっごい長髪のめっちゃ凛々しい美人が来たんご、財前さんのお友達はレベルが高いです」

惠「へぇ、時子ちゃんから聞いている以上にバラエティ豊かなのね」

あかり「えっ?あきらちゃん、見ましたか」

あきら「うん……何もないスペースを避けた」

あかり「まさか、何かいるんじゃ……」

あきら「そうだとしたら、本当に見える人なんデスかね」

あかり「財前さんが言うんだから本当に決まってますよっ」

惠「夢見りあむさんは?」

りあむ「ぼくだよ!時子サマが呼んでくれた人だよね!」

惠「伊集院惠よ、よろしく。時子ちゃんからは詳しく聞いてないのだけど、私に何を手伝って欲しいのかしら」

あきら「平気なのはわかってるけど……」

あかり「時子ちゃん呼びはこっちが緊張するんご……」

颯「えっと、この人が来たからもう平気かな?」

凪「いえ。2倍速の方が良い」

りあむ「『捕食者』を探して欲しいんだ!幽霊とか見えるんでしょ!?」

惠「えっ?」
144 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:35:47.24 ID:lWSQgzZC0
あかり「驚いた顔も美しいんご……都会の大学生は凄いんですね……」

あきら「あかりは何に注目してるの?」

颯「……」

惠「ごめんなさい、確認していいかしら。何を探すのかしら?」

凪「『捕食者』です。大きな口です」

りあむ「おねーさん、気になることがあるの?探したくないとか?」

惠「いえ、『捕食者』ならそこにいるから驚いて。高垣さんが近くにいるのかしら」

若葉「やっぱり……」

りあむ「え?本当に!?」

あきら「さっき避けたの……『捕食者』がいたから」

凪「何と。確認するしかない。はーちゃん、チューニングを」

颯「……」

凪「はーちゃん?何故手を隠すのです……か」

颯「えっと、このお姉さんが見つけてくれたから大丈夫だよ」

凪「はーちゃんは凪の妹です。わかります。ごまかさないでください」

颯「……」

凪「はーちゃん、凪は許しません。そんなことは許しません」

りあむ「凪ちゃん?どうしたの?落ち着いた方が良くない?」

凪「はーちゃんは、フツウの幸せになって欲しい。あちら側ではないフツウの」

惠「ごめんなさい、言わない方が良かったのね」

凪「『捕食者』と契約しているのですか、はーちゃん」

りあむ「へっ?どういうこと?凪ちゃん、ぼくに説明してよ」

椿「……」

凪「何故相談してくれなかったのですか。その後でも良かったはずです。それより、どうして『捕食者』と契約できたのか。まさか。高垣楓に唆されたのですか」

颯「そんなことしてない……楓さんはそんな人じゃないから」

千夜「凪さん、落ち着いてください。颯さんも、まずはお話を」

颯「わからないよ、なーには」

凪「はーちゃん?」

颯「なーといなくても見える時があって、ここじゃなくて教会の方が居場所のような気がして……本当は一緒じゃ決められないことがたくさんあるのに」

凪「……」

颯「これは自分で決めたことだから!なーには関係ない!」

凪「はーちゃん……」

颯「これからも関係ない!なーは、そっちにいた方が良いんだから!」

椿「颯ちゃん、待ってください!」

あかり「行っちゃいました……」
145 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:37:01.44 ID:lWSQgzZC0
千夜「『捕食者』の場所は分かりましたが……」

あきら「問題はこっちかな……」

凪「……」

椿「凪さん?」

凪「追いかけます。凪ははーちゃんの姉なので。前にいて、導いてあげないといけません。それでは」

あかり「凪ちゃん、そっちは逆です!」

あきら「いや……あえて逆に行ったんでしょ」

椿「それは困りましたね……」

りあむ「問題発生だよ!こんなことになるなんて!」

あきら「『捕食者』がせっかく見つかったのに」

りあむ「あきらちゃん、そんなのどーでもいい!双子だぞ?いつも一緒にいたのに、っていうか、夜は同じ家に帰んないといけないんだぞ!?即解決しないとまずいよ!」

あかり「うんっ!りあむさんの言う通りですっ!」

りあむ「姉妹でギクシャクすると辛いのはぼくがよーくわかってるからね!能力差があったりすると、特に……あ、そっか」

あきら「急に黙って、どうかしましたか」

りあむ「この話は後!追っかけるよ!どっちかを説得にしにいく!同じ思いをさせる必要はない!」

あかり「珍しくやる気があるみたいですけど、りあむさんだと難しいと思います」

りあむ「えっ……まぁ、らしくないことはしようとしたけどさ。自信がなくなること言うなよう」

千夜「辻野さんに賛成です。江上さん、日下部さん」

椿「はい」

千夜「颯さんをお願いできますか。日下部さんは1色だけで」

椿「わかりました。行ってきます」

千夜「どうやら教会の方々も把握していないようです。教会へお連れください」

若葉「はい〜。椿さん、行きましょう」

千夜「私は、凪さんと話をしてきます」

あきら「千夜サン、独りデスか?」

千夜「はい、私はこちら側に残された気持ちがわかりますから」

りあむ「……わかった。白雪ちゃん、信じていい?」

千夜「ええ。代表の仕事は信じて送り出すことです。お前はそれでいい」

りあむ「いいぞ!白雪ちゃん、頼んだ!行ってこい!ここで待ってるから!」

千夜「行ってきます。すぐに戻ります」
146 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:37:39.19 ID:lWSQgzZC0
あかり「千夜さんに任せましょう」

あきら「うん」

惠「……夢見さん、ごめんなさいね」

りあむ「おねーさんが謝ることはないよ。うん。いつか絶対にバレるし。久川姉妹は互いの変化ずっと気づかないほど鈍感じゃないから」

惠「そういうことにしておくわ。私からも、お願いしていいかしら」

りあむ「任せて!うちの白雪ちゃんと先輩達がなんとかしてくれる!」

惠「信じるわ。時子ちゃんには伝えておくから、がんばってね」

あかり「はいっ。がんばりますっ」
147 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:38:14.91 ID:lWSQgzZC0
81

S大学・構内

凪「……」

千夜「凪さん。遠くには行っていなかったのですね」

凪「凪は中学生です。行動範囲は狭く、逃げる場所もありません。なので、キャンパスのベンチに座っている」

千夜「隣に、座ってもよいでしょうか」

凪「凪は気にしません」

千夜「ありがとうございます。失礼します」

凪「凪と同じように、はーちゃんも中学生です。遠くには行っていません」

千夜「江上さん達に探してもらっています」

凪「それなら安心です」

千夜「凪さん、最初に聞きたいことがあるのですが」

凪「本当は、凪がはーちゃんを追いかけるべきなのです。わかります」

千夜「聞くまでもありませんでした。動転していますね、凪さん」

凪「そんなことはありません。凪はこの通りです、いつも」

千夜「いいえ。あなたの心持ちを判別するのは難しいとは思いません。凪さんは無表情ではありませんから」

凪「……わかってしまうのですか。わかるのですか」

千夜「お嬢さまのほうがよほど、お考えがわかりません」

凪「千夜さんは凪が考えていることがわかるのですか」

千夜「わかります、今は」

凪「それは何でしょうか」

千夜「自分が、何に憤っているのかわからないのでしょう」

凪「……」

千夜「いかがでしょうか」

凪「そうか。わかりました。そうなのです」

千夜「私達で、この問題を解決しましょう。力になります」

凪「……」

千夜「お話いただけませんか」

凪「そうすべきとわかります。でも、話せません。今は。時間をください。待っていてほしい」

千夜「待ちます。凪さんが話してくれるまで」
148 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:39:49.10 ID:lWSQgzZC0
82

S大学・部室棟・SDs部室

りあむ「うー、あー、むー」

あきら「りあむサン」

りあむ「大丈夫かな?白雪ちゃんとケンカになってないかな?口滑らせて変なこと言ってたり……うーん、心配だよ」

あかり「心配そうにウロウロしてますね」

あきら「立派な態度で送り出したのに」

りあむ「心配なものは心配なんだよ!親心ってのがわかったよ!」

あきら「りあむサンが焦っても意味ないデス」

あかり「りあむさん、座ってください。ほらほら!」

りあむ「あかりんご、わかったから押さなくていいから。うん、座る。任せたのはぼくだもん。信じる」

あきら「それでいいんデス」

りあむ「ふー、ふぅー、ふぅぅー」

あかり「必死に落ち着こうとしてるんご」

あきら「りあむサン、さっきは見直しました。良いコト言うんデスね」

りあむ「えっ?りあむちゃん、何か言った?」

あきら「無意識デスか」

あかり「『蝶』の話があるのに、凪ちゃんのことを心配してました」

あきら「うん。それで皆が同じ方向見れた」

あかり「さすが代表ですっ!」

あきら「一番大切なコト、間違えなかった」

りあむ「そうかな?うん、これは自信持って良い気がする。そうする」

あきら「そう言えば、りあむサン、何か言い淀んだことがあったような」

りあむ「そっちは覚えてるよ。あのさ、ぼくのお姉ちゃんってさ」

あかり「りあむさん、お姉さんいるんですか?」

りあむ「渡米して画家とかいって。あんな奴に勝てるわけないよ。マウント取られまくりなんだよ」

あきら「アメリカでアーティストの姉……りあむサンも大変デスね」

あかり「気にするものなんですか?」

あきら「少しは。たぶん、りあむサンは気にし過ぎだと思うけど」

りあむ「ぼくもそう思うけど、仕方がないんだよ!ずっと傍にいる人間をどうしても比較しちゃうんだよう!」

あかり「気にし過ぎはよくありません!りあむさんはりあむさん以上でも以下でもないですよ」

りあむ「以上にも以下にもなれないから、やむんだよ。やめやめ、前置きが長い。それでさ」

あきら「前置きだったんデスか」
149 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:40:45.15 ID:lWSQgzZC0
りあむ「双子だけど同じなわけない。若葉お姉さんみたいな存在じゃないでしょ」

あかり「凪ちゃんと颯ちゃんのこと、ですか?」

りあむ「うん」

あかり「確かに、性格とか話し方は違います」

あきら「服装とか趣味も」

あかり「ずっと一緒で仲も良いのに不思議ですね」

あきら「りあむサンが言った通り、二人は別人です。若葉サンとは違う」

りあむ「頭も心も一緒じゃなくて、それぞれなんだよ」

あかり「一緒だったら、楽しくないと思います」

りあむ「たぶん、違うんだよ」

あきら「違う?」

あかり「何が違うんですか?」

りあむ「能力」

あきら「……能力」

あかり「運動神経とか、勉強とか、じゃないですよね」

りあむ「うん。勉強は凪ちゃんの方が出来るらしいけど、そっちじゃない」

あきら「チャネルを変える力デスか」

りあむ「凪ちゃんは2人なら見えるって言ってたけど、たぶん、違う。本人が気づいてるかどうか、わからないけど」

あかり「どういうことですか?何が違うんでしょう?」

あきら「違うのは……2人なら、かな」

りあむ「うん。颯ちゃんの言ってたことが気になった」

あかり「凪ちゃんがいなくても見える、ですか」

りあむ「もしかしたら、颯ちゃんだけが特別な力を持ってた」

あきら「凪チャンは持ってない。本当は、分けてもらってるだけ」

りあむ「ねぇ、あかりんご、あきらちゃん」

あかり「何ですか?」

りあむ「双子の妹が、あちら側に行っちゃうなら止めるよね」

あきら「……止める」

あかり「あっ、りあむさんの言いたいことがわかりました」
150 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:41:54.38 ID:lWSQgzZC0
あきら「……」

あかり「凪ちゃんが、2人なら、見えるを強調するのは、颯ちゃんが1人で見えなくするため」

りあむ「2人でチャネルをあわせる儀式がないと見えないと思い込ませてる。凪ちゃんが理解してるかどうかわからないけど。自分でどういう意味があるか、わかってないかも」

あきら「2人には凄い差があるかも」

りあむ「凪ちゃん、知識はあるけど、能力はほとんどないとか。霊感皆無」

あきら「颯チャンの方は、興味はないけど」

りあむ「分かっちゃうから興味ないんだと思うよ。好奇心がないと勉強なんてしないもん」

あかり「凪ちゃんは、颯ちゃんから離れたくなかったのかな」

りあむ「そりゃあ、あんなにカワイイ妹だもん。イヤに決まってるよ」

あきら「でも……あちら側に行っちゃった」

あかり「相談もなく」

りあむ「勝手に自分の力で。情けなくなるよ。だって、こっちにはそんな能力ないのに」

あきら「……」

あかり「千夜さん達、大丈夫でしょうか」

りあむ「ぼくは信じる。喋ってたら何か落ち着いてきた。ちとせを見送った白雪ちゃんなら凪ちゃんも説得できる。はず」

あきら「椿サンの方は」

りあむ「笑顔で変なこと言うけど、立派なお姉さんだから。変な時があるけど」

あきら「まぁ、確かに」

りあむ「それに若葉お姉さんもいるし。颯ちゃんは完全にあちら側に行ったわけじゃないから、ぼくたちの方にいてくれる若葉お姉さんなら何とかできる」

あかり「わかりました。りあむさんの言うことも信じます」

あきら「待ってよう。『蝶』の様子を見ながら」

りあむ「うん。ぼくたちは待つ。そんで、仲良く家に帰るのを見送る」
151 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:42:51.15 ID:lWSQgzZC0
83

丘の上にある公園

颯「……」

椿「颯さん」

若葉「ここにいたんですね〜」

颯「サークルのお姉さん達……心配させちゃったかな」

椿「少しだけ」

颯「なー、怒ってる……?」

椿「うーん、難しい質問です」

若葉「怒ってるだけじゃないと思いますよ」

椿「色々と考えちゃってるみたいです」

若葉「カワイイ妹さんが悪いと決めつけられませんから」

颯「……」

椿「凪さんは任せてください。夜には仲直りしましょうね」

若葉「そうですよ〜」

椿「颯さん、お聞きしたいことが」

若葉「『捕食者』と繋がっていることを知っている人はいますか?」

颯「ううん、誰も。なーが知らないくらいだもん」

若葉「高垣楓さんも、ですか?」

颯「……そう。楓さんは知らないよ」

椿「颯さんが選んだこと、なんですね」

颯「……間違いだったかな」

椿「颯さんが自分の心に従ったなら、今は間違いではありません」

若葉「でも、間違えちゃうかもしれません。誰の手も借りなければ、いつか」

椿「女の子が独りで隠し続けるには大きすぎます」

若葉「前の日下部若葉みたいに、悪い結末にならないように」

颯「……前?」

椿「教会へ行きましょう。今後のために」

若葉「教会はすぐそこですから」

椿「どう過ごしていくのか相談しましょう」

若葉「凪ちゃんを説得しないといけませんから」

椿「私は、凪さんとこれまで通り暮らす方がいいと思ってます」

颯「……うん」

椿「行きましょうか」

颯「あの、ちょっと待って」

若葉「どうぞ〜」

颯「おやつとか持ってませんか?お腹空いちゃった」

椿「若葉さん」

若葉「成長期だから、じゃないみたいですね〜」

椿「飴がありますから、今はこれをどうぞ」

颯「ありがとー。うん、美味しい」

若葉「おやつを買ってくるので、先に教会へ行っててください〜」
152 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:45:43.68 ID:lWSQgzZC0
84

S大学・構内

凪「……」

千夜「江上さんから連絡がありました。颯さんを教会へお連れしたそうです」

凪「はーちゃんの様子はどうですか」

千夜「落ち着いています。ご安心を」

凪「……そうですか」

千夜「『捕食者』についての情報を得ています」

凪「千夜さん、聞いてください」

千夜「なんでしょうか、凪さん」

凪「はーちゃんよりも、凪はほんの少しだけ早く産まれました。なので凪は姉です」

千夜「聞いています、続けてください」

凪「はーちゃんというカワイイ妹がいる姉として凪は過ごしてきました。同じ時間を過ごし、同じ食事をしてきた」

千夜「……」

凪「凪はいつも願っています。はーちゃんが幸せになれるように」

千夜「……」

凪「家族の幸せを願うことはフツウのことです。違うでしょうか」

千夜「そう願うことは、珍しいことではありません」

凪「はーちゃんはお勉強も運動も天才的ではありません。流行に敏感ですが、郊外に住む中学生相応の敏感さです」

千夜「……」

凪「はーちゃんは、フツウです。フツウの幸せを手に入れて欲しい」

千夜「普通ですか……」

凪「ある日、はーちゃんが1人で眠れなくなりました。幽霊が怖いというのです」

千夜「幽霊?話が飛んだようですが」

凪「続きです。凪は勉強しました、あちら側について。双子という特性があったので、昔の事例は幾らでも見つかりました」

千夜「……あちら側」

凪「過去の事例を真似して、はーちゃんと凪の力をリンクさせることができました。はーちゃんと凪は幽霊が見えるようになりました。それと、大切な力を手に入れました」

千夜「大切な力、ですか」

凪「2人揃わなければ、チャネルを合わせることができなくなりました。はーちゃんは1人で眠れるようになりました。めでたしめでたし」

千夜「……」
153 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:47:32.58 ID:lWSQgzZC0
凪「凪は姉です。妹が怖がらないように未知の世界を先に歩みます。それが姉の務めです、フツウの妹が幸せでいられるように」

千夜「務め……か」

凪「千夜さん、質問があります」

千夜「なんでしょうか」

凪「凪は、はーちゃんに何をしてあげるべきでしょうか」

千夜「……」

凪「……」

千夜「申し訳ありませんが、私はそれに対する答えを持っていません」

凪「そうですか。それなら凪が考えます。『捕食者』、厄介だな」

千夜「いえ、そちらは問題ありません」

凪「どういうこと、でしょうか」

千夜「教会に協力者がいます。そちらはどのようにでも対処できます」

凪「では、どちらが問題なのでしょう」

千夜「……あなたです、凪さん」

85

S大学・構内

凪「凪、ですか」

千夜「はい」

凪「……」

千夜「何に憤っているか、わかりましたか」

凪「それは、はい。はーちゃんがフツウから外れたことです」

千夜「しかも、あちら側に行く選択です。受け入れがたい気持ちは察します」

凪「怒り慌てる必要はなかった。はーちゃんに謝らないといけません」

千夜「凪さんは、颯さんの選択を認められますか」

凪「……即答はできない」
154 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:48:26.19 ID:lWSQgzZC0
千夜「何故ですか」

凪「何故?何故とはどういう意味でしょうか」

千夜「双子だからといって、ずっと一緒にはいられません。いつか別の道を行くしかないのです」

凪「……」

千夜「残念ですが、凪さんではなく颯さんに特別な力があったように聞こえました。颯さんにしか見えない世界が多くあるはずです、あなたの先回りできない世界が」

凪「理解しています。はーちゃんと一緒じゃなければ、凪は見えません。勘のようなものが少しあるだけです」

千夜「凪さん」

凪「凪は、あちら側には行くことができません。凪だけでは、あちら側には行けません。凪は、はーちゃんの隣に本当の意味では立てません」

千夜「本当は、何が怖いのですか」

凪「怖い、何が」

千夜「私も怖いものが多くあります」

凪「……」

千夜「家族を失った私に、お嬢さまは役割を与えてくれました。家族の名前を消したくないのに、何もできない私に」

凪「役割……メイドですか」

千夜「しかし、お嬢さまはあちら側へ。凪さん、私は何者ですか。お嬢さまが与えた役割をお嬢さま自身に奪われた私は何者ですか」

凪「夢見りあむの集めた集団の1人。S大学付属高校の生徒。料理上手の健啖家。お茶を淹れるのが上手い」

千夜「それなら、私ではなく誰でも良いのではありませんか」

凪「いいえ。千夜さんは、仲間です。きっと、りあむもそう言います。千夜さんだから、仲間なのです」

千夜「そんなことは、誰が来ても言えます」

凪「千夜さんは強情だ」

千夜「だから、それでいいのです。何も出来なくても。何も成し遂げられずに、このまま消えていく運命でも……白雪ちゃんはそれでもいい、と言ってくれるでしょう」

凪「……」

千夜「私は恐れていたことは、失うことです。何かを得たら失うことが怖いから、何も欲しくない」

凪「本心とは思えません。それなら、ここにいないのでは」

千夜「私もまだわかりません。でも、それでいいのです。生きていて、ここにいて、いい」

凪「それでいい……」

千夜「凪さん」

凪「凪は不安でした。幼い頃のはーちゃんが見ていない所で転ぶのが」

千夜「……」
155 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:49:06.76 ID:lWSQgzZC0
凪「はーちゃんのことがわからないと、転ぶのを防げない。はーちゃんがどこにいるかわからないと、転ぶのを止められない。はーちゃんが転んで、泣くのが怖い。はーちゃんが泣いて、変な目で見られるのが怖い」

千夜「……」

凪「凪は、凪として、姉だから、はーちゃんに……フツウに……フツウに笑っていて欲しくて……」

千夜「凪さん」

凪「変わっているのは凪でいい。はーちゃんは、元気で明るいカワイイ妹でいて欲しい」

千夜「颯さんに普通でいて欲しい理由は何ですか。特別ではなく普通である理由は」

凪「トクベツ……」

千夜「あなたは……自分が特別ではないことが、怖いのですか」
156 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:50:13.04 ID:lWSQgzZC0
86

S大学・構内

凪「……」

千夜「……」

凪「凪は、変わってはいませんか?」

千夜「言動は不思議ですが、常人の域を出ません。あちら側の住人からすれば、私達は所詮唯の人です」

凪「力もない人間です。凪は、特別ではないのか」

千夜「凪さんの行動は、一般的な良識に支えられています。私に兄弟はいませんが、きっと姉としての感情は異質なものではありません」

凪「……」

千夜「颯さんに望む普通の幸せの条件を定義できますか」

凪「それは、言葉にするのは難しい」

千夜「きっと条件が多すぎます。わかることは、私にはもう手に入れられないということ」

凪「……」

千夜「家族はおりません。両親もセンスが独特な双子の姉もいません。普通の幸せは、幾ら願っても白雪千夜の未来では手に入りません」

凪「そんなに悲観することはないと」

千夜「これからなんて、どうでもいいのです。これまで、幸せでいたかった」

凪「……いいえ、違う。違います、千夜さん」

千夜「私も普通でいたかった。家族がいて、素直な目を持って、未来に不安が少なくて、朗らかに笑っていたかった」

凪「……」

千夜「辻野さんは郷土が好きなのに今は私達と共にいます。夢見りあむの両親は近くにいない。日下部さんは異種族の中で過ごさなければいけません。私も、黒埼の家から支援を受けて生きる身です」

凪「千夜さん」

千夜「凪さんが望むような、そんな、特別な普通の幸せは手に入りません。どんなに努力しても、それは手に入らない。そう思うと……」

凪「千夜さん!」
157 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:52:41.79 ID:lWSQgzZC0
千夜「……珍しいですね、声を張るなんて」

凪「嫉妬ですか。凪への」

千夜「……嫉妬、ですか」

凪「フツウの幸せをつかむチャンスがあるから、凪にそうして欲しいと」

千夜「颯さんが、そうあなたに望んでいてもですか」

凪「それでも、そうではいられない。凪は凪だから、です……あっ」

千夜「……」

凪「はーちゃんははーちゃん、そのはーちゃんが決めたこと。はーちゃんであるから、決められたこと」

千夜「その選択は、普通とは程遠いことです」

凪「トクベツなフツウを選ばなくても、はーちゃんは幸せになるべきです。そうか、そうなのだな」

千夜「ええ」

凪「凪がはーちゃんを本当のはーちゃんを認めてなかった。ゴクリ」

千夜「わざとらしい声を出して、どうしましたか」

凪「飲み込めた。凪は姉です、はーちゃんが選んだ道で幸せになれるように願います。凪の空想ではなくて、はーちゃんの現実で」

千夜「凪さんは、颯さんの選択を認められたのですね」

凪「凪の行けないあちら側の世界でも、はーちゃんは歩いて行ける。凪は行けなくても、はーちゃんの幸せは願えるし手伝うこともできる。それだ」

千夜「……はい」

凪「千夜さんも、です」
158 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:54:08.02 ID:lWSQgzZC0
千夜「私、ですか」

凪「トクベツなフツウを選べなくても、幸せになろう」

千夜「なれるのですか」

凪「残念ながら、凪には保障できません」

千夜「そこは断言しないのですか。根拠がなくても、言葉は勇気にはなります」

凪「がんばりましょう、共に」

千夜「共にですか……魅力ある提案かもしれません」

凪「凪と千夜さんは置いて行かれた者同士です」

千夜「ええ。近くにいた大切な人物はあちら側へ」

凪「能力もありません。唯の人間です」

千夜「はい。人間としての個性は、凪さんにはありますが」

凪「フム。はたして、これでいいのだろうか」

千夜「どういう意味でしょうか」

凪「もはや一般人の凪でも、集まりにいていいのですか」

千夜「それは、聞いてみればよいのではありませんか」

凪「りあむに、ですか」

千夜「きっと望む答えをくれるはずです。帰りましょう、部室へ」

凪「はい。凪は帰ります。千夜さんと一緒に。りあむがいる部屋へ」

千夜「立てますか。お手をどうぞ」

凪「はい。ありがとうございます。立てました」

千夜「……何故、手を握ったままなのでしょう」

凪「いけませんか」

千夜「構いません。あなたが、そう望むのであれば」
159 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:56:11.13 ID:lWSQgzZC0
87

S大学・部室棟・SDs部室

あきら「帰って来た」

千夜「ただいま、帰りました」

凪「凪も戻りました」

りあむ「おかえり!待ってたよ!白雪ちゃん、信じてたよ!ぼくの思った通りだ!」

あきら「かなり不安そうだったのに」

りあむ「あきらちゃん、言わなくていいよ!」

あかり「手をつないで、どうしたんですか?」

りあむ「仲良くなった?いいことか?いや、ずるいぞ?嫉妬する、ぼくも後で!」

千夜「そんな所です。凪さん、行ってください」

凪「はい」

りあむ「……凪ちゃん、どうしたのさ」

凪「凪はハグをします。りあむを。むっ、思ったより肉付きがいいな」

りあむ「手をつないだ白雪ちゃんより良い思いしてる、夢か?」

凪「りあむ、質問です」

りあむ「どうしたの?りあむちゃんはりあむちゃんがわかる狭い範囲しか分からないよ」

凪「凪は普通の人間のようです」

りあむ「え?最初からずっとそうじゃん」

凪「そうか。ここにいていいですか、幽霊も見えない、ちょっとオカルト好きなだけで、いいですか」

りあむ「当たり前だろ。そんなこと言ったら、りあむちゃんが一番先にいなくならないといけない!凪ちゃんのほうが全然いるべきだよ!」

凪「千夜さん」

千夜「言葉遣いはともかく、望む答えでしょう」

凪「はい。ぎゅー」

りあむ「あわわ!むむむっ、女子中学生にハグされた経験がなさ過ぎてどうしたらいいかわからない。白雪ちゃん!ヘルプ!」

千夜「ご自由にどうぞ。辻野さん、飲み物をもらえますか」

あかり「はいっ。麦茶をいれますね」

りあむ「自由って……それじゃあ、こうか」

凪「抱き返された。りあむ、やっぱり無駄な贅肉がついてるな」

あきら「運動不足。抱き返すだけデスか?」

凪「凪はおねだりします。ダウンロードコンテンツを」

りあむ「えっと、颯ちゃんのこと、色々あると思うけどさ、力がなくなったとか、うん、上手く言えない。ぼくには凪ちゃんがここにいるだけで嬉しいよ。だって、傍に誰もいなかったのに、今は居てくれるから」

千夜「……」

あかり「千夜さん、麦茶をどうぞ」

千夜「ありがとうございます」

りあむ「……何言えばいいんだろう。りあむちゃんにはわかんない」

千夜「いいえ。もう十分です」

あきら「うん」

凪「りあむ、感謝する。すりすり」
160 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:56:55.57 ID:lWSQgzZC0
りあむ「ぼくがありがとうって、言わないと。めっちゃ嬉しい。ぼくたちと居たいなんて、言ってくれるなんて、夢みたいだよ」

あきら「落ち着いたし、説得できたみたいデス」

あかり「千夜さん、何を言ったんですか?」

千夜「今思えば、上手い説得をしたとは思えません。ただ……」

あきら「ただ?」

千夜「醜い本音を共有できたのかもしれません」

あかり「本音……」

凪「りあむ」

りあむ「なに?ぼくの体なら好きにしていいよ。心ゆくまで」

あきら「言い方」

凪「抱き心地は悪くないが、洗濯は苦手だな?ぱっ、とな」

りあむ「また同じこと言われて、凪ちゃんが離れた!仕方ないだろ、オタクは服に拘らない生き物なんだよ!」

凪「千夜さん、教えてあげてはいかがですか」

千夜「大方、服のバリエーションが少ないので1回あたりの洗濯量が少ない、昼夜逆転気味なので部屋干しが多い、同じ服をずっと着ている、あたりが問題でしょう。晴れた日に服を洗濯すればいい」

りあむ「うっ、まぁ、正解なんだけどさ」

あきら「つまり、服を増やせばいい?」

あかり「きっと椿さんがたくさん作ってくれますよっ」

りあむ「いや、それは、ねぇ」

凪「りあむの部屋か。気になるな。一度お宅訪問しよう」

りあむ「オタクのお宅訪問とか誰も幸せにならないよ!」

あかり「あはっ、凪ちゃんも元通りですねっ」

千夜「ええ」

あきら「ゴメン。凪チャンと颯チャンの今後が重要だけど、こっちも」

千夜「『蝶』ですか」
161 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:57:36.48 ID:lWSQgzZC0
りあむ「何か進展あったの?」

あきら「まだ。でも、自宅にいたはずなのに遠い所で目撃アリ」

千夜「時間の問題、ということでしょう」

あきら「今は自宅にいるみたい」

りあむ「自宅にいるフリが出来てるなら、いいけど」

あきら「それすら出来なくなるのも、すぐ」

凪「群体は人間のフリはできません」

りあむ「……うん。まともな人間のフリなんて人間でも難しいのに。ましてや、あの温厚そうな女の子のフリだぞ?ムリでしょ」

凪「はーちゃんは、教会にいるのですね」

あかり「はい」

千夜「もう行けますか」

凪「はい。はーちゃんと共同戦線をはってみせます」

あきら「大丈夫そうデスね」

あかり「はいっ」

りあむ「よしっ、行こう!白雪ちゃん、凪ちゃん!」

千夜「はい。辻野さんと砂塚さんは『蝶』を引き続きお願いします」

あきら「わかった」

りあむ「遅くなるかもしれないけど、大丈夫かな?家族が心配しない?」

あかり「連絡しておきます!」

あきら「こっちも平気」

千夜「無事に終わったら、一緒に食事をしましょう。私が準備します」

凪「メイド料理、楽しみです」

あかり「本当ですか?ごちそうになりますっ!」

あきら「量は多いけど……」

凪「それは問題ありません。『捕食者』との契約者がいます。やはり、お腹が空くようです」

りあむ「ご褒美も決まったし、凪ちゃん、行こう!」

凪「りょ。双子パワーをみせつけましょう」
162 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 19:58:20.11 ID:lWSQgzZC0
88

出渕教会・地下2階

裕美「ん……もう夜かな……」

ちとせ「裕美ちゃん」

裕美「ちとせさん。もう日は沈んだ?」

ちとせ「ううん。もう少し寝てていいよ」

裕美「早起きなんだね」

ちとせ「やることがあるみたいだから」

裕美「やること?」

ちとせ「後で話すから、楓さんとここにいて。上には来ないで」

裕美「……わかった」

ちとせ「ありがと。待っててね」
163 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:00:24.49 ID:lWSQgzZC0
89

出渕教会・1階・礼拝堂

クラリス「いらっしゃいましたか」

千夜「お邪魔します、シスタークラリス」

凪「凪が来ました。りあむもいます」

クラリス「美由紀さん」

美由紀「はーい。颯ちゃんを呼んでくるよー」

椿「凪さん、来てくれたんですね」

凪「はい。椿さん、ありがとうございました」

りあむ「あれ?若葉お姉さんは?」

クラリス「日下部若葉さんには見回りをお願いしています」

千夜「颯さんとは、お話していますか」

クラリス「はい。『捕食者』の知識は私にも蓄積されています」

りあむ「颯ちゃんはどこにいるの?楓さんと話してる?」

クラリス「いいえ。ひとつ、お願いがあるのですが」

千夜「お願い、ですか」

椿「……」

クラリス「『捕食者』の行方は楓さんには伏せてください」

千夜「それは、行く末を変えないためですか」

クラリス「その通りです」

りあむ「ん?もしかして、契約者を変えられる?それなら」

凪「りあむ、その想定は不要です」

りあむ「いらない?楓さんがこれからもいてくれるかもしれないのに?」

凪「はーちゃんは、決めたことは曲げません。凪は知っています」

美由紀「颯ちゃん、連れて来たよー」

凪「……」

颯「なー……えっ?」
164 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:01:54.18 ID:lWSQgzZC0
90

出渕教会・1階・礼拝堂

千夜「抱き付きましたね。真正面から」

りあむ「さっきとは違う気がする。ぼくの時と逆?」

千夜「ええ。年長者として、抱き留めるように」

凪「はーちゃんは捕まえられるところにいます。今も」

颯「……うん。くっついてる」

凪「同じモノが見れるのが間違いでした。私達はそもそも別人で、楽しみも趣味も違い、頭の中も心の中もソレゾレなんです。そうあるべき」

千夜「……」

凪「凪は、はーちゃんの選択は賢いとは思いません。それでも、そんな選択をしたはーちゃんを誇らしく思います」

颯「なー……」

凪「立場が変わろうが双子として産まれた縁は切れません。ちゃんと見ています、はーちゃんがはーちゃんでいられるように」

颯「うん」

凪「はーちゃんは、凪のカワイイ妹です。これからも手と手を取り合って、世界を変えるような凄いことをするのです」

颯「大袈裟だなぁ、そんな凄いことしてたっけ?」

凪「それは、これからということで」

千夜「お前、満足ですか」

りあむ「うん。カワイイ双子が抱き合ってるの、尊いよね」

千夜「……今は、言い方は不問にします」

椿「……」

千夜「椿さんも当然のように写真を撮らないでください……」

凪「はーちゃん、指切りをしましょう。約束です、ホントのはーちゃんでいてください」

颯「あー、えっとね」

クラリス「小指が『捕食者』と繋がっているそうです」

りあむ「小指だけなの?それだけ?」

クラリス「はい。楓さんの全身と比べれば小さいものです」

美由紀「影響は受けちゃうみたいだよー」

千夜「小指に、何か問題があるのですか」

颯「たぶん大丈夫だけど、『捕食者』の力を使えそうなんだ」

クラリス「楓さんは捕食対象の動きを止める力や異常な身体修復能力を引き出していました。参考までに」

りあむ「食べるだけだと思ってたけど、結構強力じゃん」

165 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:02:19.59 ID:lWSQgzZC0
美由紀「『捕食者』さんはいっぱいたべて、美食力を高めてるんだよ。美食力はとーっても強い力なんだー」

千夜「はて、美食力とは……」

美由紀「美味しいものが持ってる力だよ!邪な料理人だと暗黒美食力に飲み込まれちゃうから気をつけないといけないんだ」

千夜「そうなのですか……?」

クラリス「美食力かどうかはわかりませんが、強大な存在であることは間違いありません」

凪「それでは、握手にしましょう」

颯「はい、なー。何を約束するの?」

凪「はーちゃん、凪はどんなことがあっても味方です。忘れないでください、頼ってください。凪はいつまでもはーちゃんの姉です」

颯「約束する。はーも、なーを守るよ」

凪「約束です」

颯「うん、約束」

クラリス「見届けました。あなた方のこれからに光りあらんことを」
166 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:03:16.52 ID:lWSQgzZC0
凪「シスター、お願いがあります」

クラリス「承知しています。これまで通りの生活を保障します」

凪「ありがとうございます。代わりに」

颯「協力する。フツウの日々は、誰かが必死に守ってるんだよね」

凪「なので、はーちゃんと一緒に『蝶』を倒します」

颯「あの人、何もなくて平和が好きだったみたい」

凪「本当は平穏が欲しかったのに、間違えてしまった存在を」

颯「見送ってあげないと、だから」

凪「はーちゃんと凪で」

颯「日常を取り返そう。あの人が、願ったように」

167 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:03:49.46 ID:lWSQgzZC0
91



出渕教会・1階・礼拝堂

ちとせ「シスター、双子ちゃんとか皆は?」

クラリス「出発しました。高森藍子さんが自宅から消え戻りません」

ちとせ「終わらせに行ったんだね」

クラリス「はい。ちとせさん、出発の準備はできましたか」

ちとせ「陽は沈んだ。私の時間になってる」

クラリス「参りましょう。私共の仕事です」

ちとせ「陽の当らない仕事。あはっ、吸血鬼っぽい」

クラリス「美由紀さん、ここはお任せします。ご来客をお迎えください」

美由紀「わかった、翠ちゃん達を待ってるね」

ちとせ「お手をどうぞ、シスター」

美由紀「いってらっしゃーい」
168 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:05:03.56 ID:lWSQgzZC0
92

T公園

藍子「どうして……」

若葉「こんばんは〜」

藍子「あれ?どこから来ましたか、お姉さん」

若葉「覚えていませんか?」

藍子「えっと、どなたでしょうか」

若葉「私ではなく、植物が枯れる理由です。あなたが力を使ったにもかかわらず」

藍子「どうして、知っているんですか?」

若葉「私が高森藍子さんに、言ったからですよ〜」

藍子「私に?」

若葉「アナタ、ではありません」

藍子「……」

凪「若葉お姉さん、アラームです。『蝶』が出てきました」

若葉「大丈夫ですよ〜、私は倒せないので」

藍子「見えてるんですか?」

凪「凪には見えていません。見えているのは、はーちゃんです」

颯「こんばんは」

凪「どうですか、はーちゃん」

颯「どんどん増えてるよ」

藍子「……」
169 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:05:43.31 ID:lWSQgzZC0
颯「とっても上質で美味しいみたい」

若葉「怖いですね〜」

藍子「減ってるのは、あなたのせいなんですね」

颯「そうだよ」

凪「問題は『蝶』を見つけることでした」

若葉「消えちゃいますから。どちらにとっても」

凪「しかし、人の知恵は侮れない」

若葉「そして、あなた達は大切なモノを手放してしまいました」

凪「それは記憶。それは善性」

颯「大切なのは、ホントの自分」

若葉「アナタ達が奪った高森藍子さんがいれば、こんなことはしませんでした」

凪「はーちゃん、いかがですか」

颯「まだ塊かな。飛んできたのは、全部食べてるよ」

凪「対策は考えていた。若葉お姉さん、一押しです」

若葉「はーい。せいやぁー」

藍子「……」

凪「小石をたくさん投げました」

颯「全部後ろに飛んで行った」

凪「人間なら当たります。しかし、当たらない」

若葉「もう一度。今度はくっつき虫ですよ〜」

凪「同じ結果です。はーちゃん」

颯「もっと別れさせる。『捕食者』さん、来て」

藍子「……!」

颯「何で怖がってるの。だって、そういう世界を選んじゃったのに」

凪「消えた。遂に置かれた状態を本能で分かったようです」

若葉「選択ミスですよ〜」

凪「個体としての格を下げたら、『捕食者』の思うつぼです」

若葉「あわわ、気持ち悪い咀嚼音が聞こえます。凪ちゃん、撤収です〜」

凪「凪には聞こえません。はーちゃん、後は任せました」

颯「任せて、なー」

凪「良いお返事です。若葉お姉さん、頼んだ」

若葉「それじゃあ、凪ちゃん、捕まっててくださいね〜」

凪「はい。おっと、素晴らしい浮遊感」

颯「さよなら、蝶々さん。いただきます」
170 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:08:43.27 ID:lWSQgzZC0
93

出渕教会・地下2階

楓「ん……」

翠「お目覚めですか。おはようございます」

楓「……おはようございます」

翠「私の顔に何かついているでしょうか?」

楓「枕元に死神が立っている。いまわの際に死神を見るのは本当だったのですね」

翠「あら、落語がお好きだったとは知りませんでした」

楓「違います。お迎えに来ると人は言い、天井を見上げ、手を伸ばすと聞きませんか」

翠「全ての人に私達は会うことはありません。心臓と脳が止まりかけ、出来ることがその2つになるのではありませんか」

楓「そうなの、ですか」

翠「昔々に死が近づいた時、死神を見ましたか」

楓「いいえ。あの時、私は何もいないはずの空を見上げ、手を伸ばした時……『捕食者』が見えました。見えないはずなのに。通じないはずなのに」

翠「話は聞いています。裕美さん、こちらに」

裕美「うん」

翠「死は、人間には必要なモノです。肉体と魂の死を強引に止めることは、代償を伴うことが定めです」

楓「……はい」

翠「あなたに人としての死を授けます。よろしいでしょうか」

楓「裕美ちゃん……」

裕美「……」

楓「ありがとう。お願いします」

翠「わかりました。目を閉じてください」

楓「……はい」

翠「命の時計を止めました。『捕食者』は、あなたが死んだと判断して繋がりを放棄したでしょう」
171 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:11:01.07 ID:lWSQgzZC0
楓「……」

翠「時計を動かしました。目を開けてください」

楓「……」

裕美「楓さん……?」

楓「あぁ、体はこんなに重くて……熱いんですね……」

翠「人間としての感覚が戻っているなら幸運です。裕美さん」

裕美「うん」

翠「時計は明日の朝までしか示していません。長くても、昼まで」

裕美「わかってる」

翠「後悔はなさらぬように。後は涼に任せます。さようなら」

楓「……ありがとう」

翠「死神に感謝するものではありませんよ。命を授けられない神なんて、怨まれていればいいのですから」

楓「それでも……ありがとう」

翠「……失礼します」

裕美「うん。死神じゃなくて、遊びに来て」

楓「……裕美ちゃん、お願いがあるのですが」

裕美「楓さん、何でも言って」

楓「上着を持ってきてくれませんか。少し肌寒くて」

裕美「……わかった。すぐに持ってくるから」
172 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:12:56.88 ID:lWSQgzZC0
94

黒埼ちとせの自宅
今は千夜の1人暮らし。ちとせが帰ってくる時や来客への備えは万全。

あかり「千夜さん、お買い物班戻りましたっ」

りあむ「おー……これがちとせの家か……広いな……」

椿「おかえりなさい。まぁ、沢山ですねぇ」

あかり「賞味期限近いものをいっぱい貰いました。もりもり食べるんご」

千夜「辻野さん、お疲れ様です」

りあむ「おっ、エプロン姿だ。似合ってるよ、白雪ちゃん!」

椿「写真はバッチリです」

りあむ「いや、そこは頼んでない」

千夜「色々とありますね。お肉、お野菜、ラーメンも」

あかり「はいっ!全部山形産ですよっ」

千夜「おや乳製品が豊富ですね、ありがたく使わせていただきます」

椿「キッチンまで運びます」

千夜「お願いします。お2人はリビングで待っていてください」

あかり「はいっ。りあむさん、突っ立ってないで行きますよ!」

りあむ「いや、想像の3倍ぐらい金持ち住宅だからビックリして。あかりんご、してないの?」

あかり「1度来てますから。さぁさぁ、行くんご!」

りあむ「押さなくてもいくよぅ。うわっ、リビングもくっそ広くてゴージャスだ」

あきら「りあむサン、おかえり」

りあむ「あれっ?もう料理がある。オサレオードブルとサラダだ」

あきら「千夜サンが作ってくれました。つまむといいデスよ」

あかり「わぁ、いただきます!千夜さんは盛り付けも素晴らしいんご!」

あきら「りあむサンも座ってください。千夜サンに邪魔だから座ってろ、って言われますよ」

りあむ「白雪ちゃんはそんなこと言わな……言うか。ぼくにはそのままの文言で」

あかり「おいしいんご!このドレッシング手作りなんでしょうか?」

あきら「そうだって。りあむサンも食べる?」

りあむ「うん。ねぇ、若葉お姉さんは?」

あきら「お部屋探検してる。若葉サン、自室狭いんだって」

あかり「5人もいると大変そうですね」

りあむ「気とか遣うから?いや、5色で1人だから、そこはいいのか。なんで?」

あきら「物理的に。あんまりお金ないから古い平屋に住んでるらしい」

りあむ「あー、それは狭い。仕方がない」

あかり「颯ちゃんと凪ちゃんも、若葉さんと一緒ですか?」

あきら「ううん。帰った」
173 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:14:05.81 ID:lWSQgzZC0
りあむ「か、帰った!?なんで!?主役なのに!食べ物買い過ぎたよう!」

千夜「中学生ですから、長居をさせるわけにはいけません」

椿「はい。でも、ご心配なく」

千夜「お土産を持たせました。ご満足いただけるように」

あきら「凄かったデス。手際の良さが神」

千夜「元からあった食材はほぼなくなりましたので、ご心配は不要です」

椿「今日は、山形産の食材フルコースです」

千夜「ご料理は順次お持ちしますので、お待ちください。とりあえず、こちらを」

あかり「お手頃価格のチーズが高級レストランのように盛り付けられてます、さすが千夜さん」

椿「乾杯しましょう。若葉さーん、来てくださいー」

若葉「はーい」

若葉「乾杯ですか〜」

若葉「わぁ、美味しそうなチーズです〜」

若葉「りあむちゃん、あかりちゃん、お帰りなさい〜」

若葉「それはワインですか?」

千夜「いいえ。ぶどうジュースです。頂き物です、開けてしまいましょう」

あきら「高そう」

椿「せっかくなので、ワイングラスです」

りあむ「めっちゃいい。ぼくがリア充なら映え映えでいいね稼ぎする。そんなアカウントあるわけないけど!どうせ、オタクアカウントしかないよ!」

あきら「あっ、あれホンモノか」

りあむ「あきらちゃん、まさか特定した?本当に?」

あきら「……」

りあむ「黙るなよう!心配になるじゃないか!さては、幻滅してるな!」

あきら「堂々とやればいいんデス。教えてあげます」

あかり「私も教えて欲しいんご!アンテナショップも宣伝もしたいですっ」

あきら「わかった。というか、教えておかないと怖い」
174 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:14:51.77 ID:lWSQgzZC0
千夜「若葉さんは、アルコールにしますか。ワインとウィスキーならあります」

若葉「私もぶどうジュースにします〜」

若葉「美味しそうですから〜」

若葉「皆と同じがいいですよね〜」

千夜「それでは、そうします」

あきら「椿サン、SNSに良い写真とか撮れる?」

椿「もちろん♪何千枚でも撮らせてくださいな♡」

あかり「何千枚……」

りあむ「本気で撮るよ、時代が時代だったらフィルム代で破産してるよ。デジタル時代で良かったね、椿さん」

若葉「飲み物ありがとうございます〜」

千夜「どういたしまして」

椿「写真の前に、乾杯しましょうか。りあむさん」

りあむ「えっ、ぼく?」

椿「はい。無事に解決したことについて、乾杯の挨拶を代表から」

りあむ「代表だけどさ、えっと、白雪ちゃん!」

千夜「私に何かご用ですか」

りあむ「今回の件、どう思ったか。聞かせて」

千夜「……そうですね。最初は些細なことでした」
175 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:16:20.79 ID:lWSQgzZC0
あきら「最初はあかりが人魂を見かけたから、だった」

千夜「私は、望むような結末になったとは思えません」

りあむ「……そうだ。ここにいるぼくたちはいいけど、さ」

千夜「幾つかの命が失われ、平穏は乱され、高森藍子さんはいなくなり、凪さんと颯さんには決定的な違いが生まれてしまった」

椿「……」

千夜「思う通りに、理想通りには、物事は進んだりしません。平凡で普通な幸せは、手に入れられるとは限りません」

あかり「そう、ですよね……」

千夜「凪さんに言われました。私達は普通でなくても、私達に普通でいられる権利はなくても、幸せになりましょう。共に」

若葉「共に、ですか」

椿「凪ちゃんは、そうやって颯ちゃんの選択を尊重してあげたんですね」

千夜「こうやって、お集まりいただきありがとうございます」

りあむ「そうだよ!こうやって集まってくれて、白雪ちゃんが美味しい料理を作ってくれる!たぶん、普通の中学生も高校生も大学生もこんな集まりしないけど、でも、ぼくは好きだよ!」

あきら「うん。りあむサンに同じ」

あかり「わ、私もですっ」

りあむ「どうせ、普通なんてぼくにはなれないし!」

若葉「一緒にいてくれて、ありがとうございます〜」

若葉「ずっと、思ってました」

若葉「きっと、願ってました」

若葉「前の日下部若葉も」

若葉「こうしたかったんですよ〜」

椿「はい。私達は全てを解決できるわけではありません」

千夜「高森藍子さんを助けられたら、良かったのですが」

りあむ「ぼくたちは、やれることはやったよ。そんなに遅くなかった」

若葉「『チアー』という存在は厄介です、やはり」

千夜「……ええ」

あきら「でも、あかりの安全は取り戻した。あと、久川姉妹の仲直りも」

りあむ「そうだよ!それだけでいいじゃないか!それだけでお腹いっぱい食べる権利がある!」

あかり「そ、そうですねっ!お腹空いて来ちゃいました!」

椿「それでは、改めて。りあむさん、乾杯を」

りあむ「ぼくのために集まってくれてありがとう!」

あきら「それは違うような?」

りあむ「ぼくの言葉なんてどうでもいいんだよう!とにかく、みんながんばったよ!褒めよう!褒めろ!それじゃ、乾杯!」

若葉「かんぱ〜い」
176 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:17:27.91 ID:lWSQgzZC0
95

出渕教会・地下2階

ちとせ「ただいま」

裕美「お帰りなさい、ちとせさん。用事は終わったの?」

ちとせ「一時しのぎは出来た。想像より難しいかな、後で仕上げをしないと」

裕美「一時しのぎ……?」

ちとせ「楓さん、起きた?」

裕美「うん」

楓「おかえりなさい」

ちとせ「聞かなくてもわかるよ。生きてるんだね、人間として」

楓「はい。死神は訪れ、捕食者はいません」

ちとせ「人間の体に戻った気分はどう?体調は、よくないみたい」

楓「微熱と体の節々が痛んでいます。原因はわかりますか」

ちとせ「聞きたい?がっかりする答えだけど」

楓「お願いします」

ちとせ「どこか一か所でも健康じゃないから。人は、小さな均衡の崩れにも反応してしまうの」

裕美「……」

ちとせ「長くはなさそう」

楓「明日の朝まで、と」

ちとせ「そう」

楓「裕美ちゃんを、お願いします」

ちとせ「私の力なんていらないと思うよ。だから、あなたは選べた」

楓「……はい」

裕美「……」

ちとせ「気分はどう?」

楓「良い気分です、とっても」

ちとせ「最後の晩餐は出来るみたい。お客さんがいるから、呼んでくるね」

裕美「お客さん?」

楓「どなたでしょうか……」

ちとせ「どうぞ」

仙崎恵磨「よっす」

仙崎恵磨
CGプロ所属のアイドル。楓に事務所の怪現象を調査してもらった縁がある。
177 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:19:42.51 ID:lWSQgzZC0
裕美「恵磨さん、来てくれたんだ」

恵磨「楓さんと約束してたからさ。間に合って良かった」

楓「約束ですか……何か約束したでしょうか」

恵磨「飲みに行く約束」

ちとせ「裕美ちゃん、私は上にいるから。何かあったら呼んでね」

裕美「うん。ありがとう、ちとせさん」

楓「ごめんなさい、覚えていません。でも、嬉しいです」

恵磨「それは良かった。柊酒店っていう酒屋さんを時子ちゃんが紹介してくれたから、店員さんのオススメを買ってきた」

楓「それは……」

恵磨「日本酒、和歌山のやつにしてみた」

楓「恵磨さんに、出身を言ったでしょうか」

恵磨「あれ?和歌山出身なんだ、ラッキー。お猪口でいい?」

楓「ええ。あまり、飲めなさそうですから」

恵磨「そっか。裕美ちゃん、大丈夫かな、体調とか」

裕美「ここでお酒控えても、何にもならないから」

恵磨「よしっ。飲もう」

楓「裕美ちゃん」

裕美「なに?」

恵磨「うん。良い匂いがする」

楓「零すと勿体ないですから、飲ませてくれませんか」

裕美「……わかった」

恵磨「裕美ちゃん、このお猪口を。アタシはこっち」

裕美「うん。楓さん」

楓「はい、いただきます」

恵磨「乾杯」

裕美「……」

楓「……」

恵磨「……」

楓「もう少し、いただけますか」

裕美「うん」

恵磨「うまい。カンパ集めた甲斐があった」

裕美「楓さん、味わかる……あっ」

恵磨「顔、赤らんでる。もしかして、酔えてる?」
178 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:20:39.59 ID:lWSQgzZC0
楓「あ、あぁ……」

恵磨「味はどう?好みにあった?」

楓「自分の好みは思い出せません……でも……」

裕美「楓さん、涙……」

楓「なんて、美味しい……」

恵磨「……泣くほど美味しいなら、良かったよ」

楓「裕美さん、もう少しだけ……いただけますか」

裕美「うん。ちょっとずつ、だよ」

楓「もちろんです。お猪口でちょこっと、ですね。ふふっ」

裕美「どうぞ……え?」

恵磨「安直なダジャレだ、なかなか口にしないぞ」

裕美「酔ってるの、かな?」

楓「……はぁー……」

裕美「楓さん?」

楓「酒あわせ……!」

裕美「お酒を飲んで、幸せだからしゅあわせ、かな?」

恵磨「それなら、おいしいものも食べようっ。裕美ちゃんも一緒にさ」

裕美「うん。これ、あけていい?」

恵磨「もちろん!ジュースも買ってきたから。しゅがはがそろそろ来るから、良いツマミと一緒に」

楓「ありがとう、ございます。私は……」

裕美「……」

楓「これで、良かったと思います」
179 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:21:42.01 ID:lWSQgzZC0
96

深夜

久川家・凪の部屋

凪「めるめる。ごちそうさまでした。ゆーこちゃんも大絶賛。明日も部室へ」

颯「なー」

凪「おや、はーちゃん。おやすみの言い直しでしょうか」

颯「何してるの?」

凪「おやすみなさい、送信。千夜さんにメールをしました。またおねだりに行きましょう。はーちゃんのおねだりなら効果はバツグン」

颯「おねだりはいいけど、お礼に行かないとだね」

凪「部室で会えるはずです。一緒に行きましょう」

颯「うん」

凪「はーちゃん、その枕は何でしょうか」

颯「思い出したんだ。一人が怖くて、なーと一緒に寝たこと」

凪「はい。もう怖いことはありません。幽霊は見えても、対処法がある」

颯「ううん、違うよ。不安なことはいっぱい。ねぇ、なー?」

凪「なんでしょうか、はーちゃん」

颯「本当はね、見えるだけなら怖くなかったんだ」

凪「……」

颯「でも、何か怖くて。なーと違うのが怖かったのかな」

凪「その頃から違います。でも、凪は知っています」

颯「知ってる?」

凪「説明できない怖さを人は抱きます。隣にいて、はーちゃんのそれが和らぐなら、凪は一緒にいます」

颯「うん。なー、一緒に寝ていい?今日だけ」

凪「はい。昔と違って狭いですが、どうぞ」

颯「ありがと、なー」

凪「はーちゃん、おやすみなさい」

颯「おやすみ、なー」
180 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:23:10.48 ID:lWSQgzZC0
97

黒埼ちとせの自宅

りあむ「よし、テーブルはピカピカだ。ていうか、なんでこんなピカピカになんの?超高級家具だから?桁の違う金持ちは半端ねぇな」

千夜「洗い物は終わりました。申し訳ありません。残っていただいて」

りあむ「ぼくは休みだから、好きなだけ働かせるといい!白雪ちゃんも学校なんだから、早く休むんだよ!」

千夜「わかっています。お風呂の準備をしていますので、お先にどうぞ」

りあむ「え?ぼくがこの家のお風呂入るの?」

千夜「洗濯もしましょう。その服、気に入っているようですからニオイが取れるように善処します」

りあむ「服まで取られるの?りあむちゃん、帰れないよ?」

千夜「お泊りにならないのですか?」

りあむ「え……あっ!あきらちゃんが言ってたやつだ!あかりんご、あきらちゃん、ぼくも同じ気持ちを体感してるよ……」

千夜「何をブツブツ言ってるのですか」

りあむ「もちろん、泊ってくよ!家帰っても誰もいないから!お布団もたくさんありそうだし!着替えもあるといい!」

千夜「かしこまりました。お召し物は準備しておきます」

りあむ「白雪ちゃん、ありがとう!」

千夜「この家の客人をもてなすことは、私の役割ですから。ごゆるりと」

りあむ「……ねぇ、白雪ちゃん」

千夜「何か?」
181 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:25:33.18 ID:lWSQgzZC0
りあむ「寂しくない?ここに独り暮らしだとさ。りあむちゃんも家だとほとんど自分の部屋にいるし」

千夜「お嬢さまはいませんが、寂しくはありません。お前も、皆もいますから」

りあむ「ここに居る必要あるの?引っ越せば?ちとせの実家、家事する人を雇うくらい余裕あるでしょ?」

千夜「お嬢さまも黒埼の方々も私には大切です。しばらくは、ここに居ます。広い分には悪いことはありませんから」

りあむ「そっか。じゃあ、どうしようかな?たまに来るとか、ご飯食べに!」

千夜「不要です。部室で会えるなら、十分ですよ」

りあむ「わかった。でも、寂しくなったら言うんだぞ?やるせなさは急にやってくるんだから」

千夜「心得ます。そうだ、思い出しました」

りあむ「何を?」

千夜「ルーマニアにある黒埼の家で撮った写真があるのです。見ませんか?」

りあむ「家というより城ってウワサの?」

千夜「ええ。お嬢さまのドレス姿もありますよ」

りあむ「みる!みよう!部室に持ってこないのが正解のお宝だよ!」

千夜「おや、お風呂の準備ができたようです。その後で」

りあむ「わかった!お風呂場は?トイレの奥だよね?」

千夜「はい。洗濯物は洗濯籠へ。置いてあるものは自由にお使いください」

りあむ「うん!行ってくる!お先に!」

千夜「ごゆっくり。汗をかく程度まで浸かってください」

りあむ「うわっ!広っ!マンションにあるレベルじゃないぞ!姿見もデカすぎる!」

千夜「相変わらず、騒がしい。それくらいが、私には良いのかもしれませんが」

りあむ「何だ、この良い匂いがしそうなシャンプーは!?ボトルで分かる高級品だよっ!」

千夜「……口だけは慎んでもらうことにしよう。さて、湯上りの飲み物でも用意しておきましょうか」
182 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:29:07.34 ID:lWSQgzZC0
98

出渕教会・地下2階

裕美「静かになっちゃったね」

楓「2人きり、ですね」

裕美「体調は平気?」

楓「少し眠くなってきました」

裕美「ムリしない方がいいよ」

楓「ええ。裕美ちゃん」

裕美「なに?」

楓「近くに来てください。そんなに遠くだとトークができませんから」

裕美「……うん」

楓「お隣にどうぞ」

裕美「添い寝はちょっと恥ずかしいかも」

楓「恥ずかしがる必要はありません。もう誰も見ていませんから」

裕美「じゃあ、えいっ」

楓「ふふっ、なでなで」

裕美「楓さん、汗ばんでる」

楓「熱があるみたいです。気になりますか?」

裕美「ううん、平気」

楓「裕美ちゃん」

裕美「なに、楓さん」

楓「今日を用意してくれて、ありがとうございました」

裕美「ううん、私は何もしてないよ」

楓「恵磨さんとの約束も果たせました。涼さんとの約束は果たせませんでしたけれど」

裕美「カラオケは行けなかったね。でも、涼さんが歌をくれた」

楓「お上手でした」

裕美「ギターもピアノも上手なんだね、知らなかった」

楓「良い歌でした。今後も歌ってもらってくださいね。例えこちら側でも、歌を奪う必要などないのですから」

裕美「うん。恵磨さんに、心さんに、シスタークラリスも歌ってくれた」

楓「少し贅沢過ぎましたね」
183 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:31:03.35 ID:lWSQgzZC0
裕美「ちとせさんは、あれから降りてこないけど」

楓「彼女とは、お話をしました。優しくて、そして、臆病な人だと思います。見送る場所にいるべきではない、と身を引いたのでしょう」

裕美「……そうかな」

楓「裕美ちゃん、聞いてください」

裕美「うん」

楓「ちとせさんに、怒られました。あなたを思うのなら、高垣楓がいなくなるその日まで耐えるべきだと」

裕美「私は、そんなことして欲しくない」

楓「あなたは吸血鬼です。人間よりも何よりも長い長い時を過ごします」

裕美「……わかってるよ。洋子さんも、言ってた」

楓「たくさんの人を見送ることになります。苦しむ様子も見ることになるでしょう」

裕美「こんなに、すぐだとは思ってなかった」

楓「幾つもの別れがあっても、あなたらしく笑顔でいてください」

裕美「……私、笑顔なんて得意じゃないよ。目つきがきつい、ってよく言われるし」

楓「そんなことはありません。裕美ちゃんは、可愛らしい女の子ですよ」

裕美「ずっと、このまま」

楓「そして、未来を生きてください。別れを重荷のように背負うことなく」

裕美「……」

楓「……私がお願いできる立場ではありませんでした」

裕美「そんなことない。楓さんの言う通りに、するから」

楓「裕美ちゃんのご厚意に甘えて、最後のお願いをしてもいいですか」

裕美「いいよ。何でも言って」
184 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:32:24.53 ID:lWSQgzZC0
楓「私を、高垣楓を、見送ってください」

裕美「ここにいるから安心して」

楓「裕美ちゃん、私は人間として産まれ、『捕食者』と繋がり、こちら側へと来ました」

裕美「うん」

楓「昔から多くの人と交わるタイプではありませんでした。でも、大切な縁は周囲の人が紡いでくれました」

裕美「……」

楓「神様が、といっても死神ですけど、最後の時間をくれました。人間としての時間と……お別れを言う時間を」

裕美「……うん」

楓「『捕食者』に生きることを願ったことも、こちら側に来たことも、死神に死を願ったことも、吸血鬼に隣にいて欲しいと願ったことも、全て含めて……」

裕美「……」

楓「裕美ちゃん」

裕美「言って」

楓「高垣楓は、幸せでした」

裕美「……うん、きっとそうだよ」

楓「あなたも、そうあってください」

裕美「約束する」

楓「ありがとう……眠っていいでしょうか」

裕美「うん。ゆっくり、休んで。ここにいるから」

楓「もしも、目が覚めた時は、もう少し思い出話をしましょう」

裕美「わかった。思い出しておくね」

楓「はい……おやすみなさい、裕美ちゃん」

裕美「楓さん、おやすみ」
185 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:33:45.80 ID:lWSQgzZC0
99

夜明け前

出渕教会・地下1階

涼「もうすぐ、日が昇る時間だな」

ちとせ「そうみたい」

涼「……!」

ちとせ「死神さん、ダメだよ。行っちゃダメ」

涼「ダメって、どういう意味だ?」

ちとせ「あの子は、ちゃんと言いに来るから。それまでは、行かないで」

涼「……」

ちとせ「お願い」

涼「わかったよ」

ちとせ「ありがと。優しいのね」

涼「アタシだって、楓とは短い付き合いじゃない」

ちとせ「そっか。そうだよね、わかってなかった」

涼「いいさ。それでも、裕美のためなのはわかってるよ」

ちとせ「……」

涼「……」
186 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:36:11.42 ID:lWSQgzZC0
ちとせ「……来たよ」

涼「……ああ」

裕美「……」

ちとせ「……」

裕美「涼、さん……涼さん!」

涼「聞こえてるよ」

裕美「楓さん、楓さんが……」

涼「最後まで言わなくていい。裕美、がんばったな。後は任せておけ」

裕美「……お願い」

ちとせ「裕美ちゃん」

裕美「……ぐすっ」

ちとせ「貴方に大変な選択をさせた。永遠を与えること、終わりを与えること、そのどちらも。貴方は少女としての時しか過ごしてないのに」

裕美「ねぇ……ちとせさん」

ちとせ「感情は川だよ。抑えても流れ続けて、自分を傷つける。自分の形を変える必要なんてないの」

裕美「もう……いいかな。楓さんの前では、ちゃんと泣かなかったから」

ちとせ「貴方の望むように。私は楓さんに託されたから、貴方の行く末を見届けることを」

裕美「……」

ちとせ「私のカワイイご主人様、おいで」

EDテーマ
Twilight Sky


フォー・ピース
187 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:37:41.00 ID:lWSQgzZC0
100

エピローグ

後日

S大学・部室棟・SDs部室

千夜「お嬢さまからお聞きした、後始末はこんなところです」

りあむ「さらっと言ってるけど、とんでもないことしてる?ちとせはセンスがあるみたいとはいえ、凄すぎない?」

千夜「黒埼の方々に暗示をかけていた時はそこまでとは思いませんでしたが」

凪「フムン。秘められた才能が開花した、といったところでしょうか」

りあむ「うーん、開花じゃなくて成長とかのほうじゃない?」

千夜「そうかもしれません。お嬢さまの才覚は一朝一夕で手に入るものではないかと」

凪「時代が違えば一国一城の主」

りあむ「時代がここで助かった!ちとせにそんなことさせる必要ないし!ていうか、バッドエンドしかみえない。なんでだろ?とにかく、今の方がいい!」

千夜「ええ。お嬢さまの能力はともかく、高森藍子さんの存在は次第に薄れます」

りあむ「両親にだけ真実を告げるとか、残酷だよ」

千夜「そこはシスターの提案だそうです」

凪「記憶は抑え込めない。勝手な連想ゲームが誰しも得意です」

りあむ「抑え込んだらボロが出るから、そういうことか。もっともらしい理由をちとせが植え付け得て、勝手に納得して、自分で忘れていく」

凪「しかし、深い縁を持つなら別」

りあむ「もっともらしい理由も通用しないから、真実を告げるのか。ますます救いがない」

千夜「いいえ。全ての真実は告げていないそうです」

凪「噓も方便」

千夜「高森藍子さんは優しい人でした。悪人により怪物に変異してしまった。それだけです」

凪「止まることもできた」

千夜「相談することもできたでしょう」

りあむ「そうしたら、結末は変わってた?うん、きっと変わってた。あんな穏やかゆるふわガールを助けようとしない人はいないよ」

凪「誰かが異変に気付けば、変わった」

千夜「そんな可能性を夢想し、己を苛む必要はありません。どなたであっても」

りあむ「真実はぼくたちが知っていればいい。うん、そうしよう」

凪「だが、真実を知りたくなるのが人情です」

りあむ「それをちとせが誘導してるんじゃないの?納得させてる」

凪「なるほど。りあむ、冴えてるな」

りあむ「冴えてる……」
188 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:38:26.95 ID:lWSQgzZC0
千夜「どうしましたか。普段通りなら無駄に喜ぶところですよ」

りあむ「冴えてるついでに言っとくか。これは解決したけどさ、本当は解決してないよね」

千夜「ええ。堀裕子さんの件も、高森藍子さんの件も、元を辿れば同じです」

凪「能力をつけた存在が悪人です。教会の方々は『チアー』と呼んでいます」

りあむ「誰だか知らないけど、ヤバイ奴なのは間違いない。なんか手掛かりないかな?ないか!」

千夜「いえ、あります」

りあむ「あるの!?さすが、白雪ちゃん!」

千夜「公園です」

りあむ「そうか!スーパーレッドも言ってた!」

千夜「公園で誰かに会い、力を得たと」

凪「高森さんは公園を散歩することが趣味です」

りあむ「うーん、でも、それっぽい人見つかった?」

凪「凪の答えはノーです。いませんでした」

千夜「どなたからも、そのような人物には辿り着きません」

りあむ「誰かはわからないけど、わかることはあるはず!凪ちゃん、何かある!?」

凪「一ノ瀬志希ことラミアは、人を避けることが得意でした」

千夜「『チアー』もそのような能力を持つということでしょうか」

凪「あるいは、公園にいても目立たない人物なのか」

りあむ「めっちゃ普通の人とか?例えば、誰にでも話しかけるお喋りなオバチャンとか!」

凪「遭遇している可能性もある」

りあむ「いやいや、そんな都合よくはいかないよ。会ってたって、覚えてるわけないし」

凪「近くにいることは確実です」

千夜「逃げたりはしていません、残念なことに」

凪「『チアー』は分かっているはずです」

千夜「自身が影響を及ぼした人々に起こったことを」

凪「能力と行動が把握され、存在も明らかです」

りあむ「ぼくたちとか教会の人がいるの、わかってる?わかってるのに、こんなこと続けてるの?」

千夜「そうなります。何か考えがあるのか、あるいは」

凪「教会を甘くみているか」

りあむ「もしかして、状況を全然わかってない?逃げればいいのに、それを判断できないとか」

凪「フムン、むしろ厄介です」
189 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:41:17.16 ID:lWSQgzZC0
りあむ「目的があるほうがわかりやすいもんね!」

千夜「しかし、悪意があることは間違いありません」

凪「目的はわからない」

りあむ「むしろあるのかな?適当に使ってるだけじゃない?ほら、才能があったら使うよね、ぼくだったらひけらかすように使うよ!そんな才能ないけど!」

千夜「目的がないか……勘弁して欲しいものです」

凪「凪は『あちら側』に送り出しました。しかし、はーちゃんにスリリングな生活を楽しんで欲しいわけではない」

りあむ「ぼくもちとせにそう思うよ。静かな夜が一番だよ!『チアー』なんて、どこか行っちゃえばいいんだ!」

千夜「ええ。気が変わってくれることを祈ります」

りあむ「なんか辛気臭くなってきた!この話はやめよう!ぼくたちは、解決したんだ!それでいいよね!?」

凪「はい。これはこれ、それはそれです」

りあむ「そういえば、高垣さんはどうなったの?」

凪「葬儀は行われ、埋葬されたそうです」

りあむ「シスターが教会で?教会って、確かお墓あったよね?」

凪「りあむ、残念。不正解です」

千夜「お嬢さまからお聞きしました。葬儀はお寺だったそうです」

凪「シスターが和装で取り仕切ったと聞いています」

りあむ「金髪美女の喪服?椿さんが興奮しそうな光景だな……ん?思考が椿さんに侵されてないか?」

凪「りあむ、静かになると笑うタイプだったのか。不謹慎だな」

りあむ「違うよ!りあむちゃんはそういうとこではちゃんとするよぅ!」

凪「椿さんは立派な女性です。りあむは脳内設定を更新してください」

りあむ「まさか、面白お姉さんに見えてるのは、ぼくだけなのか?」

千夜「葬儀は夜間に行われ、荼毘に付されました。教会にも墓地はあるそうですが、そこには埋葬されていません」

凪「和歌山、先祖代々のお寺とお墓です」

千夜「退魔師と呼ばれる人物が探してくれたようですね」

りあむ「そっか。近くにいなくて、裕美ちゃんとか寂しくないかな?」

凪「足があります。生きているなら会いたい時に会いにいけばいい。だから、一番良い所にいるべきです」

りあむ「凪ちゃん、良いこと言うね。ぼくは感激したよ!会いに来ないりあむちゃんの家族にも言って欲しいよ!」

千夜「……会いたい時、でいいのか」
190 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:43:28.96 ID:lWSQgzZC0
りあむ「白雪ちゃん、どうしたの?あっ、和歌山に行きたい?一緒に行こうか!椿さんが保護者になってくれるはず!被写体として献上すればいける!」

凪「和歌山ですか。パンダが有名ですね、はーちゃんにも見せたいです。レッツアドベンチャー」

千夜「いいえ、和歌山ではなく……」

りあむ「じゃあ、どこ?宮崎、長崎、滋賀、大阪、神奈川、山形、北海道?海外は個人的にちょっと……あっ、コンプレックスがあるわけじゃないからな!学生連れて行くのは危ないだけだよ!」

凪「りあむ、めんどくさいな。気持ちは理解しますが」

千夜「どういう理屈で選んだのか知りませんが、その中にあります。北海道です」

凪「北海道。クマ牧場と木彫りのクマは欠かせません」

りあむ「邪魔になるだけなのに、みんな買ってくるんだよね。なんで?」

千夜「その理由は知りませんが……旅行に行きたいわけではありません」

りあむ「あっ、もしかして……お墓参り?」

千夜「はい。私が行きたい時に行けば、良かったのですね。生きているから、私が行けばいいのです」

りあむ「それでもいいよ、付き合うよ」

千夜「ええ、その時は」

凪「凪もいきます。挨拶は大切」

千夜「辻野さんが見た人魂については、これで解決でしょうか」

凪「凪はそう思います」

りあむ「ぼくも賛成!」

千夜「記録もしておきました」

りあむ「白雪ちゃん、ありがとう!本棚にしまっておくよ!持ち出さないにしておかないと!どうしたらいいかな?」

凪「本棚にカギをつけましょう」

千夜「もしくは金庫などがあれば良いのですが」

りあむ「わかった!時子サマに後で相談しておく!」

凪「いつも通りの活動に戻るとしよう。りあむ、何かありますか?」
191 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:45:31.84 ID:lWSQgzZC0
りあむ「ないよ!大学も夏休みだから時子サマ情報もあんまりないし!」

凪「堂々とした宣言。ここまで言われるとぐうの音も出ない」

りあむ「じゃあ、凪ちゃんを先生にして話を聞こう!聞きたいことがある!それでいい?」

千夜「私はかまいません。何について聞きましょうか」

りあむ「双子の超能力を調べてたんだよね?それを聞いてみたい!生活環境なのか医学的なのか興味ある!」

凪「ほう、面白い。医学的と来ましたか、看護学科らしい視点です。お話しましょう」

千夜「どなたか、参られました」

あきら「どうも。今日は3人なんだ」

凪「あきらさん、こんにちは。お疲れ様です」

あきら「あかり、まだ来てない?教室にはいなかったから、先に来たんだけど」

千夜「いえ、いらっしゃっていません」

あきら「待ってればいいか。今日は何かしてた?」

りあむ「凪ちゃんから双子の話を聞こうとしてたとこ!つまり、予定はない!」

あきら「良かった。お客さんがいるんデス、入れても?」

凪「秘密の話は終わりました」

千夜「お招きしても構いません」

あきら「わかった。奏サン、いいデスよ」
192 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:48:02.53 ID:lWSQgzZC0
101

速水奏「お邪魔するわ」

速水奏
N高校に通う高校生。両親の影響で映画鑑賞が趣味。最近も両親と一緒に、とある低予算ドラマを配信で見たとか。

凪「天使様降臨。いらっしゃいませ」

千夜「こんにちは。お好きな所へお座りください」

奏「ありがとう、ここにしようかしら」

りあむ「若葉お姉さん赤の席だ。どしたの?そういや今回は見なかったけど、別のことでもあった?」

奏「学校と家族を優先したら、会う機会がなかっただけよ。話は聞いてるわ、お疲れ様」

りあむ「高校生やってるんだね、普通に」

奏「ええ。幸運ね、私は」

凪「お悩み相談でしょうか?学校生活も色々あることでしょう」

奏「お願いというか、おねだりにきたの」

りあむ「おねだり?りあむちゃんをカツアゲしても何も出ないぞ?」

あきら「あかりがいるといいんデスけど」

りあむ「あかりんご?どうして?リンゴでも欲しいの?」
193 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:52:06.70 ID:lWSQgzZC0
あかり「こんにちはっ!さっき十時愛梨ちゃんを見ちゃいました!めっちゃかわいかったんご〜」

あきら「あ、来た」

奏「辻野さん、こんにちは」

あかり「奏さんっ、こんにちは!何かご用ですか?」

奏「あなたに会いに来たの」

あかり「わ、私ですかっ?何かしでかしたのかな……」

りあむ「いや、何もやってないよ。それ口癖なの?」

あきら「うん。あかりなら平気」

奏「山形に映画セットを見学できる場所があるでしょう。最近見たドラマのロケ地なの」

あかり「はいっ、ありますっ!でも、車じゃないと行くのが大変ですよ?」

奏「だから、連れて行ってくれないかしら」

凪「旅行の話をしていたら」

千夜「旅行に行きたい人が来ましたね」

凪「ええ。そういえば、りあむが提案した旅行先にも山形があった」

りあむ「車か。若葉お姉さんがいるからいけそうだね!あっ、車の席が足らないか!?」

凪「行けると思います。若葉お姉さんが運転する車は増やせる」

りあむ「なるほど!別の車を運転してもらえばいいのか!白雪ちゃんは予定あえば行ける?」

千夜「休日であれば、ご一緒します」

奏「せっかくだから、案内してもらいたいの。どうかしら?」

あきら「あかり、どうかな。山形を宣伝するなら、こういうとこから」

あかり「……」

あきら「あかり?」

あかり「えっと、その……」

りあむ「どうしたの、あかりんご?天界にも山形をアピールするチャンスとか言う所だよ!」

あかり「……」

千夜「辻野さん、どうされましたか」

あかり「今は、その、山形に行きたくないかな……って」
194 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:54:19.06 ID:lWSQgzZC0
あきら「え……?」

あかり「あっ、すっごく良いところですよ!奏さんが行きたい、映画のセットも良い所ですから見て来てくださいっ!オススメの観光スポットとか直売所とかも紹介しますっ!」

あきら「あかり、ほんとに、どうしたの?」

凪「りあむ」

りあむ「うん。白雪ちゃん、凪ちゃん、フォローは頼んだ。ちょっと突っ込む」

千夜「申し訳ありません、お願いします」

あかり「みんなで行ってきてくださいっ!私はお土産話で十分ですっ」

りあむ「あかりんご、質問がある。どうし……」

あきら「嫌デス。あかりと一緒に行きたい。あかりは違うんデスか?」

あかり「……」

あきら「……」

りあむ「あわわ、りあむちゃんが変なこと聞くつもりだったのに想定してないよ。どうしたらいいんだろう!」

あかり「えっと、あきらちゃんと一緒にお出かけはしたいです。でも、その」

あきら「あんなに山形が好きなのに、どうしてデスか」

あかり「それは、その……山形出身ですから、山形は旅行にいくところじゃないんですっ!」

あきら「山形も広いデス。住んでるところ以外に遊びにいかないわけない」

奏「2人共、落ち着いてちょうだい。おねだりしにきた私を置いてけぼりにしないでくれないかしら」

あかり「奏さん、ごめんなさいっ!お客さんの前なのにダメですよね、えへへっ」

あきら「あかり」

りあむ「あきらちゃん!ステイ!ステイ!あーもうっ!」

あきら「なんで……」

りあむ「あかりんご!なんで山形から出て来たの!?ずっとあっちにいたかったんじゃないの!?」
195 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:56:39.54 ID:lWSQgzZC0
あかり「え……」

あきら「聞きたいこと言われた。あかり、どうして言ってくれないんデスか」

あかり「だって……」

りあむ「ぼくは決めたぞ!白雪ちゃん!あきらちゃんを強制退場!」

千夜「かしこまりました。砂塚さん、廊下へ行きましょう」

あきら「まだあかりと話が……千夜サンの力が強いっ」

奏「連れていかれたわ」

凪「さすがメイドパワー」

奏「その気になれば持ち上げられそうね……」

りあむ「あかりんご、ぼくは気になってたけど聞かなかった。たぶん、白雪ちゃんもあきらちゃんもそう」

あかり「……山形から引っ越した理由ですか」

りあむ「うん。だって、理由なんてどうでもいいもん。聞く必要なかったけど、今は聞いた方がいいから聞いてる。あかりんごは、ぼくの仲間なの変えないから。だから、何でもいいよ!何かあるんだよね」

あかり「……りあむさん」

りあむ「うんうん、りあむちゃんは何でも話してくれる後輩がいるのが夢だったんだよ」

あかり「ありがとうございますっ。何でもないんですよ、父ちゃんの仕事の関係で引っ越してきました」

りあむ「え?何でもない、って言ったの?」

凪「凪には、そう聞こえました」

奏「……」
196 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:57:39.81 ID:lWSQgzZC0
あかり「アンテナショップの看板娘ですから、山形の案内もがんばりますねっ!旅行、楽しみにしてますっ」

凪「旅行の許可はでました。奏さん、いかがでしょうか」

奏「お願いに来た甲斐はあったけれど」

あかり「あっ!お店のお手伝いがあるんでしたっ!今日は帰りますっ。凪ちゃん、またね!」

凪「さようなら。またお会いしましょう。しかし、なぜ凪だけに挨拶を?」

あかり「あきらちゃん、千夜さん!今日は失礼しますっ!」

あきら「あかり、待ちなよ。ん、んぐぐ……」

凪「千夜さんに取り押さえられたようです」

奏「噛みつきそうな勢いね……白雪さんは上手く抑えてるわ」

りあむ「あかりんご……絶対嘘だ……」

奏「嘘ね」

凪「嘘です」

りあむ「何でもない、は嘘だよ、あかりんご。りあむちゃんでもわかっちゃうよ。りんご農家が理由もなく突然引っ越してくるわけないんだよ……」

凪「旅行については同意しました」

奏「約束は守るでしょう。心の奥底まで同意していないくても」

凪「お店のお手伝いはどうでしょう。忘れていたのか」

千夜「辻野さんは手帳にお手伝いの予定を書いています。忘れることはなく、思い出すなら見た時です」

凪「千夜さん、戻られましたか」

あきら「千夜サン、離してくれないデスか」

りあむ「白雪ちゃん、ありがと。噛まれる前にその猛獣を離した方がいいよ」

あきら「だれが、猛獣デスか」

千夜「落ち着くまでは捉えておきます。砂塚さん、ソファーに座りましょう」

あきら「逃げないから、大丈夫だって」
197 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 20:59:02.50 ID:lWSQgzZC0
りあむ「あきらちゃん、いつも落ち着いてるのにどしたの?お腹空いてる?」

あきら「そういうわけじゃないし、自分はそんな単純じゃないデス」

奏「友人に壁があることを今更気づいた自分に怒っているだけよね。深い付き合いだけど、長い時間は過ごしてないもの。ちゃん付けで呼ぶくらいの距離、その勘違い。仕方がないわ」

あきら「……」

りあむ「天使サマ、人は正論で傷つく生き物なんだ。優しくしてよぅ」

奏「ごめんなさい、言葉を選ぶべきだったわね。まだ高校生だもの」

凪「はて、高校生なのは同じでは?」

あきら「りあむサン、お願いがあります」

りあむ「わかってる!あかりんごの悩みを解決するぞ!お節介だろうが関係ない!ぼくは疎まれるのは慣れてるからね!図々しく行くぞ!」

千夜「砂塚さん、あなたが嫌われ役をする必要はありません」

凪「りあむの役目」

あきら「……うん」

りあむ「山形旅行の計画を立てるぞ!大学生の夏休みっぽくなってきた!奇跡だ!」

あきら「旅行、デスか……?」

千夜「砂塚さん、落ち着いてください。無駄に喋ってるくせに言葉足らずなのは、わかり始めたはずです」

りあむ「そう!理由は故郷にあるのは明らかだよ!」

凪「旅行とかこつけて、あかりんごを連れ出す。りあむ、狡猾だな」

りあむ「そこまで考えてないから!天使サマ、協力してくれない?旅行も一緒に行こう!」

奏「ええ、構わないわ。私も学生旅行には憧れもあるもの」

りあむ「白雪ちゃん、椿さんと若葉お姉さんを招集して!」

千夜「わかりました。まずは作戦会議です」

りあむ「あきらちゃんも、いいよね?あかりんご、このままにはしておけないし!」

あきら「きっと明日は平気な顔していつも通りだと思うんデス。でも、それじゃいけないし。あかりは、もっと自然に笑っててほしいから」

りあむ「決まりだ!いくぞ、山形!さくらんぼ県!ラ・フランス!」

千夜「辻野さんのご実家はりんご農家ですから、そのあたりを気にしているのでは」

凪「フムン、あかりんごは見かけより攻略が難しいな」

りあむ「そんなのわかってるよ!わかりやすいなら、こんな所にいないだろ!それでもいてくれないとぼくが寂しいんだよ!」

凪「りあむ、その自分勝手さと断定、素晴らしい」

千夜「江上さんと日下部さんに連絡が取れました」

りあむ「準備するよ!お茶も淹れよう!ホワイトボードも!」

千夜「お茶は担当します。他は任せました」

あきら「はじめよ。このままじゃ、納得できないから」

第3話に続く。


製作・ブーブーエス
198 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 21:00:44.15 ID:lWSQgzZC0
次回予告

依田芳乃「この地には悪しき気配がするのでしてー」

次回
辻野あかり「7人が行く・EX3・出郷りんご」

199 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 21:03:08.45 ID:lWSQgzZC0
オマケ

撮影中の一幕

翠「……」ジーッ

涼「翠サン?どうしたんだ、じっと見られると気になる」

翠「役の設定資料をいただきましたので、確認をしています」

涼「翠サンは真面目だな」

翠「ふむふむ、涼さんはスタイルがよろしいですのね」

涼「翠サンこそ。真っ黒のスーツ似合ってるぜ」

CoP「こちらでしたか。水野さん、参考になりましたか」

翠「はい。涼さん、また撮影時に」

涼「ああ」

撮影後……

涼「Coサン?」

CoP「松永さん。お疲れ様でした」

涼「翠サンに渡された資料、何が書いてあったんだ?」

CoP「たしか、死神は松永涼のどこがお気に入りなのか、だったかと」

涼「それか……そういうの翠サンに渡したら、結果は予想できないか?」
200 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/06(日) 21:04:29.29 ID:lWSQgzZC0
P達の視聴後

PaP「よしよし、凪ちゃんはがんばったな。後でご褒美をあげよう。何が良いと思う?」

CoP「久川さんのお姉さんですか。どんなものが好みなのでしょうか」

PaP「スイーツは幾らでも紹介できるんだが」

CuP「買い物ついでにご馳走すればいいと思いますよ」

PaP「そうするか。もう一捻り欲しい気もするが」

CuP「いいんですよ、それで。凪ちゃん、喜んでくれると思いますよ」

PaP「そうだな。雑貨屋巡りでもしてみるか」

CuP「Paさんが一捻りすると本当に捻り過ぎるし……」ボソッ

CoP「さて、食事にしますか」

PaP「よし、出前でも取るか」

CuP「お腹すきましたね、中華にしましょう。劇中にも出てきましたし」

CoP「賛成です」

おしまい
201 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/12/06(日) 21:08:16.22 ID:lWSQgzZC0
あとがき

お待たせしました。
ゆっくり書いたのもありますが、単純に長い。短く収めようとする気もない。

千夜とちとせ、凪と颯の立ち位置が2話にして、あちらとこちらに離れるという。

楓さんについては予定もないのに布石はあったので。
最後はお酒と駄洒落、自分らしく。今後も後継者の名前を見るたびに思い出してもらう。

次回は、
辻野あかり「7人が行く・EX3・出郷りんご」
です。

気長にお待ちください。次は読み切りを書く予定。
更新情報は、ツイッター@AtarukaPで。

それでは。
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