久川凪「7人が行く・EX2・トクベツなフツウ」

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2 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:23:15.09 ID:UcFFD9dl0
メインキャスト

SDsメンバー
1・久川凪
2・夢見りあむ
3・白雪千夜
4・辻野あかり
5・砂塚あきら
6・江上椿
7・日下部若葉

クラリス
柳瀬美由紀
松永涼

水野翠

黒埼ちとせ
関裕美
高垣楓

久川颯
3 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:24:00.88 ID:UcFFD9dl0

・oxymoron

名詞
・矛盾話法、撞着語法
例:急がば回れ・生ける屍・自由の強要

4 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:24:37.04 ID:UcFFD9dl0


ねぇ、知ってる?

毒を持つ生物は、毒を作れるとは限れないんだよ〜。

自然界にある毒を少しづつ集めて……自分の毒にする。

人間は30兆個の細胞で出来てる。

30兆個から集めたら、どんな毒になるのかな?

5 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:25:25.85 ID:UcFFD9dl0


9月初旬のとある水曜日



N公園前

N公園
あかりがお手伝いしているアンテナショップ近くにある公園。芝生がキレイ。

辻野あかり「……お手伝い疲れた」

辻野あかり
S大学付属高校に転校してきた1年生。S大学付属高校の制服はお古が手に入った。放課後はアンテナショップのお手伝いをしている。

あかり「なしてや……」

あかり「学校、まだ緊張してるのかな。山形とは違うから……」

あかり「公園に人魂が浮いてる、疲れて幻覚が……」

あかり「……ん?」

あかり「人魂が浮いてるんご!」

あかり「あれ?消えた?」

あかり「……」

あかり「幻覚見るほど疲れてない、気のせいじゃないんご!」
6 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:26:23.83 ID:UcFFD9dl0


深夜

某民家・中庭

某民家
前の所有者が手放してから空き家となっている。とある事情で獣臭い。

黒埼ちとせ「ねぇ、裕美ちゃん?」

関裕美「なに、ちとせさん?」

黒埼ちとせ
吸血鬼。裕美に噛まれて、夜を生きることになった。千夜を除いた親しい人物には暗示をかけ終わった。

関裕美
吸血鬼。魔法使い特製マイディアヴァンパイアの衣装を着ている。

ちとせ「楓さん、一人で大丈夫なの?」

裕美「大丈夫だと思うよ。強い気配はしないし」

ちとせ「気配?」

裕美「うん。ちとせさんはわかる?」

ちとせ「よくわかんない。変な感覚はあるかな、ちょっとだけ」

裕美「よかった。私も最初は分からなかったから」

ちとせ「どうすればいいの?」

裕美「慣れればわかるよ。これは本能だから」

ちとせ「本能かぁ……」

裕美「体の使い方は慣れた?」

ちとせ「全然。裕美ちゃんみたいに動かせないの」

裕美「元の体が弱かったからかな。無理しないでいいよ」

ちとせ「元気になっても運動するタイプじゃないんだけどなー」

裕美「ダメだよ、弱気は。変わるって決めたんだから」

ちとせ「……うん、そうだね」

裕美「あっ、戻ってきた」

高垣楓「戻りました」

高垣楓
捕食者。人間としての外見は痩せた美女。最近、食事以外の時間は寝ていることが多い。
7 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:26:59.30 ID:UcFFD9dl0
裕美「どうだった?」

楓「獣霊でした。猫のような」

裕美「綺麗になる前は猫が多頭飼育崩壊してたらしいから、そうかも」

楓「20頭ほどでしたか」

裕美「100匹くらいだったかな。死骸を合わせたら、もっと」

楓「獣霊になったのが少ない……のでしょうか」

ちとせ「お腹いっぱい?」

楓「『捕食者』は、1ヶ月は大丈夫かと」

ちとせ「これで、新しい人住めるかな?」

裕美「難しいと思う。ここからでもニオイがするし」

ちとせ「そっか」

楓「……そう、ですか」

裕美「ん?何か気になることある?」

楓「いいえ。この辺りには何もいません」

裕美「楓さん、帰る?」

楓「はい」

ちとせ「夜が明ける前に帰ろっか」
8 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:29:55.65 ID:UcFFD9dl0


9月初旬のとある木曜日

昼休み

S大学付属高校・あかりとあきらの教室

S大学付属高校
あかり達が通う高校。S大学はもちろん、付属小学校、付属中学校も併設している。

砂塚あきら「ヒトダマ?」

砂塚あきら
S大学付属高校の1年生。あかりが同じクラスになった。放課後はバイトやゲームをして過ごしている。

あかり「N公園で見たんです。ふわふわって漂って赤く光ってて」

あきら「フーン……」

あかり「あきらちゃん、信じてない?」

あきら「信じてないとは言ってないデス」

あかり「信じてください、本当に見たんです!」

あきら「まー、丁度いいんじゃないデスか」

あかり「丁度いい?」

あきら「部室、いこ。りあむサンが待ちぼうけてるはず」
9 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:31:20.44 ID:UcFFD9dl0


放課後

S大学・部室棟

S大学・部室棟
S大学のサークルは多くがこの部室棟に部室を構える。財前時子によって色々と整理がなされ、警備員も夏休みの初めから常駐するようになった。

あかり「あきらちゃん、前はいつ来ました?」

あきら「夏休みの終わりくらいデス。あかりは?」

あかり「私も……」

あきら「あかり、行き過ぎ」

あかり「あれ?前はドアに何もなかったのに、表札がついてます」

あきら「『SDs』?……ってサークルの名前?あかり、知ってる?」

あかり「ううん、知らないです」

あきら「ネットで調べたら、製品安全データシートがSDS、だって」

あかり「違うような気がする」

あきら「そうデスね」

あかり「誰かいるみたいだから、中で聞いてみるんご!」
10 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:33:40.49 ID:UcFFD9dl0


S大学・部室棟・SDs部室

SDs部室
最初はテーブルとイスだけだったが、家具が着々と増えつつある。サークル名は夢見りあむが決めた。

久川凪「凪は、眺めています」

久川凪
なー。久川颯の双子の姉。りあむがサークル会員に加えてくれたので、堂々とS大学に出入りするようになった。

白雪千夜「こちらはいかがでしょう。7歳の時です」

夢見りあむ「幼女じゃなくて既に美少女だ、すげぇ……」

白雪千夜
S大学付属高校の3年生。独り暮らしになったので暇を持て余しているらしい。

夢見りあむ
S大学看護学科の1年生。財前時子の命により、サークルSDsの代表となった。大学はまだ夏休み。

凪「アルバムを見ている2人を」

千夜「お嬢さまの美しさは既に際立っていました。見てください、これを」

りあむ「神社で、七五三の衣装!この和洋折衷さ、もはや芸術だよ!」

千夜「そうでしょうそうでしょう」

凪「ここは黒埼ちとせ大好きクラブのようです。連日アルバムを見ているだけとは」

千夜「久川さん、何か仰いましたか」

凪「はーちゃんもいますので、凪と呼んでください」

千夜「それでは改めて、凪さん。お嬢さまに危害を加えた人物を見つけるため、それが私達は集まるきっかけでした」

凪「その通りです。異議はありません」

千夜「つまり、お嬢さまが好きな人々の集団といっても過言はない」

凪「そう言われれば、そんな気がしてきました」

千夜「それでは、こちらに来てアルバムを一緒に見ましょう」

りあむ「いや、違うからね?みんなで校外学習して、ウワサを調査するサークルだから」

凪「危ない、千夜さんの口車に乗る所でした。メイド殺法恐るべし」

千夜「メイド殺法……凪さんは珍妙な物言いをしますね」

凪「りあむ、ウワサの調査は進んでいるのですか?」
11 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:34:20.75 ID:UcFFD9dl0
りあむ「やってるよ!?誰も協力してくれないだけで!というか凪ちゃんはぼくのこと呼び捨てなの?」

千夜「おや、そうなのですか?」

りあむ「りあむちゃんのスケジュールは常に白紙だからね!」

千夜「自慢することでは……私が言えた義理もありませんが」

凪「面白そうなことは見つかりましたか」

りあむ「ない!時子サマのファイルを調べたけど、ほとんど作り話か酔っ払いが発生源!」

千夜「そんなものですか」

りあむ「時子サマはそんなものよ、って言ってた。幽霊なんか見える人もほとんどいないし、見える人でも幽霊なんてそうそうに会わないって」

千夜「凪さんは、見える人でしたね。どうですか」

凪「はーちゃんと一緒でなければ見えません。つまり、凪は見える人とは言い切れない」

千夜「それでは、妹さんと最近何か見ましたか」

凪「最近見たのは『捕食者』だけです。心霊スポットに行けば会えるかもしれません」

千夜「心霊スポット……お前、どう思いますか」

りあむ「自分からそんな危ない所いかないよ!?安全第一!健康第一!ストレス回避!」

凪「一理ある。はーちゃんも行きたがりませんでした」

千夜「行きたかったのですか、その口振りだと」

凪「いいえ。はーちゃんの姉が凪ですから。姉らしくゆーこちゃんの言いつけは守ります」

あかり「こんにちはっ!」

あきら「お邪魔します」

りあむ「あかりんご!あきらちゃん!さびしかったよ、りあむちゃんに会いに来てくれたの!?」

あきら「やっぱり……帰りますか」

あかり「え?あきらちゃんがそう言うなら」

凪「こんにちは。そして、さようなら」
12 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:35:38.23 ID:UcFFD9dl0
りあむ「うぇーん、ウザ絡みは謝るよぉ!りあむちゃんとお話してよう」

千夜「砂塚さんも本気ではないでしょう。冷たいお茶を淹れますよ、座ってください」

あきら「お茶、貰います。いつの間にかイスが増えましたね」

あかり「えっと、色々なイスが6個と同じイスが5個。あっ、若葉さんのためですねっ」

りあむ「そうそう。時子サマが押収した備品をくれたんだ。冷蔵庫も持ってきてくれた」

あきら「押収……どこから?」

凪「どれどれ冷蔵庫を拝見します……冷凍庫に冷凍餃子がたくさん」

りあむ「暇だったから作ってみた。自由に持ってくなり食べるとするといい」

千夜「麦茶と緑茶、どちらがよろしいですか」

あかり「それじゃあ、緑茶がいいんご!」

あきら「あかりと同じで」

千夜「かしこまりました。どうぞ」

あかり「千夜さん、ありがとうございます!」

千夜「構いません。凪さん、冷蔵庫を閉める前にお茶を戻してください」

凪「りょ」

千夜「今日は何かご用事ですか」

あきら「あかりが、話があるって」

りあむ「あかりんごが話?……ん?ちょっと待って」

あかり「何かありました?」

コンコン!

りあむ「どうぞ!入るといいよ!」

財前時子「お邪魔するわ」

財前時子
S大学の職員、学生支援総合センターに勤務している。丸めたポスターを肩に担いで登場した。
13 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:37:29.14 ID:UcFFD9dl0
りあむ「時子サマ!りあむちゃんを褒めにくれたの?」

時子「そんなものね。これをあげるわ」

りあむ「ポスター?」

時子「恵磨のポスターよ、飾りなさい」

りあむ「CGプロの仙崎恵磨?時子サマ、芸能事務所ともコネあり?」

時子「コネというか、単純に友人なだけよ」

凪「ほうほう。見ているとシャウトが聞こえてきそうです。きっと胸の奥でその声が響き続けているのです」

時子「サインも貰ったわ。大切になさい」

凪「凪は把握しました。陽の当らない、だけど目立つ壁に貼りましょう」

あきら「あかり、知ってる?」

あかり「知ってるんご、ネットでS大学在学中にデビューしたって書いてありました」

あきら「そういうのは調べてるよね、あかりは」

大和亜季「時子殿、お待たせしたであります」

江上椿「こんにちは。あら、皆さんお揃いですね」

大和亜季
S大学工学部の修士課程1年生。時子とは学部時代に同じサークル、SWOWに所属していた。

江上椿
S大学の学生。裁縫部からSDsに移籍してきた。部室のビデオカメラと三脚は彼女によって設置された。

時子「亜季、椿、運んでくれてありがとう。また備品を持って来たわ」

凪「捨てる費用を節約できます」

時子「あなたは察しがいいのね。その通りだから、自由に使いなさい」

亜季「運び込むであります。椿殿、お手伝いを」

椿「わかりました。皆さんも、手伝ってくださいな」

千夜「わかりました。ちょうど本棚が欲しかったのです、アルバムを置くための」

りあむ「そうだ、あかりんごの話を時子サマにも聞いてもらおう。ねぇねぇ、時子サマいいでしょ?」

時子「……」

亜季「私は問題ないでありますが、どうするでありますか?」

時子「りあむ達で何とかしなさい。行き詰まったら相談に乗るわ。亜季も、それでいいかしら」

亜季「もちろんであります。さぁ、運ぶでありますよ」
14 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:39:08.55 ID:UcFFD9dl0


S大学・部室棟・SDs部室

日下部若葉「お待たせしました〜」

日下部若葉
S大学の学生。5体で1人の生き物。椿の提案と提供によって、赤・青・緑・黄・白のアクセサリーで判別できるようになった。部室に現れたのは赤いリボンをつけた1人だけ。

椿「若葉さん、お待ちしてました」

あかり「赤のアクセサリー、しばらく逢ってないから、でも情報共有してて……えっと?」

あきら「つまり、何も気にしなくていいデス」

若葉「わー、部室が立派になりましたね〜」

凪「テレビ、テレビ台、DVDプレイヤー、CDラジカセ」

あきら「本棚、ホワイトボード、冷蔵庫」

りあむ「学校にありそうな鉄のロッカーも2つ貰った」

椿「まだ季節は早いですが、コート掛けもいただきました」

あかり「仙崎先輩のサイン入りのポスターとCDもあります」

千夜「食器類もいただきました。簡易キッチンは元から使えます」

若葉「サークルの部室らしくなりましたね〜」

凪「大学生は部室で一晩を明かすと聞いています。ソファーを備えましょう」

椿「若葉さん、座ってください」

若葉「はい〜」

あきら「これで7人、揃った」

りあむ「若葉ちゃん、待ってたよ!」

若葉「りあむちゃんが、私をですか?」

りあむ「あかりんごが!」

あかり「え、あっ、はいっ!ここっぽい話題だから相談しようって!」

若葉「もしかして、何かと会いましたか」

凪「もしくは見た」

あかり「そうなんです、見たんです」

りあむ「何を?」

あかり「夜の公園で人魂を見たんです!」
15 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:40:37.49 ID:UcFFD9dl0


S大学・部室棟・SDs部室

りあむ「あかりんごが、見た?人魂を?あの光ってるやつ?」

凪「場所はN公園」

千夜「N公園ですか。幽霊が出るようには思えませんね」

あきら「昼は親子連れで賑わってる。お店の多い通り沿い」

あかり「アンテナショップから家までの帰り道なんです」

若葉「大学とアンテナショップの間にありますね〜」

椿「向かい側のカフェが人気なんですよ」

凪「時はバイト終わり」

千夜「夜更けとは言えません。N公園は電灯も白色で明るいかと」

りあむ「なんか、人魂出なさそうだな」

椿「写真は撮りました?」

あかり「すぐに消えちゃったから……撮れなかったんご」

凪「見間違いという可能性はありますが」

椿「決めつけたら、集まった意味がありません」

千夜「お前、どうするか決めてください」

りあむ「決まってる、あかりんごを信じるよ!調べよう!調べるしかない!」

あかり「りあむさん、ありがとうございます?」

りあむ「なんで、疑問形なの?そこは元気よく行くところじゃない?」

あかり「今更ですけど、調べる必要もない気がしてきました」

あきら「見ただけ」

あかり「あの時はびっくりしたけど、怖くなかった気がします」

若葉「身の危険を感じるのは、人間の優れた力なんですよ〜」

凪「そうなのですか?後で詳しく」

りあむ「いや!ここまで来たから調べようよ!あかりんごも、次は見たくないよね?ね?」

あきら「りあむサンもこう言ってる」

あかり「わかりました、みんなで調べるんご!」

りあむ「やっとサークルっぽくなった!SDs始動だよ!」

あきら「りあむサン、本題に入る前に質問」

りあむ「あきらちゃん、なになに?ぼくのこと気になる?」

あきら「えす、でぃー、えす、ってどういう意味ですか?」

あかり「みんな、知ってるんですか?」

千夜「今日来たら決まっていました。私はどうでもいいか、と」

凪「凪は推理中です。しかし、答えにたどり着かない」

若葉「サークル名決まったんですか〜?」

椿「りあむさん、教えてくれませんか?」

りあむ「えっと……その前に……」

千夜「何か」

りあむ「ぼくが決めちゃったけど……許してくれる?」
16 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:41:41.19 ID:UcFFD9dl0
あかり「りあむさんが代表だから、もちろんです!」

あきら「あかりに賛成」

千夜「私はどちらでも。皆さんは」

凪「賛成のようです。凪も構いません」

りあむ「優しい、優しすぎる……罠か?」

あきら「違う」

椿「それで、どういう意味なんですか?」

りあむ「……7人の小人」

千夜「大きい声で言いなさい」

りあむ「7人の小人!セブン、ドワーフ、ズの頭文字からSDs!」

凪「その心は」

りあむ「時子サマのサークルは、世界7不思議からとってた」

椿「SWOWでしたね」

凪「セブン・ワンダー・オブ・ワールド。マチュピチュといった観光名所7つを現代版としている」

りあむ「セブンのSはつけたかった!それで、白雪ちゃん!」

千夜「人に向かって、指をさすな」

りあむ「それと、あかりんご!」

あかり「わ、私ですか?」

凪「話はわかりました。白雪姫と毒リンゴ」

あかり「や、山形りんごは毒じゃないんご!」

あきら「そこからの連想で7人の小人」

若葉「人を助ける働き者、素敵な名前だと思いますよ〜」

りあむ「そ、そう?」

椿「私は良いと思いますよ」

りあむ「よかった!」

椿「白雪姫風の衣装はどうでしょうか。りあむさんピッタリに作ってきますね」

りあむ「よくない!隙あらば着せようとしてくる!」

あきら「いいんじゃないデスか」

凪「一理ある」

りあむ「その返事は、衣装のことじゃないよね?ね?」

あかり「そうなると、千夜さんはやっぱりお姫様なんですか?」

若葉「白雪姫だから?」

千夜「いいえ、私も小人側です。そちらのほうが性にあいますし」

あかり「千夜さんは自信を持っていいんご!こんなにめんごい、白い肌、料理上手で働き者!まさに白雪姫!」

椿「なるほど、小人もいいですね」

若葉「椿ちゃんはほどほどにしてくださいね〜」

あきら「あかり、千夜サンの評価高いよね」

あかり「……千夜さんには山形にお嫁に来てもらうんご」

あきら「それ、冗談じゃなかったんデスか」
17 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:43:47.04 ID:UcFFD9dl0


S大学・部室棟・SDs部室

りあむ「SDsにちゃんと決定した!ということで!」

千夜「本題に入りましょうか」

りあむ「あかりんごが見た人魂を探すよ!」

若葉「でも、どうやって探すんでしょう?」

りあむ「うっ、ノープランが早々にバレたぞ……公園に見に行くとか」

あかり「朝も見に行ったけど、何もなかったです」

あきら「無暗に探しても見つからない」

千夜「ええ。お嬢さまも同じでした」

若葉「簡単に見つかったら困りますよ〜」

りあむ「りあむちゃんを責めるなよう!だから、時子サマに話を聞いてもらおうと思ったんじゃないか!」

凪「ほうほう。それでは、これを真似てみましょう」

若葉「凪ちゃんは、何を読んでるんですか?」

凪「卒業論文です。先ほど時子様からいただきました。何冊かあります」

千夜「どうも。教育学部持田亜里沙さんが筆者のようです」

椿「持田さんの卒業論文なのですね。SWOWの副代表をしていたんですよ、今は地元に戻って小学校の先生をしています」

千夜「タイトルは……」

凪「『初等教育におけるウワサと恐怖の実態、伝搬メカニズム、またその対策』」

あかり「本当に小学校の先生が書いたんですか?」

りあむ「卒業論文とは思えない厚さだよ……博士号でも取れそう」

椿「持田さん、とても優秀だったそうですから」

凪「りあむ、手をあげろ」

りあむ「え!?はい!」

凪「厚さが違います。別物か」

りあむ「先に言ってよ!手をあげる必要なかったじゃないか!」

若葉「あら、表紙に何か付箋がついてますよ〜」

りあむ「本当だ。見たことある……時子サマの字だな、『部室外に持ち出さないこと。部員以外に見せないこと。取り扱いに注意すること。財前時子』」

あきら「おどろおどろしいデス……」

あかり「財前さんを怒らせたくないです」

凪「しかし、凪達は見ることができます」

りあむ「おっ、最初はウワサの真偽を見極めるには、だ」

若葉「りあむちゃん、少し貸してくれますか?」

りあむ「うん。はい、若葉お姉さん」

若葉「ありがとうございます〜。ふむふむ……」
18 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:44:24.16 ID:UcFFD9dl0
あかり「どんな内容ですか?」

若葉「やっぱり……思った通りでした」

りあむ「やっぱり?」

若葉「大学には出せない内容ですよ〜」

あきら「つまり……」

あかり「怪奇現象とか、ですか?」

若葉「はい。前にいた日下部若葉についても書いてあります、名前まで書いてありませんけれど。だから、今回の役に立つと思いますよ」

凪「では、若葉お姉さん、凪にそれを渡してください」

若葉「どうぞ〜」

凪「中身は後でりあむに熟読してもらうとして」

りあむ「ぼくなの!?暇だからいいけどさ!」

凪「最初を真似ましょう。ずばり……」

あかり「ずばり、なんでしょう?」

凪「情報を整理すること。真実は虚構の中にも存在する」
19 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:45:49.22 ID:UcFFD9dl0


S大学・部室棟・SDs部室

千夜「凪さん、言っている意味がわかりません」

凪「情報や言い伝えを最初に出しておく、と」

あきら「具体的に何を?」

凪「集まって、知識を出し合うと書いてあります」

りあむ「それ大切かも。だって、若葉お姉さんもいるくらいだし」

若葉「あまり他種族とは関わらないので、あんまり詳しくないですよ〜」

千夜「私ですら吸血鬼と会っています。辻野さんは民間伝承等を知りませんか」

あかり「……」

千夜「辻野さん?」

あかり「……えっと、山形の話なら少しだけ!」

あきら「自分はネットロアとか」

椿「ネットロア?」

りあむ「ネットのウワサ話とか怖い話とか都市伝説だよ!ネットサーフィンで腐るほどコピーされていっぱいあるよ。夜更かしのお供!」

千夜「無駄に起きていないで、お前は寝ろ」

りあむ「千夜ちゃん、ぼくの心配してくれてる?やさしさ?」

千夜「凪さんも、この手の話に詳しいようですから」

りあむ「スルーされた!」

凪「不思議は楽しい。なんなら、はーちゃんと一緒なら幽霊も見えます」

椿「どんな人でも、3人寄れば文殊の知恵と言いますから」

りあむ「うん、それじゃあ始めよう!みんな知恵を出すんだよ!」
20 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:46:53.63 ID:UcFFD9dl0
10

S大学・部室棟・SDs部室

椿「りあむさん、進行をお願いしますね」

りあむ「え?ぼくが?向いてないよ。椿さん、やらない?」

椿「代表がやるものですよ。がんばってください」

りあむ「しまった、変な服を着る羽目になるところだった、セーフ……それじゃあ、あかりんご!」

あかり「はいっ!」

りあむ「見たのは、何?」

千夜「先ほども言っていました。人魂と」

りあむ「人魂かもしれないけど、そうじゃなくて」

あきら「どういう意味デスか?」

りあむ「どんな人魂?色とか動きとか」

あかり「赤く光ってました。動きはふらふらって感じで」

りあむ「何で人魂だと思ったの?」

あかり「それは、縦長だったから?あれ?」

あきら「あかり、何か思い出した?」

あかり「縦長じゃなくて、2つ浮いてたのかも」

凪「ということは、人魂の形をしていたのでありません」

あかり「そう、ぽわっと丸い赤い光で……どっちも消えちゃいました」

千夜「……話が逸れた気がします」

若葉「りあむちゃんが聞きたいことは何ですか?」

りあむ「人魂が思い込みかもしれない!何でもいいから可能性を上げるんだよ!」

椿「なるほど。持田さんの方法通りですね」

りあむ「あかりんごは思い出したら、いつでも言って。何でもいいから」

あかり「わかりました!」

りあむ「若葉お姉さん、心当たりない?知り合いとか」

若葉「うーん……見間違いとか?光るものなんていくらでもありますから〜」

あきら「意外」

若葉「そうですよぉ、幽霊なんていませんよ〜」

あきら「更にオカルト否定派」
21 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:48:16.69 ID:UcFFD9dl0
若葉「自動車のライトが偏光して木のくぼみを照らしていたとか、どうでしょう〜」

椿「それならすぐに消えるのも分かります」

凪「正体見たり枯れ尾花」

あかり「じゃあ、見間違い?」

りあむ「白雪ちゃん、どう思う?あってる?」

千夜「何故、私に……まぁ、いいでしょう」

りあむ「どっち?」

千夜「確かめるまではわかりません」

りあむ「うんうん、りあむちゃんもそう思うよ!」

千夜「お前、私を試しましたか?」

りあむ「違うよ!?りあむちゃんはわからないから、白雪ちゃんに聞いたんだよ!」

あきら「自動車のライトなら、試してみる、とか」

あかり「やってみたら、わかりやすいですねっ」

千夜「どなたか、免許とお車はお持ちですか?」

りあむ「りあむちゃんは免許はないよ!車は家にあるけどね!」

若葉「私はありますよ〜」

あきら「え、あるんデスか?」

若葉「小さくても大人ですから。地元では必須なので〜」

椿「若葉さん、協力いただいてもよいですか?」

若葉「もちろんですよ〜」

りあむ「よし、今日の夜にでもやってみよう!」

凪「枯れ尾花を見るのは構いません。しかし、凪は諦められない」

あかり「凪ちゃんも都会風のクールな喋り方でかっこいいんご」

あきら「あかり、都会風でもクールでもないから」

椿「凪ちゃんは、何を諦めないんですか?」

凪「あかりさんが、幽霊や人知を離れた存在を見た説です」
22 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:49:11.58 ID:UcFFD9dl0
11

S大学・部室棟・SDs部室

若葉「そんな簡単にいませんよ〜」

千夜「なんと説得力のない……」

若葉「漁火とかキレイですよね〜。群馬の人は海が好きなんですよ〜」

りあむ「でもさ、光ものって怪談話でいっぱいない?」

凪「凪はりあむに同意します」

あかり「例えば?」

椿「お墓に人魂が出る、とか」

凪「有名です。燐が燃えている説を唱えた学者もいます」

あかり「燐って、化学物質のリンですよね。中学の時習いました!」

あきら「燐……ネットで調べたら人魂とか光虫の意味もあるんデスね」

りあむ「根高公園には光る妖精が居たんだって。時子サマが言ってた」

千夜「教会の人なら何か知っていそうですね」

あかり「プラズマが光るとかインターネットで見ました!」

りあむ「あかりんご、怪しいサイト見てるんだ。プラズマが光るのは間違いないけど」

若葉「自然に見えるプラズマはオーロラと雷くらいですね」

あかり「人魂はプラズマじゃないですか?」

りあむ「うん。違う。地上は真空にならないから光りもしない」

あきら「単純に幽霊はどうなんデスか?」

あかり「幽霊!?」

椿「あかりちゃんは、霊感はありますか?」

あかり「ないない、あかりんごは普通の女の子です!」

あきら「普通かな……?」

りあむ「そうだ、凪ちゃんは?」

凪「はーちゃんと一緒なら。違うチャネルのものが見えます」
23 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:49:40.08 ID:UcFFD9dl0
あかり「チャネル、テレビとかのですか?」

凪「はい。世界は重ねあわせです」

千夜「凪さんの感覚は難解です」

りあむ「そりゃあ、違う感覚があるからね」

椿「私達にも教えてくれませんか?」

凪「人間が見える世界だけが全てではありません」

千夜「科学では解明できない、ということでしょうか」

若葉「うーん、ちょっと違います〜」

りあむ「若葉お姉さん、違う科学で動いてるイメージ?」

若葉「そんな感じですね〜。例えば、人の血を飲んだら人間はお腹を壊すだけ、ですけど」

千夜「……違う反応が起こる存在がいる。お嬢さまのように」

凪「入力と出力があべこべになることは珍しい」

りあむ「途中経過は理解しなくていい、というか、したくてもムリ……な気がする」

椿「人は原子の動きまで理解してませんよ」

りあむ「神経の動きなんか意識しなくても筋肉は動かせる」

あきら「よくわからないのに原因と結果は調べられる、ということデスね」

凪「はい」
24 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:50:22.66 ID:UcFFD9dl0
りあむ「あかりんごに見えた理由もきっとある!」

あかり「それなら、いつもは見えない妖精や幽霊が私にも見えた?あの時だけ?」

千夜「凪さんがチャネルをあわせるように」

椿「あかりちゃんにも出来たとか?」

凪「偶然チャネルがあうことはあります」

あきら「虫の知らせ、というやつデスね」

りあむ「あかりんご、何か原因ある?いつもと違うこととか」

あかり「あの時は、ちょっとだけ疲れてました」

凪「しかし、偶然よりも必然を優先」

千夜「必然とは」

凪「チャネルにいないものは、チャネルをあわせないと影響を与えられません。つまり、現れた」

あきら「こっちの世界に」

凪「イエス」

椿「心霊写真みたいなものでしょうか」

凪「心霊写真はメッセージを与えるため」

りあむ「公園の人魂は、何のため?」

凪「わかりません。今は」

あかり「公園で何かをしてた……うーん?」

あきら「#意味不明 #動機不明 #正体不明」

りあむ「この話は置いておこう!次だよ次!」
25 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:52:36.55 ID:UcFFD9dl0
12

S大学・部室棟・SDs部室

千夜「……こんな所でしょうか」

凪「ホワイトボードに乱雑な発言がまとまった」

りあむ「白雪ちゃん、ありがとう!字もキレイだね!」

千夜「どうも」

椿「色んな意見が出ましたね。やることは、大きく分けて3つですか?」

りあむ「そう!1つは若葉お姉さんとライトの反射とかの見間違いを調べること」

若葉「今日やってしまいましょう〜」

あかり「2つ目は他の目撃情報を集めることですね」

あきら「何かわかるかも。皆見てたら、偶然じゃない」

千夜「地道な調査ということですか」

りあむ「地道な聞き込みは大切!りあむちゃんは苦手だから助けてよ!」

あかり「それと、凪ちゃんにお願いするんご」

あきら「違うチャネルを調べる」

凪「はい。はーちゃんと一緒にN公園を調べます」

りあむ「よろしく!やっと、それっぽくなったぞ!時子サマに褒めてもらわないと!」

凪「おや、こんな時間です。今日は帰ります、はーちゃんと一緒にご飯を食べねばなりません。では」

りあむ「え?帰っちゃうの?」

凪「はい。結果は後日。さようなら」

千夜「マイペースな方ですね。私も、これで失礼します」

りあむ「え……白雪ちゃんも?夜まで一緒にいてくれないの」

千夜「お嬢さまが起きる時間です。今日は夕食を一緒にとりますので」

りあむ「そっか。ちとせによろしく!」

千夜「失礼します。調査には協力しますから」

あかり「あっ、私も今から品出しなんですっ!千夜さん、待ってくださーい。途中まで一緒に帰りましょう!」

あきら「オンゲの約束があるので。バイバイ。あかりも待って」

りあむ「えー、みんな薄情だよ!代表へのリスペクトがないよ!」

椿「皆さん、未成年ですから」

若葉「夜の調査は危ないですよ〜」

りあむ「それもそうか」
26 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:53:14.59 ID:UcFFD9dl0
若葉「私も一旦帰りますね〜。お夕飯の買い出しをしないとなんです〜」

椿「りあむさん、何時集合にしますか?」

りあむ「それじゃあ、夜10時!N公園で!」

若葉「わかりました〜、車で行きますね〜」

椿「はい、待ってます」

りあむ「5人帰ってしまった。椿さんと2人きり。椿さんは用事あるの?」

椿「出かける用事はありません。やりたいことがあって」

りあむ「なんでメジャーをカバンから出したの?」

椿「今のうちに採寸をしておこうかと思いまして。後々便利ですから♪」

りあむ「便利の意味が分からないよ!?」

椿「ちゃんとしたサイズを知っておくとショッピングに便利じゃないですか?」

りあむ「あ、普通の理由だ」

椿「私の好奇心も満たされますし」

りあむ「やっぱりダメだ!拒否!りあむちゃんはガードが硬いよ!」

椿「遮光カーテンも用意してくださいましたし、平気ですよ」

りあむ「何が平気なの!?貞操の危機としか思えないよ!」

椿「さ、こちらへどうぞ♪」
27 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:54:27.02 ID:UcFFD9dl0
13

久川家・玄関

久川家
住宅街の一角にある。無人の隣家はようやく取り壊しが始まった。

凪「ただいま。凪が帰りました」

久川颯「なー、おかえりー」

久川颯
はーちゃん。久川凪の双子の妹。今から大学に出入りするのはうーん、ということでSDsには参加していない。

凪「はーちゃん、お元気ですか」

颯「放課後に会ったばっかりでしょ」

凪「そうですか?」

颯「りあむさん達、元気にしてた?」

凪「はい、とてもとても」

颯「そうなんだー」

凪「そうだ、はーちゃん」

颯「なに?ご飯だから着替えた方がいいよ」

凪「明日の放課後、一緒にでかけましょう」

颯「なー、どこか行きたいの?」

凪「人魂を見に行きましょう」

颯「人魂?」

凪「N公園に出たそうです。あかりんごが言ってました」

颯「へー、そう呼ぶようになったんだ」

凪「よいでしょうか?」

颯「いいよ、明日ね!」

凪「はい。それでは、手洗いうがいに着替えをしてきます。覗いてもよいですよ」

颯「いつも見てるし。ゆーこちゃん、待ってるから早くねー」
28 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:56:03.83 ID:UcFFD9dl0
14

午後10時頃

N公園

りあむ「アクリル板セットよし。若葉お姉さんに伝えてよ」

椿「はーい。聞こえますかー若葉さん、ライトつけてくださーい」

りあむ「うーん……これもダメだ」

椿「どうします?」

りあむ「やめよう!これより大掛かりなやつがあったら、あかりんごも気づくよ。あかりんご、思ったより色んなところ見てるし」

椿「そうですね、せっかく集めたのに」

りあむ「……ふぅ、何とか採寸を避ける口実だってバレなさそうだぞ」

椿「若葉さん、こっちに集合しましょう」

りあむ「ねぇ、椿さん」

椿「なんですか?」

りあむ「女子大生の車ってさ、カワイイ軽自動車でキャピキャピしてるんじゃないの?若葉お姉さんの車、どうみても8人乗りのワゴン車だよ?最大手企業の」

椿「大きい車の方が便利だって言ってました」

若葉「お待たせしました〜。収穫はありました?」

りあむ「緑の若葉お姉さんだ。ごめん、何にもない」

若葉「そうですか〜」

椿「昼は子供連れも多いですが、この時間になると誰もいません」

りあむ「子供に危なそうなものは何にもなし。あるのは公園の脇にベンチがあるくらい」

若葉「遊具もないなんて、世知辛いですね〜」

りあむ「あんなの危ないだけだよ……りあむちゃんは遊ばなくて良かったよ、あっ、友達が少ないとかそういうわけじゃな……いや、それが理由か?」

椿「若葉さんが来る前に、公園内を調べてみましたけれど」

りあむ「変なところはなし。善良な人間が集まる場所だよ」

若葉「昼に多くの人が集まるのに、人魂が?」

りあむ「わかる。りあむちゃんも人が集まる場所に行かないよ、たとえ夜でも」

椿「えっと?詳しく話してくれますか」
29 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:56:46.82 ID:UcFFD9dl0
りあむ「幽霊とか妖精とか天使とか、人目につかないところを選ぶから幻なんだよ」

椿「なるほど。でも、ここに居たのはどうしてなんでしょう?」

りあむ「それはわからない。若葉お姉さん、何か気になることある?」

若葉「ありません〜、木と芝のお手入れが行き届いてる良い公園です〜」

椿「良い公園だから遊びに来たとか?」

りあむ「真実なんてつまらないことあるよね。アイドルだって聖人じゃなくて人間だからこそ、その中で尊いアイドルに惹かれるんだよ」

若葉「例えはよくわかりませんけど、気まぐれで飛んできたのかもしれませんね〜」

りあむ「飛んでくる、ってことは近くにいる」

椿「近くにいるなら」

りあむ「あかりんごが見えたなら、目撃情報もあるはず……いや、あるかも?」

椿「調べてみましょうか」

りあむ「昼に」

若葉「この辺りは公園も多いですから〜」

りあむ「よし!今日は解散!家で動画でも見る!」

若葉「時間も遅いですから送りますよ〜」

椿「それでは、お言葉に甘えて」

りあむ「助かる!」

若葉「4人分シートの空きはありますから〜」

りあむ「あっ、わかった。若葉お姉さんがゆったり乗るには大きい車が必要なんだ」
30 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 21:59:32.77 ID:UcFFD9dl0
15

9月初旬のとある木曜日

お昼休み

S大学付属高校購買

S大学付属高校購買
古い付き合いのある弁当屋さんとパン屋さんの商品が売られている。パンは安くて美味しいデス、とのこと。

あきら「あかり、買えた?」

あかり「しゃけ弁を買えました!あきらちゃんはサンドウィッチにしたんですね」

あきら「あー、パンにすればいいの言い忘れた」

あかり「え?なして?」

あきら「美味しくないデス。特にお米が」

あかり「食べられるくらいですよね?」

あきら「多分。親戚から送られてくるお米と違い過ぎて、私はムリ」

あかり「それなら、残さず食べます!山形も米所だけど、残すのはお米の神様に怒られるんご!」

あきら「そう。あっ、千夜サン」

あかり「千夜さん、こんにちは!」

千夜「辻野さんに、砂塚さん、こんにちは」

あきら「千夜サンもお昼買いに来た?お弁当を持ってくると思ってた」

千夜「お嬢さまもおりませんから、起きるのが遅くなり過ぎました。今日はこれをお昼にしようかと」

あかり「ま、まさか……それは、そんな……」

千夜「購買でお湯がもらえますので。お嬢さまのために白湯は時々貰っていました」

あかり「インスタントラーメンですか……?」

千夜「はい。大学の前にあるコンビニで買いました」

あきら「千夜サンもそういうもの食べるんデスね」

千夜「お嬢サマには食べさせませんが、私はキライではありません。いや、今ならお嬢さまも平気でしょうか」

あきら「あー、そうっぽい」

千夜「実際のところ、油の多い物は用意しても一口しか食べませんでしたから」

あきら「本当に体、弱かったんデスね」

千夜「ええ。そろそろ出来上がりの時間です。教室に持って行くわけにもいきませんので、中庭でご一緒しませんか」

あきら「自分はオーケー。あかりは?」

あかり「ダメですっ!」

千夜「臭いますものね、仕方がありません」

あかり「千夜さんの栄養が偏っちゃうんご!リンゴを剥きますから、一緒に食べましょう!」

あきら「お昼とは別に、リンゴはあるんだ」

千夜「それでは、ご馳走になります。中庭に行きましょう」
31 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:01:42.66 ID:UcFFD9dl0
16

放課後

N公園

凪「到着です」

颯「ここが人魂のいた公園?」

凪「はい。はーちゃんは理解が早い流石です」

颯「なんかお墓とかある公園だと思ってた。幽霊でなそう」

凪「同感です。はーちゃん、チューニングをしましょう」

颯「うん。なー、手を出して」

凪「目をつぶり」

颯「カチリ」

凪「カチリ」

颯「カチッ、ピュイ」

凪「ハロー。こんにちは。ニーハオ」

颯「……」

凪「……」

颯「何もいないよー?」

凪「そのようです。回ってみましょう。くるくるくる」

颯「くるくると……あれ?」

凪「おや?」

颯「なー、透明なちょうちょみたいなのが木にくっついてる」

凪「そのようです。近づきましょう」

颯「うん……小さいね」

凪「光りましたが弱い」

颯「人魂には見えなそうだよね」

凪「羽のような形がありますね」

颯「動きが止まった?」

凪「発光も止まりました」

颯「あっ!待って待って」

凪「……粉の様に崩れ落ちてしまいました」

颯「死んじゃったのかな」

凪「ひとまずチャネルを戻しましょう」

颯「なー、手出して」

凪「はい。どーぞ」

颯「カチっとな」

凪「戻ったようです」
32 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:02:20.01 ID:UcFFD9dl0
颯「辻野さんが見た正体はこれ?」

凪「うーむ。遠くからは見えない」

颯「たくさんいたとか」

凪「それだ」

颯「そういえば、光ったの見えた?」

凪「この目で。つまり、あかりんごにも見える」

颯「なんで光ったのかな」

凪「観察が大切です。どれどれ……」

颯「うーん。普通の木だよ?」

凪「いえ、良く見てください」

颯「良く見てもわかんない」

凪「ここに傷があります。正確には傷の端だけが」

颯「ないよ、直ったみたい」

凪「木の傷はこのようには治りません。伸びて上に行く過程で飲み込まれたりはしますが」

颯「なー、どういうこと?」

凪「あの妖精が影響を及ぼした可能性がある」

颯「植物の妖精さんなの?」

凪「芝の状態も良さそうです。その影響かもしれません」

颯「なるほどー。人がいない時にお手入れしてくれてたんだ」

凪「まだ仮説です。りあむ達と調べます。教会にも聞きにいきたいところです」

颯「それなら、はーが教会は行ってこようか?」

凪「はーちゃんが望むのなら」

颯「それじゃあ、行ってくるね。シスターとか美由紀ちゃんとかいつも暇そうにしてるし、遊びにいこっと」

凪「ええ。凪は大学へと行きます」

颯「わかった。遅くならないでねー」
33 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:04:37.04 ID:UcFFD9dl0
17

S大学・部室棟・SDs部室

凪「なにやら珍妙なものがあります。丸く赤く、そして大きい」

椿「凪ちゃん、こんにちは」

凪「こんにちは。他のお方はどちらに?」

椿「人魂の目撃情報を調べに行きました。りあむさんとあかりさん組と千夜さんとあきらさん組で二手に別れて」

凪「1人いません。若葉お姉さんはどちらでしょう」

椿「お家でお勉強中だそうです」

凪「もしや、5色揃うと5倍勉強できるのでは?」

椿「そんなことを言っていたような、気もします」

凪「フムン。興味深い」

椿「凪さんは双子の妹さんの……」

凪「はーちゃんです。久川颯です。かわいいです」

椿「それじゃ、颯さんと公園に行くと聞いていたのですが」

凪「光る何かを見つけました。結果が出たので言いに来たのです」

椿「まぁ、りあむさんも喜びますよ。颯さんは一緒じゃないのですか?」

凪「教会へ行ってもらいました。仲間は多い方が良い」

椿「そうですか、残念です」

凪「残念、とは?」

椿「あら……教会ということは?」

凪「はい。人間の世界とは別の何かです」

椿「なるほど。戻ってきてから詳しい話を。お茶を淹れますよ、いかがですか?」

凪「いただきます」

椿「はーい。座っててくださいね」

凪「ひとつ質問があります」
34 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:05:32.64 ID:UcFFD9dl0
椿「質問?」

凪「この赤いキグルミはなんでしょうか。独特な魅力を放っている」

椿「これは、りんごろうさん、だそうです」

凪「りんごろう……聞きなれない響きだな」

椿「あかりさんのお父様が、山形物産展の販促で使っていたそうです。ただ、粗雑な作りであかりさんは不満があったそうで、お直しをお受けしました」

凪「ほう」

椿「こいつがかわいくないのはいいけどぼろくて暑いのに入るのはイヤです、とあかりさんがおっしゃられたので、綿抜きをして薄い布を張り直してます」

凪「実物はあかりんごいり、と。そそる」

椿「今度駅のイベントで客引きをするそうですから応援に行きましょう?」

凪「はーちゃんが興味ありそうなら行きます」

椿「キグルミを手直しするのは初めてじゃないですけど、やっぱり大仕事ですね。私も一緒に休憩します」
35 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:06:47.93 ID:UcFFD9dl0
18

T公園

T公園
住宅街の行き止まりにある小さな公園。小さな丘と一面のシロツメクサが特長。

あかり「わぁ、クローバーがたくさんですね!」

緒方智絵里「はい……四葉のクローバーもたくさんあって」

緒方智絵里
近所に住んでいる女子高生。カワイイ。T公園の隅でクローバーを探していた時に声をかけられた。

あかり「四葉のクローバー、見つけると嬉しいですよね」

智絵里「普段はあまり見つからないんですけど……最近は多くて。今日も2本見つけました」

あかり「へぇー、ついてるんご!」

智絵里「ラッキーなのかな……?」

あかり「あれ、ラッキーじゃない?」

智絵里「えっと……上手く言えないんですけど……」

あかり「りあむさん、どう思いますか……あれ?」

智絵里「りあむさんって……あの、柱に隠れてる人ですか?」

あかり「そうです!隠れてないでこっちに来てください!」

りあむ「いや、りあむちゃんがこんな天使みたいな良い子と関わっちゃいけないよね。ごめん。土下座と謝罪が必要だよね」

あかり「りあむさん、ちょっと変わってるけど良い人なんですよ、多分!話してもいいですよね?」

智絵里「はい、私は大丈夫……です」

あかり「ほら、こっちに来るんご!」

りあむ「うぅ……優しさが更に惨めにさせる!」

あかり「そういうの、どうでもいいです!緒方さんの話を聞いてください!」

りあむ「あかりんご、意外と辛辣だよね」

あかり「緒方さん、四葉のクローバーについて話してくださいっ」

りあむ「本当にどうでもいいんだ……」

智絵里「はい……不自然に増えたり成長したりしてる気がして」

りあむ「不自然に増えてる?どういうこと?」
36 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:07:28.40 ID:UcFFD9dl0
智絵里「理由は……わからないです」

あかり「りあむさん、何かわかりますか?」

りあむ「わかんない!誰かが植えたとか、成長促進剤?あるか知らないけど使ったとか」

智絵里「うーん……」

りあむ「そんなことしても意味ないよね。罰当たりだよ!」

智絵里「はい……幸運のお守りなのに」

りあむ「清い……ただその言葉しか出てこない。オタクはなんて無力」

あかり「他に何か気になることはありませんか?イヤな感じがするとか」

智絵里「いえ……イヤな感じはしないです」

あかり「それなら、りあむさん、本題に入るんご!」

りあむ「え?あかりんごが聞いてよ」

あかり「ダメです。りあむさんが聞いてください」

りあむ「わかったよ……ねぇ、人魂見なかった?」

智絵里「ひ、人魂……ですか?」

りあむ「怖がってる……カワイイ。うわぁ、なんて感想を、ぼくは罪深い……」

あかり「ということは、見たことないですか?夜とか」

智絵里「夜は……歩かないから」

りあむ「うんうん。それが一番だよ!安全は自衛からだよ!」

あかり「お話、ありがとうございました!」

智絵里「いえ……何も知らなくてごめんなさい」

りあむ「謝る必要なんてないよ!そんなことしたら、ぼくは土下座しながら生きて行かないとだからね!」

あかり「その通りです!りあむさんは謝り続けないとですから!」

りあむ「あかりんご、そこは元気に肯定するところじゃなくない?」
37 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:08:20.87 ID:UcFFD9dl0
19

M公園

M公園
もみの木が目印の公園。もみの木は季節になるとクリスマスの飾り付けがされるとか。

千夜「このあたりの公園を散歩しているのですか?」

高森藍子「はいっ。このあたりは公園が多いですから」

高森藍子
近所の公園を散歩するのが趣味の高校生。#ガーリー #ゆるふわ #緑が似合う #公園の美少女。

あきら「良く行く公園が何個かある?」

藍子「はいっ、その公園にはその公園の良さがありますから。ここはもみの木がカワイイですよね」

あきら「これはチャンス?」

千夜「好都合です。お聞きしたいことがあります」

藍子「聞きたいこと、ですか?」

千夜「ええ、ひ……失礼。妖精を見ませんでしたか?」

あきら「……なんで言い換えたんデスか?」

千夜「……私は無駄な混乱は好みませんから」

あきら「確かに、この人に言う必要ない」

千夜「いかがですか、この公園でなくてもかまいません」

藍子「……妖精ですか?」

あきら「夜に光ってる。妖精とは限らない」

藍子「えっと……どんな妖精さんなんですか?」

あきら「どんな……」

千夜「赤く光り、ゆらゆらと漂っていたと聞いています。直ぐに消えてしまったそうです。私も直接見たわけではありませんが」

藍子「うーん……見たことありません。このあたりは家族連れの多い小さな公園ばかりですから」

あきら「まー、そうデスよね」

千夜「それでは、他に気になることはありませんか。最近変わったことなどです」

藍子「えっと、そう言えば、お昼にベンチとかで寝てる女の人がいるみたいです」

あきら「女の人?」
38 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:09:04.33 ID:UcFFD9dl0
藍子「私も見たことがあります。近所の人じゃないみたいで」

あきら「千夜サン、どんな人かな?」

千夜「わかりませんが、調べてみましょうか」

藍子「お願いできますか?不安がってるお母さんもいるみたいで」

あきら「わかった」

千夜「詳しいようですので、連絡先を渡しておきます。夢見りあむという人が出るかと」

あきら「何か情報あったら、連絡して」

藍子「はい、わかりました」

千夜「ご協力ありがとうございます。私達は次の公園へ」

あきら「当番分は次が最後デスね」
39 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:11:28.65 ID:UcFFD9dl0
20

出渕教会付近の路上

颯「ここを左に曲がって、あれ?」

水野翠「……」

水野翠
威圧感のある全身黒ずくめのスーツ姿で登場し視聴者を驚かせた。独特な発言でもう一度驚くことになる。

颯「スーツ姿カッコイイなー、時計見てるけど待ち合わせかな?」

翠「……」

颯「あっ、こっち見た。こんにちは」

翠「こんにちは。健康状態は悪くありません、寿命も長そうです。事故には気をつけくださいね、お嬢さん」

颯「へっ……?」

翠「ふぅむ、素晴らしい将来性です。私は肌が黒い方が好みなのですが、手心を加えても良いかと。天命でない死を回避したかったら、来てください。助けて差し上げます」

颯「えっと、よくわからないから、いらないです」

翠「かっかっか、気に入りました。賢いですね。ああ、なるほど。『こちら側』なのですが、お嬢さん?」

颯「……」

翠「これは渡りに船。この辺りに教会はありませんか?」

颯「あるよ。お姉さんも、そういう人なの?」

翠「答えが出ているものに回答することも求めることも無粋です。ご案内願います」

颯「えっと……いいのかな」

翠「問題ありません。問題なのは私が迷ったことだけです」

颯「ケータイとか、持ってないの?」

翠「電子機器は好みません。時計は必需品なのですが、機械仕掛けに勝るものはありません」

颯「そうなんだ。こだわりがあるんだね」

翠「仕事柄、時計には。それでは、久川颯さん。ご案内していただけますか」

颯「名前、言ってないよね。どうして知ってるの?」

翠「私にはわかります」

颯「どういうこと?」

翠「わかるものはわかるのです。さぁ、行きましょう」
40 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:14:12.04 ID:UcFFD9dl0
21

出渕教会・1階・礼拝堂

出渕教会
シスタークラリスが所有する教会。地下室が大きいことを知っている人物はほとんどいない。

颯「こんにちはー!誰かいますかー?」

翠「……フムン」

颯「何か気になる?」

翠「いいえ、普通の建物です。呪術の類もありません。人を入れるなら当然のこと」

柳瀬美由紀「颯ちゃん、こんにちは!」

柳瀬美由紀
クラリスのアシスタント。生活で視覚を使うことができないクラリスを手伝っている。教会の家事も一通りは出来るとのこと。

颯「美由紀ちゃん。お客さんを連れて来たんだ」

美由紀「お客さん?」

翠「あら、美由紀さんがいたのですね」

美由紀「あっ、翠ちゃん!久しぶりー」

翠「翠ちゃんはやめてください。ジェードか、ちゃん付けを辞めるかどちらかで」

颯「美由紀ちゃんの知り合いなの?」

美由紀「うん。でも、翠ちゃんと今日は約束してないよ?」

颯「じゃあ、えっと、翠さんは別の誰かに用事?」

美由紀「シスタークラリスじゃないよね」

翠「ええ」

松永涼「颯の声がするな。良く来た……げっ」

松永涼
死神から死を遠ざける条件と引き換えに、死神の仕事をしている。ドクロのアクセサリー好きなのはそれとは無関係。

颯「げっ?」
41 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:16:00.79 ID:UcFFD9dl0
翠「あぁん、涼!会えて嬉しいです!」

涼「美由紀、止めてくれ。アタシは逃げる」

翠「そんなこと言わないでくださいな!恥ずかしがる必要はありません」

颯「2人は、どんな関係?」

美由紀「それはねー」

涼「美由紀、話してるな!そいつを止めろ!」

颯「あっ、抱きしめられた」

翠「涼〜、うふふん♪」

涼「抱き付くな!変な所触るな!」

美由紀「涼さんは、翠ちゃんの使いだよ」

颯「使い……?」

美由紀「翠ちゃんは本当の死神なんだよー」
42 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:18:40.08 ID:UcFFD9dl0
22

出渕教会・裏庭

出渕教会・裏庭
礼拝堂の奥、懺悔室から出入りできる裏庭。プランターにバーベナが咲いている。

楓「……すぅすぅ」

翠「あら……寝ているのですね」

楓「起きて、いますよ……こんにちは」

翠「お久しぶりです、楓」

楓「翠さん、私にご用ですか」

翠「様子を見に来たのです、あなたの時計を」

楓「終わりなのですか」

翠「いいえ。状況は変わっていません。『捕食者』はどちらに?」

楓「あなたには見えませんでしたね。そのあたりに」

翠「そうですか。これからもよろしくお願いしますわ」

楓「……」

翠「涼が憐憫から間違いを犯しているわけではないのですね」

楓「死について、ですか」

翠「死神ですから。死を奪うか与えるかしかないのです」

楓「……」

翠「ですが、状況は変わってしました。頼みましたよ」

楓「私に、ですか」

翠「高垣楓に言っておりません。『捕食者』にです。つまり、オマエに言っています」

楓「……」
43 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:19:46.73 ID:UcFFD9dl0
翠「楓の時計はもはや止まってます。残り時間は一晩もありませんが、私の管轄下でもないので」

楓「そう……」

翠「ええ。これは前にも説明しましたよね?」

楓「そう、ですか……」

翠「そういえば、菓子を買って来たのです。食べますか?」

楓「……」

翠「高垣楓、聞いてますか?」

楓「聞いています。いただきます」

翠「どうぞ。私もいただきますね。この花、楓が育てているのですか?」

楓「いただきます……いえ、その花は涼さんと奏さんが」

翠「花を育てるのは悪くありません。死神には花が必要ですから」

楓「ええ」

翠「花は優しさ、涼らしく優しい感じがします」

楓「……」

翠「美味しいですか、その煎餅。あまり美味しそうに見えませんが」

楓「美味しいです……おそらく」

翠「それは良かったです。話の礼なので、好きなだけ食べてください」
44 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:21:40.46 ID:UcFFD9dl0
23

出渕教会・1階・礼拝堂

涼「まったく……酷い目にあった」

美由紀「翠ちゃんと仲良くすればいいのにー」

涼「そう簡単じゃないんだよ……人間の常識がありそうでないんだ」

颯「連れてきちゃダメだった……?」

美由紀「大丈夫だよー。翠ちゃんは悪い神様じゃないから」

涼「颯は悪くない」

颯「あの人、本当に神様なの?」

美由紀「うん。生きてる人の死を司る神様だよ」

颯「お迎えにくる、とかそういう感じなのかな」

涼「滅多には行かない。人間は死神が訪れる前に肉体が損傷して死ぬからだ」

美由紀「死神に会える方が珍しいんだよ。翠ちゃんは3つのルールって言ってた」

颯「3つのルール?」

涼「1つは天命を迎える場合。肉体が生きていても人間としては死ぬからだ。魂の死と翠は呼んでいる」

美由紀「2つ目はね、死んでるはずなのに違う時」

涼「肉体が死と同等に損傷していても何らかの理由で生き延びる時がある。強い意志や呪術の類でだ」

美由紀「京都の子供がそうだったんだよね。ネコの幽霊と一緒だった」

涼「ああ。肉体の死は苦痛だ、その苦痛に耐えること自体が罰に等しい。申し訳ないが、他の人間と同じように死んでもらう」

颯「えっと、魂と体のどちらだけが死んじゃったら死神が来るってこと?」

涼「基本的にはそうだ、魂か肉体に死を与える。最後の、3つ目は死神のイメージ通りだ」

颯「イメージ通りって?」

涼「罰として死を与える。時計を回し天命を迎えさせる。本当の死神でないと出来ないことだ」

颯「こわっ。失礼じゃなかったかな」

涼「颯は……そうだな、大丈夫だ。翠が罰を与えるタイプじゃない」

美由紀「翠ちゃんは優しいから平気だよ。そうだよね?」

涼「……ああ」

美由紀「本当は死神のルールに従わないといけないのに、見逃してくれたりするんだよ」

颯「えっと、どういうことかな?」

美由紀「お別れの挨拶を待ってくれたり。目的を果たすまで待ってくれたり」

颯「へー。優しいんだ」

涼「死神の中では異端だ。変わり者かもしれない……だから、アタシもここにいる」

美由紀「……」

涼「死神に出来ることは死を与えることだが、もう1つ出来ることがある」
45 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:22:26.00 ID:UcFFD9dl0
颯「出来ること、あの世と話すとか?」

涼「あの世は管轄外だ。死を奪うこと、だよ」

颯「死を奪う……」

涼「死ねなくさせるのさ。魂の時計を止め、肉体の損傷で起こる死すら上書きする」

颯「それっていいの?」

美由紀「ダメ」

颯「だよね、やっぱり」

涼「神話には罰として出てくるな。牢獄に永遠に閉じ込められるような」

颯「酷い」

涼「酷い、か。はは、確かにそうかもな」

颯「あれ、何かおかしいこと言った?」

美由紀「うん、だって……あっ、言わない方がいい?」

涼「いいさ。死を奪われた人物に会える、簡単に」

颯「いるんだ。どんな人なの?」

涼「アタシだ」

颯「え……ごめんなさい」

涼「いいさ。アタシも感謝してる」

颯「……涼さんは何かしたの?神様に怒られちゃうような」

翠「涼がそんなことするわけないでしょうに。お嬢さん、ちゃんと見ていまして?」

颯「聞かれてた……ごめんなさい」

美由紀「翠ちゃん、おかえりー。楓さんと話せた?」
46 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:23:51.62 ID:UcFFD9dl0
翠「要件は済みました。涼は死ぬのには惜しい女です。だから、生かしました。死神の使いという役割も与えました。私の慈悲……慈悲なんて傲慢な神の言い訳をするところでした、私のワガママです」

涼「語弊がある。死神は生かしたんじゃない、死んでないだけだ」

翠「傍から見れば同じですよ。気持ちを死なせてはいけません、生きなさい」

涼「……前にも聞いたよ」

翠「本当は私の傍にいて欲しいのに。しかし、涼の意思は無視できません。ここで生きてくれるなら、私はいいのですよ」

美由紀「ほら、優しいでしょ?」

翠「美由紀さん……その言い方はやめてください」

颯「……あの、神様」

翠「なんでしょう?」

颯「聞いてもいいですか」

翠「あらあら、畏まる必要はありません。大した神でもありません、お地蔵さんの方がよっぽど偉いのですよ」

颯「涼さんは……」

涼「颯、言わなくていい。翠が死を奪い続けなければ、アタシは死ぬ」

翠「ですが、媚びる必要はありません。涼らしくいてください。私が出来るかぎり」

涼「……出来る限り、な」

颯「そっか、だからあんな態度もできるんだ」

翠「涼、今まで通りにここは任せます。また会いましょう」

美由紀「またねー」

颯「神様、帰る前に質問が」

翠「なんでしょう?それと神様と呼ばなくてもよいです」

颯「それじゃあ翠さん。人魂について知ってますか?」
47 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:24:24.12 ID:UcFFD9dl0
翠「人魂?人間が死んだ後は管轄外なので、さては勘違いしていませんか?」

颯「勘違い?」

翠「幽霊の類は見えないのです。涼も同じく」

涼「ああ」

颯「そうなんだ、幽霊を従えてると思ってた」

翠「冥界の神様やネクロマンサーとは、私は違います。答えはこれでいいですか?」

颯「うん。ありがとう」

翠「案内の礼はこれでいいでしょう。それでは、健康には気をつけて。人間の行動でも時計は回せるのですから」

涼「次に来るときは連絡してくれ」

翠「しばらくは近郊にいます。涼、一緒に来てもいいのですよ?」

涼「ここにいたい。仲間もいる」

翠「涼は良い女ですね。それでは」

涼「……ああ」

美由紀「ばいばーい」

涼「……」

颯「ふぅ、緊張しちゃった」

美由紀「緊張することないよ、翠ちゃんは天然だし」

颯「美由紀ちゃんにはどう見えてるの……?」

涼「颯、もしかして教会に用事があったのか?」

美由紀「人魂のこと?」

颯「うん。人魂というか不思議な蝶というか」

涼「フムン……アタシではわからなそうだな」

美由紀「クラリスさんに聞いてみる?」

颯「そうしようかな。大丈夫?」

美由紀「大丈夫だよー」

涼「アタシも聞こうか。後で奏にも聞いておくよ。根高公園では妖精を従えてたからな」

颯「天使って妖精さんを従えられるんだ……」
48 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:25:25.45 ID:UcFFD9dl0
24

S大学・部室棟・SDs部室

千夜「こちらは出来ました。辻野さんはいかがですか」

あかり「こっちもできました!」

千夜「地図は出来ました。お前、意見は」

りあむ「えっと、うーん?」

椿「千夜さん、説明してもらっても良いですか?」

千夜「江上さんがそう言うのなら。この左上がS大学となります」

あかり「部室はここですっ」

あきら「あかりが手伝ってるアンテナショップは、ここ」

椿「N公園は?」

千夜「こちらです」

椿「赤い点は何ですか?」

千夜「人魂の目撃情報です」

凪「いえ、蝶々でした」

千夜「その話は後です。残念ながら、辻野さん以外の情報はありません」

あきら「昼に聞き込みしたのが悪かったかも」

千夜「その可能性はあります。夜の聞き込みも必要かと」

椿「ピンク色は?」

千夜「見慣れない女性の目撃情報です。幾つかの公園で目撃されています」

椿「それじゃあ、緑色はなんでしょう?」

千夜「これは……」

凪「植物がよく育ってる場所です」

千夜「その通りです。辻野さんの見た人魂について、凪さんが能力を教えてくださいました」

凪「植物に影響を及ぼしています。原理はわかりません」

あきら「わかんないけど、あかりが見た何かがいた痕跡かも」

千夜「言われた通りに作ったのですが、お前、考えはまとまりましたか?」

りあむ「うーん……うん?」

あきら「何か引っかかってるみたいデスね」
49 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:26:56.10 ID:UcFFD9dl0
りあむ「そうなんだよ、椿さんは、どう見える?地図に点を書いたやつは」

椿「そうですね、S大学とアンテナショップの周辺にまとまってます」

あかり「四角形に見えます」

凪「はい。ここより外を探す必要はありません、きっと。十中八九。たぶん」

あきら「自信あるんだかないんだか」

りあむ「うんうん。ぼくも同意見だよ」

椿「私には、あかりさんが見た蝶々を使って、植物に影響を与えている、見慣れない女性が、この辺りに住み着いた、ように見えますよ」

りあむ「そう思ったから、千夜ちゃんに作ってもらった」

千夜「仮説があるのなら、作業する前に教えればいいものを」

りあむ「……」

あきら「まさかの無言」

あかり「珍しいですね」

凪「凪も同じ考えに辿り着きます」

椿「こうやって、目に見えるようになりましたから」

あかり「私にもわかりますっ」

千夜「納得していないのですか、自分の答えに」

りあむ「うん」

椿「どうしてですか?」

りあむ「だってさ、都合が良すぎない?そうだ、こんなに都合よく行くわけないよ!絶対に違う!」

凪「自らの考えを疑う。夢見りあむはストイック」

あきら「いや、ストイックは違う」

あかり「りあむさんは自信を持っていいんご!胸をはりましょう。大きいですし!」

あきら「えっ、そこ?」

千夜「辻野さん、甘やかす必要はありません」

りあむ「う、白雪ちゃんは厳しいよ!褒めてよ!チヤホヤしよう!」

千夜「お断りします」

りあむ「ぴえん!誰か、ぼくをなぐさめ……」

椿「うふふ……りあむさん、こちらへどうぞ♪」

りあむ「うん。甘える人を間違えないぞ、決めた」

千夜「しかし、お前の言うこともわからなくはありません」

凪「凪もそう思います」

あかり「どういうことですか?」
50 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:28:21.84 ID:UcFFD9dl0
凪「結びついているかはわかりません。今はまだ」

千夜「こう見ると、植物が育っていること、凪さんが見た蝶々、辻野さんが見た人魂、見知らぬ女性、全て関係があるように見えますが」

りあむ「そう!そう言いたかったんだよ、白雪ちゃん!」

千夜「ちゃんと言葉にしないと伝わりませんよ。どんな間柄でも」

あきら「……」

椿「つまり、別のこと?」

りあむ「うん!いや、ごめん、別かもしれないし同じかもしれない」

凪「答えは未だない」

あかり「もう少し調べないとですか?」

あきら「そういうことみたいデス」

りあむ「何がわからないかを、まずは考えよう!それからだよ!」

椿「この事件でわからないのは……」

凪「ずばり、動機」

あかり「動機……サスペンスドラマっぽいです!」

凪「例えば、先ほどの例。真偽はともかく」

りあむ「蝶々を使って植物を急激に育てている女がいる、目的は何?」

あかり「植物が好きとか?」

あきら「植物を育てる必要がある?」

千夜「辻野さんの方が納得できます。砂塚さんの意見は、更に理由が必要かと」

あきら「育てる必要……」

椿「植物は育ちますから」

凪「待っていれば」

椿「季節を変える方法もあります。世界レベルで移動すればいいんです」

りあむ「そこら辺にある植物を育てても、得なんてしないよ」

あかり「なるほど」

千夜「つまり、お前の結論は」

りあむ「やっぱわかんない!近くで何かが起こってるのは確か!」

凪「起こっている場所が問題です」

あきら「あかりの学校とアルバイト先の間」

あかり「え、もしかして結構危険?」
51 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:29:28.66 ID:UcFFD9dl0
千夜「別に被害者が出ているわけではありませんが……」

椿「用心に越したことはありません」

あかり「わかりましたっ、父ちゃんと一緒に帰るようにします」

りあむ「あかりんごのためにも、もっと調べよう!正体は多分凪ちゃんが見つけた蝶々だけど、それがわかっても意味ないよ!」

千夜「賛成です」

凪「調べましょう。はーちゃんが教会にも情報を伝えてくれています」

あかり「そうなると、夜の聞き込みも必要ですね」

椿「先ほども言った通り、危ないのでやめましょう」

りあむ「むぅ、誰か良い人はいない?」

凪「ええ。夜を歩いても危険でなく、怪奇現象に耐性があり、知り合いで、協力的な」

あかり「若葉お姉さんはどうですか?」

椿「若葉さん、夜更かしも夜歩きも得意じゃないですよ。早寝早起きですから」

凪「全色揃えば強力です。しかし」

りあむ「揃ってたら疑われるから、若葉お姉さんのためにならないよ!」

椿「なので、別の人を。りあむさんと一緒に夜の聞き込みをしてくれるような」

千夜「そんな人物がいるでしょうか。お前と仲良くやれそうな、力を持っている人物」

あきら「あっ」

あかり「あきらちゃん?」

あきら「いるじゃないデスか。絶対に協力してくれる人」

りあむ「誰?りあむちゃんの夜間徘徊に付き合ってくれるお人好しがいるの?いや、いるわけないよ。うん、そうだよ」

あきら「ちとせサン、デスよ」
52 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:31:13.56 ID:UcFFD9dl0
25

出渕教会・地下1階

出渕教会・地下1階
住人達の居間。全体的に落ち着いた雰囲気の家具で揃えられている。

クラリス「お話はわかりました」

クラリス
『シスター』。普段は何も見ることはないため、ラジオを聞いていることが多い。本や手紙は美由紀に読み上げてもらうとか。

颯「あの説明でわかったかな」

涼「心あたりがあるのか?」

美由紀「美由紀はわからないよ」

クラリス「残念ながら、私にもありません。しかし、植物を急成長させる能力の例がないわけではありません」

涼「あるのか?」

クラリス「緑の手、そう呼ばれる触れた植物を蘇らせる能力は各地に伝わります。自身を遺伝子操作し細胞を植物に近づけ、緑の手を人為的に手に入れた狂信的な科学者がいますが、彼女が太陽を浴びることは二度とないでしょう」

颯「緑の手、なーが言ってような」

クラリス「超人的な力ではありますが、それらはこの世界の範囲内です。霊的な世界にいるとなると話は違います」

涼「待て、トラベラーのホールがあるのか?」

美由紀「探したからないと思うよ?」

クラリス「美由紀さんの言う通り、この時代のこの地域にはありません」

颯「また、トラベラーの話になった」

涼「それなら、別の時と場所から移動してきた。この世界に潜伏して、か」

クラリス「可能性はありますが、別の推測をしています。久川颯さん?」

颯「は、はい!」

クラリス「ご緊張なさらずに。聞いてよいでしょうか」

颯「もちろんです、シスタークラリス!」

クラリス「別のチャネルが見えるのですね」

颯「そうだよ」

クラリス「別のチャネルを動かす人物はいますか」

颯「霊能力者とか?会ったことないけど」

クラリス「はい。どなたかが使役している可能性があります」

美由紀「ちょうちょを?」

クラリス「何者かはわかりません。その人物がどこから来たか、も」

涼「フムン……」

クラリス「故に『チアー』の可能性があります」
53 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:32:20.05 ID:UcFFD9dl0
颯「『チアー』……それって前に聞いたやつ?」

クラリス「ええ。『チアー』がどなたかに能力を付加した、その可能性を覚えておいてください」

涼「『チアー』か、それが本当なら困ったな」

颯「どうして?」

クラリス「全てとは言いませんが、私達はこちら側の存在はある程度は把握しています。特に危険な能力を持つ存在は」

美由紀「もし『チアー』から力を貰ったらね、探さないといけないんだ」

涼「そういうことだ。昨日まで普通の人間だった、その人をな」

颯「そういうことなんだ。それは難しいよね、だって隠すもん」

クラリス「その通りです。能力を秘匿するのが人間の防衛反応というものです」

美由紀「クラリスさん、どうしたらいいの?」

クラリス「こちらでも調べましょう」

涼「了解だ」

クラリス「しかし、能力を隠匿する人を探すのは難しいことです。特に私達のような存在を避けると思いますから」

颯「それなら、手伝ってもらわないとだね」

クラリス「はい。お伝えいただけますか。既に調べているようですが」

颯「わかった。はーから伝えてもらうね」

クラリス「ご協力感謝します」

美由紀「気をつけてね」

涼「ああ。どんな存在かはわからない。深追いはするな」

颯「うん」

クラリス「どなたか調査に同行していただきましょう」

涼「なら、アタシが行くか?」

クラリス「いいえ。夢見りあむさんと行動を共にできますか」

涼「やれないことはないと思うが、気は合わないかもな」

クラリス「候補者は考えています」

美由紀「だれ?」

クラリス「ちとせさんに、今回は同行してもらいます」

颯「それがいいかも。りあむさんは会いたそうだし」

クラリス「颯さんもご協力くだされば」

颯「大丈夫。危なくないようにするから。はーにも怒られちゃうし」

涼「決まりだな」

クラリス「ええ。皆様に神のご加護があらんことを」
54 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:34:22.82 ID:UcFFD9dl0
26



S大学・構内

りあむ「き、緊張する……」

ちとせ「りあむ」

りあむ「ち、ちとせ!こ、こんばんは!ごきげんうるわしゅう!」

ちとせ「あはっ、緊張してるの?」

りあむ「だ、だって……久しぶりだし」

ちとせ「あの時以来?」

りあむ「うん、教会にも行ってないし。ちとせとも会ってない」

ちとせ「連絡してくれればいいのに」

りあむ「で、でも、その、ダメな気がして」

ちとせ「千夜ちゃんは来てくれるし、連絡もくれるよ」

りあむ「白雪ちゃんとぼくは違うよ?付き合いの長さが段違い」

ちとせ「……」

りあむ「ちとせ、心配なの?白雪ちゃんのこと」

ちとせ「そうね、ずっと心配。でも、私は夜の世界にいるから。待ってあげるしかない」

りあむ「……」

ちとせ「それで、どうするの?」

りあむ「SDsは夜も調べないといけない。時子サマにも聞いたけど、賛成だって」

ちとせ「シスタークラリスも同意見」

りあむ「で……なんだけど」

ちとせ「SDsも教会も、りあむと私で調べて欲しいんだって。どうする?」

りあむ「どうする、って、なに?」

ちとせ「調べるのかどうか。勝手に決められちゃったけど」

りあむ「ちとせがいいなら、ぼくは大歓迎だけど……いいの?」

ちとせ「もちろん」
55 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:35:04.33 ID:UcFFD9dl0
りあむ「や、やった!ちとせ、ありがとう!本当に顔も性格も良いよね!」

ちとせ「性格はどうかなー」

りあむ「そんなことないよ!ぼくは知ってる!」

ちとせ「……」

りあむ「……ぼくは知ってるから安心して。皆が見れないちとせを、ぼくは知ってる」

ちとせ「ありがと。それで、どこで何をするの?」

りあむ「はい、これ。公園のリストだよ」

ちとせ「これを千夜ちゃん達と調べてたのね。結構たくさん」

りあむ「夜にいる人に聞きこむ。昼間に公園にいるような健全な人はあてにならない」

ちとせ「公園の近くの家とかに聞いたり?」

りあむ「それは昼にやった。このあたり住宅街だし、1階お店でも2階はアパートだし、昼も夜も家にいる人は変わんないから」

ちとせ「変わるかも」

りあむ「変わる?」

ちとせ「夜だけにやってるお店とか」

りあむ「それは駅より東側、あっ、夜のお店って意味じゃないか。あんまないと思うけど調べてみよう」

ちとせ「りあむ、正直に」

りあむ「え?」

ちとせ「聞き込みが目的じゃないでしょ」

りあむ「あー、それは……うん、考えてたことがある」

ちとせ「考えてたのは、なに?」

りあむ「見つけちゃうのが一番だって」

ちとせ「あははっ、確実だね」

りあむ「安全な時に。だから、ごめん」

ちとせ「吸血鬼だから平気だよ」

りあむ「ここで会ってる理由が吸血鬼だからなの?いいの?ぼくはちとせが吸血鬼でなくても会いたいよ」

ちとせ「そう言ってくれるなら、何も考えずに会いに来ればいいのに」

りあむ「う……そういうわけにはいかないんだよぉ!りあむちゃんの心はナイーブなんだよ!」

ちとせ「りあむ、吸血鬼であることを否定するのもよくないよ。吸血鬼としての私でもいさせて」

りあむ「わかった。ちとせが望むならそうする。そういれるように、ぼくもがんばる」

ちとせ「それじゃあ、りあむ」
56 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:35:36.12 ID:UcFFD9dl0
りあむ「なに、ちとせ?」

ちとせ「身体能力は裕美ちゃんの半分どころか1割くらいだけど、こっちは強いよ」

りあむ「目……暗示のこと?」

ちとせ「そう。手の平をだして」

りあむ「手の平?はい、これでいい?」

ちとせ「おまじないをするの。こうやって、相手の手の平にルーンを書く」

りあむ「それは吸血鬼のルール?ちとせの習慣?」

ちとせ「これは私が知ってるおまじない。気まぐれな女の子の気分が変わらないようにするための」

りあむ「小さい頃のちとせはそうだったの?」

ちとせ「今は私。最後は両手を握って、ルーンを封じ込める」

りあむ「握られた……恥ずかしい」

ちとせ「はい。絶対に守ってあげる。吸血鬼として。黒埼ちとせとして」

りあむ「ぼくもちとせのために出来ることはするよ」

ちとせ「じゃあ、2人の約束は握られて刻まれた。これでおしまい」

りあむ「……」

ちとせ「りあむ?」

りあむ「ちとせの手、あったかい。肌の調子よさそう。ちとせ、本当に体が悪かったんだ」

ちとせ「変わる前はね。今は健康そのもの。それじゃ、行こっか♪2人で夜のお散歩に」

りあむ「ちとせ、待ってよぅ!」
57 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:37:23.86 ID:UcFFD9dl0
27

S公園付近

S公園
ブランコと鉄棒、そして老いた枝垂桜のある小さな公園。郵便ポストが入口にあることが特長。

りあむ「むぅ〜」

ちとせ「ぜんぜーん、収穫ないね」

りあむ「せっかく、ちとせに来てもらったのに!影も形も何にもない!収穫ゼロ!」

ちとせ「平和な夜。あちら側の気配もない」

りあむ「むしろ、なさすぎる。ちとせがいるから隠れた?そんなことないか。気づく能力があるかもわかんないし」

ちとせ「公園についたね。S公園だって……」

りあむ「ちとせ、何か見つけた?」

ちとせ「あの桜、不思議な感じがする」

りあむ「もしかして、何か見つけた?」

ちとせ「ううん。雰囲気が良いだけみたい。もしも咲いたなら、綺麗なのかな」

りあむ「あっ、郵便ポストがある」

ちとせ「ポストが必要なの?りあむ、手紙とか出すんだ」

りあむ「郵便でファンレターは送らないよ、今時。集配時間は2時間ごとなんだ」

ちとせ「つまり?」

りあむ「郵便局の人が何か見てるかも」

ちとせ「それなら、郵便局に行かないとだね。集配担当の郵便局は、あかりちゃんのアンテナショップの近くかな」

りあむ「あきらちゃんが昼に聞いてくれてる。何も見てないって。変なウワサ話もない」

ちとせ「なら、やることは簡単だね」

りあむ「うん。そこにいるお姉さんに話を聞けば、昼も夜も様子がわかる」

ちとせ「お姉さんというよりは同い年くらいに見えるけどね」

りあむ「……」

ちとせ「りあむ、どうしたの?」

りあむ「絶対に仲良くなるタイプじゃないけど……話しかけないと」

ちとせ「じゃあ、私から声かけよっか。すみませーん」

りあむ「ああ!心の準備が!」
58 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:38:33.77 ID:UcFFD9dl0
28

S公園

りあむ「要するに」

ちとせ「何にもないってこと?」

小松伊吹「うん。そういうこと」

小松伊吹
ダンサーを目指している少女。夜の公園で自主練していることも多いらしい。

りあむ「人魂は?見てない?」

伊吹「ないない。それだったら、ここで練習しないよ。せっかく移動したのに」

ちとせ「移動した、ってどういうこと?」

伊吹「前は別の公園使ってたんだけどさ。居心地が悪くなって」

りあむ「幽霊がでた?そうでしょ!?」

ちとせ「りあむ、違うみたい」

伊吹「妖精とかなら良かったけどね……」

ちとせ「何があったの?」

伊吹「そのさ、変な奴らが居座っちゃって」

りあむ「変な奴?宗教系?浮浪者系?家出系?」

伊吹「ナンパ系かな。アタシ、ああいうタイプ苦手で」

りあむ「そうなの?得意そうな見た目のに」

伊吹「違うから。そういうのはさ、もっとロマンティックにというか……」

ちとせ「へぇ、そうなんだ♪」

伊吹「楽しそうにならないでよ。いいでしょ、少しくらい夢は持っても」

りあむ「どんな感じだった?どのあたりが変だった?」

伊吹「変というよりイヤな感じ。年齢は高校生か大学生かくらい、家に帰ってないみたいで夜とかたむろしてる。大抵1人じゃなくて何人かといる」

ちとせ「その人達、どこで寝てるの?」

伊吹「公園で寝てた時もあるけど、カラオケとか。アタシも声かけられた。ナンパした人の所に転がり込んでるのかも」

りあむ「今のご時世に珍しいね!時代遅れにもほどがある!近寄りたくない!」

伊吹「アタシも同感。アイツらさ、今時歩きタバコして地面で火を消したりするんだよ」

りあむ「むしろ、絶滅危惧種として保護すべきかもしれん」

ちとせ「質問していい?」

伊吹「いいけど、詳しくは知らないよ。すぐに公園変えたから。そいつらと会ったのはN公園だったかな」

りあむ「あかりんごが人魂を見た公園だ」

ちとせ「木に傷つけてなかった?」

伊吹「木に傷……何かやってたような。タバコの火は消してたのははっきり見たけど」

ちとせ「ありがと。りあむ、どう思う?」

りあむ「人魂が出たのはその後だ。じゃあ、不届き者を追う?」

ちとせ「ねぇ、最近はどこにいるか知ってる?」

伊吹「知りたくない。けど、最近は見ないかな。寝床、見つけたとか」

ちとせ「そうかも。この辺りを回ってみたけど」

りあむ「そんな人いなかった!昼も夜も平和!それに!」

伊吹「それに?」

りあむ「ぼくたちが見つけたい人じゃない!原因なんていらないよ!」

伊吹「ごめん。言ってることがよくわからない」
59 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:39:11.94 ID:UcFFD9dl0
ちとせ「りあむは省略しすぎ。私達は友達が見つけた妖精さんを探してるの」

伊吹「ナンパ系グループじゃなくて」

りあむ「そう!そいつらは重要じゃない!大切なのは結果!行動の結果!」

ちとせ「植物が傷つけられたから、妖精さんが出て来たの。誰がは関係ない、ってことでいい?」

りあむ「さすが、ちとせ!わかりやすい!」

伊吹「アンタら、仲いいね」

りあむ「そ、そうかな?まだ、親友とかそういうんじゃないよね?ね?」

ちとせ「最近知り合ったばっかりだもの。まだ、きっと、全部わかってない」

伊吹「そっか。それじゃ、植物を傷つければ妖精が出てくるの?」

りあむ「罰当たりだよ!やめよう!真っ当に生きられるなら生きるべきだよ!」

ちとせ「傷つけるのはダメ。何が起こるか分からないから」

伊吹「わかった」

りあむ「人に被害が出てないから、大丈夫だと思うけど」

ちとせ「平和に見えるけど、危険があるかも。気をつけてね」

伊吹「気をつけるようにする。あんまり遅くまではいないように」

りあむ「それがいいよ!どうせなら朝練とかの方が安全だよ!」

ちとせ「カワイイから吸血鬼に食べられちゃうかも♪」

伊吹「カ、カワイイ……えっ?吸血鬼?」

りあむ「ち、ちとせ!」

ちとせ「冗談だよ♪またね」

りあむ「ちとせ、待ってよう!あっ、さっきのちとせ特有の東欧ジョークだから!忘れて!」

伊吹「いいけど……金髪の人、行っちゃうよ?」

りあむ「うわっ!なんで駆け足!?元気になったから?とにかく話してくれてありがとう!気をつけてね!がんばる姿が美しい!何だったら舞台も見に行く!それじゃ!」

伊吹「行っちゃった……妖精なら会ってみたいかも。幽霊はイヤだけどさ」
60 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:40:23.23 ID:UcFFD9dl0
29

S大学・部室棟・SDs部室

ちとせ「まだ部室としては殺風景ね。何か持ってきてあげようかな」

りあむ「あー、うー、こうでもない?ちがう?うぇーん、時子サマにお知らせできないよぅ!」

ちとせ「ねぇ、りあむ?」

りあむ「うぅ……なに、ちとせ?何か言った?」

ちとせ「千夜ちゃんの字が書かれたホワイトボードとケータイを互いに眺めるの楽しい?」

りあむ「楽しくないよ!見ればわかるでしょ!?」

ちとせ「ちゃんと聞かないと本当はわからないから。聞いてみただけ」

りあむ「夜に調べればわかると思ったのに、何にもわからないよう!どうして!?ちとせ、助けて!」

ちとせ「それは黒埼ちとせとしての意見?それとも……吸血鬼としての意見?」

りあむ「えっと、両方!まずはちとせとして!」

ちとせ「高校生を辞めちゃった19歳の黒埼ちとせにはわからないかな。昼よりも夜の収穫が少ないからりあむが困ってるのはわかるよ」

りあむ「そうなんだよ!どうして、あかりんごが人魂を見た夜なのに、なんで!?」

ちとせ「吸血鬼の赤ん坊として。裕美ちゃんは言ってた、人に非ざるモノがわかるって。それは本能だから」

りあむ「……わかるの?」
61 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:41:05.11 ID:UcFFD9dl0
ちとせ「完璧じゃないけどね。りあむと夜の散歩は何も感じなかったの」

りあむ「何も感じない?それって、何もないってこと?」

ちとせ「そう、何にもないの。きっといないのね」

りあむ「いない?どうして?」

ちとせ「みんないなくなっちゃったみたい。夜は隠れる、ある存在を恐れて」

りあむ「幽霊にも縄張り争いがあるの?あっ、幽霊とは限らないか」

ちとせ「芸能事務所の幽霊はより強大なモノに追いだされた、って裕美ちゃんから聞いた。今回もそうかも。妖精さんは強いのかもね」

りあむ「この辺りに、何か来た?どこから何かが」

ちとせ「それは間違いないと思う。でも、良い存在か悪い存在かはわからない」

りあむ「植物を治してるから良い奴だと思いたいよ」

ちとせ「りあむは優しいね」

りあむ「ぼくに優しくしてる人は大歓迎だからね!絶賛募集中だよ!」

ちとせ「私から言えるのはこのくらい。何かわかった?」

りあむ「うーん……喉くらいまで答えは出てる気もする。実は全部勘違いの気もする」

ちとせ「焦る必要はないよ。相手は朝まで動かない」

りあむ「危ないわけでもないか。よく考えたら時子サマのお願いでもないや」

ちとせ「それじゃあ、帰るね。裕美ちゃんと古いテレビゲームが日課なの」

りあむ「え、もう帰っちゃうの?」

ちとせ「うん、裕美ちゃんは姿が中学生だから出歩けないし。今は夜が短いから」

りあむ「そっか。吸血鬼も大変だ」

ちとせ「りあむもゆっくり寝てね?夜更かししてない?」

りあむ「ちょっとだけ。夏休み序盤よりはマシになったから!」

ちとせ「送っていくね」

りあむ「うん。ありがと、ちとせ」

ちとせ「そうだ、聞いておくことがあったんだ」

りあむ「なに?今聞かないといけないこと?」

ちとせ「忘れちゃう前に聞いておくの」

りあむ「うんうん。いざ人と話すとなるとテンパるよね」

ちとせ「千夜ちゃん、ちゃんと食べてちゃんと寝てる?」

りあむ「……ちとせ、お母さんみたいなこと聞くんだね。独り暮らしの大学生の親かよ。りあむちゃんの親はそんなこと言わないよ」

ちとせ「私の前だと大丈夫としか言わないから、千夜ちゃんは」

りあむ「よく寝てるみたいだよ。夜更かしする趣味もないし。お弁当作らなくなったから、朝も遅くなったって。そうだ!今日なんか、カップラーメンを食べてたって!購買でお湯もらってさ!」

ちとせ「……」

りあむ「あかりんごと一緒に庭で食べたって、教室に持ち込めないから。ちとせ、聞いてる?」

ちとせ「聞いてる。ジャンクフードはほどほどにね。カップラーメンは塩分が多いから」

りあむ「ぼくに言っても仕方ないよ。ジャンクフードそこまで食べてない……はずだし」

ちとせ「りあむ、お願いね」

りあむ「わかってる。けど、ぼくに期待し過ぎないでよ」

ちとせ「りあむは大丈夫。それじゃあ、帰ろっか」

りあむ「また勝手に行った!りあむちゃんを置いて行くなよぅ、泣くぞ!」
62 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:42:46.82 ID:UcFFD9dl0
30

幕間

9月初旬のとある金曜日

早朝

C公園
タイル張りの水遊び場が特長の公園。晴れた夏の日には子供連れが集まる公園も、今はブルーシートで囲まれていて道からは中が見えない。

藤原肇「警部。お疲れ様です」

東郷あい「早くからすまないな」

東郷あい
刑事課の警部。署内でも一目置かれる存在でもあるが、同時に爪弾きものでもあるらしい。

藤原肇
刑事課の巡査。あいの部下。冷静で自分を出さないタイプとのこと。

肇「構いません。これが私の仕事ですから」

あい「そうか。状況を教えてくれ」

肇「30分ほど前、ランニングをしていた人物がC公園の東屋下に放置された遺体を発見し、通報。現場はその時の状態で保存されています」

あい「これが今回の仏さんか……フムン、死因はわかるかい?」

肇「外傷はありません。死因は不明です」

あい「干からびているな、何故だ?」

肇「わかりません」

あい「原因はプロに任せるとしよう。身元は」

肇「所持品はありませんでした」

あい「わかっていない、と」

肇「名前や職業はわかりませんが、最近たむろしているグループの1人だということです」

あい「あまり好印象ではないようだな。つまり、厄介者の遺体が出ただけか」

肇「遺体は運ばれてきたと思われます。遺留物はありません」

あい「死んだ後にか」

肇「近隣住民からは早く遺体とブルーシートをはずせ、と言われています」

あい「警察官も公僕だ、市民の意見には従うとしよう。調査することもないようだからな」

肇「それでは、撤収をしますか」

あい「ああ。遺体は検死へ」

肇「わかりました、連絡をしておきます」

あい「私達の事件のようだな、肇君?」

肇「どういう意味でしょうか」

あい「誰も悲しんでいない、奇妙な遺体だ。刑事を奮い立たせる事件じゃない。呼ばれなくても現場に訪れるような正義の刑事もいない」

肇「事件に貴賤はないと思いますが」

あい「そうはいかないのさ。君もわかっているはずだ」

肇「……はい」

あい「さて、私も公園を一通り見てくるとしよう。肇君は撤収の準備だ。頼んだよ」

肇「了解です、警部」

幕間 了
63 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:43:44.27 ID:UcFFD9dl0
31

午前8時頃

S大学・構内

りあむ「あっ!時子サマ!おはよう!こっちこっち!」

時子「おはよう。妙に元気ね」

りあむ「3時間くらいしか寝てないのに、時子サマからモーニングコールだからね!元気いっぱいにもなるよ!」

時子「寝不足で逆にテンションが高いわけね。授業が始まる前に生活習慣を改めなさい」

りあむ「だって、夕方にならないとみんな集まらないし。暇してるくらいなら寝てるのがいいよ」

時子「経験則からすると、訳がなくても朝に起きて部室に居た方が健康的よ。大学生に孤独は危険だわ」

りあむ「それでそれで!時子サマは何の用事なの?りあむちゃんに会いたかった?」

時子「寝る前にメールを見たわ。深夜に送ってこないでちょうだい。頭が冴えてしまうから」

りあむ「時子サマ、すぐに見てくれたの?りあむちゃんのメールを?」

時子「内容は精読してない。調査は任せるわ、言った通り」

りあむ「じゃあ、なんで起こしたの?ラジオ体操か!違うな!」

時子「ひとつ解決してあげるわ」

りあむ「時子サマ、何か知ってるの?」

時子「見慣れない女性、心当たりがあるわ」

りあむ「え!本当!?さすが、時子サマ!」

時子「だから手伝いなさい」

りあむ「手伝う?何を?」

時子「捕まえるのよ、ドクターを」
64 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:46:10.91 ID:UcFFD9dl0
32

S大学・構内

時子「いたわ。ベンチで寝ている、チャンスよ」

りあむ「博士って聞いたからずっと年上かと思った。同い年くらいじゃん」

時子「海外で博士号を取ってるわ。専攻は化学、大学は飛び級だそうよ」

りあむ「ほえー、天才だ。オタクが使う意味じゃない本当の天才だ。S大学の先生になったの?」

時子「違うわ。別の博士号を取るために、医学研究科の博士課程に入学したの」

りあむ「変人だ!複数博士号なんてフィクションキャラだよ!日本人なら尚更!」

時子「変人だけど学生なのよ」

りあむ「あー、時子サマの管轄なのか。災難だね」

時子「野宿くらいならカワイイものだわ。失踪癖が厄介。りあむ、捕まえなさい」

りあむ「え?ぼくが?」

時子「いいから。行きなさい」

りあむ「あーもう!行ってくるよぅ!」

時子「……」

りあむ「ちゃんと寝てるぞ……捕まえた!」

時子「よろしい。上半身を起こしなさい」

りあむ「この子……」

時子「どうしたのかしら?」

りあむ「長い髪から不思議なニオイがする。香水かな、変なの」

時子「おはよう、ドクター一ノ瀬」

一ノ瀬志希「なにー?志希ちゃん、まだおねむなんだけどー」

一ノ瀬志希
S大学医学研究科博士課程所属。大学構内のベンチで寝ている所を学生に発見され、時子に連絡が来た。

時子「ベンチで寝ていたら起こされるのも当然」

志希「なんか腕に引っ付いてるし。だれ?時子ちゃんの家来?」

時子「家来じゃないわ」

りあむ「家来でもいいよ!りあむちゃんは大歓迎だよ!」

志希「じゃあ、家来だ〜。志希ちゃんの家来にもなる?」

りあむ「えっと、やめとく。時子サマみたいに飴と鞭は使い分けてくれなそう」

志希「にゃはは、ばれたか〜。甘やかしてムチムチに太らせてチューチューしようと思ったのに」

りあむ「うぇぇ……これ以上不健康になるのは危ないよぅ」

時子「話は終わりかしら」

りあむ「ごめんなさい!いいよ!時子サマからお話だよ!」

志希「なに?また入学書類に不備があった?」

時子「それは解決したわ。ドクター、前にも言ったでしょう」

志希「野宿はやめろ、って話?日本は平和だからいいでしょ〜」
65 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:47:05.86 ID:UcFFD9dl0
時子「あなたが良くても誰もが良いわけではない。近隣の公園にいたこともあるのよね」

志希「久しぶりの日本だからね〜。植物と空気を楽しんでる、存分に」

時子「辞めなさい。大学に苦情が来ても困るわ」

志希「そっかー、ならここはいいでしょ〜?大学の中は治外法権!」

りあむ「そんな時代じゃないよ?学生闘争なんて残党もいないよ!」

時子「ダメよ。他の学生のために居座らないように」

志希「ケチ〜」

時子「女性用の仮眠室も幾つか案内したでしょう」

志希「あんまり好みじゃないんだよね〜。開放感がない」

りあむ「そりゃあ、開放感あったら困らない?違う?」

時子「自宅に帰ればいいでしょう。住所があることは知ってるわ」

志希「毎日同じ所で寝る気分じゃないんだよね〜。今はニオイが気に入らない」

りあむ「ニオイ?」

志希「ん、そういえば君?」

りあむ「え?りあむちゃん?もしかして、臭い?」

志希「Tシャツからくたびれたニオイがする。複数の洗剤が生乾きで絡み合ってる。物持ちいいんだね〜」

りあむ「それは事実だけど、面と向かって言う?」

志希「うん、悪くない。もっとクンカクンカさせろ!」

りあむ「うわぁ!りあむちゃんを嗅いだっていいことないよう!人生諦め気味なニオイしかしないよぅ!時子サマ、助けて!」

時子「ドクター一ノ瀬、言いたいことは伝わったかしら」

志希「わかった。今何時?」

りあむ「朝の8時。早朝だよ。大学生なんて起きてない時間だよ」

志希「それじゃあ、研究室にいこっと」

時子「りあむ、離してあげなさい」

りあむ「わかった。もう公園で野宿はやめよう。ぼくにも迷惑だし」

志希「よくわかんないけど、わかった。またね〜」

時子「……大丈夫かしら」
66 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:47:44.18 ID:UcFFD9dl0
りあむ「まぁ、飛び級で博士号取るくらいで海外でも生き残ってるから平気だよ。根拠はない」

時子「それもそうね」

りあむ「それにしても、時子サマも大変だね。変な学生が多くて」

時子「S大学はマシな方よ。最近わかったわ」

りあむ「そうなの?いや、そうか。内部進学のボンボンも多いし」

時子「それで、夢見りあむ?」

りあむ「わかった!公園の見知らぬ女性は一ノ瀬博士だ!」

時子「そうよ、おそらく」

りあむ「でも、うーん?りあむちゃん達が調べてるのと関係あるかな?」

時子「その判断は任せるわ。りあむ、手伝ってくれてありがとう」

りあむ「感謝することなんてないよ!博士の変な香水嗅いでただけだし!」

時子「朝食をご馳走するわ。どうかしら」

りあむ「え?いいの?時子サマとモーニングをご一緒できるの?ご褒美が過ぎる」

時子「勤務時間前に一仕事終えたもの。始業時間にいなくても許されるわ」

りあむ「許されるの、それ?」

時子「問題ないわ」

りあむ「やっぱり、時子サマだけだよね?時子サマだからだよね?」

時子「行きましょう。ほら、立ちなさい」

りあむ「あ……そうだよね、そうするのが普通だよね?うん、そうだよ」

時子「どうしたのかしら。立たないなら置いていくわよ」

りあむ「ちとせは、待ってくれないから」

時子「へぇ?私も見習おうかしら。あなたを動かすには、その方がいいのなら」

りあむ「そういうのはちとせだけでいいよぅ!一緒に行こうよ、時子サマ!」
67 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:49:58.16 ID:UcFFD9dl0
33

昼休み

S大学付属高校・空き教室

空き教室
ちとせ達の部室になるはずだった教室。頼子が利用申請を撤回していないので、千夜達は自由に使える。

あかり「千夜さん、今日はお弁当なんですね」

千夜「はい。簡単なものですが」

あきら「朝起きて作るだけで凄いデス」

千夜「辻野さんもお弁当のようですが」

あかり「今日はお母ちゃんが作ってくれました!山形のお野菜たくさんですっ!」

千夜「お手製で地元産ですか。良いことです」

あかり「廃棄するより良いんご!火を通せば大丈夫ですから」

あきら「売れ残りなんデスね」

あかり「あきらちゃんも食べますか?おすそ分けです」

あきら「ありがと」

あかり「はい、どうぞ。千夜さんも食べながら情報共有しましょう!」

千夜「いただきます。お嬢さまから明け方に電話がありました」

あきら「りあむサンからもメールが。深夜とついさっき」

あかり「そうなんですか?あっ、本当にりあむさんからメール来てました!」

千夜「私も見ています。くどい文章ですが、理解できない文章ではありません」

あきら「りあむさんのメールは要約すると」

あかり「夜には何も見つからなかった?」

あきら「そう」

千夜「不審な人物も正体がわかった、と。S大学の学生だったのですね」

あかり「ちとせさんの電話はどうだったんですか?」

千夜「内容は同じです。夜には何もいない、と」

あきら「夜の調査は不発。あかりが見たこと自体がイレギュラーだった」

千夜「夜が例外ということであれば」

あきら「妖精を使って植物を治したりしてるのは」

あかり「夜じゃなくて昼間?」
68 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:50:41.03 ID:UcFFD9dl0
千夜「素直に考えれば、そういうことでしょう」

あきら「夜に探さなくて良くなった」

あかり「みんなで探せるんご!」

千夜「ええ。夕方、探してみるのもいいかもしれません」

あかり「ちょっと待ってください、手帳を確認して、っと」

あきら「今日はバイト。近くに公園があった気がするから見ておく。あかり、その手帳イイね」

あかり「えへへ、雑貨屋さんからいただいたんですっ。あっ、今日はお手伝いの日でしたっ、ごめんなさい」

千夜「そうですか。それなら、一人で部室に行ってみます」

あかり「そうだ!明日はどうですか?」

あきら「大丈夫。あかりも?」

あかり「はい、手帳の予定を確認しました!千夜さんはどうですか?」

千夜「構いません」

あかり「それじゃあ、朝から調べてみるんご!」

あきら「時間は、りあむさんと相談かな」

あかり「確かに、朝は起きてなさそうですね」
69 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:51:54.62 ID:UcFFD9dl0
千夜「今日は起きていたようですが」

あきら「そうデスね。今、なにしてるんだろ?」

千夜「大方、昼寝でもしているのでしょう」

あかり「それにしても、気になるんご」

あきら「りあむさんが今何してるか?」

あかり「全然違うんご!人魂を見た原因ですっ」

千夜「気になるところではあります」

あきら「何故か夜に出た」

千夜「お嬢さまが言うには、夜はそのような気配すらないと」

あかり「何故でしょう?夜じゃないといけなかった?」

千夜「理由があるのかどうかもわかりません。相手は人ではないのですから」

あかり「ウーン……」

あきら「理由があるなら……時間?場所?」

あかり「あきらちゃん、何か思いついた?」

あきら「思いついたわけじゃ……ん?」

千夜「どなたかいらっしゃったようです」

木場真奈美「おや、先客がいるようだ」

古澤頼子「部活の生徒です。空いていることを知っていますから」

古澤頼子
S大学付属高校の教師。担当科目は国語。部活は解散したわけではなく、顧問手当てが出るらしい。

木場真奈美
S大学付属高校に9月から勤務。英語授業のアシスタントをしている。その前はアラスカにいたというウワサ。

あかり「古澤先生と木場先生!こんにちは!」

真奈美「先生じゃないんだ。変えてくれ」

あかり「それじゃあ、木場さん」

真奈美「よろしい。集まって、お昼かい?」

あきら「そう」

千夜「お邪魔でしたら、移動しますが」
70 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:52:31.27 ID:UcFFD9dl0
頼子「構いません。私達も昼食を取りに来ただけですから」

あきら「職員室で食べない?」

頼子「うるさいので。会話もそこまでしたくありませんし」

あかり「木場さんも同じ理由ですか?」

真奈美「ま、そんなところかな。古澤先生の大学での専攻に興味があってね、話を聞きたいと思っていたのさ」

頼子「そういうわけなので、お気になさらず」

あきら「気にしないわけにもいかない」

千夜「ええ、この話はまた明日に」

あきら「わかった」

真奈美「……」

あかり「木場さん?木場さんも山形野菜を食べますか?」

真奈美「遠慮しておこう。だが、後でアンテナショップに寄ってみるよ」

あかり「本当ですか!?たくさん買って欲しいんご!」

真奈美「ははっ、そうするとしよう。古澤先生、端にでも行くとしようか」

頼子「はい。授業には遅れないでくださいね。ゴミも持ち替えるように」

あかり「わかりました!」

あきら「……仲いいのかな、意外」

千夜「ええ」

あきら「実行委員タイプと帰宅部タイプ」

あかり「私達もそう見えるでしょうか?」

千夜「私達……」

あきら「あー、そうかも」

あかり「あれ?変なこと言いました?」

あきら「全然。他愛もない話をしないと。あかり、何かある?」

あかり「えぇ!急に言われても!」
71 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:53:20.57 ID:UcFFD9dl0
34

S大学・部室棟・SDs部室

椿「こんにちは」

りあむ「はっ!起きた方が良い気がするぞ」

椿「あら、お休み中でした?」

りあむ「椿さんだ!そうだよ、時子サマとモーニングに行ってから昼寝してたよ!時子サマがソファーをくれたおかげで快眠!」

椿「それは良かったです」

りあむ「椿さんは何しに来たの?暇?」

椿「暇なのは確かですけど、カメラのお手入れをしようと思って」

りあむ「凄い重そう。手伝う……のはやめとく。高そうだし」

椿「高いのは正解です。まだスペースがあるので有効活用と」

りあむ「へー。何か縫ったりしてるの見たぞ。裁縫部狭いの?」

椿「そういうわけではありませんが」

りあむ「ま、ここより物がない部室なんてないよね!この大学、歴史は古いし!」

椿「お邪魔にならないようにします。りあむさんは何か用事が?」

りあむ「別にそういうわけじゃない。部室の方が寂しくなくていいかも。いや、待てよ?」

椿「調べものは進みました?」

りあむ「そうだよ!昼寝する前に付け加えないといけなかったのに!椿さん、ありがとう!変な服は着ないけど作業に部室は使っていいよ!」

椿「ありがとうございます。りあむさんもがんばってくださいね」
72 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:54:24.84 ID:UcFFD9dl0
35

放課後

S大学近郊・C公園付近

凪「りあむのためにも公園巡りをするとしましょう。はーちゃんと一緒に来れば良かったという言葉は聞きません」

凪「C公園で今朝事件があったとネットで見ました。まずはそこから」

凪「……C公園は普通過ぎる」

凪「しかし、マンションポエムが書かれたチラシが自動販売機に。わーお。盲点でした、ポエム狩りに適しているとは。探さねばならぬ」
73 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:54:59.41 ID:UcFFD9dl0
36

S大学・部室棟・SDs部室

千夜「こんにちは」

りあむ「白雪ちゃん!待ってたよ!」

千夜「はて……私に用事ですか」

りあむ「別に用事はない。いや、用事がないから待ってた。りあむちゃんが寂しいから」

千夜「お前の言ってることはよくわかりません」

りあむ「とにかく!歓迎するってこと!」

千夜「私も一員です。歓迎する必要はありません」

りあむ「あっ、それもそうか。あかりんごとあきらちゃんは?一緒じゃないの?」

千夜「お2人ともアルバイトです」

りあむ「うちの高校生は働き者だね!白雪ちゃんも含めて」

千夜「いえ、私は違います。お嬢さまもおりませんので」

りあむ「そんなことないよ!りあむちゃんなんか家事ほとんどしないからね!」

千夜「お前と比べたら誰でも。それなら私も働き者に決まっています」

りあむ「ちょっと虚しくなった。自分で言っておいて難だけどさ」

千夜「他にどなたかいらっしゃるのですか?」

りあむ「いるよ!椿さんと若葉お姉さん黄色!」

椿「千夜さん、こんにちは」

若葉「一緒にお茶しませんか〜?」

椿「座ってください。りあむさんも」

千夜「何か進展はありましたか。朝のメールは見ました」

りあむ「ないよ!部室にいただけ!」

千夜「そうなのですか、椿さん」

りあむ「なんで、椿さんに確認するの?」

椿「はい。部室に来てから、それについては何も」

千夜「明日、辻野さんと砂塚さんと調査の約束をしました」

若葉「そうなんですか〜?」

りあむ「それなら、今日はお休みだ!がんばり過ぎはよくない!明日!」

椿「りあむさんの言う通りですね。今日はお休みしましょう」

千夜「ええ。今日はお茶だけいただきます」

若葉「はい、どうぞ〜。ゆっくりお話しましょう〜」

千夜「ありがとうございます。お付き合いします」
74 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:56:24.72 ID:UcFFD9dl0
37

T公園

凪「むっ。本懐を忘れるところでした。ここがT公園か」

智絵里「うーん……えっと、どうしようかな……」

凪「これはグッドタイミング、いえ、グッドではコンボが続かない。グレイトかパーフェクトというやつです」

智絵里「そうだ、電話……!」

凪「こんにちは。それはりあむの電話番号が記載されたカードではありませんか」

智絵里「ひゃあ!びっくりした……ごめんなさい」

凪「驚かせてすみません。私は凪です。夢見りあむと同じことをしています」

智絵里「あのっ、知り合いなんですか?」

凪「人魂と植物を調べています」

智絵里「よかった……見てもらいたいものがあるんです」

凪「ほう。見ましょう」

智絵里「こっちですっ」
75 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:57:57.61 ID:UcFFD9dl0
38

S大学・部室棟・SDs部室

若葉「地下アイドルも面白そうですね〜」

りあむ「そうでしょ!そうでしょ!若葉お姉さんならわかってくれると思ってたよ!」

千夜「何故ここでアイドルの話をしているのでしょう……しかも、マニアックな……」

コンコン!

りあむ「ん?ノックの音した?」

椿「誰でしょうか?」

りあむ「凪ちゃん?そういえば今日はまだ来てないな」

千夜「見てきます」

若葉「お客さんですか?」

りあむ「そんな予定ないけど。そもそもここに訪ねてくるような人はいないよ。時子サマは、今日は来ないだろうし」

千夜「皆さん、お客様をお連れしました」

椿「あら」

颯「こんにちは!」

若葉「はじめまして〜」

椿「こんにちは。もしかして、凪ちゃんの妹さんですか?」

颯「はい!久川颯です!なーがいつもお世話になってます」

椿「可愛らしいですねぇ。私は江上椿です」

若葉「日下部若葉です〜。仲良くしてくださいね〜」

颯「なーから聞いてます!頼れるお姉さんだって」

椿「まぁ、これはおもてなししないといけませんね。千夜さん、お茶とお菓子を!」

千夜「はい。颯さん、座ってください」

颯「いえ、ちょっとなーを探しに来ただけなので」

りあむ「うんうん。凪ちゃんがカワイイカワイイ妹いうのもわかる。りあむちゃんは妹属性だけど姉の気持ちが芽生える。いや、姉になってしまう」

千夜「おもてなしを受けてください。私は、あなたに余り良い態度ではなかったので」

若葉「そうですよ〜」

颯「なーもいつもこんな感じなんですか?」

りあむ「え?違うよ?もっと雑。気が付くといる」

千夜「お前は言い方が悪い」

椿「もう私達の一員という感じです。お客様ではなく」

りあむ「最初から凄い馴染んでた。自然体すぎる」

颯「だって、なーだもん」
76 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 22:59:09.04 ID:UcFFD9dl0
りあむ「凪ちゃん、今日は来てないよ。行方不明なの?」

颯「ケータイにでなくて。返信もないし」

椿「何か言ってました?」

颯「公園巡りするとか、言ってたかな。どこの公園か分からないけど」

りあむ「それなら公園はわかるよ!」

若葉「終わったらここに来るかもしれませんね〜」

千夜「その通りです、待つのが良いかと。こちらはいかがですか」

颯「クッキー?美味しそうだし、オシャレ!」

千夜「お気にいりいただき何よりです」

りあむ「それ、ちとせのために買った余りだよね」

千夜「事実でも、そういうことは言う必要はありません」

颯「残りでも何でも大丈夫だよ!」

若葉「ふふっ」

椿「凪さんを待つまでおやつにしましょう」

千夜「これには紅茶があうかと。颯さん、好きな所に座ってください」

颯「えっと、どのイス使っていいの?」

りあむ「凪ちゃんのイスはそれ」

颯「やっぱり、なーっぽいイスだと思った」

りあむ「そうなの?やっぱり双子だとわかる?ぼくなんか姉のことは全くわかんないよ!」

千夜「こいつがうるさいかもしれませんが、黙らせてしまっても構いません」

りあむ「その言い方だと映画で良く見る脅しの文句だよ……」

千夜「準備をしてきますので、ごゆるりと」
77 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:01:43.05 ID:UcFFD9dl0
39

T公園

凪「これは……」

智絵里「どうかな……?」

凪「焦る理由を理解しました。これは異常だ」

智絵里「やっぱり、そうだよね」

凪「クローバーが育っています。この一角だけ。しかし、これがオカシイ」

智絵里「うん。育つ時間はなかったと思う」

凪「更にこの痕跡。薬品のようなものが撒かれた」

智絵里「枯れそうになった痕跡とかもあるのに」

凪「何故か育っている」

智絵里「なんでだろう……人魂のせいかな?」

凪「それはわかりません。不審な人物を見ませんでしたか」

智絵里「ううん。夜はあまり来ないから」

凪「夜ではありません。太陽が照らす日中です」

智絵里「日中、ですか?」

凪「見慣れない人はいたりいなかったり?」

智絵里「いないと思います……たぶん」

凪「なるほど。ご心配はいりません」

智絵里「大丈夫?」

凪「凪達が引き継ぎます。危険には近寄らないように」

智絵里「うん。何かあったら連絡するね」

凪「よろしくお願いします。凪は別の公園も調べてみましょう」
78 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:02:21.84 ID:UcFFD9dl0
40

S大学・部室棟・SDs部室

若葉「凪ちゃんは来ませんでしたね」

りあむ「颯ちゃんも探しに行っちゃったし」

椿「そうですねぇ。残念」

千夜「静かになりましたね。お前を除いて」

りあむ「えっ!?りあむちゃんはそんなにうるさくないよ!」

若葉「言葉数が多いだけですよね〜」

りあむ「そう!その通り!」

若葉「肝心なところが足りないのに、余計な一言が多いんですよ〜」

りあむ「若葉お姉さん、ぜんぜん庇ってくれてないじゃん!」

千夜「甘やかさなくてもいいかと。椿さん、お手入れは終わりましたか」

椿「はい、おかげさまで」

千夜「私もお暇します」

りあむ「白雪ちゃん、帰っちゃうの?」

千夜「いつも誰かいるのなら、今日を惜しむ必要もありません」

りあむ「そっか。それじゃあ、また明日ね!絶対来るんだよ!」

千夜「そちらこそ遅刻しないように。今日は失礼します」

椿「また明日」

若葉「お休みなさーい」

椿「私も荷物を回収しないと」

若葉「お夕飯の買い物をしないとでした」

りあむ「それじゃあ、今日は解散だ!りあむちゃんも寝なおすよ!ご飯でも食べてからね!」
79 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:03:13.55 ID:UcFFD9dl0
41

C公園

颯「あれ?全然人がいない。なーもいないし」

颯「事件があったからかな。あの人に聞いてみよ。すみませーん!」

藍子「こんにちは。どうしました?」

颯「あの、似てる人見ませんでした?」

藍子「似てる人?」

颯「あっ、双子のお姉ちゃんを探してるんです!」

藍子「そうなんですね。ごめんなさい、見てないです」

颯「そっか。お姉さんは何をしてるんですか?」

藍子「私、ですか?」

颯「うん」

藍子「何もしてないですよ。何もなくて平和だな、って。そう、思ってただけです」

颯「事件があったのに」

藍子「それなのに、何にも変わらない」

颯「うんうん。それが大切だよね」

藍子「はいっ。そうなんです。だから……あっ!見てください!あの子がお姉さんですか?」

颯「なーだ!もう、どこ行ってたんだろう?」

藍子「見つかって良かったですね。また、会いましょう」

颯「ありがとう!ばいばい!」

凪「おや、はーちゃん。探検ですか?」

颯「違うよ、なーを探しに来たの。ケータイでないから」

凪「まさか。はーちゃんのコールを見逃すとは一生の不覚」

颯「大袈裟だなー。心配したから帰ろ?」

凪「ええ。やっとケータイを見ました。明日調査をするようです。今日は帰りましょう。見つかったものは電子で共有」

颯「何か見つかった?」

凪「復活したクローバーです。この辺りには、緑の味方がいるようです」
80 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:04:29.65 ID:UcFFD9dl0
42

深夜

出渕教会・地下1階

楓「……」

裕美「楓さん、ここに居たんだ。先に起きたの?」

楓「いいえ。今日は朝から起きていました」

ちとせ「ふわぁ、おはよう」

楓「おはようございます。あの、裕美ちゃん」

裕美「なに?」

楓「今夜は、ちとせさんもいるので寂しくはありませんね」

裕美「え?うん、寂しくはないけど」

楓「それでは、私は寝ます。おやすみなさい」

裕美「おやすみなさい」

ちとせ「行っちゃった。楓さん、裕美ちゃんのために昼夜逆転してくれてたの?」

裕美「違うと思う……『捕食者』の食べ物は夜の方が多いから。前から夜に起きてたよ」

ちとせ「ふーん、そっか」

裕美「ちとせさん、ご飯食べる?準備するよ」

ちとせ「うん。ありがと」

裕美「オーケー、わかった」

涼「起きたか」

裕美「涼さん、どうしたの?」

ちとせ「お腹空いた?裕美ちゃんと一緒に食べる?」

涼「食事前か。話があってな」

ちとせ「何か起きたっぽいね」

涼「不審な遺体が出た。干からびた遺体だそうだ」

ちとせ「干からびた、どういうこと?」

裕美「もしかして、吸血の類なの」

涼「わからない。遺体も警察が早々に回収した」

裕美「私達が対応しないといけないこと、かもしれない」

涼「アタシも見回ってみたが、怪しいところは見つからなかった」

裕美「見て回ろうか」

ちとせ「わかった」

裕美「その前にご飯かな。涼さんも食べる?」

涼「アタシはいい。またな」

裕美「わかった。何かあったら伝えるね」
81 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:05:34.11 ID:UcFFD9dl0
43

幕間

S大学・医学部附属病院・廊下

あい「……」

肇「警部。お待たせしました」

あい「結果は出たか」

肇「終了しました。こんな時間にねじ込むなとおかんむりでしたが」

あい「口だけさ。こんなに待たされたんだ、熱心に仕事をしてくれたようだ」

肇「常識外れなことが多いと嘆いていました」

あい「それはさぞ知的好奇心を刺激されただろう。では、常識外れな見解を聞こうじゃないか」

肇「まずは死因ですが、多臓器不全です」

あい「多臓器不全か。病死ではないのか」

肇「違うのではないか、とのことです」

あい「そうなると薬物かな」

肇「不明です。薬物を特定する症状も物質も出ていません」

あい「フムン。死亡推定時刻は」

肇「昨日です。内蔵の温度からして」

あい「昨晩か。それは奇妙だな」

肇「はい。遺体は干からびていました。ミイラの様に」

あい「長い時間放置されたわけではないと」

肇「体液が蒸発したには少なすぎると言っていました」

あい「何らかの方法で抜いたのか。方法については」

肇「分からないとのことです」

あい「自殺とは考えにくいな。遺体を運ぶしかない」

肇「他の誰かを示す痕跡は見つかりませんでした」

あい「ないないづくしだな」

肇「その通りですが、不自然な残留物もありました」
82 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:06:05.99 ID:UcFFD9dl0
あい「不自然な残留物とは何かな」

肇「鱗です。爬虫類らしき」

あい「鱗か」

肇「体内からも見つかりました。理由は不明です」

あい「見つかりなさそうな場所からだな。肇君はどう思う?」

肇「遺体からの情報は少ないです」

あい「異常なことはわかるさ」

肇「被害者の身元は判明しましたが、こちらも犯人の手掛かりはありません」

あい「そうだな。身元は有効な情報ではなかった」

肇「はい」

あい「さて、それならどうする?」

肇「鱗を追います。爬虫類が近隣に多いと思えません」

あい「その提案に乗るとしよう。資料は」

肇「データは貰ってきました」

あい「よし、今日は撤収としよう。お疲れ様」

肇「お疲れ様でした、警部」

幕間 了
83 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:07:08.69 ID:UcFFD9dl0
44

深夜

夢見りあむの自室

りあむ「むにゃむにゃ……はっ、で、電話?こんな時間に?誰?」

りあむ「ちとせだ、出てあげないと。もしもし、ちとせ?」

ちとせ『出た。寝てた?』

りあむ「寝てた。珍しく。どうしたの?」

ちとせ『昨日の夜について、聞きたいことがあるの。いい?』

りあむ「うん。どうしたの?急用?」

ちとせ『長くはならないから。何も見つからなかったよね?』

りあむ「そうだよ。ちとせと折角調べたのに」

ちとせ『もっと深夜……いや、どこかに隠れてたのかも』

りあむ「ちとせ、何の話してる?」

ちとせ『こっちは任せて。気配はないの』

りあむ「そう?本当に?」

ちとせ『うん。大丈夫。おやすみ、りあむ』

りあむ「いや気にする。待って……ねむく……すぅ……」

ちとせ『眠らせるくらいなら電話越しでも出来るんだ。簡単な暗示の実験台にしてごめんね』
84 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:07:45.05 ID:UcFFD9dl0
45

翌日

9月初旬のとある土曜日

午前中

久川家・玄関

颯「なー、もう出かけるの?」

凪「はい。お昼はサークルのお姉様方にごちそうになります。ゆーこちゃんには言ってあります」

颯「そうなんだ。美味しいもの食べれるといいね」

凪「はーちゃんこそ、お散歩ですか」

颯「うん。教会に行ってくるね。植物のことわかるかも」

凪「りょ。行ってきます。お気をつけて」

颯「なーも気をつけてね!」
85 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:09:06.53 ID:UcFFD9dl0
46

S大学・部室棟・SDs部室

凪「おはようございます」

千夜「凪さん、おはようございます。時間通りですね」

凪「お揃いですか」

千夜「5人だけです」

凪「りあむは寝坊ですか。おや、いました」

りあむ「昨日は爆睡だったからね!こんな時間にも起きられる!ぼくは凄い!奇跡的!」

あかり「あきらちゃんは今起きたって連絡が来ました。後で合流します」

椿「若葉さんは、今日はお車です。先に行ってますよ」

りあむ「何があってもいいようにね!全色待機してもらえるよ!」

凪「これで始められる」

千夜「お前、どうするのですか」

りあむ「凪ちゃんが言ってた植物を調べよう!そして、見つける!」

あかり「何をですか?」

りあむ「昼間に植物を治してる人だよ!人じゃないかもしれないけど!」

千夜「最近の騒動を起こしている元凶」

椿「騒動、と言うほどじゃないかもしれないですけれど」

あきら「平常じゃない」

りあむ「そう言えば、公園で死体が見つかった話もあるよね。知ってる?」

あかり「昨日アンテナショップで聞きました!」

凪「既に片づけられていました。C公園には何もありません」

あかり「身元もわかったみたいです。でも」

千夜「でも?」

あかり「変死体だったみたいです。ミイラみたいだったとか」

りあむ「ミイラ?カラカラ?」

あかり「詳しい話はわからないです。警察の人がすぐに対応したみたいで」

りあむ「思い出した!ちとせが電話してきたのはこれか!」

千夜「お嬢さまが?」

りあむ「でも、何にもないって言ってた。夜はいないのかも」

椿「そちらも調べてみますか?」

りあむ「えー、警察に乗り込む?それは辞めようよ。怖いし」

千夜「同感です。おそらく、聞くべき人物もわかっていますが」

あかり「あー、あの刑事さん達」
86 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:09:55.28 ID:UcFFD9dl0
千夜「関わりたくはありません」

りあむ「やれることだけやろう!ぼくたちのやることは、あかりんごの疑問を解決すること!それと時子サマに褒められること!」

凪「凪の興味を満たしましょう」

千夜「ええ。それで良いかと」

凪「それでは出発しましょう。善は急げです」
87 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:10:54.00 ID:UcFFD9dl0
47

出渕教会・周辺

楓「……」

颯「あれ?楓さん、どこか出かけるの?」

楓「颯さん。こんにちは」

颯「もしかして『捕食者』さんのお腹空いてる?」

楓「いいえ。数週間は問題ないかと」

颯「それじゃ、ただのお散歩?」

楓「……」

颯「楓さん?」

楓「少し、お話しませんか」

颯「お話?いいよっ。教会に戻る?」

楓「いいえ。歩いて行きましょう」

颯「うん。どこに?」

楓「風の通る場所へ。あなたが暑くないように」
88 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:11:54.87 ID:UcFFD9dl0
48

T公園

若葉「これですか?」

椿「そうみたいですね。写真を撮っておきましょう」

千夜「手伝います。根本も見ましょうか……これは」

凪「凪は枯れたのと成長がどちらも見えます」

千夜「私には良い状態に見えません」

りあむ「明らかに地面の色がおかしいよ。何が撒かれたんだろ?農薬?除草剤?」

あかり「農薬は地面が焼けたりしないです」

若葉「……」

りあむ「白い若葉お姉さん、難しい顔してる。何かわかる?感じる?」

若葉「これだと、ダメです」

凪「やはり」

りあむ「ダメ?あかりんご、言ってる意味わかる?」

あかり「そのうち枯れちゃう……とか」

若葉「はい。無理矢理成長させたから、見た目は良く見えます」

あかり「凪ちゃん、これは何時頃なんですか?」

凪「お話を聞いたところだと、昨日か一昨日」

あかり「日光も夜も植物には大切です」

りあむ「人間にも大切。やっぱり人間は太陽と共に行動すべきだね!」

椿「たまに早起きできると言うことが変わるんですね」

若葉「土も変えないと。根も」

凪「つまり、変えないといけない」

あかり「可哀そうだけど、刈らないといけないです」

りあむ「むぅ……どっちも結果が悪いのか」

凪「善意と悪意」

若葉「そんなものですよ〜。世の中、思う通り上手くいかないんです」

あかり「……」

りあむ「凪ちゃん、確認!時間のこと!もう1回!」

凪「はい。先ほどと同じ回答を。昨日か一昨日です」

りあむ「夜じゃないなら、昼!聞き込み!」

千夜「お前の言うことは分かりにくい」

椿「昼にいる人に情報を集めましょう。見慣れない人物ではなく、最初からいた人物が緑の手を手に入れた可能性があります。これでいいですか?」

りあむ「そう!翻訳ありがとう!」

凪「りょ」

千夜「各自聞き込みを」

あかり「わかったんご!」

りあむ「周辺含めて調べよう!C公園集合でいいよね!あきらちゃんは近くの誰か合流して!」

凪「異議はありません」

千夜「はじめるとしましょう」
89 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:14:13.17 ID:UcFFD9dl0
49

丘の上にある公園

楓「飲み物を買ってきました。どうぞ」

颯「ありがと。楓さんは……お水?」

楓「はい。教会から持って来た水道水です」

颯「隣の家にいた時も水だったよね。甘い飲み物は飲まないようにしてるの?」

楓「……聞いて良いですか」

颯「なに?どうしたの?」

楓「ここは涼しいですか」

颯「うん。涼しいよ。風が気持ちいい。このベンチも木陰にあるし」

楓「そうですか」

颯「……」

楓「それなら良かったです」

颯「あのね、楓さん。聞いてもいいのかな」

楓「……どうぞ」

颯「もしかして、なんだけど……」

楓「考えている通りですよ」

颯「……もう、限界なの?」

楓「……」

颯「……ごめんなさい」

楓「いいえ、構いません。最初に結論を聞かれると思わなかっただけです」

颯「……」

楓「水なのは、ほとんど味覚がないからです。気づいていましたか」

颯「……そうだったら、イヤだなって」

楓「味覚だけではありません。色々な感覚が衰えています。暑さも今は感じていません。あれだけ好きだったお酒の味もわかりません。酔うことはとうの昔に出来なくなりました」

颯「……」

楓「颯さん、お時間はありますか」

颯「うん。時間は大丈夫」

楓「高垣楓の話を聞いてください」

颯「……いいの?裕美ちゃんじゃないの、あんなに心配してたのに」

楓「私が裕美ちゃんに話せるように、聞いてもらえませんか」

颯「……わかった」

楓「ありがとうございます。これは、ずっとずっと前の話です」
90 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:15:59.78 ID:UcFFD9dl0
50

丘の上にある公園

楓「和歌山で産まれた彼女はモデルを目指して、上京しました」

颯「なれたの、モデルさんに?」

楓「はい。華々しいランウェイを闊歩するスーパーモデルではありませんでしたが、細々と」

颯「そうなんだ」

楓「もっと華やかな舞台に立つ……そうなるには身長が足らない、と」

颯「えー、楓さんで足りないの?凄い世界だなぁ」

楓「彼女には不満は多くありませんでした。全てを手に入れたわけではないけれど、きっと幸福だったと思います。だけれど、それは奪われてしまいました」

颯「何があったの?」

楓「詳細には覚えていません。私は死の直前で『捕食者』と一体化し、生き延びました」

颯「覚えていないんだ」

楓「『捕食者』が記憶を消したのだと思っています。一体化した直後は覚えていたような気が、します」

颯「そんなことできるの?」

楓「ええ。『捕食者』は人のことを理解してはいませんから、不完全ですから」

颯「『捕食者』さんはそっちの方がいいと思ったんだよね、たぶん」

楓「きっと。人と同じではありませんが、何らかの知性と感情はあります」

颯「楓さんにはわかるよね。ずっと一緒にいたから」

楓「いいえ。わかりません」

颯「……」

楓「私は『捕食者』とほぼ同一化していますが、わかりません。颯さん、質問していいですか?」

颯「……うん。いいよ」

楓「感情を共有したとして……既にしている状態だと思いますが、双子のお姉さんと同じですか」

颯「ううん。はーとなーは違うよ。似てるところは多いよ、でもたくさん違うところもたくさん」

楓「日下部若葉のような存在でなければ、同じになることはできません。同じになる必要もありません」

颯「同じになる必要は、ない……」

楓「人ですら混じり合えません。人と『捕食者』は違います。生きる世界も目指すべき所も違う」

颯「……」

楓「同じになる必要はありません。だけれど……」

颯「……」

楓「私は、天に許されるよりも長くこの世に居過ぎました。人間としての時計は残り少ないと死神は言っています」

颯「……あの死神さん」

楓「私ではなく『捕食者』が解決方法を実行していました。私を生き延びさせるために」

颯「感覚がなくなってるのは、そのせい?」

楓「人間の部分を減らして、『捕食者』の力で肉体を保っています」

颯「……」

楓「今の私は……人として生きる必要もありません。おそらく、食事をしなくても死ぬこともありません」

颯「そうなんだ……」

楓「去年あたりから『捕食者』の状態に左右されることも多くなっていました。ここ半年で更に症状は進みました。解決しようとはしたのですが」

颯「出来なかったの……?」

楓「はい。私も『捕食者』も消えたいわけではありませんが、このままでは高垣楓がいなくなってしまう」

颯「……」
91 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:17:44.87 ID:UcFFD9dl0
楓「静かに消えようと思いました。理由も告げずに」

颯「だから、隠れてた」

楓「ええ。裕美ちゃん達は探していました。理由にも気づいているかもしれません」

颯「何も言わずにいなくなっちゃったら、悲しむと思う」

楓「……それなら」

颯「あっ……結論って……」

楓「私、人間の、理性と感情のある、高垣楓はもう限界です」

颯「……」

楓「『捕食者』から離れます。最後は人間として……」

颯「……」

楓「死のうと思います」
92 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:18:16.21 ID:UcFFD9dl0
51

お昼前

C公園

あかり「あっ、あきらちゃん!」

凪「おはよう、いや、こんにちは」

あきら「おはよ。遅くなったけど、ここは調べておいたから」

凪「おや、何かありましたか?」

あきら「なんにも。調べなくても同じ」

凪「凪も同じくです。昨日も見ましたが、やはり何もありません」

あかり「事件があったのに?」

あきら「そう」

凪「因果があるのかないのか」

あかり「事件があったから近寄ってない?」

凪「逆かもしれません。目的の人物がいないから、事件が起こった」

あきら「そういう考えもあるんデスね」

千夜「お待たせしました」

あきら「千夜サン達、おはよ」

椿「あきらさん、こんにちは。よく眠れましたか?」

あきら「たっぷり。りあむサンは?」

千夜「日下部さんと一緒にお昼のお店を確保してもらってます」

椿「ごちそうしますよ、行きましょうか」

あかり「はいっ」
93 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:19:10.22 ID:UcFFD9dl0
52

出渕教会前

楓「美由紀さん、ただいま帰りました」

美由紀「おかえりなさーい。あっ、颯ちゃんと一緒だったんだ」

楓「私は部屋に戻ります。颯さん、お付き合いいただきありがとうございました」

美由紀「うん」

颯「……」

美由紀「颯ちゃんも寄っていく?」

颯「……」

美由紀「颯ちゃん?」

颯「え、ううん、今日は帰るね!」

美由紀「えー、遠慮しなくていいのに」

颯「ばいばい!」

美由紀「ばいばーい、また来てねー」
94 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:20:36.47 ID:UcFFD9dl0
53

路地裏の中華料理店

路地裏の中華料理店
民家を改造した古き良き中華料理店。一行は回転テーブルが置かれた和室に案内された。

りあむ「……」

若葉「美味しい〜」

あきら「若葉お姉さん、お腹は共有してるんデスか?」

若葉「してないですよ。味覚とかは共有できるんですけど、後でお持ち帰りを貰います〜」

千夜「凪さん、チャーハンをどうぞ」

凪「チャーハンの小分け、かたじけない」

千夜「辻野さんもどうぞ」

あかり「ありがとうございますっ。でも、千夜さんも食べてください!」

千夜「お構いなく。ちゃんと食べています」

椿「本当ですよ。凪ちゃんの倍は既に食べてます」

凪「なんといつの間に」

りあむ「……」

あきら「りあむサン、考えごとデスか?」

りあむ「いや、そうじゃなくて」

あかり「何か食べたいものがありますか?」

りあむ「いや、そうでもない。すでにテーブルに盛りだくさんだし」

凪「それでは何でしょう」

りあむ「よく考えたらさ。おかしくない?」

千夜「おかしい、とは」

椿「何かわかりましたか?」

りあむ「ぼくがこんなに人に囲まれてご飯食べてるとかおかしくない?非常事態だよ!いつもぼっちめしなのに」

若葉「おかしくはないと思いますよ〜」

千夜「ええ。お前を代表とした集まりですから」

りあむ「だって、いつも独りだったし。家でも。ぼくの寂しさが生んだ幻想なんじゃないか?」

椿「違いますよ」

あきら「ちゃんと現実デス」

凪「別にいいんじゃないですかね。りあむの願望が叶っても」

あかり「そうですっ。だから、遠慮なく食べるんご!」

りあむ「そうだよね!食べよう!ぼくとお話しながら!」
95 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:21:20.60 ID:UcFFD9dl0
54

路地裏の中華料理店・店先

凪「凪は満足しました」

あかり「美味しかったですっ」

あきら「いっぱい頼んじゃったけど、大丈夫?」

椿「問題ないですよ」

若葉「とってもリーズナブルでした〜」

あきら「それなら遠慮なく、ごちそうさまデス」

りあむ「食べた!りあむちゃんは幸せになったよ!色々と!」

千夜「腹ごしらえも済みました」

凪「次はどうしましょうか」

あかり「やれそうなことはやった気がします」

りあむ「そうだよねー。でも、もう少し聞き込みしよう。何かもう少しな気がする!」

若葉「天気が良いから人も多そうですから〜」

あきら「決まりデス。自分もやります」

凪「やりましょう。分担は」

千夜「お前、決めてください」

りあむ「それじゃ、えっと」

あかり「あれ?誰か来ました」

あきら「刑事……」

千夜「ウワサをすれば」

凪「何とやら」

あかり「りあむさん、何かしでかしました?」

りあむ「しでかしてないよ!?あかりんごはぼくのことどう思ってるのさ!?」
96 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:22:24.54 ID:UcFFD9dl0
あい「食事終わりには、間に合ったみたいだな」

肇「はい、警部」

あかり「杏仁豆腐を頼んだから間に合ったんですね……」

あい「刑事の東郷だ」

肇「藤原です」

千夜「知っています。何か」

あい「夢見りあむ、に会いに来た」

りあむ「え?ぼく?本当に身に覚えないよ?」

あかり「やっぱり……」

りあむ「あかりんご、違うからね」

肇「一昨日の夜、出歩いていたと聞きました」

椿「それなら本当ですね」

あい「疑っているわけではない。捜査に手間取っていてな」

肇「ご同行をお願いしに来ました」

あきら「同行って……」

りあむ「警察に連れてかれるの?それはイヤだよぅ」

肇「警察に行くわけではありません」

あい「幾つかの場所に付き合ってもらうだけだ」

肇「徒歩圏内です」

りあむ「えー……でもでも」

あきら「りあむサン、ちょっと。近くに」

りあむ「何?秘密のお話?」

千夜「チャンスかもしれません」ヒソヒソ

あかり「向こうから来ました」ヒソヒソ

あきら「情報収集のチャンス」ヒソヒソ

千夜「おそらくはC公園の事件のことです」ヒソヒソ

りあむ「つまり、付いて行けってこと?ぼくに?」

あかり「その通りっ!刑事さん、りあむさんは協力するんご!」

りあむ「待って!心の準備ができてない!」

肇「ありがとうございます。行きましょうか」

あい「まずは公園からだ。行くぞ」

あかり「りあむさん、がんばってくださいっ!」

りあむ「あー、わかったよぅ!また明日部室集合だからな!来いよ!来ないと拗ねるぞ!」

あかり「わかりました!」
97 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:23:05.55 ID:UcFFD9dl0
凪「りあむ、がんばれ」

千夜「……」

あきら「別の情報ゲット……出来るはず」

凪「きっと。りあむはやらされればやる奴です」

若葉「私達はどうしましょうか?」

千夜「先ほど言っていました」

椿「もう少し聞き込みをするんですね」

千夜「はい。2組に分かれて、範囲も広げましょう」

あかり「わかりましたっ!」

千夜「江上さん、凪さん、それと私で東の方を」

凪「りょ」

千夜「辻野さん、砂塚さん、日下部さんで西を」

あきら「りょーかい」

千夜「日下部さん、お願いします」

若葉「任されました〜」

千夜「情報共有は明日にでも」

椿「部室でいいですね」

千夜「ええ。はじめましょう」
98 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:23:56.81 ID:UcFFD9dl0
55

夕方

C公園近傍・某アパート

時子「……」

りあむ「今度はどこ?連れまわされて疲れたよう。ぼくが知ってることなんてないよ?」

肇「こちらで最後です」

りあむ「あれ?時子サマ?」

時子「時間通りね」

りあむ「うぇーん、時子サマ!心細かったよぅ!」

肇「……」

あい「休日にご用立てしてすまないな」

時子「心からそう思ってるなら呼ばないでちょうだい」

あい「それなら時間を無駄にしないことにしよう」

時子「案内するわ。管理者に話は済んでる」

りあむ「時子サマ、このアパートに何かあるの?」

時子「ないでしょうね」

りあむ「どういうこと?っていうか誰が住んでるの?りあむちゃんがいる必要ある?なくない?」

時子「関係はあるわ。ドクター一ノ瀬のアパートだからよ」
99 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:25:04.25 ID:UcFFD9dl0
56

某アパート・一ノ瀬志希の部屋

りあむ「ねぇ、時子サマ?聞いていい?」

時子「どうぞ」

りあむ「この部屋、何もなくない?」

時子「ええ。無さすぎるわね」

りあむ「布団すらないし。生活してなさそう。帰ってないね」

時子「その通り」

りあむ「一ノ瀬博士が事件に関係してるの?うーん?」

時子「それを調べに来たのでしょう」

りあむ「わかった。不審者で心当たりのある人間を探してたら行きあたった!捜査も行き詰ったからダメ元で調べてる!」

時子「正解だけれど、大きな声で言う必要はないわ」

あい「その通りだな。良い後釜がいるじゃないか」

時子「別に後釜ではないわ。収穫は」

あい「残念ながら。藤原君、どうかな」

肇「いいえ。生活しているような形跡もほとんどありません」

りあむ「本当に帰ってないんだ。どこで寝てるんだろ?お部屋が嫌いなんてぼくには考えられないよ」

時子「どこにいるかはわからないわ。昼夜問わず大学の研究室にいることは多いようだけれど」

あい「1つ、質問をしていいか」

時子「どうぞ」

あい「彼女は、爬虫類を飼っているか?」

肇「あるいは、研究室などにいますか」

あい「しかも大型のものだ」

りあむ「爬虫類?博士は生物の博士じゃなかったような?なんかペット飼えなさそうな性格だったし。モルモットは世話できそう」

時子「どちらもノーよ」
100 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:25:37.46 ID:UcFFD9dl0
あい「そうか。夢見りあむ、ここからC公園は見えるか?」

りあむ「見えないよね。ぼくの背が低いだけかもしれないけど。時子サマはどう?」

時子「前の建物がある以上は背の高さは関係ないわ」

肇「付近の道路は辛うじて見えますが」

あい「一昨日の夜、C公園は調べたか?」

りあむ「うん。ちとせと一緒に散歩した」

あい「ここから見える道を通ったか?」

りあむ「うーん、よく覚えてないけど、たぶん違う。大きな通りから入って、出る時も一緒だった。ような気がする。たぶん」

あい「一昨日の晩、ここから遺体を運んだ予想はハズレか」

肇「見つからずに遺体を遺棄できるということは、見ている場所があったと思ったのですが」

りあむ「ねぇねぇ、その事件ってどんなだったの?ぼくにも知る権利がある!はず、きっと!」

あい「どうしてかな」

りあむ「情報収集するように送り出されたからだよ!ぼくから情報吸いだしてポイ捨てはダメだぞ!」

あい「正直なことは美徳ではあるが」

肇「どうしましょうか」

あい「情報提供するとしよう。心の準備はいいか?」

りあむ「え?心の準備がいるようなものなの?どうしよう?時子サマ、辞めた方がいいかな?」

時子「好きになさい」

りあむ「わかった。聞く」

あい「それはいい。ただし条件がある、新情報があれば知らせてくれ。良いかな?」

りあむ「それぐらい楽勝だよ。ぼくだって、こんな事件に関わりたくないもん」

肇「関わりたくないのに、聞くのですか」

りあむ「この事件は。ぼくはあかりんごの見たことを解明するのと皆が危険じゃないってわかればいいんだよ」

肇「なるほど、意図はわかりました。お話します」
101 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/12/05(土) 23:26:18.21 ID:UcFFD9dl0
57

某アパート・一ノ瀬志希の部屋

肇「私からは以上です」

時子「……」

あい「遺体が発見された、爬虫類らしき鱗が見つかった、遺体は干からびていた、それだけの事件さ」

りあむ「明らかにそれだけじゃないよね?わかってないこと多すぎない?」

あい「ああ。だから、犯人を捜しているのさ」

肇「全て推論するよりも手早いかと」

あい「君の意見はどうかな?」

時子「私に聞いてるのかしら」

あい「ああ。実績もあるからな」

時子「私は退いたわ。今は仕事で暇じゃないもの」

あい「そうか」

時子「りあむ、どうかしら」

りあむ「……」

時子「りあむ?」

りあむ「うーん?よくわかんないぞ?関係ないと思うけど、本当に関係ないのか?本当に?若葉お姉さんあたりに相談しないと」

あい「意外と冷静だな」

肇「同感です」

あい「悪くはない」

肇「そう思います、警部」

あい「私からお願いしたいことは終わりだ」

肇「お疲れ様でした」

時子「りあむは帰って良いわ。戸締りはしておくから」

りあむ「皆も解散したみたいだし、ぼくもお家に帰る!明日に備える!ばいばい!」

時子「……」

あい「逃げ足は速いな」

時子「むしろ遅い方だったけれど。よほど帰りたかったのでしょう」

あい「避けられるのは慣れてるさ。藤原君、私達も撤収するぞ」

肇「了解です、警部」
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