サイタマ「先公は引っ込んでろよ」ぬ〜べ〜「生憎、仲間を見捨てては置けなくてな」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:18:02.75 ID:IyzTPP2HO
この世には目には見えない闇の住人達が居る。
奴らは時として牙をむき、君達を襲ってくる。
彼はそんな奴らから君達を守る為、地獄の底からやって来た正義の使者……なのかも知れない。

ーー地獄先生 ぬ〜べ〜 ナレーションーー

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1609417082
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:23:11.03 ID:IyzTPP2HO
「今日は転校生を紹介するぞ! 入りなさい!」

D守小学校、5年3組。朝のSHRにて。
担任教師に促され、転校生が教室の扉を開く。
グルグルの髪の毛が特徴的な女の子である。

「さあ、みんなに自己紹介をしてごらん!」
「私はタツマキ。戦慄のタツマキよ」

少女の名はタツマキ。歳は28。
戦慄のタツマキと、人は呼ぶ。
ヒーローランキング2位のS級ヒーローである。
とはいえ、この地にその異名は轟いておらず。

「よし! みんな、仲良くしてあげるんだぞ!」
『はーい!』

教師の言葉に素直に返事をする生徒たち。
ここは小学校であり、当然皆、幼い顔つきだ。
そんな中にひとり28歳の成人女性が混ざっているにも関わらず、違和感はあまりない。
何故ならばタツマキは童顔だからである。
付け加えると、極めて幼児体形でもあった。

「ふん。若々しくて悪かったわね」
「ん? どうした、タツマキ。先生に何か質問があるのか? よーし、なんでも聞いてみろ!」

思わずセルフツッコミを入れてしまったタツマキに、お節介な担任教師が甲斐甲斐しく世話を焼いてきたので、仕方なく不明な点を尋ねた。

「私の席はどこ?」
「ああ、そうだ。恭子、案内してやってくれ」
「はーい! こっちよ、タツマキさん」

恭子というおさげ髪の女生徒に案内されて、タツマキは彼女の隣の席に腰を下ろした。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:25:46.60 ID:IyzTPP2HO
すみません!
恭子ではなく、郷子でした。
以下、続きです。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:28:31.26 ID:IyzTPP2HO
「おーい、みんな。転校生に聞きたいことは山ほどあるだろうが、ひとまず先生の話を聞いてくれ。大事な話だから、心して聞くように」

ざわめく教室内を鎮めた担任教師はおもむろにカーテンを閉めて、薄暗くなった教室内にぽつりと蝋燭を1本灯してから、語り始めた。

「さて、今日は君たちに『怪人』と呼ばれる闇の世界の住人達のことについて話そうと思う」
「せんせー、かいじんってなんですかー?」
「外国の人のことー?」

あまり聞き馴染みのない言葉に戸惑い、外人と勘違いしている生徒に苦笑しつつ、担任教師は優しげな口調でわかりやすく解説した。

「怪人とはつまり、怪しい人と書く」
「怪しい人って、ぬ〜べ〜先生みたいな?」
「そうそう何を隠そうこの俺こそが……って、誰が怪しい人だ! 歴とした公務員だぞ俺は!」

砕けた口調で生徒達の笑いを取る担任教師。
本名、鵺野鳴介。通称、ぬ〜べ〜。25歳。
自称、霊能力者。零能力者とも噂される。
教室内を暗くして怪談のように怪人について語る彼は如何にも胡散臭く怪しい人物であった。

「話を戻そう。そんな怪しい人が近頃この町に出没しているらしい。どうだ、怖いだろう?」
「こわーい!」
「怖い怪人に会いたくなかったら、学校が終わったら寄り道せずに真っ直ぐ家に帰って、夜遅くに外を出歩かないように。わかったかな?」
「はーい!」

怪談風の演出もあり、怪人を怖がる生徒は素直に返事したのだが、中には反発する者もいて。

「けっ。怪人なんか怖かねーや!」
「ほう? 金田は根性があるなぁ」

問題児である金田勝の強がりに、ぬ〜べ〜は不敵に笑い、コツコツと靴音を鳴らして近づく。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:32:46.30 ID:IyzTPP2HO
「な、なんだよ、びひらせようったってそうはいかねーぞ! 俺は怪人なんて怖くねえ!」
「なら、もう少しだけ詳しく話してやろう」

金田勝の目の前に佇み、ぬ〜べ〜は補足した。

「その怪人は『ハゲマント』と呼ばれている」
「ハ、ハゲマント……?」
「ああ、そうだ。その名の通り、ハゲ頭の怪しい男が真っ白いマントを羽織っているらしい」
「はは! こりゃ傑作だ! そんな奴のどこが怖いんだよ! 大袈裟にも程があるだろうが!」

金田勝の嘲笑につられて、教室内が弛緩する。
思いがけず同業者の名前が飛び出して、タツマキも動揺を禁じ得ない。何をやっているのか。
よもや怪人呼ばわりとは思いもよらなかった。

「しかし、ハゲマントは驚くほどに強い」
「そんな奴がつえーわけねえだろ!」
「全ての被害者がワンパンで倒されていてもか? それでもお前は強くないとそう思うか?」
「は?」

ワンパン。つまり、パンチ1発である。
例外なく、ワンパンで被害者は倒された。
全員が不意に急所を突かれたわけではない。
身構えていても抗うことの敵わない、暴力。

「たとえば先生がデコピンしたとする」
「お、おい、やめろよ」

ピンッ!と、ぬ〜べ〜が金田の額を弾く。

「これでお前はお陀仏だ」
「そ、そんな、馬鹿な……」
「実際に被害者が出ている。だから用心しろ」
「わ、わかったよ」
「よし、良い子だ」

いつの間にか、弛緩した空気は霧散して。
ぬ〜べ〜の忠告に金田はコクコクと頷き。
改めて、鵺野鳴介は全員に周知徹底した。

「みんなもわかったか? ハゲマントには近づくな! わかったならよし。授業を始める!」

SHRに引き続き授業が始まり、小学生を対象とした授業など聞く必要のないタツマキは窓の外へと視線を向け、無用な警戒を生み出した元凶である同業者を向かいの校舎の屋上に発見して、恨みがましい眼光を放ち、睨みつけた。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:36:38.57 ID:IyzTPP2HO
「ね、ねえ、なんかお姉ちゃん睨んでない?」
「手でも振ってやれよ」
「い、嫌よ……怖いし」

場面は変わって、向かいの校舎の屋上にて。
件の怪人、『ハゲマント』ことサイタマ並びに、タツマキの妹でありB級ヒーローの『地獄のフブキ』は共に教室の監視をしていた。

「授業の監視なんてめんどくせえな」
「監視対象はあくまであの教師ひとりよ」
「今のところ、怪人には見えねえけどなぁ」

D守町に存在する小学校で災害レベル『鬼』の怪人が教師を装っているとの情報があり、真偽を確かめるべくヒーロー達は現場へと急行した。
彼らを待ち受けていたのは怪人の群れだった。

「しっかし、あんなに怪人が湧いてるとはな」
「ええ、まるで怪人共の巣みたいな町ね」
「倒しても倒しても夜になると湧きやがって、あいつらもしかしたら死なないのかもな」

D守町は怪人で溢れていた。
何度倒しても、夜になると現れる。
中には手当てをされた痕跡もあった。

「何者かに手当てされているのは確かね」
「怪人相手の医者なんて本当に居るのか?」
「居るとすれば、それはおそらく……」
「ん? ッ……伏せろっ!」
「ふぇっ!?」

ブォンッ!

まさしく間一髪。サイタマに髪はないけれど。
顎に手をやって怪人相手の医者の正体に当たりをつけたフブキの頭上を刺又が通過した。
黒髪の毛先が鋭利な刃によって切断されたのを見て、危険を察知したサイタマに強引に頭を下げられなければフブキの頭部を身体から切り離されていただろうと、遅まきながら自覚した。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:38:45.67 ID:IyzTPP2HO
「おや? 残念。外しましたか」
「不意打ちを外すなんて狐さんは無様ですね」

いつの間にか、屋上には2人の他にもう2名が存在していて、ひとりは刺又を手に持った長髪の優男で、もうひとりは純白の着物姿の美女。

「何もんだ、てめーら」
「私は医者ですよ。専門は妖怪ですが」
「私は鵺野先生の奥さんです」

腰を抜かしたフブキを庇い、サイタマが誰何すると2人は要領の得ない返答を返してきた。

「要するにあの鬼の先公の仲間ってことか?」
「いいえ。ライバルです」
「奥さんですってば」

またも要領の得ない返答であるが、もともとサイタマは深く考えることをしない性格なので。

「攻撃してきたってことは、敵なんだな?」

ならばもはや問答は無用。正義、執行。
悪・即・打などという過激な思想はない。
しかし、彼の一撃はそれを実現する鉄槌だ。

「出番ですよ、雪女!」
「偉そうに命令しないで! 凍れぇっ!!」

パキパキパキパキッ!

「はっ?」

雪女であるゆきめが放った冷気により踏み込もうとしたサイタマの利き足が凍らされ、その場に釘付けとなる。その隙に妖狐である玉藻が。

「貰った!」
「させない!」

刺又でサイタマの首を掻っ斬ろうとするも、体勢を立て直したフブキが超能力を発動。
不可視の力により玉藻の身体の自由を奪った。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:40:50.17 ID:IyzTPP2HO
「ぬっ……人間風情が、小癪な……!」
「くっ! こっちも保たない!」

バキバキバキバキッ!

凍らせたサイタマの足が、屋上の床面ごと持ち上がる。足裏に瓦礫を付着させたまま彼は。

「おらぁっ!」
「大氷山!!」

振り抜かれた右ストレートと、慌てて壁代わりにゆきめが放った氷山が正面からぶつかる。

ズガァンッ!! ガシャッアアアンッ!!

轟音が響き渡り氷山が爆砕し破片が飛び散る。

「ちょっとサイタマ! 私を忘れないでよ!」
「あ、すまん」

鋭利な氷の破片が降り注ぎ、堪らずフブキは超能力でバリアを張って凌いだ。その代わりに。

「よかろう。妖狐の本気を見せてやろう」

優男がみるみる変貌して本性を現した。妖狐。
直立二足歩行の狐の姿となった玉藻はその脚力を発揮して距離を詰め、フブキの頭部を今度こそ首刺又で刈り取ろうとして、またしても。

「こいつばっか狙ってんじゃねーよ」

サイタマが、刺又の柄を握り、斬撃を止めた。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:43:33.63 ID:IyzTPP2HO
「貴様、その薄汚い手を離せッ!!」
「へへっ……捕まえた」

フブキへの攻撃を防いだと同時に玉藻の動きを封じたサイタマが腰溜めに拳を構えた、刹那。

「ッ……!?」
「マジ、殴りっ!」

ボッ!!

刺又を手放した玉藻が狐の脚力で後方に飛び退くのと同時にマジ殴りが炸裂。大気が震えた。
咄嗟の判断で致命傷は避けたものの、圧縮された空気の塊が掠めた玉藻の腹は焼け焦げており、せっかくの艶の良い毛並みが台無しだ。

「ふふっ。良いザマね、狐さん」
「黙れ。あの人間、只者ではないぞ」
「ええ、人間だと思わないほうが身のためね」

妖狐と雪女。それぞれ冷や汗を流す。
2人の妖怪が思わず怖気づく拳の威力。
それはもはや、人外の域に達していた。

「サイタマ! まずは狐からやるわよ!」
「いや、そうはいかねえみたいだ」

フブキは堅実に各個撃破を提案したが、サイタマは強者の直感でその介入を察知していた。

「俺の職場でこれ以上暴れることは許さん」

騒ぎを聞きつけた鵺野鳴介がその姿を現した。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:46:45.75 ID:IyzTPP2HO
「先公は引っ込んでろよ」
「生憎、仲間を見捨てては置けなくてな」

やはり、この2人の怪人は鵺野鳴介の仲間。
とはいえ、サイタマとの戦闘で疲弊している。
そして鵺野鳴介はさほど脅威には見えない。

「出しゃばるってんなら、さっきあんたがやったようにデコピンで寝かせてやろうか?」
「ふっ……実は俺も、デコピンは得意でな」

不敵な笑みを浮かべて、何やら呪文を唱える。

「宇宙天地 與我力量 降伏群魔 迎来曙光……」

すると左手に嵌めた黒手袋から異様な気配が。

「フブキ! 下がってろ!」
「な、何があの下に秘められているの!?」
「わかんねーけど、確実にヤバい何かだ!」

直感で危険を悟ったサイタマはフブキを後方に下がらせて、鵺野鳴介と一対一で対峙した。

「左手に封じられし鬼よ……その力を示せっ!」

今、顕となった、黒手袋の中身。瞠目する。
本来ならば見える筈のない欠損した手首の先。
しかし、人間を超えて怪人の域に達しているサイタマの目にはハッキリと見える。鬼の手が。

「この鬼の手のデコピンを受けてみるか?」
「いや、やっぱ痛そうだからやめとくわ」

鉤爪を見せつけられて、サイタマは遠慮した。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:49:48.85 ID:IyzTPP2HO
「代わりと言っちゃなんだけどよ」
「むっ!?」
「拳で、相手してやるよ」

ズガンッ!!

サイタマの拳とぬ〜べ〜の鬼の手がぶつかる。
マジ殴りではないとはいえ、互角の威力。
鉤爪があるぶん、鬼の手のほうが厄介だろう。

ズバッ!!

「うわっと!?」
「なんだ、随分と安っぽい生地だな」
「野郎……!」

無残にも鬼の爪で引き裂かれたマントにサイタマは憤りを募らせ、ぶちキレた。マジで殴る。

「マジ殴りっ!」
「白衣霊縛呪!!」

マジ殴りが炸裂する寸前、ぬ〜べ〜愛用の経文がサイタマの身体に巻きついて束縛した。

「玉藻! ゆきめ! 畳み掛けるぞ!」
「言われなくとも!」
「はい! 先生!」

身動きが取れないサイタマを鬼の手でサンドバックにして、ゆきめが校舎ごと身体を凍結。
そしてフルパワーの玉藻が最大奥義を放つ。

「滅 ・ 気 ・ 怒 ッッ !!!!」

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………ッ!!!!

灼熱の結界に囚われ、溶けた氷柱の水蒸気がもうもうと立ち込める。堪らずフブキが叫ぶ。

「サイタマッ!?」

流石の彼も只では済まないと思われたのだが。

「ふぅ〜……これが、沐浴ってやつか」

そんな呑気な台詞に、玉藻は己の耳を疑った。

「何だと!? そんな、馬鹿な……!」

信じがたいことに、灼熱地獄から彼は生還し。

「さっぱりしたぜ」

つるりと頭部を光らせ、沐浴を満喫していた。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:53:29.41 ID:IyzTPP2HO
「ちょっと、何やってんのよアンタたち」

立ち込める蒸気が晴れると陽炎に揺れるひとりの少女が浮かんでいた。怒髪天を衝いている。

「君は……新入生のタツマキくん……?」
「やべ。逃げるぞ、フブキ」
「そ、そうね……今のうちに」

潜入任務で仕方なく小学生を演じていたタツマキの苦労を、サイタマとフブキは台無しにしてしまった。即座に逃亡を図るも、戦慄する。

「どこに行こうっての? 仲良く、あの世?」

一瞬で目の前に出現したタツマキが説教する。

「この私が小学生の中に混じって調査してるって言うのに、アンタたちときたらひとの目と鼻の先どんぱちを始めて……馬鹿にしてるわけ?」
「悪い悪い。でも、似合ってたぜ、小学生姿」
「そ、そう? 別に嬉しくないけど……まあ、今回の失態には目を瞑ってやってもいいわ。おかげで、あの先生の正体も掴めた。あれは鬼ね」

タツマキの鋭い眼光が鬼の手を射抜き、問う。

「ねえ、あなた……鵺野先生とか言ったかしら? あなたはその手でいったい何をしているの?」
「俺はただ守りたいものを守っているだけだ」
「その力は人間には過ぎた力よ」
「無論、承知の上だ。この左手の鬼は中と外から厳重に封印してある。一般人に害はない」
「本当にそう言い切れるかしら? もし暴走したら? あなたはその鋭い鉤爪で自分の生徒を傷つけることになるかも知れないのよ?」
「俺は、自分の生徒を絶対に傷つけない!!」

話にならないとばかりにタツマキは嘆息する。
その仕草はやはり、到底子供のものとは思えず、ぬ〜べ〜はかねてよりの疑問を尋ねた。

「タツマキくん……君は、いったい……?」
「私は戦慄のタツマキ。ヒーロー協会に所属するヒーローで、序列は2位。そしてこの世からありとあらゆる怪人を駆逐する存在よ!!」

タツマキのクルクルの髪の毛がふわりと持ち上がった次の瞬間、不可視の呪縛によってぬ〜べ〜は身動きが取れなくなった。超能力だ。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 21:56:39.94 ID:IyzTPP2HO
「ぐっ!」
「鵺野先生!」
「アンタたちも大人しくしてなさい」

いとも簡単に雪女と妖狐の動きを封じる。
ただの金縛りならばともかく、全身を押し潰されそうな重圧の中で、ぬ〜べ〜は足掻いた。

「ゆ、ゆきめ! 玉藻! ぬおおおおおっ!」
「へえ、まだやる気? ま、逃がさないケド」

ビキビキと、校舎の屋上がひび割れる。
力は拮抗せず、鵺野鳴介は逃れられない。
その間にも、仲間たちの危機が迫っている。

「んじゃ、あばよ。怪人共」
「ま、待て!」

ハゲマントの拳が振り上がる。
ぬ〜べ〜の悲鳴が屋上に響き渡る。
拳を振り下ろす直前、サイタマは察知した。

「てめえ、自分から枷を外しやがったな?」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

ぬ〜べ〜の姿がみるみる変貌していく。
左手から侵食が広がり、鬼の角が額に生える。
もはや人間とは呼べない姿となって荒れ狂う。

「ちょっ!? こんなの聞いてないわよ!?」
「タツマキ!」
「お姉ちゃん!?」

ついに超能力の呪縛から解き放たれた正真正銘の"鬼"がタツマキに迫る。フブキが庇う。
サイタマは1歩、間に合わない。やられる。

「がぁああああああああああああっ!?!!」
「へ?」

しかし、結局、鬼はその爪を振るわなかった。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage sega]:2020/12/31(木) 22:04:15.91 ID:IyzTPP2HO
「フブキ、下がってなさい」
「でも、お姉ちゃん……」
「さっきはちょっと驚いただけよ。この鬼は私がやるわ。だからフブキは隠れてなさい」

態勢を立て直したタツマキはフブキを下がらせ、そしてその隣にサイタマが立ち並ぶ。

「誰もアンタなんか呼んでないんだけど?」
「お呼びじゃなくても俺は俺の好きにする」
「……あっそ」

短いやり取りを交わしながら鬼の様子を伺う。

「なんか苦しんでるみたいだな」
「頭でも痛いのかしら?」
「あのツノ、引っこ抜いてみるか?」

鬼と化したぬ〜べ〜は、まるで頭痛を堪えるかのように頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
隙だらけだ。今2人で畳み掛ければ、勝てる。

「待って!」

しかし、寸でのところで邪魔が入った。

「やめて! 先生に酷いことしないで!!」

おさげ髪の少女。たしか稲葉郷子という名だ。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 22:08:26.17 ID:IyzTPP2HO
「知り合いか?」
「教室で、ちょっとね」

サイタマの問いかけに面倒臭そうに答えたタツマキは、鬼を庇う少女に警告を告げる。

「よく聞きなさい。あなたがいま庇っているのはもう人間じゃないの。災害指定レベル"鬼"の怪人よ。だから速やかにそこを退きなさい」
「怪人はあなた達のほうじゃないの!」
「わ、私たちが、怪人……?」

タツマキは困惑する。自分たちはヒーローだ。
しかし、目の前の少女の目には怪人に見えた。
稲葉郷子は何故、ぬ〜べ〜がタツマキに対して攻撃しなかったのかを正確に理解していた。

「ぬ〜べ〜はこんな姿になってもタツマキちゃんを攻撃しなかった! だってタツマキちゃんはぬ〜べ〜の生徒だから! だから攻撃しなかったのよ!? どうしてわからないの!!」
「わ、私が、生徒……?」

思いもよらぬ展開に困惑する。郷子は泣いた。

「先生は怪人なんかじゃない! こんな姿になっても生徒を傷つけなかった! それなのにどうして先生を痛めつけるの!? そんなのヒーローがすることじゃない!!」

ただの子供の駄々。癇癪であり戯言だ。
そう切り捨てるのは容易い。けれど。
それをしてしまったらもう戻れない気がした。

「なるほどな」
「なによ、随分と冷静じゃないの」
「なんとなくわかった」

まるでわかってないような顔をしつつも状況を理解したらしきサイタマは、鬼に近づき。

「おい、先公」
「ぐぐぐるぅう」
「俺をぶん殴れ。そしたら全部解決だ」

サイタマは鬼にぶん殴られた。
それに乗じて、タツマキとフブキも飛び立つ。
悪は去ったと言わんばかりに。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 22:11:30.03 ID:IyzTPP2HO
「まったく! やってらんないわよ!!」
「どうやら協会の情報に齟齬があったみたいね。あの先生は鬼であっても悪ではなかった」

ぷんすか怒る姉と冷静にまとめる妹。
彼女たちはサイタマがぶっ飛ばされた場所へと急行し、人気のない空き地に横たわる彼を発見。

「サイタマ! 大丈夫? 怪我はない?」
「ふん。心配するだけ無駄よ。どーせコイツのことだからピンピンしてる……」

サイタマは倒れ伏したまま、ぽつりと呟いた。

「効いたぜ……あの先公のパンチ」

それは言葉通りの意味ではないのだろう。
どうみてもサイタマは無傷だ。軽傷すらない。
それでも痛むのだとすれば、それはきっと。

「ふん。協会上層部の奴ら、今に見てなさい。サイタマ、アンタもさっさと起きて手伝いなさい! ヒーロー協会を根絶やしにするわよ!」
「お前、ほんと懲りてねえな」

先程の一幕ですら、この戦慄のタツマキには効果が薄かったようでサイタマは呆れ、またしても暴力に訴えようとする懲りない姉を妹のフブキが必死に話題を逸らそうと試みる。

「それよりお姉ちゃん! 早くランドセルを下ろしたら? もう任務も終わったことだし……」
「嫌」
「へ? な、なんで……?」
「似合ってるって言われたから」

赤い顔をしてそんな駄々を捏ねるタツマキにポカンとするフブキ。サイタマはヘラヘラ笑う。

「へへっ。ガキにはお似合いだな」
「何よ。私、アンタが起き上がらない理由わかってるんだから。あの鬼の手の威力が強すぎて思わず漏らしたってことくらいお見通しよ」
「え?」
「フハッ!」

耳を疑うフブキと、愉悦で肯定するサイタマ。
これまでどんな怪人にも負けなかったサイタマに、あの鬼の手を持つ教師は土ならぬ糞をつけたのだ。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 22:15:20.99 ID:IyzTPP2HO
「ほんと、どっちが怪人なのよ。バカ」
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

明らかに正義の味方とは思えない哄笑を響かせるハゲマント。彼は今回あえて悪となった。
子供達の正義の味方を守るために糞を漏らす。
それはたとえS級ヒーローであっても容易に為せるものではなく、タツマキとフブキは悪臭に顔を顰めつつもこの怪人を放置せざるを得ない。

「フブキ」
「なに? お姉ちゃん」
「もしも私が怪人になったら……」

姉がその不安を口にする前に妹は遮った。

「お姉ちゃんはサイタマと同じ」
「私は漏らしてないわよ」

たとえ漏らしたとしてもきっと平気だろう。
姉は何が正義なのかわかっている。
たとえそれが誰の目から見ても悪であろうと。

「なあ、なんか拭くもの持ってない?」
「良いところで邪魔すんじゃないわよ!?」

少なくともサイタマの脱糞に大悦びしているうちは、姉と価値観を共有出来るとフブキは信じている。


【ウンパンマン 7撃目】


FIN
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/31(木) 22:17:08.96 ID:IyzTPP2HO
今年も1年ありがとうございました。
また来年もよろしくお願いします。
最後までお読みくださりありがとうございました!
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