【咲-Saki-】京太郎「たのしい宮永一家」【微安価】

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191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/25(木) 14:30:18.97 ID:keTR0CZT0
192 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 07:28:58.59 ID:ruMXd7oE0
高校時代、麻雀のためにわざわざ上京してきた同級生は言っていた。

「東京ってどこもビルばっかりだと思ってたけど、案外そうでもないんだね」

当たり前だ。山手線の内側ならまだしも、こんな郊外まで超高層建築で埋め尽くされては息が詰まって堪らないだろう。
緑は程々に多いし空は広い。学校の近くを少し歩けば畑だって幾らでも見つかる。
三年間を麻雀に費やした私がプロ入りを蹴って進学した大学も、そんな閑静な街並みに溶け込んでいた。
193 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 07:29:37.82 ID:ruMXd7oE0
麻雀が嫌いになったとか将来の目標が別にできたとか、断じてそういう理由ではない。
ただ、もう少しだけ時間が欲しかっただけなのだ。
このまま社会に出て一人前になるには不満足だった。
私の人生―――私の青春には何かが欠けていて、せめてそれを探し出さなくてはならないような気がしていた。
194 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 07:31:03.32 ID:ruMXd7oE0
敷地の一番北端に建つ、部外者が通れば半ば打ち捨てられているのだと勘違いしてしまうような講義棟。
あまり人通りのない廊下を右往左往し、やっとの思いで辿り着いた扉を数回ノックする。中から男の声が聞こえてきた。


「どうぞー」


扉が自身を支える蝶番を軋ませながらゆっくりと開く。
声の主は夕日が差し込む部屋の窓際に立っていたが、にこやかに私の方へ振り向き、

???「いらっしゃい」

淡「あのー......ここって麻雀部室だよね?私、入部したくて来たんだけど」

???「悪い、俺も最近入部したばかりでさ。勝手が分からないんだ」

???「そのうち先輩が来ると思うから適当に座っててくれ」

男はどうやらお茶を入れてくれるつもりらしく、電気ケトルに水を入れて沸騰するのを呑気に待っている。
一方で雀卓の椅子に座るや否や早速暇を持て余してしまった私は、そんな彼の観察をすることにした。
195 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 07:32:44.85 ID:ruMXd7oE0
身長はかなり高い。普段から周囲に比較対象がいないからよくわからないけど180cmくらいはありそうだ。
言葉には訛りが少し混じっていた。さっきの会話からして新入生だろうから、地方出身で最近上京してきたのかもしれない。
服装はいかにも普通に見える。新宿あたりを歩いていれば数分に一度くらいのペースで見かけそうな量産型の衣類を身にまとっており、奇抜な要素は全く見当たらない。

東京に腐るほど闊歩する、特に面白みのない至って平凡な田舎者の大学生。
そんな彼の持ち物のうちたった一つ―――私と同じ綺麗な金髪だけが、一際目を引いていた。


???「はいよ」コトッ

淡「ありがと」

???「なあ、君って白糸台高校の大星選手だろ?」

淡「......そうだけど」


またか。
三年間インターハイに出場し続け、常に注目を集めてきた。数え切れないくらい取材も受けたし、自分がこの業界で有名になったという自覚はある。
こうして初対面の相手に顔が知られていることも、話しかけられることだって全く珍しいことじゃない。
だからこのチャラそうな男が話をそう切り出した時、こいつも所詮は有象無象の一人なんだろうかと思った。つまんない。
196 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 07:34:11.51 ID:ruMXd7oE0
淡「だから何?」

???「いや、どうってわけじゃないんだ」

淡「なら聞かないでよ」

???「なんだよ。冷たいやつだな」

淡「初対面の女の子から個人情報聞き出そうとする男なんて不審者じゃん」

???「なんつー言い草だ!そもそもお前の方が勝手に来たんだろうが」

淡「だからって、誰かも知らない相手に優しくする必要なんてないでしょ」

???「へーへーそうですかい......ま、そういうことなら自己紹介くらいしとくか」

京太郎「俺は清澄高校出身の須賀京太郎だ。よろしく」

淡「うそっ、清澄!?」
197 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 07:35:27.86 ID:ruMXd7oE0
清澄高校―――東場の片岡優希にデジタル打ちの原村和、そして嶺上使いの宮永咲。私たちにとっては少なからぬ因縁を持つ相手だ。
そんな彼女達と同門であるこの人物、須賀京太郎.........


淡「って誰?」

京太郎「おい」


これが、私とキョータローの出会いだった。
198 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 07:36:42.26 ID:ruMXd7oE0


<大星淡の回想>

199 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 07:38:24.27 ID:ruMXd7oE0
今回はここまで

色々あって幸運にも最短で戻ってこれました
こんな感じでしばらくは過去編になります
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/10(水) 10:19:20.50 ID:ziDSbvnu0
更新きたああああああああ
乙です
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/10(水) 10:35:29.16 ID:y0dtlDjso
待ってた
あわあわかわいい
202 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 13:50:49.89 ID:ruMXd7oE0
【19歳 4月】


――― 麻雀部室


不快な金属音が再び部屋に響き渡る。誰かが部屋へ入ってきたらしい。
椅子を回して背後に向き直ると、凛とした女性が丁度ドアノブから手を離したところだった。

ゆみ「須賀か。今日は早かったんだな」

洋榎「おーっす!」

京太郎「加治木部長、こんちわっす」

洋榎「なんや須賀、ゆみだけに挨拶しよってからにうちには何もナシか?」ゲシッ

京太郎「こ、言葉の綾ですって!愛宕先輩!」

ゆみ「ところでそこに白糸台の大星淡が座ってるように見えるんだが、私の気のせいかな」

京太郎「別に人違いじゃないですよ。入部希望だとか」

洋榎「なるほどなぁ......プロ入りの話も全然聞かへん思うとったら、まさかこんな所におるなんてな」

淡「私がここにいるのってそんなに変?」

ゆみ「ははっ、まさか」

洋榎「うちらのダチでもっと変な奴なんて山ほどおるで」ケラケラ

京太郎「そういえばモモは来てないんですか?」

ゆみ「ああ、モモなら―――」

モモ「私はここっすよ」スッ

淡「うわぁっ!?」
203 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 13:51:30.00 ID:ruMXd7oE0
驚きの声を一瞬上げた後、私はしばらく何も発することができなかった。
この部長らしき人物の隣―――確実に何もない空間からヒトが突如として立ち現れたのだ。
手品とかオカルトとかそういう話ではない。そもそも生きた人類とは思えないし、たぶん幽霊だろう。
口があんぐりとしたまま塞がらないの見た彷徨える魂(暫定)は実に心外そうな顔をして、

モモ「失礼っすね!人をオバケみたいに」

京太郎「モモが面白がってそういうことばっかりするからだろ」

モモ「だからって普通ここまで驚くっすか?」

淡「――――――!」

京太郎「誰だって最初はこうなるに決まってる」

モモ「まあ確かに、初めて会った時のキンパツさんなんて......」

洋榎「なんや楽しそうな話しとるやん。須賀がどんなアホ面晒したって?」

京太郎「あー分かった分かった、俺が悪かったからこの話はもう終わり!」

京太郎「それ以上言わなくていいからな!?」

淡「.........」ポカーン

ゆみ「二人とも静かにしてくれ。洋榎も一々乗るな」

洋榎「ゆみはマジメちゃんやなぁ」
204 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 13:52:02.42 ID:ruMXd7oE0
ゆみ「せっかくの新入部員だっていうのに......まったく、来てくれて早々騒がしくて済まなかった」

ゆみ「私の名前は加治木ゆみ、三年生だ。一応ここの部長をしている」

モモ「私は東横桃子、一年生っす」

京太郎「須賀京太郎だ。改めてよろしく」

洋榎「うちは三年の愛宕洋榎や!よろしゅーなー」

淡「よ、よろしく.........」


あまりにも賑やかな面々に一抹の不安を覚えはしたものの、こうして私は麻雀部へと迎え入れられた。
もっとも、数日後の私が馴染むどころか部内を更に騒がしくしていたのは言うまでもない。
205 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/10(水) 13:52:38.47 ID:ruMXd7oE0
先走って尻切れトンボだったので少し追加
暇すぎて書くくらいしかやることないんじゃ
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/10(水) 16:42:33.25 ID:ziDSbvnu0
あわあわかわいい
乙です
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/11(木) 00:08:35.09 ID:EuQrluB8o
乙!
208 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:45:21.44 ID:xzi4dPFd0
投下に候
209 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:45:55.97 ID:xzi4dPFd0
【19歳 6月】


大学生活にも慣れ、花粉症の時期が終わり、梅雨もおおよそ半ばまで過ぎ去った初夏の季節。
新たな麻雀部は高校時代のそれと比べれば遥かに温いものだったが、そもそもこれは団体戦よりも圧倒的に個人戦へ傾倒しているインターカレッジの特徴に起因するものだ。
部活動は普段の対局練習や大会出場の調整が主な仕事で、普通は同じ大学に所属する雀士の持つ寄り合い程度の存在でしかない。
不真面目というわけではなくそういう風土、そういう風潮なのである。
あの頃の規律ある雰囲気や目的意識とかけ離れた環境にいくらかの戸惑いや不満を抱えつつも、私は講義が終わる度に足繁く部室へ通っていた。

そんな数ヶ月間のお陰だろうか、私はこの環境を取り巻くいくつかの事柄を知ることが出来た。
この建物に出入りする人物の顔ぶれは大方決まりきっていて、居を構える研究室の住人や映研の部員たちが主たる面子であるということ。
隙間風や雨漏りが酷いのは建物が古いせいで、何とか応急処置しながら当局に訴え続けるしかないということ。
それから、この部活には全然人が集まらないということだ。
210 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:46:38.22 ID:xzi4dPFd0
――― 麻雀部室


タンッ!

京太郎「ロンッ!」パタッ

淡「げっ」

京太郎「裏は......乗らずか」

京太郎「1500の一本場は1800」

淡「やっす!」

ゆみ「大星、和了りは和了りだ」

淡「はーい......」チャラッ


<終局>


東横 :24300
大星 :20900
加治木:26200
須賀 :28600


麻雀部は書面上十数名の部員を抱えていることになっている。しかし四年生は就活で忙しい上、私の後に入部した数人の新入生はすっかり顔を見せなくなっていた。
そうして卓を囲む面子が固定化されるにつれて次第に明瞭になってくるのが実力差だ―――端的に言えば、私が一番上でキョータローが一番下。
しかしこの日に限ってはお約束通りに事は進まず、私は珍しく彼の後塵を拝していた。
211 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:47:55.78 ID:xzi4dPFd0
淡「その手ならもうちょっと育てればよかったじゃん」

京太郎「俺は堅実に生きる方が性に合ってるんだよ」ガラガラ

モモ「トップだし間違いじゃないと思うっすよ」ポチッ ウィーン

ゆみ「さて、どうしようか?このままもう半荘やってもいいが......」

淡「疲れたから一回休もうよ。洋榎先輩が居ないから抜け番作れないし」

京太郎「あの人、こんな時間までどこで油売ってんだか」

ゆみ「洋榎か.........はぁ」チラッ

モモ「携帯?」


Date:20XX/7/9 12:48
From:愛宕洋榎
Sub: Re:

今起きた
ゆみから借りたDVDのせいやわ
経史の代返頼んだで


京太郎「また自主休講か。あの人、こんなんで卒業単位足りるのかよ」

淡「教授がちゃんと出席取る講義は休まないんだってさ」

モモ「へぇ......なるほど」

ゆみ「......モモ、絶対にそこは真似するなよ」

モモ「そ、そういうつもりじゃないっすよ!」

ゆみ「言っておくけどフリじゃないからな。冗談抜きに」
212 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:49:11.85 ID:xzi4dPFd0
その時、どこか遠くの防災無線から『七つの子』が聞こえてきた。
アルミサッシが切り取る雨降りの風景は朝起きた時と同じような灰色のままで、時間の移り変わりを読み取ることは到底出来そうにない。こんな空が何週間も続いている。
私は背後の壁に掛けられた時計を見ることでようやく、現在の時刻が既に夕方の六時を回っていることに気がついた。

京太郎「もうこんな時間か。そろそろお暇しようかな」ガタッ

モモ「何か予定でもあるっすか?」

京太郎「ああ、ちょっと野暮用で」

モモ「結局今日はキンパツさんの独壇場だったっすねー」

淡「ま、待ってよ!私一回も勝ててないんだけど!?」

京太郎「そりゃ俺が全部勝ってるしな」

淡「あと一半荘だけ!」

京太郎「えー.........半荘は無理だけど、東風くらいなら」

淡「ゆみ先輩!いつもの使っちゃダメ?」

ゆみ「ダメだ。全局ダブリーじゃあ練習にならないから今日は禁止にしてるんだろう」
213 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:49:40.26 ID:xzi4dPFd0
淡「ケチ」

ゆみ「ケチじゃない」

淡「ケチー」

ゆみ「ケチじゃない!」

淡「ケチー!」

ゆみ「.........はぁ、この一回だけだぞ」

淡「やったー!」ピョーン

京太郎「おいおい、勘弁してくれよ」

淡「まさかキョータロー、逃げるわけなんてないよね?」

京太郎「......クソッ」

京太郎「上等だこの野郎!俺が負けたら明日の昼飯奢ってやるぜ!」

淡「へぇ、言うじゃん」

思わず口角が上がる。
たまたま今日だけツキが回ってるからって、調子に乗ったことを後悔させてあげるんだから。


<対局開始>


起家:東横
南家:大星
西家:須賀
北家:加治木
214 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:50:49.01 ID:xzi4dPFd0
【東一局】


モモ(うぅ、東風じゃ消えるに消えられないっすよ)

モモ(しかも起家なんて......あれ?)


東家:東横 一巡目
ドラ:9p

23467m(5)67p(5)568s東北


モモ(配牌からタンピンドラドラの一向聴!?でも、大星さんの支配は......)

淡「どうしたの?早く切ってよ」

モモ「わ、分かってるっす」

→打東


淡「どれどれ〜?」チャッ

淡「......リーチッ!」タンッ

→打1s
215 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:51:24.84 ID:xzi4dPFd0
モモ(ダブリー!やっぱりオカルトは効いてるってことっすか)

モモ(それならどうして......)

京太郎「全然分からん。こんなの当たったら事故だろ」タンッ

ゆみ「だが、そんな姿勢のままではいつまで経っても大星に勝てんよ」タンッ

モモ「先輩の言う通りっすよ」

モモ(チャンスをモノにしないと同じことの繰り返し。幸運の女神様には前髪しか生えてないっす)

モモ(しかしそうは言っても―――)


東家:東横 二巡目
ドラ:9p

23467m(5)67p(5)568s北 ツモ:7s


モモ(嵌七索が埋まったけど、あまりにも出来過ぎだ)

モモ(でもゴロチの三色が付けば跳満まで見えるし...)

モモ(あくまでステルス。ダマで出和了りを狙うっす)タンッ
216 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:51:54.40 ID:xzi4dPFd0


淡「ロン」パタッ

モモ「......えっ?」

217 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:52:24.42 ID:xzi4dPFd0
南家:大星 二巡目
ドラ:9p
裏 :8s

789m999p234666s北 ロン:北


淡「ダブリー一発ドラ3。12000」ニヤッ

モモ「......はい」チャラッ

モモ(わ、罠だった......!)
218 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:53:47.00 ID:xzi4dPFd0
【東四局】


加治木:20000
東横 :8000
大星 :49800
須賀 :22200


ゆみ(三着目のラス親、何時ぞやを思い出すな.........あの時対面に座っていたのは天江だったか)

ゆみ(ここまで須賀が一回3900を刈り取った以外は全て大星の和了り、私とモモは焼き鳥だ)

ゆみ(点差は29200―――倍満ツモか跳満直撃で逆転か。あるいは連荘できればいいんだが)

ゆみ(とにかく、先輩として少しくらいは意地を見せなければ)カチッ

コロコロコロ...

ゆみ(対3。大星がカンをしてから二巡が勝負だ)


ゆみ「......さて」


東家:加治木 一巡目
ドラ:白

246m159p(5)56s白白發中西
219 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:57:12.21 ID:xzi4dPFd0
ゆみ(やはり配牌五向聴。この局も支配は盤石らしい)

淡「連荘できそう?」

ゆみ「ははっ、中々手厳しいな」

ゆみ(......普通ならオリるところだが、もう後が無い以上攻めるしかない)

ゆみ(しかも白と赤の対子に両嵌が一つだ。彼女と持ち持ちでさえなければ勝機はある!)タンッ

→打西



南家:東横 一巡目
ドラ:白

369m158p188s東南北發 ツモ:5s


モモ(ち、七向聴.........いや、七対子があるから五向聴か)

モモ(どっちにしてもこの局は先輩のサポートに回るしかないっすね)

→打5p


淡(へぇ、先輩ったらやる気なんだ)

淡(そうこなくっちゃね......でも)チャッ


西家:大星 一巡目
ドラ:白

34(5)888m3335p3s西西 ツモ:3s


淡「リーチ」
220 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:58:20.76 ID:xzi4dPFd0
五筒を切って西と三索のシャンポン待ち聴牌......初巡のゆみ先輩から出た西がいい塩梅である。
一枚切れの字牌であれば、また誰かから一発で出てもおかしくはない。
どちらにせよ他の三家がこの状況で逆転できるような手を作れるはずもなく、既に私の勝利は半分決まったようなものだった。


京太郎「.........なるほど」タンッ

→打(5)p


淡(赤五筒?ずいぶん弱気じゃん)

あれだけの大口を叩いていた割にはキョータローの捨て牌からは闘志が全く見えないが、それも仕方のない話かもしれない。
そもそも、男子の分際で私の支配に太刀打ち出来るはずもないのだ。

男子麻雀の特徴は技術だと言われている。徹底的な牌効率であったり、洗練された手牌読みは確かに見事なものである。
だが致命的なことに彼らはオカルトを持ち合わせていないか、あったとしても非常に非力なのだ。
どれだけ小手先の技を極めたところで、圧倒的な力の前には平伏するほか出来ることはない。
トッププロと呼ばれている選手でさえ女子インハイの上位層には敵わないのがその証拠であった。

そんな彼は―――キョータローは眉の一つも上げることなく、ただ現物を切り続けることに徹していた。
ゆみ先輩とモモも表立った動きは見せないままに巡目だけが過ぎていく。なんだ、やっぱりこんなものか。
221 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:58:57.56 ID:xzi4dPFd0
【数巡後】


既に壁牌の四分の三ほどが消え去ったころ、平穏は突然崩れ去った。

ゆみ(ついに角を通り過ぎた......鳴かせてくれるといいんだが)チラッ

モモ(この辺っすかね)タン

ゆみ「ポン」カッ


【發發發→】


ゆみ(ナイスだ、モモ)

淡(ずらされた!)

私がツモるはずだった八萬はモモの手牌へと吸い込まれていき、そのまま二度と出てくることはなかった。
だが、このくらい何の問題にもならない。


淡「カン」パラッ


西家:大星 十五巡目
ドラ:白 5s

34(5)888m33s西西【3333p】 嶺上牌:2p


淡「ざーんねん、嶺上開花ならず」タンッ

淡(ここでサキみたいに和了れたらカッコイイんだけどね)
222 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 08:59:59.88 ID:xzi4dPFd0
ゆみ(くっ......結局暗槓を阻止することは出来なかったか)

ゆみ(だがお陰でドラが乗った。發ドラ5聴牌!)チャッ


東家:加治木 十六巡目
ドラ:白 5s

234m999p(5)5s白白 【發發發→】 ツモ:9p


ゆみ(大星の待ちは索子の3-6-9スジのどれかだ。西もまだ通ってないが、どちらにしてもこの順目なら多くて二枚残りくらいだろう)

ゆみ(この九筒を暗槓することは容易い。嶺上が付けば五索でも倍満―――いや、そう上手くは行かないか?)

ゆみ(どちらにしてもツモを一回でも増やしたいところではあるが......)チラッ


淡「〜♪」カチャカチャ

京太郎「......」


ゆみ(まぁ、大星にはいい薬になるだろう)

→打9p

京太郎「えっ!?」

ゆみ「どうした?探し物はこれじゃないのか」

京太郎「そ、そうですけど.........ロン」パタッ
223 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:00:40.07 ID:xzi4dPFd0
北家:須賀 十六巡目
ドラ:白 5s

19m1p19s東南西北白發中中


京太郎「32000です」

ゆみ「はい」チャラッ

淡「.........はっ?」


<終局>

加治木:-12000
東横 :8000
大星 :49800
須賀 :54200


〜〜〜〜〜
224 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:02:32.07 ID:xzi4dPFd0
淡「ゆみ先輩!これどーゆーこと!?」

ゆみ「どういうことって、見れば分かるだろう?私が須賀の国士に差し込んだ」

淡「なんでそんなことしたのかって話だよ!カンすればよかったじゃん!」

ゆみ「私が暗槓したところで嶺上でツモれるとは限らないからな。それに大星、君なら恐らく次のツモで和了っただろう」

ゆみ「だから確実に君を一位から引きずり下ろせる方を選んだんだ」

淡「そんな......なんでわざわざ」

ゆみ「インハイやインカレではそういう場面は少ないが、リーグ戦では着順操作が必要になることもある」

ゆみ「特にウマやオカがあるルールでは自分の点数が減ったとしてもライバルを蹴落とす方が有利になることも珍しくない」

ゆみ「将来はプロを目指しているんだろう?ならそういった点数計算は出来て当然だ」

京太郎「さすがに役満は極端な話ですけどね」ハハッ

ゆみ「さっきのオーラスだって、一巡目に私の西を鳴いて三索を切っておけば四筒五筒の二種七枚だった」

ゆみ「あの場面ならポンして1000点の和了りを取ったほうが良いことくらい、少し打てる者なら小学生でも分かるさ」

ゆみ「そんなことも考えずに打っているようではインハイチャンプの名が聞いて呆れるな」

ゆみ「ああ、もっともそれはオーラスで君がトップだったからだぞ。もし一位との点差が―――」トントン

モモ「先輩」ボソボソ

ゆみ「ん?」

淡「............」
225 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:03:18.58 ID:xzi4dPFd0
ゆみ「えー.........まぁ、その」

ゆみ「要は点棒とか他家の聴牌気配とか、場況をもっと読んだほうが良い。必ずしもダブリーが最善手とは限らないんだ」

ゆみ「だから私はオカルトに頼りすぎないように訓練したほうがいいと思って......」

淡「.........だって......そんなのわかんないもん.........」

淡「今までみんな褒めてくれてたのに......菫先輩だってこれでいいって......」グスッ

ゆみ「ちょ、ちょっと待ってくれ!えーっと、一体どうすれば.........」

ゆみ「......大星、強く言ってしまって済まなかった。少し熱が入っていたんだ」

ゆみ「私が悪かったよ」

淡「......もういじめない?」

ゆみ「別にいじめたわけじゃ―――やっぱり何でもない。もういじめないよ」

ゆみ「だから泣かないでくれ、大星」

淡「淡って呼んで。大星じゃなくて」

ゆみ「え?......あ、あぁ」
226 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:03:51.17 ID:xzi4dPFd0
ゆみ「いいか淡、今まで頼ってきたものに縋るなと言われて混乱する気持ちは分かる」

ゆみ「しかし君が思っている以上にインカレは険しい。寧ろ君のようなタイプの雀士だからこそ厳しいかもしれない」

ゆみ「だから少しずつずつでいいから一緒に頑張っていこう、な?」

淡「............うん。頑張る」コク

ゆみ「よしよし、いい子だ。誰か淡にティッシュを渡してやってくれ」

京太郎「はいはい」ガサガサ

京太郎「ほら淡、ちーんしろ」

淡「ちーん」ズズズー

京太郎「ひっでえ顔だな。洗ってこいよ」

淡「うっさい!」

京太郎「元気があって結構なことだ」

ゆみ「一緒にトイレまで行こうか?」

淡「ううん、大学100年生だから一人で大丈夫」

ゆみ「そうか。いってらっしゃい」

淡「いってきます」トコトコ


バタン
227 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:04:44.42 ID:xzi4dPFd0
ゆみ「.........」

京太郎「.........」

モモ「.........」

京太郎「緑茶でも淹れようかな」ガタッ

ゆみ「......少し言い過ぎてしまったか、私は」

京太郎「大丈夫でしょう。あいつバカだし」

ゆみ「そうかな」

京太郎「帰ってくる頃にはケロッとしてますって」

ゆみ「だと良いんだが.........」

ゆみ「それにしても、なんだか彼女の意外な一面を見てしまったような気がするよ」

京太郎「そうですか?イメージ通りな気もしますよ」パカッ ジャー

京太郎「良くも悪くも歳不相応に純粋というか、子供っぽいというか......これでよし」カチッ

モモ「小学生がそのまま大学生になったような人っすよね」

ゆみ「素直に捉えるならな。でも、本当にそうなんだろうかと私は斜に構えていた」

モモ「?」
228 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:06:42.07 ID:xzi4dPFd0
ゆみ「三年間も清澄と鎬を削り続け、一時代を築き上げた高校麻雀界のツートップ......あの白糸台高校のエースだった人物だ」

ゆみ「彼女ほど麻雀の世界に揉まれていれば、否応なしに酸いも甘いも少なからず噛んできただろうさ」

ゆみ「だからこそ淡の本来の性格はもっと達観したところにあって、それを誤魔化すためにわざとおちゃらけてるんじゃないかと思えてしまう」

京太郎「自信屋で不遜な態度もふわふわした雰囲気も、全部猫かぶりだってことですか」

ゆみ「身も蓋もない言い方をすればそういうことだ」

ゆみ「......しかし須賀、さっきの泣き顔まで作り物に見えたか?」

京太郎「いや。俺には全く」

ゆみ「私だってあれこそが淡の本性だと思う」

ゆみ「それに私が彼女に説教じみたことを言った時の態度もそうだった」

ゆみ「実際問題として淡はうちで一番強い雀士だ―――それこそ洋榎以上の。今回は偶然勝てたが、普段ならこの三人が束になってもトップを阻止するのは難しいだろう」

ゆみ「負けん気も強いし、格下からの助言なんて聞く耳を持たないだろうと思っていたよ。寧ろ嫌味混じりに言い返されるだろうと」

ゆみ「でも今日の淡はそうしなかった。素直に私の言うことを聞いてくれたんだ」

ゆみ「負けたという事実がそうさせたのか......私たちに対する気遣いなのか」

ゆみ「これこそ淡の持つ純粋さや優しさの証拠なんじゃないかな」
229 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:07:26.80 ID:xzi4dPFd0
京太郎「加治木先輩、淡のこと気に入ってるんですね」

ゆみ「......確かにそうかもしれない。ああいうのって私たちみたいな年齢になると貴重じゃないか」

ゆみ「辛いことがあっても真っ直ぐ生きてきた人間だよ、淡は」

京太郎「そういう人がタイプなんですか?」

ゆみ「タイプというわけじゃないが、見守ってあげたいとは思うさ」

ゆみ「どう言えばいいんだろうか.........庇護欲を掻き立てられるというか」

モモ「............」ムスー

京太郎「なんだよモモ、不貞腐れるようなことでもあったのか?」

モモ「別に不貞腐れてなんかないっすよ」

京太郎「は?......あぁ、そういうことか」

ゆみ「須賀、これもひょっとして私が悪かったりするのかな」

京太郎「そりゃ当然でしょう」

ゆみ「うぐっ.........決してそういうつもりじゃなかったんだ」

ゆみ「私と君の間柄を壊すようなやましい気持ちは一切ない」

モモ「でも私は嫌だったっす」ツーン

ゆみ「頼むから許してくれ、モモ......」

モモ「......ふふっ、ちょっとからかっただけっすよ?」

ゆみ「モモ!」パァ

京太郎「モテる女も大変ですね」ケラケラ

ゆみ「何故だか分からないが凄くむず痒い気分だ......何だろうな、これ」

モモ「たぶんそれは普通に恥ずかしいだけっす」
230 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:08:34.02 ID:xzi4dPFd0
ガチャッ


淡「ただいま!自販機でジュース買ってきたよ!」

アルミ缶をいくつか両腕に抱えた私が再び部室の扉を開けた瞬間、三人は目を点にしてお互いの顔を見合わせた。
それからいかにも面白おかしそうな口ぶりで、

モモ「キンパツさんの言う通りだったっすね」

淡「えっ、なになに?」

京太郎「大した話じゃねえよ。それより元気出たか?」

淡「もう大丈夫!100年生だからこのくらいじゃへこたれないもん」

ゆみ「良い心がけじゃないか」

カチッ

京太郎「おっと、沸いたみたいだな」

部屋の一番端に立っていたキョータローは部屋の片隅で湯気をあげていた電気ケトルを持ち上げると、その中身を急須へと注ぎ始めた。
ケトルを戻した彼の腕が今度は急須へ伸び、机の上に置かれた湯呑みの上を何度も忙しなく行き来させる。
231 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:09:12.37 ID:xzi4dPFd0
京太郎「どうぞ」コトッ

ゆみ「ありがとう」

淡「えー、ジュースは?」

京太郎「後で飲むから置いとけ」

ゆみ「ん?......茶葉を変えたのか。いつもより美味しい気がする」

京太郎「ならよかったです。結構高いヤツなんで味わって飲んでくださいね」

淡「相変わらずキョータローは物好きだねー」ズズズッ

淡「あちっ」

モモ「言ってくれれば私たちもお茶汲みくらいやるっすよ?」

京太郎「そうなんだけどなぁ......なんつーか、身に染みちまってさ」

モモ「さすが清澄高校の雑用担当」

京太郎「うっせえ」

淡「じゃあキョータローったら、高校で雑用ばっかりやってたんだ」

京太郎「んなことねえよ!俺だってちゃんと練習もしてたし大会だって出てたっつーの」

京太郎「―――まあ、鳴かず飛ばずだったのは認めるけど」

そう自嘲気味にキョータローは声を低く潜めると、決まりの悪そうな渋い顔で湯呑みをグイッと煽った。
232 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:09:57.42 ID:xzi4dPFd0
ゆみ「だが、去年は個人で県予選通過まで行ったんだろう?」

モモ「全国では予選負けっすけど」

淡「よっわーい」

京太郎「そりゃインハイチャンプ様から見れば雑魚も良い所に決まってんだろ」

ゆみ「まあまあ、そこまで言う必要はないだろう。そもそも淡と比べれば須賀の麻雀歴はまだ短い」

ゆみ「私だって始めたのは高校に入学してからだったから、三年でこれほど成長するのがどれだけ大変かはよく知ってるよ」

ゆみ「君はもう少し自分の実力に自信を持ってもいいんじゃないか?」

京太郎「そう......なんですかね。あんまり実感が湧かないですけど」

ゆみ「確かに部内成績はあまり奮わないかもしれないが、男子というハンデを考えれば悪くないはずだ」

ゆみ「そもそもこの環境が異常だと思わないか?こんな麻雀で有名というわけでもない私大の部活に女子インハイの最上位選手が二人も居るんだぞ」

ゆみ「大丈夫、本番ではちゃんと結果が出るさ」
233 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:13:09.93 ID:xzi4dPFd0
ゆみ先輩は不思議な人だ。
インカレが個人主義的な風土を持つ以上、大学の麻雀部で先輩が後輩に指導をするというのはあまりない話である。
強くなりたければ自分で何とかしろ―――実際この三ヶ月でも、洋榎先輩からはちょっとしたアドバイスを受けたことすら指折り数えるくらいのことだった。
だがこの人はそうじゃない。後輩に真正面から向き合って、『先輩らしいこと』をしようとしているのだ。
彼女の右手が数度、慰めるようにキョータローの肩を叩いた。

モモ「本番......来週っすね、東京予選」

淡「ゆみ先輩と洋榎先輩は今年が最後なんだっけ」

ゆみ「そうなるな。来年は卒研と就活でそれどころではないだろうし、これが私の競技麻雀人生最後の大会だよ」

ゆみ「洋榎はきっと平気な顔で本戦準決勝くらいまで上り詰めるんだろうが、私はそうもいかない」

モモ「.........」

京太郎「加治木先輩はプロにはならないんですか?」

ゆみ「『なりたいか』と聞かれれば首を縦に振れるんだがな......多分ならないだろう」

ゆみ「私は所詮凡人だ。洋榎のように天性の才能があるわけでも、ましてや淡のように牌に愛されているわけでもない」

ゆみ「例えそうであっても私なりに戦えるところを見せてやろうと思い、今まで続けてきたが......」

ゆみ「凡人が戦える世界じゃないよ、プロは。それくらい分かってるつもりだ」
234 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:13:36.44 ID:xzi4dPFd0
何も言えなかった。彼女に対して言葉を持ち合わせていなかった私は、すごすごと肩を縮めて湯呑みを手の中で廻した。
淹れたてのお茶の温もり以外の全てが私を冷たく突き放すのだ。
いつの間にか窓の外は暗くなっていて、地面を打ち付ける雨降りの音だけが外の天気を知らせていた。

ゆみ「......ところで須賀、君は用事があるんじゃなかったのか?」

京太郎「あぁーっ!!!」ガバッ

モモ「もう七時前っすよ......」

京太郎「クソッ、あいつに大目玉くらっちまう!」

京太郎「わりぃ淡!ジュースの金は今度払うから冷蔵庫にでも入れといてくれ!」

淡「う、うん」

京太郎「じゃあお先に失礼します!」ダッ


バタン
235 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:14:17.69 ID:xzi4dPFd0
ゆみ「行ってしまったな」

淡「野暮用って何だろ」

モモ「さぁ......『あいつ』って言ってたし、友達と遊びにでも行くんじゃないっすかね」

ゆみ「しかし須賀が抜けると卓が割れるな。三麻でもしようか?」

モモ「今日はもう良いんじゃないっすか?結構打ったし疲れたっす」

ゆみ「なら、私たちもそろそろ帰るか」

淡「うん......そうだね」

荷物をまとめ、他愛もない話をしながら三人で肩を並べて正門まで歩く。
そこにキョータローの声はなかった。なんとなく、ちょっと寂しい気がした。
236 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/11(木) 09:15:43.53 ID:xzi4dPFd0
今回はここまで
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/11(木) 12:14:45.62 ID:9zK3cZC+0
乙です
面白かった
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/12(金) 01:57:27.79 ID:YwRkta+Lo
乙ー
素直なあわあわかわいい
239 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:27:40.29 ID:0NrVtQsE0
とーか
240 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:28:07.04 ID:0NrVtQsE0
「はーい......」

インターフォンを鳴らすと、弱々しい返事はスピーカーからではなく壁越しに直接聞こえてきた。
ビニール袋にはスポーツドリンクとジェルシートと果物、それから数食分の食材が一杯に詰まっている。
とても両手が使える状態ではないが、だからといってこの部屋の主も身動きが取れるような体調ではないらしい。
仕方ないか。一旦荷物を地面に置いてからドアノブをひねろうとして―――

ガチャッ

ゆみ「いらっしゃい、モモ......うおっ」ガタッ

モモ「先輩!ヨロヨロじゃないっすか」

モモ「私が全部やるから先輩は寝てないとダメっすよ!」

ゆみ「しかし......」

何かしないと気が済まないらしい先輩を無理やり布団に押し込み、その間に煮物を作る。鍋に残しておけば後は温めるだけで食べられるはずだ。
先輩は眠りに落ちたわけではないようだが、一言も喋ることなく窓の外を眺めていた。

モモ「ご飯出来たっすよ。食欲が出てきたらいつでも」

モモ「ポカリも何本か冷蔵庫に入れておいたっす」

ゆみ「何から何まで申し訳ないな」

モモ「ゆみ先輩のためっすから」

ゆみ「......ありがとう」
241 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:28:44.85 ID:0NrVtQsE0
ゆみ「......」

モモ「......」

ゆみ「.........インカレの結果はどうなった?」

モモ「愛宕先輩が五位、大星さんは三位に入賞っす」

ゆみ「そうか。今度ちゃんと祝ってやらなきゃな」

ゆみ「それに比べて私は二回戦敗退か......ははっ、部長の面子も何もない」

モモ「十分凄いっすよ。私とキンパツさんは都大会突破も無理だったし」

モモ「全国数万人の大学生雀士の中でベスト64......絶対誇れないことなんかじゃないっす」

ゆみ「それでも私は......やっぱり、悔しいよ」
242 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:30:01.42 ID:0NrVtQsE0
【19歳 8月】


――― 都下 某所


京太郎「............」

淡「どうしたの?」

京太郎「いや、お前が急に『みんなで遊びに行こう』だなんて言うから来てみたら」

京太郎「全然『みんな』じゃねーじゃねえか」

淡「仕方ないじゃん。誘ってもダメだったんだから」

大学から電車で三十分弱―――だだっ広い郊外の再開発地に建つ巨大ショッピングモール。
インカレも無事終わったことだし、久々に羽を伸ばそうかと思っていたのだが......

京太郎「加治木先輩が夏風邪でモモはその看病」

京太郎「おまけに愛宕先輩は帰省で大阪ときたもんだ。はぁ」

京太郎「......淡と俺の二人だけか」

淡「不満?」ジトー

京太郎「別に」

淡「ふーん」
243 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:30:47.42 ID:0NrVtQsE0
京太郎「とりあえずどこか入ろうぜ。この調子じゃ焼け死んじまう」

淡「焼け死にはしないでしょ?暑いのは確かだけど」

京太郎「冗談に決まってるだろ。それにほら、こうやって寝そべったら本当に......」

京太郎「熱っ!!」バッ

淡「ちょっと!こんな街中で変なことしないでよ恥ずかしい!」

京太郎「淡が『恥ずかしい』だなんてな。今日は雪でも降るのか?」ケラケラ

淡「」イラッ
244 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:31:15.14 ID:0NrVtQsE0
――― 喫茶店


京太郎「.........」ズズッ

京太郎「......旨いな」

淡「顔にモミジの痕付けてるくせにそんなこと言っちゃって」

京太郎「誰のせいだと思ってやがる」

弱々しいクーラーの冷気を天井のファンがゆっくり掻き混ぜているだけだが、茹だるようなアスファルトの上と比べればここは天国だ。
アイスカフェラテを吸い上げながらそんなことを思う。800円のケーキセットは既に半分以上が胃袋の中に収まっていた。

京太郎「それで、これからどうする?」

淡「せっかくだし遊んでいこうよー」

淡「ほら、ボウリング場もカラオケも雀荘もあるし」

京太郎「お前がフリー雀荘なんて行ったら地獄絵図だぞ......」

京太郎「他だって盛り上がりに欠けるんじゃないか。五人ならまだしも」

淡「そーやって文句ばっかり!」

淡「美少女とのデートってもっとテンション上がるものなんじゃないの?」

京太郎「普通『美少女』とか自分で言うか?」

京太郎「......それに、別にデートなんかじゃないだろ」プイッ

淡「つれないなー」

実を言えば、にわかに降って湧いたこの状況に私は緊張していた。
私とモモは文系でキョータローは理系。教養科目では同席することも多々あるが、そういう場合はもれなくモモも一緒である。
部室に行けばゆみ先輩がいるし、三日に一回は休みだけど洋榎先輩もいる。
キョータローと二人きりになる機会なんて春先の一件以来かもしれないのだ。

淡(あれ?......私、なんで緊張してるんだろ)

京太郎「ごちそうさまでした」
245 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:34:44.18 ID:0NrVtQsE0
――― ボウリング場


京太郎「確認するぞ」

京太郎「このゲームで負けたほうが昼飯代を持つ......」

淡「......」コクリ

京太郎「本当にいいんだな?」

淡「もちろん。淡ちゃんに二言はないよ」

京太郎「.........ッ!」

カコーン


――― ファミレス


淡「じゃあこれとこれと、あとこれも」

店員「かしこまりました」

京太郎「ちょっと待てよ!俺の奢りだからって調子乗るんじゃねえぞ」

京太郎「クソッ、麻雀ならまだしもスポーツで淡に負けるなんて......」

淡「終わったことなんだから文句言わない。女の子は服とかお化粧とかお金かかるんだよ?」

淡「キョータローはバイトしてるし大丈夫でしょ」

京太郎「そういう問題じゃないっての!」

京太郎「第一お前は実家暮らしなんだから―――」

淡「そうだ、セットでドリンクバーもお願いしまーす」

店員「は、はい」

京太郎「聞いちゃいねぇ......」
246 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:35:25.65 ID:0NrVtQsE0
――― カラオケ


淡『かーませ犬とは呼ばせない』

淡『ギーロロごちょー完成だぁぁ!!』

京太郎「がはは!なんだよその歌」


京太郎『ジャンジャンランラングットグットジョブ』

京太郎『モリモリマッスルスルもういっちょぉぉォ!!!』

淡「ぎゃはははは!変なの〜」

京太郎「お互い様だろーが!」


――― ゲームセンター


淡「見て見て!UFOキャッチャー!」

京太郎「あーダメダメ。あんなの取れるわけないだろ」

淡「でもほら、マリオカートだよ?」

京太郎「そもそもWii持ってんのかよ」
247 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:36:46.54 ID:0NrVtQsE0
――― プリクラ


『3! 2! 1!』

淡「いぇーい!」

京太郎「いぇ、いぇーい......」


――― 公園

――― 雑貨店

――― CDショップ
―――
――



京太郎「バイト代入ったばかりなのに......これから一ヶ月どうしろってんだ」グスッ

淡「仕送り貰ってるんじゃなかったっけ」

京太郎「家賃と光熱費で全部消える」

夕方、相変わらず人通りの絶えないショッピングモールのメインストリートを私たちは歩いていた。
一日中歩き回った脚はクタクタになってしまったが、どうも足先は駅へ向かない。
248 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:37:26.41 ID:0NrVtQsE0
京太郎「なぁ、そろそろ帰らなくていいのか?」

淡「晩ご飯食べてかないの?」

京太郎「夕飯にしてはまだ早すぎるだろ」

淡「ならそれまでお店でも見てみようよ」

京太郎「ここの店は粗方周りきっちまったしなぁ」

京太郎「......あっ、本屋がある。漫画でも立ち読みするか」

淡「そういうのじゃなくてさ」

京太郎「?」
249 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:37:57.72 ID:0NrVtQsE0
――― 服屋


京太郎「.........」

淡「なんで固まってるの?」

京太郎「いや、ちょっと入りにくくて」

淡「なんでよ。普通の服屋じゃん」

京太郎「女物のだろ!?俺なんて明らかに場違いだろ!」

淡「別に誰も気にしないよ。ほら、早くいこ」グイッ

京太郎「ちょっと待っ―――」


淡「ね、追い出されたりなんてしないでしょ?」

京太郎「しかし周囲から冷たい視線を向けられているような気がするんだが」

淡「そう?たぶんキョータローの自意識過剰だよ」

京太郎「.........そうですかい」

京太郎「それで、何か目当てのものでもあるのか?」

淡「ううん。なーんにも」

京太郎「じゃあなんで来たんだよ」

淡「こーやって見て回るのが楽しいんじゃん」

淡「ほら!これとかよくない?」

京太郎「うーん......」チラッ

京太郎「いや、淡にはちょっと過激すぎるだろ」

淡「そうかなー」
250 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:46:22.99 ID:0NrVtQsE0
【十数分後】


淡「!!」

京太郎「ワンピースか?」

淡「なにこれ、すっごいかわいい!」

それを手に取った瞬間、私の脳裏を一気に駆け巡る何かを感じた。
『ビビッときた』ってやつかもしれない。

淡「すいませーん、試着室借りてもいいですか?」

「どうぞー」

淡「すぐ着替えてくる!」ダッ

京太郎「はいはい、テキトーに待ってるから好きにしてくれ」

小さな個室に入るや否や、右手のワンピースを着て姿見に向き直る。
大丈夫、変なところは無いはずだ......それでも私は浮足立って、何度も服をずらしたり髪を直したりしてからカーテンを開けた。

淡「お待たせ」

京太郎「へぇ」

淡「ねーねーキョータロー、これ似合ってるかな?」クルリ

京太郎「ああ。似合ってるよ」

淡「.........今、なんて?」

京太郎「だから似合ってるって」

淡「ホント?!」

京太郎「さっきからそう言ってるだろ」

正直、キョータローの返事にはあまり期待してなかった。
彼のことだからどれだけマシでも「馬子にも衣装だな」とか、そういう感想が飛び出してくるものだとばかり予想していたのだ。
悪くない感触なら御の字......そのくらいに思っていた。
251 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:46:50.14 ID:0NrVtQsE0
買おう。きっとこの服は私が着るためにあるに違いない。
キョータローに褒められてちょっと舞い上がり、そんな私は腰にぶら下がったタグへ視線を伸ばして―――

淡「い、いちまんごせんえん......」

京太郎「買えるのか?」

淡「......」フルフル

京太郎「おいおい、今いくら持ってるんだよ」

淡「ええと......」ガサガサ

淡「.........7305円」

京太郎「細かっ」

京太郎「......しょうがない奴だな、淡は」

淡「ごめんなさい......」

京太郎「全く......ちょっと待ってろ」

そう言って店員さんのところへ赴き少しの間会話を交わすと、キョータローは奥の方へ。
店員さんは懐からハサミを取り出しながらこちらへ向かってきて、

「失礼しますね」

とだけ言うと、タグを切り取って去っていった。
252 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:47:18.29 ID:0NrVtQsE0
別の店員さんが私の方へやってきて聞いてくる。

「このまま着ていかれますか?よろしければお召し物を袋にお入れしますが」

狐につままれたようにぽかんとした私は、しかしレジで財布を取り出すキョータローの姿を見ることで初めてその意味を察した。


淡「......お願いします.........」
253 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:49:04.49 ID:0NrVtQsE0
「ありがとうございました!」

淡「......お金、ないんじゃなかったの」

京太郎「ああ。この懐事情じゃしばらくはモヤシしか食えん」

淡「ならどうしてよ」

京太郎「こういうときに黙って出してやるのが男の甲斐性ってもんだろ?」

淡「わけわかんない」

京太郎「困ったなぁ......それじゃあ」

京太郎「いつも淡には世話になってるからさ。感謝の印ってことで勘弁してくれよ」

淡「.........」

京太郎「納得してくれたか?」

淡「うん......ありがと」

京太郎「おうとも」

淡「......さてと」

淡「よーし!それじゃあ張り切ってご飯行こっか!」

京太郎「張り切りすぎて汚すなよ。買ったばかりなんだから」
254 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:49:33.61 ID:0NrVtQsE0
【19歳 9月】


京太郎「ノーテン」

ゆみ「ノーテン」

モモ「テンパイっす」

洋榎「テンパイ」

京太郎「げっ、鳴きたい牌が全部止められてる」

洋榎「このウチを出し抜こうなんぞ百年早いで」


ガチャッ


淡「こんにちはー」

洋榎「うぃーっす」
255 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:50:48.90 ID:0NrVtQsE0
夏休み明け、久々に授業が再開した残暑の厳しい日の昼下がり。意外にも部室には私以外の全員が既に揃っていた。
普段なら荷物を置いてから冷蔵庫の麦茶をグイッと飲み干して一息つくところだが、今日の私はそれすら待つことが出来ないほどウズウズして仕方がなかったのだ。

淡「みてみて、この服かわいいでしょ!」クルクル

洋榎「お前そーゆーフリフリしたの好きやなぁ」

ゆみ「よく似合ってるじゃないか」

淡「えへへー、やっぱりそうかな」

ゆみ「高かっただろう?」

淡「キョータローに買ってもらったんだー」ニコニコ

ゆみ「......なんと」

モモ「驚天動地っすね」

洋榎「.........」ニヤニヤ

京太郎「.........なんすか、愛宕先輩」

洋榎「べっつに〜?」ニヤニヤ
256 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/18(木) 00:51:14.96 ID:0NrVtQsE0
今回はここまで
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/18(木) 03:20:19.10 ID:aigwlyY60
乙です
あわあわかわいい
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/18(木) 06:38:04.12 ID:wxobbqHmo
乙よー
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 10:33:23.27 ID:cigeGIT+0
乙です
これは今どのルートなのか気になる
260 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 00:56:46.57 ID:rlDX+EL/0
番外編投下です
261 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:02:36.66 ID:rlDX+EL/0
【18歳 3月】


――― 清澄高校 麻雀部室


和「...............」

和「............」ペラッ


ガチャッ


優希「おーっすのどちゃん、朝からご苦労だじぇ!」

咲「おはよう和ちゃん」

和「あぁ、おはようございます」

咲「何読んでるの?」


『アイデンティとライフサイクル:エリック・H・エリクソン 著』


咲「うへぇ、なんだか難しそうな本」

和「倫理の授業で先生が仰っていた話が少し気になって。それで昨日、図書室から借りてきたんですよ」
262 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:03:05.87 ID:rlDX+EL/0
咲「倫理?......そういえばエリクソンって聞いたことあるかも」ポンッ

優希「一方なーんも覚えてない私であった」

和「別に威張ることでもないでしょう」

咲「ふふっ、優希ちゃんらしい」

優希「でも倫理って偉い学者が難しいこと言ってるだけだろ」

優希「覚えようとしても全然頭に入ってこないんだじぇ」

咲「確かに、昔の哲学者の話ばっかりだもんね......」

和「そういったイメージがあるのは否定しません。地理や政治経済に比べると日常生活に直結した内容というわけでもないですし」

和「でも、中には私たちが生きていく上で重要な知識だってあるんですよ?」

優希「例えば?」

和「......そうですね。それこそ、今私が読んでいる『アイデンティティ』の考え方は現代人にこそ必要なものです」

和「せっかくの機会ですし、授業で出てきた内容だけでも大まかにおさらいしましょうか」

優希(あ、これ長くなるやつだ)

咲(ヤブヘビだね......)
263 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:03:33.76 ID:rlDX+EL/0


【のどっちと学ぶ『発達段階』・『アイデンティティ』】

264 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:04:24.10 ID:rlDX+EL/0
和「エリック・H・エリクソンは20世紀の中盤から後半にかけてアメリカで活躍した心理学者です」

和「主に発達心理学の分野で大きな功績を残しました」

咲「発達心理学って?」

和「心理学の中でも、人が年を取るごとにどう発達していくのかを研究する分野のことですよ」

和「エリクソンは人間が生まれてから死ぬまでの生涯を八つの『発達期間』に区分しました」


エリクソンによる心理社会的発達段階の分類

1. 乳児期(0〜2歳)
2. 幼児期(2〜4歳)
3. 児童期(4〜5歳)
4. 学童期(5〜12歳)
5. 青年期(13〜19歳)
6. 初期成人期(20〜39歳)
7. 成人期(40〜64歳)
8. 老年期(65歳〜)

※それぞれの期間や呼称については文献により揺れがあるので注意すること。


和「こんな感じですね」

和「もちろん年齢については一人ひとり個人差があるでしょうが、大まかにこのように分けられると考えてください」

咲「この一覧で言えば私たちは青年期で、お父さんたちは成年期に入ることになるね」

優希「ふーん......でも、そもそも『発達段階』ってなんなんだ?」
265 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:05:03.03 ID:rlDX+EL/0
I:発達段階と発達課題


和「根底にあるのは『人間は心理的な疑問や課題を解決しながら成長していく』という考え方です」

和「乳児期を例に見てみましょうか」


乳児期と発達課題

年齢:0〜2歳
要素:希望
課題:基本的信頼
失敗:不信


咲「基本的信頼?」

和「生まれたばかりの乳児は自分では何も出来ませんし、何より自分と他人の境界すら曖昧なこともあります」

和「自分とそれ以外―――具体的には母親ですね―――が別の人間であるということをこの時期にようやく認識するんです」

和「その過程で自分や他人を信頼することの価値を学ぶのが、この乳児期における心理的な課題ということになります」

咲「へぇ......赤ちゃんなのにそんな難しいこと出来るのかな」

和「あくまで『基本的』ですから。自分は何とか生きていけそうだというレベルの信頼感が得られればいいんでしょう」

和「例えばお母さんのお乳を飲むとか」バイーン

咲「......」スカッ

優希「......」スカッ
266 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:07:41.77 ID:rlDX+EL/0
和「エリクソンはこうした課題―――発達課題が人生の各区間に存在すると指摘しました」

和「これが発達段階です」

優希「へー。言葉だけ聞くと難しそうだけど、内容は思ったよりフツーの話だ」

咲「和ちゃん、この『不信』っていうのは何?」

和「発達課題をクリア出来なかったとき、このような状態に陥ってしまう可能性があるんです」

和「こうして無事成長した私たちでも赤の他人を信じるというのは難しいことですから」

和「赤ちゃんの頃にお母さんの愛情に触れられなかった人が、人間不信になってしまっても無理はありません」

咲「なるほど」

和「ここで勘違いしてはいけないのは、必ずしも全て上手くいくことが良いわけではないということです」

和「最終的には全体として成功する必要がありますが、やはりそれなりの失敗も経験しないと正常な成長には繋がらない」

和「......と、一般には言われているようですね」
267 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:08:45.76 ID:rlDX+EL/0
和「もう一つ例を出してみましょうか」


老年期の発達課題
年齢:65歳〜
要素:賢さ
課題:自我の統合
失敗:絶望・孤立


和「ある種人生の振り返りのようなものですね」

和「人類や世界という大きな括りの中で『自分はこれでよかったのか?』という問いに答えを出すことがこの段階での発達課題になります」

優希「なんか仰々しい感じだ」

和「この年齢ともなると、やり直したくても既に取り返しのつかない物事も多くなってしまうでしょうから」

咲「私たちも後悔のないように、だね」
268 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:09:34.94 ID:rlDX+EL/0
II:青年期とアイデンティティ


和「次に青年期の発達課題について確認しましょう」

和「いわゆるティーンエイジャー、日本の感覚に当てはめなおせば中学校入学から高校卒業くらいの年齢になります」


青年期の発達課題
年齢:13〜19歳
要素:忠誠心
課題:アイデンティティの確立
失敗:アイデンティティの拡散・混乱等


和「この通り、青年期においては『アイデンティティ』がキーワードになっています」

優希「アイデンティティ......?」

和「日本語で言えば自己同一性ですね。辞書で引いてみましょうか」
269 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:10:04.35 ID:rlDX+EL/0
アイデンティティ【identity】

1 自己が環境や時間の変化にかかわらず、連続する同一のものであること。主体性。自己同一性。
2 本人にまちがいないこと。また、身分証明。

― 小学館「デジタル大辞林」より。ただし一部表記ゆれを訂正した。
270 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:10:38.94 ID:rlDX+EL/0
和「心理学においては自分がどういう存在かを認識している状況という意味合いで使われます」

和『私は何者なのか。何者であることができるのか』

和「それが青年期の―――つまり、今の私たちが達成しなければならない発達課題なんです」

優希「私は私じゃないのか?」キョトン

和「そういう漠然としたものだけではなくて、ある程度は具体性のある認識も必要ですよ」

和「どういう職業に就くのか?政治的にどういう主義主張を持っているのか?」

和「学問、文化、性別、宗教......そういった社会の中での自分の立ち位置を確立することが求められます」

和「これが『アイデンティティの確立』です」

咲「なんだか凄く難しそうだね......」

和「エリクソンはこの段階を一つのターニングポイントと見なしていました。実際難しい話なのでしょう」

和「元々アイデンティティ自体はこれまでの児童期や学童期段階でも形成されていますが、それらとは全くもって異質ですから」

和「『これまで育ってきた自分』と『社会から必要とされる自分』を摺り合わせなければならないのが青年期の特徴と言えます」
271 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:11:08.73 ID:rlDX+EL/0
III:アイデンティティの確立の失敗


和「アイデンティティの確立を脅かすような状況のことを『アイデンティティ危機』と呼んでいます」

和「しかしそれを乗り越えられなかったり、あるいは未だ経験していないような場合に陥ってしまうと......」
272 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:11:59.79 ID:rlDX+EL/0
・アイデンティティ拡散
全ての可能性を残そうとして選択が出来ず、延々と自分探しを続ける

マホ「和先輩みたいになりたいのです!でも咲先輩もカッコいいし、優希先輩だって凄いし」

マホ「そもそも本当のマホってなんなんでしょうか」グスッ



・患者アイデンティティ
何らかの病人であることに自分の属性を見出す

怜「私は病弱やし、別に勉強とかどうでもええよなー」グデー



・否定的アイデンティティ
非行や反社会的行為に走る

京太郎「どーせ俺なんて練習したって全然上手くならねえし」メソメソ

京太郎「......イカサマしちゃうか」
273 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:12:27.85 ID:rlDX+EL/0
和「他にも様々なパターンが知られていますが、分かりやすいのはこういうものでしょうか」

咲「ま、マホちゃんはもっと明るくていい子だよ!京ちゃんだってそんなことしないもん!」バタバタ

和「落ち着いてください咲さん!マホと須賀くんはモノの例えですから!」ガシッ

優希「でも、ちょっと前に京太郎がツバメ返しの練習してるの見たじぇ」

咲「!?」

和「.........続けてもいいですか?」

咲「......うん」ワナワナ

優希(すまん京太郎、南無三)

和「えー、とにかくですね」

和「青年期は特に大切な時期で、アイデンティティの確立はその後の人生を健全に送るのに大きく影響する」

和「だから子供や青年に対しては社会がサポートしなくてはいけないんですよ」

優希「なるほど......現代日本にはそれがないなんて残念だじょ」

和「ありますよ?」

優希「えっ?」

和「というか今は私も咲さんも、ゆーきだって受けてるじゃないですか」

優希「......?」

咲「ひょっとして、それって学校のこと?」

和「正解です」
274 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:13:02.77 ID:rlDX+EL/0
IV:アイデンティティの確立と心理社会的モラトリアム


優希「どういうことだ?学校って勉強を教えてもらうところじゃないのか?」

優希「数学とか数学とか、あと数学とか」

咲「優希ちゃん、本当に数学嫌いなんだね......」

和「確かに学校の一番の目的は学問や技術の伝授ですけど、それ以外にも様々な役割があるんです」

優希「その割には先生からそんな話された覚えは全然ないじょ」

和「アイデンティティの確立をする主体はあくまで生徒の側ですからね。むしろ学校の目的は『何もしないこと』とも言えます」

和「二人とも、染谷先輩の家以外のお店で働いたことはありますか?」

優希「私はないな」

咲「私は一年生の頃に一回だけコンビニでバイトしてみたんだけど―――」
275 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:13:37.98 ID:rlDX+EL/0
【回想】


咲「おかしいな、これどうすればいいんだろう......」ピピピ

客「馬鹿野郎!レジもまともに使えねえのか!」

客「どんだけ待たせるつもりじゃコラ!」

咲「すみません!あれ......?」ガチャガチャ


咲「ゴミ出し行ってきま―――きゃあっ!」ドサッ

咲「いたたた......あ、袋が......」

店長「......ゴミ、ちゃんと全部集めといてね」


店員「宮永さん!これ発注したの宮永さん!?」

咲「えっ?そうですけど......」

店員「こんなに沢山発注してどうするのよ!そんなことも考えられないの!?」

咲「ご、ごめんなさい!私、どうすればいいのか分からなくて」

店員「なら確認しにきてよバカ!全く...」チッ

咲「.........ごめんなさい」


【回想おわり】
276 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:14:05.73 ID:rlDX+EL/0
咲「それですぐ辞めちゃったんだ......」グスッ

優希「よしよし、泣くな咲ちゃん......しかし、世の中酷いこと言う人もいるもんだなー」

優希(鈍臭すぎるような気もするけど)

和「その話は災難でしたが、実際世の中にはそういう人が沢山います」

和「例え表面上は敵対していなくとも、水面下で攻撃をしてくるような人間すらいるでしょう」

和「こんな状況に子供が居てはアイデンティティの確立に支障を来すこと請け合いでしょうね」

優希「小学校出たばかりの子にコンビニバイトなんてさせたら絶対精神病んじゃうじょ」

和「だから一人前になるまでの青年には保護された環境が必要なんです」

咲「なるほど、それが学校なんだね」

和「その期間生徒や学生という身分を与えたりすることで、青年に対しアイデンティティを確立するまで社会へ出るのを猶予する」

和「これを『心理社会的モラトリアム』といいます」
277 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:15:10.41 ID:rlDX+EL/0
<まとめ>


・エリクソンは人生を八つの『発達段階』に区分し、それぞれで達成すべき『発達課題』の存在を提唱した。
・青年期においては、自分は何者なのかを認識する『アイデンティティの確立』が課題である。
・それを支援するために社会は青年に対して、社会人になるのを猶予する『心理社会的モラトリアム』を与える。
278 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:15:45.26 ID:rlDX+EL/0
和「さてと。その青年期の次にあたる初期成人期ですが―――」


ガチャッ


マホ「こんにちはー」

和「マホ、おはようございます」

マホ「暖房があったかくて嬉しいのです」

優希「ムロと一緒じゃないのか?」

咲「京ちゃんは!?」ゴッ

マホ「わわぁ!?」ビクッ

マホ「む、ムロ先輩はお手洗いに行きました」

マホ「京太郎先輩はいつも通り生徒会室に向かうのを見ましたけど......」

咲「.........仕方ないか。聞くのは後にしてあげる」

マホ(なんだか分からないけど咲先輩がすっごく怖いのです)

和「まだ話の途中だったんですが......とにかく、これで四人揃いましたね」

優希「やっと始められるじぇ!」
279 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:16:45.49 ID:rlDX+EL/0
和(こうして卓を囲めるのもあと数回ですね......)

和(私や須賀くんは進学するけれど、咲さんとゆーきは春にはプロ雀士になる)

和(そうなれば、もはや貴女たちを守るものは何もない)

咲「和ちゃんどうしたの?そんな険しい顔して」

和「いえ。何でもありません」

和「......さぁ、始めましょうか」


ツモ!リンシャンカイホー!

ギャー!



【のどっちと学ぶ『発達段階』・『アイデンティティ』】


  終
制作・著作
―――――
Ⓝ Ⓓ  Ⓚ
280 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:17:11.39 ID:rlDX+EL/0
参考文献
・「幼児期と社会」 エリクソン
・「アイデンティティの心理学」 鑪幹八郎
・「青年の心理」 遠藤由美
・他

>>1は専門家ではありません。
内容の正確さについては細心の注意を払っていますが、この文章によって生じた不都合について一切の責任は負いません。
281 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/21(日) 01:20:40.31 ID:rlDX+EL/0
以上です。
本筋から外れた話にはなりますが、本編に関係あったりなかったりする内容ですので宜しければご一読ください。

既にご存じの方はテキトーに読み飛ばしてください。
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 17:24:02.92 ID:xNtGxY3X0
乙です
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 21:42:16.67 ID:aRQEXXki0
乙です
誰かが"発達"に失敗したって事なのかな
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/24(水) 00:52:29.29 ID:YkvHrJzXo
乙ー
285 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/30(火) 04:45:06.69 ID:7SyiISYv0
ちょっちお久しぶり&投下
286 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/30(火) 04:45:42.45 ID:7SyiISYv0
【21歳 5月】


この頃には週末の夜にたむろして酒盛りに興ずることが私たち三人の恒例行事になっていた。
しかしその会場は概して大学近くの居酒屋であって、こうして彼の住処に来るのは今日が初めてだ。
当然モモと私の間には「男の部屋に上がり込んで大丈夫なのか」という疑念はあったものの、それもほんの一瞬だけ。
キョータローがそんな度胸を一ミリも持ち合わせていないことは十分承知のことだったからだ。


京太郎「淡、生きてるか?」

淡「............」

京太郎「おい、淡」

淡「..................あれ」

京太郎「眠いのか?」

淡「ううん、全然」

京太郎「嘘つけ」

京太郎「ったく......ほら、これ飲めよ」


――― 京太郎の部屋
287 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/30(火) 04:46:27.85 ID:7SyiISYv0
手渡された麦茶を一口飲み干すごとに段々と意識が明瞭になっていく。
気がつくと私はモノの散乱した部屋の床に座り込み、座卓へもたれ掛かっていた。
お世辞にも広いとは言えない学生向けのアパート―――初めての風景、初めての空気、初めての匂い。

京太郎「モモ、起きろってば」ユサユサ

モモ「ここは私が......早く...先に..........行く、っすよ.........Zzz」

京太郎「まったく......一体何と戦ってんだか」

京太郎「こりゃそろそろお開きだな」

淡「えー?もうちょっと飲もうよ」

京太郎「さっきまで船漕いでたくせによく言うわ」

京太郎「それに、見ての通りモモは潰れちまったぜ?」

淡「別に私は二人でもいいけど」

京太郎「それは......何というか、俺が困るんだよ」

淡「なんで?」

京太郎「そのくらい察してくれ」

淡「......へぇ、キョータローったら案外ウブなんだね」

京太郎「小学100年生が生意気なこと言ってんじゃねーぞ」

口角を上げ、わざとからかうような口調でキョータローにそう問いかける。
.....らしくないことをしていた。そんなことはわかっちゃいるけども。
288 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/30(火) 04:48:00.99 ID:7SyiISYv0
確かにキョータローは一見バカで助平なようだけどその実紳士的で、安易に手を出してくるような男ではない。
しかしこの時の私は、むしろ彼に度胸があった方が都合が良いとさえ思っていたのだ。
長らく麻雀漬けの青春を送ってきた私にとって、須賀京太郎は初めて触れた男性にも等しかった―――それが悲劇の始まり。
彼と積み重ねてきた二年間は私にある種の『思い込み』をさせていた。

京太郎「先輩に電話掛けてくる。テキトーにモモの荷物をまとめておいてくれ」

淡「はーい」

京太郎「あーもしもし、加治木先輩ですか?須賀です。ええ、はい......いやぁ、ホントにすいません」

京太郎「今帰ったところですか......ああ、それなら―――」

淡「............」

普段であれば吐くほどに酔っ払うにもかかわらず、今日は飲む量を相当抑えてある。結果的には少し寝てしまったが妥協点だろう。
先輩がもう三十分もしないうちに車で乗り付け、モモを乗せて彼女たちの住まいへと引き揚げていく。
そして玄関の扉が閉まった途端、この部屋は私たち二人だけの国へと様変わりするのだ。
......だからどうってわけでもないけど。今のところその先にまで進む決心はないが、如何にせよ事は悪くは運ばない筈だ。
289 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/30(火) 04:50:23.27 ID:7SyiISYv0
京太郎「ふぅ......仕事終わりだろうに悪いことしたかな」

淡「大変だなー、ゆみ先輩」

京太郎「他人事みたいに言うけどなぁ。俺たちだってあっという間に先輩と同じ立場だぜ」

淡「私はどこかのチームに契約してもらうし大丈夫」

京太郎「麻雀プロにだって社会人らしい苦労は沢山あるだろうさ」

淡「キョータローこそどうするの?プロ目指すんでしょ」

京太郎「俺か?俺は.........」

京太郎「......さぁ、どうだろうな」

淡「あ............その......ごめんね」

なぜ、口から出す前にその浅はかさに気づけなかったのだろうか。
近年のプロ麻雀界は青田買いが激しい。高校卒業はおろか在学中―――下手をすれば中学卒業と同時に話を持ちかけ、自分たちのチームで囲い込む。
そんな中で大卒がプロになるには、相当の実力を持っていることをインカレで示さなければならないのだ。
今のキョータローは明らかにそのレベルには達していなかった。一昨年の東京予選敗退、そして去年の本戦一回戦負け......
高校時代を焼き増ししたような実績に、彼自身も焦燥感を持っていたに違いない。
290 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/03/30(火) 04:51:39.38 ID:7SyiISYv0
モモが食い散らかしたつまみの皿と私が平らげた冷凍チャーハンの皿を片手で器用に持ち上げる。
キョータローはシンクへ向かうと、そのまま洗い物を始めてしまった。

京太郎「―――ま、なるようになるだろ!」

京太郎「プロになれれば万々歳。それがダメなら実業団、それがダメなら.........」

淡「雀荘に入り浸ってるおっさんとか?」

京太郎「ははっ、それも良いな」

京太郎「どうにせよ麻雀しながら生きていくさ。それは変わんねーから安心しろ」

淡「私はキョータローが将来どうなろうと知ったこっちゃないよ」

京太郎「相変わらず冷たいやつだなお前は」

淡「いーじゃん別に」

京太郎「第一みんな俺の扱いが雑すぎるんだよ!お前もモモも先輩達も、俺のことを何だと思ってんだ」

京太郎「お陰で後輩まで真似し始めるし......はぁ」

つい先程までの張り詰めた空気が嘘であるかのように、一瞬にして私たちの顔はほころんだ。
しかし果たしてキョータローが大して気にしていないのか、苛立ちを隠しているだけなのかは私には判別できなかった。
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