渋谷凛「実は私の両親は、元傭兵なんだ」

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29 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:47:35.64 ID:vD0rqF300

渋谷母「ごめんなさいね、お客さんをほったらかして」

奈緒「いやいや、気にしないでください」

加蓮「どうぞ、おかまいなく」

渋谷父「ええと、2人は奈緒ちゃんと加蓮ちゃんだったかな?」

奈緒「あ、はい。あたしが神谷奈緒で」

加蓮「私、北条加蓮です」

渋谷父「奈緒に加蓮、か。2人ともいい名前だね」

加蓮「ありがとうございます」

奈緒「そういえば、いつも思ってたんだけど凛って名前も素敵ですよね」

加蓮「そうそう。まあ本人にはなかなか言えないんだけど」

渋谷父「そうかい? 嬉しいなあ、実は凛という名前をつけたのは私でね」

奈緒「あ、そうなんですか」

加蓮「どんなエピソードがあるんです?」
30 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:48:06.62 ID:vD0rqF300
渋谷父「あれは……荒廃し、血と硝煙にまみれた戦場でもしっかりと空に向かって、凛と咲いていたあの花……」

渋谷母「あの花を2人で見ながら、この内戦が終わったら傭兵をやめて帰国して花屋をやろうって言ってくれたのよね……私の手を取って」

奈緒(戦場って言っちゃってますけど、お父さん……)

加蓮(傭兵って今言っちゃってたよ、お母さん……)
31 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:48:36.14 ID:vD0rqF300
渋谷母「さあさあ、それじゃあ夕食の準備をしようかしら」

凛「うん、お願い」

奈緒「あ、あたし手伝います」

加蓮「うん、お願い」

奈緒「いや、加蓮も手伝えよ!」

渋谷父「ははははは。では私も、見学させていただこうかな」

凛「お父さんは、手を出さないのが正解だよ。ふふっ」

渋谷母「はいはい。じゃあみんなでやりましょう。キッチンはこっちよ」
32 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:49:19.37 ID:vD0rqF300





33 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:49:49.09 ID:vD0rqF300


prrrrr prrrrr

電話「ただ今、電話に出ることができません。ピーっという発信音の後にお名前とメッセージをお入れください」

ピー

電話「……ポール?」

ツーツーツー……


34 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:50:19.95 ID:vD0rqF300
加蓮「料理に使ってもらおうと思って、ジャガイモ持ってきたよ」

奈緒「それ、自分が食べたいだけだろ?」

加蓮「そうでーす♪」

凛「どうしよう、フライドポテトにする?」

奈緒「いや、折角だから一手間かけてコロッケにでもするか」

加蓮「キャー♪ すてきー♪」

奈緒「じゃあまずは、ジャガイモを茹でて皮を剥く……と」

渋谷母「あら、奈緒ちゃんは手際がいいわね」

凛「奈緒はこういう女の子らしいこと似合うんだよね」

加蓮「お嫁さんにしたいトライアドプリムスNO.1なんだよね」

奈緒「や、やめろよ、そういうの!」

渋谷父「いやいや、確かに可愛いし料理上手みたいだし、そう呼ばれるのもわかるよ」
35 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:51:20.72 ID:vD0rqF300
奈緒「て、照れますね。さて、ジャガイモも潰したし。ここで、下味をつけていくぞ」

渋谷父「え? シュタージを尾行ける!?」

奈緒「そう、下味を」

渋谷父「シュタージを」
36 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:51:47.83 ID:vD0rqF300


大和亜季「ここで不肖この大和亜季がシュタージについて説明するであります!」

亜季「シュタージとは、かつて東ドイツ(ドイツ民主共和国)に存在した諜報機関であり、秘密警察でありまして、東ドイツのみならず西ドイツ国民をも徹底した監視下においていた恐怖の組織。国民の反体制的行動に対する密告を奨励し、その非公式協力者は約190万人ともいわれ、国民の全人口の一割という規模で存在していました。シュタージは、密告により国民を相互監視させていたのであります」


37 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:52:24.56 ID:vD0rqF300
渋谷父「奈緒ちゃん、シュタージを尾行けるのは大変なんじゃないかな?」

奈緒「え? 下味をつけるのなんて、簡単ですよ?」

渋谷父「だが連中は、どこにでも多人数で潜んでいるんだぞ!」

奈緒「え?」

渋谷父「奈緒ちゃん、おじさんはシュタージを尾行けるのは、相当に困難だと思うんだ」

奈緒「いやいや、基本だよ!? 下味なんて」

渋谷父「そうやってなめてかかって、何万人の東西ドイツ国民が犠牲になったかわかっているのかい!?」

奈緒「下味で?」

渋谷父「東西のドイツだけじゃない! 影から世界を監視して主導権を握っていたんだ!!」

奈緒「下味が?」
38 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:52:59.71 ID:vD0rqF300
渋谷父「薔薇の木作戦のことは、奈緒ちゃんも知っているだろう!?」

奈緒「茨城は海水浴に行ったことはあるけど……まあ、とにかくすすめるよ。塩コショウをふるんだけど、下味だから少量な」

渋谷父「シュタージが表立って出てきちゃあまずいもんね」

奈緒「あくまで下味ですからね」

渋谷父「そこにいるのを知られないように……でも、かすかに感じるんだよね、存在を」

奈緒「そう! それが下味なんだよな」

渋谷父「おじさんはシュタージには詳しいからね」

奈緒「そうなんですね!」

渋谷父「プーチンもKGB勤務時代に東ドイツに駐在してたんだけど、その時にシュタージの身分証明書を持っていたんだよ!!!」

奈緒「プーチンってプリンの人だっけ?」
39 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:53:39.58 ID:vD0rqF300
https://i.imgur.com/92Beo3f.jpg
プリンの人
40 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:54:06.86 ID:vD0rqF300
渋谷父「ウラー! タヴァーリシ、ウラジミール!!」

奈緒「あの、続けていいかな?」

渋谷父「あ、どうぞ」
41 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:54:46.14 ID:vD0rqF300

渋谷母「さて。じゃあこちらは、鶏肉を調理していこうかしら」

加蓮「ヘルシーだけど、タンパク質がしっかり摂れていいですよね」

渋谷母「さすがね加蓮ちゃん。鶏肉は天然のプロテインよ」

凛「まあ加蓮は全然、料理とかはしないんだけどね」

加蓮「そんなことないよ? 卵かけご飯とかよく作るし」

凛「それは作ったうちに入るのかな」

渋谷母「じゃあ今日は、この料理を覚えて帰ってね。ささみ肉をラップで挟んで、麺棒で延ばすの」

加蓮「ほうほう」

渋谷母「そしてこの、薄く延ばした鶏肉の間にチーズを挟んで、衣とパン粉を付けて揚げるわけなの」

加蓮「ふうん。あれ、ちょっと待って。これって鶏肉が重なって……」

凛「そうか。重なり合う鶏〜肉〜♪」

加蓮「フィ〜ルド♪」

渋谷母「……え?」
42 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:55:14.19 ID:vD0rqF300
加蓮「あ、実は私たちの持ち歌にTrinity Fieldっていう歌があって」

凛「うん。トリニティ……あ! やば……」

加蓮「え?」

渋谷母「……りーん!」

凛「は、はい」

加蓮「えー……またぁ?」

渋谷母「トリニティっていうことは、あの計画が関係してるのよね?」

加蓮「あの計画?」

渋谷母「トリニティ実験は、マンハッタン計画の一環であったことは歴史が証明しているでしょう!?」
43 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:56:02.91 ID:vD0rqF300


亜季「それではこの大和亜季がマンハッタン計画について説明するであります!」

亜季「マンハッタン計画とは、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの原子爆弾開発に対抗するためにアメリカやイギリス、カナダが科学者、技術者を総動員し原子爆弾開発・製造した計画であります。そしてトリニティは、ニューメキシコ州ソコロの南東にある実験場の名で、人類史上初めて核爆弾の実験が行われた場なのであります」


44 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:56:35.65 ID:vD0rqF300
渋谷母「あなたたち、まさかジラードの手の者になにか吹き込まれたりしていないわよね!」

凛「ジラードが誰かしらないけど、お、落ち着いてお母さん」

加蓮「よくわからないけど、Trinity Fieldは危ない歌じゃないですから」

渋谷母「そうなの? それなら……奈緒ちゃん、ちょっとこっちに来てくれるかしら」

奈緒「はーい。なんです?」

渋谷母「そのTrinity Fieldっていう歌? ちょっと歌ってみてくれるかしら」

奈緒「え? いいですけど」

加蓮(お願い! 奈緒)

凛(当たり障りのない部分を歌って!)

奈緒(加蓮も凛も、なんか必死でこっち見てるけど……ま、いいか)
45 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:57:49.32 ID:vD0rqF300
奈緒「迸る光♪ 螺旋を描いて行き♪ 空を貫くほどにスパークした〜♪」

加蓮(奈緒……)

凛(よりによって、そこを……)

渋谷母「……さて、2人とも弁明は?」

加蓮「いや、あの、これは……その、この歌は歌詞に隠されたメッセージがあるんです!」

渋谷母「え?」

凛「そ、そうなんだよ。これは調和と平和の歌なんだよ」

渋谷母「どこが?」

加蓮「え、えっと、その……」
46 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:58:37.61 ID:vD0rqF300


渋谷父「大事な連絡は、軍用無線を使っているからね」


47 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 15:59:49.42 ID:vD0rqF300
加蓮「そうだ! こ、この螺旋……! これは……む、無線のことを言ってるんです!」

凛「そ、そう! ほら、軍用の」

加蓮「ね、ねえ。スクランブルが、あの、何重にもかけてある!」

渋谷母「え? そうなの? あ、じゃあ迸る光が空を貫くほどスパークしたっていうのは、もしかして……火花式送信機のこと?」

加蓮(火花式送信機ってなんだろう?)

加蓮「そ、そうそう!」

凛(火花式送信機ってなんだろう?)

凛「そうなんだよ!」

奈緒(火花式送信機ってなんだろう?)

奈緒「よくわからないけど、そうなんです!」
48 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:00:32.19 ID:vD0rqF300
渋谷母「あ、待って。もしかしてわざわざ無線を螺旋と言い換えているのは、回転火花式送信機だからなのね!」

渋谷父「なるほど。そしてわざわざスパークという言葉で強調されているところをみると、これは回転火花式送信機の中でもアーク放電の負性抵抗により発振させる、電弧火花式送信機じゃないかな」

渋谷母「私も今、そこに思い至ったところだったのよ」
49 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:00:58.89 ID:vD0rqF300


大和亜季「ここで再度この大和亜季が火花式送信機について説明するであります!」

亜季「火花式送信機とは、間隙を設けた電極間に高電圧を印加して、火花放電による電波を発生させる通信装置でありまして、中でも回転火花式送信機は、円盤の周囲に電極を配置し、その円盤の外側に置いた固定電極を電動機で円盤を回転させ、回転電極と固定電極がちょうど対向する位置に来たときに火花放電を起こすもので、火花式送信機の宿命である火花による電極の加熱を回転電極と固定電極との間に距離ができ、しかも回転によって生じる風によって電極を冷やすことができるのであります!」


50 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:01:27.61 ID:vD0rqF300
https://i.imgur.com/sRC4ypi.jpg
大和亜季(21)
51 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:02:24.65 ID:vD0rqF300
渋谷母「ごめんねえ凛。お母さん、あなたたちが通信兵としての訓練も受けているなんて知らなかったから」

凛「い、いいんだよ、お母さん」 

渋谷母「あなたたちは、日本のウインドトーカーズよ!!!」

加蓮「わ、わーい!」※棒

奈緒「や、やったー!」※棒

凛「ありがとう、お母さん!」※必死

渋谷母「そういえば今更だけどあなたたちは、歌をうたってるのよね」

凛「うん、そうだよ。前にも説明したけど、たくさんの人に歌を届けて元気を出してもらう仕事なんだ」
52 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:02:59.73 ID:vD0rqF300
渋谷父「なるほどなるほど。つまり……慰問部隊だな」

奈緒「え?」

加蓮「いもん? イモ……?」

渋谷母「違うの?」

凛「ううん! そ、そうだよ!! その、イモの部隊」

加蓮「よくわからないけど、イモの舞台ってなんだかステキ!」
53 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:03:26.44 ID:vD0rqF300
渋谷母「加蓮ちゃんは、どんな歌をうたってるの?」

加蓮「あ、私の持ち歌は薄荷っていう歌です」

渋谷母「発破?」

加蓮「薄荷です」

渋谷母「発火ね」

加蓮「凛」

凛「なに?」

加蓮「泣いちゃってもいい?」

凛「ゴメン、今は我慢して」ヒソヒソ
54 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:24:12.04 ID:vD0rqF300
渋谷父「奈緒ちゃんは? どんな歌をうたってるんだい?」

奈緒「あたしはNeo Beautiful Painっていう持ち歌があるんですけど」

渋谷父「へえ。奈緒ちゃんの歌、ちょっと聞いてみたいな」

渋谷母「あら、私も聞いてみたいわ」

奈緒「え? な、なんだか照れるなあ」

加蓮「いいじゃない、奈緒」

凛「うん、歌ってよ」
55 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:25:00.30 ID:vD0rqF300
奈緒「あー……じゃあ。どこまでも続いた♪ 果てしなく続いた♪」

渋谷父(戦争の歌か?)

渋谷母(戦争の歌かしら?)

奈緒「影を揺らす灯火♪ 闇に消えて♪」

渋谷父(やはり戦争の歌だ。灯火を消されたのは、敵兵の狙撃によるものか?)

渋谷母(やっぱり戦争の歌ねなのね。まずはこちらの目を奪うのが狙いね)

奈緒「心のふち音もなく♪ 流れ落ちた♪」

渋谷父(向こうは手練れの狙撃手だな)

渋谷母(音もなくこちらの灯火係を消された……危険な相手だわ)

奈緒「静寂は♪ いつも刺す針のよう♪ 静かに痛みに変え♪」

渋谷父(なんと的確に深夜の戦闘を歌い上げるんだろう)

渋谷母(闇夜の襲撃……思い出すわね)

奈緒「止め処無く♪ 流れるこの涙は♪ 満ちてあの日を映す♪ ……ど、どうかな?」

渋谷父「いやあ、素晴らしい歌だよ奈緒ちゃん」

渋谷母「本当。私、感激しちゃったわ」

奈緒「え、そ、そうです? いやあ、照れるなあ」
56 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:25:43.39 ID:vD0rqF300
渋谷父「こんなにもしっかりと夜戦を歌い上げるだなんて」

奈緒「……え?」

渋谷母「思い出しちっゃたわねえ。ゲリラとの闇夜の戦闘を」

奈緒「凛」

凛「なに?」

奈緒「そんな風に聞こえた? あたしの歌」

凛「そうは思わないけど、ここはそういうことにしておいて。お願い!」ヒソヒソ
57 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:26:19.46 ID:vD0rqF300
渋谷母「さあ、じゃあ揚がったチキンカツを切り分けていきましょうか」

加蓮「あ、は、はい」

奈緒「えっと、包丁は……」

凛「はい、奈緒」

奈緒「お、サンキュ……って凛! これ包丁じゃなくて、ナイフだろ!! しかもなんかゴツいし!!!」

凛「え?」

加蓮「え、じゃないよ。ナイフでどうやって料理をするの!?」

凛「どう……って、こう右手で持って、左手は腰の後ろに回して固定して……ハッ! ハッ!」

渋谷母「あら凛、なかなかいいナイ……包丁捌きね。ハッ! ハッ!」

凛「お母さんに仕込まれたからね。ハッ! ハッ! ハッ!」

加蓮「……もう、好きにして」

奈緒「すげー、リアル折原臨也&両儀式だ」
58 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:26:56.50 ID:vD0rqF300

加蓮「いやー美味しかったけど、なんか色々と大変だったよね」

奈緒「まあでも、なかなかない体験だったよな」

加蓮「元傭兵の家族と一夜を過ごすなんて、なかなか機会はないよね」

凛「? お父さんとお母さんはともかく、私は元傭兵じゃないよ?」

奈緒「いや、そうかも知れないし自分では気づいてないかも知れないけど、凛もだいぶ影響受けてるぞ」

加蓮「そうそう。あのナイフ捌きとか、小隊が全滅する答えがスッと出てくるところとか」

凛「そうなの?」

奈緒「でもまあ良かったよな。お父さんとお母さんに、凛が元傭兵だって気づいてることバレなくて」

凛「うん。2人には感謝している」

加蓮「まあまあ私たちの仲じゃない。遠慮はナシで……」
59 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:27:53.42 ID:vD0rqF300
prrrrr prrrrr

奈緒「電話だぞ、凛」

凛「うん。でもウチは基本、留守電にして出ないことにしてるんだ」

加蓮「あ、でメッセージ入れようとした声で誰かわかったら、出るんでしょ」

凛「そう。ほら、イタズラ電話も多いし」

奈緒「ああ、例のポールか」

電話「ただ今、電話に出ることができません。ピーっという発信音の後にお名前とメッセージをお入れください」

ピー

電話「……ポール?」

加蓮「あはは、言ってるそばから」

奈緒「そのポールから電話だぞ」
60 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:28:28.73 ID:vD0rqF300
電話「随分、待たせてしまったな。頼まれていたブツの用意ができた」

凛「あれ?」

奈緒「ん?」

加蓮「どうしたの?」

凛「いつもと話す内容が違う……今までは電話が盗聴されてるとか、ここにいるとヤバいとかそんなメッセージなのに」

加蓮「うん。私たちが聞いたのもそれだった」

奈緒「な、なあ凛。あたしさっきも思ってはいたんだけどさ」

凛「なに?」

奈緒「間違い電話って、近所だからってかかってくるもんじゃないんじゃないかな」

加蓮「確かに……間違い電話って、地理的なものじゃなくて番号が近いとかかるものだよね」

凛「そうか。じゃあこの間違い電話って……」
61 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:28:58.93 ID:vD0rqF300
電話「準備はできた。2人の勇姿を俺も楽しみにしている」

凛「おかしいよ。こんなこと、今まで言ったことないのに」

電話「悪いな。今はもう、2人とも娘を持つ親だというのに」

加蓮「それって凛のこと……だよね」

凛「だよね、やっぱり」

電話「今度の戦場はハードだからな。くれぐれもなめてかからないことだ。じゃあな」

ツーツーツー……

奈緒「お、おい、これって……」

加蓮「もしかして凛のお父さんとお母さん、また傭兵になる……ってこと?」

凛「そんな……過去のことはいいけど、今からそんな危険なこと……」

加蓮「凛……落ち着いて」

奈緒「あ、あたしちょっと凛のお父さんとお母さんに話してくる」
62 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:29:28.60 ID:vD0rqF300

奈緒「えっとリビングかな……?」

渋谷父「さあ、今夜もお楽しみタイムがやってきたな」

渋谷母「まあ、あなたったらそんなやる気出しちゃって」

渋谷父「そう言うけど、今日は一日ずっとこの時間を楽しみにしてたんだよ」

渋谷母「あらあら……まあ、私もだけどね」

奈緒「この会話……こ、これってもしかして!? えええっ!!」

渋谷母「でも大丈夫かしら、奈緒ちゃんや加蓮ちゃんも今夜はいるのに……」

渋谷父「そのために寝室は防音にしてるんじゃないか。今までだって凛に気づかれたことないし、大丈夫だよ」

渋谷母「それもそうね」

奈緒「うわあああ! そ、それってもしかしてもしかしなくても、大人の夜の最終防衛ラインという一線を越え……あああああ!!」
63 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:29:55.27 ID:vD0rqF300
バタン

加蓮「あ、なんて言ってた? 凛のお父さんとお母さん」

奈緒「え、えー……お2人はちょっとお取り込み中で……その、なんていうか……」モジモジ

加蓮「なに言ってるの? この非常事態に。いいよ、私が行ってくる」

奈緒「だ、ダメだ!」

加蓮「え?」

奈緒「加蓮には、まだ早い」

加蓮「なにが?」

凛「じゃあ私が」

奈緒「凛にもまだ早い!」

凛「えー……?」

加蓮「? ともかく、凛のお父さんとお母さんに相談を!」

凛「あ! 加蓮」

奈緒「ま、待てよ! 加蓮」
64 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:30:39.85 ID:vD0rqF300
ガチャガチャ

加蓮「あれ? 鍵がかかってる?」

奈緒「だ、だからな! 話は朝になってから……」

加蓮「ノックしてみようか」

凛「あ、寝室は防音になってるから聞こえないかも」

奈緒「うん。だから、な! 話は朝に……」

加蓮「何か手段はないの?」

凛「そうだ。いい考えがあるよ」

奈緒「え?」

凛「ハナコ」

ハナコ「ワン」

凛「ハナコ、こっちの通風口からお父さんとお母さんの寝室に入って、中から鍵を開けてくれない」

ハナコ「ワンワン」

奈緒「え? ハナコ、そんなことできるのか?」

凛「ハナコは軍用犬としての訓練を受けてるから」

加蓮「軍用犬の訓練? って、それ凛がやったの?」

凛「ううん。お父さんが」

奈緒「いや凛、もう今更だけどよく今まで両親が元傭兵だって確信を持ってなかったよな」
65 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:31:07.59 ID:vD0rqF300
加蓮「じゃあ、お願いねハナコ」

ハナコ「ワン」

奈緒「おお、本当に通風口から……って、待った! ハナコ待った!!」

凛「え?」

加蓮「なんで?」

奈緒「なんで、って……中では今、凛のお父さんとお母さんが……」ゴニョゴニョ
66 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:31:53.12 ID:vD0rqF300
カチャッ

凛「あ、ハナコが開けてくれたみたい」

加蓮「失礼しまーす。あの、変な電話が……」

奈緒「だから待てって、中では今! 夜のギャラクシアンウォーズ(銀河戦争)が……!!」
67 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:32:37.43 ID:vD0rqF300

渋谷母「うおおおーーー!!! ゲリラのクソ野郎どもおおおぉぉぉーーー!!!」ガチャガチャ

渋谷父「撃て! 打て!! 討てえええぇぇぇーーーっっっ!!!」ガチャガチャ

渋谷母「やるわね、あなた! さすがは戦場の狼と呼ばれた男ね!!」ガチャガチャ

渋谷父「俺は今はただの1人の兵士だ!!!」ガチャガチャ

加蓮「え……?」

凛「あの……お父さん、お母さん?」

奈緒「な、なにやってんだよおおお!?!?!?」

渋谷母「え? あ、あれ? あなたたち!?」

渋谷父「いや、これは、その……新作戦場バトルシミュレーションゲームFPS閉牢Zを……」

加蓮「はあ……戦場ゲーム」
68 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:33:07.26 ID:vD0rqF300
凛「あれ、じゃあポールっていうのは……」

渋谷母「あ、ポールっていうのはゲーム配信する時の私の名前ね」

渋谷父「ちなみに俺は、エディだ」

加蓮「配信?」

渋谷父「元傭兵が、戦争ゲームやってみた、っていう配信を3ヶ月ほど前から……」

凛「お父さんとお母さん、そんなことやってたの?」

渋谷母「最初はね、FPSゲーム配信っていうのを見てたんだけど、そこで経験者視点から色々と発言していたら『お2人も配信やってみたらどうデスか?』って言われて」

渋谷父「で、その人に色々とアドバイスをもらって始めたんだけど、やってみるとこれがなかなか楽しくてね」
69 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:34:30.04 ID:vD0rqF300
加蓮「じゃあ、あの留守番電話の相手は……」

渋谷母「ああ、あれは同期だった通称『両手いっぱいのジョニー』ことジョンが電気屋を始めてて、配信機器とかソフトとか用意してくれてるのよね。で、今日新作が出るって事でソフトもインストールとかのセッティングを済ませておいてくれて」

凛「あの留守電電話は?」

渋谷父「ジョニーに頼んでウチのネット速度を上げてもらっててね。LANやルーターや回線の見直しを頼んでいて、そのチェックだ」

加蓮「それをなんで、盗聴とかヤバいとか言うの?」

渋谷母「ジョニーにも困ったものでね。まだ傭兵だった頃の……じゃなくて、昔のクセが抜けないのよ」

渋谷父「もう一般人なんだから、盗聴じゃなくて普通にネット回線使用テストとか、ヤバいじゃなくて通信速度が上がらない、って言ってくれればいいのになあ」

加蓮「いやそれ、2人は言えないと思う」

凛「うん、そうだね……」

渋谷母「?」

渋谷父「?」
70 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:35:03.27 ID:vD0rqF300
加蓮「まあなんにしても、2人がまた傭兵に戻るんじゃなくて良かったよね」

凛「うん。安心したよ」

奈緒「……そうじゃないだろ」

加蓮「え?」

奈緒「そういうことじゃないだろ……」

凛「どうしたの? 奈緒」

奈緒「夜の封神演義仙界大戦じゃなかったのかよおおおぉぉぉーーーっっっ!!!」

渋谷父「?」

渋谷母「?」

加蓮「?」

凛「?」
71 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:35:32.21 ID:vD0rqF300
渋谷母「まあもうわかっちゃったなら、一緒に配信どう? 3人とも」

渋谷父「そうだな。謎の美少女ゲストということで」

加蓮「え? うーん、ちょっと面白そう……かな」

凛「お父さんとお母さんがどんなことしてるのか、興味あるし」

奈緒「あ、あたしも大戦に興味あったんだ。実は」

渋谷母「じゃあテストプレイも終わったし」

渋谷父「配信開始!」
72 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:36:25.27 ID:vD0rqF300
〜翌朝〜


加蓮「いやー、夕べは遅くまで盛り上がっちゃったね」

凛「うん。ゲーム配信ってけっこう楽しいね」

奈緒「ほら、朝食ができたぞ」

加蓮「うわ、美味しそうなモーニングディッシュ」

凛「朝のスパムの匂いは格別だね」

奈緒「凛、お父さんとお母さんは?」

凛「まだ寝てる。夕べあの後もずっと配信してたみたいだから」

加蓮「元気だねー」

奈緒「なんかもう途中から、全然普通に元傭兵って名乗ってたよな」

凛「まあ配信自体が『元傭兵が戦争ゲームやってみた』だからね」

加蓮「変に隠し事とか気づかないふりとかより、これをきつかけにオープンになっていったらいいんじゃない?」

凛「そうだね。だから、2人には感謝してるよ」
73 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:36:57.64 ID:vD0rqF300
奈緒「それはいいけど、将来大変なんじゃないのか?」

凛「え?」

加蓮「そうだよー♪ ほら、プロデューサーが凛のご両親に挨拶しに来た時とかどうすんのー?」ニヤニヤ

奈緒「そうだぞー。娘さんを下さいって言いに来て、そのご両親が元傭兵とかだったら面食らったり、怖くなって帰っちゃったりしちゃうんじゃないのか?」ニヤニヤ

凛「あー……いや、それは大丈夫じゃないかな」

奈緒「え? なんでだよ?」

加蓮「プロデューサーを信じてるから?」

凛「それもあるけど、そうじゃなくてね」

奈緒「?」

加蓮「?」
74 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:37:28.27 ID:vD0rqF300
凛「実はプロデューサーも、元傭兵なんだ」

奈緒「え!?」

加蓮「え!?」

凛「たぶん」


お わ り
75 : ◆hhWakiPNok [saga]:2021/02/18(木) 16:39:03.31 ID:vD0rqF300
以上で終わりです。おつき合いいただきまして、ありがとうございました。
凛のお父さんとお母さんのビジュアルから思いついたSSでした。

https://i.imgur.com/lVv69Ho.jpg
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/18(木) 18:04:00.46 ID:rpS3grODO
最後、何故わきばやしさん?



つか、スプリングフィールドんとこのUSライフルならM14やで
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/18(木) 22:23:10.27 ID:BM5Jx7E8o
おつー
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/02/19(金) 10:45:46.82 ID:LSeOJaal0
おつおつ。テンポ良すぎて笑いが止まらん腹が痛い。
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