真希波・マリ・イラストリアス「そろそろ可愛い子犬が欲しいにゃん」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 20:29:03.89 ID:yKh6yDi7O
本作品には現在公開中の『シン・エヴァンゲリヲン』に関するネタバレが含まれております。
まだ観ていない方はくれぐれもご注意ください。

それでは以下、本編です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1615548543
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 20:32:03.49 ID:yKh6yDi7O
久しぶりに訪れた両親が暮らすマンションの一室で、僕は父さんと向き合っていた。

父である碇ゲンドウは多忙な人で、話したいことがあると言ってもなかなか時間を取って貰えず、母である碇ユイに頼み込んでなんとか今日この場を設けて貰うことが出来た。

父は今どきマラソン選手でも使わないようなスタイリッシュなサングラスを着用していて、熱心に新聞を読み耽っている。

しかし、よく見るとその新聞は逆さまであり、そのことを指摘するべきかどうか迷うところではあるが、ひとまず触れないでおく。

「父さん」
「なんだ、シンジ。改って」
「実はマリさんと結婚しようと思って……」
「駄目だ」

兼ねてより交際していた真希波・マリ・イラストリアスとの結婚について切り出すと、父は逆さまの新聞紙から顔を上げることもなくきっぱりと切り捨てた。

勝手にしろと言われるものとばかり思っていたので少々面食らってしまったが、はいそうですかと引き下がるわけにはいかない。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 20:34:10.45 ID:yKh6yDi7O
「駄目って、どうしてさ」
「理由はいくつかある。ひとつはマリくんの年齢のことだ。彼女は私の大学時代の同期であり、既に50歳を越えている」
「年齢なんて……そんなの関係ないよ」

たしかに父からしてみれば複雑な心境かも知れないが、それはあくまでも父の問題であって僕には何ら関係のないことだ。

「ならば年齢についてはひとまず置いておこう。今度は私からお前に尋ねたい。シンジ、何故マリくんなんだ。その理由を聞かせろ」
「何故って……僕にはマリさんしか居ないから。僕を愛してくれるのはマリさんだけだ」

マリさんに僕は救われた。彼女が見つけてくれなかったら僕はずっと独りぼっちだった。
彼女だけは僕を探して、迎えに来てくれた。

「シンジ。嘘をつくな」
「僕は嘘なんて……」
「私にはお前の気持ちが手に取るようにわかる。お前はただ単純にマリくんの胸の大きさに惑わされただけだ。目を覚ませ、シンジ」
「やめてよ、父さん!」

なんてことを言うんだこの父親は。
このご時世にそんな発言は許されない。
いくら実の父親だからって、いや実の父親だからこそ許すことは出来ない。頭に来た。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 20:35:38.84 ID:yKh6yDi7O
「父さんに僕の何がわかるって言うのさ!」
「わかる。わかるとも。父親だからな」
「今更、父親面して……!」

カッとなって育児放棄親父に罵詈雑言をぶち撒ける寸前で、母さんが割って入った。

「シンジ。落ち着いて」
「でも母さん!」
「この機会を逃せば、お父さんは何かと理由をつけて半年は捕まらないわよ」

冷静な母の言葉で頭が冷えた。落ち着こう。
ようやく手に入れた機会を無駄にはしたくない。大丈夫。話せばきっとわかってくれる。

「父さん。僕はそんな理由でマリさんと一緒になりたいわけじゃないんだ。僕はただ、彼女と幸せになりたいだけで……わかってよ」
「お前のその気持ちに嘘はないのだろう。しかし、シンジ。私にはどうにも解せない」
「解せないって、何がさ」
「お前とマリくんはこれまでほとんど接点がなかったにも関わらず、何故交際に発展したのか、それがわからない。私が知る限り、ゼーレのシナリオにもそんな展開はなかった」

ゼーレのシナリオってなんだよと、そんな文句を飲み込みつつ、内心面倒臭い父親だと思っていることを顔に出さないようにすることを心がけて、僕は父に懇願した。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 20:37:47.97 ID:yKh6yDi7O
「父さん、頼むから結婚を認めてくれ」
「私はこれでも父親として、お前たちの馴れ初めについては一応把握している。学校の屋上で空挺降下したマリくんとぶつかったのが最初の出会いで、次に再会したのはそれから14年後。再会と言っても初対面も同然の彼女と結婚すると言われても、理解に苦しむ」
「チッ。うるさいな……糞親父」
「シンジ、冷静に」

いけない。つい悪態を吐いてしまった。
父さんは昔から僕を苛つかせる天才だ。
完全にペースを握られている。マズイ。

「いいか、シンジ。そも男女が親密になる過程というのはそんなに単純なものではない。たとえば私とユイの馴れ初めは……」
「父さんと母さんの馴れ初めなんて聞きたくないよ! そんなのどうでもいいだろ!?」
「お前も暴行事件を起こして運命の相手に身元引き取り人となって貰えばわかる筈だ。本当の恋とはそこから始まり、そして真実の愛を知ることになるだろう。私とユイのように」
「どうでもいいって言ってるでしょう!?」

思わずぶん殴って留置場送りになるとこだ。
マリさんに身元を引き取って貰い、そこから父さんと同じ悲惨な人生を歩む寸前だった。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 20:39:16.33 ID:yKh6yDi7O
「僕にはマリさんしか居ないんだよ! イケメンスケに撫でポのアスカは心神喪失状態の僕の口にレーションを無理矢理詰め込んできて危うく窒息死寸前だったし、綾波のそっくりさんは村に馴染んで人間らしくなってきたと思ったら目の前で水風船みたいに弾け飛んじゃうし、リア充トウジの妹のサクラちゃんは口より先に手が出やすいどころか衝動的に銃をぶっ放すヤンデレ気質だったし、ミサトさんは責務を全うして加持さんのところに逝っちゃったし、だから僕にはもうマリさんしか居ないんだ!!」
「喚くな。現実などそんなものだ。いい加減大人になれ、シンジ。でなければ帰れ」

言わせておけば。しかし、ぐっと堪える。
大人になるとはつまり、我慢を覚えること。
如何なる理不尽も受け流せることを、この大人気ない父親に理解させなければならない。

「父さん。マリさんは良い人だよ」
「ああ、知っている」
「だから、何も心配はいらないよ」

この男にほんの僅かでも父親としての自覚があるならば、これまでの発言の中には息子に対する心配があって然るべき。その筈だ。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 20:41:11.08 ID:yKh6yDi7O
「父さんは僕が一時の感情に流されて結婚しようと思っていると誤解して、だから心配してくれたんだよね? 大丈夫だよ、安心して」
「本当に胸に目が眩んだわけではないのか? 違うと、母さんの前ではっきり言えるか?」
「しつこいな……もう黙れよ」

ああ、苛々する。なんなんだこの親父は。

「あなた、シンジを信じてあげましょうよ」
「しかし、母さん。胸の大きさで結婚相手を決めようとしている息子の目を覚ましてやるのは父親の務めだ。私だって、もしも相手が胸の小さな女性ならば反対はしなかった」
「それは間接的に私の胸が小さいと?」
「ち、違うぞ、母さん。私はあくまでも、母さんくらいの胸の大きさの女性が結婚相手として適切であると考えているだけで……」
「しばらく離れて暮らしましょうか?」
「ま、待ってくれ!? もうどこにも行かないでくれ! 頼むから! ユイ! 行くな!!」

僕に代わって母さんが父さんを懲らしめてくれた。妻の尻に敷かれる、情けない父親だ。

「あの、ちょっと聞いて貰っていいかな?」

そこでこれまで黙っていたマリさんが初めて言葉を発し、その内容に僕は耳を疑った。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 20:43:11.16 ID:yKh6yDi7O
「実はもうお腹に赤ちゃんが居てさ」

!?

「認めて貰えないと困っちゃうんだよね」

空気が凍り、一瞬で溶け、狂乱に包まれた。

「あらあら、そうだったの」
「シンジ! どういうことだ!?」
「知らないよ! 子供も何も僕はまだ童t」

納得した母親と、憤激した父親と、寝耳に水な僕が騒いでいるとマリさんは咳払いして。

「とまあ、てなわけで。これからは義理の娘としてよろしくね、六分儀くん」
「……その呼び方はやめろ」

よほどショックだったのかガックリと肩を落とした父の背中を労わるように撫でる母に優しく微笑まれ促され、僕はマリさんの手を引いて席を立つ。帰り際に、父に一言告げる。

「父さん。子供が産まれたらまた来るから」
「ああ……楽しみに、待っている」

あれほど憎んでいた父に自分の子供を見せるのが待ち遠しいと感じるのは、僕が大人になれた証拠だろうか。悪くない気分だった。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 20:44:54.80 ID:yKh6yDi7O
「それで、マリさん」
「んー? どうかした?」
「さっきのどういうこと?」
「ふふーん。だぁって、ああでも言わないと認めてくれそうになかったじゃん」

帰り道、爆弾発言について尋ねると、やはりあれは彼女の口から出まかせだったらしい。
それはそうだ。僕はこれまで子供が出来るような行為を彼女としたことはないのだから。

「ユイさんにはバレてたみたいだけどね」
「母さん、やけに落ち着いたもんな」
「でもまさかゲンドウくんがあんなに喜ぶとはねぇ。やっぱり孫は可愛いみたいね」

あれは喜んでいたのか。分かりづらい人だ。

「まさか父さんが僕の結婚に反対するなんて思わなかったから、かなり焦ったよ」
「洒落臭かったけど、やっぱりなんだかんだ愛されてるってことなんじゃないの?」
「そうなのかな」

逆説的に、なんとも思っていなかったら反対なんてしないのは理解出来るけれど。
単に僕を困らせたかっただけのような気が。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 20:46:10.64 ID:yKh6yDi7O
「ところでさ、ワンコくん」
「そのワンコくんって呼び方やめてよ」
「今晩は犬っころみたいになって欲しいな」
「は? それはどういう……?」
「嘘を真に変えようってこと」

思わず立ち止まると、マリさんが顔を寄せ。

「そろそろ可愛い子犬が欲しいにゃん」

そう囁かれた僕の顔はたぶん真っ赤で、マリさんはクスクス笑いながら、いつものようにくんくん僕の臭いを嗅いで、ふと気づく。

「おや? ワンコくん、うんち臭いよ?」
「だ、だって……マリさんが子供出来たとか言うから、びっくりして、それで、つい」
「フハッ!」

やれやれ。敵わないな、マリさんには。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

理不尽に耐えることが大人になるということならば、この哄笑も耐え切ってみせよう。
マリさんの笑顔を見ているとポカポカする。
ついでにお尻もポカポカして、愉快だった。

父さん。僕はこの気持ちが、愛だと思うよ。


【シン*エヴァン下痢ヲン】


終劇
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/12(金) 21:37:34.25 ID:gAXroOxEO
最後の最後に何しとんねんこのお漏らシンジは…
と思ってたら書いたのお前さんかい!
面白かったよ乙!
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 21:59:03.32 ID:yKh6yDi7O
>>11
楽しんで頂けたようで何よりです
マリは個人的に大好きなキャラクターなので、今回の映画の終わり方はとても嬉しかったです
最後までお読み下さり、ありがとうございました!
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/12(金) 23:31:57.69 ID:MLvoArrv0
劇場公開もされて久々のエヴァSSと思ってきてみたら...
ハルヒとかじゃなかったから油断してたよww
危うくパンツ脱ぐところだったぜ乙
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/12(金) 23:49:03.46 ID:NqoZ5H3O0
面白かったです。

一つ訂正を入れるなら新劇はゲンドウの苗字が碇でユイの苗字が綾波です。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/12(金) 23:53:38.61 ID:yKh6yDi7O
>>14
それは知りませんでした
教えて頂き、ありがとうございます
勉強不足で申し訳ありません

お読み下さり、ありがとうございました!
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/13(土) 07:22:12.21 ID:AvaacRweO
旬の映画のSSで結構面白いのに、まだまとめていない
本当にエレ速はここの支援をしているのか・・・?
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/14(日) 01:43:22.76 ID:SDgAPyfB0
ゲンドウが良いお父さんで安心した・・・

自分の葬式より義娘の葬式早く出すとか嫌だもんなww
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/15(月) 22:44:42.61 ID:jM1oU60X0
お前だったのか
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/16(火) 21:16:01.59 ID:kg0DQ1+/O
おまけ

『おう、サクラ! 今日うちのクラスに来た転校生が例のロボットのパイロットでな、一発どついてやったわ!』

思い返せば、碇シンジさんのことを身近に感じたのは、小学校の時に町を襲った使徒とエヴァとの戦闘に巻き込まれ怪我をして、兄がその報復として彼を殴ったことを誇らしげに報告して来たその日やったなぁ。

『なんでそんなアホなことしたん!?』

ウチのためにやったってことはわかるけど、別にそんなことを頼んだわけやないし。
たしかに怪我をして兄に心配をかけたのは事実やけど、あのロボットが居なければウチも兄もお父ちゃんもみんな死んでいたし。

そんなこともわからない兄を厳しく叱った。

『ちゃんと謝って仲直りせなあかん!』
『ワシは絶対に謝らへんで! 可愛い妹を傷もんにしたあいつを、ワシはどうしても殴らないかんかったんや!』

兄は直情的な人で、こうだと思ったらなかなか考えを曲げない人やったけど、それでもそれからしばらくして頬を腫らしてパイロットの人と仲直りしてきたと報告しにきた。

『すまんな、サクラ。ワシはあいつのことを誤解しとったみたいや。ちゃんと謝って、バカなワシを殴って貰うたから心配すんな』

謝罪だけでは気が済まず、パイロットの人に殴り返して貰ったと聞いた時には呆れたけど、いかにも兄らしいし、仲直り出来たことが素直に嬉しくて、そのパイロットの人にいつか会ってみたいなとその時思った。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/16(火) 21:21:14.57 ID:kg0DQ1+/O
『鈴原って……トウジの?』
『あ、はい。妹のサクラです。お兄ちゃんがお世話になりました』
『妹? お姉さんじゃなくて?』

パイロットの人と初めて会ったのはそれから14年後。気づけばその人よりもウチのほうが歳上になっとっておかしな気分やったなぁ。

『エヴァにだけは乗らんといてくださいよ』

その人の監視の任務に就いたウチは、口を酸っぱくしてエヴァには乗るなと繰り返した。

彼がエヴァに乗れば、みんなが不幸になる。
死ぬ思いをして、辛い思いをして、どれだけみんなのために戦い続けても結局、碇さんは報われない。全てを救うことは、出来ない。

今はまだ知らないけれど、いつか自らが引き起こしたニアサーの結末を知れば、きっと彼は自責の念に駆られてその罪を償おうとするだろう。しかしそれはもう、誰も望まない。

彼が何かをすればまた彼に責任が発生する。
何もかもを碇さんのせいにすれば楽だから。
でもウチは違うと思う。ウチだけじゃなく、元NERV関係者の人や碇さんの知り合いはみんな同じ気持ちやと思う。もう誰かのせいにはしたくないんや。

それでも結局、また碇さんはエヴァに乗り、傷ついてボロボロになって、歯を食いしばって乗り越えて、そして、戻って来てくれた。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/16(火) 21:23:11.85 ID:kg0DQ1+/O
『あれだけエヴァにだけは乗らんでくださいって言うたのに、エヴァに乗りくさって! アホ! アホ! 碇さんのアホー!!』

気づけば彼を殴っていて、その時にウチはお兄ちゃんの妹なんやなって実感した。
殴らへんと気が済まない。兄と同じ思いだ。

「ええですか、碇さん。発砲許可が出てますんで、今度またエヴァに乗ったら、ウチがあんたのお尻に風穴空けたりますからね!!」
「フハッ!」
「なにわろてんねん! このドアホ!!」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

夫婦漫才みたいなやりとりをして溜飲を下げてから、碇さんの監視任務をアスカさんに引き継いで、その際に兄からの手紙を受け取った。中身はウチに対する心配と、それから。

『ワシの取り越し苦労やったらそれでええんやけど……サクラ。シンジのことだけは好きになったらあかんで。そしたらワシはまた、あいつのことを殴らないかんくなるからな。

ほな、シンジのこと、頼むで』

的確な忠告は、時既に遅く、ウチは泣いた。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/16(火) 21:25:20.67 ID:kg0DQ1+/O
『碇シンジはエヴァには乗りません!! 碇さんはエヴァに乗って、みんなを不幸にして、自分自身も不幸になったんや! だからもう、碇さんはエヴァには乗らんのです!!」

そして今、自分の思いの全てを吐き出した。
エヴァに乗り、今度こそ世界を救うと決意した彼に銃を突きつけて、ウチは必死に碇さんのことを守ろうとした。

「痛いですけど、エヴァに乗るよりはマシですから、我慢してください」

我ながら無茶苦茶なことを言ってると思う。
けれどもう、ウチにはそうするしかない。
碇さんを好きになったウチにはもう、こうして引き留める以外選択肢はなかったんや。

碇さんがいなければ、とっくの昔にウチらはみんな仲良く滅んでいて、そしたらきっと誰も誰かを恨むことはなかった。それでいい。

みんな仲良く、滅んでしまえば、それで。

『シンジのこと、頼むで』

お兄ちゃん。ウチは精一杯努力しとる。
碇さんを引き留める方法はこれしない。
でもきっと、今ウチがしてることを兄が知れば、きっと悲しむだろう。泣くだろう。
ウチだって泣きたい。どうしようもない。

銃を撃った。

葛城艦長が庇って、負傷した。

ウチに出来ることは、ここまでやった。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/16(火) 21:26:57.05 ID:kg0DQ1+/O
「彼の行動による全責任は、私が負います」

葛城艦長にそう宣言されては打つ手はない。
葛城艦長に怪我をさせてしまった手前、ウチにはもう何も言えんかった。ウチは無力や。

「間に合った! 行こう! ワンコくん!」

エヴァ8号機が現れ、彼を連れ去っていく。

碇さんが今度こそ世界を救ってくれれば、ウチも、みんなも、そしてお兄ちゃんも奥さんも赤ちゃんも、滅ばずに済むかもしれない。

「せやけど、ウチは……!」

でもたぶん、碇さんとはもう二度と会えないような気がして、それが辛くて、悲しくて。

「ほんま……勘弁して欲しいわ」

兄が何故、碇さんを好きになるなと言ったのかがよくわかった。これは本当にしんどい。
しんどいと思える恋が出来て、嬉しかった。

「もしもウチのところに帰ってきたら、そん時はお兄ちゃんにどついて貰いますからね」

遠ざかる碇さんの背に愚痴を溢し、ウチはさっぱりした気分で世界の行く末を見つめる。
ここからどう転んでも、この世紀末の赤い世界はもう終わりで、新しい新世紀が始まる。

耳を澄ませば、ほらすぐそこに。


【鈴の福音】


FIN
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/17(水) 17:56:28.61 ID:RWyn/aiPO
乙です
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/29(月) 13:35:40.91 ID:Pql3TYuxO
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