狐娘「妾は老いることも死ぬこともないケモノじゃ」

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154 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:18:05.85 ID:UgQBOwmV0
ーーーーーーー



ゴォォ

ボワッ!



男「うぅ…!」

幼狐娘「おいっ」

男「だ、大丈夫、ちょっと煙吸っちゃっただけ」

男(火の回りが早い……全部木だからかな…?)

男(…いや、変な油の臭いがする。奴らが火をつけて回ってるんだ…)

男「ゲホッ、ゲホッ……ね、玄関以外の出口って分かる?」

幼狐娘「分からぬ。わらわもここへ入ったのは初めてじゃ…」

男「玄関ならこの先なんだよね?」

幼狐娘「うむ。だが…」



(燃え盛る炎)



男(…こんなの、下で燃えてる木片さえどかしちゃえば)

男「」ドカッ!

男「〜〜痛った…!」

幼狐娘「な、何をしとるか。この程度の火などわらわで治められるっ」

シュウゥ...

男「ごめん、ありがとう」ハハ...

幼狐娘「……」
155 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:18:45.27 ID:UgQBOwmV0



バキッ、ズシンッ!

「おい居たか!?」

「はずれだ!こっちは空だ!」



男「急ごう」

幼狐娘「あぁ」

タッタッタッ



――、――!



幼狐娘「」ピタッ

男「おっ、と…狐娘さん?」

幼狐娘「…母様の声」

男「え?」

幼狐娘「母様じゃ。まだ無事だったんじゃ…!」ダッ

男「あっ!ダメだよ勝手に行っちゃ!」

タッタッタッ

男「待って!止まって!危ないよ!!」タッタッ

幼狐娘「」タタタッ

男(聞こえてないみたいだ。くそっ、今出会い頭に奴らに見つかりでもしたらひとたまりもない…!)

男(! 向こうに開けた場所が見える。中庭…?そうじゃない、そんなのどうでもいい。狐娘さんが向かってる先がまずい。あんなの自分から捕まりに行くようなものだ)

男(くっ、そぉ…!)
156 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:19:21.78 ID:UgQBOwmV0

タッタッタッ――

幼狐娘「母さ――ぐむっ!?」

男「」ヒシッ!

幼狐娘「ん!んー!」

グイ、グイッ

幼狐娘「ぷはっ…!離さぬかっ!」

男「しっ!よく見て」



「「「……」」」



男「人がいっぱいいる」

幼狐娘「だが、母様が…!」



「てめぇが女王だ?」

狐娘母「そうさ。妾では不服かえ?」ククッ

「ぎっひひ。結構な上玉じゃんのぉ」

狐娘母「其方らの目的は妾なのだろう?さぁ悲願は叶ったよ、妾は逃げも隠れもしない。この不毛な略奪から手を引いておくれ」



幼狐娘「母様…何を…?」


157 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:20:34.20 ID:UgQBOwmV0



「なぁ、あんたが本当に不死身の女王様だってんなら」

「――首を落としても死なんよなぁ?」



男(…嘘だろ、あいつらまさか…)



「おい」

「待ってました待ってました待ってましたよぉ。女の首を刎ねる機会なんざ一生に一度あればいいと思っとったが!」

「さて女王様よ。御身の証明のため、こいつの欲望のため」

「一遍殺されてくれや」

狐娘母「……」

狐娘母「やってみるがいいさ」フッ



幼狐娘「ゃ……」

男「っ…」(目を逸らす)





――ザシュッ





...ゴトッ




158 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:22:02.30 ID:UgQBOwmV0

「嗚呼…最高だぁ…」

「けっ、こいつただのケモノか」

「まだ分からんぞ。数刻後に息を吹き返すかもな」

「おいお前、これを見ていろ」



狐娘母「」



幼狐娘「……………」

男(………)



ーーーーー

男父「」

男母「」

ーーーーー



男「……」ギリッ

男「…狐娘さん」

幼狐娘「……母、様……」フラ...

男「狐娘さん…!」ギュ

幼狐娘「…手を離せ」

男「……」

幼狐娘「奴ら共々、殺すぞ」

男「命を張ってでも止めるよ」

幼狐娘「っっ!」
159 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:22:42.01 ID:UgQBOwmV0

男「だって、死にに行こうとしてるでしょ」

幼狐娘「…わらわは死なん」

男「生き返るとしても、捕まっちゃう」

幼狐娘「……母様の元に……行きたい……」

男「……よく聞いて」

男「お母さんは最後、君を逃がそうとしてくれてた。気持ちは痛いほど、苦しいほど分かるよ。でも僕らがいったところで同じように殺されてしまう。頼む、君が見つかったら本当におしまいなんだ…!」

男「逃げよう、お母さんのためにも」

幼狐娘「………」




160 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:23:22.27 ID:UgQBOwmV0
ーーーーーーー

タッタッタッ

男「はぁ…はぁ…」タッタッ

幼狐娘「は……は……」タッタッ

男(人を見かける回数は減ったけど、火の手は確実に広がってる)

男(さっきから回り道ばっかりさせられてるせいで方向感覚も分からなくなってくる。もうすぐ玄関のはずなのに。もしかして僕たち、ぐるぐる同じところ回ってやしないよね…?)

幼狐娘「あ…!」

ズテッ

男「大丈夫!?」

幼狐娘「…気にするでない、行くぞ」ハァ..ハァ..

ミュルミュル

男(擦り傷が塞がっていく…。そうだ、不老不死なんて言っても怪我をしないわけじゃない。傷は治っても痛みは感じるし、心は消耗する)

幼狐娘「はっ……はっ……」タッタッ

男(そして心に刻まれた傷は)

男(どれだけの時間が経っても…)

男「…!」

男「玄関口だ、見えてきた!」
161 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:24:38.16 ID:UgQBOwmV0



ボォォ!



男(す、すごい火…燃えてないところを探す方が難しいくらい)

男(おかげで人の姿が見えないのが不幸中の幸いだ。あとはここから誰にも見られず出ていけば)

男「狐娘さん、あそこの火を少しだけ弱め……」



「見つかったんか!?」

「いんやまだだ!何匹か殺ったが全部違ったらしい!」



男(――! 玄関の外から…。よく目を凝らせば、今にも焼け落ちそうな戸の向こうに人だかりが見える)

男(それはそうか、狐娘さんがいると分かってる建物だ。総出でここを監視しててもおかしくはない)

男(……ここまで来たのに……!)

幼狐娘「はぁ…はぁ…」

男「もう少し、こっちに」

幼狐娘「はぁ…」ソッ...

男(ひどく疲れ切った顔)

男(僕はこの子がどんな様子かも気付かないでこの子の力を頼ろうとしたのか)

男(……考えろ、考えるんだ)
162 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:25:07.50 ID:UgQBOwmV0

男「………」

男(火にまみれた屋敷)

男「………」

男(四面楚歌の人だかり)

男「………」

男(……どうすればこの子を……)

男「……………?」

男(油の臭いだ。また奴らが撒いたのか…?)

男「…ん」

男(違う。あっちの部屋からだ。あそこはまだ燃えてない。となるとあの部屋の…)

男(…壺?例えばあの中が全部油だったり…)

男(やばいやばい、だとしたらこんなとこすぐに離れないと危な)

男(……いいや)

男(一か八か)

男「ねぇ、まだ走れる?」

幼狐娘「……」コク

男「うん」

男「いいかい?今から僕の言う通りにしてくれ」



.........




163 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:26:59.87 ID:UgQBOwmV0



ゴォォ...

パチ、パチ



「なぁそろそろ焼け落ちちまうぞ」

「そうだな。こりゃやっぱ」

「見ろ!誰か出てくる!」




男「女王を捕らえたぞ!」

幼狐娘「……」



「おぉあれが!」

「美しい…本当にこの世の生き物か?」

「でかした!早う連れてこい!」



男「あぁ!今行――」

幼狐娘「」グイッ!

男「! こら、暴れるなっ!」

男「誰か、手を貸してくれ!」



「てぇへんだ!」ダッ

「腕を折れ!大人しくさせろ!」ダッ
164 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:27:33.49 ID:UgQBOwmV0





ブワァ!





「おわぁ!」

「あちぃっ!」

「な、なんてこった」



パチッ、バチッ

ドシィン!



「…火に飲まれちまった…」

「ひ、引きずり出さねぇと」

「「「……」」」

「何しけた面してやがる。むしろ好都合じゃねぇか。女王は死なねぇんだ、火が消えてから引っ張り出しゃいいだろうが」

「男の方はどうでもいい。おら、ボーッと突っ立ってんなら水でも持ってこい!」




165 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:28:10.80 ID:UgQBOwmV0
ーーーーーーー

タッタッタッ

男(なんとか上手くいった)

男(狐娘さんの姿を晒してから、予め撒いておいた油に引火させて僕たちが火に巻かれたように見せる)

男(言葉にすれば簡単だけど、下手すれば二人とも本当に死んでいた)

男(成功したのはこの子が僕の意図を正確に汲んでくれたから。僕を信じてくれたから)

男(さっきの騒ぎで向こうへ人が流れていれば多分…)

男「……」



..ザッ..ザッ



男(……思った通り、裏口に人影は見当たらない)

男「」ソー...

男(戸口の向こうにも、誰もいない)

幼狐娘「は……ケホッ…」

男「立てる?」

(肩を貸す)

幼狐娘「……なぜ……しは……」

男「? どうしたの?」

幼狐娘「…何でもない」

男「もう少しだからね」



ザッザッザッ...




166 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:28:41.81 ID:UgQBOwmV0
ーーー森の高台ーーー

男「はぁ……ふぅ……」

男「ここまで来れば、平気かな」

幼狐娘「……」

男「……すー……はー……」

男「…僕たち、生きてるんだよね」

幼狐娘「……」

男(狐娘さんも、こうして助け出すことができた)

男「……よかった」

ガクッ

男「っとと」

男(膝が笑ってる。全部終わったんだって思ったら、一気に体が重くなった気がする)

男(はは…もう動きたくないや)

幼狐娘「……」

男「狐娘さん?」

幼狐娘「………」



(眼下で燃え盛る小さな村)



幼狐娘「……燃えていく……村が……皆が……」

幼狐娘「母様が……」

男(………)
167 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:30:19.54 ID:UgQBOwmV0

幼狐娘「なぁ…教えてくれぬか、主よ…」

幼狐娘「わらわたちが何をした…?ただ、静かに暮らす事を望んでいた。母様が、人間に害を成したか?」

幼狐娘「奴らは何故、嗤いながら殺す…?」

幼狐娘「あらゆる生命を育てるこの大地で、あらゆる命を奪うお前達人間こそ、本当に居なくなるべきではないのかっ!?」

男「……」



――ポタッ



幼狐娘「!」

男「…ごめんよ…」

男「人間は自分勝手だよね…。自分さえ良ければ、自分が気に入らないから、平気で他人を傷付ける。その他人が自分だったら、なんて想像もしない…」

男「でもね、お願い」

男「人間を恨まないで欲しいんだ」

幼狐娘「っ…抜かすなっ!奴らはわらわたちの全てを奪った…!」

男「僕のことも憎い?」

幼狐娘「そ、れは…」
168 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:30:47.75 ID:UgQBOwmV0

男「許してくれとは言わないよ。けど、どうか恨みに駆られたまま生きないで欲しい」

男「君が擦り減っていく」

男「それに、君に幸せになって欲しいと願ってる人もいるんだよ。君を待つ未来が、少しでも良い時間になってくれるよう、自分勝手に、独りよがりに、願ってる」

幼狐娘「……」

幼狐娘「…お主は、阿呆じゃな…」

男「うん…そうみたい。よく言われる」

幼狐娘「………」

幼狐娘「ならば……わらわの幸せを願うのならば……」

幼狐娘「わらわと共に居ておくれ」

男「…!」

幼狐娘「わらわを…ひとりにしないでくれ…」

男「……」

男(……)

男「…分かった」
169 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:32:08.98 ID:UgQBOwmV0



...スー



男「っ…」

男(意識が……まさか、これで時間切れ…?)

男(最後の会話が守れない約束だなんて……)

男(……いつか………かなら……ず……)



――フッ



幼狐娘「……主……?」

幼狐娘「どこじゃ…?主よ…!」

幼狐娘「返事をせぬかっ!」

幼狐娘「……」

幼狐娘「……」

幼狐娘「………」



幼狐娘「……うそつき……」



=======


170 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:32:48.62 ID:UgQBOwmV0
ーーーーーーー

狐娘「――!」

狐娘(…ここは、妾の神社か)



(散り散りになったお札)



男「」スー..スー..

狐娘「…世話をかけたの」

(そっと頭を撫でる)

狐娘「……お主は」

狐娘「或いは、こうして妾を見つける為にここに迷い込んだのかもしれぬな」

狐娘「律儀な奴よ…」

男「……?」

男「!」バッ

男「狐娘、さん…?」

狐娘「どうした、顔も忘れてしまったか?」

男「…お待たせしました」

狐娘「そうじゃな。一千年は待ったようじゃ」クスッ

男「もう、いなくなりませんから」

狐娘「あぁ」

狐娘「さっき聞いた」
171 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:33:31.17 ID:UgQBOwmV0

二人「……」

狐娘「フフッ、酷い顔だぞ」

男「体、もうなんともないんですか…?」

狐娘「案ずるな。妾が目を覚ました時点でこいつの力は失くなっておる。今はただの紙屑じゃ」

狐娘「主こそ、見栄張って蹴り飛ばした右足は無事か?」

男「あ、あの時は必死だったんです」

狐娘「クククッ…!」

狐娘「…のう主よ、同じ事を問うてもよいかの」

狐娘「主は何故、妾と関わろうとする?」

狐娘「話がしたいという動機だけで己が人生をさえ賭するのはさすがに釣り合っておらぬじゃろう。主を突き動かすその原動力が、妾は気になる」

狐娘「…否、ちと違うな」

狐娘「お主にとって、妾とは何じゃ」

狐娘「答え合わせをさせとくれ、数奇者」

男「……」

男(……僕にとっての狐娘さん……)

男「そう、ですね」

男(なんて口ごもってみたけど、答えははっきりしてる)

男(僕がこの人の元を訪れる理由)

男(初めてこの人を見かけた次の日、性懲りもなく神社に足を運んだのも、どれをあげれば喜ぶ顔が見られるか考えながらお菓子を選んだのも、自分勝手にこの人を幸せにしてあげたいと思ったのも)

男(みんな同じ。男の子が女の子のために頑張れる理由なんて一つしかない)

男(…やっぱりずるい。狐娘さんはそれを分かって、待ってるんだ)

男「僕が言ったら狐娘さんも教えてくださいよ」

男「僕は……あなたが」





装束女「お取込み中ごめんねぇ?」




172 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:34:25.48 ID:UgQBOwmV0

男・狐娘「「!」」

装束男「…チッ、さっさと仕掛けるべきだった」

装束女「なんだい、じゃあほんとにくっちゃべってただけか」

狐娘「…貴様ら…」

装束女「あれ?なんでって顔してる?気付いてなかったんだ、あんたの人払いとっくに切れてんの」アハハ

装束女「てっきりうなされてると踏んで来たのに起きてっからさ〜。無駄に警戒しちったじゃん」

装束女「面白いねぇどうやって剥がした?」

狐娘「」サッ――

装束女「おっと動くな」シャッ

(吹き矢を構える)

装束女「あたしはこいつより吹くのが上手い。現代兵器たるピストル様にゃ劣るが、この距離ならまず外さない」

装束女「はい次、お前の見せ場ね」

装束男「……交渉だ」

装束男「大人しく俺達に付いてくるなら、その男は逃がしてやろう。我々にとっても、お前が協力的な態度を見せてくれるのであればそれが最も楽だからな」

装束男「従わなければ男は殺す。お前にも今後身体的自由は無いと思え」

狐娘「…それで交渉のつもりか。笑わせてくれる」

装束女「あんたご自分の立場理解してる〜?こーんな仏様の慈悲をかけてやってんだ。地べたに額こすり付けて100万回感謝ぐらいしろよ」
173 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:36:21.41 ID:UgQBOwmV0

男(やっぱりこの人たち……。どうする……ただ狐娘さんの足枷になるだけ…なんて冗談じゃない)

男(刺されてもいい、一瞬だけでも、こいつらの気を逸らせれば狐娘さんの逃げる隙くらいは)

装束男「早く選べ」

男「…狐娘さん、僕…」

狐娘「黙っておれ、今考えとる」ボソッ

装束男「……」

狐娘「……」

男(……狐娘さん……)

装束女「……飽きた。終了ー」

装束女「あたし待つって行為嫌いなんよね」

装束男「下らん茶番だったな」

装束女「さーて、いい声で啼いてちょうだいねぇ♪」

狐娘「っ…」

タタタッ

装束男「…!?」





幼馴染「」ブンッ!





装束女「がっ…!」バキッ!

男「ね、姉さんっ」
174 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:38:17.49 ID:UgQBOwmV0

幼馴染「男に何しようとしてたの?」

装束女「…痛いなぁ…♪」

装束男「小娘…!面倒だな」

狐娘「――今じゃ走れ」ダッ

男「え…あっ!」...ダッ

装束男「!」

幼馴染「待って!男っ!!」

装束男「おい、娘の始末は後だ!」

装束女「どっち向いてんのさ」グッ...!

幼馴染「邪魔っ!」

装束女「いいねぇその顔…。ヤる?」イヒッ

装束男「肝心な時に…!」

(吹き矢を拾い上げる)

装束男「逃がしてなるものか」シャッ



シュッ



男「! 危ないっ!」ドン

狐娘「っ!」ヨロ...



――プスン


175 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/10(木) 19:39:25.44 ID:UgQBOwmV0

男「っ……がぁ゙あ゙あ゙…!」

幼馴染「!!?何してるのよっ!!」

幼馴染「嫌…男ぉ!!」ダッ

狐娘「…お主…」

男「い゙、ぁ゙……に…逃げて…!」

狐娘「!っ…」

男「は…や゙ぐっ……!!」

狐娘「」ダッ!

装束男「おのれ愚図共がっ!」ダッ!



.........




176 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/06/10(木) 19:41:18.40 ID:UgQBOwmV0
今回はここまでです。
次回の投下で完結します。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/10(木) 22:13:41.81 ID:eA9zzMEO0
なんで無意味に小出しするんだろ?
寸止めして愉悦に浸りたいんかな
その気になれば一時間足らずで書き出せる内容をチマチマ書き込むとか性格の悪さが滲み出てるよな
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/10(木) 22:47:08.88 ID:gvfQ3u2DO
おつ
投下するのも疲れるんだよなあ…
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/13(日) 16:38:55.27 ID:V5K6hS7So
乙乙
待ってます
180 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 01:53:11.99 ID:ZPgdfMxA0
こんな時間ですが、投下していきます。
181 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 01:54:11.30 ID:ZPgdfMxA0
ーーー病院ーーー

幼馴染「……」

叔母「……」

幼馴染「……、」カツ..カツ..

叔母「……」

幼馴染「…っ…」カッ、カッ

叔母「…幼、少し落ち着きなさい」

幼馴染「は…?落ち着けるわけないじゃない、男がどうなるかも分かんないのに!叔母さんにとっちゃどうでもいい他人かもしれないけどさ、私は叔母さんよりずっと――」

叔母「幼」

幼馴染「っ」

叔母「静かに。あんたが騒いだら男くんは良くなる?」

叔母「それにね、私が何年あの子を育ててきたと思ってるの。赤の他人じゃないわよ」

幼馴染「……ごめんなさい」

コツコツ

看護師「男さんの身内の方ですか?」

幼馴染「!」

看護師「先生がお呼びです」




182 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 01:56:12.84 ID:ZPgdfMxA0

医師「……厳しい状況にあります」

叔母「……」

医師「これでも色々な事例を担当してきたのですがね、彼を蝕む毒は今のところ全く未知のもので、データベースへの照会では判明に至っておりません」

医師「その道の権威にも助力を仰いでいます。現在は対症療法で苦痛を和らげてはおりますが…毒の回りが早いようでして」

幼馴染「男は、助かるの?」

医師「正直に申し上げてしまいますと……回復される可能性の方が、低いかと」

叔母「そう…ですか…」

幼馴染「……あいつらを見つけないと」

幼馴染「見つけて引っ張り出して、解毒の方法聞けばいいんだよね」

医師「それだけはおやめ下さい」

医師「警察も言っていましたが、奇妙な恰好に加えて今回の事件、その人物が危険思想を持つテロリストの疑いもあります。彼らのことはプロである警察に任せましょう」

幼馴染「……」ギリ...

医師「私共も手を尽くします。どうか吉報を、お待ち下さい」




183 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 01:56:43.57 ID:ZPgdfMxA0
ーーーーーーー



……………



真っ暗だ。
ここはどこだろう。



……………



体を動かしてる実感がない。それどころか体も見えない。
――死後の世界?



白猫「半分です」



あ…覚えてる。狐娘さんを助けてくれた猫さん。
半分って?



白猫「助けたのは貴方ですよ」

白猫「貴方はまだ生きています。ですがもう間も無く、確実に死に至る」



…そっか。
教えてください、狐娘さんは無事なんですか?



白猫「貴方の提示した"無事"が、追跡者から逃れる事が出来たという意味であれば、肯定します」



よかった。
それが一番気がかりだったから。


184 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 01:57:25.95 ID:ZPgdfMxA0



白猫「……」



欲を言えば姉さんとも話したかったな。怖くなって逃げちゃって、ちゃんと向き合ってあげられなかった。



白猫「貴方は可哀想な人間です」



僕が?



白猫「貴方は死ななくてもよい人間でした。それが、たった一度、不要な寄り道をしたせいで呆気なく崩れ去ってしまった」

白猫「貴方は可哀想な人間です」



狐娘さんの方が、ずっと可哀想だよ。
だってあの人は死ぬこともできない、これまでもそしてこれからもまた一人きりで過ごしていかなきゃならないんだから。
せめてさ、僕が生きていられる間くらいは一緒にいたかったよ。
あぁ、それも心残りだなぁ。



白猫「あの子をひとりにしたくないと?」



うん。
そう、約束したんだ。
結局守ってあげられなかったけどさ…。



白猫「その望み、叶うとしたら?」



え?



白猫「貴方を包むあの子の影がその資格足り得る」

白猫「但し――」




185 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 01:58:08.81 ID:ZPgdfMxA0
ーーーーーーー

幼馴染「……」

幼馴染「……私が……もっと……れば……」

叔母「…幼、そろそろ帰るわよ」

幼馴染「男……」

叔母「病院、もう閉まっちゃうって。また明日の朝来ましょう。私も付き添うわ」

幼馴染(……私が、あの時部屋に鍵を掛けてれば、止められた)

幼馴染(男が電話で言ってた人工林の神社のことを、もっと詳しく訊いていれば)

幼馴染(図書館で勉強なんていう嘘をもっと強く咎めていれば)

幼馴染(男を、もっと早く繋ぎ止めておけば)

幼馴染(こんなことにはなってなかった)

叔母「ねぇ幼、最近あんたあんまり元気がなかったわよね。昨日、事件の起こる前もちょっと様子が変だった」

叔母「おかしな二人組が男くんを襲ったって言ってたけど、本当は幼も何かされてたんじゃなくて?私、あんたなら平気だとたかを括って何もしてあげられなかったわ。昨日までにあったこと、帰りながらにでも聞かせてくれないかしら」

叔母「あんたのそんな顔、見たくないのよ」

幼馴染「……」

幼馴染「別に、何もないよ」
186 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 01:58:40.22 ID:ZPgdfMxA0



受付「え…!そう」

看護師「それで先生は…」



叔母「? どうしたのかしら」

幼馴染「…帰る前に男に会いたい」

叔母「会いたいって…」

幼馴染「男の病室、少し入るだけならいいでしょ」

幼馴染「すみません」

看護師「! はい、なんでしょう?」

幼馴染「男の顔が見たいです。どこに行けば会えますか」

看護師「えーと…それは…」

幼馴染「一瞬でいいですから」

看護師「いえ、ご案内すること自体に問題はないのですが…」

幼馴染「じゃあなんですか?」

幼馴染「…もしかして、男に何かあったんですか?」

看護師「……」

幼馴染「教えてっ!男はどうなってるの!死んでないよね!?ねぇ!?」

看護師「わ、分かりません」



看護師「男さんがいなくなったんです」




187 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 01:59:38.17 ID:ZPgdfMxA0
ーーーーーーー

狐娘「……」スッ

狐娘「一先ずはこれでよいか」

狐娘「ここの人除けも一日は保つじゃろう。あまり頻用出来るものでもないが、奴らがどこに潜んでおるか掴めぬ様ではな」

狐娘「…ちと、疲れた」



ーーーーー

男「死ぬのは勿論嫌です。でも、また狐娘さんが一人になるくらいなら…僕の時間をいくらでもあげます」

ーーーーー



狐娘「………」

狐娘「…死にたくはないと、言っておったじゃろう……阿呆……」

狐娘「よりによって妾を庇いおって……妾は死なんのじゃぞ……」

狐娘「………」

狐娘「すまない」

狐娘「こうなる事を予想出来て然るべきであった。俗世と、人との関わりを断つと決めたはずじゃったのにな」

狐娘「主のくれる"時間"に、甘えていた」

狐娘「…本当の阿呆は己という訳じゃ」

狐娘「千年は生きた。然しそれだけ。何一つ賢くなっておらぬではないか」

狐娘「……」ミアゲ



(夜空に浮かぶ小さな月)



狐娘「月見には向かぬ夜じゃ」

狐娘「…そちらに行けば、未来永劫ひとりでいられるかの…」

狐娘「何者との繋がりも無く、静かに、無限の時を揺蕩う……」
188 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:02:13.73 ID:ZPgdfMxA0





男「月にだって、人は来ますよ」





狐娘「………!?」

男「知らないんですか?アポロ11号」

狐娘「……亡霊……か?」

男「生きてますよ。ほら、足があるでしょ」

狐娘「何故ここが……お主、矢に仕込まれていたモノは……」

狐娘(…!)

狐娘「」スクッ

スタスタスタッ

狐娘「主よ、少し我慢しろ」

男「?」

――ピッ

男「いっ!」ツー...



...ニュルリ



男「わ…傷が塞がるのって、ちょっとくすぐったいんですね」

狐娘「おい」

狐娘「これは………どういうことじゃ」

男「……」ポリポリ

男「僕も狐娘さんと同じにならないといけないんだそうです」

男「その、不老不死、ですか」

狐娘「――っ」

男「男なので女王は名乗れませんが」ハハ...
189 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:03:36.88 ID:ZPgdfMxA0

狐娘「……………」



ボゴッ



男「ぐふっ!?」

狐娘「お主は…!何なんじゃ!!何をしておるかっ!?」

男「ちょっと…!」ゴッ

狐娘「妾と同じだと!?お主の頭はそこまで腐ったか!!」

男「やめ」ガッ

狐娘「死なないことがどれ程の苦行か分からぬかっ!?時と共に老いることが、如何に自然で恵まれておるかっ!?」

狐娘「信じられぬ…!正気の沙汰ではない…!」

狐娘「そうまでして……そこまでする程、お主は……」

男「……」

男「言ったじゃないですか。いなくならないって」

狐娘「五月蝿い口を開くな息をするな愚か者が」

男「ひ、ひどい」

狐娘「……妾のせいじゃ……」

狐娘「主を…生命の正しき道から引きずり落とした…」

男「…何が正しいかなんて、自分で決めます」

男「そうなんです、ここまでするほど僕はあなたが好きなんです」

男「人だとかそうじゃないとか関係ない。好きな相手と一緒にいたいって思うのはそんなに愚かなことですか?」

狐娘「………」
190 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:04:23.70 ID:ZPgdfMxA0

狐娘「………」

男「それに、いいと思いませんか。永遠に一緒なんて、ロマンチックな歌詞みたいで」

ボスッ

男「うぐっ」

男「…一応、言い訳もさせてください。僕あのままだったら本当に死んでたんですよ」

狐娘「…素直に死んでおれ」

男「嫌です」

男「いつか言ってましたよね。自分の1年の価値は僕の1分よりも劣るって。それはやっぱりひとりで過ごしているからだと思うんです。何も変わらない時間の中生きていれば、希薄にもなります。そんなの…考えるだけでも恐ろしいですよ」

男「でもあなたがいるから」

男「だから僕は、辛い選択をしたとは欠片も思っていません」

狐娘「……気が触れておる……」

男「そうかもしれません。正直自分がこんなことするなんて、想像もしてませんでした」

男「こんな僕は嫌いですか?」

狐娘「………」

狐娘「いや」

...ギュ

狐娘「嫌いなものか…」

男「……」ギュ
191 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:04:59.30 ID:ZPgdfMxA0

狐娘(こそばゆくて暖かい)

狐娘(情を向けられるこの感覚は、二度と手にすることは無いと思っていた)

狐娘(嗚呼そうであった。思い出してしまったよ)

狐娘(遠い遠い昔、あの悪夢の日より、頑なに他者を遠ざけていたのは――失う事に怯えていたから)

狐娘(妾もお主と同じ、身勝手な生き物じゃ)

狐娘「…ありがとう…」

男「…うん」



.........




192 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:06:03.09 ID:ZPgdfMxA0

男「白神様、ですか」

狐娘「そうじゃ。毛並みの白い猫の姿に、何より命の理を逸脱させ得る存在など、彼の一柱をおいて他におらぬ」

男「それって狐娘さんを不老不死にした…?」

狐娘「うむ。…如何な理由でお主に目をつけておったのじゃろうな。供物が無ければ代価をくれることも無い筈じゃが」

男「おんなじ神様から同じ能力をもらえるなんて、なんか姉弟みたいですね」

狐娘「お主のような兄弟なぞいらん」

男「即答…」

狐娘「…兄弟では嫌じゃ…」

男「はい?」

狐娘「何も」

男「僕も姉弟なんかじゃ、不満です」

狐娘「聞こえているではないかっ」

男「わっ…!暴力反対!」

狐娘「……ふぅ」

狐娘「しかし気の利かぬ男じゃ。布団の一枚でも持ってきていればいいものを。この先暫くは野宿じゃぞ?」

男「せめて買い物くらいしていきませんか?」

狐娘「阿呆。連中に見つかったらどうする。そも、金はあるのか?」

男「…ないです」

狐娘「妾もだ。社に戻れば幾許かの端金は残っておるが」

狐娘「ま、そういうことじゃ。これが主の選んだ道じゃからの、辛抱せえよ?」

男(そう告げる狐娘さんは、言葉の割には嬉しそうで…)

狐娘「さて、どこへ行こうか」

男「! あの、狐娘さん」



男「一箇所どうしても寄りたいところがあるんです」




193 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:06:59.90 ID:ZPgdfMxA0
ーーー真夜中 自室ーーー

幼馴染「……」ジッ

スマホ『01:22』

幼馴染「……」

スマホ『01:22』

幼馴染「……」

スマホ『01:23』

幼馴染(来ない)

幼馴染(まだ見つからないの)

スマホ『01:23』

幼馴染(苛立たしい…何もかも。どうして私と男を引き離そうとするの?)

幼馴染(私は男だけいてくれればいいのに。私から男を盗らないでよ…)

スマホ『01:24』

幼馴染(…やっぱり、私が探しに行かなくちゃ)



コンコン



幼馴染「」バッ

幼馴染(なに…こんな時間に)

幼馴染(もしかしてあいつらが――!)
194 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:07:52.48 ID:ZPgdfMxA0



「姉さん」



幼馴染「!!」

タッタッタッ

シャッ(カーテンを開ける)

男「やっぱり起きてた」

幼馴染「男…!戻ってきてくれたんだ…!」

幼馴染「待ってね、今…」グッ

幼馴染(? 窓が開かない)

男「そのまま聞いて欲しいんだ」

男「僕ね、姉さんがいてくれて本当によかったと思ってるよ。両親がいなくなってから今日までずっと、姉さんに育ててもらったって言えるくらいお世話になってさ」

男「あの事件で姉さんが明かしてくれたことには驚いたし、頭がぐちゃぐちゃになるくらい悩んだけど、それでも姉さんは僕の恩人だから」

男「最後に、お別れだけしておきたくて」

幼馴染「…何言ってるの…?」

男「僕死なない体になったんだよ、すごいでしょ」

幼馴染「ねぇ…」

男「人としての"男"はもういない。だから――」

幼馴染「ねぇってば!」

男「…だから、僕のことはどうか忘れてください」

男「じゃあね」

幼馴染「駄目…行かないで…!」

幼馴染「なんで開かないのよ…!?」ガタ、ガタッ
195 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:08:36.29 ID:ZPgdfMxA0



狐娘「もうよいのか」

男「…はい」



幼馴染(っっ!!)

幼馴染「お前が!」バンッ

幼馴染「お前さえいなければ!」バン、バンッ!

幼馴染「私たちはずっと幸せでいられたのに!!」

幼馴染「男を返してよっ!化け物っ!」

狐娘「……」

狐娘「お主の好いた者は、妾と同様不老不死の化け物となった」

狐娘「こやつも同じようにーー奴らに頼み、処分するか?」

幼馴染「――っ……」



(去り行く二人の背中)



幼馴染「………ぅ………」

幼馴染「ああぁぁ……!」ポロ、ポロ

叔母「幼!すごい音がしたけど何が…」

幼馴染「うぁ…ぁあぁ…!」ポロポロ

叔母「どうしたの!?ねぇ幼…!外に、誰かいたの?」



.........




196 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:09:07.21 ID:ZPgdfMxA0





.........




197 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:09:56.69 ID:ZPgdfMxA0
ーーーーーーー

茶髪「悪い悪い、待たせたな」

角刈「やっと来たか。10分は待ったぞ」

茶髪「最後に雑用押し付けられちまってよ」

眼鏡「課長っすか?なんか今日ずっと目付けられてたっすよね」

茶髪「そ。虫の居所が悪いんだか知らんけど俺ら平に当たるなってんだよ。んで、いつもの居酒屋でいいんだよな?」

角刈「いや今は満席だとさ」

茶髪「えぇ?んだよーなら決めといてくれよ」

眼鏡「茶髪さんなら良い店知ってるんじゃないかって、待ってたんすよ」

茶髪「俺?あー……うし分かった。この前見つけた穴場、連れてってやるよ」

角刈「本当にあんのか」

眼鏡「流石茶髪さん!」



幼馴染「ちょっと、道開けてくれない?」



角刈「!」

茶髪「主任…!すいません」

眼鏡「お疲れ様です…!」

幼馴染「はいお疲れ様」ニコ

角刈「…あの主任!俺らこれから飲みに行くんですけど、よかったら主任もご一緒にどうでしょうか!」

茶髪「お、おい…!」

角刈「主任の仕事の仕方とか、自分憧れてまして、その、お話でも聞かせて頂けたらと!」

幼馴染「私に?」

幼馴染「ふふっ、ありがと。でもごめんなさい、今日も早く帰らないといけないから。いつか機会があればね」



トットットッ


198 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:10:28.70 ID:ZPgdfMxA0

茶髪「……お前、マジか?」

角刈「なんだその目は」

茶髪「や、確かに綺麗な人だけどよ、主任だけは無いべ」

茶髪「あの見た目で男の話の一つも聞かねーし、いつも決まった時間までに帰るからだーれも詳しく話をしたことがない」

茶髪「しかも噂に聞くと、付き合った奴は例外なく謎の失踪を遂げるとか何年も誰かを探し続けてるとか、どう考えてもありゃ地雷案件だろ」

角刈「お前はそんな下らん噂を鵜呑みにしてんのか。いいか、噂なんぞ誰かが面白おかしくする為に広めるデマだ。あの若さで主任だぞ?今まで相当苦労してきたに違いない。だからこそ社会の闇に揉まれ、荒んでしまった彼女をだな」

眼鏡「でも主任ってそろそろ30に…」

角刈「ばかもん!女性は20代後半が最も美しいんじゃ!」

茶髪「はいはいよー分かりやしたよー。じゃ、残りは飲みの席で聞かせてもらいましょーか。ほい行くぞ」

角刈「だーからお前たちは本質がなんも――」



テクテクテク...


199 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:11:00.11 ID:ZPgdfMxA0

男「……」

狐娘「…あまり変わっておらぬようじゃな」

狐娘「容姿も、あやつの執着癖も」

男「もう10年以上経つんですけどね…。僕なんかよりもっと色んなものに目を向けて欲しいです。幸せなんて気付かないだけでそこら辺にたくさんあるんだよって、伝えておけばよかった」

狐娘「お主のお人好し病もいつまで経っても治らぬの」

男「だって人生は短いですから」

狐娘「……そうじゃな」

狐娘「声だけでも、掛けてゆくか?」

男「いえ」

男「それだけは駄目です。絶対に」

狐娘「………」

男「………」

男「行きましょうか」




200 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:12:52.97 ID:ZPgdfMxA0
ーーー人工林 池のほとりーーー

男「おぉ…これですよね?」

狐娘「うむ。間違いない」



(一本の広葉樹)



狐娘「立派なものじゃ」

男「見違えましたね」

狐娘「社があの惨状じゃったからの、半ば諦めておったが…」

男「流石にあいつらも狐娘さんが木を植えるとは思ってないんでしょう」

男「神社が無くなっちゃったのは寂しいですけど、それがきっかけで奴らは捕まって、僕たちがこうして戻ってこれたんです。黙祷の一つでも捧げないといけませんね」

狐娘「元々妾が作った社だがな」

男「じゃあ、狐娘様々で」

狐娘「苦しゅうない。そう畏まらずとも良いぞえ」

男「…クスッ、妙に様になってる」

狐娘「伊達に永く生きとらんからな」フフン

男「そこで得意げになりますか」

狐娘「………」

狐娘「…のう主よ」

狐娘「後悔していないか…?」

男「後悔するくらいなら今ここに立っていませんよ」

狐娘「…!」

狐娘「そうか」
201 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/06/15(火) 02:14:04.34 ID:ZPgdfMxA0



...サァァ



男「また涼しい季節になりますね」

狐娘「うむ」

男「今度は南に、行けるところまで行ってみるのはどうです?」

狐娘「暑いのは苦手なのじゃが」

男「その膨れ上がった尻尾でも整えればマシになりそうですけど」

狐娘「むっ」

狐娘「…主が手入れをしてくれるなら」

男「え、いいんですか?」

狐娘「二度は言わぬ」

男「やりますやります!やらせて下さい是非!」

狐娘「……♪」

男「狐娘さん」

狐娘「な、なんじゃ?別ににやけてなど…」

男「これからもよろしくお願いします」

狐娘「……あぁ」



狐娘「こちらこそじゃ」ニコリ





ー終わりー
202 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/06/15(火) 02:16:06.75 ID:ZPgdfMxA0
以上で完結となります。
遅筆で申し訳ありません。
ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました。
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/17(木) 15:06:09.45 ID:HfIeryKSo
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