小林「あなたは……誰ですか?」トール「……えっ?」【小林さんちのメイドラゴンSS】

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69 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 21:31:40.46 ID:nmTneDWj0
大変遅くなりまして、気付けば2か月近く経ちました。(汗)

再開していこうと思います〜。
70 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 21:33:36.32 ID:nmTneDWj0

【人通りの少ない路地】

ザアアアアアアアア……



トール「ヒグッ…… ヒグッ…… エグッ……」ベソベソ

小林「………………………………………」

トール「グスッ…… グスッ……」スンスン

小林「………………………………………」

トール「スウー…… ハアー…… ――――ふう……」

小林「……落ち着いた?」

トール「……はい。ありがとうございます、小林さん」

小林「そう、良かった」ニコッ

トール「はい。 ……えへへ……♪」

小林「? どうかした?」

トール「いえ、何だか安心してしまって……」フフッ



トール(ああ、さっきまでの不安が嘘の様に、快い心地だ)

トール(小林さんの優しいまなざし。小林さんの嗅ぎ慣れた香り)

トール(そして、小林さんの手のぬくもり……)

トール(私が泣いている間、ずっと無言で手を握ってくれていた)

トール(記憶の有る無しに関わらず、小林さんはやっぱりとっても――)



トール「――ええ、本当に、ありがとうございます、小林さん」ニコッ

小林「な、何だか照れ臭いな…… へへっ、うん、どういたしまして」ニッ

71 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 21:37:05.26 ID:nmTneDWj0

ザアアアア…… ザア…… 

パラパラ…… ピチョンピチョン……



トール「……あ。雨が……」

小林「うん、小降りになってきた。通り雨だったみたいだね、良かった」

トール「……あ、そういえば、小林さんは、どうして私がここに居ると……?」

小林「ん? いやー、ここに居ると分かった訳じゃなくて、君が去ってしまった後、町の中をあちこち探し回ってたというか……」

トール「え、町中を、お一人でですか!?」

小林「いや、一人ではなく、協力してくれた人が…… あ、そうだった」ゴソゴソ

トール「?」

小林「いやね、君を探すのを手伝ってくれてた人がいるから、ここに電話で呼びたいんだけど、いいかな?」

トール「あ、はい。構いませんけど……」

小林「良かった、じゃあちょっと待ってて」カチャ プルルルル……

トール(手伝ってくれてた人? それって一体……)



プルルルル…… プルルルル……

ガチャッ



小林「もしもし? ……うん、彼女見つかったよ。ん、ありがとう。 ……なので合流したいんだけど……
   うん、じゃあ場所伝えるね。えーとここは大通りから――」

トール(親し気で気安い感じ―― むう、相手は誰でしょう……)プウ

小林「――うん、それでそこを曲がった路地。うん、じゃあ待ってるね。気を付けて」ピッ

小林「ごめんね。すぐ来ると思うからちょっと待っててね」

トール「あ、はい……」



………………

72 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 21:40:47.18 ID:nmTneDWj0

【数分後】

トール「……まだですかね?」

小林「多分そろそろ…… おっ?」



???「……〜い ……お〜い、小林さ〜ん!」バシャバシャ



小林「うん、来たみたいだね。お〜い!」

トール「……ん? あの人は……」



滝谷「……いや〜、小林さん、お待たせ〜!」フウフウ

小林「お疲れ〜、急がせちゃったみたいでごめんね」



トール「………………げ」(苦々しげな顔)



滝谷「な〜に、問題ないさ、これくらい」フウ

滝谷「で、その子が探してた子かい? ああ、言ってた通りの美人さんだね。本当に覚えがないの、小林さん?」

小林「いやー、恥ずかしながら……」ポリポリ

トール「…………………………」ブスー

滝谷「では僕も挨拶を、お嬢さん。僕の名前は――」サワヤカー

トール「知ってます。滝谷……さん、でしょう」ハア

滝谷「――へ?」ポカン

小林「あ、滝谷君の事も知ってるんだ」ヘー

トール「はい、まあ…… 一応」

滝谷「え、本当? こりゃ僕も小林さんの事言ってられないな…… 全然覚えがないや、ごめんね?」ペコリ

トール「いえ、別に……」ツーン

滝谷「?」

73 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 21:46:27.39 ID:nmTneDWj0

滝谷「それでその、君の名前は――」

小林「――ん? あ! そう言えば何だかんだ私も名前、聞いてなかった!」

トール「あ、そう言えば……」

小林「やーうっかりしてた。えーじゃあ改めまして…… どうやら知ってる様だけど、一応、私は小林と言います。
   ……君の名前、教えてくれるかい?」

トール「私は…… トールです。トールとお呼び下さい、小林さん」

小林「トール…… トールちゃん、だね」

トール「っ!!」ズッキューン!

トール「も、もう一度! もう一度呼んでもらっていいですか、小林さん!」フスフス

小林「え? う、うん…… トールちゃん?」

トール「〜〜〜〜〜〜!!(ちゃん付けめちゃくちゃ新鮮〜〜♡♡)」ジタバタ

小林「あ、あはは、よろしくトールちゃん……」

トール「はい!! よろしくされましたトール“ちゃん”です!!」ビシッ

滝谷「僕もよろしく、トールちゃん」

トール「あなたは馴れ馴れしく呼ばないで下さい、滝谷さん」ジロッ

滝谷「え? あ、うん、じゃあ、トール君で……(な、何か僕に対して妙に冷たい……)」アハハ……

トール「……まあ、それくらいなら認めましょう、甘んじて」ツーン

小林「え、何? 仲悪いの二人共?」

トール「いーえ、全然♪」ニコーッ

滝谷「いや、僕も覚えはないんだけど……」アハハ……

小林「なら良いけど……」

トール「………………………」ニッコリ ゴゴゴ

滝谷(笑顔なのに凄い圧を感じる…… ヤブヘビっぽいので触れないでおこう……)(汗)

滝谷「……ちなみに、小林さん。トールと言う名前に聞き覚えはある? 僕はないけど」ヒソヒソ(小声)

小林「いんや、私もない」コソコソ(小声)

滝谷「そっか…… 思い付くのは北欧神話の雷神とかだけど……」ヒソヒソ(小声)

トール「あ、そいつとは全く関係ないです」サラッ

滝谷「うおっ、聞こえてた!?」ビクッ

小林「地獄耳だね……!」ビクッ

トール「そ、そんな、小林さん、地獄の様な耳だなんて、照れちゃいます……♡」テレテレ

小林・滝谷((照れるポイントが何かおかしいな……))

74 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 21:50:03.58 ID:nmTneDWj0

滝谷「……さて、合流もした事だし、小林さん」

小林「そうだね。小降りになったとはいえ、雨の中こんな所で立ち話も何だし、急だけど家に行かない? トールちゃん」

トール「家?」

小林「うん、滝谷君のアパートなんだけど……」

トール「え? 滝谷さんのアパートと言うと…… 〇〇町のあのアパートですか?」

滝谷「え!? 家の住所まで知ってるの!?」

小林「え、マジで!?」

トール「あ、はい……」タドタド

小林「はー…… いよいよちょっとした関係じゃ済まなくなってきたねー……」

滝谷「えー……? 家の住所なんて親しい相手にしか教えてないはずだけど、それを忘れてる……?」ブツブツ

トール「あ、あの、何だか、すみませ……」オドオド

小林「ん? あーいや、大丈夫だよ。驚いただけで、特に怪しんでるとかではないから」

滝谷「……うん、そうだね。その辺も含めて、家に行ってから話を聞かせてもらえれば良いさ」

トール「お二人共……」

小林「さあ、行こうか、トールちゃん」スッ(手を差し出す)

トール「……はいっ!」パシッ(手を掴む)

75 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 21:55:11.90 ID:nmTneDWj0

滝谷「――と、その前に」

トール・小林「「?」」

滝谷「トール君、そんなに濡れてちゃ風邪ひいちゃうよ。ほら、タオル持ってきたから使って」スッ

小林「あ、そうだよね!? ああ、そう言えば服もびしょ濡れで…… ごめん、とりあえず今は私の上着だけでも貸して――」ワタワタ

滝谷「いやいや、小林さんも肩とか少し濡れてるじゃない、ほら別のタオル。彼女には僕のコート貸すから――」

トール「あ、いえ。私は大丈夫ですので、お気遣いなく」

小林「え? いやいや何言ってんの! 変に遠慮なんてしなくていいから!」

滝谷「そうだよ、若い女性が体を冷やすなんて――」

トール「いえ、遠慮とかではなく…… あー、いや、そうか……」

トール「……どうせ後で説明が必要な事だし、今見せちゃった方が早いですかね」

小林・滝谷「「?」」

トール「ちょっとお待ちを…… ふん!」



ニョキニョキ!(角) ニョキニョキッ!(翼) ボロン(尻尾)



小林「――――」ポカン

滝谷「――――」ポカン

トール(竜人形態)「……フー、どうですか? 私は実は人ではなくドラゴンなので――」フッフーン

小林「……あーコスプレ? コスプレイヤーさんなのかな?」ポン

滝谷「中々すごい早着替えだね……」フーム

小林「あ、じゃあオタク関係の知り合いなんじゃない? コミケで出会った子とか……」

滝谷「ああ、ありそうだね。でもこんな可愛いコスプレイヤーさんの知り合いを忘れる事は……」

トール「……むう、この姿ではいまいち伝わらないみたいですね…… ならば!」スタスタ

小林「? どしたの、距離を取って?」

トール「そのまま離れてて下さいねー、行きますよー……!」ズズ……

小林「へ?」



ムクムク、ズズズ……!



滝谷「え、いや、ちょ……!?」



ムクムクムク、ズゴゴゴゴ……!



小林・滝谷「「うわわわわわわ!?」」グラグラ



ズズーーーン……!!



トール(竜形態)「………………………」ゴゴゴゴゴ

小林「          」ポカーン

滝谷「          」ポッカーン

76 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 21:59:11.08 ID:nmTneDWj0

トール「………………………」

トール(二人共、唖然としてしまっている。必要な事だったとは言え、やはり怯えさせてしまったかな……)シュン

小林「……はえー…… マジかー……」

滝谷「ドラゴン、いるもんなんだねー、実際……」

トール「へ?」キョトン

小林「あ、ちょっと触ってもいい?」

トール「あ、はい、ど、どうぞ……」

小林「おーこれが鱗、硬くてすべすべ……」ペタペタ

トール「あ、ん……♡」ピクッ

小林「あ、でも温かくて、鱗の下で筋肉が脈打ってるのが分かる。スゲー、リアルー……」プニプニ

トール「あ、あん、あへ……♡」ピクッ ピクリッ

小林「あ、ごめん、不躾にベタベタと触っちゃって…… 大丈夫?」パッ

トール「は、はい、全然……♡」ハアハア

滝谷「あ、じゃあ僕もちょっと触らせてもらっても……」

トール「あ、滝谷さんは駄目です」キッパリ

滝谷「え、ええ〜、そんな〜……」ショボーン

トール「というか、その外行き用のキャラを続けられるの、いい加減に寒気がするんで、いつものオタク口調に戻ってもらっていいですか?」

滝谷「――――ほほう?」ピクッ

小林「へえ、滝谷君の素まで知ってるんだ?」

トール「ええ、まあ。ほら、いつものぐるぐる眼鏡でも掛けてて下さい」

滝谷「――ふっふっふ。ご要望とあらば見せざるを得ないね。なら僕の真の姿!刮目して――」ドドドドド

トール「あ、そういうの良いですから。するならさっさとして下さい」ズバッ

滝谷(眼鏡ON)「ええ〜つれないでヤンスね」カチャ

小林(あ、普通に掛けた……)

77 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 22:05:05.37 ID:nmTneDWj0

トール「――では、どうやら私がドラゴンだと信じてもらえた様ですので、人型に戻りますね。小林さんはまた離れて頂いて……」

小林「あ、了解」スタスタ

トール「ふっ…………!」



シュルルルル……



トール(人間形態)「……よっと」ポシュン

小林「おおー、女の子に戻った」パチパチ

滝谷「……大丈夫でヤンス? さっきのドラゴンの姿、他の人に見られてたりすると……」キョロキョロ

トール「あ、お二人以外には見えない様、認識阻害の魔法を使っていたので大丈夫です」

滝谷「あ、そういうのもあるんでヤンスか……」ハエー

小林「ドラゴンに魔法、まさしくファンタジーだね……」ホヘー

トール「……………………ふふっ」

小林・滝谷「「?」」

トール「……1年前もそうでしたが、お二人はわりかし、すぐ受け入れてくれますよね。私がドラゴンという事」

トール「1年前はそういうものかと思いましたが…… 今改めて考えると、やっぱり他の一般人と比べてかなり順応性が高い様に思います」

滝谷「1年前が、というのは良く分からないでヤンスが……
   そりゃまあオタクだから、ファンタジーを受け入れるのは当然でヤンスよ。ねえ小林殿?」チラッ

小林「いや、オタクでもリアルはリアル、フィクションはフィクションだと区別してる人もいっぱいいるんじゃないの、多分?」

滝谷「……小林殿、それでは受け入れてる我々が、現実と妄想の区別ができない厄介オタクだと言っている様ではござらんか?」

小林「ああ゛〜ん? 誰が厄介オタクだってぇ〜?」ギロッ

滝谷「ひい! 冗談でヤンス、冗談でヤンスよ〜」ナハハ……

トール「………………………」フフッ

78 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 22:11:24.07 ID:nmTneDWj0

小林「まあ後は何と言っても……」ニヤッ

滝谷「ええ、何と言っても!」ニヤッ

トール「?」



小林・滝谷「「メイドだから!!」」ドドンッ!



トール「!」

小林「こんな金髪美人のちゃんねーがメイド服着て会いに来てくれてるんだぞ!? もうその幸運だけで大体何でも許せちゃう!」ムハー

滝谷「メイドさんは2次元ならともかく、リアルではメイド喫茶やコスプレイベントなどの特殊な場でしかお会いできないでヤンスからね〜、
   まさしく眼福というもの!」フスー

小林「しかもその上ドラゴンだって? そんなん属性が増えてむしろお得! いいじゃんドラゴンメイド、いやさ“メイドラゴン”!」

滝谷「お、いいでヤンスねー、メイドラゴンという呼称。4年半くらい前から知っている様に不思議と馴染む響きでヤンス」

小林「メイドと言えばさ、最近は――で――――だけど――――私は――――」ケンケン

滝谷「それは一理ありますが、オイラの考えは――――であって――――は――――」ガクガク



ギャーギャーギャーギャー……



トール「…………ふ、ふふふっ!」クスクス

トール(こういう所は記憶が無かろうが、全く変わってないんだな、二人共)

トール「お二人共、ありがとうござ――――」

小林「――メイドはホワイトプリムがメイドキャップがうんぬんかんぬん!」

トール「……あ、あの…………」

滝谷「いやいやヴィクトリアンがフレンチメイドがどうたらこうたら!」

トール「……あの〜……………………」

小林・滝谷「「パーラーメイドがハウスキーパーがメイドオブオールワークスがちんぷんかんぷん!」」

トール「……あ、あのー!!」

小林・滝谷「はっ!」

トール「二人とも、そろそろ〜……」アハハ……

小林「そ、そうだった…… ごめんねトールちゃん…… ヒートアップしちゃって……」ハハ……

滝谷「右に同じく、申し訳なし……」タハハ……

79 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 22:15:39.84 ID:nmTneDWj0

滝谷「……えー、それで、何だったでヤンスか…… あ、そうそう。
   結局トール殿は、『ドラゴンなので服が濡れてても体は大丈夫』、と言いたかったのでヤンスか?」

トール「はい。服も魔法で直ぐに乾かせるので、着替えやタオルのお気遣いは結構です」

小林「そっか…… でも」スッ(傘を半分差し出す)

トール「!!」

小林「わざわざ濡れていく必要もないでしょ? 一緒に傘、入ってこうよ」ニッ

トール「(小林さんと相合傘!?)は、はい♡喜ん――」

滝谷「あ、ちなみに予備の折り畳み傘も持って来てあるから、相合傘せずとも――」ゴソゴソ

トール「ア゛゛゛゛゛?」ギロリンチョ

滝谷「――と思ってたけど、どうやら忘れて来た様なので二人は相合傘で帰ってほしいでヤンス」スン……

トール「はーい♪」

小林「はいよー」

滝谷「そ、それじゃあ、行くでヤンスか…… あ、いや」カチャ

滝谷(眼鏡OFF)「――じゃあ、行こうか。アパートへ」サワヤカー

トール「……何で眼鏡取ってから言い直したんですか……」

滝谷「いやあ、オタクモードで往来を歩くのは流石に気恥ずかしいので……」アハハ

80 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 22:20:52.80 ID:nmTneDWj0

【移動中】

テクテク テクテク テクテク……



小林「…………」テクテク

滝谷「…………」テクテク

トール「…………」テクテク

トール(……しかし、つい聞きそびれてしまったけど、何で向かうのが滝谷……さんのアパートなんだ?)

トール(確かにまだ捜索してなかった所だから、私としても見る価値がない訳ではないけど……)

トール(うーん、正直興味が湧かない。小林さんの家の方が5000兆倍行きたい)



テクテク テクテク……



トール(……そういえば)

トール(小林さんは、今何処に住んでいる事になっているんだろう――?)



滝谷「はい、到着したよー」

トール「!」ハッ

小林「大丈夫? ボーっとしてたけど」

トール「あ、はい、大丈夫です。ちょっと考え事してたので……」

滝谷「じゃ、どうぞトール君、遠慮なく上がってって」ガチャ

トール「あ、どうも。お邪魔しまーす……」パタパタ

小林「はーい、私もお邪魔しまーす」トテトテ

滝谷「いやいやw」

小林「へっへw」

トール「?」キョトン

81 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 22:25:33.80 ID:nmTneDWj0

…………………………………………

【滝谷宅・リビング】

カチャカチャ トポポポ……



滝谷「――はい、お茶。どうぞ、トール君」カチャ

トール「あ、どうも……」ズズー

小林「滝谷君、やっぱ私も手伝おうか?」

滝谷「いやいや、小林さんは座ってて良いよ。ちょっと休んでて」

小林「でも……」

滝谷「どうやらトール君は、どちらかと言うと小林さんへの来客の様だしね。ならこういうおもてなしは僕がやっとくよ。はいお茶」カチャ

小林「えー? 滝谷君の事も知ってるんだから二人の来客でしょうに…… まあいいや、お言葉に甘えとくよ。ありがとう」ズズー



カチャカチャ カッチコッチ トポトポ……



トール(何だろう、先程から二人の会話に、妙に引っ掛かる所がある様な――)ズズ……



滝谷「さて」カチャ

トール「!」ピクッ

滝谷「一服して落ち着いただろう所で、そろそろ本題に入ろうかと思うんだけど、いいかな? トール君、小林さん」ヨッコイセット

小林「私はいつでも。トールちゃんは?」チラッ

トール「え、えっと、はい、その……」カチコチ

小林「……焦らなくていいよ、トールちゃん」ニコッ

トール「!」

滝谷「うん。君のペースで、ゆっくり話してくれて大丈夫だから」ニッ

小林「そうそう、私達、そんな急ぐ用事がある訳でもない暇な大人だからw」ヘヘッ

トール「――――――――」ギュッ

トール「……スーーー…… ハーーー…… スーーー……」

トール「――――はい。大丈夫です!」ニコッ

小林「――うん。それじゃあ聞かせて欲しいな、君が知っていて私達が知らない、君にとっての私達の事を」

トール「はいっ!」

82 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 22:29:00.61 ID:nmTneDWj0

トール(それから私は二人に、私が覚えている限りのこの1年間の思い出を語った)



………………。  ……、  …………!  ……………………  ………………。



トール(小林さんと出会ってからの事、その全てを語ればきっと何日も掛かるだろうから、なるべく要点だけのつもりで――)

トール(――けど、それでもたくさんの事を語った)

トール(当然。だって、この1年間、小林さん達との思い出のない日なんて、1日だってなかったんだから――)



…………………?  …………………………………。  ………………!  ……。



トール(二人は、途中いくつかの質問を挟みはしたが、少しも否定をする事はなく、ただ静かに私の話を聞いてくれた――)

トール(そして――――)



…………………………………………………………………………………………………………



83 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 22:35:15.29 ID:nmTneDWj0

【約1時間後】

トール「――――と、ここまでが、今私がここに居る次第です」フウ

小林「はっは〜〜〜〜……」ホエ〜

滝谷「………………………」

トール「……あの、どう、でしたでしょうか、お二人共。聞いてみて……」オズオズ

小林「ん? んーそうだね、やっぱまずはビックリはした……かな。ね、滝谷君?」ズズー

滝谷「うん。異世界に魔法、ドラゴンの実在…… そしてそんな力あるドラゴン達と僕達が交流していたという話……
   確かにニワカには信じがたい内容ではあったね」ズズー

トール「………………」

小林「――でも同時に、信じても良いと思えるくらいに、リアリティのある話でもあった」ニコッ

トール「!」

滝谷「僕も同意だね。トール君含め、話に出てくるドラゴンの方達はみんな生き生きとしてて、
   確かな人格……いや、ドラゴン格?を感じられたよ」

小林「話の中での私達の言動も、一つ一つが何だかとても納得するというか。
   『うわー、もしそういう状況になったら、確かに私そういう事言いそうー!』って感じで」

滝谷「分かる分かる。僕らのオタクムーブや会社での立ち位置とか、すごく精緻で正確だったね。もう怖いくらい」フフッ

トール「………………」ホッ

小林「た、ただ…… 私がトールちゃんの命の恩人?だとか、
   何かやけに話の随所で私の事が持ち上げられてたのが、何だか気恥ずかしくはあったけど……」テレテレ

滝谷「そうだね。話の中でトール君だけでなくカンナちゃんにエルマさん、
   そして終焉帝というトール君のお父さんも説得してて、まさしく物語の主人公って感じの活躍だったね」ニヤッ

小林「う、うるせいやいっ!」ガーッ!

滝谷「よっ!我らがヒーロー、小林さん!」ヤイヤイ

トール「はいっ!小林さんは、まさしく私にとって一番の英雄《ヒーロー》ですっ!」フンスッ

小林「や、止めてってば! トールちゃんまでっ……」カアァ

トール(ふふふ、照れてる小林さんもカワイイ〜〜♪)

滝谷「安心してよ小林さん。そういうカッコいい所も含めて小林さんらしいって、本気で思ってるからさ」ニコニコ

トール「ええ、大変遺憾ですが、それについては完全に同意見ですね」ニコニコ

トール・滝谷「「(^_^) (^ω^)」」ニコニコ

小林「な、なんだよ、もぉ〜……」カアアアア

84 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 22:46:29.41 ID:nmTneDWj0

小林「……コ、コホンッ! とにかくっ! トールちゃんの話は分かったっ!」ゲフンゲフン

トール・滝谷((強引に話題を変えたな……))

小林「――騙そうとする様な悪意は感じなかったし、恐らく嘘をついてはいないんだと、私は思ったよ」

トール「じゃ、じゃあ、信じて頂けるんですね……!」ギュウッ

滝谷「うん。僕もこれが詐欺だとか、ましてや人違いとかの話ではないのは分かったよ。
   とても詳細で、真に迫った説得力のある内容だった。だからこれは本当にあった話――」

トール「お二人共……!」パアッ……

滝谷「――で、あるか、もしくは」

トール「え?」ピタッ



滝谷「……君が、僕達のプライベートを隅々まで調べ上げた上で、
   その情報を元に『一緒に暮らした記憶』を詳細に作り上げられる程に極度の妄想癖のある子であるか、だ」



トール「――――な――――」サアッ



小林「ちょっと滝谷君、言い方っ!」キッ

滝谷「うん、意地悪な言い方をしたのは謝罪するよ。
   けれど意地悪だろうが捻くれていようが、それもまた現時点では否定できない、可能性の一つだ」

小林「でも、じゃあさっきの道中で一緒に見た、あのドラゴンの姿はどうなのさ。私なんか触って質感も確かめたんだよ?」

滝谷「そうだな……。例えばトール君は高度な催眠術を習得していて、僕達はあの時リアルなドラゴンの幻を見せられていた、とか?」

小林「っそんなの、魔法やファンタジーと同じくらいっ――」

滝谷「ああ、同じくらい荒唐無稽で、フィクションの様な話だね」

小林「んぐっ……!」グウッ

トール「………………滝谷さんは」ポツリ

滝谷「ん?」

トール「滝谷さんは、やはり魔法やドラゴンなんて非現実的で、信じられないと思ってるって事ですか……?」

滝谷「いやいや! 誤解しないでほしいんだけど、既に僕も9割信用していいと思ってるさ。信用したいともね」サラッ

トール「え?」キョトン

滝谷「だけど現状、まだ最後の1割を信用するにはどうしても無視できない、大きな認識の齟齬があるからね……」フウ

トール「認識の、齟齬……?」

滝谷「ああ…… この一年間の、『僕達にとっての記憶』とのさ。それは小林さんも分かってるだろう?」

小林「むっ……。そりゃ、分かってるけど…… あんな言い方……」プンプン

滝谷「ごめんごめん。ああ、トール君もごめんね。上手い言い方が思い付かなかったものでさ……」タハハ……

トール(――ああ、そうか)

トール(言い辛くても誰かが一度、はっきりと言っておかなきゃいけない事を、自分が言って憎まれ役を買って出た、という事ですか……)

トール(全く、この男は普段おちゃらけているくせに、こういう所があるから……)ハア

滝谷「トール君?」

トール「別に、気にしてませんよーだ。けど、人間風情が調子に乗らないで下さいね」プイ

滝谷「あ、あはは……」ポリポリ

85 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 22:53:35.42 ID:nmTneDWj0

トール「小林さんも、私の為に怒ってくれてありがとうございます。けど、大丈夫ですから」ニコッ

小林「……そう? まあ、それならいいけど」

トール「ええ。それより今は、話を進めましょう」

滝谷「ああ。今度は僕達が語る番かな、この一年間で僕達が経験してきた記憶について」

トール「はい、それでお願いします。……小林さんもそれで良いですか?」

小林「あ、うん、勿論! ……えっと、けど、何から話そうか……?」

滝谷「うーん、基本的にはトール君の話と大きく異なる点だけ掻い摘んで話せばいいかな。出来れば時系列順で……」

滝谷「あと、二人で話すと混乱しそうだから、語りは主に小林さんに任せていいかな? 僕は補足説明とかのフォローに回らせてもらうよ」

小林「野郎、さりげなく面倒臭い部分をこっちに割り振って来やがったな……! まあ別にいいけど!」

滝谷「いやいや、小林さんに語ってもらった方がトール君的にも嬉しいかと思っただけさ」ハハハ

トール「はい、お願いします、小林さん。……聞かせて下さい、お二人にとっての記憶というものを」ジィッ

小林「……うん、分かったよ。じゃあ、語らせてもらうね」

小林「――でも、上手く話せなくても、怒らないでね?」ヘヘ……

トール「大丈夫です! 小林さんのお言葉なら常にどんなものでも、一言一句過たずに心の言行録に刻んでいますから!」フンス

小林「いやそれは流石に大げさだと思うんだけど……」カアァ

トール「そんな事ありません! 私はいつか小林さんの事を『小林列王伝』として歴史書に編纂する気でいますからね!
    一次資料はあるに越した事はありません!」バーン

小林「こっ恥ずかしいな!? というか私は王ではないし、生涯なる気もないからね!?」



……………………………………………………

86 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/07/28(水) 23:08:01.20 ID:nmTneDWj0
本日はここまでとなります。ここまでで話全体の4割程度の予定です。

7月末までの完結を目指すと書いたのは何だったのか、まだまだ時間がかかりそうです。

働きながら書くのは大変だろうと予想はしていたものの、予想以上でした…。

アニメ2期もとっくに始まっちゃいましたね。OP・ED共にめちゃくちゃ大好きになりましたが、見る時間ガガガ…。

現状の更新の目標は、アニメ2期が終わるだろう9月末までの完結としておきます。……できたらいいなあ。

それではまた〜。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/29(木) 02:09:17.34 ID:ymXp9AMDO
おつおつ
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/29(木) 07:31:32.23 ID:SqQToJzKo
乙です
89 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2021/09/19(日) 15:32:58.76 ID:3w+95rt70
こんにちは。気付けば2か月近く経ちました。(二回目)(汗)

情けないですがまだ続きが書けてないので、今回はスレ保守を兼ねての近況報告となります。

もうすぐアニメ2期も終わりそうですね…。9月末までの完結目標と書いたのにどんどん有言不実行になっていく自分が悲しいなあ…。

とは言え元々自身が遅筆なのは分かっていたので、ここで辞める気はありません。

ですので今後は年末完結を最終目標としつつ、まずは近日中に一部更新できる様に励むつもりです。

それではまた〜。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/19(日) 22:18:38.15 ID:lXhYto4D0
生きてたんかワレ!
91 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/15(月) 22:55:08.70 ID:JrHRtvfJ0
近日中(約2か月)(滝汗)

本日は少しですが、再開していきます〜。
92 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/15(月) 22:58:04.53 ID:JrHRtvfJ0

……………………………………………………

小林「えーコホン、では改めて語らせてもらおうと思うけど……」

小林「……やっぱ、初めに語るべきは、一年前の夜の事かな?」

滝谷「うん、そうだね。やはり恐らく、それが最初の相違点だ」

トール「一年前……となると、私と小林さんが出会った夜の事ですか?」

小林「うん。……いや、そう言うと、語弊があるんだけど……」

トール「……と、言うと……?」

小林「うん、その、言い難くはあるのだけど……」

小林「……私にはその日、トールちゃんと……というか誰かと出会った記憶はないんだ」

トール「――!」

トール「……………………」ギュッ

小林「トールちゃん……」

トール「……いえ、予想の範囲内です。続けて下さい」フー

小林「……うん、分かったよ」コクッ

小林「――1年程前、仕事がクソヤバかった日があったんだ」

トール「へ? ク、クソヤバ……?」

滝谷「フフフ…… 思い出すだけで怖れを通り越して笑えて来るね……。
   ラグナロクやアルマゲドンという言葉が頭をよぎったのを覚えているよ……」ゲッソリ

トール(あの終末戦争と同等の……!? 一体どれ程の……)ゴクリ

小林「まあ、あの頃はぶっちゃけほぼ毎日そんなもんだったとも言えるけど…… その日はひと際ヤバかったね」(遠い目)

トール(ほぼ毎日……!? 二人はエインヘリヤルか何かなのかな……?)ゴクリンチョ
93 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/15(月) 23:01:53.26 ID:JrHRtvfJ0

小林「とにかく激務やら上司からの暴言やらでストレス溜まってた私は……
   えー、その日の夜にヤケ酒して泥酔した挙句…… その、電車を変な所で降りて山の中を彷徨った事がありました」タドタド

滝谷「いやー、後で話を聞いた時は僕もびっくりしたよ……」ハハ……

小林「うっ、面目ない……」シドロモドロ

トール「そ、それで! その後は――?」

滝谷「んー、結局あの時どうしたって言ってたっけ?」

小林「それが、その〜……」ポリポリ

小林「……結局歩き疲れて山の中で寝過ごして、それで朝に目が覚めて…… そのまま家にも帰らず慌てて出社したんだよね、確か」

トール「!」

滝谷「あーそうそう、その時は小林さん、妙に葉っぱや土で汚れた姿で出社してた記憶があるよ」ハハ

小林「いや〜、あの時は恥ずかしかった……」タハハ……

トール「そう、ですか……」

トール「……あ、あの! その彷徨ったという山は、〇〇市の××山という所ではないですか? △△駅が最寄り駅の……」

小林「ん? えっと、どうだったかな……」

滝谷「ちょっと待って。 ……はい、G〇〇gle Mapアプリで調べてみたよ、どう?」スッ

小林「おっ、サンキュ。――あー、確かに降りた駅はこんな名前だった気がする……かな? ちょっと記憶がおぼろげで申し訳ないけど」

トール「……いえ、ありがとうございます」

小林「トールちゃんの話で、私とトールちゃんが出会ったというのはこの山、という事なのかな?」

トール「はい、間違いありません」

小林「そっか……」

トール「……………………」ウーム

トール(……どちらの話でも、あの日の夜に小林さんが酔ってこの山を彷徨った事は共通している。
    違うのは、私達が出会わなかった事になっている点だけ……か)

94 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/15(月) 23:04:10.83 ID:JrHRtvfJ0

トール「……分かりました、ありがとうございます。続きをお願いします」

小林「ん、了解。えー、次なんだけど、その山中を彷徨った日から数日後……」ピタ

トール「?」

小林「………………………………」ズーン

トール「あ、あの、小林さん?」タジッ

滝谷「……話し辛いかい、小林さん? やっぱり僕が話すのでも良いけど……」

小林「……いや、良いよ。今はもう大丈夫。ちょっと思い出してただけだから」ニコッ

滝谷「そうかい? ……無理はせずにね」

トール「??」キョトン

小林「待たせてごめんねトールちゃん。それで、次の話は山中を彷徨ってから数日後の事なんだけど……」

トール「は、はい!」

小林「えーその、ワタクシ小林、その、実は……」ポリポリ

トール「実は……?」



小林「……空き巣に遭いました……」ズーン



トール「ああ、空き巣に…… って、えええええ!?」ガビーン

95 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/15(月) 23:09:08.23 ID:JrHRtvfJ0

トール「空き巣ってつまり、ええと、ど、泥棒に家を荒らされたって事ですよね!? な、なぜそんな事に……!」ワタワタ

小林「いやー…… 元々その頃この辺りでは、空き巣の被害が既に何度も報告されていてね。行政から注意勧告がされてたりもしたんだ」

滝谷「当時は結構ニュースでも取り上げられててね。
   なんでも手口のソツの無さから見た所、指名手配もされてる様な“やり手”の窃盗犯二人組による犯行ではないか、なんて言われてたりもしたね」

小林「とは言え『まさか自分が被害に遭いはしないだろー』なんて油断してたら、しっかり私もやられちゃったって訳。いやー馬鹿だねーホント」ヘヘヘ

トール「そんな、小林さんのせいじゃ……!!」

滝谷「そうさ、自分を卑下しちゃいけないよ、小林さん」

小林「いやあ、でも幸い加入してた火災保険が盗難にも対応してて、
   ある程度は家財補償もしてもらえたから、実はそこまで金銭的被害はなかったし……」ヘラヘラ

滝谷「それでも、精神的ストレスは酷かっただろう? 警察の事情聴取や保険会社との連絡で忙しくもあったみたいだったし」

小林「……うん、あの時は、仕事のフォローありがとね、滝谷君」

滝谷「いやいや、それぐらい何て事はないさ」ズズー

トール「そんな、大変な事があったなんて……」

トール(――ん? 空き巣というと――)ホワンホワン



《〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



【1年前・小林宅の玄関】

空き巣A『――この部屋の人間は出払っている時間だ』フッフッフ

空き巣B『さっさと済ませよう』クックック



カチャカチャピン ガチャ ギイッ……



トール(竜形態)『………………』フシュルルル



空き巣A『――――』
空き巣B『――――』

トール『――――――――グオォォォッツ!!』ゴアァ!!

空き巣A・B『『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッツ!!!(声にならない悲鳴)』』



クルッ ダダダダダダダダダッ……



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》



トール(――確か、小林さん宅に住み始めてすぐの頃、そんなのを追い払った様な記憶がある気も……)

トール(そう言えばその後テレビで、
    『指名手配犯の空き巣、まさかの自首?“守ってくれ”と錯乱した様子も――』なんてニュースもやってた様なやってなかった様な……)ホワンホワン

96 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/15(月) 23:11:10.40 ID:JrHRtvfJ0

小林「トールちゃん?」

トール「ハッ! ……い、いえ、ともかく、そんなとても災難な事があったんですね…… ん?」

小林「………………………………」

滝谷「………………………………」

トール「え、なんですかお二人共、その意味ありげな沈黙は…… 怖いんですけど」タジッ

滝谷「いやー、そのー、ねえ…… 話はこれで終わりでないというか……」シドロ

小林「この後の方が、空き巣以上に大変だったというか……」モドロ

トール「い、一体何が…… 気になりますから教えて下さいよ!」

小林「……そのー、あんまり驚かないでね?」

トール「大丈夫です、今の空き巣被害の事で充分驚きましたから! ドーンと来いです!」ドンッ

小林「そう……? じゃあ、続き話すね。空き巣被害に遭った数日後の事なんだけど……」

トール「はい!」フンス



小林「……会社をクビになりました……」ズズーン



トール「ははあ、会社をクビに…… って、どええええええええええ!!?」ガガビーン

小林(やっぱり驚いた……)

滝谷(昼とはいえ、騒音大丈夫かな……)

97 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/15(月) 23:14:40.50 ID:JrHRtvfJ0
短く切りも悪いですが、今日は時間がないのでスレ保守代わりにこの辺で。

今週中に切りの良い所まで上げるつもりです。

それではまた〜。
98 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/23(火) 23:50:32.09 ID:bRojTz220
ハア……ハア…… 今週、中……?(すっとぼけ)

何はともあれ再開します。(また短いですが……)
99 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/23(火) 23:53:34.30 ID:bRojTz220

トール「ななななななな、え、ク、クビって即ち、会社を解雇されたって事ですか!?」

小林「は〜い、そうで〜す……」ヘヘ……

滝谷「トール君、言い直さないであげて……」

トール「あ、す、すみません…… え、けど一体なぜそんな事に……!?」バタバタ

トール「だって小林さんって、かなり優秀なSE?なんですよね!
    私は詳しい仕事内容は分かりませんが、社内でも皆さんに、とても頼りにされていらっしゃったじゃないですか!」

小林「え、いや、別に私の腕はそれ程では……」

滝谷「いんや、トール君の言う通り。
   小林さんは部署内でもクオリティ・速度共にトップクラスのプログラミング能力を持つスーパーSEだったよ」ズイッ

小林「ちょ、滝谷君!?」

トール「ええ、ええ、聞いていますとも。本来一週間かかる仕事を『小林さんが1日でやってくれました』伝説!」ズズイッ

小林「いや、あれは工数の見積もりが過大だっただけだろうから――」

滝谷「いやあ、思い出すなあ小林さんの勇姿! 最後に放った『───教えてやる。これが、モノを作るっていう事だ』の決め台詞――」シミジミ

小林「おいコラ、言ってねえからな!? 捏造すんな!」カアァッ

トール「――――」フッ

滝谷「――――」ニヤリ

トール・滝谷 (ガシィッ!!)(無言の熱い握手)

トール「――あなたとは基本相容れませんが、殊、小林さんへの理解度に関してだけは認めてあげてもいいでしょう」グッ

滝谷(眼鏡ON)「ふふ、そういう時は『わかりみが深い』と言うものでヤンスよ――」カチャ

トール「これが―― わかりみ――」

滝谷「ふふ―― わかる――」



小林「二人で意気投合しないで!? あとそこ、スッと眼鏡を掛けるな!」ビシッ

トール「あ〜、小林さん照れてる〜! か〜わ〜い〜い〜!」フリフリ

滝谷「か〜わ〜い〜い〜!」プリプリ

小林「どつくぞ! 特に滝谷ァ!」ガーッ!

……………………………………………………

100 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/23(火) 23:55:50.24 ID:bRojTz220

小林「はあ、はあ…… 全く、脱線し過ぎ! 話、戻すよ!?」フーフー

トール(赤くなってる小林さん、いいですよね……)コソコソ

滝谷(眼鏡OFF)(いい……)コソコソ

小林「ア゛?」ギロリ

トール・滝谷「「アッハイ、すみません」」スン……

小林「全くもう…………」フーーー……

小林「……………………さて、気を取り直して」コホン

小林「えーと話は確か、なぜ私が会社をクビになったか、という所までだったよね」

トール「はい。なぜ優秀なはずの小林さんがクビになる必要があったんですか?」

小林「それは…… と、その前にトールちゃんは、私のいた会社の所長については知ってるんだっけ?」

トール「はい。あの男尊女卑で声が喧しいパワハラクソ野郎の事ですよね」ゴゴゴ

小林「あーその…… まあ、否定はしない」ニゴシニゴシ

滝谷(トールちゃんの殺気が目に見える様だ……)ブルッ

小林「まあ、その所長についてなんだけど…… 1年前より以前から、所長のパワハラは目に余るものがあってね。私も問題視してたんだ」

滝谷「当時は特に、女性であり仕事も出来る小林さんに対して、強く当たってたね……」

小林「うん。だから私も、密かに所長からの暴言を録音したりパワハラの証拠集めをしたりして、いつか上層部にタレコミしようと準備してた」

トール(あ、そんな事してたんですね)

トール(あ、じゃあ、私の知るあの野郎がいつの間にか会社から追放されてたのは、小林さんの手によって――?)

小林「――でもね、駄目だった」

トール「え?」

小林「タレコミの前に、所長にバレちゃったんだよ。録音機を見つかっちゃってさ」

101 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/24(水) 00:00:04.29 ID:5V1TTe5a0

トール「え……? そ、そんな! 何で!?」ガタッ

小林「何で…… と聞かれるとその、所長と会話中に、懐に忍ばせた録音機を不注意でこう、手が滑って床に落としちゃって……」

滝谷「山の中で夜を明かしたり、空き巣に入られたりで、数日前から心身に疲労が溜まってたのも要因だろうね。
   それまでは小林さん、見事に隠し切ってたから」

トール「そんな…… で、でもそれでどうしてクビに……?」

小林「………………」

滝谷「……トール君。あの所長はパワハラも酷かったし、仕事においてお世辞にも有能という訳でもなかった。
   ではなぜ彼は、所長なんて役職に就けていたと思う?」

トール「え? ……分かりません。何でですか?」

滝谷「それはね…… 彼に仕事の才能はなかったが、上司に良い顔をする―― “媚を売る才能”は十二分にあったという事さ」

トール「なっ…………!」

滝谷「彼は部下に対しては横柄だが、上司に対しては驚くほど腰が低くて、媚びへつらうタイプだった様でね。
   上司をヨイショしたり、自分の部署の問題点を隠しつつ成績をアピールしたりするのもかなり上手くて、
   おかげで上層部からの彼の印象は中々良かったらしいよ」

トール「そんな馬鹿な……!?」

滝谷「更に言うと、彼は尊大な一方で、自己の保身の為なら手間を惜しまない周到さ…… いや、臆病さがあった」

小林「……うん。だから所長は、私が落とした録音機を見るやいなや、全てを察したのか―― まず即座に録音機を踏み潰した。
   『おっと、足が滑った』とか言ってね」

トール「なっ…………!?」

小林「パワハラしてた時の嘲りの表情は何処へやら、強く本気の敵意を持った――
   それでいて怯えた様な視線で私を一睨みすると、所長は凄い速さでオフィスを出て行った」

滝谷「自分のパワハラを密告される前に、小林さんを排除するために上層部に働きかけに行ったらしいよ。
   実際それから数日で、あっという間に小林さんは解雇されてしまった」

102 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/24(水) 00:04:01.08 ID:5V1TTe5a0

トール「そんな! 許されるんですかそれ!
    た、確かこの国の法は大分厳しくて、人を辞めさせるにもすぐに辞めさせてはいけないとかいう、なんか、あの……」

滝谷「労働基準法における“解雇予告”の事? 良く知ってるね」

トール「た、多分それです!」

滝谷「確かに通常は事業者が労働者を解雇するには、30日以上前にその予告をするか、
   又は30日分以上の賃金に相当する手当を支払う様に法で定められている」

小林「………………」

トール「な、なら!」

滝谷「しかし同時に労働基準法には“解雇予告除外認定”という制度があってね。
   天災などで事業の継続が不可能な場合の他、労働者自身に大きな問題がある場合には、
   予告も手当もなしに即時解雇する認定を受ける事が可能になる」

トール「お、大きな問題というと……?」

滝谷「長期の無断欠勤、著しく悪い勤務態度、経歴の詐称、ギャンブルなど風紀を乱す行い、横領や傷害事件などの犯罪行為――
   まあ要は“社会人としてアウト”な事した時って所かな」

トール「そんな事、小林さんがする訳が――!」

滝谷「勿論あり得ない。だが、『した事にされた』」

トール「………………!!」

滝谷「所長によってでっち上げられた小林さんの問題行動の報告を、上層部はすっかり信じて、小林さんを即時解雇した――」

滝谷「無論、小林さんも不当解雇であると反論しようとしたが、上層部からの信用は所長の方がずっと上であり、話も聞いてもらえなかった様だ」

トール「………………ッツ!」

小林「………………」

滝谷「……と、大体僕が話しちゃったけど、ごめん、小林さん。思い出すのも辛い記憶を勝手に――」

小林「……ううん、大丈夫。1年も前の事だしね。ていうかこっちこそごめんね? 代わりに話してもらっちゃって……」

滝谷「それこそ気にしないで。任せてよ、小林さん」ニコッ

トール「………………」ワナワナ

103 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/24(水) 00:07:41.41 ID:5V1TTe5a0

トール「――――」スック

小林「あれ、どうしたのトールちゃん? 急に立ち上がって――」

トール「――いえ、ちょっと今からあの男を血祭りにあげてこようかと……」ゴゴゴ

小林「へ?」

トール「足を引っかけるだけなど、やはり生ぬるすぎた様ですね……
    この世に生まれてきた事を悔悟するまで嬲り尽くしてから、魂の一片に至るまで完全消滅……
    いや、地獄の最奥に幽閉してやる方が良いか……」ブツブツ

小林「ちょっと!?」

トール「我が混沌竜としての秘奥義、もとい48のメイド技を全開放する時が来た様ですね……ッツ!」ゴゴゴゴゴ

小林「待った待った! 流石に血生臭いのは駄目だって!」

トール「GURRRRRR、GOAAAAAAAAAAAAAA!!!」ビキビキ

小林「あ、これマジでやばい奴だ! ちょっと、滝谷君も止めて――」ワタワタ

滝谷「ズズー……(茶をすする音)」

小林「飲んどる場合かーッツ!」ガビーン!

滝谷「んー? あんまり止める気しないなあ……
   僕もあの所長にはこう見えても業腹だからね。痛い目見るなら見てほしいという思いは正直あるよ」フウ

小林「いや痛い目とかそういうレベルじゃなさそうでしょこれ! もっと真面目に――」

滝谷「――とは言え、僕も所長を血祭りにするのは反対かな。流血沙汰は小林さんが嫌いだし、それに――」

滝谷「――もう既に、彼は報いを受けてるからね」

トール「GURR……………」ピタッ

トール「……それは、どういう意味ですか」プシュー

小林(お、落ち着いた……)ホッ

104 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/24(水) 00:13:49.22 ID:5V1TTe5a0
今回も切りが悪いですが、明日も早いのでこの辺で。

少し暗いパートが続きますが、ちゃんとハッピーエンドに向かうつもりなのでご容赦を。

次回は出来る限り今週末に上げる予定です。それではまた〜。
105 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 22:49:49.13 ID:DVTuWEAg0
こんばんは。少し更新します。
106 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 22:53:32.24 ID:DVTuWEAg0

滝谷「うん、それを説明するには、まずは先程からの話の続きを聞いてもらわなくちゃいけない。だから、ま、座って座って」ニコッ

トール「……………分かりました、聞きましょう」ペタン

滝谷「うん。さて、話は小林さんが不当な解雇を為された後の事だけど――」

小林「――――!」ピコーン

小林「あ、滝谷君! そこから先は私が話して良い? というか私が話す!」ハイハイ!

滝谷「えっ? べ、別にいいけど。どうしたの小林さん、急に……」ビクッ

小林「いんやあ? ただ滝谷君ばかりに話させるのも悪いなあと思っただけさ。元々私がメインで話すって割り振りだった訳だし、ね?」ニヤリ

滝谷「そ、そう……?(何か企んでるな……)」(汗)

小林「トールちゃんもそれでいいよね〜?」ニンマリ

トール「? はい! よろしくお願いします、小林さん!」

小林「よし! じゃあ語らせてもらおうか。えー、私が解雇通知を出された日の事なんだけど……」

小林「さっきの滝谷君の話通り、私は会社の上層部からは極悪な社員として見られた様で、通知を受けるとすぐ、鬼の様に急かされてね。
   とにかく身の回りの物だけ持って、追い出されるかの如く会社を締め出されたんだ」

トール「むう…………」プクー

小林「その時は私も流石に応えて、頭が真っ白になっちゃってね。
   山を彷徨って、空き巣に家を荒らされて、更には突然職まで失って…… たった数日で、色々ありすぎた」

小林「トールちゃんの話では、トールちゃんは神との戦いに負けて、全てを失ってこの世界に流れてきた……って事だったよね?」

トール「は、はい…… そうです」コクン

小林「まあ、それと比べると命あるだけマシかもしれないけど…… 私もその時は、本当に全てを失った様に感じて、茫然としちゃったんだ」

トール「……小林さん……っ」ギュッ

107 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 22:56:36.69 ID:DVTuWEAg0

小林「しばらくぼんやりとしながら、目的もなく町の中をふらふらと歩いてた。現実感がなくて、ふわふわと、取り留めのない事を考えながらね」

小林「でも、あんまり長い事歩き続けていたら、流石に足が疲れちゃってさ。何処だか分からない裏路地で、一人しゃがみ込んじゃった」

小林「気付くと会社を出てから何時間も経ってて、辺りはとっくに暗くなってて――
   その時、やっと現実味が湧いてきて。『ああ、これは夢じゃないんだな』ってさ」

小林「そう思ったら、急に悲しくなってきてさ。涙が出てきて―― でも、変なプライドがあったから、声は押し殺して、すすり泣いてて――」ポロッ

トール「っ、小林さん? それ……」

小林「え? あ、涙……」ポロポロ

小林「あはは、ごめんごめん…… 当時を思い出したら、ちょっと泣いちゃった……」ズビッ

トール「小林さん、辛いのなら無理をしなくても……」

小林「ありがとう、でも違うんだよ」ズズッ

小林「これに関しては辛いから泣いたんじゃないんだ。むしろその逆」フフッ

トール「?」

小林「そうやってしゃがんで泣いてたらさ、ある人がやって来たんだ。誰だと思う?」ニヤー

トール「え? ある人って一体……?」

小林「ふふふー、それはね〜……」チラッ

トール「?」チラッ



滝谷「………………………………(無言の赤面)」カァァァァ



トール「…………えっ! 滝谷さんですか!?」

小林「うん。顔を上げるとそこには、息を切らせて汗だくの滝谷君が立ってたんだ」

108 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:01:47.33 ID:DVTuWEAg0

トール「どういう事ですか!? 詳しくお願いします!」ズイッ

小林「うん。滝谷君はね、その時まず『やあ、奇遇だね小林さん。大丈夫かい?』って話しかけてきて。
   言葉自体はいつもの様に爽やかなんだけど、でももう凄い汗だくで荒い呼吸で言うからさ、全然爽やかな感じじゃないの」ペラペラ

小林「実際は『や、あ……ハア、 奇遇っ、だね、小林、さんっ…… ゼエ、だ、大丈夫、かい……? ゲホッ……』って感じでさ。
   大丈夫かって、こっちのセリフだよと思ったね」アハハ

滝谷「……………………」プルプル

トール「ほほう、それでそれで!」ズズイッ

小林「その時の彼、『たまたま会えて良かったよ』とか言って、いかにも偶然を装おうとしてたんだけど。
   もうその息の荒さから、私を探して走り回ってくれてたのが丸分かりだったのね」

小林「笑顔もかなり無理して作ってたのが分かったしさー。もう彼のあまりの姿に、私も涙が引っ込んじゃった」アハハ

小林「ね〜、滝谷君♡ あの時の君スゴかったよね〜?」チラッ ニヨニヨ

滝谷「………………………………」プルプルプル



滝谷(これが狙いか〜〜〜…………っ!)カアアァァァ

滝谷(急に自分から話したいと言い出して、絶対何か企んでるとは思ったけど…… 僕をこっ恥ずかしがらせるためとは……ッ!)

滝谷(普段僕がからかってる事への仕返しだろうけど……。 小林殿ッ!あなたがこれを狙っていたのなら、予想以上の効果を上げたぞッ!!)ゴゴゴ



小林「あれ〜〜? そんなに顔を赤くしてどうしたのかな〜滝谷く〜ん? 熱でもあるのかな〜?」ニヤニヤ

滝谷「くっ、殺せ……!」プルプル

小林「これで普段、面白半分で君に褒めちぎられている私の気持ちも多少は分かったんじゃないのかね〜? ん〜〜?」

滝谷「悔しい、でも(反省)感じちゃう……!」ビクンビクン

小林「んん〜? 聞こえんなあ〜〜?」グヘヘ

トール「あのー!!」ワリコミッ

小林「ん?」

トール「取り込み中すみませんが、それで、話の続きは! その後どうなったんですか!?」ドキドキ

小林「おっと良い食いつきだねトールちゃん! 知らざあ言って聞かせやしょう、男・滝谷屈指の武勇伝を!」バーン!

滝谷「こ、小林さ〜ん。その先を話すのは僕が代わってもいいかな〜……?」タハハ……

小林「君に話すのを任せると、この辺サラッと省略して簡単に済ませそうだからダメ〜♡」ニッコリ

滝谷「うっ……(見透かされている……)」

109 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:05:05.96 ID:DVTuWEAg0

小林「それでね、息を切らして私を見つけてくれた滝谷君はね〜……」

トール「はい!」フンフン

滝谷「………………………」ムズムズ



…………………………………



《〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【1年前・どこかの裏路地】



…………………………………



滝谷『――ハア、ハア…… ウッ、ハア、ハア……』ゼエゼエ

小林『……滝谷君?』グスッ

滝谷『ハア、ハア…… いや、たまたま、会えてっ、……フウ、良かったよ、小林さん』フウフウ ニコッ

小林『いや、たまたまって、全くそんな感じには見えないバテッぷりじゃ――』

滝谷『そんな事より!』パンッ

小林『!』

滝谷『どうしたんだい小林さん、こんな裏路地で地面に座り込んじゃって。地面冷たいだろうに、腰痛持ちが腰を冷やしちゃいけないよ?』

小林『どうした、って……分かってんでしょ、それぐらい』プイッ

滝谷『……そうだね、ごめん。いつでも軽口を叩いちゃうのは、僕の悪い癖だね』ハハッ

小林『…………』

滝谷『…………』

小林『……滝谷君の方こそ、どうしたの、こんな所で』ポツリ

滝谷『ん? 何が?』

小林『何って、仕事だよ仕事。暗くはなってきたけど、うちの会社なら今はまだ就業時間でしょ。こんな所で油売ってたら怒られ――』

滝谷『ああ、それなら大丈夫。会社、辞めてきたから』サラッ

小林『――――――――は?』ポカン

滝谷『うん。だからさ、小林さんが会社を出て行った後、僕もあの会社辞めてきたんだ。これで僕も小林さんと同じく無職って訳』ケロッ

小林『は……はああああああぁぁぁぁぁぁ!?』ドギャーン!

110 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:07:51.56 ID:DVTuWEAg0

小林『は? ちょ、え、辞めっtて、待っ、ちょt、なn、えぇ、はああああ!?』ワタワタ

滝谷『ははは、小林さん慌てすぎw』ケラケラ

小林『なにわろてんじゃい! え?辞めたって、もしかして、私のせいで――』サアッ

滝谷『ああ、違う違う。小林さんのせいで辞めさせられたって訳じゃ全然なくて、僕が自分で辞めたってだけだよ』

小林『えぇ……?』

滝谷『小林さんが会社を出た後、僕たち他の社員は強引に通常業務に戻されたんだけど……。
   小林さんに対するあんな所業を見せられて、僕も憤懣やるかたなくてね。気付いたら退職願書いて、所長の顔に叩きつけてた』アハハ

小林『は……はああああああぁぁぁぁぁぁ!!?』ドビーン!

滝谷『いやー、叩きつけた時の所長の顔は最高だったね。
   それまで小林さんを追い出した事への安堵からかニヤニヤしてた顔が、叩きつけた後ポカン( ゚д゚)と呆気にとられてたから』アッハッハ

小林『な……』

滝谷『所長も10秒くらいしてやっと状況を飲み込めたのか怒鳴ろうとしてたけど……
   その時にはもう僕さっさとオフィスから出る所だったから、罵声を聞かずに済んだよ』

小林『え、ちょ……』ワナワナ

滝谷『あー、でも、私物は全部持ち出したから良いものの、社員証や健康保険証は後日会社に返さないとかぁ。
   結局、正式な退職手続きの為には改めて会社と話す必要もあるだろうし、面倒だなあ。全部電話や郵送で何とかならないかな――』

小林『ちょっと待って!』ワッ

滝谷『……何だい? 小林さん』スゥッ……

小林『何の……つもりなの。滝谷君まで辞めるなんて、おかしいでしょ? 辞めさせられる必要があったのは、あくまで私だけで……』ワナワナ

滝谷『小林さん、気にしないで。これは僕なりのけじめなんだから』

小林『けじめ……?』

111 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:13:43.60 ID:DVTuWEAg0

滝谷『そう。確かに所長のパワハラの証拠集めをしていたのは小林さんだけだったけど、
   それは本来、部署の社員全員で取り組むべき問題だったし、全員が望んでいた事でもあった』

滝谷『それを、面倒事に関わりたくない、責任を負いたくないという利己的な思いから、
   皆が小林さんに任せっきりにしてしまった。……僕を含めてね』

小林『そんなの別に、私は何とも思ってないよ……。皆、日々の業務で手一杯だろうし、目を付けられるのは誰だって嫌だろうし……。
   それに皆、滝谷君もちょくちょく証拠集めを手伝ってはくれてたし』

滝谷『業務が大変なのも目を付けられるのが嫌なのも、全部小林さんだって一緒でしょ。それに手伝っていたのだって自己欺瞞に過ぎない。
   責任は取りたくないが、何もしないのも後ろめたいから、お咎めを受けない程度にだけ手伝っておこう――っていうね』

滝谷『だけどこうして小林さんが辞めさせられて……
   それに対して、自分はこのまま変わらずのうのうと会社に居続けるのかって改めて考えると、罪悪感と自己嫌悪で耐えられなかった』

小林『……だから、けじめとして自分も辞めたって事……?』

滝谷『ま、勿論、所長や会社の上層部への怒りや失望も多分にあるけどね』フフ

小林『……でも、だからって、いくら辛くても、その場の激情に任せて会社辞めるなんて、いつも飄々としてる滝谷君らしくも……』

滝谷『……小林さん、実はもう一つ、辞めようと思った理由があるんだ。何なら、それが一番大きい理由さ』

小林『もう一つ……?』

滝谷『うん。……その、僕があの会社に居る理由が、居なくなっちゃったから……』ポリポリ

小林『……。え? あ、うん、だからその理由は?』キョトン

滝谷『あーだから、理由がさ、居なくなっちゃったんで……』タドタド

小林『いや、うん。だからその理由を聞いてるんだけど――』

小林『――ん? 無くなったでなく、“居なくなった”? それってどういう……』

滝谷『〜〜ああもう!! だから! 僕が会社に居た理由は、小林さんが居たからだって言ってるんだよ!』カアァ

小林『…………………………………………』ポカーン

小林『…………へ? 私!?』ガチョーン

112 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:20:31.99 ID:DVTuWEAg0

滝谷『そうですぅ! SEの仕事自体は嫌いじゃないけど、あの会社での激務や所長には元々嫌気が差してた。
   そんな中、あそこで仕事を続けられてた一番の理由は、その……色々気の合う小林さんが居たからだ!』ダー!

滝谷『その小林さんが居なくなるなら、強いてあの会社に僕が残る意味は、ほとんど見出せなかった。――だから、辞めようと思ったんだ』

小林『滝谷君…… そこまで私の事……』

滝谷『……ま、残してきた同僚や後輩達には少し悪い気もするけど……』メソラシ

小林『ああ…… 所長の次のパワハラの標的としても、業務量的にもね……』ハハ……

滝谷『だからって、それで辞めるのを思い留まる気はなかったよ。……それでさ、小林さん。提案なんだけど』

小林『ん? 何?』

滝谷『これからはさ…… 二人で仕事、してみないかい? フリーランスのSEとしてさ』スッ(手を差し出す)

小林『!』

滝谷『開業するための手続きや、仕事を取ってくる営業、経理だとか、フリーランスとして働くための諸々の雑務は僕がやるよ。
   小林さんはSEとしての本業務を集中してやってくれればいいからさ』

小林『滝谷君……』

滝谷『勿論、上手く行く保障なんてない。
   今まで会社がやってくれていた諸般の事務を全部自分達でやらなくちゃいけなくなる訳だし、僕自身、そういうノウハウに詳しい訳でもない。
   仕事を上手く取ってこれるかも分からない。最初の数年は苦労ばかりになるだろう』

滝谷『だから、小林さんが他の企業の社員として再就職を目指したいというなら全然反対しないし、喜んで協力もするよ。
   でももし、小林さんが良ければっ――』

小林『滝谷君』

滝谷『!』ハッ

小林『ありがとう、滝谷君。それは、思ってもない程に嬉しい申し出だよ。だけどね――』

滝谷『……そうだよね、やっぱりこんな話……』シュン

小林『――そんなありがたい申し出は、こっちから頼みたいって話だよ!』ガシッ(差し出された手を掴む)

滝谷『え?』ポカン

113 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:26:48.20 ID:DVTuWEAg0

小林『断る理由なんて何もないさ。有難すぎて申し訳ないくらいだ。やろう、一緒に!』ニギリッ

滝谷『――快諾、だね。誘っといて何だけど、良いのかい? もう少し考えなくても』ハハッ

小林『うーん、ちょっと考えたけど…… まず、他社に行っても結局またそこがブラックな環境である可能性は否めないし……』ウーム

滝谷『ああ…… いや、流石に世の中ブラックな会社ばかりではない……とは信じたいけれどもね……』ハハ……

小林『それに面接の時、実情はともかく“前の職場に予告なしの解雇をされた”って事を説明しなきゃいけないのは、
   考えるだけで面倒で気が重い……』ズーン

滝谷『うん…… 僕も他社を受ける場合“上司に退職願叩きつけて辞めました”なんて面接で言う事になるのは、かなり辛いね……』ズズーン

小林『――どうせ同様に苦労するなら、せめて自分が納得できる形の苦労をしたいよ。滝谷君となら、きっと納得できると思う』ニコッ

小林『だから……よろしくお願いします』ペコリ

滝谷『小林さん……! うん、こちらこそ、よろしくお願いします!』ペコリ

小林『うん。じゃあこれからは、パートナーとして頑張っていこうか!』ニッ

滝谷『パ、パートナーっ!? それはどういう……』ドキッ

小林『? うん、ビジネスパートナーとして、さ』サラッ

滝谷『あっ…… うん、一緒に頑張ろう、ビジネスパートナーとして』スンッ……

小林『?』キョトン



………………………………



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》

114 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:35:09.51 ID:DVTuWEAg0



………………………………



【現在・滝谷宅?リビング】

小林「――と、これがあの日の会話の内容ってワケさ」フイー



トール「……………………」



滝谷「………………………」プルプル

小林「おんや、どうしたんだい滝谷君。両手で顔を覆いながらプルプル震えて?」ニヤリ

滝谷「いやその…… 改めて思い返すと、やっぱりあの時色々格好つけすぎたかなあって、思い出し羞恥を……」プルプル

小林「え〜? 良いじゃん別に。あの時の滝谷君、すっごいカッコ良かったよ?」ケラケラ

滝谷「うう、やっぱりああいう熱くてストレートな言動は僕のキャラじゃなくて合わないと思うんだけど……」テレテレ

小林「そんな事ないよ。普段は飄々として軽口ばかり叩く優男、だけどやるべき時にはしっかりやる熱い人――。
   それが滝谷君って人間だって思ってもいいんじゃない?」ニコリ

滝谷「そうかい……? うう、でもやっぱ気恥ずかしいな……」テレテレ



トール「……………………」



小林「いやあ、でもそうしてフリーランスとして再出発するって決めた後も大変だったよね」

滝谷「ああ、特にフリーランスとして活動を始めて半年くらいは、マジでキツかったね。
   開業の手続き、営業、経理…… 全部が1からの手探りで……。失業保険も僕らの場合、中々降りなかったし」

小林「まさか会社で働いていた時より忙しく感じる事があるとはね……」ハハ……

滝谷「初め、雑務は全部僕がするって言ったのに、結局小林さんにも手伝ってもらっちゃったし…… ごめんね」ペコリ

小林「いやいや、そこは
   『二人で始めた事なんだから、私にも背負わせて欲しい。雑務についてもお互い理解していた方が、都合が良い事も多いだろうし』
   って話になったじゃない? 気にし過ぎだよ」バシバシ

小林「それに滝谷君、初めの頃は並行して正式な退職手続きの為に、会社と結構揉めてもいたじゃん。
   いくら何でも一人で全部はきつかったでしょ?」フフッ

滝谷「うん…… そうだね、ありがとう」フフッ



トール「……………………」



小林「大変だったと言えばさー、会社で使っていたプログラミング言語が結構に特殊だったから、
   業界で主流のプログラミング言語を新しく覚え直す必要があったのも地味に大変だったよね」

滝谷「ああ、業界の主流を学んで初めて、あの会社での使用言語がいかに特異というか…… まるで魔法陣の様に複雑だった事に気付いたね」アハハ

小林「そうそう。なまじそれに慣れちゃってるから変な癖付いちゃってて、矯正するのが大変で大変で」タハハ

滝谷(眼鏡ON)「とか言って小林殿、数か月で直ぐに新しいプログラミング言語に慣れちゃったんだから、やっぱ凄いでヤンスよ。
        まさしくスーパーハカーと言うに相応しい」カチャリ

小林「何その称号〜、何かちょっと褒めてなくない〜? あと何で眼鏡掛けた〜?」アハハ

滝谷「シリアスが続きましたからな、ノリでヤンス」フフフ



トール「……………………」

115 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:41:19.51 ID:DVTuWEAg0

トール「……………………」シーン

小林「……? トールちゃん?」ピクッ

トール「……………………」シーッン

滝谷「ん? おーい? トール殿―?」

トール「……………………」シッシーン



トール(………………………………とか)

トール(不当解雇され傷心の小林さんのもとに、自身も退職して駆け付けて。
    それで二人で仕事しようとか? 自分が会社に居たのは君が居たからだとか? パートナーとか何とか?)ゴゴゴ

トール(それって…… それってもう……ッ)ゴゴゴゴゴ

トール(もうっ、ほとんどプロポーズみたいなもんじゃないですかーーーーーーーッ!!)ドカーンッ!!



トール「――――――!!」ドカーンッ!!

滝谷「うわっ、爆発!?」ビクッ

小林「黙ってたトールちゃんの頭から突然煙が! え、何これ大丈夫なの、トールちゃん!?」ワタワタ



トール(――いや――、いや、待て、落ち着け――!
    滝谷さんが小林さんに好意を抱いているのは、初めて出会った時から薄々分かっていた事のはずだ――!)ドドド

トール(それが、単純に隣人としての好意なのか、それとも、その…… オスとメス的な意味……のものなのかは判然としなかったけど……)ドドド

トール(……恐らく本来の世界では、私が小林さんのもとに現れた事もあって、自身は身を引いて、
    あくまで小林さんの良き隣人として徹していた所もあったのでしょう。この男、押しの弱い所ありますし……)ドドド

トール(――しかし、どういう訳か私と小林さんが出会わなかった事になってる今の世界では――
    小林さんが苦境に立たされ、他に手助けできる者がいない状況なら。
    基本的に前に出たがらないこの滝谷が、自ら積極的に動く事も充分考えられ――!)ドドドドド!



トール「……………………!」キュイイイイン!

滝谷「ちょっと! 煙もそうだけど、トール殿の全身から何か高熱が発せられてないでヤンスか!?」ビクビク

小林「ほんとだ! 何かPCの熱暴走時みたいな高音も出てるし! トールちゃん、起きて、起きてーー!」ドタバタ

トール「……………………!!」シュイイイイイン!

小林「えーい、どーせいっちゅうんじゃ〜い!」ヤケクソ



トール(――どーせいっちゅう――?)ピクッ

116 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:44:21.35 ID:DVTuWEAg0

トール(――どーせい? ……ん? え? あ? え、いや、待って?)カチ

トール(今、唐突に、ふと思い付いちゃった事があるけど…… え? もしかして?)カチカチ

トール(いや、確証は全然ない…… けど、この家に入る時に感じた違和感と、これまで聞いた話を総合すると、まさか……)カチカチカチ

トール(……た、確かめなくては……!)カチカチ、ピーン!



トール「…………………………あの」プシュー

小林「あ! 良かった、トールちゃん起きた!」ハッ!

滝谷「デジマ!? 良かった、消火器探しに行こうかと思ってたでヤンスよ!」フウー!

トール「あ、何か知りませんがすみません……。で、その、唐突ながらお聞きしたい事があるのですが……」

小林「ん? 何?」フイー……

トール「その、えーと、あ〜…… あ、小林さんは〜、今、どちらにお住まいなんですか〜? な〜んて……」ハハ……(目を泳がしながら)

滝谷「――――!」ピクリ

小林「ああ、そんな事? 何だ、何聞かれるのかと身構えちゃったよ」アハハ

トール「そ、そうですね、変な事聞いちゃって……」タハハ

小林「いや、全然良いよ。私は今ね〜――」アハハ



小林「――この家。滝谷君の家に居候させてもらってるよ」サラッ



トール「――――――――」ピシッ

滝谷「……………………」



トール(…………やっ…………)

トール(やっぱり、“同棲”してたあああああぁぁぁぁぁ!!!?)ガビーンッ!?

117 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:48:32.17 ID:DVTuWEAg0

トール「…………ッ! …………ッ!? …………!!」ワナワナ

小林「ん? どしたのトールちゃん?」ケロッ

トール「……え、そ、それは、その、小林さんは、た、滝谷さんと、ど、どどどどど同棲!?
    してらっしゃるって事で、宜しいんでありましょうか?」ガクガク

小林「ん、そうだね…… 同棲、同居。うん、そうとも言うね。一緒に住んでるって事」

トール「……ッツ………………ッ……………………ッツ!」ガタガタ

トール「ッツ!!」バッ!(滝谷に「どういう事ですか」という視線を送る)

滝谷「…………ッ」フイッ!(全力で目を背ける)

トール「…………チィッ!(小さく舌打ち)」

トール(この家に入る時に感じた、『やけに小林さんこの家に慣れてるな?』という違和感は、こういう事ですか――!)ゴゴゴ

小林「いやー、同居はね、フリーランスの仕事を始めてしばらくして、滝谷君から提案してくれた事なんだけど」

小林「『まだ開業したてで二人共生活費カツカツだし、この家はもう一人くらい住める余裕は普通にあるし。
   少しでも支出節約するためにも、どうだい?』ってさ。私も、じゃあ悪いけど居候させてもらおうかーって」ノホホン

トール(そりゃあ余裕ありますよね、本来の世界ではファフニールさんと二人で暮らしてたんですしねえ!)ゴゴゴ

トール(滝谷、貴様ぁ…… 仕事にかこつけてまんまと同棲に至るとは、貴様ぁ……ッ!)ゴゴゴゴゴ

滝谷「……………………」ダラダラ(汗)

小林「前のアパートは空き巣に一度荒らされてて、一人で住み続けるのも何かちょっと気持ち悪かったしさー。
   渡りに船って感じだったよ」ズズー(茶をすする)

トール「! そ、そうですか……(ぐっ、そう言われると強く言い難い……ッ!)」グヌヌ

118 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:53:52.20 ID:DVTuWEAg0

トール「ッツツ!!」ハッ!

小林「?」

滝谷(……緊張で喉が渇いたでヤンスね…… お茶お茶……)コポポポ

トール「……あ、あああああああの、つかぬ事をお聞ききききしますすすすが……」ガクブル

小林「ど、どうしたのトールちゃん、落ち着いて。何?」

滝谷「……………ズズー(静かに茶を口に含む)」



トール「ま、まままままままさか、ふふふふふふ二人は、その……………… 交際、しているんですか?」ブルブル

滝谷「ブーーーーーーーッツ!」(茶を吹き出す)



小林「うわっ、汚っ!? 滝谷君どうしたのいきなり、大丈夫!?」ビクッ

滝谷「す、すみませんでヤンス、ゲホッ、ちょっと、茶でむせただけなんで……。こちらで掃除してるので、続けて頂きたい……」ゴソゴソ

小林「ええ……? まあ、了解したけど……」

小林「え〜と、で何だっけ…… 滝谷君と私が交際?してるかだっけ?」

トール「で、ですです! そこの所、どうなのかと……」ズイッ!

小林「えー? そりゃ勿論、仕事のパートナーとしても同好の士としても、仲良く交際はさせてもらってるけど……?」

トール「そ、そういうんではなく!」ワキワキ

小林「と言うと?」キョトン

トール「あ〜〜〜…… その〜〜〜…… だんだんだだんだn男、女のそういうあれというか、
    え〜〜〜…… 恋、愛関係的、なというか……………」シドロモドロ

滝谷「……………!!」ビタァッ!

小林「恋愛関係…… 私と滝谷君が?」

トール「はい……………」ドキドキ

滝谷「……………」ドキドキ

トール・滝谷「「…………………………!」」ドキドキ



小林「あっはっは! そんな事ある訳ないじゃん、私と滝谷君がなんて!」アハハのハ!

トール「――へ?」ポカン

滝谷「―――――――――――――」ピシッ

119 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:57:58.90 ID:DVTuWEAg0

トール「ほ、本当に、そういう関係ではないんですか?」ズイッ

小林「当然でしょ〜! こんなまるで女らしくもない私と恋愛したいなんて男、よっぽどの変人しかいないよ〜」ケラケラ

トール「は、はあ……………」ボーゼン

滝谷「…………………………………………」プルプルプルプル(震える手でゆっくりと眼鏡を外す)

小林「これまで色々親身にしてくれてるのも、あくまで同僚だったよしみで、
   そして同じ趣味の同志としての友情で、でしょ? 滝谷君」ニコリ(屈託のない笑顔)

滝谷(眼鏡OFF)「……………………………………………うん」ニコッ……(絞り出す様な笑顔)

小林「いや〜いい友達を、いや親友を持ったよ私も。あ、お茶切れてるじゃん。じゃ、ちょっと私お代わり淹れてくるね〜」スック カチャカチャ

滝谷「うん……ヨロシク……………」シナシナ

小林「ほ〜い。いや〜、しかしトールちゃんも面白い冗談言うな〜……」スタスタ



カチャ バタン……………



トール「…………………………(滝谷に憐憫の目を向ける)」

滝谷「…………………………(座り込み項垂れている)」

120 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 00:06:54.32 ID:bo7Z/2J70

トール「……………その、なんか、すいません」

滝谷「いいや、トール君は何も悪くないよ……」ズーン

トール(ギンヌンガの淵の様に深く落ち込んでいる……。まさか私が滝谷に同情する日が来るとは……)

滝谷「…………1年近く同棲していながら、小林さん、いまだに遠慮して自分の事を“居候”と言うんだよね……。
   家賃は折半で払ってもらってるから、住宅の契約上はもう立派に対等な同居人なんだけど……」

トール「ああ…… だから小林さん、ここに来る時も、
    あくまでこのアパートの事を『私達の家』ではなく『滝谷君の家』と言っていたんですね……。納得いきました」

滝谷「うん……。この1年間、大人の男女がひとつ屋根の下で生活してるってのに、小林さん全くそういうの意識してる様子がなくて……。
   良く言えば信頼されてるんだろうけど、悪く言えば異性として見られてないというか……」ハハ……(乾いた笑い)

トール(まあ実際この男、奥手すぎて自分から手を出すのなんて無理そうですからね……。杞憂でしたか……)ハア



トール「……滝谷さん」ポンッ

滝谷「! トール君……」ハッ

トール「……………」ニコニコ

滝谷「と、トール君……!」グスグス

トール「どんまいっ♪」グッ☆(>ω・)b(満面の笑み)

滝谷「ちきしょうめーーーい!!(号泣)」ガーッ!

小林「うわっ、どしたの滝谷君? 大きい声出して……」ガチャリ

滝谷(眼鏡ON)「! ななな、何でもないでヤンス……」スチャ

トール(っ! 恐ろしく速いメガネ装着、私じゃなきゃ見逃しちゃいますね……)ホウ……



………………………………………

121 : ◆bhlju8wMK6 [sage saga]:2021/11/28(日) 00:11:36.98 ID:bo7Z/2J70
今日はここまで。あともう少しで切りの良い所まで行けそうです。

明日にでも更新できそうならする予定です。それではまた〜。
122 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:03:45.60 ID:bo7Z/2J70
こんばんは。更新していきます〜。
123 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:06:54.78 ID:bo7Z/2J70

………………………………………



滝谷(眼鏡OFF)「――――さて、そういう訳で僕と小林さんはフリーランスとして再出発したのだけど!」キリッ

トール(無理矢理切り替えましたね……)

小林「とは言っても、まあそれ以降はそのまま、フリーランスとして働いて今に至るって感じだよ」ズズー

滝谷「だね。さすがに大きな波乱はもうないよ」ズズー

トール「なるほど、長かった話もこれで終わり――」ウンウン……

トール「――って待って下さい!
    結局あのパワハラクソ野郎の所長が報いを受けたってのはどういう意味だったんですか! ちゃんと説明してくださいよ!」ハッ

滝谷「ああうん、そうだったね。勿論説明するよ」

滝谷「――あれは、フリーランスとして活動し始めて、半年程経った頃だったかな、小林さん?」

小林「うん…… フリーランスの仕事もやっと軌道に乗り始めた頃のある日、私達の元・勤め先だったあの会社から連絡が来たんだ。
   それも“謝罪させて欲しい”って連絡が」

トール「謝罪? それって――」

小林「うん。会社が私を解雇したのは不当だったって認めたって事」

124 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:10:39.35 ID:bo7Z/2J70

トール「! それは―― え、でもなんで急に、半年もしてから――?」

滝谷「事の次第はこうさ。まず僕達二人が会社を辞めてから半年で、僕達がいた部署の成績はそれはもうガタ落ちしていた」

トール「ガタ落ち……ですか。ああ、それはまあ、当然……ですかね」

滝谷「ああ、当然と言えば当然さ。
   小林さんは部署のエース選手だったし、小林さん程ではないけど、僕もそれなりの業務量を担っていた古株だったからね。
   その二人が片方だけならまだしも、両方とも同時に抜けたんだ―― 業務に深刻な穴が空くのは避けられなかった」

滝谷「さしもの所長も、あまりのガタ落ちっぷりに成績を誤魔化すのも限界だった様でね。部署の異常は、会社上層部の知る所となった」

トール「ふむふむ」

滝谷「改めて上層部が部署の内部事情を調べると、僕達が辞めた直後に業務が成り立たなくなり始めている事がすぐに判明した。
   いよいよおかしいと感じた上層部は、部署の事に所長の事、そして僕達の事について徹底的に調べ直したそうだ」

トール「! それって、つまり……!」パアッ

滝谷「ああ。それにより所長のパワハラや隠蔽などの所業は明るみに出て、晴れて小林さんの名誉は回復されたって訳さ」

トール「〜〜……………!!」ウルウル

小林「あはは…… そんな、泣きそうにならなくても」ハハッ

トール「だって…… だっでぇ……」グスグス

トール「良がっだ…… 本当に良がっだでず、小林さん……!」ベソベソ

小林「あはは、もう…… うん、ありがとね、トールちゃん」ニッ

125 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:14:20.27 ID:bo7Z/2J70

滝谷「そうした事実関係が明らかになった段階で、一度話し合いが持たれた。僕と小林さん、会社の上層部でね」

小林「会社もこの件はかなり重く見ていた様でね、あくまで平社員だった私達にも、きっちり頭を下げて謝罪してくれたんだ」

トール「うむうむ、トーゼンですね! 分かってるじゃあないですか!」ムッフーン

滝谷「誤解で小林さんを不当に解雇した事、それにより強い精神的苦痛を与えた事―― そうした事について謝罪した上で、彼らはある提案をしてきた」

小林「そう、『所長は責任を取らせるために解雇するから、どうか二人共我が社に戻ってきてくれないか』ってね」

トール「ひゅーう! それでそれで?」パタパタ

滝谷「うん。丁重にお断りしたよ」ニッコリ

トール「いえ〜い! お断り―― って、え!? 断ったんですか?」ビクッ

滝谷「ああ。だって、そうじゃないと僕達、今こうしてフリーランスしてないでしょ?」

トール「あ…… まあそれはそうですが……。でも何でです? あのパワハラクソ野郎が居なくなるなら会社に戻ってもいいんじゃ……」

小林「うん、私も話を聞いた当初はそう思って、承諾しかけたんだけど……」

滝谷「二人共、人が良すぎ(トール君はドラゴンだけど)。
   確かに今回の騒動で直接小林さんを陥れようとしたのは所長だけど、会社上層部の対応だって問題だった」

滝谷「あの時、所長の言い分ばかりを信じて小林さんの訴えを聞こうともしなかった会社だよ?
   いずれ別の問題が起こった時、似た様な事になってまた僕達や他の社員が害を被る事がないとは言えないだろ」

トール「ああ…… 言われてみれば、その通りですね」

滝谷「いくら謝罪されたとは言え、再び社員として所属して働くには、正直信用しきれない―― まあ、そういった理由で申し出は断ったのさ」ズズー

126 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:20:44.89 ID:bo7Z/2J70

小林「私もその時ね、滝谷君の話を聞いて改めて考えてみると、
   一度いざこざがあって辞めた会社に再び勤めるのって、何かすごく気まずくなりそうだなーって思って……」

小林「もうフリーランスとしての新しい生活にも慣れ始めていた頃だったし……。
   所長が居なくなっても、強いてもう一度勤めたいとは思えなかったから、私も最終的に断った」

トール「なるほど……。はい、小林さん自身が選択した事なら、それが一番よろしいかと、私も思います」コクリ

トール「……ん? では、あのクソ野郎への報いとは一体?
    というか改めて思い返せばそもそも私、今日あいつがまだあの会社で働いてるの見てるんですけど!?」

滝谷「うん。だからそれが彼の報い」ニコッ

トール「へ?」ポカン

滝谷「僕達が会社に戻るのを断る代わりに、ある要求をしたんだよ。
   『所長は解雇するのではなく、むしろ馬車馬の如くこき使ってやって下さい――』ってね」

トール「そ、それはどういう……」

滝谷「そもそも会社が僕達に戻ってきて欲しがったのも、別に善意なんかじゃないさ。
   単に、そのままじゃ部署の仕事が回らなくなったから仕方なく、ってだけに決まってる」

滝谷「さっきも言った様に、僕達が抜けた後、あの部署の成績はガタ落ちした。
   それでいてあの会社のプログラミング言語は特殊だから、新たに人を雇って1から戦力を増やすには、教育の手間が掛かりすぎる」

滝谷「だから即戦力になる人、それも元エースである小林さんを会社は呼び戻したかった訳さ」

小林「戦力として欲されたのは私だけじゃなくて滝谷君もでしょ〜。全く、隙あらば、す〜ぐ自分の事抜かそうとするんだから」

滝谷「ははは、まあその事は置いといて」サラッ



トール(そうか…… 確かに今日会社で見たあの男は、横柄な態度は相変わらずでしたが、それ以上にとても忙しそうに慌ただしくしていました。
    あれは、会社からその様に強いられていたんですね……)

トール(おべっかだけは上手いクソ野郎をただ社外に放流するだけでは、いずれ他の場所、他の会社で返り咲かせかねません。
    それだけでなく、小林さんの様にその被害を受ける人間を新たに生み出す可能性もある……)

トール(そういう意味でも首輪を付けてこき使う方が、確実に報いを受けさせられますかね)ウム

127 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:35:09.12 ID:bo7Z/2J70

トール「……でも、会社側もその条件をよく飲みましたね。
    有能な人材であるお二人を呼び戻せず、その上、無能なクソ野郎は雇い続ける事になるのに」

滝谷「ああ、交換条件を出したからね」

トール「交換条件?」

小林「うん。『先程の条件を聞いてもらえるなら、会社には戻らない代わりに、ヘルプとして会社の業務を適宜手伝っても良いですよ』ってね」

トール「ははあ、なるほど…… 部下と上司の主従関係でなく、あくまで対等なビジネス相手としてなら手伝う、という事ですか」

滝谷「そう言う事だね。僕としては内心、別にそこまでする義理もないとは思ったけど……」

滝谷(――更に言うなら、慰謝料請求した上で縁切りするのが妥当だとすら思ったけど、野暮だからそれは黙っておこう――)ズズー

小林「そう、だからこの条件は私から提案したんだ。
   さすがに会社側に何のメリットもないんじゃ、さっきの条件も飲んでもらえないだろうし……。それに、元同僚達の事も気がかりだったし」

トール「同僚達?」

小林「ああ。私達二人が抜けて、一番業務のしわ寄せが行ったのは元同僚達だろうしね。
   元々ブラックな職場ではあったけど、その点については悪いことしたなあって思ってたんだ」

トール(ああ、確かに……。今日行った職場の方々皆、憔悴し切った様子でしたね……)

トール「では、そういう経緯もあって、会社の業務を手伝う事にはなったんですね」

滝谷「勿論、仕事相応の代金はもらう契約でね。
   下請けの様な扱いをして、足元見て安く値切ろうとしてきたらすぐ辞めるって、はっきり言ってあるよ」ズズー

小林「うん。会社員時代はどうしても雇われの身でやりにくかった価格交渉を、臆せず出来るようになったのは良かった点の一つかな」

128 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:40:00.87 ID:bo7Z/2J70

小林「まあ、トールちゃんの話だと、社員の業務のブラック具合は今でも……いや昔以上にやばくなってる様だし、
   元同僚達には悪い気はしてるけどね……」ハハ……

滝谷「そう気に病まなくていいよ、小林さん。
   今の状況は僕も含めた他の社員が、所長のパワハラ問題を放置して、対処を小林さんだけに押し付けてきた事のツケでもあると言える。
   気の毒ではあるけど、皆にはしばらく頑張ってもらおう」ズズー

トール「ふーん。小林さんに比べドライですねえ、滝谷さんは。まあ同意見ですが」

小林「――とか言いながらね?」コソッ

トール「?」

小林「実は彼、同僚や後輩達が会社を辞めようとしていたら助けられる様に、
   フリーランスでやっていくためのノウハウをまとめたマニュアルとか作ってたりするんだよ」コソコソ(耳打ち)

トール「ほほー?」ニヨニヨ

滝谷「ブホッ!? ちょ、小林さん! 知ってたのかい!?」ゲホゲホ

小林「ふふ〜ん。会社辞めた後も、密かに親しかった同僚達と連絡取り合って、
   辞めた件で詫び入れたり、相談や愚痴を聞いたりしてるのも知ってるぜ〜?」ニヨニヨ

トール「ほ〜ほ〜? ドライを装った男の、正体見たり!って感じですね〜え?」ニヤニヤ

滝谷「結構知られてるね!? ちょ、ちょっと待って、せっかく僕のイメージ、
   表向きは剽軽なお調子者だけど、本質はクールでドライな男、って感じで固めて来てたのに、それは……」

トール「自分で言うんですかそれ?」

小林「いやあ滝谷君、普段すましてるけど割と根っこは熱いし、ピュアで理想家な所あると思うよ〜?」ニヤア〜

滝谷「い、いや、ほんと気恥ずかしいから勘弁して……」プルプル

小林「(^_^)」ニコニコ

トール「(^w^)」ニヤニヤ

滝谷「(//´;ω;`//)」カアァー



……………………………………………………

129 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 18:12:51.69 ID:bo7Z/2J70

滝谷「――全くもう、からかい過ぎだって……。あー、まだ顔暑い……」パタパタ

小林「ごめんごめん、つい、ね――」ケラケラ

トール「…………………………」ズズー

小林「――そう言えば先日実は、町を歩いてた時に偶然所長とすれ違ったんだけどさー」

滝谷「え、大丈夫だったかい?」

小林「うん、目が合った時にすごい恨みがましく睨まれはしたけど、
   しばらくしたらバツが悪そうに顔を背けて、何も言わずそそくさと足早に歩いて行っちゃったよ」

滝谷「ああ、彼にとって小林さんは、結果的に自分の悪行を暴いた相手である一方で、現状、部署の業務を助けてもらってる相手でもあるからね……。
   会社からもそこら辺、きつく言い含められてるだろうし、文句言いたくても言えないか」

小林「文句言いたいのはこっちの方だってのにねー、もう――」クダクダ

トール「…………………………」



トール(……これで、この1年間における『小林さん達にとっての記憶』については、大体聞き終わった様だ)

トール(驚くべき内容ばかりで、正直まだ頭が混乱している……)ヌヌウ

トール(でも、私の記憶と大きく異なるものの、お二人の記憶の話は終始筋道立っていて、矛盾や齟齬は感じられなかった)

トール(記憶の改竄自体は魔法で可能とは言え、この精度での辻褄合わせは上位存在でも極めて困難…… いや、到底無理と言っても良い程だ)

トール(一体何が起こっている? この記憶の相違にどんな意味が……?)

トール(くそっ、もう少し手掛かりがあれば、何か掴めそうな気がするんだけど――)



ピンポーン……



トール「!」ピクッ

滝谷「? 玄関のチャイムだ。誰か来たのかな……」

小林「今日は特に誰かと打ち合わせとかの予定は入ってない筈だけど…… 誰だろう? 滝谷君、宅配でも頼んだ?」

滝谷「いや? 僕も検討つかないな……。訪問販売や、ただの部屋間違いとかじゃ……」



ピンポーン!



???「――ごめん下さ〜い……!」



トール「…………!!」ガタッ

滝谷「うわっ!」ビクッ

小林「トールちゃん? 立ち上がってどうしたの――」

トール(この声、それにこの気配…… まさか……!)ドクン



ピンポーン、ピンポーン!



???「――あの、すみません! ここにトール君…… いえ、トールという名の女の子が来ていませんか!?」



トール「まさか、ルコアさん……!?」ザワッ……!



……………………………………………………
130 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2021/11/28(日) 18:43:54.92 ID:bo7Z/2J70
今回はここまで。やっとひとまず切りの良い所まで上げられました。

途中ですが、ここで本文中の訂正とお詫びを2点。

・小林さんの上司である所長は、原作漫画版では「課長」、アニメ版では「所長」となっています。
 この話ではアニメ版の「所長」で統一しているつもりですが、見返したら>>49においてのみ「課長」表記が混じっていました。ややこしくてすみません。

・滝谷のオタクモード時の一人称は執筆開始時に1つも確認できなかったので勝手に「オイラ」にしましたが、改めて見直したら、
 原作9巻82話で1コマだけオタクモード時の一人称「小生」の記述ありました…。まあ滝谷はノリで一人称変えて遊びそうな気もするので、
 これはこのまま行こうと思いますが、申し訳ありません。

…細かすぎんだろ、と言われそうですが、まあ一応という事で。



ここまででやっと話全体の5割となる予定です。

書き溜めた分が切れたので、ここからはまたしばらく時間が空きます…。

アニメ2期もとっくに終わってしまいました(2期良かったですね)。これは年末どころか年度末までに完結するかも怪しいですね…。(汗)

ただ、一番書いてて苦しい部分はこれで終わった予定ですので、出来るだけサクサク書いて、また近日中に投稿できる様に頑張ろうと思います。

では皆様、寒い日が続きますが体調にはお気をつけて。それではまた〜。
131 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/01/23(日) 20:37:40.45 ID:c8GX+i4N0
あけましておめでとうございます(震え声)

また2か月近く経ちましたが、年末年始の忙しさにかまけて全然書けてないので、今回はスレ保守のみで更新はなしです…。

書く気は失ってないので、あまり間を空け過ぎない様頑張ろうと思います。

今年の抱負は、年内完結(下方修正)。それではまた〜。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/28(金) 19:44:50.16 ID:kkZX4lcRo
続き楽しみ
133 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/03/23(水) 23:20:09.74 ID:Xrhx9rE80
もう三月も下旬…だと…?(滝汗)

今回も進捗なしのスレ保守のみです…。少なからず待っていて下さる方もいる中、申し訳ない。

やる気は、やる気はあるので…!どうぞ気長にお待ち頂ければ幸いです。ではまた〜…。
134 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/05/20(金) 06:24:08.19 ID:yEcR6nyj0
おはようございます。(出勤前)

今日はスレ保守だけですが、近日中に少し再開する予定です。
135 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:06:14.86 ID:bTM3bRGi0
こんばんは。

少しですが再開していきます。
136 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:08:22.82 ID:bTM3bRGi0

滝谷「! 今の声、トール君の名前を……」

小林「トールちゃん、ルコアさんってもしかして、トールちゃんの記憶の話で出てきた……?」

トール「――はい。私の知り合いのドラゴンです」

小林・滝谷「「………………!」」



トール(……どうして?)

トール(なぜ来た?/なぜ今まで居なかった?/どこに行っていた?/
    私の名前を呼んだ、私の事を覚えているのか?/それとも思い出したのか?/
    なぜ彼女の気配に気付かなかった?/私が話に夢中だったから?/それとも気配を隠していた?/
    そもそも本物か?/……)

トール(……疑問が次々湧いてきて、考えがまとまらない。ただ、今は……)ゴクリ



トール「………………」ソワソワ

小林「……滝谷君?」チラッ

滝谷「ん? ……ああ、いいとも」コクリ

小林「ん。……トールちゃん、玄関、出て良いよ」

トール「っ! 小林さん……」

小林「確かめたいんでしょ? 色々と。突然の訪問だ、今あれこれ悩んだって仕方ないさ」ニコッ

滝谷「なあに、せっかくの手がかりがあっちから来てくれたんだ。丁度良いと思って、まずは思い切って当たってみても良いんじゃないかな」ニッ

トール「お二人共……!」

トール「――はい!ありがとうございます。トール、特攻してきます!」バッ スタスタ……

小林「いや、ちゃんと帰っては来てね?」ハハ……

137 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:11:19.76 ID:bTM3bRGi0

【滝谷宅・玄関】

ルコア「…………すいません!ごめん下さ〜――!」

ガチャ

ルコア「!!」ピタッ

トール「――――ルコアさん」

ルコア「……トール……君……?」フルフル



トール(――ああ、私の知っている通りのルコアさんだ)

トール(明るいウェーブがかった長い髪、鮮やかで特徴的なオッドアイ、
    今時の人間の若者の様なラフなファッション、そして特大の果実が如き胸……)

トール(姿や声だけじゃない。この近距離だからこそ感じられるその匂い、そして魔力の波長に至るまで……
    幻や偽物だなんて有り得ない程に、まさしく彼女の物だ)



トール「……本当に、あなたなんですね、ルコアさん……」ウルッ

ルコア「…………………………」スッ ペタッ…

トール「へっ!? ルコアさん? 何故手を私の頬に……」

ルコア「…………………………」ペタペタモニモニ

トール「リュ、リュコアしゃ〜ん? にゃんれすか〜?」ムニムニ

ルコア「――――生きてる」ボソッ

トール「?」

ルコア「幻影でも木偶でも死霊でも複製体でもない……。容姿、声紋、虹彩、臭気、魔力波長、生体反応……
   、感知可能な全ての要素が、この子が本当のトール君である事を示している……」ブツブツ

トール「えっと、ルコアさん、その……」

ルコア「…………」ピタッ

ルコア「――――ッ!!」ダキッ!(トールに抱き着く)

トール「わぷっ!?」

ルコア「…………………………っ」ギュウウウウッ…

トール「ちょっ、もう、苦しいですって、ルコアさん……」

ルコア「……本当に、君なんだね。トール君……」グスッ

トール「……えっと、ルコアさん、私の事。覚えてらっしゃるんですか……?」

ルコア「覚えているとも……! 忘れる訳ないじゃないか、君の事を……」ギュウッ

トール「! ルコアさん……」ウルウル

138 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:14:28.42 ID:bTM3bRGi0

…………………………

ルコア「……いや、突然不躾にベタベタ触ってすまない。ありがとう、トール君」パッ(トールを解放する)

トール「いえいえ。ちょっとびっくりはしましたが、全く嫌ではないですから」アハハ

ルコア「そう言ってくれると有り難い。君が本当に君だという確証が、どうしても得たかったんだ」

トール「え〜、私、疑われてるんです? いつものカワイイトールちゃんですよ〜☆?」フリフリ

ルコア「アハハ、確かに可愛いけど、その見慣れない服装もあって疑ってしまった所もあって……」カンラカンラ

トール「えっ、見慣れない? (……いつものメイド服ですけど……)」



…………………………

小林「――良かった。無事に仲間のドラゴンさんと再会できたみたいだね、トールちゃん」コソリッ

滝谷「うんうん。仲良き事は美しきかな……」ヒタリッ

滝谷(……ところで、何ですかね、あのお姉さんのでっっっかい胸部装甲は。ありったけの夢がかき集められてるのかな?)ジー

小林「――滝谷君、今何見て何考えてる?」ジロリ

滝谷(!? 思考が……読めるのか? まずい……)ダラダラ

小林「何がまずい? 言ってみろ」ゴゴゴ

滝谷「…………………………ッツ!」ドドド



ルコア「――え〜と、そちらの奥から覗いているお二人は、この部屋の住人さんかな?」チラッ

小林・滝谷「「!」」ピクッ

トール「ん? あ、お二人共、見てたんですね。はい、そうです! 小林さんに、滝谷さんです! どうぞお二人もこちらに!」グイグイ

小林「えっちょっ……あー、どうも、えっとその、人間の小林と申します、よろしくお願いします〜……」ペコッ

滝谷「同じく滝谷です。よろしくお願いします」ニコッ サワヤカー

滝谷(ふう……事なきを得た……)ホッ

小林(後で滝谷君はどついておくか)

トール「えっと、ちゃんと話すと長いし複雑なんですが、とにかく私、このお二人に助けて頂いてて……」

ルコア「そう……。良かった、君がたった一人で困ってなくて」ホウ……

139 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:17:20.44 ID:bTM3bRGi0

小林「――えー、それじゃ、玄関で立ち話もなんですし、中へどうぞ」スッ

トール「はい! どうしていらっしゃったのかとか、しっかり聞きたい事が沢山ありますし……」

ルコア「あ、すぐ話をしたいのは山々なんだけど、ちょっと待って。実は今日来たのは私一人じゃないんだ」

トール「え?」

ルコア「人様の部屋に急に何人も押し寄せるのは警戒させてしまうだろうから、って事でね。先に私だけ確認がてら来たんだ」

トール「ルコアさん以外にも来ていた方が……? 気付きませんでした」

トール「そう言えばルコアさんの存在も、玄関チャイムが鳴るまで認識できませんでしたが……。
    変ですね、いつもの私なら匂いや音なり魔力なりで知り合いの接近には気付けるはずなんですが……」ムウ

ルコア「それはしょうがないさ。私達は此処に来るまで、簡単にだけど認識阻害や魔力隠蔽を施していたからね。
    トール君ほどのドラゴンなら集中して探知すればすぐ見破れる程度のものだけど、
    逆を言えば明確に探そうと意識を向けない限り、気付けないのも無理はない」

トール(……ただ此処に来るのに、何故そんなに警戒して……?)

ルコア「皆を、呼んでもいいかい?」

トール「あ、はい、どうぞ…… ってそうだ、小林さんと滝谷さんは良いですか?」

小林「ん。全然オッケー」b

滝谷「もちろん。むしろこの部屋に大人数だと、ちょっと手狭になってしまいそうで申し訳ないけどね」アハハ

トール「ありがとうございます!」ペコッ

ルコア「感謝します、お二方にも。じゃあ、ちょっと呼んでくるね――」クルッ スタスタ……



…………………………

トール「……皆って……?」ポツリ

140 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:19:33.34 ID:bTM3bRGi0

トール(先程ルコアさんは、私のメイド姿の事を見慣れないと言った)

トール(丁度1年前に小林さんと出会って以降、私がこのメイド服以外を纏った事はほとんどない)

トール(という事は、ルコアさんは私という存在は覚えているが、
    こちらの世界に来てからの――つまり、1年前からこれまでの私については恐らく覚えていないという事だ)

トール(――小林さん達同様、また“1年前”、か)

トール(偶然、ではないでしょうけど…… 具体的にどう関連してるかはまだ分からない)

トール(何にしろ、それも含めてこの後しっかりと確かめて――――)



タッタッタッタッ……



トール「?」ピクッ

小林「誰か、走って来て――」



タッタッタッタッタッ! バッ!



???「トール様!」ダキッ!

トール「わっ! ……あ、カンナ!?」

カンナ「…………………………っ」ギュウッ

141 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:21:44.90 ID:bTM3bRGi0

小林「わ、可愛い女の子だ」

滝谷「トール君の脚に引っ付き虫だね」

小林「カンナ……と言うと、トールちゃんの記憶では、私とトールちゃんと一緒に生活してたっていうドラゴンの子、だよね?」

トール「あ、そうです。良かった、再会できて…… もう、心配したんですからね?」ナデナデ

カンナ「…………………………ん」ギュ



タッタッタッ ドタプンドタプン……

ルコア「――お〜い、待ったカンナ、一人で行かないで〜!」ドタップン

トール「あ、ルコアさん」

小林・滝谷((何だあの移動音……))

ルコア「も〜、彼女、来て良いよって言うや否や、すぐ走り出しちゃって……」フウー

トール「そうですか、カンナあなた、ルコアさんと共に居たんですね……。安心しました」ホッ……

トール「ふふっ、けどカンナ、再会できたのは私も嬉しいですが、ちょっと引っ付きすぎですよ? 一回離れて……」

カンナ「…………………………!」ギューッ! フルフル

小林「ありゃ、更に強くしがみついちゃった」

トール「もうカンナ、一体どうし――」ピタッ

カンナ「……トール様……ほんとに……トール様…………」ポロポロ ズビズビ

トール「カンナ、泣いて……?」

142 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:27:06.00 ID:bTM3bRGi0

スタスタ ザッザッ……



???「本当に……生きていたんだな、トール!」ザッ

トール「その声…… エルマ!?」チラッ

エルマ「その通り。私の事、覚えていたか…… 久方振りだな」

トール「エルマ、あなたも来て…… ん?」

ファフニール「………………」ムスッ

トール「え、ファフニールさんも!?」

ファフニール「………………何だ」ギロッ

トール「あ、いえ、あなたも来てくれたんだな、と……」

ファフニール「………………フン」プイッ

トール「ハハ……(ファフニールさんは私の事を忘れていたはずでは……?)」

トール「……えっと、とりあえずこれで全員ですか、ルコアさん?」チラッ

ルコア「いや、後一名…… ファフニール君、あの方は?」

ファフニール「問題ない、すぐ来る」

ルコア「いや、そーじゃなくて。君にはあの方の介助をお願いしてたはずなんだけど〜?」プクー

ファフニール「馬鹿を言え。そこらの凡骨ならまだしも、王種たるモノに介添えなどむしろ礼を失するというものだ」フンッ

ルコア「ふ〜ん……? ……混沌の邪竜を自称する割に、結構お堅いというか、面子や体裁にうるさいよね、君って」

ファフニール「黙れ」ゴゴゴゴゴ

ルコア「……まあ、そうだね。あの方ほどの立場の者に関しては、その意見も一理あるか」

トール「あの方? 王種って一体、誰が――」ピクッ



カツン……カツン……

トール(歩道の方から誰かが、ゆっくり歩いてくる音……)



カツン……カツン……

トール(……? この、馴染みがあるけど思い出し切れない気配は……)



終焉帝「………………」ユラリ…… カツン……カツン……

トール「え―― お父さん!?」

143 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:29:58.24 ID:bTM3bRGi0

終焉帝「………………ッ!! ……トー、ル………………」ヨロヨロ

トール「お父……さん……? 本当に……?」

トール(姿を見ても、一瞬分からなかった……。気配は確かにお父さんの物、けれどこんなに衰弱してプレッシャーのないお父さん、見た事ない……)

トール(まるで別人、いや別龍の様な変わり様…… 一体お父さんの身に何が……?)

終焉帝「おお…… トール…… お前なのか……? トールよ……」フラフラ

終焉帝「っ!」ガクッ

トール「っちょっ……! 大丈夫ですか!? お父さん!」パシッ(肩を支える)

終焉帝「う、うう……」ググッ……

トール「どうして、お父さん程の方が、こんなにやつれて……」

終焉帝「……トール…… よくぞ、生きて……――ハッ!」

終焉帝「――いや。よくもまあ、しぶとく生き残っておったものだ」スクッ

トール「っ! お父さん……(これまでの、厳格な雰囲気のお父さんに戻った……)」

カンナ「っ、その言い方、ひどい! トール様がかわいそ――」キッ

ルコア「しーっ」ムギュ(カンナの口を手で塞ぐ)

カンナ「んむっ? んほははは(るこあ様)?」

ルコア「大丈夫。終焉帝もトール君を嫌ってる訳じゃない。勢力の長としての体面というしがらみがあるだけさ……」(小声)

カンナ「……むー」グスッ

トール「………………」

終焉帝「………………」

144 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:35:33.93 ID:bTM3bRGi0

ルコア「――さてさて、全員揃った所で改めて!」パン!(手を叩く)

トール「!」

ルコア「それでねトール君、まず、なぜ僕達がこうして君に会いに来たかなんだけど……」

トール「……あ! そ、そうですね! 是非聞かせて下さい!」アセアセ

ルコア「うん。……事の始まりは、ファフニール君が数時間前に『突然トール君から連絡を受けた』と教えてくれた事でね。
    その後、君の事を心配していたドラゴン達にその事をすぐに周知して、こうして一緒に確認しに来たんだ」

トール「え、ファフニールさんが!?」

ファフニール「……フン、お前等はともかく、俺は心配なぞしていない。偶々退屈だったから、暇潰しに丁度良いと思って同行したまでだ」プイ

ルコア「素直じゃないねえ。それに、退屈なのはいつもじゃないの?」

ファフニール「………………」ゴゴゴ

ルコア「いや黙んないでよ……(図星を突かれた時、とりあえず黙って凄むよねえファフニール君……)」アハハ……

トール「ええ……? えっと、それはつまりあなた…… 私の事、忘れてないんじゃないですか!?」ガアアッ!

ファフニール「む…………?」

トール「電話越しで言ってた『お前は誰だ』って何だったんですか! あれ言われて私、めっちゃ傷ついたんですからね! 謝って下さい!」ブーブー

ファフニール「………………」ブスッ

トール「……何ですか、黙ったまんまで。何か言ったら――」

ファフニール「……誰だと言いたくもなる」ボソリ

トール「は?」ピクッ

ファフニール「改めて問おう、終焉帝の娘によく似たドラゴンよ。お前は…… 誰だ」ギロリ

トール「は? 何訳の分からない事言ってるんですか…… 喧嘩売ってるんですか? 買いますよ?」ゴキリ

ファフニール「フン…… 良いだろう。確かめるには、直接戦り合った方が手っ取り早い」ググッ

トール「……………………!」ゴゴゴゴゴゴゴ

ファフニール「……………………!」ドドドドドドドド



ルコア「こらこらこらこらこらこら」ズビシッ!

ファフニール「ぬぐっ!?」ポカリ

ルコア「何で当然の様にバトルの流れになってるんだい」ハー

ファフニール「黙れ。これが俺の流儀と言うものだ」ゴゴゴ

エルマ「あの、こちらの世界で暴れられてしまうと立場上、私も止めに入らざるを得ないのでやめて頂きたいのだが……」オズオズ

ファフニール「チッ、調和勢が……!」

カンナ「ファフニール様、ちょっとバトル脳すぎ」プー

ルコア「ほらー、子供にも駄目だしされてるよー。年長者としてどうなのかなーその辺」プープー

ファフニール「ぐ……………!」ギリッ

145 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:41:01.78 ID:bTM3bRGi0

小林「トールちゃんも、玄関先で暴れるのはよしてね」

トール「は〜い♡」クルッ

ファフニール「!?」
ルコア「!?」
カンナ「!?」
エルマ「!?」
終焉帝「!」

ファフニール「何……だと……」ドドドドド

ルコア「あのトール君が……」ドドドドド

カンナ「破壊の申し子と呼ばれたトール様が……」ドドドドド

エルマ「ただの人間の指示に……」ドドドドド

終焉帝「素直に従った……」ドドドドド

ドラゴン達「「「「「だと……!?」」」」」ドドドドドドドドドド……!



トール「いやあの、ちょっとさすがに失礼じゃないですか皆さん?」

ファフニール「ほれ見ろ、やはりこの竜はトールなどでは……」

トール「まだ言いますか!」ガー

ルコア「ごめんごめんトール君、後でファフニール君には僕からちゃんと言っておくから……」

ファフニール「お前に何を言われる筋合いも――」

ルコア「君はちょっと黙ってなさい」ギュッ

ファフニール「むぐっ!?」モニュッ

ファフニール(顔をケツァルコアトルの胸に押し付けられて…… 息が……!)バンバン

滝谷「あれは…… 何ともウラヤマC……!」ゴクリ

小林「何 か 言 っ た ? 滝 谷 君」ゴゴゴ

滝谷「イエ、ナンデモナイデス」スン……

トール「……全くもー、何なんですかこの引きこもりドラゴン。訳の分からない事を……」プンプン

ルコア「ごめんね突然。……でも、彼を許してあげて?」

トール「え?」

ルコア「彼がそう言いたくなってしまうのも、無理のない事なんだ」

トール「それって、どういう……」

ルコア「トール君…… 今目の前でこうして生きている君に対して、言いにくい事ではあるんだけど――」



ルコア「――少なくとも僕達の認識では、君はもう死んでいるものと思っていたんだ」

トール「…………………………え?」



ザァッ……

146 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/05/24(火) 23:46:34.16 ID:bTM3bRGi0
短いですが、今回はこの辺で。

この5,6月でスケジュールに多少余裕が得られる予定なので、あまり間を空けずに切りの良い所まで、小刻みに投下していきたい所存です。

それではまた〜。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/25(水) 00:02:32.21 ID:Fc06W/qDO
謎が謎を呼ぶ
待て次回!

おつ
148 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/07/18(月) 00:42:52.91 ID:iRPtMnDe0
ぜ、全然2か月進捗がなかった…だと…(無念)

まさか空いていたはずのスケジュールに次々と新たなタスクが入り込んでくるとは…。

リアルが充実している結果、創作に割く時間が足りなくなるという事態は喜ぶべきか悲しむべきか。

とは言え依然完結を諦めてはいないので、待っていて下さる方は申し訳ないですが、気長にお待ち頂ければ幸いです。ではまた〜…
149 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/09/12(月) 23:27:56.79 ID:lRER0Feg0
うん、また進捗無しなんだ、すまない…(諦念)

様々なタスクが重なって忙しく、気付けばまた2か月…流石にそろそろ自分でも呆れる程の遅筆っぷりで情けなし。

待っていて下さる方には本当に申し訳ないですが、もう少しお待ち頂ければ幸いです。ではまた〜…
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/03(月) 00:14:22.07 ID:LEN30Acu0
2周年までに完結するかどうか賭けようぜ!
151 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:14:59.46 ID:lrUlPmko0
>>150
出来らあっ! 後6か月で完結まで行ってやるって言ったんだよ!!
…えっ!! 後6か月で完結まで!?(自縄自縛)

それはさておき、少し更新していきます〜。
152 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:16:36.86 ID:lrUlPmko0

――――――――――

ルコア「……………………………」

トール「――私が、死んでいると思ってたって、どういう……」



小林「ちょ、ちょーっと待った〜〜!!」ズイッ

ルコア「!」

トール「わっ! こ、小林さん?」

小林「いやーそのー、込み入ったお話の最中すいませんが、良いですか皆さん?」ペコペコ

滝谷「ままままままま、お互い色々話がしたいのは山々だと思いますが…… そろそろ、部屋の中に入りませんか?」アセアセ

小林「そ、そうそう! 玄関先で立ち話もなんですし、まずは中に入って、落ち着いて腰を据えてからじっくり話しましょう!」ウンウン

滝谷「えぇえぇ、なのでどーぞどーぞ中へ!」ワタワタ

トール「お二人共……」

ルコア「……そうだね、大人数だし、そろそろ夕方だし、此処で話してちゃご近所にもご迷惑だよね。
    じゃ、お言葉に甘えさせて頂こうか。皆もそれでいいよね?」

カンナ「りょーかい」ハーイ

エルマ「私も、そちらの人間のお二人が宜しければ、それで異議はない」

ルコア「――終焉帝も、それで宜しいですか?」

終焉帝「……うむ、構わぬ」コクリ

153 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:18:20.04 ID:lrUlPmko0

ルコア「ファフニール君も、それで良――あ」

ファフニール「…………………………ッツ!!」バンバン

ルコア「ああ、ごめんごめん! 押さえ込んでたの忘れてたよ」パッ(手を離す)

ファフニール「ップハッ! 全く、巫山戯た真似を……っ!」ゼエゼエ

ルコア「ごめんって(笑)。それで、中に入って話をするって流れになったけど、良い?」

ファフニール「ハアハア……フン、力持つ竜が“話をする”などまどろっこしい事この上ないが……
       どうせ俺は暇潰しで付いて来ただけの身。お前らの好きにすれば良い」プイッ

ルコア「はいはい、君もお話聞きたいんだよねー。分かってる分かってる」ウンウン

ファフニール「貴様ッ、何を適当な――!」キッ

ルコア「はい、それじゃあ皆の了承も取れたので、部屋に上がらせて頂いていいかな? え〜と…… 小林さん、に滝谷さん?」クルッ

小林「あ、はい!」

滝谷「はーい、いらっしゃいませどうぞ〜! 5名様ご案内〜!」ガチャッ

小林「飲み屋の店員か! ああいや、とにかくどうぞどうぞ〜!」ササー

ルコア「は〜い、お邪魔しま〜す♡」スタスタ

ファフニール「おい! ケツァルコアトル、先程の発言――」

ルコア「さ、終焉帝もどうぞ」スッ

終焉帝「……うむ……」スタスタ

ファフニール「おい!」

カンナ「おじゃましまーす」テクテク

ファフニール「おい――」

エルマ「では私も、上がらせて頂く」スタスタ

ファフニール「おい……?」



ファフニール「…………………………」ポツン



ルコア「――――ファフニール君? どうしたの、早く上がりなよ。玄関閉められないよ?」ヒョコ

ファフニール「…………………………くっ!」スタスタ

ルコア「?」

バタン ガチャリッ……

154 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:20:33.09 ID:lrUlPmko0

…………………………………………

【滝谷宅・リビング】

ガヤガヤ、ワイワイ……



カンナ「せまい」ムー

トール「狭いですね……」

滝谷「いやー、流石に一部屋に8人もいると狭く感じるね……。あ、お茶入れるね」コポポポ

トール「あ、じゃあ皆さんに渡していきますね」スッスッ

滝谷「ありがとー」コポポポ…



小林「すいません、お二人には立っててもらう事になってしまって…… 大丈夫ですか?」

エルマ「いえ、家主の方を立たせる訳にはいきませんし…… それにドラゴンにとってこの程度、何の痛痒にもなりませんので」フルフル

ファフニール「…………フン」ブスッ

ルコア「ごめんね二人共〜、僕、座らせてもらっちゃって」アハハ……

ファフニール「……別に構わん。ただし、面倒なので俺は口を出さんからな。その分、諸々の説明はお前が担当しろ、ケツァルコアトル」ゴゴゴ

ルコア「はいはい、了〜解♪(何故か殺気を向けられている……なんでだろ?)」ケロッ

終焉帝「……私が立っていても構わないが……」スッ

トール「お父さん!? じゃ、じゃあ私も……!」スッ

ルコア「いえいえ! 終焉帝は是非、ご無理なさらず…… どうぞ楽にしていて下さい」

終焉帝「むう……すまん、かたじけない」ストン

小林「トールちゃんも、話さないといけない事が多いだろうから、それに集中できる様に座って楽にしてた方が良いんじゃないかな」

トール「は、はい……では、お言葉に甘えて……」ストン

終焉帝「………………」ジィッ……



カンナ「ルコア様、わたしも立つー?」

ルコア「んー? カンナはこのまま、僕の膝の上に座ってて良いよ〜」

カンナ「はーい」ポフッ

滝谷(おっぱいを背もたれに……だと……!? なんと羨ま――)ドドド

小林「――おらぁっ!」ドゴッ!(滝谷の後頭部をどつく)

滝谷「いっだあ! 小林さん、突然何を……!?」ジンジン

小林「さっき玄関でどつきそびれた分、思い出したから清算しとこうと思って」ニコッ

滝谷「ホワット?! 理不尽……!!」イテテ

155 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:22:28.67 ID:lrUlPmko0

…………………………



ズズー(お茶を啜る音)

ルコア「――――ふう。さて、一段落した所で」コトリ

トール「ええ、改めて本題に入りましょう」

ルコア「……とは言え、何から話し始めようか? お互い現状認識に大分差がある様な雰囲気だし……」

トール「うーん、そうですね……
    なら、まずはどちらか片方が自分の認識する現状を一通り説明した後、今度はもう片方が同様に説明する…… というのでどうでしょう?」

小林「ああ、さっきまで私達がやってた感じだね」

トール「ですです!」

ルコア「……? さっきまでって、君達もお互いに説明を?」

トール「あ、はい。今日の昼過ぎに二人と出会えてから、先程までここで……」

ルコア「――んん? ちょっと待ってくれ、トール君とそちらのお二人は既知の間柄ではないのかい?」

トール「あ、え〜と、その〜、そうなんですが、そうなってなかったと言いますか何というか……」シドロモドロ

ルコア「――成程、そこも含めて“説明すべき現状”という事だね?」

トール「は、はい。ちょっと、複雑なんですが……」アセアセ

ルコア「そうか――。うん、それなら、最初はトール君、そちらの話から聞かせてくれないかな」

トール「え、その、よろしいんですか?」

ルコア「ああ。どうも、君の経てきた事情の方が複雑そうな気がするからね。まずはそちらを聞いておきたいな」

トール「で、でも大分長くなると思いますよ? 私の認識と合わせて、小林さん達の認識についても話さなきゃだし……」

ルコア「そこはそれ、トール君、君は確か“アレ”。使えただろう?」フフッ

小林「アレ?」

滝谷「アレ?」

156 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:25:06.67 ID:lrUlPmko0

トール「アレ…… ハッ! そうか! “アレ”ですね!!」ピーン!

小林「トールちゃん、何か覚えがあるの?」

トール「はい! フッフッフ、遂に“アレ”を使う時が来た様ですね……。48のメイド技が一つ、『圧縮言語』を!」ドン!

小林・滝谷「「『圧縮言語』……!?」」ゴクリ

トール「ええ。自身の有する情報を圧縮された魔力波に変換、その魔力を呪言に載せて聴覚を介して相手に送る事で、
    莫大な情報量を瞬時に伝達する事が出来る魔法です!」フフーン!

小林「……あー、成程。便利だね」サラッ

滝谷「うん。確かに便利だ」サラサラッ

トール「ってあれ!? 何か反応薄くないです!?」ガビーン!

小林「いやいや、うん、本当に凄いなーとは思ってるよ? 思ってるけど、方式にちょっと馴染みがありすぎて……」アハハ……

滝谷「要は『zipでくれ』というのと同じだろうからね……。親近感が凄い」ふふっ

トール「“ジップ”……?こちらの世界に伝わる秘儀か何かで……?」ゴゴゴ

小林「あーいや、うん、そんな感じ! まあまあこっちの話、こっちの話だから!」

滝谷「うん、ごめんね水差して? 気にせず続けて大丈夫だから、ね?」

トール「そ。そうですか……? ちょっと釈然としませんが……
    それじゃあ、伝える情報を取り纏めてから圧縮するんで、ちょっとお待ちを――フッ!」ギュオッ!

滝谷「おお!? トール君の前で透明な何かが渦巻いて玉の様に……(螺旋丸かな?)」

カンナ「キレー」お〜

157 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:28:40.89 ID:lrUlPmko0

ギュオオオ…………!



小林「あれ、ところでその圧縮された情報って、私や滝谷君も受け取れるの?」

トール「いえ、あくまで魔力波を用いての情報伝達ですので、少なくとも魔法を扱える素養がないと理解はできないはずですね」ギュオオオ!

小林「そっかー、ちょっと残念」

トール「ふふっ、でも、もしかしたら小林さんも、ちょっとは分かるかもしれませんよ? ――っと、準備完了!」ギュン!

ルコア「うん、では説明よろしく♡」

トール「はい! ではドラゴンの皆さん、耳かっぽじってよ〜く聴いてくださいね! 行きますよ〜……」



ガバッ! パクッ!



小林(生成した玉を――)

滝谷(食べた!?)



スウ〜〜〜ッ……(大きく息を吸う音)



滝谷(さて…… さっきは素っ気ない態度をとってしまったが…… 本当は興味深い……)ワクワク

小林(呪言に載せて伝えるそうだけど…… 一体どんな風に……)ソワソワ



トール「…………………………」

トール「ッ!」キッ!



トール『かくかくしかじか!まるまるうまうま!』ゴーン!



小林・滝谷((ん?))キョトン



トール『ほしほしとらとら!ばつばついぬいぬ!』



小林(これは……)

滝谷(小説とかで見る、説明シーンを省略する時のアレ……!)ノーン



トール『どらどらごんごん、めいめいどーどー!』



ルコア「ふんふん(相槌)」

滝谷(あ、本当に伝わってはいるっぽい……)



トール『こばこばやしやし、らぶちゅーべろちゅー!』ガー!



小林(あ、今のは何となく私の事言ってるなって分かった)

158 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:35:51.54 ID:lrUlPmko0

トール「――ふう。以上です!」

ルコア「うん、お疲れ様、ありがとうね」

終焉帝「…………うむ」コクリ

ファフニール「ふん、やっと終わったか」コキッ

滝谷(……皆あからさまに“長話が終わった感”出してるけど、本当に伝わってるのかなアレ……)

小林(うーん、嘘って事もないだろうけど……)

ルコア「ん――? ははーん、ほんとに伝わってるか怪しいな〜って顔だね、お二人共?」フフッ

小林・滝谷「「!(バレとる……)」」アハハ……

ルコア「ふふっ。ま、証明代わりに今の話を要約すると……



一年前、神との戦いに敗れてこちらの世界に落ち延びたトール君は、人間の小林さんに命を助けられ、彼女のメイドとして共に暮らし始める。


小林さんの同僚・滝谷さんや地域の人々、そして私達ドラゴンを交えての、波乱はあれど充実した平和な日々を重ね、気付けば丁度昨日で1年。
トール君は出会って一周年を記念してのご馳走を準備するも、些細なすれ違いから小林さんと喧嘩をして、家を飛び出してしまう。


それから一晩中、激情のまま空を飛び回って頭を冷やしたトール君だけど、いざ今朝部屋に帰ってみると様子がおかしい。
部屋はもぬけの殻、更に隣人からは自分や小林さん達の記憶が無くなっていた。
異常を察したトール君は、小林さん達を探すために方々を飛び回るものの、更に謎は深まるばかり。


そして昼頃、偶然にも街を歩く小林さんを発見し駆け寄るも、
小林さんにもトール君との記憶が無い事が分かり愕然としたトール君は、ショックのあまり走り去ってしまう。
頼みの綱のファフニール君に電話もするけど返ってきたのは、すげない「お前は誰だ」コール。


打ちのめされたトール君は雨の中で泣き崩れてしまうけど、そこで現れたのが小林さん。
記憶はなくとも、それでも自分を心配して探してくれていた小林さんの優しさに、トール君はまたも号泣するのだった。


落ち着いた二人は、同じくトール君を探してくれていた滝谷さんと合流。
滝谷さん宅、つまり此処に移動して、状況理解のための話を始める。
まずトール君が自身の覚えている記憶を説明するが、小林さん達二人の認識はそれとは大きく異なるという。


曰く、まず1年前、小林さんはトール君と出会った覚えはないらしい。
そしてその後小林さんは空き巣に遭い、会社をクビになり、それに伴い滝谷さんも会社を辞め、
二人はフリーランスとして働き始め、四苦八苦しながらも何とか今日までやってきたという話。


互いの認識する記憶があまりに乖離しているこの状況。
どう考えればよいかと頭を悩ませていた所…… 丁度僕達が訪問してきた、って感じだよね?」



小林・滝谷「「(;゚д゚) (;゚д゚)」」ポカーン

159 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:38:32.72 ID:lrUlPmko0

小林「ちゃ、ちゃんと伝わってる…… というか、完璧すぎる要約……」オオオ……

滝谷「まるで、半年近く間が空いて、話がうろ覚えの人でも大丈夫な様に挟まれたあらすじの様に完璧だ……」プルプル

小林「いやその例えはちょっとよく分かんないけども」



カンナ「う〜、頭重いかんじー……」ウー

エルマ「う、む。内容は理解したものの、濃すぎる魔力波に、ちょっと、酔った、かもしれん……」クラッ

トール「ちょっとー、まだ幼いカンナはともかく、あなたはあの程度の魔力波、普通に処理して下さいよ。“聖海の巫女”の名が泣きますよー」

エルマ「う、うるさい……! こういうまどろっこしい、もとい繊細な魔法はちょっとだけ苦手なんだ!」ガー!

トール「全く、この脳筋はらぺこドラゴンは……」ハ〜

エルマ「何を〜!?」ギャース!



ギャーギャー……

160 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/11/30(水) 22:56:02.79 ID:lrUlPmko0
ちょっと中途半端ですが、今回はこの辺で。

気付けば今年も残り一ヵ月、皆様お元気でしょうか。
自分は病気こそしていないものの、仕事と私生活のリズムが中々掴めず、更新が半年近く空いてしまいました……(無念)

最近、やっと時間のメリハリの付け方が見えてきたので、この調子で進めていければと思います。
冒頭では冗談っぽく言いましたが、ここは本当に後6か月で完結する目標で行きたい所。

読んで下さっている方々は、もう少しお付き合い頂ければ幸いです。それでは〜。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/30(水) 23:34:53.77 ID:TZYYXIM60
何かと臭い自分語り書く暇あるならさっさと本編書けばいいのに
雑談したいなら適した場所もっとあるから
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 10:03:36.09 ID:2bBcI67DO
あらすじ助かる
個人的にはさっさと終わっちゃうよりもダラダラ長く続いてる方が好き
終わったら終わりだから
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 12:12:59.19 ID:BCu2RPhu0
いろんな意味で終わってるけどなこのスレは
R板でスカトロスレ乱立する荒らしの方がまだ場の盛り上げ方を理解できてる
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 15:32:27.58 ID:7GIOvT/10
スカトロスレってあのいつもの「フハッ!」のうんこマン?
あいつ頑なにR行こうとしなかったけどようやくR行く知能が生えたのか
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 23:55:45.60 ID:BCu2RPhu0
そういえば>>162はダラダラと引き伸ばす事は肯定してる割りに「自分語りが寒い」って所には逆張りしてないんだな
やっぱ信者も薄々そう思ってたんだなぁと実感
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/02(金) 07:32:21.42 ID:/U+7moNDO
好意的に見られないからといって叩く理由にはならないから触れないだけ
別に悪事働いてるわけでもないんだし
167 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:13:03.31 ID:/uPr47kR0
コメントありがとうございます。耳に痛いお言葉も多いので、真摯に受け止めさせて頂きます…。

という事で、また少し更新していきます〜。
168 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:14:20.92 ID:/uPr47kR0

―――――――

ルコア「よし、それじゃあ次は僕達の話をする番だね」フウ

トール「はい、よろしくお願いします。どうしましょう、そちらの話も圧縮言語で……?」

ルコア「いや、こちらの話は普通に話すよ。どうやらそちらの人間のお二人にも、一応聞いておいてもらった方が良さそうだしね」

小林「え、そうなんですか?」キョトン

ルコア「うん、多分だけど」

小林「で、では謹んで」ピンッ

滝谷「聞かせて頂きます!」シャキッ

ルコア「あはは、そう緊張しないで。トール君が今してくれた話よりは長くならないよ。主な内容は二つだけさ」

トール「二つ、ですか」

ルコア「ああ。一つ目は玄関前でも言ったが…… 僕達の認識では、トール君は既に死んでいたものと思っていた、という事だ」

トール「……はい。ぜひ説明をお願いします」

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