結標「私は結標淡希。記憶喪失です」

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441 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:40:39.04 ID:4HZ8YDOAo


S1.ファーストデートi


私の名前は結標淡希。とある高校へ通う空間移動(テレポート)という超能力を持つ至って普通の女子高生。
そんな私に最近恋人ができた。
白髪赤眼で線の細い体格。ぶっきらぼうで偏食家で面倒くさがり屋でいつでもどこでも昼寝をしているような、同じ家に居候している同居人の年下の男の子。
一週間前に一緒に行った遊園地の観覧車の中で、私の方から告白をし、それを受けてくれたことによって恋人同士となった。
思春期真っ盛りの女子高生からしたら初の彼氏ができるということは、それはもうとてもとても嬉しく、毎日がウキウキワクワクみたいな感じである。
まさしく人生が薔薇色になるとはこのことなんだろうとハッキリと言える。

そんな誰にでも自慢したくなるような状況だけど、その現場にいた子以外の同居人にはこのことはまだ話してはいなかった。
なんというか、今更そんな関係になりましたと面と向かって言うのが恥ずかしくてまだ話せずにある。
いつか自分から話そうとは思っているが、果たしていつになることやら。
まあ、その同居人二人のうち一人はニヤニヤしながらこっちを見ていたりするので、気付いていそうではあるが……。

そんな人生の絶頂期にあるであろう私には一つの悩みがあった。
先程言ったように、彼と私が恋人となったのは一週間前である。七日間経っているのである。当日を除いたら六日間。
六日間もあったらやりたいことは学生レベルなら大抵何でもできると思う。たぶん。
そんな日数経っているのにも関わらず、私と彼の間には――。


442 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:41:19.17 ID:4HZ8YDOAo


April First Wednesday 15:00

-黄泉川家・リビング-



結標「……ねえ、一方通行?」



一方通行「あン?」

結標「ちょっと確認したいことがあるんだけどいいかしら?」

一方通行「何だよ?」

結標「私たちって恋人同士、ってことでいいのよね?」

一方通行「そォだな。それがどォかしたかよ?」

結標「…………」

一方通行「?」

結標「…………ないのよ」ボソッ

一方通行「あァ?」





結標「私たちあれから恋人らしいこと一度もしていないのよ!!」ドン





一方通行「……ハァ?」

結標「恋人らしいことよ恋人らしいこと! あれから一週間も経つというのになんにもないじゃない!」

一方通行「そりゃいつも通り生活してりゃ何も起こりよォがねェだろ」

結標「何でいつも通り生活しているのよ!? 恋人同士になったのよ!? なんかあるでしょやること!」

一方通行「その言葉、そっくりそのままオマエに返してやるよ」


443 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:42:17.87 ID:4HZ8YDOAo


結標「だいたい唯一やった恋人同士らしいことなんて、観覧車のときにやったその、き、キスくらいじゃない。そんな状態で恋人同士なんて言えるのかしら?」

一方通行「知るか」

結標「と、とにかく! 何か恋人同士でやるようなことをやりたいわ!」

一方通行「何かって漠然とし過ぎだろ……はァ、まァイイ。そンなにやりてェならやってやるよ」

結標「えっ、ほんと? 一体何をするつもりなのよ?」

一方通行「……よし、外出るぞ」ガチャリガチャリ

結標「外? 一体どこに行くつもり?」

一方通行「どこって、ラブホ――」




ゴッ!!




結標「ふ、ふざけんなッ!! この変態ッ!!」つ軍用懐中電灯

一方通行「痛ッ……恋人同士でやることやりてェっつったのはオマエだろォが。キスの次っつったらそォいうことになるだろ」

結標「極端過ぎるわよ! 私たちにはまだ、その、は、早いっていうか……」

一方通行「だったら何がやりてェンだよオマエは?」

結標「うーん、そうねえ……やっぱりデート、とかかしらね?」

一方通行「最初からハッキリそォ言え」

結標「……あっ」

一方通行「ンだァ? その何かを察したみてェな面はァ?」

結標「もしかして貴方、そういうキス以上のことやりたかった、ってこと?」

一方通行「は?」

結標「いやー、貴方にもそういう感情があるんだなぁって気付けて何か嬉しいなーっていうか」

一方通行「付き合い始めて五分くれェでキス求めてくるオマエほどじゃねェけどな」

結標「なっ、あれはそういうのとは違うでしょ!?」

一方通行「同じようなモンだろ」

結標「違うわよ!」


444 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:43:45.96 ID:4HZ8YDOAo


結標「と、いけないいけない話が逸れていっているわ。デートの話よデートの話」

一方通行「デートって具体的に何をやればイインだ? 悪りィが俺ァその辺疎くてよォ」

結標「そうね。たとえば一緒にショッピングしに行くとか?」

一方通行「なるほど。だったら適当にコンビニでも行くか」

結標「それショッピング違う!」

一方通行「あァ? ショッピングって買い物することだろォが」

結標「貴方の言っているのはただの買い出しよ」

一方通行「なら何を買いに行けばショッピングっつゥことになるンだよ?」

結標「うーん、たとえばかわいい洋服買いに行ったり、かわいいアクセ買いに行ったり、かわいい雑貨買いに行ったり」

一方通行「オマエが欲しいモン並べてるだけじゃねェか」

結標「でもショッピングってこういうことよ?」

一方通行「面倒臭せェ。他に何かねェのかよ? ショッピング以外にも何かあるだろ?」

結標「雑誌とかでよく特集されているのは遊園地デートとかかしらね?」

一方通行「この前行ったばかりだろォが。また行く気かよオマエ」

結標「さすがの私もそれはないわね」

一方通行「ソイツは安心した」

結標「他には動物園とか水族館とか美術館みたいなところ行ったりとか」

一方通行「面白れェのか? それ?」

結標「あっ、あとお弁当持って自然公園へピクニック、ってのもあるわね」

一方通行「そのお弁当っつゥ言葉を聞くと果てしなく不安になるから却下だな」

結標「貴方って本当に失礼よね」

一方通行「事実だからな」

結標「あとは映画を一緒に観に行くとか……そういえば、貴方と一緒に映画観に行ったことないわよね?」

一方通行「ああ」

結標「じゃあ映画観に行きましょ? 私たちの初デートは映画デートに決定!」

一方通行「映画か。去年の秋くらいにインデックスと一緒に行った以来か」

結標「……なんで私とは行ったことないのにインデックスとは行ったことがあるのよ?」ジト-

一方通行「勘違いするな。人探しに付き合っていただけだ。映画自体は観てねェ」


445 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:45:08.09 ID:4HZ8YDOAo


結標「さて、今やっている映画は、と」ピッピッ

一方通行「つまンねェ映画選ぶンじゃねェぞ」

結標「貴方ってどういうのが好きなのかしら?」

一方通行「……あー、好きかって言われたらアレだが、ド派手なアクションものの洋画とか観てた気がすンな。悪党が活躍するよォなモン」

結標「なるほど。貴方らしいって言ったら貴方らしいわね」

一方通行「オマエはどォなンだよ?」

結標「私はいろいろ観るわよ? 恋愛ものとかホラーとかファンタジーとか。この前、打ち止めちゃんと行ったときはアニメも観たし」

一方通行「多趣味なことで」

結標「どうせだから貴方も新しいジャンルを開拓してみれば? というか貴方は恋愛ものとか観て女心の一つでも学んでみたらいいと思うんだけど?」

一方通行「何で俺がそンなことしなきゃいけねェンだよ?」

結標「だって貴方デリカシーとか全然ないし。そういうのは直していったほうがいいと思うわ」

一方通行「余計なお世話だっつゥの」

結標「というわけで観るのは恋愛もので決定! ちょうど『今期最大の青春ラブストーリー』とかいうキャッチコピーの映画がやってるし、これでいいでしょ」ピッピッ

一方通行「何だよ最大のラブストーリーって。意味わかンねェ上に安っぽ過ぎンだろ」

結標「いいじゃない別に。大事なのは映画の内容よ」

一方通行「そンなクソみてェなキャッチコピー付けられている時点で、内容の方も期待できそォにねェけどな」

結標「どうして貴方はそうネガティブというか、マイナスみたいな思考しかできないのかしら?」

一方通行「変に希望を持たねェよォにしているだけだよ」

結標「あっそ。じゃあそういうわけで明日の朝一〇時前くらいのヤツ予約入れとくわね」ピッピッ

一方通行「あァ? 明日だと? 今から行くンじゃねェのかよ」

結標「そんな急に今から行くなんてことしないわよ。私だって準備とかいろいろあるし」

一方通行「それはイイとして何で朝に行こうとしてンだよ? 別に昼からでもイイだろ」

結標「決まってるでしょ? 映画観終わってランチに行って、そのあといろいろ遊びに行けるでしょ?」

一方通行「映画だけじゃなかったのかよ」

結標「当たり前じゃない。それくらい付き合いなさいよ」

一方通行「面倒臭せェ……」


―――
――
―


446 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:46:21.73 ID:4HZ8YDOAo


同日 19:00

-黄泉川家・食卓-


結標「――そういうわけで、明日は朝から二人で出かけてきます」

黄泉川「おう、わかったじゃんよ」

芳川「……ふーん、二人きりで、ね。随分と仲がいいのね?」クスッ

結標「あははは、別にそういうのじゃないですよ」

芳川「そういうのってどういうことかしら?」ニヤニヤ

結標「さ、さあ? どういうことでしょうか、あははははは」

黄泉川「?」

打ち止め「ねえねえ、何の映画を観に行くの? ってミサカはミサカは興味を示してみる」

一方通行「あァ? 何かよくわからねェ恋愛もののヤツ」

打ち止め「ああ、あのよくCMで見る学園恋愛ドラマのやつ? ってミサカはミサカは頭の中の記憶を引っ張り出してみたり」

一方通行「たぶンそれ」

打ち止め「いいなぁ、ミサカも映画館行きたいなぁー。今度エンシュウでも誘ってみようかな、ってミサカはミサカは現在絶賛公開中の『劇場版そげぶマン 奇蹟の歌姫編』を観るための方法を画策してみたり」

黄泉川「ところでいつ帰ってくるじゃん?」

結標「おそらく夕飯までには帰って来れるとは思います」

黄泉川「了解。明日は煮込みハンバーグ作る予定だから、たくさん遊んで腹空かせて帰ってくるとじゃん」

打ち止め「わーい!! ミサカ、ヨミカワの作ったハンバーグ大好き!! ってミサカはミサカはバンザイして喜びを表現してみたり」

一方通行「晩メシの為に腹空かせろとかガキじゃねェンだからよォ」

黄泉川「もちろん一方通行の為に大盛りのサラダも作っておくじゃん」

一方通行「ますます腹空かせる気が起きなくなってくるな」

芳川「ま、テンション上げすぎて朝帰りみたいなことはないようにね?」

結標「な、何言っているんですかきちんと夕食までには戻りますよ!」

一方通行「くっだらねェ」


―――
――
―


447 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:48:20.44 ID:4HZ8YDOAo


April First Thursday 09:00

-第七学区・駅前-



結標「…………あれ?」ポツーン



結標「今九時よね? 一方通行のヤツが来ないわ……」

結標「まあ、アイツのことだからちょっとくらい遅れるくらいはありえる、か……」

結標「うーん、こんなことならあんな提案しなかったらよかったかしら?」


〜回想〜


結標「ねえ一方通行? 明日のことなんだけど」

一方通行「あン?」

結標「ここから一緒に映画館に行くんじゃなくて、あえて駅前とかで待ち合わせして行かない?」

一方通行「何でそンな面倒なことしなきゃいけねェンだ?」

結標「いやー、デートで待ち合わせって定番じゃない? 『ごめん待ったー?』とか『大丈夫だよいま来たところ』みたいなやつ」

一方通行「知るかよ」

結標「そういうの何となく憧れがあってやってみたいなーって思ってたのよ」

一方通行「ンなことの為に別々に家出ンのかよ?」

結標「こういうとき同じ家に居候しているっていうのって不便よね」

一方通行「不便って言葉の使い方、それで合ってンのか?」


芳川「同じ家に居候しているって、言い方変えると同棲している、とも言えるんじゃないかしら?」


結標「!?」

一方通行「どっから湧いてきやがったクソババァ」

芳川「普通に部屋からだけど」

結標「へ、変な言い回ししないでください!」

芳川「あらそうかしら? 同じ屋根の下に男女が一緒に住んでいるのだから間違ってはいないんじゃない?」ニヤニヤ

結標「そ、それは……」

一方通行「どォでもイイが、他にクソババァ×2+クソガキが居る時点でそォいうのとは違ってくンじゃねェのか?」

芳川「あっ、バレちゃった?」

一方通行「チッ、うっとォしいヤツ。とっとと部屋に帰りやがれ」

芳川「ふふふ、お邪魔しちゃってごめんなさいね。じゃ、おやすみ」テクテク

結標「お、おやすみなさい……」

一方通行「……はァ、俺も眠くなってきたから寝るか」

結標「あっ、ちょっと。さっきの待ち合わせの件、忘れないでよね! 駅前に九時よ!」

一方通行「わかったわかった、ふァー」ガチャリガチャリ


〜回想終わり〜


448 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:49:20.00 ID:4HZ8YDOAo


結標「……ちゃんと覚えているわよね? 改めて朝のうちにもう一度確認しなかったのちょっと後悔だわ」

結標「いや、でも普通に考えて忘れるってことはないはずよ。だってデートよ? 初デートよ? そんな重要イベントの待ち合わせよ?」

結標「……まあいいや、もうちょっと待ってみるか」



〜一〇分後〜



結標「……来ない」

結標「もしかして私待ち合わせ場所か時間どっちか言い間違えた?」

結標「無意識のうちに公園に一〇時集合とか言っちゃってた? いや、まさかー」

結標「ま、まあもうちょっとだけ待ってみようかしら」



〜さらに一〇分後〜



結標「さ、さすがにこれはおかしいわね。アイツもしかして寝ているんじゃない?」

結標「……いや、さすがにそれはないか。だって一緒に朝食食べてたんだから起きているのは確実よ」

結標「うーん……そうだ。ちょっと電話してみようかしら」ピッピッ

結標「…………」プルルルル


携帯『おかけになった電話は電波の届かない場所にいるか電源が入っていないためかかりません』


結標「……あの野郎、電源切ってやがるわね」

結標「ど、どうしようかしら。今から家に戻ってたら映画の時間絶対に間に合わないし、戻ったら戻ったですれ違いとかになったら嫌だし」

結標「ぐぬぬ……」


―――
――
―


449 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:50:46.83 ID:4HZ8YDOAo


同日 09:30

-黄泉川家・リビング-


打ち止め「ふんふーん♪ 今日は学園都市クエスト最初からプレイして無能力縛りで遊んでみよう、ってミサカはミサカは新しい遊びを開拓してみたり」

打ち止め「そういえばゲーム機どこ置いたっけ? ゲーム機ゲーム機……あれ?」キョロキョロ


一方通行「Zzz……」


打ち止め「……うん? 今日ってアワキお姉ちゃんとデート、もとい映画館に行っているんじゃなかったっけ? ってミサカはミサカはソファに寝転んでいるアクセラレータを見ながら考え込んでみたり」

打ち止め「アワキお姉ちゃんウチにはいないみたいだから今日で間違いないと思うんだけどなぁ。ねえねえ、アクセラレータ起きてー、ってミサカはミサカは嫌な予感を感じながら揺さぶってみる」ユサユサ


一方通行「Zzz……あァ? もォ朝か?」


打ち止め「あれ? さっきまで一緒に朝ごはん食べてたよね? ん? つまりその朝っていうのは明日の朝かってこと? ってミサカはミサカは頭の中がこんがらがって思考がまとまらなくなってみたり」

一方通行「何わけのわからねェこと言ってンだ? 何か用かよ」

打ち止め「あなたって今日アワキお姉ちゃんと映画館に行くんじゃなかったっけ? なのに何でこんなところで寝ているの? ってミサカはミサカは聞いてみたり」

一方通行「映画……今何時だ?」

打ち止め「ただ今の時間は九時三二分四一秒をお知らせします、ってミサカはミサカはミサカネットワークから時刻情報をダウンロードしてみたり」

一方通行「…………」

打ち止め「…………」

一方通行「…………」ピッ←携帯の電源を入れる

一方通行「…………」プルルルルピッ

結標『……もしもし?』

一方通行「……結標」

結標『……なによ?』

一方通行「…………」



一方通行「オハヨウゴザイマス」



結標『はよこい!!』


―――
――
―


450 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:52:32.25 ID:4HZ8YDOAo


同日 09:40

-第七学区・駅前-



ドォウン!!



一方通行「…………」カチッ

結標「やった来た!! ちょっと貴方今まで何やってたのよ!?」

一方通行「メシ食ったあと待ち合わせ時間までまだ結構あったから、ソファに転ンでくつろいでおくか、ってなって今に至るわけだ」

結標「至るわけだ、じゃないわよ! デートの前だっていうのに普通寝る!? もう信じられない!」

一方通行「寝ちまったモンはしょうがねェだろォが」

結標「……というか貴方。まずは私に一言言っておかないといけないことがあるんじゃないかしら?」

一方通行「あァ? ……ああ。ゴメーン、待ったァー?」

結標「もうちょっとちゃんと謝れ!」

一方通行「オマエが憧れてるとか言ったンだろォが」

結標「あーそういやそうだったわ。もういいわよ……ってやばい!? もうこんな時間!?」

一方通行「あン?」

結標「予約してる映画の上映開始時間が九時五四分。電車とかのそういう移動時間考えたらこれもう間に合わないじゃない!」

一方通行「何でそンなギリギリの時間に予約入れてンだよ」

結標「貴方が待ち合わせ時間をきちんと守っていれば余裕で間に合ってたのよ!」

一方通行「わかったわかった悪かったよ。つか、映画って次の上映のヤツとかあンだろ? そっちに変えればイインじゃねェのか?」

結標「まあ、今となったらそれしかないわね。次の上映は……げっ、二時間後!? それもうお昼じゃない!」

一方通行「面倒臭せェ展開になってきやがったな」

結標「誰のせいよ誰の……あーもう最悪。いろいろ予定考えたのに台無しよ……」ブツブツ

一方通行「……チッ、しょうがねェ。九時五四分の方観るぞ? それなら問題ねェだろォが」

結標「まさか途中から入って観るつもり? そんな中途半端なの嫌よ私」

一方通行「何勘違いしてンだ? 上映時間には間に合わせる」

結標「どうやって?」

一方通行「チカラ使って映画館へ直行する。直線距離にすれば大した距離じゃねェからビルの上跳ンで行けば余裕で間に合うだろ」

結標「な、なるほど。たしかに……」

一方通行「つゥわけで、行くぞ?」カチッ

結標「……うん? 行くぞ?」


451 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:53:59.16 ID:4HZ8YDOAo


一方通行「当たり前だろォが、オマエも付いて来るンだよ。空間移動能力者(テレポーター)だろォがオマエは」

結標「えっ、も、もしかしてテレポートの連続使用でビルの上空から移動しろって言うつもり?」

一方通行「それ以外あンのかよ?」

結標「…………」

一方通行「どォかしたか?」カチッ

結標「あのー、地面に沿って移動するのはなしでしょうか?」

一方通行「何でだよ?」

結標「上から行くってことは通行人とかの頭上を移動するってことでしょ?」

一方通行「そォいうことになるな」

結標「そ、そんなの絶対嫌よ!」

一方通行「オマエって高所恐怖症だったか?」

結標「別にそういうわけじゃ……」

一方通行「じゃあ何でなンだよ? ハッキリ理由を言え」

結標「だって今日の私、……す、スカートなのよ? しかも割と短めの」

一方通行「……へー」

結標「何よその薄いリアクションは?」

一方通行「いや別に。まァオマエの言いたいことはわかった。で、仮にオマエの言う通り地面を沿いながら行くとするだろう」

結標「うん」

一方通行「オマエあの人通りや車の交通量も多い道路を連続テレポートで速く移動できンのかよ?」

結標「えっ、ええと、そ、それは頑張ればなんとか……」

一方通行「少しでもミスれば、何の関係もねェ通行人や掃除ロボとか車とかとテレポート合体ってことなンだがよォ?」

結標「わ、私はこれでも一応超能力者(レベル5)よ? そんなヘマするわけ――」

一方通行「そォいえば昔、軽い気持ちでテレポートして床に足突っ込ンだヤツが居たなァ。ソイツは今となったらそのことはもォきれいサッパリ忘れているだろォけどよォ」

結標「ぐっ……」

一方通行「なンなら俺が抱えて跳ンでやってもイインだぜェ? その場合公衆の面前で羞恥プレイっつゥ、マラソン大会のときの二の舞になるけどなァ」

結標「ふぐぅ……、あ、あんなこと思い出させないでよ、顔熱くなってきた」カァ

一方通行「さあ早く選べよ? 時間がねェンだろ?」

結標「ぐぬぬぬぬぬぬ、が、がんばって上からテレポートしますぅ……」

一方通行「そォかよ。じゃ、先行ってンぞ」カチッ



ドォン!!



結標「…………」

結標「ってちょっと待ちなさい! あーもうっ」

結標「というかそもそも遅刻したのアイツなのに、何で私がこんな目に合わなきゃいけないのよ……!」

結標「学園都市の皆様、今だけ空を見上げないでくださいお願いします」



シュン!



―――
――
―


452 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:55:38.19 ID:4HZ8YDOAo


同日 09:45

-第七学区・街中-


佐天「……ん? なんだあれ?」

初春「どうかしたんですか佐天さん? 空なんか見上げて」

佐天「いや、なんかビルとビルの間ピュンピュン飛び回ってる人がいたんだけど」

初春「パルクールってヤツですか?」

佐天「あれはそんなもんじゃないね。ニンジャだよニンジャ!」

黒子「大方、風力操作系の能力者がビルからビルに飛び移って遊んでいたのでしょう」

初春「明らかな危険行為なので風紀委員(ジャッジメント)として注意に行ったほうがいいでしょうか? 私たち今は非番ですけど」

黒子「まあ、その現行犯の方を実際に見たわけではないですし、そもそも佐天が鳥か何かと見間違えた可能性もありますので必要はないでしょう」

佐天「えぇー? さすがにそんなのとは見間違えないよー!」

初春「まあまあ佐天さん。想像力豊かな人はものを見間違えることなんてよくあることみたいですし」

佐天「初春めー、見間違え説が出てきた途端に信じるのやめたなー? よーし、だったらもう一回見つけて証明してやるー」

初春「いえ、最初から信じてはいませんよ?」

佐天「薄情な親友だなー、ん? あっ、出た!」

初春「ほんとですか!? ……あれ? なにもない?」チラッ

佐天「あれー初春ー? 信じてないんじゃなかったっけー?」ニヤニヤ

初春「あああああ、謀りましたね佐天さん!」

佐天「あたしのことを信じなかったバツでーす!」

黒子「……あっ、いましたわ」

佐天「またまたー、白井さん? 同じネタを二度もやったら面白さ半減しちゃうよー?」

黒子「いえ、冗談ではなく本当に」

佐天「えっ……あっ、ほんとにいた! んー? でもあたしが見た人とは違う人っぽいね」

初春「そうですね。あれは風力操作とかじゃなくて」

黒子「空間移動能力者(テレポーター)……ですわね」

佐天「さっき見た人は男ぽかったし、あの人は女の子だから間違いなく別人だね」

初春「えっ、佐天さんわかるんですか?」

佐天「うん、だってスカ……いや、なんでもないや」

初春「?」

佐天「しかし、白井さん以外のテレポーターの人初めて見たなー」

初春「私もです。あの人相当すごいですよ。移動距離の長さも連続転移のインターバルの短さも白井さん並ですよ」

黒子「……いや、違う」

初春「白井さん?」


453 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:57:35.48 ID:4HZ8YDOAo



黒子(一度に飛ぶ距離、目測でも一〇〇メートル以上はゆうに跳んでいる、のにも関わらずわたくしと同じくらいのインターバル……いえ、もしかしたら)



佐天「どうしたの白井さん? 珍しくそんな真剣な表情して」

黒子「何でもありませんわ。って珍しくは余計ですの」

佐天「というかあれも危険行為じゃないの? 現行犯だけど追わないの?」

黒子「……いえ、やめておきますわ」

佐天「えっ、何で?」

初春「あっ、わかりました! 同じテレポーターの白井さんも能力をよく変な使い方をしてますので、注意しづらいんですね?」

佐天「あー、なるほどー」

黒子「うーいーはーるー? その言葉だけ聞くとわたくしが、いつも能力を馬鹿みたいな使い方をしているように聞こえるんですがー?」

初春「ええぇー? だって事実じゃないですかぁ? 主に御坂さんへの変態行為とかで」

黒子「お黙りなさい! あれはお姉様への愛ゆえの行動。初春? 貴女には一度説教ォ! してさしあげないといけないみたいですわね?」

初春「ひえぇ、そんな説教聞きたくないですよー!」


美琴「――おっまたせー! やっとお目当ての『ゲコ太人形焼き』買えたわ! いやー写真撮らなきゃ写真……ん? どしたの?」


佐天「いえいえ何でもないですよ。いつも通り二人がじゃれ合ってただけです」

初春「そんな人を猫みたいに言わないでください!」

佐天「あれ? 今日の猫さんはそういう意図で選んだんじゃなかったの?」

初春「えっ……って佐天さん!? また!? いつの間に!?」

佐天「ふっふっふ、まだまだ修行が足りませんなー初春隊員」

黒子「…………」

美琴「あははー、……あれ? どうしたのよ黒子?」

黒子「いえ、なんでもありませんの。さ、お姉様の買い物も済みましたし行くとしましょうか」

美琴「そうね」

佐天「おっー!」

初春「ちょっと佐天さん! まだ話は終わってませんよ!」

黒子「…………」


黒子(先ほどのテレポーター。もしや……いえ、そんなまさか)


―――
――
―


454 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 20:59:01.09 ID:4HZ8YDOAo


同日 09:53

-第七学区・とあるショッピングモール・映画館入り口-


結標「――ぜぇ、ぜぇ、あ、あと一分! なんとか間に合いそうね!」タッタッタ

一方通行「何でそンなに疲れてンだ?」スゥー

結標「当たり前でしょ! 一刻も早く空の旅を終えるために全開で連続テレポートしたんだから!」

一方通行「地表何十メートルを飛ンでると思ってンだ? そォやすやすとスカートの中なンざ見えるかよ」

結標「そうじゃなくて見えてるかもしれないっていうのが嫌なわけで……はぁ、もういいわ。貴方に言うだけ無駄よね」

一方通行「何勝手に自己解決してンだよ。チッ、ちょっとコーヒー買ってくる」ガチャリガチャリ

結標「えっ、ちょっとあと三〇秒くらいで始まるのよ!? そんな余裕ないわ!」

一方通行「いや、よくよく考えたら本編開始前に他の映画の宣伝映像流れるだろ? だったら別にそンな急ぐ必要ねェと思ってよォ」

結標「…………あっ」

一方通行「まァ、オマエが宣伝映像まで目にしっかりと焼き付けたい映画マニアだっつゥなら先行っとけよ。何かいるモンあンなら代わりに買っといてやる」

結標「……いや、いい。私も売店いく」

一方通行「そォかよ」

結標「ポップコーンでも買おうっと」


-第七学区・とあるショッピングモール・映画館内-



<――の監督が贈る超アクション大作!!



結標「……私たちの席はKの8と9ね。えっと、K、K、K、あっ、あったあった」テクテク

一方通行「ガラガラとは言わねェがまばらな席の埋まり具合だな。まあ、満員で混雑してるよりはマシだが」ガチャリガチャリ

結標「別に公開初日とかじゃないからこんなもんでしょ?」

一方通行「もしかしなくてもクソつまらねェ映画じゃねェだろォな?」

結標「本当につまらなかったらそれこそガラガラになってるわよ。ここまで来たんだから文句言ってないでおとなしく映画観なさい」

一方通行「ヘイヘイ」


455 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 21:00:30.91 ID:4HZ8YDOAo


少女『あああ今日から新学期だって寝坊しちゃうなんてツイてない!』つ食パン


曲がり角でドン!!


少女『痛っ!?』ドタッ

少年『ってぇなぁ!? オマエどこ見て走ってやがるっ!?』

少女『なによぉー、それはこっちのセリフよ!』

少年『チッ、こんなことしてる場合じゃなかったな。じゃあなクソ野郎』タッタッタ

少女『誰がクソ野郎よ!? ちょ、ちょっと待ちなさい!!』



結標(おおー漫画とかでよくネタにされるラブコメテンプレ展開! ドラマとかで観るのは初めてね)

一方通行(……食パン食いながら走って口乾かねェのか?)


〜


少女『ちょっとアンタ! ちゃんと宿題出しなさいよ! じゃないと委員長の私が怒られるんだからね!?』

少年『あぁ? んなこと知るかよ。宿題なんてくっだらねぇ。帰る』

少女『宿題がくだらないなんて何のために学校に来てるのよ……って待ちなさーい!』


場面転換 雨ザーザー


少女『まったくアイツ宿題も出さないし、口も悪いし、もう最悪よ!』

少女『ん? あそこにいるのアイツじゃない』


少年『……チッ、このままじゃ風邪引くぞ? この傘使えよ』

捨て犬『くぅーん』

少年『ったく、らしくねぇなぁ。何やってんだ俺ぁ』


少女『なっ、なにアイツ!? アイツあんな優しいところあったんだ……』トクン


結標(わっ、これも何かで見たヤツ!? ……しかし、あの少年キャラどっかで見たことある感じよね)

一方通行(捨て犬を拾いもせずに傘だけ与えるって優しい行為なのか?)


〜


少女『あっ、アイツに遊園地誘われるなんて……一体何がどうなってるの!?』

弟『ねーちゃん! ゲームしてあそぼーよ!』

少女『お姉ちゃん忙しいからまた今度!』

弟『えぇー?』


結標(きゃあああああああ天才子役のコウくん!! やっぱり演技も上手でかわいいわ!!)ハァハァ

一方通行(……隣の馬鹿の鼻息がうるせェ)


〜


456 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 21:01:21.58 ID:4HZ8YDOAo


少年『俺はオマエのことが好きだっ!! だから俺がオマエを必ず守ってやるからよぉ、俺の女になれっ!!』

少女『……はい』


なんか壮大なBGM


少女『ねえ』

少年『あん?』

少女『私の彼氏になるんだったら、ちゃんと宿題やらなきゃね?』

少年『……チッ、面倒臭せぇ』


-E N D-


結標(……うーむ、まあこんなもんか。役者さんの演技は上手だったしそのへんはよかったかな。とくにコウくん!!)


結標「そうだ一方通行? 映画どうだった?」

一方通行「…………」

結標「? 一方通行?」

一方通行「…………Zzz」

結標「…………」



ゴッ!!



―――
――
―


457 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 21:02:09.47 ID:4HZ8YDOAo


同日 12:00

-第七学区・とあるショッピングモール・通路-


一方通行「……クソッ、思い切りブン殴りやがって」

結標「せっかく映画を観ているのに隣でスヤスヤ寝ているやつが居たら、普通ぶつわよ」

一方通行「オマエだけだよそンなヤツ」

結標「ちなみにどこまで意識あったわけ?」

一方通行「あァー、何か遊園地デートしてたのは覚えてるよォな気がする」

結標「中盤くらいね。まあ、そこまで観れたなんて貴方にしては頑張ったほうじゃないかしら?」

一方通行「チッ、うっとォしいヤツ」

結標「さて、それじゃあお昼行きましょ?」

一方通行「店ェ決めてンのか?」

結標「モール内に行ってみたい店があるから、貴方がよければそこがいいかなって」

一方通行「俺にそンな気ィ使わなくもイイっつゥの。好きにしろ」

結標「その店実はサラダ専門店なんだけど……」

一方通行「殺すぞ」

結標「わかっていたけど自分の意見変えるの早すぎでしょ……」

一方通行「何でこの俺がそンな雑草畑に行かなきゃいけねェンだ」

結標「雑草畑て……まあ、さっきのは冗談よ。本当に行きたかったのはふわとろオムライスが有名なお店よ」

一方通行「チッ、だったら最初からそォ言え」

結標「ごめんごめん。それじゃお店に行きましょうか?」テクテク

一方通行「おォ」ガチャリガチャリ


―――
――
―


458 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 21:02:50.33 ID:4HZ8YDOAo


同日 12:20

-第七学区・とあるショッピングモール・某洋食屋-



店員「おまたせいたしました。デミソースのオムライスとセットのスープとサラダです」ゴトッゴトッ


結標「ありがとうございます」


店員「こちらはトマトソースのオムライスでございます」ゴトッ


一方通行「……どォも」


店員「ごゆっくりどうぞ」テクテク


結標「うーん、いい香り。すごく美味しそう!」

一方通行「……なァ?」

結標「なに?」

一方通行「ふと思ったンだが、オマエ何でデミグラスソースのヤツ頼ンだンだよ?」

結標「何で、って別に美味しそうだったから以外理由はないわよ?」

一方通行「さて、問題だ」

結標「?」

一方通行「昨日黄泉川が言っていた、今日の晩メシに作ろうとしているメニューは何でしょうか?」

結標「たしか煮込みハンバーグ……あっ」

一方通行「正解ィ! デミグラスソース二連チャンおめでとォ!」

結標「ぐっ、完全に忘れてた……」

一方通行「これだから格下は」

結標「うるさいわね。いいわよ、オムライスとハンバーグじゃ味変わるだろうし」


459 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 21:04:18.65 ID:4HZ8YDOAo


結標「……うーん! ふわとろでおいしいー!」モグモグ

一方通行「そォかよ。ソイツはよかったな」パクパク

結標「あら? お気に召さなかったかしら?」

一方通行「別に。普通だ」

結標「素直においしいって言えばいいのに」

一方通行「普通なモンは普通なンだよ」

結標「でもこういうの食べると、やっぱり私も自分の手でこういうオムライスとか作ってみたい! とか思っちゃうわねー」

一方通行「オマエ半年前に作ったかわいそうな卵のこともォ忘れたのかよ」

結標「あー、懐かしいわねー。貴方と一緒に作ったやつだったっけ?」

一方通行「思えばあンときからおかしかったよな。オマエの料理センス」

結標「何言っているのよ。それに関しては貴方も似たようなものだったじゃない」

一方通行「あァ? オマエみてェな料理音痴レベル5と一緒にするンじゃねェよ」

結標「ぐぬぬ、見てなさい! 絶対オムライス作れるようになって貴方の舌を唸らせてやるわよ」

一方通行「唸るっつゥか悲鳴を上げそォだからやめろ。そンな高難易度料理より先に野菜炒め作れるよォになれよ」

結標「ふむ、たしかにそうね。やっぱり基礎から学ぶほうが大事よね」

一方通行「そォだな。まず最初に『レシピ通りの材料を用意してレシピ通りに作業する』っつゥ基礎から叩き込まねェとなァ」

結標「思い立ったが吉日。帰りに材料買って帰って明日くらいに練習しようかしら?」

一方通行「よし、明日は一日外出してよォ」

結標「薄情なヤツね」

一方通行「俺ァまだ死ぬわけにはいかねェンだよ」

結標「もうっ……えっと、野菜炒めの材料ってたしか、キャベツ、にんじん、もやし、しめじ」

一方通行「あァ? 何だよ案外まともな材料じゃ――」

結標「スイカ、目薬、木炭、野菜ジュース、森林の香りの消臭剤――」

一方通行「やっぱりオマエ一生料理すンなッ!!」

結標「ええぇっ!?」ビクッ


460 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 21:05:38.41 ID:4HZ8YDOAo


結標「ねえねえ一方通行? ふと思ったことがあるんだけど」

一方通行「何だよ」

結標「何で貴方って私のこと名字で呼んでいるのかしら?」

一方通行「……ハァ?」

結標「だって打ち止めちゃんや黄泉川さんに芳川さんは、みんな私のこと名前で呼んでるじゃない? 貴方だけよウチの中で名字で呼んでいるの」

一方通行「あー、まァアレだ。オマエが黄泉川や芳川を名前で呼ばない理由と同じだ」

結標「なるほど。貴方は私のことを保護者だと思っているのね?」

一方通行「そンなこと一回たりとも思ったことねェよ! 何なら残りのババァ二人にすらなッ!」

結標「えー、じゃあ何でなのよ?」

一方通行「名前で呼ぶよォな間柄じゃねェってだけだ」

結標「ふーん、そう。ってことはあれよね?」

一方通行「あァ?」

結標「今は恋人っていう関係になったのだから名前で呼んでくれるってことよね?」

一方通行「…………」

結標「でしょ?」

一方通行「……いや、イイ」

結標「なんでよ?」

一方通行「今さら呼び方変えるのが面倒臭せェ」

結標「むすじめの四文字からあわきの三文字へ減るんだから、発する言葉の労力が減るわよ?」

一方通行「たかだか一文字変わったくれェでそンな変わるかよ。呼び方変えるっつゥ労力のほうがデケェから結果損すンだよ」

結標「……ははーん、わかったわ」

一方通行「ンだァ? そのクソみてェな面はよォ?」

結標「貴方面倒臭いとか労力とかうだうだ言っているけど、さては恥ずかしいのね? 名前で呼ぶのが!」

一方通行「ハァ? ナニ馬鹿みてェなこと抜かしてンだクソアマがァ。あンま適当言ってると頭蓋骨卵みてェにカチ割るぞ?」

結標「だったら名前で呼んでよ?」

一方通行「だから面倒臭せェって言ってンだろォが」


461 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 21:07:08.91 ID:4HZ8YDOAo


結標「呼び捨てが気恥ずかしいなら淡希お姉ちゃんでもいいわよ? ……いや、むしろそっちのほうが」

一方通行「ソッチのほうがハードル上がってンじゃねェか。性癖見えてンぞショタコン野郎が」

結標「ぶっ!? な、な、なななななにを根拠に、しょ、しょた、ショタコンだなんて!?」

一方通行「そのうろたえ方で十分な根拠になると思うがな」

結標「な、ならないわよ! だいたい根拠っていうのは……あっ、そうよ名前! 危ない危ない思わず陽動作戦に引っかかるところだったわ」

一方通行「オマエが勝手に陽動されただけだろ」

結標「いいから名前で呼びなさい! じゃないと後々困ることになるわよ?」

一方通行「困ることだと?」

結標「ええそうよ。だって将来的に結婚したら私の名字結標じゃなくなるでしょ? そんな状態で結標って呼ぶのはおかしいじゃない?」

一方通行「……オマエ付き合ってまだ一週間だっつゥのに、もォそンな先のことまで考えてンのか。気の早ェヤツだ」

結標「えっ!? えっと、や、その、か、仮にの話よ!! 仮にの!!」

一方通行「うるせェなァ、公共の場所で大声出してンじゃねェよ」

結標「あ、貴方が変なこと言うからでしょ?」

一方通行「先に言ったのはオマエだろ」

結標「ぐっ」

一方通行「……はァ。つゥかメシ食い終わったンならとっとと席空けるぞ? いつまでも居座って店の回転率下げるわけにはいかねェからな」ガタッ

結標「あ、うん、ちょ、ちょっと待ってちょうだい!」ワタワタ

一方通行「…………」

結標「ごめん、おまたせ」


一方通行「さっさと行くぞ……『淡希』」


結標「……うん!」

一方通行「チッ、面倒臭せェ」

結標「一方通行?」

一方通行「ンだよ?」

結標「一回だけでいいから『淡希お姉ちゃん』って呼んでみてくれない? 一回だけでいいから!」

一方通行「蹴り殺すぞ」


――――――


462 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/12(金) 21:09:13.30 ID:4HZ8YDOAo

次回から金曜更新を土曜更新にするわゆるして・・・

次回『S2.sラストデート』
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/14(日) 07:37:13.39 ID:50/FgNUf0
いいよ
464 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 22:48:40.16 ID:TJ4tDQ6ko
この話でファッション的なことを具体的な発言をしているけどこれのセンスの有無はファッションとかよくわからんからネットで検索したモデルとかの画像を適当に選んだワイくんのセンスであって実際の登場人物のセンスとはまったく関係ないんだからね!

投下
465 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 22:49:54.23 ID:TJ4tDQ6ko


S2.sラストデート


April First Thursday 13:00

-第七学区・とあるショッピングモール・通路-


一方通行「……で、次はどこへ行こうってンだ?」

結標「決まっているじゃない。洋服見にショップ行くわよ」

一方通行「ええェ……」

結標「はい、そこ露骨に嫌な顔しない!」

一方通行「何で俺がオマエの服選びを手伝わなきゃいけねェンだ……あン? 何かデジャブ感じンだが」

結標「それは私の居候生活が始まったすぐくらいのときに、一緒に買い物したからじゃないかしら」

一方通行「あー、そォいやそォだったな」

結標「忘れてたのか……」

一方通行「つまりもォこの買い物イベントはやったっつゥことか。何回も同じイベント見せられても面白くねェだろォし、このシーンはカットってことで」

結標「貴方が何を言っているのかさっぱりわからないけど、絶対に逃がさないわよ?」

一方通行「チッ」

結標「少しは彼女のために協力してあげようとか思わないわけ?」

一方通行「オマエも少しは男のために協力してあげようとは思わねェのか?」

結標「だって貴方に協力しても、朝から晩までお昼寝パーティーみたいなイベントになって面白くないじゃない」

一方通行「そンなアホみてェなことするかよ」

結標「嘘だー? この前『春眠暁を覚えず』とか言って朝八時から夜八時という一二時間睡眠した挙げ句、風呂ご飯を終えたあとすぐに次の日の朝までぐっすり寝てたじゃない」

一方通行「ああ。何か日付が一日飛ンでンなァって思ったらそンなことがあったのか」

結標「アホだ。阿呆がいる」

一方通行「あン? 誰が阿呆だコラ」

結標「ま、そういうわけだから今日ぐらい私に付き合ってよね」

一方通行「どォいうわけだよ」

結標「ほら、行きましょ?」テクテク

一方通行「……面倒臭せェ」ガチャリガチャリ


―――
――
―


466 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 22:50:59.55 ID:TJ4tDQ6ko


同日 13:10

-第七学区・とあるショッピングモール・某ショップ-


結標「ふーん、ここのはセブンスミストのに比べたらちょっと大人っぽい感じなのね」

一方通行「そォかよ」

結標「なによ。少しは興味持ったら?」

一方通行「女物しかねェのにどォ興味持てばイインだよ?」

結標「そりゃあれよ。私に似合いそうな服探したりとか、私に着て欲しい服探したりとか」

一方通行「……はァ」

結標「何でこのタイミングでため息?」

一方通行「いや、面倒だなって」

結標「貴方って人は本当に……」ハァ

一方通行「例えばだがよォ、オマエは俺にこの服着ろって言われたらハイハイって素直にソレ着るンかよ?」

結標「まあ、貴方がいいと思うものなら」

一方通行「じゃあアレを着ろっつったら?」

結標「アレ?」

一方通行「あのパリのファッションデザイナーが芸術性を重視してデザインしたよォな、胸部がメッシュ状のシャツみてェなの」

結標「うわぁ……いや、無理」

一方通行「そォだろ? そォいうリアクションを取られる可能性があるっつゥのに、服選ばなきゃいけねェなンて面倒極まりねェっつゥわけだ」

結標「あんな変なのじゃなく普通のやつ選んでくれれば、私は着てあげるわよ?」

一方通行「その変の基準が俺とオマエじゃ違うだろォが」

結標「まあたしかにそうだけど……あっ、もしかして貴方ってああいう服が好みなわけ?」

一方通行「は?」

結標「たしかに変な柄のTシャツとか愛用しているから、女物の好みもちょっと変になっててもおかしくはないわよね」

一方通行「ナニ勝手に納得してンだオマエ? 例え話っつっただろ?」

結標「あはは、そうよね」

一方通行「チッ、俺だってアレが一般的な趣味嗜好から外れてるモンだっつゥことぐれェわかるっつゥの」

結標「だったら平気ね。好きなの選んでくれればいいわよ」


467 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 22:52:17.67 ID:TJ4tDQ6ko


一方通行「…………」


一方通行(さて、どォすっかなァ。コイツの普段着どンなのだったっけか?)

一方通行(今着てンのは上が白パーカーにデニムのジャケット羽織って、下が紺のプリーツのミニスカートで足元がくるぶしにスニーカーか)

一方通行(あァ? コイツって普段七分丈くれェのパンツ穿いてなかったか?)

一方通行(今日は何でまた……あァ、デートだからって頑張りました、ってヤツか)

一方通行(まァ、今はそンなこたァどォでもイイ。今はコイツにどンな服を選ンでやるかだ)

一方通行(好みの服選べっつっても別にそンなモンねェし、似合う服選べっつってもなァ)

一方通行(どォしても普段着や今のコイツの服装に引っ張られて、それに似たヤツを選ンじまいそうになる)

一方通行(どォせだから、普段からあンま着なさそうなモン選ンだ方がコイツは喜ぶのか? たとえばこのロングのワンピなンざ着ねェだろコイツ)

一方通行(……いや、待て。着ないってことは、自分には似合っていないって思っているってことじゃねェのか? そンなモン提示したら確実にブーイングっつゥことにならねェか?)

一方通行(チッ、コイツァ面倒なことになってきやがったな。どっちが正解だ……?)


結標(……なんかすごく真剣に考えてくれているみたいね)

結標(私的には『これはどう?』『なかなか良さそうだから試着してみまーす!』『しました!』『いいじゃん!』みたいなのを、サクサク複数回やる感じなのを期待していたのだけど)

結標(コイツ変なところで真面目よね。まあ、それだけ熱意を持ってくれているってことだから、嬉しいのは嬉しいんだけど)


結標「……ま、いいか。一方通行が選び終えるまで私は私で見て回りますか」


??「結標さん?」


結標「あっ、吹寄さんに姫神さん!」

姫神「こんにちは」

結標「どうしたの二人とも? 今日はショッピング?」

吹寄「ええ、ちょっと暇つぶしにぶらぶらって感じかな?」

結標「なるほど」

姫神「そっちは?」


一方通行「…………」ブツブツ


姫神「って。聞くまでもなく。デートか」

結標「ええ、そうよ」

吹寄「うまくやってるみたいね」

結標「うーん、どうなんだろう?」

姫神「どうかしたの?」


468 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 22:53:31.39 ID:TJ4tDQ6ko


結標「いやー、実は今日のデートが初でね。付き合って一週間だっていうのに」

吹寄「別に普通じゃない? 学校が休みだから毎日放課後デート、みたいなのができないわけだし」

結標「そうなのかしら? 逆に休みだから毎日どこかに遊びに行くってのが普通なのかとてっきり」

姫神「まあ。それは人によるとしか。言えないわ」

吹寄「二人には二人のペースがあるんだから、二人が楽しめてればそれでいいわよきっと」

結標「……そうよね。ありがと二人とも」

姫神「ところで。アクセラ君は。一人で突っ立って何をしているの?」

結標「えーと、私に似合う服選んで、って言ったらこうなっちゃって」

吹寄「あー、たしかにアクセラなら考え込みそうな問題ね」

結標「気楽に選んでくれればいいのにね」

吹寄「仲が良さそうで何よりね」

姫神「吹寄さん」

吹寄「あっ、そうね。これ以上二人の時間をお邪魔してもいけないし、邪魔者は退散するとしましょうか」

結標「別にそんなこと気にしなくてもいいのに」

姫神「じゃあ。私たちはこれで」

吹寄「しっかり楽しみなさいよ」

結標「うん。またねふた――」


一方通行「オイちょっとイイか『淡希』」


結標「あっ」


姫神「わ?」

吹寄「き?」


一方通行「あン? 吹寄に姫神じゃねェか。こンなところでなに――」


結標「ちょ、ちょっといいかしら一方通行……!」ヒソッ

一方通行「ンだよ?」


469 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 22:54:58.18 ID:TJ4tDQ6ko


結標「(なんで貴方こんなタイミングで名前呼びしてくれちゃってるのよ!?)」

一方通行「(ハァ? オマエが名前で呼べっつったンだろォが)」

結標「(た、たしかにそうだけど、よりにもよって二人がいる前で……!)」

一方通行「(別にイイだろ。何か問題あンのか?)」

結標「(も、問題と言うかなんというか……は、恥ずかしい……)」

一方通行「(恥ずかしがるくらいなら最初から要求すンなよ)」

結標「(いや、普通こういうのって二人きりのときだけやるものでしょ?)」

一方通行「(知るかよ。そォして欲しいなら最初からそォ言え)」


結標「……え、えーと、二人とも? これは彼が言い間違えただけで別にそんな名前で呼び合ってるとか――」


吹寄「へー、そうなんだ。まあ、別にいいんじゃない? 名前で呼び合うくらい」ニヤニヤ

姫神「うん。恋人同士なんだから。なんらおかしくはない」ニヤニヤ


結標「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」カァ


吹寄「じゃ、あたしたちは行くわ。またね、アクセラに『淡希』さん?」ニヤニヤ

姫神「お幸せに。アクセラ君に。『淡希』さん」ニヤニヤ


結標「あっ、はい……」

一方通行「おォ」


結標「…………」

一方通行「で、俺は結局どォすりゃイインだ? 結標って呼べばイイのか淡希って呼べばイイのか」

結標「……もういいわよ。淡希統一でお願いします」

一方通行「わかった」


470 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 22:57:01.84 ID:TJ4tDQ6ko


結標「ところで私に何か用かしら」

一方通行「ああ。服選ンだから評価して欲しいンだが」

結標「……あー、そういえばそんなことお願いしてたわね」

一方通行「みぞおちに一発入れるぞコラ」

結標「あはは、ごめんなさいごめんなさい。で、貴方が選んだ服ってどれ?」

一方通行「コレだ」スッ

結標「……へー、キャミソールタイプのロングの黒ワンピか。貴方ってこういうのが好きなの?」

一方通行「別にそォいうわけじゃねェ。ただオマエが着なさそうォなヤツを選ンだ。色に関しては俺の好みだがよォ」

結標「なるほどね。たしかに私はそういうの着ないわね」

一方通行「ま、新規開拓すりゃイイだろっつゥ素人の浅知恵だ。クソみてェな思考で悪かったな」

結標「別に私だってプロのコーディネーターとかじゃないんだし、そこまで卑下しなくてもいいわよ」

一方通行「そォかよ」

結標「じゃ、ちょっと試着してみるわね」

一方通行「ああ、インナーにその着てるパーカーか適当な白系統のTシャツか何か合わせたらイイと思う。あくまで個人的な意見だが」

結標「そう。ありがとね、参考にするわ」ニコッ

一方通行「……チッ」


〜一〇分後〜


結標「――おまたせ。どう?」

一方通行「……まァ、イインじゃねェの?」

結標「相変わらずの適当な返事ね。わかってたけど」

一方通行「だったら最初から聞くなよ」

結標「でも貴方が選んでくれた服なんだから、貴方が最後まできちんと責任を持ってべた褒めするべきだと思うのよね」

一方通行「褒められるの確定かよ」

結標「まあ私から見てもいいなって思っているし」

一方通行「随分な自画自賛じゃねェか。ナルシストな淡希ちゃンよォ?」

結標「そんなこと言うってことはもしかして貴方、本当は似合っていないって思っているのかしら?」

一方通行「別にそォいうわけじゃねェよ」

結標「それならナルシストではないわね。よかったよかった」

一方通行「うっとォしいヤツ」

結標「……うん。それじゃあこれ買うとするわ。せっかく貴方が選んでくれた服だしね♪」

一方通行「好きにしろ」

結標「じゃあこの調子でドンドン服選んでいこーう!」

一方通行「ハァ? まだやンのかよ?」

結標「当たり前よ。女の子の買い物が服一着選んだくらいで終わるわけないじゃない」

一方通行「クソッタレが……!」


―――
――
―


471 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 22:58:55.29 ID:TJ4tDQ6ko


同日 15:00

-第七学区・とあるショッピングモール・某カフェ-



ワイワイガヤガヤ



結標「いやー、いっぱい買った買った。楽しかったわー、今までで一番充実したショッピングだったかもしれないわね」

一方通行「今までで一番疲れたショッピングだったな」

結標「だらしないわねー。そんなのじゃショッピング後半戦を戦っていけないわよ?」

一方通行「まだ何か買うつもりなのかよ? どンだけモノ買う気だよオマエ」

結標「別にいいじゃない。買ったものは全部自宅に送ってもらっているから、貴方に荷物持ちとかさせているわけじゃないんだし」

一方通行「ソイツは賢明な判断だな。俺にそンなこと頼みやがった時点でオマエを張り倒すところだったぜェ?」

結標「貴方は普段片手しか使えないからそんなに物持てないし、何なら筋力もないから重い物とか持てないわけだから、荷物持ちなんて頼んでもしょうがないわよ」

一方通行「やっぱりオマエ張り倒してイイか?」カチッ

結標「冗談よ冗談。やだなー」アハハ

一方通行「チッ」カチッ

結標「まあショッピング後半戦って言っても、適当に色々な店見て回るだけだから、なにかを買うっていうつもりはないわ。いわゆるウィンドウショッピングってヤツね」

一方通行「何だそりゃ。買わねェのに店見て回るなンて冷やかしかよ?」

結標「冷やかしとは違うとは思うけど。別にお店には迷惑はかけるつもりはないし、欲しい物があったら買うし」

一方通行「結局買うのかよ」

結標「欲しい物があったらの話よ?」

一方通行「そンなあやふやな意識で店回って楽しいのか?」

結標「楽しいわよ? へーこの店こんなの置いているんだー、みたいな発見とかあって」

一方通行「へー」

結標「発見とかなくてもこう、いろいろ商品が並んでいるのを見るとなんか高揚感があるというか」

一方通行「コーヒーうめェ」ズズズ

結標「……話聞いてる?」

一方通行「ああ。そりゃもちろン」

結標「そう。ならいいんだけど。さっきの話の続きだけど――」

一方通行「あっ、店員さン。コーヒーおかわり」

結標「ほんとに聞いてる!?」


472 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:01:09.64 ID:TJ4tDQ6ko


結標「……そうだ。貴方に一つ言っておきたいことがあったんだった」

一方通行「あン? ウィンドウショッピングのアレコレか?」

結標「それはもういいわ」

一方通行「あっそ。で、何だよ?」

結標「観覧車の中で記憶喪失の原因は貴方ってことは、すでに知っていたっていう話したじゃない?」

一方通行「ああ。木原のクソに教えてもらったっつゥヤツだろ?」

結標「そう。でもね、実はそれは違うのよね」

一方通行「どォいうことだ?」

結標「その話をされるはるか前から知っていた、いや、知っていたという表現は違うかしらね」


結標「記憶喪失の原因は貴方じゃないかなって、薄々思っていたのよ。ずっと」


一方通行「……ソイツは素敵で愉快なイカれた話だなァオイ」

結標「まあ、あくまでそうじゃないかなっていう推測でしかなかったから、確信を得たのはその日の出来事でだから知ったのは最近ってことになるのかな?」

一方通行「ほォ。いつからそンな推測が出てきていたのか、是非とも知りたいモンだ」

結標「……最初から」

一方通行「は? ナニ言ってンだオマエ」

結標「最初からよ。正確に言うなら初めて会った日から」

一方通行「……どォいうことだ?」

結標「だって貴方、私が来た初日の夕食のときに言いかけてたじゃない。その鼻を折ったのは正真正銘自分だって」

一方通行「……たしかに。そォいやそォだったな」

結標「だから何となーくコイツが記憶喪失の原因なのかな、って思ってたわけよ。表には出さなかったけど」

一方通行「そォか……いや、おかしいだろ?」

結標「何が?」

一方通行「その話が本当ならよォ、オマエは今まで記憶を奪った張本人かもしれねェヤツと生活を共にしてたっつゥことになるンだが」

結標「たしかにそうね」

一方通行「そンなクソみてェな状況で、最終的に俺のことが好きだとか抜かしやがるよォになるなンて、どォ考えたっておかしいだろ?」

結標「おかしくはないわよ」

一方通行「ハァ?」

結標「なぜなら貴方が、自分から記憶を、さらに言うなら命を奪うためにチカラを振るったりするような、残虐非道な人間じゃないってわかったからよ」

一方通行「…………」

結標「面倒臭がり屋でぶっきらぼうだけど、意外と面倒見は良くて、変なところで一生懸命で」

結標「居候生活始まって間もないくらいのときから、そんな人じゃないかってなんとなく思ってた気がするわ」

一方通行「ケッ、めでてェ頭してンなオマエ。内心ナニ思っているのかわかったモンじゃねェっつゥのに」

結標「でも間違ってはなかったでしょ?」

一方通行「チッ、……で、オマエは一体何が言いたいンだ?」

結標「何って?」


473 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:02:00.69 ID:TJ4tDQ6ko


一方通行「いきなりこンなクソみてェな話始めやがって。何か言いてェことがあンだろ? 目的やら理由やら」

結標「んー……とくにないけど」

一方通行「オチなしかよ。救いよォのねェ馬鹿だな」

結標「馬鹿にして……いいわよ、オチね? 話にオチをつければいいのね? うーん……あっ」

一方通行「今から考えたところで大したオチは付かねェよ。大体、こォいうのは話し始める前からかん――」




結標「そんな一方通行だったから、私は貴方のことが好きになったのよ」




一方通行「が……」

結標「つまり、これが言いたかったわけよ。たしかあのとき言ってなかったわよね? 好きになった理由」ニコッ

一方通行「…………」

結標「あっ、別に会ったばかりの貴方を好きになったわけじゃないわよ? 好きになったのはもっとあとの話だから。そんな軽い女じゃないわよ私は!」

一方通行「……はァ、馬鹿馬鹿しィ。あまりの馬鹿馬鹿しさに何だか頭痛くなってきた」

結標「そんな頭抱えるほど!?」


ウェイトレス「失礼します。お待たせいたしましたー。コーヒーのおかわりになります」コトッ


一方通行「どォも」


ウェイトレス「そしてこちらが」



ゴトッ!



一方通行「あン?」

結標「えっ?」




ウェイトレス「カップル限定ラヴラヴミックスジュースでございまーす!」




474 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:03:19.43 ID:TJ4tDQ6ko


一方通行「……ンだこりゃ?」

結標「……こ、これは漫画とかでよく見る一つのグラスに二本のストローがハート型に交差して刺さってるアレね」

一方通行「懇切丁寧な説明アリガトウ。オマエこンなモン頼みやがったのかよ? どンだけ舞い上がってンだよクソ野郎が」

結標「ち、違うわよ! さすがの私でもこんな……は、恥ずかしい代物頼まないわよ!」

一方通行「オマエじゃなかったら誰が頼むってンだよ。もしかしてアレかァ? 無理やり変なモン押し付けて高けェ代金ふンだくってやろォっつゥ、ボッタクリ的なアレかァ?」

ウェイトレス「……え、えーと」

一方通行「吹っかける相手ェ間違えたなァ? あンま調子乗ってっと痛い目にあってもら――」


ゴッ!


一方通行「うがっ!?」

結標「店員さんにケンカ吹っかけんなっ!」

ウェイトレス「ひっ」ビクッ

一方通行「何しやがるッ!?」

結標「勝手に詐欺だと決めつけちゃダメでしょ? えっと、店員さん? これってどういう経緯でここに持ってこられたんですか?」

ウェイトレス「え、えっと、その……」

一方通行「何をそンな言いよどンでンだァ? やっぱ何かやましいことでもあンじゃねェのか?」ギロッ

結標「そんなすぐに睨まない!」

一方通行「チッ」

ウェイトレス「……その、これは内緒なんですけど」

結標「内緒?」

ウェイトレス「これは、あちらのお客様からのサプライズのプレゼントなんです。お客様には言わないでくれとは言われているのですが」

一方通行「あちらのお客様だァ?」チラッ



土御門「ニヤニヤ」ニヤニヤ

青ピ「ヤニヤニ」ニヤニヤ

上条「わたくしめは無関係ですよー」スヒュー



一方通行「…………」ピキッ

結標「あら、上条君たちじゃない。同じ店に来てたのねー」

一方通行「…………」カチッ

結標「あっ」


シュバッ!!



<ぎにゃあああああっ!! <目の位置へ的確にストローがァ!? <何で俺まで不幸だあー!!



ウェイトレス「おっ、お客様! 店内で物を投げるのは他のお客様の迷惑になりますのでおやめください!」



475 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:04:06.43 ID:TJ4tDQ6ko


青ピ「いやー、二人っきりでお茶しとるの見つけたから、ちょっとボクらぁの気持ちをサプライズしただけやで。ご祝儀みたいなもんや」

一方通行「ありがた迷惑なンだよ。ジュースの方を投げられなかっただけ感謝しろォ」

土御門「ところで二人はデートかにゃー? 姉さん、いつも遊んでいるときよりオシャレしてるし」

結標「あっ、わかる? さすが土御門君ね。コイツなんてそういうの全然気が付かないのよ?」

一方通行「ハァ? 俺だっていつもと格好が違うなァ、くれェのこと気付いてるっつゥの」

結標「だったらそれを口にしなさいよ。言葉にしないと女の子は喜ばないのよ?」

一方通行「ヘイヘイ。で、ソッチの三下トリオはこンなところで何やってンだ?」

上条「別に何もしてねえよ。暇だからショッピングモール適当にぶらぶらしてただけだ」

一方通行「悲しい人生だな」

上条「この野郎ッ!! 自分だけ勝ち組になったからって!! あークソ羨ましいィ!!」

青ピ「お前が言うなって言いたいところやけど、アクセラちゃんに関しては同感だから今日は許す!!」

結標「二人とももうちょっと声の音量下げたほうがいいわよ? ウェイトレスさんこっち見てるわ」

上条「あ、悪い」

一方通行「くっだらねェ」

青ピ「それで二人とも、そのラヴラヴジュース飲まへんのか?」

一方通行「飲むわけねェだろ」

結標「さすがにこれは、ね……」

青ピ「そら残念やなぁ。飲んどる姿写真に収めて、ボクの思い出アルバムに保存しておこう思っとったのに」つスマホ

一方通行「そのスマホへし折るぞオマエ」

土御門「でもー、恋人ならこれくらいのこと普通にやると思うけどにゃー」ニヤリ

結標「そ、そうなの?」

土御門「舞夏とやれって言われたら喜んでやってやるぜい」

上条「お前ら兄妹を普通の基準にしていいのかは果てしなく微妙だけどな」

青ピ「はいはーい! ボクもやったことあるでー! あれはカナちゃんとの初デートの日のことやった……」

一方通行「どォせゲームの話だろォが」

青ピ「なんやと!? 何決めつけてくれとんねん! キミはボクの昔のことなんて知らへんやろ!?」

一方通行「お、おォ、悪りィ」

青ピ「まあたしかに『さー☆すけ』っていうエロゲーのキャラの初デートイベントの話やったんやけど」

一方通行「俺の謝罪を返せコラ」


476 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:04:48.16 ID:TJ4tDQ6ko


結標「……えっと、一方通行?」

一方通行「あン?」

結標「こ、これ、やっぱり私たちで飲んだほうがいいと思うんだけど」つカップル限定ラヴラヴミックスジュース

一方通行「ッ!? いきなりどォした?」

結標「だって土御門君が『これを恥ずかしくて飲めないが許されるのは小学生カップルまでだよねー』って言ってたから……」

一方通行「土御門ォ!!」

土御門「にゃっははっー、オレは二人の恋路を応援しているだけだぜーい」

一方通行「どこが応援だ! おちょくって遊ンでるだけじゃねェか!」

結標「あ、あとこれが飲めないカップルは一ヶ月以上続かないって土御門君が……」

一方通行「そンな露骨なガセ情報に踊らせれてンじゃねェよ! それが本当だったら世界中破局カップルだらけだろォが!」

結標「あっ、そっか」

青ピ「でもこういう困難を乗り越えることにより、二人の絆が強まったり強まらなかったりするんやないか?」

一方通行「オマエは黙ってろよクソ髪ピアスがァ!」

上条「どうでもいいけどこれ、早く飲まないとぬるくなっちまうぞ? ぬるいミックスジュースなんて全然おいしくねえからな」

一方通行「そォ思うならテメェで飲ンでろ三下ァ!」

上条「いや、これは二人へのプレゼントなんだから二人が飲まないと意味ないだろ?」

一方通行「それはプレゼントじゃなくて嫌がらせって言うンだぜェ?」

青ピ「そんなことより面白恥ずかしラヴラヴジュース撮影会はまだですかー?」

一方通行「そンなにジュースの写真撮りてェなら勝手にグラスだけ撮ってろ!」


477 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:05:51.19 ID:TJ4tDQ6ko


一方通行「ぜェ、ぜェ、つゥか何で俺はこンなに疲れてンだ? ここに休憩しに来たンじゃなかったか?」

結標「大丈夫?」

土御門「いやー見事な連続ツッコミだったにゃー」

青ピ「こっちもボケ甲斐があるってもんやで」

上条「俺は別にボケてねえぞ?」

一方通行「うるせェよオマエら。てか、もォ消えろようっとォしい」

上条「……そうだな。あんま二人の邪魔しちゃ悪いし」

青ピ「二人にはぎょーさん楽しませてもろうたし満足やで」

土御門「外野はこれにて退散だにゃー」

結標「あ、うん。バイバイ」

一方通行「二度と顔見せンなクソ野郎ども」

青ピ「……あっ、そうだ! 二人に一つだけ聞きたいことがあったんやった!」

一方通行「あン?」

結標「何かしら?」




青ピ「エロいことはもうやっへぶううぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」



ドゴォッ、ズザザザザザザザザッ!!



一方通行「人の女の前で、堂々とセクハラ発言してンじゃねェぞ脳みそチンカス野郎が」カチッ


上条「うわっ、青髪ピアスがノーバウンドで二〇メートルくらい吹っ飛んでいった!?」

土御門「床を滑りながら吹っ飛ぶのってノーバウンドって言っていいのかにゃー?」

結標「わ、私たちにはそういうのはまだ早いっていうか……」テレッ

一方通行「ナニ普通に答えてンだオマエ」



ウェイトレス「お客様!! 他のお客様のご迷惑になることは!!」



―――
――
―


478 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:06:55.59 ID:TJ4tDQ6ko


カフェでの休憩?を終えた二人はそのあといろいろな店を回った。


-第七学区・とあるショッピングモール・某ペットショップ-



<キャン!! キャン!! キャン!! <にゃー <ウホッ! ウホッ!



一方通行「何でペットショップなンかに来てンだ? ウチのマンションペット禁止じゃなかったか?」

結標「別にいいじゃない。こういうの見るだけでも楽しいわよ?」

一方通行「ギャーギャーうるせェだけだろ」

結標「まあ、それはしょうがないわよ。あっ、見て一方通行!」

一方通行「あァ?」

結標「ウサギよウサギ!」



ウサギ『…………』ガサガサ



一方通行「……ああ。それがどォかしたか?」

結標「貴方にそっくりじゃない?」

一方通行「どこがだよ。その目ェちゃンと見えてンのか?」

結標「だって白いし、目が赤いし、えっと……似てるでしょ?」

一方通行「それだけかよ。それは俺に対しても失礼だし、このウサギに対しても失礼に当たるだろ」

結標「そうよね。貴方はこんなに可愛くないしねー」

一方通行「体中の関節へし折りまくってそこのケージの中に放り込ンでやろォか?」



479 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:07:58.22 ID:TJ4tDQ6ko


-第七学区・とあるショッピングモール・某ゲームショップ-


結標「円周ちゃんが学園都市クエストクリアしてくれたから、そろそろ新しいの欲しいなとは思ってたのよねー」

一方通行「学園都市クエストってアレか? 俺が無許可でラスボスとして出演してるクソゲー」

結標「そうそう。うーん、どういうゲーム買おうか。どうせならみんなでできるパーティーゲームとかがいいかしら?」

一方通行「好きなの買えよ。どォせ俺はやらねェ」

結標「なんでよ? やりましょうよきっと楽しいわよ?」

一方通行「家にいるときくれェゆっくり寝させろ」

結標「またそんなこと言って……ん? あれは」

一方通行「どォかしたか?」

結標「学園都市クエストの新作が出てるわ。学園都市クエスト�U」

一方通行「そンなモンが出るくらい人気あったのかよ」

結標「浜面君が当時一番流行ってるゲームって言ってたから人気はあったんじゃないかしら?」

一方通行「誰だよ浜面って」

結標「この前の焼き芋大会で一緒だったフレンダさんっていたじゃない? あの人の部下、に当たる人だったかしら?」

一方通行「フレンダだと?」

結標「ほら、雪合戦のときにも居たわよ。あっ、でもそのときは海原って人が変装してたんだっけ?」

一方通行「……まァイイ。で、その浜面クンとそのゲームに何の関連性があるってンだよ?」

結標「あのゲームを買ったときにゲーム選びを手伝ってくれたのが浜面君だったのよ。私目線で言うなら結構長い知り合いってことになるわね」

一方通行「そォかよ……」

結標「どうかした?」

一方通行「……いや」

結標「? ま、とにかく学園都市クエスト�Uが出てるならこれ買ってもいいかもね。何かバージョンアップしてるのかしら?」

一方通行「勝手にしろ。俺には関係ねェからな」

結標「なになにー? 『学園都市の頂点に君臨した新たな最強の超能力者(レベル5)、その名も『未現物質(ダークマター)』をキミは倒せるか!?』ですって」

一方通行「あァン!? あのゴミ野郎が最強のレベル5だとォ!? ちゃンと原作読めやクソゲーム会社がッ!!」

結標「原作ってなに!?」


480 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:09:29.20 ID:TJ4tDQ6ko


-第七学区・とあるショッピングモール・某カジュアルショップ-


結標「……あっ、見て一方通行」

一方通行「今度は何だ?」

結標「あのブランドって貴方がいつも着てるTシャツのところじゃない?」

一方通行「……本当だな。こンなところに店舗があったンだな」

結標「あったんだな、って貴方はいつもどこで服買ってるのよ」

一方通行「面倒臭せェからネットで買ってる」

結標「ああ、ぽいわね。そうだ、せっかくだし見ていきましょうよ?」

一方通行「俺は別に服買おうなンて思ってねェぞ?」

結標「別に見るだけでもいいじゃない。もしかしたら欲しい物があるかもしれないわよ?」

一方通行「ヘイヘイ」


店員「しゃっせー!」


結標「うおおっ、ほんとに貴方がよく着てる感じの服がいっぱいある!」

一方通行「そりゃそォだろ」

結標「貴方に囲まれているみたいで何か気持ち悪いわね……」

一方通行「自分から店に入ってナニ抜かしンだこのアマは?」

結標「冗談冗談。へー、このブランドってレディースもあるのね」

一方通行「ああ、みてェだな」

結標「…………」

一方通行「?」


結標(こ、これを買えばペアルックなんてことができるのでは……? いや、さすがにそれは恥ずいか……)

一方通行(何かまた妙なことを考えてンなコイツ。面倒臭せェ)


―――
――
―


481 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:10:30.56 ID:TJ4tDQ6ko


同日 17:30

-第七学区・風紀委員活動第一七七支部-



ワイワイガヤガヤ



佐天「――ってことがあったんですよー!」

初春「もう、またまた佐天さんったら」

美琴「でもそれってあれじゃ――」


固法「ちょっとあなたたち! ここは溜まり場じゃないって何回も言っているでしょ?」


佐天「あはは、すみません。ここ居心地よくて」

黒子「まったく。佐天はともかくお姉様まで意味もなく居座るだなんて。もしかしてまた何か事件があったら首を突っ込もうなんて思っていませんよね?」

美琴「えっ、いや、そんなことはないわよ。佐天さんと同じく居心地よくてさー」

黒子「本当ですの?」

固法「とにかく、佐天さんと御坂さんはそろそろ完全下校時刻近いのだから帰りなさい。御坂さんは寮の門限とかあるでしょ?」

佐天「はーい!」

美琴「黒子たちはどうするのよ?」

黒子「わたくしたちは残った雑務を終えてから帰りますので」

佐天「大変だねー二人とも」

初春「いやー、まあお仕事ですのでしょうがないですよ」

黒子「貴女に関しては二人にかまけて仕事に手をつけてなかったからでしょう?」

初春「……返す言葉もございません」

美琴「黒子。遅くなりそうなら門限延長出しとこうか?」

黒子「いえ。すでに届け出はしていますわ。お気遣いありがとうございます」

美琴「そう。じゃあ先に帰るわね」

佐天「さよならー! またきまーす!」


ガチャ


固法「だからここは溜まり場じゃ……もう!」

初春「さーて、お仕事頑張るぞー!」フンス

黒子「まったく……」



ピピピピッ! ピピピピッ!



482 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:11:46.57 ID:TJ4tDQ6ko


固法「はい、こちら風紀委員活動第一七七支部です」


初春「うーん、七時までには終わりますかねー? 今日見たいテレビ番組があるんですけど。まあ、終わってなくてもここで観ればいっか」

黒子「そういうものがあるのなら、何で真面目に仕事に手を付けなかったのですの?」

初春「いやー、せっかく来てくれているんですから、対応しないと悪いですし」

黒子「はぁ、暇なときくらいはいいですが、こういう繁忙日には来ないように、わたくしのほうから一度二人には言ったほうが良さそうですわね」


固法「――はい、はい、わかりました。対応いたします。では」ピッ


初春「何かあったんですか? 固法先輩」

固法「ええ。上からウチへ直々にオーダーよ」

黒子「上から直々? そんなこと今まで聞いたことないですわね」

初春「そうですね」

固法「ある『荷物』を奪った強盗犯が第七学区内を逃走しているらしいわ。それの確保が上からの依頼よ」

初春「えっ? それって普通警備員(アンチスキル)の領分じゃないですか? 何でそれがウチに?」

黒子「アンチスキルへ知られてはいけない『何か』を奪われてしまったか。それか一七七支部だけへ通達が来たところからして、少数で解決しないといけないような内密な事件か」

黒子「いずれにしろ、今回の件はちょっとニオイますわね」

固法「そうね。とにかく動きましょうか。初春さん。上から一七七支部のアドレスへ概要データが入っているはずだから、それをもとに逃走者の足取りを追ってちょうだい」

初春「わかりました」

固法「私と白井さんでターゲットの確保へ向かうわ。装備の携帯の許可は下りているから忘れずに持っていってね」

黒子「了解ですの」

固法「しかし、今ここにいるのがこの三人っていうのが痛いわね。初春さん、いちおう非番の他のメンバーにも支援の要請を出しておいて」

初春「はい!」


黒子(……はぁ。門限の延長時間、もうちょっと長くとっておけばよかったかもしれないですわね)


―――
――
―


483 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:13:23.03 ID:TJ4tDQ6ko


同日 18:00

-第七学区・とある公園-


結標「はあー、疲れた!」

一方通行「俺はオマエの三倍は疲れた」

結標「なによそれ?」

一方通行「こンなベンチでも今なら余裕で寝られる自信がある」

結標「……寝ないでよ? 家まで私が運ばなきゃいけなくなるじゃない」

一方通行「チカラ使えば余裕だろ?」

結標「能力使うんだったら、まず貴方を一メートルくらい上から落下させて叩き起こすために使うわよ」

一方通行「チッ」

結標「しかし今日は楽しかったわねー」

一方通行「そォかよ。ソイツはよかったな」

結標「貴方は楽しくなかった?」

一方通行「退屈はしなかったな」

結標「つまり楽しかったってことよね? よかったよかった」

一方通行「退屈してねェってことしか言ってねェぞ俺ァ」

結標「同じよ。私にとってはね」

一方通行「…………」

結標「私今日あったことは絶対に忘れないと思うわ」

一方通行「随分な自信だな。ただ映画行ってメシ食って買い物行っただけだろォに」

結標「ただじゃないわよ」

一方通行「あン?」

結標「貴方と映画に行って、貴方とご飯を食べて、貴方と買い物をした」


結標「それだけで私にとってはきらびやかな思い出よ?」


一方通行「……ケッ、その程度できらびやかなンて安っぽいヤツだな。金メッキか?」

結標「嫌な言い方するわね。ふん、別にいいわよ金メッキでも銀メッキでも」


484 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:13:52.63 ID:TJ4tDQ6ko


結標「私って記憶喪失でしょ?」

一方通行「……ああ」

結標「だから、私にとって新しい思い出ができるってとても重要なことなのよ」

一方通行「…………」

結標「打ち止めちゃんたちとの思い出、クラスのみんなとの思い出、貴方との思い出、そして」


結標「これから作っていく思い出、全部私にとっては大切なものよ」


一方通行「……ふっ」

結標「ちょっと、このタイミングで鼻で笑うのは流石にひどいと思うんですけど?」

一方通行「いや、悪りィ。アホらしくてつい笑っちまった」

結標「どこがアホらしいって言うつもりなのかしら?」

一方通行「だってよォ、当たり前のこと並べていつまでもグダグダ語ってるヤツの、どこがアホじゃねェってンだ?」

結標「一方通行……」

一方通行「ンだァ? その間抜け面はァ? 憎まれ口叩かれてンだからもっと怒れよ」

結標「ふふっ、怒って欲しいならもっとちゃんと悪口言ったら?」

一方通行「チッ、うっとォしいヤツだ」

結標「さーて、たくさん思い出作るぞー! 行きたい場所はいっぱいあるのよ? 水族館や動物園や美術館や自然公園へピクニックや」

一方通行「昨日言ってた他のデートプランじゃねェか」

結標「夏になれば海も行きたいし山も行きたいし、一緒に花火大会にも行きたいし」

結標「秋になれば大覇星祭ってやつも楽しみだし、ハロウィンパーティーってのもやってみたいし」

結標「冬になれば一端覧祭ってのがあるみたいだし、クリスマスにデートもしたいし……あっ、クリスマスはみんなでまた集まってパーティーもいいわねどうしましょ?」

一方通行「……はァ、次から次へと変な予定入れやがって。面倒臭せェ」

結標「ま、いろいろ言ったけど予定なんてどうでもいいわよ」

一方通行「ハァ? 何言ってンだオマエ」


結標「だって、貴方が一緒にいればどんなことがあってもいい思い出になると思うわ。きっと、ね」ニコッ


一方通行「……そォかよ」


485 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:14:28.09 ID:TJ4tDQ6ko


結標「……って、お姉さんまた恥ずかしいこと言っちゃってた感じ? あはは、ごめんね」

一方通行「オマエの奇天烈な発言なンざいまに始まったことじゃねェ。気にすンな」

結標「あははは、ちょ、ちょっと喋りすぎて喉乾いちゃった。飲み物買ってくるけど貴方もいる?」

一方通行「ああ。缶コーヒーブラック。銘柄は今俺がハマってるヤツ」

結標「それ言われても普通の人はわからないわよ? まあ、私はわかるからいいけど」

一方通行「オマエにしか言わねェよ、そンな雑な要求」

結標「私のことを信頼してくれているって解釈すればいいってことよね?」

一方通行「勝手にしろ」

結標「ふふっ、じゃあちょっと行ってくるわね!」タッタッタ

一方通行「おォ」


一方通行「…………」



『今は恋人っていう関係になったのだから名前で呼んでくれるってことよね?』



一方通行「名前、か」


一方通行(俺には『―― ―――』っつゥ、いかにも日本人らしくて、大して珍しくもない本名がある)

一方通行(この名前を知っているヤツは腐る程いるだろォが、その名前を使うヤツは皆無だ)

一方通行(だから俺もあえてその名前を名乗ることなく、通り名の『一方通行(アクセラレータ)』を使ってきた)

一方通行(……だが)



一方通行「――アイツになら、俺の名前を教えてやってもイイのかもしれねェな」



―――
――
―


486 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:15:04.92 ID:TJ4tDQ6ko


同日 18:15

-第七学区・とある自販機前-


結標「……えっと、たしかこの銘柄だったわよね」ピッ



ガタン!



結標「さて、あんまり待たせてもいけないし、急ぎますか」

老婆「あのー」

結標「はい?」

老婆「ちょっと申し訳ないんですけど、この荷物を運ぶのを手伝ってほしいのですが」

結標「うわっ、大きなキャリーケースですね」

老婆「あそこのホテルまででいいですが。頼まれてはもらえませんかねー?」

結標(うーん、ホテルまで結構距離あるなー。能力使ってもいいけど、下手におばあちゃんをテレポートさせて怖がらせてもあれだしなー)

老婆「お忙しいですかね?」

結標「……うん、大丈夫ですよ。お手伝いしますよ!」

老婆「そうですか。ありがとうございます」

結標(ごめんね一方通行。もうちょっとだけ待っててちょうだいね)

老婆「それでは行きますか」ヨボヨボ

結標「……あれ? おばあちゃん、そっちはホテルまでの道じゃないですよ?」

老婆「こっちから行ったほうが信号とかの有無で早いんですよ」

結標「なるほど、そうなんですね。じゃ、このケース持ちますねー、ってあれ?」


結標(思ったより軽いわね? いや、重くないわけじゃないけどまるで――)


結標「おばあちゃん?」

老婆「なんでしょうか?」

結標「ちなみになんですけど、これの中身って何が入っているんですか? 物によっては丁寧に運ばないとですよね?」

老婆「ああ、大したものは入ってないので雑に運んでもらって結構です」

結標「そうですか。わかりました」


結標(……あっ、結局中身は何なのか聞けてない。もう一回聞くのはさすがになー、まあいっか)


―――
――
―


487 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:16:18.07 ID:TJ4tDQ6ko


同日 18:20

-第七学区・街頭-


美琴「――やっば、いろいろ寄り道してたらもうこんな時間じゃない!」タッタッタ

美琴「ま、まあ、この時間ならギリギリ門限は間に合うか」タッタッタ

美琴「……ん? あれは?」タッタッタ


男「…………ううっ」


美琴「ちょ、ちょっとアンタ大丈夫!? そんなボロボロの体で何があったのよ?」

男「ぐっ、あ、あんたその制服、常盤台の生徒さんかい?」

美琴「そ、そうだけど」

男「ってことは高位の能力者の人だね。……がっ」ヨロッ

美琴「ちょ、ちょっと! ど、どうしよう? とりあえず救急車呼んだほうがいいわよね?」オロオロ

男「あ、あんたに頼みがあるんだ」

美琴「頼み? ああ、救急車なら今から呼ぶから大丈夫よ?」ピッピッ

男「そうじゃないんだ」

美琴「えっ?」

男「実は、この怪我はある高位の能力者にやられたやつなんだ」

美琴「能力者に……?」

美琴(そういえば能力者による無能力者狩りっていうのがあるって聞いたことある。もしかしてこの人はそれに……?)

男「そいつは今、あそこの路地裏にいる。今でも俺の仲間が痛い目にあっているかもしれない」

美琴「…………」

男「あんた高位の能力者さんなんだろ? 仲間を助けてはもらえないだろうか?」

美琴「……わかったわ。あそこの路地裏ね? ちょっと待ってなさい」タッタッタ

男「すまない……たのむ……」


美琴(強力なチカラを使って無関係な人を傷つけるなんて許せない……! ごめんね黒子。アンタの説教はあとでいくらでも聞いてやるから……)


美琴「絶対私が止めてみせる!」



―――
――
―


488 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:17:15.07 ID:TJ4tDQ6ko


同日 18:25

-第七学区・路地裏-



シュン!



黒子「……初春? 目的のポイントに到達しました。ターゲットの動きは?」

初春『衛生カメラの映像から見ると、あと一分後にそちらへ接触すると思われます』

黒子「了解」

固法『こちら固法。ポイントに到達したわ』

初春『先輩もそのまま待機でお願いします。白井さんと接触して逃亡に成功した場合、そちらへ向かう可能性が高いため待ち伏せを』

黒子「大丈夫です。先輩のお手間は取らせませんの。絶対にここで拘束してみせますわ」

固法『頼もしいわね。じゃあ、私はこのまま待機しとくわ』

初春『本当はターゲット側の入り口にも人を配置できれば包囲できたんですけどね』

固法『しょうがないわ。今向かってきている子たちはいるけど、その子たちを待ってチャンスを逃すわけにいかないもの』

初春『ターゲット接触まで三〇秒……』

黒子「…………」ゴクリ


黒子(装備に不備はなし。わたくしの身体も異常はなし、むしろ絶好調ですの)


黒子「絶対に――」


初春『ターゲット接触まであと二〇……なっ!?』


黒子「!? どうかしましたか初春!?」

初春『ターゲットが急に進路を逆走しました!! この速度は……もしかして気付かれたっ!?』

黒子「くっ、もしや透視能力や感知能力を持った能力者ですの!?」

初春『顔さえ映ればこちらで能力を検索することができたんですが……すみません、私のミスです』

黒子「問題ないですの初春」

初春『白井さん!?』

黒子「こちらの存在を確認できたということはそれに関する能力者。しかし裏を返せば逃亡する速度を上げるチカラは持っていないということですの」

初春『し、白井さん。まさか……』

黒子「わたくしが直接ヤツを追いますの! 貴女は引き続きターゲットの監視・予測を! 固法先輩はそれに従って先回りをお願いしますの!」ダッ

固法『わかったわ!』


黒子(さて、鬼ごっこの時間ですの。こう見えて鬼ごっこは得意ですのよ? わたくしから逃げられると思わないことですね。強盗犯さん!)



シュン!



―――
――
―


489 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:17:50.39 ID:TJ4tDQ6ko


同日 18:30

-第七学区・路地裏-


結標「…………はぁ」テクテク


結標(路地裏ってあんまり来たくないのよね。一方通行が危ないから行かないほうがいいって言ってたし)

結標(というかこの道本当に近道なのかしら? 目的地のホテルからだいぶ遠ざかっているように見えるのだけど)

結標(うーん、あんまり言いたくはないけどおばあちゃんの言ったことだしなぁ。なんか勘違いしているかもしれないわよね)

結標(……一応、もう一回聞いてみようかしら?)


結標「……あのー、おばあちゃん?」



シーン



結標「……あれ? 誰も居ない」

結標「…………」キョロキョロ

結標「おばあちゃん!? ちょっとおばあちゃん!? どこにいるの!? おばあちゃん!!」

結標「……うーん、困ったわね。どこかではぐれちゃったのかしら?」

結標「でもこの開けたところに来るまでこの通路は一本道だったわよね?」

結標「…………」

結標「まあ、目的地はわかっているし、とにかくあのホテルへこれを届けに行きましょうか」

結標「よし、じゃあテレポートで――」



美琴「ちょっとアンタ!!」



結標「ん?」


490 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:19:33.46 ID:TJ4tDQ6ko


美琴「アンタね!? ここらへんで無能力者の人たちを襲っているのうりょ――ってあ、アンタは……!」


結標「……えっ? み、ミサカ、さん?」


美琴「アンタは結標淡希!? 何でこんなところにアンタがいるのよ!?」


結標(あれ? あの顔に常盤台の制服だからミサカさん、よね? でもなんだかちょっと雰囲気が違う気が――)ズキッ

結標(な、なに? 今の頭痛は……?)


美琴「……そういうことなのね」

結標「?」

美琴「アンタ、私に『残骸(レムナント)』を件を妨害されて奪取を失敗したことを未だにムカついているってことよね?」

結標「れ、むなんと……?」ズキッ

美琴「それでアンタは無能力者狩りなんてくだらないことして、関係のない他人を傷付けて鬱憤を晴らしていたってわけね!?」

結標「……ち、ちが、私はそんなこと」ズキッ

美琴「そんなことはもうさせないわ。これ以上誰かを傷付けようなんて思っているのなら、この『御坂美琴』が相手になってやるわよ!!」

結標「み、みさか……みこ、と?」




『私はムカついているわよ私利私欲で! 完璧すぎて馬鹿馬鹿しい後輩と、それを傷つけやがった目の前のクズ女と、何よりこの最悪な状況を作り上げた自分自身に!!』




結標「うっ、ぐっ……!?」ズキンッ

美琴「? ちょ、ちょっとアンタ急にどうしたのよ!? 頭なんて抱えて、それに顔色が――」



シュン!



黒子「風紀委員(ジャッジメント)ですの!! 追いつきましたのよ強盗犯ッ!! 大人しくわたくしに拘束されることを――ってお姉様!?」


美琴「く、黒子!? アンタなんでこんなところに!?」

結標「……く、ろこ?」ズキッ


黒子「お、お姉様こそなんで……って貴女は結標淡希!?」


結標「がっ、あぐっ……!」ズキン


―――
――
―


491 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:20:26.91 ID:TJ4tDQ6ko


同日 18:35

-第七学区・とある公園-



一方通行「…………遅せェ」

一方通行「何やってンだアイツ? 自販機なンてここから近いところでも往復五分もかからねェだろ」

一方通行「まさか俺の欲しがってた銘柄だけ売ってないっつゥ上条クン顔負けの不幸が訪れて、どっか別ンとこまで買いに行ってンじゃねェだろォな」

一方通行「…………」


一方通行(……いや、待てよ。アイツがそンなことするか?)

一方通行(売ってなかったら売ってなかったらで別の銘柄買ってきて、ゴメンゴメン売り切れてたわ、って感じにヘラヘラ笑いながらブツ渡してくるに決まっている)

一方通行(何なら売ってなかったらなしで! とか言って自分だけ悠々と飲み物手に入れるっつゥことしてきてもおかしくねェ)


一方通行「…………」

一方通行「ま、イイか」

一方通行「しばらくすりゃ帰ってくンだろ。それまでちょっと仮眠でも――」



ブチッ!



一方通行「あン? 電極のケーブルを束ねてる留め具が壊れやがった」

一方通行「乱暴に使いすぎたか? まァコイツをもらって半年以上経ってるから壊れてもおかしくはねェか」

一方通行「…………」


一方通行「チッ、面倒臭せェ」


―――
――
―


492 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:21:37.49 ID:TJ4tDQ6ko


同日 18:40

-第七学区・路地裏-


黒子「……貴女でしたのね。第七学区内を逃走していた強盗犯。結標淡希」


結標「ご、ごう、とう……?」


美琴「えっ、強盗!? 無能力者狩りの犯人じゃないの!?」

黒子「無能力者狩り? いえ、そんな通報受けては、ってお姉様? 貴女がここにいるのとその無能力者狩りというのはもしかして何か関連性があるんですの?」

美琴「え、えーと、その……」

黒子「お姉様。わたくしはあれだけ口を酸っぱくして申し上げましたのに、何でまた厄介事に首を突っ込んでいるのでしょうか?」

美琴「しょ、しょうがないじゃない! 助けてって言われたら助けに行くしかないじゃない!」

黒子「そういうのはジャッジメントやアンチスキル等の治安組織の管轄ですのよ! 一般人のお姉様がどうにかするのは本来は違反になるんですの!」

美琴「わかってるわよそれくらい」

黒子「……さて、与太話はこの辺にして仕事の方に戻りましょうか」


結標「はぁ、はぁ………」


黒子「結標淡希。まさか貴女がまたこのようなことをしているとは思いませんでしたの」

結標「な、なにを言っているの? 私はそんな、強盗なんかじゃ、ない」

黒子「ほう、しらばっくれるつもりですの? ではその手に持っているキャリーケースは一体なんなんでしょうか? 貴女の持ち物ですの?」

結標「こ、これはおばあちゃんの荷物を、代わり持ってあげてた、だけよ」

黒子「そのおばあちゃんとやらがこの場では見当たりませんが?」

結標「はぐれたのよ、こ、ここまで来る道のどこかで」

黒子「ここの通路は一本道です。わたくしはあちらの方から来ましたが、そのような人は見かけませんでしたの。ちなみにお姉様は?」

美琴「私はこっちから来たけど人なんて通ってなかったわよ?」

結標「そ、んな……」

黒子「というわけで貴女を容疑者として拘束させていただきます、と言っても貴女もテレポーターです。対空間移動能力者用の拘束具を今持ち合わせていませんので形だけの拘束となりますが」

黒子「大人しくこのまま連行されていただけると非常に助かりますの」

結標「な、なんで……イヤ……」



ガチャリ



493 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:22:31.53 ID:TJ4tDQ6ko


美琴(……? 結標ってこんなに大人しく捕まるようなヤツだったっけ? それにさっきから様子がおかしいみたいだし)

黒子「どうかなさいましたかお姉様?」

美琴「いや、何でもないわ」

黒子「そうですか。えー、こちら白井。容疑者を拘束いたしました。しかし容疑者の能力はテレポートですので、至急、対空間移動能力者用の拘束具を要請しますの」

結標「……し、らい。しらい、くろこ………?」ズキッ

黒子「? どうかなさいましたか?」

結標「あ、貴女は、『白井黒子』っていう、の?」

黒子「そうですが。というか何で今さら名前を確認いたしますの? まさかわたくしの名前を忘れていたなどとはおっしゃりませんよね?」

結標「白井……黒子……うぐっ」ズキンッ



『今からその腐った性根を叩き直して差し上げますの!!』



結標「!!!?!!!?」ドサッ

黒子「ッ!? ちょ、ちょっと貴女どうかなさいましたの!? いきなりうずくまって!」

美琴「やっぱり様子がおかしい……! 黒子、一応医療施設の手配もしておいたほうがいいかもしれないわよ」

黒子「そ、そうですわね。こちらしら――」





ドオオオオォォォォン!!





494 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:23:26.93 ID:TJ4tDQ6ko


黒子「ぐっ!?」

美琴「な、なにっ!? いきなり空から何かが降ってきたッ……!?」




????「――ったくよォ、たかだか缶コーヒー買いに行くだけでどンだけ時間かけるつもりだよ? こちとらもォ喉が渇き過ぎて、喋るのもダルくなってきてンだっつゥの」




美琴「あ、アンタは……『一方通行(アクセラレータ』!?」



一方通行「あン? 超電磁砲じゃねェか。それに白井、だったか。何だこの面子は……あァ?」



美琴「な、なんでアンタがここに……」

黒子「貴方はたしか、初詣のときにお会いした殿方?」

結標「…………」






一方通行「……ガキども、コイツはどォいう状況だ?」





――――――


495 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/20(土) 23:26:06.87 ID:TJ4tDQ6ko
誰も望んでいない展開定期

次回『S3.タイトル未定』

まだ全然そういうの決めれてねンだわ
496 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:18:27.04 ID:G65aU121o
今回からクソみてえな地の文がつく
台本形式やし地の文は読み飛ばしてもええかもわからん
先に行っとくけど戦闘描写は極力省くわ下手クソ地の文の戦闘長々やってもしゃーないしね

投下
497 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:20:30.47 ID:G65aU121o


S3.トリガー


 第七学区にある地裏の開けた場所、そこに四つの人影があった。

 一つは一方通行(アクセラレータ)。
 杖の付いていない左手を首に当て、頭左右に揺らしてゴキリと音を鳴らしながらその場に立っていた。

 一方通行の位置から五、六メートル離れた位置には三つの少女の影。

 一人は御坂美琴。
 目の前に急に現れた一方通行を警戒するように、彼の姿を目に見据えながら身構えていた。

 一人は白井黒子。
 同じく突然現れた一方通行に驚き、少し混乱している様子だった。

 一人は結標淡希。
 少女二人の足元でうずくまり、頭痛がひどいのか両手で頭を抱えている様子だった。


一方通行「――もォ一度聞く」


 沈黙を破ったのは一方通行だった。


一方通行「これは一体どォいう状況だ? ここで何があったって言うンだ?」

美琴「そ、それは……」

黒子「お姉様」


 何かを喋りだそうとした美琴の前に、黒子は手を出し制止した。
 ここは風紀委員(ジャッジメント)として自分が喋らなければいけないという、意志の表れだろうか。


黒子「本日の一七時四〇分頃、わたくしが所属している風紀委員活動第一七七支部へ強盗事件が発生したという旨の通達を受けました」

黒子「わたくしはその強盗犯を拘束する任に付き、今まで追跡行動を取っていました」

黒子「そして、その結果こうして強盗犯を確保することができ、これから連行をしようしているところです」


 黒子がひとしきり説明したあと、一方通行が口を挟む。


一方通行「……で、そこに転がっている女がオマエの言う強盗犯っつゥことか?」


 一方通行は二人の後ろでうずくまっている少女に視線を移した。
 腰まで伸ばした赤髪を二つに束ねていて、腰に巻かれたベルトには軍用懐中電灯が引っ掛けられている。
 結標淡希。先程まで自分と行動をともにしていた女。
 何度見返しても紛れもない自分のよく知る女が目に映るだけだった。
 その彼女が強盗犯という扱いを受けていると知り、一方通行は口を開く。


一方通行「ソイツは何かの間違いだろ? その女が強盗犯なわけがねェだろ」

黒子「それは、どういうことですの?」

一方通行「その女にはアリバイがある。なぜなら、アイツはその事件発生時は俺と一緒にいたからな」


 一方通行は先程少女の言った言葉を思い出していた。
 今日の一七時四〇分頃に事件発生の通達が来た。つまり、事件はその時間以前に起こったことになる。
 その時間帯は、たしかに自分と結標淡希が一緒に居た時間だ。ショッピングモールからの帰り道で歩きながらなんてことのない雑談をしていた記憶がある。
 自分の記憶が正しければ彼女はそんな強盗なんていう行為はしていないし、自分の目を盗んでそういう行為を行う時間もなかったはずだ。


498 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:22:29.39 ID:G65aU121o


黒子「……この場合、貴方がこの女をかばって虚偽の情報を言っている可能性がありますが、それが虚偽ではないという証明はできますの?」

一方通行「その時間は第七学区の駅周辺を歩いていたはずだ。そこらの監視カメラとかの映像を見れば証明できるだろ」

黒子「しかし、それを確認するためには手間と時間がかかりますわ」

一方通行「どォいう意味だ?」

黒子「こちらがもらった犯人の容姿と彼女の容姿は告示しておりますし、わたくしも衛星カメラからの映像で追跡してここまでたどり着き、彼女と出会いました。そして何より」


 黒子が結標の側で倒れているキャリーケースへ目を向けた。


黒子「盗難品であるこのキャリーケースを持っていたという事実があります。貴方の言うように犯人では無いにしろ、何かしら事件へ関わりがあったということが考えられますの」

黒子「強盗犯の疑いがある以上、ここで拘束させていただき、連行させていただくことには変わりはありませんわ。アリバイ等の確認はそれ以降になるかと」

一方通行「…………」


 たしかにそうだ、と一方通行は言葉を飲んだ。
 あのキャリーケースは自分も知らないものだ。自分と一緒に居たときはあんなものの存在は欠片たりとも認識していなかった。
 そこで一方通行の中で一つの疑問が浮かんだ。
 
 彼女はいつ、どこであれを手に入れたのだろうか。


一方通行「……オイ、白井」

黒子「何でしょうか?」

一方通行「その女と話をさせろ」

黒子「……それは構いませんが、妙なことをしましたら貴方も共犯者とみなし拘束対象になるということは忘れずに」

一方通行「ああ」


 そう返事をし、一方通行は結標淡希へ向けて足を進めた。
 しゃがみ込み、うずくまっている彼女の肩を揺さぶりながら喋りかけた。


一方通行「オイ。オイ、淡希」

美琴(……淡希?)


 美琴が彼の言葉に眉をひそめた。
 しかし、一方通行はそれに気が付くことなく続ける。


一方通行「聞こえてンのか? オイ!」

結標「…………、うっ」


 何度もかけられた声にやっとのこと結標は反応を示した。
 唸り声のようなものを吐きながら、少女は目の前に顔を上げた。


結標「だ、誰……ッ!?」

一方通行「あン?」


 結標と一方通行の目が合った。その瞬間変わった。
 少女の顔に映る、何が起こっているのかわからないと困惑している表情から一気に。
 死を目の当たりにしたときのような、恐怖で顔を歪めた表情に。


結標「あ、一方通行……?」

一方通行「……どォした? あわ――」

結標「い、イヤッ!!」

一方通行「ッ!?」


 結標は短い悲鳴を上げた瞬間、空気を切るような音とともにその姿を消した。
 その場に残っていたのは彼女の手の自由を奪っていた拘束具と、アスファルトに倒れたキャリーケースだけだった。

499 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:24:05.74 ID:G65aU121o


美琴「き、消えた!?」

黒子「しまったッ!? くっ、どこにッ!?」


 黒子が周囲を見渡した。数秒も経たないうちに目標を捉える。
 

黒子「ッ、いましたわッ!!」


 結標淡希は先程居た位置から一〇メートル程離れた位置。路地裏の細い通路に入りかかる場所に立っていた。


黒子「やはり大人しく捕まる気はなかったようですわね。こうなったら力尽くで――ってちょっと!?」


 黒子が武器である金属矢を収納している、太腿に巻いたホルダーへ手をかけようとしたとき、彼女の目に少年の姿が映った。
 機械的な杖を器用に使いながら、結標淡希へと足を進める一方通行の姿が。


一方通行「オイ、何をそンなにビビってンだオマエ? 一体どォしたっつゥンだよ」

結標「や、やめて。来ないで……」

一方通行「……、オマエ、まさか――」


 一方通行が何かに気付き、顔を歪める。
 それを見た結標がビクリと体を震わさせて、



結標「こっちに来ないでよ!! この『化け物』ッ!!」



 叫び声とともに、結標は再び空気を切るような音とともに姿を消した。
 一方通行は彼女がいたはずの空間を大きく見開いた目で見ながら、呆然と立ち尽くしていた。


黒子「あの状態でのテレポートならそう長い距離は跳べないはず。すぐに追跡を――」


 黒子は逃げ出した結標淡希を追うべく、身構えた。
 彼女の能力は空間移動能力(テレポート)。手に触れた物体や自分自身の体を転移させる能力。
 この強力なチカラを使えば、再び逃走者を補足することも可能だろう。
 だが、黒子がこのチカラを行使し追跡を開始することはなかった。
 なぜか。


黒子「――がっ!?」

一方通行「…………」


 一方通行。学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)。その中の頂点である第一位の能力者。
 その怪物の左手が、白井黒子の首を鷲掴みにして宙へ釣り上げていたからだ。


500 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:25:34.28 ID:G65aU121o


黒子(!!!?!!!? い、息が、できッ!?)

一方通行「超能力っつゥのはただ能力を使います、って思えば使えるほど簡単なモンじゃねェ。それを使うために脳みそフル回転させて式を立てて、演算する必要がある」


 顔を真っ赤にさせながら足をバタつかせている黒子を眺めながら、一方通行は語りかける。


一方通行「白井。オマエの能力はたしかテレポートだったか? よく知らねェが結構複雑な演算すンだろ?」

黒子(に、逃げなければ、だ、だめだ、頭がまわら)


 呼吸困難になった黒子の表情が大きく崩れる。
 顔にあるあらゆる穴から体液が漏れ出し、赤くなっていた肌の色が段々と青ざめていく。


一方通行「あはっぎゃはっ!! 突然首ィ絞められるみてェな急激な状況の変化ァ、そンな中で演算なンかに思考を回す余裕ねェよなァ!?」


 悪魔のような笑い声を上げながら少女へ圧倒的なチカラを振るう一方通行。
 しかし、引き裂くような笑顔が次第に冷静な表情へと変化した。


一方通行「あの女に何をしやがった? 悪りィが全部吐いてもらうぞ? できねェっつゥならこのままこの首をへし折って――」

美琴「一方通行!!」


 遮るように一方通行を呼び掛ける者がいた。
 一方通行は首だけを動かし、声のした方向を見る。
 そこには御坂美琴が立っていた。特になにか構えることもなく、ただそこに立っていた。


美琴「……やめてよ、一方通行」

一方通行「そォいやオマエも居たな。オマエにも聞きてェことが腐るほどあンだ。コイツから吐かせたあと相手してやっから――」

美琴「お願い!! やめてよ。黒子を離してあげてよ、一方通行……」

一方通行「ッ」


 不安で押しつぶされそうな表情をした美琴を見て、一方通行の脳裏に一人の少女がよぎった。
 打ち止め(ラストオーダー)。
 御坂美琴の提供したDNAマップから生まれた体細胞クローンである少女。自分が守ると決めた、自分の生きる意味を教えてくれた少女が。
 
 一方通行の左手から力が消え、緩やかに開いた。


黒子「ごほっ!? がはっ、おぇ、ごほっ、ごほっ、すぅ、がふっ!!」


 一方通行の魔手から逃れた黒子は両手を地面に付け、顔を下に向けながら呼吸を必死に整えていた。


501 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:26:49.15 ID:G65aU121o


一方通行「……悪りィ。ちょっと頭に血ィ昇ってた」


 首元の電極にのスイッチを押し、能力使用モードを解除する。


美琴「ねえ。アンタって結標淡希とどういう知り合いなわけ?」

一方通行「……別に大した知り合いじゃねェよ」

美琴「嘘よ」

一方通行「あァ?」

美琴「アンタがあんなに取り乱したところなんて見たことない。つまり、それだけの関係ってことでしょ?」

一方通行「…………」

美琴「それにアンタあの人のこと『淡希』って呼んでた。アンタが名前で呼ぶような人がただ知り合いなわけない」

一方通行「…………はァ」


 一方通行はため息をつき、しばらく空を見上げた。
 日は完全に沈んでおり、空には星の光が点々としていた。
 そして少年は、面倒臭そうに口を開いた。


一方通行「アイツは……俺の恋人ってヤツだった」

美琴「ッ!?」

一方通行「今日は朝から一緒に出かけてて、映画行って、メシ食って、買い物して、さっきまでそこの公園のベンチに座って馬鹿みてェな話してたところだった」

美琴「…………」

一方通行「だからこそ知りてェンだよ。ここで何があったのか。アイツの身に何があったのかをよ」


―――
――
―


502 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:29:14.06 ID:G65aU121o


黒子「こちら白井。申し訳ございません。犯人の逃亡を許してしまいました」


 白井黒子が耳に取り付けた端末で風紀委員(ジャッジメント)の仲間と通話していた。
 黒子からの任務失敗の報告に対して、真っ先に返事をしたのは先輩である固法だった。


固法『……そう。相手がテレポーターならしょうがないわ。初春さん、追跡を再開してもらえる?』

初春『了解です』


 固法の指示に対し、バックアップ担当の初春が一言で返事をする。


黒子「初春。ちなみに逃亡者の名前は結標淡希ですの」

初春『結標淡希……ってあのときの!?』

黒子「そうですの。なので今回の事件発生当時の、この辺り周辺の監視カメラの結標が映っている映像データの解析も並行してお願いできます?」

初春『なるほど。アジト等の隠れ家の位置を見つける手がかりになるかもしれませんしね。わかりました』


 そう言うと初春の電話口からカタカタとキーボードを叩く音が聞こえてきた。


固法『こっちは他の一七七支部のメンバーと合流したわ。すぐそちらに合流する』

黒子「……いえ。実は逃げられるときに少し負傷してしまいまして。すぐに応急処置して合流しに行きますので、追跡のほうを優先してください」

固法『大丈夫? 救援のために一人くらいそちらに送りましょうか?』

黒子「だ、大丈夫です。本当に大したものではありませんので! で、では治療のために一度こちらからの通信は切ります」


 耳に付けた端末をオフにしながら、黒子はため息を付いた。
 そして視線を一緒にいる美琴へ向ける。


黒子「……さて、これで少しの間だけお話する時間は取れましたのよ?」

美琴「ごめんね黒子。これって思いっきり規則とかの違反になっちゃうよね?」

黒子「当たり前ですの。これがもしバレたら始末書アンド始末書のフルコース確定ですわよ」

美琴「ありがとうね。この埋め合わせは必ずするから」

黒子「それならば今度の週末一日デートでお願いしますの。もちろん二人きりで」


 あはは、と苦笑いする美琴。
 「絶対ですよ」と念押しした後、黒子が彼女へ向けていた視線を一方通行へ移す。


黒子「……本当は暴行罪及び治安維持妨害で貴方を拘束してやりたいところですが、お姉様に免じてとりあえずは不問といたします」

一方通行「悪かったな」


 首に残った痛みを手でほぐしながら、黒子は問いかける。


黒子「で、聞きたいこととはなんでしょうか?」

一方通行「さっきも言ったが、この現場で何があったのかだ。事細かく喋れ」

黒子「ふむ、そうですわね……」


 黒子は考え込みながら、美琴の顔を見る。


黒子「わたくしが喋るより、先にお姉様から話したほうがよろしいのでは?」

美琴「私?」

黒子「わたくしがここに到着したときには、すでにお姉様はここにいましたでしょ?」

美琴「え、ああ、そうね。えっとどこから喋れば……」


503 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:30:52.21 ID:G65aU121o


 顎に手を当てしばらく考え込む美琴。
 考えがまとまったのか、うん、とつぶやき一呼吸置いてから再び喋り始める。


美琴「私が寮へ向かう帰り道のことだったわ。道端に傷だらけでボロボロになっている男の人を見かけたのよ」

美琴「ほっとくわけにはいかないから、その男の人に声をかけて、喋っているうちにその怪我はある能力者にやられたってことがわかったわ」

美琴「で、この路地裏でその能力者に仲間が襲われているから助けてくれって言われたから、ここまで走ってきたってわけよ」


 美琴の説明を聞き、黒子はなるほどと納得したような声を出して、


黒子「それでお姉様は結標淡希を無能力者狩りの犯人だと思っていたのですね」

美琴「そういうこと」

黒子「……というかお姉様? 普通そういうことはアンチスキルやジャッジメントへ通報するのが先ですのよ?」

美琴「はいはいわかってるわよ。そう何回も言わなくても」

黒子「本当にわかっているんですの?」

一方通行「で、そのあとはどォなったンだ?」


 話が逸れていきそうになっている先輩後輩コンビの会話に割って入る一方通行。
 ごほん、という咳払いをしてから美琴は話を再開した。


美琴「やったことって言っても大したことはしていないわよ? ちょっと会話したくらいよ」

一方通行「会話? 内容は?」

美琴「……えっと」

一方通行「あン?」

美琴「あ、一方通行? ちょっと耳貸してちょうだい」


 そう言うと美琴は一方通行の隣に行き、口を耳元に近づけた。


美琴「(結標とした会話の内容をちょっとこの子に聞かれたくないのよ。突き詰められたらあの『実験』のこととか喋らなくちゃいけなくなるし)」

一方通行「(『実験』っていうのは『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』のことか?)」

美琴「(そうよ。結標とは直接的には関係はないんだけど、全容を喋るってなるとどうしても引っかかってくるっていうか)」

一方通行「(オマエ、もしかして『残骸(レムナント)』のこと言ってンのか?)」

美琴「なっ、なんでアンタがその名前をッ!?」


 思わぬところから思わぬ単語が出てきたことにより思わず美琴は声を荒げてしまった。
 大声を浴びた一方通行は貸していたほうの耳を弄りながら、


一方通行「……うるせェな。耳元で大声上げンじゃねェよ」

美琴「ご、ごめん」


 二人の様子を見ていた黒子が怪訝な表情を浮かべながら、


黒子「さっきから二人で何コソコソ話していますの? というかお姉様? そんな不用意に殿方と近寄ってはいけませんのよ! ただでさえあの腐れ類人猿と――」

美琴「ちょっと! それは今の話とは全然関係ないことでしょ!?」

一方通行「また話が逸れ始めてンぞ。早く話ィ進めろ超電磁砲」


 ごめん、と美琴は謝ってから再び話を続ける。


504 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:32:53.16 ID:G65aU121o


美琴「……まあ、そうね。簡単に言うと、去年の九月頃に、あるモノを巡って私と結標淡希の間に因縁みたいなものがあったのよ」

美琴「結果的に、結標淡希はそのモノを手に入れることができず、それは破壊された。それを壊したのは私じゃないけど、私がそれを手に入れることを妨害していたっていうのは事実ね」

美琴「で、私はそれを彼女が未だに根に持ってて、その憂さ晴らしで無能力者狩りなんて行為をしているんだと思った」

美琴「だからそんなことはやめろ、やめないなら私が代わりに相手になってやるって言ってやったわけよ」

美琴「そのあとに黒子が来たのよね? たしか」


 急に話を振られた黒子は首を傾げる。
 

黒子「たしかと聞かれましても、わたくしは会話自体は聞いていませんのでそこは答えかねますの」

一方通行(……『残骸(レムナント)』、か)


 御坂美琴が言っていた『残骸(レムナント』と、それを巡った抗争があったことは一方通行は知っていた。
 あくまで打ち止めを経由して聞いたミサカネットワーク上に流れていた情報だけだが。
 いろいろな組織が動いていて大事になっていたことは聞いていたが、まさか彼女たちのオリジナルである御坂美琴も抗争に参戦していたとは思いもしなかった。
 まあ、彼女の心境からしてこれを知ってしまったら、参戦しないという選択肢はないに等しいのだろうが。


一方通行(…………ということは)

黒子「さて、今度はわたくしの番ですわね」


 一方通行は様々な考えを巡らせていたが、黒子は気にせず自分の話を始めた。
 少年は適当にため息をつき、黒子の方へ視線を向ける。


黒子「今回起きた事件に関しては、先程説明させていただきましたので省かせていただきます。わたくしは衛星カメラの映像をもとにターゲットの追跡の任についていましたの」

黒子「徐々にターゲットとの距離を詰めていき、最終的に接触できる位置まで追い詰めることができました」

黒子「しかし、接触できる直前ターゲットに気付かれてしまったようで、ターゲットは逆向きに逃走。それをわたくしが直接追いかけましたの」

黒子「そして、わたくしがターゲットをここに追いついたと思いましたら、そこにいたのは結標淡希と、彼女と対峙していたお姉様でしたわ」


 黒子の話を聞いて美琴が眉をひそめる。


美琴「……何かその話おかしいわね」

一方通行「どォいうことだ?」

美琴「私が結標を発見したときはそんな急いで逃げている様子はなかったわ。それに私の顔を見たとき困惑した表情をしていたのよ。例えるならなんだこいつ……? みたいな」

一方通行「そォか。普通逃走中の身なら出会った人間全てが追跡者に見えてもおかしくはねェ。なのに、そンな表情を浮かべる余裕があるっつゥことは、ソイツは逃走劇なンて繰り広げている気はなかったっつゥことか」

黒子「で、ですがわたくしは衛星カメラの映像情報をもとにこちらに来ましたのよ? もちろんその映像には彼女に酷似した容姿の方が映っているという情報も得ていますので人違いもありませんの」


 そう言うと黒子は携帯端末に複数枚の画像を映し出した。
 そこにはぼやけていてハッキリとは確認できないが、結標淡希のような容姿をした少女が映っていた。
 髪型も服装も盗難品であるキャリーケースも、全てがまったく同じ少女が。
 それらを見て、一方通行があることに気付く。


一方通行「……結構な枚数の画像があるが、どれも顔が写ってねェよォだが?」

黒子「ええ。運が悪いというか、逃走者がうまく動いていたというか、ここまで顔がまったく映らず逃走をしていたことになりますわね」

一方通行「それは監視カメラの方でも同じか?」

黒子「そうですわね」


 つまり、街中にある膨大な監視カメラと衛星軌道上に浮いている衛星カメラから逃れていたということだ。
 まったく映らないように立ち回ることは可能だろう。だが、映ってなお顔だけ映さないようにするなど可能なのか?


505 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:37:09.14 ID:G65aU121o


黒子「……では、少し話が逸れましたので戻しますわ。彼女と接触したときの会話は、軽い尋問のようなことをしました」

一方通行「尋問だと?」

黒子「ええそうですわ。彼女が自分は強盗犯ではないと言い張りますので。質問内容はそうですね……」


 地面に転がっているキャリーケースを見ながら黒子が続ける。


黒子「盗品であるキャリーケースを何故持っていたのか? ですわね」

一方通行「それでアイツは何て答えたンだ?」


 一方通行の問に黒子は当時を思い出しながら、
 

黒子「たしか、このキャリーケースは荷物が重くて困っている老年女性の代わりに持ってあげていた、と言っていましたわ」

黒子「しかし、その肝心な老年女性の方が見当たりませんので、とっさについた嘘だとわたくしは判断しましたの」

黒子「そのあと、対空間移動能力者用の拘束具がなかったため、通常の拘束具で形だけの拘束したあと、貴方がここに現れましたのよ」


 一通り話すことが終えたのか、黒子はふうとため息をついた。


黒子「何か他に質問したいことはありますの?」

一方通行「……そォだな。オマエらと接触していたときの結標のヤツの様子が知りてェ」

美琴「様子ね。そういえば私と話しているとき、急に様子がおかしくなったわね」

一方通行「おかしくなった? 具体的にどォおかしくなったンだ?」


 質問に反応した美琴へと視線を向ける。


美琴「何か急に頭を抱えだして、顔色が悪くなってたわ」

一方通行「オマエと会話をしてからか?」

美琴「うん、たしかそう」

黒子「そういう話なら、わたくしも少し違和感のある行動がありましたわ」

一方通行「違和感?」


 黒子が不満げな顔を浮かべながら思い出す。
 

黒子「わたくしの名前を確認してきましたのよ? 貴女は白井黒子っていうんですか? みたいな感じに」

黒子「たしかに最後に会ったのは去年の九月の話でしたけど、そうそう忘れてしまえるような関係ではなかったと思いますのに」


 黒子が腕を組みながら考え込む。そんな彼女に一方通行は確認する。


一方通行「……オマエもアイツと知り合いだったのか?」

黒子「え、ええ。先程お姉様が言っていたいざこざに、わたくしもジャッジメントとして首を突っ込んでいましたのよ」


 美琴が言っていたいざこざというのは『残骸(レムナント)』のことだ。
 つまり、黒子も美琴と同じ理由で結標淡希と関係があったということになる。


黒子「まあ、わたくしは大して力にはなれませんでしたが」

美琴「そ、そんなことないわよ黒子! アンタがいてくれたから結標淡希の野望を打ち砕くことができたのよ? アンタは頑張ったわよ」

黒子「……ふふっ、そう言ってもらえますとわたくしも嬉しいですわ。けど事実は変わりませんわ」



506 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:38:32.09 ID:G65aU121o


美琴「黒子……あっ、そういえば」


 少し悲しげな表情を黒子が浮かべている中、美琴があることに気付く。


美琴「その会話してからよね? 結標が急にうずくまったのは?」

一方通行「その話っつゥのは、白井の名前を確認したっつゥ会話のことか?」

黒子「たしかそうでしたわね。急なことでしたので忘れていましたわ」

一方通行(やっぱりそォか。オマエはもォ……)


 一方通行は何かを悟った。
 そして、そのことから目を背けるように再び星空を見上げた。
 その様子を見て少女二人が首を傾げる。


黒子「ところでもうお話はよろしくて? そろそろわたくしも追跡の任に戻らないと仲間たちに不審がられますの」

一方通行「ああ。悪かったな」

美琴「ありがとね黒子」

黒子「はい。では――」

 
 黒子が動こうとした瞬間、ピピピという電子音が流れた。
 その音源は黒子の持つ携帯端末からのようで、少女は携帯端末のボタンを押し通話モードにした。


黒子「こちら白井です。遅くなってすみません、今から追跡班に戻りますの」


 謝りの言葉を返し、通話中いくつかの返事した。どうやら指示か何かを受けているのだろう。
 そのあとさらにいくつか返事をすると、


黒子「――えっ?」


黒子の表情に驚きのようなものが現れた。


―――
――
―


507 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:40:34.88 ID:G65aU121o


 風紀委員(ジャッジメント)の同僚との通話を終えた黒子が端末を切った。
 険しい表情をしている黒子を見て、美琴が問いかける。


美琴「どうしたのよ黒子?」

黒子「……いえ、急に結標淡希の追跡が打ち切りになったという連絡を受けましたのよ」

一方通行「何だと? どォいうことだ白井」

黒子「盗難品であるキャリーケースを確保できているから、それ以上の追跡は無意味ということで打ち切りになった、と上から通達が来たそうです」

一方通行「上、っつゥのは」

黒子「はい。ジャッジメントの上層部のことですわ」

一方通行「……チッ、そォいうことかよクソッタレが」


 黒子の言葉を聞いてから、一方通行の表情が怒りの表情へと変化していく。
 歯を食いしばり、ギシシと擦れる音が鳴る。


美琴「ど、どういうことなのよ? 何かわかったの一方通行!?」

一方通行「……オマエら、結標と知り合いだったよな」

黒子「はい。さっきも言ったとおり」

美琴「それがどうかしたのよ?」

一方通行「だがオマエらは知らねェよな? アイツが記憶喪失になっていたっつゥことはよォ?」

黒子「なっ!?」

美琴「記憶喪失!?」


一方通行からの出てきた突然の事実に、二人は驚愕する。


一方通行「ああ。アイツは去年の九月一四日以前の記憶がない、記憶喪失者だ」

美琴「九月一四日っていえば……あの日じゃない!」

黒子「たしか結標淡希は何者かの襲撃を受けたことにより大怪我を負い、病院に搬送されたと聞きましたわ」

一方通行「その何者っつゥのがこの俺、一方通行だ」

美琴「あ、アンタがあれをやったっていうの……? たしかにあの現場を見る限り、あんなことができるのはアンタくらいしかいないけど……」


 美琴が顎に手を当て考え込む。当時のことを思い出しているのだろう。
 一方通行は当時結標淡希を狩るために、一帯にある道路を砕き、周囲にあるビルのガラスを叩き割った。
 大地震が起きた後のような惨状だった。たしかに、美琴の言う通りあのようなことができる者は限られるだろう。


黒子「なぜ貴方がそんなことを?」

一方通行「あァ? それはそこにいるオマエのお姉様と同じ理由だ。つまり詳しくは聞くなっつゥことだ」

美琴「あ、アンタもあの子達のために……?」


 美琴は一方通行の赤い瞳を見る。一方通行は特に答えない。
 目で会話している二人を見て、黒子はため息をついてから、


黒子「わかりましたわ、詳しくは聞きませんの。で、つまり貴方が結標淡希を病院送りにして、それが原因で彼女の記憶が喪失した、そう言いたいんですのね?」

一方通行「物分りが良くて助かる」

美琴「たしかにそう考えたら、アイツの反応や行動に対する違和感に説明がつくわね」


 そこで「んっ?」と黒子の動きがピタリと止まる。


508 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:43:49.72 ID:G65aU121o


黒子「そういえば貴方は、結標淡希と恋人関係にあると言ってらっしゃいましたよね? もしかして恋人を病院送りにしたということなのですか貴方は?」

一方通行「イイや、違う。そのときの俺たちは初対面の完全な他人だった。アイツとそォいう関係になったのはもっと先、最近のことだ」

美琴「どういうこと?」


 そォだな、と一方通行は面倒臭そうに頭を掻く。


一方通行「記憶を失ったアイツはどォいう経緯でかは知らねェが、俺が居候している住処に居候として移住してきたンだ」

一方通行「そして俺とアイツは同じ学校の同じクラスへ編入された。敵対関係にあった女と、同じ家に住む居候同士でありクラスメイトでもあるという、奇妙な共同生活が始まったっつゥことだ」


 アイツが来たのが一〇月半ばの頃だから半年近い期間になるか、と付け加えた。


美琴「なるほど。その中でアンタと結標がその、こ、恋人っていう関係になったってわけね」

一方通行「ああ」

黒子「しかし、結標淡希のあの事件後の来歴はわかりましたが、それと今回の事件に関連性があるとは思えませんが」

一方通行「…………」


 一方通行は神妙な顔つきになり数秒口を閉じた。
 そして自分の中での考えがまとまったのか、再び口を動かし始めた。


一方通行「こっから先俺が言うことは、学園都市のドス黒い裏の話だ。できれば記憶に留めるな。留めるにしても絶対に口外なンてすンじゃねェぞ?」

美琴「……ちょっと待って」


 一方通行の発する雰囲気からただならぬものを感じた美琴は、視線を黒子の方へ向けた。


美琴「黒子。アンタはこれ以上の話は聞かないほうがいいわ。今すぐジャッジメントのみんなのところに帰りなさい」

黒子「なっ、なにを言っていますのお姉様!? ここまで聞いてあとはお預けなんてわたくしには耐えられませんわ!」

美琴「一方通行がこんなこと言うなんておそらく本当にヤバい話よ? たぶんフェブリのときとは比べ物にならないくらいの暗部の」


 美琴と黒子、そしてその仲間たちは、とある暗部組織の野望を阻止するために、その暗部組織と戦った過去があった。
 そのときは一歩間違えれば命を落としてもおかしくはないような、過酷な戦いだった。
 だが、それより危険な何かを美琴は直感で感じ取っていた。


美琴「そんな話を、私は大事な後輩に聞いて欲しくない!」

黒子「……お姉様。こちらからも一つ言わせてもらってもよろしいですの?」

美琴「何よ?」

黒子「お姉様がわたくしを想ってくれていることは大変嬉しいですの。けど、わたくしからも同じことをお姉様に対して想っているっていうことをわかって欲しいですの」

美琴「黒子……?」

黒子「お姉様はここでの話を聞いたら、おそらく、いや必ずそれに首を突っ込もうとする思いますわ」

美琴「うっ」


 図星を突かれたのか美琴が一歩後ろに退いた。
 それを追うように黒子は距離を詰め、美琴の目を見つめながら、


黒子「だから、その話を聞いた上でわたくしはお姉様を止めないといけませんの」


 そしてそのまま横目で一方通行を見る。
 

黒子「それに一方通行さんがわたくしにも話そうとしてくれているということは、それはわたくしにも関係があるという話ですの」

黒子「ならば、わたくしはそれから逃げたくありませんわ。もうすでにあのとき、片足突っ込んでいるようなものなのですから」


509 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:46:30.12 ID:G65aU121o


 黒子の真剣な目付きからどうやら彼女の決意は堅いようだ。
 それを察した美琴は諦めのため息をついた。
 
 
美琴「……わかったわ。一方通行、お願い」

一方通行「ああ、わかった」


 そう言われて一方通行は二人を見る。


一方通行「これはあくまで俺も聞いた話に過ぎねェから、そォいう話もあるかもしれねェくらいで留めておけ」


二人が黙って頷いたことを確認し、一方通行は話を始める。


一方通行「結標淡希が持つ能力『座標移動(ムーブポイント)』。これを利用した計画が存在する」

美琴「計画……? も、もしかして、アンタのような……?」

黒子「?」

一方通行「いや、そこまではわからねェ。俺もあくまで聞いただけの話だからな」


 そう、と言ってから美琴は黙った。


一方通行「当たり前だがその計画は表には絶対に公表されないよォな、いわく付きのモンだっつゥことは間違いねェ」

一方通行「その計画に必要なモノは、当たり前だが結標淡希本人だ。だが、その結標淡希は記憶喪失していて表の世界で何事もなく過ごしていた」

一方通行「そンな表の住人であるヤツを裏の計画に引き入れる手段なンざ大きく分けて二つしかねェ」


 指を一本立てて一方通行を説明を続ける。
 

一方通行「一つは、人の善意に付け込ンで騙し、本人はそンなクソみてェな計画に加担していることなンてこと悟らさせずに、計画へ参加させる手段」

美琴「…………」


 美琴の表情が険しくなる。
 なにか思い当たる節があったのだろう。
 

一方通行「もう一つは、何らかのソイツの弱みを握り、それをチラつかせることによって計画に参加せざる得ない状況を作り上げる手段」


 一方通行は二本目の指を立てる。
 

一方通行「だが、結果的に見れば、この二つの手段が結標淡希を計画に参加させるために有効な手段かというと、そォじゃなかったわけだ」

黒子「今の今までそのような計画に参加している様子がなかったから、でしょうか?」

一方通行「そォいうことだ」


 一方通行は首を縦に振った。


一方通行「一つ目に関しては、俺が結標に裏ではそォいう事情があるっつゥことを教え込ンでやった。だから、そォいう関係の話は全部断るよォにしていたはずだから有効には働かない」

一方通行「二つ目に関しては、弱みさえ作らなければ向こうは攻め入ることはできねェ。今までその手を使ってこなかったっつゥことは、ヤツらは弱みを握ることができなかったっつゥことだ」

一方通行「さて、この二つの方法が使えない場合、結標を計画に参加させるにはどォすればイイか……」


 一呼吸置いてから、再び口を開ける。


一方通行「それは結標が裏の住人になってもらうことだ。表の住人を無理やり計画に引き込ンでやろォモンなら、オマエらジャッジメントやアンチスキル等の治安組織や、一般人の目に止まってしまう可能性が高くなるからな」

一方通行「それに比べて裏の住人なら、人権なンてあったモンじゃねェ。拉致なりなンなりして計画に参加させればそれで問題ねェっつゥことだ」

一方通行「もともと結標は裏の住人だ。ここまで言えば何となく俺が言いたいことがわかってくるンじゃねェか?」


510 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:49:49.96 ID:G65aU121o


 その言葉に美琴が理解したような反応をする。
 

美琴「……そうか。結標が記憶を取り戻したら、裏の記憶や知識を取り戻すということだから、必然的に裏の世界に戻ってくるってことね?」

黒子「しかしそれはおかしくはないでしょうか?」

美琴「おかしい?」


 黒子の反論に美琴が首を傾げる。
 

黒子「ええ。記憶を取り戻してもあくまで元の記憶や知識が蘇るだけですの。その時点では自分は記憶喪失中は表の住人だったという記憶も存在するはずですので、必ず裏の世界とやらに行くとは限らないのでは?」

一方通行「それに関しては裏に行くという確信のある情報がある」


 黒子の推論を否定するように情報を後付する。
 
 
一方通行「結標淡希の記憶喪失は元あった記憶とその人格が奥底に封じ込まれ、新しい人格が記憶のない状態から結標淡希を演じるというタイプのものらしい」

黒子「なるほど。つまり、記憶を取り戻した時点で記憶喪失中の記憶はない、九月一四日時点の裏の住人である結標淡希の人格が蘇るということですわね」

美琴「な、なんでそんなことがわかるわけ? 記憶喪失なんて症状見ただけじゃどういうのなんかわからないじゃない」

一方通行「これは第五位。精神系能力者の頂点に立つ食蜂操祈から教えてもらった情報だ。あえて虚偽の情報を教えられたとかじゃねェ限り間違いねェよ」

美琴「……アンタ、あのときそんなことを話してたの?」

一方通行「ああ」


 美琴は三月一三日のことを思い出していた。
 一方通行と食蜂操祈が神妙な顔付きで話をしていたときのことを。

 それに、と言って一方通行は付け加える。


一方通行「さっき結標が俺に向けてきた目は、まさしく九月一四日、俺と敵対関係にあったときのアイツと同じモノだった。つまり、第五位の言ったことは間違いなかったっつゥことだ」


 その目付きとは恐怖。嫌悪感。絶望。様々な負の感情が混ざりあったモノ。
 今までの結標淡希が決して向けてくることがなかった目だった。
 
 話が逸れちまったな、と流れを修正し一方通行は続ける。


一方通行「さて、これでクソ野郎どもの目的が『結標淡希の記憶を取り戻す』ことに定まった。なら、ヤツらはどォ動くか」

黒子「在り来たりなところを挙げると、学園都市には記憶喪失を治療する薬品などザラにありますの。それを結標淡希に投与すれば戻るのでは?」

一方通行「それがわかりやすい方法だろォな。だが、その薬品をどォやって結標に投与する?」

黒子「そ、それは……」

 
 すぐに思いつく答えが出ないのか、黒子は言葉を詰まらせる。
 
 
一方通行「脳への投薬は風邪薬みてェに錠剤飲むだけで終わるよォなモンじゃねェ。然るべき施設で専用の機器を使うよォな治療になる」

一方通行「そンな大掛かりなことをやる場合必ず足がつく。表に情報を晒したくねェヤツらは絶対にこの方法を避けるだろォ」

一方通行「それを度外視したとしても、まず結標の同意を得て施設に招き入れなきゃいけねェ。だが、俺に言われて警戒心が強まっている結標をそンなところに騙し入れるなンて難しいだろォよ」


 つまり投薬で記憶喪失を治そうとするのは難しい、と一方通行は言う。
 ならばと美琴が代替案を出す。


511 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:54:53.76 ID:G65aU121o


美琴「精神系能力者に治させるとかは? 食蜂のヤツはもちろん、食蜂以外でも記憶喪失を治せるような精神系能力者の人がいると思うわ」

一方通行「そォだな。それが可能なら一番イイ方法だ。けど、実際に今日までその方法が使われてないっつゥことはそれができなかったっつゥことだ」

美琴「うーん、まあたしかにそうね。食蜂がそんな誘いに乗るかどうかも怪しいし、仮に他に治せる能力者たちがいたとしても同じく協力してくれるとは限らないわね」


 一方通行の視点から見ても第五位の少女は、このような話に賛同しないことは何となくわかっていた。あくまでそんな気がする程度の話だが。
 彼女のことは基本的に謎に包まれている。彼女が何を思い、何のために、どういう行動をするのか。彼は何も知らない、わからない。
 ということは、食蜂は基本的に表に素性を出さないようにしているということだ。
 そんな彼女が表に出せないような計画のために、一人の少女の記憶喪失を治してくれ、と言われて二つ返事で了承するとは思えない。
 その行動一つで、どれだけの自分の情報をバラ撒いてしまうのかわからないのだから。
 
 
 
一方通行「こォいう感じにヤツらの中にある案が次々と挙がっては却下されていったンだろォ。そして、ヤツらは結局この方法を取った」


 美琴と黒子を一度見たあと、一方通行はその方法を挙げる。
 

一方通行「記憶が回復するきっかけを無理やり起こすことにより、記憶を回復させるっつゥ手段だ」

黒子「きっかけ、ですの?」

一方通行「ああ。第五位が言っていたが、あのタイプの記憶喪失はふとしたことがきっかけで回復することがあるらしい」

美琴「へー、つまりそのきっかけっていうのを自発的に起こして記憶を戻させるってことね?」

黒子「しかし、それは難しいのではないでしょうか? まずそのきっかけというのがなにかわからなければいけませんし、何よりそれを自発的に起こすことによりその方たちの足がついてしまうのでは?」

一方通行「オマエの言う通りだ白井。しかし、そのきっかけっつゥのがすでにわかっていて、それを足がつかないよォに行えることなら可能なンじゃねェのか?」

黒子「た、たしかにそうですが」


 美琴が眉をひそめながら一方通行を見る。
 

美琴「……アンタ、知っているのね? そのきっかけっていうヤツを」

一方通行「知っている、っつゥのは語弊があるかもな。あくまでそォじゃねェかっつゥ推測に過ぎねェ」


 一方通行は手品のネタバラシをするかのように、ゆっくりと喋り続ける。


一方通行「去年の九月一四日。結標淡希を中心とした抗争。その中でアイツと深い関わりのあった人物との接触」


 それを聞いて美琴がピクリと反応する。
 
 
美琴「それってまさか……!」

一方通行「ああ。『御坂美琴』。『白井黒子』。そしてこの俺『一方通行』のことだ」

黒子「なっ……!」


 自分たちの名前が突然出てきたことにより、少女二人の動きが固まる。
 それに対して一方通行は何も喋らない。
 沈黙。ビルの裏に取り付けられている換気扇のファンの音だけが耳に入ってきた。
 
 しばらくして、美琴がはっ、した。


美琴「……ってことは私たちは、その計画を実行したいヤツらに嵌められてこんなところに立っているってこと!?」


 美琴は先程出会った男を思い出していた。ボロボロの体で自分へ助けを求めてきた男を。
 たしかによくよく考えてみればおかしい点がある。彼はここに能力者に虐げられている仲間がいると言っていたはずだ。
 しかし、ここにはそんな人たちは見当たらず、いたのはたしかに結標淡希ただ一人だった。


黒子「ば、馬鹿なッ! わ、わたくしはジャッジメントとしての任務でここまで来ましたのよ!? それがそんな訳のわからないものたちの策略などと……!」


 大きく目を見開かせながら声を荒げる黒子。
 彼女はジャッジメントの仕事を自分の誇りとしている少女だ。そんな部分を利用されたと知れば、こうなるのも無理はない。
 だが、一方通行はそれを冷静に返す。


512 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/27(土) 23:58:26.04 ID:G65aU121o


一方通行「そォだ。オマエはジャッジメントとして上からの指令に忠実に動いた。だが、そンなオマエでも何あったンじゃねェのか? 今回の任務の中で違和感が」

黒子「そんな……」


 黒子は否定の言葉を言いながらもどこかでそれを考えていた。
 
 ジャッジメント上層部からの支部へ直接通達されるという異例。
 本来のジャッジメントとしての管轄ではない、強盗犯の確保という任務。
 なぜか一七七支部だけに通達されているという状況。
 
 たしかに、一方通行の言ったことを前提として考えれば、これらのことに対して納得がいく。
 だが、黒子の中には一つだけ解せない点があった。


黒子「仮にこれが裏で暗躍している連中が仕組んだことだとするなら、わたくしは一体誰を追いかけてここにたどり着いたんですの!?」


 ここにいる三人の発言を全て真実とするなら一つ矛盾点が発生していた。
 それは事件発生時、一方通行と結標淡希が一緒にいたという事実と、その間に衛星カメラや監視カメラの映像を元に黒子たちジャッジメントが追跡劇を繰り広げていたという事実だ。
 一方通行が嘘を言っているとは思わないが、かといって一七七支部でバックアップしてくれていた少女、初春飾利からの情報が間違っていたというのも信じがたいことだった。


一方通行「オマエが疑問に思っているのは、衛星カメラとか監視カメラの映像についてじゃねェのか?」


 一方通行は見透かしたように黒子の浮かべている疑問を口に出した。


一方通行「ああいうのは、技術があるヤツが使えばダミーの映像へ差し替えることができンだろ? それに踊らされたっつゥのが一番ありえる話だろォな」

黒子「た、たしかにそういう技術は存在しますわ! けどそれをやられたとしてあの初春がそれに気付けないなどということが……!」

一方通行「その初春っつゥのがどれだけ電子戦に長けたヤツかは知らねェが、学園都市の闇は深けェ。それより上のハッカーがいるか、またはシステムが存在するか」

黒子「ぐっ……」


 たしかに初春飾利は優秀なハッカーだ。彼女の力には黒子も何度も助けられている。
 だが、実際黒子は彼女がどれだけすごい技術を持っているのかを知らない。黒子自身がその分野に関しては知識が足りていないからだ。
 だから、一方通行の言ったことに即座に切って捨てることができなかった。

 言葉を詰まらせる黒子をよそ目に一方通行は続ける。


一方通行「ま、そォいうわけだから結標が言っていたババァもその手先と考えたほうがイイな」


 そう言いながら一方通行は、横に転がっている盗難品であるキャリーケースの目の間に立った。
 そして首元に手を当て、電極のスイッチを入れる。


美琴「――ちょ、ちょっとアンタなにを!?」


 制止しようとする美琴を無視しながら、一方通行はキャリーケースを軽く小突く感じにつま先を当てた。
 ガンッ、という音とともにキャリーケースの施錠が破壊され、蓋が勢いよく開く。
 その中を見て黒子が目を見開かせる。


黒子「な、中身がない……?」


 黒子の言う通りキャリーケースの中身は空だった。
 正確に言うなら中にある物を固定するベルトや、外部からの衝撃を吸収する防護材などがあるが、これらはこのキャリーケースに備え付けられた機能に過ぎない。
 

一方通行「そォいうことだ。オマエらを釣るための盗難品っつゥ役割を果たすだけなら中身はいらねェからな」

一方通行「それにアイツは九月一四日当時、同じよォなデザインのキャリーケースを持っていた。おそらくコイツにも記憶回復を助長させる意味があンだろォな」


中身のないキャリーケースを見つめながら、一方通行はつぶやく。


513 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/28(日) 00:00:33.07 ID:MJMUKdI8o


一方通行「……ふっざけやがって」


歯をきしませる音が聞こえるくらい怒りに震えている少年を見て、美琴は問いかけた。


美琴「アンタ、これからどうするつもりなのよ?」

一方通行「決まってンだろ。結標を追う」


 まるで当たり前かのように一方通行は即答した。
 だから、美琴は率直に思ったことをそのまま聞く。
 

美琴「……追ってどうするのよ?」

一方通行「どォするだと?」


 一方通行は首をかしげた。言っている意味がわかっていないように。
 そんな彼を見て美琴は顔をしかめた。


美琴「だって今の結標はアンタと恋人だった結標とは別人なのよ? まったくの赤の他人、いや、当時のことを考えればもっと最悪な関係性よ。そんな女を追いかけて捕まえられたとして、今のアンタに何が出来るっていうのよ?」

一方通行「さァな」


 特に美琴の言葉に感情を揺らされることなく一方通行の顔は冷静だった。
 

一方通行「だが、俺は行かなきゃいけねェンだ。アイツと『約束』したからな」

美琴「『約束』……?」

一方通行「ああ。だから俺は止まるわけにはいかねェンだよ」


 冷静な口調だが、その言葉には力強さのようなものがあった。
 一方通行の真紅の瞳から絶対的な意思のようなものが映っているように見える。
 どんなことがあっても折れない、鋼のような意思を。
 この少年を止めることの出来る言葉はもう存在しない、そう美琴は感じ取った。


―――
――
―


514 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/28(日) 00:02:11.65 ID:MJMUKdI8o


 ピィー!! ピィー!! ピィー!!


 深夜の学園都市。ビル街の中に電子音が響く。
 ビルとビルの間を飛行機のように飛行する超能力者(レベル5)の少年、一方通行がチョーカーに取り付けられた電極に手を当てる。


一方通行(――そろそろバッテリー切れの時間か)


 先程の音は能力使用モードの残り時間が一分を切ったという合図だ。
 自分の生命線である電極のリミットが近づいたことに気付いた一方通行は、適当な歩道に着地しスイッチを切り替える。


一方通行(……今何時だ?)


 携帯端末の画面を点灯させる。
 そこには『23:58』という数字が表示されていた。


一方通行(結標が行きそォな場所片っ端から回ってみたがいなかった)

一方通行(ま、当たり前か。そもそも今のアイツは俺の知っている結標じゃねェ。だから、記憶喪失中のデータを使って捜したところで意味ねェだろォが)

一方通行(チッ、ナニやってンだ俺ァ? 普通に考えればそれくらいわかるだろォよ。残された時間がどれくらいかわからねェっつゥのに、無闇に時間とバッテリーを浪費しやがって)

一方通行(……いや、違う。俺ン中でまだどこかで捨てきれていなかったのか? もしかしたらまだ結標が俺の知っている結標なンじゃねェのかっつゥ甘ったるい希望を)


 力のない笑い声をこぼしたあと、一方通行は地面に唾を吐き捨てた。


一方通行(馬鹿なこと考えてンじゃねェよ一方通行。そンなクソみてェな幻想はもォ捨てろ。今俺がやるべきことはどォやってアイツを見つけるかっつゥ方法考えることだ)


 一方通行は自分の中の考えをまとめるために、公園にあるベンチへ腰を掛けた。


一方通行(捜し人を捜すのに一番効率のイイ方法は、風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)に協力を仰ぐことだろう)

一方通行(ヤツらなら街中の監視カメラ、衛星軌道上にある衛星カメラの映像から人を捜すことが出来る)


 しかし、この方法には一つ問題があった。


一方通行(今回の件でジャッジメントが利用されたっつゥことは、その上層部とクソ野郎どもとが繋がっているっつゥことだ)

一方通行(下手に協力を要請したら、俺の目論見がバレてもみ消される可能性がある)

一方通行(アンチスキルの方も同じだ。アンチスキルはジャッジメントとは指揮系統が違うから、まだ上層部が繋がっているとは決まったわけじゃないが、可能性がある以上避けたほうがイイ)

一方通行(そォいうわけでヤツらは使えねェ)


 最も確実な方法が使えない状況に、一方通行はこれといって悲観することなく思考を続ける。


一方通行(表の住人が使えねェっつゥなら裏の住人を使うしかねェっつゥことだ)


515 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/28(日) 00:05:43.53 ID:MJMUKdI8o


 一方通行の中にはすぐコンタクトの取れる宛が二人いた。

 一人は木原数多。元暗部組織『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』に所属していた男。
 現在はその猟犬部隊が解体された為、表の世界で『従犬部隊(オビディエンスドッグ)』という会社を立ち上げ、なんでも屋の仕事をしている。
 そのはずだが、近隣の住民の信用をまだ得ていないためか、依頼の入ってくる仕事はほとんどが殺しや盗み、運びなどの裏の仕事らしい。
 ちなみにそのなんでも屋の業務の一環で、自宅に大人がいないときに打ち止めを預かる、保育園の代わりのようなこともやっている。

 一人は土御門元春。暗部組織の中でもトップシークレットに当たる組織『グループ』に所属している男。
 通常時は一方通行と同じ学校、同じクラスに通う学生をしている。
 暗部絡みの問題に巻き込まれたときのサポートや、一方通行や結標への裏からの働きかけを処理しているなどと、その日常を守るために尽力しているように見える。


一方通行(コイツらなら裏の顔も利くだろォし、やろうと思えば結標の確保も容易にやってのけるだろう)

一方通行(だが、今となったらコイツらも信用できるかわからねェ)

一方通行(なぜなら俺はアイツらの真意を知らねェからだ。今まで手を貸してくれていたのも、今日の件を見越してのことかもしれねェ)

一方通行(木原に至ってはそれらしい行動が一つあった。遊園地でのことだ)


 一方通行は結標淡希に自分の過去のことを話した。
 『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』。
 『打ち止めと一方通行のこと』。
 『結標淡希の記憶喪失のこと』。
 しかし、これらのことを一方通行の口から話す前から結標淡希は知っていた。
 話す直前に木原数多が彼女にそれらのことを話していたからだ。


一方通行(それが原因で記憶が回復する可能性だってあった。つまり、木原は記憶喪失が回復した結標が必要だという見方もできるっつゥことだ)


 つまり、この二人に協力を仰ぐのは危険だ。
 そう結論付けた一方通行は次の案へとシフトする。


一方通行(やっぱり俺自身が自力で結標を見つけ出すしかねェ。だがどォやって見つけ出す?)

一方通行(俺が知っている結標に関する情報はあくまで記憶喪失以降の情報だ。そンなモンあったところで糞の役にも立たねェ)

一方通行(そンな状態でいくら闇雲に動いたって見つけられる可能性はほぼゼロに近い。やるならヤツの記憶喪失前の情報が必要だ)

一方通行(けど、そンなモンどォやって手に入れる? 書庫(バンク)のデータなンざ一般人が容易に手に入れられるモンじゃねェ)

一方通行(施設でも襲って無理やり手に入れるか? いや、そンなことすりゃ俺がアンチスキルを敵に回すことになる)


 それに情報を得たところで確実に結標を見つけ出すことが出来るとは限らない。
 そんな不確定なものの為に、学園都市の治安組織を敵に回すのは割に合わないどころではない。
 自分の中でその案を却下する。以降ひたすら頭を働かせるが別の案は生まれなかった。


一方通行(クソっ、何で俺はそォいう関係のデータっつゥのを持ってねェンだ? あンだけゴミクズどもと接してきたっつゥのに俺には何にも残されちゃいねェじゃねェか)

一方通行(せいぜい残ってるっつったら、冥土帰しからもらった超能力者(レベル5)の……待てよ?)


 一方通行の口角が釣り上がる。
 まるで獲物を見つけた狩人のように。


一方通行「あンじゃねェかよ。俺にもまだ手段っつゥモンがよォ」


 そう呟くと一方通行は首元にある電極のスイッチを押す。
 バッテリー切れ間近の警告音が公園の中に鳴り響く。
 ドンッ、という地面を抉るような音を上げて、一方通行は再びビルの上空を飛んだ。


―――
――
―


516 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/28(日) 00:08:17.76 ID:MJMUKdI8o


一方通行「そォいや今日のメシはハンバーグだったか」


 一方通行は現在、自分の居候している住処であるファミリーサイドの二号棟にある一室、黄泉川愛穂の部屋のリビングに立っていた。
 食卓に置かれている、ラップがかけられたハンバーグの乗った皿を見ながら少年はそうつぶやいた。
 ハンバーグの乗った皿は二食分置かれていることから、もう一人のこれを食べる予定だった住人がここには戻っていないということを証明している。
 その事実を確認し、舌打ちをしながら一方通行は自室へと移動した。

 自室に辿り着いた一方通行は真っ先に自室に置いてある机の引き出しを開けた。
 

一方通行「――あった。コイツだ」


 自室にある机の引き出しから、一方通行は一冊のファイルを取り出した。
 ファイルの表紙などに中身の表記などをしているわけではなかったが、彼にはこれの内容がわかっていた。


一方通行(超能力者(レベル5)八人全員のパーソナルデータ。コイツがあれば結標のことがナニか分かるかもしれねェ)


 これは以前カエル顔の医者からもらったものだ。
 一方通行はある決心をしていた。
 どんな敵と対峙しても絶対に負けない。自分の敗北によって自分たちの日常は壊させない。
 その為、手始めとして自分の敵になりうるであろう超能力者(レベル5)の情報を得るために要求したものだ。


一方通行(コイツの中にはそれぞれの能力の詳細だけじゃなく、ソイツの経歴データとかも詳しく載っていたはずだ)

一方通行(その中にあるはずだ。結標淡希の手がかりとなる情報が)


 一方通行はファイルの他に予備の電極と充電用のケーブルを持ち、何も入っていない学校指定のカバンに放り込んだ。
 部屋を一望して特に忘れ物などがないことを確認してから、少年は再びリビングに戻る。
 
 リビングに戻った一方通行は、電話機の横においてある小さなメモ用紙を一枚剥がし、ペンを走らせた。
 書きたいことを書いた一方通行はメモ用紙を食卓の上に置く。


一方通行「……行くか」


 そうつぶやいて一方通行はリビングをあとにしようする。
 すると、一方通行は背中に気配を感じ、後ろを向いた。
 

打ち止め「――帰っていたの? ってミサカはミサカは目をこすりながら聞いてみる」

一方通行「打ち止め……」


 いつの間に一方通行の後ろには、パジャマ姿でカエルのキャラを模した抱き枕を持った少女が立っていた。
 その様子からさっきまで就眠していたことがわかる。
 打ち止め(ラストオーダー)。この家に居候する同居人のうちの一人であり、一方通行が絶対に守ると決めた存在。


517 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/28(日) 00:11:22.01 ID:MJMUKdI8o


一方通行「悪りィ、起こしちまったか」

打ち止め「ううん、いいよ。おかえりなさい。随分と遅くまで遊んでいたんだね、ってミサカはミサカは時計を見ながら言ってみる」


 時計の針は深夜の十二時をゆうに過ぎていた。
 ふわぁ、とあくびをしながら打ち止めは続ける。


打ち止め「ところでアワキお姉ちゃんはいないの? お風呂? ってミサカはミサカは一人のあなたに対して尋ねてみたり」

一方通行「……ちょうどイイ。オマエには直接面と向かって喋っておきたかった」


 そう言うと一方通行は、先程食卓の上に置いたメモ用紙を握りつぶしてズボンのポケットに押し込んだ。
 その様子を見て打ち止めはきょとんとした表情で首を傾げる。


一方通行「打ち止め。もう結標はこの家には戻ってこねェ」

打ち止め「……どういうこと?」

一方通行「そのままの意味だ。アイツはもォこの家には戻ってくることはねェって言ってンだ」

打ち止め「だからどういうこと? あなたの言っていることがわからないよ? どうしてアワキお姉ちゃんが帰ってこないの? ってミサカはミサカは具体的な質問をしてみる」

一方通行「オマエの知っているアワキお姉ちゃんは、もォこの世にはいねェンだよ」

打ち止め「え……」

一方通行「アイツは記憶を取り戻して、九月一四日ンときの結標淡希に戻っちまったンだよ」


 打ち止めは目を大きく見開き、手に持っていた抱き枕が床に転がった。
 声を震わせながら少女は口を動かす。


打ち止め「そ、それじゃ、アワキお姉ちゃんはもう覚えていないの? ミサカたちと一緒に遊んだことも、ご飯を食べたことも、お風呂に入ったことも、笑ったことも」

打ち止め「ぜんぶ、ぜんぶ忘れちゃったってことなの? ってミサカはミサカは問いかけてみる」


 大きな瞳に涙をにじませながら、打ち止めは恐る恐る問いかける。
 その姿を見た一方通行は歯噛みしながら、


一方通行「……ああ」

打ち止め「う、嘘……だよね? み、ミサカをからかうための嘘、なんだよね……?」

一方通行「…………」

打ち止め「うっ……わっ、ああ、……」


 打ち止めは少年の表情から、これは紛れもない事実なんだと、察しのだろう。
 だから、それに気付いた打ち止めは膝から崩れ落ちた。
 目から大粒の涙がフローリングへとこぼれ落ちていく。


一方通行「すまねェ」


 一方通行はしゃがみ込み少女の頭を撫でながら謝った。
 いくら結標淡希の記憶の回復が意図的に行われたことだろう。しかし、それがなくてもいつかは記憶を取り戻して、同じ状況にはなっていたはずだ。
 結局、いつまでも問題を先延ばしにしていた自分のせいだ。自分が目の前にいる少女を傷付けた。


518 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/28(日) 00:13:45.34 ID:MJMUKdI8o


 打ち止めは一方通行を見上げながら、


打ち止め「……ねえ、あなたは悲しくないの? ってミサカはミサカは冷静な表情のあなたを見て聞いてみる」

一方通行「俺には悲しンでいる暇なンてねェよ。俺にはやることがあンだ」

打ち止め「やること?」

一方通行「ああ。これから結標には命を狙われるに等しいくらいの危険が迫ってくるだろォ。だから、そォなる前に俺が見つけ出してやらなきゃいけねェ」


 以前、打ち止めの流す涙は止まらない。
 だが、彼のその言葉を聞いて打ち止めの口元が緩む。
 

打ち止め「……そう、なんだ、ってミサカはミサカは勝手に納得してみる」

一方通行「あァ? ナニ勝手に納得してンだ?」


 一方通行の問に対して特に返答することなく打ち止めは立ち上がる。
 涙に濡れた目を服の裾で拭いて、赤みがかった目を一方通行へと向けた。


打ち止め「ねえ、アクセラレータ。アワキお姉ちゃんを絶対に連れ戻してね、ってミサカはミサカはお願いしてみたり」

一方通行「連れ戻すだァ? 馬鹿なこと言ってンじゃねェよ。今の結標はオマエの知っている結標じゃねェっつっただろォが。そンな女を連れ戻してどォするってンだ」

打ち止め「たしかに今までのことも覚えていないのかもしれないし、性格だって全然違うくなってるかもしれないよ。けどね」


 打ち止めは笑った。ニッコリと、心の底から溢れ出てきたような笑顔で。
 
 

打ち止め「アワキお姉ちゃんがアワキお姉ちゃんであることには変わりないよ! 一度仲良くなれたんだから、もう一度仲良くなることだってできるよ! きっと!」



打ち止めの一切の疑いもない自信に溢れた目を見て、一方通行は馬鹿馬鹿しいと思った。
結標淡希はもともと裏の人間だ。裏にいるってことはそれ相応の闇を見てきたということだ。
そんな女と目の前にいる少女が以前の関係を取り戻すことができるとは到底思えない。
だからこそ一方通行は、


一方通行「わかった。あの馬鹿女を必ずここに連れ戻してきてやる」

打ち止め「うん! 約束だよ、ってミサカはミサカは小指を突き出してみたり」

一方通行「ああ、約束する」


 二人の小指が結ばれた。
 これ以上、絶対にこの少女を泣かせてはいけない。そのためには、必ず結標淡希を見つけ出さなければならない。
 一方通行は、自分の中にある意思がより強まったのを感じた。


一方通行「……さて、俺は行く。いつ戻れるかわからねェし、何なら戻ってこられるかもわからねェ。それだけは覚悟しとけ」

打ち止め「覚悟なんていらないよ。どうせあなたは帰ってきてくれるでしょ? だって約束したんだもの、ってミサカはミサカは当たり前のことを言ってみたり」


 自信満々の顔をする打ち止めを見て少年はげんなりとした表情を浮かべる。


一方通行「あー、そォいや一個言うの忘れてた」

打ち止め「何?」

一方通行「明日……いや今日か。今日の八時くらいにここへある人が尋ねてくるはずだ。オマエは俺がいない間ソイツと行動をともにしろ」

打ち止め「それはいいけど、ある人って誰なの? ってミサカはミサカは疑問を浮かべてみたり」

一方通行「なァに、オマエがよく知っているヤツだよ」


―――
――
―


519 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/28(日) 00:15:37.14 ID:MJMUKdI8o


 阿部食品サンプル研究所第三支部。
 第一〇学区にある、文字通り次世代の食品サンプルを開発ために尽力している研究施設。
 ここが開発した『本物と全く同じ感触で同じ匂いのする食品サンプル』は学園都市の中でも一時期話題になったことがある。
 そんな研究所の三つ目の支部のとある一室に、初老の研究員と若い研究員がいた。


初老「よし、今日はこんなところでいいだろう」

若い「ふわぁー、もう日付変わってんじゃないすか。こりゃ今日も晩酌できそうにねえや」


 若い方の研究員がボヤきながら帰り支度をする。


初老「別に飲みたければ飲めばいいだろう。明日は午後からの予定だろ?」

若い「さすがにそんな元気はないっすよ。俺もおっさんになっちまったすねー」

初老「まだ二十代だろうに」

若い「サーセン。じゃ、お疲れ様でーす」


 部屋の自動ドアが開いたあと、若い研究員は適当な挨拶をして部屋の外へ出ていった。


初老「……素晴らしいな。これだけのデータが集まれば十分実用可能なレベルだ」


 ディスプレイを見ながら笑みを浮かべる初老の研究員。
 クククク、と絶えず不気味な笑いを発していた。


初老「さて、私もそろそろ帰るとするか」


 そうつぶやいたとき、後ろから自動ドアの開く音がした。


初老「なんだ忘れ物か? まったく相変わらず不注意なヤツだ」


 研究員は画面を見たまま小言を言う。
 先ほどまで一緒にいた若い研究員が戻ってきたと思ったのだろう。
 しかし。


??「――そうね。忘れ物、というより探し物があると言ったほうが正確かしら」


 研究員の背後から聞こえてきた声はよく知る若い男の声ではなかった。
 少女の声。この研究所ではまったく聞くことのない声だった。


初老「だ、誰だ!?」


 初老の研究員は声の主を確認するために、椅子ごと体を後ろに勢いよく向けた。
 そこには一人の少女が立っていた。
 赤髪を二つに結んで背中に流しており、腰に巻いたベルトに警棒のようなものをぶら下げている。


520 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/28(日) 00:18:27.24 ID:MJMUKdI8o


初老「お、お前は結標淡希……!」

 
 男からその少女の名前が呼ばれる。
 彼の反応はその少女のことを知っているようなものだった。


初老「なぜお前がここにいる!?」

結標「ここにある研究データ、全部私にいただけないかしら?」


 結標はメモリースティックを研究員に投げた。研究員は反射的にそれを受け取ってしまう。


初老「馬鹿なッ!! そんなことができるわけないだろう!!」

結標「別にデータを奪おうなんて思っているわけではないわよ? ただコピーしてそれに入れて欲しいと言っているだけ」

初老「データが流出するという意味では同じことだろう!! お前にやるデータなどない!! 帰れ!!」

結標「ふーん」


 鬼のような形相で怒鳴る男を前にしても結標は不敵な笑みを崩さなかった。
 ふぅ、というため息を一度付き、床に指を指す。


結標「貴方が協力しないというなら、貴方にもこの人のような目に合ってもらうってことなんだけど」

初老「ッ!?」


 初老の研究員が少女の指した指の先に目を向ける。
 そこには先ほどこの部屋を出たはずだった若い研究員のようなものが、いつの間にか転がっていた。
 ようなもの、と形容したのはなぜか。
 転がっている男の体の至るところに、研究で使うメスやハサミなどの器具、事務で使うボールペンや定規などが突き刺さっていて、剣山のようになっていたからだ。


結標「お分かり?」

初老「……殺したのか?」

結標「いいえ、生きてはいるわ。気絶はしているけど。だけど、このまま放置していたらいずれ死ぬでしょうね」


 クスッ、と笑ったあと結標は続ける。


結標「データを渡したあとこの人を病院に担ぎ込んで二人とも生き残るか、データを渡さずに二人仲良くピンクッションになるか」


 研究員は後ずさりしながら机の裏に手を入れる。この裏には緊急事態時に押すボタンがある。
 これを押すことで自動的にアンチスキルへ通報され、駆けつけてくるという仕組みだ。
 だが、そのボタンは押されることはなかった。


初老「ごっ、がああああああああああああああああああああああッ!?」


 ドスリ、という音とともに男の手の平から甲にかけて金属矢が突き刺さったからだ。
 あまりの痛さに床でのたうち回る研究員。それを見下ろしながら結標は再び喋り始める。



結標「――どっちの人生が貴方にとってお好みかしら?」



――――――


521 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/11/28(日) 00:23:39.53 ID:MJMUKdI8o
地の文やっぱつれぇわ

次回『S4.タイトル未定』

ライブ感で書いてるから矛盾発生するかもだけど許してね
522 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:39:11.31 ID:WGxiRQYAo
ここから登場人物増えまくって視点が変わりまくる群像劇の猿真似をするよ

投下
523 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:40:06.83 ID:WGxiRQYAo

   ムーブポイント
S4.結標淡希を追え


 午前七時五五分。ファミリーサイド二号棟のエントランスに一人の少女が立っていた。
 肩まで伸ばした茶髪に花形のヘアピンをした、名門常盤台中学の冬服を着用している少女。
 御坂美琴。学園都市にいる八人の超能力者(レベル5)の中でも第三位。常盤台の超電磁砲(レールガン)の異名を持つ少女だ。


美琴「――号室の黄泉川さん、だったわよね? たしか」


 美琴は住民呼び出し用のインターホンに四桁の部屋番号を入力した。


美琴「しかし黄泉川っていう名字どこかで聞いたことがあるような……まあいいか」


 プルルルル、という呼び出し音が三回くらい流れたあと、ブツンという音とともに音声が聞こえてきた。


??『はい、黄泉川ですけど?』

美琴「あっ、えっと、私、常盤台中学二年の御坂という者なんですけど」

??『御坂さん?』

美琴「その、そちらに打ち止めちゃんっていう子がいると思うんですが、いらっしゃいますでしょうか?」

??『…………』

美琴「?」


 しばらく沈黙が続いた。
 思わず部屋を間違えたか? と思う美琴だった。
 だが、二〇秒くらいするとガチャン、というエントランスにある入り口のロックが外れる音がした。


??『どうぞ入ってちょうだい。一三階だからエレベーターを使うことをおすすめするわ』

美琴「は、はい」


 そう言うと電話口の声が切れた。
 言われた通り美琴はエレベーターに乗り、一三階へと向かっていった。


美琴(……はぁ、まさかこんなことになるなんてね)


 御坂美琴がこんな場所にいる理由。
 それは昨晩の結標淡希に関する一方通行からの話を受けたあとのことだった。


524 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:42:20.81 ID:WGxiRQYAo


〜回想〜


黒子「では、わたくしは一七七支部に戻って残っている仕事を片付けなければいけませんので」


 一方通行との話が終わった黒子はそう言って、開いた盗難品のキャリーケースを閉じた。
 しかし、一方通行が無理やりこじ開けたモノなので、なかなか良いように閉まらない。
 軽くイライラしている黒子へ美琴が言う。
 

美琴「黒子。わかってるわね?」

黒子「……ええ、わかっていますわお姉様。ここで話したことは初春や固法先輩、他のジャッジメントの皆様には内密に、ですわよね?」

一方通行「ああ。下手に触れ回って連中に気付かれてもいけねェしな」


 そう言って一方通行は忠告する。
 今回の件に対して何かしらのアクションを起こしている者がいると向こうにバレれば、何かしらの対策を講じてくるかもしれないからだ。
 それによって彼女たちの身に何が起こるのか。良いことにはならないことは確実だ。
 

黒子「承知しております、わっ!」


 バキッ!! 黒子はキャリーケースを蹴り、無理やり閉めた。
 蓋はきちんと閉まったが、外部に明らかに凹んだ跡が見える。彼女は犯人との交戦で破損したとか適当に言い訳でもするつもりなのだろうか。


黒子「ではこれで」


 そう言うと黒子は一礼し、盗難品ということになっているキャリーケースを持って、空を切るような音とともに姿を消した。


美琴「さーて、私も帰りますか……げっ、よく見たら門限完全に過ぎてるじゃない!? あーこれはペナルティー&説教確定ね。はぁ」


 美琴が携帯電話を開いて、時間を確認したあとため息交じりにぼやく。
 そんな美琴に一方通行は話しかける。


一方通行「超電磁砲」

美琴「何よ?」

一方通行「オマエに頼みてェことがある」

美琴「頼み事? もしかして結標捜しを手伝えとか言わないわよね?」

一方通行「いや、そンなことは言うつもりはねェよ」


 たしかにオマエが入れば捜すのは楽になりそうだがな、と一方通行は付け加えて続ける。


一方通行「打ち止めの面倒を見て欲しい」

美琴「打ち止めの? 何でよ?」

一方通行「アイツは結標と同じくらい、クソどもから価値のある研究対象として見られている」


 一方通行の言葉は予測とか想像とかでもなく事実である。
 その理由として過去に、打ち止めを狙った組織が彼女の面倒を見ていた木原数多たちを襲撃した事件があった。
 彼が聞いた件はそれだけだが、もしかしたら水面下で数々の組織が彼女を狙い、木原たちに潰されていった可能性だってある。

一方通行「今までは俺の存在で躊躇していた三流組織が腐るほどいたかもしれねェ。だが俺が結標を追って裏に潜り込ンだことを知れば、ソイツらはこぞって動き出す可能性がある」

美琴「そんな状態で今までよく生活してこられたわね」

一方通行「一応は打ち止めの用心棒件保育担当のヤツがいる。だが、正直今はソイツを信用できねェ状況にある。そこで超能力者(レベル5)第三位のオマエのチカラを借りてェ」

美琴「なるほどね。私に打ち止めのボディガードをしろって言いたいわけ?」

一方通行「ああ。オマエなら妹達の事情のことも知っているし、戦闘力も申し分ねェ。何よりオマエなら信用ができる」

美琴「何か買いかぶり過ぎな気がするんだけど」


 居心地が悪そうに美琴は頭を掻いた。
 
525 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:43:49.62 ID:WGxiRQYAo


一方通行「オマエにも事情っつゥモンがあるってことはわかっている。オマエにも危険が及ンでしまうかもしれねェ。それについてはすまねェとは思っている」

一方通行「けど、オマエしかいねェンだ。あのガキを任せられるヤツはよォ。だから、頼まれてくれねェか?」


 頼み事をする一方通行の目は真剣そのものだった。
 それに対して美琴は、
 
 
美琴「うん、いいわよ」


 即答だった。まるで消しゴムを貸してくれと言われて了承するように。呑気な笑顔で。
 あまりの即答に一方通行は怪訝な表情を浮かべる。


一方通行「返答早ェよ。頼ンだ俺が言うのも何だがもっと考えて返事しろォ」

美琴「だって断る理由ないじゃない」


 軽い感じに美琴は続ける。


美琴「大切な妹に危機が迫っているから助けてくれって言われて、それを嫌ですって断る姉がいる?」

一方通行「…………」

美琴「私だってあの子の、あの子たちの姉なんだから。その役割を果たさせてよ」

一方通行「……悪りィ。助かる」

美琴「それに……」


 美琴が一方通行の顔から目をそらした。
 彼女の表情にはどこか悲しげなものが映る。


美琴「アンタには、その、悪いことしちゃったみたいだしね」

一方通行「気にするな。いずれこォなることはわかっていた」


 ふぅ、と美琴が息を吐いてから、再び一方通行を見る。
 
 
美琴「で、どのくらいの期間になるわけ? 一週間も二週間も預かれって言われたら、さすがの私にもキツいものがあるわよ?」

一方通行「わからねェ。この件が終わるまで何とも言えねェよ。明日になるかもしれないし、俺がくたばって永遠にその時が来ねェかもしれねェ」

美琴「たしかにそうね。暗部っていうのはそこまで簡単なことじゃないわよね」

一方通行「ああ」

美琴「まあ期間に関してはその時考えるとして、打ち止めはいつ迎えに行けばいいのよ? 今から? それならちょっとこっちも準備の時間が欲しいんだけど」

一方通行「それなら明日の朝でイイ。そォだな朝八時くらいにしとくか」

美琴「いいの? そんなのんびりしてて」

一方通行「まァ、その時間までは他の住人がいる上に、あのマンションのセキュリティもそれなりに高い。そンなすぐのすぐにあのクソガキが狙われることはねェだろ」


 楽観的な考えだがな、と一方通行は付け加える。


一方通行「そォいうわけだ。クソガキを頼むぞ」

美琴「任せときなさい。だからアンタは絶対に帰ってきなさいよ? それまで絶対に打ち止めを守り切って見せるから」


〜回想終わり〜


526 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:44:37.19 ID:WGxiRQYAo


美琴(学校が始まるのが三日後だからそれまでは何とかなりそうだけど、それ以降もとなるとちょっと辛いわねー)


 そんなことを考えてながら歩いていると、美琴は目的の部屋の前へとたどり着いた。


美琴(やっぱり知らない人の家のインターホン鳴らすのって、なんだか緊張するわよね)


 すぅ、と呼吸を整えて美琴はインターホンのボタンを押した。
 ピンポーンと小さな音が聞こえる。室内にドアベルの音が流れたのだろう。
 すると間髪入れずに施錠を解除する音がし、ドアが勢いよく開いた。


打ち止め「わーい!! お久しぶりお姉様ー!! ってミサカはミサカは喜びの気持ちともに飛びかかってみたり!」

美琴「ちょ、打ち止め、うわっ!?」


 思わぬ突撃に耐えられず、美琴の体は打ち止めごと床に倒れ込んだ。


打ち止め「大丈夫? お姉様? ってミサカはミサカは心配してみたり」

美琴「あははは、大丈夫大丈夫。大丈夫だから降りてもらえる?」


 はーい、と言って打ち止めは馬乗りを止め、美琴の体から降りた。


??「何をやっているのよ貴女たち。ご近所さんの目もあるし早く中に入りなさい」


 玄関から一人の大人の女性が現れた。
 肩に届かない程度の長さの黒髪で、シャツの上からカーディガンを袖に通している。
 この人が黄泉川さんなのかな、と美琴は思った。
 

打ち止め「了解、ってミサカはミサカは敬礼してみる」

美琴「あ、はい。お邪魔します」


 挨拶をし、美琴は打ち止めとともに部屋へと上がっていった。


美琴(うわー広いリビング。さすが高級マンションね)


 普段は手狭な学生寮の部屋か、コインロッカー代わりに使っているホテルくらいしか見ない美琴の目には、高級4LDKマンションの一室は新鮮に映ったようだ。


??「御坂さん? そっちのソファに適当に座っててちょうだい。飲み物は何する? お茶? コーヒー? 紅茶?」

美琴「紅茶でお願いします」


 そう返した美琴はL字型のソファの端の方へと腰をかける。
 その隣を追うように打ち止めが飛ぶように座った。


527 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:45:59.55 ID:WGxiRQYAo


打ち止め「ミサカは牛乳を飲んでいるんだ! 早く大きくなりたいから、ってミサカはミサカはマグカップを片手に願望を口走ってみたり」

美琴「もう二、三年すれば私くらいの大きさにはなっているわよ」

打ち止め「うーん、ミサカはもうちょっと大きくなりたいなぁ、ってミサカはミサカは意味深なことをつぶやいてみたり」

美琴「うふふ、それはどういう意味かな打ち止めちゃん?」


 視線を顔から三〇センチほど下に落としやがった打ち止めを見ながら、美琴は引きつった笑顔を浮かべていた。
 そんな彼女の目の前のテーブルにティーカップが置かれた。


??「はい、紅茶よ。と言ってもインスタントの安物だからお嬢様には物足りないかしら?」

美琴「い、いえ全然大丈夫です。ありがとうございます。えっと、黄泉川さん?」

芳川「ああ違うわ。私の名前は芳川桔梗よ。その子と同じここに住む居候の一人。家主の黄泉川愛穂は仕事で今いないわ」

美琴「あっ、ご、ごめんなさい!」

芳川「いいのよ。勘違いは誰にでもあるわ」


 慌てふためく少女を見て芳川はくすりと笑みをこぼした。
 コーヒーを一口飲み、芳川は話し始める。


芳川「その子から大体の経緯は聞いたわ。ウチの同居人たちの問題に巻き込んじゃって申し訳ないわね」

美琴「そんな。謝ることようなことじゃないですよ。私が好きでやってることですから」

芳川「ふふっ、ありがとうね。けど、こうやって子どもたちが大変なことになっているときに、大人として何もできない自分が悲しくなってくるわね」

美琴「…………」


 そんなことないですよ、そう言おうと思った美琴だったが、そんな適当なことを言っていいのか? そんな身勝手なことを言っていいのか?
 そういった考えが頭の中で交錯して言葉を飲み込んだ。


芳川「同じ大人でも愛穂はどうにかしようと頑張っているわ。けどたぶん、今回の問題に関してはおそらく空回りしそうね」

美琴「愛穂さん、って黄泉川さんのことですよね? どういう人なんですか?」

打ち止め「ヨミカワはアンチスキルなんだよ、ってミサカはミサカは説明してみる」

美琴「アンチスキル? 黄泉川さん、アンチスキル、……もしかして」


 美琴の中には黄泉川という名前のアンチスキルに心当たりがあった。
 美琴は過去結構な数の事件に首を突っ込んでいるような少女だ。
 その中でアンチスキルに助けてもらう機会があったが、そのときに主で動いてくれた女性。
 よく会ったり喋ったりしたから、なんとなく顔見知りみたいな感じになっていた。


芳川「思い当たるような人がいるみたいね。たぶん、その人で合っているわよ」

美琴「ここ、あのアンチスキルの人の部屋だったんですね」


 改めて部屋をキョロキョロ見渡している美琴を無視して芳川は話を続ける。


芳川「アンチスキルはあくまで表の世界の治安維持をしている組織。何かしらの裏の敵対組織を相手にしようとするなら、その敵対組織を表に引きずり出さないといけない」

芳川「けど、今あの子たちが関わっている件はおそらく学園都市の深い闇の部分。一介のアンチスキルが動いたところで、どうにかできるようなものではないわ」


528 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:47:22.22 ID:WGxiRQYAo


 表の世界や学園都市の闇などという言葉を平然と口に出す芳川。
 そんな彼女を見ながら美琴は尋ねる。


美琴「芳川さん。あなたは一体……」

芳川「私は学園都市の抱える闇の一端に触れていた元研究員。それは貴女もよく知っている闇だと思うわ」

美琴「……まさか」


 美琴はふと隣に座る打ち止めを見た。
 マグカップを両手に持った打ち止めがそれに気付いて、首をかしげる。
 
 
芳川「そう。『絶対能力者進化計画(レベル6シフト)』。貴女が最も忌み嫌っているだろう実験に協力していたたくさんの研究者たち、そのうちの一人よ」

美琴「ッ……!」


 美琴の目が大きく見開く。バチッ、と彼女の体に紫電が走った。
 その音にビクッ、とさせた打ち止めが慌てながら、
 
 
打ち止め「お、お姉様!? どうかしたの、ってミサカはミサカは聞いてみる」


 打ち止めの言葉は美琴には届かなかった。
 まっすぐと芳川を睨みながら美琴が問いかける。
 
 
美琴「なんであんな実験を行ったのよ……!」


 美琴の鋭い視線に動じることなく、芳川は答える。
 

芳川「私は雇われの研究者だったから、と言っても貴女には言い訳にしか聞こえないかしら?」

芳川「それとも、この実験自体がなぜ行われたのかと聞いているつもり? それなら、貴女のほうがよく知っていると思うけど」


 ぐっ、と美琴はたじろぐ。
 たしかにこの質問には最適解などない。つまり、意味のない八つ当たりのような質問だ。
 芳川という女性はそれを気付かせるために、あえてああいった答えを突き付けたのだろう。

 それを理解した美琴は深呼吸して息を整える。
 

美琴「すみません、取り乱しました」

芳川「別にいいわよ。同じ立場なら誰だって激昂すると思うわ」

美琴「……けど、最後に一つだけ聞いていいですか?」

芳川「何かしら?」


529 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:48:29.63 ID:WGxiRQYAo


美琴「あなたにとって、打ち止めは何なんですか?」


 美琴は彼女の真剣な眼差しで問いかける。どうしても知りたいことを。


芳川「そうね」


 前置きをして、芳川はコーヒーカップに口を付けてから、答える。
 

芳川「血の繋がっていない家族、かな? 彼女は娘であり、妹でもある。そんな感じの存在かしら?」

美琴「……そう、ですか」


 その答えを聞いた美琴は、安心したように小さく微笑んだ。
 
 
打ち止め「うおおっ! ミサカもヨシカワのことお母さんのように思ってるよ! ってミサカはミサカは乗っかってみたり」

芳川「打ち止め。そこはお姉さんと言いなさい」

打ち止め「ええぇー? でもお姉さんというには歳が――」

芳川「お・ね・え・さ・ん・よ?」

美琴「……ふふっ」


 二人の言い合いを前に、美琴は思わず笑いがこぼれた。
 

打ち止め「あっ、お姉様が笑ったー! ってミサカはミサカは指摘してみる」

芳川「あら? 何か言いたいことでもあるのかしら御坂さん?」

美琴「ご、ごめんなさい! つい何か笑っちゃって」

芳川「笑われてるわよ打ち止め」

打ち止め「えー? ヨシカワのほうでしょー、ってミサカはミサカは会話を思い出しながら言ってみる」


 また同じようなことを始めて美琴は笑いそうになったが、出されていた紅茶を無理やり一気飲みして全部飲み込んだ。


芳川「……あら、もうこんな時間」


 ふと、壁にかかった時計を見た芳川が呟く。
 芳川は自分の使ったカップを流しに置き、床においていた鞄を手にした。


芳川「そろそろ私はバイトに行かなきゃいけない時間だからここを出るけど、貴女たちは?」

美琴「あ、はい。ここにいるわけにはいきませんので、私たちも一緒に出ます」

打ち止め「わーい!! お姉様とお出かけだー!! ってミサカはミサカは小躍りしながらハシャイでみたり」

芳川「じゃあ御坂さん。打ち止めのことをよろしくね」

美琴「はい、任せてください」


 彼女たちは部屋をあとにし、それぞれの行き先へと足を進めた。


―――
――
―


530 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:50:06.61 ID:WGxiRQYAo


 とあるホテルの一室。
 一方通行はベッドの上に座り、コンビニで買ってきたフライドチキンをかじりながら、テレビの画面を見ていた。


テレビ『今朝のニュースです。昨晩、学園都市内にある研究施設が何者かに襲撃されるという事件がありました』

テレビ『被害があった施設は三軒。阿部食品サンプル研究所第三支部、岡本脳科技工所、日野電子材料開発部門。いずれもデータを強奪されるという被害にあったようです』

テレビ『被害にあった研究施設の研究員からの証言で、その犯人は何かしらの能力者だということです。手口は全て同じなため、同一犯による犯行の線で捜査が進められています』


 フライドチキンの骨を口に加えたまま一方通行は思考する。


一方通行(おそらく、このニュースの犯人は結標だろォ。理由はアイツの記憶が蘇って失踪してから今までの間に起きたから、っつゥ何のひねりもねェ推理だが)


 結標淡希が記憶を取り戻し、逃走を始めたのが一九時頃。ネット記事によると最初の襲撃は深夜〇時過ぎ頃。
 約五時間といったところか。これくらいあれば行動に移すには十分な時間だ。
 しかし、これだけではこの犯人が結標だと断定はできない。稚拙過ぎて推理とも言えない。
 こんなものに頼らないといけないほど、一方通行はよくない状況にあるということだ。
 

一方通行(結標。いまオマエは何を考えている? 何を目的に行動しているンだ?)


 考えたところで答えは出ない。
 なぜなら、今の彼女は自分の知っている結標淡希ではないのだから。
 

一方通行(……しかし、これを結標の犯行だとすると妙な点があるな)


 ニュースを読んでいるうちに、彼の中に違和感が現れる。
 

一方通行(ヤツらは結標の確保を企てているはずだ。そのためにヤツの記憶を蘇らせて確保のしやすい裏に引きずり込ンだ)

一方通行(それならば結標が何かしらの事件を起こした場合、こォやってニュースなンかで表沙汰にする必要はねェはずだ)


 情報操作は裏の連中からすれば十八番だ。都合の悪いニュースはもみ消したり、改竄したりする。
 例えば今回の件に当てはめれば、わざわざ能力者の仕業などと言わずに、コソドロが忍び込んだとすればいいだけだ。
 研究所に物理的に大きな被害が出ているのであれば、ただの事故として扱えば問題なく処理できるはずだ。


一方通行(表沙汰にすればアンチスキルが動く。そォなったら結標の動きが少なくなり、ヤツを補足するのが困難になる)

一方通行(さらに言うなら、結標を確保しようとする勢力も動きづらい状況になるだろうし、メリットなンざ皆無っつゥことだ)


 このことから考えられるのは、この犯人を表沙汰にしたい連中がいるということ。
 結標やそれを狙う組織の動きを制限させたい連中がいるということ。


一方通行(……つまり、この件に関係している勢力が一つだけじゃねェっつゥことだな)


 結標の記憶を蘇らせた勢力と、その勢力を邪魔して先に結標を確保しようとしている勢力。
 この二つの勢力がいるということにすれば、この疑問を解消できる。
 しかし、この場合はある問題が起こることに一方通行は気付いた。


一方通行(……その他の勢力が一つだけとは限らねェかもしれないっつゥことか)


 結標の記憶を蘇らせた勢力はほぼ間違いなく一つだ。だが、その勢力を妨害しようとする勢力が一つとは限らない。
 それが二、三勢力くらいの可能性もあれば、一〇以上の勢力が入り乱れる混戦状態になる可能性もある
 

一方通行(そンな中、俺はたった一人でソイツらと渡り歩かなきゃいけねェっつゥわけだ。ソイツらの中にはグループやスクールみてェな暗部組織や、木原の野郎もいるかもしれねェ)


 一方通行はフライドチキンの食べ柄をゴミ箱へ投げ捨て、舌打ち混じりに言う。


一方通行「面倒臭せェ……」


―――
――
―

531 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:51:30.71 ID:WGxiRQYAo


 第七学区。人通りの少ない裏通り。
 道路沿いに黒塗りのキャンピングカーが一台停まっていた。
 その中にある居住スペースに四つの人影があった。


黒夜「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!! どうだい!? 今までちまちまと守り続けたモンがあっさりとぶち壊される気分はさぁ!?」

土御門「…………」


 黒を基調にしたパンク系衣装に身を包んだ見た目一二歳の少女、黒夜海鳥は高笑いしながら居住スペースに備え付けられているモニターに指をさす。
 モニターには白の背景に黒色の文字が並んでいるというたんぱくなものであった。
 書かれている内容は『座標移動(ムーブポイント)の回収。生体が好ましい。死体の場合、脳髄及び脊髄への損傷は避けること』。
 これが暗部組織『グループ』へ通達された指令であった。


黒夜「この指令はおそらく他の暗部組織にも流れているよ。スクールとかアイテムとか同ランクの組織はもちろん、名前も知らないような弱小組織とかにもねェ!」

海原「…………」

黒夜「始まるのさ!! アンタらがビビって先延ばしにしてきた抗争がねッ!! 座標移動っていう獲物を巡って起こる楽しい楽しいコロシアイがなァ!!」

番外個体「嬉しそうだね。クロにゃんのそんな笑顔始めて見た気がするよ」

黒夜「そういうアンタもイイ顔してんじゃないのさ。番外個体(ミサカワースト)」


 棒付きキャンディを口に咥えながら番外個体と呼ばれる少女はニヤリと笑う。


番外個体「そだね。座標移動が堕ちたってことは必然的にミサカのターゲットも堕ちてくるってことだからね」


 咥えていたキャンディを噛み砕く。飴の欠片がソファや床にボロボロと落ちていった。


番外個体「早く会いたいなぁー、第一位♪」

土御門「……お前ら、盛り上がるのは勝手だがあくまで仕事の内容は座標移動、結標淡希の回収だ。それを忘れるな」


 金髪サングラスでアロハシャツの上から学ランを着た少年、リーダー土御門元春は冷静に忠告する。


黒夜「ヘイヘイわかってるよ。だからわざわざ私が報道関係に働きかけて、あの女がやらかしたことを表沙汰に出してやったんでしょうが」

番外個体「へー、あれってクロにゃんの仕業だったんだ。そういうチマチマした仕事はやらなそーな感じなのにねー」

黒夜「まあたしかに好きじゃないよ。でもこれをすることで、一番最初に動いた組織をおびき出すエサにできるからね。さっさとバトりたい私からしたら大事な下準備ってわけさ」

海原「そんなエサに引っかかってくれるほど、簡単な相手ではないとは思いますけどね」


 見た目爽やか少年の、海原光貴と名乗る男はやれやれといった感じに首を振る。


黒夜「うるせえな、そんなことはわかってるよ。だけど、これのおかげ座標移動の動きを制限させて生存率上げてやってんだ。感謝はされても文句を言われる筋合いはないね」

海原「ですがそのおかげで、こちらも結標さんの動向を掴むのに難航しているということも忘れないでください」


 黒夜は舌打ちをし、バツの悪そうな顔でフライドチキンを頬張った。


532 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:53:14.68 ID:WGxiRQYAo


土御門「とりあえず結標は生きて回収する。そのためにお前たちは常に対空間移動能力者用の拘束具を常に携帯しておけ」

黒夜「面倒臭いなー。脳みそが無事ならいいって書いてあるんだから、サクッと心臓ぶち抜いて上に報告すりゃいいと思うけどね」

海原「結標さんは仮にも超能力(レベル5)の能力者ですよ? そう簡単に殺せるとは思わないことですね」

黒夜「なにブルっちゃってんですか海原クン? ちょっと前まで大能力者(レベル4)だった女に、この私が遅れなんて取るわけないだろ?」

番外個体「同じくレベル4のミサカに手も足も出ないクロにゃんが随分と強気じゃないかにゃーん?」


 自分の両手人差し指の先を向かい合わせて、間に電気を走らせながら番外個体はニヤニヤする。


黒夜「うるせェ! アンタは別だよ別ッ!」

番外個体「というか座標移動がレベル5になれたのって記憶喪失してたおかげじゃなかったっけ? トラウマを忘れているから自由自在に自分の転移をできるからって」

海原「ええ、たしかそのはずです」

番外個体「でも今の座標移動は記憶喪失治っちゃったんだよねー? てことはまた自分自身の転移ができないレベル4に戻っちゃったことじゃないの?」

土御門「それに関してはそう簡単ではなさそうだぞ」


 土御門が報告書のようなものを見ながら、会話に割って入る。


土御門「結標と接触した下部組織の連中からの話によると、連続転移を使用していたらしい。それによる体調不良も見られなかったそうだ」

番外個体「へー。つまり、完璧な座標移動に加え、テロリスト時代の知識と戦闘技術を持っているってことか。クロにゃんじゃ負けそう」

黒夜「何だとッ!?」

海原「99.9999999%負けますね」


 黒夜が額に青筋を立てながら、椅子から立ち上がった。
 ギロリと目線を海原へと向ける。


黒夜「……よォし、まずオマエから殺してやる。座標移動はそのあとだッ!!」

番外個体「い・つ・も・の♪」

 
 いつの間にか番外個体が黒夜の後ろに回り込んで、電磁波を浴びさせていた。
 黒夜はサイボーグだ。二本の腕やそれを支える肩甲骨部分を中心に、上半身の各所を機械化している。
 そのため、発電能力者の番外個体とは相性が最悪だ。
 

黒夜「あばばばばばばばばば!! だから電気はやめめめめめめめめめめめめ!!」


 このように制御を奪われたりして玩具にされるからだ。
 目を回しながらロボットダンスみたいなことをしている黒夜を見て、ため息交じりに土御門が頭を抱える。
 

土御門「……お前らいい加減にしろ。遊ぶなら任務が終わってから勝手にやれ」


 はーい♪ という反省する気のない返事をして、番外個体は黒夜を開放した。
 自由の身になった黒夜は、番外個体の座っている場所とは対角線の位置に座り、涙目でブツブツ何か言っていた。
 静まったことを確認したあと土御門は続ける。


土御門「とにかく、オレたちの目的は結標淡希を生きたまま確保することだ。勝手に殺すのは認めない。その目的に立ち塞がる者がいれば全て潰せ。それがスクールだろうとアイテムだろうと――」


 土御門のサングラスの奥の目付きが変わる。
 いつもの悪ノリをしているときのようなおちゃらけた目付きから。
 獲物を見据えた冷酷な狩人のような瞳へと。


土御門「第一位だろうと、な」


―――
――
―


533 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:54:53.17 ID:WGxiRQYAo


上条「……げっ、昼メシに食べられるもん何にも残ってねえじゃねえか」


 とある高校の男子寮にの中にある一室。
 冷蔵庫と戸棚の扉を開けっ放しにしたまま上条当麻はつぶやいた。


上条「しょうがねえ。買い出しに行くか」

禁書「とうま? お出かけするの?」


 純白の修道服に身を包んだ少女、インデックスが飼い猫スフィンクスと戯れながらたずねる。


上条「ああ、ちょっとスーパーへ買い出しにな。本当はタイムセールの時間に行きたかったけど、そのために昼飯抜きにするのもあれだしな」

禁書「そう。いってらっしゃい」

 
 そう一言だけ見送りの挨拶をしたあと、インデックスは再びスフィンクスと遊び始めた。
 それを見た上条の眉毛がピクリと動く。


上条「……インデックスさん? たまには買い物に付いてきてお荷物の一つでも持つの手伝いましょうかとか、そういう心温まる言葉くらい言えねえんですかね?」

禁書「ちょっと今スフィンクスと遊ぶのに忙しいかも」


 遊ぶのに忙しいもクソもあるか! 心の中で上条はそうツッコンだ。
 まあ、こんなやり取りは今に始まったことではないので、上条はため息交じりに諦める。
 
 
上条「もういいよ。いってきます」


 そう外出の挨拶をしてから玄関へ向かう。


上条(まあよくよく考えたら、アイツが下手に付いてきてスーパーの道中にある食べ物屋とかに反応して、割高な食い物をせびられても困るしな)


 そんな危険予知的なことをしながら上条は部屋を出ていった。


―――
――
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534 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:56:22.49 ID:WGxiRQYAo


 春休み期間ということもあって朝から私服の学生たちが闊歩している街中の歩道。
 その中で二人の少女が仲良く手をつないで歩いていた。
 御坂美琴と打ち止め。知らない人が見れば姉妹が一緒におでかけしているのだと思うだろう。

 背中にリュックを背負った打ち止めが聞く。

打ち止め「お姉様? ところでこれからどこに向かうの? ミサカ的には映画館とか行ってみたいな、ってミサカはミサカは要望を遠慮なく口にしてみたり」

美琴「映画館か。そういえばあの馬鹿と一緒に行ったっきり行ってないわね。というかあんときのアイツは本当に……」


 ブツブツなにかをつぶやいている美琴に首を傾げる打ち止め。
 それに気付いた美琴はごほん、と咳払いをしてから話を続ける。


美琴「とりあえず今私たちが向かっているのは、私の知り合いがいるジャッジメントの支部よ?」

打ち止め「ジャッジメント?」

美琴「そうよ。私のルームメイトが働いているところなんだけどね。昨晩帰ってきてなかったからどうしてるのかな、って様子見に行こうと思ってて」

打ち止め「へーそうなんだ。ミサカジャッジメントさんが働いているところに行くの初めて! ってミサカはミサカは胸を躍らせてみたり」

美琴「アンタが胸を躍らせるようなものは何もないと思うけどね」


 他愛のない会話しながら二人はとある一棟のビルの前にたどり着いた。
 入り口には『風紀委員活動第一一七支部』と書かれたプレートとそれが2Fもあるということを表したプレートがあった。
 二人はその順路通り階段を上がっていき、二階にある一一七支部のドア前に着く。


美琴(黒子いるかな……?)


 ドアの横に付いている呼び出しのインターホン。そのボタンを押そうとした瞬間、


??「――見損ないました!! 白井さんがそんな人だとは私思いもしませんでした!!」


 少女の怒号が聞こえてきた為、美琴の指がピタリと止まった。


美琴(今のは初春さんの声? 一体何が)


 と考える間もなく美琴はドアを開けてしまう。


535 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:57:32.08 ID:WGxiRQYAo


美琴「どうしたの黒子!? 初春さん!?」

初春「み、御坂さん!?」

黒子「お姉様……」


 美琴の目に映ったのはデスクチェアに座って腕と足を組んだ白井黒子と、その目の前に食って掛かるように立っている初春飾利だった。


美琴「ど、どうしたのよ二人とも。二人してそんな怖い顔して」

黒子「いえ、何でもありませんわ」

美琴「何でもないってことはないでしょ」

黒子「お姉様には関係ありませんの。わたくしたち一七七支部の中の問題ですので」

初春「…………」


 支部内に重苦しい空気に包まれた。
 なにを喋ろう。
 この雰囲気をどうにかしようと頭をフル回転させる美琴をよそ目に一人の少女が発言する。
 

打ち止め「ねえねえ。よくわかんないけどケンカはいけないと思うよ二人とも、ってミサカはミサカは殺伐とした空気を和らげる清涼剤になってみたり」

黒子「!? ち、小さいお姉様!?」

初春「たしか御坂さんの従妹の……打ち止めちゃんでしたっけ?」

打ち止め「お久しぶりだねクロコお姉ちゃんにカザリお姉ちゃん! ってミサカはミサカは再会の挨拶をしてみる」

初春「どうしてこんなところに?」

美琴「ああ、ごめんね。今私この子の面倒見てて」

初春「そうだったんですねー。あっ、打ち止めちゃんなにか飲みます? って飲み物何かあったかなー?」


 わーい、とハシャギながら打ち止めはソファの上に飛び乗った。
 それに続いて美琴もソファに腰掛ける。


536 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:58:31.23 ID:WGxiRQYAo


黒子「……言っておきますがお姉様? ここは託児所ではありませんのよ?」

美琴「わ、わかってるわよそれくらい!」

黒子「でしたらお姉様はどうしてここに来られたんですの?」

美琴「いや、昨日アンタ寮に帰ってこなかったでしょ? だからどうしてるかなーってちょっと様子見に」

黒子「そうだったんですのね。一応、寮監には門限延長から外泊許可への変更の連絡は入れておいたのですが、申し訳ございません。お姉様には連絡入れるの忘れてましたわ」

美琴「別にいいわよ。昨日あったことがあったことだし」

黒子「……ええ」

美琴「で、初春さんと言い合ってたのはその件についてかしら?」

黒子「…………」


 黒子は喋らなかったが美琴はその雰囲気で何となく察した。
 やはりこの子はあの場にいるべきじゃなかったんじゃないか、そんなことを思う美琴だった。


初春「打ち止めちゃん、オレンジジュースならありましたよ!」

打ち止め「わーい、ありがとー! ってミサカはミサカはきちんとお礼が言えるいい子!」


 ストローを咥え、オレンジジュースを吸い込む打ち止めを横目で見ながら美琴は考える。


美琴(さて、これからどうしようかしらね)


 ここはジャッジメントの詰め所だ。そこら辺の公園とかにぼーっと立っているよりはいくらか安全だろう。
 しかし、それすら障害とは思わないような輩がここに攻め入ってくる可能性がないわけじゃない。
 もしそんなことになれば、ここにいるみんなを巻き込んでしまうことになる。


美琴(あんまりここに長居するわけにはいかないわよね)

打ち止め「ところでお姉様? 映画館に行くっていう話はどうなったの? いつ行くの? ってミサカはミサカは聞いてみる」

初春「映画観に行くんですか? いいですねー何観るんですか?」

打ち止め「ミサカはそげぶマンが観たいな! 『劇場版そげぶマン 奇蹟の歌姫編』! ってミサカはミサカは映画タイトルまるまる言ってアピールしてみる」

初春「ああ、あれですか。面白かったですよー、最後はヒロインが――」

打ち止め「わーだめだめネタバレはNGだよー! ってミサカはミサカはカザリお姉ちゃんの暴挙を阻止してみたり!」


 真面目な考え事をしている美琴のことなどつゆ知らず、打ち止めはこれからの遊びのスケジュールを一生懸命立てていた。
 やれやれ、と美琴はため息を付いた。


―――
――
―


537 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 22:59:59.18 ID:WGxiRQYAo


 スーパーからの帰路。
 上条当麻は食材やら何やらが入ったレジ袋を片手に街中を歩いていた。


上条(今日の昼飯は何にしようかなー)


 何となく卵の気分だから親子丼とかいいなあ、いやオムライスも捨てがたい。
 
 そんなことを考えながら歩いている上条の視界に見知った人が入った。
 赤髪を二つに結んで背中に流していて、腰に巻いたベルトに軍用懐中電灯を付けている少女。


上条(あれは結標じゃねえか)


 クラスメイトを発見した上条はおーい、と声をかけようとしたが、少女はすぐに路地裏の方へ入ってしまった。


上条(路地裏なんかに入ってどうしたんだアイツ?)


 何度か彼女と街中を歩いたことはあるが、進んで路地裏なんていう場所を歩きたがるような人ではなかったはずだ。
 違和感を覚えた上条は、結標淡希を追いかけて路地裏に入っていった。


上条(近道とかそんな感じじゃなさそうだよなー)


 たしかここの路地裏を進んだ先は行き止まりだったはずだ
 普段から怖いお兄さんたちとやりたくもない追いかけっこをしているため、裏道とかに詳しい上条にはすぐそれがわかった。
 しばらく進んだところにある曲がり角。そこに彼女はいた。
 ビルの壁に背中を預けて、荒げている息を整えている様子だった。


上条「……結標? どうしたんだよこんなところで?」

結標「ッ!? 誰!?」


 いきなり声をかけられて結標は壁から背を離し、上条と対面して身構えた。


上条「誰、って俺だよ俺。上条さんですよ」

結標「だから誰よ!?」

上条「えっ?」


 初対面のような反応をされて少し戸惑う上条。
 もしかして人違いか? と思い何度も目の前の少女を目で確認するが、どう見ても自分の知る結標淡希だった。
 ふと、そのとき上条は気付く。
 彼女の着ている洋服のところどころに赤い染みのようなものが付いていた。


538 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 23:01:20.72 ID:WGxiRQYAo


上条「お、おい結標。それなんだよ……? もしかして血じゃ――」


 上条が近づこうとした瞬間、結標は腰につけている軍用懐中電灯を抜いた。
 そしてそれを真横に振るう。

 ドスリ。

 上条の左肩に鋭い痛みが走った。


上条「なっ、があっ……!?」


 思わぬ痛みに持っていたレジ袋を地面に落としてしまう。
 中に入っていたものが散乱する。


上条(こ、これってテレポートの……!)


 肩に手を当てる。
 そこには錆びついた五センチくらいの長さの釘が突き刺さっていた。
 それを確認したせいか、さらに痛みが増していくように感じる。


結標「貴方。さっきから私のことを追いかけてきているヤツらの一員ね? 一般市民の知り合いを装って話しかけて来るなんて姑息な手を使うわ」

上条「何言ってんだ、お前……」

結標「何? もしかして本当に一般の人だった? それならごめんなさいね」


 軍用懐中電灯を適当にいじりながら結標は続ける。


結標「でも私は貴方のことなんか一ミリたりとも知らないわけだし、不用意に近付いてきた貴方が悪いってことで許してもらえないかしら?」

上条「知らない、だと? そんなわけねえ、だろ」

結標「事実よ。ま、貴方が無関係な一般人の可能性を考慮して、これ以上の攻撃をするのはやめてあげるわ」


 結標は軍用懐中電灯を再び腰に付けて、上条に背を向ける。


結標「ただし、次私の前に姿を現したときは、私を追う刺客とみなして容赦はしないわ」

上条「ま、まちやが――」

結標「だから気をつけてね。上条君?」


 軽い感じに手を上げ、結標は空気を切る音とともに姿を消した。
 人がいなくなった空間を見つめて、上条は呆然と立ち尽くす。


上条「うそ、だろ? 結標……?」


 少年の問いかけに答える者は、もうここには誰もいない。


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539 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 23:02:25.14 ID:WGxiRQYAo


 一方通行は第一〇学区にある阿部食品サンプル研究所第三支部という研究所の近くに来ていた。
 ここは今朝のニュースで話題に上がった、能力者による襲撃を受けた場所の一つである。
 事件が発生した場所だけあって、駐車場にはアンチスキルの使う車輌が複数台止められており、研究所周辺には見張りをしているアンチスキルも複数人いた。


一方通行(犯人は現場に戻るなンつゥ言葉があるが、まァそンな簡単な話はねェっつゥことだな。どォでもイイが)


 一方通行は遠目で研究所の様子を見ながら手に持っているファイルを眺める。


一方通行(阿部食品サンプル研究所第三支部。中に入ることができりゃ分かるが研究所の名前はダミーで、ここは空間移動能力者(テレポーター)を専門している研究機関だ。他の二施設も同様にな)

一方通行(結標がテレポート関連の実験を受けた履歴の中に、コイツらの名前があった。つまり、アイツは過去に実験を受けた施設を襲撃しているということか)

一方通行(理由はなンだろォな。過去に受けた実験の復讐っつゥのが妥当なところか。いや、データを強奪されたとか言ってた気がするから何かのデータを探してンのか?)


  一方通行は頭から余計な考えを飛ばすように頭を横に振った。


一方通行(……ンなモン考えたところでしょうがねェか。今考えるべきは結標のこれからの行動予測だ)


 一方通行は携帯端末をポケットから取り出し、地図アプリを起動する。


一方通行(結標の今まで実験を受けた施設の数は、今回狙われたものを含めて全部で八九種類。当時存在したが現在は閉鎖されているものを減らせば三二種類か)

一方通行(これらの施設全部を回っていくことは不可能じゃねェが、回ったところでヤツと遭遇しなけりゃ意味がねェ)

一方通行(アイツが行きそォな場所を予測して、待ち伏せるなりなンなりして見つけ出さなきゃいけねェっつゥことだ)

一方通行(すでに狙われたところを抜いても二九種類。そン中から一つをドンピシャで当てるのは難しいっつゥレベルじゃねェ)

一方通行(例えばアイツの狙いが何らかのデータだっつゥなら、それを手に入れたらこの襲撃して回ンのが終了するっつゥことだ)

一方通行(そンな状況でいずれここに来るだろう、って特定の場所に一晩中張り込ンでいてもリスクが増すだけだ)


 地図アプリを操作し襲撃のあった地点にマーカーをつける。
 時間軸で並べるとそれは北へ北へ、第七学区方面へ向かっていることがわかった。


一方通行(おそらく第七学区にある寝床に向かっていったって考えるのが妥当だろォ。アイツがもともと使っていた住処か、はたまた普通にホテルか)


540 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/12/04(土) 23:03:21.80 ID:WGxiRQYAo


 時間を見る。ちょうど昼の一一時を回ったところだった。


一方通行(昨日の最初の襲撃が深夜一二時から一時の間。これは人目のつかない深夜だからこの時間にスタートしたってことか……いや)

一方通行(そもそも記憶が戻ったのが夕方のことだ。そこから自分の状況を把握して、研究所襲撃をするという行動方針を決めるのにそれなりの時間がかかったはずだ)

一方通行(つまり、夜じゃねェと襲撃しねェっつゥ固定概念を持っちまうのは危険だ。大事なチャンスを逃すかもしれねェ)


 携帯端末を眺める一方通行の耳に、なにやらざわついた音が聞こえてきた。
 何かと思い、音のする阿部食品サンプル研究所第三支部の建物がある方へ目を向ける。
 そこには慌てて研究所から出ていくアンチスキルの姿があった。


一方通行(……何だ? 昼休憩にはまだ早いだろォに)


 たまたま近くに見張りを続行しているアンチスキルの男がいたため、一方通行は聞き込み調査を始める。


一方通行「オイ」

アンチスキル「うん? 何だお前?」

一方通行「あそこで大急ぎで退却しているお仲間がいるが、何かあったのか?」

アンチスキル「ああ、あれだよ。今朝のニュースでやってただろ? 研究所の襲撃事件。あれの四つ目が今発生したらしい……おっと、こんなこと一般人に言っちゃいけねえや。忘れてくれ」

一方通行「そォか。アリガトよ」


 お礼を言って、研究所のある方向から真逆の道を歩いていく。


一方通行(表はオマエの襲撃で大騒ぎしてるっつゥ状況で、こンな昼間っから動くなンざ随分な余裕じゃねェかよ)


 一方通行の口元は、引き裂いたような笑みを浮かべていた。


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