カルネアデス・プリズム(名探偵コナン×竜とそばかすの姫)

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70 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 01:58:51.69 ID:4yq8c2840
最初に訂正です。

>>67

「別役弘香:今日発生、西多摩市北部淳民センター傷害事件に就いて」

「別役弘香:今日発生、西多摩市北部住民センター傷害事件に就いて」

以上訂正です。失礼いたしました。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>69

廊下に集まっていた目暮警部以下の横を通って、
二人の女性に連れられた渡辺瑠果が控室に戻る。
二人の内の一人は自動車警邏隊の女性巡査部長。
もう一人は管轄の西多摩警察署の少年係で、
薬物等を検査する為にトイレで検体を採取した帰りだった。

ーーーーーーーー

「目暮警部」

控室に戻った目暮達に、警視庁本部刑事部の鑑識係員が声を掛ける。
鑑識の話を聞き、佐藤が瑠果に声を掛けた。
椅子から立ち上がった瑠果が佐藤達と共に移動し、
控室に使われている研修室の前方にある長机に近づく。

「これに、見覚えは?」

「ありません」

佐藤に問われ、瑠果は首を横に振る。
71 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:00:31.34 ID:4yq8c2840

「こぉらっ、ガキが現場をうろちょろするんじゃねえっ!!」

「ごめんなさーいっ」

小五郎に襟首を掴まれたコナンの側に、
追い駆けて来た形の他の面々も到着する。

「い゛っ」

そして、園子は長机の上を見て張り付いた声を出す。
長机の上には、大きな金属のボウルと直系15センチぐらいの硝子皿、
もう少し大きな鉄皿、シャーレ、ターボライターが置かれていた。
硝子皿には透明な液体が薄く張られ、鉄皿には燃え滓、
シャーレの上にはピンク色と黄色がもつれ合った様な物体が見える
ターボライターは、横向きに着火する小型の使い捨てタイプだった。

「ねえ、元々こんな風に置かれてたの?」

「どうなの?」

「いえ」

コナンに続く佐藤の問いに、鑑識係員が応じる。

「ライターは床に落ちていてました。
元々、この二枚の皿の上にボウルが被せられていて、
ボウルから皿がはみ出していました。
これは硝子皿の上に乗せられていたんですけど、
放っておくと溶けてしまうのでこちらに」

係員が、佐藤にタブレットを見せながら
シャーレの上の物体を指して言った。

「この燃え滓って、燃え尽きてたのかなぁ?」

コナンが言い、佐藤が鑑識に耳打ちする。
警察、特に警視庁にはやたらと顔が利くコナンだが、
今日の警視庁刑事部鑑識は、
多摩地方担当の中でもコナンと馴染みのなかった係だった。
72 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:02:44.47 ID:4yq8c2840

「少なくとも、所轄が鑑識を始めた時には燃え尽きていましたね。
ボウルの中に籠っていた煙は
その時に急遽採取したものを科捜研に回していますが」

佐藤に向けて鑑識員が返答し、天井を見た。

「換気扇だね。ボク達が来た時からずっと動いてたよ」

コナンが答え、考える。

(それでも、硝煙に紛れてすぐそれと解る臭いは残っていた。
残骸から見て、あの皿のすぐ近くで爆竹の束に着火した筈だ)

「焼肉?」

「だよね」

蘭の呟きに園子が応じる。

「確かに、これは肉か何かみたいね」

鉄皿の上の燃え滓を見て佐藤が言った。

「焼肉にしては、随分みみっちいね。
厚みはそこそこあるけど、
縮んだにしたって広さは親指の先二つって所かな?」

真純が言う。
鉄皿の上の燃え滓は、小さな蝋の塊、
線の様な灰、そして黒焦げの小さな肉片だった。

「これは、石、ですね」

佐藤の横で、器具でその肉片に触れていた鑑識員が言う。
どうやら、肉片の下に石粒があったらしい。
コナンがなんとか視界に入れると、
それは、ピーナッツよりやや小さいぐらいの楕円形の石粒だった。
73 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:08:53.58 ID:4yq8c2840

「鉄の皿は園芸用の鉢皿かな。硝子皿が今の話通りだとすると、
時限発火装置? だけど、ピースが足りない」

「どういう事?」

ぶつぶつ呟く路留の言葉に、園子が言った

「うん。あのドラッグストアやコンビニエンスストア等で購入出来る、
口がリング状で角や棘の無い滑らかな鈍体に対しては
8インチやそこらどころか水筒の代用が利くぐらい悠々伸びる程の
非常な強靭さと収縮性と密着力を発揮するゴム製の袋に酸性の薬品を入れて、
袋が溶けて破れた袋から液体が漏れ出す事を利用した
時限発火装置と言うのはあるんだ」

「だけど、あれだけだとピースが足りない」

真純の言葉に、路留が同じ言葉を言う。

「そうね。あのドラッグストアやコンビニエンスストア等で購入出来る
口がリング状で、角や棘の無い鈍体、特に表面が滑らかにつるつるとした物体に
下向きに引き延ばす様に密着させながら包み込んだ場合には
極めて高性能の収縮性と強靭さと密着性を発揮する
あのゴム製の袋にある種の酸性の薬品を入れたとして、
それで時限発火装置を成立させる為には、
それでゴムが毀損して破れたゴムの袋から漏れ出した液体が
別のものと結び付いて熱を生み出す必要がある。
あれだと、只、ゴムの中に注がれたものが
穴があったのか隙があったのかで溢れ出して皿にたまった様にしか見えないし、
見た感じ安物の硝子皿に高熱が発生した形跡も見えない」

哀も、自分が見た限りで把握した状況を口に出す。

(ボウルの天井には穴、目打ちか何かか? 何かがこびりついて………)

考え込んでいたコナンの体が、
襟首を掴んだ小五郎の手でゆっくり浮上していた。
74 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:11:31.27 ID:4yq8c2840

ーーーーーーーー

奇妙な皿を見せられた瑠果が椅子に戻り、
他の面々もなんとなくそちらに戻った辺りで、
小五郎とコナンがほぼ同時にスマホを取り出した。

(い゛っ………)

自分のスマホを確認し、
続いて小五郎の視線を追ったコナンは嫌な予感と共に行動を開始する。

「?」

椅子に掛けたまま待機していた渡辺瑠果は、
最初の救援者一同の中にいた眼鏡の男の子がくいくい袖を引くのに気付く。

「あのね、小五郎のおじさんって、名探偵なんだけど
あてずっぽうから推理をまとめるタイプだから余り気にしないでね」

「? うん」

コナンの小声の言葉に、瑠果は取り敢えず頷いた。

「分かりましたぞ警部殿!」

「本当かね毛利君っ」

小五郎の言葉に、目暮が驚きの声を上げた。

「私の弟子が、彼女の学校に関わる情報を
精選して抽出したものをこちらに送って来ました」

「ボクがお願いしておいたんだー」

自分のスマホを示す小五郎に、コナンがえへへーと続いた。
75 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:14:43.37 ID:4yq8c2840

「渡辺瑠果さん」

「はい」

「ここではN、ですか。あなたとNさんは仲のいい友人だそうですな」

「はい」

「しかし、それはごく最近。
そう、ベルがアンベイルする前後の話だと言う事でよろしいですかな?」

「ええ、本当はちょっと違うんですけど周りにはそう見えたと思います。
私とベルは昔から友達でしたけど、色々あってごく最近まで
ベルの方から話をすると言う事はほとんどなかったですから」

「ふむ。こちらの情報では、
高校入学当初からベルのアンベイルの時期まで、
実際にベルと親しく関わっていた女子生徒は一人、そうですね?」

「ええ、大体それで合っています」

(それがベツヤクヒロカ、か………)

やり取りを聞きながら、コナンは心の中で呟く。

「そして、あなたとNは非常に対照的な存在だった」

そう言った小五郎を、瑠果は静かに見ていた。

「あなたはクラスでも部活動でも中心的な存在。
引いては、輝く存在として学校中から知られた、
言わば太陽の様な人気者。
対して、かつてのNさんは、言い方を選ばなければ
クラスの中でもいるのかいないか分からない、
むしろ彼女自身がそれを望んでいた。
全く孤立していたと言う訳ではなかった様ですが、
親しく接していたと言える友人は一人だけ。
丸で真昼の月の様な存在。それが実際だった」

「お答えは差し控えます」

瑠果は、静かに笑みを浮かべて言うと、すっと真顔で前を見た。
76 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:18:23.57 ID:4yq8c2840

「不愉快です」

「同じクラスで友人関係、しかし学校での評価は正反対。
それが、最近状況が大きく変化する出来事があった」

「アンベイル」

瑠果のストレートな言葉を受けながら、小五郎が続ける。
そして、佐藤が呟いた。

「そう。ベルは事によっては億単位のファンを持つ世界的人気歌手。
その正体が目立たない地方の女子高校生だと発覚した。
それだけの有名歌手の面が割れたんだ。
少なくとも学校で見知っている人間はいたと考えるべきだし、
実際、様々な対処が為されていても
学校周辺でその様な情報を発信するネット情報は根絶とはいかなかった。
目立たない地味な存在だと思われていた目の前の友人が、
実はそんな世界規模の人気を誇る有名人。
それも、只の色物じゃない、圧倒的な歌唱力を評価される歌姫だった」

そう言って、小五郎は軽くスマホを振った。

「同じ学校の同じクラスに突如現れて、
それも、これからもずっとあなたの最も身近にあり続ける。
あなたの学校では誰もが、今でも誰もが認める頂点の輝き、
それを我が者としていたあなたの身近に」

「ちょっと、おじさまそれって」

小五郎の言葉を聞いて、園子が口を挟んだ。

「元々、ベルのアンベイルは何か突発的な事態だったんだろう。
それだけに、地方の高校に突然現れた
ベルの立場が微妙なものである事は想像に難くない。
それが、被害者であろうがなんであろうが、
危険な事件に巻き込まれたと言う事になれば………」

そこで、一同は気付く、俯いた瑠果の肩が震えている事に。
77 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:23:59.61 ID:4yq8c2840

「ないないないない」

顔を上げた瑠果は、ぱたぱたと右手を振って、
ちょっと顔をしかめながらくすくす笑っていた。

「ええ、学校でも面白がってそういう、
比較とか上か下かとか勝ったとか負けたとかギスギスとか
勝手に言う人はいますけどね。
敢えてそういう価値観で言うなら、
私は別にそんな世界的な野心とかはありませんし、
す、ベルは、うん、ちょっと自信ついたかなって思うけど
学校では相変わらずのんびり草食って人畜無害に大人しく生きてます、
って、ちょっとヒロちゃん伝染っちゃった。
だから、別にそんな、私がこんな自分で痛い思いするなんて
馬鹿馬鹿しいってだけで」

「確かに、彼女の言動から言っても、とてもそこまで愚かだとは思えない。
あらゆる意味でリスクが高過ぎる。やるとしたら余程の激情家じゃないかな」

同意を示したのは路留だった。

「そうね」

そこに、哀が続く。

「このやり方だと傷跡どころか下手すると失明ものよ、
彼女の聡明さから言っても割に合わな過ぎる」

「そうよねー」

哀の言葉に園子が続いた。

「正直流石にそんな事でってねー、ホント綺麗な顔してるんだし。
彼氏でも奪られたってんならまだ話も分かるけど」

「それもない。ちゃんと別々にいるから。
ん? でもあれってどっちなんだろう。
うん、取り敢えず私と別々なのは確かだから私がそんな事する理由無い」

園子が蘭と手に手を取ってキャーと声を上げる側で、
瑠果はちょっと考え込んでから必要な結論を出した。
78 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:27:23.85 ID:4yq8c2840


「それに、凶器はどうしたの?
あの怪我で凶器を隠すために動き回ったら
鑑識さんが簡単に痕跡を見つけると思うんだけど」

「少なくとも、氷の刃で出来る傷には見えないわね」

コナンの言葉に哀が付け加える。

「氷の刃、燃え滓、焼肉………」

「おじさん?」

ぶつぶつ言い出した小五郎に、コナンが引き攣った声を掛ける。

「まさか、とは思うけど、
実はあれが研ぎ澄まされた形で冷凍された肉のナイフだった、
とか言い出さないよね?」

「ん、んーな訳ねーだろーが」

コナンの言葉に小五郎が引き攣った声で応じる。

「だが、例えばだ、冷凍イカの耳なんてのはどうだ?」

「確かに、これが冷凍ヤリイカ一本とでも言うなら
隠滅する為には丸ごと煮込むぐらいする必要があるでしょうけど」

小五郎の言葉に、哀が反応した。

「えーと、煮込んでその後、どうするのかなぁ?」

「耳だけならライターで炙るか最悪生でも気合でどうにかなるって所かしら?
胃腸の虫刺されからのアレルギーで七転八倒する覚悟が必要だし
手も空気も随分生臭くなりそうだけど」

乾いた声で質問する園子をやり過ごし、哀が言った。
79 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:31:08.89 ID:4yq8c2840

「それ以外のやり方だと時間が足りないか。
ライターでもあそこにありそうな燃料でもとても炭化する火力はなさそうだし、
部屋の臭いは完全に炉端焼き屋だ。
あの硝子皿に沈めても、多分時間が足りない上に後ですぐ分かる」

指の背で顎を撫でて口に出した路留にちろりと視線を向けられ、
コナンは居心地悪そうに眉を動かしながら口を開いた。

「大体、最初の疑問が解決しないよね。
あんな傷でそんな面倒な事してたら痕跡が残るって」

「渡辺さん」

小五郎は、コナンの言葉を無視する様に呼びかけた。

「ここは応援用の控室。荷物から見て吹奏楽部で来たと言う事ですかな?」

「ええ。どちらかと言うとマイナー競技で
大会側の人数制限もありますから来たのはごく一部ですけど」

小五郎の言葉に、瑠果はあっさりと返答する。

「成程」

小五郎の視線を受けて、呟いたのは目暮だった。

「渡辺さん、あなたはこの控室に一人でいた所を襲われた、
そう言う事でしたな?」

「ええ」

目暮の問いに瑠果が答える。

「なあ、おかしいと思わなかったか?」

小五郎が視線を向けたのは、蘭、園子、真純の並びだった。
80 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:34:34.87 ID:4yq8c2840

「確かにね」

口を開いたのは真純だった。

「特にこの年頃の女子は、
交友関係に防犯上の事情もあって集団で行動する事が多い。
不慣れな土地での部活動の遠征と言う事であれば尚の事だ。
しかも、瑠果君は自分への評価を十分自覚している」

「そして、学校ではクラスでも部活でも中心にいる人気者。
だが、実際に彼女は一人で事件に遭遇している」

真純の言葉に小五郎が続く。
それを聞きながら、コナンは自分の顎を摘まんで思考する。

(確かに、控室に一人で被害に遭遇している。
あの騒ぎに気付かなかったって事はとっくに別の場所にいたって事だ。
彼女自身じゃないとすると)

ーーーーーーーー

「いい加減調子乗り過ぎなんだよね」

「友達とか言って、うちら引き立て役だからねー」

「そんな事思ってないっ」

「うちの彼氏に色目使ってさぁ」

「そんな事してないっ!!」

「そっち、脚押さえて脚っ」

「やだっ、やめてやだあっ!!」

「何か聞かれたら通り魔とか言っときなよ」

「チクッたら学校いれなくするからね」
81 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:39:14.21 ID:4yq8c2840

ーーーーーーーー

「んー」

園子の唸り声を聞き、
コナンは脳内で黒タイツ劇団の三文芝居を幕引きさせる。

「実はハブられてたとか。
細くも長くもない子からの妬みとかすごそうだし」

「怒るよ」

瑠果が高さも温度も微かに、だが確実に低下させた声を発し、
真顔で園子を見ていた。

「ごめんなさいっ!」

「私からも謝ります、ごめんなさい」

園子がぱたんと体を折って真剣に謝罪し、蘭がそれに続く。
それを見て、瑠果は一つ頷いてついと前を見た。
その瑠果の前に、路留がすうっと移動して片膝をつく。

「お立合い、ここには君以外一体何人いたのかな?」

自分のスマホを胸に当てる形で、路留が質問した。

「先生は先に打ち合わせとかに行ってたから、私を入れて七人ね」

「つまり君を除いて六人だね」

路留は、6の数字が表示されたスマホを周囲に示しながら発言した。

「あいつ、カードの名手なんだ。モラン大佐と張るぐらいのな」

コナンが、軽く嘆息して哀に向けて呟く。
82 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:42:45.27 ID:4yq8c2840

「僕は、そこのエレベーターホールで彼女達と会ってる。
エレベーターと階段に分割で移動したけど、
全員一階まですんなり移動してる。
彼女達を容疑者とするなら、それから建物から出て、
戻って来て爆竹を鳴らした事になる。
さっきも言ったけど、あの謎オブジェにも時限装置は見当たらない、
導火線を加味しても大した時間は稼げない。
時間も厳しいし、かなり不自然な行動になると思うね」

少し目を見開いた瑠果は、次に優しい笑顔を見せていた。

「それでは、吹奏楽部の他のメンバーは何をしていたのですかな?」

「先に行って、河川敷の会場に向かっていた筈です」

路留がするりとその場を離れた後で目暮が尋ね、瑠果は答える。

「成程。では、あなたは何故一人で控室に残ってたのですかな?」

目暮にそれを聞かれ、瑠果の言葉が止まる。
その瑠果の泳いだ目線をコナンは追った。

「えっと、それは、ちょっとだけと言うか………」

「ふむ………」

目暮が相槌を打つ間、コナンは瑠果の服をくいくい引いて小声で尋ねる。

「もしかしてメール見てた?」

「何やってる坊主?」

「にこにこメール見てた?」

小五郎の声に構わず、耳を寄せる瑠果にコナンが囁く。
こくん、と、下を向いた瑠果を見て、コナンはたたたっと駆け出した。
83 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/09(木) 02:45:53.61 ID:4yq8c2840

「なあに、コナン君?」

「何よガキンチョ?」

コナンに服を引っ張られた蘭と園子が口を開く。

「だから何やってんだよ?」

二人が寄せた耳にコナンがごにょごにょ囁き、
蘭と園子は頷き合うと小五郎に構わず佐藤に近づき囁いた。
佐藤が瑠果の目の前で視線を合わせて声を掛け、
瑠果がスマホを差し出す。

「ちかみ、と言うのは漢字でせんどうと書きますか?」

「はい」

佐藤の問いに瑠果が深過ぎるぐらいに頷いて答える。

「目暮警部、取り敢えず時間的にも
部屋にいた理由は一応説明がつくみたいです」

近づいた目暮がスマホを確認し、
ポリスモードのメール機能を使っている佐藤の横で
「ふむ」と一言呟いた。

==============================

今回はここまでです>>70-1000

続きは折を見て。
84 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/31(金) 01:10:03.93 ID:Nw84XdKs0
まずは訂正です

>>16
×蘭が言い、スマホを操作し始めた。
○蘭が言い、携帯を操作し始めた。
>>17
×その上で額に占められた白鉢巻きの緒が翻る。
○その上で額に締められた白鉢巻きの緒が翻る。
>>19
×真純の言葉に、スマホを掲げた蘭が答えた。
○真純の言葉に、携帯を掲げた蘭が答えた。
>>30
×真純の言葉に蘭と園子もスマホを取り出す。
○真純の言葉に蘭と園子も自分の携帯を取り出す。

ええ、知ってましたよ。知ってた筈なんですけどね、
完全に手癖書きの失態ですねこれ。
申し訳ありませんでした。

改めまして。
それでは、今回の投下、入ります。
85 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/31(金) 01:11:39.03 ID:Nw84XdKs0

==============================

>>83

ーーーーーーーー

「では、お願いします」

事情聴取と搬送調整の見込みがついた事で、
渡辺瑠果は救急搬送に移された。
その一方で、佐藤美和子警部補は
捜査員用携帯電話のポリスモードで電話に出ていた。

「初士路留君だったね」

電話を切った佐藤と少し話し込んでいた目暮警部が、
路留に声を掛ける。

「はい」

「港南高校の」

「はい」

「ちょっと来てもらえるかね」

ーーーーーーーー

父の初士雅人に付き添われて路留が連れて行かれた先は、
すぐ隣の研修室だった。

「ここが、君達の控室だね?」

「はい」

目暮の問いに路留が答える。
86 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/31(金) 01:13:12.63 ID:Nw84XdKs0

「これに見覚えは?」

「? いえ」

横から現れた佐藤にポリスモードの画面を見せられ、
その中に何やら巻かれた紙を見て路留が否定する。

「これなんだが」

目暮に、研修室前方の長机を示され、
路留は怪訝に目を細めた。

「全く心当たりはないですけど、
間違いなく事件関係ですよね?」

「一見してそう見えるわね」

路留の言葉に佐藤が応じた。
二つの机の上に乗っている一つは
被害者渡辺瑠果等が通う高知の高校名が書かれた張り紙。
もう一つは、ナイフだった。

「書体等から見ても、
こちらで用意して控室の前に張られていたもの、でいいのかな。
ナイフは軍用のパラシュートナイフか」

「君かね」

顎を指で挟んで呟く世良真純に、目暮が呆れた様に言った。

「すいません、ちょっと路留君が心配で」

「パラシュートナイフ? スカイダイビングに使うの?」

頭を下げる蘭の隣で、園子が聞いた。
87 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/31(金) 01:14:58.87 ID:Nw84XdKs0

「正確にはパラトルーパーナイフ、だったかな。
パラシュート部隊が、外せなくなった
紐を切ったりするのに使うナイフだと思うけど」

「そう。これは昔のドイツの軍用モデルだね。
アメリカで製造してるレプリカだとすると、
ある程度量は出回ってる筈だね」

路留の説明に真純が続けた。

「一つ一つも大事だけど、状態だよね」

そう言ったコナンが、
コナンをとっ捕まえようとする小五郎の腕をすかっと交わして
長机の側の椅子から床に降りる。
コナンの言葉通り、
長机の上に広げられている張り紙は×字に切り裂かれていた。

「これは、やっぱり血痕?」

切り口の縁の汚れを指して真純が言う。

「詳細な鑑定はこれからだけど、血液型までは一致してる。
ナイフの血痕もね」

佐藤が言う。剥き出しになっているナイフの刃も、
言われてみればと言う感じで汚れていた。

「これ、このナイフって、もしかしてこの張り紙に包まれてたの?」

「どうしてそう思うんだい?」

(い゛っ)


顔見知りの佐藤に尋ねたコナンが、
横から口を挟む路留の声に喉を引きつらせる。
88 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/31(金) 01:18:27.10 ID:Nw84XdKs0

「え、ええと、変な折り目が付いてるし、
それに、切った時のじゃない、
血の着いたナイフを張り付けたみたいな汚れもあるかなー、なんて」

「だったら、さっきの紙包みかな?」

やたら可愛らしい声のコナンの答えを聞いて、路留が言った。

「ええ、そうよ。あんな風に包まれた状態で、
長机の下の床に放り出されてた」

佐藤が答えた。

「この控室を最後に出たのは?」

「僕です」

目暮の問いに路留が答える。

「君一人かね?」

「はい。身支度に時間がかかって」

路留が、学ランを軽く摘まんで言った。

「鍵は?」

「僕が施錠して受付に預けました」

佐藤の問いに路留が答える。
89 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/31(金) 01:25:31.70 ID:Nw84XdKs0

「じゃあ、ナイフを発見した時鍵は開いてたの?」

尋ねたのは、入口近くに移動したコナンだった。

「ああ、開いていたそうだ」

目暮が答える。

「路留君、もう一度聞くけど鍵は掛けた?」

「もちろん」

やはり入り口近くに移動していた真純が、路留から返答を得る。

「これで僕が犯人なら、いわゆる名刺事件、と言う事になるかな」

「現場にてめぇの名刺を置いて行く、
それぐらい簡単な事件って古いデカ言葉だな」

「そして、捜査の裏を掻く為にそれをやる犯人もいる」

路留の言葉に、小五郎と佐藤が言った。

「只、客観的に見ても僕に犯行は難しいと思いますよ。
さっきも言ったけど、
僕はあの学校の吹部とエレベーターホールで合流してる。
その後で、毛利君とそこの庭で合流した。
これで僕が犯人だと言うなら、僕はジャック・ザ・リッパー並みの
早業と悪運の持ち主と言う事にならないかな」

「それは、吹奏楽部にもおいおい確認するとしよう」

路留の言葉に、目暮が言った。

「確かに、その状況でこの鍵だと別の可能性を考えた方がいいかな?」

「ん? ああー、これならそっちの方がありかもな」

真純の言葉に、コナンの確保に動いていた小五郎が反応して
ドアのピンシリンダー錠を確認して言う。
それを見て、目暮が鑑識と打ち合わせて小五郎達が鑑識に場を譲った。
90 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2021/12/31(金) 01:27:29.03 ID:Nw84XdKs0

==============================

今回はここまでです>>84-1000

なんとか紅白前に一話投下出来た。
と言う、一区切りにも程遠い自己満足な年の瀬ですが、
来年もぼちぼちやらせてもらいます。

それでは良いお年を。

続きは折を見て。
91 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/01/24(月) 19:35:07.08 ID:IA38rMJE0
あけましておめでとうございます。
正月と言う時期でもありませんが、一月中に新年一回目の御挨拶を。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>90

ーーーーーーーー

「ねえ、高木刑事」

一度廊下に出たコナンが、高木に声を掛ける。

「あれって………もしかしてテープ?」

コナンが指さしたのは、鑑識が壁に描いた白い囲みだった。

「ちょっと待ってよ」

高木が、ポリスモードを操作した。

「そうだね。まだ残ってるけどあそこに両面テープが貼られてる」

鑑識資料を確認した高木が言った。

「だとすると………もしかして、カメラかな?」

コナンが言う。

「ほら、小さくても遠くに映像を飛ばせるカメラがあるって
テレビで観た事あるから」

「だとすると魚眼かな」

「あ、ミチル姉ちゃん」

後ろからの発言に、コナンが乾いた声で応じる。
92 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/01/24(月) 19:37:29.75 ID:IA38rMJE0

「いくら素人の女子でも、控室に三人も四人もいたら犯行自体が難しくなる。
慣れない人間ならごまかせるカモフラージュで壁にカメラを張り付けて、
そこから目的の控室、或いはその周辺の部屋まで出入りを監視して
控室が一人になるのを待っていた。むしろ、そう考えないと辻褄が合わない。
そうでなければ、余程の行き当たりばったりの悪運持ちか
パラトルーパーナイフ振り回してもっと最悪の犯行でも上等の凶悪犯かだ」

「ごめんなさい、ちょっと」

そこに佐藤が現れ、高木と共に路留を港南高校の控室に連れて行く。

「ねえ」

コナンに声を掛けたのは哀だった。

「どう?」

「あー、どうも繋がんねー」

哀の問いに、コナンが答えた。

「一番解んねーのはあの皿と焼肉だ」

「多分硫酸、それに溶けたゴムが浮いてた」

「ああー、もしかしたら時限装置じゃなくて判じ物かもな」

「判じ物?」

「ああ、相手は女の子の顔に傷を付ける変態野郎だ。
刃物で女に傷を付ける、焼けた肉片、あの肉片がレバーだとすると」

「女性を切り裂く、レバー、ジャック・ザ・リッパー」

「その線もあるかもな。だから、別の皿にも、
美少女の顔に切り付ける変態野郎にしか理解出来ない
何かの意味があるのかも知れない」
93 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/01/24(月) 19:39:23.83 ID:IA38rMJE0

「何かのメッセージ、って事?」

「腹が溶けてて分かり難かったけど、あのゴムは二重になってた。
口を縛った一つ目の袋を二つ目の袋に入れて口を縛ってる。
その内側に硫酸が入ってたんだ。
袋の口を縛る、例えば織田信長が受け取った暗号」

「確か、あれは小豆だったかしら?」

「ああ、両方縛って袋の鼠。だけど、今回のは片方、
あれにしたら普通の縛り方だ、
本来の使い方だと、刺激を和らげる為にああやって二重にする、
ってのは聞いた事はあるけど」

「それ、やめた方がいいわよ。カウントダウンを遅らせる以前に
イレギュラーな摩擦で破損や脱落の原因になるから
行き着く先は土下座からの一本背負いって事になるわね」

「バーロ。だけど、その線の判じ物って事は考えられるな」

「だとすると、まあ十中八九犯人の勝手な妄想の産物ね」

「そこまで決め付けていいのか?」

「少なくとも彼女、渡辺瑠果に心当たり、それに繋がる自覚は無い。
女の目であの娘の一連の反応を見てたら解るわよ。
この推測が外れならアカデミー賞ものね」

「ねえ、世良君。あれは末恐ろしいと言うべきなのかな?」

「まあ、知ろうともない馬鹿野郎よりは遥かにマシじゃないのかな?」

ちょっとした確認の後に自校の控室を出ていた路留が、
真純と言葉を交わして二人で苦笑する。
94 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/01/24(月) 19:40:40.54 ID:IA38rMJE0

ーーーーーーーー

「なあ、気が付いたか?」

犯行現場である控室にするりと移動していたコナンが、
隣を歩く哀に声を掛ける。

「ええ」

二人がさり気なく視線を向けた先には、床に荷物が置かれていた。

「ザックが二つ、その上にジャケットが掛けられてる。
被害者の顔の痕跡とあのジャケットの痕跡から言って、
被害者渡辺瑠果は意識を失った状態であの上に寝かされていた」

「それも、恐らく上半身をあのザックの上に乗せてね」

「ああー、彼女の顔には、血と唾液が真っ直ぐ横向きに流れた痕跡があった。
そして、ジャケットにも丁度それに合いそうな痕跡がな。
彼女は上半身をあの上に乗せて横向きに寝かされていた、
そう見るべきだろうな」

二つ並べられて、その上にジャケットが掛けられたザックを横目に
コナンと哀が言葉を交わす。
95 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/01/24(月) 19:44:17.25 ID:IA38rMJE0

「渡辺瑠果の供述を要約すると、作業服の男にスタンガンを当てられて、
脱力した所に薬を嗅がされて意識を失った。恐らくこの手順だろう。
だけど、これ自体簡単じゃない」

「そうね。意識だけを失う様な薬、
それも外部から投与するのは本来コントロールが難しい」

「ああー、外からの投与でさっさと意識を失って、
それで何時間もしない内に目が覚めて特別な後遺症も無い。
考えられるのは、適当に薬物を使ってたまたまそれで上手く行ったか、
そんなオーパーツじみて都合のいい薬物の持ち主を探すか、或いは」

「或いは、その面倒な条件を満たすだけの
薬物のコントロールに長けている人物。
そして、今回の切り裂き事件に関わるキャストには、
今の所脳卒中後の老人はいない」

哀が言い、哀とごにょごにょ話していたコナンは
瞬時に目から鋭さを消してぱっと駆け出した。

「わあー、大きなバッグ。これって救急箱なの?」

「ああ、ファーストエイドキットだよ」

床に置かれていたファーストエイドキットに駆け寄って叫ぶコナンに、
初士雅人医師が優しく言った。

「この様なものを持ち歩いているのですかな?」

雅人の背後から現れた目暮が尋ねる。

「ええ、普段は車に。
山に登る時等はコンパクトなものを使うのですが、
今回は車に積んでいた災害用のものを」

「用意がいいですなぁ」

「やはり、昔からの仕事柄ですかね。
出来る限り二重三重の用意で万一に備えるのが
習い性になっている様で」

小五郎の言葉に雅人が言った。
96 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/01/24(月) 19:45:47.71 ID:IA38rMJE0

「えーと、メスとかも入ってるとか」

雅人の言葉に、園子が言う。

「ああ、入ってるよ。
免許と技能とメスがあれば何かあった時の選択肢が大幅に広がるからね。
だけど、使用前には梱包封印されている使い捨てメスだし、
この中のカード型万能ナイフを含めて任意提出には応じますよ」

「では、後程お預かりしましょう」

キットの入ったバッグをぽんと叩く雅人の言葉に目暮が言った。

「先生は、ミチル姉ちゃんと一緒にここに来たの?」

「ああ、そうだよ。部活の現地集合で、
ミチルを送り届けて私も見物しようと思ってね」

コナンの問いに、雅人が答えた。

「だったら、運が良かったのかな。お医者さんがすぐ来てくれたから」

「ミチルからここで怪我人が出たって報せて来たからね」

「でも、あなた電話に出なかったわよね」

コナンの言葉に応じた雅人に、哀が言った。
97 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/01/24(月) 19:48:57.26 ID:IA38rMJE0

「彼女、少し苛々してメール打ってたわよ」

「ああ、車にスマホを忘れてね。
車に戻ったら丁度電話が切れた所だったね」

哀の言葉に雅人が答えた。

「つまり、先生がお嬢さんと分かれて車に戻るまでの間に
お嬢さんは事件に遭遇した、そういう事になりますか」

「ええ。私は娘と別れてから
少し辺りを散策したり売店に寄ったりはしていましたけどね。
気付いてすぐに取りに戻らなかったのは、今思えば不覚でした。
休みで時間もあったので気が緩んでいましたね」

目暮の問いに雅人が答えた。

==============================

今回はここまでです>>91-1000

続きは折を見て。
98 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/01/27(木) 19:24:49.40 ID:Qu6pCdOS0
念のため生存報告しときます
99 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/02/26(土) 01:25:22.73 ID:FyUjnOSx0
生存報告です
100 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/03/19(土) 22:48:35.12 ID:prufWT440
生存報告です
101 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/03/31(木) 23:23:56.24 ID:OSQCXiry0
調整的生存報告です
102 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/04/28(木) 00:38:37.82 ID:rfYZAF9b0
生存報告です
103 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/05/06(金) 19:11:03.71 ID:cggI0odA0
調整的生存報告です
104 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/05/29(日) 00:37:11.50 ID:CaaFuz7t0
生存報告です
105 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/06/28(火) 02:21:47.19 ID:Hw4caRY90
生存報告です
106 :探竜唱 ◆Eoymg2mZ2w [saga]:2022/07/08(金) 02:37:02.86 ID:h31v0oL20

まずは忘れられるレベルの進行遅れ、只々お詫び申し上げます。

………ええと、公式から追加情報とかあった?
最近、って言っても結構前からネットで見かける設定関連情報に
割と血の気引いてるんですけど(汗

取り敢えず、竜そば側に関しては、小説と設定資料、
映画の記憶から起こしたプロットの大筋は変更せずに
このままなる様になるで突き進みます。見落としあったらすいません。

と、言ってる側から訂正です。

>>93
×この推測が外れならアカデミー賞ものね

○この推測が外れならマカデミー賞ものね

………引っ掛かってはいたんですけど、
原作中の通説度を見誤りました。参列の上訂正します。
自分で書いておいてのニワカっぷりが嫌になる。

個人的に色々ドツボにはまってる間に
地上波放送カウントダウン時期だし。

前置き長くなりましたが、
それでは今回の投下、入ります。
107 :探竜唱 ◆Eoymg2mZ2w [saga]:2022/07/08(金) 02:38:49.82 ID:h31v0oL20

==============================

>>97

「分かりましたぞ警部殿!」

その自信満々の声に、コナンはぎょっとして振り返った。

「本当かね毛利君っ!?」

果たして目暮警部がこの様に反応した相手は、
世間では名探偵で通っている毛利小五郎その人だった。

「ええ。発見された凶器、あれが私を導いてくれました」

「パラシュート用ナイフが?」

そう言った世良真純に小五郎がちらと視線を向け、小さく頷く。

「しかし、あのナイフが軍用ナイフとしては小さなものだと言っても、
それにしても被害者の傷が小さ過ぎる、浅過ぎる」」

「それは確かに、私も気になってはいました」

小五郎の言葉に、佐藤美和子警部補も顎を摘まんで同意する。

「一理あるわね」

コナンがスマホで撮影した傷口を確認し、
その背後で哀が呟く。

「それに、出血の量も少ない。流れっぱなしだったとは思えない。
パニックになった時に傷口が開いた、ってのが妥当か」

コナンが小声で言った。

「じゃあ、別に凶器があると?」

「いえ、凶器はあのナイフでしょう」

目暮の問いに小五郎が応じる。
108 :探竜唱 ◆Eoymg2mZ2w [saga]:2022/07/08(金) 02:40:11.05 ID:h31v0oL20

「そして、敢えて凶器をあの場に残した。
それは何故か? 本当の凶器をあの場に残す事で、
別の凶器の可能性を想像させない為です」

「よく分からんが」

「別の凶器、あの傷口を作るのにもっと適した凶器ですよ警部殿」

小五郎と目暮のやり取りをじっと聞いていたコナンが、
脇腹への肘打ちを受けて哀の方を見る。

(い゛っ………)

そして、くいっと哀が向けた視線の先を見て、
コナンは心の中で乾いた呻き声を上げる。
そちらでは、目を細めて小五郎を見る初士路留が
微かに剣呑な雰囲気を漂わせていた。

「初士先生、あなたはスマホを車に忘れた、と言いましたな?」

「ええ」

「お嬢さんと別れた後、散策して売店に立ち寄ってから車に戻り、
そこでお嬢さんからのメールに気付いたと」

「ええ、そうです」

「スマホを持ち歩くと、位置情報セルやGPS機能で
後で行う説明とは違う居場所の記録が残る恐れがある。
かと言って、犯行時刻だけ電源を切っていればあからさまに怪しい。
電池切れ等を装って切りっ放しにする、
と言うのも万一を考えて出来ない性格なのでしょうな。
だから、その時だけ車にスマホを置いておいた。
現場で爆竹を鳴らせば早期に通報が為されて救急車が来る。
あなたはそれに合わせて動く予定だった、が、ここで予想外の事が起きた」

「ミチル君が蘭君との予定外の待ち合わせで住民センターに留まっていた事、
そのために事件を知ってこの人に直接連絡を入れた事か」

「そう」

真純の言葉を、小五郎が肯定した。
109 :探竜唱 ◆Eoymg2mZ2w [saga]:2022/07/08(金) 02:41:34.40 ID:h31v0oL20

「だから、あなたは電話に出る事が出来ず、
メールを見て急遽ファーストエイドキットを持って現場に急行した。
長い間スマホを放置していたとなると、それだけで不審を買いますからな」

「成程」

小五郎の言葉に、初士雅人が一つ頷いた。

「つまり、あなたは私が代理ミュンヒハウゼン症候群を患っている、
そう仰りたいのですかな?」

「ん? 代理………」

「代理ミュンヒハウゼン症候群」

雅人の言葉に小五郎が聞き返す寸前に哀が口を挟んだ。

「通常は児童虐待の一種として使われる言葉ね。
親が子どもを傷つけながら傷つけた子どもを甲斐甲斐しく看病する、
入院中の子どもの点滴に異物を入れたりしたりね。
そういう精神疾患、って、この間テレビで観たわ」

「って、じゃあまさか治療する為に。って事?」

鈴木園子が引き攣った声で尋ねる。

「そういう精神疾患、或いは、被害者がベルに近しいと
知っていたのならば売名、売り込みと言う線もあり得ますな」

「成程」

それは、雰囲気だけで言えば、驚く程似通った声だった。
110 :探竜唱 ◆Eoymg2mZ2w [saga]:2022/07/08(金) 02:43:04.47 ID:h31v0oL20

「Ms.Watson。この場合、僕はどんな顔をすればいいのかな?
普通だったら怒ると思うんだけど」

「それで正解じゃない?
流石にこの状況で笑えるアドバイスをする度胸は私にはないわね」

「OK、じゃあこれは僕の意思だ。
不条理もここまで来ると漫画染みて笑わずにはいられない」

哀の返答を聞いた路留が軽く肩を竦めて口角を上げた。

「お立合い」

ぱんっ、と、柏手を打った路留が、それと共に伏せていた顔から
すうっと上目で小五郎を見る。

「ちょっと、どうするのよこれ?」

「どうにもなんねーよ」

哀とコナンが、焦りに満ちた小声で言葉を交わす。

「麻酔銃も誘導も、おっちゃんや蘭や園子ならまだしも
これでミチルにバレるなとか無理だ。
大体、眠らせてもまだ喋る中身が決まってねーし。
最悪、ミチルには土下座で秘密を守ってもらうから
その時はオメーも覚悟決めてくれ」

「あ゛ー、冗談じゃないわね」

コナンと哀がごそごそ囁き合っている間にも事態は進む。

「さて、問題は犯人が何処からこの建物を脱出したかだ」

言いながら、路留はスマホを操作する。

「この建物は、北側に裏山に繋がる林、南側に正面玄関がある。
そして、このフロアはエレベーターホールを出たら廊下、
一本の廊下の北側と南側に部屋が並んでいる作りだ。
この部屋があるのは南側だね」

路留が、この周辺を表示した地図サイトを示して言った。
111 :探竜唱 ◆Eoymg2mZ2w [saga]:2022/07/08(金) 02:46:03.06 ID:h31v0oL20

「まず、最もポピュラーなルートは階段かエレベーターで一階に降りて
正面玄関から脱出するルートだけど、生憎僕は父を見ていない」

「確かに、大まかな時間を考えても、そのルートだと
ミチル君と犯人は玄関周辺で遭遇していた筈だ」

路留の言葉に真純が続けた。

「窓から脱出するとする。
玄関のある南側からの脱出は目立ち過ぎて非現実的。
北側ではどうか? タイムオーバーだ」

路留が、地図の建物周辺を指でなぞりながら言った。

「窓から脱出して建物の南側に回って道沿いにある駐車場まで走る。
それから車からキットを出してここに戻って来る、
なんて事は時間的にまず不可能だ。
あの爆竹に時限発火装置を使った形跡は無い。
蝋燭だとしても、あの量では保って五分って所かな、
毎日仏壇で見てるからね。
本人や身内の証言が当てにならないと言うなら、
警視庁ご自慢のSSBCに問い合わせてみればいい」

「キックオフ?」

哀の呟きを聞きながらコナンが見ると、
確かに路留は手の甲に乗せるコイントスをしていた。

「これだけの建物、公共施設だ。
玄関と駐車場、それらの出入りが何時にどうだったか
程度の事は簡単に分かるだろう。
僕達の証言が嘘だとしたら、
映像一つで覆るんだから随分と分の悪い賭けだ」

路留が、自分の手の甲を掴みながら小五郎にずいっと迫る。

「言っておくが僕も父もここには土地勘がある。
父は業界の研修会で時々ここに来てると聞いているし、
僕も行楽がてらそれに付き合ったり、今日の為に下見に来た事もあるからね。
冷静であれば、嘘であんな証言をすればすぐバレると考える。
そんな場所だねこの辺りは。
映像が出るか出ないか白か黒か表か裏かお立合いだ」
112 :探竜唱 ◆Eoymg2mZ2w [saga]:2022/07/08(金) 02:48:05.60 ID:h31v0oL20

「毛利君」

路留に迫られ、目暮に声を掛けられた小五郎は
不敵に口角を動かした。

「石焼き芋ですよ警部殿」

小五郎の言葉を聞き、コナンの目に鋭さが走る。

「石と焼肉、これが時限発火装置だったんです。
焼いた石は長時間高い熱を保ち続ける。そこに肉片を当てておく事で、
時間が経てば熱せられた肉が燃え上がり導火線に着火する。
その間に逃走したと言う訳ですな」

「成程」

小五郎の言葉に応じたのは路留だった。

「そのやり方だと、サシが多過ぎるとすぐに着火する、
赤身肉だけだと焦げるだけで火が回らない。
短時間のアリバイ工作に使う時限装置である以上、
相当の精度か求められる筈だけど?」

「脂身を焼いてすぐに発火して爆竹が破裂したら
逃走前に人を呼び寄せる事になるわね。
燃え難い赤身の肉を駄目元で仕掛けてみた、って事も考えられるけど………」

路留の言葉に、美和子が一応の可能性を示す。

「現実にこの部屋で爆竹は鳴ってる、それは確かだ」

「だったら、あの焼肉を時限装置と見るのは厳しいわね」

路留の言葉に続いたのは哀だった。

「あれ、焼肉は焼肉でもレバーよ」

「おいおい本当かよ?」

哀の言葉に小五郎が言った。
113 :探竜唱 ◆Eoymg2mZ2w [saga]:2022/07/08(金) 02:49:39.21 ID:h31v0oL20

「警察で詳しく調べるんでしょうけど可能性は高いわね。
焼けてはいたけど、
精肉や他のモツ肉にしては全体に緻密過ぎて見えた」

「そっか、焼肉でもお肉だと燃え上がる事もあるけど………」

哀の言葉に、蘭が思慮して口を挟む。

「そう、幾ら牛脂の融点が高いって言っても、
燃える様に脂を加えて焼石に付けたりしたら
何分もかからずに発火するでしょうし、
レバーを炙り続けても焦げるだけでそうそう発火するものじゃない、
あり得るにしても今回だと時間が短か過ぎる。
BBQパーティー大好き中高年の
脂質糖質管理してるからその辺の目は利く心算よ」

「ううむ………」

哀が理路整然と言い、小五郎は軽く唸って僅かに右足を引いていた。

「確かに、この場面に焼肉はおかし過ぎますな。
これは一度カンファレンスに掛けて何の問題があるか、
裏か表か数学的な可能性を潰して見るには値する、
そういう事ですかな、毛利さん」

「そういう事ですな」

当の本人、初士雅人の助け船に、
小五郎は堂々と搭乗して見せた。

「だ、そうだ」

そう言った路留にすうっと横目を向けられ、蘭が僅かに身を縮める。

「他でもない父の事となると、僕の心の広さも少々、ね」

「ホントごめん」

腕組みして蘭に接近していた路留に、蘭が小さく頭を下げる。
114 :探竜唱 ◆Eoymg2mZ2w [saga]:2022/07/08(金) 02:51:31.62 ID:h31v0oL20

「この手の捜査は百も千も無駄の積み重ね、
先に確実に無駄である事を証明しておく必要がある。
そういうものらしいから、
父がそれでいいと言うなら僕も収めるけどね」

「おじさま結構こんな感じで
最終的にはばばんって犯人見つけちゃう感じだから。
でも、私からも謝っておくわ」

「分かったよ。
誰の為にも、精々早めにゴールして欲しいものだね」

間に入った園子が頭を下げ。路留が頷いて返答した。

==============================

今回はここまでです>>106-1000

続きは折を見て。
115 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/08/06(土) 01:29:58.26 ID:6y0KVm0J0
生存報告です
116 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/08/29(月) 23:58:01.87 ID:vpj0uWeA0
生存報告です
117 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/09/23(金) 02:24:18.28 ID:k+XYCU8+0
間が開いてすいません。
それでは今回の投下、入ります。

>>114

==============================

「まだ何かありますか?」

自分のスマホを取り出していた路留が目暮に尋ねる。

「学校関係でこれからの事をミーティングするので
用事が無ければそちらに行きたいんですけど」

「ああ、構わんよ。
初士先生も、お二人の協力に感謝します」

「それでは」

目暮の言葉に雅人が応じ、
その後ろで路留も頭を下げて初士父娘がその場を離れた。
その一方で、美和子がポリスモードの電話を受け、目暮に耳打ちする。

「どうやら、逃走経路が固まって来た様だ」

「只、少し妙なものも見つかっているみたいね」

目暮の言葉に美和子が続いた。
118 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/09/23(金) 02:29:19.22 ID:k+XYCU8+0

ーーーーーーーー

「何か、焦げ臭くない?」

「ああ、北側の林で焚火が見つかってな。
現在事件との関連を調べている所だ」

行き掛りでついて来た鈴木園子と目暮が言葉を交わしていたのは、
事件現場となった研修室から廊下を移動した先、
北側にある展望研修室だった。
その部屋は、学習、研修様の机椅子他の一式に、
引き戸式の窓とその外のベランダが特徴だった。

「あの窓から逃げた、って事か」

その、途中まで開いた窓を見て世良真純が言う。

「それで、妙なものと言うのは?」

「これだよ」

小五郎の言葉に、鑑識員と言葉を交わしていた目暮が
密封式のビニール袋を見せる。

「粘土?」

「ああ、こんな粘土の団子が室内から幾つも発見されたらしい」

目暮が言い、その視線の先を見ると、
確かに似た様な団子よりやや大きめの粘土玉の入ったビニール袋が
幾つも並んでいた。

「これは、何処で見つかったのですか?」

「それが、ドアや窓、戸棚、
その扉と壁の隙間に押し付けられた状態で張り付けられていました」

小五郎の問いに美和子が応じる。
119 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/09/23(金) 02:33:43.43 ID:k+XYCU8+0

「ドアの隙間にも張ってあったの?」

「ああ、ドアを開けた時に千切れたんだろうね。
それまでは張り付いてた可能性が高いね」

ドアに線で囲まれた痕跡を見つけたコナンが尋ね、
美和子が頷いて鑑識員が答えた。

「詰まり、この千切れたものは千切れた状態で発見されて、
それも含めて鑑識で剥がした、そういう事ですか?」

「ああ、開け閉めして確認する必要があったからね。
撮影の上でなるべく綺麗に剥がしたんだ」

ビニール袋を確認していた世良真純の問いに鑑識員が言った。

「おやぁー?」

真純がさり気なくその場を離れ、
代わって粘土の団子を確認していた小五郎が声を挙げる。

「何か、埋まってますなぁ。
表から見える様に光るものが」

「ホントだ」

父親の言葉に、近づいた毛利蘭も同意した。

「全部に埋め込まれてるみたい。
これって、何だろ? 何て言うか………」

園子が喉迄出かかってる表情で首を傾げる。

「ビーズ、かなぁ、透明な」

「形はそうかもだけど、大きくない?」

蘭と園子が模索する様に言い、蘭がさっと斜めに退いた。
120 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/09/23(金) 02:40:52.88 ID:k+XYCU8+0

「哀ちゃんっ?」

近くの椅子を引き寄せ、飛び乗る様にして
机の上を確認する哀の行動に蘭が声を上げ園子と共に目を見張った。

「ベル………竜?」

「これもベル関係なのか?」

哀を追ったコナンが言った。

「今までの流れから言ってそれも考えるべきね。
ベル関連、それも竜の事を」

自分も椅子を用意するコナンの横で哀が言う。

「なんだよリュウってなぁ」
「これです」

口を挟む小五郎に、千葉が自分のスマホを示した。

==============================

今回はここまでです>>117-1000

続きは折を見て。
121 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/09/24(土) 02:56:41.93 ID:7ZmgYore0
それでは今回の投下、入ります。

>>120

==============================

「モンスター?」

「これも、その『U』の、
人間と連動しているアニメのキャラクターなのかね?」

「はい」

小五郎と目暮の言葉に、
スマホに獰猛な怪物じみたキャラクターを表示していた千葉が応じた。

「『竜』、ドラゴンの竜。『U』の中では知られた道場荒らしです。
武術系の試合等に現れては、極悪過ぎるファイティングスタイルで
相手のAsのデータが
使用不能に破損する程の攻撃を加える暴力的なユーザーでした」

「そして、ベルのコンサートを妨害した」

「ほう」

哀の補足、と言うか本筋の言葉に目暮の口調が変わる。

「悪質ユーザーとして認知されていた竜は、
『U』に於ける自警団として活動していたグループ『ジャスティス』
の追跡を受けていました」

千葉が、説明しながらジャスティスの画像をスマホに表示する。

「その、ジャスティスに追われた竜が逃げ込んだ先がベルのライブ会場、
それも、初の大規模ライブのね」

「んー、ちょっと待って………」

哀の言葉を聞き、園子が額に指を当てて唸る。
122 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/09/24(土) 02:58:45.55 ID:7ZmgYore0

「あの、竜に台無しにされたライブよね」

「そうよ」

「分かった! あの時のベルの衣装っ!!」

園子が叫び、千葉が操作したスマホを高木と美和子が覗き込んだ。

「ビーズドレス」

美和子が呟く。

「あのライブで着てたビーズドレス。かなり印象的なものだけど、
粘土に埋め込まれた、多分レプリカね。
ドレスのパーツと色も形状もよく似てる。
この状況だとその意図を考える方が自然じゃないかしら」

哀が言った。

「と、すると、すぐに関わるのは竜か?」

「私なら、どちらかと言われたらジャスティスの方を追う」

目暮の言葉に、哀が続いた。

「たまたま追跡されてライブを妨害しただけ、だからかね?」

目暮が尋ねる。

「に、してもあれはやり過ぎ、
ライブ会場で鉄骨振り回して大立ち回りだもの。
そのために、『U』の中では
歌姫ベルの大規模ライブを滅茶苦茶にした悪質ユーザーとして、
竜の悪評は決定的なものになった」

「一時期は凄かったからねぇ、
あれのせいで竜、『U』の全部からお尋ね者扱いで」

哀の言葉に園子が続いた。
123 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/09/24(土) 03:01:16.77 ID:7ZmgYore0

「只、その事に就いてベル自身がどう思っていたか、
元々が歌以外で表に出ないタイプだからその辺は分からない。
そして、ベルへの怨恨ならむしろジャスティスの方にあるの」

「千葉君?」

「ええ」

哀の言葉に、美和子が促して千葉が応じる。

「元々、『U』は運営によるユーザーに対する直接的な規制が緩い所で、
その代わりの様に、ジャスティスが企業スポンサーの支援を得て
自警団としての権勢を奮っていました。
そのジャスティスのリーダーである
ジャスティンが保有していた最大の武器がアンベイルでした」

「アンベイル、さっきもそんな言葉を聞いたな」

千葉の説明に目暮が言う。

「はい。アンベイルと言うのは、
『U』の中でオリジンからAsへの変換を無効にする、
詰まり、『U』の中でその光を浴びるとAsから
元の人間の姿に戻ってしまう。そんな装置です。
ジャスティンはどういう訳かそんな装置を装着して
悪質ユーザーを取り締まる自警団活動を行っていました」

「じゃあ、竜もそのアンベイルをされたのかね?」

「いえ、アンベイルされたのはベルです」

「何?」

千葉の返答に、質問をした目暮が戸惑いの声を出した。
124 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/09/24(土) 03:01:57.76 ID:7ZmgYore0

「状況から見て、どうもベルを張り込んで、
ベルの歌に誘われる竜を待ち伏せしていた様ですね。
ですが、ベルの方がジャスティンを捕まえて自らアンベイルされた。
当時の状況はそうでした」

「自ら、って、ベルは自分からオリジン、元の姿を公表したと言うの?」

「あの時の事は大混雑の大混乱で情報が錯綜していますが、
それで合っている筈です」

美和子の問いに千葉が答える。

「それがどうして怨恨になるのかね?」

目暮が尋ねる。

「本来、ジャスティンのアンベイルは
『U』の中では非公表で活動している相手の姿を強制的に公開する、
それが脅しになると言う前提で行うもの。
だけど、ベルは何を思ったのか、
今までの話通りだと渡辺瑠果と同じ一介の高校生でありながら、
自らそれを受け容れて堂々と歌い上げた」

「ええ、結果として圧倒的な、
『U』の中でも伝説的なコンサートになりました」

哀の言葉に千葉が補足した。
125 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2022/09/24(土) 03:03:10.98 ID:7ZmgYore0

「逆に、その様なユーザーを巻き込みながら、
例え悪質ユーザーであっても、自警団の判断で
相手に無断でネット社会にプライバシーを公開する独善的な言動。
その対比が余りにも鮮やか過ぎて、ジャスティンの権力の源泉だった
スポンサーが一斉にジャスティンから撤退したのよ」

「面子を潰された、ってぇ事か。金だって馬鹿にならねぇ」

哀が説明し、小五郎の言葉に頷いた。

「ふうむ。ベルの、それも妨害されたライブに繋がるメッセージ、
と、なると、竜とジャスティス、両方の線を当たる必要があるな」

「竜、ジャスティン、或いはその過激な信奉者やアンチ」

「例のベル担当ともその辺りの事を詰めてくれ」

「分かりました」

目暮と千葉がやり取りをして指示を確認した。

==============================

今回はここまでです>>121-1000

続きは折を見て。
126 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/09/28(水) 00:31:42.92 ID:ZcOuCRX00
調整的生存報告です
127 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/10/22(土) 02:17:29.65 ID:NMZx0fOJ0
生存報告です
128 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/11/12(土) 23:21:16.72 ID:TN+3XaGb0
生存報告です
129 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2022/12/09(金) 02:22:19.26 ID:nhtyELtn0
生存報告です
130 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/01/05(木) 02:24:21.75 ID:n3q3QwQD0
生存報告です
131 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/02/04(土) 20:07:40.81 ID:jI0W/ewr0
生存報告です
132 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/03/03(金) 01:09:31.85 ID:YJ6V6AnZ0
生存報告です
133 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/04/01(土) 21:17:26.69 ID:3bL1AtgJ0
生存報告です
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/04/12(水) 23:22:41.79 ID:wbp6i9BI0
135 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/04/30(日) 03:04:06.80 ID:rGcO9hpq0
生存報告です
136 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/05/29(月) 02:27:52.25 ID:HsuT/W4w0
生存報告です
137 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/06/13(火) 01:51:44.14 ID:4OaJuCH10
生存報告しときます
138 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/07/10(月) 02:29:43.07 ID:T0dMNvnp0
生存報告です
139 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/08/08(火) 02:36:01.68 ID:c8Sz81gr0
生存報告です
140 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/09/07(木) 20:01:21.68 ID:EWYncz1E0
生存報告です
141 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/10/06(金) 01:31:53.01 ID:KzRnoKR90
生存報告です
142 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/11/04(土) 03:34:53.21 ID:Y4m0RoK40
生存報告です
143 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/12/03(日) 02:00:26.46 ID:v4ErjX0h0
生存報告です
144 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2023/12/25(月) 01:51:56.62 ID:kQptvkss0
生存報告です
145 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/01/24(水) 03:23:28.87 ID:V8BfDPVO0
生存報告です
146 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/02/23(金) 02:38:14.52 ID:PQ+iUXK70
生存報告です
147 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/03/21(木) 20:11:46.90 ID:AIQx1/mU0
生存報告です
148 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/04/19(金) 01:30:14.19 ID:qG0MV/ra0
生存報告です
149 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/05/17(金) 02:09:20.59 ID:UreFUhzj0
生存報告です
150 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/06/14(金) 23:59:45.26 ID:nmFw1VJ50
生存報告です
151 :探竜唱 ◆h5Q3At6mnQ [sage]:2024/07/11(木) 02:52:45.79 ID:xJ99ahSB0
生存報告です
152 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/08/08(木) 01:52:08.90 ID:ftN8msYz0
生存報告です
153 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/09/06(金) 21:39:38.49 ID:SPNgdS4g0
生存報告です
154 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/10/05(土) 03:55:56.97 ID:mxqqGFVR0
生存報告です
155 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/11/03(日) 13:56:48.74 ID:/O5qT6vA0
生存報告です
156 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/11/29(金) 02:03:59.69 ID:cTRuizgo0
生存報告です
157 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2024/12/28(土) 01:58:51.90 ID:bRdDir/h0
生存報告です
158 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2025/01/27(月) 02:47:58.16 ID:8Ox9qwwU0
生存報告です
159 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2025/02/25(火) 02:28:38.38 ID:qqUwJPok0
生存報告です
160 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2025/03/23(日) 19:54:22.97 ID:SlHCxwHE0
生存報告です
161 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2025/03/30(日) 02:07:53.28 ID:Wdcced8o0
生存報告です
162 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/03(木) 19:27:42.49 ID:/+5vj4Ud0

無言土下座

連載再開します。

大まかな話になりますが、本作は映画「竜とそばかすの姫」
の公開時期(2021年7月16日)頃の元ネタの状況を基準に作られています。
(ブレが出そうではありますが)

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>125

ーーーーーーーー

「あの、ちょっと外見ていいですか?」

そう発言したのは、北側のベランダに繋がるガラスの引き戸の前で
右手親指で自分の顎を押しながらじっと考え込んでいた世良真純だった。

「ああ、いいよ」

視線を向けられた鑑識係員が返答する。
真純はガラス戸に手を伸ばし、一拍置いてからガラス戸を開いてベランダに出る。
コナンが真純の後を追い、二人でベランダから周辺を見回した。

「何か解った?」

「んー」

園子の問いに、真純は曖昧に呻く。そして、戸を動かした。

「このガラス戸はこの位置にあったんですか?」

「そうだね」

真純の問いに鑑識係員が答えた。
163 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/03(木) 19:29:27.22 ID:/+5vj4Ud0

「開いてた、って事?」

中途半端に開いたガラス戸を見て園子が言う。
園子の問いに答える前に、真純はまずコナンにごにょごにょ話しかける。
次に、灰原哀は真純の手招きを受けてちょっと嫌そうな顔をしたが、
コナンに目で促されて真純からの耳打ちを受ける。

「ちょっといいかな?」

真純が園子と蘭が並んでいる方向に言葉を発した。

「二人共、上着を脱いで順番に外に出て貰える?
なるべく戸を動かさない様に。先ず園子君から」

「解った」

真純の言葉に、園子がガラス戸に近づいた。

「なるべく動かさない、ちょっと待って」

園子は色々角度を変えながら、最終的に蟹歩きの形でベランダに出た。
真純の視線の先で、スマホを持ったコナンが親指で丸を作り
同じくスマホを手にした哀が頷く。

「OK、普通に戻って来て」

真純が言い、園子がベランダから室内に戻る。

「じゃあ、次に蘭君」

ガラス戸を調整していた真純が言い、入れ違う様に蘭がガラス戸に近づいた。

「こう、かな」

「うん、なるべく戸を動かさない様に、なるべくね。外に出るのを優先で」

真純の指示を受けながら、
蘭が蟹歩きをして無理矢理な加減でベランダへと移動する。
164 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/03(木) 19:31:06.95 ID:/+5vj4Ud0

「はい、OK。じゃあ高木刑事と千葉刑事もお願い出来るかな」

「「僕が?」」

ガラス戸を直しながら言う真純に高木と千葉が自分を指さして問い返すが、
それでも、これまで同様の実験は順調に進められた。

「はい、OK」

高木に続いて千葉がベランダに出て、真純がOKを出す。

「何をやりたいのか、大体見当はつくけど」

「うん」

佐藤美和子の言葉に真純が頷き、ガラス戸に近づいた。

「犯人の脱出路はこのベランダの可能性が高いだろうね。
時間的に見ても立地条件から見ても、
ここで細工をしてわざわざ別の場所から出たと言うのは考え難い。
見た感じ、ベランダから下に降りる事も多少の心得があれば十分可能だ。
そして、このガラス戸は犯人が脱出した後、
こうして開いた状態で発見された、そうですね?」

「ああ、そうだね」

真純の言葉に鑑識係員が応じる。

「問題は、例のビーズを埋め込まれた粘土細工だ。
今は目印になってるけど、粘土はガラス戸の上側や下側と、
窓枠のレール近くを跨ぐ様にべったりと幾つも押し付けられていた。
そして、それらの粘土細工は、外からは外せない位置に貼り付けられていた」

「あん?するってぇと」

「詰まり、このガラス戸は犯人が粘土を張り付けて以降動いていない。
動いていないガラス戸から脱出した、そういう事ね」

「そういう事」

小五郎が頭を捻っている側で美和子が言い、真純が返答した。
165 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/03(木) 19:32:22.79 ID:/+5vj4Ud0

「確認しますが、
発見された時粘土は千切れたりしないで無傷だったんですよね?」

「ああ、我々が写真を撮影してガラス戸を開くまで綺麗なまま張り付いてた」

「OK。じゃあ、次にこれを見て下さい」

真純が促し、コナンと哀がスマホに撮影した動画を表示し始めた。

「じゃあ、同時進行するわよ」

哀が言い、哀のスマホにガラス戸をくぐろうとする面々の全体映像、
コナンのスマホに、
ガラス戸の下側につけられた粘土跡の目印の接写の動画が表示される。

「あ、動いた」

コナンのスマホを覗き込んだ園子が言った。

「じゃあもう一度、音で状況は解るよね」

真純がそう言って、コナンが動画を巻き戻す。

「見ての通り、上下の目印をずらさずにベランダに出られたのは
園子君と高木刑事、蘭君と千葉刑事は無理だった。
もう一度言うけど、このポイントに貼り付けられた粘土は
外からは貼り付ける事は出来ない状態だった」

「詰まり、犯人はこの隙間から向こうに行く事が出来る者。
体形、体格が限定されると言う事か」

「蘭が無理ならミチル君はもっと無理か」

「そういう事になるね」

コナンが顎を摘まむ様にして考え込んでいる側で、
目暮警部と園子の言葉を真純が肯定した。
166 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/03(木) 19:34:00.88 ID:/+5vj4Ud0

ーーーーーーーー

「燃えてたのはここか」

コナン達の一行と目暮班の面々が住民センター北側の森の一角を訪れ、
小五郎が独り言ちる。

「今時これでゴミ焼きしてんのかよ?」

そういう小五郎の目の前には輪切りにした土管が立てられており、
それは黒く煤けてゴミ焼きを思わせる臭気も真新しかった。

「ええ、昔はゴミ焼きにも使われていたみたいですが、
随分前から放置されていたみたいですね。
権利関係がごたごたになって敢えて片付ける人もいなかった様です」

周辺で情報を収集していた高木が言った。

「ごく近い時間まで燃えてたみたいだね。
同一犯だとすると証拠隠滅?」

「詳しく調べてる所だけど、残留物から見てもその線は強そうだね」

真純の言葉に高木が答えた。
そのやり取りを真純の背後から見ていたコナンは、改めて後ろを見る。
背後、詰まり、南側には住民センターがある。
確かに、建物の北側に当たるガラス戸からベランダに出て、
そこから下に降りて森に、ここで証拠を隠滅して立ち去る。
正面玄関のある、人通りの多い南側から出入りするよりは安全だろう。
建物の外側を回ってさり気なく南側に移動する事も
ずっと北側に抜ける事も出来そうだと見当を付ける。
167 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/03(木) 19:36:01.77 ID:/+5vj4Ud0

ーーーーーーーー

「んー」

大会終了後、初士路留は学ランの上着を左肩に引っ掛け、
川沿いに広がる公園の散歩道を歩いていた。
本来友人と共に行動したかったのだが、
応援が終わるのを待っていたらしい所轄署の刑事に声を掛けられ、
詰所の一つで少しばかり追加の事情聴取を受けてから
一人で集合場所に向かっている所だった。

「よう、姉御」

「あ、どうも」

そんな路留は、一つ伸びをした所で
正面から現れた顔見知りのOBに声を掛けられ、
一度首を鳴らしてから小さく頭を下げる。

「そこで毛利探偵に会ったよ、なんか、大変だったらしいな」

「そうですか。ちょっと傷害事件に巻き込まれまして。
第一発見者ってだけなんですけど、
応援に来てる時に警察から色々聞かれるのは少し疲れました」

言いながら、路留は無意識にとんとん左肩を叩く。

「だよなぁ。まあ、それでアネさんに何かあった訳じゃなくて良かったよ。
応援良かったよ、相変わらず凛々しくて」

「有難うございます」

学ランに袖を通していた路留が、掛けられた言葉に小さく頭を下げる。
168 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/03(木) 19:39:43.82 ID:/+5vj4Ud0

「じゃあ、後輩達にも国立目指して気合入ったトコ頼むぜ勝利の女神様」

「押っ忍」

路留は空手の自然体の構えで応じ、
親指を立てての相手の笑みに応じる様に人懐っこい笑みを見せた。
二人は知らなかった。
程近い所の木立の根本近くで、全身にドス黒いタイツが張り付いたかの如き
瘴気溢れるダークオーラに満ちた雰囲気の只中で
カッ、と、血走った目を見開きその視線を向けている者がいる事に。

==============================

今回はここまでです>>162-1000

続きは折を見て。
169 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/12(土) 02:43:25.34 ID:czXWw4F90
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>168

ーーーーーーーー

「はぁい」

川沿いの散歩道で、
街路樹に背を預け帽子を斜に被ったイケメンに声を掛けられた、
そう思った二人のチアリーダーが、
手に手を取ってきゃっと飛び上がりそうになった。

「ボクは高校生探偵世良真純、幼馴染で同級生の工藤新一と………
ってのは冗談。ボクが高校生探偵で、工藤新一君とは、まあ、
同じ帝丹高校の友人って言うのは本当だけどね」

魅力的なスマイルと共に、真純がぽーっとなっている二人に接近する。

「そういう訳で、
今日そこの住民センターで起きた事件に就いて調べてるんだけど、
君達、港南高校のチアリーダーだよね?」

真純の問いに二人が頷く。二人は同じチアのコスチュームで、
一方がポニーテールのロングヘア、
もう一方がセミロングヘアをツインテールに結んでいた。

「ボク自身が事件の第一発見者なんだけど、
その時、そちらの学校の娘と一緒だったからね。
それで話を聞かせて貰おうと思ったんだけど」

「それってミチの事?」

ツインテールの娘が聞き返す。

「それはミチル君の事かい?」

そう言って、真純が微笑んだ。
170 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/12(土) 02:46:03.62 ID:czXWw4F90

ーーーーーーーー

かくして、二人のチアリーダーと真純は、
真純と共に近くに設置されていたオープンカフェ風のテーブル席に移動する。

「じゃあ、君達二卵性双生児なんだ?」

「そ、似てないって普通に言われるし。
名前も、安直とは言わないけど解り易いでしょ」

そう言ったのは、双菜と言うツインテールの娘だった。

「でも、動画を見せてもらったけど息はぴったり、鍛錬の賜物だね。
君達も、それにミチル君もね」

「でしょ」

「有難う」

ニカッと笑う双菜に続き、一実と言うポニーテールの娘が言う。
成程、ここまででも比較的賑やかな双菜に対して、
一実は姉を思わせる落ち着きがあり、
生まれの順と名前と性格が素直に繋がっている様にも見えた。

「そういう訳で、事件当時の関係者、正確には近辺で誰が何処にいたかって言う
タイムテーブルをなるべく正確に把握したいんだけど、
取り敢えず、初士路留君って今日の応援で君達と一緒だったで合ってる?」

真純の問いに、二人はこくりと頷く。

「それで、君達とミチル君は一度住民センターの控室に集合して
君達が着替えて先に会場に向かった。
着替えが遅れたミチル君は部屋の鍵を受付に持って行って
後から合流する予定だった。これでいい?」

「いい」

真純のまとめに双菜が答える。
171 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/12(土) 02:48:21.45 ID:czXWw4F90

「で、もしかして、
ミチル君って君達の学校でいわゆる王子様だったりする?」

「それで合ってる」

「格好いいから女子のファンも多いのは確かだけど」

真純の質問に双菜が笑みを含んで答え、一実がそれに続いた。

「彼女、身支度に時間がかかるって言ってたけど、
それってTシャツの下にサラシ巻いてるからかな?」

真純の問いに、二人は頷く。

「ここ何カ月かとかって小耳に挟んだんだけど」

「いや、それもっと前から。
そもそもミチ、小学の時の渾名が某サッカー漫画の応援団長だし。
って言うか、なんかの弾みで
そのコスプレで応援したのが大受けして今に至るって聞いたけど」

「うん。私達と応援始めたのは中学からだけど、
その時にはサラシ巻いて学ラン着てた」

双菜に続いて一実が言う。
172 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/12(土) 02:50:29.61 ID:czXWw4F90

「ずっと前から、か」

「そうだね。まあ、昔は何処の美少年ってスレンダーだったけど、
今はグラドルって言うか月曜日のって言うかAV?観た事ないけど」

「幻滅した?」

「まさか、おっぱいイケメンの溜息とか最高かよ」

「双菜。でも、それは本当。
言っとくけど前から御椀型でスタイルは良かったからね路留。
で、今年、学年変わってからだね。なんかもう鏡餅をパンケーキにする勢いで
脂汗流してぎゅうぎゅう締めてるから私達もそれやめなって言って」

「いやヒト姉ぇも言ってる事酷いから。
それで、インナーでなんとか出来るんじゃないって言ったんだけど、
様式美だとかなんとか意味不明な供述するからさ」

「だから、最近だと最初に私達が手伝って
無駄に動かない程度に締めてる感じ」

取り敢えず一実が話す現状に真純が小さく頷く。

「あの様子だと、仮に彼女が変装してその特徴を隠すなら、
一旦解いて隙間に挟んでるタオルを抜いて、
それでぺったんこになる特殊な下着でも装着してから、
それから又下着を脱いで元に戻すって事が必要になるかな?
もしくは全体的に何か詰め込んで肥満体に化けるか」

「あー、無理無理」

真純の言葉に双菜が手を振って否定する。
173 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/12(土) 03:36:20.06 ID:czXWw4F90

「うん、私も無理だと思う」

そう言って、一実がスマホを示す。
表示されたのはグループSNSだった。
一実が指した所には、

ごめん、ちょっとそっち行けなくなった

傷害事件に巻き込まれた。通りすがりだけど事情聴取は避けられない

大丈夫、僕が怪我した訳じゃないから

と言うメッセージが表示されている。

「これ打った時、路留一人でいたのかな?」

一実が問う。

「いや、これがリアルタイムならボクらと一緒にいたし、
時刻的にも実際に事件に遭遇してから発信してるね」

「まずあのサラシ巻きを一人で再現するのも難しいと思うけど、
私達が先に行ってから世良さん達に会う迄の間に
世良さんが言った事を実行するだけでもかなり無理、
その前のメールとかで私達が先に行った時間大体時間解るし。
ましてその間になんか事件を起こすとか」

「成程、確かにそれは無理そうだ。
それからもう一つ、彼女は君達に好かれてるみたいだね」

「勿論」

真純の言葉に双菜が即答した。
174 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/12(土) 03:37:54.44 ID:czXWw4F90

「いい娘だよ、路留は」

続いて答えたのは一実だった。

「頭が良くて気持ちが優しくて、ね。
事件の事調べるのはいいけど、
路留に妙な事をするならあなたは港南高校を敵に回す。
それは現実だって覚えておいた方がいいよ」

「分かったよ」

一実の言葉に、真純は肩を竦めるのを控えて真面目に答えた。
一実の隣では、お調子者に見える双菜も真面目な顔で真純を見ていた。

ーーーーーーーー

散歩道の街路樹に背中を預けていたコナンは、
ひゅっと放られた探偵バッジを右手で受け取った。

「なんか、参考になった?」

「取り敢えず、確実に潰せるラインを
一つ一つ抑える材料にはなった、って所かな?」

真純の問いにコナンが答える。

「確かに」

真純が口を開いた。

「女子同士の方が話し易い事ではあったかな。それは君の計画通りだ」

「まあね」
175 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/12(土) 03:39:06.68 ID:czXWw4F90

ーーーーーーーー

西多摩市内の救急病院観察室に、
渡辺瑠果と共に東京に来ていた高校吹奏楽部の面々が集まっていた。

「ルカちゃん、どう?」

その集団の中で先頭となった生徒が、
顔の絆創膏も生々しくベッドに座る渡辺瑠果に声を掛ける。

「うん、痕は残らないだろうって先生が」

「良かったぁ」

仲のいい友人から問われた瑠果の答えに、
声を掛けた女子生徒を初めとした吹奏楽部の面々が安堵を見せる。

「でもさぁ」

部員の一人が言う。

「警察って、全員に聞いてる形式的な質問とか本当に言うんだね」

「そうそう、階段の所であの学ランの娘と一緒じゃなかったら
ちょっとヤバかったかもね」

「え?」

「だってさぁ、控室でルカちゃんやられたんだよ。
東京で容疑者になりそうな知り合いとか当面私達しかいないじゃん」

「あー、なーる」

「でもさぁ、じゃあ、なんだったんだろうね」

「ねぇ」

最後の方は皆がごにょごにょ言い出した所で、
口を開いた瑠果に皆が注目する。
176 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/12(土) 03:41:06.01 ID:czXWw4F90

「この事で鈴ちゃんを責める事だけはやめて欲しいの。
それ、私がずつないき」

「分かってる」

ぴたりと止まって聞いていた部員の中から、
先頭にいた娘が真面目に頷いて答えた。

「憎いのは犯人、それだけだからね」

「有難う」

瑠果が言った所で、部員達は病院だから抑え気味に、
それでも隠せない慌ただしい気配を察する。

「ルカちゃん」

廊下からの声を聞いて、瑠果は両手の指で頬の絆創膏に触れ、
挙動不審に左右を見回す。
そして、正面の友人と目が合い、友人は小さく頷き瑠果も頷き返す。

「どうぞー」

その友人が応答し、観察室に千頭慎次郎が入室するのを潮に、
吹奏楽部の面々は静かに部屋から移動した。

ーーーーーーーー

コナンは、大会の会場近くから
再び控室等がある住民センターに向けて歩みを進める。

住民センターの北側は森になっており、
普通にセンターに入るならば道沿いに南側の玄関から入る事になるが、
センター北側程ではないにせよ、そちらに向かうルートも
半ば林の中の様な森林公園の散歩道がルートの多くを占めている。

実際にコナンのスマホにも蘭から報せが入っているが、
大会も終わりここ、事件の現場周辺に居座るには余り時間が無い。
それまでにすぱっと解決するには、未だ頭の中で組み立てるピースが足りない。
コナンは、一度頭をバリバリ掻いてから、ここまでの時系列、見聞きした事、
先程真純を通じて聞き出した情報を頭の中で整理し直す。
177 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/12(土) 03:42:27.07 ID:czXWw4F90

「………だとすると………」

「あの学ラン女よ」

低いが迫力のある声を聞き、コナンは顔を上げながらたじろぎそうになる。
そんなコナンの前方に、灰原哀が木陰からぬっと姿を現していた。

「灰原」

「あの学ラン女の、特に交友関係を徹底的に洗うべきね」

「ミチルのか?」

「第一発見者を疑うのはセオリーでしょう。
例え直接犯人じゃなくても何等かの関わりが出て来るかも知れないわ。
だから、あの学ラン女の交友関係人間関係を
徹底的に念入りに入念に洗い直して、
あのおっ学ラン女の周辺に不穏な人間関係が存在していないかどうかを
塵一つ逃さず徹底的に調べ尽くす必要があるわね」

江戸川コナンは、灰原哀とはそれなりに深い人間関係と言える間柄である。

哀はコナンの現在の身の上にも深く関わっている上に、
文字通り命懸けの修羅場その他、本来は高校生探偵であるコナンの
甚だしくドラマチックな場面を共にする機会も矢鱈多く、
それは、コナンにとっては、
体感として二十余年にも匹敵しようかと言う濃度を伴う
壮絶な人生経験を共にして来たと言う事だった。

そうした経緯を踏まえた所、まあ、平常運転の対応で大丈夫だろうと、
そう結論づける事が出来る程度には、江戸川コナンは
今の灰原哀の目の下の隈と三白眼が意味する所を理解していた。

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今回はここまでです>>169-1000

続きは折を見て。
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