ルパン三世「お前さんが飲んだ薬のことを聞きたい」灰原哀「どうして?」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/11/30(火) 23:43:27.84 ID:jcZ5XgkaO
『どうして決まった外見をしていなくちゃいけないんだ? いつも同じ人物でいるなんて、危険極まりないからね。手口を見れば僕だとわかる。それでいいじゃないか?』

ーアルセーヌ・ルパンー

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1638283407
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/11/30(火) 23:45:19.34 ID:jcZ5XgkaO
アルセーヌ・ルパン。

19世紀から20世紀初頭に暗躍した怪盗紳士。
100年前に消息を絶ち、以後、ルパンの犯行と思しき難解な盗難事件は起きていない。

しかしそれから数十年経った頃、彼の孫を自称する盗賊が現れた。全盛期のルパンを彷彿とさせる鮮やかな手口は確かに彼の血筋を感じさせ、誰が呼んだかルパン三世として世間に認知され、世界中で指名手配されている。

「わりぃな。ちぃっとばかしご同行願うぜ」

学校帰り、居候先の阿笠博士の家の前に、年代物の黄色いフィアットが停まっていて、運転席から降りてきた年齢不詳の猿顔の男は私にそう言って、愛嬌のある笑みを浮かべた。

「私になんの用?」
「へえ? この俺様を前にしてびびらねぇたぁ良い度胸じゃないの。これでもわりと有名人のつもりだったんだけんどもご存知ない?」
「まさか。天下の大泥棒が学校帰りの女子小学生になんの用かって聞いているのよ」

見た目は子供でも実年齢は18歳である私が生まれる前から世間を騒がす泥棒の顔はあらゆるメディアに取り上げられており、当然、目の前の男がルパン三世であることはわかっている。無論、変装の名人であるルパンのことだから良く見るこの顔も変装でしょうけど。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/11/30(火) 23:47:28.94 ID:jcZ5XgkaO
「ただの女子小学生には用はねぇんだ」
「あら、ロリコン疑惑はガセだったの?」
「うるせぇ。子供に好かれる性分なんだよ」

たしかに犯罪者の癖にルパンの子供人気は高い。例えるならば、犯罪行為を毎日生配信しているYouTuberみたいなものだろうか。

「その口ぶりは私の正体を知ってるの?」
「ああ。知った上で攫おうって魂胆よ」
「攫うだなんて、物騒ね」
「手荒な真似はさせないでくれよ?」

にじり寄るルパンから、距離を取る。
走れば博士の家に飛び込めるだろうか。
いや、相手はルパンだ。そう甘くない。

「博士の家に仲間が居るんでしょ?」
「勘の良いガキは嫌われるぜ。おーい、次元! もう出てきてもいいぜぇー!」
「なんだ。人質は必要なかったのか」

玄関の扉が内側から開き、目深に帽子を被った髭面の男が現れた。睡眠薬か何かで眠らされた阿笠博士の頭に拳銃を突きつけている。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/11/30(火) 23:49:10.94 ID:jcZ5XgkaO
「どうせ撃つ気はない癖に」
「一応、格好だけは付けとかなねぇとな」

悪党の流儀だろうか。私には理解不能だ。

「それで、どこに行くの?」
「お前さんが知る必要はないところさ」
「やっぱりロリコンなの?」
「くくっ……ルパン、言われてるぞ」
「何笑ってやがんださっさと運転しろい!」
「へいへい」

後部座席に私を乗せたルパンに怒鳴られた次元大介がアクセルを踏み込む。スキール音が響いて車が走り出す。そして私は攫われた。

「空港に向かってるの?」
「わざわざロビーには行かねぇけどな?」
「え?」
「ちょっと揺れるぜ、お嬢ちゃん」
「きゃあっ!?」

空港がある場所まで来たと思ったら、周囲を取り囲むフェンスを乗り越えて、滑走路に侵入した。丁度離陸しようとしていた飛行機に向かって疾走すると、後部ハッチが開き、そこから機内に車ごと乗り込む。無茶苦茶だ。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/11/30(火) 23:52:16.44 ID:jcZ5XgkaO
「もう降りていいぜ」
「いつもこうやって出国してるの?」
「思い立ったら吉日を実践しようと思ったら、手段に固執しちゃダメってこった」

よくわからない持論を述べるルパンのあとを追って、客室に入ると、絶世の美女が居た。

「待ってたわよ」
「峰、不二子……」

ルパン・ファミリーの紅一点。峰不二子と。

「やい五右衛門、てめぇだけ楽しやがって」
「女児を連れ去るのには関与せん」
「このガキは見た目は子供だけど18歳だっつーの! ほんと頭が硬いやつだな、おめえは」

けしからんとばかりにルパンを睨む長髪で和装の男は石川五右衛門だ。肌身離さず抱えているのは斬鉄剣だろう。ファミリー勢揃い。

「さて、本題といこうか」
「ここまで来たからには聞くしかないわね」
「けっ。事ここに及んでも落ち着いてやがんな。可愛げのないガキだぜ。まあ、いいさ」

そのほうが話が早いとばかりに単刀直入に。

「お前さんが飲んだ薬のことを聞きたい」
「どうして?」
「どうしてもだ」

話にならない。そもそも話すつもりはない。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/11/30(火) 23:53:36.91 ID:jcZ5XgkaO
すみません
思い立ったらではなく、思い立ったが吉日でした
以下、続きです
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/11/30(火) 23:54:23.42 ID:jcZ5XgkaO
「あの薬のことを知って何をするつもりかは知らないけど、やめておいたほうがいいわ」
「何故だ?」
「リスクが大きすぎる」

そもそもあの薬は劇薬であり、人体に対して極めて猛毒だ。即効性があり、尚且つ、足がつかない毒薬。それが、組織が求めた薬だ。

「でも、あなたは生きてるじゃないの」
「峰不二子……あなた、若返りたいの?」

口を挟んできた峰不二子に問うと鼻で笑い。

「中学生くらいなら、戻ってみたいかもね」
「残念ながら、そんな便利な薬じゃないわ」

私が現在、こうして幼児化したのはあくまでも不測の事態でありそれを目的に作ったわけではない。だから調整なんて出来ないのだ。

「まあ、待てよ。別に俺たちが自分でその薬を飲みたいってわけじゃないんだからよ」
「どういうこと?」
「詳しくは話せねぇが飲ませてぇ奴が居る」
「どっちにしろお断りよ」

どこの誰だろうとお断りだ。断固拒否する。

「わぁったよ。飲ませたい奴ってのは……」

その名を聞いた瞬間、私の心は動かされた。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/11/30(火) 23:55:18.05 ID:jcZ5XgkaO
「とっつぁん」
「………………」

連れて来られたその部屋は白くて清潔で消毒液の匂いで満たされた病室だった。ベッドに寝ている男性は銭形幸一。彼は危篤だった。

「薬だぜ」

辛うじて意識があるらしく、ちらとルパンの手のひらにのるAPTX4869を見やる銭形。

「飲む前にこれだけは言っとくぜ。そいつを飲んだら死んじまうかもしれねぇ。だがもしかしたらガキに戻ってやり直せるかも知れねぇ。どっちに転んでも、恨みっこなしだぜ」

胡散臭い忠告。しかし声に熱が宿っている。

「それでも俺ぁ……とっつぁんに生きてて欲しいのよ。誰からも追われなくなったら、泥棒やってる意味がなくなるだろ?」
「……ルパン」

しわがれた声は銭形の命がもう長くないことを示している。そして震える手を伸ばして彼は薬を手に取った。銭形は泣いて、飲んだ。

「おぎゃー!」

響き渡る元気な泣き声。ルパンは困り顔で。

「赤ん坊を世話する資格なんざ俺にゃあねぇけど……中身がとっつぁんなら構わねぇさ」

薬は銭形を赤ん坊に変えた。すると、突然。

ぶりゅっ!

「おいおい、さっそくオムツ替えろってか? 敵わねぇなぁ……とっつぁんには」
「フハッ!」

ルパンはZippoを擦ってタバコをふかした。

「大切なもんは、盗まれたって残るもんさ」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

ヤニの匂いと便の臭いが漂う病室だった部屋に私の愉悦が響き渡る。もうやだ。工藤くん、何してんのよ。早く助けに来なさいよ。


【糞のたからもの】


FIN
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