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94 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:23:41.28 ID:W1WHWUQU0
綾波も軍属の身。このような見た目ですけれど、世の中が美事と正義のみで回っていると思う程純真無垢ではありません。
降って湧いたが如く唐突に現れた、国連特別“海軍”なる組織。それがここまでの事態に対しても明らかな即応性を持っていたことについて、何かしらの“裏”を感じなかった艦娘は殆どいないのではないでしょうか。
寧ろ私としては、この方面に配属されている艦娘達の間で長らく囁かれてきた
『記録上は近隣特派府の軽巡・駆逐艦しか出撃していないはずの方角から何故か超弩級戦艦のものとしか思えない砲声が聞こえる』
という怪談じみた噂話に答えが出たことで幾らかスッキリした思いさえ抱いたぐらいです。
私達に先駆けての【学園艦棲姫】迎撃作戦───“オペレーション・アイアンボトム”に際してはこの組織の艦隊が八頭進提督率いる連合艦隊に加わっていたとのこと。
横須賀司令府や青ヶ島鎮守府の艦隊と肩を並べられるほどの艦娘を容易く捻出できるなら、練度や経験、戦力層も相当なものであると考えてよいでしょう。
(…………そんな組織が、【学園艦棲姫】という尋常ならざる脅威を止めるべく派遣された最精鋭艦隊の一翼を担える組織が、最早艦隊一つの編成すら“寄せ集め”なければならないほど切迫している…と)
6隻一組、所謂「一個艦隊」以下の規模で部隊を編成するにあたっては前線における緊急再編等を除き必ず同一鎮守府所属の艦娘のみで行う────海上自衛隊教本、並びに一般志願提督向けの座学教書ではその最序盤で記される艦隊運用として基礎中の基礎。
対深海凄艦戦闘においては、僅かな連携の乱れが大損害に直結するのだから当然です。
2〜3個艦隊による合同編成、“連隊”ですら鎮守府が跨がれば相当優秀な指揮官(或いは“艦”)が居ない限りは統率に相当な労力を払うもの。構成艦がすべて別鎮守府ともなれば、国連“海軍”の練度を考慮しても歪な編成であることは明白と言えます。
世界“最大”の艦娘保有国が、本来なら近海警備用の予備戦力に過ぎない施設に動員をかけなければならないのと同様に。
世界“最強”と推測される軍事組織もまた、基礎的な艦隊編成すら禄に行えぬほど戦力が摩耗していると言うなら。
この防衛線全体で見れば、その戦況は極めて絶望的なものになりつつあると言えるでしょう。
95 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:27:51.99 ID:W1WHWUQU0
「にしても冷たいもんだよ提督は、Last Voyageをこんな素敵な連中とさせるんだから。割りと“勝手知ったる”仲だったと思ったんだけどなぁ」
「っ!アトランタ、そんな言い方……」
「いい子ちゃんぶるのはやめてよヒューストン。アンタだって勘づいてるでしょ?この作戦、KAMIKAZE以外の何物でもないって。
ヨコスカ、アオガシマ、そこに“ウチ”から【あの連中】まで加わったAllied Freetを壊滅させるような化け物に、アタシら程度の艦娘を何百隻束にしたって勝ち目はないって」
先に述べた、青ヶ島、横須賀、そして“海軍”鎮守府による連合艦隊は、既に【学園艦棲姫】との交戦で壊滅的な打撃を受け撤退しています。
轟沈した艦こそないものの、かの【巨砲】日向さんや【大腮】龍驤さんを筆頭に、久しぶりに表舞台で姿を露わにした【火ノ嵐】加賀さんや【亡霊】青葉さん等構成する艦娘の顔ぶれは錚々たるモノ。
計4個24隻という数自体は決して潤沢とは言い難いにしても、何れも一騎当千の古強者である事をかんがえれば間違いなく“世界最強”の連合艦隊だったと断言できましょう。
そんな艦隊が。当代屈指の名将と名高い提督が率い、人類戦力による航空・海上支援も潤沢に受けていた“最強の艦隊”が。
ほぼ全隻大破の上で後方にて緊急修理・再編中とあれば、アトランタさんの言動を“軍人としてあるまじきものだ”と咎める権利は、綾波にはありません。
非常に正直に言ってしまえば……綾波も、心の底では同じことを出撃したときからずっと思っていましたから。
「で、今他のフロントラインの味方は何隻沈んだの?50?60?100の大台に乗ったらもしかしたら大本営も退却させてくれるかもって期待しちゃうわね」
「アトランタさん!!」
「アンタにそんな声出せるんだねチョーカイ。でも悪いけど、アタシはJapanの艦娘と違ってテンノーヘーカバンザーイって叫びながら玉砕する趣味はないのよ。なるべくなら生きていたいのに死にに行かされる、こんぐらいの愚痴許されても良くない?」
「軍人として、艦娘としての矜持はないのか!!!」
「軍属や艦娘は生きる権利どころか死にたくないって主張する権利すらないのハツ?ワァオ、全世界の人権活動家連中が泡吹いて倒れる思想ね。メッシホーコーなんて、アタシは真っ平ごめんよ」
第二次フィリピン海防衛線も突破し北上を続ける【学園艦棲姫】と護衛の随伴艦隊に対し、私達東南アジア方面所属の艦娘を中心に実に述べ600を越える前代未聞の大戦力が投入され阻止攻撃作戦が展開されています。
しかし綾波が知る限り、現時点でその内23隻が失われました。
中・大破撤退ではありません。“轟沈”です。その中には、私以外の【綾波】が1隻。
そして……妹の【敷波】も、一人。
96 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:30:31.58 ID:W1WHWUQU0
(沈んだ【敷波】の所属鎮守府を聞き、“知っている【敷波】”ではなかったことにホッとしてしまった私は、とてもひどい艦娘ですね……)
この4個艦隊相当の損害は、あくまでも“轟沈”を抜き出したもの。大破撤退艦を含めれば1割強、撤退・戦闘継続中を問わず中破艦まで対象を拡げるなら既に損耗は2割近くにまで上ると聞きます。
そしてこの数字さえ、“前線が混乱する中で上がってきた不確実な情報”であり綾波が“一時間ほど前に聞いたもの”でしかありません。正確なところがどうであるか、今はどうなっているのかは解りませんが、これよりもマシである・好転している可能性は限りなく低いでしょう。
(私も正直、死にたくは……ないですねぇ)
理屈では、初月さんの仰ることこそ「正」であると理解できます。艦娘が担う責務は深海棲艦の撃滅と人類の守護、祖国の防衛。それを果たすこと自体に疑問はありませんし、全力で果たしたいとも思います。
しかしそれとは別に死にたくない、生きたいという渇望もまた、明確に綾波の中で渦巻いているのです。
この感情は、アトランタさんが吐露した「本音」に流されただけの気の迷いに過ぎないのでしょうか?
否と断言します。切っ掛けは確かにアトランタさんの言葉でしたが、“火種”は綾波の胸の内で確かに燻っていたのですから。
敷波と、もっとお喋りしたい。
艦娘最強と謳われる日向さんと、一度でいいからお会いしたい。
吹雪とはまだ顔を合わせたことがありません。“艦娘”としての姿を、どんな思いを抱いているのかを直接会って知りたい。
ジョンストンさんは良い方でした、もっと仲良くなりたい。
大東亜戦争より復興・発展した祖国の光景をこの眼に焼き付けたい。
ルソン島泊地の浦風さんが作ってくれたお好み焼きは絶品でした、もう一度……何度でも食べたい。
本土から遠征してきた浦波から聞いたケーキやドーナツの話、美味しそうでした。特にポン・デ・リング、絶対に食べてみたい。
祖国を守護するという任務に、疑問を差し挟むつもりはありません。艦娘として与えられた深海棲艦と戦うという使命を、全うする覚悟はもっています。
しかし其れ等の上でなお「生きたい」と思うのは、艦娘として、“ヒトの形”と共に得た生を「楽しみたい」と思うのは。
綾波のような“兵器”には、過ぎたる望みなのでしょうか。
97 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:36:19.49 ID:W1WHWUQU0
密かに燻らせていた暗然たる思いがアトランタさんの言によって表出したのは、きっと綾波だけではなかったのでしょう。
この艦隊そのものを押し潰すかのように、重く苦しい空気が辺りを包み込みます。多摩さんも、文月ちゃんも、浜風さんも、私達の艦隊は誰もが暗い影を表情に宿して俯いてしまいました。
「全艦、傾注!!」
それを切り払ったのは、凛として放たれた扶桑さんの声でした。
「各艦隊旗艦は海図を同期、近隣海域で構築されている即席洋上補給拠点の最新情報を取得・共有するように!海図統合完了後、拠点規模に応じて一時艦隊を50km圏内で分散しつつ進軍します。
各空母・航空戦艦、他水偵装備の巡洋艦は偵察機を発艦。海図上の補給拠点が健在であることは事前に必ず確認してください!
拠点確保と補給完了後、指定座標にて再集結を。尚分散に際しては、最低でも一個小隊以上で行動するように。
集結後に後続敵艦隊を捕捉した場合、これを艦隊決戦の末粉砕致します!」
《“海軍”アナンバス鎮守府艦隊、了解!》
《スラバヤ泊地第2艦隊・旗艦高雄、命令を受諾しました!》
《ワイゲオ島泊地第1艦隊祥鳳、了解です!彩雲隊発艦、警戒を厳に!》
《国連“海軍”、マノクワリ鎮守府所属の長門だ。指示を確認、これより艦隊編成を行う》
「け、軽巡洋艦・多摩、命令を受諾したにゃ!」
「Air Craft Career-Hornet, Copy.
………さ、行くわよアトランタ」
「……………ハァ。Alright, Flag」
一連のやり取りを知らない、アトランタさんの言葉を耳にしていない両翼艦隊からは次々と意気軒昂な返答が届きます。また、何の脈絡もなく唐突に「本題」が再開されたことで、綾波達もまた否応なしに戦場へと引き戻されました。
(…………扶桑さんは、怖くはないのでしょうか)
急激で脈絡のない話題の転換は、何かしら長々と励ましや檄を飛ばすより余程迅速に綾波達の空気を切り替えてしまいました。その判断は、相変わらず的確そのものです。
ですが、彼女自身は何故あっさりと切り替えられたのでしょう。これほど聡明ならば、気づいているはずなのに。
私達は時間稼ぎのための“盾”に近い存在だと。この艦隊が、“玉砕”をある程度前提として編成されたものであると。アトランタさんに言われるまでもなく、扶桑さんなら理解できているはず。
にも関わらず、所作にも表情にも、動揺や恐怖は微塵も見られません。
【沈黙者】の忌み名を体現するかのように、彼女は黙して冷静な眼で水平線の彼方を見つめています。
その卓越した知略を以て策を既に練り上げ、“活路”を見出しているが故の冷静さなのか。
或いは知略に長じるからこそ既にこれを“死地”と悟り、その上で自らの使命に殉じる覚悟を定めたが故の諦観からくるものなのか。
(……………どうか。どうか、前者でありますように)
そんな、艦娘にあるまじき他力本願で身勝手な願いを胸の内で呟きつつ、他の皆さんに続いて私も機関を再始動させます。
ミ,,#゚ ゚彡《Spearチーム、全機続け!!》
《Rapter-01 for All unit, Follow me!!!》
夕闇に包まれつつある上空を、F-14JとF-22の編隊が凄まじい速度で飛び去っていきました。
98 :
以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします
[sage]:2022/11/17(木) 02:41:55.12 ID:9tzTYWVS0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2022/11/17(木) 14:32:20.74 ID:iCKpNwBe0
投下乙です
ちょっと気を抜くと悲壮感が出てしまう
そんななかフサギコさんが普段通りで安心しますね
100 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2022/11/23(水) 23:16:40.53 ID:Yl0NhHA/0
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私達が飛び立った、【ロナルド・レーガン】。
他のイージス艦と共に艦対空ミサイルを上空に放ちつつ、“基地航空隊”を間断なく発艦させていく【こんごう】。
低空飛行で接近してきていたところに、殺到してきたシースパローミサイルによって焼き払われる深海棲艦の艦載機隊。
どうやら戦闘を終えた直後と思われる、父島鎮守府を主力とした艦娘の大艦隊。
恐らくその戦闘の相手だったであろう、いかにも敗走中ですといった体でぐちゃぐちゃの陣形のまま来た道を戻る深海棲艦の連中。
それと入れ替わる形で、此方に向かってきているより大きな規模の敵艦隊。
下方を流れていった一連の光景は、それぞれ間に相応の距離が横たわっている。数キロ〜十数km、遠いと五十km前後にはなっただろう。
その全てが、一瞬で音と共に後方へ置き去られていく。
時速2485km/h。マッハにして約2.01。
第四世代の艦上戦闘機・F-14J【トムキャット】が出しうる最高速度にかかれば、150kmになるかどうかの空間なんてほんの数分で渡り切ってしまう“短距離”だ。
|w;´‐ ‐ノv(ぬ………ぐぅ…………!)
畜生、全身が悲鳴を上げてやがる。私だけじゃなく、F-14Jの機体も。
超音速飛行の長時間継続────所謂“スーパークルーズ”に本来対応していない機種でやるには、暴挙に等しい開幕からの全速前進。当然、機体への負荷は非常に大きい。最前線の上空で空中分解なんて、助かる見込みはまず皆無だ。
それでも、私は速度を緩めない。エンジンをフル回転させ、速度計器の針を目いっぱいのところに抑えつけ、襲い来るGの苦痛と海原に突然投げ出されるかもしれない恐怖を歯を食いしばって耐えながら前へと進む。
《Enemy contact!!》
何のことはない。
《【Black Bird】 incoming!! Allrange, Allrange!!》
《Damn,Over 60!!!》
ミ,,;゚ ゚彡《Don't stop!! All unit, keep speed and potion!!》
速度を緩めれば、どのみち私“達”は死ぬのだ。
101 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:18:47.56 ID:Yl0NhHA/0
北欧戦線から深海棲艦が投入し始めた新型の制空戦闘機、【黒鳥】。私ら人類が扱う第4、第5世代戦闘機とほぼ同等の速力を出せる上に、その最高速を維持したまま旋回してくるという化け物じみた性能の持ち主。
こっちの数は、米軍のF-22も併せて8個編隊32機。性能面がボロ負けで数量面でもダブルスコアときたら、ほんの少しでも足を止めれば瞬く間に“食われる”だろう。
《Enemy Lock, Enemy Lock, Zulu-09 FOX-3!!》
£#°ゞ°)《Knight-01 FOX-3!!》
《Glasgow-10, FOX-3》
【回転木馬】を維持している後方の連合空軍主力から、【黒鳥】の跳梁跋扈を阻止すべく次々と空対空ミサイルが飛来する。が、さっきの第二次防衛ライン崩壊に際して膨大な損害を被ったことと前線が広域化して各方面に戦力が分散したことが重なり、投射される火力の量は先程と比べ大幅に減少している。
『『────!!!』』
《No, No!!!?》
《Damn………》
十何機かがミサイルによって撃墜され、残る大半は回避のためにこちらへの突撃を断念した。だけどミサイル群をくぐり抜けた数機が、編隊の横っ腹に食らいつく。
悲鳴と悪態をそれぞれ残し、レーダー上から友軍機の反応が二つ消えた。
それでも───胸糞の悪い勘定だけど、犠牲が二機で「済んだ」なら御の字だ。
《Rapter-10 and 13 down!!》
ミ,,;゚ ゚彡《Keep, Keep!! Don't stop!!》
|w;´‐ ‐ノv「─────っっっ!!!」
速度が“互角”であるなら、一度距離を取れば直線で追いつかれる可能性は低い。向こうの兵装は現状確認されている限り九九式二〇粍機銃に相当する性能の機関砲二門のみ、一度距離さえ離してしまえば向こうの射程はこっちの背中を捉えられなくなる。
故にこそ、Raptorから出た“尊い犠牲”を無駄にしない。撃墜機の破片や爆風を回避するために追撃が鈍った隙を突き、そのまま連中を一気に振り切る。
《Shamrock-01, FOX-3!!》
《Rapier-04, FOX-3!!》
『『『─────ッ!!!』』』
距離が開いたことに加えて【回転木馬】による第二次掃射も始まっては、そりゃあ追撃なんてできやしないだろう。私達を追ってきていた【黒鳥】の反応が、次々と踵を返していく。
102 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:23:20.55 ID:Yl0NhHA/0
一難去ってまた一難。世界中の制空権を脅かす化け物機体から逃れたはいいが、“危機”自体はこの後にまだ控えている。
そのまま60km………時間にして1分ちょっと程も飛行を続ければ、次なる“難”が───
『『『ォアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』』
《Enemy AAF incoming!!》
───深海棲艦共の対空砲火がお出迎えだ。
《Fuck, So hard!!》
《How many!? They're fill the ocean!!》
《Break!! Break!! Break!!》
光景を眼にしたRapterチームが、狂乱状態で無線をやり取りしている。そういや連中はまだこの戦線に到達したばかりだったね。
当初報告された“推定1500隻超”の時点で大いにイカれた物量なのに、
『【学園艦棲姫】から新たに排出された分と戦線再構築の間に近隣海域から続々と集結した分で、更にその二倍強まで膨れ上がった極大艦隊』
による未曾有の超火線展開だ。発狂したやつが1人も居なかっただけ大したもんさ。
なんせかれこれ三往復目の私でさえ、未だに喉から朝飯のよく消化されたササニシキがコンニチワしかけるぐらいだぜ?
ミ,,;゚ ゚彡《Dive to Fireworks!!》
それでも、初見の奴らと比較すりゃまだ私達【Spear】隊は肝が座っている。富佐隊長が叫んだ、どこぞの世界線で自機の片翼を赤く塗った妖精が口にしてそうなセリフに合わせて、改めてフットペダルを強く踏み込む。
『『『グォオオオオオオオオンッ!!!!!』』』
射程圏に踏み込んだ途端、ただでさえ分厚く熾烈だった対空弾幕は更にその激しさを増す。実は私は死んでて、ここは今灼熱地獄ですって言われたら信じちまいそうだ。
まぁ、“アイツ”を残して死ぬわけにはいかないので御免被るが。
|w#´‐ ‐ノv「しっかり捕まってろよ!!」
「りょ───う、っかい!!」
後部座席の観測員君に声をかけ、操縦桿を傾ける。
向こうの火線は確かに濃密だが、流石にこのイカれた、そして集まったたばかりの物量を一つの指揮系統で完全に統一できているわけじゃないらしい。弾幕の密度や発射間隔が一定ではなく、“ムラ”や“隙間”は微かだが確実に存在する。
|w#´‐ ‐ノv「鬼さんこちら、っとくらぁ!!」
それらを脳内で一本の線に繋ぎ、そこを通過するべく最高速で只中に飛び込む。
え?巡航速度の方が小回りが利くって?バカ言うでねぇよ、その個別に分狙われる、軌道が読まれる可能性が上がって寧ろマイナスじゃい。
どんな速度であれ被弾のリスクは免れないなら、向こうに“とにかく弾幕を張り巡らせる”以外の対処法を許さない最高速での突撃が結局最適解ってワケだ。
『『『ヴォオオオオオオオオオオッ!!!!!』』』
《No, No No N……》
《Rapter-11 Lost!!》
《Shit, I'm hit!!》
さっき富佐隊長はこの弾幕に飛び込むことを“花火の中”と表現したが、真夏の隅田川や某夢の国の年末だってこれの激しさと比較したら泣いて土下座するに違いない。
新たな犠牲を知らせる無線からの悲鳴や爆発音をBGMに、獲物を狙う蛇のような軌道で予め目星をつけておいた火線の“隙間”をすり抜けていく。
103 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:26:07.68 ID:Yl0NhHA/0
『ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛……………』
機械の起動音とも、汽笛とも、呻き声・唸り声とも区別がつかない、他の深海棲艦が発するものと比べてやや異質な重低音を【要塞】が発する。聞き方次第ではどこか間抜けなものにすら思えるソレの響きとは裏腹に、こっちに飛んでくる弾幕にはこれっぽっちの容赦も見られない。
量だけで言えば、【学園艦棲姫】が甲板上や両舷に展開している対空艤装からの砲火を含めても尚随伴艦隊のそれには及ばない。
だが、指揮系統が一個体で集約・完結できている為か、密度と統率においてはこちらの方が遥かに上だ。幻想の郷を舞台にした某弾幕ゲーのごとく【要塞】から広がる火線には隙間らしい隙間が殆ど無く、この中に飛び込むことは正直「危険」を通り越して「自殺行為」に等しく思えた。
|w#;´‐ ‐ノv「ッッッドラァクソがぁっっっ!!!」
「うぶぉ…………」
それでも私は、後部座席でくぐもった悲鳴が聞こえるのも構わず強引に弾幕の中へF-14Jを突っ込ませる。火事場の馬鹿力ってのはどうやら実在するらしく、有りもしない隙を血眼で探し当て無理やり繋いだ「路」を通り抜け、なんとか【要塞】の表面を射程圏に捉える。
《Damn………Sorry, I'm seced!!》
《I can't attack!! Retreat, retreat!!》
《This is Spear-08, I'm retreat……》
無論、自分で言うのもアレだがここまで辿り着くのさえ並みのヒコーキ乗りにゃ至難の業だ。
大半は圧倒的な砲火の前に付け入る隙を見い出せず空域からの離脱を余儀なくされ、残余27機の内突入できたのは私の他に富佐隊長とRaptor隊の隊長、各隊からそれぞれあと2機ずつと2個編隊にすら満たない。
《I'm hit………………いや、やだ!いやぁあああああああ─────》
その内1機の反応が、砲火に捕らえられてレーダーから消える。
………聴こえてきた被弾報告は、爆発音に掻き消された断末魔は、酷く聞き覚えのあるものだった。
だが、そのことに気を取られれば、次に“そうなる”のは私だ。意識から強引に締め出し、操縦桿を握る手に全神経を集中する。
|w#;´‐ ‐ノv「In gun range!! Spear-03 FOX-2!!」
ミ,,;゚ ゚彡《Spear-01 FOX-2!!》
《Target insight, Rapter-01 FOX-2 FOX-2》
《Rapter-16 FOX-2!!》
104 :
>>103ミス
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:31:45.68 ID:Yl0NhHA/0
恋愛から甘酸っぱさを抜いてスリルショックサスペンスの濃度を500倍ぐらいにした十数秒。それが終わり超対空弾幕空域を抜ければ、そこには【学園艦棲姫】の横っ面が………とは、残念ながらならない。
『──────……………』
代わりに眼前に現れるのは、無数の爆光によって照らし出されて夕闇に浮かぶ、バカでかい“球”。
そしてその表面からあらゆる方向に伸ばされる、周辺の随伴艦隊に勝るとも劣らない分厚さの新たな弾幕だ。
《【Fortress】 awaken!!》
ミ,,;゚ ゚彡《Break, Break!! Attak of Allrenge!!》
深海棲艦で現在確認されている個体の一つ、【浮遊要塞】。
姫級や鬼級が周囲に随伴させているケースが非常に多い艦種(?)で、形状は艦載機の【オニビ】から耳と翼を取っ払ったような………まぁ端的に言うと球体だ。“船体殻”こそ身にまとっていないものの、甲殻それ自体の硬度は他の非ヒト型と比較して飛び抜けており、ミサイルや砲弾が一〜二発直撃した程度では大破にすら持ち込めないと聞く。
大きさは対象的に1.5mから最大でも2.5m程度だが、連中はほぼ確実に纏めて4〜5隻は現れる上にロボットアニメで言うところの“ファンネル”のような戦闘スタイルを取る。
その為、周囲を飛び回る【浮遊要塞】に本命への攻撃を遮られて歯噛みする艦娘や鎮守府関係者は後を絶たないのだとか。しかも連中自体も重巡と同程度の火力を持っているというのだから、尚更厄介極まりない。
………そう。実際に相対したことこそなかったが、私が知る限り【浮遊要塞】──或いは上位種である【護衛要塞】──の大きさは、デカくても2.5m。まぁ小さいとは言わないが、従来の非ヒト型と比較した場合通常種から見ても1/2程度にしかならない筈。
じゃあ眼前の“コイツら”は、なんだ。
銀を基調としつつやや錆びついたように薄っすらと赤みがかった体色、丁度中央部にある武装等を格納・展開するための開閉部、“姫級”の周りを漂う球体………何れも、全て以前資料で眼に通した【浮遊要塞】の特徴と一致する。
だが私が覚えている限り、資料上で“直径が実は推定300mである”とはどこにも書かれていなかったし、
『───────ン゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛』
武装は開閉部に格納されている分のみで、体表に全域を覆い尽くすほどびっしりと対空・対艦火器が生えているなんて記述もなかった筈だ。
105 :
>>103ミス
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:35:02.23 ID:Yl0NhHA/0
『ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛……………』
機械の起動音とも、汽笛とも、呻き声・唸り声とも区別がつかない、他の深海棲艦が発するものと比べてやや異質な重低音を【要塞】が発する。聞き方次第ではどこか間抜けなものにすら思えるソレの響きとは裏腹に、こっちに飛んでくる弾幕にはこれっぽっちの容赦も見られない。
量だけで言えば、【学園艦棲姫】が甲板上や両舷に展開している対空艤装からの砲火を含めても尚随伴艦隊のそれには及ばない。
だが、指揮系統が一個体で集約・完結できている為か、密度と統率においてはこちらの方が遥かに上だ。幻想の郷を舞台にした某弾幕ゲーのごとく【要塞】から広がる火線には隙間らしい隙間が殆ど無く、この中に飛び込むことは正直「危険」を通り越して「自殺行為」に等しく思えた。
|w#;´‐ ‐ノv「ッッッドラァクソがぁっっっ!!!」
「うぶぉ…………」
それでも私は、後部座席でくぐもった悲鳴が聞こえるのも構わず強引に弾幕の中へF-14Jを突っ込ませる。火事場の馬鹿力ってのはどうやら実在するらしく、有りもしない隙を血眼で探し当て無理やり繋いだ「路」を通り抜け、なんとか【要塞】の表面を射程圏に捉える。
《Damn………Sorry, I'm seced!!》
《I can't attack!! Retreat, retreat!!》
《This is Spear-08, I'm retreat……》
無論、自分で言うのもアレだがここまで辿り着くのさえ並みのヒコーキ乗りにゃ至難の業だ。
大半は圧倒的な砲火の前に付け入る隙を見い出せず空域からの離脱を余儀なくされ、残余27機の内突入できたのは私の他に富佐隊長とRaptor隊の隊長、各隊からそれぞれあと2機ずつと2個編隊にすら満たない。
《I'm hit………………いや、やだ!いやぁあああああああ─────》
その内1機の反応が、砲火に捕らえられてレーダーから消える。
………聴こえてきた被弾報告は、爆発音に掻き消された断末魔は、酷く聞き覚えのあるものだった。
だが、そのことに気を取られれば、次に“そうなる”のは私だ。意識から強引に締め出し、操縦桿を握る手に全神経を集中する。
|w#;´‐ ‐ノv「In gun range!! Spear-03 FOX-2!!」
ミ,,;゚ ゚彡《Spear-01 FOX-2!!》
《Target insight, Rapter-01 FOX-2 FOX-2》
《Rapter-16 FOX-2!!》
106 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:39:23.90 ID:Yl0NhHA/0
ミサイルさえ撃ち落とされるほど圧倒的な密度の弾幕も、“懐”を取ってしまえば流石に射線転換が間に合わない。必死に狙いを合わせてくる高角砲や機銃座の抵抗を置き去りにし、AIM7-スパローが炸裂する。
【浮遊要塞】の表皮硬度がミサイルや砲弾を容易に通さないレベルであるというのは先程紹介した通りだが、照準変更や弾薬装填で多数の可動部を持たなければならない兼ね合いか“超大型”の表層に密集している艤装群についてはその限りではない。着弾箇所周辺で、幾つかの銃口・砲口が爆炎に吹き飛ばされた。
それが一気に6箇所で発生し、火線に空いた“穴”を埋めるためか一瞬【浮遊要塞】からの弾幕が緩む。その隙に改めて加速し、一気に上方へ、そして対空砲火の射程圏外へと離脱していく。
《突入チーム、残余全機の離脱を確認!》
《敵対空砲火此方を指向せず!後方より【黒鳥】による追撃なし!!》
ミ,,;゚ ゚彡《全機再集結、編隊組成を急げ!全周警戒を怠るな、【要塞】からの追撃はなかったが他の海域から呼び寄せて来た【黒鳥】が来る可能性もある!!》
富佐隊長の指示に従って、続々と合流した【Spear】と【Rapter】が素早く陣形を組み直しにかかる。
ミ,,;゚ ゚彡《All unit, report!! How many down!?》
《Rapter-01 for Spear-01, I report.
Rapter team, 03, 06, 10, 11, 13 is Lost. Spear team, 14 Lost.
End report》
嗚呼、嗚呼。やっぱりそうか。
スピアー編隊14番機。あの声は、あの悲鳴は、澄華のヤツだったか。
|w´‐ ‐ノv(ヒト様の想い人にあんな口聞くからだろ、馬鹿野郎め)
107 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:43:36.62 ID:Yl0NhHA/0
板橋澄華、航空自衛隊3等空尉で私と同い年。本人は「澄んだ華、まさに自分に相応しい名前だ」なんていつもふんぞり返っていたけど、私は聞く度に板橋区に住んでそうだなって感想しか浮かばなかった。
まぁ実際見てくれは中の上〜上の下程度だった一方で、容姿が派手なやつの宿命か異性関係じゃ度々よろしくない噂も立ってたな。
ブーンの写真を見せた時に「えー、意外といい男じゃん!私も狙おうかしら♡」とかカマしてきた辺り、強ちただの理不尽・偏見ってワケでもないだろう。
:: |w´ ノv ::(…………バカ、野郎、が!!)
それでも、悪いやつじゃなかった。
奴さんには中学ぐらいから付き合ってる男が1人いて、実のところソイツにゾッコンであることを知っている。
まぁ上記のセリフを吐いた時は顔面におにぎりを一つくれてやったが、こっちが本気で怒ってると解ると自分がやり返された事は全く顧みず涙目で謝ってくるような奴だったと知っている。
ゾッコンな彼氏くんについて指摘してやると、「そんなんじゃないし!!」と否定しつつ満更でもない笑顔を浮かべるようなあざとかわいい女だと知っている。
色目使って空自に籍をおいているなんて陰口叩かれてもどこ吹く風で、擦り切れるほど使い古した訓練生時代のノートを今でも隙あらば読み返す努力家だったと知っている。
こっちが奴さんより上の階級に昇格しても、「アンタの腕前なら安心して命を預けられるからとっとと佐官になってくれ」と屈託なく笑ってくれる奴だったと知っている。
こっちがブーンの事で悩んだり落ち込んだりしていた時に、「そんな隙見せてたら、他の女に取られるぞ!アタシとか!」なんて軽口叩きながら背中を押してくれる奴だったと知っている。
少なくとも、こんなところで死んでいい女じゃなかった。
骨一つ残らず、幼馴染の恋人の名前を叫ぶ暇もなく、またその顔を見ることも叶わずに殺されるような悪い女じゃあなかったんだ。
108 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/24(木) 00:54:45.73 ID:ppnt4kDF0
ミ,,゚ ゚彡《………Thanks》
やはり、澄華の死に思うところはあったのだろう。Rapter隊から“レポート”を聞き終えた富佐隊長の返答にも、幾分かの間があった。
何時も富佐隊長、富佐隊長っつって滅茶苦茶人懐っこいトイプードルみたいにくっついて回ってたもんな。アレも一部の連中から色目だの枕だの言われてたっけ。
富佐隊長は富佐隊長で「ワイルドな魅力がある」とかでそれなりに競争率が高いせいだろうけど……ソイツらが澄華みたいに“F-14Jの運用法について徹夜で富佐隊長と語り明かせる”ほど勉強してない限り、色目呼ばわりは嫉妬乙としか言えねえな。
ミ,,゚ ゚彡《All unit, Keep position. We'll retreat the Aircraft-Carrier》
《Rapter-01, Roger》
《Rapter-02, Roger》
《Spear-02, Yes Sargent》
|w´‐ ‐ノv《………Spear-03, Roger that》
それでも、実質的に2つの編隊を統率する身である以上、個人的な感傷で「死」に対する反応を変えるワケにはいかない。
Raptor側で落とされた5機のパイロット達だって家族や恋人や親友がいただろう。澄華と同じで、“ここで死んでいい”奴なんて存在しない。そうした面を配慮して、声の一つも震えさせず指示を出せる富佐さんはまさに自衛官の鑑ってやつだろう。
|w;´ ノv「……………………!」
ああ、そうだ。「死」はいつだって私達の隣りにある。人種も、職業も、年齢も、性別も、抱いている思いや決意も、何もかも考慮せず。究極的平等主義者の死神野郎は気紛れで命を刈り取っていく。
澄華は、こんなところで死んでいいやつじゃなかった。Raptorチームの五人だってそれは同じだ。それでも死んだ。ならば「次」が、私じゃない保証はどこにある?
ブーンの為に死にたくない。アイツを助けるため、アイツの「空」を守るために生きたい。誰のどんな想いにも負けないぐらい、私もまたそう強く強く想っている。
それでも、F-14Jの真下で高射砲の弾丸が炸裂すれば、何ら映画的な奇跡が起こるわけでもなく私は死ぬだろう。また突入を仕掛けた時に、そうならないと何故言える。
終わりが見えているならいい。だが実際には、6機もの犠牲を払って4つある【要塞】の内1つの、ほんの一部分の艤装を削っただけに過ぎない。随伴の深海棲艦は寧ろ交戦当初より増え、食い止めようと投入される艦娘艦隊には轟沈者も出始めている。
よしんばこれらを死物狂いで薙ぎ払っても、その向こう側にいる【学園艦棲姫】は世界最強の艦娘艦隊の総攻撃にMOABまで上乗せして尚未だ小破しかさせられていない。
あと何回、アレを繰り返せば私達は勝てる?あと何発、ミサイルを撃てば【学園艦棲姫】は沈む?
あと何回、私たちは生き残り続ければいい?
|w;´ ノv(こいつを、沈める………ブーンを………助ける………)
営倉を出され、【かが】を飛び立った時から、ずっと胸の内で繰り返し続けてきた言葉。絶対にやり遂げてみせると、胸に刻み続けてきた決意。
それが少しずつ、空虚で淀んだ響きになりつつあることを、私は認めざるを得なかった。
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2022/11/24(木) 11:55:29.48 ID:FsIwIl8T0
更新おつです
さぁ、盛り下がってまいりました(戦意が)
逆転劇は一度すべてを諦めてからが本番ですよね
110 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2022/11/25(金) 22:37:30.81 ID:6zQ8/6i00
.
「Spear-01より入電、【Fortress】への攻撃を完了も与えたダメージは極めて軽微とのこと!Rapterと併せて損失は6機、着艦・補給要請が届いています!」
「そのまま【チェスター・ニミッツ】へ着艦誘導!ニミッツ側には超特急で整備とミサイル補充を終えるよう指示を!!
クソッタレ、マーシャル方面の戦況確認も急げ!!余裕があるようならクワンジェリンから余りの基地航空隊を根刮ぎこっちに引っ張ってこい!!」
「【セオドア・ルーズベルト】より入電!第9空母打撃群、周辺の深海棲艦掃討を完了!これより当方に合流するとのこと!」
「丁度ベトナム空軍が2個編隊迷子になってるぞ、発艦する部隊と入れ替わりですぐに収容させろ!」
「【学園艦棲姫】並びに随伴艦隊の航行速度、低速状況を継続!各航空隊、遅滞戦術を維持せよ!」
「【ロナルド・レーガン】CICより【Shark Head】, 防空ラインの後退は許可できない。【回転木馬】を死守し【Black Bird】を引き続き食い止めてくれ………おい、ハワイの空軍州兵動員の件はどうなった!?本格的にフロントラインの損耗が看過不可能な段階になりつつあるぞ!!」
「既に州知事は同意しましたがここまでの距離を考えてください、F-16を常時最高速でぶっ飛ばしても単純計算で4時間かかるんですよ!?
補給や休養を考えれば最速でも戦線への合流は10時間後です!」
「【Fortress】への巡航ミサイル群による第三次飽和攻撃、失敗!全基撃墜されました、敵迎撃能力未だ健在!」
「グアム島第43基地航空隊、前線に到達。敵艦載機群と交戦開始」
「ASEAN各国政府より返答あり、海上戦力の投入は南沙諸島における人民解放海軍の動向から拒否された。繰り返す、ASEANは艦隊戦力の動員を拒否」
「ビスマルク海にて深海棲艦の出現を確認、総戦力15個艦隊強!現在カビエン、ラマ両鎮守府が迎撃中、同方面よりの戦力抽出は現時点では不可能です!」
《Wyvern teamが間もなく着艦する。整備士各位、補給と応急修繕の準備を怠るな》
(*^○^*)「アラスカ州が空軍州兵と鎮守府艦隊の投入を拒否した?」
「……………はっ」
怒号じみた報告の声と電子音がひっきりなしに飛び交い、これに定期的に流れる艦内放送も合わさってまさに“喧騒の坩堝”と呼んで差し支えないCIC。
そんな中にあっても、ポージー=ハメルスが発した疑問の声は、直立不動で彼の前に立つ士官の耳朶にしっかりと届いた。
別にポージーは、激高し声を荒らげたワケじゃない。寧ろ陽気であっけらかんとした言動が多い彼にしては、落ち着いた静かな声色での問い質しだ。
だが、細められた眼の奥で、両の瞳に宿る酷く冷たい光。
柔和で朗らかな、一見いつも通りの微笑みの中に紛れる明らかに異質な輝きを前に、士官──アメリカ海軍大尉・ガルシア=ポンセの聴覚は自然と極限まで研ぎ澄まされていた。
111 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/25(金) 22:39:54.30 ID:6zQ8/6i00
(*^○^*)「理由は?」
「…………ギルゼン=コールマン州知事は、ベーリング海に出現した深海棲艦に対応するため、と」
(*^○^*)「例の【防共協定】はベーリング海並びにアラスカ全域を対象としている。既に日露それぞれの鎮守府が艦娘部隊と基地航空隊を派遣して海域全体の掃討・索敵を開始しているはずだけど?」
あくまで平坦な、ただ“疑問を口にしている”に過ぎないポージーの口調。だが、烈火のごとく怒り今にも罵声を吐く寸前の上官に相対している時よりも、遥かに大きな「圧」がポンセの首を締め上げる。
「州知事曰く、“広大な海域故【不測の事態】に対応し得る予備戦力を残存させておきたい”とのことで」
(*^○^*)「ワイオミング州、ノースダコタ州、ネブラスカ州、これらの州軍による増援部隊はもう到着してる筈だよね?何のために【カーヴィル・ドクトリン】があると?」
口調は変わらずも、「圧」は更に増した。少なくとも、笑みの裏に隠された明確で激烈な怒りの影を感じ取れる程度には。
無論その怒りはポンセに向けられたものではないが、彼は自身が叱責されているがごとく生唾を飲み込む。
「お怒りは、至極御尤もです」
辛うじて絞り出した一言は、自分でも情けなくなるほどか細く、そして言い訳じみたものであった。ただポンセ自身の名誉のために添えるなら、これ自体は彼の非常に素直で正直な心情ではある。
ベルリン陥落の直前に結ばれていた、アメリカ・日本・ロシアの3ヶ国による対深海棲艦相互防共協定。
その内容は【オペレーション・オリョール】という“下地”の存在もあって極めて強固かつ具体的な防衛戦略要項となっているが、分けても綿密に練られていたのはベーリング海の防衛計画に関するものだった。
アラスカ州は成立に至る経緯もあってアメリカ本土から切り離されており、ベーリング海で再び大規模な攻勢が行われた際に沿岸防備が難しい。その為“有事”に際しては海上自衛隊が千島列島方面から、ロシア軍がカムチャッカ半島方面からこれを側面支援する形で展開し、ベーリング海全域の掃海・機動防御を行う手筈となっている。
一方でアラスカ州軍……取り分け空軍に関しては、「三軍全体での遊撃的予備戦力」と定義され、「作戦海域外の他方面において“有事”が発生した場合を含めたあらゆる事態に対して出撃する」ことが取り決められた。
要は、日本とロシアが──ベーリング海の制海権が彼らの安全保障にも直結するからこそとはいえ──自国防衛の戦力を割いてまで手厚くアラスカ州の守護を肩代わりする分、同州の航空戦力を両国で起きた“不測の事態”に対する予備戦力として扱うことを協定上で許可しているわけだ。
112 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/25(金) 22:43:59.63 ID:6zQ8/6i00
実際のところ、人類が保有する航空戦力の重要度は対深海棲艦戦闘においても低くはない。青ヶ島、ベルリン、ムルマンスクといった直近の大規模戦闘において上がった数々の戦果から、寧ろ増している面さえある。
だが、別段“替えが効かない”という程ではない。条件が揃った際に「極めて大きく一方的な戦果を得られる」という点は稀有ではあるが、あくまで“殲滅”に拘った場合の話。防衛・撃退に主眼を置いた場合基地航空隊や艦娘の艦載機で十分以上に対応は可能だ。
今回のケースでは、ベーリング海防衛に際し“潤沢”な戦力と言えるかはまだ解らないにしても、千島列島・北方四島には空自・海自に配備された膨大な基地航空隊が存在する。艦娘も練度が十分な分だけでも述べ20個艦隊前後を動員できる。
カムチャッカ半島からもロシア軍保有の基地航空隊に加えて“海軍”鎮守府が投入可能であり、完璧に防ぎきれるかは敵の規模次第にしろ少なくとも瞬時に制海権が奪取され上陸まで漕ぎ着けられることはほぼ有り得ない。
先に述べた【防共協定】の要項においてアラスカ州空軍の運用に対する“距離”の制約は存在しない。そして【学園艦棲姫】は、日露のみならずアメリカにも直接的な脅威となる。
また州知事が主張する“不測の事態”だが、まさしくそれに対応するため【カーヴィル・ドクトリン】────協定締結に際して立案された、新たな米本土防衛政策がある。
内容それ自体は
『深海棲艦関連の“有事”に際してそれが米国本土に脅威をもたらす時、内陸州の州軍や所属艦娘を沿岸州に派遣し防衛を強化する』
という言ってしまえば単純なものに過ぎないが、制定にあたりトソン大統領はドクトリン発動の「追認」を許可している。
これにより各州軍は深海棲艦の近隣海域出現と同時に発動指示を事実上“既に受けている”という体を取り、合衆国連邦軍指揮系統への正式な編入を待たずに各個の判断で即時行動を開始できる。
上げられた3州は何れもベーリング海方面で“要項”が満たされた時にアラスカ州への派兵が定められているため、【ドクトリン】に基づくならポージーの言う通り既に戦力移動が終わっておりアラスカ州空軍は事実上フリーに近い位置づけの筈だ。
つまり、今回のアラスカ州知事の判断はケチや臆病といった次元の話ではなく、純粋な“協定違反”と見做されかねない。
戦力面、戦術面、戦略面の何れから鑑みてもこの空軍州兵温存に正当性がない以上、少なくとも日米両国からすればそうとしか取りようはないだろう。
(*^○^*)「既に正式な“大統領令”も出たんだ。なら州兵の指揮権は【カーヴィル・ドクトリン】関係なしに連邦軍総司令部に帰属するはずだけど」
「州軍司令部は、“空軍の長駆派兵が作戦として適切であるか、またベーリング海における深海棲艦の浮上規模が【協定】発動に適切であるかを現在注視確認している最中だ”と回答を寄越しています」
(*^○^*)「ふぅん」
113 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/25(金) 22:48:34.33 ID:6zQ8/6i00
作戦に重大な支障を来しかねない事態に対する反応としてはあまりにも軽い、いっそ不真面目にさえ聞こえてしまう相槌。
しかしポンセは、ポージーの声が北極海に浮かぶ氷のように冷え切っていることを肌で感じとった。
(*^○^*)「これ」
「は?これは一体………」
(*^○^*)「コールマン州知事のスキャンダルデータ集」
数秒の沈黙の後、ポージーが無造作に投げ渡してきたのはUSBメモリ一つ。すぐに続けられた言葉によって、幸い疑問は殆ど間を置かずに解消された。
尤も混乱の度合いは、寧ろ聞く前より大きくなったが。
(*^○^*)「贈賄、不倫、不倫相手親族への州議会における便宜融通、大手建築会社との癒着、息子の薬物所持のもみ消し………不正・スキャンダルのコンプリート目指してたの?って聞きたくなるぐらい選り取り見取りなんだ。これをすぐに解凍・リストアップしてコールマンに送るんだ、これだけ熱心に“説得”すれば多分次は二つ返事で空軍を送ってくれるんだ。
あ、因みにこの大手建築会社、国外から不自然な資金流入があるんだ。その辺りのデータは別枠でまとめてあるからCIAとFBIの方に送っといて欲しいんだ」
「えっ、はっ、あの………はぁ!?」
(*^○^*)「ハイ、時間ない!すぐにかかる!!駆け足!!!」
「イ、Yes sir!!」
目を白黒させながら強引にCICの外へと送り出されたポンセと、入れ替わる形で男が1人入ってくる。彼──ジェイムズ=ウィーランド中将は走り去るポンセの背中を一瞥すると、何が起きたのか概ね察して帽子を目深く被りながらポージーの方を向き苦笑いを浮かべた。
「どうやら“大損”をされたようですな、閣下」
_, ,_
(*^○^*)「全く持ってその通りさ、“親父”」
問いかけに応じつつ、ポージーは椅子に座り直し深く深くため息をつく。
笑顔をデフォルト設定しているなんて揶揄されるようなこの在日米軍司令官にしては珍しいことに、その眉間には深い皺が刻まれていた。
114 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/25(金) 22:52:37.10 ID:6zQ8/6i00
ポージーも決して若い身ではないが、ウィーランドは更にその歳を10近く上回り還暦を目前に控えている。だが、肩を並べて長年対深海棲艦の最前線に経ち続けてきた二人の間には、年齢や階級を超えた確かな友情が存在した。
故にポージーは親しみと敬意、そして彼の年齢を加味しても些か異様な落ち着きぶりへのささやかな誂いを込めて、彼を“親父”と呼ぶ。
そしてウィーランドは、ポージーがオフではなく公務の場で自分を“親父”と呼ぶ時は、彼が周囲に対して取り繕う余裕を失いつつあるのだと長年の経験で知っている。
(*^○^*)「コールマンは合衆国民並びにアラスカ州民にとっては史上最低クラスのクソッタレ野郎だけど、僕にとっちゃあこの上なく“やりやすかった”。
泳がされてるとも知らず寄ってくる利権を暢気に片っ端からつまみ食いし、結果奴は【誘蛾灯】になっていた。調査する度に新しい“スポンサー”がくっついてるもんだから、正直こっちが罠にかかってるんじゃないかと疑ったぐらいだけどね」
「まぁ、C.I.AやF.B.Iならいざ知らずまさか在日米軍がわざわざアラスカの州知事に身辺調査を仕掛けているとは思わなかったのもあるでしょうな」
(*^○^*)「在日米軍は別に日本だけにかかずらわってるワケじゃない。日本列島を【不沈空母】に見立てた上で、アジア全域の対深海棲艦………そして、“対共産主義”防衛線を死守するために存在する。
自然、そのアジアから“不審なお客さん”が母国に向かっているようなら目に付くさ」
だからこそ、ソイツらの雁首が揃ってからまとめて“刈り取り”たかった。そう言ってポージーは拳で軽く机を叩く。
それは彼の精一杯の忍耐であり、実のところ満身の力を込めた握り拳を叩きつけたかったであろうことは、ウィーランドも重々承知している。
(*^○^*)「だけど、もう“釣り”はここまでだ。コールマンは流石にやり過ぎた、ロスとサンディエゴの機体まで引っ張ってくることになりかねない状況で尚州空軍の出撃を渋るのは“釣り餌”として看過できるもんじゃない。
大方、奴さんがつるんでる環境保全団体と平和活動家連中に配慮したんだろうが、ライン超えだ。グルであろう州軍司令部共々叩き潰す」
一気にそこまで言い切ってから、ポージーはふと外を見やる。
視線が向けられているのは、水平線の彼方にいるであろう【学園艦棲姫】─────ではなく、その遥か手前。
この【ロナルド・レーガン】の数百メートル横を並走する、日本海上自衛隊所属のイージス艦・【こんごう】だ。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2022/11/26(土) 08:35:16.67 ID:t1Hly90C0
更新おつです
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/11/28(月) 09:27:42.64 ID:BSeTTiQ60
おつです
ポジハメ司令官のR.レーガンが健在ならレールガンも稼働できそうなのは希望ですね
次回は八頭身提督の回ですかね絶望的状況に心中いかばかりか
117 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2022/12/29(木) 23:06:48.54 ID:doNy4j2F0
「…………まだ休んでおられないのですか、我々の“Admiral”は」
(*^○^*)「Japaneseの勤勉ぶりには頭が下がるんだ、本当に」
状況を察したウィーランドの言葉に、ポージーが肩を竦めながら答える。
口元に張り付く、わざとらしく片頬が上げられた歪んだ笑み。それはポージーの機嫌が、取り分け悪いときに決まって浮かぶものだ。
尤も、彼が来日以来贔屓にしているNPBのヨコハマを本拠地とした某プロ野球チームの試合があった翌日は多くの場合この表情になるため、ウィーランドを中心に在日米軍の上層部連中は実のところ割と見慣れているのだが。
その入れ込みようと来たら、一時は下士官たちの間で「マゾヒズムの遠回しな発散をしているのではないか」という噂が本気で議論され、真に受けた一部から除隊願いが相次いだほどだ。
ここ数年で相当マシな戦いができるようになるまでは、ウィーランドら上層部はこれらへの対応に余分な労力を割く羽目に陥ることがしばしばあった。
(*^○^*)「ハイ」
その“見慣れた表情”を崩さず突き出された紙束を、言われるままに受け取り目を通す。
第二次防衛線の崩壊から今に至るまでの、【学園艦棲姫】並びに随伴艦隊群・護衛航空戦力群との詳細な戦闘経過が書かれた報告書だ。
書き連ねられた文字列に目を通していくが、その内容は陰惨極まりない。
かなりの数を撃沈しているはずなのに、それを遥かに上回るペースで周辺海域から合流してくる敵増援。
不気味に、少しずつ、だが確実に広がり始めた【回転木馬】による包囲陣の半径。
棲姫の両舷に浮かぶ【要塞】どころか、圧倒的物量差の前に随伴艦隊すらろくに抜けず後退を繰り返す艦娘部隊並びに基地航空隊。
状況を打破するため果敢に防空火線の只中に突入し、被撃墜を重ねる連合空軍とそれに見合わぬ損害状況の【要塞】。
加速度的に激しさを増していく、他海域での深海棲艦による攻勢………いっそ“Hopeless”の一言で済ましてくれた方が、紙を無駄にせず済むのにと思わず嫌味の一つも飛ばしたくなる。
その気持ちを取り分け冗長するのが、最期の5ページ。全て、現時点でのK.I.A───戦死者のリストだ。
(ジェイソン、今度飯に行く約束はどうする気だい?ポーカーの負け分も踏み倒して行くとは………最期まで、君らしい身勝手さだ)
真っ先に目に飛び込んできた名前は、ウィーランドの同期でもあるアメリカ海軍中将・ジェイソン=シピンのもの。その下には彼が艦長を務めていた巡洋艦【Chancellorsville】の乗組員357名、次のページからは撃墜された連合空軍の各国パイロット達と続く。
この時点でも既に500は優に超えるが、加えて第一次防衛作戦においても人類側には相当な被害が出ている。
ニュージランド海軍の保有するフリゲート艦2隻、オーストラリア海軍の潜水艦2隻は全て轟沈。原子力潜水艦【Key West】も消息を絶ち、オーストラリアから投入された空軍機と“海軍”航空隊の戦闘機併せて40機超も全滅した。
全て併せれば、確実に1500人以上の死者となるだろう。現時点でコレならば、終わった時にこの数字がどうなっているかはウィーランドとしてもあまり想像したくない。
そもそも、果たして「終わらせられるのか」さえ怪しくなりつつあるのだから。
118 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/12/29(木) 23:10:10.66 ID:doNy4j2F0
K.I.Aリストの5枚目、最後のページに書かれる名前。オーストラリア海軍の潜水艦【Farncomb】の“元”乗組員達の箇所から数行の空白を経て記されるそれらは全て、横に所属鎮守府と“艦級”が添えられている。
グレートバリアリーフの“海軍”鎮守府から派遣され、護衛についていた【Key West】と共に消息を絶った伊-400以下潜水艦隊5名。
タウイタウイ泊地から棲姫の進路上に投入され、敵の猛烈な艦砲射撃により全滅した加古、川内以下2個水雷戦隊12名。
………そして、今なお続々と東南アジア各地の“海軍”や海上自衛隊所属鎮守府から動員・派遣されてくる、艦娘の“増援”艦隊。
敷波、綾波、Z1、春雨、摩耶……日本の【特派府】や泊地であれ“海軍”鎮守府であれ、艦種も所属も練度も関係ない。吹雪と大淀などはもう2隻ずつ沈んでいる。
締めて、計23隻。前述した第一次防衛線の損害と併せて、実に7個艦隊近くが“轟沈”した。
(……たった一日、たった数時間で艦娘にここまでの損害が出るというのは、正直信じ難い数字だ。それも、“海軍”と日本所属の艦娘から)
例の【異常甲殻類】出現に際しては襲撃を受けた鎮守府関係者と共に艦娘も50人前後が“行方不明”となり、ベルリンの一件では米独仏の3ヶ国で“轟沈”が合計1000を超えると推測される。特に後者と比較すれば、一見その数字は特筆すべきものではないように見えるかもしれない。
だが、上記の2例はどちらも全く予期せぬ形で発生した奇襲攻撃による極めてイレギュラーなものであり、一概に単純比較できるものではない。現にオペレーション・オリョールやイツクシマ作戦、リスボン沖事変等近年で発生した大規模海戦においては、中大破艦こそ相応の数が出ているものの艦娘の轟沈は記録されていない。
鬼・姫級も多数確認された第二次マレー沖海戦でさえ、公式には“消息不明”扱いとなった【幻影】陽炎以外は全ての投入艦隊が生還している。
つまり、深海棲艦と“正面切っての艦隊戦”が行われた際に艦娘側で轟沈者が出ることは、皆無ではないにしろ本来なら極めて稀なケースだ。1つの戦場でここまで多数の轟沈が起きたとなれば、それは決して“軽微な損害”と割り切って良いものではない。
(*^○^*)「何が絶望的ってさ、ここまでの状況でも僕らにとっては“途轍もなくマシ”ってところなんだよね」
119 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/12/29(木) 23:14:35.31 ID:doNy4j2F0
ウィーランドの内心を目敏く察してポージーが口にしたセリフは、全面的に同意せざるを得ないものだった。
対深海棲艦戦闘においても十二分に有力な存在である、最新鋭の巡洋艦や潜水艦。投入機どころか、アジア全域で人類が保有・配備していた総数に対して2割に届こうかという空軍機。それらに搭乗・乗艦していた、歴戦の操縦士達、乗組員達。
そして、小規模な鎮守府が2つ3つまとめて機能不全に陥るほど多数の艦娘達。
何れも、到底軽微な被害とは言い難い。特に連合空軍のパイロット達と艦娘達の喪失は、対【学園艦棲姫】のみならず今後の東南アジア全体での防衛計画に大きく暗い影を落とすだろう。
(いや……より厳密に言えば、防衛計画には既に影響が出始めている)
第三次防衛線構築のために近隣各所から文字通り掻き集められた、600隻超の艦娘戦力。【回転木馬】崩壊を阻止するために、ただでさえ残り僅かだった分を“根刮ぎ”に近い形で動員した人類保有の航空軍。
何れも、各海域・各国沿岸部で同時多発的に行われるであろう深海棲艦の攻勢に対応するため残されていた虎の子の防衛戦力だ。これを動かした結果珊瑚海、セレベス海、ビスマルク海、ソロモン海等周辺海域における人類側の制空・制海能力は著しく低下した。
現在大幅な縮小を余儀なくされた各国防衛圏には深海棲艦の別働隊が殺到しており、入ってくる報告を聞く限り戦況は「極めて劣悪」と判断せざるを得ない。
それでも………確かに、“最悪”は免れていた。本来なら愚策と呼ぶ他ない戦力移動を強いられ、深海棲艦による攻勢の更なる激化・多面化を誘発し、当座を仮に乗り切ってもアジア全体で防衛計画を見直さなければならないほどの犠牲を出し、そうまでしても此方が敵に与えられた損耗は──少なくとも“本命”に対しては──ごく僅かなものに過ぎない。
そしてポージーの言う通り、このような有様でも現在の状況は“途轍もなくマシ”なのだ。
何故なら、K.I.Aのリストに“彼女たち”の名前が乗ることを回避できたのだから。
「天に坐す我らが主の導きと慈悲を願わずにはいられませんな。“彼女たち”を逃がすため尊い犠牲を払った、連合空軍のパイロット達、基地航空隊の妖精達、そして艦娘達と【Chancellorsville】の乗組員達への格別な慈悲を」
命は平等である。自らの性質を善良と信じてやまない人々ほど、そんなお題目を絶対不変の理の一つとして度々口にする。
だがこの理は、最も多数の命が機械的に消耗される戦場でこそ当てはまらない。沈みゆく巡視艇を救うために原子力空母がその身を盾にすることは有り得ず、指揮官の死と司令部の壊滅を避けるために歩兵一個小隊が銃剣でル級に立ち向かい、対深海棲艦戦闘における効率差から十両の戦車より1人の駆逐艦娘の救援が優先される。
戦場とは、そういう世界だ。そもそも軍隊・軍人が戦場に赴く理由からして「銃後の民間人・国家を戦火の被害から守護するため」であり、「国家・国民>兵士・軍隊」という“命の不等号”の現れと極論言えなくもない。
そして、そんな事は長年の経験で重々承知しているウィーランドでも。現状のクソッタレぶりに、自身の不甲斐なさに思わず皮肉を飛ばしてしまう。
八つ当たりに等しい、無意味な皮肉を。
120 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/12/29(木) 23:21:13.96 ID:doNy4j2F0
横須賀、青ヶ島、そして地………あの長ったらしくふざけた名前の“海軍”所属鎮守府。
この3鎮守府からなる“連合艦隊”が、現時点における「世界最強の艦隊」であったことは疑いようもない。個々の戦闘力、各鎮守府ごとの“一個艦隊”としての練度、“あの鎮守府”の那珂に至っては、現場での艦隊指揮においてさえ卓越した手腕を見せつけた。
それらによって挙がった戦果の羅列は、実際に彼女達の戦いぶりを目にしていたウィーランドをして一瞬現実性を疑ってしまうほどの凄まじさだ。【巨砲】と【亡霊】など、この二人だけで優に30個艦隊前後の敵艦を葬っている。
前後の第一次防衛線や今の防衛線と比較すれば、その突出ぶりはより顕著だ。前者は航空支援の量、後者は【浮遊要塞】の存在という大きな差異は確かにある。
だがそれを言うなら、“連合艦隊”の24隻に対して前者は2.5倍、後者は現時点で実に25倍もの艦娘が投入されている。随伴艦隊に関しても、後者が向こうの数こそ増したものの戦力比としては1:5に留まり、前者に至ってはその時点では随伴艦隊自体存在していない。
その上で、【学園艦棲姫】の完全な“足止め”を成し得たのは“連合艦隊”のみだ。それも、随伴艦隊も【浮遊要塞】という“奥の手”も引き出し、小破とはいえMOABの直撃による損害まで与えて。
第一次防衛線は碌な打撃すら与えられず容易く粉砕され、現在の第三次防衛線は遅滞こそなんとか行えているものの決して小さくない犠牲と引き換えとなっている。数的にはより過小な戦力でありながら最も巨大な戦果を挙げていた“連合艦隊”が殲滅されていれば、その悪影響は計り知れないものになっていただろう。
故に、“正しい”。ほぼ全員が大破状態にあり、そのまま放置していれば後数分と保たず殲滅されていたであろう彼女達を救ったことは、彼女達の生存と引き換えに、多くの犠牲、多くの屍を積み重ねたことは、どこまでも残酷で冷静で“正しい”判断と言える。
ただしそれは、あくまでも戦略・戦術・数学的観点に基づき“理性”のみで見た時の話。1人の人間としては、2つの“命”を天秤にかけて片一方に比重を置いた自分たちの決断は、多くのパイロット、艦載機妖精、艦娘たちに「死ね」と命令した事実は、強く重く心に伸し掛かってくる。
(恐らくはハメルス司令も同じ気持ちだろう、だからこそ見たこともないほど苛立っている。
………軍人としてある程度キャリアを積んでいる、私や司令ですら穏やかではいられない。ならば、元々一般人である“彼”は、尚の事強烈な心労を抱えているはずだが)
読み終えた資料のページを戻し、改めて目を通す。ウィーランドが再度開いた箇所は、第三次防衛線構築後の戦闘詳報。
言い換えるならそれは、各地から殆ど逐次投入に近い形で動員された艦娘達と、それらを指揮した“彼”───現時点におけるウィーランド達のAdmiral、ススム=ハットウの奮戦の記録だ。
121 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/12/29(木) 23:27:19.27 ID:doNy4j2F0
ハットウとウィーランドの間に、この作戦が行われる前の時点での面識はない。だが、米軍関係者の間でもしばしば「Japanのアオガシマに凄腕の提督が一人いる」という噂は話題になっていた為、ウィーランドも彼の存在は元より認知している。
その上で、戦闘詳報を読んだ彼は思う。“噂以上”だと。
(オペレーション・イツクシマ一つ取って見ても、彼が尋常ならざる指揮官であることは容易く伺える。しかしそれは、あくまでも戦術レベルでの評価だ。………今となっては“だった”が正しいが)
第二次防衛線において敢行された、オペレーション・アイアンボトム。太平洋全域を作戦場とした挟撃や、【回転木馬】の大胆な応用を立案できる戦略眼。初見であるはずのミサイル型MOABや【ダゴン】を即座に作戦に組み込み、“特殊仕様プレデター”の大元の考案者であり、彼からすれば初対面で得体のしれない場所から突如として派遣されてきた艦娘への現場指揮権移譲すら躊躇なく行える高度な柔軟性。
戦略家としても、戦術家としても、間違いなく一級品の実力。仮に100年後の教科書で彼の名がハンニバル、ナポレオン、マンシュタイン、イソロク=ヤマモトと並んでいたとしても、ウィーランドは驚かないだろう。
今この瞬間も、そうだ。統一性のない艦種、ムラが大き過ぎる練度、広く分散した輸送機の到着箇所、何よりも“同一艦種の同一戦場における運用の禁”………汎ゆる制約により、600隻という戦力自体額面通りのものではない。にも関わらず、ススム=ハットウはその卓越した指揮能力を存分に発揮し寸手のところで戦線の瓦解を防いでいた。
それに対して払われた犠牲は、幾らかの航空戦力と“たった”4個艦隊分の艦娘に過ぎない。
第三次防衛線の構築が始まってからかれこれ4時間は経とうとしているが、彼の手腕が高い水準を維持している事は文字の羅列を眼で追うだけでも十分に解る。
寧ろ増援艦隊の第一波突入時に【列車砲】の一斉乱射によって一挙に8隻の艦娘が“轟沈”して以降損害は減少し続けており、その切れ味は増してさえいる。
(……裏返して言えば、それだけ彼に負担が集中し、今この瞬間も精神を擦り減らし続けているということだ)
他地域からの戦力増員や連合空軍の補給・再出撃などは、ウィーランドたち第7艦隊で処理している。だが、投入或いは再出撃後の実際の戦闘指揮は、ハットウがほぼ一手に担っているのが現状だ。戦場規模での戦術指揮と方面規模での戦線構築を、彼は“リアルタイム”で同時にこなしてしまっている。
一提督が本来指揮する戦力の何十倍もの艦隊の運用と、数十人の士官が脳をフル回転させて練り上げるような作業を、同時に。
122 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/12/30(金) 01:03:11.02 ID:1qvzDtlb0
“本職”の軍人であったとしても、明確なオーバーワーク。これを、数年前まで一般人に過ぎなかった男が背負っているという状況で、体力的にも精神的にも軽微な消耗の筈がない。
況してや、彼はあの性格だ。艦娘よりずっと脆い、指揮官である自身を平然と囮に使えるような、艦娘を“使って”戦うのではなく艦娘と“共に”戦うことを躊躇なく選べるような、過ぎた優しさと過ぎた勇気を違和感なく同居させる性格。そんな男が艦娘同士の命を天秤にかけ、片方を捨て駒にするような戦術を本来忌避するだろうことは想像に難くない。
それでも、彼は4時間に渡って逃げること無く采配を振るい続けている。恐らく早晩限界を迎えてもおかしくない、或いは限界を超えて尚指揮を続けている可能性もある。
………だからこそ、ウィーランド達第7艦隊の上層部は【こんごう】のCICに向かって再三再四要請を飛ばしていた。貴艦ニ搭乗中ノ提督ヲ速ヤカニ休養サセルベシ、戦線指揮ハ当方ニテ代理ノ準備アリ、と。なんとしても負担を軽減してやりたいという情もあるし、それ以上にこれほどの指揮官が完全な稼働不能に陥れば“連合艦隊”の喪失に勝るとも劣らない致命傷になりかねなかったからだ。
(幸い、父島艦隊を中核にかなり纏まった艦隊戦力がつい先程前線に投入された。敵随伴艦隊の拡大・流入もやや小康傾向が見られ、ハットウが直接戦線の指揮を取らなければならない意味は僅かに薄れた。しかし、これほど頑なな彼がこの程度の事で納得するだろうか………)
(*^○^*)「ところで、こちらの【要塞】についてはどうなっているんだ?」
「…………はっ」
難解な問題に答えを出せずにいる思考を遮った、ポージーの問いかけ。答えるべく顔を上げるウィーランドだが、その表情には先程までとはまた別種の困惑があった。
流石に、ススム=ハットウに及ぶとまでは言わない。だがポージー=ハメルスもまた卓越した軍才を持っていることは、間近でその手腕を見てきたウィーランド自身がよく知っている。
だが、そんな彼でも今回ばかりは疑いを持たずにはいられなかった。
あんなものが、本当に役に立つのかと。
「グアム島基地より今しがた入電があり、九割方稼働準備が完了していると。………しかし、アレを準備させた意味は一体何ですか?正直、【学園艦棲姫】のような化け物を食い止める力になれる存在だとはとても思えませんが」
(*^○^*)「それは見てのお楽しみさ。……さて、じゃあ概ね下準備も終わったし行ってこようかな。
後を頼んだよ、親父」
「指揮は私の方で引き継ぎますから構いませんが………このような時にどちらへ?」
(*^○^*)「何、ちょっとばかり勤勉過ぎるAdmiralと談笑でもしに行こうと思ってね」
椅子から飛び降りたポージーに尋ねると、何時もの笑みと共に彼は振り向きつつそんな答えを返してきた。
顔のすぐ横で、固めた握り拳をヒラヒラと揺らしながら。
(*^○^*)「アンタから教わったことなんだ。頭に血が上ったやんちゃな若造の暴走を止めるには、結局年長者の拳が一番効果的だってね」
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/01/04(水) 10:24:25.52 ID:rX8YTfz/0
更新乙です
今年もよろしくお願いします
って、この状況でレーガンからこんごうに移動とかできるんですか?
124 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/01/06(金) 23:00:44.75 ID:hW0KQOZL0
.
僕に、力が足りなかったから。
MOABで仕留めきれる、大損害を与えられるという見立てが甘かったから。
【回転木馬】の【黒鳥】に対する有効性を過信しすぎていたから。
日向さんと那珂さんに現場指揮を委ね過ぎ、彼女達の負担を十分に軽減できていなかったから。
深海棲艦にとってアレがどれ程重要な存在であるかを、認識しきれていなかったから。
棲姫が“奥の手”を隠していたことを、読めていなかったから。
このまま【列車砲】を等間隔で放ち続けると思い込んでいたから。
僕の軍人としての才が至らなかったから。
だから、第二次防衛線は崩壊した。
多くの連合空軍のパイロットたちが犠牲になった。
熟練の基地航空隊が、艦載機妖精達が失われた。
【チャンセラーズビル】は轟沈した。
だから、龍驤さん達をあんなに傷つけてしまった。
だから、23人もの艦娘を、これだけ多くの人たちを“殺して”しまった。
全ては、僕の責任だ。
125 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/06(金) 23:01:37.23 ID:hW0KQOZL0
視界が歪み、色を失うほど辛く重い現実。
だけどそれらは、既に“起きてしまった”ことだ。
どれほど強く悔い、嘆こうとも、状況は変わらない。僕の力量が突然爆発的に跳ね上がるわけでも、【学園艦棲姫】が消えてなくなるわけでも、死んでいった人達が生き返るわけでもない。
龍驤さん達の回復が早まることも、沈めてしまった艦娘達も戻ってくることもない。
ならば、どうすればいいか。僕に何ができるのか。
幸いなことに、その答えだけははっきり理解できている。
「“海軍”ロスパロス泊地より新たに2個艦隊が戦線に合流!現在戦闘海域から南方120km地点に搭乗の輸送機が到着しています!」
(;´Д`)「更に40km程前進した後の降下を!【学園艦棲姫】進路上の戦力は徹底的に厚く!!」
「父島鎮守府・扶桑指揮下南方艦隊群、補給拠点の確保と再集結を完了したとのこと!」
(;´Д`)「現在位置を固守・厳戒しつつ敵艦隊の動向確認まで待機を!付近の艦娘、或いは基地航空隊から発艦可能な彩雲があれば投入して扶桑さんたちの前面哨戒をさせるように!
扶桑さんたちの出現・前進によって棲姫の北西と南西の防備が薄くなるはずです、航空隊の突入経路を至急策定、【Shark Head】に共有してください!!」
「“海軍”マスバテ島鎮守府、バブヤン島【特派府】混成艦隊より入電!棲姫東方距離65km地点において艦隊群規模の深海棲艦と遭遇!艦種に戦艦水鬼の存在を認む!」
(;´Д`)「その付近にボアク島泊地とラバウル米軍基地の連合艦隊が居たはずです、速やかに位置情報を送信し合流指示を!
さっき展開完了した第9空母打撃群に基地航空隊発艦要請!漸減攻撃にて敵の足を遅滞させる!!」
戦い続けることだ。
126 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/06(金) 23:02:55.72 ID:hW0KQOZL0
現実は変わらない、過去は戻らない、罪は消えない。
ならば結局、前を向くしかない。今できることに全力を尽くすしかない。
今僕にできることは、戦うことだけ。
ここは戦場なのだから。僕は提督で、この戦場の指揮官としてここにいるのだから。
「ネグロス島統合艦隊旗艦・陸奥より入電!右方35km地点より【学園艦棲姫】並びに随伴艦隊の低速状態維持を視認計測するも敵艦隊からの猛攻により損害大!陸奥、リベッチオ、ヴェールヌイ、深雪が大破!」
(;´Д`)「棲姫とすれ違う形で南方に全速力で離脱を!さっき70km地点から追尾を開始させた空母機動艦隊に通達、撤退支援の爆雷撃開始!」
「【こんごう】CICより蒼龍並びにサラトガ、ネグロス島艦隊の離脱支援急げ!艦載機全機発艦されたし!」
「近隣の基地航空隊にも位置並びに敵艦種情報の送信を完了!了承のモールス受信しました!」
(;´Д`)「右方面、リアウ統合艦隊を突出させてネグロス艦隊の撤退支援を!
正面艦隊からも艦載機を発艦、また全艦に前進の“素振り”をさせてください!総攻撃・挟撃を“匂わせる”だけでも向こうの警戒を誘発できるはずです!!」
自分のせいで死んだ人たちが、沈んだ艦娘たちがいるという事実を直視しろ。現実から逃げるな。責任を他人に押し付けるな。
その上で“努め”を果たせ。感情を捨てろ、思考の全てを眼前の戦場に回せ。最善の策を模索し続けろ。
「ベトナム空軍、一個編隊が【要塞】への突入時に全滅しました!」
「右方戦闘域、バブヤン島基地航空隊全妖精との通信が途絶!!」
「同島特派府艦隊より入電!所属駆逐艦の浦風が轟沈!繰り返す、バブヤン島特派府の浦風が轟沈!!」
まただ。
また僕のせいで死んだ、沈んだ。
次だ。
次こそは、誰も死なないような「完璧」な指揮をしなければ。
127 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/07(土) 07:58:58.38 ID:zAM4YSi90
undefined
128 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/07(土) 08:02:28.21 ID:zAM4YSi90
(;´Д`)「浮遊要塞への攻撃は一時射程外からのミサイル攻撃のみに変更、牽制だけ継続!
その分戦力投入を減らして【回転木馬】を増強!【黒鳥】の進出を防いでください!!」
「CICより基地航空隊カタパルト、第2航空群が間もなく帰還する!第1航空群、全妖精速やかに発艦用意に移れ!」
「【カーティス・ウィルバー】基地航空隊より入電、前方50km地点にて当艦隊へ接近中の敵水上打撃艦隊を認む!旗艦に重巡棲姫、また戦艦ル級2隻が何れもFlagshipです!!」
(;´Д`)「予備の99式艦爆隊を出現座標に投入!護衛は対空警戒に出している航空隊から燃料に余裕のある機を捻出するよう各艦CICに要請を!!」
「コロニア特派府艦隊・皐月より入電!敵航空隊の猛攻を受け同艦隊を含む2個連隊が損傷拡大中、至急の航空支援が必要とのこと!」
(;´Д`)「【要塞】への攻撃予定だった連合空軍の戦闘機から一部回すよう【Shark Head】に連絡!それと同方面で空母艦娘から上げられる艦載機を順次発艦させてください、随伴艦隊に肉薄し牽制とします!!」
「ネグロス島艦隊より更なる緊急連、旗艦・陸奥が敵潜水艦隊の一斉雷撃により轟沈!!重雷装巡洋艦・木曽、指揮権を引き継ぎました!!」
水上乱戦での潜水艦隊による強襲・奇襲、確かに効果的な策だ。
故に、読めていなければならなかった。また、犠牲を出してしまった。
コレじゃダメだ。もっと、もっと完璧な指揮を取らないと。
(;´Д )「ハープーン、トマホークによる射撃対象を【浮遊要塞】からネグロス艦隊近辺の敵随伴艦隊群に変更!非ヒト型を優先射撃、進路解放を急げ!航空支援に爆雷装備機を増量投入、周囲海域のみならず退路上における対潜警戒を厳と為せ!」
「【Shark Head】より入電、【黒鳥】による【回転木馬】への突貫・襲撃が急速に増加中!構成している連合空軍機の被害拡大!」
(;´Д )「対空火力に特化した一部の艦娘を特に【回転木馬】で激しい攻撃を受けている箇所の前方に展開、弾幕射撃にて進路塞げ!」
「【そうりゅう】より入電、深海棲艦の対潜部隊に補足された模様!急速潜航開始、暫く当方との連携不可能と見られます!」
「【学園艦棲姫】、甲板上より【列車砲】発射!!弾着地点直下にあったルソン島第17特派府艦隊、酒匂以下全艦の信号が消失しました!!」
まただ。次。
(; Д )「【列車砲】の照準方位を再測定、周囲各艦隊に共有の後射線上からの離脱指示を!」
「了解!射角変更の報告なんてなかったぞクソッタレ、連合空軍の連中何見てやがったんだ!?」
「無茶言うな、奴さん方は【黒鳥】と絶賛交戦中………畜生、当艦隊10時方向に新たな敵艦隊の浮上を確認!水雷2個艦隊、35km地点より急速に接近中!」
「【あたご】から基地航空隊が発艦、迎撃に向かう模様!」
「“海軍”バシラン島鎮守府艦隊より入電、同艦隊の涼月が轟沈!対空砲火により撃墜した【黒鳥】数機の一斉特攻を受けた模様!」
……次だ。次こそ、犠牲をなくさなきゃ。
「第9空母打撃群より緊急電!!同艦隊側面より【黒鳥】による強襲特攻が発生!特攻は【ジョン・フィン】に直撃、同艦が大破炎上中とのこと!!」
次。
「ビアク島“海軍”鎮守府艦隊より入電!前衛からの退却中に【戦艦棲姫】を旗艦とする敵艦隊群と遭遇、これを後退せしめたものの既に損傷甚大だった重巡洋艦・熊野が轟沈したと………!!!」
次。
129 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/07(土) 08:47:18.73 ID:zAM4YSi90
おかしい。
僕は別に眼を瞑ってるわけでもないのに、眠りこけられるはずもないのに、何故か周囲の景色が見えない。
3歳児がパレットの上でぶち撒けられた絵の具を掻き回した後のように、混ざりあった様々な色だけがぐるぐると回り続けている。
まぁでも、大きな問題はない。周辺の海図は頭に叩き込んであるし、耳は正常に機能してる。大丈夫、僕はまだ戦える。
「左方の【回転木馬】にて【黒鳥】による強襲が発生!Shamrock第3編隊、全機が通信途絶!!」
まただ。次こそ、“数字”が増えないようにしないと。……あれ、でもなんで増えちゃダメなんだっけ。
「ヤペン島“海軍”鎮守府艦隊より入電、旗艦・霧島が大破!退却に移るとのこと!!」
轟沈にばかり眼が行きがちだけど、ほぼ完全な離脱を余儀なくされる大破の急速な増加も由々しき事態だ。これ以上“駒”が減れば、本格的に防衛線の維持が難しくなる。……あれ、“駒”って何のことだっけ。
ダメだ、ダメだ、ダメだ。
意識をしっかり持て。余計なことは考えるな。戦い抜け。
僕は、この戦場の指揮官なんだから。日本の国防を担う盾なんだから。深海棲艦と戦う軍人なんだから。
「八頭提督」
(;# Д )「今度はなんですか!!!!」
「青ヶ島鎮守府、指揮官代理の小栗三等海佐より緊急連です」
この艦隊の司令官、提督なんだから。
「同鎮守府を含む【海上機動迎撃網】に対し、近海に出現した深海棲艦による大規模な攻勢が開始されました。
現時点での総兵力は数個艦隊群程度ですが……これは恐らく、総戦力の“ごく一部”と思われます」
しっかり、しなくちゃ。
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/01/10(火) 11:45:35.52 ID:di2eJj2+0
更新おつです
八頭身提督もう半分寝てるじゃないですか
ポジハメ司令はやく来てくれー
131 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/01/26(木) 23:55:35.27 ID:+lVnpH3p0
.
─────同時刻・青ヶ島沖、鎮守府より東南120km地点
「用意、用意、用意……降下、降下、降下!!」
代わり映えしない景色が続く海原において、腕時計は時間を計る装置としてだけではなく道標としての役割も担う。長針がカチンと小さく揺れて目標地点への到着を示すと同時に、私は機内に向かって叫び夜の海へと身を躍らせる。
「お世話になりました!」
律儀な浦波ちゃんのそんな声を背に、着水。即座に艤装を展開・稼働させつつ振り向けば、他の三人………浦波ちゃん、曙ちゃん、三隈さんの降下を知らせる水柱が上がっていた。
《比叡以下全艦娘の投下完了を確認!帰還する!》
私達をここまで乗せてくれたS-76-シコルスキーが、海面ギリギリの位置から一気に高度を上げ反転し鎮守府へと戻っていく。
両翼で残り8人の“投下”を行った他の2機も無傷で離脱しているところを見るに、皆ちゃんと降りることができたみたい。
「旗艦・比叡より【第一連隊】各位、第3警戒航行序列編成急げ!こっちの空母や基地航空隊は数が圧倒的に少ない、私達自身でどれだけ削れるかだよ!!」
《《Engage!!》》
無線越しに指示を飛ばす中、ジェットエンジン音を残して頭上を過ぎ去っていく銀影2つ。
今しがた私も口にした【海上機動迎撃網】の実情を鑑みて、文字通り航空戦力が払底している本土からそれでも横須賀が手配してくれたF-16戦闘機だ。
132 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/26(木) 23:59:44.24 ID:+lVnpH3p0
接敵とほぼ同時に行われる、雲霞の如き航空戦力の大規模投入。
今や“朝の起き抜けに飲むホットコーヒー”と同レベルの、殆どルーティーンと化したそれはこの戦場でもしっかりと実行された。
『『『─────…………』』』
《Target insight. Shield-01 FOX-2!!》
《Shield-02, FOX-2!!》
数十キロ先で水平線の彼方より湧き出すようにして現れた、周囲を覆う闇夜とはまた質が違う“黒色”の塊。
聞き慣れた、聞き飽きたレシプロエンジン音を撒き散らしながら迫るそれを、F-16は真っ向から迎え撃ちミサイルを放つ。
『『『…………ッ!!!』』』
《Hit!! Enemy have damage!!》
《Keep Fire, Keep Fire!! Shield-01, FOX-2!!》
《Roger, Shield-02 FOX-2 FOX-2!!》
彼岸花の如く艶やかに咲き乱れる爆炎。だけど、F-16の攻撃はそこで終わらない。
もう2発ミサイルが叩き込まれ、更に多くの敵機が焼き払われる。抉じ開けられた穴に、敵の攻撃射程ギリギリまで踏み込み機銃掃射を深く深く突き刺す。
立て続けに発生した大きな損害で、“塊”が揺らいだと遠目にも解った。
《よし、崩したぞ!》
《Shieldチーム、帰還する!基地航空隊、後は頼んだ!!》
〈〈〈オマカセアレェエエ!!!〉〉〉
艦娘と“提督の資質”を持つ人間にしか、妖精さん自体の姿は見えず、声は聞こえない。
それでも、高らかに猛々しく打ち鳴らされる無線の「ト」連送は、きっと彼らのもとにも届いただろう。
〈トツレ、トツレ、トツレ!!!〉
〈〈〈アラホラサッサー!!〉〉〉
踵を返し戦場から離脱していくF-16とすれ違う形で、鎮守府から飛来する基地航空隊。零戦の21型と52型を主力とした上で、在日米軍からのレンドリースという形で直前に配備された“グラマン”を数個編隊交えた50機程が猛然と“塊”へ突っ込んでいく。
『『『!!?!!?!???』』』
〈ヨッシャア、イチバンヤリイタダキィ!!〉
〈ナンノ、ゲキツイオウハコンカイモオレダゼ!!〉
近現代の音速戦闘機とレシプロ機、比較的近い距離からの飛来とはいえ速度は雲泥の差だ。だけど今回は、その速度差が却って功を奏す。
深海棲艦の航空群が既に立て直しつつあった故にこそ。散開状態から再集結を終えていたからこそ、今一度攻勢に移らんと“塊”全体が前のめりになっていたからこそ、その出鼻を挫く強襲は強烈な効果を発揮する。
“塊”の表層を抉り、奥深くへと踏み込み、内部より食い破り引き裂く。瞬く間に再度四分五裂した敵機群を、零戦が、グラマンが、次々と喰らい屠っていく。
133 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:02:39.64 ID:sMuggt4e0
陣形を崩し、大きな出血を強いることに成功した。鮮やかな戦果と言っていいと思う。
でも、この優勢が長続きしないことは私でも解る。向こうの航空隊は確かに総崩れに陥り相当な撃墜数も出しているけど、尚規模は少なく見積もってこっちの10倍強。後続戦力だってきっと無尽蔵に近いだろう。
対する私達の側は、【学園艦棲姫】を止めるために八頭司令と龍驤さん達第一・第二艦隊のほぼ全員、お姉様の名を冠したイージス艦【こんごう】等主戦力の大半が出払っている。航空戦力も、基地航空隊については今し方交戦を開始した50機ちょっとで打ち止めだ。
合流する友軍艦隊の編成の都合から“一軍”の1人である瑞鶴ちゃんが残ってくれているのは不幸中の幸いだけど、向こうの物量を加味すると焼け石に水、だよね。
「三隈より臨時総旗艦・瑞鶴へ!第一防衛線、全艦の着水を完了しましたわ!」
《瑞鶴より三隈、第二防衛線も展開済み!接敵まで現陣形を維持せよ!》
《こちら磯風以下【第三連隊】、防衛線の構築を完了した!臨時旗艦、指示を乞う!》
《【第一連隊】同様“三形”にて待機!対空警戒を厳と成せ、どっから敵が湧いてきてもすぐに対処できるように索敵の徹底を!》
《足柄了解!水偵の発艦を開始させるわ!》
《鬼怒了解!索敵に移ります!》
《こちら【第四連隊】鳳翔、指示を把握いたしました。之より彩雲隊を南西方面の索敵に当てさせていただきます!》
《【第五連隊】より給油艦・速吸、微力ながらお力になります!瑞雲、全機発艦始め!》
『『『─────ッ!!!!』』』
〈ッ、チィ!!サスガニタゼイニブゼイカ!!〉
矢継ぎ早に無線が飛び交う中、前方の“塊”がゾワリと動きを変える。
逸早く隊形の再構築を終えた後方の編隊が、散々に突き崩されていた前衛群と入れ替わる形で前へ。一方的な“狩り”ががっぷり四つの“戦闘”に推移し、反撃を開始した編隊を軸に航空群全体が急速に統率を取り戻す。
敵陣深くへと斬り込んでいた基地航空隊が、膿が絞り出されるようにして“塊”の外へと押し出されていく。
〈テッキグンサイヘン、ヤクナナワリカンリョウ!コノママデハコチラガコンドハクズサレマス!〉
〈シオドキカ!キチコウクウタイゼンキ、コウタイス! 【ダイイチレンタイ】ノブウンヲイノル!!〉
攻勢限界に達した妖精さんたちが、“塊”に最後の一撃を加えた上で隊列を組み直しつつ一斉に反転する。敵もそれを追撃するけど、当然その進路上にいるのは……………私達の艦隊。
134 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:06:26.20 ID:sMuggt4e0
「──────ふぅっ!」
短く、息を一つ吐く。これから激しく絶望的な戦いが始まろうって言うのに、焦燥や恐怖は意外なほど感じない。
その代わり脳裏に浮かぶのは、ある男の人の…………私達の、司令官の姿。
「能代より比叡、敵航空隊の陣形転換を視認!目標を基地航空隊追撃からこちらへ切り替える様子!」
「比叡より連隊各艦、陣形を維持!三隈、高雄は主砲三式弾装填急げ!」
「高雄、了解!三式弾装填!!」
「三隈、三式弾切り替え終わりましたわ!」
初めは、ただの“上官”でしかなかった。
青ヶ島鎮守府が作られる前、東南アジアにおける制海権奪回作戦の真っ最中に彼の下に配属されたのが司令との顔合わせ。
当時は彼自身も“民間出身ながらかなりのキレ者がいる”と噂になっていた程度で、任されている艦娘は私が加わったことでようやく一個艦隊分。あくまで呉司令府所属の提督の一人という立ち位置に過ぎない。
何なら、私個人の印象だけで言えば“ただの上官”よりもう少し悪かったかもしれない。金剛姉様はいないし、榛名も加入はもう少しあとだった為金剛型としては一人ぼっち、おまけに栄えある大日本帝国海軍の戦艦ともあろう自分が、ナヨナヨとした外面の一般人の指揮下。
ボイコットこそ流石にしなかったけど、穏やかではなかった心中を割と我慢せず司令に対しての態度で出してしまっていた自覚はある(その結果轟沈を覚悟するほど龍驤さんにシメられた)。
「接敵まで120秒!敵機群散開運動に移る!」
「比叡より高雄並びに三隈、射角50度にて照準調整!合図あり次第三式弾一斉射!!
駆逐、軽巡各位は射角30度〜水平にて弾幕射用意、急降下爆撃並びに雷撃への警戒を厳と成せ!」
いつ頃からだろう、司令の下で戦い、司令の力になれることを幸せと思うようになったのは。
いつ頃からだろう、任務や使命のためではなく、ただ“彼のため”に戦うようになったのは。
「接敵まで60秒!!また、航空群の後方に深海棲艦の艦隊も目視!!約10個艦隊、急速に接近中!!」
「【第一連隊】各位、固守態勢崩すな!!不惜身命の覚悟を以て戦線を維持!!」
………いつ頃からだろう、
「青ヶ島を、私達の鎮守府を死守せよ!!!」
司令の隣に居るのが、私だったらと思うようになったのは。
135 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:08:41.75 ID:sMuggt4e0
無論、バカな私でも解っている。司令官の隣は、今や“あの人”の指定席だって。“あの人”と司令官の間に、私が入れる隙間なんて1ミリもありはしないって。
それでも、私はバカだから、できないんだ。戦いもせず、ただ諦めるなんて。
(………龍驤さんには、恋も、戦いも、負けません!!)
大丈夫、貴方の想いに横槍を入れるような事はしないから。
大丈夫、人一倍艦娘のことを思いやってくれる貴方を、困らせるようなことはしないから。
だから、せめて。
「敵航空群、射程圏到達まであと10秒!!!」
もしも私が頑張り続けていれば、戦い続けていれば、いつか貴方が振り向いてくれるかもしれない。それぐらいの、ありもしない期待を胸に懐き続け、“負け戦”を最後まで戦い抜くことぐらいは、許してほしい。
私、頑張るから。
『『『─────────!!!!!!!』』』
「敵機群、射程圏に到達!!」
「全艦、撃ち方ぁ………始めぇえええ!!!」
貴方のために、きっとここを守り抜いてみせるから。だから、
「青ヶ島鎮守府艦隊・金剛型2番艦、比叡!!
気合!入れて!!行きます!!!」
………見捨てないでよね、司令官。
136 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:11:19.70 ID:sMuggt4e0
.
「おぉ〜〜〜………本っ当に気合入ってるなぁ」
三式弾に続いて空を埋め尽くさんばかりに撃ち上がる、艶やかにして苛烈な対空弾幕。【第一連隊】に殺到した敵航空群が碌な接近すら叶わず焼き払われていき、その光景に思わず感嘆の声が漏れる。
一航戦のアンチキショウじゃないけれど、まさに“鎧袖一触”だ。
(まっ、比叡さんもこの鎮守府じゃあ古株の1人だからねぇ。素の性能に練度、そこに“キラ”まで乗っかればあれぐらいはできるか)
本来、兵器や乗り物に精神論を唱えることほど無意味なものはない。百戦錬磨の熟練兵が扱った際に弾丸の飛距離が伸びたり連射速度が早まりはしても、それらは経験則と実証が下地に存在するれっきとした「科学・物理学」の話だ。どれほど気合と殺意を込めて天に向かって突き出そうが、遥か上空を飛んでいくB-29を竹槍で落とせはしない。
ただ、私達艦娘について語る際は、しばしばこの“常識”が覆る。
飛距離、貫徹力、装填速度、精度などで、物理法則や本人の練度だけでは到底説明ができないような振れ幅が見られた。爆破範囲、弾速、航行速度、物資・弾薬・燃料の積載可能量、旋回性能、装甲値といった、本来技術ではどうにもならない所謂“カタログスペック”の数値に大幅な変動が計測された。
私達の肌感覚じゃない、戦場から多数の報告を受けた防衛省技研が存在の“実証”を終えている。
これらの現象が、直近の戦績、提督・同僚との関係性、疲労度、艦隊における姉妹艦の有無などに伴った艦娘の「精神状態」とほぼ比例的に連動していることも含めて。
どれだけそれらの数値変動が顕著であったかは、当時既に“実装”されていた間宮さん、伊良湖さんによる甘味処並びに鳳翔さんによる酒処の常設、それができない警備府・特派府・小規模な鎮守府は所属艦娘への積極的な娯楽提供が国会審議を通し各提督の“義務”として法制化されていることから概ね察してほしい。
年寄り臭いことは言いたくないけど、防衛費の一項目に【対艦娘嗜好品提供費】や【ハロウィン・クリスマス他各種イベント開催費】、果ては【お年玉予算】なんてものが大真面目な顔で鎮座しているのはちょっと隔世を感じちゃうわね。
137 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:15:00.65 ID:sMuggt4e0
精神状態良化・高揚に伴う艤装性能限界突破現象───という正式名称は長ったらし過ぎるので“キラ付け”なんて俗称がつけられたこの状態は、駆逐艦娘が戦艦棲姫を沈めるほどの劇的な効果さえ時としてもたらす。故に各鎮守府、特にここを含めた【海上機動迎撃網】の構成府や最前線である東南アジアの特派府・泊地群はその維持に腐心している。
そして実際、眼前の比叡さんの暴れぶりを見ていれば関連事案を法制化するほどの重要視ぶりも納得だ。あくまで数値的には榛名さんに対空性能で遅れを取り、噴進砲や電探連動型の高角砲等の特殊装備もなし、三式弾だって改装前の通常型。
にも関わらず、比叡さんは殆ど単艦に近い状態であの大編隊を押し返しているのだから。
(使い古されたクッッサイ台詞だけど、“愛は地球を救う”ってのも強ち嘘じゃないかもね)
かつて大日本帝国陸海軍の勇士たちは、日々苦境が深くなっていく中でも闘志を衰えさせなかった。彼らの背を支え続けたのは、祖国日本に対する巨大な「郷土愛」だった。
ナチス・ドイツの親衛隊は、最早敗戦が避け得ぬものとなって尚最後の一兵卒に至るまで戦うことを辞めなかった。彼らを突き動かしたのは、“総統閣下”に対する最早狂信と呼んでも違和感のない「敬愛」だった。
何れも結局【精神論】の域を出ず、米帝の軍事力と露助の物量の前に抗しきれず磨り潰された。だけど、もしこれらが私達の“それ”のように数値的かつ物理的な影響力を持っていたなら、大東亜戦争や欧州大戦の勝敗さえ入れ替わっていたかもしれない。
そう思わせてしまうほど劇的で激烈なのよ、“キラ付け”の効果って。
「対空電探に感あり!南東並びに東方より新たな敵航空隊の接近を確認、接敵まで一二〇秒!」
《鳳翔より臨時総旗艦、南西にても彩雲隊が複数箇所で敵航空隊を確認したとの由。飽和攻撃を受けないよう、迎撃隊を発艦させての遅滞戦法を具申いたします》
〈サイウン5バンキヨリボカンドノ、ワレ、セイホウ200キロチテンニテテキ[クウボキドウカンタイ]ヲホソクス!
カンサイキジュンジハッカンチュウ、チュウイサレタシ!!〉
……っと、ガラにもないことをツラツラ考えてる場合じゃないわね。
「接敵した彩雲隊については順次離脱・帰還!残りの彩雲隊は引き続き警戒、接敵後は敵所在地と規模を連絡後母艦ではなく青ヶ島鎮守府へ直行されたし!!」
今は、目の前の戦場に集中しないと。
138 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:17:53.75 ID:sMuggt4e0
かく言う私自身はといえば、無論提督さんのことを憎からずは思っている。とはいえそれは龍驤さんや比叡さんのような恋慕ではないし、妙高さんが抱いている世話焼き的な母性(……或いは野次馬根性)とも違う。
榛名さんや大鳳ちゃんがよく口にするその力量に対しての「敬意」と、“かわうち”の悪友的な「友情」、その中間というのが多分一番近いかな。
では二人と比較して、私のこの戦いに対する覚悟や決意は弱いのか?…………そう問いかけられれば、胸を張り、声を大にして言える。
“否”、と。
「南西の敵航空隊への対処、軽空母鳳翔の具申を採用!スロット1、2の制空隊を全機発艦させ迎撃行動に移れ!
補給艦・速吸、瑞雲隊を一時収容し再集結並びに補給!鳳翔のスロット3航空隊と併せて予備戦力とせよ!」
《了解です!!》
《了解いたしました》
「瑞鶴より【第四連隊】千歳、“彩雲枠”を除く全スロットの航空隊を発艦!先行し東方よりの敵航空群を総力を挙げて迎撃せよ!」
《軽““ 空 母 ””千歳、指示を受諾しました!マリアナのようにはいかないわ、だって完全にク・ウ・ボなんだもの!!!》
「空母であることの主張がすごい」
私にとって、提督さんは良き“友”だ。“友”が困窮しているのに、そこに手を差し伸べないなんてことはあり得ない。
《【第一連隊】浦波より瑞鶴総旗艦、敵第一波航空群は被害甚大につき撤退!当方損耗艦なし!!
されど後続の敵艦隊接近!距離三〇〇〇〇、まもなく最大射程!!》
「交戦に際しては艦隊戦闘に注力、南東よりの敵航空隊は当艦の航空隊にて対処する!仮に当方の誘引に反応せず空襲が始まった場合、漸減戦闘に移行しつつ後退を開始されたし!
彩雲5番機、離脱しつつ確認した敵艦隊並びに航空隊の進路策定急げ!可能であればあえて惹きつけ、【第二連隊】へ誘導を!」
〈カシコマリマシタ!!〉
日本海上自衛隊・一等海佐相当官、八頭進は敬愛に足る“上官”だ。そんな人が自ら最前線で采を振るい強大な敵に立ち向かっているというのに、私が銃後で臆病風に吹かれるなど我慢できない。
「【第二連隊】各位、対空戦闘よぉい!!瑞鶴より比叡以下【第一連隊】、航空隊発艦する!照準に注意されたし!!」
ヒトの姿と、声と、感覚と、感情と、それらに伴う新たな“楽しみ”を得て。
師のために、友のために、祖国のために。ただ「兵器」として使われてではなく、“自分の意志”で戦えるのなら。
《敵艦隊、効力射開始!先鋒のル級、タ級に発砲煙を確認!!》
《弾着箇所は遠い、慌てないで!十分に距離を詰めさせて狙い撃ちます!!》
《南東敵航空群、艦隊群後方より最大速にて接近!接敵まで60秒!!》
例え存分に戦った果てに、武運拙く再び波間に散ることになろうとも。
「─────瑞鶴航空隊、発艦!
これが私の、決戦だから!!」
私にとっては、それで十分に“本懐”だ。
139 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:20:18.88 ID:sMuggt4e0
.
────青ヶ島鎮守府・司令室
「【第一連隊】比叡より入電!敵第一波艦隊群との交戦開始ス、当方ノ開幕砲撃ニヨリ戦果トシテ戦艦ル級2、タ級1、タ級Flagship1轟沈ヲ確認セリ!!
敵艦隊ニ混乱ノ気アリ、尚戦果拡張中!!」
「各空母艦載機隊、順次空戦に突入!何れの空域においても数的不利大ながら、足止めと敵戦力漸減に成功!
また、瑞鶴指揮下の彩雲は西方敵艦載機群を第二防衛線へ誘引中と報告あり!対深海棲艦迎撃作戦、順調に推移しています!!」
「そうですか」
矢継ぎ早に入ってきた通信士の報告を耳にし、青ヶ島鎮守府提督代理・小栗淳太郎(オグリ・ジュンタロウ)三等海佐は内心でほうっと一先ずの安堵を得る。
無論、まだ気が抜けるような段階では全く無い。寧ろ先の見えない長丁場が始まったばかりだ。
だが長丁場となることを知っているからこそ、その滑り出しが順調か否かは戦場全体にあまりにも大きな影響をもたらす。
少なくとも、開戦と同時に絶望的な消耗戦を強いられる、という考え得る限り最悪の事態は免れた。そのことは素直に喜びたい。
「瑞鶴さんより要請があった彩雲隊の鎮守府における直接収容を。警戒継続中の偵察機に関しては通信優先権を各空母艦娘からこの司令室に移譲、以後情報取得と連隊への共有並びに収容はこちら側で引き受けます。
また、基地航空隊の再発進に向けて整備と補給を急がせてください。フロントラインの戦況推移に併せて迅速に投入できるよう準備を」
「了解!彩雲隊各位、現在位置の打電急げ!また、無線通信の接続優先を鎮守府司令室に指定、以後─────」
「艦隊司令室より基地航空隊カタパルト、状況を報告されたし。発進に備え隊の編成を────」
「八丈島鎮守府、未だ敵艦隊並びに航空隊による襲撃を認めず。当鎮守府との連携体制を継続」
「南鳥島、父島・母島、硫黄島、各鎮守府敵艦隊群と未だ交戦中。戦線の維持、敵艦隊の漸減並びに浸透阻止に成功しているとのことです」
(…………今のところは、“我々”が想定した通りの状況ですね)
140 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:29:11.45 ID:sMuggt4e0
この鎮守府に留まらず、【海上機動迎撃網】全体へと行われた一大攻勢。経路・艦隊規模・戦況推移、何れも横須賀司令府が事前に立てていた予測内容とほぼ完全に一致する。
当然、とまでは言えないが十分に納得はできる結果だ。何せ八頭や海自屈指の秀才(かつ危険人物)と名高い例の一等海尉を筆頭に、三自衛隊と在日米軍、各司令府所属の提督達が各々の知略をフル回転させ総力を挙げて解析と議論、改訂を重ねているのだから。
仮に“全て”予測通りであったなら、少なくとも日本列島戦線に関しては持ち堪えるどころか十分な余力を以て反転攻勢さえ可能としただろう。
だが、たった一つのイレギュラーが。殆ど唯一の、そしてあまりにも大きな“相違点”が。
「……おい、市ヶ谷からフィリピン海に関する報告は届いてるか?」
「第二次防衛線を突破されて以降は断片的な内容しか降りてきてない、とりあえず八頭提督は無事らしいが………」
「南アフリカの侵攻が早すぎる、もう内陸部に入り込まれてるじゃないか………」
「フランスだってロクなもんじゃない、記者会見見たか?ありゃ亡命前提の声明だぜ間違いなく」
「北欧もいい勝負だぞ、コンクスビルゲンで止められなきゃいよいよノルウェー全土の陥落は秒読みだ。ロシアが今度は何発核をぶち込むつもりか観物だよ」
「大洗学園はどうなってるの?私達にすら情報共有がないなんて、どれだけ酷いことに………」
「各位、今は目先の戦場に集中しろ!高山、父島・母島鎮守府は持ちそうか!?」
「蒲生提督からは死守してみせるとの打電が入ってきていますが………扶桑以下主力艦隊が出払った直後の上に単純な兵力比もあまりにも不利でして正直2時間も耐えられるかどうか………」
「那覇市の方で“市民”の皆様が騒ぎ始めたそうだ、沖縄方面からの増援は以後日米どっちからも絶望的だなクソが!」
「畜生、東南アジアはどこもかしこも最悪だ!国連所属の“海軍”とやらと俺たちで直接コンタクトは取れないのか!?
このままだと八頭提督達と第7艦隊が纏めてフィリピン海で孤立無援に陥るぞ!!」
「…………………ふぅ」
【学園艦棲姫】の存在が、その尽くを歪めてしまっていた。
141 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:34:29.08 ID:sMuggt4e0
「あ、あの………小栗提督代理、大丈夫ですか?」
「ん………あぁ」
凄まじい勢いで戦況報告と艦娘や館内人員、妖精たちへの指示が飛び交う中で漏れ聞こえてくる暗く陰鬱な“噂話”。否が応でも耳に入ってきてしまうそれらに思わず眼鏡をずらし眉間を抑えていると、手元にスッと湯気を立てたお茶が差し出される。
顔を上げれば、心配そうな表情でこちらを覗き込みながら湯呑を差し出す艦娘───給糧艦・間宮の姿があった。
「え、えと。もしお気持ちが塞いでいるようであれば、一息つかれては?病は気からと申しますし、心労の状態ではそれこそ指揮に悪影響が出るやも………」
「……申し出自体は非常に有り難いのですが、その間戦闘指揮を空白にしてしまいますからね。八頭提督も石田一等陸尉もいない以上、私が離席するわけには」
「私がその間代理の指揮を取りますので!これでも元大日本帝国海軍の艦、従軍経験だってありますし!!」
「………………………………………。それは、お気遣いありがとうございます」
会話の「間」を利用して辛うじて平静を保ちつつ応えることができたものの、内心小栗は吹き出す一歩手前だった。
“艦時代”の彼女は従軍経験が確かにあるし、自衛のための武装も載せていた。艦歴だって決して短くはない。
だが、彼女の主任務はあくまで糧食の補給にあり、本格的な艦隊戦闘を目論んで設計されてはいない。そうした事情を反映してか現在世界各地の鎮守府で運用されている間宮(並びに同じく給糧艦の伊良湖)の中で、戦闘用の艤装に対して実用に足る適性を見せた艦は皆無だ。
眼前の間宮も例外ではない。料理の腕前は最精鋭と言って過言ではないが、戦闘経験は当然0。実は八頭に影から指示を出している隠れ軍師なんて裏の顔があるわけでもない。にも関わらず、彼女は真剣に小栗の代理を買って出ている。
それも自身が顔面蒼白で、語尾を震えさせながら。
それだけ自身が難しい顔をしていたのだろうと、思わず苦笑いが口元に浮かんだ。たまたまお茶を持ってきただけの戦闘は専門外の艦娘に、代理の艦隊指揮を決意させてしまうほどに。
142 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:37:43.75 ID:sMuggt4e0
突拍子もない申し出ではあったが、その御蔭で落ち着けたこともまた事実。そして辺りを見る余裕が出てくれば、司令室全体が不安と疲労に擦り潰されそうな有様となっていることが直ぐに感じられた。
休養はとても取らせられる状況ではないにしろ、“一息”ぐらいは入れさせなければそれもまたどこかで致命的な決壊を招くだろう。
「いえ、やはり流石にここの指揮は私の職務ですので、戦況が安定するまでは離れられません。
ただ、リラックスはしたいので甘い飲み物と軽食も頂いてよろしいでしょうか?できれば、ここの人数分」
「! 畏まりました、すぐにお持ちします!!」
序でに明確な役割を与えれば間宮の心労も和らぐだろうと提案すると、“本職”を与えられた間宮は一転気合十分といった表情で頷き、飛ぶようにして司令室から出ていった。
(…………………、さて)
冷静さを取り戻した頭で、改めて現状を整理する。先に述べた通り、人類は世界規模で絶望的な戦況を強いられている。その最大にして直接要因は、言うまでもなくフィリピン海に現れ今現在本土に北上中の【学園艦棲姫】だ。
だが、そこを更に突き詰め掘り下げて考えていくと、より根源的な苦戦の要因は………結局、今回もまた敵の圧倒的な“物量”に行き着く。
(【学園艦棲姫】という圧倒的な存在を投入し、周辺や艦内に推定数千隻規模の“随伴艦隊”を集結し、更に大洗にまで長駆艦隊を乗り入れさせ、陸路でも大攻勢に移り……………その上で尚、“こちらが予測していた分の【大攻勢】をかけられる余剰戦力”がまだ尽きていなかったこと。最も大きな誤算は、そこです)
実行されている防衛作戦は、各鎮守府・各海域にこの鎮守府の龍驤、父島の扶桑、横須賀の日向といった超主力級の艦娘・艦隊で迎撃可能であることを前提としている。ではなぜそれら“要”を動かしてまで【学園艦棲姫】の対処に当たったか。
無論、「そうでもしなければ止められる相手ではなかったから」というのもある。
だがそれに加えて、人類側には「深海棲艦が【学園艦棲姫】を中軸に据えた一点突破攻勢に方針を“切り替えた”」という致命的な誤認があった。
日本という“艦娘大国”には、幾重にも張り巡らされた分厚く硬い盾がある。その全てを一撃で貫き得る太く鋭い槍を手に入れたが故に、その周りに本来放つつもりだった無数の矢を束ねたのだと思われていたが、違う。
矢もまた、既に番えられていた。巧妙に隠され、引き絞られていたそれらは、自衛隊が槍を止めるべく盾を動かしたその瞬間を狙い、一斉に放たれたのだ。
(極めて戦略的で、洗練された動きだ。……………とても、“開戦当初”と同一の集団とは思えないほどの)
143 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:50:25.51 ID:sMuggt4e0
2011年8月14日の【ハワイ奇襲】以降、翌年初頭の【艦娘実装】が成るまで人類は世界規模で制海権・制空権を喪失しつつあった。そんな中にあって何故各国が辛うじて致命傷を避け得ていたかと言えば、深海棲艦側の動きがとりわけ最初期は非常に“直情的”だったからに尽きる。
そこに人類がいれば優先順位も何もなくとにかく近場から手当たり次第に殺していき、行軍は前進か後退かのほぼ二択。“ヒト型”が出現してからは戦術規模であれば多少理知的な動きを見せることもあったが、それも広い範囲で見れば基本的に“行き当たりばったり”の域を出ない。
海上ではそれでも圧倒的な力量差ゆえまともに抗うことはできなかったが、特にヨーロッパで【陸上に上げて物量で殴る】という脳筋戦術が多大な戦果を挙げられたのは深海棲艦側に“橋頭堡の構築”の概念がなく孤立させることそれ自体は極めて容易だったからだ。
一体いつからだ。奴らの動きがここまで知性的に、戦略的になったのは。最早【リスボン沖事変】以降は、人類側が裏をかかれ続けほぼ常に後手に回っている。
(奴らが学習したといえばそうかもしれない。しかしそれにしたって変化が激烈すぎる。例えば深海棲艦全体でそうした“学習”を共有し得るシステムがあるのだとすれば、今度は逆に奴らの練度の“ムラ”が不自然だ。
まるで……………)
まるで、極めて優れた“提督”の指示でも受けているかのような、そんな動きだ。
「………………今は、考えるべきことではありませんね」
恐ろしい。極めて恐ろしいが、有り得る話だ。海の底から未知の化け物が現れ、それに対抗するために軍艦の力を擁した可憐な少女たちが現れ、今また学園艦が深海棲艦化して水底から現れている。寧ろ、何が“あり得ない”のか教えてほしい。
実は深海棲艦が外宇宙からの侵略兵器で宇宙人からの指示により動いている、深海棲艦の中で新人類とでも呼ぶべき存在が誕生し指揮を取り始めた、突然異世界から召喚されたチート能力持ちの天才がヒト型のハーレムを作りながら統率し始めた…………どんな事態が起きていたとしても今更驚かない。
そもそも、驚いたところで意味はない。“現状”は既に構成されてしまっている。
“今”はそれがなぜそうなったのかを追求しても何も変わらない。ならば、先ずは“現状”を変えることに全力を尽くすべきだ。
144 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/01/27(金) 01:45:17.90 ID:sMuggt4e0
不幸中の、という注釈は間違いなく必要になるが、それでも“幸い”が一つある。
【海上機動迎撃網】自体は、まだ機能を維持できている点だ。
(我々は、【学園艦棲姫】の存在を起点に最も強く警戒していた筈の“物量”について予想を覆され、主力部隊をフィリピン海に引き摺り出された。
だが、逆説的に言えば“それだけ”です。防衛計画そのものは、まだ生きている)
確かに、“忌み名持ち”レベルの実力者達を尽く出払わせてしまった為戦力低下は著しい。しかし、ここを含めて各鎮守府は何れも持ち堪え、敵艦隊を押し留めている。
そしてその敵艦隊の数は、あくまでも人類側の“推定通り”に今のところは収まっているのだ。
(主力艦隊と比較して劣ると言うだけで、【海上機動迎撃網】………よりはっきり言い換えるなら【絶対国防圏】に配属されている以上、どの艦娘も水準以上の実力は備えている。
フィリピン海防衛線の指揮権が八頭提督にほぼ一本化されていた結果、他鎮守府の提督たちは残っていたことも大きい)
深海棲艦側は、主力の誘引に成功したことで「抜ける」と判断したからこそ“矢”を放ってきた。ならば、その“矢”が“盾”を失ったはずの自分たちを抜けなければ、今度はその事象自体が向こうにとっての「計算外」に変わってくる筈。
(ならば我々は、敵の動きが“当初の防衛計画”に則る限りあくまでそれに忠実に動く。それが、恐らくは最善の策ですね)
専守防衛。自衛隊は正にこれを主任務とし、貫くために訓練を重ね、技術を磨いてきた。
「小栗提督代理、レーダーに感あり!!新たな敵艦載機群、こちらの防衛線を迂回し鎮守府へ向かってきます!!」
「そうですか」
ならば、“本来の仕事”ぐらいは自衛官である自分がやり遂げなければならない。
もし、それすらできないのであれば、
「問題ありません。各位、各艦隊、当初の“防衛計画”通りに動いてください」
民間出身でありながら最前線に飛び込んでいった自分たちの提督を、どのツラ下げてこの鎮守府で迎えられるというのだろうか。
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/01/27(金) 11:22:45.20 ID:2YQXihCe0
更新おつです
まさかの青ヶ島サイドですね
どこにも後方などなく全てが前線という状況がもう…
146 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/02/01(水) 23:04:06.10 ID:qlo4HhBq0
.
今でも、はっきりと覚えている。“あの時”の胸の高鳴りを。脳を、心臓を鷲掴みにされたが如き圧倒的な衝撃を。
たった一人の男の演説によって、敗北への諦観が勝利への渇望に、死の絶望が生の希望に塗り替えられる有様を。
たった一人の男の雄叫びによって、火山と岩と砂とほんの少しの草木しかない殺風景な島に、目に見えぬ巨大な炎が燃え盛る瞬間を。
まるでつい数秒前に目にしたが如く、自分はその光景を想起できた。
《敵艦載機群第6波並びに第7波、総数500超なおも鎮守府に接近す!到達まで推定あと400秒!!
対空警戒を厳と成せ!繰り返す、対空警戒を厳と成せ!!》
《指示に変更なし、【第一】〜【第四連隊】各位は現防衛線を維持!当初の“防衛計画”に則り、【第五連隊】並びに鎮守府内の対空火力にて敵航空群の迎撃を行う!!》
《【スカイシューター】、全車展開を完了!各区妖精より艤装による臨時対空陣地完成の報あり!》
「ハッ、ハッ…………」
「おい、力を抜け……!」
現在の状況は、“あの時”とよく似ていた。圧倒的寡兵、勢いに乗る“敵”、孤島での迎撃戦………類似点がこれほどまでに多いからこそ、自分は尚更“あの時”のことを鮮明に思い出したのかもしれない。
(寧ろ、“あの時”の方が自分が置かれていた状況は厳しいかもしれないな)
頑迷な老人がよく口にする「ワシが若い頃は……」という戯言に通ずるものを感じ、我ながら辟易する。ただ弁明させて貰うと、実際“あの時”の自分達には艦娘も鎮守府も潤沢な対空兵装も存在しなかった。
与えられた火器は大半が在庫処分の骨董品で、おまけに“友軍”連中は支援どころかこちらを攻めてくる深海棲艦の群れごと吹き飛ばす腹づもりだったのだ。
この作戦を立案した当時の上層部のお歴々が南首相には
『島嶼防衛部隊は機を見て脱出する手筈だったが通信機の故障により連絡が途絶し、非常の判断でやむを得ず攻撃を敢行した』
という設定を捏ち上げる予定だったと聞いたときには、思わず腹の底から笑ったさ。
147 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/01(水) 23:09:53.70 ID:qlo4HhBq0
ただ、自衛官として経験を積み、深海棲艦と長らく戦っていく内に、自分の中で“あの時”の上層部の判断を一概には否定できなくなったのも確かだ。
艦娘の“実装”が未だ行われていなかった当時、事実を直視するなら自衛隊は人民解放軍に対して劣勢だった。
陸軍の単純兵力はトリプルスコア、北朝鮮軍のように兵装性能においてこちらが圧倒的な大差をつけているわけでもない。
空母戦力は既に六個の【防空機動艦隊】を運用していた日本側に数字上だけなら分があるものの、日中間の距離は近現代戦闘機ならものの数十分〜数時間で0にできる。在日米軍を考慮に入れても保有戦闘機それ自体の物量差を埋めるほどのアドバンテージとは到底言えなかった。
何よりも、核兵器とそれに伴う弾道ミサイル技術。如何に防空・海防に優れた戦力を自衛隊が持っていたとしても、都市に甚大な被害を与える弾道ミサイルが雨霰と降り注げばその迎撃は困難を極める。況してや核搭載のそれが着弾すれば、例え一発でも数万人から数十万人の命が一瞬にして国土から消え去るのだ。
まぁ、核兵器についてはそもそも前提が「抑止力」であり、日本もアメリカによる“核の傘”の恩恵を受けていた以上単純な戦力比に加えるべきではないかもしれない。だが核を差し引いても、どのみち当時の日本にとって、自衛隊にとって人民解放軍が「格上」であったことは動かしようのない事実だろう。
その「格上」の軍事組織を手も足も出ず叩き潰した怪生物の大軍団を迎え撃ち押し留めようとするなら、自然何かしらの“犠牲”が必要だったのは間違いない。
(………そうか、成る程。
、、、、、、
こんなところまで、実は“あの時”と同じなのか)
フィリピン海において八頭提督率いる“連合艦隊”は【学園艦棲姫】によって敗退し、轟沈者こそなかったものの龍驤旗艦や妙高副旗艦、榛名戦艦隊長らこの鎮守府の艦娘達もほぼ全てが大破状態に追い込まれた。
その後の東南アジアの艦娘や基地航空隊を総動員した迎撃作戦では“遅滞”が精一杯であり【学園艦棲姫】が着実に北上しつつあるという。
それは正に、6年前の“あの時”────自分達が“あの島”で、深海棲艦を待ち受けている時の状況だった。
148 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/01(水) 23:14:52.38 ID:qlo4HhBq0
ASEAN、オーストラリア、そして中国。列強の海空軍を尽く捻じ伏せ薙ぎ払い、欧州やアフリカでは既に沿岸部への浸透を始めていた、弱点どころか正体すら禄に解明されていない得体のしれない化け物の大軍団との戦いを控えていた“あの時”と立場としては同じだ。
確かに、戦力自体は今回の方が恵まれてはいる。艦娘がおり、基地航空隊があり、しっかり最新式の対空砲や装甲車、ミサイルが数こそ少ないが用意され、戦闘員の人数もこの事変が起こる直前に幾度かの増強が間に合い一先ず1500に迫る程度には確保されている。
だが、向かってくる深海棲艦の数は6年前の数倍にもなり、その旗艦は今までに前例がないほど凶悪かつ強力な存在で、ここにいる艦娘たちより遥かに練度が高い艦隊でもまるで歯が立たなかった存在だ。しかも今この瞬間に攻勢をかけてきている分に関しても、その物量の底は不明でそもそも【学園艦棲姫】以前にこれらさえ凌ぎきれるかどうかは解らない。
「…………クソっ、とまれ……止まれよ…………震えるなよ……寒くねえだろっ………」
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……お母さん……私死にたくない………!」
自分は、まだ“耐性”がある。だがアレを経験したのはこの場では自分だけ。何なら今この鎮守府内にいる隊員の大半は、石田一等海尉らが前線に出張ってしまったこともあり艦娘実装後の安定的な戦いしか知らない若い連中だ。
であればこの、必要以上の恐怖と緊張、焦燥に押し潰されそうな絶望的な空気が蔓延することを、一概に「情けない」と言えるものではないだろう。
「─────県正久(あがた・まさひさ)一等陸尉より、鎮守府施設内総員に伝達する」
そこまで考えが及んだ時、自分の指は、自然と無線のスイッチを握っていた。
「若き士官たちよ、これは諸君らの先輩の、或いは………無駄に歳を食ったうだつの上がらんおっさん尉官の戯言として、恐怖で震えてチビる序でに聞いていてほしい独り言だ」
149 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/01(水) 23:22:44.40 ID:qlo4HhBq0
……口下手な自分なりに考え抜いた渾身のジョークを盛り込んではみたのだが、残念ながら反応は皆無に等しかった。やはり慣れないことはするもんじゃないと、平静を装って話を続けつつほんの僅かに内心で後悔した。
「これから始まる、否、既に始まっているこの戦闘が、楽なものになるとは自分には言えん。必ず生きて帰れるなどという無責任な言葉は吐けん。
きっと激しい戦いになる。長く辛く厳しい戦いになる。この中の何人もが傷つき、或いは死ぬ。艦娘ですら、全員が轟沈せずに済むという保証はない。気の利いた鼓舞ができず済まないが、一陸尉の見解としてはそれが正直なところだ。
だが、思い出してほしい。我々がどこに所属しているかを。
我々が、自衛隊であるということを」
東南アジアにおける反攻作戦に参加した折り、ある上官のもとに着いた時期がある。その男は決して尊敬することができなかったし、寧ろ彼の行動理念や哲学は自分にとって全く相容れなかった。
だが、彼が部隊に訓戒を施す際第一声に使っていたフレーズの、“ガワ”の響きだけは私は僅かに共感していた。
故に、“中身”を自分流に捻じ曲げたものを、私は勝手に座右の銘としている。
「自衛隊の銃先に国民なく、自衛隊の銃後に国家あり。
本土に待つ国民にとって、彼らが住まう日本国にとって、我々は最後の盾であり最後の希望だ。
我々が恐怖に屈しそうになった時、重圧に敗れそうになった時、敵の砲火が次にどこに向けられるかを思い出せ。
同時に、並び立つ戦友たちもまた“国民”であると、共に戦う艦娘達や妖精達も“国民”だと忘れるな!!我々は孤独じゃない、孤軍じゃない!!互いが互いを守り合う限り、互いが互いを支え合う限り、我々はきっと立ち上がれる!!」
「「………」」
少しずつ、周囲の隊員達の息遣いとざわめきが収まっていくのを聞きながら。鎮守府の甲板を覆っていた空気に僅かな変化が生じるのを感じながら。
自分は、更に言葉を紡ぐ。
それは、自分が最も尊敬する偉人の言葉。自衛隊に自ら志を持って入隊した男児なら、誰もがこうありたいと憧れる将官の鑑とも言うべき姿勢を示したもの。
……自分ごときが使うとは恐れ多いが、ここは鉄火場ゆえ恥を忍んでお借りしよう。
「予ハ常ニ諸子ノ先頭ニアリ───【硫黄島の戦い】を前にして、栗林忠道初代防衛庁長官閣下が指揮下に訓示した言葉だ。
無論自分があの方ほど立派であるなどと自負するつもりはない。だが少なくとも、あの方のように先頭で戦う覚悟は持っている!自分もまた諸君らの列の中に加わり、共に支え合い、守り合う覚悟は持っている!
着いてこいなどと出過ぎたことは言わん、だが今は!我々の故郷を、国民を守るために!!勇気を振り絞り、恐怖に打ち勝ち、“共に”戦って欲しい!!」
150 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/02(木) 00:13:29.58 ID:J8FT46aQ0
〈〈………………!!〉〉
艦娘艤装・艦載機操作補助思念体───通称【妖精】。1m前後の艦載機に乗り込むだけあって彼ら(彼女ら?)の背丈は文字通り掌サイズであり、顔立ちもアニメキャラクターを更にデフォルメしたようなどこかポップな印象で、これが深海棲艦という凶悪な存在を轟沈し得る兵器の操舵者だ等と俄には信じがたい。
どうやら自分には提督の“素質”があるらしくこの【妖精】達が見えるのだが………今足元で、恐らく余りの艤装を用いて対空陣地の構築に奔走していたであろう数人がこちらを見上げて敬礼しているのが視界の端に移る。
艦内移動用の車両──妖精たちの体躯からすれば学園艦の面積で徒歩移動などサハラ砂漠の横断も同然だろう──が近くにある辺り、わざわざ代表して何人かが駆けつけてきたのだろうか。
至って真面目であろう本人たちには失礼ながら、童話の一場面じみた光景には微笑ましさすら感じてしまう。だがそのメルヘンチックさによって、幸い自分自身も肩の力は抜けたが。
「八頭進一等海佐相当官は言った、“日本を守るため、共に僕等に出来るベストを尽くそう”と。
今彼は、フィリピン海の洋上で艦娘達や【こんごう】の乗組員達と共に死力を尽くして戦っている!ならば我々もまた、彼と共にベストを尽くそう!この鎮守府を率いる“提督”の姿に、恥じぬように!!」
全く、あれのどこが“一般人”なんだか。我々が命令に伏し、命を賭し、“共に”戦うに足る、最高の上官ではないか。
つくづく、自分は果報者だ。人生で二度も、そんな上官に巡り会えたのだから。
「「「〈〈─────……………!!〉〉」」」
別に、島を震わすほどの雄叫びも、ハリウッド映画のヒーロー登場シーンかと見紛うばかりの歓声も上がらない。寧ろ、静けさという意味なら前よりも深いものとなった。
だが、肌で解る。隊員たちが、妖精たちが、海上の【第五連隊】の艦娘達が、恐怖や焦りを捻じ伏せていくさまを。勇気を取り戻し、闘気を漲らせている様子を。
押し寄せる敵機を、待ち構えるとまでは言わない。ただ少なくとも、距離を着実に詰めてくるレシプロエンジン音に、真っ向から立ち向かう準備を彼ら彼女らは完全に終えた。
(6年前の…………あの人のお陰だな)
命を賭け、命を捨てるに値した、一人目の上官。彼が明確に自分の上官であった時間は、ほんの数時間に過ぎない。その間言葉を直接交わすことはなかったし、向こうはきっと自分のことを知りもせず逝ってしまったに違いない。
《敵艦載機群、到達まであと100秒!!》
《【第五連隊】旗艦・水無月より連隊各艦、対空射開始!撃ち方ぁ、はっじめぇ!!》
《対空射隊指揮艦・荒潮より艦内艦娘各位、先行射撃開始!!いーい?爆弾落とさせちゃダメよ、お掃除大変なんだから》
〈ワレラモツヅクゾ!!コウカクホウタイ、カクジウチカタハジメ!!!〉
それでも、自分は覚えている。山を鳴動させ、海を震わせ、敗残兵を死兵へと変えたあの人の言葉を。
《………っ!ダメだ、やっぱり水無月たちの火力じゃ十分に防ぎきれない……!!》
《荒潮より司令室、敵機40機強を撃墜し陣形大いに崩すも進軍尚止まらず!!先鋒航空群、突入態勢に移行!!》
《甲板全区画、全隊員に伝達!対空戦闘用意、対空戦等用意!!第一種戦闘配置を継続せよ!!》
硫黄島の空に高らかに響き渡った、平賀文平一等海佐のあの雄叫びを!!
『『『『───────────────ッ!!!!!!』』』』
「敵機直上、急降下ァーーーーーーーーッ!!」
「県一等陸尉より艦内全人員に伝達ッ!!」
151 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/02(木) 00:14:32.46 ID:J8FT46aQ0
.
「暁の水平線に、勝利を刻め!!!!」
自然と喉から迸ったその叫びと共に、89式小銃を“ジェリコのラッパ”が迫りくる方角に向け引き金を引く。
『…………ッ!!!?』
先陣を切ってきていた【カブトガニ】が一機、弾丸に貫かれて爆散した。
152 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/02/02(木) 01:15:57.60 ID:79O4T+CB0
.
《そもそもね、今回の事態を招いたのは南政権の外交政策にあるわけですよ。軍拡を推し進め【平和維持法】や【艦娘三原則】を勝手に改悪し、周辺諸国の不安を煽りました。
日本が“戦犯国”であるという認識があまりにも欠如しすぎですよ》
《そもそも“武装勢力”が北朝鮮や中国と本当に関与しているという証拠もありませんし………それこそ、自衛隊の中で自作自演をさせている可能性もあるわけでしょ?南首相ならやりかねないわ》
《私は劉首席の言い分にも一理あると思いますよ。対話を求めていた中華人民共和国に対して握り拳で応えたのは南政権です。宝木議員を含め一部の良心的な市民はそのことの危険性と不義理を訴えていましたが、南政権の巧みな扇動によって握りつぶされていたのです》
《仮にこのテロが他の国の仕業だとしてもぉ、それってマジラブアンドピースしなかったニッポンのジゴウジトクっつーかぁ?マジオワコンだよねニッポン》
《これは当局のある情報筋から入ってきたものですが、既にフィリピン海防衛線は敵の“新型艦”に突破されているという噂もあり────》
《南政権は放送法の改正を強く推し進めていましたが、これは恐らくこうした事態が起きた際に情報統制と国民扇動をしやすくするための下準備だったのではないかと専門家からは指摘が────》
《これは沖縄の米軍基地前の様子ですが見てください!!もう南政権には騙されないというプラカードとともに多数の一般市民が殺到しています!この光景は那覇鎮守府や自衛隊基地でも同様に────》
《南さんもね、意地にならずに中国の支援を受ければいいんですよ。彼らだって本当に日本を占領しようとするわけないじゃないですか、話せば解りますよ。チベットやウイグルだって、あんなもんアメリカやイギリスが一方的に主張してるだけで────》
《徐々に各地へと拡大しつつある反南政権デモに対して、県警や自衛隊、鎮守府組織による強制排除の動きが見られます。政府はこれを“暴動”と関連付けていますが、これは明らかな詭弁であり言論弾圧だと一部国から批難声明が────》
153 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/02(木) 01:18:56.70 ID:79O4T+CB0
《フォックス=カーペンター国務長官はCNNの取材に解答、ヨシヒデ=ミナミの武装勢力に対する断固抵抗の姿勢は早期解決に繋がり全面的に支持されるべきだと────》
《アメリカのフォックス=カーペンター国務長官は“早期解決のためにはあらゆる手段を模索するべきだ”と、日本単独での武力鎮圧のみが道ではないと暗に示唆を────》
《ダイオード=リーンウッド首相は日本で起きている事態への直接的な言及は避けたものの、ヨシヒデ=ミナミの強力なリーダーシップによって世界は最悪の状態を免れていると謝意を述べ────》
《南政権との蜜月を築いてきたとされるダイオード首相ですが、現状については“日本は自分達の影響力を考えなければならない”と懸念を表明し────》
《フランス政府は、中華人民共和国の声明に対し人類への反逆と言っても過言ではない最悪の火事場泥棒だと強烈な批判を浴びせ────》
《フランスからも日中間で発生したこの衝突に対し強い懸念が表明され─────》
《…………このように、世界各国からも日本の強硬な対応に対して不快感や不安を指摘する声が多く、世界全体での戦況へ悪影響を与えるのではないかと強い不安を呼んでいます。
南政権には今一度、このような状態だからこそ“人類同士の協和”に向けて動いてほしいと切に願います。
テレビ日ノ出は引き続き、深海棲艦関連のニュース並びに国内で起きた“暴動”の情報を速報で伝えてまいります》
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/02/02(木) 07:30:52.95 ID:XwtivAAo0
投下おつです
ジワジワとタイトル回収へ近づいているのを感じる
155 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/02/25(土) 23:30:10.07 ID:0Lt92TP40
.
元より、マス・メディアという集団に期待などしてはいない。彼らの自衛隊に対する「敵対的」な姿勢も、自国民の命や自国の国防より周辺国の“お気持ち”へ配慮することを遥かに重視する性分も、彼女が現役の頃から一貫している。
深海棲艦という未知の脅威が出現した後ですらその姿勢を揺るがさなかった時には、最早一周回って感心と敬意さえ抱いた。
……向こうは疾うの昔に地中に埋まっていたハードルをこの期に及んで掘り起こし、その下をわざわざ潜ってきたが。
@# _、_@
( ノ`)「本当に、腐った連中だよ」
彼女────流石挙母(サスガ・コロモ)の吐き捨てた言葉は、これでも自制心を最大限に振り絞り感情を限界まで抑え込んでいる。仮に彼女が心の赴くまま活動を開始すれば、肩口からぶら下がるM249軽機関銃は各報道機関を“黙らせる”為に使われることだろう。
耳元で尚も不快な言葉を羅列し続けるイヤホンを、眉を顰めつつ取り外す。その先につながる持ち運び式のラジオはビルの中で拾った物で、元の持ち主と思われる人物が既に“使える状態ではなかった”ため拝借した。
別角度からの情報収集になればと考えてのことであったが、受けた不快指数が代償として割に合ったものかは議論の余地がありそうだ。
ただ、“有益な情報”を十分に得られたのは間違いない。
@# _、_@
( ノ`)(中国の“国盗り”、ブラフじゃあないね。人民解放軍の日本進駐実行は秒読みって証拠だ)
各報道機関による、余りにも露骨に偏った南政権への批判的論調。いつも通りの光景と言ってしまえばそれはそう。
だが、ここまで“一斉に”、“整然と”、“足並みを揃えて”動いてくるとなれば、各個の自由意志ではなく何かしらの「指揮系統」が存在することを疑わなければならない。
156 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:31:59.88 ID:0Lt92TP40
言ってしまえば、そもそもマス・メディアが機能を維持していることそれ自体解せない面がある。
本来この手の組織・集団は、自身の正当性や思想の主張、或いは単純な恫喝などを目的として放送施設はかなり高い優先順位で押さえにかかる。昨今は動画サイトやSNSもあるため一概には言えないとしても、日本のような治安が高いレベルで保たれている国においてライフラインの一つを掌握できれば与えられる衝撃は決して小さくはない。
にも関わらず、銃弾の一発も撃ち込まれないどころか暢気に“有識者”を招いての政権批判放送を垂れ流す余裕すら保たれているというのは流石に不自然だろう。
武装蜂起が始まった直後に彼らが神妙な面持ちで「各放送局も被害を受けている可能性が高い」等と宣っていたことを考えれば、乾いた笑いの一つも湧いてくるというものだ。
そしてこれらの“不自然”は、「マス・メディアが“武装勢力”と敵対していない」ケースを仮定した場合途端に“自然”なものとして説明がついてしまう。
@# _、_@
( ノ`)(そりゃあ自分達の要望と主義主張を自主的に“代弁”してくれるなら、いちいちリソース割いて制圧する必要なんざないだろうさ)
寧ろ「報道機関が“自主的に”人民解放軍の日本進駐に肯定的な意見を述べている」となれば、中国側にとっては先の宝木蕗也(たからぎ・ふかや)による南政権への“糾弾声明”と併せて立派な大義名分となり得る。実情がどうあれ曲りなりなりにも「言質」さえ存在すれば、アメリカやロシアに対する“戦後”の牽制材料としても十分だ。
@# _、_@
( ノ`)(ただしこれらは、“実効支配”の確立が前提条件だ。となると、共産党の上層部が“拙速”を重視して各軍閥をまとめ切る前に動かせる分だけで強引に乗り込んでくる可能性も否定できなくなってきた………もう、時間は殆ど残されちゃいないだろうね)
そこまで考察を終えたところで、挙母は用済みとなったラジオからイヤホンを抜き取り………無造作に頭上へ放り投げた。
《都内で“武装勢力”に対して自衛隊並びに艦娘の出動が行われている件についても、各界“有識者”からは対話を放棄した暴力的な対応であるt
考えた人間の脳に何らかの欠陥が存在するであろうことが容易く想像できる文章を無遠慮にがなり立てていたラジオが、伸びてきた何本かの火線に貫かれる。
世界で最も製造され、世界で最も多くの人を殺し続ける自動小銃───AK-47から放たれたそれらは、そのまま挙母が身を隠している路上で横転した乗用車の屋根に突き刺さり火花を散らした。
157 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:33:24.59 ID:0Lt92TP40
県庁所在地と言えど、水戸市はあくまで地方都市の一つ。駅周辺の商業エリアや繁華街の一部区画を除いて、東京都中心ほど建造物同士の“密度”は高くない。道路の幅も広く、比較的視界が拓けている場所がそれなりに多くなる。
故に、同地における戦闘は“市街戦”であると同時に“攻城野戦”の側面も併せ持つ。
遮蔽物の少ない路上を行軍する際攻勢側はどうしても身を晒す機会が多くなり、防衛側は予め沿道の建造物を掌握すれば敵の位置を容易に確認しつつ上方、側面から安全に火力を投射し得る。
準備砲撃や潤沢な航空支援によってそうした脅威を事前に排除できるならまだいい。だが歩兵戦力のみでこれを制圧しようとした場合、戦況の天秤は最初から大きく防衛側に傾くことになる。
挙母たちが今いる場所などは、その典型的な例だろう。
水戸駅から南に800m程南下した大通り、道は広くしっかりと塗装され、沿道にはマンションと都内より遥かに階数の少ないビジネスビルが閑散と立ち並ぶ。
既に日は暮れ、また路上には運転手の逃亡や“沈黙”によって放置された民間車両が幾らか転がっているため身を隠す術は用意されているが、それでも限度はある。全くの無策で進軍すれば、たちまち十字砲火の餌食だ。
故に挙母達は、あえて敵に“先手”を取らせにいく。
从' '从《先ぱぁい、火線により敵位置把握できました〜。交差点挟んだ向こう側、左手の学習塾が入ったマンションと右手ガソリンスタンド後ろのマンション、それぞれの屋上に狙撃手〜。左手沿道の消防署内にも動きがありますね〜、多分中から敵が出てくると思われます〜。
それとぉ、駅南公園通りを東700mほど先から新手が接近中〜。数は目算20人ぐらいかな〜》
背後の高校校舎を押さえ、その屋上に別働隊を率いて陣取る“後輩”────渡辺優香(ワタナベ・ユウカ)からの無線通信。口調こそ場違いに間延びしともすれば闘争心が削がれるレベルだが、内容は迅速で的確だ。
陸自の最精鋭が集う中即連において尚【天の眼】と称された空間把握能力は、一線から退いて5年経った今も衰えていないらしい。
@# _、_@
( ノ`)「西進中の新手、牽制で止められるかい?」
从' '从《はいはーい。このためのぉ、L96A1とぉ、ラプアマグナム弾〜》
やはり間延びした、しかしどこか嬉々とした響きの返答。闇夜を銃声が駆け抜け、観測手と思われる男がくぐもった声で《One Down》の一言を告げる。
「xxxxxッ!!!」
从' '从《From fire-department almost never reach me anyway, so I left it up to my allies. Keep an eye out for snipers only. Don't have to hit it, so don't let them take aim with Suppression fire》
即座に校舎屋上へ向けて弾幕が殺到するが、渡辺は冷静さを崩さない。一瞬で状況を整理し、的確な指示を味方に下す。
@# _、_@
( ノ`)「………さて、行くかね」
同時に、挙母もまた動く。
158 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:35:40.84 ID:0Lt92TP40
交戦開始とほぼ同時に行われるスムーズな戦力展開に、即時の増援派遣。既に市内各所で新たに発生した“戦闘”を向こうの指揮官達も把握し、その上で対処に動き始めているのだろう。
水戸警察署を始め警官や自衛隊による抵抗が完全に排除されたワケではない中でこうして更なる人員を捻出できるとすれば、同市における“武装勢力”の規模は自分達や横須賀の予想以上に大きい可能性を考慮しなければならない。
ならば、此方もド派手に動いて兵力の“過大評価”を誘発させる。
@# _、_@
(# ノ°)「主砲撃、右正面ガソリンスタンド!!」
「了解!!」
飛ばした号令に、挙母のすぐ横で小柄な人影が───神風型駆逐艦四番艦・松風が勢いよく車の影から路上へと躍り出る。その右手で起動した12cm単装砲が、何ら躊躇することなく砲弾を指定された“目標”に向かって撃ち放った。
从' '从《ワァオ》
気化性も引火性も高い液体燃料を扱い、ただでさえ【火気厳禁】は絶対不可侵な場所。そこに艦砲射撃を食らわせれば、どうなるか。
誰でも容易く辿り着ける単純明快な問だが、あえてそれを比喩的に表現するならば、
「ムグォッ」
「「「ッッ!!?」」」
マイケル=ベイ監督作品のハリウッド映画の一場面、といったところか。
「XXxxxxx!!??」
「xx,xXxxx!!」
地下の貯蔵タンクが炸裂する。空間が揺れる。暴風が吹き付ける。巨大な火柱が生贄を求める竜神のごとく逆巻き荒れ狂う。
消防署から現れた一団、その最外殻にいた数人が灼熱の渦に飲み込まれる。一人の身体が浮き上がり消防署の壁に叩きつけられる。凄まじい速度で吹き飛んできたコンクリ塊に、更に一人の頭蓋が粉砕される。
路上を、火の粉混じりの土煙が濛々と覆い尽くす。
「xxxxxxx!!」
「xxx、xxXx!」
「xxXXxxxX, xxxxxx!!」
至近で起きた大爆発、一瞬で失われた1/4の兵力、膨大な土煙による視界の封鎖。これだけ悪条件が伴ってなお、敵の指揮官は冷静だった。残った人数で即座に陣形を再編し、弾幕を周囲に張りながら部隊を後退させていく。
ただの盲撃ちなら何ら恐れることはないが、統率が取られ火線間が密な“制圧射撃”は例え的が捕捉できない状況下でも牽制としては十分な効果を発揮する。
マズルフラッシュによる位置の特定を避けるべく各員が連携を崩さない範囲で細かく動きながら銃撃を行っている点もソツがない。並の練度の部隊・兵員が相手であったなら、消防署までの撤退は十分に間に合っただろう。
「知ってるかい?」
問題は、
@# _、_@
( ノ`)「日本じゃあ、ゴミのポイ捨ては犯罪だよ」
「………っ!!!?」
相対した側が、とびきりの手練であった点にある。
159 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:38:01.25 ID:0Lt92TP40
放置車両を飛び越え、弾ける銃火をくぐり抜け、爆煙の只中に突っ込む。肉食獣から逃げるカモシカの如く靭やかに、獲物を追うヒグマの如く獰猛に駆け、一息で距離を詰める。
あっという間に敵兵の懐を取った挙母が次に取った行動は、殴打。原始的で単純、故に出が早く実行するだけなら特別な技量を要さない、最も基礎的な攻撃行動。
殺傷能力は使われるモノによってくるが、フル装弾されたMINIMI軽機関銃の銃床を利用したならそれは当然十分に確保される。
況してや挙母の全力を以て振るわれたなら、最早殴打というよりは“砲撃”に近い。
@# _、_@
(# ノ゚)「噴ッ!!!!」
「ギュペッ」
「xXxっ!!?」
真っ向から食らった敵兵の頭蓋が、コンクリ塊での“それ”よりも遥かに凄まじい勢いで砕け散る。首から上を骨片と脳髄と千切れた毛細血管がぐちゃぐちゃに混ぜ合わさったナニカへ変貌させ屍が崩れ落ちようとするが、しかし挙母は胸ぐらを掴みそれを許さず持ち上げる。
「xッ!?」
「XXxxっ!!!」
@# _、_@
( ノ`)「っ……!」
挙母の乱入に気づいた他の敵兵達が、ある者は悪態を、ある者は驚愕を口にしながら銃口を向けてくる。
迸る火線を遮るは、盾の如く掲げた屍体。まぁ一応防弾装備をしてはいるが、カラシニコフ小銃十数丁の斉射となればさしたる役には立たない。加えて斃した男の体躯は拳母のそれよりも小柄で、隠れきれるものでもない。保って、せいぜい数秒。
そして、その数秒で挙母にとっては“十分”だ。
「グォバッ!!?」
「xx……xッ!!?」
火線の出処の内一つに“肉と骨と断裂した血管で構成された元人間の塊”を、別の一つに腰から抜き放ったナイフを投げつけ、射撃が止まり開いた火線の穴へ飛び込む。
ナイフを投擲された方は銃身で弾き防いでいたが、構え直そうとしたAK-47を横から伸びてきた腕が押さえつける。
渾身の力でそれを跳ね除けようとするが、まるで溶接でもされたのかと疑うほどにビクともしない。
@# _、_@
( ノ`)「鈍いね」
「ヒッ………」
挙母の腕だった。
160 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:39:31.72 ID:0Lt92TP40
「ゴフッ、ギッ、グガッ………」
膝打ちを腹に入れ、掌底で地面に叩き伏せ、頚椎を踏みつけ圧し折る。流れるような殺戮動作の延長で前転し、振り向きざまにMINIMIを膝立ちで構える。
「「ガァッ!!?」」
「「ぅグッ………」」
フルバースト射撃で、銃口を横一線。背後に回り込まれての弾幕に為す術などなく、軌道に沿って立て続けに四人が撃ち抜かれる。
「xxXX!!」
「「「xX!!!」」」
尤も、流石に百発百中の精密射撃とはいかない。指揮官と思われる男を筆頭に、被弾を免れた残余の兵士たちが一斉に反転し射撃体勢に入り、
「…………ゴッ!!?」
内一人の喉笛に、背後から伸びてきたナイフが突き立てられた。
(´ `)「Иди спать, испорченная собака.」
「ヒコッ!?」
「ヌァッ………」
指揮官の喉を引き裂いた襲撃者は、ロシア語で何事か呟きながらその屍が倒れ伏す前に次の動作を開始している。
左右の敵兵に、眼にも止まらぬ連続射撃。右側の敵兵は側頭部を、左側は胸部を射抜かれ、小さく呻いて事切れる。
右手で煙を燻らすのは、サブマシンガンやアサルトライフルではなく………リボルバー式の拳銃だった。
@# _、_@
( ノ`)(………こりゃ驚いた、コルトなんざ使う物好きがいるたぁね)
コルト・シングルアクション・アーミー。アメリカ合衆国で実に150年前、西部開拓時代に生まれた軍用拳銃だ。安全装置を持たないという機構的特色故に【早撃ち】に対して極めて高い適正を持つ銃であり、所謂「保安官」の代名詞的存在であるテキサス・レンジャーにおいては一部局員が未だに愛用しているという。
無論、性能として特化しているのはあくまで「早撃ち」の部分に対してのみ。威力については一般的な銃火器と大差なく、“本来なら”連射力は近現代のオートマチック拳銃やサブマシンガン、アサルトライフルに大きく劣る。
だが、挙母は見逃していない。左側の敵兵に対して、あの“ガンマン”が一度の射撃で「3発」の弾丸を叩き込んでいたことを。
某盗賊一味のガンマンも使う、リボルバーを“手動”で回転させることによって“連射”を実現させる超技法。
@# _、_@
( ノ`)(ファニング・ショット…………本当に西部開拓時代からタイムスリップしてきたなんてオチじゃあるまいね)
しかも“ガンマン”による3連射は、全てが寸分の狂いもなく同位置に突き刺さった。“重ね撃ち”だったからこそ防弾チョッキも肉も貫き、一息に心臓まで届いたのだ。
161 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:43:03.59 ID:0Lt92TP40
そして、更に驚くべき事実が一つ。
華奢な身体つき、挙母のせいぜい胸辺りという──挙母側が異様であることを差し引いても──決して高いとは言えない背、爆風に靡く長いブロンドの髪、透き通るような白い肌、悪態と思わしき言葉を発した声の高さ。
この“ガンマン”は、女だ。
@# _、_@
( ノ`)(………まぁ、だからどうしたって話ではあるがね)
挙母自身は、急遽渡辺からお呼びが掛かった事で自身の子供達を助けるにあたって「渡りに船」と参加した身であり、この部隊がどういった存在かは皆目検討もつかない。
ただ日本という国の在り方と照らし合わせれば、何かしら後ろ暗いモノを抱えているのは容易に想像がつく。そして渡辺に指揮を託しているということは、十中八九構成員それ自体もまともではないのだろう。
だが、そんなものは今の挙母にとってはどうでもいい。
組織の設立経緯が胡散臭かろうが、所属員達の出自が後ろ暗かろうが、それを率いている“後輩”が超絶ド級の変態で戦闘能力と引き換えに人間性を母の胎内に置いてきたレベルの人格破綻者で仕事上の付き合いでなければ1秒以上同一空間の酸素を共有していたくないほどのゴミカス野郎であろうが、全て政治屋連中が対処すべき問題で挙母には関係ない。
まぁあの色んな意味で化け物じみた首相なら、この問題についても恐らく“上手いこと”やるだろう。
挙母にとって重要なのは、ただ一点。部隊がこの“想定外の有事”に対して、自分の子供達を直接的にも間接的にも危機に陥らせているこのクソッタレな状況に対して、即応性を持っているかどうか。それだけだ。
そこさえ満たされているなら、他の全てについて意に介するつもりはない。後は目的を───国を護るという誇り高き職務に懸命に従事する、バカ娘とバカ息子の“手助け”を果たすのみ。
@# _、_@
(# ノ°)「Both sides!!」
それに、“現状”そもそもそんな事に気をやっていられるような暇もない。
@# _、_@
(# ノ°)「Fire, Fire, Fire!!」
(#´ `)「Садись!」
「ガフゥ」
「xxXxxX!!」
“ガンマン”と他の後続兵によって残党も殲滅され制圧下に置かれた路上、だがそこに息をつく間もなく弾幕が降り注ぐ。消防署とガソリンスタンド裏のマンションそれぞれの入口から新手が出現し、2階、3階からも計数十丁ほどの銃口が突き出される。
消防署側は即座に挙母が応射して押し留め、マンション側も“ガンマン”が先鋒二人を立て続けに撃ち倒したことで足並みが乱れその間に他の兵士の合流が間に合い路上への展開を防ぐことに成功した。
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/02/27(月) 10:04:25.20 ID:vjNZ8XHM0
更新おつです
母は強し、と言えども普通は軽機関銃を手持ちで撃てませんね
そんなことできるのはシュワルツェネッガーだけw
163 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/03/16(木) 22:57:16.50 ID:YzHzCrxO0
そこから本格的な銃撃戦が始まったが、
@# _、_@
( ノ`)(まぁ、これもあまり喜ばしくはないね)
現時点で既に数的・地形的不利がある上で、他の方面から更なる増援が派遣されればこれはより拡大する。時間はあくまで敵の味方、この交戦が長引けば長引くほど挙母達は不利になっていく。
@# _、_@
(# ノ°)「朧、名取!!」
「「了解!!」」
ただ幸いなことに、こちらの部隊には“軍艦”がいる。
「xxxx!!?」
「そんなもの、人に撃ったらダメですよ!!」
どこかズレた叫び声と共に、火線を遮る形で挙母の前に滑り込んできた名取。即座に向こうの銃火が彼女に集中されるが、一発辺り4000ジュール程度の熱エネルギーを何千発束にしたところで軽巡洋艦の装甲など抜けるわけもない。
「やぁあっ!!!」
「フグッ……」
「「「ドォッ!!!?」」」
玄関扉を体当たりで粉砕し、最前列にいた一人をラリアットの要領でなぎ倒す。更に踏み込んで突貫、ショルダータックルが迎え撃とうとした三人を纏めて吹き飛ばす。
「xxxっっ!!!」
「うっ……!?」
艦娘に人間が勝ち得る可能性がある数少ない分野、白兵突撃。それを看破した上で狙ってやったのか破れかぶれの末の偶然か、何れにせよナイフを構え柱の陰から飛び出したその兵士の奇襲は完璧に名取の不意をつくことに成功した。
極限まで美化した言い方をすれば、その兵士の決意と勇気が産んだ千載一遇の好機。名取は自分の肩を手が掴んだ時にようやく気づけたほどで、艦娘の身体能力と反射神経を持ってしても反撃や防御は間に合わない。
訓練された軍人による正確な、殺戮を手慣れた者による躊躇のない斬撃が、名取の喉笛に迫る。
@# _、_@
( ノ`)「邪魔だよ」
「ヌンッ!?」
だが、横合いから伸びてきた大きく太い軍用ブーツを履いた足が、容赦なくその“好機”を踏み躙った。
@# _、_@
(♯ ノ`)「Clear of the stairs!!」
「Roger Mom!!
Guys, Go ahead!! Go ahead!!」
「グゥッ………」
「「「ギャアッ!!?」」」
「XxXx!? XXXXXっ!!!」
蹴り飛ばされ柱に叩きつけられた“勇敢な兵士”、周囲で慌てて小銃を構えようとしていた数名、そして奥の階段から姿を現した更なる増援と、順番にMINIMIの火線を叩き込んでいく。
階段の敵部隊には突入してきた此方の部隊員の掃射も浴びせかけられ、瞬く間に1/3前後の人数を失ったその部隊は殆ど反撃らしい反撃が出来ぬまま後退を始めた。
164 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/16(木) 22:59:55.19 ID:YzHzCrxO0
@# _、_@
(♯ ノ`)「No prisoners! Kill them all!!」
(訳:敵に虜囚の辱めを与えては日本の武士道に背きます、丁重に全員地獄に送って差し上げてください)
「Yes Mom!!
Guys, Listen!? Kill them, Kill them, Kill them!!」
(訳:指示を承りました。皆さん、聞きましたね?しっかりと仕事を熟しましょう)
「「「Hoorah!!!」」」
(訳:私達はとてもやる気に満ち溢れています)
挙母からの命令に威勢よく応じながら突入部隊の面々が階段を駆け上がっていき、程なくしてくぐもった銃声・怒号・断末魔が上から聞こえ始めた。
向こうの練度が低いわけではないが、見た限り渡辺や“ガンマン”を筆頭に此方の人員は個々の戦闘能力がイカれた領域に踏み込んでいる。地形優位が消え懐に飛び込んだ今となっては、後数分もかからず彼らは仕事を終えるだろう。
(#´ `)《This is Team 2, we cleard the entrance hall!!》
从' '从《Team 3 for Team 2, The apartment building is currently spreading fire.
No need to overrun, fall back quickly and prepare for the appearance of new enemy units》
@# _、_@
( ノ`)「朧、アンタは引き続きチーム2に同行、ソイツらと一緒に路上に展開しマンション内や別区域からの敵増援に備えな」
《駆逐艦・朧、了解しました!》
(´ `)《………Copy that》
こっちと負けず劣らずの速度で制圧を終えたらしいマンション側に、即座に渡辺から後退の指示が飛ぶ。ガソリンスタンド爆発の影響で火災が発生しており危険だからという至極真っ当な理由だが、応じた“ガンマン”のものと思われる女の声は酷く凶暴で不機嫌そうな色を伴っていた。
あの超絶技巧を身につけるまでにどんな凄絶な修練を積んだのかと思っていたが……なるほど、“好きこそものの上手なれ”だったか。
@# _、_@
( ノ`)(まぁ発起人があの深海魚で、統率者があのクソ変態ならそりゃあ下も“こうなる”のは当たり前だね)
まさしく、“類は友を呼ぶ”。こうもあっさり的確に現状を言い表せる諺や慣用句が出てくる辺り、やはり先人達の知恵は侮れない。
そんなやや場違いなことを考えながら、挙母は足元に────微かに上がる、うめき声の方に視線を向ける。
165 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/16(木) 23:01:57.75 ID:YzHzCrxO0
「グゥ………アッ………ァガッ!?」
「ギャッ」
「xxXx………ヘルッ」
打ち付けた箇所を押さえ、身体を丸め、苦悶の表情で床の上をのたうち身動ぐ四人の武装兵。腰から9mm機関拳銃を抜き、それらに順番に弾丸を叩き込んで沈黙させていく。
「タ、タスケtイ゛ッ、ムォッ!?」
最後の一人は何事か言い掛けながら掌を向けてきたので、“フリ”に応えてまずそっちのド真ん中に風穴を開けてから喉笛をぶち抜いた。
「あ、ありがとうございます……お手数をおかけしてすみません……」
四人目の始末を終えたところで、名取が挙母に頭を下げる。
……そう。この四人は先程、名取の攻撃を受けて入り口から吹き飛ばされた武装兵達。何故、か細いながらまだ息はあったのかと言えば、当然それは名取が最大限の“手加減”を施したからだ。
軽巡洋艦・名取が、相当大人しい性格の艦娘であることは挙母も知識としては知っている。水雷戦・夜戦においては他の艦種の【改二】にも比肩する実力を誇りながらそれに奢らず、常に謙虚で引っ込み思案な心優しい“穏健派”艦娘の一人。
ならばこの武装兵達に対する“峰打ち”も、彼女のその性格から、優しさから来るものであったのか?
否、答えは否。
もしも“そう”であるならば、何故挙母が拳銃を抜いた時、その目標が明白であるにも関わらず彼女は止めようとしなかったのか。何故一人目が射殺された時、抗議の声を上げず行動を妨害しなかったのか。
何故、全てが終わった後に、彼女は謝罪と“感謝”の念を述べたのか。
@# _、_@
( ノ`)(さしずめ、“ゴキブリ”ってところかね)
ゴキブリは大半の人間にとって存在そのものが不快極まりない生物であり、基本的には見かけたら一刻も早い排除を試みる。
だが一方で衛生面の問題や向こうの俊敏性、外見のおどろおどろしさによって直接触れる、素手で潰せるという者は少なく、殺虫剤などの間接的な排除手段がない限り無力な人間も多い。
名取にとってこの武装兵達は、“素手で潰すしかできないゴキブリ”だったのだ。自分で潰すことはできないが、かといって視界に入り蠢く限り不快で鬱陶しい。だから、代わりにそれを潰してくれた挙母に対して“礼”を述べたのだろう。
代わりに殺してくれてありがとう、と。
@# _、_@
( ノ`)(………【艦娘三原則】、思った以上にこの子らを歪ませちまったねぇ)
艦娘は人間の武器であれ、忠臣であれ、奴隷であれ。SF小説の大家が作り出した概念に準えて偉そうな文言を並べ立ててはいるが、あんなモノ要約してしまえば言わんとしていることは上の3つだ。
人間としての姿形・声・感情を持つ存在にこれを言っているのだから、考え出した連中はきっと心を持ち合わせていないロボットの如き冷血漢に違いない。
だが、どれ程腐り果てた実情があろうとも、それは確かに彼女たちにとっての行動“原則”であり絶対遵守の指針だった。そして遵守さえできていれば、他の面には干渉されないという“自由”に対する【逆説的な保証書】でもあった。
166 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/16(木) 23:05:41.03 ID:YzHzCrxO0
人と同じ感情を持ち、一部は人以上に誇り高い筈の彼女たちが、何故“あんなモノ”に従っていたのか。無論生まれた時からそうなるように教育(或いは……プログラミング)されていたからというのは大きいだろう。
だが、この【保証書】という側面を持つ故に、艦娘達にある種の怠惰が、“依存”が生まれていたこともまた事実ではないか。
一先ずは“それ”さえ護っていれば、制限下の“自由”を得られるのだから。生を受けたその瞬間から、彼女たちには“それ”が存在するのだから。“それ”を絶対視し、諦観し、遵守していれば、後は「提督」の指示に従うだけで自分達では何も考えずに済むのだから。
南政権が先の国会で制定した【艦娘自己自衛権】法案は、艦娘に“自由”を………完全なものをもたらすにはなお時間が必要としても、そのきっかけになっていく可能性は大いにあるだろう。
だが、絶対的価値観が消失したからこそ、彼女達には「自分で考え、行動する」ことへの“義務”が生じる。
以前は、提督からのあらゆる命令には基本的に従えば良かった。従ってはいけない命令は、【三原則】が示してくれていた。従うべき命令と従うべきでない命令を“自分で”判断する必要はなかった。
【三原則】が絶対であった時は、人間とはいかなる例外もなく“傷つけてはいけない存在”と定義されていた。
明らかな害意にすら必要最低限の抵抗しか許されていなかったが、故に敵は深海棲艦に限定されており、人間を「敵と味方」に選別することはなかった。
彼女達は、駆逐艦や一部軽・重巡洋艦並びに軽空母でも就学児童程度、戦艦・空母といった艦種からは明確に成人女性を模した姿形で“建造”される。
今年の半ば頃から実装が始まった【海防艦】はやや怪しい面があるが、それでも大半は自分自身で善悪の区別やそこではっきり割り切れないものに対する「玉虫色の判断」を下せるぐらいの思考力は身についているように感じられてしまう。
だが、忘れてはいけない。艦娘が“実装”されたのは、2012年初頭であることを。
彼女達の中で最年長の者でも、その実初等義務教育の開始年齢にすら届いていないことを。
@# _、_@
( ノ`)(禄に人生経験も積んでない“せいぜい5〜6歳の小娘”連中に、既存の価値観が根底からブッ壊れたレベルの思想的パラダイムシフトに自己判断だけで適応しろってのは………無理難題だろうね)
167 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/16(木) 23:07:54.56 ID:YzHzCrxO0
第一項。深海棲艦に対する利敵行為を認められた国家、個人、団体に関しては、例えそれが人間であったとしても“敵性”であると認定し攻撃することを認む
第二項。艦娘は自身の任にそぐわない行為・行動・思想を強要する存在に対して、第一項の抵触者と見なして無制限に抵抗する権利を有する
第三項。艦娘は全ての対深海棲艦を主とする軍事行動に関して、無制限に発言権を認める。また、これを理不尽に阻害する存在に対しては第一項の適用を認む
第四項。上記三項目は全て“艦娘三原則”に抵触しないものであるとして、“艦娘三原則”に対し優先して適用することを認む
南慈英が施行に漕ぎ着けたこの【艦娘自己自衛権】法案は確かに歴史的な大変革であるが、そこに決して“即効性”は求められていない。実際、彼女らの権利拡大はあくまで「深海棲艦との交戦時」における物に限定され、直接的な人権関連には触れることを避けている。
人類共通の敵にして目下最大の脅威と戦うにあたって、艦娘達が“円滑な作戦行動”を行うため……こんなお題目を掲げれば、艦娘技術において遥か後塵を拝する他国も否やは言い辛くなる。欧州諸国が次々と陥落しつつある現状では尚更に。
それでも否やを言ってくる連中は、“同盟の有無”を理由に確認をすっ飛ばしつつ仮初めとはいえ国際社会の中枢機関である国連の「アタマ」を押さえ反論を封じる───何を食べ、どんな暮らしをしていたらこうも悪辣に立ち回れるのか聞いてみたくなる動きだが、“最も角が立たない第一歩”であったことは間違いない。
その上で、深海棲艦の存在に託けて盛り込んだ第一項を徐々に拡大解釈していき、艦娘達の自己判断能力を育てつつ彼女達の権利を人間本来のものへ近づけていく。きっと、あの深海魚首相の脳内ではこんな青写真が描かれていたのだろう。
……だが今、現実に、“深海棲艦以外に対する適用事例”が起きてしまった。反艦娘運動家のような生温い内容ではなく、より明確な“敵意”を持った集団が、殺戮或いは無力化を目的として攻撃をかけてきた。それも第一項の緩やかな拡大どころか、法案それ自体の浸透周知さえ禄に済んでいない中で。
「…………いい気味」
今目の前にいる名取の姿は。優しげな風貌からは想像もつかないほど冷たい視線で見下しながら屍に向かって吐き捨てる有様は。
人類が「戦時下だから」と言い訳して“歪み”から目を逸らし、その解決を後回しにしてきたツケの表出だ。
ほんの少しでも状況を緩和しようと施行された法案が表出のきっかけとなってしまった辺りに、挙母はなんとも言えない皮肉を感じた。
168 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/16(木) 23:09:38.37 ID:YzHzCrxO0
各部隊に渡された武器弾薬と医療品の中で、やたらと量が多かった鎮静剤の意味が今なら解る。
水戸市への派兵に際してあの首相は、ある程度こうした事態になる可能性を危惧していたのだ。
そして不幸にも、その危惧は完璧に当たってしまった。
@# _、_@
( ノ`)(なんせ、この子らはまだ“マシな方”だからねぇ)
水戸市において“武装集団”に制圧・され捕虜となっていた艦娘や自衛隊員の救出は、その時点で展開中だった兵力や艦隊数と照らし合わせる限り概ね完了している。市民が自主避難を怠っていたからこそ大半は──特に“自称平和団体”を刺激しないため──市外で県警による避難完了まで待機せざるを得ず、結果として損害は最小限に留められていた。
だが、他の部隊によって救出された艦娘達の中で、戦線への復帰が可能だった艦娘は一人も居ない。ほぼ全員が重度のPTSDに類似した症状と極めて深刻なパラノイアを発症しており、特に救出ができはしたが“間に合わなかった”艦娘数名は狂乱状態に陥って近くの自衛官や救出部隊に艤装を向けようとしたと言う。
挙母の言う通り、少なくとも無差別攻撃に至るほど錯乱してはおらず交戦意志も維持できているだけ、状態としては遥かにマシだ。
ただ、大いにアテが外れたのは間違いない。
【自己自衛権】の施行から日数が浅かったことやせいぜい4〜5個艦隊分とはいえ艦娘も含まれていた筈の展開兵力があっさりと市内から敗走・駆逐されていたことを加味して、渡辺と挙母も艦娘たちを十全に活用可能とは端から計算していない。
しかしせめて半数程度は、名取たちのような“支援”に参加してくれるとソロバンを弾いてはいた。
@# _、_@
( ノ`)(この子らにしろ、言動を見る限り“意気軒昂”とはいかない。どっかで歪みが深刻化して他の部隊みたく「友軍相撃」なんて事になりゃ笑えもしない。何かしら、代替案を考え─────)
………彼方より挙母の耳に届いた、雷鳴のような、或いはボクサーがサンドバッグを軽快に叩いている有様を思わせる連続した音。着実に近づき、大きくなっていくソレに、思わず挙母の思考が止まった。
从' '从《Unknown is approaching from 11 o'clock. Everyone be on the lookout.……あっ先ぱぁい、駅前公園通り方面からの敵増援部隊、殲滅完了してましたぁ〜》
@# _、_@
( ノ`)「あぁ、聞こえてるよ」
本来完遂と同時に真っ先に報告されるべき事柄が後付されたが、しかし挙母の方もそちらには反応しない。渡辺にとって、そして彼女を知る挙母にとって、後者は「私はさっき呼吸しました」と同価値のくだらない報告だ。それよりも接近してきている“正体不明機”の方が、遥かに優先順位が高い。
从' '从《あれは………【チヌーク】ですねぇ、でも機体に自衛隊の刻印がないですぅ〜。あと、下に何かぶら下げてますねぇ〜》
@# _、_@
(# ノ`)「艦娘各位、射撃待て!射撃待て!いいかい、こっちから命令があるまで艤装を空に向けるんじゃないよ!!」
《ヒンッ、了解しました!!!!》
接近を続ける「ローター音」をも掻き消す勢いで無線に向かってがなりたてれば、松風が子鹿の悲鳴みたいな声と共に応じてきた。
危なかった、案の定対空機銃が火を吹く寸前まで行っていたらしい。どうやら“間接的な殺人”のみならず、姿形さえ視認しなければ“直接的な殺人”についても許容してしまえる程度には「タガ」は外れつつあるようだ。
169 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/16(木) 23:32:33.33 ID:YzHzCrxO0
从' '从《チヌーク、尚も接近中〜。数は2機、“敵対武装勢力”による攻撃を受けてまーす。あ、今のRPG避けるんだ。いい腕してる〜》
@# _、_@
( ノ`)「…………っ!!」
渡辺による“実況中継”が無線から垂れ流される中、挙母は消防署の外へと飛び出す。
「ッァアアアアアアアア………────」
途端、悲鳴と共に向かいのマンションの屋上から人影が落ちてきてコンクリートに叩きつけられたが、どうせ渡辺が撃ち抜いたスナイパーだろうから無視する。ちょうど交差点の真上辺りに一機、渡辺が報告してきた【チヌーク】の片割れであろう一機が激しく風圧を下方に掛けながらホバリングしていた。
型はチヌークで間違いないが、たしかに正式採用機であることを示す“陸上自衛隊”の刻印はない。そもそも機体自体、闇夜に溶け込もうとしているかのごとく黒く塗装されていて何とも不気味な印象だ。
また、両側面にぶら下がる大口径のガトリングガンと思わしき武装も軍用とはいえ“輸送ヘリ”についているものとしては些か物々し過ぎる。
@# _、_@
( ノ`)(さっき渡辺は11時方向から飛来したと言っていた、なら百里基地からじゃない。
方角的には宇都宮か。しかし中即連の主力連中は大洗の方に出張ってるはずだし、オリオン通りや宇都宮駅が襲撃を受けてたって話だから残余兵力を回すような余裕もないはずだけどね───っと?)
挙母が素早く思考を巡らせていく中、漆黒の【チヌーク】はワイヤーロープでぶら下げていた“所持品”を切り離し、交差点のど真ん中へと投下する。
「「「ウギャアアアアアアアッ!!!?」」」
そのままガトリングを起動させて両マンション屋上の“武装勢力”に数秒間にわたり無慈悲な弾幕を浴びせかけると、その機体は他の方角から飛んできた新たなRPG弾や対空射撃を悠々と掻い潜り来た道を戻っていった。
「味方………だったのかな」
@# _、_@
( ノ`)「まぁ、連中に対して攻撃してたってことは一先ず“敵じゃない”んだろうさ。それよりも奴さんは何を落としていったのやら───」
170 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/17(金) 00:03:17.55 ID:a58gY65O0
交差点に鎮座する“落とし物”を目にした瞬間、挙母の言葉が途中で止まる。
近現代における「同種」と比較して、ソレは明らかに小さかった。具体的な例で言えば所謂【キューマル】や【エイブラムス】の半分程度の全長しかなく、全高も挙母が少し踏ん張って爪先立ちをすれば並べてしまえるのではないかという程度。
応じて“砲塔”もかなりこじんまりとしており、あからさまに威力は期待できない。少なくとも深海棲艦と相対すれば、駆逐イ級通常種の甲殻さえ抜けず一方的に吹き飛ばされるだろう。
だが、間違いなくソレは“一種”だった。やや車輪の大きな履帯、52口径の回転する上部砲塔、全体的に丸みを帯びた輪郭の中で、前面の角ばった突起部から顔を覗かせる車載機銃。
交差点に佇むソレは、紛れもなく【戦車】であった。
そして、挙母は知っている。その戦車が、第二次世界大戦に運用されていたイギリスの戦車であると。
Mk.Z軽戦車【テトラーク】が、その軽さと小ささを活かして“D-DAY”に関連した幾つかの軍事作戦で使用された「空挺戦車」であると。
そして────戦車道、分けても【タンカスロン】において重用され、あの“大鍋”では聖グロリアーナ学園も用いていたと。
@# _、_@
( ノ`)「………………ハッ」
思わず、自分らしからぬ歪んだ笑みが浮かぶのを感じつつ、挙母は無線のスイッチを入れる。
@# _、_@
( ノ`)「渡辺、“もう一両”はどの辺りに投下された?」
从' '从《泉町大通り方面、ホテル・ザ・ウエストヒルズ・水戸前ですねぇ。【Faker】チームが付近に展開してます〜》
@# _、_@
( ノ`)「そうかい」
この“贈り物”を寄越してきた奴は、間違いなく南慈英とは別人だ。その正体は解らないが、意図については概ね挙母にも予想がついた。
そして、仮に予想が正しければ、笑わずにはいられない。
@# _、_@
( ノ`)「国籍は問わない、英語は全員できるだろうからね。とにかく、戦車道の経験者を三人集めるように言っときな。こっちは二人でいい、車長はアタシがやれる」
@# _、_@
(# ノ°)「せっかくのプレゼントだ、しっかり使わせてもらおうじゃないか。日本生まれの“乙女”として、ねぇ」
どこのどいつだか知らないが………まさか首相・南慈英に匹敵する悪辣さを持った“逸材”が、この世にいるとは思わなかった。
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/03/17(金) 00:09:43.35 ID:19i8P8uD0
統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
172 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/17(金) 23:07:42.84 ID:Y8GDEX0B0
.
川 ゚ -゚)「申し訳ないが顔面深き者どもと同一視はNG」
「えっ?」
川 ゚ -゚)「いえ失敬、此方の話です………状況の報告を」
思わず漏らしたツッコミに、隣りにいたケイ=イガワ(推定英検3級)が目敏く反応し此方に視線をギョッと向けてきた。まぁ“次元が違う話”をするのも面倒なので、話題反らしも兼ねて眼前でカタカタと忙しなくノートパソコンを鳴らす小さな背中の肩を叩く。
爪゚ー゚)「はっ」
合流した際にジーナ=クローネと名乗ったその女は、律儀にピンッと背筋を伸ばしパソコンの画面が私達に見えるように椅子を滑らせる。
マジメなのは結構だけど、何がとは言わないが“造り”が似ているため並ぶと割とややこしくなりそうだ。髪型と眼の感じを変えて出直せ。
爪゚ー゚)「水戸市に投下した【テトラーク】2両、何れも“現地部隊”との接触に成功しました。部隊員の乗り込みが確認されているため、戦闘に使用されると思われます」
川 ゚ -゚)「続けて都内と宇都宮、前橋の戦闘発生地域へのアプローチ準備を。【テトラーク】、【ローカスト】、【ケト】、既に搬入が終わっている車両の積み込みを急がせるよう“飛行場”に連絡を入れておきなさい」
爪゚ー゚)「承知しました」
ほれ見ろややこしい。セリフがなければ即死だった。
173 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/17(金) 23:51:49.41 ID:Y8GDEX0B0
「…………なんか、随分地味なOpening Ceremonyね」
指示を出している私の横で、ケイ=コムロ(推定英検3級)が不満げに口を尖らせる。おっなんだ喧嘩販売か?買うぞコラ。無駄乳もぎ取るぞコラ。
「“戦争へようこそ”なんて言うもんだから、いきなり戦車並べてオオアライにでも突撃するつもりだと思ってたわ」
川 ゚ -゚)「HAHAHA」
出来るわけねーだろ頭Hollywoodが………と、勿論面と向かって言いはしない。何せこちとら“れでぃ”だからね、れ・で・ぃ。
ただ、考えてみれば今ここに集うは各学園艦【戦車道】の、数ある中でも取り分け壮絶極まりない“武道”の長を務める戦乙女達だ。
元の血の気の多さに加えて、現在は“西住みほの救出”という大目的を一刻も早く果たしたいとかなり気が急いている。
私の手綱を離れて各個に暴走でもされる前に、釘は刺しておいたほうがいいだろう。
川 ゚ -゚)「先に1つ、申し上げておきましょう。私自身は、“最終目標”に【西住みほさんの救出】を据えてはいません」
「どういうことよ!!!」
真っ先に反応したのは、【地吹雪】という大層な二つ名と容姿・体躯が釣り合っていないプラウダ高校の隊長だった。彼女は机に拳を叩きつけ、ほとんど飛び上がるような勢いで起立しながら叫ぶ。
「私達は貴女がミホーシャを助けるために手を貸してくれると聞いたから貴女の招集に応じ協力を決めたのよ!!それを今更ミホーシャを助ける気はない?!
ふざけないで、返答によってはただじゃ置かないわよソラーシャ!!」
「……………!!!」
激昂具合については、K−鈴木(推定英検3級)も負けてはいない。サンダースのセッ○スシンボルなんて世の雄共の下卑た欲望丸出しな渾名がついたグラマラスな肉体を怒りで更に怒張させ、日頃の朗らかな表情からは到底想像もつかないようなドスの効いた目付きで此方を睨みつけてきている。
私の胸ぐらを掴んだ手はブルブルと震え、今にも殴りかかる一歩手前だと激しく自己主張中だ。
一瞬「服が伸びちゃうだろうが!」とか言ってみようかとも思ったけど、フザケていい空気でもないのでやめといた。
まぁ別に殴られても痛くはないんだけど、根は真面目だから私。
川 ゚ -゚)「言葉通りの意味です」
「ぇへ!?」
とはいえ掴まれたままでは喋りにくいので、ケ………ネタも尽きたので今後は普通に呼ぼう、サンダース大附属・ケイの拘束からちゃちゃっと逃れて少しだけ後ろに押し飛ばしておく。
向こうは全力で拘束していた筈なのにこっちがあっさりと逃れたもんだから酷く面食らっていたようだけど……まぁここは年季が違うからね、仕方ないね。強くなれ若者よ。
川 ゚ -゚)「“最終目標”は、私にとってはあくまで【日本国の守護】です。【西住みほさんの救出】は、その過程で発生する行程の一つに過ぎません。“クライアント”からの依頼には最大限応えられるよう尽力は致しますが、これも前者の最終目標を阻害しない範囲でというのが前提条件になります」
174 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/18(土) 23:24:56.65 ID:jZoFZcVi0
若いってのは素晴らしい。友情に対する一途さも、使命に対する無鉄砲さも、彼女達が持つ若さ故の特権だ。
しかしそれが無軌道に発散された時、多くの場合結末は悲劇的なものとなる。ならばそれが無為にならないよう導くのは、「年長者」として最低限の役割だろう。
まぁ私を「そう」と呼んで良いのかは、些か議論の余地がありそうだけど。
川 ゚ -゚)「私は艦娘専門店に属する商売人であり、“クライアント”からの無茶振りに応える中間管理職です。
が、同時に超広義的には公務員かつ軍人でもあります。
我々の行動によって国家或いは人類全体に発生するリスクや不利益が許容範囲を超える場合、当然その行動は認められません」
分別もろくにつかず社会の経験もない少女を舌先三寸で丸め込み、「戦争」へと駆り立てる。同年代と比較した彼女達の早熟さなど言い訳にもなりはしない、唾棄すべき外道の所業だ。
だが、自らを外道と自覚するからこそ、暗い地の底を這いずりのた打ち回りながら進むことへの覚悟を終えているからこそ。
私は、“最後の一線”を曲げるつもりは絶対にない。
川 ゚ -゚)「貴女方は、ここに集めたときも申し上げました通りこと戦争に対してはあくまで“ズブの素人”に過ぎない。そこに飛び込む覚悟を貴女方は終え、また“クライアント”もそうなることを望んではいる、それは確かです。
ですが今現在事態に対処している自衛隊や米軍、国連特別“海軍”からすればホントはいい迷惑なんですよ、はっきり言っちゃうと」
鉄製武器すら禄に存在しない古代の頃より、数だけは立派な烏合の衆を徹底的に鍛え上げられた精鋭が寡兵で蹂躙粉砕する話は枚挙に暇がない。近現代における武器の高性能化で「武装」のハードルが大幅に下がったことは確かだが、このあたりの問題は文明がどれだけ進歩しようとも不変だ。
川 ゚ -゚)「ですので、“そうしなければならない状況”が発生するまでは、我々は【武力介入】は致しません。あくまでも物資面や政略面での間接的な支援に徹します。
改めてご認識いただきたい。身勝手な思い上がりや浅はかな焦燥で行動しようとすれば、寧ろ西住みほさんの生命に害をなす事になると」
……まぁ、「物資面や政略面での間接的な支援」も一介の女子高生かき集めただけの集団が非常に実用的な形できちゃってるの普通にオカシイんだけどサ。
元々粉かけてた聖グロの【テトラーク】はともかくサンダースの【ローカスト】と知波単の【ケト】も相互連携で集結済みとか聞いた時は感心通り越してドン引きしたよね。
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/03/20(月) 20:40:51.83 ID:C7e3RZ7HO
更新おつです
ガルパン勢はまだ安全圏にいるようで良かった
176 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/22(水) 23:01:28.64 ID:40wUtYBm0
滔々と語りつつ、私は室内への警戒を緩めていなかった。彼女らの耳に“正論”を届きやすくするため敢えてそうしている面もあるとはいえ、必要以上に強い言葉を使っていることは事実。
理性でその内容を受け止めきる前に、先のケイやコサック被れのチビッ子……プラウダ学園隊長・カチューシャのように感情が炸裂してしまうことは十分に考えられた。
だが、結局は杞憂に終わる。室内の空気は相変わらず張り詰め、かつ険悪なものだったが、そこから更なる“激発”に至った者はいない。
「んん〜……………もう!!」
「…………Shit」
これはケイ、そしてカチューシャについても同様だ。二人共胸中に波々と私に対する不満や敵意が溢れかえっている様子だが、尚も詰め寄ってくるようなことはなかった。
まぁ、“最も憤怒するべき人物”が二人、どっちも沈黙を保ってるからね。そりゃあ他の連中も毒気を抜かれるというか、それを超えてのブチギレは気が引けるだろう。へいへいJKビビってるぅ!
川 ゚ -゚)「“お姉様”も、この方針にご同意いただけているという認識でよろしいでしょうか?」
「…………ええ。全面的に」
敢えて、その内の一人に会話を振る。部屋の中央に鎮座した長机に座る彼女───黒森峰学園隊長・西住まほは、静かな声で応えた。
「我々は“本物の戦争”なんて知らない。所詮は紛い物の戦乙女、闇雲に戦場に出れば自衛隊や米軍の足を引っ張るのは目に見えている。
みほを本当に助けるなら………結局のところ、変に出しゃばって“本職”の人達を邪魔するべきではない。
貴女の言う通りだ」
川 ゚ -゚)(………こっちの言い分を理解はしているが納得はしてない、ってところかね)
口にする言葉は冷静そのもの。だけど含まれる響きの中に、自分自身に言い聞かせているようなモノがある。瞑目し、頭を垂れ、手を前で組み、唇を薄く噛みしめるその姿は、明らかに体内で荒れ狂う衝動と戦っているからだろう。
人の話は目を見て聞けってママに習わなかった????
川 ゚ -゚)(あのコミュ障ママだとマジで教えてない可能性も微レ存だけどさ)
ただ、肉親が安否すら不明の状態に晒され、それを救う為に自ら出張ってきたのに結局手をこまねきざるを得ないというのが西住まほの置かれた現状だ。
その中で理性を失わず、感情的な行動を控えようと勤められるだけでも、到底“華のJK”とは思えない尋常ならざる精神力といえる。
単に本人が優秀というだけでなく、組織全体の沈静化・統率維持にも一役買ってくれる非常に有用な【戦力】。真っ先にコンタクトを取り誘ったのは正解だった。
え?クズの思考だって?やーん、くーにゃんそんなこと言われても今更過ぎて鼻で笑っちゃーう☆
177 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/22(水) 23:05:02.34 ID:40wUtYBm0
………で、問題は沈黙を保っている“もう一人”の方だ。
「…………………」
川 ゚ -゚)(なーに考えてらっしゃるのやらね、【リボンの武者】さんは)
楯無高校2年生・鶴姫しずか。名門老舗酒造の一人娘で、元弓道部だが【大洗の軍神】西住みほが見せた快進撃に感化されて強襲戦車競技(タンカスロン)への参戦を決意。同級生の松風鈴、遠藤はるかと共にアマチュアタンカスロンチーム【ムカデさん】を結成し業界に殴り込み。
各学園艦合同タンカスロン大会【大鍋(カロンドロン)】やその後に行われた大洗女子学園とのエキシビションマッチにおける活躍を経て、間もなく(日本が存続していれば)発足される戦車道プロリーグの第1期ドラフト生候補とも目される新進気鋭のニューホープ。
そんな彼女は今、虚空を見つめながら「進撃の巨人………」とか呟いた挙げ句それを目撃したクソメガネに死ぬほど煽られて人類最強と幼馴染兼親友からフォローの皮を被った無慈悲な追撃を食らいそうな雰囲気を纏って壁にもたれかかっている。
椅子に座れや空いてんだから。
無論、同行者である松風鈴、遠藤はるか共々【戦力】として十分な計算が立つ実力を持っているから誘った面もある。だが彼女についてはそれ以上に、手元で戦力化しておかなければ計画に対して“不安要素”となってしまう可能性が極めて高かった事が大きい。
直情的で、行動力に富み、その癖ただの猪武者ではなく知略も兼ね揃えた生粋の武人。理性を維持した上で、「狂気的な判断」を「理性的に実行」してしまえる、既に軍事に携わる人間として理想的な思考の片鱗を身に着けたジョーカーにもババにもなり得る存在。
そんな人物を、それも西住みほに対して狂信的と言っても過言ではない敬愛を示している者を野放しにしていたらどんな行動を取るか全く予想がつかない。私の中では西住まほやダージリンより確保優先順位が高かったぐらいだ。
だから公安と文科省と山梨県警それぞれの“伝手”からほぼ同時に「楯無高校から鶴姫しずか一行が逃走した」と聞いた時は正直マジで頭抱えました。全力捜索で捕捉した後チヌークで向かう時、仮に同行断られたら泣き叫びながら地面転げ回って眼前で駄々こねてやる予定だった。
武力制圧?あんなんハッタリに決まってるやろがい実際にやったら他の連中の反発ハンパねえよ。
おケイにやったような軽い“いなし”ならともかく超過激派の武道嗜んでる女完全に抑えるとしたらガチモンの軍隊格闘でボコることになるやろがい。手加減にも限界あるっての。
ズタボロの静御前抱えて来場とか完全に賊のそれやろが。残りの連中ドン引きからの総反発でこの集まり空中分解してるわ。
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/03/23(木) 16:07:54.16 ID:KbYqjmkB0
更新おつです
前線はどこも崩壊寸前な一方で、後方では動けずストレス溜めている人々がいる
179 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/23(木) 23:10:43.55 ID:Loa0vns40
まぁ、今は“確保”が終わってる以上一先ずこれも済んだ事だ。何を考えているのであれ、“大人しく”している間は構う必要もない。胸中で逃走や独自行動を企てているにしろ、熟慮する分だけ此方も対策を立てる時間は出来る。
彼女を含めた何人かには“積もる話”が幾らかあるため、最後まで大人しくしててもらった方がいいことは確かなのだが。
「ハァ………オーケーオーケー。落ち着くわよ、マホが我慢してるのに私だけがカッカしても意味ないし」
そうこうする内に、ケイが降参でもするように両手を掲げてため息と共に小さく肩を竦める。計画通りだぜグヘヘ。
「ミホを助ける為なら何だってするって言ったのは私達だもの、JSDFへのsupportだって立派に“なんでも”よね。ミトに対してそれが行われるなら、オオアライへのsupply lineを考えたときに理に適ってもいるもの。
……ただ、ねぇ」
やはり、西住まほ同様納得はしていない。そんな感情を露骨に顔と態度で表しつつ、ケイは背後のホワイトボードに貼られた茨城県全域の地図を親指で指す。んだルー大柴の女体化やんのかオラ。あんまナマ言ってっとそのデカ乳萎ませるぞオラ。
「理に適っては居るけど、必要だったの?ミトにはJSDFも、【カンムス】も展開していたんでしょ?クソッタレのTerrorist共に奇襲を受けてかなり大きく混乱はしてるでしょうけど、練度と火力差を考えたら直ぐに殲滅できるんじゃない?
ほら、例のナントカって言うNew Lawsでさ、カンムスだって自分の仕事の邪魔をするヤツはぶっ飛ばせるようになったんだし」
川 ゚ -゚)「………ふむ」
確かに、彼女の指摘は相棒であるガムクチャネキのファイアフライを用いた狙撃並みに的を射ている。
長年に渡る「下準備」によって全国に出現した“武装勢力”は火力も兵力も一介のテロリスト集団としては法外なものを持っているが、それでも限界はある。取り分け激しい攻撃が行われた水戸市や都内でさえ、陸を闊歩する軍艦に対抗できるほどの火器を保有している部隊は皆無だろう。
仮に艦娘や自衛隊が“十全に”機能するなら、せいぜい30分で返り討ちだ。
しかしながら、これはあくまで“戦術的”な観点での見方。“政治的”な要素を追加した場合、話は一気にややこしくなる。
川 ゚ -゚)(まぁでも、世間一般も“その程度の認識”だろうね)
逆説的に言えば首相・南慈英の、そして自分の危惧は間違っていなかったと再確認できたので良しとしよう。そんなことを思いながら意図を説明すべく口を開いたが、
「─────荒れ狂う風に吹かれた木々が、即座に曲がるわけじゃないよ、ケイ」
その手間は、思わぬ形で省かれることになった。
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/03/24(金) 08:54:36.72 ID:BKhHbYrY0
おつです
小刻みに投下してもらえると読むほうも助かります
181 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/24(金) 23:43:13.60 ID:ZiJGgkK50
ポロンと一つ溢れた寂しげな音と共に、静かな声で放たれる台詞。部屋の中の誰もが、鶴姫しずかでさえ一斉にそちらへ視線を向ける。
単に発言があったからと言うだけではない。その人物が、あまりにも予想外だったからだ。
そんな私達からの注目を誂うように、彼女は───継続高校隊長・ミカは、手元のカンテレをもう一つ鳴らす。
ネット上じゃ“スナフキン”なんて呼ばれる要因となった帽子を目深に被っているため、表情の全てを窺い知ることは出来ない。ただその口元には、どこか意味深な微笑みが浮かんでいた。
「乱暴で不機嫌な風の八つ当たりが、大木を折ることはあるかもしれない。でも、ちょっとばかり強い風が新芽に向かって吹いたからといって、伸びていく幹は簡単には曲がらない。
それに風は気紛れだ、ずっと同じ方向に吹き続けることなんてない………そうだろう?」
鶴姫しずかやケツ穴晒した露出狂カバを側面に引っ付けたV突に乗り込んでる連中とはまた別ベクトルの、5年後の黒歴史化が確定な厨二全開の言い回し。
でも内容は、しっかりと“本質”を捉え、完璧に理解している。
川 ゚ -゚)(食えないねぇ)
難解で持って回った言い方を公私問わず貫く上に華々しい戦績が然程多くはないため、世間の彼女に対する評価は決して高くない。ただこの様子を見る限り、日頃の口癖を借りるならそんなものは彼女にとって“意味があるとは思えない”ものだったのだろう。
まさに、能ある鷹は爪を隠すというやつか。或いはこの聞いてるだけで首筋かきむしりたくなるような言葉遣いもその一環………じゃねえな。間違いなくここに関してはコイツの“素”だな。
将来自分の過去にせいぜい苦しめられるがいい………!れでぃを自称して色々小っ恥ずかしい言動かましながらその実一人ではトイレにも行けやしない某暁型駆逐艦の如く………!!
「ちょっと継続の!ちゃんと日本語で話しなさいよアンタ!!」
尤も、理解が追いついていない側からすれば遠回しどころか単純に意味不明なだけ。カチューシャが渾身の力で机を叩きながら怒りの声を張り上げる。いや気持ちは解るけど日本語ではあったべ。
幾らかボルテージが高すぎる気もするが、考えてみれば継続とプラウダはそれぞれの“元ネタ”に負けず劣らず因縁が多い。加えて西住みほの救出作戦が遅々として進んでいないように見える点が、彼女の苛立ちを増幅しているのだろう。
「いいこと、今すぐそのワケの解らない言葉遣いをやめてカチューシャたちに言いたかったことを述べなさい!さもなきゃアンタなんかシb」
「例の法案………【艦娘自己自衛権】はまだ施行してから日が浅く、【艦娘三原則】によって抑圧されることが当たり前の価値観だった艦娘たちにしてみれば即座に適応できるわけではない。
従ってテロリスト共が“人間”である以上、水戸市内の艦娘戦力は機能不全となっている可能性が極めて高い、こういうことざますね?」
幸いにして同志ちっこいのによる無慈悲な「シベリア送り」は、この集団の中で私を除くと“最も【政治】に精通する二人”の内片方が割って入ったことで回避された。
182 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/25(土) 23:49:13.90 ID:cV+x1Pjf0
B.C.自由学園の戦車道チーム隊長、アスパラガス。今まさに扉を開けて室内に入ってきた彼女は、そのままズカズカと大股に私のところまで歩み寄る。
「確認を」
短い一言とともに投げ渡された紙の束。目を通せばそれは、彼女に先程依頼した“仕事”に関する資料。現時点でこの場に集っていない他学園艦との相互連携構築、及びそれに伴った更なる【戦闘車両】の抽出・運搬経路確保の途中経過報告だ。
いや、違う。この表現は正しくない。
川;゚ -゚)「………………………!」
、、、、、、、、
既に終わっている。アスパラガス、そして共にこの“仕事”に取り掛かっていたダージリンと遠藤はるかは、各学園艦との連絡並びに交渉を終え、車両移送の開始にこぎ着けている。幾らか突貫工事で強引に間に合わせた痕跡はあるが、そこを差し引いてもほぼ完璧と言っていい。
依頼してから、ものの二時間と経っていないにも関わらず。
川;゚ -゚)「マジかよ」
「フフッ」
思わず本気で唖然として呟くと、アスパラガスに付き添う形で部屋に入ってきていたもう一人の“【政治】に精通している人物”───聖グロリアーナ女学院隊長・ダージリンは此方に視線を向けて小さく不敵に笑う。
まるで、この程度自分達にとって造作もないとでも言うように。
ケッ、おもしろくねー女どもだぜぃ。
「【艦娘三原則】は、誤解を恐れずに言えば“簡単”だったざます。人間を最優先で守れ、人間に逆らうな、人間を傷つけるな、守るべきルールはそれだけだった。人間は味方であり主人、敵は深海棲艦、そんな勧善懲悪的な二元論の線引さえしていればよかった」
資料の手渡しを終えたアスパラガスは、歩調そのままにホワイトボードのところまで移動すると振り返り部屋を見渡す。
口調と併せ、その様子はさながら厳格な教授が生徒たちに専攻学問についてレクチャーしているかのようだ。
「しかし、【艦娘自己自衛権】はそのルールを根底から書き換えた。“人類之全善全味方全主”という状態から、眼の前の人類を“自分で敵と味方に分類”しなければならなくなった。
せめて半年前から施行されていたならまだ救いもあっただろうが、最悪なことにこれが通ってまだ一ヶ月すら経っていないざます」
「………私達人間だって、住んでいる国の法律を何の資料も持たずソラで言えるような奴なんてきっと世界中見ても数えるほどしかいない。それでも殆どの人間が法を犯さず生きていけるのは、“教育”されてるからだ」
アスパラガス教諭による「授業」の途中で、或いはミカがポエムを口にした時点で、その可能性に思い至った一人なのだろう。やや青ざめた表情で間髪入れずセリフを継いだのは、アンツィオ高校隊長・アンチョビ。
どうでもいいけどコイツの名前本名呼びにすべきかソウルネームで行くか迷うな。
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/03/28(火) 10:16:44.64 ID:rYlZy4db0
更新おつです
女子高生がどいつもこいつも只者ではないの笑う
184 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/03/30(木) 23:09:37.28 ID:CTNa42MB0
「艦娘の人達が、どんな“生まれ方”をしてるのか詳しくは知らない。ただ、最初から皆あの姿というのは聞いたことがある。
その後すぐに訓練が始まって、海上自衛隊が持つ鎮守府や泊地に派遣されていくんだとしたら……いきなり倫理観、道徳観が絡んだ“自己解釈”を必要とする対応を求められても、素直にはできないだろうな」
生まれ育った環境のせい。主に年若い凶悪犯を擁護する時に、人権家を自称する頭花畑のクソッタレ連中はこう嘯く。反吐が出るような言い分だが、こと理論に関して“のみ”言えば別に間違ったことではない。
人間は教科書とノートと鉛筆だけではなく、“経験”によって学習する。親や兄弟や周囲の大人が言葉で、行動で示した様々な事柄を、子は蓄積し価値観・倫理観を形成して本人も大人になっていく。
故に幼少期の育成環境が歪んでいれば、自然倫理観・価値観もそれらに伴う行動も一般人と比較して“平均”からはかけ離れるだろう。
では、艦娘は?最初から言動・身体が成熟しているように見えるが故に、そうした「教育」の過程が省略され、いきなり最前線へと送られる少女たちは?
芽の時に嵐に晒されるどころか、生を受けたその瞬間から“若木”であったモノの根回りを、無遠慮に掘り返したら?
「アンチョビが危惧している通り、“社会経験”がない艦娘達は【三原則】に隷属と共にある種の“依存”をしてきた。
故に、【自己自衛権】があると言っても浸透期間が十分に設けられていない中で今回の襲撃が起きている以上、彼女達が“武装勢力”に対して効果的な反撃が行えていない可能性が高い…………と、普通に言えばよかったざます」
言いながらアスパラガスはギロリとミカを睨むが、本人はどこ吹く風といった表情で再度カンテレを一つ鳴らした。
「そして、水戸市が実際に敵性勢力の制圧下に置かれている現状は、これが“極めて高い可能性”で留まっていないことを証明している。
【生ける軍艦】がほんの一隻でもまともに機能していたなら、せいぜい対戦車携行砲程度が最大火力のテロリスト共では手も足も出なかった筈ざます」
「自衛隊も、多分似たような状況よね。世界的に見て、この国の軍事組織ほど“縛り”の多いところはないもの。
例え“最前線”がほんの10キロ圏内に発生して尚マトモな避難すら始めない底抜けの楽観主義者でも、例え歯が浮くような理想論に騙されて外患を誘致した致命的な愚者でも、彼らは“国民”に銃を向けることは許されない。まだ多くの“国民”が残っていた市街戦、さぞや戦いにくかったことでしょうね」
ミカとは別ベクトルで持って回った言い方を好むダージリンにしては珍しい、割と直球の罵倒。間接的に西住みほ救出の難度を上昇させた水戸陥落や全国区での同時多発テロを招いたのは彼女が言う通り一部の“国民”によるところも大きい。
実の姉や【リボンの武者】と同程度に【大洗の軍神】に対して“お熱”な彼女としては、忸怩たる思いがあるのだろう。
185 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/30(木) 23:10:59.94 ID:CTNa42MB0
大東亜戦争、第二次世界大戦の終結後、この島国は丸々70年に渡って「平和」を謳歌し続けた。
それは勿論喜ばしい。戦争・紛争と無縁の国なんざ、特に中東やアフリカ辺りから見れば天国に等しい。
況してや今は【深海棲艦】なんて物量実質無限大の人間絶対滅ぼす族が世界中で集団遊泳の真っ最中。にも関わらず艦娘が現れる前の時点で全方位を海に囲まれながら“本土決戦”が起きなかったのは、神も仏も信じちゃいない私でさえ無神論に一欠片の疑問を抱いてしまうほどに奇跡的だ。
川 ゚ -゚)(………本当に、何の作為も働いていない“完全な偶然なら”の話だけどネー)
だが平和だったが故に、大規模な争いと無縁だったが為に、この国の人間の大半はそれを当たり前のことと慣れすぎた。
戦争や紛争は人類という生物種にとって本来慢性疾患に近い。しかしこの国は奇跡的に──少なくとも「国内」の一般人にとっては──ほぼ無縁無関係でいられたからこそ、致命的に免疫を失っている。
領海にミサイルをぶち込み国民を攫うような相手にさえ“話し合い”を求める偽善者、精強な軍事組織や世界が羨む超兵器を持ちながらそれを自ら放棄したがる理想家、果てには人類廃滅を目論む化け物集団が自分達を射程圏内に捉えて尚避難しない連中でさえ極一部ながら存在する………これらは何れも長年続いた平和の“副作用”だ。
過ぎたるは及ばざるが如しとは確かに言うが、まさか平和にさえそれが適用されるとはね。
相当マシなルートを通った【この日本】でさえこんな有様なんだから、“私が知る方”の日本は今頃どんな悲惨な国になってることやら。仮に滅びずに済んだとして、【平和維持法】の上位互換みてえな悪法出来てそうだな。
「ここまでが、水戸市に我々が“レンドリース”を行う1つ目の意味ざます。
ただこの行為にはもう1つ、【政治的】に意味が…………」
唐突に言葉を切り、アスパラガスはちらりと此方に視線を向ける。
その口元が小さく笑みを浮かべたことを、私は見逃さなかった。
「意味が、恐らくはあるざますが………流石に、そこまでは私もはっきりとは解らない。何せ若輩の身、“大人の謀略”の全貌を見通せるほどの見識は残念ながらないざます。
というわけで、“もう1つの意味”についてご教授願えるざますか?Madame Sunao.」
川 ゚ -゚)「……………」
よくもここまで平然と嘘をつけるものだ。とっくの昔に、“2つ目の意味”も気づいているくせに。隣のダージリンも、更にはミカまで「どうぞ」と目で促してきやがるし。
西住みほの件で焦りが見え、私に対する“求心”が十分ではない急造組織。ここらでしっかり華を持たせ、私の実力をお披露目しいきり立つ連中の鎮静を図ろうって魂胆だ。
川 ゚ -゚)「………。ええ、“ありがとうございます、アスパラガスさん”」
「“どういたしまして、Madame”」
まぁいいでしょう。子供に気を遣われて意固地になるのは園児の駄々と変わりゃしない。ここはせっかくの“好意”を有り難く受け取るのが、【大人の淑女】ってやつよ。
ただ、改めて言うぜ?
つくづく「おもしろくねー女ども」だよ、全く。
川 ゚ -゚)「彼女が今言ってくれた通り、この“レンドリース”には2つの意味があります。
1つは水戸市の奪還に動いている部隊に対する直接的な戦力増強。そして2つ目は────」
186 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/30(木) 23:13:20.25 ID:CTNa42MB0
.
────同刻、横須賀総司令府・地下司令室
彡(゚)(゚)「────ワイら“日本政府へのアプローチ”、やろなぁ」
(;☆...●)「………は?」
日本内閣総理大臣・南慈英(みなみ・よしひで)のふとした呟き。それを耳にして、傍らに立つ海上自衛隊艦娘艦隊“元帥”、王嶋清人(おうじま・きよひと)が困惑の眼差しを彼に向ける。
現在司令室内部は、一時的に鎮静化した【大洗町戦線】から全国各地でテロ攻撃を行っている【謎の()武装勢力】へ最優先対処事項を切り替え、鎮圧に奔走している真っ最中だ。
南は重大な事案を前にしてふざけたり……はたまにするが、余計なことに対して気を散らすような政治家ではない。故に今の呟きが“本事案”に関係するものであることは王嶋も重々承知している。
ただ単純に、何故そんな表現が突然出てきたのかについて理解が及ばなかっただけの話で。
(☆...●)「………一応確認するぞ、“日本政府へのアプローチ”ってのは、一部の【暴動発生地域】で確認された所属不明のチヌークによる旧式装甲戦闘車投下の件で間違いないか?」
彡(゚)(゚)「他にないやろ。どこのどいつか知らんが正確の悪いやっちゃで」
努めて平静に保たれた口調。だが王嶋は、長年の付き合いから言葉の端々に苛立ち……というよりは、一種の悔しさのような感情が見え隠れしていることに気づいた。
彡(゚)(゚)「先ず前提条件の確認や。
今回の【全国同時多発テロ事案】に際し、【艦娘自己自衛権】施行から未だ日が浅く現場の混乱発生はほぼ確実。加えてテログループが“何故か、偶然にも”反艦娘・反自衛隊組織によるデモや集会の中に潜伏する形で出現した為、自衛隊や各都道府県警も国民に対する“誤射”の懸念から初動での鎮圧に失敗。
避難未完了区域が集中的に狙われた為近接航空支援による排除・殲滅も困難な上自衛隊自体並行して国内外の深海棲艦にも対応している為兵力が著しく不足。
これらの状況打開を目論見、極秘に設立したワイの私兵部隊であるBP───【Black Peace】を一部交戦地域に投入開始。ここまではええな?」
(☆...●)「…………………あぁ、問題ない」
特殊部隊名が厨二病全開過ぎて死ぬほどダセェなと思ったが、王嶋は言及を避けておくことにした。
人間誰しも、欠点の一つや二つ持っている。……まぁ南に関しては一つ二つどころではないが、強み・長所・政治手腕で十二分に釣りが来る。
ここにネーミングセンスのなさ程度が加わったところで、誤差の範囲だ。
彡(゚)(゚)「因みに命名者は部隊長の渡辺や」
(☆...●)「お、おう」
目敏く此方の感情を悟った南から即座に訂正が入るが、ならば前言撤回。確かに彼女は卓越した戦闘技能と指揮能力を持っているが、破綻した人格と性癖で既に相殺されている。
そこからネーミングセンスまで差し引いてしまうと、残念ながら足が出ると言わざるを得ない。
187 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/30(木) 23:17:19.86 ID:CTNa42MB0
彡(゚)(゚)「で、【BP】もその特性上そこまで巨大な兵力は持てへんし、機甲戦力なんざ言うまでもない。
投入地域が首都圏及び関東地方の要所に集中したのも、それが部隊規模的な限界やったから、言うんが大きい。そして奴さんらの投入によって大洗町に至る兵站線の完全寸断までは避けられたとしても、そこから武装勢力の鎮圧は前述した規模とこっちの火力不足から難しいだろう………と見立ててた所に、チヌークの飛来と“機甲戦力”の投入。これで一気に、流れが変わった」
(☆...●)「いや、そこまでは俺だって解るぜ?だけどよヨシ、それが政府へのアプローチってのはどういう意味だ?既に“海軍”は存在を公にしてるんだ、今更俺たちにアプローチなんてする必要は………」
彡(゚)(゚)「これ多分“海軍”の支援ちゃうで」
(☆...●)「は?」
続けて王嶋が問い質す前に、自衛官が一人険しい顔で駆け寄ってくる。彼が「在日米軍を経由し送った“謝意”に対して、“海軍”大本営が何の事か分からず困惑している」旨を伝えると、王嶋の目が驚愕で見開かれた。
南の方は、ソレを聞いても軽く皮肉めいた笑みを浮かべただけだったが。
彡(゚)(゚)「そもそも、対応人員の不足は“海軍”側も大概や。フィリピン海戦線はズタボロで東南アジアの沿岸防衛線大幅に縮小して【特派府】の艦隊まで動員した総力戦態勢、欧州やアフリカも余裕はないし南北アメリカも大西洋で手一杯。国内や台湾は中国の目がある以上そう大々的に“日米主導の軍事組織”の拠点を置くわけにはいかん。
事実上の“兼任”であるココ(横須賀)と那覇の米軍基地に併設してる鎮守府を除けば、この近隣界隈ではあの筋肉ニキんところが“海軍”戦力の最大手や」
(☆...●)「………そして、その小練のところも主力はフィリピンと大洗に出払ってる最中、か」
彡(゚)(゚)「まぁあの鎮守府なら大半の艦娘は1区域に一人投入しただけで10分と経たずに制圧するやろけどな」
だが、南は続ける。それは本当に最後の手段や、と。
彡(゚)(゚)「戦闘区域で救出された艦娘が、反撃によって敵性勢力を駆逐する分には幾らでも体裁を保てるし言い訳も効く、【艦娘自己自衛権】と人間でいうところの正当防衛をあわせ技にしてゴリ押せば小煩い野党も反艦娘団体も“世論”で強引に黙らせられる。
せやけど“外”から動員された艦娘がテロリストとはいえ“生身の人間”を木っ端微塵にしてまうのは、【自己自衛権】施行から日が浅い今は正直見栄えが悪い」
大衆とは底抜けに無垢で呆れ返るほどに純真だ。ほんの一欠片でも「悪」が混じれば、ワインに一滴の泥水が含まれていたがごとく全てを糾弾し否定する。
それも、本質として悪か善かではなく、彼らの大半は「自分達にとってどう見えるか」が判断基準だ。
彡(゚)(゚)「“当事者”ではない艦娘が、制限を緩和された“直後”に、“平然”と人間に対して武力を振るう。大衆はそこにどんな正当性があろうと絶対公平には見んで。
艦娘を人間と扱われると困るようなカスどもに口実与える片棒を、あの子らに担がせるのは可能な限り避けな、アカン」
188 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/30(木) 23:29:50.95 ID:CTNa42MB0
そこまで真剣な表情で述べた後、一転して南は口元を歪める。
先程“海軍”からの返答を自衛官が持ってきた時に浮かべた、感心と自嘲的な怒りが綯い交ぜになったような複雑な笑みだった。
彡(゚)(゚)「そんで、や。そんな状況を踏まえた上で、キヨ。今首都圏並びに関東の一部地域で、所属不明のチヌークが投下してる戦車の車種は?」
(;☆...●)「………MK.VII 軽戦車【テトラーク】、M22 軽戦車【ローカスト】、二式軽戦車【ケト】、何れも所謂“空挺戦車”の一種だ。
まぁそりゃ大分古いラインナップだとは思ったがよ」
彡(゚)(゚)「ロシアでKV-2が現役復帰するような有様じゃあ、“空輸可能な装甲兵器”って付加価値でワンチャン採用は確かにあり得ると考えてまうわな。
しかも“海軍”はその組織特性上戦車なんぞ仕入れるぐらいなら艦娘の練度向上させて直接空挺投下した方が余程効率がええし、逆に各国も最前線で対深海棲艦戦闘に使えるような最新鋭の機甲戦力なんざ出し渋る。やから苦肉の策で旧式戦闘車をかき集めてワイらにレンドリース………まぁそんくらいの“誤認”はしゃーない」
(☆...●)「そこまで読まれてると流石にキショイな」
彡(゚)(゚)「じゃかあしいお前の思考が読み易いだけじゃボケ。……せやけど、んなまどろっこしい真似するぐらいなら最初から“海軍”の陸戦隊でも在日米軍辺り隠れ蓑にして投入した方がよっぽど効率的やろ。丁度目と鼻の先の大洗戦線で稼働中の部隊が幾つもおる。小康状態の内に引き抜いて投入する方がナンボか現実味はある。
無論いつ攻勢が再開されてもおかしくないからこそそれが出来んわけやが、今度は尚の事旧式戦車をわざわざかき集めることに更に労力使う意味が薄い。運搬するための機体そのまま陸戦隊や艦娘運ぶのに使った方が何億倍も効率的や。一応は大本営副司令であるワイに隠れてそんなことせなあかん理由も見当つかん」
(☆...●)「……言われてみりゃあ確かにな。だが、なら今“レンドリース”を飛ばしてきてる連中はいよいよ何者なんだ?“海軍”じゃねえとして、わざわざお前が言うようなしちめんどくさい接触方法を用いたがる組織なんて俺には」
彡(゚)(゚)「あるやろ。テトラークにケトにローカスト、“第2次世界大戦中に活躍した空挺戦車”がかき集めるまでもなく手元にある施設が。
自腹で用意までは無理でも、提供さえあればチヌーク程度の機体束で運用可能な土地や設備を持つ機関が。
大洗町に……より厳密に言えば現在深海棲艦の制圧下に置かれた大洗女子学園に取り残されている、“一人の女子生徒”を助けるために全て擲つことも厭わない集団が。
これら全ての条件を、一本に集約した極めて稀有な【武道】が」
(;☆...●)「……おい待て!!まさかお前──────」
彡(゚)(゚)「せや」
「各学園艦の、戦車道チームや」
189 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/31(金) 00:07:47.53 ID:ORXpMvyH0
.
川 ゚ -゚)「南慈英の政治センスはまるで容姿と反比例したかのように卓越したものがあります。彼は自らが施行した【艦娘自己自衛権】法案の欠点も、そこから発生が予想される現場の混乱も武装勢力が襲撃を開始した時点で真っ先に考慮に入れているでしょう。
お借りした“機甲戦力”の投入地点も、そうした彼の聡明さから彼が抱えているであろう【私兵部隊】の稼働・投入箇所を推測した上でのものです」
「Private armyって……そんな映画みたいな話あり得るの?日本ってケンポーとか相当厳しいじゃない」
川 ゚ -゚)「厳しいからこそ、間違いなく彼なら設立しています。【平和維持法】とかいう世界レベルのパラダイムシフトに置いていかれた脳内フラワーガーデンピーポー共しか崇めてないような化石憲法によって自衛隊の即応性には限界があり、艦娘では【人災】に対する対処力が自衛隊以上に低下する。
【自己自衛権】法案云々の前に、艦娘戦力それ自体を目の上の瘤としている軍事独裁国家が直ぐ側に2つもあるのです。ならば“備え”は必ずしている」
「まぁ………本当にそんなものを作るとしたら限界はあるよな。戦車や戦闘機を大っぴらに集めるわけにもいかないし、艦娘なんて入れるわけにもいかない。それに日本人も下手な集め方したらSNSとかで情報が漏れかねないし………外国人の傭兵部隊が主力、とかか?
多分、砂尾さんの言い分で考えるなら規模もまだ小さいはずだ」
川 ゚ -゚)「おお鋭いですねチョビ子さん」
「チョビ子言うな!!つーかなんでその呼び名知ってるんだ!!?」
川 ゚ -゚)「独自のルートがありまして。とにかくご明察。
まぁぶっちゃけマトモな近代戦闘ならあんなもんレンドリースされたところでゴミの押しつけに他なりませんが、幸い“機甲戦力の運用ができない”という点はテログループ側もほぼ同じです。骨董品の旧式砲でも対人戦かつ市街戦なら十分な脅威となり得るでしょうし、姿形はWW2仕様でもその実装甲は競技用とはいえ“砲撃”を食らっても中の人間には傷一つつかないように精製された現代技術の粋とでも言うべき特殊カーボン。
粗悪なRPG弾ごときで貫徹できるような代物ではありません。現場の人員にとっては普通に嬉しい素敵な“贈り物”となった筈です」
彡(゚)(゚)「同時に、これはワイに対する“メッセージ”にもなり得る。
1つ目、ワイが私兵部隊を運用していることはお見通し。
2つ目、戦車道関係者は自分達の方でしっかり統率を取っているぞ」
(;☆...●)「【BP】の存在は超極秘案件の筈だろ!?それが外部に漏れてるって相当まずいんじゃねえか!?」
彡(゚)(゚)「そこに関しては問題ない。さっき支援の出処が“海軍”ではないとは言ったが、多分全く“海軍”が関与してないワケちゃう。じゃなきゃチヌークを確保した挙げ句バリバリ飛ばすなんて真似できんし、ここまで完璧に【BP】の投入地点を予想して戦車降ろすのも材料皆無では無理な話や。
恐らく、“海軍”内で筋肉ニキんところとは別ベクトルで“独立性”が強いところが大本営通さず勝手に動いた結果やろ。動いた場所と、“動かした連中”も概ね察しはついてる」
川 ゚ -゚)「察してもらえたなら、かえって我々にとって………というか、これは私個人にとってありがたい。同時に、向こうにとっても悪い話ばかりではない。
私達“艦娘専門店”という集団は、日本政府とかなり密接に関係した“ある組織”の一部であります故、そことの繋がりが分かれば味方であることは理解できる。
その“味方”が、大洗女子学園での孤立が懸念される西住みほに対して強い感情を抱く戦車道女子を束ねている、それも装甲戦力の極めてスムーズな投下から見て、相当強固に統率されている。
既に文科省などからあなた方が次々と行方をくらましていることは報告を受けているだろう中で、所在がある程度把握できかつ統率者が居ることも間違いないのであれば、あなた方の“暴走”に対する不安は一先ず払拭されます」
「何か、こう、随分な言い草だな………」
「えーと、すっごい強い風が吹いてて心配してたタンポポが思いの外ガッチリ根を張ってて安心したって感じでいいの?」
川 ゚ -゚)「まぁ割りと言い得て妙ですけどなんか言動が継続の隊長に毒されてません??」
「流石です同志カチューシャ」
川 ゚ -゚)「お前第一声がそれでいいの?????」
190 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/31(金) 00:56:09.69 ID:ORXpMvyH0
(☆...●)「まぁ実際、戦車道チームの連中を“海軍”関係者が束ねてくれてるならある程度は安心ではあるな。特に聖グロリアーナの子とか、最近タンカスロンで注目されてるリボン娘なんかは西住フリークぶりがとんでもねえって風の噂で聞いてる。
少なくともこの辺りが暴走して戦場に乱入なんて、イカれた事態は避けられたわけだ」
彡(゚)(゚)「ところがどっこい、この連中の最終目的はまさにその“戦場への乱入”や」
(;☆...●)そ「はぁ!!!?」
彡(゚)(゚)「もうちょい厳密に言えば、“乱入”やのうてより組織的で理性的な“武力介入”やな。
……知性がある分、却って厄介やが」
川 ゚ -゚)「“レンドリース”によって、我々はメッセージを日本政府に送るとともに“実績”を作ることが出来ました。
自衛隊並びに日本政府が立たされていた窮地を緩和させる、好転させる実のある支援を行えたという“実績”を。
無論本来は直接お伺いを立てて行うことが正道ですが、向こうも非合法組織を用いてテロに対処している以上そこを大っぴらに求めることは出来ない。その上で支援が“役に立ってしまった”のだから、余計なことをと突っぱねられもしない」
「…………砂尾殿、友軍への助太刀の話をしているのよな?まるで国境に兵を並べて敵国を威圧している様を聞いているような気分になるのだが」
川 ゚ -゚)「政治なんてそんなもんですよ。アレと外交は机上卓上の戦争ですから。
貸しは武器だし借りは弱みです、“強い武器で相手の弱点を殴りつけろ”はあらゆる勝負事において鉄則でしょう?
誠実さだの正直さだのはスポーツでしか通用しない。“戦争”は常に手段を選ばないものが勝ちます。
改めて申し上げておきましょう。これは戦争です、戦車道ではありません」
彡(゚)(゚)「ワイらはイニシアチブを握られたわけや。連中はワイらの“窮状”と“痛い懐”の両方を把握しており、うち前者に対して明確に“支援”が行われた。以後、向こうが接触してきた時に“台頭の味方”として応じざるを得んし、“味方としてあり続けてもらう”ためには武力や権力で強制的に押さえつけることも出来ん」
(;☆...●)「待て待て、流石に戦車道かじっただけの娘ッ子の集まりと日本政府や自衛隊が“台頭”ってのは行きすぎじゃねえか!?そこまで深刻に捉えるようなことじゃないだろ、助かったよありがとうの一言で十分だ!!」
彡(゚)(゚)「そうは問屋が降ろさん。
さっきも言ったやろ、あの子らをそういう風に“動かしてる”連中がおるって。恐らく、その黒幕共は“戦車道乙女が戦場に乱入すること”を願っとる。そうさせる狙いについては朧げなところまでしか詰められてへんが、仮にワイが突っぱねたとあれば“戦後”に間違いなく鬱陶しい動きを見せてくる。
あの子ら自体だけやのうてその裏の連中の暴走を止めるには、結局あの子ら自身の実績がワイらにとって“効いている”ことをアピールせなアカン」
川 ゚ -゚)「勿論、私自身は南慈英内閣の退陣や失脚は日本にとって害にしかならないと思っているため、そこに至るような動きは歓迎いたしません。
しかし一方で、私個人がどう思おうが“クライアント”の権力は私のそれなど比べ物にならないほど大きい。結局圧力に屈し、彼にとって喜ばしくない結末を招くことは大いに有り得ます。
この回りくどい実績作りは、南慈英に対するメッセージと私自身の“クライアント”に対する言い訳を両立したものでした。
我々が広義的に味方ではあること、その後ろにより大きな権力が存在すること、その権力があなた方戦乙女を最終的にこの戦場へ投入しようとしていること、意向を無視しすぎればいつ“敵”になりざるを得ないかわからないこと、南慈英は全て読み取るでしょう。
読み取った上で、彼は直接的であれ間接的であれ何らかの形でアプローチを取り、こちらと“落とし所”について交渉してくるはずです」
「…………ソラ、貴女なんというか………スゴイ自信ね」
川 ゚ -゚)「だって同じ立場なら私もそうしますし」
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/03/31(金) 01:09:00.89 ID:Fa733FMC0
#은우의_모든날이_찬란한_봄이길 #nadiedicenada #ใต้เงาตะวันep2 #WANGZIHAO #viral #SiguemeYTeSigo #SiguemeYTeSigoCumplo
192 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/31(金) 01:17:46.54 ID:ORXpMvyH0
川 ゚ -゚)「しつこいほど繰り返しますが、私は“クライアント”がどう思おうがド素人の小娘連中によるKAMIKAZEなんて絶対に起きない方が良いと思ってます。それが起こらないまま事態の鎮静、西住みほ以下大洗女子学園生存者の救出が成るならそれが一番良い」
彡(゚)(゚)「……やけど、各学園艦隊長陣の迅速な統率、兵站線の完璧な確保、絶妙としか言いようがない“贈り物”のタイミング。この集団が少なくとも現時点までは“有用”な存在であることは、正直認めざるを得ない」
川 ゚ -゚)「ならば変に抑え込んで敵対した挙げ句“戦後”の面倒事を抱え込むよりは、ちゃんと存在を認めて共同戦線を作り上げた上でこれ以上は派手な出番がないように御していく方が向こうにとっては有意義です。“手柄”を最低限立てている以上、一応落とし所も実のところ既に作れなくはない。
そして未曾有の“有事”である以上、その望むと望まないに関わらず我々が本当に必要となってしまうケースも、十分に考えられる」
彡(゚)(゚)「無論そんな事態に陥らせるつもりは毛頭ないが、それならそれで“向こうの自己判断”で動かさせるんやのうて“ワイらがそういう依頼を出したら”って形で指揮下に加えておいた方が確実に御しやすい。
結局、“支援”を成功させてしまった時点でワイらは【学園艦連合軍】との交渉を余儀なくされてるっちゅーわけや」
川 ゚ -゚)「あのクソほど性格の悪い深海魚ヅラの傑物に対し、私達はしっかりと“ウラ”をかくことができたのです。西住みほ救出への第一歩を踏み出し、事態の前進にも貢献できた。
ならば今、我々は胸を張ってこう言うべきです」
彡(゚)(゚)「どこのどいつか知らんが、支援の皮被ってやりたい放題。ホンマ性格の悪いやっちゃで。大の大人を完璧に手玉にとれて、この謀巡らした陰険全一のクソッタレは済まし顔でこう思ってるやろな」
.
193 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/03/31(金) 01:20:44.15 ID:ORXpMvyH0
.
川 ゚ -゚)
「しめしめ、してやったりだ」
彡(゚)(゚)
川 ゚ー゚)「……ってね」
彡#(-)(-)-3「………とな」
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