エンド・オブ・ジャパンのようです

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1 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:14:56.75 ID:Y1RgXn6e0
前スレ1【エンド・オブ・オオアライのようです】※完結済
https://engawa.open2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1536501657/1-100

前スレ2【( ^ω^)戦車道史秘話ヒストリア!のようです】 
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1512862935/

前スレ3【( ´Д`)離れ小島の提督さんのようです】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1510952546/

前スレ4【ウキウキ!!首相の鎮守府訪問!!のようです】※◆L6OaR8HKlk様作品
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511697940/


関連作
【('A`)が深海棲艦と戦うようです】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489759020/
【('A`)はベルリンの雨に打たれるようです】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1494212892/

【|w´‐ _‐ノv空に軌跡を描くようです】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490532219/


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1657376096
2 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:17:12.14 ID:Y1RgXn6e0




.






─────フィリピン海









「こちら川内!青葉の回収に成功も大破状態、意識不明!自力航行不可能!!」

「姐さんの曳航は頼んだ、道はこちらで切り開く!大和、いくぞ!!」

「ええ、任せて!大和より“第二橋頭堡”、青葉さんの回収に成功しました!これより離脱を開始します!」

「日向より大和、急かしてすまないが全速力で頼む!退路の維持も長くは保たんぞ!!」

「こちら白雪、上空の“球体”より火力投射量さらに増大!当方圧倒的に劣勢───きゃあっ!?」

「し、白雪ちゃんに直撃弾!状態中破を確認にゃしぃ!!」

「神通さんや翔鶴さん同様榛名と日向さんの後ろに隠れてください!……絶対に、今度は、守ります!!」

「榛名さん自分も損傷してるんだから無理しないでよ!あの提督さんなら絶対“いのちだいじに”だろうからさ!」

「中破してる上空母なのに砲撃戦に参加し続けてる貴女が言っても説得力ないわよ瑞鶴。───攻撃隊、全機発艦します」

「こっちも制空隊で併せるで!

とはいえ、こりゃあちょっち不味いかなぁ………!?」

「大鳳より各位!航空戦における数的不利著しく、また敵艦隊並びに“球体”の対空砲火により被害甚大!

空母艦隊、艦載機喪失率5割を越えました!!」
3 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:18:46.71 ID:Y1RgXn6e0
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─────フィリピン海









「こちら川内!青葉の回収に成功も大破状態、意識不明!自力航行不可能!!」

「姐さんの曳航は頼んだ、道はこちらで切り開く!大和、いくぞ!!」

「ええ、任せて!大和より“第二橋頭堡”、青葉さんの回収に成功しました!これより離脱を開始します!」

「日向より大和、急かしてすまないが全速力で頼む!退路の維持も長くは保たんぞ!!」

「こちら白雪、上空の“球体”より火力投射量さらに増大!当方圧倒的に劣勢───きゃあっ!?」

「し、白雪ちゃんに直撃弾!状態中破を確認にゃしぃ!!」

「神通さんや翔鶴さん同様榛名と日向さんの後ろに隠れてください!……絶対に、今度は、守ります!!」

「榛名さん自分も損傷してるんだから無理しないでよ!あの提督さんなら絶対“いのちだいじに”だろうからさ!」

「中破してる上空母なのに砲撃戦に参加し続けてる貴女が言っても説得力ないわよ瑞鶴。───攻撃隊、全機発艦します」

「こっちも制空隊で併せるで!

とはいえ、こりゃあちょっち不味いかなぁ………!?」

「大鳳より各位!航空戦における数的不利著しく、また敵艦隊並びに“球体”の対空砲火により被害甚大!

空母艦隊、艦載機喪失率5割を越えました!!」
4 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:21:51.58 ID:Y1RgXn6e0
「妙高ちゃん、9時方向から接近中の水雷戦隊に制圧射撃で足止め!大鳳ちゃん、今発艦した艦爆隊から一個編隊を妙高ちゃんの砲撃に合わせて突入させて!秋月ちゃんは二人を敵の航空隊から全力で守って!!

衣笠ちゃんと鹿島ちゃんは12時方向のル級3隻と軽巡水鬼に対応!那珂ちゃんが前に出て囮をやる、その間に順に仕留めて!!」


「っく………上等だよ、こちとら元から死ぬまで戦う気だぁ!!」


「天龍ちゃん────うぐっ?!」 


「て、天龍さんと龍田さんが被弾、中破!ど、どうしたら………私、どうしたら………!」


「足柄より支援艦隊、全方面からの敵艦隊による波状攻撃なお激化!上空の“球体”からの砲爆撃も止まる気配なし!

こっちは損傷艦続出だけど掩護射撃は飛ばせないの!?」


《【こんごう】CICより足柄、こちらも全力で飛ばしてるんだ!飛ばしてるんだが……………》


《This is 【Curtis Wilbur】, All missile down!! I repeat, All missile down!!》


《Negative!! 【Chancellorsville】 for All Freet, Enemy AAR is so hard!! Our attack can't break it!!》


《Spear-01より【Shark Head】、さらに“球体”から新たな【黒鳥】が投入された!こっちが撃墜するより向こうが機体を投入するスピードが早いぞ、間もなく【回転木馬】も限界だ!!》


《補給完了した航空隊の再来とオーストラリア並びにグアムからの増援が到着するまでなんとしても高高度航空優勢を維持しろ!!この上【学園艦棲姫】による艦載機群の大量投入なんて起きれば我々の許容範囲を越えるぞ!!》


《まだ越えてないみたいな言い方はやめるヨ!とっくの昔にこっちは限界に…………Fuck, Next 【Black Bird】!! Guys, Fire Fire Fire!!》


《Spear-03より各位、あの四つの“球体”に直接攻撃してみるのはどうだい!?撃墜しちまえば火力は大幅に減退するはずだろうしさ!》


《こちらSwallow-01、とっくの昔に試みてるさ!!だが結局ミサイルが当たりゃしねえ、棲姫の弾幕と合わせて全部撃ち落とされちまう!!》


「こちら妙高、仮に当たったとしても無駄だったかと……我々も出現直後に砲撃を叩き込みましたが、四つ全て傷一つ着かなかったので」


《【こんごう】CICより支援艦隊各位並びに【ロナルド・レーガン】へ通達、基地航空隊を全機発艦し戦域に投入!また、現存する航空隊もこれに合流し戦闘を継続!!


……………っ、なお退却許可条項に“損害の度合い”を認めず!燃料・弾薬の枯渇を除き以後全ての機体は艦娘艦隊の海域離脱まで戦闘を継続されたし!!!》
5 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:24:27.41 ID:Y1RgXn6e0
「こちら榛名、再度被弾!中破しましたが戦闘を継続します………!」 《【黒鳥】が一個編隊【回転木馬】を突破した!来るぞ、迎撃急げ!!》     《艦載機群も来るぞ!対空戦闘よぉーーい!!》
《ミサイルが足りない、補充が間に合わねぇ!!》
  「新たな敵艦隊………ぐぅぅ!?」
「日向さん!?」 《This is Rapier-05, One hit!! One hit!!》
《【あたご】より日向、状況を報告せよ!》
「雷より【あたご】!日向さんがル級の砲撃をもろに受けて………!」
    《基地航空隊損耗率40%台に突入、なお加速度的に増加中!!》 「んにゃしい!?」「こちら妙高、駆逐艦睦月中破!!」《【ロナルド・レーガン】ブリッジより神威、【World turbine】を人数分もって指定座標に急行しろ!》
「大鳳中破!」《神威了解!発艦します!》《Mayday Mayday Mayday───》「妙高さん大破!」
  《秋月大破!対空火網大幅に減退!!》「こんなところで、沈むものですか………!」「あかん、しくった、な……ぁ……」
「すみません、鹿島、大破しました……!」「こちら瑞鶴、加賀と龍城さんが敵艦砲直撃により大破!」
   《Shamrock, 神威のエスコートに移れ!なんとしても守り抜け!!》
  「神通さんが流れ弾に被弾、大破状態に移行!」「っっ!? こちら武蔵、不覚をとった……ここで中破など……!」
  《This is Shamrock-12, Boggy behind!! Help, Help!!》《敵艦載機群射程圏内に到達!!シースパロー攻撃始め!!》
  「大和さんに敵の集中砲火が………た、大破状態を視認!!」《Rapier-20 down!!》
「っ、顔はやめてって言ってんじゃん………!」
  《那珂中破!》
「川内中破!」
   《日向、大破状態に移行!》
《衣笠中破!!》



《【Dora】 Fire!! Enemy shoot inc───
6 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:26:38.92 ID:Y1RgXn6e0
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《【Chancellorsville】 lost. I repeat, 【Chancellorsville】 lost.》




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7 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:27:51.24 ID:Y1RgXn6e0
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【エンド・オブ・ジャパンのようです】



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8 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:30:10.28 ID:Y1RgXn6e0
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気障ったらしい言い回しだが、光ってのは人間にとって希望の象徴とされている。

宗教絵画で描かれる天国は大抵の場合暖かな光に満ち溢れてるし、神話じゃプロメテウスが「火」という光を与えた結果人間は文明を手に入れた。
月明かりや星明かり、オーロラや虹はいかなる時でも美の象徴であり、それこそ“希望の光”なんて言葉も存在する。

ただ、俺の個人的な見解は別だ。

剣や槍、鏃、盾に鎧、ヤパーヌの刀、どこぞの王様が考案した そいつ自身が最初の犠牲者になっちまったって話の断頭台。より良い鉄を使うほど、より腕のいい職人が鍛えるほど、これらの切っ先は強い輝きを放つ。

銃が開発されてからは、コイツが一回光る度に必ず誰か死ぬようになった。大砲で死ぬ人数が数十人に、航空爆弾で数百人に、ミサイルで数千人に増えた。

それこそこれらが放つ「火」で焼かれる街や村や人なんてもんは、戦場じゃあ一種の風物詩だ。極めつけの核兵器は、街どころか国すら吹っ飛ばせる。

ご覧の通り、戦場では“光”なんざ見ずにすむならそれに越したことはない。伴うのは希望どころか、絶望と死だからな。

例えば今この瞬間俺たちの目の前で、地平線の彼方で瞬く無数の“光”なんかは。

『『『『──────ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!』』』』

('A`;)「砲弾正面、回避急げ!!」

(*;゚∀゚)「Jaworl!!」

深海棲艦の連中による艦砲射撃の発射炎なんかは、その典型だろうよ。
9 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:32:47.30 ID:Y1RgXn6e0
真っ正面から迫ってきていた光弾を、ツーのハンドル捌きがギリギリのところで躱す。髪を数本掠め焦がしながら通過していったそれは後方十数メートルのところで着弾し、乗っているエノクの車体が激しく揺れ一瞬後輪が浮き上がった。

今の揺れ方、そして爆発の大きさから察するにル級Eliteの16inch三連装砲か。こんなことを感覚的に把握できてしまう自分の“成長”に涙が止まらねえよクソッタレめ。

《こちら第9小隊、3号車を砲撃によりロスト!》

《第2小隊、フォースター軍曹の車両がやられました!!》

《こっちは二両まとめてやられたぞ畜生め!!》

《マントイフェル少佐、突撃隊の損耗が20%台に突入しました!どうしますか!?》

(;'A`)「作戦に変更は──ぶっふぉ!?」

今度は目の前の地面で火柱が上がり、大量の土埃を伴った爆風が肺を満たしに来る。ホ級の5inch砲か、重巡以上の等級だったらやばかった……!

(#'A`)「作戦に変更なし、このまま指定ポイントまで前進する!!反転や停止なんざ的になるだけだ!!」

(*゚∀゚)「畏まったぜ“少佐”殿ぉ!!」

('A`#)「ことあるごとに階級強調してくんじゃねえよテメェhンゴッフ!?」

頭上から降り注いできた機銃掃射が、回避運動を取ったエノクの横を駆け抜けていく。

こちらとすれ違う形で上空を飛び去るのは、奴らの艦載機である【Helm】。黒く細長い十余の機影は、間もなくグラーフから飛び立ったBf109-T【メッサーシュミット】に後方から捕捉されその悉くが火の玉と化した。

………にしても、爆風も何もない“銃撃”を機銃座に座ってる人間が鞭打ち症になりかねないほど激しく避ける必要あったのか?しかもツー=アハッツほどの腕前の持ち主が。

(;'A`)「おい今………のぉあ!?」

(*゚∀゚)「いかんぜ“少佐”殿!さっきもそうだが、下手に口出しされちゃあハンドル操作を誤っちまうよ!あーひゃひゃひゃひゃ!!」

ツーの奴はそう言って、高らかに笑いつつ肩を竦めて見せる。

因みに今しがたの“回避”は、最早そもそも避ける必要のある攻撃が飛んできていなかった。

やっぱ悪ふざけかよ!つーか今のに至ってはそれこそ動いた先に砲弾飛んできたらどうするつもりだったんだテメエ!!
10 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:34:58.03 ID:Y1RgXn6e0
リーザ。“戦前”時点での人口は確か3万人前後だったか。

この街について「よく存じていて流暢明晰に語れる」って奴は、推測だが恐らく少数派に違いない。郷土歴史家かこの辺りに選挙区をもつ政治家、あとはせいぜいSUMO並びにヤパーヌ文化愛好家ぐらいのもんだろう。

かく言う俺もSUMO世界大会の開催地になってることは──しかも二回──イヨウ少将から聞いて始めて知ったし、名前や位置さえ下士官時代にこの付近で空挺の実施訓練を行ってなければ知ることはなかったと思う。
なんなら、一時鉄工業の有名どころだったことやブンデスリーガの名選手・ウルフ=キルスタンの出身地であることも知っていたフランス出身の“巻き毛の戦車乗り”の方が、余程リーザのことをよく知っている。

まぁ要は、「よくある田舎町」の一つというワケだ。俺の故郷のように。

《リーザ防衛隊CPより敵側面攻撃中の友軍部隊、応答せよ!貴官らは機動迎撃大隊【Anker】所属で相違なきや!?》

(#'A`)「指揮車・ドク=マントイフェルよりCP、一応“それ”だ!」

世の中は解らない。そんなただの田舎町だった場所が、今や対深海棲艦の最前線地帯の一角にしてドイツ存亡の鍵を握る最重要防衛拠点になっているのだから。

(#'A`)「現被害状況、並びに敵艦隊戦力の編成と展開状況を共有求む!把握している限りで構わない!」

《ああ、神よ!!!》

こちらが名乗ると同時、無線機の向こうからはそんな言葉が何十人分にも及ぶ歓声と共に聞こえてきた。
くっっっだらねえモン有り難がってる暇があるなら、こっちの問いかけにとっとと答えてもらいたいんだが?

(#'A`)「偉大なる“神”の御加護があるならわざわざ俺たちが出向く必要もなかったようだな、全車両・全兵力に反転を指示するが問題無きや?!」

《ま、待ってくれ悪かった!!

当方は駐屯兵力の10%強を喪失!特に基地航空隊の損害は甚大だ、離陸前に艦砲射撃と空襲を受けて3割強の機体をやられた上発信装置が完全に破壊された!!》

始めから真面目にやってくれ。クソ野郎の名前を聞かされ、情報収集が遅れ、こっちは二重に不愉快だ。

《レーダーの反応から敵総数は40個艦隊前後と推定、うちヒト型が約1割に相当!姫・鬼級は見られず、旗艦は敵艦隊の戦力流動傾向や編成からタ級Flagshipであると思われる!》
11 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:39:57.75 ID:Y1RgXn6e0
艦娘二人、或いは深海棲艦2隻で一個分隊。4で小隊、6で艦隊、12で連隊。まぁ、最後のは大規模作戦時の独自編成ぐらいでしか使われない単位だが。

40個艦隊以上となれば、240〜250ってところか。ベルリンで軽巡棲姫が随伴として引き連れていた数が50強、この間の大攻勢で確認された艦隊群の最大数が確か140隻前後であったことを考えると、大層な大盤振る舞いと言える。

………マンドクセ。

《敵艦隊は市街地への突入態勢を取っていたが、現在は北西1.5km地点で進軍を停止し牽制射撃のみに留まっている!その際戦力の約4割を西に配置転換させる動きも確認した、旗艦と見られるタ級Flagshipもそちらに移動している!》

《Graf ZeppelinよりAdmiral、偵察機より正面敵艦隊群の情報が入電した。総数25個艦隊前後、主力と思われる艦隊群の中にタ級Flagshipの姿も視認できたそうだ。戦力規模、編成から見てリーザ攻略艦隊の別働隊と見て間違いない》

旗艦直々の迎撃とは光栄さのあまり涙が止まらねえなオイ。益々間隔を短くする砲弾の炸裂音と飛び交う無線をBGMに、全力で思考を巡らせる。

もうちょい上等な脳味噌なら、あの堅物空母にいい加減“提督”呼ばわりさせない方策も併せて考えたいところだが。実際には深海棲艦について考えるだけでも生憎キャパシティはギリギリだ。

(*゚∀゚)「敵別動艦隊との距離、約1.5kmぅ!!」

(#'A`)「HQ、砲兵隊による支援砲撃要請!!」

(=゚ω゚)ノ《要請を受諾したよぅ。───Alle Geschutztore, Feuer!!》

イヨウ少将の二つ返事の直後、ロケットの噴射音と風切り音の不快なオーケストラが頭上を飛び越していく。自走砲パンツァーハウビッツェ2000による榴弾とMLRSのロケット弾が、群れなし唸りを上げて深海棲艦に降り注ぐ。

『『『ガァアアアアアアッ!!!?』』』

(#'A`)「続けて航空攻撃に移る!Glaf、Aquila、全艦載機発艦!!」

《Jawohl!!》

《Ruggero!!》

オーケストラの曲目が連中による苦悶の声と断末魔のクソッタレなアカペラへ移行したところで、今度はレシプロエンジン音が空を駆ける。

ウチのGraf Zeppelinから飛び立ったFw190T改【フォッケウルフ】と、イタリア空母Aquila──つい最近イタリア海軍から派遣されてこの大隊に合流した奴だ──が飛ばしたRe.2001 OR改【アリエテ】が追撃の空爆を叩き込む。
12 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/09(土) 23:42:19.89 ID:Y1RgXn6e0
『ヲォオッ!!』

《空母ヲ級より【Mist】の放出が確認されました!迎撃機、上がってきます!》

('A`)「予想済みだ、問題はない」

犇く敵艦隊の中ほどで湧いた、焦がした魚から上がる煙のような色合の“霧”。ホーネットの弾丸やアクィラの矢に相当するナノマシンの集合体は、即座に【Helm】や【Ball】を形作って爆撃を終えたこちらの艦載機隊に食らいつく。

だが、向こうはそもそも爆撃自体を防ぐため事前に発艦させたかった筈だ。そしてこちらの砲撃により生じた“遅れ”は、深海棲艦側が思っている以上に致命的なものだった。

〈テキカンサイキグンハッカンヲカクニン、ゲイゲキセヨ!!〉

〈〈〈ヤヴォール!!〉〉〉

『『『───────!!?!?』』』

フォッケウルフもアリエテも、爆撃機としての性能は“オマケ”に近く制空戦闘こそが本来の役割だ。謂わば現代におけるマルチロール・ファイターのようなものであり、爆撃後のドッグファイトも十分にこなし得る。

『ヲッ、ヲッ………!』

腹に抱えた“重石”を捨てて身軽になった両航空隊は、追いすがってきた敵機から逃げるどころか即座に反転して迎え撃つ。
面食らった敵機群は早々に1割近くを食い千切られて総崩れになり、混乱状態の防空部隊を建て直すべくヲ級達は戦力の逐次投入を強いられる形となった。

《【スツーカ】隊、吼えろ!!》

〈〈〈──────ッッ!!!〉〉〉

両軍の航空隊による乱戦が発生するさらにその上空から、雲を切り裂き降ってくる“ジェリコのラッパ”。Grafが鍛え上げたJu-87【スツーカ】の急降下爆撃隊は、“バトル・オブ・リーゼ”の真っ只中をくぐり抜けて敵艦隊へと肉薄する。

『『『グゴォオオオオオオッ!!?』』』

250kg───正確にはそれに相当する威力の艦娘艦載機用爆弾が突き刺さり、次々と火柱を上げる。ソ連赤軍を震え上がらせた【空の魔王】に匹敵する……かどうかはわからないが、少なくとも魔王様もきっと笑顔で頷くに違いない精度を以てスツーカ隊の爆撃は深海棲艦を狙い撃った。
流石に一撃轟沈に至るケースは稀だが、艤装をピンポイントで破壊される艦が多発しみるみるうちにその火力が減退していく。

『ギィッ────ゴガォッ!?』

(#*゚∀゚)「全車両・全小隊目標地点に到達!!」

(#'A`)「総員降車!展開急げ!!」

へ級Eliteがこっちに向けた主砲が右腕ごとスツーカの爆弾によって吹っ飛ぶ様を後目に、著しく疎らになった砲撃をくぐり抜け俺たちは敵艦隊との距離を一挙に詰める。
ドリフトで急停車したエノクから即座にG36Cを抱えて飛び降りつつ、俺は懐から双眼鏡を取り出し覗き込んだ。
13 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/10(日) 00:02:55.28 ID:nPgd6y1e0
およそ100mほど先、なだらかな斜面が間に続いた小高い丘の上。そこに深海棲艦の別働隊連中が、所狭しと雁首並べ蠢いている。

『『『ォオオオアアアアア…………』』』

('A`)「わぁキモイ」

これが同数の艦娘であったなら………実態が小国を2つ3つ跡形もなく消しされる戦力であるにしろ、光景としてはそこまで異様なものにはならなかっただろう。
一人一人が古の軍艦の戦闘力をその身に宿していても“人数”はあくまで100人そこそこだ。まだ“内地”と呼ぶことが出来た頃のベルリンで反艦娘デモに集まっていたクソバカ連中の方が余程人数はあったし雰囲気もイカれていた。

だが深海棲艦ともなれば、外観の端的なおどろおどろしさにデカさも加わる。最大20mの化け物が100に迫る数で群れ集まり暴れ狂う様は、黙示録の一節として宗教画にすればさぞや映えるだろうよ。

('A`)(………散開してくれた方が“やりやすい”んだがなぁ)

双眼鏡で敵艦隊の陣容を端から端まで眺めつつ、思わずため息をつく。

深海棲艦がその巨体で密集していれば、一見するとかえって一網打尽にしやすくなり悪手のように思える。

だがその実、陸戦ではそもそも寄り集まって押し寄せてくるような大艦隊を“一網打尽”にできるほどの火力を用意すること自体が困難極まりない。一体一体の耐久力が文字通りの軍艦並みの化け物がスクラム組んで押し寄せてくれば、互いが盾となりあって迎撃効率はスツーカばりに急降下する。少なくとも、相当膨大な戦力を結集しない限り“短時間での殲滅”は限りなく不可能に近い。

空を飛ばせば国庫が空になる爆撃機を束で運用する国や艦娘を内陸で交番勤務の真似事をさせるほど大量に配備している国ならいざしらず、首都周りを含めた国土の北半分を丸々失陥し艦娘もようやくレンドリース込で100隻台まで回復したばかりの我らが祖国じゃどだい無理な注文だ。

('A`)「この間は“やりすぎた”か」

(*゚∀゚)「少佐殿、なんか言ったかい?」

('A`)「ただの独り言だ」

故に、現代戦においては定石となる散兵戦術を採ってくれた方が俺としては余程突け込みようがある。

向こうは旗艦に対する艦隊機能の依存が顕著で、旗艦や“知識階級”であるヒト型を複数沈めれば途端に烏合の衆と化す。これは大群であればあるほど顕著であり、また大群であればあるほど戦力の厚さや流れから位置の推測がしやすい。

なので、大きく広がり攻勢に出てくる敵艦隊を基地航空隊と自走砲や戦艦勢の艦砲射撃で牽制しつつ旗艦の位置を割り出し、護衛戦力を引き離した上でこちらの最大火力を叩きつけ一撃必殺。
このやり方なら、敵がどれほどの大艦隊であっても質さえ確保できていれば少数戦力で手早く無力化できるため幾らでも戦いようが出てくる。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/07/11(月) 23:56:51.00 ID:jm9ZRru30
祝新スレ!
投下おつです
15 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/07/12(火) 02:55:03.77 ID:jvVi/ASP0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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16 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2022/07/12(火) 23:19:01.07 ID:w5bakKhd0
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17 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/12(火) 23:21:47.21 ID:w5bakKhd0
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18 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/12(火) 23:23:12.74 ID:w5bakKhd0
……なのだが、前回の防衛戦ではこれがちょっとばかり“ハマりすぎた”。

(;'A`)(まぁ、あんだけやられて警戒しないほど向こうも間抜けじゃねえよな)

約2400隻。コペンハーゲンとルール地方、ベルゲンを【泊地】化したことで爆発的に兵力を増強した深海棲艦による、ドイツ南部への一大攻勢作戦。恐らく開戦以来最大規模のこの陸上進攻において、しかしながら奴らはあまりに自軍の物量を過信していた。

ベル=ラインフェルト中将の──当時はまだ大佐だったが──指揮下、ただでさえ少数の兵力をさらに薄く広く分散した防衛線。これを一息に押し流そうと、或いはこちらが施す何らかの仕掛けを纏めて踏み潰そうと、向こうもまた大きくフロントラインを広げた上で全方面での総攻撃に移行。

そして、戦力の展開傾向や艦隊の移動法則から割り出された各方面軍の主力群・旗艦隊に、当時まだ出来たてホヤホヤだった俺達【機動迎撃大隊】とイッシ=ストーシュル大佐の下で基地航空隊・空母艦娘艦載機隊と機甲師団を合流・再編させた【混成機械化打撃群】が前線を食い破った上で一挙に強襲をかけ仕留める。

この、“現代のマンシュタイン”が描いた青写真はそのまま一分の相違もなく具現化された。ヤパーヌフリークのイヨウ少将は「ツリノブセ」やら「オケハザマ」やら興奮気味に言ってたが、まぁ名前はどうでもいいだろう。

挙がった“戦果”は………正直50隻をこえたところで面倒になって数えるのを辞めたよ。一週間と経たず滅びを迎えると世界中から思われていた祖国は、寧ろその半分以下の期間で未曾有の大艦隊を消滅させることに成功したわけだ。

その後はご覧の通り。相当なトラウマを植え付けられたらしい連中は、これ以前の散発的な攻勢も含めていかなる時であっても古代ローマのファランクスもかくやの密集陣形で押し寄せ病的に分散・孤立を避けるようになった。

旗艦の位置自体は前以上に容易くとしても、こっちはさっきも言った通りベルリンの一件で壊滅的な打撃を受けて以降戦力は数も質も不足している。下手に策を弄されるより、こうした純粋なソヴィエト赤軍式の物量攻勢を仕掛けられる方が正直かなり手を焼かされる。
  _
( ゚∀゚)《ドク、こちらジョルジュ=オッペル!全小隊が配置についたぜ!》

( <●><●>)《後方にてツン大尉の機甲師団、それとミルナ大尉の別働隊も戦闘準備完了。総攻撃の機会が整ったことは解ってます》

('A`)「よし」

まぁ、あくまで「散兵攻勢と比べて」の話で。

('A`#)「ツン、Bismarck、攻撃を開始しろ!!

Feuer, Feuer!!」

別にこれについても、“やりよう”は幾らでもあるけどな。
19 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/12(火) 23:25:08.08 ID:w5bakKhd0
ジョルジュ=オッペルとティーマス=ワーカーの報告を聞きつつ、無線越しに号令を下す。直後頭上を、先の砲兵隊によるものより遥かに数を増した風切り音が無数の砲声を残して駆け抜けた。

『『『ォガァアアアアアアッ!!?!?』』』

レオパルド2戦車隊、実に40両超による一斉射撃が丘の上を埋め尽くし、照らし、焦がしていく。コーヘン方面で【混成機械化打撃群】が大いに抵抗してくれているおかげで、【機動迎撃大隊】の保有機甲戦力を全て投入できた結果の濃密な火線構築だ。

大隊のくせに砲兵隊とエノク合わせりゃ余裕で一個機甲師団並の陣容となる点については……まぁ緊急時の臨時編成ってことで一つご容赦願おうか。ズタボロ国家の軍隊じゃ編成単位と実際の部隊規模が違うなんざ日常茶飯事だしな。

《2号車エミ=ナカスガより指揮車、全弾着を確認!敵艦隊にダメージあり!》

ξ#゚听)ξ《次弾装填、全車続けて撃て!

Feuer!!》

ツンが率いる戦車隊は俺達の後方数キロ地点、深海棲艦や艦娘の視力なら“肉眼”での観測が十分可能な位置に布陣している。当然余裕で艦砲による射程圏内、集結中の時点で攻撃を受けていれば相応の損害は免れなかっただろう。

だが連中の目は、その手前で自分たちに向かって一直線に突っ込んできた“狸”の群れに引き寄せられた。
まぁ南方攻勢の際、“旗艦轟沈”の前兆は基本艦娘部隊載っけたエノクの突貫からだったしな。そりゃあ奴らも警戒するわけだ。

とはいえ、その辺りの事情を加味しても全火力の誘引成功とそれに伴い機甲部隊が無傷で火線構築を完了したことは望外と言う他ないが。………逝った奴も、エノク隊の“損害”も、覚悟していた分よりは「遥かに軽微」なもので済んだ。万々歳といえる。

クソッタレが。

『ヴォオオッ───ブゴォァッ!?』

《Treffer!!》

これだけ派手にぶちかましてれば当然向こうの注意を引く。軽巡ヘ級──デカさから見るにFlagship──が右手の艤装をツンたちに向け、そのままSKC/34型 38cm連装砲弾の直撃によって跡形もなく吹き飛ばされた。

《よし、一撃轟沈!これがドイツ第三帝国が誇る戦艦の力よ、流石よね私!

Kamerad、Admiral!遠慮なく褒めてくれても構わないわ!!》

ξ#゚听)ξ《うるせー黙ってろまだ戦闘中だよ!!!!》

目一杯胸を反り返らせての超弩級ドヤ顔が容易に想像可能なドイツ軍最強艦娘の物言いに、“Kamerad”の方はブチギレて怒声を張り上げる。

えっ、“Admiral”の方はって?そりゃ勿論、痛む頭を抑えていたとも。

……大隊への定期支給品に頭痛薬を含めるよう少将に談判したほうがいいなこりゃ。
20 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/12(火) 23:27:34.86 ID:w5bakKhd0
何が厄介かといえば、Bismarkが抱く自信がアイツの実力に対して「適量」であることだ。加えて悪意もなく10歳児がお使いを無難にこなしたことについて親に称賛を求めてるようなもんだから、TPOの問題こそあれ強く静止するのもはばかられる。

まぁ幸い超弩級に鬱陶しいだけでこれといった実害はないのだが。
しかしこれで日本が実装に成功したとかいう新式改装【Drai】が施されたらどうなっちまうんだろうか。ブチ上がった自信とテンションだけで空ぐらい飛べるようになるかもしれない。

《追撃します!

Prinz-Eugen, Feuer!!》

《戦艦Littorio、新しいCommodoroにお力を存分にお見せしましょう!

Fuoco!!》

《ドイツのワインもぉ、なかなかいけますねぇ〜♪この味大好きですぅ〜♪》

《Zara、砲撃開sってPola!?何やってるのあなたは!!?》

Bismarkに続けて、他の四人も砲撃を開始する。

全員がツンの戦車隊に同行しているため距離はせいぜい3kmと少し、艦娘の視力にGlafとAquilaの艦載機による観測補助までつけば「至近距離」と呼んで差し支えないだろう。砲弾は的確に迅速に、戦車隊への攻撃態勢を取っていた敵艦を狙い撃ち薙ぎ倒していく。

……約一名明らかに無線の内容がおかしかったが、仕事自体はこなしているようなので深くは問わない。

胃薬も追加するべきかな畜生。

(;'A`)(ウチも大分濃い方だと思ってたが、イタリア連中も負けず劣らずだよなぁ……)

【東欧連合軍】の設立に伴い独伊両国の鎮守府関連組織や部隊が統合された影響で、俺達の部隊にもイタリア艦娘部隊が合流している。
交流武官だった時代の名残で事前に面識があるベル中将からは大層クセが強いと事前に知らされていたので覚悟はしていた──そもそも艦娘にクセが強くないヤツがいるのか甚だ疑問だ──が、連中は割と高めに設定したハードルを易易と飛び越えてきた。

《敵艦撃破ぁ〜。ご褒美にぃ、もう一本開けちゃいます〜》

ξ;゚听)ξ《いやここ最前線!戦闘now!!何本持ってきてんのよアンタ!?》

《す、すみません!ツン大尉、本当にすみません!!あとでZaraの方からよく言って聞かせるので!!》

特に、重巡洋艦Polaの“濃さ”は群を抜いている。なにせ四六時中、本当に一秒たりとも手からワイン瓶を放そうとしない。ワインが尽きればビール缶を、ビールがなくなれば工業用や消毒用のアルコールに手を出すことさえ厭わない。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/07/13(水) 00:01:08.74 ID:/JjZNH8R0
投下おつです
何年ぶりかのドクツンコンビも元気そうで何より
22 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/07/13(水) 02:58:23.13 ID:c0yqZk8W0
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23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/07/13(水) 09:43:52.84 ID:qdOo9EPbO
ドックン昇進してる!
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/07/14(木) 00:39:21.97 ID:JoLBDd7i0
更新乙です!
欧州の面々が元気そうでなにより…相変わらずエース様は皆に愛されてるなあww
25 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/15(金) 23:15:26.19 ID:fyoNDgrB0
Polaという艦娘の特性なのかと思えば、他の部隊も相当な酒好きとはいえここまでではないらしい。お陰様でこの大隊は常に大量のアルコール類の支給を受けなければならず、輸送の枠を少なからず圧迫してさえいた。

一時は“【機動迎撃大隊】の車両はアルコールをガソリン代わりに使う最新型の戦車を使っている”なんて噂が、大真面目に陸軍内で広がったほどだ。

これでただのアールコール中毒艦娘だったなら、心のこもったお手紙と共にイタリア軍に叩き返してやったところだが。

『ゴ…………ォ…………』

《はい、また1隻ぃ〜》

Bismarkと同じ“厄介なクチ”なのだから、人生はままならない。

《アドミラ〜ル、敵別動艦隊の轟沈数、20隻を超えました〜。損傷ありの艦についてはぁ……多すぎてちょっとわかりませ〜ん》

(*゚∀゚)「少佐殿、多分敵艦隊が受けた損害の出どころは半分ぐらいウチのBismarkとあのPolaだぜ?」

('A`)「眼の前で見てたから知ってるよ」

あれだけ飲み、あれだけ(常時)酔ってるというのに、Polaの射線がブレたのを見たことがない。Polaが狙った獲物を仕留め損なったのを見たことがない。

なんて名前だったっけか、香港出身のデカッ鼻なクンフー・アクションスター。そいつの主演映画よろしく酒を飲めば飲むほど強くなるとでも言うつもりだろうか。
ドイツ軍に派遣されたイタリアの艦娘がケンポーの使い手とはいよいよもってグローバリズムの集大成だなオイ。

《Graf ZeppelinよりAdmiral、偵察機から入電。リーザ包囲中の敵主力艦隊が別動艦隊へ新たに戦力の抽出を開始した》

ともあれ、これで状況が動いた。

('A`)「数は?」

《15〜20個艦隊といったところだな。ヒト型は数えるほどだが非ヒト型は全て“陸棲型”だ、10分と経たずに合流してくるぞ》

('A`)「OK、そのまま監視を継続。Aqilaと共に制空権を死守しろ!

ツー、ドレスデンにカーメンツとフライベルクからの基地航空隊投入を要請してくれ!フライベルクの方は直接ぶつけて足並を乱せ!」

(*゚∀゚)「Ja!!」

《Jawohl》

旗艦直々に別働隊を率い、リーザへの攻撃を大きく鈍化させてまでの対応。向こうは油断してもいなければこっちを甘く見ていたワケでもない。最大限の警戒を持って対処してきていた筈だ。

にもかかわらず、奴らは艦娘を含む戦力に肉薄を許した。派手な“仕掛け”につられて“本命”に無傷で展開され、戦闘開始早々に甚大な損害を受けた。
一連の流れは間違いなく奴らにとって想定外であり、それによって浮足立っている。

(*゚∀゚)「ドレスデンの前線司令部は要請を受諾!基地航空隊が順次出撃開始、最短400秒後には空域に到達の予定!!」

( <●><●>)《機甲部隊による第三次一斉射弾着。新たにホ級Eliteが1隻沈黙、他損傷艦多数。敵艦隊の混乱がさらに拡大したのは解ってます》

(#'A`)「よし!指揮車より前衛小隊各位に伝達、弾薬装填!射撃態勢!!」

俺達にとっての優勢は、敵にとっての苦境。当然打破に動くだろうが、させない。

(#'A`)「────Angriff‼」

ここで、勝負を決する。
26 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/15(金) 23:18:54.67 ID:fyoNDgrB0
腹ばいになっていた地面から立ち上がり、G36Cを構え、引き金を引く。最大有効射程800mに対して“標的”との距離は200m強、向こうのデカさは5mオーバー。おまけに光学サイトの照準補正付きだ。

射撃が特別得意ってわけでもないが、外す道理はない。

『オォンッ!?……ガァァッ!!』

放った弾丸は全て標的──駆逐イ級の右眼周りに着弾し火花を散らす。突然視界を遮られたイ級は面食らったように一瞬仰け反り、すぐにこちらを向いて咆哮する。

元々深海棲艦の駆逐級については、通常種・Elite・Flagship以外に前期型と後期型という分類が存在した。
海上特化………というかほぼ海のみでしか運用不可能な形状のものが前期型、歪な足のようなユニットを生やし、水陸両用とまではいかないにしてもある程度の陸上行動を想定した造りになっているものが後期型と呼ばれる。

だが【泊地】が出来てからしばらく後、“新型”がヨーロッパの各戦線に出現した。

『グォオオッ!!!』

(*#゚∀゚)「イ級、こちらを指向!!」

(#'A`)「前進止めるな、とにかく視界を潰し続けろ!

Feuer, Feuer!!」

それが、目の前のイ級のような“陸棲型”だ。

名前の通り、この型はそれまでの深海棲艦と比較し陸上活動能力が桁外れに向上している。艤装の転換や装備性能の改善というよりは、どうも奴ら自体が根本から「造り直した」代物らしい。

例えばイ級の場合、体の両側面から3対の「脚」を生やしておりこれを用いて歩行・走行する。

形状としてはまんま昆虫のそれをイメージすれば当てはまるが、「節」の部分は連中の甲殻と同じ物質で覆われていて並の火力では容易には破壊できない。
前脚2本はカマキリの鎌のような使い方も想定しているためかやや大きく発達していて、先端も後ろの二対と比較しかなり鋭利だ。

フランスの方じゃ前脚を使い穴を掘っていた姿も目撃されているらしいので、或いは建設重機の役割も担っているのだろうか。12.7cm連装砲をぶっ放せるブルドーザーがあったらさぞや岩盤工事が捗るだろうな。

速度は時速30km前後、後期型のあの取ってつけたような脚部ユニットと比較すれば天と地ほどの差があるが、そこまで高速というわけではない。が、連中には図体のデカさと表皮の頑丈さ、そして軍艦をモチーフとした化け物ゆえの“航行距離”の長さがある。
障害物ガン無視で長時間の無停止行軍が可能となればその機動力は決して馬鹿にならず、しかも駆逐級故に物量も膨大だ。

実際コイツらが最初に確認された北欧戦線は100隻を越える“陸棲型”との接敵から僅か1時間で防衛ラインを食い破られ、ようやく配備されたノルウェー軍最初の艦娘による奮闘もむなしく28時間後にはヴィーケン県全域とノルウェーの首都オスロを失陥した。
27 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/15(金) 23:21:41.83 ID:fyoNDgrB0
俺達東欧連合軍にとっても、その脅威は決して小さなものではない。奴らが仕掛けてきた例の南方攻勢に際しては、機動防御による主力艦隊の殲滅後反転攻勢に移りライプツィヒを奪還するところまで計画は練られていた。
だが現実には、この“陸棲型”と“高機動型チ級”による迅速な戦線の穴埋めでリーザ他数都市への進出が精一杯だったという実情がある。

物量面でも個々の質の面でも圧倒的な劣勢を強いてくる深海棲艦に対して、俺達人類の明確かつ数少ないアドバンテージが陸路における機動力だった。
下半身を車両に換装した【高機動型チ級】や北部で放棄されたバイクや車を乗りこなす“あの”リ級のようなヒト型もいるにはいたが今はまだ少数派であり、ごく局地的にはこの機動力の差を生かして質量双方で上回ることさえしばしばできていた。

その「数少ないアドバンテージ」が“陸棲型”に潰された今となっては、この戦争の行く末はお先真っ暗と言っても過言じゃない。

おめでたい宗教家共が言う「神の試練」とやらがこれならあまりにも厳しすぎるし、向こうが「神の恵み」を受けているならあまりに深海棲艦側への肩入れが酷すぎる。
中東の狂信者共が主張する俺達人間の根絶やしを目的にした「神の審判」として見ても、自分で作ったブツが自分で作った星に厄災バラまいてるのを数世紀薄ぼんやりと眺めた挙げ句ようやく対処するってんなら、あまりに間抜けでウスノロだ。

つまりやはり神はどうしようもないクソ野郎か存在しないかの二択であるという結論が導き出せるので、俺としては必ずしも悪いことばかりじゃないかもしれないが。

『ゥオオオオオッ!!!』

「イ級、口内より主砲展開!砲撃態勢に移行!!」

(#'A`)「ツー!!」

その上で“無神論の補強”以外になにか一つ、血眼にして「不幸中の幸い」を一個無理に上げるとするならば。

(#'A`)「Panzerfaust‼」

(*#゚∀゚)「Jawohl!! Feuer!!」

連中の、非ヒト型の“オツムの出来”については、陸上性能ほど大幅な向上が見られなかった点か。
28 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/15(金) 23:24:14.28 ID:fyoNDgrB0
『グォオオオオオオッ!!!?』

まさに口を開き、俺がいる方めがけて砲弾を吐き出そうとしたイ級。その横っ面を右側から強烈にぶん殴ったのは、ツーが構えたパンツァーファウスト3の一撃だった。

尾のような形をした後部艤装の機銃を使えば、より素早く俺達に攻撃をかけられただろう。飛びかかって白兵に持ち込めば、容易く俺のことなんて捻り潰せた。後方のツンたちへの反撃を続けていれば、角度的にツーがパンツァーファウストを撃っても前脚に射線を遮られて直撃は避けられたはずだ。

だがイ級は、俺たちの露骨な妨害に釣られてこれを一挙に排除しようと短絡的に行動し、姿勢を崩したことでパンツァーファウストの射線が開け、艦砲射撃の為の大きな動作はツーがこれを撃つのに十分な隙となった。

タ級による指示を受けている状態でも、直接の交戦ならこれだけ容易く撹乱すできるワケだ。敏捷性が跳ね上がった分一個体あたりの脅威度も増しはしたが、それでもまだ対処する手段は幾らでも残っている。

何時までそうかは、俺にもわからないが。

「Feuer!!」

『グゴォッ……ギィアッ!!?』

素直に「自身にダメージを通すだけの攻撃」が飛んできた方へと首を向けたイ級を、反対側から別の隊員が放ったパンツァーファウストが殴打する。装甲が砕けひび割れ、口内砲があらぬ方向へと振れ、引き千切られた“歯”が吹っ飛んで地面に転がる。

(#><)「Panzerfaust, Feuer!!」

他の小隊も本格的に交戦を開始したらしく、ビロード=ヴァルネファーの叫び声が爆発音や深海棲艦のうめき声と混ざり合って耳に届く。
奇襲による先制は完璧に成功したな、反撃らしい反撃は今のところない。

『ゴォオオ…………!』

とはいえ、パンツァーファウストは有効打ではあってもある程度の数を揃えなければ「決定打」にはなり得ない。
前衛小隊に配備している分だけなら、全て束にして叩き込んでもせいぜい2、3隻仕留める程度が精一杯だろうな。向こうが反撃態勢を固めれば、計200人前後の歩兵隊なんざ抵抗する間もなく塵芥と化す。

(*#゚∀゚)「イ級、ダメージ有りも継戦能力維持!再度砲撃態勢に移行!!」

(#'A`)「Leberecht、Max、Grecale、Libeccio!!」

「「Jawohl!!」」
「「Ruggero!!」」

だから、「決定打」を別に用意しておいたワケだ。
29 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/15(金) 23:28:53.63 ID:fyoNDgrB0
俺達の後方で無造作に停車し、乗り捨てられているエノク。その裏から駆逐艦が4人、艤装を構えつつ一斉に飛び出す。

「艦隊戦、やってみせるさ! Feuer!!」
「我らの本当の力を見せるわ。 Feuer」

1934型駆逐艦の、Z1 Leberecht MaassにZ3 Max Schultz。

「さぁーケンカだケンカ!ぶっ放すよー、Fuoco!!」
「イタリア駆逐艦の本当の力、教えたげる!! Fuoco!!」

Maestrale級駆逐艦、2番艦のGrecaleと3番艦のLibeccio。

装備は全員あくまで12.7cm連装砲。駆逐艦以外も装備自体はできるがする機会は滅多に無い、艦娘の艤装としては最低火力に位置する。
陸上ゆえ当然魚雷も使用できず、駆逐艦が発揮できる火力は“対深海棲艦”で考えるならたかが知れている。

『ォ゛………オ゛…………』

(#*゚∀゚)「イ級の轟沈を確認!!」

ただ、既に“有効打”によって損傷を受けている敵艦へのトドメとしては、それでも十分だ。

「ジョルジュ大尉!Admiral正面の敵艦、轟沈させたよ!!」
  _
( ゚∀゚)《しっかり見てたぜFreyline!次は俺達の前にいるホ級に一発頼む!》

「ッ! Ja!すぐに行くよ!!」

「……レーベ、いやに張り切ってるわね。

Z3、次の敵艦へ砲撃を開始したわ。効果の程の報告をお願い」

( <●><●>)《軽巡ト級に損害あり。有効なのはわかってます》

《第5小隊よりGrecale、私達の正面にいるロ級への攻撃もお願いできる!?》

「Ruggero♪ Grecale、追加のお仕事入りまーす。えーい!!」

「まだまだぁ、リベの活躍は始まったばかりなんだから!

Fuoco!! Fuoooco!!!」

《Libeccioの砲撃に合わせろ!第8小隊、前進!!》

歩兵小隊に照準を向けている艦を排除すれば、後は自由射撃だ。とにかく手当り次第派手にぶっ放させ、俺達の存在をアピールする。

『グゴッ!? ………ギィアッ!!』

『『『ガァアアアアアッ!!!』』』

( <●><●>)《正面敵別働艦隊、戦車隊・主力艦隊に対する砲撃を大幅に減退させています。非ヒト型の多くが目標を我々に変更しつつ有ることは解ってます》

猛烈な射撃によってレーベたちの存在を認識させたことで、優先順位が変わる………とまではいかないが、俺達への警戒レベルは大幅に引き上げられる。

そりゃそうだろうよ。駆逐艦ゆえに火力は貧弱だが、鼻先に展開していた部隊に艦娘がいると解ったんだ。手早く潰さねえと何されるか解らなくて不安だよな?
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/07/20(水) 07:15:24.45 ID:T4K5f6wc0
投下きてた
遅くなりましたが更新おつです
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/07/20(水) 13:30:50.15 ID:UrDyclLh0
sageろキチガイ
32 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/22(金) 23:17:46.79 ID:2pXhSfOs0
にしたって、挑発された4、5隻が反応したのみの状態から中大破艦も含めて数十隻が俺達に砲口を向け始めるのは動きとして露骨すぎるが。現状を予想できてませんでした、慌ててますってのを隠そうともしない。

解りやすい相手で助かるよ。

(#'A`)「ミルナ大尉、Roma、攻撃開始!!」

(#゚д゚ )《Jawohl!!

Alle Morser, beginnen zu Feuer!!》

『『ウゴァッ!!?』』『『ギィッ!!?』』

戦闘区域の南数キロ、ザント川沿いに焼け残っていた雑木林。そこに予め用意した“伏せカード”を、満を持して切る。

敵艦隊全域を覆うようにして降り注ぐ、ミルナ大尉指揮下の迫撃砲弾。パンツァーファウスト同様あくまでも「有効打」に留まるが、なにせ向こうは密集陣形だ。纏まった数が被弾による苦痛から身動ぎの一つ二つもすれば、それだけで艦隊全体の運動を阻害できる。

《Vene、出番がないんじゃないかと不安になったわ。

戦艦・Roma、砲撃を開始する!主砲、撃て!!》

『『『グゴガァアアアアッ!!!?』』』

そして取り分け混乱が激しい箇所に叩き込まれるのは、大尉に同行させたイタリア海軍のV.Veneto級戦艦4番艦・Romaによる主砲一斉射。奴さんやLittorioの装備する50口径381mm三連装砲は散布角が大きく命中率に難アリと聞いていたが、それを感じさせない見事な狙いで幾つかの敵艦が爆炎に包まれる。

流石はイタリア海軍最強と謳われた鎮守府の指揮官にして現東欧海軍統合提督肝いりの艦娘、質は一級品だ。その「一級品」をこんな便利屋扱いの独立愚連隊にブチ込んでいいのかという疑問は浮かぶが。

〈〈〈─────!!!〉〉〉

(*゚∀゚)「フライベルクより基地航空隊到着、敵別動艦隊第二波へ攻撃開始!!」

砲煙が逆巻き、未だグラーフたちと敵空母それぞれの航空隊が入り乱れる上空を、新たに現れたレシプロ機の群れが猛然と突っ切り飛び去っていく。ツーの報告があって間もなく、「丘」の向こう側から爆発音と深海棲艦のくぐもった呻き声が聞こえてきた。
33 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/22(金) 23:20:35.21 ID:2pXhSfOs0
《こちらGraf Zeppelin、敵艦隊第二波に損害発生し進軍大きく遅滞。だがリーザ近郊より今度は【Mist】を相当量確認したぞ、恐らく報復の艦爆隊と思われる!》

('A`)「問題ない。カーメンツ基地航空隊は空域に突入、発艦開始した敵艦爆隊を叩け!」

〈〈〈ヤヴォール!!〉〉〉

最初に展開していた艦隊が40個艦隊余に対しての4割強で100隻に届くかどうか。次に投入された第二波が15〜20個艦隊、最大120隻。

一応「別働隊」と銘打ちはしたが、合計で8割に迫る戦力を旗艦直々に統率・展開させているならそれはもう“主力艦隊”であり、連中は俺達の側を“主戦場”に切り替えたと見て間違いない。

そして、“そんな状態”で尚リーザ周りに貼り付いている戦力があるとすれば、それが砲撃戦を不得手とする艦種───空母群、それも艦爆を主力とした対地・対艦特化の艦隊であることは容易に想像できる。

だからこちらも、カーメンツ航空隊の突入を遅らせていたワケだ。

『『『─────!!?!??』』』

〈テッキゲキツイ!……ナルホド,コレガヤパーヌノキタイノチカラカ!〉

〈スサマジイセンカイセイノウ、“ヤマトダマシイ”オソルベシダナ!!〉

カーメンツに配備された基地航空隊は艦爆隊や友軍輸送機の護衛を主任務とした部隊で、メッサーシュミットとフォッケウルフに加えて日本からレンドリースされた“ゼロ”を多数保有している。また練度についても、リスボン沖やベルリン、南部防衛戦などデカい戦いで鍛え上げられた妖精たちを選抜編成した最精鋭だ。

《AquilaよりAdmiral、カーメンツ航空隊がリーザ方面の敵艦裁機群と交戦開始!圧倒的優勢の模様です!》

東欧連合軍内で最強とまで言われる制空戦闘能力の高さは、伊達じゃない。

('A`)「Graf!モールスでいい、偵察機からリーザ近郊における【Mist】の発生位置を確認できた範囲で全てリーザ基地に共有しろ!

ドク=マントイフェルよりリーザ司令室、機甲戦力と艦娘は動かせるか!?」

《こちらリーザ、レオパルドとプーマの混成ならニ個中隊程度を抽出可能だ!艦娘に関してはG.Garibaldi、Prinz-Eugen、どちらも損害は軽微で戦闘行動に支障はない!》

('A`)「Grafから敵空母の位置情報を送る、攻勢に移れ!護衛の随伴艦もいるだろうから注意しろ!

それと砲兵火力で敵第2艦隊群への横撃も頼みたい!」

《Jawohl!!》

艦隊戦力の大半をこちらに誘引し、位置情報を割り、航空戦力のアタマを抑えた。
事ここに至れば、リーザの防衛兵力を後生大事に温存する必要はなくなった。遠慮なく投入し一挙にタ級たちの退路を塞ぎにかかる。
34 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/22(金) 23:23:29.88 ID:2pXhSfOs0
軽く田舎町の防衛部隊を捻り潰してこちらの防衛線を粉砕する筈が、いつの間にやら追い詰められ寧ろ率いていた大艦隊が包囲殲滅の危機。
タ級がその事実に益々動揺を深くしている様子は、続く敵艦隊の動きから如実に察せられた。

『『『グォオオオオオオンッ!!!』』』

《Graf ZeppelinよりAdmiral、第二敵艦隊群が一斉に反転運動に移っている!目標を再度リーザ攻囲に切り替える模様!》

《リーザ第一臨時砲兵中隊、敵艦隊による砲撃を受けています!照準は滅茶苦茶ですが既に現時点でかなりの火力!!》

別動隊との合流を目指していた、第二艦隊群の総転身。無線じゃ妙に慌てたやり取りが飛び交っているが、俺としては礼の一つも言いたくなるほどの“最悪手”だ。

後衛の残余空母艦隊を守りたいなら、4つ5つ艦隊を選抜してソレラだけを守りに向かわせれば十分な対処を施せた。リーザ制圧による一挙逆転を狙ったなら、後衛艦隊をリスク度外視で突撃させ乱戦に持ち込み稼ぎ出した時間で順次艦隊を反転させたほうが確実だった。
どちらも、非ヒト型の主力が“陸棲型”故の機動力を踏まえれば十分に可能だったと思う。だが連中は、“100隻超の艦隊を密集状態で一斉に方向転換させる”という最悪手によってせっかく得た機動力を自ら殺した。

仮に前者二つの動きを取られていたとしても対処法を用意はしていたが、少なくとも冷や汗の量はもう少し増えていたに違いない。

(#*゚∀゚)「フライベルクより基地航空隊第二波到着!ピルナ発のスツーカ隊、パウツェンからの爆装型メッサーシュミット隊も間もなく!」

('A`#)「そのまま第二艦隊群にぶち込め!とにかく打撃を与え続けろ!!」

〈メイレイヲジュダク、ゼンキトツニュウセヨ!!〉

押し合いへし合いながらノロノロと反転を続けているだろう敵艦隊の頭上から、メッサーシュミットが、フォッケウルフが、スツーカが、油断しきって草を食む羊を見つけた狼の群れのごとく襲いかかる。

本来これを迎え撃つべき敵の航空戦力は、第一群は砲撃戦に巻き込まれた上でAqilaとGrafに、第三群はカーメンツの航空隊とリーザの機甲・艦娘連合部隊によって封じ込めた。第二群自体は航空戦力を保有していない。

数に飽かせて対空砲火を全力でバラまけば振り払えたかもしれないが、密集状態の大艦隊が反転運動の真っ最中とあればそれもまた無理難題だ。
35 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/22(金) 23:27:30.69 ID:2pXhSfOs0
〈ロス、ロス、ロス!!〉

〈オレノ“ラッパ”ヲゾンブンニキケェーー!!〉

〈ヨシ、チョクゲキダ!!〉

『『『グガァアアアッ!!!?』』』

レシプロエンジンの音、ジェリコのラッパ、爆弾の投下音、そして大分恒例行事となってきた、深海棲艦が上げる悲鳴と断末魔の二部合唱。空に撃ち上げられている迎撃火線の量は微々たるもので、歴戦の航空隊を撃ち落とし止めようとするならあの100倍は用意する必要があるだろう。
丘の向こうに広がる光景が、余程一方的な虐殺となっていることは想像に難くない。

( <●><●>)《少佐、カーメンツにイタリア陸軍の第22“陸艦”混成中隊も到着。同隊所属のAquilaもRe.2005 改の爆装型を発艦させたとのこと》

( ゚д゚ )《アンベルク=ブッフホルツにはチェコ・イタリア連合機械化部隊が展開、同地に即席基地航空隊拠点の敷設を完了したとのことだ!Do 17 Z-2並びにSM.79、離陸準備できている!》

('A`#)「投下目標完全自由にて順次突入!効率や短期決着なんて考えなくていい、とにかく手数を優先しろ!!」

(=゚ω゚)《こちらCP、我々も臨時基地航空隊を施設完了した!全機上げていくよぅ!》

『『ガガァッ!!?』』『『グァッ!?』』

最初に大爆撃で突き崩し掻き乱したら、後はひたすら波状攻撃を仕掛けて建て直す隙を与えない。どこまで優勢に戦況を推移させようが物量も火力も未だ圧倒的な差がある、向こうが少しでも“冷静”になる機会を得ればたちまちひっくり返されそのまま押し切られる。

『アァアアアアアッ!!!』

『『『ガァッ─────!!』』』

向こうもそれを思い出したらしい。人間と深海棲艦の力量差、艦娘と深海棲艦の物量差を。ほんの一瞬でも俺達に隙を作れたなら苦もなく勝利を掴めることを。

故にタ級は、隙を作る機会を“前”に求めた。中核艦隊が、ネ級やル級といったヒト型が、混乱し損傷も激しい非ヒト型・随伴艦隊を押しのけて一斉に前衛へ進み出る。

完全に制空権を掌握され混乱も損害拡大速度も著しい第二群、ある程度の統率こそ維持しているものの火力面での優勢が盤石とは言えず乱戦に持ち込まれた第三群は何れも収拾をつけ再度戦力化するのに時間がかかると判断したか。
恐らく、中核艦隊の火力を総動員して最寄りにいる俺達突撃隊を一挙に消し飛ばすつもりだろう。
36 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/22(金) 23:30:45.40 ID:2pXhSfOs0
実際その判断は、先の“最悪手”とは比較にならないほど的確だ。ヒト型は少数とはいえ保有火力、砲爆撃に対する耐久力は何れも非ヒト型と比べ物にならない、2〜3個艦隊分が束になれば歩兵200余名に駆逐艦娘4人なんて欠片も残さず吹き飛ばされる。
鼻先の“楔”さえ砕くことができれば、あとはツンやビスマルクたちの部隊と真っ向から殴り合って強行突破するもよし、牽制で足止めしつつ第一群と第二群を合流反転させて第三群の救助並びにリーザの制圧に取り掛かるもよし、こちらを潰す手段は選り取り見取りだ。

非ヒト型による「壁」を自ら排除し戦車隊と艦隊の砲撃に身を晒すリスクに、十分に見合ったリターンを得られる。タ級自身の采配かより“上位”の存在による指示かは知らないが、失策を十分に取り返す「英断」と言える。

─────まぁ俺達にとっては、その「英断」こそが最大の「隙」に繋がるわけだが。

(#'A`)「Granate Feuer!!」

(#><)「Jawohl!!」

( <●><●>)「Ich verstehe」

第一群中央、それこそ俺の小隊が展開する真正面に非ヒト型共を退かしながら進み出てきた中核艦隊。連中が戦列を整え艤装を構えるよりも早く、ティーマスやビロード、他十数人が一斉にその地点めがけて“砲撃”する。

H&K/HK69擲弾筒。この距離なら十分に運用自体は可能だが、本来グレネードの威力なんざ深海棲艦相手には嫌がらせ以上のものにはなりようがない。

だが、今回これらに装填されているのは、

『ガァッ!!?』『ギャッ───』『アァ、アァアアア…………』

改良型のフラッシュグレネード、閃光弾だ。

(#*゚∀゚)「敵中核艦隊、周辺随伴艦共々動作停止!閃光弾効果大!!」

(#'A`)「駆逐艦隊、並びに残余全小隊の指揮権を一時ビロード少尉に移行する!【イェーガー】各位、突入準備!!」

指示を出しつつ、俺自身腰から取り外した銃剣をG36Cの先に取り付ける。

………Jaeger(狩人)なんざガラじゃないんだがな。巨人と深海棲艦、どちらを駆逐する方が面倒くせえだろうか。

(#'A`)「Los, Los, Los!!」

前へ、前へ、前へ。さして速いとは言えない脚に乏しい筋力を全て注ぎ込み、泥濘で滑らないように最低限の注意は払いつつとにかく突っ走る。周りではジョルジュやティーマスが率いる“狩人”連中も、中核艦隊に狙いを定め疾走しているのが気配で察せられた。

一応G36Cは構えているが、撃つためじゃない。閃光と音で怯んではいるが船体殻が健在である以上撃ったところでダメージはないし、下手な目くらましや妨害をするならビロードたちに任せた上で俺は距離を詰め切ることに集中した方がいい。

じゃあ何故銃を構える必要があるかって?決まってる。

(#'A`)「───Fahr zur Holle」

『………ギィヤッ!?』

連中の青白い肌に、刃を突き立ててやるためだ。
37 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/22(金) 23:35:11.98 ID:2pXhSfOs0
銃剣を振り被った先には、重巡リ級の姿がある。驚愕で見開かれた眼が赤く輝いているのを見るに、Elite種であることが伺えた。

ただ、リスボンやベルリンの“アイツ”とは別の個体だ。仮にそうであるなら同じ状況でも寧ろ爛と笑みを浮かべて反撃の拳を振るってきただろうし、そもそもこんな状況に陥る前に………いや、これについては何ならわざとこうなるまで放置した上で逆境をたっぷりと堪能していたとしてもおかしくないな。

いずれにせよ、“アイツ”がこの場にいなくてよかった。そんな場違いな感想を妙に冷静に懐きつつ、俺はリ級の喉笛に深々と銃剣を突き立てる。

『ア゜ッ゜』

(#'A`)「Down!!」

間髪を入れず射撃。単射モードに切り替えていたG36Cから吐き出された5.56mm弾が、首をぶち抜いて後方へ飛び出す。顔面に渾身の右ストレートでも食らったような勢いで後方へ倒れ込んだリ級にもう一度引き金を引くと、急速に光を失っていく右眼を弾丸がえぐり取った。

船体殻が消えたなら、どうやら死んだ“ふり”ではないようだ。
  _
(#゚∀゚)「伏せろ!!」

『………ッ、グゥ!!』

ジョルジュの叫びに応じて反射的に膝を折る。頭上をフルオートで放たれた火線が通り過ぎ、やや離れた位置にいたル級の船体殻の表面で弾けた。

『ジィアッ!!』

閃光弾の衝撃から立ち直りつつあったらしいソイツは、それを妨げる形で顔面付近に集中したジョルジュの射撃に対して苛立たしげな声を上げる。艤装を構えはするが、視界を弾幕で塞がれて照準は覚束ない。

その隙に、俺は屈んだ姿勢のままル級めがけて駆け出す。距離はせいぜい5メートル、若干の無理をすれば、ヤパーヌのニンジャのような人知を超えたスピードがなくとも1秒とかけず距離は詰められる。

『ッ!? ウォアッ!!』

('A`;)「Verdammt……!」

肉薄し突き出した銃剣はしかし、ル級が咄嗟に地面を滑らせて構えた艤装に阻まれ届かない。

これがル級の厄介なところだ。深海棲艦の中でも取り分け大きな艤装が遮蔽物となり、肉薄しての白兵戦に持ち込んでも刺突や斬撃を通しにくい。膂力がある分重量も苦にならず、こうして死角を突いても気づかれれば瞬く間に防がれる。

『キヒッ………!』
  _
( ゚∀゚)「100ユーロ札でも拾ったか?クソアマ」

『────!!!?』

故にこそ、ル級相手の“白兵戦”は二人一組が基本となるわけだ。
  _
(#゚∀゚)「うぉらぁっ!!」

『コピュッ………クォッ、コホッ………』

俺の“フェイント”を躱し、機銃でバラバラに引き裂いてやろうと勝ち誇った笑みを浮かべていたル級。だが反対側から肉薄してきたジョルジュが脇腹にナイフを突き立てると、途端にその表情は苦痛と驚愕、恐怖で彩られる。

そのまま2度、より深くねじ込まれるナイフ。ル級はその動きに合わせて同じ数だけ身体を痙攣させると、ブクブクと青い血を溢しながら前のめりに崩れ落ちた。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/07/25(月) 08:09:03.26 ID:t/AaaH7H0
投下おつです
対人型白兵戦ってまだ通用してるんですかw
39 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/28(木) 00:49:29.71 ID:4OpJDR7g0
『カァッ………!?』

「Gegner Dawn!!」

『ウグッ、イギャアアアアアッ!!!?』

「Stirb, Stirb……!!」

他の“狩人”たちも、俺達に続いて次々と中核艦隊に白兵を仕掛けていく。重巡ネ級がこめかみにナイフを叩き込まれ絶命し、別のル級は包囲して一斉に飛びかかってきた4人に反撃できず銃剣で滅多刺しにされ悲鳴を上げる。

閃光弾をあっさり食らったことも含めて、向こうは俺達との間で“近接格闘戦”が起こることをまるで予期していなかった。易易と懐を取られ、一個艦隊が突き殺され、刺し殺され、斬り殺された。

特例中の特例であるベルリンはいざ知らず、南部防衛戦の際も白兵突撃はここぞの場面で一定の戦果を上げていた筈だ。にもかかわらずこうも綺麗に「ハマった」のは、未だ俺たちを甘く見てるのか、情報伝達の不足か、或いはタ級自身が“指揮艦”としての資質に難があるためか。

(#><)「Panzerfaust!!」

ξ#゚听)ξ《Weiter Feuer!! Weiter Feuer!!》

「Z1, Feuer!!」

『『グガァッ!?』』『『ギャッ!!?』』『『ゴガッ………』』

何より幸いだったのは、中核艦隊が非ヒト型を自分たちで周囲から退かしてくれた点だ。射線を通すための措置だとは思うが、白兵戦を仕掛ける際はタッパがデカく踏まれただけでも致命傷になる非ヒト型の脅威度は大きく跳ね上がる。

それらがモーセを前にした海のごとく中核艦隊に道を開けている現状は、砲爆撃による足止めを容易にした。現にビロードの指揮下に残した歩兵隊と駆逐艦隊、ツンやビスマルクらが猛攻撃で動きを縫い止め、周辺艦隊と中核艦隊それぞれの連携をほぼ完全に寸断しつつある。

『ジャッ!!』

「ぐぁっ………」

('A`;)「マッテオ!……クソッ!」

だが、ここまでやって尚俺達が負うリスクは小さくない。結局ヒト型にしろ、白兵戦なら「まだしも勝率が上がる」だけで基本超火力と怪力を備えた化け物であることは変わらないのだから。

リ級を一体刺殺したところで、コンマ1秒にも満たない時間息をついた“狩人”の一人。その文字通りの「一瞬」を突いて、横合いから吹き付けた暴風が乱暴な子供の人形遊びのようにソイツの四肢を引きちぎる。

『ガギィッ!!』

閃光弾の衝撃から、完全に立ち直った雷巡チ級。中核艦隊のデサント・運搬役だったのだろうか、下半身をM1エイブラムスに酷似するキャタピラーへと置き換えたその個体は、未だ煙を銃口から立ち昇らせる両手の対空機銃を今度は俺とジョルジュの方に向けてきた。
40 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/28(木) 00:52:42.59 ID:4OpJDR7g0
チ級の照準が定まり切るより早く、俺もジョルジュも動いている。

といっても、回避は狙っていない。仮に初撃を避けられたとして、たかが人間の脚力がこの至近距離でそのまま機銃掃射から逃げ切ることははっきり不可能だ。

故に俺達が選んだ手段は、防御。

『ズェアッ!!!』

('A`;)「…………ッッ!!!」
  _
(;゚∀゚)「ぐぅおっ………凝りが解れるな畜生!!」

今しがたぶち殺したル級、その手から離れ地面に転がった艤装に飛びつき、構える。重量について一抹の不安はあったが、男二人がかりならなんとか片方を持ち上げ支えることはできた。

大きさ的には人一人分を多い隠せる程度の盾に成人した男二人が密着し縋り付いているせいで大層ひどい絵面になっているだろうが、死ぬよりは安い。

《大尉、ジョルジュ大尉、無事なの!?…Admiralも!》
  _
(;゚∀゚)「生きてるから安心しろレーベ、無愛想な仮面女からマッサージされてるだけだからな!!」

俺への安否確認が“何故か”一拍遅れたLeberechtからの無線にセンスのないジョークを返しつつ、ジョルジュは俺の方を見て腰元と盾越しのチ級を交互に指さしてみせる。

クソッタレな手段だが的確でもあった為、俺は頷き、そして親指を勢いよく下に向けた。

(#'A`)「支給品のチョコ2枚だ!」
  _
(#゚∀゚)「5枚全部に缶詰もつけてやらぁ!!」

『グギッ………!?』

クソ眉毛野郎が叫び、自身のベルトから予備の閃光手榴弾を取り外して盾の向こうへ放り投げる。連続した炸裂音とチ級の呻き声の後に、機銃掃射がピタリと止む。

瞬間俺は盾から手を放し、チ級に向かって駆け出す。

『…………ッ、ギィッ!』

さっきの今で二度目の目くらまし。今度はチ級の方も、ある程度の“心構え”をしていたようだ。
形状ゆえに回避こそできなかったものの咄嗟に目を逸らすなど何かしらの方法でダメージを軽減したらしく、既に動作可能なレベルまでは立ち直っており盲撃ちの態勢ながら気配で俺の方に銃口を向けようとした。
  _
(#゚∀゚)「鬼さんこちらってな!!」

『!? ァアッ!!?』

その動きを、同様に盾の裏から躍り出たジョルジュの射撃が妨げる。ダメージが多少軽減されていたとしても視覚・聴覚ともに盤石から程遠い中で、機銃を構えた先とは反対方向で弾ける銃火。つられて照準がブレるのは無理もない。

増えた“隙”を逃さず、加速する。盾を構えていた分の出遅れを一気に詰め、チ級の車体部分を駆け上がる。
41 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/28(木) 00:57:30.00 ID:4OpJDR7g0
『ウァアッ………!!?』

こんな有様の下半身でも感覚があるのか、気配を察したのかは解らない。何れにせよ最後の足掻きで振り回された機銃からの射撃は、意外な正確さでちょうど“車体”に乗り上げたばかりの俺の頭目掛けて伸びてきた。

('A`;)「ぬぉおおおおっ!!?」

軍人として最低限度の訓練と同様の自己鍛錬はしてきた身ではあるが、こちとらブンデスリーガのエースストライカーやハリウッドのアクションスターのような天性の運動神経を持ち合わせている身体じゃない。
跳躍やスライディングで華麗に回避、とは当たり前だがいかず、不格好に前へ転がるような姿勢で辛うじて躱す。

靴裏を弾丸が削り額を強かに打ち付ける羽目になったが、二回転ほどして止まったところで顔を上げれば、ちょうど鼻先で青白い肌の胴体が無骨な装甲板から生えているという不可思議な光景が広がっていた。

('A`メ#)「っらぁ!!」

『ゲボァッ…………!?』

迷わず下から銃剣を捻り込む。奴の口から溢れ出た生臭え体液が、ビシャビシャと俺の右側頭部から肩口にかけてを伝って流れ落ちていく。ダメ押しで引き金を引くと3点バーストで放たれた弾丸が奴の体内を駆け上り、頭蓋をぶち破る。

(#'A`)「────!!!」

脱力したチ級の胴を蹴り上げて銃剣から外し、グタリと天を仰いだそれを立ち上がりざまに飛び越えて向こう側へ。

チ級が俺とジョルジュへの攻撃を始める直前、背後にいた一つの影。その“艦影”を目にした時点で、俺がチ級の次に狙う標的は決まっていた。

こっちの艦娘は確かに数こそ少ないが、Bismark、Rome、Littorioと戦艦は相応の陣容を展開している。各自の練度も高く、混乱や損害によって艦隊全体の稼働率が大幅に低下している状況で短期決着を狙うなら相当な火力の集中を必要とする。

故に旗艦であろうとも、その轟沈が敗北に直結する立場であろうとも、「最大限の火力」を確保するにあたってその存在は不可欠だ。

一方でヒト型、それも戦艦のElite種となれば耐久力の上がり幅も大きい。Bismarkたちといえど、一撃轟沈はほぼ不可能に近い。相応の損傷を受けた時改めて撤退すれば、リスクに比べてリターンの方が遥かに大きいと向こうは踏んだのだろう。

そしてその事情も、俺達の「白兵突撃」という向こうにとっては理外の戦術で大きく変わった。超至近距離まで生きて肉薄できればという極めてハードルの高い条件を満たさなければならないが、Elite戦艦どころか姫や鬼ですらものの数秒で沈められかねない状況が生まれてしまった。
加えて既に乱戦状態に持ち込まれているため、向こうの最大のアドバンテージである軍艦並みの超火力も封じ込められた。

(#'A`)「CP、【Danger Close】の用意を!!」

ならば旗艦である“ソイツ”が、事故を避けるため離脱を図るのはごく自然な成り行きと言える。

『─────ィアッ!?』

振り向き、俺が追ってきていることに気づいたソイツ────戦艦タ級Eliteの喉から、甲高い悲鳴のような声が上がった。

まるで、俺という“ただの人間”に対して、恐怖を抱いたかのように。
42 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/28(木) 01:27:41.52 ID:4OpJDR7g0
艦隊決戦の要として出張ってきたのだから、タ級Eliteの艤装は当然フル装備だ。友軍相撃の危険を考えればフルバーストは無理にしても、副砲の1、2門で薙ぎ払えば俺が15人いたとしても跡形もなく吹き飛ばせただろう。

だが、奴の艤装の形状が災いした。腰から下を囲うように装着され、重量が極端に下半身に寄ったアンバランスな構造。それに精神的動揺、急激な方向転換、足元の悪さも合わされば、自然“次に起こること”は限定される。

『ウォアッ!!?』

ズルリとタ級の足が滑り、体勢が崩れ、艤装の銃口・砲口が尽く天を仰ぐ。当然、こんな状態で俺への砲撃などできやしない。

転倒こそしなかったが、事ここに至れば差はない。銃剣を腰の辺りに構え直しつつ、一気に泥濘を蹴り上げながら加速する。

( <●><●>)「Guten Tag」

『ギッ───オッ!?』

(#//‰ ゚)「Sit down, Fucking Bitch!!」

『ォオゴ………』

視界の端、右手側で重巡ネ級改が、左手側で戦艦ル級が艤装を俺に向ける。だが前者はティーマスに、後者はアメリカ海兵隊のサイ=ヨーク=ヴォーグルソン大尉にそれぞれ銃剣を突き立てられ沈黙した。

二人のおかげで最後の障害もなくなった。ならばあとは、俺も仕事をこなすだけだ。

(#'A`)「おらよっ!!」

『クヒュッ、グボッ………』

立ち上がり姿勢を正そうと藻掻くタ級Eliteに飛びかかり、喉笛に銃剣をぶっ刺し、そのまま3点バーストを撃ち下ろす。体内を縦に貫いた5.56mm3発が地面で爆ぜたのを確認し銃剣を抜けば、支えを失った身体がドサリと仰向けに倒れる。

最後の“二度撃ち”は、無事奴の顔面を色も見た目もグロテスクなプティングに変えた。

欧州戦線指折りの重要拠点に攻め込んできた大艦隊の旗艦としては大分あっさりした最期だが、まぁ戦場なんてこんなもんだ。映画のように脚本家の意志でご都合主義的に生き残る主人公も、大層な演出と大衆が流す涙のもとで見送られる悪役も存在しない。誰だって運が悪ければ死ぬし、運が良ければ生き残る。

ある意味じゃ、人間社会なんかより遥かに、究極的に平等な場所だ。

(//‰ ゚)「ドク、ナイスだ!!」

('A`)「お褒めに預かり光栄だよ“キャプテン”。だが、勝利の喜びを分かち合うのはもう少し後だ」

駆け寄ってきたサイ大尉に言いながら、俺は腰から発煙筒を一本取り外して着火する。紫色の煙を吹き出すそれを見て大尉は露骨に顔をしかめ、同じく駆け寄ってきたティーマスは相変わらずの無表情で小さく肩を竦めた。

( <●><●>)「貴方がこの状況で【Danger Close】の要請を出すことは解ってました」

('A`)「そいつぁ良かった。走るぞ!!」

(;//‰ ゚)「Jesus………! All guys, Go back, Go back, Go back!!」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/07/28(木) 09:22:45.80 ID:0JzxcGwH0
更新おつです
44 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/28(木) 12:21:10.17 ID:niQA8Wtx0
Danger Close。元はアメリカ軍等で使われる、前線友軍の至近距離───具体的な距離を示すなら600m以内に存在する目標に対しての砲撃・爆撃要請を意味した無線符号の一つだ。

至近距離どころか敵艦隊の真っ只中に斬り込んでいる状態なので本来の用途としても特に問題はない。ただ俺達東欧連合軍内においては、近隣深海棲艦に対する最大火力の投射、それに伴う目標艦隊群の完全な殲滅・掃討も内容として加えられている。

要は「トドメを刺せ、皆殺しにしろ作戦」発動を告げる合図だ。虎の子中の虎の子であるドレスデンの直属基地航空隊と空軍機も投入するため、符号の通達と敵旗艦の轟沈或いは離脱を示す紫の発煙筒の着火が両方揃わなければ発動されない。

(#=゚ω゚)《MLRS、自走砲、全車射撃準備よし!ドレスデンよりB-25全機、ミュンヘンより3個編隊のA-10が離陸。何れも戦闘域突入まであと40秒だよぅ!》

ξ;゚听)ξ《戦車隊、艦娘部隊、迫撃砲隊による全面制圧射撃も同時に敢行する!ドク、急いで!!》

(#'A`)「すぐに出る!ビロード、ツー、他前衛部隊も火線を維持しつつ総員後退を開始しろ!!」

そしてこの符号、発動された際基本的には取り消しが効かない。なのでこっからは、旗艦が沈み統率を失い、無秩序に暴れ回りだした敵艦隊の只中を、“Danger Close”が始まるより早く離脱しなければならない。

脱出してから発動すればいいって?冗談、その間に向こうが新たな“旗艦”を選出して統率を取り戻したり、逆に箍が完全に外れてより無秩序に分散なんてされたら目も当てられない。

分厚い皮膚より早い足、こういう“機”は迷う前にまず手にすることが重要なんだよ。

『ギァアアアアアッ!!!』
『ギィ………!!!』

( <●><●>)「左手からイ級陸棲型、後方からチ級の多脚ユニットタイプが接近してきています」

('A`#)「大尉、フラッシュバン!Max!!」

(#//‰ ゚)「Alright!!」
「Jawohl, Feuer!!」

因みに対地攻撃機A-10【サンダーボルト】については、ベルリン陥落に際して艦娘部隊に勝るとも劣らない大打撃を受けたドイツ空軍補充のためにアメリカから大量に譲られたモノをそのままブチ込んでいる。

完成品が北アフリカ経由で取り急ぎ70機届けられた他に東欧連合軍全体に生産ライセンスも共有されており、チェコやイタリア、ポーランドなど工業力を未だ維持している国では量産も開始されている。

この戦闘機の「生みの親」のことを考えると、70年ぶりに“空の魔王”が祖国に凱旋したと言えなくもないのだろうか。
45 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/28(木) 12:25:43.76 ID:t1+8sTKW0
ただA-10がドイツ軍で本格的に配備運用されだした頃には、北欧を蹂躙し尽くした【Black Bird】の活動範囲が欧州全域に広がっていた。
対深海棲艦兵器として非常に貴重な存在ではあっても、制空権を喪失しては運用自体ができない。

ドイツに凱旋した“空の魔王”は、ろくに交戦する機会もなく役立たずの穀潰しへと転落した。

『ゥオオオオォ…………』

《Admiral、イ級の轟沈を確認したわ。既に中大破していたみたいね》

『ッガァッ!?』

( <●><●>)「チ級の追撃、停止したことは見なくても解ってます」

('A`#)「なら後は走るだけだ!……畜生禁煙だけは死んでもしねえぞ!!」

( <●><●>)「少佐の息切れが喫煙習慣から来る肺の機能低下であることも解ってます」

………と、思われていたのだが、例の南部防衛戦に際して止む無く投入されたところ、全機全編隊が【Black Bird】と遭遇し膨大な機銃弾を食らいながら爆撃任務を全うした上で生還するという途轍もない大戦果を達成。
護衛や同じ対地爆撃のために投入されたユーロファイター・タイフーンの生還率が50%前後であったことを踏まえると、損害0%は奇跡的と言っても過言じゃない。

無論、元々空対空戦闘の性能は絶望的で脚も遅い為、【Black Bird】の撃墜は全く出来ない。だがその悪魔的な防弾性能と例え翼をもぎ取られても飛行を続けられる操縦性は、それ自体が奴らにとって凶悪な武器となった。

かくしてA-10【サンダーボルト】は、制空権ガン無視で深海棲艦への爆撃任務を行える貴重な戦闘機として、東欧連合軍の暫定主力戦闘機の地位を手に入れたワケだ。

( ゚д゚#)《Danger Closeまであと10秒!!前衛各位衝撃に備えろ!!》
  _
(#゚∀゚)「こっちだ!お前らで最後だぞ、急げ!!」

('A`#)「わざわざの出迎え感謝するよ!」
  _
(#゚∀゚)「チョコの分はこれでチャラだな!!」

('A`#)「ざけんな!!」

深海棲艦の“群れ”の中から飛び出し、丘を転げ落ちるようにして駆け下りていく中、上空から聞こえてきたのはエンジン音。
46 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/07/28(木) 12:28:23.98 ID:t1+8sTKW0
第4世代戦闘機の、音速域へ易易と到達する高性能高出力エンジンが奏でるそれとは似ても似つかない代物。豚が鼻を鳴らしている様子を想起させる、ゼネラル・エレクトリカルTF34特有の低く無骨なそれが、幾つも重なって俺たちの方に向かってくる。

《Enemy Freet, Engage》

《All unit, Weapon-Free.

Danger-Close. I repeat Danger-Close Fire mission》

〈エンゲージ!! オールユニット、スタンバイ!!〉

〈〈〈ラジャー!!〉〉〉

12機の【サンダーボルト】、その後ろからはラジコンやプラモデルサイズの双発爆撃機────B-25の100に迫るであろう基地航空隊機が続く。

ちょうど丘を降りきったところで、それらは俺達とすれ違う形で真上を通過した。

(=#゚ω゚)ノ《────Feuer!!!!》

('A`;)「伏せろ!!!!」

イヨウ少将の号令が聞こえると同時、俺も声を限りに叫びつつ身を投げ出すようにして地面に突っ伏し頭を抱える。

『『『『     !!!?!!??』』』』

<('A`<;)「うぉっ…………」

熱風が吹き付けてくる。地面が揺れる。凄まじい数の砲弾が、ミサイルが、航空隊の後を追う形で空を飛翔していることが気配でわかる。
連中の断末魔も上がっているはずだが、そちらは圧倒的な爆発音に呑み込まれる。

<( A <;)「……………終わった、か?」

5分、6分、正確には数えちゃいないが、恐らくそれぐらいの時間を経て揺れと爆風が収まり、俺はゆっくりと立ち上がって振り返る。





('A`)「…………わぁ」

背後を見やれば、彩り豊かな無数の炎が、連中の屍を松明として丘の上で燃え盛っていた。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/07/28(木) 20:57:44.75 ID:0JzxcGwH0
投下おつです
ドクオよくこんな戦術で生き残ってるなぁ脳筋じみてるw
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/07/31(日) 20:20:22.35 ID:xZ+2pC6j0
更新乙です!
なかなかのゴリ押しっぷりだけど、近接肉弾戦をこれだけやり抜いて主要メンバーが健在で現役って、実践例のいる日本&海軍以外が見たらひっくり返りそうww
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/09/20(火) 09:35:18.95 ID:ZkCZdzAC0
更新待ってます
ガルパン勢が心配です
彼女ら普通の女子高生だし
50 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2022/09/20(火) 19:40:19.05 ID:CoVkH/xM0
.








フランス陸軍大尉、ツン=デレ。

大隊における機甲戦力指揮を一手に担うこの才女様は、“女の勘”についても非常に秀でたものを持っている。
特に奴さんが俺を探し当てる時の精度ときたらAC-130による対地砲撃もかくやのものがあり、未だかつて逃げおおせられた試しがない。

今日も、そうだ。ドイツ入りしてからまだ2ヶ月も経っておらず、この大隊の作戦行動も戦力が取り分け薄い中央戦線から西がメインとなる。チェコやポーランドと容易に連携が取れる東部に関しては、今回を含めまだ数えるほどしか派遣されていない。

だからリーザ近郊の土地勘なんざ持っているはずはないのだが、この才女様と来たら憤怒の表情を浮かべて眼の前で腰に手を当てて仁王立ちしてやがる。

こちとら構築された野戦陣地の隅っこに、目立たぬよう座り込んでいたにも関わらず、だ。

ξ゚听)ξ「ねぇ、いい加減やめにしない?あの戦術」

('A`)「無理だ」

このやり取りももう何度目だろうか、10回を越えた辺りからもう記憶は曖昧だ。今の拒否だって、口と頭が完全にパターンとして覚えちまっていて殆ど無意識に近い。

('A`)「深海棲艦を迎撃する上で現状一番有効かつ確実な戦術だぞ、それを自分たちで封じるのは正気の沙汰じゃねえよ」

ξ゚听)ξ「上層部からは“一刻も早く中止するように”って再三再四お達しが来てるって聞いたけど?」

('A`)「“政治的な理由で”な。戦術的、戦略的に否定されたわけじゃない」

確かにドイツ軍司令部からもローマに置かれた東欧連合軍の総司令部からも、今日のような“白兵突撃”の実施を即刻中止してほしいという話は幾度となく来ている。その頻度と勢いがグロスフスMG42機関銃のフルオートに勝るとも劣らないものであることも否定しない。

だが、それらはあくまで“要請”に留まる。“指令”ではないため遵守する義務はない。またその理由も、“民間への漏洩時に深海棲艦の実力を過度に軽視する誤った風潮の流布が懸念される為”というものであり、さっき言った通り多分に政治的な事情を汲んだものだ。
51 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/09/20(火) 19:42:35.80 ID:CoVkH/xM0
まぁ実際のところ、司令部の言い分にも理はある。

ただでさえ今のドイツ軍は兵力が不足している。義勇兵の体こそっちゃいるが事実上の学徒出陣にまで手を染める有様で、それでも“ベルリン”の痛手を埋め合わせるにはまるで足りてない。
そんな中で銃剣突撃からの白兵戦なんて真似、上からは───舌を噛み切りたくなるほどクソッタレな表現だが、“人的資源”を無駄に危険に晒しているようにしか見えないのだろう。

また、実際に“戦果”が上がっていることも軍司令部からすると実のところ手放しでは喜べない。ソレが大々的に一般に漏れた際、要請に書いてあるような致命的な“勘違い”を誘発しかねないからな。

俺たちがあの戦術を実行できるのは、ベルリンという特級の地獄を生き延び、その後遺症で頭のネジが飛んだ連中がこの部隊に集中しているからに過ぎない。
生ける軍艦による針鼠のような砲弾幕の中を生身で突っ切って対象に銃剣突き立てるなんて真似、自分で言うのも何だが“正気”でできることじゃない。練度が高くても、寧ろ練度が高い兵士・部隊ほど、超火力の化け物集団に突撃なんて愚の骨頂は避ける。

安易に“練度が高い正気の部隊”が実行すればどうなるかは、パリの朝露と消えたフランス陸軍がいい例だ。

実例を眼にしている同業者連中はまだいい、そうした面を理解して、出来得る範囲の戦術を自分たちで選択できる。
だが民間・マスメディアはそうはいかない。仮に俺たちの“戦果”がこの辺りに漏れれば、深海棲艦は白兵戦で殺害可能であるという事実「だけ」が拡散されるだろう。

その後にどんな楽観的で非現実的な、反吐が出るような主張・風潮が生まれるかは想像に難くない。故に【東欧連合軍】司令部の方でも、世界中のマスメディアの取材を戦線後方や最前線は50km圏内で戦闘行為が発生していない拠点に限定し、

ζ(゚ー゚*ζ『禁を破った場合、“流れ弾”や“誤射”によってマスメディア関係者に死者が出たとしても軍・艦娘は一切の責任を負いません』

(`∠´)『仮にマスメディア側の不用意な規約違反に伴う“誤射”で東欧連合軍の軍事行動に何らかの制限・支障が発生した場合、社名を公表した上でこれを上限なく金銭的請求によって解決させる』

/ ゚、。 /『ドイツ含む東欧連合軍加盟各国政府は、この声明を全面的に支持する。場合によっては要請に伴う資産凍結も辞さない』

という痛烈極まる釘刺しで俺達の前線における活動状況が漏洩しないよう徹底的に封じ込めている(勿論ただただ連中が邪魔という理由もこの対応の要因として決して小さくはないが)。
52 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/09/20(火) 19:45:22.70 ID:CoVkH/xM0
そんなミーム汚染を含んだSCPオブジェクトみたいな扱いの戦法、俺だって好き好んでやりたくはないしやっているわけでもない。

だが、この部隊においてはこれが現状最も有効な戦術であり、結果的に最も戦闘中の生存率が高い戦術でもある。ならば明確な戦術面での欠陥から待ったがかかるかより有効な戦術が編み出されない限りは、俺たちは“コレ”に頼りざるを得ない。

代替戦術があるなら寧ろ今すぐ教えて欲しいね。それを考えるために俺の睡眠時間を削らなくてよくなるなら喜んで採用するさ。

('A`)「何度も話し合った筈だ、今のところ連中の南下を押し留めるためには他に手はないって。俺たち二人だけじゃない、ミルナ大尉やイヨウ少将も交えた上でな」

ξ#゚听)ξ「……ハッ、大層殊勝な、提督閣下らしい心構えですこと!私との約束より勝利を優先するんだからね!

それとも“起き抜け”の約束だから記憶に残ってなかったかしら!?」

('A`)「…………………軍人たるもの、思考の柔軟性は必要だろ?」

………“このやり取り”の回数だが、厳密に言うなら初日───俺がベルリンの件から目を覚ました直後の時点で、十回なんざ疾うの昔に越えている。その時点では話し合いではなく、ツンに胸ぐらを(何故かは知らんが涙目で)掴まれ激しく揺さぶられながらの

ξ#;;)ξ『絶対!!二度と!!!あんな真似!!!!繰り返すな!!!!!』

という一方的な命令に近いものだったが。

ただ、確かに俺もまた命令に首肯し、受諾した。仕方無くじゃない、俺も本気で「二度とごめんだ」とその時は間違いなく思ってたからな。

そして、自分の意志で結んだ約束を反故にしたという後ろめたさが、この話題になる度俺に今のような心にもない言動をさせ、さらに胸糞の悪さが胸に満ちるような言葉を続けて吐かせる。

('A`)「ツン=デレ大尉、現在の部隊方針に異議があるなら代替案を出してもらえると嬉しいんだが。もしこの場で出せるなら、確認の上吟味させてもらう」

ξ# )ξ「…………!!あぁそうですか、ありませんとも!!

ご休憩中失礼致しましたね、少佐殿!!」

ツンの生真面目さを逆手に取った、我ながら吐き気がする会話の打ち切り。階級差による言論封殺に憤ったツンが怒声を撒き散らしつつ踵を返し、後味悪く話が終わる………ここまでが、この話題に関する俺とツンの「テンプレート」だ。

「…………部隊長との“ご歓談”でお疲れのところ申し訳ありませんけど」

尤も、今日に関して言えば、

「私の方にも少しだけお時間いただいても差し支えないでしょうか?ドク=マントイフェル少佐」

非常に残念なことに、さらなる追撃が控えていたが。
53 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/09/20(火) 19:48:25.83 ID:CoVkH/xM0
('A`)「……………できれば後にしてもらえると助かるな、ナカスガ軍曹」

「まぁそう言わないでよ、すぐに要件は終わるからさ」

一応はお伺いの体だったので一縷の望みに賭けて断りを入れては見たが、案の定ただの建前だったらしい。眼前の赤毛の少女────義勇“志願”戦車兵にして現東欧連合陸軍軍曹・エミ=ナカスガは、直ぐに直立不動の姿勢を崩してあっけらかんと言ってきやがる。

応じて、自分の表情も著しく苦くなっていくのが解る。

別にコイツの態度が不快ってわけじゃない。俺自身が敬語や“目上への礼”ってモンを頗る苦手とする人種であるが故に、直ぐにナカスガが同類であることは察しが着いた。
加えてヤパーヌ暮らしが長かったという弊害か所々ドイツ語に怪しさが漂っていた為、致命的に礼を失さない範囲でのタメ口やラフな素行を許可し、俺自身が隊内でもそれを共有させている。仮に気に触ったならそりゃ理不尽ってもんだ。

ただ、やはり一仕事終えたあとの貴重な休憩がみるみるうちに削られていくのはやはりクるものがあるし………何より、唾棄すべき学徒出陣の“実例”が眼前に現れるとどうしても複雑な感情が顔に出る。

大人の対応?兵士の矜持?知ったことか、その前にこちとら人間だよ。

そういったお利口な上辺で隠しきれないもんなんか幾らでもあるさ。

('A`)「で、要件は何だ?因みにこの間に敵襲が発生し俺の貴重な休憩がおじゃんになった場合支給品のチョコレートは一枚没収とする」

「上官権限の濫用も甚だしい……。

ねぇ、その前に眉間のシワどうにかしてくれない?貴方がそんな表情になる理由は以前も聞いてるから理解はするとして、いい加減慣れてもらったほうがこっちとしてもやりやすいんだけど」

('A`)「お前さんが退役届を携えて俺に出してくれるなら満面の笑顔を見せてやるよ」

「笑顔キモそうだから遠慮するわ」

('A`)「俺お前のその態度を許可する時“致命的に礼を失さない範囲で”って言わなかったっけ????」

「はぁ………前も言ったじゃない。間違いなく自分の意志で選択したことだから気を使う必要はないし、寧ろ気を使われたくないって」

('A`)「ベルリンが襲撃・陥落を免れていたとしてもその選択肢があったなら俺もその理屈に納得するんだがな」

「これは持論なんだけど、起こらなかった過去について仮定するのは愚かしいと思わない?根源的には、そもそも深海棲艦が現れなければ私は無事に日本に帰っていたはずだし」

ああ言えばこう言う性分は上官である機甲部隊長譲りか?
54 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/09/20(火) 19:49:52.66 ID:CoVkH/xM0
………これはあまり大っぴらに言える話じゃないが、ナカスガがこの部隊に配属されてから何度か、俺はコイツの強制退役をイヨウ少将を通じて司令部に打診している。

自分の意志だと本人は宣うが、他の選択肢を叩き潰された事実上の一本道を「選択」とは言わない。

況してやナカスガは乗艦していた学園艦の戦車道選手として相当な有望株の一人だったと聞く。
偽善と言われようがエゴイズムと言われようが、俺たち軍人の、大人の情けなさが招いた事態の尻拭いにもっとマシな“道”が幾らでもあった子供を付き合わせるのは我慢がならなかった。

('A`)(全部即日突っ返されたけどなクソが!)

義勇志願兵出身者はその意志を尊重し、著しく質に欠けるか何らかの取り分け重大な軍規違反が起きない限り本人の意思表示に伴う退役のみを認める……というのが、強制退役棄却の際に決まって添えられてくるコメントだ。
多分、せめて学徒兵連中だけでも銃後に戻そうとするやつが俺以外にもそれなりの数がいるんだろうな。それも、いちいち承諾してたらなんとか確保した「数合わせ」が無に帰しかねない程度には。

しかもナカスガの場合、ポーラやビスと同じ“厄介なクチ”でもある。

通常2ヶ月かかる戦車兵の習熟・慣熟訓練を2週間に詰め込んだトチ狂った内容のカリキュラムを、更に5日まで切り詰めて習得。初陣となった戦闘では、後方待機任務だったにも関わらずイ級後期型の撃沈にハ級後期型の共同撃破。
入隊から一月経たずしての軍曹昇進は、当たり前だが史上最速だ。

戦車道国際大会代表選手輩出の常連・ジークフリート学園の筆頭ホープにして深海棲艦制圧下のベルリン西部から旧式戦車を駆ってほぼ自力で生還した“奇跡の少女”は、軍人としても才そのものにはきっちり恵まれていたらしい。
正直、ナカスガの部隊配属時にこの内容を読んだ折は、陸軍局のバカが経歴書と取り違えてメアリー=スーものの小説でも送りつけてきたのかと一瞬本気で疑った。

聡明で、若く、見目麗しく、元からある程度の知名度があり、悲劇的な背景持ちで、しかもしっかり実力も備えている。そりゃあ、軍部も全力でキープしたがるわけだ。
ならばせめて予備戦力扱いで後方配置に固定しようとしたが、こちらの動きも本人の激烈な抵抗に会い頓挫した。

要はコイツがここにいることで、俺の無力さがイヤというほど突きつけられるのだ。顔の一つや二つしかめるぐらいは許して欲しいね。

「またその顔……ああもう、とりあえず本題に入るわね。まず1つ目だけど」

('A`)「おい待て複数あんのかよ、“ちょっとお話”で済まない未来しか見えないんだが?」

「たった今一個増えたのよ、少佐の自業自得。実際手短くは終えるつもりだし。

………ねぇ、いい加減もう少しウチの“隊長”の気持ちを考えてくれない?まだひよっこの私が口を出すのも烏滸がましいとは思うんだけどさ、正直2週間でもうお腹いっぱいって程度には見てられないのよ」
55 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/09/20(火) 19:52:05.22 ID:CoVkH/xM0
('A`)「……………考えては、いるさ」

「!!! じゃあ」

('A`)「ああ見えて仲間思いだからな、そりゃあ俺の戦術に我慢がならないのは解る。なんとかもっと有効な戦術を構築できればとは、ずっと思ってるよ」

「………………………………………………………」

一瞬喜色を浮かべたように見えたナカスガの表情が、みるみるうちに侮蔑と落胆、憐憫によって曇っていく。

前者二つは口先だけで結局白兵戦術から抜け出せない俺へのものとして、憐憫は誰に対してだ…?

('A`)「ええとまぁ、そっちに関しても可能な限り早めに解決できるよう努力する。で、2つ目はなんだ?」

「あーっ……っと……」

何故かこれ以上この話題を続けると更に愉快ではない状況へ追い込まれる気がしたので、とっとと切り上げ次の要件へ言及する。

途端、ナカスガの歯切れがこれまでと打って変わって悪くなった。

「ちょっと、他の戦線の様子が気になってね?ほら、今起きてる深海棲艦の攻勢って、アイツらが現れた直後以来の全世界規模らしいじゃない?仮にここが持ち堪えられても、他が崩壊したら意味ないから気になっちゃってね?いやちょっと、ちょっとよ?だけどその……提督も兼任してる少佐のところなら他地域の戦況についても確かな情報とか入ってるんじゃないかなって。例えばさ、極東戦線とかすごく気になるじゃない、艦娘戦力の中心的な場所だしさ」

聞いてもいない要件の理由までベラベラと並べ立てるものだから言葉数自体は多いのだが、内容はとてつもない回りくどさで解りにくい。つまり「深海棲艦に攻撃されてる日本戦線の戦況が気になるから教えて欲しい」で済むじゃねえか。

そういや、コイツ元々ヤパーヌの出身だったな。ツンから聞いた話だが、こっちに来る前に作った友人がいるとも。
オオアライで“東洋のジャンヌ=ダルク”が乗る学園艦の上に深海棲艦が突然「生えてきた」ってニュースは戦意高揚番組を躍起になって流し続けている軍営ラジオですら真っ先に取り上げてた。

それだけでも十分なヘヴィパンチであるところに、今度は国内でテロが起きているやら頭ケシ畑のチャイナ連中が軍事介入を画策しているやら、挙げ句ロシアが核の利用を仄めかし始めたなんてニュースが飛び交う有様だ。まぁ、心配になるのも無理はない。

('A`)「まだ日本戦線に関する続報はない」

ただ、最初の要件同様、今の俺では残念ながらご期待に添えないのだが。
56 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/09/20(火) 19:55:47.38 ID:CoVkH/xM0
「し、詳細である必要はないのよ。例えば、今どれぐらい戦線を押し返したかとか、どの町は無事とか、大洗女子学園が奪還されたかとか、それぐらいで……」

('A`)「提督っつっても対象階級の中では一番下の現場士官だからな。悪いが、軍上層部からその辺りが俺まで降りてくることは滅多にねぇさ」

言いながら胸ポケットのマールヴォロに手が伸びかけるが、眼前の人物の存在を思い出して辛うじて堪える。

青少年少女の健全な発育を思い自身の嗜好を我慢する、大人の鑑だね我ながら。教育省からの表彰状はまだだろうか。

('A`)「まぁ、あのぶっちぎりの艦娘大国がおいそれと押し込まれるとは思えんし、世界中が修羅場とはいえ中国やロシアの件も日本自体も周辺国も無反応とは考えづらい。

少なくとも“更に危機的状況になった”という知らせが来てないなら、ある意味それが無事の証拠と見ることもできるだろうさ」

………これを成長と呼べるのかは知らないが、我ながらスラスラと嘘をつけるようになっちまったもんだ。

実のところ、続報自体は入ってきている。厳密に言えば【フィリピン海防衛線】に関するものなので日本列島そのものについてという意味では嘘は言っていないが、それでも関連情報についてダンマリを決め込んでいるのは間違いない。

ただ言い訳させてもらうなら、じゃあ今俺の手元にある情報をこいつに開示したところで何がどうなる?

得体の知れない敵の“新型艦”による猛攻撃を受けて日米連合艦隊とこれにASEANも加えた連合空軍が敗退して、“新型艦”は大艦隊を引き連れて日めがけて北上中ですなんて話をナカスガにしたところでなにか変わるか?心配のタネを増やして終わりじゃないか。

「…………………とりあえず、今私に伝えられるような情報が一つもないことは理解したわ、ありがとう」

('A`)「どういたしまして。……あぁそうだ。お前この後ジョルジュの元に行く予定や用事はあるか?」

「? ないけど何?伝言でもある?」

('A`)「逆だ。今から2時間、奴にだけは絶対に会うな。2時間経ったら構わないが、とにかく2時間は絶対に空けろ。少佐命令として他の命令に優先だ、解ったな?」

「な、なんか凄い気迫ね……命令なら受諾するけど」

('A`)「よし、もう行っていいぞ」

首を傾げながら去っていくナカスガの姿を見送り、ほうっと息をつく。

とりあえず2時間も設けてやれば、その頃には奴さんとレーベレヒトの大層情熱的かつ刺激的な“逢瀬”も終わっているだろう。チ級撃破の折に交わした報酬の約束を果たしてもらおうと探していたところでソレに出くわした際は面食らったものの、同時にレーベの大分ジョルジュに入れ込んだ言動の正体に合点がいった。

まぁ戦闘直後に盛るんじゃねえよとは正直思ったが、寧ろ戦場だからこそ燃えるものがあるのかも知れない。どちらかが強制されているならともかく、互いが合意し“そういう感情”を共有しているなら俺からとやかく口を挟むのは出歯亀ってやつだ。
57 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/09/20(火) 19:59:44.56 ID:CoVkH/xM0
ようやくポケットからの脱出に成功したマールヴォロを一本手に取り、火を付ける。万感の思いを込めて深く深く吸い込むと、寿命を削る紫煙が肺を我が物顔で満たす。 

(;'A`)「ゲホッ!!」

がっつきすぎた報いで咳き込む。形を乱した煙がボワッと口から湧き出て、風に吹かれて散っていく。

('A`)(……………戦況、ねぇ)

本題とはズレていたしやはり伝える義務はなかったので話していないが、“他戦線の状況”自体は既に俺の元にも次々と入ってきている。

西欧戦線はフランス・スペイン・アメリカ・ポルトガル連合軍によるオルレアン防衛線が突破され、【陸棲型】を主力とした深海棲艦の機動攻勢の前に総崩れで撤退を重ねている。
フランス政府はナントへ機能を移転させ、更なる事態の悪化に備えて本格的に国外亡命先の交渉に入ったそうだ。

北欧戦線はオスロから大挙出撃した艦隊がコンクスビルゲンへの総攻撃を開始、スウェーデン本土への雪崩込みも視野に入ってきたと言う。
フィンランドを加えた3カ国とロシア軍は、コンクスビルゲンが制圧された際は【Black Bird】による防空圏を数の暴力で強引に突破した上で街ごと敵艦隊を爆弾の雨と核非搭載の弾道ミサイルで吹き飛ばす作戦の調整を開始した。

アフリカじゃケープタウンに加えてポートエリザベスにも【戦艦棲姫】を主力とした推定二十個超の艦隊戦力が上陸し、現地軍や投入された国連“海軍”の抗戦も虚しく本格的な内陸浸透が始まりつつある。
インド洋に浮かび艦娘戦力も潤沢に保有する日本・アメリカ・インド連合艦隊はこの動きに介入できなくもない距離だが、洋上で深海棲艦による波状攻撃を受け動けないらしい。

中南米でも深海棲艦は動き出している。パラマリボへの上陸を目指しているとされる十個艦隊強をパナマ、ベネズエラ、キューバなど周辺諸国の海空軍が迎撃しているが、戦況は入ってくる限り絶望そのもので足止めすらロクに出来ていない。

………ドゥームズデイ・クロックの針は、今どのあたりにあるだろうか。指している場所が仮に23:59:59:99であったとしても、俺は驚かないね。

('A`)(……………………)

タバコの先から立ち上る煙に合わせて、視線を上に向けていく。空は先程まで分厚く覆っていた雲がいつの間にやら散り、忌々しくなるほど爽やかに晴れ渡っている。

とても世界が滅亡を迎えつつある日の空模様には見えない。



が、案外こんな天気の時こそ世界が滅ぶのかもしれないなんて、他人事のような考えが脳裏によぎった。






.
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/09/21(水) 12:32:35.07 ID:fWk1SJ5b0
更新おつです
ツン隊長デレデレですし
ドクオの毒男体質も女子高生に心配されるレベル
久々の穏やかな時間でしたね
59 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2022/09/23(金) 23:23:43.53 ID:8rRfKGN10
.








ぐるぐるぐる。

まるで回転している巨大な独楽の中心から見ているかのように、綾波の視界は回り続けています。

艤装の加護で殺しきれない遠心力、艦娘の身体能力でも抑えきれないGの圧力が、軋むような痛みに変換されて身体中を蝕みます。すぐ隣りにいた浜風さんや他の皆さんの様子を伺う余裕はありませんが、誰一人まともに動けている気配がないのできっと同じような状況なのでしょう。

《───べ!飛べ!!飛べぇええええ!!!》

轟音と耳鳴り、緊急を告げるけたたましいブザー音。様々な騒音に掻き消されそうになりながら、それでも無線から聞こえてきた必死の叫びは綾波の耳に届きました。

「うぅ………」

辛うじて動く両の手になけなしの力を込めて、這うようにして前へ、開きっぱなしになった後部ハッチへと向かいます。

10mもないはずの距離が、とても遠く感じました。艦娘であれば、否、只のヒトであったとしても数秒で歩み切れる距離に何十秒も掛けねばならないことが、この機体に残された時間が少ないであろうことも合わさって酷くもどかしい。

「うぁ…………!」

機内の温度が僅かずつ上がり始めたように思える中、なんとかハッチの縁に手をかけられました。そのまま現時点で注ぎ得る力を振り絞り、ハッチの外へと上半身を乗り出させます。

降下、等という格好のいいものではありません。落下、滑落、或いは排出。ただ逃れるために宙に投げ出した私の身体は、周囲で炸裂する高角砲弾や飛び交う【黒鳥】たちの合間を縫い、重力に引かれるまま眼下の海へとまっしぐらに堕ちていきました。

「わぶっ…………!!?」

海面に叩きつけられた瞬間、半ば意識を手放していたにも関わらず艦娘艤装の防護機能が作動。綾波の全身を包んだ不可視の防壁がそのまま重量によって沈んでいくはずのところを一〜二メートルほどで引き止め、トランポリンが弾むみたいに上へと引き戻します。

眼を開ければ、既に綾波はへたり込むような姿勢で水上にいました。かつて零戦や空母機動艦隊をして名を馳せた皇国の技術力は、70年以上の時を経てなお変わらず世界屈指のもののようです。
60 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/09/23(金) 23:25:43.54 ID:8rRfKGN10
ただ、そのことに感心し喜んではいられません。何せここは、戦場のど真ん中なんですから。

ともすれば朦朧となる意識を奮い起こし顔をあげると、揺れる視界の中で水飛沫が次々と上がりました。数は5つ、搭乗していた僚艦の皆さんと同じ数であることを踏まえると、どうやら全員無事に降りることができたようです。

「あぁ………」

ですが、綾波達を【ロナルド・レーガン】からここまで運んできてくれた機体───CH-47【チヌーク】はそうはいきませんでした。
後部から激しく炎を吹き出していたチヌークはそれでも辛うじて飛行を続けていましたが、綾波達がなんとか着水したのを見届けると最後の力を振り絞るようにして機体姿勢を横に向けながら一際高く上昇します。

次の瞬間、その横腹に高角砲弾が突き刺さり、30mを超える巨躯は炎を纏いながらバラバラに引き裂かれてしまいました。

明らかに、綾波達への攻撃を身を挺して遮った動き。操縦していた陸自士官のお二人は、最後の最後まで日ノ本を脅かす存在に立ち向かうという職務を貫き通したのです。

しかし、そんな彼らの気高いあり方に哀悼や賛辞を述べる間を、“敵”は与えてくれません。

『『『ゴァアアアアアアアアッ!!!!!』』』

「敵艦隊接近!12時方向、2個艦隊!!」

「応戦するにゃ、綾波チャン、浜風チャン、カバーお願いにゃ!

軽巡多摩、砲雷撃戦開始にゃ!」

「駆逐艦浜風、旗艦指示目標視認!相手にとって、不足なしです!」

「綾波、指示を受諾します!……この海域は、譲れません!!」

綾波に続いて態勢を整え終えた旗艦の多摩さん、僚艦の浜風さんと共に、向かってくる深海棲艦の群れ目掛けて砲弾を放ちます。おそらくチヌークを落とした砲撃の主であろうそれらはすぐに反応し、汽笛代わりの咆哮で威嚇しつつ直ぐに応射してきました。

12対3。敵艦隊にはEliteこそ確認できませんが、数的不利は歴然です。加えて向こうは片方の艦隊旗艦を重巡リ級が努めており、最高火力も上回られています。

正面切ってまともにやれば綾波たちに勝ち目がないのは確かでしょう。ですが敵艦隊は、あまりにも安直に綾波たち“だけ”を目指して猛々しく進んできていました。

チヌークの動きそれ自体に気を取られたか、或いはこれを撃墜したことによって綾波たちの内幾らかをその巻き添えに出来たと誤認していたか、その理由が何であれ、

「敵艦隊、距離700地点にて停止!!全火砲こちらへ集中の構え!!」

「第二陣、今にゃ!!」

奴らの動きは明らかに、自分たちが既に挟撃されていることに気づいていませんでした。
61 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/09/23(金) 23:27:48.02 ID:8rRfKGN10
多摩さんがそう叫んだ瞬間、電探上にある残り3つの僚艦反応が動きます。
海面に漂う、チヌークやそれより前に撃墜されていたであろう友軍機の残骸に。或いは荒れ狂う海の波間の中に。リ級らが通り過ぎ、此方を沈めるため足を止めるその瞬間まで息を潜めていた3人が、一気に加速し敵艦隊の後方から突っ込みます。

「真後ろがここまでがら空きとはね………見てらんないったら!!」

「はっはぁ!釣りはいらねえ、ぜぇんぶもってけドロボー!!」

「駆逐艦の本領発揮だよぉ〜!これでもくらえ〜〜!!」

『『『グゴガァアアアアアアアッ!!?』』』

『ア゛ァ゛ッ!!?』

霞さん、涼風さん、文月さんによる魚雷一斉射。その数、実に10本。かなり距離を詰めてからの射撃だった為避ける間もなく、後方にいたハ級2、ホ級とイ級各1、計4隻が断末魔を残して灼熱の水柱に呑み込まれます。

面食らった様子でリ級が霞さんたちの方を振り向き、他の艦も動きを止めます。当然ソレは、今度は綾波たちにとって絶好の隙です。

「方舷、魚雷全投射いくにゃ!!撃(て)ぇ!!」

『グッ………?!』

『『『ギァアアアアアッ!!?』』』

多摩さんの号令に従い、右脚ユニットの魚雷を全弾発射。2発はホ級を跡形もなく吹き飛ばし、1発はト級の身体のど真ん中を抉り取り沈黙させます。残る1発はリ級を狙ってすんでのところで躱されたものの、延長線上にいたニ級に命中しその息の根を止めてくれました。

更に多摩さんの魚雷がイ級とロ級を、浜風さんが別のニ級を沈め、僅か数分の攻防で私達は彼我の戦力差を逆転させることに成功しています。

「敵艦隊、残余3隻!」

「一気に仕留めるにゃ!各位前進しつつ射撃を!!」

故に兵は拙速を聞く、未だ功の久しきを観ざるなり。当然ここは、悠長に構えず一挙に勝負を決めに行きます。

重巡リ級は無傷で健在ですし、随伴2隻も片方は軽巡ヘ級。総合火力で見れば未だ互角か、此方がやや劣勢と見て良いかもしれません。

ですが、数的有利はそのまま手数の差に直結します。姫級や鬼級でもいるならいざ知らず、全て通常種なら“質”の差は“量”で十分に押し潰せる。

『『グガガガッ!??』』

『ギィィッ………!』

へ級には浜風さんと文月ちゃんが、リ級には多摩さんと霞さん、涼月さんの三人がかりで、徐々に距離を詰めながらの全力射撃。小口径の主砲故一撃必殺とは行きませんが、小口径だからこそ実現できる連射力で2隻の足を縫い止めます。

残り1隻は3体目となる駆逐イ級。後期型とはいえ通常種なら綾波一人で十分捻じ伏せられます。
62 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/09/23(金) 23:30:31.14 ID:8rRfKGN10
リ級ら敵艦隊も、無論ただやられるために棒立ちしていたわけじゃありません。反撃しよう、綾波たちを撃ち倒そうと、懸命に藻掻いている様子は砲火の中からでも十分に伺えました。

『ギィアッ………!?』

『ゴぁ────』

だけど、四方八方から雨霰と降り注ぐ綾波たちの砲火が、それを許しません。結局抵抗らしい抵抗は殆ど出来ないまま、イ級が沈みへ級が力尽き、残るはリ級ただ1隻のみです。

『グゥッ………!?』

「リ級、中破状態に移行!」

「トドメにゃ!魚雷発射!!」

詰めに詰めて、いつの間にか距離は500。海上の艦隊戦においては直接掴み合っているも同然の至近距離。

放たれた六本の魚雷は、当然外れることもなく全てリ級に吸い込まれていきます。

断末魔が、くぐもった爆発音にかき消されます。大樹の幹を思わせる図太い水柱と爆風が収まった後には、艤装の一欠片さえ残ってはいませんでした。

「敵大編隊接近!!対空警戒!繰り返す、対空警戒!!」

迅速極まりない二個艦隊の殲滅、それも損傷艦すら0の完全勝利。しかしそんな大戦果を挙げた直後でも、私達に息をつく暇は与えられません。

水平線の彼方、恐らく例の【棲姫】が居るであろう方角。そこから、巨大な雲のごとく黒いなにかが湧き出してきます。

本来天候の急激な悪化を示す黒雲の出現は、綾波たち艦娘にとって忌むべきものです。しかし今回ばかりは、アレがただの黒雲であったならその方がどんなに気が楽だったでしょうか。

『『『───────!!!』』』

そんな私の都合のいい願いが届くはずもなく、黒いナニカは明らかに明確な意思を、私達艦娘への害意・敵意を感じられる動きで此方へ向かってきました。

それはアレらがただの空に漂う水粒や氷粒の塊などではなく、先程霞さんが叫んだ通り、膨大極まる数故に1個体と見紛うばかりの敵機群であることを証明しています。

「近接航空支援要請!!」

《Roger, Engage》

多摩さんが無線に向かって叫ぶと、幸運にもこの方面で手隙の航空隊がすぐ近くにいたようです。応じる声と共に、頭上を銀影が2つ駆け抜けていきました。

《Target insight. Wendigo-05, FOX-2 FOX-2》

《Wendigo-06, FOX-2!!》

現代米軍の艦上戦闘機、確か【ホーネット】という名が着いていたその2機は、発射符号に合わせて両翼のミサイルを放ちます。周辺の友軍艦隊でも要請したところがあったのでしょう。別方面からもジェットエンジン音が重なり、我々の頭上を含む三方向から計8発の空対空ミサイルが敵機群に迫ります。
63 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/09/23(金) 23:33:39.30 ID:8rRfKGN10
深海艦載機の密集陣形に対する、機関砲やミサイルを用いた人類さん達の航空攻撃。状況さえ整えば時に綾波たち艦娘をも凌ぐ戦果を挙げられると言うことは、青ヶ島やベルリンでの攻防戦を経て既に世界中に知られています。

しかしながらそれを、深海側が何時までも甘んじて受け入れてくれるというのは、あまりに虫のいい話でしょう。

『『『ッッッ!?!?』』』

『『『───!!!』』』

《Damn……!》

半数の4発は群体に直撃し、火の玉が膨れ上がりかなりの数の敵機を焼き払いました。ですが残る半数は、進路上の“群れ”が寸手のところで散開を間に合わせ空を切ります。

人類機の空対空戦はロックオンによる誘導ではなく、あくまで群れを“一個体”として捉えた上での空間攻撃。言ってしまうなら威力が大幅に上がった対空噴進弾のようなもので、回避されてしまえばもう追尾・命中させることはできません。

『『『───────!!!!!』』』

全弾命中したからといって殲滅・撃退できたとは思いませんが、それでももう少し大きく敵の動きを乱すことは出来ていたでしょう。被害の半減に成功させた敵機群体は、直様態勢を立て直し突撃を再開します。

この辺りに展開している他の友軍艦隊も纏めて標的になっているようで、群体は三々五々に散っていき綾波たちに向かってきた分はあくまでごく一部に過ぎません。

ですがその“ごく一部”でも、電探上で表示される赤点を見る限り総数はどう希望的に見積もっても150を優に超える大編隊です。

「て、てやんでぇ!なんだいあの数ぁ!?」

「少なくとも10個以上には分散しているはずなのに、なおこれほど………」

「浜風も涼風も、愚痴ってる暇はないわよ!対空兵装、構え!」

一方で、ダメージが大幅に“軽減された”のは事実ですがそれは与えられたダメージが“軽微である”ことと等号では結ばれません。ミサイルの半数が躱されて尚、敵航空隊は少なくとも目算する限り1/4に達する戦力を削られています。

だからこそ敵機群は、そのまま分散突入するには至らず直前に“再編”の動きを挟む必要がありました。

「畜生ダメだ!対空砲火、効果極めて小なり!!敵編隊、先鋒が爆撃態勢に移行!!」

「輪形陣を解除!各位自由回避に移るにゃ!!」

「よ、避けられるかなぁ〜………」

一分にも満たない、全てのミサイルが当たっていた場合とは比較にならないほど僅かな時間の空費。ですが、その僅かな空費こそが、

「─────Go Go Go!!」

今度は綾波達の、艦娘の側の援軍到着までの命脈を繋いでくれたのです。
64 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/09/24(土) 02:42:28.35 ID:Mlh4hE/Z0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/09/26(月) 11:45:22.37 ID:Nke/XQbJ0
投下きてたーおつです
学園艦棲姫戦線の撤退戦?ですよね?
まさか八頭身提督まだ当初の目標を諦めてない?
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/09/29(木) 10:51:07.26 ID:siBAshSZ0
更新乙です!
ドクが嫁さんとイチャイチャしてるけど、それに振り回される部下も大変なのねw
戦況が加速度的に悪化する上で、肝心要の日本艦隊がこの状態だとどん詰まり…望むべくは大洗方面の早期解決だけなのか
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/11(火) 14:53:34.77 ID:L9FKjrAbo
4年前ぐらいに見たベルリンのやつ面白かったなぁとふと思い出して関係作品大体全部見てたらまだエタってなくて感動しました
ミリタリ全然詳しくないしガルパンわからんけどドイツ軍パートと政治パートが特に面白い
前回の最後意味わからんし理不尽すぎたけど日本も大洗もタイトル通り終わってしまうんか
68 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2022/10/11(火) 23:05:43.47 ID:GA2SequC0
銃声。警察官が使う小口径の拳銃などよりは遥かに重いものでこそあれ、それは明確に通常の歩兵火器が奏でた単発のものです。

戦場という広い括りで見れば聞こえるのは当然かも知れません。ですが、砲弾が飛び交いミサイルが入り乱れ戦闘機が空を駆け巡る“海戦”においては、朗らかな歌声に匹敵するほど──何れかの艦隊の那珂ちゃんさんがいる場合その限りではないかも知れませんが──場違いなものでした。

最終的に三度まで、銃声は鳴り響きました。艦娘としての優れた動体視力が、まさに対空兵装を構えつつ回避運動に移っている綾波たちと降下してくる敵編隊の間を遮るようにして、同じ数の銃弾が飛び込んでくる瞬間を捉えます。

「All squad, Attack!!!」

〈〈〈サー、イエッサー!!〉〉〉

途端、銃弾が“機影”に姿を変えました。

綾波達にとっては“苦い記憶”の一つでもある、アメリカ軍の艦上戦闘機グラマンF6F【ヘルキャット】。計12の青い機体は、零戦の倍にもなる馬力の発動機を存分に唸らせ猛然と空を駆け上がります。

〈エンゲージ!!〉

〈ファイア、ファイア、ファイア!!〉

『『『!!?!??!?』』』

唐突な、横槍ならぬ“横弾”により発生した正面切っての航空戦。数の面ではヘルキャット隊と向こうで比べようもないほど差がついていましたが、何分向こうはここに来ての空対空戦闘など欠片も予想していなかったことでしょう。迸った十数条の12.7mm機銃による火線は、その尽くが敵機にそのまま突き刺さり機体を引き裂きました。

『『……………ッッ!!』』

無論、深海棲艦側も木偶ではありません。数個編隊分がまるごと食いちぎられたことで状況を理解したのでしょうか、慌てて回避運動に移りヘルキャット隊の進路上から離れつつ、すれ違いざまに次々と射撃を加えていきます。

〈ハッハッ、ナンダイ、クスグッタイジャナイカ!!〉

〈マサカソレガキジュウソウシャノツモリダナンテイウナヨ、ディープワンズ!!〉

ですが、その試みは大半が無駄弾を増やすだけに終わりました。

米軍製兵器の特徴である、搭乗者や操縦者の生存性向上を最大限追い求めた凶悪極まる安定性と防弾能力。
F6Fは取り分けその両特徴が色濃く現れた機種でもあります。同機が備える何れの要素も、行き交う間際の“一撫で”如きで揺るがせるものではないことはこの身に刻み込まれています。

地獄より使わされし猫たちは、被撃墜どころかまともに飛行姿勢を崩す機体すら殆ど現れません。彼らは悠然と飛行を続け、時に“深追い”してきた敵機を逆に喰らいさえしながら、至極あっさりと「群れ」を打通しきってみせました。
69 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/10/11(火) 23:08:24.22 ID:GA2SequC0
落とされた機影は恐らく20を超えるでしょうか。この物理的な損害も、向こうにとって決して小さなものではありません。

ですが深海棲艦側から見てそれより遥かに致命的であったのは、ヘルキャット隊に“群れ”の打通を許したという事実そのものでした。

『───! ───ッッ!!』

『……………!!!』

百数十機規模での編隊飛行。当然、統率は困難を極めます。況してやあの“群れ”は、綾波たちへの攻撃態勢に移っていた最中。
人類空軍機によるミサイル攻撃への対策としてある程度機体ごとの間隔は空けていたようですが、それでも大きさに関しては人並みでしかない6つの海上標的に総攻撃を仕掛けるにあたってはどうしても空間的な限度があります。

さながら大坂の陣で真田信繁と毛利勝永に突撃を受けた徳川内府の軍がごとく、中央から真っ二つに切り裂かれた敵航空隊。分断は乱れを、乱れは揺らぎを、揺らぎは崩壊を生み、瞬く間に修復不可能なまでにそれらは拡大していきました。
当然綾波たちへの空襲など実行できるはずもなく、“群れ”は本格的に一度散開し再編成へ向けて動き出します。

同時にそれは、深海棲艦側が自ら“数的有利”を放棄した瞬間でもありました。

「敵は崩したわよ、アカギ!!」

「ええ、お任せください!第一次制空隊、発艦!!」

『『『────!!???』』』

先程の弾丸と同じ方角から、次に飛来したのは三本の矢。それらは燃え盛る焔を思わせる輝きを空中で一瞬放った後、ヘルキャットと同じ数の零式艦上戦闘機に変化し一斉に“群れ”の横腹へ食らいつきます。

『…………ッッ!!』

〈シラナカッタノカ?イッコウセンカラハニゲラレナイ!!〉

『─────…………』

〈ヨシ、ゲキツイスウイチ!!クチクシテヤル……コノヨカラ……イッキノコラズ……!!〉

低空域での巴戦において、同時代相当の性能の戦闘機が零戦に勝てるはずもありません。しかも栄光の【一航戦】なら尚の事です。
下方へと逃れた敵機たちは、次々と捕捉され抵抗する間もなく落とされていきました。

〈ワンモア!!〉

〈〈〈サーイエッサー!!〉〉〉

そして上方からの離脱を目論んだ隊には、再びヘルキャット隊が襲いかかります。発動機の高い馬力故に高高度戦闘においても運動性と速力を維持し得る彼らを、爆弾や魚雷を抱えた状態の【カブトガニ】で振り切れるはずもありません。
F6Fの両翼から火線が迸る度に、飛び回る敵の機影は確実に一つずつ減っていきます。
70 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/10/11(火) 23:10:34.18 ID:GA2SequC0
「全艦、最大船速で離脱するにゃ!!」

「「「了解!!」」」

芸術的と言っても過言ではない、惚れ惚れするような航空戦でしたが、見惚れるわけには行きません。多摩さんの号令が下るまでもなく、我々6人は一斉に旗艦を吹かし、“群れ”の真下から逃れます。

鮮やかに敵機を討ち減らしつつ、零戦とヘルキャット隊が見せていた動き。牧羊犬が羊を柵の中へ追い立てるように、或いは箒で部屋中のゴミを隅から中央へ掃き集めていくように、“群れ”を上下から挟み込んでより密度の高い塊にしていく動き。
その動きが意味するところは、この後に何が始まるかは、艦娘なら誰もが知っています。

「─────対空掃射、開始!!」

ちょうど綾波達が戦闘空域下から離脱しきったところで、その口火を切ったのは2発の三式弾でした。同時に突き刺さったソレらから飛び散った火炎の雨が、一気に周囲の数十機を焼き払います。

『『『!!?!?!??!!!?』』』

最早立て直しようもないほど“群れ”が乱れたところに、嵐のごとく押し寄せる機銃弾と高角砲弾。離脱を図る機体には、周辺でなお飛行する零戦隊とヘルキャット隊が対応しトドメを刺します。

最も理想的な事例として私達艦娘用の戦闘教本に載せたくなるような、完璧な包囲殲滅。

『『『────……………』』』

「Clear!!」

電探上から残りすべての反応が消えるまでに、要した時間は十数秒ほどに過ぎませんでした。

他の艦隊も増援との合流が間に合ったのでしょう。流石に綾波たちのように殲滅まで至ったところは少ないようですが、アレほど巨大だった群れは見る影もありません。現れた当初の1/10にはなろうかというほど数を減らし、青息吐息で来た空路を戻っていきます。

ただし、

「…………Next Enemy incoming.」

かなり少なく見積もっても、最初に現れたモノの3倍には達そうかという“群れ”と、入れ替わる形でではありますけど。
71 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/10/11(火) 23:12:59.67 ID:GA2SequC0
推定150機超。これは、改装前の加賀さんと赤城さんに搭載可能な最大艦載機数の合計値に匹敵します。数字的な面だけで言えば、一航戦が根刮ぎ消滅したような状況です。

普通の空母機動艦隊ならそれだけでも致命傷足り得るものになりますが、深海棲艦側は少なくとも10を越える同じ規模の“群れ”を他の友軍艦隊にも差し向けていました。そしてその全てが──文字通りの“全滅”は綾波たちのところぐらいにしろ──致命的な損害を受けて跳ね返されています。

1000には確実に達する、空母機動艦隊の一つ二つどころか小国の総航空兵力にさえ比肩しかねない数の機体。それを喪いながら、寧ろ更に大規模な戦力を以て即座に“次”の攻撃を敵艦隊は繰り出してきたのです。

「OK, OK────」

そんな、常軌を逸する圧倒的な物量を目の当たりにして。

「────It's getting hot!!」

増援艦隊の皆さんは、一様にその口元を綻ばせていました。

「パーティ、早速盛り上がってきたわね!アカギ、どっちの子たちが多く落とせるか勝負よ!!」

「ええホーネットさん、望むところです!!」

先程の“銃声”の出処───アメリカ軍の空母艦娘にしてヨークタウン級3番艦・ホーネットさんが、大東亜戦争時に使われていた米軍の小銃を模したカタパルトを構えながらやや熱を帯びた声で叫びます。

それに隣で応じるのは、再び矢を構えた赤城さん。

「All unit, Weapon Free!!」

「制空隊第二陣、発艦始め!!」

新たに放たれる、3発の弾丸と3本の矢。即座にトムキャット隊と零戦隊が空を舞い、先行していたそれぞれの第一波と合流すると風を巻いて押し寄せてくる“群れ”へと突っ込んでいきました。

〈〈〈アタック!!〉〉〉

〈〈〈トツレ、トツレ、トツレ!!〉〉〉

『『『!??!?!!?!?』』』

青ヶ島鎮守府にてその名を轟かせる【大腮】こと龍驤さんには及ばないまでも、お二人の航空隊の練度もまた十分過ぎる水準でした。

さながら、小さく獰猛な肉食獣が獲物と定めた大型の草食獣から肉を食い千切るが如き動き。左右に別れた“一航戦”とトムキャット隊それぞれから火線が伸び、“群れ”は先鋒の両翼数十機が会敵とほぼ同時に射落とされます。
そのまま止まらず突入した両隊は巴戦へと移行。之に敵の“群れ”は更に1割近い戦力が足止めされ、陣形も大きく乱れることになりました。

〈オクレヲトルナ、ワレラモツヅケ!!〉

〈キシタチヨ、カカレ! フォイヤ-!!!〉

〈アバンチ、アバンチ!!〉

ホーネットさんと赤城さんのお二人が先駆けとなったことで、周辺の友軍艦隊からも続々と遅ればせながら艦載機隊を送り込んできました。例の国連“海軍”も混じっているようで、飛び交う妖精さんたちの無線にはイタリア語やドイツ語も含まれます。
72 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/10/11(火) 23:14:38.65 ID:GA2SequC0
規模はこれらに赤城さんやホーネットさんの航空隊を併せても尚“群れ”には遠く及びませんが、お二人が出鼻を挫いたことで向こうが抱えていた「数的優勢」は既に霧散していました。
四方八方あらゆる方向から突き入れられる何百条もの火線に削られ、風船から空気が抜けていくかの如き勢いで萎んでいきます。

(,,゚ ゚)《Engage!!》 

録に展開・分散すら出来ず着実に追い詰められていた“群れ”に致命傷を与えたのは、意外にも人類軍の戦闘機でした。

(,,#゚ ゚)《Wyvern-01, FOX-2! FOX-2! FOX-2!!》

『『『!!!!!!????』』』

女性の声で叫ばれる、空対空ミサイルの発射を意味する符号。無線から三度聞こえたそれに合わせて、空域に突入してきたF/A-18Dの翼下より同じ数だけ銀槍が放たれます。
三発のミサイルは何れも未だ赤城さんたちの航空隊による攻撃が届いていない“群れ”の中核部分を寸分の狂いなく射抜き、何百という機体を焼き払い吹き飛ばしました。

(,,#゚ ゚)《Gun, gun, gun!!》

人類航空機としての定石に沿えばそこから反転すべきところを、そのF/A-18Dは止まりません。そのまま綾波達の頭上を駆け抜け、機銃を放ちながら“群れ”に肉薄します。

0.8m〜1.2m。【黒鳥】は別格として、深海棲艦の艦載機の大きさは、最大でもF/A-18Dの実に1/14。
ワンショットライタァという、大東亜戦争時米兵から一式陸攻が付けられたものと同じ蔑称とそれに見合った脆さはあれど、中には燃料弾薬が満載されています。激突すればそれが1機2機であっても機体は致命的な損傷を受けるでしょう。

(,,#゚ ゚)《……………ッッ!!!》

人類の戦闘機にとって深海棲艦機は言うなれば、意思を持ち自在に空を飛び回る機銃弾や噴進弾のようなもの。しかしそれが大いに討ち減らされて尚数百発飛び交っている中に、“彼女”はまるで臆することなく斬り込んでいきました。

『『『────……………』』』

「Wow……!」

「……………凄い技ですね」

蝶のように舞い、蜂のように刺す。

奇しくも今まさにこの増援艦隊にも加わっている、故郷の武勲艦と同じ名を冠した銀色の【蜂(ホーネット)】の動きは、この比喩に全く違わぬものでした。
自らの機銃で刺し穿った空白に銀翼をねじ込むと、尚も銃火によって敵機を薙ぎ払い道を切り開きつつ全幅11m、全長17mにも及ぶ巨躯を巧みに操って“群れ”の中で舞い踊ります。
73 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/10/11(火) 23:18:15.26 ID:GA2SequC0
無線上でワイバァンを名乗ったその機体は、下から上へと突き上げる形で一気に“群れ”を貫きます。動きはそれで止まらず、飛び上がったイルカのような姿勢から近現代の航空機には疎い綾波でも舌を巻いてしまう卓越した航空技術であっという間に機首を再度下方───最早完全に総崩れとなった残余の“群れ”へと向けました。

(,,#゚ ゚)《FOX-2!!!》

最後の一発である銀槍が、機銃弾と共に放たれます。鉄火の暴風と爆炎の嵐が、“群れ”に叩きつけられます。

〈トツニュウシロ!!〉

〈イレグイダ、オトシマクレ!!〉

ワイバァンが今度は下側へと突き抜けた後、残された“群れ”の中核は総崩れの上で当初の規模の1/5程度に討ち減らされただの残骸と化していました。
その“群れの残骸”も、再度飛来した新たな友軍航空隊に巴戦で絡め取られ、瞬く間に四分五裂していきます。

最早、綾波たちへの攻撃を継続する余力がないことは明白でした。

《こちら巻雲、敵航空隊主力群は壊滅状態!すごい、すごいです〜〜!!》

「赤城より空母艦隊各位、残党敵群の包囲殲滅を徹底せよ!わいばあん一番機が作ってくれた好機を逃すな!!」

《翼のあの国旗、確かマレーシアのものか……?【回転木馬】ならいざ知らず、単騎駆けでこれほどの戦果を挙げるとは!》

《何者かは解らぬが、まさに一騎当千也!褒めて使わすぞ!!》

(,,*゚ ゚)《─────》

無線上で友軍艦隊の皆さんが口にする称賛の言葉を、【彼女】がどこまで理解できたかはわかりません。ただ、補給のため退がる間際にワイバァン一番機が見せた宙返りは、おそらくそうした声に対する返答だったのでしょう。

〈エネミーフリート,インカミング!!ソウメニー!!〉

〈テキカンタイハサイダイセンソクニテセッキンチュウ!!クウボ、センカンモタスウ!!チュウイサレタシ!!!〉

遮られていた視界が“群れ”の中核壊滅によって開け、航空隊がその向こう側から迫る敵艦隊に気づきました。次々と無線で報告を送ってきます。

報せを受けた綾波達の方では、特に驚きや動揺はありません。

大いに損耗を受けたとはいえ人類航空軍も支援艦隊に搭載されている基地航空隊も未だ相応の戦力が残存しており、綾波達新たな艦娘部隊もここを始め周辺海域に現在進行系で次々と投入されている状況。
【学園艦棲姫】という強大な敵への抵抗は、未だ激しく続いているのです。向こうも、航空戦だけでこれを鎮圧できるとは流石に考えないでしょう。

後続艦隊が存在することは、至極容易く想像できました。

〈オーヴァ300エスティメイト!! オールユニット、ビーケアフル!!〉

尤も、その数まで聞いたところで、艦隊の空気は一層引き締まったものに変わりましたが。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/12(水) 10:43:18.01 ID:1mB7AO9c0
更新おつです
この状況から投入できる予備戦力があるとは思いませんでした
もしかして人類側も無尽蔵?、などと勘違いしそう
75 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2022/11/03(木) 23:24:52.93 ID:1N4dwLvb0
300隻以上、艦隊数で換算して実に50個超。これが本当なら、ベルリン陥落の折に独波国境にて発生した【オーデル川防衛戦】とほぼ同規模です。

妖精さんの内1人と視界を同期させ綾波自身も敵艦隊を見てみましたが、それが過大評価や誤認という線は残念ながらありませんでした。こちらへ押し寄せる大艦隊の威容は、報告上の数字と比しても全く見劣りするものではありません。

『『『ゴガァアアアアアアアアアアアアッ!!!!』』』

「っ、五月蝿いったら……!」

「Fuck off」

鬨の声の如く空気を震わせる、三百隻の大合唱。それはもう凄まじい有様で、数千機規模の先遣航空隊が(それも二度に渡って)殲滅されているというのに士気旺盛にして意気軒昂のようです。

底なしの物量故にそもそも致命傷から程遠い上で、敵方は300隻という自分たちの艦隊戦力を大いに誇っているのでしょう。実際ざっと見た限り姫級・鬼級の姿はありませんでしたが、ル級やタ級、またこれらのEliteやFlagshipはかなりの数だったように思います。

こちらも、全くの無力ではありません。ここにいる3個艦隊18隻を含み、この海域には最終的に15個艦隊が投下され【学園艦棲姫】以下敵主力艦隊群側面への攻勢を敢行する予定でした。

綾波達の乗っていたチヌークを始め幾つかの輸送機は落とされ不時着水となったようですが、電探上の反応や飛び交う無線から察するにそれによって轟沈艦が発生したり戦力集結が失敗した様子もありません。ならば当初の予定通り、90隻の艦娘が既に展開を終えている筈です。

ただ、それでも尚兵力的な面では迫りくる敵艦隊からすると1/3にも満たない“寡兵”であることは事実。例えばこれらが全て駆逐・軽巡であるならいざ知らず、潤沢な戦艦・空母を擁しているなら火力と指揮系統の面で問題を抱えている可能性も薄いでしょう。

制空権は現状此方が完全に掌握している形ですが、空母艦隊の艦載機で十分に奪還し得る。仮に奪還に至らずとも、私たち側の航空攻撃を抑え込めれば艦砲の火力差・物量差で十分に押し切れる───そんな算用を向こうが弾いていたとしても、不思議ではありません。

「敵艦隊との距離、30000まで接近!!」

「─────主砲、一斉射!!撃て!!!」

それがただの皮算用に過ぎないことを告げたのは、こちら側で上がった砲声でした。
76 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/03(木) 23:27:57.08 ID:1N4dwLvb0
約30km。増援艦隊の1人である朝潮さんが叫んだこの数字は、35.6cm連装砲の最大射程距離でもあります。

最大射程とは、あくまでも「砲弾が辛うじて届く距離」を示すもので、命中率や威力がある程度担保される“有効射程距離”ではありません。
砲撃が行われるとしても威嚇や牽制が主目的であり、基地施設やそれこそ学園艦のように相当巨大な目標でもない限り命中を見込むことは本来できないでしょう。

『グォガッ!!?』

ですが、彼女の───戦艦・扶桑さんの砲撃は、そうした“常識”に当て嵌まりませんでした。

『ウ゛キ゛ッ゛………』『ゴボッ!?』『アギャアッ!?』

弧を描き飛翔した砲弾が、次々と敵艦の鼻先や背、肩口に突き刺さります。
超弩級戦艦による砲撃とあれば、多少の距離減衰を差し引いてもその威力は絶大。軽巡ホ級、駆逐ニ級、イ級2隻、命中した艦は尽く爆炎に身を焦がしながら水底に沈んでいきました。

「撃て!!」

『ゴグッ!?』 『ギャアッ!!?』『イギィッ!!?』

間髪入れず、再び主砲4基の一斉射。ロ級、ハ級、本土で大洗女子学園の甲板上にも出現したという新型・ナ級、何れも直撃弾によって跡形もなく吹き飛ばされていきます。

『ジッ…………』

そして、雷巡チ級。非ヒト型より遥かに小さく小回りも利く、有効射程外からの射撃で仕留めるのは本来絶望的な相手。

しかし扶桑さんは、至極あっさりと直撃させてみせました。船体殻を持つとはいえ、雷巡程度の出力なら戦車砲の集中砲火でも十分に突破を見込めます。
戦艦の大口径砲直撃に耐えられるはずもなく、その一発で電探上からも海上からもチ級の姿は消失しました。

「全弾命中、敵先鋒の水雷戦隊群に大きな損害!流石は扶桑さん!」

「そんな大したことはしていないわ、ただ向かってくる“的”に当てただけだもの」

此方も増援艦隊の阿武隈さんから感嘆の声が上がるも、当の旗艦・扶桑さんの態度には奢りも喜びも見られません。困ったように控えめな微笑みを浮かべるのみ。

寧ろやや燥ぎ気味の阿武隈さんを窘めるように、ついと口元で人差し指を立てました。

「それより、敵艦隊群はまだまだ健在よ。阿武隈さん、油断なさらないように」

「は、はい!了解です!」
77 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/03(木) 23:33:15.15 ID:1N4dwLvb0
『『『ゴギャアアアアアアッ!!!?』』』

『グゥッ…………!?』

三度目の斉射となりましたが、扶桑さんの照準には寸分の狂いも生まれる気配はありません。全弾それぞれが吸い込まれるようにして敵艦を射抜き、電探上から命中弾と同じ数だけ赤点を消し去ります。

一気に二個艦隊分の戦力を短時間で喪い、敵前衛群の動きが大きく鈍りました。

艦隊運動とは二元的なものであり、“前”の状態は当然“後ろ”に影響を及ぼします。前衛の停滞は中衛へ、中衛の動揺は後衛へ………混乱は瞬く間に艦隊全域へ波及し、その動きを完全に縫い止めました。

「艦隊、前進!!」

すかさず、扶桑さんが声を限りに号令をかけます。

「赤城さんとホーネットさんは最後尾にて後続、水雷戦隊は中衛にて陣形整えつつ進軍!

鳥海さん、最上さん、Houstonさん、前衛で私に続いて艦砲射撃を!!」

「了解しました!

目標、前方の敵艦隊。砲戦用意、撃ち方、始め!!」

「そうこなくっちゃ!!

さあいこうか、ボクが相手だよ!!」

「Copy that.

Target insight! Open Fire!!」

『グゴガッ!!?』『ギィアッ………』『『ガギャッア!?!?』』

超弩級戦艦1隻、重巡洋艦3隻による全力射撃。凄まじい砲火線が形成され、敵艦隊に殺到します。
陣形の崩壊が著しい前衛群では反撃もままならず、増えた損害の分だけ更に大きく突き崩されていきます。

《砲撃開始!》

《主砲一斉射!撃ち方始め!!》

《Open Fire!!》

併せて、左右両翼に展開している他の友軍艦隊も続々と砲撃に参列を始めました。
………が、各六個艦隊ずつ、計72隻にも及ぶ戦力が展開を終えているにしては、それらの火線はあまりにも疎らでした。扶桑さん達4隻に勢いどころか量でさえ劣っており、照準も明らかに定まっていません。

電探に目をやれば、友軍艦隊群の反応は確かに両翼で健在です。しかしながら辛うじて各艦隊ごとに寄り集まってはいる節があるのみで、隊列らしい隊列も未だ組まれていないような状態でした。

不時着水に近い形での展開となったことが尾を引いているのか、或いは敵艦隊の圧倒的な物量に気圧され動揺が広がっているのか。
いずれにせよ、こんな有様では組織的な砲撃戦が展開できないのも当然です。

『ギィッ、ギギィッ!!』

『オッ、アアアッ!!!』

敵もまた、これらの異常に目敏く気づきます。旗艦から指示が出たのでしょう、前衛と比して被害・混乱共に軽微な中衛艦隊群が動き出しました。前衛群の間を抜けて、或いは大きく迂回するような形を取って、側面艦隊には最低限の備えのみを残し戦力の大半を綾波達に割り振るつもりのようです。
78 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/03(木) 23:37:07.27 ID:1N4dwLvb0
物量面で圧倒的に上回っているとはいえ、位置関係としては三方から包囲されている状態。加えて先鋒群が此方の初撃で機能停止し“皮算用”が早々に挫かれているとなれば向こうが事態の打破を急ぐのは無理からぬことでしょう。

逆に現時点で唯一組織的な艦隊行動に移れている正面艦隊を殲滅すれば、あとに残った戦力を左右に分断できた形へと変わります。しかる後両翼に部隊を割り振って各個撃破できることを考えれば、戦術的に間違った判断でもありません。

……故にこそ敵艦隊の旗艦たちは、こちらの動きをもう少し注意深く観察するべきでした。

二十倍に迫る敵艦隊に、何故扶桑さんが真っ向から迎え撃つ姿勢を崩さないのか。

二度に渡って大航空隊の空襲を跳ね除けているような中で、何故今更組織的な火線構築すら出来ないほどの混乱が生じるのか。

陣形が大いに乱れているはずなのに、何故“艦隊毎に集結した状態”が作られているのか。

「敵中衛艦隊群、当方への総攻撃態勢に移行!」

これらに違和感を覚えていたなら、彼女たちももう一つの可能性に、

「旗艦、此方の“手はず通り”です!!」

「────ええ、そのようね」

一連の動きが、張り巡らされた罠である可能性に思い至れたことでしょう。

「両翼艦隊、全艦!撃ちぃ方ぁ、始め!!」

朝潮さんが上げた報告の声。それに併せて、扶桑さんが下す号令。

直後、左右双方で一斉に凄まじい数の砲声が轟きます。

『『『『ォガァアアアアアアアアァアアッ!!!?』』』』

一瞬で隊列を組み直す友軍艦隊の反応、整然と並び飛来する砲火。膨大極まる砲弾が雨の如く降り注ぎ、前衛群を迂回中だった敵艦隊に突き刺さりました。

両翼各36隻ずつ、計72隻分の艦砲射撃。駆逐艦や軽巡洋艦も多数混じっているとはいえ、殆ど無防備状態に近い中でそれらを浴びた敵艦隊の損害は極めて深刻でした。
電探上から消滅した赤点の数は、控えめに見積もっても七、八個艦隊分にはなるでしょう。

中衛戦力の内、両翼の艦隊群は突然発生した甚大な損害により一瞬で機能不全に陥りました。

「側面艦隊各位、攻撃を継続しつつ巡航速にて前進開始!敵艦隊への圧力を強めてください!

戦重各艦、砲撃速度上げて!前衛群を更に大きく突き崩します!」

『グギギッ………!』

攻勢に転じた友軍に併せるように、更に激しさを増す扶桑さん達四人の砲撃。

中衛から流入してきた新手の艦隊は、既に前衛群の中ほどまで進出しています。一部の戦艦級ヒト型が指揮系統の回復に着手しつつ、残7割強の水雷戦隊と重巡級がアルデンヌの森を駆け抜けるドイツ機甲師団の如く綾波たちの方へ迫ってきていました。

しかしながら、今やその試みは今や完全な裏目と化しています。正面だけでなく両側面からの圧力も加わったことで前衛群の混乱は最早完全に収拾不可能な域に達しつつあり、数個艦隊の指揮系統を回復させたところで焼け石に水でしかありません。
79 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/03(木) 23:44:32.89 ID:1N4dwLvb0
突貫中だった水雷戦隊への影響はとりわけ甚大です。

もみくちゃになる前衛群に巻き込まれ、ただでさえ困難な艦隊運動の連携が崩壊。散り散りになりながら一、二隻がポロポロと抜け出してくるような状況では、隊列を組み直す余裕もないことは明白でした。

「【特派府】艦隊、前へ!阿武隈さん、朝潮さんも加わってください!初月さんとアトランタさんは後続を!!」

「多摩、了解したにゃ!皆続くにゃ!!」

「朝潮、旗艦命令を受諾いたしました!」

「Roger, Flag. Go ahead」

機を見るに敏。扶桑さんからすかさず指示が飛び、計十個の“艦影”が猛烈な砲撃支援を背に最大船速まで加速します。
多摩さんや綾波ら雷撃隊8名が単縦陣を取りその後方に2名が続くという、なんの捻りもない即席の布陣。

ですが、統率が完全に崩壊し各個撃破されるためだけに前衛群を抜けてきたような有様の敵艦隊を“処理”するにあたり必要なのは、練り上げられた完璧な攻撃陣形ではなく「いかに迅速に一撃を加えるか」に付きます。

その点において綾波たちの動きは、まさに理想形と呼び自負できるものでした。

「射撃位置に到達!敵艦隊群捕捉!」

「どうせ外れてもその向こう側は総崩れの前衛群にゃ!

ありったけ、ぶちかませ!!」

「あいよ!景気よく行くぜ、宵越しの金は持たねえのが江戸っ子でぇ!!」

「やるときはやるんだから!魚雷、全弾投射!!」

「や〜りま〜す、っよぉ!!」

『『『   !!?!?』』』

総数実に50を越える雷跡が、海原を駆けていきます。暫しの静寂を──扶桑さん達による砲撃を除いて、の話ですが──経て炸裂した爆発音の束は直撃を受けた敵艦の断末魔すら塗り潰し、膨大な数の水柱は打ち砕かれ燃え盛る残骸を瞬く間に波間へと押し込み海上から消し去りました。

『『ゴガァアッ!!?』』

何発かの魚雷はそのまま馳走を続けていましたが、それは「外れた」というより「進路上から敵艦影が消滅した」為に起きた事象。そして先ほど多摩さんが仰っていた通り、その向こう側に居るのは結局の所敵の前衛群です。

当然混乱の極みにある中でこれらを避けられるはずもありません。十本近い新たな水柱によって発生した戦力の損失が、益々その立て直しを困難なものへと変えました。

それにしても、即席の連携であるにも関わらず、阿武隈さん、朝潮さんのどちらも綾波たちの動きに寸分の狂いもなく併せてきました。
流石は青ヶ島、硫黄島と共に【海上機動迎撃網】の一角を担う鎮守府の出身といったところでしょうか。
80 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/03(木) 23:49:42.70 ID:1N4dwLvb0
《敵艦、捉えたぁ!!敵右翼攻撃、いっち番槍ぃいい!!!》

《おっそーーい!こっちの魚雷はもう届いてるもんねーーだ!!》

両側面からの追撃に関しても、抜かりはありません。扶桑さんは既に指示を出していたようで、誰が攻撃隊に加わっていたのか少なくとも2名は確実に特定できる叫び声と共に左右で雷撃が立て続けに炸裂します。
電探上では先程の奇襲的な一斉射によってこじ開けられた“大穴”を更に抉る形で敵艦反応が消失し、中衛群の混乱・崩壊ぶりも見る限り明らかに許容し得る域ではなくなりつつありました。

ですが、ここまでに綾波達が敵艦隊へ与えた損害は、甚大ではあれどあくまでも前・中衛群までに限定されています。

『ヲヲッ、ヲォッ!!』

「敵艦隊最後尾にて【黒霧】を確認!!かなりの量です、恐らく数百機規模!!」

健在であった後衛群───敵空母機動艦隊が、一斉に艦載機隊を発艦させました。ブワリと勢いよく空に広がった大量の黒い靄は各個に寄り集まって【カブトガニ】や【オニビ】を形成し、猛烈な勢いで突撃を開始します。

────大半、否。全ての機影が、“正面”へと。

「敵航空隊、ほぼ全戦力を以てこっちに向かってきますぅうううう!!!」

少なく見積もって五百は下らぬだろう大編隊による総攻撃という事態に、阿武隈さんが悲鳴に近い報告の声を上げました。

三方からの猛攻に晒されても尚、正面戦力の殲滅・打通に全力を尽くす。指揮艦の役割を担えるヒト型も相当数が討ち取られている中で誰がその判断を下したのかは解りませんが、それは英断と言って良いでしょう。

一連の卓越した連携、損害を出さないどころか殆ど反撃らしい反撃をさせぬまま“封殺”が成功しているのは、綾波達───分けても、扶桑さんの存在に寄るところが大きい。
彼女を失った上で綾波達正面艦隊が殲滅されれば、一転して艦娘側が指揮系統に致命的な被害を受けた上で今度こそ陣形を分断されます。

綾波達の“急所”は、この圧倒的優勢下にあっても健在なのです。突かれれば一挙に戦況がひっくり返るほどであることも、中衛群の突貫が始まった時から変わっていません。寧ろ綾波達が戦況を掌握しつつある今の方が、その重要性は増した面さえあります。

故に敵艦隊は、あくまで綾波たちへの、扶桑さんへの攻撃に全力を尽くしました。

「アトランタさん、初月さん」

尽くしざるを得ませんでした。

「Alright, Flag.」

「あぁ、心得ている!!」

ここまでの采配を振るえる者なら、この程度の事態への備えは盤石にしていると解っていても。
81 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/03(木) 23:56:36.76 ID:1N4dwLvb0
綾波達の背後で、砲火が撃ち上がります。居るのはあくまで2人、それも艦級だけでいえば軽巡洋艦と駆逐艦。
にも関わらずその膨大極まる砲声と飛び越えていく火線の数は、一個水上打撃艦隊が全力で火網を張り巡らしていると言われても十分に信じられてしまうものでした。

「ハツ、叩き落とすよ。──Fire, Fire!!」

桃色がかった髪を結わえて両脇に垂らした、アメリカ出身艦娘らしいグラマラスな体型の持ち主。しかしながら放つ砲火に不釣り合いな眠たげな眼でもある、アトランタ級軽巡洋艦一番艦・アトランタさん。

「言われずともさ!───敵は多い、行くぞ!!」

対象的に鋭く獰猛な眼光で、整えられつつもやや逆立った髪型と併せて訓練された猟犬を思わせる風貌の、秋月型4番艦・初月さん。

『『『ッッッッッ!!?!?!!!!?』』』

私達艦娘の中でも取り分け対空・防空戦闘に秀でていることで知られるお二人の最大火力投射は、最早弾幕と呼ぶことすら生温い凄まじさでした。銃砲弾の濁流、鉄火の嵐に触れた瞬間、敵艦載機群の突貫はまるで強固で分厚い岩壁に衝突したが如く停止しました。

「多摩たちも加わるにゃ!対空射開始!!」

「主砲、三式弾への切り替え終わる!戦艦・扶桑、対空射開始します!重巡艦隊も続いて!!」

「この鳥海、防空戦においてはお二方にも摩耶にも遅れは取りません!」

「私も行くわよ!Aircraft-Carrier足る者、対空戦闘ぐらいこなせなくちゃあね!!」

『ヲン……』

『ヌグッ………!?』

こちらへの航空攻撃がほぼ完全に食い止められたところに、綾波たちと扶桑さんたちも加わり更に火網が重厚さを増します。
両側面友軍や赤城さん、ホーネットさん両名の艦載機隊は敵機群を追い回しながら三々五々に散り今や敵航空隊の進軍路を作っているような状況でしたが、それは逆説的に言えば巻き添えを全く気にせず火力を投射できるということでもありました。

加えて前衛・中衛群はこちらの猛攻で最早組織的戦闘能力をほぼ失逸し、更に側面から間断なく注ぎ込まれる砲雷撃によってそれを回復させる糸口も掴めるような状況にありません。よって綾波たちも扶桑さんたちも、存分に初月さんとアトランタさんに加勢することができます。

敵の空母艦隊も必死に後続を送ってきますが、広く厚く張り巡らされた大火線に絡め取られてそれ以上前に進むことさえままなりません。それどころか墜落機が下方の敵艦隊に激突して、前・中衛の損害を拡大する有様です。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/11/04(金) 09:52:05.50 ID:BxSLOj7g0
更新おつです
83 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2022/11/04(金) 23:08:26.52 ID:g15duR2T0
そしてこちらには、最後の“ダメ押し”をできる札が未だ一つ残っていました。

「山城、フレッチャーさん、トドメを!!」

「任せてください!……本来あの人たちの装備というのが気に食わないけど、姉様のお力になれるなら!!全弾射出、撃て!!」

扶桑さんの妹、扶桑型戦艦二番艦・山城さん。彼女が装備する【12cm30連装噴進砲改二型】から放たれた面制圧という言葉を体現したかのような火炎の塊は、壊乱状態に陥りつつあった敵機群に叩きつけられ、これを引き裂き、焼き払い、貫いていきます。

「近代装備を舐めないで!この程度の数、一網打尽です!!

Enemy insight!! Fire!!」

“実装”からまだ間もないながらアメリカ海軍艦娘の現時点における最高傑作とも言われる、改フレッチャー級駆逐艦DD-455・フレッチャーさん。彼女が装備する【5inch単装砲Mk.30改】は、最新鋭電探との連動によって導き出される凶悪な射撃精度を以て、火線の隙間を果敢に摺り抜けようとする敵機を正確に、確実に、無慈悲に射落としていきます。

『『『─────…………』』』

「Clear!!」

無駄を悟りやめたのか、“出し尽くした”のか。何れにせよ、後衛群から逐次投入されていた艦載機隊は、いつの間にか止んでいました。

焼き尽くされ、薙ぎ払われ、圧し潰され、生き残った最後の1機がフレッチャーさんの砲弾に撃ち抜かれて砕け散ります。

綾波達の頭上は、夕暮れに染まりつつある空と静けさを取り戻しました。

『ヲヲヲヲ、ヲォッ!!』

『ガガァゥ!!』

『ゴダ、ィイッ!!』

主力艦隊群の大崩壊、水雷戦隊の壊滅、三方からの包囲、制空権の喪失。最早勝ち目など全く存在しないことは、深海棲艦たちも十分すぎるほど理解しているのでしょう。
幾箇所かで挙がった退却を指示していると思わしき叫び声に合わせて、眼前の敵残存艦隊は崩壊した陣形を必死に整えつつ唯一空いている「後方」へと下がっていきます。

囲師には必ず闕き、窮寇には迫ることなかれ。敵を包囲するにあたってはあえて逃げ道を開けることで抵抗する気力を削ぎ、却って容易に勝利を得ることができるという孫子兵法の一節。

異形の怪物でありながら感情も意思も持ち合わせている以上、深海棲艦相手にも十分当てはまるものだったようです。
84 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2022/11/04(金) 23:12:26.48 ID:g15duR2T0
この、敢えて開かれた退路に施される“一計”。それがどれほど大きく戦果を拡大してくれるかは、かの黒田官兵衛を始めとした歴史上の名将達が幾度となく証明してきました。

「山城!」

「心得ております!航空隊全機、発艦開始!!」

〈〈〈リョウカイ!!〉〉〉

扶桑さんの号令に従い山城さんが掲げたのは、主砲ではなく飛行甲板。
カタパルトが作動し、やや鋭角的な形状をした緑色の“ゲタ履き”機体───水上偵察機【瑞雲】が次々と飛び立っていきます。

本来“ゲタ履き”は、その機種名が示す通り偵察任務や弾着観測などを役割として設計・開発されたもの。
戦闘能力は皆無でこそないにしろ、あくまでも自衛がこなせる程度で戦力としてカウントされるべきものでは本来ありません。況してや対艦戦闘などは想定外のそのまた外でしょう。

ただし瑞雲に関しては、巡洋艦からの航空爆撃によって敵艦隊を打撃するという大本営の構想の下急降下爆撃をもこなせる速力・運動能力と機体強度を両立しています。

加えて父島鎮守府に配属されている山城さんの瑞雲隊は、乗組員の妖精さん全員がかの“六三四式”の練成を受けた精鋭部隊。受領している機体も、全て最大改修を受けた12型。

水上偵察機隊として、という前置きは必要ありません。機種の枠組みを抜いて考えても、十分に国内“屈指”の航空戦力と呼んで差し支えない陣容でした。

〈モクヒョウチョクジョウニトウタツ!〉

〈バクゲキカイシ!コウカ、コウカ、コウカ!!〉

23機という数は、決して多いとは言えません。機体性能や妖精さんたちの練度を差し引いて考えても、艦載機隊や敵艦隊の指揮系統が健在であったなら為す術なく捕捉されそのまま殲滅されていたでしょう。

しかし、前者は徹底的な対空砲火網によって消滅し後者も最早完全な立て直しは不可能な段階まで陣形が崩れきっています。
申し訳程度にばら撒かれる散発的な対空砲火をスイスイとくぐり抜けて後衛艦隊群の“上”を取った瑞雲隊が、次々と機体を回転させ急降下態勢に移ります。

そうして始まった爆撃は、瑞雲隊が自分たちの兵力と役割をよく理解した完璧なものでした。
85 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/04(金) 23:18:53.27 ID:g15duR2T0
『ヌゴッ!!?』

『ガッ、ガガァアアア………!!』

〈テキカンニメイチュウ、ソンショウダイ!〉

〈モクヒョウノケイクウボチュウハ、ソクリョクオオハバニテイカ!!〉

〈ゴウチンナンザネラワナクテイイゾ!シッカリアテルコト、“フカデ”ヲオワセルコトニシュウチュウシロ!!〉

敵後衛群は確かに艦載戦力を無力化していますが、あくまで艦隊そのものは無傷に近い状態で健在です。飛行中隊2個分にすら届かない“物量”の問題は、練度で解決できるものではありません。
戦果を求めて下手に深追い・長居をすれば、前・中衛群と比して混乱度合いが小さい分立て直しに成功した構成艦隊からの対空砲火によって思わぬ損害を受ける可能性もあります。

〈ゼンキトウダンカンリョウ!!〉

〈ヨシ、トンズラスルゾ!!ボカンドノノモトヘモドレ!!〉

故に、一撃離脱。故に、【軽空母ヌ級】を始めとした非ヒト型への徹底的な目標集約。

ヲ級とヌ級。正規空母と軽空母という艦種の差異から最大搭載機数や耐久力、脅威度などは言うまでもなく前者の方が圧倒的に上です。しかしながらヒト型をしている前者に対し、非ヒト型である後者の大きさは数倍から十数倍にも達します。

損傷を受け、航行能力に致命的な支障が発生した時。或いは、速度が大幅に低下した時。

どちらが“艦隊全体”の運動を阻害するかは、比べるまでもありません。

『ヌゴッ、グゥ………』

『ヲヲッ!!ヲンッ!!』

投下された爆弾は、航空隊の機数と同じ23発。その尽くが、ヌ級や護衛であった非ヒト型の“泣き所”を正確に貫いていました。

喫水線、機関部、甲板………身体的な部位で言えば、眼球や頭頂部。一発轟沈を狙うのではなく、航行にあたって厄介な場所に大きな損傷を与える。

例えるならペリリュー島の帝国陸軍守備隊が、米軍の上陸部隊にあえて“負傷者”を多発させたようなものでしょうか。一気に23隻もの“損傷艦”が、それも艦隊の「動線」が集中している箇所でばかり発生し、ある程度の組織的艦隊運動を維持できていた後衛群は一転して大混乱に陥りました。

「両翼水雷戦隊、突入!後衛空母群を挟撃してください!」

ただでさえ大所帯故の鈍重さに加えて、壊乱の末に敗走している状況下で十分な速力を出せていない敵艦隊群。いかに空母を中心に足の速い艦が揃っていたであろう後衛と言えど、それさえ統率が崩壊したとあれば最早逃げ切ることは不可能でしょう。

《さぁ、今度こそいっち番槍は頂くよ!!》

《ふふん、アタシがいるから無理だもんね!!》

追撃する水雷戦隊がそれぞれ白露さん、島風さんを擁しているなら、尚の事。
86 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/04(金) 23:44:46.26 ID:g15duR2T0
《《魚雷、発射!!!》》

雷撃報告は、無線を通して両者からほぼ同時に発せられました。十数秒の間を経て、綾波達が砲撃を浴びせている敵前衛の向こう側で立ち上る幾本もの水柱と爆煙。

電探上に表示されている敵艦隊群の反応、その最後尾部分で両側面から次々と赤点が消えていきます。最終的に、その数は30前後にはなったでしょうか。

《こちら白露、今度のいっち番槍は私だよ扶桑さん!!あと魚雷はヲ級Eliteに直撃、旗風の魚雷と併せて之を撃沈せり!!》

《嘘だからね扶桑さん!今回もいっっっっち番速かったのは島風なんだから!!轟沈艦はイ級Eliteを単独、ヌ級通常種を巻雲と共同!戦果だって一番なんだから!!》

《駆逐艦うざ………。えーと、こちら北上。とりあえず後衛艦隊群の混乱は更に拡大してるよ〜。

山城さんの瑞雲との視界同期で確認した限り、撃沈艦は一番バカと速度バカの言ってるやつ以外にヌ級が計10隻、ヲ級が4隻ってところかな。後は護衛の駆逐・軽巡・重巡が各少々って感じ〜》

数的戦果のみで見て、実に半数前後が空母・軽空母の撃沈。仮に綾波が第三者としてその数字を聞いたなら、士気高揚のための過大報告であることを先ず疑うような代物です。

《んで、敵さんはまともな反撃も未だに飛ばせないぐらいグロッキーみたいだけど……どーする?もっとやっとく?》

数字面だけで言ってもこの短時間であの大艦隊が会敵当初の2/3程度まで減少し、しかも此方が包囲下に置いて一方的に攻撃を浴びせている状況。一見すると北上さんの問いが“愚問”ではないかと思えてしまう、追撃継続以外の選択肢が存在しないような圧倒的優勢です。

「いえ、攻撃は停止します」

しかし扶桑さんは、無線に向かって静かにそう告げました。

「航空隊は現存する敵機群の殲滅、或いは退却確認後に母艦へ帰還し補給を。両翼水雷戦隊も後退し主力と合流するように。戦艦他主力艦艇群、副砲による牽制は継続も主兵装の弾薬は正面敵艦隊群に反転の兆候が見られた場合を除き温存態勢へ移行。

後続敵艦隊・航空隊の存在にも留意、厳戒態勢を維持してください」

《右翼主攻艦隊長門、了承した。主砲撃を鈍化・停止させる》

《This is Left-Side Freet,
South Dakota. I agree, Flag.

All unit, Weapon down. Keep potion.》

《左翼水雷戦隊・初春、心得た。皆退がるぞ!島風、止まるのじゃ!》

《あいよ〜。ほら、帰るぞ駆逐艦共〜》

敢闘精神旺盛な──そして、取り分け愚かな──指揮官が耳にすれば、即座に面罵して命令取り消しを主張するであろう、ともすれば消極的とさえ取れる指示。
しかし比較的血の気の多い方が集まっている印象の長門さんや、“艦時代”には霧島さんと直接砲火を交えた経験もあるサウス・ダコタさんも、全く異論を挟むことなくあっさりと指示に従って攻め手を止めていきます。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/11/07(月) 09:57:21.81 ID:7Vyc5Dga0
更新おつです
局所的有利は取れていますが戦局的にはいまだ不利ですよね

指揮系統が維持してるので八頭身提督は健在と思われますが
ポジハメ艦長の容体が心配
88 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2022/11/16(水) 22:06:44.07 ID:W1WHWUQU0
その傾向は、今この場で最も旺盛な“戦意”を漲らせているであろう2人についても変わりませんでした。

《…………りょうかーい》

《はぁ〜〜い………》

島風さん、そして白露さんの返答の声には、不満自体は非常にはっきりと表出していました。
しかしそれでもやはり扶桑さんへの反論はなく、電探上で彼女たちの反応を示す──他の水雷戦隊の方々と比して明らかに大きく突出した──青点もまた名残惜しそうな素振りは見せつつも両翼の隊列へ戻ります。

そのまま敵艦隊は、戦艦や重巡の皆さんによる射撃に追い立てられながらまさに“敗残部隊”という他ない様子で海域より離脱していきました。

「旗艦、よろしかったのですか?あのまま攻撃を続けていれば、ほぼ確実に殲滅できたと思いますが」

深海棲艦達の姿がある程度小さくなったところで、朝潮さんが扶桑さんに問いかけます。しかしながらその声色に疑念や苛立ちと言ったものは見られず、冷静でどこか淡々とした、よく出来た生徒が教師に問題の答え合わせを促しているような響きとでも言いましょうか。

この朝潮さんは父島鎮守府設立時の最初期に配属された艦娘の1人と聞きます。同府で総旗艦・筆頭秘書艦を勤め続ける扶桑さんとの付き合いも長く、当然綾波達より遥かに深く的確に彼女の思考を汲み取ることができるでしょう。
或いはこの詰問も、扶桑さんが下した判断の詳細を面識が少ない綾波達に共有するためという目的があるのかも知れません。

「ええ、そうする必要がないもの」

そうした朝潮さんの機微を察したらしく、扶桑さんもまた即答します。

日本語に不安を残すアメリカ艦の皆さんに配慮してか、日頃の喋り方から比べてもややゆったりとした口調でした。

「確かに殲滅は容易かったでしょうね。戦意が欠片でも残っているとは思えなかったし、あそこまで崩壊した指揮系統を私達の攻撃を受けながら敵が立て直せた可能性も極めて低い。

でも、殲滅する際に“労力”がどれだけ抑えられたにしろ、“弾薬と燃料”の消費量は無視できないものになっていたんじゃないかしら?」

総数300隻超、内1/3以上が撃沈できているとしても残余は200隻前後。統率がどれほど崩壊していようが、残存戦力の中で見れば未だ無傷か軽微な損害で留まっている艦の方が遥かに多かったはずです。
それらの全てを一撃必中で沈められたと考えるのは、流石に皮算用が過ぎますね。

戦艦や重巡といった高い火力と装甲を持つ艦種も母数が膨大である分やはりある程度は残っていたでしょうし、“組織的”な抵抗ができていなかっただけで反撃の砲火自体はチラホラと飛んできてもいました。
敵艦隊に反撃の糸口を与えないために回避運動等は交えつつ戦闘を続けるとなれば、確かに弾薬・燃料の何れも予想される消費量は決してバカになりません。
89 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/16(水) 22:10:36.45 ID:W1WHWUQU0
一応、国連“海軍”所属部隊が【学園艦棲姫】へ至る海路の各所に臨時の洋上補給拠点を続々と建築はしています。
が、拠点といいつつ実態は補給物資をありったけ詰め込んだドラム缶が綾波たち艦娘が使う水上航行ユニットを改造したものの上に纏めて置かれただけのもの。

量の面でも安全性の面でも、決して“あること”を前提にして考えて良い代物ではありません。
そう考えると、最低限の継戦能力維持のためにある程度弾薬や燃料の節約を考えなければならないのは扶桑さんの仰る通りでしょう。

「でもFlag、さっきの艦隊が後続と合流して更なる大戦力として戻ってくる可能性は考えられなかったかしら?

約200隻、向こうはBattle ShipもHeavy Cruiserもかなり残っていたわ。空母艦隊が甚大な損害を被っていたとはいえ、水上打撃戦力だけ抜け出して自分たちのFreetに加えたとしてもおかしくないんじゃない?」

「向こうに、それを実行するだけの余裕がありませんよ」

ホーネットさんの疑問に対し扶桑さんは柔らかく微笑み、しかしはっきりと、直ぐ様否定の言葉を発しました。

「あそこまで大崩れした、ろくに陣形も組めていない艦隊です。途中で合流したとして、戦力化できる個体や艦隊を選抜して“吸収”するにはかなりの時間を擁します。当然その間、“吸収”を試みている側の艦隊もある程度陣形・統率を乱さざるを得ません」

この場では逃していたとしても、綾波達側の航空戦力は健在。自衛能力を他機より強力に備えた山城さんの瑞雲隊もあります。
捕捉し、直ぐ様追撃に移れば、此方の再編や補給の時間を差し引いても十二分に追いつけます。その際扶桑さんが描く青写真が現実になることは、綾波でも容易く想像がつきました。

「仮に私達が全戦力を挙げて追撃を再開した場合、向こうは増援艦隊も纏めて無防備になっているところに再度攻撃を受けることになります。

後続艦隊群が何隻かは解りませんが、先程の艦隊と纏めて今度こそ壊滅・殲滅となれば【学園艦棲姫】が現在抱えている随伴艦隊の総兵力をかなり多めに見積もっても流石に看過しかねる損失となるでしょうね。それこそ、日本本土への進軍に支障が出るほどの」

寧ろ、“そうしてくれる”ならば喜ばしくすらある。そう言って扶桑さんは上品な声色で笑います。

「まぁ、ホーネットさんも仰ってくださった“幸運”に備えて元々偵察機は飛ばすようにするつもりです。ですが、あまり期待はしない方が良いでしょうね。

なにせ私は、“不幸”なものですから」
90 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/16(水) 22:12:45.64 ID:W1WHWUQU0
これが、“父島鎮守府総旗艦・扶桑”か。そんな、戦慄にも似た感嘆と畏敬の思いが、綾波の胸を満たします。

僅かな所作から、敵艦隊の狙いや次の動きを即座に見抜く洞察力。

不測の事態にも動じず、寧ろ策に盛り込み利用できる応用力。

その場での戦果拡大を徹底的に追い求めた大胆不敵な“拙速”と、大局的観点から鑑みた冷静沈着な“巧遅”を自身の明確な理論に基づいて的確に使い分ける判断力。

数多の艦娘が集う大艦隊にあっても、振るった指揮を全員に納得させ従わせる統率力。

先の戦闘でも見た通り、戦闘艦として、“一兵卒”としての【武勇】も、他の艦娘に決して引けを取るものではありません。
ですが、“父島鎮守府の扶桑”さんは、それさえ霞んで目立たなくなってしまうほど驚異的な“将”の資質に、艦娘としては珍しい【軍略】の才に秀でていました。

綾波自身は「この扶桑さん」とは演習で数えるほどしかご一緒したことがないため、その妙技の程を実際に眼にしたのは初めてです。
そして今日、これまでに幾度となく耳にしてきた数々のお噂が、全く尾鰭の類がついたものではないと確信しました。

『演習も含め、扶桑の采配に“間違い”を見たことは唯の一度もない』
───彼女を招聘し、抜擢し、その名を轟かせるきっかけを作った父島艦隊の提督さんの評価です。

『扶桑が居るいくさ場では、後方や側面を一切気にせず眼前の敵の殲滅だけ考えていられる』
───同期建造で、一時は同じ鎮守府に勤めたことも有り、特に戦争初期には幾度となく戦場を共にした現横須賀司令府総旗艦・【巨砲】日向さんはこう語ったそうです。

『彼女のお陰で拡大できた戦果、得られた勝利は数え切れないほどあるだろう。だが彼女が“大和撫子”の鑑であるがゆえに、我々はそれを正確に把握することができない』
───さる海上自衛隊の尉官様が、王嶋元帥にそんなことをボヤいたと聞きます。

元々扶桑さん本人があまり目立つことを好まない上に、直接の砲火によって敵艦を討ってこそ艦娘の本分という意識があるらしく、自身の軍略・知略について褒められることを複雑に思っているのだとか。

……まぁ、その奥ゆかしく謙虚な性分が扶桑さんの“強み”と合わさり「莫大な戦果を挙げながらその実情が把握できない」という事態を招き、特に海自上層部や在日米軍関係者を中心に【沈黙者(サイレンサー)】なる“忌み名”が広がるきっかけとなってしまった面もありますが。

扶桑さん本人にとってこの件が“不幸”に当たるのかどうかは、綾波では判断が付きかねます。

「凄いにゃ、噂通りにゃ、頭いいにゃ〜!

サマール島第19“特派府”所属艦隊の多摩だにゃ、救援感謝するにゃ!【沈黙者】指揮下の艦隊に入れるなんて心強いにゃ〜!」

「ええ、その、喜んでいただけて何よりです」

……少なくともこの反応を見る限り、忌み名呼びが扶桑さんからして“幸運”ではないことは確かな模様。

一先ず当面の危機から解放された多摩さんが、顔のあらゆる場所から水分を垂れ流しつつ手を取ったことも表情を曇らせた要因の一つでしょうけれど。
91 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/16(水) 22:14:57.95 ID:W1WHWUQU0
「それにしても、【特派府】艦隊………ですか」

「なぁに?なんか文句でもあるわけ?」

「おう、そうだぜ!ナメんじゃねーよチキショウめ!!」

「色んな意味で当然の反応だと思うな〜………」

扶桑さんのすぐ後ろまで進み出てきた赤城さんが、多摩さんの改めての自己紹介に複雑な表情を浮かべました。当府屈指の武闘派である霞さんが速攻で噛みつき涼風さんもそれに続きましたが、文月ちゃんの言う通り私もその反応は正直理解できてしまいます。

特別派遣海難救助国際協力鎮守府───通称【特派府】。様々な法解釈を施せるよう可能な限り回りくどくしたいという日本人的な意図が全面に溢れ出た長ったらしい正式名称ですが、要は日本国による自衛隊や艦娘の海外派兵政策の一貫です。
内容は、1992年に施行済みの【国際平和協力法】を拡大解釈し、深海棲艦関連の被害を“大規模な害獣被害”と強引に定義した上で対応要請を送ってきた国家や地域の沿岸に警備府規模の艦隊を派遣駐屯させるというもの。

日中間の水面下における熾烈極まりない外交戦の結果制定された【艦娘三原則】の“対価”として南首相が国際社会に黙認させたこの制度は、大筋での「大敗」に隠れながら非常に大きな転換点だったと思います。
フィリピン海近郊を中心に東南アジア全域で設置された150箇所を超える【特派府】の存在は私達が活動する上で非常に有用な橋頭堡となり、当時海軍が死滅していたオーストラリア周辺の制海権早期奪回やインドとの連携強化、【第二次マレー沖海戦】での迅速な戦力展開とそれに伴った痛快極まる大勝利へと繋がったのですから。

ただ、その戦力が“潤沢”かといえば残念ながらそうではありません。

例えば【特派府】に駐屯可能な艦娘の数は、国内における【警備府】と同等規模です。ですがあくまでも“目安”であり特に沿岸部では規模・艦種共に臨機応変な編成が行われる後者に対し、前者は“最大6隻”と国連憲章に明記され艦種も軽巡洋艦以上の等級は配備不可能、その軽巡も1隻までと厳格な制限が設けられています。

各【特派府】の統括や本国から輸送・護衛等で派遣される主力級艦隊の補給地として敷設を許可された【泊地】では若干制限が緩みますが、それでも常駐艦隊については軽巡の他に重巡洋艦、軽空母、潜水艦の中から2隻までを加えた三個艦隊分までの駐屯しか許可されていません。
基地航空隊も居るため戦いようがないとまでは行きませんが、やはりElite以上のヒト型や上位種の姫級・鬼級を相手取ろうとすれば力不足と言わざるを得ない面があります。
92 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/16(水) 22:18:42.70 ID:W1WHWUQU0
故に、我々【特派府】艦隊の任務は基本的に近隣の巡回と「はぐれ艦隊」を発見した際の掃海作業、後は偵察程度に留まります。
万一主力級艦隊と接敵した場合、基本的には即座に撤退後遠巻きの監視態勢へ移行。前述した任務の兼ね合いで“偶然にも”泊地に停泊している本土の艦隊か、これも“たまたま”米軍との合同海外演習を行っていた自衛隊所属の艦娘艦隊が対処する形を取ります。

仮に交戦するとしても基地航空隊や現地の空軍と連携しながら進軍を遅滞させるための牽制がせいぜいで、本格的な艦隊決戦が指示されることは滅多にありませんでした。
取り分け艦娘戦力の充実が著しいここ2年ほどは、「偶然主力級の艦隊が泊地に入港して中だった」状態を“安定して”作ることが出来た為、そもそもそれを検討する必要性自体起こり得なかったのです。

逆説的に言えば、ここまでの鉄火場に綾波達【サマール島第19特派府】の艦隊が居るという事実、それ自体が、

「アンタらの実力そのものを疑うわけじゃないけど、要するにScoutを主任務とする艦隊を動員しなきゃいけないぐらい追い詰められてるってことでしょ?

それも、“艦娘覇権国”の日本がサ」

アトランタさんの言うような現状であることを、如実に現していると言えます。

「まぁ、あたしもアンタ達のことエラソーに言える立場じゃないんだけどね」

「………ええそうね、自覚があるなら刺々しい言い方は最初から自重なさい」

ヘッと口元を曲げ肩を竦めるアトランタさんの横で、ホーネットさんが頬に手を当てて深い溜め息をつきました。
彼女は形の良い眉をひそめて眉間に深いシワを刻みつつも、右手を多摩さんの方へ差し出します。

「ホーネットよ。国連特別“海軍”指揮下のセレベス海域防衛艦隊群に所属してるわ。私達四人の他に、チョーカイとハツヅキもそこからの派遣ね」

「………ふんっ」

多摩さんと握手を交わしつつ、空いている左手がアトランタさん達、次いで鳥海さん、初月さんと順に指し示していきます………が、最後に紹介された初月さんは、わざとらしく鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまいました。

「あーーっ、と………ハツ?」

「あ、あの。初月さん、せっかく紹介してくれたのですから」

「別に僕は頼んでない」

困惑した表情を浮かべるホーネットさん。鳥海さんが慌てて執り成しますが、初月さんは益々大きくこれみよがしに明後日の方向へと顔を背けるばかり。

一連の動作には、明確な敵意が剥き出しでした。

「艦娘として改めて生を受けたとしても、僕は皇国海軍の駆逐艦だ。今は友軍になったとはいえ鬼畜米英の輩と馴れ合うつもりはない、作戦時以外は喋りかけないでくれ」
93 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2022/11/16(水) 22:21:17.02 ID:W1WHWUQU0
今更言うまでもないことですが、大東亜戦争の折、帝国海軍は太平洋上で幾度となく欧米諸国の艦隊と熾烈な戦闘を繰り広げました。
その時に刻まれた“艦時代”の記憶は、艦娘としてヒトの形を得た今も綾波達の中に残っています。

故に、アイオワさんやサラトガさんのような米国艦娘を筆頭に、この一年ほどで急速に“実装”が進んだ旧連合国の艦娘の皆さんに対して、大なり小なり複雑な思いを抱える子はいるでしょう。
かく言う私だって、在比米軍鎮守府に派遣されてきたジョンストンさん──フレッチャーさんの妹艦にあたります──と初めて言葉を交わした時は正直かなりぎこち無い反応をしてしまいました。

とはいえ流石に、深海棲艦という共通の敵を前にしながらここまではっきり拒絶反応を示す方は非常に珍しい部類に入る気がしますけど……。

「大体、他の艦娘は大和魂が足りないんだ。幾ら時代が変わったからって、祖国を焼け野原にし天皇陛下に心痛を与えた連中に────わぶっ!?

な、なにするんd、いだだだだ!!?」

「Japanese destroyerのイキの良さは“身をもって”知ってるけどサ。アンタはちょっと良すぎね、ハツ」

尚も言葉を続けようとした初月さんの頭を、もとより眠たげな眼を更に眇めたアトランタさんが上から抑えつけ遮ります。即座の反駁が飛ぶも今度は額に親指を押し当ててグリグリと捩じ込むような動きを見せ、初月さんの口から悲鳴が漏れました。

「そ〜いうデカイ口は、あたしより多く敵機を落としてから叩くんだね。見た感じ、こっちの半分も撃墜できてなかったんじゃない?」

「……米国艦のくせにどうやら電探装置に不具合があるみたいだな。どう見ても撃墜数は僕の方が多かっただろう!?なんなら数も三倍差はついていたはずだ!!」

「ハッ、そっちこそレーダー研究疎かにしすぎだっての。本当はもう3倍ぐらい差があったのを、気遣いでわざわざ過小報告してやったんだけど」

「ふ、2人ともやめよーよ………精度が悪すぎて物量でゴリ押さないとろくに撃墜できないのはどっちも変わらないんだしさ」

「何だと!?」
「……Saying again, bitch」

「あ、あの、またいつ敵艦隊が来るかわかりませんから…………」

「Kids」

凄絶ないがみ合いを止めるかと思われたフレッチャーさんがまさかの参戦で三つ巴となり、とても最前線とは思えない(醜悪な)大騒ぎを繰り広げます。その周りで止めるに止められず困り顔の鳥海さん、呆れ顔で冷たい視線を向けるヒューストンさん。

「……………………Ah」

ホーネットさんはと言えば、最早視線をそちらにやる気力もないのか多摩さんと向かい合ったままげんなりとした暗い表情でただ肩を落とします。

長い沈黙の果に喉奥から漏れた、心底からの疲労と諦観に満ちた溜め息が彼女のこの艦隊における立ち位置とそれに伴う苦慮の度合いを何よりも雄弁に語っておりました。

「………輸送中から、ずっとあんな感じよ。私達は私達で、全員が別々の鎮守府から急遽寄せ集められた相性最悪の臨時編成艦隊ってわけ。

まぁ自分で言うのもアレだけど、私含めて戦闘の腕自体は確かだしengage中にやり出す程節操ないわけじゃないから安心して…………ええと、多分」
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