【マギレコ】 最後の世代の魔法少女たち

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64 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/27(水) 23:38:32.30 ID:1bYMbS4jO
本日はここまでです。続きは明日以降に。
65 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 19:58:51.26 ID:EEyFH7CuO
>>63からの続き

さらに翌週の休日。
いろはが主催となり、神浜マギアユニオン、プロミストブラッド、時女一族、ネオマギウス、
各陣営の代表者が出席する緊急会合が、みかづき荘で開催されることになった。

W−1、W−2実行にあたり、協力が必要な魔法少女から承諾を得られたこと、
ここ数日間、灯花とねむが小さなキュウべぇを調査した結果、浄化システムを
広げる方法の糸口が掴めたことで、会合開催に踏み切った。

しかし、午前0時のフォークロアは湯国市へ赴いており、参加不可との返事があった。
撲滅派との交渉を目的に、里見太助と那由多も同行しており、当分は戻れないという。

「それで出席者は四人というわけねぇ」
「交渉が正念場らしいので、ラビさんたちの意思を尊重しました」

会合の出席者は、環いろは、紅晴結菜、広江ちはる、宮尾時雨。
広江ちはるは時女静香、宮尾時雨は藍家ひめなの代理として参加した。

「ちはるちゃん。静香さんはどうしたの?」
「それが、水徳寺の分寺が時女の里に建つことになってね。工事説明とか立会いとかで、
 静香ちゃんの手が離せなくなっちゃったんだ。悪いとは思ったんだけど、すなおちゃんの
 判断で、私が代理で出てほしいって言われたの」
「急にお寺が経つなんて、どうしたんだろう?でも、それなら仕方がないね。時雨ちゃん。
 藍家さんは今日、どうしたの?」
「今日は補習で予定が埋まってことを思い出して、どうしても来れないみたい。
 だから急遽、僕が代理を引き受けたんだ。これでも一応は創始者だし……」
「ひめなさん、そんなことになってたんだ。ちゃんと進級できるといいんだけど……」
「姫からの伝言で、『いろりん、ごめん。今度埋め合わせするから』って預かってる」
「う〜ん、気持ちだけいただいておくね……」
「まぁ、出席者の確認が取れたのだし、会合を始めましょう。時間が惜しいわぁ」
「それもそうですね。では、これより、W計画会合を始めます」
66 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 20:02:21.86 ID:EEyFH7CuO
出席者は一度、全員上体を前傾させて頭を上げ、前者から話を始めた。
発言の順番は、環いろは、紅晴結菜、広江ちはる、宮尾時雨と決まり、
いろはが他陣営の出席者の質問に答える形で会合は進められた。

「私から発言させてもらうよぉ。世界中の魔女を殲滅する前に、浄化システムの範囲を
 拡大するべきでしょうね。魔女を倒す上で穢れの蓄積は常に付きまとうもの。だけど、
 システムさえ広がってしまえば、穢れの蓄積も、グリーフシードの残量を気にしなくて
 済む上に、目的が果たしやすくなる。システムの範囲拡大は必須事項よねぇ」
「浄化システムを広げる方法は、ユニオンで結論が出ているの?」
「まだだけど、既に灯花ちゃんとねむちゃんが取り掛かってるよ。話を聞いた限りだと、
 広げるあてがあるみたいなの」
「それは頼もしい限りだわぁ」
「なら、話すことは、浄化システムが広がった前提で、世界中に残っている悪鬼を
 どうやって殲滅するか、異国の巫とどう協力し合うかだね」
「国内と海外じゃ情勢も違うし、魔法少女が抱える事情も考えも違うはず。
 願いを叶えたきっかけも、願いの内容も、平和的とは言えないと思うよ。
 国内と同じ感覚で接すると、こっちが利用されるかもしれない」
「なら、なおのこと浄化システムの範囲拡大は急ぐべきねぇ。取引材料として、
 これ以上の代物はないでしょう」
「取引?交渉じゃないの?」
「ユニオンは浄化システムを管理している。言い方を変えるなら魔法少女の命綱を握っている。
 同じ魔法少女相手に、これ以上のイニシアチブはないわぁ。宮尾時雨の言葉を借りて言うなら、
 国内と海外では考え方が違う。こちらが優位になる材料は必要よ」
「みんながみんな、友好的とは限らない。敵対的とも限らないけど、優位な立場がいいよね」
67 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 20:05:47.35 ID:EEyFH7CuO
「その通りよぉ、広江ちはる。環さんは、みんなを尊重するけど、他はそうとは限らない」

現に私たちは浄化システムを奪おうとしたことがある。

時女一族はシステムを分けてもらおうとした。

ネオマギウスは掲げた理念に従うものにだけ、システムを使わせることにしていた。

フォークロアはそもそも諦めていた。

「みんなで協力し合う考えには賛同だけど、私たちに対するような接し方をするのは危険ねぇ」
「国内の巫はまだ大丈夫だと思うけど、海外の巫は本当に分からないもんね」
「環いろはの考え方自体が稀有、というか奇跡だよ。ライフラインを握るってことは、
 それだけで他者を支配する側に立つことと同義。これから取引を持ち掛ける相手は、
 素性が全く分からない。利害の一致で協力するつもりで接したほうがいいかも」
「それに、海外となると別の問題が絡んできますが、ユニオン内で何人か協力を取り付けています」

いろはは、W計画について、エミリーの休憩所で得られた成果を報告。
それを聞いた結菜は、魔女殲滅までの過程で付きまとう問題が、いくつか解決すると安堵した。

「行先、順番、行軍日程、移動手段、言葉の壁、要員選別。このうち、後半三つは解決したわね」
「海外の魔法少女のことですが、アシュリー・テイラーさんの協力を得られればと思っています。
 あの人がいれば、同じ出身地の人が相手なら、話が通しやすいかも」
「アシュリー……初めて聞く名前ねぇ」
「私も初めて聞いたなぁ。外国の人の知り合いは、フェリシアちゃんしかいないや」
「ちはるちゃん。フェリシアちゃんは日ノ本出身だよ」
「そうだっけ?ごめん、勘違いしてた」
68 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 20:08:12.58 ID:EEyFH7CuO
「アシュリー・テイラー…思い出したよ。彼女は、僕と同じ学校に通ってる転校生だ。
 といっても、僕は彼女と殆ど交流がないんだよね。以前、ホラースポットがどうとか
 聞かれたことがあって、会話したのはそれくらいだったような……」
「実は、私も名前を知ってるくらいなんだ。だから、どう接したらいいか分からなくて。
 もしもの時は、アシュリーさんに会わせてもらうことはできるかな?」
「同じ学校にいるから、多分、話くらいはできると思う。彼女と知り合いの別の
 魔法少女がいれば、その人を通して話ができればスムーズかもしれない」
「時期が来たときは、お願いするね」
「う、うん……」
「海外のことを話していたけど、まずは国内が優先ねぇ」
「私も、国内の悪鬼殲滅を優先したほうがいいと思うな。自分たちの国が不安定なまま
 海の向こうへ渡っても、心に引っかかったままになっちゃう。海の向こうの巫たちの
 足手まといになっちゃったら、国内の魔法少女全員の印象が悪くなる」
「浄化システムは灯花様とねむ様ならきっとできるはず。魔女殲滅は国内を優先する。
 海外のことを考えるのは、それからでもいいと思う。アシュリー・テイラーへの相談も
 考えておくよ」
「みんな、ありがとう。魔女殲滅についは、こんなところかな」
「あと、未来の脅威がどうとか言ってたよね?何かを協力するって話だけど、
 それついても聞かせてもらえるかな」
「そういえば、そんな話もあったわねぇ。その話も聞きましょうか」
「思ったよりも早く、会合が進みましたね。未来の脅威のことですけど……」

いろはは、先日、みかづき荘で行われた会合の議題について話した。
実現性が高いとして、コールドスリープマシン開発が視野に入っていること。
もし、開発が決定した場合、科学技術だけでは足りない要素を補う必要があること。
その要素は魔法少女の能力と多くの魔翌力であることを説明した。
69 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 20:17:38.30 ID:EEyFH7CuO
必要となる要素は、桜子の提案と合わせて灯花が、W−3に手を加えた案にリストアップを済ませていた。
魔翌力を収集する方法と溜め込む方法は、ねむの提案を素案とした。
また、鏡の魔女結界の記憶読み取りと、それによるアリナの完全な雲隠への懸念から、W−3の存在は
リーダーおよび、代理人レベルに留めている旨を説明した。

「ミラーズの記憶読み取りは厄介よねぇ。そっちの対策は何かあるの?」
「それがまだ、考案中なんです。結界を被膜代わりにする案が出ましたが、
 アリナさんじゃないとできなくて……」
「求める能力を持ってるのが、何とかしようとしてる相手だなんて皮肉な話だわぁ。
 ミラーズの記憶読み取り対策も、追々考えるとして……W計画は、殆どが神浜の
 魔法少女の能力で占められてるのねぇ」
「もしかしたら、最低でも全国が選定対象になるかもって言われたんですけど、
 そこまでする必要がなくて、意外だったと言っていました」
「もう一つの資料は何かしら?」
「遠征と魔翌力収集の際に協力が欲しい、魔法少女の能力がリストアップされています」
「遠征は分かるけど、魔翌力収集って、具体的にどんなことをするの?」
「マシンの開発に魔翌力がたくさん必要になるなら、何らかの媒体に溜めこむってことかな?」
「魔翌力収集は、時女一族の七支刀をヒントに、媒体を開発しようって話になってるんだ」
「さっきから思っていたんだけど、誰かの協力を前提とした計画なのはわかったわ。
 W−3で名前が挙がっている魔法少女と、事前に話はついてるのかしらぁ?」
「いいえ。今度、別の会合があるんですけど、その会合の結論次第で話が確定します。
 先ほどもお話したことですが、ミラーズ対策の目途が立つまでは、W−3内容は
 他言無用でお願いします。ミラーズへの立ち入りも避けて下さい」
「七支刀がヒントって言われても、私じゃ決められない。今日の会合、
 すなおちゃんが出席したほうがよかったかも」
「これは素案だから、『これから協力をお願いしたいけどいいかな』っていう、
 確認をしようとしているんだよ。これを元に形を整えるが目的のはず」
「説明が足りなくてごめん。時雨ちゃんの言う通りだよ。今日の会合で何もかもを
 確定するわけじゃないの。それに向けての第一歩だと思ってほしいんだ」
70 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 20:26:19.00 ID:EEyFH7CuO
「そういうことなんだね。今日の話は持ち帰って相談するけど、静香ちゃん、すなおちゃんには、
 どうしても話をする必要があるよ。ミラーズ対策は分かるんだけど、それでもいい?」
「それは仕方ないと思う。ただ、話をする際にミラーズ対策のことも伝えてもらっていい?」
「分かったよ」
「環さん」
「なんでしょう?」
「あなたは私たちと対峙していた時、、独断で動いて味方を混乱させたことがある。
 さくやが存命だったころ、いつだったが、私たちとの交渉で、何をしようとしていたか
 覚えてるはず。あの時のことは、私たちもあなたたちも、深い傷跡を残しているわ。
 そして、その傷はまだ塞がっていない」
「それは……自覚しています……」
「まあ、今日の会合が今後を決めるための最初、ということなら問題ないのよ。
 あなたの独断で何もかも決める場ではない。その確認を取りたかっただけ」
「心配させてすみません」
「分かっていればいいのよ。それじゃ、W−3の資料に目を通しましょうか」
「誰と誰の能力が必要になるのかな?」
「……かごめちゃんの名前が入ってる?」
「うん。かごめちゃんも魔法少女になったんだ。自動浄化システムに未来永劫、
 干渉できないようにするってことで」
「そんな願いを、キュウべぇもよく叶えたわよねぇ」
「灯花ちゃんたちの願いも叶えたくらいだし、キュウべぇは契約さえ取れればいいんだよ。
 後に起きることは深く考えてないんだと思う」
「ここに名前が挙がってる巫とは、決定してから話をするんだよね?」
「うん。本音としては、W−3は実行せずに済めばいいと思ってる。
 アリナさんを発見できればいいけど、発見する方法が分からない。
 あの人の後輩の、かりんちゃんも行方不明だし……」
「コールドスリープが決まったら、誰かを未来に送ることになるよね……」
「今度の会合はまだこれからだから、本格的に考えるのはその後だけど」
71 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 20:36:38.20 ID:EEyFH7CuO
「海外の魔女殲滅までの過程は、これならなんとかなりそうねぇ」
「W−2は神浜の巫だけでチームが固められてるね」
「自分たちが言い出しっぺだから、なるべく自分たちの陣営だけでと思ったんだ。」
 懸念があるとすれば、現地の土地勘かな」
「地の利は常に、その土地と馴染み深い側にある。土地勘は、現地の魔法少女頼みねぇ」
「壮大な計画になるね。七支刀のことは、二人に話してみる」
「マギウスの計画の時より大掛かりかも。今日のこと、どうやってみんなに話そうかな。
 ミラーズの記憶読み取りの件もあるし、W−3は伏せるとして……」

その後、全員がすべての資料に目を通し終え、会合も終盤となる。
解決すべき課題が見えてきたところで、四陣営の代表者による会合は解散。
いろはを除く各陣営の代表者および、代理人は帰路につき、いろはは自室へ戻った。

「やることが山積みだ……」

ベッドに腰掛け、天井を仰ぎながら、いろは溜息とともに呟く。
会合後、報告を受けた灯花とねむは、会合で決定した内容をもとに計画を立て始めていた。
課題解決には、相当の時間を要するだろうと予想。
会合を振り返る中で疑問も生じ、外出していた他の住人が帰ってくるまで、それは続くのだった。


リーダー同士の会合から数日後、織莉子がキリカを伴ってみかづき荘を訪れた。
その日の議題は、行方不明中のアリナ発見方法と、鏡の魔女結果の記憶読み取り対策。
最初の議題に入る前に灯花とねむが宣言した。

「今日の会合だけど、結果次第でW−3……コールドスリープを実行に移すかが決まるよ。
 万が一に備えて準備を進めていたし、要員の選定も済ませてきたよ。だけど、あくまでも
 最後の手段のつもりなの」
「ミラーズの記憶読み取り対策は、僕と灯花で考えてきた。だから、今日はアリナ発見の
 方法だけを議題として、会合を進める。時間いっぱい、よろしくお願いするよ」
72 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 20:43:04.27 ID:EEyFH7CuO
コールドスリープマシンの開発は、織莉子との最初の会合時点で、既に視野に入っていたが、
準備は進めても実行は保留としていた。実現性はあったが、倫理とコスト上の問題がある。
W−3は準備だけで終わることが望ましいとして、会合は丸一日を使って行うこととなる。
思い付き程度でも構わず案を出し合い、出席者たちは議論を交わす。
だが、有用な案が出ないまま時間だけが過ぎていく。

議論を交わす中、キリカによるアリナの行方調査結果も、芳しくないと報告があがった。
アリナと所縁のある場所を虱潰しに廻って得られたのは、アリナを取り巻く現状だった。
栄総合学園の生徒に話を聞いたところ、アリナは登校しておらず、出席日数と単位の不足から、
このままでは留年が確定するという。

「現状だと、アリナ・グレイが進級するには、ほぼ毎日の補習が必要になるらしいよ。
 大学進学を予定していたらしいんだけど、それどころじゃなくなるだろうね。でも、
 ベストアートってのと比べたら、本人には些細なことなんじゃないかな」

また、他に得られた情報として、御園かりんが鏡の屋敷で倒れているのが発見された。
現在は里見メディカルセンターへ運ばれ、入院しているようだ。

「私たちの目が届かないところで、そんなことになってたなんて……かりんちゃんも……」
「こうなると未来の脅威の正体は、アリナで確定していいんじゃないかしら」
「まだそうと決めつけるのも危ないと思うけどなぁ。あとで違ってました、
 なんてことがあったらマズイよ」
「そうか?もう、あの怖いねーちゃんが、脅威の正体でいいんじゃね?」
「状況証拠みたいなものですからね。鶴乃さんの言う通り、もし違ってたら大変なことになりますし……」
「こんな時に言うのもなんだけど、私、アリナさんには命を助けられたことがあるんだ」
「あのアリナが……何があったんですか?」
「私が魔法少女になったばかりの頃、穢れの回収を止められなくて、魔女化しそうになった時に結果を張ってくれたの」
「|だけど、それとこれとは話が別。線引きは大事|」
73 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 20:45:56.65 ID:EEyFH7CuO
なお、前回の会合から今日までの間、織莉子は鏡の魔女結界を調査していた。
W計画を知らない知人に、鏡の魔女結界の調査を依頼していたという。
魔法少女のコピーを捕縛し脅迫、部屋同士を隔てる壁を破壊、結界の深い階層への侵入。
何れもアリナ発見には至らなかったが、それまで予想でしかなかったアリナと鏡の魔女の
結託が、コピーから得られた情報により、事実であることが判明した。

その後、会合は終盤に差し掛かり、ようやく出た案は三つ。

一つ目の案は”アリナを発見した未来”を予知すること。
二つ目の案は”目的の時間に通じる鏡を発見する未来”を予知すること。
だが、結論を言えば、織莉子はどちらの未来も予知できず、すぐに望みは潰えてしまう。

最後の案として、インキュベーターへ接触するという案が出た。
灯花は過去にインキュベーターのシステムへ干渉したことがある。
その経験を基にキュウべぇにアリナの居所を尋ねようと試みた。
しかし……

「あんなことをしておいて、よく連絡を取ろうなんて思えるね。その気持ちの割り切り方は
 称賛に値するよ。それはそうとアリナが願いで手に入れたアトリエのことだけど、あれは
 本人以外が辿り着くことは不可能なものだ」

という答えが返ってきた。そのうえ、

「アリナを引きずり出す願いで、誰かを契約させることも駄目だよ。
 魔法少女の新規契約を恒久停止することは、既に伝えただろう?」
灯花の先を読んだ答えが返ってきた。

百年後の未来を襲う脅威のことは
「それはキミたち人類の問題だ。ボクたちのエネルギー回収ノルマは達成された」

という答えが返ってきた。

そんなインキュベーターの対応を見かねて、織莉子が口を挟む。
74 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 20:50:51.51 ID:EEyFH7CuO
「キュウべぇ。古今東西、魔法少女はエネルギー回収ノルマ達成のために利用されてきた。
 願いを対価に魔法少女になったとはいえ、一応はあなたたちに協力してきた身でもある。
 全面的に協力をしろとまでは言わないけど、残された魔法少女と人類に、少しくらいは
 忖度があってもいいでしょう?」
「美国織莉子。忖度とは政治家の娘らしい言葉を使うね。そんなことを言うのなら、
 ボクたちは魔法少女にも人類にも、充分忖度をしたと言える。有史以前の年月、
 キミたち人類は何をしていたか」
「洞窟で暮らしていて、キュウべぇがいなかったら人類の発展はなかったのでしょう」
「その通り。キミたちは洞窟で身を寄せ合って暮らし、小さな火で夜の暗闇から逃れ、
 理解できない物事に恐怖する日々を送っていたんだよ」
「…………」
「そんな人類にボクたちインキュベーターは、この宇宙を延命させるという、
 極めて重要な任務を、奇跡への対価として与えた。今日までに魔法少女の
 多大な犠牲はあったけど、その甲斐もあっただろう。人類は多くの知恵を
 手に入れることができて、社会、文明を築いて、その恩恵を受けている」
「だ、だけど」
「それに、キミたち魔法少女の長い夜もようやく明けた。浄化システムは今や、キミたちの手中にある。
 ボクたちとしては、本当はそれを放っておきたくないんだけどね」
「だったら、どうして?」
「エネルギー回収ノルマを達成したことで、魔法少女の新規契約が不要になったからさ。
 キミたちとは、いざこざが絶えなかったが、有史以前から協力してくれていたことも事実。
 次の一手を打つことをやめたのは、お礼のつもりさ。これでもまだ何か足りないのかい?」
75 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 20:59:58.72 ID:EEyFH7CuO
「未来を襲う脅威の正体は、アリナ・グレイだと確信している。だけど、私の予知はぶれがある。
 私自身、正直なことを言えば自信がない。それでも何もしないままでは、人類に未来はないわ。
 せめて、脅威の正体を正確に知りたい」
「それなら、全面的な協力とまではいかないけど、せめてもの協力として、キミの予知能力を安定させよう。
 魔翌力消費も今よりは抑えられるようにもしておく。反映には時間を要してしまうけどね」
「どれくらいかかるの?」
「最長でも十年以内には反映されるよ」
「十年!?なんでそんなに?」
「一度、魔法少女に付与された能力に、後から手を加えるような試みは前例がないんだ。
 まったく別の能力へ変化させるわけではないから、それより難しくはないだろう。だけど、
 慎重にやらないとね。反映が完了したら際は、織莉子が変化に気付けるようにもしておく」
「分かったわ」
「これがボクたちができる、キミたち人類への最後の忖度だ」
「……そこまでしてくれて、どうもありがとう、キュウべぇ」

インキュベーターとの交信を終えると、出席者はそれまで得られた情報を整理。

現状を顧みて出した結論として、ついにアリナ発見を断念することになった。
W計画の存在は知られていないとはいえ、アリナは鏡の魔女と結託している。
これではアリナ発見は不可能と判断せざるを得ないと、全員の考えが一致した。

結局、W−3こと、コールドスリープが正式に採用された。
76 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 21:02:22.64 ID:EEyFH7CuO
「W−3の実行、決定しちゃったね……」
「僕も、薄々そうなる気はしていたんだ。だから、今朝も言った通り、準備も少しずつしていた。
 要員の選定だって、既に済ませてあるよ。あとは、誰を未来に来るか発表するだけだ」
「ミラーズとアリナがグルになってることを考えたときから、こうするしかないだろうって思ってたんだよね……」
「まさか、本当にアリナさんとミラーズが繋がってたなんて……。みんなで考えることなのに、
 灯花ちゃんとねむちゃんにばかり、負担を押し付けてるみたいでごめんね」
「それは気にしないで、お姉さま。気にするのは、これからのことなんだよ」

いろはたちが会話をしている間、織莉子は用意された麦茶を飲んで、一息ついた。

「……それにしても、十年以内ですか。今すぐ変化が反映されたとしても、
 未来で脅威が訪れることに、何の変わりもないのでしょうね」
「仕方ないと思うわ。あのキュウべぇが譲歩しただけでも奇跡ですもの」
「私たちがやることは、これからに目を向けることだよ、織莉子。前を向かなきゃ」
「美国織莉子。予知能力が安定したら、あなたにまた予知をお願いすることになるけど、それはいいかにゃー?」
「構いません。私も、もう少しはっきりした未来を視て、内容を伝えたいですし……」
「ありがとう。それと、わたくしはねむと一緒に、少し席を外させてもらうよ」
「いろはお姉さんの部屋を借りるね。そんなに時間はかからないよ」

そこで灯花とねむは一時離席。
出席者は休憩をとりつつ、灯花とねむが選定した要員の発表を待つことになった。


灯花とねむは、いろはの部屋を借りて持参したノートPCを操作。
いくつかのドキュメントを印刷して、クリアファイルに綴じていく。
人数分のクリアファイルの用意が揃うと、二人は居間に戻り、会合を再開。

「もういいの?」

いろはから尋ねられると、二人は小さく頷き、先ほど用意したクリアファイルを
出席者全員に配布し、灯花が未来へ送る要員を発表すると宣言した。
77 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 21:10:34.65 ID:EEyFH7CuO
「今配ったファイルは、W−1、W−2の草案。これは次回の会合で原案まで
 漕ぎつければと思っている。浄化システムは、広げる目途が立つまで時間が、
 まだがかかりそうなんだ。各自、あとで目を通してほしい」
「W−3のことだけど、コールドスリープする人数は三人、全員がユニオンメンバーだよ」
「どのような基準で選定を進めていたか、そこから説明させてもらうよ」

ねむは先ほどまで操作していたノートPCを、プロジェクターと繋ぐ。
スクリーンに画面を投影すると、データーベースを見せ、内容を説明する。
このデータベースには、マギウスの翼発足当時から今日に至るまでに収集した、
ユニオンと面識がある魔法少女の情報が登録されている。かごめの取材記録も
登録されおり、二人は以前から、このデータベースに登録された魔法少女全員を、
未来に送る要員を吟味・評価の対象としていたことを説明。

「全く面識がない魔法少女は、交渉に時間がかかっちゃうし、何かと都合が悪いんだよね。
 だから五陣営以外の魔法少女は、国内・異国を問わずに不可にしたの」
「かといって面識があっても、交流次第で信用・信頼の度合いも異なる」

交渉相手は交流の頻度が高く、お互いに信用・信頼を築いている魔法少女が望ましい。

その魔法少女は、戦闘力と能力、固有魔法、心理状態の健全度が優れていることが必須。

限られた資源と時間の都合上、人数は少人数で、選定条件をすべて満たしていなくても、

一つでも多く満たしていればよいとし、熟慮を重ねた結果、未来へ送る人数は最終的に
三名となり、先に述べた理由から三名とも、ユニオン内から選んだとのこと。

そこまで話を聞くと、やちよは恐る恐る尋ね、ねむが答えた。

「それで、その三人というのは……誰なの?」
「それは……」










由比鶴乃、二葉さな、柊桜子だった。
78 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 21:12:16.88 ID:EEyFH7CuO




その場の全員が沈黙した。
選出された三名に全員が視線を向け、視線を向けられた三名は困惑の表情を浮かべる。
そこへ、やちよが口を開いて沈黙を破り、いろはがねむに尋ねた。

「マシン開発に必要な能力といい、未来へ送る要員といい、都合よく神浜の魔法少女が選ばれるわね」
「ねむちゃん。これって本当に前から決めていたの?」
「……さっきも言った通り、W−3が決まった場合に備えて、要員の選定も進めていたよ」
「ユニオン内から選んだ理由は分かったよ。三人を選んだ理由を教えてもらえるかな?」
「鶴乃とさなを選んだ理由は、選定の基準とした内容を満たしていることの他に、
 ウワサと融合した経験があることと、融合した後も心身ともに健康だからだよ。
 ドッペルを発動できることは勿論、融合中はウワサの力も行使できたからね」
「桜子ちゃんが選ばれた理由は?」
「未来で目覚めた鶴乃とさなのために、桜子にはトレーナーになって欲しいんだ。
 百年もコールドスリープをした後では、戦線離脱して時間が経っている現状も
 踏まえると、まともに戦闘をこなせない可能性が高いし、他にも理由がある」
「|それは、どんな理由?|」

自身が選ばれた理由に触れられた桜子は、神妙な表情を崩さずねむに尋ねた。
79 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 21:15:04.27 ID:EEyFH7CuO
「桜子は調整次第で、他のウワサたちの力を取り込める」
「|どういうこと?|」
「……今まで言うまいと思っていたけど、僕の命は、もう長くない」
「|……!?|」
「自分の体のことは自分で分かるさ。みんなだって気付いているだろう」
「|…………|」
「いろはお姉さんは、ウワサを僕の本から、サーバへ移す検証をしたこと、覚えているかな?」
「さなちゃんがウワサと同化した時のことだね。でも、あの時は二度とやらないって……」
「そのつもりだったけど、事情が変わった今、それを撤回することにしたよ」
「これから、どうするつもりなの?」
「まずは、桜子を安全に本からサーバに移すために、アイ、キレーションランド、
 風の伝道師以外のウワサを、すべて力に還元。その力を桜子のサーバに与える」
「それって、他のウワサたちは納得するのかな……?」
「すんなり納得はしないだろう。反発は覚悟の上さ」

そこへ、俯かせていた顔をわずかに上げ、組んでいた脚を解いてフェリシアが口を開く。

「残れないウワサにとっちゃ、死刑宣告じゃねーか。なんでそんなこと、簡単に言えるんだよ」
「これは僕が死んだ後も、桜子を世界に存在させるために必要なんだ。
 それでウワサたちが僕を恨むなら、その怨嗟をこの身で受け止めるだけだよ」
「|ねむ、簡単に言わないでほしい。消される側にとっては深刻な問題|」
「…………」

フェリシアが口を開いたのをきっかけに、他のメンバーも再び口を開く。
さなが力に還元しないウワサについて、疑問を口にする。
80 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 21:16:53.86 ID:EEyFH7CuO
「風の伝道師のウワサは、かごめさんを守るために残すんですよね。
 アイちゃんとキレーションランドのウワサは、どうするんですか?」
「アイはさなと、キレーションランドは鶴乃と融合させる。鶴乃は融合状態で
 活動していた過去を顧みるに問題ない。さなにもウワサとの融合経験がある。
 だけど、限定的な状況だった上に、アイの性質上の問題も手伝って、さなが
 アイとの融合に完全に慣れるには、時間を要するだろう」
「あの時は、とてもざわざわした感覚がありました」
「電磁波の影響がそうさせたのだろう。影響を時間をかけて最小限にしてもらう。
 本当は皆無にできることが望ましいけど、融合状態の性質上の問題で最小限が
 限界だと思う。それまでは、精神的な負荷の高さに悩まされるはずだ。環境を
 変えないと、日常生活に支障が出てしまうだろうね」
「……というと?」
「みかづき莊のみんなには申し訳ないけど、さなには北養区への移住をお願いしたい」
「あ、あの……それって……私は、みかづき荘を出て、生活する必要があるということですか?」
「北養区の一角に、さなが生活する場を用意するよ。本当に申し訳ないが、これは必須事項だ」
「|ねむ、ウワサを魔翌力に還元する話だけど|」
「なんだい?」
「|ウワサのみんなは、仮初とはいえ生きている。私のために消されると知って
  平気でいられるはずがない。ウワサたちをどう説得するつもり?|」
「僕の勝手で生み出して、僕の勝手で消すようなことはしたくない。だけど……
 桜子も含めて、ウワサたちは僕の命が尽きれば消えてしまう。」
「|それは分かってる。だけど……|」
「遅かれ早かれ、ウワサたちの未来は、創造主たるボクが決めないといけなかった。
 今回の一件で時期が早まったに過ぎないよ」

そこへ、フェリシアが不満を挟む。
81 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 21:19:32.24 ID:EEyFH7CuO
「なぁ、さなが家を出なくても済む方法はねーのかよ?」
「アイと融合した状態のさなは、電化製品が近くにあるとそれだけで影響を受ける。
 騒音が流れるヘッドホンをつけたまま生活するのも同じだ」
「ストレスを少しでも軽くするには、ねむの提案が一番だと思うよ」
「さなも、常にそんな状態では未来で不便を被ると思う。アイとの融合状態を
 オンオフできるように、ウワサを書き換える必要もある」
「本当にどうにもなんもねーってことか?」
「悪いけど、これはどうにもならない。さなは、みかづき莊を離れて一人で暮らすことになる。
 その代わり、さなの生活は僕がバックアップさせてもらうよ」
「さな……」
「ウワサをサーバに移すには、ウワサを書き換える時間が必要になる。
 住居の用意もすぐとはいかないから、みかづき荘を出るのは、今すぐという話ではない。
 マシンの開発も含めて準備が色々と必要だ」
「そうですか……。あの、本当にウワサをサーバへ移しても大丈夫なんですか?」
「言いたいことは分かるよ。過去の検証で起きたことは忘れていないさ。
 危険と判断して止めたけど、ウワサとの融合は二人も成功例を得られた。
 だから、そちらの研究は続けていたんだ。もっとも、シミュレート上での
 研究しかできなかったけどね。それから……」
「なんでしょう?」
「アイとの融合は、さなが一般人から姿を認識されない状態に、変化を齎せるかもしれない」
「それって……!」
「再びさなが魔法少女以外からも、認識されるようになるかもしれない。
 ただ、あくまでも可能性でしかないから、期待はしないで欲しい」
「だ、だけど、少しでも可能性があるなら、やっぱり期待はしたいです……」

さなはそこで会話を終えて、ういが入れ替わりに口を開く。
82 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 21:26:30.45 ID:EEyFH7CuO
「浄化システムは私がいないと消えちゃう。どうして私がメンバーに選ばれなかったのかな?」
「それは既に手を打ってある。いつか灯花が開発したゲームが役に立つ」
「リトルバケーションを覚えてるかにゃー?」
「あ……最近、すっかり忘れてた……」
「リトルバケーションに、ういのアバターを作って、紅晴結菜の対象変更でコアをアバターのういに移す。
 あとは設定を弄って、相応の環境と機材、電力を確保するんだよ。これについては、わたくしとねむで、
 あてがあるから大丈夫だよ。ミラーズ対策も考えておいたからね」
「そうだ、記憶読み取り対策!どんな方法?」
「能力の解釈が間違っていたら考え直しだけど、梢麻友の中止の能力だ。聞いた限りでは、
 この能力は、相手の行動を止めさせることができるらしいんだ。だけど、相手がこちらを
 再度認識した場合は、効果が切れてしまうみたいなんだ」
「だから、何かの能力と合成できれば、記憶の読み取り対策もできるかもしれない」
「合成かぁ。梢さんと藍家さんの能力と……まだ足りないんだよね?」
「意外かもしれないけど、春名このみ能力と合成すれば、いけるかもしれない」
「私と同じ附属の先輩だ。どういう能力を持ってたかな?」
「手元にある情報では、文字通りの意味で花を添える能力だよ」

灯花が春名このみの能力を説明すると、フェリシアが疑問をぶつけた。

「待て待て。花が何の役に立つんだよ?」
「確かにこの能力単体だと、だから何としか思えないよー」
「本当にただ花を添えるだけらしいからね」
「だけど、花を添える能力に中止の能力を合成すれば、花を記憶読み取り防止の
 装飾品にできる可能性はある。花がW計画協力者の目印にもなるだろう」
「記憶が読み取られたかどうか、判断する方法はないんだよねー。気休め程度にしか
 ならないかもだけど、何もしないよりはマシなんだにゃー」
「それじゃあ今度、梢さんと春名さんに連絡しないと」
「いろはさんは梢さんと面識がないと思いますから、同じ学園に通う私が接触してみます。
 代わりに、いろはさんは春名さんへ依頼していただけますか?」
「分かったよ。ありがとう、さなちゃん」
83 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 21:47:26.49 ID:EEyFH7CuO
「流石は里見さんと柊さんね。ミラーズ対策も考えてるんですもの」
「あまり期待されると、それはちょっと困るにゃー。希望的観測の領域は出ていないし……」
「ねむちゃん。話は戻るんだけど、桜子ちゃんを安全にサーバに移せる保証はあるのかな?」
「理論上では、ウワサの力を付与したサーバであれば、安全に移せるよ。
 検証を止めた日以来、知古辣屋零号店のカカオマスには、再び魔翌力を溜め込んでいるんだ。
 その魔翌力を使ったところで、カカオマスの役目も最後となってしまうけど」
「寂しくなるね……」
「ウワサを移す件だけど、当時の失敗を顧みて、手順を練ってから実行に移すよ」

鶴乃も続いて口を開いて、ねむに質問をする。

「それで本当に、あのアリナを何とかできるのかな?
 まだ脅威がアリナだとは断定できてないけどさ」
「断定はできてないけど、未来で再びアリナが現れると仮定する。その時のアリナが、
 どれほどの力を有しているのか、現状では全く分からないんだ。だけど、アリナに
 勝てる可能性を少しでも高めたいと考えている。故に、先に述べたウワサ以外を、
 すべて魔翌力へ還元して、桜子を世界に繋ぎとめる糧とするんだ。僕の存在なしで、
 未来で桜子が実体を維持するには、他に方法がない」
「|……ねむ、灯花。対価を用意するって言ってたけど、具体的にどうするつもりなの?|」
「可能な限り本人の意思を尊重して、僕たちにできる限りの範囲で願いを叶えるよ」
「キュウべぇにしかできないようなことは、さすがにわたくしたちでも無理だけどね」

そこへ、織莉子も再び口を開いて、未来へ要員を送る手段に疑問を投げた。
84 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 21:48:27.39 ID:EEyFH7CuO
「灯花さん、マシンは実現するための技術が、まだ存在しないはずでは?」。
「あなたの言う通り、技術はまだ存在しないよ。一朝一夕で用意なんて、いくらわたくしでも
 無理なんだにゃー。遺体を冷凍保存するのとは違って、現在の技術では、生きている人間を
 安全にコールドスリープさせることは、できないんだよ」

そこへ、疑問を抱いたいろはが灯花に尋ねる。

「冷凍保存とコールドスリープって、どう違うの?」
「前者は死んだ人間を保存して未来の技術で蘇生させるもので、クライオニクスともいうよ。
 後者は生きている人間を、生存に必要な資源を節約すると同時に、身体の老化を極限まで
 遅らせようというものなんだよ」
「もののついでだけど、ハイパースリープや人口冬眠も同じ。言葉は違うけど意味は一緒だよ」
「もっとSFに触れておけばよかったな……。遺体を蘇生するって、そんなことが可能なの?」
「あくまで未来の医学技術に期待するものであって、絶対に蘇生ができる保証はないよ。
 医学技術が発展していることが前提だし、無駄に終わる可能性もあるからね」
「では、どうやって計画を実現させるのですか?」
「世界中の魔法少女の能力を調べた結果、能力の組み合わせ次第で、今すぐではないけど実現可能だよ。
 どうしても準備に時間はかかるけど、なるべく早く用意を整えるよう、善処はするからね」
「私の予知が、今よりも正確性が高くなってからでは遅いですか?」
「わたくしもそれがいいとは思っていたけど、最長で十年近くもかかるのを待つのは無理かな。
 魔法少女の魔翌力は、年を経ると回復しにくくなるし、今も力が落ちてきている魔法少女がいる。
 絶好調の魔法少女もいるけど理由は分からない。これまでがこれまでだし、悪い予感がするよ。
 それを考えると、準備ができたら、すぐに未来へ送り出すしかないんだよね……」
「……無理を言ってすみません」
「気にすることは、未来へ行く三人のことだよ」
「そう……でしたね……」
「|…………|」
85 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 21:55:46.06 ID:EEyFH7CuO
その後、鶴乃、さな、桜子からは、考える時間が欲しいと返事があった。
織莉子とキリカが帰路に就く時間も迫ったため、その日は解散。
最後にかごめがキリカに取材を行った。

キリカがかごめに語った内容は、自身の存在が織莉子のためにあること、
織莉子がいなければ自分は今、ここに存在していないということだった。

「私と織莉子の出会いは今でも忘れられない。運命というものがあるなら、
 あの出会いのことを言うんだろう。私は私の失敗で、自分の在り方と今後を
 肯定してくれる誰かが必要だった。私のすべては織莉子のために……」

自身の主を絶対と仰ぎ、その主に対する忠誠心の高さを見て、かごめの
脳裏に二木市の二人の魔法少女が過った。


取材を終えた後、織莉子とキリカは見滝原市へ戻った。
灯花は三人に、後日、決心が固まったら自分を訪ねるように伝えると、
ねむと桜子を連れてみかづき荘を後にした。
来客が全員帰宅した後、居間を沈黙が包み、無言で全員が自室に戻った。


自室に戻った各々は夕飯の時間になると、やちよから声をかけられて再び居間へ集まる。
その日の夕飯は、やちよがすべて用意し、食事を終えても会話はなかった。
だが、沈黙に耐えかねたのか、フェリシアが口火を切る。
86 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/28(木) 21:56:29.91 ID:EEyFH7CuO
本日はここまでです。続きは明日以降に。
87 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/29(金) 21:33:38.64 ID:yMS2cceDO
>>85からの続き

「なぁ、いつまで黙ったままなんだ。何も言うことないのかよ?」

顔を向けられた鶴乃は、思わず目を逸らして呟いた。

「それは、その……」
「鶴乃、さな……二人とも、本当にこのままでいいのか?」

次に顔を向けられたさなも、目を逸らして呟いた。

「そう言われても……」
「オレ、分かんねーよ。なんで受け入れられるんだ?二度と会えなくなるんだぞ?」

鶴乃とさなを攻め立てているようにも見えるフェリシアの様子を見かね、
横からやちよがそっと声をかけ、いろは、ういが続く。

「フェリシア、二人ともまだ現実感がないのよ」
「百年も先の未来のことなんて、私も想像できない。アリナさん…いや、アリナはベストアートを、
 未来で完成させようとしているんだと思う。だけど、そんな実感が全然わかないよ」
「お姉ちゃんと同じ意見だけど、私も本当のことのように思えないよ……」

三人の返事を聞いて、鶴乃とさなが答える。

「気を使ってくれてありがとう、フェリシア。ししょーの言う通り、今日のことが本当のことじゃないみたい」
「フェリシアさん、ごめんなさい。私も、ずっと考え込んでいて、頭の整理がまだ追いついていなんいです」
「さっきからずっと、頭の中がぐるぐる回りっぱなしなんだよ。織莉子が来た日から会合が何度かあって、
 浄化システムが返ってきて、生き残ってる魔女を全部、殲滅しないといけなくて……」
「……みなさん、すみません。今日はもう部屋に戻らせていただきます。ごちそうさまでした」
「私も、今日は泊まらないで家に戻るよ。お父さんに今日のことは話せないけど、私も考えをまとめたいから」
「分かったわ……」
88 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/29(金) 21:37:06.16 ID:yMS2cceDO
その日、鶴乃は食事を摂る前に帰路につき、さなも部屋へ戻った。
あとに続くように、いろはとういも部屋へ戻ったが、フェリシアは居間に残って考え込んでいた。
いろはたちが部屋に戻ったのを確認すると、やちよが声をかけた。

「……あなたが正しいわ」
「やちよ?」
「百年も先の未来に送られることになって、冷静でいられるわけがない。
 もし、選ばれたのが私だったら、どんな気持ちだったか」
「そんなの、鶴乃もさなも…桜子は分からねーけど、頭がこんがらがってると思うぜ」
「そのはずよ。私は、悪い意味で現状に慣れしまったのかもしれない」
「……何が言いたいんだ?」
「マギウスの翼が存在したころ、私たちは里見さんたちが掲げていた、魔法少女至上主義を否定したわ。
 未来の魔法少女のために、現在を生きる人類を、魔法少女を犠牲にするべきではないと。……でもね、
 あの頃から時間が経つにつれて、これも仕方がない、容認するしかないとか、少しずつだけど、確実に
 考えが変わってきたと思う。当時と現在では取り巻く状況も違う」
「だから、鶴乃たちが未来に送られることも、受け入れるしかないってか?」
「……他にどうすればいいのか、私には分からない。フェリシアは、三人の代わりに志願する?」
「そ、そりゃあ……」

「私もできないわ」
「……結局、何を言っても我儘にしかならねーんだな。鶴乃たちが行くの嫌だからって、
 オレが代わりに未来に行くかって言われてたら、行きたくねーもん」
「…………」
「すまねぇ、愚痴ばっかりで。まだ頭がこんがらがってんだ。難しい話ばっかだったし」
「私もSFチックなところは自信がないわ」
「……今日は頭が疲れたから、もう部屋に戻る。おやすみ、やちよ」

フェリシアが部屋に戻るのを確認すると、やちよも自室に戻った。
空気の重さは変わらず、その日は全員が早々に寝床に入り、一日を終えるのだった。
89 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/29(金) 21:41:37.64 ID:yMS2cceDO
二回目の織莉子との会合を終えた翌日。
鶴乃はいつもの時間にみかづき荘に現れず、考えが纏まるまで来訪を控える連絡があった。
さなも家出をしたはずの義実家に戻り、鶴乃と同じ理由で一時的にみかづき荘を離れた。
折り合いがついたら戻るという二人の言葉を信じ、桜子のことは灯花とねむが引き受けたが、
桜子が本の中に入ったきり、外に出てこないという連絡が入った。

『声をかけても返事をしてくれないんだ。あんなことを言った手前だから、
 無理もないとは思ったけど、正直、わたくしたちも堪えてる』
「灯花ちゃん、本当に鶴乃ちゃんたちじゃなきゃいけなかったのかな?」
『何度もねむとは話し合ったし、本当に何度も考え直したよ。神浜市だけでも
 百人以上も魔法少女がいる中、W−3に適任だって思えたのは、最強さん、
 透明人間さん、桜子だったんだよ』
「私じゃダメだったのかな?」
『いろはお姉さまはユニオンのリーダーで、代わりを担える人はいないよ。
 他の陣営と協力し合えるようになったは、お姉さまがいたからだもん』
「…………」
『三人に絞り込む前、候補に挙がった人の中には、やちよお姉さまと、ももこもいた』
「やちよさんとももこさんも?」
『だけど、やちよお姉さまは絶好調の理由が分からないし、いつ魔翌力が衰退してもおかしくない。
 十咎ももこは、家族も仲間もいない環境じゃ、精神が持たないかもしれない。そうじゃなくても、
 バッドタイミングっていう不確定要素は、存外馬鹿にできない』
「家族……仲間……灯花ちゃん、もしかして、鶴乃ちゃんとさなちゃんを選んだ理由は……」
『お姉さま、ねむが代わってほしいって』
「ねむちゃんもそこにいるの?」
90 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/29(金) 21:45:46.59 ID:yMS2cceDO
『お姉さん、先日はお疲れ様。未来に送るメンバーのことなら、僕から話させてもらうよ。
 要員の選定は二人で行ったけど、最終決定は僕がしたんだ』
「そうだったんだ」
『ここから先の話は、いろはお姉さんの中だけに留めてほしい。約束してもらえるかな?』
「約束するよ!」
『……実は鶴乃の父は体調不良で、メディカルセンターに通院してるんだ。鶴乃は父親が
 風邪を患ったと思ってるけど、もっと深刻な病を抱えているよ。それを知った理由だけど、
 そこは察しが付くと思う』
「……カルテ?」
『うん…。要員の選定を進める中で、家族の有無も判断材料も含まれていた。どの程度、
 家族に対して未練があれば、まず精神が持たないからね。さなは、比較的早い段階で
 要員に決まって、桜子は一番最初に決まったんだ』
「ということは、三人目をどうするかが問題だったと?」
『そうなんだ。やちよお姉さん、十咎ももこの他にも候補に挙がった人はいるよ。
 だけど、最終的に選んだのは鶴乃だった。はっきり言うけど、家族を持たないか、
 家族がいても自立心がある魔法少女のほうが、都合がよかった』
「もしかして、鶴乃ちゃんのお父さんは……」
『……あと一、二年で答えが出るよ』
「鶴乃ちゃん……」
『あと、要員の人数が三人である理由は。ナッシュ均衡に基づいている』
「ナッシュ均衡?」
『細かく説明すると一日では終わらないから、申し訳ないけど、詳細はいろはお姉さんで
 調べてほしいんだ。そのうえで聞きたいことがあれば、メールを送ってくれるかな?』
「ねむちゃんに送ればいいんだよね。分かった」
『今日は愚痴に付き合ってくれてありがとう。そろそろ電話を切るよ』
「私こそ、質問に答えてくれて助かったよ。それじゃあ」

いろはは電話を切ると、考えを切り替えてW計画へ集中することを決め、みふゆに連絡を取った。
昨日の会合でW−1、W−2の草案を受け取ったことを聞いたみふゆは、さらに翌日の午前中に、
みかづき荘へ内容確認に訪れ、事態の深刻さに表情を曇らせた。
91 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/29(金) 21:50:02.61 ID:yMS2cceDO
「鶴乃さんたちのことも気になりますが、折り合いがつくのを待つしかありませんね」
「私たちにできることは、何もないということですか?」
「灯花とねむの提案を覆せる代案があれば、提案するのもいいかと。ですが、何かありますか?」
「……いいえ」
「……ワタシも同じです」
「灯花ちゃんとねむちゃんに頼りきりで、今更何も言えなくて……」
「冷たい言い方になってしまいますが、本当にできることがないんですよ。
 それとも、鶴乃さんかさなさんの代わりに、いろはさんが志願しますか?」
「…………私には…………できないです」
「…………」
「すみません。余計なことを言って」
「……話を変えますよ。それよりも草案のことです」
「えぇ」
「原案ではなく、成案となるのは時間の問題です。W−3が決定した今、W−3に協力が必要な
 魔法少女との会合を設けましょう。いろはさんは、衣美里さんに連絡を取って下さい。この前と
 同じように、場所を貸していただけるか尋ねて下さい」
「はい。その後は、同じ学校のれいらさんから連絡します」
「すみません、いろはさんは、他の陣営で協力が必要な方へ連絡をお願いします。
 ユニオン内で名前が挙がっている方には、ワタシから連絡をします。ワタシは、
 他の陣営の方との交流が少ないので、いろはさんでなければ駄目なんです」
「わ、分かりました。ユニオンのみんなへの連絡は、みふゆさんにお願いします」

そこからは、いろはの予感通り、事態は急展開を迎えた。
灯花とねむに、W−3へ協力が必要な魔法少女との会合開催を報告すると、鏡の魔女結界の
記憶読み取り対策として、梢麻友と春名このみも招集するよう要請があり、その週の休日には、
全員がエミリーの休憩所へ集合した。
92 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/29(金) 21:59:11.43 ID:yMS2cceDO
W−1、W−2の時と同じくいろはが主催、みふゆが副主催として会合に臨んだが、この日は、
W−3の草案を急遽練り上げた、灯花とねむも参加。素案ではなく草案なのは、事態の重さを
伝える策であると、いろはとみふゆに灯花が語った。

御園かりんは入院中のため不参加だったが、その日に彼女の見舞いに向かった、十咎ももこと
水波レナ、秋野かえでの三人から、かりんの協力を取り付けたと会合中に連絡が入る。
かりんはアリナと近しいことから、W計画の存在は伏せ、ヒヒイロカネの開発を試みているという、
カバーストリーを立てた上で接触し、協力を得たという。

会合の出席者の中には、粟根こころの身を案じたのか、加賀見まさらと江利あいみがいた。
また、三栗あやめには、遊佐葉月と静海このは、伊吹れいらには、桑水せいかと相野みとがおり、
会合は慎重に進められた。

「私の能力ですけど、花を添えるだけの能力が、本当に役に立つんですか?」
「私の中止の能力と合成すると聞きましたけど……」
「私チャンが二人の能力を合成して、花をアクセにするんっしょ?」
「それでうまくいくかは、まだ分からないんだ。ただの気休め程度にしかならないか、 こちらの目論見通りになるか」
「ミラーズは迂闊に手を出せないから、最後に始末をつけることになると思ってるよ。
 作戦通り対策できれば、ミラーズ攻略もだいぶ楽になるんだにゃー」
「いろはさん、私からもいいかな?せいかから質問があるみたいで」
「何でしょうか?」
「自分の能力も隠蔽だけど、莉愛さんの能力も隠蔽。自分も協力できないかって」
「それはありがたいんですけど、同じ隠蔽でも、性質が異なることが理由で、莉愛さんに協力を仰ぎました」
93 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/29(金) 22:00:13.63 ID:yMS2cceDO
「私と桑水さんの隠蔽は、どう違うというの?」
「それは僕から答えさせてもらうよ。あなたの隠蔽は事実を、桑水せいかの隠蔽は
 一時的に姿を隠すもの。コールドスリープで未来に鶴乃たちを送るには、長期間、
 外部から収容施設自体を隠すことが、安全を確保することにも繋がる」
「そう……いう……」
「なるほどね。私からの質問は以上よ」
「おーっす!あちしからもいいかな?」
「あやめちゃん、どうぞ」
「あちしの能力はどう使うの?」
「マシンの長期間の保護ができるだろうと踏んでいる。ワルプルギスの夜襲来時、
 多くの魔法少女を守り通した事実もあるし、きっと可能だと思う」
「こりゃ驚いた。あやめも高く評価されるようになったもんだね」
「流石は私たちのあやめね」
「次は私からいいかしらぁ?」
「紅晴さん、どうぞ」
「リストに挙がってる魔法少女の能力は、私の対象変更でマシンに移すのよね?」
「藍家さんの合成とも合わせて、その想定です」
「私は構わないのだけど、実行するのはいつになるわけ?」
「マシンの完成次第だよー。と言っても、現在の技術だと冷凍保存が限界だから、
 冷凍保存装置を組み上げて、そこに能力を合成するの」
「それでうまくいく保証は?」
「未知数だけど、インフラさえ無事なら、マシンは百年以上稼働が可能だよ」
「環さん、私も!」
「静香ちゃん、どうぞ」
「七支刀の件だけど、七支刀を野放しにはできないから、必要になったときに貸すわ。
 それと、その時は私も一緒に立ち会わせてほしいんだけど、それもいい?」
「もちろんだよ」
94 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/29(金) 22:04:03.61 ID:yMS2cceDO
「で、七支刀をどう使うんだっけ?」
「七支刀は、わたくしの知り合いの研究所にある大型機械で、解析にかけるの。
 それからどうするかは、一緒に来てもらえれば分かるよ」
「そうさせてもらうわ」
「あたしからも!」
「あやかさん、どうぞ」
「話がずっと進んでるとこで悪いんだけど、一人足りないよね?」
「氷室さんのことですね。それが……」

氷室ラビは、リーダー同士の会合以降も、連絡が取れなかった。
湯国市に赴いているという情報が入った日以降、それ以上の動きは不明。
不在の理由が理由なだけに懸念は拭えなかったが、できることがないと回答した。
その後、出席者全員からW−3への協力を取り付け、会合は解散。
いろは以外の出席者は所用のため帰宅し、いろはは一人残って後片付けに入った。
その片付けも終わろうとしたとき、十咎ももこが訪れた。

「おっす、いろはちゃん」
「ももこさん、どうしたんですか?」
「今日、ここで会合してるって聞いたからさ。帰りがけに寄ってみた」
「わざわざ、ありがとうございます」
「見た感じ、片付けも思わってるのかな。バットタイミングっぽいね」
「あとは部屋の鍵を衣美里さんに返して、帰るだけです」
「もう少し早く来れればよかったんだけど、ごめんね。かりんちゃんのことで、話しておこうと思って」
「何かあったんですか?」
「協力は得られたんだけど、ちょっと困ったことになっててさ」
95 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/29(金) 22:27:01.14 ID:yMS2cceDO
ももこが語る話では、かりんは鏡の魔女結界内部でアリナと接触したようだ。
鏡の屋敷で倒れていた理由を尋ねたところ、、かりんはアリナに、アリナ・グレイ改心計画を選んでもらえなかったという。
鏡の魔女の元となった、瀬奈みことという魔法少女の意識体が結界中枢におり、利害の一致からアリナは手を組んだらしい。

「アリナ・グレイ改心計画って、一体…」
「内容を聞いてみたんだけど、いろいろコメントに困る内容でね……」

ももこは、かりんから受けた説明を要約し、悪さをしてきたアリナが考えを改めるものらしい。
しかし、その改心そのものは、外的要因で成されるものではなく、アリナ自身が心を入れ替えるという、
他力本願ならぬ、アリナ本願のようなもので、とても計画とは言い難いものだった。

「それで、最後なアリナ・グレイ進化計画を取ったと」
「そうらしいんだ。もう一度、アリナたちに接触しようとしたけど、今度はコピーの大群に襲われたみたいでさ。
 多勢に無勢で、命からがら結界を脱出したところで、倒れてたみたいなんだ」
「かりんちゃんは、かりんちゃんで動いてくれてたんですね。」
「いろはちゃん。織莉子って人が視た未来って、アリナ・グレイ進化計画が成功した未来なんじゃないかな?」
「ミラーズとの繋がりも、これではっきりしましたし、もう断定していいと思います」
「そうだな。アリナはミラーズから百年後の未来へ渡って、そこで進化計画とやらで、ベストアートを完成させるつもりなんだ」
「私たちがミラーズに入っても、未来へ渡れる可能性は皆無です。みかづき荘に帰ったら、みんなに話をします」
「そうしてもらえると助かるよ」

いろはは、ももこと共にエミリーの休憩所を後にし、途中で別れて帰路についた。
既に夕飯が準備されており、他の住人は先に済ませていたため、食事を一人済ませると、やちよに声をかけた。
96 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/07/29(金) 22:27:52.99 ID:yMS2cceDO
本日はここまでです。続きは来週月曜日以降に。
97 :保守 [保守]:2022/07/30(土) 13:16:01.19 ID:m1iIBvsZO
保守
98 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/02(火) 00:17:38.22 ID:pmCWzXx2O
>>95からの続き

「今日の会合の報告ね」
「はい。W−3はそれと、アリナのことでももこさんから情報が」
「何があったの?」
「かりんちゃんが、ミラーズでアリナ・グレイと接触していたそうです」
「マジかよ!じゃあ……」
「でも、アリナのことは止められなかったって」
「かりんさんは、どうやってアリナさんと会ったんだろ?」

御園かりんがアリナ・グレイと接触することができた理由は、瀬奈みことの手引きだった。
普段なら結界に立ち入るや否や襲ってくるコピーが、一体の秋野かえでのコピーを除いて
全く現れず、アリナと会うことを望むかりんを結界中枢まで引き込んだ。そこでアリナと
みことに会ったかりんは、過去の歴史の数々と、アリナ・グレイ進化計画を知ることになり、
アリナから一つの約束を言い渡された。

「その約束って?」
「瀬奈みことが神浜市を滅ぼすことができたら、アリナは滅びを追求し続ける。
 失敗したら、かりんちゃんのアリナ・グレイ改心計画に乗る、だそうです」
「なんだよ、そのダッセー計画名」
「名前は変かもしれないけど、かりんさんは真剣だと思うな。そうじゃなかったら、
 たった一人でミラーズに乗り込むなんて、無茶するわけないと思う」
「前提がまずおかしいのだけど、そんなことアリナ相手には今更過ぎるか。
 それはそうと、御園さんは結界の外で倒れてて、病院に運ばれたわけね」
99 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/02(火) 00:19:32.69 ID:pmCWzXx2O
「はい。ももこさんからの又聞きなので、詳細は分かりませんが、 アリナはアリナ・グレイ進化計画を選んだみたいです」
「……そう、分かったわ。これで方針は完全に決まったわね」
「えぇ。鶴乃ちゃんたちには悪いとは思いますけど……」
「アリナに会えたなら、また会いに行けばいいんじゃね。かりんだったらいけるだろ」
「もう一度結界に入ったら、今度はコピーに襲われたんだって」
「それで病院に運ばれたのか」
「私は、灯花ちゃんたちに今日のことを報告して、浄化システム方の 進捗状況を聞いてみます」
「分かったわ」
「ところで、鶴乃ちゃんとさなちゃんから、何か連絡は……?」
「二人とも何も連絡してきてないわ」
「そうですか……」
「……オレは鶴乃とさなを信じてる」
「きっと、落ち着いたら戻ってきてくれると思うな」
「……そうだね」


同日の夜、いろはは灯花に連絡する前に、織莉子へ連絡を入れた。
織莉子との最初の会合終盤、アリナの行方調査の件で、情報漏洩してしまったと気にしていた。
心配がない旨を伝えたところ、複雑な心情を思わせる声色で礼を告げた。

『アリナ・グレイはミラーズから未来へ渡ってしまったのですね、いろはさん』
「……うん。鏡の魔女とアリナの結託が確定したんだ。織莉子ちゃんの予知は
 間違っていなかったんだよ」
100 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/02(火) 00:21:39.60 ID:pmCWzXx2O
『そうですか……』
「…………」
『コールドスリープマシンの開発は、どこまで進んでいますか?』
「材料の開発が始まっているところで、マシンそのものの完成は当分先だと思う」
『分かりました。私に他に協力できることはありますか?』
「うーん……マシンの開発に、膨大な魔翌力が必要になるんだ。織莉子ちゃんからも魔翌力を
 分けてもらえると助かるんだけど、大丈夫かな?予知には、魔翌力をかなり消費するって
 前に聞いたから……」
『確かに魔翌力消費量が大きいですが、最近はキュウべぇが手を加えた、魔翌力消費量の改善が
 反映されてきて、能力も安定してきているんです。最長で十年かかるとは言ってましたけど、
 思いのほか早く反映されているので、多少の協力はできると思います』
「本当に大丈夫?」
『今すぐは無理ですが、もう少し時間が経てば』
「ありがとう、織莉子ちゃん」
『他に何かありますか?』
「今日はそれだけ伝えたくて電話したんだけど…そうだ、もう一ついいかな?」
『なんでしょう?』
「織莉子ちゃんは、最近、犯罪組織絡みの事件が増えたこと知ってる?」
『あまり意識はしていませんでしたけど……テレビやラジオで、そういうニュースを聞く
 頻度が高くなった気がします。そういえば最近、十代の少女が十人以上救助されたとか、
 報道があったばかりでしたね』
「やちよさんが言ってたんだけど、キュウべぇが星から撤退するって言った日から、
 そういうニュースが増え始めたんだって。エネルギー回収ノルマが達成されたり、
 織莉子ちゃんの能力を改善したり、百年後の未来がどうこうの前に、近いうちに
 よくないことがありそうで……」
101 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/02(火) 00:25:29.63 ID:pmCWzXx2O
『いろはさんのおっしゃる通り、このところ、私たちに都合のいいことが多いですね。
 だからこそ、危険が近くに迫っていると考えるべきなのでしょう』
「織莉子ちゃんは、犯罪組織の事件のニュースとキュウべぇの撤退は、何か関係あると思う?」
『そうですね……断言はできかねますが、無関係ではないように思えます』
「……私もなんだ」
『……いろはさん。アリナ・グレイの件は、方針が決まりましたし、準備も進んでいる。
 私は、最近発生している事件と、キュウべぇ撤退の関連性を調べてみようと思います。
 一先ずの結果は、次の会合でお伝えします』
「分かった。ありがとう」
『いいえ。こちらこそ、本日は態々連絡をくださって、ありがとうございます。
、次の会合でまた会いましょう。おやすみなさい』
「おやすみ、織莉子ちゃん」

織莉子との電話の後、いろは灯花とねむへ連絡を入れたが、二人とも不在で桜子が応対した。
桜子の話では、電波望遠鏡の設備では足りない研究に取り掛かっており、別の施設に数日間、
泊まり込みで向かっており、戻るのは翌日以降だという。

「|灯花とねむに何か伝えることがありなら、私が聞く。何かあった?|」
「ももこさんからの情報なんだけど、かりんちゃんがアリナとミラーズで……」


「わたくしたちがやることは、はっきりしたよ」
「元々予感はあったけど、これでW計画の草案は、すべて成案に持っていけるね」

いろはから桜子経由で報告を受けた灯花、ねむは、未来の脅威の正体が、鏡の魔女と結託した
アリナによる”アリナ・グレイ進化計画”であると確定する。
102 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/02(火) 00:27:33.69 ID:pmCWzXx2O
関係者以外に存在を伏せていた
W計画は、万が一を考慮し、W−1(国内の魔女殲滅)、W−2(海外の魔女殲滅)を公開し、
W−3(コールドスリープマシン開発)は関係者のみの周知事項とした。
今日までにまとまった会合の結果から今後の計画を立てた、W−1は浄化システムが広がれば
すぐに実行できるようになり、ねむががW−2の計画を立て、灯花がW−3を進めた。
また、御園かりんの協力を得る材料として用意したカバーストリー、ヒヒイロカネの開発は、
全くの偽りではなかった。

「うまくけば、超長期間の稼働に耐えうるマシン開発の一助になるよ」

今後、七支刀を解析して得られる結果次第ではあるが、ねむが過去に作成した
ウワサを使い、伝説上の存在であるはずの金属を実現できる可能性があった。
桜子以外のウワサはねむが消していたが、ねむが作成したウワサは桜子がすべて記憶している。
目途が立てば桜子の協力の下、ヒヒイロカネを開発することも計画に含めた。

「小さいキュウべぇの解析は進んでるかい?」
「解析は終わって、結果を確認してるところ。だけど、情報量が膨大だから、
 スーパーコンピューターで情報を整理中。まだ時間はかかりそう」
「今更だけど、スーパーコンピューターをよく調達できたものだね」
「世代交代で引退したものを借りてるんだよ。お父様の伝手のおかげだけど」
「せっかく借用できたスーパーコンピューターだ。七支刀の解析も一緒にしたかったね」
「浄化システムを広げるのが最優先だし、スーパーコンピューターもまた借りられる。 今のところ問題はないよ」
「なら、僕たちは浄化システムを広げることに集中しよう」
103 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/02(火) 00:29:45.80 ID:pmCWzXx2O
翌週の休日。
春名このみと梢麻友、藍家ひめなは、いろはと共に電波望遠鏡を訪ねる。
この日、灯花とねむの立会いの下で能力の合成が行われた。

「どんなのがベストかは、私チャンがヒコくんで決めといた。
 バトル中に勝手に取れたりしないし、邪魔にもなんないよ」

合成された能力は、頭部装飾品として形を成した。
ひめなの説明によれば、装着する人に合わせて形を変えることが可能。
記憶の読み取り対策以外にも、様々な応用が可能だという。

「花を添えるだけだと思ってた私の能力に、こんな使い道があったなんて……」
「莉愛ちゃんの隠蔽を合成すれば、姿を隠せたりするんでしょうか?」
「治癒効果の能力だったら、仮初の再生能力とかできそうですね」
「やり方次第になるかな〜。可能であって絶対じゃないし?」
「これならW−3もきっとうまくいきそうだね」
「あとは、実験が必要だけど、記憶が読み取られたかを判断する方法がない。
 ミラーズ側の出方から判断するしかないだろうね」
「じゃあ、私が被験者になる。今からいいかな?」
「おけまる!」

一同は鏡の屋敷へ移動し、いろはが装飾品を頭部につけて結界へ入り、他のメンバーは
結界に入るいろはを見送った。装飾品が想定通りの効果を発揮すれば、鏡の魔女結界が
普段とは異なる反応を見せる可能性に賭ける。
104 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/02(火) 00:35:45.38 ID:pmCWzXx2O
一同は鏡の屋敷へ移動し、いろはが装飾品を頭部につけて結界へ入った。
他のメンバーは、結界に入るいろはを見送り、装飾品が想定通りの効果を発揮ることに期待を寄せる。

「向こうはどう出てくるんだろう?」
「総攻撃を仕掛けてきて、戻ってこないなんて…そんなことにならないといいです…」
「何にせよ、私チャンたちは、いろりんの無事を祈るしかないんだよね」

いろはが鏡の魔女結界へ足を踏み入れ、周囲を見渡すと、それはすぐに起こった。
侵入とほぼ同時に魔法少女のコピーに襲撃され、体は条件反射的に反撃体制を取る。
コピーは頭部の装飾品を一直線に狙い、破壊を試みてきたため、頭部の装飾品は役目を果たしていると判断できた。
襲撃してきたコピーを倒して結界を出た後、いろはは結果を報告。

全員から「作戦成功!」と歓声があった。

この実験以降、装飾品はW計画参加者を優先して作られ、徐々に数を増やすことになる。
105 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/02(火) 00:36:53.13 ID:pmCWzXx2O
本日はここまで。続きは明日以降に。
106 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 20:39:23.52 ID:hLxC27v2O
>>104からの続き

話は鶴乃、さな、桜子の三人が、未来へ送られる要員であると発表された日に遡る。
家に帰った鶴乃を待っていたのは、シャッターが下りたままになった中華万々歳と、
シャッターに貼られた店主都合による休業を告知する貼り紙、体調不良を訴えて以来、
度々体調不良の様子を見せるようになった父の姿だった。

「お父さん、ただいま」
「おかえり、鶴乃。今日は泊まるんじゃなかったのか?」
「お父さん放って家を空けるわけにいかないよ」
「俺のことなんか気にしなくていいのに」
「そんなこと言わないでよ。夕飯作るから、何かリクエストある?」
「……そうか。それなら、おかゆをもらおうか。ここのところ、食欲がな」
「分かった。お父さんは座ってて」

鶴乃は着替えを済ませると、厨房の電気をつけて夕飯の準備に入る。
店舗から居間に上がる段差に腰掛ける父を横目で一瞥し、水道のレバーを上げた。
蛇口から勢いよく水を放出すると、鍋で入れて米を研ぎ始め、濁った水を捨てながら、
梅干しと昆布のどちらを載せるかを考える。

休業以来、食材の用意は自分たちの生活分のみとなり、父の食欲との兼ね合いから、
最低限の食材しか置かないようにしているものの、お米だけは常備していた。
滞りなく用意は整い、土鍋におかゆを移すと、梅干しと昆布を載せて蓋を閉じる。
土鍋を蓮華と共に盆にのせると居間に上がれば、父は既に炬燵に入って待っていた。
卓に土鍋を置くと、お茶を入れている間に、父は食事に手を付けていた。
107 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 20:45:02.11 ID:hLxC27v2O
「おかゆは鶴乃の作る、梅と昆布を載せたのが一番だな」
「お父さんが言ってくれれば、いつでも作るよ」

湯呑を置くとお茶を一口すすり、父はおかゆを口に運んでいく。
食欲がないと言っていたが、食事の進み具合を見て一安心し、明日の食事の用意に思案を巡らせた。
下校後に寄る店での買い物リストを、頭の中で組み立てている最中、何気なく視線を居間の隅に移した。
そこにある棚には封筒が無造作に置かれており、顔を覗かせている書類の束が目に留まった。

「この書類は?」
「あぁ、それか。実はな……」

鶴乃は封筒を手に取って中の書類に目を通したが、途中で左右に動かしていた目の動きが止まり、
顔を上げて父に目を向けた。

「……お父さん、これはどういうこと?」
「いずれきちんと話をしなければと思っていた。ちょうどいい機会かもしれん」
「立ち退き勧告って何?こんなの聞いてないよ!」

父は食事を終えると蓮華を置き、口物を拭って語り始めた。
曾祖父の代から続く店舗は老朽化対策から改修を度々行っていたが、耐震基準が
変更されて新耐震基準になってからは、改修を繰り返してその場を凌いでいたが、
店舗の維持はいよいよ困難となった。今では老朽化が進んでいるため、これ以上は
建物を解体して新たに建て直さない限り、経営を続けられないという。

「耐震改修はしてきたが、老朽化はどうしても進む。新たに建て直すにも費用の問題がある」
「じゃあ……店を畳むってこと?」
「……鶴乃。本音を言うとな、最近は店に建つことが厳しくなってきたんだ。
 俺も老朽化が進んでるからな、ははは」
「お父さん、笑い事じゃないでしょ!」
108 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 20:47:59.11 ID:hLxC27v2O
「……あのな、鶴乃。お前に謝らないといけないことがある」
「何?」
「ずっと隠してきたが、今年に入ってから俺は度々通院してる」
「え?」
「風邪をひきやすくなったと思ってたが、免疫力が落ちていてな。近々、人間ドックを受ける」
「そんなに体が酷いの?」
「場合によっては入院になるかもしれん。その場合、退院できる時期も分からん」
「どうしてそれを、ずっと黙ってたの!?」
「…………すまない。改めて話をしなければと思ってが、言い出す決心がつかなくてな。
 お前は学校がある。大学進学も控えてて今が大事な時期だし、迷っていた」
「お医者様はなんて?」
「すぐにでも人間ドッグを受けるよう勧められたから、二週間前に予約を済ませてある」
「いつ受けるの」
「週末だ。そこに一緒に並んでるキットは、検査用のものだ」
「…………」
「人間ドッグの受診が終わったら、今後について改めて話をしよう。
 ……おかゆ、おいしかったぞ。ごちそうさま。いつもありがとな」
「……おそまつさまでした」

父が炬燵から出て居間を出るのを見届けると、鶴乃は後片付けを始めた。
自身も夕飯を摂るつもりだったが、W−3の件と父から聞いた話も相まって、
食欲は沸いてこなかった。

封筒の中身に改めて目を通し、父が話した通り、店舗は改修を行っても耐震化が
望めない旨が記載されていた。立ち退きの期限はまだ先だが、期限内に立ち退けば
立ち退き料が入り、土地を売却すれば借金も残らず、収支計算の結果としては寧ろ、
プラスになることが判明。父が何を話そうとしているかは、嫌でも予想がついた。
109 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 20:51:52.35 ID:hLxC27v2O
だが、予想が外れる淡い期待も手放せない。
もしかしたらという考えを捨てることは出来なかった。
鶴乃は書類を封筒にしまうと元の場所に戻し、その日は早めに就寝するのだった。


翌日。
店の休業以来、朝の仕込みの手伝いから始まっていた一日は、店内の清掃から始まっていた。
生活習慣はそれでも以前と変わらず、いつもと同じ時間に起床すると、父の朝食の用意をすると、
学校へ早めに向かっていた。

住居部分の玄関から家を出て店前に出ると、閉まったままのシャッターと、貼られたままの休業の
知らせがどうしても目に入る。店の玄関から勢いよく出て「いってきまーす!!」と、父に声をかけて
学校に向かっていたのも、ずっと昔のようにさえ思えた。

未来へ渡る要員として選ばれた日から、気分は沈んだままだったが、父にそんな表情を見せずに
済んだことに一先ず安堵した。しかし、それも束の間。次の瞬間には自信を取り巻く状況の重圧が
圧し掛かる。学校にいる間なら、気を紛らわせることができるかもしれないと思うも、そんな考えは
すぐに消えることになる。
110 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 20:56:46.79 ID:hLxC27v2O
学校は長期間の休暇が近く、周囲はどことなく慌ただしい。
休暇期間中に出かける先を話し合う生徒もいれば、昨日見たテレビ番組の話で盛り上がる生徒や、
プレイ中のゲームの攻略で盛り上がる生徒もいる。そんな中で鶴乃も明るく振舞い、他愛のない
雑談に興じていたが、少しでも気を抜くとすぐに、自分を取り巻く現状に思考が奪われた。

共に店の再建を誓った姉は別の道を歩み、母と祖母は家族を裏切って長期の海外旅行に出かけ、
父は病を抱えていて、自身はコールドスリープを控えている身。灯花とねむからは、出来る限りの
範囲で願いを叶えると言われていたが、すぐにその願いの内容も思い浮かばない。

「……鶴乃、聞こえてるか!」
「え?なに?」
「鶴乃、授業中だよ」
「え、うぇ?」

後ろの席の生徒に声を掛けられ、周囲を見渡す。
つい先ほどまで休み時間だったはずなのに、すでに次の時限目の授業中だった。
ボードに書き込まれた計算問題を解くよう、教員に自分が指名されていたらしい。
授業開始から五分経っており、慌てて席を立ってボードに向かっていき、問題を
解いて席に戻ると、頭を抱えて深呼吸をする。

(マズイな……)

その日の昼は、いつもはいろはたちと食事をしていたが、足が向かずに自分の
教室で一人で食事を済ませ、自身と父、店の今後に思案を巡らせた。
111 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 21:02:25.64 ID:hLxC27v2O
さらに翌日。
学校から帰宅すると、居間の卓に父の書置きが置かれていた。
先日、父が話していた人間ドッグに向かっているらしく、行先が里見メディカルセンターである旨が、文中に記載されていた。
着替えを済ませると、卓に置かれたままの書類を手に取り、他にも書類がいくつかあることに気づく。

そこには銀行からの借入金と、借入金の完済日までの毎月の支払金額が記載されていた。
他には、不動産屋と交渉したと思われる書類があり、父は複数の不動産会社と交渉したようだ。
土地の売却価格が記載された書類が複数あり、一番高い価格が提示された書類に丸がついている。
さらにもう一つは、土地区画整理に関わる書類があった。

「く、区画整理…!?そ、そんな…こんなの聞いてないよ…!」

そこへ、鶴乃の父が帰宅して居間へ入ってきた。

「ただい……ん?」
「お父さん、これ……」
「…………うっかりしてたな。片付けたつもりだったが」
「区画整理って何の話?」
「…………」
「私、こんな話聞いてないよ……」
「見られた以上は、全部を話そう」

鶴乃の父は、卓を挟んで鶴乃と向かい合い、眉間に皺を寄せて口を開く。
曰く、この数日間、鶴乃の父は鶴乃が留守の間、土地区画整理の対象となった土地を、
高額で売却できる不動産屋を複数、日にちを置いて招き、査定を依頼していたという。
店舗は耐震化が望めないことと、自身の抱える病と向き合った時から、解体することを
既に決めていたとのことだった。
112 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 21:07:13.37 ID:hLxC27v2O
「母さんとばあさんは、どこにいるか分からなくて連絡できなかった。
 だが、 お姉ちゃんにはもう話してある」
「一緒にお店を立て直そうって言ったのに……!」
「お前の気持ちを理解できないわけじゃない。だが、現実はどうだ?」
「…………」
「ここに大金があっても、店を立て直すのは無理だ」
「お店……閉めるしかないの?」
「……鶴乃。俺のじいさん、お前からすれば曾じいさんだが、ずっと続いていた店が
 落ちぶれたのは、俺の力不足が原因だよ。それでも店を続けてきたのは俺の意地だ。
 鶴乃そこに付き合う必要はない」
「そんな言い方って」
「もしどうしてもお前が店を続けたいなら、お前はお前の中華万々歳を築けばいい。
 中華万々歳は俺の代で畳むが、お前が店を持つなら、そこから先はお前の歴史だ。
 俺の意地に付き合おうとするんじゃなく、お前の想いを形にするために店をやれ。
 それができなくても、店をやることだけが人生じゃない」
「そんな言い方って……」
「それと、な。店の後始末が済んだら、俺は病院に入る。お前が今後住むところは
 既に手配してある。住居の用意は今月中にできるそうだ」
「…………」
「引っ越しが済んだら廃業届を出す。だが、その前に……一度だけ営業する。
 長年世話になった土地だ。最後に、常連さんだけでも来てくれればいいさ。
 全商品を半額で提供し、お前の曾じいさんから続いた中華万々歳の歴史に、
 潔く幕を下ろす。ここは俺の店だ。鶴乃は鶴乃の店を開くか、それ以外の
 道を選べばいい」
113 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 21:09:03.45 ID:hLxC27v2O
「…………いつ?」
「ん?」
「いつ最後の営業をするの?」
「来月はちょうど、店の創業日だ。その日を最後にしよう」
「……分かった」
「纏められる荷物は、今からでもまとめておきなさい。俺もそうする」
「うん……」

二人は話を終えると立ち上がり、居間を出ようとしたが、突然大きく家屋が揺さぶられる。
その次の瞬間には、電灯や家具が大きく揺れ、ケトルや湯呑が倒れ、棚から書類が落ちた。

「じ、地震!」
「鶴乃、伏せるんだ!」

両膝を折ってしゃがみ込み、両手で頭を抱えて頭を守り、揺れが収まるのを待つ。
揺れはそれから程なくして収まるが、揺れが収まったとき、棚に置かれていた小物の
殆どが畳の上に散らばっており、それらの回収と並べなおしを余儀なくされた。
テレビをつけると、たった今発生した地震の速報が報じられており、全国地図では
神浜市に震度4が表示されていた。

震源地は神浜市から離れた山間部で、土砂崩れで通行不能になった道路や、土砂に
押し流された住居が映され、詳細が入り次第、続報の情報を届ける旨が報じられると、
映像は番組のスタジオを映して、次のニュースを報じ始める。
114 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 21:11:35.74 ID:hLxC27v2O
「酷いことになってたね……」
「神浜から離れてはいるが、震源地は震度5も出てるんだな」
「今の揺れ、お店に影響出てないかな?」
「厨房を見に行こう。水漏れでも起きてたら事だ」

二人は厨房に移動して様子を見たが、心配していたことは起きていなかった。
しかし、テーブルに逆さにして掛けていた椅子が全て落ちており、余震を気にしつつ、
清掃を済ませてテーブルを戻し、居間に戻ってきた。

「今の地震でお店、ダメージ入ってたりしないよね……?」
「店を最後に耐震改修をしたのは、かなり前だったからな。来月の最終営業日まではもつはずだ」
「そうだといいんだけど…あ、続報やってる」
「震源地の情報か……」

テレビでは、神浜市内の学校の部活で、合宿に訪れていた教員と生徒たちが、
先ほどの土砂に巻き込まれたというテロップが流れた。土砂に流された住居は、
林間学校の宿泊施設だったようだ。

「気の毒にな……この分だと……」
「神浜市内も混乱してるね。お、メールだ」
「お友達からじゃないか?」

見れば、スマートフォンには、いろはから身を案じる内容のメールが届いていた。
みかづき荘でも物が倒れたり、片付けに追われたりするなど、鶴乃たちと同様の
状況に陥っていたようだ。自分たちが無事だと伝えると、そこでメールを止める。
115 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 21:19:15.59 ID:hLxC27v2O
「大きな地震の後だと余震がある。このあと何回か揺れるだろうな」
「なんか、偶然とは思えないタイミングで揺れたよね」
「本当だな。これから何か嫌なことが起きる予兆じゃなければいいんだが」
「考えすぎだと思いたいけど、今はそう思えない」
「……まあ、今日のところは部屋に戻ろう」
「うん、そうだね。それじゃ、今日はおやすみ」
「おやすみ、鶴乃」

二人はもう一度居間を出て各々の自室に戻ったが、小さな揺れが二度あり、
いつもより就寝時間が遅くなった。


そして、その週の休日。
鶴乃は父と共に、中華万々歳最終営業日と、引っ越しに向けた準備を進め始めた。
自分たちの生活空間に最低限の荷物だけを残し、不用品はすべて売却するか処分。
父には語っていないが、未来に渡る日まで生活するのに、本当に必要なものだけを残す。

要員に選ばれた者として、折り合いはまだついていない。
チームみかづき荘のメンバーには、父の体調不良は伝えているが、店の進退までは話していない。
店のことは最終営業日が近くなるまでは、伏せておくことを決めていた。

自分たちの生活空間の荷物を仕分けるついでに、店内の清掃に手を付けた。
厨房に移動して厨房機器の整理整頓・清掃をはじめ、設備の点検を済ませる。
商品として使用するはずだった食材は、自分たちの生活のために転用。
最終営業日近くに新鮮な食材を仕入れることを決めた。
116 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 21:22:59.67 ID:hLxC27v2O
昼を過ぎる頃には作業が終わり、父と昼食を共にすると、鶴乃は父に体調を尋ねた。
風邪は回復してきたが、今も父の体をむしばむ癌は進行を続けていると返事があった。
薬を時々飲んでいる姿を見かけたことがあるが、以前よりも服用する量が増えている。

「テレビつけるね」
「あぁ」

静かな状態に耐えられず、リモコンに手を伸ばしてテレビをつける。
映ったチャンネルがでは天気予報が報じられており、今週一週間の天気が映された。
その後にいくつかのニュースが報道され、いつもは関心を惹く内容が少ないニュースだが、
その日は目に留まる内容が多かった。

昨日の地震の続報で、震源地で人命救助が行われていることや、市長選が数ヵ月後に
迫っている二木市で史乃沙優希がライブを行うこと、水徳寺の分寺が神浜市外に建立
されること、犯罪組織の検挙により行方不明だった十代女性の集団が発見されたこと、
豪華客船の海難事故が報じられた。

「ねぇ、お父さん。今のニュースって……」
「あ、あぁ…クルーズがどうのって流れたな……」

父に向けた顔をテレビへ戻すと、既に別のニュースが報じられていた。
鶴乃の母と祖母は現在、豪華客船で旅行に出かけており、家を長らく留守にしている。
父との二人暮らしも同然の生活のため、最近は存在を忘れかけたことさえあったため、
時々思い出しては、今頃どこを旅しているのかと呆れていたりもした。
117 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 21:24:19.15 ID:hLxC27v2O
「きっと、ただの思い過ごしだ」
「そうだよね……」

だが、それはすぐに裏切られることとなる。

その日の夜に、警察から入った電話により状況は一変する。
鶴乃の母と祖母が乗船していた船は、寄港していた港から離れてすぐに強風に見舞われ、
防波堤外で仮泊中に押し流される最中、エンジンに故障を起こし、沖合地点で座礁。
船は横転してまい、現地では救助が行われているという。
事故調査は事態が落ち着いたら行われるが、寄港していた港との最後の通信記録には、
爆発があったと思われる音声が混ざっていたとのこと。

「お母さん……おばあちゃん……」
「……こんなこと、まったく信じられない。信じられないが……」
「き、きっと、別の船が事故にあったんだよ。何かの間違いで……」
「警察から船の名前を聞かされた。母さんたちが乗船していた船で間違いない」
「…………!!」
「詳しいことはこれからわかるらしいが、鶴乃。俺たちにできることはない……」
「じ、じゃあ……」
「待つしかない。次の情報が入るまで、出来ることはそれしかない」

続報はさらに数日後に入る。
寄港していた街に遺体が収容され、その中には鶴乃の母と祖母も含まれていた。

その知らせを聞かされると同時に、鶴乃の視界は暗転した。
118 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/08(月) 21:25:25.41 ID:hLxC27v2O
本日はここまでです。続きは明日以降に。
119 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 20:24:21.27 ID:hK/wqtGYO
>>117を一部訂正、追記

「きっとただの思い過ごしだ」
「そうだよね……」

だが、それはすぐに裏切られることとなる。

その日の夜に入った一本の電話により状況は一変する。
連絡をしてきたのは外務省で、鶴乃の母と祖母が乗船していた船が、寄港していた港から
離れてすぐに強風に見舞われ、防波堤外で仮泊中に押し流される最中、エンジンに故障を
起こして沖合地点で座礁。船は横転し、現地では救助が行われていたが、引き上げられた
遺体の中から鶴乃の母と祖母が確認されたというものだった。また、遺体の引き取りには、
遺族が現地へ渡航して、手続きをする必要があるという。

「お母さん……おばあちゃん……」
「……こんなこと、まったく信じられない。信じられないが……」
「き、きっと、別の船が事故にあったんだよ。何かの間違いで……」
「船の名前を聞いた。認めたくないが、母さんたちが乗船していた船で間違いない」
「…………!!」
「今後、現地で事故調査が行われるらしいが、鶴乃。俺たちがこれからやることは、
 まずは現地に母さんとおばあちゃんを迎えに行くことだ」
「じ、じゃあ……」
「急だが、とにかく動くしかない。鶴乃、すまないが今は部屋に戻っていてくれ」

鶴乃の父は部屋の箪笥の引き出しを手当たり次第に開け、パスポートを見つけると、
現地へ向かうために渡航の用意を始めた。

力ない足取りで自室に戻った直後、鶴乃の視界は暗転した。
120 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 20:26:07.21 ID:hK/wqtGYO
鶴乃が目を覚ました時、丸二日が経っていた。
最初に視界に入ったのは真っ白な天井で、周囲を見渡すと誰もいなかった。
腕に違和感を感じて視線を向けてみると、点滴が腕に通されており、徐々に自分が病院にいることを認識した。
上半身を起こして改めて周囲を見渡すと、左手はカーテンが閉められた窓、正面は白い壁、右手は曲がり角。
病院の外側から見て、L字型の作りの個室にいるようだった。

しばらくすると誰かが入ってきたが、曲がり角から現れたのは灯花だった。

「鶴乃、気付いたんだ。よかったよ〜」
「灯花…!じゃあ、やっぱりここ、灯花の病院だったんだね」
「鶴乃が急に倒れて運ばれたっていうから、びっくりしたよ」
「ここって、灯花が用意してくれたの?」
「そうだよ。わたくしの判断でお父様にお願いして用意してもらったの」
「だけど、個室って高いんじゃ……」
「確かに一日の入院料は共同部屋より高いけど、わたくしが払い込み済みだよ。
 鶴乃には、それだけじゃ足りないくらいの恩があるからね」
「あぁ……そういうことか……」
「……コールドスリープは気が進まない?」
「……本音を言うと全然現実感がない。なんで私が選ばれたんだろうって。
 でも、今はそれより気になることがあるよ」
「ご家族のこと?」
121 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 20:26:41.10 ID:hK/wqtGYO
「もう知ってるんだね。お父さんと、みかづき荘のみんなはどうしてる?」
「鶴乃のお父さんは、出発前に様子を見に来たよ。鶴乃にはゆっくり体を休めておいてほしいって。
 いろはお姉さまたちは昨日の午前中に来てた。状況については。わたくしから説明してあるけど、
 鶴乃の現状は、みかづき荘のみんな以外には、伏せておくことにしようって。それでも、鶴乃と
 同じ学校に通ってる魔法少女は他にもいるから、すぐに話は広がると思うけど……」
「人の口に戸は立てられないからね。今頃みんな、どうしてるんだろ……」
「今日は、いろはお姉さまがW−3の会合を予定していて、午後からエミリー休憩所で
 みふゆと開催するの。わたくしも、ねむと一緒に出るから、鶴乃は安静にしていてね」
「……わざわざ、ありがとう。W−3は本格始動ってことか。そうだ、学校は……」
「鶴乃のお父さんが連絡を入れてるよ。疲労困憊みたいだから、明日まではここにいてもらうよ。
 その後は色々大変になると思うけど、わたくしが力になるよ」
「大事な時期にこんなことになるなんて……」
「鶴乃は悪くないよ。誰もこんなこと予想なんてしてなかったんだし」
「……お母さんとおばあちゃんの件、何か知らないかな?」
「鶴乃のお父さんが現地に向かってて、これから必要な手続きをするんだ。
 わたくしの家の使用人が一緒に行ってるから、困ることはないと思う。
 その後に必要なことは、わたくしたちで手配するからね」
「……助かるよ」
「それじゃ、わたくしは会合に向かうよ。何かあったら、ナースコールしてね」
「うん。本当にありがとう」
122 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 20:27:12.24 ID:hK/wqtGYO
訂正と追記は以上です。
123 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 21:06:48.00 ID:hK/wqtGYO
>>121からの続き

一方、さなは書置きを残して出た義実家に戻ってきていた。
心の中で過去のことになりかけていたはずの、忌まわしき思い出。
みかづき荘で生活するようになってから月日も経つ。
だというのに、こうして自らの意思で、それも未来へ渡る要員として選ばれた事実と、
自身の置かれた状況を整理するために足を運ぶとは、義実家を出た当時の自分も、
みかづき荘の住人も、予想ていなかっただろう。

数ヵ月ぶりに握りしめた義実家の鍵を扉に入れて回すと、果たして、扉は開いた。
鍵の交換くらい済ませているだろうと思っていたが、そんなことはまったくなかった。
家に入って最初に自分を出迎える状況は、当時と変わらず、居間を覗いてみれば、
そこでは実母と義父、義手が談笑を交わしていたが、義兄は不在で見当たらない。

靴はあえて脱がず、かつての自室に入ってみれば、そこにも変わらぬ光景があった。
清掃されず埃が積もっている部屋や、家財道具がすべて処分されて、もぬけの殻と
化した部屋を想像したが、当時と変わらない部屋の姿は意外だった。

(……!)
124 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 21:09:50.17 ID:hK/wqtGYO
そこへ、部屋に近づいてい来る足音があり、その後すぐに部屋のドアが開いた。
入ってきたのはあのころと変わらず実母で、ベッドに腰掛けるさなの姿に気付かず、
机の上に夕飯を置くと部屋を出ていった。未来へ渡る要員として選ばれたことへの
頭の混乱から、食事を摂らないまま出てきたため、食事に手を伸ばしそうになる。


そこで不意に違和感に気付いた。


当時残した書置きを、彼らが本気と捉えていなかったとしても、さなは既に義実家を出ている。
食事が用意されても、それは手つかずのまま下げられるだけで、用意するだけ無駄でしかない。
無駄と言えば、さなは学校には行っているが、願いの影響で魔法少女以外から認識されていない。
教員に姿を認識されていないため、魔法少女となった日以来、学校はおそらく欠席扱いとなっている。

元・自室が家出したころから、何故様子が変わっていない?
何ヵ月も前に家出したはずの自分に、何故食事が今も出ている?
欠席が続いているはずの学校へ、何故学費が未だに支払われている?

何かに駆られて部屋を出て居間に向かうと、そこに実母の姿はない。
義父と義弟が会話を交わしており、初めて見る表情を浮かべていた。
どこか浮かない表情を浮かべ、肩を落としている。

「母さんは今日もか」
「うん。あの書置きからずっとだよ」
125 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 21:15:42.34 ID:hK/wqtGYO
二人の会話を聞く限りでは、書置きを残して出てすぐは、さなの家出を信じていなかったらしい。
だが、食事がまったく減らない日が続くうちに、ようやく本当だと気づいたようだ。それから実母は
徐々に変調をきたしたらしい。

そこへ扉が開く音が聞こえ、そちらへ移動すると、実母がさなの元・自室だった部屋の扉を開いていた。
実母の部屋からベランダに出ると、元・自室のほうへ回りこみ、部屋の様子を伺うと、そこには先ほどの
食事を実母が食べている姿があった。

(……!?)

呆気にとられてその様子を見ているうちに、実母は食事を平らげると部屋を出た。
ベランダから実母の部屋へ戻り、居間に移動すると、そこで義父、義弟が話をしている。

「……母さん、いつまで続けるつもりなんだろうね」
「まったくだ。学費だけ払っていれば充分だろう」
「姉さんは、最後まで迷惑をかけていったね」
「まだ終わっていないぞ。現在進行形で迷惑を被ってるぞ」
「母さんのことでしょ」
「それだけじゃない、学校のことだ」
「問題でも起こしたの?」
「連絡をしてきた担任の話では、さなの姿が見えないらしい」
「変な言い回しをするね。不登校ってことじゃないの?」
「それが提出物は出ていて、定期テストも受けている。成績を見る限りでは、授業を受けたと思われる形跡があるそうだ」
「じゃあ、登校してるってことなのかな?」
「それが分からなくて連絡をしてきたらしいが、私にも分からない。要領を得ないとしか言いようがないな」
126 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 21:19:28.84 ID:hK/wqtGYO
「まるで、透明人間にでもなったみたいだね」
「そんな非科学的なことがあるわけないだろう。あんな出来損ないでも、一応の分は弁えていた。
 家に帰る時間が遅かった分、顔を合わせる可能性が少なくて助かった。今思えば、さなが家に
 居たときのほうが、まだ面倒が少なかったかもしれん」
「もしかして姉さんの学費、まだ払ってるの?」
「学校にまったく行っていないなら、もう払う必要はない。だが、あんな報告では状況が分かりかねる。
 透明人間だって?何を馬鹿なことを。そうえいば、最近はお前の兄さんも帰りが遅くなったな」
「兄さんに聞いたけど、生徒会に入ってから忙しいんだって」
「ほう、生徒会か。そこまで忙しいものなのか?
「入ったばかりだから、自分でいろいろ仕事を引き受けてるみたいだよ」
「そうか。いいことだが、学業に支障が出ない程度にしてもらわないとな」

そんなやり取りを見たあと、今度はドアから元・自室に入ると、ベッドに再び腰かけて天井を見上げる。
義実家を捨てた今、さなは彼らの、自身への扱いは気にしていなかったが、彼らに抱いた違和感の正体は
解消しておきたいと考えた。

未来へ渡ることに折り合いがつかない今、すぐにみかづき荘へ帰ることも憚られる。
思案を巡らせつつ、自身が不在の間に生じた義実家の変化を観察し、それから帰るのも悪くないと考え、
その日からしばらく、違和感の正体を探るために、義実家の様子を観察することを決めた。 

みかづき荘へ帰るまでは、盗み食いをして空腹を凌ぎ、義実家一家の一日を追った。
義実家の観察は彼らに密着し、一日の様子を見ることで行われたが、実母は家から
殆ど出ることはなく、偶に外出しても買い物に出る程度だった。
127 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 21:30:23.16 ID:hK/wqtGYO
家にいると仮定されたさなへの、食事の用意は平日は夜のみだが、休日は朝、昼、夜の
三食を用意していた。だが、何れもさなの元・自室に食事を運んでは、下げる前に自分で
平らげて片付けていた。

義父は神浜大学の医学部の教授に就いているが、自尊心の高さが災いしたのか、
それとも自身が望んだ結果なのか、周囲の人間との関わりは薄く、冷淡な態度は
勤務先でも同じだった。

義弟はスポーツのうち、サッカーは本当に優秀だった。
しかし、勉強はその限りではなく普通であり、さなよりは成績が良い程度であることが判明。
そのためか、義兄にコンプレックスを抱いていることを同級生に漏らしていた。




一週間が経つ頃には、実母たちの性格や考えがある程度分かるようになった。

実母は世間体を気にするあまり、さなが家にいると仮定して生活を続けているうちに、精神に変調をきたしていた。

義父は実母の変調よりも、理想が崩れることが気がかりで、彼は完璧主義だが万能ではなかった。

義兄は優等生故に周囲から却って浮いており、休み時間になると文庫本を読んで過ごしていた。
生徒会に入った理由は、生徒会ならば自身と同じような優秀な人物が集まり、彼らとなら対等に
会話が出来ると考えたためらしく、家以外に自分の居場所を見つけたように思える。

義弟はサッカーは得意だが優秀ではなく、上には上がいた。
自分より実力を上回る相手を前にすると、相手を持ち上げて安寧を得ていた。
勉強は普通で、同級生に義兄にコンプレックスを抱いてることを漏らしていた。
128 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 21:31:24.01 ID:hK/wqtGYO
家にいると仮定されたさなへの、食事の用意は平日は夜のみだが、休日は朝、昼、夜の
三食を用意していた。だが、何れもさなの元・自室に食事を運んでは、下げる前に自分で
平らげて片付けていた。

義父は神浜大学の医学部の教授に就いているが、自尊心の高さが災いしたのか、
それとも自身が望んだ結果なのか、周囲の人間との関わりは薄く、冷淡な態度は
勤務先でも同じだった。

義弟はスポーツのうち、サッカーは本当に優秀だった。
しかし、勉強はその限りではなく普通であり、さなよりは成績が良い程度であることが判明。
そのためか、義兄にコンプレックスを抱いていることを同級生に漏らしていた。




一週間が経つ頃には、実母たちの性格や考えがある程度分かるようになった。

実母は世間体を気にするあまり、さなが家にいると仮定して生活を続けているうちに、精神に変調をきたしていた。

義父は実母の変調よりも、理想が崩れることが気がかりで、彼は完璧主義だが万能ではなかった。

義兄は優等生故に周囲から却って浮いており、休み時間になると文庫本を読んで過ごしていた。
生徒会に入った理由は、生徒会ならば自身と同じような優秀な人物が集まり、彼らとなら対等に
会話が出来ると考えたためらしく、家以外に自分の居場所を見つけたように思える。

義弟はサッカーは得意だが優秀ではなく、上には上がいた。
自分より実力を上回る相手を前にすると、相手を持ち上げて安寧を得ていた。
勉強は普通で、同級生に義兄にコンプレックスを抱いてることを漏らしていた。
129 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 21:34:38.76 ID:hK/wqtGYO
それからしばらくして、義兄が林間学校で神浜市を離れ、不在の日が数日続いた。
その頃になると、さなは違和感の正体に気付き、自分の中で答えを出した。

この一家は一見すると完璧だが、一皮剥けば欠点がいくらでも存在している。
義父の理想を沿っている間は安定しているが、少しでも逸れた途端不安定になり、
さなを虐待することで理想の家族として一つにまとまっていた。

実母は義父にとって理想の妻を演じることで居場所を得たが、それが崩れれば
途端に実母も佐那同様居場所を失う。その不安から逃れるためにさなを虐待し、
義父の理想に寄り添っていた。

義兄は義父にとって理想の息子を演じるために、学業で優秀な成績を収めたが、
それ故に学校では周囲の生徒と馴染めず、おそらくは精神的な重圧から逃れるため、
生徒会に入って自らの居場所を家以外に作った。

義弟はサッカーを失えば、二葉家において凡人と化してしまう。
義兄と比較して自身の勉強の成績が劣るという現実は、義弟も自覚していたのだろう。
家族を引き合いに出しては、度々さなを嘲ていた理由は、自身の弱さを隠すためで、
その度に引き合いに出していた義兄は、隠れ蓑の代わりだった。もしくは、義兄への
コンプレックスの裏返しが、さなへの嘲りであり、自身の内面に向けられる視線への
盾代わりだったのかもしれない。

(盾、か……)
130 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 21:37:43.12 ID:hK/wqtGYO
自身の中で違和感への折り合いが付き、未来へ渡ることへ考えもまとまった。
灯花とねむへ求める対価も決まったことで、みかづき荘に帰ろうとしたとき、
それは突然起こった。

義兄が林間学校から帰る前日だったその日、地震が起きた。
ニュースは神浜の震度を4、震源地の震度は5と報じ、テレビには定点カメラが
映す映像が揺れる様子と、報道ヘリが映す神浜市の俯瞰映像、震源地である
どこかの山間部が、土砂崩れを起こした映像を流した。その山間部では建物が
土砂流されており、その場所を知った実母たちは慌てふためいた。


そこは義兄が林間学校で宿泊している場所だった。


もしやという予感は後に当たることとなるが、折り合いがついた中、義実家一家が
取り乱す様子を見て感じるものはなく、完全に他人事としか認識できなかった。


その後、義父だった男の理想像が崩れた家を後にすると、さなは二度と義実家を
振り返ることなく、みかづき荘への帰路に着いた。
131 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/09(火) 21:38:39.13 ID:hK/wqtGYO
本日はここまでです。続きは来週月曜日以降に。
132 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 19:32:31.51 ID:KiQxSCGiO
>>130からの続き

鶴乃とさなが折り合いをつけている時と同じ頃、ねむが下した決断に思案を巡らせるため、
桜子は自身の居場所である、北養区の山の一角で静かに佇んでいた。目を閉じ、自分が
ウワサとして形を得る前の頃を思い出し、自身の記憶を追体験する。

当時の桜子は万年桜のウワサという名で、柊ねむ、里見灯花、環うい、環いろはの、四人の
母が生み出した物語だった。メディカルセンターの病室で、魔法少女になるまで闘病生活を
送っていたねむ、灯花、ういの三人は、見舞いに時折訪れるいろはと談笑しながら、病室の
窓から見える神浜市を探検することを楽しみにしていた。

まだ見ぬ明日を夢見て、自身らが抱える病を克服し、いろはと共に歩き回ることを。

ねむと灯花の諍いをういがなだめ、いろはがそれを見守る。
ある意味、あの頃はとても平和だった。

(──でも、時間は待ってくれない)

目を開き、万年桜のウワサの衣装から学生服姿へ変わると、桜子は新西区に向けて出発した。
133 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 19:45:20.86 ID:KiQxSCGiO
交通機関は使わず、北養区から徒歩で向かい、山を下りて街へ出ると道中の景色を見渡す。
見慣れた景色が見納めとなる日は緩やかに、だが確実に近づいており、あと何度目にできるか分からない。
いろはたちが命を賭して守り抜いた街が、百年後には失われている可能性もある。

未来へ渡る要員として選ばれたことから、桜子は、鶴乃、さなと同じく、W−1、W−2からは
外されており、コールドスリープマシンに入るまで、思い思いに過ごすことを許されている。
魔女退治そのものを禁止されてはいなかったが、作戦を控えている身のため、極力戦闘を
避けるよう注意されていた。

思案を巡らせているうちに、桜子は目的地であるフラワーショップ・ブロッサムに到着した。

「|こんにちは、お墓に供える花…供花が欲しい|」
「いらしゃいませ。桜子さん…でしたっけ?」
「|そうだけど…私を知ってるの?|
「ユニオン内であなたのことは知られてるよ。直接会えてちょっと驚き」
「|そうだったの。初めて知った|」
「以後、お見知りおきを。差し支えなかったら、桜子ちゃんって呼んでいい?
 私のことは、このみって呼んでくれたらいいよ」
「|構わない|」
「ありがとう。それで、お墓に供えるお花だけど、欲しいものは決まってる?」
「|白系の花がお墓に供えるのに向いてるって、サーバから情報を得た|」
「供花では定番だけど、故人が好きだった花を供えるのもいいよ。それが供えてはいけない
 花じゃなかったらだけど。あとは宗派にもよるし、予算次第で変わってくるね」
134 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 19:51:39.23 ID:KiQxSCGiO
「|……令と郁美が好きだった花が何か分からない|」
「そうだなぁ……それなら、私が選んでもいいかな?」
「|いいの?|」
「これでも花選びには自信があるんだ。桜子ちゃんさえ差し支えなければ」
「|それなら、このみにお願いする|」
「じゃあ、決まりね。あとは二人がどんな人か教えてくれれば、もっと選びやすいかな」
「|令は人のいいところも悪いところも関係なく、写真を撮って新聞部で伝えてた。
  だから敵を作りやすいって自分で言ってた。令は猫の写真を撮る趣味があって、
  それが学校の生徒に好評だった|」
「新聞部と猫…ふむふむ。じゃあ、郁美さんっていう人は?」
「|郁美はメイド喫茶でメイドをしていた。アイドル的な存在で、訪れるお客さんを楽しませて、
  チョコレート交換会という催しを開いたともある|」
「ありがとう。私なりにお二方の人物像を作れたよ。それじゃあ、見繕うからちょっと待ってね」
「|あと、聞きたいことがある|」
「何かな?」
「|お線香と火種が手に入る店を知りたい|」
「それなら、この先に仏具を取り扱ってるお店があって……」


数分後、桜子は供花を購入してブロッサムを後にし、線香とマッチをこのみに教えられた店で
購入すると、観鳥令と牧野郁美が眠る菩提寺へ足を向けた。このみが二人のために選んだ供花を
両手に抱え、横断歩道で足を止める度に供花を見る。歩みを進めるうちに二人の菩提寺が近づき、
気付けば再び思案を巡らせていた。

(──時間は、容赦しない)
135 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 19:59:54.82 ID:KiQxSCGiO
時間はあらゆる存在を押し流し、現実は無慈悲に通り過ぎていく。
あらゆる存在に平等に時間は流れ、それはウワサである桜子たちにも同じ同じことが言えた。
桜子たちは形を得た後、彼女以外のウワサは、危険な存在として外の世界に形を成してしまった。

かつて存在したマギウスの翼が掲げた「魔法少女の解放」、「魔法少女至上主義」。

それらを成すための要素として、世に出されたみんなは、いろはたちの手で倒されることとなる。
結果、桜子以外のウワサたちは外の世界から消え、今ではねむの本の中だけの存在となってしまった。
けれども、誰にとっての幸か不幸か、桜子は消されることなく世界に残った。
後にねむにウワサの内容を書き換えられたことで、外の世界で自由に動き回れるようにもなった。

(これからは自分がみんなの分も、いろはたちを守る。そう決めていたのに……)

ねむ、灯花、ういが魔法少女になった際に起きてしまったアクシデントは、様々な功罪を残した。
マギウスの翼は浄化システムを残した一方で、余所の街から多くの魔女を奪っい去ったことで、
余所の街で魔女が枯渇する事態を起こしてしまう。魔女の枯渇は、神浜市でも起きたことがあり、
東西戦争勃発手前にまで陥ったことがある。

それと同等か、それ以上に酷い状況に余所の街を追い込み、そのうちの一つである二木市からは、
神浜市への報復を目的に結成された魔法少女集団が訪れ、神浜市の魔法少女と抗争を繰り広げた。
他にも様々な目的の下、神浜市へ訪れた魔法少女たちとの交流や、マギウスの翼の思想を継いだ
新たな魔法少女集団との抗争もあった。
136 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 20:02:47.27 ID:KiQxSCGiO
そんな日々の中、桜子は文字通りの意味でいろはたちを守り、共に戦い、試練とも理不尽とも
言える数々の困難を、乗り越えた果てに、争い合っていた魔法少女陣営は一つにまとまった。
誰もが手に入れようとした浄化システムは、魔法少女に残され、今は効果範囲を広げる方法を
模索している。

(……着いた)

寺に入るとサーバから得た情報を元に、作法に則って墓参りをしようと準備をする。
手桶と柄杓を用意して令の墓に向かう途中、墓前に先客がいることに気付く。
近づくにつれて先客の姿ははっきりし、先に先客が桜子に気付いて声をかけられた。

「桜子じゃないか」
「|ひなの、会えるとは思わなかった」
「……令のために来てくれたのか」
「|郁美のところにも行こうとしてる|」
「ありがとうな、立派な花まで持ってきてくれて。令もきっと喜んでくれてる」

桜子は持参した献花を令の墓前に供えると、手桶から水を何度か掬って墓にかけ、
線香に着火して供えた。煙が上がるのを確認すると、両膝を折って目を閉じ、両手を
合わせて上体を前傾させ、やがて静かに顔を上げて立ち上がった。

「これから大きな計画が動こうとしているな」
「|世界に残った魔女殲滅のこと?|」
「あぁ。W−1、W−2計画だったか?」
「|うん。浄化システムが広がりきったら、国内の魔女から殲滅することになってる」
「まさかアタシらが、魔法少女最後の世代になるとは思わなかったな」
137 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 20:08:43.92 ID:KiQxSCGiO
「|みんな、状況を理解してから、色んなことが一度に動き出している。一般社会では、組織犯罪が増え始めた|」
「桜子も知っていたか」
「|やちよが言うには、インキュベーターが撤退した時期と、事件増加のタイミングが重なっているらしい|」
「偶然とも言えるし、無関係ではないとも言える。無視はできないが、アタシは詳しいことを知らんからなぁ。何とも言えん」
「|常盤ななかたちが動いていて、調査を進めているらしい。だけど、向こうは時期が来るまで関わらないでほしいみたい。
  時期が来れば、向こうから接触があるかもしれないって、いろはが言っていた|」
「常盤ななか、か……。そういえば、何かしらの集まりで同じ場にはいても、直接話す機会はなかったよ。
 直接顔を見たことがある程度の認識しかないな」
「|私は名前は聞いたことがあるだけ。会ったことも話したこともない|」
「友人に会いに行くような感覚で、気軽に会おうという気にはならんからな。
 用事もないのに態々会いに行くような関係でもない」
「|私もそう思う。それに、時期が来れば向こうから接触してくるって、いろはが言ってた|」
「そういうことだ。大事なことは、今目の前に迫りつつある問題だ」
「|W計画は三つとも順調に進んでいる|」
「三つ?W計画は二つじゃなかったのか?」
「|い、いけない……!|」
「……桜子、お前…隠し事が下手だなぁ」
「|…………|」
「安心しろ。何も聞かなかったことにしてやるさ。ミラーズの記憶読み取り対策の件も知っている。
 これでアタシもミラーズには入れなくなったな」
「|ひなの……|」
「なんだ?」
「|少し話を聞いてほしい|」
「いいが…ここで話すのは流石にな。場所を変えてからでもよけりゃ聞いてやる」
「|構わない|」
「時間はある。ゆっくり聞こうじゃないか。何かあったな?」
138 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 20:13:43.69 ID:KiQxSCGiO
桜子はひなのと共に場所を移動すると、墓地内に置かれたベンチに座り、語り始めた。
協力者以外には伏せているW−3計画が存在すること、アリナがミラーズから未来に渡ったこと、
未来に渡ったアリナを阻止する要員として、自分と他に二人が選ばれたこと、他のウワサたちと
今後どのように接すればいいか悩んでいること……

それらをすべて聞いたひなのは、組んでいた腕を解いて桜子に向いた。

「本当は秘密にしておかなきゃいけないことなんだろ、W−3というのは」
「|本来、知ってるのは、W−3に協力してもらう魔法少女だけ|」
「そうか。今日のことは、お前とアタシだけの秘密だ。で、相談のことなんだがな……」
「|…………|」
「アタシも何が正しいのか分からんし、これが絶対だと言い切れないってことは、あらかじめ言っておく」
「|……うん|」
「他のウワサたちへの接し方を変える必要はない」
「|本当にそれでいいのかな?|」
「アタシはそう思う。いくら自分を取り巻く状況が変わったからって、それまで共に過ごした
 仲間との接し方を、急に変えたりしたら孤立するだけだ。それって寂しいことだぞ」
「|…………|」
「桜子はもしかしたら、自分が選ばれたから、他のウワサに恨まれてると考えてるのか?」
139 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 20:16:06.46 ID:KiQxSCGiO
「|私とあと三体のウワサ以外は、ねむに消されて魔翌力に還元される。ねむが居なくても、
  私が世界に存在できるようにするって決めた。他のウワサたちに何を言ったとしても、
  私は消されない側だからって、取り合ってもらえないかもしれない|」
「立場が違うからこそ生じる隔たりは認めるしかない。どんなに目を背けても、誤魔化しても、
 事実が変わることはないからな」
「|…………|」
「なんの慰めにもならないと思うが、来るべき日が来るまで、これまで通り過ごせばいい。
 お前の生みの親であるあの子たちと、後悔がないようにな。未来でお前がすべきことに
 専念できるように、この時代に未練を残さないようにするんだ」
「|他のウワサたちとは、普通に接すればいい?|」
「そうだ。後悔がないように。それは桜子にしかできないことだ。これが回答になっているか
 自信はないが、アタシからお前に言えることはそれだけだ」
「|……分かった|」
「他に何か話したいことはあるか?」
「|大丈夫。今日は話を聞いてくれて、ありがとう。ひなの|」
「こっちこそ、秘密を明かしてまで、アタシに相談してくれてありがとな、桜子」

二人は令の眠る墓を離れると、郁美の眠る墓へ移動して花を供え、令の墓と同様に墓参りを行った。
その後、桜子はひなのと共に寺を出て、帰路に着くと、道中で考えをまとめた。
これから自分がすること、灯花とねむに伝える自分の願い……

それらがはっきりすると、桜子は灯花たちの元へ向かうことを決めた。
140 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 20:23:47.77 ID:KiQxSCGiO
墓参りから帰った桜子は、ひなのの言葉に後押しされ、本の中で他のウワサたちと
会話を交わしていた。

|やれやれ、創造主様は私らを消すようだよ。それも万年桜のためにね|

知古辣屋零号店は、桜子以外のウワサに吐き捨てるように言った。
階段を上り下りしながら絶交階段のウワサが問いかけ、マチビト馬のウワサが嘆き、
記憶キュレーターが追随する。

|形ヲ失ウよ。ドうシテ?何ゼ?|
|万年桜のために消されるマッテマテ|
|悲しイ良クなイだケど仕方なイ|
「|…………|」
|創造主の決定に私らは逆らえないからね。行く末は必ず決まるんだ。仮にここで
  消されなかったとしても、ねむが死んじまったら、どのみち私らは全員消えちまう|

そこへ名無しの人工知能のウワサこと、アイが自身の考えを述べる。

|……ねむの命が尽きる時は、ウワサとして形を成した私たちが、物語へ戻る日だと
 思っていましたが、それは違うと思うようになりました。恐らく、ウワサとしても、
 物語としも、私たちは消えてしまう。こればかりは、どうにもならないと思います|
141 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 20:39:43.20 ID:KiQxSCGiO
|ただ物語の作り手が死ぬわけじゃない。ねむは私らの命の源。それが断たれるんだよ。
 作られた側の私らに、何ができるってんだい|
|万年桜ハなんで選バレたの?何デ私タチじゃナイノ?|
|もう新しいこと聞けない知れない記憶できない|
|ザバー……ザバー……|

そこへ、キレートビッグフェリスのウワサが会話に入ってくる。

|グルは鶴乃と、アイはさなと融合するらしいグル|
「|こんなことになって、何て言えばいいのか分からない。ごめん……|」
|あんたが謝って何になるのさ。不満はあるが、それでどうにかなるわけじゃない|
「|…………|」
|気にしてない気にしないでマッテマテ。万年桜のことも、ねむのことも恨んでないマッテマテ|
|ねむが長くないということは、私らも長くない。いよいよ私らも覚悟を決めないとね|
「|知古辣屋零号店……|」
|桜子さん。あなたは、ねむの決定をどう思っていますか?|
「|……私は、いろはたちの未来がそれで守れるなら、受け入れるべきだと思っている。
  だけど、未来に渡るということは……二度といろはたちと会えなくなるということ。
  かといって私が拒絶しても、決定が変わることはないと思う|」
|桜子さんの代わりが務まる誰かが見つかれば、違うかもしれません|
「|見つかる見込みはないと思う。灯花もねむも、他に誰かを探そうとはしていない|」
|……探すことはないでしょうね。このまま、鶴乃、さな、あなたを未来へ送る要員として、
 W−3計画を進めることは変わらないでしょう|
142 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 20:40:24.47 ID:KiQxSCGiO
|ここで何を言ったところで、どうにもなりはしないさ。事実を受け止めたら次はどうするか。
 言えることがあるとすれば、万年桜にも、キレーションランドにも、アイにも、やらなきゃ
 いけないことがある。あんたたちは、私らの分まで生きて、最後までやり遂げておくれよ|
|そうですか……|
「|……分かった|」
|まあ、本音を言わせてもらうなら、私も体を持ってみたかった。ついでだから言わせてもらうと、
 あんたのことが羨ましくてしょうがなかったよ、万年桜。ねむだけじゃなくて、みんなにとって
 万年桜は特別な存在のようだ|
「|…………|」
|淡い期待もしていたが、これで永久に叶わなくなるのが残念だね。
 ウワサにもあの世があるんなら、草葉の陰から応援してやるよ|
「|みんな……|」
|さあ行きな。これ以上話してたら、今度は恨み言が出てきちまうかもしれん。
 今まで外の話をたくさん聞かせてくれて、ありがとう。今まで本当に楽しかったよ。
 達者でやりな、万年桜。それから、アイも、キレーションランドもな……|
143 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/15(月) 20:40:56.32 ID:KiQxSCGiO
本日はここまでです。続きは来週月曜日以降に。
144 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 22:24:20.99 ID:SUUU0L0dO
>>142からの続き

織莉子から百年後の未来予知が、最初に報告された日から二ヵ月弱。
W計画はすべてが成案となり、国内の魔女殲滅ことW−1と、海外の魔女殲滅ことW−2に先駆けて、
W−3ことコールドスリープマシン開発は本格始動する。

小さいキュウべぇを解析して得られた情報の整理と、七支刀の解析は完了していた。
コールドスリープマシンに使用するヒヒイロカネの開発は、滞りなく進み、試作品が出来上がっていた。
この日は、浄化システムを惑星全土へ広げる方法の説明会で、いろはとういが灯花たちに呼ばれており、
最初にヒヒイロカネの試作品がお披露目となった。

「お姉さま、うい、来てくれてありがとう。」
「こんにちは、灯花ちゃん。」
「灯花ちゃん元気?」
「わたくしは問題ないよ。鶴乃とさなの様子はどう?」
「うん。鶴乃ちゃんは、ご家族の四十九日が過ぎたら、みかづき荘に顔を見せてくれたよ。
 新しい家に移ってて、お店はこれから解体されるって言ってた。さなちゃんは、考えが
 まとまったって言ってた」
「戻ってきてくれたんだね。さなは大丈夫そうだけど、鶴乃と桜子が問題かな」
「鶴乃さんのお父さんが、メディカルセンターに入院したって聞いてるよ」
「そうだよ。鶴乃が入院していた部屋に、この前から入ってる。鶴乃のお父さんのことは、
 お父様たちに任せてくれれば大丈夫だよ」
「ありがとう」
「灯花ちゃん、桜子ちゃんは……」
「桜子だけど……しばらく本から出てきてくれなかったけど、先週、やっと顔を見せてくれたよ。
 ウワサたちとずっと話してて、考えをまとめてたって言ってた」
「そっか……。また話せればいいね……」
「今は山のあの場所にいる。話はしてくれるけど、まだ以前みたいにはいかないの」
「桜子ちゃんから私たちに接してくれるのを、待つしかなさそうだね」
「ところで、ヒヒイロカネができたって聞いたけど……」
「そうそう。これがそうだよ」
145 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 22:27:10.36 ID:SUUU0L0dO
灯花が見せたのは、金色の延べ棒の形に整えられた金属だった。
手に取ってみると冷たくて軽く、裏返したりして観察すると灯花に返した。

「ヒヒイロカネって、見た目よりも軽いんだね」
「金よりも軽いんだよ。熱伝導率も優れてて、永久不変で絶対に錆びなくて、ダイヤモンドより硬いの。
 太古の時代は鉄や銅と同じくらい、普通の金属として使われていたらしいんだけど、現代では原料も
 加工技術も失われているの」

そこへ、部屋の扉が開いて視線を移すと、ねむと桜子が立っていた。

「ただいま、灯花。お姉さんとういも来てくれてたんだ」
「|いろは、うい、久しぶり|」
「久しぶり、桜子ちゃん。本の中からずっと出てこないって聞いてたから、心配したよ」
「|心配させてごめん、いろは。ずっと考えをまとめたり、他のウワサたちと話したりしていた|」
「もう大丈夫なの?」
「|ういにも心配をかけた。未来に渡るまで、この時代でどう過ごすか決めた。だから、もう大丈夫|」
「ヒヒイロカネをお披露目していたんだね。過去に日本神話に基づいたウワサを作ったけど、
 こんな形で役に立つ日が来るとは思わなかった」
「伝説の金属を実現しちゃうなんて、すごいよ。三神器を作った金属なんだっけ?」
「そうだよ。日本神話において、天孫降臨(てんそんこうりん)の時に、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が、
 天照大神(あまてらすおおかみ)から授けられたという、鏡、勾玉、剣。この三つはヒヒイロカネから
 作られている、と言われているんだ」
「|八咫鏡(やたのかがみ)・八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)・天叢雲剣(あめのむらくも)。
  いずれも日ノ本の象徴の存在の正当性を裏付ける神物、という意味がある|」
「実物を見たことがないのに、伝説の金属をどうやって再現したのかな?」
「灯花のおかげなんだ」
「スーパーコンピューターを借りて計算したんだよ。と言っても、計算するにはデータも必要だから、
 そのデータはわたくしが作ったの」
146 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 22:31:07.19 ID:SUUU0L0dO
「再現であって実物そのものではないけど、同等の性質は再現できたよ」
「魔翌力で再現したと思うけど、使ったのはねむちゃんの魔翌力なの……?」
「|再現には知古辣屋零号店が、カカオマスに溜めた魔翌力を使った|」
「……最低でも、鶴乃たちを未来へ送るまで、僕は死ぬわけにいかない。
 叶うならすべての魔女殲滅まで見届けたいけど、僕のことは僕自身が一番分かっている。
 自身の魔翌力消費は必要最低限に留めているよ」
「それなら安心した」
「そ、そういえば、七支刀もヒヒイロカネの開発にかかわってなかったかな?」
「七支刀の解析結果は、魔翌力の蓄積に流用したの。魔翌力をどうやって蓄積しているか知りたかったんだ」
「時女静香には感謝しているよ」
「このヒヒイロカネをこれから量産するの?」
「その通り。効率化を図りつつ量産して、必要な量に届くまで製造するんだよ。
 その後はヒヒイロカネでマシンを開発して、稼働実験。それが全部済んだら、
 鶴乃たちにマシンに入ってもらうことになるよ」
「マシンが完成したら、そうだったね」
「時間はまだある。マシンが完成するまでの間、鶴乃たちには悔いなく、この時代で過ごしてもらって、
 未来に現れるアリナ討伐に専念してもらわないと」

それから話題は、浄化システムを広げる方法の説明へ移った。
小さいキュウべぇを解析して得られた情報を整理した結果、何らかの入力を受け付ける機構が発見された。
その機構に何らかの働きかけがあれば、そこから想定した結果を得られることは分かった。
147 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 22:31:59.82 ID:SUUU0L0dO










その”何らか”の正体は、穢れの浄化だった。










「穢れの浄化って……グリーフシードによるソウルジェムの浄化のことだよね?」
「うん。まさか、魔法少女に必須な行動が答えだったなんて、意外だったにゃー」
「灯台元暗しとは、このことだろうね」
「どうやってソウルジェムの浄化がトリガーだって気付いたの?」
「ういの前で説明するのは憚られるんだけど……わたくしたちがやっていた魔女の
 育成を思い出したんだよ。当時はグリーフシードから穢れを与えたり、ウワサを
 使って集めた人々の感情エネルギーで、エンブリオ・イヴを成長させていたけど、
 それでドッペルシステムを築いて、自動浄化システムができた」
148 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 22:37:00.95 ID:SUUU0L0dO
「それをヒントに、グリーフシードでソウルジェムを浄化後、本来グリーフシードに溜まるはずの穢れを、
 小さいキュウべぇに吸収させる流れを作ったんだ。あとは反応を見るために、経過観察を行った」
「だけど、一度や二度の浄化じゃ反応はなくて、何度も繰り返して、ようやく想定した結果を得られたの」
「そこから僕たちは、穢れの浄化の意味を拡大解釈して仮説を立てたんだけど、僕たちだけで検証を行うのは、
 人数的にどうしても難しいんだ。最近は神浜の治安も、再び心許なくなっているし、僕たちはまだ変身に体が
 耐えられない状態なんだ」
「それって、体が完治していなかったってこと?」
「体は大丈夫なんだけど、変身すると以前より負荷がかかるの。みたまの調整技術は本物だね」
「恥ずかしながら、こんな状態だから自衛は難しい。桜子がいるけど、W−3を考慮して極力負担を避けたい。
 お願いばかりで悪いのだけど……いろはお姉さんたちに、亡くなった魔法少女の弔いをしてほしいんだ」
「お墓参りをすればいいってことだね。確か、私が神浜に来る前に、やちよさんと一緒に組んでいた人の、
 月命日が近いって聞いた気がする。だけど、システムの範囲拡大とお墓参りがどう繋がるの?」
「穢れの浄化つながりだね」
「お墓参りで供える線香は、火を灯すことで生じる香りに、供養しに来た人の心身の汚れと、
 その場を浄化する作用があると言われていて、線香の香りは死者の食事とも言われている。
 死者もかつては生きていた人間だ。拡大解釈すれば、線香を供えることで、死者の穢れも
 浄化できるかもしれないと考えたんだ」
「分かった。それなら、やちよさんに相談してみるよ」
「灯花ちゃん、何か報告が必要になることはある?」
「んーと、お墓参りに行く日に、出発前と帰宅後に電話がほしいな」
「分かった」
「あとは……もう一人、協力を取り付けたい魔法少女がいるんだけど……」
「誰のこと?」
「氷室ラビ。わたくしの叔父様と一緒に湯国市へ向かった、フォークロアのリーダー」
「そういえば……氷室さんたちから連絡、全然ないや……」
「叔父様とも連絡が取れないんだよね。今頃どうしてるか分からなくて……」
149 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 22:43:03.34 ID:SUUU0L0dO
午前0時のフォークロアは、全員が未だに音信不通だった。
それは灯花の叔父である里見太助と、従姉妹の里見那由他も同じだった。
湯国市でも最近、組織犯罪が増加しており、特に湯国市は魔法少女撲滅派が存在しており、
フォークロアと里見那由他は、撲滅派と魔法少女の争いに巻き込まれたことがある。
湯国市の組織犯罪には、彼らが関わっている可能性も考えられており、安否確認のため、
灯花は協力者を募って湯国市へ向かうことも考えているという。

「わたくしたちにも、やることがあったとはいえ、もっと気にかけておくべきだったよ」
「近々、元マギウスの羽たちから、人を募ろうと思ってる。お姉さんたちにはこれから
 やってもらうことがあるから、そちらに専念してほしい」
「……分かったよ。無事だといいね、みんな」
「…………」
「あと、今から時間があったら、お願いしたことがあるんだけど、いいかな?」
「私もういも、一日時間を空けてあるよ」
「これから電車で宝崎市に向かって、浄化システムの有効範囲を調べてほしいんだ。
 これは後日、またやってもらうことになるんだけど」
「後日?」
「お墓参りの帰りに、浄化システムが広がってるかを確認してほしいの」
「そういうことか。お墓参りの後のことはやちよさんに相談するけど、
 これから確認するのは大丈夫だよ。ういもいいかな?」
「私もいいよ」
「ありがとう。神浜と宝崎の境あたりまで、システムが有効なはずなんだ。
 移動には、わたくしの家の使用人に車を出させるよ」
「やってほしいことは、街の境まで移動したら車から降りて、そこから歩いて宝崎方面へ
 移動しながら、ソウルジェムの浄化が途切れる地点を確認してほしいんだ」
「分かった。もう行ったほうがいいのかな?」
「これから車を出してもらうから、準備できるまで待っててほしいにゃー」
「分かった」
150 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 22:47:31.01 ID:SUUU0L0dO
その後、灯花の家の使用人が運転する車が、電波望遠鏡近くに到着する。
使用人からの連絡を受けて、いろはとういは外へ出ると黒塗りのリムジンに乗車し、街の境目へ向かって出発した。

「その節はお世話になりました」
「とんでもない、仕事ですから。ところで、行先は伺っていますが、橋の手前まで向かえばよろしいですか?」
「はい、そこでま向かってもらえたら、橋を歩いて渡ります。といっても、橋を渡り切ったらすぐに引き返すので、
 それまで待っててもらえますか?」
「畏まりました」

車両での移動の道中、いろはとういは流れる外の景色に視線を向け、二ヵ月間の出来事を振り返った。
山積みだったやるべきことは、徐々に消化しつつあり、時間をかけて準備を進めてきた本題への着手も、実現しつつある。
現在進行中のW計画は、W−1とW−2は浄化システムが広がり次第、実行に移される。
W−3は一足先に動いており、コールドスリープマシンが完成次第、鶴乃、さな、桜子を送り出すことになる。
三人が未来で無事に目覚めれば、W−3は真に計画開始となるが、自分はそれを見届けることは出来ない。


これまでの行動も計画の内だが、全体的に見れば準備段階に過ぎない。


これから行う、浄化システムの有効範囲の確認もまた。


「到着しました」
「お姉ちゃん、橋に着いたよ」
「ありがとうございます。すぐに戻りますね」
「はい。ここでお待ちしております」
151 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 22:52:50.47 ID:SUUU0L0dO
いろはとういは下車すると、ソウルジェムの浄化が続いていることを確認しながら橋へ向かった。
宝崎市方面へ歩いていき、浄化システムの効果が途切れる地点を確認するため、ソウルジェムの
穢れ浄化の状況を注視。橋を渡っている間は浄化が続いたが、橋を渡り切ったところで浄化が止む。
周囲をも渡すと、川を挟んだ向こうに線路の走る鉄橋が見え、神浜市方面へ向かう電車が見える。

踵を返して神浜市方面へ向かって歩くと、橋に足を踏み入れた時点で浄化が再開することを確認し、
そのまま歩き続けて車両まで戻ってきた。橋を渡り切った時点で、灯花に連絡を入れて報告すると、
電話の向こうでキーボードを叩く音が聞こえた。

『ありがとう、お姉さま、うい。そのまま戻ってきてもらえるかな?お姉さまたちがいない間に、こっちで動きがあったんだ』
「浄化システムのこと?」
『ううん。叔父様たちの消息を掴めたの』
「見つかったの!?」
『素直に喜べないけどね。とりあえず、戻ってきたら詳細を話すね。またあとで』

いろはは電話を切ると、ういと共に車両に乗車し、病院へ引き返した。

「本当に早かったですね。もうよろしいんですか?」
「はい。灯花ちゃんの実験だったみたいで、もう済みました」
「お姉ちゃん、見つかったって何のこと?」
「灯花ちゃんの叔父さんが見つかったんだって。氷室さんたちも多分」
「急だね」
「詳細は戻ったら話してくれるって言ってたから、細かいことはそれからだね」
152 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 22:59:11.44 ID:SUUU0L0dO
電波望遠鏡に戻ると、ねむと桜子は席を外しており、灯花だけが残っていた。
いろはとういは、報告もそこそこに、灯花から叔父の里見太助の消息について説明の詳細を受けた。
湯国市へ向かった太助は、氷室ラビをはじめとするフォークロアのメンバーと共に、魔法少女撲滅派との
和解実現のため、神浜市を離れてから一ヵ月以上もの間、彼らの説得にあたっていた。

しかし、太助が湯国市に以前訪れた時、オールフェストでゲストとして参加した際、魔法少女擁護派が
壊滅した事件が尾を引いており、説得は難航。それどころか、灯花が予想していた通り、湯国市でも
組織犯罪が発生していることが判明。それらの事件は、市民からは魔法少女の仕業だと思われていた。
根拠は何もなく、過去の出来事が尾を引いており、些細なことがすべて魔法少女の犯行と結びつけられた。

それが現在の湯国市の状況であるという。

「そんなのって……」
「まるで中世の魔女狩りみたい……」
「何人かは考えを改めようとしてくれてたみたい。だけど、埒が明かなくて……そのあと……」
「続きは私から話そう」
「叔父様!」
「はじめまして…かな。環いろはちゃん、ういちゃん。君たちのことは灯花から聞いている。
 私は里見太助。里見灯花の叔父で、魔法少女の研究を行っている民俗学者だよ。いつも、
 灯花がお世話になってるね」
「どうもご丁寧に。お世話になっているのは、私たちのほうです。
 少し前まではシェルターで生活させてもらってました」
「は、はじめまして。いつも、お姉ちゃんやみんなと一緒に、灯花ちゃんのお世話になっています」
「灯花はいいお友達に恵まれているようだ。灯花が君たちの話をするとき、嬉しそうな顔をするのも分かる。
 ……と、すまない。さっきの話の続きをしないとね」
「…………」
153 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 23:09:17.07 ID:SUUU0L0dO
「結論から言えば、撲滅派との和解には至れなかった。残念ながらね。生きて帰って来れただけでもマシだろう。
 湯国の状況は以前より酷い有様だ。寧ろ日に日に悪化していると言ってもいい。そんな中にあっても、神浜で
 魔法少女が団結した話は、風の噂で遠く湯国にも流れていて、それを知っている人たちは非常に少ないけれど、
 考えを改めようと善処してくれている。別の要因も手伝ってね」
(別の要因?なんだろう?)
「だが、宇宙の自浄作用なのだろか。撲滅派の現リーダーはじめ、殆どの人たちは、魔法少女の存在そのものを否定している」、
「それじゃ、まったく説得の余地なしということですか?」
「そう言わざるを得ない。それどころか、魔法少女への考えを改めようとしてくれる人たち以外は、湯国は魔法少女への敵意を
 ますます強めているよ。神浜では人々がまとまろうとしているが、別の方向で湯国の人々はまとまろうとしている」
「魔法少女を敵とみなすことで、一つに……ということですか?」
「あぁ……そういうことになる……」
「すみません、質問していいですか?」
「なにかな、ういちゃん」
「さっき、別の要因って言ってたのは、何のことですか?」
「最近、全国で頻発している組織犯罪のことだ。君たちもそれは知っていると思うけど、
 湯国でも組織犯罪が起きるようになって、動機は異なれど共通点があるんだ」
「その共通点というのは?」

それから、太助は湯国で起きたこと、行っていた調査のことを語り始めた。
世間に報道さている組織犯罪は全容を語っておらず、意図的に一部がぼかされている。
事件の裏には、名前も知られていない、犯罪組織―恐らくは世界規模の─の存在が見え隠れしていた。
その組織は十代の少女を拉致して、願いを叶えるための道具としているという。

「私はその大規模犯罪組織を、”クリミナルズ”と仮称している」
「クリミナルズ……それが湯国のことと、どう繋がるんでしょうか?」
154 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 23:14:02.83 ID:SUUU0L0dO
クリミナルズは、魔法少女のことを知っており、当然魔女化も知っている。
一般的に思いつくような犯罪も行っており、十代の少女拉致はその一部でしかない。
湯国の撲滅派には、クリミナルズと繋がっている者がおり、太助はその関係者から
リークされる形で存在を知ったという。

「私に情報を提供した人物も、魔法少女を快く思っていないが、直接攻撃してまで魔法少女を
 街から追い出そうとは思っていなくて、自分から街を去るのなら、それ以上は望んでいない
 という人物でね。彼の話によると、クリミナルズに加担しているメンバーは、かなり以前から
 組織の一員として動いているそうだ」
「クリミナルズとして、いろいろな犯罪に関わっているってことですか?」
「巷で囁かれるような犯罪を起こしてもいたし、一般人と魔法少女を意図的に対立させたりだよ」
「それって、もしかして……神浜市の東西争いも関係してるんじゃ……」
「そこまでは分からないが、話を聞いた限りでは、無関係ではないと思うね。
 それに、どうもクリミナルズには、神浜で警察関係に身を置いていた人間が
 関わっているようなんだ」
「そんなこと初めて知った……」
「警察関係者が犯罪組織と繋がってるなんて、今時珍しくないもんね。それに警察は、
 身内の犯罪に対して庇い立てするから、報道されても一瞬だよ」
「太助さんに情報を提供された人は、どうしてそこまで知ってるんでしょうか……」
「どこまで本当かは分かりかねるが、彼自身はクリミナルズに加担していないが、
 情報が集まりやすい場所の近くに身を置いていて、嫌でも情報が入ってきたそうだ。
 彼を組織に加入させようとした人間が、意図的にそのような状況に彼を追い込んで
 いたのだろうね」
「自分の身近にいる人間を、犯罪に引き込もうとするのは、よくあることだよね」
155 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 23:17:48.47 ID:SUUU0L0dO
「私たちにできることはないでしょうか?」
「これは、デリケートな問題だ。二ヵ月湯国で粘ってはみたが、解決の一口は終ぞ見つけられなかった。
 いろはちゃんが湯国へ出向いて、彼らを説得しようなんて試みないでくれ。湯国は今まで以上に危険な
 街と化してしまったんだ」
「お姉ちゃんの身に何かがあったら、五つの陣営の同盟は瓦解しちゃうよ」
「そういえば、氷室さんたちはどうしているんですか?」
「今は全員、那由他と一緒に、神浜に用意した那由他の家に集まってもらってる。今、一人になるのは危険と判断した」
「どこで狙われているか分かりませんよね。神浜の人間が加担してるなんて、グループで固まってても、安心して外を歩けません」
「クリミナルズは最低でも全国規模。最大では、世界規模の犯罪組織である可能性がある。
 今この瞬間も、我々は監視されているかもしれない」
「まさか、ここ最近の嫌な出来事も、宇宙の意思だったりするのかな…?」
「こじつけレベルになりそうだけど、皆無じゃないと思うよ。叔父様も仮説を立てていたし」
「魔法少女の存在を広めようとすると、見えざる手で妨害されるっていう?」
「それとは別の仮説だよ。私も浄化システムがインキュベーターから、魔法少女へ明け渡されたことは知っている。
 それを踏まえて、ういちゃんが今言った仮説と併せて、こんな考えが浮かんだ」

それは、用済みとなった人類を、宇宙の意思が抹殺にかかろうとしているというものだった。
インキュベーターは、エネルギー回収ノルマは達したと言っていたが、インキュベーターが
人類に契約を求めなくなった以上、宇宙の意思が人類をこれからも生かしておく必要はない。
自身が生きていく上で必要なエネルギーを回収できないなら、人類とは最早、自身の存在を
脅かしかねない危険な存在。

人類を野放しにするのは、宇宙にとって危険でしかないのだと。
156 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 23:22:13.06 ID:SUUU0L0dO
「突飛拍子のない話に聞こえるかもしれない。しかし、今日まで私たちの周りで起きた出来事を振り返れば、
 ただの偶然と言うほうが難しい。これまでは一般人を通じて、これからは犯罪組織を通じて宇宙の意思は、
 我々を妨害しようとするとみていい」
「それが本当なら……」
「お姉さま?」
「お姉ちゃん?」
「私たちの真の敵は、魔女でもキュウべぇでもない。魔法少女という贄なしでは、存在を維持できないこの宇宙、
 そのものなんだろうなって……そう思ったら……とても世知辛いです……」


電波望遠鏡を出たいろはとういは、太助の勧めもあって、灯花の家の使用人が運転する車両で
みかづき荘へ帰宅した。帰宅後、いろはとういは、元・みかづき荘メンバーの墓参りに向かう日を、
やちよに尋ねると、その理由を説明した。

説明を受けたやちよは半信半疑だったが承諾し、元・みかづき荘メンバーの月命日に、現在の
チームみかづき荘のメンバーと、みふゆが墓参りに向かうことが決まった。
また、最近の組織犯罪増加への懸念から、いろはたちが留守の間、ももこ、レナ、かえでの三名が、
みかづき荘の留守を預かることも決まった。

『理由は分からないでもないけど、そこまで必要かな?アタシは構わないけどさ』
『どうしてもって言うなら引き受けるけど、今度食事くらい奢りなさいよね』
『も、ももこちゃんと、レナちゃんが一緒なら、私も留守番するよ』
157 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 23:23:59.94 ID:SUUU0L0dO
ももこたちへの連絡を終えると、いろははやちよに、電波望遠鏡で太助と交わした会話の内容を伝えた。
やちよは相槌を返しつつ聞いていたが、いろはの話が途切れると、やちよが会話を切り出した。
今は嵐の前の静けさであり、何かをきっかけに、大きな災いが降りかかろうとしていると。
世界規模でそれは起こり、魔法少女も一般人も問わず脅威に晒され、命の選択を迫られるだろう、と。

いろはは、やちよの言葉の根拠を問うと、織莉子との会話で告げられたものだという。

「妙に言葉を濁しましたね。以前は、断定はできなくても、もう少し具体性がありましたが……」
「彼女から電話で連絡があって、その時に彼女が言っていた言葉なのよ」
「キュウべぇが織莉子ちゃんの能力を弄ってから、二ヵ月経ってます。以前よりはっきり
 未来が見えていると思うんですけど……」
「はっきり見えたんだと思う。そして、だからこそ言葉を濁したのかもしれない」
「……そういう可能性も、ありますね。織莉子ちゃんは他に何か?」
「また近々、こちらに足を運ぶそうよ。墓参りと検証の話をしたら、それ以降に来ると。
 連絡は私からすることになってるから、織莉子さんとの連絡は私に任せて」
「分かりました」
158 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/22(月) 23:24:36.64 ID:SUUU0L0dO
本日はここまでです。続きは来週月曜日以降に。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/08/24(水) 19:52:50.79 ID:9HpBB4SNO
保守
160 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/08/25(木) 02:41:10.87 ID:IA2KeHgu0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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161 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/30(火) 15:09:44.00 ID:YmEHP9jHO
>>157からの続き

墓参り当日。
予定していたメンバー全員が揃い、ももこたちは、メンバーが出発する三十分前に到着した。

「悪いわね、急なお願いを引き受けてもらって。くつろいでてもらっていいから」
「そうさせてもらうわ」
「な、何もなければいいんだけど……」
「アタシらちょうど予定が空いてたんだ。鶴乃とさなちゃんが戻って来たし、
 顔も見ておきたかったからな。桜子ちゃんも戻って来てるんだっけ」
「先日、電波望遠鏡で桜子ちゃんと会いました。元気そうでした」
「そっか、それならよかった。大変な任務をしょっちまったんだ、無理もなかったと思うよ」
「他のウワサたちと長いこと話こんだり、考えをまとめたりしてたみたいです」
「その辺りは帰ったら続きを聞かせてもらうよ。そろそろ出発の時間だし、気を付けて行ってきなよ。
 それと……やちよさん。メルによろしくな」
「えぇ、伝えるわ。それじゃ行きましょうか、みんな。ももこ、レナ、かえで、留守番よろしくね。
 帰りにお土産買ってくるわ」
「いってらっしゃい」

みかづき荘を出発したいろはたちは、道中でフラワーショップ・ブロッサムに寄り供花を購入した。
この日は、夏目かこ、春名このみ、秋野かえではシフト休みで店におらず、かえではつい先ほど、
みかづき荘で留守をお願いしたばかりだった。
162 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/30(火) 15:13:20.60 ID:YmEHP9jHO
その後、特に何事もなく、いろはたちは、元・みかづき荘メンバーの菩提寺に到着した。
事前の取り決め通りに、出発前と到着後に灯花たちへ連絡し、やちよとみふゆのかつての仲間、
雪野かなえと安名メルの墓参りを行った。やちよとみふゆが故人へ近況を報告し、いろはたちが
続いて挨拶をかねて頭を下げる。

「メル、ももこがあなたに、よろしくと言ってたわ」
(……安名メルさん、雪野かなえさん……どんな人たちだったんだろう?)

何事もなく墓参りが済み、寺の外へ出ると、いろはは灯花たちに連絡を入れた。
報告を受けた灯花の話によれば、小さいキュウべぇの入力機構に反応があり、
墓参りをトリガーとして、浄化システムに変化が生じた可能性を伝えてきた。

『ういが何かに気付いたかを聞いてほしいにゃー』

浄化システムのコアであるういが、何らかの変化に気付いたかを尋ねると、
自身に何かが集まってくる感覚があったとのこと。

『お姉さま、申し訳ないけど、その足でこれから宝崎市へ向かってほしいの。最寄駅から電車に乗って、
 この前みたいに浄化システムの効果が途切れた地点を、教えてもらっていいかにゃー?』
「分かった。それじゃ、これから向かうね」
『ありがとう、お姉さま』
163 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/08/30(火) 15:16:25.00 ID:YmEHP9jHO
いろはは電話を切ると、やちよたちに宝崎市に向かいたい旨を伝えた。
その場に居た全員が理由を聞いて了承すると、最寄り駅に向かって出発した。
道中でソウルジェムを確認すると、微々たるものだが穢れが徐々に浄化されている。

最寄り駅は人がまばらで、混雑に遭遇することなくホームに到着すると、いろはたちは
昨日の検証で渡った橋をすぐに確認できるように、先頭車両の停車位置まで移動すると、
運転席が近い一番前のドアが開く場所に立つ。

電車を待つ間、やちよがいろはに声をかけてきた。

「思えば、大所帯で駅に来るなんて、二木市へ向かう時以来よね」
「そうですね。当時とはだいぶ状況が変わりましたね」
「あの時は、ういちゃん救出のために集まって、ももこたちも一緒だったっけ。
 今日は、みかづき荘の留守をお願いしてるけど」

そこへ鶴乃が会話に参加し、フェリシア、さな、うい、みふゆが続く。

「ももこの提案で貨物列車に飛び乗ったのは、今も覚えてるよ」
「あん時はドキドキもんだったぜ。でもオレ、ちょっとワクワクしちまったんだ」
「わ、私はもう、二度と同じ体験はしたくないです。今思い返すと、ジェットコースターよりすごかった……」
「一生に一度だって体験したくないよ。誘拐されるのも、貨物列車に飛び乗るのも。あれきりがいい……」
「みなさん、よく駅員に見つかりませんでしたね。鉄道会社に見つかっていたら、鉄道営業法に触れて、
 訴えられていたかもしれませんよ」
「分かってるわよ、それくらい。あの時は、二葉さんの能力で気配を消してもらってたの。
 あの時、二葉さんがいなかったら、あんな無茶な撤退は出来なかったわ」
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