【マギレコ】 最後の世代の魔法少女たち

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186 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/05(月) 21:37:02.72 ID:0V5CcO3mO
みかづき荘に到着すると、やちよとういがいろはを出迎えた。

鶴乃は新居に帰宅。フェリシアからは無事を知らせるメールがやちよに届いていた。
さなはアイと融合後に起きるとされていた問題により、ねむが用意した新居に、今夜から急遽移ることになった。
さなが新居で過ごすのに必要な家具は、ねむが用意を済ませていた。

みかづき荘に残されたさなの荷物は、明日から順次、やちよが発送するという。
いろはは、作り置きされていた夕飯を食べ終えると、ラビの家で聞いたことを二人にすべて報告。
その後、電話で灯花とねむにも報告した。

『話してくれてありがとう、いろはお姉さま。それにしても、叔父様も変なところで気を遣ったにゃー』
「私も話を聞いてびっくりしちゃったよ。ラビさんたちが、とんでもないことになってたなんて……」
『事態は、わたくしたちの予想を上回る危険な状況だよ。魔女が人間を餌じゃなくて、手下にするなんて、
 今まで考えもしなかったよ』
「W−1だけど、湯国に居ついた魔女を優先したい。太助さんは私に湯国に行くなって言ってたけど、
 あんな話を聞いて放っておくなんて無理だよ」
『それのことなんだけど……もう少し待って欲しいの』
「な、なんで?」
『湯国に居ついた魔女の正体次第では、わたくしたちは窮地に陥るかもしれない』
「理由を教えてもらえるかな?」
『電話で話すより直接話したほうがいいと思う。鶴乃とさなも新居に移ったし、近いうちにさなの家で、
 今後のことを改めて話したいから、近いうちにまた集まれるといいんだけど、都合はどうかな?』
「やちよさんと、ういに確認してみるから待って」

いろはは、二人に直近の都合を確認し、灯花の用件を説明した。
週末はやちよが仕事があり、さらに翌週末から始まる連休まで、みかづき荘メンバーのいずれかが
私用で塞がっており、全員が集まることはできなかった。
187 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/05(月) 21:42:13.59 ID:0V5CcO3mO
灯花にその旨を伝えると、灯花はそこで一度電話を切り、鶴乃とさなに会合参加の了承を得て折り返してきた。
さなの新居を開催場所とした会合は、開催日時が連休初日の正午と決まり、やちよも織莉子と連絡を取り、
その旨を伝えた。幸いにも織莉子も都合がつき、みかづき荘に一度集まってから移動することが決まった。

『今日はゆっくり休んでね。本当にお疲れ様。おやすみなさーい』
「うん、おやすみ。灯花ちゃん」

電話を切ると、やちよが声をかけてきた。

「湯国の魔女に眷属に、クリミナルズ……私たちの知らないところで、まずいことになってるわね…」
「人間を手下に変えてしまうだなんて…。クリミナルズの行動範囲も広い」
「お姉ちゃん。もし、魔女の正体がミラーズの株分けだったら、もっと酷いことになるかも…」
「あまり考えたくないけど、湯国以外でも、似たような状況が起きているかもしれないね。
 クリミナルズの行動も含めて」
「……いいえ。湯国の魔女がミラーズの株分けだったら、懸念は他にもあるわよ」
「な、なんでしょうか?」
「疑えばキリがないから、あまり考えないようにしていたけど、今まで魔法少女のコピーは、
 マギウス事件の一場面を除けば、ミラーズの中だけに現れていた。だけど、今後はそうは
 いかないかもしれない」
「マギウス事件では、コピーがアリナの能力で外に連れ出されていた。
 ホテルフェントホープで、私たちも遭遇しましたね」
「……も、もしかして、魔法少女のコピーが、既に外に出てきたりするんじゃ?」
「魔法少女のコピーは、結界の中でしか活動できないはずですよ。
 アリナは未来に渡っているし、コピーを外に連れ出せる人は」
「……アリナのコピーだったらどうかしら?」
「……!?」
188 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/05(月) 21:47:26.44 ID:0V5CcO3mO
「魔法少女のコピーは、姿形は瓜二つだけど、中身までは完全に真似できない。
 コピーしてる記憶も本人の丸写しではない。だけど、アリナ自身がミラーズと
 協力し合って、完璧なコピーを作っているとしたら、話は変わってくるわ」
「じゃあ、やっぱりコピーはもう、結界の外にいるのかな……」
「確認は取れていないわ。コピーは外見だけなら本物と瓜二つ。コピー元の素性を
 知らない第三者が遭遇したら、まず見分けはつかないと思う。それに、アリナの
 超精巧なコピーが本当に存在して、魔法少女のコピーを連れ出せるなら……」
「知らない間に、誰かとコピーが入れ替わっていることも考えられる……」
「だ、だけど、まだ確認は取れてないんですよね?」
「本物と区別ができないほどのコピーと入れ替わっていたとすれば……」
「い、いやだよぉ……!」
「……なんて、怖がらせてごめんね、ういちゃん。でも、可能性はあるのよ」
「…………」
「やちよさん。さっき言っていた懸念は、他にもありますか?」
「鏡の屋敷の存在を知った日、ミラーズの使い魔から招待状を受けったでしょ」
「そういえば、そんなことがありましたね。落書きみたいな地図と、拙い文字が書かれてました。
 でも、私が招待状を受け取ったのは、魔女結界の中でしたよ?」
「お姉ちゃん。その結界はミラーズのこと?」
「ううん、別の魔女の結界の中だったよ」
「じゃあ、ミラーズから別の魔女のところへ行く間、使い魔は結界の外に、出ていたことになるよね……」
「……あ!」
「さっきは、超精巧なアリナのコピーが、魔法少女のコピーを連れ出すことを想定した。
 だけど、魔法少女のコピー以外の使い魔なら、外に出ることができるのでしょうね」
「結界の外に出られる使い魔と、出られない使い魔がいるのかなぁ……」
189 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/05(月) 21:55:36.16 ID:0V5CcO3mO
「使い魔が魔法少女のコピーを連れ出せるとしたら…って、考えましたけど、
 これはちょっと考えすぎですね。それができるなら、今頃とっくに街中は、
 コピー塗れになっていると思いますし……」
「私の懸念は、ミラーズの使い魔が外に出て来れて、魔女が人間を手下に変えられるのなら、
 その特性を生かして、魔女は使い魔を通じて人間を操れるかもしれないのよ。ミラーズは
 他の魔女と違って魔法少女のコピーを作れる。精度の高さにはバラつきがあるけど……
 数多の魔法少女の知識をコピーして、知識を蓄えているとも考えられるわ。ということは、
 蓄えた知識を元に、魔女が変異した可能性だって考えられる」
「そのほうが魔女にとって得だから…?」
「太古の昔、人類が洞穴の中で暮らしていた時期がある。その頃から人類は、人類同士で
 争っていたし、自分たちと異なる集団の人間を食糧にしていたそうよ」
「人間を人間を食べちゃうの…!?」
「カニバリズムとも言うわ。だけど、進化の過程で、捕虜を労働力とすることが、自分たちの
 集団にとって利益になると気付いて、考えを変えた。魔女だって元は人間よ。同じ考えに
 至ってもおかしくないと思うわ」
「お姉ちゃん。私……今思ったんだけど……」
「何、うい」
190 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/05(月) 21:58:00.50 ID:0V5CcO3mO
「魔女って倒すとさ、魔法少女に得になる素材を落とすよね?その素材を使って、
 私たちは自分たちを強くしてるよね?こ、これってさ……その……」
「ある意味では、形を変えたカニバリズムかもしれないわね」
「…………魔女が落とす素材の出所を考えれば、そうなりますよね」
「あ、あとは……いずれ、一般人のコピーが現れても、おかしくないと思うわ」
「……そ、それが本当だったら、私たち、誰も信じられなくなっちゃうよ」
「アリナとミラーズの繋がりが明かされた時から、可能性は考えられたの。
 あくまでも可能性どまりだったけど、現実になってしまうかもしれない」 
「本当に疑えばキリがないですけど、もしもに備えて対策を立てないと、
 日常生活もままらなくなりますよ」
「憶測でしかないけど、ミラーズの記憶読み取り対策として、開発されたアクセサリー。
 これがコピーの炙り出しに使えるかもしれない」
「そういえば、これをつけてミラーズに入ったときは、コピーたちはアクセサリーの
 破壊に躍起になっていました!」
「よっぽど都合が悪いんでしょうね。これをつけていたら襲ってくる魔法少女、
 もしくは一般人がいるとすれば……」
「それが外に出てきたコピーかもしれない、ということですね」
「……コピーが外に出てきているという話は、あくまでも可能性でしかないわ。
 だけど、あり得ないと断言することもできない。今度の会合で、このことを
 みんなに話しましょう」
「賛成です」

三人は話を切り上げると、その日は各々自室に戻り、就寝を迎えた。
191 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/05(月) 21:59:58.23 ID:0V5CcO3mO
本日はここまでです。続きは来週月曜日以降に。
192 :保守 [保守]:2022/09/10(土) 07:56:15.00 ID:QIOhwNEIO
保守
193 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 21:58:15.89 ID:nL4eep7DO
>>190からの続き

自室に戻ったいろはは、就寝時間を迎えると寝床に入ったが、寝付けなかった。
インキュベーターの撤退宣言が──観測用の個体を除いてだが──されてから、
多くのことが立て続けに起こり、心身ともに満足に休めない日々が続いている。

W計画の立案、開催される会合の数々、浄化システムの効果範囲拡大。
鶴乃、さな、桜子のコールドスリープ決定と、鶴乃とさなの新居への引っ越し。
湯国の混迷とクリミナルズという脅威……

魔法少女の夜明けが近いと思わせる一方で、まるでそれを妨げるかのように
発生する事件の数々。最近は疲労が隠せず、徐々にストレスも溜めていた。
潜在的ストレスの蓄積は、不眠症という形でいろはを苦しめていた。

(ミラーズの件は、魔翌力パターンを探るか、本人しか知らないことを質問して、
 返ってくるj回答で、ある程度割り出すことができるよね。考えてみれば)

そこへ一通のメールが入り、着信音で気付いたいろはスマホを手に取った。

(……さなちゃん?)

内容は、起きていたら電話で話せるかという質問だった。
いろはは、さなに電話をすることで質問への回答とし、さなは間もなく電話口に出た。
194 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:00:33.57 ID:nL4eep7DO
『お疲れ様です、いろはさん』
「さなちゃん。連絡ありがとう。何かあったの?」
『その……帰る予定だったのに、急に今日から移住になっちゃって、
 なんて伝えればいいか、まとまらなくて…その、すみません…』
「謝らなくてもいいよ。事情は理解してるもん。それより、電話して大丈夫だった?
 電子機器が近くにあると影響が出るって聞いたけど……」
『ざわざわしていますけど、大丈夫です。自室には家電製品を置いてないんです。
 立地も森の中なので、想像していたよりは快適です』
「そっか、不便はしてないんだね」
『だけど、いざ一人となると心細くなっちゃって……』
「みかづき荘で今まで一緒にいたのに、急に切り離されたんだし、無理もないよ」
『本当は、皆さんにきちんとご挨拶をしてから、こっちに来たかった。
 でも、アイちゃんと融合後に、頭の中がぐわんぐわんして、ざわざわして……
 みかづき荘に戻るどころじゃありませんでした』
「そんなに大変だったんだ。今はスマホで連絡してると思うけど、大丈夫なの?」
『電子機器の多いところだと、まだ無理ですが、スマホ一台くらいないなら何とか』
「それでも辛いはずなのに、態々連絡してくれたんだね」
『私、いつの間にか気絶してて、一時間ほど前に目を覚ましたんです。
 ねむさんが用意して下さった新居の、自室に運び込まれていました。
 融合した時の環境が、電子機器に囲まれた部屋だったので……』
195 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:02:23.16 ID:nL4eep7DO
「そうなると、今は街中を歩ける状況じゃないね」
『ねむさんからは、私はこの新居でマシンに入る日まで、過ごすように言われています。
 アイちゃんと融合した状態に慣れないと、未来で目覚めた時、アリナ相手にまともに
 戦うことはできないとも。ですから、明日から学校に通うのを止めて、アイちゃんと
 協力し合って、一日でも早く融合状態に慣れることにします』
「前向きになるのはいいことだよ。そういえば、さなちゃん、学校ってずっと行ってたの?」
『はい。教員からも、魔法少女以外の生徒からも私の姿は見えないので、登校しているのに
 欠席扱いになってました。それでも、テストは毎回受けていたので、教員からは不思議に
 思われていたみたいです。先日、義実家に行った時に知りました』
「そんなことになってたんだ。今のさなちゃんのために、私にできるとがあればいいんだけど……」
『いろはさんの、その気持ちだけで十分です。そういえば、来週の連休初日、私の新居に
 皆さんが集まると連絡をいただきましたよ。何か進展があったんですか?』
「それが、大変なことになっちゃって……」
『話しにくいことですか?』
「……うん。だから、うまく言葉がまとまってないんだ。来週、さなちゃんのところに
 集まる時まで、この話は保留にさせてもらうよ。ごめんね」
『分かりました。こちらこそ、すみません、夜も遅いのにお電話差し上げてしまって』
「ううん、連絡をくれて嬉しかったよ。今度の会合で会おうね」
『はい。それじゃ、おやすみなさい』
「うん、おやすみ」
196 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:04:08.01 ID:nL4eep7DO
翌日。
その週の最後の登校日。いろははレナと昼休みに屋上へ向かうと、そこには鶴乃がいた。
二人は声をかけたが、一点を見つめたままで返事がなく、近くまで寄って声をかけると、
そこでようやく二人に気が付いた。

「おわっ、いろはちゃんにレナ!二人ともいつの間に?」
「やっと気付いてくれたよ」
「さっきから声かけてんのに、鶴乃が気付かなかったのよ」
「あはは、ごめんごめん。またやっちゃったか……」
「また?」
「その……ここしばらく、立て続けにありすぎてさ、なんか毎日に現実感がないんだよ……」
「鶴乃ちゃん、話なら聞くよ?」
「レナも、それくらいなら付き合ってもいいわよ」
「ありがとう」

鶴乃の話によれば、父から中華万々歳の閉業を告げられた日から、どこか夢を見ている気分だという。
自分が今置かれている状況が、離れている場所からもう一人の自分を見ているような感覚で、目の前で
起きている出来事が、どこか他人ごとに思えるとのことだった。

「それは、仕方ないと思うな。あんな酷いことが続いて、お店までなくなったんだもん」
「まさか、本当にお店を閉めちゃうなんて思わなかったわよ。レナ、あんたの店の味、
 割と好きだったんだけどね」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。せめて、跡継ぎを見つけられてたらね……」
197 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:06:17.78 ID:nL4eep7DO
「鶴乃ちゃんのお父さん、大丈夫なの?」
「ずっと入院してるって聞いてるけど……」
「人間ドックの結果が良くなくて、それからずっとだよ。引っ越し先が病院から近いから、
 お見舞いには毎日行ってるんだけどね、店をやってた頃から一気に老けちゃって……」
「…………」
「…………」
「今思えば、お父さんにとって、お店は心の支えになってたんだ。私にとってもね。
 お店を手放したことで、お父さんも、私も、自分の支えを失っちゃったんだ……
 お母さんもおばあちゃんも、あんなことになっちゃった」
「その節は、何の力にもなれなくて……」
「それは気にしないでよ。自分たちだけで何とかするって、お父さんとも決めてたから」
「ご家族と言えば、鶴乃のお姉さんはどうしたのよ?」

それからしばらく、沈黙がその場を支配した。
体感的に五分程度を過ぎた後、レナから口を開いた。

「仕事とタイミングが重なって、参列できなかったんだ。電話で話は出来たんだけどさ。
 いつだったか、お店の再興を巡って現実を見ろって言われたことがある。それなのに、
 お店がいざなくなると、何があったのか詳しく聞かれたんだ。私、お父さんと一緒に
 お店を必ず再興するって言って、そのために頑張って来たから、結構心配されたよ」
「そっか……」
「お姉ちゃんと話したいこと、もっとあったけど、仕事で忙しいし、あまり話せなかった。
 それでも電話をかけてきてくれのは、嬉しかったよ」
「新居での暮らしは、どうなのよ?」
「お父さんの知り合いに不動産屋さんがいて、色々掛け合ってくれたみたいなんだ。
 おかげで快適に暮らせてる。……素直に喜べないのは、悪いと思ってるけど」
198 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:08:36.58 ID:nL4eep7DO
そこまで話したところで、ふと、鶴乃は思い出したように時計を見た
時間は予鈴が鳴る五分前となり、三人は慌てて立ち上がると、教室に向かって駆け出した。

「ごめんね、いろはちゃん、レナ。話に付き合わせちゃって」
「それはいいよ。鶴乃ちゃんと話せてよかったから」
「レナも万々歳には世話になったし、これくらいはね」
「二人とも」
「何?」
「話、聞いてくれてありがとう。少し気持ちが楽になったよ」

そうして、三人は屋上を後にした。


その日の放課後、いろはとレナは、話を聞いてくれたお礼として、鶴乃の新居に招待された。
里見メディカルセンターに近い北養区に、鶴乃が新たに住んでいるマンションが建っていた。
部屋の間取りは2LDKで、鶴乃が父と二人で住むことを考慮して、紹介された物件だと話した。
しかし、鶴乃の父は入院中のため、現在は一人で暮らしており、新居に客人を招いたのは今日が初めてだという。

「お邪魔します」
「失礼するわよ」

扉が開かれて中に入ると、玄関から廊下がまっすぐ伸びており、玄関から左手に部屋が二つ並んでいた。
突き当りにダイニングとリビング、さらに奥にはベランダ。鶴乃の新居はハーフリビング型の間取りだった。
199 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:11:51.27 ID:nL4eep7DO
「お茶用意するから適当に座って待ってて」
「ありがとう。外見てもいい?」
「いいよ。そこから鍵を開ければ出られる」

いろはは鶴乃に断ってベランダに出ると、レナと一緒に外の風景を眺めた。
視線の先には里見メディカルセンターが見え、ゆっくり歩いても三十分程で、
到着出来ると思われる距離だった。

立地のためか、車両の走行音が遠くに聞こえ、マンション周囲は静かな環境だった。
区画された更地の住宅用地が眼科に見えたが、工事は中断しているらしい。
晴れにもかかわらず、重機にはカバーがかけられている。

鶴乃に声をかけられると、二人はベランダを後にし、戸を閉めて居間へ戻った。

「どうぞ。お店で出してた黒茶だよ」
「ありがとう、いただくね」
「ん…おいしい…!」
「人にお茶を出すのも久しぶりだよ。店を閉めてから、時間が出来て変な感じでさ」
「ずっと続けてたお店だったもんね。無理もないと思うよ」
「レナ、最初聞いた時、数ヵ月遅れのエイプリールフールかと思ったわ」
「お父さんとは話し合ったんだけどね。あの時は反対したけど、今ならお父さんの
 言ってたことも、受け入れられるんだ。だけどさ……」
「…………」
「何かあるの?」
「お父さんに『お前はお前の中華万々歳を築けばいい』って、言われたんだ。
 でも、それはちょっと違うんだよね」
「鶴乃は鶴乃の店を持ちたかったわけじゃないの?」
200 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:18:27.35 ID:nL4eep7DO
「私が守りたかったのはさ、曾お爺ちゃん、お爺ちゃん、お父さんが守ってきた
 中華万々歳を、再興したかったってこと。私は将来、三代に渡って続いてきた
 お店を継ぎたかったの。自分の店を持つっていうのとは、ちょっと違うの……」
「鶴乃ちゃん……」
「お父さんがね、廃業前に最後にもう一度営業するって言ってた。全商品を半額で
 提供して、常連さんだけでも来てもらえたらって。長年、お世話になった土地への
 恩返しのつもりでさ。だけど、バッドタイミングってやつかな。ももこじゃないけど。
 最後の営業も出来なかったんだ」
「悪いことって、重なるもんよね。特に、魔法少女なんてやってると、尚更って感じ」
「ここから病院が近いけど、お見舞いには?」
「殆ど毎日行ってるよ。あんまり通うと、お父さんにも負担になるから、日にちを空けることもある」
「退院できる見込みはあるの?」
「あー、うん……その……」
「あ、レナ、失礼なこと聞いちゃった。ごめん」
「気にしてないよ。それよりも二人ともさ、もしよかったら、夕飯食べていかない?」
「え?」
「で、でも…」
「お礼のつもりが、また愚痴を聞いてもらっちゃったし。どうかな?」
「せっかくだから、ごちそうになるよ。今日はやちよさんが帰らなくて、
 フェリシアちゃんも帰りは明日だし、ういは灯花ちゃんたちのところ。
 夕飯は一人で済ますつもりだったんだ」
「レナも今日は外食するつもりだったのよね。久しぶりに万々歳の味を食べたい♪」
201 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:27:10.78 ID:nL4eep7DO
「ありがとう。チャーハンとスープを用意するよ」
「いいわね。もう二度と食べられないと思ってたし」
「万々歳と言えば、メニューを制覇したなぁ」
「連絡をくれれば、材料用意して希望のメニューも作れるよ」
「そこまでしてもらうのはちょっと、悪いかな……」
「レナも食べたい料理はあるけど、そこまで甘えるのは……」
「おりょ?でも、気が向いたら声かけてよ」
「それじゃ、弟の分を作ってもらっていい?スープもあると嬉しいんだけど……」
「私も、夜食用に同じのが欲しいな」
「うん。自分が食べる分以外の食事、作るの久しぶりなんだ。
 あ、テレビつけていいから、適当に待ってて」

そういうと、久しぶりに見せる満面の笑みで、鶴乃は夕飯の支度にかかった。
ガスコンロは、家庭用の中華コンロを用意してもらったという。
万々歳で料理を持つ間、空腹を刺激する炒め音が聞こえ、それに懐かしさを感じる。

リモコンを手に取ってテレビをつけると、最初にニュース番組が映った。
二木市で開催予定の史乃沙優希のライブが、開催日が決定したことが流れており、
開催日決定に伴い、チケットの予約開始日も決定したという内容だった。

「今度のさゆさゆのライブも、チケット争奪戦になりそうだわ」
「チケットの獲得って、そんなに大変なの?」
「予約開始日になったら、受付開始時間と同時に動かないと間に合わないわよ。
 事前に予約サイト開いて、モニターの前にスタンばらないと」
「史乃さん、本当に人気なんだね」
202 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:30:19.04 ID:nL4eep7DO
それからニュースは次の内容へ移り、先日の地震で発生した土砂崩れで亡くなった、
林間学校に参加していた生徒の、親族へのインタビューに切り替わった。
地震は天災であるため現実を受け止めるしかないと言う親族もくれば、地震発生の
予測の可否を問う親族、林間学校を企画した学校に責任を問う親族もいた。

その中に、二葉の姓の親族が現れ、長兄を亡くしたことを悲しむ母親が胸中を吐露していた。

『きっと、これは娘を蔑ろにした報いなんです。私、私は……間接的に長男を……』
『母さん、考えすぎだよ。兄さんは…兄さんは運が悪かったんだ……』

その母親と次兄の姿を最後に、番組はスタジオを映してCMに入った。

「いろは。今のテレビに出てた人、二葉って名前だったわよね?」
「う、うん。多分…さなちゃんの…」

そこで、ちょうどチャーハンが仕上がり、二人は鶴乃に声をかけられた。
卓に向き直ると、二人の前にはチャーハンとスープが並べられた。
出来立てだけあり、料理からは湯気があがり、鼻腔をくすぐる匂いが食欲を刺激する。

「お待たせ、二人とも」
「ありがとう、鶴乃ちゃん。おいしそう!」
「この匂い、なんだか懐かしいわね。もういただいていい?」
「もちろん!熱いうちに召し上がれ!」

二人はいただきますと告げ、夕飯を摂り始めた。
203 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:33:46.03 ID:nL4eep7DO
「これよこれ、レナの知ってる万々歳の味よ!」
「美味しいよ、鶴乃ちゃん!」
「そういってもらえて嬉しいよ。私も一緒にさせてもらうね」

鶴乃も夕飯の席に加わり、三人でしばし談笑しつつ、食事を勧める。
会話の内容は先程までとは打って変わって、他愛のない雑談に興じ、
自分たちを取り巻く状況をしばし忘れ、ひと時を楽しんだ。

「チャーハンと言えば、このスープよね。コンビニチャーハンじゃ、
 ついてこないし、これがないとチャーハン食べた気がしないのよ」
「簡単に作れそうで作れないよね。これを作るのは、鶴乃ちゃんじゃないと」
「言ってくれれば、いつでも作るよ。都合が合う時になっちゃうけど」
「……じゃあ、たまにお願いしていいかな?みかづき荘に来て作ってくれると、他のみんなも喜んでくれると思う」
「レナもその時は、ももことかえでに声をかけてお邪魔するわ。かえでには文句言わせないから」
「腕が鳴るなぁ。そろそろ、お土産分のチャーハンとスープ、用意するね」
「ありがとう」

鶴乃は空いた食器を片付けると、再び厨房に立ち、二人にお土産用のチャーハンとスープを用意した。
外はまだ夕焼けの空だったが、暗くなる前にいろはとレナは鶴乃の新居を後にした。


二人は途中まで並んで帰ったが、道中でレナがいろはに会話を切り出した。

「いろは、万々歳の跡地ってみた?」
「うん。つい最近見たよ。建物がなくなって、売地になってた」
「もうそこまで済んじゃったのか。レナが見た時は解体中だったけど」
204 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:38:57.36 ID:nL4eep7DO
「この数ヵ月で、あっという間だったよね」
「ほーんとね。にしても、態々万々歳のその後を見に行くなんて、
 レナも人のこと言えないけど、鶴乃のこと気にかけてるのね」
「昨日、ラビさんたちと話があって、その帰りにタクシーで遠回りしてね」
「ふーん…って、リーダー同士での会話って、しかも珍しい相手ね。何かあった?」
「それが……湯国で大変なことが起きてるって話だった。残念だけど、
 聞いた限りじゃ、私たちが今すぐ何かできることはなかったよ」
「話には聞いてたけど、湯国ってある意味、すごい街よね。魔法処女の撲滅を公言するなんて」
「初めて聞いた時は耳を疑ったよ。今は湯国の中での話だけど、もしも今後、
 マギアレコードを世に広めた時、同じことが起きたらと思うと……」
「魔法少女の存在を広めることが、宇宙の意思に都合が悪い…だっけ。
 最近起きてる嫌な事件も、湯国の件も、それが絡んでるのかしら?」
「偶然の一致で片付けるには、ちょっと無理があると思ってる」
「レナもそう思う。嵐の前の静けさじゃないけど、何かの前触れじゃなきゃいいんだけど。
 っと、レナはここから方角が違うわ。また明日で会いましょう」
「いつの間に。また明日学校でね」


灯花と会合開催日を決めた週の週末。
霧峰村から時女静香がみかづき荘を訪れた。

「環さん、こんにちは」
「静香ちゃん、どうしたの?」
「浄化システムが広がった件、私たちも力になれるかもしれない。
 悪いんだけど、今から時間をもえらえないかな?」
「いいよ。今日一日、留守のために予定を空けていたんだ」
「そういってもらえて助かるわ」

いろはは静香を居間へ通すと、麦茶を用意して静香に勧めると用件を尋ねた。
205 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:46:27.93 ID:nL4eep7DO
「ありがとう。鶴乃さん、色々あったらしいけど大丈夫?」
「心配してくれてありがとう。葬儀も引っ越しも済んで、鶴乃ちゃんも登校を再開してるよ」
「ここに来るとき、お店に寄ったらお店がなくなってたんだけど……」
「鶴乃ちゃんのお父さんがお年でね、それで……」
「そうだったんだ。鶴乃さん、本当に大変だったんだね」
「ご家族が旅行先で亡くなって、鶴乃ちゃんも過労で入院してたの」
「大変だったのね……」
「鶴乃ちゃんはすぐに退院できたけど、今度は鶴乃ちゃんのお父さんが入院して……」
「そうなんだ……今度、だいだいっこをお見舞い品に持ってくるわ」
「ありがとう、静香ちゃん。鶴乃ちゃんも喜んでくれると思う」

静香は麦茶を一口飲んでグラスを置くと、用件を切り出した。


静香の話の内容は、霧峰村の負の歴史だった。
生前、霧峰村を牛耳っていた御子柴という存在と、その御子柴が存在していた時代、
霧峰村で起きていた陰惨な風習、その御子柴の自害を見届けたこと……
また、リーダー同士の会合で、自身が出席できなかった理由として、水徳寺の分寺を
建立するか否かを、村全体の会議で話し合っていたことを語った。

「あの時は、大事な会合に、ちはるに代理で出てもらって悪かったわ」
「代理での出席は認めてたから問題ないよ」
「そう言ってもらえると助かるわ。それで話なんだけど、実は分寺が立ったら、
 そこに霧峰村出身の歴代の巫(かんなぎ)を埋葬しようとしているの。それが
 浄化システムを、さらに広げる協力に繋がるかもしれないわ」
「埋葬?村で誰かが亡くなったの?」
「これは、突っ込んだ話になるから、言いにくいんだけど……」
206 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:50:00.16 ID:nL4eep7DO
静香の話によると、霧峰村の近くを通る川の底には、魔法少女の遺骸が沈んでいるという。
遺骸を引き上たあとは分寺に埋葬するが、遺骸は既に白骨化してしまっている。
引き上げた後は遺骸を故人ごとに分けたいが、どの遺骸が誰なのかを正確に判別できない。
そのため、引き上げた遺骸は一つの場所に埋葬することとし、分寺の敷地内に亡くなった巫の
慰霊碑を立てようとしている、ということだった。

「慰霊碑を立てて供養をした際に、浄化システムが広がるかもしれないって、
 すなおが言ってたの。慰霊を行う頃になったら、観測してもらえないかな?」
「分かった。だけど、観測するには灯花ちゃんに協力を仰ぐ必要があるんだ。
 浄化システムが初めて広まった日は、効果範囲を電車で移動して、効果が
 途切れるところを直接確認してたから」
「態々そんなことしてたんだ。専用の観測マシンとか、そういうのがあるもんだと」
「他に確認する方法がなかったからね。だけど、その後、静香ちゃんの言う通り、
 灯花ちゃんがシステムの効果範囲を、観測する方法を開発したんだよ」
「そうだったんだ。浄化システムのこと、任せきりになってるみたいでごめんね」
「とりあえず、時間をもらえないかな?二、三日中には返事ができると思う」
「分かったわ」

話をすべて聞き終えた後、いろはは後日回答することを約束すると、静香は引き上げた。
その後、いろはは灯花に連絡し、静香の話を伝えると、灯花から後ほど折り返すと返事があった。
灯花からは、その日の夜に連絡があり、PCにメールも同時に届いた。

『もしかしたら、大きな進展を見込めると思って、二つの計画を立てたよ。
 交渉はお姉さまにお願いするけど、メールで送った素案を見てほしいにゃー』
207 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 22:55:28.78 ID:nL4eep7DO
いろはのノートPCに、灯花から二つの計画の素案が届いた。
一つは霧峰村の水徳寺分寺建立後、慰霊への協力。もう一つは二木市の公営霊園増設後、
地下墓地に埋葬されている魔法少女の亡骸を、そちらへ移し、慰霊するというものだった。

どちらも魔法少女の供養を目的とした計画であり、前者は魔法少女グループの各陣営内で
メンバーを募集。後者は政界と繋がる人脈を通じ、表向きは街の公共事業として新たに墓を
建設するという内容だった。

『慰霊を行う人数が多ければ、浄化システムも広がりやすくなると思うよ』
「早速、SNSでみんなに呼びかけてみる」
『公営霊園増設は難しいと思うけど、プロミストブラッドのリーダーは、街の市長のご令嬢だよ。
 話をするだけしてみて欲しいにゃー』
「これは結菜さんと直接話したほうがいいね。連休中に会えないか聞いてみるよ」

素案を受け取ったいろはは、静香、結菜へ協力を持ち掛けることを考え、みふゆに連絡を取って相談した。

『いろはさん。あまり言いたくありませんけど、最近ワタシに頼り過ぎでは?』
「本当にすみません。だけど、こういったことで相談できる方が他にいなくて」
『やっちゃんとは相談しなかったんです?』
「やちよさんからは、各陣営のリーダーとの交渉は、私に任せると言われています」
『でしたら、ワタシにいきなり丸投げするのではなく、少しは自分で考えないと』
「……考えて思いつかなかったので、連絡しました。すみません」
『うーん……頼られるのは、悪い気はしませんけどね。でも、今後は気を付けてほしいです』
「本当にすみません」
208 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 23:03:55.10 ID:nL4eep7DO
『やっちゃんとは相談しなかったんです?』
「やちよさんからは、各陣営のリーダーとの交渉は、私に任せると言われています」
『でしたら、ワタシにいきなり丸投げするのではなく、少しは自分で考えないと』
「……考えて思いつかなかったので、連絡しました。すみません」
『うーん……頼られるのは、悪い気はしませんけどね。でも、今後は気を付けてほしいです』
「本当にすみません」
『システムは魔法少女への弔いで広がりました。二つの計画が成功すれば、さらに広がるでしょう。
 ですが、協力を志願された静香さんたちはともかく、紅晴さんとの交渉難易度は高いかと』
「地下墓地が設けられた理由が理由ですから、どう話をすればいいか……」
『伝え方次第では、紅晴さんを逆撫でしてしまうかもしれませんね』
「そんなつもりは、まったくないんです。地下墓地もいずれは、第三者に発見されるかもしれない。
 公営霊園増設は、それを見越してのことだと思います」
『……交渉にはワタシも参加します。デリケートな問題ですし、今回はこちらから二木市へ足を運んで、
 紅晴さんを訪ねましょう。公営霊園増設となると、二木市の行政に関わる話になる以上、紅晴さんが
 頼りです。紅晴さんに話をどう伝えるかは、一緒に煮詰めましょう』
「ありがとうございます」
『ただ、向こうからすれば、ワタシはかつて、平手打ちをしてきた相手でもある。
 ワタシの話を聞いてくれるか、気になるところではありますけどね』
「それは……令さんの時ですね。神浜監獄で起きたあの時の……」
『抗争はお互い、まだ生乾きの傷です。言い出せば恨みつらみは止まらなくなる。
 紅晴さんを訪ねる日は決めていますか?』
209 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 23:07:23.11 ID:nL4eep7DO
「これから決めようとしていました。連休中にお会い出来ればと。連休初日は、
 さなちゃんの新居で会合ですから、残りのどこかになりますが」
『では、日程が決まったら連絡を下さい。紅晴さんとの話を煮詰めるのは、
 連休初日の会合を終えた後にしましょう』
「分かりました」
『うまくいけば、W−1の間に浄化システムは惑星全土に広がるでしょう。
 そういえば、W−1開始は前倒しになるんでしたね。いつからですか?』
「連休初日の会合の後に予定です。既に協力者と各陣営のリーダーからは同意を得ています」
『流石ですね。それでは、来週お会いしましょう』

その後、いろはは結菜と連絡を取り合い、連休三日目に会う約束を取り付けた。
いろはは過去を振り返りつつ、灯花とねむの素案を基に、結菜に話す内容を組み立て、
みふゆと話し合う前に整理するのだった。


一方、みかづき荘から距離を置いていた鶴乃とさなは、桜子と連絡を取っていた。
病院前で待ち合わせ、同じ日時に灯花とねむを尋ね、各々が考え抜いた願いを伝えた。

未来へ送られる要員となったことから、鶴乃とさな、桜子はW−1、W−2から外れている。
代わりにこの時代で、自身の願いを成就するために時間を費やすこととなり、全ての準備が
整うまでの期間が、三人が現代で過ごす最後の時間となる。
210 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 23:14:51.17 ID:nL4eep7DO
「鶴乃さん、この度は……」
「ありがとう、さな。こっちは一段落したよ」
「|もう落ち着いた?|」
「なんとかね。葬儀のことは落ち着いたけど、お父さんが入院したし、
 お店のことは片付いたけど、環境が一気に変わり過ぎて眩暈もね」
「いろはさんから、お店はもう閉めたと聞きましたよ」
「|最後にもう一度、お店を営業するとも聞いてた|」
「それがね、お母さんとおばあちゃんがあんなことになって、葬儀があったからね。
 お父さんの入院が早く決まって、色々あったから無理になっちゃったんだ。店の
 解体も土地の売却も済んで、私は引っ越し先の新居で暮らしてるよ」
「そうでしたか……」
「|鶴乃はどこへ引っ越したの?|」
「北養区だよ。お父さんの知り合いの不動産屋さんに、紹介してもらえたんだ。
 そういえば、さなも北養区へ移住したんだよね。移住先が近かったら、時々、
 会えるかもしれないね」
「正直、一人だと心細かったので、お会いできたら嬉しいです」
「ところで、さな。よく義実家に行く気になったね。あんなに酷い家だって言ってたのに」
「自分でも不思議なんですけど、いざ本当に二度と顔を見なくなるんだと思ったら、
 最後にもう一度だけ見ておこうって気になったんです」
「|一家の様子はどうだった?|」
「変わらずですよ。だけど、分かったこともあって無駄足ではなかったです」
「|それは、どんなこと?|」
211 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 23:17:27.05 ID:nL4eep7DO
「家出宣言をして大分経っていますけど、私の食事が未だに用意されていたんですよ。
 部屋に食事を置いて、しばらくしたら下げられてましたが、それに変化があって」
「|代わりに他の人が食べてたりしてたとか?|」
「はい。母に作った食事をしばらくすると取りに来るんですが、自分で食べてから
 食器を下げるんです。それで『さなはまだ家にいる』って言うんです」
「どういうことだろうね。世間体でも気にしてるのかなぁ」
「そうかもしれません。言い方は悪いですけど、好奇心が沸いて一家を観察してました。
 以前は彼らに関心なんてありませんでしたけど、彼らが私にしてきたことを、私なりの
 考えでまとめて折り合いがつきましたし、今となっては、彼らが哀れとさえ思えます」
「心が強くなったね、さな。まいったな、一足先に追い越されたちゃった気分だよ」
「|魔法少女の能力がありながら、それを復讐の手段としなかった。それだけでさなは、
  既に義実家一家より大人だと思う|」
「さなは、罰を与えようとか、思ったことはなかったの?」
「やろうと思えばできたでしょうね。だけど、それはなんだか違うって頭にあったんです」
「|虐待とは力ある者が力なき者にへ行う罪。それを行ったものに対する罰は
  往々にして軽すぎる。罪の犠牲者に対する慰めになることはない|」
「は、はぁ……」
「桜子が言うことは、難しくて分からないことがあるよ……」

その後、鶴乃とさなは電波望遠鏡をあとにし、桜子は本に戻った。
212 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/12(月) 23:18:49.93 ID:nL4eep7DO
本日はここまでです。続きは来週月曜日以降に。
213 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:01:45.81 ID:WCbA+PmGO
>>211からの続き

連休初日の会合日。
さなの新居は、里見メディカルセンター近くの森に建てられた、堅牢な木造二階建の住宅だった。
ここには灯花の家の使用人が、定期的に訪れて手入れを行っているためか、建物の状態は良好だった。
灯花の話によれば、メディカルセンターが保有する保養所の一つらしい。
ねむが灯花に相談を持ち掛けたところ、灯花が代わりに自分が用意すると申し出たという。

家屋の一角に設けられた広い居間に、みかづき荘メンバーと灯花、ねむ、みふゆ、桜子、
織莉子、キリカ、かごめの他、ももこ、レナ、かえでも出席していた。
各々が用意された席へ移動し、フェリシアが居間を見まわして一息つき、感想を漏らした。

「ここがさなの新しい家なのかよ。一人で住むには大きいんじゃねぇか?」
「元々は五、六人の家族で使うための保養所だそうです」
「一人で使うには大きいけど、わたくしの家の使用人が管理してるからね。
 部屋の清掃とか食事の用意は、使用人がやってくれるよ」
「使用人付きの家に一人暮らしか。大出世だな」
「そ、そうでしょうか……」

台所から、全員分の麦茶を用意して戻ってきたいろはが、灯花に声をかける。

「その使用人って、この前、私たちに車を出してくれた人のこと?」
「そうだよ。決まった時間にここへ来てくれるから、さなの生活は特に心配しなくて大丈夫なの。
 ……話し相手がいないこと以外は、だけど」
「話し相手なら、アイちゃんがいますから大丈夫ですよ」
「電話で聞いたけど、本当に家電製品があんまりないね」
「さなの状態を慮ってのことだよ」

ういと話をしていたねむが、車椅子を引いていろはたちの前に現れた。
214 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:06:31.94 ID:WCbA+PmGO
「さな、調子はどうだい?」
「先日よりは落ち着きました。アイちゃんとの会話もスムーズですし、ざわざわした感じも抑えられています」
「それならよかったよ。あとは、慣れた後の問題だね」
「どういうこと?」
「前に少しだけ話したけど、アイとの融合状態に慣れたら、さなが再び誰かに、視認されるようになる可能性がある」
「マジかよ!」
「さなの透明人間のような状態は、魔法少女であるさなに対して発動する。なら、ウワサの特性を持ったなったさなには、
 作用しないことも考えられる。融合状態に慣れたあとなら、魔法少女とウワサの状態の切り替えもできるだろう。つまり、
 さなは将来、自分の自由意思で、一般人に対しても可視不可視を、制御できるようになるかもしれない」
「可能性止まりなんですね」
「以前、さなが融合状態になったとき、確認できてればよかったんだけど。あくまでも理論上の話でしかないが、
 今は時間が経てば、さなに変化が訪れる状況でもある。何れ試す機会が巡るだろう」

全員が席に着くと、ももこがやちよに声かける。

「まさか、アタシらが呼ばれるとはな思わなかったよ。この前、みかづき荘で留守を頼まれた時から、
 何かあるような気はしてたけどさ」
「そういうつもりで留守を頼んだわけではないのよ。クリミナルズの件があって、気になってしまったの」
「W計画に三つ目があったなんてね。しかも、鶴乃とさなと桜子を未来に送るって……」
「そんなに大きな話が動いてたなんて、私、初めて知ったよ……」
「やちよさん、どうして今までこんな大事なこと黙ってたんだよ」
「今まできちんと話をしてこなかったことは謝る。ミラーズの記憶読み取り対策が出来るまで、
どうしても話せなかったのよ」
「その対策って、能力を組み合わせて作った、装飾品のことなのか?」

そこへ、いろはが二人にの話に入ってくる。

「装飾品が対策になったのは、流れの上でなんです。様子見も必要だったので、伝えるのが
 遅くなってしまったんです」
「そうか。悪気がないのは分かってるんだけどさ、聞きたいことは色々ある」
「分かってる。会合の中で話をさせてもらうわ」
「今まで黙っててすみません、ももこさん。後ほど、きちんと説明させていただきます」
「分かったよ……」
「本当にすみません。……皆さん、本日の会合を始めさせていただきます」
215 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:13:27.75 ID:WCbA+PmGO
この日はいろはが主催となり、会合を進行させた。
W−1、W−2の開始日前倒しとそれに伴う、ももこ、レナ、かえでへのW−3の存在公開。
存在することを仮定して懸念されるアリナ・グレイのスーパーコピーと、ミラーズのコピーの結界外流出懸念。
クリミナルズのテロ計画の存在と、常盤ななか一派からの接触後の方針策定。
霧峰村で建設が進んでいる水徳寺の分寺への、歴代巫の亡骸埋葬後のシステム観測。

いろはの発言に、ももこ、レナ、かえでが中心となって返事をする。

「W−1、W−2の開始日は、翌月の月初とすることに、協力者全員と合意が取れています」
「魔女退治をいつものようにしてればいいのかな。神浜の中だったら、いつもとやることは
 変わらないようにも思えるけど」
「計画って言うと身構えるけど、神浜中の魔女を退治したら、近くの街に行けばいいのよね」
「そうしたら、知らない魔法少女との接触もあるよね。話が通じるといいんだけど……」

そこへ、みふゆがかえでに返事をし、鶴乃、ももこ、かえでが続いた。

「以前、いろはさんと話し合った時に申し上げたのですが、初めて会う魔法少女は、
 全員が最低でもこちらを警戒すると思って下さい。ワタシたちも見知らぬ相手を 
 見たら、最初は警戒したはずです」
「いろはちゃんのおかげで浄化システムを広げたからといって、それで相手が
 アタシらを信用するかは別問題だもんね……」
「得られたものは大きいけど、払った犠牲も大きいもんな」
「そういえば、他の街の魔法少女たちの間じゃ、神浜市の評判ってあんまり
 よくないらしいしんだよね……」

キリカが手を挙げると、かえでの話に関する話をする。

「私も聞いたことがあるけど、他の街だと神浜の魔法少女は、魔女を独占してるとか、
 他の街の魔法少女を始末しようとしてるだとか」

いろはが挙手し、キリカの言葉に返事をする。

「今日までに起きたことは、負の面の深刻さを、許容できる人の方が少ないと思います。
 神浜市外では既に二木市という前例があり、和解に至るまで多くのものを喪いました。
 相手は神浜で起きたことを尋ねてくるでしょう。その時は、今日までに起きたことを、
 聞かれたことだけを話し、こちらからは余計なことは何も言わない。これはW−1と
 W−2のどちらも同じ方針とします」
216 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:18:27.01 ID:WCbA+PmGO
いろはの言葉を聞いて織莉子が返事をする。

「いろはさんの仰る通りでしょう。二木市以外でも神浜を快く思わない魔法少女がいる。
 各々が取り巻く環境や事情で、神浜市に乗り込んでは来なかっただけで、機会があれば
 報復を試みようとする魔法少女がいてもおかしくない」

それを聞いてフェリシアが言葉を発する。

「そういや、オレたちのところに復讐目的で来たのって、プロミストブラッドだけだよな。
 同じこと考えてる連中って、他にもいそうだけど来なかったぜ」

キリカが挙手し、フェリシアの発言に返事をする。

「ワルプルギスの夜が関係してるんじゃないかな」
「あの大魔女が?」
「伝説の大魔女を倒した魔法少女が、この街には大勢いる。実力差を考えて、態々喧嘩を
 吹っかけてこなかったんじゃない。仮に喧嘩を売る側に実力者がいて、そいつが神浜の
 魔法少女全員を、相手にしようとしたとしても、グリーフシードがもたないだろう」

キリカの発言にやちよが答える。

「復讐を考えてもキリカさんの言う通りか、復讐までは考えなかっとしても、
 神浜の魔法少女を快く思っていない、他の街の魔法少女はいるでしょうね。
 そこをいくと、二木市の魔法少女の覚悟は、強いものだったと言える」

そこで麦茶を一口飲んで、やちよは言葉を続けた。

「私たちは、あくまでも魔女の殲滅を目的に、他の街に移動しようとしているだけよ。
 でも、その街の魔法少女がからすれば、余所の街から魔法少女が乗り込んでくるのと
 同じでしょうね。その街の魔法少女の代表者と接触して、事情を説明するべきだわ。
 相手が信用してくれればそれでよし。駄目なら……他の街へ行くしかない」

そこへ、いろはが続く。

「事前に打てるせめてもの手として、魔法少女同士のネットワークを通じて、浄化システムの
 存在と、浄化システムが広がっていることを周知しています。また、他陣営含め、私たちの
 存在も周知しています。主にSNSを通じてですが、ネット環境に困らないところであれば、
 既に他の街にも情報が広がっていると思います」
217 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:23:38.11 ID:WCbA+PmGO
いろはのあとに桜子が続く。

「|とはいえ、情報の周知にも限界はある。SNSによる周知だけで、すべての魔法少女が
  浄化システムの存在に気付けるとは限らない。それに、街を訪れた理由の説明だけで、
  相手の信用を得られるとも言い切れない|」

桜子をフォローするように、いろはが発言する。

「他の街で魔女殲滅時に得られるグリーフシードは、すべて相手側に譲ります。
 その際、ドッペルの説明を織り交ぜます。これで少しは相手の警戒を解いて、
 私たちに敵意はないことの、証明となることを相手に期待します」

いろはのあとに、ねむが続く。

「相手に期待?何を根拠に言える?と思うかもしれない。だけど、魔法少女だけでなく、
 人類が紡いできた歴史の選択に、根拠があると思うかい?遥か太古から今日まで、
 歴史が辿った道筋に関して、見出だせる根拠なんて、後付けの結果論でしかない。
 所詮はその時の運、数多ある選択肢の中から、偶然選ばれた道筋の積み重ね。
 それこそが、僕たちの知る歴史だ」

織莉子がねむに答える。

「それこそが私たちの知る魔法少女…いえ、人類の歴史でもあり、いろはさんの方針もまた
 その一つとなる、ということですか。結論としては、最終的にはその場、その時に応じた
 対応を取らざるを得ない、と言うことでしょうか」

そこに灯花が割り込み、いろはが続く。

「そーいうことになるね。W−1、W−2の前倒しに関係することはこんなところだにゃー」
「何か気になる点はありますか?」

これ以上話すことはないと全員から答えがあり、議題は次に移った。
218 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:33:15.05 ID:WCbA+PmGO
「続いて、ももこさん、レナちゃん、かえでちゃんへのW−3の存在公開です」
「鶴乃たちを未来に送るって、レナ達に納得できるように話してよね」

いろはがW−3の説明で行ったのは、コールドスリープマシンの開発と、それにまつわる
今日までの困難の数々、そして鶴乃たちが要員として選定された理由だった。ねむが以前、
説明した内容がほとんどだったが、選定された理由の説明に入ろうとしたとき、いろはの
代わりにねむが説明を行った。

ねむの説明は、以前いろはが選定理由を尋ねた際、他言無用を約束させた内容だった。
鶴乃、さな、桜子は表情を曇らせたが、何も言わずに話を最後まで聞くと、ももこが口を開いた。

「家族との関係性まで考慮したことは分かった。でもさ、鶴乃たちは本当に納得してるのか?」
「ももこ。私たちも考え抜いた末にオーケーしたんだ。決心がつくまで時間はかかったよ。
 自分が百年後に送られるなんて言われて、実感なんか沸かなかったし」
「目を覚ました先で、自分が知る人が二人しかいない。でも、私たちがやらなかったら、
 他の人がやることになるでしょう。その人に、私たちと同じ思いはさせたくなかった。
 それに……これは私から皆さんへの、恩返しでもあります」
「|いろはたちと一緒に居られなくなるは、私も辛い。みんなの成長を見守りたかった。
  大人になったみんなと、今を昔話として語れる日を迎えたかった。だけど……だけど、
  私たちがやらなかったら、みんなのこれまでの戦いが水泡に帰してしまう|」
「魔法少女の夜明けのために戦い続けた日々が、無駄じゃなかった、意味がある戦いだった。
 ……その証明をするために、私は未来に渡ることにしたんだよ」
「そうだったのか……。無理してるとか、そんなわけじゃなさそうだな」
「レナは無理矢理やらされてるかと思ったわ……」
「三人が納得して……決めたことなら……何も言えることはない……よね……」

三人の様子を見て、やちよがももこに声をかける。

「W−3のことで聞きたいことは何かある?」
「いや。十分説明してもらったし、聞きたいことはないよ」
「志願者がもし現れたら、別の人が選ばれた可能性はあるの?
 例えばレナが未来に行くって言ったとしたら?」
「もしレナちゃんが未来に行ったとしても、耐えられなくてもたないんじゃないかな……」
「なんですって!?」
219 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:34:51.77 ID:WCbA+PmGO
レナとかえでを見かねて、ねむが割って入り、灯花が続く。

「二人とも悪いけど、言い争うのはよしてくれるかな。水波レナの言う通り、志願者が
 現れたら要員は変わっていたかもしれない。だけど、記憶読み取りのことを考慮して、
 広く周知するわけにはいかなかったんだよ」
「それがなかっとしても、そもそも志願者が現れることは、期待できなかったにゃー。
 志願者が仮に現れても、未来に送る条件に見合うかは別問題。結局、わたくしたちが
 要員を選定することに、変わりはなかったと思うんだよね」
「あ、あの……もしレナちゃんが志願してたら、どうなってのかな?」
「レナも気になる。っていうか、ここにいる全員、三人以外はNGだったの?」
「NGというと語弊があるけど、家族関係の部分で条件からは外れたよ。
 それをクリアしても、プラスアルファの部分で外れていたね」
「あー……うん、レナ聞いて損した……」

W−3に関係する話はそこで終わり、議題は次に移り、いろはが内容を告げた。

「存在を確認したわけではないのですが、アリナのスーパーコピーが存在する可能性と、
 それによるミラーズのコピーが、結界外に出てきた場合の対処です」

議題の内容を聞くと、フェリシアが挙手し、やちよとみふゆが返事をした。

「スーパーコピーってなんだ?」
「大雑把に言うと、もの凄く出来のいいコピーってことよ」
「性格も超似てる、怖いねーちゃんのそっくりさんってことか」
「その理解で間違っていません。スーパーコピーは、ブランド品の偽物か取った名称ですね」
「偽のお金からだと思ったぜ」
「それだとスーパーノートですよ。話が脱線するので、この辺りにしておきますね」

フェリシアの疑問が解消すると、さなが挙手し、いろはが返事をした。

「アリナのスーパーコピーって、本物のアリナの固有魔法まで持ってるんでしょうか」
「その前提であって、確認はできていないんだ」
220 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:36:47.17 ID:WCbA+PmGO
そこへ、ねむと灯花が続き、やちよが返事をした。

「いろはお姉さんの懸念は、僕たちがマギウスだった頃、ミラーズのコピーを
 フェントホープに、迎撃翌要員として連れ込んだことが理由かな」
「あの時は、お姉さまたちのコピーを、お姉さまたちに引き合わせたんだよね」
「当時は、アリナの結界を使ってコピーを運搬していたんだ」
「他には、鏡の招待状を、いろはが使い魔から受け取ったことが理由ね」

やちよの言葉にいろはが返事し、織莉子、キリカが続く。

「私が招待状を受け取ったのは、他の魔女の結界の中だったの」
「その使い魔は、どんなタイプの使い魔でした?」
「分かりにくいかもしれませんけど、丸っこいものに乗ったバクっぽい使い魔です」
「それで分かったよ。ミラーズの中に入って調査して時、コピーに紛れて一緒に沸いていたし」

考え込む様子を見せていたももこが顔上げ、挙手して疑問を口にすると、レナとかえでが続く。
三人には、いろはとやちよが返事をした。

「手下が外に出てたなら、コピーもとっくに出てる気がするんだよな。他の魔女の結界に
 ミラーズの使い魔がいたなら、一旦外に出てるってことになるし」
「レナ、イヴの使い魔がミラーズの中にいたのを見たことがあるんだけど、使い魔が
 必ずしも結界の中でしか動けないわけじゃない気がする」
「ワルプルギスの夜の使い魔みたいに、結界の外で動ける使い魔がいたりするのかな。
 そもそも、ワルプルギスの夜は、結界自体がなかったけど……」

それまで静観していたみふゆが挙手して、意見を述べると、ももこ、レナが続く。

「結界の外に出られるかどうかは、基準のようなものが存在するのかもしれません。
 強さが一定の基準を超えると、結界の外に出られなくなるというようなものです。
 ワルプルギスの夜は、存在自体が規格外の魔女でした。あれは例外とみるべきでしょう」
「その基準を超えたやつが結界の外に出るには、誰かの助けがないと出られないってわけか」
「もしくは、助けなしで外に出られたとしても、存在を長時間、維持できないなどです」
「レナは、あんたの意見を支持するわ。知らない間に知人が全員、コピーと入れ替わって
 生活してるなんて、気味が悪いわよ」
221 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:39:18.67 ID:WCbA+PmGO
「それと、すみません。思い出したのですが、十七夜さんと以前、ミラーズに関わる
 話をしたことがありました。フェントホープで十七夜さんが、自分自身のコピーと
 出会った時、『コピーだから能力を真似るのは難しい』からと、十七夜さんの心を
 読んでこなかったそうです」
「それじゃあ、アリナのコピーは固有魔法は持ってないんじゃないかな?」
「そうかもだけど、議題はスーパーコピーよ。十七夜のコピーは真似できなかったけど、
 スーパーコピーなんて言うくらいなら、固有魔法まで真似してるかもしれないわよ」
「ミラーズのコピーって、性格とか、記憶とか、魔翌力反応の違いで見分けられたよね?」
「スーパーコピーには、それも通じないのよ。多分」
「えぇー……」
「そんなのが本当に存在したら、今頃スーパーコピーが、あちこちに他のコピーを
 連れ出してる気もするんだよな。それに、本物のアリナだったら、とっくの昔に
 同じことやってるかもしれない」
「だけどレナ、街中でミラーズのコピーと遭遇したことなんて、今まで無いのよね」
「ワタシも、ももこさんと同感です。ですが……どこかにコピーが潜伏しているとしたら、
 話は変わってくると思います」
「も、もしかしたら……案外近くに居たりして……」
「ちょっと、かえで!冗談でもそんなことやめてよね!」
「ふみゃうみゃうっ!!」

四名のやり取りを見ていた灯花とねむが、割り込むように発言し、いろはが続く。

「わたくしたちも、ミラーズ対策として、見分けが簡単に付けられるような便利アイテムを
 開発しようとしてる。鏡の魔女はいずれ、倒さないといけないからね」
「マシンの開発と並行して進めてるから、マシンの完成と同時に出来上がる予定だよ」
「これについては、疑えば疑うほどキリがないですね。話すべきことは他にあります、
 一先ずにはなりますが、アリナのスーパーコピーは存在するものとします」

それを聞いて、かえでが尋ねて、いろはが返事をする。

「え、えっと……他のコピーのことは……どうなの?」
「他のコピーの結界外流出も、起きることを前提とするよ。コピーが街中に潜伏しているかは、
 確認のしようがありません。向こうからしかけてこないなら、寧ろその状況を利用しましょう。
 私たちは他に対処すべきことが山積みで、全員を疑っている余裕はありません」
222 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:44:57.89 ID:WCbA+PmGO
そこへ、桜子がいろはに意見し、織莉子、キリカが続いた。

「|神浜と他陣営の魔法少女、全員を確認するのは現実的じゃないかもしれない。だけど、
  今ここにいるみんななら話は別。この中にコピーが紛れているか確認するくらいなら、
  手間ではないはず|」
「私も桜子さんに賛成です。この場にいる全員だけでも、疑いを晴らすべきでしょう。
 知っている人が偽物と入れ替わっているなんて、恐ろしいと思いましたので」
「主催者さん。私たちが本物かコピーか、あんたが見分けてくれないか?
 お互いでお互いを確認し合っても、却って収拾がつかなくなると思うよ」
「分かりました。とりあえず、私の前に皆さん、並んでもらっていいですか?」

桜子の提案で始まった、会合出席者がコピーか否かの確認は、いろはが確認役となり、
いろはを確認する役はキリカが引き受けた。見分ける方法として用いられた方法は、
魔翌力パターンの検知と記憶の整合性、喋り方の確認で、ミラーズ探索時に行っている
方法と同じだった。結論から言えば、出席者全員が本物であることの確認が取れた。
しかし、アリナのスーパーコピーの存在が前提となったことにより、この場にいない
他の魔法少女に対する疑念が沸いてしまった。

「誰がコピーかを疑い続ける生活は、疲れるだけなんだにゃー」
「マシンもすでに組み上げているところなんだけど、今後を見据えて、本物とコピーを簡単に
 見分けるために、専用アイテムの開発も、考えた方がいいかもね、一時的に 優先順位を
 入れ替えたほうがいいもしれない。浄化システムの効果範囲を、可視化する方法も含めて」
「ミラーズへの懸念については、一先ずはこんなところかにゃー。他にも懸念はあるんだけど、
 それはそれで、日を改めて、一日使ってでもいいから話し合いたいんだよ。だからお姉さま、
 議題を次に進めて」
「では、本議題は以上を以って方針決定とします」

灯花とねむが方針を発表すると、いろはは議題を次に移した。

「クリミナルズと仮称している犯罪組織と、その組織によるテロ計画についてですが……」

いろはが語ったのは、キリカと太助、ラビから齎された情報を取りまとめたものだったが、
インキュベーター撤退後に増加した組織犯罪の報道と、身辺で最近起きた不審な出来事も
出席者に伝え、対策を考えつつ情報を募る方向で話が進む。
いろはの説明の後、最初に発言したのはキリカだった。

「私の調査は無駄じゃなかったみたいだね。湯国って街が、そこまで酷いことになってるなんて。
 他の街のことを普段は知らないから、ちょっと驚いたよ」
223 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:48:50.87 ID:WCbA+PmGO
その後、織莉子、ももこ、みふゆが続く。

「私たちの周囲では不穏な動きはありませんが、これでは時間の問題ですね」
「寧ろ、その頃には手遅れかもしれないな。湯国は実効支配されてるんだっけ。
 こっちから向こうに乗り込んで、叩いてもいいんじゃないか?」
「湯国は氷山の一角でしかないでしょう。大事には違いないですが、クリミナルズは
 世界中でテロを起こそうとしています。こちらから打って出れば、却って向こうが
 状況を利用するでしょう」
「下手に手を出せば、その瞬間にテロを実行に移される可能性が高い。次善の策は防御ですね。
 魔法少女の家族や友人、知人を大規模シェルターへ避難させ、国内、海外の魔法少女と連携し、
 クリミナルズの構成員を割り出す」

織莉子がそこまで言うと、いろは、灯花、ねむ、ういが続いた。

「W−1、W−2の実行中に出会う魔法少女と、情報を交換して連携を持ち掛けましょう。
 相手が集団である以上、私たちも集団で臨むべきです」
「わたくしも、お姉さまの意見に賛成するよ。何も分からないということは、何もかもが
 あり得るということでもあるからね」
「大規模なシェルターの件だけど、情報があるんだ」
「何か心当たりがあるの?」
「街をワルプルギスの夜が襲う前から、神浜の東西にシェルターの建造が計画されていたんだ。
 これも、宇宙の意思の存在を確認する過程で、神浜のことも調べていて分かったんだ」
「調べていた当時は、ごたごたしていたから詳しく調べてなかったんだけど、この前の報告で、
 シェルターの話が出たからね」
「調査を再開したところ、建造が進められてることが分かったんだ」

シェルターの話を聞いて織莉子が続きを話すと、やちよが疑問を尋ね、みふゆが続いた。

「私も都合のいいシェルターがないか、調査をしていたのですが、調査の過程で
 神浜のシェルター建造計画に行きつきました。神浜が近代化を迎えたころから、
 建造は始まっていたようです。街が海に接していることから、地震や津波などの
 災害に備える目的で進んでいましたが、一時期工事が中止になっていました」
「中止?資金不足かしら?」
「そのようです。十数年は止まっていたようですが、資金が集まって工事が再開され、 完成が近いようです」
「そんな話は街で流れてなかったし、今初めて聞いたわ」
「下手に明らかにするようなものではないですよ、やっちゃん。用途が用途ですからね。
 近頃の情勢下では、どのようなことであれ、大きなお金が動くと騒ぐ人が一定数いる。
 神浜の住人に向けて建造されたシェルターなら、完成した暁には周知されるはずです」
224 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:51:08.37 ID:WCbA+PmGO
みふゆの発言に、ねむが挙手する。

「そのシェルターが、家族を退避させるために使えると見込んでる。やり方次第では、
 僕たちが避難の優先度をコントロールできるかもしれない」
「それは……魔法少女の能力を使う、という意味でしょうか」
「いざという時はそうなる。だが、僕たちには政界に繋がる人脈がある。出来る限り、
 魔法少女の能力に頼らない方法で、僕たちに有利になるよう動くつもりだよ」
「わたくしたちからは、これくらいかなにゃー。お姉さまからは何かある?」
「私からはもうないよ。シェルターの件は…これも、灯花ちゃんたちが頼りだね。
 クリミナルズについては、さっきも話した通り。皆さんからはなにかありますか?」

全員が特にないことから、議題は次に移った。

「最後は、常盤ななかさんたちと接触後の方針です。常盤さんたちが私たちに
 接触してくる時期は不明です、現状を顧みるに、W−1、W−2の進行中の
 可能性が高いと思います。それまでに私たちは、国内の魔法少女だけでなく、
 海外の魔法少女とも連携をとり、常盤さんたちと情報交換できるようにする。
 その後、クリミナルズへの対応方法を改めて策定する。以上が私の意見です。
 皆さんからは何かありますか?」

それを聞いて、ももこが挙手して難しい顔をする。

「現状、出来ることって本当に限られてるし、いろはちゃんが今言った内容が全部じゃないかな」
「レナも同じ意見。あらゆる状況に対する備えなんて無理だし」

レナの発言に、やちよが挙手する。
「織莉子さんの予知能力がもう少し安定すれば、もっと具体的なことが出来ると思うのだけど。今はどんな感じかしら?」

やちよの疑問に、織莉子が答える。

「クリミナルズのテロは、対象となる範囲が広すぎるため、予知が難しいです。
 ですが、常盤さんたちとの接触時期なら、ある程度は予知できると思います」
「それじゃ、この場で予知してもらうことはできる?」
「やってみます……」

織莉子の予知能力はさらに安定し、対象の規模・範囲が絞られ、時期が近いほど、
視える未来と内容が鮮明になるようになっていた。織莉子が予知に集中して数分後、
目を開けた織莉子は、常盤ななか一派との接触時期を告げた。

「……新年を迎えた二ヵ月後、最初の週です」
225 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:54:14.83 ID:WCbA+PmGO
織莉子が内容を告げると、いろはが尋ねる。

「その頃、私たちを取り巻く状況は、どうなっていますか?」
「……余り状況はよくありませんね。クルミナルズによって、海外の都市の一つで
 テロが起きています。世界は国際緊張が高まり、日本の情勢も不安定に陥って、
 クリミナルズを武装勢力と認定して、自衛隊も動いている」

それを聞いたももこは驚きのあまり声を上げ、レナ、かえでが続く。

「あと数ヵ月でそんなことになるのかよ!」
「テロが起こされた海外の都市って、どこのことなんだろう?」
「国内でも、テロが起こされちゃうのかな……」
「自由の国で知られるかの国の首都のようです。事件には軍が出動して事にあたり、
 日本はそれに続くように自衛隊を動かすのでしょう。ただ、そのせいでしょうか、
 魔法少女の存在を広めるはずの、マギアレコードの出版は遅れるようです」

その事実を聞いて、かごめが肩を落として呟き、いろは、みふゆが続いた。

「……せっかく取材した、みなさんの記録が……。これも宇宙の意思が 邪魔しようとしているのでしょうか……」
「キュウべぇが撤退して、浄化システムが広がったことも影響しているのかもしれない。
 太助さんが言ってたけど、用済みになった人類を、宇宙が排除しようとしているとか」
「それは、今まで散々利用してきた人類を見限ったと?」
「ワタシたちの本当の敵とは、この宇宙そのものなのかもしれませんね。だからと言って、
 ワタシたちに宇宙そのものを、どうかするような力はありませんが……」
「織莉子さん、魔法少女はどうなっていますか?」
「神浜でもクリミナルズ絡みの事件が多発し、一部の魔法少女は遠方に引っ越しています。
 蒼海幇という組織と常盤さんたちが手を組み、事件の対処にあたっていますね。恐らく、
 いろはさんたちとの接触は、常盤さんたちだけでは、手に負えなくなったためでしょう」
「……何にせよ、これで方針は固まりましたね」

いろはがそういうと、最後の議題に移った。

「先日、霧峰村から静香ちゃんが来て、水徳寺の分寺が完成したら、慰霊碑を立てて、
 歴代巫……いえ、霧峰村で誕生した、歴代の魔法少女の亡骸を埋葬するそうです」

埋葬という言葉に、さなが挙手して疑問を口にする。

「いろはさん。埋葬ということは、今まで亡骸はどうなっていたんですか?」
「それがね……」
226 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/21(水) 23:56:59.05 ID:WCbA+PmGO
いろはは、静香が語った霧峰村の負の歴史を伝えた。
出席者全員が表情を曇らせ、いろはの話を最後まで聞いた後、ももこが意見を述べ、やちよとみふゆ、いろはが続いた。

「魔法少女を弔って浄化システムが広がったならさ、アタシらも慰霊に参加しないか?
 これも何かの縁だと思うし、顔を直接合わせる最後の機会になっちまうかもしれないし……」
「私も、慰霊法要への参加を表明するわ。今日、ここで知り得た情報は、時女一族にも共有しておきたい」
「ワタシも参加を表明します。いろはさん、お手数ですが静香さんへ、明日以降でも構わないので、伝言してもらえますか?」
「分かりました。静香ちゃんと相談して、問題なければ私も参加します。他の皆さんはいかがでしょうか?」

出席者は全員、時女一族さえよければ、慰霊法要への参加を表明した。
そこまで話し終えた時、時間は既に夕方になっており、窓の外には夕焼けの空が見えた。
時間いっぱいとなったこともあり、会合は散会。
明日の予定がある出席者は、一足先に帰路に着き、みかづき荘メンバーの六人とみふゆが残った。

いろははみふゆと、結菜との話し合いのために部屋を移ろうとしたが、その際、やちよに声をかけられて振り向いた。

「二人とも悪いんだけど、私と鶴乃は、みたまのところへ顔を出してくるわ」
「そういえば、みたまさん、全然あってませんでしたね。調整屋は再開してましたっけ?」
「不定期だけど再開しているそうよ。今日は調整屋にいるはずだから、話してくる」
「オレはさなと少し話てーから残るぜ。適当なタイミングで帰るつもりだ」
「分かった。私はみふゆさんと、明後日の件を煮詰めるので、遅くなると思います。
 もしかしたら、今日はここで一晩、泊めてもらおうかと」
「私は大丈夫ですよ。ねむさんも、みかづき荘の皆さんや、魔法少女の知り合いなら、
 ここに招いてもいいと言われているので。フェリシアさんもよければ」
「そうしたいんだけどよ、やちよを一人にするのは心配だから、今日は帰るぜ」
「それなら、みたまと話した帰りに迎えに来るわ。その帰りに鶴乃を送って、一緒に帰りましょう」
「おう、待ってるぜ!」
「それじゃあ、私と鶴乃は、みたまのところへ行ってくるわ」
「分かりました。いってらっしゃい」

やちよと鶴乃を見送った後、さなとフェリシアは居間に残り、いろはとみふゆは部屋を移動した。
227 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/22(木) 00:16:47.84 ID:l3Wpp4NBO
連休二日目は各々が思い思いに休日を過ごし、連休三日目。
いろはは、みふゆと共に二木市へ入り、結菜の家の居間にいた。
結菜は、二人の来訪前日に概要を聞いて、事前に人払いを済ませていた。

エミリー休憩所での会合と同じく、いろはが主催、みふゆが副主催となり、
公営霊園増設の理由を伝えた。
元・みかづき荘メンバーの墓参り、事前に許可を得た”霧峰村の負の歴史”の
話も伝えると、結菜は顔を俯かせて沈黙を保ち、やがて顔を上げた。

「……カタコンペは、いずれ何とかしなければならなかった。これを契機に着手し、あなたたちに協力するわ」
「結菜さん…!」
「でも、私一人で何とかするのは無理。今のところ、霊園を増設する計画は街にないのよ。霊園増設には
 相応の理由が必要。それがないことには、街を動かせないし、お父様にも話せないわぁ」
「二木市にも水徳寺があれば、何とかなりそうですけどね」
「そう簡単にいかないわぁ。この街にはこの街の寺がある。時女一族みたいに、地域全体で魔法少女の
 存在を知っていて、協力的なところがあれば……」
「魔法少女の存在を知っている一般の方って、二木市ではどれくらいいますか?」
「皆無ねぇ。そう言い切れるのは、現状を踏まえてのことよぉ」
「どういことですか?」
「……今更、あまり言いたくないけど、二木市では以前、魔女枯渇問題から、
 魔法少女同士で殺し合いがあったの。相手の魔女化を誘発させて魔女にし、
 討伐してグリーフシードを奪っていたことがある。……大勢を殺し、殺された」
「…………」
「…………」
「それによって、十代の女性の失踪事件が、どれだけ多かったかは想像がつくでしょう。
 大事件もいいところなのに、大事に至る前に事件は、あっという間に沈静化してしまったわぁ。
 憤ったものだけど、これも宇宙の意思の介入でしょうね」
「……宇宙の意思は、どこにいっても付き纏いますね」
「私たちは、神浜ほど理性的ではなかった。武力とその場しのぎで血を流してきた。
 精神を日々すり減らし、神浜を敵とみなすことでようやく一つになったの。それくらい、
 この街は抗争の歴史が長いのよ。その間に死んだ魔法少女の総数は……」
「そのことは本当に」
「……ごめんなさい。話し出すと、止まらなくなってしまう。ともかく、折り合いはもうつけた。
 ……それで、何の話をしてたっけ……あぁ、そうだ、魔法少女を知る一般人よね」
「…………」
「…………」
228 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/22(木) 00:26:32.16 ID:l3Wpp4NBO
「死んだ魔法少女は行方不明扱いで、神隠しや失踪、はたまた集団自殺やら、そういうことは騒がれた。
 他にも憶測が色々と立てられてはいるけど、魔法少女の存在が暴かれることには繋がっていない。
 色々話したけど、二木市に魔法少女の存在を知る一般人はいないと思うわ」
「そうでしたか……」
「それはそうと……今回の話、難易度は高いけど、今は時期が時期だから、ある意味好機かもしれない」
「……もしかして、市長選挙ですか?」
「えぇ。父も立候補していて、次も市長を継続するつもりよ。案はこれから考えるけど、街の住人の少子高翌齢化と、
 墓地枯渇が近いことが、二木市が抱えている問題として取り上げられてはいる。ただ、それが公営霊園増設の
 必要性に繋がっていない。墓地枯渇と言っても、まだ先の話だから。だけど、街全体の問題として、街も住人も
 認識すれば、公営霊園増設が可能かもしれない」
「もし、公営霊園が増設されたとして、地下墓地はどうしますか?」
「そうね、危ない橋を渡ることになると思うわぁ。墓を移すことはもちろん、地下墓地も後始末が必要になるわねぇ。
 ただ、それは私たちの問題だから、あなたたちが気にしなくてもいい。これは私たちがケリをつけないとね」
「分かりました」
「それにしても」
「なんでしょう?」
「里見灯花、柊ねむ、考えたものねぇ」
「え?」
「魔法少女の弔いが浄化システムを広げる鍵なら、地下墓地のみんなを弔うことでも、おそらくは条件を満たした。
 だけど、公営霊園の増設と言ったのでしょう?」
「……あっ」
「あの子たちは、二木市の事情をよく調べてるわねぇ。帰ったら聞いてみるといいわぁ」
「ゆ、結菜さん、本日はどうもありがとうございました」
「本日は、お時間をいただき、ありがとうございました」
「梓みふゆ」
「なんでしょう?」
「いつか、事態が落ち着いたら、直接伝えようと思ってた。あの時の平手打ちは効いたわ。
 それと……観鳥令のカメラ、破壊して悪かったわ」
「確かにカメラは破壊されましたが……データは別の方法で手に入りましたし、
 観鳥さんの意思は受け取りました。……ワタシは許します」
「私ももう、あの時のことは恨んでません。許します」
「……ありがとう。本日は二木市まで足を運んでもらって、感謝よぉ」
「それと、もう一つよろしいでしょうか」
「何かしら?」

いろはが話したのは、時女一族が進めている、歴代巫の埋葬計画のことだった。
話を聞いた結菜は、参加を表明し、静かに後日伝えることを約束した。

その後、いろはとみふゆは結菜の家を出て、二木市を後にした。
神浜市に戻った二人は、その足で電波望遠鏡を訪ねると、灯花とねむに結果を報告。
結菜から言われた内容を尋ねた。

「事前に相手の調査をするのは当然だよー?二木市のことは前から調べてたからね」
「宇宙の意思の存在を確認するために、十代少女の失踪事件の顛末を確認していたんだ」
「二木市の情勢も、犯罪発生率や警察の動きと一緒に、確認してたんだよ」
「やっぱり知ってたんだね……」
「ですが、ある意味、結果オーライなのかもしれません」
229 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/22(木) 00:29:53.66 ID:l3Wpp4NBO










そして……月日は流れ……









新年を迎えるまで数日を残した頃。
鶴乃、さな、桜子を未来へ送り出すための、すべての準備が整った。
準備が整うまでの期間は、激動ともいえる毎日の連続だった。
みかづき荘の当主交代、ユニオンをはじめとする各陣営のリーダー交代……

霧峰村は水徳寺の分寺完成後、川底から引き揚げた魔法少女の遺体を、寺の墓地に埋葬。
いろはから連絡を受けた静香は、意を汲んで慰霊法要への参加を快く了承。
後日、いろはたちは、会合出席者だけでなく、時女一族以外の他陣営にも情報を周知。
当初予定していた人数よりも、大勢の魔法少女が慰霊法要に参加した。

二木市は公営霊園が大規模増設され、地下墓地に埋葬された魔法少女は無事に霊園に移された。
結菜が言っていた”危ない橋”は、無事に渡れたらしく、地下墓地跡地も後始末が完了したという。
それにより浄化システムはさらに広がり、ついに惑星全土を覆った。

同時に世界各地の穢れも浄化されたことで、穢れの影響で発生した争いが消えるという副次効果を齎した。
これにより湯国市を覆っていた穢れも浄化され、織莉子が予知していたテロは、いくつかが回避されたが、
灯花によれば、これらの副次効果は一時的なものでしかないという。
湯国市に限らず、魔法少女へ敵意を向ける人々から考えを変えない限り、再び世界は穢れに覆われる。
世界各地の争いも再発し、回避したはずのテロが、ただの先延ばしでしかなくなるとのこと。
230 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/22(木) 00:33:21.85 ID:l3Wpp4NBO
その後、W−1は順調に進み、時期を見計らってW−2も開始。
用意が整う今日までの間、世界各地の魔女殲滅は完了に向かいつつあった。
今この瞬間も、他の魔法少女たちは国内、海外で戦いを続け、クリミナルズとの決戦に向けて連携も取っている。
鏡の魔女が最後の魔女となり、殲滅する日も近づいていた。

「僕たちにできる精一杯として、三人の願いは全て叶えた。けれど、本当に願いはもうないのかな?」
「これで私たち、本当にお別れになっちゃうんだよ。もう……会えないんだよ?」
「僕たちにできることなら、他にも願ってくれていいんだよ?」

鶴乃は情勢を考慮して店の再建を諦めた代わりに、自身の技術と知識を跡継ぎを迎えて伝えた。
さなは自身が描き残したかった絵本をすべて描き終え、その管理と出版をねむとレナに委ねた。
桜子は魔翌力に還元されたウワサたちの力を取り込み、さなと入れ替わりにみかづき莊で過ごした。

「|私は、いろはたちから、たくさんの思い出をもらった。私の中に深く刻まれた多くの記憶。
  これ以上ない大切なものをもらった。だから、もう大丈夫|」
「私は自分の跡を継いでくれる人が見つかった。それだけで十分。これ以上求めたら未練が出来ちゃうよ」
「私は私の残したいものを、すべて出し切りました。……時間をかけて固めた決心です。どうか鈍らないうちに送り出して下さい」
「そうか……分かった。君たちの意思を尊重し、未来へ送り出そう」
「ごめんね。わたくしたち、丸投げするようなことしかできなくて……」

一行は、存在を秘匿された地下施設へ移動し、収容室と呼ばれる一室に入る。
いろはとやちよが一歩歩み出ると、部屋の中央に視線を走らせた。
そこには人数分のコールドスリープマシンが用意され、取り囲むように多くの機械が並ぶ。
これが未来への希望として、三人を送り出すことになる。

「これが、魔法少女の能力と、現代の科学技術の粋を結集して完成したマシンなのね……」
「ヒヒイロカネで作られた特別製だよ。絶対錆びない金属と魔法少女の能力、現代技術の集大成だよ」
「これなら、必ず未来に渡れるね……」
「やちよさん。織莉子さんとキリカさんは?」
「連絡を取ったけど、所用で数日前から見滝原を離れているみたい。どうしても来れないと返事があったわ」
「何かあったみたいですね、この分だと」
「ししょー……」
「鶴乃?」
「……あ、あのね、時々でいいからさ、私の跡を継いだ人の店に、食事に行ってくれると嬉しいな。
 ししょーも、きっと気に入ってくれると思う」
「……分かったわ。きっと食事に行くから、味の感想は未来で聞いてちょうだい」
「ありがとう、ししょー。……フェリシア、いい男性を見つけて幸せな家庭を作るんだよ。
 いろはちゃん、ユニオンの新リーダー……ういちゃんのリーダー教育、頑張ってね」
「うん……」
231 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/22(木) 00:36:13.35 ID:l3Wpp4NBO
「鶴乃さん……」
「ごめんね。一緒にういちゃんの成長を見届けられなくって……。ういちゃんが魔法少女最後の世代の、最後のリーダーだ」
「そんなこと言われると、責任重大だな……」
「ういちゃんなら、きっとできるから大丈夫!結果は未来で聞かせてもらうよ。頑張って!!」
「鶴乃、未来のことを押し付けちまうことになって、本当にごめんな……」
「フェリシア。きっと幸せになるんだよ?」
「鶴乃、未来で目覚めるまでの間のことは、私たちが引き受けるわ」
「みなさん、今まで大変お世話になりました。私一人だったら、私は今頃、生きていなかったと思います。
 特に、いろはさん……あなたが私を見つけてくれたから、私はここにいます。この御恩は一生忘れません」
「感謝するのは私たちのほうだよ。自分たちで出来ないことを、丸投げするみたいになっちゃって」
「未来で君たちがすべてを終わらせたあと、平穏に暮らせるように、僕たちは財と物資を用意しよう。
 身勝手な僕たちの願いを引き受けてくれた、君たちへの最後の恩返しだよ」
「ねむさん。私の絵本のこと、よろしくお願いします。……かごめちゃんの、マギアレコードのことも。
 それから皆さん、世界に残っている魔女殲滅に、参加できなくてすみません」
「さなの絵本とマギアレコードの出版は、僕が責任もって引き受けるよ。僕が倒れた後も、協力者もいるから大丈夫だ」
「二葉さん、残っている魔女の殲滅は、私たちがきっとやり遂げるから、気にしないで」
「やちよさんにそう言ってもらえると、心強いです」
「|ねむ、灯花、うい、いろは……みんな。今まで本当にありがとう。どうか私たちのことと、私のために、魔翌力に還元されたウワサたちのことも、忘れないで……|」
「約束するよ。桜子ちゃんのことも、ウワサのみんなのことも絶対に忘れない。ういも、ねむちゃんも、灯花ちゃんも…みんなも忘れないから!!」
232 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/22(木) 00:38:05.61 ID:l3Wpp4NBO
そこへ、灯花が声をかけてくる。

「みんな。こっちは用意が出来たよ。あとは……」
「分かった。……それじゃあ、みんな。私たちは……」
「|もう……行くね。みんな、きっと元気で……|」
「あの、最後にやちよさんに、一つお願いがあります」
「何、二葉さん」
「一度だけでもいい。……私を名前で呼んで欲しいです」
「……あなたのことは、ずっと苗字呼びだったものね。仲間外れにしていたみたいで、ごめんなさい。さな」
「……やっと、名前で呼んでもらえた。嬉しいです」
「さな、私たちの家族でいてくれてありがとう。未来で目覚めるまでのことは、私たちに任せて」
「はい…!」

桜子が最初に用意を整えて、鶴乃、さなが続く。
いろはたちがそれを見守り、三人がコールドスリープマシンに入るとプログラムが走り始めた。
三人は純美雨の能力である真実の偽装により、数十年後にメディカル・センターで病死した扱いになる。
三人はやがて眠りに入り、稼働を開始したマシンは時間のカウントを始めた。
カウントが百年目を迎えた時に三人は目を覚ます。

しかし、その時、いろはたちは命を全うしている。
三人が無事に未来で目覚めることができるよう、いろはたちは、今できることに精一杯取り組むしかない。


「本当に……本当にありがとう、鶴乃、さな、桜子。そして……さようなら……」


やちよの呟きを最後に、一行は静かに収容室を後にした。


そして、いろはたちの新たな戦いが、幕を開けることになる……
233 : ◆3U.uIqIZZE [sage]:2022/09/22(木) 00:40:50.54 ID:l3Wpp4NBO
書き溜めた分は以上です。

現代編はここで区切りとなり、次回再開時は未来編を投下予定。
現代に残ったいろはたちの戦いは、アナザーストーリー的に合間を見て投下予定。
書き溜めるため、再開は当分先となります。

これまでご清聴いただき、ありがとうございました。
234 :保守 [保守]:2022/09/28(水) 23:51:33.53 ID:cUhcNifHO
保守
235 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/09/29(木) 02:37:53.56 ID:dC+9jhan0
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