久川颯「7人が行く・EX4・天上の調」

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1 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:08:14.31 ID:LpKpQWny0
あらすじ
正体の不明の音楽プロデューサー、その目的はいかに。

前話
辻野あかり「7人が行く・EX3・出郷りんご」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1629804897/


7人が行くシリーズの後日譚、その4。
設定はドラマ内のものです。

それでは投下していきます


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1666519693
2 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:10:15.65 ID:LpKpQWny0
メインキャスト

久川颯

望月聖

SDsメンバー
1・久川凪
2・白雪千夜
3・江上椿
4・夢見りあむ
5・日下部若葉
6・辻野あかり
7・砂塚あきら

クラリス
柳瀬美由紀
関裕美
速水奏
松永涼
依田芳乃
黒埼ちとせ
佐藤心

西川保奈美

川島瑞樹
アナスタシア
沢田麻理菜
棟方愛海
櫻井桃華
篠原礼
兵藤レナ
ヘレン
八神マキノ

西園寺琴歌

南条光

松山久美子
伊集院惠
太田優
財前時子

姫川友紀
3 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:11:30.79 ID:LpKpQWny0
・Hetero

接頭辞:異なったの意
例語:Heterojunction、Heterodox、Heterochromia、など
4 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:12:25.16 ID:LpKpQWny0


とある10月の日曜日

夕方

S大学・部室棟・SDs部室

SDs部室
夢見りあむが代表のサークル、SDsの部室。最近、勉強用の机が増えた。

辻野あかり「はいっ、わかりません!りあむさん、困ってるJKを助けるんご!」

辻野あかり
SDsメンバー。ただいま、お勉強中。歌はたまにカラオケに行くくらいで、音楽の成績も普通らしい。

夢見りあむ「……」

夢見りあむ
SDsの代表。こちらもお勉強中。地下アイドルなどニッチな方向に偏っていると思いきや、家族の影響で音楽の知識は広いらしい。

あかり「りあむさん?もしもーし、数学で聞きたいことがあるんご」

りあむ「うわーん、やっと終わった!なんで大学受験もとうに終わったのに、日曜のこんな時間にレポートを書いてるんだよぅ!んで、あかりんご、何か言った?」

あかり「りあむさんは立派です。数学で聞きたいことがあって」

りあむ「ぼくは終わったからね!いいよ!うんうん、これはこうだな!」

あかり「おー、りあむさんもちゃんと女子大生でした。普通の髪色のりあむさんも見慣れてきました」

りあむ「残念だけど女子大生以外の何者でもないぞ!実習の準備とレポートに追われる看護の学生!担当の患者さんまでいる!自分で言うのも何だけど、この事実がとんでもないな!」

あかり「りあむさん、最近元気ですね」

りあむ「そうかぁ?1年でこれだと2年以降はどうなるんだよぅ……ゆううつだ。リーダーちゃんにも迷惑を更にかけるぞ……」

あかり「リーダーちゃん?」

りあむ「実習はグループなんだよ。リーダーちゃんはりあむちゃん係のコミュ強ちゃんだよ。同い年とは思えない器のデカさ、どうせ負けるなら頼ってやる!」

あかり「そうなんですかー」

りあむ「何、その表情?ハムスターでも見るような」

砂塚あきら「慈愛の笑みデスね。りあむサン、大学で上手くやってるじゃないデスか」

砂塚あきら
SDsのメンバー。音楽はネットで配信してるのを聞いてますよ、とのこと。
5 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:14:55.86 ID:LpKpQWny0
りあむ「そんなわけないだろ!りあむちゃんのメンタルはいつもボロボロだよ!もっと患者のおばあちゃんにも色々できるはずなのに!むしろ、そのおばあちゃんにぼくが励まされてさ!りあむちゃんはりあむちゃんが情けないよ!」

あきら「りあむサンは、今はりあむサンなんて仕方ないデス」

あかり「少しずつ努力しましょう。りあむさんなら立派な白衣の天使になれるんご」

あきら「2人ともお疲れ様。でも、そろそろ時間」

りあむ「時間!時子サマがお訪ねになられる!はようはよう!」

あきら「何デスか、その言葉遣い。それに財前サンだけじゃないから」

りあむ「あかりんごも勉強は辞め!というか、S大学付属で真ん中なら、そこそこいいとこ行けるから安心だよ!さぁ、時子サマをお迎えするぞ!」

あかり「そうします。あきらちゃん、何をしましょうか」

あきら「とりあえずテーブルを綺麗にして、後は千夜サンに聞こう」

りあむ「白雪ちゃん、料理の準備は終わったの?」

あきら「そっちは大丈夫、千夜サンだし」

りあむ「ウワサをすれば白雪ちゃん!」

白雪千夜「ご心配はいりません。幾つかはテイクアウトで準備しましたから」

白雪千夜
SDsメンバー。音楽は聴きません、と本人談。あの子は楽しそうに歌うしとっても上手なんだよ、らしい。
6 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:16:31.28 ID:LpKpQWny0
あかり「ち、ち、ち、千夜さん……?」

りあむ「お疲れ様!手段は何でもコース料理を準備できるのは凄すぎるよ!」

千夜「お前に褒められても。財前さんの頼みですから、出来る限りは」

りあむ「まずは参考書を片付けないと。多いんだよ!ノートも信じられないくらい増えてくし!今時ノート提出とかあるんだよ!病院だから電子機器頼みできない文化なのは理解してるけどさ!最近は電波で狂わないのも知ってるからな!」

千夜「砂塚さん、食器を運んでください」

あかり「千夜さん!質問があるんご!」

千夜「辻野さんは、何か?」

あかり「そ、その恰好は何ですか?」

千夜「これは、給仕服です」

あきら「いわゆるメイド服。#エプロン付き」

りあむ「食事会があるから椿さんが用意してくれたよ!まずは形からだからね!椿さんのそういうところはキライじゃない!」

あきら「シックな感じで千夜サンによく似合ってる。コスプレ感も少ないし」

あかり「んごご〜、めんごすぎるんご!どうして2人ともそんな冷静なんですかっ!こんなカワイイものを見て!」

りあむ「だって、白雪ちゃんはいつだってカワイイだろ?それに、なんかいつもメイド服着てるような気もするし」

あきら「あー、メイド服感。#わかる」

あかり「はぁ〜、このありがたさをわかってないんご。華奢な女の子のメイド服姿はこんなに素晴らしいなんて……抱きしめたくなるのが当然ですっ」

千夜「衛生的ではないので抱き付くのはお辞めください。これからお客様も来ますので」

りあむ「うおぉ、メイドツッコミだ!ほら、白雪ちゃんは心にメイド服を着てるんだよ!」

あきら「メイドツッコミは#わからない。りあむサンもあかりも何言ってるんデスか」

あかり「はっ、正気を失ってました。あまりの可憐さに」

あきら「正気を失ってたんデスか……」

あかり「お触りは厳禁ですよね。脳に高画質で刻み付けないとっ」

あきら「これは戻ってない」

久川凪「千夜さん、凪の台所作業が終わりました」

久川凪
SDsメンバー。凪のマイクパフォーマンスは家族にも評判です、らしい。
7 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:17:36.09 ID:LpKpQWny0
千夜「ありがとうございます」

あかり「凪ちゃんは猫のエプロン、カワイイですね」

凪「はい。雑貨屋にてお小遣い残高を少なくしました。しかしながら、はーちゃんにも大好評なので良しとする」

あきら「千夜サンとの対応が大分違う」

りあむ「別カテゴリなんだよ、あかりんごの中では。ほら、神と天使は違うじゃん?」

あきら「いや、その例えはわからないから」

あかり「制服にエプロンの千夜さんもいいですけど、やっぱりメイド服ですね……んごんご」

りあむ「単に白雪ちゃん愛好家なだけか?ちとせとりあむちゃんに勝てると思うなよ!最初はナンバー3以降!」

凪「ここは凪もナンバー2を争いたいところですが、時間だと凪は思います」

あきら「うん。りあむサンもあかりも、集中して」

千夜「食器を並べたら段取りを説明します」

りあむ「わかった!あかりんご、手を洗って準備しよう!」

あかり「はっ!もしかして私達もメイド服を着るんですか!?」

あきら「違う。凪チャンも着てないし」

千夜「辻野さんも食事は楽しんでください。給仕は私がやりますので」
8 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:18:54.83 ID:LpKpQWny0


S大学・部室棟・SDs部室

りあむ「白雪ちゃん、テーブルはこれでいいかな!?りあむちゃんの記憶はうろ覚え過ぎて役に立たない!」

千夜「はい。問題ありません」

あかり「レストランで見る布もあるんご。これはどうしたんですか?」

あきら「黒埼家から借りて来た。食器も」

千夜「凪さん、メニューは」

凪「書けました。百円均一ショップで買ってきたミニ黒板、オシャレは工夫です」

りあむ「どこがいいかな?テーブル?」

あきら「テーブルかな、小さいから乗る」

千夜「ウェルカムカードを置きます。辻野さん、この紙の通りに置いてください」

あかり「わかりましたっ」

凪「凪が半分やります」

千夜「どうぞ」

あかり「時子様、望月聖ちゃんでしたっけ、颯ちゃんに、ん!?」

あきら「椿サンと若葉お姉サンはいないんデスか?」

りあむ「椿さんはバイトらしいよ。若葉お姉さんは卒論のフィールドワークがあるから今日から泊まり込みだって。椿さんからはカメラは預かってるよ!白雪ちゃんの写真は既に撮り始めた!」

あきら「あかり、カード眺めてどうしたの?名前しか書いてないと思うけど」

あかり「松山久美子さんが来るんですか?」

千夜「はい、私もお会いするのは今日が初めてですが。お知り合いでしたか?」

あかり「一方的に知ってるだけです。時子様の同級生の中でも一番の美人さんなんです、楽しみですっ」

凪「文化祭のホームページに記載があります。S大学1年生時にミスS大学。凪調べ」

千夜「そうだったのですね。知りませんでした」

あかり「でも、一番の推しは千夜さんです。心配しないでくださいっ」

あきら「また変な言葉を覚えて……りあむサンのせいデスよ」

りあむ「ええっ、ぼくぅ!?あかりんごには教えてない!たぶん!」

あかり「あっ、でも……」

あきら「あかりは、どうしてこっち見てるの?」

あかり「千夜さん、ごめんなさい!やっぱり1番はあきらちゃんにするんご!」

あきら「え?そういうのは……この流れで腕組んでくるのも恥ずかしいから……」

あかり「えへへ♪あきらちゃんは最初の友達で恩人ですからっ」

りあむ「え?もしかして、2人はぼくを尊死させようとしてんの?白雪ちゃん、どう思う!?」

千夜「お前の言葉は理解しかねる」

コンコン!
9 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:19:35.47 ID:LpKpQWny0
あかり「ノックの音がしました」

りあむ「約束の時間にはまだ早くない?誰か早めに来たのか?」

あかり「お出迎えするんご。はーい、ただいま!」

あきら「……意外とあっさり離れて行った」

りあむ「せっかくだから白雪ちゃんにお出迎えしてもらえばいいのに!ね、凪ちゃんもそう思うでしょ?」

凪「それは同感です。そして、何か聞こえました」

あきら「千夜サンのメイド服見た時と同じような声」

千夜「ということは、松山さんでしょうか」

あかり「みなさん、松山さんがいらっしゃいましたっ」

松山久美子「ごめんなさい、早かったけどいい?」

松山久美子
時子の同級生で同じサークルの一員だった。母はピアノ教師、自身もピアノが得意。

千夜「かまいません。お席へどうぞ」

あかり「あきらちゃん、あきらちゃん……」

あきら「何かあった?」

あかり「実物は写真よりも美人でした……都会は凄いんご」

あきら「あかり、そんなキャラでいいの?」

千夜「いましばらくお待ちください。辻野さん、松山さんの話し相手はいかがでしょうか」

あかり「喜んでお話しさせていただきますっ」
10 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:20:37.54 ID:LpKpQWny0


S大学・部室棟・SDs部室

千夜「お待ちしていました、財前さん」

財前時子「……形から入るタイプなのね、貴方」

財前時子
S大学の職員。綺麗な声で歌えるのよ、とのこと。本日は何やらボトルを持参。

千夜「私ではなく江上さんです」

時子「江上椿は相変わらずね。他は揃っているのかしら」

千夜「はい。望月聖さんもいらっしゃいました」

時子「そう。いつまでも心配しているわけにはいかないもの、安心したわ」

千夜「そのお荷物はお預かりしましょうか」

時子「シャンメリーよ。未成年に出してあげなさい」

千夜「お気遣いありがとうございます。お嬢さまからワインをいただきましたので、財前さんと松山さんにはそちらを」

時子「受け取っておくわ」

千夜「こちらにどうぞ」

りあむ「時子サマ!待ってたよ!その服、似合い過ぎてる!」

時子「静かになさい」

りあむ「あっ、はい」

久美子「時子ちゃん、久しぶりー」

時子「先週会ったばっかりでしょうに」

久美子「ちゃんと正装してるのね。私もした方が良かった?」

時子「今日は構わないわ。久美子にも近いうちにしてもらうことになるかもしれないわ」

久美子「えっ?」

時子「飲み物だけ準備してちょうだい」

千夜「わかりました。凪さん、お手伝いください」

凪「りょ……おっと失礼、わかりました」

時子「紹介と説明をするわ。夢見りあむ」

りあむ「なに?時子サマ、何でも言ってよ!」

時子「戸締りとカーテンはしっかりとなさい」
11 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:21:21.81 ID:LpKpQWny0


S大学・部室棟・SDs部室

りあむ「何これ、旨いぞ!」

あかり「美味しいんご……」

あきら「子供の飲み物だと思ってたのに」

時子「貴方達も座りなさい」

凪「はい。遠慮はしません。シャンメリーもいただく」

千夜「お言葉に甘えます」

時子「紹介するわ。久美子は、いいかしら」

久美子「ええ。時子ちゃんが来る前に話したもの」

時子「この通りの姿よ。協力してもらうわ」

あかり「美人だから出来ることがあるんでしょうか?」

あきら「それはわからない」

久美子「やっぱり頼みごとがあるのね……」

凪「時子様、なーちゃんはご存知ですか」

時子「ええ。聖と先に会ってるわ」

久川颯「えっと、どう挨拶すればいいのかな?」

久川颯
久川凪の双子の妹。カラオケで楽しそうに歌う姿はまさに久川家のアイドルです、らしい。
12 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:22:03.89 ID:LpKpQWny0
時子「気張らなくて平気よ。久美子以外は知ってるわね」

凪「もち」

時子「『捕食者』のことも」

あきら「うん」

あかり「久美子さんは知ってる……んですか?」

久美子「時子ちゃんから事前に聞いてるわ。楓さんも知ってるし、顛末も聞いた」

時子「それと、もう1人。夢見りあむはこの子と会ってるわね」

りあむ「うん。確か、病院で会ったよ」

時子「聖、挨拶なさい」

望月聖「うん……望月聖、です……こんばんは」

望月聖
赤い瞳、金髪、白い肌と幻想めいた出で立ちの少女。歌は、時子との約束らしい。

あかり「えっと」

時子「辻野あかり、聞きたいことでもあるかしら」

あかり「颯ちゃんの秘密も話してるし、もしかして、あちら側なんですか」

時子「今はそうよ」

あかり「やっぱり。こんな神秘的な美少女が人間なわけないんご」

時子「聖の風貌は生まれつきよ」

あきら「その言い方だと、人間から変わったの?」

時子「違うわ。久川颯、わかるかしら」

颯「うん。わかるよ。深く、なんだか、別の所から顔を出してるみたい」

聖「そう……まだ、つながってる……」

久美子「前みたいなことにはならなそう?」

聖「うん……ほとんど聞こえないから……」

時子「聖にも協力してもらうわ。今回は教会も既に動いている」

あきら「りあむサン、そうなんデスか?」

りあむ「ぼくも詳しくは聞いてない」

時子「慌てないでいいわ、今から話すもの」

千夜「コース料理を準備した理由も聞いておりませんので」

時子「聖もいるから一言自己紹介してちょうだい。貴方から」
13 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:23:03.31 ID:LpKpQWny0
あかり「わかりましたっ。辻野あかり、山形出身の高校1年生です!実家のリンゴ農園をハーピーに荒らされちゃったから復活させるためにお勉強してるんご」

聖「ハーピー……気になる」

あかり「後でお話するんご、次はあきらちゃんです」

あきら「砂塚あきら、よろしくデス。あかりと同じクラス、何か特殊なことはないかな。次、どうぞ」

凪「凪は久川凪です。はーちゃんの姉です。どうやら霊感はないようです。おわり」

りあむ「夢見りあむ!S大学の1年生!看護学科!」

聖「ナースさんになるの……?」

りあむ「え?え、えっと、なりたい……んだと思う」

あきら「そこは自信持っていえばいいのに」

りあむ「それと、何か知らんけどこの集まりの代表やってる!次は、白雪ちゃん!」

千夜「白雪千夜です」

りあむ「それだけ!?もっとアピールしなよ!」

千夜「特にありません。望月さん、何かあったらお声がけください」

聖「メイドさん……カワイイ……」

りあむ「気に入ってるみたいだから、いいか!」

千夜「財前さん、本題に入りますか」

時子「ええ。聞いてちょうだい」
14 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:25:11.74 ID:LpKpQWny0


S大学・部室棟・SDs部室

あかり「えっと?」

りあむ「『チアー』の力で儲けてる奴がいる、違うな、いるかも!」

千夜「『チアー』は誰かわかっていません」

あきら「目的も。能力は……どうかな」

凪「凪達は見ました。蝶々の集まりへと変貌した人物を」

颯「……うん」

りあむ「それより先に、筋力が上がるだけのも見た!」

久美子「つまり、『チアー』の能力はどれくらいかわからないのね」

聖「そう……シスターも言ってた……」

りあむ「歌が上手くなるだけかも!」

あかり「変身させるより、音楽の才能を目覚めさせる方が簡単ですよねっ」

あきら「問題は」

久美子「全然手掛かりがないってこと?」

千夜「だから、動き始めた」

時子「浮かび上がった人物が『チアー』である確証はない」

りあむ「うーん、仕方がない!わからないものはわからない!」

あかり「『チアー』かもしれないのが、その音楽プロデューサーさんなんですね」

あきら「うん」

久美子「名前は聞いたことはあるかな」

聖「人前に姿を見せないんだって……」

あきら「名前は『庵野雲』、なんて正しく読むんだろ?」

りあむ「読み方はあんの、うん。だけど、どう考えてもアンノウンが由来だろ!安直が過ぎるぞ!」

あかり「自分で謎だ、って名乗る人をドラマ以外で初めて聞いたんご」

凪「フムン。つまり、『チアー』も音楽プロデューサーも正体不明と」

千夜「疑いを持つには十分です」

時子「そんな音楽プロデューサーが企画を立てたわ」

颯「新たな才能をお披露目するため、って」

あきら「それが、強化合宿を兼ねたオーディション」

あかり「場所は、M市民文化会館?」

りあむ「歩いてすぐそこじゃん!めちゃちかだよ!」

凪「張り込むのは簡単です」

千夜「目の前に図書館もあります」

凪「何人かでやれば怪しまれることも少ないと考えます」

時子「ええ、だから協力してもらうわ」

りあむ「それなら出来るよ!時子サマのためがんばるぞ!」

凪「おー」
15 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:27:02.03 ID:LpKpQWny0
あきら「こっちは外側から」

あかり「内側からは颯ちゃんと聖ちゃんが探るんですねっ」

時子「ええ。『チアー』の影がつかめていないこの状況、協力をお願いするわ」

久美子「うーん、私もそう思うけど……時子ちゃん?」

時子「何かしら」

久美子「それだけじゃないでしょ?」

凪「それだけではない、とは?」

久美子「確証が持てないわりには、事が大きすぎるわ。時子ちゃんらしくない」

りあむ「確かに、颯ちゃんに聖ちゃんを送り込んでるのは大がかり過ぎるか?時子サマだからそれくらいやると思ってた!」

久美子「時子ちゃんもただの大学職員で、教会とは違うもの。どうなの?」

聖「時子……言ってもいいよ」

時子「わかったわ。そもそも、教会にこの件を紹介したのは私よ」

颯「そうなんだ」

時子「芸能事務所と伝手があるのは知ってるわね」

久美子「恵磨ちゃんのポスターが貼ってあるから、わかりやすいわね。見やすいところにありがとう」

凪「どういたしまして」

千夜「それならば何故この件を知っていたのか、というところも気になるところです」

りあむ「時子サマがアンノウン音楽プロデューサーのことを知ってて、何かオーディションがあることも先に知ってた理由?」

あきら「偶然調べてた、とか」

時子「もっと簡単よ」

颯「時子さんがアンノウン音楽プロデューサーとか」

時子「それは大胆すぎる仮説ね、違うわ。発想力は褒めるわ、大切になさい」

あかり「ずっと調べてた、かな?」

凪「何度も調べるのは大変です」

りあむ「時子サマも暇じゃないもんね!いつもありがとう!りあむちゃんみたいな面倒な学生を助けてくれて!」

千夜「常に情報が入るようにしていた」

聖「……」

凪「聖さんの顔を眺めて凪は閃きました」

久美子「凪ちゃん、教えてくれるかしら?」

凪「時子様は伝手を使って情報を収集していました。それは何のためか、歌の才能を示す場を与えるため」

聖「……そう、あってる」
16 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:28:20.56 ID:LpKpQWny0
凪「凪もはーちゃんが気にしていることを調べたりしていました。いわゆる先読みです」

颯「なー、そうだったの?」

凪「その話はおいおいです」

久美子「本当に聖ちゃんには甘いのね」

時子「久美子はその理由は知っているでしょう」

久美子「クリスマスのことはよく知ってる」

りあむ「クリスマス?何の話?」

時子「サンタクロースに会うことがあったら聞きなさい」

あかり「サンタクロースに会う?サンタってホンモノがいるんですか?」

時子「聖と約束していたの、雪が降るクリスマスに」

聖「ステージから歌うのを時子に聞かせる……って」 

時子「それは私の希望でもあるわ」

聖「退院する前から……時子は教えてくれた」

時子「久川凪、正解よ」

凪「やりました。メモリー獲得間違いなし」

時子「聖の舞台を探していたわ。端役とはいえステップアップには相応しい」

りあむ「でも、気づいちゃった。最近の変なことにつながるような!」

時子「ええ。杞憂ならば良いのだけれど」

久美子「聖ちゃんは期待通りにオーディションは通った」

凪「なるほど、不安になったのですか。分かりますよ、その気持ち」

時子「急に親近感を持たれた気がするわ」

凪「用心に越したことはありません。はーちゃんのためにも」

颯「はー?大丈夫だよ、『捕食者』さんもいるから」

千夜「事情はわかりました」

りあむ「協力するぞ!最初からこの結論は変わってないけど!」

あきら「うん。自分達が役に立てそうなこと」

あかり「困ったら若葉お姉さんに相談しましょう」

時子「助かるわ。颯、聖」

颯「はいっ」

時子「まずは歌を真剣にやりなさい。いいかしら」

聖「うん……」

颯「わかった!はー、舞台にも興味あったんだー」

凪「やはり、そうでしたか。凪も勉強開始です」

久美子「時子ちゃん、もう1つ質問」

時子「何かしら。秘密にしていることはないと思うけれど」

久美子「どうして、コース料理の席が用意されてるの?」

颯「それは、あるから」

久美子「ある?何かしら」

聖「ディナーがあって……マナーとかそういうの知らないから……」

時子「何故かディナーが組み込まれてるのよ。誰の趣味なのかしら」
17 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:29:05.34 ID:LpKpQWny0
りあむ「ディナー、なんで?」

時子「私に聞かないでちょうだい。白雪千夜、礼儀作法はわかるかしら」

千夜「基本的なことは」

時子「良かったわ。貴方からも教えてあげてちょうだい」

千夜「かしこまりました」

時子「それもあるけれど、話がしたかったのも事実よ」

久美子「そうなんだー」

時子「……久美子」

久美子「ふふっ、わかってる。さ、はじめよっか」

千夜「付き出しから順にお出しします。凪さん、ご協力を」
18 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:30:11.86 ID:LpKpQWny0


S大学・部室棟・SDs部室

りあむ「……美味であった」

あかり「りあむさん、静かにしようとして美食家みたいになってるんご」

りあむ「ぼくの問題は口だからね、マナーを守り、炎上しないためには黙るしかない」

あきら「りあむサン、マナーは身についてた。口はともかく」

あかり「意外です」

聖「時子……これでいいのかな……」

時子「問題ないわ。必要以上に畏まるのだけは避けなさい」

颯「フォークとナイフでムニエルなんかはじめて食べたよ」

久美子「うん、颯ちゃんも上手」

颯「千夜さんに教えてもらったから」

千夜「どういたしまして。魚料理のお皿をおさげします」

りあむ「これは白雪ちゃんのお手製な気がする……旨い白身魚のムニエルだった」

あかり「付きだし、オードブル、ポタージュ、魚料理が出てきました」

あきら「コーンポタージュはレトルトだって。それ以外は千夜サン手作り」

あかり「そうなんですか?」

りあむ「あのクッキー手作りだったか……そんな感じの売り物じゃなかったのか」

あかり「オードブルなんて高いスーパーで売ってるのだと思ったんご」

あきら「パテもサラダも、アボカドとエビを混ぜたやつも手作りだって」

あかり「千夜さんは凄いんご」

聖「メイドさんは……すごい……すごいんご?」

あきら「聖チャン、真似しない方がいいデス」

颯「次はなんだろう?」

凪「お口直しの飲み物です。凪がオーダーをお聞きします」

千夜「財前さんと松山様にはワインをお出しします。お嬢さまからの頂き物です」

久美子「なら、遠慮なく」

凪「未成年にはノンアルコールです。サイダーか飲むヨーグルトをお選びください」

あかり「アンテナショップで仕入れた、山形産の飲むヨーグルトがオススメですっ」

颯「それなら、飲むヨーグルトで!」

あきら「自分もそれで」

聖「わたしも……」

凪「はい。りあむさんは」

りあむ「サイダーにする。あかりんごは?」

あかり「私もサイダーにするんご」

颯「えっ、そこは飲むヨーグルトじゃないの?」

あかり「サイダーの気分なので」

凪「あかりんごとはそういう人物です。お持ちしますのでお待ちください」
19 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:30:47.60 ID:LpKpQWny0


S大学・部室棟・SDs部室

久美子「時子ちゃん」

時子「何かしら」

久美子「このワインおいそれと飲んじゃいけない味がするわ」

時子「気のせいよ」

久美子「いいえ、美味しすぎるわ。メイドさん、聞いていい?」

千夜「松山さん、何かご用でしょうか」

聖「美味しそう……」

颯「おっきいローストビーフだー」

千夜「凪さん、お任せします」

凪「りょ。先ほどの練習の成果を見せましょう」

久美子「このワイン、どこの?」

千夜「黒埼家が保有する西欧の古城を改造したワインセラーに保存されていたもの、とのことです」

颯「西欧の?古城を改造した?ワインセラー?」

あきら「スケールが大きいデスね……」

久美子「時子ちゃん、本当に大丈夫なの?」

時子「いつか飲まれるものよ。それなら、久美子に飲まれて光栄でしょう」

千夜「遠慮は不要です。私にはワインの価値はわかりませんが」

久美子「そうするわ。だから、もう一杯ちょうだい」

千夜「かしこまりました。凪さん、そちらは問題はありませんか」

凪「はい。時子様、ローストビーフを献上します」

時子「ありがとう。盛り付けも上手よ」

凪「時子様に褒められました。なんと喜ばしい」

りあむ「うむ、わかるぞ」

あきら「わかるんだ……」

千夜「ワインをお持ちしました。どうぞ」

久美子「ありがと。いただくわ」

千夜「ごゆるりと。凪さん、お手伝いします」

凪「では、こちらを久美子姉様に」

千夜「かしこまりました」
20 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:31:40.61 ID:LpKpQWny0


S大学・部室棟・SDs部室

颯「あー、美味しかったー♪」

凪「凪も同じ感想です。ローストビーフを、固唾をのんで見守った甲斐がありました」

颯「チーズも美味しかったよっ」

あかり「ありがとうございますっ、今後も山形をよろしくんご。でも、やっぱり、デザートのタルトタタンが美味しかったんご〜」

あきら「千夜サン、リンゴのデザート得意だよね」

あかり「そうですっ、前に食べたアップルパイも最高でしたっ」

千夜「お褒めに預かり光栄です。紅茶と焼き菓子をお持ちしました」

聖「美味しそう……」

千夜「砂糖とミルクはお使いになりますか」

颯「うん!あれ?こういう時は使っちゃダメなんだっけ?」

時子「そんなことはないわ」

久美子「元は砂糖を飲むための飲み物、とか優ちゃんが言ってたかしら」

千夜「では、ご自由にお使いください。スプーンで音は立てませんように」

りあむ「心が落ち着く、いや、これは……」

あかり「りあむさん、もしかしておねむですか?」

りあむ「かもしれない、黙ってたら眠くなってきたのか」

聖「看護師さんは朝早いから……うん、紅茶が美味しい……」

りあむ「せっかく明日休みなのに、まぁ、いいか。どうせ授業はいつも朝早いし」

久美子「ふーん」

あかり「久美子さん、りあむさん見ても何も面白くないですよ?」

りあむ「それ、あかりんごが決めること?まぁ、面白くはないけど」

久美子「時子ちゃん、この子については一安心?」

時子「私に聞かないで」

颯「紅茶もクッキーも美味しい!千夜さん、マナーも教えてくれてありがとう」

千夜「いえ。楽しく食事をしていただけるなら、何よりです」

時子「ええ。聖も食欲は問題なさそうね」

聖「うん……」

時子「これで準備はいいわね。ディナーで緊張しないこと」

21 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:32:09.39 ID:LpKpQWny0
りあむ「目的があるから?」

聖「食事の時間は……おしゃべりになるから……」

颯「情報を聞き出すため、だよね」

時子「ええ。明日から始まるわ、2人共気をつけてちょうだい」

聖「任せて……時子」

颯「『捕食者』さんと頑張るよ!」

時子「私はごちそうさま。久美子」

久美子「私達は飲み直しましょう。どこかで」

時子「ええ。ところで、久川颯」

颯「なに?」

時子「満腹かしら?」

颯「これくらいでも平気だよ。でも、満足してない」

久美子「『捕食者』とつながってるんだものね」

りあむ「腹何分目くらいなの?」

颯「えっと、えへへ……」

あかり「答えにくいくらいなんですか?」

凪「実のところ、そのようです」

颯「腹2分目くらい、かも」
22 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:33:04.72 ID:LpKpQWny0
あきら「千夜サンが用意したコースでそれは、大変だ」

凪「はい。ゆーこちゃんが困っています」

千夜「残りはありますので、運びます」

時子「白雪千夜、今日はありがとう」

千夜「構いません。良い夜をお過ごしください」

時子「……」

久美子「ありがとう。私も行こうかしら……時子ちゃん、どうしたの?」

時子「なんでもないわ。夢見りあむ」

りあむ「え、ぼく?」

時子「自分のことで精一杯だと思うでしょうけど、貴方はもう少しがんばれるわ。代表、がんばりなさい」

りあむ「うん。何か眠いから大げさに喜ばないけど、内心とんでもなく嬉しいよ」

時子「失礼するわ。久美子、行きましょう」

久美子「ええ。またね」

あかり「はいっ、また遊びに来てください」

凪「さようなら。玄関までお見送りします」

千夜「お願いします。颯さん、おかわりをお持ちします」

颯「はーい!」
23 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:33:56.35 ID:LpKpQWny0


とある10月の月曜日(祝)

午前10時

M市中央図書館・3階

M市中央図書館
M市民文化会館の道路を挟んで向かい側にある図書館。M市在住か通勤通学していれば利用可。

あきら「おはよ」

あかり「あきらちゃん、おはようございますっ」

あきら「2人共早いデスね。あかりは得意だけど、りあむさんも」

りあむ「朝一の授業に出ると思ったら楽だからね」

あきら「りあむサンは図書館だから抑えめか」

りあむ「いつも通りだと唾液が飛ぶってリーダーちゃんから言われたからね、練習してるんだよ」

あかり「ささ、ここに座るんご」

あきら「うん。窓際の良い席とれたね、文化会館の玄関がよく見える」

あかり「開館前に並びました。一緒にいたお婆ちゃんにアンテナショップの宣伝もしましたっ」

りあむ「うんうん、あかりんごは逞しく生きてるな」

あきら「2人は来たんデスか?」

あかり「聖ちゃんは案内されて中に入って行きました。妖精さんみたいだから、ここからでもわかりましたっ」

りあむ「颯ちゃんは、ウワサをすれば来た。時間ぴったりだ」

あかり「凪ちゃんと一緒なんですね」

りあむ「そう、一緒に行って認識されることで怪しまれない作戦」

あきら「なるほど……中に入って行った」

あかり「聖ちゃんを案内したのと同じ警備員さんです」

りあむ「高級そうな制服だな、市民文化会館には普段いなさそうな」

あきら「凪チャンがこっち見た、けど、行っちゃった」

りあむ「ここに合流すると怪しいからね」

あかり「凪ちゃんとは部室で情報共有です」

あきら「わかった。他に誰か入った?」

あかり「スタッフさんは別の出口から入ったか、朝早く集合したみたいです」

りあむ「黒髪ロング美女が到着したのは見た」

あかり「誰がいるかはわからないんご。颯ちゃんと聖ちゃんにがんばってもらわないと」

りあむ「うむ。ぼくたちは見守っていよう」

あきら「うん。今日は勉強デスか?」

あかり「本は読みますけど、学校のお勉強じゃないです」

りあむ「ありさせんせいからオススメを教えてもらった。頭の違う部分を使おう」

あかり「妖怪とか民俗学の本です。絵本もありますよ」

あきら「絵柄はカワイイ系だ」

りあむ「分担して読もう、んで、気になったところは教えあうぞ」

あかり「わかりましたっ」
24 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:34:57.93 ID:LpKpQWny0
10

M市民文化会館・エントランスホール

M市民文化会館
大ホールと小ホールを備える市民文化会館。他に会議室2つ、和室、茶室などがある。

M市民文化会館・エントランスホール
ガラス張りの玄関と大きなシャンデリア、2階の大ホール出入り口に続く大きな階段が特徴的。

颯「き、緊張する……」

棟方愛海「……うひひ」

棟方愛海
颯と同じコーラスでの参加者。とある芸能事務所に所属。事務所内オーディションに合格したのでこの場にいるとのこと。

颯「あれ、何か変な気配がする?」

愛海「……おっと、まだ早いよね。親睦を深めてからだよ、愛海」

颯「近づいてきた」

愛海「こんにちは♪」

颯「こんにちは……?」

愛海「あたし、棟方愛海!今日からよろしくね♪」

颯「棟方愛海ちゃん……えっと、久川颯、14歳の中学2年生です、宜しくお願いします」

愛海「同い年なんだ、その割には立派な……うひひ……」

颯「何か言った?」

愛海「何でもないよ!同い年だから遠慮しないでね、愛海ちゃんでいいよ!」

颯「それじゃ、愛海ちゃん。はーも颯でいいよ」

愛海「はーちゃん、って呼ばれてるの?」

颯「うん。なーとかに」

愛海「なー、あっ、一緒に玄関まで来た子?姉妹?」

颯「颯と凪は双子だよ。はーが双子のお姉さん。似てない?」

愛海「似てた!双子なんだ、オイシイね!」

颯「美味しい?」

愛海「それは忘れていいよ。颯ちゃんはオーディション?」

颯「ううん、地域の代表で選ばれたんだ。愛海ちゃんは?」

愛海「あたしは芸能事務所からの推薦だよ。いやぁ、がんばったよ……何がなんでもここに来たかったからね」

颯「そうなんだ。やっぱり、音楽プロデューサーさんが有名だから?」

愛海「それもあるけど、違うよ。そうそう、颯ちゃんの知り合いはいないの?」

颯「え、うん、いない。だから、心配で」

愛海「うんうん、そうだよね。あたしが教えてあげよう」
25 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:35:42.17 ID:LpKpQWny0
11

M市民文化会館・エントランスホール

颯「愛海ちゃん、知ってるの?だって、ぜんぜん教えてくれないのに」

愛海「あたしは自称情報通だからね。お山は情報が大切なんだよ」

颯「登山が趣味なのかな?それじゃあ、音楽プロデューサーさんのことは知ってる?」

愛海「アンノウンプロデューサー?あたしも知らない、綺麗な女性だと良いなぁ」

颯「そんな簡単にはわからないか。それじゃあ、あのメガネの人は?」

愛海「八神マキノさん、公演を主催する会社の人だよ」

颯「主催?」

愛海「場所の確保とか宣伝とかをやってるよ。他の仕事でもお世話になったことがあるんだ」

颯「へー。ならなら、あの肌の白い綺麗な人は?」

愛海「アナスタシアさん、芸能業界で密かに注目され始めたロシアンハーフの道産子。夏プロ所属で、隣にいるのはマネージャーの沢田さんだ」

颯「本当に情報通だ。じゃあ、あの子は?」

愛海「櫻井桃華ちゃん。櫻井のお嬢様だけど、何でここにいるんだろ?コンサートの貴賓席とかに座ってるの見たことあるよ」

颯「はー達と同じなのかな」

愛海「そうかも。一緒にいる人は知らない、お手伝いさんかな」

颯「セクシーだよね、芸能人かと思っちゃった」

愛海「うひひ……確かに」

颯「うひひ?」

愛海「気にしない気にしない」

颯「えっと、それなら……そこで外を眺めてる女の子は?」

愛海「冬の妖精」

颯「え?」

愛海「あたしも知らない。妖精かと思うような佇まいだよね、あの子がコーラスの予選を勝ち抜いた子なのかな?」

颯「そうかも。年齢も近そうだし仲良くなれるかな」

愛海「せっかくだから仲良くならないとね」

颯「最後は、あそこにいる……」

愛海「西川保奈美ちゃんだよ!」

颯「食い気味、ってやつだ……」

愛海「あの人と一緒にいるためにここにいるからね!凄いんだよ!あっ、一緒にいるのはマネージャーの川島さんだよ」

颯「……」

愛海「今回の目玉!アンノウンプロデューサーが次にしかけるアーティスト間違いなしだよ。どうしたの、颯ちゃん?」

颯「えっ、ううん、何でもないよ。綺麗な人だなって」

愛海「そうでしょそうでしょ!颯ちゃんもわかってるね!」

颯「あっ、誰かホールから出て来た」

愛海「ん、あれは兵藤レナさんかな?舞台監督だよ。演出の担当者なのかな」

颯「準備ができたみたい。行こう」
26 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:36:36.17 ID:LpKpQWny0
12

M市民文化会館・大ホール・舞台上

M市民文化会館・大ホール
収容人数約千人。国内選りすぐりの貴賓を招待する本番もここで行われる。パイプオルガンの設置も可能らしい。

颯「ディスプレイとスピーカーがある」

愛海「何がはじまるんだろ?」

颯「カメラとマイクもある。撮影するのかな?」

スピーカー『皆さん、ごきげんよう』

聖「男の人の声……」

颯「画面に『発声中』、って表示された」

スピーカー『揃っているようだね、はじめまして。私が庵野雲だ』

聖「あなたが……」

颯「アンノウンプロデューサー」

スピーカー『こんな姿ですまない。許して欲しい』

愛海「うぅ、女性男性どころか柔らかな体もないなんて……」

聖「質問してもいいですか……?」

スピーカー『構わない』

聖「あなたは見えて聴こえてますか……?」

スピーカー『ああ、もちろんだとも。複数のカメラとマイクが会場に設置されている。世間話にも遅れたりはしないよ』

聖「本当に……歌は聴こえていますか」

颯「……」

スピーカー『本当に聴いているよ、そこは安心してほしい』

聖「わかりました……」

スピーカー『これから私達は1つの舞台を創り、新たな未来へと進んでいく。そのためには理解も必要だ。私からメンバーを紹介しよう』

愛海「あたしのこと知ってるんですか!?」

スピーカー『少しだけだよ。まずはレナから』
27 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:37:35.74 ID:LpKpQWny0
兵藤レナ「こんにちは」

兵藤レナ
今回の舞台監督。アメリカ仕込みの多彩な持ち歌があるらしい。

スピーカー『今回の舞台監督を務めてもらう兵藤レナだ。ショービズの空気を知っている実力者だ、何でも相談するといい』

レナ「選んでいただき光栄です。みんな、よろしくね」

スピーカー『次はヘレン。今回の演出家だ。振付師とダンス講師も兼ねてもらう』

ヘレン「ヘレンよ」

ヘレン
演出家兼振付師兼講師。どうやら世界レベルで有名なのだが、一般の人々には知られていないらしい。

聖「……」

颯「それだけ?」

ヘレン「多く語ることは無言に劣る。ダンスで全て伝わるわ」

颯「そうなの?」

愛海「いや、あたしに聞かれても困る」

スピーカー『続いては八神マキノ。公演を主催し様々な尽力を頂いている。皆の力になってくれるだろう』

八神マキノ「よろしく。困りごとは何でも言ってちょうだい」

八神マキノ
某制作会社のスタッフ。会場の手配からスケジュール調整まで彼女の仕事。意外に甘いもの好きらしい。

スピーカー『人を増やす必要性は感じない。基本はこの3人と私でやらせてもらうよ』

颯「秘密の人だから、少ない人でやらないといけないのかな」

スピーカー『おっと、忘れるところだった。この企画は西園寺と櫻井にご協力いただいている。ご協力に感謝を』

聖「西園寺……櫻井……大きな会社の?」

スピーカー『見学者もいるだろうが、それは許してくれたまえ。それも、この企画のうちだ』

颯「それは書いてあった。ここにいる時は気をつけないと」

スピーカー『さてさて。主役2人の前に、協力してくれるコーラスの4人を紹介しよう。まずは、望月聖さん』

聖「はい……望月聖、です……」

スピーカー『レナが選抜してくれた未知なる才能だ。資料は見ているが、楽しみにしているよ』

聖「よろしくお願いします……」

愛海「はぁ、かわいい……同い年くらいなのに何だろうこの気持ちは」

スピーカー『次は、櫻井桃華』

28 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:38:08.08 ID:LpKpQWny0
櫻井桃華「ごきげんよう、櫻井桃華ですわ。アンノウン様、皆様、よろしくお願いしますわ」

櫻井桃華
櫻井家のご令嬢。一見で特別な存在とわかる。数々の習い事の中には音楽に関わるものも多数あるとか。

聖「櫻井……」

スピーカー『この企画のスポンサーである櫻井の娘だ。ここにいる理由は諸君らの想像通りだよ、いわゆるコネクションだ』

颯「コネ……」

桃華「まぁ、アンノウン様、それは言わない約束でしたのに」

愛海「……ふふ」

颯「愛海ちゃんは変に微笑んでる……」

桃華「ですが、櫻井桃華はそれだけではありませんわよ。何故わたくしがここにいるのか、すぐに証明して見せますわ」

スピーカー『頼もしい限りだ。次は、久川颯さん』

颯「はいっ、久川颯、14歳の中学2年生です、宜しくお願いしますっ!」

マキノ「ふふっ、元気でいいわね」

スピーカー『この地の者を推薦いただいた。実力は未知数だが、きっと良いハーモニーを紡いでくれることだろう。気負い過ぎずに楽しんでくれたまえ』

颯「ありがとうございます、がんばります」

聖「……」

スピーカー『最後は棟方愛海。芸能事務所から1人推薦していただいた。期待しているよ』

愛海「棟方愛海です、がんばります!」

颯「さっきと話し方が違う……」

聖「カワイイ……」

スピーカー『桃華、颯さん、聖さんは不慣れだ。サポートを頼みたい』

愛海「はいっ、任せてください」

スピーカー『それでは、主役、いや、主役候補をご紹介しよう。さぁ、2人は前へ』
29 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:38:42.74 ID:LpKpQWny0
13

M市民文化会館・大ホール・舞台上

聖「……綺麗」

スピーカー『まずはアナスタシアさんから』

アナスタシア「ダー。夏プロダクションの、アナスタシアと言います。よろしくお願いします」

アナスタシア
夏プロダクション所属。北海道出身。父はロシア人、母は日本人。透き通るような容姿と歌唱で業界内ではウワサらしい。

スピーカー『続いて、保奈美さん』

西川保奈美「はい」

西川保奈美
森総合芸能事務所在籍。兵庫県出身。高校でも声楽を学ぶ本格派らしい。

聖「……」

保奈美「森総合芸能事務所から参りました、西川保奈美と申します。よろしくお願いします」

聖「……!」

颯「あ……」

保奈美「これからよろしくね、アナスタシアさん。ライバルとして」

アナスタシア「はい。ホナミにも負けませんから」

愛海「うんうん、友情だねぇ。ライバルとしか芽生えない友情もあるよ」

颯「愛海ちゃんはどの立場なの?」

スピーカー『観客席にいる3人も承知しているよ。アナスタシアさんのマネージャー、保奈美さんのマネージャー、桃華のお世話係。それぞれ名前は沢田麻理菜、川島瑞樹、篠原礼。くれぐれも秘密は守るように』

聖「手を振ってる……」

スピーカー『アナスタシアさん、保奈美さん、着席したまえ』

アナスタシア「わかりました」

保奈美「はい」

スピーカー『それでは始めるとしよう。まずは……』

愛海「いよいよだね」

颯「うん……」

スピーカー『ティータイムにでもしようか』

颯「はいっ!えっ、お茶?」
30 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:41:06.51 ID:LpKpQWny0
14

S大学・部室棟・SDs部室

凪「はーちゃんから連絡が来ました。ティータイムは終わったそうです」

千夜「最初にやることがお茶会とは、芸能界の人間が考えることはわかりません」

江上椿「私たちもお茶してますし、そう変わりはないかもしれないですね」

江上椿
SDsメンバー。写真館でアルバイトをしている。演歌が十八番で驚かれるらしい。

凪「ティータイムの次は、体も動かすレクリエーションだそうです。はい、戸惑いと同時に楽しそうなはーちゃんが思い浮かびます」

千夜「ティータイムにレクリエーションか。予定とは違うのですか」

椿「聖ちゃんに送られてきたスケジュールのコピーは、これですね」

凪「フムン。初日はイントロダクションとしか書かれていません」

千夜「つまり、予定通りと」

凪「ちなみにディナーは金曜日です」

椿「颯ちゃんから他に連絡はありますか?」

凪「いいえ。怪しまれるのは避ける。双子の姉へ送るメッセージらしきものだけにしてもらっています」

千夜「それがよいでしょう」

凪「久川家に帰宅したはーちゃんから直接聞きます」

椿「それなら、怪しまれませんね」

千夜「急ぐ必要はないかと」

椿「ええ。りあむさん達はどうしました?」

凪「図書館でお勉強中。凪は見ました」

椿「こちらの収穫はありますか?」

千夜「いいえ。特に連絡はありません」

凪「何人か入って行ったのは見たそうです。だが、誰かわからない。残念」

千夜「連絡がきました。こちらです」

凪「『あかりんごとラーメンちゅう!』だそうです。ばい夢見りあむ」

椿「お昼休みにしていたんですね」

千夜「何故ラーメンの写真だけを送ってくるのか。辻野さんか自分を映すべきでは?」

凪「りあむキラキラ女大生進化計画はまだまだか」

椿「私たちもランチにしましょうか」

千夜「はい」

椿「凪さん、大学の学食に行きましょうか」

凪「イエーイ、一足先のキャンパスライフ、いや、キャンパスライス楽しみです」

千夜「凪さんは定食でも食べたいのですか」
31 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:43:16.46 ID:LpKpQWny0
15

M市中央図書館・3階

あきら「ただいま。お昼食べてきた」

りあむ「……」

あかり「あきらちゃん、おかえりんご」

あきら「りあむサンは、仮眠中?」

あかり「うん。昼寝はいいぞ、午後の辛い時間を減らせる、って」

あきら「変な言い方せずにストレートに言えばいいのに」

あかり「私もそう思うんご」

あきら「何か動きはあった?」

あかり「会館2階の喫茶店が臨時休業になってました。でも、宅配便屋さんが入ってすぐに出て来たんご。コックさんもいるみたいです」

あきら「食事の準備かな」

あかり「はい。玄関から颯ちゃんが移動するのが見えました」

あきら「関係者以外は会場に近づかせないため」

あかり「あっちもお昼みたいです」

あきら「ここからじゃ喫茶店は見えないか」

あかり「さっき横を通りましたけど、カーテンがしまってました」

あきら「そのくらいの対策はしてるよね」

あかり「怪しまれないくらいに見守るんご。まだまだ先は長いですから」

あきら「そうだね」

あかり「ねぇ、あきらちゃん?」

あきら「何?」

あかり「あちら側には和風の存在が少ない気がしませんか?」

あきら「はい?」

あかり「退魔師さんはともかく、ちとせさんもクラリスさんも違います。松永涼さんも和風じゃないですよね。山形にいたのもハーピーでした」

あきら「確かに。ありさせんせいのやつで読んだ化け狐くらいかな」

あかり「だから、居る気がしてきました」

あきら「あー、妖怪の本を読んだ影響か」

あかり「……猫娘、一反木綿、ぬりかべ、子泣きじじいとか」

あきら「テーマソングが聞こえてきそうなラインナップデスね」

りあむ「うー……」
32 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:43:53.58 ID:LpKpQWny0
あかり「りあむさん、おはようございます」

りあむ「ふわぁ、飽きてきた。あかりんご、あきらちゃん、ここは任せた」

あきら「りあむサン、用事でもあるんデスか?」

りあむ「ない。部室に戻るよ。これは借りてく。ばいばい」

あかり「足元には気をつけてください」

あきら「寝起きだからテンション低いデスね」

あかり「りあむさん、何で格闘技の歴史を借りて行ったんでしょう?」

あきら「さぁ何でかな。あかり、どれ読んだ方がいい?」

あかり「こっちを読んで欲しいんご」

あきら「日本の怪談話集か、面白そう」
33 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:44:50.44 ID:LpKpQWny0
16

M市民文化会館・3階・会議室1

会議室1
文化会館にある大きい方の会議室。控室として開放されている。ブレスケア用品と飴がたくさんある。

颯「あの、こんにちは」

川島瑞樹「あら、こんにちは。久川颯ちゃんよね?」

川島瑞樹
保奈美のマネージャー。森総合芸能事務所に長年勤めている。声も聞き取りやすいですし歌もお上手ですよ、とのこと。

颯「はいっ、はじめまして」

瑞樹「はい。名刺を渡しておくわね。森総合芸能事務所の川島瑞樹。よろしくね」

颯「わっ、名刺もらっちゃった。はじめてかも」

瑞樹「ふふっ。颯ちゃんは芸能活動の経験は?」

颯「ないです。ちょっと興味はあったけど」

瑞樹「困ったことがあったら相談してね。そうだ、私達の事務所に所属する?」

颯「いえ!はー、そんな凄くはないから」

瑞樹「残念。それにしても驚いたわ」

颯「え、何にですか?」

瑞樹「色々と。資料には誰が来るかも書いてなかったし」

颯「西川さんにも知らされてないんですか?」

瑞樹「ええ。その様子だと、そっちも知らなかったみたいね」

颯「あの、アンノウンさんのことは知ってますか?」

瑞樹「存在は知ってたわ。会えると思ったのだけれど」

颯「うーん、誰も知らないのか」

瑞樹「颯ちゃんはアンノウンさんを知ってるの?」

颯「ううん。選ばれてから初めて知ったくらい」

瑞樹「そう。誰かはわからない、か。ぜひ知りたいのだけれど、残念ね」

颯「……えっと」

瑞樹「聞きたいことでもあるのかしら?」

颯「アナスタシアさんとかはいない……よし、あの聞きたいことがあって」

瑞樹「どうぞ」

颯「西川保奈美さん、オーディションに選ばれると思いますか?」

瑞樹「もちろん。結果はわかるわ、あの子の素質は誰よりも私が知ってるもの」

颯「……」

瑞樹「颯ちゃん、そろそろ時間じゃない?」

颯「休憩時間が終わっちゃう、これからもよろしくお願いしますっ」

瑞樹「わかったわ。あなたも保奈美ちゃんを応援してあげて、颯ちゃん」
34 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:45:40.67 ID:LpKpQWny0
17

夕方

M市中央図書館・3階

あかり「あきらちゃんは、どっちだと思いますか?」

あきら「急に何?」

あかり「猫又と鬼だったら、どっちの方がいるかなって」

あきら「何でその2択……鬼はもういるし」

あかり「えっ、そうなんですか?」

あきら「吸血鬼」

あかり「おー、そうでした。あきらちゃんは賢いんご」

あきら「動物系はいるかもね。タヌキとか」

あかり「あっ、凪ちゃんから連絡来ました」

あきら「こっちにも来てた」

あかり「『なーちゃんを迎えに参りました』……見つけたんご」

あきら「着いてから連絡するんだ」

あかり「今日は終わりの時間ですね。何人か出てきました」

あきら「玄関から出てくる人は凪チャンに任せる」

あかり「全員出たのを確認したら部室に帰るんご」
35 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:46:15.84 ID:LpKpQWny0
18



S大学・部室棟・SDs部室

椿「お疲れ様でした。お茶をどうぞ」

あきら「ありがと、椿サン」

椿「ずいぶんと遅かったですね。何があったんですか?」

あかり「そうなんです!連絡してからもう1冊読み終わっちゃったんご」

りあむ「お疲れ!なんかあったのは間違いなさそうだな!」

あきら「昼より元気になってる」

りあむ「白雪ちゃんが夕ご飯を用意してくれてるからね!2人も食べて行きなよ!」

あきら「そうする。あかりは?」

あかり「千夜さんの料理はもちろん食べるんご」

りあむ「それで、何があったの?『チアー』を見つけたとか」

あきら「いや、そういうわけじゃないんだけど」

あかり「いなかったんご」

椿「いなかった?」

あきら「アンノウンプロデューサー、あそこにはいなかった」
36 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:46:52.17 ID:LpKpQWny0
19

S大学・部室棟・SDs部室

あかり「炊き立てご飯に、キノコ入りの豚汁、里芋煮……千夜さんは素晴らしいんご」

りあむ「当たり前だろ、白雪ちゃんだぞ!ちとせもそう言ってる」

あかり「んごんご。一汁一菜こそ至高なり」

千夜「簡単なものなのですが」

あきら「簡単に美味しいのが作れるのが凄いデス」

椿「そう言う人こそ料理上手と言うんですよ」

りあむ「白雪ちゃんも来たし、おさらいしよう!白雪ちゃんがご飯を作ってる間にホワイトボードに書いておいた!」

あきら「書いたのはりあむサンじゃなくて自分だけど」

りあむ「細かいことはいいんだよ!別にそれが自慢したいわけじゃないし!」

千夜「フムン……市民文化会館の間取り図と人の名前のようですが」

椿「千夜さん、ご飯をよそってきましょうか?」

千夜「ありがとうございます。お願いします」

あかり「はいっ。夜遅くなった原因はここにあるんです」

りあむ「その通り!名前と人数は颯ちゃんと聖ちゃんにも確認してる!」

あきら「市民文化会館にいたのは」

あかり「まずは、颯ちゃんと聖ちゃん」

千夜「棟方愛海さん、櫻井桃華さん、は2人と同じコーラスでしょうか」

りあむ「そうだよ。棟方愛海ちゃんは芸能事務所所属の芸能人みたい」

千夜「櫻井……」

あかり「千夜さん、もしかして櫻井桃華ちゃんと知り合いですか?」

千夜「いいえ。櫻井に娘がいるのは知っています。黒埼の家の方なら櫻井家の方々とは知り合いかもしれません」

りあむ「ぼくが知ってるくらいだからね!めっちゃ金持ちだよ!」

あきら「凪チャンによると、コネだって」

千夜「芸能界なんてそんなものでしょう。帰る場所があるから不安定な世界に飛び込めるのです」

あきら「……」

りあむ「それで、桃華ちゃんのお付きの人が篠原礼さん!」

あきら「運転手もしてた」

あかり「とにかく高そうな車だったんご」

りあむ「今回の主役が2人!西川保奈美ちゃんとアナスタシアちゃん、アナスタシアちゃんはフルネーム不明!」

千夜「既に芸能関係者のようですが、お前は知っていますか?」

りあむ「ぼくは芸能通ってわけじゃないよ!アンダーグラウンドな人知れないものを知ってるだけ!」

あかり「2人のどちらかが主役になるそうです」

あきら「2人にはマネージャーがついてた」

あかり「川島瑞樹さんが西川さんのマネージャーで、沢田麻理菜さんがアナスタシアさんのマネージャーです」

椿「参加者とその関係者が9人。千夜さん、おかわりをどうぞ」

千夜「ありがとうございます」
37 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:47:24.67 ID:LpKpQWny0
あかり「この人達は玄関から出て行くのを見ました」

千夜「参加者は9人に対して主催側は3人。少ない印象です」

りあむ「少ないよな!腕利きなのかもしれないけど!」

あきら「音楽の先生はスポットで来るみたい、って颯ちゃんが」

椿「いたのは、監督の兵藤レナさん」

あかり「演出家のヘレンさん!面白い人らしいですっ」

あきら「それと、主催する会社の八神マキノさん」

あかり「この3人が帰るところは見たんご」

りあむ「配置的に通用口も見えるもんね!粘り勝ちだよ!」

あきら「でも、それだけ」

あかり「出てこなかったんです、アンノウンプロデューサーが」

あきら「電気が全部消えた。警備員も帰ったのを見た」

千夜「まだ中にいる、わけではなさそうですね」

椿「アンノウンプロデューサーは姿を見せなかったそうです」

あきら「スピーカーから声が聞こえるだけ」

あかり「声は男の人らしいです」

千夜「引っかかる言い方ですね」

あかり「代理で話してるだけかもしれないんご」

あきら「あの会場のどこかにいると思ったけど」

椿「会場にはいなかった、ということですね」

千夜「別の場所から聞いている。そこにはいない」

りあむ「顔を完全にださないつもりか!あるいは出せないとか!恥ずかしがりや!」

あきら「ずっと素性がわからないから、顔を出さないのは納得する」

あかり「でも、聖ちゃんが不思議なことを教えてくれて」

千夜「不思議、ですか」

あかり「あの場所で聴いてると思う、って」

りあむ「会場を準備から借りるような音楽家がその場にいないわけない、っていう考えらしい。うん、そんな気がしてきた」

椿「でも、ここに書いてある人以外はいないんですよね?」

あきら「おそらく」
38 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:48:28.66 ID:LpKpQWny0
あかり「出てくるのを見逃してない、と思うんご」

千夜「直接聴いているはずですが、その場に別の人物はいない」

椿「スピーカーの向こうで話している人物もいますよね。その人はアンノウンと名乗ってます」

あかり「うーん、矛盾してます」

りあむ「どれかを信じて、何かを嘘と決めるしかないんだよ!ぼくは信じるものを決めたぞ!」

あきら「信じる、何をデスか?」

りあむ「聖ちゃんだよ!時子サマがあれだけ気にしてる子が嘘つくわけない!」

20

S大学・部室棟・SDs部室

千夜「望月さんを信じるとなると1つのことが決まります」

りあむ「そう、あそこにいるんだよ!アンノウンプロデューサーは!」

椿「つまり……」

あかり「この中の誰かが……」

あきら「『チアー』かもしれない」

りあむ「それは言い過ぎな気がする!アンノウンプロデューサーかもしれないくらいか?!とにかく、まずは見つけることだよ!」

千夜「謎の人物を」

椿「それなら、スピーカーの向こうで話しているのはどなたなんでしょう?」

りあむ「雇われた人とか。颯ちゃんとか何か言ってた?」

あきら「そこは聞いてない」

椿「聞きましょうか。その場にいた人にしかわからないことはたくさんありますから」

あかり「もう遅くなってきたから明日にするんご」

あきら「あそこにいる、か」

りあむ「あきらちゃん、何か気になってるな!言ってみよう!」

あきら「今日は歌うことはなかった、って」

千夜「歌がないなら、何をしていたのですか?」

あかり「レクリエーションみたいです」

椿「レクリエーション?」

りあむ「何か自己紹介したりボードゲームしたり体操したりしたみたいだよ」

椿「打ち解けることも重要ですから」
39 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:49:08.91 ID:LpKpQWny0
あかり「このヘレンさんが独創的な踊りを教えてくれたらしいです」

りあむ「筋トレというか筋力テストみたいのもあった、らしい。理由はよくわかんないけど意味があるんだろう、きっと!」

千夜「それにアンノウンは参加していたのですか?」

あきら「基本は参加してない、見て聞いて時々口は出すけど」

千夜「砂塚さんが気にしていることがわかりました。歌がない、ということは」

あきら「まだ、現れてない可能性がある」

りあむ「わかった!それなら聖ちゃんが嘘をつくことにも、該当する人物がいないことにも矛盾しないぞ!」

あかり「新しく来た人は怪しい」

りあむ「見学者はいるらしい!基本は3人でやる、って言ってたのも気になるぞ!追加があるかもしれない!」

千夜「要は、断定するには早いと」

りあむ「そう!でも、何もかも決めないのが1番まずい!それなら、ぼくたちはどうする?」

あかり「聖ちゃんと颯ちゃんを信じるんご」

千夜「上手く立ち回ってくれることを信じるのはもちろんですが」

あきら「感じたことを信じる」

りあむ「そうしよう!ぼくたちは直接聴ける誰かがアンノウンだと決める!」

千夜「名前と簡単なプロフィールはわかりました」

りあむ「時子サマに相談してしらべてみよう!それと、西園寺だっけ?」

あかり「はいっ、櫻井と西園寺は有名なお金持ちですっ」

りあむ「何か最近どこかで見た気がするんだけど、知らない?」

千夜「お前が思い出せ」

りあむ「厳しい!でも、その通りだな!思い出すよ!」

千夜「そうしてください」

あきら「方針は決まったかな」

あかり「明日からがんばるんご」

りあむ「あれ?今日はおしまいな感じなの?」

椿「りあむさんも明日から朝早いですから。皆さんは学業優先ですよ?」

千夜「江上さんが言う通りにします」

あかり「今回の対象は逃げたりはしないはず、ですから」

あきら「そろそろ帰ろうかな。千夜サン、ごちそうさまでした」

りあむ「ぼくも帰ろう。椿さん、戸締りお願いしていい?」

椿「大丈夫ですよ。千夜さん、お片付けも任せてください」

千夜「お言葉に甘えます。ごちそうさまでした」

りあむ「それじゃ、また明日から始めよう!まずは、今日の登場人物を調べるところからだよ!」
40 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:49:39.79 ID:LpKpQWny0
21

とある10月の火曜日

早朝

S大学・部室棟・SDs部室

あかり「おはようございますっ」

椿「おはようございます。あかりさん、授業前に来るのは珍しいですね」

あかり「あれ、りあむさんはいないですか?」

椿「まだ来てませんよ。そちらに実習セットがあるので、そのうち来ます」

あかり「それじゃあ、待ってるんご。椿さんは何してるんですか?」

椿「私は教科書を取りに。あと目覚めのコーヒーも。あかりさんは?」

あかり「りあむさんにお弁当を届けに来たんご。なんと、私が作りました!JK手作りです、りあむさんもやる気アップ間違いないんご!」

椿「あら、それは羨ましい。整形外科の実習だとお昼買うのに時間がかかるから火曜日は憂鬱、とか言ってましたね」

あかり「私の練習がてら作ってみました。お野菜たっぷり、ご飯も多めです」

椿「いいですね。看護実習も体力勝負ですから」

りあむ「ちょっと遅れた!まったくもって遅刻しないぐらいだけど!あっ、椿さんとあかりんご、おはよう!」

椿「おはようございます。よく眠れたみたいですね」

あかり「朝から元気ですね。りあむさん、約束のお弁当です。なんと私の手作りです、実験台になってください」

りあむ「ありがとう!実験台でも何でもどんとこいだよっ!実習セットは、あった。それじゃ、また夕方!」

椿「いってらっしゃい」

あかり「私も教室に行きます。今日はお店をお手伝いするので、夕方はいないです」

椿「わかりました。そうだ、コーヒーを淹れすぎたので、いかがですか?水筒もあるので、持って行ってください」

あかり「いただきます、あきらちゃん達にもお裾分けするんご」
41 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:50:16.76 ID:LpKpQWny0
22

昼休み

S大学付属高校・空き教室

空き教室
ちとせ達の部室になるはずだった教室。頼子によると期限切れになる来年3月31日までこのままにする、とのこと。

あきら「椿サンが淹れたコーヒー、美味しい」

あかり「なんか高い味がするんご、たぶん」

千夜「昨日財前さんのために用意した残りのコーヒー豆を使ったのでしょう」

あかり「椿さんはちゃっかり屋さんです」

あきら「落ち着いてるし色々考えてそう。まぁ、様子がおかしいことも多いデスが」

千夜「……」

あかり「私達から見たらお姉さんですけど、まだ大学3年生なんですよね」

あきら「あかりも妙に落ち着いてるように自分からは見えるよ」

あかり「それって、クールってことですか?冷やしりんご?」

あきら「それは違う、両方とも」

あかり「千夜さんは、どう思いますか?」

千夜「……江上さんの考えていることはよくわかりません」

あかり「あはっ、私にもわからないですっ」

あきら「わかるようになるのはちょっと」

千夜「……アンノウンについてわかったことはありますか」

あきら「ある。まずは、主役から調べてみた。西川保奈美さんについて」

あかり「さすが、あきらちゃん。素早いんご」

千夜「森総合芸能事務所と聞きました。由緒ある事務所です」

あかり「私も聞いたことがあります。近所のお婆ちゃんが好きな演歌歌手も森総合芸能事務所でした」

あきら「ネットで調べたくらいだけど。まずは事務所のホームページかな」

あかり「私も検索するんご」

あきら「名前は西川保奈美、兵庫県出身、誕生日は10月23日」

千夜「もう少しで誕生日のようです」

あかり「はぇー、大人っぽい」
42 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:50:59.66 ID:LpKpQWny0
あきら「趣味はオペラ鑑賞、宝塚鑑賞。昔から芸能界志望だったのかな」

あかり「受賞歴がたくさんあります。歌の大会でしょうか?」

千夜「小さな大会のようですが、そのようです」

あかり「演歌、民謡、ポップス、歌なら何でも上手なんですね」

あきら「事務所のホームページだとこれくらいかな」

千夜「他にもわかったことがありそうな口ぶりです」

あきら「事務所に所属したのが高校入学と同時。制服姿の写真も見つけた」

あかり「制服を見てもどの高校かわかりません。千夜さん、知ってますか?」

千夜「ええ。この高校なら音楽科があるかと。ここからバスで簡単に行けます」

あかり「音楽科、高校でも歌の勉強をしてるんですか?」

あきら「たぶん。声楽科もあるし」

あかり「おー、努力屋さんです」

あきら「アンノウンプロデューサーが目をつけるのには十分かな。似たようなネットの書き込みも見つけた」

あかり「同じこと言ってます。関係者でしょうか?」

あきら「いや、適当じゃない。知ってるものを結び付けたいだけの人は幾らでもいるから」

千夜「彼女がアンノウンプロデューサーという可能性は、なさそうですね」

あかり「それだったらびっくりです。私だったら自分で歌ってCD出しますっ」

あきら「だから、違うと思う」

あかり「あきらちゃん、前言撤回します。アンノウンプロデューサーじゃなくても『チアー』の可能性はあります」

あきら「どういうこと?」

あかり「西川さんは歌手です。良い音楽プロデューサーが欲しいはずです」

千夜「アンノウンプロデューサーを作ったのが彼女、と」

あきら「本人が『チアー』だから」

あかり「複雑にしちゃいました」

千夜「アンノウンが『チアー』でなく、どなたかが『チアー』である可能性は捨てられません」

あきら「この辺りは、りあむサンと相談かな」

千夜「はい。ところで、西川保奈美のマネージャーについては何か情報はありますか」

あかり「さすがにホームページに名前はないです」

千夜「マネージャーだけでも百人規模ですから、仕方がありません」

あきら「それっぽい人はネットで見つけた。これ」

あかり「アナウンサー、ですか?」

あきら「元アナウンサー。大学卒業後は地方局で報道の仕事をしてたらしい」

千夜「元から芸能関係者でしたか」
43 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:51:30.97 ID:LpKpQWny0
あきら「テレビ局の裏方に回ったあと、転職したらしい。アナウンサーの頃から人柄が良くて人気者だった、って」

あかり「昨日見た気がします」

あきら「『チアー』とアンノウン、どっちの可能性も捨てられない」

あかり「うーん、まだわからないことばかりです」

千夜「ただ、調べれば何か見つかりそうな気配はしてきました」

あきら「千夜サンと同感」

千夜「そろそろお昼時間が終わります。コーヒー、ごちそうさまでした」

あかり「自作のお弁当はまぁまぁでよかったんご。りあむさんのお腹も満たせたはずです」

あきら「あかり、教室に戻ろうか」

あかり「はい。そうだ、あきらちゃん、水筒を部室に持って行って欲しいんご」

あきら「今日アンテナショップのお手伝いだっけ、わかった」
44 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:52:03.37 ID:LpKpQWny0
23

夕方

M市民文化会館・エントランスホール

颯「西川さん、こんにちは」

保奈美「こんにちは、颯ちゃん。保奈美でいいわよ」

颯「じゃあ、保奈美さん。お勉強してたの?」

保奈美「ええ、数学の課題を。明日当てられてしまうから」

颯「あれ、高校もお歌のお勉強じゃなかった?」

保奈美「そうね、でも数学も国語も英語もあるの」

颯「へー。大変そう」

保奈美「平気。好きだから、歌いたいからやってるもの」

颯「うん、保奈美サンは凄い。はー、保奈美さんが選ばれると思うな」

保奈美「ふふっ、ありがとう」

颯「今日は予定が変わったんだよね、新しい歌があるって。保奈美さんの歌、楽しみ」

保奈美「私もよ。急遽ピアノの先生も来てくれたそうよ」

颯「どんな先生なのかなー」
45 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:53:02.64 ID:LpKpQWny0
24

M市民文化会館・大ホール・舞台上

颯「……知ってる人だよ」コソコソ

聖「うん……他は昨日と一緒、アンノウンさんはいない……」

スピーカー『皆さん、ごきげんよう』

桃華「ごきげんようですわ、プロデューサー様」

スピーカー『今日のゲストを紹介しよう。松山久美子さんだ』

久美子「はじめまして。松山です、短い間ですがよろしくお願いします」

スピーカー『この地の小さな音楽教室で講師を務めている。芸能界の人間ではない故に不得手なところもあろうが、一緒にやっていこう』

愛海「こんな透明感のある美人をよくぞ見つけてくれたよ、さすが天才プロデューサー」

颯「そ、そうだね」

スピーカー『松山さんには発声練習をお願いしよう。私は準備をする。楽しみにしてくれたまえ』
46 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:54:12.04 ID:LpKpQWny0
25

M市民文化会館・大ホール・舞台上

颯「桃華ちゃん、ピアノ弾けるの?」

桃華「はい。幼少の頃から習っていますの」

颯「へー、上手?」

桃華「残念ながらピアニストになるほどの才能はありませんわ。松山様も幼少期から?」

久美子「ええ。母がピアノの先生だったから、物心ついた時からずっと」

桃華「そうだと思いましたわ。貴方には音楽と共に育った匂いがしますの」

颯「匂いがする……?」

レナ「はい。休憩終わり」

スピーカー『レナ、郵便は届いたかな』

レナ「届いているわ。中身はまだ見てない」

スピーカー『松山さんに渡してくれ』

レナ「だそうよ。どうぞ」

久美子「私?」

スピーカー『開けてくれたまえ。ピアノ譜面が入っている』

聖「楽譜……」

久美子「3曲かしら」

スピーカー『ああ。君たちのイメージから3曲用意した』

保奈美「新曲、ですか」

スピーカー『その通り』

愛海「いきなり新曲!?昨日会ったばっかりなのに?」

スピーカー『まだ楽譜だけなのは許して欲しい。松山さん、弾いてくれるかな』

久美子「光栄というより、緊張するわ。プロじゃないから参考程度にね」

桃華「アンノウン様の新曲を初めて聞く、光栄ですわね」

アナスタシア「ダー、楽しみです」

スピーカー『他言は無用だ。秘密は守ってくれ』

颯「うん」

スピーカー『それでは、松山さん。頼んだよ』
47 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:54:55.93 ID:LpKpQWny0
26

M市民文化会館・3階・会議室2

会議室2
小さい方の会議室。こちらも控室として開放されている。高級なイスがどこからか運び込まれている。

颯「麻理菜さん、1人ですか?」

沢田麻理菜「ええ。颯ちゃんは休憩中?」

沢田麻理菜
夏プロダクション勤務のマネージャー。最近はアナスタシア担当。夏が終わったので仕事をがんばる時期、らしい。

颯「うん。このイスが気持ちいいんだよねー」

麻理菜「わかる。だから、私もここで休憩。颯ちゃん、オヤツ食べる?」

颯「うん!クッキー、もらっていいの?」

麻理菜「もちろん。はい、どーぞ」

颯「いただきまーす。美味しいー」

麻理菜「何かいつもお腹減ってそうだから、食べ物をあげたくなるわ」

颯「モグモグ、えっ、そうかな?」

麻理菜「この場にも物怖じもしてないし、何か心の支えみたいなのがある?」

颯「えっと、あっ、なー!」

麻理菜「双子のお姉さんね。昨日見たわ」

颯「今も心配してると思うよ。心配かけ過ぎないようにがんばらないと」

麻理菜「ふふっ、お姉さんは過保護なのね。こんなカワイイ妹さんなら当然ね」

颯「そんなことないです。その、聞きたいことがあって」

麻理菜「私に?所属する事務所を探してるなら、上に相談しようか?」

颯「それは考えてないです。昨日川島さんにも言われた」

麻理菜「あらら、川島さんに先手を取られちゃってたか」

颯「聞きたいのは、その」

麻理菜「言いにくいこと?」

颯「誰にも聞かれてないよね……あの、麻理菜さん。変なこと聞くよ」

麻理菜「とりあえず、言ってみて」

颯「アナスタシアちゃんに、このオーディションって大切?」

麻理菜「そうね、いい経験になると思うわ」

颯「いい経験……」

麻理菜「それに、あのアンノウンプロデューサーがアーニャちゃんのイメージで曲も書いてくれた。聞いたでしょ、透明な冬の星空をイメージするような曲!」

颯「うん。アナスタシアちゃんのイメージ通りだよ」

麻理菜「そこまでは想定してなかったから、私も嬉しいわ。世に出すかどうかは決まってないけど、何とか世の中に出したいわね」

颯「あの、麻理菜さんは、アナスタシアちゃんが選ばれると思う?」

麻理菜「そうね……選ばれないことも良い経験だと私は思ってる」

颯「……」

麻理菜「もちろん、アーニャちゃんが全てを出し切れるようにサポートするわ。颯ちゃんも、一緒にがんばりましょう」

颯「うん、がんばる」

麻理菜「それじゃあ、お姉さんから賄賂のオヤツをもう1つ。もう少しで今日も終わりだから、がんばってね」
48 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:55:43.06 ID:LpKpQWny0
27



S大学・部室棟・SDs部室

久美子「あー、疲れたー」

あきら「潜入捜査、お疲れ様デス」

久美子「昨日今日でこんなことになるとはね、緊張したわ」

椿「ご苦労お察しします」

久美子「本当にね……こんな短時間で決めることじゃないわよ。時子ちゃん、前よりパワーアップしてるわね。まさか、音楽教室で講師をしているのも根回ししてるとは思わなかった」

あきら「財前サン、昔からそうなんデスか?」

久美子「そうよ。あの人使いは生まれながらの才能だと思うわ」

あきら「やっぱり。りあむサンすら動かせるんデスから」

りあむ「あきらちゃん、何か言った!?」

あきら「大したことは言ってないデス。課題に集中してください」

りあむ「わかった!ちょっと聞いてるから、お構いなく!」

久美子「看護学科は大変ね」

椿「はい。実習があるところは」

あきら「2人はなかったんデスか?」

久美子「経済学部だから。椿ちゃんは?」

椿「私は文学部なので実験や実習はありません。ゼミにはもう通ってますよ」

あきら「ふーん、そういうのも選ぶポイントなのかな」

りあむ「そうだそうだ!大変だぞ!」

椿「りあむさんは課題に集中してください」

久美子「あきらちゃん、進路は決まってない感じ?」

あきら「はい。あかりみたいに決まらなくて」

久美子「そうねぇ、結果的にそうならいいけど、楽とか大変とかで選ばない方がいいと思うわ」

千夜「私も参考にします。松山さん、こんばんは」

久美子「こんばんは、千夜ちゃん。いつもメイド服じゃないのね」

千夜「そんな変人ではありません」

りあむ「制服に質素なエプロンこそ最高!白雪ちゃん魅力爆発!」

久美子「話は聞いてて口も出すのに手は動いてる。結構優秀なのかしら」

千夜「ご夕食はいかがですか。今日は冷凍焼けが見られる廃棄されかけた魚を焼きます」

久美子「気兼ねなくいただけそうな献立ね。いつも一緒に食べてるの?」

千夜「半分くらいでしょうか。教会にも時々行っています」

あきら「りあむサンと椿サンはよく一緒に食べてるかな」

椿「私も独り暮らしなので。りあむサンは実習も始まりましたし」

久美子「せっかくだし、いただくわ。ありがとう」

千夜「かしこまりました。もう少しお待ちください」

りあむ「おっと!急がないと白雪ちゃんに飯を抜かれる!りあむ、がんばるんだぞ!」

千夜「抜いたりしません。お前は口を動かすくらいなら手を動かせ」

あきら「久美子サン、魚が焼きあがる前に話を聞かせて」

久美子「そうだったわね、それは話しておかないと」
49 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:56:19.51 ID:LpKpQWny0
28

S大学・部室棟・SDs部室

あきら「フムン……」

久美子「今日やったのは、こんなところ」

椿「アンノウンプロデューサーの新曲を世界で初めて演奏した人になったんですか?」

久美子「なんとそうよ。さすがに緊張したわ」

あきら「颯チャンによると堂々としてて、ホンモノみたい、だって」

久美子「それは良かったわ。とりあえず、怪しまれてはいないと思う。ピアノで作曲してるのかしら、譜面もすんなり入って演奏できたと思うわ」

椿「新曲はどんな曲だったんですか?」

あきら「誰かをイメージしてるみたいだけど」

久美子「3曲あったわね。1曲目は西川保奈美さんに櫻井のお嬢様を加えた壮大な感じ。2曲目は冬のイメージ、アナスタシアさんと聖ちゃんのイメージも入ってるかしら」

あきら「主役はもう出てますよね。もう1曲は?」

久美子「颯ちゃんと棟方愛海さんのイメージって言ってたわ。明るくポップだけど、何か引っかかる感じ」

あきら「颯チャン、ばれてる?」

久美子「怪しまれてはいないと思う。さすがに私を見た時は落ち着きなかったけど」

椿「アンノウンプロデューサーは仕事も早いですし、気前もいいですね」

久美子「そうね。でも、早すぎるような」

あきら「りあむサン、どう思いますか?」

りあむ「早すぎる!そもそもアンノウンプロデューサーって1人なの?いっぱいいたりしない?」

あきら「ありがと。なるほど」

久美子「いっぱいいるか。確かにそうかもね」

あきら「1人じゃないのか。音楽家の集まりがアンノウンを名乗ってるのかも」

椿「久美子さんはどうしてそう思われたのですか?」

久美子「スピーカーから聞こえる声、芝居がかってるのよね。私の印象だけど」

あきら「芝居、役者さんなのかな」

椿「役者さんだけでは新曲は用意できませんものね」

久美子「スピーカーは話しているだけ」

あきら「それもアンノウンの1人なのか」

椿「ただ雇われているだけなのかは判断できませんね」

久美子「ええ。普通に考えたら、3人のうち誰かだと思うわ」

椿「3人とは?」
50 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:57:04.95 ID:LpKpQWny0
久美子「監督の兵藤レナ、演出家のヘレン、それとプロモーターの八神マキノ。誰かの隠れた顔がアンノウンプロデューサーだと思うの」

あきら「スピーカーの声は正体を隠すための演出」

久美子「楽譜を持って来たのは兵藤さんだったし。まっ、何も確証はないけど」

千夜「松山さん、お嫌いなものはありますか。味噌汁の具材を決めようかと」

久美子「ないわ。納豆は味噌汁に入れないで欲しいくらい」

千夜「ネギと油揚げにします。それともう1つ、気になることがありまして」

久美子「気になること?」

千夜「凪さん経由で颯さんに聞いたのですが、オーディションについてです」

あきら「言ってたかも。結果はどうなるか皆同じ考え、とか」

久美子「そうね、趣旨は私も聞いてるわ。今日、発声練習も一緒にやって実力もわかったわ」

千夜「松山さんから見て、いかがでしょうか」

久美子「格別な歌の才能があるのは2人。1人は西川保奈美ちゃん、間違いなく主役に選ばれるでしょうね」

椿「ネットでの評判通りですね」

久美子「私が知ってる限りだと、音葉ちゃんぐらいしか才能で争える人はいないわね」

あきら「もう1人は」

久美子「聖ちゃん。病気で入院してなければ、もっと早く世に出れたわね。時子ちゃんが残念がるのもよーくわかったわ」

あきら「もう1人の主役候補はどうなんデスか?」

久美子「アナスタシアさんもちゃんと基礎は出来てて上手よ。相手が悪かった、でいいんじゃないかしら」

千夜「ありがとうございます。そうなると、何故こんなことをやっているかが気になります」

あきら「確かに」

千夜「夕食の準備に戻ります。お前、後10分と言ったところですよ」

りあむ「10分!それなら終わる!魚の匂いで集中力乱されてきたけど!」

椿「何のためにやっているのか、が疑問みたいです」

久美子「西川保奈美さんは才能も練習量も格上、アナスタシアさんはまだまだ発展途上、私でもわかるくらいだからわかってないはずないわよね」

椿「実は、コーラスの方を選抜するのが目的とか」

久美子「選抜するだけなら聖ちゃんも見つけられたし、それでいいと思うのよね」

あきら「あの場を作る意味……何だろ」

椿「棟方愛海さんの印象はどうですか?」

久美子「棟方愛海さんはなんか猫かぶりな気がするけど、こっちもレッスンはきっちり受けてるみたい。動き方とか立ち方のクオリティが高い気がするから、歌手というよりタレントさんって感じ」

あきら「もう1人のお嬢様の方は?」

久美子「櫻井桃華さんはコネとか聞いてたけど、やっぱり桁違いのお嬢様は違うわね。歌も上手だしピアノも弾けるそうよ」

椿「選ばれるのに値する理由はありそうですね」

あきら「颯チャン、大丈夫デスか?」

久美子「私も心配だったけど、歌も踊りも想像以上だし何よりカワイイわ。そりゃあ、他の人と比べたら実力はないけど、見守られてる感じね」

椿「それなら安心ですね。楽しんでもらいたいのも本心ですから」

久美子「そう言い忘れてた。明日からはお役御免だから」

あきら「そうなんデスか?」
51 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:58:03.73 ID:LpKpQWny0
久美子「今日は準備できなかったけど基本は音源を流すそうよ。ピアノが必要な簡単なものは櫻井桃華さんにやってもらうみたい。それに、今日も私が指導したわけじゃないから」

椿「潜入捜査はおしまいですか」

久美子「ええ、正直1日で十分だわ。颯ちゃんと違って、身分も偽ってるし」

あきら「ありがとうございます。状況、だいぶわかってきた」

椿「わかってきて、不思議に思うところも増えてきました」

あきら「うん。もう少し調べてみる」

久美子「お役に立てたようで何より。相談くらいはしてね。時子ちゃんみたいなオーダーは困るけど」

あきら「わかった。ありがとう、久美子サン」

りあむ「課題終わった!ほめろ!」

椿「りあむさんは偉いですね。よしよし」

りあむ「あんまり感情こもってないけど許す!片耳で聞いてたけど、やっぱ目的が気になるな!もう少し調べよう!」

あきら「りあむサンに賛成」

久美子「そうだ、私からは提案だけど」

りあむ「なに?提案?聞くよ!時子サマの同期生の話は絶対に聞けと家訓にしてるからね!」

久美子「聖ちゃんに直接話を聞いてみて。あの子だから気づいてること、ありそうなの」

あきら「フムン、耳もいいらしいから聞いてみよう。りあむサン、手配できる?」

りあむ「わかった!付属病院に来てもらって、そこで会えるようにしておく!」

あきら「ありがと。理解が早くて助かる」

りあむ「よし、話はここまでだ!白雪ちゃん、ごはん!久美子サマがお待ちだよ!」

千夜「口だけでなく手も動かせ、お前は。皆様、夕食にしましょう」
52 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:58:45.93 ID:LpKpQWny0
29

とある10月の水曜日

昼休み

S大学付属高校・空き教室

あかり「千夜さん、今日はお弁当を作ってきたんですか?」

千夜「はい。お嬢さまに時々早起きしなさい、と言われてしまったので」

あかり「ちとせさんは心配症です。自分は夜の生活なのに」

千夜「どうしたら心配されないでしょうか」

あかり「あはっ、それはムリです。千夜さんが可愛すぎるのが悪いので」

千夜「はて、どういう意味でしょうか」

あきら「あかりはまた変な言葉覚えて……あっ、りあむサンから連絡あった」

千夜「何と言っていましたか」

あきら「聖チャンと会う時間作ったって。夕方、聖チャンが文化会館に行く前」

あかり「私にも連絡来てました。付属病院のお部屋を借りたみたいです」

あきら「時間は放課後すぐに行けば間に合うかな」

千夜「はい」

あかり「でも、病院だから少ない人数にしましょう」

千夜「ええ」

あきら「りあむサンは確定かな。凪チャンはちょっと遠いからナシ」

あかり「若葉お姉さんはまだ帰ってきてないんご。椿さんは?」

千夜「今日は大学の授業とゼミのようです」

あかり「2人なら許されますよね?この中から誰か1人行くのでいいですか?」

千夜「異論はありません」

あきら「あかり、今日は手伝い?」

あかり「今日はないです。千夜さんはどうですか?」

千夜「お嬢さまのところに行く予定でしたが、断られてしまいました。今日も部室に行こうかと思っていたところです」

あきら「予定、珍しい。なんだろ?」

あかり「あきらちゃんは?」

あきら「バイトもないから自分でもいい」

あかり「それなら、じゃんけんで決めましょう」

千夜「異議はありません」
53 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 19:59:17.92 ID:LpKpQWny0
あきら「勝った人で」

あかり「はい。じゃーんけん、ぽんっ」

あきら「勝ったのは」

千夜「辻野さんです。よろしくお願いします」

あかり「わかりましたっ、行ってきます。清良さんっていう優しい看護師さんに会ってくるんご」

千夜「私は部室で待っています」

あきら「自分も。りあむサンのこと、よろしく」

あかり「はいっ。そうだ、お昼休みが終わる前に言っておくことがあったんですっ」

あきら「言っておくこと?」

あかり「昨日ネットサーフィンをしてたらサーフィンの画像を見つけました」

あきら「ただの語源だから、それ」

千夜「サーフィンの画像がどうかしたのですか?」

あかり「この写真ですっ」

あきら「表彰式の写真かな」

千夜「沢田麻理菜さん。アナスタシアさんのマネージャーの方ですか」

あかり「そうですっ。検索してみたら、見つけたんご」

あきら「去年の写真なんだ、小さい大会みたい」

あかり「あきらちゃんみたいに見つけられて嬉しんご」

千夜「ええ。何かわかったことはありますか?」

あかり「特にないんご!」

あきら「ないんだ」

あかり「趣味はサーフィン、長野県出身、マネージャー歴は2年くらいみたいです」

千夜「最後の情報はどこから」

あかり「沢田さんのブログです。簡単に見つけられたんですけど、そのくらいからお仕事のことを乗せる頻度が減ってます」

あきら「なるほど、趣味優先でフリーターをしてたんだ」

千夜「芸能界の仕事なのでブログは控えるようにしたのでしょう」

あかり「サーフィンに行きました!みたいな記事も減ってます。私がわかったのはそのくらいです」

あきら「あかりは特にないって言ったけど、たくさんわかったよ」

千夜「ええ。怪しい人物とは思えません」

あきら「うん。颯チャンも久美子サンも印象は裏表なさそうだったし」

あかり「褒められてる?照れるんご〜」

あきら「その調子で聖チャンに話を聞いてきて」

千夜「期待しています」

あかり「はいっ。あかりんご、がんばるんご♪」
54 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:00:30.12 ID:LpKpQWny0
30

夕方

S大学付属病院・空き診察室

S大学付属病院
医学部付属の病院、医学部の学生が実習を行う場所でもある。空いている診察室が用意された。

あかり「おー、ここがりあむさんが実習してるところなんですね」

りあむ「違うよ?りあむちゃんの今期の実習は整形外科だよ。しかも、附属病院じゃないし」

あかり「そうなんですか?」

りあむ「大学病院は大学病院の役割があるんだよ。学年が上がったらここでの実習もある、はず?」

聖「こんにちは……」

あかり「聖ちゃん、こんにちはっ」

りあむ「待ってたよ!座って座って!」

聖「はい……」

あかり「リンゴジュースを持って来たんご。どうぞ」

聖「ありがとうございます、いただきます……うん、美味しい」

りあむ「体調は大丈夫なの?」

聖「はい……元気で健康そのものだって先生は言ってました」

りあむ「ぼくにもそう見える。もしあるとしたら、医者が見えないところかな」

聖「それは大丈夫……歌があるから」

あかり「歌、ですか」

聖「私とつながっているところは……音楽が現象を起こすから……」

あかり「音が聞こえるだけじゃない、ってことかな?」

りあむ「ぼくらの常識じゃ理解できないよ。たぶん。本題に入ろう!」

あかり「そうですね、聖ちゃんの時間もないですし」

りあむ「聖ちゃん、質問していい?いいよな?」

聖「どうぞ……」

りあむ「じゃあ、あかりんごから」

あかり「えっ……まぁ、いいんご。聖ちゃん、オーディションを受かるのはどっちだと思いますか?」

りあむ「あかりんご、いきなり聞きにくいところから行くんだ」
55 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:01:08.60 ID:LpKpQWny0
聖「それは……」

あかり「正直に言っていいんご。颯ちゃんからは聞いてます」

聖「最初に声を聞いた時に気づきました……保奈美さんが選ばれると思う」

あかり「颯ちゃん、久美子さんと同じ答えです」

りあむ「やっぱり出来レースなのか?芸能界の裏側はやっぱり真黒なのか」

聖「ううん……とっても緊張してるから違うと思う」

りあむ「緊張?誰が?」

聖「保奈美さん……本当はもっと上手に歌えるはずなのに」

あかり「緊張してるということは、結果はわからないということですねっ」

聖「それと保奈美さんのマネージャーさんも……本人より緊張してるかも」

りあむ「自分の力なら努力でなんとかできるもんな。自分の力が及ばないところは震えるよ、わかるぞ」

あかり「他の人はどうですか?」

聖「楽しそうかな……緊張はしてないと思う……」

りあむ「何かアヤシイ感じの人いる?変な力ありそうとか。人じゃないとか」

聖「いないと思う……颯ちゃんみたいな感じは誰からもしない……」

あかり「怪しい行動を見たりしました?」

聖「ううん……」

りあむ「ぼくは聖ちゃんを信じてる。聖ちゃんは、アンノウンプロデューサーはあそこにいると思う?」

聖「……いる。絶対にあの場所で聴いてる。だから、歌います」

あかり「スピーカーの声はどう思いますか?」

聖「俳優さんかな……セリフみたいに感じる時がある……」

りあむ「やっぱり、スピーカーで喋ってる人はアンノウンプロデューサーじゃないんだ」

聖「でも……わからない」

あかり「誰がアンノウンプロデューサーか、ですね」

聖「みんな違う気がする……何人かあわせてアンノウンプロデューサーかも……」

りあむ「うーん、その可能性もあるのか。オーディション参加者以外がアンノウンプロデューサーを構成する一員!」

あかり「そういえば、アンノウンプロデューサーの経歴をちゃんと調べてなかったんご」

りあむ「それ難しいんだよ。ネットであんまり情報ないし。発表した音楽と寸評以外は無」

あかり「別の方法も考えないと、ですね」

りあむ「うん。新進気鋭の天才音楽家だけど覆面作家が過ぎる!情報秘匿し過ぎだよ!」

あかり「何か隠さないといけない事情があるんでしょうか?」

りあむ「わからん。カッコイイからとか?違うな!」

聖「あの……」
56 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:02:09.57 ID:LpKpQWny0
あかり「聖ちゃん、何か気づいたことがありますか?」

聖「りあむさんが言ったこと……気になって」

あかり「りあむさんはベラベラと喋ったからわからないんご」

りあむ「オタク特有の早口をバカにしたな!その通りだけど!」

聖「天才音楽家のところ……違うかも」

りあむ「え?そこが違うの?新曲で大喜びだったんじゃないの?」

聖「とっても良い歌……みんなのイメージが音に乗って……みんな嬉しかった」

あかり「でも、天才音楽家じゃないんですか?」

聖「何かが足らない気がします……それが何かわからないけど……」

りあむ「足らない?世間とかネットの評判とあってない、ってこと?」

聖「旋律だけで心を震わせるような音楽家じゃない……でも、音楽と人が大好きな、愛情がある良い音楽家だと思う……」

あかり「音楽のことはわからないんご。りあむさんは?」

りあむ「ぼくもわかんないよ!でも、聖ちゃんの言いたいことはわかった!聖ちゃんの感性と世間の評判の違い、それが気になる!」

聖「そう……りあむさん、わかってくれてありがとう」

りあむ「うわぁ、こんな神聖な感じの美少女に感謝の言葉をもらった。りあむちゃんは闇属性だから消えてなくなりそう」

あかり「りあむさん意外と闇じゃないのに。聖ちゃん、時間は大丈夫ですか?」

聖「はい……でも、遅れないように行きます」

あかり「歌、いっぱい楽しく歌うんご」

聖「リンゴジュース美味しかった……行ってきます」

あかり「どういたしまして。がんばってくださいっ」

りあむ「誰かがアンノウンプロデューサーなら嘘をついてる、けど、みんな楽しそう、うーん?わからん。聖ちゃんの言うことは信じるけど、どう調べるんだ?」

あかり「りあむさん、まずは部室に帰りましょう」

りあむ「あー、今日は家に帰る。教会でちとせと会うから、家の方が近いし」

あかり「そうなんですか?千夜さんがちとせさんに会おうとして断られて寂しがってました。りあむさんのせいです」

りあむ「えっ、そうなの?白雪ちゃんも早く言ってくれれば……いや、ちとせが断ったのか。なら、ちとせの考えだな。うん、今日はぼくが会いに行くよ」

あかり「……」

りあむ「あかりんごが無言でも考えてることがわかるようになってきたな。言わなくていい。今日の白雪ちゃんはあかりんごに任せた」

あかり「はい。聖ちゃんに聞いたことも伝えておきます」

りあむ「うん。アンノウンプロデューサーのことももっと調べてくれると嬉しい」

あかり「はい。それじゃあ、私は部室に向かいます。明日は実習ですよね、お弁当持ってくるのでがんばってください!」

りあむ「あかりんご、ありがとう、こんなりあむちゃんに優しすぎるよ!」

あかり「代わりに、柳清良さんに会いたいです。挨拶するから案内してください」

りあむ「なに?あかりんごは綺麗なお姉さんが好きなの?案内するけど仕事中だから邪魔にならないくらいでよろしく」
57 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:03:02.27 ID:LpKpQWny0
31



M市民文化会館・正面玄関前

凪「凪です。妹のはーちゃんを迎えに来ました。そこで、関係者に会いました。こんにちは」

篠原礼「あら、あなたは……」

篠原礼
桃華のお付き兼運転手。桃華は特に手もかからず、平日昼間も時間が出来るので良い仕事らしい。趣味の社交ダンスも上達したとか。

凪「久川凪です。はじめまして、いや以前お会いしているので2度めまして」

礼「久川颯さんのお姉さんの」

凪「はい。凪は双子の姉をしています。今日は迎えにきました」

礼「お疲れ様。桃華お嬢さまが何かご迷惑をかけていないかしら?」

凪「いいえ。はーちゃんは褒めていました。お嬢さま然とした特別さ高貴さがありつつも、決して傲慢でなく親しみやすい、と」

礼「そこまで言ってたの?」

凪「申しわけありません、凪が大げさに言い直しました。はーちゃんらしく素直にそんなニュアンスを聞かせてくれました」

礼「そう。仲良くしてもらえるとありがたいわ。泰然としているけれど、桃華お嬢さまもまだ小学生だから」

凪「はーちゃんに言っておきます」

礼「終わりの時間だから、お嬢さまを迎えに行くわ。あなたも一緒に入るかしら」

凪「その手があったか。いえ、凪は慎む時。遠慮します。はーちゃんをここで待ちます」

礼「わかったわ。また会いましょう」

凪「……はーちゃんを信じる。いつも一緒にいなくてもいい。凪とは待つ風模様なので」
58 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:03:39.86 ID:LpKpQWny0
32

出渕教会・1階・礼拝堂

出渕教会
シスタークラリスが所有する教会。周辺住人から様々な差し入れが届くらしい。

黒埼ちとせ「こんばんは。待ってたよ、りあむ」

黒埼ちとせ
吸血鬼。昔からあらゆる人々を魅了する歌声の持ち主です、とのこと。

りあむ「こんばんは、ちとせ。レポートが思ったより終わらなかった!謝る!ん?待ってたってことは早起きした?」

ちとせ「そうかも。陽が落ちるのが早くなってきたから」

りあむ「ふーん。ご飯買ってきた。白雪ちゃんの手料理じゃないけど許せ」

ちとせ「もちろん」

りあむ「あ、他の人は?ぼくとちとせの分しかないや。忘れてた!」

ちとせ「シスターと美由紀ちゃんはお出かけ。誰かと会うみたい」

りあむ「誰か?わざわざ出向くなら偉い人か?」

ちとせ「さぁ?死神さんはお仕事、裕美ちゃんはパトロール、退魔師さんは会合。天使さんは、今日は来てない」

りあむ「退魔師の会合が気になるな。気にしても仕方ないか。ちとせ、ご飯食べよう」

ちとせ「ええ。地下へどうぞ」
59 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:04:53.84 ID:LpKpQWny0
33

出渕教会・地下1階

ちとせ「ごちそうさま」

りあむ「もう食べないの?このサンドイッチ好きじゃなかった?」

ちとせ「とっても美味しいからそれは違う。りあむが買いすぎ」

りあむ「そっか。みんなよく食べるから勘違いした!ぼくも最近よくお腹すくし!」

ちとせ「千夜ちゃんとか?」

りあむ「白雪ちゃんとか若葉お姉さんも良く食べるけど、そっちじゃなくて学校の方」

ちとせ「あはっ、りあむもがんばってるんだ♪」

りあむ「がんばってるよ!自分で言うのも難だけど!ぼくとしてはものすごく!」

ちとせ「きっとみんなわかってるよ。りあむ、大学はどう?」

りあむ「大変だよ!なんで、ぼくは看護学科なんて選んだんだろう!?ぜんぜん上手くできてる自信がない!」

ちとせ「そうなの?」

りあむ「こんなりあむちゃんがいきなりコミュニケーションできるわけないし……1人だけやたら話しかけてくるおばあちゃんがいるくらい」

ちとせ「へー」

りあむ「転んで足の骨が折れちゃったけど、入院してるとは思えないくらい元気なんだよ!実習初日からりあむちゃんにも笑って話しかけてくるし!さっさと骨つなげて退院しろ!」

ちとせ「良かったね」

りあむ「どこが!?様子を聞いてただけなのにうるさいって、ぼく含めて怒られたのに!」

ちとせ「私も大学生活しちゃおうかな」

りあむ「若葉お姉さんがやれるくらいだから夜間ならできる。ていうか、本当にそう思ってる?」

ちとせ「ばれちゃった。思ってない。変わる前から、私の未来も大学生活も考えてない」

りあむ「ちとせ、今なら考えられる?次のこと」

ちとせ「まだ、ぜーんぜん。シスターのお手伝いはしてるけど、ちゃんと考えないとね」

りあむ「ちとせの未来は長いからゆっくり考えるといいよ、自分のことはさ」

ちとせ「りあむ、千夜ちゃんの進学のこと何か聞いてる?」

りあむ「ちゃんとは聞いてない。黒埼の家が支援してくれるから、S大にそのまま上がるつもりみたい」

ちとせ「ねぇ、りあむ」

りあむ「ちとせ、また何かお願いごとしようとしてる?約束はちゃんと覚えてるよ。がんばってる、たぶん」
60 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:05:40.84 ID:LpKpQWny0
ちとせ「千夜ちゃんに進路相談してきて。たぶん、私に言った答えが返ってくるから」

りあむ「ちとせが言うならするけど、もう聞いてるのに?なんで?」

ちとせ「経済学部か文学部のどちらかにするみたいだけど決まってない、って私には言った」

りあむ「ぼくが聞くと答えが変わるの?」

ちとせ「変わらないと思う。でも、千夜ちゃんは1人で考えて1人で決めちゃうから。ちゃんと聞いてあげて」

りあむ「わかった。ぼくもそれはしない方がいいと思う。明日にでも聞いてみる」

ちとせ「ありがと」

関裕美「ただいま。りあむさん、来てたんだ」

関裕美
吸血鬼。クラリスと美由紀に讃美歌を教わったが、不思議な気持ちになったらしい。

りあむ「こんばんは!マイディアヴァンパイア着てないの?」

裕美「吸血鬼なことが私じゃないから。でも、これも魔法使いさん手作りなんだ」

りあむ「そういえば、ぼくも何故か作って貰ってる気がする」

裕美「最近忙しいからもう少し待ってろ☆、だって」

ちとせ「私のも遅れてるの。だから、1番楽しい時間が続いてる」

りあむ「裕美ちゃん、サンドイッチ食べる?買い過ぎた!」

裕美「いいの?」

りあむ「いいよ!そのかわり、ちとせとりあむちゃんの話相手になろう!」

裕美「わかった。『チアー』の話も聞きたいから。お茶を淹れるから、ちょっと待ってて」
61 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:06:38.90 ID:LpKpQWny0
34

出渕教会・地下1階

裕美「うーん……」

ちとせ「裕美ちゃん、眉間にしわが寄ってる」

裕美「いけないいけない。りあむさん、話してくれてありがとう」

りあむ「どういたしまして!正直、全然知りたいことはわかってない!」

ちとせ「だけれど、わかることがあるよね?」

裕美「『チアー』は人の力だから。こちら側の人は、その中にはいない」

ちとせ「壁を越えて変質した、私達みたいに」

りあむ「まだ『チアー』がいる可能性はある、ってこと?」

裕美「うん。『チアー』の力で能力が変わった人もいるかも」

ちとせ「私達が探している『チアー』は人の域を外れた変質も起こせるけど」

裕美「才能を伸ばす、っていうのかな。例えば、ちょっと力強くなるだけ」

ちとせ「颯ちゃんの出番はなさそうね」

りあむ「そうなると人か。『あちら側』の方がわかりやすくない?」

ちとせ「私もそう思うよ」

裕美「そうじゃないから、シスターも困ってる」

りあむ「んー、そういうことか」

ちとせ「りあむ、関係者のこと教えて」

りあむ「いいけど、何するの?吸血はダメだぞ?」

ちとせ「しないしない。そっちは、ちゃんとシスターが調達してくれてるから」

裕美「私も調べてみる。夜なら、違う顔が見えるかもしれないから」

りあむ「わかった。でも、なんか悪い予感がするから気をつけるんだぞ。あと、櫻井の大豪邸に忍び込むのは辞めた方がいい!」

裕美「私は忍者じゃないからそこまではしないよ。出来なくはないけど」

ちとせ「そうね♪颯ちゃんみたいに潜入調査とか」

りあむ「ちとせ、チャームの力が強くてもするなよ?ここぞというところで使ってこそ切り札なんだよ?」

ちとせ「わかってる」

りあむ「そろそろ寝る時間だ。明日も実習で早起きだから帰る。良い夜を!白雪ちゃんの進路相談はしておく!」

ちとせ「ありがと。おやすみなさい、りあむ」

裕美「りあむさん、送っていくね。もう夜も遅いから」
62 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:07:20.54 ID:LpKpQWny0
35

とある10月の木曜日

早朝

S大学・部室棟・SDs部室

あかり「おはようございまーす」

りあむ「あかりんご、おはよう!」

あかり「りあむさんは朝からうるさいんご」

りあむ「うるさい……やむ」

あかり「違いますよ、いい意味です!朝から元気なんて、りあむさんも変わったな、ということですよっ」

りあむ「わかったよ、そういうことにしておく。あかりんごも相変わらず朝は強いな」

あかり「最近、始業前に勉強してるんですよ。けっこう、良いんです」

りあむ「あかりんごはがんばり屋さんだ。いいぞ、りあむちゃんも泣けてくる」

あかり「泣いてないで白衣の天使のタマゴは笑うんご。りあむさん、今日のお弁当です」

りあむ「ありがとう!前の野菜たくさんで美味しかったよ!今日は?」

あかり「蕎麦とおにぎりです。炭水化物をたくさんとってしっかり働きましょう」

りあむ「もはや体育会系みたいなメニューだな!たしかにそういうところあるけど!」

あかり「カマボコ付きです。あっ、おつゆを渡すのを忘れてました。この水筒に入ってますから、どうぞ」

りあむ「あったかい。たまには温かいお弁当もいい!あかりんご、ありがとう!今日もやむやむしても乗り越えられそうだよ!」

あかり「私は教室に行きますね。りあむさん、がんばるんご」

りあむ「そうだ、あかりんご」

あかり「なんですか?」

りあむ「白雪ちゃん、今日部室に来る?」

あかり「わかりません。来て欲しいんですか?」

りあむ「うん!伝えといて!」

あかり「わかりました、お昼の時に伝えておきますっ」
63 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:08:06.68 ID:LpKpQWny0
36

夕方

M市民文化会館・正面玄関前

颯「今日も一緒に来なくていいのに」

凪「姉は心配するのがサガです」

愛海「颯ちゃん、おはよう!」

凪「むっ……おや、こんにちは」

愛海「颯ちゃんの妹さん、こんにちは。姉妹愛は美しいよ、またね!」

凪「またお会いしましょう。ばいばい。もう1人いらっしゃいました。こんにちは」

保奈美「こんにちは」

凪「おお、西川保奈美さんではありませんか。はーちゃんからウワサを聞いています。楽しみにしてます」

保奈美「ええ、がんばるわ」

凪「凪は大学の図書館に行きます」

保奈美「大学の図書館?」

颯「なーは頭がいいんだよ。まぁ、変なことに興味があるとも言うけど。超常現象とか」

凪「褒められました」

颯「褒めたかな?」

保奈美「私も褒めたと思うわ。良いお姉さんね」

凪「はい」

颯「そこは謙遜するところじゃない?」

保奈美「ふふっ、がんばってね。颯ちゃん、行きましょうか」

颯「うん。なー、迎えに来てね」

凪「もちろんです。それでは、また」
64 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:09:02.74 ID:LpKpQWny0
37

M市民文化会館・大ホール・舞台上

スピーカー『いいだろう。ヘレン、いかがかな?』

ヘレン「グッド。初週なら上出来でしょう」

スピーカー『ありがとう。休憩としよう。連絡があるから、15分後に集まってくれたまえ』

桃華「わかりましたわ」

アナスタシア「マリナ、ちょっと相談したいです」

麻理菜「わかったわ。飲み物準備するから、エントランスで待ってて」

愛海「保奈美さん、私とお茶しませんか?」

保奈美「え?」

愛海「ダメ?」

保奈美「もちろん、いいわよ。颯ちゃん達もどうかしら?」

颯「はーい。聖ちゃんは?」

聖「私も一緒に……」

颯「桃華ちゃんは?」

桃華「少し歌の自主練をしますわ。お気遣いなく」

愛海「それじゃあ、行こうか!うひひ……」

桃華「余計なお世話ですけれど、その方にはお気をつけなさって」

聖「わかってる……」

愛海「変なこともしないし、気にもしないよ」

桃華「ごゆるりと」
65 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:09:52.34 ID:LpKpQWny0
38

M市民文化会館・3階・会議室2

聖「美味しい……」

愛海「桃華ちゃんが差し入れてくれたお茶だもんね。美味しいよ、値段は聞きたくない」

聖「放課後に遊んでるみたいで楽しい……」

颯「なーが迎えにくるから、あんまり遊ばないなー。保奈美さんは?」

保奈美「そうね、芸能活動もしてるから、同世代の子と比べたら遊んでないかしら」

愛海「さすが保奈美さん、ストイック」

颯「愛海ちゃんも同じじゃないの?」

愛海「私はエキストラとか人数合わせとかバックダンサーとか多いから、色んな部活を掛け持ちしてるみたいだよ」

聖「それも楽しそう……」

愛海「あんまり売れてないってことだけどね。楽しいのは嘘じゃないよ」

颯「へー」

保奈美「私も愛海ちゃんを見習って、そういう仕事もしてみようかしら」

愛海「え!?もったいないよ!同じ立場とか畏れ多いよ!」

聖「うん……歌の仕事がいいと思う……」

保奈美「……あの、聞いていいかしら」

颯「うん」

保奈美「私、選ばれるかしら?」

聖「はい……とっても素敵な歌声だから、きっと」

愛海「もちろんだよ!胸を張ろう!」

颯「はーも同じだよ」

保奈美「ありがとう。自信にして、がんばるわ」

颯「……」
66 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:10:20.78 ID:LpKpQWny0
39

M市民文化会館・エントランスホール

颯「うーん……」

マキノ「どうしたの、ため息なんて。緊張で疲れたかしら」

颯「あ、八神さん。ううん、元気だよ」

マキノ「それなら、悩みごとかしら?」

颯「悩んでないのは、言い過ぎかも。悩みごとはたくさんあるなー」

マキノ「でも、今悩んでいるのは自分のことじゃなさそうね」

颯「わかっちゃうんだ。でも、考え過ぎな気がする」

マキノ「……誰もいないし、マイクがないことは確認済み」

颯「八神さん?」

マキノ「久川さん、知りたいことはあるかしら」

颯「……知りたい?」

マキノ「私はアンノウンプロデューサーの正体が知りたいの。あなたはどうかしら」

颯「……」

マキノ「なんとなくだけれど、あなたが1番知りたそうだったから」

颯「えっと、そうかな?」

マキノ「知りたいと思うのは普通のこと。あなたはアンノウンプロデューサーでないようだから、私に協力しない?」

颯「八神さんがアンノウンプロデューサーじゃないの?」

マキノ「その考えは1番無理がないわね。残念だけれど、違うわ。その証明もできるけれど」

颯「じゃあ、どうして知りたいの?」

マキノ「個人的な趣味が大きな理由ね」

颯「趣味なんだ……」
67 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:10:58.44 ID:LpKpQWny0
マキノ「もうひとつは仕事のため。悪く言えば弱みを握るためよ」

颯「本当に悪い人だ」

マキノ「良く言えば、アンノウンプロデューサーとの関係を特別なものとしたい。秘匿された人物のままで作品を出す協力者になりたい」

颯「そっちを先に言えばいいのに」

マキノ「建前では信頼されないもの。どうかしら?」

颯「わかった。協力する」

マキノ「ありがとう。あなたはどう思うかしら?」

颯「どう思うって、何を?」

マキノ「私は不可解なことが多いと思うわ。音楽だけじゃなくて、何か別の力が働いているような」

颯「……」

マキノ「ごめんなさい、芸能界の事情を話しても仕方がないわね。あなたは気になったことがあったら教えてちょうだい。お礼はするわ」

颯「うん、あんまり期待しないでね」

マキノ「ええ。だけど、ステージは期待させてもらうわね。休憩時間が終わるわ、行きましょう」
68 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:11:39.56 ID:LpKpQWny0
40

M市民文化会館・大ホール・舞台上

スピーカー『レナ、揃っているかな』

レナ「ええ。こちらは始められるわ」

スピーカー『よろしい。レナ、ヘレン、彼女達は次のステップに進んでもいいかな』

レナ「構わないわ」

ヘレン「見せてもらったわ。あなたが望むことができるでしょう」

レナ「私達としては歓迎よ。こちらの仕事を進めるために」

聖「次……?」

アナスタシア「なんでしょうか?」

スピーカー『次の月曜日、私から渡すものがある。このオーディションの勝者が歌う曲だ』

颯「曲、まだ新しいのがあるの?」

スピーカー『これまでのものは、ここに集まったことに対するお礼だ』

愛海「ずいぶんと太っ腹な考えだね」

スピーカー『朧気だった輪郭は私の中では形を得た。明日から実際に形にしていく』

保奈美「……」

スピーカー『もう1度言うが、勝者に与えられる曲だ』

桃華「わたくしはコーラスですから関係ありませんけれど、厳しいお言葉ですわね」

スピーカー『私にも都合があるからね。今はここまでだ』

颯「都合、ってなんだろう……?」

スピーカー『さて、今日の最後のレッスンをはじめよう。桃華、頼んだよ』

桃華「歌唱のレッスンですわね。ご指示をお願いしますわ」

スピーカー『明日は休暇でディナーを楽しむとしよう。最後までがんばってくれたまえ』
69 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:12:14.55 ID:LpKpQWny0
41

S大学・部室棟・SDs部室

凪「凪は認知されています」

千夜「そのように思えます」

りあむ「もしかして、中に入れるんじゃないの?おねだりしてみる?」

凪「それは辞めます。おや、はーちゃんから連絡です」

千夜「なんでしょうか」

凪「予定より早く終わったようです。凪は迎えに行きます」

千夜「かしこまりました」

凪「明日、はーちゃんを連れてきます。ディナーの後です、謎解きは」

千夜「わかりました。素朴な食事でもご用意してお待ちしております」

凪「それでは、さらば」

千夜「お気をつけて」

りあむ「ばいばーい!不審者には気をつけるんだぞ!ん?『捕食者』がいるから大丈夫か?」

千夜「……お前と2人きりか」

りあむ「そうだね、白雪ちゃん!嬉しい?」

千夜「まったく。私も帰ります」

りあむ「ああ、待った待った!ご飯の用意はしなくていいけど、聞きたいことがあるんだよ!」

千夜「私はありません」

りあむ「ぼくがあるんだよ!頼むよ!」

千夜「必死になる理由がわかりませんが、少し時間は取ります。手短に」

りあむ「白雪ちゃん、ありがとう!」

千夜「それで、何ですか」

りあむ「りあむちゃんが後輩に進路相談をしようと思う!白雪ちゃん、どうなの?」

千夜「お前は誰かに相談したのですか」

りあむ「うっ……りあむちゃんは、ほとんど1人で決めた」

千夜「そうですか。なら、私も自分で決めようかと」
70 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2022/10/23(日) 20:12:50.43 ID:LpKpQWny0
りあむ「だから、聞くんだよ。わりと後悔してるんだよ。結果的に何も変わらないかもしれないけど、聞いた方が良い。それが、りあむちゃんでも!」

千夜「……お前は今の進路を後悔してるのですか」

りあむ「そっちは後悔してない、と思い込めるようになってきたはず。うん。いまさら、色々言ってもしかたないし。時子サマにもそう言われた!」

千夜「……」

りあむ「白雪ちゃんはどう生きたい?」

千夜「お前は聞き方が壮大すぎます。S大学に内部進学します」

りあむ「学部はどうするの?」

千夜「文学部か経済学部にします」

りあむ「それはなんで?文学部なら椿さん、経済学部なら時子サマの後輩だけど」

千夜「それは……」

りあむ「……」

千夜「……きっと、時間が欲しいからです。お前の最初の聞き方だと、私は答えられません」

りあむ「ん?もしかして、どう生きたい、って聞いた?そんなの答えられるわけないよな、ぼくもわかんないし」

千夜「それなら、聞くな」

りあむ「でも、人生はそんなに長くない気がするし、えっと、うん、わかった。進路相談はこれで終わりにする」

千夜「その方が良いでしょう。今のところ、学校にもお嬢さまにもそう答えています。まだ、時間はあります。考える時間もありますから、過度の心配は不要です」

りあむ「過度じゃないなら、心配していいの?」

千夜「ご自由に。帰ります。また、明日」

りあむ「うん、また明日。おやすみ、白雪ちゃん」
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