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【シャニマス×ダンガンロンパ】シャイニーダンガンロンパv3 空を知らぬヒナたちよ【安価進行】Part.1
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1 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:12:50.14 ID:UjM5Y6Sh0
-------------------------------------------------
※注意
・本作は「ダンガンロンパ」シリーズのコロシアイをシャニマスのアイドルで行うSSです。
その特性上アイドルがアイドルを殺害する描写などが登場します。苦手な方はブラウザバックを推奨します。
・キャラ崩壊・自己解釈要素が含まれます。
・ダンガンロンパシリーズのネタバレを一部含みます。
・舞台はニューダンガンロンパv3の才囚学園となっております。マップ・校則も原則共有しております。
・越境会話の呼称などにミスが含まれる場合は指摘いただけると助かります。修正いたします。
※過去シリーズ
【シャニマス】灯織「それは違います!」【ダンガンロンパ】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1613563407/
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「その矛盾、撃ち抜きます!」【安価進行】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1616846296/
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1622871300/
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「これが私たちの答えです」【安価進行】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1633427478/
【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1637235296/
【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.2
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1642918605/
【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.3
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1649764817/
【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.4
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1655983861/
【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.5
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1669646236/
以上のほどよろしくお願いいたします。
-----------------------------------------------
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1685189569
2 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:16:11.99 ID:UjM5Y6Sh0
_____私はまだ、何者でもない。
3 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:17:23.69 ID:UjM5Y6Sh0
これから、何者かになって、階段を駆け上がって、光を浴びて、
そこでようやっと名前をもらう。
他の誰かに認識される。
他の誰かに記憶される。
アイデンティティとは、そうやって生み出されるものだ。
個人を決定づけるはずのものなのに、単独では完成し得ない矛盾を孕んだ要素こそがアイデンティティなのだ。
だから私は、必死に手を伸ばした。
この手の中に自分自身のアイデンティティがほしくて。
誰かにこの手を握ってほしくて。
でも、その手は宙で何も掴むこともなく、ただ真っ黒な闇にぶつかった。
闇は平坦で、反り立っていて……
私自身を飲み込んでいる。
「……え?」
______いつから、閉じ込められていた?
4 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:18:09.82 ID:UjM5Y6Sh0
私はそこでようやっと置かれている状況に気づいた。肌から伝わってくるひんやりとした感覚、息を吸うたびに喉にまとわりつく埃。
そして何より、手も足も曲げ伸ばしが自由にできないほどに窮屈であるということ。
「な、なんで……?!」
壁を壊そうと握り込んでハンマーのように何度もぶつける。
ゴンゴンと大きな音が響き渡り、そしてやがて……
バーン!
やっと、外に出た。
5 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:19:40.64 ID:UjM5Y6Sh0
「……痛た」
突然に解放されたことで、体重と勢いそのままに床に倒れ込んだ。
このお間抜け丸出しのちんちくりんが私。
下手すれば、そこらの街中で紛れ込んでしまいそうな凡庸な見た目だけど……
【アイドルである】という大きな個性がなんとかそれを食い止めてくれている……
そんな、ごくごく普通とはちょっとだけ違う女子高生。
七草にちか、16歳……アイドル。
こんにちは、私。
この滑稽で物哀しい物語の、お粗末な主人公さん。
6 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:20:58.52 ID:UjM5Y6Sh0
「なにこれ、監禁……?! 私なんか拉致ってもビタ一文出ないだろうに……」
落ち着きを徐々に取り戻した私は、打ち付けた肘をさすりながら立ち上がった。
自分が監禁されていたのは金属製のロッカー。
あまり使われていないのか埃が溜まっている様子。
幸い、中に雑巾付きの箒なんかはなかった。
ばっちいじゃなくて、薄汚い止まりだったことにわずかに感謝をしつつ、視線を周囲に移す。
……机が群生している。
机が生えてくる畑でもあればまさにこんな光景なんだろうなというぐらいに机が並んでいる。
それと向き合うようにして壁に取り付けられた黒板。その上には太陽のような顔してスピーカーが取り付けられている。
ああ、ここは教室なんだなと理解した。
自分の通っている学校よりはいささか設備が綺麗で、ちょっとばかしモヤモヤする。
でも、なんで教室に?
近くにあった椅子に腰掛けて、ロダンの考える人みたいな格好しながら、記憶を必死に呼び覚ました。
私がここに監禁される前の、確かな記憶……
7 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:21:59.94 ID:UjM5Y6Sh0
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
確か、バイト帰りじゃなかったっけ。
店でポップ作りに勤しんでて、知らず知らずのうちに随分と熱中。遅くまで残っていた。
ああ、明日はダンスレッスンだし早く帰らなきゃなとか、昨日のバラエティで芸人さんのいじり酷かったなとか、そんなことを考えながら、ぼーっと道を歩いていた。
うら若き乙女なんだし、多少警戒とかした方が良かったんだろうけど……安全に飼い慣らされていた私はそんなこともせず。
ただぼーっと、歩いていた。
そしたら突然後ろの方から急ブレーキの音が聞こえて、慌てて振り返ったら
「〜〜〜〜〜っ?!」
口に布を当てられて、あれよあれよと車に押し込まれて……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
8 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:23:36.12 ID:UjM5Y6Sh0
ああ、だめだ。結局なにも思い出せてないのと変わりない。
自分の記憶をいくら掘り起こしても出てくるのは使い物にならないものばかり。
私がここにいる理由、そしていつからここにくるのか。
その答えはいくら考えても出てきそうになさそうだ。
「はぁ……」
自分の無力さを噛み締め、あまりの使い物にならなさを嘆いていてため息をついた。
その時だった。
ガタガタッ
「……え?」
私が入っていたのとはまた別のロッカーが揺れ始めたのだ。
強風に煽られているように右に左に大きな音を立てながら。中に入っている住人はよっぽどの大暴れをしているらしい。
「や、やば……」
鬼が出るか蛇が出るか。なにが出てくるのか皆目見当もつかないロッカーに思わず後退り。
そんな私の恐怖はつい知らず、ロッカーのガタガタは扉のドンドンへと変わっていき、目的のない乱暴は脱出を目指した手段へと変わっていき、
やがてその扉は開かれた。
9 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:25:10.03 ID:UjM5Y6Sh0
ダンッ!
ロッカーから吐き出されたその人物には見覚えがあった。
まんまるな頭に黒い髪、その中にはアクセントとして黄色いラインが走っている。
忘れたくても忘れられず、いつからか悪夢のように付き纏うようになって、視界にこびりついていた彼女。
「一体どうなってんだよ……痛た……」
【斑鳩ルカ】、美琴さんの元相方さんだ。
「……あ?」
痛みに悶えるのも束の間。顔を上げてすぐ、私の存在を認める女その表情を一変させた。
困惑に狼狽えていた口元はへの字に固く閉ざされ、扉を開けるための拳はより強くその指先を内側へと巻き込んだ。
そして吐き出される言葉はもちろん。
「オマエ……なんでこんなところにいやがる……!」
こんなところも何も、ここが何処だか知りたいんだけど。
10 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:26:33.33 ID:UjM5Y6Sh0
◆
ルカ「オマエか、オマエがやったのか……?!」
にちか「は、はぁ……?! 常識で考えてくださいよ、そんなわけないじゃないですか!」
ルカ「じゃあ事務所で、事務所単位で嵌めたのか?!」
にちか「いやいや……ちょっと落ち着いてください。私も斑鳩さんと同じで……今目を覚ましたところなんですよ」
ルカ「あ……? じゃ、オマエも私と同じで拉致されてたってのか?」
にちか「普通考えたらそうでしょ……なんで同じ事務所のアイドルを拉致するんですか」
ルカ「……」
にちか「ほら、とりあえず深呼吸でもします? 異常事態でパニックになるのはわかりますけど……」
斑鳩さんは私の呼びかけに背を向けると、急に調査を始めた。
机を動かしてみたり、中を漁ってみたり……何か目的があるというよりは、私の言葉に耳を貸すのが嫌で、仕方なくといったところなのだろう。
随分と嫌われてしまっている。
11 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:28:01.83 ID:UjM5Y6Sh0
ルカ「……ん、なんだこれ」
すると、机の棚に手を突っ込んだ斑鳩さんが何かを引っ張り出す。
ハガキ代ほどの大きさの紙にはデカデカと何か書かれているのが距離をとっていても確認できる。
近くに駆け寄り、肩の向こうから覗き見る。
にちか「『入学式のおしらせ』……?」
学校からの案内というにはあまりにもお粗末すぎる。
パンフレットというよりは子供の落書き。クレヨンで殴り書きしたかのような書体に、会場までの案内図は線がガタガタ。
かろうじてその会場が体育館であることだけが読み取れる程度の情報量。
あまりにも適当すぎる代物に、違和感を通り越して呆れすら覚えた。
ルカ「……!? 勝手に見てんじゃねえよッ!」
私が覗き見ていたことに気づいた斑鳩さんは、自分に宛てられたラブレターでもないのに、大袈裟なモーションと共にそれを隠した。
12 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:29:36.33 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「や、別に良くないです? 私だって今の状況知りたいんですよ」
ルカ「……」
にちか「ちょっと〜……」
こっちの言葉は聞く気なし。どこまでも非協力的な姿勢を貫きたいらしい。
普段なら、別に見逃していた。自分だって、この人の存在をできる限り視界に入れたくはないし、仕事をする上での厄介者同士だと思っている。
でも、今は状況が状況だ。
全てが未知と不可解で囲われた中で、唯一この人の存在が既知の存在。地獄に垂らされた蜘蛛の糸のようなものと言ってもいい。
ここで決別なんかしたところで、お互いにメリットなんてないのは分かりきっているだろうに。
にちか「……あの、よく思われてないのは知ってるので。態度をどうとか言う気はないですけど、今の状況、協力しないとやばくないですか?」
ルカ「……」
にちか「ここが何処なにかも、いつから監禁されてるのかも、何の目的でこんなことになってるのかも何一つわからない。状況を一人で打開するの、めちゃくちゃきついと思いますけど」
斑鳩さんはそれでも顔をそっぽ向けたまま。
反抗期の子を持つ親とはこういう気持ちなのだろう。
いくら正論で説き伏せようとも、屈する気が微塵もないのでは甲斐がない。対話に応じない時点で暖簾に腕押しというやつだ。
13 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:30:50.36 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「……はぁ、もう」
それならもういっそ、無理矢理にでもこっちを向けてやるしかない。
幸い、そういう経験は事務所で何回も積んでいる。デスクワークにお熱なあの人に、世話を焼かせるたびに何でもやった常套手段。
ここでやらなきゃ、何処でやる……?!
にちか「むきむきにちか〜!」
ルカ「……」
斑鳩さんは確かにこっちを向いた。
注意関心を引くという一点に於いては作戦は見事成功。
その他のマイナス要素に目を瞑れば。
ルカ「オマエ、それ面白いと思ってやってるの?」
にちか「そ、そういうんじゃないんで……」
ルカ「……」
冬場の廊下みたいな冷ややかな視線で私を窘めると、斑鳩さんは分かりやすく大きなため息をついた。
侮蔑、落胆……いろんなものが透けて見えた。どうやら私はいろんなものをこの一瞬に失ってしまったらしい。
ルカ「……こいつじゃなきゃなぁ」
ぼそっと悪態をつきながらこちらに向き直る。
こっちだって願い下げだ。でも、こんな相方でも背に腹は変えられないのが今の状況だ。
14 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:32:05.79 ID:UjM5Y6Sh0
ルカ「……とりあえず、ここから出るぞ。ここが学校にせよ、何にせよ。全貌を掴まないことには何もできないからね」
にちか「そうですね……さっきの紙に従うなら体育館に行ったほうがよさそうですけど」
ルカ「はぁ? ンなもん、罠に決まってんだろ」
にちか「……でも、こんなよくわかんない監禁をしてきた相手ですよ。下手に歯向かうと何されるか分からなくないです?」
ルカ「……チッ、じゃ、とりあえずは体育館目指すか」
斑鳩さんは私の誘導に一応納得してくれた様子。こちらに目を貸そうとはしないが、行動は共にしてくれるらしい。
斑鳩さんが先行して教室の扉を開け、廊下に出る。
_____その瞬間。
『グヘヘへへ! ミーが体育館まで直接案内してやるぜ!』
15 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:33:17.41 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「な、なにこれ……?!」
ルカ「メ、メカ……?!」
私たちの体躯の数倍はありそうな青の機体に、ガトリングやら破砕機並みのアームやらが取り付けられたロボットが、待ち構えていた。
ルカ「や、やばい……逃げるぞ!」
にちか「えっ、ちょっ……先行かないでくださいよ!」
私たちは思考するよりも先に足が動き出していた。とにかくこいつから逃げなくちゃ、そのことで思考がいっぱいになる。
私たちの靴音に裏拍を合わせるようにして地響きが鳴る。後ろを振り返れば、案の定さっきの機械の猛追。
立ち止まっている時間はない、とにかく急がないと……!
ルカ「おい! こっちだ!」
にちか「は、はい……!」
一心不乱にただ生き残ることだけを考えて走った。
16 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:34:28.37 ID:UjM5Y6Sh0
『あら? こっちに逃げてきちゃダメよ〜?』
ルカ「マジか……くそ、一体だけじゃねーのかよ!」
にちか「斑鳩さん、道変えましょう! 道!」
途中敵の増援が現れ、逃げ惑う場面もあったけれど、なんとか命からがらその場所へと辿り着く。
スチール製のスライドドア。上下左右にどっしりと広く壁を構えた、ドーム式の形状。
幼少期よりよくよく見慣れたその造形で、一眼にこれが体育館であると理解する。
ルカ「はぁ……はぁ……クソ、ひとまずここに退避するぞ」
にちか「は、はい……早いとこ隠れましょう!」
流石に今回ばかりは仇敵に向けるはずの敵対心も忘れ、二人でいっせーのーでで息を合わせて扉を動かした。
重厚な音を立てながら扉は開き、その中へと私たち二人を誘った。
誘われた先で、待ち受けていたのは……
17 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:36:22.89 ID:UjM5Y6Sh0
------------------------------------------------
【体育館】
「あれ? にちかちゃん、にちかちゃんだ! おーい! 大丈夫? 怪我はない!」
私の名前を呼び、大きく両手を振る少女。
仰々しい天井の光に照らされ、いつも以上にその金髪のツインテールが輝く笑顔には見覚えがあった。
にちか「あ、あれ……?! 八宮さん……?!」
同じ事務所に所属しているアイドルの、【八宮めぐる】その人だった。
ただ、私たちを待っていたのは彼女だけではなかった。
「……!」
「ほわっ……灯織ちゃん、どうしたの……?」
「う、うん……その、前に話した……」
ルカ「……おい、どういうことだよコイツは」
私の所属している事務所のアイドルたち、全26名のうち……私とルカさんを含めた16名がこの場に集まっていたのである。
その全員が口をまごつかせ、不安そうな表現を浮かべている。
おそらく全員が全員状況は同じ。ここに呼ばれた理由も、ここがどこなのかも分かってはいないのだろう。
18 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:38:39.50 ID:UjM5Y6Sh0
夏葉「二人とも、早くこちらへ。あの機械たちはどうやらこの体育館の中には入ってこないようだから」
樹里「にちかとルカさんを入れて……これで16人か」
凛世「もうこれ以上……どなたも逃げてはこないのでしょうか……」
集められているメンバーはまちまちだ。
特に人選に明確な規則性は見当たらない。年齢もバラバラで、ユニットによっては全員が集まっていないところも見受けられる。
にちか「あ、あの……美琴さんを誰か見ませんでしたか?!」
そして、ユニットのメンバーが揃っていないのは私も同じことだ。
体育館を見渡してみても、あの頼り甲斐のある長身に、眉目秀麗な容姿を携えたパートナーの姿はない。
ロッカーに閉じ込められていたところから、体育館に逃げ込むまで。斑鳩さん以外の人間の姿は影も見ちゃいない。
救いを求めるように、みっともなく狼狽えた。
しかしながら、絶叫虚しく、芳しい返事は帰ってきはしなかった。
全員沈痛な表情を浮かべたまま、顔を伏せる。
19 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:39:51.11 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「……そんな」
夏葉「今は無事を祈るほかないわ……外に出ればあの機会が待ち受けている、今の私たちはここから出られないようだし」
にちか「で、でも……今こうしてる間にもあの機会に捕まってたりしたら……!」
思わず掴んだ両肘。
有栖川さんの両肘は震え、視線を落とせば指先が手のひらに食い込むほどに力が篭っていた。
夏葉「堪えてちょうだい。果穂と智代子の姿がなくて……私だって本当は探しに行きたいの」
夏葉「でもここで一人の判断で扉を開けて、万が一にでもあの機械がここに入ってくればそれこそ袋のネズミになってしまうわ」
にちか「……うぅ」
ルカ「……チッ」
有栖川さんだって、大切に思っていた年下たちの姿がない。
不安に思うのは当然だし、どうしようもないもどかしさを必死に抑えている。
誰しもが今、自分の中の衝動を殺すので精一杯なのだと理解した。
20 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:41:29.21 ID:UjM5Y6Sh0
甜花「千雪さん……大丈夫、なのかな……」
甘奈「ダメ……携帯も繋がらない……それに、そもそも圏外になっちゃってる……」
あさひ「……あれ?」
愛依「どしたん、あさひちゃん?」
あさひ「……何か聞こえるっす。地響き? いや、これは……」
あさひ「上からっす!」
芹沢さんが叫んでから数秒と経たず、それは舞い降りた。
【おはっくま〜〜〜〜〜!!!!!】
ガシンガシンガシン!!
いや、そんな柔らかな着地ではないか。
猛烈な重量に、硬い触感が床にぶつかって、振動が私たちの体にまで伝播。
内臓を内側から揺さぶられるのは言いようもなく不快な感じがした。
21 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:42:37.14 ID:UjM5Y6Sh0
『おう、全員集まっとるようやな!』
『集合時間が守れてみんなえらいなぁ。オイラなんか今朝24時間寝坊しちゃったよ』
『あら? 今朝は集合時間きっかりにきたじゃない』
『予定の日にちを一日間違えた上に、一日寝坊しちまってプラマイゼロってところか! 最高にロックだなッ!』
『……』
私たちの前に姿を表したのは、ついさっきまで校内で追い回してきたあの巨大なメカ。
しかもそれが5体も一度に現れ、立ち塞がったのである。
甜花「ひ、ひぃん……『勇者たちは逃げ出した…… しかし回り込まれてしまった』ってこと……?!」
恋鐘「ふぇ〜〜〜〜〜?! こ、こい体育館は安全じゃなかったと〜〜〜〜?!」
円香「全部筒抜けだったんでしょうね。あえてこの体育館に誘導していた……ここで一網打尽にするつもりでしょうか」
めぐる「そ、そんなことはさせない!」
甘奈「で、でもどうすればいいのかな……あんな、強そうなロボット……」
あさひ「武器も何もないっすね」
透「やば。休してるじゃん、万事」
樹里「クソッ、逃げ道もねーぞ……!」
動揺と不安の揺籠、天井と繋がっていた鎖は突然に切り落とされた。
漠然としていた恐怖が具現化し、再び私たちは生命の危機に瀕することとなったのだ。
22 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:44:19.20 ID:UjM5Y6Sh0
『ん? キサマらどうしたの? そんなに揃いも揃って雑誌の袋とじを開けるの失敗しちゃった時みたいな顔して』
『きっとみんな緊張しちゃってるのよ。多感な時期のシャイガールばかりなのよ』
『ミーの圧倒的なカリスマ性に腰を抜かしちまってんのさッ!』
『アホか! ワイらがエグイサルに乗ったままやから警戒しとるんや! 段取りのこともあるしさっさと降りるで!』
『……』
ただ、死の象徴はそれすら嘲笑う。
目の前に突きつけられた命の危機の囀ることしかできない私たちを馬鹿にするような問答をスピーカーで垂れ流したかと思うと、
素っ頓狂なSEに素っ頓狂な演出と共に、
______素っ頓狂なマスコットたちが姿を現した。
23 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:45:28.99 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「オイラの名前はモノタロウ! 赤色なんだ、赤ってすっごくすごいんだ」
モノファニー「アタイはモノファニー。モノクマーズの紅一点よ! ……あれ? アタイも赤?」
モノスケ「ワイはモノスケや。モノクマーズの頭脳であり司令塔。ワイがおらんと回らんことで有名やで」
モノキッド「ミーはモノキッド! キサマらに極上の地獄を提供してやるぜ!」
モノダム「モノダム……ダヨ。ミンナ、ヨロシク」
『5人揃ってモノクマーズ!』
あの巨大かつ殺意に満ちていたメカから降りてきたとは思えない、ずんぐりむっくり体型で間の抜けた5人組。
彼らは私たちの緊張と不安を他所に、間の抜けた言葉で混迷ばかりを引き起こす。
24 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:47:50.46 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「……は? いやいやいやいや……な、なにこれ……?」
並び立つ私たちは揃いも揃って口をぽかんと開けて唖然の表情。
現実がすぐには受け止めきれず、思わず頭を掻きむしった。
あさひ「すごい! 動くぬいぐるみだ〜!」
ルカ「なんの悪夢だコイツは……どうやって動いてんだこれ……」
モノスケ「ただのぬいぐるみやあらへんで。ワイらは最新鋭のありったけの技術をこれでもかと注ぎ込まれた新時代のニューウェーブやからな」
モノファニー「自分の力で考えて喋れるのよ。シンギュラリティを体現しているのよ」
甜花「すごい技術……デトロイトでも、こんなの中々ない……」
甘奈「この前お仕事で見させてもらったAIも凄かったけど……この子たちはちょっとレベルが違うよ……?!」
モノタロウ「えっへん! どうだ! すごいんだぞ!」
愛依「わ〜、でもなんか喋り方かわいいじゃん〜! 1個ぐらい持って帰りたいかも〜!」
モノスケ「あかん、あかんで。ワイらを家に招きたいんやったらそれ相応の用意が必要や」
モノスケ「まずユニットバスは絶対にNGや。そうじゃないとモノキッドが浴槽を汚して敵わんからな」
モノキッド「ヘルイェー! 浴槽だけで済むと思ったら大間違いだぜッ!」
モノスケ「それに加えて、子供部屋もとい自己研鑽部屋は必須やな。男にもプライバシーは必要なんや」
モノファニー「やあねぇ、こんなところで下ネタなんて。女の子を前にしてやることじゃないわ」
モノスケ「ハッ、女の子やから下ネタを言うんやろがい!」
モノタロウ「大変だ! モノスケの言動から加齢臭がひどいよ!」
25 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:50:45.27 ID:UjM5Y6Sh0
初めこそ動揺に慌てふためいていた私たちだったが、モノクマーズと名乗るぬいぐるみたちの問答を眺めているうちに徐々に冷静さを取り戻しつつあった。
いつまで経っても会話を前に進めようともせずに、無意味極まる時間が過ぎていくことに苛立ちすら覚えた頃、樋口さんがその口火を切った。
円香「……ちょっと、いい加減にしてくれる? 私たちが今置かれている状況、説明してくれるんじゃないの?」
モノファニー「そんな眉間に皺を寄せちゃダメよ。若いうちから皺を寄せていると、歳をとった時酷いんだから」
モノタロウ「えっ! ひどいってどうなるの!? 死んじゃうの?!」
モノファニー「そんなことないわ。でも他の人よりもシワクチャのボロ雑巾みたいになる確率が五割増しらしいわ」
モノタロウ「な〜んだ良かった! 死なないんだったらモーマンタイだね! オイラ、ガンガン皺寄せちゃうもんね!」
円香「だから、そういう意味もないやりとりをやめて」
モノファニー「もう、言われちゃってるわよ。そろそろいい加減にお話を進めましょう?」
霧子「ぬいぐるみさん……あなたたちが、私たちをここに連れてきたんですか……?」
モノキッド「おう、ミーたちがキサマらをこの血塗られたパーティに招待してやったんだぜッ!」
モノスケ「クックックッ、こっからオモロイオモロイパーティの始まりなんや」
にちか「……パーティ?」
ぬいぐるみの口からこぼれた、聞き馴染みのある言葉が妙に耳についた。
私のよく知る意味合いでその言葉が用いられていないのが明白だったから、
そしてその裏にある意味合いがおおよそ私たちのとって良いモノでないことも透けて見えていたからだろうか。
26 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:52:06.66 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「うん! ここにいる、顔も名前も知らない【初対面の人同士】でとびっきりエキサイティングなパーティをやっちゃうよ!」
灯織「……え?」
27 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:53:31.05 ID:UjM5Y6Sh0
モノダム「……」
円香「顔も名前も知らない……そんなことはないけど」
樹里「おい、どういう意味だ! アタシたちは283プロダクションの所属アイドル……全く初対面なんかじゃねーぞ!」
モノスケ「おい、モノタロウ……キサマ、やったんとちゃうやろな」
モノタロウ「え? アレアレ? 今回も、記憶操作の係ってモノファニーじゃなかった?」
モノファニー「もう、モノタロウがやりたいってアタイから係を奪い取ったんでしょ? あの時のジャンケンを忘れたとは言わせないわ!」
愛依「なんか……段取りをミスしちゃってる系?」
夏葉「……一体、何の話をしてるのかしら」
モノキッド「道理でコイツら【華がありすぎる】と思ったんだ! ミーは今回、何の華もない陰キャラだけでヤるって聞いてたから違和感ビンビンだったぜッ!」
(……華が、ありすぎる?)
28 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:55:07.00 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「もう、みんなして責めないでよ!」
モノスケ「ってことはキサマらは自分らに何の【才能】が当てがわれとるかも知らんってことか?」
にちか「才能? そんなの……そんなもの……」
(才能なんてものがないことは私が一番よく知ってる。そんなものがあれば、私はこんなにも苦しむこともなかったし……)
モノキッド「オイ! 誰でもいいから答えな! キサマらは何者だ!?」
恋鐘「な、なんね急に! うちらはアイドル! 283プロダクションのアイドルばい!」
モノスケ「あーあ、こりゃ完全にクロや。モノタロウ、大クロもんやで」
モノタロウ「うう……本当に記憶になかったんだよ……」
モノスケ「まあええ、お父やんにバレへんかったら問題はあらへんからな。さっさと手続きだけ進めてまうで」
夏葉「……! みんな、何か来るわ! 離れて!」
モノタロウ「大丈夫! 何か危害を加えるわけじゃないから!」
モノファニー「そう、ちょっと居眠りをしてもらうぐらいのものよ!」
モノスケ「まあ、寝とる間にキサマらはちょっと大事なものを色々と失ってしまうんやけど」
モノキッド「目が覚めればそれでもお釣りが来るぐらいに楽しい楽しい【コロシアイ】の世界だぜッ! ヘルイェー!」
にちか「は、はぁ?! こ、コロシアイ?!」
モノダム「ソレジャ、ミンナ、マタアトデ……ダヨ」
つらつらと並べられた理解不能な言葉の数々。
混迷の奔流に飲み込まれ、それでも必死に現状を理解しようと、何か明確な解答に縋ろうと、そんな弱々しい気持ちで右手を伸ばした。
その瞬間に、1秒もかからずに、私の視界は閃光に飲まれた。
目も開けていられないほどの眩く、白い、光。
指先から全身を一瞬にして光が飲み込んだかと思うと、その光は神経を這い回り、脳髄に到達。
ホワイトアウトしていく視界と共に、私の思考もまた白く、ボケていき……
29 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:55:42.93 ID:UjM5Y6Sh0
……夢の中に、溶け出した。
30 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:56:13.45 ID:UjM5Y6Sh0
-------------------------------------------------
PROLOGUE
if(!ShinyColors)
-------------------------------------------------
31 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:57:39.39 ID:UjM5Y6Sh0
_____私はまだ、何者でもない。
32 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:59:24.26 ID:UjM5Y6Sh0
ずっと、日陰の中で生きてきて、テレビの中の住人たちに身分不相応な憧れを抱いて、萎びていくばかりで、
名前なんて持っていない。
他の誰かに認識される。
他の誰かに記憶される。
アイデンティティとは、そうやって生み出されるものだ。
個人を決定づけるはずのものなのに、単独では完成し得ない矛盾を孕んだ要素こそがアイデンティティなのだ。
だから私は、必死に手を伸ばした。
この手の中に自分自身のアイデンティティがほしくて。
誰かにこの手を握ってほしくて。
でも、その手は宙で何も掴むこともなく、ただ真っ黒な闇にぶつかった。
闇は平坦で、反り立っていて……
私自身を飲み込んでいる。
「……え?」
______いつから、閉じ込められていた?
33 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:00:36.21 ID:UjM5Y6Sh0
私はそこでようやっと置かれている状況に気づいた。肌から伝わってくるひんやりとした感覚、息を吸うたびに喉にまとわりつく埃。
そして何より、手も足も曲げ伸ばしが自由にできないほどに窮屈であるということ。
「な、なんで……?!」
壁を壊そうと握り込んでハンマーのように何度もぶつける。
ゴンゴンと大きな音が響き渡り、そしてやがて……
バーン!
やっと、外に出た。
34 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:02:17.83 ID:UjM5Y6Sh0
「……痛た」
突然に解放されたことで、体重と勢いそのままに床に倒れ込んだ。
このお間抜け丸出しのちんちくりんが私。
ごくごく普通で、それ以外に表する言葉が何もない……ただの【一般人】。
テレビのインタビューなんかに捕まることすらなく、雑踏の一言で片付けられてしまう、
世界規模で言えば塵みたいに矮小な存在の七草にちか、16歳。
こんにちは、私。
この滑稽で物哀しい物語の、お粗末な主人公さん。
35 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:03:17.48 ID:UjM5Y6Sh0
「なにこれ、監禁……?! 私なんか拉致ってもビタ一文出ないだろうに……」
落ち着きを徐々に取り戻した私は、打ち付けた肘をさすりながら立ち上がった。
自分が監禁されていたのは金属製のロッカー。
あまり使われていないのか埃が溜まっている様子。
幸い、中に雑巾付きの箒なんかはなかった。
ばっちいじゃなくて、薄汚い止まりだったことにわずかに感謝をしつつ、視線を周囲に移す。
……机が群生している。
机が生えてくる畑でもあればまさにこんな光景なんだろうなというぐらいに机が並んでいる。
それと向き合うようにして壁に取り付けられた黒板。その上には太陽のような顔してスピーカーが取り付けられている。
ああ、ここは教室なんだなと理解した。
自分の通っている学校よりはいささか設備が綺麗で、ちょっとばかしモヤモヤする。
でも、なんで教室に?
近くにあった椅子に腰掛けて、ロダンの考える人みたいな格好しながら、記憶を必死に呼び覚ました。
私がここに監禁される前の、確かな記憶……
36 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:03:59.31 ID:UjM5Y6Sh0
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
確か、バイト帰りじゃなかったっけ。
店でポップ作りに勤しんでて、知らず知らずのうちに随分と熱中。遅くまで残っていた。
ああ、明日の宿題まだやってなかったなとか、昨日の数学の先生マジでうざかったなとか、そんなことを考えながら、ぼーっと道を歩いていた。
まさか私なんぞに目をつけるような物好きもいないだろうし、この国の治安にすっかりを心も許していたし、その時の私は無警戒に尽きた。
ただぼーっと、歩いていた。
そしたら突然後ろの方から急ブレーキの音が聞こえて、慌てて振り返ったら
「〜〜〜〜〜っ?!」
口に布を当てられて、あれよあれよと車に押し込まれて……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
37 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:05:36.09 ID:UjM5Y6Sh0
ああ、だめだ。結局なにも思い出せてないのと変わりない。
自分の記憶をいくら掘り起こしても出てくるのは使い物にならないものばかり。
私がここにいる理由、そしていつからここにくるのか。
その答えはいくら考えても出てきそうになさそうだ。
「はぁ……」
自分の無力さを噛み締め、あまりの使い物にならなさを嘆いていてため息をついた。
その時だった。
ガタガタッ
「……え?」
私が入っていたのとはまた別のロッカーが揺れ始めたのだ。
強風に煽られているように右に左に大きな音を立てながら。中に入っている住人はよっぽどの大暴れをしているらしい。
「や、やば……」
鬼が出るか蛇が出るか。なにが出てくるのか皆目見当もつかないロッカーに思わず後退り。
そんな私の恐怖はつい知らず、ロッカーのガタガタは扉のドンドンへと変わっていき、目的のない乱暴は脱出を目指した手段へと変わっていき、
やがてその扉は開かれた。
38 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:07:06.38 ID:UjM5Y6Sh0
ダンッ!
ロッカーから吐き出された人物は、随分と目立つ見た目をしていた。
まんまるな頭に黒い髪、その中にはアクセントとして黄色いラインが走っている。
私のように地味な生き方をしている人間とは、おおよそ交わりそうもない世界に生きているような女性。最初の印象はそんな感じだった。
「痛た……クソッ、一体なんなんだよ」
「だ、大丈夫ですか……?」
「ん? あ、おう……大丈夫だと……思う、怪我はないよ。ありがとな」
とっつきづらそうだという当初の印象とは裏腹に、屈託のない明るい笑顔を浮かべて私の言葉を受け取った。
差し出した私の掌を掴むと、ゆっくりと立ち上がる。
39 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:08:26.78 ID:UjM5Y6Sh0
「えっと……あんたは? ここは……教室?」
「あ、はい……多分、そうだと思います」
「多分?」
「あの、私も一緒なんです。あなたと同じくロッカーに閉じ込められてて、訳もわからず脱出したばかりで」
「あんたもか……」
おそらく私より少し年上なのだろう。
背の程は数センチほど高く、さっきまでとは違って既に冷静さを取り戻しているように視える。
私の言葉に耳を傾けながら周りを見定める佇まいに、頼り強さを感じさせる。
「私とあんた……じゃ会話もしづらいよな。自己紹介でもしようか」
「あ、はい! えっと……」
ひとまずの協力関係を築こうと、彼女が私に向かって右手を差し出す。私も迷わずその手を取ろうと、左手を伸ばした。
その瞬間
【おはっくま〜〜〜〜〜!!!!!】
間の抜けた調子の声と共に、どこからともなく5体のクマのぬいぐるみが姿を表した。
40 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:10:23.10 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「わあああああああ?!?! な、何……?! 」
???「おはよう! 清々しい朝だね!」
???「まるで生まれ変わって別人になったみたいに、気持ちのいい目覚めだわ」
???「ヘルイェー! 調子はどうだ、ベイベー! さっきまでとは大違いだろ?!」
???「おう、何をいつまで鳩がヘッドショット食らったみたいな顔しとんねん。ワイらと会話をしてくれんと困るで! Z世代はこれだからあかんわ」
???「コミュニケーションコミュニケーション! オイラたちとお話ししてよ!」
???「おい……これはなんの冗談だよ……なんでぬいぐるみが喋ってんだ……?」
???「このトンチキな反応は成功なんじゃねえかッ?!」
???「ねえねえキサマら、オイラたちの名前わかる?」
にちか「は、はぁ? し、知らないよ……あなたたちみたいなクマの人形なんか見るのも聞くのも初めてだよ!」
???「じゃあキサマの隣にいる女の子の名前は分かるかしら?」
???「いや……知らない。今から自己紹介をするとこだったんだよ」
???「やったー! 今度こそ成功だね! ちゃっきーん!」
???「一時はどうなることかとヒヤヒヤしたぜ……だが、これでもう問題ないなッ! 始めちまっていいんだなッ?!」
???「せやな、まずはワイらも自己紹介から始めなあかんな。学生も社会人も後期高齢者も、初対面の時は自己紹介からと相場が決まっとるからな」
41 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:11:45.61 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「あのね、オイラはモノタロウ! 体が赤いからモノタロウって覚えるといいよ!」
モノファニー「アタイはモノファニー。虫も殺せぬか弱い女の子よ。例外的にゴキブリだけは素手でも触れるわ!」
モノキッド「ミーはモノキッドだ。用を足すときは便座の上で仁王立ちのスタイルだぜッ!」
モノスケ「ワイはモノスケや。趣味はそろばん勘定。愛読書は計算ドリルや、よろしくな」
モノダム「モノダム、ダヨ。ミンナ、ヨロシク」
モノタロウ「オイラたち、5人合わせてモノクマーズだよ! しっかり覚えてね!」
一方的に押し付けられた自己紹介。
まるで一つの人格が備わっているかのような口ぶりに私たちはキョトンとするばかり。
コミュニケーションといった割に、こちらが理解できているか否かはもはや彼らは気にもとめていなかった。
42 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:14:06.43 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「キサマらに今この状況のことを説明してあげなくちゃだね! キサマら、ポケットに手を突っ込んでみて!」
にちか「は? え、えっと……」
もはや抗う気も失せた。
言われるがままポケットに手を突っ込む。本来あるはずの空洞、指先が何かにぶつかった。
???「ンだこれ……タブレット?」
モノキッド「そいつは電子生徒手帳! この学園での暮らしをサポートするタブレットだ。個人情報も入ってるから落としちゃならねーぜ」
にちか「学園……ってことは、やっぱりここって学校なの?」
モノスケ「ここは才囚学園。キサマらのために作られた、【アイドル養成用の学校】なんや」
???「才囚学園……聞いたことねーな」
にちか「ん……ちょ、ちょっと待って! 今なんて言った……?! 【アイドル養成用の学校】……?!」
モノファニー「そうよ。キサマらはこれからの時代を引っ張る新時代の【アイドルの候補】として選ばれたのよ」
(は……!? ど、どういうこと……!?)
43 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:17:24.90 ID:UjM5Y6Sh0
モノダム「電子生徒手帳ヲ、起動シテミテ」
アイドル、という甘言に導かれるままに私は指先で画面を叩いた。
すぐにタッチに反応してパッドは立ち上がり、画面上に私の名前と見慣れぬ文字列を映し出す。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の音楽通
七草にちか
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
にちか「超……研究生……級?」
モノスケ「早速【才能】に気づいたようやな。これはキサマらをアイドルとして売り出す際に、【どんな路線で売り出すべきか】をキサマらの来歴や潜在能力から導き出したものや」
モノファニー「緑色の髪をしたキサマは昔からレコードで音楽を聴くのが好きで、CDショップでアルバイトを続けているところからも選ばせてもらったわ」
研究生という言葉と共に自分の名前が並び、更には私には才能が備わっているとも言われた。
自覚こそまるでなかったが、褒められれば嫌な気持ちもしないし、不思議とどこか高揚してくる部分もあった。
拉致でもされていなければ、完全に心を許してすらいたかもしれない。
44 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:20:09.58 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「他の人にも一人に一つずつ才能は割り振られているから、気になる人は聞いてみるといいよ!」
???「他の人って……私たちだけじゃないのか?」
モノダム「ウン、コノ学園ニハキサマラ以外ニモ、14人……計16人ノ研究生ガ集メラレテイルンダ」
モノキッド「おいッ! 勝手に喋ってんじゃねーッ! モノダムが喋るとガソリン臭くなっちまうだろうがッ!」
モノダム「……」
にちか「16人……結構な数ですね」
モノファニー「まだ始業式までには準備に時間がかかるから今のうちに自己紹介をしておくといいと思うわ。もうみんな目を覚ましてきっと校内を探索中よ」
【ばーいくま〜〜〜〜〜!!!!!】
モノクマーズと名乗るぬいぐるみたちは、そのままどこへともなく姿を消してしまった。
私たちに一方的に疑問だけを抱かせ、答えは何も与えてはくれない。
探索と自己紹介を促すあたり、自分で見つけ出せということなのだろうか。どっちにしても、碌でもないやり口なことだけは確かだ。
45 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:21:14.51 ID:UjM5Y6Sh0
???「……行っちまったな」
にちか「はい……なんだったんでしょう」
残された私たちにばつの悪い静寂が訪れる。
思えば、目を覚ましてから、訳の分からない展開続き。この人とも出会って数分と経っていないぐらいだ。
???「あいつらに従うみたいで癪だけど……まずは自己紹介、ってところか」
にちか「で、ですね……!」
ルカ「私の名前は斑鳩ルカ。今はアイドルの研究生をやってんだ。よろしく」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
超研究生級のカリスマ
斑鳩ルカ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルカ「なんか才能ってのは……『カリスマ』って書いてあるな。全くピンとこないけど」
にちか「か、カリスマ……」
本人はまるで心当たりがないと言った感じだが、私にはどこか納得ができた。
初めてその姿を見た時から目を奪われた艶やかな黒髪、その中に走る金髪がアクセントで、整った顔立ちも相待って目が離せなくなる。
それでいて少し荒っぽいながらも優しく、頼り甲斐のある口調には追随していきたくなるような魅力を感じていた。
46 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:22:04.33 ID:UjM5Y6Sh0
ルカ「私は元々……ここにくる前からアイドルの研究生やってんだ」
にちか「え、そうなんですか?!」
ルカ「ああ、もう何年になるかな……まあ、ずっと燻ってんだけどよ。相棒みたいな奴がいてさ、そいつが辞めてくれねーから私も退けなくて……な」
にちか「道理で……なんだかキラキラしてるって思ってましたよ」
ルカ「ハッ……そんなことないよ。まあそう見えたんならきっと……そりゃ相棒のおかげだろうな」
ルカ「あいつが頑張る姿に憧れて、必死に後を追おうって踠いてるだけだから」
そういって笑って見せた斑鳩さん。
あまりに無邪気な表情から、よほどその相棒さんのことが好きなのだろうと読み取った。
全幅の信頼を抱いて、他の人に話すのに臆す様子もない。そんな存在、私にも欲しいものだ。
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