【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】

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667 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/04(日) 20:50:30.08 ID:P7OtzRTpo
というわけで、今回はここまで。

>645
この鎮守府の那珂ちゃんには、酸いも甘いも知っている強者感を出していきたいですね。
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/08/18(日) 20:57:21.44 ID:tFEUt7vU0
久しぶりに墓場島から読み返してるけど読みやすすぎて時間が溶ける。
続きが楽しみや
669 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:21:01.53 ID:1RqAqzjro
今回出てくるメディウムはこちら。というか、戦闘シーンなので、無理矢理詰め込みましたがこれで全員登場です。
あとで説明分まとめとくか……。

・ミーシャ・ハンギングチェーン:釣竿を持つおとなしい少女のメディウム。足元に設置された虎ばさみが人間を捕らえ逆さ吊りにする罠。
  麦わら帽子をかぶったおとなしい少女。姉のアーニャ同様に釣り好きだが、ちょっと内気で日差しが苦手。完全防備しているので色白。
・ツバキ・カビン:丁半賭博の賭場にいるような、右肩を晒した着物姿のメディウム。上から花瓶を落として人の頭に被せて視界を奪う罠。
  時代劇か任侠映画の世界から出てきたような姉御肌の女性。胸元にはさらしを巻き、振り壺ならぬ花瓶を手に立ち向かう、肝っ玉姐さん。
・レイラ・マジックバブル:人魚を思わせる舞台衣装を身につけた女性のメディウム。大きな泡の玉が人間を閉じ込め窒息させる罠。
  豪奢なドレスを着たミュージカル歌手のような女性。自分が作る泡を使い舞台演出まで手掛けようとしている。肝心の歌の実力は不明。
・イーファ・スパイクボール:半人半獣のメディウム。とげ付きの鉄球が人間を刺し貫く罠。坂があれば転がって人間を巻き込みながら貫く。
  ヤマアラシを連想させる固い針のような体毛と尻尾を持つ少女。主さえも触れたら怪我させてしまいそうな自分の体を疎んでいる。
・サム・ヴォルテックチェア:執事の着る燕尾服を着た男装の麗人のメディウム。電気椅子が現れて、座った人間に強力な電気を流す罠。
  椅子を傍らに携える執事姿の優雅な女性。魔神に対し多分に毒を含んだ物言いが多く、隙あらばいたずらと称して電撃しようとする曲者。
・ウーナ・ヘルファイヤー:松明を持った野生児のようなメディウム。強力な火柱が立ち上がり、人間を燃やして吹き飛ばす罠。
  カタコトの言葉で話しかけてくる野生児メディウム。暗いところが苦手で常に松明を持ち歩く。火を消すのは夜空の星を眺める時くらい。
・リンメイ・メガバズソー:チャイナドレス姿のメディウム。刃のついた巨大なホイールが転がって、人間を切り裂きながら吹き飛ばす罠。
  自分の武器を回転ゴマにして操る曲芸師。さすがに自分もこのコマは怖いらしい。たまにすっぽ抜けてどこかに飛んでいくのもご愛敬?
・ティリエ・ゴウモンシャリン:動物着ぐるみパジャマ姿のメディウム。とげのついた車輪が転がり、人間を巻き込みながら弾き飛ばす罠。
  車輪を転がし駆け回るのが好きなシニカル少女。何かにくるまっていると落ち着くため、暑くても着ぐるみパジャマは脱がない主義。
・シェリル・ヘルジャッジメント:メタルロック歌手のメディウム。避雷針が落ちてきて、直後にその針に雷が落ちて人間を雷撃する罠。
  魂まで痺れさせる歌を目指して歌い続けるロッカー。硬派なイメージで売りたいようだが、部屋には可愛いぬいぐるみがわんさかある。


では続きです。
670 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:21:46.19 ID:1RqAqzjro

 * 一方 島の北東部 かつての砂浜の岩礁地帯 *

提督「こっちに新しい足跡があるな。よし、お前たちはここで待機しててくれ」

大和「いえ、大丈夫ですよ?」

戦艦水鬼改「ココマデ来タンダモノ、一緒ニ行クワヨ」

提督「そうか、じゃあ……」

大和「さ、行きま」

提督「……いや、やっぱり待っててくれ」

大和「ええ!?」

戦艦水鬼改「ナニカアッタノ?」

提督「いや、特に何かあったわけじゃねえが……ここから先の俺は『人でなし』になるからな」ニガワライ

提督「あんまり見せたくねえんだ、俺のそういう顔」

大和「何を仰るんですか。これまでも提督とはずっと一緒に敵と戦ってきたではありませんか」

戦艦水鬼改「アナタノ悪イ顔ナンテ、サンザン見テキタワヨ?」

提督「いやあ……そうかもしれねえけどよ」ホッペポリポリ
671 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:22:32.05 ID:1RqAqzjro

提督「やっぱり見せたくねえんだよ。人を殺すのも平気になったし、俺の容赦ない時の醜い顔ってのをさ……ほら、その、なんだ」

提督「お前たちのこと、好きになっちまったからよ……俺の嫌なとこ、見せたくねえんだ」セキメン

大和「提督……!」ポ

戦艦水鬼改「アラアラ……嬉シイコト言ッテクレルジャナイ」ポ

提督「だから、お前たちは」

戦艦水鬼改「ソレヲ聞イタラ、マスマス一緒ニ行カナイトネェ?」

提督「は? なんでだよ」

大和「いいところも悪いところも、理解しあえばいいではありませんか。それに、私たちはもう契りを結んだ、ただならぬ仲……!」ニヤァ

戦艦水鬼改「ソウイウコト。独リデ行カセタリナンテ、デキナイワヨネェ?」ニヤァ

提督「水鬼も大和もそういう悪い顔すんじゃねえよ……そうなって欲しくなくて、ここに留まって欲しいって言ってんのによ」

提督「でもまあ、今更か……仕方ない、一緒に来てくれ。先回りしてるあいつも止めてやりたいしな」

大和「? 誰か来ているんですか?」
672 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:23:16.91 ID:1RqAqzjro

 * 島の北部 洞窟近くの岩礁地帯 *

提督「ああ、いたいた。おーい、如月」

如月「あっ、司令官!」

大和「如月さん!? あなたが来ていたの!?」

如月「はい、何かのお役に立てないかと思って」

提督「戦艦棲姫たちに伝えてもらうだけで十分だ。あとはメディウムたちに任せてくれ」

戦艦棲姫「マッタク、厄介ナコトヲ、シテクレルワネ。事情ハ、コノ如月ッテ艦娘カラ聞イタワヨ」

提督「悪いな、ちょっとだけ協力してくれ」

戦艦水鬼改「戦艦棲姫タチハ、コッチニ居ヲ構エテルンダッタワネ?」

戦艦棲姫「ソウヨ。私タチノ住処ニ、人間ドモガ侵入スルナンテ、考エタクモナイワ」

提督「道ができてるから、こっちに来ちまうんだろうなあ。岩か何かで隠したほうがいいか?」

戦艦棲姫「ドウシテ、ココニ住ンデル私タチガ、隠レナイトイケナイノヨ」

提督「それもそうだな。それなら、勝手に誰か入らないよう、しっかりした門と錠前と、ついでに表札も付けるか」
673 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:24:01.56 ID:1RqAqzjro

大和「提督、それより先に侵入者をなんとかしませんと」

戦艦水鬼改「ムコウカラ、人間ノ気配ヲ感ジルワヨ」

提督「わかってるって。こうやって駄弁ってりゃ、声につられて寄ってくる奴がいるかも、って」

 <ドカーン!!

提督「思ってたんだが……!」

戦艦棲姫「アノ爆発音、マタカ……!」

提督「また? ってことは、すでに何回か起きてるのか」

戦艦棲姫「ソウヨ。騒々シクテ、カナワナインダケド」

大和「行ってみますか?」

提督「いや、その必要はねえよ。ほれ、向こうから来なさったぜ」

カビンを被った男「う、うう……」ヨロヨロ

戦艦水鬼改「アレハ、海軍ノ人間デハ、ナイナ?」

提督「あの船に乗ってた護送中の囚人のひとりだな」
674 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:24:46.50 ID:1RqAqzjro

戦艦棲姫「私タチハ、手ヲ出サナクテ、イイノネ?」

提督「おう、眺めてていいぞ」

 バナナノカワ<チョコン

カビンを被った男「うわあ!?」ギュム ズデーン! ガシャーン!

戦艦棲姫「アノ人間ガ被ッテタ、カビンガ割レタゾ。イイノカ?」

提督「ああ、いいからまあ見とけ」

 ゴウモンシャリン<ガシャーン! ゴロゴロゴロ

男「ぐえっ!」ガラガラガラ…

戦艦棲姫「トゲ付キ車輪ニ、巻キ込マレタナ……」

 スイングハンマー<ブゥン!!

男「ぎゃああ!?」ガッシャーン!

戦艦棲姫「……アノ石柱、ドコカラ出テキタ?」

 ヘルファイヤー<ゴォォォオオオ!!

男「ぎぇ」ボワアァァァ!

戦艦棲姫「アノ炎モ、ドウヤッテ燃エテルノ」

提督「全部、俺の仲間の能力だ」

戦艦棲姫「……全体的ニ、オーバーキル、ジャナイノ?」タラリ
675 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:25:31.41 ID:1RqAqzjro

提督「下手に生き延びたりされても困るからな。今回の相手はやり過ぎるくらいでいい」

ティリエ「おお? ご主人、来てたのか! 遅かったな!」タタッ

提督「よう、順調か?」

カトリーナ「おう! たくさん潜んでたけど、全員ぶっ飛ばしてやったぜ!」

ツバキ「残り少ないようでありんすが、親分さんにご来駕いただいたんじゃア、ますますやる気を見せンといけやせんなァ」

シャルロッテ「シャルロッテちゃんのステージはこれからも最高潮だよー! 見ててねマスター!」

ウーナ「リーダー! ウーナ、トドメさしたゾ! 見たかー!?」ガオー!

提督「ああ、見た見た。派手に転ばせたし派手に燃えてたな」フフッ

アカネ「わたしもどっかーん! って爆発させたよー! 綺麗だったでしょ!?」

提督「いや、お前のブラストボムは遠くて音しか聞こえてねえ」

アカネ「そんなあ!?」

提督「それより、残りはどうした? 人間どもは15人くらいいたんだろ?」

カトリーナ「アタシたちが仕留めたのが、これで3人だったっけ?」

ティリエ「そうだなー。いくつかの班に分かれて人間退治してるから、もうそろそろ終わるんじゃないか? ご主人、やっぱり来るのが遅いぞ?」

提督「お前たちの仕事が早いんだよ。いい仕事しやがって」フフッ

ウーナ「お? ウーナたち、褒められたか? えへへ……」テレテレ
676 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:26:17.20 ID:1RqAqzjro

アカネ「こ、今度こそ、私の活躍を見てもらうんだから! 照れてないで、人間を探しに行くわよー!」ダッシュ!

カトリーナ「あっ、待てよ!」

ツバキ「……遠くに走ってっちゃあ、親分さんにお姿見せられんとちゃいますのん?」

ティリエ「アカネ、聞いてないみたいだぞ」

ウーナ「ヒトリは危ない! 追いかけるゾ!」

シャルロッテ「マスター、またね〜!」

 タタタタッ…

提督「アカネの走ってった方に敵の気配はねえんだけどなあ……」

大和「えっ、誰もいないほうに走って行ったんですか!?」

戦艦水鬼改「ソソッカシイノネェ……」

??「うわああああ! た、助けてくれええ!」

提督「ん?」

如月「あれは……あの人、司令官と同じ海軍の制服を着てるわ。海軍の関係者かしら」

提督「そうみたいだな。あいつは……」
677 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:27:01.37 ID:1RqAqzjro

??→軍人「か、艦娘か!? おーい! た、助け」

 スマッシュフロア<バイン!!

軍人「うわああああ!?」ブットバサレ

 スパークロッド<ニュッ バリバリバリー!

軍人「ばばばば!?」バリバリバリー!

 フライングケーキ<バシュッ!

軍人「ぶぼっ!?」ベチャア!

戦艦棲姫「……チョット、アノケーキ、モッタイナイジャナイ」

提督「あー、あれもそういう罠なんだよ」

戦艦棲姫「アンナコトスルクライナラ、私タチニ食ベサセナサイヨ」

大和「鎮守府に併設した食堂にお越しになればいいと思いますよ?」

如月「一緒にお茶やコーヒーも楽しめますし」

戦艦棲姫「アラ、ソウナノ?」

戦艦水鬼改「……チョット、ソンナ話ヲ、シテル場合?」タラリ

提督「大丈夫だよ、ちゃんと次が控えてる」
678 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:27:46.40 ID:1RqAqzjro

軍人「ぐぶぶ……な、なんだ、何も見え」ヨタヨタ

 ハンギングチェーン<ガチン!! キュルキュルキュル…

軍人「痛っ!? な、なんだ……うわああ、なんだなんだ!? お、おろしてくれえ!」サカサヅリ

提督「……うーん、こいつを含めて、敵は残り3人、ってとこか?」

ニコ「そんな感じだね。他の人間たちは、みんなが始末してくれてるよ」スッ

提督「気配で敵の数が分かるとか、なんかいよいよ化け物じみてきたな、俺」

戦艦棲姫「……チョット、コノ娘、イキナリ現レナカッタ?」

大和「ニコさんは神出鬼没なんですよ」

戦艦水鬼改「提督ノ、ストーカー、ダカラネ」

ニコ「お姉ちゃんだよ!?」ジトッ

軍人「お、おおい! 無視してないで、助けてくれえ!!」ブランブラン

戦艦棲姫「助ケナイノ? オ前ト同ジ服ヲ着タ、仲間ミタイダケド?」

提督「仲間? 勘弁してくれよ。あいつ、余所の女提督に振られた腹いせに、鎮守府の救援要請を握り潰して見殺しにするような奴だぞ?」

戦艦棲姫「エェ……」ヒキッ

大和「それはもしや、先日お話しされていた、暁さんのいた鎮守府の……!?」
679 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:28:31.32 ID:1RqAqzjro

軍人「お、おおーい! 聞こえてないのか!? 早く助けてくれええ!」

提督「ったく、うるせえな。聞こえてるから黙ってろ」

軍人「なっ……黙ってろはないだろう!? 助けてくれ!」

提督「知るかよ。手前の感情だけで鎮守府ひとつ潰しておいて、それで自分のときだけ助けてもらえると思ってんじゃねえ」

軍人「い、いったい何の話だ!?」

提督「とぼけんな。以前お前が救援要請を握り潰したせいで鎮守府がひとつ陥落してんだぞ。I提督って女提督のこと、忘れたか?」

軍人「……!!」

戦艦水鬼改「今ノ反応……ソノ女提督ノコトヲ、知ッテルミタイネ」

提督「……へえ、お前、それで妻帯者なのか。じゃあ、お前の家族にこの話を伝えておくか。死んでも悲しまないようにな」

軍人「なっ!? そ、それだけはやめてくれ! 頼む! お願いだ!!」

提督「じゃあ助けねえけど、いいのか」

軍人「い、いや、助けてくれ!」

戦艦水鬼改「提督ハ、アイツヲ、カラカッテル?」

如月「そうみたいね。助けるつもりはないでしょうから」
680 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:29:16.29 ID:1RqAqzjro

戦艦棲姫「アイツハ、逆サ吊リニシテ、終ワリナノ?」

提督「いや、まだ途中だよ。いま、あいつのお仲間を連れてきてる最中だ」

戦艦棲姫「仲間?」

 メガヨーヨー<ズガァン!

囚人「ぎゃああ!!」ブットバサレ

戦艦棲姫「!」

 ペッタンアロー<パシュ!

囚人「ひいい!!」ペタッ グイーーン

 スプリングフロア<ズバーン!

囚人「ぐげっ」ブットバサレ

 クレーン<ガシッ!

囚人「う、うげえええ!」ツリアゲラレ

戦艦棲姫「スゴイ方法デ、人間ヲ運ンデキタワネ……ソレデ、アイツガ仲間ナノ? 海軍ノ人間ジャナイミタイダケド」

提督「仲間っつうか、同類だな。あの軍人が見殺しにした女提督の母親を殺したのが、あの囚人だ」

大和「本当ですか!?」

提督「魔神の力であいつの過去を見てるんだが、どうやら立件されてねえだけで、父親も殺したみたいだな。Q中将の言ってた通りだ」

如月「なんてこと……!」
681 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:30:01.58 ID:1RqAqzjro

提督「そういうわけなんで、同類のあのじじいも一緒に始末してやろうと思ったんだ。パメラ!」

 スローターファン<ギュイイイイイ!

戦艦棲姫「ナンダ、アノ風車ハ」

提督「近づくなよ? あれは近づいたものを引き寄せて切り刻む罠だ」

戦艦水鬼改「ソレヲ、アノ吊ルシタ人間タチノ下ニ置イタ、トイウコトハ」

 ハンギングチェーン<パッ

 クレーン<ポイッ

軍人「いぎゃああ!!」ザクザクザクー

囚人「ぎええええ!!」ズバズバズバー

如月「ああ……そうなっちゃうのね」

戦艦棲姫「吸イ込マレナガラ、切リ刻マレテイルノカ……」

提督「ああ。けど、あいつらは、あんなもんじゃ済まさねえ」

 ギルティランス<ズバッ!

軍人&囚人「ぐぎゃっ!!」ドスドスドスッ

 メガバズソー<ゴロゴロゴロッ!

軍人&囚人「ぎゃあああ!!」ズガシャーン

 ヘルレーザー<ズビーーーム

軍人&囚人「があああ!?」ズバーーー
682 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:30:46.36 ID:1RqAqzjro

大和「なんとも痛そうな罠が連続で……」

ニコ「ふふっ、残虐系メディウムが大活躍だね」

提督「さて、そろそろ死んだか?」

軍人「い、いやだ……死にたく、な……」ガクッ

囚人「……う、ううう……」

提督「なんだ、じじいのほうがまだ息があるのか。それなら……サム、いるな?」

 ヴォルテックチェア<ガシャッ!

囚人「ぐえっ! ……こ、これは、電気椅子か……こんなところで、俺は、殺されるのか……!」

提督「なんだお前、嬉しそうにしやがって。気持ち悪いな」

囚人「自死では駄目なんだ……殺されれば、あの世で、また、彼女に会える……ふ、ふふふ」

提督「彼女? ああ、そいつは無理だぞ。お前は天国にも地獄にも行けねえからな」

囚人「……どういう意味だ」

提督「見ろよ」

 (こと切れた軍人の屍が、光の粉になりながら徐々に消えていく)

囚人「!?」
683 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:31:31.25 ID:1RqAqzjro

提督「普通なら、人が死ねば、その肉体は土に還り、その魂はあの世に向かう。が、俺たちが始末した人間どもは、そうはならない」

囚人「な、何を言っている? お前なんかに、死後の世界の何が分かるんだ……!」

 ズズズズ…

提督→魔神提督『そりゃこっちの台詞だ。ただの人間のお前にこそ、この世の何が分かるんだ?』

囚人「う……ば、ば、化け物!?」

魔神提督『もうひとつ訊こう。お前は、この俺をなんだと思ってる? 答えてみろよ』

囚人「し……知らない! な、なんなんだ、お前は!?」

魔神提督『それならひとつだけ教えてやる。俺たちは、殺した連中の肉体も魂も、俺たちの好きにできるんだ』

魔神提督『お前の魂は天国へも地獄へも向かうことなく、この場で俺たちに分解されて消える。さっき光りながら消えた奴みたいにな』

囚人「なっ!? そ、そんなことがあってたまるか!!」

魔神提督『お前が何を言おうとお前の未来は変わらない。お前の考えも知ったことか。とっとと餌になって、世界から消えてしまえ』ギロリ

囚人「ひっ!? い、嫌だ!」ガシャガシャッ

 ヴォルテックチェア<バリバリバリバリ!!

囚人「ぎゃあああああ!? 助けて……助けてく」

 フォールニードル<ガラララ…ズシィィィンン!!

囚人「」グシャ…!
684 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:32:16.42 ID:1RqAqzjro

 ズズズズ…

魔神提督→提督「……これで、あとひとりか?」

ニコ「うん。でも、みんなが頑張ってくれてるから、すぐに片付くと思うよ」

提督「そうか」

戦艦棲姫「ナカナカ、エグイワネェ……」

提督「そうか? 残念なことに、死体は見慣れてるから、そうは思わなかったんだが」

戦艦棲姫「ソッチジャナクテ、アナタノ姿ノホウヨ。艦娘タチハ、見慣レテルノ?」

如月「うーん、司令官の姿そのものは、あまり気にしなかったけれど。今の人を怖がらせたかったんでしょう?」

提督「まあな」

大和「私はどちらかと言うと死体のほうが……」ウーン

戦艦水鬼改「スグ消エテクレルノハ、良心的ヨネ?」

ニコ「……それを良心的と言っていいのかな?」

如月「それよりも、司令官は大丈夫なの? 無理してない?」

提督「ん? 別に何ともないが……」

ニコ「無理、って、どういう意味かな?」
685 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:33:01.41 ID:1RqAqzjro

如月「さっき、I提督のかたきを取ったときとか、魔神の姿になったとき、司令官は全然笑ってなかったでしょ?」

如月「恨まれて当然ってくらい悪い人たちが相手なのに、詰ったり辱めたりしてても、なんていうか、ずっと不機嫌そうで……」

大和「わかります。なんとなく、気が晴れてないと言いますか……」

戦艦水鬼改「……アア、言イタイコトガ、ワカッタ。不快ナ相手ヲ殺シテテモ、愉シソウジャナイ、ッテコトネ」

大和「ええ。こう言っていいのかわかりませんが……仇を取っているわけですし、悪い気分にはならないのではないかと」

戦艦水鬼改「以前、コノ島ニ侵入シタ人間ヲ私ガ殺シタトキモ、ナントモ思ワナカッタ、ッテ言ッテタワヨネ?」

大和「えっ!? いつの話ですか、それ!?」

提督「……テレビ局の連中が死んだときの話か?」

如月「あれ、ル級さんが関係してたの?」

戦艦水鬼改「……提督、知ラセテナカッタノ?」

如月「少なくとも私は初耳よ?」

提督「如月だけじゃなく、誰にも話しちゃいねえよ。誰かに話すようなことでもねえし、あれはあいつらの自己責任だ」

戦艦棲姫「変ワッテルナ……オ前ハ、自分ガ憎イ相手ヲ殺シテモ、ナントモ思ワナイノカ?」

提督「いいや? さすがに、俺がさんざん嫌がらせされた大佐やJ少将が相手だったら、ざまあみろとも思うんだが……」

提督「いま始末した連中に関しちゃ、俺は話を聞いて不愉快になっただけの、ほぼ他人だ。俺にとっては、本当にどうでもいい奴らだ」

大和「それで、感情的になれなかった、ということなんですか」
686 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:33:46.90 ID:1RqAqzjro

提督「最後の奴だけは、絶望させたかったんで回りくどいことしちまったけどよ……」

提督「まあ、I提督とその両親の事情も知らないわけじゃないし、それを知ってあいつらを始末しようと考えたのも間違いはない」

提督「が、それで俺がそいつに怒りやらをぶつけるのは、筋が違うと思ってる。あいつらの気持ちを、俺が勝手に解釈するわけにはいかねえよ」

提督「それにどうせ、あいつらを殺せばI提督たちが喜ぶってわけじゃねえし……この世に戻ってくるわけでもねえしな」

如月「司令官……」

提督「ま、時雨や早霜みたいに戻ってきた例外もいるが、普通そういうことは起こらねえ。メディウムもそうだろ?」

ニコ「うん。メディウムも、無理して壊れたら消失する。ぼくたちがやっていることも、戦いだからね」

戦艦棲姫「……私タチハ、ドウナノダロウナ。艦娘ニ沈メラレテ、艦娘ニナッタ深海棲艦モ、ソレナリニ、イルラシイケド?」

戦艦水鬼改「ソウイウ話ハアルケレド、泊地棲姫ハ、ソウイウシーン、見タコトナイミタイヨネ?」

如月「逆に、艦娘が深海棲艦になったレアケースはあったわよね。ほら、この前、漂着してきた軽巡棲鬼の阿賀野さん」

提督「あいつもイレギュラーだよなあ……」

戦艦棲姫「ソウネ。普通、ナイワヨ?」

大和「なんと言いますか、この島に限って言えば、その普通じゃないことが割と普遍的に起きてませんか?」

大和「ル級さんが鬼級になったのもそうですし、駆逐イ級が人型になるのだって、普通あり得ないことでは?」
687 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:34:31.78 ID:1RqAqzjro

如月「確かに……」

戦艦水鬼改「言ワレテミレバ、ソウカモ……」

ニコ(……ぼくたちが、関わったせいかな?)ウーン

提督「そもそも、こんな顔ぶれが穏やかに話してる時点で普通じゃねえよな」

戦艦棲姫「ネエ、ソレハイイカラ、早ク残リノ人間モ片付ケナサイヨ。アト1人ナンデショ?」

提督「ああ、わかってるよ。多分こっちに……」

 タタタッ

イーファ「あ、ご主人様……!」

提督「イーファか? どうした、なにかあったのか」

イーファ「ううん、みんなが、もうすぐおしまいだから、ご主人様を呼んできて、って……」

 <イヤァァァァ!

戦艦棲姫「!」

ニコ「今の悲鳴で、人間狩りが終わったのかな? どこに潜んでたんだろう」

提督「よし、行ってみるか」
688 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:35:16.23 ID:1RqAqzjro

 * *

イーファ「こっちだよ。岩と岩の間に隠れてたみたい。ミュゼさんが見つけて、誘い出してくれたの」

女囚「」グチャァ…

提督「おお、見事にぐちゃぐちゃだな。もうこと切れてたか」

如月「お、女の人だったのね……何をした人なのかしら」

マルヤッタ「なんでも、シューキョーカンケーのサギシ? らしいじょ」

提督「お、マルヤッタか。お前がやったのか?」

マルヤッタ「とどめと言うか、駄目押ししたのがマルヤッタだじょ。実際にとどめになったのはシェリルだったかの?」

シェリル「ああ、あたしのシャウト……ヘルジャッジメントでしびれさせてやったのさ」ドヤッ!

提督「そうか、お疲れさん。これで全員だな?」

ニコ「……そうだね。この一帯で、人間の気配はもう感じないね」

戦艦棲姫「ソレジャ私ハ、モウ引キ上ゲテモ、イイワネ?」

提督「ああ、付き合わせて悪かったな。今度、この辺の門扉とか鍵の話をさせてくれ」

マーガレット「魔神様〜!」トテトテトテッ

如月「あら、他のところにいたメディウムのみんなも、戻ってきたみたいね」

提督「マーガレット、お前は走らなくていいぞ。またケーキ持ってコケたらいけねえし」

マーガレット「そんなにしょっちゅう転びませんよ!?」
689 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:36:01.26 ID:1RqAqzjro

戦艦棲姫「アナタダッタノネ、ソノケーキ」

マーガレット「あ、お話は聞いてました、あとでご馳走しますよ! いつも食堂で準備してますから!」

ミュゼ「あ゛〜、疲れたぁ。私も食堂でお茶してきまーす」

レイラ「ミュゼ、あなたまたテツクマデをそっちに置き忘れてるわよ?」

ミュゼ「えええ!? やだっ、ごめんなさい!」タタッ

ニコ「珍しいね、レイラがこんな岩場に来るなんて。色気がない場所は好きじゃない、って言ってたのに」

レイラ「ええ、ですが今回は、大人数相手の大舞台でしょう? 出ないわけには参りませんわ」

レイラ「それに、たまにはこういう荒々しいロケーションを味わうのも、悪くはありませんわね。次の舞台の参考にいたしましょう」フフッ

提督「シェリルやシャルロッテもそうだが、お前たちはいつも舞台にいるもんな。こういう場所でもちゃんと戦ってくれるのは助かるぜ」

シェリル「いいってことさ。あたしはどんな場所だろうと、あたしの歌を響かせてやるぜ!」

サム「では、お席は私がご用意いたしましょうか」スッ

提督「……」

ニコ「……そう言ってヴォルテックチェアを出したりしないよね?」

サム「おや。そのように疑いの眼差しを向けなくても良いのですよ? 大丈夫ですとも、フフフ……」

ナンシー「そんなことより、早く帰ってお茶にしましょ?」

ソニア「さんせーい!」

リンメイ「お風呂でもイイヨ!」

コーネリア「久々の大仕事だ。槍の手入れもしとかないとな」フフッ
690 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:36:46.33 ID:1RqAqzjro

ミーシャ「そういえば、アカネさんたちって、戻ってきてましたっけ……?」

アーニャ「大丈夫だよ、戻ってくるって、そのうち!」

パメラ「そのあたりのお仕事はニコちゃんがやってくれるでしょ?」

ニコ「……確かにそうだけどさ。ほら、みんなも一緒に探してきてよ。いま、鎮守府に戻っても、まだ人間がいるんだからね」

レイラ「あら、そうなんですの?」

イーファ「……くんくん、バナナのにおいがする。シャルロッテはこっちかな? ぼく、探しに行ってみるね」

シェリル「仕方ないな……魔神さん、あたしたちは少し時間を潰してから戻るよ」

 ゾロゾロ…

戦艦棲姫「メディウムハ、コンナニ大勢、潜ンデイタノカ」

提督「罠一種類につき一人だからな。15人も相手するとなったら、70人いるメディウムを総動員させて丁度いいくらいだ」

提督「しかも相手は10人が護送中の犯罪者で、5人が海外へ左遷させられる予定だった海軍の関係者だからな」

提督「全員堅気じゃねえから、全力で潰しに行かねえとこっちが痛い目見ちまう。やり過ぎるくらいでいいっつったのも、そういう理由だ」

戦艦棲姫「ソイツラ、何ヲシタノ?」

提督「ん? ええっと……犯罪者のほうは、殺人とか通り魔とか性的暴行とか、あとは政治犯とか、詐欺で数億盗んだとかいう連中だな」

提督「軍の関係者のほうは、パワハラで部下を自殺させたとか、横領とか、嘘ばっかり報告してた支離滅裂野郎とか……」

戦艦棲姫「ソンナ人間、生カシテオク必要アルノ?」

提督「簡単に殺せないから、人間どもも苦慮してんだよ」
691 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:37:31.24 ID:1RqAqzjro

戦艦棲姫「人間ノ法律ガ悪ルイノネ。サッサト作リ変エテシマエバ良イノニ」

提督「簡単に言うなよ……」

戦艦棲姫「簡単ニ言ウワヨ、他人事ダモノ。オマエナラ、ソンナ面倒ナコト、シナイデショウ?」

提督「……まあ、そうかもだけどな」

戦艦水鬼改「アラ、コノヒト、意外ト面倒ナコト、スルワヨ? 今回ノコノ騒ギダッテ、ワザワザ船ヲ……」

提督「余計な事言うな」クチフサギ

大和「それより提督! ひとまずこの場の確認も済んだことですし、提督は皆さんより先に戻って中将にご報告いたしましょう!」

如月「そうね。司令官は先に行ったほうがいいわ、大和さんと水鬼さんもね」

戦艦水鬼改「私モ?」

如月「ええ、水鬼さんも中将に会ってきたんでしょう? そうだとしたら、一緒に戻って顔を見せないと、ね?」

提督「……余計な事言うなよ?」

戦艦水鬼改「ワカッテルワヨォ」プー

提督「んじゃ、とりあえず行ってくるか。如月とニコに、この場を任せてもいいか?」

如月「ええ、大丈夫よ。ニコちゃんもいいわよね?」

ニコ「……しょうがないなあ。魔神様、ここはお姉ちゃんに任せて、行っておいで」
692 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:38:32.81 ID:1RqAqzjro

提督「助かる。ありがとな」

如月「ふふっ、どういたしまして」

ニコ「後でみんなも労ってあげてね?」

提督「ああ、勿論だ」

 スタスタ…

ニコ「……ふう……」

如月「? 溜息なんかついて、どうしたの?」

ニコ「いつも思うんだけど……これで、良かったのかな、って」

戦艦棲姫「ドウイウ意味?」

ニコ「本当なら、魔神様が人間と手を取り合うなんてこと、ないはずなんだ」

ニコ「それを、頭を下げて、約束を作って、僕たちと人間との間に『境界線』を引こうとしてる。ぼくは、どうしてもそれが納得できなくて」

ニコ「魔神様にとって、それは屈辱じゃないのかな。深海棲艦にとっても、そうじゃないのかい?」

戦艦棲姫「私ハ、人間ニ、頭ヲ下ゲルツモリハナイワ」

ニコ「君たち艦娘も……特に如月、きみにとっては、人間なんて救いようのないものだったんじゃないのかい?」

如月「……そうね。司令官に出会うまで、ずっと私は、地獄にいたような気分だったわ」

如月「その司令官が、人に対して頭を下げるのは、間違っているのかもしれない……」

如月「でも、司令官は言っていたじゃない。私たちの目的は、私たちの居場所を作ること。誰にも邪魔されない安住の地を得ること」

如月「司令官は、そのために、人間と話し合いを進めてきたのよ」

ニコ「……」
693 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:39:17.34 ID:1RqAqzjro

如月「ニコちゃんが納得できないのはわかるわ。私だって、そう思うときがあるもの」

如月「でも、司令官は、人間を知っているからこそ、私たちが戦わなくていいような、人間に関わらずに済むような手段を取ろうとしているの」

如月「それが、今の司令官の『戦い』なんだと思うわ……!」

ニコ「……ぼくたちこそ、魔神様のために戦ってるのに……」

如月「司令官も同じなのよ。ニコちゃんたちも、深海棲艦たちも、私たちも心配だから……みんなを守るために、司令官は動いてる」

如月「曽大佐の艦隊が来た時だって、そうだったでしょう? 司令官として、魔神様として、私たちと同じように、命を懸けたいのよ」

戦艦棲姫「……私ニハ、声ヲカケテ来ナカッタナ?」

如月「それは単純に、戦いに巻き込みたくなかったからじゃない? 私たちが引き起こしたからって考えてたんだと思うわ」

戦艦棲姫「……本当ニ、変ワッテルワネェ」

ニコ「魔神様が、命を懸けたいなんて……」

如月「私としては、そういう危険なことはやめて欲しいんだけど。ニコちゃんもそうでしょ?」クスッ

ニコ「うん……魔神様も、一緒に……か」ウツムキ

戦艦棲姫「……ネェ」ヒソヒソ

如月「?」

戦艦棲姫「アイツ、嬉シソウネエ?」ニヤリ

如月「ふふっ、そうねぇ」ニコニコ

ニコ「ちょっと、何の話!?///」カオマッカ
694 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/08/24(土) 23:40:07.57 ID:1RqAqzjro
今回はここまで。

>668
お褒めにあずかり恐縮です。
ほぼほぼ台詞で構成しているので、できる限り読んでわかりやすく、というのは心がけています。
695 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:04:31.35 ID:eLSxtmOxo
それでは続きです。
696 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:05:16.49 ID:eLSxtmOxo

 * 島の北東部 かつての砂浜の岩礁地帯 *

提督「さて、さっさと戻って中将に……ん? ありゃ誰だ」

 (何者かが岩場の上で海側に足を向けて、大の字になって寝転んでいる)

戦艦水鬼改「……艦娘ッポイナ?」

大和「艤装が煙を吹いてますね……ここに流れ着いてきた艦娘でしょうか」

秋雲(中破)「……ふえっ!? だ、誰!? って、大和さん!? と……どぇええぇえ!? 深海棲艦んん!?」

戦艦水鬼改「知ッテル艦娘カ?」

提督「いや、知らない顔だな」

秋雲「あれれー、おっかしいなぁー!? あたしってば、いつ沈んだっけ!? まだあの世には来てないはずなんだけどおお?」オメメグルグル

提督「なに寝ぼけてんだ。ほれ、お前はどこのどいつだ、何が望みだ、早く言え」

秋雲「ちょっとお!? そんなに立て続けに言われたってこっちにだって心の準備ってのがあんのよ!? ちょっと待ってってーの!」プンスカ!

提督「中破してる割には元気だな。早霜に似た服を着てるが、同型艦か?」

大和「いえ、夕雲型には似ていますが、彼女はその前の陽炎型ですね。形が似ているために、夕雲型の制服を着ているようです」

提督「ふーん……」
697 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:06:00.83 ID:eLSxtmOxo

秋雲「……うーん、三途の川の渡し守にしては、健康的な小麦色の肌の色をしてるなあ」マジマジ

秋雲「そしてその見慣れたその海軍の制服……もしかして、あなたどこかの提督さん? なんで深海棲艦が一緒にいるの?」

提督「それに答える前に、先にこっちの質問に答えろよ。お前、墓場島鎮守府って知ってるか」

秋雲「なにその推理小説にでも出てきそうな島の名前! そんな鎮守府あるの!?」

戦艦水鬼改「知ラナイノカ?」

秋雲「うん、初めて聞いたなあ。墓場島鎮守府……もしかして、あっちに見える建物がそうなの?」

大和「本来は××島鎮守府ですけれど、そちらの名前のほうが広まっていますね。とりあえず、あなたの名前と所属を訊いても?」

秋雲「あ、ごめんごめん、あたしの名は秋雲! 良提督鎮守府の秋雲さんだよー!」

戦艦水鬼改「ノリガ、軽イナ……」

提督「良提督? 聞いたことねえな。で、お前はどうしてここに来た?」

秋雲「どうして……あー、そりゃ、ちょっと言いづらいんだけどぉ……」

戦艦水鬼改「……言ワナイノカ」ジトッ

秋雲「ちょっ! ちょっとタンマ! さっきから戦艦の姐さんの圧がすごいんだけど!? 言います! 言いますってば!」
698 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:06:46.04 ID:eLSxtmOxo

秋雲「えー、そのぉ、秋雲さんはですねえ……ちょっと、あの、お恥ずかしい話ですが……家出……してきたん、ですよ」

大和「家出? 鎮守府から?」

提督「何か不満でもあったのか」

秋雲「まあ、不満と言いますか、何と言いますか……方向性の違いと言いますか」

戦艦水鬼改「?」

提督「……とりあえず、詳しく事情を聞く前に、ひとつ肝心なこと訊いておくか。お前、生きたいか、それとも死にたいか、どっちだ?」

秋雲「いやいやちょっと待って!? なにそのとんでもない2択!! 今の流れでどうして死ななきゃいけない選択肢が出てくんの!?」

提督「自殺志願者じゃねえんだな?」

秋雲「ないよ!? 死ぬ気ないよ! 死にたくもないしそういう考えに至ってもいないし! え、ってゆーか、そういう島なの……?」

提督「ろくでもない目に遭わされた艦娘が多いのは確かだな」

秋雲「うへえ……秋雲さんどうなっちゃうのよコレ」
699 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:07:31.75 ID:eLSxtmOxo

 * 食堂外 テラス席 *

中将「……生存者は確認できず、か」フゥ…

提督「行方不明って扱いにしてもいいでしょう」

葛城「……」

中将「君たちが責任を感じる必要はない。指揮を執ったのはこの私だ」

与少将「……しかしそれでは……!」

提督「艦娘がいるから忘れられてるが……この御時世、人間にとっては渡航そのものが命がけだ」

与少将「!」

提督「人間が艦娘連れて渡航した場合も、3回に1回は深海棲艦と交戦して、そのうち8回に1回は船が沈んでるって聞いてる」

提督「艦娘だって時々沈んでるのに、人間に犠牲が及ばない航海を約束すんのは無理がある。船だって的として見りゃでかいしな」

提督「あの船も旧式とはいえそこそこ速度も出るって聞いてるのに、それで魚雷に被弾しちまったってのは運が悪かったとしか言えねえよ」

提督「なんらかの攻撃を受けて、艦娘が無事。かつ、中将という生存者もいる。まずはそれで良かったと思えってんだ」

葛城「そうかも、しれませんけど」

提督「つうか、もともと厄介払いの連中ばかりだろ? 囚人に至っちゃあ殺す手間が省けていいじゃねえか。生かしてたって税金の無駄だろ」

葛城「そういう問題じゃなくて!!」クワッ!

提督「なんだ真面目だな。いずれにしろ、終わっちまったことをぶちぶち言ってもしょうがねえよ」
700 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:08:15.79 ID:eLSxtmOxo

提督「お前らも訓練してきているんだろうが、今回のは完全に事故だ。犬に?まれたと思って諦めろ」

葛城「……」

提督「それで納得できねえんなら強くなりやがれ。お前らがこれからやれることと言ったらそれくらいだろ」

葛城「……っ! わ、わかってるわよ! 見てなさい、いつか瑞鶴先輩みたいになってやるんだから!!」

提督「おう、せいぜい頑張りな。ところで与少将、この件、俺が口を出してもいいか?」

与少将「……まあ、ややこしくならん程度に頼むぞ?」

提督「ああ。まあ、事故に近いっつう状況説明だけにしといてやるよ」

提督「それから、ちょっと考えたんだけどよ。事態をややこしくさせかねないことを言うが……」

提督「今回の魚雷って、案外、海軍が秘密裏に魚雷の威力確認のためにどっかで演習してた、その流れ弾とかじゃねえの?」

与少将「……何を言うちょるか!?」

葛城「海軍内の仕業だって言うんですか!?」

提督「まず、海軍かどうかは別にしても、魚雷を撃った奴は確実にいるわけだ」

提督「俺たちも兵器開発をしてないわけじゃないが、いまのところは、それでわざわざ領海の外に出てはいないし」

提督「そもそも俺たちが中将の乗ってる船に向かって攻撃する理由がねえ。普通に中将はこの島に対しての協力者だし」

提督「政府との会談を控えてるこの時期にそんなことしたら、いろいろ台無しになっちまう」

与少将「確かにのぉ……」
701 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:09:01.73 ID:eLSxtmOxo

提督「で、俺としちゃあ、海軍がなんか新兵器でも開発してんのか? と思っちまうんだよ。信用してない分、余計にな」

与少将「いやいや、いくらなんでも、それで中将閣下の船が被害を被るようなことはせんじゃろ……」

提督「そうかあ? 深海棲艦は絶対滅ぼす、みたいな脳みその奴、まだいるんじゃねえの? 曽大佐みたいによ」

提督「そういうやつが、あわよくば一矢報いる思いで、俺たちの島に向かって魚雷を撃った、ってほうがあり得そうだけどな」

葛城「曽大佐って、あの、おじいちゃんになっちゃったっていう……!?」ゾッ

提督「知ってんのか」

与少将「今では有名じゃぞ、悪い意味でな。しかし、そのおかげで、この島に攻撃を仕掛けようという声が鎮静化したのも事実ではあるが」

提督「だからこそ秘密裏に、って思ったんだけどな」

与少将「……となると、ますますどこから来たかがわからんちあ」

提督「まあ、後は……新たな脅威となる深海棲艦がいる、って線も考えられるが、今んとこ、そういう報告も受けてねえしなあ」

与少将「むー……」

葛城「……」

提督「……ここまで喋っておいてなんだが、ことがことだし、事故扱いで処理されて有耶無耶になりそうだな?」

与少将「むう……」
702 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:09:46.24 ID:eLSxtmOxo

提督「連中が乗ったボートも見つからないってことなら、この辺の早い潮に流されて転覆したってこともあり得るし」

提督「海軍もこれ以上の不始末は表沙汰にしたくもねえだろ。適当な原因でっち上げてもそれまでなんじゃねえの」

与少将「不本意だが、場所が場所だけに調査もできんじゃろうし、そういうことにされそうじゃな」

葛城「私たちは……中将さんは、どうなるんですか」

提督「悪いようにならねえように、俺たちが立ち回るしかねえんじゃねえか。武蔵の映像もある、海軍だっておおごとにしたくねえはずだ」

与少将「……ところで、艤装がボロボロの艦娘を連れて来ちょったが、どうしたんじゃ」

提督「あいつもあの船と同じく、流れ弾らしい魚雷に被弾したみたいでな。島の北東に流れ着いたところを保護した、ってとこだな」

与少将「中将閣下の船を狙った魚雷と同じものか?」

提督「かもな。詳しい話はこれからだ」

 クルリ スタスタ…

与少将「……その事情によっては、わしらの出番になるかもしれんちゅうわけか?」

那智「そうなるでしょうね。ただ、ここに流れ着くような艦娘が、素直に元の鎮守府に戻れるような事情か、というのはありますが」

葛城「どういうことよ、それ……」



間宮「……陸奥さん。提督さんって、自分でやっておいてよくあそこまで口が回りますね?」ヒソヒソ

陸奥「ふふっ、秘密よ?」ウインク
703 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:10:31.62 ID:eLSxtmOxo

 *

秋雲「……えーと、あたしたち、漫画を書いてたんですよ」

提督「へぇ……てことはお前、絵が上手いのか」

秋雲「まあ、それなりには。で、ほかの鎮守府の同型艦……同じ秋雲たちに誘われて、一緒にサークル作って同人誌作ってたんですけど」

戦艦水鬼改「ドウジンシ?」クビカシゲ

秋雲「んっとねえ、同好の士っていうか、趣味が同じ人が集まって作る本のことなんですけど」

秋雲「あくまで内輪で、自分たちが作りたい趣味の本を自分たちのために作っちゃう感じ?」

戦艦水鬼改「本ヲ作ルノカ……楽シイノカ?」

秋雲「そりゃもう! みんなでひとつの本を作るって、それまでやったことなくって!」

秋雲「こう、モノが出来上がると、やり遂げたなあ、って感じで感動もひとしおで!」

秋雲「で、次はもっといいもの作ろう! ってみんなでまたワイワイやりだすんだよねぇ」ニヒヒッ

秋雲「……で、そういう楽しい期間がそれなりにあったんだけど、最近それが楽しいと思えなくなっちゃって……」

提督「ふーん。なにかあったのか」

秋雲「……疑問に思うようになっちゃったんですよ。私って、こういうのが描きたいんだっけ? って」

提督「? どういう意味だ?」
704 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:11:16.01 ID:eLSxtmOxo

秋雲「うーん、なんて言えばいいかなぁ……絵を描くことは好きなんだけど、なんか、これじゃない? みたいな?」

提督「よくわかんねえな……?」

秋雲「自分でもよくわかってなくて、うまく説明できないんですよー。このわけのわからない違和感のせいで、どうにも集中できなくて」

秋雲「で、それ以来、自分が思うように絵が全然描けなくなっちゃいまして。今も大絶賛スランプ中!」アタマカカエ

秋雲「だから一度絵を描くのをやめよう、絵から距離を置こう、って考えて。本業の出撃に影響出ても嫌だしさ?」

提督「……まあ、海軍に所属する艦娘としては正しいな」

秋雲「それで、サークル活動もお休みしようと思って、みんなに相談したんだけど……それがすっごい勢いで猛反対されて!」

大和「どうして反対されたんです?」

秋雲「それもわかんないの。なんか、辞めるのがもったいないとか、とにかくすっごい引き留められたんだよねぇ……」

戦艦水鬼改「辞メル? ソノ、サークルカラ、抜ケルノ?」

秋雲「うん。今の私はなんにも描けないんだから、サークルに残っててもしょうがないと思うのよ」

秋雲「勿論、みんなにはいろいろお世話になったから悪いなあって思ったし、引き留めてもらったりもして嬉しかったんだけど」

秋雲「みんなの役に立てない以上は、そこに居座ってもしょうがない気がしてさ。そもそも、絵から距離を置きたかったわけだし」

提督「で、辞められなかったから家出ってか?」

秋雲「いやぁ、結果的にはその通りなんだけどぉ、そうなるまでに葛藤とか、いろいろあったのよー?」
705 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:12:00.80 ID:eLSxtmOxo

秋雲「ほら、どうせ残るならなにかしら活動の役に立ちたいと思うじゃない? でも、私、戦うのと絵を描く以外はすっごい苦手でさ?」

秋雲「ストーリーを作るのなんかも全然だし、じゃあ何かサポートできるか、って言われても……私には絵しかなかったからさ」シュン…

秋雲「本を作るって目標があるのに、私だけ何もしてないってなると、いたたまれないし気まずいし、そこにいるだけで罪悪感がひどくって」

秋雲「一度、絵から離れたら、何か違うものが見えるかも、って考えもあったし、全部手放してすっきりしたかったってのもあったの」

秋雲「なのにしつこく引き留められて、だいぶ神経すり減らされちゃってさあ……それでますます厭になっちゃったっていうか」

秋雲「絵を描くこと自体は好きなはずなんだけど、全然楽しいと思えなくなっちゃって。ストレスで手が震えて出撃にも影響出るくらい」

戦艦水鬼改「重症ネェ」

秋雲「もー、そのくらい本当にやばかったから、ある日、絵を描くのも辞める覚悟でサークルから脱退します! って連絡したのよ」

秋雲「そんでスマホも連絡先全部拒否って電源落として、道具も机に全部しまって鍵かけて! 潔く、漫画のことは忘れよう、って!」

秋雲「そうやって、全部封印した矢先にうちの良提督が、サークルのみんなから漫画描く依頼を受けてきちゃってさあ……」ガクーッ

大和「ええ……?」

戦艦水鬼改「ソイツ、ナニヤッテンノ……?」

秋雲「ええ、なにやってくださりやがってんだって思いましたよ……良提督にサークルのことを話してなかった私も悪いんだけど」
706 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:12:47.10 ID:eLSxtmOxo

秋雲「それでもさ、私がどうしても描けないから辞めたいんだって訴えれば、良提督が味方になってくれると思ってたのよ」

秋雲「それがさ!? 私が描けないから離れたいって言ってんのに、みんなが褒めてたから描いたほうがいいとか言って私の話を聞いてくれないんですよ!」

秋雲「才能がもったいないとかみんなと一緒に活動したほうが幸せとか! そんな外からの声よりこの秋雲さんの切実な訴えに耳を傾けていただきたいんですけど!?」

秋雲「君のためを思ってとか美辞麗句並べてるけどそれどう考えても引き受けた手前引っ込みがつかないから私に折れろって感じの保身から来てるやつじゃないですかねえ!!?」ウガー!

大和「……」アタマオサエ

提督「肝心な時に役に立たねえなそいつ……」

戦艦水鬼改「ソイツ、駄目ナコトシカ、シテナクナイ……?」

秋雲「そうなの!! ほんっと、それダメなやつで! マジで味方から背中を撃たれるってやつでさあぁぁ!」ナミダジョバー!

秋雲「だいたいなんで提督が海軍の本来のお仕事より、趣味のサークルのお手伝いを優先するよう自分の部下に説得しちゃうのよ!?」

秋雲「普通逆じゃないの!? 提督としての自覚ある!? それとも秋雲さん艦娘として戦力に数えられてない!?」ウワァァァ!

秋雲「……ということがありまして。その流れで出撃しなくていいよと戦力外通達されて主砲も魚雷も取り上げられたのが何日か前」ハイライトオフ

大和「えっ」

秋雲「ぼけーっと海を見てたところまでは覚えてたんだけど、なんか気が付いたら海にいて」

戦艦水鬼改「アンタモ、ナニヤッテンノ……」

秋雲「よくわかんないうちに魚雷貰っちゃって、航行できずにあの岩場に流れ着いて、いまココ! って感じ? うふへへへへ」

提督「躁鬱の差が激しいな……」
707 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:13:45.81 ID:eLSxtmOxo

秋雲「いひっ、いやもう、こうやって整理して話してたら、あー秋雲さん帰りたいって思ってないんだなーって心境が確認できちゃってさあ」

秋雲「てゆかもうこれ脱走じゃん。秋雲さんてばもう一巻の終わり? 馘で済む話じゃないよね? 物理的に艦首が飛ぶよね?」

戦艦水鬼改「普通ナラ、ソウカモシレナイワネェ」

秋雲「やっぱりぃ? そんなことならさっさと三途の川を渡っとけば良かったかなあ……」グンニョリ

大和「……提督、秋雲さんから事情を聞く限りは、良提督の対応に問題があるように思えますね」

提督「ま、俺たちが何を言ってもしょうがねえ。改めて訊くか、おい秋雲」

秋雲「ぁい?」

提督「お前はこれからどうしたい? 死にてえのか生きてえのか、どっちだ? お前の、望みはなんだ?」

秋雲「望み……望みかあ……」ボンヤリ…

大和「……」

戦艦水鬼改「……」

秋雲「あたしは……艦娘として、普通に出撃したい、っていうのと……やっぱり、絵が、描きたいなー」

提督「絵?」

秋雲「うん。絵を描くの辞める、って、その場で言いはしたけど……やっぱり、あたし絵が好きなのよ」

秋雲「いま、自分が何がしたいか、って単純に考えたら、やっぱり、紙と鉛筆持って、あたしの好きに描きたいっていうか……」
708 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:14:30.64 ID:eLSxtmOxo

提督「好きなものを描いてたんじゃねえのか?」

秋雲「うーん、最初は嫌じゃなかった気がするけど……今はもうわかんなくなっちゃった」

戦艦水鬼改「……何ガ違ウノカシラ」

秋雲「えっとねえ……これまでは、みんなでお話を考えて、構想を練って、それをわーっと絵にしていく、って感じだったのよ」

秋雲「ずーっと机に向かって描いてたから息が詰まっちゃって……それで気分転換に外に出て、その辺の草花描いたりしてたんだよね」

秋雲「でさ、ここもロケーションすっごいいいよねー。オープンテラスで、花壇があって、水路があって……すっごい綺麗」

提督「……まあ、ここに住んでる住人たちのおかげで、綺麗にしてるからな」

秋雲「こういう景色を描き残したいなあ……って、ぼんやり眺めてて思ったの。水の音や、風やにおいを感じながら描けたら幸せだなーって」

大和「ということは、秋雲さんは漫画家ではなく風景画家を志望している、と……?」

秋雲「あ、ああ……それ! それかも!」キラキラッ!

秋雲「うわあああ、なんか見えてきた! ばーっと、私のやりたいことが目の前に広がってきたー!!」

秋雲「描きたい! 紙と鉛筆と消しゴムと肥後守が欲しい!! 出来ないんなら涙で床板を濡らしてその水で絵を描いてやるー!」ウオオー!

戦艦水鬼改「……ヒゴ?」

提督「肥後守っつう折り畳み式の小刀があるんだよ。今の話だと、鉛筆削るのに使いてえんだろ」
709 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:15:15.73 ID:eLSxtmOxo

朧「涙で絵を描くってところは雪舟ですね」スッ

秋雲「うおぅ!? お、朧もいたの!?」

朧「……なに? 朧がいたらおかしいの?」ムッ

秋雲「いやいや、そうじゃなくて、確かに言い方悪かったけど! そこはほんとごめん!」ワタワタ

秋雲「てかさ、この島、深海棲艦がたくさんいるから、そんな島にも朧がいるのがびっくりでさー! 朧は大丈夫? 元気なんだよね?」

秋雲「……うん、いま冷静になったけど、すごいとこだよね、ここ。なんで私、戦艦クラスの鬼級の隣で優雅にコーヒー飲んでるの?」シロメ

泊地棲姫「気絶シテナイデ、冷メナイウチニ、コーヒー飲ミナサイ」

秋雲「アッハイ、アリガトウゴザイマス」シロメ

提督「……中将、与少将。とりあえず奈准将の艦娘たちは、海軍まで送り届けてもらっていいか?」

与少将「ん? おお、こっちの艦娘はわしらに任しとき。で、そっちの秋雲は、時間を置いてから迎えに来るとええんか?」

提督「いや、秋雲のことは、こっちから連絡するまで秘密にしておいてくれねえか? 特に良提督には知られたくねえな」

秋雲「!」

与少将「……んむ、ええじゃろ。わしも傍から聞いてて、良提督はどうもええ格好しぃのケがあるように思えるけえの」

与少将「下手に知らせたら、自分の名誉回復のために出しゃばってくるとしか思えんし、最悪この島に内緒で押しかけてきそうじゃな?」

提督「だよなあ……やっぱりそう思うか?」
710 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:16:00.93 ID:eLSxtmOxo

与少将「部下の不満に耳を傾けず、余所からの頼みごとを聞いて無理を強いちょるようじゃ、他にも問題ぶち起こしてそうじゃな……」

与少将「とにかく、秘密にするのは決まりじゃけえ、葛城たちは、この島の秋雲のことを口外せんようにな。ええな?」

葛城「は、はいっ」

提督「悪いな、そうしてもらえると助かる」

泊地棲姫「ナカナカ理解ノアル将官ネェ。ソウイウ人間バカリダトイインダケレド」

与少将「お前たちが良い隣人なら、わしらもそうあるべきじゃろ。わしこそ、提督がここまで善人だと思わんかったぞ?」

提督「善人? 俺がか?」

与少将「妖精に育てられた、と聞いてからは納得しちょるがの。人間嫌いと言う割に他者に対する配慮が行き届いちょる」

与少将「泊地棲姫も提督を信頼しておるようじゃが、この男のそういうところが気に入ったんじゃろ?」

泊地棲姫「ソウダッタカナ……」

与少将「む、違うのか?」

提督「……何訊いてんだお前。子姑根性出してんじゃねえよ」

与少将「わしは単純に仲良くなったきっかけを知りたいだけじゃ」

泊地棲姫「キッカケカ……強ソウダッタカラ、ダナ」

与少将「強そう?」
711 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:16:45.95 ID:eLSxtmOxo

泊地棲姫「私ガ攻メ込ンダトキノ艦娘タチハ、トンデモナイ気配ヲ纏ッテイタカラナ。ソレヲ纏メテイタ提督モ、コンナ姿デハナカッタ」

提督「あー……そうか、俺が泊地棲姫と初めて会ったときは、半分深海棲艦の姿だったもんな」

泊地棲姫「強イモノニ従ウノガ、我々深海棲艦ノ常ダガ……二度目ニ会ッタトキハ、人間ノ姿ヲシテイタカラ、少シ驚イタ」

泊地棲姫「ツイデニ、頭ヲ掴マレタノモ、アンナニ痛イ思イヲシタノモ、ソノアト優シクシテモラッタノモ、全部初メテダッタ……」ポ

戦艦水鬼改「思ワセブリナ、言イ方ヲスルナ」

与少将「提督、泊地棲姫の頭を掴んだんか……?」タラリ

提督「ああ。ちょっとあんまりなことを言い出すもんでな」

与少将「ようけ無事じゃったのぉ……」

秋雲「いやいやちょっと待って、なんで私、フリフリエプロン着た泊地棲姫にコーヒー淹れてもらってるの? こんなの絶対おかしいよ」シロメ

泊地棲姫「マダ順応デキテナイノカ」

提督「ま、しょうがねえんじゃねえか。こんな状況、来てすぐ受け入れられる艦娘も、そうそういないだろ」

戦艦水鬼改「……最上クライカシラ?」

朧「ああ、確かに、最上さんはすんなり受け入れ過ぎと言うか、図太いというか……」

大和「そうですねえ」クスッ
712 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:17:30.92 ID:eLSxtmOxo

夕張「私も信じたい気持ちと信じられない気持ちがせめぎあってて混乱するわ……正直、こんな状況おかしいと思うんだけど」アタマカカエ

天津風「そうよね、こうやって話し合えるって言うのなら、なんで私たちは戦わなきゃいけないのかしら……」

提督「ん? なんで、って、そりゃ話し合えないからだろ? わかってんじゃねえか」

天津風「そ、そういうことじゃなくて……!」

提督「そういうことだよ。人間だってそうじゃねえか。話し合いで解決できないから、同じ人間同士でも争うし殺しあう」

提督「さっきの秋雲の話だって、他人が自分の理想や都合を押し付けてくるから、秋雲が苦しんだって話だぜ?」

天津風「……!」

提督「俺たちも、話が通じない奴は、人間も深海棲艦も、艦娘であっても関係なくぶっ潰すつもりでいるんだ」

提督「お前たちが出会った深海棲艦たちも、話し合うつもりのない、手前の感情を押し付ける連中ばっかりだった。それだけの話じゃねえの?」

天津風「そ、そうかもしれないけど……そうだって言うんなら、この島の住人はそういう深海棲艦とは違うっていうのね?」

提督「俺からは島に住むならそうお願いしてるが、俺は人間と仲良くしたいと思ってねえ。争わないように疎遠になりてえんだ」

天津風「……なんなのよ、それ」ジトッ

武蔵「そういう反応も仕方ないとは思うが、提督自身が人間に嫌な思いばかりさせられ続けていたからな」

武蔵「この島の艦娘も、捨て艦だけじゃなく、冤罪を受けたりセクハラされたりと、人間に嫌な思いをさせられた艦娘ばかりだ」

武蔵「提督は、そういう人間たちから艦娘を庇い続けてきたのだからな。人間嫌いに拍車がかかってもやむをえまい」

葛城「さっきの話につながってくるわけね……」
713 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:18:16.10 ID:eLSxtmOxo

秋雲「ちょっと待ってなに今の話!? って言うことは朧も捨て艦とかにされたってこと!?」ガタッ!

朧「……まあ、朧はそうだったけど」

秋雲「よく生きてたねえ! ううっ、本当に良かったよぉ!!」ダキツキッ

朧「ちょっと、そういうの鬱陶しいから、やめて」ヒキハガシ

秋雲「……オボロガ、冷タイヨ……」ヨコタワリ

提督「……朧、秋雲とはなんかあったのか?」

朧「艦のときに、一緒に五航戦の護衛についてただけです」

提督「なるほど。知った顔がいりゃあ、頼りたくもなるか」

春風「話が少しそれましたが……こちらの司令官様の意図としては、人に虐げられた艦娘や、厭戦的な深海棲艦の保護のため……」

春風「人間と距離を置くべく、武器を置いて話し合いをなさっている、という理解でよろしいんですね?」

提督「まあ、そんなとこだな。うちの連中を面倒な目に遭わせたくねえ。外と関わって嫌なことに巻き込まれるのは最低限にしたい」

天津風「……だからこの島の中は、深海棲艦がいるのに穏やかな風が吹いてるのね。ほとんどの特別海域って、暗雲が立ち込めてるし」

瑞鳳「こっちのお菓子もおいしいし……この島、なごみ成分が多すぎよ?」モグモグ
714 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:19:00.83 ID:eLSxtmOxo

間宮「あら、泊地棲姫さんの焼いたクッキーも好評みたいですね」

瑞鳳「えっ、そうなの!?」

泊地棲姫「フフフ、当然ダ」テレッ

あきつ丸「こう言ってはいけないかもしれませんが、親近感がわいてしまうでありますな」

葛城「言っちゃってるじゃない……」

那智「以前はここに住む深海棲艦はル級だけだったんだがな。随分と賑やかになったものだ」フフッ

中将「……提督は、本当に良い仲間に恵まれたな。この島を戦いに巻き込まぬよう、儂も働かねばならん」ウム…!

神州丸「……ときに、少将殿? あの手紙は、提督殿に渡したでありますか?」

与少将「む! いかんいかん、忘れとった! 提督! お前さんに個人的な手紙が届いちょるぞ!」サシダシ

提督「ん? 手紙? 誰からだ……宛先が俺と、吹雪?」ウケトリ

朧「……提督、この人、もしかしてあの吹雪の……」

提督「あいつか……! 朧、悪いが吹雪を呼んできてくれるか?」

朧「はいっ!」
715 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:19:45.96 ID:eLSxtmOxo

 * それからしばらくして 食堂内 *

吹雪「お待たせしました司令官! 吹雪をお呼びですか?」

提督「おう、懐かしい奴から手紙が届いたぞ」

吹雪「懐かしい? 誰でしょう」

朧「あれ、まだ封を切ってなかったんですか?」

提督「宛先が俺と吹雪だからな。見るなら揃って見ないと駄目だろ。ほら吹雪、早く隣に座れ」チョキチョキ

吹雪「は、はい! それで、この手紙は……」チャクセキ

提督「吹雪からだ。S提督んとこのな」

吹雪「S提督の!? あの改二になってた吹雪ちゃんからですか!?」

提督「ああ。差出人の名前は吹雪じゃねえけど……」ガサッ

 (封書の中から出てくる数枚の写真と手紙)

吹雪「!! これは……この人がS司令官です!! うわあ、懐かしい……!!」ウルッ

提督「……隣にいる女、吹雪に似てるな?」

吹雪「ほ、ほんとですね……でも、明らかに私や、あの吹雪ちゃんよりずっと大人に見えますよ」

与少将「ちょいと邪魔するぞ……ああ、解体された吹雪っちゅうんは、この娘じゃったか」

提督「解体!?」
716 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:20:30.72 ID:eLSxtmOxo

与少将「艦娘の解体処分には2種類あるんじゃ」

与少将「艦娘をまるっと艦として全部処分する解体と、艦娘の娘の部分を切り離して艦の部分だけを解体する解体とな」

提督「そんなことできるのか……」

与少将「これも妖精さんのオーバーテクノロジーっちゅう奴じゃ。後者はわしも数回しか事例を知らんがの」

与少将「この吹雪の場合は、後者を選んで、かつ、成人年齢にまで成長した状態にしてもらったと聞いちょるぞ」

提督「……」マユヒソメ

与少将「この制度を利用すれば、提督が危惧してそうな『悪いこと』もできるんじゃが……」

与少将「妖精さんたちの厳しい審査を通らんと、切り離すタイプの解体はできんけえ、安心せえ」

提督「妖精が審査するのか……なら、信用しても良さそうだ」

吹雪「司令官、早くお手紙読みましょう!」

 *

提督「……」

吹雪「……良かった、二人とも幸せそうで」グスッ

吹雪「差出人の名前が全然違ってたのも、艦娘を辞めた時に名前を変えたからだったんですね……!」

提督「まさか艦娘辞めてS元提督と二人で暮らせてるなんてな。大団円じゃねえか、こうなりゃこっちからは何も言うことはねえ」

吹雪「何を言ってるんですか! お祝いの一言くらい返してあげないと!!」

提督「そうか……?」
717 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:21:15.79 ID:eLSxtmOxo

朧「提督、こっちの吹雪も元気だって、伝えてあげてもいいと思いますよ?」

提督「……まあ、そういうことなら……」

吹雪「司令官、私たちも写真撮りましょうよ! 送ってあげて、私たちも元気だって、安心させてあげましょう!」

提督「わかったよ……青葉呼んで撮ってもらうか」アタマガリガリ


朧「……艦娘って、辞められるんだ……」

中将「艦娘にも、戦う以外の違う人生があっても良いだろう。軍人も死ぬまで戦い続けるわけではない」

朧「!」

中将「君も、艦娘を辞めたいと思ったのかね?」

朧「……いえ、朧は、ずっと艦娘のままでいると思います」

中将「ふむ……そうかね」

朧「はい。辞める気はないんですけど……艦娘を辞めて人間になるとき、名前って変えられるんですか?」

中将「ああ、変えられるようにした。その理由の一つに、彼女たちが元艦娘であることを知られないようにするため、というものがある」

中将「過去に、海軍の内情を探ろうとした輩が、元艦娘の女性を拉致しようとした事件があった」

中将「その時は幸いにもその女性が返り討ちにしたのだが、名前がそのままでは危ないということで、好きに名乗ってもらうことになったのだ」

朧「そうだったんですか……」
718 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:22:16.13 ID:eLSxtmOxo

中将「それに、そうでなくとも、戦争が終わるなどして仮に退職者が多数現れれば、同じ名前の娘が何人も現れることになってしまうし」

中将「たとえ同じ艦であっても、別個体である以上、個性がある。人間になろうとする事情も様々であろう」

中将「新しい人生を歩むのだ、いつまでも艦娘であったころの名前に縛られていることもあるまい」

朧「……それで、あの吹雪は『マナツ』なんて名前に変えたんですね」

朧(たぶん、あの司令官が轟沈させた『吹雪』のことを、思い出させないために……かな)


 * 夕方 *

伊8「戻りました」

提督「よう、お疲れ。遠くまで出張ってくれてありがとな。ちょっといいか?」テマネキ

伊8「はい?」

提督「中将の船を超長距離魚雷で狙ったとき、船の周囲以外に艦娘はいたか?」ヒソヒソ

伊8「いえ、艦隊はいなかったと思いますけど」ヒソッ

提督「もし、ひとりだけ、ぽつんといたら?」

伊8「単艦ですか? ……もしかしたら、感知漏れの可能性はあります」

提督「そうか……じゃあ、秋雲を巻き込んでても仕方ねえか」

伊8「??」
719 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:23:15.99 ID:eLSxtmOxo
ということで、今回はここまで。
720 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/09/09(月) 11:18:06.48 ID:UXEBM6NC0
解体の後…全解体と人間化両方採用してるSSは初めて見た。
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/09/24(火) 14:19:17.47 ID:yEQdH6x50
墓場島鎮守府から読み始めてとうとう追いついてしまった...
とっても面白くて、艦これSSの中でも特に好きな作品です!!
応援してます!!
722 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:38:11.46 ID:JF/c9yZ6o
それでは続きです。
723 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:39:01.40 ID:JF/c9yZ6o

 * 数日後 *

 * 墓場島鎮守府 埠頭 *

吹雪「司令官! 青葉さんがいらっしゃいましたよ!」

青葉「……お久し振りです、司令官」

提督「ん……? どうした青葉、いつになく元気がねえな?」

青葉「実はちょっと困ったことがありまして……司令官、青葉は以前、J少将の鎮守府にいたことをお話ししましたよね?」

提督「ああ」

青葉「そこに所属していた阿賀野さんが、行方不明なんですよ……」

提督「阿賀野? それ、いつ頃の話だ?」

青葉「実は、先月の末から……もうすぐ1か月が経とうとしています」

青葉「大怪我をしていたのに、無理に病院の外を出歩いて……松葉杖が付近で見つかりましたが、それ以外まったく手掛かりがなく」

吹雪「司令官、それってもしかして」

提督「そういうことだろうな。青葉、阿賀野なら来てるぞ」

青葉「へっ? き、来てるってどういうことですか!?」

提督「深海棲艦になって流れ着いてきたんだよ」

青葉「……はいィ!?」
724 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:39:45.67 ID:JF/c9yZ6o

 * 翌日 *

 * 墓場島鎮守府 埠頭そばの倉庫内事務所 *

青葉「というわけで、皆さんには事情を話さず連れてきたわけですが」

提督「まあ、昨日の青葉の反応からして、こうもなるよな」

朧「無理もないと思います」

矢矧「」マッシロ

能代「」マッシロ

衣笠「あああ、ふたりともしっかりしてー!!」アセアセ

酒匂「ぴゃああ……ほ、本当に、阿賀野お姉ちゃん?」

深海阿賀野「ソウヨ〜? ホラァ、矢矧モ能代モ、ナンデ立ッタママ、気ヲ失ッテルノヨォ〜!」プンスカ!

青葉「いやぁ、姉妹艦が深海化してたら、普通にショックだと思いますよ……?」

提督「おそらく阿賀野としては、全然変わってないどころか、体だけの悪いところが治っただけって感覚なんだろうなあ」

酒匂「うん、リアクションそのものは阿賀野お姉ちゃんとそっくり……っていうか、そっくりじゃなくてお姉ちゃんなんだよね?」

深海阿賀野「ソウヨ〜? 私ハ最新鋭軽巡、阿賀野型ノネームシップ、阿賀野ナンダカラ〜」ムネハリッ

青葉「衣笠のことも覚えてるんですよね?」
725 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:40:31.28 ID:JF/c9yZ6o

深海阿賀野「ナントナク、ダケドネ〜。ソウイエバ、秋月型モ、イナカッタッケ?」

朧「今日は秋月型は来てないんですね」

青葉「あ、はい。大人数になりますし、またケーキを顔で受けさせるわけにもいかないので」

提督「ケーキを顔で受け止める前提なのかよ」

青葉「二度あることは三度あるって言うじゃありませんか」

提督「そこは三度目の正直って言えよ。確かに俺も青葉の言うほうになりそうな気がするけどよ」

朧「否定しないんですか……」

提督「まあ、来ないのは正解かもな。パンプキンマスクのロゼッタが、もう涼月とは会いたくないとか言ってたし」

青葉「それも無理もありませんかねえ……」

衣笠「あのー、提督さん? 阿賀野ちゃんは、体のほうはもう大丈夫なんですか?」

提督「一応な。確か阿賀野は、鉄骨落ちてきて背骨やったんだっけか?」

衣笠「はい、そうです。一時期は二度と歩けないって妖精さんにも言われてて、私たちもすごくショックで……」

提督「妖精に言われたのか? そうなら、あとでこっちの工廠妖精にも精密検査してもらわねえとまずそうだな?」

朧「大丈夫だと思いますよ。いまは厨房のお手伝いもしてくれてますし、その時に体の異常を訴えたりはしてないみたいですから」
726 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:41:17.34 ID:JF/c9yZ6o

朧「それに、厨房でも活動できるようにするために、妖精さんたちに頼んで、阿賀野さんに義足の艤装を作ってあげたんですよね?」

提督「まあな。まあ、身体に問題がありゃ、取り付ける時に気付くか……」

深海阿賀野「ウフフ、コノ脚、トッテモ助カッテルワヨ〜」アシフリアゲ

深海阿賀野「コレノオカゲデ、キッチンデ、オ塩トカ小麦粉トカヲ、撒キ散ラサナクテ済ムシ!」

矢矧「あ、阿賀野姉さんが何かやらかしたんですか!?」

提督「別に意図してやらかしたわけじゃねえよ。あの義足をつける前は、ブースターみたいな脚で地面を浮いて走ってたんだが……」

提督「ヘリコプターみたいに風がすごくてな。阿賀野がいるといろんなものが風圧で取っ散らかっちまってた、ってだけだ」

深海阿賀野「ワザトジャ、ナイワヨー?」

提督「わかってるよ、責めてるわけじゃねえから心配すんな」

能代「も、申し訳ありません! 姉がご迷惑をおかけして……」

提督「迷惑じゃねえし、仕方ねえだろあの脚じゃ。今は厨房手伝ってもらってんだ、迷惑どころか助かってるぜ」

能代「そ、そうなんですか……?」

深海阿賀野「ソウヨ〜? 比叡サンカラモ、炒飯ノ味トカ褒メラレタンダカラ〜」

矢矧「え……?」

青葉「ここの比叡さん、お料理上手なんですよ。お墨付き頂いたってことは、結構な腕前ってことですよね?」

提督「比叡が言うんだからそうだと思うけどな。生憎、俺はまだ食べたことねえんだけど」
727 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:42:00.35 ID:JF/c9yZ6o

能代「何から何まで、私たちの鎮守府のトラブルに更に巻き込んでしまって、本当に申し訳ありません……」

矢矧「もとはと言えば、私たちの司令官だったJ少将が、あんなことをしなければ……」

衣笠「うん……」

提督「しつけえな、終わった話だからもういいだろ。そういう口実で呼べっつったのは確かだけどよ……ん?」

深海阿賀野「……」

提督「阿賀野、どうした?」

深海阿賀野「……J少将……?」

能代「……阿賀野姉?」

深海阿賀野「ソウダワ……J少将……ワタシ、ドウシテ、忘レテイタノカシラ」メラッ

朧「阿賀野さんの目から、青い炎が……!」

深海阿賀野「アイツガ……アイツガ、青葉サンタチヲ殺ソウトシテ……アイツヲ、止メナキャ……!」ゴゴゴゴ…

青葉「し、司令官! これ、まずくないですか!?」

提督「……大丈夫だ、阿賀野。J少将なら俺たちが始末したぞ」

深海阿賀野「……ソウ、ナノ……?」

提督「おう。鎮守府ん中でメディウムたちにも会ったろ? あいつらにも手伝ってもらったんだ」
728 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:42:45.54 ID:JF/c9yZ6o

朧「あ、朧もそのとき一緒にいた気がします。はっきり覚えてませんけど……アタシ、ヲ級になってたんでしたっけ?」

衣笠「ヲ級!?」

提督「ああ、そういやそうだったな。初春もル級になってて、軽巡棲姫もいたんだっけな」

矢矧「……ル級? 駆逐艦娘が、ル級やヲ級になっていたんですか?」

提督「朧たちは、J少将とZ提督が作ってた深海棲艦の弾丸に撃たれたんだ」

提督「その弾丸の材料にされた、ヲ級とル級の力が二人に宿ったんだろう、って考えてる」

深海阿賀野「ソレジャ、アナタタチガ……J少将ヲ……」

提督「ああ。俺たちがぶちのめして、溶岩の中に放り込んだ。あいつは骨も残さず全部燃えて、今はこの世のどこにも存在しちゃいねえよ」

深海阿賀野「……ソウ……ソレジャア、アイツノセイデ……青葉サンヤ、能代タチガ、傷付クコトハ、モウ、ナイノネ……?」

提督「ああ。少なくとも、J少将やその部下のK大佐は、もうこの世にいない。安心しな」

深海阿賀野「……良カッタ……」グスッ

深海阿賀野「能代モ、自分ヲ撃ッタ、ッテイウカラ……心配、シタノ……!!」ポロポロッ

能代「阿賀野姉……大丈夫! 私はもう、大丈夫だから……!」

深海阿賀野「良カッタ……良カッタヨォ……!」ウエーン

矢矧「阿賀野姉さん……!」

酒匂「……良かったねえ……」グスン
729 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:43:30.76 ID:JF/c9yZ6o

 *

深海阿賀野「ウン、ナンカ、泣イタラ、イロイロスッキリシチャッタ!」ニコニコー

能代「……」

深海阿賀野「? 能代、ドウシタノ? ナンカ難シイ顔シチャッテ」

能代「提督さん? どうして阿賀野姉さんが元に戻らないんですか!?」

提督「ああ?」

矢矧「阿賀野姉さんの心配事がなくなったんですよ? こういうのは、恨みや悩みが消えたら深海棲艦から元に戻るんじゃないですか!?」

提督「なんだそりゃ? そんな簡単に深海棲艦から艦娘に変われてたまるかよ、都合のいいこと言ってんじゃねえ」

提督「俺たちもいろんな事例を見てきたが、いまのところ轟沈以外の方法で深海棲艦が艦娘に変わる手段はねえってのが結論だぞ」

能代「阿賀野姉に沈めって言うんですか!?」

提督「艦娘にしたいなら今んところはそうするしかねえし、それも確実じゃねえからやめとけって話じゃねえか」

酒匂「えー? なんかいい方法ってないのー?」

提督「俺が知る限りの情報はもう全部喋ったぞ。手前に都合のいい情報がねえからって適当なこと言わせようとすんな」

矢矧「そこでどうして投げ遣りなんですか!」

提督「……」

朧「あ」
730 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:44:15.85 ID:JF/c9yZ6o

青葉「矢矧さん駄目ですよ司令官にそんなこと言っちゃ」

矢矧「でも!」

提督「お前らなあ、阿賀野が深海棲艦になるに至った轟沈自体は、俺たちには何も関係ねえんだぞ?」

提督「ただ阿賀野拾ったってだけの俺たちが、なんでそこまで面倒見なきゃいけねえんだよくっそ面倒臭え」ケッ

能代「」

矢矧「」

酒匂「」

青葉「あー、ついに出ちゃいましたかあ、司令官の伝家の宝刀『面倒臭い』が」

衣笠「よく言うの?」

朧「よく言いますね」

深海阿賀野「別ニ、無理ニ戻ラナクテモ、イイト思ウケド? 阿賀野、アノ鎮守府ダト、オ荷物扱イダッタシ〜」

提督「なんだよ、本人が戻る気ねえんじゃねえか」

青葉「いえいえ、お荷物扱いされていたのは理由がありまして。阿賀野さん、青葉より先にJ少将を怪しんでたらしいんですよ」

青葉「阿賀野さんが冷遇されていたのもそのせいらしく、青葉もそれを知らなくて、阿賀野さんと協力体制を取ってなかったんです」

深海阿賀野「アレ、ソウダッタッケ?」クビカシゲ
731 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:45:00.51 ID:JF/c9yZ6o

青葉「そうですよぉ、青葉が調べてた時も、阿賀野さんのほうからわざわざ協力を申し出てくださったのに……」

青葉「それを青葉が巻き込みたくなくてお断りしちゃったんですから」

青葉「ふたりで協力していたら、今とはまた違う結果になっていたかもと思って、本当に申し訳なく思ってるんですよ?」

深海阿賀野「……ソノ辺リ、忘レチャッタナー」

提督「なんにしても今の阿賀野じゃ戻れねえだろ。深海棲艦が普通の鎮守府に滞在できるようなルール、どこにもねえだろ?」

青葉「……それはまあ、そうですねえ」

提督「こっちで身柄預かりでいいじゃねえか。阿賀野に会いたきゃ、青葉と一緒に会いに来りゃいい」

能代「何から何まで……本当に申し訳ありません」

提督「だから謝んなって、しつっけえな。悪いのはJ少将だ」

矢矧「私も厚かましいお願いをして、すみませんでした……能代姉さん、私たちは阿賀野姉さんを元に戻す方法を考えましょ?」

能代「そうね。艦娘から深海棲艦になったんだもの、逆だってあり得るはず。確実な条件を見つけ出さないと……」

深海阿賀野「アンマリ根詰メナクテ、イイワヨ〜?」

衣笠「あの、提督さん? ひとつ気になったんですが、阿賀野ちゃんは、ここに来た当初は健康だったんですか?」

提督「来た当初……せいぜい腹を空かしてたくらいだな。見る限り普通に過ごしてたぞ」
732 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:45:45.97 ID:JF/c9yZ6o

衣笠「そうですか。だとすると、背中の怪我って深海棲艦になったから治ったんですかね……」

提督「……そんな簡単に治るか? 歩けないほどってなると、多分脊髄だろ? 船で言う竜骨がやられてたから一生もんだって話だよな?」

提督「もしそうだとして、艦娘の阿賀野がベースなら、何かしら後遺症なり障碍なりが残ってておかしくねえと思うが」

提督「それがないって言うのなら、肉体が一度滅んでリセットされたって可能性のほうが高えな。なんかの拍子に生まれ変わったとか……」

衣笠「生まれ変わるって……あるんですか?」

提督「死んで体も失った奴が戻ってきた事例があるんでな。阿賀野は体の悪いところが消えたんだし、短絡的にそう考えてもいいだろ」

朧「っていうか、提督も体を作り変えられたときがありましたよね」

提督「あー、あったな」

衣笠「えっ」

朧「そういう提督は、3回くらい死んだり復活したりしてませんでしたっけ」

提督「そんなにあったか?」

朧「大佐に撃たれたときと、魔力槽に入って体を全部作り変えられたときと、島が燃えた時に天国に行ってたっていうときと……」

朧「あ、エフェメラにバラバラにされたときも含めると4回ですか」

提督「言われてみればそうだな……」

衣笠「えっ? えっ? どういうこと?」
733 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:46:30.37 ID:JF/c9yZ6o

提督「意外と死にかけてんだな、俺って」

青葉「今更ですけど、ちょっとのんきすぎますよ司令官?」

衣笠「ね、ねえ、体を作り変えられたとか、バラバラにされたっていったい何!? 大丈夫なんですか!?」

提督「落ち着け。今は俺よりも阿賀野だろ、阿賀野」

朧「とりあえず、阿賀野さんはもう一度妖精さんと明石さんに精密検査してもらいましょうよ」

朧「提督は……また、人間ドックに診てもらいます?」

提督「いや、俺もう人間じゃねえし。それに、またあの本営の船医みたいな変な奴に目を付けられたくねえし」

提督「ドックの話を向こうに持ちかけた時点で、あの連中が目ぇ輝かせて立候補してきたらと思うとうんざりするぜ」

青葉「そういうことでしたら信頼できる筋へ手配しますよ?」

衣笠「誰に頼もっか?」

提督「いやもう面倒臭えから放っといてくれよ……俺は大丈夫だっつの」
734 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:47:15.86 ID:JF/c9yZ6o

能代「とにもかくにも、阿賀野姉が私たちの鎮守府に戻ってくるには、どうにかして艦娘に戻る方法を考えないといけないわね」

酒匂「そんな方法、あるのかなあ……ここの提督さんもわからないってくらいだし」

矢矧「絶対に何かあるはずよ。戻ったら本営にも掛け合ってみましょ!」

能代「提督、それまで阿賀野姉のことを、どうかよろしくお願いします」

矢矧「私たちは、元に戻す方法を頑張って調べてみます!」

酒匂「阿賀野姉、わたしたち、また来るからね!」

深海阿賀野「ウフフ、ミンナアリガトウネ〜」

提督「いや、本営に連絡入れるのはやめとけ」

衣笠「? そんなにまずいんですか?」

 <アオバチャーン!

朧「あれ? あれは……」

那珂「青葉ちゃーん!!」タタタッ

青葉「おおっと、那珂ちゃんお久し振りです!」
735 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:48:00.80 ID:JF/c9yZ6o

那珂「久し振り〜って、本当に久し振りだよー! いまのいままでどこ行ってたのー!?」

那珂「最近来てくれないから、カメラに向かってポーズする練習できなくて困ってたんだからねー?」

衣笠「そんなことしてたの?」

青葉「ええまあ、一応、カメラの腕を買われまして……」テヘッ

那珂「青葉ちゃんが素敵に撮影してくれるんだけど、ポーズとかカメラに向かうアングルとか目線とか、一緒にチェックしてるんだ〜」

衣笠「え〜、青葉、頼りにされてるじゃない!」

青葉「いやあそれほどでもぉ〜」テレテレ

提督「……そうだよなあ、この件、おそらく那珂も関わってんだよな」

那珂「? 提督さん、一体どうしたの?」

提督「一応確認するが、お前たちは阿賀野がここにいること、ここにいる艦娘以外の誰かに話したか?」

矢矧「いえ、誰にも。J少将の件で聞きたいことがあると聞いていましたので、鎮守府の臨時の責任者にはそう伝えています」

能代「深海化の話もですが、阿賀野姉がいること自体、聞かされていませんでしたから、誰にも話はしていません」

提督「ならいいけどよ……お前たち、阿賀野がここにいること、深海棲艦になったことは、そのまま誰にも他言するなよ? 本営にもだ」

矢矧「……なにか、あったんですか?」
736 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:48:45.59 ID:JF/c9yZ6o

提督「ああ、あったんだけどよ。理由、話さなきゃいけねえよなあ」ハァ…

酒匂「……すっごい嫌な予感がする」

提督「ああ、いい話じゃねえから覚悟を決めて聞いてくれ、J少将の部下だったってんなら、なおさら他人事にはできねえはずだ」

衣笠「え……?」

提督「J少将とK大佐が、いろいろ悪いことしてたのは知ってると思うが……まず、深海棲艦を武器に作り変えてた話は知ってるよな?」

青葉「はい、よーく知ってますよ?」

提督「J少将たちは、ある組織にその弾丸の製作を任せていたらしいんだが、そこでは他にもろくでもねえ研究をしてるんだよ」

提督「そのうちのひとつが、艦娘を深海棲艦にできないか、って研究だ」

矢矧「な……っ!?」

深海阿賀野「ソレッテ、私ミタイニシタイ、ッテコト……?」

能代「なんでそんなことを……」

提督「それができりゃあ、わざわざ深海棲艦を鹵獲する必要がなくなるからだよ。『武器の素材』の調達のために危険を冒さずに済む」

能代「素材って……まさか、深海化した艦娘のことを言ってます!?」アオザメ

提督「ああ。人間が携帯して扱える武器として有効なら、J少将のように運用を考える連中がいておかしくねえ」
737 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:49:45.75 ID:JF/c9yZ6o

提督「俺も悪い冗談だと思いたいが、艦娘も深海棲艦も、人間さえも実験材料にするような狂った連中だ」

提督「そいつらの耳に阿賀野が深海化した話が届いたとしたら、とてもとてもおとなしくしてるとは思えねえんだよ」

青葉「その組織の人間が、阿賀野さんに接触してくる……あるいは連れ去りに来る可能性がある、と言うことですか」

提督「来るだろうな。艦娘のころの記憶を持ったまま深海棲艦化したんだぜ、研究のサンプルとしては最高の素材なんじゃねえの?」

深海阿賀野「チョット、ヤダァ!?」

提督「とにかく、阿賀野のことが連中に知られなきゃいいとは思っているが、かといって楽観視もできないと思ってる」

提督「ただでさえJ少将がいた鎮守府だ、そのコネや遺志や悪縁といった残りカスを後生大事に隠し持ってる馬鹿がいないとも限らねえ」

提督「阿賀野が深海化して生きてるってことを、お前たちの鎮守府で大っぴらに話すのはやめておけ、と、俺は言いたいな」

提督「仮にそれが知られれば、阿賀野が危険にさらされるだろうし、そうなればこの鎮守府の平穏も脅かされる」

提督「最悪、阿賀野に手が出せないなら、二匹目のドジョウを見越して、J少将鎮守府の艦娘を、特にお前たち阿賀野型を連れ去る恐れもある」

酒匂「ふぇ……!?」ゾッ

青葉「司令官の心配はごもっともですが、不祥事のあったばかりで特警の目も厳しい鎮守府で、そこまでしますかね?」

提督「逆に好都合だと思うがな。まだ混乱が落ち着いてないなら、この機に乗じてひとりふたりいなくなっても誤魔化せるんじゃねえか?」

提督「そもそも、その特警だって信用できんのか? そいつらの息のかかった連中じゃねえだろうな?」

青葉「……そこまで疑われると、返す言葉がありませんねえ」
738 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:50:45.93 ID:JF/c9yZ6o

提督「俺が人間不信で疑り深いってことは認めるが、それでも俺は用心しとくに越したことはねえと思ってるぜ」

提督「どっかの鎮守府で不要になった、行き場を失った艦娘がそこに連れられて実験材料になったって話も、不確かながらあるくらいだ」

提督「組織につながってる奴が紛れ込むには、今の混乱具合こそが、ちょうどいい頃合いじゃねえかな」

那珂「ねえ、提督さん?」

提督「ん?」

那珂「さっき那珂ちゃんも関係あるって言ってたけど、もしかして那珂ちゃんがいた養成所もそこなのかな?」

青葉「……!!」

那珂「一週間以上休まず戦い続けて、合格出来たら艦娘として正式採用されるって言われてたけど……」

那珂「あれはもしかして、那珂ちゃんたちに負荷をかけて……轟沈させて、深海棲艦にならないかを実験してたのかな……?」

提督「……そうだな。俺はそうだと思ってる」

那珂「そう……なんだ」

提督「確たる証拠があるわけじゃねえ。だが、連中が艦娘の深海化の研究をしてるって話を時雨から聞いてからは、多分そうだと思ってる」

提督「お前が来た時に聞いた養成所の話も、艦娘になるために試験があるなんて話も聞いたことがねえ」

提督「那珂がいた場所が、その研究施設とイコールかどうかはわからねえが、繋がってることは確かだろうな」

那珂「……」ウツムキ
739 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:51:30.87 ID:JF/c9yZ6o

青葉「……司令官は、これからどうするおつもりですか?」

提督「どうするも何も、今の俺たちじゃどうにもできねえよ。これまで通り、俺たちの意図を感付かれないように息を潜めるしかねえ」

提督「俺たちには、そういう組織があるってレベルの知識しかねえんだ。大雑把にしか場所もわからなきゃ敵戦力もさっぱりだ」

提督「海軍にいる連中の、誰がそこの関係者かすらもわからねえのに、場所を探し出して攻め込むなんて、成功すると思うか?」

青葉「今は雌伏の時、と仰りたいわけですね……」

提督「青葉みたいに勘が鋭いなら潜入捜査もありだろうが、連中の得体が知れない以上、それもあまりお勧めしたくねえな」

提督「それから、仮に連中が阿賀野のことを知らないとしても、この島が狙われる要素が別にある」

青葉「と、仰いますと……」

提督「ひとつは、俺たちが、大佐やJ少将といった組織と通じている人間を始末している、ってとこだ」

提督「俺たちがあいつらにとっての顧客やスポンサーを殺しているとしたら、逆恨みされててもおかしくねえ」

提督「あいつらには警戒されていると同時に興味を持たれてると思ってる。良くも悪くも、な」

提督「それから、この島に住んでいる深海棲艦が、連れ去りのターゲットにならないかも心配だ」

提督「この海域から出てきた深海棲艦が、この島に帰ってくることが分かっているなら、待ち伏せして鹵獲しようと考えるかもしれねえ」

矢矧「姫級や鬼級も大勢確認されているというのに、そんな無茶をするでしょうか……?」

提督「やるんじゃねえか? むしろできるんなら絶対やりたがるだろ。それこそ俺たちの常識で考えるような話じゃねえ」

矢矧「……そこまでの相手なんですか」
740 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:52:16.00 ID:JF/c9yZ6o

提督「ま、あいつらが直接かかわってこないとしても、俺たちはあの連中とは無駄に因縁がある」

提督「もし情報が手に入って戦りあうことができるんなら、奴らはただ殺すだけで済ますつもりはねえ……!」ゴゴゴ…

青葉「し、司令官落ち着いてください! 怖いですよ!?」

提督「ん? ああ、悪い悪い」

朧「……あいつらのせいで、一緒にいた妖精さんが犠牲になりましたからね。提督が怒るのも無理はないと思います」

衣笠「そんなことがあったの……」

青葉「ところで司令官? 老婆心ながら……これまで出会った海軍の人たちには、その組織の関係者がいる可能性はないんですよね?」

提督「んー、心配は心配だが、よく話す奴らはその可能性が低そうだな。まず中将やX大佐はありえないだろうし……」

矢矧「奴ら……?」タラリ

能代「中将閣下を……」タラリ

朧「細かいことは気にしないほうがいいですよ」ヒソッ

提督「X大佐の叔父のT大将やH大将も、深海棲艦の武器化に反対してJ少将に消されかけたクチだ、つるんでるとは思えねえ」

提督「与少将も深海棲艦との話し合いを是としているし、祢大将も魔神の力を使って背後関係を読んだが、そういう組織とは無関係だった」

酒匂(まじんのちから?)クビカシゲ

青葉「え、そんなことまでわかるようになったんですか……」
741 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:53:01.81 ID:JF/c9yZ6o

提督「おう。あと、顔色だけだとわからねえのはH大将の部下のW大佐だが……J少将と繋がってる感じはねえな。分別もあるようだ」

提督「あと怪しいのは……昔、大佐んところにいた連中くらいか? つっても、O大尉は大佐に目障りに思われて追い出されてるし」

提督「そのO大尉と親しい城塞鎮守府の知大尉も、関わってるとは思えねえ。大佐の太鼓持ちだった士官も付き合いが3か月じゃあな……」ウーン

朧「とりあえず、提督が良く関わる人たちは、そういう組織とのつながりは薄そうだ、って感じですか」

提督「多分だけどな。一度、全員魔神の力で背後関係を読みたいところだが……」

提督「俺たちが付き合ってる海軍の人間は、そこまでしなくても良さそうな連中は多いな」

提督「いずれにしろ、今は関係者がどこにいるかわからねえ。祢大将には協力を仰いだが、連中もそうそう尻尾は出さねえだろう」

酒匂「それじゃ、私たちはどうしたらいいの?」

提督「やっぱり黙ってるしかねえな。あいつらに対抗する以前に、あいつらの動きを察知する手段が、俺たちにもお前たちにもなさすぎる」

酒匂「……そっかぁ」

矢矧「で、でも、それじゃ、阿賀野姉の深海化を元に戻す調査すらできなくなりますよ!?」

提督「お前らが襲われて阿賀野に二度と会えなくなるよりはましだろ?」

矢矧「そ、それはそうですけど……」

提督「それより、いま俺が喋ってて気付いたんだが、お前たちはこれからどうなるんだ?」
742 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:53:45.81 ID:JF/c9yZ6o

提督「J少将がいなくなったんだ、次の司令官がこれから来るんだろう?」

青葉「ええ、そうですね。その提督のなり手が、人手不足のため難航しているようです」

衣笠「最悪、みんなばらばらの鎮守府に引き抜かれそうな感じだよね」

提督「もし、新しく来る奴が、その組織とつながりがあるんなら、そいつを絞めて情報吐かせようと思ったんだが……」

能代「」

矢矧「」

酒匂「ぴゃああ……提督さん、本気なの?」

提督「それが一番手っ取り早いだろ。お前らを利用しようって奴らに容赦なんかいるか?」

衣笠「……ねえ、提督さんていつもこんな感じなの?」

朧「こんな感じですね」

那珂「いつもこうだよね〜」

提督「とにかく、大丈夫なんだろうな? 次に来るお前らのトップは」

青葉「そんなに心配なら提督も一緒に来て、その人に会ってくださいよ〜」

提督「……」

青葉「そこで面倒臭い顔しますか!? 言い出しっぺのくせに!」

提督「島から出たくねえ……なんで人間がいる場所に戻んなきゃなんねえんだよ、くっそうざってえ」
743 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:54:30.88 ID:JF/c9yZ6o

青葉「んもー、そういうとこはつくづく厭世的と言いますか、面倒臭がりですよね司令官は……」

提督「しょうがねえだろ。そもそも俺は深海棲艦と魔神のハイブリッドだぞ? 人間社会に溶け込めなくて当然なスペックなんだ」

青葉「それはまあ……メディウムの皆さんを率いている時点で、人間社会には戻れませんもんね。戻る気もないでしょうけど」

酒匂「ねえねえ、深海棲艦と『まじん』のハイブリッドって、なんのこと? っていうか『まじん』って何?」クビカシゲ

提督「ああ、俺は半分深海棲艦なんだよ。で、もう半分は艦娘とも深海棲艦とも異なる『魔神』っつう異界の化け物だ。まともな人間じゃねえ」

能代「」

矢矧「」

酒匂「」

衣笠「」

青葉「……司令官、もうちょっと言い方ってもんがあるんじゃないですかねえ?」

提督「事実だろ?」

深海阿賀野「エー、スッゴーイ! 提督サン、深海棲艦ナノ?」

提督「半分はな」

酒匂「阿賀野姉、簡単に受け入れ過ぎじゃない?」タラリ
744 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:55:15.76 ID:JF/c9yZ6o

能代「と、ところで、メディウム……って何の話?」

提督「ああ、能代はメディウムを知らないか。なら、一人くらい紹介してやるよ、丁度よくこっちに来たみたいだしな」スタスタ

提督「……」コンコン

矢矧「? どうしてドアをノックしてるんです?」

 扉<コンコン

能代「ノックが帰ってきた……!」

 扉<ガチャー

ハナコ「魔神様? ハナコをお呼びになりましたでしょうか?」ベンザニチャクセキ

衣笠「!?」

酒匂「と、トイレの花子さんー!?」

ハナコ「はい、わたくし、ウォッシュトイレのメディウム、ハナコと申します」ペコリ

能代「この子がメディウム……なんですか?」

提督「おう。ハナコが座ってる洋式トイレがその罠なんだけどな」

能代「罠?」

酒匂「……あ」

矢矧「……!」セキメン

衣笠「?」
745 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:56:01.57 ID:JF/c9yZ6o

ハナコ「わたくしのウォッシュトイレは、強力な水流で身も心も綺麗にいたします。お座りになられます?」

提督「と、ハナコは言ってるが、実際にはその強力な水流で座った相手をすっ飛ばす罠だ」

能代「罠……なんですか」

ニコ「そう、メディウムは罠の化身。そのメディウムたちを統括、使役しているのが魔神様というわけだよ」ヌッ

酒匂「ぴゃああ!?」ギョッ

青葉「ど、どこから出てきたんですかニコさんは!?」

衣笠「い、いきなり提督さんの背後から現れた気がするけど……」

提督「最近気付いたんだが、なんか、俺の体を通って出てくるみたいだぞ」

深海阿賀野「エー、スッゴーイ! ドウヤッテルノー?」キラキラッ

那珂「阿賀野ちゃんすごいね、全然驚いてないよ?」

ニコ「……ぼくも、こんなに瞳を輝かせた深海棲艦は見たことないかな」

能代「あ、あの、こちらの女の子は……」

提督「んー……魔神を蘇らせた魔神の眷属、ってとこか。俺にとっては姉貴みたいなもんだ」

ニコ「そう、ぼくが魔神様のお姉ちゃんだよ」ドヤッ!

那珂(提督さん、ニコちゃんの扱いがうまくなってる……)タラリ
746 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:57:02.12 ID:JF/c9yZ6o

提督「それから、メディウムに関してなんだが、確か、衣笠や矢矧、酒匂はX大佐の船で他のメディウムにも会ったろ?」

朧「会ってますよね。秋月たちがケーキを顔に乗せてた時、マーガレットさんがいましたし、ロゼッタさんもいましたから」

酒匂「えっ、あの子たちがメディウムなの!?」

提督「あの船にいた俺の仲間は、艦娘以外は全員メディウムだぞ。どんな罠かはお前らの想像に任せるが」

深海阿賀野「トコロデ、矢矧ガ、サッキカラ顔ガ赤インダケド」

ハナコ「あら。あなたさまは確か」

矢矧「人違いです!」カオマッカ

ハナコ「いえいえ、よーく覚えていますよ、あなたさまのお尻のかたちを」

矢矧「人違いですっっ!!」ミミマデマッカ

能代(あの罠にかかったんだ……)

提督(かかったのか……)

酒匂「お尻のかたちで覚えてるんだ……」

矢矧「人違いですってばっっ!!」

 *

青葉「とりあえず、青葉は皆さんをお送りするので、H大将への報告も兼ねて、舞鶴まで行って参ります」

提督「舞鶴? ……ああ、そうか、J少将はH大将の部下だったな、そういえば」

提督「余計なお世話だと思うが、X大佐経由でも話を通しとくか。J少将の後釜に、くだんの組織が絡んでそうな奴が入らないように」

青葉「H大将なら、すでにそのあたりも考慮していただいていそうですけどね」

提督「それもそうか……ま、所詮、俺は海軍の部外者だ。あっちでなんとかしてもらうしかねえな」
747 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:59:45.65 ID:JF/c9yZ6o
今回はここまで。


>720
この世界の艦娘は、深海棲艦と同じく得体の知れないもの、という世界観ですが、
ちょっとくらいはこういう救いがあってもいい世界になっています。
妖精さんの匙加減というか、ご機嫌次第的な面もかなりありますが……。
748 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 22:56:46.07 ID:FOj89Oplo
今回は、最近の提督と、その能力について。
ちょっと閑話休題的なお話です。
749 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 22:57:31.56 ID:FOj89Oplo

 * 数日後 *

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

提督「はぁ……」

霞「何よ、その溜息は。しゃきっとしなさい、しゃきっと」

提督「そうは言うけどよ……ろくに寝てねえんだぞ。来週も政府との会談控えてるっつうのに、毎晩誰かしら相手させられて……」ポ

霞「……」

提督「すげえんだぞあいつら。体がっちり抑えつけられて、何が何でも離れようとしねえし……」セキメン

霞「……」

提督「やっぱあいつら化け物だ……それを相手できてる俺も化け物だ……つうか、化け物じゃねえと生きてられねえ」カオマッカ

霞「……この……」

提督「ん?」

霞「このクズがぁぁぁああ!!」ドロップキック

提督「ぐあ!?」ゲシーッ

霞「なんて話をしてんのよ!! あんた自分が何を喋ってたか理解してる!?」ミミマデマッカ

提督「……ああ!」

霞「いま気づいたみたいなリアクションしてんじゃないわよっ!!」
750 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 22:58:16.37 ID:FOj89Oplo

提督「マジやべえな俺……感覚麻痺してるじゃねえか。俺の羞恥心、どこに置いてきた?」アオザメ

霞「一応はそういう危機感持ってるのね。完全に向こう側に行ったのかと思ったわ」ハァ…

提督「そりゃ、エロなんて大っぴらにしていいもんじゃねえからな……マジで悪かった。こりゃ俺も敷波に叱られるな」ウナダレ

霞「まあ、そうね。あんたですらそうなんだもの、みんながそういう話を吐き出せる場所を作ってあげないと……」

提督「なんか問題あったのか?」

霞「あったに決まってるわよ! あんたのせいで! あんたがそういうことを許容したから、その手の話をしたがる人が増えてるのよ!!」

提督「……」アタマカカエ

霞「キス程度の話ならともかく! 夜がどうだったとか、あんたの……その、ゴニョゴニョ……がどうだったとか!」セキメン

霞「食堂みたいなみんながいる場所で、そういう話で下手に盛り上がられると困るのよ……!」

霞「特に赤城さんとか! めちゃくちゃ顔を真っ赤にしてて、見てらんないっていうか、いたたまれない感じなんだから!」

提督「マジか……そりゃよろしくねえな。そういう話は、さすがに時と場所を選ばねえと……」

早霜「ないなら作りましょうか」ヌッ

提督「うお!?」ビクッ

霞「きゃっ!? い、いきなり現れないでよ!!」ビクッ

早霜「フフフ……ごめんなさいね」

提督「いつから潜んでやがった? ……いや、まあそれはいいや」

霞(深入りを避けたわね……)
751 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 22:59:00.84 ID:FOj89Oplo

提督「早霜、なんかいいアイデアがあるのか?」

早霜「はい。バーを作るのはいかがでしょう」

提督「……バー、ねえ」

早霜「静かで落ち着いた雰囲気の中でお話していただくには、相応しいと思います。無論、そういった席にはお酒も付き物でしょうし」

早霜「飲み屋のスタイルでは騒々しくなることが容易に想像できますので……しっとりとしたムードで語り合えば、騒々しくはならないかと」

霞「そうね……そういうことが好きな人は、そっちに行ってもらえると助かるわ。騒々しくなることは避けられない気もするけど?」

提督「やれるんなら任せたいけどよ。店主は誰に頼むんだ?」

早霜「それは私が。憧れていたんです……バーテンダーに」

提督「お前の希望でもあると?」

早霜「はい」ウナヅキ

提督「そういうことなら進めようぜ。お前が店主なら、お前のルールに従わせよう」

霞「それじゃ、早速場所を手配しないと。上下水道の準備も必要でしょ」

提督「ああ。取り急ぎ、明石とタチアナと泊地棲姫に声をかけるか」

 神殿の扉<バーン!

リサーナ「面白そうなお話、聞いちゃったぞーぅ!」ピョーン!

霞「な、なに!? 次はなんなの!?」
752 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 22:59:46.54 ID:FOj89Oplo

提督「何しに来たんだリサーナ……」

リサーナ「うふふっ、ハヤシモちゃんだったかなー? このバニーさんがあなたのお店のお手伝い、してあげてもいいわよ〜?」

提督「いくらなんでも話が早すぎねえか。この部屋、盗聴器でも仕掛けられてんのか?」キョロキョロ

リサーナ「あら、リサーナちゃんはちょっと耳がいいだけよ〜? マスターのこととなればなおさら! ぜーんぶ聞き逃さないんだから!」

早霜「……司令官」

提督「ん?」

早霜「採用したいのだけれど、いいかしら」

リサーナ「キャー! 雇ってもらえるのぉ!? ありがとー!」ハヤシモニダキツキー

霞「ちょっと、いいの? 判断早すぎじゃないの!?」

提督「いや……確かに即決過ぎるが、意外と適任じゃねえか?」

提督「バーにいてもまあまあ不思議じゃねえ恰好だし、早霜ひとりで店を回せるかってのもあるしな」

リサーナ「さっすがマスター! 理解があるマスターで嬉しいわー!」テイトクニダキツキー

提督「お、おい、抱き着くな」

リサーナ「えー? いいじゃない、マスターと私の仲なんだし!」グイグイ

提督「そうじゃなくてだな……」セキメン
753 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:00:30.72 ID:FOj89Oplo

リサーナ「もう、マスターったらそんなふうに腰を引かなくても……あ」

霞「?」

早霜「ああ。司令官の主砲の仰角が」

霞「なにやってんのよこのクズがあああああああ!!!」ウシロマワシゲリ

提督「うおっ!?」カイヒ

リサーナ「きゃっ!?」

霞「避けてんじゃないわよ! 一撃入れさせなさい!」ヒャクレツキック

提督「リサーナまで巻き込んで蹴ろうとすんじゃねえよ! しかもどう見ても一撃じゃねえし! ここ最近マジで足癖悪ぃなお前!」ガード

早霜「霞さん、ごく一般的な男性の生理現象にそこまで怒るのは、少々行き過ぎではないでしょうか」

霞「時と場合を考えたら怒るべきよ!」

早霜「それから、そのように足を高く振り上げては、あなたの下着が見えてしまうと思うのですけれど」

霞「!!」マッカニナッテスカートオサエ

リサーナ「あー、そっかあ〜。マスターったら性欲らしい性欲がなかった、って、みんなによく言われてたものねぇ」

リサーナ「それであの子も安心して、足技を繰り出してたわけね? んもう、マスターったら罪づくりなんだからあ」

霞「……」プルプルプル
754 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:01:17.74 ID:FOj89Oplo

提督「俺は何も言ってねえし見ようともしてねえぞ……つっても、こういうのは理屈じゃねえしなあ」

提督「霞がブチ切れる前に対策するか。要は、男の体が反応しなきゃいいんだろ」

 ズズズズ…

提督→女提督「……これでどうだ?」

リサーナ「!?」

霞「!?」

早霜「……なるほど、物理的にアレをなくしたと言うことですか」

女提督「ああ。体形は俺のおおもとになった深海棲艦準拠だが、そこまで不自然じゃねえよな?」

女提督「とりあえずこの姿なら、体がそういうもんに反応することもねえだろ。ちょっと慣れねえが、執務に支障は出ないはずだ」

早霜「良いのではないでしょうか。皆さんがその姿に納得してくださるかどうかは別ですが」

リサーナ「うーん、髪型はベリーショートのままかあ……似合ってるとは思うけど、伸ばしたほうが可愛いよ〜?」ホッペツンツン

女提督「別に可愛くするのが目的じゃねえからな。霞もこれで安心だろ?」

霞「……」アングリ

女提督「くっそ驚いてるな……」

霞「っ……ちょっと! 女になったんなら言葉遣いには気をつけなさいよ! くそとか言うのは禁止よ! 禁止!!」

女提督「なんでだよ面倒臭え……中身は変わってねえんだぞ」
755 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:02:00.95 ID:FOj89Oplo

リサーナ「……」

 モニュ

女提督「!?」

リサーナ「うーん、お胸も控え目ねえ?」モニュモニュ

女提督「そ、そんなのはどうでもいいだろ!? 離れろおい!」セキメン

 扉<コンコンコン ガチャー

リンメイ「師父ー! ワタシ新しいメガバズソーのワザ開発したカラ見て欲しアナタ誰ヨーーーー!?」ズギャーン!

女提督「ん? リンメイか? ここに来るなんて珍しいな」

初春「む……? 貴様、もしや提督か!?」

深海海月姫「ドウシタノ、ソノ姿」

リンメイ「ちょと待つヨロシ! なんで師父、女になたか!?」オロオロ

リサーナ「女の子に抱き着かれてもぉ、オトコノコの部分が反応しないように、ってことらしいわよー?」

リンメイ「なんでそんな話になたヨ! 理解デキナイネ!」アタマカカエ

初春「……ふむ、まさか貴様がその姿になろうとはのう」

深海海月姫「思ッテタヨリモ、可愛イワネ」

女提督「可愛いとか言うな、くすぐってぇ」アタマガリガリ
756 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:02:45.78 ID:FOj89Oplo

初春「髪は伸ばさぬのか? 似合うと思うがのう」

女提督「別におしゃれしたくてこの姿になったわけじゃねえからな。俺が男であるために起こり得る弊害を未然に防ぐためだ」

初春「ふむ、そうであったか……のう、提督よ。少ししゃがんでもらえんかの」

女提督「? なんだ?」シャガミ

初春「よいせ、と」ダキツキー

女提督「!?」

霞「!?」

初春「このままわらわを持ち上げてみるんじゃ」

女提督「な、何言ってんだお前」

初春「良いから頼む」

女提督「……」ヒョイ

初春「……うむ、悪くない。背丈も似ておるし、長門も不在。わらわが疲れた折には、こうしてもらおうかのう……」スリスリ

女提督「長門の代わりかよ……」セキメン
757 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:03:31.27 ID:FOj89Oplo

深海海月姫「提督」ズイ

女提督「……お前はどうした」

深海海月姫「前カラ思ッテイタケレド、アナタ、女ノ子ノ姿、可愛イワ」ピトッ

女提督「」

深海海月姫「デキレバ、ズットソノ姿デ過ゴシテモラエルト、嬉シイノダケレド」ギュ…

女提督「」

リサーナ「なんか、想定してたことと逆効果になってない?」

早霜「そのようですね……フフフ」

霞「……」アタマカカエ

 ズズズズ…

女提督→提督「……」

初春「む? どうして戻ってしまうんじゃ!?」オロサレ

深海海月姫「残念……ドウカシタノ?」
758 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:04:16.19 ID:FOj89Oplo

提督「いや、いろいろとおかしいだろ。なんで俺が女の姿なのに引っ付いてくるんだよ」

初春「わらわはそれで良いと思うておるが?」

深海海月姫「私、可愛イモノハ好キヨ?」

提督「……おい霞」アタマカカエ

霞「諦めなさい。あんたはそういう星のもとに生まれたのよ」トオイメ

提督「……」

早霜「司令官、現実逃避も結構ですが、バーの新設についてはよろしくお願いしますね」

提督「くそ、わかったよ……つうか現実逃避って言うな。逃げてんのは霞も一緒だろ」

霞「誰も逃げてないわよっ!?」


リンメイ「師父が男でなくなたら、師父を師父と呼べないネ! 師母か? 師姉か? ワタシなんと呼べばいいかー!?」アイヤー!

リサーナ「マスターなら、もうもとに戻ってるわよ〜?」
759 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:05:00.73 ID:FOj89Oplo
短いですが、今回はここまで。
760 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/12/20(金) 08:12:51.39 ID:OK09/+WcO
ほしゅ
761 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:01:33.68 ID:JxF4gpdbo
長らくお待たせしました、続きです。
登場人物が勝手にごちゃごちゃ動き回って、まとめるのが大変でした……。
762 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:02:19.18 ID:JxF4gpdbo

 * 数日後 *

 * 墓場島沖 海軍巡視船内 会議室 *

R提督「お久し振りです、提督」ケイレイ

提督「よう。堅苦しい挨拶は抜きで頼むぜ」

不知火「皆さん、お元気そうで何よりです」ケイレイ

隼鷹「久し振りだねえ、元気だった〜? 不知火は相変わらず真面目だねえ」ヒラヒラ

飛鷹「ちょっと隼鷹、あなたこそ真面目にしなさいよ! すみません提督、隼鷹が失礼な……」

隼鷹「飛鷹、大丈夫だって! 提督は普通に接してた方がいいんだよ〜」

飛鷹「あなたねえ……」

提督「いやいや、隼鷹の言う通り、楽にしてくれていいぞ。俺もこうなんだ、お前も逐一目くじら立てるのも面倒臭えだろ?」

飛鷹「そ、そういうことでは……というか、めんどうって」アッケ

不知火「飛鷹さんもどうかお気になさらず。司令は攻撃的でない限り、相手の態度に頓着しない方ですので」

隼鷹「それで提督、あたしたちがここに来た時点で、ある程度は察してくれたと思うんだけど」

提督「ああ、隼鷹たちも舞鶴だったんだよな。ってことは、矢矧たちの新しい提督になるのがR提督ってことになるんだな?」

R提督「はい、改めて私からご報告いたします。J少将とK大佐の配下の艦娘を、私どもが引き取ることになりました」
763 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:03:03.55 ID:JxF4gpdbo

R提督「先日この島に来ていたという阿賀野型や衣笠、そして彼女たちと仲の良い秋月型は我々の艦隊に編入する予定です」

R提督「理由は聞いていませんが、彼女たちからはこの島への往来を許可して欲しいという話を聞いています」

R提督「それならば、この島のことを知っている隼鷹もいる、私たちの鎮守府に来たほうが都合も良いでしょう」ニコ

提督「いいアイデアだけどよ……思ったんだが、本当にそれで良いのか? あんたたちを散り散りにして僻地へ飛ばした奴の部下だろ?」

R提督「それはあくまで私の落ち度ですので。それに、彼と彼の部下は別人です。何から何まで同じと言うわけではないでしょう」

R提督「勿論、我々の方針に賛同できない艦娘もいるでしょうから、その場合は、別の提督のもとへ行ってもらうことになりますが」

提督「舞鶴の中でも艦娘を率いてる提督が何人かいるんだよな? そっちに行かせるってことか」

R提督「はい。正直なところ、私がすべての艦娘を引き取るには少々手が足りず……というのも、少将の鎮守府はそれなりに大所帯でして」

R提督「そのため、艦娘の希望を確認したうえで、舞鶴にある他の鎮守府にも艦娘を引き取っていただくよう、協力をお願いしております」

R提督「ちなみにK大佐の艦娘はJ少将の艦隊の別動隊扱いだったこともあり、K大佐の艦娘はごく少数です。阿武隈たちがそうですね」

提督「なるほど。で、その余所の鎮守府の提督連中は信用できるのか?」

R提督「そういう方々を募ったつもりですが……なかにはちょっと問題があると聞いている提督がいますね。例えば止准尉ですとか」

不知火「准尉?」

R提督「はい。なんでも、徹底的に夜戦を嫌い、結果として味方の損害を恐れて艦娘を出し渋って閑職に追いやられたと言う話でして」
764 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:03:49.40 ID:JxF4gpdbo

R提督「少し前に横須賀から舞鶴に移ってきた提督ということもあって、私も初めてお会いすることに……」

提督「待て待て、なんか聞いたことあるぞそいつ。確か、うちにいた川内や若葉が以前そいつのところにいたはずだ」

隼鷹「えっ、マジで?」

提督「ああ。若葉が言うには、命令に背いて夜戦に入って敵の輸送艦を潰したら馘を言い渡されたって。あいつら、それでうちに来たんだよ」

飛鷹「ええっ? 敵を見逃そうとしてたってことですか!?」

提督「見方によっちゃ、お前の言う通りなんだけどよ。そいつの場合はとにかく夜戦が怖い、夜が怖い、って話らしいんだ」

飛鷹「私も航空母艦ですから、夜が怖いというのは理解できますけど、提督がそれを言っては……それで提督業をやっていけてるのかしら」

隼鷹「今回の艦娘の受け入れの候補になってるんなら、まだ提督を続けてるはずだよねえ?」

提督「なんでそんなざまで提督続けてんだ? とっとと辞めりゃいいのによ」

R提督「私もそう思って、彼を知る方に提督を続けている理由を訊いているのですが、当人からは何の回答もないそうで」

不知火「お辞めになる気もないと?」

R提督「ないようですね。意地になっているのか、何が何でも提督を続けたい理由があるのか……」

R提督「逆に辞められない理由があるのかもしれませんね。その辺りを詳しく訊ければ良いのですが」

提督「なんだか面倒臭え奴だな……それじゃ艦娘もそいつんところには行きたがらねえだろ?」

R提督「そうですね。たとえ民間出身者であっても、艦娘を率いる提督業に就くのならば大尉として着任するのが通例です」

R提督「艦娘の立場から見ても、そんな提督のもとへ行きたいと思う艦娘はいないでしょうね……」
765 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:05:03.29 ID:JxF4gpdbo

提督「とはいえ、俺は俺で准尉で島を任されたんだがな。そういう前例があるから、そいつも解任されてないってことになるのかねえ」

R提督「いやいや、提督のケースこそ例外中の例外ですよ! 本来ならばそんなことはあってはならないことです!」

R提督「提督として着任したのに初期艦すらつけてもらえなかったと伺っていますし、どうしてそんな横暴が許されたのか……!」

隼鷹「提督の場合はホント例外としか言いようがないんだよねえ。妖精さんと話せる能力を疎まれて、それで島流しされたんでしょ?」

提督「だな。俺の直属の上官が、鎮守府内の妖精から手前の悪事や悪評をを聞き出して言いふらさないように、って話だからな」

R提督「……その件については、同じ海軍の人間として本当に申し訳ありません」

提督「謝んなくていいぞ。俺の着任の話にあんたが関わることはなかったんだし」

提督「それに、俺も都合がいいからと享受してた面もあったしな。山城じゃねえが、俺も不幸に慣れっこになってたんだ」

飛鷹「享受できるような事態があったんですか……?」

隼鷹「妖精とお話ししてても眉を顰められない環境は、提督にとっても居心地が良かったって聞いてるよ? だよね提督」

提督「ああ。海軍内でも、妖精と話ができる人間は珍しいみたいだから、変な目で見られてぶっちゃけ居心地悪かったしな」

飛鷹「そうなんですか……?」

隼鷹「まあ、あたしたちも見えない人たちからは気を使われてるよね。そういうところは、ちょっと一線引かれてる感じしない?」

飛鷹「私たちの場合はそれが当然だと思って、妖精さんたちともどもそれが慣れっこになっちゃってるけど……」

不知火「R提督は妖精さんが見えるのですか?」

R提督「いえ、残念ながら……」

隼鷹「あたしたちと付き合いが長いから、その辺は察してくれてるけどね。気を遣わせてると言えば、そうかなぁ」
766 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:05:48.65 ID:JxF4gpdbo

R提督「話がそれましたが……その艦娘の移籍先の振り分けのため、移籍先候補の鎮守府の提督が、明日、私の鎮守府に集まる予定です」

提督「明日?」

R提督「はい、各人どのような人物かを知るため、顔合わせも兼ねて懇親会を予定しました」

R提督「同じ舞鶴にいるにしても、なかなか顔を合わせる機会のない方もいますし……」

R提督「私もしばらく舞鶴を離れてましたので、私自身の顔見せも兼ねて、ということで」

提督「ふーん。集まるのは、艦娘が移籍する先の鎮守府の提督だけか?」

R提督「はい。戦力が十分に整っている鎮守府や、艦娘が多すぎて育成に余裕がない鎮守府などからは、不参加の連絡が来ていますね」

R提督「艦娘の振り分け自体は、その懇親会を経てから行うことにしています」

提督「……あんた、J少将の話はどこまで聞いてる?」

R提督「どこまで……と仰いますと、J少将が艦娘をよく思っていなかった、と言う話のことですか?」

提督「いや、それよりもっとやばい話だ。あいつが艦娘をどう利用しようとしていたか……」

R提督「利用……深海棲艦の武器化の話なら聞いています」

提督「……艦娘で実験をしていた、という話は?」

R提督「そこまで行くと、あくまでも噂で、というレベルですね」

R提督「過去に艦娘で実験していた提督が捕まったと聞いてからは、もういなくなったものだと思っていましたが……」

提督(……嘘はついてねえみたいだな。むしろ……)
767 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:06:33.68 ID:JxF4gpdbo

提督「まあ、あんたは知らないことの方が多いか。ショートランドに行かされてたんだもんな」

R提督「……お恥ずかしながら」

隼鷹「あ、もしかして、提督はJ少将みたいな、艦娘をどう扱うかわからない人のところに艦娘が配属するのを危惧してる感じ?」

提督「まあ、そうだな。行った先の鎮守府で不幸になって轟沈したんじゃ気分が悪い」

提督「たとえくそ野郎の部下であっても、話せばわかる艦娘たちなら、せめて行く先は吟味してやりてえな」

隼鷹「相変わらず艦娘には甘いねえ」ニヒヒッ

飛鷹「隼鷹、あまり茶化しちゃ駄目よ? 真面目に考えてくださってるんだから」

隼鷹「わかってるって。だから嬉しくて笑ってるんじゃないのさ」

R提督「提督の心配もごもっともです。我々が、これから艦娘を任せる提督たちがどんな人物か、ちゃんと見抜く力を持たないと……」

提督「見抜く力ねえ……言っちゃ悪いがR提督、あんた結構なお人好しだろ? 大丈夫か?」

隼鷹「うーん。それはあるかもねえ?」

飛鷹「確かに、そういうところはありますね」

提督「だよな? ちょっと頼りねえ気がするな」

R提督「んむむ……」

不知火「皆さん手厳しいですね」
768 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:07:18.56 ID:JxF4gpdbo

提督「んじゃあ仕方ねえな……面倒臭えが青葉にも言った手前だ、俺が心配なら送る先の連中を俺がひとりひとり見てくしかねえよな」

隼鷹「へっ?」

提督「艦娘の安全を第一に考えるならそれしかねえ。悪いが半日……いや、3時間くらい待っててくれるか。舞鶴に行く準備をしてくる」ガタッ

飛鷹「えっ」

不知火「司令?」

提督「俺もその会合に出る。艦娘を引き取るっつう、そいつらの顔を見ておきたい。不知火、お前も準備できるか」

不知火「は、はい!」

隼鷹「どゆこと? 提督も舞鶴に来んの!?」

提督「ああ。これからだと舞鶴に着くのは多分夕方だろ? R提督の鎮守府で一晩寝泊りできると助かる。頼んでいいか?」

R提督「し、承知いたしました!」ビシッ

飛鷹「えっ、ちょっと、どういうこと!?」

R提督「てっ、提督の護送任務だ! 総員、第一級の警戒態勢!! H大将閣下へ報告っ!!」

隼鷹「あーそっかぁ、将来の国賓だもんねえ。すごいことになっちゃったなあ」

飛鷹「のんきに構えてる場合じゃないわよっ!?」
769 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:08:03.43 ID:JxF4gpdbo

 * 翌日 早朝 *

 * 舞鶴 R提督鎮守府内の一室 *

 (シングルサイズのベッドを二つ繋げたベッドに3人が横たわっている)

提督「ん……何時だ」パチリ

提督「……5時15分。だいたいいつも通りだな」ムクッ

 グイ

提督「ん?」

リ級「スヤァ……」テイトクニシガミツキー

提督「……」

不知火「んむ……! おはようございます、司令」ムク…

提督「おう、おはよう……おいリ級、お前も起きろ」

リ級「ンー……」スリスリ

提督「寝ぼけてる場合じゃねえぞ、ったく」

不知火「猫みたいですね」
770 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:08:48.43 ID:JxF4gpdbo

提督「こいつ、連れてくるときは真面目そうだったんだがなあ……泊地棲姫んところの古株だっていうし」

提督「場所が場所だけに、姫級連れてくるわけにもいかなかったから、人選として丁度いいかと思ってたんだが」

リ級「フワァ……モウ朝カ」メヲコスリコスリ

提督「本当に大丈夫かよ」

リ級「……任務ノコトハ忘レテイナイカラ、大丈夫ダ」ノビーッ

リ級「ソウイエバ、ココハ人間ノ鎮守府ダッタンダナ。イツニナク、安心シテ眠レタ気ガスル……」

提督「眠れた、って、お前、ここのほうが安心できるのか?」

リ級「ソウジャナクテ、ココニ丁度イイ抱キマクラガ、アッタカラダ」

提督「……」

リ級「私ダッテ人間ハ好キジャナイシ、人間ノ拠点ダカラ警戒モシテルゾ?」

提督「その割にはぐっすりだったじゃねえか」

リ級「ソコハ自分デモ驚イテル。スゴク安心デキタカラ、姫様ガ、オ前ニ執着スルノモ、ワカル気ガスルナ」

提督「加古みてえなこと言いやがる」

不知火「同じ重巡級ですから、感覚も似ているのではないでしょうか」

提督「そういうもんかね……」
771 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:09:33.45 ID:JxF4gpdbo

 * その後 *

 扉<コンコン

飛鷹「おはようございます、提督。朝餉の準備ができましたが、入ってもよろしいでしょうか?」

提督「ん、入ってくれ」

飛鷹「失礼いたします」チャッ ガラガラ…

提督「わざわざ持ってきてくれたのか」

飛鷹「はい、食堂に案内しても良かったのですが、注目されるのもお嫌かと思いまして」

提督「まあ、確かにな……」

飛鷹「提督は、和食と洋食とどちらになさいます?」

提督「2種類用意してくれたのか?」

飛鷹「はい。お好きなほうをどうぞ」

提督「んじゃ、俺はたまには洋食にすっかな……ふたりはどうする」

不知火「不知火は和食を希望します」

リ級「私ハ、パントコーヒーノホウガイイナ」

飛鷹「かしこまりました。少々お待ちください」カチャカチャ…
772 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:10:33.44 ID:JxF4gpdbo

リ級「ナンダ? ココデ調理スルノカ?」

飛鷹「ええ、簡単なものだけですが。本来なら言うべきではないのですが……お食事の中に毒が入っていては困りますでしょう?」ジュワ…

リ級「!?」

飛鷹「ですので、私もこちらでお食事をご一緒させていただきます」

提督「なるほど、最初から出来合いを盛り付けされてたんじゃ、食い物の中に何か仕込まれる可能性もあるから、と……」

提督「で、秘書艦のお前が同じものを食べるってことは、毒見役も引き受けてる、ってことか」

リ級「……大丈夫ナノカ?」

提督「俺たちに信用してもらうために、飛鷹が俺たちと同じものを作って食べるっつってんだ。そこまでやるなら心配しなくても大丈夫だろ」

飛鷹「私自身は信じていますが……ほかの誰が深海棲艦にどんな思いを抱いているかは、さすがにわかりませんし」

飛鷹「海軍の中に深海棲艦とは相容れないと考えている者がいるとお考えならば、このくらいのことはするべきかと」

提督「実際にここに来た時も、リ級が姿を見せた時は固まってた奴がいたもんな。恨まれてないとは言えねえか」

飛鷹「ええ。もしも姫級や鬼級といった深海棲艦が来ていたら、更に混乱していたと思いますよ?」

リ級「ン? ……私ハ、侮ラレテイル、トイウコトカ?」ムスッ

不知火「現実的な問題として、姫級は勿論、戦艦や空母の深海棲艦を、普通の鎮守府が受け入れられるかと言えば、厳しいと思います」

不知火「重巡クラスなら……失礼ながら、数を揃えればぎりぎり抑え込めそうな気はしますね」

リ級「……舐メラレテイルナ」ムスッ
773 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:11:33.08 ID:JxF4gpdbo

提督「そうは言うがお前、戦闘中は特殊装甲と黄色いオーラ出せるんだろう? 泊地棲姫に聞いたぞ?」

リ級「マア、出セルケド」

飛鷹「え゛っ、そうなの!?」ヒキッ

提督「いいリアクションしやがるな。ほれ、この飛鷹がこのくらいビビってるんだ」

提督「お前が本気出してたら、ここに寝泊りできたかどうかも怪しいもんだぜ? 言うだろ、能ある鷹は爪を隠す、って」

リ級「……ソウイウコトニ、シテオクガ」ムー

リ級「鷹……Hawk、トイウナラ、コノ艦娘ノホウガ、ソウナンダロウ?」

飛鷹「え?」

不知火「なるほど。飛鷹さんのお名前に『鷹』の文字が入っているから、ですか。よくお気付きですね」

リ級「姫様ガ、提督ノ母国語モ勉強シロ、ト、言ッテイタカラナ。身ニ着ケテイレバ、艦娘トノCommunicationモ捗ル」

リ級「漢字ノ勉強ガ、イチバン大変ダッタケド、意味ガワカレバ、オモシロイト思ウヨウニモナッタ」

提督「へえ、すげえなお前」

飛鷹「本当……こんなに勤勉だったなんて。見た目が普通だからと侮っていた自分が恥ずかしいわ」ウーン

リ級「フフ、モット褒メテイイゾ」ニッ
774 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:12:33.29 ID:JxF4gpdbo

不知火「……不知火も侮っていました。あなたがそこまで泊地棲姫を信頼していたとは思っていませんでした」

リ級「姫様モ言ッテルガ、チカラヲ持ツモノガ上ニ立ツノガ、私タチノ常ダ。ソシテ強イ個体ハ、必然的ニ知恵ヤ知識モ持ッテイル」

リ級「ダカラ姫様ノ言ウコトニハ、私モ従ッテイル。強イ者、賢イ者ニ従エバ、ソレダケ生存率モ上ガルシナ」

飛鷹「その言い方だと、忠誠と言うより、生存競争に生き抜くため、って感じがするのだけれど……」

リ級「ソノ認識デ、間違ッテイナイ。人間ニ対スル敵意ヲ抑エラレナイカラコソ、強イ個体ヲ頼ッテ、ソレヲ成ソウトシテイタ面モアル」

飛鷹「……!」

リ級「タダ、ソノ思考ガ、私ソノモノカラ出テイタモノカハ、定カジャナイ。強イ個体ニ影響サレル者モ、少ナカラズ、イルシ……」

リ級「コノ男ノオカゲデ、人間ト争ウ必要ガ、ナクナリツツアル。私ノ考エモ、今デハ変ワッテキテイル」

飛鷹「なるほど……興味深いわ。では、その話の続きは、朝餉を取りながら聞かせてもらえるかしら」コトッ

提督「目玉焼きか……長らく久し振りなものが出てきたな」

飛鷹「そうなんですか?」

提督「島じゃ卵もそれなりに貴重品でな。料理に使うことはあるが大量には使えないから、こうして一人一人に出すことがあまりないんだ」

提督「養鶏でもしようかと思ったが、それはそれで大量の飼料が必要になるし、狭い島の中じゃ限度がある」

リ級「……ナンダ? 初メテ見ルハズナノニ、食ベタ記憶ガアル……」ウーン

不知火「大丈夫ですか?」

提督「……それも、艦だったころの記憶かもな。とりあえず、冷めないうちにいただくか」テアワセ
775 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:13:18.32 ID:JxF4gpdbo

 *

不知火「ごちそうさまでした」ペコリ

飛鷹「はい、お粗末様でした」

リ級「……コノコーヒー、酸味ガ強イナ……」

飛鷹「お口に合いませんでしたか」

リ級「イヤ、オイシイト思ウ。タダ、好ミカト言ワレルト、普段飲ンデイルコーヒーノ方ガ、飲ミヤスクテ好ミ、トイウダケダ」

提督「R提督はこういうのが好きなのか?」

飛鷹「はい。お気に入りの中でも、比較的飲みやすいものを選んだつもりです」

リ級「クセガアルガ、慣レレバ、コレガ好キトイウノモ、マアマア納得デキルナ」

提督「俺はもうちょっと濃いめに淹れたほうがいいな……」

リ級「エ……本気カ?」

不知火「司令は飲み物に関しては、渋めのほうが好みですから」

リ級「私ハ、苦イコーヒーハ、好キジャナイ……」

提督「あくまで俺の好みなんだから、お前はお前で好きなのを飲んでいいぞ? 俺の好みのほうが珍しいだろうし」
776 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:14:03.54 ID:JxF4gpdbo

提督「泊地棲姫んとこの深海棲艦は、いわゆるアメリカンコーヒーが好きな奴のほうが多いんだよな。米軍艦だった奴らが多いせいか?」

飛鷹「そうなんですか?」

提督「ああ。泊地棲姫自身も真珠湾にゆかりがあるらしいし、だからこそルーツに米軍艦が多い奴が集まったんじゃねえかと予測してる」

リ級「ダカラ、タ級タチモ、アアナッタ、ッテ話ダッタナ」

提督「もしかしたら、お前もそうなるかもしれないと思ってるんだが……泊地棲姫とは長い付き合いなんだろ?」

リ級「ソレハソウダガ、ドウダロウナ? マダ、コウ……明確ナ過去ノ記憶ハ、出テコナイナ」クビカシゲ

飛鷹「? 何の話ですか?」

不知火「あの島で暮らしている泊地棲姫の配下の深海棲艦が、何名か姫級や鬼級に変異したんです」

飛鷹「え゛っ」アオザメ

不知火「付き合いの長かったル級さんも戦艦水鬼に変異しましたし、もしかしたらリ級さんも……」

飛鷹「こ、ここでそうなるのはやめてくださいね!? 洒落にならないから!!」アセアセ

提督「大丈夫だろ、多分」

リ級「多分ネ」

飛鷹「ほ、本当でしょうねえ……?」タラリ
777 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:15:51.89 ID:JxF4gpdbo
今回はここまで。

本来向かっていたはずのシナリオの辻褄があわなくなって、
いろいろ書き直しながら進んでいますので、このスレで終わるか怪しくなってきました……。
778 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:53:18.98 ID:eOSul5Hco
続きです。

今回はちょっと【影牢〜もう一人のプリンセス】要素が出てきます。
779 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:54:04.17 ID:eOSul5Hco

 * R提督鎮守府内 会議室 *

飛鷹「みなさんこちらへどうぞ。H大将閣下、R提督麾下の飛鷹が、提督をお連れしました」コンコンコン

H大将「入ってくれ」

飛鷹「失礼いたします」チャッ

提督「よう。H大将も来てたのか」

H大将「……お前は相変わらずのようだな」

提督「まあな。俺がニコヤカな笑顔浮かべて仰々しく『よろしくおねがいいたします』なんてほざいたら気持ち悪いだろ?」ククッ

H大将「否定はしないが、それをお前自身が言うな」アタマオサエ

提督「まあ、俺みたいな見た目若造にタメ口利かれんのは面白くねえとは思うが、変に取り繕うのも今更って感じだしな。大目に見てくれ」

H大将「ふん……まあいい。俺も同じようなものだからな」

不知火「H大将閣下、ご無沙汰しております」ケイレイ

リ級「フーン、アイツガ、姫様ノ言ッテタ、話シ合イニ参加シテタ人間カ……」

北上「やっほー、提督久しぶりー。重巡の深海棲艦も連れてきちゃったんだ?」フリフリ

大井「北上さん!? そんなに砕けた挨拶して大丈夫なんですか!?」ギョッ!

提督「ああ、気にしなくていいぞ、俺はそのほうがいいし。北上は元気そうだな、霰たちも元気か?」
780 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:54:46.96 ID:eOSul5Hco

北上「うん、今日は二人も一緒に来てるよ。今はR提督たちのお手伝いに回ってるけど、もうすぐこっちに来るんじゃないかな」

提督「そうか、とりあえず元気なら何よりだ。それにしても、H大将は急な話だったのに、よく来れたな? 呉に行ってたんだろ?」

H大将「お前が来るとなれば、来ないわけにはいかんだろう」

H大将「今のお前は良くも悪くも超重要人物なんだ、少しは自分の立場を理解して行動してもらいたい」

H大将「そういうお前こそ、人間嫌いを公言しておきながら、突発的とはいえまさか舞鶴に姿を見せるとはな。しかも、深海棲艦を連れて」

提督「J少将とK大佐んところの艦娘をあちこちに割り振るって聞いてな。どんな奴らが引き取るのか、見に来たんだ」

H大将「それだけのために、ここに顔を出したのか」

提督「そいつらの中に『あいつら』とつながってる奴らがいるとしたら、それを見逃すわけにはいかねえからな」

H大将「なるほど、だからこそ、か」

提督「J少将とK大佐の部下だった艦娘を引き取るんだ。あいつらとしても、動向を気にする奴はいるんじゃねえか?」

H大将「そうであっても、簡単に尻尾を出すとは思えんぞ。判別する方法があるのか?」

提督「まあな。詳しくは言えないが、つながってるかくらいは見てわかるぜ」

H大将「そいつも、魔神の力というやつか?」

提督「そういうこった。内緒に頼むぜ?」ニヤリ
781 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:55:32.61 ID:eOSul5Hco

H大将「まあいい。で、その深海棲艦は、どういう意図があって連れてきたんだ?」

提督「こっちの鎮守府がどんなものか……まあ、興味本位みたいなもんだ。あとは、俺がこういう立場だってことを知ってもらうためだな」

北上「そういう意味ではインパクト抜群だったねえ」

リ級「……」ジーッ

提督「? どうした?」

リ級「アノ雷巡」

大井「!」

リ級「相当、ヤルヤツダナ」

提督「……興味あるのか?」

大井「な、なによ……やるっていうの!?」

リ級「イヤ、絶対ヤダ」

大井「」ガクッ

提督「嫌なのかよ」

リ級「ヤッタラ、オ互イ、タダジャ済マナイハズダカラ。ソレニ、提督ハ、余計ナ戦イハ、シタクナインダロウ?」

提督「まあ、そりゃそうだけどよ」

大井「な、なんなのよ、もう……びっくりさせないでよ」
782 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:56:17.08 ID:eOSul5Hco

リ級「……ヤッパリ、縄張リノ外ノ世界ヲ見ルノハ、イイコトダナ。強力ナ艦娘ノ存在ヲ知ルトイウノハ、重要ダ」ウンウン

北上「おお〜、なんか一目置かれてるよ、すごいね大井っち!」ヒトミキラキラ

大井「き、北上さんに言われると照れますけれど……なんだか複雑です」

H大将「そうだな。変に目をつけられても困る」

提督「そうか? 戦いたいわけじゃねえって言ってんだが」

 扉<コンコン

隼鷹「隼鷹でーっす、入りまーす!」

飛鷹「ちょっと隼鷹!? 大将閣下がいらっしゃるのよ!? もうちょっと慎ましやかにできないのっ!?」

リ級「ナァ……アイツモ少シ、ウルサクナイカ?」ヒソヒソ

大井「……もう、なんで深海棲艦に指摘されてるのよ」アタマオサエ

H大将「……入ってくれ」アタマオサエ

隼鷹「失礼しまーす!」チャッ

R提督「失礼いたします! おや、提督もこちらにいらっしゃっていましたか」

飛鷹「もう、隼鷹ったら……R提督からもちゃんと注意してください!」
783 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:57:02.65 ID:eOSul5Hco

満潮「失礼しま……! て、提督も来てたのね……!」

霰「んちゃ……」

提督「よう。満潮も霰も元気そうで安心したぜ」

荒潮「あらぁ、この人が噂の深海棲艦と一緒に暮らしている提督ね? 私、H大将の部下の荒潮です」

提督「おう、よろしくな。満潮たちと制服が似てるな、お前も朝潮型か?」

満潮「そうよ、荒潮は朝潮型の4番艦なの。こっちに来てからは、荒潮にいろいろ教えてもらってるわ」

提督「そうか。ふたりが良くしてもらってるなら言うことはねえ。これからもよろしく頼む」

荒潮「ええ、こちらこそ、よろしくお願いしますね〜、うふふっ」

リ級「……アイツモ、カナリ、ヤルヤツダナ」ボソッ

不知火「そうですね……」ウナヅキ

満潮「って、あんた重巡の深海棲艦も連れて来てたの!?」ギョッ

霰「びっくり、されなかった?」クビカシゲ

提督「まあ、それなりにされたな。けど、俺のスタンスを知ってもらうにはこれ以上ないだろ」

霰「ふぅん……リ級さんも、おつかれさま」

リ級「初メテ、ネギラッテモラエタ! オマエ、イイ子ダナ!」パァッ!

大井「あんなに表情豊かな深海棲艦、初めて見るわ……」

荒潮「本当ですねぇ」
784 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:58:01.73 ID:eOSul5Hco

R提督「ひとまず準備が整いましたので、私はこれから艦娘の引き渡しの候補となる提督とその秘書艦を、こちらに案内いたします」

R提督「本来はすぐに会場へ通す予定でしたが、提督がいらっしゃるということで、一時的に別の部屋に集まって待機してもらっています」

隼鷹「それじゃ早速呼びに行ってきますかぁ! あ、何人ずつ呼んだらいいかな?」

H大将「出来ればひとりずつ通してくれ。他の提督がいると話しづらいことがあるかもしれん」

R提督「承知しました、隼鷹!」

隼鷹「任務了解! 行ってきまーす!」タタッ

飛鷹「隼鷹!? H大将閣下の御前だって言ってるでしょ!?」

H大将「……まあ落ち着け。余所で見た隼鷹や、あの艦娘に比べたらまともだ。うるさくしなくていい」

飛鷹「よ、よろしいんですか……?」

大井「余所の隼鷹さん……ああ、先日あの鎮守府で見た、あの酔っ払いまくりの」ウヘェ

荒潮「そこにいたPolaさんも、すごかったですよね〜。全裸でワインボトル抱えて歩いてたのは驚きました〜」

提督「なんだそりゃ……ポーラ? 海外艦か?」

大井「イタリアのZara級重巡洋艦娘です。なんでもお酒が入ってない日はないほどのお酒好きだそうで」

大井「彼女にはZaraという姉妹艦……ネームシップである姉がいるそうなんですが」

大井「その鎮守府にZaraさんがは着任していないためか、制御が利かないというか、自由を満喫しすぎてるというか」アタマオサエ
785 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:58:46.68 ID:eOSul5Hco

提督「……ブレーキ役の姉妹がいなくて、好きに呑んだくれてるってか」

大井「彼女にお酒を控えるよう、鎮守府全体で抑え込もうとしたところを、そこの提督の秘蔵の数本を見つけられご機嫌に……」

大井「というのが、その鎮守府の秘書艦の言い訳でした」

提督「艦娘にもそういうとんでもない奴がいるんだな……けど、さすがにそいつは極端すぎる例じゃねえか?」

提督「下の下とも言えるそいつと今の隼鷹を比較されてマシとか言われてもなあ」

大井「まあ、そう言われてみればそうですね。とはいえ、私たちが出会う余所の隼鷹さんは、だいたいいつもお酒が入ってますし……」

提督「マジか……」

R提督「私どもの隼鷹も、私が処分される以前は、ちょっと怪しいところはありましたね……お恥ずかしながら」

飛鷹「まあ……そうね。今でこそ自制してるけど、以前の隼鷹もお酒にだらしなかったから……」ウーン

提督「酒が入ってんのが平常運転なのかよ」

H大将「……あの隼鷹も、あの島で生活していた一人だな? 何があったか、あとで教えてくれるか」

提督「それはできれば本人から聞いてくれ。余所の隼鷹や酒飲み艦娘の対応の参考にしたいんだろう?」

提督「俺が話すよりも、あいつ自身がどういう心境だったか、って面で正確な話が聞けるはずだ」

提督「それに本人不在で勝手に俺がべらべら話すのは、あいつにとっても心証がよろしくねえだろ」

H大将「……変なところが律儀だな、お前は?」

提督「そうか?」
786 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:59:31.75 ID:eOSul5Hco

大井「H提督、それより面談の段取りを説明しませんと……」

H大将「ん、そうだな。と言っても、提督は俺の隣で基本何もせず座っていてくれればいい」

提督「それでいいのか?」

H大将「お前の見立てて怪しいと思ったときに俺に声をかけてくれ」

H大将「提督は見た目が若いから、俺が連れてきた下士官のふりをしても怪しまれんだろうし、お前もお前で目立ちたくはないんだろう?」

提督「……まあ、そうだな。わかった、俺は基本口を出さないことにするぜ」

H大将「不知火とリ級は、後ろの衝立の陰に隠れててくれるか? この場で不用意に深海棲艦が姿を見せたのでは混乱するだろうからな」

不知火「承知しました。リ級さんもよろしいですか」

リ級「……ワカッタ。従オウ」


 * *


飛鷹「これで6組中、3組の面接が終わりですね」

H大将「どうだ、怪しい奴はいたか? ずっとだんまりなところを見ると、そういうことはなさそうだが」

提督「いまのところはそうだな。まあ、普通に新米っぽい若い奴ばかりで、違う意味で艦娘を任せるのが心配だけどよ」

 扉<コンコン

H大将「入ってくれ」
787 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:00:17.56 ID:0p8QtWGlo

隼鷹「失礼しまーす! 止准尉をお連れしましたー!」ガチャッ

提督「止准尉……あいつが?」

止准尉「……失礼、します」

山城(止准尉の秘書艦)「失礼します……」

提督「……若えどころじゃねえな。ありゃ中学生か?」

大井「いいえ、今年二十歳になるそうですよ」

提督「夜が怖くて夜戦するなと言われてその命令に背いた川内たちを追放したのが2年くらい前だ。高校にいる間に提督になったのか?」

大井「いえ、そうではなく……」

提督「あ、悪い。その辺の事情は、聞かなくても、俺が視れば良かったんだ」メヲトジ

大井「は?」

提督「……ふーん……ん? これは……」

H大将「どうした?」

提督「……なんであいつが、そんなこと知ってんだ?」

H大将「……なにかあったのか」
788 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:01:16.92 ID:0p8QtWGlo

提督「ああ、本当ならちょっと良くねえな。範囲広げて探ってみるか……」

止准尉「……」

山城「あの……一体何の話なんですか」

H大将「ん? ああ、悪いな。とりあえず座って、ちょっと待っていてくれ」

山城「そうですか……呼び出されて待たされて、何の話かと思ったら、また待たされるなんて……」

山城「ただのお食事会と聞いていたのに、不幸だわ」ハァ

止准尉「……」

提督「……」

大井「さっきからずっと目を瞑って……なにをしてるんですか?」

H大将「まあ待て、様子を見よう」

提督「……」

リ級「……提督ハ気付イテイルヨウダガ、部屋ノ外カラ嫌ナ臭イガスルナ」

不知火「外?」

荒潮「……! 大井さん」ヒソッ

大井「荒潮も気付いたの? 誰かいるのね?」ヒソヒソ
789 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:02:01.88 ID:0p8QtWGlo

隼鷹「あ、確かになんか気配するね?」

飛鷹「隼鷹!」シーッ!

提督「……」

リ級「提督。私ガ出ヨウカ?」

提督「大丈夫だ、まあ任せとけ」

 <ウオッ!?

H大将「!」ガタッ

大井「部屋の外から!?」

提督「飛鷹! そこのドアを開けろ!」

飛鷹「えっ!? は、はい!」ガチャッ

奇妙な仮面をかぶった男「ウグブブブ!!」ヨタヨタ

飛鷹「ひっ!?」

隼鷹「うわっ、なにこれ!?」

不知火「あれは……!?」
790 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:02:46.96 ID:0p8QtWGlo

提督「スクリームフェイスってやつだ。よし、お前ら全員動くな!」

 UFO<プワワワワ…

男「う、うわああ!? なんだなんだ!?」フワー

大井「え、えええ……? UFOが男の人を連れてきたんだけど……なにあれ」

不知火「部屋の中に入ってきましたが、いいのですか?」

提督「ああ、問題ねえ」

 ダツイクローゼット<バコン!

荒潮「えっ、あんな衣装棚、この部屋にあったかしら」

 ダツイクローゼット<バクン! ガタガタ…

大井「男の人が飛んで入って……中に閉じ込められてる!?」

霰「人食い衣装箱……」ゾッ

 ダツイクローゼット<ペッ!

男「ぐえっ!!」ベチャッ

飛鷹「ちょっ、なんで下着一枚になってるのよこの人!?」

 サラシダイ<ガシャッ!

男「ひいいっ!?」ガシャッ!!

提督「捕獲成功……これで良し」
791 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:03:33.74 ID:0p8QtWGlo

飛鷹「……い、いったい、なんなんですか!?」

H大将「こいつが魔神の力というやつか」

提督「あまり人に見せたくねえが、あいつらにつながってる手掛かりだ。出し惜しみはしていられねえ」

リ級「提督、メディウムハ、ドウシタ? 連レテキテナイヨナ?」

隼鷹「っていうか、こんな罠のメディウムいたっけ?」

提督「こいつは俺の力だ、まだメディウムにしてないやつだな。さてと……」スクッ

提督「舌を噛まれても面倒だ。とっととこいつの頭の中身を吸い出すか」アタマツカミ

男「な、なにを……ひぐっ!?」

提督「……」

男「ぐ、ぎ、ぐぇぇ……お、おっご、おほぉっ!?」ビクビクッ

北上「……頭の中を吸い出す? って……」

満潮「そんなことできるの!?」

提督「なんだこいつ、ろくな情報持ってねえな。下っ端もいいとこじゃねえか、つまんねえやつだ」
792 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:04:21.17 ID:0p8QtWGlo

不知火「何が目的だったんです?」

提督「止准尉があることについて喋ってないか、見張り目的で来たらしいな」

止准尉「……!」

提督「盗聴器やレコーダーも用意してたみたいだ。たったいま服と一緒にぶっ壊しちまったけど」

H大将「なんだと? 何を盗聴していたか記録は取れんのか」

提督「あー……どうだろな、破片で良ければこの辺に散らばってるが……ただ、止准尉はこいつの前では一言もしゃべってねえみたいだな?」

男「う、うげええ……」ガクガク

提督「さてと、こいつどうする? 始末していいならこのまま俺が殺っとくぞ」

H大将「簡単に始末などと言うな。そいつの身柄は海軍で預かる」

提督「そうか。なら断っておくが、こいつの頭の中身をまさぐったときに、ちょっとあちこち壊しちまってな」

H大将「なに?」

提督「嘘が付けない可哀想な頭にしちまった。まあ許せ、あんたたちにも都合がいいだろ」

H大将「……」アタマカカエ

山城「さ、さっきから何なのよ一体……何の話なの!? しかも、そっちに隠れてるの、深海棲艦じゃない!」アオザメ

リ級「ア、ヤバ。気付カレテタカ」

提督「心配すんな、と言いたいが、まあ状況が状況だしなぁ……」
793 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:05:16.98 ID:0p8QtWGlo

隼鷹「んじゃ、私が簡単に説明するよ。この人はねえ……」

 * *

山城「……この男が、深海棲艦と一緒に離島で暮らしてる、ですって……?」

隼鷹「そういうこと。私も一時期、その島で提督にお世話になってたから、安心していいよ〜」

リ級「私ハ、コノ男ト一緒ニ、島カラ来テヤッタンダ」ドヤッ

山城「なんでそんなに偉そうなのよ……」

H大将「この男がここに来たのは、今後艦娘を任せるのに問題ない人物かどうかを見極めるためであり……」

H大将「そして、艦娘の保護を邪魔する者がいないか、いればそいつを捕縛するためだ。結果として、見事不審者が捕まったわけだが」

提督「この鎮守府の敷地の外に協力者がいたようだが、逃げたみたいだな。盗聴器を壊されたことに感付いて警戒したのかもしれねえ」

R提督「そんなことまでわかるのですか……」

提督「大まかに、だけどな。だいたい似たような気配を放ってるから、俺の『眼』の届く範囲にいればギリわかる」

提督「それよりH大将、悪いが止准尉と山城の衣服と艤装、それから身の回りのものを洗ってくれるか? ないとは思うんだが念のためだ」

H大将「……わかった。荒潮、今朝話しておいた部屋まで、ふたりの案内を頼む」

荒潮「は〜い、わかりました〜」
794 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:06:01.86 ID:0p8QtWGlo

山城「はぁ……今日はとことん不幸だわ。提督、行きましょ……」

止准尉「……」

H大将「北上はこの侵入者を別の部屋に連行してくれ。頼めるか」

北上「はーい。あ、一応、霰も一緒に来てもらっていい?」

霰「はい……!」

北上「んじゃ、連れてくねー」ヒョイッ

男「ぐえっ」カカエラレ

 スタスタ…

H大将「やれやれ、嫌な予感は当たるものだな……」

提督「なんだ、予見できてたのか?」

H大将「貴様が来ると聞いた時点で、何か起こりそうだと薄々思っていた。とにかく、止准尉からはあとでゆっくり話を聞くとしよう」

満潮「ねえ提督、さっき洗うって言ってたけど……それって、あのふたりにも盗聴器が仕掛けられてるって思ったの?」

提督「いや、おそらく止准尉たちの衣服とかには、仕掛けられてないはずだな。じゃなきゃわざわざ侵入者が見張りに来るはずがねえ」

提督「ただ、止准尉があの通りだんまりだったからな。ありゃ自分たちが監視されてることを自覚してたからこそだと思ってる」

提督「となると、誰にも話せず抱え込んでいたんだろう、警戒心を解くためにもやっといた方がいいなって思ってたんだ」

満潮「ふーん……そういう判断なら、確かにやっておいた方がいいわね」
795 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:06:46.79 ID:0p8QtWGlo

H大将「ということは、ここへ申し込んできた目的も、艦娘の補充ではなくこの件を誰かに伝えるため、助けを求めて、と見るべきだな?」

提督「そうだな。臆病者が、臆病者なりに勇気を出してここに来たってことなんだろう」

R提督「……すみません、そうだとすると、この申込書の名前は……」ペラリ

H大将「ん? この名前……しばらく休職すると申し出のあった提督の名前だな」

H大将「さては、R提督がしばらく舞鶴から離れてたのをいいことに、わからないと思って余所の鎮守府の誰かの顔と名前を借りたか」

提督「ってことは、普通に招き入れていたら、H大将が気付いてたんじゃねえか?」

H大将「その前に逃げていたかもしれんぞ。あくまで目的が止准尉の監視であるならな」

R提督「……H大将閣下と提督にご足労いただいて、本当に良かった……私だけだったらどうなっていたことか。本当にありがとうございます」

飛鷹「それよりR提督、艦娘引き渡しで待たせている提督が、あとひとりいらっしゃいます」

H大将「よし、一応そいつの顔も見ておくか……なんだ、海外の泊地から来たのか?」ペラリ

R提督「はい。どうしても融通して欲しいとのことで、申し込みがありまして」

飛鷹「早速お呼びしますね」

提督(……ん? なんだこの厭な寒気は)ゾワリ
796 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:07:35.75 ID:0p8QtWGlo
と言うわけで今回はここまで。
797 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/02/08(土) 00:27:45.93 ID:4eBspP6m0
おつやで
798 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:00:04.72 ID:dLbzsdaXo
続きです。
組織の核心に迫る前に、提督のトラウマ? のお話です。
799 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:00:46.40 ID:dLbzsdaXo

 *

H大将「さて、最後の一人は一体何者だ……?」

隼鷹「お連れしましたー!」

雷「失礼しまーす!」

遠中尉「失礼いたします!」ケイレイ!

イントレピッド「……失礼します」

不知火「あれは……!」

提督「……不知火、知ってんのか?」

不知火「司令? 覚えていらっしゃらないのですか?」

提督「ん? 俺も知ってる奴なのか?」クビカシゲ

不知火「覚えて……ないのですね」タラリ

H大将「なんだ? 知っているのか」

R提督「ええと……遠中尉でしたか、秘書艦はひとりではないのですか?」

遠中尉「秘書艦は雷ですが、どうしても彼女も来たいと申してまして!」

雷「折角だから、一緒に来てもらったの! ね、イントレピッドさん!」
800 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:01:31.55 ID:dLbzsdaXo

R提督「どういうことだ? 人数が合わないぞ? 隼鷹、提督6人と艦娘6人だだっただろう?」

隼鷹「そうだったんだけど。あ、そういえば、さっき呼びに行ったとき、いつの間にかひとりいなくなってたねえ?」

雷「トイレに行くって言ってたわ!」

不知火「……ということは、他の提督は自身と秘書艦、スパイは単独で、この方だけ艦娘をふたり連れてきたということですか」

飛鷹「確かにそれだと数は合うわね……でも、そんな数え間違いあるかしら」

H大将「あのスパイの男がそういうふうに誤魔化して話したのならあり得るな」

雷「それより、こんなところで提督准尉に会うなんて! 久し振りね!」

提督「……んん? なんで俺のことを知ってんだ? つうか、准尉?」クビカシゲ

遠中尉「なんで? 貴様、とぼけているのか?」

提督「いや、真面目にお前、誰だっけ?」

遠中尉「……」

不知火「……」アタマオサエ

リ級「ドウイウコトダ不知火? 提督ノ知ッテル人間ジャナイノカ?」ヒソヒソ

不知火「いえ、司令も会ってはいるのですが、思い出したくないのでしょう……」

大井「え、思い出したくないって、どういうこと?」

不知火「その……当時のやり取りが、なかなか強烈でして」
801 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:02:30.82 ID:dLbzsdaXo

イントレピッド「Ah... Excuse me. 私、発言、しても、いいですか?」

H大将「なんだ? 言ってみろ」

イントレピッド「Thank you... 私、彼の指揮下から脱出? したいです……!」

雷「えええ!?」ギョッ

遠中尉「どういうことだ!?」ギョッ

H大将「除隊を希望すると言うのか?」

イントレピッド「Yes ! だって……だってもう、耐えられないんだもの!!」

イントレピッド「こんな大の大人が、こんな小さな Destroyer girl に抱き着いて! Mamma, mamma って何度も叫ぶんですよ!?」ブワッ!

H大将「……は?」

イントレピッド「もう嫌なの! この人と一緒にいると頭がおかしくなりそう!!」

遠中尉「何を言うんだスカイママ!」

イントレピッド「Nooo !! I'm not your mother !! Why did you call me 'Sky-mamma' !?」

H大将「何を言っとるんだ、こいつらは……?」

大井「さあ……」

隼鷹「あ、あたしちょっとわかったかも。ほら、空母って空の母って書くじゃん」

飛鷹「それでスカイママ……?」タラリ

リ級「……アル意味、直訳、カ」アタマオサエ
802 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:03:16.28 ID:dLbzsdaXo

北上「ただいまー……あれ、なにやってんの」

荒潮「あらあら、状況がよくわからないんだけど〜?」

霰「なにが、あったの……?」

満潮「この人が連れてきた空母艦娘が、この人の艦隊から抜けたい、って……」

提督「ぐああぁぁぁ!! も……もしかして、あいつかぁ……!?」ガクーッ!

北上「うわあ、提督もいきなり頭抱えてどうしちゃったのさ」

不知火「……思い出しましたか、司令」

提督「思い出した……これっぽっちも思い出したかねえけど、思い出したぞくそが……っ!」ギリギリギリ

遠中尉「なにがくそだと言うんだ准尉! さっきから失礼な!!」

提督「うるせえ! てめえがくそじゃなかったら何がくそだってんだよ、この金魚のくそ野郎が!!」(#゚皿゚)凸ズビシ!

隼鷹「あー、提督、さすがに中指立てるのはやめよーよ、ねぇ?」

H大将「提督、この男を知っているのか?」

提督「ああ、こいつは……遠大佐は、俺の鎮守府にくそ馬鹿芸能人連れてきて鎮守府引っ掻き回してくれたくそったれだ!」

H大将「芸能人?」

大井「大佐?」
803 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:04:01.12 ID:dLbzsdaXo

不知火「呉鎮守府の祢大将殿と仲の良い映画俳優さんがいらっしゃるはずです。たしか、留父さんと仰ったか……」

不知火「その方の息子にご自身の大佐の地位を譲ろうとしたのが、そこにいる遠、元大佐です」

R提督「もと? ですか」

不知火「はい。彼が中尉になっていたことは、不知火もたった今、初めて知りましたが……」

北上「提督がすっごい不機嫌になってんだけど、なんかあったの?」

不知火「はい。遠大佐は、轟沈した艦娘の救出と言う名目で、島に芸能人と番組制作スタッフを引き連れて押しかけてきたんです」

H大将「……本当か」

雷「ええ、本当よ。そのときは、提督には本当に迷惑をかけてしまったわ……」シュン

H大将「不知火、もう少し詳しく説明してくれるか?」

不知火「はい。留という当時売り出し中の男性アイドルが、呉にある遠大佐の鎮守府に一日提督として着任したのが、おそらく事の発端です」

大井「留……? なんか聞いたことあるわね。結構前にスキャンダル起こしてたような……」

不知火「はい、その人です。留氏が遠大佐の鎮守府で艦隊の指揮を執ったのですが、彼の指揮のせいで遠大佐の艦娘が轟沈しまして」

満潮「はぁ!?」

不知火「留氏は自身の名誉を挽回すべく、轟沈艦が流れ着く先を調べ、私たちの鎮守府がある島に乗り込んできたのです」

大井「それで、島から轟沈艦娘を引き取ろうとしたの? 今だって無理なのに、そんなこと許されないでしょう?」

不知火「はい、今以て許されていませんし、我々もさせませんでした。そもそも司令は、来港した彼らの上陸を一度は明確に拒否しています」
804 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:04:46.05 ID:dLbzsdaXo

不知火「その後、轟沈した艦娘と話したいという名目で会議室までは通したものの」

不知火「彼らは鎮守府内および島内を無断で散策し撮影を行うなど、当方の指示を一切聞かず勝手な行動を取り続け」

不知火「挙句、夜間に無断外出したテレビクルーが死亡事故を起こしたり、遠大佐鎮守府所属の艦娘に対して強姦未遂事件を起こしたり」

不知火「軽く思い出すだけでも顔の筋肉がひきつるような迷惑行為を引き起こしています」

H大将「……」アタマカカエ

隼鷹「あ、なんか聞いたことあるわ。あたしが島に着く前くらいに、そんな騒動があったんだっけ?」

北上「えーと……なんてーか、迷惑って言葉で片付けていい話には思えないんだけど?」アゼン

不知火「不知火も同感です。もっとも、彼らを連れてきた遠大佐も、彼らがそこまで暴走するとは予想していなかったようですが」

満潮「だとしても信じらんない。なんでそいつらがそこまで好き勝手に振る舞えたのよ、非常識すぎるわ……!」

不知火「先程も申し上げたように、留氏は遠大佐から大佐の地位を譲ってもらえるはずだったからです」

満潮「それこそなんでよ!?」

不知火「その点について、不知火が把握している遠大佐の目的はふたつありまして」

不知火「ひとつは、彼に大佐の地位を押し付け、艦娘の指揮の難しさを思い知らせてみじめな思いをさせようとしたこと」

不知火「もうひとつは遠大佐自身が他の提督に引け目を感じて、一線から退こうとしたからだと、不知火は認識しています」

満潮「っ……そ、そんなことのために、大佐の地位を捨てようとしてたの……!?」クラッ
805 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:05:31.65 ID:dLbzsdaXo

不知火「はい。そもそも彼は、雷と一緒にいられれば、大佐の地位などなくても良かったのでしょう」

不知火「遠大佐は、雷に、母親になって欲しいと請願したくらいですから」

H大将「……は?」

大井「はぁ?」

飛鷹満潮「「はぁぁぁ!?」」

北上隼鷹霰「「「……なにそれ」」」ドンビキ

荒潮「みんな綺麗にハモってるわねぇ……」

雷「そんなに驚くことかしら?」クビカシゲ

R提督「普通は驚くよ?」ヒキッ

不知火「御覧の通り、雷もそれを喜んで受け入れています。ですから、遠大佐は今も雷をママと呼んでいるのでしょう」

不知火「そちらのイントレピッドさんが仰るように」チラッ

イントレピッド「」シロメ

荒潮「ね、ねえ、今の話、イントレピッドさんも初めて聞いたんじゃないのぉ……?」

R提督「この反応からするとそのようだ……」

イントレピッド「」フラァ

R提督「って、危ない!?」ガシッ
806 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:06:18.27 ID:dLbzsdaXo

不知火「司令が遠大佐のことを思い出せなかったのも、彼の発言が司令の理解の範疇を大きく外れていたがため」

不知火「記憶に残らないと言うより、理解が追いつかず記憶に残せなかった、と言ったところでしょうか」

提督「つうか理解したくねえよこんな話」

遠中尉「こんな話とはなんだ! 私は真剣なんだぞ! 私もママも今の関係を良しとしているんだ!」

遠中尉「やはり貴様のように親に甘やかされて育った甘ったれに、私の境遇など理解できるわけがない!」

隼鷹「ん? 提督って、親に甘やかされたりしてないよねえ?」

遠中尉「なに? 准尉は政治家のボンボンだろう?」

隼鷹「いやぁ? 提督ってば、親とは縁を切ってるはずだよ? だよねぇ?」

提督「まあな」

H大将「ふむ……遠中尉とその秘書艦は、一旦もとの部屋に戻ってくれ。まずはイントレピッドから話を聞く」

遠中尉「わ、わかりました……」

R提督「で、では、このふたりには戻っていただきます。隼鷹、案内を頼んでいいか?」

隼鷹「あー、りょうかーい」

雷「それじゃ、失礼します。行きましょう司令官、お部屋に戻りましょ?」

遠中尉「うん、ママ!」

全員「「……」」

 ガチャッ…スタスタ…
807 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:07:01.20 ID:dLbzsdaXo

提督「うん、やっぱり理解できねえし理解したくねえ。あいつらのこと、忘れていいか? つうか忘れるぞ」オテアゲー

北上「いやいや、忘れようとしちゃ駄目でしょこんな大問題……」

満潮「私も忘れてしまいたいわ……頭が痛いどころじゃないわよ、こんなの」アタマカカエ

提督「だよな? 普通耐えられねえだろ」

霰「うん、無理。絶対無理」

リ級(食イ気味ニ反応シタナ……)

荒潮(霰ちゃんの遠中尉を見る目が、まるで汚物を見るかのような目つきだったわぁ……)タラリ

イントレピッド「ウ……」ヨロッ

R提督「お、おい、大丈夫か」

イントレピッド「え、ええ……大丈夫です、けど、あの二人は……?」

R提督「いま、別室に案内した。先に君から話を聞こうと思ってる」

イントレピッド「そ、そうですか……その、本当に気を付けてくださいね」

H大将「なにをだ?」

イントレピッド「あのふたり、ふたりきりになると、本当に気持ち悪いことを言い出しますから……」アオザメ

R提督「……」
808 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:07:45.72 ID:dLbzsdaXo

H大将「艦娘一人では荷が重いか? R提督、悪いがあの二人に同行して見張っててくれるか。秘書艦たちも同伴してくれていい」

R提督「わ、わかりました。なにやら不安ですが……飛鷹、一緒に行くよ」

飛鷹「り、了解です」

 スタスタ…

提督「あいつら、もう部屋に閉じ込めて放っといた方がいいんじゃねえの?」

大井「それで目を離した隙にどこかへ脱走されても困ります」

提督「脱走……まあ、確かにねえとは言えねえか」

不知火「脱走と言うより逃避行しかねな……いえ、すでに逃避行は敢行済みでしたね」

北上「あんなのに付き合わされるR提督が不憫だねえ」

提督「まったくだ。もうここになんか置いてないで、とっとと追い返しちまったほうがいいってのによ」

H大将「逸る気はわかるが落ち着け。それで、イントレピッド。あの男はあれで艦娘を管理運用できているのか?」

イントレピッド「Ah...オソラク? Perhaps」

H大将「Perhaps か……またネガティブな回答だな」
809 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:08:30.88 ID:dLbzsdaXo

提督「お前、あいつの鎮守府に着任してどのくらい経つ?」

イントレピッド「Hmm... サンガツ? about three month ?」

提督「3か月ねえ……じゃあ、お前と同じように気分を悪くした艦娘はどれくらいいる?」

イントレピッド「So many ! たくさんよ! たくさん! みんな、キモチワルイ、って言ってたわ!」

提督「あー、こりゃもう結論出てんじゃねえか? あいつに艦娘を預けんのはやめたほうがいい。そうだろ?」

大井「現時点では、そう考えざるを得ませんね。艦娘の指揮がままならないのは、あの遠提督とその秘書艦の関係が原因に他ならないと」

H大将「遠中尉を帰す前に、中尉の鎮守府に探りを入れよう。実態としてイントレピッドと同じ感想を持つ艦娘がいるか、確認が必要だ」

大井「荒潮さん、泊地を統括しているそこの中将に連絡を頼めるかしら。特警を派遣して調査してもらいましょう」

荒潮「はぁい、手配しますね〜」スクッ

提督「さてと……イントレピッドのケアも必要だが、それより先に俺は止准尉に話を聞きに行きてえな」

H大将「そうだな。いま、優先すべきはそちらだ」
810 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:09:16.34 ID:dLbzsdaXo

H大将「大井、まずは止准尉たちを呼び戻してくれ。イントレピッドは入れ替わりでその部屋に待機しててもらおう」

提督「ん? 俺たちがそっちに行くんじゃ駄目なのか?」

H大将「不知火はともかく、あいつを鎮守府の中を出歩かせるのは考え物だろう」

リ級「ウン、私ハ、ソウダネー」

提督「……そういやそうだったな。手前の鎮守府のつもりで考えちまったぜ」

イントレピッド「!? ど、どうしてここに、Enemy ship が!?」ガタガタッ!

提督「Enemy じゃねえよ。あいつは、俺の鎮守府の仲間だ」

イントレピッド「……仲間? あ、あなた、シンカイセーカンと、オトモダチなの!?」

提督「おう、そうだ。だからこいつにゃ手を出すんじゃねえぞ」

イントレピッド「...Oh my god」

リ級「オトモダチ、カァ……部下ジャナインダ?」

提督「俺は泊地棲姫を部下にしたわけじゃねえからな。同じ理屈でお前も部下とは呼ばねえよ」

提督「ま、強いて言うならあの島の責任者……地主っつうか家主っつうか、保護者とでも言ったほうがいいか?」

リ級「……ナルホド。ヘーェ」
811 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:11:07.05 ID:dLbzsdaXo
というわけで今回はここまで。

年内に終わらせたいとかこのスレで完結させたいとか思っていたのに全然話が終わってくれない…。
812 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2025/02/25(火) 00:49:11.96 ID:1hEE7ac/0
ポンポン話が思い浮かんで風呂敷が無限に広がっていってるのか…
がんばです。
813 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/02/25(火) 00:49:42.40 ID:1hEE7ac/0
やっべやらかした…
814 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:17:04.68 ID:Ct+GoMMRo
それでは続きです。
815 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:17:49.64 ID:Ct+GoMMRo

 *

止准尉「……」

H大将「何度もすまないな。さて、どうして艦娘が必要なのか……それとも、ほかに目的があるのか、話を聞かせてもらおうか」

山城「さっきの変な男はどうしたの」

H大将「別室で拘束している、心配無用だ」

止准尉「……」

北上「なんか、めちゃくちゃ警戒されてない?」

提督「俺たちを信用できねえってか」

山城「当然でしょ!? あんたが一番怪しいのよ。深海棲艦と通じてるのなら、スパイを疑われて当然じゃないの!?」

提督「お前らんとこには情報行ってねえのか? 海軍や政府と条約結ぼうとしてる、艦娘と深海棲艦が共存する鎮守府がある島のことを」

提督「××国××島、かつて墓場島って呼ばれてた島だ。昔、お前んとこにいた吹雪が、若葉や川内連れて来てたよな」

止准尉「……!」

満潮「えっ、若葉たちがこの人たちと関係あるの!?」

提督「霧島と摩耶もな。ま、その二人はついでに連れてきただけで、若葉たちみたいにこいつらの艦隊に所属してたわけじゃねえが」

山城「ちょっと……あんた、どうしてそれを」

提督「その鎮守府にいた准尉ってのが、俺だからな」
816 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:18:34.17 ID:Ct+GoMMRo

山城「それじゃあ、そこの重巡は……その鎮守府にいた艦娘が、深海棲艦になったっていうの?」

提督「いいや? 少なくとも俺の鎮守府の中じゃそんなことは起きてねえよ」

リ級「……不知火。阿賀野ハ、艦娘ガ深海棲艦ニナッタ個体ジャナカッタカ?」ヒソヒソ

不知火「阿賀野さんは、私たちの鎮守府に滞在した結果で深海化した艦娘ではありません」ヒソヒソ

リ級「アア、ソウイウコトカ。ジャア違ウナ」

H大将「? おい、何をひそひそと話しているんだ」

リ級「ナンデモナイ。イロイロト疑リ深イ艦娘ダナ、ト、話シテイタダケダ」

山城「悪かったわねえ!?」イラッ!

リ級「ソレモ、仕方ナイトハ思ッテイル。私モ、島ノ外ノ人間ヤ艦娘ハ、信用シテイルワケジャナイカラ、オ互イ様ダ」

山城「は? だったら、どうしておとなしくしてるのよ」

リ級「ソコノ提督ノ言ウコトニ、従ッテイルダケダ。私ハ、ソノ男ニオ願イサレテ、ココニ来テイルンダカラナ」

荒潮「あらぁ、提督は信頼されてるのねえ〜」

山城「なんでこんな男がそこまで……」

提督「まあ、俺のことはどうでもいいんだ。俺たちが知りたいのは、止准尉が何でここに来たのか、だ」

止准尉「……」
817 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:19:19.20 ID:Ct+GoMMRo

提督「こんだけ俺が喋ってても、だんまり決め込もうってか? 観念しろよ、いい加減によ」

止准尉「……」

提督「お前は、夜が怖いと言ってたな。夜戦するのが嫌だっつってたよな。お前が夜を怖がる理由は、さっきの男と関係あるんだろう?」

止准尉「……」

H大将「……止准尉」

止准尉「……」

提督「口が裂けても喋る気がねえってか? ったく……」スクッ

H大将「提督? 何をする気だ」

提督「話す気がないなら、直接訊こうと思ってな……!」ツカツカ

山城「な、なによ!? 近寄るんじゃないわよ! 止提督に何をする気!?」ガタッ

提督「俺から危害を加えるような真似をする気はねえ。ただ……命が惜しけりゃ、動くなよ」ガシッ!

止准尉「……!」アタマツカマレ

リ級「ナンダ? アイアンクローデモ、スル気カ?」
818 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:20:04.25 ID:Ct+GoMMRo

提督「……」

止准尉「っ!? ……な、なにを……!」

提督「おいおい、今頃になって喋ってんじゃねえよ、遅すぎるぞ? それに、動くなっつったろ? 何度も言わねえぞ……!?」ギロリ

止准尉「……っ!」

不知火「司令……」

山城「動くなって、なによそれ……止提督に何かあったらただじゃおかないわよ……!」

H大将「……」

提督「乱暴するつもりはねえが、気はしっかり持っておけよ……!」

止准尉「う……!」


 *


止准尉「く……」

提督「……」

北上「……止准尉、大丈夫なんだろうね?」ヒソッ

大井「すごい汗なんだけど……なに考えてるの、あの人」
819 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:20:50.00 ID:Ct+GoMMRo

リ級「不知火、提督ガ、アレヲ始メテ、ドノクライ経ッタ?」

不知火「もうすぐ10分でしょうか」

H大将「……」

提督「よし……まあ、こんなもんか」テハナシ

止准尉「っ……」クラッ…

山城「止提督! 大丈夫なの!?」ガシッ

提督「そこまで無理をさせたつもりはねえんだが、そこそこ負担だったか? あとはもう横になっててもいいぞ」

山城「止提督に何をしたってのよ、あんたは……!!」ギリッ

提督「……」

山城「ちょっと!? 聞いてるの!?」

提督「ったく、うるせえな、ちょっと整理させろ……H大将、とりあえずこれから俺が喋る話は他言無用で頼みたい。いいか?」

H大将「何の話か知らんが……まあ、いいだろう。お前たちもいいな?」

大井「……承知しました」

提督「よし。どこから話すかな……ちょっとこれまでのおさらいみたくなっちまうが、とりあえず聞いてくれ」
820 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:21:49.13 ID:Ct+GoMMRo

提督「まず、H大将、あんたは少なくとも、J少将が関わっていた深海棲艦の武器化には、反対してたよな?」

止准尉「!!」

山城「はぁ!? なによその話!?」

提督「まあ、順を追って話すから、まずは聞いててくれるか? で、今の話はそうだったよな?」

H大将「ああ。反対したせいであいつらに殺されかけたのは、お前もよく知っているだろう」

山城「んなっ!?」

提督「その深海棲艦の武器化は、かつての俺の上官であり中将の息子である大佐と、Z提督のふたりが中心になって研究していたものだ」

提督「そのZ提督は、およそ3年前、深海棲艦で作った武器の威力の実験台に艦娘を使っていたことが露見して、営倉にぶち込まれている」

提督「Z提督が捕まった後は大佐が単独で研究を続けていたが、Z提督が動けなくなり自分への監視が強まったせいで資金繰りが苦しくなった」

提督「そのせいで大佐の元を離れた研究者から、深海棲艦の武器化の話が流れてJ少将のもとにも届いた、と思われる」

提督「おそらく、大佐の続けていた研究内容を、J少将の支援している研究機関が欲したんだろう。同時に大佐も協力者が欲しかった」

提督「お互いの利害が一致したことで、J少将は、大佐に協力するていで、自分の支援している研究機関へ武器化の研究を引き継がせた」

山城「……」

提督「ちなみに、大佐が死んでからは、営倉から出てきたZ提督が組織に関わるようになった、と、推測してる」

H大将「……あの時、朧君たちを撃った、あの男のことか」

提督「ああ、そいつだ。そのZ提督と大佐が、武器化の研究をやるためにいろいろ裏で悪いことをしてたのも知っての通り」
821 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:22:34.34 ID:Ct+GoMMRo

提督「例えば資金繰りのために鎮守府の金をごまかしたり、材料調達のために危険と言われていた深海棲艦の鹵獲をしていたり」

提督「さらには作った武器の威力を検証するための、実験台にできる艦娘を集めたりもしてた」

大井「……!!」

提督「でだ、ここの時系列がちょっとややこしいんだが、その大佐たちと、J少将の支援する組織は、Z提督が捕まる前までは別物で……」

提督「組織のほうは、艦娘と深海棲艦の生態調査や、艦娘が深海棲艦に、または深海棲艦が艦娘に変わるかどうかの研究をしていたらしい」

提督「ただ、目的は違えど、艦娘や深海棲艦の実験用のサンプルが大量に必要なのは、大佐たちと同じ」

提督「つまり当時は、実験台にしても問題ない艦娘や深海棲艦を求めていた組織が、少なくともふたつ以上は存在した、ってことになる」

H大将「……」

提督「そういう奴らがいる一方で、海軍内には、深海棲艦と友好関係を結べないかと考える連中もいたわけだが……」

提督「そいつらがどんな目に遭ってるかも、H大将は知ってるよな?」

H大将「……それは、F提督たちのことか?」

提督「そういうこった。もっとも、F提督たちを襲ったのがどっちなのかはわからねえんだが……多分、大佐たちのほうなんだけどな」

提督「止准尉の先輩にあたるやつも、その辺の話に関係してるらしいんだよ」

H大将「!」
822 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:23:19.15 ID:Ct+GoMMRo

山城「ど、どうしてあんたがそれを知ってるのよ……!」

提督「止准尉が口を割らねえんで、頭から直接訊いた。いや、直接『視』たっつうほうが正しいか?」

山城「直接って……!?」

H大将「提督、止准尉も彼らと関わりがあったということか?」

提督「そこは巻き込まれたっつったほうがいいかな。止准尉自身はあいつらとは何の関係もなくて、止准尉の先輩があいつらを怪しんでたんだ」

提督「調べていくうちに行きついたのはJ少将の組織のほうだ。その調査中に、F提督も関わっていた深海棲艦との和平を目指す連中に接触したらしい」

提督「F提督たちは自分たちを妨害している相手を特定できなかったようだが、それはおそらく、大佐たちとJ少将の組織が別々だったことも影響してるんだろう」

提督「素性を探っていくうちに、そいつは身の危険を感じるようになって……万が一のためにと、止准尉に連中の情報を書き込んだノートを渡しちまった」

止准尉「……ぐすっ……!」

山城「止提督……!」

提督「その後まもなく、先輩提督が深海棲艦との戦闘で死んだわけだが、その話に変なところが多すぎると止准尉は感じたようでな」

提督「おまけに、その先輩提督が戦死してから、そいつに関わりのあった人間や艦娘が短期間で次々と姿を消した」

提督「それが納得いかねえもんで、託されたノートの中身を見て連中を知り、組織に一矢報いようとした……」

H大将「組織に接触を図ったと?」

提督「ああ、一回だけな。ただ、その一回がまあ、高坊にゃあ余りに衝撃的過ぎたんだろう」
823 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:24:06.99 ID:Ct+GoMMRo

提督「メンタルやられて、御覧の通り、って感じか。夜戦つうか、夜を異常に怖がるようになったのもそのせいだな?」

止准尉「うっ……ううっ……!」ボロボロ…

山城「提督……」セナカサスリ

提督「止准尉は、親が陸自だってのと、妖精がうっすら見えるって特殊な事情のせいで、中学出てすぐ海軍にスカウトされてる」

提督「そこで高校の授業を受けつつ、艦隊指揮に参加するようになったんだが、先生代わりに面倒を見てもらってたのがその先輩提督だ」

提督「その先輩が訳も分からず殺されて、当人は軽い気持ちで……いや、違うな。自分たちが正しいなら、悪い人間は倒せると考えたんだ」

提督「青臭い正義を掲げて、恩師である先輩提督の敵討ちのために、組織を追い詰めようとして逆に自分の無力さを思い知らされた……」

大井「それでよく今まで無事でしたね……」

提督「こいつが今まで無事だったのは、未成年だったから、じゃねえかな?」

提督「連中も醜聞に飢えたマスコミや市民団体とかに騒がれたくねえだろう。その代わり、こいつらが常々監視されてた可能性はある」

提督「あとは、わざと泳がせて接触してきた奴を始末する……いわゆる撒き餌にしたのかもしれねえな」

提督「こいつが自分の口から誰にもこのことを話そうとしなかったのも、巻き込みたくないって意識が強かったからっぽいし」

提督「ま、べらべら喋ってたら俺みたいに拉致監禁されてたかもしれねえから、悪い判断じゃなかったかもな」

山城「はぁ? あんた、拉致監禁されてたって言うの!?」

提督「俺が妖精と話せるもんで、余計なことを見聞きしないように離島に隔離幽閉されてたんだよ。こんな性格だ、危なっかしいだろ?」ニヤリ

山城「……」
824 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:24:49.32 ID:Ct+GoMMRo

提督「俺は大佐にそれをやられたが、止准尉の場合は、変なことを言い出さなかったからこそ、わざと泳がせてたとも思える」

提督「あとは……止准尉を綺麗に始末するために、未成年でなくなるまで慎重になってただけって可能性もある」

H大将「……」

大井「……」

提督「止准尉の記憶をたどって、俺が推測できる話はここまでだ」

H大将「……止准尉、今の話で、君に関する部分に間違いはないか?」

止准尉「……」

山城「提督……」

止准尉「……」

H大将「止准尉」

止准尉「……」コクン

H大将「! ……そうか。わかった」

提督「とりあえずだ、止准尉の先輩とやらは、あいつらの拠点を突き止めていたらしい。俺たちはこれからその拠点をぶっ潰す」

H大将「おい!?」
825 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:25:35.38 ID:Ct+GoMMRo

提督「なんだ、止めるなよ。俺たちはあいつらに接触したんだぞ? やられる前にやるべきだろ」

北上「提督たちだけでやるつもり?」

提督「ああ。助太刀はいらねえぞ? 海軍の中には、連中の存在をありがたがってる連中もいる」

提督「海軍の中にどれだけあいつらの飼い犬が紛れ込んでて、どんな邪魔をしてくるかわからねえし」

提督「それに、ぶっちゃけ敵味方の判別が面倒だ。協力者と共闘できるような器用な戦いをするつもりはねえ」

北上「うわ。提督もしかして、その施設にいる人間、全員殺すつもり?」

提督「当然だろ。その場にいる人間は皆殺しだ」

大井「ちょっと!?」

北上「いやー、それ大丈夫なの? 恨まれたりしない?」

大井「北上さん!? そうじゃないでしょ!?」

提督「恨まれるって言っても、あいつら潰して恨んでくる奴らなんて、だいたいはあいつらと同類の悪人どもだけじゃねえか?」

提督「そういう連中が、二度と深海棲艦や艦娘で実験しようなんて気を起こさないように、懇切丁寧にすり潰してやろうってんだ」

北上「……提督ってば、本っ当に悪い顔するの得意だよねえ……」

提督「ま、大井の心配する法律的な意味でなら、警察とかに目の敵にされても仕方ねえけど、そこは俺たちが気にしてもしょうがねえ」

提督「今も悪人扱いされてる俺たちが、力づくで無理矢理終わらせちまえばいいだけだ」

H大将「……人の法に縛られない、お前たちが全部やろうということか」

提督「まあ、そういうふうに受け取ってもらいてえな」
826 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:26:20.24 ID:Ct+GoMMRo

止准尉「あ、あの……!」

提督「!」

止准尉「あ、あなたが……先生の……先輩たちの、かたきを、とってくれるんですか……!?」

提督「あぁ? 何言ってんだ。俺は、俺の仲間を守るために、俺たちの敵であるあいつらを潰すんだ。お前の先輩なんざ知らねえよ」

止准尉「あ……」

提督「ただ、お前が勇気を出してここに現れたことには感謝してるぜ。そうじゃなきゃ、俺があいつらに辿り着くのは困難だっただろうからな」

止准尉「っ!!」ウルッ

提督「さてと。不知火、リ級、すぐに帰るぞ。あいつらが何か行動を起こす前に追い詰めて、何もかも潰してやらねえとな……!」

リ級「ナンダ、モウ帰ルノカ。姫様ニモ話スノカ?」

提督「ああ、勿論だ。協力も仰ぎたい」

大井「帰るって……船の準備ができていませんよ!?」

提督「しなくていいぜ」

 神殿の扉<ズバァン!!

不知火「!!」

大井「な、なに!? 今度はいったいなんなの!?」

H大将「扉がいきなり現れた……!?」
827 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:27:04.40 ID:Ct+GoMMRo

提督「行きはよいよい帰りは恐い……って、大鳳が歌ったあの歌とは逆だな。俺はあの島へはすぐに帰れるんだよ、帰宅限定だけどな」

H大将「ドラ○もんか、お前は……」

提督「そこまで便利なもんじゃねえけどな。よし、行くぞ不知火、リ級」ガチャッ

不知火「は、はい!」

リ級「了解ー」タタッ

H大将「待て提督! 最低でもX大佐には連絡しろ!」

提督「あぁ……?」

H大将「あいつはお前のお目付け役だ。お前が勝手に動けばあいつが責任を取る立場にある」

H大将「俺からX大佐に連絡を入れておく。あいつから連絡があるまでは動くんじゃない!! いいな!?」

提督「……ちっ、仕方ねえな。連絡は早く寄越せよ、俺たちは準備を進めるからな」

H大将「わかっている。くれぐれも早まるなよ……!」

不知火「では、H大将閣下、急で申し訳ありませんがこの場は失礼いたします」

不知火「R提督にもよろしくお伝えください。では」ケイレイ

 神殿の扉<パタム!

 神殿の扉<スゥゥ…

大井「……消えた……」
828 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:28:04.44 ID:Ct+GoMMRo

北上「いやあ、提督も完全に人間やめちゃったねえ」

H大将「まったく、あの男も勝手なものだ……!」

山城「ちょっと……いったい何者なの、あの男は!?」

H大将「……元海軍の、元人間……と言ったところか」

山城「もと、にんげんって……それじゃ、いったい何なのよ」

H大将「正確な正体については、我々もよくわかってないと言わざるを得ん。魔神などと呼ばれているが、正体はわからん」

H大将「確実にわかっていることと言えば、あの男は、艦娘たちと、一部の友好的な深海棲艦たちを保護しようとしている、ということだ」

H大将「さっきも言ったが、あの男の目的は、行き場を失ったJ少将の艦娘が、変な提督のもとに配属されないようにするため」

H大将「そして、艦娘や深海棲艦を対象に実験を続けている組織の手掛かりを掴むため、というのもあったのだろう」

H大将「あの男にとって、その組織は滅ぼすべき因縁のある相手……あいつの言う通り、艦娘と深海棲艦の敵だからな」

山城「……」

H大将「さて、止准尉。君はその組織についていろいろ知っているようだが、詳しく聞かせてもらえないだろうか」

H大将「君の身柄の安全は保障する。君の艦隊……艦娘たちも、私の鎮守府でまとめて保護しよう」

止准尉「……あの……」

H大将「どうした」
829 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:28:49.30 ID:Ct+GoMMRo

止准尉「あなたは……突然、どこかに行ったり、しないですよね……?」ガタガタ…

H大将「……」

止准尉「あなたは……死んだり、しない……です、よね……!?」ボロボロボロ…

H大将「……」

大井「……」

H大将「俺たちは軍人だ。残念だが、死なない、と言う保証はできかねる」

H大将「だが、守るべきものは、命を賭して守る。君の命も、我々の誇りも。死んでいった仲間のためにも……」

H大将「死ぬつもりはないし、無駄死にするつもりもない」

止准尉「うっ、うええっ……うえええ……」ボロボロボロ…

山城「……」

H大将「山城。貴様は、この話をどこまで知っている?」

山城「全然知らないわよ……何から何まで、今の今まで。全部、初耳よ」ギリッ…

H大将「そうか」

山城「提督……だからなのね? 私たちを危険な海域に向かわせようともせず、それでまともな戦果も挙げられず……」

山城「そのせいで鎮守府が落ちぶれても、艦娘を過保護にして手放そうともしない」
830 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:29:34.47 ID:Ct+GoMMRo

山城「あの島に若葉たちを連れて行ったのも、誰かに狙われることのない、いわく付きの島だと聞いたから……」

山城「余所から引き抜いたあの吹雪の解体にあそこまで世話を焼いたのも、その組織とかいう奴らに狙われないようにしたかったから……」

山城「そういう、ことなのね?」

止准尉「ぐす……っ」コクン

山城「そう」

H大将「……」

山城「まったく……呆れるわ。間違ってるわよ、こんなの」ハァ

山城「こんな優しすぎる子を、戦争に巻き込むだなんて。この国の大人はどうかしてるわ」

山城「戦時中だから、なんて言い訳するような卑怯な大人は、あず○バーで歯が全部砕けて総入れ歯になってしまえばいいんだわ」フン

大井「……なんなのよその喩え……」

山城「わかりづらくて悪かったわね。死なない程度に全員不幸になればいい、と思っているだけよ」ムスッ

H大将「……まったく、耳が痛いな。将来ある子供を守るはずの大人がこのざまでは、そう言われても仕方ない」

H大将「妖精が見える人間を……それが子供であっても戦争の世界に引きずり込むことに、何の疑問も持たなくなっているのは危機的状況だ」

H大将「事情を聴いて『じゃあ仕方ない』ではいかん。俺も含めて、すべての海軍の人間は、一度頭を冷やす必要があるな」

大井「H提督……」
831 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:30:19.73 ID:Ct+GoMMRo

北上「そんじゃ、冷やすためにもアイスでも買ってきますかねえ。あ○きバーでいい?」

H大将「止准尉のような若者が食べるとは思えん。ハー○ンダッツを買ってこい、俺は抹茶で頼む。保冷バッグも持っていけよ」イチマンエンサシダシ

北上「おお〜、マジで? いいんですか?」

大井「提督? ご自身が食べたいからと、そうやって人を巻き込んで無駄遣いするのはどうかと思いますが?」ジトメ

H大将「! ……」

大井「提督?」

H大将「……ああ、すまん。間宮のほうが良かったか」

大井「そ、そうではなくて! なにか、気まずそうにしてましたけど、大丈夫ですか?」

H大将「大丈夫だ」

山城「私はあ○きバーのほうが良かったんだけど……不幸だわ」

北上「んじゃ、一番奥底の特別固いの選んで買ってくるねえ」タタッ

山城「……」



H大将(大井の言い方がいよいよ亡き妻に似て聞こえてきたな……やれやれ、俺も焼きが回り始めたか?)


 * * *

 * *

 *
832 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:31:04.49 ID:Ct+GoMMRo

 * 神殿内 *

 (篝火が灯る神殿内の廊下を歩く提督たち3人)

リ級「便利ダナ、コノ能力ハ。制約ガアルトハイエ、ドンナ遠距離デモ、歩ケル距離ニデキルノハ、スゴイゾ」

不知火「はい。神殿の中を歩くことにはなりますが、この程度の広さなら苦になりませんからね」

提督「とっとと帰って組織の場所を確認するか。確実にするためにも偵察部隊を組まないとな……」

リ級「ソレ、ドコナンダ?」

提督「日本の横浜だ。時雨が言ってた場所と、止准尉の記憶の場所がほぼ一致してる。おそらくそこが『当たり』だ」

不知火「場所は特定できたということですか」

提督「まあな。確か、海から侵入できるところもあるらしい。潜水艦たちに探ってもらって……ん? なんだ?」

不知火「司令? どうなさいました?」

 <ギャアアァ…

不知火「!」

ニコ「やあ魔神様、戻ってきたんだね」スッ

リ級「ウワ!?」ビクッ

提督「……また神殿に侵入者か? こっちも騒がしいな」

ニコ「うん。でも大丈夫、メディウムのみんなで撃退したから、安心していいよ」
833 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:31:49.49 ID:Ct+GoMMRo

リ級「ソレヨリ、イキナリ現レルナ……ビックリシタ」

不知火「ニコさん、侵入者というのは?」

ニコ「この神殿が、魔神様の魂を封印した場所だってことは、以前魔神様が説明してくれたと思うんだけど」

ニコ「その魔神様を復活させるために、ぼくたちは近隣の人間を結構殺しちゃったんだよね」

リ級「……ソノ仕返シ、カ?」

ニコ「ぼくたちが殺して行方不明になった人間がどこに行ったのか、その調査のために、人間たちがこの神殿に入り込んできてるんだ」

ニコ「その人間たちを逐一退治していたら、本腰を入れてきたって感じかな?」

ニコ「もともと魔神様は、一千年以上も前から、人間どもから排斥されてきたから、仕返し以前の話ではあるけどね」

リ級「ソンナニカ……」

 メラッ

リ級「! オイ、後ロヲ見ロ!」

提督「後ろ?」

血まみれの男性?「おのれ、魔神の使徒め……! 神の裁きを受けるがいい!」

不知火「人、ですか……!?」

リ級「アイツノ杖ノ先カラ、火ガ出テルゾ!?」
834 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:32:34.49 ID:Ct+GoMMRo

ニコ「あの魔術師、まだ生きていたんだ……!」

不知火「魔術師……!?」

 ギルティランス<ズガシャーン!

魔術師「ぎゃああ!?」ザクザクザクッ

 スプリングフロア<ズパーン!

魔術師「ひいいい!?」フットビ

 トゥームストーン<ヒューー…ドズゥゥン!

魔術師「」

不知火「……」タラリ

リ級「……コレハ、死ンダナ」タラリ

ニコ「うん。今回は殺せたけど、今の魔術師はテレポートを使うから油断できなくてね。罠をすり抜けてくる暗殺者もいるし」

リ級「テレポート? エ、ナニソレ、コッチノ人間オカシクナイ?」

不知火「ニコさんは普段鎮守府に姿を見せていませんでしたが、それは、神殿への侵入者を撃退するためにこちらにいたということですか」

ニコ「頻度は高くないけど、そうだね。艦娘や深海棲艦のみんなにも手伝ってもらえば、もっと簡単に退治できるかもしれないけど……」

ニコ「こちらの世界のトラブルを、そっちに持ち込むのはあまり良くないかな、って思ってるんだ」

ニコ「万が一にも、そちらの世界にこちらの人間を連れ込むわけにはいかないから。あのエフェメラみたいにね」
835 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:33:19.35 ID:Ct+GoMMRo

不知火「ニコさんが門番の代わりにもなっている、ということでしょうか。司令、不知火たちは何かできますでしょうか」

提督「手伝えるとは思うが、こっちには海がねえみたいなんだよ。神殿が山の中で、あってもせいぜい湖沼って程度の水場なんだ」

リ級「ソレダト、私タチハ全力ガ出セナイナ。半陸上型ノ姫様ナラ、多少話ハ違ウケド」

提督「……なあニコ、あのエフェメラって、人間の俺が生まれる以前から、向こうの世界にいたんだよな?」

ニコ「うん。もしかしたら、ここの神殿の扉みたいな場所が、島の鎮守府以外のどこかにも現れてるのかもしれないね」

リ級「ソッチノ世界ノ人間ガ、ソノ扉ヲ使ッテ、攻メテクル可能性ハナイノカ?」

ニコ「ないとは言えないけど……それは余程でない限りできないと思う。この扉を開くための条件も多いし、なにより魔神様の力が必要なんだ」

ニコ「この世界で最も信者の多いアルス教徒たちは、魔神に関係あるものは全部消滅させようとしていたほどだったから」

ニコ「魔神様の力を使おうとした時点で、魔神様を敵視している教会に弾劾されて、裁判にかけられ処罰されるだろうね」

ニコ「もっとも、その解釈自体を自分の都合のいいように言い換えて、魔神様の力を利用する輩もいるだろうから、油断はできないけど……」

ニコ「ぼくが魔神様を復活させるのに苦労したように、今の人間たちが持つ情報から、魔神様の力で扉を作ることは相当難しいはずだよ」

ニコ「もうひとつ懸念があるとしたら、倒したエフェメラの開いた扉を、人間たちが再利用しないかどうか、だけど」

ニコ「エフェメラが倒れたことで魔力の供給が断たれているはず。希望的観測ではあるけど、再利用は難しいと思うよ」

不知火「扉を開くのは難しい、と仰いましたが、ニコさんは比較的自由に扉を開けていますね?」

不知火「司令も同じことができるようになっていて驚いたのですが」
836 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:34:19.46 ID:Ct+GoMMRo

ニコ「一度開いてしまえばあとは割と自由が利くんだ。それに、魔神様との魔力のリンクも済ませてる」

ニコ「だから、魔神様が神殿内やぼくのいるところに扉を開くこともできるし、ぼくも魔神様のいるところに瞬時に現れることができるんだ」

不知火「なるほど……」

リ級「……」

提督「ん? どうかしたか?」

リ級「……コッチノ世界ハ大変ダナ。話シ合イニ応ジル人間ガイル分ダケ、私タチノ世界ノホウガ、少シマシニ思エルナ?」

ニコ「そうかもしれないね。ぼくたちの世界の人間は、どうあっても話の通じない相手だから、言うことをきくまで叩き潰すしかないんだ」

ニコ「こちらの世界の戦いは、人を滅ぼさない限り続くと思う」

提督「……」

ニコ「だからこそ、ぼくは魔神様の完全なる復活を望んでたんだ」

ニコ「……今は、そうでもないんだけれどね」ポ

リ級「ヘーエ……」ニヤニヤ

提督「お前もにやついてんじゃねえよ……ったく」アタマガリガリ
837 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:35:04.30 ID:Ct+GoMMRo

不知火「ふむ……ニコさん? ひとつ質問してよろしいでしょうか」

ニコ「なにかな?」

不知火「ニコさんたちが敵対している、アルス神教……でしたか」

不知火「もし、この神様を信じていないか、対立している人たちがいたとしたら、その人たちと友好関係が結べるものなのでしょうか?」

ニコ「それは考えづらいね。本来の魔神様は人間に慈悲を与える存在じゃない。人間は魔神様の奴隷であり、供物にすぎないんだ」

ニコ「そちら側の人間は、今の魔神様といくらか理解があるからそういう関係が成り立ってはいるけれど」

ニコ「ぼくたちの世界の人間が、そう言い伝えられている魔神様と理解しあえるか、と言う問題が大きいし」

ニコ「なにより、魔神様がどうお考えかが大事なんだ」

ニコ「魔神様が気に入らないと感じたなら、ぼくたちは何の容赦もなく人間を屠るよ。ぼくたちにとっては魔神様が絶対だからね」

不知火「なるほど。司令のお考え次第、ということですか」

提督「まあとにかく、俺はこっちの世界だって気にしてないわけじゃない。つうか、この神殿がニコたちにとって大事な場所なんだろ?」

提督「お前たちが気に入らない相手なら、俺にとっても敵だ」

ニコ「魔神様……!」

提督「だから、ニコも遠慮なく俺を呼べ。艦娘や深海棲艦だって協力はしてくれるだろうさ」

ニコ「……うん、ありがとう。魔神様は優しいね」フフッ

ソニア「もー、ニコちゃんばっかりおしゃべりしてずるーい! 魔神様っ、こうやって働いてる私たちのことも、褒めてほしいなあ〜」ニュッ

ニコ「うわっ!? スプリ……じゃなくて、ソニアっ!?」
838 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:35:49.41 ID:Ct+GoMMRo

提督「おう、実働部隊もご苦労さん。ソニアだけじゃねえよな? 食堂でお茶にするでもいいし、各々しっかり休んでくれ」ナデナデ

ソニア「えへへぇ〜」ナデラレ

コーネリア「しっかり休め、か……それじゃ、次に備えてそうさせてもらうか。戦いで一番重要なのは、備えだからな」

マルヤッタ「わたしもゆっくり休ませてもらうじょ……ふわぁ」

提督「とりあえず、もう敵はいないんだよな?」

ニコ「うん、さっきのが最後だね。ぼくはみんなを呼んで休んでもらうよう伝えるよ。魔神様は鎮守府に行くのかな?」

提督「ああ。艦娘たちで実験してる組織の場所が分かったんでな」

ニコ「ということは、いよいよ決戦だね」

提督「……まあ、そうなんだがな」ウーン

ニコ「?」
839 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:36:39.78 ID:Ct+GoMMRo
と言うわけで今回はここまで。

進めようとしていたルートから若干外れて、お話が作り直しになっております。
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/05/16(金) 11:27:17.67 ID:kWxusoSdO
保守
841 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/06/08(日) 01:55:11.73 ID:TtQZkrzqO
保 守
842 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:33:48.47 ID:pU/6M1Kuo
やっと書けた……と言いつつもまだ迷走中ですが、まずはまとまったところまで。
続きです。
843 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:34:30.72 ID:pU/6M1Kuo

 * 翌朝 *

 * 墓場島沖 海軍巡視船 搭乗口 *

五十鈴「あら、来たわね提督。待ってたわ」

提督「……ん? お前、もしかして」

五十鈴「ふふっ、お久し振り。ちゃーんと、気付いてくれたのね」

榛名「? どういう意味で……あら? あなたは……」

提督「榛名も気付いたか。この五十鈴、神通たちと一緒にF提督のところに行った五十鈴だ」

那珂「っていうことは、F提督さんが来てるの?」

五十鈴「ええ、神通も一緒にね。利根さんと筑摩さんは鎮守府でお留守番だけど」

提督「X大佐に組織のことについて話したいって伝えたとなれば、F提督を連れてくるのも自然な流れか」

榛名「……少し、緊張しますね」

那珂「大丈夫だよー、私たちが悪いことをしたわけじゃないんだから!」

提督「……やっぱり、奴らのことを思い出すのは嫌か?」

榛名「はい……そう、ですね。榛名は……怖いんだと思います」ウツムキ

那珂「榛名ちゃん……」
844 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:35:16.45 ID:pU/6M1Kuo

提督「勝手にいなくなってくれそうな相手じゃねえからな。向き合う必要があるとはいえ、気分が悪くなるようなら無理しなくていいぞ」

榛名「……いえ。ここで目を背けたままでは、彼らの跋扈を止めることはできないでしょう」

榛名「それに、榛名がこのままでは、榛名たちと同道して沈んでいった皆さんに申し訳が立ちません……!」

那珂「……」

提督「そうか。それなら、俺たちでけりをつけてやらねえとな。さ、行くか」

五十鈴「案内するわね。F提督とX大佐が待ってるわ」



 * 海軍巡視船内 会議室 *

神通「提督、お久し振りです」ペコリ

F提督「ご無沙汰しております」ペコリ

提督「よう、元気か? F提督はだいぶ顔色も良さそうだな」

F提督「はい。提督が神通を連れて来てくれたおかげです」

神通「F提督!?」セキメン

X大佐「よく来たね、提督。昨日は僕も舞鶴に向かってたのに、入れ違いになってね。立ち会えなかったのが残念だよ」

提督「ん? そうだったのか? なら、あわてて帰らなきゃ良かったか……?」

川内「そうでもないと思うよ。この話には、F提督に来てもらう必要もあったはずだしさ!」
845 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:36:00.92 ID:pU/6M1Kuo

榛名「X大佐は川内さんも連れて来て下さってたんですね」

那珂「うわー、川内ちゃんも神通ちゃんも、ひっさしぶりー!」ワーイ!

川内「那珂も元気そうだね。こうやって3人が揃うのって久し振りだね!」

神通「もう、姉さんはいつも夜戦に行ってて、日中に顔を合わせることも少なかったじゃありませんか」

川内「あはは、それもそうだね! でも、最近は夜戦ばかりじゃないよ? ちゃんと出撃する時間はみんなに合わせてるから」

川内「みんなと一緒にいる時間も大事にしないと、ってね」

神通「姉さん……!」

那珂「川内ちゃん……!」

川内「まあ、私よりもさ、神通こそ、いまは一番大事な人と一緒にいることができてるわけじゃない?」

神通「えっ」セキメン

那珂「あ、そーだねー、神通ちゃんのコイバナ、那珂ちゃんも聞いてみたいなぁ〜」

神通「ふえっ!? そ、それは、その……」シドロモドロ

川内「那珂、違うよ。神通の場合はもうコイバナって段階はもう過ぎてると思うんだけど」

神通「姉さん!?」

那珂「あー、そっかぁ、もう指輪しちゃってるもんね〜。恋って呼べるところはもう通り過ぎちゃったかな〜?」

神通「那珂までっ!? も、もうっ、からかわないで……!」ミミマデマッカ
846 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:36:47.94 ID:pU/6M1Kuo

提督「……良かれと思って移籍させたが、3人バラバラになっちまったのは、やっぱり良くなかったか?」

X大佐「そんなことはないと思うよ。かつての繋がりもあったんだし、収まるところに収まったんじゃないかな」

F提督「ええ、各々事情がありますから。特に、個人的にですが、この件に関しては本当に感謝しております」

X大佐「川内もそうだよ。ずっと暁や響が心配だったんだし、止提督の元を離れてからは、かつての仲間と連絡も取れてなかったそうだからね」

提督「なんでそういう情報が……あ、止提督か。確かにあいつじゃ余所に情報流すの止めてそうだな」

X大佐「さて、僕の秘書艦の祥鳳が戻ってきたら、話を始めよう。すぐ戻るはずだ」

 扉<コンコン

F提督「! 丁度戻られたようですね。どうぞ」

祥鳳「失礼いたします、大変お待たせいたしました」チャッ

X大佐「よし、それじゃ早速、艦娘で実験しているという、くだんの『組織』についての情報交換会を始めよう……!」

提督「この場は俺たちだけなのか?」

X大佐「うん。中将閣下や与少将殿は本営で会議中。H大将殿も今は呉に行ってるらしいね」

X大佐「ここは自由に動ける僕たちが、情報をまとめようと思うんだ」

提督「ん? 五十鈴もこの話に参加するのか?」

五十鈴「あら、ご不満? 私からも話しておきたいことがあるんだけど」

提督「お前も関係してんのかよ。そういうことなら早速話してもらいたいんだが、いいか?」
847 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:37:30.88 ID:pU/6M1Kuo

X大佐「それじゃ、最初に話してもらおうか」

五十鈴「ええ。最初に、私が提督のところにお世話になる以前は、利提督の鎮守府に所属していたことは覚えてるわよね?」

那珂「えっと、その利提督って、テレビに出るようになってからお金遣いが荒くなっちゃった人、だっけ?」

五十鈴「そうそう。それで個人的な借金が嵩んで逃げちゃったらしくて。それが原因で鎮守府が混乱に陥って、機能不全になったんだけど」

五十鈴「その利提督の鎮守府にいた、他の艦娘と連絡が全然取れなくなっちゃってるの」

提督「……借金のかたに身売りでもされたか?」

五十鈴「それに近いことが起こってたみたいなのよ」

提督「マジかよ……冗談で言ったのに笑えねえな、くそが」

五十鈴「正確には、鎮守府がなくなる前に引き抜かれて移籍した艦娘たちとは連絡が取れてるんだけど」

五十鈴「最後まで鎮守府に残ってた艦娘たちと連絡が取れなくなってるの。正式な解体手続きも残ってないみたい」

提督「海軍が接収したんじゃねえのか? そもそも艦娘は海軍の備品扱いなんだから、個人の借金取りが勝手に連れ出していい話じゃねえよな」

F提督「はい。多くの場合は、新しく配属された司令官および鎮守府のもとへ着任するようになっていますし」

F提督「そもそも鎮守府の機能が止まることを防ぐためにも、艦娘はそのままで司令官だけ変わるようにするのが基本方針です」

F提督「しかし、今回の五十鈴がいた利提督の艦娘たちは、そうされたようではないらしく……」

F提督「他にも同様に、提督の不祥事によって取り上げられた艦娘が、そのままどこかへと消えているようなのです」
848 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:38:16.35 ID:pU/6M1Kuo

提督「解体されてるわけじゃねえのか?」

F提督「であれば資材に変動があるはずですが、そういうわけでもなく」

F提督「轟沈の記録も残っていませんので、艦娘を艦娘のまま、どこかへ連れ去られているとしか考えられないんです」

提督「……まさか、例の『組織』に連れてかれてるとかじゃねえだろうな?」

F提督「私は、そうである可能性が高いと見ています」

提督「……で、実験台にされてる、ってか?」

F提督「おそらくは。そういう意図がなければ、その組織が艦娘を欲することもないでしょうから」

提督「まあ、そうだよな。最悪を考えりゃそうもなるか」

X大佐「提督。君は、昨日H大将やR提督と一緒に、組織の関係者を捕まえたんだったね」

提督「ああ」

X大佐「そして、その場にいた止提督から、組織の情報を得た……」

提督「ああ。そうだ」

X大佐「提督。君は、やはり彼らを襲撃するつもりでいるのかい?」

提督「……」

那珂「あれっ、どうしたの?」
849 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:39:01.02 ID:pU/6M1Kuo

榛名「提督?」

神通「提督、もしや……」

提督「いや、まあ……俺も奴らのことは物理的に潰そうと思ってたんだけどよ。それをやろうと思うと不都合が多くてな……」

那珂「やめちゃうの? 提督さん、常々物騒なこと言ってたよね?」

F提督「理由を伺ってもよろしいですか?」

提督「……仮にだ。連中の拠点に攻め込むとした場合、俺たちが予告してからだと返り討ちに遭うだろう。なんせ舞台が日本国内だからな」

提督「いくら俺たちに大義名分があったとしても、深海棲艦の軍勢が日本で暴れてるのを海軍が指をくわえて見過ごすわけにはいかねえはずだ」

提督「逆に、事前に断りを入れず、不意打ちで叩き潰すとなると……」

提督「気に入らないものは断りなく問答無用で叩き潰していい、っていう、曽大佐の理屈を正当化しちまうことになる」

榛名「なるほど……私たちが組織を武力制圧したのなら、逆に私たちの島を武力制圧されても文句は言えない、と」

提督「ああ。俺たちはこれまでさんざん、話し合いをしたい、と海軍に言ってきたんだ」

提督「話し合いは信用が大事になる。となると、人間の味方を作らないうちに連中を力で潰そうとするのは下策だとしか思えねえ」

五十鈴「そうね。やればきっとやり返されるだろうし、復讐の連鎖になることは避けたいわね」

提督「あとは……あいつらを攻撃する場合、組織を攻撃した理由を訊かれることになると思うんだが」

提督「実際に組織に関わったことがあるのは、俺たちの中では那珂と榛名だけなんだよな」
850 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:39:46.12 ID:pU/6M1Kuo

提督「だから、攻撃した理由を説明するとなると、お前たちに矢面に立ってもらわなきゃならねえんじゃねえか? って思っててなあ……」

那珂「!」

提督「そこにマスコミなんかが関わった日には、無神経に根掘り葉掘り訊かれるのが目に見えてる」

提督「あいつらのやったことがくそすぎてな。那珂たちに思い出させたくないんだよ」

榛名「提督……!」

提督「そういう理由も加味すると、もう手を出すのはやめといたほうがいいとしか思えねえんだよな。くっそ納得いかねえけどよ」

川内「ってことは、かたき討ちを諦める、ってこと?」

提督「んー……それもちょっと違うんだよな。俺がやりたいのは、俺や島にいる艦娘たち、深海棲艦たちの不安を取り除くことだ」

提督「あいつらがまたことを起こさないように、再発しないように連中をぶっ潰すのは、不安を取り除くための手段のひとつであって、目的じゃない」

提督「組織を俺たちの手でぶっ潰さなくても、海軍がその組織を解散させられれば当面の目的が達成できるわけだしな」

提督「おまえの言うかたき討ちも、どっちかっつうと生きてる側が無念を晴らすための口実だろ?」

川内「うーん……そうかな?」

提督「実際に沈んだ艦娘たちに『かたきを討って欲しい』って訴えられたんなら少しは考えるが、そんなことは頼まれたこともないし」

提督「もし死んだ連中から、俺たちに対して沈めとか恨み言吐かれたら、それに従うか?」

川内「それは嫌だね」

提督「だろ? 結局は生きてるほうの自己都合なんだよ。俺が恨みを晴らすのは、この場合は控えないとまずい」
851 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:40:31.62 ID:pU/6M1Kuo

提督「ま、最近は沈んだ艦娘が黄泉返ってくることもあるし、そいつらが何らかの望みを持ってるなら可能な範囲で叶えてやりたいけどな」

F提督「よみがえ……!?」

川内「ああ、あの時雨みたいに?」

神通「早霜さんや別の利根さん、川内姉さんもそうですね」

川内「えっ? 私、沈んでないよ?」

提督「いや、お前じゃなくて、お前に取り憑いてた川内の幽霊がいただろ。あいつが海で見つかったんだよ、ちゃんとした艦娘として」

川内「……ああ、あの! 一緒に夜、特訓してた!」

五十鈴「ちょ、ちょっと、そんなことがあったの……?」

提督「ああ。だいぶ昔だけど、夜戦したい川内の幽霊が、この川内に取り憑いててよ。雲龍に頼んで、お祓いして追い払ってもらったんだ」

川内「えー? そうだったの!? 早く言ってよ!」

五十鈴「どうやって戻ってきたのかしら……」

提督「そこはわからねえが、そのくらい執念つうか執着心があったんだろ。それに、あのときは女神妖精の力もあったからな」

五十鈴「それで艦娘になって帰ってきた、って考えられるわけね……」

祥鳳「……あの、X提督、先ほどから信じられないような話ばかり聞かされている気がするんですが」

X大佐「そうだね……けど、黙って聞くことにしよう。彼らがこの場で嘘を言うようなことはないだろうから」

祥鳳「は、はい」
852 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:41:16.04 ID:pU/6M1Kuo

提督「話がそれたが、あの組織を力づくでどうにかするとなると、どうやっても俺たちに都合が悪い」

提督「かといって見過ごすかと言われれば、それも許容できねえ理由もある」

那珂「あっ、この前話してた、深海棲艦のみんなが誘拐されないか、って話だね!」

F提督「誘拐? あの島の、深海棲艦をですか……?」

提督「そうだ。あの組織にとっては深海棲艦も研究材料だ。あの組織は、艦娘同様に深海棲艦も捕まえて、解析なり解剖なりしてるらしい」

提督「何よりあいつらが作ってる深海棲艦製の弾丸が、1発につき1体の深海棲艦を材料にしてるって話だからな」

提督「実用化する気なら1体2体捕まえただけで済むはずがねえ。何千、何万単位での捕獲を目論んでるはずだ」

提督「野良の深海棲艦を捕まえてたら効率が悪いが、俺たちの島みたいに深海棲艦の住処がわかってるなら、帰りを待ち伏せることもできる」

提督「俺たちも島の領海内だけで生活が回せるほど豊かじゃない。外洋へ漁もするし遠征もする。その帰りを襲われたら防ぎきれねえ」

F提督「なるほど……」

提督「当然、島にはか弱い駆逐艦もいるし、逆に鬼級姫級であっても、珍しさから研究材料として持ち帰りたいと思ってる奴がいるはずだ」

提督「曽大佐の鎮守府の一件で脅しはしたが、それでもあいつらが粗相をしないとは言い切れねえ」

X大佐「……」

提督「俺は今でも連中を潰すのが一番だと思っているが、それが出来ないとなれば、それ以外の方法で連中の活動を縛る必要がある」

提督「そういうわけで、だ。この件については、組織の壊滅に頭が偏ってる俺が考えるより……」
853 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:42:01.13 ID:pU/6M1Kuo

提督「内情を知るX大佐たちのほうが、効果的な案を出してくれるんじゃないかと勝手に思ってるんだが、どうだ?」

X大佐「それはつまり、僕たちを頼ってくれるわけだね」

提督「ああ、頼りにしてるぜ。特にあんたは、何度突っぱねても俺たちにお節介を焼いてきた、筋金入りのお人好しだからな」

X大佐「……」フフッ

提督「この戦争はきっと、人間か深海棲艦のどちらかが滅ばない限りなくならねえ。お互いの存在が、どうやっても相容れないからな」

X大佐「……」

F提督「……」

提督「けど、決定的な深い溝ができたわけじゃねえ。長期間戦い続けて、決定的に断絶したわけじゃねえ」

提督「今はまだ話が出来る。まだ、溝を埋められる段階だ。あんたたちは、その溝を超える橋を作ろうとしてる。そうなんだろ?」

X大佐「そうだね……!」

F提督「はい……!」

提督「俺としても、今のうちに、逃げ道っつうか、会話ができる道も作っておいた方がいいと思うんだ。いがみ合い続けるのも疲れるからな」

神通「提督……」

提督「ただまあ俺も、今回みたいに気にくわねえことがあると、その時の感情で突っ走っちまうからなあ……そこはどうにもよくねえな」

榛名「それは無理もないことです。それだけ、提督は私たちのことを心配なさってくださっていますから」

那珂「ちょっと心配し過ぎなところもあって、私たちが心配になることもあるけどね!」
854 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:42:46.00 ID:pU/6M1Kuo

神通「ご自身の身を軽視し過ぎているところは、皆さん気にしておいで、ですよね」

川内「提督の自己肯定感が低すぎるのが良くないんだよー」

五十鈴「ちょっと提督、好き放題言われてるけど?」

提督「事実だろ?」

五十鈴「反論も面倒臭い、ってこと? もう……提督って、そういう人よね」

提督「まあ、俺のことはさておいてだ。海軍で、そういう連中を抑えつけられる、抑止力になりそうななにかはねえもんか?」

提督「あの手の組織は、叩き潰してもまたどこからか復活するだろうしよ。奴らの上を取って監視し続けて抑えつけておきたいな」

F提督「そうですね……我々が組織の蛮行を辞めさせるよう説得するにしても、その仕切っている人物が分からない事には……」

提督「呉の祢大将とか、H大将にもかまをかけたが、知らねえみたいだったしな……」ウーン

X大佐「F提督は、身を潜めている間にいろいろ調査していたんだよね」

F提督「はい。私共が調べた結果では、J少将の配下であるK大佐が、組織に指示を出していたようです」

F提督「もっとも、そのK大佐の行動も、墓場島の襲撃の数日前にわかったことなので、これ以上の情報がなく……」

提督「それ言われると申し訳ねえな。関わってそうな人間はほぼ全員、俺たちがぶっ殺しちまったからなあ」ウーン

提督「大佐だろ、そいつらの部下5人全員だろ、Z提督に、J少将、K大佐……そいつらの部下もまとめて火山の噴火で焼け死んだし」

X大佐「あの騒動の中では、僕たち以外の生き残りもいるけれど、彼らが何か知っているかと言われると、わからないね」

提督「下っ端だとなおのこと大したことは知らねえだろうな。昨日、舞鶴で捕まえた不審者も、ほとんど情報持ってなかったしよ」
855 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:43:46.03 ID:pU/6M1Kuo

提督「ただ、ああやって鎮守府に誰かを侵入させたりできてる辺り、まだ海軍と仲良しな感じがするんだよな、あの組織」

F提督「仲良し……ですか」

提督「だと思うけどなあ。あいつらの立場になって考えると、海軍と敵対する事態は避けたいはずなんだ」

提督「艦娘や深海棲艦の引き渡しや情報提供は、海軍と協力関係にあってこそ得られる。その恩恵は得続けたいはずだ」

提督「もっとも、組織が海軍より力を得ているんなら、そうはならないが……」

F提督「私が知る海軍ならば、力関係の逆手には起こらないと思いますが」

提督「ん? そうなのか?」

F提督「はい。そもそも最初に艦娘と邂逅したとき、艦娘から海軍を組織して欲しい、と話があったそうなのです」

F提督「当時も海上自衛隊や海上保安庁と言った組織がありましたが、彼女たちは軍制を望んでいたため、日本でも海軍が復活したのです」

F提督「そうまでして設立された海軍が、自分たちの断りもなしに組織が艦娘の調査をしようものなら……」

F提督「海軍こそが組織を潰しにかかるものだと私は思っています」

提督「無駄にプライドはあるんだな……ん? その理屈だと、俺も潰されるのか?」

F提督「いいえ、提督の場合は例外ですね。深海棲艦と友好関係を結べている超重要人物ですから」

提督「例外ねえ……」

F提督「打算的な部分も多いですがね。あなたのもとに艦娘がいたほうが、海軍としても話しやすいだろう、という声もありますし」

F提督「提督のもとにいる艦娘の多くが轟沈を経験しているため、引き取りを不安視する者が多いのも事実です」
856 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:44:31.28 ID:pU/6M1Kuo

F提督「また、無理を言ってあなたの怒りを買いたくない、といった声もあります。あの曽大佐にやった脅しのおかげですね」

提督「そうかい……いいけどよ」

神通「……それから、あくまで建前上の話なのですが」

神通「一部の海軍将校は、提督から艦娘を取り上げないことを『恩赦した』ということにしておきたいようです」

提督「はあ? なんでそこで上から目線なんだよ、くそが」

神通「海軍の対外的な見栄でしょう。提督に対しても素直に頭を下げたくないと言う感情もあるでしょうけれど」

提督「へっ、舐められたくねえってか」

神通「それから、提督に貸しを作っておきたい意図があるようにも思えます」

提督「貸しねえ……あいつら、俺が海軍のやばい情報握ってるの、わかってねえのかよ」

提督「まあいいや。ところで、F提督としちゃあどうなんだ? あの組織の連中の存在を、あんたは許しておけるか?」

F提督「私ですか? そうですね、正直に言えば……許すとは言いづらいですね」ウーン

F提督「結果的に彼らではなかったにせよ、似た思惑を持った者たちに仲間を殺され、私自身も殺されかけたわけですから」

F提督「神通とも離れ離れになって、寂しい思いをさせましたからね。そのことを恨んでいないと言えば嘘になります」

F提督「それに、組織が存続しているならば、また海軍や艦娘、深海棲艦の誰かが犠牲になる危険性は否めません」

F提督「あとは、あなたが彼らを不愉快に思っているように、深海棲艦たちもまた、そう思っているのではないのでしょうか?」

F提督「その彼らが組織として存続したままですと、深海棲艦たちと友好関係を結べないのではないかという点は危惧しています」
857 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:45:15.68 ID:pU/6M1Kuo

F提督「以上から、放置して良い相手だとは思っていない、という点では同意見です」

提督「……」

F提督「ですが、もし……もしも、彼らの活動が節度あるものになるというのなら……そこまで強くは言えなくなるかもしれませんね」

F提督「組織が良い方に改まるのであれば、それ以上責めるのはかえって印象が悪くなるでしょうし」

提督「ま、そうもなるか」

川内「……」

那珂「……」

X大佐「……提督、その件で僕からひとつ提案がある。海軍でも、舞鶴と同じことをしてみないか?」

提督「なに?」

X大佐「まもなく、横須賀で各地の大将殿が一堂に会する機会がある。そこに君も参加してみないかい?」

F提督「X大佐殿!?」

提督「……」

X大佐「君は舞鶴で、組織に関わった人間を、魔神の力を使って追い詰めたそうだね? そして無言の止提督からも話を聞き出した」

X大佐「君がどうやって不審者を追い詰めたか、止提督から話を聞き出したかは、正直よく理解できなかったけど……」

X大佐「もしそこが海軍将校の集まる会議室だったとしても、同じことはできるんだよね?」

提督「お前……」
858 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:46:00.85 ID:pU/6M1Kuo

X大佐「僕も、かの組織のことは、あってはならない存在であると思っている」

X大佐「深海棲艦と言う脅威に、戦う術のない僕たち人類は、戦いのほぼすべてを艦娘に委ねている状況だ」

X大佐「いくら彼女たちが深海棲艦と戦う使命を帯びているからと言って、僕たち人類が彼女たちをいいように使う現状は……」

X大佐「僕は、あまりに『いびつ』だと思っている」

提督「……」

祥鳳「……」

X大佐「確かに、彼女たちは、建造と称して燃料や弾薬を投入して作り出すこともできれば、解体して資材にしてしまうこともできる」

X大佐「艦娘は人間ではないのだろう。でも、そうであっても……彼女たちは自分の意志を持ち、人類のために戦ってくれている」

X大佐「僕は、彼女たちに誠意をもって接したいと思っている」

X大佐「だから、彼らが研究を続けている事実を、僕は黙って見過ごすことはできない。これが人であったら、誰しも見過ごすことができないように」

X大佐「海軍が艦娘を使役するというのなら、海軍はちゃんと艦娘と向き合わなければならないんだ……!」

提督「……」

X大佐「これ以上ない本音で言えば、君の力を使って海軍にいる馬鹿な考えを持つ者を、僕はどうにかして糾弾したいと思っている」

祥鳳「X提督……」

X大佐「さらに言えば、その頭が海軍の中にいるかどうかも疑いたい。軍の外から……政界や財界のフィクサーが関わってる可能性もある」

F提督「……」
859 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:46:45.90 ID:pU/6M1Kuo

提督「あんたが俺たちを誘い込んだと知れたら、そういう連中から命を狙われることになるかもしれねえぞ?」

X大佐「構わないよ、僕は君たちにばかり憎まれ役を押し付けている。本来なら、僕たちこそ覚悟を決めなければならないんだ」

提督「そこまで覚悟決めてんのかよ……参ったな。あんたには、こっち側に染まって欲しくねえんだがなあ」

X大佐「こっち側、ってどういう意味だい? 悪者になって欲しくないというのなら、僕だって海軍の中では異端者だよ」

提督「そうか? いまの海軍は、状況的に討伐派と和解派が7:3か6:4くらいだろ? 別に異端とまではいかねえんじゃねえの」

提督「それに、あんたも和解を望んでいるとはいえ、定期的な深海棲艦の邀撃自体はやってんだろ?」

提督「立場上は『人類』の味方だろうだからな。それを悪者とは呼ばねえよ。なあ祥鳳、お前もそう思わねえか?」

祥鳳「えっ!? そ、そう、ですね……X提督は、常日頃から、海の平和のため、人の世の平和のために働いてらっしゃいます」

祥鳳「私たちのことも心配してくださっていますし、その、お優しい方ですので……」

提督「だよな。必要以上に自分を追い詰める必要がねえのは、あんたもじゃねえか? むしろあんたは素直なまんまのほうがいいと思うぜ?」

X大佐「……僕に猫を被っていろと?」

提督「まあ、そうだな。ぶっちゃけ『こっち側』には来て欲しくないっつうか、お綺麗な役を押し付けたいと思ってる」

X大佐「……」

提督「嫌なら嫌でいいが、それならそれで他に綺麗ごとをのたまうのが似合いそうな奴がいたほうがいい」

提督「よくも悪くも、荒んでない奴の意見が馬鹿どもの目を覚まさせることだってあるし」

提督「自分のしていることに疑問を持って迷ってるような人間には、耳障りの良い綺麗ごとのほうが効果的だ」
860 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:47:30.93 ID:pU/6M1Kuo

提督「こればっかりは、裏でなにかやってそうな奴が言っても説得力に欠けるからな」

X大佐「……かもしれないね」

提督「ま、それはそれとして、だ」フゥ

提督「不本意だが、俺は、組織の殲滅は諦めてる。どうやっても潰した後の言い訳が立たねえ」

提督「その代わりにどういう方法で抑え込むかは、また別に考えるが……」

提督「X大佐が提案した、海軍の将官の会合に乱入して、組織との関係者の首根っこを捕まえてやろうって案には乗っかりたいな」

X大佐「!」

提督「ただ、この話はX大佐が出所だってのは伏せておきたい。俺が発案したていで、中将へ連絡して会合に入らせてもらうか」

X大佐「ち、中将閣下に!? そ、それは駄目だ!」

提督「駄目じゃねえよ。むしろ中将も『こっち側』の人間だ」

X大佐「……!」

提督「ま、安心しな。俺も中将のことは悪者にしたくねえからよ。今後も世話になりてえし」ニヤリ

五十鈴「……不安になるから、その悪い笑顔はやめて欲しいんだけど」アタマオサエ

提督「俺は元からこんなんだぞ?」

五十鈴「知ってるわよ、もう……」カタスクメ
861 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:48:15.70 ID:pU/6M1Kuo

提督「まあいいや、とりあえず俺は中将を通してその会合に入って、黒幕を特定しようと思ってる」

提督「あわよくば、その場で組織の機能停止、もしくは何らかの方法で監視して……」

提督「これ以上悪さができないように抑えつけるところまで持っていきたいな」

F提督「なるほど……不安は残りますが、第一段階としては、良いと思います」

X大佐「……中将閣下を巻き込むのは、あまり気が進まないけれど……」

提督「それでだ。俺がこの方針の是非を問いたいのは、榛名と那珂。それから神通」

那珂「!」

提督「実際に被害を被ったお前たちが、このやり方でいいか、俺に任せてくれるかを確認したい」

榛名「提督……!」

神通「……私も、なのですか?」

提督「ああ。お前がこんな目に遭う元凶になった一端にある組織に対して、一言物申すくらいの権利はあってもいいだろ」

川内「あれ? それ、五十鈴には訊かないの?」

提督「そこは五十鈴が直接の被害を被ったわけじゃないからな。そもそも、五十鈴が島に来たのは、そこの提督のやらかしが原因だ」

提督「あ、一応断っておくが、五十鈴がいた鎮守府の艦娘の救出は難しいかもしれねえぞ。多分そこまで踏み込めねえと思う」

五十鈴「それはもう、仕方がないわよ。行方知れずになってから時間も経ってるし、生きてる保証だってないんだし」

五十鈴「それに、どうしても助けたいかって言われると……正直、そこまでの仲と言うわけでもないのよね」
862 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:49:01.23 ID:pU/6M1Kuo

五十鈴「……五十鈴だけ助かって、良かったのかしら」

榛名「……」ウツムキ

那珂「そ、それは……」

川内「それはいま言っても、仕方なくない?」

五十鈴「でも……」

F提督「……サバイバーズギルト、ですね」

提督「!」

F提督「多数の死者が出た状況で生き残った人間が、自分だけが生き残って良かったのかと悩み続ける心理のことです。私もそうでした」

神通「F提督……」

F提督「残念ですが、そういった事態に陥って、生き残った者たちにできることはそうそうありません」

F提督「自分だけが生き残った理由付けがしたいだけなんですが、だからこそ焦れてしまって、じっとしていられなくなるものです」

F提督「私も、割り切るまでにはだいぶ時間がかかりました」

五十鈴「……」

提督「たとえ不可抗力であっても、自分が悪いと思い込んで、懺悔したくて、罰して欲しくて、許されて楽になりたいってだけの話だろ?」

提督「死んだ連中を言い訳にしてな。こんなのは全部、結果論でしかねえんだ。もしかしたら手前だってどうなってたかわかんねえんだぜ」

F提督「……ええ、そうですね」
863 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:50:00.93 ID:pU/6M1Kuo

提督「まあ、だからって死んだ連中を忘れろとか、蔑ろにするつもりは、今はねえよ」

提督「経験してわかったが、仲間を喪うってのは思ったよりきついしな……俺もあの時は後先見えなくなっちまった」

提督「それでも、ずっと後ろ向いたまま歩くわけにもいかねえんだ。ちゃんと前見て歩かなきゃあ、すっ転んで怪我しちまう」

榛名「……たまに振り返って、思い出してあげればいい、でしたね」

提督「ああ……榛名にも、そう言ったんだっけな」

榛名「はい。それで榛名が沈むようなことがあっては、それこそみんなが怨霊扱いされてしまう、とも……」

提督「そうだ。死んだ連中の名誉を守りたいなら、それを理由に破滅を選ぶようなことだけはあっちゃいけねえ」

F提督「ええ。そうなっては、今いる仲間たちが悲しみます」

F提督「かつて、私が生きていることを隠すため、私の偽の葬儀をしたのですが……その時の映像記録が残っていまして」

F提督「そこで部下や艦娘が悲しんでいるさまを見るのは、なかなか……もう、そんなことはないようにしたいですね」

那珂「F提督さん……」

五十鈴「……」

提督「さて。脱線したが、榛名、那珂、神通。俺が海軍の会議に乱入して、組織の情報を握ってる奴を突き止めるとこまでは、いいか?」

榛名「そうですね……提督の身に危険が及ばなければ、私から申し上げることはございません。榛名は提督の判断にお任せします」

那珂「那珂ちゃんはその案、あまり乗り気じゃないけれど……ほかにいい方法もなさそうだし?」ウーン

那珂「断っておくけど、X大佐たちみたいにいい人たちもいるんだから、海軍の人にあんまりひどいことしちゃ駄目だからね?」
864 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:50:46.36 ID:pU/6M1Kuo

提督「刃傷沙汰にはならねえようにするさ。神通は?」

神通「……」

川内「神通……?」

神通「提督。妖精さんのことは、本当によろしいんですか?」

提督「!」

神通「あの島が燃えた時、あなたと一緒にいた女神妖精さんが、皆さんを救ったと聞いていますが……」

神通「その前にその妖精さんは一度、組織と関係していた人間の手にかかって消滅したと聞いています」

神通「それがあって、あなたは組織に激しい復讐心を抱いていたはず……この決断に至ったのは何故です?」

神通「私は、F提督のかたきを……大佐への復讐を、部分的にですが、果たすことができました」

神通「提督は、そのご自身の復讐の機会を、手放そうと言うのですか……?」

提督「……妖精に限っては、どのくらいの時間が必要かわからねえが、戻ってくる可能性もなくもないんだ」

提督「一度は消えた妖精が、俺たちを助けるために戻ってきたって実績がある。生憎、俺はその時気を失ってたけどな」

提督「俺は、それに賭けようと思ってる。その前に俺が癇癪起こして破滅して、また会う機会を失うことの方がよくねえ、って考えたんだ」

神通「……」

提督「まあ、かたきを討ちたいって気持ちもないわけじゃない。ただ、優先順位は低くなった」

提督「そう思うようになったのが、あっちの……ニコたちのいる世界のことだ」
865 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:51:46.16 ID:pU/6M1Kuo

提督「ニコたちのいる世界は、ずっと人間との戦いが続いてる。メディウムの住処である神殿にも外敵が侵入してきてるくらいだ」

提督「そっちの人間にとっては魔神は絶対悪で、討ち滅ぼすのが正義かつ当然。ニコたちにとってもそんな人間は敵でしかない」

提督「そういう状況を、こっちの世界では作りたくない。あっちとこっちで二正面作戦なんて、やってらんねえぞ? 超面倒臭え」

提督「まあ、あとは、憎悪に身を任せて人間と手を切ったら、俺たちはほぼ野生の生活を強いられることになる。それもそれでちょっとな」

提督「食い物なり趣味の道具なり、ある程度文化的な娯楽がねえと、やっぱりまた戦いに意識が向くんじゃねえかな、ってよ」

提督「言い方が悪いが、日本は外国人に甘いからな。俺たちがいろいろ要求しても、ルールさえ守ってればそれなりの取引はできるだろう」

神通「……」

提督「それから、そういう意図なら人間を支配するって選択肢もあるんだが、今時恐怖政治なんて流行らねえし」

提督「どっちにしろ武力行使はなしだ。猫被っておとなしくしてた方が楽でいい」

那珂「昨日、戻ってくる時はすっごいピリピリしてたって聞いたから、攻め込むのかなって思ってたんだけど」

提督「ゆうべ一晩、時間かけて将来のことを考えてたら、結局はこうせざるを得なかった、って感じだな」

神通「なるほど……わかりました」ウナヅキ

神通「そういうことであれば、提督も集会の席で誰かを殺めるような無茶はしないでしょう。提督に、お任せいたします」ニコッ

提督「そうか」ニッ

祥鳳「だ、大丈夫なんでしょうか……いま、ものすごく物騒な発言があった気がするんですが」

X大佐「そこは提督を信じるしかないね。彼が島のみんなを案じる限りは、変なことはしないだろうけど」
866 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:52:33.25 ID:pU/6M1Kuo

提督「さぁて、どうしてやろうかねぇ……」ニヤリ

五十鈴「だから、その悪い笑顔だけはなんとかならないの? 不安になるんだけど?」アタマカカエ

川内「ほんとにねぇ」アハハ

祥鳳「……」タラリ

F提督「と、ところで、神通が部分的にかたき討ちをした、というのは……?」

提督「ん? ああ、それはだな……俺が大佐に一度殺されたって話は聞いてるか?」

F提督「なんですって……!?」

提督「それで怒った俺の仲間が、大佐をいたぶる過程で足をぶった切ったんだと。で、そのあと大佐の身柄は泊地棲姫に引き渡したんだが」

提督「その時にちぎれた足を、軽巡棲姫の力を借りて生き返った俺が、神通たちに号令かけて撃たせたんだ」

提督「俺たちは、F提督が大佐の手下に殺されたと思ってたから、生きてる大佐を撃つ代わりに、足を撃たせてかたき討ちにしたわけだ」

F提督「大佐は、深海棲艦に引き渡したのですか……」

提督「そもそも泊地棲姫が挙兵したのも、大佐があいつの塒を襲撃したせいだ。怒らせて俺たちの島に攻めこむよう誘導しやがってよ」

提督「だから、泊地棲姫に首謀者を引き渡して、そこから休戦に応じてくれないか、って考えてたんだ」

F提督「そうでしたか。では……私は、あなたと神通にかたきを取ってもらったということですね」

提督「俺たちの自己満足だけどな。そういえば、その場には全員いたんだっけか?」

X大佐「あ、それ以上は言わなくていいよ。これ以上話を聞いたら、立場上……ね」
867 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:53:16.32 ID:pU/6M1Kuo

提督「なんだ、お堅い奴だな。その辺は適当に誤魔化せばいいじゃねえか」

那珂「もー、提督さん、X大佐さんは真面目なんだから、提督さんも真面目にしないと駄目だよー?」

那珂「さっきも提督さんが言ってたじゃない、X大佐さんは悪い方に行っちゃ駄目だって!」

那珂「そうやってX大佐さんを悪い方に引っ張り込むようなことをしてたら、さっきの提督さんのお願いと矛盾するでしょ?」メッ!

提督「んだよ……ったく、わかったよ。しょうがねえな」

X大佐「君たちの中で、僕はいいひとになるのは確定なのかい……?」

那珂「那珂ちゃんは、X大佐さんはいいひとだと思いまーす!」キョシュ!

榛名「そうですね。こうして提督を心配してくださる、素敵な方だと思います!」

提督「そもそも悪人面が似合わねえ。っつうかできねえだろ、心根が善人だから」

祥鳳「……それは確かに……」

X大佐「……」

神通「X大佐はその評価が不本意なご様子ですね」

祥鳳「なにぶん、女性にも見間違えられるほどの童顔ですので、海軍の中でも甘く見られがちなんです」

X大佐「迫力と言うかふてぶてしさというか……威厳が欲しいんだよね」ムー…
868 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:54:01.21 ID:pU/6M1Kuo

五十鈴「それじゃあ、お髭でも生やしたらどうかしら?」

祥鳳「それはいけません!」

五十鈴「えっ」

那珂「えっ」

榛名「えっ」

X大佐「えっ」

提督「……」

祥鳳「あ……い、いえ、潜水艦の皆さんが、そう言っていたので……」セキメン

X大佐「……まあ、確かにゴーヤには大反対されたけど」

提督「髭が生えてりゃいいってもんでもねえぞ? 半端に生えたり整えてない状態だと汚く見えるし」

提督「生え方が自分の想像と違ってると、それはそれで不愉快だしな」

X大佐「その言い方だと、髭を生やしたことがあるのかい?」

提督「ああ。俺の場合は、妖精たちから不評を買ったってのが一番だな。単純に顔がざらざらすんのも嫌だってのもあるけどよ」

提督「なんにせよ、その髭に見合う立場や実績がねえと、見かけ倒しと思われて侮られるのに変わりはねえぞ」

X大佐「……」ウーン
869 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:55:15.87 ID:pU/6M1Kuo
と言うことで今回はここまで。
870 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:10:36.48 ID:so9g0Gzpo
短いですが、続きです。
871 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:11:21.79 ID:so9g0Gzpo

 * 別の会議室 *

 扉<コンコン ガチャ

提督「邪魔すんぞ。ここでいいのか?」

暁「あっ、司令官! ごきげんようです!」

ビスマルク「あら、提督。X提督との話は終わったの?」

提督「おう、いたか暁。で、お前は……ビスマルクだったか。あの船に大勢艦娘が集まってたとき以来か? 一緒にクイーンもいたよな?」

ビスマルク「ええ。あなたに会うのはこれが2度目かしら」

暁「司令官、お変わりないみたいね?」ニコッ

提督「ああ。お前たちも元気そうで何よりだ。で、お前の後ろにくっついてるのが……」

ヴェールヌイ「……」ギュ

提督「ヴェルニイ……? いや、響だったか?」

暁「ヴェールヌイ、よ。でも、響は、響って呼んであげたほうがいいみたい」

ヴェールヌイ「……」ペコリ

暁「再会できたのはいいんだけど、それ以来ずっとこんな感じで……」
872 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:12:06.54 ID:so9g0Gzpo

ビスマルク「行方不明の姉を探し出せたんだもの。無理もないと言えばそうよね」

提督「……まあ、徐々に慣らしてくしかねえかなあ、こういうのは。それで、暁? 俺に話があるって訊いたんだが」

暁「ええ、ちょっとごめんなさい。響、少しの間、司令官とふたりでお話しさせてくれる?」

ヴェールヌイ「……」

暁「お願い。ね?」

ヴェールヌイ「……」ジッ

提督「……」

暁「大丈夫よ。司令官は、暁が記憶を取り戻すまで、暁のことを保護してくれてたんだから」

ヴェールヌイ「……」ウツムキ

暁「ビスマルクさんと一緒に待っててくれる?」

ヴェールヌイ「……わかった」

 クルッ スタスタ…

ビスマルク「それじゃ、あとは任せて頂戴。提督、暁をお願いね」クルッ タタタッ

 扉<パタム

暁「……」

提督「大丈夫なのか、響は」

暁「今の状態は、大丈夫とは言えないわね。少しでも立ち直ってくれるといいんだけど」
873 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:12:51.88 ID:so9g0Gzpo

暁「それはそうと、お待たせしてごめんなさい、司令官。肝心の、聞きたいこと……なんだけど」

提督「ああ、なんだ?」

暁「正直、聞くのが怖いんだけど……」ウツムキ

提督「……」

暁「I提督の鎮守府が襲撃されたときのことなんだけど……あの襲撃があったときって、他の鎮守府との連携が滞っていたみたいなの」

暁「そうなった理由が……誰かが、I提督への支援を妨害してたから、って、聞いて……」

提督「……」

暁「それで、その妨害をしていた人が……海外の泊地へ移動中、あの島の近海で行方不明になった、って聞いて……」

暁「もしかして、それに司令官が、何か知ってるんじゃないか……関わってるんじゃないか、って」

提督「……」

暁「……ごめんなさい。そんなこと訊かれても、司令官も困るわよね」

暁「仮に暁がその真相を知ったとしても、何もできることなんかないんだし……」

提督「……暁は、何が起こっていたのかを知りたいのか?」

暁「……そう、だと思うんだけど。よく考えたら、私もどうしたいのか……わからなく、なっちゃった……」ウツムキ

提督「……」
874 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:13:37.97 ID:so9g0Gzpo

暁「暁は……」

提督「……」

暁「暁は、多分、I提督を……私たちの鎮守府をあんな風にした人たちがどうなったのか、単純に結末を知りたいんだと思う」

暁「それを知って、私は……」

提督「……」

暁「私は……安心したいんだと思うわ。I提督を苦しめた人が、いなくなったことを、確かめたいっていうか、確信したいんだと思う」

提督「そうか。ならどうして、そんなに思いつめたような顔をするんだ?」

暁「それは……だって、よくない事じゃない? 人が行方不明になって……いなくなったことを安心するなんて」

暁「良かったと思ってるのと、同じことじゃない。その人にだって家族がいるんだもの、そんなの、よくない事だと思うわ……!」フルフル

提督「そいつの家族が、悲しまなければいいのか?」

暁「……もう、司令官は意地悪だわ。そんな単純なことじゃないわ」

提督「……」

暁「……」シュン…

提督「ま、なんにせよだ。そいつらがいなくなった事実に変わりはない」

暁「それは、そう、なんだけど、ね……」

提督「……」
875 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:14:21.67 ID:so9g0Gzpo

暁「……」

提督「簡単に割り切れない、ってか。考え方がおとなになるってのも、考え物だな」

暁「……どう受け止めたらいいか、何がいいのかわからないの。悲しい事故なんだろうけれど、どうしても……」

提督「まあ、そうだな。真相なんて知れば知るほど悲しくなるだけだしな」ボソッ

暁「真相……?」

提督「ああ。どうする、暁? 俺は、お前には事の真相を知る権利があると思ってる」

提督「本当に胸糞悪い、反吐の出るような話だが……I提督の鎮守府への支援がなぜ妨害されたのか、俺はお前に話すことができる」

暁「……!」

提督「知りたいか? それとも、聞かなかったことにするか?」

暁「……嫌な、話なのね?」

提督「ああ。知ったら人を嫌いになりそうな話だ」

暁「……」

提督「……」

暁「……司令官。教えて」

提督「……」
876 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:15:06.13 ID:so9g0Gzpo

暁「知らないほうが幸せなのかもしれないけど……暁は、知らんぷりしてちゃいけない気がするの」

提督「そうか。わかった、なら耳を貸せ。あまりでかい声で話したい話じゃない」

暁「わ、わかったわ……」

 *

暁「……」

提督「……」

暁「そ、そんな……そんな理由で、I提督が……」

提督「そう思えば、事故に遭ってざまあみろとも思うだろ?」

暁「ざ、さま……そういうこと言っちゃ駄目よ!」

提督「そうか? 俺はともかく、暁は当事者だ。お前がそいつに恨み言や憎まれ口を言っても、それが普通だと思うけどな」

暁「そ、そんなの……エレガントじゃないじゃない」

提督「エレガントでなくていいだろ。そもそもそいつのやってることがエレガントでもなんでもねえ」

提督「悪いことは悪い、って、びしっと言ってやるのも、大人の対応って奴じゃねえか。優しくするだけが大人じゃねえぞ」

暁「そうかもしれないけど……ねえ、その人は、海軍内とかで罰することはできなかったの?」

提督「一応、手遅れではあったが救援には出向いたこともあって、海軍からの処罰とかは特になかったみたいだな」
877 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:15:51.30 ID:so9g0Gzpo

暁「それが遅くなったのが故意だったとしても……?」

提督「金も時間もかけて救援に行った奴が、救援が遅かったからって理由で罰を与えられたんじゃ、その次から救援に行く奴がいなくなっちまう」

提督「故意かどうか確かめる術もない以上、上はそいつに罰を科すことはできなかったのさ」

暁「ああ……それもそうね」ウツムキ

提督「……なあ、暁? もう一回耳を貸せ」ヒソッ

暁「?」

提督「その船には、Q中将の話してた、I提督の両親を殺した奴も囚人として乗っててな……」ヒソヒソ

暁「え……!?」

提督「俺たちも見つけられなかったって扱いで行方不明にはしているが、あいつらは全員、俺たちメディウムが始末した」ヒソヒソ

暁「……っ!!」ガタッ

提督「……」

暁「し、しれ……っ、しれ……!」プルプル

提督「内緒だぞ」シー

暁「で、でも! それって……!」

提督「海軍の中にも、そいつらを許せない人間がいたってことさ」ヒソッ

暁「……!!」
878 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:16:37.66 ID:so9g0Gzpo

提督「法に従えば、そいつらの命は保障されるべきだろう。それを良しとしない人間がいて、人間の法の外にいる俺たちに、手を下させた」

提督「俺もQ中将の話を聞いて、少なからず共感してたからな。そいつらをメディウムに任せたのは事実だ」

暁「そう……そう、なんだ……」

提督「……」

暁「それじゃ今頃、その人たちもあのお花畑を歩いてるのかしら……」

提督「いいや、そうはなってない。メディウムの手にかかった人間たちは、あの世に行くことはできない」

暁「えっ? ど、どういうこと……?」

提督「メディウムは、殺した相手の肉体と魂を好きにできるんだ。だから、あの船に乗っていた連中が、あの花畑に行くことはない」

暁「……そう……」

提督「……悪いニュースじゃないだろう? 随分寂しそうな笑顔だな」

暁「そうね……正直に言えば、安心したわ。でも、本当なら、あの人たちもあの世に行くはずだったんでしょう?」

暁「I提督を困らせた人たちが、司令官たちのおかげで、そうなったことを……I提督のところに行けなくなったことを、私は喜んでるんだもの」

暁「それって、ひどいと思わない? 暁は、ずるいんだわ……綺麗ごとばかり言って、本当は……」メヲフセ

提督「いや、それをずるいって言うのは、ちょっと違うんじゃねえか?」

暁「で、でも……!」
879 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:17:21.48 ID:so9g0Gzpo

提督「そこは素直に安心した、で終わってりゃいいんだよ。お前だけじゃなく、お前の好きな人たちまで酷い目にあわせた奴らだぞ?」

提督「お前は自分がレディーとして高潔でありたいって思ってるようだが、いくらなんでも無理しすぎだ。そこまで高い理想は体に毒だぞ?」

暁「う……」ションボリ

提督「そうやって悩みすぎて壊れて欲しくねえんだよ、妥協だって必要なんだ。なあ、お前もそう思うだろ? 川内」ミアゲ

暁「えっ!?」

 天井の通気口<ガタッ

提督「ったく、なんてところに隠れてやがる」

 天井の通気口<ガパッ

川内「えへへ、見つかっちゃったかあ」モゾモゾ

暁「そ、そんなところに隠れてたの!?」

 クルン ストッ!

川内「川内参上! なんちゃって。提督、いつから気付いてたの?」

提督「ビスマルクたちが出てってすぐくらいだな」

川内「えー? それじゃほぼ最初からじゃない!」

提督「こちとら侵入者を迎撃する罠を管理統括する魔神様だぞ。嫌でも気付けるんだ、見くびってもらっちゃ困る」

川内「まったくもう……まあ、それはそれでいいんだけどさ」チラッ

暁「!」
880 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:18:06.69 ID:so9g0Gzpo

川内「暁がここまで落ち込むような、I提督の救援の妨害の理由って、なにさ? ひそひそ声だから聞き取れなかったんだけど」ズイッ

提督「……」

川内「あれ? ちょっと提督、私だってあの時の当事者なんだよ? なんで黙っちゃうの!?」

提督「お前の場合は教えた後に何するかわかんねえからな。なまじ行動力あるだけに、あまり迂闊に言いたくねえ」

川内「ひっどーい! なにそれ!?」

提督「……ったく、しょうがねえ。耳貸せ、耳。いいか?」ガシッ

川内「なんて肩を掴むのさ。私、そこまで血の気多くないよ?」

提督「いいから黙って聞け。いいか、お前のいた鎮守府がああなったのは、簡単に言えば、I提督にフラれた馬鹿の逆恨みだ」ボソボソ

川内「へぇ……」ビキビキッ

暁「ピエッ」

川内「……提督。島の近海だっけ? そいつ探して殺ってくるね」ハイライトオフ

提督「っだああ! じっとしてろ! やっぱ掴んでて正解だったんじゃねえか!」オサエツケ

川内「正解じゃないよ!? 行かせてよ!」ジタバタ

提督「そいつはもう始末したんだよ……俺たちメディウムが!」ボソッ

川内「……!」

提督「天国にも地獄にも行けないようにしてやった。だからもう手出し無用だ」

川内「なぁんだ、そっか。残念。私が引導を渡したかったんだけどなぁ」
881 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:19:06.41 ID:so9g0Gzpo

提督「気持ちはわかるが我慢しな。ったく、どこが血の気が多くない、だ」

暁「本当、どうなるかと思ったわ……」ホッ…

川内「えへへ、ごめんね?」ハイライトオン

提督「まあ、川内の気持ちはわかるけどよ……むしろ、暁の反応のほうが、俺としちゃ心配だな」

川内「暁はそいつらに頭にきたりとかしてないの?」

暁「うーん、悲しいとは思ったけど……そもそも、暁はあまり怒りたくないの」

提督「怒りたくない?」

暁「ほら、司令官が以前、自暴自棄になってた時があったじゃない? あのとき暁が怒ってから、みんなに怖がられちゃって……」シュン…

提督「ああ、確かにあの時は……全員ブルッてたな」

暁「だから暁は怒らないようにしたいし、怒るのはやめたいの。みんなに怯えられるレディーなんて、良くないわ」

川内「そんなに怖かったの?」

提督「迫力はあったな。あ、興味本位で怒らせようとすんのはやめろよ?」

川内「やらないよ。今は今で、暁を怒らせるようなことをしたら、響が黙ってないだろうからね」

提督「ああ……確かに」

暁「そうね、響は心配よね。一回、お姉ちゃんらしく叱ってみようかしら……」

川内「そのほうがいいかもね。あ、叱るよりは、暁が優しく諭せば、聞いてくれそうじゃない?」

暁「優しく諭す……そうね。それが一番、暁らしいかも!」グッ
882 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:19:51.33 ID:so9g0Gzpo

川内「それにしても、I提督もひどい災難だよね。まあまあよくありそうな愛憎劇とはいえ、そんなことに巻き込まれるなんて……」

提督「こんなこと、よくあってたまるかよ。巻き込まれたお前たちだってたまったもんじゃねえだろが」

川内「それはそうだけどね……ねえ、この話、これまで誰に話したの?」

提督「うちの艦娘なら大和とかル級とか、計画に手伝ってもらった一部だな。あとはメディウムたちだ」

提督「うちの連中以外なら、お前と暁以外にはしてねえよ。響に話すかどうかは任せるぜ」

川内「そっか。じゃあ、島に近づかなきゃ、この話は広まらないってことだね」

提督「まあ、そうだな。俺たちも、こんな話はそう誰かに話すこともねえだろうし、徐々に忘れるだろうさ」

川内「ん、わかった。それにしても、提督も大変だね、やることが多くて」

提督「まあな。次から次と、休む間もねえ」

川内「あはは、でも、楽しそうだよ?」

提督「……そうか?」

川内「うん。提督の次の話し合いは海軍が相手かあ……大変だろうけど、頑張ってね」

提督「ありがとな。川内も、悪いが暁たちのことは頼んだぜ」
883 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:21:14.72 ID:so9g0Gzpo
というわけでここまで。
この次のシーンまでは書いているけど、その続きが……。
難産続きでスレも跨ぎそう。もうしばらくお付き合いください。
884 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/07/07(月) 01:21:44.10 ID:VLQv44b10
舞ってるで
885 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:45:32.20 ID:Qx5bHHluo
大変お待たせしました。続きです。
886 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:46:22.89 ID:Qx5bHHluo

 * 数日後 *

 * 横須賀鎮守府 会議室 *

進行役「報告は以上となります。また、本日を以ちまして中将は海軍を退役し、以後は相談役として本営に非常勤となります」

 パチパチパチ…

進行役「中将、一言お願いいたします」

中将「うむ……まずは、皆に御礼申し上げたい。老いぼれの儂が今日まで勤めあげられたのは、皆の協力があってこそ」

中将「この国のみならず、世界中に多大な影響と損失を与えた、深海棲艦との戦いは新たな局面を迎えている」

中将「そのさなかに戦線離脱するようで、後ろ髪引かれる思いではあるが……艦娘の指揮とはまた違う形で、皆をサポートできればと考えている」

将官「中将……!」

艦娘「後は我々にお任せください!」

中将「うむ、期待しているぞ。それで早速だが……」

将官たち「?」

中将「新しい局面を乗り切るために、ひとつ、お節介を焼かせてもらいたい」

艦娘たち「??」
887 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:47:06.34 ID:Qx5bHHluo

中将「入ってくれたまえ。彼は、これから深海棲艦と向き合うにあたり、避けては通れない重要な人物だ」

祢大将「重要な人物……?」

H大将「まさか……」

元帥「……」

 扉<コンコン

赤城「失礼いたします。提督をお連れしました」

 扉<チャッ

提督「よう。邪魔するぜ」

 ドヨヨッ!

大将「て、提督!?」

H大将「お前……!」

H大井「こ、こんなところにまで来たんですか!?」

祢大将「……気付いていたかね?」

秘書「いえ……魔物や深海棲艦の気配は全く感じられませんでした」

提督「改めて、自己紹介しておくか。俺は提督。××島鎮守府の……いつからか墓場島なんて呼ばれてた島にある鎮守府の提督だ」

提督「近々退任して、深海棲艦に割譲することになった××島の責任者として改めて着任する」
888 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:47:51.57 ID:Qx5bHHluo

提督「中には俺の顔を見たくない人間もいるだろうが、海軍には世話になったんで、退職と、新規着任の挨拶と、義理を通しに参上した」

中将「まだ彼の顔を見たこともない者もいるだろう。この機会に顔を覚えてはどうかと思い、はるばる××島から来てもらったのだ」

将官「ち……中将殿!? この男をこんなところに連れて来て、大丈夫なのですか!?」

将官「何を企んでいる!? 本営に何の用だ!!」

提督「何の用だって? 話が早いな、それじゃあ早速用件に入らせてもらうか」

将官「おい!? そういう意味じゃ……」

大将「黙って聞け! 中将殿の客人だぞ!!」

将官たち「「……」」

提督「おぉ……さすが大将だな。助かるぜ、ありがとな」ニッ

大将「ふん。で、用件と言うのはなんだ?」

提督「いくつかあるが、まずは調査依頼だ。艦娘や深海棲艦について研究している、ある組織について、調査協力を海軍に要請したい」

 ザワ…

将官「艦娘や深海棲艦について研究している組織……?」

提督「ああ。俺たちはそいつらに狙われている。その組織の活動を、海軍に抑制してもらいたい」

提督「そいつらは深海棲艦を素材にして、深海棲艦にも艦娘にも通用する武器を作っているんだ。聞いたことはあるだろう?」

艦娘たち「……!」ドヨッ…
889 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:48:36.77 ID:Qx5bHHluo

提督「そいつらのやってることを止めてくれ、ってのが俺たちの要求だ」

将官「どういうことだ……?」

将官「その研究は以前、摘発されたはずだぞ……?」

提督「それは3年前の話だな。俺が言っているのは、数か月前にJ少将が××島で死んだときの事件の話だ」

提督「そのときJ少将と一緒にやってきたZ提督たちが、深海棲艦から作った弾丸を持っていたんだよ」

将官「なんだと……!?」

提督「それの製造をJ少将が指示していたとしたら、その組織とつながっている人間が今も海軍にいるんじゃないか、と疑っている」

将官1「何を世迷言を……! 海軍の結束を脅かすような出鱈目を言うな! おとなしく帰るがいい!!」

提督「おいおい、軽々しく帰れなんて言うなよ。俺たちは近々政府とも話し合うつもりなんだ」

提督「その話し合いの決裂の理由に、あんたの名前を出してもいいのか? なあ、和中将?」

将官1→和中将「!! な、なぜ俺の名を……!」

提督「あの島を縁起が悪いと忌み嫌って、たまたま利害が一致した曽大佐を支援してたのはあんただよな」

提督「んなことしてりゃ、嫌でも名前くらいは覚えるぜ? なんで俺たちに知られてないと思ってんだよ」

和中将「く……貴様、俺を愚弄しに来たのか!」

提督「違えよ。俺たちは、俺たちが懸念している不安要素を取り除きたくてここに来たんだ」
890 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:49:21.62 ID:Qx5bHHluo

提督「さっき言った、その研究組織が存在し続けることで、俺たちの安全が脅かされるわけだからな」

和中将「なにが安全だ! そういうセリフは、すべての深海棲艦が侵略をやめてから言え! 深海棲艦の手先めが!」

提督「無理言うぜ。だったらあんたこそ、すべての人間に戦争をやめさせろ。できねえくせに」

和中将「屁理屈を……!」

提督「ま、これまでの経緯を考えても、深海棲艦が排除されてしかるべき、って人間側の言い分も理解はしてるさ」

提督「話も通じず無差別に人間を襲ってたんだからな。それじゃ憎まれて当然だ」

提督「だが、今は状況が変わった。深海棲艦の中でも、人の話を聞く者が現れた。人間の考えを理解するものが現れた」

提督「今がまさに、中将の言う新たな局面、ってやつだ」

将官たち「……」

提督「あんたたち海軍の思惑はさておいても、俺たちの存在を知った政府は、俺たちと条約を結びたいと言ってきている」

提督「条約結んでお互いに戦わないようにするのは、俺たちとしても賛成だ」

提督「いま、政府が持ってきた条約の中身を精査してる。問題がなければサインするつもりでいるんだが……」

提督「その前に、この国にある、深海棲艦を鹵獲するような物騒な組織をなんとかしなきゃ、とても安心できねえ」

提督「だから、その組織とつながりのあるであろう海軍に、なんとかしてくれと、こうやってお願いをしに参った、ってわけだ」

将官たち「……」ザワザワ…
891 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:50:06.81 ID:Qx5bHHluo

提督「本音を言えば、俺たちはその組織のやってることが許せねえ。今すぐにでも殴り込んで、そこの連中を皆殺しにしたいくらいだ」

提督「仮にあんたたち海軍が連中と無関係だと言うのなら、これから潰しに行っても問題ねえよな?」

和中将「問題ないわけがないだろう! 国内で戦争などさせられるか! 何を考えている!!」

提督「だから、海軍にそいつらをおとなしくさせろって言ってんだよ。自分の庭だろ? 掃除くらい自分でやってくれよ」

和中将「貴様……それが人にものを頼む態度か!!」

H大将「提督、そのくらいにしておけ。お前も、我々をからかいに来たわけではあるまい」

提督「組織のことを知りもしないのに、ごちゃごちゃ口を出してくる和中将を先に何とかしてくれよ。俺は話が通じる奴と話がしたいんだ」

和中将「こんな話、知っているどころか、出まかせでしかないだろう! 誰が知っていると言うんだ!」

大将「俺が知っているぞ。あの男の言うことも本当だ」

和中将「なっ!? ……た、大将殿……!?」

大将「ただ、裏付けが不十分だ。この場で説明できるほど情報が出揃っていない」

提督「そうなのか? 俺からもいろいろ情報を出しただろ?」

大将「それでもだ。残念だが、お前から得た情報も、ある程度はこちらで調査済みだ」

大将「そのうえで、決定的な証拠になるようなものを手に入れられなかったからな。その辺はお前にも知らせていただろう」

提督(F提督が調べてた話か……)

大将「確かに、深海棲艦を武器に作り変える技術については、過去にZ提督が研究していた件で共有されている」
892 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:50:51.16 ID:Qx5bHHluo

大将「だがその技術は、Z提督が営倉へ連行された時点で潰えたもの、というのが我々海軍共通の認識だ」

提督「J少将の一味が持っていた話は共有してなかったのか」

H大将「お前の危惧していた通り、この中に妨害者もいる恐れもあったからな。報告に関しては慎重にならざるを得なかった」

H大将「残念ながら実際に、お前があの男を捕まえた後、怪しい連中が私の鎮守府を見張っていたと報告を受けている」

提督「マジかよ。ちなみに被害は?」

H大将「幸いにして、ない」

H大井「いまのところは、ですけどね」

提督「そうか。んじゃ、俺がこれから安心させてやるぜ」

H大将「なに……?」

提督「改めて言うからよく聞きな。俺たちからの最終的な要求はふたつだ」

提督「ひとつめ、調査対象の組織が持つ深海棲艦の武器化の技術の放棄と永久的な停止」

提督「ふたつめ、調査対象の組織への案内と、武器化技術停止に至るまでの活動内容すべてをまとめたレポート」

提督「このふたつを、俺は海軍に要求する」

 ザワッ…!

大将「活動内容のレポートだと……!?」

H大将「ある意味、我々にも理のある要求だな」

祢大将「……なるほど、考えたな」
893 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:51:36.63 ID:Qx5bHHluo

提督「勿論、この要求を拒否してもらっても構わない。くだんの組織に海軍が関わっていないと言うのなら、それも信じるとしよう」

提督「その場合、俺たちはその研究施設へ全面攻撃を準備する」

将官たち「!?」

提督「心配しなくても事前に攻撃する場所と日時は予告するし、その組織を攻撃する理由もすべて事前に連絡してやるよ」

将官「し、正気か!?」

将官「そんなことをすれば、お前たちもただでは済まないぞ!」

将官「宣戦布告するのと同じじゃないのか……!?」

提督「宣戦布告……? まあ、意味合い的にはそうなるか」

提督「けど、別に構わないだろう? 海軍がその組織をかばうつもりなら、どうせ俺たちは相容れない。早かれ遅かれ戦うことになる」

提督「もしそうなった場合は、海軍と政府だけじゃなく、世界各国に向けて攻撃に関する情報を配信する」

提督「特に攻撃する地域の自治体には、目標近辺の住人の避難を呼びかけるようにも連絡するし、メディアにも正確に報道するよう要求する」

大将「海軍の後ろめたい部分を世界に暴露して、世論を味方につけるつもりか……!」

祢大将「それだけではないな。海軍が深海棲艦に攻撃されて当然だと思わせる理由があるとなれば、海軍は世界から危険視され孤立することになる」

H大将「海外からの協力どころか、国内からも反発を受けることになるぞ」

H大井「事情を知らない艦娘たちが、海軍に懐疑的になることも十分に考えられますよ……!」

提督「素直に応じるんなら誰も傷つけたりしねえよ。こっちは正直、連中の所業に腸が煮えくり返ってはいるが、それも我慢してやろうってんだ」

提督「組織がどこにあって、そこでなにをやってたか、すべての情報を俺たちに曝け出してくれれば、そこの連中の命までは取らねえよ」
894 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:52:21.90 ID:Qx5bHHluo

提督「俺たちは、そこで作った危険物に、何度も狙われたり殺されかけたりしてるんだぜ?」

提督「俺たち自身の身を守るためにも、それがどういうブツなのか、現物を見て知りたいんだ。悪い話じゃねえだろ?」

将官「そ、そんなことをしたら、却って深海棲艦の怒りを買ってしまうんじゃないのか?」

提督「そこはそうならねえように言って聞かせるさ」

和中将「言って聞かせる!? あの深海棲艦にか!?」

提督「ああ。うちの島の連中なら、俺の言うことはそれなりに聞いてくれるぞ?」

和中将「それなりに!? それなりにで信用できるか! 無責任なことばかりほざきおって……!」

提督「無責任って……つうか、お前こそなんで責任取ってねえんだよ」

和中将「なっ!?」

提督「さっきも言ったが、俺たちを必要以上に敵視して、曽大佐けしかけたのはお前だよな?」

提督「その件で、祢大将がわざわざ俺のところにまで足を運んでくれてたんだぞ? そこは本当ならお前が出張って詫び入れに来る話じゃねえのか?」

和中将「い、言わせておけば……!!」ビキビキッ

提督「それ以外にも、艦娘を鎮守府に作ったバーに閉じ込めて歓待させたり、あの島に渡航歴あるやつへ呉に来るなと言い出したり」

提督「与少将を手前の息子に引き合わせようと画策したり、職権乱用しまくりじゃねえか。何やってんだお前」

和中将「!? ……っ、な、なにを、何を言うか!?」

祢大将「……提督、最後の話は初耳だな。和中将は、与少将を自分の息子に引き合わせようとしたのか?」

和中将「い、いえ! そのようなことは!」ビクッ
895 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:53:21.64 ID:Qx5bHHluo

提督「隠さなくてもいいぜ。俺にはそういう隠し事が分かるんだ。強く思ってることは特にな」

祢大将「なるほど。確かに、君にはそういう力があるという話だったな」

和中将「信じるのですか!?」

H大将「提督、お前のその力は、相手の頭を掴まないといけないんじゃなかったのか」

提督「いいや、その必要がない時もある。だからこそ……」

提督「組織のことを知っててだんまりを決め込んでる、手前が気に入らねえんだがな? なあ、元帥さんよ?」ギロリ

H大将「!」

大将「元帥殿が、知っているというのか……!?」

中将「……元帥。君は、組織のことを知っているというのかね」

元帥「……」

提督「元帥だけじゃねえぜ。ここにいる数人も、ちゃっかりすっとぼけてやがる」チラッ

数人の将官たち「!!」ビクッ

提督「まあ、下っ端はどうでもいいんだ。元締めの口から、ちゃんと答えを出してもらえれば……」

艦娘「ま、待ちなさい!」バッ

艦娘「元帥閣下に手出しはさせないわ!!」ババッ

提督「あん? 心配しなくても手なんか出さねえよ」

提督「下のフロアで中将に花束渡す奴らが待ち構えてるんだ、そんな日に刃傷沙汰なんか起こしたかねえ」
896 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:54:06.22 ID:Qx5bHHluo

提督「俺は、この場で色好い返事がもらえないようなら、さっき言った通りのことを実行する、って言ってるだけだ」

提督「その返答を出し渋ってるから、とっとと答えてくれって話じゃねえか」

元帥「……」

提督「よし、どうせだから、もうひとつこっちが握ってる嫌な情報を出しとくか」

H大井「嫌な?」

提督「ああ。お前ら知ってるか? その組織が、艦娘を深海棲艦に作り変えることができないかを研究してたって話」

 ドヨッ…!!

大将「そ、それは本当か!?」

提督「……このことを知らない奴が結構いるな?」

H大将「その話は俺も初耳だな。事実なのか?」

提督「俺たちもあくまで情報としてしか掴めてないが、その組織が艦娘についても研究していることは間違いない」

提督「うちの鎮守府には、その実験から生還したやつもいる。わざと轟沈させられて、深海化しないかの実験台にされたやつらがな」

H大井「な、なぜそんなことを……!?」

提督「武器に作り変える深海棲艦を鹵獲するより、艦娘を作り変えたほうが簡単そうだったから、じゃねえか?」

H大井「……っ!」

提督「深海棲艦にしても艦娘にしても、その存在については未だに謎が多い」

提督「明確にわかっているのは、深海棲艦に真っ向から対抗できる力を持つのは艦娘だけ、ってことくらいだ」
897 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:54:51.61 ID:Qx5bHHluo

提督「こんな得体の知れない艦娘なる存在は、各国の海軍が責任をもって秘匿、管理すべき……というのが一昔前の共通認識だった」

将官たち「……」

提督「とはいうものの、設備と資材さえあれば、建造することで新しい艦娘がいくらでも作れるし、解体だって日次任務でやってるとも聞いている」

提督「練度が足りているかは別にしても、艦娘の数が逼迫しているかと言えば、そうではないのが実情だと思っている」

提督「一部じゃ、全然お呼びがかからず暇を持て余した艦娘もいるらしいな?」

大将「むう……」

提督「おそらくその組織は、そういう『余らせた』艦娘を引き取って実験に使ってるんだ」

提督「ある鎮守府の提督が何らかの理由で退役し、無所属になってしまった艦娘がその組織に連れていかれたと思われるケースがある」

提督「そうでなくても、轟沈や解体を偽装して、組織に艦娘を横流しすることも、やろうと思えばできるだろう」

提督「俺のいる島にも、轟沈していないのに轟沈扱いされた艦娘が何人かいるからな」

将官「う、嘘だろう……?」

提督「嘘かどうかは、俺が要求している、組織の記録を見ればわかる話さ」

提督「もっとも……ここにいる何人かの顔には『なんでそこまで知ってんだ』って書いてあるけどなぁ?」ギロリ

将官「……っ!」

艦娘「そんな……!?」

艦娘「ほ、本当なんですか……!?」
898 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:55:39.93 ID:Qx5bHHluo

提督「さて。俺は、何も難しいことは言っていないつもりだ」

提督「俺たちの身の安全のため、深海棲艦の連れ去りをやめさせろと、組織が何をしているかを見せろと」

提督「深海棲艦を鉄砲玉にして、或いは艦娘を深海棲艦に作り変えて、俺たちを殺す武器に作り変えるのをやめてくれと言っているだけなんだ」

提督「人間に例えて言えば、生きたままの人間の手足をぶった切って自由を奪い、砲弾のように大砲から打ち出すのと同じようなもんだ」

提督「もしどこかの国がそんなことをしていたら、やめさせようとするだろう? 俺はそれと同じことを訴えているだけだ」

将官たち「……」

提督「あんたたちが人命を守りたいと思うのと同じように、俺はうちの島の住人を守りたくて、俺はここに来た」

提督「組織に関係している海軍の人間を処断しろとか、責任取らせろとか、そういう話は一切していない」

提督「この場でここにいる誰かの命を脅かすような真似もしない。俺の要求を飲むのか、突っ撥ねるのか。俺は聞きたいのはそれだけだ」

将官たち「……」

将官2「黙って聞いていたが……目に見えて狼狽えている者がいる以上は、嘘やはったりを言っているわけではなさそうだな」

将官3「そもそも、何故こんな大事な話が共有されていないんだ。どうしてこんな事態になるまで放置しておいたんだね?」

H大将「まあ……そいつは仕方ないんだ、ふたりとも。その組織の話については、あまり迂闊なことも喋れなかったからな」

提督「……そっちのふたりは……大将か?」

H大将「ああ。まず、こちらは……」

将官2→宇大将「ん、宇大将だ。佐世保鎮守府を統括している」

宇大将「生憎、自分は貴様が欲している情報を提供できる状態にない。この場は聞き手に回るが、のちに詳しく話を聞かせてもらうぞ」

提督「……」
899 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:56:23.18 ID:Qx5bHHluo

H大将「それから、こちらは大湊警備府の武大将だ。彼は、深海棲艦との休戦に肯定的な意見を出している将官の一人だ」

将官3→武大将「初めましてだね。よろしく頼むよ」ニヤッ

提督「ああ。大湊っつうと、N特尉の上官か」

武大将「うん。残念ながら彼は大湊に戻る暇もないようで、最近は私も彼の顔をあまり見ることができていないがね」

提督「そりゃ特警の仕事を押し付けてるあんたのせいじゃねえか。N特尉以外の誰か出張らせりゃいいだろうによ」

武大将「おや。そりゃ失礼」フフッ

提督「まあ、あいつがあんな仕事に就くことになったのは、あいつ自身の身から出た錆だけどな。あんなツールに手を出したのが悪い」

将官「ツール? ……艦娘洗脳ツールのことか?」

将官「そんなことまで知ってるのか……」

提督「……なんか、俺に関する情報が、本っ当に行き渡ってねえな? 俺って悪い意味で重要人物だろ?」

大将「これでも貴様の話題は俺や中将殿から出してはいるぞ。ただ、貴様に関わる話はどうにも盛り上がらなくてな……」

祢大将「大将は君のことをもっと話したいようだったが、いつも早々に切り上げられていたんだ。そうですね、元帥閣下」

元帥「……」

提督「へぇ……」

大将「むう……そういえば今更だが、元帥殿も貴様の話題に対してはことのほか反応が薄かったように思えるな?」

大将「あの島の関係者だからという理由で、皆が触れたがらなかったのも、理由のひとつだと思っていたが」

祢大将「それは和中将のことだな」

和中将「!?」ビクッ
900 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:57:06.25 ID:Qx5bHHluo

武大将「そのことを抜きにしても、提督の情報は単に要注意人物、という話だけ回ってきていたんだよねえ」

祢大将「おかげで彼の話はいつも消化不良だった。詳細を武大将と話し合ってはいたものの、肝心な話は不明だとはぐらかされ続けてきた」

武大将「提督の話が本格的に持ち上がったのは、中将殿が大佐たちと一緒にあの島で泊地棲姫と交戦したあとだったかな」

武大将「その当時は中将殿も入院しておられたし、他に詳しい者と言えば、甥のX大佐経由で提督に接触していると噂の大将だけ」

武大将「その大将に詳しく聞こうと思っても、取り込み中だったり一人で先に突っ走っていたり……置いてきぼりにされてきた感はあるね」

大将「うぐ……」

祢大将「情報がまともに揃っていない状態で、彼のことを信用するもしないもないからな。宇大将もそうだったんではないかな」

宇大将「ああ」

H大将「まったく、大将も私より先にほかの大将に詳しく話をしておけば良かったものを」ハァ…

武大将「そうだよ、どうして私よりH大将のほうが彼と親し気なんだ? H大将はどちらかと言えば彼とは反対の立場だったじゃないか」

大将「し、仕方ないだろう! H大将が提督のことを疑っていて、それで俺に話を持ってきたんだ!」

H大将「……思えば、その話もJ少将からだったな。俺たちはあいつにいいように踊らされていたということか?」

提督「今更どっちでもいいけどよ。そんなことより、俺の用事は……元帥」ギラリ

元帥「……」

提督「あんたから、さっきの話の是非を問うことだけだ」

将官たち「……!」

艦娘たち「元帥閣下……!」
901 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:57:52.06 ID:Qx5bHHluo

提督「黙ってたって進展しねえぜ。あんたが組織のトップなんだ、とっとと結論を寄越しな」

和中将「……ぐぬうう!! さっきから聞いていれば偉そうに、それが年長者に対する態度か!」

和中将「海軍の最高責任者だぞ!! 少しは態度を弁えろ若造が!!」

提督「ったく、さっきからうるせえな。んじゃ、お前に組織の調査を頼めばいいのか?」

和中将「貴様の世迷言など信じられるか! どうせ嘘八百を並べて海軍の内部崩壊を企んでいるんだろう!」

提督「うげ……参ったな。こいつ、他人の話を聞かねえタイプか。知ってたけど面倒臭え」

祢大将「……和中将」

和中将「!」ビクッ

H大将「提督、貴様もいちいち突っかかるな」

提督「それは出しゃばってくる和中将に言ってくれよ……もう相手にしねえけどよ」

提督「けどまあ、和中将の言い分もわかるんだよ。滑稽ではあるが、そこに悪気はねえ。本当に組織のことを知らねえからこその言い分だ」

祢大将「……」

提督「そういう和中将みたいな反論や弁明が、元帥の口からも一切出てこねえってのはどうなんだ?」

和中将「げ……元帥閣下がこのことを御存知ないからに決まっているだろう!?」

提督「知らないなら知らないなりに、わからないって一言否定してくれてもいいじゃねえか。それすらないのが、どうなんだって話だよ」

祢大将「……」

中将「元帥。提督の言う通りだ、黙っていても事態が好転するわけではないぞ……?」
902 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:58:36.25 ID:Qx5bHHluo

提督「うーん……そうだな。しょうがねえ、もうひとつ嫌な話をしてやるか」

大将「ま、まだあるのか?」

提督「中将に伝えなきゃいけない話があるんだ。いまこの場で話してもいいか?」

中将「む……な、なにかね?」

提督「ここに来るとき与少将から聞いたんだが、ついさっき駐日イギリス大使から、俺たちにコンタクトを取りたいって話が来たんだと」

中将「! 本当かね」

提督「ああ、詳細はこの後で与少将に確認するが、ことの次第によっては、日本政府よりそっちを先に相手しないといけなくなるかもな」

大将「な、なんだと!?」ガタッ!

提督「俺たちは、組織の話がクリアにならない限りは、日本政府との話も保留にしたいんだよ」

提督「この話は、俺たちの身の安全を保証してもらう話なんだ。その話が進まない限りは、政府と話し合いなんかしてもしょうがねえ」

提督「仮に政府が組織の存続に一枚噛んでいたとしても、海軍が無関係ってわけでもないし、疎かにしていい話でもない」

提督「俺たちは話ができるほうに話をしに行く。普通だろ?」

大将「元帥殿! 提督がここまで来ているというのに、我らが足を引っ張ったとあっては、政府との信頼関係を疑われます!」

祢大将「数多くの艦娘を束ねる海軍をさておいて、他国が深海棲艦との交渉権を得たとなると、国家の権威失墜にもつながるな」

武大将「交渉決裂よりまずい結果になってしまうんじゃないか?」

和中将「そ、それはいかん……! げ、元帥閣下!!」
903 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:59:21.19 ID:Qx5bHHluo

元帥「……」

提督「まあ、元帥がなかなかうんと言わねえ理由もそれなりにわかってるんだ」

提督「一番は、艦娘を使った実験を行っていたこと。元帥も含めて知らない奴が多いようだが、実態が暴かれたら相当やばいと思ってる」

提督「これが明るみに出て、海軍が艦娘からの協力を取り付けられなくなったり、造反でもされたりしたら人類は終わりだ」

大将「ぬう……!」

提督「それから、深海棲艦に話が伝わった場合は、更に敵意をむき出しにして襲ってくるだろう。国内の拠点が攻撃される可能性も増えそうだ」

武大将「おや? 君が知っている、イコール深海棲艦たちも知っている、じゃないのかね?」

提督「悪いがそこは俺もわからない。深海棲艦は群れ同士での交流が少ないみたいで、聞いた感じ、余所は余所、ってとこが多いらしい」

提督「だから、実際にはこの話もあまり広まってはいないんじゃないかって推測してる。あの弾丸をあちこちで使っていたりしたら話は別だがな」

武大将「……君がその話を誰かに伝えたりはしていないのかい?」

提督「それはない。島の外にいる深海棲艦とは話す機会がまだねえんだ。調べるにしても、まさか白旗振りつつ訊きに行くわけにもいかねえよな?」

武大将「それはそうだねえ……」

提督「ほかには……そうだな、その拠点が国内に複数個所あるせいで、そのあちこちに俺を案内しなきゃいけなくなりそう、ってのもあるか?」

H大将「複数拠点あるだと……!?」

提督「ここに何人か協力者がいるんだ。全員が常々一か所に固まってるわけじゃねえはずだ」

提督「俺が把握してる拠点以外に、他にも何カ所かに研究施設がありそうだってのは俺の予想だが、ない話じゃないだろう」
904 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:00:05.52 ID:12crbRCYo

提督「あとは、このネタにメディアがどういう反応を示すか、だな。ただでさえこういうスキャンダルはマスコミの大好物だ」

提督「あることないこと脚色されて事態の収集に追われそうだし、一部の人間からは非人道的だと批判を浴びるだろう」

提督「最後にもうひとつ。元帥……あんた、今更ながら、これの開発をよしとしたこと、後悔してんだろ?」

提督「艦娘の力を借りることなく、人間の手で深海棲艦を打ち倒せる力と言えば、確かに魅力的な話だからな」

元帥「……」

提督「おそらく、この話のトップはJ少将だ」

全員「「……!」」ザワ…!

提督「確かあいつは、それまで厳秘情報だった艦娘の存在を、世間に公表するときの会見の席にも座ってたよな?」

提督「そのくらい周囲からの評判が良かったJ少将からの強い進言とプレゼンがあったからこそ、元帥は信用してその口車に乗ったんだろう」

提督「ただ、元帥は、深海棲艦の武器化の話までは聞いてても、艦娘の深海化の話までは聞いていなかった。反応からして、そうなんだろ?」

元帥「……」

提督「ここからは俺の憶測にすぎないが、仮に艦娘が戦えなくなった時の次善の策とか、そういう感じで、J少将から提案されたんだろうな」

提督「深海棲艦の遺骸を使う、外法の技術だ。外に漏れれば間違いなく深海棲艦から恨みを買うだろうし」

提督「罰当たりな行為ゆえに賛同できない大将たちがいるからと、実用化できるまで極秘に研究を進めたい……そんな感じで提言されたと思ってる」

提督「効果も証明されているとあって、放棄するには惜しい技術。戦況など総合的に見て、J少将が責任を負う形で内密に進めさせたんだろう」

祢大将「……」

提督「だが、それでもあんたはこの計画に疑いを持っていた。迷い、躊躇っていた。J少将の望む通りに動こうとしなかった」
905 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:00:51.26 ID:12crbRCYo

提督「だからJ少将はしびれを切らして、大将ふたりと俺を使って、あんたを動かそうとした……動かざるを得ない状況を作ろうとした」

H大井「……それが、その結果が、あの島で起こったことだって言うんですか!?」

提督「そうだ。俺が深海棲艦と通じていて、轟沈した艦娘とともに海軍に対するクーデターを企んでいる、ということにして……」

提督「J少将は俺に大将ふたりをけしかけ、俺がやったかのように見せかけてふたりを暗殺。あとは俺を始末して証拠を隠滅、捏造する」

提督「深海棲艦の武器化に反対するふたりを消し、俺が深海棲艦のスパイだったと危機感を持たせることで……」

提督「自分の推し進めている武器化の実用化こそが、今後進むべき最善の道だとアピールしたかったんだろう」

提督「島にいた艦娘の大半は轟沈経験艦。深海棲艦になる恐れのある艦娘なら、素材にしてしまえば口封じもできて一石二鳥」

提督「それが当初、J少将が思い描いていたシナリオだろうな」

H大井「……」ギリッ

提督「そういえば、H大将。あんた、あの時は大井を連れてきてなかったな。どうしてだ?」

H大将「大井はその時、遠征に向かわせていた。それで連れてくることができなかったんだ」

提督「なるほど。もしかしたら、秘書艦不在もJ少将が狙ってたのかもしれねえな。下手にかばわれて暗殺し損ねたら計画が台無しだ」

提督「大将とH大将両方の秘書艦が不在なんてないだろうから、戦場に向かいそうな大将の秘書艦の武蔵より、大井が不在の隙を狙うのも理にかなってるな」

大将「あいつは、そこまで考えて計画していたというのか?」

提督「考えてたと思うぜ? 誘導もえらく手際が良かっただろ? 相当入念に計画してたはずだ」

大将「むう……」
906 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:01:36.16 ID:12crbRCYo

提督「……ま、そうやっていろいろ企んでたJ少将だが、結果的には、溶岩に飲まれて焼け死んだ」

提督「事情を知っているであろう直属の部下だったK大佐も、開発者の一人だったZ提督も、同じく火の海に消えた」

提督「そいつらの思惑とは無関係だったかもしれない海軍の人間を、大勢道連れにしてな」

将官たち「……」

提督「海底火山の噴火は自然現象だ。事故としか処理できねえ」

提督「ただ、その自然現象に巻き込まれた理由が、深海棲艦の武器化に賛同しない大将ふたりを暗殺するためだと知れたら、どう思う……?」

艦娘たち「……!!」

提督「J少将があれだけの大人数を引き連れて行ったのも、俺がふたりを殺した犯人だっていう証人になってもらうため」

提督「そしてJ少将自身が怪しまれないため、自分に後ろめたいことがないことを大勢にアピールしたかったためだな」

提督「そこに祢大将たちが巻き込まれなかったのは、こっちの大将たちと同調して動いてなかったからだろう」

祢大将「私たちが大将たちに詳しく話を聞けなかったのが、逆に良かったと?」

提督「単に人数が多いと騙すのが大変とか、誘う理由がなかったとか、都合が合わないとかいろいろ考えられるが、それも含めての話だと思ってる」

提督「あとは、仮に今回の暗殺がうまくいった場合、武大将みたいに深海棲艦との対話を肯定してる上官が、この事件を機に意見を変えたりもするだろう」

提督「そうなるようなら、当然、それに追随する者も多いはず。そういう狙いがあるなら、わざとふたりだけを狙うのも効果的だ」

提督「反発している人間を全員一気に始末したら、それはそれで怪しまれるだろうし」

武大将「なるほどねえ……」

提督「ま、それよりかは、さっき言った、深海棲艦の武器化に反対していたってところが、標的にされた一番の理由だと思ってるけどよ」

大将「……」
907 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:02:21.88 ID:12crbRCYo

提督「それから、俺の情報がこの場に行き渡っていないのも、俺が死んだ後にいくらでも脚色できるから、ってのもあるだろうな」

提督「俺が不審人物であればあるほど、大将殺しの罪を擦り付けやすいし、悪い奴なら良心も痛まねえって意味でも利用しやすい」

提督「そもそもあの島自体、大佐が自分に都合よく邪魔者を隔離幽閉するために確保してた島だ」

提督「連絡手段を断って放置して、野垂れ死ねばそれでよし。死んだら深海棲艦に罪を擦り付けてしまえばいい」

提督「あの島の妖精たちが、島に来る人間はみんないがみ合ってたって憤ってたくらいだ。おかげで俺も最初は追い出してやるって言われたぜ」

中将「そういえば、大佐が君に責任を押し付け、儂もろともあの島で泊地棲姫に始末させようと企んでいたことがあったな」

提督「……中将、それを自分で言うなよ。切なくなるだろ?」

中将「フフ……それもそうだな」

将官たち「……」

艦娘たち「……」

提督「長話が過ぎたな。いい加減、話を戻すか。俺のふたつの要求を……」

元帥「良い」

提督「!」

将官たち「!」

艦娘たち「!」

元帥「提督。君の提案をすべて受け入れよう」

将官「元帥閣下!?」

和中将「組織の存在を、認めるというのですか!?」

将官「い、いけません閣下……!!」
908 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:03:05.74 ID:12crbRCYo

元帥「詳細を調査するための日程は……明後日、○月○日までに連絡する。中将」

中将「はっ」

元帥「貴官がこれまで行っていた任務は、与少将……いや、与中将が引き継ぐ手筈だったな」

中将「はっ、その通りです」

元帥「では、期日までに彼女に連絡しよう。貴官の最後の仕事になるが、その旨、与中将に伝えてくれ」

中将「承知しました」ケイレイ

元帥「……」ウツムキ

提督(……観念したってか。こっちは一安心だな)

将官「なんでこんなことに……」

将官「も、もうだめだ……おしまいだ」ガクッ

艦娘「司令官!?」

 ザワザワ…

大将「おい、何人かうなだれているが……」

H大将「そいつらが、組織とつながりのある将官だったということか」

提督「その辺は推して知るべし、だな」

和中将「なんと……そんなことが、本当だったのか!?」
909 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:03:51.06 ID:12crbRCYo

祢大将「……」

武大将「ショックなのはわかるが、祢大将が押し黙ってると怖いからやめて欲しいんだがねえ」

宇大将「やれやれ……ここまでの話を俺が知らされていないとは。どうやって隠し通していたんだ?」

武大将「宇大将は仕方ないんじゃないか? 南西海域の深海棲艦の鎮圧で手一杯だったんだろう? なかなかこちらに身を向けられなかったと聞いてるよ」

H大将「南西海域?」

宇大将「ああ、某国の空母が深海棲艦に沈められて以来、深海棲艦がますます活発に動き始めているのでな」

提督「空母……? もしかしてあいつら、まだ懲りてねえのか?」

武大将「うん? 何か、心当たりがあるのかい?」

提督「東アジアか東南アジアの海賊やらが、うちの領海っつうか島に攻めてきてたんだよ。それでその辺の深海棲艦が刺激されてんじゃねえのか?」

提督「俺たちの島は、日本とパラオを線で結んで中間地点あたりにある。そいつらがうちの島を侵略目的で目指せば、ちょうどその辺通るはずなんだ」

提督「泊地棲姫に攻め込まれたあたりから、海軍内のスパイの活動も活発化してただろ。この島に手を出そうって考えてる奴らがいるせいだろうな」

宇大将「……それが事実なら、お前たちと因果関係がないとは言えんか」アタマオサエ

武大将「一気に無関係ではなくなったねえ……」

H大井「あの、それはそれとして、提督? くだんの組織が危険であることは理解できますが、さすがに少し、荒療治が過ぎたのではないかと」

提督「そうか? この空気を見る限り、このくらい言わなきゃずーっとなあなあになってたとしか思えねえんだけど」

提督「それに、研究を続けさせたいなら、深海棲艦とは徹底的に敵対するって言えばいいんだよ。それならあいつらも落ち込まずに済んだろ」

大将「そんな判断できるわけがなかろう! そうなったらそうなったで、お前たちが世界中に今の話をばらまく気でいたんだろう!?」
910 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:04:35.09 ID:12crbRCYo

提督「まあな。俺たちも死にたくねえし、だったら俺たちが何を考えてるかを知らせるのは大事だろ?」

武大将「そんなことされたら、世界中からクレームやらが殺到して、海軍の面子は丸潰れになるだろうねえ……」

武大将「きみは最初から、選択しようのない選択肢を押し付ける気だったんだね?」

提督「俺が悪いみたいな言い方するなよ。こうやって付け込まれる原因を作ったのは海軍だろ」

提督「武器化の話も、洗脳ツールのときみたいに発覚した時点で根っこからがっつり潰してりゃ良かったんだ」

大将「ぐ……それはそうだが」

提督「ま、今回の話は、J少将が計画したクーデターみたいなもんだったから、防ぎようもねえのは俺もわかってるさ」

提督「それでも俺に文句を言うのは筋が違うだろ」

武大将「……もしかして、他にもこの手の情報を持ってたりするのかな、きみは」

提督「それはどうだかな? 俺たちはうちにちょっかい出してきた連中のことくらいしか話せないんだ。俺しか知らない話なんて、ほかにあるか?」

武大将「イギリス大使が動いてたという話も、都合が良すぎないか?」

提督「それは俺も知らねえよ。単純にあっちの間諜が優秀なだけじゃねえの?」

H大将「……」

大将「……おい、H大将もどうした。何を悩んでいるんだ?」

H大将「ん? ああ。あいつらが……あの組織とつながっていた者たちが、どうしてそうしていたのかを考えていた」

提督「んなもん、だいたいは金か昇進のためだろ?」

H大将「ほかは知らんが、J少将は自分の仕事にプライドを持っていた。金銭や名誉欲で動くような男には思えなくてな」

提督「……」
911 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:05:21.67 ID:12crbRCYo

H大将「それで以前、J少将が酒の席で言っていたことを思い返していたんだ」

H大将「あいつは、本来、海を守るべく結成された我々が、深海棲艦相手に手も足も出ないのが悔しいと言っていてな」

H大将「艦娘に生かされている今の状況に、忸怩たる思いしかない、と」

提督「……ああ、確かにそういう話もあったな」

H大将「おそらく、J少将が、深海棲艦の武器化を研究させたのも、艦娘に頼らずに自分たちが戦える手段を欲しがったからだろう」

H大将「その思いが強かったからこそ、俺や大将といった深海棲艦の武器化を批判する者を、始末しようと考えた……」

大将「あの行動が、あいつの正義からくるものだったと?」

H大将「私はそう思っている。艦娘と協力する道を取った俺たちのことも憂いていたとしたら、そうなってしまったのも合点がいく」

H大将「この戦争が、艦娘と深海棲艦との自作自演である可能性はないのか、とも疑っていたくらいだ」

H大将「あいつは、その頃から艦娘に不信感を抱いていたのかもしれん」

提督「じゃあ、J少将の理想は、艦娘が現れる以前の、人間が海を守る世界だった、ってことか?」

H大将「……そうかもしれんな」

大将「そんなことを言っても、人間は深海棲艦と戦えないんだぞ? 艦娘がいなくなったらどうなるか、あいつだってわかっているはずだ!」

提督「だとすると、マジで時雨の言う通りだってことか」

H大将「? どういう意味だ?」

提督「艦娘を深海棲艦に作り変える研究の本来の目的が、海軍から艦娘を追い出すため、って話だ」

大将たち「!?」

艦娘たち「!?」
912 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:06:06.29 ID:12crbRCYo

大将「ま、待て待て! どういう意味だ!? 海軍から、艦娘を追い出すだと!?」

提督「J少将は自分の活躍の場を奪った艦娘が邪魔だった。だから艦娘を海軍で扱えない理由を作りたかった」

提督「例えばだが、一般人の目の前で艦娘が深海棲艦へ変異するようなことがあれば、艦娘は危険だから運用するな、って話になるよな?」

提督「海軍の訓話にも、轟沈した艦娘は深海棲艦になるから運用するなって話がくらいだ。深海棲艦がどれだけ恐ろしいかは語るまでもない」

提督「それをどうにか人為的に引き起こして、艦娘の運用をやめろ、艦娘を追放しろ、という世論に持っていきたかったんじゃねえか?」

将官「そ、そんなことは考えていないぞ!!」

提督「お前らのことじゃねえよ、J少将の話だ」

大将「……J少将は、それほどまでに艦娘の存在を疎んでいたということか」

提督「ここまでやったんだ、そうとしか思えねえ。自分が戦えないことが嫌だったって話で、それで艦娘を逆恨みしたとしたら辻褄も合う」

提督「そもそも、深海棲艦の武器化を調査、開発していたのはZ提督や大佐の一味で、J少将はそんな考えを持っていなかった」

提督「J少将が関与していたその組織では、艦娘の深海化しか研究していなかったんだ」

提督「深海棲艦の武器化の話を大佐から引き継いだのも、艦娘と深海棲艦双方の数を減らすことができて都合がいいからとも考えられるし」

提督「そもそも深海棲艦の鹵獲も普通にリスクが高すぎる。J少将がやってた研究が有効活用できるって点でも丁度良かったんだろう」

大将「ではもし、深海棲艦の武器化の話がなかったら、どこかで艦娘の深海棲艦化を引き起こそうとしていたということか……?」

提督「多分な。海軍が艦娘を運用できないようにして、海を自分たちの仕事場に……海軍以前の海上自衛隊に戻りたかったんだろうさ」

大将「それほど艦娘の存在を疎んでいたということか」

提督「そういうことだと俺は思ってる。自作自演を疑ってたってのも、艦娘が深海棲艦と変わらない存在だと思っていたからだろ?」
913 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:06:51.79 ID:12crbRCYo

提督「それに、あいつほど極端じゃなくても、深海棲艦との戦いが艦娘に頼りっきりの現状を良くないと思ってる人間は、少なからずいるよな」

H大将「……ああ。確かに、今の艦娘に依存した戦況は健全とはいいがたい。それは私も同意する」

H大井「H提督!?」

H大将「提督の言う通り、深海棲艦との戦いに関しては艦娘に任せっきりだ。深海棲艦の前に立つのも、迎撃するのも、傷付いて帰ってくるのも艦娘だ」

H大将「果たしてこの現状を協力と呼んでいいものだろうか? 本来、奴らのような外敵の矢面に立つのは我々ではなかったか?」

H大将「ここにいる人間はみな、自らの手で海と人を守ろうと、志を持って、誇りを持って、この制服に袖を通したんではないのか?」

全員「……」

H大将「もっとも、艦娘を指揮する提督となり得る人材が枯渇した状況にある最近では、残念ながら全員がその限りではないようだが……」

H大将「そういった民間や艦娘に頼らざるを得ない現状も含めて、J少将は、今の状況がたまらなく嫌で、恥ずかしいと思っていたんだろう」

艦娘たち「……」

H大将「しかしだ。だからと言って、艦娘を追放しようなどと言う考えは肯定されるべきではない」

H大将「艦娘は人間ではないのだろうが、間違いなく人の心を持っている。人間ではないからと人間ではない扱いをすれば……」

H大将「艦娘は人間を疑い、人間を恐れ、人間を嫌う存在になるだろう。たとえ艦娘の前でなくても、我々が人の心を失ってはいかんのだ」

H大井「H提督……!」

H大将「現に、最初は人間であったとしても、人扱いされず蔑ろにされたがために、人間の味方を辞めてしまった存在もここにいるしな」

提督「……」

和中将「この男が、ですか……?」
914 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:07:36.23 ID:12crbRCYo

H大将「そうだ。今の提督は、艦娘と深海棲艦の味方だろう?」

提督「おい、妖精が抜けてるぞ?」ニヤリ

H大将「……ああ、そうだったな」フフッ

和中将「待て。提督は……お前は人間の味方を辞めたのなら、人間の敵だというのだろう? それなのに、人間と和平交渉するのか……?」

提督「ああ。艦娘や深海棲艦、妖精たちの今後のためにな。文句あんのか」

和中将「……わからん。なぜ、お前はそんな平和的な解決を望むんだ? 深海棲艦は人間の敵ではないのか?」

提督「敵対しなくていいって奴もいるんだよ。人間だって、友好的な国だけじゃなく敵対してる国もあるだろが」

和中将「いや、そもそも深海棲艦とは話が通じるのか?」

提督「……おいおい、理解が周回遅れにもほどがあるぞ」アタマオサエ

和中将「曽大佐は話ができないと判断したから、その報復に年寄りにされたのだろう!?」

提督「……」

和中将「どうやって年寄りにしたんだ。それも深海棲艦の力か!?」

提督「……」ウンザリ

祢大将「和中将。君の話は後にしたまえ」

和中将「は、はっ……! 申し訳ありません」

提督「……ったく、今更俺に興味持つなっつうの。島に近づきすらしたくねえくせによ」

中将「彼は確か、あの島の昔話も知っていたはずだな?」

祢大将「はい。だからこそ彼のことを蛇蝎のごとく忌み嫌って、関わらないようにしていました」
915 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:08:21.21 ID:12crbRCYo

祢大将「それに、彼は自らが艦長を務めていた護衛艦を深海棲艦に沈められています。深海棲艦には恨み骨髄であったのは間違いありません」

提督「それでかよ。ったく……面倒臭え」

祢大将「提督、和中将に関しては私が面倒を見よう。しかし、海軍全体の君に関する情報の欠落度合いは見過ごせない」

祢大将「一度、君にはこれまでの経緯と、君の目的を改めて海軍の上層部に説明して欲しいものだが……」

提督「本当に面倒臭え……」ゲンナリ

祢大将「君が海軍の信用を得るためには必要なことだと思うが?」

提督「それを面倒だと思うくらいは俺の自由だろ。何も知らない相手にうちの連中の事情を説明するとなると、本っ当に面倒なんだからよ……」

祢大将「それほど面倒なことしか起きていないということかね?」

提督「そうだな。うちの艦娘、まともに着任した奴のほうが少ねえし……多分きっと、これからもそうなんだろうな」

提督「あの島は、轟沈した艦娘が流れ着く島だ。人の世界の悪いもんばっかり引き寄せてる、人の世の業の吹き溜まりみたいな場所だ」

提督「そんな場所に住んでる俺がこの場に出てきて文句言ってんのは、人間が艦娘や深海棲艦に対して調子に乗り過ぎたせいだとでも思ってくれ」

祢大将「……まるで自分を災厄の塊のように言うのだな」

提督「俺はそうだと思ってるけどな。そもそも、あんたたちは俺が人間どころかまともな生物じゃないって知ってんだろ?」

祢大将「……」

秘書「……」

中将「君は、少し自分を卑下しすぎではないかね?」

提督「ん?」

中将「君は、君自身を悪者にしたがっているようだが、君がいたから助かった艦娘がいる。君がいたから深海棲艦との対話ができているのだ」

中将「君が過去に何を企んでいたかは我々にはわからないし、君の判断の良し悪しを裁くことも儂にはできん」

中将「だが、儂は君がこうして我々に手を貸してくれていたことに、感謝しているよ。君が何者であってもな」ニコ…

提督「……そんな大層なもんじゃねえけどな」アタマガリガリ

中将「さて。大事なのはこれからだな。約束は、果たされなければならん」

大将たち「「……」」
916 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:09:06.00 ID:12crbRCYo
ということで、今回はここまで。
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