【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】

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867 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:53:16.32 ID:pU/6M1Kuo

提督「なんだ、お堅い奴だな。その辺は適当に誤魔化せばいいじゃねえか」

那珂「もー、提督さん、X大佐さんは真面目なんだから、提督さんも真面目にしないと駄目だよー?」

那珂「さっきも提督さんが言ってたじゃない、X大佐さんは悪い方に行っちゃ駄目だって!」

那珂「そうやってX大佐さんを悪い方に引っ張り込むようなことをしてたら、さっきの提督さんのお願いと矛盾するでしょ?」メッ!

提督「んだよ……ったく、わかったよ。しょうがねえな」

X大佐「君たちの中で、僕はいいひとになるのは確定なのかい……?」

那珂「那珂ちゃんは、X大佐さんはいいひとだと思いまーす!」キョシュ!

榛名「そうですね。こうして提督を心配してくださる、素敵な方だと思います!」

提督「そもそも悪人面が似合わねえ。っつうかできねえだろ、心根が善人だから」

祥鳳「……それは確かに……」

X大佐「……」

神通「X大佐はその評価が不本意なご様子ですね」

祥鳳「なにぶん、女性にも見間違えられるほどの童顔ですので、海軍の中でも甘く見られがちなんです」

X大佐「迫力と言うかふてぶてしさというか……威厳が欲しいんだよね」ムー…
868 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:54:01.21 ID:pU/6M1Kuo

五十鈴「それじゃあ、お髭でも生やしたらどうかしら?」

祥鳳「それはいけません!」

五十鈴「えっ」

那珂「えっ」

榛名「えっ」

X大佐「えっ」

提督「……」

祥鳳「あ……い、いえ、潜水艦の皆さんが、そう言っていたので……」セキメン

X大佐「……まあ、確かにゴーヤには大反対されたけど」

提督「髭が生えてりゃいいってもんでもねえぞ? 半端に生えたり整えてない状態だと汚く見えるし」

提督「生え方が自分の想像と違ってると、それはそれで不愉快だしな」

X大佐「その言い方だと、髭を生やしたことがあるのかい?」

提督「ああ。俺の場合は、妖精たちから不評を買ったってのが一番だな。単純に顔がざらざらすんのも嫌だってのもあるけどよ」

提督「なんにせよ、その髭に見合う立場や実績がねえと、見かけ倒しと思われて侮られるのに変わりはねえぞ」

X大佐「……」ウーン
869 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:55:15.87 ID:pU/6M1Kuo
と言うことで今回はここまで。
870 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:10:36.48 ID:so9g0Gzpo
短いですが、続きです。
871 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:11:21.79 ID:so9g0Gzpo

 * 別の会議室 *

 扉<コンコン ガチャ

提督「邪魔すんぞ。ここでいいのか?」

暁「あっ、司令官! ごきげんようです!」

ビスマルク「あら、提督。X提督との話は終わったの?」

提督「おう、いたか暁。で、お前は……ビスマルクだったか。あの船に大勢艦娘が集まってたとき以来か? 一緒にクイーンもいたよな?」

ビスマルク「ええ。あなたに会うのはこれが2度目かしら」

暁「司令官、お変わりないみたいね?」ニコッ

提督「ああ。お前たちも元気そうで何よりだ。で、お前の後ろにくっついてるのが……」

ヴェールヌイ「……」ギュ

提督「ヴェルニイ……? いや、響だったか?」

暁「ヴェールヌイ、よ。でも、響は、響って呼んであげたほうがいいみたい」

ヴェールヌイ「……」ペコリ

暁「再会できたのはいいんだけど、それ以来ずっとこんな感じで……」
872 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:12:06.54 ID:so9g0Gzpo

ビスマルク「行方不明の姉を探し出せたんだもの。無理もないと言えばそうよね」

提督「……まあ、徐々に慣らしてくしかねえかなあ、こういうのは。それで、暁? 俺に話があるって訊いたんだが」

暁「ええ、ちょっとごめんなさい。響、少しの間、司令官とふたりでお話しさせてくれる?」

ヴェールヌイ「……」

暁「お願い。ね?」

ヴェールヌイ「……」ジッ

提督「……」

暁「大丈夫よ。司令官は、暁が記憶を取り戻すまで、暁のことを保護してくれてたんだから」

ヴェールヌイ「……」ウツムキ

暁「ビスマルクさんと一緒に待っててくれる?」

ヴェールヌイ「……わかった」

 クルッ スタスタ…

ビスマルク「それじゃ、あとは任せて頂戴。提督、暁をお願いね」クルッ タタタッ

 扉<パタム

暁「……」

提督「大丈夫なのか、響は」

暁「今の状態は、大丈夫とは言えないわね。少しでも立ち直ってくれるといいんだけど」
873 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:12:51.88 ID:so9g0Gzpo

暁「それはそうと、お待たせしてごめんなさい、司令官。肝心の、聞きたいこと……なんだけど」

提督「ああ、なんだ?」

暁「正直、聞くのが怖いんだけど……」ウツムキ

提督「……」

暁「I提督の鎮守府が襲撃されたときのことなんだけど……あの襲撃があったときって、他の鎮守府との連携が滞っていたみたいなの」

暁「そうなった理由が……誰かが、I提督への支援を妨害してたから、って、聞いて……」

提督「……」

暁「それで、その妨害をしていた人が……海外の泊地へ移動中、あの島の近海で行方不明になった、って聞いて……」

暁「もしかして、それに司令官が、何か知ってるんじゃないか……関わってるんじゃないか、って」

提督「……」

暁「……ごめんなさい。そんなこと訊かれても、司令官も困るわよね」

暁「仮に暁がその真相を知ったとしても、何もできることなんかないんだし……」

提督「……暁は、何が起こっていたのかを知りたいのか?」

暁「……そう、だと思うんだけど。よく考えたら、私もどうしたいのか……わからなく、なっちゃった……」ウツムキ

提督「……」
874 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:13:37.97 ID:so9g0Gzpo

暁「暁は……」

提督「……」

暁「暁は、多分、I提督を……私たちの鎮守府をあんな風にした人たちがどうなったのか、単純に結末を知りたいんだと思う」

暁「それを知って、私は……」

提督「……」

暁「私は……安心したいんだと思うわ。I提督を苦しめた人が、いなくなったことを、確かめたいっていうか、確信したいんだと思う」

提督「そうか。ならどうして、そんなに思いつめたような顔をするんだ?」

暁「それは……だって、よくない事じゃない? 人が行方不明になって……いなくなったことを安心するなんて」

暁「良かったと思ってるのと、同じことじゃない。その人にだって家族がいるんだもの、そんなの、よくない事だと思うわ……!」フルフル

提督「そいつの家族が、悲しまなければいいのか?」

暁「……もう、司令官は意地悪だわ。そんな単純なことじゃないわ」

提督「……」

暁「……」シュン…

提督「ま、なんにせよだ。そいつらがいなくなった事実に変わりはない」

暁「それは、そう、なんだけど、ね……」

提督「……」
875 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:14:21.67 ID:so9g0Gzpo

暁「……」

提督「簡単に割り切れない、ってか。考え方がおとなになるってのも、考え物だな」

暁「……どう受け止めたらいいか、何がいいのかわからないの。悲しい事故なんだろうけれど、どうしても……」

提督「まあ、そうだな。真相なんて知れば知るほど悲しくなるだけだしな」ボソッ

暁「真相……?」

提督「ああ。どうする、暁? 俺は、お前には事の真相を知る権利があると思ってる」

提督「本当に胸糞悪い、反吐の出るような話だが……I提督の鎮守府への支援がなぜ妨害されたのか、俺はお前に話すことができる」

暁「……!」

提督「知りたいか? それとも、聞かなかったことにするか?」

暁「……嫌な、話なのね?」

提督「ああ。知ったら人を嫌いになりそうな話だ」

暁「……」

提督「……」

暁「……司令官。教えて」

提督「……」
876 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:15:06.13 ID:so9g0Gzpo

暁「知らないほうが幸せなのかもしれないけど……暁は、知らんぷりしてちゃいけない気がするの」

提督「そうか。わかった、なら耳を貸せ。あまりでかい声で話したい話じゃない」

暁「わ、わかったわ……」

 *

暁「……」

提督「……」

暁「そ、そんな……そんな理由で、I提督が……」

提督「そう思えば、事故に遭ってざまあみろとも思うだろ?」

暁「ざ、さま……そういうこと言っちゃ駄目よ!」

提督「そうか? 俺はともかく、暁は当事者だ。お前がそいつに恨み言や憎まれ口を言っても、それが普通だと思うけどな」

暁「そ、そんなの……エレガントじゃないじゃない」

提督「エレガントでなくていいだろ。そもそもそいつのやってることがエレガントでもなんでもねえ」

提督「悪いことは悪い、って、びしっと言ってやるのも、大人の対応って奴じゃねえか。優しくするだけが大人じゃねえぞ」

暁「そうかもしれないけど……ねえ、その人は、海軍内とかで罰することはできなかったの?」

提督「一応、手遅れではあったが救援には出向いたこともあって、海軍からの処罰とかは特になかったみたいだな」
877 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:15:51.30 ID:so9g0Gzpo

暁「それが遅くなったのが故意だったとしても……?」

提督「金も時間もかけて救援に行った奴が、救援が遅かったからって理由で罰を与えられたんじゃ、その次から救援に行く奴がいなくなっちまう」

提督「故意かどうか確かめる術もない以上、上はそいつに罰を科すことはできなかったのさ」

暁「ああ……それもそうね」ウツムキ

提督「……なあ、暁? もう一回耳を貸せ」ヒソッ

暁「?」

提督「その船には、Q中将の話してた、I提督の両親を殺した奴も囚人として乗っててな……」ヒソヒソ

暁「え……!?」

提督「俺たちも見つけられなかったって扱いで行方不明にはしているが、あいつらは全員、俺たちメディウムが始末した」ヒソヒソ

暁「……っ!!」ガタッ

提督「……」

暁「し、しれ……っ、しれ……!」プルプル

提督「内緒だぞ」シー

暁「で、でも! それって……!」

提督「海軍の中にも、そいつらを許せない人間がいたってことさ」ヒソッ

暁「……!!」
878 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:16:37.66 ID:so9g0Gzpo

提督「法に従えば、そいつらの命は保障されるべきだろう。それを良しとしない人間がいて、人間の法の外にいる俺たちに、手を下させた」

提督「俺もQ中将の話を聞いて、少なからず共感してたからな。そいつらをメディウムに任せたのは事実だ」

暁「そう……そう、なんだ……」

提督「……」

暁「それじゃ今頃、その人たちもあのお花畑を歩いてるのかしら……」

提督「いいや、そうはなってない。メディウムの手にかかった人間たちは、あの世に行くことはできない」

暁「えっ? ど、どういうこと……?」

提督「メディウムは、殺した相手の肉体と魂を好きにできるんだ。だから、あの船に乗っていた連中が、あの花畑に行くことはない」

暁「……そう……」

提督「……悪いニュースじゃないだろう? 随分寂しそうな笑顔だな」

暁「そうね……正直に言えば、安心したわ。でも、本当なら、あの人たちもあの世に行くはずだったんでしょう?」

暁「I提督を困らせた人たちが、司令官たちのおかげで、そうなったことを……I提督のところに行けなくなったことを、私は喜んでるんだもの」

暁「それって、ひどいと思わない? 暁は、ずるいんだわ……綺麗ごとばかり言って、本当は……」メヲフセ

提督「いや、それをずるいって言うのは、ちょっと違うんじゃねえか?」

暁「で、でも……!」
879 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:17:21.48 ID:so9g0Gzpo

提督「そこは素直に安心した、で終わってりゃいいんだよ。お前だけじゃなく、お前の好きな人たちまで酷い目にあわせた奴らだぞ?」

提督「お前は自分がレディーとして高潔でありたいって思ってるようだが、いくらなんでも無理しすぎだ。そこまで高い理想は体に毒だぞ?」

暁「う……」ションボリ

提督「そうやって悩みすぎて壊れて欲しくねえんだよ、妥協だって必要なんだ。なあ、お前もそう思うだろ? 川内」ミアゲ

暁「えっ!?」

 天井の通気口<ガタッ

提督「ったく、なんてところに隠れてやがる」

 天井の通気口<ガパッ

川内「えへへ、見つかっちゃったかあ」モゾモゾ

暁「そ、そんなところに隠れてたの!?」

 クルン ストッ!

川内「川内参上! なんちゃって。提督、いつから気付いてたの?」

提督「ビスマルクたちが出てってすぐくらいだな」

川内「えー? それじゃほぼ最初からじゃない!」

提督「こちとら侵入者を迎撃する罠を管理統括する魔神様だぞ。嫌でも気付けるんだ、見くびってもらっちゃ困る」

川内「まったくもう……まあ、それはそれでいいんだけどさ」チラッ

暁「!」
880 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:18:06.69 ID:so9g0Gzpo

川内「暁がここまで落ち込むような、I提督の救援の妨害の理由って、なにさ? ひそひそ声だから聞き取れなかったんだけど」ズイッ

提督「……」

川内「あれ? ちょっと提督、私だってあの時の当事者なんだよ? なんで黙っちゃうの!?」

提督「お前の場合は教えた後に何するかわかんねえからな。なまじ行動力あるだけに、あまり迂闊に言いたくねえ」

川内「ひっどーい! なにそれ!?」

提督「……ったく、しょうがねえ。耳貸せ、耳。いいか?」ガシッ

川内「なんて肩を掴むのさ。私、そこまで血の気多くないよ?」

提督「いいから黙って聞け。いいか、お前のいた鎮守府がああなったのは、簡単に言えば、I提督にフラれた馬鹿の逆恨みだ」ボソボソ

川内「へぇ……」ビキビキッ

暁「ピエッ」

川内「……提督。島の近海だっけ? そいつ探して殺ってくるね」ハイライトオフ

提督「っだああ! じっとしてろ! やっぱ掴んでて正解だったんじゃねえか!」オサエツケ

川内「正解じゃないよ!? 行かせてよ!」ジタバタ

提督「そいつはもう始末したんだよ……俺たちメディウムが!」ボソッ

川内「……!」

提督「天国にも地獄にも行けないようにしてやった。だからもう手出し無用だ」

川内「なぁんだ、そっか。残念。私が引導を渡したかったんだけどなぁ」
881 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:19:06.41 ID:so9g0Gzpo

提督「気持ちはわかるが我慢しな。ったく、どこが血の気が多くない、だ」

暁「本当、どうなるかと思ったわ……」ホッ…

川内「えへへ、ごめんね?」ハイライトオン

提督「まあ、川内の気持ちはわかるけどよ……むしろ、暁の反応のほうが、俺としちゃ心配だな」

川内「暁はそいつらに頭にきたりとかしてないの?」

暁「うーん、悲しいとは思ったけど……そもそも、暁はあまり怒りたくないの」

提督「怒りたくない?」

暁「ほら、司令官が以前、自暴自棄になってた時があったじゃない? あのとき暁が怒ってから、みんなに怖がられちゃって……」シュン…

提督「ああ、確かにあの時は……全員ブルッてたな」

暁「だから暁は怒らないようにしたいし、怒るのはやめたいの。みんなに怯えられるレディーなんて、良くないわ」

川内「そんなに怖かったの?」

提督「迫力はあったな。あ、興味本位で怒らせようとすんのはやめろよ?」

川内「やらないよ。今は今で、暁を怒らせるようなことをしたら、響が黙ってないだろうからね」

提督「ああ……確かに」

暁「そうね、響は心配よね。一回、お姉ちゃんらしく叱ってみようかしら……」

川内「そのほうがいいかもね。あ、叱るよりは、暁が優しく諭せば、聞いてくれそうじゃない?」

暁「優しく諭す……そうね。それが一番、暁らしいかも!」グッ
882 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:19:51.33 ID:so9g0Gzpo

川内「それにしても、I提督もひどい災難だよね。まあまあよくありそうな愛憎劇とはいえ、そんなことに巻き込まれるなんて……」

提督「こんなこと、よくあってたまるかよ。巻き込まれたお前たちだってたまったもんじゃねえだろが」

川内「それはそうだけどね……ねえ、この話、これまで誰に話したの?」

提督「うちの艦娘なら大和とかル級とか、計画に手伝ってもらった一部だな。あとはメディウムたちだ」

提督「うちの連中以外なら、お前と暁以外にはしてねえよ。響に話すかどうかは任せるぜ」

川内「そっか。じゃあ、島に近づかなきゃ、この話は広まらないってことだね」

提督「まあ、そうだな。俺たちも、こんな話はそう誰かに話すこともねえだろうし、徐々に忘れるだろうさ」

川内「ん、わかった。それにしても、提督も大変だね、やることが多くて」

提督「まあな。次から次と、休む間もねえ」

川内「あはは、でも、楽しそうだよ?」

提督「……そうか?」

川内「うん。提督の次の話し合いは海軍が相手かあ……大変だろうけど、頑張ってね」

提督「ありがとな。川内も、悪いが暁たちのことは頼んだぜ」
883 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:21:14.72 ID:so9g0Gzpo
というわけでここまで。
この次のシーンまでは書いているけど、その続きが……。
難産続きでスレも跨ぎそう。もうしばらくお付き合いください。
884 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/07/07(月) 01:21:44.10 ID:VLQv44b10
舞ってるで
885 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:45:32.20 ID:Qx5bHHluo
大変お待たせしました。続きです。
886 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:46:22.89 ID:Qx5bHHluo

 * 数日後 *

 * 横須賀鎮守府 会議室 *

進行役「報告は以上となります。また、本日を以ちまして中将は海軍を退役し、以後は相談役として本営に非常勤となります」

 パチパチパチ…

進行役「中将、一言お願いいたします」

中将「うむ……まずは、皆に御礼申し上げたい。老いぼれの儂が今日まで勤めあげられたのは、皆の協力があってこそ」

中将「この国のみならず、世界中に多大な影響と損失を与えた、深海棲艦との戦いは新たな局面を迎えている」

中将「そのさなかに戦線離脱するようで、後ろ髪引かれる思いではあるが……艦娘の指揮とはまた違う形で、皆をサポートできればと考えている」

将官「中将……!」

艦娘「後は我々にお任せください!」

中将「うむ、期待しているぞ。それで早速だが……」

将官たち「?」

中将「新しい局面を乗り切るために、ひとつ、お節介を焼かせてもらいたい」

艦娘たち「??」
887 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:47:06.34 ID:Qx5bHHluo

中将「入ってくれたまえ。彼は、これから深海棲艦と向き合うにあたり、避けては通れない重要な人物だ」

祢大将「重要な人物……?」

H大将「まさか……」

元帥「……」

 扉<コンコン

赤城「失礼いたします。提督をお連れしました」

 扉<チャッ

提督「よう。邪魔するぜ」

 ドヨヨッ!

大将「て、提督!?」

H大将「お前……!」

H大井「こ、こんなところにまで来たんですか!?」

祢大将「……気付いていたかね?」

秘書「いえ……魔物や深海棲艦の気配は全く感じられませんでした」

提督「改めて、自己紹介しておくか。俺は提督。××島鎮守府の……いつからか墓場島なんて呼ばれてた島にある鎮守府の提督だ」

提督「近々退任して、深海棲艦に割譲することになった××島の責任者として改めて着任する」
888 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:47:51.57 ID:Qx5bHHluo

提督「中には俺の顔を見たくない人間もいるだろうが、海軍には世話になったんで、退職と、新規着任の挨拶と、義理を通しに参上した」

中将「まだ彼の顔を見たこともない者もいるだろう。この機会に顔を覚えてはどうかと思い、はるばる××島から来てもらったのだ」

将官「ち……中将殿!? この男をこんなところに連れて来て、大丈夫なのですか!?」

将官「何を企んでいる!? 本営に何の用だ!!」

提督「何の用だって? 話が早いな、それじゃあ早速用件に入らせてもらうか」

将官「おい!? そういう意味じゃ……」

大将「黙って聞け! 中将殿の客人だぞ!!」

将官たち「「……」」

提督「おぉ……さすが大将だな。助かるぜ、ありがとな」ニッ

大将「ふん。で、用件と言うのはなんだ?」

提督「いくつかあるが、まずは調査依頼だ。艦娘や深海棲艦について研究している、ある組織について、調査協力を海軍に要請したい」

 ザワ…

将官「艦娘や深海棲艦について研究している組織……?」

提督「ああ。俺たちはそいつらに狙われている。その組織の活動を、海軍に抑制してもらいたい」

提督「そいつらは深海棲艦を素材にして、深海棲艦にも艦娘にも通用する武器を作っているんだ。聞いたことはあるだろう?」

艦娘たち「……!」ドヨッ…
889 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:48:36.77 ID:Qx5bHHluo

提督「そいつらのやってることを止めてくれ、ってのが俺たちの要求だ」

将官「どういうことだ……?」

将官「その研究は以前、摘発されたはずだぞ……?」

提督「それは3年前の話だな。俺が言っているのは、数か月前にJ少将が××島で死んだときの事件の話だ」

提督「そのときJ少将と一緒にやってきたZ提督たちが、深海棲艦から作った弾丸を持っていたんだよ」

将官「なんだと……!?」

提督「それの製造をJ少将が指示していたとしたら、その組織とつながっている人間が今も海軍にいるんじゃないか、と疑っている」

将官1「何を世迷言を……! 海軍の結束を脅かすような出鱈目を言うな! おとなしく帰るがいい!!」

提督「おいおい、軽々しく帰れなんて言うなよ。俺たちは近々政府とも話し合うつもりなんだ」

提督「その話し合いの決裂の理由に、あんたの名前を出してもいいのか? なあ、和中将?」

将官1→和中将「!! な、なぜ俺の名を……!」

提督「あの島を縁起が悪いと忌み嫌って、たまたま利害が一致した曽大佐を支援してたのはあんただよな」

提督「んなことしてりゃ、嫌でも名前くらいは覚えるぜ? なんで俺たちに知られてないと思ってんだよ」

和中将「く……貴様、俺を愚弄しに来たのか!」

提督「違えよ。俺たちは、俺たちが懸念している不安要素を取り除きたくてここに来たんだ」
890 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:49:21.62 ID:Qx5bHHluo

提督「さっき言った、その研究組織が存在し続けることで、俺たちの安全が脅かされるわけだからな」

和中将「なにが安全だ! そういうセリフは、すべての深海棲艦が侵略をやめてから言え! 深海棲艦の手先めが!」

提督「無理言うぜ。だったらあんたこそ、すべての人間に戦争をやめさせろ。できねえくせに」

和中将「屁理屈を……!」

提督「ま、これまでの経緯を考えても、深海棲艦が排除されてしかるべき、って人間側の言い分も理解はしてるさ」

提督「話も通じず無差別に人間を襲ってたんだからな。それじゃ憎まれて当然だ」

提督「だが、今は状況が変わった。深海棲艦の中でも、人の話を聞く者が現れた。人間の考えを理解するものが現れた」

提督「今がまさに、中将の言う新たな局面、ってやつだ」

将官たち「……」

提督「あんたたち海軍の思惑はさておいても、俺たちの存在を知った政府は、俺たちと条約を結びたいと言ってきている」

提督「条約結んでお互いに戦わないようにするのは、俺たちとしても賛成だ」

提督「いま、政府が持ってきた条約の中身を精査してる。問題がなければサインするつもりでいるんだが……」

提督「その前に、この国にある、深海棲艦を鹵獲するような物騒な組織をなんとかしなきゃ、とても安心できねえ」

提督「だから、その組織とつながりのあるであろう海軍に、なんとかしてくれと、こうやってお願いをしに参った、ってわけだ」

将官たち「……」ザワザワ…
891 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:50:06.81 ID:Qx5bHHluo

提督「本音を言えば、俺たちはその組織のやってることが許せねえ。今すぐにでも殴り込んで、そこの連中を皆殺しにしたいくらいだ」

提督「仮にあんたたち海軍が連中と無関係だと言うのなら、これから潰しに行っても問題ねえよな?」

和中将「問題ないわけがないだろう! 国内で戦争などさせられるか! 何を考えている!!」

提督「だから、海軍にそいつらをおとなしくさせろって言ってんだよ。自分の庭だろ? 掃除くらい自分でやってくれよ」

和中将「貴様……それが人にものを頼む態度か!!」

H大将「提督、そのくらいにしておけ。お前も、我々をからかいに来たわけではあるまい」

提督「組織のことを知りもしないのに、ごちゃごちゃ口を出してくる和中将を先に何とかしてくれよ。俺は話が通じる奴と話がしたいんだ」

和中将「こんな話、知っているどころか、出まかせでしかないだろう! 誰が知っていると言うんだ!」

大将「俺が知っているぞ。あの男の言うことも本当だ」

和中将「なっ!? ……た、大将殿……!?」

大将「ただ、裏付けが不十分だ。この場で説明できるほど情報が出揃っていない」

提督「そうなのか? 俺からもいろいろ情報を出しただろ?」

大将「それでもだ。残念だが、お前から得た情報も、ある程度はこちらで調査済みだ」

大将「そのうえで、決定的な証拠になるようなものを手に入れられなかったからな。その辺はお前にも知らせていただろう」

提督(F提督が調べてた話か……)

大将「確かに、深海棲艦を武器に作り変える技術については、過去にZ提督が研究していた件で共有されている」
892 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:50:51.16 ID:Qx5bHHluo

大将「だがその技術は、Z提督が営倉へ連行された時点で潰えたもの、というのが我々海軍共通の認識だ」

提督「J少将の一味が持っていた話は共有してなかったのか」

H大将「お前の危惧していた通り、この中に妨害者もいる恐れもあったからな。報告に関しては慎重にならざるを得なかった」

H大将「残念ながら実際に、お前があの男を捕まえた後、怪しい連中が私の鎮守府を見張っていたと報告を受けている」

提督「マジかよ。ちなみに被害は?」

H大将「幸いにして、ない」

H大井「いまのところは、ですけどね」

提督「そうか。んじゃ、俺がこれから安心させてやるぜ」

H大将「なに……?」

提督「改めて言うからよく聞きな。俺たちからの最終的な要求はふたつだ」

提督「ひとつめ、調査対象の組織が持つ深海棲艦の武器化の技術の放棄と永久的な停止」

提督「ふたつめ、調査対象の組織への案内と、武器化技術停止に至るまでの活動内容すべてをまとめたレポート」

提督「このふたつを、俺は海軍に要求する」

 ザワッ…!

大将「活動内容のレポートだと……!?」

H大将「ある意味、我々にも理のある要求だな」

祢大将「……なるほど、考えたな」
893 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:51:36.63 ID:Qx5bHHluo

提督「勿論、この要求を拒否してもらっても構わない。くだんの組織に海軍が関わっていないと言うのなら、それも信じるとしよう」

提督「その場合、俺たちはその研究施設へ全面攻撃を準備する」

将官たち「!?」

提督「心配しなくても事前に攻撃する場所と日時は予告するし、その組織を攻撃する理由もすべて事前に連絡してやるよ」

将官「し、正気か!?」

将官「そんなことをすれば、お前たちもただでは済まないぞ!」

将官「宣戦布告するのと同じじゃないのか……!?」

提督「宣戦布告……? まあ、意味合い的にはそうなるか」

提督「けど、別に構わないだろう? 海軍がその組織をかばうつもりなら、どうせ俺たちは相容れない。早かれ遅かれ戦うことになる」

提督「もしそうなった場合は、海軍と政府だけじゃなく、世界各国に向けて攻撃に関する情報を配信する」

提督「特に攻撃する地域の自治体には、目標近辺の住人の避難を呼びかけるようにも連絡するし、メディアにも正確に報道するよう要求する」

大将「海軍の後ろめたい部分を世界に暴露して、世論を味方につけるつもりか……!」

祢大将「それだけではないな。海軍が深海棲艦に攻撃されて当然だと思わせる理由があるとなれば、海軍は世界から危険視され孤立することになる」

H大将「海外からの協力どころか、国内からも反発を受けることになるぞ」

H大井「事情を知らない艦娘たちが、海軍に懐疑的になることも十分に考えられますよ……!」

提督「素直に応じるんなら誰も傷つけたりしねえよ。こっちは正直、連中の所業に腸が煮えくり返ってはいるが、それも我慢してやろうってんだ」

提督「組織がどこにあって、そこでなにをやってたか、すべての情報を俺たちに曝け出してくれれば、そこの連中の命までは取らねえよ」
894 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:52:21.90 ID:Qx5bHHluo

提督「俺たちは、そこで作った危険物に、何度も狙われたり殺されかけたりしてるんだぜ?」

提督「俺たち自身の身を守るためにも、それがどういうブツなのか、現物を見て知りたいんだ。悪い話じゃねえだろ?」

将官「そ、そんなことをしたら、却って深海棲艦の怒りを買ってしまうんじゃないのか?」

提督「そこはそうならねえように言って聞かせるさ」

和中将「言って聞かせる!? あの深海棲艦にか!?」

提督「ああ。うちの島の連中なら、俺の言うことはそれなりに聞いてくれるぞ?」

和中将「それなりに!? それなりにで信用できるか! 無責任なことばかりほざきおって……!」

提督「無責任って……つうか、お前こそなんで責任取ってねえんだよ」

和中将「なっ!?」

提督「さっきも言ったが、俺たちを必要以上に敵視して、曽大佐けしかけたのはお前だよな?」

提督「その件で、祢大将がわざわざ俺のところにまで足を運んでくれてたんだぞ? そこは本当ならお前が出張って詫び入れに来る話じゃねえのか?」

和中将「い、言わせておけば……!!」ビキビキッ

提督「それ以外にも、艦娘を鎮守府に作ったバーに閉じ込めて歓待させたり、あの島に渡航歴あるやつへ呉に来るなと言い出したり」

提督「与少将を手前の息子に引き合わせようと画策したり、職権乱用しまくりじゃねえか。何やってんだお前」

和中将「!? ……っ、な、なにを、何を言うか!?」

祢大将「……提督、最後の話は初耳だな。和中将は、与少将を自分の息子に引き合わせようとしたのか?」

和中将「い、いえ! そのようなことは!」ビクッ
895 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:53:21.64 ID:Qx5bHHluo

提督「隠さなくてもいいぜ。俺にはそういう隠し事が分かるんだ。強く思ってることは特にな」

祢大将「なるほど。確かに、君にはそういう力があるという話だったな」

和中将「信じるのですか!?」

H大将「提督、お前のその力は、相手の頭を掴まないといけないんじゃなかったのか」

提督「いいや、その必要がない時もある。だからこそ……」

提督「組織のことを知っててだんまりを決め込んでる、手前が気に入らねえんだがな? なあ、元帥さんよ?」ギロリ

H大将「!」

大将「元帥殿が、知っているというのか……!?」

中将「……元帥。君は、組織のことを知っているというのかね」

元帥「……」

提督「元帥だけじゃねえぜ。ここにいる数人も、ちゃっかりすっとぼけてやがる」チラッ

数人の将官たち「!!」ビクッ

提督「まあ、下っ端はどうでもいいんだ。元締めの口から、ちゃんと答えを出してもらえれば……」

艦娘「ま、待ちなさい!」バッ

艦娘「元帥閣下に手出しはさせないわ!!」ババッ

提督「あん? 心配しなくても手なんか出さねえよ」

提督「下のフロアで中将に花束渡す奴らが待ち構えてるんだ、そんな日に刃傷沙汰なんか起こしたかねえ」
896 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:54:06.22 ID:Qx5bHHluo

提督「俺は、この場で色好い返事がもらえないようなら、さっき言った通りのことを実行する、って言ってるだけだ」

提督「その返答を出し渋ってるから、とっとと答えてくれって話じゃねえか」

元帥「……」

提督「よし、どうせだから、もうひとつこっちが握ってる嫌な情報を出しとくか」

H大井「嫌な?」

提督「ああ。お前ら知ってるか? その組織が、艦娘を深海棲艦に作り変えることができないかを研究してたって話」

 ドヨッ…!!

大将「そ、それは本当か!?」

提督「……このことを知らない奴が結構いるな?」

H大将「その話は俺も初耳だな。事実なのか?」

提督「俺たちもあくまで情報としてしか掴めてないが、その組織が艦娘についても研究していることは間違いない」

提督「うちの鎮守府には、その実験から生還したやつもいる。わざと轟沈させられて、深海化しないかの実験台にされたやつらがな」

H大井「な、なぜそんなことを……!?」

提督「武器に作り変える深海棲艦を鹵獲するより、艦娘を作り変えたほうが簡単そうだったから、じゃねえか?」

H大井「……っ!」

提督「深海棲艦にしても艦娘にしても、その存在については未だに謎が多い」

提督「明確にわかっているのは、深海棲艦に真っ向から対抗できる力を持つのは艦娘だけ、ってことくらいだ」
897 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:54:51.61 ID:Qx5bHHluo

提督「こんな得体の知れない艦娘なる存在は、各国の海軍が責任をもって秘匿、管理すべき……というのが一昔前の共通認識だった」

将官たち「……」

提督「とはいうものの、設備と資材さえあれば、建造することで新しい艦娘がいくらでも作れるし、解体だって日次任務でやってるとも聞いている」

提督「練度が足りているかは別にしても、艦娘の数が逼迫しているかと言えば、そうではないのが実情だと思っている」

提督「一部じゃ、全然お呼びがかからず暇を持て余した艦娘もいるらしいな?」

大将「むう……」

提督「おそらくその組織は、そういう『余らせた』艦娘を引き取って実験に使ってるんだ」

提督「ある鎮守府の提督が何らかの理由で退役し、無所属になってしまった艦娘がその組織に連れていかれたと思われるケースがある」

提督「そうでなくても、轟沈や解体を偽装して、組織に艦娘を横流しすることも、やろうと思えばできるだろう」

提督「俺のいる島にも、轟沈していないのに轟沈扱いされた艦娘が何人かいるからな」

将官「う、嘘だろう……?」

提督「嘘かどうかは、俺が要求している、組織の記録を見ればわかる話さ」

提督「もっとも……ここにいる何人かの顔には『なんでそこまで知ってんだ』って書いてあるけどなぁ?」ギロリ

将官「……っ!」

艦娘「そんな……!?」

艦娘「ほ、本当なんですか……!?」
898 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:55:39.93 ID:Qx5bHHluo

提督「さて。俺は、何も難しいことは言っていないつもりだ」

提督「俺たちの身の安全のため、深海棲艦の連れ去りをやめさせろと、組織が何をしているかを見せろと」

提督「深海棲艦を鉄砲玉にして、或いは艦娘を深海棲艦に作り変えて、俺たちを殺す武器に作り変えるのをやめてくれと言っているだけなんだ」

提督「人間に例えて言えば、生きたままの人間の手足をぶった切って自由を奪い、砲弾のように大砲から打ち出すのと同じようなもんだ」

提督「もしどこかの国がそんなことをしていたら、やめさせようとするだろう? 俺はそれと同じことを訴えているだけだ」

将官たち「……」

提督「あんたたちが人命を守りたいと思うのと同じように、俺はうちの島の住人を守りたくて、俺はここに来た」

提督「組織に関係している海軍の人間を処断しろとか、責任取らせろとか、そういう話は一切していない」

提督「この場でここにいる誰かの命を脅かすような真似もしない。俺の要求を飲むのか、突っ撥ねるのか。俺は聞きたいのはそれだけだ」

将官たち「……」

将官2「黙って聞いていたが……目に見えて狼狽えている者がいる以上は、嘘やはったりを言っているわけではなさそうだな」

将官3「そもそも、何故こんな大事な話が共有されていないんだ。どうしてこんな事態になるまで放置しておいたんだね?」

H大将「まあ……そいつは仕方ないんだ、ふたりとも。その組織の話については、あまり迂闊なことも喋れなかったからな」

提督「……そっちのふたりは……大将か?」

H大将「ああ。まず、こちらは……」

将官2→宇大将「ん、宇大将だ。佐世保鎮守府を統括している」

宇大将「生憎、自分は貴様が欲している情報を提供できる状態にない。この場は聞き手に回るが、のちに詳しく話を聞かせてもらうぞ」

提督「……」
899 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:56:23.18 ID:Qx5bHHluo

H大将「それから、こちらは大湊警備府の武大将だ。彼は、深海棲艦との休戦に肯定的な意見を出している将官の一人だ」

将官3→武大将「初めましてだね。よろしく頼むよ」ニヤッ

提督「ああ。大湊っつうと、N特尉の上官か」

武大将「うん。残念ながら彼は大湊に戻る暇もないようで、最近は私も彼の顔をあまり見ることができていないがね」

提督「そりゃ特警の仕事を押し付けてるあんたのせいじゃねえか。N特尉以外の誰か出張らせりゃいいだろうによ」

武大将「おや。そりゃ失礼」フフッ

提督「まあ、あいつがあんな仕事に就くことになったのは、あいつ自身の身から出た錆だけどな。あんなツールに手を出したのが悪い」

将官「ツール? ……艦娘洗脳ツールのことか?」

将官「そんなことまで知ってるのか……」

提督「……なんか、俺に関する情報が、本っ当に行き渡ってねえな? 俺って悪い意味で重要人物だろ?」

大将「これでも貴様の話題は俺や中将殿から出してはいるぞ。ただ、貴様に関わる話はどうにも盛り上がらなくてな……」

祢大将「大将は君のことをもっと話したいようだったが、いつも早々に切り上げられていたんだ。そうですね、元帥閣下」

元帥「……」

提督「へぇ……」

大将「むう……そういえば今更だが、元帥殿も貴様の話題に対してはことのほか反応が薄かったように思えるな?」

大将「あの島の関係者だからという理由で、皆が触れたがらなかったのも、理由のひとつだと思っていたが」

祢大将「それは和中将のことだな」

和中将「!?」ビクッ
900 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:57:06.25 ID:Qx5bHHluo

武大将「そのことを抜きにしても、提督の情報は単に要注意人物、という話だけ回ってきていたんだよねえ」

祢大将「おかげで彼の話はいつも消化不良だった。詳細を武大将と話し合ってはいたものの、肝心な話は不明だとはぐらかされ続けてきた」

武大将「提督の話が本格的に持ち上がったのは、中将殿が大佐たちと一緒にあの島で泊地棲姫と交戦したあとだったかな」

武大将「その当時は中将殿も入院しておられたし、他に詳しい者と言えば、甥のX大佐経由で提督に接触していると噂の大将だけ」

武大将「その大将に詳しく聞こうと思っても、取り込み中だったり一人で先に突っ走っていたり……置いてきぼりにされてきた感はあるね」

大将「うぐ……」

祢大将「情報がまともに揃っていない状態で、彼のことを信用するもしないもないからな。宇大将もそうだったんではないかな」

宇大将「ああ」

H大将「まったく、大将も私より先にほかの大将に詳しく話をしておけば良かったものを」ハァ…

武大将「そうだよ、どうして私よりH大将のほうが彼と親し気なんだ? H大将はどちらかと言えば彼とは反対の立場だったじゃないか」

大将「し、仕方ないだろう! H大将が提督のことを疑っていて、それで俺に話を持ってきたんだ!」

H大将「……思えば、その話もJ少将からだったな。俺たちはあいつにいいように踊らされていたということか?」

提督「今更どっちでもいいけどよ。そんなことより、俺の用事は……元帥」ギラリ

元帥「……」

提督「あんたから、さっきの話の是非を問うことだけだ」

将官たち「……!」

艦娘たち「元帥閣下……!」
901 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:57:52.06 ID:Qx5bHHluo

提督「黙ってたって進展しねえぜ。あんたが組織のトップなんだ、とっとと結論を寄越しな」

和中将「……ぐぬうう!! さっきから聞いていれば偉そうに、それが年長者に対する態度か!」

和中将「海軍の最高責任者だぞ!! 少しは態度を弁えろ若造が!!」

提督「ったく、さっきからうるせえな。んじゃ、お前に組織の調査を頼めばいいのか?」

和中将「貴様の世迷言など信じられるか! どうせ嘘八百を並べて海軍の内部崩壊を企んでいるんだろう!」

提督「うげ……参ったな。こいつ、他人の話を聞かねえタイプか。知ってたけど面倒臭え」

祢大将「……和中将」

和中将「!」ビクッ

H大将「提督、貴様もいちいち突っかかるな」

提督「それは出しゃばってくる和中将に言ってくれよ……もう相手にしねえけどよ」

提督「けどまあ、和中将の言い分もわかるんだよ。滑稽ではあるが、そこに悪気はねえ。本当に組織のことを知らねえからこその言い分だ」

祢大将「……」

提督「そういう和中将みたいな反論や弁明が、元帥の口からも一切出てこねえってのはどうなんだ?」

和中将「げ……元帥閣下がこのことを御存知ないからに決まっているだろう!?」

提督「知らないなら知らないなりに、わからないって一言否定してくれてもいいじゃねえか。それすらないのが、どうなんだって話だよ」

祢大将「……」

中将「元帥。提督の言う通りだ、黙っていても事態が好転するわけではないぞ……?」
902 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:58:36.25 ID:Qx5bHHluo

提督「うーん……そうだな。しょうがねえ、もうひとつ嫌な話をしてやるか」

大将「ま、まだあるのか?」

提督「中将に伝えなきゃいけない話があるんだ。いまこの場で話してもいいか?」

中将「む……な、なにかね?」

提督「ここに来るとき与少将から聞いたんだが、ついさっき駐日イギリス大使から、俺たちにコンタクトを取りたいって話が来たんだと」

中将「! 本当かね」

提督「ああ、詳細はこの後で与少将に確認するが、ことの次第によっては、日本政府よりそっちを先に相手しないといけなくなるかもな」

大将「な、なんだと!?」ガタッ!

提督「俺たちは、組織の話がクリアにならない限りは、日本政府との話も保留にしたいんだよ」

提督「この話は、俺たちの身の安全を保証してもらう話なんだ。その話が進まない限りは、政府と話し合いなんかしてもしょうがねえ」

提督「仮に政府が組織の存続に一枚噛んでいたとしても、海軍が無関係ってわけでもないし、疎かにしていい話でもない」

提督「俺たちは話ができるほうに話をしに行く。普通だろ?」

大将「元帥殿! 提督がここまで来ているというのに、我らが足を引っ張ったとあっては、政府との信頼関係を疑われます!」

祢大将「数多くの艦娘を束ねる海軍をさておいて、他国が深海棲艦との交渉権を得たとなると、国家の権威失墜にもつながるな」

武大将「交渉決裂よりまずい結果になってしまうんじゃないか?」

和中将「そ、それはいかん……! げ、元帥閣下!!」
903 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/18(月) 23:59:21.19 ID:Qx5bHHluo

元帥「……」

提督「まあ、元帥がなかなかうんと言わねえ理由もそれなりにわかってるんだ」

提督「一番は、艦娘を使った実験を行っていたこと。元帥も含めて知らない奴が多いようだが、実態が暴かれたら相当やばいと思ってる」

提督「これが明るみに出て、海軍が艦娘からの協力を取り付けられなくなったり、造反でもされたりしたら人類は終わりだ」

大将「ぬう……!」

提督「それから、深海棲艦に話が伝わった場合は、更に敵意をむき出しにして襲ってくるだろう。国内の拠点が攻撃される可能性も増えそうだ」

武大将「おや? 君が知っている、イコール深海棲艦たちも知っている、じゃないのかね?」

提督「悪いがそこは俺もわからない。深海棲艦は群れ同士での交流が少ないみたいで、聞いた感じ、余所は余所、ってとこが多いらしい」

提督「だから、実際にはこの話もあまり広まってはいないんじゃないかって推測してる。あの弾丸をあちこちで使っていたりしたら話は別だがな」

武大将「……君がその話を誰かに伝えたりはしていないのかい?」

提督「それはない。島の外にいる深海棲艦とは話す機会がまだねえんだ。調べるにしても、まさか白旗振りつつ訊きに行くわけにもいかねえよな?」

武大将「それはそうだねえ……」

提督「ほかには……そうだな、その拠点が国内に複数個所あるせいで、そのあちこちに俺を案内しなきゃいけなくなりそう、ってのもあるか?」

H大将「複数拠点あるだと……!?」

提督「ここに何人か協力者がいるんだ。全員が常々一か所に固まってるわけじゃねえはずだ」

提督「俺が把握してる拠点以外に、他にも何カ所かに研究施設がありそうだってのは俺の予想だが、ない話じゃないだろう」
904 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:00:05.52 ID:12crbRCYo

提督「あとは、このネタにメディアがどういう反応を示すか、だな。ただでさえこういうスキャンダルはマスコミの大好物だ」

提督「あることないこと脚色されて事態の収集に追われそうだし、一部の人間からは非人道的だと批判を浴びるだろう」

提督「最後にもうひとつ。元帥……あんた、今更ながら、これの開発をよしとしたこと、後悔してんだろ?」

提督「艦娘の力を借りることなく、人間の手で深海棲艦を打ち倒せる力と言えば、確かに魅力的な話だからな」

元帥「……」

提督「おそらく、この話のトップはJ少将だ」

全員「「……!」」ザワ…!

提督「確かあいつは、それまで厳秘情報だった艦娘の存在を、世間に公表するときの会見の席にも座ってたよな?」

提督「そのくらい周囲からの評判が良かったJ少将からの強い進言とプレゼンがあったからこそ、元帥は信用してその口車に乗ったんだろう」

提督「ただ、元帥は、深海棲艦の武器化の話までは聞いてても、艦娘の深海化の話までは聞いていなかった。反応からして、そうなんだろ?」

元帥「……」

提督「ここからは俺の憶測にすぎないが、仮に艦娘が戦えなくなった時の次善の策とか、そういう感じで、J少将から提案されたんだろうな」

提督「深海棲艦の遺骸を使う、外法の技術だ。外に漏れれば間違いなく深海棲艦から恨みを買うだろうし」

提督「罰当たりな行為ゆえに賛同できない大将たちがいるからと、実用化できるまで極秘に研究を進めたい……そんな感じで提言されたと思ってる」

提督「効果も証明されているとあって、放棄するには惜しい技術。戦況など総合的に見て、J少将が責任を負う形で内密に進めさせたんだろう」

祢大将「……」

提督「だが、それでもあんたはこの計画に疑いを持っていた。迷い、躊躇っていた。J少将の望む通りに動こうとしなかった」
905 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:00:51.26 ID:12crbRCYo

提督「だからJ少将はしびれを切らして、大将ふたりと俺を使って、あんたを動かそうとした……動かざるを得ない状況を作ろうとした」

H大井「……それが、その結果が、あの島で起こったことだって言うんですか!?」

提督「そうだ。俺が深海棲艦と通じていて、轟沈した艦娘とともに海軍に対するクーデターを企んでいる、ということにして……」

提督「J少将は俺に大将ふたりをけしかけ、俺がやったかのように見せかけてふたりを暗殺。あとは俺を始末して証拠を隠滅、捏造する」

提督「深海棲艦の武器化に反対するふたりを消し、俺が深海棲艦のスパイだったと危機感を持たせることで……」

提督「自分の推し進めている武器化の実用化こそが、今後進むべき最善の道だとアピールしたかったんだろう」

提督「島にいた艦娘の大半は轟沈経験艦。深海棲艦になる恐れのある艦娘なら、素材にしてしまえば口封じもできて一石二鳥」

提督「それが当初、J少将が思い描いていたシナリオだろうな」

H大井「……」ギリッ

提督「そういえば、H大将。あんた、あの時は大井を連れてきてなかったな。どうしてだ?」

H大将「大井はその時、遠征に向かわせていた。それで連れてくることができなかったんだ」

提督「なるほど。もしかしたら、秘書艦不在もJ少将が狙ってたのかもしれねえな。下手にかばわれて暗殺し損ねたら計画が台無しだ」

提督「大将とH大将両方の秘書艦が不在なんてないだろうから、戦場に向かいそうな大将の秘書艦の武蔵より、大井が不在の隙を狙うのも理にかなってるな」

大将「あいつは、そこまで考えて計画していたというのか?」

提督「考えてたと思うぜ? 誘導もえらく手際が良かっただろ? 相当入念に計画してたはずだ」

大将「むう……」
906 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:01:36.16 ID:12crbRCYo

提督「……ま、そうやっていろいろ企んでたJ少将だが、結果的には、溶岩に飲まれて焼け死んだ」

提督「事情を知っているであろう直属の部下だったK大佐も、開発者の一人だったZ提督も、同じく火の海に消えた」

提督「そいつらの思惑とは無関係だったかもしれない海軍の人間を、大勢道連れにしてな」

将官たち「……」

提督「海底火山の噴火は自然現象だ。事故としか処理できねえ」

提督「ただ、その自然現象に巻き込まれた理由が、深海棲艦の武器化に賛同しない大将ふたりを暗殺するためだと知れたら、どう思う……?」

艦娘たち「……!!」

提督「J少将があれだけの大人数を引き連れて行ったのも、俺がふたりを殺した犯人だっていう証人になってもらうため」

提督「そしてJ少将自身が怪しまれないため、自分に後ろめたいことがないことを大勢にアピールしたかったためだな」

提督「そこに祢大将たちが巻き込まれなかったのは、こっちの大将たちと同調して動いてなかったからだろう」

祢大将「私たちが大将たちに詳しく話を聞けなかったのが、逆に良かったと?」

提督「単に人数が多いと騙すのが大変とか、誘う理由がなかったとか、都合が合わないとかいろいろ考えられるが、それも含めての話だと思ってる」

提督「あとは、仮に今回の暗殺がうまくいった場合、武大将みたいに深海棲艦との対話を肯定してる上官が、この事件を機に意見を変えたりもするだろう」

提督「そうなるようなら、当然、それに追随する者も多いはず。そういう狙いがあるなら、わざとふたりだけを狙うのも効果的だ」

提督「反発している人間を全員一気に始末したら、それはそれで怪しまれるだろうし」

武大将「なるほどねえ……」

提督「ま、それよりかは、さっき言った、深海棲艦の武器化に反対していたってところが、標的にされた一番の理由だと思ってるけどよ」

大将「……」
907 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:02:21.88 ID:12crbRCYo

提督「それから、俺の情報がこの場に行き渡っていないのも、俺が死んだ後にいくらでも脚色できるから、ってのもあるだろうな」

提督「俺が不審人物であればあるほど、大将殺しの罪を擦り付けやすいし、悪い奴なら良心も痛まねえって意味でも利用しやすい」

提督「そもそもあの島自体、大佐が自分に都合よく邪魔者を隔離幽閉するために確保してた島だ」

提督「連絡手段を断って放置して、野垂れ死ねばそれでよし。死んだら深海棲艦に罪を擦り付けてしまえばいい」

提督「あの島の妖精たちが、島に来る人間はみんないがみ合ってたって憤ってたくらいだ。おかげで俺も最初は追い出してやるって言われたぜ」

中将「そういえば、大佐が君に責任を押し付け、儂もろともあの島で泊地棲姫に始末させようと企んでいたことがあったな」

提督「……中将、それを自分で言うなよ。切なくなるだろ?」

中将「フフ……それもそうだな」

将官たち「……」

艦娘たち「……」

提督「長話が過ぎたな。いい加減、話を戻すか。俺のふたつの要求を……」

元帥「良い」

提督「!」

将官たち「!」

艦娘たち「!」

元帥「提督。君の提案をすべて受け入れよう」

将官「元帥閣下!?」

和中将「組織の存在を、認めるというのですか!?」

将官「い、いけません閣下……!!」
908 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:03:05.74 ID:12crbRCYo

元帥「詳細を調査するための日程は……明後日、○月○日までに連絡する。中将」

中将「はっ」

元帥「貴官がこれまで行っていた任務は、与少将……いや、与中将が引き継ぐ手筈だったな」

中将「はっ、その通りです」

元帥「では、期日までに彼女に連絡しよう。貴官の最後の仕事になるが、その旨、与中将に伝えてくれ」

中将「承知しました」ケイレイ

元帥「……」ウツムキ

提督(……観念したってか。こっちは一安心だな)

将官「なんでこんなことに……」

将官「も、もうだめだ……おしまいだ」ガクッ

艦娘「司令官!?」

 ザワザワ…

大将「おい、何人かうなだれているが……」

H大将「そいつらが、組織とつながりのある将官だったということか」

提督「その辺は推して知るべし、だな」

和中将「なんと……そんなことが、本当だったのか!?」
909 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:03:51.06 ID:12crbRCYo

祢大将「……」

武大将「ショックなのはわかるが、祢大将が押し黙ってると怖いからやめて欲しいんだがねえ」

宇大将「やれやれ……ここまでの話を俺が知らされていないとは。どうやって隠し通していたんだ?」

武大将「宇大将は仕方ないんじゃないか? 南西海域の深海棲艦の鎮圧で手一杯だったんだろう? なかなかこちらに身を向けられなかったと聞いてるよ」

H大将「南西海域?」

宇大将「ああ、某国の空母が深海棲艦に沈められて以来、深海棲艦がますます活発に動き始めているのでな」

提督「空母……? もしかしてあいつら、まだ懲りてねえのか?」

武大将「うん? 何か、心当たりがあるのかい?」

提督「東アジアか東南アジアの海賊やらが、うちの領海っつうか島に攻めてきてたんだよ。それでその辺の深海棲艦が刺激されてんじゃねえのか?」

提督「俺たちの島は、日本とパラオを線で結んで中間地点あたりにある。そいつらがうちの島を侵略目的で目指せば、ちょうどその辺通るはずなんだ」

提督「泊地棲姫に攻め込まれたあたりから、海軍内のスパイの活動も活発化してただろ。この島に手を出そうって考えてる奴らがいるせいだろうな」

宇大将「……それが事実なら、お前たちと因果関係がないとは言えんか」アタマオサエ

武大将「一気に無関係ではなくなったねえ……」

H大井「あの、それはそれとして、提督? くだんの組織が危険であることは理解できますが、さすがに少し、荒療治が過ぎたのではないかと」

提督「そうか? この空気を見る限り、このくらい言わなきゃずーっとなあなあになってたとしか思えねえんだけど」

提督「それに、研究を続けさせたいなら、深海棲艦とは徹底的に敵対するって言えばいいんだよ。それならあいつらも落ち込まずに済んだろ」

大将「そんな判断できるわけがなかろう! そうなったらそうなったで、お前たちが世界中に今の話をばらまく気でいたんだろう!?」
910 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:04:35.09 ID:12crbRCYo

提督「まあな。俺たちも死にたくねえし、だったら俺たちが何を考えてるかを知らせるのは大事だろ?」

武大将「そんなことされたら、世界中からクレームやらが殺到して、海軍の面子は丸潰れになるだろうねえ……」

武大将「きみは最初から、選択しようのない選択肢を押し付ける気だったんだね?」

提督「俺が悪いみたいな言い方するなよ。こうやって付け込まれる原因を作ったのは海軍だろ」

提督「武器化の話も、洗脳ツールのときみたいに発覚した時点で根っこからがっつり潰してりゃ良かったんだ」

大将「ぐ……それはそうだが」

提督「ま、今回の話は、J少将が計画したクーデターみたいなもんだったから、防ぎようもねえのは俺もわかってるさ」

提督「それでも俺に文句を言うのは筋が違うだろ」

武大将「……もしかして、他にもこの手の情報を持ってたりするのかな、きみは」

提督「それはどうだかな? 俺たちはうちにちょっかい出してきた連中のことくらいしか話せないんだ。俺しか知らない話なんて、ほかにあるか?」

武大将「イギリス大使が動いてたという話も、都合が良すぎないか?」

提督「それは俺も知らねえよ。単純にあっちの間諜が優秀なだけじゃねえの?」

H大将「……」

大将「……おい、H大将もどうした。何を悩んでいるんだ?」

H大将「ん? ああ。あいつらが……あの組織とつながっていた者たちが、どうしてそうしていたのかを考えていた」

提督「んなもん、だいたいは金か昇進のためだろ?」

H大将「ほかは知らんが、J少将は自分の仕事にプライドを持っていた。金銭や名誉欲で動くような男には思えなくてな」

提督「……」
911 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:05:21.67 ID:12crbRCYo

H大将「それで以前、J少将が酒の席で言っていたことを思い返していたんだ」

H大将「あいつは、本来、海を守るべく結成された我々が、深海棲艦相手に手も足も出ないのが悔しいと言っていてな」

H大将「艦娘に生かされている今の状況に、忸怩たる思いしかない、と」

提督「……ああ、確かにそういう話もあったな」

H大将「おそらく、J少将が、深海棲艦の武器化を研究させたのも、艦娘に頼らずに自分たちが戦える手段を欲しがったからだろう」

H大将「その思いが強かったからこそ、俺や大将といった深海棲艦の武器化を批判する者を、始末しようと考えた……」

大将「あの行動が、あいつの正義からくるものだったと?」

H大将「私はそう思っている。艦娘と協力する道を取った俺たちのことも憂いていたとしたら、そうなってしまったのも合点がいく」

H大将「この戦争が、艦娘と深海棲艦との自作自演である可能性はないのか、とも疑っていたくらいだ」

H大将「あいつは、その頃から艦娘に不信感を抱いていたのかもしれん」

提督「じゃあ、J少将の理想は、艦娘が現れる以前の、人間が海を守る世界だった、ってことか?」

H大将「……そうかもしれんな」

大将「そんなことを言っても、人間は深海棲艦と戦えないんだぞ? 艦娘がいなくなったらどうなるか、あいつだってわかっているはずだ!」

提督「だとすると、マジで時雨の言う通りだってことか」

H大将「? どういう意味だ?」

提督「艦娘を深海棲艦に作り変える研究の本来の目的が、海軍から艦娘を追い出すため、って話だ」

大将たち「!?」

艦娘たち「!?」
912 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:06:06.29 ID:12crbRCYo

大将「ま、待て待て! どういう意味だ!? 海軍から、艦娘を追い出すだと!?」

提督「J少将は自分の活躍の場を奪った艦娘が邪魔だった。だから艦娘を海軍で扱えない理由を作りたかった」

提督「例えばだが、一般人の目の前で艦娘が深海棲艦へ変異するようなことがあれば、艦娘は危険だから運用するな、って話になるよな?」

提督「海軍の訓話にも、轟沈した艦娘は深海棲艦になるから運用するなって話がくらいだ。深海棲艦がどれだけ恐ろしいかは語るまでもない」

提督「それをどうにか人為的に引き起こして、艦娘の運用をやめろ、艦娘を追放しろ、という世論に持っていきたかったんじゃねえか?」

将官「そ、そんなことは考えていないぞ!!」

提督「お前らのことじゃねえよ、J少将の話だ」

大将「……J少将は、それほどまでに艦娘の存在を疎んでいたということか」

提督「ここまでやったんだ、そうとしか思えねえ。自分が戦えないことが嫌だったって話で、それで艦娘を逆恨みしたとしたら辻褄も合う」

提督「そもそも、深海棲艦の武器化を調査、開発していたのはZ提督や大佐の一味で、J少将はそんな考えを持っていなかった」

提督「J少将が関与していたその組織では、艦娘の深海化しか研究していなかったんだ」

提督「深海棲艦の武器化の話を大佐から引き継いだのも、艦娘と深海棲艦双方の数を減らすことができて都合がいいからとも考えられるし」

提督「そもそも深海棲艦の鹵獲も普通にリスクが高すぎる。J少将がやってた研究が有効活用できるって点でも丁度良かったんだろう」

大将「ではもし、深海棲艦の武器化の話がなかったら、どこかで艦娘の深海棲艦化を引き起こそうとしていたということか……?」

提督「多分な。海軍が艦娘を運用できないようにして、海を自分たちの仕事場に……海軍以前の海上自衛隊に戻りたかったんだろうさ」

大将「それほど艦娘の存在を疎んでいたということか」

提督「そういうことだと俺は思ってる。自作自演を疑ってたってのも、艦娘が深海棲艦と変わらない存在だと思っていたからだろ?」
913 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:06:51.79 ID:12crbRCYo

提督「それに、あいつほど極端じゃなくても、深海棲艦との戦いが艦娘に頼りっきりの現状を良くないと思ってる人間は、少なからずいるよな」

H大将「……ああ。確かに、今の艦娘に依存した戦況は健全とはいいがたい。それは私も同意する」

H大井「H提督!?」

H大将「提督の言う通り、深海棲艦との戦いに関しては艦娘に任せっきりだ。深海棲艦の前に立つのも、迎撃するのも、傷付いて帰ってくるのも艦娘だ」

H大将「果たしてこの現状を協力と呼んでいいものだろうか? 本来、奴らのような外敵の矢面に立つのは我々ではなかったか?」

H大将「ここにいる人間はみな、自らの手で海と人を守ろうと、志を持って、誇りを持って、この制服に袖を通したんではないのか?」

全員「……」

H大将「もっとも、艦娘を指揮する提督となり得る人材が枯渇した状況にある最近では、残念ながら全員がその限りではないようだが……」

H大将「そういった民間や艦娘に頼らざるを得ない現状も含めて、J少将は、今の状況がたまらなく嫌で、恥ずかしいと思っていたんだろう」

艦娘たち「……」

H大将「しかしだ。だからと言って、艦娘を追放しようなどと言う考えは肯定されるべきではない」

H大将「艦娘は人間ではないのだろうが、間違いなく人の心を持っている。人間ではないからと人間ではない扱いをすれば……」

H大将「艦娘は人間を疑い、人間を恐れ、人間を嫌う存在になるだろう。たとえ艦娘の前でなくても、我々が人の心を失ってはいかんのだ」

H大井「H提督……!」

H大将「現に、最初は人間であったとしても、人扱いされず蔑ろにされたがために、人間の味方を辞めてしまった存在もここにいるしな」

提督「……」

和中将「この男が、ですか……?」
914 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:07:36.23 ID:12crbRCYo

H大将「そうだ。今の提督は、艦娘と深海棲艦の味方だろう?」

提督「おい、妖精が抜けてるぞ?」ニヤリ

H大将「……ああ、そうだったな」フフッ

和中将「待て。提督は……お前は人間の味方を辞めたのなら、人間の敵だというのだろう? それなのに、人間と和平交渉するのか……?」

提督「ああ。艦娘や深海棲艦、妖精たちの今後のためにな。文句あんのか」

和中将「……わからん。なぜ、お前はそんな平和的な解決を望むんだ? 深海棲艦は人間の敵ではないのか?」

提督「敵対しなくていいって奴もいるんだよ。人間だって、友好的な国だけじゃなく敵対してる国もあるだろが」

和中将「いや、そもそも深海棲艦とは話が通じるのか?」

提督「……おいおい、理解が周回遅れにもほどがあるぞ」アタマオサエ

和中将「曽大佐は話ができないと判断したから、その報復に年寄りにされたのだろう!?」

提督「……」

和中将「どうやって年寄りにしたんだ。それも深海棲艦の力か!?」

提督「……」ウンザリ

祢大将「和中将。君の話は後にしたまえ」

和中将「は、はっ……! 申し訳ありません」

提督「……ったく、今更俺に興味持つなっつうの。島に近づきすらしたくねえくせによ」

中将「彼は確か、あの島の昔話も知っていたはずだな?」

祢大将「はい。だからこそ彼のことを蛇蝎のごとく忌み嫌って、関わらないようにしていました」
915 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:08:21.21 ID:12crbRCYo

祢大将「それに、彼は自らが艦長を務めていた護衛艦を深海棲艦に沈められています。深海棲艦には恨み骨髄であったのは間違いありません」

提督「それでかよ。ったく……面倒臭え」

祢大将「提督、和中将に関しては私が面倒を見よう。しかし、海軍全体の君に関する情報の欠落度合いは見過ごせない」

祢大将「一度、君にはこれまでの経緯と、君の目的を改めて海軍の上層部に説明して欲しいものだが……」

提督「本当に面倒臭え……」ゲンナリ

祢大将「君が海軍の信用を得るためには必要なことだと思うが?」

提督「それを面倒だと思うくらいは俺の自由だろ。何も知らない相手にうちの連中の事情を説明するとなると、本っ当に面倒なんだからよ……」

祢大将「それほど面倒なことしか起きていないということかね?」

提督「そうだな。うちの艦娘、まともに着任した奴のほうが少ねえし……多分きっと、これからもそうなんだろうな」

提督「あの島は、轟沈した艦娘が流れ着く島だ。人の世界の悪いもんばっかり引き寄せてる、人の世の業の吹き溜まりみたいな場所だ」

提督「そんな場所に住んでる俺がこの場に出てきて文句言ってんのは、人間が艦娘や深海棲艦に対して調子に乗り過ぎたせいだとでも思ってくれ」

祢大将「……まるで自分を災厄の塊のように言うのだな」

提督「俺はそうだと思ってるけどな。そもそも、あんたたちは俺が人間どころかまともな生物じゃないって知ってんだろ?」

祢大将「……」

秘書「……」

中将「君は、少し自分を卑下しすぎではないかね?」

提督「ん?」

中将「君は、君自身を悪者にしたがっているようだが、君がいたから助かった艦娘がいる。君がいたから深海棲艦との対話ができているのだ」

中将「君が過去に何を企んでいたかは我々にはわからないし、君の判断の良し悪しを裁くことも儂にはできん」

中将「だが、儂は君がこうして我々に手を貸してくれていたことに、感謝しているよ。君が何者であってもな」ニコ…

提督「……そんな大層なもんじゃねえけどな」アタマガリガリ

中将「さて。大事なのはこれからだな。約束は、果たされなければならん」

大将たち「「……」」
916 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/08/19(火) 00:09:06.00 ID:12crbRCYo
ということで、今回はここまで。
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