【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】

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784 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:58:01.73 ID:eOSul5Hco

R提督「ひとまず準備が整いましたので、私はこれから艦娘の引き渡しの候補となる提督とその秘書艦を、こちらに案内いたします」

R提督「本来はすぐに会場へ通す予定でしたが、提督がいらっしゃるということで、一時的に別の部屋に集まって待機してもらっています」

隼鷹「それじゃ早速呼びに行ってきますかぁ! あ、何人ずつ呼んだらいいかな?」

H大将「出来ればひとりずつ通してくれ。他の提督がいると話しづらいことがあるかもしれん」

R提督「承知しました、隼鷹!」

隼鷹「任務了解! 行ってきまーす!」タタッ

飛鷹「隼鷹!? H大将閣下の御前だって言ってるでしょ!?」

H大将「……まあ落ち着け。余所で見た隼鷹や、あの艦娘に比べたらまともだ。うるさくしなくていい」

飛鷹「よ、よろしいんですか……?」

大井「余所の隼鷹さん……ああ、先日あの鎮守府で見た、あの酔っ払いまくりの」ウヘェ

荒潮「そこにいたPolaさんも、すごかったですよね〜。全裸でワインボトル抱えて歩いてたのは驚きました〜」

提督「なんだそりゃ……ポーラ? 海外艦か?」

大井「イタリアのZara級重巡洋艦娘です。なんでもお酒が入ってない日はないほどのお酒好きだそうで」

大井「彼女にはZaraという姉妹艦……ネームシップである姉がいるそうなんですが」

大井「その鎮守府にZaraさんがは着任していないためか、制御が利かないというか、自由を満喫しすぎてるというか」アタマオサエ
785 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:58:46.68 ID:eOSul5Hco

提督「……ブレーキ役の姉妹がいなくて、好きに呑んだくれてるってか」

大井「彼女にお酒を控えるよう、鎮守府全体で抑え込もうとしたところを、そこの提督の秘蔵の数本を見つけられご機嫌に……」

大井「というのが、その鎮守府の秘書艦の言い訳でした」

提督「艦娘にもそういうとんでもない奴がいるんだな……けど、さすがにそいつは極端すぎる例じゃねえか?」

提督「下の下とも言えるそいつと今の隼鷹を比較されてマシとか言われてもなあ」

大井「まあ、そう言われてみればそうですね。とはいえ、私たちが出会う余所の隼鷹さんは、だいたいいつもお酒が入ってますし……」

提督「マジか……」

R提督「私どもの隼鷹も、私が処分される以前は、ちょっと怪しいところはありましたね……お恥ずかしながら」

飛鷹「まあ……そうね。今でこそ自制してるけど、以前の隼鷹もお酒にだらしなかったから……」ウーン

提督「酒が入ってんのが平常運転なのかよ」

H大将「……あの隼鷹も、あの島で生活していた一人だな? 何があったか、あとで教えてくれるか」

提督「それはできれば本人から聞いてくれ。余所の隼鷹や酒飲み艦娘の対応の参考にしたいんだろう?」

提督「俺が話すよりも、あいつ自身がどういう心境だったか、って面で正確な話が聞けるはずだ」

提督「それに本人不在で勝手に俺がべらべら話すのは、あいつにとっても心証がよろしくねえだろ」

H大将「……変なところが律儀だな、お前は?」

提督「そうか?」
786 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:59:31.75 ID:eOSul5Hco

大井「H提督、それより面談の段取りを説明しませんと……」

H大将「ん、そうだな。と言っても、提督は俺の隣で基本何もせず座っていてくれればいい」

提督「それでいいのか?」

H大将「お前の見立てて怪しいと思ったときに俺に声をかけてくれ」

H大将「提督は見た目が若いから、俺が連れてきた下士官のふりをしても怪しまれんだろうし、お前もお前で目立ちたくはないんだろう?」

提督「……まあ、そうだな。わかった、俺は基本口を出さないことにするぜ」

H大将「不知火とリ級は、後ろの衝立の陰に隠れててくれるか? この場で不用意に深海棲艦が姿を見せたのでは混乱するだろうからな」

不知火「承知しました。リ級さんもよろしいですか」

リ級「……ワカッタ。従オウ」


 * *


飛鷹「これで6組中、3組の面接が終わりですね」

H大将「どうだ、怪しい奴はいたか? ずっとだんまりなところを見ると、そういうことはなさそうだが」

提督「いまのところはそうだな。まあ、普通に新米っぽい若い奴ばかりで、違う意味で艦娘を任せるのが心配だけどよ」

 扉<コンコン

H大将「入ってくれ」
787 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:00:17.56 ID:0p8QtWGlo

隼鷹「失礼しまーす! 止准尉をお連れしましたー!」ガチャッ

提督「止准尉……あいつが?」

止准尉「……失礼、します」

山城(止准尉の秘書艦)「失礼します……」

提督「……若えどころじゃねえな。ありゃ中学生か?」

大井「いいえ、今年二十歳になるそうですよ」

提督「夜が怖くて夜戦するなと言われてその命令に背いた川内たちを追放したのが2年くらい前だ。高校にいる間に提督になったのか?」

大井「いえ、そうではなく……」

提督「あ、悪い。その辺の事情は、聞かなくても、俺が視れば良かったんだ」メヲトジ

大井「は?」

提督「……ふーん……ん? これは……」

H大将「どうした?」

提督「……なんであいつが、そんなこと知ってんだ?」

H大将「……なにかあったのか」
788 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:01:16.92 ID:0p8QtWGlo

提督「ああ、本当ならちょっと良くねえな。範囲広げて探ってみるか……」

止准尉「……」

山城「あの……一体何の話なんですか」

H大将「ん? ああ、悪いな。とりあえず座って、ちょっと待っていてくれ」

山城「そうですか……呼び出されて待たされて、何の話かと思ったら、また待たされるなんて……」

山城「ただのお食事会と聞いていたのに、不幸だわ」ハァ

止准尉「……」

提督「……」

大井「さっきからずっと目を瞑って……なにをしてるんですか?」

H大将「まあ待て、様子を見よう」

提督「……」

リ級「……提督ハ気付イテイルヨウダガ、部屋ノ外カラ嫌ナ臭イガスルナ」

不知火「外?」

荒潮「……! 大井さん」ヒソッ

大井「荒潮も気付いたの? 誰かいるのね?」ヒソヒソ
789 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:02:01.88 ID:0p8QtWGlo

隼鷹「あ、確かになんか気配するね?」

飛鷹「隼鷹!」シーッ!

提督「……」

リ級「提督。私ガ出ヨウカ?」

提督「大丈夫だ、まあ任せとけ」

 <ウオッ!?

H大将「!」ガタッ

大井「部屋の外から!?」

提督「飛鷹! そこのドアを開けろ!」

飛鷹「えっ!? は、はい!」ガチャッ

奇妙な仮面をかぶった男「ウグブブブ!!」ヨタヨタ

飛鷹「ひっ!?」

隼鷹「うわっ、なにこれ!?」

不知火「あれは……!?」
790 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:02:46.96 ID:0p8QtWGlo

提督「スクリームフェイスってやつだ。よし、お前ら全員動くな!」

 UFO<プワワワワ…

男「う、うわああ!? なんだなんだ!?」フワー

大井「え、えええ……? UFOが男の人を連れてきたんだけど……なにあれ」

不知火「部屋の中に入ってきましたが、いいのですか?」

提督「ああ、問題ねえ」

 ダツイクローゼット<バコン!

荒潮「えっ、あんな衣装棚、この部屋にあったかしら」

 ダツイクローゼット<バクン! ガタガタ…

大井「男の人が飛んで入って……中に閉じ込められてる!?」

霰「人食い衣装箱……」ゾッ

 ダツイクローゼット<ペッ!

男「ぐえっ!!」ベチャッ

飛鷹「ちょっ、なんで下着一枚になってるのよこの人!?」

 サラシダイ<ガシャッ!

男「ひいいっ!?」ガシャッ!!

提督「捕獲成功……これで良し」
791 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:03:33.74 ID:0p8QtWGlo

飛鷹「……い、いったい、なんなんですか!?」

H大将「こいつが魔神の力というやつか」

提督「あまり人に見せたくねえが、あいつらにつながってる手掛かりだ。出し惜しみはしていられねえ」

リ級「提督、メディウムハ、ドウシタ? 連レテキテナイヨナ?」

隼鷹「っていうか、こんな罠のメディウムいたっけ?」

提督「こいつは俺の力だ、まだメディウムにしてないやつだな。さてと……」スクッ

提督「舌を噛まれても面倒だ。とっととこいつの頭の中身を吸い出すか」アタマツカミ

男「な、なにを……ひぐっ!?」

提督「……」

男「ぐ、ぎ、ぐぇぇ……お、おっご、おほぉっ!?」ビクビクッ

北上「……頭の中を吸い出す? って……」

満潮「そんなことできるの!?」

提督「なんだこいつ、ろくな情報持ってねえな。下っ端もいいとこじゃねえか、つまんねえやつだ」
792 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:04:21.17 ID:0p8QtWGlo

不知火「何が目的だったんです?」

提督「止准尉があることについて喋ってないか、見張り目的で来たらしいな」

止准尉「……!」

提督「盗聴器やレコーダーも用意してたみたいだ。たったいま服と一緒にぶっ壊しちまったけど」

H大将「なんだと? 何を盗聴していたか記録は取れんのか」

提督「あー……どうだろな、破片で良ければこの辺に散らばってるが……ただ、止准尉はこいつの前では一言もしゃべってねえみたいだな?」

男「う、うげええ……」ガクガク

提督「さてと、こいつどうする? 始末していいならこのまま俺が殺っとくぞ」

H大将「簡単に始末などと言うな。そいつの身柄は海軍で預かる」

提督「そうか。なら断っておくが、こいつの頭の中身をまさぐったときに、ちょっとあちこち壊しちまってな」

H大将「なに?」

提督「嘘が付けない可哀想な頭にしちまった。まあ許せ、あんたたちにも都合がいいだろ」

H大将「……」アタマカカエ

山城「さ、さっきから何なのよ一体……何の話なの!? しかも、そっちに隠れてるの、深海棲艦じゃない!」アオザメ

リ級「ア、ヤバ。気付カレテタカ」

提督「心配すんな、と言いたいが、まあ状況が状況だしなぁ……」
793 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:05:16.98 ID:0p8QtWGlo

隼鷹「んじゃ、私が簡単に説明するよ。この人はねえ……」

 * *

山城「……この男が、深海棲艦と一緒に離島で暮らしてる、ですって……?」

隼鷹「そういうこと。私も一時期、その島で提督にお世話になってたから、安心していいよ〜」

リ級「私ハ、コノ男ト一緒ニ、島カラ来テヤッタンダ」ドヤッ

山城「なんでそんなに偉そうなのよ……」

H大将「この男がここに来たのは、今後艦娘を任せるのに問題ない人物かどうかを見極めるためであり……」

H大将「そして、艦娘の保護を邪魔する者がいないか、いればそいつを捕縛するためだ。結果として、見事不審者が捕まったわけだが」

提督「この鎮守府の敷地の外に協力者がいたようだが、逃げたみたいだな。盗聴器を壊されたことに感付いて警戒したのかもしれねえ」

R提督「そんなことまでわかるのですか……」

提督「大まかに、だけどな。だいたい似たような気配を放ってるから、俺の『眼』の届く範囲にいればギリわかる」

提督「それよりH大将、悪いが止准尉と山城の衣服と艤装、それから身の回りのものを洗ってくれるか? ないとは思うんだが念のためだ」

H大将「……わかった。荒潮、今朝話しておいた部屋まで、ふたりの案内を頼む」

荒潮「は〜い、わかりました〜」
794 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:06:01.86 ID:0p8QtWGlo

山城「はぁ……今日はとことん不幸だわ。提督、行きましょ……」

止准尉「……」

H大将「北上はこの侵入者を別の部屋に連行してくれ。頼めるか」

北上「はーい。あ、一応、霰も一緒に来てもらっていい?」

霰「はい……!」

北上「んじゃ、連れてくねー」ヒョイッ

男「ぐえっ」カカエラレ

 スタスタ…

H大将「やれやれ、嫌な予感は当たるものだな……」

提督「なんだ、予見できてたのか?」

H大将「貴様が来ると聞いた時点で、何か起こりそうだと薄々思っていた。とにかく、止准尉からはあとでゆっくり話を聞くとしよう」

満潮「ねえ提督、さっき洗うって言ってたけど……それって、あのふたりにも盗聴器が仕掛けられてるって思ったの?」

提督「いや、おそらく止准尉たちの衣服とかには、仕掛けられてないはずだな。じゃなきゃわざわざ侵入者が見張りに来るはずがねえ」

提督「ただ、止准尉があの通りだんまりだったからな。ありゃ自分たちが監視されてることを自覚してたからこそだと思ってる」

提督「となると、誰にも話せず抱え込んでいたんだろう、警戒心を解くためにもやっといた方がいいなって思ってたんだ」

満潮「ふーん……そういう判断なら、確かにやっておいた方がいいわね」
795 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:06:46.79 ID:0p8QtWGlo

H大将「ということは、ここへ申し込んできた目的も、艦娘の補充ではなくこの件を誰かに伝えるため、助けを求めて、と見るべきだな?」

提督「そうだな。臆病者が、臆病者なりに勇気を出してここに来たってことなんだろう」

R提督「……すみません、そうだとすると、この申込書の名前は……」ペラリ

H大将「ん? この名前……しばらく休職すると申し出のあった提督の名前だな」

H大将「さては、R提督がしばらく舞鶴から離れてたのをいいことに、わからないと思って余所の鎮守府の誰かの顔と名前を借りたか」

提督「ってことは、普通に招き入れていたら、H大将が気付いてたんじゃねえか?」

H大将「その前に逃げていたかもしれんぞ。あくまで目的が止准尉の監視であるならな」

R提督「……H大将閣下と提督にご足労いただいて、本当に良かった……私だけだったらどうなっていたことか。本当にありがとうございます」

飛鷹「それよりR提督、艦娘引き渡しで待たせている提督が、あとひとりいらっしゃいます」

H大将「よし、一応そいつの顔も見ておくか……なんだ、海外の泊地から来たのか?」ペラリ

R提督「はい。どうしても融通して欲しいとのことで、申し込みがありまして」

飛鷹「早速お呼びしますね」

提督(……ん? なんだこの厭な寒気は)ゾワリ
796 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:07:35.75 ID:0p8QtWGlo
と言うわけで今回はここまで。
797 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/02/08(土) 00:27:45.93 ID:4eBspP6m0
おつやで
798 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:00:04.72 ID:dLbzsdaXo
続きです。
組織の核心に迫る前に、提督のトラウマ? のお話です。
799 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:00:46.40 ID:dLbzsdaXo

 *

H大将「さて、最後の一人は一体何者だ……?」

隼鷹「お連れしましたー!」

雷「失礼しまーす!」

遠中尉「失礼いたします!」ケイレイ!

イントレピッド「……失礼します」

不知火「あれは……!」

提督「……不知火、知ってんのか?」

不知火「司令? 覚えていらっしゃらないのですか?」

提督「ん? 俺も知ってる奴なのか?」クビカシゲ

不知火「覚えて……ないのですね」タラリ

H大将「なんだ? 知っているのか」

R提督「ええと……遠中尉でしたか、秘書艦はひとりではないのですか?」

遠中尉「秘書艦は雷ですが、どうしても彼女も来たいと申してまして!」

雷「折角だから、一緒に来てもらったの! ね、イントレピッドさん!」
800 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:01:31.55 ID:dLbzsdaXo

R提督「どういうことだ? 人数が合わないぞ? 隼鷹、提督6人と艦娘6人だだっただろう?」

隼鷹「そうだったんだけど。あ、そういえば、さっき呼びに行ったとき、いつの間にかひとりいなくなってたねえ?」

雷「トイレに行くって言ってたわ!」

不知火「……ということは、他の提督は自身と秘書艦、スパイは単独で、この方だけ艦娘をふたり連れてきたということですか」

飛鷹「確かにそれだと数は合うわね……でも、そんな数え間違いあるかしら」

H大将「あのスパイの男がそういうふうに誤魔化して話したのならあり得るな」

雷「それより、こんなところで提督准尉に会うなんて! 久し振りね!」

提督「……んん? なんで俺のことを知ってんだ? つうか、准尉?」クビカシゲ

遠中尉「なんで? 貴様、とぼけているのか?」

提督「いや、真面目にお前、誰だっけ?」

遠中尉「……」

不知火「……」アタマオサエ

リ級「ドウイウコトダ不知火? 提督ノ知ッテル人間ジャナイノカ?」ヒソヒソ

不知火「いえ、司令も会ってはいるのですが、思い出したくないのでしょう……」

大井「え、思い出したくないって、どういうこと?」

不知火「その……当時のやり取りが、なかなか強烈でして」
801 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:02:30.82 ID:dLbzsdaXo

イントレピッド「Ah... Excuse me. 私、発言、しても、いいですか?」

H大将「なんだ? 言ってみろ」

イントレピッド「Thank you... 私、彼の指揮下から脱出? したいです……!」

雷「えええ!?」ギョッ

遠中尉「どういうことだ!?」ギョッ

H大将「除隊を希望すると言うのか?」

イントレピッド「Yes ! だって……だってもう、耐えられないんだもの!!」

イントレピッド「こんな大の大人が、こんな小さな Destroyer girl に抱き着いて! Mamma, mamma って何度も叫ぶんですよ!?」ブワッ!

H大将「……は?」

イントレピッド「もう嫌なの! この人と一緒にいると頭がおかしくなりそう!!」

遠中尉「何を言うんだスカイママ!」

イントレピッド「Nooo !! I'm not your mother !! Why did you call me 'Sky-mamma' !?」

H大将「何を言っとるんだ、こいつらは……?」

大井「さあ……」

隼鷹「あ、あたしちょっとわかったかも。ほら、空母って空の母って書くじゃん」

飛鷹「それでスカイママ……?」タラリ

リ級「……アル意味、直訳、カ」アタマオサエ
802 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:03:16.28 ID:dLbzsdaXo

北上「ただいまー……あれ、なにやってんの」

荒潮「あらあら、状況がよくわからないんだけど〜?」

霰「なにが、あったの……?」

満潮「この人が連れてきた空母艦娘が、この人の艦隊から抜けたい、って……」

提督「ぐああぁぁぁ!! も……もしかして、あいつかぁ……!?」ガクーッ!

北上「うわあ、提督もいきなり頭抱えてどうしちゃったのさ」

不知火「……思い出しましたか、司令」

提督「思い出した……これっぽっちも思い出したかねえけど、思い出したぞくそが……っ!」ギリギリギリ

遠中尉「なにがくそだと言うんだ准尉! さっきから失礼な!!」

提督「うるせえ! てめえがくそじゃなかったら何がくそだってんだよ、この金魚のくそ野郎が!!」(#゚皿゚)凸ズビシ!

隼鷹「あー、提督、さすがに中指立てるのはやめよーよ、ねぇ?」

H大将「提督、この男を知っているのか?」

提督「ああ、こいつは……遠大佐は、俺の鎮守府にくそ馬鹿芸能人連れてきて鎮守府引っ掻き回してくれたくそったれだ!」

H大将「芸能人?」

大井「大佐?」
803 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:04:01.12 ID:dLbzsdaXo

不知火「呉鎮守府の祢大将殿と仲の良い映画俳優さんがいらっしゃるはずです。たしか、留父さんと仰ったか……」

不知火「その方の息子にご自身の大佐の地位を譲ろうとしたのが、そこにいる遠、元大佐です」

R提督「もと? ですか」

不知火「はい。彼が中尉になっていたことは、不知火もたった今、初めて知りましたが……」

北上「提督がすっごい不機嫌になってんだけど、なんかあったの?」

不知火「はい。遠大佐は、轟沈した艦娘の救出と言う名目で、島に芸能人と番組制作スタッフを引き連れて押しかけてきたんです」

H大将「……本当か」

雷「ええ、本当よ。そのときは、提督には本当に迷惑をかけてしまったわ……」シュン

H大将「不知火、もう少し詳しく説明してくれるか?」

不知火「はい。留という当時売り出し中の男性アイドルが、呉にある遠大佐の鎮守府に一日提督として着任したのが、おそらく事の発端です」

大井「留……? なんか聞いたことあるわね。結構前にスキャンダル起こしてたような……」

不知火「はい、その人です。留氏が遠大佐の鎮守府で艦隊の指揮を執ったのですが、彼の指揮のせいで遠大佐の艦娘が轟沈しまして」

満潮「はぁ!?」

不知火「留氏は自身の名誉を挽回すべく、轟沈艦が流れ着く先を調べ、私たちの鎮守府がある島に乗り込んできたのです」

大井「それで、島から轟沈艦娘を引き取ろうとしたの? 今だって無理なのに、そんなこと許されないでしょう?」

不知火「はい、今以て許されていませんし、我々もさせませんでした。そもそも司令は、来港した彼らの上陸を一度は明確に拒否しています」
804 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:04:46.05 ID:dLbzsdaXo

不知火「その後、轟沈した艦娘と話したいという名目で会議室までは通したものの」

不知火「彼らは鎮守府内および島内を無断で散策し撮影を行うなど、当方の指示を一切聞かず勝手な行動を取り続け」

不知火「挙句、夜間に無断外出したテレビクルーが死亡事故を起こしたり、遠大佐鎮守府所属の艦娘に対して強姦未遂事件を起こしたり」

不知火「軽く思い出すだけでも顔の筋肉がひきつるような迷惑行為を引き起こしています」

H大将「……」アタマカカエ

隼鷹「あ、なんか聞いたことあるわ。あたしが島に着く前くらいに、そんな騒動があったんだっけ?」

北上「えーと……なんてーか、迷惑って言葉で片付けていい話には思えないんだけど?」アゼン

不知火「不知火も同感です。もっとも、彼らを連れてきた遠大佐も、彼らがそこまで暴走するとは予想していなかったようですが」

満潮「だとしても信じらんない。なんでそいつらがそこまで好き勝手に振る舞えたのよ、非常識すぎるわ……!」

不知火「先程も申し上げたように、留氏は遠大佐から大佐の地位を譲ってもらえるはずだったからです」

満潮「それこそなんでよ!?」

不知火「その点について、不知火が把握している遠大佐の目的はふたつありまして」

不知火「ひとつは、彼に大佐の地位を押し付け、艦娘の指揮の難しさを思い知らせてみじめな思いをさせようとしたこと」

不知火「もうひとつは遠大佐自身が他の提督に引け目を感じて、一線から退こうとしたからだと、不知火は認識しています」

満潮「っ……そ、そんなことのために、大佐の地位を捨てようとしてたの……!?」クラッ
805 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:05:31.65 ID:dLbzsdaXo

不知火「はい。そもそも彼は、雷と一緒にいられれば、大佐の地位などなくても良かったのでしょう」

不知火「遠大佐は、雷に、母親になって欲しいと請願したくらいですから」

H大将「……は?」

大井「はぁ?」

飛鷹満潮「「はぁぁぁ!?」」

北上隼鷹霰「「「……なにそれ」」」ドンビキ

荒潮「みんな綺麗にハモってるわねぇ……」

雷「そんなに驚くことかしら?」クビカシゲ

R提督「普通は驚くよ?」ヒキッ

不知火「御覧の通り、雷もそれを喜んで受け入れています。ですから、遠大佐は今も雷をママと呼んでいるのでしょう」

不知火「そちらのイントレピッドさんが仰るように」チラッ

イントレピッド「」シロメ

荒潮「ね、ねえ、今の話、イントレピッドさんも初めて聞いたんじゃないのぉ……?」

R提督「この反応からするとそのようだ……」

イントレピッド「」フラァ

R提督「って、危ない!?」ガシッ
806 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:06:18.27 ID:dLbzsdaXo

不知火「司令が遠大佐のことを思い出せなかったのも、彼の発言が司令の理解の範疇を大きく外れていたがため」

不知火「記憶に残らないと言うより、理解が追いつかず記憶に残せなかった、と言ったところでしょうか」

提督「つうか理解したくねえよこんな話」

遠中尉「こんな話とはなんだ! 私は真剣なんだぞ! 私もママも今の関係を良しとしているんだ!」

遠中尉「やはり貴様のように親に甘やかされて育った甘ったれに、私の境遇など理解できるわけがない!」

隼鷹「ん? 提督って、親に甘やかされたりしてないよねえ?」

遠中尉「なに? 准尉は政治家のボンボンだろう?」

隼鷹「いやぁ? 提督ってば、親とは縁を切ってるはずだよ? だよねぇ?」

提督「まあな」

H大将「ふむ……遠中尉とその秘書艦は、一旦もとの部屋に戻ってくれ。まずはイントレピッドから話を聞く」

遠中尉「わ、わかりました……」

R提督「で、では、このふたりには戻っていただきます。隼鷹、案内を頼んでいいか?」

隼鷹「あー、りょうかーい」

雷「それじゃ、失礼します。行きましょう司令官、お部屋に戻りましょ?」

遠中尉「うん、ママ!」

全員「「……」」

 ガチャッ…スタスタ…
807 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:07:01.20 ID:dLbzsdaXo

提督「うん、やっぱり理解できねえし理解したくねえ。あいつらのこと、忘れていいか? つうか忘れるぞ」オテアゲー

北上「いやいや、忘れようとしちゃ駄目でしょこんな大問題……」

満潮「私も忘れてしまいたいわ……頭が痛いどころじゃないわよ、こんなの」アタマカカエ

提督「だよな? 普通耐えられねえだろ」

霰「うん、無理。絶対無理」

リ級(食イ気味ニ反応シタナ……)

荒潮(霰ちゃんの遠中尉を見る目が、まるで汚物を見るかのような目つきだったわぁ……)タラリ

イントレピッド「ウ……」ヨロッ

R提督「お、おい、大丈夫か」

イントレピッド「え、ええ……大丈夫です、けど、あの二人は……?」

R提督「いま、別室に案内した。先に君から話を聞こうと思ってる」

イントレピッド「そ、そうですか……その、本当に気を付けてくださいね」

H大将「なにをだ?」

イントレピッド「あのふたり、ふたりきりになると、本当に気持ち悪いことを言い出しますから……」アオザメ

R提督「……」
808 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:07:45.72 ID:dLbzsdaXo

H大将「艦娘一人では荷が重いか? R提督、悪いがあの二人に同行して見張っててくれるか。秘書艦たちも同伴してくれていい」

R提督「わ、わかりました。なにやら不安ですが……飛鷹、一緒に行くよ」

飛鷹「り、了解です」

 スタスタ…

提督「あいつら、もう部屋に閉じ込めて放っといた方がいいんじゃねえの?」

大井「それで目を離した隙にどこかへ脱走されても困ります」

提督「脱走……まあ、確かにねえとは言えねえか」

不知火「脱走と言うより逃避行しかねな……いえ、すでに逃避行は敢行済みでしたね」

北上「あんなのに付き合わされるR提督が不憫だねえ」

提督「まったくだ。もうここになんか置いてないで、とっとと追い返しちまったほうがいいってのによ」

H大将「逸る気はわかるが落ち着け。それで、イントレピッド。あの男はあれで艦娘を管理運用できているのか?」

イントレピッド「Ah...オソラク? Perhaps」

H大将「Perhaps か……またネガティブな回答だな」
809 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:08:30.88 ID:dLbzsdaXo

提督「お前、あいつの鎮守府に着任してどのくらい経つ?」

イントレピッド「Hmm... サンガツ? about three month ?」

提督「3か月ねえ……じゃあ、お前と同じように気分を悪くした艦娘はどれくらいいる?」

イントレピッド「So many ! たくさんよ! たくさん! みんな、キモチワルイ、って言ってたわ!」

提督「あー、こりゃもう結論出てんじゃねえか? あいつに艦娘を預けんのはやめたほうがいい。そうだろ?」

大井「現時点では、そう考えざるを得ませんね。艦娘の指揮がままならないのは、あの遠提督とその秘書艦の関係が原因に他ならないと」

H大将「遠中尉を帰す前に、中尉の鎮守府に探りを入れよう。実態としてイントレピッドと同じ感想を持つ艦娘がいるか、確認が必要だ」

大井「荒潮さん、泊地を統括しているそこの中将に連絡を頼めるかしら。特警を派遣して調査してもらいましょう」

荒潮「はぁい、手配しますね〜」スクッ

提督「さてと……イントレピッドのケアも必要だが、それより先に俺は止准尉に話を聞きに行きてえな」

H大将「そうだな。いま、優先すべきはそちらだ」
810 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:09:16.34 ID:dLbzsdaXo

H大将「大井、まずは止准尉たちを呼び戻してくれ。イントレピッドは入れ替わりでその部屋に待機しててもらおう」

提督「ん? 俺たちがそっちに行くんじゃ駄目なのか?」

H大将「不知火はともかく、あいつを鎮守府の中を出歩かせるのは考え物だろう」

リ級「ウン、私ハ、ソウダネー」

提督「……そういやそうだったな。手前の鎮守府のつもりで考えちまったぜ」

イントレピッド「!? ど、どうしてここに、Enemy ship が!?」ガタガタッ!

提督「Enemy じゃねえよ。あいつは、俺の鎮守府の仲間だ」

イントレピッド「……仲間? あ、あなた、シンカイセーカンと、オトモダチなの!?」

提督「おう、そうだ。だからこいつにゃ手を出すんじゃねえぞ」

イントレピッド「...Oh my god」

リ級「オトモダチ、カァ……部下ジャナインダ?」

提督「俺は泊地棲姫を部下にしたわけじゃねえからな。同じ理屈でお前も部下とは呼ばねえよ」

提督「ま、強いて言うならあの島の責任者……地主っつうか家主っつうか、保護者とでも言ったほうがいいか?」

リ級「……ナルホド。ヘーェ」
811 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:11:07.05 ID:dLbzsdaXo
というわけで今回はここまで。

年内に終わらせたいとかこのスレで完結させたいとか思っていたのに全然話が終わってくれない…。
812 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2025/02/25(火) 00:49:11.96 ID:1hEE7ac/0
ポンポン話が思い浮かんで風呂敷が無限に広がっていってるのか…
がんばです。
813 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/02/25(火) 00:49:42.40 ID:1hEE7ac/0
やっべやらかした…
814 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:17:04.68 ID:Ct+GoMMRo
それでは続きです。
815 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:17:49.64 ID:Ct+GoMMRo

 *

止准尉「……」

H大将「何度もすまないな。さて、どうして艦娘が必要なのか……それとも、ほかに目的があるのか、話を聞かせてもらおうか」

山城「さっきの変な男はどうしたの」

H大将「別室で拘束している、心配無用だ」

止准尉「……」

北上「なんか、めちゃくちゃ警戒されてない?」

提督「俺たちを信用できねえってか」

山城「当然でしょ!? あんたが一番怪しいのよ。深海棲艦と通じてるのなら、スパイを疑われて当然じゃないの!?」

提督「お前らんとこには情報行ってねえのか? 海軍や政府と条約結ぼうとしてる、艦娘と深海棲艦が共存する鎮守府がある島のことを」

提督「××国××島、かつて墓場島って呼ばれてた島だ。昔、お前んとこにいた吹雪が、若葉や川内連れて来てたよな」

止准尉「……!」

満潮「えっ、若葉たちがこの人たちと関係あるの!?」

提督「霧島と摩耶もな。ま、その二人はついでに連れてきただけで、若葉たちみたいにこいつらの艦隊に所属してたわけじゃねえが」

山城「ちょっと……あんた、どうしてそれを」

提督「その鎮守府にいた准尉ってのが、俺だからな」
816 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:18:34.17 ID:Ct+GoMMRo

山城「それじゃあ、そこの重巡は……その鎮守府にいた艦娘が、深海棲艦になったっていうの?」

提督「いいや? 少なくとも俺の鎮守府の中じゃそんなことは起きてねえよ」

リ級「……不知火。阿賀野ハ、艦娘ガ深海棲艦ニナッタ個体ジャナカッタカ?」ヒソヒソ

不知火「阿賀野さんは、私たちの鎮守府に滞在した結果で深海化した艦娘ではありません」ヒソヒソ

リ級「アア、ソウイウコトカ。ジャア違ウナ」

H大将「? おい、何をひそひそと話しているんだ」

リ級「ナンデモナイ。イロイロト疑リ深イ艦娘ダナ、ト、話シテイタダケダ」

山城「悪かったわねえ!?」イラッ!

リ級「ソレモ、仕方ナイトハ思ッテイル。私モ、島ノ外ノ人間ヤ艦娘ハ、信用シテイルワケジャナイカラ、オ互イ様ダ」

山城「は? だったら、どうしておとなしくしてるのよ」

リ級「ソコノ提督ノ言ウコトニ、従ッテイルダケダ。私ハ、ソノ男ニオ願イサレテ、ココニ来テイルンダカラナ」

荒潮「あらぁ、提督は信頼されてるのねえ〜」

山城「なんでこんな男がそこまで……」

提督「まあ、俺のことはどうでもいいんだ。俺たちが知りたいのは、止准尉が何でここに来たのか、だ」

止准尉「……」
817 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:19:19.20 ID:Ct+GoMMRo

提督「こんだけ俺が喋ってても、だんまり決め込もうってか? 観念しろよ、いい加減によ」

止准尉「……」

提督「お前は、夜が怖いと言ってたな。夜戦するのが嫌だっつってたよな。お前が夜を怖がる理由は、さっきの男と関係あるんだろう?」

止准尉「……」

H大将「……止准尉」

止准尉「……」

提督「口が裂けても喋る気がねえってか? ったく……」スクッ

H大将「提督? 何をする気だ」

提督「話す気がないなら、直接訊こうと思ってな……!」ツカツカ

山城「な、なによ!? 近寄るんじゃないわよ! 止提督に何をする気!?」ガタッ

提督「俺から危害を加えるような真似をする気はねえ。ただ……命が惜しけりゃ、動くなよ」ガシッ!

止准尉「……!」アタマツカマレ

リ級「ナンダ? アイアンクローデモ、スル気カ?」
818 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:20:04.25 ID:Ct+GoMMRo

提督「……」

止准尉「っ!? ……な、なにを……!」

提督「おいおい、今頃になって喋ってんじゃねえよ、遅すぎるぞ? それに、動くなっつったろ? 何度も言わねえぞ……!?」ギロリ

止准尉「……っ!」

不知火「司令……」

山城「動くなって、なによそれ……止提督に何かあったらただじゃおかないわよ……!」

H大将「……」

提督「乱暴するつもりはねえが、気はしっかり持っておけよ……!」

止准尉「う……!」


 *


止准尉「く……」

提督「……」

北上「……止准尉、大丈夫なんだろうね?」ヒソッ

大井「すごい汗なんだけど……なに考えてるの、あの人」
819 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:20:50.00 ID:Ct+GoMMRo

リ級「不知火、提督ガ、アレヲ始メテ、ドノクライ経ッタ?」

不知火「もうすぐ10分でしょうか」

H大将「……」

提督「よし……まあ、こんなもんか」テハナシ

止准尉「っ……」クラッ…

山城「止提督! 大丈夫なの!?」ガシッ

提督「そこまで無理をさせたつもりはねえんだが、そこそこ負担だったか? あとはもう横になっててもいいぞ」

山城「止提督に何をしたってのよ、あんたは……!!」ギリッ

提督「……」

山城「ちょっと!? 聞いてるの!?」

提督「ったく、うるせえな、ちょっと整理させろ……H大将、とりあえずこれから俺が喋る話は他言無用で頼みたい。いいか?」

H大将「何の話か知らんが……まあ、いいだろう。お前たちもいいな?」

大井「……承知しました」

提督「よし。どこから話すかな……ちょっとこれまでのおさらいみたくなっちまうが、とりあえず聞いてくれ」
820 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:21:49.13 ID:Ct+GoMMRo

提督「まず、H大将、あんたは少なくとも、J少将が関わっていた深海棲艦の武器化には、反対してたよな?」

止准尉「!!」

山城「はぁ!? なによその話!?」

提督「まあ、順を追って話すから、まずは聞いててくれるか? で、今の話はそうだったよな?」

H大将「ああ。反対したせいであいつらに殺されかけたのは、お前もよく知っているだろう」

山城「んなっ!?」

提督「その深海棲艦の武器化は、かつての俺の上官であり中将の息子である大佐と、Z提督のふたりが中心になって研究していたものだ」

提督「そのZ提督は、およそ3年前、深海棲艦で作った武器の威力の実験台に艦娘を使っていたことが露見して、営倉にぶち込まれている」

提督「Z提督が捕まった後は大佐が単独で研究を続けていたが、Z提督が動けなくなり自分への監視が強まったせいで資金繰りが苦しくなった」

提督「そのせいで大佐の元を離れた研究者から、深海棲艦の武器化の話が流れてJ少将のもとにも届いた、と思われる」

提督「おそらく、大佐の続けていた研究内容を、J少将の支援している研究機関が欲したんだろう。同時に大佐も協力者が欲しかった」

提督「お互いの利害が一致したことで、J少将は、大佐に協力するていで、自分の支援している研究機関へ武器化の研究を引き継がせた」

山城「……」

提督「ちなみに、大佐が死んでからは、営倉から出てきたZ提督が組織に関わるようになった、と、推測してる」

H大将「……あの時、朧君たちを撃った、あの男のことか」

提督「ああ、そいつだ。そのZ提督と大佐が、武器化の研究をやるためにいろいろ裏で悪いことをしてたのも知っての通り」
821 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:22:34.34 ID:Ct+GoMMRo

提督「例えば資金繰りのために鎮守府の金をごまかしたり、材料調達のために危険と言われていた深海棲艦の鹵獲をしていたり」

提督「さらには作った武器の威力を検証するための、実験台にできる艦娘を集めたりもしてた」

大井「……!!」

提督「でだ、ここの時系列がちょっとややこしいんだが、その大佐たちと、J少将の支援する組織は、Z提督が捕まる前までは別物で……」

提督「組織のほうは、艦娘と深海棲艦の生態調査や、艦娘が深海棲艦に、または深海棲艦が艦娘に変わるかどうかの研究をしていたらしい」

提督「ただ、目的は違えど、艦娘や深海棲艦の実験用のサンプルが大量に必要なのは、大佐たちと同じ」

提督「つまり当時は、実験台にしても問題ない艦娘や深海棲艦を求めていた組織が、少なくともふたつ以上は存在した、ってことになる」

H大将「……」

提督「そういう奴らがいる一方で、海軍内には、深海棲艦と友好関係を結べないかと考える連中もいたわけだが……」

提督「そいつらがどんな目に遭ってるかも、H大将は知ってるよな?」

H大将「……それは、F提督たちのことか?」

提督「そういうこった。もっとも、F提督たちを襲ったのがどっちなのかはわからねえんだが……多分、大佐たちのほうなんだけどな」

提督「止准尉の先輩にあたるやつも、その辺の話に関係してるらしいんだよ」

H大将「!」
822 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:23:19.15 ID:Ct+GoMMRo

山城「ど、どうしてあんたがそれを知ってるのよ……!」

提督「止准尉が口を割らねえんで、頭から直接訊いた。いや、直接『視』たっつうほうが正しいか?」

山城「直接って……!?」

H大将「提督、止准尉も彼らと関わりがあったということか?」

提督「そこは巻き込まれたっつったほうがいいかな。止准尉自身はあいつらとは何の関係もなくて、止准尉の先輩があいつらを怪しんでたんだ」

提督「調べていくうちに行きついたのはJ少将の組織のほうだ。その調査中に、F提督も関わっていた深海棲艦との和平を目指す連中に接触したらしい」

提督「F提督たちは自分たちを妨害している相手を特定できなかったようだが、それはおそらく、大佐たちとJ少将の組織が別々だったことも影響してるんだろう」

提督「素性を探っていくうちに、そいつは身の危険を感じるようになって……万が一のためにと、止准尉に連中の情報を書き込んだノートを渡しちまった」

止准尉「……ぐすっ……!」

山城「止提督……!」

提督「その後まもなく、先輩提督が深海棲艦との戦闘で死んだわけだが、その話に変なところが多すぎると止准尉は感じたようでな」

提督「おまけに、その先輩提督が戦死してから、そいつに関わりのあった人間や艦娘が短期間で次々と姿を消した」

提督「それが納得いかねえもんで、託されたノートの中身を見て連中を知り、組織に一矢報いようとした……」

H大将「組織に接触を図ったと?」

提督「ああ、一回だけな。ただ、その一回がまあ、高坊にゃあ余りに衝撃的過ぎたんだろう」
823 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:24:06.99 ID:Ct+GoMMRo

提督「メンタルやられて、御覧の通り、って感じか。夜戦つうか、夜を異常に怖がるようになったのもそのせいだな?」

止准尉「うっ……ううっ……!」ボロボロ…

山城「提督……」セナカサスリ

提督「止准尉は、親が陸自だってのと、妖精がうっすら見えるって特殊な事情のせいで、中学出てすぐ海軍にスカウトされてる」

提督「そこで高校の授業を受けつつ、艦隊指揮に参加するようになったんだが、先生代わりに面倒を見てもらってたのがその先輩提督だ」

提督「その先輩が訳も分からず殺されて、当人は軽い気持ちで……いや、違うな。自分たちが正しいなら、悪い人間は倒せると考えたんだ」

提督「青臭い正義を掲げて、恩師である先輩提督の敵討ちのために、組織を追い詰めようとして逆に自分の無力さを思い知らされた……」

大井「それでよく今まで無事でしたね……」

提督「こいつが今まで無事だったのは、未成年だったから、じゃねえかな?」

提督「連中も醜聞に飢えたマスコミや市民団体とかに騒がれたくねえだろう。その代わり、こいつらが常々監視されてた可能性はある」

提督「あとは、わざと泳がせて接触してきた奴を始末する……いわゆる撒き餌にしたのかもしれねえな」

提督「こいつが自分の口から誰にもこのことを話そうとしなかったのも、巻き込みたくないって意識が強かったからっぽいし」

提督「ま、べらべら喋ってたら俺みたいに拉致監禁されてたかもしれねえから、悪い判断じゃなかったかもな」

山城「はぁ? あんた、拉致監禁されてたって言うの!?」

提督「俺が妖精と話せるもんで、余計なことを見聞きしないように離島に隔離幽閉されてたんだよ。こんな性格だ、危なっかしいだろ?」ニヤリ

山城「……」
824 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:24:49.32 ID:Ct+GoMMRo

提督「俺は大佐にそれをやられたが、止准尉の場合は、変なことを言い出さなかったからこそ、わざと泳がせてたとも思える」

提督「あとは……止准尉を綺麗に始末するために、未成年でなくなるまで慎重になってただけって可能性もある」

H大将「……」

大井「……」

提督「止准尉の記憶をたどって、俺が推測できる話はここまでだ」

H大将「……止准尉、今の話で、君に関する部分に間違いはないか?」

止准尉「……」

山城「提督……」

止准尉「……」

H大将「止准尉」

止准尉「……」コクン

H大将「! ……そうか。わかった」

提督「とりあえずだ、止准尉の先輩とやらは、あいつらの拠点を突き止めていたらしい。俺たちはこれからその拠点をぶっ潰す」

H大将「おい!?」
825 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:25:35.38 ID:Ct+GoMMRo

提督「なんだ、止めるなよ。俺たちはあいつらに接触したんだぞ? やられる前にやるべきだろ」

北上「提督たちだけでやるつもり?」

提督「ああ。助太刀はいらねえぞ? 海軍の中には、連中の存在をありがたがってる連中もいる」

提督「海軍の中にどれだけあいつらの飼い犬が紛れ込んでて、どんな邪魔をしてくるかわからねえし」

提督「それに、ぶっちゃけ敵味方の判別が面倒だ。協力者と共闘できるような器用な戦いをするつもりはねえ」

北上「うわ。提督もしかして、その施設にいる人間、全員殺すつもり?」

提督「当然だろ。その場にいる人間は皆殺しだ」

大井「ちょっと!?」

北上「いやー、それ大丈夫なの? 恨まれたりしない?」

大井「北上さん!? そうじゃないでしょ!?」

提督「恨まれるって言っても、あいつら潰して恨んでくる奴らなんて、だいたいはあいつらと同類の悪人どもだけじゃねえか?」

提督「そういう連中が、二度と深海棲艦や艦娘で実験しようなんて気を起こさないように、懇切丁寧にすり潰してやろうってんだ」

北上「……提督ってば、本っ当に悪い顔するの得意だよねえ……」

提督「ま、大井の心配する法律的な意味でなら、警察とかに目の敵にされても仕方ねえけど、そこは俺たちが気にしてもしょうがねえ」

提督「今も悪人扱いされてる俺たちが、力づくで無理矢理終わらせちまえばいいだけだ」

H大将「……人の法に縛られない、お前たちが全部やろうということか」

提督「まあ、そういうふうに受け取ってもらいてえな」
826 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:26:20.24 ID:Ct+GoMMRo

止准尉「あ、あの……!」

提督「!」

止准尉「あ、あなたが……先生の……先輩たちの、かたきを、とってくれるんですか……!?」

提督「あぁ? 何言ってんだ。俺は、俺の仲間を守るために、俺たちの敵であるあいつらを潰すんだ。お前の先輩なんざ知らねえよ」

止准尉「あ……」

提督「ただ、お前が勇気を出してここに現れたことには感謝してるぜ。そうじゃなきゃ、俺があいつらに辿り着くのは困難だっただろうからな」

止准尉「っ!!」ウルッ

提督「さてと。不知火、リ級、すぐに帰るぞ。あいつらが何か行動を起こす前に追い詰めて、何もかも潰してやらねえとな……!」

リ級「ナンダ、モウ帰ルノカ。姫様ニモ話スノカ?」

提督「ああ、勿論だ。協力も仰ぎたい」

大井「帰るって……船の準備ができていませんよ!?」

提督「しなくていいぜ」

 神殿の扉<ズバァン!!

不知火「!!」

大井「な、なに!? 今度はいったいなんなの!?」

H大将「扉がいきなり現れた……!?」
827 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:27:04.40 ID:Ct+GoMMRo

提督「行きはよいよい帰りは恐い……って、大鳳が歌ったあの歌とは逆だな。俺はあの島へはすぐに帰れるんだよ、帰宅限定だけどな」

H大将「ドラ○もんか、お前は……」

提督「そこまで便利なもんじゃねえけどな。よし、行くぞ不知火、リ級」ガチャッ

不知火「は、はい!」

リ級「了解ー」タタッ

H大将「待て提督! 最低でもX大佐には連絡しろ!」

提督「あぁ……?」

H大将「あいつはお前のお目付け役だ。お前が勝手に動けばあいつが責任を取る立場にある」

H大将「俺からX大佐に連絡を入れておく。あいつから連絡があるまでは動くんじゃない!! いいな!?」

提督「……ちっ、仕方ねえな。連絡は早く寄越せよ、俺たちは準備を進めるからな」

H大将「わかっている。くれぐれも早まるなよ……!」

不知火「では、H大将閣下、急で申し訳ありませんがこの場は失礼いたします」

不知火「R提督にもよろしくお伝えください。では」ケイレイ

 神殿の扉<パタム!

 神殿の扉<スゥゥ…

大井「……消えた……」
828 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:28:04.44 ID:Ct+GoMMRo

北上「いやあ、提督も完全に人間やめちゃったねえ」

H大将「まったく、あの男も勝手なものだ……!」

山城「ちょっと……いったい何者なの、あの男は!?」

H大将「……元海軍の、元人間……と言ったところか」

山城「もと、にんげんって……それじゃ、いったい何なのよ」

H大将「正確な正体については、我々もよくわかってないと言わざるを得ん。魔神などと呼ばれているが、正体はわからん」

H大将「確実にわかっていることと言えば、あの男は、艦娘たちと、一部の友好的な深海棲艦たちを保護しようとしている、ということだ」

H大将「さっきも言ったが、あの男の目的は、行き場を失ったJ少将の艦娘が、変な提督のもとに配属されないようにするため」

H大将「そして、艦娘や深海棲艦を対象に実験を続けている組織の手掛かりを掴むため、というのもあったのだろう」

H大将「あの男にとって、その組織は滅ぼすべき因縁のある相手……あいつの言う通り、艦娘と深海棲艦の敵だからな」

山城「……」

H大将「さて、止准尉。君はその組織についていろいろ知っているようだが、詳しく聞かせてもらえないだろうか」

H大将「君の身柄の安全は保障する。君の艦隊……艦娘たちも、私の鎮守府でまとめて保護しよう」

止准尉「……あの……」

H大将「どうした」
829 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:28:49.30 ID:Ct+GoMMRo

止准尉「あなたは……突然、どこかに行ったり、しないですよね……?」ガタガタ…

H大将「……」

止准尉「あなたは……死んだり、しない……です、よね……!?」ボロボロボロ…

H大将「……」

大井「……」

H大将「俺たちは軍人だ。残念だが、死なない、と言う保証はできかねる」

H大将「だが、守るべきものは、命を賭して守る。君の命も、我々の誇りも。死んでいった仲間のためにも……」

H大将「死ぬつもりはないし、無駄死にするつもりもない」

止准尉「うっ、うええっ……うえええ……」ボロボロボロ…

山城「……」

H大将「山城。貴様は、この話をどこまで知っている?」

山城「全然知らないわよ……何から何まで、今の今まで。全部、初耳よ」ギリッ…

H大将「そうか」

山城「提督……だからなのね? 私たちを危険な海域に向かわせようともせず、それでまともな戦果も挙げられず……」

山城「そのせいで鎮守府が落ちぶれても、艦娘を過保護にして手放そうともしない」
830 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:29:34.47 ID:Ct+GoMMRo

山城「あの島に若葉たちを連れて行ったのも、誰かに狙われることのない、いわく付きの島だと聞いたから……」

山城「余所から引き抜いたあの吹雪の解体にあそこまで世話を焼いたのも、その組織とかいう奴らに狙われないようにしたかったから……」

山城「そういう、ことなのね?」

止准尉「ぐす……っ」コクン

山城「そう」

H大将「……」

山城「まったく……呆れるわ。間違ってるわよ、こんなの」ハァ

山城「こんな優しすぎる子を、戦争に巻き込むだなんて。この国の大人はどうかしてるわ」

山城「戦時中だから、なんて言い訳するような卑怯な大人は、あず○バーで歯が全部砕けて総入れ歯になってしまえばいいんだわ」フン

大井「……なんなのよその喩え……」

山城「わかりづらくて悪かったわね。死なない程度に全員不幸になればいい、と思っているだけよ」ムスッ

H大将「……まったく、耳が痛いな。将来ある子供を守るはずの大人がこのざまでは、そう言われても仕方ない」

H大将「妖精が見える人間を……それが子供であっても戦争の世界に引きずり込むことに、何の疑問も持たなくなっているのは危機的状況だ」

H大将「事情を聴いて『じゃあ仕方ない』ではいかん。俺も含めて、すべての海軍の人間は、一度頭を冷やす必要があるな」

大井「H提督……」
831 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:30:19.73 ID:Ct+GoMMRo

北上「そんじゃ、冷やすためにもアイスでも買ってきますかねえ。あ○きバーでいい?」

H大将「止准尉のような若者が食べるとは思えん。ハー○ンダッツを買ってこい、俺は抹茶で頼む。保冷バッグも持っていけよ」イチマンエンサシダシ

北上「おお〜、マジで? いいんですか?」

大井「提督? ご自身が食べたいからと、そうやって人を巻き込んで無駄遣いするのはどうかと思いますが?」ジトメ

H大将「! ……」

大井「提督?」

H大将「……ああ、すまん。間宮のほうが良かったか」

大井「そ、そうではなくて! なにか、気まずそうにしてましたけど、大丈夫ですか?」

H大将「大丈夫だ」

山城「私はあ○きバーのほうが良かったんだけど……不幸だわ」

北上「んじゃ、一番奥底の特別固いの選んで買ってくるねえ」タタッ

山城「……」



H大将(大井の言い方がいよいよ亡き妻に似て聞こえてきたな……やれやれ、俺も焼きが回り始めたか?)


 * * *

 * *

 *
832 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:31:04.49 ID:Ct+GoMMRo

 * 神殿内 *

 (篝火が灯る神殿内の廊下を歩く提督たち3人)

リ級「便利ダナ、コノ能力ハ。制約ガアルトハイエ、ドンナ遠距離デモ、歩ケル距離ニデキルノハ、スゴイゾ」

不知火「はい。神殿の中を歩くことにはなりますが、この程度の広さなら苦になりませんからね」

提督「とっとと帰って組織の場所を確認するか。確実にするためにも偵察部隊を組まないとな……」

リ級「ソレ、ドコナンダ?」

提督「日本の横浜だ。時雨が言ってた場所と、止准尉の記憶の場所がほぼ一致してる。おそらくそこが『当たり』だ」

不知火「場所は特定できたということですか」

提督「まあな。確か、海から侵入できるところもあるらしい。潜水艦たちに探ってもらって……ん? なんだ?」

不知火「司令? どうなさいました?」

 <ギャアアァ…

不知火「!」

ニコ「やあ魔神様、戻ってきたんだね」スッ

リ級「ウワ!?」ビクッ

提督「……また神殿に侵入者か? こっちも騒がしいな」

ニコ「うん。でも大丈夫、メディウムのみんなで撃退したから、安心していいよ」
833 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:31:49.49 ID:Ct+GoMMRo

リ級「ソレヨリ、イキナリ現レルナ……ビックリシタ」

不知火「ニコさん、侵入者というのは?」

ニコ「この神殿が、魔神様の魂を封印した場所だってことは、以前魔神様が説明してくれたと思うんだけど」

ニコ「その魔神様を復活させるために、ぼくたちは近隣の人間を結構殺しちゃったんだよね」

リ級「……ソノ仕返シ、カ?」

ニコ「ぼくたちが殺して行方不明になった人間がどこに行ったのか、その調査のために、人間たちがこの神殿に入り込んできてるんだ」

ニコ「その人間たちを逐一退治していたら、本腰を入れてきたって感じかな?」

ニコ「もともと魔神様は、一千年以上も前から、人間どもから排斥されてきたから、仕返し以前の話ではあるけどね」

リ級「ソンナニカ……」

 メラッ

リ級「! オイ、後ロヲ見ロ!」

提督「後ろ?」

血まみれの男性?「おのれ、魔神の使徒め……! 神の裁きを受けるがいい!」

不知火「人、ですか……!?」

リ級「アイツノ杖ノ先カラ、火ガ出テルゾ!?」
834 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:32:34.49 ID:Ct+GoMMRo

ニコ「あの魔術師、まだ生きていたんだ……!」

不知火「魔術師……!?」

 ギルティランス<ズガシャーン!

魔術師「ぎゃああ!?」ザクザクザクッ

 スプリングフロア<ズパーン!

魔術師「ひいいい!?」フットビ

 トゥームストーン<ヒューー…ドズゥゥン!

魔術師「」

不知火「……」タラリ

リ級「……コレハ、死ンダナ」タラリ

ニコ「うん。今回は殺せたけど、今の魔術師はテレポートを使うから油断できなくてね。罠をすり抜けてくる暗殺者もいるし」

リ級「テレポート? エ、ナニソレ、コッチノ人間オカシクナイ?」

不知火「ニコさんは普段鎮守府に姿を見せていませんでしたが、それは、神殿への侵入者を撃退するためにこちらにいたということですか」

ニコ「頻度は高くないけど、そうだね。艦娘や深海棲艦のみんなにも手伝ってもらえば、もっと簡単に退治できるかもしれないけど……」

ニコ「こちらの世界のトラブルを、そっちに持ち込むのはあまり良くないかな、って思ってるんだ」

ニコ「万が一にも、そちらの世界にこちらの人間を連れ込むわけにはいかないから。あのエフェメラみたいにね」
835 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:33:19.35 ID:Ct+GoMMRo

不知火「ニコさんが門番の代わりにもなっている、ということでしょうか。司令、不知火たちは何かできますでしょうか」

提督「手伝えるとは思うが、こっちには海がねえみたいなんだよ。神殿が山の中で、あってもせいぜい湖沼って程度の水場なんだ」

リ級「ソレダト、私タチハ全力ガ出セナイナ。半陸上型ノ姫様ナラ、多少話ハ違ウケド」

提督「……なあニコ、あのエフェメラって、人間の俺が生まれる以前から、向こうの世界にいたんだよな?」

ニコ「うん。もしかしたら、ここの神殿の扉みたいな場所が、島の鎮守府以外のどこかにも現れてるのかもしれないね」

リ級「ソッチノ世界ノ人間ガ、ソノ扉ヲ使ッテ、攻メテクル可能性ハナイノカ?」

ニコ「ないとは言えないけど……それは余程でない限りできないと思う。この扉を開くための条件も多いし、なにより魔神様の力が必要なんだ」

ニコ「この世界で最も信者の多いアルス教徒たちは、魔神に関係あるものは全部消滅させようとしていたほどだったから」

ニコ「魔神様の力を使おうとした時点で、魔神様を敵視している教会に弾劾されて、裁判にかけられ処罰されるだろうね」

ニコ「もっとも、その解釈自体を自分の都合のいいように言い換えて、魔神様の力を利用する輩もいるだろうから、油断はできないけど……」

ニコ「ぼくが魔神様を復活させるのに苦労したように、今の人間たちが持つ情報から、魔神様の力で扉を作ることは相当難しいはずだよ」

ニコ「もうひとつ懸念があるとしたら、倒したエフェメラの開いた扉を、人間たちが再利用しないかどうか、だけど」

ニコ「エフェメラが倒れたことで魔力の供給が断たれているはず。希望的観測ではあるけど、再利用は難しいと思うよ」

不知火「扉を開くのは難しい、と仰いましたが、ニコさんは比較的自由に扉を開けていますね?」

不知火「司令も同じことができるようになっていて驚いたのですが」
836 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:34:19.46 ID:Ct+GoMMRo

ニコ「一度開いてしまえばあとは割と自由が利くんだ。それに、魔神様との魔力のリンクも済ませてる」

ニコ「だから、魔神様が神殿内やぼくのいるところに扉を開くこともできるし、ぼくも魔神様のいるところに瞬時に現れることができるんだ」

不知火「なるほど……」

リ級「……」

提督「ん? どうかしたか?」

リ級「……コッチノ世界ハ大変ダナ。話シ合イニ応ジル人間ガイル分ダケ、私タチノ世界ノホウガ、少シマシニ思エルナ?」

ニコ「そうかもしれないね。ぼくたちの世界の人間は、どうあっても話の通じない相手だから、言うことをきくまで叩き潰すしかないんだ」

ニコ「こちらの世界の戦いは、人を滅ぼさない限り続くと思う」

提督「……」

ニコ「だからこそ、ぼくは魔神様の完全なる復活を望んでたんだ」

ニコ「……今は、そうでもないんだけれどね」ポ

リ級「ヘーエ……」ニヤニヤ

提督「お前もにやついてんじゃねえよ……ったく」アタマガリガリ
837 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:35:04.30 ID:Ct+GoMMRo

不知火「ふむ……ニコさん? ひとつ質問してよろしいでしょうか」

ニコ「なにかな?」

不知火「ニコさんたちが敵対している、アルス神教……でしたか」

不知火「もし、この神様を信じていないか、対立している人たちがいたとしたら、その人たちと友好関係が結べるものなのでしょうか?」

ニコ「それは考えづらいね。本来の魔神様は人間に慈悲を与える存在じゃない。人間は魔神様の奴隷であり、供物にすぎないんだ」

ニコ「そちら側の人間は、今の魔神様といくらか理解があるからそういう関係が成り立ってはいるけれど」

ニコ「ぼくたちの世界の人間が、そう言い伝えられている魔神様と理解しあえるか、と言う問題が大きいし」

ニコ「なにより、魔神様がどうお考えかが大事なんだ」

ニコ「魔神様が気に入らないと感じたなら、ぼくたちは何の容赦もなく人間を屠るよ。ぼくたちにとっては魔神様が絶対だからね」

不知火「なるほど。司令のお考え次第、ということですか」

提督「まあとにかく、俺はこっちの世界だって気にしてないわけじゃない。つうか、この神殿がニコたちにとって大事な場所なんだろ?」

提督「お前たちが気に入らない相手なら、俺にとっても敵だ」

ニコ「魔神様……!」

提督「だから、ニコも遠慮なく俺を呼べ。艦娘や深海棲艦だって協力はしてくれるだろうさ」

ニコ「……うん、ありがとう。魔神様は優しいね」フフッ

ソニア「もー、ニコちゃんばっかりおしゃべりしてずるーい! 魔神様っ、こうやって働いてる私たちのことも、褒めてほしいなあ〜」ニュッ

ニコ「うわっ!? スプリ……じゃなくて、ソニアっ!?」
838 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:35:49.41 ID:Ct+GoMMRo

提督「おう、実働部隊もご苦労さん。ソニアだけじゃねえよな? 食堂でお茶にするでもいいし、各々しっかり休んでくれ」ナデナデ

ソニア「えへへぇ〜」ナデラレ

コーネリア「しっかり休め、か……それじゃ、次に備えてそうさせてもらうか。戦いで一番重要なのは、備えだからな」

マルヤッタ「わたしもゆっくり休ませてもらうじょ……ふわぁ」

提督「とりあえず、もう敵はいないんだよな?」

ニコ「うん、さっきのが最後だね。ぼくはみんなを呼んで休んでもらうよう伝えるよ。魔神様は鎮守府に行くのかな?」

提督「ああ。艦娘たちで実験してる組織の場所が分かったんでな」

ニコ「ということは、いよいよ決戦だね」

提督「……まあ、そうなんだがな」ウーン

ニコ「?」
839 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/03/02(日) 20:36:39.78 ID:Ct+GoMMRo
と言うわけで今回はここまで。

進めようとしていたルートから若干外れて、お話が作り直しになっております。
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/05/16(金) 11:27:17.67 ID:kWxusoSdO
保守
841 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/06/08(日) 01:55:11.73 ID:TtQZkrzqO
保 守
842 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:33:48.47 ID:pU/6M1Kuo
やっと書けた……と言いつつもまだ迷走中ですが、まずはまとまったところまで。
続きです。
843 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:34:30.72 ID:pU/6M1Kuo

 * 翌朝 *

 * 墓場島沖 海軍巡視船 搭乗口 *

五十鈴「あら、来たわね提督。待ってたわ」

提督「……ん? お前、もしかして」

五十鈴「ふふっ、お久し振り。ちゃーんと、気付いてくれたのね」

榛名「? どういう意味で……あら? あなたは……」

提督「榛名も気付いたか。この五十鈴、神通たちと一緒にF提督のところに行った五十鈴だ」

那珂「っていうことは、F提督さんが来てるの?」

五十鈴「ええ、神通も一緒にね。利根さんと筑摩さんは鎮守府でお留守番だけど」

提督「X大佐に組織のことについて話したいって伝えたとなれば、F提督を連れてくるのも自然な流れか」

榛名「……少し、緊張しますね」

那珂「大丈夫だよー、私たちが悪いことをしたわけじゃないんだから!」

提督「……やっぱり、奴らのことを思い出すのは嫌か?」

榛名「はい……そう、ですね。榛名は……怖いんだと思います」ウツムキ

那珂「榛名ちゃん……」
844 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:35:16.45 ID:pU/6M1Kuo

提督「勝手にいなくなってくれそうな相手じゃねえからな。向き合う必要があるとはいえ、気分が悪くなるようなら無理しなくていいぞ」

榛名「……いえ。ここで目を背けたままでは、彼らの跋扈を止めることはできないでしょう」

榛名「それに、榛名がこのままでは、榛名たちと同道して沈んでいった皆さんに申し訳が立ちません……!」

那珂「……」

提督「そうか。それなら、俺たちでけりをつけてやらねえとな。さ、行くか」

五十鈴「案内するわね。F提督とX大佐が待ってるわ」



 * 海軍巡視船内 会議室 *

神通「提督、お久し振りです」ペコリ

F提督「ご無沙汰しております」ペコリ

提督「よう、元気か? F提督はだいぶ顔色も良さそうだな」

F提督「はい。提督が神通を連れて来てくれたおかげです」

神通「F提督!?」セキメン

X大佐「よく来たね、提督。昨日は僕も舞鶴に向かってたのに、入れ違いになってね。立ち会えなかったのが残念だよ」

提督「ん? そうだったのか? なら、あわてて帰らなきゃ良かったか……?」

川内「そうでもないと思うよ。この話には、F提督に来てもらう必要もあったはずだしさ!」
845 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:36:00.92 ID:pU/6M1Kuo

榛名「X大佐は川内さんも連れて来て下さってたんですね」

那珂「うわー、川内ちゃんも神通ちゃんも、ひっさしぶりー!」ワーイ!

川内「那珂も元気そうだね。こうやって3人が揃うのって久し振りだね!」

神通「もう、姉さんはいつも夜戦に行ってて、日中に顔を合わせることも少なかったじゃありませんか」

川内「あはは、それもそうだね! でも、最近は夜戦ばかりじゃないよ? ちゃんと出撃する時間はみんなに合わせてるから」

川内「みんなと一緒にいる時間も大事にしないと、ってね」

神通「姉さん……!」

那珂「川内ちゃん……!」

川内「まあ、私よりもさ、神通こそ、いまは一番大事な人と一緒にいることができてるわけじゃない?」

神通「えっ」セキメン

那珂「あ、そーだねー、神通ちゃんのコイバナ、那珂ちゃんも聞いてみたいなぁ〜」

神通「ふえっ!? そ、それは、その……」シドロモドロ

川内「那珂、違うよ。神通の場合はもうコイバナって段階はもう過ぎてると思うんだけど」

神通「姉さん!?」

那珂「あー、そっかぁ、もう指輪しちゃってるもんね〜。恋って呼べるところはもう通り過ぎちゃったかな〜?」

神通「那珂までっ!? も、もうっ、からかわないで……!」ミミマデマッカ
846 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:36:47.94 ID:pU/6M1Kuo

提督「……良かれと思って移籍させたが、3人バラバラになっちまったのは、やっぱり良くなかったか?」

X大佐「そんなことはないと思うよ。かつての繋がりもあったんだし、収まるところに収まったんじゃないかな」

F提督「ええ、各々事情がありますから。特に、個人的にですが、この件に関しては本当に感謝しております」

X大佐「川内もそうだよ。ずっと暁や響が心配だったんだし、止提督の元を離れてからは、かつての仲間と連絡も取れてなかったそうだからね」

提督「なんでそういう情報が……あ、止提督か。確かにあいつじゃ余所に情報流すの止めてそうだな」

X大佐「さて、僕の秘書艦の祥鳳が戻ってきたら、話を始めよう。すぐ戻るはずだ」

 扉<コンコン

F提督「! 丁度戻られたようですね。どうぞ」

祥鳳「失礼いたします、大変お待たせいたしました」チャッ

X大佐「よし、それじゃ早速、艦娘で実験しているという、くだんの『組織』についての情報交換会を始めよう……!」

提督「この場は俺たちだけなのか?」

X大佐「うん。中将閣下や与少将殿は本営で会議中。H大将殿も今は呉に行ってるらしいね」

X大佐「ここは自由に動ける僕たちが、情報をまとめようと思うんだ」

提督「ん? 五十鈴もこの話に参加するのか?」

五十鈴「あら、ご不満? 私からも話しておきたいことがあるんだけど」

提督「お前も関係してんのかよ。そういうことなら早速話してもらいたいんだが、いいか?」
847 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:37:30.88 ID:pU/6M1Kuo

X大佐「それじゃ、最初に話してもらおうか」

五十鈴「ええ。最初に、私が提督のところにお世話になる以前は、利提督の鎮守府に所属していたことは覚えてるわよね?」

那珂「えっと、その利提督って、テレビに出るようになってからお金遣いが荒くなっちゃった人、だっけ?」

五十鈴「そうそう。それで個人的な借金が嵩んで逃げちゃったらしくて。それが原因で鎮守府が混乱に陥って、機能不全になったんだけど」

五十鈴「その利提督の鎮守府にいた、他の艦娘と連絡が全然取れなくなっちゃってるの」

提督「……借金のかたに身売りでもされたか?」

五十鈴「それに近いことが起こってたみたいなのよ」

提督「マジかよ……冗談で言ったのに笑えねえな、くそが」

五十鈴「正確には、鎮守府がなくなる前に引き抜かれて移籍した艦娘たちとは連絡が取れてるんだけど」

五十鈴「最後まで鎮守府に残ってた艦娘たちと連絡が取れなくなってるの。正式な解体手続きも残ってないみたい」

提督「海軍が接収したんじゃねえのか? そもそも艦娘は海軍の備品扱いなんだから、個人の借金取りが勝手に連れ出していい話じゃねえよな」

F提督「はい。多くの場合は、新しく配属された司令官および鎮守府のもとへ着任するようになっていますし」

F提督「そもそも鎮守府の機能が止まることを防ぐためにも、艦娘はそのままで司令官だけ変わるようにするのが基本方針です」

F提督「しかし、今回の五十鈴がいた利提督の艦娘たちは、そうされたようではないらしく……」

F提督「他にも同様に、提督の不祥事によって取り上げられた艦娘が、そのままどこかへと消えているようなのです」
848 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:38:16.35 ID:pU/6M1Kuo

提督「解体されてるわけじゃねえのか?」

F提督「であれば資材に変動があるはずですが、そういうわけでもなく」

F提督「轟沈の記録も残っていませんので、艦娘を艦娘のまま、どこかへ連れ去られているとしか考えられないんです」

提督「……まさか、例の『組織』に連れてかれてるとかじゃねえだろうな?」

F提督「私は、そうである可能性が高いと見ています」

提督「……で、実験台にされてる、ってか?」

F提督「おそらくは。そういう意図がなければ、その組織が艦娘を欲することもないでしょうから」

提督「まあ、そうだよな。最悪を考えりゃそうもなるか」

X大佐「提督。君は、昨日H大将やR提督と一緒に、組織の関係者を捕まえたんだったね」

提督「ああ」

X大佐「そして、その場にいた止提督から、組織の情報を得た……」

提督「ああ。そうだ」

X大佐「提督。君は、やはり彼らを襲撃するつもりでいるのかい?」

提督「……」

那珂「あれっ、どうしたの?」
849 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:39:01.02 ID:pU/6M1Kuo

榛名「提督?」

神通「提督、もしや……」

提督「いや、まあ……俺も奴らのことは物理的に潰そうと思ってたんだけどよ。それをやろうと思うと不都合が多くてな……」

那珂「やめちゃうの? 提督さん、常々物騒なこと言ってたよね?」

F提督「理由を伺ってもよろしいですか?」

提督「……仮にだ。連中の拠点に攻め込むとした場合、俺たちが予告してからだと返り討ちに遭うだろう。なんせ舞台が日本国内だからな」

提督「いくら俺たちに大義名分があったとしても、深海棲艦の軍勢が日本で暴れてるのを海軍が指をくわえて見過ごすわけにはいかねえはずだ」

提督「逆に、事前に断りを入れず、不意打ちで叩き潰すとなると……」

提督「気に入らないものは断りなく問答無用で叩き潰していい、っていう、曽大佐の理屈を正当化しちまうことになる」

榛名「なるほど……私たちが組織を武力制圧したのなら、逆に私たちの島を武力制圧されても文句は言えない、と」

提督「ああ。俺たちはこれまでさんざん、話し合いをしたい、と海軍に言ってきたんだ」

提督「話し合いは信用が大事になる。となると、人間の味方を作らないうちに連中を力で潰そうとするのは下策だとしか思えねえ」

五十鈴「そうね。やればきっとやり返されるだろうし、復讐の連鎖になることは避けたいわね」

提督「あとは……あいつらを攻撃する場合、組織を攻撃した理由を訊かれることになると思うんだが」

提督「実際に組織に関わったことがあるのは、俺たちの中では那珂と榛名だけなんだよな」
850 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:39:46.12 ID:pU/6M1Kuo

提督「だから、攻撃した理由を説明するとなると、お前たちに矢面に立ってもらわなきゃならねえんじゃねえか? って思っててなあ……」

那珂「!」

提督「そこにマスコミなんかが関わった日には、無神経に根掘り葉掘り訊かれるのが目に見えてる」

提督「あいつらのやったことがくそすぎてな。那珂たちに思い出させたくないんだよ」

榛名「提督……!」

提督「そういう理由も加味すると、もう手を出すのはやめといたほうがいいとしか思えねえんだよな。くっそ納得いかねえけどよ」

川内「ってことは、かたき討ちを諦める、ってこと?」

提督「んー……それもちょっと違うんだよな。俺がやりたいのは、俺や島にいる艦娘たち、深海棲艦たちの不安を取り除くことだ」

提督「あいつらがまたことを起こさないように、再発しないように連中をぶっ潰すのは、不安を取り除くための手段のひとつであって、目的じゃない」

提督「組織を俺たちの手でぶっ潰さなくても、海軍がその組織を解散させられれば当面の目的が達成できるわけだしな」

提督「おまえの言うかたき討ちも、どっちかっつうと生きてる側が無念を晴らすための口実だろ?」

川内「うーん……そうかな?」

提督「実際に沈んだ艦娘たちに『かたきを討って欲しい』って訴えられたんなら少しは考えるが、そんなことは頼まれたこともないし」

提督「もし死んだ連中から、俺たちに対して沈めとか恨み言吐かれたら、それに従うか?」

川内「それは嫌だね」

提督「だろ? 結局は生きてるほうの自己都合なんだよ。俺が恨みを晴らすのは、この場合は控えないとまずい」
851 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:40:31.62 ID:pU/6M1Kuo

提督「ま、最近は沈んだ艦娘が黄泉返ってくることもあるし、そいつらが何らかの望みを持ってるなら可能な範囲で叶えてやりたいけどな」

F提督「よみがえ……!?」

川内「ああ、あの時雨みたいに?」

神通「早霜さんや別の利根さん、川内姉さんもそうですね」

川内「えっ? 私、沈んでないよ?」

提督「いや、お前じゃなくて、お前に取り憑いてた川内の幽霊がいただろ。あいつが海で見つかったんだよ、ちゃんとした艦娘として」

川内「……ああ、あの! 一緒に夜、特訓してた!」

五十鈴「ちょ、ちょっと、そんなことがあったの……?」

提督「ああ。だいぶ昔だけど、夜戦したい川内の幽霊が、この川内に取り憑いててよ。雲龍に頼んで、お祓いして追い払ってもらったんだ」

川内「えー? そうだったの!? 早く言ってよ!」

五十鈴「どうやって戻ってきたのかしら……」

提督「そこはわからねえが、そのくらい執念つうか執着心があったんだろ。それに、あのときは女神妖精の力もあったからな」

五十鈴「それで艦娘になって帰ってきた、って考えられるわけね……」

祥鳳「……あの、X提督、先ほどから信じられないような話ばかり聞かされている気がするんですが」

X大佐「そうだね……けど、黙って聞くことにしよう。彼らがこの場で嘘を言うようなことはないだろうから」

祥鳳「は、はい」
852 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:41:16.04 ID:pU/6M1Kuo

提督「話がそれたが、あの組織を力づくでどうにかするとなると、どうやっても俺たちに都合が悪い」

提督「かといって見過ごすかと言われれば、それも許容できねえ理由もある」

那珂「あっ、この前話してた、深海棲艦のみんなが誘拐されないか、って話だね!」

F提督「誘拐? あの島の、深海棲艦をですか……?」

提督「そうだ。あの組織にとっては深海棲艦も研究材料だ。あの組織は、艦娘同様に深海棲艦も捕まえて、解析なり解剖なりしてるらしい」

提督「何よりあいつらが作ってる深海棲艦製の弾丸が、1発につき1体の深海棲艦を材料にしてるって話だからな」

提督「実用化する気なら1体2体捕まえただけで済むはずがねえ。何千、何万単位での捕獲を目論んでるはずだ」

提督「野良の深海棲艦を捕まえてたら効率が悪いが、俺たちの島みたいに深海棲艦の住処がわかってるなら、帰りを待ち伏せることもできる」

提督「俺たちも島の領海内だけで生活が回せるほど豊かじゃない。外洋へ漁もするし遠征もする。その帰りを襲われたら防ぎきれねえ」

F提督「なるほど……」

提督「当然、島にはか弱い駆逐艦もいるし、逆に鬼級姫級であっても、珍しさから研究材料として持ち帰りたいと思ってる奴がいるはずだ」

提督「曽大佐の鎮守府の一件で脅しはしたが、それでもあいつらが粗相をしないとは言い切れねえ」

X大佐「……」

提督「俺は今でも連中を潰すのが一番だと思っているが、それが出来ないとなれば、それ以外の方法で連中の活動を縛る必要がある」

提督「そういうわけで、だ。この件については、組織の壊滅に頭が偏ってる俺が考えるより……」
853 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:42:01.13 ID:pU/6M1Kuo

提督「内情を知るX大佐たちのほうが、効果的な案を出してくれるんじゃないかと勝手に思ってるんだが、どうだ?」

X大佐「それはつまり、僕たちを頼ってくれるわけだね」

提督「ああ、頼りにしてるぜ。特にあんたは、何度突っぱねても俺たちにお節介を焼いてきた、筋金入りのお人好しだからな」

X大佐「……」フフッ

提督「この戦争はきっと、人間か深海棲艦のどちらかが滅ばない限りなくならねえ。お互いの存在が、どうやっても相容れないからな」

X大佐「……」

F提督「……」

提督「けど、決定的な深い溝ができたわけじゃねえ。長期間戦い続けて、決定的に断絶したわけじゃねえ」

提督「今はまだ話が出来る。まだ、溝を埋められる段階だ。あんたたちは、その溝を超える橋を作ろうとしてる。そうなんだろ?」

X大佐「そうだね……!」

F提督「はい……!」

提督「俺としても、今のうちに、逃げ道っつうか、会話ができる道も作っておいた方がいいと思うんだ。いがみ合い続けるのも疲れるからな」

神通「提督……」

提督「ただまあ俺も、今回みたいに気にくわねえことがあると、その時の感情で突っ走っちまうからなあ……そこはどうにもよくねえな」

榛名「それは無理もないことです。それだけ、提督は私たちのことを心配なさってくださっていますから」

那珂「ちょっと心配し過ぎなところもあって、私たちが心配になることもあるけどね!」
854 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:42:46.00 ID:pU/6M1Kuo

神通「ご自身の身を軽視し過ぎているところは、皆さん気にしておいで、ですよね」

川内「提督の自己肯定感が低すぎるのが良くないんだよー」

五十鈴「ちょっと提督、好き放題言われてるけど?」

提督「事実だろ?」

五十鈴「反論も面倒臭い、ってこと? もう……提督って、そういう人よね」

提督「まあ、俺のことはさておいてだ。海軍で、そういう連中を抑えつけられる、抑止力になりそうななにかはねえもんか?」

提督「あの手の組織は、叩き潰してもまたどこからか復活するだろうしよ。奴らの上を取って監視し続けて抑えつけておきたいな」

F提督「そうですね……我々が組織の蛮行を辞めさせるよう説得するにしても、その仕切っている人物が分からない事には……」

提督「呉の祢大将とか、H大将にもかまをかけたが、知らねえみたいだったしな……」ウーン

X大佐「F提督は、身を潜めている間にいろいろ調査していたんだよね」

F提督「はい。私共が調べた結果では、J少将の配下であるK大佐が、組織に指示を出していたようです」

F提督「もっとも、そのK大佐の行動も、墓場島の襲撃の数日前にわかったことなので、これ以上の情報がなく……」

提督「それ言われると申し訳ねえな。関わってそうな人間はほぼ全員、俺たちがぶっ殺しちまったからなあ」ウーン

提督「大佐だろ、そいつらの部下5人全員だろ、Z提督に、J少将、K大佐……そいつらの部下もまとめて火山の噴火で焼け死んだし」

X大佐「あの騒動の中では、僕たち以外の生き残りもいるけれど、彼らが何か知っているかと言われると、わからないね」

提督「下っ端だとなおのこと大したことは知らねえだろうな。昨日、舞鶴で捕まえた不審者も、ほとんど情報持ってなかったしよ」
855 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:43:46.03 ID:pU/6M1Kuo

提督「ただ、ああやって鎮守府に誰かを侵入させたりできてる辺り、まだ海軍と仲良しな感じがするんだよな、あの組織」

F提督「仲良し……ですか」

提督「だと思うけどなあ。あいつらの立場になって考えると、海軍と敵対する事態は避けたいはずなんだ」

提督「艦娘や深海棲艦の引き渡しや情報提供は、海軍と協力関係にあってこそ得られる。その恩恵は得続けたいはずだ」

提督「もっとも、組織が海軍より力を得ているんなら、そうはならないが……」

F提督「私が知る海軍ならば、力関係の逆手には起こらないと思いますが」

提督「ん? そうなのか?」

F提督「はい。そもそも最初に艦娘と邂逅したとき、艦娘から海軍を組織して欲しい、と話があったそうなのです」

F提督「当時も海上自衛隊や海上保安庁と言った組織がありましたが、彼女たちは軍制を望んでいたため、日本でも海軍が復活したのです」

F提督「そうまでして設立された海軍が、自分たちの断りもなしに組織が艦娘の調査をしようものなら……」

F提督「海軍こそが組織を潰しにかかるものだと私は思っています」

提督「無駄にプライドはあるんだな……ん? その理屈だと、俺も潰されるのか?」

F提督「いいえ、提督の場合は例外ですね。深海棲艦と友好関係を結べている超重要人物ですから」

提督「例外ねえ……」

F提督「打算的な部分も多いですがね。あなたのもとに艦娘がいたほうが、海軍としても話しやすいだろう、という声もありますし」

F提督「提督のもとにいる艦娘の多くが轟沈を経験しているため、引き取りを不安視する者が多いのも事実です」
856 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:44:31.28 ID:pU/6M1Kuo

F提督「また、無理を言ってあなたの怒りを買いたくない、といった声もあります。あの曽大佐にやった脅しのおかげですね」

提督「そうかい……いいけどよ」

神通「……それから、あくまで建前上の話なのですが」

神通「一部の海軍将校は、提督から艦娘を取り上げないことを『恩赦した』ということにしておきたいようです」

提督「はあ? なんでそこで上から目線なんだよ、くそが」

神通「海軍の対外的な見栄でしょう。提督に対しても素直に頭を下げたくないと言う感情もあるでしょうけれど」

提督「へっ、舐められたくねえってか」

神通「それから、提督に貸しを作っておきたい意図があるようにも思えます」

提督「貸しねえ……あいつら、俺が海軍のやばい情報握ってるの、わかってねえのかよ」

提督「まあいいや。ところで、F提督としちゃあどうなんだ? あの組織の連中の存在を、あんたは許しておけるか?」

F提督「私ですか? そうですね、正直に言えば……許すとは言いづらいですね」ウーン

F提督「結果的に彼らではなかったにせよ、似た思惑を持った者たちに仲間を殺され、私自身も殺されかけたわけですから」

F提督「神通とも離れ離れになって、寂しい思いをさせましたからね。そのことを恨んでいないと言えば嘘になります」

F提督「それに、組織が存続しているならば、また海軍や艦娘、深海棲艦の誰かが犠牲になる危険性は否めません」

F提督「あとは、あなたが彼らを不愉快に思っているように、深海棲艦たちもまた、そう思っているのではないのでしょうか?」

F提督「その彼らが組織として存続したままですと、深海棲艦たちと友好関係を結べないのではないかという点は危惧しています」
857 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:45:15.68 ID:pU/6M1Kuo

F提督「以上から、放置して良い相手だとは思っていない、という点では同意見です」

提督「……」

F提督「ですが、もし……もしも、彼らの活動が節度あるものになるというのなら……そこまで強くは言えなくなるかもしれませんね」

F提督「組織が良い方に改まるのであれば、それ以上責めるのはかえって印象が悪くなるでしょうし」

提督「ま、そうもなるか」

川内「……」

那珂「……」

X大佐「……提督、その件で僕からひとつ提案がある。海軍でも、舞鶴と同じことをしてみないか?」

提督「なに?」

X大佐「まもなく、横須賀で各地の大将殿が一堂に会する機会がある。そこに君も参加してみないかい?」

F提督「X大佐殿!?」

提督「……」

X大佐「君は舞鶴で、組織に関わった人間を、魔神の力を使って追い詰めたそうだね? そして無言の止提督からも話を聞き出した」

X大佐「君がどうやって不審者を追い詰めたか、止提督から話を聞き出したかは、正直よく理解できなかったけど……」

X大佐「もしそこが海軍将校の集まる会議室だったとしても、同じことはできるんだよね?」

提督「お前……」
858 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:46:00.85 ID:pU/6M1Kuo

X大佐「僕も、かの組織のことは、あってはならない存在であると思っている」

X大佐「深海棲艦と言う脅威に、戦う術のない僕たち人類は、戦いのほぼすべてを艦娘に委ねている状況だ」

X大佐「いくら彼女たちが深海棲艦と戦う使命を帯びているからと言って、僕たち人類が彼女たちをいいように使う現状は……」

X大佐「僕は、あまりに『いびつ』だと思っている」

提督「……」

祥鳳「……」

X大佐「確かに、彼女たちは、建造と称して燃料や弾薬を投入して作り出すこともできれば、解体して資材にしてしまうこともできる」

X大佐「艦娘は人間ではないのだろう。でも、そうであっても……彼女たちは自分の意志を持ち、人類のために戦ってくれている」

X大佐「僕は、彼女たちに誠意をもって接したいと思っている」

X大佐「だから、彼らが研究を続けている事実を、僕は黙って見過ごすことはできない。これが人であったら、誰しも見過ごすことができないように」

X大佐「海軍が艦娘を使役するというのなら、海軍はちゃんと艦娘と向き合わなければならないんだ……!」

提督「……」

X大佐「これ以上ない本音で言えば、君の力を使って海軍にいる馬鹿な考えを持つ者を、僕はどうにかして糾弾したいと思っている」

祥鳳「X提督……」

X大佐「さらに言えば、その頭が海軍の中にいるかどうかも疑いたい。軍の外から……政界や財界のフィクサーが関わってる可能性もある」

F提督「……」
859 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:46:45.90 ID:pU/6M1Kuo

提督「あんたが俺たちを誘い込んだと知れたら、そういう連中から命を狙われることになるかもしれねえぞ?」

X大佐「構わないよ、僕は君たちにばかり憎まれ役を押し付けている。本来なら、僕たちこそ覚悟を決めなければならないんだ」

提督「そこまで覚悟決めてんのかよ……参ったな。あんたには、こっち側に染まって欲しくねえんだがなあ」

X大佐「こっち側、ってどういう意味だい? 悪者になって欲しくないというのなら、僕だって海軍の中では異端者だよ」

提督「そうか? いまの海軍は、状況的に討伐派と和解派が7:3か6:4くらいだろ? 別に異端とまではいかねえんじゃねえの」

提督「それに、あんたも和解を望んでいるとはいえ、定期的な深海棲艦の邀撃自体はやってんだろ?」

提督「立場上は『人類』の味方だろうだからな。それを悪者とは呼ばねえよ。なあ祥鳳、お前もそう思わねえか?」

祥鳳「えっ!? そ、そう、ですね……X提督は、常日頃から、海の平和のため、人の世の平和のために働いてらっしゃいます」

祥鳳「私たちのことも心配してくださっていますし、その、お優しい方ですので……」

提督「だよな。必要以上に自分を追い詰める必要がねえのは、あんたもじゃねえか? むしろあんたは素直なまんまのほうがいいと思うぜ?」

X大佐「……僕に猫を被っていろと?」

提督「まあ、そうだな。ぶっちゃけ『こっち側』には来て欲しくないっつうか、お綺麗な役を押し付けたいと思ってる」

X大佐「……」

提督「嫌なら嫌でいいが、それならそれで他に綺麗ごとをのたまうのが似合いそうな奴がいたほうがいい」

提督「よくも悪くも、荒んでない奴の意見が馬鹿どもの目を覚まさせることだってあるし」

提督「自分のしていることに疑問を持って迷ってるような人間には、耳障りの良い綺麗ごとのほうが効果的だ」
860 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:47:30.93 ID:pU/6M1Kuo

提督「こればっかりは、裏でなにかやってそうな奴が言っても説得力に欠けるからな」

X大佐「……かもしれないね」

提督「ま、それはそれとして、だ」フゥ

提督「不本意だが、俺は、組織の殲滅は諦めてる。どうやっても潰した後の言い訳が立たねえ」

提督「その代わりにどういう方法で抑え込むかは、また別に考えるが……」

提督「X大佐が提案した、海軍の将官の会合に乱入して、組織との関係者の首根っこを捕まえてやろうって案には乗っかりたいな」

X大佐「!」

提督「ただ、この話はX大佐が出所だってのは伏せておきたい。俺が発案したていで、中将へ連絡して会合に入らせてもらうか」

X大佐「ち、中将閣下に!? そ、それは駄目だ!」

提督「駄目じゃねえよ。むしろ中将も『こっち側』の人間だ」

X大佐「……!」

提督「ま、安心しな。俺も中将のことは悪者にしたくねえからよ。今後も世話になりてえし」ニヤリ

五十鈴「……不安になるから、その悪い笑顔はやめて欲しいんだけど」アタマオサエ

提督「俺は元からこんなんだぞ?」

五十鈴「知ってるわよ、もう……」カタスクメ
861 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:48:15.70 ID:pU/6M1Kuo

提督「まあいいや、とりあえず俺は中将を通してその会合に入って、黒幕を特定しようと思ってる」

提督「あわよくば、その場で組織の機能停止、もしくは何らかの方法で監視して……」

提督「これ以上悪さができないように抑えつけるところまで持っていきたいな」

F提督「なるほど……不安は残りますが、第一段階としては、良いと思います」

X大佐「……中将閣下を巻き込むのは、あまり気が進まないけれど……」

提督「それでだ。俺がこの方針の是非を問いたいのは、榛名と那珂。それから神通」

那珂「!」

提督「実際に被害を被ったお前たちが、このやり方でいいか、俺に任せてくれるかを確認したい」

榛名「提督……!」

神通「……私も、なのですか?」

提督「ああ。お前がこんな目に遭う元凶になった一端にある組織に対して、一言物申すくらいの権利はあってもいいだろ」

川内「あれ? それ、五十鈴には訊かないの?」

提督「そこは五十鈴が直接の被害を被ったわけじゃないからな。そもそも、五十鈴が島に来たのは、そこの提督のやらかしが原因だ」

提督「あ、一応断っておくが、五十鈴がいた鎮守府の艦娘の救出は難しいかもしれねえぞ。多分そこまで踏み込めねえと思う」

五十鈴「それはもう、仕方がないわよ。行方知れずになってから時間も経ってるし、生きてる保証だってないんだし」

五十鈴「それに、どうしても助けたいかって言われると……正直、そこまでの仲と言うわけでもないのよね」
862 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:49:01.23 ID:pU/6M1Kuo

五十鈴「……五十鈴だけ助かって、良かったのかしら」

榛名「……」ウツムキ

那珂「そ、それは……」

川内「それはいま言っても、仕方なくない?」

五十鈴「でも……」

F提督「……サバイバーズギルト、ですね」

提督「!」

F提督「多数の死者が出た状況で生き残った人間が、自分だけが生き残って良かったのかと悩み続ける心理のことです。私もそうでした」

神通「F提督……」

F提督「残念ですが、そういった事態に陥って、生き残った者たちにできることはそうそうありません」

F提督「自分だけが生き残った理由付けがしたいだけなんですが、だからこそ焦れてしまって、じっとしていられなくなるものです」

F提督「私も、割り切るまでにはだいぶ時間がかかりました」

五十鈴「……」

提督「たとえ不可抗力であっても、自分が悪いと思い込んで、懺悔したくて、罰して欲しくて、許されて楽になりたいってだけの話だろ?」

提督「死んだ連中を言い訳にしてな。こんなのは全部、結果論でしかねえんだ。もしかしたら手前だってどうなってたかわかんねえんだぜ」

F提督「……ええ、そうですね」
863 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:50:00.93 ID:pU/6M1Kuo

提督「まあ、だからって死んだ連中を忘れろとか、蔑ろにするつもりは、今はねえよ」

提督「経験してわかったが、仲間を喪うってのは思ったよりきついしな……俺もあの時は後先見えなくなっちまった」

提督「それでも、ずっと後ろ向いたまま歩くわけにもいかねえんだ。ちゃんと前見て歩かなきゃあ、すっ転んで怪我しちまう」

榛名「……たまに振り返って、思い出してあげればいい、でしたね」

提督「ああ……榛名にも、そう言ったんだっけな」

榛名「はい。それで榛名が沈むようなことがあっては、それこそみんなが怨霊扱いされてしまう、とも……」

提督「そうだ。死んだ連中の名誉を守りたいなら、それを理由に破滅を選ぶようなことだけはあっちゃいけねえ」

F提督「ええ。そうなっては、今いる仲間たちが悲しみます」

F提督「かつて、私が生きていることを隠すため、私の偽の葬儀をしたのですが……その時の映像記録が残っていまして」

F提督「そこで部下や艦娘が悲しんでいるさまを見るのは、なかなか……もう、そんなことはないようにしたいですね」

那珂「F提督さん……」

五十鈴「……」

提督「さて。脱線したが、榛名、那珂、神通。俺が海軍の会議に乱入して、組織の情報を握ってる奴を突き止めるとこまでは、いいか?」

榛名「そうですね……提督の身に危険が及ばなければ、私から申し上げることはございません。榛名は提督の判断にお任せします」

那珂「那珂ちゃんはその案、あまり乗り気じゃないけれど……ほかにいい方法もなさそうだし?」ウーン

那珂「断っておくけど、X大佐たちみたいにいい人たちもいるんだから、海軍の人にあんまりひどいことしちゃ駄目だからね?」
864 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:50:46.36 ID:pU/6M1Kuo

提督「刃傷沙汰にはならねえようにするさ。神通は?」

神通「……」

川内「神通……?」

神通「提督。妖精さんのことは、本当によろしいんですか?」

提督「!」

神通「あの島が燃えた時、あなたと一緒にいた女神妖精さんが、皆さんを救ったと聞いていますが……」

神通「その前にその妖精さんは一度、組織と関係していた人間の手にかかって消滅したと聞いています」

神通「それがあって、あなたは組織に激しい復讐心を抱いていたはず……この決断に至ったのは何故です?」

神通「私は、F提督のかたきを……大佐への復讐を、部分的にですが、果たすことができました」

神通「提督は、そのご自身の復讐の機会を、手放そうと言うのですか……?」

提督「……妖精に限っては、どのくらいの時間が必要かわからねえが、戻ってくる可能性もなくもないんだ」

提督「一度は消えた妖精が、俺たちを助けるために戻ってきたって実績がある。生憎、俺はその時気を失ってたけどな」

提督「俺は、それに賭けようと思ってる。その前に俺が癇癪起こして破滅して、また会う機会を失うことの方がよくねえ、って考えたんだ」

神通「……」

提督「まあ、かたきを討ちたいって気持ちもないわけじゃない。ただ、優先順位は低くなった」

提督「そう思うようになったのが、あっちの……ニコたちのいる世界のことだ」
865 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:51:46.16 ID:pU/6M1Kuo

提督「ニコたちのいる世界は、ずっと人間との戦いが続いてる。メディウムの住処である神殿にも外敵が侵入してきてるくらいだ」

提督「そっちの人間にとっては魔神は絶対悪で、討ち滅ぼすのが正義かつ当然。ニコたちにとってもそんな人間は敵でしかない」

提督「そういう状況を、こっちの世界では作りたくない。あっちとこっちで二正面作戦なんて、やってらんねえぞ? 超面倒臭え」

提督「まあ、あとは、憎悪に身を任せて人間と手を切ったら、俺たちはほぼ野生の生活を強いられることになる。それもそれでちょっとな」

提督「食い物なり趣味の道具なり、ある程度文化的な娯楽がねえと、やっぱりまた戦いに意識が向くんじゃねえかな、ってよ」

提督「言い方が悪いが、日本は外国人に甘いからな。俺たちがいろいろ要求しても、ルールさえ守ってればそれなりの取引はできるだろう」

神通「……」

提督「それから、そういう意図なら人間を支配するって選択肢もあるんだが、今時恐怖政治なんて流行らねえし」

提督「どっちにしろ武力行使はなしだ。猫被っておとなしくしてた方が楽でいい」

那珂「昨日、戻ってくる時はすっごいピリピリしてたって聞いたから、攻め込むのかなって思ってたんだけど」

提督「ゆうべ一晩、時間かけて将来のことを考えてたら、結局はこうせざるを得なかった、って感じだな」

神通「なるほど……わかりました」ウナヅキ

神通「そういうことであれば、提督も集会の席で誰かを殺めるような無茶はしないでしょう。提督に、お任せいたします」ニコッ

提督「そうか」ニッ

祥鳳「だ、大丈夫なんでしょうか……いま、ものすごく物騒な発言があった気がするんですが」

X大佐「そこは提督を信じるしかないね。彼が島のみんなを案じる限りは、変なことはしないだろうけど」
866 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:52:33.25 ID:pU/6M1Kuo

提督「さぁて、どうしてやろうかねぇ……」ニヤリ

五十鈴「だから、その悪い笑顔だけはなんとかならないの? 不安になるんだけど?」アタマカカエ

川内「ほんとにねぇ」アハハ

祥鳳「……」タラリ

F提督「と、ところで、神通が部分的にかたき討ちをした、というのは……?」

提督「ん? ああ、それはだな……俺が大佐に一度殺されたって話は聞いてるか?」

F提督「なんですって……!?」

提督「それで怒った俺の仲間が、大佐をいたぶる過程で足をぶった切ったんだと。で、そのあと大佐の身柄は泊地棲姫に引き渡したんだが」

提督「その時にちぎれた足を、軽巡棲姫の力を借りて生き返った俺が、神通たちに号令かけて撃たせたんだ」

提督「俺たちは、F提督が大佐の手下に殺されたと思ってたから、生きてる大佐を撃つ代わりに、足を撃たせてかたき討ちにしたわけだ」

F提督「大佐は、深海棲艦に引き渡したのですか……」

提督「そもそも泊地棲姫が挙兵したのも、大佐があいつの塒を襲撃したせいだ。怒らせて俺たちの島に攻めこむよう誘導しやがってよ」

提督「だから、泊地棲姫に首謀者を引き渡して、そこから休戦に応じてくれないか、って考えてたんだ」

F提督「そうでしたか。では……私は、あなたと神通にかたきを取ってもらったということですね」

提督「俺たちの自己満足だけどな。そういえば、その場には全員いたんだっけか?」

X大佐「あ、それ以上は言わなくていいよ。これ以上話を聞いたら、立場上……ね」
867 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:53:16.32 ID:pU/6M1Kuo

提督「なんだ、お堅い奴だな。その辺は適当に誤魔化せばいいじゃねえか」

那珂「もー、提督さん、X大佐さんは真面目なんだから、提督さんも真面目にしないと駄目だよー?」

那珂「さっきも提督さんが言ってたじゃない、X大佐さんは悪い方に行っちゃ駄目だって!」

那珂「そうやってX大佐さんを悪い方に引っ張り込むようなことをしてたら、さっきの提督さんのお願いと矛盾するでしょ?」メッ!

提督「んだよ……ったく、わかったよ。しょうがねえな」

X大佐「君たちの中で、僕はいいひとになるのは確定なのかい……?」

那珂「那珂ちゃんは、X大佐さんはいいひとだと思いまーす!」キョシュ!

榛名「そうですね。こうして提督を心配してくださる、素敵な方だと思います!」

提督「そもそも悪人面が似合わねえ。っつうかできねえだろ、心根が善人だから」

祥鳳「……それは確かに……」

X大佐「……」

神通「X大佐はその評価が不本意なご様子ですね」

祥鳳「なにぶん、女性にも見間違えられるほどの童顔ですので、海軍の中でも甘く見られがちなんです」

X大佐「迫力と言うかふてぶてしさというか……威厳が欲しいんだよね」ムー…
868 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:54:01.21 ID:pU/6M1Kuo

五十鈴「それじゃあ、お髭でも生やしたらどうかしら?」

祥鳳「それはいけません!」

五十鈴「えっ」

那珂「えっ」

榛名「えっ」

X大佐「えっ」

提督「……」

祥鳳「あ……い、いえ、潜水艦の皆さんが、そう言っていたので……」セキメン

X大佐「……まあ、確かにゴーヤには大反対されたけど」

提督「髭が生えてりゃいいってもんでもねえぞ? 半端に生えたり整えてない状態だと汚く見えるし」

提督「生え方が自分の想像と違ってると、それはそれで不愉快だしな」

X大佐「その言い方だと、髭を生やしたことがあるのかい?」

提督「ああ。俺の場合は、妖精たちから不評を買ったってのが一番だな。単純に顔がざらざらすんのも嫌だってのもあるけどよ」

提督「なんにせよ、その髭に見合う立場や実績がねえと、見かけ倒しと思われて侮られるのに変わりはねえぞ」

X大佐「……」ウーン
869 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/06/08(日) 20:55:15.87 ID:pU/6M1Kuo
と言うことで今回はここまで。
870 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:10:36.48 ID:so9g0Gzpo
短いですが、続きです。
871 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:11:21.79 ID:so9g0Gzpo

 * 別の会議室 *

 扉<コンコン ガチャ

提督「邪魔すんぞ。ここでいいのか?」

暁「あっ、司令官! ごきげんようです!」

ビスマルク「あら、提督。X提督との話は終わったの?」

提督「おう、いたか暁。で、お前は……ビスマルクだったか。あの船に大勢艦娘が集まってたとき以来か? 一緒にクイーンもいたよな?」

ビスマルク「ええ。あなたに会うのはこれが2度目かしら」

暁「司令官、お変わりないみたいね?」ニコッ

提督「ああ。お前たちも元気そうで何よりだ。で、お前の後ろにくっついてるのが……」

ヴェールヌイ「……」ギュ

提督「ヴェルニイ……? いや、響だったか?」

暁「ヴェールヌイ、よ。でも、響は、響って呼んであげたほうがいいみたい」

ヴェールヌイ「……」ペコリ

暁「再会できたのはいいんだけど、それ以来ずっとこんな感じで……」
872 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:12:06.54 ID:so9g0Gzpo

ビスマルク「行方不明の姉を探し出せたんだもの。無理もないと言えばそうよね」

提督「……まあ、徐々に慣らしてくしかねえかなあ、こういうのは。それで、暁? 俺に話があるって訊いたんだが」

暁「ええ、ちょっとごめんなさい。響、少しの間、司令官とふたりでお話しさせてくれる?」

ヴェールヌイ「……」

暁「お願い。ね?」

ヴェールヌイ「……」ジッ

提督「……」

暁「大丈夫よ。司令官は、暁が記憶を取り戻すまで、暁のことを保護してくれてたんだから」

ヴェールヌイ「……」ウツムキ

暁「ビスマルクさんと一緒に待っててくれる?」

ヴェールヌイ「……わかった」

 クルッ スタスタ…

ビスマルク「それじゃ、あとは任せて頂戴。提督、暁をお願いね」クルッ タタタッ

 扉<パタム

暁「……」

提督「大丈夫なのか、響は」

暁「今の状態は、大丈夫とは言えないわね。少しでも立ち直ってくれるといいんだけど」
873 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:12:51.88 ID:so9g0Gzpo

暁「それはそうと、お待たせしてごめんなさい、司令官。肝心の、聞きたいこと……なんだけど」

提督「ああ、なんだ?」

暁「正直、聞くのが怖いんだけど……」ウツムキ

提督「……」

暁「I提督の鎮守府が襲撃されたときのことなんだけど……あの襲撃があったときって、他の鎮守府との連携が滞っていたみたいなの」

暁「そうなった理由が……誰かが、I提督への支援を妨害してたから、って、聞いて……」

提督「……」

暁「それで、その妨害をしていた人が……海外の泊地へ移動中、あの島の近海で行方不明になった、って聞いて……」

暁「もしかして、それに司令官が、何か知ってるんじゃないか……関わってるんじゃないか、って」

提督「……」

暁「……ごめんなさい。そんなこと訊かれても、司令官も困るわよね」

暁「仮に暁がその真相を知ったとしても、何もできることなんかないんだし……」

提督「……暁は、何が起こっていたのかを知りたいのか?」

暁「……そう、だと思うんだけど。よく考えたら、私もどうしたいのか……わからなく、なっちゃった……」ウツムキ

提督「……」
874 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:13:37.97 ID:so9g0Gzpo

暁「暁は……」

提督「……」

暁「暁は、多分、I提督を……私たちの鎮守府をあんな風にした人たちがどうなったのか、単純に結末を知りたいんだと思う」

暁「それを知って、私は……」

提督「……」

暁「私は……安心したいんだと思うわ。I提督を苦しめた人が、いなくなったことを、確かめたいっていうか、確信したいんだと思う」

提督「そうか。ならどうして、そんなに思いつめたような顔をするんだ?」

暁「それは……だって、よくない事じゃない? 人が行方不明になって……いなくなったことを安心するなんて」

暁「良かったと思ってるのと、同じことじゃない。その人にだって家族がいるんだもの、そんなの、よくない事だと思うわ……!」フルフル

提督「そいつの家族が、悲しまなければいいのか?」

暁「……もう、司令官は意地悪だわ。そんな単純なことじゃないわ」

提督「……」

暁「……」シュン…

提督「ま、なんにせよだ。そいつらがいなくなった事実に変わりはない」

暁「それは、そう、なんだけど、ね……」

提督「……」
875 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:14:21.67 ID:so9g0Gzpo

暁「……」

提督「簡単に割り切れない、ってか。考え方がおとなになるってのも、考え物だな」

暁「……どう受け止めたらいいか、何がいいのかわからないの。悲しい事故なんだろうけれど、どうしても……」

提督「まあ、そうだな。真相なんて知れば知るほど悲しくなるだけだしな」ボソッ

暁「真相……?」

提督「ああ。どうする、暁? 俺は、お前には事の真相を知る権利があると思ってる」

提督「本当に胸糞悪い、反吐の出るような話だが……I提督の鎮守府への支援がなぜ妨害されたのか、俺はお前に話すことができる」

暁「……!」

提督「知りたいか? それとも、聞かなかったことにするか?」

暁「……嫌な、話なのね?」

提督「ああ。知ったら人を嫌いになりそうな話だ」

暁「……」

提督「……」

暁「……司令官。教えて」

提督「……」
876 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:15:06.13 ID:so9g0Gzpo

暁「知らないほうが幸せなのかもしれないけど……暁は、知らんぷりしてちゃいけない気がするの」

提督「そうか。わかった、なら耳を貸せ。あまりでかい声で話したい話じゃない」

暁「わ、わかったわ……」

 *

暁「……」

提督「……」

暁「そ、そんな……そんな理由で、I提督が……」

提督「そう思えば、事故に遭ってざまあみろとも思うだろ?」

暁「ざ、さま……そういうこと言っちゃ駄目よ!」

提督「そうか? 俺はともかく、暁は当事者だ。お前がそいつに恨み言や憎まれ口を言っても、それが普通だと思うけどな」

暁「そ、そんなの……エレガントじゃないじゃない」

提督「エレガントでなくていいだろ。そもそもそいつのやってることがエレガントでもなんでもねえ」

提督「悪いことは悪い、って、びしっと言ってやるのも、大人の対応って奴じゃねえか。優しくするだけが大人じゃねえぞ」

暁「そうかもしれないけど……ねえ、その人は、海軍内とかで罰することはできなかったの?」

提督「一応、手遅れではあったが救援には出向いたこともあって、海軍からの処罰とかは特になかったみたいだな」
877 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:15:51.30 ID:so9g0Gzpo

暁「それが遅くなったのが故意だったとしても……?」

提督「金も時間もかけて救援に行った奴が、救援が遅かったからって理由で罰を与えられたんじゃ、その次から救援に行く奴がいなくなっちまう」

提督「故意かどうか確かめる術もない以上、上はそいつに罰を科すことはできなかったのさ」

暁「ああ……それもそうね」ウツムキ

提督「……なあ、暁? もう一回耳を貸せ」ヒソッ

暁「?」

提督「その船には、Q中将の話してた、I提督の両親を殺した奴も囚人として乗っててな……」ヒソヒソ

暁「え……!?」

提督「俺たちも見つけられなかったって扱いで行方不明にはしているが、あいつらは全員、俺たちメディウムが始末した」ヒソヒソ

暁「……っ!!」ガタッ

提督「……」

暁「し、しれ……っ、しれ……!」プルプル

提督「内緒だぞ」シー

暁「で、でも! それって……!」

提督「海軍の中にも、そいつらを許せない人間がいたってことさ」ヒソッ

暁「……!!」
878 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:16:37.66 ID:so9g0Gzpo

提督「法に従えば、そいつらの命は保障されるべきだろう。それを良しとしない人間がいて、人間の法の外にいる俺たちに、手を下させた」

提督「俺もQ中将の話を聞いて、少なからず共感してたからな。そいつらをメディウムに任せたのは事実だ」

暁「そう……そう、なんだ……」

提督「……」

暁「それじゃ今頃、その人たちもあのお花畑を歩いてるのかしら……」

提督「いいや、そうはなってない。メディウムの手にかかった人間たちは、あの世に行くことはできない」

暁「えっ? ど、どういうこと……?」

提督「メディウムは、殺した相手の肉体と魂を好きにできるんだ。だから、あの船に乗っていた連中が、あの花畑に行くことはない」

暁「……そう……」

提督「……悪いニュースじゃないだろう? 随分寂しそうな笑顔だな」

暁「そうね……正直に言えば、安心したわ。でも、本当なら、あの人たちもあの世に行くはずだったんでしょう?」

暁「I提督を困らせた人たちが、司令官たちのおかげで、そうなったことを……I提督のところに行けなくなったことを、私は喜んでるんだもの」

暁「それって、ひどいと思わない? 暁は、ずるいんだわ……綺麗ごとばかり言って、本当は……」メヲフセ

提督「いや、それをずるいって言うのは、ちょっと違うんじゃねえか?」

暁「で、でも……!」
879 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:17:21.48 ID:so9g0Gzpo

提督「そこは素直に安心した、で終わってりゃいいんだよ。お前だけじゃなく、お前の好きな人たちまで酷い目にあわせた奴らだぞ?」

提督「お前は自分がレディーとして高潔でありたいって思ってるようだが、いくらなんでも無理しすぎだ。そこまで高い理想は体に毒だぞ?」

暁「う……」ションボリ

提督「そうやって悩みすぎて壊れて欲しくねえんだよ、妥協だって必要なんだ。なあ、お前もそう思うだろ? 川内」ミアゲ

暁「えっ!?」

 天井の通気口<ガタッ

提督「ったく、なんてところに隠れてやがる」

 天井の通気口<ガパッ

川内「えへへ、見つかっちゃったかあ」モゾモゾ

暁「そ、そんなところに隠れてたの!?」

 クルン ストッ!

川内「川内参上! なんちゃって。提督、いつから気付いてたの?」

提督「ビスマルクたちが出てってすぐくらいだな」

川内「えー? それじゃほぼ最初からじゃない!」

提督「こちとら侵入者を迎撃する罠を管理統括する魔神様だぞ。嫌でも気付けるんだ、見くびってもらっちゃ困る」

川内「まったくもう……まあ、それはそれでいいんだけどさ」チラッ

暁「!」
880 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:18:06.69 ID:so9g0Gzpo

川内「暁がここまで落ち込むような、I提督の救援の妨害の理由って、なにさ? ひそひそ声だから聞き取れなかったんだけど」ズイッ

提督「……」

川内「あれ? ちょっと提督、私だってあの時の当事者なんだよ? なんで黙っちゃうの!?」

提督「お前の場合は教えた後に何するかわかんねえからな。なまじ行動力あるだけに、あまり迂闊に言いたくねえ」

川内「ひっどーい! なにそれ!?」

提督「……ったく、しょうがねえ。耳貸せ、耳。いいか?」ガシッ

川内「なんて肩を掴むのさ。私、そこまで血の気多くないよ?」

提督「いいから黙って聞け。いいか、お前のいた鎮守府がああなったのは、簡単に言えば、I提督にフラれた馬鹿の逆恨みだ」ボソボソ

川内「へぇ……」ビキビキッ

暁「ピエッ」

川内「……提督。島の近海だっけ? そいつ探して殺ってくるね」ハイライトオフ

提督「っだああ! じっとしてろ! やっぱ掴んでて正解だったんじゃねえか!」オサエツケ

川内「正解じゃないよ!? 行かせてよ!」ジタバタ

提督「そいつはもう始末したんだよ……俺たちメディウムが!」ボソッ

川内「……!」

提督「天国にも地獄にも行けないようにしてやった。だからもう手出し無用だ」

川内「なぁんだ、そっか。残念。私が引導を渡したかったんだけどなぁ」
881 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:19:06.41 ID:so9g0Gzpo

提督「気持ちはわかるが我慢しな。ったく、どこが血の気が多くない、だ」

暁「本当、どうなるかと思ったわ……」ホッ…

川内「えへへ、ごめんね?」ハイライトオン

提督「まあ、川内の気持ちはわかるけどよ……むしろ、暁の反応のほうが、俺としちゃ心配だな」

川内「暁はそいつらに頭にきたりとかしてないの?」

暁「うーん、悲しいとは思ったけど……そもそも、暁はあまり怒りたくないの」

提督「怒りたくない?」

暁「ほら、司令官が以前、自暴自棄になってた時があったじゃない? あのとき暁が怒ってから、みんなに怖がられちゃって……」シュン…

提督「ああ、確かにあの時は……全員ブルッてたな」

暁「だから暁は怒らないようにしたいし、怒るのはやめたいの。みんなに怯えられるレディーなんて、良くないわ」

川内「そんなに怖かったの?」

提督「迫力はあったな。あ、興味本位で怒らせようとすんのはやめろよ?」

川内「やらないよ。今は今で、暁を怒らせるようなことをしたら、響が黙ってないだろうからね」

提督「ああ……確かに」

暁「そうね、響は心配よね。一回、お姉ちゃんらしく叱ってみようかしら……」

川内「そのほうがいいかもね。あ、叱るよりは、暁が優しく諭せば、聞いてくれそうじゃない?」

暁「優しく諭す……そうね。それが一番、暁らしいかも!」グッ
882 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:19:51.33 ID:so9g0Gzpo

川内「それにしても、I提督もひどい災難だよね。まあまあよくありそうな愛憎劇とはいえ、そんなことに巻き込まれるなんて……」

提督「こんなこと、よくあってたまるかよ。巻き込まれたお前たちだってたまったもんじゃねえだろが」

川内「それはそうだけどね……ねえ、この話、これまで誰に話したの?」

提督「うちの艦娘なら大和とかル級とか、計画に手伝ってもらった一部だな。あとはメディウムたちだ」

提督「うちの連中以外なら、お前と暁以外にはしてねえよ。響に話すかどうかは任せるぜ」

川内「そっか。じゃあ、島に近づかなきゃ、この話は広まらないってことだね」

提督「まあ、そうだな。俺たちも、こんな話はそう誰かに話すこともねえだろうし、徐々に忘れるだろうさ」

川内「ん、わかった。それにしても、提督も大変だね、やることが多くて」

提督「まあな。次から次と、休む間もねえ」

川内「あはは、でも、楽しそうだよ?」

提督「……そうか?」

川内「うん。提督の次の話し合いは海軍が相手かあ……大変だろうけど、頑張ってね」

提督「ありがとな。川内も、悪いが暁たちのことは頼んだぜ」
883 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/07/06(日) 22:21:14.72 ID:so9g0Gzpo
というわけでここまで。
この次のシーンまでは書いているけど、その続きが……。
難産続きでスレも跨ぎそう。もうしばらくお付き合いください。
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