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【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】
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817 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:19:19.20 ID:Ct+GoMMRo
提督「こんだけ俺が喋ってても、だんまり決め込もうってか? 観念しろよ、いい加減によ」
止准尉「……」
提督「お前は、夜が怖いと言ってたな。夜戦するのが嫌だっつってたよな。お前が夜を怖がる理由は、さっきの男と関係あるんだろう?」
止准尉「……」
H大将「……止准尉」
止准尉「……」
提督「口が裂けても喋る気がねえってか? ったく……」スクッ
H大将「提督? 何をする気だ」
提督「話す気がないなら、直接訊こうと思ってな……!」ツカツカ
山城「な、なによ!? 近寄るんじゃないわよ! 止提督に何をする気!?」ガタッ
提督「俺から危害を加えるような真似をする気はねえ。ただ……命が惜しけりゃ、動くなよ」ガシッ!
止准尉「……!」アタマツカマレ
リ級「ナンダ? アイアンクローデモ、スル気カ?」
818 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:20:04.25 ID:Ct+GoMMRo
提督「……」
止准尉「っ!? ……な、なにを……!」
提督「おいおい、今頃になって喋ってんじゃねえよ、遅すぎるぞ? それに、動くなっつったろ? 何度も言わねえぞ……!?」ギロリ
止准尉「……っ!」
不知火「司令……」
山城「動くなって、なによそれ……止提督に何かあったらただじゃおかないわよ……!」
H大将「……」
提督「乱暴するつもりはねえが、気はしっかり持っておけよ……!」
止准尉「う……!」
*
止准尉「く……」
提督「……」
北上「……止准尉、大丈夫なんだろうね?」ヒソッ
大井「すごい汗なんだけど……なに考えてるの、あの人」
819 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:20:50.00 ID:Ct+GoMMRo
リ級「不知火、提督ガ、アレヲ始メテ、ドノクライ経ッタ?」
不知火「もうすぐ10分でしょうか」
H大将「……」
提督「よし……まあ、こんなもんか」テハナシ
止准尉「っ……」クラッ…
山城「止提督! 大丈夫なの!?」ガシッ
提督「そこまで無理をさせたつもりはねえんだが、そこそこ負担だったか? あとはもう横になっててもいいぞ」
山城「止提督に何をしたってのよ、あんたは……!!」ギリッ
提督「……」
山城「ちょっと!? 聞いてるの!?」
提督「ったく、うるせえな、ちょっと整理させろ……H大将、とりあえずこれから俺が喋る話は他言無用で頼みたい。いいか?」
H大将「何の話か知らんが……まあ、いいだろう。お前たちもいいな?」
大井「……承知しました」
提督「よし。どこから話すかな……ちょっとこれまでのおさらいみたくなっちまうが、とりあえず聞いてくれ」
820 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:21:49.13 ID:Ct+GoMMRo
提督「まず、H大将、あんたは少なくとも、J少将が関わっていた深海棲艦の武器化には、反対してたよな?」
止准尉「!!」
山城「はぁ!? なによその話!?」
提督「まあ、順を追って話すから、まずは聞いててくれるか? で、今の話はそうだったよな?」
H大将「ああ。反対したせいであいつらに殺されかけたのは、お前もよく知っているだろう」
山城「んなっ!?」
提督「その深海棲艦の武器化は、かつての俺の上官であり中将の息子である大佐と、Z提督のふたりが中心になって研究していたものだ」
提督「そのZ提督は、およそ3年前、深海棲艦で作った武器の威力の実験台に艦娘を使っていたことが露見して、営倉にぶち込まれている」
提督「Z提督が捕まった後は大佐が単独で研究を続けていたが、Z提督が動けなくなり自分への監視が強まったせいで資金繰りが苦しくなった」
提督「そのせいで大佐の元を離れた研究者から、深海棲艦の武器化の話が流れてJ少将のもとにも届いた、と思われる」
提督「おそらく、大佐の続けていた研究内容を、J少将の支援している研究機関が欲したんだろう。同時に大佐も協力者が欲しかった」
提督「お互いの利害が一致したことで、J少将は、大佐に協力するていで、自分の支援している研究機関へ武器化の研究を引き継がせた」
山城「……」
提督「ちなみに、大佐が死んでからは、営倉から出てきたZ提督が組織に関わるようになった、と、推測してる」
H大将「……あの時、朧君たちを撃った、あの男のことか」
提督「ああ、そいつだ。そのZ提督と大佐が、武器化の研究をやるためにいろいろ裏で悪いことをしてたのも知っての通り」
821 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:22:34.34 ID:Ct+GoMMRo
提督「例えば資金繰りのために鎮守府の金をごまかしたり、材料調達のために危険と言われていた深海棲艦の鹵獲をしていたり」
提督「さらには作った武器の威力を検証するための、実験台にできる艦娘を集めたりもしてた」
大井「……!!」
提督「でだ、ここの時系列がちょっとややこしいんだが、その大佐たちと、J少将の支援する組織は、Z提督が捕まる前までは別物で……」
提督「組織のほうは、艦娘と深海棲艦の生態調査や、艦娘が深海棲艦に、または深海棲艦が艦娘に変わるかどうかの研究をしていたらしい」
提督「ただ、目的は違えど、艦娘や深海棲艦の実験用のサンプルが大量に必要なのは、大佐たちと同じ」
提督「つまり当時は、実験台にしても問題ない艦娘や深海棲艦を求めていた組織が、少なくともふたつ以上は存在した、ってことになる」
H大将「……」
提督「そういう奴らがいる一方で、海軍内には、深海棲艦と友好関係を結べないかと考える連中もいたわけだが……」
提督「そいつらがどんな目に遭ってるかも、H大将は知ってるよな?」
H大将「……それは、F提督たちのことか?」
提督「そういうこった。もっとも、F提督たちを襲ったのがどっちなのかはわからねえんだが……多分、大佐たちのほうなんだけどな」
提督「止准尉の先輩にあたるやつも、その辺の話に関係してるらしいんだよ」
H大将「!」
822 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:23:19.15 ID:Ct+GoMMRo
山城「ど、どうしてあんたがそれを知ってるのよ……!」
提督「止准尉が口を割らねえんで、頭から直接訊いた。いや、直接『視』たっつうほうが正しいか?」
山城「直接って……!?」
H大将「提督、止准尉も彼らと関わりがあったということか?」
提督「そこは巻き込まれたっつったほうがいいかな。止准尉自身はあいつらとは何の関係もなくて、止准尉の先輩があいつらを怪しんでたんだ」
提督「調べていくうちに行きついたのはJ少将の組織のほうだ。その調査中に、F提督も関わっていた深海棲艦との和平を目指す連中に接触したらしい」
提督「F提督たちは自分たちを妨害している相手を特定できなかったようだが、それはおそらく、大佐たちとJ少将の組織が別々だったことも影響してるんだろう」
提督「素性を探っていくうちに、そいつは身の危険を感じるようになって……万が一のためにと、止准尉に連中の情報を書き込んだノートを渡しちまった」
止准尉「……ぐすっ……!」
山城「止提督……!」
提督「その後まもなく、先輩提督が深海棲艦との戦闘で死んだわけだが、その話に変なところが多すぎると止准尉は感じたようでな」
提督「おまけに、その先輩提督が戦死してから、そいつに関わりのあった人間や艦娘が短期間で次々と姿を消した」
提督「それが納得いかねえもんで、託されたノートの中身を見て連中を知り、組織に一矢報いようとした……」
H大将「組織に接触を図ったと?」
提督「ああ、一回だけな。ただ、その一回がまあ、高坊にゃあ余りに衝撃的過ぎたんだろう」
823 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:24:06.99 ID:Ct+GoMMRo
提督「メンタルやられて、御覧の通り、って感じか。夜戦つうか、夜を異常に怖がるようになったのもそのせいだな?」
止准尉「うっ……ううっ……!」ボロボロ…
山城「提督……」セナカサスリ
提督「止准尉は、親が陸自だってのと、妖精がうっすら見えるって特殊な事情のせいで、中学出てすぐ海軍にスカウトされてる」
提督「そこで高校の授業を受けつつ、艦隊指揮に参加するようになったんだが、先生代わりに面倒を見てもらってたのがその先輩提督だ」
提督「その先輩が訳も分からず殺されて、当人は軽い気持ちで……いや、違うな。自分たちが正しいなら、悪い人間は倒せると考えたんだ」
提督「青臭い正義を掲げて、恩師である先輩提督の敵討ちのために、組織を追い詰めようとして逆に自分の無力さを思い知らされた……」
大井「それでよく今まで無事でしたね……」
提督「こいつが今まで無事だったのは、未成年だったから、じゃねえかな?」
提督「連中も醜聞に飢えたマスコミや市民団体とかに騒がれたくねえだろう。その代わり、こいつらが常々監視されてた可能性はある」
提督「あとは、わざと泳がせて接触してきた奴を始末する……いわゆる撒き餌にしたのかもしれねえな」
提督「こいつが自分の口から誰にもこのことを話そうとしなかったのも、巻き込みたくないって意識が強かったからっぽいし」
提督「ま、べらべら喋ってたら俺みたいに拉致監禁されてたかもしれねえから、悪い判断じゃなかったかもな」
山城「はぁ? あんた、拉致監禁されてたって言うの!?」
提督「俺が妖精と話せるもんで、余計なことを見聞きしないように離島に隔離幽閉されてたんだよ。こんな性格だ、危なっかしいだろ?」ニヤリ
山城「……」
824 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:24:49.32 ID:Ct+GoMMRo
提督「俺は大佐にそれをやられたが、止准尉の場合は、変なことを言い出さなかったからこそ、わざと泳がせてたとも思える」
提督「あとは……止准尉を綺麗に始末するために、未成年でなくなるまで慎重になってただけって可能性もある」
H大将「……」
大井「……」
提督「止准尉の記憶をたどって、俺が推測できる話はここまでだ」
H大将「……止准尉、今の話で、君に関する部分に間違いはないか?」
止准尉「……」
山城「提督……」
止准尉「……」
H大将「止准尉」
止准尉「……」コクン
H大将「! ……そうか。わかった」
提督「とりあえずだ、止准尉の先輩とやらは、あいつらの拠点を突き止めていたらしい。俺たちはこれからその拠点をぶっ潰す」
H大将「おい!?」
825 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:25:35.38 ID:Ct+GoMMRo
提督「なんだ、止めるなよ。俺たちはあいつらに接触したんだぞ? やられる前にやるべきだろ」
北上「提督たちだけでやるつもり?」
提督「ああ。助太刀はいらねえぞ? 海軍の中には、連中の存在をありがたがってる連中もいる」
提督「海軍の中にどれだけあいつらの飼い犬が紛れ込んでて、どんな邪魔をしてくるかわからねえし」
提督「それに、ぶっちゃけ敵味方の判別が面倒だ。協力者と共闘できるような器用な戦いをするつもりはねえ」
北上「うわ。提督もしかして、その施設にいる人間、全員殺すつもり?」
提督「当然だろ。その場にいる人間は皆殺しだ」
大井「ちょっと!?」
北上「いやー、それ大丈夫なの? 恨まれたりしない?」
大井「北上さん!? そうじゃないでしょ!?」
提督「恨まれるって言っても、あいつら潰して恨んでくる奴らなんて、だいたいはあいつらと同類の悪人どもだけじゃねえか?」
提督「そういう連中が、二度と深海棲艦や艦娘で実験しようなんて気を起こさないように、懇切丁寧にすり潰してやろうってんだ」
北上「……提督ってば、本っ当に悪い顔するの得意だよねえ……」
提督「ま、大井の心配する法律的な意味でなら、警察とかに目の敵にされても仕方ねえけど、そこは俺たちが気にしてもしょうがねえ」
提督「今も悪人扱いされてる俺たちが、力づくで無理矢理終わらせちまえばいいだけだ」
H大将「……人の法に縛られない、お前たちが全部やろうということか」
提督「まあ、そういうふうに受け取ってもらいてえな」
826 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:26:20.24 ID:Ct+GoMMRo
止准尉「あ、あの……!」
提督「!」
止准尉「あ、あなたが……先生の……先輩たちの、かたきを、とってくれるんですか……!?」
提督「あぁ? 何言ってんだ。俺は、俺の仲間を守るために、俺たちの敵であるあいつらを潰すんだ。お前の先輩なんざ知らねえよ」
止准尉「あ……」
提督「ただ、お前が勇気を出してここに現れたことには感謝してるぜ。そうじゃなきゃ、俺があいつらに辿り着くのは困難だっただろうからな」
止准尉「っ!!」ウルッ
提督「さてと。不知火、リ級、すぐに帰るぞ。あいつらが何か行動を起こす前に追い詰めて、何もかも潰してやらねえとな……!」
リ級「ナンダ、モウ帰ルノカ。姫様ニモ話スノカ?」
提督「ああ、勿論だ。協力も仰ぎたい」
大井「帰るって……船の準備ができていませんよ!?」
提督「しなくていいぜ」
神殿の扉<ズバァン!!
不知火「!!」
大井「な、なに!? 今度はいったいなんなの!?」
H大将「扉がいきなり現れた……!?」
827 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:27:04.40 ID:Ct+GoMMRo
提督「行きはよいよい帰りは恐い……って、大鳳が歌ったあの歌とは逆だな。俺はあの島へはすぐに帰れるんだよ、帰宅限定だけどな」
H大将「ドラ○もんか、お前は……」
提督「そこまで便利なもんじゃねえけどな。よし、行くぞ不知火、リ級」ガチャッ
不知火「は、はい!」
リ級「了解ー」タタッ
H大将「待て提督! 最低でもX大佐には連絡しろ!」
提督「あぁ……?」
H大将「あいつはお前のお目付け役だ。お前が勝手に動けばあいつが責任を取る立場にある」
H大将「俺からX大佐に連絡を入れておく。あいつから連絡があるまでは動くんじゃない!! いいな!?」
提督「……ちっ、仕方ねえな。連絡は早く寄越せよ、俺たちは準備を進めるからな」
H大将「わかっている。くれぐれも早まるなよ……!」
不知火「では、H大将閣下、急で申し訳ありませんがこの場は失礼いたします」
不知火「R提督にもよろしくお伝えください。では」ケイレイ
神殿の扉<パタム!
神殿の扉<スゥゥ…
大井「……消えた……」
828 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:28:04.44 ID:Ct+GoMMRo
北上「いやあ、提督も完全に人間やめちゃったねえ」
H大将「まったく、あの男も勝手なものだ……!」
山城「ちょっと……いったい何者なの、あの男は!?」
H大将「……元海軍の、元人間……と言ったところか」
山城「もと、にんげんって……それじゃ、いったい何なのよ」
H大将「正確な正体については、我々もよくわかってないと言わざるを得ん。魔神などと呼ばれているが、正体はわからん」
H大将「確実にわかっていることと言えば、あの男は、艦娘たちと、一部の友好的な深海棲艦たちを保護しようとしている、ということだ」
H大将「さっきも言ったが、あの男の目的は、行き場を失ったJ少将の艦娘が、変な提督のもとに配属されないようにするため」
H大将「そして、艦娘や深海棲艦を対象に実験を続けている組織の手掛かりを掴むため、というのもあったのだろう」
H大将「あの男にとって、その組織は滅ぼすべき因縁のある相手……あいつの言う通り、艦娘と深海棲艦の敵だからな」
山城「……」
H大将「さて、止准尉。君はその組織についていろいろ知っているようだが、詳しく聞かせてもらえないだろうか」
H大将「君の身柄の安全は保障する。君の艦隊……艦娘たちも、私の鎮守府でまとめて保護しよう」
止准尉「……あの……」
H大将「どうした」
829 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:28:49.30 ID:Ct+GoMMRo
止准尉「あなたは……突然、どこかに行ったり、しないですよね……?」ガタガタ…
H大将「……」
止准尉「あなたは……死んだり、しない……です、よね……!?」ボロボロボロ…
H大将「……」
大井「……」
H大将「俺たちは軍人だ。残念だが、死なない、と言う保証はできかねる」
H大将「だが、守るべきものは、命を賭して守る。君の命も、我々の誇りも。死んでいった仲間のためにも……」
H大将「死ぬつもりはないし、無駄死にするつもりもない」
止准尉「うっ、うええっ……うえええ……」ボロボロボロ…
山城「……」
H大将「山城。貴様は、この話をどこまで知っている?」
山城「全然知らないわよ……何から何まで、今の今まで。全部、初耳よ」ギリッ…
H大将「そうか」
山城「提督……だからなのね? 私たちを危険な海域に向かわせようともせず、それでまともな戦果も挙げられず……」
山城「そのせいで鎮守府が落ちぶれても、艦娘を過保護にして手放そうともしない」
830 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:29:34.47 ID:Ct+GoMMRo
山城「あの島に若葉たちを連れて行ったのも、誰かに狙われることのない、いわく付きの島だと聞いたから……」
山城「余所から引き抜いたあの吹雪の解体にあそこまで世話を焼いたのも、その組織とかいう奴らに狙われないようにしたかったから……」
山城「そういう、ことなのね?」
止准尉「ぐす……っ」コクン
山城「そう」
H大将「……」
山城「まったく……呆れるわ。間違ってるわよ、こんなの」ハァ
山城「こんな優しすぎる子を、戦争に巻き込むだなんて。この国の大人はどうかしてるわ」
山城「戦時中だから、なんて言い訳するような卑怯な大人は、あず○バーで歯が全部砕けて総入れ歯になってしまえばいいんだわ」フン
大井「……なんなのよその喩え……」
山城「わかりづらくて悪かったわね。死なない程度に全員不幸になればいい、と思っているだけよ」ムスッ
H大将「……まったく、耳が痛いな。将来ある子供を守るはずの大人がこのざまでは、そう言われても仕方ない」
H大将「妖精が見える人間を……それが子供であっても戦争の世界に引きずり込むことに、何の疑問も持たなくなっているのは危機的状況だ」
H大将「事情を聴いて『じゃあ仕方ない』ではいかん。俺も含めて、すべての海軍の人間は、一度頭を冷やす必要があるな」
大井「H提督……」
831 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:30:19.73 ID:Ct+GoMMRo
北上「そんじゃ、冷やすためにもアイスでも買ってきますかねえ。あ○きバーでいい?」
H大将「止准尉のような若者が食べるとは思えん。ハー○ンダッツを買ってこい、俺は抹茶で頼む。保冷バッグも持っていけよ」イチマンエンサシダシ
北上「おお〜、マジで? いいんですか?」
大井「提督? ご自身が食べたいからと、そうやって人を巻き込んで無駄遣いするのはどうかと思いますが?」ジトメ
H大将「! ……」
大井「提督?」
H大将「……ああ、すまん。間宮のほうが良かったか」
大井「そ、そうではなくて! なにか、気まずそうにしてましたけど、大丈夫ですか?」
H大将「大丈夫だ」
山城「私はあ○きバーのほうが良かったんだけど……不幸だわ」
北上「んじゃ、一番奥底の特別固いの選んで買ってくるねえ」タタッ
山城「……」
H大将(大井の言い方がいよいよ亡き妻に似て聞こえてきたな……やれやれ、俺も焼きが回り始めたか?)
* * *
* *
*
832 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:31:04.49 ID:Ct+GoMMRo
* 神殿内 *
(篝火が灯る神殿内の廊下を歩く提督たち3人)
リ級「便利ダナ、コノ能力ハ。制約ガアルトハイエ、ドンナ遠距離デモ、歩ケル距離ニデキルノハ、スゴイゾ」
不知火「はい。神殿の中を歩くことにはなりますが、この程度の広さなら苦になりませんからね」
提督「とっとと帰って組織の場所を確認するか。確実にするためにも偵察部隊を組まないとな……」
リ級「ソレ、ドコナンダ?」
提督「日本の横浜だ。時雨が言ってた場所と、止准尉の記憶の場所がほぼ一致してる。おそらくそこが『当たり』だ」
不知火「場所は特定できたということですか」
提督「まあな。確か、海から侵入できるところもあるらしい。潜水艦たちに探ってもらって……ん? なんだ?」
不知火「司令? どうなさいました?」
<ギャアアァ…
不知火「!」
ニコ「やあ魔神様、戻ってきたんだね」スッ
リ級「ウワ!?」ビクッ
提督「……また神殿に侵入者か? こっちも騒がしいな」
ニコ「うん。でも大丈夫、メディウムのみんなで撃退したから、安心していいよ」
833 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:31:49.49 ID:Ct+GoMMRo
リ級「ソレヨリ、イキナリ現レルナ……ビックリシタ」
不知火「ニコさん、侵入者というのは?」
ニコ「この神殿が、魔神様の魂を封印した場所だってことは、以前魔神様が説明してくれたと思うんだけど」
ニコ「その魔神様を復活させるために、ぼくたちは近隣の人間を結構殺しちゃったんだよね」
リ級「……ソノ仕返シ、カ?」
ニコ「ぼくたちが殺して行方不明になった人間がどこに行ったのか、その調査のために、人間たちがこの神殿に入り込んできてるんだ」
ニコ「その人間たちを逐一退治していたら、本腰を入れてきたって感じかな?」
ニコ「もともと魔神様は、一千年以上も前から、人間どもから排斥されてきたから、仕返し以前の話ではあるけどね」
リ級「ソンナニカ……」
メラッ
リ級「! オイ、後ロヲ見ロ!」
提督「後ろ?」
血まみれの男性?「おのれ、魔神の使徒め……! 神の裁きを受けるがいい!」
不知火「人、ですか……!?」
リ級「アイツノ杖ノ先カラ、火ガ出テルゾ!?」
834 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:32:34.49 ID:Ct+GoMMRo
ニコ「あの魔術師、まだ生きていたんだ……!」
不知火「魔術師……!?」
ギルティランス<ズガシャーン!
魔術師「ぎゃああ!?」ザクザクザクッ
スプリングフロア<ズパーン!
魔術師「ひいいい!?」フットビ
トゥームストーン<ヒューー…ドズゥゥン!
魔術師「」
不知火「……」タラリ
リ級「……コレハ、死ンダナ」タラリ
ニコ「うん。今回は殺せたけど、今の魔術師はテレポートを使うから油断できなくてね。罠をすり抜けてくる暗殺者もいるし」
リ級「テレポート? エ、ナニソレ、コッチノ人間オカシクナイ?」
不知火「ニコさんは普段鎮守府に姿を見せていませんでしたが、それは、神殿への侵入者を撃退するためにこちらにいたということですか」
ニコ「頻度は高くないけど、そうだね。艦娘や深海棲艦のみんなにも手伝ってもらえば、もっと簡単に退治できるかもしれないけど……」
ニコ「こちらの世界のトラブルを、そっちに持ち込むのはあまり良くないかな、って思ってるんだ」
ニコ「万が一にも、そちらの世界にこちらの人間を連れ込むわけにはいかないから。あのエフェメラみたいにね」
835 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:33:19.35 ID:Ct+GoMMRo
不知火「ニコさんが門番の代わりにもなっている、ということでしょうか。司令、不知火たちは何かできますでしょうか」
提督「手伝えるとは思うが、こっちには海がねえみたいなんだよ。神殿が山の中で、あってもせいぜい湖沼って程度の水場なんだ」
リ級「ソレダト、私タチハ全力ガ出セナイナ。半陸上型ノ姫様ナラ、多少話ハ違ウケド」
提督「……なあニコ、あのエフェメラって、人間の俺が生まれる以前から、向こうの世界にいたんだよな?」
ニコ「うん。もしかしたら、ここの神殿の扉みたいな場所が、島の鎮守府以外のどこかにも現れてるのかもしれないね」
リ級「ソッチノ世界ノ人間ガ、ソノ扉ヲ使ッテ、攻メテクル可能性ハナイノカ?」
ニコ「ないとは言えないけど……それは余程でない限りできないと思う。この扉を開くための条件も多いし、なにより魔神様の力が必要なんだ」
ニコ「この世界で最も信者の多いアルス教徒たちは、魔神に関係あるものは全部消滅させようとしていたほどだったから」
ニコ「魔神様の力を使おうとした時点で、魔神様を敵視している教会に弾劾されて、裁判にかけられ処罰されるだろうね」
ニコ「もっとも、その解釈自体を自分の都合のいいように言い換えて、魔神様の力を利用する輩もいるだろうから、油断はできないけど……」
ニコ「ぼくが魔神様を復活させるのに苦労したように、今の人間たちが持つ情報から、魔神様の力で扉を作ることは相当難しいはずだよ」
ニコ「もうひとつ懸念があるとしたら、倒したエフェメラの開いた扉を、人間たちが再利用しないかどうか、だけど」
ニコ「エフェメラが倒れたことで魔力の供給が断たれているはず。希望的観測ではあるけど、再利用は難しいと思うよ」
不知火「扉を開くのは難しい、と仰いましたが、ニコさんは比較的自由に扉を開けていますね?」
不知火「司令も同じことができるようになっていて驚いたのですが」
836 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:34:19.46 ID:Ct+GoMMRo
ニコ「一度開いてしまえばあとは割と自由が利くんだ。それに、魔神様との魔力のリンクも済ませてる」
ニコ「だから、魔神様が神殿内やぼくのいるところに扉を開くこともできるし、ぼくも魔神様のいるところに瞬時に現れることができるんだ」
不知火「なるほど……」
リ級「……」
提督「ん? どうかしたか?」
リ級「……コッチノ世界ハ大変ダナ。話シ合イニ応ジル人間ガイル分ダケ、私タチノ世界ノホウガ、少シマシニ思エルナ?」
ニコ「そうかもしれないね。ぼくたちの世界の人間は、どうあっても話の通じない相手だから、言うことをきくまで叩き潰すしかないんだ」
ニコ「こちらの世界の戦いは、人を滅ぼさない限り続くと思う」
提督「……」
ニコ「だからこそ、ぼくは魔神様の完全なる復活を望んでたんだ」
ニコ「……今は、そうでもないんだけれどね」ポ
リ級「ヘーエ……」ニヤニヤ
提督「お前もにやついてんじゃねえよ……ったく」アタマガリガリ
837 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:35:04.30 ID:Ct+GoMMRo
不知火「ふむ……ニコさん? ひとつ質問してよろしいでしょうか」
ニコ「なにかな?」
不知火「ニコさんたちが敵対している、アルス神教……でしたか」
不知火「もし、この神様を信じていないか、対立している人たちがいたとしたら、その人たちと友好関係が結べるものなのでしょうか?」
ニコ「それは考えづらいね。本来の魔神様は人間に慈悲を与える存在じゃない。人間は魔神様の奴隷であり、供物にすぎないんだ」
ニコ「そちら側の人間は、今の魔神様といくらか理解があるからそういう関係が成り立ってはいるけれど」
ニコ「ぼくたちの世界の人間が、そう言い伝えられている魔神様と理解しあえるか、と言う問題が大きいし」
ニコ「なにより、魔神様がどうお考えかが大事なんだ」
ニコ「魔神様が気に入らないと感じたなら、ぼくたちは何の容赦もなく人間を屠るよ。ぼくたちにとっては魔神様が絶対だからね」
不知火「なるほど。司令のお考え次第、ということですか」
提督「まあとにかく、俺はこっちの世界だって気にしてないわけじゃない。つうか、この神殿がニコたちにとって大事な場所なんだろ?」
提督「お前たちが気に入らない相手なら、俺にとっても敵だ」
ニコ「魔神様……!」
提督「だから、ニコも遠慮なく俺を呼べ。艦娘や深海棲艦だって協力はしてくれるだろうさ」
ニコ「……うん、ありがとう。魔神様は優しいね」フフッ
ソニア「もー、ニコちゃんばっかりおしゃべりしてずるーい! 魔神様っ、こうやって働いてる私たちのことも、褒めてほしいなあ〜」ニュッ
ニコ「うわっ!? スプリ……じゃなくて、ソニアっ!?」
838 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:35:49.41 ID:Ct+GoMMRo
提督「おう、実働部隊もご苦労さん。ソニアだけじゃねえよな? 食堂でお茶にするでもいいし、各々しっかり休んでくれ」ナデナデ
ソニア「えへへぇ〜」ナデラレ
コーネリア「しっかり休め、か……それじゃ、次に備えてそうさせてもらうか。戦いで一番重要なのは、備えだからな」
マルヤッタ「わたしもゆっくり休ませてもらうじょ……ふわぁ」
提督「とりあえず、もう敵はいないんだよな?」
ニコ「うん、さっきのが最後だね。ぼくはみんなを呼んで休んでもらうよう伝えるよ。魔神様は鎮守府に行くのかな?」
提督「ああ。艦娘たちで実験してる組織の場所が分かったんでな」
ニコ「ということは、いよいよ決戦だね」
提督「……まあ、そうなんだがな」ウーン
ニコ「?」
839 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/03/02(日) 20:36:39.78 ID:Ct+GoMMRo
と言うわけで今回はここまで。
進めようとしていたルートから若干外れて、お話が作り直しになっております。
840 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2025/05/16(金) 11:27:17.67 ID:kWxusoSdO
保守
841 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2025/06/08(日) 01:55:11.73 ID:TtQZkrzqO
保 守
842 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:33:48.47 ID:pU/6M1Kuo
やっと書けた……と言いつつもまだ迷走中ですが、まずはまとまったところまで。
続きです。
843 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:34:30.72 ID:pU/6M1Kuo
* 翌朝 *
* 墓場島沖 海軍巡視船 搭乗口 *
五十鈴「あら、来たわね提督。待ってたわ」
提督「……ん? お前、もしかして」
五十鈴「ふふっ、お久し振り。ちゃーんと、気付いてくれたのね」
榛名「? どういう意味で……あら? あなたは……」
提督「榛名も気付いたか。この五十鈴、神通たちと一緒にF提督のところに行った五十鈴だ」
那珂「っていうことは、F提督さんが来てるの?」
五十鈴「ええ、神通も一緒にね。利根さんと筑摩さんは鎮守府でお留守番だけど」
提督「X大佐に組織のことについて話したいって伝えたとなれば、F提督を連れてくるのも自然な流れか」
榛名「……少し、緊張しますね」
那珂「大丈夫だよー、私たちが悪いことをしたわけじゃないんだから!」
提督「……やっぱり、奴らのことを思い出すのは嫌か?」
榛名「はい……そう、ですね。榛名は……怖いんだと思います」ウツムキ
那珂「榛名ちゃん……」
844 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:35:16.45 ID:pU/6M1Kuo
提督「勝手にいなくなってくれそうな相手じゃねえからな。向き合う必要があるとはいえ、気分が悪くなるようなら無理しなくていいぞ」
榛名「……いえ。ここで目を背けたままでは、彼らの跋扈を止めることはできないでしょう」
榛名「それに、榛名がこのままでは、榛名たちと同道して沈んでいった皆さんに申し訳が立ちません……!」
那珂「……」
提督「そうか。それなら、俺たちでけりをつけてやらねえとな。さ、行くか」
五十鈴「案内するわね。F提督とX大佐が待ってるわ」
* 海軍巡視船内 会議室 *
神通「提督、お久し振りです」ペコリ
F提督「ご無沙汰しております」ペコリ
提督「よう、元気か? F提督はだいぶ顔色も良さそうだな」
F提督「はい。提督が神通を連れて来てくれたおかげです」
神通「F提督!?」セキメン
X大佐「よく来たね、提督。昨日は僕も舞鶴に向かってたのに、入れ違いになってね。立ち会えなかったのが残念だよ」
提督「ん? そうだったのか? なら、あわてて帰らなきゃ良かったか……?」
川内「そうでもないと思うよ。この話には、F提督に来てもらう必要もあったはずだしさ!」
845 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:36:00.92 ID:pU/6M1Kuo
榛名「X大佐は川内さんも連れて来て下さってたんですね」
那珂「うわー、川内ちゃんも神通ちゃんも、ひっさしぶりー!」ワーイ!
川内「那珂も元気そうだね。こうやって3人が揃うのって久し振りだね!」
神通「もう、姉さんはいつも夜戦に行ってて、日中に顔を合わせることも少なかったじゃありませんか」
川内「あはは、それもそうだね! でも、最近は夜戦ばかりじゃないよ? ちゃんと出撃する時間はみんなに合わせてるから」
川内「みんなと一緒にいる時間も大事にしないと、ってね」
神通「姉さん……!」
那珂「川内ちゃん……!」
川内「まあ、私よりもさ、神通こそ、いまは一番大事な人と一緒にいることができてるわけじゃない?」
神通「えっ」セキメン
那珂「あ、そーだねー、神通ちゃんのコイバナ、那珂ちゃんも聞いてみたいなぁ〜」
神通「ふえっ!? そ、それは、その……」シドロモドロ
川内「那珂、違うよ。神通の場合はもうコイバナって段階はもう過ぎてると思うんだけど」
神通「姉さん!?」
那珂「あー、そっかぁ、もう指輪しちゃってるもんね〜。恋って呼べるところはもう通り過ぎちゃったかな〜?」
神通「那珂までっ!? も、もうっ、からかわないで……!」ミミマデマッカ
846 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:36:47.94 ID:pU/6M1Kuo
提督「……良かれと思って移籍させたが、3人バラバラになっちまったのは、やっぱり良くなかったか?」
X大佐「そんなことはないと思うよ。かつての繋がりもあったんだし、収まるところに収まったんじゃないかな」
F提督「ええ、各々事情がありますから。特に、個人的にですが、この件に関しては本当に感謝しております」
X大佐「川内もそうだよ。ずっと暁や響が心配だったんだし、止提督の元を離れてからは、かつての仲間と連絡も取れてなかったそうだからね」
提督「なんでそういう情報が……あ、止提督か。確かにあいつじゃ余所に情報流すの止めてそうだな」
X大佐「さて、僕の秘書艦の祥鳳が戻ってきたら、話を始めよう。すぐ戻るはずだ」
扉<コンコン
F提督「! 丁度戻られたようですね。どうぞ」
祥鳳「失礼いたします、大変お待たせいたしました」チャッ
X大佐「よし、それじゃ早速、艦娘で実験しているという、くだんの『組織』についての情報交換会を始めよう……!」
提督「この場は俺たちだけなのか?」
X大佐「うん。中将閣下や与少将殿は本営で会議中。H大将殿も今は呉に行ってるらしいね」
X大佐「ここは自由に動ける僕たちが、情報をまとめようと思うんだ」
提督「ん? 五十鈴もこの話に参加するのか?」
五十鈴「あら、ご不満? 私からも話しておきたいことがあるんだけど」
提督「お前も関係してんのかよ。そういうことなら早速話してもらいたいんだが、いいか?」
847 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:37:30.88 ID:pU/6M1Kuo
X大佐「それじゃ、最初に話してもらおうか」
五十鈴「ええ。最初に、私が提督のところにお世話になる以前は、利提督の鎮守府に所属していたことは覚えてるわよね?」
那珂「えっと、その利提督って、テレビに出るようになってからお金遣いが荒くなっちゃった人、だっけ?」
五十鈴「そうそう。それで個人的な借金が嵩んで逃げちゃったらしくて。それが原因で鎮守府が混乱に陥って、機能不全になったんだけど」
五十鈴「その利提督の鎮守府にいた、他の艦娘と連絡が全然取れなくなっちゃってるの」
提督「……借金のかたに身売りでもされたか?」
五十鈴「それに近いことが起こってたみたいなのよ」
提督「マジかよ……冗談で言ったのに笑えねえな、くそが」
五十鈴「正確には、鎮守府がなくなる前に引き抜かれて移籍した艦娘たちとは連絡が取れてるんだけど」
五十鈴「最後まで鎮守府に残ってた艦娘たちと連絡が取れなくなってるの。正式な解体手続きも残ってないみたい」
提督「海軍が接収したんじゃねえのか? そもそも艦娘は海軍の備品扱いなんだから、個人の借金取りが勝手に連れ出していい話じゃねえよな」
F提督「はい。多くの場合は、新しく配属された司令官および鎮守府のもとへ着任するようになっていますし」
F提督「そもそも鎮守府の機能が止まることを防ぐためにも、艦娘はそのままで司令官だけ変わるようにするのが基本方針です」
F提督「しかし、今回の五十鈴がいた利提督の艦娘たちは、そうされたようではないらしく……」
F提督「他にも同様に、提督の不祥事によって取り上げられた艦娘が、そのままどこかへと消えているようなのです」
848 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:38:16.35 ID:pU/6M1Kuo
提督「解体されてるわけじゃねえのか?」
F提督「であれば資材に変動があるはずですが、そういうわけでもなく」
F提督「轟沈の記録も残っていませんので、艦娘を艦娘のまま、どこかへ連れ去られているとしか考えられないんです」
提督「……まさか、例の『組織』に連れてかれてるとかじゃねえだろうな?」
F提督「私は、そうである可能性が高いと見ています」
提督「……で、実験台にされてる、ってか?」
F提督「おそらくは。そういう意図がなければ、その組織が艦娘を欲することもないでしょうから」
提督「まあ、そうだよな。最悪を考えりゃそうもなるか」
X大佐「提督。君は、昨日H大将やR提督と一緒に、組織の関係者を捕まえたんだったね」
提督「ああ」
X大佐「そして、その場にいた止提督から、組織の情報を得た……」
提督「ああ。そうだ」
X大佐「提督。君は、やはり彼らを襲撃するつもりでいるのかい?」
提督「……」
那珂「あれっ、どうしたの?」
849 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:39:01.02 ID:pU/6M1Kuo
榛名「提督?」
神通「提督、もしや……」
提督「いや、まあ……俺も奴らのことは物理的に潰そうと思ってたんだけどよ。それをやろうと思うと不都合が多くてな……」
那珂「やめちゃうの? 提督さん、常々物騒なこと言ってたよね?」
F提督「理由を伺ってもよろしいですか?」
提督「……仮にだ。連中の拠点に攻め込むとした場合、俺たちが予告してからだと返り討ちに遭うだろう。なんせ舞台が日本国内だからな」
提督「いくら俺たちに大義名分があったとしても、深海棲艦の軍勢が日本で暴れてるのを海軍が指をくわえて見過ごすわけにはいかねえはずだ」
提督「逆に、事前に断りを入れず、不意打ちで叩き潰すとなると……」
提督「気に入らないものは断りなく問答無用で叩き潰していい、っていう、曽大佐の理屈を正当化しちまうことになる」
榛名「なるほど……私たちが組織を武力制圧したのなら、逆に私たちの島を武力制圧されても文句は言えない、と」
提督「ああ。俺たちはこれまでさんざん、話し合いをしたい、と海軍に言ってきたんだ」
提督「話し合いは信用が大事になる。となると、人間の味方を作らないうちに連中を力で潰そうとするのは下策だとしか思えねえ」
五十鈴「そうね。やればきっとやり返されるだろうし、復讐の連鎖になることは避けたいわね」
提督「あとは……あいつらを攻撃する場合、組織を攻撃した理由を訊かれることになると思うんだが」
提督「実際に組織に関わったことがあるのは、俺たちの中では那珂と榛名だけなんだよな」
850 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:39:46.12 ID:pU/6M1Kuo
提督「だから、攻撃した理由を説明するとなると、お前たちに矢面に立ってもらわなきゃならねえんじゃねえか? って思っててなあ……」
那珂「!」
提督「そこにマスコミなんかが関わった日には、無神経に根掘り葉掘り訊かれるのが目に見えてる」
提督「あいつらのやったことがくそすぎてな。那珂たちに思い出させたくないんだよ」
榛名「提督……!」
提督「そういう理由も加味すると、もう手を出すのはやめといたほうがいいとしか思えねえんだよな。くっそ納得いかねえけどよ」
川内「ってことは、かたき討ちを諦める、ってこと?」
提督「んー……それもちょっと違うんだよな。俺がやりたいのは、俺や島にいる艦娘たち、深海棲艦たちの不安を取り除くことだ」
提督「あいつらがまたことを起こさないように、再発しないように連中をぶっ潰すのは、不安を取り除くための手段のひとつであって、目的じゃない」
提督「組織を俺たちの手でぶっ潰さなくても、海軍がその組織を解散させられれば当面の目的が達成できるわけだしな」
提督「おまえの言うかたき討ちも、どっちかっつうと生きてる側が無念を晴らすための口実だろ?」
川内「うーん……そうかな?」
提督「実際に沈んだ艦娘たちに『かたきを討って欲しい』って訴えられたんなら少しは考えるが、そんなことは頼まれたこともないし」
提督「もし死んだ連中から、俺たちに対して沈めとか恨み言吐かれたら、それに従うか?」
川内「それは嫌だね」
提督「だろ? 結局は生きてるほうの自己都合なんだよ。俺が恨みを晴らすのは、この場合は控えないとまずい」
851 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:40:31.62 ID:pU/6M1Kuo
提督「ま、最近は沈んだ艦娘が黄泉返ってくることもあるし、そいつらが何らかの望みを持ってるなら可能な範囲で叶えてやりたいけどな」
F提督「よみがえ……!?」
川内「ああ、あの時雨みたいに?」
神通「早霜さんや別の利根さん、川内姉さんもそうですね」
川内「えっ? 私、沈んでないよ?」
提督「いや、お前じゃなくて、お前に取り憑いてた川内の幽霊がいただろ。あいつが海で見つかったんだよ、ちゃんとした艦娘として」
川内「……ああ、あの! 一緒に夜、特訓してた!」
五十鈴「ちょ、ちょっと、そんなことがあったの……?」
提督「ああ。だいぶ昔だけど、夜戦したい川内の幽霊が、この川内に取り憑いててよ。雲龍に頼んで、お祓いして追い払ってもらったんだ」
川内「えー? そうだったの!? 早く言ってよ!」
五十鈴「どうやって戻ってきたのかしら……」
提督「そこはわからねえが、そのくらい執念つうか執着心があったんだろ。それに、あのときは女神妖精の力もあったからな」
五十鈴「それで艦娘になって帰ってきた、って考えられるわけね……」
祥鳳「……あの、X提督、先ほどから信じられないような話ばかり聞かされている気がするんですが」
X大佐「そうだね……けど、黙って聞くことにしよう。彼らがこの場で嘘を言うようなことはないだろうから」
祥鳳「は、はい」
852 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:41:16.04 ID:pU/6M1Kuo
提督「話がそれたが、あの組織を力づくでどうにかするとなると、どうやっても俺たちに都合が悪い」
提督「かといって見過ごすかと言われれば、それも許容できねえ理由もある」
那珂「あっ、この前話してた、深海棲艦のみんなが誘拐されないか、って話だね!」
F提督「誘拐? あの島の、深海棲艦をですか……?」
提督「そうだ。あの組織にとっては深海棲艦も研究材料だ。あの組織は、艦娘同様に深海棲艦も捕まえて、解析なり解剖なりしてるらしい」
提督「何よりあいつらが作ってる深海棲艦製の弾丸が、1発につき1体の深海棲艦を材料にしてるって話だからな」
提督「実用化する気なら1体2体捕まえただけで済むはずがねえ。何千、何万単位での捕獲を目論んでるはずだ」
提督「野良の深海棲艦を捕まえてたら効率が悪いが、俺たちの島みたいに深海棲艦の住処がわかってるなら、帰りを待ち伏せることもできる」
提督「俺たちも島の領海内だけで生活が回せるほど豊かじゃない。外洋へ漁もするし遠征もする。その帰りを襲われたら防ぎきれねえ」
F提督「なるほど……」
提督「当然、島にはか弱い駆逐艦もいるし、逆に鬼級姫級であっても、珍しさから研究材料として持ち帰りたいと思ってる奴がいるはずだ」
提督「曽大佐の鎮守府の一件で脅しはしたが、それでもあいつらが粗相をしないとは言い切れねえ」
X大佐「……」
提督「俺は今でも連中を潰すのが一番だと思っているが、それが出来ないとなれば、それ以外の方法で連中の活動を縛る必要がある」
提督「そういうわけで、だ。この件については、組織の壊滅に頭が偏ってる俺が考えるより……」
853 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:42:01.13 ID:pU/6M1Kuo
提督「内情を知るX大佐たちのほうが、効果的な案を出してくれるんじゃないかと勝手に思ってるんだが、どうだ?」
X大佐「それはつまり、僕たちを頼ってくれるわけだね」
提督「ああ、頼りにしてるぜ。特にあんたは、何度突っぱねても俺たちにお節介を焼いてきた、筋金入りのお人好しだからな」
X大佐「……」フフッ
提督「この戦争はきっと、人間か深海棲艦のどちらかが滅ばない限りなくならねえ。お互いの存在が、どうやっても相容れないからな」
X大佐「……」
F提督「……」
提督「けど、決定的な深い溝ができたわけじゃねえ。長期間戦い続けて、決定的に断絶したわけじゃねえ」
提督「今はまだ話が出来る。まだ、溝を埋められる段階だ。あんたたちは、その溝を超える橋を作ろうとしてる。そうなんだろ?」
X大佐「そうだね……!」
F提督「はい……!」
提督「俺としても、今のうちに、逃げ道っつうか、会話ができる道も作っておいた方がいいと思うんだ。いがみ合い続けるのも疲れるからな」
神通「提督……」
提督「ただまあ俺も、今回みたいに気にくわねえことがあると、その時の感情で突っ走っちまうからなあ……そこはどうにもよくねえな」
榛名「それは無理もないことです。それだけ、提督は私たちのことを心配なさってくださっていますから」
那珂「ちょっと心配し過ぎなところもあって、私たちが心配になることもあるけどね!」
854 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:42:46.00 ID:pU/6M1Kuo
神通「ご自身の身を軽視し過ぎているところは、皆さん気にしておいで、ですよね」
川内「提督の自己肯定感が低すぎるのが良くないんだよー」
五十鈴「ちょっと提督、好き放題言われてるけど?」
提督「事実だろ?」
五十鈴「反論も面倒臭い、ってこと? もう……提督って、そういう人よね」
提督「まあ、俺のことはさておいてだ。海軍で、そういう連中を抑えつけられる、抑止力になりそうななにかはねえもんか?」
提督「あの手の組織は、叩き潰してもまたどこからか復活するだろうしよ。奴らの上を取って監視し続けて抑えつけておきたいな」
F提督「そうですね……我々が組織の蛮行を辞めさせるよう説得するにしても、その仕切っている人物が分からない事には……」
提督「呉の祢大将とか、H大将にもかまをかけたが、知らねえみたいだったしな……」ウーン
X大佐「F提督は、身を潜めている間にいろいろ調査していたんだよね」
F提督「はい。私共が調べた結果では、J少将の配下であるK大佐が、組織に指示を出していたようです」
F提督「もっとも、そのK大佐の行動も、墓場島の襲撃の数日前にわかったことなので、これ以上の情報がなく……」
提督「それ言われると申し訳ねえな。関わってそうな人間はほぼ全員、俺たちがぶっ殺しちまったからなあ」ウーン
提督「大佐だろ、そいつらの部下5人全員だろ、Z提督に、J少将、K大佐……そいつらの部下もまとめて火山の噴火で焼け死んだし」
X大佐「あの騒動の中では、僕たち以外の生き残りもいるけれど、彼らが何か知っているかと言われると、わからないね」
提督「下っ端だとなおのこと大したことは知らねえだろうな。昨日、舞鶴で捕まえた不審者も、ほとんど情報持ってなかったしよ」
855 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:43:46.03 ID:pU/6M1Kuo
提督「ただ、ああやって鎮守府に誰かを侵入させたりできてる辺り、まだ海軍と仲良しな感じがするんだよな、あの組織」
F提督「仲良し……ですか」
提督「だと思うけどなあ。あいつらの立場になって考えると、海軍と敵対する事態は避けたいはずなんだ」
提督「艦娘や深海棲艦の引き渡しや情報提供は、海軍と協力関係にあってこそ得られる。その恩恵は得続けたいはずだ」
提督「もっとも、組織が海軍より力を得ているんなら、そうはならないが……」
F提督「私が知る海軍ならば、力関係の逆手には起こらないと思いますが」
提督「ん? そうなのか?」
F提督「はい。そもそも最初に艦娘と邂逅したとき、艦娘から海軍を組織して欲しい、と話があったそうなのです」
F提督「当時も海上自衛隊や海上保安庁と言った組織がありましたが、彼女たちは軍制を望んでいたため、日本でも海軍が復活したのです」
F提督「そうまでして設立された海軍が、自分たちの断りもなしに組織が艦娘の調査をしようものなら……」
F提督「海軍こそが組織を潰しにかかるものだと私は思っています」
提督「無駄にプライドはあるんだな……ん? その理屈だと、俺も潰されるのか?」
F提督「いいえ、提督の場合は例外ですね。深海棲艦と友好関係を結べている超重要人物ですから」
提督「例外ねえ……」
F提督「打算的な部分も多いですがね。あなたのもとに艦娘がいたほうが、海軍としても話しやすいだろう、という声もありますし」
F提督「提督のもとにいる艦娘の多くが轟沈を経験しているため、引き取りを不安視する者が多いのも事実です」
856 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:44:31.28 ID:pU/6M1Kuo
F提督「また、無理を言ってあなたの怒りを買いたくない、といった声もあります。あの曽大佐にやった脅しのおかげですね」
提督「そうかい……いいけどよ」
神通「……それから、あくまで建前上の話なのですが」
神通「一部の海軍将校は、提督から艦娘を取り上げないことを『恩赦した』ということにしておきたいようです」
提督「はあ? なんでそこで上から目線なんだよ、くそが」
神通「海軍の対外的な見栄でしょう。提督に対しても素直に頭を下げたくないと言う感情もあるでしょうけれど」
提督「へっ、舐められたくねえってか」
神通「それから、提督に貸しを作っておきたい意図があるようにも思えます」
提督「貸しねえ……あいつら、俺が海軍のやばい情報握ってるの、わかってねえのかよ」
提督「まあいいや。ところで、F提督としちゃあどうなんだ? あの組織の連中の存在を、あんたは許しておけるか?」
F提督「私ですか? そうですね、正直に言えば……許すとは言いづらいですね」ウーン
F提督「結果的に彼らではなかったにせよ、似た思惑を持った者たちに仲間を殺され、私自身も殺されかけたわけですから」
F提督「神通とも離れ離れになって、寂しい思いをさせましたからね。そのことを恨んでいないと言えば嘘になります」
F提督「それに、組織が存続しているならば、また海軍や艦娘、深海棲艦の誰かが犠牲になる危険性は否めません」
F提督「あとは、あなたが彼らを不愉快に思っているように、深海棲艦たちもまた、そう思っているのではないのでしょうか?」
F提督「その彼らが組織として存続したままですと、深海棲艦たちと友好関係を結べないのではないかという点は危惧しています」
857 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:45:15.68 ID:pU/6M1Kuo
F提督「以上から、放置して良い相手だとは思っていない、という点では同意見です」
提督「……」
F提督「ですが、もし……もしも、彼らの活動が節度あるものになるというのなら……そこまで強くは言えなくなるかもしれませんね」
F提督「組織が良い方に改まるのであれば、それ以上責めるのはかえって印象が悪くなるでしょうし」
提督「ま、そうもなるか」
川内「……」
那珂「……」
X大佐「……提督、その件で僕からひとつ提案がある。海軍でも、舞鶴と同じことをしてみないか?」
提督「なに?」
X大佐「まもなく、横須賀で各地の大将殿が一堂に会する機会がある。そこに君も参加してみないかい?」
F提督「X大佐殿!?」
提督「……」
X大佐「君は舞鶴で、組織に関わった人間を、魔神の力を使って追い詰めたそうだね? そして無言の止提督からも話を聞き出した」
X大佐「君がどうやって不審者を追い詰めたか、止提督から話を聞き出したかは、正直よく理解できなかったけど……」
X大佐「もしそこが海軍将校の集まる会議室だったとしても、同じことはできるんだよね?」
提督「お前……」
858 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:46:00.85 ID:pU/6M1Kuo
X大佐「僕も、かの組織のことは、あってはならない存在であると思っている」
X大佐「深海棲艦と言う脅威に、戦う術のない僕たち人類は、戦いのほぼすべてを艦娘に委ねている状況だ」
X大佐「いくら彼女たちが深海棲艦と戦う使命を帯びているからと言って、僕たち人類が彼女たちをいいように使う現状は……」
X大佐「僕は、あまりに『いびつ』だと思っている」
提督「……」
祥鳳「……」
X大佐「確かに、彼女たちは、建造と称して燃料や弾薬を投入して作り出すこともできれば、解体して資材にしてしまうこともできる」
X大佐「艦娘は人間ではないのだろう。でも、そうであっても……彼女たちは自分の意志を持ち、人類のために戦ってくれている」
X大佐「僕は、彼女たちに誠意をもって接したいと思っている」
X大佐「だから、彼らが研究を続けている事実を、僕は黙って見過ごすことはできない。これが人であったら、誰しも見過ごすことができないように」
X大佐「海軍が艦娘を使役するというのなら、海軍はちゃんと艦娘と向き合わなければならないんだ……!」
提督「……」
X大佐「これ以上ない本音で言えば、君の力を使って海軍にいる馬鹿な考えを持つ者を、僕はどうにかして糾弾したいと思っている」
祥鳳「X提督……」
X大佐「さらに言えば、その頭が海軍の中にいるかどうかも疑いたい。軍の外から……政界や財界のフィクサーが関わってる可能性もある」
F提督「……」
859 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:46:45.90 ID:pU/6M1Kuo
提督「あんたが俺たちを誘い込んだと知れたら、そういう連中から命を狙われることになるかもしれねえぞ?」
X大佐「構わないよ、僕は君たちにばかり憎まれ役を押し付けている。本来なら、僕たちこそ覚悟を決めなければならないんだ」
提督「そこまで覚悟決めてんのかよ……参ったな。あんたには、こっち側に染まって欲しくねえんだがなあ」
X大佐「こっち側、ってどういう意味だい? 悪者になって欲しくないというのなら、僕だって海軍の中では異端者だよ」
提督「そうか? いまの海軍は、状況的に討伐派と和解派が7:3か6:4くらいだろ? 別に異端とまではいかねえんじゃねえの」
提督「それに、あんたも和解を望んでいるとはいえ、定期的な深海棲艦の邀撃自体はやってんだろ?」
提督「立場上は『人類』の味方だろうだからな。それを悪者とは呼ばねえよ。なあ祥鳳、お前もそう思わねえか?」
祥鳳「えっ!? そ、そう、ですね……X提督は、常日頃から、海の平和のため、人の世の平和のために働いてらっしゃいます」
祥鳳「私たちのことも心配してくださっていますし、その、お優しい方ですので……」
提督「だよな。必要以上に自分を追い詰める必要がねえのは、あんたもじゃねえか? むしろあんたは素直なまんまのほうがいいと思うぜ?」
X大佐「……僕に猫を被っていろと?」
提督「まあ、そうだな。ぶっちゃけ『こっち側』には来て欲しくないっつうか、お綺麗な役を押し付けたいと思ってる」
X大佐「……」
提督「嫌なら嫌でいいが、それならそれで他に綺麗ごとをのたまうのが似合いそうな奴がいたほうがいい」
提督「よくも悪くも、荒んでない奴の意見が馬鹿どもの目を覚まさせることだってあるし」
提督「自分のしていることに疑問を持って迷ってるような人間には、耳障りの良い綺麗ごとのほうが効果的だ」
860 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:47:30.93 ID:pU/6M1Kuo
提督「こればっかりは、裏でなにかやってそうな奴が言っても説得力に欠けるからな」
X大佐「……かもしれないね」
提督「ま、それはそれとして、だ」フゥ
提督「不本意だが、俺は、組織の殲滅は諦めてる。どうやっても潰した後の言い訳が立たねえ」
提督「その代わりにどういう方法で抑え込むかは、また別に考えるが……」
提督「X大佐が提案した、海軍の将官の会合に乱入して、組織との関係者の首根っこを捕まえてやろうって案には乗っかりたいな」
X大佐「!」
提督「ただ、この話はX大佐が出所だってのは伏せておきたい。俺が発案したていで、中将へ連絡して会合に入らせてもらうか」
X大佐「ち、中将閣下に!? そ、それは駄目だ!」
提督「駄目じゃねえよ。むしろ中将も『こっち側』の人間だ」
X大佐「……!」
提督「ま、安心しな。俺も中将のことは悪者にしたくねえからよ。今後も世話になりてえし」ニヤリ
五十鈴「……不安になるから、その悪い笑顔はやめて欲しいんだけど」アタマオサエ
提督「俺は元からこんなんだぞ?」
五十鈴「知ってるわよ、もう……」カタスクメ
861 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:48:15.70 ID:pU/6M1Kuo
提督「まあいいや、とりあえず俺は中将を通してその会合に入って、黒幕を特定しようと思ってる」
提督「あわよくば、その場で組織の機能停止、もしくは何らかの方法で監視して……」
提督「これ以上悪さができないように抑えつけるところまで持っていきたいな」
F提督「なるほど……不安は残りますが、第一段階としては、良いと思います」
X大佐「……中将閣下を巻き込むのは、あまり気が進まないけれど……」
提督「それでだ。俺がこの方針の是非を問いたいのは、榛名と那珂。それから神通」
那珂「!」
提督「実際に被害を被ったお前たちが、このやり方でいいか、俺に任せてくれるかを確認したい」
榛名「提督……!」
神通「……私も、なのですか?」
提督「ああ。お前がこんな目に遭う元凶になった一端にある組織に対して、一言物申すくらいの権利はあってもいいだろ」
川内「あれ? それ、五十鈴には訊かないの?」
提督「そこは五十鈴が直接の被害を被ったわけじゃないからな。そもそも、五十鈴が島に来たのは、そこの提督のやらかしが原因だ」
提督「あ、一応断っておくが、五十鈴がいた鎮守府の艦娘の救出は難しいかもしれねえぞ。多分そこまで踏み込めねえと思う」
五十鈴「それはもう、仕方がないわよ。行方知れずになってから時間も経ってるし、生きてる保証だってないんだし」
五十鈴「それに、どうしても助けたいかって言われると……正直、そこまでの仲と言うわけでもないのよね」
862 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:49:01.23 ID:pU/6M1Kuo
五十鈴「……五十鈴だけ助かって、良かったのかしら」
榛名「……」ウツムキ
那珂「そ、それは……」
川内「それはいま言っても、仕方なくない?」
五十鈴「でも……」
F提督「……サバイバーズギルト、ですね」
提督「!」
F提督「多数の死者が出た状況で生き残った人間が、自分だけが生き残って良かったのかと悩み続ける心理のことです。私もそうでした」
神通「F提督……」
F提督「残念ですが、そういった事態に陥って、生き残った者たちにできることはそうそうありません」
F提督「自分だけが生き残った理由付けがしたいだけなんですが、だからこそ焦れてしまって、じっとしていられなくなるものです」
F提督「私も、割り切るまでにはだいぶ時間がかかりました」
五十鈴「……」
提督「たとえ不可抗力であっても、自分が悪いと思い込んで、懺悔したくて、罰して欲しくて、許されて楽になりたいってだけの話だろ?」
提督「死んだ連中を言い訳にしてな。こんなのは全部、結果論でしかねえんだ。もしかしたら手前だってどうなってたかわかんねえんだぜ」
F提督「……ええ、そうですね」
863 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:50:00.93 ID:pU/6M1Kuo
提督「まあ、だからって死んだ連中を忘れろとか、蔑ろにするつもりは、今はねえよ」
提督「経験してわかったが、仲間を喪うってのは思ったよりきついしな……俺もあの時は後先見えなくなっちまった」
提督「それでも、ずっと後ろ向いたまま歩くわけにもいかねえんだ。ちゃんと前見て歩かなきゃあ、すっ転んで怪我しちまう」
榛名「……たまに振り返って、思い出してあげればいい、でしたね」
提督「ああ……榛名にも、そう言ったんだっけな」
榛名「はい。それで榛名が沈むようなことがあっては、それこそみんなが怨霊扱いされてしまう、とも……」
提督「そうだ。死んだ連中の名誉を守りたいなら、それを理由に破滅を選ぶようなことだけはあっちゃいけねえ」
F提督「ええ。そうなっては、今いる仲間たちが悲しみます」
F提督「かつて、私が生きていることを隠すため、私の偽の葬儀をしたのですが……その時の映像記録が残っていまして」
F提督「そこで部下や艦娘が悲しんでいるさまを見るのは、なかなか……もう、そんなことはないようにしたいですね」
那珂「F提督さん……」
五十鈴「……」
提督「さて。脱線したが、榛名、那珂、神通。俺が海軍の会議に乱入して、組織の情報を握ってる奴を突き止めるとこまでは、いいか?」
榛名「そうですね……提督の身に危険が及ばなければ、私から申し上げることはございません。榛名は提督の判断にお任せします」
那珂「那珂ちゃんはその案、あまり乗り気じゃないけれど……ほかにいい方法もなさそうだし?」ウーン
那珂「断っておくけど、X大佐たちみたいにいい人たちもいるんだから、海軍の人にあんまりひどいことしちゃ駄目だからね?」
864 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:50:46.36 ID:pU/6M1Kuo
提督「刃傷沙汰にはならねえようにするさ。神通は?」
神通「……」
川内「神通……?」
神通「提督。妖精さんのことは、本当によろしいんですか?」
提督「!」
神通「あの島が燃えた時、あなたと一緒にいた女神妖精さんが、皆さんを救ったと聞いていますが……」
神通「その前にその妖精さんは一度、組織と関係していた人間の手にかかって消滅したと聞いています」
神通「それがあって、あなたは組織に激しい復讐心を抱いていたはず……この決断に至ったのは何故です?」
神通「私は、F提督のかたきを……大佐への復讐を、部分的にですが、果たすことができました」
神通「提督は、そのご自身の復讐の機会を、手放そうと言うのですか……?」
提督「……妖精に限っては、どのくらいの時間が必要かわからねえが、戻ってくる可能性もなくもないんだ」
提督「一度は消えた妖精が、俺たちを助けるために戻ってきたって実績がある。生憎、俺はその時気を失ってたけどな」
提督「俺は、それに賭けようと思ってる。その前に俺が癇癪起こして破滅して、また会う機会を失うことの方がよくねえ、って考えたんだ」
神通「……」
提督「まあ、かたきを討ちたいって気持ちもないわけじゃない。ただ、優先順位は低くなった」
提督「そう思うようになったのが、あっちの……ニコたちのいる世界のことだ」
865 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:51:46.16 ID:pU/6M1Kuo
提督「ニコたちのいる世界は、ずっと人間との戦いが続いてる。メディウムの住処である神殿にも外敵が侵入してきてるくらいだ」
提督「そっちの人間にとっては魔神は絶対悪で、討ち滅ぼすのが正義かつ当然。ニコたちにとってもそんな人間は敵でしかない」
提督「そういう状況を、こっちの世界では作りたくない。あっちとこっちで二正面作戦なんて、やってらんねえぞ? 超面倒臭え」
提督「まあ、あとは、憎悪に身を任せて人間と手を切ったら、俺たちはほぼ野生の生活を強いられることになる。それもそれでちょっとな」
提督「食い物なり趣味の道具なり、ある程度文化的な娯楽がねえと、やっぱりまた戦いに意識が向くんじゃねえかな、ってよ」
提督「言い方が悪いが、日本は外国人に甘いからな。俺たちがいろいろ要求しても、ルールさえ守ってればそれなりの取引はできるだろう」
神通「……」
提督「それから、そういう意図なら人間を支配するって選択肢もあるんだが、今時恐怖政治なんて流行らねえし」
提督「どっちにしろ武力行使はなしだ。猫被っておとなしくしてた方が楽でいい」
那珂「昨日、戻ってくる時はすっごいピリピリしてたって聞いたから、攻め込むのかなって思ってたんだけど」
提督「ゆうべ一晩、時間かけて将来のことを考えてたら、結局はこうせざるを得なかった、って感じだな」
神通「なるほど……わかりました」ウナヅキ
神通「そういうことであれば、提督も集会の席で誰かを殺めるような無茶はしないでしょう。提督に、お任せいたします」ニコッ
提督「そうか」ニッ
祥鳳「だ、大丈夫なんでしょうか……いま、ものすごく物騒な発言があった気がするんですが」
X大佐「そこは提督を信じるしかないね。彼が島のみんなを案じる限りは、変なことはしないだろうけど」
866 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:52:33.25 ID:pU/6M1Kuo
提督「さぁて、どうしてやろうかねぇ……」ニヤリ
五十鈴「だから、その悪い笑顔だけはなんとかならないの? 不安になるんだけど?」アタマカカエ
川内「ほんとにねぇ」アハハ
祥鳳「……」タラリ
F提督「と、ところで、神通が部分的にかたき討ちをした、というのは……?」
提督「ん? ああ、それはだな……俺が大佐に一度殺されたって話は聞いてるか?」
F提督「なんですって……!?」
提督「それで怒った俺の仲間が、大佐をいたぶる過程で足をぶった切ったんだと。で、そのあと大佐の身柄は泊地棲姫に引き渡したんだが」
提督「その時にちぎれた足を、軽巡棲姫の力を借りて生き返った俺が、神通たちに号令かけて撃たせたんだ」
提督「俺たちは、F提督が大佐の手下に殺されたと思ってたから、生きてる大佐を撃つ代わりに、足を撃たせてかたき討ちにしたわけだ」
F提督「大佐は、深海棲艦に引き渡したのですか……」
提督「そもそも泊地棲姫が挙兵したのも、大佐があいつの塒を襲撃したせいだ。怒らせて俺たちの島に攻めこむよう誘導しやがってよ」
提督「だから、泊地棲姫に首謀者を引き渡して、そこから休戦に応じてくれないか、って考えてたんだ」
F提督「そうでしたか。では……私は、あなたと神通にかたきを取ってもらったということですね」
提督「俺たちの自己満足だけどな。そういえば、その場には全員いたんだっけか?」
X大佐「あ、それ以上は言わなくていいよ。これ以上話を聞いたら、立場上……ね」
867 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:53:16.32 ID:pU/6M1Kuo
提督「なんだ、お堅い奴だな。その辺は適当に誤魔化せばいいじゃねえか」
那珂「もー、提督さん、X大佐さんは真面目なんだから、提督さんも真面目にしないと駄目だよー?」
那珂「さっきも提督さんが言ってたじゃない、X大佐さんは悪い方に行っちゃ駄目だって!」
那珂「そうやってX大佐さんを悪い方に引っ張り込むようなことをしてたら、さっきの提督さんのお願いと矛盾するでしょ?」メッ!
提督「んだよ……ったく、わかったよ。しょうがねえな」
X大佐「君たちの中で、僕はいいひとになるのは確定なのかい……?」
那珂「那珂ちゃんは、X大佐さんはいいひとだと思いまーす!」キョシュ!
榛名「そうですね。こうして提督を心配してくださる、素敵な方だと思います!」
提督「そもそも悪人面が似合わねえ。っつうかできねえだろ、心根が善人だから」
祥鳳「……それは確かに……」
X大佐「……」
神通「X大佐はその評価が不本意なご様子ですね」
祥鳳「なにぶん、女性にも見間違えられるほどの童顔ですので、海軍の中でも甘く見られがちなんです」
X大佐「迫力と言うかふてぶてしさというか……威厳が欲しいんだよね」ムー…
868 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:54:01.21 ID:pU/6M1Kuo
五十鈴「それじゃあ、お髭でも生やしたらどうかしら?」
祥鳳「それはいけません!」
五十鈴「えっ」
那珂「えっ」
榛名「えっ」
X大佐「えっ」
提督「……」
祥鳳「あ……い、いえ、潜水艦の皆さんが、そう言っていたので……」セキメン
X大佐「……まあ、確かにゴーヤには大反対されたけど」
提督「髭が生えてりゃいいってもんでもねえぞ? 半端に生えたり整えてない状態だと汚く見えるし」
提督「生え方が自分の想像と違ってると、それはそれで不愉快だしな」
X大佐「その言い方だと、髭を生やしたことがあるのかい?」
提督「ああ。俺の場合は、妖精たちから不評を買ったってのが一番だな。単純に顔がざらざらすんのも嫌だってのもあるけどよ」
提督「なんにせよ、その髭に見合う立場や実績がねえと、見かけ倒しと思われて侮られるのに変わりはねえぞ」
X大佐「……」ウーン
869 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/06/08(日) 20:55:15.87 ID:pU/6M1Kuo
と言うことで今回はここまで。
870 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:10:36.48 ID:so9g0Gzpo
短いですが、続きです。
871 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:11:21.79 ID:so9g0Gzpo
* 別の会議室 *
扉<コンコン ガチャ
提督「邪魔すんぞ。ここでいいのか?」
暁「あっ、司令官! ごきげんようです!」
ビスマルク「あら、提督。X提督との話は終わったの?」
提督「おう、いたか暁。で、お前は……ビスマルクだったか。あの船に大勢艦娘が集まってたとき以来か? 一緒にクイーンもいたよな?」
ビスマルク「ええ。あなたに会うのはこれが2度目かしら」
暁「司令官、お変わりないみたいね?」ニコッ
提督「ああ。お前たちも元気そうで何よりだ。で、お前の後ろにくっついてるのが……」
ヴェールヌイ「……」ギュ
提督「ヴェルニイ……? いや、響だったか?」
暁「ヴェールヌイ、よ。でも、響は、響って呼んであげたほうがいいみたい」
ヴェールヌイ「……」ペコリ
暁「再会できたのはいいんだけど、それ以来ずっとこんな感じで……」
872 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:12:06.54 ID:so9g0Gzpo
ビスマルク「行方不明の姉を探し出せたんだもの。無理もないと言えばそうよね」
提督「……まあ、徐々に慣らしてくしかねえかなあ、こういうのは。それで、暁? 俺に話があるって訊いたんだが」
暁「ええ、ちょっとごめんなさい。響、少しの間、司令官とふたりでお話しさせてくれる?」
ヴェールヌイ「……」
暁「お願い。ね?」
ヴェールヌイ「……」ジッ
提督「……」
暁「大丈夫よ。司令官は、暁が記憶を取り戻すまで、暁のことを保護してくれてたんだから」
ヴェールヌイ「……」ウツムキ
暁「ビスマルクさんと一緒に待っててくれる?」
ヴェールヌイ「……わかった」
クルッ スタスタ…
ビスマルク「それじゃ、あとは任せて頂戴。提督、暁をお願いね」クルッ タタタッ
扉<パタム
暁「……」
提督「大丈夫なのか、響は」
暁「今の状態は、大丈夫とは言えないわね。少しでも立ち直ってくれるといいんだけど」
873 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:12:51.88 ID:so9g0Gzpo
暁「それはそうと、お待たせしてごめんなさい、司令官。肝心の、聞きたいこと……なんだけど」
提督「ああ、なんだ?」
暁「正直、聞くのが怖いんだけど……」ウツムキ
提督「……」
暁「I提督の鎮守府が襲撃されたときのことなんだけど……あの襲撃があったときって、他の鎮守府との連携が滞っていたみたいなの」
暁「そうなった理由が……誰かが、I提督への支援を妨害してたから、って、聞いて……」
提督「……」
暁「それで、その妨害をしていた人が……海外の泊地へ移動中、あの島の近海で行方不明になった、って聞いて……」
暁「もしかして、それに司令官が、何か知ってるんじゃないか……関わってるんじゃないか、って」
提督「……」
暁「……ごめんなさい。そんなこと訊かれても、司令官も困るわよね」
暁「仮に暁がその真相を知ったとしても、何もできることなんかないんだし……」
提督「……暁は、何が起こっていたのかを知りたいのか?」
暁「……そう、だと思うんだけど。よく考えたら、私もどうしたいのか……わからなく、なっちゃった……」ウツムキ
提督「……」
874 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:13:37.97 ID:so9g0Gzpo
暁「暁は……」
提督「……」
暁「暁は、多分、I提督を……私たちの鎮守府をあんな風にした人たちがどうなったのか、単純に結末を知りたいんだと思う」
暁「それを知って、私は……」
提督「……」
暁「私は……安心したいんだと思うわ。I提督を苦しめた人が、いなくなったことを、確かめたいっていうか、確信したいんだと思う」
提督「そうか。ならどうして、そんなに思いつめたような顔をするんだ?」
暁「それは……だって、よくない事じゃない? 人が行方不明になって……いなくなったことを安心するなんて」
暁「良かったと思ってるのと、同じことじゃない。その人にだって家族がいるんだもの、そんなの、よくない事だと思うわ……!」フルフル
提督「そいつの家族が、悲しまなければいいのか?」
暁「……もう、司令官は意地悪だわ。そんな単純なことじゃないわ」
提督「……」
暁「……」シュン…
提督「ま、なんにせよだ。そいつらがいなくなった事実に変わりはない」
暁「それは、そう、なんだけど、ね……」
提督「……」
875 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:14:21.67 ID:so9g0Gzpo
暁「……」
提督「簡単に割り切れない、ってか。考え方がおとなになるってのも、考え物だな」
暁「……どう受け止めたらいいか、何がいいのかわからないの。悲しい事故なんだろうけれど、どうしても……」
提督「まあ、そうだな。真相なんて知れば知るほど悲しくなるだけだしな」ボソッ
暁「真相……?」
提督「ああ。どうする、暁? 俺は、お前には事の真相を知る権利があると思ってる」
提督「本当に胸糞悪い、反吐の出るような話だが……I提督の鎮守府への支援がなぜ妨害されたのか、俺はお前に話すことができる」
暁「……!」
提督「知りたいか? それとも、聞かなかったことにするか?」
暁「……嫌な、話なのね?」
提督「ああ。知ったら人を嫌いになりそうな話だ」
暁「……」
提督「……」
暁「……司令官。教えて」
提督「……」
876 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:15:06.13 ID:so9g0Gzpo
暁「知らないほうが幸せなのかもしれないけど……暁は、知らんぷりしてちゃいけない気がするの」
提督「そうか。わかった、なら耳を貸せ。あまりでかい声で話したい話じゃない」
暁「わ、わかったわ……」
*
暁「……」
提督「……」
暁「そ、そんな……そんな理由で、I提督が……」
提督「そう思えば、事故に遭ってざまあみろとも思うだろ?」
暁「ざ、さま……そういうこと言っちゃ駄目よ!」
提督「そうか? 俺はともかく、暁は当事者だ。お前がそいつに恨み言や憎まれ口を言っても、それが普通だと思うけどな」
暁「そ、そんなの……エレガントじゃないじゃない」
提督「エレガントでなくていいだろ。そもそもそいつのやってることがエレガントでもなんでもねえ」
提督「悪いことは悪い、って、びしっと言ってやるのも、大人の対応って奴じゃねえか。優しくするだけが大人じゃねえぞ」
暁「そうかもしれないけど……ねえ、その人は、海軍内とかで罰することはできなかったの?」
提督「一応、手遅れではあったが救援には出向いたこともあって、海軍からの処罰とかは特になかったみたいだな」
877 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:15:51.30 ID:so9g0Gzpo
暁「それが遅くなったのが故意だったとしても……?」
提督「金も時間もかけて救援に行った奴が、救援が遅かったからって理由で罰を与えられたんじゃ、その次から救援に行く奴がいなくなっちまう」
提督「故意かどうか確かめる術もない以上、上はそいつに罰を科すことはできなかったのさ」
暁「ああ……それもそうね」ウツムキ
提督「……なあ、暁? もう一回耳を貸せ」ヒソッ
暁「?」
提督「その船には、Q中将の話してた、I提督の両親を殺した奴も囚人として乗っててな……」ヒソヒソ
暁「え……!?」
提督「俺たちも見つけられなかったって扱いで行方不明にはしているが、あいつらは全員、俺たちメディウムが始末した」ヒソヒソ
暁「……っ!!」ガタッ
提督「……」
暁「し、しれ……っ、しれ……!」プルプル
提督「内緒だぞ」シー
暁「で、でも! それって……!」
提督「海軍の中にも、そいつらを許せない人間がいたってことさ」ヒソッ
暁「……!!」
878 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:16:37.66 ID:so9g0Gzpo
提督「法に従えば、そいつらの命は保障されるべきだろう。それを良しとしない人間がいて、人間の法の外にいる俺たちに、手を下させた」
提督「俺もQ中将の話を聞いて、少なからず共感してたからな。そいつらをメディウムに任せたのは事実だ」
暁「そう……そう、なんだ……」
提督「……」
暁「それじゃ今頃、その人たちもあのお花畑を歩いてるのかしら……」
提督「いいや、そうはなってない。メディウムの手にかかった人間たちは、あの世に行くことはできない」
暁「えっ? ど、どういうこと……?」
提督「メディウムは、殺した相手の肉体と魂を好きにできるんだ。だから、あの船に乗っていた連中が、あの花畑に行くことはない」
暁「……そう……」
提督「……悪いニュースじゃないだろう? 随分寂しそうな笑顔だな」
暁「そうね……正直に言えば、安心したわ。でも、本当なら、あの人たちもあの世に行くはずだったんでしょう?」
暁「I提督を困らせた人たちが、司令官たちのおかげで、そうなったことを……I提督のところに行けなくなったことを、私は喜んでるんだもの」
暁「それって、ひどいと思わない? 暁は、ずるいんだわ……綺麗ごとばかり言って、本当は……」メヲフセ
提督「いや、それをずるいって言うのは、ちょっと違うんじゃねえか?」
暁「で、でも……!」
879 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:17:21.48 ID:so9g0Gzpo
提督「そこは素直に安心した、で終わってりゃいいんだよ。お前だけじゃなく、お前の好きな人たちまで酷い目にあわせた奴らだぞ?」
提督「お前は自分がレディーとして高潔でありたいって思ってるようだが、いくらなんでも無理しすぎだ。そこまで高い理想は体に毒だぞ?」
暁「う……」ションボリ
提督「そうやって悩みすぎて壊れて欲しくねえんだよ、妥協だって必要なんだ。なあ、お前もそう思うだろ? 川内」ミアゲ
暁「えっ!?」
天井の通気口<ガタッ
提督「ったく、なんてところに隠れてやがる」
天井の通気口<ガパッ
川内「えへへ、見つかっちゃったかあ」モゾモゾ
暁「そ、そんなところに隠れてたの!?」
クルン ストッ!
川内「川内参上! なんちゃって。提督、いつから気付いてたの?」
提督「ビスマルクたちが出てってすぐくらいだな」
川内「えー? それじゃほぼ最初からじゃない!」
提督「こちとら侵入者を迎撃する罠を管理統括する魔神様だぞ。嫌でも気付けるんだ、見くびってもらっちゃ困る」
川内「まったくもう……まあ、それはそれでいいんだけどさ」チラッ
暁「!」
880 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:18:06.69 ID:so9g0Gzpo
川内「暁がここまで落ち込むような、I提督の救援の妨害の理由って、なにさ? ひそひそ声だから聞き取れなかったんだけど」ズイッ
提督「……」
川内「あれ? ちょっと提督、私だってあの時の当事者なんだよ? なんで黙っちゃうの!?」
提督「お前の場合は教えた後に何するかわかんねえからな。なまじ行動力あるだけに、あまり迂闊に言いたくねえ」
川内「ひっどーい! なにそれ!?」
提督「……ったく、しょうがねえ。耳貸せ、耳。いいか?」ガシッ
川内「なんて肩を掴むのさ。私、そこまで血の気多くないよ?」
提督「いいから黙って聞け。いいか、お前のいた鎮守府がああなったのは、簡単に言えば、I提督にフラれた馬鹿の逆恨みだ」ボソボソ
川内「へぇ……」ビキビキッ
暁「ピエッ」
川内「……提督。島の近海だっけ? そいつ探して殺ってくるね」ハイライトオフ
提督「っだああ! じっとしてろ! やっぱ掴んでて正解だったんじゃねえか!」オサエツケ
川内「正解じゃないよ!? 行かせてよ!」ジタバタ
提督「そいつはもう始末したんだよ……俺たちメディウムが!」ボソッ
川内「……!」
提督「天国にも地獄にも行けないようにしてやった。だからもう手出し無用だ」
川内「なぁんだ、そっか。残念。私が引導を渡したかったんだけどなぁ」
881 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:19:06.41 ID:so9g0Gzpo
提督「気持ちはわかるが我慢しな。ったく、どこが血の気が多くない、だ」
暁「本当、どうなるかと思ったわ……」ホッ…
川内「えへへ、ごめんね?」ハイライトオン
提督「まあ、川内の気持ちはわかるけどよ……むしろ、暁の反応のほうが、俺としちゃ心配だな」
川内「暁はそいつらに頭にきたりとかしてないの?」
暁「うーん、悲しいとは思ったけど……そもそも、暁はあまり怒りたくないの」
提督「怒りたくない?」
暁「ほら、司令官が以前、自暴自棄になってた時があったじゃない? あのとき暁が怒ってから、みんなに怖がられちゃって……」シュン…
提督「ああ、確かにあの時は……全員ブルッてたな」
暁「だから暁は怒らないようにしたいし、怒るのはやめたいの。みんなに怯えられるレディーなんて、良くないわ」
川内「そんなに怖かったの?」
提督「迫力はあったな。あ、興味本位で怒らせようとすんのはやめろよ?」
川内「やらないよ。今は今で、暁を怒らせるようなことをしたら、響が黙ってないだろうからね」
提督「ああ……確かに」
暁「そうね、響は心配よね。一回、お姉ちゃんらしく叱ってみようかしら……」
川内「そのほうがいいかもね。あ、叱るよりは、暁が優しく諭せば、聞いてくれそうじゃない?」
暁「優しく諭す……そうね。それが一番、暁らしいかも!」グッ
882 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:19:51.33 ID:so9g0Gzpo
川内「それにしても、I提督もひどい災難だよね。まあまあよくありそうな愛憎劇とはいえ、そんなことに巻き込まれるなんて……」
提督「こんなこと、よくあってたまるかよ。巻き込まれたお前たちだってたまったもんじゃねえだろが」
川内「それはそうだけどね……ねえ、この話、これまで誰に話したの?」
提督「うちの艦娘なら大和とかル級とか、計画に手伝ってもらった一部だな。あとはメディウムたちだ」
提督「うちの連中以外なら、お前と暁以外にはしてねえよ。響に話すかどうかは任せるぜ」
川内「そっか。じゃあ、島に近づかなきゃ、この話は広まらないってことだね」
提督「まあ、そうだな。俺たちも、こんな話はそう誰かに話すこともねえだろうし、徐々に忘れるだろうさ」
川内「ん、わかった。それにしても、提督も大変だね、やることが多くて」
提督「まあな。次から次と、休む間もねえ」
川内「あはは、でも、楽しそうだよ?」
提督「……そうか?」
川内「うん。提督の次の話し合いは海軍が相手かあ……大変だろうけど、頑張ってね」
提督「ありがとな。川内も、悪いが暁たちのことは頼んだぜ」
883 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/07/06(日) 22:21:14.72 ID:so9g0Gzpo
というわけでここまで。
この次のシーンまでは書いているけど、その続きが……。
難産続きでスレも跨ぎそう。もうしばらくお付き合いください。
884 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2025/07/07(月) 01:21:44.10 ID:VLQv44b10
舞ってるで
885 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:45:32.20 ID:Qx5bHHluo
大変お待たせしました。続きです。
886 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:46:22.89 ID:Qx5bHHluo
* 数日後 *
* 横須賀鎮守府 会議室 *
進行役「報告は以上となります。また、本日を以ちまして中将は海軍を退役し、以後は相談役として本営に非常勤となります」
パチパチパチ…
進行役「中将、一言お願いいたします」
中将「うむ……まずは、皆に御礼申し上げたい。老いぼれの儂が今日まで勤めあげられたのは、皆の協力があってこそ」
中将「この国のみならず、世界中に多大な影響と損失を与えた、深海棲艦との戦いは新たな局面を迎えている」
中将「そのさなかに戦線離脱するようで、後ろ髪引かれる思いではあるが……艦娘の指揮とはまた違う形で、皆をサポートできればと考えている」
将官「中将……!」
艦娘「後は我々にお任せください!」
中将「うむ、期待しているぞ。それで早速だが……」
将官たち「?」
中将「新しい局面を乗り切るために、ひとつ、お節介を焼かせてもらいたい」
艦娘たち「??」
887 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:47:06.34 ID:Qx5bHHluo
中将「入ってくれたまえ。彼は、これから深海棲艦と向き合うにあたり、避けては通れない重要な人物だ」
祢大将「重要な人物……?」
H大将「まさか……」
元帥「……」
扉<コンコン
赤城「失礼いたします。提督をお連れしました」
扉<チャッ
提督「よう。邪魔するぜ」
ドヨヨッ!
大将「て、提督!?」
H大将「お前……!」
H大井「こ、こんなところにまで来たんですか!?」
祢大将「……気付いていたかね?」
秘書「いえ……魔物や深海棲艦の気配は全く感じられませんでした」
提督「改めて、自己紹介しておくか。俺は提督。××島鎮守府の……いつからか墓場島なんて呼ばれてた島にある鎮守府の提督だ」
提督「近々退任して、深海棲艦に割譲することになった××島の責任者として改めて着任する」
888 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:47:51.57 ID:Qx5bHHluo
提督「中には俺の顔を見たくない人間もいるだろうが、海軍には世話になったんで、退職と、新規着任の挨拶と、義理を通しに参上した」
中将「まだ彼の顔を見たこともない者もいるだろう。この機会に顔を覚えてはどうかと思い、はるばる××島から来てもらったのだ」
将官「ち……中将殿!? この男をこんなところに連れて来て、大丈夫なのですか!?」
将官「何を企んでいる!? 本営に何の用だ!!」
提督「何の用だって? 話が早いな、それじゃあ早速用件に入らせてもらうか」
将官「おい!? そういう意味じゃ……」
大将「黙って聞け! 中将殿の客人だぞ!!」
将官たち「「……」」
提督「おぉ……さすが大将だな。助かるぜ、ありがとな」ニッ
大将「ふん。で、用件と言うのはなんだ?」
提督「いくつかあるが、まずは調査依頼だ。艦娘や深海棲艦について研究している、ある組織について、調査協力を海軍に要請したい」
ザワ…
将官「艦娘や深海棲艦について研究している組織……?」
提督「ああ。俺たちはそいつらに狙われている。その組織の活動を、海軍に抑制してもらいたい」
提督「そいつらは深海棲艦を素材にして、深海棲艦にも艦娘にも通用する武器を作っているんだ。聞いたことはあるだろう?」
艦娘たち「……!」ドヨッ…
889 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:48:36.77 ID:Qx5bHHluo
提督「そいつらのやってることを止めてくれ、ってのが俺たちの要求だ」
将官「どういうことだ……?」
将官「その研究は以前、摘発されたはずだぞ……?」
提督「それは3年前の話だな。俺が言っているのは、数か月前にJ少将が××島で死んだときの事件の話だ」
提督「そのときJ少将と一緒にやってきたZ提督たちが、深海棲艦から作った弾丸を持っていたんだよ」
将官「なんだと……!?」
提督「それの製造をJ少将が指示していたとしたら、その組織とつながっている人間が今も海軍にいるんじゃないか、と疑っている」
将官1「何を世迷言を……! 海軍の結束を脅かすような出鱈目を言うな! おとなしく帰るがいい!!」
提督「おいおい、軽々しく帰れなんて言うなよ。俺たちは近々政府とも話し合うつもりなんだ」
提督「その話し合いの決裂の理由に、あんたの名前を出してもいいのか? なあ、和中将?」
将官1→和中将「!! な、なぜ俺の名を……!」
提督「あの島を縁起が悪いと忌み嫌って、たまたま利害が一致した曽大佐を支援してたのはあんただよな」
提督「んなことしてりゃ、嫌でも名前くらいは覚えるぜ? なんで俺たちに知られてないと思ってんだよ」
和中将「く……貴様、俺を愚弄しに来たのか!」
提督「違えよ。俺たちは、俺たちが懸念している不安要素を取り除きたくてここに来たんだ」
890 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:49:21.62 ID:Qx5bHHluo
提督「さっき言った、その研究組織が存在し続けることで、俺たちの安全が脅かされるわけだからな」
和中将「なにが安全だ! そういうセリフは、すべての深海棲艦が侵略をやめてから言え! 深海棲艦の手先めが!」
提督「無理言うぜ。だったらあんたこそ、すべての人間に戦争をやめさせろ。できねえくせに」
和中将「屁理屈を……!」
提督「ま、これまでの経緯を考えても、深海棲艦が排除されてしかるべき、って人間側の言い分も理解はしてるさ」
提督「話も通じず無差別に人間を襲ってたんだからな。それじゃ憎まれて当然だ」
提督「だが、今は状況が変わった。深海棲艦の中でも、人の話を聞く者が現れた。人間の考えを理解するものが現れた」
提督「今がまさに、中将の言う新たな局面、ってやつだ」
将官たち「……」
提督「あんたたち海軍の思惑はさておいても、俺たちの存在を知った政府は、俺たちと条約を結びたいと言ってきている」
提督「条約結んでお互いに戦わないようにするのは、俺たちとしても賛成だ」
提督「いま、政府が持ってきた条約の中身を精査してる。問題がなければサインするつもりでいるんだが……」
提督「その前に、この国にある、深海棲艦を鹵獲するような物騒な組織をなんとかしなきゃ、とても安心できねえ」
提督「だから、その組織とつながりのあるであろう海軍に、なんとかしてくれと、こうやってお願いをしに参った、ってわけだ」
将官たち「……」ザワザワ…
891 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:50:06.81 ID:Qx5bHHluo
提督「本音を言えば、俺たちはその組織のやってることが許せねえ。今すぐにでも殴り込んで、そこの連中を皆殺しにしたいくらいだ」
提督「仮にあんたたち海軍が連中と無関係だと言うのなら、これから潰しに行っても問題ねえよな?」
和中将「問題ないわけがないだろう! 国内で戦争などさせられるか! 何を考えている!!」
提督「だから、海軍にそいつらをおとなしくさせろって言ってんだよ。自分の庭だろ? 掃除くらい自分でやってくれよ」
和中将「貴様……それが人にものを頼む態度か!!」
H大将「提督、そのくらいにしておけ。お前も、我々をからかいに来たわけではあるまい」
提督「組織のことを知りもしないのに、ごちゃごちゃ口を出してくる和中将を先に何とかしてくれよ。俺は話が通じる奴と話がしたいんだ」
和中将「こんな話、知っているどころか、出まかせでしかないだろう! 誰が知っていると言うんだ!」
大将「俺が知っているぞ。あの男の言うことも本当だ」
和中将「なっ!? ……た、大将殿……!?」
大将「ただ、裏付けが不十分だ。この場で説明できるほど情報が出揃っていない」
提督「そうなのか? 俺からもいろいろ情報を出しただろ?」
大将「それでもだ。残念だが、お前から得た情報も、ある程度はこちらで調査済みだ」
大将「そのうえで、決定的な証拠になるようなものを手に入れられなかったからな。その辺はお前にも知らせていただろう」
提督(F提督が調べてた話か……)
大将「確かに、深海棲艦を武器に作り変える技術については、過去にZ提督が研究していた件で共有されている」
892 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:50:51.16 ID:Qx5bHHluo
大将「だがその技術は、Z提督が営倉へ連行された時点で潰えたもの、というのが我々海軍共通の認識だ」
提督「J少将の一味が持っていた話は共有してなかったのか」
H大将「お前の危惧していた通り、この中に妨害者もいる恐れもあったからな。報告に関しては慎重にならざるを得なかった」
H大将「残念ながら実際に、お前があの男を捕まえた後、怪しい連中が私の鎮守府を見張っていたと報告を受けている」
提督「マジかよ。ちなみに被害は?」
H大将「幸いにして、ない」
H大井「いまのところは、ですけどね」
提督「そうか。んじゃ、俺がこれから安心させてやるぜ」
H大将「なに……?」
提督「改めて言うからよく聞きな。俺たちからの最終的な要求はふたつだ」
提督「ひとつめ、調査対象の組織が持つ深海棲艦の武器化の技術の放棄と永久的な停止」
提督「ふたつめ、調査対象の組織への案内と、武器化技術停止に至るまでの活動内容すべてをまとめたレポート」
提督「このふたつを、俺は海軍に要求する」
ザワッ…!
大将「活動内容のレポートだと……!?」
H大将「ある意味、我々にも理のある要求だな」
祢大将「……なるほど、考えたな」
893 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:51:36.63 ID:Qx5bHHluo
提督「勿論、この要求を拒否してもらっても構わない。くだんの組織に海軍が関わっていないと言うのなら、それも信じるとしよう」
提督「その場合、俺たちはその研究施設へ全面攻撃を準備する」
将官たち「!?」
提督「心配しなくても事前に攻撃する場所と日時は予告するし、その組織を攻撃する理由もすべて事前に連絡してやるよ」
将官「し、正気か!?」
将官「そんなことをすれば、お前たちもただでは済まないぞ!」
将官「宣戦布告するのと同じじゃないのか……!?」
提督「宣戦布告……? まあ、意味合い的にはそうなるか」
提督「けど、別に構わないだろう? 海軍がその組織をかばうつもりなら、どうせ俺たちは相容れない。早かれ遅かれ戦うことになる」
提督「もしそうなった場合は、海軍と政府だけじゃなく、世界各国に向けて攻撃に関する情報を配信する」
提督「特に攻撃する地域の自治体には、目標近辺の住人の避難を呼びかけるようにも連絡するし、メディアにも正確に報道するよう要求する」
大将「海軍の後ろめたい部分を世界に暴露して、世論を味方につけるつもりか……!」
祢大将「それだけではないな。海軍が深海棲艦に攻撃されて当然だと思わせる理由があるとなれば、海軍は世界から危険視され孤立することになる」
H大将「海外からの協力どころか、国内からも反発を受けることになるぞ」
H大井「事情を知らない艦娘たちが、海軍に懐疑的になることも十分に考えられますよ……!」
提督「素直に応じるんなら誰も傷つけたりしねえよ。こっちは正直、連中の所業に腸が煮えくり返ってはいるが、それも我慢してやろうってんだ」
提督「組織がどこにあって、そこでなにをやってたか、すべての情報を俺たちに曝け出してくれれば、そこの連中の命までは取らねえよ」
894 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:52:21.90 ID:Qx5bHHluo
提督「俺たちは、そこで作った危険物に、何度も狙われたり殺されかけたりしてるんだぜ?」
提督「俺たち自身の身を守るためにも、それがどういうブツなのか、現物を見て知りたいんだ。悪い話じゃねえだろ?」
将官「そ、そんなことをしたら、却って深海棲艦の怒りを買ってしまうんじゃないのか?」
提督「そこはそうならねえように言って聞かせるさ」
和中将「言って聞かせる!? あの深海棲艦にか!?」
提督「ああ。うちの島の連中なら、俺の言うことはそれなりに聞いてくれるぞ?」
和中将「それなりに!? それなりにで信用できるか! 無責任なことばかりほざきおって……!」
提督「無責任って……つうか、お前こそなんで責任取ってねえんだよ」
和中将「なっ!?」
提督「さっきも言ったが、俺たちを必要以上に敵視して、曽大佐けしかけたのはお前だよな?」
提督「その件で、祢大将がわざわざ俺のところにまで足を運んでくれてたんだぞ? そこは本当ならお前が出張って詫び入れに来る話じゃねえのか?」
和中将「い、言わせておけば……!!」ビキビキッ
提督「それ以外にも、艦娘を鎮守府に作ったバーに閉じ込めて歓待させたり、あの島に渡航歴あるやつへ呉に来るなと言い出したり」
提督「与少将を手前の息子に引き合わせようと画策したり、職権乱用しまくりじゃねえか。何やってんだお前」
和中将「!? ……っ、な、なにを、何を言うか!?」
祢大将「……提督、最後の話は初耳だな。和中将は、与少将を自分の息子に引き合わせようとしたのか?」
和中将「い、いえ! そのようなことは!」ビクッ
895 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:53:21.64 ID:Qx5bHHluo
提督「隠さなくてもいいぜ。俺にはそういう隠し事が分かるんだ。強く思ってることは特にな」
祢大将「なるほど。確かに、君にはそういう力があるという話だったな」
和中将「信じるのですか!?」
H大将「提督、お前のその力は、相手の頭を掴まないといけないんじゃなかったのか」
提督「いいや、その必要がない時もある。だからこそ……」
提督「組織のことを知っててだんまりを決め込んでる、手前が気に入らねえんだがな? なあ、元帥さんよ?」ギロリ
H大将「!」
大将「元帥殿が、知っているというのか……!?」
中将「……元帥。君は、組織のことを知っているというのかね」
元帥「……」
提督「元帥だけじゃねえぜ。ここにいる数人も、ちゃっかりすっとぼけてやがる」チラッ
数人の将官たち「!!」ビクッ
提督「まあ、下っ端はどうでもいいんだ。元締めの口から、ちゃんと答えを出してもらえれば……」
艦娘「ま、待ちなさい!」バッ
艦娘「元帥閣下に手出しはさせないわ!!」ババッ
提督「あん? 心配しなくても手なんか出さねえよ」
提督「下のフロアで中将に花束渡す奴らが待ち構えてるんだ、そんな日に刃傷沙汰なんか起こしたかねえ」
896 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:54:06.22 ID:Qx5bHHluo
提督「俺は、この場で色好い返事がもらえないようなら、さっき言った通りのことを実行する、って言ってるだけだ」
提督「その返答を出し渋ってるから、とっとと答えてくれって話じゃねえか」
元帥「……」
提督「よし、どうせだから、もうひとつこっちが握ってる嫌な情報を出しとくか」
H大井「嫌な?」
提督「ああ。お前ら知ってるか? その組織が、艦娘を深海棲艦に作り変えることができないかを研究してたって話」
ドヨッ…!!
大将「そ、それは本当か!?」
提督「……このことを知らない奴が結構いるな?」
H大将「その話は俺も初耳だな。事実なのか?」
提督「俺たちもあくまで情報としてしか掴めてないが、その組織が艦娘についても研究していることは間違いない」
提督「うちの鎮守府には、その実験から生還したやつもいる。わざと轟沈させられて、深海化しないかの実験台にされたやつらがな」
H大井「な、なぜそんなことを……!?」
提督「武器に作り変える深海棲艦を鹵獲するより、艦娘を作り変えたほうが簡単そうだったから、じゃねえか?」
H大井「……っ!」
提督「深海棲艦にしても艦娘にしても、その存在については未だに謎が多い」
提督「明確にわかっているのは、深海棲艦に真っ向から対抗できる力を持つのは艦娘だけ、ってことくらいだ」
897 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:54:51.61 ID:Qx5bHHluo
提督「こんな得体の知れない艦娘なる存在は、各国の海軍が責任をもって秘匿、管理すべき……というのが一昔前の共通認識だった」
将官たち「……」
提督「とはいうものの、設備と資材さえあれば、建造することで新しい艦娘がいくらでも作れるし、解体だって日次任務でやってるとも聞いている」
提督「練度が足りているかは別にしても、艦娘の数が逼迫しているかと言えば、そうではないのが実情だと思っている」
提督「一部じゃ、全然お呼びがかからず暇を持て余した艦娘もいるらしいな?」
大将「むう……」
提督「おそらくその組織は、そういう『余らせた』艦娘を引き取って実験に使ってるんだ」
提督「ある鎮守府の提督が何らかの理由で退役し、無所属になってしまった艦娘がその組織に連れていかれたと思われるケースがある」
提督「そうでなくても、轟沈や解体を偽装して、組織に艦娘を横流しすることも、やろうと思えばできるだろう」
提督「俺のいる島にも、轟沈していないのに轟沈扱いされた艦娘が何人かいるからな」
将官「う、嘘だろう……?」
提督「嘘かどうかは、俺が要求している、組織の記録を見ればわかる話さ」
提督「もっとも……ここにいる何人かの顔には『なんでそこまで知ってんだ』って書いてあるけどなぁ?」ギロリ
将官「……っ!」
艦娘「そんな……!?」
艦娘「ほ、本当なんですか……!?」
898 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:55:39.93 ID:Qx5bHHluo
提督「さて。俺は、何も難しいことは言っていないつもりだ」
提督「俺たちの身の安全のため、深海棲艦の連れ去りをやめさせろと、組織が何をしているかを見せろと」
提督「深海棲艦を鉄砲玉にして、或いは艦娘を深海棲艦に作り変えて、俺たちを殺す武器に作り変えるのをやめてくれと言っているだけなんだ」
提督「人間に例えて言えば、生きたままの人間の手足をぶった切って自由を奪い、砲弾のように大砲から打ち出すのと同じようなもんだ」
提督「もしどこかの国がそんなことをしていたら、やめさせようとするだろう? 俺はそれと同じことを訴えているだけだ」
将官たち「……」
提督「あんたたちが人命を守りたいと思うのと同じように、俺はうちの島の住人を守りたくて、俺はここに来た」
提督「組織に関係している海軍の人間を処断しろとか、責任取らせろとか、そういう話は一切していない」
提督「この場でここにいる誰かの命を脅かすような真似もしない。俺の要求を飲むのか、突っ撥ねるのか。俺は聞きたいのはそれだけだ」
将官たち「……」
将官2「黙って聞いていたが……目に見えて狼狽えている者がいる以上は、嘘やはったりを言っているわけではなさそうだな」
将官3「そもそも、何故こんな大事な話が共有されていないんだ。どうしてこんな事態になるまで放置しておいたんだね?」
H大将「まあ……そいつは仕方ないんだ、ふたりとも。その組織の話については、あまり迂闊なことも喋れなかったからな」
提督「……そっちのふたりは……大将か?」
H大将「ああ。まず、こちらは……」
将官2→宇大将「ん、宇大将だ。佐世保鎮守府を統括している」
宇大将「生憎、自分は貴様が欲している情報を提供できる状態にない。この場は聞き手に回るが、のちに詳しく話を聞かせてもらうぞ」
提督「……」
899 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:56:23.18 ID:Qx5bHHluo
H大将「それから、こちらは大湊警備府の武大将だ。彼は、深海棲艦との休戦に肯定的な意見を出している将官の一人だ」
将官3→武大将「初めましてだね。よろしく頼むよ」ニヤッ
提督「ああ。大湊っつうと、N特尉の上官か」
武大将「うん。残念ながら彼は大湊に戻る暇もないようで、最近は私も彼の顔をあまり見ることができていないがね」
提督「そりゃ特警の仕事を押し付けてるあんたのせいじゃねえか。N特尉以外の誰か出張らせりゃいいだろうによ」
武大将「おや。そりゃ失礼」フフッ
提督「まあ、あいつがあんな仕事に就くことになったのは、あいつ自身の身から出た錆だけどな。あんなツールに手を出したのが悪い」
将官「ツール? ……艦娘洗脳ツールのことか?」
将官「そんなことまで知ってるのか……」
提督「……なんか、俺に関する情報が、本っ当に行き渡ってねえな? 俺って悪い意味で重要人物だろ?」
大将「これでも貴様の話題は俺や中将殿から出してはいるぞ。ただ、貴様に関わる話はどうにも盛り上がらなくてな……」
祢大将「大将は君のことをもっと話したいようだったが、いつも早々に切り上げられていたんだ。そうですね、元帥閣下」
元帥「……」
提督「へぇ……」
大将「むう……そういえば今更だが、元帥殿も貴様の話題に対してはことのほか反応が薄かったように思えるな?」
大将「あの島の関係者だからという理由で、皆が触れたがらなかったのも、理由のひとつだと思っていたが」
祢大将「それは和中将のことだな」
和中将「!?」ビクッ
900 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:57:06.25 ID:Qx5bHHluo
武大将「そのことを抜きにしても、提督の情報は単に要注意人物、という話だけ回ってきていたんだよねえ」
祢大将「おかげで彼の話はいつも消化不良だった。詳細を武大将と話し合ってはいたものの、肝心な話は不明だとはぐらかされ続けてきた」
武大将「提督の話が本格的に持ち上がったのは、中将殿が大佐たちと一緒にあの島で泊地棲姫と交戦したあとだったかな」
武大将「その当時は中将殿も入院しておられたし、他に詳しい者と言えば、甥のX大佐経由で提督に接触していると噂の大将だけ」
武大将「その大将に詳しく聞こうと思っても、取り込み中だったり一人で先に突っ走っていたり……置いてきぼりにされてきた感はあるね」
大将「うぐ……」
祢大将「情報がまともに揃っていない状態で、彼のことを信用するもしないもないからな。宇大将もそうだったんではないかな」
宇大将「ああ」
H大将「まったく、大将も私より先にほかの大将に詳しく話をしておけば良かったものを」ハァ…
武大将「そうだよ、どうして私よりH大将のほうが彼と親し気なんだ? H大将はどちらかと言えば彼とは反対の立場だったじゃないか」
大将「し、仕方ないだろう! H大将が提督のことを疑っていて、それで俺に話を持ってきたんだ!」
H大将「……思えば、その話もJ少将からだったな。俺たちはあいつにいいように踊らされていたということか?」
提督「今更どっちでもいいけどよ。そんなことより、俺の用事は……元帥」ギラリ
元帥「……」
提督「あんたから、さっきの話の是非を問うことだけだ」
将官たち「……!」
艦娘たち「元帥閣下……!」
901 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:57:52.06 ID:Qx5bHHluo
提督「黙ってたって進展しねえぜ。あんたが組織のトップなんだ、とっとと結論を寄越しな」
和中将「……ぐぬうう!! さっきから聞いていれば偉そうに、それが年長者に対する態度か!」
和中将「海軍の最高責任者だぞ!! 少しは態度を弁えろ若造が!!」
提督「ったく、さっきからうるせえな。んじゃ、お前に組織の調査を頼めばいいのか?」
和中将「貴様の世迷言など信じられるか! どうせ嘘八百を並べて海軍の内部崩壊を企んでいるんだろう!」
提督「うげ……参ったな。こいつ、他人の話を聞かねえタイプか。知ってたけど面倒臭え」
祢大将「……和中将」
和中将「!」ビクッ
H大将「提督、貴様もいちいち突っかかるな」
提督「それは出しゃばってくる和中将に言ってくれよ……もう相手にしねえけどよ」
提督「けどまあ、和中将の言い分もわかるんだよ。滑稽ではあるが、そこに悪気はねえ。本当に組織のことを知らねえからこその言い分だ」
祢大将「……」
提督「そういう和中将みたいな反論や弁明が、元帥の口からも一切出てこねえってのはどうなんだ?」
和中将「げ……元帥閣下がこのことを御存知ないからに決まっているだろう!?」
提督「知らないなら知らないなりに、わからないって一言否定してくれてもいいじゃねえか。それすらないのが、どうなんだって話だよ」
祢大将「……」
中将「元帥。提督の言う通りだ、黙っていても事態が好転するわけではないぞ……?」
902 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:58:36.25 ID:Qx5bHHluo
提督「うーん……そうだな。しょうがねえ、もうひとつ嫌な話をしてやるか」
大将「ま、まだあるのか?」
提督「中将に伝えなきゃいけない話があるんだ。いまこの場で話してもいいか?」
中将「む……な、なにかね?」
提督「ここに来るとき与少将から聞いたんだが、ついさっき駐日イギリス大使から、俺たちにコンタクトを取りたいって話が来たんだと」
中将「! 本当かね」
提督「ああ、詳細はこの後で与少将に確認するが、ことの次第によっては、日本政府よりそっちを先に相手しないといけなくなるかもな」
大将「な、なんだと!?」ガタッ!
提督「俺たちは、組織の話がクリアにならない限りは、日本政府との話も保留にしたいんだよ」
提督「この話は、俺たちの身の安全を保証してもらう話なんだ。その話が進まない限りは、政府と話し合いなんかしてもしょうがねえ」
提督「仮に政府が組織の存続に一枚噛んでいたとしても、海軍が無関係ってわけでもないし、疎かにしていい話でもない」
提督「俺たちは話ができるほうに話をしに行く。普通だろ?」
大将「元帥殿! 提督がここまで来ているというのに、我らが足を引っ張ったとあっては、政府との信頼関係を疑われます!」
祢大将「数多くの艦娘を束ねる海軍をさておいて、他国が深海棲艦との交渉権を得たとなると、国家の権威失墜にもつながるな」
武大将「交渉決裂よりまずい結果になってしまうんじゃないか?」
和中将「そ、それはいかん……! げ、元帥閣下!!」
903 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/18(月) 23:59:21.19 ID:Qx5bHHluo
元帥「……」
提督「まあ、元帥がなかなかうんと言わねえ理由もそれなりにわかってるんだ」
提督「一番は、艦娘を使った実験を行っていたこと。元帥も含めて知らない奴が多いようだが、実態が暴かれたら相当やばいと思ってる」
提督「これが明るみに出て、海軍が艦娘からの協力を取り付けられなくなったり、造反でもされたりしたら人類は終わりだ」
大将「ぬう……!」
提督「それから、深海棲艦に話が伝わった場合は、更に敵意をむき出しにして襲ってくるだろう。国内の拠点が攻撃される可能性も増えそうだ」
武大将「おや? 君が知っている、イコール深海棲艦たちも知っている、じゃないのかね?」
提督「悪いがそこは俺もわからない。深海棲艦は群れ同士での交流が少ないみたいで、聞いた感じ、余所は余所、ってとこが多いらしい」
提督「だから、実際にはこの話もあまり広まってはいないんじゃないかって推測してる。あの弾丸をあちこちで使っていたりしたら話は別だがな」
武大将「……君がその話を誰かに伝えたりはしていないのかい?」
提督「それはない。島の外にいる深海棲艦とは話す機会がまだねえんだ。調べるにしても、まさか白旗振りつつ訊きに行くわけにもいかねえよな?」
武大将「それはそうだねえ……」
提督「ほかには……そうだな、その拠点が国内に複数個所あるせいで、そのあちこちに俺を案内しなきゃいけなくなりそう、ってのもあるか?」
H大将「複数拠点あるだと……!?」
提督「ここに何人か協力者がいるんだ。全員が常々一か所に固まってるわけじゃねえはずだ」
提督「俺が把握してる拠点以外に、他にも何カ所かに研究施設がありそうだってのは俺の予想だが、ない話じゃないだろう」
904 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:00:05.52 ID:12crbRCYo
提督「あとは、このネタにメディアがどういう反応を示すか、だな。ただでさえこういうスキャンダルはマスコミの大好物だ」
提督「あることないこと脚色されて事態の収集に追われそうだし、一部の人間からは非人道的だと批判を浴びるだろう」
提督「最後にもうひとつ。元帥……あんた、今更ながら、これの開発をよしとしたこと、後悔してんだろ?」
提督「艦娘の力を借りることなく、人間の手で深海棲艦を打ち倒せる力と言えば、確かに魅力的な話だからな」
元帥「……」
提督「おそらく、この話のトップはJ少将だ」
全員「「……!」」ザワ…!
提督「確かあいつは、それまで厳秘情報だった艦娘の存在を、世間に公表するときの会見の席にも座ってたよな?」
提督「そのくらい周囲からの評判が良かったJ少将からの強い進言とプレゼンがあったからこそ、元帥は信用してその口車に乗ったんだろう」
提督「ただ、元帥は、深海棲艦の武器化の話までは聞いてても、艦娘の深海化の話までは聞いていなかった。反応からして、そうなんだろ?」
元帥「……」
提督「ここからは俺の憶測にすぎないが、仮に艦娘が戦えなくなった時の次善の策とか、そういう感じで、J少将から提案されたんだろうな」
提督「深海棲艦の遺骸を使う、外法の技術だ。外に漏れれば間違いなく深海棲艦から恨みを買うだろうし」
提督「罰当たりな行為ゆえに賛同できない大将たちがいるからと、実用化できるまで極秘に研究を進めたい……そんな感じで提言されたと思ってる」
提督「効果も証明されているとあって、放棄するには惜しい技術。戦況など総合的に見て、J少将が責任を負う形で内密に進めさせたんだろう」
祢大将「……」
提督「だが、それでもあんたはこの計画に疑いを持っていた。迷い、躊躇っていた。J少将の望む通りに動こうとしなかった」
905 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:00:51.26 ID:12crbRCYo
提督「だからJ少将はしびれを切らして、大将ふたりと俺を使って、あんたを動かそうとした……動かざるを得ない状況を作ろうとした」
H大井「……それが、その結果が、あの島で起こったことだって言うんですか!?」
提督「そうだ。俺が深海棲艦と通じていて、轟沈した艦娘とともに海軍に対するクーデターを企んでいる、ということにして……」
提督「J少将は俺に大将ふたりをけしかけ、俺がやったかのように見せかけてふたりを暗殺。あとは俺を始末して証拠を隠滅、捏造する」
提督「深海棲艦の武器化に反対するふたりを消し、俺が深海棲艦のスパイだったと危機感を持たせることで……」
提督「自分の推し進めている武器化の実用化こそが、今後進むべき最善の道だとアピールしたかったんだろう」
提督「島にいた艦娘の大半は轟沈経験艦。深海棲艦になる恐れのある艦娘なら、素材にしてしまえば口封じもできて一石二鳥」
提督「それが当初、J少将が思い描いていたシナリオだろうな」
H大井「……」ギリッ
提督「そういえば、H大将。あんた、あの時は大井を連れてきてなかったな。どうしてだ?」
H大将「大井はその時、遠征に向かわせていた。それで連れてくることができなかったんだ」
提督「なるほど。もしかしたら、秘書艦不在もJ少将が狙ってたのかもしれねえな。下手にかばわれて暗殺し損ねたら計画が台無しだ」
提督「大将とH大将両方の秘書艦が不在なんてないだろうから、戦場に向かいそうな大将の秘書艦の武蔵より、大井が不在の隙を狙うのも理にかなってるな」
大将「あいつは、そこまで考えて計画していたというのか?」
提督「考えてたと思うぜ? 誘導もえらく手際が良かっただろ? 相当入念に計画してたはずだ」
大将「むう……」
906 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:01:36.16 ID:12crbRCYo
提督「……ま、そうやっていろいろ企んでたJ少将だが、結果的には、溶岩に飲まれて焼け死んだ」
提督「事情を知っているであろう直属の部下だったK大佐も、開発者の一人だったZ提督も、同じく火の海に消えた」
提督「そいつらの思惑とは無関係だったかもしれない海軍の人間を、大勢道連れにしてな」
将官たち「……」
提督「海底火山の噴火は自然現象だ。事故としか処理できねえ」
提督「ただ、その自然現象に巻き込まれた理由が、深海棲艦の武器化に賛同しない大将ふたりを暗殺するためだと知れたら、どう思う……?」
艦娘たち「……!!」
提督「J少将があれだけの大人数を引き連れて行ったのも、俺がふたりを殺した犯人だっていう証人になってもらうため」
提督「そしてJ少将自身が怪しまれないため、自分に後ろめたいことがないことを大勢にアピールしたかったためだな」
提督「そこに祢大将たちが巻き込まれなかったのは、こっちの大将たちと同調して動いてなかったからだろう」
祢大将「私たちが大将たちに詳しく話を聞けなかったのが、逆に良かったと?」
提督「単に人数が多いと騙すのが大変とか、誘う理由がなかったとか、都合が合わないとかいろいろ考えられるが、それも含めての話だと思ってる」
提督「あとは、仮に今回の暗殺がうまくいった場合、武大将みたいに深海棲艦との対話を肯定してる上官が、この事件を機に意見を変えたりもするだろう」
提督「そうなるようなら、当然、それに追随する者も多いはず。そういう狙いがあるなら、わざとふたりだけを狙うのも効果的だ」
提督「反発している人間を全員一気に始末したら、それはそれで怪しまれるだろうし」
武大将「なるほどねえ……」
提督「ま、それよりかは、さっき言った、深海棲艦の武器化に反対していたってところが、標的にされた一番の理由だと思ってるけどよ」
大将「……」
907 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:02:21.88 ID:12crbRCYo
提督「それから、俺の情報がこの場に行き渡っていないのも、俺が死んだ後にいくらでも脚色できるから、ってのもあるだろうな」
提督「俺が不審人物であればあるほど、大将殺しの罪を擦り付けやすいし、悪い奴なら良心も痛まねえって意味でも利用しやすい」
提督「そもそもあの島自体、大佐が自分に都合よく邪魔者を隔離幽閉するために確保してた島だ」
提督「連絡手段を断って放置して、野垂れ死ねばそれでよし。死んだら深海棲艦に罪を擦り付けてしまえばいい」
提督「あの島の妖精たちが、島に来る人間はみんないがみ合ってたって憤ってたくらいだ。おかげで俺も最初は追い出してやるって言われたぜ」
中将「そういえば、大佐が君に責任を押し付け、儂もろともあの島で泊地棲姫に始末させようと企んでいたことがあったな」
提督「……中将、それを自分で言うなよ。切なくなるだろ?」
中将「フフ……それもそうだな」
将官たち「……」
艦娘たち「……」
提督「長話が過ぎたな。いい加減、話を戻すか。俺のふたつの要求を……」
元帥「良い」
提督「!」
将官たち「!」
艦娘たち「!」
元帥「提督。君の提案をすべて受け入れよう」
将官「元帥閣下!?」
和中将「組織の存在を、認めるというのですか!?」
将官「い、いけません閣下……!!」
908 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:03:05.74 ID:12crbRCYo
元帥「詳細を調査するための日程は……明後日、○月○日までに連絡する。中将」
中将「はっ」
元帥「貴官がこれまで行っていた任務は、与少将……いや、与中将が引き継ぐ手筈だったな」
中将「はっ、その通りです」
元帥「では、期日までに彼女に連絡しよう。貴官の最後の仕事になるが、その旨、与中将に伝えてくれ」
中将「承知しました」ケイレイ
元帥「……」ウツムキ
提督(……観念したってか。こっちは一安心だな)
将官「なんでこんなことに……」
将官「も、もうだめだ……おしまいだ」ガクッ
艦娘「司令官!?」
ザワザワ…
大将「おい、何人かうなだれているが……」
H大将「そいつらが、組織とつながりのある将官だったということか」
提督「その辺は推して知るべし、だな」
和中将「なんと……そんなことが、本当だったのか!?」
909 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:03:51.06 ID:12crbRCYo
祢大将「……」
武大将「ショックなのはわかるが、祢大将が押し黙ってると怖いからやめて欲しいんだがねえ」
宇大将「やれやれ……ここまでの話を俺が知らされていないとは。どうやって隠し通していたんだ?」
武大将「宇大将は仕方ないんじゃないか? 南西海域の深海棲艦の鎮圧で手一杯だったんだろう? なかなかこちらに身を向けられなかったと聞いてるよ」
H大将「南西海域?」
宇大将「ああ、某国の空母が深海棲艦に沈められて以来、深海棲艦がますます活発に動き始めているのでな」
提督「空母……? もしかしてあいつら、まだ懲りてねえのか?」
武大将「うん? 何か、心当たりがあるのかい?」
提督「東アジアか東南アジアの海賊やらが、うちの領海っつうか島に攻めてきてたんだよ。それでその辺の深海棲艦が刺激されてんじゃねえのか?」
提督「俺たちの島は、日本とパラオを線で結んで中間地点あたりにある。そいつらがうちの島を侵略目的で目指せば、ちょうどその辺通るはずなんだ」
提督「泊地棲姫に攻め込まれたあたりから、海軍内のスパイの活動も活発化してただろ。この島に手を出そうって考えてる奴らがいるせいだろうな」
宇大将「……それが事実なら、お前たちと因果関係がないとは言えんか」アタマオサエ
武大将「一気に無関係ではなくなったねえ……」
H大井「あの、それはそれとして、提督? くだんの組織が危険であることは理解できますが、さすがに少し、荒療治が過ぎたのではないかと」
提督「そうか? この空気を見る限り、このくらい言わなきゃずーっとなあなあになってたとしか思えねえんだけど」
提督「それに、研究を続けさせたいなら、深海棲艦とは徹底的に敵対するって言えばいいんだよ。それならあいつらも落ち込まずに済んだろ」
大将「そんな判断できるわけがなかろう! そうなったらそうなったで、お前たちが世界中に今の話をばらまく気でいたんだろう!?」
910 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:04:35.09 ID:12crbRCYo
提督「まあな。俺たちも死にたくねえし、だったら俺たちが何を考えてるかを知らせるのは大事だろ?」
武大将「そんなことされたら、世界中からクレームやらが殺到して、海軍の面子は丸潰れになるだろうねえ……」
武大将「きみは最初から、選択しようのない選択肢を押し付ける気だったんだね?」
提督「俺が悪いみたいな言い方するなよ。こうやって付け込まれる原因を作ったのは海軍だろ」
提督「武器化の話も、洗脳ツールのときみたいに発覚した時点で根っこからがっつり潰してりゃ良かったんだ」
大将「ぐ……それはそうだが」
提督「ま、今回の話は、J少将が計画したクーデターみたいなもんだったから、防ぎようもねえのは俺もわかってるさ」
提督「それでも俺に文句を言うのは筋が違うだろ」
武大将「……もしかして、他にもこの手の情報を持ってたりするのかな、きみは」
提督「それはどうだかな? 俺たちはうちにちょっかい出してきた連中のことくらいしか話せないんだ。俺しか知らない話なんて、ほかにあるか?」
武大将「イギリス大使が動いてたという話も、都合が良すぎないか?」
提督「それは俺も知らねえよ。単純にあっちの間諜が優秀なだけじゃねえの?」
H大将「……」
大将「……おい、H大将もどうした。何を悩んでいるんだ?」
H大将「ん? ああ。あいつらが……あの組織とつながっていた者たちが、どうしてそうしていたのかを考えていた」
提督「んなもん、だいたいは金か昇進のためだろ?」
H大将「ほかは知らんが、J少将は自分の仕事にプライドを持っていた。金銭や名誉欲で動くような男には思えなくてな」
提督「……」
911 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:05:21.67 ID:12crbRCYo
H大将「それで以前、J少将が酒の席で言っていたことを思い返していたんだ」
H大将「あいつは、本来、海を守るべく結成された我々が、深海棲艦相手に手も足も出ないのが悔しいと言っていてな」
H大将「艦娘に生かされている今の状況に、忸怩たる思いしかない、と」
提督「……ああ、確かにそういう話もあったな」
H大将「おそらく、J少将が、深海棲艦の武器化を研究させたのも、艦娘に頼らずに自分たちが戦える手段を欲しがったからだろう」
H大将「その思いが強かったからこそ、俺や大将といった深海棲艦の武器化を批判する者を、始末しようと考えた……」
大将「あの行動が、あいつの正義からくるものだったと?」
H大将「私はそう思っている。艦娘と協力する道を取った俺たちのことも憂いていたとしたら、そうなってしまったのも合点がいく」
H大将「この戦争が、艦娘と深海棲艦との自作自演である可能性はないのか、とも疑っていたくらいだ」
H大将「あいつは、その頃から艦娘に不信感を抱いていたのかもしれん」
提督「じゃあ、J少将の理想は、艦娘が現れる以前の、人間が海を守る世界だった、ってことか?」
H大将「……そうかもしれんな」
大将「そんなことを言っても、人間は深海棲艦と戦えないんだぞ? 艦娘がいなくなったらどうなるか、あいつだってわかっているはずだ!」
提督「だとすると、マジで時雨の言う通りだってことか」
H大将「? どういう意味だ?」
提督「艦娘を深海棲艦に作り変える研究の本来の目的が、海軍から艦娘を追い出すため、って話だ」
大将たち「!?」
艦娘たち「!?」
912 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:06:06.29 ID:12crbRCYo
大将「ま、待て待て! どういう意味だ!? 海軍から、艦娘を追い出すだと!?」
提督「J少将は自分の活躍の場を奪った艦娘が邪魔だった。だから艦娘を海軍で扱えない理由を作りたかった」
提督「例えばだが、一般人の目の前で艦娘が深海棲艦へ変異するようなことがあれば、艦娘は危険だから運用するな、って話になるよな?」
提督「海軍の訓話にも、轟沈した艦娘は深海棲艦になるから運用するなって話がくらいだ。深海棲艦がどれだけ恐ろしいかは語るまでもない」
提督「それをどうにか人為的に引き起こして、艦娘の運用をやめろ、艦娘を追放しろ、という世論に持っていきたかったんじゃねえか?」
将官「そ、そんなことは考えていないぞ!!」
提督「お前らのことじゃねえよ、J少将の話だ」
大将「……J少将は、それほどまでに艦娘の存在を疎んでいたということか」
提督「ここまでやったんだ、そうとしか思えねえ。自分が戦えないことが嫌だったって話で、それで艦娘を逆恨みしたとしたら辻褄も合う」
提督「そもそも、深海棲艦の武器化を調査、開発していたのはZ提督や大佐の一味で、J少将はそんな考えを持っていなかった」
提督「J少将が関与していたその組織では、艦娘の深海化しか研究していなかったんだ」
提督「深海棲艦の武器化の話を大佐から引き継いだのも、艦娘と深海棲艦双方の数を減らすことができて都合がいいからとも考えられるし」
提督「そもそも深海棲艦の鹵獲も普通にリスクが高すぎる。J少将がやってた研究が有効活用できるって点でも丁度良かったんだろう」
大将「ではもし、深海棲艦の武器化の話がなかったら、どこかで艦娘の深海棲艦化を引き起こそうとしていたということか……?」
提督「多分な。海軍が艦娘を運用できないようにして、海を自分たちの仕事場に……海軍以前の海上自衛隊に戻りたかったんだろうさ」
大将「それほど艦娘の存在を疎んでいたということか」
提督「そういうことだと俺は思ってる。自作自演を疑ってたってのも、艦娘が深海棲艦と変わらない存在だと思っていたからだろ?」
913 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:06:51.79 ID:12crbRCYo
提督「それに、あいつほど極端じゃなくても、深海棲艦との戦いが艦娘に頼りっきりの現状を良くないと思ってる人間は、少なからずいるよな」
H大将「……ああ。確かに、今の艦娘に依存した戦況は健全とはいいがたい。それは私も同意する」
H大井「H提督!?」
H大将「提督の言う通り、深海棲艦との戦いに関しては艦娘に任せっきりだ。深海棲艦の前に立つのも、迎撃するのも、傷付いて帰ってくるのも艦娘だ」
H大将「果たしてこの現状を協力と呼んでいいものだろうか? 本来、奴らのような外敵の矢面に立つのは我々ではなかったか?」
H大将「ここにいる人間はみな、自らの手で海と人を守ろうと、志を持って、誇りを持って、この制服に袖を通したんではないのか?」
全員「……」
H大将「もっとも、艦娘を指揮する提督となり得る人材が枯渇した状況にある最近では、残念ながら全員がその限りではないようだが……」
H大将「そういった民間や艦娘に頼らざるを得ない現状も含めて、J少将は、今の状況がたまらなく嫌で、恥ずかしいと思っていたんだろう」
艦娘たち「……」
H大将「しかしだ。だからと言って、艦娘を追放しようなどと言う考えは肯定されるべきではない」
H大将「艦娘は人間ではないのだろうが、間違いなく人の心を持っている。人間ではないからと人間ではない扱いをすれば……」
H大将「艦娘は人間を疑い、人間を恐れ、人間を嫌う存在になるだろう。たとえ艦娘の前でなくても、我々が人の心を失ってはいかんのだ」
H大井「H提督……!」
H大将「現に、最初は人間であったとしても、人扱いされず蔑ろにされたがために、人間の味方を辞めてしまった存在もここにいるしな」
提督「……」
和中将「この男が、ですか……?」
914 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:07:36.23 ID:12crbRCYo
H大将「そうだ。今の提督は、艦娘と深海棲艦の味方だろう?」
提督「おい、妖精が抜けてるぞ?」ニヤリ
H大将「……ああ、そうだったな」フフッ
和中将「待て。提督は……お前は人間の味方を辞めたのなら、人間の敵だというのだろう? それなのに、人間と和平交渉するのか……?」
提督「ああ。艦娘や深海棲艦、妖精たちの今後のためにな。文句あんのか」
和中将「……わからん。なぜ、お前はそんな平和的な解決を望むんだ? 深海棲艦は人間の敵ではないのか?」
提督「敵対しなくていいって奴もいるんだよ。人間だって、友好的な国だけじゃなく敵対してる国もあるだろが」
和中将「いや、そもそも深海棲艦とは話が通じるのか?」
提督「……おいおい、理解が周回遅れにもほどがあるぞ」アタマオサエ
和中将「曽大佐は話ができないと判断したから、その報復に年寄りにされたのだろう!?」
提督「……」
和中将「どうやって年寄りにしたんだ。それも深海棲艦の力か!?」
提督「……」ウンザリ
祢大将「和中将。君の話は後にしたまえ」
和中将「は、はっ……! 申し訳ありません」
提督「……ったく、今更俺に興味持つなっつうの。島に近づきすらしたくねえくせによ」
中将「彼は確か、あの島の昔話も知っていたはずだな?」
祢大将「はい。だからこそ彼のことを蛇蝎のごとく忌み嫌って、関わらないようにしていました」
915 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:08:21.21 ID:12crbRCYo
祢大将「それに、彼は自らが艦長を務めていた護衛艦を深海棲艦に沈められています。深海棲艦には恨み骨髄であったのは間違いありません」
提督「それでかよ。ったく……面倒臭え」
祢大将「提督、和中将に関しては私が面倒を見よう。しかし、海軍全体の君に関する情報の欠落度合いは見過ごせない」
祢大将「一度、君にはこれまでの経緯と、君の目的を改めて海軍の上層部に説明して欲しいものだが……」
提督「本当に面倒臭え……」ゲンナリ
祢大将「君が海軍の信用を得るためには必要なことだと思うが?」
提督「それを面倒だと思うくらいは俺の自由だろ。何も知らない相手にうちの連中の事情を説明するとなると、本っ当に面倒なんだからよ……」
祢大将「それほど面倒なことしか起きていないということかね?」
提督「そうだな。うちの艦娘、まともに着任した奴のほうが少ねえし……多分きっと、これからもそうなんだろうな」
提督「あの島は、轟沈した艦娘が流れ着く島だ。人の世界の悪いもんばっかり引き寄せてる、人の世の業の吹き溜まりみたいな場所だ」
提督「そんな場所に住んでる俺がこの場に出てきて文句言ってんのは、人間が艦娘や深海棲艦に対して調子に乗り過ぎたせいだとでも思ってくれ」
祢大将「……まるで自分を災厄の塊のように言うのだな」
提督「俺はそうだと思ってるけどな。そもそも、あんたたちは俺が人間どころかまともな生物じゃないって知ってんだろ?」
祢大将「……」
秘書「……」
中将「君は、少し自分を卑下しすぎではないかね?」
提督「ん?」
中将「君は、君自身を悪者にしたがっているようだが、君がいたから助かった艦娘がいる。君がいたから深海棲艦との対話ができているのだ」
中将「君が過去に何を企んでいたかは我々にはわからないし、君の判断の良し悪しを裁くことも儂にはできん」
中将「だが、儂は君がこうして我々に手を貸してくれていたことに、感謝しているよ。君が何者であってもな」ニコ…
提督「……そんな大層なもんじゃねえけどな」アタマガリガリ
中将「さて。大事なのはこれからだな。約束は、果たされなければならん」
大将たち「「……」」
916 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/08/19(火) 00:09:06.00 ID:12crbRCYo
ということで、今回はここまで。
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