【オリジナル】どっとハレルヤ【一次創作】

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1 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/24(土) 18:28:55.17 ID:wxY66U+LO
「パンパカパーン! なんとたった今、無意味に命を落としたお前に特別大チャーンス!」

気がつくと真っ白な空間にいた。
目が眩んであらためて、これまで自分が暮らしてきた世界がいかに暗く、昏く、冥くて澱んでいたのか思い知らされた。

「なーにを打ちひしがれてるんですかぁ? そんなセンチメンタルに気に病む権利なんてお前のような下等生物にはないんですよー?」

なんだこいつは。いきなり罵倒してきた。
後光からこの空間を満たす真っ白な輝きは恐らくこいつから放たれているのだと察することは出来る。絶世の美貌。完璧なスタイル。
こいつが女神と言われたら信じる見た目だ。

「ほーん。このあたしを肉眼で直視して劣情を催さない程度には高潔な精神を持ち合わせていることを証明したのは褒めてあげるわ。でも、お前ごときがこのあたしを観察するような眼差しを向けていること自体が不敬よ」

それは失敬。慌てて目を逸らす。まずいな。
やっぱりこいつは女神かなんかでかなり偉い存在なのだろう。怒らせるのは危険である。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1708766935
2 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/24(土) 18:31:00.17 ID:wxY66U+LO
「なーにを勝手に目を逸らしてるんですかぁー? 誰が許可しましたー? 誰もが垂涎なこのあたしの美貌を前にして、あっさり目を逸らすとかプライドが傷つくんですけどぉー?」

じゃあ、どうすりゃいいってんだよ。
ため息を吐き、あらためて向き直る。
すると目の前の女神様は蠱惑的な表情を浮かべて、落命の瞬間について語り始めた。

「お前は死に瀕した少女を自分の命と引き換えに助けようとした。神ならぬお前ごとき下等な存在が他者の運命に干渉しようとした。もちろんその少女の運命はお前みたいな矮小な存在が変えることなんて出来ない。当然、死んだわ。ただ唯一、大きく運命が変わったのはお前自身よ。お前はここで死ぬ運命ではなかった。それなのに、死んだ。そのことについてあたしはとても腹を立てている。おわかり? わかったなら、まずは謝罪しなさい」
「申し訳ございませんでした」

素直に謝罪した。反発や反論はしない。
もちろん、腑に落ちない点は沢山ある。
自分の運命なんだから好きにさせてくれても良さそうなものだ。説明によると、結局、あの子は助からなかったようだし。他者の運命に介入は出来なかったらしい。がっかりだ。

「それが口先だけの謝罪だって、このあたしがわからないとでも思いましたかー? 全知全能であるこのあたしの慧眼を誤魔化せるとでも? お前はただ素直に、その生意気な目でこちらを見据えて反論すればいいんですよ?」
「じゃあ、自分の命くらい好きに使わせて」
「ダメに決まってんじゃないですか。いいですかー? お前の運命はお前のためにあるんじゃない。勘違いすんな、です。まったくもう。思い上がりも甚だしいというか、極めて利己的で、しかも発露が自己犠牲なのが独善的かつ偽善的すぎて反吐が出ます。おえっ」

さすがにムカついた。これはキレていい。
たしかに客観的にみればあの自己犠牲が独善的かつ偽善的な自己犠牲だったことは認めよう。それでも、こちらの主観としてはあくまでも善行のつもりだったのだ。死の間際、マシな命の使い方だったと満足していたのだ。
3 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/24(土) 18:33:24.81 ID:wxY66U+LO
「ふー危ない危ない。危うく成仏されるところでしたよ。間一髪です。もしもあたしがお前の愚行を労っていたらその瞬間に魂は浄化されて自我なんて欠片も残っていなかったでしょーね。今こうしてお前ごときちっぽけな魂が偉大なあたしの目の前で本来の形を保っていられるのはその怒りが源だと自覚しろ、です。お前はそうやってあたしに苛ついていればいいんですよ。これからの人生、死ぬまであたしへの感謝を忘れずに過ごしなさい」

これからの人生とは? どういうことだろう。
落命して、女神に説教をされて、運命とやらを歪めた罰として地獄行きではないのか?

「お前はもともと地獄で暮らしていたのですよ? みーんなゴミみたいな奴らばっかりの掃き溜めという賽の河原で、報われない石積みをして、その生涯を終える運命でした。なのにお前は、勝手に、その勤めを放棄して死んだ。お前が積んだ石を崩すあたしの楽しみを奪った。それは万死に値する罪ですが、裁きを与えるにもお前はもうくたばってますからね。だから特別に、またあの糞みたいな世界で復活させてあげようと言ってるんですよ」

復活。またあの世界に逆戻り。
助けようとした少女がいない世界。
それはまさしく、地獄だろう。
4 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/24(土) 18:34:55.95 ID:wxY66U+LO
「い、嫌だ。戻りたくない。このまま死んでたい。お願いします。どうかご慈悲を……」
「ダメだって言ってんだろーが、です。お前の運命は、その命は、お前のもんじゃない。お前には為すべきことがある。その使命を放棄することは許されない。黙って言われた通りに石を積め。ある程度の高さになったらあたしが崩す。お前はそのたびに絶望して、死にたくなるだろう。しかし、それは許されない。お前はその命運が尽きるまで、石を積むんだ。それが、お前に課せられた使命です」
「嫌だ……行きたくない……生きたくない」
「生きたくなくても生きるんだ。死にたくなくても死ぬ連中を思ってな。あの少女は死んだ。その十字架を背負って生きていくんだ。それがお前の人生であり、運命なのですよ」

あの少女は両親から酷い虐待をされていた。
時折、家から追い出された少女がベランダで泣いているのを見た。警察に通報したが、ただの躾ということで片付けられた。あの日、ベランダに放置されたまま動かなくなった。
焦って、なんとか救出をしようとして、転落して命を落とした。あの暗く、昏く、冥く淀んだ社会で、あの地獄のような世界で生きていたくない。あそこで暮らす、ゴミのような連中と一緒にされたくない。ああ……そうか。
5 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/24(土) 18:35:37.40 ID:wxY66U+LO
「お前は自分が特別だと思い、あの世界の連中とは違うと決めつけていた。でもそうではないのです。お前も同じなのです。道端で野良猫が轢かれていても埋めようともしない。そんなお前があの少女のために命を落とすなんて自己満足以外の何ものでもありません。そんな在り方は認めませんし、このあたしが許しません。お前はあの世界で、あの連中と一緒に生きていくのです。生きていく中で、報われたと思ったら、また失敗をして、絶望をすることがお前の運命であり、生きる意味なのですから。それ以外の選択肢は存在しません。それを拒むことは許しません。お前はそのやるせなさを噛み締めて、天を呪いながら生きていくのです。くだらなくて、ずるくて、卑怯で、汚くて、虫唾が走るような連中と一緒にね。仲良くするにはお前自身もそうなるしかないんですよ? わかってますか?」
「嫌だ……そうなりたくない……死にたい」
「それはつまらない意地ですよ。本来、お前らみたいな連中はあたしを下卑た目で見つめて、押し倒すのが普通です。それなのにお前は自らの保身のことしか考えていない。欲望が足りていないのです。あの虐待されていた少女が裸でベランダに放置されていても、お前は一切欲情しなかった。そんな高潔な精神なんて、あの世界において一切必要ありません。だからもっとクズになってください。だってあの世界、クズしかいないんですから」
「クズになりたくない……自分を保ちたい」
「あは。ようやく本音が出ましたね。クズになりたくないのは周りと同じになりたくないから。強烈なただの自我にすぎません。お前は自分のことが好きなだけ。自分が助かるためにあの憐れな少女を利用したわけです。最低ですよね。自覚してくださいよ。お前は最低な奴です。下手したらあの連中よりもね」

そうかもしれない。きっとそうなのだろう。
あの子を助けたかったのは、自分のためだ。
つまらない正義感を満たして、自尊心を保ちたかっただけ。結果としてあの子が救われたら、それは美談になる。クズすぎて泣ける。
6 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/24(土) 18:38:31.37 ID:wxY66U+LO
「ああ、ううっ……くそっ……畜生……畜生」
「ああ、泣かないで。その薄汚い涙でこの清潔な空間を汚さないでください。ただでさえ吐く息も臭くて汚いのに、鼻水とか涎なんて勘弁してくださいよ。おい。蹲るな。顔を上げろ。そのぐちゃぐちゃになった顔面をよく見せろよ。あの世界に戻ったら、何度も何度もその顔で天を仰いで慟哭しろ。それで今回の件は許してあげます。もう怒ってはいませんよ? 寛大でしょう? だから早く泣き止んでください。鬱陶しいですから」

口調とは裏腹に頭を撫でる手つきは優しい。
何より許されたことが嬉しかった。たしかに成仏しそうなほどだ。しかし、別に労われたわけではない。ただただ罵倒されただけだ。

「ちーがーうーでしょー? あんたはこれを慈愛だと勘違いしてあたしに惚れるの。それが普通でしょ? わかんないかなー。なんでそんな簡単な思考回路も積んでないワケ? 馬鹿なんだから難しく考えても仕方ないじゃん。能天気に、女神様しゅきーってなってればいいの。ほら、言ってみ? 女神様しゅきってさ」
「……女神様しゅき」
「うわキモ。きっしょ。キッツ。ないわー」

はいはい。ご褒美ご褒美。別に傷つかない。
なるほどだいたいわかってきた。理解した。
こういうやり取りが求められているのだと。
7 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/24(土) 18:39:47.38 ID:wxY66U+LO
「わかってきた? ならもう大丈夫ね。今のお前ならきっと下界でも上手くやっていける。毎朝毎晩、このあたしに感謝しなさいね?」
「……ありがとうございます、女神様」
「よろしい。じゃあね……頑張んなさい」

目が覚めると、自分のアパートのベッドの上だった。まだ夜明け前なのか、薄暗い室内。
隣接するマンションのベランダには、きっと死んだあの子が放置されているのだろう。暗く、昏く、冥い気持ちになった。カーテンを開けて確認するのが怖い。それでも確認をして、絶望視して、天を憎むのが自分の使命であり、義務だと女神様は仰っていた。仕方なく、布団から出て、そこでようやく気づく。

「本当にありがとうございます……女神様」

布団の中で丸くなって寝ている野良猫ならぬ少女がすやすやと寝息を立てていることを確認して女神様に改めて感謝した。たしかに死んでいる場合ではない。この子と生きていくのだ。この暗くて昏くて冥い素敵な世界を。


【どっとハレルヤ】


FIN
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/02/24(土) 18:41:31.49 ID:T4EukwEr0
凄いな
普通ヒトって経験を糧に改善する生き物なのに
進歩するどころか退化してるぞこのヒトモドキ
9 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/25(日) 11:29:59.77 ID:E6phKOsGO
「聞いたよ? また主神様に楯突いたって?」
「ウザい」

クスクスと、耳障りな嘲笑にイラッとする。
あたしが何かしでかすたびに、いちいち揶揄うのがこいつの趣味であり、悪趣味なのだ。

「主神様は心配してたよ? キミまで堕天してしまうんじゃないかってさ。愛されてるね」
「ほっとけ」

下界の劣悪っぷりは、たしかに堕天したアホの影響も大きい。けれど、それでもだからって管理者側が放置していても状況は悪くなる一方だ。あたしにはこいつのように、もがき苦しむ人間を見て見ぬふりなどしたくない。

「キミは人間たちにとって良い神様でありたいの? そんなことをしたって無駄だよ。連中は、何度救ってやっても救えないんだから」
「あたしが自分に与えられた権限の範疇で何をしようと勝手でしょ。口を挟まないでよ」
「いやいやいや。越権行為で怒られたくせに何を言ってるのさ。少しは反省しなさいよ」

越権行為なんて詭弁だ。それをするだけの力は有している。我々のやることは常に正しくて、間違ってなどいない。こいつのやることですら、あたしに口を挟む余地はない。主神は、あたしたちを監督する役目にすぎない。
10 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/25(日) 11:31:34.76 ID:YCeZzapuO
「本当に堕天しそうでお姉ちゃん心配だよ」
「は? 誰があたしのお姉ちゃんよ、誰が」
「僕だよ。キミのお姉ちゃんはこの僕です」
「ふん……性別不詳のくせに、よく言うわ」
「僕はほら、恋愛感情を司っているからね。どちらかに偏るのは良くないでしょう?」

クスクスと己の権能を自慢するろくでなし。
こいつの匙加減で人間同士がくっついたり、破滅したりする。こいつは何気ない幸せを大切に出来る人間しか救わない。節操のない連中を嫌う。なので大半の人間は加護を受けられず破滅する。人間の運命とは我々の加護が途絶えた瞬間に潰える。悪魔の餌食となる。

「キミだって節制は大事だって思うでしょ」
「だからって草しか食べないような惰弱な人間は、それはそれで運命が弱る。チャンスを逃して幸せを得られない。あいつみたいに」
「この前キミが救ってあげた人間? キミの言いつけを守って、自分の欲望と向き合っているみたいだよ。あの少女のほうも無事に成人してから積極的だしね。そのうち番になるだろう。僕の加護さえあれば幸せになれるよ」

幸せになれるかどうかなんてどうでもいい。
ただ運命から逃れることは許さない。これはあたしの領分だから、そこを逸脱されると沽券に関わるのだ。それこそ、下界に降臨したくなるほどにもどかしい。少しくらいなら。
11 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/25(日) 11:34:19.99 ID:YCeZzapuO
「ダメだよ。絶対に。降臨、ダメ、絶対!」
「チッ。わかってるし……ケチくさいわね」
「節制だって言ってるでしょ。連中は甘やかしたらすぐ堕落する。簡単に手を貸して、信仰されすぎると、連中は全て神様任せにしてしまう。考えることをしない。自発的に正しい運命を全うさせること。それが出来ない奴らは破滅する。それが摂理だ。逸脱した彼を正しい運命に導いたのはかなりギリギリの介入で、だから主神様に怒られるのは当然さ」

自発的に正しい運命を全うするなんて詭弁にすぎない。大抵は運命に翻弄されて、その過程で自らの運命を受け入れる。痛い目をみないと気づけない。そして気づいた時には、ある意味もう手遅れなのが運命である。自発的にそこに辿り着ける者などほとんどいない。

「破滅した連中は自分が悪いんだよ。僕らが気にすることじゃない。キミの慈愛は僕のように博愛ではないだろう? 僕は愛するがゆえに切り捨てる。永遠など下界には存在しないのだから。命運が尽きる時、人間どもは気づくのだろう。自分たちの存在は儚いのだと」

あたしはこいつを嫌いだし認めたくないけれどこいつのスタンスは管理者として間違っていない。あたしたちは間違わない。結果的に正しいことをする。それが神の思し召しだ。
12 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/25(日) 11:36:57.51 ID:AzUKfzGUO
「それよりさ、聞いてよ。何度天罰を下してもあの馬鹿どもは違法薬物に手を出すんだ。まんまと悪魔の奴らの罠に引っかかって破滅しちゃう。キミはどうしたらいいと思う?」
「もっとえっちの時に気持ちよくするとか」
「もぉーだから節制だってば。ほどほどにしないと、それしか考えられなくなる。下半身に支配されたらそれこそ悪魔の思う壺だよ」
「本能に忠実な人間のほうが素直じゃない」
「そしたらあいつら戦争しかしないよ。徒手空拳での殴り合いならともかく、悪魔の武器で絶滅まっしぐらだよ。そしたらいよいよ主神様が激怒して、もうめちゃくちゃになる」
「堕天したあのバカもなんだかんだ詰めが甘いわよねー。主神に刃向かうわりには人間に対する愛情が残ってる。だから人間を絶滅させるまではしない。ま、歪んだ愛情だけど」
「あんなのを愛情なんて言わないでくれよ。僕の沽券に関わる。愛情というのはもっと純粋で尊いんだ。堕天したあのアホのそれは、悪意ある欲望だよ。人間の悪意があの気狂いは大好きなんだ。だから主神様は怒って天界から追放した。そしたらもうこの有様だよ」
「堕天して伸び伸びとしてて愉しそうよね」
「僕らは全然楽しくないけどね。忙しすぎ」

人間の本能を自制させる。それは重要だけど自制しすぎるとあいつみたいに逸脱する。あいつの場合は悪魔に唆されたわけでもなく、完全に自滅だった。管理者として、そんな末路は1番許せない。だからあたしは介入した。
13 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/25(日) 11:38:39.81 ID:QLWrc4KeO
「また彼のこと考えてる。たしかに人間の中では珍しい高潔な精神の持ち主だけどさ、ただの馬鹿だよあんな奴。愚かすぎる人間さ」
「わかってるわよ。あいつは馬鹿で愚かな人間。でもだからこそあたしはあいつを……」
「手のかかる子供ほど可愛いってやつかい? 博愛主義の僕には理解出来ないね。主神様のように我々を監督する立場からしても看過出来ないのは当然だ。ほどほどにしときなよ」
「えいっ」
「あ! またなんかやったでしょ!? ダメだよ男性用避妊具を売り切れになんかさせちゃ! たしかにあの道具は自然の摂理に反しているけど、節制という面では有効なんだから!」

ふん。違法薬物になんかに頼らずともこれが1番健全に快感を得られる。せいぜいあいつも運命の相手との行為に没頭するがいい。馬鹿なら馬鹿らしく愚かに頭を空っぽにして後先なんて考えずに腰を振ってればいいんだ。

「よーし鑑賞会をするわよ!」
「やめて! 手を離して! 僕の権能を低俗な覗きに使うな! しかも特定個人だけを視るなんて清く正しくない! 変態のすることだよ!」
「あんたを通すと快楽まで伝わって便利ね」
「僕を娯楽の道具にしないでよ!?」

主神から怒られるのを回避するために喚きつつも恋人繋ぎをするこの僕っ子はやはり嫌いだけど、こいつから伝わってくるあいつの愛情はあたしのやったことの正しさを証明してくれる。せいぜいあたしに感謝しながら行為に没頭するがいい。早く子供作って見せろ。


【どっとハレルヤ 2話】


FIN
14 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/26(月) 20:26:30.29 ID:CguT7wFgO
「あたし、ヴァンパイアだから」

不意にそう告げた彼女は美少女と呼んで差し支えない美貌にそぐわない暗い、昏い、冥い瞳を紅く光らせて、こちらを見つめてくる。

「君が、ヴァンパイア……?」

ヴァンパイア。吸血鬼。夜の、王……?
そこまで連想をして、その発言の信憑性をようやく疑った僕は、どうやら自分で思っている以上にそうしたファンタジーに憧れていたらしいと自覚した。そんなわけはないのだ。
あるとすれば、そう。アンパイア。もしくはパパイヤかも知れない。いかにもパパ活をしていそうな感じがする。いや流石に失礼か。
たまたま同じクラスで隣の席になった病み系の女子がヴァンパイアなんて、ありえない。
そうとも。そんな筈ない。だって彼女は朝、普通に登校して、太陽の下で平然としているではないか。もしも本当にヴァンパイアならばそれは耐え難い苦痛でなければおかしい。
だってヴァンパイアは陽の光が弱点だから。
いやいやいや。そもそも僕はどうしてヴァンパイアの伝承や設定に当て嵌めて否定をしているんだ。否定は簡単だ。現実的ではない。

「えと、揶揄ってる……?」
「あーその顔、信じてないっしょ」
「ま、まあね」

全然。これっぽっちも。そうさ。僕は欠片も信じてなんかいない。ちょっとでも耳を疑ったことが恥ずかしい。馬鹿馬鹿しい話だよ。

「どうして太陽が平気か、知りたい?」
「別に、そんなのどうでもいいし……」
「じゃーん! UVカットクリーム!」

愕然とした。その手があったか。伝説上の存在であるヴァンパイアの伝承は時代背景が中世ヨーロッパなので、その設定が現代に通用するとは限らない。美容業界は日進月歩で進歩しており、既に太陽を克服していたのだ。
15 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/26(月) 20:27:53.37 ID:CguT7wFgO
「塗る?」
「いえ、結構です……」

手の甲にクリームを擦り付ける隣の席のヴァンパイア。てか爪長! マジかよ。うちで飼ってる猫より長いじゃん。剥がれたら痛そうなので切ることをおすすめしたい。でも下手なこと言ったらガブってやられそうで怖いな。

「ん? なに見てんの?」
「いえ、別に……」
「いきなりガブっとしないから言ってみ?」
「つ、爪が長いな、と思いまして……」

恐る恐る指摘するとヴァンパイアは笑って。

「ああ。これ付け爪だからへーきだよ」
「あ、そっすか……」

ですよねー。常識的に考えてそうに決まってんじゃん僕のバカ! ヘラヘラ笑いながら恥ずかしくて死にたくなっていると悪寒が走り。

「その愛想笑いやめて」
「は? えっ……と?」
「長く生きてるとさぁー感情の起伏がなくなってくんの。だからあたしは本当に面白い時しか笑えないし、本当に泣きたい時しか泣けない。そりゃあ、周りに合わせて空気読むこともあるけどさぁー……すっげー虚しいんだよね。ねえ? わかるかなぁー? この気持ち」

せいぜい16年しか生きてない僕には到底わからない境地だった。ただ言われてみると、なんとなくわかるような、わからないような。

「つまり、たまには思いっきり笑ったり泣いたりしたいってこと?」
「まーそういう願望はあるっちゃあるけどさぁーぶっちゃけただの八つ当たり」

羨ましいわけでもなく、八つ当たりか。諦めてるようにも思える。そんなもんだろうか。
ふと、彼女が何歳なのか訊きたくなったが。

「年齢訊いたら噛むかんね」
「うっす……」
「ぷっ……そんなびびんなって! ウケる」

あっぶねー。地雷だったわ。真っ青になってお口にチャックをする僕を見て、彼女はケラケラと笑った。尖った八重歯がヴァンパイアらしい。マジか。マジで、ヴァンパイアか。
16 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/26(月) 20:29:48.52 ID:CguT7wFgO
「あーおもろ。久々に笑ったわ」
「あの」
「ん?」
「何歳っすか?」

無意識に訊ねると、ヴァンパイアは真顔で。

「訊くなって、あたし言ったよね? 聞き分けないガキはマジでガブってやっちゃうよ?」
「ガブって、やられてみたいなって……」
「え……きも」

あ、終わったわ。なに言ってんだ僕は。うわーガチきもいじゃん。ガチきもだよ。なんだよ噛まれたいって。あーキツイ。きちぃー。

「あのさー、あんたにだって食べ物の好き嫌いってあるっしょ? それと同じようにあたしにだって誰の血が吸いたいとかあるワケ」
「はい……」
「逆に考えてみ? もしもあんたがヴァンパイアだとしてさぁーあたしの血が吸いたい?」
「え、それはもう、当然吸いたいっすけど」
「マジきも。銀の弾丸や十字架よりキショ」

あ、これもうダメだわ。もうおしまいだ。キモいならまだしも、キショいのは終わりだ。
でもどうだろう。ニンニクじゃないし。銀の弾丸や十字架なら、ワンチャンまだ希望が。

「あのさぁーニンニクはブレスケアとかミンティアでなんとかなんの。常識でしょ?」
「あ、なるほど。左様でございますか……」

そっちも克服されていたとは。そうだよね。
ヴァンパイアだって焼肉とかニンニクマシマシのラーメンとか食いたいもんね。当然か。
17 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/26(月) 20:31:07.99 ID:CguT7wFgO
「さっきから噛んでくださいとか、血を吸いたいとかさぁーほんとアタマおかしくない? 大丈夫? せめてそういうのはムード気にするべきだってわっかんないかなーこの童貞は」
「童貞でごめんなさい」
「あ、そこは別にいーよ。ヤリチンの血ってクッソ不味いから。一生童貞でいれば?」
「うっす……」

なんだそれ。僕は非常食みたいなもんかよ。

「んで? マジで吸って欲しいワケ?」
「またキモいとか言わない……?」
「言わない」
「キショいもご勘弁……」
「言わないってば!」
「それなら、吸って欲しいです……」
「なんで?」

衝動的な発言に理由を求められてしまった。
笑った彼女の八重歯を見ていたら自然とそう思ったのだ。それに理由を付け加えるなら。

「君が、美しかったから」
「っ……ば、ばっかじゃないの!?」

うわ、顔真っ赤だ。どうやらブチ切れさせてしまったらしい。しかしこれは方向性としては悪くないのではないだろうか。彼女が僕に対して怒れば、ガブってやってくれるかも。

「マジキレイ。尊い」
「チッ……本気でうざいんだけど」
「天使……いや、悪魔的なかわいさだよ」
「はっ。悪魔的なかわいさねぇ。天界の連中に聞かせてやりたいね。あいつら元気かな」
「天界……?」
「いいから、もっと褒めな」
「髪はサラサラだし、目はキラキラだし、笑顔は魅力的だし、胸は……慎ましいし……」
「よーし。ガチで吸うかんな。いいな?」

我ながら酷いボキャブラリーだが、なんとかヴァンパイアを怒らせることに成功した。どのワードが地雷だったかはわからないけど、かなりの圧を感じる。僕は初めてだから痛くしないで優しくして欲しい。お願いします。
18 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/26(月) 20:33:34.22 ID:CguT7wFgO
「あむっ」
「っ……」

チクッとしたけど痛みはもうない。むしろ。

「な、なんだ、これ……」

ヴァンパイアの吸血はまさしく悪魔的な気持ち良さだった。脳内麻薬がドバドバ溢れているのを感じる。なるほど。こういうものか。
だからこのまま吸い尽くされてしまうのだろう。もうやめてなんて、自分では言えない。

「ぷはっ」
「あっ……」
「ごっそーさん。んー? なんだよ、その顔」
「いえ、あのその、もっと……」
「だーめ。これ以上吸ったらマジぶっ倒れっから、もうやめとき。また今度なー」
「うっす……」

これはハマるわ。依存性がハンパない。もう吸われたくて仕方ない。血を吸って貰うためになんでも言うことを聞いてしまいそうだ。

「いいかぁー? あんたはもうあたしの餌だかんな。他所の女と仲良くしたり、ベタベタすんなよー? 血の味ですぐわかんだかんな?」
「……うっす」
「あんたはこの先、未来永劫、不死の眷属としてずっとずーっとあたしのそばにいるんだぞー? どこに逃げたり離れたりしても地の果てまで追っかけるかんなー? 覚悟しろなー」
「……うっす」
「あたしが1番美しいだろ?」
「1番美しいっす」
「あたしが1番かわいいだろ?」
「はい! 1番かわいいっす!」
「よーし……じゃあこれからよろしくなー」
「末永く、よろしくお願いします!!」

こうして僕はヴァンパイアに隷属することになったわけだけど、いつからだろう。どのタイミングで彼女は僕を虜にしたのだろうか。

「夜も更けた。さあ、我が眷属よ。この暗い、昏い、冥い、美しい宵闇を彷徨おうか」
「うっす!」

悠久を共に生きる中で答えを探していこう。


【どっとハレルヤ 3話】


FIN
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/02/26(月) 21:52:04.32 ID:Bd9qHhpdO
こいつまだ生きてたのか
何番煎じか分からない、面白みのない単調な文
スカトロにこだわってたのは自分の文才のなさを誤魔化すためだったんだな
20 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/27(火) 20:36:27.24 ID:r7IG1DVqO
「そこのソファの真ん中に座ってて」

現代のヴァンパイアの根城は摩天楼の最上階。つまり、高層マンションの1番上のフロアを全て貸し切っていた。お金持ちである。

「お腹すいたでしょ。何か作ってくるね」

3人がけのふかふかなソファに座らせられた僕は緊張していた。両隣に同い年くらいの若者が座っているからだ。右隣にはファッション雑誌から飛び出してきたような美少女。不機嫌そうにスマホをシュッシュしている。左隣には色素が完全に抜けたような性別不明の真っ白い人物。この子は機嫌良さそうにニコニコ笑っているが、うっすら開いている真紅の瞳はまるで笑っていない。おっかないな。

「……あの」
「なによ」
「肩に頭乗せるのやめて貰っていいですか」
「やだ」

スマホ美少女は僕が座って間も無く、こちらの肩に側頭部を預けてきた。ヴァンパイアに負けず劣らずサラサラな髪の毛が肩にかかって、ものすごく良い匂いがする。悪い気はしないものの、痴漢冤罪で捕まりそうで怖い。

「……あの」
「ん? なんだい?」
「手繋ぐのやめて貰っていいですか?」
「僕、冷え性だから」

白い子は僕が座って間も無く、左手を繋いできた。しかも恋人繋ぎだ。この子と僕は面識はない筈なのに、いつの間に恋人になったのだろう。そもそもこの子は男なのか女なのかわからない。性別に関わらず、指は細くて手のひらは柔らかいので不快感は全くない。やたら指先が冷たいのは冷え性のせいらしい。
21 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/27(火) 20:39:03.49 ID:r7IG1DVqO
「ねえ、見て見て。こいつバカじゃん?」

スマホ美少女がSNSに投稿されたバイトテロ真っ最中の動画を見せてきた。バイトテロをしているのは僕らと同じくらいの年齢の悪ガキでコンビニの商品に悪戯している。具体的にはカップラーメンの底に穴を開けていた。

「ほい、拡散。これで人生おしまいっと」

スマホ美少女がポチッとタップすると、瞬く間にその動画が全世界に知れ渡り、盛大に燃え広がっていく。すげーな。何人フォロアーいるんだろう。ここまで影響力を持ったインフルエンサーとは逆に友達になりたくない。

「手、あったかいね」
「君の手は冷たいね」
「僕は心があったかいからね」

白い子は遠回しに僕は心が冷たい奴だと非難してきた。いや、さすがにただの被害妄想だろうけど何か裏がある気がする。だってこの子、赤いおめめが全然笑ってないんだもん。

「へえー白いのの魅了に抗えるんだ」
「魅了? 抗う?」
「そいつ男でも女でも惚れさせる名人だよ」

そうなのか。僕としては薄気味悪いとしか思えないけどたしかにかわいい部類ではある。
天使とか、妖精とかそっち系だ。ていうか。

「君もモテそうだけど?」
「そりゃあんたよりはね」

スマホ美少女は文字通り美少女である。仮に後光で差していたら彼女が女神だと言われても信じるかもしれない。外見を見る限り、歪んだ造形が一切なかった。美少女フィギュアの原型師が彼女を見たらきっと、理想のモデルと巡り会えたことを神に感謝するだろう。
22 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/27(火) 20:41:54.50 ID:r7IG1DVqO
「あんたはふつーだね」
「うん。ふつーだねー」

ほっといて欲しい。両隣から普通と言われて普通とはなんだろうと考える。特筆するべきない点もまた、特筆するべきではないのか。
つまり普通というのはそれも個性なのでは。

「あの人に何されたの?」
「え? 首すじをガブって」
「うわ。痛そう。大丈夫だった?」
「むしろ気持ち良かったよ」
「ひえー引くわー」
「手、離してもいい?」

ヴァンパイアとの馴れ初めを話すとドン引きされた。白い子は手を離すと言いつつも離す素振りはない。むしろ繋いだままズボンのポケットに入れられた。何がしたいんだろう。

「ああ、でもそういう鈍感なところはちょっと変わってるかも。性欲とかないの?」
「ガブってされた時に久々に味わったよ」
「じゃあ、僕もガブってしてあげる?」
「いえ、結構です」

やっぱりこの人たちもヴァンパイアの眷属なのだろうか。それにしてはあんまり吸血鬼っぽくないな。僕が言うなという話だけどさ。

「じゃあさ、あたしの血、飲みたくない?」
「いえ、結構です」

何がじゃあ、なのかよくわからない。まったく飲みたいと思わなかった。僕も一端の吸血鬼ならば吸血衝動があって然るべきなのに、しかもこれだけの美少女なのに。不思議だ。

「僕の血はあげないよ」
「うん……要らないよ」

この白い子の血は単純に不味そうだ。もしかすると血も白いのかもしれない。人肌に温まった生臭い牛乳を想像して、吐き気を催す。
23 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/27(火) 20:44:24.69 ID:r7IG1DVqO
「うん。やっぱり変わってる。仲間じゃん」
「僕と付き合う?」
「あのー! この人たち何なんですか!?」

たまらず僕は、キッチンのヴァンパイアに質問した。さっきからトントンと聞こえていた規則正しい包丁の音がやんで、大きな声で。

「お前の同類だよ! 仲良くやんなー!」

同類って。僕って、こんなのと同類なのか。
となるとやはりこの人たちもヴァンパイアの眷属なのだろう。では改めて挨拶をしよう。

「この度、新しく眷属になりました……」
「は? 眷属ってなに? 新しい属性?」
「どうやら、僕たちとは違うんだね」

違うのか。ならこの人たちは何なんだろう。

「あたしはあの人のフォロアー」
「僕はね、あの人のファンだよ」

なんか恥ずかしい。よりによって眷属とか言っちゃった自分を殴りたい。厨二すぎる。
でも、そもそもあの人が僕を眷属って呼んだわけだし、眷属のほうが正式な呼び方かも。

「あは。すっかりヴァンパイア気分なんだ」
「ふふ。かわいいね」

やっぱりダメだ。スマホ美少女はニヤニヤしているし、白い子はニコニコしながら蔑んだ眼差しをしてくる。そんなにダサいかなぁ。
24 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/27(火) 20:47:12.05 ID:r7IG1DVqO
「素敵だと思うよ眷属。頑張ってね」
「そもそもさ、眷属って何すんの?」
「何ってそりゃあ……知らないけど」

なんか絶対服従の下僕みたいに言われたけど具体的には何をするかはわからない。やっぱり夜の闇に紛れて人を襲ったりするのだろうか。そんなこと出来るだろうか、この僕に。

「なんか顔色変えずに虫とか殺せそう」
「わかるー屠殺とか得意そうだよねー」

そんな風に見えるのか? まあ、否定はしないけども。虫なんか怖くないし屠殺は可哀想だけど仕方ないことだ。お肉は美味しいから。

「あーもしかして意外と1番狂ってる系?」
「きゃー怖ーい」

狂ってないし怖くない。僕はそう、普通だ。

「あー良かった。あたしらはまともでさ」
「なんか安心感あるよね」

自分より下がいると人間は安心する。僕はそういう意味では安心感を与えられる人間だ。
情けないけれど、それで良いと思っている。
いつも必死に走っている人の背中を支えてやって、最後に襟を思いっきり掴んで転ばせてやりたい。普通、誰だってそう思うだろう?
25 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/27(火) 20:48:33.81 ID:r7IG1DVqO
「とにかく、これからよろしくね」
「うっす」

スマホ美少女は僕の右腕を持ちあげて、自分の肩に乗せた。そのまま擦り寄ってくる。白い子は左手を繋いだまま耳元で囁いてきた。

「今夜は僕と一緒に寝る?」
「自分ヴァンパイアなんで。夜寝ないんで」

仲良く出来るかなんてどうでもいい。僕は絶世の美少女でもなければ変わり者でもない。
そんな僕がヴァンパイアの眷属になれたのはきっと普通だからだ。目の見えない人が杖を落としても見て見ぬふりをするように。耳が聞こえない人がクラクションを鳴らされても知らん顔をするように。それが普通で、それが正常なこの暗くて、昏くて、冥くて、澱んだ世界に染まった僕は、どこにでもいる普通の人間だから。きっと上手くやれるだろう。

「出来たっ! お待たせー! さあ、お食べ」

ヴァンパイアが食卓に乗せたのは何の変哲もないただのミネストローネ。その血のように真っ赤なスープは、普通に、美味しかった。


【どっとハレルヤ 4話】


FIN
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/02/28(水) 22:17:19.12 ID:ukwrF+a10
化物語が流行ったあたりから一切アップデートされていないオッサンが書いてんだな
見苦しいの一言
27 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/28(水) 22:18:23.31 ID:3Zioz9uoO
「え。何そのバッグ。どうしたの?」
「いーでしょ。パパがくれたんだー」

ソファの左端に座って、真ん中に座る新入り眷属くんに今日の収穫を見せつけた。するとスマホの子は、またかというようにため息を吐いて、何やらスマホの画面を彼に見せた。

「ほら。あれ、バーキンの新作だよ」
「バーキンってなに?」
「エルメスって言えばわかる?」
「ああ、聞いたことある」
「ほら、買取価格300万だって」
「はえーバッグひとつで300万かぁ」

どうだ!と得意げになるも、新入り眷属くんは呆気に取られたようにポカンとしている。
そんな彼の肩を叩いて、スマホの子が囁く。

「あのね、ちなみにあたしも昨夜、スパチャで300万くらい稼いだよ。すごくない?」
「スパチャって?」
「投げ銭。生配信してるとお金が貰えんの」
「ああなるほど。おひねりみたいなもんか」

やはり今ひとつな反応。もっとこう、大袈裟に驚いて欲しい。新しい眷属くんはリアクションに乏しい。まるで全て想定内みたいだ。
28 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/28(水) 22:19:44.59 ID:3Zioz9uoO
「眷属くんは親からお小遣い貰ってるの?」
「特に欲しいものがないから貰ってないよ」
「マジ? 買い食いとかしないの?」
「特に食べたいものがないからね」

やっぱり変だ。欲望というか人間に備わっている欲求が一切感じられない。ヴァンパイアになって睡眠欲は克服したとしても、食欲と性欲はそのままの筈なのに。というか、ヴァンパイアだって昼間は眠くなる筈だろうに。

「ああ、でも口止め料は貰ってるよ」
「口止め料?」
「うん。たとえば駅の売店で万引きした人がいたとして、その人を注意するとお金をくれるんだ。基本的に僕はお金を使わないから貯まっていく一方でさ。ほら、こんなに一杯」

そう言ってポケットから無造作に札束を取り出した。くしゃくしゃになっていて、こうして見るとただの紙屑であり価値を感じない。

「あとは両親からそれぞれ浮気の口止め料を貰ってるよ。それも口座に結構な額が貯まってると思う。持論だけど悪いことをした人はさ、きっと代償を払えば赦された気になるんだろうね。そんなことで罪は消えないのに」

ゾクリとした。思わず日頃の薄ら笑いをやめて真顔になってしまった。新しい眷属くんは実に興味深い。彼のことがもっと知りたい。
29 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/28(水) 22:21:31.41 ID:3Zioz9uoO
「お互い浮気してんのに、なんで離婚しないのかな? そこらへん、追求したことある?」
「世間体とか、僕という子供がいるからとか色々と理屈はあるらしいけど、たぶん面倒臭いんだと思うよ。あとは、家庭を持ちながら情事に耽る背徳感がたまらないんだろうね」

心底どうでも良さそうに自分の両親について分析する彼はきっと、本当にどうでも良いのだろう。もしかすると両親はそれぞれ子供のことを愛しているのかも知れないけれど、きっと彼は、それを含めてどうでもいいのだ。

「でも、こんなあぶく銭でも良い使い道があってね。いかにも今から強盗するぞって人に渡すと、とても喜ばれるんだ。思わず笑っちゃったよ。だってそのお金なくなったらどうせ強盗するんだし。お金がないから人の物を奪おうなんて発想がさ、普通はあり得ないよね。そういう普通じゃない発想が頭に浮かんじゃう人を見ているとさ、テレビのつまらないバラエティーよりもよっぽど面白いよね」

面白いのは君だ。万引きのくだりに関してもそうだ。たまたま今回見逃されただけでどうせ捕まるのだ。犯罪者というのは何度も同じ過ちを繰り返す。両親の浮気を咎めないのも無意味だからだ。離婚してもまた新しい相手を見つけて浮気する。実に理に適っていた。
30 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/28(水) 22:23:22.81 ID:3Zioz9uoO
「痴漢している人も、盗撮している人も、ポケットにやましい物を入れてる人も、みんなお小遣いをくれるからわりと良い人なのかも知れないな。そのお金で強盗犯の執行猶予が伸びるわけだから、この暗い、昏い、冥い世界は本当に上手く出来ているよね。この世界を作った神様がいるなら天才だ。いつか会ってみたいよ。君たちもそう思わないかい?」

むかつく。本当は僕に夢中になって欲しいのに。真っ白な僕の存在意義は有象無象に惚れられて、愛でられて、チヤホヤされるくらいしかないのに。飽きたら捨てるのが何よりも愉しみなのに。新しい眷属には通用しない。

「今の痛々しい格言、拡散しといたから」
「やめて!?」

スマホの子もさっきまで珍しくスマホから顔を上げて見惚れてたのに。そのことを誤魔化すなんてみっともない。僕はひと味違うぞ。

「今度、僕がパパとヤッてるとこ見学して」
「やだよ!?」

無理矢理でも連れていこう。この新しい眷属に見られながらしたら、きっと得も言われぬ快感を味わえるだろう。きっと彼は何も感じない。ただポカンとしながら、この暗い、昏い、冥い世界の理に思いを馳せるのだろう。


【どっとハレルヤ 5話】


FIN
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/02/28(水) 22:35:53.60 ID:gNhw2AJR0
40過ぎたヒキニートに妄想の世界でならぼくちんはこんなすごいことができるんだぞー!とか披露されてもなあ
何書いても性根の腐り切った連中が不快な自分語りと会話の末に盛ってるだけのワンパターンじゃないの
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/02/28(水) 22:57:44.49 ID:4Xl089C30
【40過ぎ】どっとハゲルヤ【手遅れ】
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/02/29(木) 00:10:08.02 ID:k4G/2fT7O
今まで二次創作と称して散々スカトロであらゆる作品を汚しまくってきた荒らしの分際で
よく恥ずかしげもなくこんなゴミをオリジナルとして公表できたな
つくづく人を不快にするためだけに生まれてきたような人間だな
34 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/29(木) 21:00:44.94 ID:k+V4VH49O
「ただいまー」
「ん。お疲れ。社会見学、どうだった?」
「はあ……何が悲しくて自分の父親がヤッてるところを見せられないといけないんだよ」

白いのに連れ出されて帰ってきた眷属くんは疲弊していた。よりによって自分の父親とかないわー。ま、白いのがやりそうなことだ。

「シチュエーションは?」
「クローゼットの隙間から……」
「マジうける。拡散していい?」
「ふん。自分でするからいいよ」

げんなりしながらPCの前に座って、スレッドを立ち上げる眷属くん。最近あたしが提案して、白いのと共同出資でマンションの空き部屋にサーバールームを作り、立ち上げた掲示板に、今日起きたことを書き込んでいく。すると、沢山のレスが飛んできて、すぐにあたしが見ているSNSにもURLが貼られ始めた。凄まじい拡散力だ。

「最近、掲示板の調子良いみたいじゃん」
「今は業者の攻撃もやんで平和なもんだよ」
「荒らしを放置してたら住民が勝手に自警団みたいなのを組織して撃退したんだっけ?」
「そうそう。今となってはその自警団も過激派認定されて、誰にも相手されてないのが面白いよね。性根が腐ってるからIDコロコロ自演しても丸わかりで、すぐにNG登録されてるし」

あたしの見立て通り、匿名掲示板の運営は眷属くんに向いていると思う。忖度しないし、贔屓もしない。善人も悪人も同じ人間であるならば、その言動によって扱いを変えたりはしない。真の平等の下に掲示板の平和を取り戻した正義マンをアクセス禁止にしている。
35 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/29(木) 21:02:12.99 ID:k+V4VH49O
「正義を掲げて他人を攻撃するのはそこらの悪党よりもタチが悪いと思うんだよね。基本的にやってることは一緒なのにさ。なんか変なルールを勝手に作って自分は正しいと思い込んじゃってるなんて、頭おかしいじゃん」

そう呟いた言葉通りに書き込むと正義マンがIDコロコロして暴れ始めた。速やかにそいつらはSNS上で晒しものになる。個人情報を載せてしまった者は住所や学校が特定されて人生おしまいである。アーメン。ざまあみろ。

「君はひとの人生終わらせるの好きだねぇ」
「あたしはあの人のフォロアーだから。この世をもっともっと暗くて、昏くて、冥くて澱んだ世界にして、昼間でも紫外線を気にせずにお散歩出来るようにしてあげたいワケよ」
「なるほどなぁ。ヴァンパイアがUVカットのクリーム塗るだけで平気な世界はおかしいもんね。そうやって生存圏を確保するのか」

説明に納得した様子の眷属くん。あたしの働きに感心しているようだ。そんな殊勝な新入り眷属くんのことも先輩として労っておく。

「眷属くんの掲示板は昔からある既存の掲示板に比べて発言が自由だから人間の本心をそのまま書き込めて良い感じだよ。偉い偉い」
「細かい規制の条件付けは面倒だし、なにより僕は神様じゃないからね。誰が何を考えようがその人の自由で、それを捻じ曲げる権限は僕にはない。でも一度はやってみたいよ。他人の考えを捻じ曲げた上で、否定したい。そんな考え間違ってるよって。そんな考えはどこにも通用しないよって。頭がおかしいのかい?って。梯子を外されて、自分の足元のうっすい氷が割れて、極寒の海に突き落としてやりたい。きっととても愉快だろうなぁ」

正義マンに対する扱いは彼のそんな歪んだ願望の表れなのだろう。アンチスレを立ててそれを非難する連中を裁く。荒らしと正義マンは同じ人間であるとわからせるのは愉しい。
36 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/29(木) 21:02:59.18 ID:k+V4VH49O
「追い詰めるとさ、正義を振りかざしていた連中もあっさり罪を犯して捕まるんだよね。本当にこの世界はよく出来ているよ。作った人は天才だ。きちんと、平等に出来ている」

捕まる際に、悪党は身に覚えがあるからわりと大人しい。正義マンが捕まると喚き散らすのが実に愉快だ。朝早くに警察が家にやって来て、逮捕状を出されて狼狽する連中の顔は最高だ。電子レンジでスマホをチンして証拠を隠滅しようなんて無駄なのに。ああもう。

「キスしたい」
「また? 僕は今日、自分の父親の悍ましい行為を見せられて食傷気味なのに……むぐっ」

これは別に性欲なんじゃない。そもそもこいつは勃たないし。いや、正確にはあの人の寝室に招かれた夜に硬くなっているのを目撃したことがある。カッとなってファースキスを捨ててしまった。あたしだけがムラムラするのは不公平だ。だからこれは罰だ。世の中を暗くするこいつに昏い感情をぶつけて冥い顔させてやる。そうすればあたしのドス黒い気持ちも少しは薄まる。いや、より濃くなる。
37 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/02/29(木) 21:03:45.35 ID:k+V4VH49O
「いっつも普通のキスだけど、処女なの?」
「う、うるさいっ!」

こいつ、押し倒してやろうか。いやダメだ。怖いし。硬くなったらびびって触れないし。これ以上はあの人に怒られる。白いのとあたしは違う。あんな淫乱と同じなんて、嫌だ。

「てゆーか、あんたも童貞でしょ?」
「……そのほうが血が美味しいらしいよ」
「ふうん。それで納得したんだ。チョロ」

あの人の言葉は当てにならない。ただあたしたちに干渉せずに正しい在り方でいさせてくれる。悪人は悪人らしく悪党のまま過ごしたほうが幸せだ。なるほど。そういうことか。つまりこいつの言う通り、善人も悪人も幸せを望んでいることが共通点なら、それは同じ存在なのだ。ちょっとエモいかも知れない。

「少しだけあんたのこと理解できた」
「目つきがヤバいっすよ」
「黙って目を閉じないと拡散するよ」
「……うっす」

暗い昏い冥い瞳が、ゆっくりと閉じていく。
瞼を閉じると暗い昏い冥い闇に閉ざされた。
理解出来たあとのキスは、より格別だった。


【どっとハレルヤ 6話】


FIN
38 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/01(金) 20:39:02.42 ID:JJDCqf8kO
「あのー……そろそろ時間ですけど……」
「うーん……むにゃむにゃ……あと5分」

最近のあたしの日課は寝たふりをして、眷属が起こす様子を観察することである。人間の真似事をするのは趣味みたいなものだけど、大好きな生き物の生態を理解するために必要なことでもあった。知識として理解していてもやはり自分でやってみないとわからないことも多い。さて、我が眷属はどう出るのか。

「では少し遅れることを先方に連絡します」
「つまらん!」

どうしたってこちらが起きようとしないことは既に学習済みらしい。あたしはこの子があの手この手を使って健気に試行錯誤する様子を観察したいのに、まったく。困った奴だ。

「ちゃんと起きられて偉いですね」
「えへへ。でしょ?」
「着替えの用意は出来てますので」
「着させて?」

寝る時は基本、全裸なので要介護者のように身体を転がされてドレスアップした。これは極めて楽ちんだ。よーし。褒めて遣わそう。

「だいぶ上達したな、我が眷属よ」
「寝癖が酷いんで、座ってください」
「うむ。よきにはからえ」

あたしの自慢のトゥルトゥルの髪は眷属のお気に入りらしく、セットするのは嫌じゃないようだ。ドレスとお揃いのシースルーのスケスケな黒いリボンで手早くまとめてくれた。
39 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/01(金) 20:39:44.05 ID:JJDCqf8kO
「ふんふん♪」
「……この前から気になってたんですけど、その鼻歌、なんて曲なんですか? なんか料理作ってる時にいつも口ずさんでるけど……」
「True My Heart。まさか知らないの?」
「知らないっすね」
「マ? あんなに流行ったのに?」
「有名な曲なんですか?」
「うん。有名なエロゲの主題歌」
「エロゲっすか……」
「OPは良かったけど内容はイマイチでさ。そのエロゲの制作会社は倒産したんだけど、あたしは嘗て、その社名の『ランプ・オブ・シュガー』と名乗ってた時期もあった……」
「うわ。だっさ」

眷属のくせにジェネレーションギャップを感じさせるなんて許せない。でも、髪型が上手くキマッたから良しとしよう。覚えとけよ。

「うむ。いい感じ」
「うん。いい感じ」

鏡越しのお互い満足しながら話を切り出す。

「ところで同居人達とは上手くやれてる?」
「言われた通り仲良くするようにしてます」
「でもなんか2人にえらく好かれてない?」
「あの人たちは頭がおかしいので、僕も頭のおかしいふりをしていたら好かれたんです」

頭のおかしいふりねぇ。たしかにこの子は至って普通なので、やろうと思えば善人にも悪人にもなれる。同居人達はもちろん善人なんて大嫌いなので、仲良くするにはこの子が悪人になるしかなかった。それはわかるけど。

「ちょっとくらい、本心もあったでしょ?」
「どうかな。僕が言ったことはあの人たちが好きそうな極論ばかりだから、一概にそれが全てに当てはまるわけじゃないよ。ケースバイケースというか、そういうこともあって、その場合には本心という場面はあると思う」

あらゆる場面、状況で、その価値観が適用されるわけはない。緊急事態や、後々のことを考えれば言ったことと真逆の行動をする場合もある。それが生きるということだからね。
40 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/01(金) 20:40:49.06 ID:JJDCqf8kO
「そう言えば、ほらあそこ。見える?」
「え。なんすかあれ。サーチライト?」

摩天楼の最上階から見下ろす街並みに目を凝らすと光の柱が天に伸びているのがわかる。
あたしにはハッキリ見えるけど、この子は言われないと気付けない。なので、あの光の柱に近づく前に警告しておこう。心配だから。

「あれは天界から差し込んでる光だから近づかないでね。あんたはあたしの眷属だから一瞬で蒸発することはないけど、腹いせに何されるかわかんないから充分に注意すること」
「はい? 天界? 蒸発? なんの話っすか?」
「天界には神様が住んでいて、いつも下界の様子を見ている。気に入った人間がいると、あんな風にマーキングをする。そんで、あの付近ではしばらく前にあり得ない超常現象が起きた。具体的には死者の蘇生と運命の改変ね。人間には当然不可能な事象だから間違いなく天界の連中が干渉して奇跡が起きた証拠よ。そう断言されてもわかんないだろうからゲームの設定とでも思ってくれればいいよ」
「自分、ゲームしないんで」
「あ、そう」

信じるも信じないも自由だ。この子なら案外上手くやるかも知れない。神の使徒とも馴染めるだけの素質はある。運命の改変が行われていることから、マーキングしてるのは十中八九あの口の悪い女神だろう。使徒になった人間はよくあの女神の罵詈雑言を受けて自我が崩壊しなかったものだ。ま、うちの子も平気だろうけど。それにあの女神をあたしの眷属みたいな子が大好きだし。あげないけど。
41 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/01(金) 20:41:39.65 ID:JJDCqf8kO
「それで、ヴァンパイアなのに天界のことについてやたら詳しいのはどうしてですか?」
「それは、あー……説明が面倒臭いからまたあとでね。あんたの血を飲むのは別に食欲とは関係なくて、供物みたいなもん。血を捧げるってなんか抵抗あるでしょ? だからあんたにとってはあたしはヴァンパイアでいいよ」
「なんか誤魔化されているような気がする」
「細かいことを気にすると良い眷属になれないぞ。さあ、夜も更けた。宵闇を彷徨おう」
「……うっす。お供するっす」

今宵は掛け持ちしてる高級クラブに顔を出して政財界の人たちの相談を聞く予定だ。彼らのお悩みを解決して、この暗くて、昏くて、冥い、"甘くほろ苦い"世界を導いてやろう。


【どっとハレルヤ 7話】


FIN
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/03/01(金) 21:23:28.57 ID:4oq3N6ceO
登場人物にもストーリーにも何の魅力を感じない
時間の無駄だったな
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/03/01(金) 22:06:20.02 ID:hLpqn6IV0
自分で考えた世界観を無下に扱うことが普通は有り得ないんだわ
逆にそれができる理由なんて「設定をパクっているから」に他ならんのよな
つかその時点でオリジナルでも一次創作でも無いのにさあ(苦笑)
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/03/01(金) 22:09:56.45 ID:Q81ZS0j10
>>42
なんでそうやってケチつけるの
あんたがどう思おうと勝手だが
そんなことわざわざ書くなよ
感じが悪い
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/03/01(金) 22:28:11.21 ID:4oq3N6ceO
そりゃオリジナルや一次創作なんて偉そうにスレタイに出すぐらいだから期待するじゃん?でも中身はこれ。レストランの看板につられて入ったら料理じゃなくて皿に盛った残飯を出された気分だよ
46 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/02(土) 11:53:22.36 ID:4MHnLkkWO
「うーむ……普通に面白いな」

この前、ヴァンパイアが言っていたエロゲをプレイしてみると、別段、彼女が言うほどシナリオが悪いわけでもなく普通に楽しめた。

「お、なにしてんのー?って、ちょっ!?」
「あ、有希奈」
「はあっ!? だ、誰が有希奈よ!? じゃなくて、昼間から堂々と何してんのよ!?」
「エロゲ」
「エ、エエ、エロゲってあんたねぇ……!」

ちょうどHなシーンの真っ最中だったので、処女のスマホ美少女、略してスマ子には刺激が強すぎたらしい。エロという言葉を聞きつけて、もう1人のエロい同居人もやってくる。

「なになに? ついに性欲に目覚めた?」
「あ、クルル」
「違う。僕の名前は……」
「僕がこんな絵に欲情するわけないだろ?」
「そ、そうよね。ただの絵だし……全然、ちっとも平気なんだから……やっぱり無理!」

さっきからスマ子が情緒不安定でうるさい。僕の見立てだとスマ子はヴァンパイアに惚れているので、このエロゲの立ち位置的には巴有希奈になるのだが、言動は双子の妹の真紀奈みたいだからややこしい。恐らくスマ子の言動は憧れのヴァンパイアを意識してトレースしているのだろうけれど、ヴァンパイアはこのエロゲにハマって制作会社の社名を名乗っていた過去もあるほどのファンなので、Hシーンで慌てふためくことなどないだろう。まだまだだな。

「おお。すごい。大洪水だね」
「うん。水分不足になりそうだ」
「もっとよく見たい……だっこ」
「うお。頭、邪魔。画面見えん」

白い子はクルルほどかわいくはない。いや、ビジュアル的にはかわいいのだがクルルのような純粋さがないのがマイナスだ。Hなシーンを見ても平気で人の膝の上に乗ってくる。
47 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/02(土) 11:57:17.69 ID:ZqvklURsO
「ん。あの人はこの中ならティータかな?」
「いや、あのヴァンパイアは嘗て、このエロゲの制作会社の名前を気に入って、"ランプ・オブ・シュガー"と名乗っていたらしいぞ」
「なにそれ素敵。シュガー2世になりたい」
「へー。ランプ・オブ・シュガーっと……」

白い子の感性はよくわからない。スマ子もスマ子でランプ・オブ・シュガーを検索しているし。ヴァンパイアが言っていた通り、OPの曲は素晴らしく、シナリオも言うほど悪くはなかった。それなのに倒産してしまったということは、恐らくヴァンパイアのせいだ。

「つまりあのヴァンパイアがランプ・オブ・シュガーと名乗っていたせいで天界から天罰でも下ったのかもしれないな……気の毒に」
「あの人は優しいから、きっと救ったはず」
「たしかに倒産と同時期に同じ制作スタッフが新しい社名で再集結して、新しく会社を立ち上げてるみたいね。今でも新作が出てる」

ヴァンパイアが存在しなければ倒産することもなかった。運命の改変とやらの影響だろう。再結成時に援助したとすれば、あのヴァンパイアなりの罪滅ぼしということか。もっとも、社名を名乗るくらい気に入った作品のわりに、シナリオに関しては辛口だったけど。

「内容的には、あのヴァンパイアはもっと陰鬱な作品のほうが好みってことだろうか?」
「あんたに興味を持たせて作品をプレイさせるために、あえて高評価しなかったのかも」
「なんで? 意味がわからないんだけど?」
「僕にはわかるよ。君は天邪鬼だからね」

天邪鬼かぁ。そんなつもりはないんだけど。
でもたしかに、すごい面白いからやってみてと言われても気は進まない。でも嘗て、社名を名乗って今や倒産してるとか言われると、興味がそそる。そう考えると天邪鬼かもな。
48 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/02(土) 11:58:49.21 ID:ZqvklURsO
「なんか天邪鬼って、字面がすごいよね。天の邪な鬼って書いて、おまけに響きも悪い」
「あんたにピッタリじゃないの」
「うん。素直な僕とは正反対だね」

白いのがわけのわからないことを言っているが、僕の厨二センサーが敏感に反応してる。
天邪鬼という字面と響きは、かなりやばい。

「どうせあの人に『僕は頭のおかしいふりをしているだけです』とか言ったんでしょ?」
「True My Heartを聴いて、どう思った?」

別に強がってなどいないけど、僕の本心か。

「いつまでも君たちの傍にいたいと思うよ」
「ふぇっ!?」
「ふうん。想いは優しいキスでってこと?」
「な、なんだ。ただの歌詞か……てゆーか、そもそも、そんなエロゲなんかしないで、あたしと……ああ、もう! 拡散してやる!!」
「理不尽すぎない!?」

善人も悪人もそれぞれが素直な気持ちを抱きしめれば、この暗くて、昏い、冥すぎる、"甘くほろ苦い"世界もキラメキ始めるだろうか。


【どっとハレルヤ 8話】


FIN
49 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/02(土) 19:36:02.60 ID:KzH3MjqkO
「ふんふん♪」
「なにその曲」
「これは"kiss my lips"って曲。例の"True My Heart"のカップリング曲らしいよ?」
「ああ、道理で似てると思った」

今日は久しぶりのお出かけだ。キャップを被って、ゆったりパンツルックにダウンで体型を隠して、サングラスとマスクをつけて、変装は完璧だ。それでもこの暗い、昏い、冥い世界ではいつ何が起こるかわからないので、基本的には引きこもり生活をしている。最近は眷属くんが同伴してくれるので出かけやすい。鼻歌を歌いながら灰色の寒々しい空の下でスマホを見ながら歩いていると、いきなり肘を掴まれて引っ張られる。びっくりした。

「危ないよ。車が来てた」
「あ、ご、ごめん……気づかなかった」
「いや……別に謝る必要はないけどさ」

そのまま、車道側に立ってくれる眷属くん。
たまに優しいんだから。まあ、あたしは美人だし、気持ちはわかる。さては惚れたかな。

「ふんふん♪」
「あ、この先はまずい。遠回りしよう」
「え? なんで?」
「向こうに光の柱が……」
「はあ? 光の柱ー?」

道の向こうを見るもそんなものはなかった。
50 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/02(土) 19:37:09.08 ID:/D+2xVLfO
「何にも見えない。気のせいじゃないの?」
「この薄暗い曇天であそこだけ陽が差してるんだから間違いないよ。ヴァンパイアから忠告されてるんだ。光の柱には近づくなって」
「へー。何があるんだろう? 行ってみよう」
「……僕の言うことなんて聞くわけないか」

近づくなと言われると気になる。ちょっと歩いた先に公園を発見。そこには小さな女の子が遊んでいて、お父さんとお母さんらしき人たちがベンチに並んで座っている。お父さんのほうは中年で、お母さんのほうは20代前半くらいかな。ひと目見て、お母さんのほうはあたしたちと同類だとわかった。あの暗く、昏く、冥く澱んだ目はこの世界の闇を垣間見た証である。だけどあのお父さんのほうは。

「うわー……あの人、やばいね」
「僕にはわからない。どうやばいんだ?」
「上手く説明出来ないけど……」

見た目的には普通の中年だ。やつれてるわけでも、ハゲているわけでもない。育児の疲れは見て取れるものの、夫婦仲は良好らしく、お互いに支え合っている様子だ。子供を見守る視線から妻に育児を押し付けていないとわかる。普通のパパだ。少なくとも、眷属くんのお父さんのように、白いのに手を出したりはしないだろう。でもおかしいのだ。そんな人が、あの奥さんと結婚出来るはすがない。
51 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/02(土) 19:38:08.04 ID:OZlVuuiaO
「あ、転んだ」
「痛そうだな」

子供が転んで膝を擦りむいてしまった。慌てて駆け寄る父親と、遅れてやってきた母親。
母親が何か言うと、子供はピタリと泣き止んだ。父親が取りなすような仕草をしている。

「たぶんあのお母さんはもっと痛い目にあった経験があるんだろうね。だから転んだくらいで泣く子供の感情を理解出来ない。あの家庭は共働きで子供を保育園に預けるか、もしくはお父さんが主夫しないと成り立たない」
「何が言いたいんだ?」
「子供だけじゃなく自分の奥さんの面倒も、あのお父さんが見てる。きっと、すごく大変だろうけど、それにしては悲壮感が少ない」

夫婦になると、2種類に分かれる。相手に対して献身する人と、それぞれ自分を大切にする人だ。これはどちらの在り方も問題ない。
けれど子供が出来ると難しい。自分は後回しで子供に全てを捧げることは出来ても、奥さんの世話までするのは難しい。だから夫婦は2人で育てるか、育児に有害で不用な片方を切り捨てて、離婚するのが普通なんだけど。
52 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/02(土) 19:39:15.89 ID:OZlVuuiaO
「ねえ、眷属くん。あの旦那さんは、なんのために結婚して、子供を作ったんだろうね」
「そりゃあもちろん、幸せになるためだろ」
「ううん。そうじゃない。あの人は奥さんと子供を幸せにしたいだけ。自分の幸せを考えてなんかいないんだよ。狂っていると思う」

結論的に、あの人はやばい。理解出来ない。

「うーん……普通に良い人じゃないか?」
「異常だよ。あたし……怖い」
「怖いなら、背中に隠れるか?」

ふと、奥さんの昏い瞳と目が合った。何やら耳打ちをすると旦那さんが駆け寄ってきた。言われた通り、眷属くんの背中に隠れる。

「すみません。妻があなた方のことを気になるそうで。もしや、知り合いでしょうか?」
「おお……! すっげー、ビリビリくる……」
「はい?」
「いえ、知らないっす。僕らもあんな可愛い子供が欲しいなーって話してただけですよ」

何を言ってるんだ、この男。こんなのその場凌ぎの思いつきに決まってる。ま、まあ、どうしてもって言うなら結婚するのはやぶさかではないけれど、子供なんて気が早い。だいたい、あの人に注意されたのにそんな親しげに危険人物と話していいのだろうか。ちょっとだけ心配だから眷属くんの背中に抱きつこうとしたその時、背後から声をかけられた。

「どうして、体型を隠してるんですかー?」
「ですかー?」

振り向くと、そこにはいつの間にか母親とその子供がいた。怪訝そうな昏い目つきで、着膨れしたあたしの身体をジロジロ見ている。

「サングラスごしでも美人ですし、脱いだら身体もすごいって脱がなくてもわかります。私の旦那さんを誘惑しに来たんですかー?」
「ですかー?」
「いえ、そんなつもりは……!」
「怪しいですねー」
「ねー」

被害妄想が酷い。ネガティブすぎる母親だ。
53 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/02(土) 19:40:08.55 ID:OZlVuuiaO
「ああ、すみません。うちの妻はどうも、綺麗な女性と出くわすとあのように絡んでしまいまして……知り合いではないみたいですしすぐにやめさせますんで。失礼致しました」
「いえいえ、お気になさらずに。ちなみに、これは今後の参考までに伺いたいのですが、実際、結婚すると幸せになれますかね? 」
「幸せ、ですか? 考えたこともなかった。妻と子供を幸せにすることが"使命"ですので」
「……わかりましたありがとうございます」

眷属くんが振り返って、あたしの耳元で『帰るぞ』と囁いた。立ち塞がる母子のうち、母親側に立って真っ直ぐ見つめると、何やら悔しそうな表情であたしを睨んできた。ふふん。羨ましいだろう。あの旦那さんよりも、眷属くんみたいなこっち側の人間のほうが、居心地が良いに決まってる。あたしの勝ち。

「じゃあね、バイバイ」
「ばいばい、きれいなお姉ちゃん」

子供側に立っていたあたしが手を振ると女の子は手を振り返してくれた。可愛い。いらないと思っていた子供が欲しくなってきてしまう。名残惜しくて、暫く子供に手を振っていたので、眷属くんの疲弊に気づかなかった。
54 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/02(土) 19:41:00.79 ID:OZlVuuiaO
「はぁ……スマ子の言う通りだったよ」
「スマ子言うな……てか、大丈夫?」
「あれが"聖人"って存在なんだろうな」

眷属くんは早歩きで、追いつくのが大変だった。目が真っ赤に充血していてアレルギー反応みたいに涙が止まらないらしい。鼻水も出てる。ティッシュを取り出して鼻に当てる。

「ほら、チーンって鼻かんで」
「ふがっ。なんか……自分が嫌になったよ」
「あんたは悪くない。あの人がおかしいの」

すっかり自信を喪失してしまったらしい。あんな人間なかなかいない。眷属くんが普通で気にすることないのに。そもそもこの暗い、昏い、冥い世界であの人はさぞ生きにくいことだろう。それに奥さんのあの顔ときたら。

「もしもあんたがあの人みたいなら、あたしも白いのも仲良くなれなかった。でしょ?」
「そういう考え方もあるか……でもなぁ」
「そうじゃなきゃ困るの! 元気出せっ!」
「じゃあ……kiss my lips」
「はあっ!?」

思わぬリクエストに怯む。周囲を見渡して。

「んっ……はい! こ、これで、元気出た?」
「いや、鼻歌を歌って欲しかったんだけど」
「!? し、知ってたし! 今から歌うし!!」

曇天の暗い、昏い、冥い寒々しい空の下で、どんなに素敵なキスをしてもそれが勘違いなら拡散してもあたしが恥をかくだけだった。


【どっとハレルヤ 9話】


FIN
55 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/03(日) 20:03:52.17 ID:tObybwDvO
「んー? どうしたの? 怖い夢でも見た?」
「……勝手にベッドに入らないでください」

その日の晩も、僕はいつものように眷属くんのベッドに忍び込んだ。帰ってから元気がなくて、まるで日焼けをしたように鼻の頭が赤くなっていた。外は曇天で、紫外線も平気だろうに。おかげで添い寝する口実が出来た。

「夜は暗くていいっすね。昏い気持ちになっても普通っていうか、冥いのが当たり前で、それが自然だから、咎められる心配もない」
「うんうん……そうだね。夜は素敵だよね」

眷属くんが何言ってるのかさっぱりわからない。お年頃なので仕方ないのだ。僕は眷属くんがいつもそうするように適当に合わせる。

「暗いと安心するよね。明るいと見たくないものまで見えちゃうし。自分の影も濃くなるからね。昏い感情も冥い世界では普通だし」
「あの、手繋ぐのやめて貰っていいですか」

嫌よ嫌よも好きのうちってね。本当に嫌ならふり解けばいいのにそれをしないのはきっとあの人から仲良くするように命じられているからだろう。僕としてもやぶさかではない。
56 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/03(日) 20:04:43.38 ID:tObybwDvO
「白は子供欲しいって思ったことあんの?」
「んー? そうだねぇ……なくもないかなぁ」

僕の子供はきっとかわいいだろう。かわいくて、きっと苦労する。スマホの子もそうだけど、容姿が整いすぎていると、生きづらい。

「白は自分の子供の幸せを願える?」
「そうだねぇ……ほどほどには。幸せすぎると、見失ってしまうこともあるからねぇ」
「見失うって?」
「たとえば今、君がいつになく弱っているのを慰めることで僕はそれなりに幸せを感じているけれど、毎日それだと幸せは薄れてしまうよね? だから、ほどほどが大切なんだよ」

特に悩まずともそれらしい説明は出来る。
世の中には一定の価値なんて存在しない。
だからはっきりとしたことなど必要ない。

「自分の子供が不幸になっても、そのおかげでささやかな幸せに気づけるなら、それは良いことだと僕は思うよ。だから君が嫌な思いをしたとしても、それは良いことなんだよ」
「……そんなの詭弁だ」
「ふふ。そうだね。君が大好きな詭弁だよ」

人に好かれるためにどうするべきかは眷属くんよりも知っているつもりだ。あの人が僕らを同類と言ったように、僕は眷属くんやスマホの子のことをある程度は理解できる。とはいえ無論、全てを理解出来るわけではない。
57 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/03(日) 20:06:02.43 ID:tObybwDvO
「ずーっと幸せな日々が続いたらきっと人間の感覚は麻痺して、不幸な日を喜ぶようになる。その日だけ、生きてると実感するんだ」
「明日はもっと幸せになればいいじゃんか」
「1000兆円も、1001兆円も変わらないよ」

これは正論だけど、眷属くんは嫌いだろう。

「ダメだ。白の理屈は……人をダメにする」
「人間なんてもともとダメさ。でも、ダメだからって毎日怒られてたら生きる気力がなくなっちゃうよね? だからダメなことを許してあげないと。きっとあの人もそういう、暗くて、昏くて、昏い、優しい世界を望んでる」

正しいことだけでは通用しない。時にはズルをしたっていい。それをダメだと言わずに認めてあげよう。そうしたら、ほら、きっと。

「君も、そんなに悩まなくてよくなるよ」
「僕が悩むのは、僕の自由で、僕の権利だ。だいたい人間が悩まなくていい世界なんて、あのヴァンパイアだって望んでいないさ」

一理ある。神のみぞ知ると言ったところか。

「悩みすぎると、ハゲるよ」
「うっ……それは嫌だ」
「ほら、おいで」

どうせあのスマホの子は子供みたいに触れ合うキスしか出来ない。だから僕が、眷属くんを抱きしめてあげよう。久しぶりに寝れたのに、悪夢にうなされた可哀想な眷属くんに優しくしてあげよう。そして支配してやろう。
58 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/03(日) 20:06:37.91 ID:tObybwDvO
「よしよし。眷属くんはもう僕のものだよ」
「……胸が薄すぎて、全然心地良くない」
「でも間に枕を挟むよりはマシだろう?」

正論が嫌いな眷属くんから反論はなかった。

「このために生まれてきたって気がするね」
「あのー……そもそも、白って女なの……?」
「んー? 今更だね。この前、クローゼットの隙間から、ちゃんと見てなかったのかい?」
「確かに僕の父親は白を女みたいに扱っていたけど、別に女じゃなくても出来るし……」
「なら、どっちだろうが、結果は一緒だよ」

どうせ僕に手を出す気なんてないんだから。

「……白は優しいんだな」
「そうとも。僕は優しい」
「でも、すごい悪い奴だ」
「そうとも。僕は悪党だ」
「悪党は、優しいんだな」

悪役は優しい。罪を犯す感覚を知っているから、同罪の連中に優しくできる。自分が罪を犯していることに気づいていない連中とは違う。そんな奴らに僕は優しくなんてしない。

「君が悪党でいる限り、優しくしてあげる」
「……うっす」

大丈夫。眷属くんはとっくにこっち側だ。この暗くて、昏くて、冥い、優しい世界の住人だから、もう戻れない。どれだけ善人が羨ましくてもそうなれない。だって悪党だから。何を見てきたのかは知らないけど、あの人も気の毒なことをする。おかげで眷属くんを抱き枕に出来たことを感謝しよう。アーメン。


【どっとハレルヤ 10話】


FIN
59 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/04(月) 21:28:50.90 ID:NFEGa7GpO
「靴、脱がして」
「……うっす」

夜の街から帰宅したヴァンパイアのブーツを脱がす。基本的に靴下を履かないひとなので素足である。かかとまで柔らかですべすべな足をぼんやり眺めて無意識に鼻を近づけた。

「え、ちょっ、な、なにをしてるの……?」
「あー、いや……」

何をしているかと言われたら匂いを嗅ごうとしたと答えるしかない。しかし、その理由までは自分でもわからない。ただ興味本位でヴァンパイアの足も蒸れて臭くなるのか気になっただけだ。けれど、それを無断で嗅ぐのは人としてどうかと思う。では、事前に許可を貰えば良かったのだろうか? そんな許可を貰うことが恥ずかしい。だから勝手に嗅いだのだ。それが良いことなのか、はたまた悪いことなのかに関しては判断が出来ない。よってヴァンパイアがどう思うかに全ては委ねられたわけだが、彼女の反応は芳しくなかった。
60 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/04(月) 21:29:59.57 ID:NFEGa7GpO
「……お風呂行く」
「ま、まだ沸いてないっす……」
「シャワーでいい。ついてきなさい」

別段、激怒するわけでもなく、淡々とヴァンパイアはそう言って浴室へ向かった。なんとなく落ち込んだ素振りを見せつつ、付き従うと、彼女は湯船のへりに腰かけて足を出す。

「洗って」
「……うっす」

スカートの彼女はそのままでいいけど、僕はズボンなのでまくってからシャワーからお湯を出して、適温になったのを確認してから足を洗った。ボディソープをたっぷり泡立てて優しく丁寧に洗い、最後に泡を流した瞬間。

「えいっ」
「うわっ!?」

肩のところを足で押されて尻餅をついてしまった。もちろん下着までびしょ濡れだ。けれど勝手に嗅いだ僕が悪いだろうから、素直にその仕打ちを受け入れた。するとヴァンパイアはつまんなそうに爪先を鼻先に近づけて。

「ほーら。どう? もう匂いしないでしょ?」

ムカッとした。イラッとではなく、ムカついた。洗ってから嗅がせるなんて、そんなの何の意味もないじゃないか。研究のテーマはあくまでも、『ヴァンパイアも足が蒸れて臭くなるのか』なのに、これじゃ何も検証出来ない。怒られ損だ。だから僕はヴァンパイア爪先を噛もうとした。すると、彼女は目を丸くして慌てて足を引っ込める。取り乱しつつ。

「は? え? あ、あんた今、噛もうとした?」
「……うっす」
「あたしあんたのご主人様なのに? あんたはあたしの眷属なのに? 眷属がご主人様の足を噛むなんて前代未聞よ。飼い犬に噛まれるとはまさにこのことだわ。ありえないでしょ」
「……うっす」

まるで信じられないものを見たかのような顔をして、唇をワナワナ振るわせながらの説教だったが、僕は足を引っ込めて片膝を立てる形となった格好に釘付けだった。下着なんかはこの際どうでもいい。噛まれそうになった爪先の緊張感、そして驚愕の表情。スマ子や白い子相手では一切欲情しない僕が、何故か飼い犬に足を噛まれそうになってあられもないヴァンパイアに欲情していると怒られた。
61 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/04(月) 21:31:55.25 ID:NFEGa7GpO
「や、やらしい目で見んなっ! この変態!」
「……うっす」

立ち上がったヴァンパイアに蹴られるかなと思ったけど、そんなこともなかった。浴室を出て、脱衣所で立ち尽くしている。恐らく、足を拭けということだろう。嫌いな奴に拭かれたくはないだろうから、嫌われてはいないようだ。ふわふわのタオルで恭しく丁重に拭いてやると頭上から小言が降り注いできた。

「あんた最近、同居人とベタベタしすぎ。澄ましてるけど匂いでわかんの。あんたはあたしの眷属って自覚が足りない。ちょっと使徒と遭遇して、打ちのめされて、優しくされたからってデレデレすんな。わかったかー?」
「……うっす」
「だいたい怖い思いをしたなら真っ先にあたしによしよしされに来いっての。あんたのご主人様はこのあたしでしょ? 普段寝ないあんたが不貞寝して、どんだけあたしが心配……こほんっ。とにかく! 忠誠心を見せてよ!」

ふむ。忠誠心ときたか。ブーツを脱がしたり足を洗ったり拭いたりしてる僕は我ながら健気な眷属だと思うのだがそれ以上となると。

「……では、僭越ながら」
「っ……!?」

とりあえず足の甲にキスしてみた。すると。

「ふ、ふうん……やれば出来んじゃん」
「……チョロ」
「あ? なんか言った!?」
「いえ、別に何も……」
「あんたってば、本当に……まあ、いいわ。使徒と遭遇して身体はなんともないのね? 」
「うっす」

遭遇した日は日焼けしたみたいにヒリヒリしたけど、今はなんともない。精神的なダメージも、白い子のカウンセリングで回復した。
62 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/04(月) 21:32:52.25 ID:NFEGa7GpO
「この遭遇でわかったでしょ? 使徒には勝てない。今回は別に対立したわけじゃないみたいだけど喧嘩を売るのはやめときなさい。もしも喧嘩を売られたら引き下がること。あんたがボロボロになっても意味なんてないから意地を張る必要はない。本質の問題だから」
「本質の問題?」
「正義は必ず勝つってことよ。天界の主神は正義の女神にして勝利の女神。あの使徒は主神から直接加護を得ているわけではないけどその在り方に主神は一定の理解を示して認めた。だから基本的に負けない。そもそも強力な運命の女神の加護に加えて慈愛の女神も見守っている。要するにチートみたいなもん」
「はあ……チートっすか」

それにしては、俺つぇええっ!という感じではなかった。あれは、まるで、賽の河原で石を積むことをやめない覚悟をした顔だった。

「あの人、生きてて楽しいんすかね?」
「それ、本人に聞いてみた?」
「なんか、使命とか言ってました」
「使命を果たすのは困難だけど、目的や目標を見失ったまま生き続けるのも大変だから、そいつにとってはそれで良いんだと思うよ」

そんなもんか。僕は死んでもごめんだけど。
63 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/04(月) 21:35:52.75 ID:NFEGa7GpO
「ちなみに正義と勝利を司る天界の主神には、ヴァンパイアでも勝てないんですか?」
「天界と下界じゃ土俵が違う。基本的にあの短気な主神は結果重視だから、勝った奴が正しいと認めざるを得ない。下界では正義=勝利とはならないこともある。むしろ、正しい奴は勝てない世界よ。だから主神様は、今日も天界でイライラしていることでしょうね」

いい気味だと薄く微笑むヴァンパイアの口元から覗く尖った美しい牙に僕は見惚れる。どうして彼女が主神とやらを目の敵にしているかは定かではないがどちらに付くかと言われたら断然、このご主人様を僕は選ぶ。いや。

「あたしがあんたを選んだ。だから、あんたに負けて欲しくない。無謀なことはやめて、あたしに従ってればいい。そうしたら、あんたを下界の王として君臨させてあげるから」
「僕は王になんかなれなくてもいいですよ」
「まーた、言ってるそばから刃向かって……それじゃあ、あんたは何になりたいのよ?」
「ヴァンパイアの旦那さんは如何ですか?」
「ふふっ。あはっ。ははっ。あっはっは!」

冗談めかしてそう言ってみると、滅多に笑わないヴァンパイアはゲラゲラ笑ってくれた。
惜しげもなく牙を晒して、ひとしきり笑い。

「あんたとあたしが番になったら、天界の連中はさぞ悔しがるでしょうね。運命の女神あたりは負けじと堕天するかも。そうなったら世界の摂理や秩序は狂い放題。実現出来るかどうかはともかく楽しみしてる。だからせいぜいあたしを堕とせるくらい頑張んなさい」
「うっす!」

このヴァンパイアを娶るのに世界の摂理やら秩序が障害となるならぶっ壊そう。あの使徒のように石を積む人生なんてまっぴらごめんだ。ご立派な正義なんかに頼らず勝利して、暗い、昏い、冥い、この世界を謳歌しよう。


【どっとハレルヤ 11話】


FIN
64 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/05(火) 21:27:56.78 ID:2whmTmX2O
「うっす!」
「え? あっ! こ、ここ、これは違うの!?」

ノックをせずにスマ子の部屋の扉を開けてみると、ノートパソコンの前に大股を開いて座っており、片手が下腹部へと伸びていた。僕がやっていたエロゲのHなシーンの最中なので、ナニをやっていたかは一目瞭然である。

「あーまあ、いいんじゃないか? 健全でさ」
「う、うるさいうるさいっ! てゆーかあんた、そもそも勝手にひとの部屋に入って来ないでよ! あの人に言いつけられたいの!?」
「まあまあ、ひとまず落ち着いて」
「ちょっと! は、離しなさい……きゃっ!」

スマ子が暴れるので両方の手首を掴んで、ベッドに押し倒した。細い腰が折れてしまわないよう、なるべく体重をかけずに見下ろす。

「あ、あんた、何をするつもりよ……?」
「さあ? なんだろうなぁ?」
「ううっ……そ、そんな人だとは思わなかった……あたし、あんたを信じてたのに……!」

口調とは裏腹に絶望に染まった表情だ。目つきも反抗的ではなく、どうやら諦めて受け入れるつもりらしい。やっぱりチョロいなぁ。

「スマ子、僕の話を聞いてくれ」
「ううっ……スマ子って言うなぁ」
「泣くな。ほら、全然勃ってないだろ?」
「へ? あ、ほんとだ……」

さっきまで下腹部に伸びていた手を僕の下腹部に導いてやった。ポンポンと触らせても応答なし。スマ子は泣き止んで、キレだした。
65 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/05(火) 21:28:42.18 ID:2whmTmX2O
「この状況で勃たないってどういうことよ!? そんなにあたしは魅力ないわけ!? てゆーかあんた一体全体何が目的なのよ!?」
「まあ、結論を急ぐな。じきにわかるさ」

意味もなく勿体ぶって、スマ子を解放した。

「あ、あんた、見かけによらず力強いわね……アザになったらどうしてくれんのよ」
「大丈夫。加減した。それよりもPC画面のHなシーンをさっさと閉じてくれないか?」
「あんたが突然押し倒すからでしょーが!」

バシンッ!と叩きつけるようにノートパソコンを閉じたスマ子。発散して落ち着いたのか彼女の澄んだ瞳に理知的な光が戻ってきた。

「で? なんのつもり?」
「スマ子を押し倒してみた」
「その理由を聞いてんの」
「練習だ」
「は?」

聞こえなかったのだろうか。仕方がないな。

「押し倒す練習だ」
「押し倒す練習って何よ!?」
「ヴァンパイアを娶ることにしたから、こうした技術も必要になるだろうと思ったんだ」
「はあ?」

我ながら簡潔で理路整然とした説明のつもりだったのだが、スマ子は呆れたというか白けたような顔で深々と盛大にため息を吐いた。
66 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/05(火) 21:29:17.66 ID:2whmTmX2O
「はあ〜……あんたがあの人を娶る? 馬鹿も休み休み言いなさいよ。ましてやあの人を押し倒すなんて、身の程を弁えなさいっての」
「やっぱり難しいかな?」
「難しいというより無理ね。不可能。さっきやってたエロゲのキャラクターに恋してるようなもんよ。あの人とあんたは住む世界が違うの。そのくらい、あの人と一緒に暮らしてたら、あんただって嫌でもわかるでしょ?」
「……うっす」

なんとなくわかる。あのヴァンパイアは冒し難いし、侵し難いし、犯し難い。まさしく、神聖にして不可侵という言葉がぴったりだ。
足を噛めなかったのは逃げられたからではない。土壇場で躊躇してしまったからである。

「あの人には伴侶なんていらないの。完全で完璧な存在なの。あんたなんてせいぜいペットみたいなもんよ。あんたの代わりなんていくらでもいるんだから、思い上がらないで」
「……うっす」

たまたま選んで貰っただけ。そんなことは百も承知でよくわかっている。けれど、僕はこれを千載一遇のチャンスだと思いたいのだ。
たとえそれが運命によって定められていなくとも、この機を絶対に逃したくはないのだ。
67 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/05(火) 21:29:57.18 ID:2whmTmX2O
「あんた、あの人に惚れてんの?」
「むしろ惚れない奴なんているのか?」
「この前に遭遇した使徒は惚れないでしょうね。あとはこの、暗い、昏い、冥い世界を真っ当に生きようと健気に石を積む奴らもね」

真っ当に生きて無意味に石を積んで死んで、それで何になるのだろう。この世に生を受けたからには、何者にも成し得ない偉業を達成するべきだと、僕はそう思う。そんな僕の意思の固さが伝わったのか、スマ子が促した。

「手」
「ん? 手がどうかしたのか?」
「片手であたしの手をまとめて押さえてみ」

再びベッドに倒れ込んだスマ子の手を言われた通りに片手で押さえ込む。すると、僕のもう片方の手がフリーになった。なるほどな。

「優しくほっぺを触って。ゆっくり顔を近づけてキスして。あとは胸だろうが、他のどこだろうが触っていいから。あ、爪はちゃんと切ってんの? ならよし。あっ、ちょっと!」

指示通りに処女のスマ子が喜ぶお子様キスをしてから、僕は鼻の穴に指を入れた。するとスマ子がふがふが言いながら抗議してきた。
68 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/05(火) 21:30:38.06 ID:2whmTmX2O
「なんれよりによってはなのあななのよ!」
「はっ。ははっ……美人が台無しだなぁ?」
「ふぇ……?」
「あっはっはっはっ! あー……面白かった」

思わず笑いつつ指を引き抜くと、何故か真っ赤な顔をして、スマ子が前髪を直している。
チラチラこちらを伺って、口を尖らせつつ。

「あ、あんたの笑顔、良いと思う……邪悪で可愛くて、無邪気で、その……素敵だった」
「……うっす」

そう言えば僕も、あのヴァンパイアと同じで滅多に笑わない。そりゃあ皮肉で笑うことはあるけど、まともに笑ったところは少ないかも知れない。どうやら笑顔は効果的らしい。

「もしかしてヴァンパイアにも効くかな?」
「どうかしらね……もっと練習しないと。あたしで試してみてよ。もっともっと見たい」

趣旨が変わっている気がするけど、まあいいか。スマ子は美人だから変顔のギャップが面白い。写真に収めて、笑顔の練習をしよう。


【どっとハレルヤ 12話】


FIN
69 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/06(水) 22:01:33.78 ID:7W5tpQXLO
「ただいまー」
「うっす」

ノックもなしに当たり前のように部屋に入ってきた白い子。パソコンで掲示板を眺めていた僕の膝に乗り、向かい合わせで抱きついてくる。そのまま何やら鼻をくんくんさせて。

「む? スマ子臭いよ。浮気は良くないね?」
「そう言う白も僕の父親臭いんだけど……」
「あ、わかるー? 今日も会ってきたんだ」

白は相変わらず僕の父親との関係を続けている。この前は、僕の母親の香水をつけて「そろそろママが恋しいんじゃない?」とか言ってきたので、「それは僕の母親が浮気相手と会う時につける香水だよ」と言い返したら、もうその香水をつけることはなくなった。

「それで? スマ子とどこまで進んだの?」
「押し倒して、鼻の穴に指を突っ込んだ」
「へー。なかなかマニアックなプレイだね。僕にはそういうことしたくならないの?」

白は揶揄い甲斐がないので基本放置である。
70 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/06(水) 22:02:16.39 ID:7W5tpQXLO
「なんだよ、澄ましちゃってさ。スマ子にはキスもしてるらしいじゃん。僕もしたい!」
「白が? 僕と? なんで?」
「だって気持ちいいじゃん」

スマ子は熱っぽい視線で僕にキスを求めてくるけど、白は冷めている。ただ独占欲や支配欲を満たしたいだけだと見ていればわかる。

「そもそも白にはいっぱい恋人がいるんだから僕なんかにキスされなくてもいいだろ?」
「拗ねてるの? かわいいねー」

断じてそんなつもりはないのに、薄い胸元で僕の頭を抱きしめてくる。肋骨がゴリゴリして痛い。それなのに体温が高くて柔らかい。

「僕は抱き心地が良いって評判なんだよ。皮下脂肪のつき方が絶妙でね、ふとももだってすごく柔らかいよ。もちろん唇だって……」

首筋に押し当てられた白の唇はたしかに柔らかくて気持ちがいい。大半の男共はこれだけで満足するのだろう。無論、僕以外の話だ。

「……勃たないね」
「うっす」

僕は勃たない。あのヴァンパイア以外では。
71 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/06(水) 22:03:31.46 ID:7W5tpQXLO
「むー。悔しい悔しい。僕にメロメロにさせて父親なんかと会うなって言われたいのに。スマ子に対しても優越感に浸りたいのに。それなのに、君は文字通りブラインドタッチでキーボードをカチャカチャカチャカチャ……さっきから、何を書き込んでいるんだい?」
「中央集権を批判してる奴とレスバして煽ってるだけ。こいつはたぶん、やると思うよ」
「へぇ……面白いねぇ。Xデーが楽しみだね」

ニコニコと白は笑う。僕もきっと邪悪に、それでいて無邪気に笑っているのだろう。僕と白は似た者同士だから相入れないのかもしれない。それでも笑いの嗜好は似ているのだ。

「どうなるかな? 僕、ワクワクしてきたよ」
「どうもならないよ。きっと、どうにかなるように出来ている。僕はそれを見てみたい」

一時的に行政の機能が失われたとしても、さほどパニックにならずに収束することは目に見えている。もしかしたら、天界に住む主神様の威光を拝めるかも知れない。楽しみだ。

「明日はもっともっと、暗くて、昏くて、冥い世界になるといいね。夜なのか昼なのかわからないくらいのほうが、目に優しいから」
「……うっす」

中央集権の破壊なんて、そんな危険思想を掲げる輩のために、犠牲者が出ることを、僕も白もスマ子もヴァンパイアだって望んではいない。僕らが目指す、暗い、昏い、冥い世界は優しいのだ。故に犠牲者を出さないように暗躍しよう。ヴァンパイアの眷属の仕事だ。


【どっとハレルヤ 13話】


FIN
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/03/06(水) 23:43:12.98 ID:juiiEF+k0
まだ続くのかこの怪文書
長年エロゲやラノベしか趣味がないとここまでキモくなれるんだな…
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/03/07(木) 12:01:05.57 ID:LGJdcPs9O
フォロアーとかいう言葉を平然と使っちゃうせいで
馬鹿が馬鹿の振りをしているのか単なる馬鹿なのか判断できない
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/03/07(木) 19:51:57.40 ID:Gj/jjLBjO
ちゃおラジやこいつみたいなカスは
「SS書ける自分はすごい。特別だ」と
マジで思ってるからな。馬鹿は馬鹿なんだけど
放火殺人起こした青葉に通じるヤバさがある
75 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/07(木) 21:27:58.17 ID:VaxnwFH4O
「なんだぁ……てめーは?」
「うっす」

煽り耐性皆無な過激派は、職員の少ない深夜を狙って内務省を占拠した。もちろん24時間警備されている施設であるが、この日だけは常駐している警備員たちも不在だった。馬鹿な連中は監視カメラを気にしながらコソコソ爆発物を仕掛け、タイマーをセットして建物から出てきた。そこで私服警察官に捕まって事件は表沙汰になることなく収束した。僕の予想通り、なんとかなるように出来ている。

「てめーも、あの不届きな連中の仲間か?」
「とんでもない。あんな脳みその代わりにスポンジが詰まってるような連中と一緒にしないでよ。善良な僕がそんなに怪しいかい?」
「ああ、怪しいな。こんな新月の真っ暗な夜に独りで彷徨いて、誰も知らず気づかずに終わる事件を嗅ぎつけて、特等席で終始見届けるような奴は、黒幕以外の何者でもないね」

この国の権力は小高い丘の周辺に集中している。丘の上には由緒正しいお屋敷が建っているらしく、各省庁の大臣や長官は就任する際にそのお屋敷で任命式に臨むそうな。そこで彼らは国家に身命を捧げることを誓うのだ。

「君は丘の上のお屋敷から来たの?」
「だったらなんだ。それがどうした」
「それなら丁度いい。絶景が見れる」

丘の麓でも内務省の全景は一望出来る。僕は背後の少女に背中を向けて、間もなく起きる一大イベントを待ち望んだ。すると、少女は意外にも僕の隣に立って眼下を見下ろした。

「てっきり後ろから拘束されると思ったよ」
「んな卑怯な真似するか。舐めんじゃねぇ」

お屋敷から来たという少女は何故かセーラー服姿で横顔にはまだ幼さが残っていた。同い年には見えないので、中学生だろうか。そう言えば、この辺に有名なスケバンが君臨していると聞いたことがある。もしや彼女がそのスケバンだろうかと思い、横目で様子を伺っていると、こちらに一切目を向けることなく、新月の暗闇を切り裂くような閃光を放つセーラー服の少女は、盛大に舌打ちをした。
76 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/07(木) 21:28:57.55 ID:VaxnwFH4O
「ひとを化け物みたいに見んじゃねーよ」
「こりゃ失敬……それにしても美人だね」
「だから、見んじゃねーっての。ウザい」
「もしかして照れてる?」
「っ……だ、誰がっ!?」

ようやく少女がこちらに顔を向けた、その瞬間、内務省が吹っ飛んだ。少女が放つ閃光よりもっと鮮烈な熱線が、その端正に整った横顔を炙り、新月の闇夜を美しく照らし出す。

「はっ! はっはぁーはっはっはっはっ!!」

閃光に遅れて響き渡った爆轟と、ガラスが割れる音。近隣の犬が狂ったように吠え出す騒音に負けじと僕は哄笑した。馬鹿と鋏は使いようだとよく言ったものだ。塀の向こうで、もう二度と日の目を浴びることのない連中の代わりに僕が見届けてやったぞ。感謝しろ。

「はあー面白かった。最っ高の気分だよ!」
「喜んでるところ悪いが、あの建物は……」
「うん。そろそろ解体するつもりだったんだよね? もちろん知ってるよ。僕が笑ったのはね、そうとも知らずに大義を成し遂げたと思ってる連中の愚かさだよ。あっはっはっ!」

内務省の建屋は老朽化のために解体が予定されていた。ヴァンパイアが高級クラブで政府高官からリークされた情報である。だから僕は連中をけしかけた。連中は僕のために無意味な花火を打ち上げて、楽しませてくれた。
それは一瞬気分を高揚させ、儚く散りゆく。
まるで祭りのあと。後の祭りの気分になる。
77 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/07(木) 21:30:30.74 ID:VaxnwFH4O
「ふぅ……それじゃ、そろそろ僕は帰るよ」
「待て。てめーがどこの誰で、何が目的かは知らねーけど、あたしと会ったのが運の尽きだったな。自慢じゃねーが、あたしは昔からひとの考えを見透かせる。だから、てめーがろくでもない奴だってことはわかってんだ」

燃え盛る総務省の残骸に照らし出された少女からは依然、眩い閃光が放たれており、運命の女神の使徒とは比べ物にならないくらいの光量だった。間違いなく天界の主神とやらの使徒だろう。本人は自覚がないようだけど。

「君は自分が何者かわかってるのかい?」
「うるせー。女子中学生を悩ますようなことを訊くんじゃねーよ。防犯ベル鳴らすぞ?」
「君は本当はご自慢の透視能力で僕のことを見透せなくて困っているんじゃないかい? その理由を教えてあげる。それはね、僕自身にもわからないからさ。くだらないだろう?」
「……黙れ」

図星を言われてカッと顔が赤くなったのは燃え盛る炎のせいではないだろう。あらかじめ手配されていた消防車に囲まれて、徐々に鎮火している。やはり、彼女は照れ屋らしい。

「なんでもかんでも見透かしちゃうから、誰も目を合わせてくれなくなって寂しい? だから久しぶりに目を見て話してくれる他人と出会えて嬉しいのかい? さすが女子中学生だ」
「黙れっつってんだろーがぁ!!」
「君の正義では僕には勝てないよ」

正義と勝利の女神の使徒はまだまだ発展途上らしい。まだ若く、幼いから揺るぎない信念を持ち合わせていない。潜在的な危険度は随一だけど、怖さで言ったらあの運命の女神の使徒のほうが上だ。とはいえ敵対はしない。
ヴァンパイアの言いつけもあるけど、弱い者いじめは良くないからね。僕は優しいから。
78 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/07(木) 21:31:36.98 ID:VaxnwFH4O
「おや? 泣いてるのかい? 慰めようか?」
「ぐすっ……うるせー……1発、殴らせろ」
「はいはい。お好きにどうぞ……ぶへ!?」

すぐに暴力に訴える正義の使徒の横暴に素直に従って前屈みになって顔を突き出すと、腰の入った良い正拳突き、と思いきや、寸止めからのワンインチ・パンチ。かなり効いた。
でも殴られっぱなしは癪なので一矢報いる。

「ほーら捕まえた」
「うわっ!? 離せよ!?」
「悪夢でも見たと思って諦めるんだなぁ」
「っ!? な、なな、なにしやがる!?」

突き出した腕を引き寄せて女子中学生の額にキスをした。瞬間、防犯ベルを鳴らされたので逃げた。連中を馬鹿にしてた僕もなかなか煽り耐性がなかった。これで僕も犯罪者の仲間入りかと思ったら、何故か少女が追いかけてこない。不思議に思って振り返ると、足元に転がっていた石を拾い額にぶつけていた。

「これでさっきのはナシだかんな!!」
「……うっす」

額から血を流して吠える少女は先程よりも凄みを増していた。その怨嗟には若さや幼さを感じさせない揺るぎない信念が宿っていて、どうやら彼女は大人の階段を登ったらしい。
運命の女神の使徒よりも過激に成長してる。
少女の成長を見届け、尻尾を巻いて逃げた。

「正義の使徒、おっかねー」

ワンインチ・パンチはかなり効いた。鼻血が止まらないし、ほっぺなんて焼け爛れてる。
それでも彼女は額の傷はきっと、僕の火傷の跡と同じく残り続けるだろう。ざまあみろ。


【どっとハレルヤ 14話】


FIN
79 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/08(金) 21:49:55.59 ID:NhhmpWrmO
「あんた、しばらく外出禁止だから」
「……うっす」

満身創痍で帰宅した僕を見て、スマ子が驚き取り乱して泣きながら抱きついてきた。白い子は鼻血まみれでほっぺを火傷した僕を見て、「男前になったね」と言って頭を撫でてくれた。とりあえず鼻血がやばいので横になろうとした僕を、スマ子がふんわりむちむちのふとももで膝枕してくれたので、白い子が鼻にティッシュを詰める間に、正義の使徒について話して聞かせてあげた。するとスマ子の瞳は暗く、昏く、冥く澱み、「女子中学生にキスするロリコンは殴られて当然よ!」と罵倒され、僕は膝枕という安息の地を追われた。そして現在、僕は鼻にティッシュを詰めたまま、椅子に座り足を組むヴァンパイアの前で正座させられて、お説教を受けていた。

「よりによって主神の使徒とやり合うなんて何考えてんの? 運命の女神の使徒との遭遇でなんにも学んでないワケ? おい、答えろよ」
「別に……やり合ってはないっす。ただ1発殴られたらそれで済むかなって。でも相手はまだガキだったんで、付け入る隙みたいのがあって、それでまあ……ちょっと"曇らせて"やろうと思って。そこは、褒めて欲しいっす」

弁明というか素直に自分の気持ちを口にすると、ヴァンパイアは呆気に取られた顔をして不思議そうな目で僕を見つめ、訊いてきた。

「え? あんた、あたしに褒めて欲しいの?」
「うっす」
「なんで? 眷属があたしに尽くすのは当然だし、ましてやご主人様の命令に背いた駄犬なんて褒めるわけないでしょ? 馬鹿なの??」
「……うっす」

残念ながら僕の献身は無意味だったらしい。
80 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/08(金) 21:50:33.96 ID:NhhmpWrmO
「ほっぺ、診せなさい」

ヴァンパイアがそっと僕の頬に触れた瞬間、ジュッとその指先が焦げた。思わず顔色を伺うが、眉ひとつ動かさずに焦げた指先を噛みちぎって捨てた。すると、すぐに指先が生えてきて、元通りになった。脅威の再生能力。

「聖痕はあたしたちにとっては呪いみたいなもんだから、あたしが吸ってあげた。でも跡は残るし消せない。そのリスクを負うだけのダメージを、正義の使徒に負わせられた?」
「あの加護の塊みたいな存在に呪いみたいなのはたぶん効きませんが、精神的なダメージと物理的な傷跡はしばらく残ると思います」

あの正義のセーラー女子中学生はきっとこの先、何か暗い気持ちになった時に額の傷が疼くだろう。とはいえ、重要なのはこっちだ。

「少なくとも、僕と出会って痛い目を見たことで、ネットの頭の硬い正義マンとは違って少しは柔軟な正義の使徒へと成長していくだろうと思います。それは、僕の功績ですよ」
「ふん……だからって、あの怒りん坊の女神の使徒にキスするなんて……あーむかつく」

やはり褒めて貰えそうにない。でもいいか。

「あは。ヴァンパイアも嫉妬するんですね」
「だ、駄犬の癖にご主人様を笑うなっ!!」

何故か目の敵にしてる天界の主神への苛立ちが嫉妬に変わり、メラメラと紅眼の奥が揺れていた。それだけで殴られた甲斐があった。
81 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/08(金) 21:51:48.98 ID:NhhmpWrmO
「ああ。あと、そう言えば……」
「まだなんかあんの? 洗いざらい吐け」
「内務省の爆破は綺麗でした。でもきっと、独りではあんなに楽しくなかった。あの子が居たから、気分が高揚したんだと思います」
「ふざっ……ああっもうっ!!」

洗いざらい吐くと、ヴァンパイアは立ち上がり、僕の肩を押して床に転がした。慣れない正座ですっかり足が痺れているふりをして寝転がっていると上に乗られて首を咬まれた。

「いや、誤解しないでくださいよ? 浮気とかじゃなくて……たぶん、あの閃光のような光の塊の隣に居ると僕の影がより暗く、昏く、冥くなって、だから存在感が増すんだと……」
「黙れ。食事中に話しかけるな」
「……うっす」

鮮血に濡れた唇を手の甲で拭い、一喝して僕を黙らせたヴァンパイアは、またカプカプガブガブと僕の血を啜る。痛みを凌駕する快感に脳が満たされて、僕は神に感謝を捧げた。
この暗くて、昏く、冥い世界は素晴らしい。


【どっとハレルヤ 14話】


FIN
82 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/09(土) 19:56:26.49 ID:9ofacrlQO
「おはよ」
「……うっす」

チュンチュンと小鳥の囀りで目覚めることはこの摩天楼の最上階ではあり得ない。そもそもヴァンパイアの眷属となってから夜に寝ることが減った僕が朝こうして目覚めるということも最近は減った。ふかふかの大きなベッドはヴァンパイアのもので、何故か僕は大の字になって寝ていた。天井を眺めながらぼんやり思い返すと、昨夜満身創痍で帰宅した後にヴァンパイアに説教をされ、吸血されたことでどうやら朝まで気を失っていたらしいところまで把握した。しかしこの手錠と足枷はなんだろう。これじゃあ身動きが取れない。

「なんすか……コレ?」
「外出禁止って言ったでしょ」
「だからってこんな、大袈裟な……」

枕元に仁王立ちするヴァンパイアは、一晩明けてもお怒りで、外出禁止令を解くつもりはないようだった。彼女はずいっと顔を寄せ。

「あんたに、文句を言う資格はないんだよ」
「……うっす」
「あーそのほっぺの火傷の痕を見てるとイライラする。朝からご主人様を怒らせていいと思ってんの? おい、謝れ。ほら、早くしろ」
「……ごめんなさい」

素直に謝罪すると、ヴァンパイアは正義の使徒に殴られた痕にそっと触れて、次の瞬間、ぎゅっとつねってきた。たいして痛くない。
83 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/09(土) 19:57:08.36 ID:9ofacrlQO
「ふぁにすんでふか」
「ぷっ……くふふふっ。面白い顔のおかげで笑えたから、餌をあげる。何が食べたい?」

ほっぺを引っ張りクスクスとひとしきり僕を笑い者にしたヴァンパイアは朝食を作ってくれるらしい。別段食欲はないけど注文する。

「オムライス」
「ちっ……朝から面倒な。まあ、いいけど」

ちょっと嫌そうな顔をしつつも素直にオーダーを受け取って部屋から出ていく前に、ふと何かを思い出したかのように、再び枕元にやってきて、ヴァンパイアは僕の耳元で囁く。

「昨夜はごちそうさま」
「……うっす」

昨夜の吸血行為がフラッシュバックして、目に見える形で興奮してしまう僕を見下しながらまたクスクス嘲笑い、機嫌良さそうに鼻歌を奏でながら部屋を出ていくヴァンパイア。
すると、入れ替わるようにスマ子が現れた。

「えっと、その……あんたもう平気なの?」
「うっす」
「え? ていうか、あんた、なんで朝から硬く……いや、朝はそういうものなのかな……? こほんっ。とにかくこれっ! あたしの中学の時の制服で、着てみたんだけど……どう?」

スマ子は僕の股間をチラチラ見ながら、何故か中学校の学生服姿を見せつけてきた。部屋着で制服を着るのが趣味なんだろうか。とりあえず、感想を求められたので答えておく。
84 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2024/03/09(土) 19:57:44.36 ID:9ofacrlQO
「うん。かわいいと思うよ」
「ほ、ほんと!? やった!」
「でも、ちょっとキツそうだね……」
「うっ……い、言っとくけどあたしは別に、中学の頃から太ったってわけじゃないんだからね! ウェストは変わってないんだから!」
「……うっす」

恐らく中学から高校にかけて胸が成長したんだろうけど、なら制服を着るなら高校のものを着れば良いのに、何故中学のをわざわざ。

「これは、その……あんたが、女子中学生が好みって言うから、だから、仕方なく……」
「え?」
「え?」

お互い顔を見合わせる。見解の相違がある。

「僕は別に女子中学生に興味なんてないよ」
「え、でもだって昨夜、女子中学生と……」
「ほら、もう勃ってないだろ?」
「あ、ほんとだ……もう怖くない」

下半身を利用してロリコン疑惑を払拭するとスマ子は納得して、それから何やらショックな顔をして、最終的にこちらを睨んできた。

「騙されないし。あたしの女子中学生みが足りないから、あんたは勃たないだけでしょ。もう自白したくせに、なんて往生際の悪い」
「いや、女子中学生みって……」
「うるさいこのロリコン! 拡散してやる!」

ロリコン疑惑の払拭に失敗した僕は、部屋から出ていくスマ子を引き留めることも出来ない。拘束されてるからね。だからスマ子にネットで拡散されても無抵抗で、無力だった。
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