【オリジナル】男「没落貴族ショタ奴隷を買ったwwww」

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1 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 00:30:30.92 ID:+YyZKnXG0
・ 1 8 禁 で す (高校生も駄目だよ★)
・地の文ありです
・固有名詞ありです
・男×ショタです

駄目そうな人は気をつけてください

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2 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 00:33:04.99 ID:+YyZKnXG0
 法整備されて間もないスカイカーから、祖父は自慢げに降り立っている。
 タカシもそれに倣う様にして降り立ち、それから軽い眩暈を振り払うかのようにぎゅっと硬く目を瞑った。
「タカシ」
「はい」
 呼ばれて慌てて祖父の後に続けば、そこはもう異次元への入り口とも呼べそうな光景が広がっている。
 と言っても妙にメカメカしいだとか、近未来的であるとか言うわけではない。
 逆だ。妙に古めかしいのだ。小物ひとつをとってもそう。大昔の日本を髣髴とさせるその場所は、
その『大昔』を生きたことがないタカシにとっては異次元と呼んでも差し支えはないだろう。
「なにをしている」
 あんぐりと口を広げていたタカシは、その呼びかけにハッとなって再び祖父に追いつくべく小走りをした。
 異次元への入り口は、朱塗りの鳥居。
 その先に続く大通りに立ち並ぶ飲み屋には、洒落た赤いちょうちんが鈴なりにぶら下がっていた。
 どの店にも入り口の脇には格子が設けられており、その中には見目の麗しい男や女、少年少女が
露出度の高い衣類を身に纏い、通りすがる人々を誘惑している。
 ――お兄さん、お姉さん、旦那さん、そこの御婦人。
 呼びかけは様々ではあったが、女性に対しては妙に気を使った呼びかけで、
それがなんだかおかしなものに聞こえてしまう。
 色町ですることなどひとつだろうに、こんなところでも『御婦人』は高尚でいなくてはならないらしい。
 なんとも不便な話だ。
 気取った身なりと態度で、それでも『知り合いに見つかりはしないだろうか』と
周囲をやや怯えた様子で窺う女性たちをすれ違いざまに見遣りながら、タカシはこっそりと苦笑していた。
3 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 00:36:01.52 ID:+YyZKnXG0
「どうしたんだね」
 タカシの一メートルほど先を歩む祖父に「いいえ」と返事をする。
 御婦人たちを少々馬鹿にしていたタカシだが、実のところ花街を訪れた経験は数えるほどしかなく、
今回の来訪も数年ぶりのこととなる。彼女たちのように緊張こそしてはいなかったが、
なんとなく浮いているような気がして、視線が泳ぐのは止めようがなかったのだ。
 久しぶりに訪れたこの街は、記憶にある場所とは随分と様相が異なっており見るもの全てが新鮮に写る。
 まるで街全体がお祭りだ。性質上、風紀を乱すと批判も多いが、
花街の周辺地域が潤った経済状況であるのも、このテーマパークさながらの場所があってこそのものだろう。
「母さん卒倒するだろうなぁ……」
 本家に住まう鬱陶しいほどに過保護な母を思い浮かべ、タカシは苦笑した。
「黙っていればいいだろう」独り言のつもりの呟きは、きっちりと祖父に拾われたようだった。
 ――タカシは、日本を代表する企業の御曹司だ。様々な事業を手がけていたが、主となるのは
アンドロイドの製造販売だ。おかげさま日本シェア一位の冠はここ何年も譲ってはいない。
 そんな企業の次期CEOとなれば、それはそれは大切に育てられ言う自覚もあり、
今日のように祖父に連れられ花街へと繰り出したと知れれば母がどんな風に怒り狂うかは目に見えていた。
4 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 00:38:47.54 ID:+YyZKnXG0
「気になるか?」
「いいえ、大丈夫です」
「そうか?」
 祖父は怪訝な顔をすぐさま引っ込めて、慣れた様子で大通りを進んで行った。
 カラカラと音が鳴る。祖父の足元の下駄と言う履物が奏でる音だ。
 彼の服装は着物、足元は下駄と言う、近頃流行している和装姿であった。
 大昔の日本でよく身につけられていたらしいそれは、近頃日本ではブームのようで、
 老いも若いもこぞって着物や下駄を好んでいた。タカシはと言えば、一度だけ着てみたものの、
あの動きづらさに辟易し結局シャツにスーツと言う何の変哲もない服装に落ち着いている。
 タカシは依然鳴り続ける小気味のいい音を耳にしながら、
みっともなくはない程度に視線を方々へと移動させ花街の景色を楽しんでいた。
「もう少しで着く。今日の店はそんじょそこらの店とは違うから期待しておけ」
 やけに嬉しそうに言う祖父に、タカシは『この人もまだ現役なのか』と妙な感慨が浮かんだのだった。
 タカシも女を知らぬわけではない。
 星の数ほど抱いた、などと言うだらしがない自慢話をするほどにこなしたわけではないが、
年相応にそれなりの経験をしていたし、女をわざわざ金で買うほどに飢えているわけでもない。
 遊女や、もっと低俗な売女を買うこともあったが、それほど『イイ』と言うわけでもなかった。
 人間の体の構造など大した違いはない。首の上についているものが美しいか否かで
やる気に差異はでるものの、行為の最中の快感については顔立ちに左右されるものではないだろう。
 祖父には気に入りの花魁がおり、週に何度かこの花街を訪れているというが、
そこまで女一人に夢中になれる彼のことをいっそ『可愛らしい』と思えた。
5 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 00:40:15.01 ID:+YyZKnXG0
「ついたぞ、ここだ」
「はぁ……」
 タカシは気のない返事をしながらも、大きな興味を示しながらその店を見上げた。
 ――まるで寺だ。
 第一印象はそれだった。
 と言うよりも、仏堂そのものを模したような建物で、本来ならば、
 寺の内部へと続くのであろう入り口には格子が儲けられ、そこに美しい老若男女が
誘うような眼差しでタカシを見つめつつ座していた。
 数百年前ならば『罰当たりな』と顔を顰める者もいたのだろうが、今は時代も時代、
車が空を飛びアンドロイドが人間と区別がつかぬような顔をしているとなれば、
もとより宗教観の薄かった日本人はますます宗教に関心を寄せることもなくなり、
寺だ神社は単なるパワースポットと化しているのだから、咎める者の方こそ無粋なのであろう。
 タカシは縦にも横にもやたらと大きなその建物を上下左右くまなく見回すと、妙に感心し、
それから噴出した。
「なんだ?」
 突然笑い出した孫に祖父は怪訝な顔をし、それから背を叩き『早く入れ』と促す。
「なんでもありません」
 しかしタカシは笑いを堪えることもできないままに、妖艶な男女が手招きをする店内へと足を踏み入れたのだった。
6 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 00:44:35.11 ID:+YyZKnXG0
「これはこれは」
 支配人の男は、手もみをしながら祖父へと近づくと恭しく頭を垂れた。
 蝶ネクタイが巻かれた首元から、バーコードが認められ、
なるほど、彼はどうやらアンドロイドのようだとタカシ納得をした。
 なんとなく腕の動きが不自然なのはその為だろう。自社製品には遠く及ばないなというのが感想であった。
 祖父はそれを気にした風でもなく「やあ」と言い、それから「いつものを」と短く指示を出す。
「どうぞ、お座りになってお待ち下さい」
 アンドロイドに言われ、タカシはビロード張りのソファへと祖父とともに腰掛けた。
「痛……ッ」
 尻をそこに落ち着けた瞬間だ、前頭部を鈍い痛みが駆け抜けたのは。
「どうした?」
「いえ……」
 こめかみを摩りながら「なんでもない」と返事する。
 近頃は少しばかり仕事が忙しく、持病の偏頭痛が時折ではあるが突如として現れるのだ。
 珍しいことではない。いつものことだ。忙殺されていると、まるで息抜きを請うかのように
体が訴えだすのだ。
「ただ頭痛です」
「大丈夫なのか」
「ええ」
 本当に大したことはない。いつものことだ。
 それでも気遣わしげに見遣る祖父へと「本当に平気です」と言えば、彼はそれ以上問うことは無粋と思ったのか、
大人しく口を閉ざした。
 タカシはたった一人の孫だから、気遣うのも当然と言えば当然かもしれない。
 しかしこうしていい大人である自分へと過保護に接するのは、タカシ自身が恥ずかしくもあるのだ。
 家の人間は過保護で仕方がない。
 タカシはそんなことを考えながら少しだけ目を瞑った。

7 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 00:54:50.37 ID:+YyZKnXG0
「お待たせしました」
 支配人のアンドロイドに引き連れられてきたのは二体のコンパニオン型のアンドロイドで、
彼女たちはやけに上品な仕草で二人を二階へと誘った。
「楽しんでいってくださいましね」
 妖艶に微笑んだところで所詮アンドロイドだ。
 妙に白けた気分になったタカシであったが、大人しく二階へと続く階段を上って行く。 
「薄暗いな」
 階段は木製で、足によく馴染む絨毯が敷かれていた。
 その感触に気づいたのも数段上ったあとのことで、つまりそんなことにも気づけぬほどに
階段は薄暗く、注意の殆どはそちらに持って行かれていたのである。
「なに、そのうち慣れる」
「こちらです」
 コンパニオンが細腕で観音開きの重厚な木製扉を開け放つ。
「あれ……」
 思わず口をついて出た間抜けな言葉は、案内された場所の様相が、自身の想像に大きく反していたからだ。
 てっきり座敷へと案内されるのかと思えば、そこは大広間で、今からなにやら催しものが
開かれるようだった。
 予想と異なる展開に戸惑うタカシをよそに、祖父は指定席でもあるのか、
コンパニオンを差し置きズンズンと会場を闊歩し、そして部屋の奥のステージに最も近いソファへと腰掛けた。
 タカシも祖父に促されるまま四人掛けのソファを二人で陣取り、座り込む。
 ウエイターが持ってきたワインを飲み干しながら、タカシはこれから起こる『なにか』に
期待と困惑を抱いたまま、しかし顔には出さぬように努めながら備えていた。
8 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 01:04:35.00 ID:+YyZKnXG0
 ぞくぞくと人が集まり、しかし互いに声を掛けぬまま各々がソファや椅子へと腰掛け始める。
 所謂一等席は、ソファのようだが、タカシは別に椅子でもよかったのに、と考えた。
 深く沈み込むそれに、完全に体を預けながらしかしタカシは欠伸を噛み[ピーーー]ために唇を噛む。
「……大丈夫か?」
「平気ですよ。少し眠いだけです」
 欠伸ひとつについてあれこれと言われては敵わない――、全く面倒だ、と思いつつ、
キリリと痛む頭をひと撫でして微笑んでやる。
「ならいいが……」
「大丈夫です。それよりお爺様、」
 遅れてやってきた二体のコンパニオンが、どうしたらいいのか、と言う顔でタカシを見ていた。
「ああ、君たちは下がってくれ」
 その失礼極まりない言葉に彼女たちは気分を害することもなく――、害しようがないが、素直に去っていく。
 なんのために用意したコンパニオンかよく判らないが、つまりは『箔をつける』ための行動なのだろう。
「お爺様、」
 何事かを呼びかけようとした瞬間、薄暗い大広間はそのままに、舞台に明かりが点った。
「うわ……」
 眩しさに目を眇めると、その間を縫うようにして舞台は雰囲気をがらりと変えた。
 女、男、女、男、男、女、女……、たくさんの人間だ。
「どうだ、美しいだろう」
「……はい」
 思わず目を奪われるような麗し男女が、まるで商品のように舞台に並んでいた。
 いや、彼らも商品には違いないが、その容貌がみな作り物めいているのだ。
 格子の中に並んでいた彼らも美しかったが、しかし今舞台に並んでいる彼らはそれとは比にならぬほどに
みな美しい。まるで作り物だ。そんな彼らが全裸で、一糸纏わぬ姿で並んでいるのだからたまらない。
 桃源郷か、或いは幻想か。
 そんな馬鹿なことを思いながら、タカシは舞台を凝視した。
9 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 01:08:13.26 ID:+YyZKnXG0
『紳士淑女の皆様、ようこそお越しくださいました』
 袖から出てきたスーツ姿にシルクハットの男は、
慣れた様子でオーバーリアクションを取りながら挨拶をはじめた。
 挨拶は説明に変わり、いわく、ここは競売場であるとのことだった。
 店に出されている男娼や娼婦となにが異なるのかと言えば、『ランク』であるらしい。
 今舞台に並ぶ彼らは『初物』で、なおかつ『出自がよろしい』のが売りのようだった。
 みな没落貴族などから売り払われてきた子女であり、
なるほど、タカシが見たことがある顔がちらほらいるのも納得がいく。
 国が変わり政治が変わり、突然制度が革められ、お家取り潰しとなり突如として貧しくなった元貴族は少なくない。
 国は変わった。輸出入に対する鎖国が解かれ、飛行機の輸入なども盛んになり、富める者はますます富んだが、
 しかし今まで貴族と言う名の頑健な鎧に守られていた能無したちは没落するより他はなかったのだ。
 幸いにもタカシは庶民の、詰まるところの労働階級の頂点に家があったからどこかに売られることも
貧困に喘ぐこともなかったわけだが、もし、万が一自分が貴族であったのなら……、と思うと怖気が走る。
『初物としてお買い上げいただくこともできますが、なにせこの見目、この血統、是非ともペットにどうぞ!』
 司会の男は右から順に商品を紹介していく。
 由緒正しきナントカ家の三女だとか、女にしか見えない長男だとか紹介されているが、どうも彼らは
飼い主が『抱く側である』ことを前提に売られているようだった。
『入札は当然のことながら現金のみでございます!』
 入札は始まっている。まず競り落とされたのは、開国以前に農民を酷く搾取していた名家のご令嬢であった。
 芋虫を髣髴させるでっぷりとした親父に買われ、早々に舞台袖に引っ込んだ。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2013/12/18(水) 01:08:40.74 ID:C8OnaKZL0
みて●るよ
11 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 01:10:51.89 ID:+YyZKnXG0
『お次にご紹介するのは……』
 明るい声音で笑顔のまま言う男に反して、商品たちの顔はみな暗い。
 人生を諦めたような無表情の者、漁港に引き上げられた魚のような目をした者、赤く泣きはらした顔の者――、
誰一人幸せそうな者は居なかった。これから紳士の皮を被ったヒヒジイどもに手篭めにされるのだ、
当然と言えば当然であろう。
 ましてや相手はかつては自分たちが見下してきた庄屋などの労働階級の者たちだ。
 その感情は筆舌に尽くしがたいものに違いない。
 彼らの目には、きっと年若いタカシもその『ヒヒジイ』に映っているのだろう、
時折目が合う彼らのうちの何人かはひどく反抗的な目でタカシをにらみ返していた。
 ――これは思いのほか面白そうだ。
 元々サディスティックな性分を持つ自分自身を自覚していたから、
あの勝気な男娼や娼婦の誰か一人を買い取り思いのまま屈服させたい――、そんな感情が芽生えたのだ。 
 商品の顔を具に見ようと、タカシは一等席でありながら、わきをすり抜けようとしたウェイターに声を掛け
オペラグラスを所望した。三等席の客たちが使うもののようだが、一等席の人間が使ったところで問題はあるまい。
 双眼鏡型のオペラグラスには一本の持ち手がついていて、タカシは早速それを覗き込んだ。
 見れば見るほど、みな美しかった。
 女の見場が整っているのは当然として、男も素っ裸でなければ性別が判らぬようなものだとか、はたまた
男と判っていても妙な気持ちを抱かざるを得ないような艶かしい体躯を持った者もいた。
 これはノーマルでも少しばかり気の迷いを起こしてしまうだろう――、そんなことを考えつつ、
 しかしタカシは成人男性に欲情する趣味はてんでなく、その気になれるのは
精々思春期を迎えるか否かと言う年齢の少年だけである。
 とは言え基本的には所謂ノンケであったから、少女を買うつもりでいるが、
しかしたまの如何物食いもいいかもしれない、とタカシは口角を吊り上げ考えていた。
12 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 01:12:43.34 ID:+YyZKnXG0
「あの首輪の少女が愛らしい」
 祖父の声にオペラグラスを一旦外し、彼の視線の先を再びレンズ越しに見る。
 華やかな顔をしているが、タカシの好みではない。派手すぎるのだ。
「そうですか?」
 祖父の言葉で気づいたが、時折首輪をした者が居る。
 もしかしたら抵抗の激しい人間にはそのような措置をとっているのかもしれない。
 オペラグラスをめぐらせれば、ざっと1/4ほどの商品の首が繋がれている。
 なにも身につけてない者よりも、首輪つきが気になるのは、おそらくタカシの悪い癖だ。
 抵抗しない人形よりも、うるさく喚く警戒心の強い猫の方が断然そそられる。
 そう、今まさに舞台の端で激しく抵抗をしている彼のような――。
 ボールギャグを噛まされている所為で、顔は少しばかり歪んでいた。
 会場のざわめきによって声はかき消されているが、おそらく出せない声で抵抗の言葉を吐いているのだろう。
 彼は首だけではなく手足も拘束をされている。
 身をよじり、会場を睨みつけ、そして暴れるのを背後から黒服に押さえ込まれている。
 落札した主人を殺しかねない眼光がそこにあった。
 あれにしよう。タカシは薄ら笑いを浮かべて考えた。
『お次に紹介するのは――』
 シルクハットの男が手を上げる。
 意気揚々とした紹介を耳にしながら、タカシは彼が紹介されるその時を待っていた。
13 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 01:15:19.21 ID:+YyZKnXG0
 意外にも少年に入札をしたのは四、五名で、彼らはタカシの敵と呼ぶほどの存在ではなかった。
 歪んだ顔の所為か、それとも擦り傷だらけの体の所為か、みな彼のことは差ほど『趣味ではない』ようだった。
「こちらが御落札の御品でござます」
 アンドロイドの手によって、空気穴のある本皮製のトランクはタカシに引き渡された。
 一応服は着ているが、簡素なものであると付け加えられ、『生もの』であるから長時間の放置は――、
つまり未開封のまま部屋の放っておくのは望ましくない、という当然の説明がなされた。
 店の前で祖父に別れを告げ、馬車に乗って家路を急ぐ。
 スカイカーは大層便利であったが、趣がなく、タカシはあまり好きでなかったのだ。
 御者も馬も当然のようにタカシ自身のものであり、長年の付き合いにある彼らはタカシの足として
どこへでもついてきてくれた。勿論、御者がタカシの行動に口出しをするはずもない。
 間もなくして邸宅に到着すれば、手伝おうとする御者を制止して、タカシはトランクを自らの手で運び込む。
 道中も、屋敷にはいる直前も、トランクはくぐもった唸り声を上げていたが、
すれ違う侍女や下男は顔色ひとつ変えなかった。
尤も、顔色など変えようがない。彼らもまたアンドロイドであるからだ。
「さて」
 玄関から遠い、二階の自室に漸く到着すると、ランプに火を灯してタカシはにんまりと微笑んだ。
 自分でも気味の悪い顔をしているに違いないという自覚は大いにある。
 タカシは、興奮しているのだ。
 あの会場の雰囲気に充てられたのだろう、性的なそれではなく、初めて飛行機を見たときのような、
そんな純粋な興奮で胸が高鳴っていたのである。
14 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 01:18:06.93 ID:+YyZKnXG0
 トランクのダイヤルを回し、そして蓋をそっと開け放つ。
 体を胎児のように丸めていた少年は、まず室内の僅かな光りにでさえ眩しそうに目を眇め、
それからタカシを見つけると、ひどくきつい眼差しで睨んできた。
 手足は枷で繋がれている。両手は両手で同士で足は別――、それならばよかったが、
 彼はその全てを体の真ん中辺りで繋がれていて、
どう足掻いても脱走などできないようないでたちでそこに納まっていた。
「やあ」
 タカシが声を掛ければ、しかし少年はうーうーと唸る。ボールギャグとはなんと味気ない風景だ。
 タカシは近くのデスクにまで歩いていくと、その引き出しに収められたはさみを持って帰ってきた。
 刃物を見て、一瞬怯える少年が可愛かった。
「動くなよ。今、切ってあげよう」
 むけられた刃物が余程怖いのか、少年は身を縮こまらせてそして硬直した。
 ギャグボールからにじみ出た唾液が、彼の情けない姿に拍車をかけ、しかし不思議なことにそれはタカシの
加虐心を満たしてくれる。
 刃物が安全に皮膚とベルトとの間に差し込まれたことに安心したのか、少年の体の力が一瞬抜ける。
 その隙を縫って、タカシはわざと刃先を首の付け根に当ててやれば、冷ややかな感触に相当驚いたのか、
再度緊張が強くなった。思わずにやけそうになるのを押し隠し、タカシは一気にそのベルトを断ち切ってやった。
「ほら、取れた」
 よだれで汚れたそれを、手近なゴミ箱に突っ込む。
 ランプの火が揺れると、少年の顔に落とされた影もふらりと揺らめいた。
15 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 01:19:30.98 ID:+YyZKnXG0
「名前は?」
 会場で名は叫ばれていたが、しかし落札に夢中で彼のプロフィールなど聞き逃していた。
「……話すことはない」
 勝気な目がタカシを見上げ、数十秒の時間を開けてそう言った。
「いいや、話してもらうよ。私は君を買った。私は君の主人だ」
「俺は買われた覚えなんてないよ! ジンケンを無視するっておかしいと思わない!?」
 床に転がったままの姿勢で、首だけ持ち上げ言う姿が滑稽だった。
 くすくすと笑ってやれば、少年は「なにがおかしいんだよ!」と吼える。
 そうだ、これでいい。腹立たしさなど微塵も感じない。ただ、楽しいと思えるだけだった。
 少年が抵抗すればするほどタカシの楽しみは増えていく。
「なんだよ! なにがおかしいんだよ!」
 きゃんきゃんと犬のように吼え、少年は歯を食いしばっている。
 ああ、可愛い。タカシは歪んだ自分の嗜好を恥とも思わずに、少年を見下ろしていた。
「な、なに笑ってるんだよ! 俺を放せよ! チクショウ、放せよ!!」
 ひとしきり吼えさせたところで、タカシはトランクを蹴り飛ばした。
 衝撃に少年が怯えるのは当然のことで、きゅっと硬く目を瞑った少年の横にしゃがみ込むと、
更なる恐怖心を煽るために唾を吐きかけてやった。
「自分の立場を考えろ。貴族制度はもうない。いつまで御貴族様の坊ちゃま気取りをするつもりだ?
君の目が抉り取られて体を切り刻まれて豚の餌にされたところで、私を咎めるものはどこにもいないだろう。
何故なら君は私が買った『もの』なのだ」
「そんな……! ふざけんなよ、俺は俺だけのものだ!!」
「生意気を言っていいと誰が言った」
 細い顎を掴み、タカシは冷えた視線を投げた。
16 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 01:22:13.68 ID:+YyZKnXG0
 タカシは貴族の、この貴族的な態度を嫌悪していた。
 なにをするわけでもなく、長く続く家系であるとか金が偶々あったというだけで称号が与えられ、
怠惰な生活を国で手厚く保護されのうのうと暮らし、それだけなら兎も角、
農民や商人を見下しきり人の上に人を作り、その下々の民の税で贅沢三昧の彼らが嫌いだったのだ。
 顔が歪むほどに頬を掴まれた少年は苦悶の表情を浮かべて「イハイ」と意味不明の言葉を漏らす。
「なにを言っているのか判らないね。ああ、私が手をどかせば話せるかな。放すつもりはないけどね。
痛いかい? 私はこのまま君の顎を砕くこともできるよ。そうされたくなかったら私の質問に答えなさい」
 一際右手に力を込めると、少年の目に涙が溜まっていった。
 それを確認して手を放すと、まずは最初にした問いと同じい「名は?」と質問をした。
 しかし不思議なことに、なんとなくではあるが彼がなんと答えるのかは想像ができた。
 そう、彼はおそらくこう答えるだろう――、
「……ショウタ……」
 そう。ショウタと。
 きっと会場で聞くともなしに聞いていたのが頭の片隅に残っていたのだろう。
 妙なデジャヴをかき消すようにして微笑むと、掌でショウタの頬をひと撫でした。
「そうショウタか。ようこそ、ショウタ」
 にこりと微笑み抱えてやれば、しかしショウタは殊更怯えた顔をする。
「君は今日から私のペットだ。可愛がってあげよう」
「ふざけんな! 嫌だ! 早くこれを放せ!」
 横たわったまま、がしゃんがしゃんと枷のついた手足を振り回しショウタは叫んだ。
17 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 01:23:59.96 ID:+YyZKnXG0
 タカシはしばしの間、彼の暴言を楽しんだ。
「俺の爺ちゃんは大臣をしたことこあるんだぞ! お前なんか、すぐにでも捕まえてくれるんだよ!
俺にこんなことをしてただで済むと思うなよ! お前が俺にこんなことをしたってわかったら、お前こそ豚の餌だ!」
 貴族のお坊ちゃまとも思えぬような罵詈雑言が飛び出し、しかし稚拙なそれはいっそ愛らしいほどだ。
 タカシはショウタの前に椅子を置くと、それにすわり、そして口角を持ち上げたままで彼を見下ろした。
 止め処なくあふれ出す罵詈雑言を悠然とした笑みで受け止め、
そして彼の呼吸が荒くなる頃を見計らうと、先ほど取り除いたばかりのゴミ箱の中のギャグボールを
口内に突っ込んでやる。
 息苦しいのか、それとも恥辱のためか、ショウタは目を見開きタカシを見た。
「君のお爺様が大臣だったからなんだというんだ? 家はもうないだろう。
家は潰れ、そして君は売り出された。そうだろう?」
 ただ事実を淡々と述べていけば、しかしショウタの目には涙がたまり、それはすぐさま滝のようにこぼれだした。
 もごもごと何かを言いたげにしているが、如何せん口に異物を突っ込まれた状態ではそれも叶わない。
 タカシは溜息混じりに「諦めたらどうだ。お前はここに居るしかないよ」といいつつギャグボールを取り外すと、
ショウタはキッとタカシを睨んだ。
 唾液でぬらぬらと滑るようになった指をシャツで拭い、タカシはショウタの顔を手で掴んだ。
「うるさい、うるさい、うるさい! お父様は俺を迎えに来ると言った!」
「信じているのかい、それを」
 子供の純粋さに呆れと嘲りを隠し切れず、タカシはクックッと喉の奥で笑う。
「なんだよ、なんなんだよ!」
「ばかだなぁショウタは。お前はお前の父親が自殺をしたのを知らないのか」
「……え……?」
ショウタの目がまん丸になるほどに見開かれ、そしてタカシを見上げると「嘘……」と呟くように言った。
「嘘だ、嘘言うな!」
「本当だ。ほら」
 わざわざ女中に探させたのは、ショウタの父の訃報に関する新聞記事だった。
 もうひと月も前のものであったから探すのに随分と難儀したが、
優秀な女中はきちんとその記事を見つけ出してくれた。
 タカシがざっと読んだ感じでは、これから明るいとは思えぬ未来を悲観して一家心中を図ったようだった。
 唯一手元に残った僅かな財産は自殺当日の晩餐に全てつぎ込まれ、そのスープの中に致死性の高い毒物が
混入させられていたようだった。
18 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 01:26:25.01 ID:+YyZKnXG0
 自分の顔の横に転がった新聞記事を、ショウタは目を忙しなく移動させながら読んでいた。
 ショウタにはきょうだいが居なかったようだ。なんとか家を建て直そうと試みたものの、
金を騙し取られて泥沼化、ショウタは売りに出され、もうどうにもならぬと諦めがついたところで
心中をしたようだった。
「嘘、嘘だ……だって、だって……」
迎えに来るって、いっていたもん。
ショウタはかすれる声で呟くと、そのうちヒッヒッとえづきそして泣き出した。
「嘘だ、嘘だぁ……!」
「諦めろ。お前は私に買われたんだ」
 嫌だ、嫌だ。お母様、お父様、お爺様お婆様。
 果てはペットの犬の名や家に仕えていた庭師の男の名までを口にしながらショウタは泣き続けた。
「お前は他に行くところなんてないんだよ」
 残酷な言葉を告げれば、ショウタの泣き声はどんどん大きくなった。
 耳障りなほどに大きなそれに辟易すると、タカシはショウタを再びトランクに閉じ込めるため、蓋を閉じに掛かる。
「やめ、やめろ!」
「うるさいからね」
近所迷惑、とつけたし、それから抵抗をものともせずに蓋を閉じた。
 くぐもった叫び声が聞こえる。
 うるさい、興が醒めたなと一人ごちると、タカシはその部屋のランプをふっと息で吹き消し
そして廊下へ出ると、待機していた下男を呼び寄せトランクを地下へと運ぶことを命じた。
 扉の向こうでは、いまだショウタが叫んでいた。
「ああ、地下についたらトランクからだしてやってくれ」
 下男は「はい」とだけ短く返事をすると、タカシの顔を見ることさえせずにトランクを廊下へと引っ張り出した。
 きっと明日の朝にはすっかり大人しくなっていることだろう。
 ずきりと頭が痛んだ。
 今日は頭痛がひどい。こんな日に子供の喚き声をいつまでも聞いている必要はないだろう。
 明日の夜にまた来ればいい、と結論を出し、タカシはさっさと自室に引っ込むことにしたのだった。


19 : ◆OfJ9ogrNko [sage]:2013/12/18(水) 01:27:19.81 ID:+YyZKnXG0
>>10
ありがとう

今日はここまで
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/12/18(水) 18:15:24.06 ID:6fQzdFyn0

速報は初めて?
メール欄に半角でsagaって入れると「殺す」とかがきちんと表示されるよ
あと、ここでは基本、作者はsageない。読者がsageる
詳しくは「初めてSS速報に来た方へ」ってスレを読んで

あと、悪いけど行間を一つあけてくれると携帯から見やすくなるから、手間じゃなければそうしてほしい
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2013/12/19(木) 21:11:31.51 ID:n+ke/+nK0
待っ●いるよ
22 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/20(金) 00:12:03.04 ID:5GdPqy6h0
>>20
うお、素で間違えてたわthx
>>21
ありがとう
23 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/20(金) 00:13:49.69 ID:5GdPqy6h0
 昼過ぎに目を覚ましたのは、女中が遠慮がちに「坊ちゃま」と呼びかけたからだ。
「なんだ?」
 寝起きで頭が回らない。昨夜は遅くに帰宅をしたから、眠りにつくのが必然的に遅くなってしまった。
 どうせ今日は仕事も休みだと気分よく惰眠を貪っていたというのに、台無しである。
 扉の向こうから彼女は「あの」と言いづらそうに切り出す。
「あの、地下室が……」
 騒がしくてたまらない。
 彼女はそう告げた。地下室にはショウタが居るはずだ。食事の必要もないと告げてあるから、
使用人たちがわざわざ地下へと赴くことはない。
 となると、ショウタが外にまで聞こえるような声で叫んだり暴れたりを繰り返しているということになる。
「そうか」
「あの」
「大丈夫、今行くから」
 クロゼットからてきてとうな衣類を引っ張り出して身にまとう。着ていた寝巻きはそのまま手に持ち、
扉のすぐ傍で待機していた女中に手渡した。
「悪いね、騒がしくして」
「いえ……」
 彼女は目を逸らしタカシを見ようとはしない。
 それはそうだろう、彼女は昨夜までは自分の主人は『全うな男である』と信じて疑うことさえなかったのだ。
 気持ちの悪いものをみ見る目をされたとしても仕方がないだろう。
 そこまで考え、はて彼女は生身の人間なのか、それともアンドロイドであるのかと言う疑問が浮かぶが、
しかし答えは見出せなかった。
 家の中の人間についてまで殆ど把握していないのは褒められたことではないだろうが、だがタカシは
その手のことに深くこだわる性質ではなかった。元来の性質なのだから致し方がない。
 そう、極度のサド気質なのもまたタカシの元来の性質なのだ。
 だから自室から階段を下るなる微かに響いてきたくぐもった音に、寝起きながら興奮を覚えたのだろう。
24 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/20(金) 00:16:09.00 ID:5GdPqy6h0
 地下室への入り口は壁を隔てているが、それでも声ははっきりと聞こえるのだから、
近くであったのならどれほど響くことだろう。
「活きのいい子供だ」
「え?」
「なんでもないよ」
 イジメがいがある。舌なめずりしたいような、自分でも不気味に思えるほどの感情をもてあましながら
タカシは地下への入り口が設けられた家の中心部へと向かった。

 タカシの住まうこの家は、回廊型をしている。
 邸宅の一階は一二の部屋から成っていて、まるで時計ようだ。
 時計のとおりに番号を振るうならば、玄関の丁度前の部屋は六、
タカシが先ほど下ってきた階段のある辺りは一に当たる。
 玄関を開ければすぐさま障子で閉ざされた部屋が姿を見せ、それから首を伸ばして左右を見やっても
同じく閉ざされた部屋と長く伸びた廊下があるだけで他にはなにもない。
 見る者によってはさぞや不気味に映ることだろう。
 それぞれの廊下を真っ直ぐ進めば直角に折れ曲がった廊下がまだ続くわけではあるが、
玄関からはその様子は窺い知ることができない。
 おまけに、部屋の全ては障子で閉ざされているから、家の様子も、家人の人となりも判断ができぬに違いない。
 きっちりと同じサイズの部屋が並ぶ家は、はっきりと言ってしまえは不気味で、タカシはあまり好きではなかった。
 成人の祝いにと祖父より賜った邸宅であったから文句は言えぬが、しかしこの不気味さよりも更に
タカシの頭を悩ませるのは、この不便な家の造りなのである。
25 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/20(金) 00:18:37.65 ID:5GdPqy6h0
 それぞれの部屋に添う形で伸びる廊下は実はその端と端は繋がっていないのだ。
 六を基点として、向かって右に進めば一で廊下は途切れ、
逆に進めばに一二にが行き止まりになっているということだ。
 何故こんな不便な造りにしたのかタカシには判らなかった。
 さて、ショウタを放り込んだ地下室は一二の部屋にある。
 正確には、一二の部屋の中へと地下へ続く入り口があるのだ。
 タカシは一二に赴く間、そのくぐもった叫び声を存分に楽しんだ。普段は不便極まりない廊下も、
今日だけは乙なものと思えるから性欲とは不思議なものだ。
 微かに聞き取れるのは「馬鹿」だとか「アホ」、それから「死ね」という言葉で、貴族のお坊ちゃまにしては
如何せん語彙力が貧困だ。
 と言ってもはっきりと聞こえるわけではなく、僅かな音を拾って「そう言っているのであろう」と
タカシが脳内で補完しているだけだから、もしかしたらもっと高等な罵詈雑言を吐いている可能性もある。
 いずれにせよそれはタカシへの悪態に他ならぬはずで、そうに違いないと思えば気分が高揚した。
 タカシは確実にショウタの存在そのものを楽しんでいる。
26 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/20(金) 00:27:58.34 ID:5GdPqy6h0
 ようやくたどり着いた一二の部屋の襖を開き、そして現れた純和風の客間の、その床の間へと一直線に進む。
 掛けられた巻物を無造作に捲り、そしてその先に続く扉を押し開くと階段が現れた。
 階段のその先は薄暗く、目視することは困難だ。左手で壁を探ると突起物に行き当たり、
それを指先で軽く押せば、壁に点在する電灯に上部から下部へと流れるように順に明かりが点っていった。
 そしてその微かな光りで満ちた階下をタカシが見下ろすと、まるでそれを見計らったかのように
「開けろ!」と言うしゃがれた声が今度ははっきりと響き渡ったのだった。
 地下室に入るにはもうひとつ扉を開けなくてはならない。
 そのような状態でもショウタの声がはっきりと聞こえるということは、相当な大声で叫んでいるということだ。
 その声にほくそ笑む自分自身に呆れつつも、わざと足音を鳴らしてタカシは階段を下る。
 一歩ごとにひんやりとした空気で満たされていく空間を楽しみながら足を運んでいく。
 扉は階段を下りきってすぐの場所にある。内部へと続く重厚な木製扉を押し開けば、
首輪と手枷足枷が嵌められた姿のショウタがそこに居た。
「おい、お前、これ外せ!」タカシを見つけるなりショウタは歯をむき出しにしてそう叫んだ。
「……挨拶もないのか」
「そんなもの必要ない! いいからこれを外せ!」
「それは無理だね。だって君、逃げるだろ?」
「当たり前だろ!」
 馬鹿正直に答えるショウタに思わず笑みが漏れた。
「ならなおさら外せないよ」
 タカシの言葉に、ショウタは手足の自由を奪う鎖をガシャガシャと激しく鳴らした。
 そんなことをしたところでその鎖が千切れることはないのは当然判っているだろうが、
そうせずには居られない、と言った様子である。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2013/12/20(金) 00:28:25.72 ID:t/JPKquR0
地の分は結構なことなんだけれども、もしよろしければ地文と台詞の間に行あけてくれるとうれしい。
今の状態だと見辛くて…
28 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/20(金) 00:30:02.31 ID:5GdPqy6h0
 手は手枷のほかには手錠を嵌めているから、自由は利きにくいだろう。
 それでも手は壁、足は床へと繋がる鎖はいずれも長いから、
地下室内のみにおいてはある程度は自由に動ける仕様だ。
 過度のストレスは反抗心を早くに磨耗させる。だからこそある程度の自由――、
逃げられそうで逃げられない状況をタカシは作ったのだ。
「これ、外せよ」
 ショウタはタカシを睨みつつ再びそう言った。
 変声期前の可愛らしかった声はすっかりしゃがれている。二、三日大人しくさせれば治るのだろうが、
これはこれで味があっていいものだと考える。
 今まで明かりひとつなかった地下に灯された電灯は、少しばかりショウタの緊張をほぐしたようだった。
「眠れたか?」
「眠れるわけがないだろ!」
 それではいつどうやって枷を嵌めたのかと考えれば、下男が力ずくでショウタを押さえ込んだのだろう。
腕や足に青あざが残るのはその作業の所為かもしれない。
 傷はつけるなと言っておけばよかったかもしれない。
「眠っておけばよかったのに。一日は長いよ」
「どういう意味だよ!」
 手負いの獣よろしく歯をむき出しでタカシを睨むショウタにタカシは平然と「今から犯すからね」と
言ってやる。
「へ……?」
 言葉の意味が判らないわけではないだろう。しかしショウタは口を開け、
そして暫くそうしていたかと思えば急に唇を戦慄かせ「やめろ」と蚊の鳴くような声で言い放った。
29 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/20(金) 00:35:02.65 ID:5GdPqy6h0
>>27
物凄い量になっちゃうからさ…
30 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/20(金) 00:41:36.91 ID:5GdPqy6h0
めんどくさくなっちゃったから今日はここまで
行間空けるのってSS速報では絶対なのか……
なんて面倒な……すまんかった……orz
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/20(金) 01:10:03.09 ID:5dD0GZTE0


絶対って訳じゃないけど、どのスレでも大体は言われるな
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/21(土) 13:00:19.59 ID:9ZnGLHElo
別に俺はどっちでもいいよ
別にくっついてても読めるし、好きに書けばよかね

33 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 21:43:08.32 ID:3ZexRIYo0
>>31>>32
絶対ではないのかー
じゃあいい……のかな
アメ○ロみたいな場所でよく見る一行ごと開けてある文章って
スクロールが多くて苦手なんだよ
他人のSSについては全く気にしないし面白ければなんどもいいって人間なんだが
自分で書いたものがそれだとちょっとな
スマホから見ると何度も指を動かさなくちゃいけなくて面倒なんだ

VIPで書くには量が多すぎる、小説家になりたいわけではないからなろうも違う、
それで前から覗いていたここに書こうと思ったわけなんだ 許してくれ

見難いって人、すまんが無理そうだったら回れ右してくれ
頑張って見なくちゃいけないほどもモンでもないんだ 本当にすまん
34 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 21:44:50.01 ID:3ZexRIYo0
「む、無理だ……! 俺、無理だ、そんなの……!!」
「無理? 無理だろうがなんだろうが今から君は私に犯されるんだよ」
 ショウタはタカシの言葉に鎖をカシャンと鳴らしながら後ずさった。
「嘘、嘘だろ、だって、だって俺は……」
 そう、ステージ上に立っていた彼らは『特別な』商品なのだ。
 初物で、血統もいい。
 初物とは言え慣らしぐらいは施され、玩具のひとつやふたつはくわえ込んだことがあるだろう――、
そう思われるだろうが、彼らは正真正銘の『初物』なのだ。
「知っているよ。尻なんて弄ったこともないんだろ?」
「だ、だったら……」
 そんな恐ろしいことはやめてくれと目が訴えているが、タカシはそれに対して「君は私が買ったんだ」と
冷ややかに言い放った。
 何の為の血筋か考えてみれば容易い。
 買い手はかつて貴族であった彼らに鬱憤を抱く者たちばかりだ。
 それらを服従させることにこそ意味があるのだから、体が受け入れやすく作りかえられていたら
なんの意味もない。
 一から主人の手で意のままに体を作り変えることができる――、それがこの商品が『特別』であるゆえんなのだ。
「大丈夫、ちゃんと仕込んであげるから」
「や、やめ、やめて……!」
 申し訳程度の綿の衣類は女の着るネグリジェのような形をしていて、
それをひん剥いてやれば彼は丸裸になる。
 簡素なそれの裾にに手を掛ければショウタは手を振り回し、爪を立てて抵抗を試みた。
 女がスカートを捲られることに抵抗するような姿は、そそるものがある。
「やめろ、おい、ふざけんなよ、おい……!」
 抵抗は思いの外激しく、そして爪先は時折タカシの頬を引っかいていく。
35 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 21:46:22.02 ID:3ZexRIYo0
「おい、おいってば……!」
「……面倒だな……」
 たくし上げるのをタカシはやめて、襟元に手を伸ばし、タカシはそれを一気に引き下げた。
 簡素なボタンが飛び散り、そして布が裂ける音がした。
「おい、なんでもする、だから、」
 布を小さく丸めると、口にへと突っ込む。そうすればショウタはもうしゃべることができない。
 罵詈雑言は楽しんだし、しかしここまで来てこれ以上に弱音を吐かれたら興ざめだ。
 なんでもする? 冗談ではない。それ以上に許しを請われたらタカシのそこは萎えるだろう。
 あくまでも抵抗する気概のあるショウタでいて欲しかったのだ。
 それから数十分の間、ショウタは抵抗を続けた。尻に触れよう物ならば足を振り上げて拒絶を示す。
 望ましい反応だ。
「足を開きなさい」
 くぐもった声では何を言っているのか判らぬが、ショウタは首を振り抵抗する。
「仕方のない子だ」
 呆れたように言えば、勝気な目はキッとタカシを睨み、そうしていたかと思えばやはり馬鹿のひつ覚えか
足をじたばたとさせる。
 そんなショウタを放っておいて、これ見よがしに嘆息した。
「足を開きなさいとと言っている」
 二度三度と、先ほどと同じように首が振られた。
 目は涙か汗か、そんなもので潤んでいる。
「どうしても嫌なのか?」
 幼子に尋ねるように言えば、今度は首が縦へと振られた。
 そうだ、そう来なくてはこまる。
「困ったな……」
 困ってなどいないが一応は検討をするような素振りを見せるのは、勿論盛り上げるためだ。
 タカシはショウタの手足が届くギリギリの範囲まで遠ざかり、そして背を向ける。
 歯がゆいだろう。あと少しでタカシを襲えるというのに、彼にはそれができない。
36 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 21:48:54.44 ID:3ZexRIYo0
 ところで、この部屋の入り口の真横には、ひとつの大振りな桐箱がある。
 下男に昨夜のうちに用意させたものだ。
 ふぅふぅと抵抗するショウタをちらと見遣ると、彼は相も変わらずタカシを睨んでいる。
「ショウタ、あの箱はなんだと思う?」
 判らない。そう言うように、ショウタは視線を落とす。
「面白いものがたくさん入っているよ」
 面白いのは、勿論タカシにとっては、だ。
 わざとゆっくりと歩み、そしてたどり着いた先でもったいぶりつつ箱を開く。
 蝶番の軋む音が響き、そしてその中に眠る全体的に黒っぽい物体のひとつを取り出した。
「これはね、鞭だ。ああ、ショウタは乗馬くらいしていただろうから知っているかもしれないね」
 ショウタの顔は面白いほどに血の気が引いていった。
 外にもディルドだとかアナルパールだとかいかがわしいものは一通り揃っていたが、
取り敢えずは鞭とローションを引っつかんでショウタの元へと戻っていく。
「お利巧なショウタには判るよね。さぁ、早く足を開きなさい」
 青ざめたショウタはそれでも強情に足と足の間をくっ付けたままでいる。
 引き裂かれた布を纏っただけの彼は殆ど全裸に近い状態で、その格好だからこそ寒さや恐怖を煽るのだろう。
 床に落とされた視線は最早持ちあげることにさえ恐怖を覚えるのか、床の上を左右に泳いでいる。
「開けろといっている」
 優しげな口調を引っ込めて、途端に命令口調へとなったタカシにショウタはわずかばかりの隙間を腿に空ける。
 それが限界だというような態度にタカシは笑った。
「それであけたつもりか?」
 ショウタにとって精一杯の譲歩であったのだろうが、タカシはまだ許すつもりはない。
37 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 21:51:06.91 ID:3ZexRIYo0
「そうか。判った。それならそれでいい――、嫌でも言うことを聞きたくなるからね」
 ショウタがタカシの動きを確認すよりも早く、タカシは右手を振り上げた。
 手に持ったのは鞭。
 SMどころか性交さえしたことのないショウタに、タカシはどんな風に映っているだろう。
 振り上げた鞭がショウタの腿へと到達する頃、やっと彼は涙の溜まった瞳をタカシへと向けたのだった。
 パシッと乾いた音が響き、「うー」と言うくぐもった叫びが漏れ出る。
 タカシは休むことなく二発目を繰り出し、そしてショウタの左右の腿へと赤い線を残した。
「どうだ?」
 鋭い痛みにショウタは未だ「うー」と唸り声を上げている。
「足を開く気になったか?」
 ショウタは身を屈めて「うう」と唸り続け、痛みに耐えていた。
「ああ、言うことを聞けないようだね」
 すかさず言えば、ショウタは首を左右に振り
そしてあれほど抵抗していた腿に力を緩めて足を大きく開いたのだった。
「……よくできたね」
 えらいね、と頭を撫でてやれば、彼は身を強張らせたままそれを受け入れる。
「四つんばいになりなさい」
 残念なことに、今度はショウタは抵抗することなく言われたままのポーズを取った。
 もっと抵抗をして欲しいところである。どうも鞭を取り出すタイミングを謝ったかもしれない――、
そんなことを考えつつ、タカシはローションを開封して、それを手にたらした。
「足、もっと開いて」
 言われるがままに足を開くと、しりの狭間の穴が露になった。
 ローションを指に塗りつけると、タカシは無造作にその穴へと指を突っ込む。
 まずは一本。窄まった穴が抵抗を見せる。
38 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 21:51:55.26 ID:3ZexRIYo0
「力を抜け」
 そう言われても未経験なショウタには容易いことではないだろう。
「抜けといっている」
 尻が小刻みに震えているのが妙に淫猥だった。
「抜きなさい」
 指は流石に乱暴に動かすことは憚られ、ゆっくりとした動きで尻の内外を行ったり着たりさせる。
 暫くそれを続けていると、コツを掴んだのか、指はにゅるんと尻の中に吸い込まれていくようになった。
「そうだ。それでいい」
 漸く指一本の行き来がスムースになったころ、二本目の指で入り口をつつく。
 これはなかなか上手くいかない。抵抗があるし、力の入った穴は小さくてなかなか入らないのだ。
 何度も何度も弄り倒し、漸く二本目が入るころにはショウタの腿は長く続く同一体勢に疲れたのか
震えだしていた。
「床へと体をつけてもいい」
 そう指示を出すと、ショウタは以外にもそれに従い、それに伴い尻の位置も下がる。
 彼の顔は碌に見えぬが、涙の溜まった目で必死でこの恥辱に耐えていることだろう。
「……いい子だ。そのうちよくなる」
 囁くように言ってもなんの慰めにもならないのだろう。ショウタはうんともすんとも言わぬまま、
されるがままとなっていた。
39 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 21:53:56.68 ID:3ZexRIYo0
 弄り始めてどれくらいの時が経過しただろう。随分と長いことこうしているよう気がする。
 一時間か、一時間半か、或いはそれ以上だろうか。
 自分でも気の長いことだと感心しながら、タカシはすっかり緩んだそこから漸く指を引き抜いた。
 相変わらず床へと体を伏せているショウタであるが、その体が震えているのは精神的な打撃からくるものなのか
それともタカシが体を弄り倒しているからなのかは判らない。
 一方タカシはと言えば、目の前では広がった穴がパクパクと開閉しているが、
それにそそられるかと言えばそうでもない。
 もっと抵抗してくれないと燃えない、と言うのが正直なところだった。
 立ち上がってショウタの顔が確認できる位置へと移動すると、突如降り注いだ影に怯えた様子でショウタは
体を揺らした。
 視線がかち合えば、しかしそれから逃れるかのように慌てて目を逸らす。
 最早彼の中には抵抗の意志は殆どなく、心は恐怖で満たされているようだった。
 なんてつまらないのだろう。
「なぁ」
 呼びかける声にでさ怯えた仕草を見せるショウタに思わず溜息が漏れた。
「親父さんは、なんで君を売ったんだろうね」
 タカシの言葉にショウタはゆっくりと視線を上げた。
「どうせ心中するのに、なんで君だけ売り飛ばしたりしたんだろうね」
 涙を湛えた瞳が揺らめいていて、瞬きひとつで雫は零れ落ちそうだった。
「ショウタを裏切って置き去りにして……、きっと君のことなんてどうでもよかったんだな」
 そうタカシが言った瞬間、芋虫のように丸まっていたショウタは上体を跳ね上げさせ、
そして噛み付かんばかりの勢いで身を乗り出した。
40 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 21:54:51.85 ID:3ZexRIYo0
 瞳に力が宿り、そしてタカシを睨む。
 ふさがれた口はなにを言おうとしているのかは判然としないが、布きれを突っ込まれた口は
必死でタカシへと何かを告げようとしているようだった。おそらく暴言だろう。
 そうだ、こうでなくては困るのだ。
 タカシは立ち上がり、ショウタを見下ろした。
「今日はここまでにしておこう」
 挿入するのはまた次回への楽しみとして取っておけばいい。
 タカシは桐箱まで歩み寄ると、その中に無造作に放置されていたアナルパールを掴み、
再びショウタの元へと戻ってきた。
「私が明日来るまでこれを入れておきなさい。
ああ、今夜は食事を用意してあげるから楽しみにしておくといい」
「――!!」
 要らない。
 そう言ったようだったが、タカシはそれに構うことなく尻にそれを突っ込んだ。
 悲鳴染みた声が鼻を抜けて響くが、タカシはそれに構わず、もう今日のところは興味を失ったオモチャへと
視線を移すことなく地下室を出て行った。
 ショウタはもっともっとタカシを楽しませなくてはならないのだ。
 一日や二日で全てを食らい尽くす必要も壊してしまう必要もない。
「楽しみだ……」
 浮き足立つ心をなんとか沈めて、タカシは地上へ出るべく階段を上って行ったのだった。
41 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 21:56:25.58 ID:3ZexRIYo0

 
 タカシはデニムでチューリップの花びらを擦りながら、その整備された庭を歩いていた。
 広い庭だ。純和風の邸宅に不似合いではあるが、その家をぐるりと多い囲むようにしてチューリップが
植えられている。そして板塀の近くには、背丈を同じくする桜がずらりと並び、タカシを圧巻させた。
 この景色にタカシは見覚えがあった。この庭はタカシが成人するまで住まっていた邸宅――、
つまり本家の庭に他ならなかったのだ。
 ああこれは夢だ。タカシは美しい庭を歩きながらそう考えた。
 この場所を知ってはいるが、しかしそれが現実ではないと理解するのは容易いことだった。
 例えば桜。あの庭に植わっていた桜の木は高さが不揃いで、少しばかりみっともなかったはずだ。
 それに、庭の所々はまるでエラーを起こしたかのように、あるはずのないものたちが我が物顔で鎮座している。
 廃棄されたアンドロイドが山積みになっていたり、かと思えば書類の束が放置されていたりする。
 本家を出てかなり長いから、記憶がおぼろげになり、庭の細部までは思い出すことが難しいのだろう。
だから庭の様子が部分的におかしいのだ。
 アンドロイドの残骸に書類の山――、それらはタカシの現在の生活に密着しているものたちだった。
 だからこそタカシは『これは夢なのだと』と強く自覚するに至ったのである。
 しかし見事な桜である。現実の桜もこんな風に咲き誇るのだろうか、と考えつつ舞い落ちる花びらを眺めていると
桜の木の向こうから人影が突如として現れた。
42 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 21:58:45.32 ID:3ZexRIYo0
『タカシさん』
 日傘を差した美しい女性だ。彼女は上品そうな笑みを浮かべている。
 あれは誰だっただろうと考えていると、女性は白い手袋をした細い腕を軽く持ち上げて左右に振った。
 そうだ、あれは姉だ。姉のミユキだ。
『ミユキ』口内で呟くように言えば、その名前がしっくりと胸に落ちた。
 しみこむ様なそれにホッと一息を吐き、タカシも彼女に向かって腕を振るう。
 夢とはいえ実姉を忘れるとは些かうっかりが過ぎるだろう。
 姉が嫁いで何年になっただろうか。
 ある代議士の家へと嫁いだから、そうそう会えなくなってしまったのだ。
 思えば、もう年単位で会っていないのだから、夢の中で顔を咄嗟に思い出せぬのも
仕方がないのかもしれない。
 彼女は裾の長いワンピースを器用に動かしながらタカシに近づいてきた。
足早に歩きつつも、チューリップを踏みつけたりしていないのだから感心をせざるを得ない。
『やっと追いついたわ』
 日傘を閉じながら、ミユキは微笑んで見せる。相も変わらず少女めいた人である。
 そんな少女のような彼女だが、どうやら妊娠をしているようだ。
 腹が僅かに膨れ、ワンピースの布地を押し上げていた。
『男の子だって先生が仰っていたわ』
『そう、よかった』
『ねぇ、お腹に触って?』
 え、と躊躇したのはつかの間で、気づけば手首はミユキの柔らかな手に引かれ、
そうしてその丸みを帯びた腹へと掌を当てていた。
 姉弟とは言え彼女は異性だから、なんとなく触れることに躊躇したのだ。
 そこは思いの外かたく、なるほど子宮が筋肉だという話は本当のようだと、タカシは妙な感慨に浸る。
43 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 21:59:34.08 ID:3ZexRIYo0
『動く?』
『やだわ、まだ動いたりしないわよ。もっと先よ、動くのは。この前もそう言ったわよ?』
『――そうだったかな?』
『言ったわよ』
 もう、とミユキは頬を膨らませ、それから幸せそうに微笑んだ。
『名前、付けて下さいね?』
『――俺が? 何故?』
 名付け親に弟がなるというのは奇妙な話だ。
 だがミユキはふざけている風でもなく、やや困惑の入り混じった顔で
『何故ってどうして?』と逆に尋ね返すのだ。
 さもそれが当たり前の行為であるかのように。
『何故、俺が』
『何故ってタカシさん』
 ザっと風が吹いた。
 風は桜の木を激しく揺らし、姉の髪を乱した。
 花びらが散る。ピンク色の花びらを撒き上げながら、風は強く吹きつけていく。
『ミユキ?』
 花びらで霞む視界の向こうで、ミユキは未だ小首を傾げタカシを見ていた。
『何故って』
 乱れた髪を直しながら、ミユキは艶やかな唇を開ける。
『名前をつけるのは父親の役目でしょう?』
44 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 22:00:45.20 ID:3ZexRIYo0
「……っ!」
 耳に響くのは、目覚ましの音だ。
 不快なその音は、人間工学で計算された『誰もがすっきりと目覚めを迎えられる音』らしいのだが、
タカシにとっては鼓膜に直接触れられているかのような気分の悪い音で、あまり好ましいと思えぬものだった。
「起床した。停止」
 誰もおらぬ寝室で、誰に聞かせるわけでもなくそういえば、どこからともなくポーンという電子音が響く。
『脳波を計測します……、起床を確認。目覚まし機能を停止します』
 天井からの声に、渋々とベッドから降り立つと、タカシは今しがた見た悪夢について思いをめぐらせた。
 あれは姉のミユキだった。ミユキとは随分会っていない。最後に会った時には『妊娠した』と言っていたはずだ。
 あんな夢を見るなんてどうかしている。
 性に関するサブカルチャーが比較的おおらかな日本においても、近親相姦が異常であることは間違いない。
 タカシはミユキに対してそんな不埒な感情はいだいたことがないし、いだくほどに飢えているわけでもない。
 夢とは願望や恐怖を象徴的に映し出すもののようだが、それは全くのでたらめなのではなかろうか。
 そうでなかったらあんな夢をみるはずがないのだ。
「坊ちゃま、おはようございます」
 冴えぬ気分のまま自室の扉を開け廊下へ出ると、待機していた女中がタオルを差し出した。
「おはよう」
 滑らかな動きは人そのもので、やはり彼女は人間に違いない、と確証のない考えを導き出した。
 彼女はタカシが階段を下るのを待つようにして、廊下のわきに寄り頭を垂れ続ける。
 それほどまでに恐縮する必要はないと思うのだが、祖父の代から親子で勤めている者が多いこの屋敷では、
タカシに対してまるで神か王の対するがごとく振舞うのである。
 息が詰まる思いだ――、それでもショウタのような子供を引きずりこむような褒められぬ行為についても
誰一人咎めるわけではないから、比較的好き勝手にしている方なのかもしれない。
 言われるがままに好きでもない代議士の下へと嫁がされた姉に比べれば、
過ぎるくらいの自由を貰っているのだろう。
45 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 22:02:48.68 ID:3ZexRIYo0
 キッチンで朝食を済ませてから新聞に目を通していると、下男が大振りな旅行鞄をもってやってきた。
「坊ちゃま、お支度が整いましたよ」
「……なんの支度だ?」
 にこにこと微笑んでいた下男は「スカイカーレーシングですよ」とこともなげに告げる。
「なんの話だ?」
 今日は月曜日で、出勤をしなくてはならないはずだ。
 暢気にレジャーを楽しんでいる場合はではない。
「いやですね、スカイカーレーサーのご友人にお会いして、
レーシングの手ほどきを受けると楽しみにされていたじゃありませんか」
 新聞から目を離し、まじまじと下男の顔を見る。冗談を言っている素振りではなかった。
 今日は出勤して、新年が始まり次第早々に発売される新型アンドロイドについて様々な準備があるはずだ。
 発表は現社長である父の役目だが、その傍にタカシはついている必要がある。
それについての段取り話し合いもあるし、下男が今しがた伝えた娯楽関係の予定は当分の間――、
いいや、そんな馬鹿げた予定は確かに立てていた。
「……忘れていた」
 そう、忘れていたのだ。
 いつもと違う日常――、つまりショウタの存在だ、にかまけていてすっかり忘れていた。
 旧友がこのたび医者からスカイカーレーサーへの転向を果たしたのだ。
 スカイカーレーシングと言えば近頃誰もが注目するスポーツで、タカシも大きな興味を抱いている。
 カフェインが入った脳が、未だに寝ぼけている。
 きっと妙な夢を見て出鼻をくじかれたような気分になった所為に違いないとタカシは考えた。
「坊ちゃま、大丈夫ですか?」
「ああ、平気だ」
 意識は次第にすっきりとしてきた。
 スポーツマンタイプの旧友の笑顔が脳裏に浮かび、そして彼のレーシングマシンに乗せてもらえると思うと
心は躍る。それほどタカシはスカイカーを楽しみにしていた。
 だが。
46 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 22:04:30.45 ID:3ZexRIYo0
「坊ちゃま?」
 タカシの表情に気づいたのだろう、下男がもう一度「大丈夫ですか」と尋ねた。
「大丈夫だ」
 先ほどと同じように返事をするが、しかしタカシはもうスカイカーに然したる興味を抱いては居なかった。
 そんな自分自身のことが不思議でならない。冷めつつあるコーヒーを啜りながら眉根を寄せるタカシに
下男はやはり怪訝そうな顔でタカシを見つめていた。出方を窺っているのだろう。
「すまないが」暫しの間を置いて、結局導き出した答えはひとつだった。「断りの連絡を入れておいてくれないか」
 久しぶりのまとまった休みだ。
 だからこそ旧友と会いたかったはずであるが、タカシが最も興味を抱いているのはショウタだ。
彼以上に興味の湧く、面白いことなど今はひとつもなかった。
「――お断りですか?」
「ああ」
 あれほど楽しみにされていたのに。そう言いたげな下男は、しかしなにも言わぬまま
「判りました」とだけ返事をしキッチンを去っていった。
 コーヒーを飲み干した瞬間に、ズキンと頭痛が走る。
 また頭痛だ。薬を飲んでおく必要がある。
「悪いが、今日は地下室で過ごす。夕方まで誰も降りてこないよう伝えてくれ」
 女中に申し付ければ、彼女はまつげを揺らしながら頷いた。
47 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 22:05:08.38 ID:3ZexRIYo0
 ああ、怖がらせている。彼女にとって、タカシは少し前までは全うな主人であったのだろう。
 世間にとってもタカシは全うな人間のはずだ。今までそう思われるように生きてきたのだ。
 きっといたいけな子供をいたぶっていると世間に周知されれば、
この行為が合法であったとしてもタカシの立場はなくなるだろう。
 この悪い遊びがどこかへと漏れ出ることはあってはならぬこと。だがタカシはそれを隠す気にはならなかった。
 何故と問われたところで答えようがない。
 何故――?
 判らない。
「ストレスかな……」
「はい?」
 女中はタカシの声に返事をするが、いいやなんでもないと首を横に振ってやると、
仕事があるだとかてきとうな理由をつけて去っていった。
 汚れた食器を片付ける者が居らぬと気づいたのはその後のことで、タカシはそれらを手に取り
どうすべきか考えあぐねた結果、調理台の上にそれを放置したのだった。
48 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 22:07:24.30 ID:3ZexRIYo0
 ショウタは平らなスープ皿を傾け、皿に直接唇をつけて中身を啜っていた。
 全裸でスープはカトラリーさえ用いずに飲んでいる。
 凡そ良家の坊ちゃまには見えぬ姿であるが、これはタカシが強要したことだった。
「美味いか?」
 椅子に座り足を組み、見下ろすようにして言うと、ショウタはウンでもスンでもなく、
ただ一瞬だけタカシを睨んだだけだった。
 尻に入れられた器具はそのままだから、その異物感は気分のいいものではないだろう。
「後ろ、抜こうか?」
 そう尋ねるも、しかし彼はタカシを無視するかのようにスープを飲み続けた。
 組んだ足を入れ替える瞬間、少しだけ空気が動くと、スープの香りに混じってなにか嫌な匂いがした。
 そういえば、連れて来たその夜からショウタを一度として風呂には入れていない。
 そう気づくと何とはなしに自分自身も汚れるような気がして、
タカシは「食事が終わったら風呂に入ろう」と提案をした。
 いや、これも提案と言うよりは決定事項で、ショウタが抵抗したとしても譲るつもりはなかった。
 ショウタは返事をしない。
 タカシは彼の首に続く鎖を思い切り引っ張り「風呂に入るよ」と語気を強めて言う。
 ショウタが掴んでいた平皿はコンクリの床に落下し、ガシャンと耳障りな音がし、
よくよく見れば皿の縁は少しだけ欠けていた。女中が困った顔をするだろうが、
持ち主はタカシであるのだから気にする必要はない。
「判ったね?」
 やはりショウタは返事をしなかったが、彼がジッとタカシを見つめてきたから、それだけで満足だった。
49 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 22:09:50.02 ID:3ZexRIYo0
 ショウタはタカシを無視する方向で抵抗を始めたようだった。
 怒鳴っても手足をばたつかせても無意味と知り、最後の手段として持ち出したのが『無視』のようだった。
 とは言えまだまだ彼は子供だ、だんまりもそう長くは持たないだろう。
 台無しになった料理はそのままで、手枷と足枷をそれぞれ手錠と足錠に変えてから、
タカシは逡巡ののちにショウタを肩に担いだ。
 一瞬、ショウタが空気を盛大に吸い込む気配がしたが、無視決め込むことを思い出したのか、
そのまま空気は吐き出され、そして彼は大人しく肩に納まった。
「うちの風呂は広いぞ」
 その言葉も無視しているのだろう。
 これと言った返事も期待しないまま、タカシは地上に上がる階段を上って行った。
50 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2013/12/22(日) 22:10:38.19 ID:3ZexRIYo0
今日はここまで
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/22(日) 23:49:59.61 ID:P978hIn80
いいね、乙
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/23(月) 04:28:34.50 ID:EmAMHSHCo
●たよ
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