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【オリジナル】男「没落貴族ショタ奴隷を買ったwwww」
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53 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2013/12/26(木) 22:46:06.19 ID:Tukd11yn0
>>51-52
ありがとう
以下エロパートなので注意
54 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2013/12/26(木) 22:47:58.99 ID:Tukd11yn0
風呂の通称は『二の部屋』である。
ショウタの重みの分、若干であるが足音が大きくなったのだろう、
それを聞きつけた家のものたちが、それぞれの持ち場から顔を出しては、
事態を把握するとすぐに顔を引っ込めた。
途中女中に声を掛け、てきとうな衣類を用意してくれと頼み、タカシはそのまま風呂場にショウタを突っ込む。
なにせ衣類を引き裂いた夜からショウタは全裸だ。放り込むのは容易かった。
浴室に放り込まれたショウタは、なにをするでもなくただ突っ立っている。
タカシは自身も服を全て脱ぎ捨てると同じように浴室に入っていった。
「……!」
その姿にショウタは驚いたようで、飛びのくようにして浴室の隅へと逃げる。
「なにをしている」
だがその問いに答えることなく、ただ身を縮めて怯えた目でタカシを見た。
背中を向けて、顔だけは捻るようにしてタカシを見ている。
その稚拙な行動がおかしかった。
アナルパールが収まったままの尻をこちらに向けて、なにを保護しているつもりでいるのだろう。
その姿に、ショウタがまだ子供なのだと自覚し、そしてタカシは最悪なことに、嗜虐心が増すのを感じた。
55 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2013/12/26(木) 22:49:14.33 ID:Tukd11yn0
「来なさい、洗ってやろう」
腕を半ば無理やり引かれたショウタは、体をよろめかせながらタカシの前へと戻ってきた。
まずは座らせ頭を洗う。オーガニックのシャンプーは、確か母の趣味だ。
女中か誰かが補充を繰り返しているのだろう、減ることはない。
掌で伸ばしたシャンプーは柔らかな花の匂いがした。
頭が終われば後は次は体だ。
タカシはこれと言って声を掛けることもなく、突然ショウタの臀部に手を伸ばしてそれを引き抜いた。
「あ……っ!」
思わずと言った風に漏れた声は、初めて会った日の幼さの残る声だった。
しゃがれた声が元に戻りつつあるのかもしれない。
「痛かったか?」
それについては、ショウタは黙ったままだ。余程悔しかったのだろう。
耳まで赤くし小刻みに震えているところを見ると、相当に辛かったのかもしれない。
少しだけ反省をし、タカシは幾分か優しげな手つきでその狭間を洗ったやった。
残りはボディタオルでいいだろう。大雑把な自身を自覚していたが、ある程度は丁寧に触ってやったつもりだ。
手錠と足錠は、ショウタの一挙手一投足に反応して、その都度耳障りな金属音を響かせる。
これは失敗だったかもしれない。もっと頑丈で軽いものを用意させるべきだっただろう。
そんなことを考えているうちに、ショウタの体はそれなりに綺麗になった。
56 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2013/12/26(木) 22:50:42.21 ID:Tukd11yn0
「お湯に浸かってなさい」
命じられると、意外にもショウタは大人しくバスタブに沈んだ。
渋々と言った様子ではあるが、それでも素直にタカシの命令を聞いている。
自身の体を洗う最中、こっそりとショウタを盗み見れば、時折小さな頭が揺れ、
濡れた毛先から雫が滴るのが見とめられた。
ショウタは体が小さい。
骨格は華奢、尻も小ぶりで、手足も細い。花街に売り飛ばされてから暫くの間、
まともな食事はしていたのだろうか。もっと栄養のあるものを食べさせたほうがいいのかもしれない。
――馬鹿みたいだ。
一瞬で頭を駆け巡った、まるで善人のような思考に自分自身を嘲笑した。
稚い子供を閉じ込め好き勝手しているタカシに、娼館をあれこれと言える資格はないのだ。
なにを急に善人ぶっているのだろう。
タカシは善人ではない。どちらかと言えば悪人であることは間違いがないだろう。
――それならばいっそ。
蛇口を捻り、シャワーを浴びる。熱いお湯が体中に泡を落としていった。
落下する泡を視界の端に見遣りながら、タカシは前も隠さずに立った。
自分を覆うようにして突如として伸びた巨大な影に、ショウタは一瞬遅れを取ったものの
すぐさまバスタブの隅へと移動したが、しかし所詮そこは風呂で、逃げられる場所などたかだか知れている。
乱暴にバスタブに踏み込み逃げ惑う体を捉えると、湯で濡れた体はするりと逃げた。
背後から近づき、手荒に細い腰へと腕を巻きつけると、獰猛な征服感が湧き上がるのを感じる。
57 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2013/12/26(木) 22:53:39.52 ID:Tukd11yn0
「あ……っ!」ショウタが小さな声を上げた。
男の猛った性器が尻を掠めたのだから、恐ろしくないはずがないだろう。
バシャリバシャリと、まるで小船が荒波の上を滑るかのような音が浴室に響く。
相変わらずショウタは言葉を発そうとはしなかったが、
手足の抵抗は少しずつではあるが激しくなっている。
タカシも無言でショウタの体を捉えると、腕の力で華奢な背中を押さえつけて
身動きが取れぬ状態へと持ち込んだ。
もとより手足は碌に動かすことができぬのだ、尻を片手で開くことなど容易い。
手に取ったボディソープを肉と肉の狭間に垂らし塗りつけると、
そこはあっという間に口を開けて見せた。
「や、やめ……!」
ここまできて漸くショウタが言葉を発した。
肩越しに振り返ったショウタの顔は恐怖に満ちていて、だが罪悪感は少しも浮かばないのだから救いがない。
「犯すと言ったはずだ」
「や、やだ、やめて、怖い、やだ……!」
涙に滲んだ声と、細い手足が抵抗を繰り返す。
やだ、こわい、やだ。
言葉は次第に悲鳴に変わり、そのうちすすり泣きに変わった。
タカシは構わず尻の狭間に指を沿え、そして穴を探ると遠慮もなしにその中へと指先を進入させたのだった。
「やめ、やめて、怖い……! ねぇ、やめて……!!」
食事にさえまともにありつけなかったためだろう、ショウタの抵抗はタカシにとっては
蚊を叩き落すことよりも簡単で、体力の消耗からか、暴挙の五分後には
ショウタはバスタブの縁へとくたりと体を預けていた。
言葉では相変わらず抵抗を続けていたが、そんなものは抵抗のうちには入らない。
赤く縁取られた入り口が、パクりと口を開けた。
ヒクヒクと蠢くそれに、タカシは己の身がひどく高揚しているのを自覚すると、心の興奮が更に高まった。
58 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2013/12/26(木) 22:56:29.84 ID:Tukd11yn0
「や、やだ……やだ、」
小さな入り口に、性器を宛がう。弱々しい腕は、二度、三度と振られるが、
拘束された上での抵抗は、なんの意味もなさないようだった。
「やめて、やめ……、助けて……、たす……、」
小さな掌はバスタブの縁を掴んでいる。抵抗をしようと一時的にそこへと預けていた腕は振り上げられるが、
しかしバランスを崩したショウタは腹を強か打ちつけた。
ぐっ、と小さな呻き声が聞こえるが、タカシは構わず腰を固定し続ける。
随分と乱暴なことをしている。
その乱暴な行為に興奮するのは、ショウタが『貴族の少年』だったというラベルが張り付いているからか、
それとも彼がこんな状況でさ抵抗を忘れないためなのかは判らない。
ショウタはなおも声を上げ続けた。
「やめて、や……、お父さん、助けて……!!」
ショウタがそう叫んだ瞬間に、タカシの性器はショウタの中に沈んでいた。
肉が抵抗をするかのように蠢く。
「あ、あ……っ……い、いたい、痛いぃ……!!」
ひぃひぃと泣き声が交じった悲鳴が続き、渾身の力でバスタブの縁を握る彼の手は白くなり、
そして体は小刻みに震えている。
汗かそれとも水蒸気が液体化したものかがショウタの肌に浮かんでは滑り落ち、
そしてそれは尻の合間へも流れていった。
皮膚の腰骨が動き必死で抵抗の様子を見せるが、肝心の粘膜は本人の意志に逆らい飲み込むような動きを見せた。
粘膜が卑猥に動き、タカシの性器を舐めるようにして蠢く。
59 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2013/12/26(木) 22:58:33.44 ID:Tukd11yn0
「ぁ、あ、あ……!」
中に肉を収めてから数分が経ち、そうするとタカシもショウタの変化を感じ取っていた。
体の力は抜け落ち、もう表面的には抵抗する様子は見られない。少しだけ腰を動かすと、
抵抗ばかりを発していた声には甘さを含んだものも多少ではあるが交じるようになっていった。
「ん、ぁ、」
「ショウタ」
髪からの雫が伝い落ち、耳たぶの端に水滴を溜めていた。それを吸うようにしたあと甘噛みすると、
ショウタは「ぁ、ん」とあからさまな嬌声を上げて見せた。
「気持ちいいのか」
「ち、が、」
絶望と羞恥の入り混じった顔が振り返る。
ちがう、ちがうと小さく繰り返すが、体の方はそうではないようで、タカシが腰を前後させると
内側は更なる奥へと導くかのように、或いは強請るかのように蠢いた。
「あ、や、やだ、無理、こ、怖い、ねぇ、怖い……!」
「その声はなんだ」
ショウタの状態を逐一告げてやると、ショウタは「いや、いや」と言いながらも
そのうち腰を自ら動かすようになった。
「卑猥な音がしているね。じゅぷじゅぷ言っている」
「や、やめて……! ぁあ! あ、やぁ、やめ、ろよ……! あん!」
「やめて欲しくなさそうだけど」
「ちが、違う……! やめ、やめろ……!」
渾身の力で手を掛けたバスタブを押すが、しかしそれは結合を深くさせる役目を担うだけで、
エネルギーは逃げの方向には働かない。
「……馬鹿だな」
思わずそう言うと、ショウタはキッと睨み、だがそれも僅か数十秒のことで、
表情は次第に溶けていった。
60 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2013/12/26(木) 23:00:34.19 ID:Tukd11yn0
「あ、あ、駄目、駄目……!」
「ああ、イきそうか」
「なに、これ、なに……!」
「なにって?」
「や、やだ、なんか来る、怖い、こわい!!」
はて、とタカシは腰を動かすのをやめた。
『怖い』は先ほどから幾度となく発されていた言葉であるが、今度は様子が異なった。
『なんか来る』とは一体なんのことだろう。
一瞬の思考の末に導き出したのは、ショウタは射精をしたことがないのかもしれない、
と言う結論だった。
なるほど、初物と言うのはなにも後ろのことだけではないようだ。
その考えに至ればますます興が乗る。
「ぇ、あ、え……っ?」
ますます腰の動きが激しくなったことに、ショウタは戸惑いを覚えているようだ。
体を仰け反らせはじめたショウタの腰を掴むと、性器が起立しているのが見て取れ、
悪戯心の芽生えたタカシはそこを握ると手を動かししごいてやった。
「な、なに、なに、これ……!」
放っておいた水の張られた洗面器には、戸惑いに目を白黒させるショウタの顔が
はっきりと映し出されている。
前をしごかれ、尻は穿たれ、なにもかもが初めてのショウタはもう全てに追いつくことができず
どうすればいいのかが判らないようだ。
もみくちゃにされながら、乱れる思考の中で、それでも抵抗するような言葉だけは只管紡ぎ続ける。
「や、やだ、こわい、待って、待って……!」
61 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2013/12/26(木) 23:06:07.30 ID:Tukd11yn0
射精感が高まり、タカシは腰を打ち付けるようにして動きを激しくしていった。
パンパンパンという肉のぶつかり合う音が響き、
その合間に「あん」と言う甘い声が混じる。
腰を押さえつけている親指が肉に食い込み、それが何故かとても卑猥に見えるが、
何故そう見えるのかは判らない。
「待って……っ! ぁん、あ!」
タカシは腰を前後し続けた。
「感じているじゃないか。この淫乱」
「ちが、違う……!」
か細い制止の声も聞いてやるはずもなく、タカシは酷い言葉を吐きながらショウタの一番いい場所を
執拗に擦りあげてやった。
「感じているんだろ?」
「ち、ちが、あ、ぁ、あん、あ、ひぃ!」
違う違うといい続けるが、性器からはぬめった汁が滴り続けている。
「気持ちよさそうだな」
「違う、違うも、あっ」
あ、あ、と短い声が続く。
性器を擦りあげるペースを早めると、その嬌声も次第に高く、大きくなり、
そして気づけばショウタは自ら腰をうねらせていた。
「あ、もう、もう、だめ、だめぇ……っ!」
やがてショウタは短い悲鳴を上げた絶頂を迎えた。
思い切り吸い込んだ酸素が上手く肺にまで至らず、苦しそうだ。それと同時にタカシの掌は濡れ、
青臭い匂いが充満した。
脱衣所へと続くガラスに水滴が大量に付着している。それは心なしかいつもより多く見えるのは
気のせいではないかもしれない。
62 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2013/12/26(木) 23:07:49.42 ID:Tukd11yn0
「あ……っ……あ……っ」
はぁはぁと背中を揺らしながら呼吸を整えるショウタから性器を抜き出すと、肉は執拗に纏わりつき、
まるでタカシが出て行くことを拒否するような仕草を見せる。
ぽっかりと開いた穴はヒクヒクと動き、そしてやがて閉じていった。
「……あ……」
力を失った体はバスタブにぐにゃりとひっかかり、タカシに対して文句のひとつさえ放つことができぬようだ。
時折「あ」と短い声を上げ続けているが、しかし言葉と呼ぶには短すぎ、それはどちらかと言うと
呼吸の断片のようなものだった。
――あっけない。
出してしまった後は、急激にテンションが下がりつまらなくなる。
尻を庇うでもなく、ただ力なく壊れた人形のような格好をしているショウタにも、ただ「つまらない」という
感情しか浮かばなかった。射精した瞬間に、もうどうでもよくなったのだ。
興が醒めると、その小さな体も汚物か何かのように直視したいものではなくなる。
放っておいたとしても、誰かしらが面倒をみるだろう。
そう結論付けたタカシは、色んな体液で汚れたバスタブの栓を引き抜くと、
一人湯から上がり、シャワーを浴びたのちにはショウタを振り返ることなくさっさと浴室を出て行った。
脱衣所でタカシが衣類を整えた頃になってもショウタは出てこない。
だがそれを心配する情さえ、もうタカシには浮かばなかったのだ。
娼館での生活を少しだけ心配したのは、おそらくたんなる『気の迷い』だろう。
なにか言葉の使い方がおかしいような気もしたが、『気の迷い』と言う言葉は
タカシの胸には随分としっくりと馴染んだ。
そう、気の迷いだ。
ショウタを買ったのだって、同じこと。
毎日ステーキでは飽きるから、たまには不味いものも食べてみたくなるのだ。
ただそれだけだ。
脱衣所を出ると、たまたま通りかかった下男にショウタを任せ、自分はさっさと自室に引き上げた。
あの様子ではどうで逃げられまい。
そんなことを考えながらタカシは階段を上って行ったのだった。
63 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2013/12/26(木) 23:08:21.72 ID:Tukd11yn0
きょうはここまで
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/12/27(金) 14:58:01.16 ID:7BdqP3Gyo
楽し●よ
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/12/27(金) 17:19:09.62 ID:lTaTPss60
乙
66 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/01(水) 00:25:12.21 ID:rCHzOw5v0
あけましておめでとうございます
67 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/01/02(木) 01:21:07.88 ID:KYphqHHDO
おめでとう
68 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/01/07(火) 04:39:34.44 ID:L2g6CTEC0
今一番続きが楽しみなスレ
69 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:40:25.55 ID:3oMktgvd0
保守してくれる人thx
ちょっと私生活が忙しい感じがする…
更新が少しだけで申し訳ない
しかもショウタとの絡みがないという
すまん
70 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:42:58.46 ID:3oMktgvd0
そのカフェは若い女性で溢れていた。
緑がたくさん植えられている庭は、どこぞの国の御貴族様の庭を模したものらしく、
女性に人気である理由はその辺りにあるようだった。
尤も、山も木もことごとく切り倒されている昨今の日本においては、
カフェに緑があるということ自体が珍しく、彼女たちがこの場へと惹かれる要因は
オシャレであること以前にあるのかもしれない。
店のど真ん中に植わっているのは桜の木で、あの手の樹木ももう国内には数えるほどしかないことだろう。
徹底した近代化が招いたのは緑の消失だ。それでも国策だというのだから致し方がない。
戦争と大災害を想定した街づくり――、それは年老いた政治家たちが生み出した国策だったのだ。
彼らはみな、半世紀ほど昔の青春時代を戦争一色に塗りつぶされていた。
彼らはいざと言うとき、か弱い女子どもを丸ごとシェルターに避難させられるようにシェルターを作り、
若い命が散らぬよう、様々な対戦闘機設備を整えた。
おかげで国土の殆どは鉄と油の匂いでまみれているが、これも国策と言うのなら仕方がない。
そう、国策なのだから仕方がないのだ。
鎖国前、日本は外国と戦争をした。
おかげで人口の半数以上が死亡し、日本の人口は一時六千万人にまで減少したという。
今はなんとか立ち直っているが、それでもギリギリで一億人いるかいないか、といったところだ。
こんな事態が二度と起こらぬよう、街は、いや辺鄙な村でさえ、この国は作り変えられたのである。
しかしまぁ、人口が減少したといっても、百坪もない小さなカフェがこの賑わいだ。
この女性たちはいったいどこから溢れてきたのだろうとタカシは考えつつ、
姉の背を前に高い声が溢れる庭を突っ切っていったのだった。
71 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:44:57.68 ID:3oMktgvd0
『こっちよ』
姉は細い手でタカシの手を握り、引くようにして前を歩いている。
その手は素手だ。白い手袋を彼女が嵌めていないのは珍しい。
女性が安易に肌を露出するものではない、と言う考えは開国をしてからも根強く残っていて、
だから彼女はワンピースを身につけているときでも決して肘まで届く長い手袋を外さなかったのだ。
一体どういう心境の変化があったのだろう。
タカシは頭の片隅でそんなことを考えつつも、姉に手を引かれるまま、
関係者以外の立ち入りを禁じられているカフェのその二階へと足を踏み入れたのだった。
この店は姉が出資しているらしく、彼女は美味いコーヒーが飲みたくなるとこうしてここを訪れるのだ。
『話ってなんだよ』
タカシは額に浮かんだ汗をぬぐいながら尋ねる。
二階は屋根裏部屋のような造りで、斜めに傾いた天井には窓が設けられていた。
その向こうにはリニアモータートレインが走るチューブが宙に浮き、空の景観を汚している。
今年の夏は暑い。猛暑だとかで、酷いところは気温が四九度を観測したらしい。たまらない。
『あのね……』
勧められた椅子に座し、タカシはメタルボトルに入ったコーヒーを啜った。
『あの……』
ミユキの口は、歯切れ悪く何度も『あの』と紡ぐ。
だが、なかなか『あの』の続きをタカシに告げることができぬようだった。
72 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:46:26.94 ID:3oMktgvd0
『うん、なに』
姉は溜息を吐き、それから観念したかのような顔で『子供は男の子ではないと困るんですって』と続けた。
『え?』
『女の子じゃ、困ると言われたの』
ミユキの手は、その下腹部に添えられていた。
なにか嫌な予感がして、タカシはそのマニキュアの施された爪を眺める。
嫌な予感がなんなのかは判然としない。とにかく、不快――、
いや、不快であることとは様相の異なる、何かとてつもなく不気味ななにかが
そこに迫っているような気がしたのだ。
よくよく見れば、姉の腹は膨れている。
ああ、彼女は妊娠していたのだとタカシは思い出した。
『女の子だったの』
『……だから?』
ミユキの眉はハの字に曲がり、それから言いづらそうに『人工授精にしてみては、って言われたの』と告げたのだ。
『は?』
『だから、この子、女の子だったの。だからね、この子を堕胎して、人工授精で――』
姉が何を言っているのかが理解できず、タカシは眉間に深いシワを刻み付けた。
『ちょっと、ちょっと待ってくれ。なにを言っているのか……』
『ごめんなさい、タカシさんの言いたいことも判るの。でも、どうしても男の子ではないと駄目なのよ』
判るわよね、とミユキは幼子を諭すように尋ねた。
タカシは何故、自分がこんな話をされているのかが判らなかった。
ミユキは憂い顔で、しかしもう覚悟を決めた顔でそこに佇んでいる。
堕胎は、もう彼女の中では決定したことであるに違いない。
73 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:48:32.69 ID:3oMktgvd0
『ちょっと待ってくれ、だって――』
姉がこれほどまでに冷酷であるはずがない。
いくら代議士の家に嫁ぎ男児を産まねばならぬと言っても、それはまた次に期待すればいいだけの話だ。
今回腹に宿った子をわざわざ堕胎するというのは、おかしな話であろう。
『待って。待ってくれ。いくらなんでも堕ろすことはないだろう。だって、だって――』
だって、折角宿った命なのだ。
『でも、確実に男の子が欲しいのよ。"ちゃんとした"男の子が』
『なに? どういう意味……、』
『駄目なの。私が男の子を産まないと』
『ミユキ……』
椅子に座ったままのミユキの肩を掴もうとすれば、それを避けるかのように彼女は身を捩った。
『だから、ごめんなさい、タカシさん』
唖然としたまま、タカシはミユキを見下ろした。
俯いたまま、タカシと目を合せようとしない彼女は、見知らぬ女のように見えてしまう。
彼女はこんなに冷酷なことをいえる女だっただろうか。いいや、そんなはずはない。
何故なら彼女は――。
74 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:50:00.69 ID:3oMktgvd0
『なあ、考え直そう』
『無理よ』
『何故、だって? 男の子ならまた次に……』
『駄目なの、どうしても男の子がいいの。女の子なんて要らないわ。私はたくさん男の子を産まないと……』
頑なになった様子で首を振るミユキに、タカシは閉口した。
彼女は、こんな女ではなかったはずだ。
タカシの愛した女は――。
『――!?』
自身の頭を通り過ぎた言葉に、タカシはハッとする。
今、タカシはなにを考えた? 愛した女? 姉を相手に何を考えているのだ。
俯いたミユキのつむじを見た。子供の頃はタカシの方が背丈が小さくて、どんなに背伸びをしても
そこは見えなかったはずだ。今では簡単にそこは覗ける。
いつからそうなった? いつから――。
『タカシさん、怒っているのは判るの。でも……』
ミユキはやはり俯いている。
『お願い、一緒に病院に行ってくだらない?』
何故そんなことをタカシに懇願するのだろう。
『堕胎には、』
ミユキがゆっくりと顔を上げた。
『父親の同意が必要なのよ。だから、タカシさん、一緒に病院へ行ってくださらない?』
ミユキの顔が持ち上がり、涙の溜まった瞳が露になる。
父親? いったい誰が?
『お願いよ』
ミユキはもう一度言った。今度はタカシの目を見て。
75 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:51:10.16 ID:3oMktgvd0
寝巻き用のロンTは湿っていた。
真冬だというのにタカシは寝汗をかいていたようだ。おまけに襟ぐりは少しばかり延び、
その上シワが寄っている。眠っている間に酷く握り締めていたのだろう、
体全体はうっすらと汗をかいているのに、掌だけはサラリとしていた。
『目覚ましを解除します』
頭上から降る声は無機質にそう告げて、カーテンは自動的に開かれた。
「……っ」
窓から差し込む朝日は眩しい。強烈な光りに目を細め、
そしてタカシは粘ついた唾液を無理やり飲み込んだのだった。
時刻は午前八時。休日に朝にしては少々早かったが、タカシには眠りなおそうという気持ちが起きなかった。
――また、気味の悪い夢を見た。
この夢の所為で穏やかな眠りが台無しにされた。
なんと気持ちの悪い夢だろう。生理的嫌悪感は吐き気までをも催させ、タカシは再び襟ぐりを握り締める。
最悪の目覚めだ。
欲求不満と言うわけではないだろう。性欲は満たされている自信があった。
では何故姉のあんな夢をみたのだろう。
行為に至っている夢ではないだけマシだろうか。
「参ったな……」
額に浮かんだ汗を拭いながら、タカシはハァ、と吐息した。
76 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:52:03.96 ID:3oMktgvd0
もうすぐ正月だというのに、万が一そんな不埒な夢を見てしまったら、姉の顔を直視できそうにない。
いくらタカシが性根の捻じ曲がった男だとしても、近親相姦は頂けなかった。
アダルトコンテンツにおいては妹モノだとか義理の姉だとか、背徳感を刺激するものは
いつの時代も人気があると聞くが、タカシはその手のジャンルにはとんと興味を抱けぬのだった。
血を近くしくする者同士で行為に及ぶというのは気持ちが悪いだけだ。考えただけで身震いしそうになる。
そしてタカシはそのついでのように義理モノも嫌っている。
義理だろうがなんだろうが、庇護すべき、或いは家族として接するべき相手に欲情するなど畜生のすることだ。
「そうはなりたくないな、流石に」
だというのに、何故ミユキの気味悪い夢をみるのだろうか。
無意識に姉の妊娠を心配しているのかもしれない。
そう、代議士の家ならば男児が生まれたほうがいいに決まっている。
ミユキの腹に宿っている子の性別を、タカシはまだ知らない。一番最初の夢では男の子だと言っていたが、
それはタカシの願望であり、実際はどうだかまだ判らないのだ。
「だからか……」
きっと姉を心配しているのだ。だからあんな奇妙な夢を見るのだ。タカシはそう結論付けた。
例えば姉が女児を産み落としたところで、タカシにはそれを変えてやることはできない。
男児が生まれてくれと願ったところで、子の性別は受精段階で決まっており、のちのち願ったところで
未来は変えようがないのだ。
タカシが心配しても詮無いことと充分に判っている。判っているが密かに心配することはやめられない。
だからきっとあんな夢を見たに違いない。
「あほらしい」
自分でも非生産的な思考に侵されすぎている自覚があったから、タカシは頭を掻き毟ると
全ての感情を洗い流すために部屋をでたのだった。
77 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:52:45.76 ID:3oMktgvd0
「お熱があるようなんです」
タカシが階段を下っていくと、女の声がそう誰かに告げていた。
声のボリュームは落とされていたが、何とはなしにその声が緊張していることだけは感じ取れる。
「どれくらいだ?」
今度は男の声がそう尋ね返した。事務的に尋ねてはいるが、こちらの声も少しばかり硬かった。
「三十八度と少し。平熱はあまり高いほうではないようですから、少し心配で……」
「そうか……ご相談しよう。病院に行くべきだろうけれど、ウンと言ってくださるかどうか……」
「いいお返事をいただけると思えませんが。だから嫌だったんですよ、あんな乱暴な……。
なにかあったらどうするんですか」
女の声は切羽詰っていて、誰かを責めるかのように――、タカシを責めていることは明白であるが、
そう吐き捨てた。
「やめなさい。私たちがご主人様に逆らうことは許されることではない。
これはそのご主人様のご意志なのだから従うしかないのだよ」
二人の下働きの会話から推測するに、どうやらショウタは熱を出したようだった。
片方は下男で、片方は女中であろう。
女中はその後もタカシを責め、下男はタカシを擁護するような発言を繰り返していた。
あれだけ無体をしたのだから、体調を崩すなと言うのが無理な話なのかもしれない。
タカシは下りかけのまま途中で歩みを止めていた足を動かし、何食わぬ顔で階下へと進んでいった。
78 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:53:38.95 ID:3oMktgvd0
「おはよう」
階段の前にいた二人ははっとした顔でタカシを見遣り、
それから掠れ声で「おはようございます」と短く挨拶をした。
「熱を出したのか」
「ええ、三十八度と少しなのですが」
下男が言うと、タカシは考えるフリを一応は示してみせた。
医者に連れて行きたくないわけではない。ただ、面倒であったから、自分で連れて行くのが嫌だったのだ。
「差し出がましいようですが、どうか、あの――、奴隷の少年に医療を受けさせてあげてください」
女中は訴えるような眼差しでタカシを見つめ懇願してみせる。
下男が制止に入るが、彼女は続けた。
「あの、もし、もしなにかあったら――、その、死んだりしたら、家の名を汚すことになりかねません。
お医者様は私が呼びますし、治療の最中は傍に居ります。ですから――、」
「判った」
タカシの手を煩わすことがないのなら構わない。
どこまでも冷酷で無責任である自分を自覚しているが、タカシはただただショウタの世話を焼くことが
面倒だったのだ。誰かが手を焼くのならそれはそれで楽でいい。
タカシは頷きつつ、きょとんと間抜け面を晒す女中へと「その件は君に任せよう」と事務的に告げた。
社の中で使うような冷ややかな言葉に、女中は暫しの間そうしていたが、そののちにはハッとなり
「判りました」とホッとした顔つきで返事を返したのである。
79 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:56:10.06 ID:3oMktgvd0
とにかくタカシは、ショウタについて手ずからあれこれと面倒を焼くことをしたくなかったのだ。
そこまで面倒に思うくせに、乱暴を働くことについては未だ楽しみに思う気持ちがある。
まるでエラーを起こしたアンドロイドだ。自社製品ではその手のリコールは一度としてなかったが、
他社製品には見られるアンドロイドの問題行動によく似ていた。
自発的な思考をAIが行い、本来のプログラミングされた思考との間に齟齬が生じ、
上手く処理がなされずに極端から極端に走るという現象がそれだ。
アンドロイドが思考しないのは遠い昔のこと、今では殆どの場合、彼らはパターンにパターンを重ね、
独自の、人間のそれに非常に近い『考え』を持つ。それが問題なのだ。
例えば、母型アンドロイドが人間の子供を保護という名目で束縛をする『過保護』という行動がある。
その一方で、保護だけを熱心に行いそのほかの母としての役目、
例えば食事の支度だとか洗濯には一切の手をつけぬネグレクトが見られるのだという。
本来の家事を行い子供の面倒をよくみるバランスのよいプログラミングの上に、
アンドロイド自身が思考し、子に愛情を注ぐ行動に比重がよってしまったが故の行動だ。
彼らの思考はイコール感情ではない。だからこそ起きてしまう事故なのだろう。
80 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:57:02.98 ID:3oMktgvd0
そしてタカシはショウタに性欲を抱いている。それもかなり暴力的で熱烈なそれを。
だが、それ以外についてショウタに対する興味は殆ど抱けないのだ。
彼に対する感情は、非常にアンバランスで、まるでアンドロイドのエラー、それによく似ている。
性欲と感情が必ずしも結びつくとは限らないのは、悲しいかな男の性ともいえよう。
しかし、感情をぶつけられ、体を繋いだとなればほんの少しでもそれらしい――、
例えばもう少し優しくしてやろうだとか、丁寧に扱ってやろうだとか、
つまりショウタに対してもう少し思いやりのある行動をとってもよさそうなものである。
タカシにはそれが一切ない。思い浮かばない。
ただただショウタを虐めたおしていたぶりたいのだ。
頭の中でショウタの顔を思い浮かばれば、そのうち彼の顔は掻き消えそれはいつの間にか
裸体を晒し泣いている姿に変わる始末である。
自分自身の内的なバランスが崩れていることを、タカシは自覚せざるを得なかった。
「いた……」
頭が痛むような気がする。
どうやら調子が悪いのは精神的なバランスだけではないようだ。
「坊ちゃま?」
下男が気遣わしげにタカシを見た。
「いや……、」なんでもない、と手を振り、それから「大丈夫だ」と締めくくる。
誰かと会話することが、今はとても面倒だ。
自室に戻ると言い残し、タカシは再び下りてきた階段を上って行った。
81 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:58:35.08 ID:3oMktgvd0
なんとも気持ちの悪い現状に、タカシは自分なりに頭を悩ませていた。
そもそも自分は秩序を乱す人間ではないはずだ。
なにがきっかけでバランスを崩しているのかが、自分自身でも判りかねている。
姉の夢が原因だろうか。
そうは思うが、彼女の安否を確認することさえできないのは、
彼女が多忙であることを充分に承知しているからだ。
姉の夫にはまだ幼いきょうだいがたくさん居て、彼女は腹で子を養いつつ、
その怪獣のようなきょうだいの世話をも焼いていると人づてに聞いた。
おまけに敷地内には夫と縁の近い者たちが住まっており、事実上同居状態のようなのだ。
代議士の一族の考えることはタカシにはよく判らぬが、しかしその状況を聞いただけで、
一族内で『新参者』である姉が身重ながらにバタバタと動き回り、
生家なぞ気に回している余裕がないことは馬鹿でも判る。
弟のことなどで気を煩わせてはいけない。
タカシはそんな風に思っていた。
姉を思う気持ちは多分にある。しかしショウタにはそれがない。
ショウタにその感情の欠片でも与えてやれればいいのだが――、生憎それらしい感情を抱けない自分がいて、
タカシはそれが少しばかり恐ろしかった。
タカシも薄々気づいてはいた。
単にショウタが元貴族であると言う嫌悪感意外にも、なにかしらの感情をショウタに抱いているのだ。
その正体がさっぱり判らない。
ただ、ショウタに対してなんの感情をも抱いていないと無理に思いたがる程の内容であることは明らかだ。
「……ってぇ……」
こめかみを手首の内側で押さえる。自分のひんやりした手が、少しだけ頭痛を和らげた気がした。
頭の片隅にモヤがかかったように、感情のその正体――、これは早く突き止める必要がありそうだ。
早くなんとかしなくてはならない。
タカシは深く嘆息すると、ベッドへ倒れこんだのだった。
82 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/01/14(火) 00:59:48.13 ID:3oMktgvd0
今日はここまで
83 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/01/20(月) 23:30:23.39 ID:854GpZtR0
エロを求めるショタコンの嗚咽が聞こえる
84 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/01/21(火) 22:55:06.98 ID:za/cttQEo
待って●るよ
85 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/02/04(火) 00:45:15.62 ID:EPHIzqgDO
続きはまだでござるか
86 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
:2014/02/04(火) 07:44:28.34 ID:lUpNODtuO
ずっと 待っ⚫︎いるよ
87 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/02/04(火) 21:47:43.11 ID:UTdf0pjo0
この名前は・・・ いつものあなたか
嗚咽上げながら楽しみにしてる
88 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:04:13.79 ID:D6CzLVIy0
こんばんは
ト リ ッ プ が 思 い 出 せ ず に 困 っ て い ま し た
そんなわけで保守ありがとうございます
89 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:07:18.22 ID:D6CzLVIy0
医者が渋面してショウタの体を観察していた。
奴隷を診るには所有者の立会いが必要だとかで、結局のところ、タカシはこの場に立ち会うに至った。
青あざや擦り傷、その他にも酷い怪我を負っているショウタは、医者の前でも不貞腐れた顔を作り
一切口を開こうとはせず、また愛想を振りまくこともしなかった。奴隷失格もいいところである。
「限度と言うものをご存知ですかな」
年老いた医者は、ショウタの態度についてなひとつ苦言を漏らすことはなく、
その代わりタカシへの説教は幾度も口にしていた。
「限度があるのですよ、限度がね」
聴診器などの医療器具をしまいながら、医者はタカシに向かってはっきりとそう発言した。
「楽しむつもりなら、限度を知っていただかないと。使い捨ての奴隷ならいいですが、
長く、つまり彼が大人になるまでくらいは、と思っているのならそれなりに手加減しませんと」
殺すつもりはないのでしょう、と問われれば、タカシは「まぁ」と返事するより他はない。
殺したいわけではない。死んでほしいわけではない。
長く楽しむつもりなら、なるほど、それなりの手加減は必要だというのは頷ける。
「鞭は闇雲に振るえばいいというものではない。醜い傷が残ってそれを見るたびに萎えては
飼って置く意味もなくなるというものでしょう」
それはそれで別に構わないのだが、傷跡が発熱しているとなれば話は別だった。
「頭は踏みつけてはいけません。尻に大きすぎる異物を突っ込むのも頂けない。
全く、愛玩用なのにこれほどの扱いを受けている奴隷を私は始めて見た。
殺さないのならそれなりの慈悲を」
巨大ながま口のようなバッグを閉じると、医者はタカシを見上げ、「暫く虐待行為は禁止」と
命令口調で言ったのだった。
90 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:09:03.99 ID:D6CzLVIy0
「さぁ、地下に戻りましょう」
女中はショウタの手を引くと彼を立ち上がらせた。
塗り薬をふんだんに塗りたくられたショウタは全身が包帯だらけだ。
流石にこの体に無体をする気にはなれず、タカシはされるがままの状態であるショウタを見送った。
女中に手を引かれて歩く後姿は幼い。
女性で、身長が一六〇に満たぬであろう彼女よりも更に小柄で、そして痩せている。
殴る蹴るの暴行を加えることは楽しいが、それを行うためには彼の体力を温存させることも必要だと、
タカシは時々忘れかけてしまう。本当に彼のことを性欲を発散するための道具――、
肉だとしか思っていない自分自身に少々引いてしまう。
「あ……っ!」
それは突然だった。
女中の声が響いたかと思えば、突然タカシに凝視されていたその小さな背中が崩れ落ちたのだ。
ショウタは木目の床へとぺたりと座り込み、そして体の全てをそこへと密着させていた。
倒れたのだ、と気づくまでに数秒を要した。
タカシがそう認識した時には下男が脇をすり抜け、女中が「ショウタ様」と叫んでいた。
「ショウタ様!」
女性特有のキンとした声が鼓膜を揺さぶり、しかしタカシは動くこともできずにその場に立ち尽くし、
ただその様子を窺うしかない。
小さな手が左右に振られ、大丈夫だと訴えているようであったが、
タカシから見てもその姿が平気であるようには到底思えぬほどに非力で緩慢な動きであった。
91 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:11:18.16 ID:D6CzLVIy0
女中がしきりにショウタを呼び、そしてその合間で一瞬だけタカシを振り返ると睨んで見せる。
――それは一瞬のことで、当事者でなければ気づかぬほどの短時間であったが、
タカシは確かに彼女が自身に向けて、侮蔑と軽蔑、そして嫌悪感を投げ掛けたことを自覚した。
雇われの身である彼女は何某かの文句を言うことこそなかったが、
それでもタカシは自分に向けられたその突き刺さるような思念には、反省という言葉を思い起こさせた。
やりすぎたのは判っている。また、まだ未熟な体に思い切り無体を働いたことも。
だが彼は奴隷だ。それも元貴族の。
下手したら一晩で殺してしまう輩もいるのだから、タカシの扱いはまだ丁寧なもので、
それに金を出したのは自分自身なのだから責められる言われはない。
ショウタはタカシのオモチャで、だから好きなように扱っても誰にも責められる言われはなく――。
頭の中を言い訳が駆け巡る。幾度も同じ言い訳が頭を駆け巡っていく。
「ショウタ様……!」
「……ぶ……から」
ショウタはしきりに大丈夫だから、と繰り返すが、医者が言っていたように
安静にしている必要がありそうなのは確かである。
ショウタはタカシのオモチャだ。オモチャ以外のなにものでもない。
だが。
92 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:12:27.10 ID:D6CzLVIy0
言い訳が駆け巡るということは逃げを、或いは許しを請いたがっていることだと
タカシはとうとうその事実を認めた。
ええいままよ、とタカシはショウタへと近寄ると、その細っこい体を見下ろしそしてその様子を窺った。
包帯を巻いた腕も、足も細い。やたらと、細い。
――少年だからか、それともタカシのやる餌を食べなかった所為か、それとも元来細身であるのか。
そんなどうでもいい話がぐるぐると周回し、今はそんなことをしている場合ではないはずだと
もう一人の自分が叱咤した。
女中はタカシの存在を無視したまま震える声でショウタを呼んでいる。
彼女が仕えるのはタカシであってこの奴隷ではないはずなのだが。
「私が」タカシは乾いた唇を舐め、やったのことでそう搾り出した。
「はい?」
下男と女中の視線が突き刺さる。
その視線に気おされ、タカシはやっとのことで「私が連れて行く」と言ったのだった。
93 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:14:52.06 ID:D6CzLVIy0
ショウタは身じろぎさえせず、体を緊張させたまま、タカシの腕に収まっていた。
抱きかかえて歩くのは癪だったので、まるで荷物かなにかのように小脇に抱えて歩く。
一二の部屋から下る階段では、危うくバランスを崩して彼を落としかけたが、
それでもショウタは悲鳴をあげるでも抗議の声を上げるでもなかった。余程調子が悪いのかもしれない。
地下へとたどり着けば、そこは相変わらずの打ちっぱなしのコンクリでベッドさえない。
入り口のあたりに置かれた例の桐箱の上へと取り敢えずは下ろしてみるが、さてどうしたものかと
考えあぐねていた。
一々ベッドを用意してやるのも嫌だ。
とはいえ、体調の悪いショウタを布団も毛布もないコンクリの上へと放置することは流石に憚られる。
ショウタは相変わらず俯いており、体調の悪さが伺い知れた。
どうすべきなのだろうか。奴隷の身分に相応しい態度を取るならば『何も用意しない』と言う選択が
最も正しいものに思われた。
だが、それでは彼を長く楽しむことが難しくなってしまう。
だが、なにか用意してやることもタカシの意に反するのだから困ったものである。
第一それは俺のキャラではない、とわけのわからないことを考えているうちに、
ショウタは桐箱の上で力なくその姿勢を崩して横たわった。
――これは本格的に調子が悪いのかもしれない。
「おい、」
パシッと乾いた音が、地下一階のコンクリに反響する。
一瞬なにが起こったのかよく判らなかったが、どうやらタカシはその手を払いのけられたらしい。
どこにそんな体力が残っていたのだろうか、桐箱の上に身を横たえながらも、
ショウタは生意気な視線をタカシに向け、嫌悪感と侮蔑の念を必死で示していた。
94 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:16:30.22 ID:D6CzLVIy0
「触るな……!」
僅かに鼻に掛かった声は風邪の所為だろう。
潤んだ瞳はタカシを睨んでいるが、しかしいつもほどに力はない。
ああ、なんだ、まだまだ余裕はあるではないか。
そんな風に思ってしまう自分は鬼畜に違いないとタカシは考えた。
「この期に及んで抵抗か」
「……っ!」
横たわったままの体の、その背中を足で踏みつける。
小さな背中が軋むのを感じたが、タカシは構わずその背を何度も踏んだ。
「どうした、声を上げればいいだろ」
強情にもショウタは口を引き結び、その痛みに耐えているようだった。
潤んだ瞳が更に水を湛えるほどにそれを繰り返すが、しかしショウタは痛いの『い』の字さえ発することはない。
なんて強情で、なんて生意気で、なんて、なんて――、楽しいのだろう。
己の歪んだ癖を十二分に確認しながら、タカシは痩せた腕を掴んで、背中側に捻り上げてやる。
「ぃたい……っ!!」
ショウタは漸く声を上げた。そうだ、この声を聞きたかったのだ。
悲鳴を、泣き声を。一度堰を切ってしまった痛みに対する訴えは、もう我慢することはできないのだろう、
ショウタはか細くしゃがれた声で『痛い、痛い』と繰り返した。
もう我慢などできない。
95 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:19:32.67 ID:D6CzLVIy0
以下エロパート注意
てきとうにローションを塗りつけた指を、乱暴に尻へと宛がった。
ショウタはその身に降りかかろうとしていることをいち早く察すると、
手負いの獣のようによろめきつつ、無様に桐箱の上を這い回った。
逃がさないというように、タカシはその腰を思い切り引っ張ると有無を言わせず固定した。
弱々しい動きを片手で抑えることは容易く、ショウタはあっという間に胸と桐箱を密着させる形に至った。
やめろとも怖いとも言わず、ただショウタは折り曲げられた腕を伸ばそうと苦心しているが、
しかし大の大人の手で押さえられては全く抵抗ができず、ただただ芋虫のように上半身を蠢かせるしかない。
ショウタは歯を食いしばり抵抗を続けた。
タカシは乱暴に弄くり倒していた尻から指を抜き去ると、己の勃起したそれをその穴に宛がった。
「ひ……ッ!」
狭い穴に、肉が吸い込まれていった。発熱の為かそこはやたらと熱くてそして潤んでいる。
尻が痙攣している。抵抗しようと動かされる腕は宙を彷徨いそしてぱたりと力なく崩れ落ちる。
肉体からは抵抗らしい抵抗は見られないが、その顔だけはタカシへの嫌悪がにじみ出ていた。
それだけで、ねじ伏せた甲斐があったというものだ。
「ひ、ぃっ」
穴の入り口は赤く色づいている。細い声が「痛い」と告げるがタカシは構わずに腰を進めた。
身勝手な行いは通常のタカシであればあり得ないことであるが、しかし相手は奴隷だ。
ならば何をしても構わない。
折り曲げられた体の隙間から手を差し込むと、タカシはショウタの性器を探った。
それは見事に勃起し、雫をたらしていた。
96 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:29:25.93 ID:D6CzLVIy0
「なんだ……」
呼吸の合間に嘲笑するようにそういうと、ショウタは真っ赤に染まった目でタカシを睨み、
そして羞恥のためか俯いた。
「淫乱」
そう告げてやると、ショウタの呻き声が止まった。
おや、と様子を窺えっていれば、そのうちかみ殺した呼吸は次第に抑えきれなくなったのか僅かに漏れ始め、
そしてそれらは嗚咽に変わっていった。
どうやらショウタのプライドを木っ端微塵に砕いていしまったようだ。
前回同じ台詞を吐いたはずだが、そのときの彼は「違う」と言い張ったはずだ。
熱が出て気が弱くなっているのかもしれない。泣き声がタカシの嗜虐心にまた火をつけると知ってか知らずか
ショウタは声を殺して泣いた。
だがそれも時間の経過とともに鳴き声に変わり、そして喘ぎ声に取って代わることをタカシは知っている。
――案の定、暫く攻めたてていれば、ショウタは甘い声を漏らし始め、
その上器用に尻を動かし始めたのだ。
嗚咽しながら「ぁん」と喘ぐという芸当をショウタは見せはじめ、
淫乱と何度も何度も罵り倒したが、その声ももう碌に聞こえないのか、
仕舞にショウタは「もっと」とねだり始めた。
「駄目……あ、ぁ……! や、お尻、変……っ!
ぁん、あ……っ、ひっ……駄目、おかしい、おかしいよぅ……」
「感じてるんだろ?」
タカシの声も耳に入らないのか、今では腰を自ら振っている。
呆れるな、とタカシはその痴態を鼻で笑う。
タカシが試しに、と一切の動きを止めてみれば、朦朧としたショウタはなにも考えることができないらしく、
ただただ快感を貪るように尻と足を動かし自ら挿入を促していく。
正気に戻れば憤死モノだろうが、しかし今のショウタは「駄目」といいつつも一人での尻をうごかし、
ただ馬鹿のように喘ぐことしかできない。卑猥な音が尻から漏れ、その音にさえ感じるかのように
ショウタの喘ぎはどんどん大きくなっていく。
97 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:30:19.14 ID:D6CzLVIy0
「あ、あ、キモチイ、気持ちいいよ……ぁ、あ、」
小ぶりな尻が前後する。女のようにみっちりとした肉のあるそれではなく、腰を屈めれば骨の形がわかるそれは
しかしタカシの目には卑猥に映った。前後する尻とその穴はジュプジュプといやらしい音を立て、
そしてそれに呼応するようにショウタは喘いだ。
「ぁ……あ、お尻、と、とけ、る……っ」
そう呟くようにショウタが言った瞬間、タカシは猛スピードで腰を動かした。
ショウタは「ぁ」とも「ぉ」ともつかぬ謎の喘ぎ声を上げ、そしてタカシが射精するころには壊れたように
「あ、あ、あ、あ、」と繰り返すだけになった。
タカシが腰を引いても、穴は引きこむように、出て行くことを拒むように締め上げる。
熱く熟れたそこは性器そのもので、タカシはその穴を只管楽しんだ。
頭でもおかしくなったようにショウタは喘ぎ続き、そして何度も射精した。
「ぁ、あ、あ、……あ、ん、あ、あっ」
腰の動きが早まる。あと少しだ。
「ぁ……!!」
ショウタがいくと同時に、タカシもその穴へと射精した。
98 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:31:41.40 ID:D6CzLVIy0
汚れた体を桐箱に預け、ショウタは脱力していた。
肩甲骨がゆれ、そして両足もブルブルと痙攣している。絶頂の余韻に浸ったままの体は、
穴から零れ落ちる精液に構う様子もないようだ。
はぁはぁという呼吸が響き、それがどちらのものなのか判らなかった。
熱がまた上がったかもしれない。真っ赤になった顔は、やはり汚れている。
貴族のプライドを完全に踏みにじってやったような、深い満足感で心が満たされる。
真っ赤な頬に手を伸ばすと、やはりそこは熱かった。
ふいに、足音が響いた。
それから、何かを落下させる音。
「なに……」
下男であった。
衣類だの毛布だのをまとめて運び込もうとやってきたのだろう、
しかし彼はその手に抱いたもの全てを床へと落下させ、そして青ざめた顔でタカシを見ていた。
いや、その視線はタカシへと送られるよりも、ショウタに向かっていた。
「なにをなさっているんです……!!」
激怒、憤怒、つまりは怒りに染まった声がそう叫んだ。
その怒声にショウタはぴくりと身じろぎし、そして億劫そうに顔を持ち上げる。
タカシのショウタへと伸ばされた手は――、あろうことか、下男の手によって叩き落とされた。
「おい……」
下男ごときがタカシの手を払い落とした事実が不愉快であった。
男は持ち込んだタオルでショウタの体を清め、そして地を這うような声で「お医者様の言葉を忘れましたか」と
タカシを責めた。
99 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:32:49.46 ID:D6CzLVIy0
下男に責められる言われはない。ショウタは、タカシが金で買ってきた『モノ』だ。
好きに扱ってもいいはずである。
手を伸ばし、奴隷に触れようとする。だが下男はさせるかと言わんばかりに自分の身を盾にしてショウタを庇った。
「お前……ッ」
タカシは強引に下男の肩を引っ掴んだ。
みしりと軋むような音がする。それでも下男はその場をどかず、タカシを見上げた。
「どけ!」
「どきません!!」
強情にも下男はショウタを庇い、そして睨んでいる。
この家に召抱えられている人間とも思えぬ行動だ。
タカシは激昂している自分を自覚しつつ、その腕を振り上げた。
それは、タカシのオモチャだ。タカシが買ってきたオモチャのはずだ。
オモチャをどう扱おうがタカシの自由のはずだ――、
「動かないでください! 触らないで!」
下男はそう叫んだ。
「……ッ」
タカシは硬直した。
振り上げられた腕はその形で止まり、踏み出そうとした足も床へと張り付いたままだ。
普段は従順な下男が反発した所為か、或いは睨みつけた所為か、タカシは一歩も動くことができなかった。
畏怖しているわけではない。従っているわけではない。
ただ、動けなかったのだ。なにか呪縛のようなものが体中に絡みつき、それはタカシを硬直させた。
100 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:33:56.00 ID:D6CzLVIy0
「貴方はおかしい……!」
俯き表情は見ない。だが下男は小刻みに震えながら、絞り出した声でタカシの異常性をはっきりと指摘した。
「狂っている……!!」
たっぷり十秒は間が開いただろうか。互いに距離を保ったまま、暫しの静寂が地下室を満たしていた。
肩を震わせていた下男は、突如タカシに背を向けたと思えば、毛布で手際よくショウタを包みだし、
そして自らの腕にそれを抱いた。
首から上だけを出した状態で毛布に包まるショウタの顔は、死体のようだ。下男は心配そうにショウタを見つめ、
それが終わると地上へと向かうべく足を踏み出した。
地下に、足音が反響した。下男が歩くごとに毛布の端がゆらゆらとゆれ、タカシはその動きに酔いそうになる。
地下室の入り口まで歩いた彼はピタリと歩みを止めた。
「もう年末です……ご自分のお部屋の掃除はご自分でお願いします」
先ほどとは打って変わった穏やかな声がそう告げる。
その瞬間に、タカシは振り上げられた腕をゆっくりと下ろしたのだ。
手を上げていたことさえ忘れていた――、タカシは消え行く二人の背中を見送ると、
溜息を吐きそして汚れた桐箱の上へと腰を落ち着けたのだ。
101 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:35:10.85 ID:D6CzLVIy0
指摘されるまでもない。近頃突如として芽吹いた強い嗜虐性は留まることを知らず、
その獣がひとたび目を覚ませば、タカシはもうその欲求をコントロールすることができずにいる自身を自覚していた。
もとよりそのような性質は持ち合わせていたのだろう、しかし近頃のタカシはあまりにもおかしい。
それに苦しむことさえなく、『ショウタは元貴族の奴隷なのだ』という言い訳のもと、
彼を躊躇なく犯す自分のこともよく判らなかった。
そしてそれに罪悪感を覚えない自分自身を至極冷静に観察できる自分も居る。
行き過ぎている自分の異常性を認めながらも、だからなんだという風に、何ひとつ反省することができない。
もっとこう、なにかしらせめぎあうものがあってもおかしくはないはずだ。
タカシは汚れた手で髪をかき乱した。
そう、これも『悩んでいる体』を自分自身に向かってアピールしているだけで、
タカシ自身は何も悩んでいない。
自分はこんな不気味な生き物だっただろうか。
どうも調子が悪い。
タカシは立ち上がると冷ややかに地下室を観察し、
それに飽きると上階へと向かうべく階段を上りだしたのだった。
102 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:38:50.63 ID:D6CzLVIy0
大掃除と言うものは概して楽しい作業ではない。
一年分の汚れを掻き出し、新年に備える。
寝るためだけに帰っている自室は、殆ど使われていないくせに埃はあちらこちらから姿を現した。
「くそ、なんだこれ……」
絡みきったコードの束に、埃を被った記憶媒体、それに無造作に本棚に置かれたフィルム型パソコンは
随分と昔に廃れたものだ。
去年もこうして大掃除を行ったはずだが、その様子がどうであったのかタカシはまるで覚えていないし、
そもそも去年も片付けたはずだというのに何故こんな風に既に化石と化した電子機器が自室にあるのかが判らなかった。
要らないものは捨てる。ただそれだけの作業がどうにも難しい。
とりわけ本棚の中身は酷いもので、もうとっくに電子書籍で入手したものまでが一冊どころか
二、三冊重複している場合もあった。
まとめて捨てようと本棚に手をかけ、不要なものをどんどん抜き出していく。
と、タカシは手を止めた。
分厚い『AIの基本構造――思考とは何か 第十版』なる本の横に添えられるようにして置かれていたのは
アルバムだった。
中身は何の変哲もない、ごく普通のアルバムだ。
母が居て、父が居て、祖父が居て、そしてミユキがいた。二人で写っているもの、家族全員で写っているもの。
そこには人間らしい微笑を浮かべる自身が居て、不思議なものを見ているような気分になった。
近頃、こんな風に普通の人間のように微笑んだだろうか。
学生時代のタカシは、ダサいことこの上ないシャツとニットベストで微笑みながら姉と一緒に写真へと収まっている。
懐かしかった。この頃、この国は漸く開国された状況に慣れ始めたのだ。
日傘を盛って少しだけ首を傾げた姉の顔に、タカシは指先で触れた。
ミユキは元気だろうか。近頃はメールでさえ届かなくなった。
あの人は、元気だろうか――。
もう一度写真を指先でなぞると、姉が微笑んだような錯覚を覚えた。
103 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:40:29.48 ID:D6CzLVIy0
『タカシさん』
声が耳に木霊する。そう、鈴のような声をした女性だった。
『このお洋服、おかしくないかしら?』
服装にとても気を使う人だった。
『もう、それじゃあ判らないわ。どれでもいいのね、男の人って』
困った顔でさえ、美しい人だったのだ。
会いたいと思う。姉の腹の子も心配だ――、男の子であればいいのだが。
代議士の家に嫁いだ以上、望まれるのは男児だ。女児とて可愛いものであろうが、
政界で生きるにはやはり男の方が有利であることは間違いない。
他の職業なら兎も角として、やはり政治家は男だ。
タカシにはどうしてやることもできない問題であるが、できることなら男児を、と望んでしまう。
優しい姉が苦しむ姿を弟としては見たくはないものだ。
「坊ちゃま」
と、扉の向こうからノックとともにタカシを呼ぶ声がした。
下男だ。
「……」
すぐに返事をしてやるのは癪だ。下男は雇われている身でありながら、タカシに背いたのだ。
本来すぐに解雇してもいいところを、タカシにその意思がないことに感謝してもらいたいくらいである。
「坊ちゃま、すみません」
再びのノックにタカシは顔を顰めた。
アルバムを手にしたまま、扉に向かう。
「なんだ」
扉越しに返事すると、タカシは耳をそばだてた。
「あの、お話があります」
タカシはこれ見よがしに溜息を吐くと扉を十センチほど開けた。
どうせこのまま意地を張って開けずに居ても、下男は扉の前に居座り続けることだろう。
104 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:42:05.28 ID:D6CzLVIy0
「なんだ」
タカシは下男の顔を見遣り――、そして口をつぐんだ。
彼の頬は赤くはれ上がっていた。
慌てて扉を最大限に開けると、「それはどうした」と問う。
「ああ、これは大したことでは……」
「いや、拙いだろう。どうしたんだ」
ここは彼の職場だ。怪我をしたとなれば雇い主であるタカシは病院へと連れて行く義務が発生するのだ。
「……少年に、少し蹴られまして。いえ、あの、わざとではないんです。
意識を取り戻した直後のことでしたので、私を坊ちゃまと勘違いして抵抗されたのでしょう。それで……」
なるほど、事故と言うことらしい。
「あの、どうか、どうか少年を叱りつけたりはなさらないで下さい。私の不注意でもありますから」
「それはどうでもいいが、痛むか?」
「少し痛みますが平気です。それより、先ほどのご無礼をお詫びに参りました」
頬を赤くした下男が深々と頭を下げた。
「やめろ、お前は悪くはない」
ただ、自分が少しおかしいだけなのだ。
原因不明の、常軌を逸した欲求に囚われる。
ひとたびスイッチが入れば、もう止まらないし止められないのだ。
105 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:43:25.73 ID:D6CzLVIy0
タカシはまた髪をかき乱した。そしてはっとした。
また『自身の行動に困惑している体』を自分自身へと向かって示している。
何のためにそんなことをするのか判らない。
「坊ちゃま……?」
「いや、なんでもない。近頃は私の行動も行き過ぎている。お前が私をああいいたくなる気持ちも判る」
「坊ちゃま」
下男は視線を泳がせ、それからまた頭を下げた。
「本当に申し訳ありませんでした」
「いや、いい。それよりそこ、冷やせよ」
はい、と言う返事を待たずに、タカシは扉を閉じた。
タカシは意味の判らないわだかまりが腹に巣くうのを感じていた。
一体なにが自分の中で起きているのかが判らない。
下男の頬の怪我は心配できる。遠くはなれて暮す姉のことも。
だというのに何故ショウタに対してのみあそこまで残酷で無慈悲になれるのか自分でも理解できなかった。
奥歯をきつく噛み締める。
するとこめかみにギュッとした痛みが駆け抜けていった。
近頃の頭痛の原因はこれかもしれない。
タカシはアルバムをベッドの上へと放り投げると、自分自身も横になったのだった。
106 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/05(水) 01:43:52.39 ID:D6CzLVIy0
今日はここまで
107 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/02/05(水) 14:54:03.49 ID:lgwH2KSGo
純文学よりの官能小説を読んでいるみたいだ
近未来なのにレトロ調な雰囲気も良いよ
こういうものがSS速報で読めるとは思わなかった
108 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/02/06(木) 14:48:52.63 ID:djWGIOPDO
乙
毎回楽しみにしてるよ
109 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/02/06(木) 19:58:57.07 ID:PwUBG+Kd0
乙
続き待ってる
110 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/18(火) 00:33:38.11 ID:7qxHavWD0
保守とか感想とかthx
短い
111 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/18(火) 00:35:18.45 ID:7qxHavWD0
タカシは庭に立っていた。
やはり庭は部分的に奇妙で、これが夢と気づくのは容易かった。
夢と気づいても足が動かぬのは、目の前に展開された光景があまりにも不可思議であったからだ。
ミユキが庭を駆けていた。少年と一緒に、だ。
真夏の庭は太陽が照りつけ快適とは言いがたい。
額に浮かんだ汗を拭いながら、タカシはミユキと少年をジッと見つめていた。
『待って、危ないわ』
ミユキが少年に声を掛けた。
『ほら、お靴。紐が緩んでいるわよ』
ミユキは日傘を少年に渡し、そしてワンピースの裾が汚れるのも構わずに自らがしゃがみ込んだ。
『自分で結べるよ』
少年が不満げに言うと、ミユキは幸せそうに微笑み『そうなの?』と尋ね返す。
『できるよ』
『でもね、このお靴は結び方が少しだけ難しいから、任せて頂戴?』
そういうと、少年はこっくりと首を縦に振った。
微笑ましい光景である。
タカシはいつしか背中の筋肉を緩め、緊張をほぐしていた。
こんな幸せな光景に、なにかこの身を危険に及ぼす出来事など起こりえない――、そう思いながら、
こちらに気づいたミユキに向かって手を振ったのだ。
112 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/18(火) 00:36:57.36 ID:7qxHavWD0
『タカシさん』
しゃがみ込んだままのミユキが手を振った。
ああ、ワンピースの裾が土と枯れた芝生で汚れている。
土汚れは庭を駆け巡った時のものかもしれない。
『ワンピース、汚れる』
『あら』
タカシの指摘に、ミユキは今気づいたといわんばかりに裾を見遣り、そして苦笑した。
『私ったら、駄目ね』
汚れた裾を美しい手がなでる。ひとなでごとに汚れは落下し、しかし深く入り込んだ土は取れないのだろう、
僅かに茶色く染まった部分はそのままであった。
『着替えておいで』
『そうね』
ミユキはゆっくりと立ち上がった。
いや、立ち上がろうとしたのだ。
その動きはは途中で途絶え、そして彼女の動きは完全に止まったのだった。
『ミユキ……』
タカシはその様子を息を呑んで眺めていた。
ただ、アホのように。
『駄目だよ』
そう言ったのが少年だと気づくまでには時間が掛かった。
『駄目だよ』
少年はそう言うと――、傘を、そう、その手に持った傘を、傘を――。
ミユキの胸から抜き取ったのだ。
113 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/18(火) 00:39:56.30 ID:7qxHavWD0
『……え……?』
ミユキの白い頬に、鮮血が飛び散った。
それから崩れる体。
細い体が力をなくしたようにがくりと崩れ、そして、倒れこむ。
まるでスローモーションのようだ。
細く小さな体は芝生の上へと倒れこみ、そして庭は、ワンピースは、
土汚れなど比にならぬほど赤黒く汚れていた。
『駄目。駄目だから』
ドサリと言う鈍い音がして、日傘が放り出された。
真っ赤な光景に、タカシは未だ立ち尽くしている。
『ミユキ――!』
声を張り上げ、彼女に駆け寄った。
自分のものと思えぬ絶叫と、現実と思えぬ光景。
いや、これは夢だ。
夢だというのに、焦ることを止められれず、震えでもつれそうになる足で必死に彼女の元へと向かう。
『ミユキ、おい、ミユキ!!』
頬を叩いても髪をかきあげても彼女の瞳は動かない。
胸に開いた穴から噴出した鮮血は、辺りを赤く染め、濡らし、そして汚した。
タカシ自身の手も滑ったそれで真っ赤に染まっている。
『ミユキ、ミユキ!!』
震えた声では名前のほかに何か呼ぶこともできない。やっとのことで搾り出した声は『救急車』、
しかし焦りのあまりタカシは、そのミユキの負傷の原因である少年を見上げ、そう懇願していたのだ。
114 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/18(火) 00:43:11.91 ID:7qxHavWD0
『だぁめ』
少年の顔が逆光でよく見えない。
英数字の『1』の形に指を伸ばし唇に当てている少年は『駄目だよ』と言った。
そこで漸く冷静になったタカシは、裏返る声で『貴様』と叫び、そして気づけば少年を芝生の上へと転がし
その襟首を引っ掴んでいたのだ。
『貴様、なにを、ミユキになんてことを……!』
強い日差しが少年の顔を照らす。
ああ、タカシはこの顔を知っていた。
そう、よく知っている顔だ。
『……ショウタ……!!』
不敵に微笑む顔に、タカシは強か拳を打ち込んだ。
『お前、お前、なんで……!!』
何度も何度も殴る。
ゴキ、だとかミシ、と言う耳慣れない実に気持ちの悪い音や感触が伝わるが、
タカシは加減なくショウタを殴った。
タカシの拳はやがてすりむけ血が滲み、気づけばショウタは身動きひとつ取らなくなっていた。
ハァハァと言う荒い呼吸は自分のものだ。
襟首をつかまれたままピクリともしないショウタを見つめ、
しかしタカシはまだまだだと言わんばかりに力強くなおも殴り続けた。
『ふざけるな! ふざけるな……!!』
115 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/18(火) 00:44:29.70 ID:7qxHavWD0
傍らに横たわる姉の顔は少しずつ白さを増していく。
彼女が完全なる死体に近づくまであと少しと言ったところだろう。
タカシはそれを横目で見つつも、元凶であるショウタを殴る手を止められなかった。
やがて首がおかしな方向に向いたショウタを芝の上へと捨てると、タカシは立ち上がった。
厳しい真夏の日差しが首を焼いた気がする。
ちりちりと燃えるような暑さと痛みを首に感じながら、タカシは二体の死体を見つめた。
ああ、なにが起こっているのだろう。一体なにが。
自分のシャツの裾も真っ赤に染まっている。
芝生も赤くて、ミユキも真っ赤だ。
おかしい。なにもかもがおかしい。
独りでに漏れ出る笑い声が獣の慟哭かなにかに聞こえタカシは両耳を押さえながら笑い続けた。
雲が流れ、日差しを隠し、そして先ほどまではあんなに天気がよかったのに、ポツリポツリと雨が降り出した。
なにもかもが流れて言ってしまえばいい。そう、なにもかもを流してくれ。
タカシは雨の中で笑い続けた。耳を押さえながら。
芝生の隙間を、滑るように血液が流れていった。
まるで川だ。流れ行く血液はどこへ向かうのだろう。
なにもかもが異常で、おかしい。
震える脚が限界を訴え、タカシは芝の上へと膝をついた。
『ミユキ……ミユキぃ……』
力をなくした体を抱き、幼子のように声を上げる。
たった一人の姉だ。かわいそうな姉、一体何故こんなことに――。
116 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/18(火) 00:50:55.79 ID:7qxHavWD0
元凶の全てはショウタだ。タカシは再びマグマのようにわきあがった怒りを胸に、
ミユキの傍らに倒れるショウタを見た。
いや、見たはずだった。
――ショウタの死体は、そこにはなかった。
血液だけがそこにあり、ショウタ自身の体はそこにはない。
慌てて体を起こし周囲を見遣る。
『ショウ……タ、』
干からびた喉が、漸くそう発音した。
折れ曲がった首――、妙な形に歪んだそれを、支えることさえせずにショウタはそこに立っていた。
『酷イね』
雨がタカシの頬を撃ちつける。かなりの強雨でタカシの頬は痛んだが、
しかしショウタは気にした様子もない。
『本当ニ酷イね』
ひび割れた声がタカシを責めた。
ジジジ、と言う奇妙な音がする。
『酷イ酷イ酷イ酷イ酷イ酷イ』
壊れたようにそういうと、ショウタはタカシに一歩また一歩と近づいてきた。
尻餅をついたまま、タカシは後ずさった。衣類が汚れるのも構わずに、ミユキの体を掻き抱いたまま
ショウタと距離を取るべく少しずつ動くが距離は縮まるばかりで効果は得られない。
『酷イ酷イ……俺ニダヶ、何デ酷イことスル乃?』
117 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/18(火) 00:53:37.59 ID:7qxHavWD0
歪な首には子供らしい細い腕が添えられ、そして元の形へと戻すべく乱暴にぐいぐいと押し続ける。
そうこうしているうちにショウタの首は元の場所へと――、
辛うじて戻り、しかしその首は歪んだままだった。
『痛イよォ、酷イ……ォ兄ちゃン、酷イよ』
ぱちぱち、と突如として火花が散った。
ショウタの首からだ。
彼の目から零れ落ちる黒い液体は何だろうか。いいや、そんなのは判りきっている。機械油だ。
ショウタはアンドロイドだったのだ。
人間の為のアンドロイドが人間に牙を向く。
タカシは迫り来るショウタを畏怖して見つめた。
『痛イよぉ……』
『ショウ……タ』
干からびた喉が張り付くような感覚がする。
いったい何なんだ。こいつは何者なのだ。
自問自答するが答えは見つからず、そしてショウタはまた一歩一歩、
覚束ない足取りでタカシへと近づいてくる。
『酷、』
ごとん、と音を立て、ショウタの首が落ちた。
落下した首の付け根には、シリアルナンバーが打たれている。
『ヒドォイョオオオオオオオ』
落下した首が、絶叫をした。
118 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/18(火) 00:55:17.46 ID:7qxHavWD0
タカシはベッドの上で息を切らしていた。
荒い呼吸、そして首筋を伝う汗。
天井からはけたたましい目覚ましの音が鳴り響いていたが、
しかしタカシはいつもどおり停止命令を出すことができずにいた。
唇が震えている。額に浮かんだ水滴は鼻筋を滑りシーツに落下していく。
いくつも零れ落ちるそれを眺めながら、タカシは襟ぐりを掴んだ手をゆっくりと広げた。
掌の汗はシャツによって吸い取られていたはずだが、しかしまるで湧き水が湧き出るがごとく、
そこはすぐさま湿って行った。
――なんて気味の悪い夢だろう。
タカシはじっとりとした掌をシーツで拭いながら考えた。
近頃夢見が悪くて仕方がない。
ストレスが溜まっているなどということはないはずだ。タカシはそんなに弱い人間ではない。
一体、何だと言うのだろう。
自分では認識をしていないだけで、ショウタに対して罪悪感があると言うのだろうか。
今しがた見た夢を、目を瞑って反芻する。
落下する首。その皮膚からはみ出ていたのは金属製のパーツで――、
つまり彼はアンドロイドであった。
119 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/18(火) 00:55:56.93 ID:7qxHavWD0
もし。もしもショウタがアンドロイドであったのなら? それならば心置きなく殴る蹴るができるだろう。
だがタカシはそんなことは望んでいない。生身のショウタでなければ意味がない。
だが何故?
代用品で済むのならそれこそ健全でいいことではないか。
いいや、そうではない。
そうではない、とタカシは首を振った。
タカシはショウタに執着している。手放す気持ちはない。生身でなくては意味がない。
殴り、蹴り、そして犯し心を蝕ませたい。
だが、それが何故なのかは皆目見当もつかない。
そこまでは判るのに、しかしその先が判らない。
生意気な目、屈しない心、そして決して委ねられることのない強情な体。
それが楽しくて仕方がない。罪悪感など微塵見ない。
では何故妙な夢を見るのだろう。
「気持ちが悪い……」
目覚まし時計は鳴り響いている。
いい加減この腹の立つ音を止めたかった。
タカシは眉間にシワを寄せたまま「起床した。停止」と命令を出したのだった。
120 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/02/18(火) 00:56:46.82 ID:7qxHavWD0
今日はここまで
121 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/02/18(火) 01:36:42.94 ID:ShfiQZLR0
追いついた。続きに期待
乙
122 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/03/04(火) 05:06:00.57 ID:kMTX4ZIMo
ているよ
見て●るよ
123 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
:2014/03/18(火) 18:19:38.53 ID:1ckPgeW70
良い感じに背徳的
124 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/03/19(水) 11:45:23.28 ID:cQC7F0rJo
乙乙!
追いついた
期待
125 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
[sage]:2014/03/24(月) 17:59:51.44 ID:f1qXxKW3o
ずっとずっと 待って●るよ
126 :
以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
:2014/03/31(月) 18:12:01.12 ID:c/HFRv7i0
乙!
期待
127 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/04/06(日) 14:02:00.62 ID:ipe7SCPaO
待ってるで。
128 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:28:07.37 ID:GrsimyNi0
すまんなートリあってるか不安だ
よいせ
129 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:29:06.17 ID:GrsimyNi0
うし、あってた!
あ、エロパートなしです
ごめんNA!
130 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:30:54.25 ID:GrsimyNi0
正月も間近となると、テレビは各種イベントに向けて浮き足立った番組だけとなり、
タカシは辟易していた。
普段は見向きもしないテレビに向かっているのは、単純に暇をもてあましていたからだ。
あの日以来、ショウタは下男の部屋に保護されており、タカシの前に姿をあらわすことがない。
時折怒声が聞こえてくるが、おそらくショウタが下男相手に悪態を吐いているのだろう。
なんにせよタカシはショウタの体以外に興味は湧かなかったから、
彼が泣こうが喚こうがどうでもいい話であった。
訪ねればいいだけの話であるのだが、あの奇妙な夢を見て以降、どうにも性欲が湧かなかった。
性欲のスイッチが切られたかのように、嗜虐心がなりを潜めている。
――今のところは、であるが。
そんな理由から、タカシはリモコンを操作し然して面白くもないテレビ番組を見ているのである。
オモチャを取り上げられればやることがない。
必然的に見たくもないテレビを見ることになるわけだが、どの民放もお笑いや音楽、
つまらないドラマばかりで如何せんタカシはうんざりしていた。
ホログラムの無駄遣いもいいところである。
そんなアイドルだの芸人だので満たされた茶の間で怠惰な年末を過ごすこと数日、
衝撃的なニュースがタカシに齎されたのは二十八日の昼間のことだった。
のんべんだらりと朝からテレビをつけていたタカシは、思わずソファから立ち上がりそのホログラムを凝視した。
『……アメリカ連邦共和国の世界最大手コンピューターメーカーのB社は
新たなAI技術を開発したとの発表を行いました』
タカシはその報道をインターネットよりもいち早く届けるに至った『日本放送技術公社』の報道を
食い入るようにして見た。
スクープ映像がひとしきり流されたのち、アナウンサは今後日本最大大手であるA社――、
つまりタカシの勤め先であり、ゆくゆくは運営の一切を任されることとなる実家の事業だ――、の
経営が厳しくなるのではないかと言う見解を示し報道を締めくくったのだった。
タカシはテレビに向かって「電源off」と口頭で指示をすると、深くソファに沈みこんだ。
131 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:32:33.30 ID:GrsimyNi0
――頭の痛くなるような話だ。
AIの新技術。その発想は、今正にA社の技術者たちがあと一年後の新作発表にあわせて開発を
急いでいるものであった。
それは、端的に言ってしまえば、人造人間によく似た技術であった。
体の一部を事故などで欠損した場合、それをメカニックで補う技術は疾うの確立され、随分になる。
最早それは医療技術としては別段珍しいものではない。
浸透しきったそのその医療技術は多くのユーザーを生み出し結果パーツは安価となり、
ついには国の財政負担を軽くするまでに至ったと聞く。
勿論A社も小規模ではあるが人工四肢部門を設けていた。先の大戦の結果であるが、
それなりの業績を打ち出しているのだ。
今回B社が発表したのは人工海馬だ。
つまり、B社の会見が事実であるのなら、人間の記憶や空間学習能力をつかさどる部位を、
人工物に切り替えることが可能と言う話だ。
『先ほどお伝えしましたB社の人工海馬についですが、ヤマザキさん、どうしょうか?』
『ええ、なんとこの海馬、アンドロイドに埋め込むことは当然ですが、人間に埋め込むことも可能だそうです。
様々な機関によって阻止されるでしょうが、理論的には可能とのことですよ。
つまり、体だけ別人に切り替えることも可能と言うことですね。それに、』
なるほど、と女性アナウンサーがしきりに頷いている。
『それに、昨今では体の五割程度がメカニカルと言う方も珍しくないようですが、
オールメカの人間が生まれることも夢ではないということです』
A社のやりたかったことは、まさにこれだった。
『故人の意志を引き継いだアンドロイド』、それが作りたかったのだ。
勿論今現在故人である場合にはどうにもならないが、今まさに死のうとしている者から
記憶を人工海馬にアウトプットし、一部の記憶――、あまりにもその人そのものであるのは問題であるから、
アンドロイドとして存在するために適さない記憶の削り取るという作業ののち、アンドロイドに埋め込むのだ。
先を越された、とタカシは思わず舌打ちをした。
132 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:33:34.06 ID:GrsimyNi0
A社は技術をほのめかすような発表を各デジモノ専門誌にしてはいたが、
情報漏洩をおそれて何ひとつ明確には発表していない状態であった。
技術の類似性は歓迎されない。後だししたほうが真似たと思われても仕方がない。
――開発をもっと急がせるべきだったのかもしれない。
尤も、今現在のタカシの立場では、それを行うことはできないのだが。
国内シェアナンバー1の冠に胡坐をかきすぎたその結果の敗北としか思えなかった。
実のところ、A社は行き詰っている。
人工皮膚を開発したものの、それについても様々な弊害があり結局は廃止した。
近頃はアメリカや新ソ連の後に続くばかりとなっているのがなんとも歯がゆい。
いつでもあと少しと言うところで追いつけぬのだ。
様々な国から留学生を募っている国と、小さな島国ではやりようが異なる。
優れた技術を膨らませることが難しいのだ。A社でも伸び代の多い国から技術者を募っているが、
しかしそう上手くは行かない。国によって他国の技術者――、いやもっとはっきりと言えば
鎖国の名残から、外国人を国内へと招き入れることについては未だ規制があるし、
運よく許可が下りても、A社内の技術者がみな英語を苦手としているために苦労して招いた技術者と
上手くコミュニケーションを取ることが難しいのだ。
英語は地球語とよく言ったものである。共通の言語を話せなければ切磋琢磨することもできぬし
またスムーズな情報交換も望めない。
このままでは、A社は時代遅れのアンドロイドメーカーと言う印象が染み付きかねない。
アンドロイド販売の歴史はどこのメーカーよりも長く深いはずだというのに、
近頃では寧ろそれだけしか取り得がないようにタカシでさえ感じている。
133 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:34:27.41 ID:GrsimyNi0
滑らかな関節の動き、人そのものの表情。
それらは確かにどこのメーカーよりも勝っているが、
しかし今やアンドロイドは様々な多様性があり、例えば動きが歪であってもジェットエンジン搭載で
空を飛べるだとか、そうでないのなら人型から小型バイクへと形を代えるだとか、つまり
それぞれの企業はそれぞれの形で不自然な動きをカバーするべく工夫を凝らしているのだ。
A社はエラーを起こしがたい思考パターンが売りではあるが、それだって冒険をしていない言われればそれまでだ。
安全性ばかりを重視した結果、個性的な性質――、つまり性格だ、を持ったアンドロイドはA社の製品からは
生まれ得ない。生まれようがないのだ。
「……畜生……」
爪を噛みつつタカシは呟いた。
家を潰すことも、どこかに吸収合併されることも、どちらも有り得ないことだ。
いや、あってはならぬことだ。潰してはならないのだ、あの会社は。
あの会社は、ミユキの、姉の――。
『私だってできることならば男性に生まれたかったわ』
日傘の下、俯き顔を隠したままミユキは言った。
『でも仕方がないの。だから結婚をするの。貴方が会社を守るのよ』
日傘をどけた姉は、微笑んで『お願いね』と言葉を添えて、自分の夢をタカシに託したのだ。
潰すわけには行かない――、そう考えれば矢も盾もたまらず、コートを引っ掴み一階へと向かった。
祖父に会いに行くのだ。ここ暫くあっていないから丁度いいだろう。
「坊ちゃま?」タカシの足音を聞きつけたのか、下男が顔を出す。「どちらへ?」
「お爺様に会いに行く」
「今からですか?」
「ああ」
コートに腕を通しながら忙しなく告げると、下男はタカシンのあとをついて来た。
「馬車で行かれますか? それともスカイカー、」
「馬車で行く」
「お待ち下さい、今私が御者を、」
「自分で言うからいい。お前は仕事の続きをしておけ」
実際下男がどんな仕事をしているのかタカシは知らないが、そう気遣うように告げる。
馬車を呼ぶくらいなんてことはない、ただ口を開けばいいだけだ。下男が御者に連絡をし、
タカシはぼんやりと玄関でそれを待つ――、無駄な時間だ。同じ敷地内にいるのだから、
さっさと声を掛けた方が早い。
134 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:34:58.66 ID:GrsimyNi0
「坊ちゃま、」
「なんだ! 私は忙しい!」
半ば恫喝するように声を荒げると、下男は二度三度と口を開き、そしてその口は静かに閉じられた。
八つ当たりが過ぎた――、そう思ったところで叫んだ事実は消せないし、下男は怯えたままだ。
「……悪かった。急いでいるんだ」
「いえ……、行ってらっしゃいませ」
「ああ」革靴に足を突っ込み、そしてふと思い出したように「ショウタを頼む」と口にする。
「……はい」
何故そう言ったのか判らない。ただ自然とそう言葉が口をついて零れ落ちた。
玄関扉を閉じて、厩へ向かう。同じ敷地内にあるとは言え、そこは屋敷から少しばかり離れていた。
庭を抜け、裏庭へ向かい、その先に位置する。その道中に比較的広く取られた道が広がるのは、
当然馬を走らせるためである。
競歩と言うべき速さで足を進め厩を目指していると、小気味のいい音が響いてくる。
馬車だ。きっと下男が連絡を入れたのだろう。深い茶色が美しい馬車を馴染みの御者が操りながら
タカシに向かって近づいてきた。
「坊ちゃま!」
そう呼ばれたところでタカシは足を止めた。あまり近づくのは危険だからである。
「急に悪い!」
ひづめの音にかき消されぬよう声を張って言う。
やがて馬はタカシの前に止まり、そして御者は「いいえ」と返事をした。
「実家まで頼む。お爺様に会いに行く」
「はい、判りました」
「なるべく最短ルートで」
御者のはきはきとした声を聞きながら、タカシは馬車へと乗り込んだ。
135 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:36:37.10 ID:GrsimyNi0
馬車はスカイカーのあとへ続いたり、はたまた馬車のあとへと続いたりしながら道を進んでゆく。
車は大気を汚すとしてだいぶ昔に規制された為、行動を走るのは馬とスカイカー、スカイバイクのみだ。
時々歩道をスカイボードが走るが、高さが二十センチ程度しか浮かばない上にスピードも出ないとなれば、
その用途は子供のちょっとした移動手段に限られていた。
それでもこの国の発展はすさまじい。戦争によって苦汁を舐めた老人たちが陣頭指揮を執り
街づくりに際して可能な限り、至る場所へと最新の技術を埋め込んだためだ。
雪が降っても路面が凍結することはない。犯罪が起これば瞬時に警備アンドロイドが犯罪者を拘束し、
被害者に怪我がある場合は医療アンドロイドが治療を開始する。雨風が強い日は空高くに張り巡らされた
風雨感知線がシールドを張る。万が一砲弾が降り注ぐような事態が起こったら、主要都市はすっぽりと
シールドの分厚いドームに覆われ、すぐさまドーム外の戦闘型アンドロイドが偵察と攻撃を始めるのだ。
すさまじい発展に追いつけなくなりつつあるのは、A社かもしれない。
遅れを取り『A社はもう駄目だ』と消費者に思われたらもう終わりなのだ。
そういうイメージこそが会社を破綻へと導く。
脳内に広がる恐ろしい未来に、タカシは唇を噛んだ。
子供のお守りをするだけのアンドロイドに未来などないだろう。
性的な相手をするだけが取り得のアンドロイドなど既に時代後れだ。
ではどうすればいいのか。タカシにはそれすら思いつく能はない。
目下の目標は人の記憶を受け継ぐアンドロイドであったが、それもB社の発表が先になされたとなれば
方向転換を図るべきとされるかもしれない。
だがどうすれば――? タカシは自分の無能振りをいち早くに自覚していた。
勉強ができるとかできないの問題ではない。センスがないのだ。
センスがないというのが技術がないことよりも厳しいことだ。技術は磨かれるがセンスはそうも行かない。
あれは天性のもので、のちのち様々なものに見て、触れて身につけたとしても、それは後天的なものであって
生まれつきのものには遠く及ばない。
タカシにはそのセンスがない。どころか、皆無といっていいのかもしれない。
136 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:38:19.26 ID:GrsimyNi0
「参ったな……」
参ったな、と愚痴を零すことしかできぬ。
これから祖父に会ったところでできることなどないとタカシは判っているのだ。
判っていも会いたいと言う気持ちは抑えられなかった。
一刻も早く祖父に会う必要が会ったのだが、馬車は遅々として進まなかった。
「どうした?」
車内の伝声管越しに尋ねると、御者は『渋滞のようで』と短く返事した。
確かに車窓からみえる道は混雑をしており、どの車も立ち往生している。
ドライバーは時として苛立たしげに、或いは時間を気にするかのようにしてみな落ち着かない。
それはタカシも同様で、「こんな時に」と思わず口走る。
テレビも人も浮かれがちな年の瀬、こうして渋滞をしているのはおそらく地方都市も同じことであろう。
かえって徒歩で向かったほうが早かったかも知れぬ。
そうタカシが思った瞬間に、馬車は少しだけ動いた。前進と呼ぶにはささやか過ぎるほどの動きであったが、
しかし今正に下車して徒歩で向かおうかと考えてたタカシを車内へと引きとめるには充分な効果があった。
浮き上がらせた腰を再び落ち着け、タカシは溜息を吐き出し続けた。
結局この後、タカシが下車をしようと思うと同時に車がほんの少しだけ動くと言うことを繰り返し、
実家へと辿り着いたのは二時間後のことであった。
137 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:40:56.04 ID:GrsimyNi0
この国、大日本帝国のトラウマは深い。
羽のついた不気味な飛行船が横浜空港に寄せられ、それに人々があっと驚いていると、
突如として現れたのは軽甲冑を纏った軍人の大群であった。
無国籍軍を名乗る彼らは日本人を殺め、捉え、そしてその奇襲作戦でもって、
日本を沈没させようと企んでいたのだ。
――と言うのはタカシが義務教育総合校に在籍をした九年の間に、幾度も聞かされた話だ。
実害を受けたのは老人世代であって、タカシたちの世代ではない。
殺されたのは多くの技術者と、それに研究者。今でこそ彼らは手厚く保護されているものの、
当時はボディーガードもなく道端を一人で闊歩していたと言うから驚きである。
日本は技術を好んでガラパゴスかさせ、変態的にそれらを育むことに熱心な国で、
国内で技術そのものを保護し、決して諸外国へと明け渡すことのない『秘密』を数多く持っていた。
それが狙われたのだ、と言うのが教科書による説明であった。
主に水不足。どうもそれが悪かったようだ。
世界がそれで喘いでる時代に、日本は豊富な資源に加え、次々と水を『何某かの技術』を用いて生産、
それを売りさばいていたことが世界的に問題となっていたようである。
ただビジネスをしていただけ。だと言うのに突然の奇襲だ。
国民はもとより政治家は怒り狂い、無国籍軍に対して報復活動を行った。
それがどういうわけか第五次世界大戦へと発展し、なんとか勝利を収め、ボロボロの状態で終戦を迎えた日本は、
ある日突然にして鎖国を行ったのだ。大人しく従順な日本とは思えぬ行動であったのだろうが、
残り僅かとなった技術者、研究者たちが戦争中何故徴兵されなかったかと言えば、
この国を保護するためであったと言う。
戦争中、都心部が中心に襲われた。
その隙を縫うようにして、地方都市へと様々な迎撃の為の施設を整えていたのだ。
――日本は変態的に技術をガラパゴスかさせることを好む国だ。
それと気づかせずにこっそりと国を守ることに、技術者たちは力を入れていた。
138 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:45:01.61 ID:GrsimyNi0
「――だと言うのに何故道がこんなに混んでいるんだ」
とてもではないが、そのメカニカル大国大日本帝国の道路とは思えぬような混みっぷりだった。
今日ばかりはスカイカーが羨ましく感じたタカシである。
ようやく辿り着いた実家の庭で、草臥れた顔のタカシは這い出すようにして馬車から降り立った。
全てが最新のシステムで整備されている街とは思えないような混雑に、祖父に会うより前に
身も心も疲れ果ててしまった。
――芝の剥げた庭は相変わらずだ。
その割には四季の花が咲き乱れ、その姿は圧巻である。ガーデナーだか庭師だかが世話をしているようだが、
そんな大昔に廃れた職業に未だ従事する者が居ることに驚きを隠せない。
とは言えこの芝である。
花々によって少しばかり晴れた気持ちが、足元の芝生を見てまた落ち込んでいくのを感じた。
枯れた芝生はその庭に不似合いであったが、種が入荷されないとかで致し方がない状況のようだが、
それにしても見るに耐えない醜さである
「坊ちゃま!」
どこからともなく聞こえてきた声に、タカシは俯き加減であった顔を持ち上げた。
ずり落ちる眼鏡を押し上げながら息せき切って駆けてくるのは、馴染みの深い祖父の秘書である。
名はサトウと言ったはずだ。
「サトウさん」
手を「や」と上げ形ばかりの微笑を浮かべると、サトウはどういうわけかぎこちなく笑みを作りながら
「お久しぶりです」と返してきた。前髪が乱れ、撫で付けた髪が一筋額にかかっている。
額には汗が浮かび、眼鏡が少しだけ曇っていた。
139 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:46:02.25 ID:GrsimyNi0
「忙しかったかな?」
「いえ、年の瀬ですから忙しいのは仕方がないことです。社長に御用でしょうか?」
「ああ、まだ。お爺様はいらっしゃるか?」
「ええ……まぁ」どうにも歯切れが悪くサトウは返事をした。
「都合が悪いのなら、夜まで待たせてもらってもいいが」
本当は一刻も早く会いたいと言うのが本音であったが、相手は日本有数の大企業の社長だ、
それならば待つよりほかはあるまい。
「いえ、そういうわけではありません。どうぞ、お屋敷にお入り下さい」
「ああ」
サトウの態度が腑に落ちぬまま、タカシはサトウの半歩後ろに続いた。
日光が眩しい。目を眇めて空を仰ぎ見れば、メカニカルバードが空を羽ばたいている。
見せ掛けの自然、それはなんと不自然なものだろう。数少ない野鳥を監視する目的の人工鳥らしいが、
タカシはどうにも好きになれなかった。
そう、『あの子』は大型の鳥を機械仕掛けと判っていても怖がっていた、と思い出す。
『お兄ちゃん』
成長途中の腕が、タカシの背後に隠れてメカニカルクロウをこわごわと覗いていた。
『噛み付かない?』
メカニカルアニマルは全て人に害がないように設計されている。それはもう常識だった。
『噛み付くわけがないだろう』
タカシは子供にぞんざいに言うと、馬鹿馬鹿しいと吐き捨てた。
「……坊ちゃま?」
ハッとし、タカシは明滅を繰り返す視界を振りほどこうと、頭を振った。
――今の記憶はなんだ? 見知らぬ子供の影、そしてそれを冷たくあしらう自分。
突如として押し寄せたフラッシュバックにタカシは頭を抑えた。
140 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:47:04.01 ID:GrsimyNi0
何かがおかしい。疲れているのだろうか。
いいや、そんなはずはない。ここ数日間は休み通しで怠惰な毎日を送っているではないか。
今のはなんだ――?
「坊ちゃま、どうなさいました?」
「いや……」
鳥が羽ばたいている。嫌な鳥だ。
「なんでもない」
タカシは慌ててサトウに走りよると、「それでお爺様だが」と切り出したのだった。
屋敷の中は適度な温度に保たれ温かかった。
玄関正面の大階段から祖父が降りてきたのは、タカシがコートをメイドに預けた直後のことだ。
「タカシ」
悠々と降りてくる祖父にくらべ、屋敷内は慌しい。年の瀬であるからそれも致し方がないのだろうが、
それにしても忙しない空気ばかりが充満していた。
「どうしたんだ、突然。驚いた」
心底驚いた、と言うような顔を作りながら、祖父はタカシへと近寄ってきた。
何故祖父はこんなに暢気にしていられるのだろう。
一抹不安と、そして大きな疑問が頭を駆け巡る。
「B社のニュースを……」
ああ、と祖父は言った。やはり覇気のない返事であった。
祖父はこれほどまでに腑抜けであっただろうか。
「それならば問題はない。わが社はわが社でそれなりに上手いことをやっている。
来年には国から託された事業が本格的に始動するしな」
「は?」
そんな話は寝耳に水であった。
聞いたこともない。
「箱庭計画だ」
顰めた声は、それでもはっきりとタカシの耳へと届いた。
141 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:48:22.25 ID:GrsimyNi0
「それは……、ですが、わが社にそのような話が回ってくるとは……」
「一部の幹部しか知らぬことだ。まだペーペー扱いのお前に話が回るのはだいぶ先。
……こんなところで話す内容ではないな。来なさい」
「ああ、はい……」
箱庭計画は、都市伝説のごとく囁かれている首府京都府の完全メカニカル化であった。
今現在京都府は国の完全管理下に置かれており、半廃墟と化している。と言うのも、先の大戦で
非核弾を落とされ焼け野原と化したのだ。非核とは言えその威力はすさまじく、これがもし寺や神社が豊富な
東京都へと落とされていたら、と思うと肝が冷える。
そのような状況になり随分経つが、京都府は未だ所々が焦げ付いており、
それならいっそと国が立ち入りを完全を制限したのだ。
その都市を完全に甦らせる――、そのような計画であったのだ。
そんな計画の一端をA社が担う。タカシはそれを全く知らなかったのだ。
いくらペーペーとは言え、タカシの耳にだけは届いていいはずだ。奥歯を噛み締めると、ぎりっと嫌な音がした。
「お兄ちゃん」
「!」
タカシは振り返った。
誰も居ない。確かに子供の声が耳を掠めたような、そんな気がしたのだが。
「タカシ……?」
やはり疲れているのだろうか。近頃頭痛も酷い。一度医者に見せたほうがいいのかしれない。
「なんでもありません」
なんでもない、少し調子が悪いだけだ。
押し寄せる不気味さを振り払いたかった。
タカシは足を速め、無理やりその気味悪さを胸の奥へと押し込めた。
142 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:51:10.51 ID:GrsimyNi0
「つまり、人が住まっているかのように偽装する、と?」
「そうだ」
「人が住み、人が営み、人が政治を行っている――、そういう場所だと他国へと錯覚させるのだ」
それは、有事の際に国民の死傷者を最小限に済ませるための計画、と言うことらしい。
今現在極々小規模の村で密かに行われている実験場所を京都府へと移し、その規模も拡大させる、とのことだ。
村での実験はもっとシンプルらしい。村民二〇〇名のうち、ホンモノの人間は僅か一〇名。
国より選出された公務員が、二年をかけてその擬似村生活を体験し、
そして「生活に不安はない」と言う判定を下したのだ。
もとよりアンドロイドに慣れ親しんだ世代だ。タカシたちの世代には、独自に顔をカスタマイズして
「俺の嫁」などと呼び憚らないドールフリークも数多く居る。
そんな世代だからこそなせる業かも知れない。
それらをもっと大規模に、そしてもっと細かく人としての生活を再現させるのだと言う。
「では、そこに実際に住まうのは公務員に限られており、例えば技術家も、医者も、大学も、全て見せかけの
虚像に過ぎぬ都市を作り上げると言うことですか?」
「そうだ」内密にな、と祖父は言う。
にわかには信じられない話であった。
「二十年。二十年をかける予定の計画だ。そのために、秘密裏に様々な顔面、体型パターンを用意してある」
「国民にはどう説明をするおつもりですか」
「国民はなにも知らない。戦中に誰が国を守った?」
「……大日本帝国国防軍ですよね?」
ああ、と祖父は頷いた。
「彼らの家系はその末端までが生粋の軍人だ。たとえ他の職業についていても、軍人としての品格や知性、
そして国への忠誠は並大抵ではない」
それはタカシも知っていた。同級生にも居たが、彼らは本家より血の遠い末端の末端である存在であっても、
筋金入りの愛国者であった。それはもう、鬱陶しいほどに。
先祖が先の大戦に勝利したことが、彼らの誉れでありアイデンティティであった。
「彼らの中に、何体ものアンドロイドを既に仕込んでいる。もう、何十年も昔から」
「……そんな馬鹿な」
タカシは唖然とし、開いた口が塞がらなかった。
143 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:52:30.27 ID:GrsimyNi0
「戦争はそのうちまた起こる。この国は場所が悪い。太平洋に面したこの小国は、いつも必ず狙われている。
世界の実情は知っているだろう。確かにどこの国も『それなり』によろしくやっているように見せているが、
内情は火の車。いつどうなるか判らんと言うのが本当のところだ」
いつ、日本の技術を、資源を食らい尽くそうと行動を起こすか判らない――、そういうことらしい。
だからこそ、首府を限られた人間しか立ち入ることのできぬ場所とし出入りを制限し、
その上で『国の中枢機関を集約した場所』と言うイメージを定着させる。
人間は実際に出入りするが、その大半はヒト科ヒト亜科のフリを巧妙に演じるアンドロイドと言うことだ
信じられぬ話に、タカシは額を組んだ指に擦りつけ、自身の足元を見た。
「お前の同級生――、医者からスカイカーレーサーへと転向した男」
「ああ、はい」
唐突に切り出され、タカシは追いつかない脳でもって、必死に旧友の顔を思い出す。
笑顔の眩しい、如何にもスポーツマンと言う見た目の男だ。彼も確か、軍人の大伯父を本家にもつ軍人家系だ。
「あの男もアンドロイドだ」
「……は?」
「アンドロイドだ」
眩しい笑顔が、突然歯車の塊に思えてくるから不思議なものだ。
つまりタカシは、アンドロイドとリレーを競い、時としてサイクリングをし、
そして何故か馬に嫌われる彼を大笑いしながら乗馬を楽しんだと言うことだ。
人の心に敏感な馬に嫌われるわけである。
144 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:53:19.76 ID:GrsimyNi0
「……他にも?」
溜息混じりに尋ねれば、祖父は「さぁてな」と頬をにやつかせながら濁したが、
きっとタカシが人生で出会った何人もがアンドロイドであったのだろう。
自社製品とは異なる顔、そして成長するからだ。少しずつ手を加えていたのだろうが、滑らか過ぎるそれに
全く気づけなかったのはA社の跡取りとしてただただ恥ずかしいばかりである。
「だからそんなにわが社の行く先を気に病む必要はない」
祖父はしっかりとした声でそう言い放った。
国の事業に一枚噛んでいる。となるとメンテナンスにもかなりの要員と時間を割かれることは必須であろう。
それに対して国が相応の金額を支払わぬわけがない。
「安心していい、ということでしょうか?」
「だからそう言っている」
食えない老人だ。
孫のタカシまでに黙っていてどういうつもりだ、と攻める気には最早ならなかった。
ただ、「そうですか」と気の抜けた返事が漏れ、タカシは漸く、その革張りのソファへと
緊張した背中を預けることができたのだった。
145 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/04/08(火) 22:53:51.78 ID:GrsimyNi0
きょうはここまで
保守してくれた人ありがとう
146 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/04/09(水) 14:06:31.76 ID:euNIP17DO
乙
なかなか面白い設定だね
147 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/04/11(金) 06:53:15.22 ID:9HJmqOjF0
乙 すごい話だ
148 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/04/30(水) 09:55:48.01 ID:1iJwYbsbo
見て●るよ
149 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/05/05(月) 00:07:03.32 ID:VU772muD0
乙乙!
150 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/05/06(火) 13:00:31.71 ID:PfUD4Pmo0
てす
151 :
◆OfJ9ogrNko
[saga]:2014/06/03(火) 19:41:00.94 ID:4xt5doD60
明日にはどうにかしたい
保守してくれている人ありがとう
152 :
◆OXhKjKboNk
[saga]:2014/06/05(木) 03:53:02.65 ID:3HZcaxLO0
デート・ア・ライブの真那ちゃん
エロいのありなら下半身下着姿でおしっこ我慢できず限界おもらし
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