【R-18】由比ヶ浜結衣はレベルが上がりやすい

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202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:11:05.15 ID:8fpHBoT9o

もそもそと惣菜パンを囓る。

幸いここの学食は外から食べ物を持ち込んでも席を使えるタイプで、授業前に買っておいたパンは本来使えるスペースのないテーブル端でも問題無く食べられる。

だが目前の四人が皿に盛られた温かな料理を飾りに談笑する中、一人黙々と冷たいパンを囓ることに疎外感を覚えた。それ自体は何時ものことなのに、その中に由比ヶ浜結衣がいるというだけで棘が深くまで刺さる感覚が生まれる。

何時ものように思考は暗い方へと沈下していく。

ここは俺の居場所じゃない――さっきは冗談めかして脳内を走った言葉が鎖となり、実感は重さとなって心臓を責める。

……とっととパンを食べきって、トイレへ行く体で逃げ出してしまおう。これ以上この空気を吸うこと――この空気に由比ヶ浜結衣が適応している事実に、これ以上はきっと耐えきれない。耐えきれなくなった俺がどんな醜態を晒すかなんて想像したくも無い。

が、そんな俺の内心と裏腹に、

「――でさヒキタニクン、高校の時はどうだったの?」

美声で囀る女学生……椅子を確保した際、駒鳥と名乗った彼女は俺に話を振ってきたのだった。
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:13:12.55 ID:8fpHBoT9o

「え、何が」

「何がって話聞いてなかったの? 高校の時って結衣はどんな感じだったのかなって」

「あ、あたしさっき言ったじゃん! なんでわざわざヒッキーに聞くの!?」

「自己申告は情報として信用が低いからに決まってるじゃないの……で、どうなのどうだったのよヒキタニクーン」

焦りに焦る由比ヶ浜を無視してニヤニヤ笑いながら俺に問いかける彼女は、お伽噺か童話に出てくるようなゴシップ好きのお喋りな鳥そのものだった。うーんウザい、そして可愛い。繋げてウザ可愛いがこの場合あんまり有り難くない。

「どうって……」

「お、それ俺も気になんよー、ヒキタニくんぶっちゃけてみ!」

「まぁ友達≠フ言うことの方が信憑性はあるかも、な」

ここぞとばかりに猿と牛も乗ってくるし、あんまり期待されても俺すべらない話し方なんて知らないよ?寧ろ全スリップ。比企谷八幡のすべる話でDVD発売まである。
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:15:21.58 ID:8fpHBoT9o

「ヒッキー、変なこと言わないでよ!?……へ、変なとこなんてないけど!」

「いやお前、そういう態度を突っ込まれてるんだから自覚しような? 俺の前だからって――」

安心してんのか、とまで口から出そうになるのを止める。

俺の前だから安心している

危ない言葉だ。少なくとも今この場では……そう判断しての急ブレーキだったが、

「俺の前だからって……なに?」

上空から地上を俯瞰する鳥の目敏さから逃げることは叶わず、ニヤニヤとブレーキ痕を指さし俺を問い詰める駒鳥さんである。いや急ブレーキの擦過音って滅茶苦茶響くから見えて無くても関係無かったかもだけどね?

「と、特に意味はねぇけど」

「ふーん、でもその俺の前≠ナ結衣の態度が違うのが気になってるわけだからさー」

ああ、これはあかんタイプだ。

ゴシップへの関心、その源である興味と悪意を自覚しながら隠そうとしない。それでいて醜悪にならず悪意を善意に見せかける技術に長けている……そういうタイプの女性とかち合うのはおよそ一年振りで、それに伴う記憶のフラッシュバックは思考回路に予期せぬ負荷をかけた。

205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:17:15.86 ID:8fpHBoT9o

「……その、アレだ、誰に対しても同じ顔で接せられる人間もそういないだろ。 この中では一応、一応由比ヶ浜とは俺が一番つ……見知った時間は長いわけだし」

正論だが苦しい言い訳だと自分でも分かる。

誰に対しても同じ顔で接する、それが完全でなくても高次元で行える希有な例を俺は幾つか知っているし、正直由比ヶ浜はそこに近いタイプであると思う。だからこそ由比ヶ浜を中心に目前の人間はグループを形成しているのだ。

そんな彼女が人付き合いの外面を崩して相対する人間がどんな存在であるか。

「そうかも知れないけど、私が気になるのはその見知った時間≠ネわけでして」

元より穴だらけの防壁、会話の風に乗って軽やかに滑空する鳥は穴をすり抜け核心へと迫ろうとしている。

「ぶっちゃけて聞くけど……二人って付き合ってるんでしょ?」
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:19:42.69 ID:8fpHBoT9o

時間が停まった……そんな錯覚は起こらなかった。まぁ普通に考えりゃ由比ヶ浜の態度とか行動とか露骨だもんね?

「ちょ、コマちゃーん!? 相手ヒキタニくんだしそれはないっしょ! ないない!」

「す、すまんがその……俺もそれだけは無いと思うんだが」

更に男二人の反応が喧噪に拍車をかけた。内容は否定なんだが。

思わず熱々の丼ラーメンを「そぉい!」と脳天にブチ込んでやりたい衝動に駆られるが、天秤の釣り合いを考えればそれも一つの推理として正しい形ではあるだろう。それを常に言い訳に使ってきた俺が言うんだから間違いない。

それにこの二人が由比ヶ浜に近づいてきた理由も凡そ察しは付くから、こういう反応も予想出来る範囲ではあった。

計画通り……ではなく想定通り。

自覚無自覚関係無く薄暗い根暗男をオトす流れは俺の良く知るところであり、慣れた空気は俺の思考を僅かでも正常化させる一助になった。

なったが、

「……」

話題の中心である由比ヶ浜は、この致命的なゴシップに戸惑うこともなく静かだった。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:21:31.70 ID:8fpHBoT9o

何時もなら、また俺の前ということを加味すれば一番過剰に反応しそうなものだが、今の彼女は気持ち俯きその顔に僅かな陰を作っている。

空気を読んだのだ。

自分でなく、俺の望む状況を考えて自分の感情を押し殺している……何度も見てきた青と黒。

ズキリ

またも棘が大きく、杭に変化していくのを感じる。

いつまでも癒えぬ傷口が無理矢理に押し広げられていく幻痛。しかし痛覚の電流を介さない痛みは、それが単なる逃げの言い訳であると理性に認識させ、肉体的な苦痛より寧ろ俺の心を責め立てた。

本当に、なんて都合が良い心臓だろう。

罰が欲しければ痛みを与えて罪悪感を誤魔化し、耐えられなくならないよう物理的な痛みにはならず……きっと白木の杭を打ち立てても灰になどなるまい。

「……俺と、由比ヶ浜が?」

笑う。

「二人の言うとおり、ありえねぇよ」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:23:25.40 ID:8fpHBoT9o

自嘲。

顔面ハンデの名は高く笑顔がキモいと評判の俺でも負の笑いなら様になる。本心からであれば尚更だ。

言った瞬間どこかホッとした顔になる男二人の様子が無性に腹立たしく、しかし狙い通りの反応であることに安心もする。

しかし、杭からの痛みは爆発的に増大した。

俺の言葉と笑いに、由比ヶ浜がビクリと反応したのが見えたから。見えてしまったから。

彼女が傷付くと、痛がると分かっていて、尚それを。

「えー、でも結衣の反応は如何せんオーバーというか」

それでも食い下がるお喋りな鳥に小さくない怒りを抱くが、それを顔に出すこともしない。ただこれ以上付き合ってやる気もない。

もうパンは残っておらず手元には包装のビニールだけ。それを握り潰すとそのまま席を立つ。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:25:15.41 ID:8fpHBoT9o

「……トイレ行ってくるわ」

「あ、ヒッキー……」

「三限の準備もあるしここには戻らんからな」

結局俺は別の意味で耐えられなくなった。俺が自分の情けなさ故に由比ヶ浜をまた傷付けた事実と、未知の傷より既知の痛みを選んだ臆病さに。

きっと縋るような目をしていただろう由比ヶ浜の方は極力見ず、他三人の声を意識の外へ追い出しながら足早に学食を後にした。

だが学食を出てすら開放感はなく、曇って薄暗い灰空も、落ちてくる水の粒と雨音も全てが気に障ってどうしようもなく神経が削られていく。誰かや何かが傍にいることが、堪らない。

そのまま人の中に飛び込む勇気なんて有る筈もなく、俺は三限に出席することなく大学を後にした。

それもまた由比ヶ浜と彼女の傷から逃げ出すための口実であったこと、それを自分の中で誤魔化す余裕すら残っておらず、俺は自宅へ……薄暗い己の巣穴へと逃げ去るしかなかった。
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:27:25.31 ID:8fpHBoT9o

家に着いてから、俺は何をする気にもなれず布団の上に転がっていた。

パソコンに向かうこともなく、携帯ゲーム機に集中も出来ず、本を読んでは頭に入ってこない。閉め切った窓の外から途切れず聞こえてくるくぐもった雨音の干渉だけ受け入れて、それ以外に力も意識も割くことは無かった。

スマホは例の如く振動すらないサイレントモードで、手に取ろうという気にすらなれない。手に取った先、痛みが待っているのが分かっているからだ。

石橋を叩いて渡り、水溜まりは長靴に履き替えてから踏み越え、平野を歩くのに金属探知機は欠かさない。それだけやって尚神経を太く太く保っていなければ痛みに折れず生きていくことは出来ない。それが高校の三年間で得た一つの結論だ。

誰だって痛いのは嫌だ。怪我なんてしたくないし、病気なんて以ての外。それでも人生は寒風熱気まきびしに地雷だらけ、空調完備の飛行機で人生のトラップなど関係無しと悠々生きていけるのはほんの一部の貴族だけ。その貴族だって飛行機内の人間模様次第で安寧の部屋は苦痛の匣へと変わってしまう。

なればこそ痛みに耐えることを美とする風潮は、避けざる痛みを徳と定めて心に麻酔を打つ欺瞞に他ならない。それは一片の真実だ。

だが一片は一片、少年探偵には悪いが真実は一つじゃない。
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:29:55.36 ID:8fpHBoT9o

俺は由比ヶ浜結衣が好きだ。

彼女の幼くも可愛らしい顔立ちが好きだ。

その幼さに反するような色香を詰め込んだ豊満な肢体が好きだ。

くるくる変わる多彩な表情が好きだ。

中でも底抜けに明るい輝く笑顔が一番好きだ。

自分を置いても誰かの傍に寄り添う優しさが好きだ。

俺だけに見せてくれる涙と感情が、溜まらなく愛おしくて大好きなんだ。

だが好きであればあるほど、俺と彼女の在り方が理想とズレていることにこれ以上ない痛みを感じてしまう。

ベストな結果はほぼあり得ず、その中で苦しみながらベターを探していくしかないという現実が更に苦痛を伴う。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:32:25.63 ID:8fpHBoT9o

それでも、その痛みの先でしか彼女と共にいられないのなら俺は喜んでそれを請け負おう。確実な幸福の為の痛みなら、いっそマゾヒストを演じても良い。個々の性癖や痛覚への耐性・質などは関係無く、道が見えていればこそ経過の一つとして望まれる痛みもある。

ならばこそ避けたくない、そんな痛みなら欲しい。是非その痛みを請け負いたい。

……請け負いたかったのに、そんな痛みへの願望すら俺個人のものであるとしたら……そんな想像が俺と俺の望む道、未来を蝕んでいる。彼女が痛むことを何より怖れ、それでもその為に彼女を傷付けなければならない矛盾。

何故男女の関係というものがただ二人だけの間で完結しないのだろう。

何故不特定多数の有象無象との関わりすら配慮して関係を築かなければならないのだろう。

今の由比ヶ浜を取り巻き人間達は俺にとっては誰もが有象無象の障害でしかないが、由比ヶ浜本人にとってはそうではない。端から光の中に居ることを諦めた俺と、そもそも光源である彼女とで社会との関わり方を合わせてはどちらかが立ち行かなくなる。

ロミオとジュリエットとまで気取るつもりはないが、心と立ち位置で何故すれ違いが起こってしまうのだろう。

今の俺を取り巻く世界に在るのが俺と彼女だけなら良かった。

痛むのは俺だけで良かった。

何をしたって俺だけが痛いなら、それだけで良かったのに――。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:34:46.15 ID:8fpHBoT9o

ふと気が付くと、外は暗かった。

雨音は依然変わらず不定のリズムを一定に保って続いている。

恐らくネガティブの沼に沈み込んでいる内に意識が眠りを選んだのだろうが、変わらない外の音色が視覚と聴覚のバランスを崩して意識を曖昧にしていたのだと言われても多分信じてしまう。そのくらい現実感が希薄だった。

時間を確認したくて無意識にスマホへ手を伸ばしスリープを解除した瞬間己の迂闊さを呪うが、ロック画面に着信の情報はなく頼んでもいないメルマガが一件届いているだけだった。ぼっちにとっては何時も通りの画面の筈なのに、頭の中を安堵と寂しさが半端に混じった感覚が支配する。それを暫く弄ぶも、腹腔の訴える空腹感がそれを打ち切った。

時刻は19時前。

時間は頃合いだしこの雨模様では外食も億劫、冷蔵庫の中身もそこそこなので本日の夕食は自炊をすることに決めた。

金銭的にも献立のルーチン的にも外食ばかりで腹を満たすわけにもいかぬと引っ越し前から自炊の有無は考慮していたところで、最初は戸惑い面倒だった手順も少しずつ馴染んできたところだ。

まな板と包丁を洗い清め、家を出る際に「これを小町だと思って、大事にしてね……!」と押し付けられた飾り気のないエプロンを纏い冷蔵庫から食材を取り出そうという、その瞬間。

ピンポーン

呼び鈴が鳴った。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:36:55.90 ID:8fpHBoT9o

住処が住人の性質を表すのか、部屋すらステルス性を発揮しているらしくここに棲み着いて一ヶ月新聞とか宗教とか怪しげな勧誘が玄関に立ったことはない。かといって通販を頼んだ記憶もない。そもそも今のところこの部屋の呼び鈴を鳴らしたことがあるのは由比ヶ浜と小町だけだ。

……普段の俺ならばこの時点で来訪者が誰であるか察し、受け入れるか否かを考えたろう。しかし今の俺の精神状態は平時より不安定で、料理という作業の切れ間が集中力の断絶を生み、更に何時もは有る筈のスマホへの連絡が皆無だったことでその可能性に思い至っていなかった。

或いは、それを無意識に望んでいたからこそ本能が理性と記憶を切り離していたのか。

殆ど無意識に玄関を開けた俺の前には、今の俺にとって誰よりも会いたくて誰よりも会いたくなかった人が、

「……あ、ヒッキー」

由比ヶ浜結衣が立っていた。

215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:38:59.39 ID:8fpHBoT9o

「ンまい!」

てーれってれー。

「ヒッキーこれンまい! スゴいよヒッキー!」

「いいから飲み込んでから話せ、な?」

口から内容物を零しそうな勢いでモゴモゴ感動している由比ヶ浜。しかし俺と彼女の前に置かれているのは簡素な炒飯とインスタントのフカヒレ玉子スープという熱烈中華食堂も吃驚なお粗末さである。

男飯なんぞ「切る」「混ぜる」「焼く」の三拍子で済ませるのが仕儀であり、炒飯焼き飯は今昔問わず男の台所事情を支えるベストパートナーなのだ。

「んぐんぐ……ぷは。 いやでも本当に美味しくて吃驚しちゃった……もしかしてヒッキー、あたしより料理上手い?」

「こんなもん誰でも作れるだろ……まぁ由比ヶ浜の場合料理以前の問題だからそも勝負の土俵にすら立っていない」

「ちょ、失礼だし! あたしの料理はオママゴトって言いたいの!?」

「お飯事でも食材を扱ってる意識はあるんだよなぁ」

「い、意識くらいあるし! 農家の皆さんにちゃんと感謝してるし! バカにし過ぎだからぁ!」

俺の軽口にズレた返答でギャーギャー騒ぎ出す由比ヶ浜の姿にホッコリしつつもつつがなく食事は進む。
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:40:45.10 ID:8fpHBoT9o

「……でも、あたしがチャーハン作るとべちゃべちゃになっちゃうし焦げるし玉子もおっきく固まっちゃうし、ヒッキーがこんなに美味しいの作れるのちょっとショックかなぁ。 ちゃんとお店のチャーハン!って味だし」

「まぁお前の場合はもっと意識しなくちゃいけないところが多いんだろうが、炒飯自体は基本さえ押さえてれば所謂『店の味』には簡単に近づけるんだよ」

「え、そうなの?」

「そうなの」

炒飯の基本は「中華鍋、フライパンは白い煙が上がるくらいに熱する」「パラつかせるのには冷や飯の方が向いている」「かき混ぜるも調味料の投入もスピーディに」の三つで、これさえ守れていれば最低限パラパラの炒飯にはなる。

味は好みが分かれるところではあるが、所謂「お店の炒飯」というのは大抵味の覇王的中華スープの素を使っているため、味付けには塩胡椒にスープの素を加えれば驚くほどお店感が出るのだ。これはネットの炒飯考察、小町のアドバイス、そして俺の経験からの結論である……ということを由比ヶ浜に説明してみた。

「でもそういうスープの素って身体に悪いんじゃなかったっけ?」

「それは一部におけるソースの無い誹謗中傷みたいなもんで統計上それが原因の健康被害は出ていない筈……まぁ主成分がナトリウムとは言うから、摂り過ぎは良くないってレベルで考えれば良い」

某新聞社員とU山とその生みの親には悪いがデマゴーグはいけないと思います。
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:42:27.95 ID:8fpHBoT9o

「ふーん……やっぱりヒッキーは物知りだね」

「殆ど受け売りだけどな」

「でもでも、あたしは今まで何にも知らないで作ってたんだなって思ったから……」

「お前の場合レシピすら見ないで作ってるもんな」

「……」

「……そこで黙らないで貰えませんかねマジで」

やっぱり料理以前の問題じゃないか。どんな料理でもレシピ無しのソラで作れるようになるまではそこそこの研鑽が必要であって、最低限の下積み経験すら無しで見た物食べた物をハイレベルで再現出来るとかどこのラノベの主人公だ。お料理チートラノベか、多分流行らない。

とまぁそんなこんなで食事も終わり、今回は会心の出来だったと少しだけ気分を良くしながら今は食器を洗っていながら、なんともなしにテレビを見つめる由比ヶ浜……一時間前の彼女の姿を思い出す。
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:44:26.75 ID:8fpHBoT9o

誰だ?

そう思わず口にしてしまいそうになるほど、普段の彼女からかけ離れた空気を纏っていた。

髪型、体格、輪郭、服装、顔立ちまで全て由比ヶ浜結衣なのに、その全体像から受ける印象はまるで異なっていた。

服の端々を濡らし、俯き足下を見つめる彼女の姿は何時もよりずっと小さく――元々小柄ではあったが――見えた。

ドアを開けた俺の姿をゆっくり見上げた彼女、その蔭りを正面から見つめる。灯りが落ちた、光のない由比ヶ浜結衣。

「……ごめんね、急に来ちゃって」


これは俗に言う「ピンポーン→来ちゃった☆」というアポ無しの到来により無防備迂闊な姿状態を見られ破局に繋がるパターンか愛故の暴走とその無遠慮さに疲れ果てやっぱり破局に繋がるって黄金パターンだな!?……などと口に出せるはずも無く、その弱々しさに息を呑んだ。

「……いいから、入れよ」

「いいの?」

「結構濡れてるし、流石にそのまま放置する気はねぇよ……細かい話は後でな」

「うん……」

今日の雨が豪雨というわけでもないしずぶ濡れでもないが、それでも締め出し放置するなんてあり得なかった。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:46:26.77 ID:8fpHBoT9o

聞きたいこと、言いたいこと、思うこと、感じること……色々あったが、きっと原因は俺の態度や行動に起因することなのだろう。そう思えばこそ再び胸は痛み出し、問題から逃亡してもただ選択肢が減少していくことだけなのだと改めて実感していた。

その後は彼女にシャワーを貸し、曰く「突発的お泊まりイベントの為の備え」と小町から渡された女物のパジャマを渡し(その際何故こんなもの持っているのか訝しがられたが、小町の差し入れと告げると納得された。小町ェ)、調理実食を経て今に至る。

何時もより気を使って作った炒飯は好評。シャワーで身体、ご飯で腹を暖めた由比ヶ浜の空気はある程度上向いたようだ。

お腹が一杯になったら多少でも機嫌が直るとかちょっと……と、今は思えない。寧ろちょっとしたトリガーでメンタルのバランスが取れるその性質が羨ましくもあった。

それが彼女のなりの俺に対する配慮、演技である可能性には目を伏せた。
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:48:47.31 ID:8fpHBoT9o

「……ほれ」

「あ、ありがと……」

洗い物は終えたが、そのまま戻るのも気が引けたので二人分のコーヒーを淹れて差し出す……コーヒーと言っても粉末タイプのカフェオレという安っぽさ。

マッ缶ほどでないにしろ糖分乳成分過剰な甘味飲料だが、それでも薫るコーヒーの匂いがざわつく心を幾分落ち着けてくれる。

由比ヶ浜の方も、ずずと小さく音を立て啜ると、

「おいしい」

そう頬を緩め、周囲の空気は蕾が微かに花開いたように陽気を振りまいた。

何処か言い訳じみた気遣いの代価としては貰いすぎなくらいだったか……そんなことを思いながら彼女の正面に座る俺もカフェオレを啜り始める。

ず、ずず、ずずり。

啜る音が近く、何をやっているのかも知れないテレビ番組の音声が遠くなる。

俺も由比ヶ浜も啜る途中でチラチラと相手の顔を窺い、目が合っては視線をカップに移してまた啜る。

ず、ずず、ずずり。

時間の感覚が引き延ばされては縮み、舌と口内の粘膜を焼くような熱いカフェオレと軽くなっていくカップだけが現実感の指標だった。
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:51:13.65 ID:8fpHBoT9o

やがて熱を保ったままカップは空になり、どちらともなくテーブルへ下ろす。

コト、という軽い音がテレビの音声を現世に引き戻すスイッチ。雨音は何時の間にか疎らで小さく、雨脚はようやく弱まりつつあるようだ。

「……三限」

ぽつり、由比ヶ浜が呟いた。

三限、今日のことだろう。

「三限、出てなかったよね」

視線を落としたままの問い。多分これは会話のとっかかりで、内容自体はどうでもいいのだろう。

それでもその確認、少なくとも俺が三限に出席していなかったことを把握している彼女は、きっと俺のことを探し待っていたのだろう。その気持ちは優しく有り難く、しかしチクリと痛みを胸に残す。

「……何かあった?」

「別に……ちょっと体調が悪くなってな」

「そう、なんだ……今は大丈夫なの?」

「ああ、帰ってから直ぐ寝たし」

「うん……」

俺の言っていることは勿論嘘で、それは由比ヶ浜も把握していることだろう。
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:53:26.95 ID:8fpHBoT9o

俺の様子がおかしくなったこと、そしてその直後に三限だったこと。

それを由比ヶ浜が目撃していたこと。

……言い訳の仕様がない。ただ口にさえしなければ学食での一件が原因であると、俺と由比ヶ浜の関係への言及が引き金だったことを無に出来るのではないか……少なくとも俺はそう思っていた。浅ましく情けない、逃げの染みついた卑屈な性根がそれでも俺の本性だった。

また沈黙。

特に有り難くもない食レポを行っているらしいテレビの脳天気な音声に僅かな苛立ちを覚え、しかし空間を完全な静寂へ落とすことを妨害していると考えれば縋り付きたくもあった。俺の気持ちも考えずにただ緩慢なやり取りを繰り返してくれる、そんなことも救いになる。

だがそんな俺の内面を知って知らずか、由比ヶ浜はリモコンを拾うとテレビの電源を落とした。

沈黙は静寂へと近づき、しとしと小雨の音のみが部屋を満たしていく。

そして、

「今日ね、皆で遊びに行ったの」
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:55:29.02 ID:8fpHBoT9o

ぽつり、由比ヶ浜は話し始める。皆、とは学食の面子のことだろう。

由比ヶ浜の周囲に寄ってくる人間は何もあの三人だけではないが、それでも一個人としての付き合い、その距離まで近づけているのはあの三人だけだろう。俺のような種類の人間とは決して相容れる存在ではないが、それでも三人は由比ヶ浜と同じく「光っている」側の人間であるのは分かる。

手っ取り早く誰かとの距離を詰める手段、それは相手と同じステージに立つことだから。

「今までは、ずっと断ってたんだ」

「そうか」

「……なんでって、聞かないの?」

「……自惚れでなりゃ、俺と一緒にいるためなんじゃねぇの」

「うん、自惚れじゃないよ」

俺と家路を共にする為に誘いを断っている、そんな話も聞いていた。

かつてのクラスと部活の両立、それとは訳が違う。その時よりも由比ヶ浜を取り巻く環境は広く浅く、或いは狭く深くなっている。前者は学校社会での振る舞いであり、後者は俺のことだ。高校という枠を取っ払えば、前者と後者の距離は果てしなく離れていく。

選択肢が増えるということはそれだけ道の種類や行き先が増えるということで、進めば進むほど隣合う道は減りそれぞれが交差することも無くなっていく。大学という自由は異なる道や可能性に踏み出す場であると同時に、異種間を引き離す壁のようでもあった。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:58:31.65 ID:8fpHBoT9o

「誘ってくれたのは牛くんで、本当はヒッキーも一緒にって……学食に連れてきたのもそういうことだったみたい」

「見知らぬ連中に混じって遊ぶとか、そりゃぞっとしないな」

「あはは……」

何時もの俺の自虐に何時ものような苦笑で応え、由比ヶ浜は続ける。

本当は今日も俺との帰宅を選ぶつもりだったが、俺のサボりで予定が宙ぶらりんになってしまったところに誘いがあったこと。

気にすることも無いだろうに、俺に対する後ろめたさで連絡を取れなかったこと。

新しい友人達に囲まれ遊ぶことは楽しかったということ。

そして、今彼女が俺の部屋を訪れた切っ掛け。

「ゆとりがね、昼間のこと謝ってきたんだ。 無遠慮だったって」

ゆとり――昼間に俺達の関係に言及してきた駒鳥ゆとりのことだ。

ゲーセンで男二人が遊んでいる隙に謝罪してきたらしい。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:00:53.81 ID:DgCzqnC6o

彼女に悪意はあったろう。だがその悪意は好奇心と裏表、決して誰かを傷付ける意図があったわけではない。それはそれで独自の質の悪さはあるだろうが、今回に関しては俺達の関係……というより俺の面倒臭さに地雷の位置を読み違えただけだろう。

だからといって俺の彼女に対する印象がプラスになるわけではないが、内面が見えれば割り振る懐の深さも変わる。少なくともかつての魔王のようだった女性と比べればまだ可愛いものだ。

何より俺と由比ヶ浜の関係について彼女の予想は当たっているし、今回のことも異性からのアピールをそれとなく躱し続ける由比ヶ浜の振る舞いから、助けるつもりで周囲への牽制も目的に含んで話を振ったということらしい。

俺としてはノータッチで居て欲しかったんだけどなぁ心の平穏的に。Yesぼっち!Noタッチ!

とまぁ駒鳥さんに関してはそれで良かった。

問題だったのは男二人……というかその片割れだった。

「その後に牛くんからね……甘やかしてもヒッキーの為にならないって、言われたの」
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:03:18.41 ID:DgCzqnC6o

『由比ヶ浜の優しさは美徳だが、それでアイツの間違いを正すことは出来ない……誤解されるような態度や距離感を続けるべきじゃない』

あの男はそう言ったらしい。

それは駒鳥さんと同じく踏み込み、そして牽制。

「牛くんね、あたしとヒッキーが付き合ってるなんて冗談でも信じられないって、そういう質の悪い冗談はあたしにもヒッキーにも毒だって……からかう感じもなくて、まっすぐ、言われて……」

次第に顔を伏せ、声のトーンも下がっていく。

光源から夜闇の先を見通すことが出来ないように、光の中に居る人間には闇の中にいる人間のことを伺い知る事は出来ない。

猿野郎が俺のぼっち事情を理解出来なかったように、友人というだけならまだしも由比ヶ浜という光が俺という陰と深く交わっていることが信じられない……というより常識の外、物理法則をねじ曲げるが如き不条理なのだろう。

人は自分の想像力、認識を越えた事象を信じ受け止めることは出来ない。

牛山という人間は由比ヶ浜が正しく俺が間違っていることを認識し、その上で正しい由比ヶ浜と間違っている俺の距離感そのものが間違っていると、あり得ない不条理だと言い切ったのだ。そこにより強い光への憧憬はあっても悪意はない。

薄暗がりにいるのは可哀相だと土竜や吸血鬼を太陽の下に引っ張り出そうとする感性。正しい人間が正しく持つ正しい価値観による正しい傲慢さ。

……牛山に限った話ではなく、闇を遠巻きに眺めるだけで育ってきた人間はきっと皆同じだ。

己の正着を疑わない者は何より強く、そして強い者は殺意すら抱くことなく地這う虫共を蹂躙出来る。

227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:05:14.99 ID:DgCzqnC6o

「あたしと、ヒッキーが……そう誤解されたら、困るだろうって、あたしとヒッキーじゃ、男女のどうとか、それ以前にしか見えないって……言われてたら、つらくなってきて、我慢、できなくて……」

それで三人の下から離れ、逃げ去るようにここまで来たのだと。

「ごめん、ヒッキー……ヒッキーは、あたしのこと考えて、学校じゃ離れてるって、分かってるのに……違うって、ヒッキーとはそんなんじゃないって、あたしから言わなきゃいけなかったのに、こんな風に、急に来られても迷惑だって、分かってたのに、ごめんね……」

途切れ途切れに搾り出すような由比ヶ浜の言葉は、泣いていないのが不思議なくらいに悲痛な響きを伴っていた。

「本当は、一緒に帰ったりとか……ダメなのに、あたしがズルいから、自分のことだけ考えてて、ヒッキーのことなんて、全然考えて無くて……」

ズルい

自分のことだけ

きっと由比ヶ浜に他意はない。

精神攻撃とか、良心の呵責を刺激しようなんて意図は無い筈だ。

だが俺の心の棘は、杭は、言葉の度に罪悪感という槌で打ち付けられている。

打たれる度に心臓は脈動し、血流で砕け散ると錯覚するくらいに痛みを伴う。

痛みで自責を希釈する、自分の心だけを守る為の防衛機能。浅ましく生き汚い俺自身の証明。

だが、それでもこの痛みはきっと俺だけのものではなくて、その源泉は。
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:07:16.41 ID:DgCzqnC6o

「ほ、本当は、あたしも、分かってるのに、ヒッキーは、あたしと全然お似合いじゃ、なくて、誤魔化さなきゃいけないくらい……なのに」

俺が本当に由比ヶ浜のことが好きなのならば、由比ヶ浜に感じる罪悪感は彼女の傷や痛みに対してのものである筈で。

ならばこそ俺はこの痛みを例え僅かでも、和らげなければいけないのではないか。

そうしなければならない筈だ。

「ヒッキーと、付き合えたってだけで、それだけで舞い上がっちゃって……う、牛くんの言うとおりだよ、あたし……本当は分かってるのに、ヒッキーは、あたしなんかより……」

「由比ヶ浜、それは違う」

これ以上を言わせてはならない。

彼女の自傷と、それを眺めて痛みを共有する俺の自傷。その両方を止めなければならない。

既にかつての自分への退路は断たれ、このままでは前にも進めむことはできない。

留まる選択肢なんて、無い。
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:09:13.90 ID:DgCzqnC6o

「違わないよ、あたし、ずっとヒッキーのこと見てきたから、分かるもん……ヒッキーとあたしじゃ……ヒッキーは、あたしよりも」

「そうじゃない、そうじゃないんだよ……」

確かに俺と由比ヶ浜では釣り合わず、また似合いの二人とも言えないだろう。

光があれば影が出来るのは必然。だが光を遮る何かがあってこそ影は生まれ、俺という障害物が由比ヶ浜の近くに在ればそれによって本来浴びるはずの光を遮られた者達の不興を買う。

俺のように集団から孤立して生きている人間が、由比ヶ浜のように誰かや何かと繋がることで輝く人間の傍に居ること自体が歪なんだ。だからこそ俺は何時までも煮え切らず、対外的には実情を隠してただ自分達だけが知っている関係性を持っているというだけで満足した振りをしていた。

だがそれは所詮外野の事情でしかなく、俺の想いの丈と裡はそんなものと関係無いはずだ。きっと由比ヶ浜の気持ちも。

だから、伝えなければ。

「俺が好きなのは、お前だけだ」
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:11:15.58 ID:DgCzqnC6o

だが、

「違うよ……ヒッキーは優しいから、嘘吐くの。 あたし、知ってる、から……」

言ったから分かるというのは傲慢なんだよ

以前自分の言ったことが、今その形を縄に変えて俺の首を締め上げている。悲観と諦観で結われた強固な縄は、掻いても掴んでもその力を緩めない。

息の詰まるような苦痛に耐えながら思い出す。かつて俺達の中で、由比ヶ浜が一人大人だった。

言っても分からないと、現実は残酷だと、悲観的に世界を呪うか拒絶するしかなかった二人を余所に、一人だけ伝えようと、感じようと、必死に藻掻いていた。欲しいから、諦めたくないから、幸せになりたいから……何時如何なる時でも力を尽くす、そんな彼女の直向きさは成熟した心の形を証明していた。

その果てに、逆に一人悲観へ沈んでいこうとしたこともあった。それはきっと今も同じで、俺が伝えないから、俺が諦めているから、またこんな事を繰り返してしまう。縄と重力に身を任せれば、一時の苦痛の果てに安寧が待っているのだと。それもまた必要な痛みなのだと。

でも、俺だって欲しかった。

違う、今も欲しいんだ。

誰を殺しても、何を壊しても、手に入れたいんだ。

言葉で手に入らないならどうするかなんて、それこそ考えるまでもないことだ。
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:13:17.97 ID:DgCzqnC6o

だから、

「由比ヶ浜」

俺は彼女を引き寄せ、抱き締めた。

力の加減が分からない。それでも壊さないよう、けれど逃がさないよう力を込める。

一年以上前、彼女に想いを伝えたとき以来の温もりと柔らかさが縄も杭も皮膚も心も焼き尽くしていく。

「や、やめてよ……これ以上、やさしくしないでよ、つらいから、あたし……」

身体に力はなく、それでも強ばった身を捩り逃げだそうとする由比ヶ浜だが、逃がさない。逃したくない。

「……俺は嘘吐きかもしれないが、優しくなんてない。 だから、今お前が辛いとしても、離さないし、言うのも止めない……好きなんだ、由比ヶ浜」

「うそ、だよ……信じられないよ」

「でも信じてくれるまで、続ける……それしか、俺には出来ないから」

一息。

「好きだ由比ヶ浜、俺には今までも、これからも、お前だけなんだ」
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:15:40.24 ID:DgCzqnC6o

……何時かのように、後で思い返してのたうち回ってスーサイドるのが分かりきった睦言。

でもその程度の痛みで済むなら、黒歴史なんて幾らでもノートに書き加えてやる。

痛むことを諦めるんじゃない、自分の在り方を諦めるのでもない。

諦めないために、変わろう。それを許容出来るくらい強くなりたいんだ。

今この時の為に……由比ヶ浜と、由比ヶ浜を好きな俺自身の為に。

「……でも、それで、あたしが良くても、ヒッキーが……ヒッキーが辛くなっちゃったら……」

「いいんだよ、もう、なんだ、その……覚悟はして……否、出来てなかったから、さっき覚悟した」

かつて彼女と想いの交換をしたとき、俺は自分と異なる、寧ろかけ離れた所にいる存在と寄り添い繋がる覚悟をした……つもりだった。けど実際は言葉だけ、実の伴わない三日坊主の思いつきでしかなかった。だから今、改めて覚悟する。

「俺はもう、お前の人付き合いとか、外面とか、気にしない……学校でも何処でも、俺の傍に、居て欲しい……居てくれると有り難いというか、出来る限りその可能性を考慮して貰えると、なんだ……」

……覚悟できてねぇなぁ。当方に迎撃の用意無し。でも言い出せただけ今までよりはマシなんだろう。
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:18:19.56 ID:DgCzqnC6o

「……ヒッキー、その言い方はちょっと格好悪くない?」

「う、うるせぇな、仕方無いだろ……」

今はまだ俺は俺なんだから。格好いい大人な比企谷八幡君はこれからってことでオナシャス。

胸の中でクスクスと笑い始める由比ヶ浜の感触がくすぐったくて、けれど強ばっていた彼女の身体が少しずつ解れていく感触に俺の心も少しずつ平静を取り戻していく。

「ヒッキーの言いたいことね、分かったよ」

「そ、そうか……じゃあ」

「でもね、まだちょっと足りない」

「え」

「ヒッキーのこと信じたいけど、でも、もうちょっとだけ、ヒッキーの気持ちが欲しいな……そしたら、信じられる、かも」

な、何が欲しいんですかね……いや殆ど予想は付いてるんですけど、そこは炒飯お代わりとかだと有り難い。

「……キス、して?」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:20:15.49 ID:DgCzqnC6o

ですよねー、二人は幸せなキスをして終了ですよねー。

一旦緊張が途切れると、さっきまでの覚悟は何処へ行ったかというくらい比企谷八幡は鶏肉になってしまうのだ。違う、チキンになってしまうのだった。

……しかしキスをねだって上目遣いな由比ヶ浜が、涙の零れる寸前だったのだろう由比ヶ浜の瞳が、表情が、あまりに、あまりに、可愛くて、綺麗で、愛しくて、俺の心臓はさっきまでと全く違う角度・方向からの衝撃で今度こそ粉々に砕け散った。

していいのか。

キス。

接吻。

口づけ。

口吸い。

していいんだな。

「わ、分かった」

「うん……」

答えると、由比ヶ浜は俺の顔を見上げたまま目を閉じた。
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:22:19.78 ID:DgCzqnC6o

それだけで、期待している彼女の表情だけで、どうしようもなく頭の中が滅茶苦茶になっていく。

俺自身も待ちきれなくなって、一度だけ深呼吸をするとそのまま顔を近づけていく。

初めてではないのに、まるで一番最初の時のような……或いはそれ以前、親しい異性などいない状態で「それ」に憧れ妄想を逞しくする中学生のような心持ち。

狙いを外すのが怖くて目は開けたまま、近づけ、近づき……やがて、唇同士が触れ合った。

「ん……」

くぐもった由比ヶ浜の喉の音。

柔らかい、柔らかい、柔らかい唇の感触と温もり。感じながら、目蓋を閉じる。

彼女の腕が俺の背中に回され、指が淡い力で俺の服に皺を作る。

由比ヶ浜の匂い。

触れる髪の毛。

荒れる脳内。

暴れる心臓。

満たされる心。

もどかしい感性。

何もかもない交ぜで、その全てが唇の感触に集約される。
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:24:30.61 ID:DgCzqnC6o

動けない。動きたくない。

そのままどれだけの時間が経ったかも分からず、浅い鼻呼吸だけではいい加減苦しさを覚え始めると、どちらともなく顔を離した。

「はふ……」

息を漏らす由比ヶ浜の顔は桃色に染まっている。とろりと焦点の合わない夢見るような瞳は先程より更に潤みを増し、臨界を越えてとうとう目尻からこぼれ落ちた。

「ひっきぃ、もっと……もっと欲しいよ……」

涙を流しながら、彼女は更に欲しがった。

断る理由なんて無い。

今度は予告も何もなく、勢いで歯をぶつけない程度のスピードで顔を近づけ、再び触れ合う。

触れ合うだけでなく、擦りつけるように、啄むように、唇に動きを付けた。

新しい刺激が加えられる度に由比ヶ浜はピクピクと身体を反応させ、その度俺の動きを真似るように行為は濃密さを増していく。

これ以上ない触れ合いの幸福感と、まだアクセルを踏み込もうとする飢餓感。

満ち足りている唇と裏腹に不足を訴える首から下を慰めるため、より身体を密着させる。

ビクリと大きく反応した由比ヶ浜だったが、彼女も同じ気持ちだったのか押し付けられる俺の身体に自身の身体を揺すり擦るようにして応えてくれた。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:26:52.02 ID:DgCzqnC6o

そしてまたどれだけ時間が経ったのか、どちらともなく身体を離す。

涙は収まり、しかし更に表情は熱を増して、呆けたように力無く何かを誘い待つような危険な雰囲気を醸している。

そんな由比ヶ浜も愛おしくて、暫く夢見る彼女の顔を眺めている。

すると、ぽつり、

「……だいじょうぶ?」

そう問うてきた。

「大丈夫、て……」

それは寧ろ俺の方が聞きたいくらいなんだが、二度のキスで現実の境界が曖昧になりつつあるのは確かに大丈夫ではないかもしれない。由比ヶ浜の表情もそんな危うい状態を俺と同じく抱いていることを想起させ――

「ひっきぃ……」

俺を呼ぶ彼女の視線が下へ移動する。

下へ。

下。

……。

…………あ。
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:29:35.91 ID:DgCzqnC6o

「……す、すまん、というか、ごめん、というか」

お前のドリルで天を突け。

個人戦士俺ダム。

戦士再び。

比企谷テント村。

赤字で強調されそうなコメント群が脳内を埋め尽くす。ALERT!WARNING!

……想定しておくべきだった、思い出しておくべきだった。

キスってヤバいんだ。何がヤバいって、ヤバいくらい息子が反応する。

勃起のメカニズム、ちょっとした欲望との接続でも文字通り脊髄反射的に硬くなる息子事情を考えれば、本番以外で最も性的な接触とも言えるキスに反応しない筈がない。これまで過去二回のキス、それこそ触れ合うくらい淡いものですら過敏に反応し、その後はテント状態にならないよう位置やら加減に苦労したものだったが、今回はそういう意識が飛ぶくらい長く濃密なキスだった。身体を擦り合わせたときにビクって反応してたのはこれがバレてたからだな寧ろなんで気付かないんだよ俺○ねよマジで。

幾らなんでも台無し過ぎる。僕は死にましぇん!と叫びながら社会の窓がフルオープンアタックとか、そこに愛はあるのか?と問う男が返り血レッドだったりとか、事件は会議室でなく現場で起こってるんだという引きこもり万年事務員とか、そういう物に通じる残念さが今ここにある。しかし我ながらなんでこんなに例えが古いんですかね、何処でネタ拾ってたんだ俺……。

決して外には漏らせない懊悩で脳神経回路をグルグル回している俺を余所に、粗末なテントをボーッと眺める由比ヶ浜。気分は乱暴されてる現場を恋人に見られてしまう女性の気分。み、見ないでぇ!

そしてまたいつぞやのように由比ヶ浜の手が山の頂に……って、え。
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:31:20.21 ID:DgCzqnC6o

ぎゅむ

「ヒッ!」

握る、というか揉み込むような刺激にそれこそ脊髄反射で背筋が伸びた。そりゃ間抜けな声も出る。仕方無いんだよ仕方無いんだって。

そしてその刺激は一瞬一回では終わらず、頭頂部を掌で擦りつつ指先は様々な角度から強弱を付けて魅惑の感触を与えてくる。コ、コイツ何時の間にこんな技術を……!

「お、おま……やめ、や、なに、して……う、うぁ」

思い出されるのは何時ぞやの由比ヶ浜による……て、手コキ。おっかなびっくり素人臭いやりとりではあったが(勿論玄人の経験がある訳ではない)、あれはあれで自分の慰めが如何に無力であるかと思い知ったもので、由比ヶ浜には申し訳無いがあれから何度もあの夜をネタに使ってました。だって……しょうがないじゃない……。

そして今貰っている刺激はそれだけで絶頂を迎えるような強さこそないものの逃げ場がなく、少しずつでも強制的に高められていく快感は理性の危機感を余所に本能は大いに喜び身動きがとれないままに更なる感覚をと強請り始めている。捻り鉢巻きの漁師がドヤった決め顔。マグロ!ご期待下さい。

俺の言葉が聞こえてるのかいないのか、由比ヶ浜は熱っぽい瞳のままふぅふぅと興奮を示す呼吸を繰り返しながら行為に没頭していく。その様は熱暴走と呼ぶべきか。

いい加減感覚を誤魔化す為の揶揄的思考もネタ切れになり、このままゆっくりでも昂ぶりを受け入れ果てに到達しても……そんな期待か諦観か判別の出来ない感覚を抱えて堕ちていくことを覚悟したところで、唐突に刺激は止まった。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:33:20.44 ID:DgCzqnC6o

「え」

由比ヶ浜の手は離れた。

ホッとしたような残念なような、奇妙に絡み合った感情の揺らぎを持て余し一瞬、斜め上を見上げるように呆けていた俺の視線が目前の由比ヶ浜に戻る。

由比ヶ浜は、パジャマのボタンを外していた。

全てのボタンが外され左右の繋がりを失った上着の合間から、柔感の谷とそれを押さえ付ける淡色の下着が覗いていた……ってオイ待て!

「と、止まれ由比ヶ浜!」

ストップ!浜タイム!いやだからなんで今日の俺はこんなにネタが古いんだ……。

突然始まった由比ヶ浜の脱衣に流石に理性が過剰気味勢いを取り戻す。水も飲みすぎれば浸透圧の関係で死に至るようにあまりに強い刺激は盛りに盛った男子学生にも流石に毒で、上着の合間から覗く腰と腹はくびれながらも適度に肉が付いて艶めかしく、中心の臍の窪みがどうしようもなく扇情的だった。

俺の視線に気付いた由比ヶ浜は、桃色の頬を朱に染めて視線を逸らし、

「あ、あっち向いてて……ぬいでるとこは、まだ、恥ずかしい、から……」

心臓どころか内臓全てを爆散させんばかりの台詞を呟いた。いやそうじゃなくてだな。
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:35:29.93 ID:DgCzqnC6o

「な、なんで脱ぐ」

「え、だって……ヒッキーの、おっきくなってるし……」

そっかー、俺のがビッグになると由比ヶ浜が脱いでくれるのかー。やったぜ、これから毎日勃起しようぜ。

……いやその考えはおかしい。いやいや因果関係はおかしくないのかもしれないが、そうあればこそ余計に拙い。

「お、おっきくなっちゃったのは謝る、謝るから……流石に、その、マズいだろ、それ」

「でも、あたし、まだ欲しい……ヒッキーのこと、もっと信じたいよ……」

何時もは爛々溌剌と輝き明確に前を見据えている由比ヶ浜の瞳が、確かに前……俺のことは見つめているものの、色彩は曖昧に濁っている。

その色はきっと由比ヶ浜自身の望みで、濁す不純物は欲望という純水。

「まだ欲しいってお前、これ以上は……」

今の由比ヶ浜は制動が利いていない。ブレーキが壊れている。

スピードの乗った車が急ブレーキ程度で止まれないように、若い男女の情動はそう簡単に止まるものではないのだろう。であればこそ若気の至りなんて言葉とか比喩があるのだから。それでも止めなければ、止まらないと危ない。

だが、
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:37:34.06 ID:DgCzqnC6o

「……ヒッキーは、欲しくないの?」

由比ヶ浜結衣は誘惑する。

いや、多分そこまで考えていない。ただ彼女は欲しがり、俺の身体も欲しがっている証拠を示してしまってる。だから当然のように素肌同士、粘膜同士の接触を求め、それが果たされると思っているのだろう。

由比ヶ浜にも女の子らしい打算、計算高さというのはある。あるが、今の彼女にそんな混ぜ物は無い。

生物として至極当然の欲求。

純粋純正、雌性の欲望。

愛欲。

……そうだ、当然の欲求じゃないのか。性欲だって男ばかりか女だって持っている筈じゃないのか。互いに欲しがっているのなら、それを拒む必要なんて何処にもないじゃないか。

欲しがっているから俺の肉は隆起しているんじゃないのか。そして彼女も欲しがっているというなら、両者の望みを叶えるのが恋人同士の正しい在り方ではないのか――。

「ひ、ひっきぃ……お願いだから、あっち向いてて……」

「わ、悪ぃ」

濁りながらも羞恥で涙を潤ませる瞳に射貫かれ、そのお願いに慌てて背中を向ける。
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:39:37.72 ID:DgCzqnC6o

視界から由比ヶ浜の姿が消え、向き合うものは壁と音だけになる。

心音。

衣擦れ。

心音。

心音

衣擦れ。

心音。

心音。

心音。

上着一枚脱ぐだけ、それだけの時間が異様なほど引き延ばされて感じている。

やがて無機質な壁、自分の心臓と心中と向き合うことに耐え難い感覚を覚え、キツく目を閉じる。

一秒、二秒……十秒、二十秒。一分、十分?

引き延ばされた感覚すら忘れかけるほどの緊張の果てに、

「……いいよ」

待ち望んだ声に、目を開けるとゆっくり身体ごと振り返る。

そして、引き延ばされた時間は停止した。
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:41:55.12 ID:DgCzqnC6o

綺麗とか、可愛いとか。

エロいとか、やらしいとか。

果ては白か黒なんて、何かに例えられる感覚ではなかった。

由比ヶ浜結衣。俺が好きな女の子。

バカっぽくて、五月蠅くて、優しくて、暖かくて、そんな女の子。

そんな女の子が今、俺の前に素肌を晒している。

上半身に何も身に着けず……何も、身に着けず、下着すら。

ただその豊かな乳房、その先端を小さな掌で隠している。

相変わらず夢を遠くへ見つめる瞳は再び零れ落ちそうなくらいに潤んで、頬は桃より更に朱に近づいた色で彩られている。ただ眉は八の字に寄せられて、熱に浮かされながらも隠し抑え切れない羞恥を示し、それが寧ろ加虐心を煽り立てた。

心は逸り、湧き立ち、暴れ回るが、視線はただ由比ヶ浜の素肌そのものに吸い寄せられ、釘付けられる。

「……あ、あんまり、じっと見ないでよ……はずかしい、から」

俺の食い入るような視線に更に顔を赤く、声は掠れてか細く溶けていく。
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:44:11.74 ID:DgCzqnC6o

「や、無理だって、それ……」

そう、無理だ。瞬きすらしたくない。

今この瞬間、刻一刻と過ぎ去っていく時間。それによって起こり得る変化、起こっている変化。例え目視で確認出来ないほど微かなものであっても、一つも見逃したくない。

俺の前に肌を晒した、これから肌を許そうという由比ヶ浜結衣の姿を、余すことなく脳内へ焼き付けておきたかった。

「……か、感想、は?」

恥じらいながらの彼女の問い。

感想、そんなものは。

「なんというか、正直、何も言えない……例えると、偽物になりそうな気が、する」

一目見たとき思った通り、言葉なんて無い。表現を何かの形にすると、それ自体が彼女への冒涜になってしまいそうで、出来ない。

そして美しい物を汚したくない、傷付けたくないという怖れは、次第に欲望の勢いに押し流されていく。

「も、もっと見たいし、さ、触り、たい……だから、その手、どけてくれ」

欲求のまま、吐き出される荒い吐息と言葉。

途切れて纏まらないのは心も体もはち切れそうなくらいに期待しているから。
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:46:15.28 ID:DgCzqnC6o

「う、うん」

俺のどもり気味の言葉に笑いも怖れもせず、由比ヶ浜はさっきまでの俺のようにキツく目を閉じるとゆっくり手を下ろしていく。

やがて、生命豊かに盛り上がる白い二つの丘と、その中に浮かび上がる鮮やかな桃色が現れる。

由比ヶ浜結衣の、乳房と乳首。

一瞬だけ本当に頭の中が真っ白になり、思考がその機能を取り戻すより早く、俺の手は無意識に動いていた。

真っ直ぐ、由比ヶ浜へ。

三秒にも満たない間で、右手は柔らかな感触に包まれた。

「ひゃぅッ!」

突然の感触だったのだろ、由比ヶ浜は触れられると同時に目を見開いた。

そして俺もその感触に思考と行動、その余力を全て奪われた。

「……やわらかい」

思わず口に出た。そう、柔らかい。

思った以上に柔らかくて吃驚したとか、ただ柔らかいだけで特別なものなんて無いとか、そんな飾り立てる言葉や感想なんて一切無い。無粋。不要。
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:48:31.18 ID:DgCzqnC6o

ただ、柔らかい。

由比ヶ浜結衣の柔らかい場所。そこは大きく、豊かで、柔らかくて、ただただその感触が好悪を越えて思考を焼き尽くしていくのを感じていた。

そしてその柔らかさを感じているのが右手だけであることを不自然に感じ、由比ヶ浜に身を寄せると残った左手も彼女の乳房に伸び、

「んうぅッ! ひ、ひっきー!」

そのまま彼女の右乳房に触れた。

左手でも矢張り柔らかい。

両手の感覚が等しくなると、収まりの良さに落ち着く間もなくその先を知りたくなる。

両手、その指に淡く力を込める。

少しずつ沈んで行く指。

埋まる、柔らかさに。

「ぅぅ……」

さっきまでは開いてた瞳を閉じ、何かに耐えるよう掠れた呻きを漏らす由比ヶ浜だが、その様子を気にかける余裕は、無い。
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:50:27.56 ID:DgCzqnC6o

もっと、もっと知りたい。

柔らかさを知りたい。

本能に火が付く。

「ん……あッ! あ、あ、あ、あぅ!」

最早決まった動き、揃った動きをさせる必要も感じられず両手、指を思うままに動かす。

揉みほぐす。

撫で回す。

持ち上げる。

引っ張る。

絞る

全て、全て試したい。

「そんな、いきなりッ! あ、ひ、ひん、ひぅうッ!」

突然の蹂躙に甲高い声を上げる由比ヶ浜の様子を気にかけることもできない。今自分の指がどのように動いているか、どう動かしたいかすら埒の外。

ただ柔らかさを感じ、その変化を目に焼き付けたかった。
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:52:34.76 ID:DgCzqnC6o

……そうだ変化、変化だ。手の中に変化を感じた。

ただ柔らかさだけで構築されているように思えた感触の中に、少しだけ色の違う領域があった。

新たな邂逅にまた好奇は沸き上がり、その部分を親指で弾くように擦り上げた。

「ッッッ!」

眼を見開いて身体が跳ねた。全身ごと巻き込む反応の強さに、気にかけられないまでもそこが特別な場所であることを理解する。

乳首だ。そうだった、これは乳首だった。

乳首の持つ心のある感触もまた何処までも興味を引き、人差し指と親指で以て押しつぶし、転がすように試す。試す。

「そこ、は! だ、だめ、だよ! だめ、だめぇ!」

摘む度、転がす度、芯は硬さを増し屹立する。それに応じて由比ヶ浜の声も悲鳴に近づいていく。

爆発的に湧き出した好奇心はそれを充分に満たし、また的確に活かす為に理性とそれを司る思考にもリソースを割り当てたらしく、さっきまでと比べれば幾分周りが見えるようになった。
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:54:34.73 ID:DgCzqnC6o

見えるから、恐らくは初めての感覚に戸惑い乱れる由比ヶ浜であるとか、現在進行系で自在に形を変える乳房であるとか、殆ど無意識に動いて感触を堪能する手指の様子まで確認出来て脳と局部に再び抗いがたい熱を集め始める。

正しくカッとなり、今までより幾分強めに乳首を摘むと残った指で乳房を包み込むと、左右別方向に引っ張るように動す。

「ひ! ひ、ひ、ひん、ひぅ……んひゅ、ひゅぅ!」

それぞれ異なる方向へ伸びるように広がって行く。ただ驚愕と言うにはあまりに淫らな身の変化。

こんな風にもなるのか。凄いんだな、女の子ってのは。

女の子の身体、由比ヶ浜の身体……異性の存在を強く意識し気付く。思い出す。

今自分が何をしていて、何処に辿り着こうとしているのか。先にどんな目的があるのか。どうしようもなく昂ぶった頭と身体が、これが本能の充足、交合の為の前準備であることを思考に強く刻み付ける。

そういえば、ゴムが無い。由比ヶ浜とそう≠ネることを意識はしても考えることからは逃げていたため、保険や用心という概念すら抜け落ちていた。

……いや、それマズくねぇか?
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:56:17.57 ID:DgCzqnC6o

今この場には初めての女体に感動し裡に爆発的な衝動を溜め込む俺と、同じく初めてだろう異性からの接触に期待し悶える由比ヶ浜。既に互いの速度は超過気味、そして汗か他の体液で滑る道路は容易に車輪を滑らせる。行き着く果ては事故、負傷、その果ての障害、死――。

ゴムはブレーキだ。100%のストップにはならないという話だが、それでも装着する前提でこそ本質からは遠くとも異性間のコミュニケーションの極致足る性交渉が安心安全の下に行えるのだ。逆にそれが無いことはより本質に近い、というか性交・交尾の本質そのもの。それはあらゆる意味で後戻りが出来なくなることを意味している。

全ての変化が不可逆だとしても、似た状態にすら戻れなくなる。それほどの変化だ。

……責任を取りたいとは思う。先のことなど何一つ確信を持てないが、それでも彼女と寄り添う道の過程で互いの道を本当に一つに合わせることを意識しなかったわけではない。だがここで言う責任など所詮口だけのもの、特に学生である俺が今口にする責任などあまりに軽い。誰かの一生を背負う覚悟はあっても、そこに実質的な力が伴わなければ世迷い言と同じ。それは互いを不幸に導くだけだ。

ならば君子危うきに近寄らず、虎穴に赴くには今の俺はあまりにか弱い……だが、それでも今の状況は。

恐らく、痛みや怖れを越えて俺と深く繋がることを望んでいる由比ヶ浜。

確実に、先に待つ愛情や快楽を期待して由比ヶ浜と深く繋がることを望んでいる俺。

互いが同じ結果を望んでいれば、理性のブレーキなど儚すぎる。
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 00:58:23.38 ID:DgCzqnC6o

何より、由比ヶ浜に俺の……由比ヶ浜結衣の子宮に比企谷八幡の遺伝子を種付ける、その未来を想像するだけで背筋が震え脳内は過剰に生成された麻薬で滅茶苦茶に跳ね回る。あまりにリスキーなその行為に、これまでの人生の中でも比肩するような経験すら存在しないほどの興奮を覚えている。

止まれない。このままでは止まれなくなる。危ない。危険だ。

ならばまだ止まれる今の内にゴムが無いこと、その危険性を盾に彼女と離れれば良い。名残惜しくとも温もりの代償が今はデカすぎる。それだけが唯一無二の正解だ。

しかし、ゴムが無い……それ故に彼女との接触を断とうというそれは、一ヶ月前にも同じことを言ってしまっている。

一ヶ月前は暴走気味に捲し立てた言い訳の中に紛れていただけだが、それでも彼女がその文句を覚えていたら。同じ言い訳で再び身を離そうとしたら。また彼女は俺の言葉を信じられなくなるのではないか。

これが平時ならまだ冗談めかして煙に巻くことも出来たかもしれない。だが今は互いに理性と本能、現実と夢の境界が曖昧だ。そんなまともに働かない思考で、舌の根も渇かぬ内に矛盾しかねない事実を突きつけて、俺は彼女の信も愛も失ってしまうのではないか。

安全の為の緊急ブレーキ。絶対に必要だと分かりきっているそれを、その代償に確実な快楽も彼女自身も手から零れてしまう。それが何より恐ろしくて、ブレーキを踏む決心が付かない。迷う内に、手の中の感触が、温もりが、確実に理性を蝕んでいく。
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:00:41.06 ID:DgCzqnC6o

抱き締めたい。

温まりたい。

味わいたい。

貶めたい。

堕ちたい――。

でも、それでも、俺は。

「……? ひっきぃ……?」

由比ヶ浜の胸を蹂躙していた両手を離し、その手で彼女の肩を掴んで引き離す。突然止まった感触を訝しんだか、由比ヶ浜は熱に浮かされた顔で俺を呼ぶ。

「……わりぃ、ゴム、ねぇんだよ」

目を合わせられない。そっぽを向いて、キツく目を閉じて、事実だけを簡潔に伝える。

「……それが、どうしたの?」

その言葉の意味が、その意味すら受け取れないほどの欲求に支配されているのか、由比ヶ浜は問い返してくる。更なる言葉、説明を尽くさなければならないのが、辛い。
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:02:13.57 ID:DgCzqnC6o

「いや、お前……危ないだろ」

「……?」

「だから、その……このまま進んだら、ひ、避妊、出来ないまま、その……」

頼むから察してくれ。

出来てしまうと危ない、少なくともまだ早い……そのくらいでストップしてくれるならまだいい。もしそれ以上、子供が欲しいか欲しくないか、なんてところまで話が飛んでしまったら、それを未来ではなく今の状況で語ってしまったら、それは明確な断絶を生みかねない。

多分由比ヶ浜は、今の由比ヶ浜結衣は、愛欲の果てに行き着くところまで行ってしまう。そんな気がするから。

「…………」

分かっているのかいないのか、由比ヶ浜から反応はない。

心地よくない沈黙。内蔵が外側からチクチクと刺され削られ痛んでいく。

またも時間感覚は狂い、由比ヶ浜の沈黙が何秒何分かも分からないままに――

ぎゅむ

「ヒんッ!?」

またも揉み込まれるような感触で、その時下半身に電流走る……!
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:04:21.07 ID:DgCzqnC6o

しかもその電流は連続して……というか揉み込まれるよう、ではなく実際に揉まれている。優しく、でも逃げ場のない快感はさっきよりも濃厚で、比喩ではなく本当にビクンビクンと腰が断続的に跳ね上がった。悔しい……でも以下略。

「お、おい、だから、な、なに、やって」

突然の状況に思わず目を見開いた。

このショックの電源は勿論由比ヶ浜の手だ。上半身裸の由比ヶ浜が、乳房を晒した由比ヶ浜が、先端の桃色を隠すこともなく、俺のズボンに形成されたテントの頂上に手を伸ばしている。

揉み込む指の動きは次第に上下のストロークへと変化していき、芯の屹立が頂上に達する頃には布地の上から一月前を再現するようになっていた。

「やめ、やめろ、あ、あぶない、って、おま、おまえ」

布地を介し、またストロークも短いその感触は一月前のソレと比べるべくもない。しかし刺激が弱い故に胸の中でもどかしさが爆発的に膨らみ、目に映る光景の現実感の希薄さが理性と本能、意識と無意識の境界を曖昧にしていく。

危ない。危ない。危険だ。

このまま、このまま全て曖昧に混ざり合ってしまったら、もう俺は何を言われても何を思い出しても本能の暴走を押さえ込める自信が無い。そしてその果てに負いかねない傷を、生々しく想像してしまう。

それだけはダメだ。その傷だけは、絶対にいけない。無期懲役とか死刑とか、それくらいじゃ贖いきれない咎だ。そしてそれを明確に意識しても止めど得ないほど一ヶ月ぶりの狼達は餓えて我を忘れている。
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:06:24.90 ID:DgCzqnC6o

だが由比ヶ浜は、

「……じゃあ、あぶなくないよう、出しちゃえばいいじゃん」

そんなことを、言ってしまう。

ストロークが止まり、より強い力で布地ごと怒張を握り込んだ。

「ッッ!!?」

一瞬息が止まりそうになる衝撃。日頃の自慰では、というか一般的な自慰に於いては配慮の外にある手法……緩急。緩め急ぎ、その配分で性感をコントロールする……いや本当、どこでこんな技術を。本当に処女なのかこいつ。レベル上がりすぎィ!

「そ、それが、あぶな、ッ、いって、ぅあ、いってん、だよ……!」

嬉しいやら恥ずかしいやらでもやっぱり嬉しい由比ヶ浜のレベルアップだが、それを素直に受け止められないくらいに事態は切迫している。今は連続するその快感に身体の方がどう動くか迷っているが、このバランスが崩れれば所詮女子の力など弱いもの。強引に振りほどいて組み敷くことなど造作もないだろう。今こうして最悪の事態を危惧する思考も、恐らく幾分も維持はできまい。

今は如何に快感で俺の身体をコントロールしているとしても、いざ理性の許容が限界を超えれば成人間際の男性の肉体は生半な縛りなど容易に振りほどいて女性の身体を組み敷くだろう。避妊云々以前に、我を忘れた俺が由比ヶ浜を力尽くで手籠めにする……それはもう人とか男である資格すら無くす、最低最悪の所業だ。それだけは、何を於いてもそれだけは、絶対にしてはいけない。したくない。
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:08:20.35 ID:DgCzqnC6o

だと言うのに由比ヶ浜は、

「だいじょぶ、あたし……がんばるから」

子供のように笑うと、微妙に繋がらない台詞を口に、そのまま俺のズボンにパンツごと手をかけて、俺の下半身を露出させた。屹立した男根を引っ掛けないよう、前を伸ばしてからズリ下げる手慣れっぷり。いやお前、本当に処女だよな……?

そして現れる愚直。外気と由比ヶ浜の視線に晒され、根っこの部分を通して繋がった脊椎にぶるりと震えが走る。

もう、多分、止まれない。

せめてズボンで縛められていればほんの僅かでも理性のストッパーがかけられていただろうが、もう彼我を隔てる壁は由比ヶ浜の身に着ける二枚の布地だけだ。防備の薄い国家地域など、容易安易な侵略対象でしかない。

頭の中が悲観と諦観と期待で埋め尽くされつつある中、せめてもの抵抗にと身動きをせずにいた俺の目は由比ヶ浜の諸動作を見つめている。

そこで更に予想外の事態が起こった。

「……いたかったり、ヘンだったら、いってね」

それこそ一ヶ月前の再現になると思っていた。だが彼女は屈み、目線を俺の股間に合わせると――

ちゅ

「ぅひィッ!?」

逸物の先端に、キスをした……!
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:10:34.09 ID:DgCzqnC6o

突然の事態、想定外。未知。何もかもが絡まりあって、今までの比ではないくらいに俺の全身は跳ねた。

だが由比ヶ浜結衣は狼狽えない。

「ん、れぇ」

そのまま逸物を優しく掴むと、竿から先端まで、縦に舌を這わせた。

「あ、あぅぁ、ゆ、ゆいが、はま……!?」

暖かく滑る線の感触が逸物から脊椎、脳内にまで刻み込まれて一気に舌が回らなくなった。勿論思考も。

「んちゅ……」

そのまま余すとこなく唇と舌で唾液を塗りたくり、ぴちゃぴちゃ音を立てて俺自身をなめ回した。

なんだこれ。

なんだこれ。

なんなんだこれは。

一ヶ月前の手コキも凄まじかったが、それでも自慰の延長線上にあると考えれば、今味わっているこの感覚は完全に未知の世界だ。舌が動く度に限界を超えて血が集まり、準備期間など必要無しと先走りが大量に溢れ出す。

「お、おま、おまえ、おまえ……こ、うぅ、こん、な……あぐッ」

理性が飛んだ。しかし本能すらあまりに鮮烈な感触に狼狽え戸惑っている。僅かに残った言語野は、辛うじて意味の拾える意味の無い言葉を口の端から辿々しく垂れ流した。
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:12:24.14 ID:DgCzqnC6o

思考が混迷に混迷を重ねる中、身体の充足だけが急速に満たされていく。そして、

「あむッ」

それはまたも唐突に訪れた。

「あ」

由比ヶ浜は舐める動きから自然に、肉棒を口内に迎え入れ、咥え込んだ。

「あ」

限定的だった熱と柔らかさの範囲が一気に広がった。包まれ、迎え入れられた。

「あ」

由比ヶ浜が、あの由比ヶ浜結衣が、俺の股間の前に跪いて、俺の肉棒を、口中に、

「あ」

あまりの状況、あまりの感覚、あまりの光景に最早理性も本能も境はなくなり硬直している。ただ間抜けに一文字を口から垂れ流すだけ。

そして、そんな俺に更なる追い討ちがかけられる。

「あぷ、あむぅ……」

由比ヶ浜の口内が、舌がうねって絡みついてきた。
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:14:24.44 ID:DgCzqnC6o

「あ」

さっきまでのなめ回しとはまた比較にならない密度と湿度が身体を支配し、末端の感覚は薄れ、ただ未知の領域の快感が体内を荒れ狂い、更に、

「んぢゅ、おふ、おぶッ」

じゅぽ、じゅぽ、じゅぽ。

水音を立てながら、由比ヶ浜の顔が前後した。

もう何の喩えようもなく、それは口淫だった。

由比ヶ浜結衣が、フェラチオに興じていた。

比企谷八幡が、由比ヶ浜結衣のフェラを堪能していた――。

「あ」

あ、

あ、

あ、

あ、

ああ。
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:16:59.92 ID:DgCzqnC6o

「ああ、ああああ、あ、あぎッ」

最早過去も今も未来もなく、ただただ押し寄せる快楽の濁流に押し流される。

均衡など一切無い。これまで経験したことが無い程のスピードでせり上がってくる熱塊を感じ、忠告する間もなく、

「ぅあ、うあ! ああ、あああ!」

ただ快楽の赴くまま、流されるまま、俺は由比ヶ浜の口の中にありったけの精をぶちまけた。

「!? んぶッ、むぼッ!」

抜け出る度に脈動するように走る悦が殆ど無意識、反射的にビクビクとに身体を反応させる。ドクドクと容赦なく吐き出される俺の奔流に由比ヶ浜は目を見開き、しかし口を窄めて決して口に隙間を空けなかった。

「んぐ、んぐ、ぐぅ、んん、んぐ……」

眉根を寄せて苦しそうな顔で、それでも肉棒を吸い上げるような体勢のまま由比ヶ浜は俺の股間に縋り付いていた。俺のモノを口に含んだまま、白濁を零すことなく……身動きないまま微かに来る震え。恐らく飲み込んでいる。

脳細胞そのものが焼けるような強烈な性感、精を嚥下する由比ヶ浜。何もかもが鮮烈で強烈で、あまりに現実感を欠いた現実は射精を経ても俺自身の熱をそう下げてはくれなかった。それでも体力気力を根刮ぎ持っていくような放出は危険な領域を離脱するには充分過ぎる程だった。

「ん……んお……」

やがて全てが収まると、由比ヶ浜はゆっくりと口から肉棒を引き抜く。その際に口の輪が擦れる感覚で再び背筋が震えた。
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:19:19.17 ID:DgCzqnC6o

「けほッ……やっぱり、ヘンな味だよ……」

軽い咳で嘔吐く由比ヶ浜。

エロ本エロ漫画同人誌の情報だが、苦いとか不味いとか、確かにいい話は聞かない。しかし眉を潜めながらも決して苦痛を感じさせない表情はさっきまでの光景を含めあまりに淫靡で、夢の中に沈んで行く感覚は消えなかった。

「おまえ、なんで、こんな……い、いつ覚えたんだよ、これ……」

頭はまともに働かないまでも、大いなる疑問の探求だけは忘れてはならない。

そう、何よりの疑問は処女である筈の由比ヶ浜が何故こんな……こんな、技術というか、淫蕩な行為を。

「な、なんで、口でするの、なんて、しって」

「……女の子向けでも、ちょっと変な雑誌に、男の子を夢中にさせる方法とか、載ってるんだよ……?」

え、そうなの? いや読む度頭の悪くなりそうな雑誌なら小町が所有していたことは知っているが、そんなディープでアナーキーな情報も載ってたりするの? いかんちょっと妹が危ない興奮する。お兄ちゃんそんなの許しませんよッ!?

「いやでも、なんか、すごい手慣れてる感が、その……」

更なる疑問はそこだ。例えフェラチオという行為そのものを知っていたとしてもさっきのは随分スムーズだった気がする。慣れてないと歯が当たって痛かったりするとか聞いたこともあるのに、歯は愚か擦りつけられる粘膜の感触は途絶えることなく性感を与え続け――思い出す度背筋が震える。これ以上回想するのはマズそうだ。

それとも読むだけで性技の熟練度が上がったりするのだろうか。最近の雑誌は凄ぇな……。
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:21:21.40 ID:DgCzqnC6o

「れ、練習、してたから……ヒッキーの為に」

「そ、それ、お前……」

嬉しいこと言ってくれるじゃないの……いや、なんか、マジで嬉しい。唐突は唐突で未だ驚愕の余韻は去らないが、これが俺の為であるという事実が張り裂けそうなほど胸の裡を満たしていく。

「姫菜がね、こ、こーいうのに詳しくて……雑誌じゃなくても小説とか、漫画とか、色々貸してくれて……」

セクシーコマンド―(直喩)外伝 すごいよ!海老名さん。

確かに日本のオタクコンテンツに於いて性関係、その結びつきはかなり深いところにまで至っている。そしてそこそこにディープっぽい彼女であれば資料や教導もお手の物なのか、見た目ビッチの内面清純美少女を性的に指導するエロエロ眼鏡美少女……キマシ?

何にせよ放出で危険な領域をとりあえずは脱しつつある現状は海老名さんのサポートの賜だ、これは彼女には感謝してもし足りな――

「ひ、姫菜の貸してくれたのは、お、お、男の子同士の、だったけど」

前言撤回、なんてモノ見せてくれてんだよコラ。これを切っ掛けに由比ヶ浜が発酵……いや有害な菌活動だから腐敗だ、ともかく腐敗し始めたらどうすんだよ。俺、牛乳は牛乳で楽しみたいからヨーグルトとかチーズ化するのは勘弁して下さいマジで。
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:23:14.84 ID:DgCzqnC6o

「そ、そうか……」

「うん……」

知ってしまえば何のこともない。いや由比ヶ浜と同じく未経験だろう海老名さん(未経験だよね? じゃないと多分戸部が泣く)の指導がどれほどのモノも分からないが、そこは由比ヶ浜に性技の才能があったという嬉し恥ずかしな妄想で補完するとして。

……気まずい。

事実の確認さえしてしまえば話題が話題、これ以上突っ込んだ話は地雷になりかねないわけで、必然会話は途切れる。

俺と由比ヶ浜には普段からあまり共通の話題がなく、一緒に居ても黙り込んでしまうことは多かった。ここに引っ越してから由比ヶ浜が幾度と遊びに来た時間も同様だったが、それでも黙って寄り添うだけで満ち足りる何かがあり、それは由比ヶ浜も同じように見えた。

だが今は、互いの格好とか、行為の余韻とか、直視するにはあまり気恥ずかしい状況で、沈黙は胸の裡を羞恥と焦燥で染め上げていく。

そう、俺は下半身を露出し局部を濡らした状態で、由比ヶ浜は上半身を露出しこれ以上なく女性らしさを主張していた。

……意識するとドツボだ。というか意識してしまっているが故にこの空気だ。肉棒にはぬらり濡れた感触が残り、欲望の火は消えきらないまま擽っている。このままこの空気が続いてしまえば、残り火は再び天を焦がす勢いで燃えさかるのではないか。

そうなる前に動かなければならないのに、空気は負荷のないまま固まって俺の動きを封じていた。

と、
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:25:27.58 ID:DgCzqnC6o

「……ヒッキーの、汚れちゃってる」

そんな懊悩する俺を節目に、由比ヶ浜の視線は俺の逸物に注がれていた。ゆ、ゆいゆいのエッティ!

しかしその言葉、示唆する内容は今の俺には有益だ。使える。これを口実に風呂場へ直行、今度こそ自分で処理して完全に鎮火してしまえば――

「あ、そう、だな……よ、汚れたままはアレだから、風呂にでも」

しかし由比ヶ浜は、

「キレイに、しなきゃ……したげるね」

俺の台詞を喰い気味に、再び熱に浮かされたような顔で俺の股間に跪き、曰く「汚れちゃってる」肉棒に舌を這わせた。

ぬるり

「おふッ!」

予想だにしなかった再度の快楽。

「ん……んん……んちゅ、ちゅぅ……」

唾棄と先走りと白濁に塗れた俺の肉棒を外から舐め、吸い付き、綺麗にしていく由比ヶ浜……しかしそれは先走りと白濁を新しく唾液で塗り替えるだけ。そしてそれに付随する快楽は正しく暴風、突風。

「お、おい……そ、そんなこと、おまえ……!」

突風で一気に酸素を供給された火はあっという間に炎へと成長する。勃起の体裁を保っている程度の膨らみは最早後戻りの出来ない大きさと硬さを取り戻していた。
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:27:20.16 ID:DgCzqnC6o

これもお掃除フェラ、と言うのか。これまで自慰の妄想の中で由比ヶ浜をそう≠オたことは、遺憾ながら何度もある。だが現実を妄想に出力する行為は何とも気恥ずかしく罪悪感を伴い、思い浮かべるシチュエーションは精々がノーマルなプレイの範疇だったわけで。こんな風に行為の後の『ご奉仕』なんて、少なくとも由比ヶ浜がそうなることなんて、想像もしなかった。

けれど今、現実は、

「んぅ……はぁ、はむ、はむ……」

一心不乱に肉棒を舐め尽くそうとする由比ヶ浜の姿は、正に小説より奇なりと言う外無く、ある意味先程の咥えられていた時以上に現実感の無い光景だった。

炎は、頭も身体も焼き焦がして、もう――

「ゆ、由比ヶ浜ッ!」

「あぅッ!」

由比ヶ浜の頭を掴んで股間から引き剥がし、それから再び肉棒を彼女の眼前に突きつける。今度は俺が、俺の欲望が歯止めを失う。

「も、もう一度……さっきの、もう一回、由比ヶ浜……!」

早く、早く、もう一度。あの素晴らしい愛≠もう一度。

焦って強ばり乱暴になる俺の行動に由比ヶ浜は戸惑いながらも、

「あ、ひっきぃ……シて、ほしいんだ……」

淫靡に微笑む。声は再び熱を帯び始める。日溜まりのような彼女が月光の陰に隠れるようなイメージに代わり始める、そんな現実でどうしようもなく脳が蕩けていく。

「ああ、シてくれ……お前に、シて欲しい」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:29:42.74 ID:DgCzqnC6o

「うん……いいよ」

俺の剥き出しの願望に彼女は待つことも待たせることもなく、

「あむ……ッ」

片手で俺の腰にしがみつくと再び肉棒を咥え込んだ。

「おお……」

先程の再現。敏感な部分を包む生暖かさは直接触れずともただそれだけで全身を奮わせる感触を生む。

「ん、んぅう……あぷ、あぅ、んむ、ん、ん、ん……」

燃えさかってから始まった故か段階的に進んでいったさっきとは違い絡む舌と口輪のストロークは同時に、勢いを乗せたまま始まった。

ちゅぷ、ちゅぷ

じゅぽ、じゅぽ

由比ヶ浜の息遣い。俺の呼吸。水音。感触。

何もかもが混ざり合って、でもコーヒーとホワイトという程には混ざり合わない斑模様。気の遠くなりそうな混迷の中、粘膜が擦れる度に走る快感だけが全身を現実に繋ぎ止める楔で、ただそれだけを求めて今俺の思考も身体も存在している。

走る電流はさっきと同じか或いはもっと強いのに、さっきの放出の量と濃さは頂点への距離を何処までも長く広げて辿り着けないもどかしさが大きくなっていく。自然、由比ヶ浜の頭を押さえる手にも力が入るが、それに比例するように由比ヶ浜の口淫も力が入る。
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:31:36.38 ID:DgCzqnC6o

「んぶ、むぶ、ひぅ、ひん、ぐむぅ」

じゅぷじゅぷじゅぷ、じゅぽ、じゅぽ

揺すられるのは頭だけでなく、ストロークと音に合わせて由比ヶ浜の身体も揺すられていく。味わっているのは口内だけなのに、まるで由比ヶ浜の全身でこの快感を味わっているようで、一所に留まらず宙を彷徨っていた視線は彼女の身体……見下ろす彼女の頭と背中に固定される。

そこに違和感があった。

もぞもぞと動く背中。背中から連なる腰、尻が、頭の動きに合わせて背中よりも動いている。

もぞもぞ。もぞもぞ。振られる尻、それを隠すパジャマズボンの皺が不自然に動いている。

不自然に、一部が盛り上がっている。

俺の腰を掴む手に力が入っていく。

掴む手。片手だけ。

もう片方の手。その行方。

不自然に盛り上がるズボンの一部。

振られる尻。

「んぅ、んん、んふ、んぅ、ん、んぅ、んぅ」

声に、吐息に、喘ぎの色が混じっている。

これは、俺を口に含みながら、由比ヶ浜が、自身を、慰め、て。
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:33:17.96 ID:DgCzqnC6o

「ん、ん……んぶぅッ!?」

爆発した。

欲望が暴発して、全てが炎に変わった。

頭に添えていた手が欲望のまま、視界に映らない由比ヶ浜の乳房を掴んだ。

咥えられたままの肉棒ごと、欲望のままに腰を振った。

「んぶ! むぶ! むぶ! むぶぅ!」

既に密着しているような状態だった為にグラインドの距離は短く、腰の動きは小刻み。しかし自身で揺すり得られる快感は由比ヶ浜に任せたままに走る感覚とはまた別種。更に俺の動きに由比ヶ浜が驚き為されるがままになっていたのは僅かな間で、俺が腰を引くのと同時に彼女も顔を引き、俺が腰を押し込むのと同時に彼女の顔も押し込まれた。押し込まれる度に先端に絡みつく舌の動きも激しくなっている。反復する動きに合わせて、両手に掴み手から零れそうな程に豊かな乳房を揉みしだく。

竿からカリまで余すとこなく濡れて、味わう感触も広く強く。強く。

「おぶ! おぶ! んぶ! んぶ! んぶ! んぶぅッ!」

じゅぽじゅぽじゅぽじゅぽじゅぽじゅぽじゅぽじゅぽじゅぽ

快感は男根から足先、また頭の天辺まで巡り巡って何もかも支配している。

速度の増した水音、更に口腔の奥までねじ込まれる感触。全てが濃密で、これが口淫であることを忘れてしまいそうになる。
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 01:33:58.53 ID:12T/iLRYo
誰だよ来ないなんて言ってた輩は
ちゃんと来てくれたじゃないか
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:35:23.37 ID:DgCzqnC6o

そう、これは口淫なのか?

深く、早く、濃く、腰を振って、快感を味わっている。

自慰だが、由比ヶ浜もまた性感を味わっている筈だ。

互いが陰部で快感を貪っているのなら、これはもうオーラルとすら付けずセックスと呼ぶのではないか?

俺と由比ヶ浜は今、予期せずセックスを堪能しているのでは……?

その考えに至り、つっかえたようなもどかしさは吹き飛んで一気に感覚が高まる。

限界。

リミット。

頂上へ、至る。

「で、る!」

もう。

「でる、から、でるから! だす、だしたい、ゆい、ゆいがは、ま……ッ!」
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:38:41.36 ID:DgCzqnC6o

「むぼ、んんんんッ!」

由比ヶ浜が顔の反復を止めて、これまでに無い程の深さへ一気に肉棒を咥えて押し込み、吸い付いた。

新たな感触。それはきっと、喉の……。

「あ、が」

びゅる、びゅる、どくり

想像が最後のトリガーになって、俺は二度目の射精を迎えた。

二度目なのに、さっきの射精と量は変わらないか、多い。まだ最中なのにそれを想像させるほどに凄まじい悦が内側で荒れ狂って暴れ回る。

「ッ! ッッッッッッ!!」

さっきよりも奥、もしかしたら喉へ直接流し込まれているかもしれないのに、またも由比ヶ浜はその一切を吐き漏らすまいと出される端から震えながら精液を飲み下していく。

視界がチカチカと明滅して、身体を置き去りに意識だけが異界まで飛んでいる。

きっと人間は正負を問わず自分の限界を超えた感覚を覚えた時、その意識を昇るか堕ちるかさせる。ならばここは天国か、地獄か。どちらでも、この感覚を抱えたままならば何処に辿り着こうと後悔はない。

さっきまでのように時間の感覚すら壊れて、何時射精と快感が終わったのかも分からない。それは由比ヶ浜も分かっているだろうに、恐らくはお掃除≠フ為に決して口を離さず、舌が肉棒に絡みつかせている。本来なら三度の屹立すら促しかねないだろう感触も、精巣が空になったかと思うくらいの射精を経た俺の肉棒には何処か遠く妄想の中の小事だった。
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/12(月) 01:42:45.86 ID:DgCzqnC6o

「……んはぁ、ッ……」

由比ヶ浜のお掃除≠ェ終わる。彼女が口を離し息を吐くのと同時に俺は上半身を支えきれなくなり、乳房から手を離すとそのまま大の字に倒れた。

「んぅ、ああ。あ……」

自分の呻き声すら夢の中。ここ十数分か数十分のあまりに濃密な体験に現実感を失い切ると同時に体力の枯渇をようやく自覚し、意識は薄暗い靄に包まれ闇の中へと堕ちていく。

本来の意味で現実と夢の境界が曖昧になっていくと、あまりに現実から離れた今日の出来事は全て本当に夢だったのでは。ただ行き過ぎたネガティブ思考が心の平衡を保つために見せた幻覚だったのではと、半ば本気で疑ってしまう。

薄れていく意識の中で、ただ由比ヶ浜の存在が恋しくて、その行為の全てが幻だと思いたくなかったのに、抵抗も空しく消耗した心身は睡魔にあっさり敗北した。

眠りに落ちる寸前、胸板と唇に押し付けられるそれぞれ別種の柔らかさと温もりを感じたが、その正体がなんであるかすら考える間もなく全ては黒に溶けていった。
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 01:44:46.50 ID:DgCzqnC6o
今夜の投下はこれにて終了です。
後は二話のエピローグを残すのみですが、流石に眠いので続きはまた後日。

あと宣言警告無しでエロいのに突入してしまいましたすみません……。
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 01:55:45.09 ID:UyMP0z4fo
乙ですー!
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 01:57:03.31 ID:uDn1nD9yO
超乙
夜勤の俺を実に癒してくれた
途中だろうけど簡単に感想を
ちょっと説明クドい
文章レベルは最上級
なんか俺ガイルの名前を借りた官能小説を読んでるみたいな気分になった
結論、素晴らしい
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 01:58:39.55 ID:s9YHQ1UOo
乙です!
すごい量ですね
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 04:41:13.46 ID:OxJf+9Sbo
待ってたかいがあったわ、続きも楽しみにしてる
PCだと文章が右に伸びてて読みづらいからも少し改行挟んでくれると嬉しいかも
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 06:05:45.14 ID:fTnMQ28ao
もうそろそろおわりなのか?
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 09:00:16.55 ID:3DzcS8D60
内容に文句はなかったけど冒頭の自分語りと
どうも>>1ですの下りがキモいなと毎回みてて思った
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 12:38:24.85 ID:vGpVLRXuO
正直無駄に長い
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 13:21:36.92 ID:2souMjjbO
すごいでた
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 13:28:34.65 ID:07+Cgo5/o
素晴らしい

素晴らしい
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 17:45:56.70 ID:KeioslxY0
俺個人としては長くてもよし

最高
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 19:07:41.70 ID:kOoB+Pha0
乙です!
素晴らしかった
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 23:05:47.56 ID:VReqLb2Bo
乙ですー
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/13(火) 21:27:36.17 ID:K+aCvZWro
素晴らしい
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/17(土) 17:49:14.97 ID:hwasjQKBo
CDってやっぱ割高よね、どうも>>1です
二話エピローグを今夜か明日に投下予定です
期待せずお待ち下さい

あとスレの最初の方で自分で「読みづらい」と思った部分を前回投下後に指摘して貰ったので
次回投下分から改行とか書き方とか色々試してみます
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/17(土) 17:52:50.74 ID:CF6b0Sj7o
期待
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 18:36:31.18 ID:R/29QPn/o
どうも>>1です
オルフェンズ配信二週したので投下します

あと今回投下後解説の名目で言い訳タイムが始まるのでご注意
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 18:39:09.98 ID:R/29QPn/o

「ヒキタニくんさぁ……マジでゆいゆいと付き合ってんの?」

「……まぁ、その、そうだけど」

雨の気配も無い快晴の昼休み、駒鳥さんと伴って接触してきた猿渡の問いに俺はそう答えた。

「……マジか」

「マジだよ猿渡クン、マジマジ」

「マジかよー」

駒鳥さんの相槌にくすんだ金髪をワシャワシャ掻いてオーバーに反応する猿野郎。
その様は如何にも滑稽だったが、そんな様子を見せるに躊躇のない、
或いは羞恥心が欠如した性根はひねくれ者の俺には少しばかり眩しくて、今は羨ましくもあった。

「ゆいゆいみたいな子にカレシいねーとかありえねーって思ってたけどさー、それでもヒキタニくんかよーマジかよォー」

「……悪かったな、俺みたいのがアイツの彼氏で」

「別に悪くねーべよ。 それはヒキタニくんの手が早かったか、ラッキーだったってことじゃん?」

幸運であったことは否定しようもないが俺の手が早いってのは……寧ろ遅すぎるくらいだったけどな実際は。
俺がスロウリィ!? その通りですとも。

ウザいし五月蠅いし見た目怖いしでお近づきにはなりたくないが、それでもこういう気っ風の良さが猿渡という人間の輝きであることは否定しようもなく、
だからこそ俺としては珍しいことだが突っ込んだ話を聞いてみたくなる。
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 18:41:04.16 ID:R/29QPn/o

「猿渡は、その、由比ヶ浜のことが?」

「んー……ゆいゆいぐらいカワイイ子が彼女だったらなー、おっぱいデケェしなーってくらい? カレシいないって聞いたから、じゃあ好きになっちゃう? みたいなさぁ」

「あー……」

綺麗な言い回しではないし欲望ダダ漏れで感心は出来ないが、それでもそういう感覚は理解出来なくもない。
表現や形が違っても、悲観的になる前のかつての俺と方向性はそう変わらないのだから。

「でも滅茶苦茶ガード硬くて、全然遊び付き合ってくんないし、それで何か男と一緒に帰ってるとか聞いて嘘吐かれてたんかなって……最初ヒキタニくん見た時、これカレシはないわーって思ったんだけど俺の見る目無かったわ」

「……別に、普通は由比ヶ浜と俺みたいなのが付き合ってるなんて思わねぇだろ」

「まぁフツーに考えたらな……でもゆいゆいはなんかフツーじゃなくカワイイし、ならフツーにバカな俺よりフツーじゃなさそうなヒキタニくんの方が良かったんだろうなって、思ったり思わなかったり?」

ふつう の ほうそく が みだれる !
こういうのゲシュタルト崩壊って言うんかね。
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 18:43:22.85 ID:R/29QPn/o

「俺の場合、普通じゃないのは人間性が平均値以下ってとこだけだけどな」

「だったらその分ヘーキン値以上のゆいゆいが穴埋めしてるってことじゃん? だったらやっぱフツーじゃない感じにお似合いなんじゃね?」

……そういうものなんだろうか。破れ鍋に綴じ蓋とは言うけども。

猿渡の言うことは、俺をフォローしているというよりは由比ヶ浜の選択が間違っていないか持ち上げる為の言でしかない。
だが自分のモノに出来る目が無くなっても相手を堕とさないというのは美徳だろう。
反りは合わないだろうし積極的に関わりたいとも思わないが、それでも由比ヶ浜と俺の縁が続いている限り、会えば挨拶くらいはしてやろう。
そう素直に思えるくらいには猿渡という人間は嫌いになれそうになれなかった。

そんな風に考えられること自体、俺自身変わりつつある証なのだろうか。

「まー俺からの話はそんなもんでこっから本題なんだけど、牛山がヒキタニくんとタイマンしたいって言ってるから講義終わった後にでも付き合ってやってくんね?」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 18:44:55.98 ID:R/29QPn/o

え。

「……タイマン?」

「タイマンタイマン、男同士一対一ってタイマンしょ」

牛は牛でも紳士牛だと思っていた牛山某もやはり野生の本能に抗えなかったか……いやいやマジで?
あの体格の益荒男と一対一? 俺病院送り? もしくは突然の死?
俺赤い服とかアクセサリーなんて身に着けてないんだけどなぁ。牛君迫真の興奮。

「猿渡クン、それタイマンと違うよ……牛山クンもヒキタニクンと話したいことがあるんだって」

「……ま、そりゃそうだよな」

猿野郎の語彙力と知恵足らず振りを見てれば概ねそうだろうとは思っていたとも。
でも学食に連れて行かれたときの馬力が未だ記憶におニュー。
あんなんと物理的に対立するなんて想像するだに恐ろしい。
だから一分一厘でもリアルファイトの可能性があるなら避けたいところ……なのだが。

「や、やっぱり牛山も……なのか?」

「そうそう、てか俺が言わんでも見てりゃ一発で分かんじゃん?」

猿と一緒で薄々感付いていた……というかある意味一等分かり易くもあったけど。
正直逃げたいが、俺と牛山だけの問題ならまだしも由比ヶ浜が絡むとあっては無視するわけにもいくまい。
人との関わりはそのまま荷物の増加を意味するが、それは得られるリターンとトレードオフなのだ。多分。
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 18:47:19.10 ID:R/29QPn/o

「……牛山も話分からない奴じゃないとは思うけど、もしアレだったら俺も一緒に行っとく?」

「いや、大丈夫だ」

問題無い。しまったこの台詞はフラグになるじゃねぇか。
まぁ殴り合い(一方的)の可能性は0じゃないってだけで実際は杞憂なのだろうが。
牛山が裏表無く「出来た男」であるということを疑う余地はない。
ならば後は地雷をポンポン踏まないよう努めるだけだ……ヤバい、そこが一番自信ない。

「ま、牛山と話し付けたらゆいゆい誘ってみんなで遊びに行くべ? ヒキタニくんいねーとゆいゆいが来てくんないし」

「え、知らない男の人と遊ぶのってちょっと……」

「知らなくねーべ!? つか女の子だったらいいんかよ!?」

おおうテンションと声量過剰だが良い反応じゃないか。こういうのでいいのか、こういうので。
その後はボケツッコミを幾らか繰り返してから、
昼食を一緒にすると約束している由比ヶ浜を待たせられないと会話を打ち切りこの会合はお開きになった。
当然の如く猿渡は「俺らと一緒すればいーじゃん?」と言い出したが、そこは空気を読んだ駒鳥さんに諫められて収まった。

猿渡には悪いが、問題無くパーソナルスペースに他人を受け入れるには俺自身心の余裕が足りていない。
今はまだ風に飛ばされ行方不明になりそうな心の標を、由比ヶ浜という重石で固定するのが精一杯だから。
適当に手を上げて二人に別れを告げると、何時もの墓場ではなく由比ヶ浜が待つベンチへ足を向けた。
また数時間後に待っているだろう修羅場を想像すると風は勢いを増して心を浚いに来る。
でも数分後に由比ヶ浜と会えるなら、修羅場の後にも彼女の笑顔が待っているなら、耐えなければ。
痛みを望んだのは俺だ。全てを受容するのは無理でも、少しずつ受け入れて行きたい。
受け入れて行かなければならない。
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 18:49:16.35 ID:R/29QPn/o



何時もより時間を短く感じた午後の講義、
終わってから俺の席に近づいてきた牛山の姿を認めると隣に座る由比ヶ浜へ先に帰るよう伝えて立ち上がる。
しかし由比ヶ浜は何時かのように俺の袖を引っ張ると

「待ってるから」

そう微笑んだ。

本当にタイマンを張るわけでもないのに緊張で雁字搦めになっていた心が解されていくのを感じ、
短く礼を告げてから牛山と合流して奴の先導で外へと向かった。

牛山が向かったのは意外なことに(若しくは俺に気を遣ったか)例の墓場が如き中庭だった。
偶然か牛山(リア充)の気配を察知したのか住人は一人もおらず、
夕暮れにもまだ早い時間だというのに寒々しさで震えそうになる。
それが単なる寒気に対する生理現象なのか、脅えて竦む心の有り様だったのか、区別は付かない。

喧嘩、真剣勝負、果たし合い……それらを称して立ち合いと言う。
人気の無い場所で立って向かい合う俺達には相応しい言葉だ。
だが俺は逃げそうになる足を止めておくのに必死、向かう牛山も俯きがちで何時より小さく見えた。

立ち合って数分、沈黙は続いている。
長く長く感じる時間の中、俺達は互いに出だしを掴めていない。
先手で有無を言わさず打ち据えるか、後の先で切って落とすのか、どちらが有利か分からない。
かつての俺ならとにかく出方を待ってから意図的に間違いを選択し、
相討ちによる明確な断絶を以て決着とするだろう。
例え間違いでも、最速最短で間違った選択という場所に居着いて安心することが出来るから。
しかし今の俺の心は逸った。
安心したいのは同じでも、その居場所を選びたいと思っている。
その為にも手加減はしない。出来ない。
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 18:51:28.63 ID:R/29QPn/o

「由比ヶ浜の話、でいいんだよな」

俺の出だしに牛山は分かり易くビクリ……とは反応しなかった。まぁ俺じゃあるまいし。
だが反応して上がった顔は、苦渋とまで言わないまでも息苦しさを隠しきれない顔色だった。

「……そうだ」

その低い声には、何時もの力強さや安定感は感じられない。圧がない。
これは隙……なのか、そもそも相手を倒すことがこの場での目的でいいのか。
何を以てどうすればいいのか全てが闇の中。
それでも大切な物を競合する相手なら、負けるわけにはいかない。
全力で、斬る。

「悪いが、俺と由比ヶ浜は付き合ってる……ここに入学する前から、一年以上」

一息。

「……だから、お前が信じようと信じまいと、俺達には関係無い」

バサリ、一直線に走る見えない斬痕。
「上手く斬れば手応えは無い」とは何処かの時代劇漫画で見たが、正にその通り。
相手の弱みに付け込んだ時に感じるグズグズとした感触ではなく、
ただ通り抜けただけにも思えるような透明感。
斬った。
斬ってしまった。
寄りによって俺が、輝きで人目を惹く類の人間を。
そこに破壊の悦や解放の喜びなんて無い。
悪い夢だ……良い夢なんかじゃ、決してない。
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 18:52:54.15 ID:R/29QPn/o

「……俺には、信じられない」

呟くように吐き出された言葉は、俺ではなく自分自身に言い聞かせるような響きを伴っていた。

「お前が……ヒキタニが悪いとか、そういう話じゃない……ただ、少なくとも今は間違っている筈のお前と、由比ヶ浜が……」

何故、そう牛山は問う。
それは俺に対して、由比ヶ浜に対して……何より己自身に問いかけているように見えた。

「……俺が間違ってるってのは否定しないが、さっき言った通り、お前の意見は関係無い」

「分かっている、分かっているが、それでも信じられないんだ。 お前は、何時から其処≠ノいて、何を見てきたんだ? どうすれば今のままで、由比ヶ浜と……お前は――」

何処へ行こうとしてるんだ?

続く言葉に俺の方がビクリと反応した。予期せぬ反撃で俺の心臓も貫かれた。
だがその威力とは裏腹に弱々しい響き、
それを吐く表情と切り分けられた肉から覗く内面に牛山という男の芯が見えた気がした。
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 18:55:12.63 ID:R/29QPn/o



気が付けば陽が落ちかけて、構内の人影も疎らになっていた。
そんな中夕暮れに照らながらベンチに座る由比ヶ浜の姿に
何時かの悲壮な決意を思い出して、不意に胸が締め付けられた。

「……よぉ」

「あ、ヒッキー」

何時もと変わらない簡易に過ぎる俺の挨拶は
今に限れば沈みがちな心中を悟られない為の作法だ。
そんな俺を正しく花の咲いたような微笑みで迎えてくれる由比ヶ浜の姿が眩しくて、
反射的に目を瞑りたくなった。

「お話、終わったんだ」

「ああ」

「……だいじょぶ?」

「殴り合いしてきたわけじゃないんだし、心配することなんてねぇよ」

「ヒッキーがそう言うなら、いいけど」

そう言うことにしておいてくれ、心中で呟くと校門へ向けて歩き出す。
立ち上がったらしい由比ヶ浜が小走りで追いついて俺の横に並んだ。
腕と腕が触れ合いそうなくらいに近いその距離は、
錯覚でなく彼女の温もりを感じさせられる。
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 18:56:59.18 ID:R/29QPn/o

校門から出て歩道へ、夕日を浴びながら駅へと向かう。
無言。
靴と地面が擦過する音と疎らな車の走行音だけが鼓膜へ入り込む。
何時もは会話が途切れて沈黙するのも珍しくなくて、
それが気まずいとは思っていなかったのに今は後ろめたい。

「……その、あれだな」

「ん、なに?」

「牛山って良い奴だな」

「そうだよ、いい人だよね」

好きな娘にいい人認定されるのは辛いなぁ……なんて心中でも茶化せない。
話を終えて振り返る。牛山は由比ヶ浜に惹かれつつも、
如何にも社会不適合な俺のことを心配していた……とかそんなニュアンスを受け取った。
それは牛山もまた俺とは相容れない類の人間で、その根は猿渡や駒鳥さんよりも深いことの証明だった。
真っ直ぐでお節介で苛々するくらい正しくて、だからこそ奴が善良な人間であることは確かで、
そんな牛山が俺という路傍の石に躓き転んだ事実が今は重かった。
大きなお世話だと、鬱陶しいと思っていても牛山の気遣いは俺にすら否定出来ないものだったから。
だというのに俺もまた、意図的でないにしろ奴の過剰な脚力で蹴っ飛ばされた痛みが残っている。
お互い攻撃しよう、傷付けようなんて思ってもいなかった筈なのに。
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 18:59:15.30 ID:R/29QPn/o

「……彼奴に、俺は間違ってるんだって言われた」

足を止めて言う。
歩きながらだと、風で足を取られて転んでしまいそうだと思ったから。

「何が正しいかなんて分かんねぇし、自分が正しいとも思ってない……でも、間違ってるって誰かに言われて、不安になった」

「……うん」

由比ヶ浜も足を止め、俺と向き合っている。
抽象的で要領を得ない言葉を受け止め、俺の顔を見つめて頷く。

正しいとか間違ってるとか幾度となく考えてきて、
その蓄積が今の俺を形成していた筈なのに、全て真っさらになったように今は感じている。
口にした通り不安だった。
本当に、由比ヶ浜だけが今の俺を繋ぎ止める楔だった。
だから、

「お前も、俺が間違ってるって思うか?」

そう尋ねずにはいられなかった。
否定して欲しかった。由比ヶ浜結衣にさえ言って貰えれば、それだけで良かった。
かつての俺ですら唾棄するような女々しさで、無遠慮に由比ヶ浜に体重を預けようとしている。
恥だ。
破廉恥だ。
それでも求めずにいられないというなら、これを恋とか愛と呼ぶのだろうか?
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