【R-18】由比ヶ浜結衣はレベルが上がりやすい

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302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 19:01:17.14 ID:R/29QPn/o

「んー……」

問われた由比ヶ浜は人差し指を唇に当てて思案顔になり数秒、

「何のこと言ってるか分かんないから答えようがないかな?」

破顔した。

「……ですよねー」

うん、大概抽象的だった。
つか黒歴史ノートに追記確定の痛々しい問答だこれ。架空バスケ部並にペインフル。
この流れを由比ヶ浜が陰湿な匿名掲示板に投稿してコピペ化しちゃったらどうしよう、○ぬか俺。

……否定して欲しかったのは本当だが、今のこの流れも望んだモノの一つだった気がする。
ウダウダジメジメ訳の分からん理屈を捏ねくり回して、それを由比ヶ浜がバカっぽく受け止める。
在りし日の部活の光景を思い出させる郷愁が溜まらなく暖かく、胸を締め付けた。

「変なこと言って悪かった……帰ろうぜ」

「うん、帰ろ」

また歩き出す。隣に並ぶ。
近すぎるくらいの距離は変わらなかったが、一つだけ。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 19:02:58.44 ID:R/29QPn/o

「ね、ヒッキー」

由比ヶ浜の手が俺の手に触れた。

「正しいとか、間違ってるとか、良く分かんないけど……でもね」

少しの力で壊れてしまいそうな小さな指に力が込められる。

「正しくても、間違ってても、あたしにとってヒッキーはヒッキーなんだ」

俺の手を握って、由比ヶ浜は言う。

「だから、そういうの関係なしで、あたしは傍にいるから」

その温もりは直接的で、さっきの距離よりもっと深く伝わってきた。
何より生々しいその感覚はいっそ切なくなるくらいに暖かかった。

「お前の言ってることも大概抽象的で分かんねぇな」

「……分かんない、かな?」

「いや……」

この温もりを少しでも何かに変えたくて、返したくて、俺も手を握り返す。
一方的だった力のベクトルは向かい合って、手を繋ぐ形になった。

「分かるよ」

「うん」

俺の返答に、由比ヶ浜は嬉しそうに笑って見せた。
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 19:05:16.02 ID:R/29QPn/o

この間の危うすぎるスキンシップと、今の笑顔と、手を伝う温もり。
ダメだ。もう俺は、少なくとも俺からは由比ヶ浜結衣から離れられない。
そう実感した。

だからこそ、先の牛山との遣り取りは寧ろ深く心に刻み込まれる。

「何処へ行こうとしているんだ?」

その言葉で奴は俺の立ち位置を問うた。

かつて沼に沈み込んでいく連中の手を取り救い上げてきたという男の目は、
日溜まりの中に在る由比ヶ浜と暗がりの中の俺との繋がりを歪と捉えた。
そんなことは分かっている。
歪でも、それが俺達の繋がりであればそれは他人からとやかく言われるものではないと思っていた。
ただ由比ヶ浜を好く俺と、そんな俺を好く由比ヶ浜が在りさえすればそれ以上は必要ないのだと。
だが俺は、由比ヶ浜の手を握ったまま何処へ向かっているのだろう。
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 19:06:57.83 ID:R/29QPn/o

彼女を暗がりへ引き込みたいのか、それとも彼女に日溜まりへ引っ張って欲しいのか。
それとも何処とも知れない明後日の方角へ暴走しているだけなのか。
分からないが、それでも先行きを考えないまま、
半端な立ち位置のままで誰かと共に在ることは出来ないと今は思ってしまっている。
手を繋ぎ、唇を触れ合い、そして次……そこに至るには、何処かで明確な答えが必要なのではないか。

視界に差し込まれる黄昏の橙色。
それはそのまま期待と不安とが入り混じる俺の心の映しだと錯覚してしまう程に美しかった。
光の中で徐々に空へせり上がってくる夜闇の青を見つめながら、
俺は抽象的な思考を転がしたまま由比ヶ浜と並んで家路を急ぐ。
黄昏時は逢魔が時、魔の差す時間帯だと言われている。
そんな危うい時間を超えて、俺は危難の無い夜と満たされた黎明を迎えることが出来るのだろうか。
相反する二つの感情はそれぞれ衝動を打ち消しあって、残った一つが握る手の力を僅かに強めた。
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 19:08:59.55 ID:R/29QPn/o
というわけで二話エピローグ、つまり二話完結です
長いことお待たせしてしまい申し訳ありませんでした

解説言い訳云々は飯他雑事を済ませたら投下するので興味ある方だけお付き合い下さい
それではまた後程
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 19:45:44.21 ID:nH5vpo7To
三話以降もあるんだよな?
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 20:32:50.30 ID:Mkykij6wo
乙です!
期待
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 21:12:19.73 ID:zPynVUruo
ウォーミングアップは終わったと思うので、そろそろ本気で行きましょうよ
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 21:15:36.45 ID:R/29QPn/o
どうも>>1です
話題は幾つかあるので分けて投下します
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 21:22:35.88 ID:R/29QPn/o
・遅れについて
まずは丸々一ヶ月待たせてしまい申し訳ありません
遅くとも二週間ほどで二話は締める予定でしたが、完全に見通しが甘かったです

元のプロットでは場面転換は倍以上、書いてる内に際限なく文量が増え続ける
自分の悪癖を考えれば文字数は三倍四倍になった可能性もあり
流石にこのままでは書ききれないし締められない、と思ってバッサリカットし再構築しました
お陰で登場人物の情緒不安定感マシマシ、心理心情唐突過ぎと我ながら酷い内容にはなりましたが
そんなんなるなら最初から扱い面倒なオリキャラなんて出すんじゃねーって話ですな
ハハハ……いや本当に申し訳ありませんでした

312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 21:28:54.07 ID:R/29QPn/o
・改行について
一番最初の投下時に読みにくさに関しては実感していました
しかし投下後の反応では特に読みづらくはない、とのことだったのでそのままにしてましたが
PCでは矢張り読みづらさも出ているようなので今回はちょこちょこ手を加えました

しかし台詞に関しては改行するのも変に感じたのでそのままですし、
単純に本文一行が長くならないようただ改行しただけなので今回不格好さはかなり強めな感じ
今後は掲示板投稿というフォーマットに合わせて文章も考えるべきか、などと思案中です

なお最初の段階でツッコミが入らなかったことに関しては
スマホで読んでいる方が多かったのかな、などと予想しています
実際どうなんでしょう

313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 21:37:39.74 ID:R/29QPn/o
・今後について
二話で完結?と感じられている方もおりますが、まだまだ続きます
>>113でも書いた通り今の面倒臭い流れは次回までになる予定で
以降は普通のイチャエロスレになる筈です
とりあえず今は「三話とっとと書かねば」というところ

一応次回更新は長めに見積もって二週間辺りを目安に考えてます
勿論早く仕上がったり、区切りの良いところまで進んだらその都度投下する予定です
期待せずお待ち下さい

今日はこんな愚痴までお付き合い頂き有り難う御座いました
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 22:26:40.36 ID:7Tmt+4+ao
乙! 気長に待ってる
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 22:42:34.35 ID:qHueoxpb0
乙!待ってます
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/19(月) 12:42:07.93 ID:V/zounz6o
言いたい奴には言わせておけばいい
ROMっててもってる奴はいるから
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/19(月) 23:33:57.34 ID:glqjVHaYo
ヒッキーの今後の頑張りに期待
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/21(水) 12:59:49.90 ID:fLAJrhjzo
なかなか魅力的なオリキャラだったと思うぜ、特に牛さん
>>298あたりの問答がとてもよかった
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/21(水) 13:21:24.15 ID:wZu/8DsAO
いちいち部外者がしゃしゃり出てくるなよと思ったが、
一年付き合っといてまだカースト云々で悩んでるとか
端から見たら異常だよな
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/22(木) 18:48:33.91 ID:YPnDLvF7o
真のぼっちとは個々の環境にギリギリ適応出来ても広義での社会性は上がらないのである
どうも>>1です

とりあえずプロットは出来たので導入部だけでも週末に投下予定です
期待せずお待ち下さい
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/23(金) 23:04:22.16 ID:Cxggbywfo
どうも>>1です
短いですが切りの良いとこまで書けたのでゲリラ的に投下します
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/23(金) 23:06:47.83 ID:nAOdQdypO
ぬん
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:06:48.24 ID:Cxggbywfo
Bその恋人達から零れそうな涙の色は



カラカラカラカラ

キリキリキリキリ

フィルムの回るノスタルジックな快音が鼓膜を震わす。

薄暗い空間の中にあって視界にはセピア調の映像が投写されたスクリーンが映っていた。

所狭しと規則的に並んだ椅子と座る人々の様子まで踏まえ、ここは映画館であると認識する。

上映されている映画は何処か見覚えのあるようで、
しかし細部はボヤけ音声もノイズ混じりでどうにも作品に入り込めない。
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:09:34.01 ID:Cxggbywfo

それでも断片的な情報から判断できるのは、この映画がC級以下の駄作であるということだ。

学校が舞台のようで、暗い目と表情をした偏屈そうな男子と彼を囲む二人のヒロインの話らしいが、
曖昧な屁理屈で困難から逃げ回る主人公はどうもイライラして、何故こんな男が二人の美少女に囲まれているのか
理解出来ず空き缶の一つでも投げつけてやりたい衝動に駆られる。

逆にヒロインらしき二人の少女は非常に美しく目を惹かれたが、主人公のいい加減な態度に怒り、
心ない言葉で悲しむ姿に胸が痛むばかりでただフラストレーションだけが溜まっていった。

どれだけ時間が経ったか、何かを欲しがっているらしい主人公を中心に物語は収束していき、
気が付けば二人のヒロインは一場面に一人ずつしか映らなくなっていった。

ある場面、夕暮れに照らされる放課後の教室らしき空間で、
長く艶やかな髪と凜とした表情を持ったヒロインの片割れが憂いと決意を帯びた表情で主人公に語りかけている。

相変わらずノイズの混じった雑音のような声だが、台詞の一部がハッキリと耳に届いた。
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:11:21.04 ID:Cxggbywfo

――……たしは、―――君の……が、――

瞬間、衝撃を受けた。

聴覚の拾った振動が鈍器で殴ったような直接的なエネルギーとなり、脳髄を強引に覚醒させる。

すると映像は輪郭を持ち、音声も透明感を取り戻す。

ああ、俺は知っている。

この顔を、この声を、この場面を知っている。俺自身が知っている。

自覚すると衝撃の余波は痛みとなって胸へ至り、心臓を痛撃した。

それと同時に周囲の観客がパラパラと席を立ち始める。
バラバラと物音を立てながらスクリーンに背を向ける。

隣の客も席を立つ。

見上げれば、その顔は良く知った顔だった。
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:13:34.47 ID:Cxggbywfo

今さっき見ていた顔だ。

スクリーンに映った顔だ。

誰より何より知っている顔だ。

アレは――俺だ。

見渡すと、館内を埋めていた観客達は皆俺だった。

スクリーンに映るどうしようもない男は俺だった。

二人のヒロインは、誰より近く何より遠い、かけがえのない人達だった。

映画は、追憶だった。

やがて何事かの意見の交換を終え、ヒロインの―――が涙を流したところでブラックアウト。

数秒の後、シーンは切り替わった。
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:15:41.86 ID:Cxggbywfo

マズい。これ以上はマズい。

さっきの場面が―――の――なら、次に待っているのは
それ以上にどうしようもなく惨めで痛くて大切な記憶だ。

出来れば心の奥底、幾十も鎖と鍵で閉じ込めて二度と浮き上がらないよう、
しかし喪わないよう大切にして置きたかった感傷だ。

気付けば館内には俺――この席に座っている俺だけ――しかいない。

もういい、俺も立とう――そう思うのと同時に再び心臓に衝撃を受けた。

見れば、胸から杭が伸びていた。

磔にされていた。

座席ごと貫いた杭から血管のように細かい根が伸び、
俺の手足に食い込んで身動きを許さない。

逃がさない

無言にして無音だが、その杭は何より雄弁に語っていた。
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:17:52.80 ID:Cxggbywfo

ならばせめて、そう思って背けようとした顔すら逃がさぬと
根は首まで伸びてスクリーンの方角へ固定した。

目すら閉じさせぬと根は目蓋まで伸びて瞬きすら許してくれなかった。

やがて新しいシーンが始まる。

煌びやかな夜、美しい建築、何処かのテーマパークで向かい合う二人。

精一杯めかした俺と、さっきのヒロインとは違う少女。

片方にだけ結わえた髪の、幼い顔立ちをした活発で愛らしい少女……だった筈が、
今は悲嘆と悲愴を纏い俯いている。
その瞳からは今にも零れそうなほどに涙が溜まっている。悲しみの青い涙が。

やめろ、やめろ、やめてくれ。

やがてスクリーンの俺が、少女に向かって想いを吐き出した。

どもって、回りくどくて、しかし切実で真剣な言葉。

やめてくれ、やめてくれ、やめて。
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:21:05.68 ID:Cxggbywfo

――違うよ、――――が好きなのは、――――だよ。知ってるから、あたし――

今の貴方は偽っている、間違っていると笑顔で……涙を堪えた悲痛な表情で少女は俺の言葉を拒絶した。

――違う、俺は、お前のことだけ、―――のことだけが――

――違わないよ、――――は優しいからそう言ってくれるの……でも、その嘘が、優しい方が、辛いことも、あるんだよ――

二人はもう取り繕うことも出来ず、互いに涙を流しながら懇願と拒絶を繰り返した。

眺める俺の全身にはもう痛みしかなかった。
痛みに痛みを重ね痛みを縫い付け更に痛みが加速した。

かつての過ちとか、黒歴史とか、ただの打撲か擦過程度だったと思い知るに充分なその感覚。

スクリーンの彼らだけではない、眺める俺も涙を流していた。

痛くて、悲しくて、何時までも変われない俺自身が情けなくて、
閉じられない瞳から止めどなく熱を溢れさせた。
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:23:13.16 ID:Cxggbywfo

――もう、いいよ、あたしに気を遣わなくて、いいんだよ……――

――……――――が、あたしのことを気にして前に進めないなら、あたしは、もう――

――……――――と、――――とは、もう……――

やがて少女が笑顔すら保てず、それでも自分を抑え込んだまま沈んで行こうとしたところで、





『な゛ぁ〜』





場違いな猫の声が拷問部屋を跡形もなく消滅させた。
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:24:56.92 ID:Cxggbywfo



――……睡眠のトンネルを抜けると、そこは猫面だった。


「……ブッさ」



脊髄反射で漏れ出た台詞にノータイムで猫パンチ。

痛くはないが起き抜けにこれってのは飼い主冥利に尽き過ぎて疲れる。

目覚めて数秒のやりとりで夢とか微睡みの余韻は欠片も残っていなかった。
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:26:56.31 ID:Cxggbywfo

眠気も無いのに布団inしてても仕方無しと起き上がる……より一瞬前、
その気配を察したのか布団の上に乗っかっていた猫は軽やかにフローリングへ着地した。

床。

壁。

天井に家具。

ふてぶてしく居座る猫。

何処か違和感を感じる、けれど見慣れて安心する光景。

一人暮らしの男の城ではない何年も過ごしてきた己の一部。

実家の自室、飼い猫のカマクラ、そして、

「お兄ちゃーん、カー君部屋に居るー?」

マイシスター小町の声。

今日はゴールデンウィークの初日。

俺は連休を期に実家へと帰省していた。
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:29:18.53 ID:Cxggbywfo

実家で夜を明かすのは二ヶ月ぶり……ということもなく、生活用品に本やゲームの回収にと
今のところ二週間に一度程度のペースで帰っているので帰省と言ってもあまり有り難みがない。

そもそも安らぎの揺りかごから俺を追い出したのは家族達なんだから
寧ろ有り難がってなどやるものか。あ、有り難がってなんかないんだからねッ!

……などと脳内で益体もない寸劇を繰り広げるのも連休の朝には不毛過ぎると打ち切って、
もう眠くもない目をそれでも擦ってドアを開ける。

「おはよーお兄ちゃん……あ、やっぱりお兄ちゃんの部屋にいたよカー君」

今日も朝から可愛いな小町ちゃん!……なんて思う間もなく待ってましたとばかりに兄妹とドアの隙間をするりすり抜ける愛猫。
件の小町も俺への挨拶もそこそこに滑らかしなやかなカマクラの諸動作を目で追っていた。
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:31:06.44 ID:Cxggbywfo

「どうしたのお兄ちゃん、カー君が恋しくなって一緒に寝てたの?」

「アレが恋しくなるくらい久方ぶりの帰省ってわけじゃねぇし……なんか、朝起きたら布団の上に乗っかってた」

勿論部屋に入れた覚えは無い。ちゃんとドアも閉めた筈だ。
しかし賢く図々しい飼い猫は閉じられたドアを開けることもあるという。
それに加えてウチのカマクラはドアを閉めるまでこなすぜスゲェ!本当に全く有り難くない!

「うーん、カー君の方がお兄ちゃん恋しくな……る訳ないか、カー君だって比企谷家の一員だもんね」

「オイ待て、その言い方だと俺って比企谷家の一員は漏れなく俺に対して当たりキツイってことにならねぇか?」

「え、今更でしょ?」

今更かー、確かに誕生日忘れられてたり色々あったもんなぁ。
何より俺自身俺に対して当たりキツイからなハッハッハ……泣いていいよね、俺。
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:33:09.90 ID:Cxggbywfo

「しかしカー君の朝ご飯用意してたんだけど、食べに行ったのかなぁ……それともお兄ちゃんが朝ご飯に食べる? カー君のカリカリ」

「カリカリのベーコンエッグか、確かに食いたいが猫に食わせるには些か塩分過多じゃね?」

「返し上手いけどしてやられた感で小町的にちょっとポイント低い……じゃ、お兄ちゃんの朝ご飯はベーコンエッグね」

何時も通りと言って良いやり取りをしながら朝食の為に階下へ向かう。感じる少しの違和感。
小町ともカマクラとも久方ぶりというい程の感慨はないが、
実家住まいだった頃には感じなかった郷愁のような心の湿り気が、涙を流して渇いた心には今度こそ有り難かった。

あの夢は正直効いた。
これまで見てきた黒歴史の追憶夢や恐怖小説映画の追体験よりもずっと重く、心の深くへ痛打が響いた。

アレら≠ヘ本当にあったことだ。

互いの急所へナイフを突き立て、突き立てられ、忘れられない傷痕を残し合ったどうしようもなく陰惨で切実な真実。

だがそれを経て今の幸福――と言い切っていいかは情けないことにまだ迷うところだ――が構築されているのなら
それはただ苦しく痛いだけの思い出ではなく、だからこそ忘れてはならない過去なのだと思っている。

それでも出来れば振り返りたくない、心臓の棘を自覚した日のこと……夢に見るのは初めてだった。
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/23(金) 23:35:25.71 ID:Cxggbywfo

それだけ良くも悪くも印象に残った出来事ならば
もっと早くに夢見て魘されて良いだろうに、何故今更見てしまったのだろうか。

……いや、理由に心当たりはある。
あるが、それを回想することで再び痛打を浴びることになるのは分かりきっている。
だから敢えて深く詮索はしない。

ただ一つ、カマクラの猫らしい空気を読まない干渉には感謝していた。

痛みは避けられずとも、致命傷に行き着くまでに強引に覚醒させてくれたのは
らしからぬファインプレーと言えよう。

猫が人の感情に何処まで聡いかは分からないが、猫には人に見えないモノが見えると言うし、
カマクラなりに家族へ助け船を出した結果なのかも知れない。

ペットとの付き合いはそのくらい脳天気で前向きに考えた方が幸せなのだろう。



ちなみに俺達に遅れてダイニングに現れたカマクラ氏は自分のカリカリには目もくれず
小町が用意した俺のカリカリ(なベーコンエッグ)に飛びついて一悶着あったのだが、それはまた別の話。
三味線にしたろうかこの駄猫め。
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/23(金) 23:38:24.76 ID:Cxggbywfo
本日の投下は以上になります

何かの拍子でまた一月待たせるようなことになるのも忍びないので
今後は今回のように短い投下も挟んで行こうと考えています
濡れ場はなるべく一気に投下したいですが

また次の投下も宜しくお願いします

338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/23(金) 23:41:28.07 ID:bPGzpLlEO
地味すぎだろ
練った文書いて悦に入るのは結構だが小説ではなくssなんだからもっと話に動きがほしい
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/23(金) 23:53:50.88 ID:+YReo1xgo
乙です
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/23(金) 23:55:43.03 ID:Cxggbywfo
あと一応補足ですが、今回は三話の導入でまだ続きます

はようゆいゆいを書きたい
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/23(金) 23:58:36.89 ID:tH66R/Eqo

俺もゆいゆいでカキたいよ(意味深)
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/24(土) 07:58:40.96 ID:4DXpHg6Fo
乙、俺はここまでちゃんと書いてくれるSS見るのは久しぶりだから期待してる
投稿スピード上げて今までみたいなのが書けないなら普通にまったり投稿の方がいいかな
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/10/27(火) 06:11:04.54 ID:X1V+CIsM0
まだけ?
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/27(火) 15:47:16.96 ID:54/+nt/t0
まだ序盤しか読んでないがいい文を書くのになんで余計なことを書いてしまうのか
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/03(火) 01:27:31.19 ID:qtO6m/qLo
今一番の楽しみだ
ここからが本番だろうし続きにも期待にしてるぞ
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/03(火) 19:20:16.88 ID:VgyszyCPo
もう二度と秋刀魚なんて捕りに行かねぇぞ、どうも>>1です
遅れてしまって申し訳ありません……なんとか今日の深夜か明日、遅れても今週末には投下する予定です
期待せずお待ち下さい
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/07(土) 13:35:26.84 ID:j6j2F3JJ0
待ってるぞーい
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 15:32:17.79 ID:FwRKI0Dwo
どうも>>1です、現在推敲中です
多分21時には投下出来ると思うんで期待せずお待ち下さい
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 16:16:56.41 ID:/9noCIkuo
あいよー
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 16:18:38.30 ID:nbH8QQ3jo
おうよ
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 18:13:37.89 ID:Y6wk8qwjo
全裸待機
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 21:10:07.86 ID:FwRKI0Dwo
どうも>>1です、第三話の続き投下します
が、今回は注意点多し

・比企谷家の家庭事情(若干)捏造
・某スレと展開(若干)被り
・ゆいゆい登場せず
・故にエロも無し

以上了承頂けるならお付き合い下さい
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:13:43.60 ID:FwRKI0Dw0



俺の主義とは反するドタバタ騒がしい朝食を終え今日は岩のように大人しくしていようと思ったものの、
一人でいれば夢の余韻で心を蝕み、かといって居間にいれば小町だけでなく
(祝日に休める程度には本当に時間の余裕が出来たらしい)両親から質問攻めに遭い疲れ切ってしまった為、
逃げ去るように実家を後にしていた。

いや俺、家族内じゃ影か空気みたいな扱いだった筈なんだけど、皆なんでそんなに八幡君に興味津々なの。
実は家族全員ツンデレで俺のこと好きだった? それともモテ期なの?
限界集落の住民みたく単にゴシップに餓えてただけだってのは分かってますとも、ええ。

それでも小町と比較して十対一、33-4くらいに注がれる関心や愛情に差があると思っていたから、
向けられる好奇はウザったいしくすぐったくて、なんだかんだ家族なんだなと変なところで納得していた。

大学合格強制独り立ちの決まった後日、それでもお祝いと回らない寿司屋に連れて行かれた時も
母親の生暖かい視線に感慨深そうな表情で何時もより酒のペースが早い親父の様子が珍しく、
どれだけ近くで暮らしていても知らないこと、知らなかったことはまだあるんだと思わされたばかりなのに。
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:15:33.73 ID:FwRKI0Dw0

実際やり過ぎなくらいには小町との愛情格差はあったがそれも両親が俺を疎んでいたとかではなく、
俺が良くも悪くも自己完結した子供で手がかからなかったからではと今は考えることが出来る。

手間のかかる子ほど可愛らしいとは言ったもの、小町がどれだけ愛らしくしっかり者に見えても
独りぼっちの留守番に耐えかねて家出するくらいには不安定且つ行動的だったわけで。
それだけ愛情のリソースが必要な子供がいれば平等な扱いなど難しいものだ。

一方俺は友達のいないぼっちの癖してただ生きていくことに疑問を感じない程度には鈍感で、
けれど妹には気を遣えて、それはひたすら忙しい大人にとってはさぞ頼もしく見えたことだろう。

大人の目線からの信頼もある意味家族の認定。だが大人の信頼が子供を満たすかどうかはまた別の話で、
それが全ての元凶と言うつもりはないが結果として俺は立派に捻くれ育ってしまった。

距離が近ければ分かり合えるわけじゃないし、本心を伝えられるわけでもない。

それでも今は環境の変化に起因した親族の未知を、痛みからではなく興味を以て見つめることが出来る。
まぁ、その……多分悪い家庭ではなかったのだ、比企谷家は。
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:18:20.03 ID:FwRKI0Dw0

とはいえ今はその愛情とか家族の証がひたすらウザい。
俺がいない間に小町が何を吹き込んだのか彼女がどうとか連れてこいとか言い出して冷や汗かいた。
無理矢理振り切って家を出る際に

「あれ、まさかお兄ちゃん結衣さんとデート……!?」

とか分かりきった小悪魔スマイルで言い出した小町は大層可愛らしく憎らしさもマシマシ。
後でシバくと心に誓ったが、でもこの分じゃ家帰ってもさっきの再現にしかならんかな……。
もう俺の家は一人暮らしのあの部屋なんだ、家に帰りたい。

と言っても実際ノープランで家を飛び出して、
この後どうするかと考えた時真っ先に思い浮かんだのは由比ヶ浜の顔で……突発的でも誘ってみるか?
と歩きながらたっぷり二十分悩んでいると件の由比ヶ浜からメール。
以心伝心、渡りに舟と喜び勇んで開いてみると



『今日は優美子と姫菜と遊びに行くんだ〜、ヒッキーも来る?(デコ略』



……行けるわけないだろ! いい加減にしろ!

と、夢も希望も無い展開に絶望した俺はそれでも救い(ソウル)を求め町を彷徨っていた。
人間性を捧げよ。
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:20:27.55 ID:FwRKI0Dw0



歩いて、駅について、電車に乗って次の町へ。
特に目的もなく流離う一人旅は、これが案外悪くない。
運動したり太陽光を浴びると鬱を誘発する脳内物質が減少するとかなんとかで、その効果を実感していた。
運動は鬱に効く、故に悠々快適ぼっちライフの為には部屋に籠もりきるのではなく適度な外出や運動が不可欠。
これはぼっちアスリートの道が開けている……? 
山にでも登ろうか孤高っぽいし、神々の山嶺は原作も漫画版も超面白かったしな。
ぼっちであることをひたすら想え。想え――。

なんぞと変に前向きな思考を走らせつつ、それでもゴールデンウィーク故かなんでもない町中にも人は溢れている。
そんな中に紛れては疲労もして、次第に重くなっていく足を思うと運動趣味というのも中々厳しそうだ。
やはりぼっちアスリートへの道は険しい。俺には無理だった。
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:22:46.48 ID:FwRKI0Dw0

しかし疲労するということは考えが散漫になるということで、
これも思考が大きな穴だけに留まらないという運動に於ける鬱予防の効果の一つなのだろう。
体力と引き替えに僅かな心の平穏を得て、このまま何処に行こうかと悩んでいたところで、

「あれ、ヒッキーくん?」

聞き覚えのある声と呼び名が背中を叩いた。

足と相応に心も弱っていたのかヒッキー≠ニいう部分のみに反応し
俺は由比ヶ浜の存在を期待して反射的に振り向いた。
そしてその包容力を示すような柔らかい声と君付けの呼び方が、
由比ヶ浜は由比ヶ浜でも由比ヶ浜結衣でないことを再認したゲシュタルト崩壊in由比ヶ浜。

「やっぱりヒッキー君じゃない……えーと、やっはろー?」

その挨拶は年甲斐ない、とは言えないくらいに若々しく瑞々しい大人の女性。
由比ヶ浜結衣の母親、俺呼んで由比ヶ浜マが立っていた。
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:27:35.45 ID:FwRKI0Dw0



「ごめんね〜付き合わせちゃってぇ」

「い、いえ……俺も、特に用事とか無かったんで」

俺は今、何処とも知れぬ喫茶店で彼女の母親と同席している。
買い物のため遠出をしていたママさんは偶然俺の後ろ姿を見かけて声をかけ、
時間も頃合いだしお昼を一緒にしないか?と誘われ軽食と茶目当てで直ぐ近くにあった店に入ったのだった。
ママさんはサンドイッチ、俺はハンバーガーを頼んだが全て自家製手作りらしいボリューム満点のハンバーガーは
ファストフードの挟み物に慣れきった若者の舌には驚くほどの幸福感を(中略)今は食事を終え一息吐いたところだ。

どうしてこうなったと言うには、まぁ流れは自然だったろう……だが、

「もう結衣ったら、折角の連休なのにヒッキーくん放って置いて友達と遊びに行っちゃうなんて酷い話よねぇ」

「別に、気にして無いです……と、特に約束もしてなかった、ですし」

「ヒッキーくんがそう言うなら良いけど……でもそのお陰でヒッキーくんとこうしてデート出来てるんだから、少しは感謝しなきゃかもね?」

「デッ、デー……!?」

「ふふふ、こんな若い子とデート出来るなんて、結衣には悪いけどおばさん嬉しくなっちゃうわ〜」

終始翻弄されっぱなし、これが大人って奴か……!?
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:29:43.11 ID:FwRKI0Dw0

正直、ママさんのことは苦手だ。
苦手と言っても嫌いだとか会いたくない訳じゃなく寧ろ俺には珍しく好意的に接したい相手なのだ。
が、それ故に落ち着いて対応したいのに彼女の持つ属性・空気は俺を落ち着かさせずにはいられない。
由比ヶ浜の姉と見まごうほどに若々しく似通った容姿と甘い声、
そして由比ヶ浜結衣の持つ包容力のレベルを更に上げて、
吐く息からすら包まれている♀エじを錯覚させる。
ふとした拍子に、彼女はそのまま未来の由比ヶ浜結衣なのでは?
と思ってしまいそうなほど、俺には魅惑的で危険な人だった。

三年時、勉強目的で由比ヶ浜の家に行ったとき遭遇する度その甘い魅力と近すぎる距離感にクラクラして、
必死に引き剥がそうとする由比ヶ浜の存在がなければどうなっていたことやら。
理性のタガが外れて襲いかかる、とまで行かずともこれまでの黒歴史が生易しく思えるほどの醜態を晒した可能性を否定出来ない。

なんというか、今の俺には相対すら早すぎる人なのだ。
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:30:54.80 ID:FwRKI0Dw0

「……でも、良かった。 こうやってヒッキーくんと二人きりで話せる場を持てて」

「二人きり、ですか」

二人きり、という部分にイントネーションが寄っている気がしてドキリとしてしまう。錯覚だろうけどね実際は。

「ウチだとどうしても結衣も一緒になっちゃって、そうすると話せないこともあるし……ね?」

こちらに確認してくるような発音と視線が一緒になって、どうにもイリーガルでアナーキーな妄想が広がってしまう。
由比ヶ浜と一緒だと話せないこと……な、ナニを話すんですかねドキドキ。

だがそんな俺の不埒な予想は(当たり前だけど)外れ、ママさんは俺に向かって頭を下げた。

「ありがとう、ヒッキーくん……サブレと、結衣を助けてくれて」

「へ?」

「サブレを助けてくれたことは結衣から聞いてて、私もお礼にって思ったんだけど、結衣に『あたしが行くから!』て止められちゃってたのよねぇ……だから今更だけど、ありがとう」
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:33:09.62 ID:FwRKI0Dw0

それは俺と由比ヶ浜……だけでなく、総武高校奉仕部に於いて全ての始まりとなった出来事だった。
入学式の日、車に轢かれそうになった由比ヶ浜家の飼い犬・サブレを俺が助けて事故に遭い、
その車に乗っていたのは……という話。
その事実を知った俺の一方的な態度で一度繋がった関係は終わり、
でもある助言で再び繋がることが出来た、痛くて苦くて酸っぱくて少しだけ甘い思い出。

「は、はぁ……別に、俺は、その……偶々、偶然です」

「ふふ、やっぱりそんな謙遜して、結衣の言ってた通りね〜」

「す、すんません、でも本当に……」

「本当に偶々でもサブレを助けて貰ったのは事実で、ヒッキーくんが何を意図したわけでなくても、そのお陰でサブレが助かっていたならそれは胸を張ってもいいことなの……もっと素直にお礼も受け取って、誇らしくしてくれてもいいんだから」

「はぁ……」

責めるわけでなく、嗜めるわけでもなく、有無を言わさぬ逃げ場のない暖かさが俺を包む。
むず痒くてくすぐったくて、でもひねた俺ですら心の底では求めて止まない確かな温もり。
もう少し苛烈というか厳しさもあるが、恩師の言葉や態度もこれに通じるものがあった気がする。
俺の尊敬する大人の女性、その理想の形は彼女らであるのかもしれない。

ところで妙齢の女性が「偶々」ってアクセント変えたらちょっと興奮しますね。
フヒ、フヒヒッ……これ、顔に出てたら終わってたな色々。出てないよね?
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:34:59.16 ID:FwRKI0Dw0

「その、サブレのことは受け取りますけど、由比ヶ浜を助けたって、受験のことですか?」

仮にも進学校である総武に何故由比ヶ浜結衣が入学できたのか、
これは総武高校七不思議の一つとして俺が妄想していることである。
時折見せる大人っぽさと裏腹に由比ヶ浜の学力は本当に色々アレで、それで尚

「ヒッキーと同じ大学に行く!」

と言って聞かなかったので俺は受験に大切な三年の勉強時間に大変なお荷物を背負うことになったわけで。
いやでも一緒に勉強とか実際は嬉し恥ずかし、由比ヶ浜が合格したのも教え子の努力が実ったって以上に
思うところがあったりしましたがね。

「そんなこともあったわね〜、ヒッキーくん結衣の面倒見てくれてありがとう……でもそれじゃなくて、去年結衣が一週間くらい学校休んだでしょう? その時のこと」

どくり

心臓が跳ねた。

去年とは、三年のゴールデンウィークのことではない。それより前の二月の半ばから下旬にかけてのこと。
高校二年、これまで短い人生の中で最も濃密な一年の中で、最後に訪れた最大の事件。
脳裏に一年前の俺達の姿……夢の風景、その続きが走り抜けた。
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:36:50.88 ID:FwRKI0Dw0

「あの時の結衣、本当に熱出して寝込んでたの……でも直ぐに良くなって、それでもまだ調子悪いから学校休むって聞かなくて」

バレンタインを過ぎ、その中で発生した奉仕部最後の依頼を解決……と言えずともその露払いと準備を終え、
恐らくは長くなるだろう戦いに赴く依頼主の背中を押し、その中で決意を固め、
いざ俺自身も戦いを始めようと思ったらその相手である由比ヶ浜は熱を出したとかで学校を休んだ。

格好付けようとすればするほどスカを食らうのは俺の人生の様式美みたいなもんだから、
変に硬くなるならそれもアリだろうと思っていた。
……それよりもっと前に戦端は開かれていたことに俺は気付かなかった。気付けなかった。

「叱ろうと思ったけど、何時もだったら楽しそうに何度も話してくれたヒッキーくんとゆきのんちゃんのことを全く話さなくなってて……バレンタインのクッキー、凄く頑張ってたの見てたから、この子はきっと無くしてしまったんだって考えたら、何も言えなかったの」

バレンタイン、渡されたクッキー。あの時の由比ヶ浜の心はどれほど傷んでいただろう。
この期に及んで俺は想いを形として示されることを怖れ、だのにそれを否定する言葉を認めたくなくて、
その癖自分の理想だけは捨てられなくて、未成熟な学生とてあの時の俺ほど傲慢で愚かな人間は他にいまいと確信している。

そしてこれまで出来るだけ口に出さぬよう、思い出さないように努めてきた名が棘の痛みを誘発する。



ゆきのん



雪ノ下。


364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:39:16.04 ID:FwRKI0Dw0

「あの子、今はあんな見た目だけど鈍くて恋なんてしたことなかったのに、その一番最初でこんなに辛い思いをしているなら、これからどうなってしまうんだろう……十何年も一緒に暮らしてきて、あの子のことは誰より分かって近くにいるのに、何かしてあげたいのに、何も出来ないのが歯痒くて」

そう、近い存在なら救える、何かしてあげられる……それは絶対ではない。
どれだけ長く寄り添い合う存在でも、結局は表層的な反応を印象に焼き付け、深層にあるものは想像するしかない。
近しい人間を赤の他人より多く助けてやれるとしたら、それは経験則で行動や心理のパターンを予測し対応しているに過ぎない。
そしてそれが現実の中で起きていることなら、読み切れない乱数は何処かで必ず発生する。
だから家族だって喧嘩するし、仲睦まじかった筈の恋人達がふとした誤解や思い込みで別れることもあるだろう。
人はどれだけ見識を深めても主観から逃げることは出来ない。俯瞰で他人を見定められる人間なんて存在しない。

それはきっと俺の憧憬する大人達でも例外ではなく、由比ヶ浜親子ですら……これはそういう話なのだ。
今朝俺が感じた比企谷家の距離感と似ているようで、それはもっと深くて重い。

「……だからヒッキーくんがお見舞いに来てくれて部屋から結衣を連れ出してくれたとき、またあの子からヒッキー君のお話を聞けるようになったとき、あの子にとっての王子様が現れてくれたんだって、私は大きな荷物を降ろせたんだって思ったから……だから、ありがとう」

そして、再びママさんは頭を下げた。
十何年分の重み、その最後の負荷が彼女の背を曲げさせたのだ。だがそこに苦しみや疲れは見えない。
俺にはまだ実感しようがないが、きっとそれは充実感と解放、その両方に起因した喜びなのだろう。
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:40:51.26 ID:FwRKI0Dw0

しかし、

「お、王子様って……そんな柄じゃないですよ、俺」

「ふふふ、家でヒッキーくんのこと話す結衣を見てたらそれ以外に言葉が無いもの、ヒッキーくんがどう思ってても由比ヶ浜家にとってヒッキーくんは白馬の王子様なのよぉ?」

えー、何このヨイショ。
宗教勧誘の前段階? それとも美人局?

なんかもう顔が熱い。多分てか絶対に赤くなってる。
言うに事欠いて白馬の王子様って。白(痴で)馬(鹿)の(自称)王子様なら分からんでもないが。
つか由比ヶ浜家って括りだと、まさかファブリーズパパヶ浜さんも俺の話聞いてる?
そっちは寧ろ怖いんですけど……。

まぁそれは良い、俺が二枚目か三枚目かなんて枝葉みたいなもんだ。
それより重要な話の幹は、

「……そもそもあいつを助けたのは俺じゃないんで」

これだ。
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:42:24.17 ID:FwRKI0Dw0

「謙遜することないのに……ヒッキーくんが結衣に告白して全部丸く収まったんじゃないの〜?」

……寧ろ由比ヶ浜が家でどういうこと話してるのかが気になってきた。
俺なんか顎が鋭角な非現実的ハンサムヒーロー扱いになってんじゃないだろうな。

とはいえ、告白という部分にだけ注視するなら、話がそこだけに止まっていることは理解できる。
そこだけ≠オか話せないはずだ。

多分、あいつは。

「あいつ、雪ノ下の話はしてましたか」

沈黙。

ママさんは一瞬呆気に取られ、そこから暫く思案に入った。

そして、

「……そういうことなのかしら?」

なんら具体性の無い問い。だが俺には分かる。
これは“そういうこと”なのだ。

「……助けた、というのは正しくないかもしれません。 でも強いて言うなら助けたのは雪ノ下で、俺はそのお零れに与っただけの……そういうこと、なんです」

そして今俺と由比ヶ浜は二人だ。
どちらの隣にも、間にも、雪ノ下はいない。
スペースが無いんじゃない。
いない≠フだ。
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:44:38.08 ID:FwRKI0Dw0

「俺は、本当に何もかもの最初から、自分で決めたことなんて何も無かったんです。 誰かに頼まれて、お願いされて、それに対応するだけで、その裡にある気持ちなんて考えもしないで」

ママさんには好意的に思われたいし、悪く思われたくない。
そう強く思っている筈なのに、口は理性の関所をすり抜けて語る必要のないそれ≠垂れ流す。

「それで、欲しい物を自分から口に出来ても、それはただ自分の我侭で、その裏にあるあいつの……あいつらの気持ちや欲しい物を見て見ぬ振りして」

子供らしい浅慮な思い付きでで墓の下まで持っていこうと決めていた筈の本音を、まだ関係の薄い誰かに投げつけしまう。
それこそ由比ヶ浜や小町にすら隠したままでいようと思っていた醜さの塊。
俺の本質。

「それで自分に都合の良い場所へ腰を下ろして、それを支えてたあいつのことを忘れて、その癖あいつのことが欲しくなったら体重預けたまま願望だけ勝手に押し付けて」

優しく理想的な大人である彼女なら受け止めて貰える、そう勝手に信じ思い込んで吐き出し続ける。
汚く。
卑しく。
嫌らしい。
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:46:14.49 ID:FwRKI0Dw0

「結局俺はあいつらに何もしてやれなくて、今だって何かの度自分に嫌気が差すし、そんな自分を見られるのが辛くて距離取って、でも別れる気なんて全くなくて、本当に、自分勝手なままで……」

言いながら、本当に自分自身に嫌気が差す。黒いモノを抱えたままグルグル同じ場所を回っているだけの愚物。
あんな夢を見たから今こうなってるんじゃない、こんな自分だからあんな夢を今更見たのだ。
変わろうと誓った傍から「間違っている」と言われ、それをはね除けることも出来ず誓いが揺らぐ。
その癖自分の欲望優先で独りになることも選べない。
かつてのように虚勢でも独りであることを選び続けた方がまだマシである筈なのに。

間違ってるというなら、こんな俺が誰かと道を共にしていること自体が間違いなのだ。

それ以上は何も口に出来ず俯き、再度場は沈黙する。
連休の昼時だと言うのに人気も疎らで静かな喫茶店は何時もなら有り難いのに、
今は静けさが不可視の針となって俺を突き刺し苛んでいる。
硝子戸の壁に阻まれ小さくなった雑踏だけが時間の経過を示す短針だった。

何秒か何分、数えてもいない時間が経過し、

「……やっぱり、ヒッキーくんは真面目なのねぇ」

呆れるでもなく暖かい響きのまま、ママさんの言葉が沈黙を破った。
しかし、その言葉の意味するところは俺の発言が意図した方向とは真逆だった。
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:47:46.05 ID:FwRKI0Dw0

「真面目って……俺の話聞いてましたか? その真逆ですよ、俺は」

「そんなことないわぁ。 月並みだけど、本当に不真面目な人ならそんな風に自虐はしないと思うし、真面目過ぎるのね、きっと」

下からどうしてもジト目で卑屈に見上げてしまう俺に、ママさんは頬に手を当て変わらぬ笑顔で答えてみせた。
どうしたって曲解しようのない言葉をそれでも曲解しようとしてしまう陰気な俺と裏腹に、
何処までも陽気を振りまく彼女と俺は平行線だった。
それは俺に踏み込み何時の間にか隣に居座った……由比ヶ浜結衣と同じ。
本格的に二人の姿がダブり、心臓がギシリと軋んだ。

「……誤解です、貴女は俺のことを良く知らないからそう言えるんです」

「そうかしらぁ? 結衣からたくさんお話聞いてるし、去年はよくウチに来てくれたし、今だってこうやって話してるでしょう?」

「それだけで判断しているなら、それは早計か、情報源が主観的過ぎます」

「でも、結衣から聞いたお話とそんなに差は無いけど〜……あ、でも確かに時々ヒッキーくんが少女漫画に出てくる男の子みたいに格好良くなってることはあったかな。 ね、聞きたい?」

「い、いえ……」

やっぱそういうことになってるのか、今度あいつから聞き出し……はいいや、怖いし。
妄想と現実の落差で墜落死余裕でした。俺が。

「それはそれで残念……でも、そこ以外も本当に一緒よぉ? 真面目で、気遣い屋で、優しくて」

「や、だからそれは」

「……だから、わざと間違った方に行っちゃうんだって、結衣が悲しそうに話してた」



軋むどころではない。

心臓が止まる。

お前は間違っている

何時かの放課後、もう聞き慣れてしまったバリトンボイスで紡がれた言葉が脳裏で再生された。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:49:21.03 ID:FwRKI0Dw0

「確かに私が聞いたヒッキーくんはあくまで結衣にとってのヒッキーくんかもしれない……それでも、そのヒッキーくんがぶつかった問題や答えに独りで真摯に向き合ってきたんだってことは分かるつもり。 そのくらいには娘の、結衣のことを信用してるの」

真面目。

真摯。

そんなもの自分とは最も縁遠い言葉だと思っていた。否、今も思っている。

しかし、俺は俺なりの最善で問題課題へ回答をぶつけてきたつもりで、それはきっと正しい。
例えその内実が意趣返しや怨念返しだろうと、そこまで積み上げて来た自分を否定することは出来ない。
それを否定することは俺が何より嫌う欺瞞で、比企谷八幡という積み木の土台を抜き取るに等しい行為。
だから否定しないし、出来ない。

その固執が何よりの間違いであることを知っている癖に。

「……ヒッキーくんは、結衣はどんな子だって思ってる?」
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:51:12.88 ID:FwRKI0Dw0

「へ?」

己の間違いに思いを巡らせていた俺には唐突な問い。
だがこの人の問いかけなら、由比ヶ浜についてのことならきっと意味はある筈。
そうやって縋り付かなければバラバラになってしまいそうなほど、俺の思考はガタガタになっている。

「……なんか、その、イイ奴ですよ。 真面目って言うなら、あいつの方が相応しいって……」

……あれ、これ彼女の母親に「娘のことどう思ってる?」て聞かれてんじゃねぇの?
いや細部は違うのかもしれんけど、でも地雷質問をさり気なく踏まされてんじゃないの流石大人は怖ぇなぁ。
結局怖じ気づいて無難な回答に落ち着く。しかしボカした言い方とはいえ的を外してはいない筈。

「うん、親馬鹿かも知れないけど結衣は真面目な子で……真面目だから、時に自分から間違った方向に行ってしまうって、見てきたから分かるし、ヒッキーくんも結衣を助けてくれた時に見ている筈でしょう?」

そして返ってきた言葉で後頭部を殴りつけられる。

俺と雪ノ下が間違えても、由比ヶ浜結衣だけは間違えない。
彼女だけは正しいのだと、確かにあの時までは思っていた。
誰かが強くて誰かは優しい、それですら勝手な思い込みに過ぎないと分かっていてたのに。

由比ヶ浜の家を訪れる直前に身を斬られ、斬り返さざるを得ない状況に立たされていた筈なのに。
その原因が由比ヶ浜結衣の行動そのものだと、思い及んでいたのに――。
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:53:00.37 ID:FwRKI0Dw0

「きっとね、真面目な子って誰より早く安心したくて、だからどんなことにも真っ直ぐぶつかって行っちゃう。 例えそれが間違いでも、一番良い形なんだって思っちゃったらもう止まらない。 遠慮とか謙遜もそういうことだと思うの」

安心、確かにそれは俺の人生の指標に近い概念だとは思う。
独りであれば揺るがす物はなく、揺るがされることはなし。
ただ佇むだけで済むのならこれ以上楽な生き方もない。
そこがどんな不毛の大地だろうと、落ち着くことさえ出来れば良い。

激しい喜びはいらない、そのかわり深い絶望もない
そんな植物の心のような人生を求めた男は猟奇殺人の犯人だったけれど。

「きっとヒッキーくんにとってはそれが謙遜で、結衣にとっては遠慮なのね。 それが行き過ぎても独りじゃ引き返せないから、笑って間違いへ進んでしまうんじゃないかしら」

「笑って、ですか」

「そう、結衣が酷いこと言ってたのよ〜? ヒッキーは偶に笑い方がキモい!って」

予想はしてたがひっでぇなあいつ!
きっと一字一句違ってないんだろう……キモいって便利な言葉だなー本当になー。

「……で、そんな風に笑っている時は大抵傷付いてる時だって。 結衣もね、間違うときは大抵笑ってたのよ? その後落ち込んだり泣きそうになったり……ヒッキー君も見たことあるんじゃない?」
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:54:38.89 ID:FwRKI0Dw0
「それは、確かに」

俺が傷付いていたかどうかは別に、あいつの笑顔に馬鹿っぽさが無い……らしくなく儚げな時、
あいつはあいつなりの考えで動いていたと思う。
由比ヶ浜は基本馬鹿だから、どんな問題も自分だけで動けば何とかなると思っている節がある。
自分が爆弾を抱えて遠ざかれば皆の命は助かると、後の事なんて考えないで実行してしまう。

自分を省みない人間を馬鹿と言うならあいつは大馬鹿者なんだ。
残された人間がどんな後悔に苛まれるかも知らずに。

「でも、あいつは人望あって、俺とは」

「ううん、人の多い少ないは関係なしに、自分勝手で誰かを心配させてたらそれは同じことなの」

同じ……なのだろうか。

俺のやり方では本当の意味で誰かを救うことは出来ない、そう言われたことはある。
己の価値を知れと言われたこともある。
だが何処まで行って何処まで考えても自分は陰の中の比企谷八幡で、あいつは光の中の由比ヶ浜結衣だ。
それを割切って一緒に居て、それでも尚居場所の違いを今でも痛感しているのに、それが同じとは思えない。
それとも、そう思いたくないだけなのか。

俺の傷は俺だけの勲章で、由比ヶ浜の傷は皆の悲嘆だと、そんな状況を俺だけ都合が良いと望んでいるのか。
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:56:27.95 ID:FwRKI0Dw0

「ヒッキーくんだってこれまで十何年生きてきて、感じたこととか考えたこと、色んな経験があって今のヒッキーくんになってるんだと思う。 だからああしろとかこうなれなんて言わないけど、何かあったら結衣にちゃんと言って、二人で考えて欲しいの……どんなに深い仲でも、言わないと分からないことってあるから」

……その言葉を聞いて、二人の姿がピッタリ重なった。
由比ヶ浜結衣は目の前の女性の分け身なのだと、当たり前の事実をこれ以上なく実感した。

言わなければ分からない、だから話し合って分かりたい。
それが比ヶ浜結衣の在り方。不確かな物を怖がって、だからこそ大切な人を分かりたい。
話し合えば、言葉を尽くせば分かり合える。彼女らしい前向きな信念。

「……でも言葉にすれば必ず分かり合えるってわけじゃないでしょう」

俺は真逆だ。
言葉にしたからって分かり合えるわけじゃない。言葉の裏を読もうと、真実を何時までも疑い続ける。
数式や科学的に解ける事象でなければ正答正着なんて概念はなく、
俺は揺らぎやすい言葉に寄らない関係性を求めた。

だから俺達は対極だった。
互いに不確かな物を怖れて、分かりたいのは同じでも、俺の求める本物はあいつにとって空虚な妄想で、
あいつの求める本物は俺にとっては猜疑の対象でしかない。
それでもお互いに歩み寄って、似合いやしないのに互いの本物を信じようとして空回った。

あいつが悲嘆に暮れたとき、俺の尽くした言葉と行動は、結局何処まで信じて貰えたのだろうか。
もう何度同じ場所、同じ思考をループすればいいのだろうか。

「俺は、もっと確かなものが欲しいって、そう思って……」

怖い。
感情、心、言葉。
全てあやふやで、全てが怖い。
変わっていく自分の心すら、怖かった。
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:58:24.44 ID:FwRKI0Dw0

「……うん、不確かな物は怖いわよね、おばさんだって未だにそう思うもの。 でもね……」

目の前の女性はそんな俺の怖じ気に一度は同意してみせ、そして、

「きっと誰かとの関係に、ハッキリした答えなんてないと思うの」

キッパリと、その拠り所を否定した。

ドスン

鳩尾に真っ直ぐ拳を受けたような衝撃。
けれど息が止まるようなその感覚は錯覚ではない。

ママさんは、俺のかつての理想……未だに捨てきれない夢の残滓を叩き砕いた。
信頼する人間に自分の論旨、自分の一部を否定された事実は、重かった。

だが、一度はキリッと整えた表情を即座に崩し、

「でもね、そんなおばさんの意見も信じなくていいの、だってハッキリした答えなんてないんだから」

笑顔でトンでもないことを口にした。

ガタン

本気で脱力して額がテーブルに衝突し、痛撃と共にテーブル上の食器をカタリ揺らした。
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:59:51.44 ID:FwRKI0Dw0

「あらあらヒッキーくん、大丈夫〜?」

「だ、大丈夫です……いや、でも、えー……?」

平時と変わらぬぽわぽわ笑顔であらあらまぁまぁと心配を寄越す彼女の様子が……なんというか、もう処置無し。
めぐりん先輩宜しく、ほんわか天然という城砦を前に小市民は常に無力なのだった。

「なんか、色々シリアスに話し合ったの全部台無しになりましたよ、それ」

「ん〜、でもそういうものだし……結局は何を信じたいか、誰を信じたいかって話に落ち着いちゃうもの。 好きって感情は、きっと信じたいって想いと同じだから」

「……想い、ですか」

「そう、信じたいから好きになるのか、好きだから信じたくなるのか……どっちが先かは分からないけど、でもそういうものだと思うの。 おばさんにとっては結衣と、特にパパがそんな感じだし〜」

頬に手を当て過去最大のほんわか具合で笑ってみせるママさん。
これは分かるぞ、惚気の前兆だな! 断固辞退するッ!
しかし娘にファブ(リーズぶっかけ)られるパパさんも奥さんから見ればまた違うもんなのか、それとも思い出補正?




しかし、信じたい想いか。


377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:01:40.52 ID:FwRKI0Dw0

「……自分の想いそのものを疑ってしまう人間は、どうすればいいんですかね?」

行き着くのは結局其処だ。

由比ヶ浜を好きで、離れられないと思っている俺の気持ち。
それが隣人愛異性愛からではなく、単なる自己愛の発露から生まれたのではないか。
薄汚い自己保身を他者愛に偽装し、ハリボテを煌びやかに見せて形骸化した関係を持続させる欺瞞。
もしそうであれば、俺の行き着きたい場所は何処なのか。こんな俺が何処に辿り着けるのか。

「自分のことを信じられないのに、誰かと一緒にいるなんて……誰かを信じるなんて、嘘でしょう」

分かっている。ハッキリした答えがないなら、こんな問いにも意味が無いことは。
自分を信用していないなら他者へのそれに意味は無く、そんな人間の心からの信頼なんて狂信者の盲信と同じだ。
だから卑屈を冷静と言い換えている俺にとっては信頼できる人間の言ですら揚げ足取りの対象でしかない。

いっそのことそんな俺の間違いを生温い優しさや同情じゃなく、圧倒的な力で轢殺して欲しかった。
自分を信じられないなら、せめてその間違いを俺が信じたまま砕いて欲しかった。
さっき俺の本物を砕かれたとき、そのまま俺自身まで一気に潰し殺してくれれば楽になれたのに――。
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:03:01.85 ID:FwRKI0Dw0

「それってヒッキーくんのこと?」

「……否定はしません」

「う〜ん、でも結局は信じるしかないんじゃないかしら? 誰かより先に、自分のことを」

「それは簡単なことじゃないんです、それが出来ない奴だって」

そう、俺のように。
何処までも粘着質に食い下がる俺にママさんはまた頬に手を当て、

「そうね〜……ヒッキーくんは結衣のことが好き?」

唐突に爆弾を投下してきた。
小柄な少年や太った男もかくやというほどメガトン。
というかこの人は何度奇襲強襲仕掛けてくるんだ……。

「そ、それは、今関係ないんじゃ……」

「それが関係あるのよ〜。 ね、結衣のこと好き? 好きなんでしょ?」

身を乗り出してくるママさんから異性の甘い芳香が。
視界の何割かを埋めん勢いで強調される上半身の膨らみが! こっちもツァーリでボンバ!
また頭クラクラしてきたじゃねぇか、マズいだろこれ……。
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:04:34.07 ID:FwRKI0Dw0

「す、すす……好意的には、思ってますけど……」

目を逸らしどもりにどもってなんとかそれだけ捻り出す。
つか目を合わせたままこんなん絶対無理だから。あと多分目線下行く。バレたら唐突な死。

「うんうん、じゃあそんなヒッキーくんの大好きな結衣は良い娘だと思う?」

なんかちょっと追加されてるんですけど……いやそうだけどね、大好きだけどね?

「い、良い娘……というか、良い奴だってさっき言いましたよね?」

「そうね、ヒッキーくんが大好きな結衣はとっても良い娘……じゃあそんな風に思う自分は信じられてるじゃない?」

「へ?」

……何言ってんのこの人。

「い、いや、その判断が信用出来るかって話であって……」

「じゃあ結衣は悪い娘だってこと?」

「そ、それはないですけど、それとは関係なくてですね」

「関係あるわよぉ? 自分のことを信じてないって言ってるのに、結衣が悪い娘だってとこは直ぐに否定しちゃったじゃない」

「それは、客観的な情報の蓄積で……」

380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:06:31.32 ID:FwRKI0Dw0

言いながらそれがただの言い訳であることを実感する。
そもそも自分の主観から人や社会の在り方を一方的に断じて唾を吐いていた俺が客観性など口にしていいものではない。
そんな俺の欺瞞をママさんは優しく除けていく。

「その情報の信じてるのはヒッキーくん自身なんだから、それは自分を信じていないと出来ないことだっておばさんは思うな〜」

「それは……」

「それともヒッキーくんは、自分が間違っていることを信じたいのかしらぁ?」

……どうなのだろう。
かつて患った悲観は世界を有り様に捉えたつもりで、結局は自分が間違っていない根拠にしたかっただけなのかもしれない。
その癖正しい連中からそれを疑問視されれば、平気で自分が間違っているとした上で問答し、行動した。
……ここまで露骨なダブルスタンダードもそうあるまい。
多数派の都合の良さを批判しながら、己の見解はその都合の良さを下敷きにしていたのだから。

それでも、そんな歪んだ自分を抱えたまま進んできた俺は結局自分が可愛かったのだろうか。
間違っている自分を、それでも信じたかったのだろうか。
信じたいということが好意とイコールで繋がっているとしたら。
俺は、俺自身を。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:08:20.40 ID:FwRKI0Dw0

「もう一度聞くけど、ヒッキーくんは結衣のこと、好きなのよね?」

「……はい」

ギリギリ搾り出した俺の呻くような返答に、ママさんは満足そうにニッコリと笑った。

「うん、結衣だってヒッキーくんのこと大好きよぉ……だから、好きな人の信じる自分を信じてあげて」

娘と同じ、花開くような暖色の笑顔で。

「あいつの信じる、俺……」

その時、ふといけ好かない男のことを思い出した。
周りから期待される自分を演じて己の望みも本心も押し殺していた、
きっと今もそのままの忌まわしいヒーローの姿を。
ただ周囲の信で縛られ動けなかった八方美人は何故俺を、俺なんかを特別に嫌っていたのだろうか?

……その解を今ここで得た気がする。
本当は気付いていたことだったかもしれないが、認めることが出来た……かもしれない。

それを自覚すると火が付いた。心に、それを満たす燃料に。
元々燃えやすく(色んな意味で)炎上には定評のある俺である。
火はあっという間に燃え広がって、赤壁宜しく水面を炎で埋め尽くした。

火は人間の行動の最も根源的な原動力で、切っ掛けだ。
良くも悪くも俺はそれを痛い程知っている。

炎の余熱は膝の靱帯を暖め、立ち上がらせる力になった。
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:09:48.25 ID:FwRKI0Dw0

「……すんません、用事を思い出したんでもう行きます」

「あら、そうなの? ごめんね〜引き留めちゃって……それに説教臭くて、歳取っちゃったかしら?」

「いえ、寧ろ目が醒めたんで有り難かったです。 それに思い出したというか、出来たって方が正しいと思うんで……えと、会計は」

「大丈夫よ、ここは私が払っておくから」

「え、いや、悪いですよ」

「いいのいいの、こういう時は目上の人を立てて上げるのが若者の仕事なんだから」

「でも……」

「う〜ん……じゃあこれは貸しってことにしておくから、何時か返して頂戴?」

「何時かって」

「何時かは何時か、別にそのままお金じゃなくて別の形でもいいから……ね」

別の形……彼女から期待されている形なんて、考えるまでもない。
そもそも用事の内容だってきっとバレてるだろうから、そこに思考を割く必要もないだろう。
俺自身も今そう≠竄チて返して行けたらと思っているのだから。
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:11:19.64 ID:FwRKI0Dw0

「……分かりました、御馳走になります」

「うんうん、若い子はやっぱり素直なのが可愛いわね〜」

それは逆に素直じゃない捻くれた俺は可愛くなかったってことかしら。まぁ事実だけど。
でも素直になったところで可愛いどころかキモいのが俺クオリティ。

「……それじゃあ、今日は有り難う御座いました」

「私の方こそありがとうね、話し相手になってくれて。 また相手してくれるとおばさん嬉しいかなぁ……あ、お返しはデートでもいいかも」

「え、や、その……か、考えておきます」

「や〜んヒッキーくん本当に可愛い〜」

頬に手を当て身体をくねらせ笑う彼女の姿が、その、堪えがたい……最後まで心臓に悪い人だな。
でも絶対に嫌いになれないし、なりたくない。
多分由比ヶ浜や雪ノ下、小町の次くらいには。

「それじゃあ早く行ってあげて。 きっと相手も待ってるから」

最後の暖かい微笑みに礼で返すと、背を向けて出口へ向かった。
ドアを押したときに鳴った鈴の音は、決意と衝動に満ちた俺を祝福しているように聞こえた。
……自意識過剰だな、我ながら。
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:13:26.26 ID:FwRKI0Dw0

店を出ると即座にスマホを取り出し、足は駅に向けつつメールを打つ。
メール相手がいない……じゃない、少ない。いないんじゃなくて少ないんだよ。
ともかく同年代と比べてメール経験値が少ないし、伝えたい内容が内容だから打ったり消したり十数分、
駅に着く頃には結局最低限に短く纏まった内容を見返し震える指で送信する。
相手は勿論由比ヶ浜結衣だ。

返信は一分もしない内に返ってきて、幾度のやり取りを経て待ち合わせを約束した。
三浦と海老名さんには悪いことをしたか――少しだけ罪悪感の痛みを感じつつも
その程度で止まれない胸中の熱を意識した。
胸に手を当てると、熱に当てられ早くなった鼓動が伝わってくる。

……今の俺は多分暴走している。湧き出た情動に揺らされ、その衝動のままに動いている。
それはやれるだけの過ちを黒歴史に刻み込んだ俺と同じで、それをこそ俺は封印してきた。

でも過程で俺は間違えたけど、きっとその衝動は間違ってはいなかったのだ。
ただ堪え性が無く、また少しの傷でそれを引っ込めてしまうくらいに臆病だっただけ。

俺は結局、誰かを想う俺自身を信じ切れなかった。
それを揶揄した連中が正しかったとは今でも思わない。
だが俺が俺自身の気持ちを信じ貫くことが出来ていれば、成就こそしないでも状況は違っていたかも知れない。
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:16:29.79 ID:FwRKI0Dw0

だが、それを後悔もしない。
バタフライエフェクト宜しく俺の心境に差が出来れば、きっと俺は今この場に立っていなかっただろう。
それは由比ヶ浜と俺の縁が繋がらなかった可能性を意味していて、それだけは御免だった。

だから、それを伝えに行こう。

俺が俺自身を信じたいこと、その想いがあってこそ由比ヶ浜結衣が好きなのだと。
本当はもっとずっと前に言わなければならなかったか、或いは伝えるまでもない前提なのかもしれない。
けれど今それを伝えたい。俺自身の気持ちを知って欲しい。
俺はこうでもしないと自発的に想いを口に出来ないだろうから。



『今だよ比企谷』


『今なんだ』



凛々しくも優しい声音で告げられた恩師の言葉が脳裏を過ぎる。
そう、今なんだ。
かつて何処にいて、これから何処へ向かうべきなのか、そんなものどうでもいい。
今この瞬間に沸いてくる己の気持ちを伝えたかった。

そうして初めて、由比ヶ浜結衣と真に向かい合ったと己を誇れるのだろう。
そう信じたい。

ホームで電車を待ちながら、俺は沸き立つ心の熱量を両手の握力に変えた。
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 22:20:48.28 ID:FwRKI0Dwo
今日の投下は終了です。お付き合い有り難う御座いました。

今回展開重視で台詞なり心情なりかなり雑になったことをお詫び申し上げます。
同じこと何回考えてんだ迷ってんだと書きながら突っ込んでました。

次回はゆいゆいの出番です。
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 22:23:00.19 ID:Y6wk8qwjo
おつ
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 22:30:28.29 ID:nbH8QQ3jo
乙です!
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 23:38:44.33 ID:T+hrlzPTO
面倒くさいヒッキーと大人の由比ヶ浜マのやりとりうまいわ

こういうヒッキーが成長するの好き
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/09(月) 00:05:19.54 ID:wFnOxeOB0
乙です!
読み応えがありました
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/09(月) 01:35:35.67 ID:9S9xBsi/o
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/09(月) 16:02:32.65 ID:++HHnQvUo
おおう、読解がめんどくさい……
しかし、このめんどくささこそがヒッキーだよなあ
由比ヶ浜マの圧倒的包容力と理解力が素敵でした
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/10(火) 09:34:42.20 ID:+9xmp7VmO
ガハマさんよりこのスレの方がレベルが上がってるよな
乙です
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 21:15:03.12 ID:JsqNf1KHo
SSR?ンなもん都市伝説だよ、どうも>>1です
絶賛執筆遅延中ですが、なんとか今週末には投下出来るよう急ぎます
期待せずお待ち下さい
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 21:29:36.33 ID:fQAFrKaPo
全裸待機
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 21:41:42.33 ID:3sJAJ7nfo
今週末とか言ってまだ月曜じゃねえかもう許せるぞおい
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 08:09:49.75 ID:mBTmE8INo
テーブルビートってスーパーには売ってないのね、どうも>>1です
また際限なく長くなりそうな気配がして来たのでキリの良いところまで投下しときます
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:11:10.31 ID:mBTmE8IN0



帰りたい

ああ帰りたい

帰らせて



うん駄文。二点(百点満点)。
気分転換にと電車内の暇つぶしにやってみた川柳大会は不評の内に幕を閉じた。

……というのも燃えさかる情熱に冷や水ぶっかけ隊こと俺の理性と怖じ気が目的地に近づくにつれ勢力を増し、
待ち合わせの駅で降りられるか不安になってきてしまったので気を紛らわす為に脳内でアレコレ考え
リンリランラもじぴったんしてたらなんかこう、うん。

恐怖とはまた別の方向でSAN値をガリガリ削ってくるが、
先の鬱予防宜しく思考が別のドツボを意識するお陰でなんとか踏み止まれてます。
P.S 元気です 八幡。
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:15:13.67 ID:mBTmE8IN0

俺の心境や言葉の内面はどうあれ何度か伝えた筈の言葉を再度伝えようというだけでこうもビビッているのだから
ちょっとした決意や覚悟で劇的に変化するなんてのはフィクションか夢物語だと実感する。
だからこそ積み重ねの重要性が分かるというものだ。

今日これから、俺が積み重ねるその一段目。
今までを否定する為でなく、肯定して行く為にこそ必要な行程だ。
自分の将来なんてハッキリしないが、それでも確かなのは由比ヶ浜と一緒にいたいという欲求だけ。
俺は根暗で逃げ腰の比企谷八幡を抱えたまま先へ進む。
そんな自分を信じて、由比ヶ浜結衣と旅をしたい。

まるでプロポーズでもしに行くような心持ちだが、意味に大差はないのだろう。
惚れっぽくて近視眼的な俺だ、由比ヶ浜と一緒にいると決めたらそれはもう死別までと意識しているから。
形の無い、本当は存在しないかもしれない。
そんな実在の不確かな幸福を求め寒風吹きすさぶ不毛の大地を行くのだ。

多分それこそが俺の夢で、それを元に俺は未来を考えていくのだろう。
出来ればそれが互いの死で結びとなるまで続いて欲しいと思う。
そんな微かな希望の灯火が、冷風に吹かれる心を僅かに暖めてくれた。
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:16:56.21 ID:mBTmE8IN0




電車を降りて改札を潜り、待ち合わせの場所へ歩を進める。
どうやら由比ヶ浜はもう到着しているらしい、そういうメールが来ていた。
まぁ彼女ら若い女性の遊ぶスポットなんて大抵は駅前に固まってるからそんなもんだろうけど。

場所は駅前……というか入り口を出て直ぐだ。
ポジかネガか両方か、高まる鼓動を顔色に出さぬよう深呼吸してから陽射しの下へ踏み出す。
直ぐに目的地と意中の人物が視界に入った。向こうも同様だ。

「あ、ヒッキー! やっはろー!」

満点の快晴にも負けない輝く笑顔で由比ヶ浜結衣は手を振った。
……今更だけどさ、こいつ外でもこの挨拶なんだよな。しかも声デカい。可愛い。恥ずかしい。
ともかく目的の一段階目を済ませることが出来たのでまずは一息。

「ヒキタニ君久し振り、はろはろー」

ひ、一息……。

「げ、本当に来た」

一息、吐けるかァーッ!
なんで海老名さんと三浦いんの!
てっきり待ち合わせが確定した時点で由比ヶ浜とは別れてるもんだと思ってたんだけど!?
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:19:20.51 ID:mBTmE8IN0

「ちょ、ウェイウェイ、wait由比ヶ浜!」

「ん? ウェイウェイって、ヒッキーそういうの嫌いー!とか前に言ってなかった? 意味は分かんないけど」

ウェーイwwwとかそういうのか、予想外の展開に草生えるわ。

「そっちじゃねーよ待てって意味だよ、というか天然かそれ」

「まーたそんなバカにするみたいなこと言うし! あたし天然じゃないから!」

「本物は自覚しないもんだからなぁ……いやそうじゃねぇ、なんでまだ二人いんだよ」

「えとね、やっぱり着いてくからヒッキーに会わせろって」

「……三浦が?」

「うん、そだよ……アレ、なんで優美子が言い出したって分かるの?」

そりゃ(相手が俺だという事実を除けば)男女の逢い引きに水を差そうなんて野暮KYを考え、
あまつさえ実行に移そうなんて相当な剛の者にしか許されまい。三浦には正しくその風格と性格がある。
寧ろ自分達の行楽に水を差されたと考えているかもしれない。
まぁ事実なんだけど。
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