【R-18】由比ヶ浜結衣はレベルが上がりやすい

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39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/02(水) 01:08:35.46 ID:bQvbNWB30
なんともレベルが高いエロだった
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/02(水) 06:59:06.78 ID:fiF2q1j2O
SS本文の投下以外はいらないから
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/02(水) 15:22:10.63 ID:eJP3+8Sh0
自分語りとか寒いだけだからやめろ
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/02(水) 19:38:33.09 ID:g5M3cWNKo
どうも>>1です(笑)
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 03:08:12.72 ID:CNKyf2uO0
コピペになりそう
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 22:28:12.96 ID:PbcnGosb0
どうも>>1です。
まだ一話完成はしてませんが、調子に乗ってあれこれ書き加えてたら際限なく文量が増えてしまい一度の投下量が多くなり過ぎるもアレなので現時点でキリのいいところまで投下します。

あ、前半部分ってことでエッチなシーンはありません。
エッチなシーンはありません。大事な事なので二度以下略。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 22:31:22.69 ID:PbcnGosb0
@由比ヶ浜結衣はまず触れるところから始める



「これで、よしッ……と」

安価な組み立て式の簡易本棚を組み終え一通りの家具は配置が終わった。

小物類は未だダンボールの中に収まったままだが、手強そうな物は大体仕留めた。他は追々必要に応じて出して行けばいい……という分かり易い怠惰フラグを立てる俺参上。

だって仕方無い、もう日が暮れかけてるもの。カラスが鳴いたら帰りましょうとお約束の時報が鳴り響いてるんですもの。

大きめの物は買わなかったとはいえそれでも結構な重量の荷物を運び続けて腕はパンパン足もダルダル。こういう時手伝ってくれる友達がいないからぼっちはつれーわーマジつれーわー。

……言わずとも手伝おうとしてくれた奴はいたが、いずれも細腕でそもそも手伝わせるのも憚られるような面子だった為、選択肢など最初から無いも同然だった。

正直進学後も実家に寄生する気満々だった為こういう苦しみを味わうつもりはなかったのだが、それでも苦境は一度乗り越えれば良い経験で、人生を彩る大切な教訓を残してくれる。

今回の場合は、そうだな……「もう二度と引っ越ししたくない」かな。

そんな益体もない思考は程々に、この後入り用になるテーブルとクッション、食器、今宵の寝床を用意して作業は終了だ。

そしたら一先ずマッ缶キメて、時間が来るまで仮眠でも取ろうか――
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 22:36:12.65 ID:PbcnGosb0
三月下旬、東京と千葉の県境に近いアパートで俺は一人暮らしを始めるところだ。

受験戦争は見事都内有名私大の席をゲットする大勝利に終わった。

俺自身多少通学に時間がかかっても実家暮らしの安心感を捨てる気は無かったのだが、普段よりも喜色の滲み出る態度で両親へ戦果報告をした際俺に対しての反応としては珍しく勝利の喜悦を共有しながらも「良い機会だからお前家出てけ」と開幕で顎尖端を打ち抜かれ俺は比企谷家のリ(ビ)ングに大の字で倒れたのだった。

その後なんとか8カウントで立ち上がった俺は、

・未だ不況を抜け出せぬ折、都内の一人暮らしを許容出来る経済的余裕は比企谷家にはあるまい
・そも一人きりの寂しさに耐えかねて家出をしたという前科を持つ小町を置いてはいけない

という伝家の宝刀ワン・ツーで立て直しを図ったのだが、それぞれ

・こういう時の為に放任気味になってでも二人で無理して稼いできて、その貯蓄がある
・ここで不良物件がいなくなれば結果的に負担も減って今よりずっと早出遅帰は抑えられる
・そもそも小町は生徒会入りしたお陰で帰りも程々に遅く以前のようなことにはならなかろう

という最もなカウンターを決められ同ラウンド二度目のダウンという瀬戸際に追い詰められ、件の小町が外野から

「一人暮らしなんて出来るときにやっとくべきだよお兄ちゃん! それに都内にタダで泊まれる別宅が出来るって思えば小町的に超々ポイント高い!」

と我欲を隠す気も無く興奮気味にラビットパンチを決めてきた為、俺は為す術なくKO負けを喫することになった。成功した者は皆すべからく努力しているけど俺はサクセス出来なかったよ会長……。

諦めて一人暮らしを受諾した俺の目の前でこれで何を憚ることなく小町とスキンシップを取れると某○る夫ばりに本音を隠せず喜んでいた親父に向けられた比企谷女性陣の凍てついた視線は今思い出しても胃がキリキリするぜ、潰瘍に鬱病不可避だろこれ……親父が。

まぁそんなこんなでさらば千葉よ!新たなる旅路!(バァーン)で第三部完ッ!して東京でダイヤモンドが砕けない第四部を開始するところなわけである。グレートですよこいつぁ。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 22:39:38.42 ID:IUoYshERo
どうも>>1です。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 22:39:43.00 ID:PbcnGosb0
「と、いうわけで! 改めて結衣さんとお兄ちゃんの合格、そしてお兄ちゃんの独り立ちを祝しまして! かーんぱーい☆」

「かんぱーい!」

「……乾杯」

「ンモーお兄ちゃんってば、今回比率的には主にお兄ちゃんの為の宴会なんだよ? もっともっとアゲてかないと! 結衣さんもいるんだから!」

「そうだよヒッキー! ひとり暮らしとかあたし超うらやましいもん! もっと嬉しそうにしようよ、テンション上げよ! ね!」

「んなこと言われてもなぁ」

比企谷八幡スレは基本sage進行でオナシャス。

設営完了から二時間後、僅かな仮眠で生気を蓄えた俺は部屋を訪れてきた小町と由比ヶ浜を迎え入れ、こうしてささやかな宴会に参加している。そのお題目は小町の言うとおりだ。

と言っても参加者は俺、小町、由比ヶ浜の三人という本当にささやかな内輪の飲み会(アルコール無し)の様相で、空回りだろうと何時ものノリを崩さない小町とそのテンションに付いていく由比ヶ浜、そして空気読む気全く無しの俺の組み合わせは開始時点から絶妙な空気を醸し出していた。良い空気とは言っていない。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 22:43:17.67 ID:PbcnGosb0

「まぁお兄ちゃんは何時も通りのお兄ちゃんだから置いといて……ごめんなさい結衣さーん、本当は小町が料理作りたかったんですけど時間無いし、作るにしても不慣れなキッチンでの仕事になりそうだから今日は出来合いの惣菜ばっかりで」

「いいよいいよ、スーパーのお総菜も美味しいし、小町ちゃんにばかり作らせるのも悪いし……今日は小町ちゃんの進級祝いも兼ねてみんなでみんなのお祝いってことにしようよ!」

「うはー! 結衣さんやっぱり優しくて小町的に超ポイント高いですよー! これは何年後かには結衣『お義姉ちゃん』になってる可能性大かなー、なっててくれないかなー? ね、お兄ちゃん♪」

「お、おねえちゃん、て、えへ、えへへぇ……ヒ、ヒッキー、どうしよう?」

「……そこで俺に振るんじゃねぇよ」

女三人寄れば姦しい……とか温いこと言ってんじゃねぇぞ、この故事を作ったのは誰だぁ!二人で充分過ぎるくらい五月蠅いっつーの。

特に口やかましい面子とはいえ二人でこれなのだから本当に三人寄ったらどうなることやら。

去年見事に生徒会役員の座を射止めた小町曰く今日は一色も来たがったらしい。が、どうにも外せない用事があるらしく参加はお流れになったとか……正直助かった。それにあいつに住所とか知られるのは色んな意味でぞっとする。一年前の進級直後、もう奉仕部もないし俺も受験生だというのに生徒会活動の補助補佐雑用にと引っ張り回された日々を思い出し、あいつのことだから卒業生という実質部外者になった俺にも雑用を押し付けるために接触してくるのではないか……そんな悪い想像を巡らせる。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 22:46:45.22 ID:PbcnGosb0

まぁ何事もなく受験を終えた身としてはこれらも良い思い出と言えなくもないし、色々と事情があったとはいえ結果的に生徒会長という重責を押し付けることになってしまった一色が、あの手この手で各行事をこなし生徒会長として成熟していく様を見るのは雛の巣立ちを見守る親鳥の気持ちというか、育て上げたモンスターが無双し始めるのを見つめる快感というか。

成長という概念に対して常に疑問符を貼り付けていた俺にとって、こうした一色の肯定的な変化は成長という現象を信用させるに値する力を、それこそ由比ヶ浜と同じくらいに持っていると今は思う。だから『良い思い出』なのだと。

そして思い出に裏付けされた感覚が、もっと深いところにあった感傷を呼び覚ます。

もしかしたら、一色ではなくこの場にいたかもしれない本当の三人目。

お互いに幻想を抱き合い、歪な共有でも同じ場所にすれ違いの希望を見出し合って、だからこそ離れた――離れざるを得なかった少女のことを、否応なしに思い出してしまう。

心臓が僅かに軋む。

刺さったままの棘が鼓動の震えで神経をかき乱す。

痛みじゃない、気持ちいいわけでもない。

それでも忘れ得ぬ、だからこそ忘れられない感覚。

俺の決断に涙を零しながら、それでも精一杯の笑顔で再会を誓い合った、誰より強いのに何より弱かったあの――
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 22:50:08.23 ID:PbcnGosb0

「……どしたのお兄ちゃん、難しい顔して」

「え、あ……わり、ちと考えごとをな」

「本当もうごみいちゃんなんだから……宴の席で嬉し泣き以外の渋面はNGだよ? ただでさえ顔面にハンデ背負ってるんだから、最低限愛想くらいよくしないとキャンパスライフって荒波は乗り越えられないよ?」

「お前が何で大学生活を語ってるんだよ女子高生……俺は大学でも悠々自適にボッチるんだからいいんだよ、つか顔面ハンデは流石に毒キツ過ぎて泣くぞ俺」

「思う存分泣けばいいと思うよ? そしたら結衣さんに慰めてもらえるし。 それに結衣さんと同じ大学に通えるのにあんまり変なこと言わないの。 ね、結衣さん?」

「…………」

「あれ、結衣さん?」

「え、あ! ごごごごごめん小町ちゃん! ちょ、ちょっと考えごとをしてて、あははー」

「んもーなんか微妙な空気……折角の宴会なんだから二人とももっとアゲよ! アゲましょう結衣さん! アゲアゲ!」

「か、唐翌揚げー!」

そうして二人は割り箸を握って惣菜の唐翌揚げに突き刺すと、立ち上がって疑似唐翌揚げ棒を掲げて邪神への祈りを捧げ始めた。ハーゴン倒したからシドーが来る!のか?

52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 22:54:17.51 ID:PbcnGosb0

あまりに阿呆丸出しな二人の様相に半ば呆れつつも、鬱々と沈み込むしかなかった思い出へのダイブから引き上げてくれたことには感謝の念を抱く。口に出せば思い出の内実へ話が及びかねないから、決して口には出さず、なるべく顔にも出さないよう努める。

そして、今はカラ元気でカラ揚げを掲げる(旨味ギャグ)由比ヶ浜。

恐らく彼女の思考もまた俺と同じところへと沈みかけていたのだろう。きっと俺の顔から、感情の匂いから俺の裡側を察し、互いに共有した傷を撫でてしまったのだ。

俺と彼女の傷は場所も深さも、きっと痛みの質も違う。

それでも同じ時間に同じ原因で以て刻まれた傷を持つ者同士、思うところも察するところもある……感受性が高く他人の傷や感情に敏感な由比ヶ浜であれば尚更だろう。

……俺は一体何をしているのだろう。

俺の選択は、決断は、彼女――由比ヶ浜結衣の涙を見たくなかった、その為のものだった筈だ。

彼女の笑顔を守る為のものだった筈だ。

なのに彼女は気が付けば暗い部分へ沈み込むような顔をして、その原因は俺の迂闊さに他ならない。傷付くところを見たくない、傷付けたくないとこんなにも願っているのに。

否、以前から……それこそ彼女との関係が始まった一番最初から、彼女を傷付けていたのは俺だ。俺だけが由比ヶ浜結衣の心を無神経に踏みにじっていたのだ。

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 22:57:11.81 ID:PbcnGosb0

一年前、進級前の俺達に訪れた転機。

比企谷八幡と由比ヶ浜結衣は、大切な場所と引き替えに互いの想いを受け入れ合った。

しかしここ一年は受験もあって学生らしい交際は控え、ただ目的地に辿り着くために切磋琢磨し奮闘した。

それが受験勉強を言い訳に、変わってしまうかもしれない彼女との変わってしまった関係を直視することから逃げたということなのだと、俺は今もそれを否定出来ずにいる。彼女と寄り添うことを決めたこと自体が、ただ自分へのダメージを最小限に留めるための方便であった可能性も。

かつて居場所を共有していた二人の少女は、それぞれが持つべき物と目指すべき場所を抱えて前へ進んだ筈だ。

だのに俺だけは大事な約束と大切な感情の重さに足を取られ、ホームの廃墟、その出口から一歩も踏み出せずにいた。

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:00:28.03 ID:PbcnGosb0

「それでですね、いろは会長が声かけただけでコロッと態度変えちゃうわけですよ! 男の人って単純ですよねー」

「はー、相変わらずなんだねいろはちゃん……」

宴もたけなわ、というか料理を食べ終え後は残ったジュースとお菓子を消費するだけという段になって幾分二人のトーンは落とされた。

そんな二人の会話を傍で聞いている俺は洗い物の真っ最中である。

普段なら小町が率先してこういう些事は消化するしそれに触発される形で由比ヶ浜も手伝いを主張するだろうが、未だに自罰的で鬱々とした思考の抜けきらない俺はただ何もせずにいることの方が億劫で、二人を抑え込んで強引に仕事を受け持った。

何にせよ仕事を肩代わりしてもらったこと自体は嬉しかったらしく俺の行動はポイント激高だったようだが、お約束の様に各種洗い物道具を買い忘れていたことでポイントは大幅に下落し増加前より下回る結果となった。ちなみに小町は道具一式惣菜と一緒に買ってくれていたらしくそれに助けられる形で今こうして仕事に没頭出来ている。やだ……八幡的に超ポイント高い……。

二人が口を付けているコップを除いて全ての食器の洗浄は終了し、学生の身分ではそろそろ……という時間だ。終電の危険は無いし二人の実家とそう極端に遠い場所ではないが、それでも歳頃の娘を男の一人暮らしの部屋(一日目)に何時までも置いておくもんじゃない。何より、同じく気持ちが沈み込むにせよ関係した相手と同席した状態よりはまだ一人の方がマシだ。またしてもぼっち最強が証明されてしまった、敗北が知りたい……勝ったこともないが。

55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:03:33.39 ID:PbcnGosb0

「……んじゃもう遅いしお開きにしようぜ、送ってくわ」

「えー、まだ結衣さんと……ってうわ、もうこんな時間? ちょっとはしゃぎすぎちゃったかなー」

「隣室から壁ドン(誤用)されなかったのが不思議なくらいのはしゃぎ振りだったぞお前ら、あんまり遅いと俺がどやされるんだからこの辺で切り上げとけ」

「そだね、じゃあ家捜しはまた今度にして帰りましょうか結衣さん」

「おい今何か不穏な単語が」

「気のせい気のせいベッド下とか本棚が二重になってるとかそんな分かり易い期待なんかしてないから……結衣さん?」

「え、あ……そだね、もう遅いもんね」

かくいう由比ヶ浜、チラリと俺を見て目が合うと真っ赤になって慌てて顔を逸らした。逸らした先には彼女が通学に使っていた見慣れたリュックがあり、チラチラそれと俺とを見比べている。

……これ、さっきの俺起因で態度がおかしくなってるの引き摺ってるってわけじゃないよね。何か期待されてるよね。かなりストレートなヤツを。

56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:07:27.51 ID:PbcnGosb0

「そうそう未成年はとっととゴーホームだ、東京は怖いとこだからな知らんけど」

彼女の期待に、俺は応えられない。少なくとも今は応えるわけにはいかない。

だからここは由比ヶ浜が踏み込んでこない内に先手を打つに限る。ここは諸々有耶無耶にさせてもらうしかない。

普段の人懐こさから押しの強いイメージがある由比ヶ浜だが、その実他人のテリトリー意識には敏感で決定的に踏み込むことを躊躇してしまう節があり、犬は犬でもご主人様の許しがなければ甘えたりおねだりも出来ないナイーブな犬なのだ何それ可愛い。だから主導権さえ渡さなければ流れはこちらでコントロール出来る筈だ。

筈だった。

だがこの場にいるのは俺と由比ヶ浜だけではない。

小悪魔が一匹、もじもじと顔を赤くする由比ヶ浜とそれを見て見ぬ振りする俺を見比べ、

「……ふふーん?」

などと可愛らしくも悪戯っぽい微笑みを浮かべてみせた。

57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:11:07.85 ID:PbcnGosb0

「あーそういえば結衣さん今日はお兄ちゃんとあんまりお話出来てないですよねー」

「あ、そ、そうだねー、ちょっと残念だけど」

あ、こいつの考えてること分かったわ。わざとらしく棒読みで話を振る俺の妹がこんなに小憎らしいわけがない……小憎らしくない?

「おい小町とっとと帰る支度を」

「お兄ちゃんはちょっと黙ってて」

アッハイ……じゃねぇ、今は拙いんだってマジで!

そんな俺の焦燥など知らぬとばかりに、寧ろ知ってて泥沼への野道を切り開いていくマイシスターである。煽りをやめてー小町をとめてー。

「紆余曲折を経て愛し合うようになった二人が碌に触れ合えないまま引き離されてしまうなんて小町耐えられない! 結衣さんもこのままお兄ちゃんと離ればなれなんて嫌ですよね? ね?」

「あ、愛し合うって……」

小町の言葉に首まで真っ赤にして口元を抑える由比ヶ浜さんマジ可愛い。マジ可愛い。大事な事は反復するのが流儀である。あと小町、流石に表現が大袈裟過ぎてわざとらしいんだよ減点だ減点。

「と、ゆーわけーで! お兄ちゃん、今晩は結衣さんを泊めてあげなよ!」

58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:14:08.38 ID:PbcnGosb0

「は?」

ハァ!?と別に吃驚したわけでなし、この展開は予想済みでありだからこそ避けたかったのだけども……だが実際耳にすると幾分軽くはなっても驚きは素直に口から漏れ出た。

そして俺以上に露骨に反応したのは由比ヶ浜だった。知ってた。

「えぇぇえぇ!? ここここ小町! ちゃん! ななななな、何言ってんのっ!」

「いやいや結衣さん小町には分かってますよ? 単に引っ越し記念パーティってだけじゃそういうリュックは必要ないですよねー……お泊まりグッズ入ってますよね? 最初から期待してましたよね?」

ニヤニヤ意地悪く笑う小町。やめろ、今その気遣いは俺に効く。やめろ。

「な、なんで分かるの小町ちゃん!?」

お前もそんな分かり易い反応するんじゃないちったぁ誤魔化せ。あと気付いた理由は小町ちゃんと言ってるから人の話は聞いときなさい。

「大好きな彼氏のお引っ越し、離ればなれってわけじゃないけど開いてしまう距離、それが寂しくて側にいたくて衝動的にお泊まりの準備して、でも口に出せなくて……いや可愛らし過ぎて小町もドッキドキですよ!」

「あぅ、あぅぅ……」

もうこれ以上は赤くなれないってくらいに赤くなってあうあう口から漏らす由比ヶ浜さんがしつこいようだがマジ可愛い。略してマジカワ。あんまり略せてない。

59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:17:12.88 ID:PbcnGosb0

しかし本当に可愛い。可愛すぎて理性とか決意とか土台からガタガタになってる、これ以上はダメだ耐えられない。ここは多少強引にでも、実力行使やむなしと押しきるしかない。

「おい小町、いい加減に」

「黙りなさい」

「はい……」

弱ッ、俺弱ッ!

いや普段の小町からは考えられないような凍てついた視線と声色なんですよ。小町……何時の間にそんな冷たい目が出来るようになったの……比企谷家は暗殺一家じゃないんで嬉しくもなんともないです。

そういやこれに近いの親父が喰らってたっけ。アレ、俺の扱い親父と同じになってる?俺ピンチ!

「とまぁそういうわけで愛し合う二人を邪魔するのも悪いから小町だけ先に帰るねー大丈夫小町はお兄ちゃんと生徒会のお陰で強く逞しく育ったから一人でも生きていけるよ心配しないでそれじゃー二人ともまた今度ー!」

「あ、オイ!」

と引き留める俺の言葉は擦りもせず、思わず赤光を幻視するくらいの早送りであっという間に支度を整えた小町は赤い残像を残して部屋から出て行った。界王拳かトランザムか、世代的には後者かな。あいつガンダム全く見てないけど。

60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:20:10.81 ID:PbcnGosb0

そんな小町の正しく暴走した諸動作に二人して呆気に取られること二十秒、それでも内心どうしたものかどう対処するかと思考を巡らせていると、横合いから視線を感じた。教室にいると四方八方から何時でも蔑視を錯覚する敏感ぼっち肌!というのは今回関係無い。

熱っぽい視線。もどかしく、嬉しく、恥ずかしい、そんな感情を向けられているという確信。

横合いをチラリと見れば、案の定由比ヶ浜は座り込んだまま俺の顔を見上げていた。顔は赤いまま呆けたように、それでも僅かに不安か期待で先を思い、患う乙女の表情で。

「ヒッキー」

甘い、響き。

「ッッ!?」

ぞくり

どくり

背筋、寧ろ脊椎の中身を直接撫でられるような直接的な寒気と電流。

心臓、仕掛けられた爆弾を起爆されたかのように跳ね上がる熱と鼓動。

普段彼女に対して感じている日だまりのような暖かさであるとか、さっきまでの女の子らしい可愛さとか、気付けば擦り込まれていた印象が紙切れのように感じられるほど、今の由比ヶ浜の姿は容易く俺の脳と心臓に焼き付き、無理矢理に居場所を確保した。

61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:23:58.58 ID:PbcnGosb0

心臓に突き刺さった棘が杭になってガタガタと震え出す。

上行大動脈か何かが傷付いたような錯覚、心臓から血液という血液が噴き出し流れ落ちていく幻覚。

拙い。マズい。まずい。

中学の時分、もう二度とそうあるまいと誓って封印した欲が、鍵付きの鎖を引き千切って自意識の水面へ浮かび上がろうとしている。

かつての俺ならば、こんな状況でも勘違いだ何だと屁理屈強弁捏ねくり回して誰の評価なぞ知ったことかと逃げ出すことも出来たろう。だが今はもう、何が大切な物で、誰が大事な人なのか、自分で自分を誤魔化すことが出来なくなってきている。

俺は弱くなった。二年前から続くあの日々は、弱くなければ乗り越えられなかった。

そんな弱くなった俺が、大事な人と一晩同じ部屋。

都合の良い未来の妄想と起こり得る悪い現実の想像、二つがかけられた秤がシーソーのように上がり下がりを繰り返している。本能の語る明るく幸福な未来の話は弱者にはあまりに魅力的で、本来ペシミストの俺が理性の語る悲観をまともに把握出来ずにいる。

62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:27:09.98 ID:PbcnGosb0

でも……ダメだ、それだけはダメなんだ。

悲劇の可能性がゼロにならない限り、俺はきっと踏み出してはいけない。無責任という荷物を、今の俺は背負いきれない。

今の俺がどれだけ間違っていて、どれだけ情けない醜態を晒していたとしても、これ以上は間違えられないし醜い姿を見られたくない。

彼女にだけは、由比ヶ浜結衣にだけは。

だから堪えろ、押さえつけろ。これは彼女の為であると同時に俺自身の為なんだ。

由比ヶ浜の存在によって解放された欲求を、由比ヶ浜の存在によって強固になった理性で抑え込む。

落ち着け、俺は冷静だ。クールだKOOL。

他者から向けられる親愛情愛が勘違いでないとしても、それを受けて行う俺自身の行動が勘違いでない保障など無い。事故っても恋愛保険なんてないんだからな、十対零の一方的過失で破産待ったなしだクソったれ。

考えつく限りの最悪の展開をあれやこれと脳髄に叩き込み欲の色に染まりかけた自意識を沈静させる。胸に手を当て、暴れ回る早鐘を大人しくさせる。

63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:30:13.79 ID:PbcnGosb0

落ち着け、何時も通りだ。簡単だ。

顔筋が硬直し、眉が寄って顰めた顔になっているのが自分でも分かる。

「……ヒッキー?」

彼女の声が、俺の表情に戸惑いを覚えて聞こえるのも。

心配するな。

あと少し、あと少し。

あと少しだから。

……………………。

…………。

……。

よし。

64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:33:39.83 ID:PbcnGosb0

「由比ヶ浜」

不意に何時もの顔に戻った……筈の俺を見て、声を聞いて彼女はびくりと反応した。

気にしないで手を差し出す。

「早く立てよ、送ってくから……今ならまだ小町とも合流できるだろ」

OK、何時も通り。鏡を見れば俺の目は何時もの様に活力を感じさせない死体のそれと同じになっているだろう。

彼女の手を握って立ち上がらせたら早いとこ小町と合流してあいつの罵詈雑言とか冷たい目を上手いことやり過ごして二人を家まで送ってダッシュでここまで帰ってきて何も考えないように布団を頭まで被って今日のことは眠って忘れよう。

座ったままの彼女が腕を上げるのを見て、予定通りと安心する。

65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:36:46.60 ID:PbcnGosb0

安心していたのに。

彼女は差し出された手をスルーして、指先で俺のシャツの袖を摘み、淡い力で引っ張った。

「え」

「ヒッキー」

彼女が俺の顔を見上げ、俺の目を見つめてきた。

さっきの表情から呆けた色が消えて瞳が潤み、濡れた表情になる。

心臓が、止まる。

そして、不意打ちで完全に無防備になった俺に打ち出されるトドメ。

濡れて、震える、掠れた声で、

「あたし、まだヒッキーと一緒にいたい……帰りたく、ない」

殺し文句

その字面の意味を、俺はこの時身を以て知った。

66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:40:59.72 ID:PbcnGosb0
前半はここまでです。
後半(エロ有り)は早ければ日付変更何時間後か、それが無理でも明日の昼か夜には投下出来ると思います。

しかし我が文ながら読みづらい、もちっとテンポとか改行とかSS用に意識した方がいいみたいですねー。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:45:52.24 ID:PbcnGosb0
あと単にコピペしただけの筈なのに変な文字が追加されてるところが。

唐翌翌翌揚げ×
唐翌揚げ○

です。
これもsagaで防げるヤツなんでしょか。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:50:20.18 ID:P7hDeFiFo
乙 今のままでも良いがね
>>67
防げる
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 00:15:14.11 ID:q8by++Cmo
乙 特に読みづらいとは思わないぞ 後半期待
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 00:23:05.25 ID:osmlOVIDo
乙です
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 00:56:06.79 ID:JGKK2Edlo
ヒューwwwwwwww
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 01:09:56.44 ID:rI+dTmllo
乙です
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 19:22:30.29 ID:GM4ebmf80
どうも>>1です。
今宵投稿予定でしたが、まーたバカみたいに長くなってきたので前中後の三分割になる可能性が出て来ました。
三分割になった場合中編は勿論エッチなシーンありませぬ……イチャイチャエッチってなんだっけ……?
ともあれ早ければ22時、遅くとも日付変更直後くらいには投下出来ると思うので暫しお待ち下さい。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 23:21:59.87 ID:VnKctWOQO
むん
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 00:04:19.89 ID:wXxBmjsv0
>>1です。日付変更直後の投稿は無理でしたァ。

ですが現在急ピッチで執筆中、なんとか三分割にせず投下出来そうなので三十分刻みで投稿タイミング計ります。
なんとか一時までには……暫しお待ちを。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 01:23:20.19 ID:wXxBmjsv0
どうも>>1です。
遅れましたが完成しました、今から投下します。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 01:26:33.00 ID:wXxBmjsv0

「それは、その……拙いでしょ、色々」

止まった心臓の鼓動を把握できるまでたっぷり時間を使って、その後も混乱した脳味噌が返答に窮したっぷり一分考えてひねり出した返事がこれだった。死にたい。墓穴があったら入りたい。プレインズウォーカーなら黒1マナで好きなカードを墓地に送れるぜやったね!

「マズくなんてないよ、だってあたし……ヒッキーの彼女だから」

で、二秒と待たずに返ってきたのがこれですよ。くすぐったいこしょばいい可愛い嬉しいええいどうしろというのだ。

「それに、今日はもしかしたら泊まるかもしれないってママに言ってあるし」

What are you talking about?

「え、いやお前、言ってあるって……あ、女友達の――三浦とか海老名さんとか、その辺の新生活の手伝いに行くっつって出て来たんだろ? ダメだってこういう嘘は割とバレ易いんだからボロが出ない内にとっとと」

「ヒッキーのとこ行くって、言ってあるの」

78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 01:29:07.76 ID:wXxBmjsv0

「は?」

は?

スゲェ、思考と言葉が同じタイミングで全く同じ言葉を発したよ……いやんなこたぁどうでも良くてだな!

「バッカじゃねーのお前! 何言ってんだよ何言っちゃってるんだよ! 何言ったか分かってんのかお前!?」

「バカって言わないでよバカっ! ちゃ、ちゃんと意味分かってるし許可も貰ったんだからねっ!」

「うううう嘘仰い! 歳頃の娘を持つ母親が、こんな得体の知れない男の下に送り出すとか、お前……」

「嘘じゃないし! パパ誤魔化しといてくれるって言ってたし! ママからヒッキーに伝言も預かってるし!」

「……ちなみに、なんて?」

「『娘のこと、末永く宜しくお願いします』って」

「アッハイ」

じゃねーってだから! ガハママさん防犯意識緩すぎじゃね!?

「ふ、ふかしてんじゃねーってお前……」

「だから嘘なんかじゃないし……ママ、ヒッキーのこと気に入ってるし、パパいないときにヒッキーとどうなったとか、どこまで進んだとか、よく聞かれるもん」

79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:32:45.53 ID:wXxBmjsv0

あぁそういえばこいつの部屋で一緒に受験勉強してたとき、やたら差し入れがリッチだったり妙に豪勢な夕餉にご相伴与ったり結構露骨だったな……話振られるときもやたらニコニコしてたし、妙に距離感近くて良い匂いして慌てて由比ヶ浜が引き離しにかかったり。ちょっと危ない状況だったかもしれない色んな意味で。

「だからって、だから、歳頃の娘の親が、ありえねーだろそんな……」

「じゃ、じゃあ確認してみる?……電話で」

そう言うと由比ヶ浜は僅かな操作を経て自分のスマホを躊躇無く差し出した。画面には「ママ(記号省略)」と表示されている。

これマジなヤツじゃないですかやだー。いや本当どうすんの、どーすんの俺。続きはWebでってことでこの場はまからないですかね。

どうしたものかと脳細胞を加速させ、黙り込む俺。

そんな俺をどれくらい見つめていたか、由比ヶ浜は意を決したように言葉を発し始める。

「……ヒッキー、今からちょっとズルいこと言うね」

80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:35:27.84 ID:wXxBmjsv0

ズルい。

それは今より俺達の関係が離れていた時期に彼女が口にした言葉。

それに纏わる記憶がフラッシュバックし、さっきまでのように由比ヶ浜の女性≠感じて震えていたのとは違う、鋭く真っ直ぐ貫くような痛みを胸に感じた。

「あたしと、その、つ、付き合ってから……キスした回数、覚えてる?」

そんなん覚えてるわけねーじゃん毎日何回してるか分かんねーくらいなんだからさHAHAHA!

……なんて言える状況じゃない。砕いて良い空気じゃないことくらい、分かる。

「その……二回だったよな、確か」

「うん、二回。 あたしの誕生日と、クリスマスの時」

それも、彼女がねだった二回。

これも痛みを伴う現実だ。三年に進級してから、受験勉強を言い訳に各種イベントはスルーにスルーを重ねていた。その例外が彼女の言うとおり、由比ヶ浜の誕生日とクリスマス。

「じゃあ、ちょっとした買い物とか寄り道じゃない、ちゃんとデートだって一緒に出かけたのは?」

「……ディスティニーの、シーのアレは付き合う前でいいんだよな、そしたら……い、一回」

「そう、一回だけだよ」

81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:38:29.60 ID:wXxBmjsv0

去年のホワイトデーに、それまで伸ばしに伸ばされ、一度は彼女の方から違う形で消化されかかったデートの約束、それを俺達は果たした。そこでお互い幼稚で無様な感情をぶつけ合って、その奥にあった想いを伝え合って、俺達は恋人になった。

でも恋人になってから勉強ばかり言い訳に使って、二人ともおめかしして揃って出かけたのはクリスマスの一回。それも夕食の前には解散してしまうような儚く短いデート。プレゼントの交換とその際のキスを除けば、風に吹かれて飛んでいってしまいそうな淡いお出かけ。

「……もういいじゃん、受験終わったよ? あたし、ちゃんと出来たよ? だから……あたし、欲しいよ」

彼女の瞳が再び潤み始める。

その色は赤や桃じゃない、青みがかった悲嘆の色。

ぞぶり、心臓に刺さる棘が増えて、鼓動の度に伝わる痛みはその量を増した。

「こんなこと言うのズルいって、あたしも分かってるけど……もっとヒッキーと近づきたいし、恋人らしいことしたい……一年我慢したんだもん、もっともっとヒッキーに、愛して欲しいよ……」

彼女の悲しみと渇望は目尻に溜まって、臨界を越えては頬を伝って流れ落ちていった。

ああ、違うんだ。違うんだよ由比ヶ浜。

ズルいのは俺だ、悪いのは俺だけなんだよ。

何時までもお前と向き合いきれず、自分の感情すら心の何処かで疑って、それでもお前を突き放せない俺だけが罪人なんだ。

82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:41:23.56 ID:wXxBmjsv0

「……ごめんな、情けない彼氏で。 本当に……」

「あ、あやまらなくて、いいよ……あたしも、泣いたりして、ごめん、ずるいこと言って、ごめんなさい」

俯いて、鼻声で、ぽろぽろ涙を零しながら彼女は言った。

……もう拒むことなんて出来やしない。

「……分かったよ」

「え……?」

「いいから、泊まりたかったら好きにしろよ」

「あ、ひ、ひっきー……」

ここに至ってもぶっきらぼうで真っ直ぐ言葉をぶつけるのを忌避した言い回しなのに、彼女の溢れ出す涙は量を増して、だがその顔は喜色に緩んだ。

同時に、俺の胸中も重さから解放されて晴れやかに開いていく。我ながらなんと現金な心臓だ。

それに合わせて欲求を認められたと早合点した本能が理性をねじ伏せて過剰なアピールを始める。

確かめたい、彼女の愛と柔らかさを確かめたい、確かめさせろ。そう叫んでいる。

悪いが、それはまだ早い。大人しくしていろ。

そしてそれを由比ヶ浜にも、

「ただし」

「?」

「同じ布団じゃ寝ないし、最悪俺は違う部屋に行く。 それを認めなきゃ、俺は今からネカフェに行って夜を明かす……そこが妥協のラインだ」

83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:44:06.88 ID:wXxBmjsv0

「あ……」

また曇る。

胸が痛む。

何度過つ、何回繰り返す。

でもこうするしかない、そうしなければ先に待っているのは抗いようのない破局……その可能性だ。

悲観的過ぎるし、消極的すぎる。分かっているが、僅かにでも見える破局の影は俺にとって死の宣告に等しい。

「悪いが、万が一ってのは避けたいんだよ……チキンだからな、俺は」

「う、うん……」

彼女がその万が一≠多少ならず期待しているのは分かる。だがそれが愛を渇望するが故の意識なのか、それとも欲を突き動かす衝動なのかは分からない。俺自身が判別を付けられていないのに、他人のそれを理解出来るわけがない。

彼女と同じ部屋で勉強していた時から幾度と襲いかかってきた欲求。

それの何処からが感情で何処までが衝動なのか、その解を得ない限り彼女の肌には触れられない。恐ろしくて、触れることが出来ない。

失敗の傷を過剰に怖れる無力な子供、それが今の俺だった。

84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:47:15.72 ID:wXxBmjsv0

時刻は日付変更間近。

互いに風呂に入って一日の汚れを洗い流して身を清め、後はもう布団に入って眠るだけだ。眠るだけなんだよ性の時間なんてやってこねぇんだよ。それは九ヶ月後だ。

そして灯りの落ちた部屋には寝間着用のジャージに着替えた俺がフローリングの上に転がり、ピンクの可愛らしいパジャマを着込んだ由比ヶ浜は布団の中に身を収めている。ベッドはデカいし重いから追々と考えていたのが裏目に出てしまった。

いや仕方ないんだって、だってこんなに早く来客用の寝具が必要になるなんて思わないもの。俺用のワンセットしか持ってきて無かったんだよ。寧ろ以後泊まりの客は絶無と認識して増やさないまである。

まだ肌寒い三月の夜、流石に掛け物無しでは風邪引き待ったなしなので仕方無くコートをダンボールから引っ張り出して毛布代わりとする。ここ何年か春間近という時期に豪雪で阿鼻叫喚という経験を何度かしてきている為、念のためにと持ってきていたコートに計らずとも助けられた。

枕はさっきまで使っていたクッションを代わりにしている。勿論俺の使っていたヤツをだ。これが小町のだと色々拙いしもし知られた時何を言われるか分かった物じゃないし、由比ヶ浜の使っていたヤツなど論外だ論外。危険が危ない。

85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:50:11.05 ID:wXxBmjsv0

そう、ただでさえ気を使いに使って不測の事態に備えている俺だ。既に想定された危機は俺の身を浸食しつつあり、これ以上の危難やダメージはどうしても避けねばならない。

そう、燃え上がってるんです。

立ち上がってるんです、俺のガンダムが。

正しくは勃ち上がってるんです、俺のRX-78。

これは世界全人種の男性諸兄になら須く理解頂けるだろう生理反応、それこそ脊髄反射のレベルで無意識の内に血液を集めてバンプアップしがちな男の象徴。こいつの前にこれ見よがしに餌をちらつかせたらどうなるか……語るに及ばず。

結局俺達は泊まりを決めて何時間か、互いに座ったまま微動だに出来ず喋ることすら出来なかった。そのまま就寝の時間が近いと察するや既に掃除を済ませていた風呂にお湯を張り、一番風呂を由比ヶ浜に譲ったのだが……これが拙かった。多分逆でも拙い。俺詰んでた。

弾ける水温と部屋に漂う由比ヶ浜の残り香がどうしようもなく妄想と劣情を喚起し、風呂上がりのしっとりとした由比ヶ浜の柔肌と髪の毛は産毛が逆立つほど濃密な色気を振りまいていた。この時点でもう限界まで張り詰めてました。バレないようにするのが精一杯でしたとも。

由比ヶ浜のシャンプーの芳香が充満する風呂場は更に息子の情操教育に悪い環境で、いっそのことここで一発大人しくさせたろかとも本気が考えたが、由比ヶ浜にバレたらそのままリストカットして生命的な意味で果てるまであったので止めといた。俺だって……命は惜しい……。

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:53:30.63 ID:wXxBmjsv0

……本当はバレる危険を冒してでも、最悪バレてでも下半身への血流を止めなければならなかったと、今コートの中で身を丸めながら後悔している。破局の可能性を何より恐れながら、その可能性の低減と最悪の展開の芽だけは摘んでおかなかったなど笑い話にもなりゃしない。

そしてその最悪の展開の芽が、今まさにその存在を自己主張しているのだ。狼が腹を空かして、はよしろはよしろと理性を煽り急かしている。背中の向かい側に、美味しそうな子羊が無防備に身を晒しているぞ、と。

由比ヶ浜の気持ちさえ考えなければ、今すぐにでもネカフェに行って時間を潰せばいい。その際個室を借りエロ動画でも使って徹底的に放出し切ってしまえば尚善し。問題は、その由比ヶ浜の気持ちを考えないという選択が取れないという点だ。つまり最初から選べない死んだ選択肢だ。

次善の選択肢は別室で眠ることだ。幸い学生の一人暮らしには過分な良い部屋を宛がって貰っていて、男一人の寝室に使うには問題の無い別室があり、俺だけそこで眠ることを提案したら、

「……傍にいてくれないの?」

と涙目になられた(可愛い)ので頓挫した。そりゃ彼女が期待していることを考えれば当然ですよねーですよねー。

87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:57:00.00 ID:wXxBmjsv0

モヤモヤとした熱……そうとも言い切れないような湿っぽさを胸中に抱え、寝返りも打てずに丸まって内側に向く力を強める。

這い上がる衝動を堪えて考える、愛とはなんだろう。

中二病を患った者の内にはアレコレ大袈裟に考える人間もいるだろう。それが世界の全てだと短絡的な衝動に繋げて恋愛至上主義へと暴走するリア充も、悲観して打ち捨てて諦観を標榜する高二病もいるだろう。以前の俺は後者に属しながらどちらに対しても陰で唾吐く捻くれた外れ者だった。

今は、少なくともそれを欲しがることを否定できない。寧ろ積極的に欲しいと願っているかもしれない。

だが欲しがっている者の本質はなんだ、それの意味するところはなんだ。ただ欲望が理性を納得させるためにでっち上げる方便なのか。それとも本能がせめて基準をと敷いた感性のレールかルールなのだろうか。

今俺の頭と胸を支配しようとするこれは愛なのだろうか。

大事に思えばこそ傷付けない、傷付かない選択肢は無いと恩師は言った。それがある時期俺の指針と原動力になってもくれた。だがちょっとの傷が感染症に発展しかねないように、ただの骨折が重い後遺症になりかねないように、傷を怖れ、無傷で生きていこうとすること自体間違ってはいない筈だ。実際には無傷で生き抜くことが出来ないとしても、傷を怖れ痛みから逃げること自体は生物の本懐と言ってもいいのではないか。

人間は消耗品かもしれないが、俺は由比ヶ浜という存在を消費したくない。歳経て見目が移り変わっても、由比ヶ浜結衣には由比ヶ浜結衣で在り続けて欲しい。それは過分な願いなのだろうか。愛ではないのだろうか。

ならば彼女を……彼女で気持ち良くなろうという俺の裡の衝動は? ただ可能性や選択肢の問題で手を伸ばしているに過ぎないのか?

何度間違えても問い続ける、それは俺の求める一つの形だった筈なのに、いざ手に入れば間違えることがこの上なく恐ろしい。

それが単なる自身への自己愛の発露だとするなら、俺はそもそも由比ヶ浜を……。

88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:00:22.69 ID:wXxBmjsv0

違う違う違う違う違う、それだけは断じて違う。そこだけは間違っていない。

大切で、抱き締めたくて、でも傷付けたくなくて、そんな身勝手でねちっこくて面倒な願いが偽物であるものか。それを心から信じたいと、そう思うことは決して間違いじゃ――

「……ヒッキー」

暴走し始めた思考を止めたのは由比ヶ浜の声だった。

「どうしたの? さっきから唸ってるけど……具合、悪い?」

深夜という時間帯故か、彼女の声に平時の突き抜けるような明るさはなく、小さく籠もるような声音。そこに心配の色が混じって、彼女らしい優しい響きを醸していた。

「いや、なんでもない……」

気が付けば身に被るコートを握りしめ、皺を作っていた。汗こそかいていないが脳細胞の過負荷が全身に熱を伝えている。

特に下半身が……ヤバい。思考への没頭は一時的に屹立の事実を自意識から隠蔽し遮断したものの、その麻酔が切れた今は過負荷の熱で更に昂ぶり逆に感覚が曖昧になりつつあった。

「大丈夫だからとっとと寝とけ、慣れない寝床でウダウダやってると眠れない内に夜が明けちまうぞ」

ぶっきらぼうに言ったのは諸々誤魔化す目的があったが、恐らく寝返りうってこちらを向いてる彼女の顔を直視すまいと顔を向けずに言ってしまった為、寧ろ突き放す感じで由比ヶ浜には過剰に効いてしまったかもしれない。

89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:04:04.28 ID:wXxBmjsv0

「でも、あたしヒッキーと話したいな……お風呂入る前、緊張しちゃって全然できなかったから」

寂しさが滲み出る、寧ろそれを隠す気のない彼女の声色。

また心臓の棘が揺れる。出勤通学前に寂しがって縋り付いてくる犬を見るのってこんな感覚なのかしら。

「……明日でいいだろ、もう遅いんだから」

「ううん、今じゃないとダメだと思う」

今。由比ヶ浜はそう言った。

「なんで」

「あたしもよくわかんない、わかんないけど……今だって思ったら、次同じことしても『違うんだ』って思っちゃいそうなの」

「……抽象的過ぎて分かんねぇ」

「だよねーあはは……」

誤魔化すような笑い。何時もの由比ヶ浜のバカっぽくて、でも安心する響き。

「でもね」

そこから、凜とした色。

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:08:58.31 ID:wXxBmjsv0

「あたし、今ヒッキーと話して……ヒッキーに、近づきたい」

ぱさり、多分布団がめくれる音。由比ヶ浜が上体を起こした音。

「近づいて、もっと、もっと、ヒッキーと……」

衣擦れ。多分立ち上がった。

振り向けない。

「もっとヒッキーのこと、知りたい……感じたいよ」

気が付けば、彼女の声はずっと近い。多分もう俺の真後ろに立ってる。

振り向けない。

振り向けない。

マズいんだ。

「やめろ、由比ヶ浜……それ以上は」

「やだ」

声はもう耳元。吐息がかかる。匂いが漂う。

「ねぇヒッキー……こっち、向いて?」

91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:11:49.21 ID:wXxBmjsv0

「無理だ、だから、布団、戻れよ」

ぶつ切りになる俺の言葉。

近い。近い近い。無理だ、これ以上は。

殆ど反射的にコートを巻き込みより強固に丸まる。

焦りに焦る俺の内心を知ってか知らずか、由比ヶ浜は、

「にひ」

と、その表情を容易に想像させる声を漏らすと、

「……こしょこしょこしょこしょ!」

「ひ!?」

……俺をくすぐり始めやがった!

「ちょちょちょひ、おま、ま、やめひ、やめろって!」

「ふふーん、やめて欲しかったコートどかしてこっち向いてよー」

とんでもない実力行使だ、人は苦痛には耐えられても快楽には耐えられないってクランシー柔術の後継者も言ってたしな! なおこれが快楽とは言っていない。

「ふは、はひひ、ひ、ほ、ほんとやめめめめ、やめないと……!」

「やーだー……とりゃ!」

くすぐり慣れでもしてるのか、的確に急所を責めるそのマル秘フィンガーテクニックに俺の鉄壁はあっさり骨抜きにされ、俺は仰向けにされた上コートをはぎ取られてしまった。

あ、ダメだコレ。

92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:14:35.91 ID:wXxBmjsv0

「へへ、コート取っちゃ、った……!?」

コート、取られちゃった。

仰向けにもされちゃった。

もう隠すものないです。

由比ヶ浜も、俺がここまで強固に突っぱねてきた理由を思い知ったろう。主に視覚で。

「やめろって……言ったのに……」

両手で顔を隠す俺、多分可愛い……くない。

コートの下、突き上がって布地でピラミッドを形成するズボン……俗に言うテント状態。それを由比ヶ浜に……よりによって由比ヶ浜に見られてしまった。折しも今夜は月が明るく、差し込む月光は電灯の光がなくても容姿の確認も簡単に行えてしまう。

小町にすら見られたこと無かったのに……もうお婿に行けない……。

これは無様に下衆な興奮してたのがバレて由比ヶ浜に悲鳴上げられてそれに反応した隣室の正義漢にここまで突入されて取り押さえられて警察呼ばれて手が後ろに回ってその気は無かったんですそれでも僕はやってないと主張しても受け入れてもらえず人生詰んでゲームオーバーってパターンだなヒッキー知ってるよ。

最悪の展開、そして最悪な未来を容赦なく脳細胞がシュミレートする中、それでも屹立したままのマイサンが憎らしい……全部、全部お前のせいだ!親の監督責任なんて知ったことかよ!

93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:17:11.90 ID:wXxBmjsv0

「ヒ、ヒッキー……!」

明らかに由比ヶ浜が戸惑ってる……サラバ愛する人よ、俺はもうお前と一緒にはいられないのだ……とか口にも出来ず思考を暴走させていると、唐突に、

ツン

「!?」

俺のを、由比ヶ浜が指先でつつきやがった……!

「わ!」

突然の刺激にびくりと電流でも走ったかのようなリアクションをした俺に驚く由比ヶ浜。

「お、おま! いきなり何してんの!?」

「え、その……お、男の子って、こんな風になっちゃうんだって、思ったら……」

もじもじ目を逸らす由比ヶ浜(可愛い)……いやいや可愛いけど、でも迂闊過ぎる!

「……なんで、こんな風になっちゃったの?」

そしてこんなこともじもじ聞いてくるんじゃない。俺の中の餓狼が、こいつが出ちまうッッ!

「なんでって、お前……状況、考えろよ」

「?」

首傾げやがったぞ……こういう展開期待してたんじゃないのかコイツ。それとも年若い男女が一つ屋根の下で抱き合ってキスしたらコウノトリがキャベツ畑ってくらいの認識だったの?

94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:21:03.55 ID:wXxBmjsv0

「……か、彼女が、隣で寝ててお前、そんなん……期待しちまうんだよ無意識に、男なら」

そして勢いに乗って言ってしまう、というか言わされる俺。何これ羞恥プレイ?全然気持ち良くないんですけど……。

「きたい……」

期待、と口中で反復する由比ヶ浜は、ようやくそれの意味するとこに思い当たったのか、しゅぼん、と音がしないのが不思議なくらい一気に赤くなって悲鳴を…………悲鳴?アレ?

見やれば由比ヶ浜は耳まで赤くして俯き、そのまま止まってしまう。

予想外の反応だが寧ろ助かった。ここは畳みかける!

「だ、だから止めたろ危ねぇんだって! 俺だって男だしその、勢い任せでお前にって、流石にそれは最悪だろ……ゴ、ゴムもねぇしな! やっぱアレだからネカフェ行ってくるわ! そこでたっぷり出せばもう大丈夫だから待ってろって!」

……明らかに言わなくて良いことまで言ってますね。しにたい。

だがこの勢いは寧ろ今はプラスだ、この状況なら由比ヶ浜も傷付く傷付かないってとこまで考えなかろう。暴走気味でもこのままこれを盾に押し切ってしまえ!

そのまま立ち上がり、着替えも忘れて外に向かおうと意識を向けたところで……右腕に抵抗を感じた。

何時間か前と同じく、座り込んだままの由比ヶ浜が俺の袖を摘んでいる。

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:24:31.60 ID:wXxBmjsv0

「……し、でも……る?」

赤い耳で俯いて、それでもぼそぼそと何かを。

「あたし、でも、できる?」

ぼそぼそと、何かを

「ヒッキー、じ、じぶんで、しちゃうん、だよね……?」

お前は、何を。

「あたしでも、ヒッキーに……ヒッキーの、して、あげられるかな?」

なにを。

「え、えっち……は、むりって、ヒッキー言ってるけど……あ、あたしも、手なら、あるよ……?」

ナニ、を。

「ヒッキーの、あたしが、シてあげる」

96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:27:26.15 ID:wXxBmjsv0

どうしてこうなった。

今すぐにでも立ち上がって踊り出したい。

でも今踊ると外見的に拙い、何せ……。

「こ、これが、ヒッキー、の、なんだ……」

ゴクリと喉を鳴らす由比ヶ浜の見つめる俺は、布団の上に仰向けで寝転がっていた……下半身裸で。

まな板の上の鯉でもここまで開けっぴろげな状態にはなるまい。比企谷家末代までの恥だ、今すぐ腹切りたい。

……焦燥とか、緊張とか、色々混じりに混ざってあの後俺は正常な判断能力を失った。いやそれは今もなんだけど、不思議と暴走はしなかったしする気も起きなかった。あれだけ俺の精神を揺さぶった狼達は、据え膳は据え膳でも自分達で召し捕る獲物より与えられるペットフードを選んだらしい。この飼い慣らされた家犬どもめ!

でもまぁそれに助けられた感はあるし、何より、

「じゃ、じゃあヒッキー……は、はじめる、から」

由比ヶ浜に、あの由比ヶ浜結衣に抜いてもらえるという状況は、あまりに現実味が無く、故に魅力的だった。

97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:30:39.74 ID:wXxBmjsv0

これなら由比ヶ浜を傷付ける心配もなく俺の性欲も発散出来る、なんて素晴らしい解決法!どうしてこれを思いつかなかったんだ!でも分かってる、多分これ思いついても提案したら死ぬほど惨めになってそのまま自死選んじゃう。ナイーブなんです思春期男子。

だから、この提案が由比ヶ浜からのもので正直助かった……同時に、これ以上ないほど興奮した。その証拠に逸物は触られる前から限界まで張り詰めている。

そんな怒張を見つめる由比ヶ浜は、

「ど、どうすればいいの、かな」

などと真っ赤になって俺に聞いてきた。

自分からすると言っておいてやり方は分からないんですね……知ってたら逆にショックだけど。

「あ、その……最初は優しく撫でる感じで、先っぽとか」

「わ、わかった……!」

ムフー、と分かり易くヤル気の息を吐き出し、由比ヶ浜は意を決して屹立した俺自身に手を伸ばした。

そして、彼女の暖かく、柔らかく、きめ細かい肌をした手が、尖端を、

「ッッ!!!!」

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:33:15.16 ID:wXxBmjsv0

ビクン。

我ながら情けなくなるくらい、過剰に反応してしまった。

当然由比ヶ浜も驚いて手を引っ込めた。

「あ、ご、ごめんヒッキー! 痛かった!?」

「いや、吃驚しただけだから……気にすんな」

勿論フォローする。いや想い人のファーストタッチってこんな感じじゃないスかね? それとも俺がBINKANなだけ?

「だ、だいじょぶなんだ……良かった」

「ああ……それと、多分続けてるとこんな反応度々するだろうけど、大丈夫だから。 気にせず続けて良いから」

「う、うん」

戸惑いながらも、俺の助言に再び意を決したようだ。

……正直、期待が沸き上がってきてる。

さっきのは気持ちいい、というよりくすぐったくて過剰に反応した感じだったが、性感というヤツがそのくすぐったさの向こう側にあるものだと、自慰経験豊富な思春期男子なら誰もが知っているだろう。

あれほどの感覚が、全部性感に変わるとしたら? それを長く継続的に味わえるとしたら……?

ゴクリ、今度は俺の喉が鳴る。

99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:36:09.79 ID:wXxBmjsv0

「じゃあ改めて……はじめるね?」

幾分緊張が解れたのか、声も表情も僅かに柔らかくなっている。

そして、彼女の指が再び俺に触れた。

「わ」

今度はぴくりと僅かな反応に、由比ヶ浜の方が声を漏らす。

淡くカリを撫でられる感覚がそのまま背筋を通り抜けて全身に巡っていく。

くすぐったい。

くすぐったいが、もうその半分は性感に変わってきている。

「わ、わ……」

俺の反応や逸物の感触が興味深いのか、驚嘆の声は続く。

由比ヶ浜の指先が、指の腹が、掌が、尖端を撫で擦っていく。

ヤバい。ヤバい。ヤバい。

今の時点で、自分の手で握るのとは格の違う感覚。

他人の手というだけで……それが由比ヶ浜の手というだけで、こんな。

「どう? ヒッキー」

俺の目を見つめて、由比ヶ浜が問うてくる。

何時もなら長くて一秒合わせて俺の方から視線を逸らすだろうが、今は照れも恥ずかしさもない。もっと優先すべきものがあって、羞恥など二の次だった。

100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:39:13.30 ID:wXxBmjsv0

「あ、ああ……気持ち、いい、な」

魅惑の感触に途切れ途切れの俺の返答を聞くと、

「そ、そっか……えへへ」

嬉しそうに微笑むと、手の動きが僅かに速くなった。

「あ、う……」

ぶつ切りに伝わってくるようだった感触が、一つに連なり快感の紐になる。

断続的に刺激される逸物がぴくりぴくりと反応するが、俺の助言を受け入れた彼女はそれに構わず俺自身を撫で回していく。その範囲は何時の間にか尖端だけでなく竿の部分にも及び、紐の連なりが帯になって全体が快楽を伝えてくる。

そして、

「あ……先っぽから……」

突如現れたぬるりとした感触にまたビクリと大きく反応してしまう。その感触と彼女の台詞から、先走りが漏れ出したことに気付いた。

だいじょうぶ?

彼女が目で問うてくる。

「それは、その……気持ちいい証拠、だから……それを全体に塗っていくみたいに」

「あ、うん……」

言われたとおり、漏れ出した液体を巻き込んで尖端から竿まで擦るように触れていく。粘着質な水気の感触に、限界と思われた俺の逸物が更に硬く張り詰めていく。

101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:42:22.83 ID:wXxBmjsv0

「……男の人も、ぬれちゃうんだ」

ぽそりと彼女の声。

男の人も。

『も』?

「男の人『も』って、お前」

思わず問うてしまった。だって仕方無いじゃない……。

単なる生理現象の共通項として口にしたのか、はたまたそれは彼女自身の……。

「へ……あー! べべべ、別になんでもないから! 気にしないで!」

あまりに露骨な反応をする由比ヶ浜、そしてその反応は俺に触れる彼女の手にも表れ、撫で回していた指がそのまま俺の竿を握る形になった。

「ぅおッ!」

唐突な圧迫に、今まで一番大きい反応をしてしまう。そしてそれに気付いた由比ヶ浜も、

「あ、ごっごめんヒッキー! い、痛かったよね!?」

流石にこれはダメージになったろうと由比ヶ浜は手を離す。だが……

「ま、待て由比ヶ浜、大丈夫だから……今のも気持ち良かった」

「え、そ、そう、なの……?」

「あ、うん、そうだから……続けてくれ」

寧ろ続けて欲しい。期待感が高まり、もう躊躇もない。

何せ先走りで全体が濡れて、次は待望のアレだからだ。

102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:45:20.61 ID:wXxBmjsv0

「さっきみたいに握ってくれ」

「う、うん」

言われたとおり由比ヶ浜の手が俺の竿を握る。限定的ながら包まれるような感触に背筋がぶるりと震える。が、

「……もうちょい強くて良いぞ」

「こ、このくらい?」

「もうちょい」

言われただけでは俺の反応に解を出せなかったのか、握る力は淡く、弱かった。それでも気持ちいいし高まるは高まるが……折角の機会だ、一番良い感触を求めたい。一番良いのが、欲しい。

「……えい!」

そんな俺の期待に応え、掛け声と共にぎゅっと握り込んでくる。

だが握りつぶされるとか、痛みとかとは無縁な程度。寧ろ丁度良い塩梅だ。

「ああ、それくらいで……それが、いい」

柔らかく暖かな由比ヶ浜の手で、由比ヶ浜の手で、きゅっと圧迫される。たまらない。

そして、いよいよ。

「そしたら……握ったまま、上下に、擦ってくれ」

103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:48:11.45 ID:wXxBmjsv0

「え、それ痛くない……の?」

「いやほら、濡れてるだろ今……それに、これが野郎が自分でするときの定番なんだよ」

「そうなんだ……じゃあ、今からが本番ってことなんだ……」

本番。

その単語。

意図するところが違うのは明白なのに、ただその言葉を使われるだけで、興奮を抑えられなくなる。

「……動かすね」

言葉を合図に、ストロークが始まった。

にちゅ

「うお、ぉ……」

電気が走った。

本当に冗談でなく、そのくらいの感触と衝撃。

まだおっかなびっくり、確かめるような遅さだが、それでも感じる快楽はこれまで自分でシてきた記憶の中の感触では到底及ばない。

この遅さで、この感覚。

深淵。

底の見えない穴の淵に立った、そんなイメージ。

知りたい。もっと。もっと。

落ちたい。

堕ちたい。

「もっと、速く」

取り繕う気もない短く直截な俺の要求。

104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:51:21.09 ID:wXxBmjsv0

「……うん」

戸惑わず、素直に頷く彼女。

にちゅにちゅにちゃにちゃ

粘付いた水音を響かせながら由比ヶ浜の手が上下する。

ストロークの度にカリから竿から、背筋へ絶え間なく快感が流し込まれていく。

触れられていた時は一々タッチされる度に敏感に反応していたが、今の連なりきった快楽は寧ろ表皮の感覚を鈍くし、代わりに内側から高まってり満ちていく感覚が膨れ上がっていく。これが限界にまで達すると、それは。

「う、んく、うう、ぐぅ……」

自分でする時などどんなに良くても喘ぐことなどなかったが、今のこの快楽に声が漏れ出ないわけがない。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ、はぁ……」

擦る由比ヶ浜も、驚きや好奇心に満ち溢れたような表情から切なげに吐息を漏らす女≠フ顔になってきている。そして、

「……ヒッキー!」

何を堪えきれなくなったのか、俺の名を呼ぶと半ば飛び込むように俺の隣に添い寝の要領で寝転んできた。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:54:31.99 ID:wXxBmjsv0

「う、わ……!」

密着し、半身で彼女の身体の柔らかさを感じ取る。また硬直が増す。

「ひっきー、ひっきー、ひっきー、ひっきー……!」

何処か呂律が妖しくなり、擦る度に俺の名を呼び始める。それがまたどうしようもなく昂ぶらせる。

気持ち良い。

気持ちいい。

きもちいい。

出したい。

出したい。

だしたい。

ださせろ。

くっつく由比ヶ浜の体温と感触、同時に更にスピードの増したストローク。

にちゃにちゃにちゅにちゃにちにちみちゅみちゅ

更にに溢れ出してしととに逸物を濡らす先走りと、加速と比例して淫猥さを増す粘質の音。

張り詰めて、充ち満ちて、逸物はもう弾け飛ぶか溢れ出すしかない。

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:57:09.23 ID:wXxBmjsv0

落ちている。

堕ちている。

限界だ。

げんかいだ。

「ゆい、がはま……も、でる……!」

「ひっきぃ……出ちゃうんだ……だしちゃうんだ……!」

「お、う、でる、から、とびでる、から……てぃっしゅ、てぃっしゅを」

もうお互い呂律がまともに回らない。辛うじて用件だけ伝えるのが精一杯。

それでも意は伝わって、しかし彼女は、

「いいよ……だして、いいよ……」

ティッシュを使わず、空いていた左手で俺の尖端を包み込んだ。

107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 03:00:14.68 ID:wXxBmjsv0

「お、ゆ、ゆいがはま!」

擦られる俺自身が見えなくなる。彼女の両手に包まれて、見えなくなる。

包まれる。先から竿まで余さず。

全体を暖かな感触が覆う。

それは、由比ヶ浜の中≠、想像させるに充分で。

「あ、でる、でる、でる!」

最後の一線を、急加速で走り抜けた。

「あ、あぁぁ、ぁぁ」

目の前が真っ白に……そんな錯覚。

上半身の感覚に使われているリソースが全て下半身へ集中し、そのまま、

どぶり。どぶり。

彼女の手の中に白濁を吐き出し始めた。

「うわ、わ、わ、わ、わ……」

熱に浮かされた声で受け止める感覚を伝えてくる由比ヶ浜。

熱さが尖端から抜け出ていく度、堪えようのない快楽が暴れ回って自我を削った。

どぶり。どぶり。

びくり。びくり。

処理の追いつかない強烈な感触は、彼女のストロークが止まってもその残滓を求めて腰を上下に動かさせた。

今まで自慰では、自慰くらいでは感じられなかった長く大きな射精と、それに伴う悦。

これを求めていた筈の本能も、その強烈さに耐えきれず理性と一緒に何処かへ消え去っていた。

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 03:17:23.95 ID:wXxBmjsv0

放出の余韻にぴくぴくと痙攣し、残った甘い痺れを堪能する。

何時の間にか射精は終わっていて、それを認識すると余韻はそのままに全身が深い疲労感に包まれ意識を曖昧にした。

「ゆいがはま……?」

傍らの柔らかさが消えていたことに気付き、ふと視線を上げると彼女は両の掌をじっと見つめていた。

「これが……ひっきーの……」

掌には、俺が放出した白濁。

彼女はそこに顔を、鼻を寄せた。

「すごいにおいがする……」

平時なら心臓が跳ね上がるような行動と言葉にも、多くが抜け落ちた今の俺にはどうも実感が湧かない。

「ん……」

そして彼女は、そのまま手の上の精液に舌を寄せ、舐めた。

ぴちゃり。

「……へんなあじ」

顔を顰めて暗に不味いと言うが、それでも彼女は舐めるのをやめなかった。

ぴちゃぴちゃと音を立てながら俺の吐き出した欲望の証を舐めきるのを、俺はボーッと見つめていた。

109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 03:21:26.91 ID:wXxBmjsv0

その後は二人してシャワーを浴び直し身を清め、今度は由比ヶ浜の要望により同じ布団で眠りにつくことになった。

もう狼の影はなく、全身を包む気怠い疲労感が再度の欲望の隆起と理性の細かな思考を奪い取っていた。

さっきまで忙しなく動いていた脳細胞のいずれもが動きを止めている。

俺だけでなく由比ヶ浜も、布団に入って、ぎゅっとくっついて、互いの身体の熱や感触を感じても、無言。

そのくらい強烈な体験で、そこで吐き出し切ったのか本能は性欲と繋がらず、そういえば昼間から引っ越しで疲れていたと今更思い出し、もう由比ヶ浜のことを気にする余裕もなくあっという間に眠りの闇が這い寄ってくる。

眠る寸前、眠気と疲労で曖昧になる意識は本能が去って尚胸の中に残った何かを知覚したが、それが何なのか認識する思考も無くしていた俺は睡魔に抗えず、夜闇に意識を融かしていった。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 03:23:11.29 ID:wXxBmjsv0
これにて今夜の投下分、第一話終了です。
流石にちと眠いので次回投下予定等はまた後で。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 03:54:24.10 ID:+ApNVEyUo
乙です
素晴らしい…
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 08:05:45.80 ID:Fir6JMUzo
すごい引き込まれてくね
たくさん見たい!
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 19:20:08.63 ID:wXxBmjsvo
どうも>>1です。
突貫作業だったとはいえ誤字多いし最後の方無理矢理感強いしで反省中。

内容がもうイチャエロじゃねぇって感じですがこういう流れは三話までになると思うので暫しお付き合い下さい。
次回はまた一週間以内、早ければ二、三日って感じで。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 19:47:04.53 ID:+ApNVEyUo
待ってる
頑張って
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 21:49:34.35 ID:9dturrG2o
期待してます
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 18:34:24.46 ID:ibCNzLDXo
どうも>>1です。
二話のプロットと執筆を並行で進めてますが、また果てしなく長くなりそうなので
暫くは二分割三分割って感じではなくキリのいいとこまで書いたらその都度投稿って形になりそうです

いやエロスレなんて皆オカズ目的だって分かってるんだけど、でも本番に至る過程ばかり力入っちゃうんですよね
セックスは挿入より前戯が重要だってばっちゃが言ってたから……

とりあえず今晩22時以降投下出来るかもなので期待せずお待ち下さい
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 18:39:56.66 ID:sIA4s3Ywo
期待してるー
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 19:00:44.71 ID:OUVtTg4Mo
期待
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 20:42:01.77 ID:CyAbWzV8o
俺も過程好きだよ 期待してる
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 23:24:24.81 ID:ibCNzLDXo
どうも>>1です
23時半から投下予定です

今回は
・エロ無し
・オリキャラあり
・ガハマさん出番少なし
の絶望三本立てでお送りしますすみません許して下さいなんでもしますから

オリキャラと言っても精々今回と次回くらいにしか出番のないモブみたいなものなのでご容赦
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:30:44.82 ID:ibCNzLDX0

一年、特に前期の講義は大半が必修科目で、何処に行っても見た顔見た奴ばかりで辟易する。だが実際には顔も名前もハッキリ覚えちゃいないのがぼっちの仕儀。

だだっ広い講義室で誰とも隣合わずぽつぽつ疎らに座る学生達を前に教授か講師が静かに話を進める……そんなものが大学の講義に対するイメージだったのだが、現実には既に作られたグループが広範囲に渡って座席を占拠し、講義の最中もひそひそ雑談を続ける高校までと変わらない教室模様がそこにはあった。寧ろ席を指定されていない分その自由混沌ぶりには磨きがかかっていると言ってもいい。

当人達は後部座席で声を潜めバレないよう振る舞っているつもりだろうが、ぶっちゃけ会話隠れてないからね聞こえてるからね? コーギツマンネーとかキョージュブサイクーとか教壇の教授まで絶対届いてるからね?

しかしそのキョージュ殿はそんな様子も慣れたものと言った感じで無視し、淡々と講義を進めて行く。教育だか教室の崩壊が叫ばれて久しい昨今、教職の人間もああいう鋼の面の皮とかメンタルじゃないとやってられないんだろうなぁ。

面の皮の厚さでは俺も負けてはいなかろうし俺には教職が天職か? でも卒業したらもう二度と学校なんかにゃ関わりたくないしそもそも働きたくないので淡い夢は妄想の内に溶けて消えていった。人の夢と書いて儚いと読む、どこか物悲しいわね……あの世界って使用言語日本語だったのか……。

益体のない思考を走らせながら同時にペンも走らせる(見た目は)真面目学生の俺。というか必修科目落として再履修とか殆ど留年に等しい苦行なので万が一にも落としたくない。理数系科目どうすっかなー、なんで文系なのに(基礎だけとはいえ)理系科目があるんだろうなーしねばいいのに。

そんな自動書記的授業対応も幾十分と進み、教授の話が途切れて教科書を纏め部屋を出て行くのと終了のチャイムが鳴ったのが殆ど同時だった。教授パネェ。ここまで時間を読み切った上での講義だったというのか……!

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:33:58.62 ID:ibCNzLDX0

そんな教授の妙技に心中ウムムと唸っていると、ひそひそ話の規模が一気に広がり騒がしいを通り越し喧しいレベルまで拡大される。うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ……人数増えた分だけ高校の時より鼓膜に響く。いやお前らこんな中で本当に会話出来てんの? 相手の声聞こえてる?

人の少ない前部座席に座っていた俺は教科書ノートを纏めながらチラと視線を後部へ向けた。比較的地味で真面目そうな面々の集中した前部と比べれば五月蠅くも明るい後部……髪の色も明色なので物理的に明るかった。二限目が終われば次は昼休み、何を食べよう何処に行こうと盛り上がっている。

その一画、見知った茶髪が騒ぐ学生達の中心で談笑している。ご存じ由比ヶ浜結衣である。

結局必修科目の講義風景が高校の延長線上だったように、大学でも俺達の在り方はそう変わっていない。俺は独りで講義に集中し、彼女は仲間に囲まれてわいのわいのと宜しくやっている。

当初由比ヶ浜は俺の隣に座っていたのだが、誘蛾灯に惹かれてやってくる夏の虫共の如く由比ヶ浜の回りにフラフラと頭の悪そうな学生達が集まってきて、そこで上手く応対する彼女とどもって引きつる俺の明暗分かれ、その空気に耐えられなくなった俺は講義中は離れようと提案したのだ。

勿論由比ヶ浜は悲しそうな顔をして寂しいよ一緒にいたいよと非常に可愛らしくいじらしく男の心臓を破壊するハートブレイクショットをブチ込んできたわけだが、それでも俺と一緒にいることを選ぶならそれは彼女の交友関係を制限することになりかねない。学生の在り方が少なくとも現時点で高校とそう変わらない以上、俺と一緒にいることで彼女の明るい学生生活が阻害されかねないと言うなら、俺の行動指針が高校時と変わらなくなるのは必然だった。

思い出されるのは彼女とクラスメイトだった時分、苛烈な女王様の周囲に侍る野花のようだった由比ヶ浜の姿。当時のキョロ充だった由比ヶ浜にも人目を惹く何かがあり、それ故に三浦に見初められたわけだが、今学生達の中心にいる彼女の醸す空気はその頃とは明確に違う。

123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:37:10.80 ID:ibCNzLDX0

華がある。

というよりも由比ヶ浜自身が華だった。

背が低くて視線を下げなきゃ目に留まらない雑花じゃなく、何処の誰の視界にも入ってくる高貴な花弁と漂う芳香……という程の気品は無いが、それでも人を惹き付ける輝きと存在感を確かに感じる。本来の彼女というより、これが由比ヶ浜の成長の形なのだろう。

自己主張出来なかった彼女はその意志を改善し、今では主張するまでもなくその存在が周囲の心を引き留める。

もしこれが何時かの生徒会選挙の時に見られたら、彼女は本当に勝ち抜いて生徒会長になっていたのでは……そんなifを想起させるに充分な光。

眩しくて、目を逸らすしかない。

だが逸らそうとした寸前、彼女の視線が前を向いて目が合ってしまう。

にこり微笑んで手を上げる由比ヶ浜に俺も適当に手を上げ返すと、纏めたノートと筆記用具を鞄に仕舞い、由比ヶ浜の反応を確認しない内に足早に部屋を出た。

また心臓に刺さった棘から痛みが走る。

自分で選んだことなのに、隣に俺達がいなくても輝く彼女を見るのは無性に辛かった。

124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:40:17.46 ID:ibCNzLDX0

人と活気に溢れる大学と言えどそこが社会の縮図であるならば陰が出来るのは必然……人間の集団の話ではなく、物理的な場所の話である。

有り難いことにかつてのベストプレイス同様人の寄りつかない一画があり、ここにはベンチだって幾つもある。違うのはそれでも何人か先住民がおり完全独りのぼっち状態にはなれないことだが、志を同じくする者達であることは空気で分かる。ぼっち同士は干渉し合わない、つまりいてもいなくても同じ。なんて素晴らしい意識共有……相互理解や対話にGN粒子なんていらんかったんや!

そんな大学の暗部、生ける屍達の住まう現代の墓場は入学から二週間を過ぎる頃には俺の居場所として定着していた。つまり俺も現代のゾンビの一人なのである。ブードゥーでも信仰しようかしら。

そんな草むした墓(土地―沼・森)にも春らしい暖かな陽射しや爽やかな風は入ってくる。自然天候は老若男女金持ち貧乏問わず平等に与えられる資源だ、勿論ぼっちにも優しい。昼飯のお供には良い塩梅じゃないかと少しだけ気分を良くして予め買っておいた惣菜パンとマッ缶で空きっ腹を慰める。

マッ缶の過剰な糖分が脳に行き渡るが、ネガティブ入ってる思考は改善されず気分は晴れない。ぼっちは常にネガティブだがそれでもメッゾネガティブかネガティブかってくらいには判別出来る。決して五十歩百歩ではない。

今頃由比ヶ浜は俺を捜しているだろうか……いや、腹を空かせた取り巻きに引っ張られ強引に学食にでも連れ込まれている気がする。

彼女も流されず人付き合いを選べるようになったろうが、それでも俺のように集団の意とは無縁とばかりに我が道を往く選択は出来ないだろう。友達と恋人とどちらを優先するでなく、きっとどちらも優先したくて積極的な選択は出来ないのではないか。寧ろそれでなんとかなってしまうような天分天運を持っているのが由比ヶ浜結衣という人間だと思う。

125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:43:21.27 ID:ibCNzLDX0

疎らに白い雲が散っている晴れの空をボーッと見上げる。

ポケットからは振動も音もない。当たり前だ、ここに来るまでスマホはバイブさえ切ったサイレントモードにしてある。ぼっちのベストパートナー足るスマホを取り出していないのは由比ヶ浜からのメールや着信履歴が山と積もっているのが確実だからだ。

大学の講義が高校までの授業と現時点で大差ない、ということはまだ良い。それでも確実に環境は向上しているからだ。だがそれ以上に人間関係、それも誰より親しくなった人間とのことでこうも悩むとは思わなかった。

俺と由比ヶ浜の住む世界が違う、なんてことは幾度と考え思い知ってきた事実だ。それでも俺達はなんとかやって来れた筈だった。彼女が進学先を俺と同じくし、そしてその道を勝ち取ったことは俺だって嬉しかった。こうして自由と怠惰のユートピアである大学へ、大切な人と肩を並べて進んでいけるのだと。

現実は、俺と彼女が別世界の人間であることをじくじくとした火傷のような痛みで思い知っただけだ。

……俺が今の住居へ引っ越したあの日以来、由比ヶ浜の泊まりを許したことは無い。あの日の続きをと俺自身期待はしていたが、未だ俺の中で彼女と真の意味で向かい合う決意は出来ず、解は出ていない。そんな状態で彼女と密着することは何より待ち遠しく、でも何より怖かった。

由比ヶ浜は確実に変わっている。俺との関係、その変化を前向きに捉え、そうあろうとしている。

だが俺はどうだろうか。何時まで俺は俺で在り続けることを選んでいられるのだろうか――

126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:46:43.64 ID:ibCNzLDX0

と、果てしないネガティブスパイラルに陥った思考が途切れる。空気が変わった。

視線を下げれば学生ゾンビ達が何人も消えており、残った数人も今まさにこの場を去ろうとしているところだった。

もう昼休みが終わるのか、そんな時間感覚が消えてしまうくらい思考に没頭していたか――時計を確認するより前に蜘蛛の子が散った原因を目視した。明らかに場違いな二人組の男が墓場に踏み込んできていた。片方はくすんだ金に頭を染めて見た目からバカ・アホ・チャラいの三種の神器を備えた如何にもウザそうな不良学生、もう片方は一目でスポーツマンだと分かるような恵まれた体躯とゴツいながらも整った顔をした如何にも真面目で鬱陶しそうな優等生風だ。

それぞれキョロキョロと何かを探すように首を振っていたところ、頭の悪い方(確定)と異邦人を観察していた俺とで目が合った。

すると頭悪いのが真面目なのに何かを話してから揃って俺を見て指差し……ってちょっと待って、何俺目的? 身体? 身体目当てなの?

話は直ぐに纏まったらしく二人して俺へと踏みだしながら、

「よォー! 『ヒッキー』てお前だべーッ!?」

と、これまた死ぬほど頭の悪い声で頭の悪い言葉をかけてきた。ウゼェー!

やがて俺の目の前に二人揃うと頭悪いのが俺を指差しながら横の真面目なのに向かって、

「ほれゆいゆいの言ってた通り目がアレっぽくて超ネクラって感じじゃん? 間違いねぇべよォ!」

などと失礼極まりない暴言を吐きやがりました。いや否定出来ないんだけどね、だけどもちっと知性を感じさせる言い回しでお願い出来ませんかね類人猿。

127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:50:11.90 ID:ibCNzLDX0

「おい猿渡、あんまり失礼なことを言うんじゃない……悪いな色々、確か……ヒキタニ、でいいんだよな?」

真面目そうなのは見た目通りのバリトンボイスでバカを諫めると陳謝もそこそこに俺が探し人かどうか確認してきた。こっちは話も通じそうで好印象……の筈が名前のとこで一気に株暴落だよ。リア充は俺の名前間違えるってジンクスでもあんの? ヒキタニさんが学内にいたらどうすんだよ。あと猿渡ってちょっとイメージと合いすぎませんかね。

もう訂正するのも面倒だし関わり合いになりたくないしとっとと用件済ませて欲しいので一々口は挟まない。何より「ゆいゆい」が指す人物が容易に想像出来るから一刻も早く退散して男子トイレ辺りに引きこもりたい。

「……そうだけど、何?」

「『そうだけど、何?』ってお前こそ何よ! マジ受けるわ! ッベーよこいつマジッベーよ! 牛山、こいつマジだよマジ!」

どの辺がツボに入ったのか、猿渡とかいうお猿さんは腹を抱えて笑い始めた。ちょっとこの人何、何なの。誰か警察呼んでよ。そんで俺を不審人物ってことで連行してもらって物理的にアレとの距離取らせてよ。あと牛山ってのもイメージ通りかもしれない。イケメン牛。

「いい加減にしろ猿渡!……本当にすまんな。 改めて俺は牛山、隣のが猿渡、両方今年の新入生だ……よろしく」

「あ、あぁ、よろしく……まぁそれはいいから、早く用件頼む」

牛山君は礼儀正しく話も通じる感じで好印象ですね、友達になってあげてもいいかも……向こうから願い下げだって分かってるけど。

128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:00:17.13 ID:ifgaMc000

「そうそう用あんだよ用! お前さ、明日から昼は学食来いよ!」

「は?」

「だから猿渡、もう少し丁寧に言え……まぁ、でもコイツの言うとおりだよヒキタニ。 明日から昼は学食で俺達と一緒に食べないか?」

「……なんで」

「『なんで』って、お前マジスゲーわ! 本当マジ! マジじゃんお前! パネェって本当! ありえねーわ!」

何この壊れたテープレコーダー……決まり切った単語しか口にしないと思ったらパターンや配列変えてくるとかこの壊れ方は新しいな。全く有り難くない。

しかし俺、入る大学間違えたか? こんなのが入学できる大学ってお前……結構偏差値高いと思ったんだけどなー俺も割と受験勉強頑張ったんだけどなー。でも由比ヶ浜が入学できるくらいだから実はお察しレベルだったの……?

「猿渡、少し黙ってろ。 なんだ、その……由比ヶ浜が、お前のことを気にしているみたいだったからな……こんな所で一人で食べるより、皆で一緒の方が良いだろう?」

由比ヶ浜。

矢張り、という感想しか湧かない。お猿さんが「ゆいゆい」などと懐かしくレアな呼び名を出した時点で察しはついていた。ヒキタニさんはいるかも知れないが、苗字と名前が頭に「ゆい」が付く学生が由比ヶ浜以外にいるとは考えづらい。

そしてもう一つ合点が行く。どれだけ今の状態に不満を持っていようと、由比ヶ浜も一応は今の大学内での距離感には納得してくれた筈だ。高校の時分もカーストの違いを気にする俺を察して、部室以外での接触は極力避けることには協力してくれていたし。

故に猿が由比ヶ浜の存在を臭わせた時点で、あいつが学内で俺との接点を積極的に増やそうとはすまいと疑問に感じていたのだが、どうやら由比ヶ浜の取り巻きらしいこの二人が独断で俺を由比ヶ浜と引き合わせようとしているらしい。それなら納得はいく……が、大きなお世話だ。本当に。

129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:04:10.27 ID:ifgaMc000

「……ほっといてくれ、俺は別に由比ヶ浜とかお前らと一緒に飯を食いたいとは思わない」

俺は他人と仲良くなる方法を上手く実行出来ないだけであって、嫌われる前提でなら幾らでも好きに振る舞える。よってここは突き放すに限る。あと由比ヶ浜にも迂闊にヒッキーって単語出すなと言っておかねば。引きこもりの知り合いがいると思われたらどうするつもりなんだあいつ。半分合ってるけど。

「いやいや一人で食うとか流石にありえねーべ? 友達と一緒に食わねーとかマジでありえねーから」

「その友達がいないし、作るつもりもないんだよ」

「は? 何言ってんの? 友達いねーとかありえねーこと言ってんじゃねーって、面白くねーからそのギャグ」

……ギャグのつもりないんですけど。友達って内蔵とかの重要器官なの? 友達欠損してると五体不満足とかそういうアレなの? これは障害手帳ならぬぼっち手帳待ったなしですわ、ぼっちであれば国の補助で生きていける時代……それはそれで悪くないな。

「猿渡、そこは、その……察してやれ」

「……あ、友達いたのが死んじゃったんだろ! そりゃ友達いないわなつらいわなー、ごめんよヒッキーくんよォー」

「そうじゃなくてだな……」

猿くんの凄まじさに思わず頭を抱える牛山に同情。そのバカっぷりにちょっとだけ猿くんと戸部を重ねていたが、バカでも良い奴であることに疑いの無かった戸部ともまた違う……そも人と猿を比較すること自体が間違いだったか。戸部も猿レベルじゃないかってやかましいわ。

そうなるとこの牛山は葉山ポジションか? こいつもスポーツマンっぽいし、顔立ちも悪くは無いし……だが正に王子様の風格だった葉山と比べるとゴツくて男っぽい牛山は女性受けの点では幾分劣るか。そこはちょっと好感度アップだな。あと999回好感度上がったら学食行ってやろう。

130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 00:07:39.12 ID:puy8J0JL0
ベクターかよ
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:08:28.15 ID:ifgaMc000

「……とにかくだ、あまり由比ヶ浜を心配させるんじゃない。 お前の名前を出す度に少し落ち込んだ感じになっているんだぞ、彼女は」

ズキン

棘の痛みがまた走る。

彼女が俺の提案を飲んでも、それを内々に処理しきれないことなど容易に想像が付いたはずだった。何処か迂闊さの抜けない彼女が、約束を守っているつもりでもふと俺との繋がりを口にしてしまうことも。

その原因が俺の逃げ腰と逃げ足にあるということも、俺は痛い程知っていたはずなのに。

「……由比ヶ浜が何言ってたか知らんが、お前らには関係無い」

それでも、俺には突き放すことと逃げる以外に打てる手がない。どうしようもなくそういう人間だから。

言い終えると同時に俺は立ち上がり、中身の残ったマッ缶を持って二人に背を向けた。もう話すことも聞くこともない。

「おい、ヒキタニ……!」

「ちょ、そりゃないでしょヒッキーくんよォー! ゆいゆい可哀相じゃんよ!?」

明確に拒絶の言葉と空気を吐き出した俺に追いすがることはせず、二人はただ俺の背中に批難の色を込めた声をかけるに留めたようだ。

ウザいし鬱陶しいしもう二度と関わりたくないが、それでも由比ヶ浜の周囲にいるのがこういう気を遣える優しい人種であったことに心中でホッとし、感謝の念を二人に抱いて俺は墓場を後にした。

132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:12:36.73 ID:ifgaMc000

午後からの講義は二つで、先の一つがまた必修。後者は一年前期では数少ない選択科目で、由比ヶ浜は履修していない。

入学前から口を酸っぱくして俺を履修の理由にするなと言っておいた成果だろう。これは別に今の状況を予想してのことではなく、親しい人間の有無で履修科目を選ぶべきでないという至極真っ当な観点からである。

そして件の由比ヶ浜の今日の講義は午後一発目の三限で終了の筈だ。彼女は俺との帰宅、引いては俺の部屋へ上がりたがるだろうが、あの騒がしさやノリから察するに取り巻きはきっと駅前にでも遊びにいくことを提案するだろうし、由比ヶ浜もそれに乗ってしまうだろう。何事も優先順位通りに事が進んだり選んだりは出来ないとは彼女も知っている筈で、全てはタイミングの問題なのだ。

……今日は半ば意図的に由比ヶ浜との接触を断っている。一緒にいたのは通学時くらいのもので、後は二限終了時のやり取りしか彼女とコミュニケーションを取っていない。墓場を離れた後に確認したスマホには案の定由比ヶ浜からの着信とメールが届いており、彼女らしい顔文字絵文字でデコられた装飾過多の文面で「教室出る前に声くらいかけてよ」だの「無視しないでよー」と可愛らしく俺の態度を糾弾するその内容に少しだけ胸中の黒雲が晴れるのを感じ「すまん、後で埋め合わせはする」とこっちはそのままの文面で返信した。

その「後」は少なくとも今日ではなく、何時になるか俺自身でも分からなかった。俺は無責任に引き延ばされていった何時かのデートの約束を思い出し、薄くなった雲がより一層密度を増して胸を覆っていくのを感じていた……。

133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:16:27.83 ID:ifgaMc000

のだが、

「あ、ヒッキー! やっはろー!」

……四限が終了し講義室を出た俺を待っていたのは、件の由比ヶ浜結衣その人であった。

「いやお前、なにしてんの?」

「なにって、ヒッキーのこと待ってたんじゃん」

「……遊びに行ったんじゃないのかよ」

「え? 確かにカラオケいこーって誘われたけど、ヒッキーと一緒に帰りたいから断っちゃった……よく知ってたね、誰かと友達になって連絡貰った?」

「ねーから、単にお前と取り巻きのバカさ加減なら講義終わってからは遊び一択だろって予想しただけだから」

「ま、またそんなバカにすること言うし!」

「まぁ由比ヶ浜がバカなのは事実だから置いとくとして」

「置いとかないでよ! ここにちゃんと受験して合格してるんだし、あたしもうバカじゃないんだからね!?」

「一旦定着したイメージを覆すのって難しいんだよ、もう諦めろよバカ」

「説得するつもりならもっと丁寧にやってよ!」

俺の軽口にぷりぷりと怒る由比ヶ浜。二年前から変わらないやり取りに、俺は冷え切った心が芯から暖まるのを感じていた。

気が付けば雲は散って、俺の胸は平静を取り戻している。本当、自分でも嫌になるほど現金な心臓だ。

134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:20:42.98 ID:ifgaMc000

「……いいのかよ、お前」

「え、なにが?」

「何がって、誘われたことに決まってる……お前のグループなんだろ?」

「あたしのって、そんなことないと思うけど」

「あれは誰がどう見てもお前の為のグループだろ、自覚ないのかよ」

「んー、分かんないけど……でもそれより、見ててくれてるんだ、ヒッキー」

「いや見てない、断じて見てないから」

「今更誤魔化したってもう聞いちゃったもん……えへへ、ヒッキーありがとう」

「み、見てもねぇのに感謝なんてしてんじゃねぇよ、やっぱバカだろお前」

「そういうバカならあたしバカでもいいよ……今日ヒッキーの部屋寄って良い?」

「……泊まりは無しだからな」

「むぅ……今日のところはそれでもいいよ」

「今日のところは、か」

「うん。 今日のところは、ね」

想いを受け入れ大切な人と定めた癖に、何かあれば直ぐに突き放して距離感を計り直そうとする。でも離れれば離れるほど思い悩み、彼女の方から近づいてくると心が沸き立ち踊り出しそうになるくらい嬉しくなる。こんな都合の良い醜い感情を愛と呼ぶのか。呼んで良いのだろうか。

そう認めたくない反面、それを認めて肯定出来たらそれはどれだけ素晴らしいことだろうかとも思う。そしてきっと、それこそが俺と彼女を隔てる壁で、その差が俺と彼女のすれ違いなのだろう。

何時か、これを肯定して前へ進める日が来るのだろうか――彼女の温もりを隣で誰よりも感じながら、理性と本能の矛盾は何時までも俺の中で燻っていた。

135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:24:31.46 ID:ifgaMc000
というわけで本日投下分終了です
キリのいいとこで〜とは言いましたが、このペースなら三分割くらいで済むかも……済んだらいいなぁ

筆が乗ればまた明日の同じ時間帯に投稿できるかもですが、詳しくはまた明日の報告をお待ち下さい
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:25:48.56 ID:ifgaMc000
あと冒頭に今回のサブタイ入れ忘れてました申し訳ありません
今回のサブタイは「A由比ヶ浜結衣は触れて欲しい」になります
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 00:56:32.84 ID:oZh8U7Axo
乙です!
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 01:10:46.56 ID:pJif+Q9Jo
乙ですー
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