【R-18】由比ヶ浜結衣はレベルが上がりやすい

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402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:22:13.42 ID:mBTmE8IN0

「ちなみに私は付き添いだから気にしないでねー」

それも分かってます腐女神海老名様。
空気を読まずカップルの間に入っていく行為を実行する強者に
空気を読んで付いて行くが自分は水を差さぬよう
空気を読んで空気に徹する様は正しくカーストの
空気を読んでのらりくらり切り抜けていった彼女らしい強かさだ。

どうでもいいが空気がゲシュタルト崩壊気味。
最近良くゲシュタルト崩壊すんな俺。

「……もういい? 話あんだけど」

「アッハイ」

そして腕組んで仏頂面でも律儀に待っていた女帝三浦である。
こいつほど腕組んで仁王立ちが似合うヤツもそういねぇよな。
バスターマシンパイロットの道を強く勧めたい。

「ヒキオさぁ、なに結衣連れてこうとしてんの?」

ギロリ烈火の眼で睨み付けてくる三浦。超怖い。
未成年が放っているとは思えない程の凄まじいプレッシャーは防御力を下げるどころの話ではない。
機体を通して出る力で身動き出来ないまである。俺のようなヤツは生きてちゃいけない人間なんだッ!

「あー、その、あ、アレだ……ちょ、ちょっと、用事が出来てな、用事」

ハハハと渇いた笑いを浮かべながらなんとか返答を捻り出す俺。
説得の一助になればと笑ってみたが絶対キモい。逆効果。
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:24:00.34 ID:mBTmE8IN0

対する三浦は更に眉間の皺を深くして、

「あーしら一緒に遊んでたんだけど、それ邪魔してんの分かってる?」

邪魔、てハッキリ睨まれながら言われました。
しかも目ェ合わせちゃいました。ヤッベェ石になる!石に!
ゴルゴン三浦、なんか語感は良いけど字面はお笑い芸人っぽいな。

「そ、それはだな、悪いことを、し、したなとは、思っているところでして」

「キモい、シャンとしな」

「アッハイ」

……ちょっとコレ、かつてないほど怒っていらっしゃる?
その性分故に彼女の噴火は幾度と見てきたつもりだが、
寧ろ今までのように分かり易く激昂していない分その怒りは深く強いように見える。
どっしりと構えたまま憤りを隠さない様は裏切り者に陰惨悲惨な処罰を下す大親分かゴッドファーザーのようだ。
……でも女だしゴッドマザー? それ何のマイソロジー?

そんなかつてない怒りレベルの三浦の様子を悟ってか、海老名さんは愚か由比ヶ浜も口を挟む余地がないようだった。
空気の軟化には定評のある海老名さんや、今は三浦と対等に付き合えている由比ヶ浜ですら、だ。
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:25:36.84 ID:mBTmE8IN0

「あーしらの間に割って入るくらい大事な用だったん?」

「えーと、あー、あの、だ、大事と言えば、そんなような」

「シャンとしろ」

「アッハイ」

「それはもういいから」

「アッh……だ、大事な用事だ、です」

「ふーん……」

俺の必死の応えを事も無げに受け止めると、三浦は一旦目を瞑り一秒、二秒。
沈黙ですら過重に感じられる空気に唾を飲むと、三浦が目を開く。

怒りを隠さない射貫くような眼差し、しかしその瞳には敵意以外の光も宿っていた。
真摯、誠実。
義憤という名の鏃の輝き。

「ヒキオ、本当に結衣と付き合ってるわけ?」
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:27:12.04 ID:mBTmE8IN0

「それは、そうだが」

「だったらさ、なんで今日こんなことになってんの」

「こんなことって……お前らに水を差しちまったの悪いとは思ってるけど」

「あーしのことはどうでもいい、そうじゃなくて……今日ゴールデンウィークの初日じゃん」

「……?」

「なんで結衣を、彼女を祝日に一人で放って置いてんの? あんた、彼氏じゃないの?」

グサリ

死角から深々突き刺さる。
完全悲観主義者の俺だから、高校入学からこっち大抵の精神的ダメージは心の何処かで想定し備えることが出来ていた。
だが三浦の放った矢は悲観楽観以前に俺のうかつさ、未熟さを正確に射貫いてきた。不意打ちはダメージを加速させる。

去年のような、今までのような言い訳は通用しない状況に俺は身を置いている。それを忘れていた。
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:28:55.48 ID:mBTmE8IN0

「あの優美子、別にあたしは気にしてな――」

「結衣は黙ってな」

あははと笑いながら由比ヶ浜が入れた俺へのフォローを三浦はピシャリはね除けた。
あまりに明瞭な迎撃にさしもの由比ヶ浜も唖然とするしかなかったようだ。
何時かのように反抗されたから、ハッキリしないからと怒気をぶつけたわけじゃない。
歪さのない意志が鋼の如き堅牢さを生み出しているのだ。

「……本当はからかうつもりで結衣に予定聞いて、そしたら何も無いって。 ヒキオの予定なんか興味も無かったから詮索もしなかったけど、今日こうしてるってことはヒキオも予定無かったんでしょ?」

「……ああ」

「あんた彼氏の自覚あんの?」

俺は三浦優美子のことを良く知らない。
全く知らないわけじゃないし彼女に纏わる様々な出来事から彼女の外殻や内面の様々な色は確認してきた。

でも、それだけだ。

俺はただ彼女が醸す色の一部を流し見たに過ぎず、それで三浦の本質を見抜いた気にはなれない。
だから本当の意味で俺が三浦という人間を知るのはこれが最初ということになるのだろう。

「最初あんたと結衣が付き合うって聞いて正直全然釣り合ってないって思ったけど、でも結衣が選んだことなら口出しなんてするつもりなかった」

その意志、感情、苛烈さも、一切に混じり気が無い。
濁り無く透き通った熱湯、そんな透明感。
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:29:59.18 ID:mBTmE8IN0

「去年は受験だったから浮かれてられなかったのは分かったし、結衣はヒキオと一緒に勉強したってだけでも嬉しそうだったから。 でも、今は違うじゃん」

「……仰るとおりで」

「結衣が選んだことならってのは今も変わらないけど、それでもあんたが結衣泣かせてるんなら力尽くでも別れさせる、さっき結衣から話聞いて本気でそう思ったんだけど……ヒキオはどういうつもりで結衣の彼氏やってんの?」

真っ直ぐだ――三浦優美子はひたすら真っ直ぐだった。

学生と言えどこうも複雑に絡み合った現代社会では直進を避けねば事故に遭うばかり。
だが一部には半端な接触など物ともせず突き進める人間が存在する。
それは三浦が(恐らくは)生まれながらに持つ女王の資質と同義だろう。

彼女は自身の感情や欲求に真っ直ぐなのだ。
だからこそ気に入らない人間の態度を苛烈に責めるし、かと思えば迷い無く気遣いが出てくる。
今の三浦の気炎も、友人である由比ヶ浜の為であればこそ燃え盛っているのだ。
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:31:51.27 ID:mBTmE8IN0

綺麗だ。

と、そう思った。
異性としての魅力とかではなく、燃えたぎる彼女の炎に対する率直な感想だ。

誰かの為に燃やす火、それは俺の足をここまで運ばせた心臓の熱と同質のものだろう。
だがそれはその存在を外から分からせるほど強くはない。それほどの火力も煌めきもない。

だからこそ三浦が羨ましく、彼女に対して素直に敬意を抱けた。
だからこそ今、俺は三浦の炎に全力で相対しなければならない。

「俺は、由比ヶ浜のことが大事で、だから今日こうして横入りみたいなことしてる……もう一度言うが、三浦達には悪いと思ってる。 でも引くつもりもない」

俺としてはなけなしの勇気と決意で以て三浦に正面からぶつかっていく。
それは四月の何時かにある男と相対した時と同じ心境だった。

が、

「大事だと思ってる癖に放置みたいな真似してんの?」

その程度で三浦という牙城は崩せない。
そも前回は相手と敵対していたわけではなく、更に俺が一方的に相手の弱点を突けたような状況だった。
今回は寧ろ逆。
三浦は俺の弱点を一方的に突けて、出所はどうあれ明確な敵意で動いている。

俺が自分の罪状を認めていること含め全ての利が三浦の下にあり、勝ち目なんて端から無い。
だからこそ、今は負け方が重要なのだ。
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:33:37.57 ID:mBTmE8IN0

「……それも悪かったって思ってる、全面的に俺が悪い」

負けさせたら千葉どころか関東一。
負け芸で食っていける敗北のプロフェッショナルこと比企谷八幡の本領発揮。
相手の勝利条件・報酬を予測し、こちらの希望も最大限叶える形で相手の勝利を寧ろ助けるのだ。
相手の勝ちに華を添え、俺は負けつつ実を取る。
三浦はただ怒りの矛先を俺に向けているというわけではなく、求めている物があるのだろう。

それは恐らく誠意。
誠実。

……勝手な予想妄想だが、彼女自身どこかの誰かに示して貰いたい物なのだと思う。
彼女の俺を責める言葉や表現は、理想とまで言わずとも模範としたい男女関係の有り様を示している気がするのだ。
友人のことだから心配するし、友人のことだから己と重ねてしまうのだろう。

そうありたいし、そうあって欲しい

なら俺はその理想をこの場で僅かでも形にする他無い。
だがそれは単なる演技じゃない、必要な条件だから明示するのでもない。
俺だってそれを求めているのだから。
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:35:29.39 ID:mBTmE8IN0

「謝罪も含めて、由比ヶ浜と話したいことがあるんだ……大事なことを、話さなきゃいけない。 だから水差したこと、由比ヶ浜のことも、許してほしい」

言って、腰を曲げ頭を下げる。
謝意と罪悪感、それらを混ぜて作り上げた即席の誠意。その形。
これで足りないなら、何時かのテニスコートでやり損ねた土下座だってやってやる。

誠意なんて知らない俺の、それでも出来うる限りの誠実さ。
歪なのだろうが、今は信じるしかない。
俺自身の誠意と、三浦の求める誠意が少しでも重なっていることを。

「ヒッキー……」

三浦の反応より先に由比ヶ浜の声が耳に届く。
その声色は感嘆するような、しかし顔を下げたまま表情を確認出来ない状態では呆れのようにも取れてしまう。
だが今は三浦の反応を聞くまでは頭を上げられない。
由比ヶ浜は俺の誠意に感じ入るものがあって、俺の名を呼んだのだと信じるしかない。

さっきの喫茶店よりも重く鋭い緊張感をひしひしと感じながら、三浦の出方をひたすら待つ。
それこそ一時間でも二時間でも待って不動の体勢に耐えきれなくなった体を前方へ自然に崩し
そのまま土下座入りするまで考えていたが、由比ヶ浜の反応から十秒と待たず、

「……いいなぁ」

ポツリ、三浦の小さく羨む声が鼓膜に届いた。
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:37:28.50 ID:mBTmE8IN0

不覚にもドキッとした。
三浦に対して半ば固定化されたイメージとは対極に位置するような声だったから。

そういえば以前由比ヶ浜が言っていた、三浦も学校の外ではよく泣いているということを思い出した。
三浦優美子もまた少女である――そんな当たり前の事実が、さっきまでとは違う罪悪感でチクリ胸を痛めた。

そんな俺の様子も知らぬだろう三浦は分かり易く大きな溜め息を吐くと、

「あーもー、分かったから顔上げな。 周りから超見られてるから」

今度は取り違えようもなく呆れた声で俺に告げた。

「……許してくれんの?」

「許すも何も、そこまでやられたら野暮なのこっちだし」

今まででも充分野暮でしたがそれは、
と反射的に脳裏に浮かんだがそこで声に出すほど「だっておwww」な性格はしてない。流石に。
それに野暮でも、道理の正しさは三浦にあったのだからそれを責める言葉なんてあるわけがない。

「あの優美子、あたし」

「……そーいう話は今度聞くから、とっとと行けば」

どこか思い詰めたような表情の由比ヶ浜にしっしと手を払ってみせる三浦。
か細い少女であっても、やはり三浦は三浦なのだと、また当たり前のことを再認した。
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:39:12.99 ID:mBTmE8IN0

「ごめんね優美子、姫菜も……今度埋め合わせするから」

申し訳なさそうな由比ヶ浜に今度は声もかけず手をヒラヒラさせる三浦である。
海老名さんは三浦の隣で由比ヶ浜に期待してるよーとか言っていたが、不意に俺に近づき肩を叩くと

「……頑張ってね、比企谷くん」

優しい声音を耳元に残していった。

……海老名さんはカースト上位ではあるが、悪い意味で俺に近い人間性だったと思う。
そんな一筋縄では行かない人間だが、全てが捩れて斜に構えているわけではないのだろう。
それは、こんな俺でも誰かの為になれるのかもしれないと微かに希望を抱かせてくれた。

「色々すまん……それじゃ」

「ごめんね二人とも、じゃあまたね」

そして俺達は去っていく二人を見送った。
一つの修羅場を終えて心中で一息吐くと、誰かさんへの文句が沸々と浮かんできた。

――手前もいい加減腹括って三浦と向き合え。

機会があれば直接ぶつけてやろうと密かに決意し、俺もまた改めて腹を括ると隣の由比ヶ浜の存在を強く意識した。
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 08:42:02.61 ID:mBTmE8INo
今日の投下は以上です
あーしさんの口調で存外苦戦しました、何処まで崩していいのやら

続きは一応週末にと考えていますが、間に合わない可能性大なので
期待せずお待ち下さい
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 08:49:37.79 ID:zbFxre8vo
乙です!
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 08:58:20.95 ID:xYRirS74O
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 12:12:34.73 ID:tUkI3dZoO
おつ
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 22:09:40.60 ID:Mw2TDY4N0
乙!
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 22:22:33.89 ID:jqKAFQ5Fo
大学でヒキタニ呼びを本人も由比ヶ浜も指摘しないのは流石に気になる
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 11:55:08.62 ID:xYcbhKqbo
ヒキタニ呼びはもうヒッキーのパーソナリティみたいなもんだから――


ごめんなさい嘘です単にギャグの味付け程度にしか考えてませんどうも>>1です

今日の夕方から夜くらいに投下出来るかもしれません
期待せずお待ち下さい
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 12:02:28.70 ID:kqBxNA+ko
待つ
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 13:38:26.02 ID:8DlMLCk5O
乙です
期待!
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 19:21:49.70 ID:xYcbhKqbo
極道ガンダムの流れに震えを隠せません、どうも>>1です

21〜22時頃投下予定です
期待せずお待ち下さい
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 19:30:33.42 ID:kqBxNA+ko
期待してます!
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 19:43:24.60 ID:gXJgLEBPo
杯あくしろよ
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 21:13:21.11 ID:0okjBsUoO
主って他の人の作品読んでる?
これだけの文書ける人だから
他の人の読んでこれいいなっていうのあったら教えてほしい
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 22:01:55.83 ID:xYcbhKqbo
どうも>>1です、遅れて申し訳ありません
投下開始します
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:03:25.32 ID:xYcbhKqb0



ガシャン

ボタンを押しては数瞬経て、缶が落下し音を立てる。

ガシャン

リピート。

それぞれ外装の違う缶を二つ取り上げると、近くのベンチに座る由比ヶ浜の姿、横顔を目に入れる。
一人の時は何時も携帯をイジっているイメージだったが、今は両手を膝の上で握ったまま不動。
表情もどこか硬く強ばって緊張を隠せていない。

無理もない、あんな連れ出し方をしてしたのだから身構えられて当然。
それに連れ出したのは付き合うまで、付き合ってからもやらかし続けたこの俺だ。
今度はどんな悲劇や痛みが待っているか――そう覚悟されても仕方無い。

傷み続けた果てに痛みを避けて生きていこうと決意した俺が、
結果として誰かを傷め、痛ませ続けたなどなんの皮肉だろう。
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:07:05.32 ID:xYcbhKqb0

虐待された子供は成長し親になって子を虐げる。

苦労して成った人間はその苦労を下に押し付ける。

俺もそれらと同じだ。

何かの被害者がただ被害者で有り続けることなど無い。
傷付いた人間はその傷を復讐の刃へ変えて、
誰彼構わず斬り付け発散する日を待っているのだ。
俺もまた悪意という懐刀を生涯捨てることが出来ないだろう。

だから、それを自覚したままで俺は往く。
己は苦労の果てに成功した偉人などではなく、痛みで拗くれたただの下衆だ。
そして人を傷付ける可能性、悲観を抱いたままだからこそ
誰かに優しくできるのがまた一面であることも俺は知っている。

それを俺に気付かせてくれたのは、きっと視線の先の彼女だから。

深呼吸を一度、丹田に決意という気柱を落としてベンチへと足を向けた。
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:09:16.66 ID:xYcbhKqb0

「……ほれ」

「あ、ありがと……」

自販機で買ったカフェオレの缶を差し出すと、由比ヶ浜は顔を上げてそれを受け取る。
そのやり取りは口にした言葉さえ由比ヶ浜が俺の部屋を訪れた時と酷似して、
妙な緊張感に満ちていたことも含め強い既視感を覚えた。
違うのは差し出したカフェオレが今度は冷たく、俺の持っているのがマッ缶ということだけ。

ただ行動は同じでも、あの日と違って今は昼間の晴天で、場所も開けた公園だ。
それはこれから起こる事態、沸き上がる感情の隠喩であると信じたい。

由比ヶ浜の隣に座り、プルタブを引いて缶を呷る。

お馴染みの過剰な甘さが舌を伝って脳内に栄養の到来を伝達する。
糖分は脳にとって唯一の、孤独とも言って良い栄養素だ。勇気をくれる……気がする。

俺に遅れて缶に口を付ける由比ヶ浜の姿を横目にゆっくりと深呼吸。
吸、吐。
吸、吐。
一度、二度。
不安と緊張で高鳴る鼓動に無理矢理落ちを着けつつ、
由比ヶ浜が缶を口から離し膝元へ下ろすのを見計らうと丹田の気を解放する心持ちで口を開く。
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:11:27.26 ID:xYcbhKqb0

「今日は悪かったな、色々」

「……色々?」

「その、三浦と海老名さんのこととか、そもそも今日俺が誘えてなかったこと」

「別にいいよ、優美子も言ってたけど話の流れでなんとなくお出かけってなっただけだし、お誘い無かったのは……ヒッキーだからってことで納得してたし」

「……さよけ」

……あっさり納得されたのは寧ろこちらが傷付くまである。
いや一方的にこっちが悪いから何も言えんけど。
責められない方がキツいって本当にあるんだなぁ。

「でもその、なんだ……付き合い始めて一年以上経つってのに、何時までも彼氏らしく出来ないでごめんな」

「んー、でもそういうのもヒッキーらしいって思うかな。 ヒッキーが急に気遣い出来るイケメンになったら嬉しいより怪しいって感じじゃん?」

「いや、それもその通りなんだけど」

「でしょ? ヒッキーはカッコイイよりキモイの方が合ってるんだって」

もう少しなんというか、手心というか……。
痛くなければ覚えないならこうして俺は気遣いイケメンになっていけるのか。
恋愛至上主義の完成型は少数のサディスト(女子)と多数のマゾヒスト(男子)によって構成される――。
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:13:24.14 ID:xYcbhKqb0

「お前さ、今日なんか妙に言葉キツくね?」

「そうかなー、いつもどおりだと思うけど……もしかしたらいつもより思ってること言えてるのかも」

「何時もそう思ってんのかよ」

ママさん、貴女の娘の信じる俺は怪しいキモメンだそうです。
本題入る前に心が折れそう。もぅマジ無理。にげたぃ……。

「でもね、しょうがないよ」

「はい、俺は怪しくてキモイ社会不適合者です、そういう人間なんです、しょうがないんです……」

「そうじゃなくて、キモくてダメなヒッキーでも、あたしはそんなヒッキーが好きになっちゃったんだから」

俺の顔をのぞき込みながら、由比ヶ浜が微笑む。

心臓が全身を巻き込んでドクリと跳ねた。

「……お前、その、ズルいよな、やっぱり」

付き合って一年経って、何時までもその関係に馴染むことが出来ない。

それは俺が社会不適合者であるとか深刻なコミュニケーション障害を患っているからだけではなく、
由比ヶ浜結衣の魅力を、一番近くで見て感じるということに何時までもドギマギしているからでもある。
何処から見ても何処を切っても見えてくる魅力に蚤の心臓は弾け飛びそうなくらい跳ね回る。
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:15:49.32 ID:xYcbhKqb0

由比ヶ浜と向き合い切れてないのは、
由比ヶ浜が魅力的過ぎるのも原因だ――ここに至って俺はそう確信した。
まるで「あんな恰好してるのが悪いんだ!」と逆上する痴漢現行犯のような言い訳だが、
そう思ってしまったんだからしょうがない、しょうがないんだよ。
それでも俺はやってない。

「前に言ったじゃん、あたしはズルい子だって」

「いや、それとは別の話でして」

「ふーん……でさ、大事な話ってなに? さっき謝ったことでいいの?」

「あー、それはついでみたいなもんでな」

脱線した話を元に戻す。戻さなければ。
当たりはキツかったが、正直このノリで会話を続けてしまってはきっと本題に辿り着けない。
閑話休題。その為の力をもう一度。

吸、吐。
吸、吐。
吸、吐。

今度は三度の深呼吸。
さっきから不整脈気味な心臓を無理矢理に抑え付けて、再度決意の肚をこじ開ける。

「……俺、ずっと後悔してたんだよ」

ポツリと落とし、始める。
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:18:07.89 ID:xYcbhKqb0

「ヒッキーっていつも後悔した話ばっかしてない?」

「話の腰折るなよ、いや本当その通りなんだけど」

今日の由比ヶ浜は本当に何なんだ、何時もイジられてる仕返しか。
狼少年の末路とはこういうことか。
自業自得のインガオホー、爆発四散してから転生でリスタートよろしく。

「ともかく、後悔してたんだよ、ここ一年」

「……何を後悔してたの?」

「お前と、付き合い始めたこと」

予想外……だったのだろう、朗らかだった由比ヶ浜の顔が一瞬で固まった。

こんな反応も予想出来た筈なのに、伝えたい内容を纏められず
話始めたせいでまた要らぬ傷をつけてしまう。
でもこんな想いを真っ直ぐに、綺麗にぶつけることは今はまだ俺には出来ない。
手探りでも少しずつ、歪んでいても一歩一歩。
泥や返り血に塗れながらでも進んでいくしかない。
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:20:21.35 ID:xYcbhKqb0

「お前の、由比ヶ浜のことが好きじゃないとかじゃなくて、ちゃんとお前のことが、す、好きで、付き合ってるってのは、本当だから」

「え、そ、そう、なんだ……でもじゃあ、なんで後悔なんて……」

後悔。
思い返せばここまでの俺の人生なんて九割九分後悔に満ちた苦渋苦難の十数年だった。
だがここ一年――正確には二年かもしれないが――の色濃さは特筆すべきものだ。

それは、

「俺は、由比ヶ浜のことが、好きで、でもそれを伝えようって、付き合おうって思ったのは……俺自身で選んだことじゃなかったんだよ」

今までで一番誰かを想って。
それを見て見ぬ振りして。
挙げ句にそれを暴発させてしまったから。

「お前に泣いて欲しくない、笑っていて欲しい……ずっとそう思ってたのに、実際はただ逃げ回って、それでどうしようもなくお前を傷付けて、それで去年、あんなことに、なっちまって」

あんなこと。
バレンタインに端を発する奉仕部解散までの一連の流れだ。
それを経て俺達は今の形に収まり、三人は二人と一人になった。

「本当はもっと前に危ないって気付いてて、もっと綺麗に、円満に終わらせることも、続けていくことだって……でも、ただ蓋を閉じて、そのせいであんなことになっちまって。 全部、俺が悪かったのに」
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:24:32.65 ID:xYcbhKqb0

自分を信じていれば夢は叶うなんて、黒い太陽のようだと称された悪役が言っていた。
悪党ですら自己実現の為の努力や研鑽を忘れていないのだ。
だが俺は俺の望む本物を信じたかっただけで、
それが欲しいと伝えただけで、現実の努力の一切を怠った。
そうして逃げ回っている内に居場所はドンドン狭くなって、
果てに一人が居場所から去っていった。

あいつはきっと、それを心から望んだ訳じゃない。
新たな希望を持って旅立ったのだとしても、後悔の念が無い訳じゃない。
あいつを追い出したのは、消えない傷を残したのは、間違いなく俺だ。

それは同様の傷を由比ヶ浜に残したことも意味している。

俺は誰より大切だと思っていたはずの二人に、己の弱さと悪意で磨かれたナイフを突き刺した。
発端が怒りや憎しみでなくても無意なんかじゃない。
そこには自分可愛さに他人を傷付けることを選んだ俺が確かにいたのだ。

更に救い難いのは、それで尚全てを自分の意志で選んだわけではないということ。

「……お前が好きで、笑って欲しくて、でもお前と一緒に居るのは、ただ流れで仕方無くそうなっただけって、何時までもそう思ってしまう自分が情けなくて、後悔してたんだよ……」

俺は選んだんじゃない、選ばされただけ――それが一年の後悔の本質だった。
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:27:45.25 ID:xYcbhKqb0

本当は幾らでも選択肢があった。
道も方法も、幾らでも選べた筈だ。
なのに俺には下水道しか無いと目も耳も塞いで、汚泥と悪臭の中を這って進むことを選んだ。
そこは選ばされたんじゃなく、俺自身が選んだ。
欲しい物があって、求められてもいた癖に、頑なに地上へ出ることを拒んだのだ。

自由を放棄し誰かの足下でただ五月蠅く鳴き散らすだけならそんなものは人間じゃない。
ただの虫だ。

綺麗に舗装された赤絨毯の上を圧されて進むしかなかったあの男は、
そんな俺の醜態にどれだけ苛立っていただろうか。

言葉に区切りが付き、また次の言葉を探して心中右往左往している俺に、

「……それで」

由比ヶ浜の言葉が降りかかる。

「あたしと付き合ったのを後悔してるヒッキーは、どうしたいの……?」
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:29:40.79 ID:xYcbhKqb0

濡れてはいない。
だが震えを隠せない声だった。
そんな声を発する彼女の顔を見るのが怖くて、
首の筋肉は横の捻りだけはすまいと硬直する。

痛いのだろう。
悲しいのだろう。
俺の告げた俺の真実は、また由比ヶ浜の心に痛みを走らせたのだろう。

本当に俺はどうしようもなく比企谷八幡だ。
道や方法は選べる筈なのに、軋轢や痛みを残すことしかしない。
視野狭窄でひたすら事故を繰り返しながらでしか前に進めない。

けど、今回だけは違う。
痛みは与えても、傷だけは絶対に残させない。
どれだけ不器用で情けなくても、由比ヶ浜を想う俺を絶対に疑わない。
こんな俺の隣に居てくれる由比ヶ浜の想いを、絶対に否定しない。

意を決する。
ここが、人間としての比企谷八幡の一歩目だ。
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:31:17.79 ID:xYcbhKqb0

「別に、どうもしねぇよ」

「え……?」

「俺はお前のことが好きで、お前は……なんだ、俺のことが好き、なんだろ? だったら付き合ったままで問題ないだろ」

これが、今俺の出せる最善の答えだ。
これ以上抱えている物を手放すことも、条件を付け足すこともない。

「……で、でも、ヒッキーは後悔してるんでしょ? あたしと……」

「後悔……してた、てのが正確だ。 後悔してたけど、でも今のままで良いんだって、そう思えるようになったから」

俺は由比ヶ浜結衣が好きで、一緒にいたい。笑っていて欲しい。
そして由比ヶ浜結衣も俺のことが好きで、一緒に居てくれるなら、
それ以上何が必要だと言うのか。

今≠ナ良い。

今≠ェ良いんだ。
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:34:15.93 ID:xYcbhKqb0

「結局俺はただのロマンチストか理想主義者だったんだよ。 大きな報酬や成果には相応の過程とか綺麗な結末があって然るべきで、そう出来ない俺には手に入らないものだって諦めてた。 理想は美しいから、薄汚れた俺には無理だって」

人は何故何事にも感動の過程、物語性を求めるのだろう。
それは納得したいから、納得は全てに優先するからだ。

良い結果には苦しい過程という条件や儀式が必要で、
自分がそうなれない言い訳を欲しているのだ。
故に降って湧いたような幸運は常に批難の対象になる。
嫉妬という力はそれほど強く、御し難い。

「だから始めから人生イージーモード、強くてニューゲームみたいな連中が妬ましくて嫌いだった。 それどころか俺だけが重荷を背負わされてるんだって思い込んで……奉仕部に入れられて、そこでお前と……雪ノ下と出会っても、勝手な期待や諦観を押し付けるだけだった」

俺は他人より手に入った報酬が少なかったから、嫉妬や諦観を面倒臭く拗らせていただけ。
己の弱さ愚かさを盾に隠れながら世の中を斬ったつもりでいただけだ。

でも。
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:36:40.00 ID:xYcbhKqb0

「でも奉仕部とかお前達を通して色々あって、誰にだって何かあるって思い知った。 誰かに言われる前に、自分は弱くて汚い奴だって看板掲げれば何もかも済む――なんてただの願望で、誰にも過程は問われるし、それと関係無く良い結果も悪い結果もあるんだ」

かつて結果だけ求めて迷走して、やがて因果に拘るようになっては過った俺には皮肉な真実。

それでも。

「俺はずっと間違ってきて、間違えたままで、これからも間違っていくんだろうけど……今手にある物だけは、間違ってない。 結果に良い悪いはあっても正誤はなくて、全てはどう受け取るか次第だって今は思える」

だから。

だからこそ。

「ここまで碌な道のりじゃなかったし、誰が見てもどうしようもない過程だったかもしれないけど、それでもお前と繋がれたことは、これまでの全てと引き換えにできるような幸いなんだって信じたい」

全てが考え方次第、全て受け取り方次第で幸不幸に分かれる……とでまでは言わないし思えない。
けれど、今手にある幸運を、幸福を、信じて受け入れられなければ新たに何を手に入れたって満ち足りることはない。

本物を探し、確かめ、問い続けること。

その根源にはその本物を信じる気持ちが、信じたい想いが確かにある。

だから、俺は。
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:39:15.22 ID:xYcbhKqb0

「由比ヶ浜、俺はお前のことが好きだから、そうやって繋がった今の関係を信じたい。 お前が俺のことを好きで居てくれて、それで繋がることを幸せに感じてくれるって信じたい。 だから、俺は今の関係を、俺とお前が一緒に居るって結果を受け入れて、一緒に進みたいんだよ」

これが今の比企谷八幡の全て。
これ以上は出せない、出しようのない俺の本心。

本当はもっとスマートに、綺麗な形で伝えたかった。
でもそんな感情ですら単なる見栄で、根底にある信心には何ら関係の無い装飾だ。

裸のままの俺を、それでも信じてくれる。そう信じる。
それはとても困難で、そう易々と通ることじゃない。

それでも彼女なら、由比ヶ浜結衣なら、受け入れてくれる。受け入れて欲しい。

まだ首の筋肉は固まったままで横を向けない。
けれど泥と想いの全て吐き出した心は晴れやかで、
卑屈な俺が自然と未来の光を期待することが出来た。
高鳴っていた心臓も落ち着いて、ただ安らかに由比ヶ浜の言葉を待った。

泣いているかもしれない。
また泣かせてしまったかもしれない。
けれどその涙ですら悲嘆の先の嬉し涙であると信じている――。



「――で」

で。

……。

…………『で』?

442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:41:01.67 ID:xYcbhKqb0

「そんなこと言うためにわざわざあんな大袈裟なことしたの?」

え、なんか予想してた反応と方向性が大分……アレ?

ギギギ、と関節から筋繊維まで軋ませながら無理矢理横を向く。

視界に入った由比ヶ浜の顔は、瞳は……確かに濡れていた。

というか湿ってた。

ジトーって視線を俺に向けていた。

アルェー?

「あの、由比ヶ浜さん?」

「なに」

「俺、割と一世一代ってノリで頑張ったんですけど」

「だって今更過ぎるし」

今更、今更かァー。

……ヤッベェ何も言い返せない。反論の余地ねぇ。
大事なことって言うタイミング逃せば逃すほど拗れるって分かってた筈だったのになぁ!
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:42:48.16 ID:xYcbhKqb0

「ヒッキーさ、信じて欲しいみたいなこと言ったけど、そもそもあたしのこと信じてなかったの?」

「あー、いや、そんなことはなくてだな」

「じゃあなんでそんなこと言ったの、今更」

「……すみません嘘吐きました、この期に及んで信じ切れてませんでした」

「ふーん、彼女のこと信じてなかったんだ」

「いや、信じ切れてなかったってニュアンスを察して貰えると――」

「信じてなかったんだ」

「……ハイ」

「信じてないのに告白しちゃったんだ」

「……ハイ」

「信じてないのに手を繋いだりキスしたりしたんだ」

「……ハイ」

「信じてない癖に……あの、さ、触らせたり、おくちで、さ、させたり、したんだ」

「いやアレは寧ろお前から」

「させたんだ」

「……すみません」

あとエロい話題になった途端顔赤くしてどもったの可愛かったです。
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:44:46.75 ID:xYcbhKqb0

「ヒッキーはあたしのこと信じてなかったのに、一年も付き合ってたんだ」

「……ごめんなさい」

のっけから口の悪かった本日の攻めガハマさんは、
俺のウィークポイントを見定めると責めガハマさんに進化した!

今まで自分のことM気味と思ってたけど、これ全く気持ち良くない。
罪悪感で一杯。
胃に穴が開く。
ファイアーインザホール、は穴じゃねぇ。

……やっぱ俺って格好付けようとするとスカを喰らうんだなぁ。
寧ろそれ以前に周囲の地雷とかトラップの確認を怠った只の馬鹿野郎じゃねぇか。
これは理不尽上官とか面白黒人枠だわ俺。戦争映画とかだと絶対死んじゃう枠。

なんだろう、土下座とかした方が良いのかな。
真の女帝は三浦ではなく由比ヶ浜の方だった……?
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:47:03.10 ID:xYcbhKqb0

「悪いと思ってる?」

「ハイ」

「本当に?」

「ハイ」

「……別れても仕方無いって思う?」

「ハ……え? い、いやいやいやそれだけはご勘弁を!」

「ふーん……」

え、まさか別れ話に発展する流れ?
いや確かに改めて自分の愚劣さを思い知ったとこだけど。
まさか前向きな決意がこんな展開に……。

やっぱ罪って消えないわ。
マジかよヒッキー最低だな、これは極刑不可避。

そんな風に己の愚かさ、迂闊さ、屑っぷりに改めて打ちのめされ、
トドメの一撃を震えながら待つしかった俺に、

「分かった、じゃ許したげる」

あっけらかんと、由比ヶ浜はそう告げた。
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:49:03.68 ID:xYcbhKqb0

「……へ?」

「許すよ。 正直に言ってくれたし、あたし彼女だし」

「いいの?」

「よくないよ?」

良くないんじゃないか!
また落とし穴に引っ掛かったわ……今日は何度落ちれば気が済むんだ俺。

「よくないけど、でもヒッキーのこと好きなのは本当だし……あたしも、同じだったから」

「同じ?」

「うん……この前言ったじゃん、あたしじゃヒッキーには似合わないって」

……予想外と言うほどではないが、それでもその後の展開のショックで
印象が霞んでいたから衝撃は強かった。
あの時の言葉、確かに由比ヶ浜の根底に疑念がなければあり得ないものだ。

しかし、

「いやでも、それは俺の態度とかが原因だろ、やっぱ俺のせいだ」

「違うよ、あたしだってヒッキーのこと信じられなかったんだもん……きっとあたしも、あんな形でヒッキーと付き合い始めたの、後悔してたんだと思う」
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:50:45.92 ID:xYcbhKqb0

俯き話す由比ヶ浜の姿に、再び心臓の棘が肥大するのを感じる。

背中を押された、というよりもくっつかなければ身の置き場が無かった。
原因はどうあれあの時の俺達の状況ではそうなるのが道理で、
互いに想い合っていてもそこに悔恨の念が生まれるのは必然だったのかもしれない。

「でもそれからヒッキーに抱き締められて、キスして貰って……それで信じちゃってたんだから、やっぱりあたしってバカなんだよ。 そんなことだけで……ゆきのんのこと、忘れて」

「由比ヶ浜」

でもそんなことはどうでもいいと、さっき言った。
それは嘘じゃない。

「ああなっちまったもんは仕方無いし、俺があいつじゃなくてお前を選んだのは確かなんだ……だからあの時からの気持ちと関係を信じるって、そう言ったろ」

「……いいの?」

「良いも悪いもねぇよ、そもそもさっきまで俺が糾弾されてたんじゃねぇか……悪いのは全部俺で、お前でも雪ノ下でもない。 それでもお前が本当に許してくれるってんなら、それで全部解決だ」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:54:02.69 ID:xYcbhKqb0

「……うん、分かった」

顔を上げた由比ヶ浜の表情はまだ硬く、眉は内側に寄っていた。
それでもその顔は笑っていて、由比ヶ浜の根っこの真面目さとか、
優しさを何より現している気がした。

やっぱり、俺は由比ヶ浜のことが好きだ。
こんな不器用で、見ててハラハラするくらい優しい女の子。
そんな娘を放っておくことなんてできやしない。

視野狭窄、近視眼、衝動的と言われても構わない。
俺にはこの娘しかいない。
ずっと、ずっと一緒に居たい。
居られれば、きっと――。

「うし、んじゃ暗い話お終いってことで、どっか遊びに行くか」

「え、どうしたのヒッキー……熱でもあるの?」

「いやお前いきなりその反応はどうなんだ」

「だってヒッキーだし。 病院には連れて行ってくれても普段のお世話はしてくれないダメ飼い主って感じじゃん」

攻めガハマモードは継続中ですかそうですか。
あと割と上手いこと言うねコイツ……。

だがその程度で引き下がれるか、気分は初デートのお誘いで気合い入れる男子中学生だ!

つかここで由比ヶ浜を逃がしてしまうと家から逃げる口実の大部分を無くしかねんッ!
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:56:05.19 ID:xYcbhKqb0

「まぁその通りかもだが、今は時間潰したいんだよ……そういうお題目でも、何なら罪滅ぼしってんでもいいから、どっか行こうぜ。 どこでも好きなとこ連れてくから」

「どこでも、いいの?」

ん? 今どこでもって言ったよね?――何時からか脳内に巣食った獣がねっとり瞳を光らせる。

おう、と反射的に返す前に我に帰った。
安請け合いで破滅パターン入るかこれ!?

「あ、いや、どこでも連れて行きたい気持ちではあるが、その、財布的には手加減して貰えるとだな」

あわあわと甲斐性無しな言い訳を口にする俺である。実際財布は薄かった。
本当に締まらないよなぁ……。

対する由比ヶ浜は、

「えーと、その、多分、そこまでお金かからないと、思う、けど……」

またも俯いて、ぼしょぼしょと語尾を濁らせている。

何、照れてらっしゃる? 可愛いじゃねぇか……。
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:58:01.59 ID:xYcbhKqb0

しかしお出かけとあらば騒がしいくらいにノリノリな彼女にしては珍しい反応である。
改めて彼氏彼女という関係、或いはデートという現実を意識してしまっているのだろうか?
それとも出費如何は関係無くどこか遠慮するような場所。
……まさか俺ン家に行きたいとか言うんじゃねぇだろうな。

でも、それはそれでいいかもしれないと今は思ってしまっている。
小町の策略に乗ってしまったようで癪ではあるが、
そういう順序を無視した近づき方も俺達らしいかもしれない。

きっと仰天して美人局を疑う両親であるとか、
何時も以上にはしゃぎ回る小町、
そして真っ赤になって縮こまる由比ヶ浜の姿なんかが見られるだろう。

それはきっと悪くないことだ。

――さっきから実に俺らしくなく前向きな考えだ。
今日は朝から緊張と緩和の連続で心臓や神経が麻痺してしまったのかもしれない。

でも、やっぱり過程なんて気にせず結果的にそうなったなら、そんな気持ちを信じても良いんだろう。
そこまで含めて、これが比企谷八幡と由比ヶ浜結衣の一歩目なんだ。
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:59:29.73 ID:xYcbhKqb0



そんな暖かくも清涼な風を心に感じる俺に由比ヶ浜は、



「……ヒッキー!」



俺の腕に抱きつき、



「あのね、あたし……」



顔を真っ赤にしながら、


452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 23:00:38.90 ID:xYcbhKqb0





「ホテル、行きたい……行こ?」





――ママさん以上の、反物質もかくやという爆弾を炸裂させた。
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 23:03:01.14 ID:xYcbhKqbo
以上で本日の投下は終了です、お付き合いありがとうございました。

そして次回、ようやくエロいシーン突入です。
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 23:04:10.41 ID:gXJgLEBPo

455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 23:05:28.51 ID:IPnEjKqoo
乙です!
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 23:13:38.75 ID:Q3czJj/Qo

結局ガハマさんの方から誘うのかーヒッキーに男をみせて欲しかったな
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 23:30:08.23 ID:xYcbhKqbo
あと珍しく質問なんて来てたので回答をば


他作者の作品ですが、基本そこまで熱心には漁ってないので参考にはならないかもですが

現行なら 結衣「おかえり、ヒッキー」八幡「……いつまでヒッキーって呼ぶんだ」
過去作なら 由比ケ浜結衣「馬鹿にしすぎだからぁ!」
が好き

特に後者は自分がSSを書こうと思った切っ掛けになった作品です
大袈裟かもしれませんが、二次SS特有の軽妙さと楽しさを存分に描きつつも
さり気ない上手さや博識さもあって随分と唸らされました

ガハマさん好きで未読の方には是非ともオススメしたいところ
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 23:33:44.71 ID:kqBxNA+ko
お疲れ様です
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 23:47:09.70 ID:jZnUPNgUO
>>457
お疲れさまです
ID変わってるかもですが質問した者です
主はあくまで結衣スキーなのですね
私もですがその二つもこれも大好きです、応援しております
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 08:53:44.21 ID:NiCUhTib0
乙です!
ガハマさんには、もといこの2人には本当に幸せになって欲しい
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 13:15:32.04 ID:7GLMAmUf0
乙です
ホテルはお金そこそこかかるのでは……?
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/24(火) 06:26:59.44 ID:9jrGGKe8o
自分のことは棚に上げてあれこれ指図してくる三浦がウザすぎる…
後付でフォローされている感があるけど、序盤のお前は由比ヶ浜ことを体のいいパシリ扱いしたり、
テニスコートを使わせろと横暴な振る舞いをしたりと、わがまま放題のガチ屑女だったじゃねーかよ…
何様のつもりだよ、本気で胸糞悪いわ
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/24(火) 06:37:44.60 ID:W6L1klV8o
何故本編の感想をここに書いた
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/24(火) 07:20:36.18 ID:Bk5N84V0o
いいやつばっかりの世界にいる比企谷想像してみろよ
中学ではただやんわり避けられてるだけだから達観しきれないし由比ヶ浜は手綱放さないから車にも轢かれない、寿退社してるから平塚先生もいない
三浦のパシりもなければ昔の葉山と雪ノ下の確執もないから付き合いはともかく奉仕部作ってない…なにも起きない
比企谷みたいな主人公のラノベ好きならクズ役いないと話にならない
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/26(木) 20:18:09.73 ID:uxEWEu00o
次回更新はエロいシーンだと言ったな、アレは(多分)嘘だ。どうも>>1です。

信仰上の都合で「はじめては体より心の触れ合いであるべし」「心で抱け」という教義を
優先する為かなり冗長でオカズには使いづらいシーンになりそうで、長さも相当な気配が
故に次回更新は導入部で、多分今週中の投下になると思います
勿論間に合えば本番にも突入しますが可能性は低いと思って下さい

ともあれ、了承頂けるなら期待せずお待ち下さい

466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/26(木) 20:29:12.04 ID:F0Mfb9g8o
待つ
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/26(木) 21:38:10.38 ID:KmPPvAkT0
待ってる
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/26(木) 22:02:44.10 ID:R1ovgLyUo
正直いつも文章重くて読むの大変だけどこだわってそうしてるならしょうがないか
気合入れて待ってるわ
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/26(木) 22:42:47.87 ID:Yek/ayzfo
いいんやでいっちの好きに書いても
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:22:30.25 ID:MeeibBKL0
ようこそGraf Zeppelin、どうも>>1です。
取り敢えず導入部だけは完成したので突発的ですが投下します。
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:25:25.27 ID:MeeibBKL0

サァ、サァ

水の飛沫の連続する音が聞こえる。

しかしその音は壁と硝子、何より暴走気味な俺の心音に阻まれて現実感が伴わない。

夢心地。
今まさに俺は夢を見ているのではないか……そう疑ってしまいたくなる状況。

俺は、少なくとも二年前までの俺はこんな所には生涯来ることはあるまいと思っていた。
一年前の俺でも異次元別世界の城という印象は拭えなかったろう。

それが今はどうだ。
二人用のベッドに腰かける俺は、スマホで必死に男女の営みについて情報収集に勤しんでいる。
隣に投げ出されたコンビニのビニール袋には二人分のお茶ペットボトルと
連なる薄ゴム何枚かを収める小さな箱。

そして音を隔てる壁の向こうには一糸纏わぬ想い人。
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:27:01.68 ID:MeeibBKL0

悪い夢……とは言えなかろうが、そうなってしまう可能性は十分にあり、
天国と地獄の二つに分かたれた道の幻視が疲弊し尽くした筈の心臓にガソリンをぶちまけた。
シチュエーションとしては三月下旬の俺の部屋と似ているが、
そこに至る心の有り様は、少なくとも俺にとっては別物だった。


満ち足りたい。


幸せになりたい。


迂闊な変化のもたらすそれらとの断絶……膨大な悲観はそのままに、
未来への期待が胸の中で膨らんで思考の容量は破裂寸前。

ラブホテルの一室に大学生が二人。

そんなありふれた筈のシチュエーションは、再スタートしたばかりの俺達に
どんな結末をもたらすのだろうか。
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:28:51.86 ID:MeeibBKL0



『女なんて皆石地蔵wwwあんあん言ってても全部演技だからwww』


えー。


『男が思ってる以上に女ってエロい。ナニしても感じてくれる』


うーん。


『ぶっちゃけオナニーの方が気持ち良い』


マジで?


『女陰最強。中出しとか気が狂うレベル』


マジで!?


『最強なのは衆道。アレ知ったら女になんて戻れない』


マジかよッッ!!!

474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:30:54.82 ID:MeeibBKL0

……と、一頻り眺めては見たもののなんかどれも嘘臭い。

そもこんな土壇場で匿名掲示板の自称経験者達の意見なんてどれだけ信用したものかって話。
それでも裸一貫・未知の領域で溺れる俺は藁でも掴みたい心境だった。


ある偉人は言った。

「賢者は歴史に学ぶ、愚者は経験に学ぶ」と。

歴史とは客観情報の集積であり、経験はあくまで主観。
故に先人の知識に肖ろうと思えば客観をこそ信用すべし、ということだ。

つまり痛々しい黒歴史を反省したつもりでただ厭世的になっていた俺は
正しく愚者だったというわけだ。全く持ってその通り。
スゲェぜ鉄血先生!

だからこそこうして主観客観問わず情報の洪水である掲示板群を覗いて見たわけだが、
その情報を判別するのもまた俺という主観でしかない……そんな現実を思い知った。

ネットの海は広大だ。
内包する情報を歴史という信用できる単位に編纂するにはまだ時間を要するだろう。
さしあたっては『ネットで分かるHow to SEX』の完成が待たれるところだ。
編纂はよ。
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:33:32.42 ID:MeeibBKL0


そんな何時も通りの愚考の中、一つの単語がどうしても気になってしまう

セックス。

俺はこれから、由比ヶ浜とセックスをする……のだろうか?
やはり実感が湧かない。
更に言えば「どうにか回避できないか?」と未だに情けないことを考えている自分もいる。

由比ヶ浜とセックスしたくない、なんてことは断じてない。
寧ろしたい。したくて堪らない。
俺の記憶の深くに由比ヶ浜との一時を刻み、由比ヶ浜の純潔を俺の色で穢したい。
極近い未来の展望を考えているだけの今でさえギチギチに張り詰めているくらいだ。

だからこそ怖い。
これほどのパトスを、男性として未熟で至らない己が御しきれるか自信がない。

自分を信じたいと言った。
信じようと誓った。
だがそれはあくまで言葉や決意表明であって、
言えば忽ち強くなるような魔法や呪文ではない。
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:36:09.81 ID:MeeibBKL0

更に己を御しきれず暴走気味に由比ヶ浜へフェラさせたのが記憶に新しい。

あれほど抗いがたい感触と欲求の先へ進もうというのだ、
今の俺ではレベルが足りないのではないか。
レベル不足の無謀なボス戦の果てに待つのは何か。
再戦はおろかコンティニューすら許されない、
問答無用のゲームオーバーではないのか。


だがここで断り逃げ出す選択肢はない。それは分かっている。

それを選んでしまえば戦いの機会すらなくバッドエンドだ。
俺は本物の狼少年になって大切な人と約束を喪い、己自身の矜持すら守れず、
幸福という境界へ浮かび上がることは二度となくなるだろう。


だからもう、ここは覚悟を決めるしかない。それも分かっている。

なのに不安と悲観は勢いを止めず、それでも期待と楽観も負けず勢力を強め、
俺の脳内心中は濁流さながらに荒れ狂っていっそ統制を放棄してしまいたいくらいだった。
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:37:29.17 ID:MeeibBKL0

結局スマホでの情報収集は精々『セックス時の男の子のマナー』程度に留まった。
その確認だけでも充分有意義ではあったが身の程知らずにも女の子を喜ばせるテクニック、
決定打を欲していた俺の心を安心させるには至らなかった。


役目を終えたスマホを放り出し、改めて部屋の中を見渡す。

中は意外な程に普通で、いかがわしい空気は感じられない。
それこそビジネスホテルの二人部屋と言われれば納得してしまいそうなくらい。

だが設備諸々はビジネスホテルの範疇ではなく寧ろ少しだけリッチな感じもする。
所々「そういう気遣い」が行き届いてはいたが、それでもただのホテルの一室という空気感は
俺の心を多少なりとも落ち着けてくれていた。落ち着けて濁流なんだけど。

由比ヶ浜と一緒にホテル街へ向かった時、あれやこれと姿を現すお城や館に目が回ったが、
流石にいきなりそんな中世ファンタジーに足を踏み入れる勇気なんぞ無かった。

結局は外装の色だけおピンクなホテルを選んだわけだが、これは正解だったかもしれない。
これでお城選んで、中身が正にSIMPLEシリーズ・THE ラブホテルって感じだったら失神してたかも。
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:39:40.65 ID:MeeibBKL0

……あの時、由比ヶ浜の要求は完全に予想外だった。

ここ一ヶ月で二度、由比ヶ浜は俺と男女の繋がりを求めてきた。
形も機会もちぐはぐで決定的な形にはならなかったが、それでも彼女にも性の意識があると、
そんな風に認識していた筈なのに。
俺はまともな回答も出来ず、半ば流されるようにコンビニで必要な物を買って今ここにいる。

ついでにシャワーまで先に貰って済ませた。
頭バシャバシャ濡らしてドライヤーまで使った。
バスローブか浴衣のような寝間着部屋着も用意されていたが、
わざわざ着るのも変に緊張して結局は着てきたシャツとズボンに納まった。

いずれ避けられぬ事態ならば、男の俺が甲斐性を見せるべきだったろうか?
理想としてはそうなのだろうが、それでも今の俺にそれが出来るかと言われれば……。


人生万事塞翁が馬。

なるようにしかならないならば流れに身を任せていいのでは?
しかし昨日の今日で全てを割り切れるほど俺は子供でも大人でもない。

ケセラセラ。
ケセラセラ。
俺の人生を操ってきた神か悪魔がそんな風に笑ってる……気がする。
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:41:06.22 ID:MeeibBKL0

そして、悶々懊悩とした俺の内面など関係無く水の音が止んだ。

それだけで心臓ごと身体がハネた。
もう逃げられない、そう告げられた気がした。
痛いくらいに勢いを増す血流と心音を感じながら、ただその時を待つしかなかった。

やがてシャワーを終えた由比ヶ浜が姿を現し、視認した俺の時は停まった。


「お、おまたせ……」


バスローブとか浴衣、じゃない。

バスタオル一枚、身体に巻き付けただけだった。


「…………」


言葉が出ない。
濡れたばかりの柔肌なんて目には毒でしかないのに、それを隠す布の面積はあまりに小さい。

根本近くまで覗く太股。

隠しきれず零れそうな胸の谷間。

上気した肌の色と殊更赤く染まる頬。

そして濡れた髪は、いつものお団子を解いて肩まで真っ直ぐ伸びていた。

元より童顔な由比ヶ浜だが、何時もはその髪型が彼女の少女性を象徴しているように見えていた。
それが解かれて、濡れて、由比ヶ浜は『女』になっていた。
童顔はそのままに肉の質感を強く持つ身体とその髪のギャップで、今度こそ俺は打ちのめされた。
……魅力と凶器は、紙一重だ。
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:42:09.09 ID:MeeibBKL0

「……あ、あんまり見ないでよ」

由比ヶ浜の一言で我に返るが、それへの返しは、

「――お前は何を言っているんだ」

の一語だ。

「そ、そんな恰好で、お前……見られない、とでも、思ってたのかよ」

「そう、かな……あたし、そんなに自分の……自信、ないし」

「お前は何を言っているんだ」

思わず突っ込みが一字違わずリピートした。
そんな立派なメロンとお肉があって「この村に名産品はありません」とか通るわけねぇだろ!
今すぐむしゃぶりつきたいくらいだわ!

「えと、この後のこと、か、考えたら、あんまり着ない方がいいのかなって、思ったんだけど」

「あ、そ、そう……」

はじめての前にもじもじし出す俺の彼女が可愛すぎる件について。
……ただのリア充じゃねぇか、売れねぇなこのタイトル。

しかし由比ヶ浜の肌を見るのは初めてではないのに、これほど動揺してしまうなんて。
理性の分析などお構いなしに、本能は脳の記憶野に無理矢理スペースを確保し撮影録画を開始する。
REC●
求む4K画質。
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:43:40.29 ID:MeeibBKL0

「……あの、ドライヤー使って良い?」

「え、あ、や、ど、どーぞ」

俺の視線に気付く……のは当たり前で、その強さに耐えきれなくなったか由比ヶ浜は身を抱くようにしながら言った。
そんな仕草がより雌性の気配を濃厚にさせるのだが、当の由比ヶ浜は気付いていないだろう。
何故だかそれを悟らせたくなくて動揺し、俺の返答はどもりまくりのキモ返しになっていた。
しにたい。



由比ヶ浜は当然のように俺の隣に、しかもかなり近くに座るとドライヤーで髪を乾かし始めた。
ぶおーん、という馴染みの風音と温風の余波が俺の身体にも届いてくる。
風は由比ヶ浜の髪の香りを際立たせ、鼻腔に運ばれては俺の中身を掻き乱す。

チラリと横を見やれば、顔を赤くしたまま髪を乾かす由比ヶ浜の横顔。
女性らしい身体の凹凸も確認出来る。

……グルグル回る心と頭はそろそろ限界で、ショートして機能停止しそうだ。

このまま陰陽の思考の渦に呑まれたまま停滞するなら、
いっそ何も考えず由比ヶ浜に抱きつきたい。
何もかも捨てて、何もかも奪ってしまいたい。
何より由比ヶ浜自身もそれを望んでいるのではないか。

そろそろ黒煙でも上げそうな過負荷を感じながらも、ドライヤーの音が止んだ。
いよいよ状況は動き出す、動き出してしまう。
もう言い訳の逃げ場が残っていない。
彼女が望んでこの場はあって、ならば後は俺が望むだけでスイッチは入る。
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:45:14.54 ID:MeeibBKL0

男と生まれたからには何より待望の体験を、それでも怖れる心が止まらない。
由比ヶ浜が女である以上その体験にはどうしても苦痛が伴うからだ。

『はじめてなのに、大好きな人とだから気持ち良くなってしまう』

そんな都合の良い展開のエロ漫画やらで自慰に耽った経験はある。
だが今はその時よりも強く、そんなご都合主義をと願ってしまう。

どんなことであっても、もう由比ヶ浜を傷付けたくなんかないのに――。


「ヒッキー」

気が付くと俯いていた俺は、腕に感じた柔らかさで正気に戻った。

先程の公園の時のように、由比ヶ浜が俺の腕に抱きついていた。
しかし感じる熱と柔感はその時の比ではない。
一瞬、理性も意識も飛びかけた。

「ヒッキーがなに考えてるか、わかるよ」

停止しかけた俺の顔を由比ヶ浜は見上げてくる。
目が合う。
濁りのない瞳、緊張を隠さない赤い顔。
可愛いとか綺麗とか、そんな陳腐な表現では全く足りない。
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:46:57.99 ID:MeeibBKL0

そして、


「でも、もう遅いんだよ……あたしはヒッキーにたくさん傷付けられて、ボロボロだから」


由比ヶ浜のこの言葉が、オーバーヒート寸前の心臓の上に特大の杭を打ち付けた。


ただ優しいだけの人間なんていない。
それは由比ヶ浜ですらそうなのだと、とっくに知っていたのに。
そんな彼女の優しさに甘えて、俺がその心にどれだけの非道を繰り返してきたのか。
……恨まれて当然なのだ、本来は。

「……すまん、本当に」

「今更謝ったって遅いよーだ……それにボロボロだけど、それが結果じゃないんだってあたしも信じてるから、だから、ヒッキーとホテルに行きたいって、あたしの、は、はじめてを、もらって欲しいって思ったんだよ?」

「でも俺はまだ、お前の、しょ、処女、を、受け取れる資格なんて」

「資格なんて要らないよ、大事なのはどう受け取るか次第ってヒッキーが言ったんじゃん」

「でも、でもだ、俺は、今更でも、またお前のこと傷付けるのかって、そう考えたら……」
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:48:47.68 ID:MeeibBKL0


「ヒッキー」


強く、綺麗な声。

優しいだけじゃない。
ズルいところも弱いところも持っている由比ヶ浜の、それでも強くて綺麗な一面。
やはり顔を赤くしたままで、それでも真っ直ぐ俺を見据えて、言う。

「あたしのことはいいの、ヒッキーがどうしたいか……聞かせてよ」

そして、腕に抱きつく力を強めた。

「俺が、俺、は……」


柔らかい。


暖かい。


愛おしい。


愛おしいんだよ。


だから、


「俺は……ゆ、由比ヶ浜と、お前と、シたい。 俺もはじめてはお前が良い……寧ろ、お前以外となんて、シたくない。 お前だけと、セックスしたい」


485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:51:13.04 ID:MeeibBKL0

もう、そう言うしかない。

結局ギリギリまで追い詰められて、促されて、それでようやく言い出せた。
情けない、男らしさなんて欠片も無い。

でも、言えた。
情けなくて男らしくない俺が、そう言うことが出来たんだ。

言ってしまえばもう枷は軽くて、疲れた神経は瞬時に漲り下半身の充血をこれ以上なく意識した。

「うん、あたしも……ヒッキーと、シたい」

そして由比ヶ浜が微笑む。

「女の子は、最初はどうしたって痛いって聞くもん。 だから、はじめては、本当に好きな人とって……ヒッキーとなら、痛くたって良いって本気で思って――」

……由比ヶ浜の言葉は、本当に男冥利に尽きる。
今でさえそうだと言うのに、更に頭を振って、

「……ううん、大好きな人がくれるものだから、寧ろ、どんなものだって欲しいよ」

またも爆弾を投下する。



「だからね、ヒッキー……あたしに痛いの、ちょうだい?」



――言葉が、それを聞く俺の心が、爆ぜた。

爆発の勢いのまま、俺は由比ヶ浜を一度引き剥がすとベッドへと押し倒した。
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/27(金) 23:53:57.20 ID:MeeibBKL0
以上で本日の投下は終了です、お付き合いありがとうございました。

次回から本当に本番ですが、前述の通り時間がかかりそうです。

・行くぜ目標一週間
・頑張れ及第二週間

くらいを目安に期待せずお待ち下さい。
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/28(土) 00:00:09.58 ID:zC0AMUfdo
乙です!
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/28(土) 00:05:34.38 ID:32yQxuuG0
乙です。待ってます!
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/29(日) 01:02:59.22 ID:0WZnO7cHo
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/29(日) 01:08:28.51 ID:WSOkD5/Ro
乙です
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/29(日) 01:31:06.53 ID:R0ETVojHo
THE ラブホテルで不覚にも笑ってしまった
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/02(水) 19:17:38.24 ID:T07iUkoio
ラストダンスが終わらない、どうも>>1です。
予想通り一週間での完成は無理っぽいんですが、
ある程度キリの良いポイントまでなら進めそうです

濡れ場は一気に、と以前書きましたが予想通り長くなってきたのでどうしようか考えており
そこで前後に分けるか、完成してから一括投下かどちらか希望があればレスお願いします

493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/02(水) 19:25:00.00 ID:Nxv45zLOo
時間かかりそうだったら分けて投下してほしい
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/02(水) 19:31:58.06 ID:/wljawE0o
一括投下でお願いします
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/02(水) 20:54:31.20 ID:AHHirQtLO
一括一択
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/02(水) 21:55:05.25 ID:bKdfLzQKo
黙って投下しろ
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/12(土) 00:34:02.31 ID:6UehaLVio
2週間たったがまだなのけ?
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/12(土) 18:08:35.21 ID:/SDuikTio
二人のアカボシのPV見てお腹の減る季節、どうも>>1です。

すみません絶賛遅延中です。
なんとか今日か明朝の早い内に書き終え明日の夕方投下を目指します。
というか予想通り文量が相当なことになってきたので夕方に開始しないと何時投下終えられるか分かりません。

正直予定通りに行くか自信ないので本当に期待せずお待ち下さい。

499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/12(土) 20:54:00.56 ID:GizIIXREo
頑張れ
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/12(土) 20:56:24.50 ID:7ifiVlO4o
期待
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/13(日) 19:13:59.02 ID:dyhpRd1so
どうも>>1です、夕方投下無理でしたすみません。

今急ピッチで進めてますが今日中の投下は無理そうです。
何とか明日か明後日には投下出来るよう調整しますので、期待せず以下略。
お待たせしてしまって申し訳ないです。
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