【R-18】由比ヶ浜結衣はレベルが上がりやすい

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68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:50:20.18 ID:P7hDeFiFo
乙 今のままでも良いがね
>>67
防げる
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 00:15:14.11 ID:q8by++Cmo
乙 特に読みづらいとは思わないぞ 後半期待
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 00:23:05.25 ID:osmlOVIDo
乙です
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 00:56:06.79 ID:JGKK2Edlo
ヒューwwwwwwww
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 01:09:56.44 ID:rI+dTmllo
乙です
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 19:22:30.29 ID:GM4ebmf80
どうも>>1です。
今宵投稿予定でしたが、まーたバカみたいに長くなってきたので前中後の三分割になる可能性が出て来ました。
三分割になった場合中編は勿論エッチなシーンありませぬ……イチャイチャエッチってなんだっけ……?
ともあれ早ければ22時、遅くとも日付変更直後くらいには投下出来ると思うので暫しお待ち下さい。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 23:21:59.87 ID:VnKctWOQO
むん
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 00:04:19.89 ID:wXxBmjsv0
>>1です。日付変更直後の投稿は無理でしたァ。

ですが現在急ピッチで執筆中、なんとか三分割にせず投下出来そうなので三十分刻みで投稿タイミング計ります。
なんとか一時までには……暫しお待ちを。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 01:23:20.19 ID:wXxBmjsv0
どうも>>1です。
遅れましたが完成しました、今から投下します。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 01:26:33.00 ID:wXxBmjsv0

「それは、その……拙いでしょ、色々」

止まった心臓の鼓動を把握できるまでたっぷり時間を使って、その後も混乱した脳味噌が返答に窮したっぷり一分考えてひねり出した返事がこれだった。死にたい。墓穴があったら入りたい。プレインズウォーカーなら黒1マナで好きなカードを墓地に送れるぜやったね!

「マズくなんてないよ、だってあたし……ヒッキーの彼女だから」

で、二秒と待たずに返ってきたのがこれですよ。くすぐったいこしょばいい可愛い嬉しいええいどうしろというのだ。

「それに、今日はもしかしたら泊まるかもしれないってママに言ってあるし」

What are you talking about?

「え、いやお前、言ってあるって……あ、女友達の――三浦とか海老名さんとか、その辺の新生活の手伝いに行くっつって出て来たんだろ? ダメだってこういう嘘は割とバレ易いんだからボロが出ない内にとっとと」

「ヒッキーのとこ行くって、言ってあるの」

78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 01:29:07.76 ID:wXxBmjsv0

「は?」

は?

スゲェ、思考と言葉が同じタイミングで全く同じ言葉を発したよ……いやんなこたぁどうでも良くてだな!

「バッカじゃねーのお前! 何言ってんだよ何言っちゃってるんだよ! 何言ったか分かってんのかお前!?」

「バカって言わないでよバカっ! ちゃ、ちゃんと意味分かってるし許可も貰ったんだからねっ!」

「うううう嘘仰い! 歳頃の娘を持つ母親が、こんな得体の知れない男の下に送り出すとか、お前……」

「嘘じゃないし! パパ誤魔化しといてくれるって言ってたし! ママからヒッキーに伝言も預かってるし!」

「……ちなみに、なんて?」

「『娘のこと、末永く宜しくお願いします』って」

「アッハイ」

じゃねーってだから! ガハママさん防犯意識緩すぎじゃね!?

「ふ、ふかしてんじゃねーってお前……」

「だから嘘なんかじゃないし……ママ、ヒッキーのこと気に入ってるし、パパいないときにヒッキーとどうなったとか、どこまで進んだとか、よく聞かれるもん」

79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:32:45.53 ID:wXxBmjsv0

あぁそういえばこいつの部屋で一緒に受験勉強してたとき、やたら差し入れがリッチだったり妙に豪勢な夕餉にご相伴与ったり結構露骨だったな……話振られるときもやたらニコニコしてたし、妙に距離感近くて良い匂いして慌てて由比ヶ浜が引き離しにかかったり。ちょっと危ない状況だったかもしれない色んな意味で。

「だからって、だから、歳頃の娘の親が、ありえねーだろそんな……」

「じゃ、じゃあ確認してみる?……電話で」

そう言うと由比ヶ浜は僅かな操作を経て自分のスマホを躊躇無く差し出した。画面には「ママ(記号省略)」と表示されている。

これマジなヤツじゃないですかやだー。いや本当どうすんの、どーすんの俺。続きはWebでってことでこの場はまからないですかね。

どうしたものかと脳細胞を加速させ、黙り込む俺。

そんな俺をどれくらい見つめていたか、由比ヶ浜は意を決したように言葉を発し始める。

「……ヒッキー、今からちょっとズルいこと言うね」

80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:35:27.84 ID:wXxBmjsv0

ズルい。

それは今より俺達の関係が離れていた時期に彼女が口にした言葉。

それに纏わる記憶がフラッシュバックし、さっきまでのように由比ヶ浜の女性≠感じて震えていたのとは違う、鋭く真っ直ぐ貫くような痛みを胸に感じた。

「あたしと、その、つ、付き合ってから……キスした回数、覚えてる?」

そんなん覚えてるわけねーじゃん毎日何回してるか分かんねーくらいなんだからさHAHAHA!

……なんて言える状況じゃない。砕いて良い空気じゃないことくらい、分かる。

「その……二回だったよな、確か」

「うん、二回。 あたしの誕生日と、クリスマスの時」

それも、彼女がねだった二回。

これも痛みを伴う現実だ。三年に進級してから、受験勉強を言い訳に各種イベントはスルーにスルーを重ねていた。その例外が彼女の言うとおり、由比ヶ浜の誕生日とクリスマス。

「じゃあ、ちょっとした買い物とか寄り道じゃない、ちゃんとデートだって一緒に出かけたのは?」

「……ディスティニーの、シーのアレは付き合う前でいいんだよな、そしたら……い、一回」

「そう、一回だけだよ」

81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:38:29.60 ID:wXxBmjsv0

去年のホワイトデーに、それまで伸ばしに伸ばされ、一度は彼女の方から違う形で消化されかかったデートの約束、それを俺達は果たした。そこでお互い幼稚で無様な感情をぶつけ合って、その奥にあった想いを伝え合って、俺達は恋人になった。

でも恋人になってから勉強ばかり言い訳に使って、二人ともおめかしして揃って出かけたのはクリスマスの一回。それも夕食の前には解散してしまうような儚く短いデート。プレゼントの交換とその際のキスを除けば、風に吹かれて飛んでいってしまいそうな淡いお出かけ。

「……もういいじゃん、受験終わったよ? あたし、ちゃんと出来たよ? だから……あたし、欲しいよ」

彼女の瞳が再び潤み始める。

その色は赤や桃じゃない、青みがかった悲嘆の色。

ぞぶり、心臓に刺さる棘が増えて、鼓動の度に伝わる痛みはその量を増した。

「こんなこと言うのズルいって、あたしも分かってるけど……もっとヒッキーと近づきたいし、恋人らしいことしたい……一年我慢したんだもん、もっともっとヒッキーに、愛して欲しいよ……」

彼女の悲しみと渇望は目尻に溜まって、臨界を越えては頬を伝って流れ落ちていった。

ああ、違うんだ。違うんだよ由比ヶ浜。

ズルいのは俺だ、悪いのは俺だけなんだよ。

何時までもお前と向き合いきれず、自分の感情すら心の何処かで疑って、それでもお前を突き放せない俺だけが罪人なんだ。

82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:41:23.56 ID:wXxBmjsv0

「……ごめんな、情けない彼氏で。 本当に……」

「あ、あやまらなくて、いいよ……あたしも、泣いたりして、ごめん、ずるいこと言って、ごめんなさい」

俯いて、鼻声で、ぽろぽろ涙を零しながら彼女は言った。

……もう拒むことなんて出来やしない。

「……分かったよ」

「え……?」

「いいから、泊まりたかったら好きにしろよ」

「あ、ひ、ひっきー……」

ここに至ってもぶっきらぼうで真っ直ぐ言葉をぶつけるのを忌避した言い回しなのに、彼女の溢れ出す涙は量を増して、だがその顔は喜色に緩んだ。

同時に、俺の胸中も重さから解放されて晴れやかに開いていく。我ながらなんと現金な心臓だ。

それに合わせて欲求を認められたと早合点した本能が理性をねじ伏せて過剰なアピールを始める。

確かめたい、彼女の愛と柔らかさを確かめたい、確かめさせろ。そう叫んでいる。

悪いが、それはまだ早い。大人しくしていろ。

そしてそれを由比ヶ浜にも、

「ただし」

「?」

「同じ布団じゃ寝ないし、最悪俺は違う部屋に行く。 それを認めなきゃ、俺は今からネカフェに行って夜を明かす……そこが妥協のラインだ」

83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:44:06.88 ID:wXxBmjsv0

「あ……」

また曇る。

胸が痛む。

何度過つ、何回繰り返す。

でもこうするしかない、そうしなければ先に待っているのは抗いようのない破局……その可能性だ。

悲観的過ぎるし、消極的すぎる。分かっているが、僅かにでも見える破局の影は俺にとって死の宣告に等しい。

「悪いが、万が一ってのは避けたいんだよ……チキンだからな、俺は」

「う、うん……」

彼女がその万が一≠多少ならず期待しているのは分かる。だがそれが愛を渇望するが故の意識なのか、それとも欲を突き動かす衝動なのかは分からない。俺自身が判別を付けられていないのに、他人のそれを理解出来るわけがない。

彼女と同じ部屋で勉強していた時から幾度と襲いかかってきた欲求。

それの何処からが感情で何処までが衝動なのか、その解を得ない限り彼女の肌には触れられない。恐ろしくて、触れることが出来ない。

失敗の傷を過剰に怖れる無力な子供、それが今の俺だった。

84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:47:15.72 ID:wXxBmjsv0

時刻は日付変更間近。

互いに風呂に入って一日の汚れを洗い流して身を清め、後はもう布団に入って眠るだけだ。眠るだけなんだよ性の時間なんてやってこねぇんだよ。それは九ヶ月後だ。

そして灯りの落ちた部屋には寝間着用のジャージに着替えた俺がフローリングの上に転がり、ピンクの可愛らしいパジャマを着込んだ由比ヶ浜は布団の中に身を収めている。ベッドはデカいし重いから追々と考えていたのが裏目に出てしまった。

いや仕方ないんだって、だってこんなに早く来客用の寝具が必要になるなんて思わないもの。俺用のワンセットしか持ってきて無かったんだよ。寧ろ以後泊まりの客は絶無と認識して増やさないまである。

まだ肌寒い三月の夜、流石に掛け物無しでは風邪引き待ったなしなので仕方無くコートをダンボールから引っ張り出して毛布代わりとする。ここ何年か春間近という時期に豪雪で阿鼻叫喚という経験を何度かしてきている為、念のためにと持ってきていたコートに計らずとも助けられた。

枕はさっきまで使っていたクッションを代わりにしている。勿論俺の使っていたヤツをだ。これが小町のだと色々拙いしもし知られた時何を言われるか分かった物じゃないし、由比ヶ浜の使っていたヤツなど論外だ論外。危険が危ない。

85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:50:11.05 ID:wXxBmjsv0

そう、ただでさえ気を使いに使って不測の事態に備えている俺だ。既に想定された危機は俺の身を浸食しつつあり、これ以上の危難やダメージはどうしても避けねばならない。

そう、燃え上がってるんです。

立ち上がってるんです、俺のガンダムが。

正しくは勃ち上がってるんです、俺のRX-78。

これは世界全人種の男性諸兄になら須く理解頂けるだろう生理反応、それこそ脊髄反射のレベルで無意識の内に血液を集めてバンプアップしがちな男の象徴。こいつの前にこれ見よがしに餌をちらつかせたらどうなるか……語るに及ばず。

結局俺達は泊まりを決めて何時間か、互いに座ったまま微動だに出来ず喋ることすら出来なかった。そのまま就寝の時間が近いと察するや既に掃除を済ませていた風呂にお湯を張り、一番風呂を由比ヶ浜に譲ったのだが……これが拙かった。多分逆でも拙い。俺詰んでた。

弾ける水温と部屋に漂う由比ヶ浜の残り香がどうしようもなく妄想と劣情を喚起し、風呂上がりのしっとりとした由比ヶ浜の柔肌と髪の毛は産毛が逆立つほど濃密な色気を振りまいていた。この時点でもう限界まで張り詰めてました。バレないようにするのが精一杯でしたとも。

由比ヶ浜のシャンプーの芳香が充満する風呂場は更に息子の情操教育に悪い環境で、いっそのことここで一発大人しくさせたろかとも本気が考えたが、由比ヶ浜にバレたらそのままリストカットして生命的な意味で果てるまであったので止めといた。俺だって……命は惜しい……。

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:53:30.63 ID:wXxBmjsv0

……本当はバレる危険を冒してでも、最悪バレてでも下半身への血流を止めなければならなかったと、今コートの中で身を丸めながら後悔している。破局の可能性を何より恐れながら、その可能性の低減と最悪の展開の芽だけは摘んでおかなかったなど笑い話にもなりゃしない。

そしてその最悪の展開の芽が、今まさにその存在を自己主張しているのだ。狼が腹を空かして、はよしろはよしろと理性を煽り急かしている。背中の向かい側に、美味しそうな子羊が無防備に身を晒しているぞ、と。

由比ヶ浜の気持ちさえ考えなければ、今すぐにでもネカフェに行って時間を潰せばいい。その際個室を借りエロ動画でも使って徹底的に放出し切ってしまえば尚善し。問題は、その由比ヶ浜の気持ちを考えないという選択が取れないという点だ。つまり最初から選べない死んだ選択肢だ。

次善の選択肢は別室で眠ることだ。幸い学生の一人暮らしには過分な良い部屋を宛がって貰っていて、男一人の寝室に使うには問題の無い別室があり、俺だけそこで眠ることを提案したら、

「……傍にいてくれないの?」

と涙目になられた(可愛い)ので頓挫した。そりゃ彼女が期待していることを考えれば当然ですよねーですよねー。

87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 01:57:00.00 ID:wXxBmjsv0

モヤモヤとした熱……そうとも言い切れないような湿っぽさを胸中に抱え、寝返りも打てずに丸まって内側に向く力を強める。

這い上がる衝動を堪えて考える、愛とはなんだろう。

中二病を患った者の内にはアレコレ大袈裟に考える人間もいるだろう。それが世界の全てだと短絡的な衝動に繋げて恋愛至上主義へと暴走するリア充も、悲観して打ち捨てて諦観を標榜する高二病もいるだろう。以前の俺は後者に属しながらどちらに対しても陰で唾吐く捻くれた外れ者だった。

今は、少なくともそれを欲しがることを否定できない。寧ろ積極的に欲しいと願っているかもしれない。

だが欲しがっている者の本質はなんだ、それの意味するところはなんだ。ただ欲望が理性を納得させるためにでっち上げる方便なのか。それとも本能がせめて基準をと敷いた感性のレールかルールなのだろうか。

今俺の頭と胸を支配しようとするこれは愛なのだろうか。

大事に思えばこそ傷付けない、傷付かない選択肢は無いと恩師は言った。それがある時期俺の指針と原動力になってもくれた。だがちょっとの傷が感染症に発展しかねないように、ただの骨折が重い後遺症になりかねないように、傷を怖れ、無傷で生きていこうとすること自体間違ってはいない筈だ。実際には無傷で生き抜くことが出来ないとしても、傷を怖れ痛みから逃げること自体は生物の本懐と言ってもいいのではないか。

人間は消耗品かもしれないが、俺は由比ヶ浜という存在を消費したくない。歳経て見目が移り変わっても、由比ヶ浜結衣には由比ヶ浜結衣で在り続けて欲しい。それは過分な願いなのだろうか。愛ではないのだろうか。

ならば彼女を……彼女で気持ち良くなろうという俺の裡の衝動は? ただ可能性や選択肢の問題で手を伸ばしているに過ぎないのか?

何度間違えても問い続ける、それは俺の求める一つの形だった筈なのに、いざ手に入れば間違えることがこの上なく恐ろしい。

それが単なる自身への自己愛の発露だとするなら、俺はそもそも由比ヶ浜を……。

88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:00:22.69 ID:wXxBmjsv0

違う違う違う違う違う、それだけは断じて違う。そこだけは間違っていない。

大切で、抱き締めたくて、でも傷付けたくなくて、そんな身勝手でねちっこくて面倒な願いが偽物であるものか。それを心から信じたいと、そう思うことは決して間違いじゃ――

「……ヒッキー」

暴走し始めた思考を止めたのは由比ヶ浜の声だった。

「どうしたの? さっきから唸ってるけど……具合、悪い?」

深夜という時間帯故か、彼女の声に平時の突き抜けるような明るさはなく、小さく籠もるような声音。そこに心配の色が混じって、彼女らしい優しい響きを醸していた。

「いや、なんでもない……」

気が付けば身に被るコートを握りしめ、皺を作っていた。汗こそかいていないが脳細胞の過負荷が全身に熱を伝えている。

特に下半身が……ヤバい。思考への没頭は一時的に屹立の事実を自意識から隠蔽し遮断したものの、その麻酔が切れた今は過負荷の熱で更に昂ぶり逆に感覚が曖昧になりつつあった。

「大丈夫だからとっとと寝とけ、慣れない寝床でウダウダやってると眠れない内に夜が明けちまうぞ」

ぶっきらぼうに言ったのは諸々誤魔化す目的があったが、恐らく寝返りうってこちらを向いてる彼女の顔を直視すまいと顔を向けずに言ってしまった為、寧ろ突き放す感じで由比ヶ浜には過剰に効いてしまったかもしれない。

89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:04:04.28 ID:wXxBmjsv0

「でも、あたしヒッキーと話したいな……お風呂入る前、緊張しちゃって全然できなかったから」

寂しさが滲み出る、寧ろそれを隠す気のない彼女の声色。

また心臓の棘が揺れる。出勤通学前に寂しがって縋り付いてくる犬を見るのってこんな感覚なのかしら。

「……明日でいいだろ、もう遅いんだから」

「ううん、今じゃないとダメだと思う」

今。由比ヶ浜はそう言った。

「なんで」

「あたしもよくわかんない、わかんないけど……今だって思ったら、次同じことしても『違うんだ』って思っちゃいそうなの」

「……抽象的過ぎて分かんねぇ」

「だよねーあはは……」

誤魔化すような笑い。何時もの由比ヶ浜のバカっぽくて、でも安心する響き。

「でもね」

そこから、凜とした色。

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:08:58.31 ID:wXxBmjsv0

「あたし、今ヒッキーと話して……ヒッキーに、近づきたい」

ぱさり、多分布団がめくれる音。由比ヶ浜が上体を起こした音。

「近づいて、もっと、もっと、ヒッキーと……」

衣擦れ。多分立ち上がった。

振り向けない。

「もっとヒッキーのこと、知りたい……感じたいよ」

気が付けば、彼女の声はずっと近い。多分もう俺の真後ろに立ってる。

振り向けない。

振り向けない。

マズいんだ。

「やめろ、由比ヶ浜……それ以上は」

「やだ」

声はもう耳元。吐息がかかる。匂いが漂う。

「ねぇヒッキー……こっち、向いて?」

91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:11:49.21 ID:wXxBmjsv0

「無理だ、だから、布団、戻れよ」

ぶつ切りになる俺の言葉。

近い。近い近い。無理だ、これ以上は。

殆ど反射的にコートを巻き込みより強固に丸まる。

焦りに焦る俺の内心を知ってか知らずか、由比ヶ浜は、

「にひ」

と、その表情を容易に想像させる声を漏らすと、

「……こしょこしょこしょこしょ!」

「ひ!?」

……俺をくすぐり始めやがった!

「ちょちょちょひ、おま、ま、やめひ、やめろって!」

「ふふーん、やめて欲しかったコートどかしてこっち向いてよー」

とんでもない実力行使だ、人は苦痛には耐えられても快楽には耐えられないってクランシー柔術の後継者も言ってたしな! なおこれが快楽とは言っていない。

「ふは、はひひ、ひ、ほ、ほんとやめめめめ、やめないと……!」

「やーだー……とりゃ!」

くすぐり慣れでもしてるのか、的確に急所を責めるそのマル秘フィンガーテクニックに俺の鉄壁はあっさり骨抜きにされ、俺は仰向けにされた上コートをはぎ取られてしまった。

あ、ダメだコレ。

92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:14:35.91 ID:wXxBmjsv0

「へへ、コート取っちゃ、った……!?」

コート、取られちゃった。

仰向けにもされちゃった。

もう隠すものないです。

由比ヶ浜も、俺がここまで強固に突っぱねてきた理由を思い知ったろう。主に視覚で。

「やめろって……言ったのに……」

両手で顔を隠す俺、多分可愛い……くない。

コートの下、突き上がって布地でピラミッドを形成するズボン……俗に言うテント状態。それを由比ヶ浜に……よりによって由比ヶ浜に見られてしまった。折しも今夜は月が明るく、差し込む月光は電灯の光がなくても容姿の確認も簡単に行えてしまう。

小町にすら見られたこと無かったのに……もうお婿に行けない……。

これは無様に下衆な興奮してたのがバレて由比ヶ浜に悲鳴上げられてそれに反応した隣室の正義漢にここまで突入されて取り押さえられて警察呼ばれて手が後ろに回ってその気は無かったんですそれでも僕はやってないと主張しても受け入れてもらえず人生詰んでゲームオーバーってパターンだなヒッキー知ってるよ。

最悪の展開、そして最悪な未来を容赦なく脳細胞がシュミレートする中、それでも屹立したままのマイサンが憎らしい……全部、全部お前のせいだ!親の監督責任なんて知ったことかよ!

93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:17:11.90 ID:wXxBmjsv0

「ヒ、ヒッキー……!」

明らかに由比ヶ浜が戸惑ってる……サラバ愛する人よ、俺はもうお前と一緒にはいられないのだ……とか口にも出来ず思考を暴走させていると、唐突に、

ツン

「!?」

俺のを、由比ヶ浜が指先でつつきやがった……!

「わ!」

突然の刺激にびくりと電流でも走ったかのようなリアクションをした俺に驚く由比ヶ浜。

「お、おま! いきなり何してんの!?」

「え、その……お、男の子って、こんな風になっちゃうんだって、思ったら……」

もじもじ目を逸らす由比ヶ浜(可愛い)……いやいや可愛いけど、でも迂闊過ぎる!

「……なんで、こんな風になっちゃったの?」

そしてこんなこともじもじ聞いてくるんじゃない。俺の中の餓狼が、こいつが出ちまうッッ!

「なんでって、お前……状況、考えろよ」

「?」

首傾げやがったぞ……こういう展開期待してたんじゃないのかコイツ。それとも年若い男女が一つ屋根の下で抱き合ってキスしたらコウノトリがキャベツ畑ってくらいの認識だったの?

94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:21:03.55 ID:wXxBmjsv0

「……か、彼女が、隣で寝ててお前、そんなん……期待しちまうんだよ無意識に、男なら」

そして勢いに乗って言ってしまう、というか言わされる俺。何これ羞恥プレイ?全然気持ち良くないんですけど……。

「きたい……」

期待、と口中で反復する由比ヶ浜は、ようやくそれの意味するとこに思い当たったのか、しゅぼん、と音がしないのが不思議なくらい一気に赤くなって悲鳴を…………悲鳴?アレ?

見やれば由比ヶ浜は耳まで赤くして俯き、そのまま止まってしまう。

予想外の反応だが寧ろ助かった。ここは畳みかける!

「だ、だから止めたろ危ねぇんだって! 俺だって男だしその、勢い任せでお前にって、流石にそれは最悪だろ……ゴ、ゴムもねぇしな! やっぱアレだからネカフェ行ってくるわ! そこでたっぷり出せばもう大丈夫だから待ってろって!」

……明らかに言わなくて良いことまで言ってますね。しにたい。

だがこの勢いは寧ろ今はプラスだ、この状況なら由比ヶ浜も傷付く傷付かないってとこまで考えなかろう。暴走気味でもこのままこれを盾に押し切ってしまえ!

そのまま立ち上がり、着替えも忘れて外に向かおうと意識を向けたところで……右腕に抵抗を感じた。

何時間か前と同じく、座り込んだままの由比ヶ浜が俺の袖を摘んでいる。

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:24:31.60 ID:wXxBmjsv0

「……し、でも……る?」

赤い耳で俯いて、それでもぼそぼそと何かを。

「あたし、でも、できる?」

ぼそぼそと、何かを

「ヒッキー、じ、じぶんで、しちゃうん、だよね……?」

お前は、何を。

「あたしでも、ヒッキーに……ヒッキーの、して、あげられるかな?」

なにを。

「え、えっち……は、むりって、ヒッキー言ってるけど……あ、あたしも、手なら、あるよ……?」

ナニ、を。

「ヒッキーの、あたしが、シてあげる」

96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:27:26.15 ID:wXxBmjsv0

どうしてこうなった。

今すぐにでも立ち上がって踊り出したい。

でも今踊ると外見的に拙い、何せ……。

「こ、これが、ヒッキー、の、なんだ……」

ゴクリと喉を鳴らす由比ヶ浜の見つめる俺は、布団の上に仰向けで寝転がっていた……下半身裸で。

まな板の上の鯉でもここまで開けっぴろげな状態にはなるまい。比企谷家末代までの恥だ、今すぐ腹切りたい。

……焦燥とか、緊張とか、色々混じりに混ざってあの後俺は正常な判断能力を失った。いやそれは今もなんだけど、不思議と暴走はしなかったしする気も起きなかった。あれだけ俺の精神を揺さぶった狼達は、据え膳は据え膳でも自分達で召し捕る獲物より与えられるペットフードを選んだらしい。この飼い慣らされた家犬どもめ!

でもまぁそれに助けられた感はあるし、何より、

「じゃ、じゃあヒッキー……は、はじめる、から」

由比ヶ浜に、あの由比ヶ浜結衣に抜いてもらえるという状況は、あまりに現実味が無く、故に魅力的だった。

97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:30:39.74 ID:wXxBmjsv0

これなら由比ヶ浜を傷付ける心配もなく俺の性欲も発散出来る、なんて素晴らしい解決法!どうしてこれを思いつかなかったんだ!でも分かってる、多分これ思いついても提案したら死ぬほど惨めになってそのまま自死選んじゃう。ナイーブなんです思春期男子。

だから、この提案が由比ヶ浜からのもので正直助かった……同時に、これ以上ないほど興奮した。その証拠に逸物は触られる前から限界まで張り詰めている。

そんな怒張を見つめる由比ヶ浜は、

「ど、どうすればいいの、かな」

などと真っ赤になって俺に聞いてきた。

自分からすると言っておいてやり方は分からないんですね……知ってたら逆にショックだけど。

「あ、その……最初は優しく撫でる感じで、先っぽとか」

「わ、わかった……!」

ムフー、と分かり易くヤル気の息を吐き出し、由比ヶ浜は意を決して屹立した俺自身に手を伸ばした。

そして、彼女の暖かく、柔らかく、きめ細かい肌をした手が、尖端を、

「ッッ!!!!」

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:33:15.16 ID:wXxBmjsv0

ビクン。

我ながら情けなくなるくらい、過剰に反応してしまった。

当然由比ヶ浜も驚いて手を引っ込めた。

「あ、ご、ごめんヒッキー! 痛かった!?」

「いや、吃驚しただけだから……気にすんな」

勿論フォローする。いや想い人のファーストタッチってこんな感じじゃないスかね? それとも俺がBINKANなだけ?

「だ、だいじょぶなんだ……良かった」

「ああ……それと、多分続けてるとこんな反応度々するだろうけど、大丈夫だから。 気にせず続けて良いから」

「う、うん」

戸惑いながらも、俺の助言に再び意を決したようだ。

……正直、期待が沸き上がってきてる。

さっきのは気持ちいい、というよりくすぐったくて過剰に反応した感じだったが、性感というヤツがそのくすぐったさの向こう側にあるものだと、自慰経験豊富な思春期男子なら誰もが知っているだろう。

あれほどの感覚が、全部性感に変わるとしたら? それを長く継続的に味わえるとしたら……?

ゴクリ、今度は俺の喉が鳴る。

99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:36:09.79 ID:wXxBmjsv0

「じゃあ改めて……はじめるね?」

幾分緊張が解れたのか、声も表情も僅かに柔らかくなっている。

そして、彼女の指が再び俺に触れた。

「わ」

今度はぴくりと僅かな反応に、由比ヶ浜の方が声を漏らす。

淡くカリを撫でられる感覚がそのまま背筋を通り抜けて全身に巡っていく。

くすぐったい。

くすぐったいが、もうその半分は性感に変わってきている。

「わ、わ……」

俺の反応や逸物の感触が興味深いのか、驚嘆の声は続く。

由比ヶ浜の指先が、指の腹が、掌が、尖端を撫で擦っていく。

ヤバい。ヤバい。ヤバい。

今の時点で、自分の手で握るのとは格の違う感覚。

他人の手というだけで……それが由比ヶ浜の手というだけで、こんな。

「どう? ヒッキー」

俺の目を見つめて、由比ヶ浜が問うてくる。

何時もなら長くて一秒合わせて俺の方から視線を逸らすだろうが、今は照れも恥ずかしさもない。もっと優先すべきものがあって、羞恥など二の次だった。

100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:39:13.30 ID:wXxBmjsv0

「あ、ああ……気持ち、いい、な」

魅惑の感触に途切れ途切れの俺の返答を聞くと、

「そ、そっか……えへへ」

嬉しそうに微笑むと、手の動きが僅かに速くなった。

「あ、う……」

ぶつ切りに伝わってくるようだった感触が、一つに連なり快感の紐になる。

断続的に刺激される逸物がぴくりぴくりと反応するが、俺の助言を受け入れた彼女はそれに構わず俺自身を撫で回していく。その範囲は何時の間にか尖端だけでなく竿の部分にも及び、紐の連なりが帯になって全体が快楽を伝えてくる。

そして、

「あ……先っぽから……」

突如現れたぬるりとした感触にまたビクリと大きく反応してしまう。その感触と彼女の台詞から、先走りが漏れ出したことに気付いた。

だいじょうぶ?

彼女が目で問うてくる。

「それは、その……気持ちいい証拠、だから……それを全体に塗っていくみたいに」

「あ、うん……」

言われたとおり、漏れ出した液体を巻き込んで尖端から竿まで擦るように触れていく。粘着質な水気の感触に、限界と思われた俺の逸物が更に硬く張り詰めていく。

101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:42:22.83 ID:wXxBmjsv0

「……男の人も、ぬれちゃうんだ」

ぽそりと彼女の声。

男の人も。

『も』?

「男の人『も』って、お前」

思わず問うてしまった。だって仕方無いじゃない……。

単なる生理現象の共通項として口にしたのか、はたまたそれは彼女自身の……。

「へ……あー! べべべ、別になんでもないから! 気にしないで!」

あまりに露骨な反応をする由比ヶ浜、そしてその反応は俺に触れる彼女の手にも表れ、撫で回していた指がそのまま俺の竿を握る形になった。

「ぅおッ!」

唐突な圧迫に、今まで一番大きい反応をしてしまう。そしてそれに気付いた由比ヶ浜も、

「あ、ごっごめんヒッキー! い、痛かったよね!?」

流石にこれはダメージになったろうと由比ヶ浜は手を離す。だが……

「ま、待て由比ヶ浜、大丈夫だから……今のも気持ち良かった」

「え、そ、そう、なの……?」

「あ、うん、そうだから……続けてくれ」

寧ろ続けて欲しい。期待感が高まり、もう躊躇もない。

何せ先走りで全体が濡れて、次は待望のアレだからだ。

102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:45:20.61 ID:wXxBmjsv0

「さっきみたいに握ってくれ」

「う、うん」

言われたとおり由比ヶ浜の手が俺の竿を握る。限定的ながら包まれるような感触に背筋がぶるりと震える。が、

「……もうちょい強くて良いぞ」

「こ、このくらい?」

「もうちょい」

言われただけでは俺の反応に解を出せなかったのか、握る力は淡く、弱かった。それでも気持ちいいし高まるは高まるが……折角の機会だ、一番良い感触を求めたい。一番良いのが、欲しい。

「……えい!」

そんな俺の期待に応え、掛け声と共にぎゅっと握り込んでくる。

だが握りつぶされるとか、痛みとかとは無縁な程度。寧ろ丁度良い塩梅だ。

「ああ、それくらいで……それが、いい」

柔らかく暖かな由比ヶ浜の手で、由比ヶ浜の手で、きゅっと圧迫される。たまらない。

そして、いよいよ。

「そしたら……握ったまま、上下に、擦ってくれ」

103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:48:11.45 ID:wXxBmjsv0

「え、それ痛くない……の?」

「いやほら、濡れてるだろ今……それに、これが野郎が自分でするときの定番なんだよ」

「そうなんだ……じゃあ、今からが本番ってことなんだ……」

本番。

その単語。

意図するところが違うのは明白なのに、ただその言葉を使われるだけで、興奮を抑えられなくなる。

「……動かすね」

言葉を合図に、ストロークが始まった。

にちゅ

「うお、ぉ……」

電気が走った。

本当に冗談でなく、そのくらいの感触と衝撃。

まだおっかなびっくり、確かめるような遅さだが、それでも感じる快楽はこれまで自分でシてきた記憶の中の感触では到底及ばない。

この遅さで、この感覚。

深淵。

底の見えない穴の淵に立った、そんなイメージ。

知りたい。もっと。もっと。

落ちたい。

堕ちたい。

「もっと、速く」

取り繕う気もない短く直截な俺の要求。

104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:51:21.09 ID:wXxBmjsv0

「……うん」

戸惑わず、素直に頷く彼女。

にちゅにちゅにちゃにちゃ

粘付いた水音を響かせながら由比ヶ浜の手が上下する。

ストロークの度にカリから竿から、背筋へ絶え間なく快感が流し込まれていく。

触れられていた時は一々タッチされる度に敏感に反応していたが、今の連なりきった快楽は寧ろ表皮の感覚を鈍くし、代わりに内側から高まってり満ちていく感覚が膨れ上がっていく。これが限界にまで達すると、それは。

「う、んく、うう、ぐぅ……」

自分でする時などどんなに良くても喘ぐことなどなかったが、今のこの快楽に声が漏れ出ないわけがない。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ、はぁ……」

擦る由比ヶ浜も、驚きや好奇心に満ち溢れたような表情から切なげに吐息を漏らす女≠フ顔になってきている。そして、

「……ヒッキー!」

何を堪えきれなくなったのか、俺の名を呼ぶと半ば飛び込むように俺の隣に添い寝の要領で寝転んできた。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:54:31.99 ID:wXxBmjsv0

「う、わ……!」

密着し、半身で彼女の身体の柔らかさを感じ取る。また硬直が増す。

「ひっきー、ひっきー、ひっきー、ひっきー……!」

何処か呂律が妖しくなり、擦る度に俺の名を呼び始める。それがまたどうしようもなく昂ぶらせる。

気持ち良い。

気持ちいい。

きもちいい。

出したい。

出したい。

だしたい。

ださせろ。

くっつく由比ヶ浜の体温と感触、同時に更にスピードの増したストローク。

にちゃにちゃにちゅにちゃにちにちみちゅみちゅ

更にに溢れ出してしととに逸物を濡らす先走りと、加速と比例して淫猥さを増す粘質の音。

張り詰めて、充ち満ちて、逸物はもう弾け飛ぶか溢れ出すしかない。

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 02:57:09.23 ID:wXxBmjsv0

落ちている。

堕ちている。

限界だ。

げんかいだ。

「ゆい、がはま……も、でる……!」

「ひっきぃ……出ちゃうんだ……だしちゃうんだ……!」

「お、う、でる、から、とびでる、から……てぃっしゅ、てぃっしゅを」

もうお互い呂律がまともに回らない。辛うじて用件だけ伝えるのが精一杯。

それでも意は伝わって、しかし彼女は、

「いいよ……だして、いいよ……」

ティッシュを使わず、空いていた左手で俺の尖端を包み込んだ。

107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 03:00:14.68 ID:wXxBmjsv0

「お、ゆ、ゆいがはま!」

擦られる俺自身が見えなくなる。彼女の両手に包まれて、見えなくなる。

包まれる。先から竿まで余さず。

全体を暖かな感触が覆う。

それは、由比ヶ浜の中≠、想像させるに充分で。

「あ、でる、でる、でる!」

最後の一線を、急加速で走り抜けた。

「あ、あぁぁ、ぁぁ」

目の前が真っ白に……そんな錯覚。

上半身の感覚に使われているリソースが全て下半身へ集中し、そのまま、

どぶり。どぶり。

彼女の手の中に白濁を吐き出し始めた。

「うわ、わ、わ、わ、わ……」

熱に浮かされた声で受け止める感覚を伝えてくる由比ヶ浜。

熱さが尖端から抜け出ていく度、堪えようのない快楽が暴れ回って自我を削った。

どぶり。どぶり。

びくり。びくり。

処理の追いつかない強烈な感触は、彼女のストロークが止まってもその残滓を求めて腰を上下に動かさせた。

今まで自慰では、自慰くらいでは感じられなかった長く大きな射精と、それに伴う悦。

これを求めていた筈の本能も、その強烈さに耐えきれず理性と一緒に何処かへ消え去っていた。

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 03:17:23.95 ID:wXxBmjsv0

放出の余韻にぴくぴくと痙攣し、残った甘い痺れを堪能する。

何時の間にか射精は終わっていて、それを認識すると余韻はそのままに全身が深い疲労感に包まれ意識を曖昧にした。

「ゆいがはま……?」

傍らの柔らかさが消えていたことに気付き、ふと視線を上げると彼女は両の掌をじっと見つめていた。

「これが……ひっきーの……」

掌には、俺が放出した白濁。

彼女はそこに顔を、鼻を寄せた。

「すごいにおいがする……」

平時なら心臓が跳ね上がるような行動と言葉にも、多くが抜け落ちた今の俺にはどうも実感が湧かない。

「ん……」

そして彼女は、そのまま手の上の精液に舌を寄せ、舐めた。

ぴちゃり。

「……へんなあじ」

顔を顰めて暗に不味いと言うが、それでも彼女は舐めるのをやめなかった。

ぴちゃぴちゃと音を立てながら俺の吐き出した欲望の証を舐めきるのを、俺はボーッと見つめていた。

109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 03:21:26.91 ID:wXxBmjsv0

その後は二人してシャワーを浴び直し身を清め、今度は由比ヶ浜の要望により同じ布団で眠りにつくことになった。

もう狼の影はなく、全身を包む気怠い疲労感が再度の欲望の隆起と理性の細かな思考を奪い取っていた。

さっきまで忙しなく動いていた脳細胞のいずれもが動きを止めている。

俺だけでなく由比ヶ浜も、布団に入って、ぎゅっとくっついて、互いの身体の熱や感触を感じても、無言。

そのくらい強烈な体験で、そこで吐き出し切ったのか本能は性欲と繋がらず、そういえば昼間から引っ越しで疲れていたと今更思い出し、もう由比ヶ浜のことを気にする余裕もなくあっという間に眠りの闇が這い寄ってくる。

眠る寸前、眠気と疲労で曖昧になる意識は本能が去って尚胸の中に残った何かを知覚したが、それが何なのか認識する思考も無くしていた俺は睡魔に抗えず、夜闇に意識を融かしていった。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/05(土) 03:23:11.29 ID:wXxBmjsv0
これにて今夜の投下分、第一話終了です。
流石にちと眠いので次回投下予定等はまた後で。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 03:54:24.10 ID:+ApNVEyUo
乙です
素晴らしい…
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 08:05:45.80 ID:Fir6JMUzo
すごい引き込まれてくね
たくさん見たい!
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 19:20:08.63 ID:wXxBmjsvo
どうも>>1です。
突貫作業だったとはいえ誤字多いし最後の方無理矢理感強いしで反省中。

内容がもうイチャエロじゃねぇって感じですがこういう流れは三話までになると思うので暫しお付き合い下さい。
次回はまた一週間以内、早ければ二、三日って感じで。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 19:47:04.53 ID:+ApNVEyUo
待ってる
頑張って
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 21:49:34.35 ID:9dturrG2o
期待してます
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 18:34:24.46 ID:ibCNzLDXo
どうも>>1です。
二話のプロットと執筆を並行で進めてますが、また果てしなく長くなりそうなので
暫くは二分割三分割って感じではなくキリのいいとこまで書いたらその都度投稿って形になりそうです

いやエロスレなんて皆オカズ目的だって分かってるんだけど、でも本番に至る過程ばかり力入っちゃうんですよね
セックスは挿入より前戯が重要だってばっちゃが言ってたから……

とりあえず今晩22時以降投下出来るかもなので期待せずお待ち下さい
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 18:39:56.66 ID:sIA4s3Ywo
期待してるー
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 19:00:44.71 ID:OUVtTg4Mo
期待
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 20:42:01.77 ID:CyAbWzV8o
俺も過程好きだよ 期待してる
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 23:24:24.81 ID:ibCNzLDXo
どうも>>1です
23時半から投下予定です

今回は
・エロ無し
・オリキャラあり
・ガハマさん出番少なし
の絶望三本立てでお送りしますすみません許して下さいなんでもしますから

オリキャラと言っても精々今回と次回くらいにしか出番のないモブみたいなものなのでご容赦
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:30:44.82 ID:ibCNzLDX0

一年、特に前期の講義は大半が必修科目で、何処に行っても見た顔見た奴ばかりで辟易する。だが実際には顔も名前もハッキリ覚えちゃいないのがぼっちの仕儀。

だだっ広い講義室で誰とも隣合わずぽつぽつ疎らに座る学生達を前に教授か講師が静かに話を進める……そんなものが大学の講義に対するイメージだったのだが、現実には既に作られたグループが広範囲に渡って座席を占拠し、講義の最中もひそひそ雑談を続ける高校までと変わらない教室模様がそこにはあった。寧ろ席を指定されていない分その自由混沌ぶりには磨きがかかっていると言ってもいい。

当人達は後部座席で声を潜めバレないよう振る舞っているつもりだろうが、ぶっちゃけ会話隠れてないからね聞こえてるからね? コーギツマンネーとかキョージュブサイクーとか教壇の教授まで絶対届いてるからね?

しかしそのキョージュ殿はそんな様子も慣れたものと言った感じで無視し、淡々と講義を進めて行く。教育だか教室の崩壊が叫ばれて久しい昨今、教職の人間もああいう鋼の面の皮とかメンタルじゃないとやってられないんだろうなぁ。

面の皮の厚さでは俺も負けてはいなかろうし俺には教職が天職か? でも卒業したらもう二度と学校なんかにゃ関わりたくないしそもそも働きたくないので淡い夢は妄想の内に溶けて消えていった。人の夢と書いて儚いと読む、どこか物悲しいわね……あの世界って使用言語日本語だったのか……。

益体のない思考を走らせながら同時にペンも走らせる(見た目は)真面目学生の俺。というか必修科目落として再履修とか殆ど留年に等しい苦行なので万が一にも落としたくない。理数系科目どうすっかなー、なんで文系なのに(基礎だけとはいえ)理系科目があるんだろうなーしねばいいのに。

そんな自動書記的授業対応も幾十分と進み、教授の話が途切れて教科書を纏め部屋を出て行くのと終了のチャイムが鳴ったのが殆ど同時だった。教授パネェ。ここまで時間を読み切った上での講義だったというのか……!

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:33:58.62 ID:ibCNzLDX0

そんな教授の妙技に心中ウムムと唸っていると、ひそひそ話の規模が一気に広がり騒がしいを通り越し喧しいレベルまで拡大される。うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ……人数増えた分だけ高校の時より鼓膜に響く。いやお前らこんな中で本当に会話出来てんの? 相手の声聞こえてる?

人の少ない前部座席に座っていた俺は教科書ノートを纏めながらチラと視線を後部へ向けた。比較的地味で真面目そうな面々の集中した前部と比べれば五月蠅くも明るい後部……髪の色も明色なので物理的に明るかった。二限目が終われば次は昼休み、何を食べよう何処に行こうと盛り上がっている。

その一画、見知った茶髪が騒ぐ学生達の中心で談笑している。ご存じ由比ヶ浜結衣である。

結局必修科目の講義風景が高校の延長線上だったように、大学でも俺達の在り方はそう変わっていない。俺は独りで講義に集中し、彼女は仲間に囲まれてわいのわいのと宜しくやっている。

当初由比ヶ浜は俺の隣に座っていたのだが、誘蛾灯に惹かれてやってくる夏の虫共の如く由比ヶ浜の回りにフラフラと頭の悪そうな学生達が集まってきて、そこで上手く応対する彼女とどもって引きつる俺の明暗分かれ、その空気に耐えられなくなった俺は講義中は離れようと提案したのだ。

勿論由比ヶ浜は悲しそうな顔をして寂しいよ一緒にいたいよと非常に可愛らしくいじらしく男の心臓を破壊するハートブレイクショットをブチ込んできたわけだが、それでも俺と一緒にいることを選ぶならそれは彼女の交友関係を制限することになりかねない。学生の在り方が少なくとも現時点で高校とそう変わらない以上、俺と一緒にいることで彼女の明るい学生生活が阻害されかねないと言うなら、俺の行動指針が高校時と変わらなくなるのは必然だった。

思い出されるのは彼女とクラスメイトだった時分、苛烈な女王様の周囲に侍る野花のようだった由比ヶ浜の姿。当時のキョロ充だった由比ヶ浜にも人目を惹く何かがあり、それ故に三浦に見初められたわけだが、今学生達の中心にいる彼女の醸す空気はその頃とは明確に違う。

123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:37:10.80 ID:ibCNzLDX0

華がある。

というよりも由比ヶ浜自身が華だった。

背が低くて視線を下げなきゃ目に留まらない雑花じゃなく、何処の誰の視界にも入ってくる高貴な花弁と漂う芳香……という程の気品は無いが、それでも人を惹き付ける輝きと存在感を確かに感じる。本来の彼女というより、これが由比ヶ浜の成長の形なのだろう。

自己主張出来なかった彼女はその意志を改善し、今では主張するまでもなくその存在が周囲の心を引き留める。

もしこれが何時かの生徒会選挙の時に見られたら、彼女は本当に勝ち抜いて生徒会長になっていたのでは……そんなifを想起させるに充分な光。

眩しくて、目を逸らすしかない。

だが逸らそうとした寸前、彼女の視線が前を向いて目が合ってしまう。

にこり微笑んで手を上げる由比ヶ浜に俺も適当に手を上げ返すと、纏めたノートと筆記用具を鞄に仕舞い、由比ヶ浜の反応を確認しない内に足早に部屋を出た。

また心臓に刺さった棘から痛みが走る。

自分で選んだことなのに、隣に俺達がいなくても輝く彼女を見るのは無性に辛かった。

124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:40:17.46 ID:ibCNzLDX0

人と活気に溢れる大学と言えどそこが社会の縮図であるならば陰が出来るのは必然……人間の集団の話ではなく、物理的な場所の話である。

有り難いことにかつてのベストプレイス同様人の寄りつかない一画があり、ここにはベンチだって幾つもある。違うのはそれでも何人か先住民がおり完全独りのぼっち状態にはなれないことだが、志を同じくする者達であることは空気で分かる。ぼっち同士は干渉し合わない、つまりいてもいなくても同じ。なんて素晴らしい意識共有……相互理解や対話にGN粒子なんていらんかったんや!

そんな大学の暗部、生ける屍達の住まう現代の墓場は入学から二週間を過ぎる頃には俺の居場所として定着していた。つまり俺も現代のゾンビの一人なのである。ブードゥーでも信仰しようかしら。

そんな草むした墓(土地―沼・森)にも春らしい暖かな陽射しや爽やかな風は入ってくる。自然天候は老若男女金持ち貧乏問わず平等に与えられる資源だ、勿論ぼっちにも優しい。昼飯のお供には良い塩梅じゃないかと少しだけ気分を良くして予め買っておいた惣菜パンとマッ缶で空きっ腹を慰める。

マッ缶の過剰な糖分が脳に行き渡るが、ネガティブ入ってる思考は改善されず気分は晴れない。ぼっちは常にネガティブだがそれでもメッゾネガティブかネガティブかってくらいには判別出来る。決して五十歩百歩ではない。

今頃由比ヶ浜は俺を捜しているだろうか……いや、腹を空かせた取り巻きに引っ張られ強引に学食にでも連れ込まれている気がする。

彼女も流されず人付き合いを選べるようになったろうが、それでも俺のように集団の意とは無縁とばかりに我が道を往く選択は出来ないだろう。友達と恋人とどちらを優先するでなく、きっとどちらも優先したくて積極的な選択は出来ないのではないか。寧ろそれでなんとかなってしまうような天分天運を持っているのが由比ヶ浜結衣という人間だと思う。

125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:43:21.27 ID:ibCNzLDX0

疎らに白い雲が散っている晴れの空をボーッと見上げる。

ポケットからは振動も音もない。当たり前だ、ここに来るまでスマホはバイブさえ切ったサイレントモードにしてある。ぼっちのベストパートナー足るスマホを取り出していないのは由比ヶ浜からのメールや着信履歴が山と積もっているのが確実だからだ。

大学の講義が高校までの授業と現時点で大差ない、ということはまだ良い。それでも確実に環境は向上しているからだ。だがそれ以上に人間関係、それも誰より親しくなった人間とのことでこうも悩むとは思わなかった。

俺と由比ヶ浜の住む世界が違う、なんてことは幾度と考え思い知ってきた事実だ。それでも俺達はなんとかやって来れた筈だった。彼女が進学先を俺と同じくし、そしてその道を勝ち取ったことは俺だって嬉しかった。こうして自由と怠惰のユートピアである大学へ、大切な人と肩を並べて進んでいけるのだと。

現実は、俺と彼女が別世界の人間であることをじくじくとした火傷のような痛みで思い知っただけだ。

……俺が今の住居へ引っ越したあの日以来、由比ヶ浜の泊まりを許したことは無い。あの日の続きをと俺自身期待はしていたが、未だ俺の中で彼女と真の意味で向かい合う決意は出来ず、解は出ていない。そんな状態で彼女と密着することは何より待ち遠しく、でも何より怖かった。

由比ヶ浜は確実に変わっている。俺との関係、その変化を前向きに捉え、そうあろうとしている。

だが俺はどうだろうか。何時まで俺は俺で在り続けることを選んでいられるのだろうか――

126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:46:43.64 ID:ibCNzLDX0

と、果てしないネガティブスパイラルに陥った思考が途切れる。空気が変わった。

視線を下げれば学生ゾンビ達が何人も消えており、残った数人も今まさにこの場を去ろうとしているところだった。

もう昼休みが終わるのか、そんな時間感覚が消えてしまうくらい思考に没頭していたか――時計を確認するより前に蜘蛛の子が散った原因を目視した。明らかに場違いな二人組の男が墓場に踏み込んできていた。片方はくすんだ金に頭を染めて見た目からバカ・アホ・チャラいの三種の神器を備えた如何にもウザそうな不良学生、もう片方は一目でスポーツマンだと分かるような恵まれた体躯とゴツいながらも整った顔をした如何にも真面目で鬱陶しそうな優等生風だ。

それぞれキョロキョロと何かを探すように首を振っていたところ、頭の悪い方(確定)と異邦人を観察していた俺とで目が合った。

すると頭悪いのが真面目なのに何かを話してから揃って俺を見て指差し……ってちょっと待って、何俺目的? 身体? 身体目当てなの?

話は直ぐに纏まったらしく二人して俺へと踏みだしながら、

「よォー! 『ヒッキー』てお前だべーッ!?」

と、これまた死ぬほど頭の悪い声で頭の悪い言葉をかけてきた。ウゼェー!

やがて俺の目の前に二人揃うと頭悪いのが俺を指差しながら横の真面目なのに向かって、

「ほれゆいゆいの言ってた通り目がアレっぽくて超ネクラって感じじゃん? 間違いねぇべよォ!」

などと失礼極まりない暴言を吐きやがりました。いや否定出来ないんだけどね、だけどもちっと知性を感じさせる言い回しでお願い出来ませんかね類人猿。

127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/06(日) 23:50:11.90 ID:ibCNzLDX0

「おい猿渡、あんまり失礼なことを言うんじゃない……悪いな色々、確か……ヒキタニ、でいいんだよな?」

真面目そうなのは見た目通りのバリトンボイスでバカを諫めると陳謝もそこそこに俺が探し人かどうか確認してきた。こっちは話も通じそうで好印象……の筈が名前のとこで一気に株暴落だよ。リア充は俺の名前間違えるってジンクスでもあんの? ヒキタニさんが学内にいたらどうすんだよ。あと猿渡ってちょっとイメージと合いすぎませんかね。

もう訂正するのも面倒だし関わり合いになりたくないしとっとと用件済ませて欲しいので一々口は挟まない。何より「ゆいゆい」が指す人物が容易に想像出来るから一刻も早く退散して男子トイレ辺りに引きこもりたい。

「……そうだけど、何?」

「『そうだけど、何?』ってお前こそ何よ! マジ受けるわ! ッベーよこいつマジッベーよ! 牛山、こいつマジだよマジ!」

どの辺がツボに入ったのか、猿渡とかいうお猿さんは腹を抱えて笑い始めた。ちょっとこの人何、何なの。誰か警察呼んでよ。そんで俺を不審人物ってことで連行してもらって物理的にアレとの距離取らせてよ。あと牛山ってのもイメージ通りかもしれない。イケメン牛。

「いい加減にしろ猿渡!……本当にすまんな。 改めて俺は牛山、隣のが猿渡、両方今年の新入生だ……よろしく」

「あ、あぁ、よろしく……まぁそれはいいから、早く用件頼む」

牛山君は礼儀正しく話も通じる感じで好印象ですね、友達になってあげてもいいかも……向こうから願い下げだって分かってるけど。

128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:00:17.13 ID:ifgaMc000

「そうそう用あんだよ用! お前さ、明日から昼は学食来いよ!」

「は?」

「だから猿渡、もう少し丁寧に言え……まぁ、でもコイツの言うとおりだよヒキタニ。 明日から昼は学食で俺達と一緒に食べないか?」

「……なんで」

「『なんで』って、お前マジスゲーわ! 本当マジ! マジじゃんお前! パネェって本当! ありえねーわ!」

何この壊れたテープレコーダー……決まり切った単語しか口にしないと思ったらパターンや配列変えてくるとかこの壊れ方は新しいな。全く有り難くない。

しかし俺、入る大学間違えたか? こんなのが入学できる大学ってお前……結構偏差値高いと思ったんだけどなー俺も割と受験勉強頑張ったんだけどなー。でも由比ヶ浜が入学できるくらいだから実はお察しレベルだったの……?

「猿渡、少し黙ってろ。 なんだ、その……由比ヶ浜が、お前のことを気にしているみたいだったからな……こんな所で一人で食べるより、皆で一緒の方が良いだろう?」

由比ヶ浜。

矢張り、という感想しか湧かない。お猿さんが「ゆいゆい」などと懐かしくレアな呼び名を出した時点で察しはついていた。ヒキタニさんはいるかも知れないが、苗字と名前が頭に「ゆい」が付く学生が由比ヶ浜以外にいるとは考えづらい。

そしてもう一つ合点が行く。どれだけ今の状態に不満を持っていようと、由比ヶ浜も一応は今の大学内での距離感には納得してくれた筈だ。高校の時分もカーストの違いを気にする俺を察して、部室以外での接触は極力避けることには協力してくれていたし。

故に猿が由比ヶ浜の存在を臭わせた時点で、あいつが学内で俺との接点を積極的に増やそうとはすまいと疑問に感じていたのだが、どうやら由比ヶ浜の取り巻きらしいこの二人が独断で俺を由比ヶ浜と引き合わせようとしているらしい。それなら納得はいく……が、大きなお世話だ。本当に。

129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:04:10.27 ID:ifgaMc000

「……ほっといてくれ、俺は別に由比ヶ浜とかお前らと一緒に飯を食いたいとは思わない」

俺は他人と仲良くなる方法を上手く実行出来ないだけであって、嫌われる前提でなら幾らでも好きに振る舞える。よってここは突き放すに限る。あと由比ヶ浜にも迂闊にヒッキーって単語出すなと言っておかねば。引きこもりの知り合いがいると思われたらどうするつもりなんだあいつ。半分合ってるけど。

「いやいや一人で食うとか流石にありえねーべ? 友達と一緒に食わねーとかマジでありえねーから」

「その友達がいないし、作るつもりもないんだよ」

「は? 何言ってんの? 友達いねーとかありえねーこと言ってんじゃねーって、面白くねーからそのギャグ」

……ギャグのつもりないんですけど。友達って内蔵とかの重要器官なの? 友達欠損してると五体不満足とかそういうアレなの? これは障害手帳ならぬぼっち手帳待ったなしですわ、ぼっちであれば国の補助で生きていける時代……それはそれで悪くないな。

「猿渡、そこは、その……察してやれ」

「……あ、友達いたのが死んじゃったんだろ! そりゃ友達いないわなつらいわなー、ごめんよヒッキーくんよォー」

「そうじゃなくてだな……」

猿くんの凄まじさに思わず頭を抱える牛山に同情。そのバカっぷりにちょっとだけ猿くんと戸部を重ねていたが、バカでも良い奴であることに疑いの無かった戸部ともまた違う……そも人と猿を比較すること自体が間違いだったか。戸部も猿レベルじゃないかってやかましいわ。

そうなるとこの牛山は葉山ポジションか? こいつもスポーツマンっぽいし、顔立ちも悪くは無いし……だが正に王子様の風格だった葉山と比べるとゴツくて男っぽい牛山は女性受けの点では幾分劣るか。そこはちょっと好感度アップだな。あと999回好感度上がったら学食行ってやろう。

130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 00:07:39.12 ID:puy8J0JL0
ベクターかよ
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:08:28.15 ID:ifgaMc000

「……とにかくだ、あまり由比ヶ浜を心配させるんじゃない。 お前の名前を出す度に少し落ち込んだ感じになっているんだぞ、彼女は」

ズキン

棘の痛みがまた走る。

彼女が俺の提案を飲んでも、それを内々に処理しきれないことなど容易に想像が付いたはずだった。何処か迂闊さの抜けない彼女が、約束を守っているつもりでもふと俺との繋がりを口にしてしまうことも。

その原因が俺の逃げ腰と逃げ足にあるということも、俺は痛い程知っていたはずなのに。

「……由比ヶ浜が何言ってたか知らんが、お前らには関係無い」

それでも、俺には突き放すことと逃げる以外に打てる手がない。どうしようもなくそういう人間だから。

言い終えると同時に俺は立ち上がり、中身の残ったマッ缶を持って二人に背を向けた。もう話すことも聞くこともない。

「おい、ヒキタニ……!」

「ちょ、そりゃないでしょヒッキーくんよォー! ゆいゆい可哀相じゃんよ!?」

明確に拒絶の言葉と空気を吐き出した俺に追いすがることはせず、二人はただ俺の背中に批難の色を込めた声をかけるに留めたようだ。

ウザいし鬱陶しいしもう二度と関わりたくないが、それでも由比ヶ浜の周囲にいるのがこういう気を遣える優しい人種であったことに心中でホッとし、感謝の念を二人に抱いて俺は墓場を後にした。

132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:12:36.73 ID:ifgaMc000

午後からの講義は二つで、先の一つがまた必修。後者は一年前期では数少ない選択科目で、由比ヶ浜は履修していない。

入学前から口を酸っぱくして俺を履修の理由にするなと言っておいた成果だろう。これは別に今の状況を予想してのことではなく、親しい人間の有無で履修科目を選ぶべきでないという至極真っ当な観点からである。

そして件の由比ヶ浜の今日の講義は午後一発目の三限で終了の筈だ。彼女は俺との帰宅、引いては俺の部屋へ上がりたがるだろうが、あの騒がしさやノリから察するに取り巻きはきっと駅前にでも遊びにいくことを提案するだろうし、由比ヶ浜もそれに乗ってしまうだろう。何事も優先順位通りに事が進んだり選んだりは出来ないとは彼女も知っている筈で、全てはタイミングの問題なのだ。

……今日は半ば意図的に由比ヶ浜との接触を断っている。一緒にいたのは通学時くらいのもので、後は二限終了時のやり取りしか彼女とコミュニケーションを取っていない。墓場を離れた後に確認したスマホには案の定由比ヶ浜からの着信とメールが届いており、彼女らしい顔文字絵文字でデコられた装飾過多の文面で「教室出る前に声くらいかけてよ」だの「無視しないでよー」と可愛らしく俺の態度を糾弾するその内容に少しだけ胸中の黒雲が晴れるのを感じ「すまん、後で埋め合わせはする」とこっちはそのままの文面で返信した。

その「後」は少なくとも今日ではなく、何時になるか俺自身でも分からなかった。俺は無責任に引き延ばされていった何時かのデートの約束を思い出し、薄くなった雲がより一層密度を増して胸を覆っていくのを感じていた……。

133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:16:27.83 ID:ifgaMc000

のだが、

「あ、ヒッキー! やっはろー!」

……四限が終了し講義室を出た俺を待っていたのは、件の由比ヶ浜結衣その人であった。

「いやお前、なにしてんの?」

「なにって、ヒッキーのこと待ってたんじゃん」

「……遊びに行ったんじゃないのかよ」

「え? 確かにカラオケいこーって誘われたけど、ヒッキーと一緒に帰りたいから断っちゃった……よく知ってたね、誰かと友達になって連絡貰った?」

「ねーから、単にお前と取り巻きのバカさ加減なら講義終わってからは遊び一択だろって予想しただけだから」

「ま、またそんなバカにすること言うし!」

「まぁ由比ヶ浜がバカなのは事実だから置いとくとして」

「置いとかないでよ! ここにちゃんと受験して合格してるんだし、あたしもうバカじゃないんだからね!?」

「一旦定着したイメージを覆すのって難しいんだよ、もう諦めろよバカ」

「説得するつもりならもっと丁寧にやってよ!」

俺の軽口にぷりぷりと怒る由比ヶ浜。二年前から変わらないやり取りに、俺は冷え切った心が芯から暖まるのを感じていた。

気が付けば雲は散って、俺の胸は平静を取り戻している。本当、自分でも嫌になるほど現金な心臓だ。

134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:20:42.98 ID:ifgaMc000

「……いいのかよ、お前」

「え、なにが?」

「何がって、誘われたことに決まってる……お前のグループなんだろ?」

「あたしのって、そんなことないと思うけど」

「あれは誰がどう見てもお前の為のグループだろ、自覚ないのかよ」

「んー、分かんないけど……でもそれより、見ててくれてるんだ、ヒッキー」

「いや見てない、断じて見てないから」

「今更誤魔化したってもう聞いちゃったもん……えへへ、ヒッキーありがとう」

「み、見てもねぇのに感謝なんてしてんじゃねぇよ、やっぱバカだろお前」

「そういうバカならあたしバカでもいいよ……今日ヒッキーの部屋寄って良い?」

「……泊まりは無しだからな」

「むぅ……今日のところはそれでもいいよ」

「今日のところは、か」

「うん。 今日のところは、ね」

想いを受け入れ大切な人と定めた癖に、何かあれば直ぐに突き放して距離感を計り直そうとする。でも離れれば離れるほど思い悩み、彼女の方から近づいてくると心が沸き立ち踊り出しそうになるくらい嬉しくなる。こんな都合の良い醜い感情を愛と呼ぶのか。呼んで良いのだろうか。

そう認めたくない反面、それを認めて肯定出来たらそれはどれだけ素晴らしいことだろうかとも思う。そしてきっと、それこそが俺と彼女を隔てる壁で、その差が俺と彼女のすれ違いなのだろう。

何時か、これを肯定して前へ進める日が来るのだろうか――彼女の温もりを隣で誰よりも感じながら、理性と本能の矛盾は何時までも俺の中で燻っていた。

135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:24:31.46 ID:ifgaMc000
というわけで本日投下分終了です
キリのいいとこで〜とは言いましたが、このペースなら三分割くらいで済むかも……済んだらいいなぁ

筆が乗ればまた明日の同じ時間帯に投稿できるかもですが、詳しくはまた明日の報告をお待ち下さい
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/07(月) 00:25:48.56 ID:ifgaMc000
あと冒頭に今回のサブタイ入れ忘れてました申し訳ありません
今回のサブタイは「A由比ヶ浜結衣は触れて欲しい」になります
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 00:56:32.84 ID:oZh8U7Axo
乙です!
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 01:10:46.56 ID:pJif+Q9Jo
乙ですー
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 05:34:12.25 ID:LALlV3DE0
最初の投下で見る気なくしたわ
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 06:46:57.95 ID:oyzVwH+so
乙!
続き待ってる
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 19:44:46.65 ID:Icy5LoFuO
>>139 つべこべ言わずに出てけばいい
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/08(火) 22:53:37.06 ID:197Jugzvo
どうも>>1です
あんまり書き溜め進まず今日はちょっと無理っぽいかもです
奇跡的にキリのいいとこまで進むようなら投下アナウンス出しますが、多分明日の昼か夜になるでしょう
いずれにせよ期待せずお待ち下さい
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/08(火) 23:31:52.16 ID:de+QGBBvo
はーい
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/08(火) 23:40:30.87 ID:DdCvjpzpo
期待はして待ってる
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/08(火) 23:48:43.00 ID:/7MlhsZqo
期待
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/09(水) 18:36:06.01 ID:drvI9ANeo
どうも>>1です
やはり遅々として書き溜めは進まず、今日の投下分はちょい短くなりそうです
悪いのは時間泥棒のデレステであって>>1ではありません……ゆ、ゆるして

22時か、23時に投下予定なので時間までお待ち下さい
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/09(水) 18:37:32.70 ID:WMOV7HV+o
いいね
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 22:22:15.38 ID:drvI9ANe0
お待たせしました、今から投下開始です
またも色気の無いエロスレにあるまじき展開ですが暫しお待ちを……!
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 22:25:26.63 ID:drvI9ANe0

今日も今日とて必修科目の時間は過ぎ、二限が終われば昼飯時。

空きっ腹を抱えて何時ものように墓場へ向かう……ところなのだが、今日は生憎雨模様。

雨の中、傘を差さずに踊る人間がいてもいい。自由とは、そういうことだ……記憶の喪われた町で黒尽くめの交渉人はそう言った。雨の中、屋根の無い場所で食事する人間がいてもいい。自由とはそういうことだが生憎俺にはずぶ濡れになりながら飯を食う趣味はないので別の場所を確保しなければならないのだけど……何処に行ったものやら。

今日の雨は今年度初、つまり俺にとっても入学後初の降雨。これまで天候に恵まれたお陰で雨天時の飯場を探す必要は無かったのだがこれが迂闊もいいところ。これから四年間ずっと昼飯時に雨が降らない保証なんて無かったのだから、こうした時に備えて予め場所の検討はしておくべきだったのだ。

こそこそ由比ヶ浜とその取り巻きに見つからないよう盗賊ギルドも吃驚な隠密スキルで部屋を脱した俺(シャドウハイチュウ)は屋内で丁度良い食事場を探してあちこち流離ったわけだが……考えが甘かった。雨なんだから俺以外に屋外で飯食ってた連中も屋内に逃げ込んでくるのは当たり前で、テーブル付きのスペースは愚か椅子しかないような場所ですら軒並み占拠されていた。

これが中学高校であれば、席を離れてさえいなければ最低限自分の机というパーソナルスペースの確保は出来ていたのだが、ここは自由を冠に頂く弱肉強食の大学世界。時間や人の都合を付けられない弱者は飯(の場所)にすらありつけないのだ。

150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 22:28:35.32 ID:drvI9ANe0

ちなみに学食は端から考慮の外だ。そも屋根付きの食事スペースと言えば学食であり、入学間もない頃由比ヶ浜と一緒に訪れた学食はそりゃもう人人人の波。肉壁。同じ事を考えた新入生諸氏とかまだあどけない彼らをサークル勧誘やらナンパで拐かそうとした先輩方も多く居たのだろうが、今日が雨ということを考えれば先日とそう変わらない混雑が予想された。

ちなみに由比ヶ浜はそんな上級生の卑しい勧誘の嵐にあって辟易していた。俺も彼氏らしく彼女の盾になろうと奮闘したが、最初から俺のことなど視界に入っていないか存在を脳が認識していないくらいの扱いだったので役には立たなかった。比企谷君ふっとばされたー!というメッセージすら出なかった。理不尽。

……学食を忌避する理由は、その由比ヶ浜が理由でもある。

先週墓場に訪れて俺というゾンビ・グール・僵尸を善意か何かで光の下に引っ張り出そうとした牛くん猿くんの言を信じるなら、俺の予想通り由比ヶ浜は学食で昼を済ませているらしい。余計に顔を出せない。どうでもいいけど牛くん猿くんって響きが何処ぞの黒子じみたお笑い芸人っぽい。パ○ット☆マペッ○。

かつてはクラス内のトップカーストグループに属していた由比ヶ浜とグループどころかそのカーストにすら弾かれていた俺に接点はなかった。それは互いが互いを個として認識した後も変わらなかったが、それでも課外活動というクラスの縄張りの外で俺達は交流を持ち、それは俺の彼女に対する独占欲と、彼女との接点を求める有象無象に対する優越感を俺に抱かせた。薄暗く、そして切実な感情だった。

そんな環境から卒業して尚、俺達は接点を探している。違う、俺だけが俺だけに都合の良い接点を探している。

151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 22:31:20.83 ID:drvI9ANe0

周囲の目を気にせず俺との繋がりを手繰り寄せようとする彼女の姿はあの頃と同じだ。手繰り寄せた糸を俺が身勝手に切り離そうとする度悲しみに暮れ、涙を溢れさせた姿と同じ。

先週俺の部屋からの帰り際何かを期待して、しかしそれが叶わぬことを自覚してた彼女の顔。三度目を求めた俺の本能……否、本能とすら呼べないような淡い衝動にすら目を背けた俺の顔は、彼女の目にどう映っただろう――

「こんな所にいたのか」

入学してから何度目も知れない自虐回想に入りかけていた俺を現実に引き戻したのは何処かで聞いたバリトンボイス。

振り返れば奴がいる。見た目からガシリと強いその体格、牛くんこと牛山であった。

「何の……」

用だ、と最後まで口にする前に俺は気付いた。気付かされた。こいつの目的、狙いは先週聞いていたではないか……!

「……全く毎度何時の間にかスルスルといなくなって、俺の話をちゃんと聞いていたのか?」

やれやれと呆れ顔で言う牛くん、なんか様になってるイケメンってズルい。俺がやっても「中二乙www」ってレスしか付かないんだろうな。やれやれだぜ……。

152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 22:34:43.68 ID:drvI9ANe0

「なら同じ事を言うが、お前には関係無い。 飯食う場所探さなきゃならんからもう行くぞ」

先週と同じ理由を押し付けにくるのなら、俺がやることも先週と同じだ。突き放して背を向ける。こんな奴の好感度稼いだってエンディングの分岐には関係ないから扱い悪くしたって大丈夫、ぼっち通の攻略本だよ。

だが、そんなぼっちの常識で量れないくらいに牛くんは見た目通りの益荒男だった。

「待てヒキタニ」

背を向けた俺の肩をガシリと掴む牛くん、それだけで俺は彼我の戦力差を悟った。え、何このゴツゴツした手と微動だにしない腕。やだ、こんなの俺はじめて……。

「お、おい、離、離せよ」

「ダメだ、今日はこのまま学食に連れて行く。 飯食う場所を探しているなら丁度いいだろう?」

思わずどもった俺の様子など知ったことかと残った方の手で俺の腕をホールドし、そのまま俺をズルズル引き摺っていく牛くん、正しく屈強な農耕牛の如し……!つかこんな猛獣のような男に捕まったら俺じゃなくてもどもるって。怖すぎィ!

一瞬にして抵抗を無意味と悟り、しかし連行される修羅場を思うと素直に付いていこうという気にもなれず、俺は異物か可哀相なものを見る周囲の視線に晒されながらドナドナ状態に耐えざるを得なかった。ドナドナってどっちの立場でもここまで面倒じゃねぇよな……。

153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 22:38:15.31 ID:drvI9ANe0

学食は幸い屋根伝いに向かうことが出来たので俺達は濡れ牛と濡れドナドナにならずに済んだ……屋外を通りさえすればぬかるみで転んだフリして逃亡したりとか、牛くんの拘束が緩む可能性もあったろうがそんなドラマか映画みたいな逃亡劇をこんなしょうもないところでする気にもなれなかった。や、良い経験になった可能性は否定しないが。

入り口に辿り着く頃にはもう逃げる気も逃げられる気配もなく、牛くんに先導される形で俺は久方ぶりに学食へ足を踏み入れた。

案の定溢れかえる人々の川に辟易したが、先行する牛くんの威圧感が人波を切り裂き何の抵抗もあらんとばかりに進めてしまう。牛くんは重戦車だった……?

程なく目的地に着いてしまったのか……否、牛くんが止まるより先に俺の視界は由比ヶ浜の姿を見つけてしまった。二人の友人――見知らぬ女学生と、例の猿くん――に囲まれ楽しそうに談笑する彼女の姿が何時かのトップカーストでの光景と被り、俺の胸は静かに軋んだ。

由比ヶ浜は俺……というか牛くんの姿に気付くと、

「あ、牛くん! 用事って何を……え?」

しかし挨拶を果たせず、俺の姿を確認してその表情を淡く驚きに染めた。どうでもいいけどお前も牛くん呼びなのな……予期せぬシンクロニシティ、ちょっと嬉しい。

「ヒ、ヒッキー!? え、どうして、う、牛くん!? 何がどうなってるの!?」

はわわ!ヒキが来ちゃいました!とでも言わんばかりの由比ヶ浜の様子に周囲の視線が痛い……のもあるが、殊更驚いているのは取り巻きの三人だった。

まぁ分からないでもない。こういう由比ヶ浜のオーバーの反応は極一部でしか見れない……それこそ昔日の三浦グループですら稀だったろう。この顔を知っているのはここじゃ俺だけ……かつてのようなじめじめして情けない優越感が胸を満たしてどうしようもなく嬉しくなる。どうしようもないな俺、本当に。

154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 22:41:41.86 ID:drvI9ANe0

「ちょ、ゆいゆい驚き過ぎじゃね!?」

「結衣ってこーいう反応する人だったんだー」

お前も大概声でけぇけどなという猿くんの驚愕と対照的に、驚きつつも自分を置き忘れない安定感……細く高い、鳥の囀りのような声は由比ヶ浜の正面に座る女学生だ。彼女は俺に向き直ると、

「貴方がヒキタニくん? それともヒッキー?」

そう尋ねてきた……いいけどね、もう。俺の名前は本当に親しい人だけ知ってればいい。真名ってそういうもんだし。

「……ヒキタニで頼む」

「そーそーヒキタニくんよヒキタニくん! でもネクラっぽいからヒッキーって超合ってンよな、ゆいゆいのネーミングセンスパネェわー」

「あ、あはは……」

困ったように笑う由比ヶ浜。うん改めてお前のネーミングセンスパネェわ、マジドン引き。

「そ、それはともかく、なんでヒッキーが学食に?」

「あー、それn」

「俺が連れてきた、この雨で何時も飯を食ってる場所に行けず困っていたようだったからな」

俺の言葉を遮るバリトン牛くん。いやあながち間違っちゃないけどドナドナしてきたお前がドヤっていうことじゃないからね?

155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 22:45:30.14 ID:drvI9ANe0

「そうなんだ……と、ともかく座ろうよヒッキー! 牛くんもさ!」

困惑は残りつつも、嬉しそうに笑う由比ヶ浜。その陽気に暖かい魅力を感じ、同時に俺が逃げ回ることでこの笑顔を損なわせていた事実を再認し俺の思考は何時もより粘度の高いネガティブの沼に沈み込んだ。

それを顔に出すほど長年ぼっちはやっていない、何食わぬ顔で由比ヶ浜が促した席に。

席に……。

「あ、ヒッキーの席ないや」

悪いなヒキオ、このテーブル四人用なんだ!……本当に四人分しか席確保してなかったよ、牛くんが元から確保してた席に座ったら俺の入り込む隙間ないよ。俺の居場所はここじゃない……。

「ちょ、ゆいゆい! マジ! それマジヤバイ! ヒキタニくん超カワイソウじゃん!」

言葉とは裏腹に爆笑する猿野郎。本当に可哀相と思うならそんなにゲラゲラ笑わないで貰えませんかね……人の不幸は蜜の味、過剰な悲劇は喜劇と紙一重とは言うけどさ。あと牛くんも顔逸らしてブフブフ息漏らすの止めてくれ、元はと言えばこの状況に追い込んだのは手前だぞオイ。

「し、しょうがないけど……でも、間が悪いねー」

鳥のような囀りが笑いで更に甲高く耳に響く。不快な感じはしないのが逆に辛い。

かなり目立つ面々で元々周囲の視線を集めていたせいで俺達……というか俺だけ晒し者になっていた。クスクス前後左右から聞こえる。え、何これ。しねばいいのかな俺。

156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 22:49:26.34 ID:drvI9ANe0

「え、えーと……あ! あたしの席に座りなよ!」

とはこの空気に気付いたらしい由比ヶ浜。気遣い屋の彼女らしい提案だ、バカなのも含め。

「バカかよ、そしたら今度はお前が立つことになるんだぞバカ」

「バっ、バカはやめてよ! じゃ、じゃあ半分椅子空けるから!」

「……こんな衆人環視でそんなアホみたいな密着すんの?」

「え!? あ……あたしは、別に……」

赤くなって俯いてぽしょぽしょ言う由比ヶ浜が可愛いんですが何か。いやいやお前、そういう反応をこういう場所でするんじゃないよ色んな意味で。俺も恥ずかしくなってきただろ。

そんな由比ヶ浜の様子を見て猿くんと鳥ちゃん(仮)は、ほーっと何処か感心したような様子だった。牛くんは……何故か呆気に取られており、俺の視線に気付くとハッとなって、

「い、椅子だけなら確か余りがあった筈だ……ここは端のテーブルだし、持ってくれば大丈夫だろう」

そう教えてくれた。確かに食器の回収口近くに背もたれのない椅子が縦に積まれていた。

よし来たと俺がそちらへ向かうより前に由比ヶ浜がガタリと露骨に反応した。

157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 22:53:13.29 ID:drvI9ANe0

「じゃああたしが持ってくるよ! ヒッキーが座れないのあたしのせいだから!」

「いやお前は特に関係無いだろ、俺が持ってくるから座ってろよ」

「で、でもあたしだけ座ってるのも……あ! そしたらあたしが半分持つよ!」

「あんな軽そうな椅子に二人がかりとかそれこそバカじゃねーか、いいから座ってろ」

でもでもと食い下がる由比ヶ浜を強引に押しとどめると、俺は足早に椅子を取りに向かった。

背後からは過剰な反応を問い詰める三人と、それに焦ってしどろもどろになる由比ヶ浜のやり取りが聞こえてくる。

俺にとっては何時も通りの由比ヶ浜に、取り巻きの三人は少なからず戸惑っている様子だった。それは俺の感じる由比ヶ浜結衣と三人にとっての由比ヶ浜結衣が同じ人間であっても別像であるということ。

同じ人間であっても表と裏、本音と建て前がある。そして社会という集団はその使い分けを個人に強いる。どうしようもなく相容れない人間は誰にでもいて、時として本音を抑制しなければ無用な軋轢や争いが集団を崩壊させかねないからだ。調和の為にこそ虚像、嘘は時に本音や真実よりも求められるものだ。

俺という個に対する由比ヶ浜と、三人という集団に対する由比ヶ浜。どちらかが表で裏、本音と建前。

気にしたって仕方のないことだし、これまでの彼女との関わりでほぼ確信を得ているようなものだが……それでも比企谷八幡に対してこそ由比ヶ浜結衣の本音や真はあってほしいと、どうしようもなく俺の心は求め、ざわめくのだった。

158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 22:55:44.83 ID:drvI9ANe0
というわけで本日の投下は終了です
首尾良く行けば次回ようやっとえっちぃのが……首尾良く分割されなければ、ですが

いずれにせよ明日の投下はちょい難しそうなので、続き明後日以降と見てお待ち下さい
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/09(水) 23:00:52.61 ID:OkS7NTG9o
乙ですー
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/09(水) 23:01:53.26 ID:WMOV7HV+o
乙です
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/09(水) 23:38:59.94 ID:7fa32L+rO
モブどもとガハマが何したいのかさっぱりだわ
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/10(木) 00:07:30.30 ID:+XaMEodAo
絵に描いたような誰得シリアスだな
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/10(木) 01:50:03.58 ID:0gs5Qr+9O
たぶんヒッキーが面倒くさいだけだと思うんですけど
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/12(土) 21:32:05.84 ID:9S3NzYhDo
どうも>>1です
執筆遅れて土下座状態です申し訳ありません……
キリの良いところまで進めば今夜0時以降に投下できるかもしれないので、本当に期待せずお待ち下さい
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/12(土) 21:48:26.02 ID:lT8bOr6+o
投下時間には期待せず中身には期待して待ってます
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/12(土) 22:02:46.84 ID:WbUMV7RxO
遅れても全く問題なし
がんばれ
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/12(土) 23:44:30.91 ID:9S3NzYhDo
ドーモ、>>1です
今のペースだと投下可能になるのが26時以降になりそうなので
明日の昼頃に分割せず投下出来るよう調整しますです

ご迷惑をおかけしますがお付き合い頂けると幸いです
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