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魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」
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217 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:23:13.53 ID:Zp9U63GDo
あの精霊、俺を好き勝手に犯して楽しんでいやがった。
ニヤニヤとした笑顔が瞼の裏から離れなくて憎たらしい。
魔剣士「あ゛っ……ちくしょ……」
死ぬほど疲れてるのにイライラして眠れねえ。
重斧士「おいどうした」
魔剣士「……なんでもねえ」
重斧士「…………」
重斧士「なんかおもしれえ話でもしてから寝るか」
武闘家「あ、それいいわね。修学旅行みたい」
――
――――――――
……仲間とはぐれた。こんなだだっ広い森に俺一人だ。
突如木々の合間から蔓が伸びてきて、俺は茂みに引きずり込まれた。
『みーつけた!』
現れたのは緑髪の精霊達だ。本体は雌雄同株のようだが、少女の形をしている。
218 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:24:33.64 ID:Zp9U63GDo
『ねえ、私達に……あなたのチカラ、ちょーだい』
彼女達は白い羽衣をめくり、脚を露わにした。
「な……」
そこには……大きなめしべがぶら下がっていた。
『うふふ……驚いちゃった? 可愛いなぁ』
精霊の一人が俺の頬に手を添えた。
『綺麗な青い瞳……』
彼女は俺の目を見つめると、徐に顔を近付け、深く口付けをした。
逆らえずなされるがままになっている内に、他の精霊が俺の上着を開けた。
さらさらと優しく肌を撫でられる。くすぐったい。
あまり見ないでくれ。他人に自信を持って見せられるような立派な体じゃないんだ。
ああでも、この頃は少しずつ筋肉が増えてきている気がする。
二人の精霊に、撫でられては肌を吸われ、口を吸われ、首筋を舐められ……そうされていると、
三人目の精霊が俺のズボンを下ろし、下着の上から陰茎に手を当てた。
『硬くなってるね……嬉しそうにビクビクしてる』
219 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:26:03.75 ID:Zp9U63GDo
妙に頭がぼうっとする。
女から責められる趣味はないはずなのだが、どうしてこれほど気分がいいのだろう。
本当に奇妙だ。あまり腹立たしくない。
まあ、この子達はみんな、容姿に関しては俺好みだしな……。声も甘くて可愛い。
プライド……? なんだったかな、それ。
下着もずらされた。愚息は勢いよく天を向いている。
『ここから、出てくるんだね……おいしい魔力の波動を持った、あなたの花粉が』
彼女はひんやりとした手で扱き始めた。
『動物の体温……あっつくて……ドキドキしちゃう』
二人目の精霊に耳を吸われた。
ああ、もう……蕩けてしまう。
『いっぱい……受粉、させて』
三人目の精霊は俺の愚息を扱く手を一旦止めると、めしべと裏筋を重ねて擦り合わせた。
『どう?』
……すっげーいい。
220 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:27:40.37 ID:Zp9U63GDo
雄を求め、彼女のめしべはぬるぬると柱頭を濡らしていた。
『いっぱい出せるよう、お手伝いさせてね』
最初に俺に口付けた子が、俺の耳元で囁いた。
後ろから体を抱えられた。
彼女の柱頭が穴に押し付けられる。
これから行われることを理解し、俺は怖気づいてしまった。
『大丈夫、ただ気持ち良くなるだけだから』
俺の後ろの穴は、柱頭分泌液で濡れた彼女のめしべをゆっくりと受け入れていった。
圧迫感に襲われる。
細胞壁に支えられているだけあってかなり硬い。だが、不思議と痛くはなかった。
『すごい……あなたの奥、きゅんきゅん締め付けてくる……』
じわじわと押し寄せてくる快楽に声が漏れそうだ。
愚息は相変わらずめしべと一緒に刺激され続けている。
穴には入れていないが、相手の女性器と擦り合わされていることには変わりない。
脱童したことにはなっちゃうのかな。
二人目の精霊が俺の体を愛撫する手を止めた。
『あなたの粘膜……すごいの。触れると、あなたの魔力が流れ込んでくる』
そう言うと、彼女はめしべを俺の上の口に宛てがった。
俺はそれを悦んで舐めた。甘い蜜の香りがする。
221 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:29:05.21 ID:Zp9U63GDo
喉の奥を突かれても、苦しさよりも悦びが勝った。
木々の合間から精霊達がぞろぞろと集まってきた。
『イキそう? イッて! いっぱいかけてぇ!』
大勢に見られながら俺は絶頂に達した。
めしべに白濁とした精液が付着し、淫らに垂れている。
……受粉したって、受精できるわけじゃない。俺はその事実に虚しさを覚えた。
無気力に辺りを見回した。
これだけ大勢の精霊の相手なんてできるだろうか。気が遠くなった。
ああ、でも、ある意味天国かもしれない……子供を残せなくとも、
俺の魔力は彼女達という生命に吸収され、生きるのだから……。
魔剣士「ふおっ!?」
魔剣士「はあっ、はあっ……」
なんだ夢か。そりゃそうだ。内容があまりにも滅茶苦茶だった。
犯されるなんてもう勘弁だ。俺は今自尊心を再構築しようと必死なんだ。
いやしかし、好みの子にだったら……アリかもしれな……う〜ん。
本当に俺好みの花だったらまず自分からエロいことはしない。
俺から頼んでしてもらうのならいいけど。
222 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:29:59.15 ID:Zp9U63GDo
雨はもうすっかり上がっていて、外から小鳥のさえずりが聞こえた。いい朝日だ。
俺は股間の様子を確認した。
よかった。朝勃ちはしているものの夢精はしていない。
重斧士「ん? すごい汗だぞ」
魔剣士「……おまえが昨晩変なことを言ったせいで妙な夢を見たんだよ」
――――――――
重斧士『なあ、この頃理科の勉強してて思ったんだけどよ』
重斧士『めしべとチンコって形似てねえか』
魔剣士『種類に因るがわからなくもない』
武闘家『……そういう話題はあたしがいないところで話してくれないかしら』
重斧士『わりいわりい』
――――――――
魔剣士「喉乾いたな……水……」
寝台から降りると、足元がふらついた。頭も痛い。
223 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:30:43.70 ID:Zp9U63GDo
武闘家「ふぁ〜おはよ……って、大丈夫?」
魔剣士「……風邪引いたっぽい」
武闘家「せっかく蜂蜜があるんだから、温かい蜂蜜牛乳でも用意するわ」
魔剣士「加熱したらビタミンが壊れる……蜂蜜大根がいい」
武闘家「わかったわ」
武闘家「……昨日何があったかは知らないけど、」
武闘家「一晩寝て魔力がこんなに回復しないなんてよっぽどよ」
武闘家「他に何か食べたい物とかある?」
魔剣士「……フキノトウのスープ」
魔剣士「冷凍保存してるやつがまだ残ってるんだが、そろそろ食べきらなきゃ味が落ちる」
武闘家「じゃあ作ってくるわ」
武闘家「……ゆっくり休んでてね」
224 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:31:56.88 ID:Zp9U63GDo
午前中寝たらだいぶ体調が回復したため、町を出発した。
車にはカナリアが魔力を補充してくれた。ありがたい。
武闘家「暇だわー……」
魔剣士「尿検査に引っかかった時の話でもしようか」
武闘家「ちょ」
重斧士「え、おまえ引っかかったことあんのか」
重斧士「実は俺もなんだ」
武闘家「もう嫌……」
盗賊「見つけたぞ! 親父の息子の仇の弟子の息子ー!」
魔剣士「は?」
225 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:32:27.42 ID:Zp9U63GDo
俺が剣を抜き切る前にカナリアが男をボコッた。
重斧士「なんだこいつ」
魔剣士「俺の父さんが勇者ナハトの弟子だったから息子の俺を狙ったんだろ」
盗賊「ちくしょう……ちくしょう!」
盗賊「ごめん親父……息子の仇……取れなかったよ……」
重斧士「……股間の息子のことか?」
魔剣士「まあそうだろうな」
盗賊「……てめえ、平和に暮らせるなんて思うなよ」
盗賊「貴様に復讐の矛先を向けている奴は大勢いるんだからな!」
うっせ。
盗賊「ヘリオスの息子であり、勇者ナハトと瓜二つの貴様に安息の日々は」
重斧士「黙ってろ」
重斧士「そういや、なんでおまえって勇者ナハトとそっくりなんだ?」
魔剣士「まあ血縁者だしな」
226 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:33:38.54 ID:Zp9U63GDo
すぐそこの町まで男を引きずって憲兵に突き出した。
国境近くのクレイの町だ。
重斧士「なんかこの町……雰囲気が殺伐としてんな」
武闘家「警備兵だらけね……」
魔剣士「あっちの方に山あんだろ」
魔剣士「あそこにオディウム教徒が立て籠もってるらしい」
盗賊を引き渡した時に憲兵から気をつけるように言われた。
武闘家「あら、物騒ね」
魔剣士「人質がいるから下手に突撃するのも困難だそうだ」
武闘家「立て籠もっている理由はなんなの?」
魔剣士「ネットで調べてみるか」
魔剣士「『ヘリオス・レグホニアを呼ぶよう要求している』だそうだ」
魔剣士「邪魔者を自分達にとって有利な場所におびき寄せて始末しようとしてるんだろ」
武闘家「おじさんピンチじゃない」
魔剣士「あっほんとだ」
227 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:35:48.08 ID:Zp9U63GDo
兵士達がバタバタしている。
「レグホニア大佐はまだ来ないのか!」
「他の仕事を片づけるのに手間取った上に車が故障したらしい」
父さんの車、だいぶボロだもんな……。
愛着があってなかなか買い換えられないでいるらしい。
魔剣士「お、あったあった。この木だよ」
魔剣士「月桂樹。原産地は他の大陸なんだが、この町にはたくさんあるって聞いてたんだ」
たくさんの花を咲かせている。雄株の花は黄色で雌株は白だ。
魔剣士「乾燥させたものだったらわりとどこでも入手できたんだが、生の葉が欲しくてな」
今までに集めた育毛剤の材料は冷凍保存してある。
街路樹の葉を勝手にちぎるのはまずいだろうから、
空き地に自生している株から葉を頂いた。
魔剣士「……感謝の気持ちを忘れんなよ。体をもらってんだから」
重斧士「ああ」
ふと辺りを見上げると、月桂樹の枝に腰をかけている少女の姿が一瞬見えたような気がした。
見間違いだろうか。
228 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:37:47.96 ID:Zp9U63GDo
「ねえ、あれエリウス・レグホニアじゃない?」
「キャーほんと! 確か、お尻だけお父さんそっくりっていう」
目尻の間違いだろ……。
ヒョロガリの俺の尻とガチムチマッチョの父さんのとじゃあ似ても似つかねえよ。
宿に着いた。
重斧士「明日は朝一でこの町を出た方がいいだろうな」
でも父さんが心配だな……。
魔剣士「機材がないから汚い作り方になるんだけどいいか」
重斧士「構わねえよ」
月桂樹の葉と解凍した他の材料を食い、俺の魔力に溶かして合成した。
そして、小瓶の中にそれを注ぎ込んで実体化させる。
魔剣士「んで、俺の魔力を抜けば完成……っと」
重斧士「おお」
武闘家「……こんなことができる魔術師、滅多にいないわ」
魔剣士「植物が原料の薬なら俺の魔力だけで作れるんだ」
魔剣士「藻類も操れる。菌類はモノによるな。動物や石は流石に無理だ」
食えば大体の薬効がわかるし、どう加工すればいいのかも大体見当がつくため、
この体質のおかげでとんでもなく多くの薬を開発できた。
重斧士「ありがとな」
魔剣士「ああ」
229 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:38:51.47 ID:Zp9U63GDo
――――――――
――
二人はもう眠りについたが、俺はなかなか寝付けなかった。
午前中ずっと寝ていたせいだろう。
魔力が回復しきっていないから、できるだけ休みたいのだが……。
安眠効果でもある草でも食べようと思ったところで、微かに外から歌声が聞こえた。
窓を覗くと、白い布を纏った少女が光の珠と戯れながら歌っていた。
その少女は淡く光を放っていて、夜闇の中でもはっきりとその姿を確認することができた。
俺は無性にその子と話をしてみたくなった。
……感覚を研ぎ澄ました。近くにオディウム教徒の気配はない。
俺は外に出た。
涼しい夜の空気が喉を通る。
白緑の少女「……私の声が聞こえるのですか?」
雌雄異株の木の精霊のようだが、
近くに彼女と同じ波動を放つ……つまり、本体だと思われる木は生えていない。
大抵は精霊を見れば本体がどのような植物なのか見当がつく。
しかし、彼女を見ても何の精霊なのかわからなかった。俺が知らない種だ。
230 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:40:13.79 ID:Zp9U63GDo
白い髪にはところどころ浅緑が入っている。
また、髪や服のあちらこちらに花や葉の飾りが生えていて、
確かに実際には見たことのない形なのだが、どこか見覚えがあるような気がした。
魔剣士「ああ。……君の、透き通るような綺麗な歌声が聞こえたんだ」
白緑の少女「……不思議な人」
彼女の柔らかな白さに、俺は見入ってしまった。
魔剣士「君は、一体……」
白緑の少女「私は……時代に置いていかれた、古い精霊です」
白緑の少女「あまりにも寂しくて、近い種の精霊に会いに来てしまいました」
植物の精霊は、余程力が強くない限り本体からそう遠く離れることはできない。
彼女は相当長く生き、大きな力を身に着けたのだろう。
白緑の少女「これは……」
小さな精霊が彼女の耳元で囁いた。俺のことを教えたようだ。
白緑の少女「……なんということでしょう」
白緑の少女「急激に異種の生命の結晶を溶かしたら、命に係わるというのに」
彼女の手が優しく俺の腹に添えられた。
231 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:41:54.65 ID:Zp9U63GDo
白緑の少女「本来、これは人に植え付けるものではありません」
白緑の少女「枯れかけた森を蘇生するために用いる最終手段なのです」
彼女は悲しそうに眉をひそめた。
白緑の少女「時間と共にゆっくりと馴染ませなければならないものを……ああ……」
魔剣士「な、泣かないで」
魔剣士「……俺、エリウス。君の名前は」
白緑の少女「私は……私は、雪の珠。スファエラ=ニヴィスです」
聞きなれない、古い言葉の名前だ。
白緑の少女「発音しづらければ、ただ、ユキとお呼びください」
彼女の波動から、俺の波動とよく似た何かを感じた。
バンヤンの森で感じたものとも近い。カナリアからも感じることがある。
232 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:42:22.17 ID:Zp9U63GDo
白緑の少女「……もうそろそろ帰らなければ」
魔剣士「ま、待って、ユキ」
魔剣士「また、会える?」
白緑の少女「……ええ。会いに来ます」
彼女は微笑むと姿を消した。
彼女の周囲に集まっていた光の珠……小さな精霊達も、自分の本体へと帰っていった。
魔剣士「ユ、キ……」
小さく彼女の名前を呟くと、激しく羞恥心のようなものを覚えた。
なんだろう、この切なさ。ひどく胸が苦しいんだ。
233 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/13(水) 19:42:53.48 ID:Zp9U63GDo
ここまで
234 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/13(水) 20:31:15.61 ID:1zGjIwo70
すまん
武闘家と重斧士がやり合ってると思ってすまん
235 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/13(水) 22:03:13.77 ID:4r7RGEF/O
>>234
俺もそうだと思ってたよ
236 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/13(水) 22:09:46.03 ID:tsQfdz25O
そのうちメス化しそう
237 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:00:12.71 ID:x9oGvsjKo
第九株 氷の刃
曇天だが、あちこちの雲の切れ間から光の柱が地上に降り注いでいる。
魔剣士「あぁ……」
俺は窓辺でぼけっとしていた。
昨晩のことが夢のようだ。いや、夢だったのかもしれない。
あんまりにも幻想的で、美しくて……。
武闘家「……どうしたの?」
魔剣士「あー、うん……」
重斧士「……出発の準備しねえのか?」
魔剣士「うん……」
重斧士「上の空だな」
武闘家「何かあったのかしら」
238 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:00:48.14 ID:x9oGvsjKo
魔剣士「う……うぅ……うあぁぁぁぁ……」
俺は情けない呻き声を上げながら寝台の上に転がり、布団を抱き締めた。
心も体も落ち着かない。分泌される脳内麻薬を止められない。
雌雄異株の子は、純粋な「女の子」なんだ。
女の子の形をしているだけの雌雄同株の子とは全然雰囲気が違うし、可憐で綺麗で、
特にユキは今まで出会った中でも無垢な感じがして……でも大人っぽい落ち着きもあったな。
ここまで誰かに夢中になったのは生まれて初めてだ。
重斧士「……好きな奴でもできたか?」
魔剣士「え!? いや!! 別に!!」
ちょっとバタバタしてしまった。どうしてこんなに恥ずかしいんだ。
重斧士「わかりやすいなおまえ」
武闘家「……嘘でしょ」
魔剣士「いや俺が花に恋してるなんていつものことだろ!?」
魔剣士「なんで今更そんなこと聞くんだよぉぉ!!」
顔が熱い。心臓がバクバクと脈打っている。
羞恥心を誤魔化したくて、俺は抱き締めた布団に顔をうずめた。
239 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:01:14.63 ID:x9oGvsjKo
過去の恋が全て色褪せて思える。
いいや、それらは本当に恋だったのだろうか。
憧れているアイドルに疑似的な恋愛感情をいだくのと同じようなものだったのではないだろうか。
ユキ……ユキ、ユキ。
ユキに会いたい。
魔剣士「んぐぅぅぅ」
武闘家「…………」
重斧士「……まあ、身支度はしろよな」
武闘家「い、いつの間に……」
武闘家「ずっと一緒にいた……はずなのに……そんな様子あったかしら」
重斧士「花ならそこら辺にたくさん生えてるからいつこいつが恋に落ちてもおかしくはないぞ」
次はいつ会えるのだろうか。
ああ、何処の子なのか聞いておけばよかった。
そうしたらこっちから会いに行けたのに。
240 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:01:59.03 ID:x9oGvsjKo
変装して外に出た。つっても俺は伊達眼鏡かけただけだが。
兵士「大佐! お待ちしておりました!」
戦士「人質はまだ無事なのか」
兵士「奴等はそう主張しています」
戦士「そうか。おまえ達は山の周囲で待機していてくれ」
戦士「俺一人で洞窟に入るのが奴等の要求だからな」
兵士「しかし危険すぎます。伏兵を忍ばせましょう」
戦士「バレたら人質に何をされるかわからんだろう」
戦士「合図するまでは絶対に動くな」
副官「隊長……」
戦士「俺が死んだら、後は頼むぞ」
副官「そんなぁ〜生きて帰ってきてくださいよぉ!」
戦士「ええい、縋りつくな」
戦士「仲間の死を覚悟できない者に軍人を名乗る資格はない」
241 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:02:24.92 ID:x9oGvsjKo
魔剣士「父さん!」
戦士「エリウス! この町に来ていたのか」
白髪増えたなあ。
魔剣士「……気をつけて」
戦士「ああ。……おまえ、雰囲気変わったな」
戦士「おまえも、最悪の事態は想定しておいてくれよ」
戦士「……あれ?」
重斧士「ん?」
魔剣士「こいつ仲間のガウェイン」
戦士「君、お父さんが剣豪だったりしないか……?」
重斧士「その通りだが」
戦士「……まあ気にしないでくれ。じゃあな」
242 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:03:07.20 ID:x9oGvsjKo
魔剣士「……やっぱり俺、父さんが無事に帰ってくるまでこの町にいたい」
父さんのことだからどうせ大丈夫だろうとは思うが、
妙にセンチメンタルになっているせいか気にかかって仕方ない。
武闘家「そうね、心配よね。出発は見合わせましょう」
重斧士「しゃあねえな」
武闘家「……人質を取るなんて卑怯よね」
武闘家「あたしが潰しに行きたいくらい腹立たしいわ」
武闘家「子供が手を出すべきことじゃないから、大人しくするけど」
副官「ああ、隊長……」
兵士「大丈夫ですか」
副官「身内が人質では、冷静さを失い、」
副官「正常な判断を下すことができなくなるかもしれません」
副官「心配でたまりません」
魔剣士「……身内?」
243 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:03:36.81 ID:x9oGvsjKo
ニュースでは人質の個人情報は伏せられていた。
魔剣士「すみません、人質って……誰なんですか」
副官「エリウス君……大きくなりましたね」
副官「捕らわれているのはカイロスさんです」
父さんの一番下の弟で、俺の兄さんのような存在だ。
俺より七歳上で、大学院で地質の研究をしている。
じいちゃんが陶芸家だから、小さい頃から土、特に粘土に興味があったらしい。
この町の山からは良質な粘土が採れる。
研究のために訪れていたところをオディウム教徒に捕まったのだろう。
父さんのこともカイロス兄さんのことも心配だし、
ユキに会いたいしで他のことに手が付かない。
244 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:04:12.64 ID:x9oGvsjKo
重斧士「……よくそんな太さの枝に座れるな」
魔剣士「肉付いてねえからなー……身長のわりに体重がクソ軽いんだよ」
木に登っていると少しだけ心が落ち着く。
故郷にいた頃は、近くの山の木の上で自慰に耽ったものだった。
家族が多いおかげで、自宅じゃなかなか性欲処理に集中できなかったのである。
重斧士「宿に引き籠ってた方がいいんじゃねえか?」
重斧士「いつ奴等が近くに来るかわかんねえだろ」
魔剣士「そうだな。降りるわ。……っ!?」
一瞬で体を蔓に絡め取られた。
魔剣士「やばっ」
重斧士「モヤシ!!」
武闘家「エリウス!?」
魔剣士「うわああああ放せ!!」
245 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:04:55.42 ID:x9oGvsjKo
魔剣士「今はおまえらの相手をする余裕なんてないんだよ!!」
俺の意思なんてお構いなしに、植物達は俺を山の方へと運んでいった。
魔剣士「ひぃっ!」
魔剣士「強引すぎやしねえか」
俺は目の前に生えているブナの巨木に訴えた。
白椈精霊「ごめんなさい。でも、救世主が現れるのをずっと待っていたの」
幹の分かれ目に、一人の精霊が腰をかけている。
魔剣士「帰してくれ。今は敵が近くにいるから魔力を消費するわけにはいかねえし、」
魔剣士「精神的にも……つらいんだよ」
白椈精霊「……これ以上、待てないから」
強引にブナの枝に捕らえられ、幹に……彼女の隣に縛りつけられた。
白椈精霊「人間は随分自分勝手になったものね」
白椈精霊「粘土欲しさに私達を伐採する量が随分増えたの」
白椈精霊「魔族がいなくなってからだわ、人間が調子に乗り出したのは」
246 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:05:27.80 ID:x9oGvsjKo
白椈精霊「……精霊には逆らっちゃいけない。わかってるでしょ?」
魔剣士「…………」
白椈精霊「変な宗教の奴等が去ったら、町の人達はすぐに伐採を再開するでしょうね」
白椈精霊「大丈夫。魔力を根こそぎ奪ったりはしないわ」
白椈精霊「私達だって、人間とは上手く共生したいのよ」
白椈精霊「当分干渉能力を得られるくらいの力をもらうだけ」
白椈精霊「無理に融合を促進しなくても、私なら少し魔力をもらうだけで充分な力を得られそうだわ」
白椈精霊「黒檀のあの子よりは元々力を持ってるもの」
魔剣士「なら注ぎ込んでやるから、その……俺の矜持を打っ壊すようなことは……」
白椈精霊「脱いで」
魔剣士「え……」
白椈精霊「絶頂した瞬間の魔力が何よりもおいしいって聞いたの」
魔剣士「い、嫌だ……俺、マジで好きな子できたから、それは……」
白椈精霊「あ、これ……邪魔ね。預からせてもらうわ」
モルを奪われた。いざという時は助けてくれるんじゃなかったのか。役立たずめ。
247 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:06:13.32 ID:x9oGvsjKo
結局脱がされ、両手を頭上で拘束された。
俺の魔力に触れて実体化した彼女の手に乳首をつままれる。
泣きたい。肥大化したらどうしてくれるんだ。
白椈精霊「ここ、気持ち良いの?」
妙に切ない気分になってきた。
魔剣士「……はやく終わらせてくれ」
白椈精霊「人間のおしべって、タケリタケみたいな形ねぇ」
裏筋をつんつん突っつかれて、小さく声を上げてしまった。
白椈精霊「やっぱり粘膜から採る魔力があっつくておいしいわ」
白椈精霊「あ、ここ、敏感なのね。ふうん」
魔剣士「そこっ、デリケートだからっ! そんな強くされたら……苦しいんだよっ!」
白椈精霊「どんな風にされたい? こう? それともこうかしら」
魔剣士「うっ! ……うぅ……」
白椈精霊「ビクビクしちゃって……おもしろぉい!」
248 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:06:44.52 ID:x9oGvsjKo
白椈精霊「こうすればいいのね?」
魔剣士「はあ、あっ…………!」
白椈精霊「あっ出た出た! このまま続けたらどうなっちゃうの?」
魔剣士「やめっやめろ! あああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
あまりの快楽と強烈なくすぐったさに身をよじった。だが逃げられない。
叫びが腹の底から上がり続ける。脚も腰もガクガクと激しく揺れた。
白椈精霊「誰か押さえててあげて」
必死に逃げようとする俺の体に蔦が巻き付き、吸着された付着根から俺の魔力を吸い上げている。
白椈精霊「そんなにきもちぃの?」
苦しいんだよ。
壊れてしまいそうだ。
亀頭を手の平で強く撫で回された。
やばい。何か来る。熱い。
白椈精霊「きゃっ!」
白椈精霊「これ、何? おしっこでも精液でもない……」
すごい勢いで潮が吹き出た。
未知の快楽に、もう右も左もわからない。
249 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:07:10.32 ID:x9oGvsjKo
人と植物の共生のための魔力提供というだけなら、まだ割り切れる。
だが、こう楽しまれると……すごく腹が立つ。
おまえ達の愉悦のために我慢しているわけじゃないんだ。
俺が犯してきた花に意識が宿っていたら、彼女達は一体どの様な感情をいだいただろうか。
俺と波長の合う子だけを選んではいたが、彼女達には思考する能力は宿っていなかった。
もし、意思があったら……俺は恨まれていたのだろうか。
……考えたところで無駄だな。
胸が、痛い。
――――――――
――
250 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:07:59.24 ID:x9oGvsjKo
武闘家「――リウス! エリウス!」
魔剣士「う…………」
武闘家「よかった、気がついたのね」
気を失っていたようだ。
魔剣士「……俺、裸だったりしなかったか?」
武闘家「え? 服着てたわよ」
青い石「気がついたら地面に放られてたんだけど何があったの」
魔剣士「俺を守る気がないなら一生寝てろ」
青い石「え……ごめん」
武闘家「すぐに助けたかったのだけど、植物に行く手を阻まれちゃったの」
武闘家「……微かにあなたの叫び声が聞こえたのだけど、どんな目に遭ってたの」
言えるわけねえだろ……。
魔剣士「……俺の魔力のこととか、生命の結晶を埋め込まれたこととかは話しただろ」
魔剣士「だからその、植物に俺の魔力を吸われてたんだが……」
魔剣士「そのための……ええと、儀式の内容がなかなかエグいんだよ」
魔剣士「すげえ苦しい」
251 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:08:41.25 ID:x9oGvsjKo
武闘家「……死んじゃったりしないよね?」
魔剣士「…………多分な」
重斧士「ほら、掴まれ。肩貸してやるから」
魔剣士「すまんな」
疲労感に襲われる。
この調子じゃあ命がいくつあっても足りない。
腹上死するのも時間の問題だ。
武闘家「オディウム教徒が立て籠もってるところの近くまで来ちゃったわね」
俺がこいつらに嫌われることを恐れたのは、俺なりに不安を感じていたからなんだろうな。
襲ってくる敵がいる上に、自分の命に手を加えられて……一人じゃ心細かったかもしれない。
252 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:09:08.90 ID:x9oGvsjKo
乳首がじんじん痛む。乱暴にしやがって。
武闘家「可愛い花が咲いてるわね」
カナリアの視線の先には、薄桃色の小さな花が咲いていた。
花弁に紫色の筋が入っている。
武闘家「地元に咲いてるホシノヒトミって花に似てるわ」
魔剣士「……イヌノフグリ。花言葉は信頼だ」
武闘家「可愛い感じの名前ね」
魔剣士「犬のキンタマって意味だぞ」
武闘家「あ……そう」
小腹が空いたから、鞄から玉ネギを取り出してかじった。
この独特のつんとくる感じがたまらない。
253 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:10:00.79 ID:x9oGvsjKo
魔剣士「あ、まずい」
魔剣士「奴等が来る」
武器を持ったオディウム教徒が数人現れた。
「この魔力反応、間違いない。アキレスの娘だぞ」
魔剣士「妙な玉持ってんな」
「捕らえよ!」
重斧士「カナリアに手ぇ出させっかよ!」
ガウェインが大体ボコッってくれた。
重斧士「大したことねえな」
魔剣士「……待て。近くにヤバいのがいる」
黒ローブ「…………」
重斧士「あそこか!」
敵が落としたハルパーをガウェインが投げたが、あっさりと避けられた。
魔剣士「何か詠唱してるぞ」
黒いローブを身に纏った男から、ただならぬ邪気を感じた。
母さんほどの魔感力を持っていない俺でもわかる。
あの男はドス黒い何かを抱えている。
254 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:11:04.18 ID:x9oGvsjKo
その瞬間、俺達の足元に魔法陣が現れ、地面が崩壊した。
その上、地に向かって体が強く引き寄せられた。重力系の魔術だ。
動けねえ。
黒ローブ「この女は頂いていく」
遠く離れた所にいた男が、一瞬ですぐ傍に姿を現した。
武闘家「放して! 嫌!!」
魔剣士「くっ……」
重斧士「カナリアを放せ!!」
黒ローブ「この結界内で立っただと!? とんでもない馬鹿力の持ち主だ」
黒ローブ「だが」
男がガウェインに手を向けたかと思うと、ガウェインが後方へ吹っ飛ばされた。
やばい。この男の魔術の腕は超上級王宮魔術師レベルだ。
黒ローブ「おっと。何か小細工を仕掛けようなどとは思うなよ」
魔剣士「チッ……」
武闘家「あたしをどうする気なのよー!」
黒ローブ「……随分とあの男に似たものだな」
重斧士「カナ……リア……!」
255 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:11:32.33 ID:x9oGvsjKo
男はカナリアと共に姿を消した。
重斧士「ちくしょう……今日はやけに仲間が誘拐されるな」
魔剣士「……あいつ、妙だった」
魔剣士「確かにオディウム教徒の気配を纏っていたが、俺だって奴等には狙われてるんだ」
魔剣士「それなのにカナリアだけを連れ去った」
魔剣士「カナリアしか眼中になかったんだ」
魔剣士「早く助けねえと……ヤバい気がする」
魔剣士「傷を見せろ。治すから」
重斧士「だがおまえ、魔力残ってんのか」
魔剣士「四割ちょいくらいな」
魔剣士「……ありがたいことに、奴のドス黒い魔力の痕跡があちこちに残ってる」
魔剣士「追うぞ」
256 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:12:12.77 ID:x9oGvsjKo
――――――――
洞窟を進むと、やや広い空間に出た。
兇手「待っていたぞ、旭光の勇者ヘリオス」
戦士「二つ名で呼ぶのはやめろ。……恥ずかしいんだ」
あの男……レザールとは何度か剣を交えた。
奴の背後に控えている傭兵達が俺の末の弟を拘束している。
地質研究員「兄さん!」
戦士「カイロス、今助けるからな!」
兇手「此奴を解放してほしくば、俺と勝負してもらおう」
戦士「一対一でか」
兇手「そうでなければ意味がない」
兇手「俺の目的は、貴様と雌雄を決することだからな」
彼は二本の刀を構えた。
兇手「……行くぞ!」
257 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:14:40.94 ID:x9oGvsjKo
戦士「牢屋の修理費用を払ってもらおうか!」
こいつが脱獄したせいで税金が無駄になってるんだ。
後からよく調べたら、
こいつを逮捕できたのはうちの長男らしき男が術を使ったためだということがわかった。
尿路結石……痛いらしいな。あいつは何かと他人に容赦がない。
兇手「……氷の刃<アイス・エッジ>!」
レザールはこちらに向かって走りながら氷を放った。
炎で氷を融かし、一瞬で振り下ろされた斬撃を剣で受ける。
兇手「くくっ……!」
彼はギラギラと目を輝かせて笑った。根っからの戦闘狂だ。
この男は会う度に腕を上げている。
まだ若いというのに、
これ以上強くなったら……そこらの軍では太刀打ちできない凶悪な犯罪者となるだろう。
258 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:15:59.38 ID:x9oGvsjKo
だが腕力はこちらの方が上だ。腕に魔力を込めて押し飛ばした。
氷を融かしながら素早い攻撃に対応し続ければ勝機はある。
奴は即座に体勢を整えて俺の背後に向かって高く飛んだ。
俺が振り返った瞬間、氷の棘が数本飛ばされた。
すかさず熱気を発生させた。
体に刺さる直前で融かすことができたが、そうしている間にも奴は剣戟を繰り出した。
身のこなしが人間離れしている。
兇手「よくこの刃を受け止めることができたな……!」
戦士「伊達に場数を踏んできたわけじゃないんでな」
兇手「だが……」
兇手「薄氷の膜<クリア・アイス・フィルム>!」
足が滑った。地面に氷が張られたようだ。
片足を前に出して転倒は回避できたが、
この空間の気温が著しく低下していることに気がついた。
壁や天井のあちこちに埋め込まれた白藍色の石が輝いている。
この男の魔力の効果を強化しているようだ。
259 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:16:37.08 ID:x9oGvsjKo
戦士「ぐっ……!」
振り上げられた刀を防げたものの、俺は吹っ飛ばされて壁にめり込んだ。
地質研究員「兄さん!」
戦士「……大丈夫だ」
常人なら死んでいただろうが、
身体能力及び防御力を強化しているため大したダメージは受けなかった。
地面に降りて体勢を立て直す。
兇手「流石だ……そうでなければな」
兇手「……雪の原<スノー・フィールド>」
辺り一面が雪に包まれた。
雪を見るなんて何年ぶりだろうか。
この地域は十年に一度くらいしか雪が降らない。
奴は雪に慣れているのだろう。
足元に雪が積もっているというのに、相変わらず足取りが軽やかだ。
俺は自分の周囲に炎を灯した。
この雪は奴の魔力で生成されたものだ。普通の雪よりも融かすのに時間がかかる。
だが俺の魔力の威力もそう弱いものではない。
足場の確保くらい容易にできる。
260 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:17:16.96 ID:x9oGvsjKo
兇手「さあ、俺に勝ってみろ! 俺にとって有利なこの空間で!!」
兇手「貴様の強さを見せてくれぇ!!」
戦士「はあ……全く」
戦士「後悔するなよ!」
直径一メートルほどの火の玉をレザールに向かって放った。
兇手「白氷の障壁<ホワイトアイス・ウォール>!」
いちいち術名を唱えなきゃ発動できないなんて不便だな。
俺はもう四玉発射した。
兇手「なっ……!」
氷の壁は砕けた。
奴が次の術名を唱えきる前に、もう一発でかいのをお見舞いする。
兇手「グワアアアアア!!」
雪が融けて派手に湯気が上がった。
俺は奴の魔力を探った。……まだ倒れていない。
261 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:18:12.42 ID:x9oGvsjKo
湯気の中から数十本の氷柱が飛ばされた。
ほとんど融かせたが、一本だけ防げず肩をかすめた。
いいや……防げなかったのは氷柱じゃない。
奴の刀の片割れだ。
兇手「……ふふふ……ははははははは! 素晴らしい!!」
兇手「やはり戦いはこうでなくては!!」
やるじゃないか。だが、俺に戦いを楽しむ趣味はない。
もうそろそろ終わりにしよう。
そう思った時、予想外の事態が起きた。
ああ、早く家に帰りたい。
262 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/15(金) 17:18:48.57 ID:x9oGvsjKo
kokomade
263 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/15(金) 22:31:57.12 ID:i+pCfCCH0
乙!
264 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:42:45.68 ID:L6USqMm1o
第十株 親と酒
……瞬間転移なんて、伝説級の術なんだがなあ。使える人間を見たのは初めてだ。
魔適体質者でも発動するのは困難らしい。
だが、洞窟内の曲がり角には移動した痕跡が残っているし、
直線的な道であっても数十メートル先には黒い魔力の残滓が見えた。
跡を辿るのはそう困難ではない……はずだったのだが。
魔剣士「うぉああ!?」
地面が抜けた。
やばい。やけに広くて白い場所に落下した。
咄嗟に風魔法を発動してダメージを軽減した。
魔剣士「おいガウェイン! 生きてるか!?」
重斧士「ってえ……折れたなこりゃ」
足があらぬ方向に曲がっている。
魔剣士「骨修復<リストア・ボーン>」
重斧士「おお」
魔剣士「行くぞ!」
265 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:43:24.86 ID:L6USqMm1o
重斧士「おまえってこんなに回復魔術得意だったんだな」
魔剣士「医療系の学部だったから必修で習ったんだよ」
医療に興味はなかったが、植物の研究をしたいがために薬学部に進学した。専攻は生薬だ。
理学部や農学部でも研究はできるのだろうが、薬師免許があれば一生食うのに困らないし、
色々と理由があってこっちを選んだ。
薬師が医者を意味する言葉だった時代もあるが、
今では薬を扱う職業のみを指すようになっている。薬剤師と呼ばれることもある。
兇手「おい…………」
魔剣士「あ、わりい! 後で治療すっから!」
どうやら人を下敷きにしてしまったようだ。
見たところ大きな怪我はなさそうだし一刻を争うから後回しだ。
戦士「え……えぇー……」
地質研究員「エリウス君……?」
266 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:45:12.59 ID:L6USqMm1o
魔剣士「なんでここ雪だらけなんだよ! 寒いわ!!」
滑って転びかけた。
魔剣士「走りづれえ! 俺は亜熱帯育ちなんだぞー!」
戦士「待て」
魔剣士「あ、父さん! 俺達今急いでるから!」
戦士「なんでおまえ達がここにいるんだ!」
魔剣士「カナリアが攫われたんだよ!!」
戦士「なんだと」
魔剣士「どうにかさっきの道に戻れねえかな……」
魔剣士「そうだ、父さんの力でカナリアを探してくれよ! 今マジヤバイから!!」
戦士「カナリアちゃんに何かあったらアキレスに合わせる顔がなくなっちまう」
兇手「お……い……」
父さんはカイロス兄さんを捕らえていた奴等を炎で攻撃した。
魔適傾向が高くて羨ましい。55マジカルくらいあるって言ってたかな。
普通よりも素早く術を発動できる上に微調整が利く。
267 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:46:15.67 ID:L6USqMm1o
戦士「……こっちの方向だ! 来いカイロス!」
地質研究員「わわっ」
兇手「待て……ヘリオス……」
魔剣士「あいつ敵?」
戦士「ああ」
魔剣士「あーよかった、善良な市民に怪我をさせちまったわけじゃなかったんだな」
兇手「勝負はこれからだ……旭光の勇者……」
戦士「二つ名はやめろ」
兇手「おのれ……二度までも息子に……うっ」
あいつにちょっと見覚えがあるような気がしたが思い出せなかった。
魔剣士「あれ、父さん今何か術使った?」
戦士「部下達に突入の合図をちょっとな」
邪魔をするオディウム教徒がちょくちょく現れた。
魔剣士「目ん玉に硫化アリル浴びせっぞ!」
玉ねぎから摂取した硫化アリルを敵にぶつけた。
玉ねぎを切った時と同じ状態になる。
268 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:48:40.89 ID:L6USqMm1o
魔剣士「あーひゃひゃひゃ! 今の俺は機嫌悪いんだぞー!」
魔剣士「邪魔者は排除だー!!」
好きでもない女に好き勝手にされた屈辱により、
他人に八つ当たりせずにはいられなくなっていた。
魔剣士「お? お? おっかけてくるか? ここまで来れるかなー!?」
鞄の中からオニビシの実を取り出してばら撒いた。いわゆるマキビシである。
戦いに役立ちそうな植物をこっそり集めていたのだ。
信者1「この程度避けて走れば何の問題もっ!?」
魔剣士「撒いたのはそれだけじゃあなかったんだよなあ! 残念だったなあああ!!」
魔剣士「ひゃーひゃっひゃっひゃ!!」
最近食べたバナナの外皮を透明な状態で再構成し、
オニビシの実と共に地面に配置したのである。
信者2「ギャー!」
信者3「ひっ!? うがああああ!!!!」
信者4「っでえええええ!!」
それに気づかずすっ転んだ信者達は、次々とオニビシの実の棘の餌食となっていった。
269 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:49:06.53 ID:L6USqMm1o
魔剣士「やべえ……バナナの皮で滑る奴を実際に見たのは生まれて初めてだ……!」
魔剣士「ひゃひゃっふひっふひひっ!」
戦士「ど、どうしたんだ……? テンションがおかしいぞ?」
魔剣士「どいつもこいつも大したことねえなあ!! あーたのしぃー!!」
魔剣士「あっ」
魔剣士「ごめん先に行ってて」
重斧士「あ?」
魔剣士「疲れた。もう走れねえ」
元々体力がない上に二回もイかされた後なんだ。バテるのも無理はない。
戦士「……仕方ないな」
魔剣士「うおっ」
肩に担がれた。
魔剣士「あれ、父さん……血ぃー! 血が出てるー!! うわあああ!!」
戦士「騒ぐな!! 治療は後からで充分だ!!」
270 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:50:21.82 ID:L6USqMm1o
幹部1「アキレスの娘だけを連れてきたとは何事だ!」
幹部1「貴様ならばヘリオスの息子を連れてくることも容易だったであろう!!」
黒ローブ「ふん」
幹部1「我等が神に逆らうのか!?」
黒ローブ「黙れ」
幹部1「貴様の目的は後だ。まずはこの娘を祭殿に」
黒ローブ「黙れと言っている」
何やら揉めているようだ。
武闘家「…………」
部屋に突入した。
戦士「彼女を解放してもらおうか!」
父さんが部屋にいた連中に向かって炎を放った。
重斧士「無事か!?」
武闘家「ええ……」
武闘家「内輪で喧嘩してくれてたからなんとかね」
271 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:51:52.81 ID:L6USqMm1o
幹部1「レザールの奴、しくじりおったな」
幹部1「撤退だ!」
黒ローブ「チッ……いずれ再び迎えに行くからな。待っていろ」
数人の術師が同時に詠唱を始め、奴等は痕跡すら残さず消え去った。
戦士「……またこの術か」
俺達が使っている現代魔術とは系統が違う術だった。
武闘家「……はあ」
戦士「もう大丈夫だ。間に合ってよかった」
カナリアは脱力した。相当怖い思いをしただろう。
魔剣士「もう降ろしてよ」
武闘家「あの男……まさかね」
魔剣士「父さん傷見せて」
戦士「このくらい自分で治せる」
魔剣士「医療の勉強してないのに治療術使えるなんてずるいー」
戦士「おまえ、俺よりも魔力容量がでかいくせにやけに消耗してるじゃないか」
戦士「一体何やってたんだ」
魔剣士「…………」
272 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:53:00.69 ID:L6USqMm1o
床に何かが落ちていた。
カナリアや俺の個人情報をまとめたファイルの様だ。
魔剣士「……!」
戦士「おいどうした」
魔剣士「これは……」
俺の……カルテじゃないか。
患者名[エリウス・レグホニア]
――――子供らしい情緒が見られず、雑草を詰んで食べるのをやめられない。
極めて内向的であり、共感性に乏しい。他人との関わりを極端に避け――
――植物に執着しており、
気に入っている草花を傷付けられた際には激しい攻撃性が見られる。
――母親に一切甘えようとせず、手を繋ぐことさえ――
――好きな女の子はいるのかと問うと、彼は花の名を口に出した。
性嗜好異常者である可能性が高い。また、――
――長期のカウンセリングが必要であり、――――
……そこには、俺の異常性が長々と綴られていた。
おそらく、俺の弱点か何かを探すために病院から盗んだのだろう。
273 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:53:55.60 ID:L6USqMm1o
魔剣士「けっ」
俺が投げ捨てたそれを、父さんが拾い上げて開いた。
戦士「…………エリウス」
魔剣士「自分が人と違うことくらいとっくの昔に開き直ってるし」
魔剣士「他人に見られたところで痛くも痒くもないんだけど?」
戦士「…………」
洞窟から出たところで、再び武器を構えた連中に囲まれた。
撤退したんじゃなかったのか。
それとも別働隊は俺達を攻撃するよう命じられでもしてんのかな。
……武器を向けられるのってけっこう心臓に悪いんだよな。
何故俺がこんな危険な目に遭わなけりゃならんのだ。
兇手「ここを通りたくば……剣を抜け、ヘリオス!」
男は二本の刀を構えた。
274 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:54:29.00 ID:L6USqMm1o
……あの男以外からは戦意が感じられない。
あいつだけが戦うことに拘っているように思える。
しかし妙だな。こいつらからはオディウム教徒独特の気配を感じなかった。
金で雇われているだけなのかもしれない。
兇手「貴様と剣を交えることさえできれば、今回は仲間に手を出さないと約束しよう」
戦士「……しつこい奴だな」
父さんは渋々剣を構えた。
あーはやく終わんねえかなと思ったその時、
勇者「いやああああああああああ!!」
勇者「うちの子が剣向けられてる!!!!」
聞き覚えのあるめんどくさい声が響いた。
275 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:57:43.30 ID:L6USqMm1o
暴風が巻き上がり、敵は一瞬にして吹き飛んだ。
勇者「エル! 怪我してない!?」
魔剣士「…………」
なんでいるんだよ……。
地質研究員「義姉さん……!?」
戦士「母さん、どうしてここに来たんだ」
勇者「だってあなたとカイロス君が心配でたまらなくて……飛び出してきちゃった」
戦士「あぁ…………はあ。子供はどうしたんだ」
勇者「ラヴィとアルクスは離れてくれなかったから連れてきちゃった」
勇者「今は兵士さんに預かってもらってるの」
いやじいちゃんちに置いてこいよ……危ないだろ。
勇者「エル、会いたかったよ……ずっと会えなくて寂しかったぁ……」
旅立ってから一ヶ月しか経ってねえよ。電話だってたまにはしてるってのに。
母さんは俺に抱き付いた。
勇者「あれ……? エル……」
276 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 16:58:51.53 ID:L6USqMm1o
母さんに目を覗きこまれた。
葡萄酒色の虹彩に吸い込まれそうになる。
勇者「嘘…………」
母さんはポロポロと涙を流し始めた。
ああ、そっか。この人わかっちゃうんだもんな。他人の性交経験のこと。
プライバシーの侵害だ。ちくしょうめ。
泣き崩れた母さんの肩を父さんが支えた。
戦士「母さん!」
勇者「ぅ……お父さん……この子……」
泣くなよ。親が泣くようなことをされてるって強く意識しちまうじゃねえか。
これ以上惨めな気分にさせないでくれ。
武闘家「どうしたのかしら……」
魔剣士「…………」
277 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:00:30.73 ID:L6USqMm1o
――――――――
――
事情聴取から解放された。長かったな。
……ユキに会いたい。一人でいるのは落ち着くけど寂しいな。
しばらく宿でぼけっとしていると、父さんが訪ねてきた。
戦士「おまえ、何をやったんだ」
魔剣士「え? なんの話?」
戦士「何故母さんが泣いたんだ!」
魔剣士「知らないよそんなの」
戦士「とぼけるんじゃない」
父さんに胸倉を掴まれた。
戦士「心当たりくらいはあるだろう!」
魔剣士「……母さんさあ、いつも嫌なことがあった時はなんでも父さんに話してるじゃん」
魔剣士「それなのに何も言わないってことは、」
魔剣士「よっぽど父さんに知られたくないってことなんだよ。察せない?」
戦士「……答えろ」
魔剣士「…………」
魔剣士「…………レイプされた」
278 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:01:42.53 ID:L6USqMm1o
戦士「なっ……」
胸倉を掴む手が緩んだ。
魔剣士「俺さあ、行く先々の精霊から脅されて犯されてんの」
惨め過ぎて笑えてきた。
戦士「…………」
魔剣士「なんでショック受けてんの? 俺は別に気にしてないよ」
魔剣士「俺、男だし。精霊の子はみんな美人だし、気持ち良いし、」
魔剣士「大好きな植物が相手してくれてるわけだし、得ばっかしてるもん」
魔剣士「あ〜モテすぎて困るわ。ははは」
戦士「…………すまなかったな」
父さんは俺の頭をポンポン叩いて部屋を出ていった。
ちくしょう。なんでこんなこと親に言わなきゃならねえんだよ。
青い石「……ねえ、エリウス」
魔剣士「聞かなかったことにしてくれ」
外に出ようと思って階段を降りると、ある部屋から母さん達の魔力を感じた。
微かに嗚咽が聞こえる。まだ泣いてんのかよ。
ラヴェンデルとアルクスと父さんとで慰めてるんだろうな。
あーなんかすげえムカムカする。
279 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:02:34.58 ID:L6USqMm1o
――酒場
魔剣士「ラム酒うめえ!」
ダンッ、と俺はグラスをカウンターに叩きつけた。
こうなりゃやけ酒だ。カナリアはまだ事情聴取が終わらないらしい。
魔剣士「次は旧レッヒェルン領産の赤ワインを一杯ください」
重斧士「もっとゆっくり飲め。体に悪いぞ」
バーテンダー「お兄さん、飲酒は初めてなのでしょう。無理しないでくださいよ」
バーテンダー「もう一時間以上飲みっぱなしじゃないですか」
魔剣士「へーきっす」
魔剣士「あーやっぱこのワインおまえにやるわ」
重斧士「どうしてだよ」
魔剣士「母親の目の色みたいで飲む気失せた」
重斧士「ほんとに飲まねえのか? これかなりうまいぞ」
魔剣士「いらね。あ、梅酒ください」
近くに座っていた軍人がビールを飲みながら愚痴を言い始めた。
小隊長「ヘリオスめ……兵養所卒の平民のくせにトントン昇進しおって」
280 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:03:53.59 ID:L6USqMm1o
父さんが子供の頃は、様々な時代背景が重なって士官学校の学費が高かった。
そのかわり、安い兵士養成所等の訓練施設がたくさんあったらしい。
今ではほとんどの士官学校の学費は無料である。
副小隊長「入軍も遅かったくせに……あっという間に抜かされたな」
小隊長「いくら魔王を倒した英雄だからといって優遇されすぎではないのか!?」
副小隊長「俺達なんて嫌がらせがバレてこんな国境近くの町に左遷されたしな……」
副小隊長「一泡吹かせてやりたいもんだ」
小隊長「何か弱味を握るか……不正の一つでもやってくれればな……」
魔剣士「はあ? 嫉妬かよ。いい年こいた大人が見苦しいぜ」
小隊長「なんだとこのガキ!! もう一度言ってみろ」
魔剣士「見苦しいっつってんだよおっさん共」
副小隊長「軍人を侮辱するか!?」
魔剣士「くくっ」
重斧士「おいやめとけ」
小隊長「ただで済むと思うなよ」
魔剣士「上官を陥れようとしてたって俺が通報したら……あんたらどうなるかな」
281 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:05:04.95 ID:L6USqMm1o
小隊長「うぐっ……ガキの言うことなど誰が信じるものか!」
副小隊長「この北方人のガキ……今すぐ北の大陸に送り帰してやる」
俺は南育ちなんですがね。
魔剣士「じゃあ賭けでもやるか?」
魔剣士「俺が勝ったらチクらせてもらうぜ」
小隊長「俺達が勝ったらこの国を出ていってもらうぞ!」
副小隊長「ついでに俺等の飲み代はおまえ持ちだ!」
小隊長「これからテキーラを飲み続け、先に酔い潰れた方が負けだ。いいな」
魔剣士「あ、そんな簡単な勝負でいいの? 俺は構わないぜ」
俺の余裕の笑みに、奴等は少し臆したようだ。
バーテンダー「安全性のことを考えると私はやめてほしいのですが……」
副小隊長「隊長の酒豪っぷりを見て驚くなよ!」
――――――――
――
282 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:05:50.60 ID:L6USqMm1o
小隊長「もう九杯だというのに……まだ酔わんのか」
魔剣士「余裕」
西の大地で育った竜舌蘭から作られた酒……なかなか美味である。
小隊長「ええい! 十杯目だ!」
バーテンダー「し、しかし……」
戦士「おまえ達、一体何をやっている」
小隊長「ひっ! 大佐!?」
副小隊長「あああのこれはですねこのガキが」
魔剣士「父さん俺また外人扱いされた〜」
小隊長「え、と、父さん……?」
副小隊長「お、俺たち帰りま〜す……」
バーテンダー「一万Gになります」
小隊長「ひっ」
283 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:06:35.97 ID:L6USqMm1o
重斧士「なんで全く酔わねえんだ?」
魔剣士「アルコールは全部魔力に溶かしてるからな」
重斧士「なるほど……だが、それじゃあやけ酒してた意味あったのか……?」
魔剣士「気分の問題だ」
戦士「おまえ、あいつらを煽りでもしたんじゃないのか?」
魔剣士「だってあいつら父さんのこと」
戦士「構うな」
戦士「……おまえがここにいると部下から聞いてな。少し話がしたい」
重斧士「じゃあ俺は席外すか」
魔剣士「え、行っちまうの?」
重斧士「親父さんと水入らずでゆっくり話してこいよ」
戦士「気を遣ってもらってすまないな」
ガウェインは自分の分のお代を払って店を出て行った。
正直寂しい。
284 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:08:49.68 ID:L6USqMm1o
魔剣士「…………」
戦士「ちょっと雑談しにきただけだから気を抜いてくれ」
魔剣士「……キャロルさん、父さんのことすげえ心配してた」
父さんの副官のことである。
魔剣士「身内が人質じゃあ冷静じゃいられなくなるかもって言ってた」
戦士「そんなこと言ってたのか。信用されてないんだな……」
戦士「レザールの奴も……あ、俺と戦ってた男な。俺を焦らせるか、」
戦士「もしくは本気にさせるためにカイロスを人質にとったんだろうと思うが、」
戦士「家族が人質だったとしても、俺は冷静に対処するよ」
父さんは魔物だらけの時代で育った。
そのせいか、肝が据わっているというか……『喪う覚悟』ができているのだと思う。
戦士「……あいつ、戦いについては真っ直ぐだったな」
戦士「弟を人質にしたくらいだから、もっと卑怯な手を使われるかと思った」
魔剣士「母さんが人質に取られても、冷静でいられる?」
戦士「自信ないな……母さんは特別だ」
285 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:09:16.29 ID:L6USqMm1o
魔剣士「……父さんってさあ」
魔剣士「人生で一番つらかった出来事、なんだった?」
戦士「一番つらかったことか? ……母さんから永遠の別れを告げられた時かな」
ハードだな。
魔剣士「その次は」
戦士「ん……母さんが苦しんでるのに何もできなかった時はつらかったな」
戦士「あと、母さんに告白して振られた時は死ぬかと思った」
魔剣士「え、振られたの? なんで?」
戦士「……その時、母さんは……自分が長生きできないって思ってたからな」
全部母さん絡みだ。
286 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:09:42.26 ID:L6USqMm1o
魔剣士「……母さん、もう泣き止んだ?」
魔剣士「ああ。泣き疲れて寝てるよ」
魔剣士「……父さんはなんで母さんのこと好きになったの」
戦士「え? うーん……理由を訊かれても、上手く答えられないんだよなあ」
戦士「強いて言えば、俺にだけは素を見せてくれたのがきっかけだったかもしれない」
魔剣士「…………」
戦士「カナリアちゃん達とは上手くやってるのか」
魔剣士「うん」
俺はカクテルを飲み干した。甘酸っぱい。父さんはビール飲んでる。
戦士「……おまえとこうして酒を飲めるようになって嬉しいよ」
魔剣士「…………」
魔剣士「父さん、俺、本気で好きな子ができた」
戦士「そうか」
287 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:11:09.39 ID:L6USqMm1o
魔剣士「精霊なんだけど、何処に本体の木があるのかわかんなくてさ」
魔剣士「会いに行けなくてすげえ寂しい」
戦士「そりゃつらいな。どんな子なんだ」
魔剣士「……俺の理想のお嫁さん像にすっごく近いんだ」
魔剣士「清楚で控えめで、落ち着きがあって、心の芯が強そうな子」
魔剣士「んでもって俺のために泣いてくれたんだ」
魔剣士「いやまだ一回しか会ったことないんだけどさ」
魔剣士「相手の魔力見れば大体どんな子なのかわかるじゃん」
戦士「……はは」
魔剣士「え、なんで笑ったの。俺なんか変なこと言った?」
戦士「いいや。俺の子だなって思ったんだ」
戦士「若い頃の俺と同じこと言ってる」
魔剣士「……母さんってあんまり控えめじゃないし、情緒が不安定だし、」
魔剣士「精神的に脆いし……尚更なんで結婚したの」
戦士「まあ、理想通りの人を好きになるとは限らないだろ」
288 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:11:49.92 ID:L6USqMm1o
戦士「……上手くいくといいな」
魔剣士「本体を見てすらない相手をこんなに好きになるなんて思いもしなかったよ」
ユキがどんな木なのか気になって仕方がない。
魔剣士「すみません、馬乳酒ください」
戦士「あ、ちょっと待て」
魔剣士「なかなか酸味が……うっ」
喉が熱い。
魔剣士「っ……」
戦士「動物の乳から作った酒じゃあ成分を制御できないんじゃと思ったんだが……」
魔剣士「お察しの通りだよ……」
たったの一口で酔っ払ってしまった。
暑いな。頭がぼうっとする。息が苦しい。
289 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:14:44.68 ID:L6USqMm1o
魔剣士「うう……あっ……」
なんか涙が出てきた。
戦士「……よしよし。おまえ、泣き上戸なんだな」
父さんが背中をさすってくれた。
魔剣士「ねえ、父さん……俺、誰かを好きになる資格なんてあるの」
戦士「あるに決まってるだろ。何言ってんだ」
魔剣士「ねえ、俺、なんで『普通』に生まれてこられなかったの?」
戦士「たまたまちょっと個性的だっただけじゃないか」
魔剣士「…………」
戦士「おまえがどんな人間だろうと、おまえは俺の自慢の息子だよ」
魔剣士「…………」
戦士「つらかったら帰ってきてもいいんだぞ」
魔剣士「…………」
戦士「旅、続けたいんだろ」
俺は頷いた。
290 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:15:26.47 ID:L6USqMm1o
戦士「たまに愚痴聞くくらいならしてやれるから」
戦士「あんま溜め込むなよ」
魔剣士「……うん」
これからも犯され続けるとは限らない。
融合が進めば、犯されなくても精霊達に充分な魔力を提供できるようになるかもしれない。
また別の力が発現することもあるかもしれない。
暫くは耐えよう。
魔剣士「父さん……」
魔剣士「…………」
戦士「……寝たか。酒に弱いのは母さんに似たな」
戦士「お会計」
バーテンダー「息子さんのを合わせますと……6万Gになります」
戦士「おおう……」
291 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:17:05.29 ID:L6USqMm1o
翌朝。
カイロス兄さんは護衛の兵士に村まで送ってもらうことになった。
母さんも彼等に同行する。
父さんは、また別の仕事が入ったから家に帰られなくなった。
戦士「そのうち国外出張も入りそうだな……」
戦士「昇進しても昇進しても現場仕事ばかりだ」
戦士「デスクワークは苦手だから別にいいんだが」
「学が浅いから書類への苦手意識が拭えない」と、父さんは時折愚痴っていた。
戦士「年を取るとどうしても体の衰えを感じてしまってなあ……はあ」
副官「魔術の腕は上がってるじゃないですか」
戦士「まあそうなんだが」
魔剣士「性欲が減退したからだろ」
戦士「身も蓋もない言い方をするんじゃない」
292 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:17:52.01 ID:L6USqMm1o
地質研究員「エリウス君が来てくれて助かったよ」
魔剣士「無事に済んでよかった。気をつけてな」
三男「お母さんに近付くな!」
アルクスが蹴ってきた。
魔剣士「……母さん」
勇者「エル……」
魔剣士「別に、嘆く必要はないから」
魔剣士「安心して家に帰って」
勇者「…………」
母さんの右手が俺の左頬に添えられた。
勇者「何があっても、エルは、お母さんの大事な息子だから」
魔剣士「うん。じゃあ」
泣かせっきりじゃあ後味が悪いから、一応声をかけておいた。
293 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:19:10.37 ID:L6USqMm1o
武闘家「軍の人に通報発信機もらっちゃった」
重斧士「どんな機械だそれ」
武闘家「瞬間転移術で飛ばされた時には自動的に最寄の軍に通報されるようになってるの」
武闘家「ボタンを押しても通報できるわ」
武闘家「他にも防犯グッズをいっぱい」
武闘家「……そうだ、言いそびれてたわ」
武闘家「助けにきてくれてありがと」
魔剣士「おまえが捕まったのは、俺が攫われたせいもあっただろうしな」
重斧士「当然のことをしたまでだ」
車のエンジンをかけた。
陽に照らされた草原の緑が綺麗だ。
魔剣士「よし、国境越えるか」
294 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/17(日) 17:19:49.77 ID:L6USqMm1o
kokomade
295 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/17(日) 23:30:46.20 ID:l4plPEde0
乙!
296 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/17(日) 23:56:36.77 ID:bMA1lpXFo
親子の会話いいな乙です
297 :
◆qj/KwVcV5s
[sage]:2016/07/18(月) 00:20:47.64 ID:tEbmMAgto
補足
この世界の薬学部は(国にもよるが)四年で薬剤師免許を取ることができる
よってエリウスは現在博士課程の一年目
298 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/18(月) 00:24:00.69 ID:V4Jx6Pg9O
勇者と戦士のお互いの呼び方の夫婦やってる感
299 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/07/18(月) 00:26:12.45 ID:gIWsTbxXO
案の定勇者がおじさんと同じウザキャラの道を
300 :
◆qj/KwVcV5s
[sage]:2016/07/18(月) 18:32:42.74 ID:tEbmMAgto
あ、現代日本でも六年制を出たらすぐ博士課程行けるみたいですが
旧制の薬学部みたいな感じということで
301 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:40:45.75 ID:sq/eI797o
第十一株 無理解
――海岸付近の町・セルリア
武闘家「この頃食べる量増えたわね」
魔剣士「そうだな」
いつ犯されるかわからねえんだ。
ハードなことをされても大丈夫なよう精力つけとかねえと。
俺は必死に牡蠣フライを貪った。熱してあれば多分あたらないはずだ……。
俺は生で魚介類を食うと高確率で食中毒を起こす。
チラシ配り「そこのお二人さん!」
魔剣士「おん?」
チラシ配り「現在、あちらの会場で魔導器の見本市をやっておりまして」
チラシ配り「是非是非いらっしゃってください!」
チラシ配り「おうちに置きたい家電からアベックに嬉しいグッズまでなんでも並んでおりますので!」
魔剣士「ふ〜ん」
面白そうだな。チラシを見たら、俺が技術提供をしている企業の名前もいくつかあった。
魔剣士「行ってみようぜこれ」
302 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:41:44.01 ID:sq/eI797o
武闘家「いいけど……アベックってどういう意味?」
魔剣士「カップル」
武闘家「えっ……」
カナリアは赤面して俯いた。
そりゃ男女が二人でつっ立ってたらデキてると思われても仕方がない。
本当は一人でのんびりぶらつきたんだがなあ。
武闘家「ねえ、エリウス……」
魔剣士「ん」
武闘家「今はどんな花が好きなの」
魔剣士「この間好きになった子」
魔剣士「そこらに生えてる子じゃねえから見せらんねえけど」
武闘家「そう」
魔剣士「……人格を持った相手を好きになったのは初めてだから、」
魔剣士「また会えたとしても、どう接すりゃいいのか全然わかんねえや」
武闘家「!?」
303 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:42:35.70 ID:sq/eI797o
武闘家「人格?」
魔剣士「ああ。精霊の中でも高位だろうな……」
魔剣士「あ、ガウェイン。いい武器見つかったか」
重斧士「待たせたな。しっくりくるのは見つけられなかった」
魔剣士「なあ、これ見に行きてえんだけど」
重斧士「面白そうだな。付き合うぜ」
魔剣士「よし、行こうぜカナリア」
武闘家「うん…………」
重斧士「すげえな……未来に来たみてえだ」
魔剣士「やっぱ省エネ謳ってる企業が多いな」
武闘家「今時バッテリーを買おうとしても高つくものね」
家電に充分な魔力を補給できない家庭は、
他人の魔力を込めたバッテリーを買って生活することになる。
昔は安く買えたのだが、今時は魔力の需要が増えすぎて価格が高騰しているのだ。
俺も買おうかな……植物にかなり魔力吸われるもんな……。
魔剣士「魔力に替わるエネルギーでも見つかりゃあなあ」
304 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:43:09.78 ID:sq/eI797o
武闘家「あっちの部屋にもブースがあるみたいね。雰囲気が怪しいけど……」
重斧士「大人のコーナーって書いてあんな」
魔剣士「あー、アベックに嬉しいグッズがあるって言われてたろ」
魔剣士「そういうことだ」
さっきM性感の店が堂々と表に建っているのを見たし、
そういうのにオープンな町なのかもしれない。
M性感の開発……いや興味なんてないぞ。
武闘家「え、え……? あらぁ……」
魔剣士「興味あんのか?」
武闘家「ないわよ! 馬鹿!!」
魔剣士「くくっ」
魔剣士「あ、これこれ。俺が開発に協力したやつ」
販売員1「エリウスだ!! 一緒に写真撮っていただけませんか!?」
販売員2「俺も俺も!!」
魔剣士「いいっすけど」
305 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:43:43.08 ID:sq/eI797o
重斧士「どんな機械なんだ?」
魔剣士「傍に置いた植物にとって最も適した環境を自動的に作るんだ」
魔剣士「これの元になった装置を作ったのは……十四の頃だっけな」
北育ちの母さんは、故郷の観葉植物を集めていた。
だが、北の植物を南で育てるのは難しい。すぐに元気を失ってしまう株は多かった。
落ち込まれたら面倒だし、枯れてしまう植物を見るのはつらかったから、
植物を中に入れるとその植物に適した温度を自動的に測定し、
その温度を保つ小さな温室を作ったんだ。
喜ばれすぎて面倒だったな……。
販売員1「そうだ、あっちのブースにすごい物があるんですよ!」
販売員2「勇者ナハトを見れるんですよ!」
魔剣士「え?」
306 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:44:36.24 ID:sq/eI797o
示された方向を見てみると、スクリーンに何かが投影されているようだった。
技術者「こちらの製品はデジタルアナログコンバーター、略してDACと申しまして」
技術者「旧式の撮影魔術で保存された情報を新式の保存形式に変換し、」
技術者「こうしてデジタル形式の魔導器での再生を可能にしております!」
技術者「こちらは二十五年前、グレンツェント国の舞踏会の映像です」
技術者「北方の貴婦人から宝石をお借りして再生しております」
技術者「くう〜! 勇者ナハトが映っている映像を探すの大変だったんですよ〜!!」
そこに映し出されていたのは……キザな、俺とよく似た美青年だった。
紺色の髪、藍色の瞳、鉄紺の燕尾服……胸元には空色の石が嵌められたピンブローチが留められている。
若い女性とくるくる踊っている。これ、本当に俺の母さんか……?
勇者『君と会うのは十年ぶりかな……美しくなったね、アンジェリカ嬢』
赤服令嬢『ああ、こうしてあなたと再び踊ることができて……夢のようだわ』
重斧士「俺の親父って……男らしい男じゃなくこういう細いのが好きだったんだな」
307 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:45:14.27 ID:sq/eI797o
画面の端にはアルバそっくりの少年が突っ立っていた。
だが、アルバと違って目だけじゃなく眉もつり上がっており、雰囲気が堅そうだ。
二十五年前だから……十五歳の頃の父さんだろう。
今よりも随分小さいな。百七十あるかないかじゃないか。
父さんはどこか白けた感じの目で、紺色の髪の青年の方をチラ見している。
赤服令嬢『この夢が覚めなければいいのに』
勇者『夢はいつか覚めてしまうものだよ。僕はこの夜が明けたら消え去る定めなんだ』
うっわぁ……自分のこと『僕』って言ってる。
めっちゃ声低い。男の声だろこれ。体も出るべきところが全く出てない。
当時……ええと、十八歳だろ? 当然生理来てるだろ? なんでこんなに細いんだ?
あ、でも、体が成熟するのが遅くて俺を産めるか不安だったから云々って昔言ってたっけ……。
てか俺と同じくらい背があるような……ああ厚底か。なんでわざわざ……。
赤服令嬢『ああ、なんて甘い夢なのでしょう』
勇者『まるで君の唇のようだ』
赤服令嬢『まあ』
うっわくっさ。キザすぎ。マジキモい。
魔剣士「あ……あが……」
重斧士「おーい大丈夫か?」
308 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:46:19.79 ID:sq/eI797o
『そろそろ私と踊って!』
『いいえわたくしと!』
勇者ナハトの周囲に女性がたかった。母さんって呼びたくない。
大公娘『ナハト様、どうか一曲踊ってくださいまし』
勇者ナハトは、その内の一人に手を差し出した。
勇者『喜んで、ジークリンデ嬢』
大公娘『どうして私を選んでくださったのでしょう』
勇者『貴女の薔薇の様な瞳があまりにも魅力的だったものですから』
大公娘『薔薇の花言葉をご存じかしら』
勇者『ええ。紅色の薔薇は『死ぬほど焦がれる恋』』
勇者『そして、二本に束ねられた薔薇のメッセージは……『この世界は二人だけ』』
勇者『もう私の瞳には貴女しか映りません』
大公娘『お上手なこと』
踊っていた曲が終わり、二人は広間の外へ去っていった。
父さんはそれを心配そうに見つめていた。
魔剣士「…………」
魔剣士「あぁ……………………」
武闘家「エリウス!?」
重斧士「気を失ってるぞ」
309 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:47:00.46 ID:sq/eI797o
――――――――
――
目を開けると、そこには白い天井があった。
どれほど眠っていたのだろうか。
魔剣士「ここ何処」
武闘家「病院。あなた映像を見て気絶したのよ」
魔剣士「…………」
重斧士「なあ、いきなりですまないんだが、訊きてえことがあるんだ」
魔剣士「何?」
重斧士「おまえって、男から産まれたのか?」
魔剣士「は?」
重斧士「おまえ、『こんなの母さんじゃない』ってうわ言で何回も言ってたんだよ」
魔剣士「えっ……」
眩暈がした。
重斧士「おまえのお袋さんって、勇者ナハトだったのか?」
魔剣士「…………」
武闘家「…………」
310 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:47:35.67 ID:sq/eI797o
魔剣士「……勇者ナハトは実は女で今も生きてて俺達兄弟が生まれました!」
魔剣士「めでたしめでたし!!」
重斧士「ああ……そういうことか」
魔剣士「他人に漏らすなよこれ」
若い頃、母さんは男の格好をしていたとは聞いていたが……同一人物だと思えなかった。
今と当時とでは、肉付きも、表情の作り方も、立ち振る舞い方も、何もかもが違う。
重斧士「なあ、俺の親父は……ナハトが女だって知ってたのか?」
魔剣士「知ってたらしいぞモル曰く」
重斧士「ゲイじゃ……なかったんだな……」
ガウェインは窓際で黄昏始めた。
重斧士「そうか……こないだ会ったおまえのお袋さんが……」
311 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:48:22.70 ID:sq/eI797o
――――――――
勇者『あの……お父さん、元気にしてる?』
重斧士『あ、ああ……生きてはい……ますが』
勇者『そう……』
重斧士『親父のこと知ってん……知ってるんですか』
勇者『……あ、その、主人が若い頃お世話になったそうだから』
――――――――
重斧士「クレイの町を出る時にちょっと話しかけられたんだよ」
重斧士「そういうことだったんだな……」
青い石「アルカは彼のお父さんが誰なのか一目でわかっただろうね」
青い石「魔力から情報読めちゃうから」
重斧士「はあ……」
重斧士「じゃあ、自分はゲイだと思い続けていた俺の人生は一体……」
武闘家「大丈夫かしら……」
魔剣士「今、あいつは崩壊した自己同一性を再構成しようと戦っているんだ」
魔剣士「そっとしておいてやろうぜ」
312 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:49:15.30 ID:sq/eI797o
魔剣士「親父さんの女装趣味を知ってショックを受けたおまえの気持ちがわかった気がする」
武闘家「そう?」
魔剣士「俺って男から生まれたのかな……」
武闘家「気をしっかり持って」
深呼吸をした。
魔剣士「……俺さ、ずっと……」
魔剣士「どうしてまともな父さんから俺みたいなのが生まれてきたんだろうって思ってたんだ」
魔剣士「でも、あれを見たら……」
魔剣士「男同然の女に惚れた父さんって、意外と変態だったんじゃないかなって」
武闘家「あ、もしかしてギャップがよかったんじゃない?」
武闘家「普段は美青年だけど実は美女っていう」
魔剣士「う〜ん……」
でも普段は男同然なんだろ……父さんの女の趣味がわからない……。
313 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:49:43.15 ID:sq/eI797o
武闘家「あたしは見ててドキドキしちゃった」
武闘家「女の子にモッテモテだったわね、あなたのお母さん」
魔剣士「…………」
青い石「ナハトの……本当のナハトの真似してたからねえ、あの頃」
魔剣士「遠縁の男の子だろ? 魔族に殺された」
青い石「ちなみにあの子は今でもあの世で女の子口説きまくってる」
武闘家「あ、あの世のことがわかるの?」
青い石「寝てる間、お嫁さんや両親とだけは交信できるんだ」
青い石「だからちょっとだけ噂を聞いてる」
魔剣士「モルってさ、生前からそういう話し方だったわけじゃないだろ」
魔剣士「なんでそんな口調なんだ」
青い石「若い子とはこうした方が親しみやすいかと思って」
魔剣士「ふうん」
魔剣士「…………あれ」
314 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:50:38.20 ID:sq/eI797o
魔剣士「なあモル、母さんってあの頃は魔適体質だったんだろ」
青い石「そうだよ」
魔剣士「元々魔適体質じゃなかったのに、なんでそうなったんだ?」
魔剣士「それに、どうして魔王を倒した後は魔適傾向下がったんだよ」
青い石「ええと……まあ、いつか話す機会があったらね」
魔剣士「…………?」
夜、またあの歌声が聞こえた。
魔剣士「ユキ!」
白緑の少女「エリウスさん」
彼女は木の枝に座っていた。
315 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:51:35.98 ID:sq/eI797o
俺も木を登り、彼女の隣に腰をかけた。
な、何話そうかな。あんまりガツガツアピールしても引かれるかもしれないし。
どうしよう。
色々話したいことはあったはずなのに、いざ顔を見ると頭が真っ白になった。
俺が緊張していると、彼女の方から口を開いた。
白緑の少女「私が歌っていたのは、草花を元気づける歌なのです」
白緑の少女「波長が少し特殊で、通常、人には聞こえません」
魔剣士「じゃあ、俺が聞くことができたのは……」
白緑の少女「あなたが、草花を想う優しい心の持ち主である証です」
魔剣士「俺が……優しい心を?」
白緑の少女「ええ」
そうなのかな……幼い頃から植物が好きではあったけど。
316 :
◆qj/KwVcV5s
[saga]:2016/07/20(水) 18:52:03.22 ID:sq/eI797o
白緑の少女「あなたは、その身を犠牲にしてまでこの世界の植物を救おうとしてくださっています」
白緑の少女「それなのに、あなたに無礼を働いている精霊がいることに……」
白緑の少女「一体どう謝罪したらいいのでしょう」
魔剣士「えっ、あ、いや……君は何も悪くないし」
やっぱり、犯されてるところまで全部知られてるんだろうな……。
この子にだけじゃない。世界中の精霊達に知れ渡っている可能性が極めて高い。
生きているのがつらくなってきた。このことを考えるのはよそう。
白緑の少女「……優しい波動の魔力」
肩に頭を預けられた。
い、意外と積極的だな……それとも男として全く意識されていないのだろうか。
そりゃそうだよな。今時、精霊が人間の男になんて……。
魔剣士「……歌、聴きたいな」
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